判例検索β > 平成27年(ワ)第31774号等
特許権侵害差止等請求事件 特許権
事件番号平成27(ワ)31774等
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日平成30年3月2日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年3月2日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成27年(ワ)第31774号

特許権侵害差止等請求事件(本訴)

平成28年(ワ)第15181号

損害賠償請求事件(反訴)

口頭弁論終結日

平成30年1月12日
判決
本訴原告・反訴被告

日本スプリュー株式会社
(以下「原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

清布宮義谷信宏哲施國郎皓一
同本訴訴訟代理人弁理士


同本訴補佐人弁理士


本訴被告・反訴原告

株式会社アドバネクス


(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士

森松
同本訴補佐人弁理士
主村寺本本晃生啓光生文1
原告の本訴請求をいずれも棄却する。

2
原告は,被告に対し,550万円及びこれに対する平成27年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告のその余の反訴請求を棄却する。

4
訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

5
この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

第1

実及び
請求

理由1
本訴
(1)被告は,別紙イ号方法目録記載の方法を使用してはならない。(2)被告は,別紙イ号方法目録記載の方法により生産した別紙イ号物件目録記載の製品を使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出し若しくは輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

(3)被告は前項記載の製品を廃棄せよ。
(4)訴訟費用は被告の負担とする。
(5)仮執行宣言
2
反訴
(1)原告は,被告に対し,2000万円及びこれに対する平成27年11月1
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
(3)仮執行宣言
第2
1
事案の概要
本件の本訴は,名称を「螺旋状コイルインサートの製造方法」とする発明についての特許権(請求項の数11。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。)を有する原告が,被告の螺旋状コイルインサートの製造方法は本件発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,上記製造方法
の使用の差止め,同方法により製造した螺旋状コイルインサートの譲渡等の差止め,及び,上記製造方法により製造した螺旋状コイルインサートの廃棄を求める事案である。
本件の反訴は,被告が,以下の(1)又は(2)のとおり主張して,原告に対し,不法行為に基づき,損害2000万円((1)については一部請求,(2)について
は重複する限度で請求権競合)及びこれに対する不法行為の日(本訴提起の日)である平成27年11月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める事案である。
(1)本件発明に係る特許は冒認出願によるもの又は被告が先使用権を有するものであり,原告はこのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,あえて本訴を提起したものであって,これにより被告に少なくとも2729万6828円の損害を生じさせた。

(2)((1)と選択的に)本訴による各乙号証の交付により本訴請求が棄却されることが明らかになった後も,原告はいたずらに本訴請求を維持したものであって,これにより被告に526万6380円の損害を生じさせた。2
前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者等

原告は,各種工業用ファスナーの製造販売等を目的とする株式会社である。
原告代表者のA(以下「原告代表者」という。)は,昭和47年12月の原告設立時から現在まで原告の代表取締役の地位にあり,また,昭
和52年12月から平成12年6月まで被告の監査役の地位にあった者である。

被告(平成13年7月4日に株式会社加藤スプリング製作所から商号変更)は,精密ばね等の製造販売を目的とする株式会社である。(甲2)
(2)本件特許権
原告は,次の本件特許権を有している(以下,本件特許権に係る明細書及び図面を「本件明細書等」といい,その内容は別紙特許公報記載のとおりである。)。
登録番号

特許第4018844号

発明の名称

螺旋状コイルインサートの製造方法


平成11年6月16日

願日登録日
平成19年9月28日

(3)本件発明の内容
本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,別紙特許公報の該当欄記載のとおりである。
(4)構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれの記号に従い「構成要件A」などという。)。(弁論の全趣旨)
A
(a)螺旋状コイルインサートを製造するための線材であって,

B-1

線材の軸線方向に沿って所定長さ間隔にてコイル自由端成形部が
複数形成され,

B-2

前記コイル自由端成形部は,互いに離間する方へと線材の軸線に
沿って線材の外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1
及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2
凹部とを有する

B-3

螺旋状コイルインサート用線材を,

C
前記コイル自由端成形部がコイル巻き加工時に内周側に位置する
ようにして連続してコイル製造機へと供給して

D
1個の螺旋状コイルインサートのための所定巻数のコイル巻きを
行い,

E
所定巻数のコイル巻きが終了した後,前記コイル自由端成形部に
おける前記第1先細形状部と前記第2先細形状部の連結位置にて
切断分離し,

F
(b)引き続いて,前記螺旋状コイルインサート用線材をコイル
製造機へと供給して前記(a)工程を行い,次の螺旋状コイルイ
ンサートを製造する,

G
ことを特徴とする螺旋状コイルインサートの製造方法。

(5)本件特許の発明者の記載
本件特許に係る特許公報には,発明者として原告代表者の氏名が記載されている。
(6)被告の行為
被告は,遅くとも平成13年11月頃から,商品名を「タングレス・イン
サート」とする螺旋状コイルインサート(以下「被告製品」という。)を製造・販売している。
被告における被告製品の製造方法は,本件発明の技術的範囲に属する(ただし,被告は,別紙イ号方法目録記載の方法は被告における製造方法を正確に記載したものではないと主張している。)。
(7)本訴及び反訴における被告の主張
被告は,本訴において,①原告代表者は本件発明の発明者ではない(冒認),②被告は先使用権を有する,③本件発明に係る特許は進歩性の欠如により無効にされるべきものである,④仮に原告代表者が本件発明の発明者で
あったとしても,被告は職務発明による法定実施権を有する,などと主張している。
また,被告は,反訴において,上記①及び②を主張している。(8)先行文献
本件特許の出願日(平成11年6月16日)よりも前に公開された文献と
して,以下のものが存在する。

米国特許第4645398号明細書(特許日1987年(昭和62年)2月24日。乙1の1。以下「乙1明細書」といい,同明細書に係る発明を「乙1発明」又は「乙1’発明」という。なお,乙1発明と乙1’発明の違いについては後述する。)


実用新案登録第2506534号公報(発行日平成8年8月14日。乙31。以下「乙31公報」といい,同公報に係る発明を「乙31発明」
という。)

特開昭63-180736号公報(公開日昭和63年7月25日。乙32。以下「乙32公報」といい,同公報に係る発明を「乙32発明」という。)


統合報告書(BRE2-CT93.890)(作成日1996年(平成8年)6月30日。乙57。以下「乙57報告書」といい,同報告書に係る発明を「乙57発明」という。)

3
争点
(1)本訴

原告代表者の発明者性


被告の先使用権の有無


進歩性欠如による無効①(乙1発明を主引例,乙31発明及び乙32発明を副引例とするもの)


進歩性欠如による無効②(乙1’発明を主引例,乙31発明及び乙32発明を副引例とするもの)


進歩性欠如による無効③(乙1’発明を主引例,乙57発明及び乙32発明を副引例とするもの)


職務発明による法定実施権の有無(仮定的抗弁)

(2)反訴

本訴の提起による不法行為
(ア)本訴提起の違法性
(イ)被告の損害発生の有無及びその額


第3
1
本訴の維持による不法行為

争点に関する当事者の主張
争点(1)ア(原告代表者の発明者性)について

〔原告の主張〕

以下のとおり,本件発明の真の発明者は原告代表者であり,原告は原告代表者から特許を受ける権利を譲り受けたものである。
(1)発明の動機及び着想
原告代表者は,平成11年頃,タングレス螺旋状コイルインサート(端部に折り取りを予定したタングを備えない螺旋状コイルインサートをいう。)が将来性を有すると考え,被告におけるタングレス螺旋状コイルインサートの生産性をどのようにしたら上げることができるかを考え悩むうちに,コイル巻き工程とプレス加工を別々の工程に分けたらどうかという考えがひらめいた。当時のタングレス螺旋状コイルインサートの製造方法は,①まず,線
材の先端部をプレス加工して先細形状を成形し,続いてこれに隣接して凹部をプレス加工により成形する,②次に,この線材をコイル製造機に送り込みながらコイル巻きを行い,所定の巻数に巻いたら線材を切断する,③最後に,切断したコイルの末端を上記①と同様にプレス加工して,先細形状と凹部を形成する,というものであった。しかし,この方法によると製造に時間がか
かり,生産性が低くなることから,原告代表者は,長い線材に対し必要なプレス加工を全て済ませてから,その加工済みの線材をコイル製造機に送り込めば,コイル巻きのときにプレス加工の時間が省略でき,短時間でコイルが完成すると考えた。
(2)試作品の製作

原告代表者は,上記(1)の考え方に基づいて,株式会社三晃製作所(以下「三晃」という。)の社長であるB(以下「B社長」という。)に対し,自分の発明に使うプレス加工済みの線材の試作を依頼するとともに,これを装着するための工具の試作も依頼した。そのための金型代等の費用は300万円ほどであり,原告代表者が負担をした。

(3)出願の経過
原告代表者は,上記(2)から約1か月後の平成11年5月10日頃,出来
上がった試作品の線材をB社長とともに被告に持ち込んだが,被告のC取締役(以下「C取締役」という。)から,精度の点で使い物にならないと断られた。原告代表者は,C取締役の無礼な態度に驚き,その日のうちにD弁理士(以下「D弁理士」という。)を訪ね,線材とタングレス螺旋状コイルインサートの実物を渡して発明の内容を口頭で説明し,特許出願を依頼した。〔被告の主張〕
以下のとおり,本件発明の真の発明者は被告の従業員らであり,原告は同人らから特許を受ける権利を譲り受けていないため,本件特許権は冒認出願によるものとして無効審判により無効にされるべきものであって(特許法123条
1項6号),原告の請求はそもそも請求原因事実を欠く。
(1)被告の従業員らによる発明
被告の従業員らは,昭和60年3月14日より前,米国法人レックスノルド・インコーポレーテッド(以下「レックスノルド社」という。)のタングレス螺旋状コイルインサート「コイルスレッドⅡ」の製造方法として,二つ
の選択肢を考えついた。
この二つの選択肢は,本件発明の構成要件AないしB-3を満たすように線材を加工した上でコイル巻き加工する点は同じだが,一つは,コイル巻きしてから線材を切断し,完成品を切り離す方法(本件発明),もう一つは,製品1個分の線材を切断分離してからコイル巻き加工する方法である。このように,被告においては,遅くとも昭和60年3月14日までに被告
の従業員らが本件発明をしていた。
(2)製造装置の設計及び製造

