判例検索β > 平成26年(ワ)第55号
地位確認等請求事件、建物明渡請求反訴事件
事件番号平成26(ワ)55
事件名地位確認等請求事件,建物明渡請求反訴事件
裁判年月日平成30年2月13日
法廷名大分地方裁判所  中津支部
結果その他
戻る / PDF版
平成30年2月13日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成26年(ワ)第55号地位確認等請求事件,同第113号建物明渡請求反訴事件
口頭弁論終結日平成29年10月31日

判主1決文
被告宇佐神宮は,原告に対し,27万1154円及び内金26万2600円に対する平成26年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告宇佐神宮,被告C及び被告Dは,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成26年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4
被告宇佐神宮の反訴請求を棄却する。

5
訴訟費用は,本訴反訴を通じて,原告に生じた費用の15分の1及び被告宇佐神宮に生じた費用の5分の1を被告宇佐神宮の負担とし,原告に生じた費用の50分の1並びに被告C及び被告Dに生じた25分の1を被告C及び被告Dの負担とし,原告に生じたその余の費用及び被告らに生じたその余の費用を原告の負担とする。

6
この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

第1
1実及び理由
請求
本訴請求(平成29年7月26日付訴えの変更後のもの)
(1)

被告宇佐神宮は,原告に対し,565万9410円及び内金386万4
200円に対する平成26年5月24日から支払済みまで年5分の割合に対する金員を支払え。
(2)

原告が,被告宇佐神宮に対し,労働契約上の権利を有する地位にあるこ
とを確認する。
(3)

被告宇佐神宮は,原告に対し,平成26年6月から本判決の確定の日ま
で,毎月23日限り,月額50万5000円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(4)

被告らは,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成2
6年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2
反訴請求
原告は,被告宇佐神宮に対し,別紙1物件目録記載の各建物を明け渡せ。
第2
1
事案の概要
事案の骨子と請求の概要
本件は,原告が,被告神社本庁から被告宇佐神宮の神職である権宮司を免職され,被告宇佐神宮から解雇されたことを契機に,原告と被告宇佐神宮との間で,解雇日までの未払給与の有無及び額,労働契約上の地位等が争われ,併せて,原告と被告らとの間で,被告宇佐神宮における原告に対する嫌がらせ,監視観察,暴言,暴行等のパワーハラスメントを理由とする損害賠償責任の有無が争われている事案であり(以上,本訴事件),被告宇佐神宮と原告との間で,原告が居住し,被告宇佐神宮が所有する建物について原告の占有権原等が争われている事案である(以上,反訴事件)。
本訴事件及び反訴事件の請求の概要は,次のとおりである。
(1)

本訴事件
原告が,被告宇佐神宮に対し,平成25年6月16日から解雇日である平成26年5月15日までの賃金について被告宇佐神宮が行った欠勤控除には理由がないとして,労働契約に基づき,前記期間に係る未払賃金及びにこれに対する同年4月分の賃金(同年4月16日から同年5月15日までの賃金)の支払日である同年5月23日までの確定遅延損害金合計565万9410円及び内金である未払賃金元金386万4200円に対する同月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(前記第1の1(1)記載の請求)イ
原告が,被告宇佐神宮に対し,被告神社本庁が原告に対して平成26年5月15日付けでした被告宇佐神宮の神職である権宮司からの免職(甲1。以下「本件免職」という。)及び被告宇佐神宮が原告に対して同日付でした解雇(甲2。以下「本件解雇」という。)はいずれも無効であるとして,労働契約上の地位にあることの確認並びに解雇日以降の賃金及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(前記第1の1(2)(3)記載の請求)


原告が,被告らに対し,原告は,被告宇佐神宮において,被告神社本庁の助言指導ないし被告神社本庁との協議に基づく原告排除を目論んだ組織ぐるみのパワーハラスメントを被告C及び被告Dから受け,このパワーハラスメントは,被告宇佐神宮においては,原告との労働契約に基づく安全配慮義務,就労環境調整義務を怠ったものであり,被告神社本庁においては,被告宇佐神宮の包括団体として被告宇佐神宮の神職に対して負う神職の地位を保全保護すべき債務ないし信義則上の義務を怠ったものであるとして,被告C及び被告Dに対しては共同不法行為に基づき,被告宇佐神宮及び被告神社本庁に対しては共同不法行為ないし債務不履行に基づき,連帯して1100万円(慰謝料1000万円及び弁護士費用10万円の合計額)の損害賠償及びこれに対する訴状送達の翌日である平成26年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(前記第1の1(4)記載の請求)
(2)

反訴事件
被告宇佐神宮が,原告に対し,所有権に基づき別紙1物件目録記載の各建物(以下,同目録記載1の建物を「本件建物1」,同目録記載2の建物を「本件建物2」といい,併せて「本件各建物」という。)の明渡しを求める請求(前記第1の2記載の請求)
2
前提事実(争いのない事実,後掲の証拠(特に断らない限り,全ての枝番の証拠を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)

当事者等
被告神社本庁
(ア)

被告神社本庁は,全国神社の総意に基づいて全国神社の包括団体と
して昭和21年2月3日に設立され,宗教法人法の制定に伴い昭和27年2月2日に法人格を取得した約7万9千余りの宗教法人たる神宮・神社を包括する包括宗教法人である(宗教法人法2条2号参照)。
【争いのない事実,乙1,2】
(イ)

被告神社本庁の総長は,被告神社本庁を代表し,その事務を総理す
る代表役員(宗教法人法18条3項参照)である(乙1。宗教法人「神社本庁」庁規(以下「庁規」という。)7条)。
また,被告神社本庁には,統理一人を置き,統理は,被告神社本庁及び神社庁並びに被告神社本庁が包括する神社(以下,単に「神社」という。)の職員を統督する(庁規40条1項,3項)
【争いのない事実,乙1,2】

被告宇佐神宮
(ア)

被告宇佐神宮は,昭和29年1月26日に法人格を取得して宗教法
人となった宗教団体である神社であり(宗教法人法2条1号参照),被告宇佐神宮の境内地内にある本件各建物を所有している。被告宇佐神宮は,平成3年10月16日,本件建物2の所有権を原告の父であるG(以下「G」という。)からの寄附行為(以下「本件寄附行為」という。)によって取得した。
被告宇佐神宮は,被告神社本庁と被告神社本庁を包括宗教団体とする包括関係にあり,役職員進退に関する規程(乙4。以下「進退規定」という。)別表に掲げられている。
【争いのない事実,甲11,12,乙4,丙9,11,12,15,16】(イ)

被告Cは,平成21年2月26日,庁規90条2項に基づき被告宇
佐神宮の神職である宮司に任命され,平成28年2月20日まで宮司及び代表役員の地位にあった者である(なお,被告Cが平成26年5月15日当時に宮司(代表役員)としての地位にあったかについては争いがある。)。
被告Dは,平成21年3月15日,被告神社本庁から被告宇佐神宮の神職である権宮司に任命された者である(なお,被告Dの権宮司任命の有効性には争いがある。)
【争いのない事実,戊1】

原告は,昭和48年5月8日から平成18年4月6日まで被告宇佐神宮の宮司であったGの長女である。原告は,平成26年5月15日当時,被告宇佐神宮の権宮司であった。
原告は,本件各建物に居住して占有している。
【争いのない事実,甲11】

(2)

被告宇佐神宮の組織,神職の任免手続等
被告宇佐神宮の組織や役員その他の機関,神職の任免などは,宗教法人
「宇佐神宮」規則(丙9。以下「規則」という。)のほか,包括宗教法人である被告神社本庁の庁規及び進退規定において,次のとおり定められている。ア
被告宇佐神宮の代表役員には,神職である宮司をもって充て(規則8条,9条,庁規78条),また,被告宇佐神宮に代表役員を含む責任役員4人及び総代(規則10条参照)5人を置く(規則7条,14条。なお,責任役員の定員数は平成18年に3人から4人に増員されている。)。イ
宮司の進退
(ア)

宮司の進退は,代表役員以外の責任役員の具申により統理が行う。
ただし,統理が必要と認めたときは,代表役員以外の責任役員の同意を得て進退を行うことができる(規則20条1項,庁規90条1項)。(イ)

特任宮司
特任宮司は,前記(ア)の方法によらず,特別の事情により,宮司の任
命手続ができないため,神社の存立上重大な支障があると認められるときに,統理によって特任される宮司であり(庁規90条2項),その任期は3年である(庁規90条4項)。

責任役員会
(ア)

責任役員は,責任役員会を組織し,宗教上の権能に関する事項を除
く外,被告宇佐神宮の維持運営に関する事務を決定する(規則8条2項)。
(イ)

代表役員以外の責任役員は,総代その他氏子又は崇敬者で神社の運
営に適当と認められる者のうちから総代会で選考して代表役員が委嘱し,その任期は原則4年である(規則10条)。
(ウ)

責任役員会は,代表役員(宮司)が招集する(規則8条3項)。

総代会
(ア)

総代は,総代会を組織し,被告宇佐神宮の運営について責任役員を
助け,宮司に協力する(規則15条)。
(イ)

総代は,氏子又は崇敬者で徳望の篤い者のうちから選任し,その選
任方法は責任役員会で定め,その任期は原則4年である(規則16条)。オ
被告宇佐神宮の職員
(ア)

神社に置く職員の名称及び員数は,庁規85条1項の定める例に準
じ,権宮司は,統理の承認を受けなければ置くことができないところ(庁規85条2項),被告宇佐神宮は,職員として,宮司1名のほか,権宮司2名,禰宜2名,権禰宜若干名(人数は宮司が定める。)を置いており(規則17条),いずれも神職である(庁規87条1項)。なお,被告宇佐神宮の職員の勤務条件等を定める宗教法人宇佐神宮奉務規則(平成23年11月1日改訂施行後のもの。丙6。以下「奉務規則」という。)2条2号によれば,他に神職として出仕が置かれている。(イ)

神職の職務
神職は,神明に奉仕し,神社神道に基づいて宗教活動に従事する外,
それぞれ次の職務を行い(規則18条,庁規87条2項,88条),宮司,権宮司,禰宜,権禰宜,出仕の順の職階に基づいて指示を受ける(奉務規則2条3号)。
a
宮司は,社務をつかさどる。

b
権宮司は,宮司を助けて事務に従事する。

c
禰宜,権禰宜は,上長の指揮を受けて事務に従事する。

(ウ)
a
権宮司の任免
権宮司の進退は,責任役員の同意を得て宮司が具申し,統理が行う(規則20条3項,庁規91条1項)。

b
神職は,神社に奉仕するための神職資格である階位を有し,かつ,神社神道を信奉する者のうちから任用するところ(庁規87条3項),進退規定別表に掲げられた神社である被告宇佐神宮の権宮司は,明階以上の階位を有する者でなければならない(進退規定13条2項)。
c
神職は,進退規定22条5号により「職員として適当でないことが判明したとき」職を免ずることができる。


神職の身分
神職の地位に関しては,前記オ(ア)の宮司,権宮司などの特定の神社における神職としての地位,前記オ(ウ)の特定の神社の神職としての地位に就くために必要な神職資格である階位の外,神職身分に関する規程(甲36)において神職の身分が定められており,これには特級,一級,二級上,二級,三級及び四級の六等級が存在する。
【争いのない事実,甲36,乙1,4,丙6,9,23】
(3)

原告の被告宇佐神宮の神職への任用の経過
原告は,平成17年4月1日,被告宇佐神宮の禰宜に就任し,平成19年4月1日に総務部長を命じられ,同年5月20日に明階の階位を取得し,同年10月1日に権宮司に就任した。
【争いのない事実,乙5から7まで,丙6】


原告の賃金は,平成25年6月16日当時,基本給月額50万5000円であり,計算期間を当月16日から翌月15日までとし,翌月15日締,翌月23日払である(宇佐神宮給与規定(丙3。以下「給与規定」という。)7条)。
なお,原告と被告宇佐神宮の関係が,原告の権宮司就任以降,労働契約に基づくものであり,原告が労働基準法9条の「労働者」に当たることは,当事者間に争いがない。
【争いのない事実,丙3,27】


奉務規則,給与規定による勤務条件の定め(なお,以下の定めが原告に適用されるかには争いがある。)。
(ア)

勤務時間,休日等(なお,奉務規則15条により管理監督者の地位
にある者には適用されない。)
a
勤務時間は,原則として,午前8時30分から午後4時30分までの実働7時間,1週40時間であり(奉務規則11条本文),更衣は,始業時刻前及び終業時刻後に行うものとして勤務時間に含まれず,勤務は,始業時刻と同時に開始して終業時刻まで行わなければならない(奉務規則12条2号,3号)。
職員は,出勤に際し,自ら出勤簿に捺印するか,又は,タイムレコーダーに刻時しなければならない(奉務規則12条1号前段)。
b
休憩時間は,食事時間を含む1時間と午前午後に各10分間であり,休憩は,勤務に支障がないよう交代で行い,原則として外出は認めない(奉務規則13条)。

c
休日は,勤務の都合上,一斉休日によらず,1週間に1日以上の休日を与え,毎月1日を起算日として1か月に6日(法定休日を含
む。),年間72日とする(奉務規則14条1号,2号)。

(イ)
a
欠勤,遅刻,早退,外出
傷病,事故その他の理由により欠勤しようとするときは,予め欠勤願にその理由及び予定日数を記して提出しなければならず,やむを得ない事情によりあらかじめ願い出ることができなかった場合は,速やかに届けなければならない(奉務規則16条1号,2号)。

b
遅刻,早退をするとき,又は,公用,私用外出をするときは,所属上長に届け出なければならず,予め届け出ることができないときは事後速やかに届け出なければならない(奉務規則17条)。

(ウ)

欠勤控除
賃金は日給月給であり(給与規定6条),欠勤者には,賃金を25日
で除し,25日に満たない日数を乗じた金額を賃金から差し引いて支給する(給与規定9条)。
(エ)
a
奉務心得,勤務中の心得
職員は職務上の責任を重んじ職務に精励し,同僚は相敬愛し互いに助け合い,礼儀を尊び,職制に定められた上長の指示命令に従わなくてはならない(奉務規則36条1号)。

b
勤務時間中,次の事項を守り,職務に努めなければならない(奉務規則37条)。
(a)

常に服装を正し,容姿を清潔に整えるとともに,みだりに身体
を露出しないこと。また,丁寧な言葉づかいに留意しなければならない(2号)。
(b)

勤務中は定められた職務に専念し,所属上長の許可を受けない

で職場を離れないこと(4号)。
(c)

私用の面会は,休憩時間中に行うものとする。ただし,上長の

許可を受けたときは,この限りでない(8号)。
(オ)

解雇(奉務規則80条)
職員が,次の各号の1に該当する場合,30日前に予告するか,又は,
予告手当(平均給与の30日分)を支給して即時解雇する。
a
1号,3ないし7号につき省略

b
勤務能力が著しく劣り,又は勤務成績が不良で勤務に適さないと認められたとき(2号)。

(カ)

懲戒(奉務規則86条,87条)
職員が,次の各号の1に該当する場合は,情状により譴責,減給,出
勤停止,昇給停止,降格,論旨退職の懲戒を行う。ただし,その行為が軽いか,情状酌量の余地がある場合,又は,改心の情があると認められたときは譴責にとどめることがある。
a
神宮の定める諸規定に従わないとき(1号)

b
正当な理由がなく,しばしば遅刻,早退又は私用外出を行ったとき(2号)

c
勤務時間中許可なく職場を離れたとき(4号)

d
みだりに神宮の職制を中傷もしくは反抗したとき(7号)

e
神宮内の秩序,風紀を著しく乱す行為をしたとき(14号)

f
その他前各号に準ずる不都合な行為をしたとき(15号)
【丙3,6】

(4)

被告宇佐神宮の代表役員の地位を巡る前件訴訟

前件訴訟に至る経過
(ア)

原告を宮司へ任命する旨の具申
F(以下「F」という。)は,平成18年4月7日,被告宇佐神宮の
宮司に原告の父であるGの後任として就任したが,平成20年7月10日,病気を理由として宮司を退職する旨の退職願を被告宇佐神宮に提出した。
当時,被告宇佐神宮の責任役員であったH(以下「H」という。),I(以下「I」という。)及びJ(以下「J」という。)の3名は,同月15日,Fの後任宮司に原告を推薦することを合意して同日付けの責任役員会議事録(甲8)を作成し,同月23日付けでFの宮司退職と併せて被告神社本庁に具申した。
【争いのない事実,甲8から10まで】
(イ)

原告の宮司就任に反対する被告宇佐神宮職員の嘆願書提出
Gは,平成21年1月13日,死亡した。
被告Dは,統理に対し,権禰宜9名及び出仕1名との連名で原告の宮
司就任に反対し,被告神社本庁及び大分県神社庁が選任する人物の宮司就任を強く希望する旨の平成21年1月16日付け嘆願書(甲52,以下「本件嘆願書」という。)を提出した。
【争いのない事実,甲44,52】
(ウ)

被告Cは,平成21年2月26日,庁規90条2項に基づき,統理
から被告宇佐神宮の宮司に特任された。
【争いのない事実】

前件訴訟の経過
(ア)

原告は,平成22年3月,前記ア(ア)の責任役員会で宮司に任命され
て被告宇佐神宮の代表役員の地位にあるとして,被告宇佐神宮を被告として大分地方裁判所中津支部に被告宇佐神宮の代表役員の地位の確認を求める訴えを提起した(大分地方裁判所中津支部平成22年(ワ)第36号。)。
Hは,同年5月,前記ア(ウ)の被告Cの宮司特任は無効であるとして,被告宇佐神宮を被告として大分地方裁判所中津支部に被告Cが被告宇佐神宮の代表役員でないことの確認等を求める訴えを提起した(大分地方裁判所中津支部平成22年(ワ)第107号。以下,前記原告が提起した訴訟とあわせて「前件訴訟」という。)。
【争いのない事実,丙4】
(イ)

大分地方裁判所中津支部は,平成22年12月10日,前件訴訟に
係る請求をいずれも棄却した。
原告及びHは,それぞれ福岡高等裁判所に控訴したが,同裁判所は,平成23年11月29日,原告及びHの控訴をいずれも棄却した(福岡高等裁判所平成23年(ネ)第14号,同第15号)。
原告及びHは,それぞれ上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成25年5月7日,いずれについても上告棄却ないし上告不受理の決定をした(最高裁判所平成24年(オ)第328号,同第329号,同年(受)第395号,同第396号)。
【争いのない事実,丙1,4,5】
(5)

本件訴訟に至る経過
原告に対する業務命令
(ア)

被告Cは,原告に対し,前件訴訟によって被告Cが代表役員(宮司)
であることが確定したとして,宮司として平成25年6月13日付け職務命令書(乙8の3。1枚目)により「自らが宇佐神宮の宮司でないことを認め,速やかに宇佐神宮に出仕し,宇佐神宮の宮司である小職の指揮命令に従い,神職としての職責を全うするよう命令します」との業務命令を行った。
前記業務命令において提出が命じられた誓約書(乙8の3。2枚目)には「小職は,神社本庁憲章,神社本庁庁規,宇佐神宮規則及び宇佐神宮法務規則を遵守し,C宮司に指揮監督の下,その命に従って勤務し,神明に奉仕することを誓います。」,「万が一,C宮司の職務命令に反する行為があった場合には,いかなる処分が下されることにも同意します。」,「なお,小職の平成21年6月18日以降の無断欠勤その他の規則違反行為について,おって処分がなされることがありうることも理解し,処分がなされた場合には異議なくこれに従います。」と印字されていた。
【争いのない事実,甲44,乙8の3】
(イ)

原告は,前記(ア)の業務命令に対し,平成25年6月17日付け回答
書(乙8の3。3枚目)によって,原告は,平成21年6月18日以降もかなりの期間にわたって出勤し,神職としての職責遂行に努力したが,出勤しても怒声を浴びせられ,神職としての仕事からも排除されるなど到底正常な執務が出来ない状態に追い込まれたため出務不能となっていたこと,誓約書の提出について,あらかじめいかなる処分がされても異議を申したてないことを求めることは明らかに職務命令として妥当性を逸脱しており応じられないこと,速やかに被告宇佐神宮に出社して神職としての職務を全うすることに異存はないが,原告の出勤を不可能にされてきた状況が改善されないまま神職としての職責を全うすることは不可能であり,原告が神職としての職責を全うすることができるような環境の調整を求めることを回答した。
【乙8の3】
(ウ)

原告の前記(イ)の回答以降,原告と被告Cとの間では繰り返し原告の
職務への従事に関して文書でのやりとりがされている。
【乙8の3】

前記アの業務命令発令当時の職務分担表
被告宇佐神宮の職務分担表には,平成21年10月1日付職務分担表から原告の平成19年4月1日に命じられた総務部長の肩書の記載がなく,平成22年4月1日付職務分担表から原告の職務分掌の記載がない。【争いのない事実,甲32,丙10】


社務所内でのICレコーダーを巡るトラブル
原告と被告Dは,平成25年7月22日,原告が被告Dの机上にあったICレコーダーを被告Dから社務所内での言動を無断で録音されたとして持ち出そうとしたことからトラブルとなった。原告は,医療機関において,同日の受傷により3週間の安静加療を要する左手関節捻挫,左肘捻挫,左肩捻挫,頚椎捻挫であると診断された。
なお,前記トラブルの具体的な内容や診断の信用性,前記トラブルと原告の傷害との因果関係には争いがある。
【争いのない事実,甲43の1,甲44,乙8の3】


被告神社本庁への「A権宮司懲戒免職願」の提出
(ア)

被告Cは,被告神社本庁に対して,平成26年1月10日付「A権
宮司懲戒免職願」(乙8の2)を提出した(なお,その趣旨や有効性には争いがある。)。
その理由として,原告は「当神宮の奉務規則及び宮司の命に従わず,出勤常ならないことが甚だしく,また宮司による再三の指導にもかかわらず出勤状況改善の兆しも見えない状況にあ」り,「これ以上A権宮司の問題を放置することはできないことから,責任役員会において事実経過の確認及び弁明をA権宮司本人に求めたところ,裁判によって主張するなどといって責任役員会への出頭も拒否した」と記載されている。【乙8の2】
(イ)

被告神社本庁は,「A権宮司懲戒免職願」の提出を受け,平成26年4月21日に懲戒委員会を開催することとし,これを原告に通知したが,原告は,懲戒委員会に出席しない旨連絡して平成26年4月14日付「『権宮司懲戒免職願』に対する反論書」(乙9)を提出した。【争いのない事実,乙9】

本件免職及び本件解雇
(ア)

被告神社本庁は,平成26年5月15日付けで原告を被告宇佐神宮
の権宮司から免職した(本件免職)。
【争いのない事実,甲1】
(イ)

被告宇佐神宮は,原告に対して,平成26年5月15日,奉務規則
80条2号「勤務能力が著しく劣り,又は勤務成績が不良で,勤務に適さないと認められたとき」に当たるとして同日付で解雇する旨の意思表示をし(本件解雇),解雇予告手当50万5000円を支払った。また,被告宇佐神宮は,原告に対し,同日付で同年6月14日までに本件各建物から退去するよう通知した。
【争いのない事実,甲2,44】
(6)

解雇日までの賃金の支払
被告宇佐神宮は,原告に対し,別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の
「年月(対象期間)」欄記載の各期間に係る賃金が,それぞれ同「支給額(源泉徴収前)」欄記載の金額であるとして,同金額から社会保険料等を源泉徴収した金額を支払った。
原告に支払われた源泉徴収後の賃金額は,別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「原告の主張・支給額(源泉徴収後)」及び「被告宇佐神宮の主張・支給額(源泉徴収後)」の各欄記載のとおり,争いがある(被告宇佐神宮の主張は,被告宇佐神宮の平成29年8月7日付準備書面9による。)。【争いのない事実,丙27】
(7)

原告は,平成26年6月10日,本件訴えを提起した。
【当裁判所に顕著な事実】
3
本件争点

(本訴事件)
(1)

本件解雇日までの未払賃金(欠勤控除の可否,計算方法等を含む。)。
(2)

原告と被告宇佐神宮との間の労働契約が終了したといえるか。


履行不能によって終了したか否か
(ア)

本件免職による原告の権宮司の地位喪失が,履行不能にあたるか否
か。
(イ)

本件免職が無効であるか否か(本件免職が無効であるか否かについ
て司法審査が及ぶかについても含む。)。

(3)

本件解雇が無効であるか否か(本件解雇の手続的瑕疵の点も含む。)。原告に対するパワーハラスメントの有無(各被告の責任の有無を含む。)。

(反訴事件)
(4)

原告の本件各建物に対する占有権原(これが認められない場合に反訴請
求が権利濫用に当たるかを含む。)。
4
本件争点についての当事者の主張
(1)

本件解雇日までの未払賃金(本件争点(1))

(原告の主張)

原告主張の骨子
(ア)

原告は,後記ウ(ア)のとおり,平成25年6月16日から平成26年
5月15日までの間,被告宇佐神宮との労働契約に基づき債務の本旨に従って職務を遂行し,あるいは,労務の提供をしている。被告宇佐神宮の主張する原告の出退勤の状況は,後記ウ(イ)のとおり,その根拠とする職員勤務表等が信用性を欠くことから認められない。
被告宇佐神宮は,原告に奉務規則11条から14条までの勤務時間,休日等の規定(前提事実(3)ウ(ア)。以下,単に「勤務時間,休日等の規定」という。)の適用があるとして欠勤控除を主張するが,後記イのとおり,原告の賃金は,その地位や職務に照らして勤務時間,休日等の規定の適用がなく,月給制であり,被告宇佐神宮が周知性を欠く奉務規則の内容を労働契約の内容として主張することは許されないから,原告の出退勤の状況にかかわらず,欠勤控除は認められず,被告宇佐神宮の欠勤控除の主張は理由がない。
それゆえ,被告宇佐神宮は,原告に対し,原告との労働契約に基づき別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「原告の主張・未払賃金額」欄記載の金額及びこれらに対する同「支払日」欄記載の支払日の各翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
(イ)

仮に原告に被告宇佐神宮主張の欠勤が認められるとしても,原告の
欠勤は,後記エのとおり,原告が被告宇佐神宮におけるパワーハラスメントのため職務に従事することが客観的に困難な状況にあったからであり,原告は被告宇佐神宮に対して民法536条2項に基づいて賃金全額を請求することができ,被告宇佐神宮の欠勤控除の主張は認められない。イ
原告の賃金は,後記(ア)及び(イ)のとおり,その地位や職務に照らし,勤務日や勤務時間に拘わらず全額が支給される月給制である。被告宇佐神宮は,奉務規則の定めを根拠に原告の賃金が月給制であることを否認するが,その地位や職務に照らして勤務時間,休日等の規定の適用はないし,奉務規則は周知されておらず,その内容を原告と被告宇佐神宮の労働契約の内容として主張することは許されない。
(ア)

