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選挙無効請求事件
事件番号平成29(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日平成30年2月21日
法廷名広島高等裁判所  松江支部
結果棄却
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平成30年2月21日

広島高等裁判所松江支部判決言渡

平成29年(行ケ)第1号

選挙無効請求事件
主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の鳥取県第1区及び鳥取県第2区並びに島根県第1区及び島根県第2区における各選挙を無効とする。

第2

事案の概要

本件は,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について,鳥取県第1区及び同県第2区並びに島根県第1区及び同県第2区の選挙人である原告らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
1
前提事実
当事者間に争いがない事実,顕著な事実,本文中の書証及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。

(1)本件選挙は,平成29年10月22日に施行されたところ,原告Aは,鳥取県第1区の,原告Bは,同県第2区の,原告Cは,島根県第1区の,原告Dは,同県第2区の各選挙人である。原告らは,同月23日に本件訴えを提起した。
(2)昭和25年に制定された公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき,中選挙区単記投票制を採用していたが,平成6年1月に公職選挙法の一部を
改正する法律(平成6年法律第2号)が成立し,その後,平成6年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正され,これらにより,衆議院議員の選挙制度は,従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた(以下,上記改正後の当該選挙制度を「本件選挙制度」という。)。
本件選挙施行当時の本件選挙制度によれば,衆議院議員の定数は465人とされ,そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項,別表第1。以下,後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規定」という。),比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項,別表第2)。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条,36条)。
(3)平成6年1月に上記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。平成24年法律第95号による改正前の区画審設置法3条(以下「平成24年改正前区画審設置法3条」という。)は,選挙区区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じて「区割基準」という。)につき,①1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も
多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上にならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(以下,このことを「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下,この区割基準を「平成24年改正前区割基準」といい,この規定を「平成24年改正前区割基準規定」という。)。
本件選挙制度の導入の際に1人別枠方式を設けることについて,区画審設置法の法案の国会での審議において,法案提出者である政府側から,各都道府県への選挙区の数すなわち議員の定数の配分については,投票価値の平等の確保の必要性がある一方で,過疎地域に対する配慮,具体的には人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点も重要であることから定数配分上配慮したものである旨の説明がされていた。
選挙区の改定に関する区画審の勧告は,統計法5条2項本文(平成19年法律第53号による改正前は4条2項本文)の規定により10年ごとに行われる国勢調査(以下「大規模国勢調査」という。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされている(区画審設置法4条1項)。さらに,区画審は,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは,勧告を行うことができるものとされていた(後記の平成28年法律第49号による改正前の同条2項)。
(4)区画審は,平成12年10月に実施された大規模国勢調査(以下「平成12年国勢調査」という。)の結果に基づき,平成13年12月,衆議院小選挙区選出議員の選挙区に関し,平成24年改正前区画審設置法3条2項に従って各都道府県の議員の定数につきいわゆる5増5減を行った上で,同条
1項に従って各都道府県内における選挙区割りを策定した改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,これを受けて,平成14年7月,その勧告どおり選挙区割りの改定を行うことなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号)が成立した。平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」という。)の小選挙区選挙は,同法により改定された選挙区割り(以下「平成21年選挙区割り」という。)の下で施行されたものである(以下,平成21年選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた上記改正後(平成24年法律第95号による改正前)の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「平成21年区割規定」という。)。
(5)平成14年の上記改正の基礎とされた平成12年国勢調査の結果による人口を基に,平成21年区割規定の下における選挙区間の人口の較差を見ると,最大較差は人口が最も少ない高知県第1区と人口が最も多い兵庫県第6区との間で1対2.064であり,高知県第1区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)。また,平成21年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.304であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった。(乙2の1,乙3の1)このような状況の下で平成21年選挙区割りに基づいて施行された平成21年選挙について,最高裁平成23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする平成24年改正前区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時において,選挙区間の投票価値の較
