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損害賠償請求事件(住民訴訟)
事件番号平成28(行ウ)114
事件名損害賠償請求事件(住民訴訟)
裁判年月日平成30年2月8日
法廷名名古屋地方裁判所
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平成30年2月8日判決言渡
平成28年(行ウ)第114号
口頭弁論終結日

損害賠償請求事件(住民訴訟)

平成29年11月30日
判主1決文
被告は,被告補助参加人に対し,63億円及びこれに対する平成
27年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2
訴訟費用のうち,補助参加によって生じた費用は被告補助参加人
の負担とし,その余は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求

主文同旨
第2
1
事案の概要
本件は,愛知県豊橋市(以下「豊橋市」という。)の住民である原告らが,
被告補助参加人(以下,単に「補助参加人」という。)は,別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)のうち同目録記載2及び10の各土地を除くもの(以下「本件売却土地」という。)を豊橋市に返還すべき債務を負っているにもかかわらず,補助参加人及びその連結子会社においてこれらの土地をA株式会社(以下「A会社」という。)に売却し,上記返還債務を履行不能としたものであり,これは補助参加人による債務不履行又は不法行為に当たるところ,豊橋市の執行機関である被告は補助参加人に対する損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,補助参加人に対して損害賠償金63億円(本件売却土地の売却代金相当額)及びこれに対する履行期限が到来した後又は不法行為の日である平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することを求めた住民訴訟である。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実等。以下,書証番号は,特記しない限り枝番を含む。)(1)当事者等

原告らは,いずれも豊橋市の住民である。(弁論の全趣旨)


被告は,豊橋市の執行機関である。(弁論の全趣旨)


補助参加人は,各種繊維及び繊維工業品等の製品及びこれらの原材料,副製
品の製造,加工及び売買並びに輸出入等を業とする株式会社である。(甲1,弁論の全趣旨)
(2)補助参加人が本件各土地を取得,利用した経緯等

旧軍用地の一部であった本件各土地は,終戦前後から入植者等によって開拓
が進められていたが,農業に適した土地ではなかった。(乙1,2)イ
豊橋市,豊橋市議会及び補助参加人(当時の商号は「B株式会社」である。)
は,昭和25年12月5日,補助参加人が豊橋市内に工場を新設するに当たり,豊橋市が工場用地として本件各土地を提供したり,諸便宜を供与したりすることに関し,覚書を取り交わした(以下「本件覚書」という。)。
本件覚書13条は,「甲(注・補助参加人を指す。)は将来第3条(1)の(イ)の敷地(注・本件各土地を指す。)の内で使用する計画を放棄した部分は之を乙(注・豊橋市を指す。)に返還する」と定めている。(甲2)

豊橋市は,豊橋市議会の議決を経た上で,昭和26年4月3日,補助参加人
(当時の商号は「B株式会社」である。)との間で,本件覚書とおおむね同内容の契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
本件契約12条は,本件覚書13条と同様,「甲は将来第3条(1)の(イ)の敷地の内で使用する計画を放棄した部分はこれを乙に返還する」と定めている。(甲3,7)

上記ウの後,補助参加人は,本件各土地において豊橋事業所を設置し,これ
を運営した。なお,本件各土地の所有権に係る登記名義は,国から補助参加人に直接移転した。(甲8,10,14,弁論の全趣旨)

豊橋市と補助参加人(当時の商号は「C株式会社」である。)は,昭和41
年2月21日,本件契約12条に関し,疑義事項協議書を取り交わした(以下「本件協議書」という。)。
本件協議書には,前文において,本件契約12条の字句の解釈につき意思を統一するために協議がされた旨が記載されており,以下,次の趣旨の記載がされている。(甲4)
①本件契約12条に規定する「将来」とは,ある一定の期限を有するものではなく,何ら期限の制約を受けるものでないことを互いに確認する。
②本件契約12条に規定する「・・・敷地の内で使用する計画を放棄した・・・」とは,補助参加人が使用する計画を放棄する旨自ら豊橋市に対して意思表示をした場合に限ることを意味するものであることを互いに確認する。
③以上,両者間において行った確認は本件契約の趣旨に基づいて再確認をしたもので,両者全く異存のないことを互いに確認する。
(3)本件売却土地の売却等

補助参加人は,平成26年10月9日,豊橋市に対し,平成27年3月末ま
でに豊橋事業所全体を閉鎖する予定である旨を申し入れ,その後,豊橋事業所を閉鎖した。(甲5,弁論の全趣旨)