原告は,被告宇佐神宮における社家の後継者であり,原告の職務に
は社家の後継者としての職務が含まれ,勤務日や勤務時間,休日の概念はないから,勤務時間,休日等の規定も適用されない。
a
社家とは代々特定の神社の神職を世襲する家柄をいい,被告宇佐神宮の宮司はこれまで平安時代からB家が世襲してきたことから,B家が被告宇佐神宮の社家であり,原告はその後継者である。
神社本庁憲章(乙2。以下「憲章」という。)8条4項も「一社伝来の故実,慣習,由緒は尊重する」と規定する。被告宇佐神宮の祭礼行事は,祭礼の名称や儀礼の形式などからみても,我が国の神社では他に例がなく,この独自の伝統や祭礼は,当然に尊重されなければならない。神社の伝統的祭祀は,単に祭式を会得すれば執行できるものではなく,父祖代々奉仕精神を子孫が受け継ぎ,氏子,崇敬者とともに伝えることが必要であり,社家は伝統的祭祀の継承,執行に不可欠な役割を果たしている。被告宇佐神宮の儀式,祭礼には,社家にのみ伝承されてきた伝統の秘儀が存在し,その保存,継承は社家にしかすることができず,被告宇佐神宮の社家は,社家でなければできない代替性のない重要な役割を担っている。
被告宇佐神宮において,社家の役割の重要性は,古来の慣習によって承認されたものであり,社家であるB家は,氏子崇敬者の尊崇の対象となり,被告宇佐神宮の権威や格式を担保している被告宇佐神宮の権威の象徴である。

b
被告宇佐神宮において,古来の慣習によって承認された社家の重要性は,単なる慣習上のものではなく,規範的意義を有し,被告宇佐神宮は,社家の後継者を尊重し,敬意をもって処遇しなければならず,この慣習上の規範は,社家の後継者である原告と被告宇佐神宮との労働契約においても具体化され労働契約の内容をなす。
原告の職務には,慣習上の規範に従い,これまで社家の後継者が独占的に継承してきた伝統的な業務,社家の後継者が宮司後継予定者として代々遂行してきた業務(以下「社家の後継者としての職務」という。)が含まれる。これには社家にのみ伝承されてきた伝統の秘儀である儀式や祭礼,社家が出社前に毎朝行うことが義務付けられている潔斎などがあり,これらは宮司邸である本件各建物において社家が独自に執行する。本件各建物は,社家家族が日常生活を営む空間とは宗教上厳然と区別された区画として潔斎場,伝統の秘儀である儀式や祭礼を行う大広間などが併設された被告宇佐神宮の齊館であり,本件各建物での要人の接遇も社家の後継者としての職務である。
原告は,慣習上の規範に従い,被告宇佐神宮の業務や宗教活動上必要があれば,昼夜を問わず,被告宇佐神宮に出社することや本件各建物で過ごす時も社家の後継者としての職務に従事することが義務付けられている。
それゆえ,社家の後継者に勤務日や勤務時間,休日の概念はなく,社家の後継者には伝統的,慣習的に勤務時間,休日等の規定が適用されておらず,原告も被告宇佐神宮の禰宜に就任して以来,勤務時間,休日等の規定が適用されてこなかった。
(イ)

奉務規則の勤務時間,休日等の規定は,奉務規則15条1号により
管理監督者には適用されず,被告宇佐神宮の権宮司,総務部長は管理監督者であるから,被告宇佐神宮の権宮司,総務部長である原告に勤務時間,休日等の規定の適用はない。

原告は,後記(ア)のとおり,平成25年6月16日から平成26年5月15日までの労務の提供をしている。被告宇佐神宮が原告による労務提供を否認する理由として主張する原告の出退勤の状況は,後記(イ)のとおり,理由がなく,原告の欠勤は認められない。

(ア)

原告は,平成25年6月16日以降,被告宇佐神宮との労働契約に
基づき職務に従事し,あるいは,労務の提供をしている。
a
原告は,被告宇佐神宮の権宮司,総務部長であり,その職務として,出社後の被告宇佐神宮の境内内にある摂社,末社を概ね6,7社巡拝することや被告宇佐神宮の儀式,祭礼の執行,総務部長としての決裁書類や日計簿のチェック,イベントの企画や被告宇佐神宮の広報活動,会合への出席など神社全般の金銭出納,業務執行の管理などがある。また,社家の後継者である原告の職務には,前記イ(ア)で主張したとおり,慣習上の規範に従い,社家の後継者としての職務も含まれる。b
原告は,平成25年6月16日以降,従前から被告宇佐神宮の権宮司として従事していた被告宇佐神宮の境内内の摂社,末社の巡拝,清掃などの業務に可能な限り従事しているし,社家の後継者としての職務にも従事している。
被告宇佐神宮は,原告が祭典での奉仕を怠ったと主張するが,祭典での所役確認のために回覧される祭典奉仕所役差(丙20)は原告に回覧されず,祭典での所役が口頭で指示されることもなかった。原告は,原告に祭典奉仕所役差を見せようとしない職員を追及し,その縮小コピーが置かれた場所を聞きだして確認し,所役が割り当てられた日は,その所役が本来は権宮司ではなく禰宜位以下の者が行う袚主などであっても祭典で当該所役を果たすなど努力した。
また,被告宇佐神宮は,原告が上宮での祈願当番を怠ったと主張するが,原告が被告Cの指示に従って祈願当番を行うため上宮へ行ったところ,既にいた祈願当番の神職2名から無視され,突然,その場に来た被告Dから怒鳴られて上宮を退去せざるをえなかったのであって労務の提供をしている。

c
原告が被告Dの指揮命令に従わず,また,仮に祭典での奉仕や上宮での祈願当番への従事や労務の提供が認められないとしても,原告が債務の本旨に従った履行をしなかったとはいえない。
(a)

被告宇佐神宮は,前記イ(ア)で主張した慣習上の規範に従い,社家の後継者を尊重し,敬意をもって処遇しなければならず,このことは原告と被告宇佐神宮の労働契約においても具体化されている。原告を社家の後継者としてふさわしくない下位の職に就かせるこ
とやこれまで担当していた名誉ある業務,具体的には,伝統の儀式や祭典の執行,貴賓の接遇,総務部長の業務などを担当させないこと,社家の後継者としての職務のため拘束を受けてこなかった執務時間や服装に関する慣行を撤廃することは,いずれも労働契約の不利益変更であって,被告宇佐神宮は,原則,これを行ってはならず,これを行うならば,その旨の明確な意思表示と原告から理解を得るため誠実に協議すべき義務を負う。
(b)

被告宇佐神宮は,上長である被告Dの指揮命令に従うべきであ

ると主張するが,被告Dの権宮司就任は,後記(3)(原告の主張)ウ(ア)で主張するとおり,被告Dの権宮司就任を決議した平成21年3月6日開催の責任役員会が無効であるから,責任役員会の具申ないし決議に基づくものではなく,被告Dは権宮司の地位にない。仮に被告Dに権宮司の地位が認められるとしても,被告Dよりも
先に権宮司に就任した原告が上長とされるべきである。
(c)

原告に割り当てられた祭典での所役は,本来,権宮司ではなく,

禰宜以下の者が行うものであった。
上宮での祈願当番は,本来,権宮司よりも下位の神職の仕事であ
り,また,慣行により当直が行うこととされていたが,女性である原告は当直を免除されていた。また,祈願補は,従来存在せず,平成26年1月以降に設けられたものであるが,その担当は原告のみが命じられ,その具体的内容の説明もなかった。
原告に禰宜以下の者が行うべき祭典での所役を命じ,あるいは,
上宮での祈願当番を命じる職務命令は,前記慣習上の規範に反し,後記エのパワーハラスメントの一環というべきであり,業務命令権の濫用にあたるから,これに従わなかった原告が債務の本旨に従った履行をしていないことにはならない。
(イ)

平成25年6月16日から平成26年5月15日までの原告の出退
勤,勤務時間についての被告宇佐神宮の主張は否認する。職員勤務表(丙7,30)や被告宇佐神宮において作成した平成25年7月8日以降の原告の勤務状況を観察したメモ(乙8の3⑪の回答書の添付資料。以下「本件観察メモ」という。)には信用性がない。
a
職員勤務表の記載は正確ではない。被告宇佐神宮は,労働基準監督署から職員勤務表の記載が不正確であるとして是正指導を受け,平成26年2月以降,タイムカードを導入している。
職員勤務表では,原告以外の職員については休みの日である旨の記載があるが,原告については,事前に電話で社務所に出社しない旨を伝えて出勤簿に「病欠」と記載されている日も空白である。
原告のタイムカード(甲53)によれば,原告は,同月以降,午前8時30分前には出社し,午後4時30分以降に退社している。被告宇佐神宮は,タイムカードを設置して以降,原告が常態的に中抜けをしていたと主張するが,同月のタイムカードに手書きされた時刻は,原告が知らない間に記載されたものであって信用できない。

b
本件観察メモは,被告らに都合よくまとめられており,その記載の
裏付けとなる客観的証拠はなく,その記載は客観性を有しない。また,明らかにコピーアンドペーストしたと思われる記載や整合性を有しない記載が多数ある。その作成方法も各日の出来事をその都度記載した日記などではなく,後日,ワープロソフトを使って加工して記載したものであり,その作成の元となったメモも廃棄されている。
c
職員勤務表と本件観察メモは,相互の矛盾点や出勤簿との矛盾点が散見され信用できない。
平成25年10月26日から同月28日まで職員勤務表に原告の出勤を窺わせる記載はないが,出勤簿には邸内社例祭である旨の記載がある。邸内社例祭は被告Dがこれまで斎主を務めてきたB家邸内にある天満宮の祭事であり,原告は,同期間,天満宮の掃除や周辺草刈り,供え物の用意などの祭場準備をして祭を行い,被告宇佐神宮の職務に従事している。
被告宇佐神宮は同年11月16日から同年12月15日までの出勤日数が17日であると主張するが,出勤簿によれば出勤日数は20日である。出勤簿には同年11月26日及び同月30日に押印があるが,職員勤務表には原告が出勤した旨の記載がない。本件観察メモにも同月26日には「午後6時10分柴刺神事参加午後7時帰る。」との記載がある。
d
以上のとおり,被告宇佐神宮が原告の平成25年6月16日から平
成26年5月15日までの出退勤,勤務時間の証拠とする職員勤務表及び本件観察メモはいずれも信用性が認められない。
出勤簿に押印がないことは,原告が出勤していないことを意味するものではない。出勤簿には,予めバツ印がされていたし,従前は出勤簿に押印する慣行がなく,出勤していても押印していない神職は実際に複数おり,原告も出勤簿への押印を求められていなかった。

被告宇佐神宮における原告に対するパワーハラスメント
原告は,後記(ア)ないし(エ)のとおり,被告Cが宮司に就任して以降,被告宇佐神宮において組織的なパワーハラスメントを受け,そのため,平成25年6月16日から平成26年5月15日までの間,客観的に就労が困難な状況にあり,権宮司,総務部長としての決裁書類や日計簿のチェック,要人の接遇や会合への出席といった主要な業務に従事できなかった。それゆえ,被告宇佐神宮が原告の提供する職務の受領を拒絶し,あるいは,被告宇佐神宮の責めに帰すべき事由によって職務に従事することが不能であったというべきであり,原告の賃金請求権は民法536条2項によって失われず,原告が権宮司,総務部長としての主要な業務に従事していないことを理由とする欠勤控除は認められない。
原告は,被告Cからの業務命令に対して,神職としての職務を全うする意思があることを表明し,神職としての勤務が可能になるよう就労環境の調整を求めている。原告の社家以外の宮司の就任及びその宮司の職務権限を否定していると誤解されかねない供述は,原告の前記慣習上の規範に基づく地位に対する主観的信念の吐露であり,現在の宮司が持つ包括的な業務指揮権を否定するものではない。
(ア)

前件訴訟に係る判決確定までの就労環境

a
被告Cは,平成21年2月26日,宮司に特任された。これを契機として,一方で,本件嘆願書に署名した神職らは給与が増額され,他方で,原告は,決裁書類が回覧されなくなり,要人の接遇や会合への出席など,それまで権宮司,総務部長として従事していた職務を与えられなくなった。
原告の職務分掌は,前提事実(5)イのとおり,同年10月1日付け職務分担表から総務部長の肩書が記載されず,平成22年4月1日付け職務分担表からは職務分掌から除外されている。同年の正月勤務表(甲54)には原告の名前も記載されていない。
被告宇佐神宮と原告と間で,被告Dが権宮司に任命された後,権
宮司の役割分担について協議されたこともない。

b
被告Dほか被告宇佐神宮の神職らは,被告Cが宮司に特任されて以降,社務所において,原告を無視し,あるいは,原告に「帰れ,何しに来た」などの暴言を浴びせるようになった。原告は,前件訴訟を提起して以降,神職らが「帰れ,帰れ,宇佐神宮を訴えやがって,もう許さない,よう来れるな」などの暴言を浴びせられた。
被告Dは,原告の排除を目論み,前提事実(4)ア(イ)のとおり,被告神社本庁に原告の宮司就任に反対する本件嘆願書を提出した。
(イ)

原告から被告宇佐神宮に対する就労環境調整の要請
被告宇佐神宮が,前件訴訟に係る判決確定後,平成25年6月13日
付け職務命令書によって原告に提出を命じた誓約書は,前提事実(5)ア(ア)のとおり,「平成21年6月18日以降の無断欠勤その他の規則違反行為について,おって処分がなされることがありうることも理解し,処分がなされた場合は異議なくこれに従」うという著しく不当な内容である。
原告は,被告宇佐神宮に前記誓約書の提出には応じられない旨を回答した。また,被告宇佐神宮において,原告の行動の監視や原告に対する人格攻撃,侮蔑といった原告の出勤が不可能な状況があることから,これを改善して就労環境を調整するよう求めた。しかし,被告宇佐神宮は,被告宇佐神宮の神職が原告に怒声を浴びせた事実はなく,原告を神職の仕事から排除したこともなく,原告の到底正常な執務ができない状態に追い込まれたとの主張は誤りであって,原告の職場放棄のため原告には勤務実態がないことに帰結するとして,原告に非がある旨の回答をした。(ウ)
a
前件訴訟の判決確定後の原告の就労環境
原告が改めて被告宇佐神宮の社務所に出社するようになった平成25年7月8日以降,被告Cや被告Dから原告が権宮司として従事すべき職務の指示はなく,従事すべき職務が与えられず,与えられる仕事は,本来,権宮司が従事する職務でなかった。
原告に祭典奉仕所役差の回覧や口頭による祭典での所役の指示はなかったこと,与えられた祭典での所役は権宮司よりも下位の神職が担当すべきものであったこと,上宮での祈願当番を命じることが業務命令権の濫用であること,上宮での祈願当番を被告Dから妨害されたことは,前記ウ(ア)で主張したとおりである。
b
被告宇佐神宮は,一方で,原告に出勤簿への押印を求め,他方で,予め出勤簿にバツ印を付して原告が押印できないようにした。

c
原告は,社務所内での言動を盗聴,盗撮されるなど言動を正当な理由なく監視観察され,本件観察メモにも原告の言動が記録された。(a)

この監視観察は平成25年7月8日から開始されているが,同

日は原告が改めて社務所に出社するようになった日であり,原告の勤務態度,勤務状況を懸念すべき事情はなく,原告の監視観察を正当化する理由はない。被告Dは,原告の監視観察を開始した理由を「前回の裁判を起こしているじゃないですか」などと供述し,前件訴訟を提起した原告は危険であるとして,その行動の監視を当然視している。
原告の社務所内での言動を盗聴したICレコーダーの録音データ
は,本件訴訟には4件しか提出されていないが,本件観察メモの録音データ79という記載からすれば,本件訴訟に提出されたものより多くの録音データが存在することは明らかである。
また,平成25年7月22日の原告と被告Dのトラブルを撮影し
たビデオカメラは,具体的なトラブルが起こる以前から原告に気付かれないようにしつつ,原告に向けてビデオカメラのアングルを固定し,録画が開始されている。
(b)

原告は,平成25年7月22日,被告DがICレコーダーで盗

聴ないし無断で録音していることに気付き,その証拠となるICレコーダーを確認しようとして,被告Dから腕を掴まれ,捻り上げられる暴行を受け,これにより整形外科医から3週間の安静加療を要する旨の診断を受けたが,これに対する謝罪は受けていない。
被告Dは,同日,原告が被告Dの机上のパソコンの下の台の中に
ICレコーダーらしきものが置かれているのを発見してICレコーダーに手を伸ばした瞬間,「何をしているか」などと怒鳴りながら原告に突進し,原告がICレコーダーを持った手を胸にして被告Dに背を半分向けたところ,原告の背中側から原告に覆いかぶさるようにして原告の両腕を掴み,原告からICレコーダーを奪い返そうとして原告の腕を力任せに捻じ曲げ,原告が被告Dの暴力などに抗議しても力を緩めず,原告を背後から押さえつけ,原告の腕をねじ上げ続けて,原告から力づくでICレコーダーを奪った。
d
原告は,改めて被告宇佐神宮の社務所に出社するようになって以降,それまでと同様,他の神職から無視され,「裁判に負けたのによく来れるな」等の罵声を浴びせられ,さらには,他の神職から無言で取り囲まれることもあった。
このことは,平成25年7月22日に原告が被告Dから暴行を受けた状況が撮影されたビデオカメラの映像からも明らかである。被告宇佐神宮の神職は,被告Dの原告に対する暴力を制止せず,原告を盗撮していたビデオカメラを手に持ち替え,ことさらに原告を接写しようとし続けている。

e
原告は,白衣,袴を着用して出勤するよう命じられたが,他の職員は,一律に白衣,袴を着用して社務所に出勤していたわけではなく,必要があれば,社務所に出社した後に着替えるという状況であった。原告が案内された更衣室は,女子更衣室として使用されていたものではなく,ロッカーの中はゴミが放置された状態であり,そこを更衣室に命じることは,原告に対する嫌がらせである。

f
原告は,平成26年1月,帯状疱疹と診断され,1か月以上入院し,その後も安静加療と通院を要することとなり,被告宇佐神宮に帯状疱疹の診断書を提出したが,その療養期間中,単純に無給の欠勤として扱われ,何ら支給されなかった。
g
原告は,前記(イ)の被告宇佐神宮に対する回答以降,被告宇佐神宮に再三就労環境の改善を申し入れたが,被告宇佐神宮は,何ら改善策を講じようとはせず,原告からの就労環境改善の要求に真摯に対応しなかった。

(エ)

以上のとおり,被告宇佐神宮は,原告の排除を目論み,盗聴や盗撮
などの不法な行為を含む監視行為によって原告を解雇するための材料を集め,原告は,職務を与えられず,職員から無視されたり,罵声を浴びせられたりして職務に従事できない状況にあったにも拘わらず,原告からの就労環境改善の要求を無視し,業務命令を解雇が社会通念上相当なものであると偽装するための準備として繰り返したのであり,これらはいわゆるパワーハラスメントに当たる。
このような状況で原告が職務に従事することは困難であって,被告宇佐神宮が原告からの労務の受領を拒絶し,あるいは,被告宇佐神宮の責めに帰すべき事由によって労務に従事できなかったというべきである。オ
被告宇佐神宮の主張に係る欠勤控除後の賃金額の計算方法は争い,原告に支払われた源泉徴収後の賃金額に関する被告宇佐神宮の主張は否認し,社会保険料等の控除及び社会保険料等と未払賃金請求権との相殺に係る被告宇佐神宮の主張は争う。
(ア)

欠勤控除後の賃金額について,毎月の出勤日を一律に25日として
計算することは,月6日の休日を与えることとされ,1か月が30日の月の出勤日は30日,28日の月の出勤日は22日であるから誤りである。
(イ)

原告に支払われた賃金は,それぞれ別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「原告の主張・支給額(源泉徴収後)」の各欄記載のとおりであり,被告宇佐神宮が主張する同「被告宇佐神宮の主張・支給額(源泉徴収後)」の各欄記載の金額ではない。
(被告宇佐神宮の主張)

被告主張の骨子
(ア)

原告が平成25年6月16日から平成26年5月15日まで被告宇
佐神宮との労働契約に基づき債務の本旨に従って職務に従事したことは否認し争う。同期間の原告の出退勤,勤務時間は,後記ウで詳述するとおり,別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」のとおりである。
原告の賃金は日給月給制であり,出退勤について,後記イのとおり,勤務時間,休日等の規定の適用があるから,給与規程9条所定の欠勤控除がされる。
欠勤控除後の賃金は,後記エで詳述するとおり,別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「被告宇佐神宮の主張・支給すべき賃金(源泉徴収前)」の各欄記載のとおりであり,被告宇佐神宮は欠勤控除後の賃金から社会保険料等を控除した全額を支払っているから,原告に対する未払賃金は存在しない。
(イ)

被告宇佐神宮において,原告に対するパワーハラスメントがなかっ
たことは,後記オのとおりであり,原告は,客観的に就労困難な状況になかった。

原告には,奉務規則の定める勤務時間,休日等の規定が適用される。奉務規則が周知されていたことは,社務所の書棚ないし机上に置く形で備え付けられ,職員は誰でも奉務規則の内容を確認することができ,職員も勤務時間,休日等の規定に従って勤務し,休日を取得していたことから明らかである。権宮司であった原告が奉務規則の周知性を否定することは,管理職としての職責を果たしていなかったことを自認するに等しい。(ア)

原告が社家の後継者であり,勤務日や勤務時間,休日の概念がない
ことは否認し,勤務時間,休日等の規定が適用されないことは争う。a
原告は,B家が被告宇佐神宮の宮司を世襲する社家であり,原告は社家であるB家の後継者であると主張する。
被告宇佐神宮においても,B家が被告宇佐神宮の神職を多数輩出してきたこと,原告がB家の後継者であることは認め,社家を歴史的に特定の神社の神職を多数輩出してきた家系と解する限り,原告が被告宇佐神宮の社家の後継者であることを争うものではない。もっとも,被告宇佐神宮は,宮司の世襲制,すなわち,特定の家柄の者であることによって当然に宮司に就任することとなる制度を採っておらず,原告のいう社家,すなわち,宮司を代々世襲する家柄は存在しない。
b
原告の主張する慣習上の規範は,被告宇佐神宮が宮司の世襲制を採ることを前提とし,その前提を欠くから理由がない。原告が歴史的に被告宇佐神宮の神職を多数輩出してきたB家の後継者であることは,何ら法律上の効果を伴うものではなく,原告主張の慣習上の規範の存在は認められない。
社家の後継者としての職務は,原告主張の慣習上の規範の存在が認められず,被告宇佐神宮との労働契約に基づく職務に含まれない。原告の社家の後継者としての職務を行うべき義務は,被告宇佐神宮や一般社会とは別個の規範に基づいたB家に由来するB家ないし原告が定めたものに過ぎず,被告宇佐神宮との労働契約に基づくものではないし,被告宇佐神宮が関与するところでもない。
原告は,被告宇佐神宮に雇用される労働者であるから,労働基準法及び奉務規則の適用を受けるのは当然であり,原告が歴史的に被告宇佐神宮の神職を多数輩出してきたB家の後継者であることによって勤務時間や休日等の規定の適用は排除されない。元宮司であるGに勤務時間,休日等の規定の適用がなかったとしても,それは被告宇佐神宮と代表役員である宮司との関係が委任に基づくからであり,原告主張の慣習上の規範の存在によるものではなく,被告宇佐神宮との関係が労働契約である原告に勤務時間,休日等の規定の適用が排除される理由にはならない。
(イ)

原告が管理監督者であることは否認し争う。
権宮司は管理職であるが,管理職が直ちに管理監督者に該当するもの
ではない。被告Dは,原告と同様,権宮司であるが,神職としての職務は他の神職と変わりがなく,勤務時間,休日等の規定の適用もあり,これを概ね守っている。
管理監督者は経営者と一体的立場で仕事をする者であり,労働組合の組合員資格はない(労働組合法2条1号)。原告が全日本建設交運一般労働組合(以下「本件組合」という。)に加入して被告宇佐神宮に団体交渉を申し入れたことは,管理監督者であるとの主張と矛盾する。禰宜は労働基準法上の管理監督者ではないから,原告が禰宜に就任して以来,原告の勤務内容や勤務状況に変化がないとすれば,管理監督者であるため勤務時間,休日等の規定の適用がないのではなく,これらの規定に従う意思が原告にないと理解するほかない。

原告が平成25年6月16日から平成26年5月15日まで被告宇佐神宮との労働契約に基づき債務の本旨に従って職務に従事したことは否認し争う。同期間の原告の出退勤,勤務時間は,別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」記載のとおりである。

(ア)

原告が従事したと主張する職務は,被告宇佐神宮との労働契約に基
づくものではない。
a
原告は,被告宇佐神宮の神職(権宮司)であり,その職務は,規則や奉務規則のほか,憲章,庁規の規律に服し,規則及び庁規によれば,神職(権宮司)は,神明に奉仕し,神社神道に基づいて宗教活動に従事する外,宮司を助けて事務に従事することである。
b
原告は,前記(原告の主張)ウ(ア)bのとおり,平成25年6月16日以降,被告宇佐神宮の境内内の摂社,末社の巡拝,清掃などの業務に可能な限り従事し,社家の後継者としての職務にも従事したと主張する。
しかしながら,原告は,被告Cから社務所での勤務を明確に指示されたにもかかわらず,これに違反し,勤務場所を被告Cの了解を得ずに無断で変更して,あえて社務所ではなく,職員の誰もいない貴賓室や応接室に滞在し,あるいは,被告Cや被告Dの指示なく,社務所を離れ,自宅やその他の場所にいたものである(なお,被告Dは,被告神社本庁から平成21年3月15日付けで被告宇佐神宮の権宮司に任命されており,この任命の具申は同月6日開催の責任役員会の決議によって責任役員会の同意を得ている。原告と被告Dはいずれも権宮司であって職位は同等であり,神職としての身分は2級上の被告Dの方が上位であるから,被告Dが上長となることは当然である。)。
被告Cが原告に巡拝業務への従事を命じたことはない。原告が従事したと主張する職務は,原告も被告Cの指示したものでないことを認めており,前記イ(ア)のとおり,社家の後継者としての職務は被告宇佐神宮との労働契約に基づくものではなく,被告宇佐神宮との労働契約に基づく職務であるとは認められない。
原告は,別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」の「勤務状況」欄記載のとおり,上宮での祈願当番を怠り,祭典においても与えられた所役を怠り,自らが祝詞を奏上するなどの役目がないときは参列奉仕の任務を果たさず,指示された職務に従事していない。祭典奉仕所役差は,社務所内の職員であれば当然目につく場所に常置されているが,原告は,祭典奉仕所役差の所在を他の職員に尋ねることもなく,これを確認しなかった。
上宮での祈願当番を命じることは,御祈願が神明に奉仕し,神社神道に基づいて宗教活動に従事する神職の基本的職務であることから,業務命令権の濫用に当たるものではなく,神職が命じられた祈願を行わないことに正当な理由はない。被告宇佐神宮では,祈願当番が宿直業務を兼務し,女性である原告は宿直業務を免除していたが,祈願当番は宿直業務をしなければ行えないものではない。上宮での祈願当番は,原告が断ったのであり,原告本人尋問においても上宮での祈願をする気がないと明言している。
c
原告は,労働契約の不利益変更や業務命令権の濫用を主張する。
しかしながら,被告宇佐神宮が世襲制を採用しておらず,原告主張の慣習上の規範も存在しないことは,前記イ(ア)で主張したとおりである。原告の勤務態度不良を改善しようとした被告Cの指導が認められないとすれば,原告の職務は原告の意思に沿うもの以外にないこととなるが,これが使用者の指揮命令の下で労務提供を行い,これに対する対価の支払を受ける労働契約の本質に反することは明らかである。
(イ)
a
原告の出退勤,勤務時間
出退勤,勤務時間の評価方法
(a)

