判例検索β > 平成27年(ワ)第8736号
特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成27(ワ)8736
事件名特許権侵害行為差止等請求事件
裁判年月日平成30年2月15日
法廷名大阪地方裁判所
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平成30年2月15日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成27年(ワ)第8736号

特許権侵害行為差止等請求事件

口頭弁論終結日平成29年11月20日
判決原告
株式会社ジェイ・エム・エス

同訴訟代理人弁護士

波瀬文夫同白波瀬文吾
同訴訟代理人弁理士

池内寛幸同白若月節子被告
ニプロ株式会社

同訴訟代理人弁護士

岩坪同速見主1哲禎祥文
被告は,別紙物件目録記載の経腸栄養注入セットを輸入し,製造し,販売し,販売の申出をしてはならない。

2
被告は,別紙物件目録記載の経腸栄養注入セットを廃棄せよ。

3
被告は,原告に対し,4098万0364円及びこれに対する平成28年12月31日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4
原告のその余の請求を棄却する。

5
訴訟費用は,これを5分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

6
この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項,2項同旨
2被告は,原告に対し,1億5544万9450円及びこれに対する平成28年12月31日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。第2事案の概要等
本件は,発明の名称を「医療用軟質容器及びそれを用いた栄養供給システム」とする後記本件特許権1,2を有する原告が,被告による別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の製造等が本件特許権1,2の侵害行為であると主張して,
被告に対し,被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として,損害金1億5544万9450円(弁護士及び弁理士費用相当の損害1400万円を含む。)及びこれに対する本件の対象とする不法行為の最後の日である平成28年12月31日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1判断の基礎となる事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
原告及び被告は,
いずれも医療機器や医薬品の製造・販売等を行う株式会社である。(2)原告の特許権(本件特許権1)

ア原告は,以下の特許に係る特許権を有している(以下,この特許を「本件特許1」といい,その特許に係る特許権を「本件特許権1」,その明細書を「本件明細書1」といい,その請求項1の発明を「本件発明1」という。)。
特許番号
発明の名称

第5661331号
医療用軟質容器及びそれを用いた栄養供給システム

出願日

平成22年5月17日(特願2010-113460号)

優先日

平成21年5月18日(以下「本件優先日」という。)
登録日

平成26年12月12日

特許請求の範囲
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成さ開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部材と,前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
前記可撓性袋部材の両主面の各々に
前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁
部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記
開口部の開口状態を維持できることを特徴とする医療用軟質容器。イ本件発明1は,以下の構成要件に分説するのが相当である。
A
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成
され,
B開閉式の開口部と,
C経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,D
少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋
部材と,
E前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
F
前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から
片手の指を挿入するための,
上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに
固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,
G
前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前
記開口部の開口状態を維持できること
Hを特徴とする医療用軟質容器。
(3)原告の特許権(本件特許権2)
ア原告は,以下の特許に係る特許権を有している(以下,この特許を「本件特許2」といい,その特許に係る特許権を「本件特許権2」,その明細書を「本件明細書2」といい,その請求項1の発明を「本件発明2」という。なお,本件特許2は本件特許1と併せて「本件特許」,本件発明2と本件発明1の発明を併せて「本件発明」ともいい,また本件明細書1,2の記載内容の共通部分は,単に「本件明細書」として引用することもある。また,本件発明1,2の実施例の図面は,本判決に添付する本件特許1の公開特許公報である特開2011-78737号公開特許公報(乙2の1)に記載のとおりである。)。なお,本件特許2は,本件特許1の分割出願に係る特許である。
特許番号
発明の名称

医療用軟質容器及びそれを用いた栄養供給システム

分割の表示

第5765408号

特願2010-113460(P2010-113460)の分

出願日
原出願日
平成25年12月2日(特願2013-248963号)
平成22年5月17日

登録日

平成27年6月26日

特許請求の範囲
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより

成さ開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部材と,前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持でき,前記可撓性袋部
材の両側部のうちの,前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の主面との間に前記片手の指が挿入される側の側部の辺が曲がっていることによって,前記可撓性袋部材の前記開口部の幅が前記収容部の幅よりも狭くなっていることを特徴とする医療用軟質容器。
イ本件発明2は,以下の構成要件に分説するのが相当である。
A’
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,
B’開閉式の開口部と,
C’経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,D’
少なくとも一方の主面に液状物の量を示す目盛りが表示された平袋状の可撓性袋部材と,