差が上記のとおり拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,平成24年改正前区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び平成24年改正前区割基準に従って改定された平成21年区割規定の定める平成21年選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして,平成23年大法廷判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,平成24年改正前区割基準規定及び平成21年区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために,できるだけ速やかに平成24年改正前区割基準中の1人別枠方式を廃止し,平成24年改正前区画審設置法3条1項の趣旨に沿って平成21年区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
(6)その後,平成23年大法廷判決を受けて行われた各政党による検討及び協議を経て,平成24年6月及び7月に複数の政党の提案に係る改正法案がそれぞれ国会に提出され,これらの改正法案のうち,平成24年改正前区画審設置法3条2項(1人別枠方式の規定)の削除及びいわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。以下同じ。)を内容とする改正法案が,同年11月16日に平成24年法律第95号(以下「平成24年改正法」といい,同法による改正を「平成24年改正」という。)として成立した。平成24年改正法は,附則において,平成24年改正前区画審設置法3条2項を削除する改正規定は公布日から施行するものとする一方で,各都
道府県の選挙区数の0増5減を内容とする改正後の公職選挙法の規定は次回の総選挙から適用する(公職選挙法の改正規定は別に法律で定める日から施行する)ものとし,上記0増5減を前提に,区画審が選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように選挙区割りを改める改定案の勧告を公布日から6月以内に行い,政府がその勧告に基づいて速やかに法制上の措置を講ずべき旨を定めた。上記の改正により,平成24年改正前区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条(以下「平成24年改正区画審設置法3条」という。)となり,同条においては前記(3)①の基準のみが区割基準として定められている(以下,この区割基準を「平成24年改正区割基準」という。)。(乙3の1・2,乙4)
平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,その1か月後の平成24年12月16日に衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)が施行されたが,同選挙は平成21年選挙と同様に平成21年区割規定及びこれに基づく平成21年選挙区割りの下で施行されることとなった。なお,平成24年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.425であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上になっている選挙区は72選挙区であった。(乙2の2,乙3の1・2,乙4)
(7)平成24年改正法の成立後,同法の附則の規定に従って区画審による審議が行われ,平成25年3月28日,区画審は,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告を行った。この改定案は,平成24年改正法の附則の規定に基づき,各都道府県の選挙区数の0増5減を前提に,選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割りを改めることを内容とするものであった。(乙3の2,乙5,乙6)
上記勧告を受けて,平成25年4月12日,内閣は,平成24年改正法に基づき,同法のうち上記0増5減を内容とする公職選挙法の改正規定の
施行期日を定めるとともに,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項(平成21年区割規定の改正規定及びその施行期日)を定める法制上の措置として,平成24年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し,平成25年6月24日,この改正法案が平成25年法律第68号(以下「平成25年改正法」といい,同法による改正を「平成25年改正」という。)として成立した。平成25年改正法は同月28日に公布されて施行され,平成25年改正後の平成24年改正法中の上記0増5減及びこれを踏まえた区画審の上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定はその1か月後の平成25年7月28日から施行されており,この改正により,各都道府県の選挙区数の0増5減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われた(以下,上記改正後の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「平成25年区割規定」といい,平成25年区割規定に基づく上記改定後の選挙区割りを「平成25年選挙区割り」という。)。(乙3の2)
平成24年選挙につき,最高裁平成25年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,同選挙時において平成21年区割規定の定める平成21年選挙区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,前記(6)のような平成24年選挙までの間の国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったとはいえないから,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,平成21年区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会においては今後も平成24年改正区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。