本件売却土地の所有者である補助参加人(別紙物件目録記載3から9までに
つき)及びその連結子会社(同社は,平成28年4月1日に補助参加人に吸収合併された。)(別紙物件目録記載1につき)は,平成27年10月1日頃,A会社に対し,本件売却土地(合計約27万㎡)を代金合計63億円で売却し,同日,所有権移転登記手続をした。
上記の売却及び所有権移転登記手続により,補助参加人が本件売却土地を豊橋市に返還することは,社会通念上不能となったと認められる。
なお,本件各土地のうち,①別紙物件目録記載2の土地は,昭和62年9月17日に下水道用地として豊橋市に売却され(代金1816万1400円),②同目録記載10の土地は,平成24年6月20日に下水道事業用地として豊橋市に売却されていた(代金87万5535円)ため,本件売却土地は,本件各土地のうち,平成27年10月1日当時補助参加人及び上記連結子会社が所有していた土地の全部である。(甲1,7ないし10,乙6,7,弁論の全趣旨)
(4)監査請求及び本件訴えの提起

原告らは,平成28年6月2日,豊橋市監査委員に対し,本件に関する監査
請求をしたところ,豊橋市監査委員は,同年7月25日付けで上記監査請求を棄却し,原告らに対してこれを通知した。(甲12,15)

原告らは,平成28年8月23日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
3
争点及び当事者等の主張

(1)争点
本件の争点は,本件売却土地が売却された時点において,補助参加人が,本件契約上,豊橋市に対して本件売却土地を返還する義務(以下,単に「返還義務」という。)を負っていたか否かである。
(2)当事者等の主張