E’前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
F’
前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための上縁部及び下縁部が固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部は,各々,前記開口部に固定されており,G’
一方の前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の一方の主面との間に挿入した前記
片手の指の親指と,
他方の前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の他方の主面との間に
挿入した前記片手の指の親指以外の指とを開くことにより前記開口部の開口状態を維持でき,
I’前記可撓性袋部材の両側部のうちの,前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の主面との間に前記片手の指が挿入される側の側部の辺が曲がっていることによって,前
記可撓性袋部材の前記開口部の幅が前記収容部の幅よりも狭くなっているH’ことを特徴とする医療用軟質容器。
ウ本件発明1と本件発明2の関係
本件発明2は,本件発明1にない構成要件I’が付加されているが,構成要件A’ないしE’H’

は本件発明1の構成要件AないしE,
Hと同一であり,
構成要件F’

は,本件発明1の構成要件Fと表現振りが異なるだけであって実質的に同一であり,構成要件G’
についても本件発明1の構成要件Gと被告製品との対比において問題にすべき相違点はない。
(4)被告の行為
ア被告は,平成25年12月以降現在に至るまで,別紙物件目録記載の物件(以下,併せて「被告製品」といい,同目録の品番・規格の番号に従い「被告製品1ないし同7」という。)を,業として輸入し,販売している。被告製品すべてに,別紙目盛り説明図において
「斜め目盛り」
と記された目盛り(以下「斜め目盛り」という。)
があり,被告製品3ないし7には,そのほか,別紙目盛り説明図において「水平目盛り」と記された目盛り(以下「水平目盛り」という。)がある。
イ被告製品は,
原告が製造販売している本件発明の実施品と市場において競合し

ている。
2争点
(1)被告製品は本件発明1,2の技術的範囲に属するか(文言侵害)(2)被告製品は本件発明1,2の技術的範囲に属するか(均等侵害)(3)無効の抗弁の1(乙13発明を主引例とする進歩性欠如)

(4)無効の抗弁の2(乙7発明を主引例とする進歩性欠如)
(5)無効の抗弁の3(乙28発明を主引例とする進歩性欠如)
(6)無効の抗弁の4(乙29発明を主引例とする進歩性欠如)
(7)無効の抗弁の5(補正要件違反)
(8)無効の抗弁の6(サポート要件違反の1)

(9)無効の抗弁7(サポート要件違反の2)
(10)

原告の受けた損害の額

第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(被告製品は本件発明1,2の技術的範囲に属するか(文言侵害))(原告の主張)
(1)被告製品の構成要件の充足について
被告製品の構成は,
別紙本件発明の対比表の原告主張イ号物件欄記載のとおりであ
り,構成aないしhは,本件発明1の構成要件AないしH,本件発明2の構成要件をA’ないしH’をそれぞれ充足し,構成iは本件発明2の構成要件I’を充足するから,被告製品は,いずれも本件発明1,2の技術的範囲に属する。(2)構成要件F,F’の充足について
ア「可撓性袋部材」及び「開閉操作部」について
(ア)被告製品における「可撓性袋部材」の部位について
被告製品における「可撓性袋部材」は,ジップの下方では軟質プラスチックシートであり,
軟質プラスチックシートが外側と内側が溶着され二重になっているジップの上方では,
内側のシート状部材が
「可撓性袋部材」
である(別紙可撓性袋部材の説明図

(原告主張)に青色部分で示す部分)。そして,被告製品は,ジップ下方に存在する軟質プラスチックシート
(一重)
及びジップ上方に存在する軟質プラスチックシート
(二
重)の内側でもって可撓性袋部材を構成し,下方の軟質プラスチックシートが液状物を収納する「収用部」となっている。
本件発明は医療用軟質容器に関するものであるから,液状物の注入の際に液状物が
通過する内側のシート状部材が「可撓性袋部材」である。被告は,ジップ上方の外側のシート状部材が「可撓性袋部材」であるとするが,同部材には穴(略半円状に切り込んだ指挿入口)が開けられて内容物が外へ漏れる構成となっているのであり,容器たる「可撓性袋部材」の機能を果たし得ない。
(イ)「開閉操作部」について