(8)平成25年大法廷判決の前後を通じて,国会において,「衆議院選挙制度に関する与野党実務者協議」により衆議院の選挙制度について各党間の協議が続けられたが,各党の意見は一致しなかった。平成26年6月19日,衆議院議院運営委員会での議決に基づき,衆議院選挙制度に関する調査・検討等を行うため,衆議院議長の諮問機関として,有識者によって構成される「衆議院選挙制度に関する調査会」(以下「選挙制度調査会」という。)が設置された。選挙制度調査会に対する諮問事項は,一票の較差を是正する方途等であった。選挙制度調査会の設置の議決がされた際に,各会派は選挙制度調査会の答申を尊重するものとする旨の議決も併せてされた。(乙4,乙8の6,乙9)
(9)平成26年11月21日に衆議院が解散され,同年12月14日,平成25年選挙区割りの下で衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が施行された。
平成25年選挙区割りの下において,平成22年10月1日を調査時とする大規模国勢調査(以下「平成22年国勢調査」という。)の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされたが,平成25年3月31日現在及び同26年1月1日現在の各住民基本台帳に基づいて総務省が試算した選挙区間の人口の最大較差はそれぞれ1対2.097及び1対2.109であり,上記試算において較差が2倍以上となっている選挙区はそれぞれ9選挙区及び14選挙区であった。また,平成26年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない宮城県第5区と選挙人数が最も多い東京都第1区との間で1対2.129であり,宮城県第5区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は13選挙区であった。(乙2の3,乙3の1,乙4)
このような状況の下で平成25年選挙区割りに基づいて施行された平成26年選挙につき,最高裁平成27年11月25日大法廷判決・民集69
巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」という。また,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決を併せて「本件各大法廷判決」ということがある。)は,上記のような投票価値の較差が生じた主な要因は,いまだ多くの都道府県において,平成24年改正区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあるというべきであり,上記の投票価値の較差が生じたことは,全体として平成24年改正区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるなどとして,平成25年選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ない旨判示した。そして,平成27年大法廷判決は,定数配分又は選挙区割りが憲法の要求する投票価値の平等の要求に反する状態にあることへの対応や合意の形成に様々な困難が伴うことを踏まえ,平成24年改正区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備については,漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも国会の裁量に係る現実的な選択として許容されていると解されるとした上で,平成26年選挙は,前回の平成24年選挙から約1年11か月後の衆議院解散に伴い,平成25年改正後の平成24年改正法の施行による選挙区割りの改定から約1年5か月後に施行されたものであり,その改定後も国会においては引き続き選挙制度の見直しが行われ,衆議院に設置された検討機関(選挙制度調査会)において投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度の見直しを内容とする具体的な改正案などの検討が続けられていることなどを併せ考慮すると,国会における是正の実現に向けた取組は,平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったとはいえず,本件において憲法上要求される合理的期間を徒過したと断ずることはできないなどとして,平成25年区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反す
るとはいえない旨判示した。その上で,平成27年大法廷判決は,国会においては,今後も,衆議院に設置された検討機関において行われている投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度の見直しを内容とする具体的な改正案の検討と集約が早急に進められ,平成24年改正区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があるというべきであるなどと説示した。
(10)選挙制度調査会は,平成28年1月14日,衆議院議長に対し,平成26年9月11日に諮問のあった一票の較差を是正する方途等について答申した(以下,この答申を「調査会答申」という。)。調査会答申の概要は,①衆議院議員の定数を10人削減して465人とし,小選挙区選出議員の定数を6人削減して289人とする,②小選挙区選挙における選挙区間の1票の較差を2倍未満とする,③小選挙区選出議員の定数を各都道府県に人口に比例して配分する,④都道府県への議席配分は,各都道府県の人口を一定の数値で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選出議員の定数と一致する方式(以下「アダムズ方式」という。)により行うこととし,各都道府県の議席は,その人口を当該数値(除数)で除した商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数とする,⑤都道府県への議席配分の見直しは,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行う,⑥大規模国勢調査の中間年に実施される簡易国勢調査の結果,較差2倍以上の選挙区が生じたときは,区画審は,各選挙区間の較差が2倍未満になるように関係選挙区の見直しを行い,この見直しについては必要最小限のものとし,都道府県への議席配分の変更は行わないというものであった。なお,アダムズ方式の導入をいつの国勢調査から行うかについて,調査会答申では言及されていなかった。(乙10)
(11)調査会答申を受けて国会においてその対応について検討され,平成28年5月20日,区画審設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成
28年法律第49号)が成立した(以下「平成28年改正法」といい,同法による改正を「平成28年改正」といい,同改正後の区画審設置法を「新区画審設置法」という。)。(乙11の1)