被告宇佐神宮の勤務時間は午前8時30分から午後4時30分

までの実働7時間であり,出勤簿への押印又はタイムカードへの打刻をした上で始業時刻に勤務を開始し,終業時刻まで勤務しなければならず,遅刻早退,外出には原則上長への事前届出が必要である。原告は,別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」のと
おり,無断欠勤,遅刻早退を繰り返し,タイムカードを設置した平成26年2月16日以降,タイムカードに始業時刻を打刻後,上長に無断で職場から離席し,退社直前に職場に現れてタイムカードに打刻する中抜けを常態的に行っている。
被告宇佐神宮は,原告が,平成25年6月16日以降,勤務時間
を守らず,社務所での滞在時間は短時間であり,上宮での祈願当番を怠り,出勤簿への押印もしないことから,就労目的で社務所を訪れたか否か,社務所での滞在が就労と評価できるか否かなど原告の出勤評価が困難であり,出勤簿への押印の有無や社務所での滞在時間,祭典奉仕の有無などを総合考慮し,原告の就労目的の有無や原告の出社が就労と評価できるかによって出勤の有無を判断した。
別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」の「勤務日」
欄に欠勤と記載された日は,原告が社務所を訪れたが,同「勤務状況」欄記載の事情により,原告が出勤したとは認められない。
(b)

被告宇佐神宮の休日は,一斉休日によらず,神職は,神職勤務

表及び祭典奉仕所役差を踏まえ,宿直,祈願当番及び祭典奉仕の日を除いた日から任意に6日を選び,原則,予め上長に報告した上で取得するが,神社としての業務の必要上,繁忙期である12月29日から1月7日までの正月期間は休日を取得せず,日曜祝日も原則休日を取得しない運用をしている。上宮での祈願当番,上宮ないし神宮庁での宿直は,概ね前月20日までに作成される神職勤務表で確認し,祭典での所役は概ね前月25日までに作成される祭典奉仕所役差で確認する。
原告は,平成25年6月16日以降,前記休日の取得方法に従わ
ず,被告Cや被告Dに無断で本来取得できる休日の日数と無関係に休日を取得し,原告の出勤は当日にならなければわからず,被告宇佐神宮の日常業務や祭典斎行にも重大な悪影響を生じていた。
原告は,平成21年6月18日から平成25年7月7日までの無
断欠勤により有給休暇を使い果たし,同日以降,有給休暇取得の要件である6か月以上連続勤務及び勤務日8割以上の勤務(奉務規則24条1号)を満たしていなかった。そのため,原告の有給休暇の取得は認められず,他の神職らと異なり,公休や有給の区別をする必要がない状況であった。
b
職員勤務表や本件観察メモは,次のとおり,信用性が認められる。(a)

被告宇佐神宮が平成26年2月に労働者の職場滞在時間を明ら

かにするためタイムカードを導入したことは認め,職員勤務表の
記載が正確でないことは争う。
原告は,前記aで主張したとおり,公休や有給の区別をする必
要のない状況であり,被告宇佐神宮がタイムカードを設置した同
月以降,原告が常態的に中抜けを行っていた。
(b)

本件観察メモの信用性が認められないことは争う。本件観察メ

モは,被告宇佐神宮が原告に対して適切な指導を行うために就労
状況を記録したものである。原告から本件観察メモに記載された
内容を含む原告の勤務状況や被告Dによる業務妨害の具体的状況
についての主張はない。
(c)

原告は,職員勤務表と本件観察メモには,相互の矛盾点や出勤

簿との矛盾点が散見されると主張する。
しかしながら,被告宇佐神宮は,前記a(a)のとおり,原告が勤務時間を遵守せず,上宮での祈願当番を怠り,出勤時に出勤簿へ
の押印もしなかったため,原告の出勤について,出勤簿への押印
の有無や社務所での滞在時間,祭典奉仕の有無を総合考慮し,原
告の就労目的の有無や原告の出社が就労と評価できるかによって
判断しなければならず,このような複雑な判断を必要とした原因
は原告にある。
それゆえ,職員勤務表と本件観察メモや出勤簿の不整合を理由
に被告宇佐神宮における原告の出勤の判断を非難することは失当
である。
(d)

原告の出勤簿のバツ印が予めされていたことは否認する。原告

が賃金の締日である15日以降に出勤簿の過去の日付欄に押印し
たことから,俸給計算の混乱を避けるため,原告が出勤簿に押印
しなかった日に就労意思がない日として付けたものである。

原告の平成25年6月16日から平成26年5月15日までの賃金について給与規程9条所定の方法によって計算した欠勤控除後の賃金額は,別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「被告宇佐神宮の主張・支給すべき賃金額(源泉徴収前)」の各欄記載のとおりである。被告宇佐神宮は,原告に対し,前記金額から社会保険料等を源泉徴収した同「被告宇佐神宮の主張・支給額(源泉徴収後)」の各欄記載の金額を支払っており,原告に対する未払賃金は存在しない。
(ア)

欠勤控除後の賃金額は,当月の勤務日数を基準となる25日から差
し引いて計算する給与規程9条所定の方法によって計算している。被告宇佐神宮における計算期間は当月16日から翌月15日までであるが,休日は,前記ウ(イ)a(b)の方法により,職員が原則として自由に取得することとなっており,必ずしも計算期間内に6日間の休日を取得するとは限らないことから,基準となる出勤日数を1年間の12か月のうち7か月が該当する31日を基準に休日6日間を除いた25日に設定しており,何ら問題はない。
(イ)

原告の平成25年6月16日から平成26年5月15日までに係る
欠勤控除後の賃金額は,別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「被告宇佐神宮の主張・支給すべき賃金額(源泉徴収前)」の各欄記載のとおりである。平成25年6月及び同年7月の源泉徴収前の支給額と源泉徴収前の支給すべき金額が異なるのは,同年6月に支給額を2万0200円とすべきところ,経理上の手違いのため2万円と計上したため,支給額を0円とすべき同年7月に200円を計上して調整したことによる。前記期間に係る社会保険料等の金額は,別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「被告宇佐神宮の主張・社会保険料等」の各欄記載のとおりである。これらの控除は法令上認められており,この控除分は,原告に対する未払いを観念できず,遅延損害金も発生しない。
被告宇佐神宮が控除した保険料等は,法令上控除が認められる83万4200円のうち70万8365円であり,12万5835円が未徴収である。原告は,平成29年7月26日付訴えの変更申立書によって訴えの変更をするまで,社会保険料等83万4200円を控除して請求しており,同金額は各賃金支払日において賃金額と対当額で相殺する旨の黙示の合意があった。仮に黙示の相殺合意が認められないとしても,被告宇佐神宮から原告に対して各賃金の支払日に相殺の意思表示がされている。また,平成29年10月31日の第21回口頭弁論において同年8月7日付準備書面の陳述をもって相殺の意思表示をする。
(ウ)

以上のとおり,原告の出勤日数及びこれを前提に欠勤控除した賃金
額は,それぞれ別紙2「賃金計算表(当事者の主張)」の「被告宇佐神宮の主張・出勤日数」及び「被告宇佐神宮の主張・支給すべき賃金額(源泉徴収前)」の各欄記載のとおりである。
被告宇佐神宮は,原告に対し,同金額全額を法令上認められた社会保険料等の控除をした上で支払っており,原告に対する未払賃金は存在せず,原告の解雇日までの賃金請求は認められない。

原告が,平成25年6月16日以降,被告宇佐神宮においてパワーハラスメントを受けていたこと,これにより客観的に職務に従事することが困難な状況にあったことは,いずれも否認し争う。
原告は,原告本人尋問において,上宮での祈願をする気がなく,被告Cを宮司として認めず,宮司を補佐する職務を放棄すると明言しているのであって,後記(ア)ないし(ウ)記載のとおり,被告宇佐神宮の責めに帰すべき事由によって職務に従事できなかったのではない。
(ア)
a
前件訴訟に係る判決確定までの就労環境
被告宇佐神宮が,平成21年2月26日に被告Cが宮司に特任されて以降,それまで権宮司,総務部長として原告に与えていた職務を与えなくなったことは否認する。
職務分担表の記載は,前提事実(5)イのとおりであるが,原告は,平成21年6月18日から平成25年7月7日まで欠勤し,この間,被告宇佐神宮に対して就労の意思を表示したこともなく,出勤しない原告に仕事を与えることは物理的に不可能であったため,原告を決裁ラインから外した職務分担表を作成せざるをえなかった。
原告は,前件訴訟において,後記bの社務所において暴言を浴びせられるようになったとは主張しているが,それまで権宮司,総務部長として従事していた職務が与えられなくなったとは主張していない。
b
被告Dほか被告宇佐神宮の神職が,平成21年2月26日に被告Cが宮司に就任して以降,社務所において,原告を無視し,あるいは,原告に暴言を浴びせるようになり,前件訴訟提起以降も原告に暴言を浴びせたことは,事実無根であり,否認する。
本件嘆願書が被告神社本庁に提出されたことは認め,これが原告の排除を目論んだものであることは争う。

(イ)

被告宇佐神宮が平成25年6月13日付け職務命令書によって原告
主張の誓約書の提出を原告に命じたこと,原告が,誓約書の提出には応じられず,被告宇佐神宮において,原告の行動の監視や原告に対する人格攻撃,侮辱といった出勤が不可能な状況にあるとして就労環境の調整を求めたこと,これに被告宇佐神宮が文書で回答したことは認め,その余は否認し争う。
(ウ)

前件訴訟の判決確定後の原告の就労環境について

a
原告は,被告宇佐神宮に改めて出社するようになった平成25年7月8日以降,被告Cや被告Dから原告が従事すべき職務の指示はなく,従事すべき職務が与えられず,与えられた仕事は,本来,権宮司が従事する職務ではなかったと主張するが,否認し争う。
原告は,前記(ア)のとおり,4年弱にわたって欠勤し,同日以降も被告Cの度重なる指導にもかかわらず,勤務時間,休日等の規定に従った勤務をせず,総務部長の役割を果たすことが不可能であった。祭典奉仕所役差は,社務所内の職員であれば当然目につく場所に常置してあるが,原告がその所在を他の職員に尋ねることもなく確認しなかったことは,前記ウ(ア)a(b)で主張したとおりであり,同年8月まで祭典での所役を与えても欠勤し,その所役を怠った。
上宮での祈願当番を命じたことが業務命令権の濫用に当たらないこと,被告Dは原告が上宮での祈願当番を妨害していないことは,前記ウ(ア)で主張したとおりである。

b
出勤簿のバツ印が予めつけられていたものでないことは,前記ウ

(イ)b(d)で主張したとおりである。
c
被告宇佐神宮において,原告の社務所内での言動を記録したことは認め,これに正当な理由がないことは争う。
(a)

職場において,部下である職員の勤務状況を観察することは,

部下の指導監督責任を負う上司の当然の職務である。職員の状況を当該職員の指導や人事の資料とするために必要に応じて記録することは一般的であって何ら問題はない。
原告が前件訴訟に係る判決確定後も被告Cの指示に従わない可能
性は,原告が前件訴訟で被告Cではなく原告が宮司で主張していたことから,容易に想定できる。原告は,文書による指導にもかかわらず前件訴訟に係る判決確定後も出勤せず,出勤時の勤務状況も前記ウ(ア)のとおり不良であったことから,使用者が原告の指導に対する反応や労務提供の有無を確認するため原告の勤務状況を記録することは当然の対応である。その態様も職場内での状況を観察するにとどまり,社会通念上妥当かつ相当なものである。
原告での社務所内での言動を録音ないし録画したデータは,本件
訴訟において全て開示している。後記(b)の被告DのICレコーダーを巡るトラブルの状況の録画(丙24)は,原告が平成25年7月22日午前中に社務所を訪れた際,原告と被告Dとの間で被告Dの記載していたメモを巡ってトラブルを生じ,その後,原告は社務所を退出したが,再び同日午後に社務所を訪れたため,原告と被告Dがトラブルとなった場合に備え,証拠保全の観点から行ったものである。
(b)

原告が平成25年7月22日に被告DのICレコーダーを被告

Dに無断で持ち出そうとしたことは,窃盗ないし窃盗未遂行為であり,これを取り返そうとした被告Dの行為は正当防衛にあたる。原告は,被告DがICレコーダーで盗聴ないし無断録音をしていることに気付き,その証拠となるICレコーダーを確認しようとしたと主張するが,被告DのICレコーダーの窃盗ないし窃盗未遂行為の動機を述べるに過ぎない。
被告Dは,原告が左手でICレコーダーを握ったまま被告Dから
逃げようとしたことから,原告の席付近で原告の左前腕部を捕まえたが,原告がICレコーダーを左手で握りしめて離さなかったため,原告の左腕前腕部を掴んで原告が左手で握りしめていたICレコーダーを取り返した。被告Dが原告の背中から覆いかぶさるようにしたことや原告の背中側から原告の両腕を強く掴んだこと,原告の腕を力任せに捻じ曲げたこと,原告を背後から押さえつけて原告の腕を強くねじ上げ続けたことはない。被告Dが原告からICレコーダーを取り返した状況に鑑みれば,3週間もの加療を要する左手関節捻挫,左肘捻挫,左肩捻挫,頚椎捻挫の傷害を負うのは不自然である。
原告は,被告DからICレコーダーを取り返されてから社務所の
扉を左手で開けて退出するまでの間,何度も被告DからICレコーダーを取り返そうとし,原告に左手や左腕を痛がる素振りはもちろん,かばうような素振りも一切みられず,原告に社務所前で座り込むほどの痛みがあったことや原告の傷害に係る診断結果と整合しない。原告が整形外科を受診したのも,このトラブルの翌翌日であって,原告の主張と整合せず不自然である。
原告は,被告Cからの事実関係を聴取しようとした暴行態様を明
らかにしてほしいなどとの申し出に何らの返答もしない対応に終始し,被告Cの調査に協力しなかった。
以上のとおり,被告Dの行為は,原告によるICレコーダーの窃
盗ないし窃盗未遂行為に対する正当防衛であるし,これによって原告が3週間もの加療を要する左手関節捻挫,左肘捻挫,左肩捻挫,頚椎捻挫の傷害を負ったとも認められない。
d
原告が改めて社務所に出社するようになった平成25年7月8日以降,それまでと同様,他の職員から無視されたり,罵声を浴びせられたりし,他の神職から無言で取り囲まれることもあったことは,事実無根であり,否認する。
e
原告に対し,白衣,袴を着用して出勤する旨の職務命令を発令したこと,更衣室として被告宇佐神宮の巫女も使用する部屋を利用するよう提案したことは認め,その余は否認し争う。
被告宇佐神宮は,原告が来社しても白衣袴姿で勤務しないことから,神職の通常の勤務時の服装である白衣袴姿で社務所にいるよう指導したが,原告から更衣室がないため着替えができないとの苦情の申入れがされた。被告宇佐神宮の境内内に居住する原告が自宅で白衣袴姿に着替えて出勤することに何ら不都合はなかったが,被告宇佐神宮は,男性神職が着替えをする部屋での着替えはできないと考え,女性用更衣室として巫女も利用していた部屋の利用を提案したものである。
f
被告宇佐神宮は平成25年12月及び平成26年1月の賃金の欠勤控除を正当と主張しており,弁論の全趣旨に照らし,原告が平成26年1月に帯状疱疹と診断され,1か月以上の入院を要したこと,その原因が被告宇佐神宮での就労環境によるストレスにあることについて争うものと認められる(民事訴訟法159条1項ただし書)。

g
原告が再三就労環境の改善を申し入れたことは認め,これに対し,被告宇佐神宮が何らの改善策を講じようとせず,原告からの職場改善の要求に真摯に対応しなかったことは争う。

(2)

本件免職による原告の権宮司の地位喪失が,原告と被告宇佐神宮の労働
契約の履行不能に当たるか否か(本件争点(2)ア(ア))
(被告宇佐神宮の主張)

本件免職によって原告が権宮司の地位を喪失することにより,原告の被告宇佐神宮との労働契約に基づく義務は履行不能となる。
(ア)

神職である権宮司の職務は,神明に奉仕し,神社神道に基づいて宗
教活動に従事し,また,宮司を助けて事務に従事することであり,宗教上の地位としての被告宇佐神宮の神職(権宮司)の地位を有しなければ行うことができない。それゆえ,被告宇佐神宮と神職(権宮司)の労働契約は,宗教上の地位としての被告宇佐神宮の神職(権宮司)の地位を有することを前提とする。宗教上の地位としての被告宇佐神宮の神職の任免権は,規則及び庁規,進退規定に従い,被告宇佐神宮の包括団体である被告神社本庁の統理にあり,統理から宗教上の地位としての被告宇佐神宮の神職を免職された者は,神職として被告宇佐神宮の職務に従事することはできないから,被告宇佐神宮との労働契約上の義務を履行できず,労働契約は履行不能によって当然に終了する。
原告は,本件免職によって宗教上の地位としての被告宇佐神宮の神職(権宮司)の地位を喪失したものであり,神職(権宮司)としての職務を遂行できなくなったことから,被告宇佐神宮との労働契約に基づく義務を履行することができず,原告と被告宇佐神宮の労働契約は履行不能によって当然に終了している。
原告は本件免職によって階位を喪失していないが,階位は,特定の神社の神職となるために必要な資格であり,被告神社本庁と包括関係にある神社の神職となるためには,統理から特定の神社の神職に任命されることが必要であるから,原告が,被告宇佐神宮の権宮司に就任するために必要な明階の階位を有することは,原告が本件免職によって被告宇佐神宮の権宮司たる地位を喪失し,原告の労働契約上の義務が履行不能となったことを左右しない。
(イ)

原告は,総務部長の職務は,本件免職によって権宮司の地位を喪失
しても遂行できると主張する。
しかしながら,総務部長の肩書は被告宇佐神宮における神職の分課分掌(奉務規則38条)を定めたものであり,被告宇佐神宮と神職との労働契約は,宗教上の地位としての被告宇佐神宮の神職の地位を有することを前提とするから,原告は,本件免職によって宗教上の地位としての権宮司の地位を喪失する以上,総務部長の役割を果たすこともできず,原告と被告宇佐神宮の労働契約は,原告の労働契約上の義務が履行不能となったことによって終了している。

原告主張の慣習上の規範が存在せず,社家の後継者としての職務が被告宇佐神宮との労働契約に基づくものでないことは,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)イ(ア)で主張したとおりであり,これを遂行できることは,原告の被告宇佐神宮との労働契約に基づく義務の履行不能を左右しない。
(原告の主張)

本件免職によって権宮司の地位を喪失することにより,原告の被告宇佐神宮との労働契約に基づく職務が履行不能となることは争う。権宮司,総務部長の職務を行うことは,原告が権宮司の地位を喪失しても可能である。(ア)

本件免職は原告の階位を剥奪するものではなく,原告を被告神社本
庁と包括関係にある神社の神職に任命することに制度上の制約はないから,原告が本件免職によって被告宇佐神宮の権宮司の地位を喪失したことによって,原告が権宮司の職務を遂行することが不能であるとはいえない。
(イ)

総務部長の職務は,本件免職によって被告宇佐神宮の権宮司の地位
を喪失しても遂行できる。
原告が総務部長を命じられたのは,権宮司就任前であるから,総務部長であることは権宮司であることを前提とせず,権宮司の地位の有無にかかわらず,総務部長の職務に従事することは可能である。

原告の職務には,前記(1)(原告の主張)イ(ア)で主張したとおり,慣行上の規範に従い,社家の後継者としての職務が含まれ,これは権宮司たる地位を喪失しても遂行できる。

(3)

本件免職が無効であるか否か(本件争点(2)ア(イ))。

(原告の主張)
本件免職を権宮司が宗教上の地位であるとして司法審査の対象外とすることは,後記アのとおり,権宮司の地位は被告宇佐神宮との労働契約上の地位と不可分一体となったものであることから許されない。
本件免職は,原告を被告宇佐神宮の権宮司から免職する権限のない被告神社本庁ないし統理によって行われた無効な行為であり,被告神社本庁ないし統理に権限があるとしても,後記イのとおり,裁量権を逸脱した違法なものであり,後記ウのとおり,手続的瑕疵もあるから無効であり,これにより原告が権宮司の地位を喪失したことは争う。

本件免職は司法審査の対象である。
本件免職の有効性は,被告宇佐神宮主張の原告の労働契約上の義務の履行不能を基礎づける原告の労働契約上の地位の有無の前提問題であり,信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断を必要とするものでない限り,司法審査の対象となる。
権宮司は,特定の神社を離れて抽象的に存在ないし付与される資格ではなく,特定の神社における役職であり,俸給額も当該神社の神職としての地位によって定められている。それゆえ,権宮司の地位は,純粋な宗教上の地位ではなく,労働契約上の地位も構成しており,本件免職は,単なる宗教上の地位にとどまらず,原告の被告宇佐神宮との労働契約に基づく法律上の地位を剥奪する効果をもたらすから,本件免職の有効性は,原告の労働契約上の地位の有無の前提問題である。
神社は統一の教義経典を有しないから,神職の地位の判断にあたって教義の解釈が問題となることは考え難く,特に被告神社本庁の行為が問題となる場面で教義の解釈が問題となる場面はない。


本件免職は,「職員として適当でないことが判明した」(進退規定22条5号)ことを理由とするが,その具体的理由は明らかにされておらず,本件免職を相当とする事情は存在しないから,本件免職は裁量権を逸脱した違法無効なものである。
(ア)

神社神道は,日本国民の間で歴史的に生成発展してきた自然発生的
な宗教ないし信仰であり,これは本質的に歴史的に培われてきた慣習や伝統に依拠し,全国の各神社もそれぞれの地域の住民との間で育んできた固有の歴史と伝統に依拠して存立する独立した自主的な存在である。憲章15条1項が信者である氏子を「氏子区域に居住する者」とし,同14条1項が「氏子区域は,神社ごとに慣習的に定められた区域」とすることからも明らかである。各神社の慣習や伝統には宮司の世襲制をとる神社ではこれも含まれる。
被告神社本庁は,全国の神社を包括する団体として発足したが,全国の神社の自主権を尊重する神社の連名に過ぎず,憲章8条4項も「一社伝来の故実,慣習,由緒は,尊重する」として被包括法人である各神社固有の慣習や伝統を尊重することを明示している。
そうすると,被告神社本庁と包括関係にある全国の各神社との関係は,上意下達ないし支配服従の関係ではなく,神職の任免権の解釈運用は形式的であり,包括団体としての力は教団と異なって非常に弱いものとされ,被告神社本庁の全国神社に対する関わり方は,もともと形式的な認証業務にとどまっていたといえる。
それゆえ,被告神社本庁が権宮司の任免について有する裁量は,限定された羈束裁量である。神職の任免は,各神社の責任役員会の具申に基づき行うとされているが,これは各神社の慣習や伝統を体現する人物について,それまでの当該神社の慣習や伝統を変質させ,その存立を危うくすることのないよう例外的にチェックするためであり,当該神社の慣習や伝統に反する免職を行うためには,免職を必要とする正当かつ客観的に合理的な理由と社会的相当性が求められる。
(イ)

原告は,前記(1)(原告の主張)イ(ア)で主張したとおり,被告宇佐神宮の社家の後継者であり,原告が宮司や権宮司に就任することは,被告宇佐神宮において古来培われてきた慣習や伝統そのものである。それゆえ,原告を権宮司から免職するには,これを正当化すべき特段の事情,すなわち,免職を必要とする正当かつ客観的に合理的な理由と社会的相当性が認められなければならないが,本件免職は「職員として適当でないことが判明した」ことの具体的理由が明らかにされておらず,前記特段の事情は認められないから,本件免職には被告神社本庁がその裁量権を逸脱した違法があり,本件免職は無効である。

本件免職には重大な手続上の瑕疵があり無効である。権宮司の免職は,責任役員の同意を得て宮司が具申して統理が行うが,責任役員会が原告の権宮司免職に同意したことはない。
(ア)

本件免職の具申を決議した平成25年12月24日開催の責任役員
会は,規則で定められた手続に従って選任された責任役員によって組織されたものではなく,不存在ないし無効である。
a
被告宇佐神宮は,平成21年3月1日開催の責任役員会で総代を選任し,この新たに選任された総代による同月3日開催の総代会で責任役員を選任し,これ以降,責任役員や総代を改選していると主張するが,同日の責任役員会は不存在ないし無効である。
(a)

平成21年3月1日開催の責任役員会の議事録にJの自署や押

印はなく,Jの出席は認められない。
また,責任役員代務者としてMが出席したとされているが,責任
役員代務者は総代会による選考が必要であり(規則11条2項,10条1項),総代会がMを責任役員代務者に選任したことはない。Mを責任役員会代務者に選任する総代会が可能であったならば,同日の責任役員会で総代5名を選任する必要はない。
(b)

総代の任期は4年であるところ(規則16条2項),当時は,
総代であるT,U,V,W,Xの任期中であり,同責任役員会によるO,P,Q,R,Sの総代選任は無効である。
b
以上のとおり,平成21年3月1日開催の責任役員会は不存在ないし無効であり,これによって選任された総代5名による同月3日開催の総代会による責任役員の選任も不存在ないし無効である。それゆえ,これら以降のこれらを前提とする責任役員会や総代会もいずれも不存在ないし無効であり,平成25年12月24日開催の責任役員会における本件免職を具申する決議も不存在ないし無効である。

(イ)

仮に総代,責任役員が有効に選任されているとしても,被告宇佐神
宮が提出したのは「A権宮司懲戒免職願」であり,その標題のとおり,原告の懲戒処分を求めたものであって原告の権宮司免職を具申したものではないから,「A権宮司懲戒免職願」の提出に責任役員が同意したとしても原告の権宮司免職に同意したことにはならない。
(ウ)

本件免職が被告神社本庁の人事委員会及び懲戒委員会で審議された
ものであることは否認し争う。人事委員会及び懲戒委員会での議事録は,本件免職に係る審議の重要な証拠であり,原告が被告神社本庁に提出を求めたにもかかわらず,被告神社本庁は人事委員会及び懲戒委員会での議事録がいずれも存在しないとして提出していない。
(被告宇佐神宮の主張)
本件免職は,後記アのとおり,宗教上の地位である神職(権宮司)から免職するものであり,司法審査の対象とならない。
仮に司法審査の対象となるとしても,本件免職は,後記イのとおり理由があり,後記ウのとおり手続的瑕疵もないから有効であり,原告は本件免職によって宗教上の地位である神職(権宮司)の地位を喪失した。