被告製品のジップ上方の軟質プラスチックシート(二重)の外側に,「切り込み・舌
片・挿入口」を設けている部分が「シート状の1対の開閉操作部」である。被告製品のシート状開閉操作部は上縁部及び下縁部が軟質プラスチックシートの可撓性袋部材に固定されており,
被告製品の外側のプラスチックシート
(1a,
1b)
のジップより上方部分は手の指を入れるポケット部となっている。そして,このポケ
ット部に手の指を入れて開くと,
「内側シート」が一緒に開くから,前記「内側シー
ト」が本件発明の構成要件B,B’の「開閉式の開口部」に該当し,「外側シート」が
本件発明の構成要件F,Fの’
「固定された1対のシート状の開閉操作部」に該当す
る。
(ウ)「可撓性袋部材」及び「開閉操作部」についての予備的主張「片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み」の文言解釈として,可撓性袋部材そのものに指を挿入するための孔を開けて形成した開閉操作部を可撓性袋部材に含ませる構成も,構成要件Fの一態様と解釈し得る。
そうすると,
上部の外側シートが可撓性袋部材であるという被告の主張を前提としても,被告製品においては外側シートが「可撓性袋部材」であるとともに,外側シー
トは孔から指を入れて袋の開閉操作をする機能を有しているから,「開閉操作部」で
もあるということになる。
(エ)被告の主張について
a被告は,
被告製品における外側の2枚の軟質プラスチックシート部材はジップの上下方向で分割されていたり,異種の別部材となっていたりするわけでもないから,
当該軟質プラスチックシート部材全体から構成される部分が「可撓性袋部材」であると主張する。
しかし,被告製品のどこが「可撓性袋部材」に該当し,どこが「開閉操作部」に該当するかは,物を構成する各部品や各部材が果たしている機能を考慮して,実質的な観点から判断する必要がある。

被告製品における外側の2枚の軟質プラスチックシート部材は,ひとつなぎ(ワンピース)になっているといっても,上部の内側シートを貼り合わせた箇所においては二重になっており,上部と下部が別の機能を果たしているのであるから,これらを下部は可撓性袋部材,上部は開閉操作部とすることこそが,クレーム解釈として自然であり合理的である。また,本件発明は物の発明であり,外側シートと内側シートのど
ちらが下部の軟質プラスチックシートとひとつなぎ
(ワンピース)
になっていようと,
シート状の一対の開閉操作部(外側シート)の上縁部及び下縁部が可撓性袋部材を構成する軟質プラスチックシート(内側シート)に固定された状態になっているのであるから,構成要件Fの「・・上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,
」を充足することは明らかであり,
構成要件F’についても同様である。
b被告は,被告製品は,可撓性袋部材の両主面に別途開閉操作部を設けることをせずに,可撓性袋部材そのものに指を挿入する孔を開口したものであり,可撓性袋部材の開口部の開閉構造に係る設計思想が本件発明とは全く異なる旨主張する。しかし,被告製品は,被告が可撓性袋部材であり開閉操作部でもあるという外側シート上部に,わざわざ内側シートを貼り合わせて二重構造としていて,設計思想が異
なるわけではない。
イ「右側または左側から片手の指を挿入する」について
(ア)構成要件F,F’の「右側または左側から片手の指を挿入する」とは,開閉操作部の左右どちらかから指を挿入できれば足りるとの意味である。「右側または左側の双方から片手の指を挿入できなければならない」とする限定は,
特許請求の範囲の記載にはないし,本件明細書1,2にも,そのことを示唆する記載はない。かえって本件明細書の図23A及び図23Cには,液状物の収容部より開口部片側の幅が狭くなった実施例を示し,
「指が短い人でも,軟質プラスチックシート
2a,2b間の距離が大きくなるように,開口部4を開口させることがより容易に行える」
(段落【0071】の最終文)と記載しており,もっぱら幅が狭くなっている一
方の側から指を挿入する構成を開示している。そして,片面にしか目盛りがない場合であっても幅の狭い方向から指を入れて使用することが可能である。さらにいえば,医療用軟質容器に液状物を注入する作業そのものは,一方の手に液状物が入った容器を持ち,他方の手に医療用軟質容器を持って,一方から他方へ液状物を移すだけの単純な作業であり,作業者の利き手如何にかかわらず右手でも左手で
も容易に行いうる作業であるから,片面にしか目盛りがない構成の場合も,目盛りを手前にして作業を行えば済むことである。
そもそも本件発明の技術的意義は,可撓性袋部材の開口部に開閉操作部を設け,その開閉操作部に片手の指を挿入して開口部の開閉操作ができるようにして,開口状態を安定かつ容易に維持できることを可能にしたことにあるから,開閉操作部の構成を貫通路とするか,一方を閉じたポケット状とするかは,当業者が実施に際して容易に選択し得る技術常識である。
(イ)被告の主張について
a被告は,
出願経過からも本件発明を右側又は左側の双方から片手の指を挿入できる場合に限定解釈することを主張している。
しかし本件の出願経過における補正は,本件特許1の公開特許公報(乙2の1)の
「請求項1」に記載された最終文章の「指を挿入するための・・開閉操作部」は「貫通路」
を含む語句であり重複していること,
「貫通路」
がなくても発明は特定できるこ
と,重複した語句は誤記でありかつ不明瞭であること,以上の理由から「貫通路」を削除したものである。
「1対の開閉操作部」は,出願時の明細書(乙2の1)に記載されているので新規
事項の追加には該当せず,特許法(以下「法」という。)17条の2第3項の規定に適合した補正であるし,
原告は出願経過において,
開閉操作部は貫通路のみであるとか,
貫通路以外のものを除くといった主張はしていない。したがって,被告の主張は失当である。
b
被告は,
「液状物の注入の最中に目盛りが見やすい」という本件発明の作用効
果に照らし,
「一方の主面のみに目盛りがあり」かつ「貫通路を有しない」医療用軟質容器は本件発明の技術的範囲に含まれないと主張する。
しかし,医療用軟質容器に液状物を注入する作業そのものは単純な作業であって,作業者の利き手如何にかかわらず右手でも左手でも容易に行いうる作業であるから,右側又は左側の双方から片手の指を挿入できる場合に限定する必要はない。
また,
「一方の主面のみに目盛りがあり」
,その主面を裏側にして液状物を注入した
としても,液状物の注入の途中に容器を両手で持てば,裏面の目盛りを見ることができるから,注入量は容易に判断できる。
さらに,前記「目盛りは,プラスチックシート2bにも表示されていてもよい。この場合,作業者の利き手の如何にかかわらず,液状物の注入の最中に目盛りを見ながら,医療用軟質容器1への液状物の注入が安定して行える。
」という実施形態におい
ては,
作業者の利き手に応じて片方からのみ指を挿入する一対の開閉操作部を開示している。
被告は,原告の主張に対し,原告が出願経過で主張した本件発明1と引用文献記載の発明との作用効果の差は生じず,包袋禁反言,本件明細書の記載と矛盾している等について縷々反論する。