原告らの主張

(ア)返還義務の存在
本件覚書,本件契約及び本件協議書の文言からすれば,補助参加人が豊橋事業所を閉鎖した以上,補助参加人が自らの意思により本件売却土地を使用しなくなったといえるから,豊橋市に対し,使用計画を放棄した部分,すなわち本件売却土地を返還すべき義務を負うことが明らかである。なお,放棄の意思表示は,補助参加人が豊橋市に対し,豊橋事業所の全面閉鎖の意向を表明した時点でされたと見るのが合理的である。
この帰結は,本件契約に基づく豊橋市から補助参加人への便宜供与や納税面での優遇等は,飽くまでも補助参加人が本件各土地において豊橋事業所の操業を継続していくことを前提とするものであったことから考えても,妥当なものである。豊橋市が公金を支出して,本件各土地の取得費用も負担して補助参加人を誘致した以上(なお,豊橋市は,上記取得費用とは別に,本件各土地に入植していた開拓民等に対し,各種補償費として約1500万円もの金員を支出した事実もある。),豊橋市にとって本件各土地を使用するのが誰でも構わないということはあり得ず,補助参加人が本件各土地を使用しない場合には豊橋市が原状を回復する手段が必要であるし,ましてや,優遇を受けていた補助参加人が本件各土地を売却して利益を得る事態など,およそ想定し得ない。
そして,現に,平成18年9月当時,豊橋市長は,補助参加人との同一性がない別の企業が本件各土地を使用するようになるのであれば,本件各土地は返還されるべきであるという認識を示していたところであるし,補助参加人も,平成26年10月,本件売却土地の売却については豊橋市に相談したいと述べるなど,豊橋市の同意がなければ売却ができないことを前提にした対応をしていた。(イ)被告の主張について
a
被告は,本件契約締結当時に,補助参加人が全面撤退をすることは想定され
なかったと主張するが,補助参加人も企業である以上,別の場所での経営が更なる成長・発展の好機を生むと見込んで,全面撤退をするに至ることは当然に想定されたと解すべきである。また,仮に全面撤退が想定されていなかったとしても,そうした想定外の事態が起きても紛争を未然に防ぐことができるようにするのが,本件契約12条の役割であるから,本件契約12条が全面撤退の場合を排除しているとはいえない。なお,この点に関連して,被告は,全面撤退が想定されていたのであれば仮登記などの保全措置が執られてしかるべきであると主張するが,誘致を行う上では友好関係・信頼関係が重要であり,大企業である補助参加人に対して返還を求めることに困難が伴うことも想定されない状況下では,あえて保全措置まで執られなかったとしても不自然とはいえない。
また,そもそも本件契約12条において,使用計画が放棄されるのが全部か一部かは問題とされていない(「部分」とは,使用されない範囲の全てという意味であるし,「内」という記載があっても,その中で全部が該当するということもあり得る以上,全部の使用計画が放棄された場合が排除されるものではない。)から,文理上も,被告の主張は不合理である。実質的に考えても,補助参加人が本件売却土地の全部を使用しなくなる場合には,これを売却して利益を得てもよいが,一部を使用しなくなる場合には豊橋市に返還しなければならないなどという解釈は,明らかに不当である。
b
さらに,被告は,本件契約締結当時において補助参加人の稼働状況の見通し
が定まっておらず,本件各土地の使用範囲が明らかになっていなかったために,暫定的に本件契約12条が定められたことを主張するが,そのようなことをうかがわせる文言はなく,上記の事情はせいぜい単なる動機の問題にとどまるから,契約条項の解釈とは結び付かない。また,本件協議書が,本件契約の締結から15年も経過した後に取り交わされた上,本件協議書の中で,本件契約12条に期限は特段ないことが確認されていることからしても,被告の主張は理由がない。c
加えて,被告は,本件協議書は,費用負担に関して同時に取り交わされた別
の覚書(以下「昭和41年覚書」という。)との関係上,補助参加人に有利な形で本件契約12条を変更した趣旨であると主張するが,これも理由がない。そもそも,本件協議書においては,本件協議書が本件契約を変更する趣旨のものではないことが明示的に確認されている。現に,本件契約12条における「放棄」という用語自体,補助参加人が一方的に使用をしなくなるという趣旨を含んでいるから,本件協議書によって本件契約12条の意味内容が変更されたという理解は採り得ない。また,昭和41年覚書は,住民から豊橋市が補助参加人を過度に優遇しているという批判があったことを受けて取り交わされたものであるから,それと同時に取り交わされた本件協議書において,豊橋市が,別の面で補助参加人を有利に扱う合意をして,住民からの別の批判をもたらす余地を生じさせることなど,あり得ない。
なお,被告が指摘する別紙物件目録記載2及び10の各土地に係る売買契約は,豊橋市の都合で補助参加人が土地を手放した局面において締結されたものであって,補助参加人が自ら使用計画を放棄した局面での契約ではないから,本件とは無関係である。
(ウ)補助参加人の主張について
a
補助参加人は,自らが現在の岡山県総社市(当時の岡山県都窪郡α村。以下
「総社市」という。)等と取り交わした覚書(以下「別件覚書」という。丙4の1)に,総社市から提供された土地に設置される工場が廃止された際には補助参加人が無償で土地を返還する旨の定めがあることと本件契約の内容との相違を強調するが,別件覚書の上記定めと本件契約12条は,いずれも文書の末尾に清算条項的に設けられているのであって,両者に本質的な違いはないと考える方が自然である(ましてや,総社市よりも豊橋市の方が,補助参加人に経済的な利益を多く供与してきたことからすれば,総社市等との間における別件覚書の方が,より自治体に有利な定めが置かれているなどと解釈するのは不当である。)。
b
また,補助参加人は,本件契約12条による制約は合理的期間が経過した後
は及ばないなどと主張するが,仮に本件契約の効力を一定期間経過後に失わせるにしても(ただし,合意解約も可能な中で,明文もないのにそのような強制的な終了原因を解釈上導く根拠はなく,原告らとして,本件契約の失効を認める趣旨ではない。),その際には当然に清算が必要なのであって,清算に関する本件契約12条までが無効となる理由はない。しかも,補助参加人が,当初無償で提供された本件各土地を,事業終了時に無償で返還するのは当然であり,本件契約12条が,補助参加人の営業の自由などを不当に制約するといった理解も採り得ない。なお,総社市から補助参加人に提供された土地の一部については,別件覚書の上記aに掲げた定めの趣旨に即して,総社市議会での了解を得た上で,補助参加人から総社市への寄附がされたところ,何らの合意もないのに,営利企業が広大な土地の売却代金を取得しない理由など見当たらない以上,別件覚書が期間の経過によって無効となったなどとは解されないのであり,その意味からも,別件覚書と同趣旨の内容を含む本件契約の失効に関する補助参加人の主張は失当である。c
さらに,補助参加人は,買戻しの特約に関する民法580条が類推適用され
るべきであるなどとも主張するが,財物が提供されればそれで契約上の義務の履行が完了する売買契約と異なり,本件契約においては,本件各土地が提供された後も,契約当事者間の継続的信頼関係が維持され,補助参加人から豊橋市に利益が還元されていくことが予定されているものであるから,民法580条が予定する状況とは前提状況が全く異なっている。