本件免職は司法審査の対象となるものではない。
本件免職は,宗教上の地位である神職(権宮司)を免職するものである。宗教上の地位に関する判断の当否は,宗教上の規律に基づく宗教団体内部の自律的判断に委ねられるべきであり,宗教団体における処分の結果,被処分者が経済的及び市民的生活に関する不利益を受け,これが具体的な権利又は法律関係に関する紛争に該当することがあるとしても,その処分の効力をもって具体的な権利又は法律関係に関する紛争ということはできず,裁判所による司法審査の対象とならないというべきである。
本件免職は,宗教上の地位である被告宇佐神宮の神職(権宮司)の適格性という宗教団体内部の自律的判断に委ねられるべき事項について,宗教上の規律にしたがって判断したものであり,その効果は,被告神社本庁及び被告神社本庁と包括関係にある被告宇佐神宮という宗教団体内部での神職としての宗教活動を制約するものである。本件免職の結果,原告と被告宇佐神宮との労働契約が履行不能によって終了するとしても,本件免職は,被告宇佐神宮との労働契約を直接的に終了させるものではないから,原告の法律上の地位に直接影響を与えるものではなく,本件免職の有効性は,裁判所による司法審査の対象とされるべきではない。

仮に本件免職の有効性が司法審査の対象となるとしても,本件免職は,原告の神明奉仕の状況には客観的に問題があり,権宮司として留まることは適当ではなく,権宮司からの免職はやむを得ないと判断して行ったものであって理由があり,有効である。
被告宇佐神宮の神職の任免権は,規則及び庁規,進退規定によれば,統理にある。本件免職が被告宇佐神宮の権宮司の任免権を有しないものによってされた無効なものであるとの原告主張には理由がない。
統理が権宮司の任免について有する裁量は限定された羈束裁量であること,当該神社の慣習や伝統に反する免職を行うためには,これを正当化する特段の事情,すなわち,免職を必要とする正当かつ客観的に合理的な理由と社会的相当性が求められることは争い,本件免職が被告宇佐神宮の慣習や伝統に反すること,本件免職を必要とする特段の事情,すなわち,本件免職について正当かつ客観的に合理的な理由と社会的相当性が存在しないことは否認し争う。

本件免職に手続上の重大な瑕疵があることは否認し争う。
(ア)

本件免職は,被告Cを含む被告宇佐神宮責任役員全員の連名での平
成26年1月10日付け具申書を被告神社本庁に提出して具申され,この具申は平成25年12月24日開催の責任役員会で決議されている。当時の責任役員は,次のとおり,平成24年5月16日開催の被告宇佐神宮の総代会で有効に選任されている。
a
被告宇佐神宮は,平成21年3月1日開催の責任役員会で宮司が総代を選任することとし,被告Cは,O,P,Q,R,Sの5名を総代に選任した。

b
被告宇佐神宮は,平成21年3月3日開催の総代会において,死亡したI及び責任役員を辞任したJを補充する責任役員としてM(以下「M」という。),N(以下「N」という。)を選考し,被告Cは両名に責任役員を委嘱した。

c
被告宇佐神宮は,前記aの責任役員会及び前記bの総代会以降,有効に責任役員,総代の改選を行っている。原告の権宮司免職の具申を決議した平成25年12月24日開催の責任役員会当時の責任役員は,平成24年5月16日開催の総代会において有効に選任されている。
(イ)

被告Cは,被告神社本庁に対し,平成26年1月10日付「A権宮
司懲戒免職願」を提出して原告の権宮司免職を具申した。「A権宮司懲戒免職願」の提出が,被告神社本庁に原告の懲戒処分を求めるものであり,原告の権宮司の免職を具申したものではないことは争う。
(ウ)

以上に加え,本件免職は,被告神社本庁の人事委員会及び懲戒委員
会で審議されている。
人事委員会は,平成26年2月25日,同年3月18日及び同年4月28日の審議の結果,原告が権宮司に適当でないとの結論に至り,その旨を統理に答申している。
懲戒委員会は,同年4月5日,原告に同月21日に懲戒委員会を開催する旨を通知して懲戒委員会へ出席し弁明する機会を与えたが,原告からは欠席する旨の連絡があり,同日開催の懲戒委員会では,原告から提出された同月14日付け反論書(乙9)も含めて審議している。
(4)

本件解雇が無効であるか否か(本件争点(2)ウ)。

(原告の主張)
本件解雇は,次のアないしウのとおり,重大な瑕疵があり,違法なものであり,無効である。

本件解雇は,被告宇佐神宮の代表権のない被告Cによってされた無効の行為である。
(ア)

被告Cが,本件解雇の当時,被告宇佐神宮の代表役員である宮司で
あったことは否認し争う。
被告Cは,平成21年2月26日に任命された特任宮司であり,本件解雇がされた平成26年5月15日当時,特任宮司の任期である3年が経過していた。
(イ)

被告宇佐神宮は,被告Cが規則20条1項,庁規90条1項により
平成25年12月20日付けで責任役員会の具申ないし同意に基づき宮司に任命されたと主張するが,責任役員会が被告Cの宮司任命を具申ないし同意したことはない。
被告宇佐神宮が被告Cの宮司任命を具申ないし同意したと主張する同年7月17日開催の責任役員会は,新たな総代5名を選任した平成21年3月1日開催の責任役員会及び新たに選任された総代5名によって責任役員の選任を行った同月3日の総代会を前提とするが,前記(3)(原告の主張)ウ(ア)で主張したとおり,これらはいずれも不存在ないし無効であり,これらを前提とする平成25年7月17日開催の責任役員会の決議も不存在ないし無効であるから,責任役員会が被告Cの宮司任命を具申ないし同意したとは認められない。

本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠いており,社会通念上相当とは認められず,解雇権を濫用したものであって,無効である。
(ア)

本件解雇は,奉務規則80条2号所定の「勤務能力が著しく劣り,
又は勤務成績が不良で,勤務に適さないと認められた」ことを理由とするが,その理由は,次のとおり,客観的に合理的な理由を欠く。なお,奉務規則は,現在までの改正経過等も不明であり,前記(1)(原告の主張)イで主張したとおり,周知義務も果たされていない。
a
原告は,前記(2)(原告の主張)で主張したとおり,本件免職によって権宮司の職務を遂行できなくなるものではないし,前記(3)(原告の主張)で主張したとおり,本件免職は無効である。
加えて,本件免職は,前記(1)(原告の主張)エで主張したとおり,被告宇佐神宮において,原告が権宮司として職務に従事することを拒否,妨害した上で,被告神社本庁に具申したために至った事態であり,これを解雇の理由とすることは禁反言の原則,公序良俗に違反する。本件免職によって原告が権宮司の地位を喪失し,被告宇佐神宮での祭典奉仕の職務に従事できなくなったとする被告宇佐神宮の主張には理由がなく,本件解雇の客観的に合理的な理由とはならない。

b
被告宇佐神宮は,原告が平成25年7月6日まで4年弱に及ぶ無断欠勤をし,その後も度重なる指導や業務命令に従わず,欠勤や遅刻早退を繰り返し,上宮での祈願当番や祭典奉仕を怠ったと主張する。(a)

欠勤や遅刻早退は,原告に勤務時間,休日等の規定が適用され

ることを前提とするが,前記(1)(原告の主張)イ(ア)で主張したとおり,社家の後継者である原告に勤務日や勤務時間,休日の概
念はなく,また,前記(1)(原告の主張)イ(イ)で主張したとおり,原告は管理監督者であるから,原告に勤務時間,休日等の規定の
適用はないし,奉務規則は周知性を欠くことから,その内容を原
告と被告宇佐神宮の労働契約の内容として主張することは許され
ない。
また,被告宇佐神宮主張の欠勤や遅刻早退は,前記(1)(原告の主張)ウ(イ)で主張したとおり,職員勤務表及び本件観察メモに信用性がなく,出勤簿に押印がない日も必ずしも原告が出勤してい
ないことを意味しないから認められない。
(b)

原告の勤務態度については,前記(1)(原告の主張)エで主張し
たとおり,原告は平成25年6月16日以降も被告宇佐神宮から
権宮司,総務部長の仕事を与えられず,盗聴や盗撮を含む正当な
理由のない監視観察をされ,他の神職から無視され,あるいは,
罵声を浴びせられるなど,いわゆるパワーハラスメントのために
客観的に職務に従事することが困難な状況にあり,原告は被告宇
佐神宮に繰り返し就労環境の改善を申入れたが,被告宇佐神宮の
真摯な対応はなく,原告の労務の提供は,被告宇佐神宮が受領を
拒絶し,あるいは,被告宇佐神宮の責めに帰すべき事由によって
不能だったものである。
また,原告は,前記(1)(原告の主張)ウ(ア)で主張したとおり,このような状況においても,同日以降,従前から権宮司として従
事していた被告宇佐神宮の境内内の摂社,末社の巡拝や清掃や社
家の後継者としての職務など債務の本旨に従った職務に可能な限
り従事している。祭典での所役は,祭典奉仕所役差の回覧も口頭
での所役の指示もなかったことから,自ら祭典奉仕所役差の所在
を確認して祭典での所役を確認し,これを果たす努力をしている
し,上宮での祈願当番も被告Dからの妨害のため行うことができ
なかったのであって,これを行うため上宮に行っており,被告宇
佐神宮から指示された職務を果たす努力をしている。
(c)

被告宇佐神宮には,前記(1)(原告の主張)イ(ア)で主張したと
おり,社家の後継者である原告を尊重し,敬意をもって処遇すべ
き慣習上の規範が存在し,原告の職制上の上長といえども社家の
後継者である原告に非礼無礼にわたる業務指示を行ってはならな
い。
この点,前記(1)(原告の主張)ウ(ア)b及びc並びに同エ(ウ)a及びeで主張したとおり,原告に指示された祭典奉仕の所役や上
宮での祈願当番は,本来,権宮司よりも下位の神職が従事すべき
ものであるし,服装も一律に白衣,袴を着用して社務所に出勤す
ることとされていたものではなく,このような業務命令は,前記
慣習上の規範にも反し,労働契約の不利益変更にあたるというべ
きであり,業務命令権の濫用にあたるから,これに従わなかった
ことは,解雇の客観的に合理的な理由となるものではない。
c
被告宇佐神宮は,原告が被告Dの私物を無断で持ち出そうとする窃盗未遂行為に及んだと主張する。
しかしながら,社務所内の発言を私物のICレコーダーを持ち込
んで録音することは通常考えられず,ICレコーダーが被告Dの私物であるとはいえない。前記(1)(原告の主張)エ(ウ)cで主張したとおり,被告宇佐神宮では,原告の言動の盗聴や盗撮を含む正当な理由のない監視観察が組織的かつ執拗に行われており,職場での言動の録音は嫌がらせ以外の何物でもなく不法行為である。被告宇佐神宮の主張する窃盗ないし窃盗未遂行為は,原告が被告Dによる盗聴ないし無断録音に気付いて,その事実及び証拠を確認しようとしたものにすぎず,その行為は証拠保全行為であって,正当防衛というべきである。
被告Dは,原告がICレコーダーを手に取った意図を確認するこ
となく,前記(1)(原告の主張)エ(ウ)c(b)で主張したとおり,原告から暴力的にICレコーダーを取り上げ,原告に整形外科から3週間の安静加療を要する旨の診断を受ける傷害を負わせている。
この件は,原告の窃盗ないし窃盗未遂事件ではなく,剣道の有段
者である被告Dの原告に対する暴行傷害事件,パワーハラスメントというべきであり,原告が被告Dの盗聴ないし無断録音の証拠を確認した行為が窃盗ないし窃盗未遂行為として解雇の客観的に合理的な理由となるものではない。
(イ)

本件解雇は社会通念上相当であるとも認められない。本件解雇に当
たって,解雇以外の人事権の行使や他の軽い処分は検討されていない。仮に原告の勤務態度に問題が認められるとしても,それは解雇という重大な処分を相当とする事由ではない。
本件解雇は,被告宇佐神宮において,原告の排除を目論み,原告の盗聴盗撮を含む監視観察によって原告を解雇するための材料集めを行い,本件解雇が社会通念上相当であるかのよう偽装するため業務命令を繰り返して準備を重ねて行われたものであり,被告宇佐神宮は,後記ウのとおり,原告との団体交渉が予定されていたにもかかわらず,本件解雇に及んだものであり,本件解雇に社会的相当性はない。

本件解雇は,不当労働行為に該当し無効である。
原告は,本件組合に加入し,被告宇佐神宮に団体交渉を申し入れ,平
成26年4月8日,本件組合と被告宇佐神宮との間で第1回団体交渉が行われた。
本件解雇は,被告宇佐神宮から第1回団体交渉後に第2回団体交渉を同年5月28日に行う旨の通知がされた後,第2回団体交渉が行われる前に突如行われたものであり,実質的には団体交渉を否定して拒否するに等しく不当労働行為に当たる。
本件組合と被告宇佐神宮の団体交渉は,合計4回行われているが,被告宇佐神宮は,その代理人弁護士が全権委任を受けているとして出席するのみで,事実関係を直接把握している責任者が同席して応答しておらず,いずれの団体交渉も誠実に行われなかった。
(被告宇佐神宮の主張)
本件解雇が無効であるとする原告の主張は全て否認ないし争う。

本件解雇は,被告宇佐神宮の代表権を有する被告Cが行ったものであり,有効である。
(ア)

被告Cは,本件解雇の当時,被告宇佐神宮の代表役員である宮司で
あり,被告宇佐神宮の代表権限を有していた。被告Cは,平成24年2月26日付けで改めて被告宇佐神宮の宮司に特任されている。
(イ)

被告Cは,平成25年12月20日付けで宮司に任命されている。
この宮司任命は,同年7月17日開催の責任役員会の決議に基づき具申されたものであり,その責任役員は,平成24年5月16日開催の総代会で選任されている。

本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものであるから有効である。
(ア)

原告は,次のとおり,「勤務能力が著しく劣り,又は成績が不良で
勤務に適さない」(奉務規則80条2号)と認められ,本件解雇には,客観的に合理的な理由がある。奉務規則は,前記(1)(被告宇佐神宮)イで主張したとおり,周知されていた。
a
原告は,前記(2)(被告宇佐神宮の主張)及び(3)(被告宇佐神宮の主張)で主張したとおり,本件免職によって神職(権宮司)の地位を喪失し,少なくとも被告神社本庁の包括下にある被告宇佐神宮において祭典奉仕など神職として宗教上の職務を行うことができなくなった。本件免職は被告神社本庁と包括関係にある神社の神職の任免権を有する統理が行ったものである。被告宇佐神宮において,社家の後継者を尊敬し,敬意をもって処遇すべき慣習上の規範は存在せず,一般的に使用者が労働者の労働契約上の地位を尊重すべき義務を負うとしても,このことから被告宇佐神宮が原告との労働契約を解除してはならない義務を負うものではない。それゆえ,被告宇佐神宮が,本件解雇の理由として,原告が本件免職によって被告宇佐神宮での祭典奉仕など神職として宗教上の職務を行うことができなくなったと主張することは,何ら禁反言の原則や公序良俗に反しない。
b
原告は,平成21年6月18日から平成25年7月7日までの4年弱にわたって無断欠勤し,被告Cが同年6月13日付け職務命令書による業務命令を発して以降も度重なる業務命令に従わず,別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」のとおり,欠勤や遅刻早退を繰り返し,上宮での祈願当番や祭典奉仕も怠った。
(a)

原告に勤務時間,休日等の規定の適用があることは,前記(1)

(被告宇佐神宮の主張)イで主張したとおりである。
原告は,平成21年6月18日から平成25年7月7日まで4
年弱にわたって無断欠勤し,その後も前記(1)(被告宇佐神宮の主張)ウ及び別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」の
とおり,無断欠勤,遅刻早退を繰り返し,タイムカードを設置し
た平成26年2月16日以降は,常態的に中抜けを常態的に行っ
ていた。
(b)

権宮司の職務は,規定及び庁規によれば,宮司を助けて事務に

従事することであり,被告宇佐神宮では,上長の指示命令に従い
(奉務規則36条1号),職場を離れる場合には上長の許可を得
なければならない(奉務規則37条4号)。
しかしながら,原告は,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)ウ(ア)及び別紙3「原告の勤務状況(被告宇佐神宮の主張)」の「勤務
状況」欄記載のとおり,上宮での祈願当番や祭典での奉仕を怠る
など被告Cの指揮命令に従った労務の提供をせず,勤務態度は不
良であった。原告主張の労務の提供が被告Cの指示によるもので
ないことは,原告も認めている。原告は,前記(a)で主張したとおり,出退勤の時間を守らず,勤務場所も被告宇佐神宮の社務所で
の勤務を明確に命じる被告Cの業務命令に違反して被告Cの了解
を得ずに無断で変更してきた。
原告に対するパワーハラスメントが存在しないことは,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オのとおりであり,原告が客観的に職務
に従事することが困難な状況にあったとはいえない。原告は,原
告本人尋問において,被告Cを被告宇佐神宮の宮司として認めず,宮司を補佐する職務を放棄すると言明しており,被告Cを補佐し
てこなかったものである。
(c)

原告主張の慣習上の規範が存在しないことは,前記(1)(被告

宇佐神宮の主張)イ(ア)で主張したとおりであり,御祈願や祭典での奉仕は,神明に奉仕し,神社神道に基づいて宗教活動に従事す
る神職の基本的職務であるから,これらを命じることは業務命令
権の濫用に当たらない。
c
被告Dの私物のICレコーダーの窃盗ないし窃盗未遂行為
原告は,平成25年7月22日,被告DICレコーダーを無断で
持ち出そうとする窃盗ないし窃盗未遂行為に及んでおり,これは職場の規律上重大な問題である。原告は被告DがICレコーダーで社務所内での原告の言動を盗聴,無断録音したことを確認しようとしたと主張するが,それは原告が窃盗ないし窃盗未遂行為に及んだ動機にすぎない。原告は,被告Dが原告からICレコーダーを取り戻そうとしたことをパワーハラスメントと主張し,窃盗ないし窃盗未遂行為について反省も謝罪もしていない。
原告の窃盗ないし窃盗未遂行為に対して,被告Dが原告からIC
レコーダーを取り戻そうとは正当防衛にあたること,これにより原告が3週間もの加療を要する傷害を負ったとは認められないこと,原告が事実関係の聴取など被告Cの調査に応じなかったことは,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オ(ウ)c(b)で主張したとおりである。(イ)

本件解雇は社会通念上相当なものである。
原告は,被告Cからの口頭による指導を受け付けず,平成25年8
月19日時点で被告Cと弁護士を通じて連絡を取るような状況であった。被告宇佐神宮は,文書によるだけでも,同年6月13日付け及び同月21日付け各文書による出勤の指導,同年7月22日付け,同年8月5日付け,同月26日付け及び同年10月7日付け各文書による出退勤時間の遵守及び上長の指示命令に従った勤務の指導を行った。
以上に加え,原告は,原告本人尋問において,被告Cを宮司と認めず,宮司を補佐する職務を放棄すると明言しており,原告には被告宇佐神宮に対する労務提供の意思はないと考えるのが相当であるし,本件免職によって被告神社本庁の包括下にある被告宇佐神宮では神職として宗教上の職務に従事できない状況となったことからすれば,「勤務能力が著しく劣り,又は成績が不良で勤務に適さない」として原告と被告宇佐神宮の労働契約を終了することもやむを得ない。
被告宇佐神宮は,原告の処分を決める責任役員会を開催するにあたり,同年12月18日,原告に弁明の機会を与え,原告から同月22日付け文書による回答を得ている。

本件解雇が不当労働行為にあたることは争う。
本件解雇が,平成26年4月8日開催の第1回団体交渉から同年5月28日開催の第2回団体交渉までの間に行われたことは認め,実質的には団体交渉を否定して拒否するに等しく不当労働行為に当たることは争う。被告宇佐神宮は,本件解雇後も同日,同年6月28日及び同年8月19日に本件組合との団体交渉を開催している。被告宇佐神宮が本件解雇を団体交渉中に行ったことは,前記イの原告の勤務状況,勤務態度からすれば,やむを得ない適切な選択である。

(5)

原告に対するパワーハラスメントの有無ないし責任の有無(本件争点(3))
(原告の主張)

被告らの不法行為責任
原告は,前記(1)(原告の主張)オで主張したとおり,被告宇佐神宮に
おいて,いわゆるパワーハラスメントを受け,プライバシーや人格権を侵害された。このパワーハラスメントは,後記(ア)のとおり,被告宇佐神宮において,原告排除を目論み,被告Cや被告Dが,被告宇佐神宮の職員を動員し,これを道具として助長,誘発,支援して組織ぐるみで行われたものであるだけでなく,後記(イ)のとおり,被告神社本庁の指示指導ないし被告神社本庁との協議に基づいてされた共同不法行為であり,被告らは,原告に対して,連帯して共同不法行為に基づく損害賠償義務を負う。(ア)

原告に対するパワーハラスメントは,次のとおり,被告宇佐神宮に
おいて,不法な女性差別の意思の下,原告排除を目論み,組織ぐるみで行われたものである。
a
原告は,社務所内での言動を盗聴,盗撮されるなどして正当な理由なく監視観察され,本件観察メモに記録された。この監視観察は,被告Dが,被告Cと相談の上,自ら,あるいは,他の職員に指示して行ったものである。
原告の言動の監視観察は,原告が改めて被告宇佐神宮の社務所に出社するようになった平成25年7月8日から開始されている。その時点で原告の勤務不良や社務所内でのトラブルを生じる具体的あるいは現実的なおそれはなく,被告Dの供述に照らせば,原告の言動の監視観察は,単に前件訴訟を提起した原告を危険視して行われたものであり,正当な理由はない。
b
原告が,改めて被告宇佐神宮の社務所に出社するようになって以降,それまでと同様,他の神職から無視され,「裁判に負けたのによく来れるな」等の罵声を浴びせられた。
原告に対する罵声等は,平成25年7月22日の原告が被告Dから腕を掴まれ,捻り上げる暴行を受けた状況を撮影した映像からも明らかである。被告宇佐神宮の神職は,被告Dの暴力を制止せず,原告を盗撮していたビデオカメラを手に持ち替え,ことさらに原告を接写しようとし続けるなどしており,原告に対する罵声等が組織的に行われていたことは明らかである。

c
原告は,被告宇佐神宮に対し,繰り返し就労環境の改善を要求したが,この要求は何ら改善策が講じられず無視されており,原告に対するパワーハラスメントが組織的に行われたことは明らかである。
このような状況においてされた本件解雇や本件免職の具申には理由がなく,これらも原告に対する不法行為に当たる。

d
被告Dが,平成25年7月22日,原告の腕を掴んで捻り上げる暴行を加え,原告に整形外科医から3週間の安静加療を要する旨の診断を受ける傷害を負わせたことは,それ自体,原告に対する不法行為に当たる。
被告らは,被告Dの行為が正当防衛であると主張するが,盗聴や盗撮を含む原告の監視観察自体が不法行為であり,その証拠品であるICレコーダーを手に取って確認しようとした原告の行為を実力で阻止し,原告に傷害を負わせたことは正当化されない。
e
以上によれば,被告宇佐神宮では,単に原告が前件訴訟を提起したことをもって原告を危険視してその言動を監視観察し,一方で,原告を無視し,あるいは,原告に暴言を浴びせ,他方で,原告からの職場改善要求には応じず,原告の就労環境は客観的に就労可能な状態にはなかったのに,本件解雇及び本件免職の材料を集めるため原告に勤務を命じる職務命令の発令を繰り返したものであり,原告に対するパワーハラスメントは,原告排除を目論み組織的に行われたものである。
(イ)

原告に対するパワーハラスメントは,次のとおり,代々,被告宇佐
神宮の宮司を世襲してきた社家の後継者である原告を排除し,被告宇佐神宮の直接的な支配を及ぼす意図を有する被告神社本庁の指示指導ないし被告神社本庁との協議に基づいて行われたものである。
a
被告神社本庁は,被告神社本庁よりもはるかに長い歴史を持つ社家
が代々宮司を務める被告宇佐神宮から,社家の後継者である原告を排除し,直接支配する不当な目的を有していた。被告Dは,被告宇佐神宮から原告を排除する目的を有している点で,被告神社本庁と利害が一致していた。
被告Dは,原告が平成25年7月8日に改めて被告宇佐神宮の社務所に出社した翌日,被告神社本庁に対し,原告が社務所に出社したことやその際の原告の言動を直ちに報告している。
被告Dは,被告神社本庁と連絡を取り合ったことはほとんどないと供述した後,原告が出社したことは報告したと前言を撤回して供述を変遷させ,その後の同日以降も被告神社本庁と原告に関して連絡を取り合っていたのではないかとの質問には,曖昧な供述に終始し,回答を避けようとする姿勢が顕著である。
このような被告Dの供述態度に照らせば,被告神社本庁とは,原告が改めて社務所に出社するようになる以前から原告に関して連絡を取り合い,原告が社務所に出社したときには,その旨を被告神社本庁や弁護士に直ちに報告してその後の対応を協議すること,原告の様子や原告への対応を随時報告して協議することが決まっていたといえる。b
本件観察メモは,被告宇佐神宮が被告神社本庁に本件免職を求めた際の資料とされ,原告の監視観察は,本件観察メモに記載のある平成25年12月までしか行われていない。その理由は被告神社本庁に本件免職を具申することが決まったからであり,原告の監視観察は,原告の排除を目論み,本件免職を被告神社本庁に具申する材料づくりのために行われたものである。被告Dが被告神社本庁に本件免職を求めた際の資料として本件メモを提出したことを否認ないし曖昧にごまかそうとする供述をしたことも,原告の監視観察が原告排除を目論んだものであることを推認させる。

c
被告Dは,平成20年7月15日,責任役員を取りまとめて原告の宮司任命を求める具申書を作成したが,平成21年1月16日には被告Dが主となって原告の宮司に任命しないよう求める本件嘆願書を作成して被告神社本庁に提出している。
被告Dは,相反する行動をとった理由として,原告の勤務態度を挙げる。しかし,原告が社務所に出社しなくなったのは,同日以降の早くとも被告Cが宮司に特任されたころからであるし,被告Dもそれまで原告の勤務態度が問題となっていたことはないことを自認し,このように相反する行動をとった理由を明確にしていない。本件嘆願書には,原告と宮内庁や被告神社本庁との軋轢を窺わせる記載があり,これは被告神社本庁が同年7月23日付けの原告の宮司任命の具申を長期間放置して握りつぶした状態であったことであるが,被告Dがその軋轢を聞いたのは平成21年3月であって,本件嘆願書の作成当時,原告と宮内庁や被告神社本庁との軋轢の存在を知るのは,被告神社本庁以外になく,本件嘆願書が被告神社本庁の指示指導に基づき作成されたことが推認される。
被告Dは,被告Cが同年2月に宮司に特任されるとほぼ同時に権宮司に任命され,他の職員と共に昇給しており,このことも本件嘆願書の作成が被告神社本庁からの指示指導に基づくことを推認させる。イ
被告宇佐神宮及び被告神社本庁の債務不履行責任
被告宇佐神宮は,原告との労働契約に基づき安全配慮義務,就労環境調整義務を負うところ,これを怠り,原告に対するパワーハラスメントを行ったのであるから,原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。そもそも被告神社本庁の包括関係にある神社に対する人事権は,被告神社本庁の包括団体としての成り立ちから,本来形式的なものに過ぎず,被告神社本庁の関わりは形式的な認証業務にとどまり,各神社による神職の具申が,それまでの当該神社の慣習や伝統を変質させ,その存立を危うくすることのないよう例外的にチェックするためのものである。被告宇佐神宮における神職の任免は,慣習上の規範に必然的に制約され,被告人本庁は,慣習上の制約に反し,社家の後継者である原告を権宮司から罷免し,被告宇佐神宮から排除する旨の具申を受けたのであれば,被告宇佐神宮の包括団体として,その必要性,相当性を厳格に判断すべきであって(その意味で,社家の後継者である原告に対して,その地位を保全保護すべき債務ないし信義則上の義務を負う。),これを怠り,被告宇佐神宮が原告を後任宮司に推挙したにもかかわらず,これを長期間放置しただけでなく,原告を権宮司から罷免し,原告を被告宇佐神宮から排除するに至ったのであるから,原告に対するパワーハラスメントを行った他の被告らと同様に,被告神社本庁は,原告に対して,債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。ウ
損害額
原告が,被告宇佐神宮において,原告排除を目論み,組織ぐるみで行われたパワーハラスメントによって被った精神的苦痛に対する慰謝料は1000万円を下らない。また,同損害額の1割に相当する弁護士費用100万円についても相当因果関係のある損害である。