被告は,本件発明の方法によりタングレス螺旋状コイルインサートを製造する装置として,「FCM」という名称の機械を開発した。

FCMには,「FCM-A」,「FCM-B」及び「FCM-C」の3タイプがあるが,基本的な設計は同じである。FCM-Aの先行機種
は「FCM-I」(「FCM-1」ともいう。本判決では以下「FCM-I」と表記する。)であった。

プロトタイプ試作機であるFCM-Iでは,被告の従業員らは,上記(1)の二つの選択肢のうち,本件発明ではなく,製品1個分の線材を切断
分離してからコイル巻き加工する方法を採用した。
しかし,FCM-Iによる「コイルスレッドⅡ」の試作は,製品歩留まりにおいて不満足な結果に終わったため,工程を見直し,昭和61年6,7月にFCM-Aを再設計した。その際,抜き潰し加工ユニットの設計を基本的に流用した上で,コイル巻き及び切断ユニット部を変更し,
最初の製品の巻き加工前に手作業でニッパー等による余剰線材切断を行い,コイル巻き後に「コイルスレッドⅡ」の完成品を切断する工程を採用した。
これにより,FCM-Aは,本件発明を実施するための装置構成となった。

(3)被告の福島工場における本件発明の実施
被告は,遅くとも昭和61年9月30日までには,被告の福島工場で本件発明を業として実施していた。このことは,平成7年に被告の福島工場から英国子会社アドバネクス・ヨーロッパ・リミテッドに移管されたFCM-Aの5号機に「取得年月86年9月30日」との銘板が付されていることなど
からも明らかである。
(4)原告代表者の知識,経験等
原告代表者は,一ツ橋高等学校を卒業し,卸売を業としていたものであって,技術者ではなかった。原告と被告の関係が悪化する平成11年4月以前には,原告代表者を発明者とする特許出願は何らされておらず,また,国立
情報学研究所の運営する学術論文データベースCiNiiにも,原告代表者を著者とする学術論文は1篇も登録されていない。

さらに,原告代表者は,本件特許の出願以前,本件発明を独自に発明し得る環境にはなかった。昭和47年12月23日の会社設立から本件特許出願当時まで,原告は,被告の製造したタング付き螺旋状コイルインサートの単なる販売会社であり,何らの研究開発設備も製造設備も有しておらず,役員又は従業員に研究開発要員は存在しなかった。
(5)被告における原告代表者の活動
原告代表者は,昭和52年12月から平成12年6月まで被告の監査役の地位にあり,被告の事業所に監査役として頻繁に出入りしており,特に福島工場には年に少なくとも6回は訪問し,製造ラインを視察していた。
また,被告の従業員E(以下「E」という。)は,被告の福島工場に勤務していたところ,平成9年3月より前のいずれかの時点において,原告代表者を同工場の製造ラインに案内するとともに,原告代表者に求められ,加工済み線材の端材を手渡した。
その後,原告代表者は,E及び当時の被告福島工場のワイヤー課課長であ
るF(以下「F課長」という。)が原告旧本社を訪れた際,三晃が納品したという抜き潰し加工済み線材をEらに示し,被告が線材を加工するのではなく,加工済みの線材を原料として購入し,タングレス螺旋状コイルインサートを製造してはどうかと提案した。原告代表者が示した線材はEが福島工場で手交した上記端材と酷似していた。

このように,原告代表者は,被告の福島工場の製造ラインの観察や,線材の端材の受領を通して,被告が本件発明によりタングレス螺旋状コイルインサートを製造していることを知得していた。
(6)本件特許出願の意図
被告は,平成10年頃,需要が拡大する米国市場向け及び国内での販売準
備のため,FCMの後継機種を導入し,タングレス螺旋状コイルインサートの増産を行うことにした。被告は,ケイナー・テクノロジース・インコーポ
レイテッド(以下「ケイナー社」という。)との間で全世界を許諾範囲とする実施許諾契約の締結に向けた交渉を進めるとともに,被告自らが国内でタングレス螺旋状コイルインサートを販売するため,その卸売りを行うことを原告に提案したが,原告代表者は,タング付き螺旋状コイルインサートの在庫の陳腐化を恐れてタングレス螺旋状コイルインサートを取り扱うことに消
極的であり,その取扱いをする場合には独占的な販売権を付与するように強く求めたため,原被告間の交渉は進展しなかった。
このため,被告は,被告の子会社であるアキュレイト販売株式会社(現在の株式会社アキュレイト。以下「アキュレイト社」という。)と提携をすることとし,アキュレイト社は,平成11年中の市場投入を前提として,平成
11年4月に被告が製造するタングレス螺旋状コイルインサートが掲載されたカタログを展示会で配布した。原告代表者は,同年5月17日頃,これについて被告に抗議し,アキュレイト社による受注を留保させるなどの妨害を行った。
本件特許の出願はこのような状況下において行われたものであり,原告は,
国内の螺旋状コイルインサート市場における自己の地位の維持のため,被告の使用するタングレス螺旋状コイルインサートの製造方法が特許出願されていないことを奇貨として本件特許を出願したものである。
2
争点(1)イ(被告の先使用権の有無)について

〔被告の主張〕
以下のとおり,被告は特許法79条による法定通常実施権を有することになるから,原告は本件特許権を被告に行使することができない。
(1)特許出願に係る発明の内容を知らないで発明したこと
上記1の〔被告の主張〕のとおり,被告の従業員らは,本件特許に係る出
願(特願平11-170275号)の発明の内容を知ることなく,遅くとも昭和60年3月14日までに,被告における自己の職務として,本件発明を
発明した。同時に,被告は,被告の従業員らから本件発明を知得した。(2)出願の際の実施
被告は,遅くとも昭和60年3月14日までにはFCMの基本設計を完了し,上記1の〔被告の主張〕のとおり遅くとも昭和61年9月30日までには日本国内で本件発明の実施である事業をし,少なくとも事業の準備をしていた。
被告は,本件特許の出願(平成11年6月16日)の際においても,上記と同様の方法により,「タングレス・コイルスレッド」(被告が販売主体となった後の「コイルスレッドⅡ」の商品名)の製造を行い,アメリカ合衆国
等に輸出していた。
(3)発明の範囲内
被告が現在製造し,譲渡し,貸渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出を行っている被告製品は「コイルスレッドⅡ」及び「タングレス・コイルスレッド」と実質的に同一であり,被告製品について被告が用い
る製造方法は,本件発明の構成要件を満たす点では,原告による出願の際に被告が「コイルスレッドⅡ」及び「タングレス・コイルスレッド」の製造に用いていた製造方法と同一である。
(4)事業の目的の範囲内
特許権者と先使用権者との公平を図るとの先使用権制度の趣旨に照らせば,
先使用権者が自己のものとして支配していた発明の範囲において先使用権を認めることが,特許法79条の文理にも沿い,先使用権の効力は,特許出願の際に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく,これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶ(最二小判昭和61年10月3日・民集40巻6号1068頁参照)。
特許出願の際に製造による実施をしていた先使用権者は,譲渡,貸渡し,譲渡の申出及び貸渡しの申出による実施についても,事業の目的の範囲内に自
己のものとして支配していたといえる。
被告の販売するタングレス螺旋状コイルインサートは不特定物であり,被告は,米国子会社カトー・ファスニング・システムズ・インコーポレーテッド等への輸出のための福島工場での特定時点で,国内で譲渡及び譲渡の申出をしていた(最二小判昭和35年6月24日・民集14巻8号1528頁参照)。
被告は,本件特許の出願(平成11年6月16日)の際,「タングレス・コイルスレッド」の日本国内での製造,譲渡,譲渡の申出及び輸出を事業として行っていたところ,平成12年10月,日本において,これを「タング
レス・インサート」との名称で販売を開始した(被告製品)。すなわち被告製品は,寸法及び細部形状のバリエーションがあるにせよ,上記出願の際に被告が製造し,譲渡し,譲渡の申出をし,輸出していた「タングレス・コイルスレッド」と同一の製造方法による製品である。
したがって,被告による被告製品の製造及び輸出だけでなく,その譲渡,
貸渡し,譲渡の申出,及び貸渡しの申出も,本件特許の出願(平成11年6月16日)の際の被告の事業の目的の範囲に属する。
〔原告の主張〕
(1)特許出願に係る発明の内容を知らないで発明したことについて被告の従業員らが本件特許の出願に係る発明の内容を知らないで本件発明
と同一の発明をし,被告がこれを知得したということは,立証されていない。(2)出願の際の実施及び発明の範囲について
被告が本件特許権について先使用権を取得するには,本件特許の出願の際に,被告が現に本件発明と同一の発明の実施である事業をし,又はその事業の準備をしていたことが必要である。

しかし,被告は上記出願の際に,被告が現に本件発明と同一の発明の実施である事業をし,又はその事業の準備をしていたことを全く立証していない。
(3)事業の目的の範囲について
被告による最二小判昭和61年10月3日の引用は正確ではなく,同判決は「特許法第79条にいう『実施又は準備をしている発明の範囲』とは,特許発明の特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に日本国内において実施又は準備をしていた実施形式に限定されるものではなく,その実施形
式に具現されている技術的思想すなわち発明の範囲をいうものであり,したがって,先使用権の効力は,特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく,これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶものと解するのが相当である」と判示しているにすぎない。

したがって,被告は「本件特許の出願の際,被告製品の日本国内での製造及び輸出を事業として行っていた」というのであるから,仮に被告が先使用権を有しているとしても,先使用権の範囲は,被告による被告製品の製造及び輸出に限定され,被告製品の譲渡,貸渡し,譲渡の申出,及び貸渡しの申出には及ばない。

3
争点(1)ウ(進歩性欠如による無効①(乙1発明を主引例,乙31発明及び乙32発明を副引例とするもの))について

〔被告の主張〕
本件発明は,以下のとおり,乙1発明に乙31発明及び乙32発明を適用することにより,本件特許の出願日より前に,当業者が容易に想到することができた発明である。
(1)乙1発明
乙1明細書には,以下の発明(乙1発明)が記載されている(以下,それぞれの記号に従い「構成a」などという。)。

a
螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートを製造するためのワイヤであって,

b-1

ワイヤの長手軸に沿って所定長さ間隔にてコイル自由端成形部が複数形成され,

b-2

前記コイル自由端成形部は,互いに離間する方へとワイヤの長手軸に沿ってワイヤの外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2
凹部とを有する
b-3