平成28年改正法は,その本則において,①衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定案の作成は,各選挙区の人口(大規模国勢調査の結果による日本国民の人口である。平成28年改正法施行直後のものは,平成32年の大規模国勢調査(以下「平成32年国勢調査」という。)になる。)の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならず(新区画審設置法3条1項),②改定案の作成に当たり,都道府県別定数配分は,アダムズ方式により行い(同法3条2項),③統計法5条2項ただし書の規定により大規模国勢調査の実施から5年目に当たる年に行われる簡易国勢調査の結果,各選挙区の最大較差が2倍以上になったときは,各都道府県の選挙区数を変更することなく,区画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及び勧告をする(同法3条3項,4条2項)旨規定し(以下,新区画審設置法3条に定める区割基準を「新区割基準」という。),また,併せて,その附則において,平成32年国勢調査までの特例措置として,①区画審が,平成27年の国勢調査(以下「平成27年国勢調査」という。)の結果に基づいて,新区画審設置法2条の規定による改定案の作成及び勧告を行い(同法附則2条1項),②上記改定案の作成に当たっては,小選挙区定数6減の対象県について,平成27年国勢調査人口を基にアダムズ方式により各都道府県の定数を算定した場合に減員となる都道府県のうち,議員1人当たり人口の最も少ない都道府県から順に6県を選択し(同法附則2条2項),③上記改定案の作成に当たっては,平成27年国勢調査に基づいて算定された人口比最大較差を2倍未満にするとともに,平成32年見込人口(平成27年国勢調査人口
(平成27年国勢調査の結果による日本国民の人口)に,平成27国勢調査人口を平成22年国勢調査人口(平成22年国勢調査の結果による日本国民の人口)で除して得た数を乗じて得た数)に基づいて算定された人口比最大較差を2倍未満とすることを基本とする(同法附則2条3項)旨規定した(以下,同法附則2条に定める区割基準を「本件区割基準」という。)。(乙11の1及び2,乙13の1ないし4)
平成28年改正法の法案の審議において,アダムズ方式の導入が平成32年国勢調査からとされた理由について,平成28年改正法の法案の提出者から,①成立した法律をあえて遡及適用することは例外的であり,アダムズ方式を導入するのは平成32年国勢調査以降とするのが自然である,②仮に平成22年国勢調査に基づいてアダムズ方式を導入した場合,平成27年国勢調査の結果が出ているのに,古い国勢調査の結果である平成22年国勢調査の数値を用いる合理性があるとはいえない,③平成22年国勢調査の結果が出てから既に2回の衆議院議員総選挙を経ているにもかかわらず,平成22年国勢調査の結果を用いて新たに議席を配分し直すとするならば,それにより従前と異なる議席を配分された都道府県の有権者を中心に,これら2回の総選挙の正当性や選挙された議員の地位に対し疑念を抱かせることになるという問題がある,④平成22年国勢調査にさかのぼってアダムズ方式を即時に導入したとしても,4年後には次の大規模国勢調査が控えており,立て続けに定数配分の見直しを行うこととなり,制度の安定性に欠けるという結果を招いてしまう旨の説明がされた。また,選挙制度調査会のE座長は,平成28年改正法の法案に係る参考人質疑において,アダムズ方式の導入をいつの国勢調査から行うかについて,国会の裁量に委ねられている旨述べた。(乙11の1,乙12の2及び3)。(12)平成28年改正法の成立後,区画審設置法2条及び平成28年改正法附則2条の規定に基づき,区画審による調査審議が進められた。
区画審は,平成29年4月19日,内閣総理大臣に対し,前記選挙区割り
の改定案の勧告を行った。この改定案は,平成28年改正法附則の規定に基づき,各都道府県の選挙区数の0増6減(青森県,岩手県,三重県,奈良県,熊本県及び鹿児島県につき各1ずつ減)を前提に,平成27年国勢調査に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となり,平成32年見込人口に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように19都道府県の97選挙区において区割りを改めることを内容とするものであった。(乙14の1・2)上記勧告を受けて,平成29年5月16日,内閣は,平成28年改正法に基づき,平成28年改正法のうち,0増6減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるとともに,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項(平成25年区割規定の改正規定及びその施行期日)を定める法制上の措置として,平成28年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し,平成29年6月9日,この改正法案が平成29年法律第58号(以下「平成29年改正法」といい,同法による改正を「平成29年改正」といい,平成29年改正と平成24年改正,平成25年改正及び平成28年改正とを併せて「本件各改正」という。)として成立した。平成29年改正法は,同年6月16日に公布されて施行され,平成29年改正法による改正後の平成28年改正法中の上記0増6減及びこれを踏まえた区画審の上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は同年7月16日から施行されており,この改正により,各都道府県の選挙区数の0増6減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われた(以下,上記改正後の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「本件区割規定」といい,本件区割規定に基づく上記改訂後の選挙区割りを「本件選挙区割り」という。)。(乙16,乙18の1ないし4)
上記改定の結果,平成27年国勢調査の結果による選挙区間の日本国民の人口の最大較差は1.956倍になるとともに,平成32年見込人口を基づく選挙区間の日本国民の人口の最大較差は1.999倍になった。(乙16,
乙18の1)
(13)平成29年9月28日に衆議院が解散され,同年10月22日に本件選挙区割りの下で本件選挙が施行された。
本件選挙当日における各選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない鳥取県第1区と選挙人数が最も多い東京都第13区との間で1対1.979であった。本件選挙制度開始後,選挙当日における各選挙区間の選挙人数の最大較差が1.979を下回ったことは一度もなかった。(乙1)2
本件の争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性
(原告らの主張)