小括
被告C及び被告Dは,共同不法行為に基づき,被告宇佐神宮及び被告神社本庁は共同不法行為ないし債務不履行に基づき,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成26年6月29日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

(被告らの主張)

原告の被告らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。(ア)

原告が被告宇佐神宮においてパワーハラスメントを受けたこと,プ
ライバシーや人格権を侵害されたことは,否認し争う。原告に対するパワーハラスメントが認められないことは,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オで主張したとおりであり,原告のプライバシーや人格権の侵害には当たらず,原告に対する不法行為は認められない。
(イ)

原告に対するパワーハラスメントはなく,これが原告排除を目論み,
組織ぐるみで行われたものであるとの原告の主張にも理由がない。a
社務所内での原告の言動の観察,記録が正当なものであることは,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オ(ウ)c(a)で主張したとおりである。
b
被告宇佐神宮の神職が,原告を無視したり,罵声を浴びせたり,取り囲んだりしたことはない。前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オ(ウ)dでの主張したとおり,事実無根である。
被告Dが,平成25年7月22日,原告からICレコーダーを取り戻そうとした状況は,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オ(ウ)c(b)で主張したとおりであり,原告の主張とは異なる。
c
原告に対するパワーハラスメントは認められず,本件解雇や本件免職に理由があることは,前記(2)ないし(4)の各(被告宇佐神宮の主張)で主張したとおりである。

d
被告Dが原告からICレコーダーを取り戻そうとしたことが原告の窃盗ないし窃盗未遂行為に対する正当防衛に当たること,原告が被告Dの行為によって整形外科医から3週間の安静加療を要する旨の診断を受ける傷害を負ったとは認められないことは,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オ(ウ)c(b)で主張したとおりである。

(ウ)

原告主張のパワーハラスメントが,被告神社本庁の指示指導ないし
被告神社本庁との協議に基づくことは否認し争う。
a
被告Dは,被告神社本庁と連絡を取り合ったことはないと供述しており,被告宇佐神宮の原告に対する対応は,被告神社本庁の指示指導や被告神社本庁との協議に基づくものではない。

b
本件観察メモは,本件免職の具申に当たって,原告が神職にふさわしくないことを明らかにする資料として被告宇佐神宮が提出したものであり,被告神社本庁が提出させたものではない。その他の被告C及び被告Dの行為についても被告神社本庁の指図はない。
本件観察メモは,原告の指導や人事の資料とすることを目的とし,本件免職の具申のため作成したものではないことは,前記(1)(被告宇佐神宮の主張)オ(ウ)c(a)で主張したとおりであり,被告らに原告排除の意思も認められない。

c
原告は,本件嘆願書の提出を被告神社本庁との指示指導ないし被告神社本庁との協議に基づき原告排除を目論んだことである理由とするが,被告Dは,本件嘆願書の作成にあたって被告神社本庁との協議はないことを明確に供述している。

原告の被告宇佐神宮及び被告神社本庁に対する債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。
被告宇佐神宮は,原告との労働契約に基づく安全配慮義務,就労環境調整義務を負うが,原告に対するパワーハラスメントは認められず,被告宇佐神宮の債務不履行は認められない。
被告神社本庁が被告神社本庁の包括する神社の神職に対して神職の地位を保全保護すべき債務ないし信義則上の義務を負うことは否認し争う。被告神社本庁は,被告宇佐神宮とは別個独立した宗教団体ないし宗教法人であり,被告神社本庁と包括関係にある被告宇佐神宮の神職に対し,何らの法的義務を負うものではない。被告神社本庁は,原告に対し,原告に対するパワーハラスメントの有無にかかわらず,債務不履行責任を負わない。

以上のとおり,被告らは原告に対して共同不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償義務を負うものではない。仮に損害賠償義務が認められるとしても原告の主張する慰謝料1000万円は高額に過ぎる。

(6)

原告の本件各建物に対する占有権原(本件争点(4))

(原告の主張)

原告は,本件各建物について次の占有権原を有しており,原告に対し,本件各建物の明渡しを求める被告宇佐神宮の請求には理由がない。(ア)
a
齊館たる宮司邸としての慣習に基づく社家の排他的専用使用権限
本件各建物は,前記(1)(原告の主張)イ(ア)bで主張したとおり,被告宇佐神宮の齊館たる宮司邸であり,被告宇佐神宮の宮司を代々世襲する社家の単なる住居ではなく,その内部には,社家の家族が日常生活を営む空間と宗教上厳然と区別された区画として潔斎場や伝統の秘儀である儀式や祭礼を行う大広間が設けられている。
本件各建物において社家が行う秘伝の儀式や祭礼は,社家によって保存継承されてきたものであり,これを社家以外の者が行うことはできず,これを保存継承する社家の役割の重要性は,古来の慣習によって承認され,被告宇佐神宮において,社家の後継者を尊重し,敬意をもって処遇すべき規範的意義を有している。
それゆえ,被告宇佐神宮の齊館たる宮司邸である本件各建物は,慣習上,被告宇佐神宮の社家の後継者が利用居住すべきものである。b
本件建物2の所有権は,Gが平成3年10月16日に本件寄附行為によって被告宇佐神宮に移転したところ,Gも社家の後継者であって,本件寄付行為時は宮司を務めており,本件寄附行為は,本件各建物を社家の後継者であるB家が居住すべき慣習を前提に行われた。
それゆえ,齊館たる宮司邸である本件各建物に対する社家の排他的専用利用権原は,本件寄附行為の際,社家の後継者に留保されており,これを社家の後継者である原告は承継したものである。

c
社家の後継者が齊館たる宮司邸である本件各建物について有する排他的専用使用権限は,後継者の不在などのため社家を承継する者がない場合を除き,消滅しない。
それゆえ,仮に原告と被告宇佐神宮の労働契約の終了が認められるとしても,これは本件各建物について社家の後継者が有する齊館たる宮司邸としての利用居住権原に影響しない。

(イ)
a
本件寄附行為時に留保された居住権原
本件寄附行為は,G及びその家族が本件各建物に居住を継続することを前提にその居住権原を留保してされたものであり,Gの娘である原告は,Gの死亡によって本件寄付行為時に留保した居住権原を相続して同権限を有している。

b
仮にGが本件寄附行為時に留保した居住権原が黙示の使用貸借契約に基づくとしても,その目的は本件各建物にGの家族も居住を継続することであり,前記使用貸借関係は,Gの宮司退任や死亡後もGの家族が死亡あるいは任意に退去するまで存続し,Gの宮司退任や死亡によって当然に終了しない。
c
Gの宮司辞任により,被告宇佐神宮の宮司(代表役員)に就任したFは,Gが辞任しても,本件各建物を喪失したとは考えておらず,G及びその家族に対し本件各建物から退去を求めることなどしたことはなかった。また,Gが宮司を辞任した頃に,原告及び原告の母であるK(以下「K」という。)と,被告宇佐神宮との間で本件各建物の居住権について改めて協議した事実はない。

(ウ)

職舎としての使用貸借権
原告の占有権原が被告宇佐神宮主張の職舎としての使用貸借契約に基
づくものであり,前記使用貸借契約は原告と被告宇佐神宮の労働契約の終了によって終了するとしても,前記(2)ないし(5)の各(原告の主張)で主張したとおり,原告と被告宇佐神宮の労働契約の終了は認められず,原告は,本件各建物について被告宇佐神宮との使用貸借契約に基づく占有権原を有する。

原告の被告に対する本件各建物の明渡請求は,権利の濫用であって認められない。
社家の後継者である原告に対する本件各建物からの退去要求によって,社家は伝統の秘儀である儀式や祭礼を行うことができなくなるから,その退去要求は,事実上,社家が齊館たる宮司邸である本件各建物において行ってきた伝統の秘儀や祭礼を廃止して社家を廃絶するものであり,前記慣習上の規範に抵触する。
Gは,本件寄附行為の際,Gの死亡後も妻子が本件各建物での居住を継続することを当然に想定していたものであり,Gの死亡直後に原告の地位が剥奪されて妻子が本件各建物からの退去を求められることを許容していたはずはない。
以上に加え,原告と被告宇佐神宮のこれまでの関係も勘案すれば,被告宇佐神宮の原告に対する本件各建物の明渡請求は,権利の濫用であって認められない。
(被告宇佐神宮の主張)

原告主張の占有権原は,いずれも否認し争う。
(ア)

原告が本件建物について齊館たる宮司邸としての慣習に基づく社家
の排他的使用権限を有することは否認し争う。
a
前記(1)(被告宇佐神宮の主張)イ(ア)で主張したとおり,被告宇佐神宮は宮司の世襲制を採用しておらず,原告主張の慣習上の規範の存在は認められないし,原告が社家の後継者としての職務を行う義務を負うとしても,それはB家に由来するB家ないし原告が定めたものであり,被告宇佐神宮が関与するところではない。
本件各建物は,元々,勅祭などで勅使が天皇陛下の遣いとして被告宇佐神宮を訪れるときに接遇する建物及び宮司宿舎であり,B家以外の者が宮司であったときは,当該宮司が宮司宿舎として使用し,B家は本件各建物を使用していないことから,歴史的に見ても,本件各建物は,B家の居住及び儀礼の場ではない。

b
本件建物2の所有権は,Gが本件寄附行為によって被告宇佐神宮に移転したものであるが,本件各建物がB家において排他的に専用使用すべきものであれば,本件寄附行為によって本件建物2の所有権を被告宇佐神宮に移転する理由はなく,Gも本件各建物をB家が専用すべき建物と考えていなかったことは明らかである。

c
以上のとおり,被告宇佐神宮は世襲制を採用していないことから,原告は被告宇佐神宮の宮司を代々世襲する社家の後継者ではないし,本件各建物はB家の居住及び儀礼の場でもないから,本件建物は社家の後継者である原告が利用居住すべきものであるとの原告の主張には理由がない。
(イ)

寄付行為時に留保された占有権原は否認し争う。
Gが本件寄附行為によって本件建物2の所有権を被告宇佐神宮に移転
した際,被告宇佐神宮とGとの間でB家の利用権原を留保する旨の特段の合意は存在しない。本件各建物は被告宇佐神宮の境内内にあり,被告宇佐神宮は本件建物2の建築当時からその敷地の使用貸借を認める負担を負ってきており,本件各建物のうち本件建物2を除く部分は本件寄附行為以前から被告宇佐神宮の所有であり,本件寄附行為によって本件建物2の所有権を被告宇佐神宮に移転しながら,個人的に家族の居住権を留保することは不自然である。
(ウ)

被告宇佐神宮は,平成18年4月6日,被告宇佐神宮の職員であっ
た原告に対して,目的及び期限を定めず,黙示に本件各建物を貸し渡して使用貸借契約を締結したものであり,同使用貸借契約は,平成26年5月15日付で同年6月14日までに本件建物から退去するよう通知して,本件各建物の返還を請求し,同日を経過したことによって終了した。前記使用貸借契約が,目的及び期限を定めずにしたものでないとしても,その目的は被告宇佐神宮の職員である原告が本件各建物を職舎として使用することにあり,原告と被告宇佐神宮との労働契約は,前記のとおり,同年5月15日をもって終了し,原告は被告宇佐神宮の職員たる地位を失ったことから,前記使用貸借契約は,使用目的の終了によって同日終了している。

本件各建物の明渡請求が権利濫用に当たることは争う。原告と被告宇佐神宮の労働契約の終了によって,原告が被告宇佐神宮の職員でなくなった以上,原告に本件各建物の使用継続を認める必要性も許容性も存在しない。被告宇佐神宮に,原告主張の慣習上の規範は存在せず,原告が社家の後継者としての職務を行う義務を負うとしてもB家に由来するB家ないし原告が定めたものであって,被告宇佐神宮が関与するところではない。第3
1
当裁判所の判断
司法審査の対象について

(1)

裁判所が,その固有の権限に基づいて審判することができる対象は,裁
判所法3条にいう「法律上の争訟」,すなわち,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られ,具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であっても,法令の適用により解決するのに適しないものは,裁判所の審判の対象となりえない(最高裁判所昭和51年(オ)第749号同56年4月7日判決・民集35巻3号443頁)。(2)

本訴事件における前記第1の1(1)ないし(3)の各請求は,原告が,被告
宇佐神宮に対し,被告宇佐神宮との労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び被告宇佐神宮との労働契約に基づく賃金の支払を求めるものであり,反訴事件における請求は,被告宇佐神宮が,原告に対し,所有権に基づき本件各建物の返還を求めるものであるから,いずれの請求も具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争といえるが,いずれの請求においても原告が被告宇佐神宮との労働契約に基づき従事すべき職務の内容やその提供の有無を主要な争点とし,その前提問題として神職(権宮司)の地位やその従事すべき宗教活動が争われている。
この前提問題である神職(権宮司)の地位や従事すべき宗教活動について,裁判所は,原告と被告宇佐神宮との間の具体的な権利義務又は法律関係に関する紛争の判断のために必要がある場合,その判断内容が宗教上の教義の解釈にわたらない限り,審判権を有するというべきであるが,神職(権宮司)の地位や従事すべき宗教活動を判断するために,被告宇佐神宮の宗教上の教義ないし信仰の内容について一定の評価をすることが避けられない場合には,審理判断すべきではなく,原告と被告宇佐神宮との間の具体的な権利義務又は法律関係に関する紛争の判断のために,前提問題である神職(権宮司)の地位や従事すべき宗教活動について被告宇佐神宮の宗教上の教義ないし信仰の内容について一定の評価をすることが必要不可欠である場合には,前記第1の1(1)ないし(3)の請求及び反訴事件の請求は,その実質において法令の適用による終局的な解決が不可能なものであって裁判所法3条にいう「法律上の争訟」にあたらず,その訴えについては却下すべきものである(最高裁判所昭和51年(オ)第958号同55年1月11日判決・民集34巻1号1頁,最高裁判所昭和52年(オ)第177号同55年4月10日判決・裁判集民事129号439頁,最高裁判所昭和51年(オ)第749号同56年4月7日判決・民集35巻3号443頁,最高裁判所昭和61年(オ)第943号平成元年9月8日判決・民集43巻8号889頁等参照)。2
本件解雇日までの未払賃金(本件争点(1))
(1)

原告が行うべき職務内容について
原告は,前提事実(3)アのとおり,平成19年4月1日,被告宇佐神宮の総務部長を命じられ,同年10月1日,被告宇佐神宮の権宮司に就任したところ,前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,権宮司,総務部長の職務に関して次の事実が認められる。
(ア)

神職である権宮司は,規則18条,庁規87条2項に従い,神明に
奉仕し,神社神道に基づいて宗教活動に従事する。ここにいう宗教活動は,被告宇佐神宮との労働契約に基づき被告宇佐神宮の神職(権宮司)として行うものであるから,規則,庁規及び奉務規則等に則して被告宇佐神宮における権宮司として行う被告宇佐神宮の宗教活動として行われることを要する。被告宇佐神宮の宗教活動と,原告が主張するところの社家ないし社家の後継者として行う宗教活動(前記第2の4(1)(原告の主張)イ(ア)に記載)とは区別され得るものであり(原告においても,社家ないし社家の後継者として行う宗教活動は,慣習によって規律されるべき固有の領域であり,社家出身ではない者は,たとえ宮司の地位にあったとしても,その認識の及ぶところではなく関わるべきものではないとも主張している。),社家ないし社家の後継者として行う宗教活動であることをもって直ちに被告宇佐神宮の権宮司として行うべき宗教活動に当たるということはできない。
被告宇佐神宮の神職として行う宗教活動には,被告宇佐神宮の主宰する祭典での所役や御祈願,被告宇佐神宮の境内内の摂社,末社の巡拝などがあり,祭典において,権宮司は斎主や陪膳など上位の所役を担当し,袚主は禰宜以下の神職が担当する。
上宮での祈願当番は,権宮司よりも下位の神職が担当することとされており,権宮司は,緊急時などに上宮での祈願当番を担当することはあるが,当番の割り当てはされていない。
【前提事実(2)オ(ア)及び(イ),乙1,丙6,9,原告本人,被告D本人】(イ)

権宮司は,被告宇佐神宮において,宮司の次に上位の神職であり

(奉務規則2条3号),規則18条,奉務規則2条3号,庁規88条2項ないし4項によれば,権宮司よりも下位の神職は,上長の指揮を受けて事務に従事し,権宮司は,社務をつかさどる宮司を助けて事務に従事し,宮司に事故があるときは,その職務を代理する。
総務部長は,この神職が従事する事務の分課分掌における役職であり,統括の管理監督,指揮命令の下,被告宇佐神宮に複数ある全ての課の業務を管理監督する。神職の職階に照らせば,通例,統括には宮司が就き,総務部長には権宮司が就くと解される。
この権宮司,総務部長が従事する事務には,具体的には,全ての課の業務の指導監督,職員の雇い入れその他人事労務に係る事務,日計簿の最終確認や要人などの接遇,各種会合への参加,広報その他外部への対応などがある。
【前提事実(2)オ(ア)及び(イ),甲32,乙1,丙6,9,10,20,原告本人,被告D本人】

前記アの認定事実を踏まえれば,後記(ア)及び(イ)のとおり,社家の後継者としての職務が被告宇佐神宮との労働契約に基づく権宮司あるいは総務部長としての職務に含まれるとの原告の主張は,採用できない。
(ア)

前記ア(ア)で説示したとおり,社家ないし社家の後継者として行う宗
教活動を被告宇佐神宮との労働契約に基づく労務の提供というためには,規則,庁規及び奉務規則等に則して被告宇佐神宮における権宮司として行う被告宇佐神宮の宗教活動であることを要し,これは,原告の主張するところの古来の慣習によってB家に専属的に固有に由来する社家としての宗教活動と性質を異にする。それゆえ,社家ないし社家の後継者として行う宗教活動は,規則,庁規及び奉務規則等に即して被告宇佐神宮における権宮司として行う被告宇佐神宮の宗教活動に直ちに当たるものではない。
(イ)

社家の後継者としての職務として原告が主張するものは,具体的に
は,社家にのみ伝承されてきた伝統の秘儀である儀式,祭礼,本件各建物での潔斎(別名御別火とされるもの)及び貴賓要人の接遇であるが,これらの具体的内容は明らかではないし,規則,庁規及び奉務規則等に則して被告宇佐神宮において権宮司として行う被告宇佐神宮の宗教活動との関係や位置付けについても明らかではない。
そうすると,社家の行う宗教活動が,規則,庁規及び奉務規則に即して被告宇佐神宮において権宮司として行う被告宇佐神宮の宗教活動であるとは認めるに足りず,社家の行う宗教活動を内容とする社家の後継者としての職務が,原告と被告宇佐神宮との労働契約に基づく職務の内容を構成するとはいえない。
(ウ)

なお,前記(ア)(イ)の説示について,裁判所は,前記1で説示したと
おり,原告が被告宇佐神宮との労働契約に基づき従事すべき宗教活動について,その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたらない限り,審判権を有するところ,社家の後継者としての職務について,その具体的内容に立ち入ることなく,権宮司として行うべき職務につき規定上の定められた内容を検討し,他の神職の職務との関係,関与の程度といった外形的事実によって規則,庁規及び奉務規則等に則した被告宇佐神宮において権宮司が行う被告宇佐神宮の宗教活動は何かを審理判断する限度においては,その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたるものではなく許されると解される。
他方で,原告の上記主張は,社家の後継者としての職務が,古来慣習によって尊重承認され,規範化されるに至り,B家で世襲されてきた被告宇佐神宮の宮司としての職務として本質を構成するものであることを前提としたものと解される。しかし,社家の後継者としての職務が被告宇佐神宮の神職(権宮司)としての職務として本質を構成するものかどうかを判断するに当たっては,被告宇佐神宮の古来からの伝統,被告宇佐神宮の権威や格式,さらには氏子崇敬者の尊崇の対象等,宗教上の教義ないし信仰の内容に立ち入らざるを得ないことから,裁判所が審理判断することは許されない。

以上から,社家の後継者としての職務が,被告宇佐神宮の権宮司あるいは総務部長の職務に含まれるとは認めるに足りず,原告が社家の後継者としての職務を遂行したことをもって,被告宇佐神宮と原告の労働契約に基づく労務の提供と認めることはできない。

(2)

原告の平成25年6月16日以降の出勤日数その他就労状況
職員勤務表及び本件観察メモの信用性について
(ア)

認定した事実
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

a
職員勤務表と本件観察メモの記載は,原告が社務所を訪れた時間や社務所を退社した時間に数分の齟齬は散見され,相互に矛盾する部分も存在するが,概ね一致している。また,出勤簿に押印がある日や平成26年2月以降のタイムカードに打刻された時刻(ただし,中抜け部分を除く)とも概ね一致している。
本件観察メモには,原告がたびたびKと社務所を訪れることがあったことや出社後に社務所の貴賓室で過ごすことがあったこと,原告が出社後に読書をして過ごすこともあったことなどが記載されているところ,これらは原告も認めており,原告が本件観察メモの記載で誤っていると具体的に指摘するところは,原告の服装の点以外にない。【甲53,乙8の3,5,丙7,30,原告本人】

b
被告宇佐神宮では,職員の出退勤や勤務時間の管理を職員室に在室する巫女が職員勤務表に出退勤時間を記入して行っていたが,平成25年の終わりころ,労働基準監督署から職員勤務表の勤務時間の記載が正確でないとの指摘を受け,平成26年2月以降,タイムカードを設置し,これにより職員の出退勤や勤務時間を管理するようになった。また,被告宇佐神宮では,時間的な制約の有無はともかく,従前から出勤時に出勤簿に押印することされていた。
【甲53,原告本人,被告D本人】

c
出勤簿には,平成25年6月16日から同年12月31日まで,別紙4「原告の就労状況(裁判所認定)」の「出勤簿押印」欄記載のとおり原告の押印がある。
出勤簿は同年7月15日までまとめて斜線が引かれ,同月16日から同年8月14日までは,各日の欄にそれぞれバツ印がされている。同年7月1日から同年8月14日までの間に原告の押印がある日は10日存在する。
【乙8の5】
d
被告Cは,平成25年7月22日付指導・命令書において,原告
が,同月8日は出勤簿に押印したが,同月10日,同月15日及び同月18日は押印をせずに退出したと明記して,原告が同月22日までに社務所を訪れた日時や出勤簿への押印の有無を具体的に指摘し,勤務時間の遵守等を求めた。
同月30日付書面による前記指導・命令書に対する原告訴訟代理人を通じた回答では,被告Cの指摘する原告が社務所を訪れた日時が事実に反することや出勤簿に予めバツ印がされていること,原告が押印をせずに退出したとされる日に押印をしていることの指摘はなく,その後も原告が出勤簿に押印がない日に出社したことや出勤簿に予めバツ印がされていることの指摘は窺われない。
また,原告は,この回答の中で同月分給与明細書(なお,同年6月分の誤りである。)によれば,基本給50万5000円のところ2万円しか支給されていない旨を指摘し,これに対し,被告Cは,同年8月5日付回答書で原告の出勤が認められる1日分の給与のみ支給したと回答している。
【乙8の3】

(イ)

以上の認定事実を踏まえて,職員勤務表及び本件観察メモの原告が
社務所に来社した時刻及び社務所を退社した時刻の記載の信用性について,原告の反論も踏まえて検討する。
a
前記(ア)bの被告宇佐神宮が労働基準監督署から受けた指摘の具体的な内容は明らかではなく,これをもって職員勤務表の記載の信用性を全面的に否定することはできない。
b
前記(ア)c及びdによれば,原告は,平成25年7月22日付指導・命令書を受領して以降,出勤時に出勤簿へ押印する必要性を理解して出勤簿に押印していたといえる。
出勤簿にバツ印があるのは,同年8月14日までであり,同月15日以降は,出勤簿のバツ印が押印をしなかった理由にならない。また,前記dの原告の同年7月30日付書面による回答に照らせば,原告は,同月10日,同月15日及び同月18日に出勤簿への押印せず,同日の出勤簿の押印は後日にされたものであり,被告宇佐神宮は,原告が賃金の締日である15日以降に出勤簿の過去の日付欄に押印したことから,俸給計算の混乱を避けるため原告が出勤簿に押印をしなかった日にバツ印を付けるようになったといえ,出勤簿のバツ印が予めされていたとは認められない。
同年8月14日までの出勤簿の押印は後日されたものであるが,その押印の状況に照らせば,原告は,社務所に出社した日にのみ押印していると推認され,特段の事情のない限り,同日までの期間は,出勤簿に押印がある日は原告が社務所に出社した日であり,出勤簿に押印がない日は原告が社務所に出社していない日であると解される。
なお,被告宇佐神宮は,原告の出社はあるが,出勤簿への押印がない日を欠勤とし,その理由に原告が業務に従事していないことも挙げるが,出勤簿に押印がある日は原告が出社した日であり,被告宇佐神宮が原告に対して日常従事すべき事務を指示していないことは後記(4)ウのとおりであるから,出勤簿に押印がない日を欠勤とすることは相当でない。
もっとも,社務所滞在時間が30分に満たない日は,原告に就労意思がなかったものとして社務所への出社が認められるとしても欠勤と扱うのが相当である。
c
前記(ア)dのとおり,被告Cが原告の社務所を訪れた日時や出勤簿への押印の有無を具体的に指摘して勤務時間の遵守等を求め,平成25年6月分の賃金については出勤が認められる1日分のみ支給したと回答している状況において,原告への未払賃金を巡って原告の勤務日や勤務時間が争われるおそれを想定することは,少なくとも原告訴訟代理人にとって容易であり,これに備え,原告が原告訴訟代理人の助言を得て具体的な勤務日や勤務時間を記録することも容易であった。しかし,原告においては,これをしていなかった。

d
被告宇佐神宮は,タイムカードを設置した平成26年2月16日以降,原告が,いわゆる中抜け行為を常態的に行っていたと主張し,職員勤務表やタイムカードにも原告が中抜けした時間が記載されている。同日以降の原告の出社時刻及び退社時刻は,概ね奉務規則の勤務時間と一致し,それまでの就労状況とは明らかに異なるが,原告から従事する職務の変化や社務所における客観的に就労することが困難な状況の解消など就労状況が従前と異なることの合理的な説明はない。
(ウ)