螺旋状にコイル巻きされたねじ山インサート用ワイヤを,

c
前記コイル自由端成形部がコイル巻き加工時に内周側に位置するようにして

d
1個の螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートのための所定巻数のコイル巻きを行い

e
前記コイル自由端成形部における前記第1先細形状部と前記第2先細形状部にて切断分離し,

g
ことを特徴とする螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートの製造方法。

(2)本件発明と乙1発明の対比
本件発明と乙1発明を対比すると,以下の一致点で一致し,以下の相違点で相違する。

一致点
本件発明と乙1発明は,ともに「螺旋状コイルインサートを製造するための線材であって,線材の軸線方向に沿って所定長さ間隔にてコイル自由端成形部が複数形成され,前記コイル自由端成形部は,互いに離間する方へと線材の軸線に沿って線材の外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第
1及び第2凹部とを有する螺旋状コイルインサート用線材を,前記コイル自由端成形部がコイル巻き加工時に内周側に位置するようにして1個
の螺旋状コイルインサートのための所定巻数のコイル巻きを行い,前記コイル自由端成形部における前記第1先細形状部と前記第2先細形状部にて切断分離することを特徴とする螺旋状コイルインサートの製造方法。」である点。

相違点
(ア)本件発明の製造方法が線材を連続してコイル製造機に供給するのに対し,乙1発明の製造方法がかかる構成を欠く点(以下「相違点1」という。)。
(イ)本件発明の製造方法が,所定巻数のコイル巻が終了した後で,かつ第1先細形状部と第2先細形状部の連結位置において,第2先細形状部を
線材から切断分離するのに対し,乙1発明の製造方法がかかる要素を欠く点(以下「相違点2」という)。
(ウ)本件発明の製造方法が,1個の螺旋状コイルインサートの切断分離後,引き続いて,螺旋状コイルインサート用線材をコイル製造機へと供給して先の螺旋状コイルインサートの製造方法と同一工程を行い,次の螺旋
状コイルインサートを製造するのに対し,乙1発明の製造方法がかかる要素を欠く点(以下「相違点3」という。)。
(3)相違点1の容易想到性

乙31発明
乙31公報には,以下の発明(乙31発明)が記載されている。
「ねじりコイルばね用線材を
連続してコイル製造機へと供給して
1個のねじりコイルばねのための所定巻数のコイル巻きを行い
所定巻数のコイル巻が終了した後,切断分離し,

引き続いて,ねじりコイルばね用線材をコイル製造機へと供給して上述の『連続してコイル製造機へと供給して1個のねじりコイルばねのため
の所定巻数のコイル巻きを行い所定巻数のコイル巻が終了した後,切断分離する』工程を行い,
次のねじりコイルばねを製造する,
ことを特徴とするねじりコイルばねの製造方法。」

乙32発明
乙32公報には,以下の発明(乙32発明)が記載されている。
「線材の軸線方向に沿って所定長さ間隔にてテーパ部及び細径平行部が複数形成され,
テーパ部は,互いに離間する方へと線条体の長手軸に沿って線条体の外形へと至る第1及び第2テーパ部を有する

テーパコイルばね用線材を
連続してコイル製造機へと供給して
コイル巻きを行い
所定巻数のコイル巻が終了した後,前記コイル自由端成形部における前記第1先細形状部と前記第2先細形状部の連結位置にて切断分離する,
ことを特徴とするテーパコイルばねの製造方法。」

先行技術の組合せの動機付けの存在
(ア)乙1発明と乙31発明の技術分野,内容及び課題等に照らせば,本件特許出願前に,乙1発明と乙31発明を組み合わせる動機付けが当業者
に存在した。
したがって,乙1発明において,乙31発明と組み合わせて,螺旋状コイルインサート用線材を連続してコイル製造機へと供給する工程を追加することにより,相違点1に係る本件発明の構成を想到することは当業者にとって容易であった。

(イ)また,乙1発明と乙32発明の技術分野,内容及び課題等に照らせば,本件特許出願前に,乙1発明と乙32発明を組み合わせる動機付けが当
業者に存在した。
したがって,乙1発明において,乙32発明と組み合わせて,螺旋状コイルインサート用線材を連続してコイル製造機へと供給する工程を追加することにより,相違点1に係る本件発明の構成を想到することは当業者にとって容易であった。
(4)相違点2の容易想到性
上記(3)ウのとおり,本件特許出願前に,乙1発明と乙32発明を組み合わせる動機付けが当業者に存在した。
したがって,乙1発明において,乙32発明と組み合わせて,所定巻数の
コイル巻が終了した後で,かつ第1先細形状部と第2先細形状部の連結位置において,第2先細形状部を線材から切断分離する工程を追加することにより,相違点2に係る本件発明の構成を想到することは当業者にとって容易であった。
(5)相違点3の容易想到性

上記(3)ウのとおり,本件特許出願前に,乙1発明と乙31発明を組み合わせる動機付けが当業者に存在した。
したがって,乙1発明において,乙31発明と組み合わせて,1個の螺旋状コイルインサートの切断分離後,引き続いて,螺旋状コイルインサート用線材をコイル製造機へと供給して先の螺旋状コイルインサートの製造方法と
同一工程を行い,次の螺旋状コイルインサートを製造する工程を追加することにより,相違点3に係る本件発明の構成を想到することは当業者にとって容易であった。
(6)小括
以上のとおり,本件発明と乙1発明とは相違点1ないし3において相違す
るが,本件特許出願前に,相違点1及び3に係る本件発明の構成は乙31発明を基に当業者が容易に想到でき,相違点1及び2に係る本件発明の構成は
乙32発明により当業者が容易に想到できた。
したがって,本件発明は,乙1明細書,乙31公報及び乙32公報に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明に係る特許は特許法29条2項に違反しており,同法123条1項2号に該当するので,無効とされるべきものであるから,原告は,被告に対し本件特許権を行使することができない(特許法104条の3)。〔原告の主張〕
(1)乙1発明について

乙1明細書に開示されているのは最終製品である「タングレス螺旋状コイルド・インサート」であって,「タングレス螺旋状コイルド・インサート」の製造方法については全く言及されていない。
したがって,「螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートを製造するためのワイヤ」(構成a)も,「ワイヤの長手軸に沿って所定の長さ間隔にてコイル自由端成形部が複数形成され」ている
ということ(構成b-1)も,「前記コイル自由端成形部は,互いに離間する方へとワイヤの長手軸に沿ってワイヤの外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2の凹部と有する」ということ(構成b-2)も,「螺旋状にコイル巻きされたねじ山インサート用ワイヤ」(構成b-3)
も,「前記コイル自由端成形部がコイル巻き加工時に内周側に位置するようにして」(コイル巻きを行う)ということ(構成c)も,「1個の螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートのための所定巻数のコイル巻きを行」うということ(構成d)も,「前記コイル自由端成形部における前記第1先細形状部及び第2先細形状部にて切断
分離」するということ(構成e)も,「ことを特徴とする螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートの製造方法」(構成g)
も,乙1明細書には開示も示唆もない。

本件発明の「コイル自由端成形部」は,互いに離間する方へと線材の軸線に沿って線材の外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2凹部と
を有する構成である。そして,第1先細形状部と第2先細形状部は対向した状態で互いに連結していて,それぞれの形状は互いの連結位置において最も細く,連結位置から離間する方へと連続的に太くなり,最終的には線材の外形と同じ太さになっている。
他方,乙1明細書の「コイル自由端」は,コイル巻きされたワイヤの
端部であって,ワイヤの長手軸に沿って断面が先細形状であるか,又は断面が縮小する構成である。すなわち,乙1明細書の「コイル自由端」は,互いに離間する方へと線材の軸線に沿って線材の外形へと至る第1及び第2先細形状部も,これら第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2凹部も,どちらも有さない。

したがって,乙1明細書には,本件発明の「コイル自由端成形部」が記載されていないことが明らかである。
(2)乙31発明について
乙31公報には,「ワイヤ」という語も,「ねじ山」という語も,「インサート」という語も記載されていない。乙31公報の[従来の技術]に開示
されているのは,「第5図に示すように,両端に曲げ加工された腕部(65)(66)をもつねじりコイルばね(A)を連続的に製造する場合,第6図に示すように,巻線軸(B)に線(C)を供給して巻線軸(B)の段部(B')に設けられた突起(B")と巻線軸(B)との間に線(C)を挟持し,この状態で片端の曲げ加工を施し,腕部(65)の成形をした後,巻線軸(B)
を軸方向に移動させつつ所定回数だけ回転させて所定回数のコイル状となした上,他端の曲げ加工を施して腕部(66)を形成すると共に,線(C)を
切断し,所定のねじりコイルばね(A)として巻線軸(B)から自重落下させ,続いて巻線軸(B)が軸方向の原位置に復帰移動し,次の分の線(C)が繰り出し供給され,以後前記動作を反復するねじりコイルばね(A)の製造方法(第2欄第9行ないし第3欄第7行)」である。ここに開示されたねじりコイルばね(A)の製造方法がこのように構成されているのは,ねじりコイルばね(A)の両端に腕部(65)(66)を曲げ加工する必要があるからである。
また,乙31公報には,本件発明独自の「コイル自由端成形部」の記載がない。

(3)乙32発明について
乙32公報には,「コイル自由端形成部」という語も,「第1及び第2先細形状部」という語も記載されていない。
さらに,乙32公報には,テーパコイルばねを成形する際に,テーパ付線条体のどの部分で切断するかについての記載はない。乙32公報の記載によ
れば,コイル状テーパ付線条体をターンテーブルにセットし,送りローラによってコイル状テーパ付線条体からテーパ付線条体を順次引き出し,コイルばね成形機に備えられたコイルリング用押え部材に送り込むとのことであるから,乙32公報においては,どのようにして,テーパコイルばねを製造するのかが明らかでない。