憲法前文第1文,1条及び56条2項は,人口比例選挙(1人1票の選挙)を保障している。すなわち,憲法前文第1文及び1条が国民主権を定め,憲法前文第1文が「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と定め,憲法56条2項は,「両議院の議事は,(略)出席議員の過半数でこれを決し」と定めている。非人口比例選挙では,必ず多数の国民が少数の国会議員を選出し,少数の国民が多数の国会議員を選出する。すると,多数の国会議員の意見と,多数の国民の意見(ただし,多数の国民が選出した少数の国会議員の意見)とが対立する場合が生じ得る。その結果,多数の国会議員の意見が,必ず多数の国民の意見に勝利し,これでは主権者が国会議員ということになる。したがって,国民主権を前提とする以上,両議院の議事を決する過半数の出席議員を選出する主権者の数は,必ず全出席議員を選出する主権者の数の過半数でなければならない。全出席議員の過半数が,必ず全出席議員を選出する主権者(国民)の過半数から選出されるためには,人口比例選挙以外にはない。

本件選挙においては,全人口(1億2534万2377人)中の5618万3183人(44.8%)が,選挙対象の小選挙区選出議員(289人)中の145人(51%)を選出し,残余の6915万9194人(55.2%)の有権者が,残余の144人(49%)を選出した。本件選挙区割りに関する本件区割規定は,人口比例選挙を保障した憲法56条1項,1条及び前文1文に違反し,憲法98条1項により無効である。

