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再審請求事件
事件番号平成27(た)8
事件名再審請求事件
裁判年月日平成30年2月20日
法廷名名古屋地方裁判所
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平成27

8号
決定
請求人A及び請求人Dに対する各特別公務員暴行陵虐致傷被告事件並びに請求人B及び請求人Cに対する各特別公務員暴行陵虐致傷,特別公務員暴行陵虐致死被告事件(名古屋第3122号)について,平成19年3月30日
名古屋地方裁判所がした有罪の確定判決に対し,平成27年7月31日請求人らから再審の請求があったので,当裁判所は,弁護人及び検察官の各意見を聴いた上,次のとおり決定する。
主文
本件各再審請求をいずれも棄却する
理由
第1本件再審請求の趣旨及び理由
本件再審請求の趣旨及び理由は,弁護人ら作成の再審請求書,再審請求補充書及び意見書記載のとおりであるから,これらを引用する。
論旨は,要するに,確定判決は,平成14年5月に発生したEに対する特別公務員暴行陵虐致死事件
(以下
「5月事件」
という。及び同年9月に発生したFに対する特別公

務員暴行陵虐致傷事件(以下「9月事件」という。)について,E及びFに外傷性腸間膜損傷(挫裂を含む。以下,損傷及び挫裂をまとめて「損傷等」ということがある。)が生じた原因が,請求人らによる革手錠施用行為であるとして有罪を認定したが,新証拠によれば,請求人らの革手錠施用行為とFの外傷性腸間膜損傷との間の因果関係は否定され,成傷機序が同一であるEの外傷性腸間膜損傷等との間の因果関係も否定され,請求人らに無罪を言い渡すべきことは明らかであるから,刑事訴訟法435条6号により再審を開始する決定を求めるというものである。
第2本件事案の概要及び審理経過等
1本件事案の概要
本件は,名古屋刑務所の刑務官であった請求人らによる受刑者2名に対する特別公務員暴行陵虐致死傷事件である。5月事件は,請求人Bが,受刑者Eに対し,必要がないのに,その腹部を革手錠のベルトで強く締め付け,さらに,請求人B及び同Cが,共謀の上,刑務官1名と共に,Eの革手錠のベルトを外した上で再び強く締め付けて腹部を強度に圧迫するなどの暴行を加え,
よって腹部の軟部組織間出血,
腹腔内出血,
腸間膜挫裂等の傷害に基づく外傷性ショックにより同人を死亡させたものである。9月事件は,請求人らが,刑務官1名と共謀の上,必要がないのに,受刑者Fに対し,その腹部を革手錠のベルトで強く締め付け,腹部を強度に圧迫するなどの暴行を加えて外傷性腸間膜損傷等の傷害を負わせたものである。
2本件の審理経過等
本件の審理経過
平成19年3月20日,名古屋地方裁判所は,請求人Aに対し,懲役2年(執行猶予3年),請求人Bに対し,懲役3年(執行猶予5年),請求人Cに対し,懲役2年(執行猶予3年),請求人Dに対し,懲役1年(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡した(確定判決)。平成22年2月26日,名古屋高等裁判所は,請求人らの各控訴を棄却し,平成24年5月21日,最高裁判所は,請求人らの各上告を棄却して,同月29日,1審の有罪判決が確定した(以下,各審級における訴訟手続を,それぞれ「確定審」,「原控訴審」及び「原上告審」という。)。第1次再審請求
請求人らは,新証拠によれば,確定判決が認定した機序では外傷性腸間膜損傷等が惹起されないことが確証されているから,刑事訴訟法435条6号の再審事由があるとして,平成24年8月3日,再審請求を行った。平成25年12月10日,名古屋地方裁判所は,各再審請求を棄却し,平成26年1月10日,名古屋高等裁判所は,請求人らの各即時抗告を棄却し,同月30日,最高裁判所は,請求人らの各特別抗告を棄却した。
第3当裁判所の判断
請求人らが,本件再審請求に当たって提出した新証拠は,照会状,依頼書又は質問状とこれに対する回答を記載した書面等はそれぞれ一体の関係にあるから,以下,弁1ないし3及び12(以下,併せて「G意見書」という。),弁4ないし6及び13(以下,併せて「H意見書」という。),弁7及び8(以下,併せて「I鑑定書」という。),弁9,10及び17(以下,併せて「J鑑定書」という。)並びに弁14ないし16(以下,併せて「K計算書」という。)については,それぞれまとめて検討することとする。1新規性について
G意見書(弁1ないし3,12)
アFの外傷性腸間膜損傷の部位,個数,形状及び大きさ等に関する部分事件当日にFに対して外科手術を行ったG医師は,G意見書において,Fの外傷性腸間膜損傷について,回腸末端部に約二,三センチメートル大の腸間膜損傷と,回腸末端部から約40センチメートル遡った回腸の上部2か所に線状の腸間膜損傷があり,後者の裂孔が縦列した一連のもので,上下方向に約5センチメートルの長さであった旨回答する。
G医師は,
確定審において,
Fの小腸間膜に生じた2つの裂孔はそれぞれ四,