被告の主張

(ア)元々返還義務が存在しないこと
本件契約,本件覚書及び本件協議書においては,補助参加人が本件各土地の一部の使用計画を放棄した場合についての定めはある(本件契約12条等。「敷地の内」,「部分」という表現ぶりから,一部に係る使用計画の放棄のみについての定めであることは明らかである。)が,補助参加人が豊橋事業所を閉鎖し,本件各土地の全部を使用しなくなる場合については,定めが設けられていないし,補助参加人が本件各土地を売却する際に豊橋市の承諾が必要である旨も定められていない。そもそも,①本件契約締結当時の社会経済状況に加え,当時補助参加人が引く手あまたの大企業であったことや,補助参加人が豊橋事業所に莫大な先行投資をしたことに照らせば,補助参加人が豊橋事業所を閉鎖して本件各土地の全部から撤退することなど,想定しようもなかった(仮に想定されていれば,本件各土地につき,条件付所有権移転仮登記等の保全措置が講じられたはずである。)。また,②本件契約12条は,できるだけ早期に補助参加人の工場誘致を行うことが優先されたことで,本件各土地の具体的な使用範囲が分からないままに本件契約の締結に至ったために,使用されないことが後に判明した部分について豊橋市が返還を受けることができるように設けられたものであって,その経緯からも,本件各土地全部の返還を想定した条項と捉えられるべきではない(稼働状況いかんで返還の問題が生じ得ることは,常に変わらないし,現に昭和41年に本件協議書が取り交わされた当時も空き地は存在していたのであるから,②の理解は,本件契約12条に期限が設けられていないことと矛盾するものではない。)。
(イ)少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,返還義務は存在しないこと本件協議書において,補助参加人が自ら放棄の意思表示をした場合にしか本件契約12条が妥当しないという趣旨の定めが置かれたのは,本件協議書と同一日に取り交わされた鉄道引込線に関する覚書(昭和41年覚書)において,補助参加人の豊橋事業所専用の鉄道引込線の費用負担の点で,本件契約よりも補助参加人に不利な取決めがされたこととの均衡を図る形で,当時も存在していた空き地部分について豊橋市から返還を求められることのないように,補助参加人に有利な規定を置くこととなったからである(何らかの交換条件がなければ,本件契約よりも不利な昭和41年覚書の内容を補助参加人が了承するはずはない。)。こうした経緯及び本件協議書の文言からすれば,少なくとも本件協議書が取り交わされた時以降,使用計画の放棄の要件に該当するか否かの判断権は補助参加人にのみあることとなるから,本件契約12条だけを見れば,豊橋市が本件各土地の返還を求めることができるように読み得るとしても,少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,そのような解釈は成り立ち得ないものというべきである。現に,本件協議書が取り交わされた後,昭和62年及び平成24年に,補助参加人が使用していない土地につき豊橋市との間で売買契約が締結されていることは,本件契約12条があっても,豊橋市が無償返還を求めることができなくなっていたことの現れである。(ウ)原告らの主張について
本件売却土地の売却について,補助参加人から豊橋市への報告がされたことはあるが,豊橋市の承諾が必要であるという前提での申入れ等はされていない。また,原告らが指摘する平成18年9月における豊橋市長の答弁も,結論として法的に返還請求をすることは難しい旨の認識を示したものであって,本件における被告の主張と矛盾するものではない。

補助参加人の主張

(ア)元々返還義務が存在しないこと
本件契約が,本件各土地の一部を使用しないことのみを想定して締結されたことは,被告の主張するとおりであり,このことは,①補助参加人が同時期に総社市内に設けた工場と同様に,豊橋事業所の工場も約6万坪(本件各土地の全部よりも狭い面積)とすることが予定されていたこと,②上記総社市の工場に係る別件覚書と異なり,あえて「使用する計画を放棄した部分」という記載がされていること(別件覚書には,工場の廃止により工場敷地が不用となった場合に補助参加人が無償返還するという趣旨のみが定められている。)から明らかである。
(イ)少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,返還義務は存在しないこと本件協議書が取り交わされた経緯についても,被告の主張するとおりであり,当時,本件各土地の未使用部分の返還を豊橋市側から求められる懸念があったために,本来応じなくてもよい鉄道引込線の費用負担を了承する代わりに(昭和41年覚書),補助参加人側から使用計画を放棄する意思表示をしなければ返還義務は生じないという趣旨を明確にしたものである。
(ウ)仮に上記(ア)及び(イ)が採用されないとしても,本件売却土地の売却当時には,返還義務はなくなっていたこと
a
補助参加人は,昭和43年に本件各土地の未使用部分に豊橋事業所の第2工
場を設置したところ,その時点で,補助参加人が使用計画を放棄する部分はなくなったのであって,もはや本件契約12条が適用される余地はない。b
仮にそうでないとしても,本件契約12条によって補助参加人の営業の自由
及びそれに伴う本件各土地の処分の自由が永久に害されるのは不当であって,当事者の合理的意思として,合理的期間が経過した後は本件契約12条は失効するものと解すべきところ,本件契約締結後,補助参加人は,相当長期間にわたり,本件各土地の固定資産税を負担し,豊橋市の雇用創出にも貢献してきたものであるから,遅くとも本件売却土地の売却の時点では,合理的期間の経過により,本件契約12条は失効していたものと解すべきである。
また,本件契約12条は,一定の事由が生じた場合に所有権移転契約が解除されるという意味で,買戻しの特約に類似した効果を持つから,民法580条の法意(目的物の帰属を長期間にわたって不安定にすることを回避する趣旨)に照らし,遅くとも,本件協議書が取り交わされた昭和41年から10年が経過した後の時点では,豊橋市が本件契約12条に基づく権利を行使することは許されないと解すべきである。
(エ)原告らの主張について
原告らは,補助参加人が総社市に対して工場の敷地の一部を寄附した事実を捉えて,補助参加人が本件契約と同様の別件覚書を有効なものと認識していた旨主張するが,別件覚書の効力にかかわらず,諸事情により補助参加人が敷地の一部を寄附することはあり得るのであって,原告らの主張するような推論は成り立たない。第3
1
当裁判所の判断
認定事実