平成23年大法廷判決は,「平成24年改正区画審設置法3条1項の趣旨は,最大較差2倍という数値を,衆院選の合憲・違憲の結論を決める画一的に量的な基準とする趣旨ではない」と判断していると解される。選挙が合憲であるためには,少なくとも,①投票価値較差が最大2倍未満であり,②1人別枠方式による選挙人の住所(都道府県)を根拠として生じる投票価値の不平等がないことが必要である。
しかしながら,本件選挙では,全47都道府県のうち,「0増6減」の対象の6県(青森,岩手,三重,奈良,熊本,鹿児島)以外の残余の都道府県については,1人別枠方式によって配分された議員定数がそのまま変更されることなく維持されているので,アダムズ方式採用の場合の「7増13減」の残りの「7増7減」に係る12都県においては,1人別枠方式の議員定数がそのまま温存され,都道府県基準の1人別枠方式を理由とする不合理な投票価値の不平等は,依然として継続されている。1人別枠方式の廃止は,前記12都県においては未達成である。よって,本件選挙区割りは,憲法の要求する投票価値の平等の要求に反していると解される。

(被告らの主張)
憲法は,投票価値の平等を要求しているが,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することので
きる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。そして,選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解される。具体的な選挙区を定めるに当たっては,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められている。したがって,このような選挙制度の合憲性は,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是正することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。そして,本件各大法廷判決は,平成24年改正区画審設置法3条について,一貫して,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものと評価してきたから,選挙区間の最大較差が2倍未満となる区割規定の定める選挙区割りは,国会において通常考慮し得る諸般の要素を斟酌した,一般に合理性を有するものであって,憲法の投票価値の平等の要求に反するものとはいえない。本件各改正の結果,選挙区間の最大較差は,立法時において1.956倍,本件選挙当時において1.979倍となり,立法時のみならず選挙時においても2倍未満にまで縮小されるに至ったのみならず,被災地等の例外なく,全小選挙区を通じて較差の縮小が図られたものである。そうすると,このような選挙区間の最大較差のみをもってしても,本件選挙当時,本件区割規定の定める
本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていなかったことは明らかである。
したがって,本件区割規定の定める本件選挙区割りの具体的内容等のいかんは,前記判断を左右するものではない。しかし,この点に関し,原告らがその不合理性を主張しているため,念のためその具体的内容等を考慮すると,その内容は,国会ができる限りの検討及び協議を尽くして本件各大法廷判決の趣旨に沿って定めたものであること,平成23年大法廷判決が指摘した1人別枠方式の構造的な問題点,すなわち各都道府県への議席配分段階で各都道府県間の投票価値にほぼ2倍の最大較差が生ずるという状況は解消されていること,平成28年改正法がアダムズ方式を採用したことは合理的であること,平成28年改正及び平成29年改正が,アダムズ方式の全面的な導入を平成32年国勢調査後としつつ,平成27年国勢調査の結果に基づきアダムズ方式により0増6減等することにより,選挙区間の最大較差を2倍未満に是正したことは合理的であること,本件選挙区割りも,国会が正当に考慮することができる政策的要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに投票価値の平等を確保するという要請との調和を図った合理的なものであること,選挙区間の較差の是正には,種々の限界があるため,単に1倍を超える投票価値の較差が生じていることをもって,投票価値の平等の要求に反するものとは到底認められないことなどに照らすと,十分な合理性を有するものである。よって,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない。
(2)合理的期間論の是非及び憲法上要求される合理的期間の経過の有無(原告らの主張)
選挙は,憲法98条1項の「国務に関するその他の行為」のひとつであるから,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態の選挙は,同項によって,その効力を有しないというべきである。したがって,この合理的期間
の判例法理自体が,憲法に違反し,同項により,その効力を有しない。仮に合理的期間の法理を前提としても,本件選挙投票日は,平成25年大法廷判決が合理的期間の始期であると認定した平成23年大法廷判決の言渡日である同年3月23日から既に6年6月30日間が経過している。本件選挙投票日の時点で,当該「合理的期間」は既に徒過しており,本件選挙は憲法98条1項により無効である。
(被告らの主張)
憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,定数配分又は選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っている旨の司法の判断がされれば国会はこれを受けて是正を行う責務を負うところ,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点から評価すべきものと解される。そして,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったか否かは,裁判所において投票価値の較差が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として,上記の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
本件について見ると,本件各改正は,本件各大法廷判決の趣旨に沿って,1人別枠方式を廃止するとともに,将来的にも選挙区間の最大較差を2倍未満とするための所要の改正を行い,選挙区間の最大較差を1.956倍(本件選挙当時は1.979倍)にまで縮小させたものである。そして,本件選挙は,本件区割規定の定める本件選挙区割りの下での初めての選挙であり,本件選挙に
おける選挙区間の最大較差は,小選挙区選挙上,過去最少であるのみならず,小選挙区選挙に関する累次の最高裁判所の判決において合憲とされた最大較差をも相当程度に下回るものであった。しかも,そのような選挙区間の最大較差は,平成23年大法廷判決が投票価値の平等に配慮した合理的な基準であると評価した平成24年改正区画審設置法3条の求める2倍未満の較差を正に実現したものであった。そうすると,本件各改正は,投票価値の較差のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情に照らし,本件各大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として十分に相当なものであって,国会においても,本件選挙までに,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるなどとは全く認識できない状況にあった。
したがって,本件区割規定の定める本件選挙区割りについて憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったなどといえないことは明らかである。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)について
(1)ア

憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求

しているものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。
衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割り
を決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。(平成27年大法廷判決及びその理由3(1)指摘の各判決参照)

この点,原告らは,憲法前文1文,1条及び56条2項を根拠にして,国会議員の選挙については人口比例選挙が保障されている旨主張する。しかし,前記のとおり,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされており(同法43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について立法府である国会に広範な裁量が認められているということができ
る。また,市町村その他の行政区画,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているというべきである。したがって,投票価値の平等を選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準として,国会の裁量を等閑視し,非人口的要素の配慮を考慮しないような原告らの前記主張は,採用できない。
(2)上記(1)アの見地に立って,本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性について検討する。