五センチメートルで大体同じ大きさであり,一,二センチメートル離れていた旨供述しており,これとG意見書とでは,当該裂孔の大きさ等に関して若干相違するように見える部分があるものの,その内容は,いずれもFに対する外科手術に係るG医師作成の診療録に基づいて腸間膜損傷の形状等を説明したものであることから,同一の趣旨であるといえる。
イFの外傷性腸間膜損傷の成傷機序に関する部分
G医師は,G意見書において,Fの外傷性腸間膜損傷の成傷機序について,何らかの外力により鈍体と脊椎との間で腸間膜が挟撃,圧挫されたという機序が最も合理的で,腸間膜の可動性を考慮すると,革手錠の施用によって臓器の位置に移動が生じ,その際にひずみ等の複雑な力が掛かって最も脆弱な部分が破綻するという機序(以下「ひずみ機序」という。)は起こり得ない旨記載している。G医師は,確定審において,Fの腸間膜損傷の成傷機序につき,単に革手錠のベルトを締め上げただけで生じることはなく,急激な外力が何らかの機転で加わって,圧挫的に生じたと考えるのが妥当である旨供述しており,これとG意見書とは,その結論及び理由の概要において同一の趣旨であると認められる。弁護人らは,G意見書が,Fの創傷の形態的特徴という新たな視点から成傷機序を考察したものである旨主張するが,G医師は,確定審においても,革手錠による絞扼部位,腕輪の位置及び創傷の位置等を考慮して,成傷機序を考察しているから,弁護人らの上記主張は採用できない。
ウしたがって,G意見書は新規性がない。
H意見書(弁4ないし6,13)
アFの外傷性腸間膜損傷の部位,個数,形状及び大きさ等に関する部分Fの外傷性腸間膜損傷に対する外科手術に立ち会ったH医師は,H意見書において,上記手術に係るG医師及びH医師作成の各診療録に基づいて,Fの外傷性腸間膜損傷につき,回腸末端部から約40センチメートル口側の腸間膜にほとんど1本の線状の挫裂が認められ,その長さが約5センチメートルであった旨述べる。
H医師は,確定審において,Fの腸間膜損傷の大きさ等を具体的に供述していないものの,上記手術についてH医師自身が作成した診療録に基づいて損傷部位等を特定している上,上記各診療録も確定審において取り調べられているから,確定審において,H意見書の上記部分についても実質的な証拠価値の判断は経ているといえる。
イFの外傷性腸間膜損傷の成傷機序に関する部分
H医師は,
H意見書において,
腸間膜は滑らかな脂肪組織の固まりであるため,
革手錠付属の角鉄のような硬い鈍体が腹部内部に急激に食い込むような作用が生じて,その鈍体と脊柱との間で腸間膜が挟撃・圧挫されない限り外傷性腸間膜損傷が生じることはなく,革手錠で胴囲を締めただけでは胴囲が丸くなるだけで腹腔内の腸間膜にはほとんど影響しないと述べる(弁6,弁13の3ないし5項)。
他方,H医師は,確定審においては,一般論としては,腸間膜には可動性があるため,急激な力が硬いものとの間で生じたときに損傷しやすい旨供述した上で,革手錠を施用された状態で転倒したために革手錠施用部分が床に当たり,腸間膜が革手錠の右腕輪付属の角鉄と背骨との間に挟撃されて外傷性腸間膜損傷が生じた可能性を肯定しつつも,革手錠の施用が同損傷の原因である可能性もあると供述する。
そうすると,H意見書のうち,Fの外傷性腸間膜損傷の成傷機序に関する部分は,検察官が主張する成傷機序の可能性を強く否定し,確定審におけるH医師自身の公判供述の内容を大きく変遷させている点において,新規性を認める余地はあり得る。
I鑑定書(弁7,8)及びJ鑑定書(弁9,10,17)
I医師及びJ医師は,
G医師及びH医師作成の回答書
(弁2,及び本件革手錠
5)
の説明書を資料として,
Fの外傷性腸間膜損傷について,
①一般に,
前方からの鈍体
の打撃や圧迫によって腸間膜が背面の脊柱と鈍体との間に挟まれることにより生じるとした上で,具体的には,②革手錠施用者が右斜め前方に転倒することにより起こり得る一方,③革ベルトで腹部を緊縛しただけでは,内臓臓器が均一に圧迫されて胴囲の水平断面が円形に近づくのみであるから起こり得ないとし,さらに,④腸間膜の可動性からすればひずみ機序についても生じ得ないとする(I鑑定書及びJ鑑定書)。
上記内容についてみると,①ないし③は,確定審におけるL医師の証言及び原控訴審において取り調べられたM医師作成の意見書(以下,M医師の原控訴審における証言と併せて「M鑑定」という。)と,④は,M鑑定と同一内容である。その鑑定手法等についてみても,
I鑑定書,
J鑑定書,
確定審におけるL医師の証言及び原控
訴審におけるM鑑定は,いずれも,腸間膜の性質等に関する臨床的知識及び経験に基づいて,Fに対する外科手術に係るH医師作成の診療録等を資料として,Fに生じた腸間膜損傷の成傷機序に関する見解を述べたものであるから,I鑑定書及びJ鑑定書を新たな証拠と認めることはできない。
弁護人らは,I鑑定書及びJ鑑定書について,Fの腸間膜損傷の部位,大きさ等に関するG医師及びH医師作成の各回答書
(弁2,を基礎資料としており,
5)
確定
審では全く焦点が当てられていなかった当該損傷の具体的な位置,形状,腸間膜の性状等を前提にしている点,確定判決が認定した成傷機序自体の成否に特化した鑑定である点において,新規性が認められる旨主張する。しかし,上記各回答書(弁2,に新規性
5)