前記前提事実に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
(1)補助参加人が本件各土地を利用するに至った背景
豊橋市は,昭和25年当時,工業化政策を本格化させるため,本件各土地を含む広大な旧軍用地(農地としての利用には適していなかった。)を利用した工場誘致政策を進めていた。この政策の一環で,豊橋市は,当時,工場の新設を計画していた補助参加人への働き掛けを行い,本件各土地に補助参加人の事業所を誘致することに成功した。(甲8,22,乙1ないし3,弁論の全趣旨)
(2)本件覚書及び本件契約の締結等

昭和25年12月5日,本件覚書が取り交わされたところ,この時点では,補助参加人の事業所の敷地となる土地の範囲が確定していたわけではなかった。また,補助参加人としては,この頃,本件各土地のうち6万坪程度を利用する想定をしており,結果として使用しない部分が生じてくることを想定していた。(甲2,3,丙4の1,弁論の全趣旨)

本件覚書においては,前記前提事実(2)イに掲げた本件覚書13条のほか,
次の趣旨が合意された。
なお,本件覚書13条は,本件各土地の利用計画が完全に定まっていなかったために,補助参加人が本件各土地に新設する事業所が操業を開始した後になっても使用する見込みがない部分があれば豊橋市に返還することを念頭に,設けられたものであった。(甲2,8)
(ア)豊橋市は,補助参加人による工場建設が早期に完成するように,物心両面にわたって全面的に協力し,諸便益を提供する。(2条)
(イ)当時政府が所有していた本件各土地について,払下げがされるまでの間は,政府から豊橋市が借り受けてこれを補助参加人に無償貸与し,払下げを受けることが可能となれば,豊橋市が自らの費用負担で払下げを受けた上で,その所有権を補助参加人に無償移転させる。(3条(1)(ハ))
(ウ)工場用鉄道引込線は補助参加人の専用とし,当該鉄道引込線の施設費用のうち用地買収及びこれに伴う費用は豊橋市の負担とする。(3条(4)(ハ)(ホ))(エ)補助参加人に課されるべき市税のうち本件各土地に新設される工場の操業開始後6年間分の固定資産税を実質的に免除するほか,補助参加人に課されるべき事業税その他の県税に関して補助参加人の希望にそうように愛知県とあっせん交渉する。(5条,6条)
(オ)本件覚書に規定のない事項あるいは疑義を生じた事項については,各当事者が本件覚書の趣旨に従って誠意をもって協議し,実行する。(14条)ウ
本件覚書における上記各定めの趣旨は,本件契約にもそのまま引き継がれた。
ただし,本件契約3条(1)(ハ)においては,補助参加人が政府から直接本件各土地の払下げを受ける場合には,その費用は豊橋市が負担する旨が追加で合意された。なお,豊橋事業所の工場建設自体は,本件覚書が取り交わされた後,本件契約の締結を待たずに開始された。(甲3,15,22,25,弁論の全趣旨)(3)本件契約の締結当初における本件各土地の利用状況等

補助参加人による豊橋事業所の建設工事は,昭和26年12月5日に竣工し
た。そして,当初,工場の従業員として約2000人が雇用された。(甲7,8,乙1,3)

昭和29年3月頃,本件各土地の所有権は国から補助参加人に直接移転し,
その後,所有権に係る登記名義も国から補助参加人に直接移転したところ,その払下げに必要な手続や費用の負担(合計約1100万円)は豊橋市において行ったほか,本件各土地に入植していた者に対する補償関係費用(約1500万円)も,豊橋市において負担した。(甲8,10の6ないし10,14,16ないし18,23,24,26,弁論の全趣旨)

本件契約に基づき,昭和31年までは,豊橋事業所に係る固定資産税は免除
されていたが,昭和32年以降は,補助参加人が固定資産税を負担した。豊橋事業所の操業開始当時において,固定資産税額は,年額2500万円程度と見込まれていたが,昭和32年から昭和41年までに実際に支払われた固定資産税の合計額は,9800万円程度であった。
なお,平成18年から平成27年までの10年間において,豊橋事業所に係る固定資産税,法人市民税及び事業所税の合計額は,年額で平均1億6000万円弱であった。(甲8,乙1,5の1)
(4)本件協議書の作成等

本件協議書が取り交わされた昭和41年頃までの間,本件各土地の中になお
空き地があることや,鉄道引込線に関して補助参加人に過大な便宜供与がされていること(鉄道引込線用地の借地料を豊橋市が負担していること等)が豊橋市議会等で問題視されていた。(甲8,乙5)