(4)組合せの動機付けについて
乙1明細書に記載された乙1発明は「タングレス螺旋状コイルド・インサート」に関するものであるのに対し,被告が引用する乙31公報の[従来の技術]に記載された乙31発明は,両端部に曲げ加工された腕(65),(66)を有するねじりコイルばねを製造する発明であり,そのために,巻
線軸(B)に供給された線Cを,巻線軸(B)の段部(B')に設けられた突起(B")と巻線軸(B)との間に挟持し,その状態で片端の曲げ加工を
施すように構成されているもので,乙31公報の請求の範囲に記載された発明ならばともかく,当業者がことさら,乙31公報の[従来の技術]に記載された技術を採り出して,乙1発明と組み合わせようという動機を抱くことはあり得ない。
また,乙32発明は,「従来の巻取設備を用いて巻取ることができ,かつ
線条体各部の曲げ応力を極力軽減することができるコイル状テーパ付線条体を提供すること」を目的とするものであって,コイル状物体の量産効率化という課題を解決する発明ではない。したがって,乙1発明と乙32発明を組み合わせる動機付けは当業者に存在しない。
(5)小括

以上のとおり,本件発明は,乙1発明,乙31発明及び乙32発明に基づいて,本件特許の出願前に,当業者が容易に発明することができたものではなく,特許法29条2項の規定に該当するものではない。
4
争点(1)エ(進歩性欠如による無効②(乙1’発明を主引例,乙31発明及び乙32発明を副引例とするもの))について

〔被告の主張〕
仮に,本件発明の構成要件B-2の「互いに離間する方へと線材の軸線に沿って線材の外形へと至る」との文言が,原告の主張するとおり,「第1先細形状部」及び「第2先細形状部」が対向していることを意味するとしても,本件発明は,以下のとおり,乙1’発明に乙31発明及び乙32発明を適用することにより,本件特許の出願日より前に当業者が容易に想到することができた発明である。
(1)乙1’発明
乙1明細書には,以下の発明(乙1’発明)が記載されている(以下,そ
れぞれの記号に従い「構成a」などという。)。
a
螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートを製
造するためのワイヤであって,
b-1

ワイヤの長手軸に沿って所定長さ間隔にてコイル自由端成形部が複数形成され,

b'-2前記コイル自由端成形部は,ワイヤの長手軸に沿ってワイヤの外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部
にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2凹部とを有する
b-3

螺旋状にコイル巻きされたねじ山インサート用ワイヤを,

c
前記コイル自由端成形部がコイル巻き加工時に内周側に位置するようにして

d
1個の螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートのための所定巻数のコイル巻きを行い

e
前記コイル自由端成形部における前記第1先細形状部と前記第2先細形状部にて切断分離し,

g
ことを特徴とする螺旋状にコイル巻きされた,ワイヤタイプのねじ山インサートの製造方法。

(2)本件発明と乙1’発明の対比
本件発明と乙1’発明を対比すると,以下の一致点で一致し,以下の相違点で相違する。

一致点
本件発明と乙1’発明は,ともに「螺旋状コイルインサートを製造するための線材であって,線材の軸線方向に沿って所定長さ間隔にてコイル自由端成形部が複数形成され,前記コイル自由端成形部は,線材の軸線に沿って線材の外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2凹部とを
有する螺旋状コイルインサート用線材を,前記コイル自由端成形部がコイル巻き加工時に内周側に位置するようにして1個の螺旋状コイルイン
サートのための所定巻数のコイル巻きを行い前記コイル自由端成形部における前記第1先細形状部と前記第2先細形状部にて切断分離することを特徴とする螺旋状コイルインサートの製造方法。」である点。

相違点
(ア)本件発明の製造方法が線材を連続してコイル製造機に供給するのに対し,乙1’発明の製造方法がかかる構成を欠く点(前記3の「相違点1」に同じ)。
(イ)本件発明の製造方法が,所定巻数のコイル巻が終了した後で,かつ第1先細形状部と第2先細形状部の連結位置において,第2先細形状部を
線材から切断分離するのに対し,乙1’発明の製造方法がかかる要素を欠く点(前記3の「相違点2」に同じ)。
(ウ)本件発明の製造方法が,1個の螺旋状コイルインサートの切断分離後,引き続いて,螺旋状コイルインサート用線材をコイル製造機へと供給して先の螺旋状コイルインサートの製造方法と同一工程を行い,次の螺旋
状コイルインサートを製造するのに対し,乙1’発明の製造方法がかかる要素を欠く点(前記3の「相違点3」に同じ)。
(エ)本件発明の製造方法が,第1及び第2先細形状部が互いに対向するという意味で「互いに離間する方へとワイヤの外形に至る」線材を使用するのに対し,乙1’発明にはかかる要素を欠く点(以下「相違点4」と
いう。)。
(3)相違点1ないし3の容易想到性
前記3の〔被告の主張〕における相違点1ないし3の容易想到性の主張のうち,「乙1発明」を「乙’1発明」と読み替え,かつ「互いに離間する方へとワイヤの外形に至る」を第1及び第2先細形状部が互いに対向するとい
う意味に解して引用する。
(4)相違点4の容易想到性

乙32公報には,「線材の軸線方向に沿って所定長さ間隔にてテーパ部及び細径平行部が複数形成され,テーパ部は,互いに離間する方へと線条体の長手軸に沿って線条体の外形へと至る第1及び第2テーパ部を有するテーパコイルばね用線材」を使用してテーパコイルばねを製造することが記載されている。

乙1’発明と乙32発明の組合せの容易性については,前記3の〔被告の主張〕における相違点1の容易想到性の主張のうち,「乙1発明」を「乙1’発明」,「相違点1」を「相違点4」とそれぞれ読み替えて引用する。(5)小括
以上のとおり,本件発明と乙1’発明とを対比すると,上記相違点1ない
し4において相違するが,本件特許出願前に,相違点1及び3に係る本件発明の構成は,乙31発明を基に当業者が容易に想到でき,相違点1,2及び4に係る本件発明の構成は,乙32発明により当業者が容易に想到できた。したがって,本件発明は,乙1明細書,乙31公報及び乙32公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,
本件発明に係る特許は特許法29条2項に違反しており,同法123条1項2号該当として無効とされるべきものであるから,原告は,被告に対し本件特許権を行使することができない(特許法104条の3)。
〔原告の主張〕
前記4の〔原告の主張〕で述べたのと同様,乙1’発明と本件発明が相違す
るのは相違点1ないし4だけでなく,「コイル自由端成形部」の有無という重大な相違点があることなどからすると,本件発明は進歩性があるというべきである。
5
争点(1)オ(進歩性欠如による無効③(乙1’発明を主引例,乙57発明及び乙32発明を副引例とするもの))について

〔被告の主張〕

(1)乙57発明
乙57報告書には,以下の発明(乙57発明)が記載されている。「コイルばね用線材を
連続してコイル製造機へと供給して
1個のコイルばねのための所定巻数のコイル巻きを行い

所定巻数のコイル巻きが終了した後,切断分離し,
引き続いて,コイルばね用線材をコイル製造機へと供給して上述の『連続してコイル製造機へと供給して1個のコイルばねのための所定巻数のコイル巻きを行い所定巻数のコイル巻きが終了した後,切断分離する』工程を行い,次のコイルばねを製造する,

ことを特徴とするコイルばねの製造方法」
(2)相違点1ないし4の容易想到性
本件発明は,乙1明細書,乙57報告書及び乙32公報に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから,いずれにしても本件特許は特許法29条2項違反により無効にされるべきも
のである。
この点,上記4の〔被告の主張〕のうち,「乙31発明」を「乙57発明」と読み替えて引用する。
〔原告の主張〕
乙57発明は一般的なコイルばねの製造に関する発明であり,乙57報告書
には本件発明独自の「コイル自由端成形部」の記載はない。
そして,前記4の〔原告の主張〕で述べたのと同様,乙1’発明と本件発明が相違するのは相違点1ないし4だけでなく,「コイル自由端成形部」の有無という重大な相違点があることなどからすると,本件発明は進歩性があるというべきである。

6
争点(1)カ(職務発明による法定実施権の有無(仮定的抗弁))について
〔被告の主張〕
仮に原告代表者が本件発明の発明者であったとしても,本件発明は被告の職務発明(特許法35条1項)に該当することになる。
すなわち,本件発明は,螺旋状コイルインサートの製造方法に関する発明であるから,性質上被告の業務範囲に属する。一方,原告代表者は,昭和52年
12月から平成12年6月まで被告の監査役の地位にあり,製品の製造又は開発に従事する被告の従業員に直接指示をするなど,事実上の取締役としても活動していたから,原告代表者が本件発明を創作したと仮定するならば,本件発明は原告代表者の被告における職務に属することになる。
したがって,原告が原告代表者から本件発明について特許を受ける権利を譲
り受けて本件特許を得たと仮定しても,本件発明は被告の職務発明であり,被告は,本件特許権について,本件発明を実施する法定通常実施権を有することになる。そうすると,原告は本件特許権を被告に行使することができない。〔原告の主張〕
否認ないし争う。「職務発明」というためには,「従業者等」がその性質上
当該使用者等の業務範囲に属し,かつ,その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属することが要求されている(特許法35条)。原告代表者は監査役であり,本件発明を発明することは原告代表者の現在又は過去の職務に属するものではないから,本件発明は「職務発明」に該当しない。

7
争点(2)ア(ア)(本訴提起の違法性)について

〔被告の主張〕
(1)冒認出願についての認識
原告は,原告代表者が本件発明の発明者でないこと及び原告が本件発明の真の発明者から特許権を承継していないことを知っていたにもかかわらず,原告代表者を発明者として本件特許の出願を行った。

また,被告のC取締役は,平成17年4月12日,原告の営業管理課長のG(以下「G課長」という。)に対し,本件特許の出願が違法な冒認出願であることを通知し,同年6月1日には関連図面を示し,本件特許の出願が違法な冒認出願であると説明した。
さらに,平成27年2月12日の原告からの通知を受けて,被告は,同年3月24日,原告に対し,本件特許が冒認出願によるものであって,特許法104条の3第1項により,原告が本件特許権を被告に行使することができない旨通知するとともに,同年5月22日付け回答書をもって,原告代表者がどのようにして本件発明に至ったかを明らかにするように求めたが,原告
は回答しなかった。
(2)先使用権の存在についての認識
原告の代表取締役である原告代表者は,C取締役からの聞き取り,被告の福島工場の製造ラインへの立入り,Eからの線材サンプルの取得等により,被告が本件発明の実施たる事業を本件特許の出願の際現に行っていることを,
その当時から知っていた。
また,被告のC取締役は,平成17年6月1日,原告のG課長に対し,関連図面を見せつつ,被告が本件発明について先使用権を有すると説明した。さらに,平成27年2月12日の原告からの通知を受けて,被告は,同年3月24日,原告に対し,被告製品の製造方法は本件特許の出願前から被告
において実施されているものであって,被告は特許法79条の先使用権を有するから本件特許権を侵害しない旨通知した。
(3)小括
以上によれば,原告は,本訴における自己の主張が事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,少なくとも通常人であれば容易に自己の主張
が事実的,法律的根拠を欠くことを知り得たといえるのに,あえて本訴を提起した。そして,原告代表者が本件特許の出願について全面的に関与してい
た以上,原告が冒認出願の事実について記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことはあり得ない(最二小判平成22年7月9日・裁判集民事234号207頁参照)。
したがって,原告による本訴の提起は,裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くものであって,違法である。