以上の検討に加えて,原告が従事したと主張する職務は,自宅ほか
社務所外での社家の後継者としての職務や被告宇佐神宮境内内の摂社,末社の巡拝,清掃等であり,社務所での就労はパワーハラスメントのため客観的に従事することが困難な状況にあったことから従事できなかったと主張していることや,原告は,社務所来社の有無や出退勤時間について,職員勤務表や本件観察メモの信用性を理由に被告宇佐神宮の主張を争うのみで,原告からの具体的な主張立証はないことなどを併せ考慮すると,職員勤務表や本件観察メモの記載やこれらの他の証拠との整合性,出勤簿への押印状況,原告の社務所への出社状況についての原告の主張立証の状況によれば,特段の事情のない限り,職員勤務表や本件観察メモに記載された原告が社務所に来社した時刻及び退社した時刻の記載は信用できるというべきである。

前記アで認定説示したところに加え,証拠(甲53,乙8の3,5及び6,丙7,28から30まで,原告本人,被告D本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告の平成25年6月16日から平成26年5月15日までの社務所への出社状況及び滞在時間は,次のとおり補足するほか,別紙4「原告の就労状況(裁判所認定)」の「勤務時間」欄記載のとおりである。(ア)

平成25年10月26日から同月28日までについては,職員勤務
表及び本件観察メモに原告が社務所を訪れた旨の記載はないが,出勤簿には邸内社例祭である旨の記載があり,弁論の全趣旨によれば,邸内社例祭は,これまで被告Dが斎主を務めてきたB家邸内にある天満宮での祭事であると認められるから,被告宇佐神宮の宗教活動と解され,原告は,その祭場準備や邸内社例祭に従事して被告宇佐神宮の職務に従事したと認められる。
(イ)

平成25年11月14日については,次のとおり,職員勤務表及び
本件観察メモによって原告に最も有利な内容で原告の出社時刻及び退社時刻を認定すべきである。
被告宇佐神宮は,同日,原告がいわゆる中抜けをしたと主張するところ,職員勤務表には,原告が午前9時36分から午前11時32分まで中抜けした旨の記載があるが,本件観察メモには,原告が午前10時30分に帰宅したと記載されており,職員勤務表と本件観察メモの記載は整合性を欠き,原告の中抜けを認めるに足りない。
もっとも,原告が奉務規則所定の終業時刻よりも早く退社した限度では矛盾がなく,原告が奉務規則所定の終業時刻まで社務所に滞在していたことを窺わせる事情もないから,原告が奉務規則所定の終業時刻まで社務所に滞在していたとは認められない。
(ウ)

平成25年11月26日は,職員勤務表に原告が社務所を訪れた旨の記載はないが,本件観察メモには原告が柴刺神事に参加した旨の記載があり,出勤簿にも押印があるところ,これが被告宇佐神宮の職務に当たらない旨の具体的な主張立証はなく,原告は,被告宇佐神宮の職務に従事したと認められる。
(エ)

平成26年1月2日は,職員勤務表に原告が出勤した旨の記載はな
いが,被告宇佐神宮は,原告が同日出勤したとしており,同日の原告の出社が認められる。
(オ)

平成26年3月29日の被告宇佐神宮主張の始業時刻はタイムカー
ドに打刻された時刻と明らかに異なり,同日の中抜け就労は,職員勤務表によっても認定できない。

以上によれば,原告の出勤日は別紙4「原告の就労状況(裁判所認定)」の「勤務日」欄記載のとおりであり,各給与計算期間の出勤日数は,別紙5「賃金計算表(裁判所認定)」の各「出勤日数」欄記載のとおりである。
(3)

原告の出勤日数は,前記(2)ウのとおりであるところ,原告は,勤務時間,
休日等の規定は適用されず,これを前提とする欠勤控除の主張には理由がないと主張する。

原告は,社家の後継者であり,被告宇佐神宮の業務や宗教活動上必要があれば,昼夜を問わず,被告宇佐神宮に出社し,本件各建物で過ごす時も社家の後継者としての職務に従事することが義務付けられており,勤務日や勤務時間,休日等の概念がなく,勤務時間,休日等の規定の適用はないと主張する。
しかしながら,社家の後継者としての職務が被告宇佐神宮との労働契約に基づく職務に含まれるものでないことは,前記(1)イのとおりであり,勤務時間,休日等の規定が適用されない理由とはならない。
原告が被告宇佐神宮の業務や宗教活動上必要があれば,昼夜を問わず,被告宇佐神宮に出社する必要があったとしても,前記(1)アの権宮司,総務部長の職務に照らせば,それは原告が権宮司ないし総務部長であったからと解され,これらの地位にあった原告が,いわゆる管理監督者に当たるか否かを検討すれば足り,原告が社家の後継者であるか否かとは関係がない。
被告宇佐神宮が宮司の世襲制を採るかはともかく,これまでB家が被告宇佐神宮の宮司の大半を輩出し,事実上,被告宇佐神宮の宮司家として扱われ,B家の後継者は,宮司後継予定者としての扱いを受けてきた限度では争いがない。原告の就労状況に禰宜当時から変化がないとしても,それは宮司後継予定者として,事実上,宮司や権宮司が担うべき職務を担当していたにすぎないというべきであり,勤務日や勤務時間,休日等の概念がなく,勤務時間,休日等の規定の適用が排除されることを基礎づけるものではないというべきである。

原告は,いわゆる管理監督者である権宮司,総務部長には勤務時間,休日等の規定の適用はないと主張する。
(ア)

奉務規則15条1号は,いわゆる管理監督者について,勤務時間,
休日等の規定を適用しないと定めるところ,これはいわゆる管理監督者について労働基準法第6章所定の労働時間,休憩,休日等の規制の適用除外を定める同法41条2号を確認的に規定したものと解される。労働基準法41条2号が,いわゆる管理監督者に同法6章所定の労働時間,休憩,休日等の規制の適用除外を定める趣旨は,いわゆる管理監督者については,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり,その職務及び責任が,労働時間,休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することを要請されざるを得ない重要なものであって,現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまず,勤務日や勤務時間の決定も当該労働者の裁量に委ねるべきことにある。

このような規定の趣旨に照らせば,管理監督者が,他の労働者と異なり,就業規則に定める出勤日や勤務時間に従った勤務態様でなくとも欠勤や遅刻早退の勤怠評価によって人事考課上の不利益や就業規則上の制裁規定の適用を受けないのは,その職務及び責任,現実の勤務態様に照らして,勤務日や勤務時間の決定を当該労働者の裁量に委ねるべき結果であり,管理監督者であることは,正当な理由によらない欠勤や遅刻早退を許容するものではない。
それゆえ,管理監督者として,就業規則に定める出勤日や勤務時間に従ったものでない勤務態様が許容されるか否かは,当該労働者の職務や責任,現実の勤務態様が,勤務日や勤務時間の決定を当該労働者の裁量に委ねるのを相当とするものか否か,賃金その他の勤務条件が,当該労働者の勤務日や勤務時間の決定についての裁量を首肯するに値するものか否かによって判断すべきである。
(イ)

権宮司,総務部長の職務は,前記(1)アで説示したとおり,被告宇佐
神宮の祭典においては上位の所役を担い,社務においては,統括の管理監督,指揮命令の下,被告宇佐神宮に複数存在する全ての課の業務を管理監督するものであるから,その職務及び責任に照らせば,管理監督者に当たると解しうる。
しかしながら,原告は,平成21年6月18日以降,約4年の長期間出勤しなかったために総務部長としての分課分掌から外されたものであり,その間の現実の勤務態様は,管理監督者として勤務日や勤務時間の決定を原告に委ねることを相当とするものではないし,平成25年7月8日に改めて被告宇佐神宮に出社するようになって以降も欠勤や遅刻早退が著しく,総務部長の分課分掌は外れたままであって,現実に日常的に担当していた社務も存在しないのであるから,管理監督者として勤務
日や勤務時間の決定を裁量に委ねるのを相当とする現実の勤務態様は存在しない。
(エ)

したがって,原告は管理監督者であり,勤務時間,休日等の規定の
適用を受けないとの主張には理由がない。

原告は,奉務規則の周知性を争うが,原告の賃金が月給制であることを認めるに足りる的確な主張立証はないし,弁論の全趣旨によれば,就業規則にあたる奉務規則は,職員であれば誰でも確認することができるよう社務所の書棚ないし机上に備え付けられていたことが窺われ,奉務規則が周知性を欠き適用されないとの原告の主張には理由がない。

(4)

原告は,被告宇佐神宮におけるパワーハラスメントのため職務に従事す
ることが客観的に困難な状況にあり,債権者の責めに帰すべき事由によって職務に従事することができなかったと主張するので以下判断する。ア
後掲の証拠及び弁論の全趣旨等によれば,次の事実が認められる。
(ア)
a
原告の宮司就任の具申に至る経過
原告の祖父であるLは,終戦後の昭和21年に宮司の世襲制を廃止した太政官布告が廃止され,それまで多数宮司を輩出してきたB家の当主であったことから,昭和23年に被告宇佐神宮の宮司に就任した。被告宇佐神宮は,昭和29年1月26日に宗教法人となったが,法人成立時の宮司(代表役員)もLであった。
Lの子であるGは,昭和48年7月19日,Lの後継者として被告宇佐神宮の宮司に就任した。
Gは,病気のため,平成17年4月から休職となり,平成18年4月6日に宮司を退任した。
Fは,同月7日,被告宇佐神宮の宮司に就任した。
Fは,就任当初から,原告が将来的に宮司に就任するまでの中継ぎとして周囲から見られており,F本人も原告に宮司を引き継ぐことを明言していた。
【前提事実(1)イ(ア)及び(1)ウ,甲4,甲5の2,甲41の1及び2,証人H,原告本人】
b
原告は,平成17年4月1日,被告宇佐神宮の禰宜に就任し,平成19年4月1日に総務部長を命じられ,同年5月20日に明階の階位を取得し,同年10月1日に権宮司に就任した。
原告は,禰宜に就任した以降,被告宇佐神宮の重要行事においては,宮司後継予定者としての扱いを受け,事実上,最高位の神職として儀式,祭礼等の執行をしてきた。
原告は,後記(イ)bのとおり,本件嘆願書が被告神社本庁の統理に対し提出されるまで,禰宜ないし権宮司あるいは総務部長としての原告の勤務状況が問題とされたことはなかった。

【前提事実(3)ア,甲4,甲25,26,証人H,原告本人,弁論の全趣旨】
c
Fは,平成20年7月,体調を崩し,後任宮司として原告を指名して宮司を辞任する意向を示した。責任役員であったH,I及びJの3名は,同月10日にFから宮司の退職願が提出されたことを受け,Fの後任宮司として原告を具申することを合意し,同月15日付けの責任役員会議事録(甲8)を作成して,被告神社本庁に対し,同月23日付けで原告の宮司就任を具申した。被告Dは,この責任役員会議事録ないし宮司任命具申書(甲9)の作成に関与した。

【前提事実(4)ア(ア),甲8から10まで,甲44,証人H,被告D本人】
(イ)
a
被告Cの被告宇佐神宮宮司への特任に至る経過
被告神社本庁は,平成20年8月13日,人事委員会を開催して審議したものの,原告の宮司任命が相当であるとの結論に至らなかった。Iは,同年11月21日,死亡した。
Gは,平成21年1月13日,死亡した。
【前提事実(4)ア(ア)及び(イ),丙1の1及び2,証人H,原告本人】b
被告Dは,統理に対し,禰宜9名及び出仕1名との連名による平成21年1月16日付けの原告の宮司就任に反対する本件嘆願書を提出した。
本件嘆願書には,冒頭に「昨今の宇佐神宮宮司問題に関し,当神宮A権宮司及びその関係者による恣意独断により,宮内庁及び神社本庁はじめ関係各機関との軋轢を引き起こし混乱を来たしている」との記載があり,これに続いて「一昨年権宮司に就任したA氏とその母K氏は,職員との信頼関係を一切構築することをせず,神職及び神社関係者としての常識を大きく逸脱した日々の妄言妄動は,着実に悪化の一途を辿っております。本来,宇佐神宮の“一職員”であるはずの権宮司と,神職資格も無い単なる名誉宮司(G元宮司)夫人には,強力な職権は存在しないものと考えますが,彼女らは『B宮司家』を標榜し,あたかも宮司であるような振る舞いで強権を誇示し,神職の良識に則って粛々と祭祀を厳修し社務を遂行する職員の奉仕勤労意欲を逐一喪失させてきました。」,「これまで我々は,正当なる宮司家であるB家の人々を懸命に支えて参りましたが,事此処に至って,これ以上は看過出来ない事態となりました。」と記載されている。
追記として「新宮司着任までの間,当面の宇佐神宮の社務運営については,不適切な言動の著しいA権宮司及びK氏の決裁・判断・指示に依らず,D禰宜の決裁・判断・指示を以て行いた」いと記載されている。
また,Jは,統理に対し,同年2月3日付けで前記原告の宮司就任の具申を取り下げる旨の「宮司任命具申書取り下げ願い」及び被告神社本庁の決定に同意する旨の「同意書」を提出した。
【争いのない事実,前提事実(4)ア(イ),甲44,52】
c
被告神社本庁は,平成21年2月26日,庁規90条2項に基づき被告Cを被告宇佐神宮の宮司に任命した。
被告Dは,同年3月15日,禰宜から権宮司に昇格した。
本件嘆願書に署名した神職らの給与は,同じころ,増額された。
【前提事実(4)ア(ウ),原告本人,戊1,弁論の全趣旨】

(ウ)
a
被告Cの宮司就任後の経過
原告は,平成21年2月28日付けの表題を「公告」とする紙を
「宗教法人宇佐神宮宮司A」名で被告宇佐神宮の掲示板に掲示し,被告神社本庁に被告宇佐神宮代表役員宮司の肩書で同日付の書面によって被告宇佐神宮が被告神社本庁との包括関係を廃止するため規則変更を決議し,その旨を公告したと通知した。
【丙18,19】

b
原告は,平成21年3月18日の例大祭の際,上宮に先回りして宮司の座に座ろうとし,他の職員から制止された。
【被告D本人】

c
原告は,平成21年6月18日から平成25年6月15日まで,被告宇佐神宮に出社しなかった。
被告宇佐神宮は,遅くとも同年10月1日以降,社務の職務分掌
から総務部長であった原告を外した。
【甲32,丙10】

d
被告宇佐神宮は,原告に対し,平成21年7月21日付け職務命令通知書によって,原告が被告宇佐神宮の掲示板に掲示した前記aの内容は事実に反することから,これが原告の掲示したものである場合,取り外して廃棄するよう求めた。
これに対し,原告は,責任役員から同年6月23日に被告神社本庁との包括関係の廃止に関する事項について仮代表役員に選任され,被告神社本庁に対してした前記aの通知を追認しているなどとして被告宇佐神宮掲示板に掲示された内容は事実に反するものではないと回答し,被告宇佐神宮からの求めに応じなかった。
また,被告宇佐神宮は,原告に対し,前記同年7月21日付け職務命令通知書によって,神宮庁宮司室に鍵がかけられていて宮司が使用できず,その鍵は原告が保管しているとして,同宮司室内の原告の所有物を撤去し,同宮司室の鍵を返還するよう求められたが,原告は,これに応じず,鍵を返還していない。
【乙8の3,丙18,19】
e
原告及びHは,平成22年3月ないし同年5月,前件訴訟を提起し,前件訴訟は,原告及びHがそれぞれ申し立てた上告ないし上告受理申立てに対し,平成25年5月7日,いずれも上告棄却ないし上告不受理決定がされて原告及びHの請求を棄却する判決が確定した。
【前提事実(4)イ,甲44】

f
被告Dは,平成25年5月,前件訴訟に係る請求棄却判決が確定
したことをうけ,中外日報の取材に応じ,「神社本庁と協議の上,何らかの処置をする。これだけ迷惑を掛けたのだから,(将来的にもA氏の宮司就任の)可能性はない。」旨の見解を示した。
【甲56】

g
被告Dは,平成25年7月8日,原告と神宮庁を訪れたKに対し,部外者であるとして直ちに出ていくよう求めたが,原告及びKは,元責任役員であるKが出ていく必要はないと答えた。
被告Dは,原告に対し,前記dで返還を求めた神宮庁内宮司室の鍵の返還を求めたが,原告及びKは,同宮司室は既に空いている,被告Dは同宮司室に横から出入りしているなどと答え,被告Dに対して定年退職のくせにいつまでやってんのなどと言った。
被告Dは,平成25年7月9日,被告神社本庁のE部長に同日8日の出来事を報告した。
【甲44,乙8の3,丙7の1,丙18,19,丙25の1,丙26の1,被告D本人】
h
原告は,平成25年7月,社務所において,被告宇佐神宮の神職その他の職員に対し,「何,徘徊老人みたいにたったまんまでいるのよ,座ったらどうなのよ。根が生えんじゃないの。」,「無意味なことばっかするんじゃないわよ。手持ちぶさた過ぎじゃないの。」,「あんた,外ばっかり見てて,何かおかしいんじゃないの。みんなに言われてるじゃない。」,「本当,挙動不審ね,あなた。」,「ちろちろ,ちろちろ,あんた見ることしかできないの。また外見てんの。頭おかしいんじゃない,やっぱり。どうも落ち着かないよね。何かさ挙動不審でしょ,あんた。外ばっかり見ててさ。ずっと徘徊みたいな」などと発言している。
また,電話対応中の職員に「あんたも挨拶しないね,最近」,「こんにちはは」などと話しかけている。
【丙25,26】

(エ)
a
被告Cの原告に対する業務命令等
被告Cは,原告に対し,平成25年6月13日付け職務命令書により原告が宮司でないことを認め,速やかに被告宇佐神宮に出社し,宮司である被告Cの指揮命令に従って神職としての職責を全うすること及び誓約書(乙8の3。2枚目)の提出を求めた。
上記誓約書には「小職は,神社本庁憲章,神社本庁庁規,宇佐神宮規則及び宇佐神宮法務規則を遵守し,C宮司に指揮監督の下,その命に従って勤務し,神明に奉仕することを誓います。」,「万が一,C宮司の職務命令に反する行為があった場合には,いかなる処分が下されることにも同意します。」,「なお,小職の平成21年6月18日以降の無断欠勤その他の規則違反行為について,おって処分がなされることがありうることも理解し,処分がなされた場合には異議なくこれに従います。」と印字されていた。
原告は,平成25年6月17日付け回答書(乙8の3。3枚目。以下,「平成25年6月17日付け原告回答書」という。)において,平成21年6月18日以降,被告宇佐神宮において,出勤しても怒声を浴びせられ,職務から排除されるなどして出務不能になっていたのであって,上記期日以降に被告宇佐神宮に出勤しなかったことは無断欠勤に当たらないとして,神職としての職務が全うできるよう就労環境の調整を求め,また,誓約書の内容は不当であり,その提出は応じられないと回答した。被告Cは,これに対し,原告が正常な執務が出来ない状態に追い込まれていたことはなく,平成21年6月18日以降,原告の職場放棄によって勤務実態が認められないと回答した。原告は,平成25年6月17日付け原告回答書において,被告宇佐神宮における原告の処遇や原告に対する業務命令の限界は,被告宇佐神宮の歴史と伝統,B家の社家としての伝統,B家が継承してきた宗教上の秘儀及びこれを担う立場にある原告の神職としての地位等に相応しいものであるのが当然であるとも回答している。
【前提事実(5)ア,甲44,乙8の3】
b
平成25年7月17日に開催された被告宇佐神宮の責任役員会議では,前件訴訟確定を受けた原告の職場復帰後の状況及び原告に対する給与の支給額が話し合われた。
上記責任役員会議においては,原告が誓約書の提出をせず,平服で社務所に出勤し,その後10分から1時間程度数日しか勤務していないことが問題とされ,原告の行動は,職場に復帰したものと言い難く,職場復帰を命じる旨の業務命令に違反していること,原告の就労の実態に即して給与を支払うべきことが決議された。
【丙8】
c
被告Cは,平成25年7月22日付指導・命令書により,①白衣,袴を着用の上,午前8時30分に社務所に出勤の上,午後4時30分まで在勤し,定められた勤務時間を遵守すること,②宮司である被告C及び上席権宮司である被告Dの命に従うこと,③社務所に備え付けの祭典奉仕所役差に従い,祭典に奉仕すること,④神職としての素養の涵養に努めること,⑤社務所に部外者の立ち入りをさせないことを命じ,以後も同旨の業務命令を繰り返した。
【乙8の3】

d
原告は,平成25年8月19日,K及びHと共に被告Cと面談し,被告Cに対し,仕事を与えてもらえないとして就労環境の改善を求めた。
被告Cは,原告に祭典奉仕所役表を見るよう伝えたが,原告が祭典奉仕所役表が回覧されないと答えたことから,上宮での勤務を命じた。原告は,被告訴訟代理人を通じて同日付書面でも祭典の日程が知らされていない旨通知している。
原告は,上宮に権宮司の仕事はないと答えたが,Hは,原告に上宮で仕事をしたことがないか確認し,原告が忙しいときに手伝いに行って監督したりしたことはあると答えたため,その時と同じようにすればいいとして被告Cの指示に従い上宮で勤務することを勧めた。
【乙8の3,証人H,原告本人】

e
被告Dは,平成25年8月30日,原告と社務所を訪れたKから原告のロッカーはどこにあるかを尋ねられ,女子更衣室に案内した(原告は,更衣室として用意された場所は女子更衣室として使用されていたものではなく,ロッカーの中にはゴミが放置されていたと主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。)
【乙8の3】
(オ)
a
平成25年6月16日以降,原告に割り当てられた職務
原告は,平成25年6月16日以降も被告宇佐神宮の社務の分課分掌からは外されており,被告宇佐神宮は,原告に対し,総務部長が担当すべき社務はもとより,他に具体的に従事すべき社務を命じたことも窺われない。
【丙10,原告本人,被告D】

b
祭典での所役
(a)

被告宇佐神宮では,祭典での所役は概ね前月25日までに作成

される祭典奉仕所役差に記載されて各神職への割り当てがされ,祭典奉仕所役差は,社務所の書棚ないし机上に備え付けられ,職員であれば誰でも確認することができる状態に置かれている。
原告は,平成25年7月8日から社務所に出社するようになった
が,被告Dほか被告宇佐神宮の神職は,原告に祭典奉仕所役差を回覧せず,原告に祭典での所役の確認を求めたり,口頭で原告に祭典での所役を伝えたりすることはなかった。
他方で,原告も社務所に出社するようになった当初,自ら他の神
職に祭典奉仕所役差の所在を確認したり,自己が祭典で担当する所役を確認したりすることはなかった。
【甲44,乙8の3,丙14,20,原告本人,被告D本人】
(b)

原告は,別紙4「原告の就労状況(裁判所認定)」の「勤務状

況」欄記載のとおり,平成25年8月1日の式日祭での袚主の所
役及び同月15日の月次祭での袚主の所役をいずれも怠った。
原告は,同日,被告宇佐神宮に出社しているが,原告が祭典で
の所役に従事したことは窺われない。
被告宇佐神宮は,原告が同月2日及び同月4日も祭典での奉仕を
怠ったと主張するが,同月の祭典奉仕所役差に前記各日の祭典の記載はなく,原告が前記各日に祭典での所役を命じられていたとは認められず,これを原告が怠ったことも認められない。
【乙8の5,丙7の2,丙20の1,原告本人】
(c)

原告は,前記(ウ)cの面談以降,別紙4「原告の就労状況(裁判
所認定)」の「勤務状況」欄記載のとおり,平成26年1月15日の月次祭での陪膳の所役及び同年2月15日の月次祭出の陪膳の所役を除き,自ら祭典奉仕所役差ないしその写しを確認して与えられた祭典での所役に従事した。
なお,原告が平成26年1月15日及び同年2月15日に祭典で
の所役を行わなかったのは,後記(ケ)のとおり,帯状疱疹と診断されて欠勤したからである。
【乙8の3,丙20の2及び3,原告本人】
c
上宮での祈願当番
(a)

被告宇佐神宮では,上宮での祈願当番,上宮ないし神宮庁での

宿直は概ね前月20日までに作成される神職勤務表に記載して各神職への割り当てがされ,神職勤務表は,社務所の書棚ないし机上に備え付けられ,職員であれば誰でも確認することができる状態に置かれている。
上宮での祈願当番は,宿直が兼務して行い,原告は,これまで女
性であることから宿直業務を免除されていた。
【丙14,被告D本人】
(b)

原告は,平成25年8月27日,祈願殿において,被告Dから

祈願をしてもらうので祈願の祝詞を読めるようにすること,袚主をしてもらうので練習することを伝えられ,祈願殿を退出し,同月28日,前日に被告Dからいろいろ言われたストレスによって体が動かなくなったとして出社しなかった。同日及び同月29日は出勤簿に病欠と記載されている。
【乙8の3,5及び6,丙7の2】
(c)