本件協議書が取り交わされたのと同じ日である昭和41年2月21日に,豊
橋市と補助参加人との間で覚書が取り交わされ(昭和41年覚書),本件契約3条(4)にかかわらず,鉄道引込線用地のうち東海財務局所管の国有地については,買収及びそれに伴う一切の費用を補助参加人の負担とすること,その買収事務が同年4月1日までに完了しない場合,豊橋市が支払っている当該国有地の借地料は以後補助参加人の負担とすることが取り決められた。(乙4)

本件協議書が取り交わされた後,豊橋市と補助参加人との間で,本件契約1
2条について具体的な協議がされたことはうかがわれない。(甲8,弁論の全趣旨)エ
昭和43年,昭和41年当時に問題とされた空き地部分も利用する形で,豊
橋事業所の第2工場が完成した。(甲7,丙6,弁論の全趣旨)
(5)平成18年における豊橋市議会での質疑
平成18年9月,豊橋市議会において,本件各土地のうち広範囲が空き地となっている点などが問題とされたところ,当時の豊橋市長であったDは,平成14年に補助参加人の分社化がされた際に弁護士と相談して検討したが,分社化がされたとしても会社としての同一性が失われるわけではないから,本件契約への違反は生じないし,法的に返還請求をしていくことは難しいという検討結果となった旨,全く違う企業が使用するようになれば,本件契約に違反してくる可能性がある旨を答弁した。(甲11)
(6)本件売却土地の売却の前後における事実経過

補助参加人は,平成26年10月9日,豊橋市に対し,同年に定めた「中期
経営計画」の中で,本件売却土地に設けている豊橋事業所の操業を停止する方向性を固めた旨を明らかにし,その際,次の点を申し入れた。
①平成27年3月末までに,豊橋事業所全体を閉鎖すること。②閉鎖に前後して,本件売却土地は,再開発を前提として第三者へ売却したいこと。③今後,売却及び開発を行うに当たり,豊橋市に相談したいこと。なお,補助参加人は,豊橋市の担当者に対し,豊橋事業所閉鎖の準備や買手の選定等の関係で,社内決定までは上記の事項の公表を控えてほしい旨を申し入れた。(甲5,8)

補助参加人の代表取締役であるEは,平成26年10月29日,本件売却土
地の売却方針につき,豊橋市長に対する説明を行った。(甲7,14)ウ
豊橋市長は,平成26年11月5日,F敷地対策会議を設置した。同会議は,
計7回開催され,本件売却土地の開発が周辺区域の街づくり等に及ぼす影響等について検討がされた。(甲7,8,弁論の全趣旨)

補助参加人は,平成27年3月12日,豊橋市に対し,本件売却土地で営ん
でいる豊橋事業所に関する事業所等廃止申告書を提出した。(甲7)オ
Eは,平成27年9月16日,豊橋市長に対し,本件売却土地の売却や引渡
しの予定等を報告した。(甲7,弁論の全趣旨)

補助参加人は,平成27年9月28日,遊休資産である本件売却土地をA会
社に売却し,約10億円の特別利益を計上する旨を公表した。(甲7,9)キ
豊橋市長は,平成28年6月頃,本件に関する記者会見の場で,「使用計画
した土地は全部使った。事業の放棄と使用計画の放棄をごちゃ混ぜにしないでください。」と述べた。(甲6,14)
2
争点(返還義務の存否)に関する判断

(1)ア上記認定事実によれば,本件においては,補助参加人が豊橋事業所を閉鎖することに伴って,本件売却土地の全部が使用されなくなり,かつ,補助参加人は,遅くとも平成27年3月12日における事業所等廃止申告書の提出の時点で,本件売却土地を使用する計画を放棄する旨の意思表示を豊橋市に対してしたものと認めるのが相当である。そうすると,本件協議書の内容(補助参加人による使用計画の放棄の意思表示を必要とするもの)を踏まえたとしても,補助参加人が本件売却土地を使用する計画を自ら放棄したという本件契約12条の要件は満たされるものと解すべきである。