平成23年大法廷判決は,上記の基本的な判断枠組みに立った上で,平成24年改正前区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は,平成6年の選挙制度改革の実現のための人口比例の配分により定数の急激かつ大幅な減少を受ける人口の少ない県への配慮という経緯に由来するもので,その合理性には時間的な限界があったところ,本件選挙制度がその導入から10年以上を経過して定着し安定した運用がされていた平成21年選挙時には,その不合理性が投票価値の較差としても現れ,その立法時の合理性が失われていたにもかかわらず,投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすものとして,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っており,上記の状態にあった1人別枠方式を含む平成24年改正前区割基準に基づいて定められた平成21年選挙区割りも,前記第2の1(5)のような平成21年選挙時における選挙区間の較差の状況の下において,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた旨判示した。
また,平成25年大法廷判決は,平成24年選挙が上記のように平成21年選挙時に既に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた平成21年選挙区割りの下で再び施行されたものであること,選挙
区間の選挙人数の較差は平成21年選挙時よりも更に拡大して最大較差が1対2.425に達していたこと等に照らし,平成24年選挙時において,平成21年選挙時と同様に,平成21年選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ない旨判示した。
さらに,平成27年大法廷判決は,前記第2の1(9)のような選挙区間の較差の状況の下において施行された平成26年選挙について,1人別枠方式を定めた平成24年改正前区画審設置法3条2項が削除されてもなお,平成24年改正法において定数削減の対象とされた県以外の都道府県において,平成24年改正区割基準に基づいた定数の再配分が行われておらず,上記の較差の存在は,全体として平成24年改正区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備がされていないことの表れであるなどとして,平成25年選挙区割りにつき憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ない旨判示した。イ(ア)そして,平成28年改正法は,その本則において,平成32年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査に基づく改定案の作成については,選挙区間の日本国民の人口の較差が2倍未満となるようにして,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行い,都道府県別定数配分はアダムズ方式によることとし,その中間年に行われる簡易国勢調査の結果,各選挙区の最大較差が2倍以上になったときは,都道府県別の選挙区数を変更せず,区画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及び勧告で対応するというものである(新区割基準)。新区割基準のうち選挙区間の人口の較差に係る部分は,平成23年大法廷判決が投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものであると解した平成24年改正前区画審設置法3条1項,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決がその趣旨に沿った選
挙制度の整備に向けた取組を国会に対して求めたとみられる平成24年改正区画審設置法3条と軌を一にするものであって,投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすに至っているなどということはできず,憲法の投票価値の平等の要求に反するものではないということができる。新区割基準のうち都道府県別定数配分の方式については,アダムズ方式,すなわち都道府県の人口を一定の数値で除した商の整数に小数点以下を切り上げた数を都道府県別の議席数とするため,各都道府県に必ず定員1人が配分されることとなるが,小数点以下の数値をすべて切り上げることは端数処理としてみると合理性を有する手法の一つであり,人口に比例して各都道府県に定数を配分する方式であることに変わりはなく,相対的に人口の少ない地域に配慮して相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分するものではないから,平成23年大法廷判決において立法時の合理性が失われた旨判示された1人別枠方式の下でされた定数配分を全都道府県について見直し,平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決において指摘された1人別枠方式の構造的な問題に解決をもたらすものであり,投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすに至っているなどということはできず,憲法の投票価値の平等の要求に反するものではないということができる。(イ)平成28年改正法は,その附則において,前記のとおり憲法の投票価値の平等の要求に反しない新区割基準に従って,平成32年国勢調査に基づき選挙区が改定されるまでの特例措置として,都道府県別定数配分については,本件区割基準のとおり,平成27年国勢調査人口を基にアダムズ方式により各都道府県の定数を算定した場合に減員となる都道府県のうち,議員1人当たり人口の最も少ない都道府県から順に6県を選択してその定数を1人ずつ減らすにとどめ,選挙区割りの改定については平成27年国勢調査に基づいて算定された人口比
最大較差を2倍未満にし,平成32年見込人口に基づいて算定された人口比最大較差も2倍未満とすることを基本としている。本件区割基準のうち都道府県別定数配分の方式については全都道府県についてアダムズ方式に基づき定数を配分したものではないものの,原則として10年ごとの大規模国勢調査の結果に基づいて選挙区の改定を行うことは合理的な手法であるということができる上,平成28年改正法制定時には,約4年後に平成32年国政調査が控えていて,その実施前に全都道府県についてアダムズ方式に基づいて都道府県別定数配分を見直せば,原則どおりの選挙区改定の期間よりも短い期間で立て続けに都道府県別定数配分が改定される事態に陥るため,特例措置としてアダムズ方式の導入を見合わせることも,選挙制度の仕組みを定める国会の裁量権の行使として合理性を有していること,本件区割基準においては選挙区の改定に当たり平成27年国勢調査人口における較差の是正のみならず平成32年見込人口における較差の是正も図られていて,アダムズ方式に基づく都道府県別定数配分の実現に至るまでの間も可能な限り投票価値の平等を実現しようと努めており,現に本件選挙当日における各選挙区間の選挙人数の最大較差が,本件選挙制度の開始以降,最も低いものになっていることに照らせば,本件区割基準も,平成24年改正前区画審設置法3条1項及び平成24年改正区画審設置法3条の趣旨に沿っており,1人別枠方式の構造的な問題の解決を指向したものであるといえる。
(ウ)よって,本件選挙当時,本件区割基準に従って本件選挙区割りを定めた本件区割規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあったということはできず,本件選挙当時の本件選挙区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りが憲法に違反するに至っていたということはできない。