アのとおりであるし,
M医師

は,原控訴審において,確定判決が認定した成傷機序の当否についても述べているから,弁護人らの上記主張は採用できない。
「THUMS」モデル概要説明書(弁11)
「THUMS」
モデル概要説明書(弁11)は,バーチャル人体モデルTHUMSの概要,
特徴,
実用性,
モデル化の精度等について記載された,
株式会社N研究所作
成の文書である。
弁護人らは,これが,確定審において取り調べられたO教授及びP教授作成の平成18年7月12日付け解析結果報告書
(確定審弁77。
以下,
O教授の確定審にお
ける証言と併せて
「O鑑定」という。)を理解する上で有用であると主張するが,O鑑定において用いられたTHUMSの概要については,上記解析結果報告書に記載があるほか,確定審においてO教授が説明しており,その内容は概ね「THUMS」モデル概要説明書(弁11)と同旨であるから,新たな証拠とはいえない。K計算書(弁14ないし16)
K計算書は,
水工学を専門とするK教授が,
幅4.
5センチメートルのベルトで,
胴囲を82センチメートルから65センチメートルに至るまで絞扼した場合(絞扼領域の水平断面は楕円)の最も大きく変形する点の位置,移動距離,移動するベクトル方向を物理的に算出したものである。
主任弁護人は,原控訴審第2回公判期日において,幅4.5センチメートルのベルトで,円筒形の胴囲を円周約80センチメートルから約66センチメートルへ縮めた場合,腸管や腸間膜が上下にそれぞれ1センチメートル移動するとの計算結果を陳述しているが,K計算書は,胴囲を円ではなく楕円に模している点や胴囲を縮めた場合の変形の仕方等においては,原控訴審で陳述された計算結果と異なっている。そうすると,K計算書は,裁判所の実質的な証拠価値の判断を経ていない証拠といえるから,新規性が認められる。
したがって,請求人らが,本件再審請求に当たって提出した新証拠のうち,K計算書(弁14ないし16)については新規性が認められ,H意見書のうちFの外傷性腸間膜損傷の成傷機序に関する部分(弁6,弁13の3ないし5項)は新規性を認める余地があり得るが,それ以外については,新規性が認められない。2明白性について
続いて,前記の新規性が認められる,あるいは,これを認める余地があり得る証拠について,刑事訴訟法435条6号所定の証拠の明白性を検討する。なお,所論に鑑み,前記1で新規性がないとした証拠についても併せて明白性を検討する。確定判決における事実認定
請求人らの革手錠施用行為とE及びFの腸間膜損傷等との因果関係に関する確定判決の事実認定は,大要,次のようなものである。
ア5月事件については,Eの遺体を解剖したQ教授の鑑定書及び証言(以下,併せて「Q鑑定」という。)により,Eの腸間膜挫裂等は,請求人らによる2回の革手錠の絞圧作用によって生じたものと認められる。
イ9月事件については,転倒等を否定するF証言,Fの創傷状況から,Fの腸間膜損傷の原因は請求人らの革手錠による絞圧作用であると認められる。ウ物理学鑑定の検討結果を総合すると,革手錠のベルトの絞圧作用により外傷性腸間膜損傷等は生じ得ないとの疑いは提起されるに至らない一方,転倒等により生じる可能性も否定できない。しかし,本件でE及びFが保護房内で転倒したことを示す直接的な証拠はなく,Eの腹腔内損傷の具体的状況,負傷原因が革手錠での締め付けである旨のF証言により,E及びFの腸間膜損傷等の成傷機序が転倒等である可能性は否定され,請求人らの革手錠による絞圧作用であることが合理的な疑いを超えて認められる。
I鑑定書及びJ鑑定書は,胴囲約81ないし83センチメートルのFが革手錠で一瞬,胴囲65.8センチメートルになるまで腹部を緊縛された後,胴囲69.8センチメートルの状態で緊縛され続けた場合,外傷性腸間膜損傷が生じるか等について見解を示したものであり,Fに対する革手錠の施用行為とFに生じた外傷性腸間膜損傷との間の因果関係について,確定判決が認定した因果関係を否定するものである。