しかし,
本件発明には開閉操作部があるから,
開口状態の維持が行いやすく,
かつ,
目盛りが表示された一方の主面を正面に向けて液状物の注入が行えるので(本件明細書の【0013】【0023】【0035】,本件発明と引用文献記載の発明(乙11,


の)との間に作用効果の差はある。したがって,原告の主張は包袋禁反言にあたらない。

ウしたがって,被告製品は,別紙本件発明の対比表の原告主張イ号物件欄のfのように特定でき,これは構成要件F,F’を充足する。
(3)構成要件D,D’の充足について
本件のような経腸栄養バックにおいては,内容物を1ミリリットル単位まで正確に計量して注入する必要はない。液状物の注入の際,斜めの目盛りのそれぞれ下端あた
りを目安にすれば,注入量は計測できる。被告製品は,すべて正面側のみでなく裏面にも液状物の量を示す斜め目盛りが表示されていて計量機能を果たしている。したがって,被告製品の構成は,別紙本件発明の対比表の原告主張イ号物件欄のdのとおり特定されるべきであり,被告製品は,正面に水平目盛りがある被告製品3ないし7のみならず,すべての製品に斜め目盛りがあることから,構成要件D,D’を
充足している。
なお,第10回弁論準備手続期日において,被告が平成29年3月3日付け準備書面(10)を陳述してなす被告製品1,2について構成要件D,D’の非充足の主張は時機に後れた攻撃防御方法であり却下されるべきである。
(被告の主張)
(1)被告製品の構成は,別紙本件発明の対比表の被告主張イ号物件欄記載のとおりであり,構成f’は,本件発明1の構成要件F,本件発明2の構成要件F’を充足せず,また被告製品1,2は,本件発明1の構成要件D,本件発明2の構成要件D’を充足しない。
(2)構成要件F,F’の非充足
ア「可撓性袋部材」について