原告は,平成25年12月10日,被告Dから同月11日に祈

願当番に当たっていることから,上宮での祈願当番を行うよう指示されたが,同日,出社せず,上宮での祈願当番を怠った(なお,同月10日以前の原告への上宮の祈願当番の割り当ての有無やその懈怠を認めるに足りる証拠はない。)。
原告は,平成26年1月以降,別紙4「原告の就労状況(裁判所
認定)」記載のとおり,上宮での祈願当番の割り当てを受けたが,上宮での祈願当番に従事しなかった。原告が割り当てられた祈願補は,新たに設けられたもので,これを割り当てられたのは原告のみであった。
原告は,上宮での祈願当番を行おうとしたところ,2回ほど被告
Dに妨害され,これを行うことができなかったと主張するが,その時期等は明らかにされておらず,これを裏付ける証拠もないし,原告は上宮での祈願が従えるものではなかったとも供述しており,原告が上宮で祈願当番を行おうとしたとは認められず,被告Dから祈願当番を妨害されたとも認められない。
【丙14,原告本人,被告D本人】
(カ)
a
本件観察メモの作成
被告Dは,原告が改めて出社するようになった平成25年7月8日以降,被告Cと相談の上,自ら,あるいは,他の職員を通じて原告の出退勤,勤務時間その他の就労状況を確認し,これを記録した本件観察メモを作成した。本件観察メモには,原告が社務所を訪れ,あるいは,社務所を退出した時間が記載されているほか,原告の言動が社務所でのものを中心に時間とともに記載され,原告が社務所に訪れた際の服装なども記載されている。
本件観察メモ作成の動機は,それまで原告と被告宇佐神宮との間では前件訴訟で被告宇佐神宮の代表役員(宮司)の地位が争われ,この間,原告は平成21年6月18日から4年弱にわたって欠勤し,社務所に出てきても滞在時間は数分ないし数時間であったこと,原告は他の意見を聞き入れることなく自らの意見を押し通すなどしていたことなどから,原告の勤務には不安があり,原告とトラブルを生じ,再び裁判となることも懸念され,原告とのトラブルを生じた場合に備えて原告の就労状況等を記録しておく必要があると考えたことにあった。被告Dは,原告の権宮司免職を責任役員会での議題とすることが決まり,原告の就労状況をこれ以上記録しても同じだと考え,被告Cと相談の上,平成25年12月15日以降,原告の就労状況を記録した本件観察メモを作成することを止めた。
【乙8の3及び4,被告D本人】
b
被告Dによる無断録音,録画
被告Dは,平成25年7月8日以降,少なくとも同月22日まで原告の就労状況を記録するため,他の神職等もいる社務所内での状況を原告に無断でICレコーダーを用いて録音していた。
原告は,その後も録音が継続されていたと主張するが,被告Dは,同日,後記(カ)のとおり,原告の言動をICレコーダーで録音していたことを巡って原告とトラブルになり,再びもめごとが起こったら悪いと思い原告の言動を録音することを止めたと供述し,その後も無断録音を継続していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
【乙8の3,丙24から26まで,被告D本人】
(キ)
a
平成25年7月22日の原告の言動の録音を巡るトラブル
原告は,同日午前11時05分,社務所を訪れた。その後,被告Dが原告の行動をメモしていたところ,原告が被告Dの作成するメモを取り上げようとしたことから,原告は,被告Dともみあいとなり,その後,午後零時時20分に社務所を退出した。
【乙8の3,丙7の1,被告D本人】

b
被告宇佐神宮の神職は,原告が同日午後3時50分に再び社務所を訪れて自席に座っていたところ,「いかに自然にいくか」などと言いながら原告に向けてビデオカメラをセットし,原告の承諾を得ることなく,原告の撮影を開始した。
原告は,自席で執務していたが,ノートのようなものを持って離席し,被告Dの机上のパソコンの下にICレコーダーがあるのを見つけた。原告は,原告の様子を見て「何やってるんだ」と言いながら入室してきた被告Dに対し,「これ何」などと言って被告Dの机上からICレコーダーを手に取った。原告は,ICレコーダーを取り返そうとする被告Dから逃げて被告Dの席を離れ,被告Dに取り返されないようICレコーダーをノートのようなものとともに右手から左手に持ち替えながら原告の席付近まで移動した。
被告Dは,原告の席付近で原告の右肘あたりを原告の右背後から両手で掴んで原告を捕まえ,原告がICレコーダーを手に取った左腕を伸ばして被告DからICレコーダーを取られないようにしているところ,右手で原告の右肘あたりを掴んだまま,原告の背後に回って左手で原告の左手首あたりを掴み,そのまま左腕を上に挙げ,原告の左手から右手でICレコーダーを取り上げた。
原告は,被告DからICレコーダーを取り返そうと「何ですか,何ですか」と言いながら左手を被告Dから離さず,さらに体を反転して被告Dと正対し,右手を被告DがICレコーダーを持つ被告Dの左手へと伸ばしたが,被告Dが他の神職に「おい,撮れ」と言ったのを聞いて被告Dから右手を離して振り向いて,「うわぁ」と発言した。被告Dが入室してきてから他の神職に「おい,撮れ」と発言するまでの時間は15秒程度であり,この間,他の神職は原告と被告Dの様子を見て被告Dが原告の手からICレコーダーを取り上げたあたりからゆっくり原告と被告Dに近づいているが,特に制止には入っておらず,他の神職の中には「何してんだ,こいつ」などと発言している者もいる。また,他の神職1名は,被告Dが「おい,撮れ」と言ったのを受けて,セットされていたビデオカメラを手に取って撮影しながら,原告と被告Dに近づいている。
その後,被告Dは自席の方に戻り,原告は,すぐに自席の荷物を手に取って「それ何ですか」,「録音機じゃないんですか」と言いながら被告Dに近づき,再び被告DがICレコーダーを持った右手に原告の左手を伸ばし,被告DはICレコーダーを取られないよう左手で原告の左手首を掴んでICレコーダーをズボンの右ポケットにしまって右手をズボンの右ポケットに入れたままにした。
原告は,被告Dのズボンの右ポケットに入れた右手を掴み,「こんなことしてていいの」と言い,被告Dが自分の机上を指さしながら「置いていただけだ」というと,「録音してたね,録音が入ってた」,「見せなさいよ」などと言って左手で被告Dのズボン右ポケットの入り口付近を掴んだ。これに対して,被告Dは,ビデオカメラで撮影する神職に「撮っとけ」と言いながら,原告の左手首を掴んでズボンの右ポケットから原告の手を離した。
原告は,「何これ,痛いでしょ」,「あんたの方が暴力じゃないの,ずっと暴力じゃない」などと言い,被告Dが再びビデオカメラで撮影する神職に「撮っとけ」と言った後,再び被告Dに近づいて被告Dのズボンの右ポケットに手を伸ばした。
被告Dが,ズボンの右ポケットから原告の手を放し,さらに原告の両肩あたりを両手で押して体を離し,原告の後ろに回って原告の背後から原告を出ていかせるように押すと「追い出すの」と言い,自席の方に戻りながら,さようならと言って午後4時10分に社務所を退出した。
【甲44,乙8の3,丙7の1,丙24,被告D本人】
c
原告は,前記bの後,Hの診察を受けて整形外科での受診を勧められ,平成25年7月24日,整形外科医を受診し,同月22日の受傷により3週間の安静加療を要する見込みの左手関節捻挫,左肘捻挫,左肩捻挫,頚椎捻挫との診断を受けた。
被告らは,原告が診断を受けた傷害の存在ないしこれと前記bのトラブルとの因果関係を争うが,前記bで認定した態様に照らせば,原告が受けた頚椎捻挫の診断には疑問が残るが,左手関節捻挫,左肘捻挫,左肩捻挫の診断は,他に原告の受傷を窺わせる事情はなく,受傷部位も被告Dが原告からICレコーダーを取り返した際の態様と整合して不自然とはいえず,原告は,同日,被告DからICレコーダーを取り返された際,被告Dの行為によって安静加療3週間を要する傷害を負ったと認められる。
【甲43,44,50,証人H,原告本人】

d
被告Dは,原告がICレコーダーを持ち出そうとしたことについて刑事告訴した。
【乙8の3,原告本人,被告D本人】
(ク)

本件免職の具申
被告宇佐神宮は,平成25年12月24日,原告の処遇を議題とす
る責任役員会を開催し,その中ではB家と被告宇佐神宮との関係に照らして直ちに解雇,免職とすることが相当か,降格に留めることができないかなどの意見も出されたが,最終的には懲戒免職相当との意見で一致し,これに基づき被告Cは,被告神社本庁に対し,平成26年1月10日付「A権宮司懲戒免職願」を提出して,本件免職を具申した(原告は,「A権宮司懲戒免職願」の提出が免職の具申に当たらないと主張するが,「A権宮司懲戒免職願」は,その文言に照らして,免職が懲戒処分としてされるものか否かはともかく,原告の権宮司免職を具申するものであることは明らかである。)。
【乙8の4】
(ケ)

原告は,平成26年1月,帯状疱疹と診断され,入通院や安静加療
のため同月9日から同年2月15日まで欠勤した。
【証人H,原告本人】
(コ)

原告は,本件訴訟において,被告宇佐神宮の宮司はB家の後継者が
世襲すべきものであり,宮司に就任したB家以外の者は,B家の依頼に基づき就任したのでない限り,正統な宮司ではなく,被告Cについては,被告Cが宮司の地位にあるかを争っていたことから,権宮司として被告Cを補佐することはできなかったし,現在も前件訴訟の判決には不服があり,前件訴訟の判決確定後も被告Cの指示には従い難かったと供述している。
【原告本人】

前記アで認定した事実によれば,原告が被告宇佐神宮において,平成25年6月16日以降,就労することが困難であったとの主張に沿う次の事実を認めることができる。
(ア)

被告宇佐神宮の神職らは,遅くとも平成21年1月16日頃に本件
嘆願書が被告神社本庁に対し提出されて以降,原告の宮司就任に反対し,原告と対立関係にあり,原告に対して無視やこれに類する敵対的言動をとるようになったことが推認される。被告Dほか被告宇佐神宮の神職らの大多数は,同年6月18日以降,4年にわたって被告宇佐神宮に出社していないことや原告が被告Cの宮司就任を認めず前件訴訟を提起したことについても不満を強め,原告が前件訴訟の判決確定後に被告宇佐神宮に出社するようになった以降も,原告に対してを無視やこれに類する敵対的言動を取っていたことが推認される。
(イ)

被告宇佐神宮は,平成21年6月18日以降,原告が被告Cや被告
Dに反発して被告宇佐神宮に出社しなくなったことから,遅くとも同年10月1日以降,原告を社務の職務分掌から外し,原告がいない状態での業務体制を整えた。職務分掌は前訴判決の確定後もそれ以前のままであり,前訴判決の確定以降,原告に被告宇佐神宮の権宮司,総務部長として果たすべき職務が具体的にあったとは言い難い。
被告Cは,前件訴訟の判決確定以降,祭典での所役や上宮での祈願当番のほかは,原告に勤務時間,休日等の規定に従った出退勤や就業時の服装を命じるのみで,被告Cの職務命令を前提としても原告が日常的に果たすべき職務は明らかではない。前件訴訟の判決確定以降に改めて原告が出社するようになった当初,原告に指示された祭典での所役は,本来,権宮司よりも下位の神職が担当するような祓主などであり,他の神職らの態度も原告に祭典奉仕所役差を回覧しないなど非協力的なものであった。
(ウ)

被告Cは,原告に対し,前件訴訟の判決確定を受けて発した平成2
5年6月13日付け職務命令において,原告は,被告Cが宮司に特任された平成21年2月26日以降,被告Cの指揮命令に服すべきであったことを前提に,同年6月18日以降の無断欠勤その他の違反行為や今後発せられる職務命令違反に対する処分に「異議なく従」うことを誓約するよう要請している。
(エ)

被告Dは,原告が前件訴訟の判決確定後に被告宇佐神宮に出社する
ようになった当初から,ICレコーダーによる無断録音や他の神職の協力を得ることによって本件観察メモを作成し,原告の就労状況を記録したほか,平成25年7月22日には原告の承諾を得ないまま社務所内での録画撮影にも及んだ。
(オ)

原告と被告Dとの間では,平成25年7月22日,被告Dが前記(エ)
の無断録音に用いた機器を奪い合うなどして身体的接触を伴うトラブルまで発生した。その際,他の神職の中に原告の味方をする者はなく,他の神職らは,被告Dを制止することなく,被告Dの指示に従い,ビデオカメラでの撮影を続けるなどしている。原告は,同トラブルの中で被告Dから暴行を受けて受傷し,被告Dは,原告に謝罪するどころか,原告を窃盗罪で刑事告訴した。
(カ)

前記(ア)ないし(オ)の各事実によれば,前件訴訟以前から既に,原告
と他の神職との感情的対立があったことが認められるだけでなく,被告C及び被告Dは,原告に融和的に接して原告が円滑に職務に従事できるような配慮した対応をしたり,権宮司としての職務を適正に果たすよう具体的に指示したりするのではなく,平成25年7月8日以降に原告が職場復帰し社務所に出社するになった直後から,それまでと同様,被告Dを中心として,原告に対して無視やこれに類する敵対的言動を取るだけではなく,原告の言動を無断録音,録画などの不適切な方法を含む方法によって観察し,そのため同月22日には原告と被告Dとの間で,原告が受傷するなどのトラブルが発生したことも認められ,少なくとも,同日以降,被告宇佐神宮においては,原告にとって職務に従事することに支障がない円満な就労環境ではなかったといえる。

しかしながら,他方で,前記アで認定した事実を踏まえると,次のとおりの事実も認めることができる。
(ア)

原告の平成25年6月16日以降の就労状況は,前記(2)で説示した
とおりであり,被告宇佐神宮に一切出社していないわけではなく,被告宇佐神宮に出社した上,社務所に数時間にわたって滞在することもできていること,原告が祭典での所役など与えられた職務にも一定程度従事できていることからすれば,原告が改めて被告宇佐神宮に出社するようになった当初の時点においても,被告宇佐神宮におけるパワーハラスメントのため,客観的に職務に従事することが困難な状況にあったとまでは認められない。
(イ)

原告は,前件訴訟の判決確定を受けて職場復帰に復帰する際,平成
25年6月17日付け原告回答書において,原告が職場復帰する前提として,宮司を世襲してきた社家の尊重をも求めており,原告が同書面において求める就労環境の改善は,主として被告Cが宮司に就任する以前と同様,原告について後継宮司予定者としての扱いをし,被告宇佐神宮の最高位の神職としてとして儀式,祭礼等の執行をしてきたような配慮を求めるものともいえ,被告宇佐神宮としては,原告がそれまで約4年間にわたり被告宇佐神宮にほとんど出社していなかったことや,前件訴訟の経緯から,原告の上記要求は受け容れ難いものといえる。
(ウ)

前件訴訟から本件訴訟に至るまでの原告と被告C及び被告Dを含め
た被告宇佐神宮の神職らの対立は,平成21年1月に被告宇佐神宮の神職らの大半が原告から離反し,本件嘆願書を被告神社本庁に提出して原告の宮司就任に反対したことを契機として表面化した。原告は,こうした背景事情には,これに先立ち,被告神社本庁が被告宇佐神宮からの原告の宮司就任の具申に従わず,これを放置し,その後に被告Cを宮司に特任する異例の措置を取ったことから,被告神社本庁において,女性蔑視の価値観から女性宮司の誕生を阻止し,併せて被告宇佐神宮の直轄支配を試みた策動があり,被告宇佐神宮の神職らの行動もこれに呼応したことがあるとも主張するが,後記5(3)で述べるとおり,これを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,上記のような原告と被告C及び被告Dを含めた被告宇佐神宮の神職らの対立は,本件嘆願書に記載のあるとおり,原告が,それまでの権宮司あるいは総務部長としての業務を遂行に当たり,被告宇佐神宮の職員との信頼関係を構築しようとせず,「B宮司家」を標榜して,あたかも宮司のような振る舞いで強権を誇示してきたため,被告宇佐神宮の神職らがこれに反発したことに原因があったと認められる。
(エ)

以上の(ア)ないし(ウ)の説示に加え,原告は,自らには,勤務時間,
休日等の規定が適用されないと主張し,前記ア(コ)のとおり,被告宇佐神宮の宮司は,B家の後継者が世襲するものであって,被告Cを宮司として認めた前件訴訟の判決にも不服があり,その確定後も被告Cの指示には従い難かったとも供述していることからすれば,原告の就労状況が前記(2)のとおりであったことは,原告にとって職務に従事することに支障がない円満な就労環境ではなかったことが原因というよりも,原告において被告Cの就労指示や奉務規則等に従って就労する意思がなかったことにその主要な要因があるといわざるを得ず,前記イ(ア)ないし(カ)の事由をもって,被告宇佐神宮が原告の労務の提供の受領を拒絶した,あるいは,被告宇佐神宮の責めに帰すべき事由によって職務に従事することが不能であったとの原告の主張を採用することはできない。

原告は,前件訴訟の判決確定後,被告宇佐神宮に出社するようになって以降,被告Cや被告Dから従事すべき職務の指示はなかった上,与えられる職務も本来は権宮司が従事すべき職務ではないなど,被告C及び被告Dの行う職務命令は不当ないし違法なものであり,従うべきものではなく,原告が権宮司として行うべき労務の提供は不能であったと主張する。(ア)

原告は,権宮司,総務部長であったが,平成21年6月18日から
約4年にわたり長期間出社していなかった。
権宮司は,前記(1)アのとおり,被告宇佐神宮において,宮司の次に上位の神職であり,権宮司,総務部長は,祭典では,斎主,陪膳などの上位の所役を担当し,社務では,被告宇佐神宮に複数存在する全ての課を管理監督して統括を補佐する重要な地位にある。
それゆえ,権宮司,総務部長の不在は,被告宇佐神宮全体の運営に重大な支障を及ぼすものであり,これを避けるため前件訴訟の確定までは被告Cの指揮命令に従う意思がなく,被告宇佐神宮への出社も見込めない原告を権宮司,総務部長の職務から外すことには,やむを得ない合理的理由がある。また,前件訴訟に係る判決確定後もこれに原告が納得するとは限らず,原告の出社や被告Cの指揮命令に従った就労に不安を抱くことはやむを得ず,一方で,原告に出社を命じ,他方で,権宮司,総務部長の職責は与えずに様子をみることにも合理的な理由が認められる(なお,原告は,前件訴訟の判決確定後,これまで社家としての後継者の職務のため拘束を受けてこなかった執務時間や服装に関する慣行を撤廃し,さらに権宮司ないし総務部長としての職責を与えなかったことは,労働契約の不利益変更に当たり,原告の同意のない限り許されない旨を主張するが,同様に理由がない。)。
そして,原告が平成25年7月8日に出社するようになって以降の就労状況は,前記(2)アのとおりであって,奉務規則の勤務時間,休日等の定めの適用はないとして,これを遵守せず,原告の欠勤,遅刻早退は著しく,権宮司,総務部長の職責に照らせば,これに相応しい職務を原告に与えないことにも合理的な理由が認められる。
(イ)

原告は,平成25年7月8日に出社するようになって以降,祭典で
の所役に従事するよう命じられているところ,当初命じられた所役は袚主など権宮司よりも下位の神職が担当するものであるが,権宮司に相応しい職務を与えないことに合理的理由があることは前記(ア)のとおりであり,袚主も神職が従事すべき所役であるから,これを命じることは神職である原告の人格の否定に当たらないし,平成26年1月以降は,権宮司が通常担当する陪膳なども命じられている。
祭典での所役の指示は,被告Dほか被告宇佐神宮の神職が,原告に祭典奉仕所役差を回覧せず,原告に祭典での所役の確認を求めたり,口頭で祭典での所役を伝えたりしておらず,適切さを欠く面があることは否定しがたいが,原告が平成21年6月18日から欠勤する以前と所役の割当方法や祭典奉仕所役差の備え付けの状況に変化があったことは窺われず,平成25年8月以降,原告も祭典奉仕所役差を確認して祭典での所役に従事することができていることから,祭典での所役の指示の方法が原告の就労を客観的に困難ならしめるものであったとはいえない。(ウ)

原告が平成25年7月8日に出社するようになって以降に命じられ
た上宮での祈願当番は,権宮司に割り当てられるものではなく,また,原告が女性であるため免除されていた宿直が兼務することとされていたことが認められるが,これも神職が従事すべきものであり,宿直でなければ祈願当番を行うことが困難な事情も窺われないから,神職である原告の人格を否定するものとはいえない。
原告は,新たに祈願補を設け,これを原告のみに割り当てたことが不当であるとも主張するが,上宮での祈願当番は2名で行うこととされているところ,原告の就労状況や原告に上宮での祈願当番を行う意思はなく,実際に上宮での祈願当番を行おうとしたこともないことからすれば,原告に正規の当番を割り当てた場合,原告がこれを怠り,上宮での祈願に支障を生ずることが具体的かつ現実的に予想されるから,上宮での祈願に支障を生ずることのないよう新たに祈願補を設け,これを原告に割り当てることが不当とは解されない。
(エ)

原告は,社務については改めて出社するようになって以降も分課分
掌を外されたままであり,上記祭典での奉仕及び上宮での祈願当番のほかは,勤務時間,休日等の規定に従った出退勤や就業時の服装を命じられたのみで,日常的に従事すべき具体的事務の指示は窺われないところ,単に出社を命じるのみではなく,改めて分課分掌を定めて従事すべき具体的事務を指定するなどより適切な方法もあったと解されるが,他方で,原告の出退勤の状況や原告に被告Cの指揮命令に服する意思が見受けられなかったことに照らせば,原告が与えられた事務に従事することは期待しがたく,より適切な方法があったことをもって,原告に対する職務命令が不当,違法とまではいえない。
(オ)

以上によれば,原告に対する職務命令は,職務命令権の濫用にわた
る違法,不当なものとはいえず,これをもって原告が客観的に就労困難な状況にあったとはいえない。
なお,原告は,被告Dが上長であったことを争うが,原告が改めて出社するようになった当時,被告Dは現実に権宮司としての職責を担っており,原告の就労状況に鑑みれば,被告Dの指揮命令に従うよう指示することは不当とまではいえないし,被告Dは,被告宇佐神宮との労働契約に基づき職務に従事していたのであるから,被告Dが定年退職規定に従えば退職すべきであったか否かは,原告に対する職務命令が不当であることを何ら基礎づけるものではない。
(カ)

よって,原告の前記主張は採用することができない。

原告は,被告Cからの業務命令に対して,神職としての職務を全うする意思があることを表明し,神職としての勤務が可能になるよう就労環境の調整を求めていることから,被告Cの業務命令に従う意思を有していたのであり,原告の社家以外の宮司の就任及びその宮司の職務権限を否定していると誤解されかねない供述は,原告の前記慣習上の規範に基づく地位に対する主観的信念の吐露に過ぎないと主張する。
しかしながら,既に説示したとおり,原告が被告宇佐神宮の責めに帰すべき事由によって職務に従事することが不能であったとは認められず,原告は,一方で,被告Cの指示する勤務時間,休日等の規定に従った出退勤をせず,欠勤や遅刻早退,中抜けを繰り返し,上宮での祈願当番を一切行っておらず,他方で,原告が提供したと主張する労務の中心が社家の後継者としての職務であることからすれば,これまでの原告の就労状況は原告が供述するどおりのものあって,原告の供述が主観的信念の吐露に過ぎないと解する余地はない。
原告は,神職の職務として,被告宇佐神宮の神職として行う宗教活動のみならず,原告しかなし得ない社家の後継者としての職務も含まれると考えていることからすれば(前記1で説示したところを前提としている。),被告Cに対し,これを全うする意思を表明し,その就労環境の調整を求めることをもって,被告Cの業務命令に従う意思を有しているものと直ちに認めることはできない。また,原告の社家以外の宮司の就任及びその宮司の職務権限を否定する旨の供述についても,前記ア(ウ)ghで認定した事実等を踏まえると,単なる原告の主観的信念の吐露にとどまらず,原告のこうした言動を裏付ける動機となっていたことは否定できない。
よって,原告の前記主張は採用することができない。
(5)

小括
以上によれば,原告の平成25年6月16日から平成26年5月15日までの原告の各給与計算期間における出勤日数は,別紙5「賃金計算表(裁判所認定)」の各「出勤日数」欄記載のとおりであり,給与規程9条に従い,各計算期間における25日に満たない日数に賃金を25日で除した金額を乗じた額を控除すべきであるから,各給与計算期間における原告の賃金額は別紙5「賃金計算表(裁判所認定)」の各「賃金額」欄記載のとおりであり,そこから既払金(源泉徴収前)を控除した未払金額は,同「差額」欄記載のとおりである。
原告は給与規程9条の合理性を争うが,同規定に25日に満たない日数の計算においては,休日は考慮せず,欠勤のみを考慮するものと解され,毎月の出勤日数について25日とすることが不合理であるとはいえず,原告の主張には理由がない。

被告宇佐神宮は,未徴収の社会保険料等の存在を主張するが,従前,未徴収の社会保険料等は存在しないと主張しており,その主張の変遷に合理的理由は窺われず,未徴収の社会保険料等は認めるに足りない。
加えて,使用者に法令上認められる社会保険料等の源泉徴収の権能は,被保険者である労働者の負担分ないし労働者の負担する給与所得税等の取立ての便宜のため賃金の現実の支払時に公法上特に認められるものあり,使用者の負う賃金の支払義務の範囲を減縮し,あるいは,その労働者の権利行使を阻止する性質のものではない。
当裁判所としては,使用者が源泉徴収の権能を有することを前提に源泉徴収前の賃金額として未払賃金を算出して支払いを命じるものであり,現実の支払の場面において源泉徴収がされることを否定するものではないから,未徴収の社会保険料等が存在する旨の被告宇佐神宮の主張は,上記結論を左右するものではない。


以上のとおりであるから,被告宇佐神宮は,原告に対し,別紙5「賃金計算表(裁判所認定)」の各「差額」欄の合計26万2600円及び平成26年5月15日までの確定遅延損害金8554円及び前記26万2600円に対する平成26年5月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
3
原告と被告宇佐神宮との間の労働契約は,本件免職によって原告が権宮司の地位を喪失することにより履行不能によって終了するか否か(争点(2)ア)。(1)

本件免職と本件解雇の関係について
被告宇佐神宮は,原告と被告宇佐神宮の労働契約の終了原因として,本件免職による被告宇佐神宮の権宮司の地位の喪失による履行不能による終了と本件解雇を主張する。


被告宇佐神宮の神職(権宮司)の任免権の所在
(ア)

被告宇佐神宮の神職(権宮司)の地位それ自体は宗教上の地位であ
るところ,その任免は,前提事実(2)オ(ウ)によれば,被告神社本庁と被告宇佐神宮の包括関係に基づき,被告神社本庁の定める階位を有する者から,規則20条3項,庁規91条1項に従い,被告宇佐神宮の宮司が責任役員の同意を得て具申し,統理が行う。
それゆえ,被告宇佐神宮の神職(権宮司)の任免権は,被告宇佐神宮の宮司による具申とこれ対する責任役員の同意を要件とするが,終局的には統理にある。
(イ)

原告は,被告神社本庁ないし統理に被告宇佐神宮の権宮司を免職す
る権限はないと主張するが,宗教法人間の包括関係の設定は,宗教法人ないし宗教団体相互の合意の一種であって,第一次的には同一の教義を信ずることなどに基づきいわば象徴的に結合することを内容とし,包括関係の設定は,当然に包括団体の被包括団体に対する支配,統制等の関係を伴うものではなく,包括関係に基づく包括団体と被包括団体との間の具体的規律は,包括団体及び被包括団体相互の内部的な自治自律に委ねられている。
規則20条3項,庁規91条1項によれば,権宮司の任免権が,宮司の具申とこれに対する責任役員の同意を要件として,統理にあることは明らかであり,被告宇佐神宮及び被告神社本庁が相互の内部的な自治自律に基づき定めた明示の規定と異なる解釈をすべき理由はない。

原告と被告宇佐神宮の労働契約は,被告宇佐神宮での祭礼や儀式への奉仕など原告が神職(権宮司)として職務に従事することを内容とし,被告宇佐神宮においては,被告神社本庁との包括関係に基づき神職でなければ祭礼や儀式への奉仕などの宗教活動を行うことができないから,原告が神職(権宮司)としての宗教上の地位を有することを前提とする。
ここにいう神職は,当該神社の神職として被告神社本庁から任命された者をいい,一定の神職に任命されるために必要な一般的資格である階位を有するのみでは足りず,神職(権宮司)の任免権は,終局的には統理にあるから,原告と被告宇佐神宮の労働契約においては,統理から神職(権宮司)に任命されていることを要する。


それゆえ,原告は,本件免職によって神職(権宮司)としての地位を喪失することにより,被告宇佐神宮との労働契約に基づく職務の遂行ができなくなるというべきである。
もっとも,被告神社本庁は,宗教上の地位である神職(権宮司)の任免権を有するに留まり,被告宇佐神宮に代わって神職との労働契約を締結するものではなく,被告宇佐神宮の神職に対して使用者として賃金その他労働契約上の義務を負うものでもないから,統理による神職の免職は,当然に被告宇佐神宮と神職との労働契約を終了させる効果を伴うものではない。また,被告神社本庁による神職(権宮司)の免職も無限定になしうるものではなく,宮司が責任役員の同意を得て具申を要件とすることから,本件免職によって原告が被告宇佐神宮の労働契約に基づく職務の遂行ができなくなるとしても,これは被告宇佐神宮において原告の神職(権宮司)からの免職を具申した結果であり,被告宇佐神宮の関与できない事情によって不能になったものではない。
本件免職は,被告神社本庁が被告神社本庁との包括関係に基づき被告神社本庁の神職の終局的な任免権を有することに由来する被告宇佐神宮が原告を解雇して原告との労働契約を終了させるための前提であって,その免職の具申は解雇のための準備的行為ということができ,本件免職による履行不能を本件解雇と別個の労働契約の終了原因と解することは相当でないというべきである。
(2)