〔原告の主張〕
否認ないし争う。原告代表者は本件発明の真の発明者であり,原告は真の発明者である原告代表者から特許を受ける権利を承継しているから,本件特許は冒認出願に基づくものではない。また,被告は本件特許権につき先使用権を有してはいない。

8
争点(2)ア(イ)(被告の損害発生の有無及びその額)について
〔被告の主張〕
(1)本訴の防御のための弁護士・弁理士費用その他の費用
本訴の防御のため,被告訴訟代理人に対して被告が支払う弁護士費用及び被告補佐人に対して被告が支払う弁理士費用(消費税及び地方消費税を含
む。)は,1895万円を下らない。
また,本訴の防御のため,被告が支払う通信費,交通費及び謄写費(消費税及び地方消費税を含む。)並びに閲覧等制限の申立て,秘密保持命令申立て等の付随訴訟手続費用は,5万円を下らない。
(2)反訴のための弁護士費用

反訴の追行のため,被告訴訟代理人に対して被告が支払う弁護士費用(消費税及び地方消費税を含む。)は,100万円を下らない。
〔原告の主張〕
不知。
9
争点(2)イ(本訴の維持による不法行為)について

〔被告の主張〕

原告は,平成28年6月13日以降に直送された各乙号証により,被告に先使用権が成立し,原告の請求が棄却されることが明らかになった後も,いたずらに本訴請求を維持している。
この本訴請求の維持は,それ自体被告に対する不法行為を構成するところ,上記直送後に被告に発生した本訴代理人費用,本訴補佐人費用,本訴立替費用
及び反訴代理人費用の合計526万6380円の支払は,原告の本訴請求の維持と相当因果関係がある損害である。
したがって,原告の上記行為により発生した526万6380円の損害について,被告は独立して不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。当該請求権は,本訴の提起自体についての損害賠償請求権とは,重複する限りで請求権競
合の関係にある。
〔原告の主張〕
被告の各費用の支払は不知,その余は否認ないし争う。
第4
当裁判所の判断

1
本件発明の意義
(1)本件明細書等には,次の記載がある。

発明の属する技術分野
・「【0001】本発明は,一般には,被加工物のタップ穴に挿入して使用される螺旋状コイルインサートに関し,特に,このような螺旋状コイルインサートを製造する螺旋状コイルインサートの製造方法に関する
ものである。」

従来の技術
・「【0002】従来,アルミニウムなどの軽金属,プラスチック,木材,鋳鉄などからなる被加工物に直接タップ立てしたままでは雌ネジが
弱くて高い締め付け力が得られない場合に,信頼性の高いネジ締結を保証するべく螺旋状コイルインサートが使用されている。」

・「【0003】つまり,図4にはタング付螺旋状コイルインサート10Tを示すが,このような螺旋状コイルインサート10Tは,通常,菱形断面の,高抗張力特殊鋼線,例えば冷間加工された18-8ステンレス鋼線を円筒形のスプリング状に巻いて作製され,図5及び図6に示すように,被加工物100に形成されたタップ穴101へ,挿入工具にて
ねじ込まれて固定される。その後,ボルト20などがこの螺旋状コイルインサート10Tを雌ネジとして螺合される。このように螺旋状コイルインサート10Tを使用することにより,高いネジ締結力を得ると共に,ボルト20を繰り返し挿入したり,取り外しすることも可能となる。」・「【0004】タング付螺旋状コイルインサート10Tは,上述のよ
うに,挿入工具にてタップ穴101へとねじ込まれるので,コイル自由端には,図4に示すように,挿入工具に係止されるタングと称される,コイルの直径方向へと折り曲げられた係止片11が設けられている。このタング11は,被加工物100のタップ穴101に固定された後は,除去する必要があり,そのためにタング11が形成されたコイル自由端
に連接する第1コイル部分には切り欠き(ノッチ)8がコイルの外側側面に形成されている。」
・「【0005】このようなタング付螺旋状コイルインサート10Tは,被加工物100に装着後,上述のように,除去されたタング11を回収しなければならず,その作業が極めて煩雑であり,更には,分離された
タング11を回収し損なった場合にはこのタング11が電気的或は機械的故障を引き起こす原因となる可能性があるという理由から,図7に示すように,タング無しの螺旋状コイルインサート10が使用されることがある。」

発明が解決しようとする課題
・「【0006】タング無しの螺旋状コイルインサート10も又図5及
び図6に示すように被加工物100のタップ穴101に装着されるが,タング付螺旋状コイルインサート10Tと異なり,装着後に,除去されたタング11を回収するといった作業の必要性はない。しかしながら,図7及び図8に示すように,挿入工具30の爪31の係止を可能とするために,コイルの両側のコイル自由端先端部に形成された頭部4,5に隣接してそれぞれ工具爪係止用の凹部6,7を形成する必要がある。更に,頭部4,5は,螺旋状コイルインサート10のタップ穴装着時に,コイル自由端先端部がタップ穴を損傷することがないように,例えば線材の長手軸線方向先端へと向かって僅かに先細に縮小された先細形状に
成形されている。」
・「【0007】このような頭部4,5及び挿入工具のための凹部6,7を有した螺旋状コイルインサート10は,従来,例えば,
(1)長尺の線材の先端部をプレス加工して,所望形状の,例えば先細形状の頭部4に成形する(フォーミング)。

(2)所望形状の頭部4に隣接して,挿入工具のための凹部6をプレス加工により成形する(ノッチング)。
(3)線材を送り出しながら,上記頭部4を先頭として螺旋状コイルを作製し,所定の巻数の螺旋状コイルが形成された時点で線材を切断する。(4)切断されたコイルの端末を,上記(1),(2)と同様の加工に
より,所望形状の頭部5及び凹部7を成形する。
などといった多数の工程にて製造されている。従来,螺旋状コイルインサート10は上記諸工程にて1個づつ製造されており,生産性の点で問題があった。」
・「【0008】従って,本発明の目的は,螺旋状コイルインサートを
製造する際に使用し,螺旋状コイルインサートを極めて効率よく,連続的に製造することができ,螺旋状コイルインサートの生産性を飛躍的に
向上させることのできる螺旋状コイルインサート用線材を使用した螺旋状コイルインサートの製造方法を提供することである。」

課題を解決するための手段
・「【0009】上記目的は本発明に係る螺旋状コイルインサートの製造方法にて達成される。要約すれば,第1の本発明によると,(a)螺
旋状コイルインサートを製造するための線材であって,線材の軸線方向に沿って所定長さ間隔にてコイル自由端成形部が複数形成され,前記コイル自由端成形部は,互いに離間する方へと線材の軸線に沿って線材の外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2凹部とを有する螺旋状コイ
ルインサート用線材を,前記コイル自由端成形部がコイル巻き加工時に内周側に位置するようにして連続してコイル製造機へと供給して1個の螺旋状コイルインサートのための所定巻数のコイル巻きを行い,所定巻数のコイル巻きが終了した後,前記コイル自由端成形部における前記第1先細形状部と前記第2先細形状部の連結位置にて切断分離し,

(b)引き続いて,前記螺旋状コイルインサート用線材をコイル製造機へと供給して前記(a)工程を行い,次の螺旋状コイルインサートを製造する,
ことを特徴とする螺旋状コイルインサートの製造方法が提供される。・・・」


発明の実施の形態
・「【0012】実施例1
図1に本発明に係る螺旋状コイルインサート用線材1の一実施例を示す。本実施例によると,線材1は,例えば菱形断面の,高抗張力特殊鋼線,
例えば冷間加工された18-8ステンレス鋼線を使用することができる。」

・「【0013】本発明に従えば,図1(a)に示すように,線材1は,その長手軸線方向に沿って,製造される螺旋状コイルインサート10の寸法形状によって決定される所定長さ間隔(P)にて,コイル自由端成形部2が形成される。コイル自由端成形部2は,線材外形より縮小された断面形状とされる所定長さ(W)の連結部3と,この連結部3の両側に連接しており,且つ互いに離間する方へと線材1の軸線に沿って線材1の外形へと至る第1及び第2先細形状部4,5とを有する。この連結部3の長さ(W)は所望に応じて任意に設定することができ,場合によっては,なくすこともできる。」

・「【0014】上記第1及び第2先細形状部4,5は,同じ形状とすることができ,又,異なる形状とすることもできるが,いずれにしても,製造される螺旋状コイルインサートのコイル自由端先端部に形成される先細形状頭部と実質的に同じ形状とされる。・・・」
・「【0015】更に,コイル自由端成形部2は,上記第1及び第2先
細形状部4,5にそれぞれ隣接して形成された凹部6,7を有する。この凹部6,7は,線材1の軸線に対してほぼ垂直に形成され,螺旋状コイルインサートとされた後においては挿入工具30の爪31(図8)に係合する係止面となる平面6a,7aと,この平面6a,7aより先細形状部4,5とは反対方向へと湾曲して延在し,螺旋状コイルインサー
トとされた後においては挿入工具の爪に作用するカム面となる湾曲面6b,7bとにて画成される。つまり,この凹部6,7は,製造された螺旋状コイルインサートの頭部に隣接して形成される凹部となるものであり,実質的に螺旋状コイルインサートの凹部と同じ形状とされる。」・「【0016】上記構成のコイル自由端成形部2は,従来行われてい
る螺旋状コイルインサート10の頭部4,5及び凹部6,7を成形する時のプレス加工と同様のプレス加工(フォーミング及びノッチング)に
て成形することができる。各コイル自由端成形部2は,通常,線材1の軸線方向に沿って整列して形成される。」
・「【0017】本発明の線材1を使用して,螺旋状コイルインサート10を作製する場合には,上記コイル自由端成形部2がコイル巻き加工時に内周側に位置するようにして,線材1を連続してコイル製造機へと
供給する。コイル製造機は,通常使用されているものを使用することができ,コイル製造機へと供給された線材1は,図2(a)に示すように,その先端を,コイル製造機の把持手段で把持するか,場合によっては,把持しないで,コイル巻きされる。」
・「【0018】所定巻数のコイル巻きが終了した段階で,連結部3か
ら切断分離され,図2(b)に示すように,既に頭部4,5及び凹部6,7を備えた螺旋状コイルインサート10が製造される。1個の螺旋状コイルインサート10が製造されると,引き続いて線材1がコイル製造機へと連続的に供給され,次のコイル巻きが実施され,次の螺旋状コイルインサート10が製造される。」