そこで,次に問題となるのは,本件契約12条に基づく返還義務は,補助参加人が対象土地の全部を使用しなくなった場合にも生ずるかという点である。(ア)この点に関し,本件契約12条(この基礎となった本件覚書13条も同様である。)においては,本件各土地のうち使用計画が放棄された「部分」を返還するという定めがされているところ,対象土地の全部につき使用計画が放棄された場合であっても,返還対象となる「部分」が対象土地のうちの全部であるという理解をすることは可能であるから,文理上,本件契約12条が,対象土地の全部の使用計画が放棄された場合を排除しているとは解されない(なお,一般に,法令上,「部分」という文言が使われる場合には,その「部分」は必ずしも対象の一部に限定されるものではなく,対象の全部をも含む趣旨で使われることもあるのであって(民法550条ただし書等),「・・・のうち,・・・の部分」というような文言が使われているからといって,対象の全部が該当する場合を排除しているとは解されない。)。
(イ)そして,実質的に考えても,本件契約の締結に至る経緯等に鑑みると,本件契約12条は,工場誘致政策の関係で,本件各土地に関し,豊橋市が税制面も含めた種々の便宜供与を行う必要があった一方で,早期に上記政策を遂行することが優先されて使用計画が確定しないまま本件契約を締結せざるを得なかったために,一旦本件契約を締結した上で,不要となった部分については便宜供与の対象としたままとはせずに速やかに豊橋市に返還するということを念頭に設けられたと理解されるところ,この趣旨が,対象土地の一部について使用計画が放棄された場合にのみ妥当し,対象土地の全部について使用計画が放棄された場合に妥当しないという理由も見当たらない。かえって,対象土地の全部の使用計画が放棄された場合に本件契約12条が適用されないと解すると,対象土地の一部についてのみ使用計画が放棄された場合には,補助参加人はその一部を豊橋市に返還しなければならず,第三者に土地を転売するなどして利益を得ることは本件契約12条に違反し許されないにもかかわらず,全部について使用計画が放棄された場合には,返還義務がないために第三者への転売等も妨げられないという帰結となり,一部放棄の場合よりも全部放棄の場合の方が補助参加人に有利,すなわち豊橋市に不利となる。しかし,豊橋市としては,工場誘致の一環であったからこそ本件各土地の無償提供を始めとする様々な便宜供与をしたものである以上,工場としての使用が全面的にされなくなった場合に,一部放棄の場合には生じないような利益を補助参加人に与えなければならない合理的な理由は一切ないのであって,上記の帰結は,単に均衡を失するばかりでなく,契約当事者の合理的意思にも反しているというほかない。なお,本件契約締結後,補助参加人の豊橋事業所のために多くの雇用が生み出され,豊橋市の税収等にも継続的な貢献がされた点を前提としても,使用計画の全部放棄の場合の方が一部放棄の場合よりも補助参加人に有利な帰結となることが不合理であることに変わりはないから,上記の点は,判断を左右しない。
(ウ)このように,文理上,対象土地の使用計画の全部放棄の場合が排除されていると解することはできず,実質的に考えても,全部放棄の場合を除外して考えることは不合理な帰結を招くのであるから,全部放棄の場合にも,補助参加人は,本件契約12条に基づく返還義務を負うものと解すべきである(なお,上記返還義務は飽くまで本件契約12条に基づく債権的な義務であるから,豊橋市に本件売却土地の所有権が帰属したことがないことは,義務の消長とは関連がない。)。ウ
そして,補助参加人が,上記イに述べた返還義務を負うにもかかわらず,目
的物である本件売却土地を,自己及び当時の連結子会社において,返還すべき相手方と異なる第三者に売却し,これにより返還義務の履行を確定的に不能とさせた行為(前記前提事実(3))は,豊橋市の権利又は法律上保護される利益を侵害するものであって,不法行為に該当すると認められるから,補助参加人は,豊橋市に対し,損害賠償として,本件売却土地の売却代金相当額63億円及びこれに対する不法行為の日(本件売却土地の所有権移転登記がされ,返還義務が履行不能となった日)である平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負っているといえるから,原告らの請求は全部理由がある(したがって,補助参加人の債務不履行責任については,判断することを要しない。)。
(2)被告の主張について

被告は,本件契約締結当時,補助参加人が豊橋事業所を全面閉鎖して本件各
土地から全面撤退することは想定されていなかったと主張する。しかし,使用計画の全部放棄が想定されていなかったという事実は,全部放棄の場合をあえて除外する趣旨で本件契約12条の合意に至ったとすることとはむしろ矛盾するのであって,被告の主張は,上記の判断を左右するには至らない。
なお,被告は,使用計画の全部放棄が想定されていたとすれば,豊橋市において何らかの保全措置が講じられたはずであるとも主張するが,当裁判所は,必ずしも上記のような想定がされていたという前提を採るものではない(全部放棄の場合をあえて除外する趣旨ではないと認めるにとどまるものである。)から,被告の指摘する点は判断に影響しない。また,本件において問題となっているのは飽くまで本件契約の解釈であるから,豊橋市が当事者となっていない別件覚書(補助参加人と総社市等との間で取り交わされたもの)の文言との比較などによって,判断が左右されるものではない。