(3)この点,原告らは,本件選挙では,6県(青森,岩手,三重,奈良,熊本,鹿児島)以外の都道府県については一人別枠方式によって配分された議員定数が維持されており,アダムズ方式採用の場合に再配分の対象となる12都県においては一人別枠方式の議員定数がそのまま温存されているから,本件選挙区割りは違憲である旨主張する。
確かに,本件選挙区割りは,平成28年改正法の本則により規定された新区割基準により都道府県別の定数配分が行われて定められたものではなく,上記6県以外の都道府県には1人別枠方式の下での平成24年改正前区割基準に基づく定数配分と同じ定数が配分されており,平成27年国勢調査人口を基にアダムズ方式により算定された場合には異なる定数が配分される都道府県が存在する。
しかしながら,前記(2)のとおり,本件区割基準において,特例措置としてアダムズ方式の完全な導入が見合わされ,都道府県別の定数配分について,平成27年国勢調査人口を基にアダムズ方式により各都道府県の定数を算定した場合に減員となる都道府県のうち前記6県を選択してその定数を1人ずつ減らすにとどめられたことも,選挙制度の仕組みを定める国会の裁量権の行使として合理性を有しており,平成28年改正法が,全体としてみれば,本件各大法廷判決を踏まえ,1人別枠方式の構造的な問題を解決し,本件各大法廷判決が求めてきた合理的な区割り基準の趣旨に沿った選挙制度の整備を実現するものであって,本件区割基準も投票価値の平等に配慮した合理的な基準であるということができることに鑑みると,本件区割基準に基づく本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反し,本件各大法廷判決の趣旨にもとるものであるということはできない。よって,原告らの前記主張は採用できない。
(4)被告らは,本件各大法廷判決が,平成24年改正区画審設置法3条について,一貫して,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものと評価
してきたから,選挙区間の最大較差が2倍未満となる区割規定の定める選挙区割りは,国会において通常考慮し得る諸般の要素を斟酌した,一般に合理性を有するものであって,憲法の投票価値の平等の要求に反しない旨主張する。しかしながら,前記(1)のとおり,定数配分又は選挙区割りが投票価値の較差において違憲状態に至っているか否かについては,諸般の事情を総合的に考慮した上でなお国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するか否かによって判断されるものであるから,選挙区間の最大較差について一定の数値的基準を設定してあてはめることによって定数配分又は選挙区割りが一般に合理性を有するか否かを判断することは相当ではないというべきである。よって,被告らの前記主張は採用できない。
2
結論
よって,争点(2)について判断するまでもなく,原告らの請求は,いずれも理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所松江支部

裁判長裁判官

栂村明剛
裁判官

光吉恵子
裁判官

田中良武
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