前記(1)で説示したところによれば,本件においては,本件免職による被
告宇佐神宮の権宮司の地位の喪失によって履行不能による終了することを前提にして本件免職の有効性をまず判断するのではなく,原告と被告宇佐神宮との間の労働契約の終了の有無を判断するには,被告宇佐神宮がした本件解雇が無効であるか否かを判断することによって足りるというべきである。4
本件解雇が無効であるか否か(本件争点(2)イ)
(1)

原告は,本件解雇が被告宇佐神宮の代表権限を有しない被告Cによるも
のであり無効であると主張する。

証拠(丁2)によれば,被告Cは,平成24年2月26日,統理から庁規90条2項に基づき宮司に特任されていることから,本件解雇の当時,被告宇佐神宮の代表権限を有しており,本件解雇が代表権を有しない被告Cの行為であって無効であるとする原告の主張には理由がない。


原告は,平成21年3月1日開催の責任役員会による総代5名の選任が無効であり,平成25年1月20日付の被告Cの宮司任命も無効であると主張するが,前記アに説示したところによれば,本件解雇の有効性を左右する事情とは解されない。
また,原告は,前記総代会が無効である理由として平成21年2月21日付け総代会議事録(甲37)を援用するが,同議事録には既に責任役員を辞任したKが責任役員として掲げられていることから,その信用性を認めるに足りず,これを理由に同年3月1日当時,総代が任期中であり,新たな総代の選任が認められないとはいえない。
(2)

原告は,本件解雇が,客観的に合理的な理由を欠き,また,社会通念上
相当とは認められない解雇権を濫用した無効なものであると主張する。しかしながら,原告が,平成21年6月18日以降,約4年間の長期にわたって欠勤し,平成25年6月16日から平成26年5月16日までの就労状況が別紙4「原告の就労状況(裁判所認定)」のとおりであって欠勤,遅刻早退が著しいこと,原告は被告Cから指示された上宮での祈願当番に一切従事しておらず,被告Cの指示によらない被告宇佐神宮の摂社,末社の巡拝等に従事していた。
こうした原告の欠勤,遅刻早退は,原告に勤務時間,休日等の規定に従って就労する意思がなく,また,被告Cを宮司と認めて,被告Cの指揮命令に従って就労する意思がなかったことにその要因があることは,前記2において説示したとおりである。
以上によれば,原告の勤務態度は長期間にわたって著しく不良であるから本件解雇は客観的に合理的な理由に基づくものであり,原告に被告Cを正当な宮司と認め,被告Cの指揮命令に従い職務に従事する意思がなかった以上,解雇以外の人事権の行使や他の軽い処分によって原告の勤務態度の改善は期待できず,原告を解雇することは社会通念上相当と認められる。
したがって,本件解雇は解雇権の濫用にあたらず,解雇権の濫用に当たり無効であるとする原告の主張には理由がない。
(3)

原告は,本件解雇が不当労働行為にあたり無効であると主張する。以下の事実は,当事者間に争いがないか,前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって認められる。
(ア)

原告は,本件組合に加入し,被告宇佐神宮に団体交渉を申し入れ,
平成26年4月8日,本件組合と被告宇佐神宮との間で第1回団体交渉が行われた。
被告宇佐神宮は,本件組合に対し,第1回団体交渉後,本件免職及び本件解雇がされるより前に同年5月28日に第2回団体交渉を行うことを通知した。
【争いのない事実,甲44】
(イ)

本件免職及び本件解雇
被告神社本庁は,平成26年5月15日付けで原告を被告宇佐神宮の
権宮司から免職した。
被告宇佐神宮は,原告に対して,平成26年5月15日,奉務規則80条2号「勤務能力が著しく劣り,又は勤務成績が不良で,勤務に適さないと認められたとき」に当たるとして同日付で解雇する旨の意思表示をし,解雇予告手当50万5000円を支払った。
【前提事実(5)オ】
(ウ)

本件組合と被告宇佐神宮は,平成26年5月28日,第2回団体交
渉を行った。本件組合と被告宇佐神宮の団体交渉は,本件訴え提起後の同年6月28日及び同年8月19日にも行われている。
【争いのない事実,甲44】

前記アの認定事実によれば,平成26年4月8日に本件組合と被告宇佐神宮との間で第1回団体交渉が行われ,被告宇佐神宮から第2回団体交渉の期日が通知された後,第2回団体交渉を待たずして,本件解雇がされたことが認められる。
原告は,この点について,本件解雇が実質的に団体交渉を拒否するに等しく不当労働行為に当たると主張するが,解雇や配置転換に関わる事項を団体交渉事項とする団体交渉やその申入れに解雇や配置転換を制限する効果は認められておらず,解雇や配置転換に関わる事項を団体交渉事項とする団体交渉やその申入れがされているからといって,解雇や配置転換を行うことが直ちに団体交渉の拒否に当たるとまではいえない。
被告宇佐神宮は,前記2(4)ア(キ)のとおり,平成25年12月24日開催の責任役員会において原告の権宮司免職を具申することを決め,被告神社本庁に平成26年1月10日付「A権宮司懲戒免職願」を提出して本件免職を具申していたことが認められ,本件組合から団体交渉の申入れがされた時期は明らかではないものの,第1回団体交渉は平成26年4月8日に行われたことからすると,その経過に照らして,本件解雇に向けた本件免職の具申は,原告の本件組合への加入や原告の組合活動,本件組合からの団体交渉の申入れと無関係にされたものでと認めることができ,また,本件解雇は本件免職を受けてされた経過があることを併せ考慮すると,本件解雇や本件免職が実質的に団体交渉の拒否に当たると認めるに足りる事情はない。

原告本人の供述によれば,本件組合との団体交渉には被告宇佐神宮訴訟代理人が参加し,被告C及び被告Dは参加していないが,これのみをもって誠実交渉にあたらないということはできないし,本件全証拠によっても,団体交渉の具体的な経過を認めることができないから,被告宇佐神宮が原告との団体交渉に誠実に対応していないと認めることはできない。

以上によれば,本件解雇が不当労働行為に当たり無効であるとする原告の主張を採用することができない。

(4)

小括
以上のとおり,本件解雇が解雇の濫用であるとする原告主張の事由にはい
ずれも理由がなく,本件解雇は有効であるから,原告の労働契約上の地位の確認請求及び解雇日以降の賃金請求には理由がない。
5
原告に対するパワーハラスメントの有無ないし責任の有無(本件争点(3))(1)

原告は,被告宇佐神宮において,被告神社本庁の指示指導ないし被告神
社本庁との協議に基づき,被告C及び被告Dが,原告排除を目論み,被告宇佐神宮の職員を動員して,これを道具として助長,誘発,支援して組織ぐるみで行ったパワーハラスメントを受け,これによりプライバシーや人格権を侵害されたとして,被告らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求を求めている。
(2)

被告宇佐神宮,被告C及び被告Dの責任
この点,前記2(4)で説示したとおり,被告Dほか被告宇佐神宮の神職らは,前件訴訟以前から,被告神社本庁に本件嘆願書を提出して原告の宮司就任に反対するなど,原告と対立し,被告Cが宮司に特任されて以降,原告は,自己が宮司であると主張し,被告Cの指揮命令に服さず,約4年の長期にわたって被告宇佐神宮を欠勤し,この間,前件訴訟を提起するなどしたことから,原告と被告宇佐神宮の神職らとの間には,単に被告宇佐神宮の宮司の地位を巡る紛争にとどまらない感情的対立があり,これを背景に,前件訴訟以前から被告宇佐神宮の神職らの原告に対する無視やこれに類する敵対的言動はあったと認められる。
前件訴訟の判決確定以降,原告は客観的に職務に従事することが困難な状況にあったものではないが,他方で,原告と被告宇佐神宮の神職らとの対立も解消されず,原告は,B家の後継者が被告宇佐神宮の宮司を世襲すべきであり,被告Cを宮司と認めた前件訴訟を不服とし,被告Cの指揮命令に服する意思を示さず,前記2(2)のとおり,勤務時間,休日等の規定に従った就労をしておらず,被告宇佐神宮の神職らは,平成25年7月8日以降,他の神職が原告に祭典奉仕所役差の回覧をせず,原告の言動を無断で録音,録画することにも躊躇が見られず,原告のことをこいつなどと呼ぶなどしており,前件訴訟の判決確定までと同様,原告に対する無視やこれに類する敵対的言動もあったといえ,原告にとって不当な身体的,心理的負荷を受けず,職務に従事することに支障のない円満な就労環境であったということはできない。
原告は,被告Cに対し,出勤しても怒声を浴びせられ,職務から排除されるなどして出務不能になっていたとして就労環境の改善を申し入れているが,被告Cは,原告が正常な執務が出来ない状況に追い込まれていたことはなく,原告の職場放棄によって勤務実態が認められないと回答し,原告からの申入れを受けて何らかの措置を講じたことは窺われず,被告Dほか被告宇佐神宮の神職らが原告への対応を改めたことも窺われない。イ
以上に説示した原告の就労環境は,全体としてみれば,被告宇佐神宮の神職らが,原告と対立し,対立する原告の存在を軽視したことにより醸成されたというべきであり,これは原告が不当な身体的,心理的負荷を受けることなく職務に従事する労働者としての人格的利益を侵害するものといえ,原告に対する不法行為に当たるというべきである。
このような就労環境が醸成されたことについては,前件訴訟の判決確定後も原告が被告宇佐神宮の宮司はB家が世襲すべきものであるとして,前件訴訟の判決を不服とし,被告Cを宮司として認めず,その指揮命令に服する意思を示さず,勤務時間,休日等の規定にも従わずに欠勤,遅刻早退などが著しいなどの勤務態度が不良であったことに対する被告宇佐神宮の神職ないし職員らの自然な反応(感情的な反発)に原因があるともいえるが,原告の上記就労態度状況等は,懲戒処分や解雇その他の不利益処分など使用者として有する権限の行使を正当化する事情ではあっても,使用者として原告が職務に従事することに支障のない円満な就労環境を調整すべき義務の懈怠を正当化するものではないし,他の神職が原告に敵対的感情を抱くことにはやむを得ない面があるとしても,原告の存在を軽視することを正当化するものではない。
したがって,被告宇佐神宮は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負う(なお,被告宇佐神宮は,原告との労働契約に基づき原告から労務の提供を受ける前提として,労働者が職務に従事するにあたり,不当な身体的,心理的負荷を受けることのないよう就労環境を調整すべき義務を負うが,前記就労環境を改善するための措置が講じられたことは何ら窺われないから,債務不履行に基づいても損害賠償義務を負う。)。ウ
被告Cは,宮司として社務をつかさどる立場にあるから,原告の存在を軽視した就労環境の改善調整を現実的に実行すべき立場にあるところ,前記アで説示したとおり,原告からの就労環境の改善要求の申入れに対し,原告の存在を軽視した就労環境にあることを否定し,漫然と何らの措置も講じずに前記原告の労働者としての人格的利益を侵害したものであるから,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負うというべきである。また,被告Dは,前記2(4)アで認定した事実を踏まえれば,原告と被告宇佐神宮の神職らが対立する契機となった本件嘆願書の提出を中心となって行ったものであり,平成25年7月8日以降も本件観察メモの作成などにおいて中心的な役割を果たしていたことから,前記就労環境の醸成に主体的,中心的役割を担っていたというべきであり,前記原告の労働者としての人格的利益を侵害したというのが相当であるから,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。


よって,原告の被告宇佐神宮,被告C及び被告Dに対する共同不法行為による損害賠償責任については,上記説示の限度で理由がある。


原告は,被告宇佐神宮におけるパワーハラスメントが,原告の排除を目的として組織的に行われたと主張する。
(ア)

前記2(4)で説示したとおり,前件訴訟以前から既に,原告と他の神
職との感情的対立があったことが認められるだけでなく,被告C及び被告Dは,原告に融和的に接して原告が円滑に職務に従事できるような配慮した対応をしたり,権宮司としての職務を適正に果たすよう具体的に指示したりするのではなく,平成25年7月8日以降に原告が職場復帰し社務所に出社するになった直後から,それまでと同様,被告Dを中心として,原告に対して無視やこれに類する敵対的言動を取るだけではなく,原告の言動を無断録音,録画などの不適切な方法を含む方法によって観察し,そのため同月22日には原告と被告Dとの間で,原告が受傷するなどのトラブルが発生したことも認められる。
(イ)

しかしながら,上記のような被告宇佐神宮における原告に対する違
法不当な対応は,原告が,本件嘆願書の作成提出に至るまでのそれまでの権宮司あるいは総務部長としての業務を遂行に当たり,被告宇佐神宮の職員との信頼関係を構築しようとせず,社家の後継者として,あたかも宮司のような振る舞いで強権を誇示してきたことに対する被告宇佐神宮の神職らの反発に由来しており,4年間にわたり出社せずほとんど就労しないばかりか,前件訴訟の確定後においても,被告Cを宮司と認めず,被告Cの指揮命令に従う意思を示さない原告に対し,各職員による自然な反応(感情的反発)としてされたとみることもできる。また,本件解雇に至った経過やその措置について違法な点がないことも前記4で説示したとおりである。
そうすると,前記(ア)で説示したことをもっても,原告の排除を目的として原告に対するパワーハラスメントが組織的に行われたとは推認することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠がないことからすれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3)

被告神社本庁の責任
原告は,被告神社本庁が代々,被告宇佐神宮の宮司を世襲してきた社家の後継者である原告を排除し,被告宇佐神宮の直接的な支配を及ぼす意図を有していたのであって,被告宇佐神宮に対し,原告を排除するよう指示指導した,あるいは,被告C及び被告Dの行動は被告神社本庁との協議に基づいて行われたものである旨を主張する。
しかし,本件全証拠によっても,原告の上記主張を認めることはできない(原告は,被告神社本庁が従前,原告を宮司とする具申を長期間放置したことがあること,本件嘆願書には被告神社本庁しか知り得ぬ事項が記載されていること,被告宇佐神宮と被告神社本庁とが,本件免職に先立ち,連絡協議した形跡があること,さらに被告Dが尋問において被告神社本庁と協議してきたことを秘匿しようとしたことなどを根拠に原告の上記主張を推認できるとする。しかし,原告主張にかかる上記事由のみでは,前記3(1)イ(ア)に説示したとおりの被告神社本庁と被告宇佐神宮との関係を考慮すれば,原告の上記主張を直ちに推認することはできないし,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。)

原告は,被告宇佐神宮の包括宗教団体である神社本庁は,原告に対し,神職としての地位を保全保護すべき債務ないし信義則上の義務を負うと主張するところ,包括関係の設定が当然に包括団体の被包括団体に対する支配統制の関係を伴うものでないことは,前記3(1)イ(イ)に説示したとおりであり,被告神社本庁は,被告宇佐神宮の包括宗教団体であることによって被告宇佐神宮の神職に対して具体的な義務を負うものではない。また,被告神社本庁は,被告宇佐神宮との包括関係に基づき宗教上の地位としての神職の任免権を有するが,これにより使用者として被告宇佐神宮の神職に対して賃金の支払その他労働契約上の義務を負うものではないし,神職(権宮司)の任免権も無限定ではなく,第一次的には,被告宇佐神宮の責任役員の同意を得た宮司からの具申を必要とするのであって,神職の任免権を有することが被告宇佐神宮の神職との間で個別具体的な権利義務関係を基礎づけるともいえない。
他に被告神社本庁が,原告に対し,神職としての地位を保全保護すべき具体的義務を負うと解すべき事情は窺われず,このような義務を被告神社本庁が負うものではないから,原告の被告神社本庁に対する請求にはその余の点を判断するまでもなく理由がない。
(4)

損害賠償額について
原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は,前記(2)アで説示した不法行為の態様,これにより醸成された就労環境が長期間にわたって続き,原告は被告宇佐神宮内において孤立した状況に置かれたことなどその他本件で顕れた一切の事情を考慮し,慰謝料として100万円を認めるのが相当である。


本件事案の内容及び審理の経過等を考慮すれば,被告宇佐神宮,被告C及び被告Dの原告に対する共同不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,10万円とするのが相当である。

(5)

以上のとおり,原告の請求については,被告宇佐神宮,被告C及び被告
Dに対し,不法行為に基づき110万円及びこれに対する不法行為後の日であることが明らかな平成26年6月29日(訴状送達の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6
原告の各本件建物の占有権原(本件争点(4))
(1)

前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。

本件建物1は,被告宇佐神宮が所有する境内に存在し,昭和6年10月2日から被告宇佐神宮が所有している。
本件建物1は宮司邸であり,宮司がB家以外の者であった際はB家が居住していない時期もあるが,その大半は被告宇佐神宮の宮司の大半を輩出してきたB家が本件建物1に居住してきた。
【丙12,15の2】


本件建物2は,昭和38年2月10日,Gが被告宇佐神宮の所有する被告宇佐神宮の境内に本件建物1と一棟の建物をなすものとして建築した。【丙12,15の1及び2】

本件各建物内には,住居として日常生活を営む空間と区別して潔斎場や宗教上の儀式や祭礼を行うための大広間などが設けられている。
【弁論の全趣旨】


Gは,本件建物2を建築して以降,本件各建物に原告やKと共に居住し,G及び原告は,社家の後継者の職務として主張する宗教活動を行ってきた。
Gは,昭和48年5月8日,被告宇佐神宮の宮司に就任し,平成3年10月16日,本件寄附行為によって本件建物2の所有権を被告宇佐神宮に移転したが,本件寄附行為後に本件各建物の使用者が責任役員会などで議論されたことはなく,Gは,本件寄附行為後も本件各建物に居住し,本件各建物において原告が社家の後継者の職務として主張する宗教活動を行っており,本件寄附行為の前後で本件各建物の使用状況に変化はない。【前提事実(1)ウ,甲11,15の1,原告本人】


原告は,平成17年4月1日,被告宇佐神宮の禰宜に就任し,Gは,平成18年4月6日,被告宇佐神宮の宮司を辞任し,同月7日,Gの後任宮司にFが就任した。
Gや原告,Kが,Fの宮司就任後,Fと本件各建物の使用について協議したことはないが,FがGや原告,Kに本件各建物からの退去を求めるなどしたこともない。被告宇佐神宮は,当時,原告が職員であり,本件各建物を使用していたことから,Gや原告,Kの使用継続を認めたと主張するが,Gが宮司を辞任した際,本件各建物の使用者が問題となって協議されたことを認めるに足りる証拠はなく,被告宇佐神宮は,原告が職員であることを理由にGや原告,Kによる本件各建物の使用継続を認めたものではない。
【前提事実(3)ア及び(4)ア(ア)】


被告宇佐神宮は,Fから平成20年7月10日に宮司を退職する旨の退職願が提出されたことから,被告神社本庁に対し,同月23日付けでFの宮司退任及びその後任宮司に権宮司であった原告の就任を具申した。【前提事実(3)ア及び(4)ア(ア)】

Gは,平成21年1月13日,死亡し,同年2月26日,被告Cが被告宇佐神宮の宮司に特任された。
被告Cは,宮司に特任されてから平成26年5月15日に本件解雇の意思表示をするまで,原告やKと本件建物の使用について協議したり,原告やKに本件建物からの退去を求めたりしておらず,原告は,被告Cが宮司に特任されて以降,本件各建物に居住し,本件各建物において原告が社家の後継者としての職務として主張する宗教活動を行っている,
【前提事実(4)ア(イ)及び(5)オ(イ)】

(2)

齊館たる宮司邸としての慣習に基づく排他的使用権原について
原告は,本件各建物には潔斎場や宗教上の儀式,祭礼を行うための大広間が設けられていることから,本件各建物は被告宇佐神宮の齊館としての宮司邸であり,社家の後継者である原告が慣習に基づき,物権的ないし債権的な排他的使用権原を有すると主張する。
ところで,被告宇佐神宮がいかなる宗教上の儀式,祭礼を保存すべきであるかは,被告宇佐神宮の宗教上の教義や信仰の解釈に関わり,被告宇佐神宮内部における自治ないし自律的判断に委ねるべき問題であるが,これについての判断は,原告が主張する齊館たる宮司邸としての慣習に基づく排他的使用権原の判断のために必要不可欠ではないから,当裁判所の審判権が否定されるものではないことを前提として判断する。


原告の主張は,被告宇佐神宮には社家であるB家において保存継承してきた伝統の秘儀である儀式や祭礼などの宗教活動を保存継承すべき慣習上の義務があることを前提としたものと解されるが,前記2(1)で説示したとおり,社家の後継者の行う宗教活動が直ちに被告宇佐神宮の宗教活動にあたるものではないから,本件各建物において,社家の後継者の行う宗教活動が行われることをもって被告宇佐神宮が慣習上保存継承すべき義務を負う宗教活動であるということはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提において採用できるものではない。

したがって,原告が本件各建物について齊館たる宮司邸としての慣習に基づく排他的使用権原を有するとは認められない。

(3)

本件寄附行為時に留保された居住権原について
前記(1)で認定した事実によれば,本件建物1は本件寄附行為がされる以前から被告宇佐神宮の所有であるところ,当時,宮司(代表役員)であったGが,その家族とともに本件建物1を使用しており,その使用権原については,Gの意思解釈によって判断されるべきものであるが,前記(2)のとおり,齊館たる宮司邸としての慣習に基づく排他的使用権原を有すると認めることができず,また,賃料の支払がされたと認めるに足りる証拠はないから,使用貸借に類する合意とみるほかはない。
そして,前記(1)で認定した事実によれば,本件寄附行為後もB家が本件各建物に居住し,本件各建物において社家であるB家が保存継承してきた社家としての宗教活動,すなわち,伝統の秘儀である儀式や祭礼などの宗教活動を行ってきたことが認められ,本件寄附行為時にGと被告宇佐神宮(但し,代表役員はG)との間で,本件各建物全体について黙示の使用貸借に類する合意の存在を認めるのが相当である(なお,原告は,本件寄付行為時に留保された権利について物権類似の権利も主張するようであるが,合意によって法定によらない物権が成立したということはできず,採用できない。)。


そして,上記使用貸借における目的について判断するに,前記(1)で認定した事実によれば,本件各建物には住居として日常生活を営む空間と区別して潔斎場や宗教上の儀式や祭礼を行うための大広間などが設けられているところ,これらは社家であるB家が保存継承してきた伝統の秘儀である儀式や祭礼などの宗教活動に供されてきたこと,Gも本件各建物において従前どおり宗教活動を行うことを前提に本件建物2を建築したといえること,Fや被告CはB家の者ではないが,被告宇佐神宮の宮司に就任後,Gや原告,Kと本件各建物の使用について協議したり,同人らに退去を求めたりしたことはなく,Gや原告,Kは,B家が宮司であるか否かにかかわらず,本件解雇がされるまで本件各建物に居住し,本件各建物においてB家が保存継承してきた伝統の秘儀である儀式や祭礼などの宗教行為を行ってきたことが認められ,前記合意は,単にGやその家族が職舎としての使用を目的とするものではなく,被告宇佐神宮の宮司の大半を輩出してきたB家が居住やこれまで保存継承してきた伝統の秘儀である儀式や祭礼などの宗教行為を行うことも目的とするというべきである。
そうすると,上記説示したとおりの本件各建物の使用貸借権は,その目的に照らし,Gの宮司辞任や同人の死亡により当然に消滅するものではなく,原告は,これを相続により取得したといえる。

そして,本件各建物は,職舎としての使用を目的とするものではなく,原告及びKが本件各建物に居住し,Gと共に同人らが,B家がこれまで保存継承してきた伝統の秘儀である儀式や祭礼などの宗教行為を行っている以上,前記合意の目的に従った使用収益を終えていないから,原告の前記合意に基づく使用権原は目的に従った使用収益を終えたことによって消滅していないというべきである。


原告の前記合意に基づく本件各建物の使用が対価を伴うものであるこ
とは窺われないから,被告宇佐神宮は,民法597条2項ただし書に準じ,原告が目的に従った使用収益を終えていないとしても目的に従った使用収益をするのに足りる期間が経過した場合には本件各建物の返還を求めることができるというべきである。
そこで,原告が本件解雇により,被告宇佐神宮の神職としての地位を喪失したことをもって,上記に準じて本件各建物の返還を求めることができるかさらに検討する。
前記合意の意味内容は,Gの意思解釈による他はないが,本件各建物は,原告の単なる住居ではなく,B家がこれまで保存継承してきた伝統の秘儀である儀式や祭礼を行う場所であるところ,このような本件各建物の位置付けは,B家がこれまで被告宇佐神宮の宮司の大半を輩出してきたことから,被告宇佐神宮の正統なる宮司家として扱われ,将来的にもB家の後継者が宮司に就任することを予定されていたことを基礎とする。この基礎となった関係は,本件解雇によって原告と被告宇佐神宮の労働契約が終了し,原告が被告宇佐神宮の神職として被告宇佐神宮の宗教活動を行うことができなくなることによって著しい変化を生じるものの,少なくとも,Gは,本件寄付行為の時点では,本件各建物に原告及びKと共に家族で居住し,原告が本件各建物において,社家の後継者として宗教活動を行って,これまでB家が保存継承してきた伝統の秘儀である儀式や祭礼を保存継承することを当然の前提としていたことには変わりはないのであって,他方で,被告宇佐神宮には,本件各建物の返還を直ちに受けることを必要とする事情は窺われない。
そうすると,本件解雇によって,原告が被告宇佐神宮の神職を喪失したことのみによっては,原告が前記合意の目的に従った使用収益をするのに足りる期間が経過したとして民法597条2項ただし書に準じて使用貸借の終了を認めるのは相当でなく,原告は,本件各建物について前記合意に基づく占有権原を有するから,被告宇佐神宮の原告に対する本件各建物所有権に基づく返還請求には理由がない。
第4

結論
以上のとおり,原告の本訴請求は,①原告が,被告宇佐神宮に対し,労働契約に基づく平成25年6月16日から平成26年5月15日までの未払賃金元金26万2600円並びにこれに対する各賃金の支払日の翌日から同月23日までの確定遅延損害金合計8554円及び前記未払賃金元金に対する同月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,②原告が,被告宇佐神宮,被告C及び被告Dに対し,不法行為に基づき連帯して賠償金110万円(弁護士費用相当額の損害を含む。)及びこれに対する本訴事件訴状送達の日の翌日である同年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ理由があるから,その限度で認容し,被告宇佐神宮,被告C及び被告Dに対するその余の請求及び被告神社本庁に対する請求には理由がないから,これらを棄却し,被告宇佐神宮の反訴請求には理由がないから,これを棄却し,主文のとおり判決する。
大分地方裁判所中津支部

裁判長裁判官

澤井真一
裁判官

杉山文洋
裁判官

工藤優希
(別紙1)
物件目録

トップに戻る

saiban.in