また,被告は,少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,本件契約12
条に基づく返還義務は存在しないなどとも主張する。
この点に関し,まず,本件協議書はその文言上も飽くまで本件契約の趣旨を再確認したものと位置付けられている(なお,豊橋市の担当者も,後に,本件協議書により新たな権利義務が設定されるものではないという理解を述べているところである(証拠(甲14)により認められる。)。)のであって,本件契約と本件協議書が実質的に異なる意味内容を定めていると解釈すること自体にそもそも無理がある。そして,具体的に本件契約や本件協議書の文言に即して検討してみても,本件契約12条の「放棄」という文言は,補助参加人側からの使用をしない旨の明示又は黙示の意思表示があることを前提にしていると解し得るのであって(信託法99条,183条3項等参照),本件協議書は,飽くまで本件契約12条の内容を明確化したものにとどまると解するのが自然である。なお,対象土地を使用しないことに関する意思表示が補助参加人によってされる必要があるということと,そうした意思表示がされた場合に豊橋市から返還を求められるということは,何ら矛盾するものではない。
さらに,被告が主張するように,本件協議書が取り交わされたのと同じ時期に,昭和41年覚書が取り交わされ,その中で鉄道引込線をめぐる費用負担に関して本件契約よりも補助参加人に不利な合意がされた事実は認められるものの,昭和41年覚書が,上記費用負担等に関して豊橋市が図っている便宜が過大であるという批判を受けて取り交わされた経緯からすれば,豊橋市が,同じ機会にあえて本件契約よりも補助参加人の便宜を図るような内容の協議書を取り交わすことは考え難いのであって,被告が主張する点は,本件協議書の解釈には影響しない。なお,鉄道引込線については,補助参加人の専用に係るものでありながら,元々豊橋市によって,補助参加人には特段の負担が生じない形で,無償の便宜供与がされていたことに鑑みれば,豊橋市が市議会等の意向を受けて費用負担を求めるなどした場合に,補助参加人が何の見返りもないのにこれを了承することが不自然であるとまではいえない。
加えて,被告は,別紙物件目録記載2及び10の各土地の売買をもって,本件契約12条に基づく返還義務が存在しないことの根拠としているが,上記各土地は下水道事業のために豊橋市に売却されたものであるから,その状況からして,補助参加人が自ら使用計画を放棄したとは認められない。したがって,上記各土地の売買は,本件契約12条が問題となる場面には当たらないので,被告の主張は採用することができない。

被告は,平成18年9月におけるD豊橋市長の答弁を援用するが,上記答弁
は,飽くまでも補助参加人の分社化の場合を念頭に,返還請求が法的に難しいという検討結果を述べたにとどまり,本件のように第三者に対象土地が売却された場面とは異なる場面についてのものである上,上記答弁においては,全く別の企業が対象土地を使用する場合には返還請求が可能であることも示唆されていたものであるから,上記答弁も本件判断を左右するものではない。
(3)補助参加人の主張について

補助参加人は,第2工場が完成した昭和43年の時点で,本件各土地のうち
使用計画を放棄する部分はなくなったため,それ以降,本件契約12条の適用の余地はないと主張するところ,いずれにせよ本件各土地の一部又は全部が工場用地として使用されなくなれば,豊橋市が補助参加人に無償提供をする合理的な理由がなくなることに変わりはないため,一旦使用するようになったがその後使用を中止して使用計画を放棄した場合と,そもそも当初から一切使用しない場合とを区別する合理的な理由はないから,補助参加人の主張は採用することができない。イ
また,補助参加人は,合理的期間が経過すれば本件契約12条は無効となる
と解すべきである旨主張するが,本件協議書において,本件契約12条には期限がないことが明示的に確認されている状況の下で,補助参加人が主張するような法的効果を導く具体的根拠は見当たらない。この点に関し,補助参加人において,長期間にわたって豊橋市の財政等に貢献してきた事情があるにせよ,それをもって,本件契約に係る条項が一定期間経過後に当然に失効するとまで解することは到底できない。補助参加人としては,本件契約締結後あるいは本件協議書を取り交わした後においても,契約内容の見直しを求める機会はあったのであって,そのような具体的な行動に出なかった以上,本件契約や本件協議書の内容に拘束されることはやむを得ないというほかない。また,補助参加人は本件各土地を無償で取得したのであるから,それらを使用しなくなった場合に豊橋市に返還しなければならないとしても,補助参加人の財産権や営業の自由が不当に害されているなどとは評価し難い。ウ
さらに,補助参加人は,買戻しの特約に係る期間制限に関する民法580条
の法意をも問題とするが,そもそも,本件契約は,本件各土地の所有権を補助参加人に無償で移転する内容の契約であるから,有償契約である売買契約とは性質を大きく異にしており,売買を前提とした民法580条の類推適用等をする前提を欠いているというべきである。すなわち,有償で所有権を取得した者が買戻権を行使され得るという不安定な地位に長期間置かれるのを防ぎ,もって取得者を保護すべき要請があるとしても,本件のように,無償で土地を取得した者がその利用を終えた時に土地を無償で返還することになることが想定される場合において,有償で取得した者と同様に取得者を保護しなければならない要請が働くとまではいえない。第4

結論

以上の次第で,原告らの請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,66条を適用して,主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部

裁判長裁判官

市原義孝
裁判官

平田晃史
裁判官

佐藤政達
※別紙物件目録は添付省略

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