・「【0019】このように,本発明の線材1を使用すると,コイル製造機へと供給される線材1には,既に頭部及び凹部が形成されているので,コイル製造機へと供給される線材1に対しては必要に応じて最少限度のコイル頭部加工を施すことが要求されるに過ぎず,従来の製造法より生産性が飛躍的に向上する。」

・「【0022】又,上記実施例にて,線材1の断面形状は菱形断面であるとしたが,本発明の線材1は,これに限定されるものではなく,矩形,円形,三角形など任意の形状とし得る。」

発明の効果
・「【0030】以上説明したように,本発明によれば,螺旋状コイルインサートを極めて効率よく,連続的に製造することができ,螺旋状コ
イルインサートの生産性を飛躍的に向上させ得る。」

図面の簡単な説明
・「【図1】図1(a)は,本発明に係る螺旋状コイルインサート用線材の一実施例を示す図であり,図1(b)は,コイル自由端成形部の拡大図である。」

・「【図2】図2(a)は,本発明に係る螺旋状コイルインサート用線材を使用して螺旋状コイルインサートを製造する方法を説明するための図であり,図2(b)は,分離された螺旋状コイルインサートを示す図であり,図2(c)は,本発明に係る螺旋状コイルインサート用線材を使用して製造された一連の螺旋状コイルインサートを示す図である。」
・「【図4】タング付螺旋状コイルインサートの斜視図である。」・「【図5】螺旋状コイルインサートの使用方法を説明する図である。」・「【図6】螺旋状コイルインサートが被加工物に装着された状態を説明する図である。」
・「【図7】タング無し螺旋状コイルインサートの斜視図である。」
・「【図8】タング無し螺旋状コイルインサートと装着工具との関係を説明する図である。」

図面

・図1

・図2

・図4

・図5

・図6

・図7

・図8

(2)以上の記載によれば,本件発明の意義は次のとおりである。従来,螺旋状コイルインサートの製造工程には生産性の点で問題があったところ,本件発明は,①所定長さ間隔で「コイル自由端成形部が複数形成」された線材をコイル製造機へ供給して,②1個の螺旋状コイルインサートのための所定巻数の「コイル巻き」をし,③コイル巻き終了後,コイル自由端成形部の連結位置にて「切断分離」し,④引き続きこれらの工程を行うこと
により,螺旋状コイルインサートを製造し,もって,その生産性を向上させるなどの作用効果を奏するものである。
2
本訴請求-争点(1)ア(原告代表者の発明者性)について
(1)特許法123条1項6号所定の冒認出願において,特許出願がその特許に
かかる発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことについての主張立証責任は,特許権者が負担すると解するのが相当であり,特許法104条の3第1項所定の抗弁においても同様に解すべきである。
本件において原告は,本件発明の真の発明者は特許公報の記載どおり原告
代表者であり,原告は原告代表者から特許を受ける権利を承継した旨主張する。これに対し,被告は,本件発明の真の発明者は被告の従業員らであり,被告の福島工場で本件発明を実施していたのであって,原告代表者は同工場を視察した際に本件発明を知得したにすぎない旨主張する。
そこで,以下,この点について検討する。

(2)前記第2,2の前提事実及び後掲の関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。

螺旋状コイルインサート
螺旋状コイルインサートには,端部に折り取りを予定したタング(本件明細書等の【図4】の11)を備えるもの(タング付き螺旋状コイルインサート)と,そのようなタングを備えないもの(タングレス螺旋状
コイルインサート)とがある。(甲4)

原告の設立
原告代表者は,昭和47年12月,被告の製造するタング付き螺旋状コイルインサート「スプリュー」の販売会社として原告を設立し,代表
取締役に就任した。以後,原告は,平成12年に至るまでの間,被告の製造したタング付き螺旋状コイルインサートを販売し,自ら螺旋状コイ
ルインサート等の製造を行うことはなかった。(甲1,11,乙21~24)

原告代表者の監査役就任
原告代表者は,昭和52年12月,被告の監査役に就任した。(前記第2,2)


被告におけるタングレス螺旋状コイルインサートの製造
米国のレックスノルド社は,被告に対し,タングレス螺旋状コイルインサート「コイルスレッドⅡ」の製造を打診し,昭和59年5月,その設計図面を被告に交付した。(乙3)


FCM-Iの開発
被告は,レックスノルド社からの依頼を踏まえ,タングレス螺旋状コイルインサート製造装置の開発に着手し,昭和60年3月頃までにプロトタイプ試作機としてFCM-Iを開発した。タングレス螺旋状コイルインサートの製造方法としては,加工された線材をコイル巻きした後に切断する方法(本件発明の製造方法)と,線材を切断した後にコイル巻
きをする方法が選択肢として考えられるところ,被告は後者の方法を採用してFCM-Iを製作したが,同装置は,製品の歩留まりという量産上の課題を解決することができなかった。(乙4~14(枝番を含む。),19,20,88,133,138,証人H)

FCM-A~Cの開発
そこで,被告は,新たな製造装置を開発することとし,昭和61年頃,加工された線材をコイル巻きした後に切断する方法を用いたFCM-Aを開発し,その後,昭和62年から昭和63年にかけて,口径のより大きいタングレス螺旋状コイルインサートを製造するための装置として,
FCM-Aの姉妹機種であるFCM-B及びCを開発した。(乙15,17~19(枝番を含む。),69~72(枝番を含む。),76,8
2,88,92~96(枝番を含む。),99,132,133,138,証人H)

タングレス螺旋状コイルインサートの販売
被告は,その後,福島工場においてFCM-A~Cによるタングレス螺旋状コイルインサートの製造を開始し,遅くとも平成3年3月までに
はレックスノルド社への輸出を始めた。(乙16,19,43~45,77)

原告代表者の福島工場の訪問
原告代表者は,被告の監査役の地位にあった当時,被告の福島工場をしばしば訪問していた。(争いのない事実)


FCM-A~Cの英国への移管
被告は,平成7月11日,アドバネクス・ヨーロッパ・リミテッド(当時の商号はカトー・プレシジョン(U.K.)リミテッド)にFCM-Aの5号機及びFCM-Cの1号機等を福島工場から移管した。(乙40の1及び2,乙41,42)


本件特許の出願前の状況
被告は,平成10年頃,需要が拡大する米国市場向け及び国内での販売準備のため,ケイナー社との間で全世界を許諾範囲とする実施許諾契約の締結に向けた交渉を進めるとともに(平成11年4月13日に同契
約締結),被告自らが国内でタングレス螺旋状コイルインサートを販売するため,その販売を原告に依頼したが,原告代表者は,タング付き螺旋状コイルインサートの在庫が陳腐化することを恐れてタングレス螺旋状コイルインサートを取り扱うことに消極的であり,その取扱いをする場合には独占的な販売権を付与するように求めた。しかし,被告は原告
にタングレス螺旋状コイルインサートの独占的な販売権を与えることには応じなかったため,原被告間の交渉は進展しなかった。

このため,被告は,アキュレイト社と提携をすることとし,アキュレイト社は,平成11年4月に被告が製造するタングレス螺旋状コイルインサートが掲載されたカタログを展示会で配布した。これに対し,原告代表者は,同年5月17日頃,被告に抗議した。
(甲12,13,乙55の1及び2,56,82,126~131)

原告代表者の出願
原告代表者は,平成11年5月,D弁理士に対し,原告の代表者として本件特許の出願を委任した。D弁理士は,同年6月,原告の代理人として本件特許を出願した。(甲4,6,甲7の1及び2,甲10)なお,本件特許の出願時の特許請求の範囲の請求項1は「螺旋状コイ
ルインサートを製造するための線材であって,線材の軸線方向に沿って所定長さ間隔にてコイル自由端成形部が形成され,前記コイル自由端成形部は,互いに離間する方へと線材の軸線に沿って線材の外形へと至る第1及び第2先細形状部と,前記第1及び第2先細形状部にそれぞれ隣接して形成された第1及び第2凹部とを有することを特徴とする螺旋状
コイルインサート用線材」というものであり,請求項1から7までに物に関する発明が記載されていた。その後,平成18年12月4日付け手続補正書により,請求項8以降に製造方法の発明が記載された。しかし,平成19年5月23日付け手続補正書により請求項1から7までは削除され,いずれの請求項も方法の発明に係るものとされた。(乙49~5
4)

本訴提起に至るまでの状況
(ア)原告と被告は,本件特許の出願後の平成12年3月,被告が原告に対してタング付き螺旋状コイルインサートの加工機械を売却し,タング
レス螺旋状コイルインサートについては原告が被告の卸元の一つになることに合意した。これにより,原告はタング付き螺旋状コイルイン
サートの製造を行うことになったが,その技術指導は生産が軌道に乗るまでの間,被告が行うこととされた。(乙23)
(イ)原告は,平成27年2月10日付け依頼書(乙34)により,被告に対し,被告製品の製造方法が本件特許の侵害の疑いがある旨の通知を行った。これに対し,被告は,同年3月23日付け回答書(乙35の
1及び2)により,原告に対し,本件特許は冒認出願に係る無効な特許であることなどを指摘した。
(ウ)