(ア)本件発明の解釈
本件発明に係る特許請求の範囲の記載には,
「可撓性袋部材」は,
「液状物を収容
する収容部」を含み,
「主面に・・液状物の量を示す目盛りが表示された」袋部材で
あると規定されている。本件明細書(甲3)を見ても,1枚の軟質プラスチックシートが「ジップ」
(本件明細書の図1ないし図4,図7ないし図11,図13ないし
図16A,図17ないし図20,図22ないし図25の各「符号4a」)の上方か下
方かによって「可撓性袋部材」とそれ以外の部分に区別されている医療用軟質容器に関する記載ないし示唆は一切存在しない。
(イ)被告製品における「可撓性袋部材」
被告製品において,
「液状物を収容する収容部」を含み,かつ,
「液状物の量を示す

目盛りが表示された」袋部材,すなわち本件発明1でいう「可撓性袋部材」を構成する軟質プラスチックシートとは,別紙可撓性袋部材の説明図(被告主張)記載の被告製品の断面図において青色で示す外側の2枚の軟質プラスチックシート部材1a,1bであるが,これら2枚の軟質プラスチックシート部材は「ジップ」の上下方向で分割されていたり,異種の別部材となっていたりするわけでもない。
したがって,被告製品においては,上記青色で示す外側の2枚の軟質プラスチックシート部材1a,1b全体から構成される部分が「可撓性袋部材」に該当するというべきである。
(ウ)原告の主張について
原告は,本件発明は医療用軟質容器に関するものであるから,液状物の注入の際に液状物が通過する内側のシート状部材が「可撓性袋部材」であると主張するが,本件明細書には,液状物が通過する部材が「可撓性袋部材」であるとの記載ないし示唆は一切存在しない。
また,「容器」とは「物を入れるうつわ。いれもの」(広辞苑第六版)という以上の意味はなく,医療用軟質容器であれば,液状物が通過する内側のシート状部材が可撓性袋部材であるということに論理的つながりもない。

本件明細書には,
軟質プラスチックシートが貼り合わされた可撓性袋部材の開口部
の強度を高めるため,
別の軟質プラスチックシートにより補強する構成が記載されて
いる(請求項2,段落【0042】)が,軟質プラスチックシートを用いて強度を高めるための補強をするとすれば,可撓性袋部材の外面側又は内面側から積層させる構成が典型的であり,
可撓性袋部材の開口部の内面に別のプラスチックシートを積層す

る構成を含んでいると解される。当該構成においては,二重になった軟質プラスチックシートのうち,外側のシートが可撓性袋部材,内側のシートが開口部の強度を高めるための軟質プラスチックシートに該当することとなり,「容器たる可撓性袋部材の機能」を理由に,液状物が通過する内側のシートこそが可撓性袋部材に該当するとの原告主張と明らかに齟齬する。

イ「開閉操作部」について
(ア)本件発明の解釈
構成要件Fによれば,
「片手の指を挿入するための」「シート状の1対の開閉操作

部」は2枚の「軟質プラスチックシートに固定された」部材であることを要件とし,「可撓性袋部材」は両「主面」の各々に「開閉操作部を含」むとされているのである
から,
「開閉操作部」が「可撓性袋部材」とは別個の構成であることは文言上明らかである。
また,本件明細書1を見ても,「開閉操作部」は「可撓性袋部材」の主面上に別途設けられた構成しか開示されておらず(図1,図7,図9,図10,図13,図16A,図19,図22,図24),上記の文言解釈を裏付ける。
したがって,例えば「軟質プラスチックシート」それ自体が片手の指の挿入口を有することで開閉操作が可能になるものは,「片手の指を挿入するための」,「軟質プラスチックシートに固定された」,「シート状の1対の開閉操作部」との文言に該当せず,上記の点は,本件発明1の構成要件Fと表現振りが異なる本件発明2の構成要件F’についても同様である。
(イ)被告製品における「開閉操作部」