もっとも,
I鑑定書及びJ鑑定書が前提とする革手錠の施用行為の態様は,
ベルトで胴囲を単純に緊縛するというもので,確定判決が認定したFに対する革手錠の施用行為の態様(請求人Cほか1名がうつ伏せのFの左側からベルトを引っ張り,請求人Dが尾錠の留め具を押し込もうとしたが入らなかったため,請求人BがFの左腰部に足を掛けベルトを数回強く引っ張った。)と明らかに異なる。また,G意見書,H意見書,I鑑定書及びJ鑑定書の内容についてみると,腹部をベルトで絞扼した場合,内臓が全体的に均一に圧迫され,可動性の高い腸間膜が全体として動き,胴囲の表面が円周状に押されて円形に近づくだけであるから,Fに対する革手錠の施用行為により腸間膜の裂傷は生じないし,「ひずみなどの複雑な力」も生じ得ないなどとする。しかし,上記各意見書及び各鑑定書が想定するベルトの絞扼の仕方が前記確定判決の認定事実に沿うものか疑問である上,その内容は,確定審において取調べ済みのG医師及びL医師の各証言並びに原控訴審において取調べ済みのM鑑定と同様の医学的観点から確定判決が依拠するQ鑑定を論難するものであるところ,確定審及び原控訴審において取り調べた旧証拠に上記各意見書及び各鑑定書を加えて検討してみても,確定判決の事実認定に合理的疑いが生じる余地はない。
なお,J鑑定書は,K計算書を前提として,確定判決において認定された革手錠の施用行為の態様であったとしても,腸間膜に2.66センチメートルを超える裂開部を惹起させるような圧挫の力も引裂きの力も生じ得ないとする。しかし,後記のとおり,K計算書は採用できないから,これを前提とするJ鑑定書の見解も採用できない。
弁護人らは,
各意見書及び各鑑定書によれば,
E及びFに生じた腸間膜損傷等が,
革手錠を施用された状態で転倒するなどして革手錠に付属の右腕輪と脊椎との間で腸間膜が圧挫されるという機序によって惹起されたことが,高度の蓋然性をもって示されていることが明らかである旨主張するが,確定判決は,E及びFが革手錠施用後に転倒した事実を否定しており,この事実認定を揺るがす証拠は見当たらないから,
各意見書及び各鑑定書は,
確定判決における因果関係に係る事実認定につき,
合理的な疑いを生じさせるものではない。
K計算書は,絞扼領域の水平断面が楕円であり,絞扼による胴囲の変形が楕円の長径と短径の比率を一定とする円周の縮小であると仮定して,幅4.5センチメートルのベルトで,胴囲を82センチメートルから65センチメートルに至るまで絞扼した場合における腸間膜の移動距離を計算しているものである。しかしながら,確定審において取調べ済みのRの平成16年12月17日付け鑑定書(確定審甲140)及び証言によれば,確定判決において認定された態様で革手錠を施用した場合には,ベルトが当たっている腹部に力がかかるが,その力の大きさは全周囲的に均等ではないことが明らかであるから,K計算書に基づいて,確定判決において認定された革手錠の施用態様によって生じる腸間膜の移動距離を認定することはできない。したがって,K計算書は,確定判決の認定を左右するものではない。「THUMS」モデル概要説明書は,確定審において取調べ済みのO鑑定において用いられたモデルに関するものであり,
確定審におけるO鑑定の証拠価値や確定
判決の事実認定を左右するものではないから明白性はない。
第4結論
以上のとおり,各新証拠は,いずれも刑事訴訟法435条6号所定の新規かつ明白な証拠には該当しない。
よって,本件各再審請求は理由がないから,同法447条1項により,これらを棄却することとし,主文のとおり決定する。
平成30年2月20日
名古屋地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

齋藤千恵
裁判官

安福幸江
裁判官

川村
久美子
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