原告は,平成27年11月10日,本訴を提起した。

(3)上記(1)のとおり,原告は,本件発明の真の発明者は原告代表者である旨主張している。
しかし,本件において,原告からは,発明の際に通常作成されるべきメモ,ノート,業務日誌,設計図面その他の書面は一切提出されていないのであって,原告代表者が発明者であることを直接裏付ける客観的な証拠は存在しない。
この点に関し,原告は,被告の製造するタングレス螺旋状コイルインサー
トについてどうしたら生産性を上げられるか考え悩むうちに,コイル巻き工程とプレス加工の別々の工程に分けたらどうかという考えが「ひらめいた」などと主張し,原告代表者の陳述書(甲11)にも同旨の記載があるが,以下のとおり,同供述は採用することができない。

原告代表者の知識,経験等について
まず,原告代表者自身の陳述書(甲11)によれば,原告代表者は普通高校を卒業後,本件特許の出願当時まで螺旋状コイルインサートの販売事業に従事した経験を有するのみであって,螺旋状コイルインサートの設計や製造に関わった経験はないものと認められ,螺旋状コイルイン
サートに関して原告代表者を発明者とする特許出願や原告が執筆した論文等も存在しない(乙25の1及び2,乙26)。

また,原告代表者自身,本人尋問において,タングレス螺旋状コイルインサートの技術については「素人なので一切知らない」旨の供述をしているとおり(原告代表者〔本人調書8頁〕。以下,同様に本人調書の該当頁を併記する。),原告代表者がタングレス螺旋状コイルインサートに関して専門的な知識を有していたことはうかがわれない。

さらに,前記(2)イのとおり,原告は,平成11年当時,被告の製造する製品の販売会社にすぎず,螺旋状コイルインサートの製造設備や実験設備を有していたとは認められない。
したがって,そもそも,原告代表者に本件発明を着想し,これを具体化するだけの知識,経験及び環境が備わっていたといえるのか,疑問が
ある。

発明の動機について
原告は,原告代表者が被告の製造するタングレス螺旋状コイルインサートについてどうしたら生産性を上げられるか考え悩んでいたことが本
件発明の動機であると主張する。
しかし,原告代表者の供述によれば,被告の製造するタングレス螺旋状コイルインサートの生産性が低いという認識を持ったのは,被告の営業担当者と飲食を共にしたときに聞いたというのみであり,原告代表者は,上記営業担当者の氏名は供述せず,そのような話を聞いた際の具体
的な状況についても明らかにしない。
しかも,原告代表者は,生産効率の低さを聞いたのは本件特許の出願後だと思うとも供述し(原告代表者〔16,17頁〕),また,生産効率の低さを聞いていたとしながらも,これを改善する方策を検討するに当たり,被告にどのような問題があって,実際にどのように生産してい
たかという点を「調べてない」と供述している(原告代表者〔20頁〕)。

以上のとおり,本件発明の動機に関する原告代表者の供述は抽象的で不自然な点が多く,被告のタングレス螺旋状コイルインサートの生産性の向上が本件発明の動機であったと認めることはできない。

従来技術について
原告代表者は,その陳述書(甲11)において,本件発明の従来技術
は,①まず,線材の先端部をプレス加工して先細形状を成形し,続いてこれに隣接して凹部をプレス加工により成形する,②次に,この線材をコイル製造機に送り込みながらコイル巻きを行い,所定の巻数に巻いたら線材を切断する,③最後に,切断したコイルの末端を上記①と同様にプレス加工して,先細形状と凹部を形成する,というものであったと陳
述する(原告の出願に係る本件明細書等の段落【0007】も同旨)。しかし,従来技術として実際に上記の工程によりタングレス螺旋状コイルインサートが製造されていたことをうかがわせる客観的証拠は見当たらない。そもそも,コイル巻きを終えて線材を切断(上記②)した後に,切断したコイルの末端をプレス加工して先細形状と凹部を形成する
(上記③)という工程は,コイル巻きを終えた後の形態(本件明細書等の【図7】参照。なお,同図の4又は5が「先細形状」,6又は7が「凹部」)や製品のサイズ(乙90,98の1~5)に照らすと,技術的には実施が困難であると考えられる(証人H〔8頁〕)。
そして,原告代表者自身も,陳述書に記載した従来技術は「想像」に
よるものであると供述するに至っている(原告代表者〔14頁〕)。以上のとおり,本件発明の前提となる従来技術についての原告代表者の供述が事実と合致すると認めることはできない。

発明を着想した具体的状況について
原告代表者は,本件発明を着想した具体的状況に関し,その陳述書(甲11)において,「どうしたら生産性を上げられるか,考え悩むう
ちに,コイル巻き工程とプレス加工を別々の工程に分けたらどうか,という考えがヒラメキました。」と陳述するが,本人尋問においては,上記の考えがひらめいたという点についても「よく覚えてない」と供述し,コイル巻き工程とプレス工程が分けられると思ったかどうかも今は記憶がはっきりしないと供述している(原告代表者〔18頁〕)。

しかし,発明者がその着想の具体的状況について記憶していないというのは不自然であり,また原告の陳述書の記載内容も漠然としたものにとどまるのであって,原告代表者が本件発明を着想したという点については疑問があるといわざるを得ない。

本件特許の出願の際の状況について
原告代表者は,D弁理士には線材の図面を渡しておらず,そもそもそのような図面はなかった(原告代表者〔7頁〕),線材に限らず,本件発明に関して何らかの図面を作成したことはなかった(同〔9頁〕)と供述するが,本件発明のような物の製造方法の発明につき,何らの図面も作成することなく発明に及んだものとは考え難い。

また,原告代表者は,D弁理士に出願を依頼した際の具体的な状況について,線材を渡して特許出願を検討して下さいと伝えたのみで,原告代表者から出願の理由や発明の内容について一切説明したことはなく,同弁理士からも質問などはなかったと供述するが(原告代表者〔23,24頁〕),特許出願を依頼する者の対応としては不自然といわざるを
得ない。

線材の試作品について
原告代表者は,本件発明を着想した後,同発明に係るプレス加工済みの線材等の試作を三晃のB社長に依頼した(原告代表者〔4頁〕),試
作に要した金型代300万円は原告代表者が自己負担した(同〔7頁〕)などと供述する。

しかし,B社長に依頼した時期や具体的な状況について,原告代表者は「覚えてない」と供述し(原告代表者〔25頁〕),上記金型についても作成後に紛失し,原告代表者自身は見ていないと供述しているのであり(同〔7頁〕),上記のとおり三晃が線材等の試作を行ったという事実があるとしても,それが原告代表者自身の着想に基づくものという
ことはできない。

以上のとおり,本件発明を「ひらめいた」とする原告代表者の供述には曖昧で不自然な点が多く,本件発明の発明者が原告代表者であるとは考え難い。

(4)被告は,①本件発明(「コイル自由端成形部が複数形成」された線材をコイル製造機へ供給して「コイル巻き」をした後に「切断分離」するという製造方法)は本件特許の出願前から被告の福島工場で実施されており,②原告代表者は同工場を視察し,本件発明を知得したと主張しているため,以下,これらの主張について検討する。


本件特許の出願前からの被告における実施(上記①)(ア)被告によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造について,被告の技術者であるHは,概要,以下の証言をしているところ(証人H〔1~6頁〕。乙138の陳述書も同旨),この証言自体に特段不自然,不合理な点は見当たらない。

「被告は,昭和58年頃,レックスノルド社からタングレス螺旋状コイルインサートの量産を依頼され,製造方法として,加工された線材をコイル巻きした後に切断する方法〔判決注:本件発明の製造方法〕と,線材を切断した後にコイル巻きをする方法を考えた。当初は後者の方法を採用しようとし,まず既存の機械であるVRA-10Dを改造し,次に
新規にFCM-Iを開発しようとしたが,製品の歩留まりが悪かったことから,前者の方法を採用して新たな製造装置を開発することとして,
昭和61年頃にFCM-Aを開発した。」
(イ)また,被告の福島工場に勤務していたEは,概要,以下の証言をしているところ(証人E〔1~3頁〕。乙132の陳述書も同旨),この証言自体にも特段不自然,不合理な点は見当たらない。
「FCM-Aは昭和61年頃から福島工場に配置されていた。このFCM-Aでは,線材に抜き潰し加工を行い,これを巻き加工機に投入して,タングレス螺旋状コイルインサートを製造していた。」
(ウ)そして,被告は,昭和61年7月14日付けカム線図(乙69の1。以下「乙69の1カム線図」という。),同年8月8日付け設計図(以
下「乙71設計図」という。)及び同月7日付け設計図(以下「乙72設計図」という。)を提出する。
a
乙71設計図
被告は,乙71設計図はFCM-Aの抜き潰し加工ユニットの設計図であると主張する。
そこで検討するに,乙71設計図には,名称欄に「コイルスレッド
Ⅱ」,「No.4-40-2D」及び「FCM-A」,図番欄に「抜キ潰シ型」との記載がある。そして,設計図の上部にはパンチング部材様の図があり,設計図の下部にはこれと同等の形状のダイプレート様の図があるところ,これらは抜き加工手段であると推認される。また,図面の左部には円の中心で十字に直行するように表示された2対
4点の柱状の部材の図は,潰し加工手段であると推認される。
b
乙72設計図
被告は,乙72設計図はFCM-Aのコイル巻き及び切断ユニットの設計図であると主張する。

そこで検討するに,乙72設計図には,名称欄に「コイルスレッドⅡ」,「No.4-40-2D」及び「FCM-A」との記載がある。
そして,設計図の中央部には線材が1巻き以上巻かれた形で図示されており,その右上部にはコイル巻き用の芯材(乙95参照)の図があって,これらはコイル巻き加工手段であると推認される。また,設計図の中央部には一対のカットツールが配置されており,その左下部には対向するカットツールがコイル巻きされた部分を線材本体から切断
分離する状態が図示されている。
c
乙69の1カム線図
被告は,乙69の1カム線図は乙72設計図に係る切断等の制御のためのカム線図であり,一連の工程が連続して繰り返されることが表されていると主張する。

そこで検討するに,乙69の1カム線図には,FCM-Aとの記載はないものの,名称欄に「コイルスレッドⅡ」及び「No.4-40」という乙71設計図及び乙72設計図と同様の記載がある。そして,同カム線図には,カットツール(C2,C3)による線材の切断動作が,巻き芯中のチャックの移動(C7)に連動し,切断完了後にチャ
ックによる把持(C6)がされる旨の記載があって,上記動作が繰り返されることがうかがわれる。
d
以上のとおり,被告の提出する上記各図面の記載は,昭和61年当時に被告において本件発明を実施していたとの被告の主張と矛盾せず,
むしろこれに沿うものであるということができる。
(エ)加えて,被告は,上記①の点につき,平成27年12月1日撮影に係る動画2本(乙17の1,乙18の1)を提出するところ,確かに,これらの各動画には,「型式FCM-A」,「取得年月86年(昭和61年)9月30日」,「(株)加藤スプリング製作所〔判決注:被告の旧
商号〕福島工場」との銘板が付された機械(乙17の1)及び「型式FCM-C」,「取得年月88年(昭和63年)2月29日」,「(株)
加藤スプリング製作所福島工場」との銘板が付された機械(乙18の1)において,コイル巻き後に切断分離する方法によるタングレス螺旋状コイルインサートの製造場面が撮影されている。
上記場面の撮影時期は平成27年12月であるが,上記各機械について製造方法に関する構成が大きく変えられたことをうかがわせる証拠
はないことなどに照らすと,上記各証拠(乙17の1及び2,乙18の1及び2)は,昭和61年当時に被告において本件発明が実施されていたことを裏付けるものであるということができる。
(オ)

以上によれば,被告は,昭和61年頃,加工された線材をコイル巻
きした後に切断する方法を用いたFCM-Aを開発し,タングレス螺旋
状コイルインサートを製造するなどして,本件発明に係るタングレス螺旋状コイルインサートの製造方法を実施していたと認めることができる。イ
原告代表者による福島工場の視察(上記②)
(ア)上記②の点については,被告の福島工場に勤務していたEが,概要,
以下の証言(証人E〔4~7頁〕)及び陳述(乙132)をしているところ,この証言及び陳述自体に特段不自然,不合理な点は見当たらない。「原告代表者は,被告の監査役をしていた当時,福島工場にも何度か訪れていた。正確な日付は覚えていないが,平成7年よりも前に,原告代表者がタングレス螺旋状コイルインサートの製造ラインの視察に来た。
その際,原告代表者の希望により,抜き潰し加工済みの線材の端材を渡した。
その後,平成10年頃になり,原告代表者から抜き潰し加工の入った線材を見せられた。以前渡した端材の稚拙なコピーだと思った。原告代表者は,被告で線材を加工するのではなく,あらかじめ加工済みの線材
を購入してタングレス螺旋状コイルインサートを製造したらどうかなどと言って,加工済み線材の売り込みを行ってきた。」

(イ)これに対し,原告は,原告代表者が被告の福島工場にしばしば訪問していた事実は認めつつも,その理由は,コイルの梱包箱と中身が一致しないとのクレームへの対応のため箱詰め作業を担当していた女性パート従業員を交代させることが目的であったのであり,タングレス螺旋状コイルインサートの製造ラインには立ち入っていない旨主張する。
しかし,監査役が工場をしばしば訪問しながら,その製造ラインを一度も視察せず,同工場の担当者等から製造方法の説明を一切受けていないとは考え難い。この点については,原告代表者自身,本人尋問において,製造ラインに立ち入ったことは「ない」と供述しつつも,他方で
「スプリューの製造装置の製造方法は見ている」とも供述しているところ(原告代表者〔11頁〕),同一の工場に設置された「スプリュー」すなわちタング付き螺旋状コイルインサートの製造装置は見ていながらタングレス螺旋状コイルインサートの製造装置を見ていないとの上記供述は不自然といわざるを得ない。

(ウ)また,原告は,原告代表者が線材の端材を受領した事実もないと主張し,原告代表者も,本人尋問において,三晃のB社長に線材等の試作を依頼した際(前記(3)カ)には,Eから受領した線材の端材ではなく,被告製のタングレス螺旋状コイルインサートをアキュレイト社から国内で買って渡した旨供述する(原告代表者〔9,10頁〕)。

しかし,証拠(乙129,131)によれば,本件特許の出願前において,アキュレイト社が国内で被告製のタングレス螺旋状コイルインサートを販売した事実はないものと認められるのであって,原告代表者の上記供述はにわかに採用し難い。
(5)以上によれば,本件発明をしたとの原告代表者の供述は採用することがで
きず,他に原告代表者が本件発明の発明者であることを裏付けるに足りる客観的証拠も見当たらない。そして,被告の従業員らが本件発明をし,福島工
場においてこれを実施していたとのH及びEの証言自体に不自然な点はなく,これに沿う客観的証拠も存在すること,原告代表者が被告の福島工場以外の場所において本件発明を知得したことをうかがわせる事情もないことなどを総合考慮すれば,本件特許の出願前の時点で,被告の福島工場において既に本件発明が実施されており,原告代表者はこれを知得した上で本件特許を出願したものというべきである。
したがって,本件においては,原告代表者が本件発明の発明者であることは認めるに足りないのであって,原告が本件発明の発明者から特許を受ける権利を承継したものということはできない。

(6)この点に関し,原告は以下のとおり主張するが,いずれも採用することができない。

まず,原告は,被告からはFCM-Aの組立図が提出されておらず,複数のコイル自由端成形部が形成された線材の図面も提出されていない上,提出されている各種の図面からはFCM-Aが本件発明を実施する装置であることを認めることはできない旨主張する。

しかし,被告の提出した図面自体から本件発明の実施を直接読み取ることができるか否かはともかくとしても,同図面の記載が,被告において本件発明を実施していたとの被告主張と矛盾せず,これに沿うものであることは上記(4)ア(ウ)に説示のとおりであり,また,上記(4)ア(エ)の動画においてもコイル巻き後に切断分離する方法によるタングレス螺旋
状コイルインサートの製造場面が撮影されていることなどに照らすと,前記(2)カのとおり,FCM-Aは加工された線材をコイル巻きした後に切断する方法を用いたものと認めるのが相当であり,原告の上記主張は採用することができない。

次に,原告は,HはFCM-Iの開発から約1年後にFCM-Aを開発したと証言しているところ(証人H〔5頁〕),被告の工場財団目録
(乙19)には,FCM-Iの製造年月が「昭和61年7月」,FCM-Aの製造年月が「昭和61年9月」と記載されており,「1年後」に開発したとするHの上記証言と矛盾するなどと主張する。
しかし,被告は,上記工場財団目録の製造年月は固定資産計上月であり,FCM-Iの「昭和61年7月」との記載は資産計上の契機となっ
た改造年月であって,実際の製造時期はそれよりも相当前であると説明するところ,確かに,被告の固定資産台帳(乙20)には,FCM-Iの昭和61年7月31日欄に「ガイドセンサー部改造」及び「チャック部〃〔判決注:改造〕」との記載がある。
したがって,FCM-Iの開発自体は昭和61年7月よりも遡ること
がうかがわれるし,この点をもってHの証言全体の信用性が欠けるということもできないのであって,原告の上記主張は採用することができない。

また,原告は,Eの証言を前提とすれば,原告代表者が線材の端材を受け取ったのは平成7年11月1日より前であり(乙132参照),原告が本件特許を出願したのは平成11年6月16日であるから,原告は3年7か月以上も本件特許を出願せずに放置していたことになり,不自然である旨主張する。
しかし,Eは線材の端材の交付時点で原告代表者が既に特許出願を決
意していたと証言するものではなく,端材の受領から3年7か月以上経ってから本件特許が出願されたとしても,そのことから直ちにEの証言の信用性が低いということはできない。
なお,原告は,Eの陳述書(乙76)には平成10年6月までにFCM各機が福島工場から英国子会社に移管された事実が記載されておらず,
したがってEの証言には信用性がないなどとも主張するが,上記の記載がされていなかったことはEの証言の信用性を左右するものではない。
したがって,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。(7)以上のとおり,原告が本件発明の発明者から特許を受ける権利を承継したものということはできないのであるから,本件特許は,その発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたものとして,特許法123条1項6号所定の無効理由を有する。

したがって,原告は被告に対して本件特許に基づく権利行使をすることができないから(特許法104条の3第1項),その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がない。
3
反訴請求-争点(2)ア(ア)(本訴提起の違法性)及び同(イ)(被告の損害発生の有無及びその額)について
(1)本訴提起の違法性
訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのこと
を知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁,最高裁平成7年(オ)第160号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号85頁参照)。
本件においてこれをみるに,原告の本訴請求は理由がないところ,前記2(5)に説示したとおり,原告代表者は福島工場において本件発明を知得した上,本件特許を出願したものといわざるを得ないのであって,原告による本件特許の出願は冒認出願であったというべきである。
そして,本件特許の出願をD弁理士に依頼したのは原告代表者自身であり,
被告の福島工場を訪れたのも原告代表者自身であって,本件特許の出願については原告代表者が主体的に関わったものと認められることなどによれば,
原告代表者が記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをして本件特許出願に及んだということもできない。
加えて,原告が本訴提起前に被告から本件特許の出願が冒認出願であるとの指摘を受けながらあえて本訴提起に及んだと認められることは,前記2(2)シ(イ)及び(ウ)記載のとおりである。
そうすると,本訴請求において原告の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることはもちろん,原告が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したというべきであるから,本訴の提起は裁判制度の趣旨目的に照ら
して著しく相当性を欠くものと認められるといわざるを得ない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告による本訴の提起は被告に対する違法な行為というべきである。
(2)被告の損害発生の有無及びその額

本訴の防御のための弁護士・弁理士費用その他の費用
証拠(乙58~68,101~107,122~125,134~1
37,142~143,152~154(いずれも枝番を含む。))によれば,被告は,本訴事件に応訴するため,弁護士との間で訴訟代理の委任契約を締結するとともに,特許業務法人との間で補佐人の委任契約を締結し,相当額の報酬額を負担したほか,郵送料,謄写費用その他各種手続費用を負担したことが認められるところ,本訴の事案の内容,訴
額,審理の経過及び期間,立証の難易度その他本件に現れた諸般の事情に照らすと,このうち原告の不法行為と相当因果関係のある費用は500万円と認めるのが相当である。

反訴のための弁護士費用
反訴の事案の内容,経過,認容額その他本件に現れた諸般の事情に照らすと,反訴提起のための弁護士費用のうち50万円を原告に負担させ
るのが相当である。
4
結論
よって,原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,被告の反訴請求は,原告に対し,不法行為に基づき550万円及びこれに対す
る不法行為の日(本訴提起の日)である平成27年11月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容することとし,その余の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達文
裁判官

瀬孝
裁判官

勝又来未子
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