被告製品では,軟質プラスチックシート(可撓性袋部材)に略半円状の切り込みを入れ,当該切り込みにより形成された舌片を内側に折り曲げることで,軟質プラスチックシートそのものに片手の指の挿入口(9a,9b)が形成され,指が挿入されるようになっている。そして,軟質プラスチックシートとは別部材であるシート状部材(7a,7b)が,その四縁(辺)で内側から可撓性袋部材(軟質プラスチックシー
ト)
に溶着されている。
このシート状部材は,
軟質プラスチックシート
(1a,
1b)
に裏側(内側)から溶着されているので「可撓性袋部材の両主面」に固定されたものではないし,そもそも指が挿入されることはなく(指の内側に接するだけである),指を挿入するための貫通路も孔も有しない。
したがって,被告製品には,「可撓性袋部材の両主面」の各々に固定された「片手
の指を挿入するための」,「シート状の1対の開閉操作部」が存在しない。ウ
「右側または左側から片手の指を挿入する・・シート状の1対の開閉操作部」
について
(ア)本件発明の解釈
以下の諸点に照らし,
「右側または左側から片手の指を挿入する・
・シート状の1対
の開閉操作部」とは,右側又は左側双方から「片手の指を挿入する・・シート状の1対の開閉操作部」と解釈されるべきである。
a本件明細書の開示内容
本件明細書の段落【0022】の「開閉操作部5a,5bは,例えば,各々シート状物からなるが,軟質プラスチックシート2a,2bとの間に,開口部4の右側または左側から指を挿入するための貫通路7a,(図2B参照)
7b
が形成されるように,
各々軟質プラスチックシート2a,2bに固定されている。すなわち,開閉操作部5a,5bを構成するシート状物の中央部がたるむように,各シート状物の上縁部51a,52a及び下縁部51b,52bが,各々軟質プラスチックシート2a,2bに固定されている」との記載がある。これは両主面に固定された開閉操作部がシート状物の中央部をたるませて貫通路を形成するように固定されるからこそ「右側または左
側から指を挿入する」ことが可能となるからである。
そして本件明細書には,片方の手の指しか挿入することができない「開閉操作部」を有する医療用軟質容器に係る発明は,開示も示唆もされていない。また,本件明細書の段落【0022】,実施形態1ないし9のほか,原告が指摘する同明細書の段落【0071】の実施形態(図23A,図23C)を含めて,本件明細書には,可撓性
袋部材の両主面の各々に貫通路が形成されない(片方からしか指を挿入できない)一対の開閉操作部しか備えない医療用軟質容器は開示も示唆もされていない。原告が,片方の指しか挿入することができないとする図23A,図23Cの実施形態は,可撓性袋部材の両主面に貫通路5a,5bが形成されており,右側,左側の双方から指が挿入できることは間違いない。

なお,本件発明においては,液状物の量を示す目盛りが「少なくとも一方の主面」(構成要件D,D’)にあるとされており,一方の主面にのみ目盛りがある場合を技術的範囲に含む以上,左利きの利用者が本件発明の効果(液状物の注入の最中に目盛りが見やすい。)を奏するためには,仮に多少操作性が劣っても(開口が開きにくくても),開口部片側の幅が広い方(目盛りのある主面に向かって右側)から指を挿入
して使用するしかないこととなる。
かかる理解を支持するものとして,段落【0029】には,開口部,開閉操作部,スリットを左右対称とすることにより「利き手の如何に関わらず操作性がかわらない」ことが記載されている。これを裏返すと,左右非対称の場合は,例えば,利き手が右手の場合(すなわち,左手で袋を把持し開閉する場合)には開閉しやすいが,利き手が左手の場合(すなわち,右手で袋を把持し開閉する場合)には開閉しにくいなど,「操作性」に差があることの説明がされている。
b本件特許1の出願経過
本件特許1の願書に最初に添付された特許請求の範囲において,請求項1の構成要件Fに相当する構成は,以下のように記載されていた(乙2の1)。
「前記可撓性袋部材の両主面の各々に固定され,固定された前記軟質プラスチック
シートとの間に,
前記可撓性袋部材の右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部と」
ここに,
「前記可撓性袋部材の右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部」との出願当初の請求項1の文言において,可撓性袋部材の両主面の各々に固定される
「右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成す

る1対の開閉操作部」とは,一対の開閉操作部が貫通路であることによって右側からも左側からも指を挿入できる意味と読むのが自然な解釈である。
しかし,平成25年12月2日付手続補正書(乙2の2)により,本件発明1の構成要件Fに相当する構成は,以下のように補正された。
「前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片
手の指を挿入するための1対の開閉操作部を含み」(下線は手続補正書記載の補正部分。なお,本来であれば,構成を削除した部分(「貫通路を形成する」を削除した部分)にも下線を付加するべきであるが,付加されていない。)
すなわち,上記補正により,構成要件Fに相当する部分から「貫通路を形成する」という構成が削除された。

しかるところ,上記補正の趣旨について,原告は,上記手続補正書と同日付の早期審査に関する事情説明書(乙2の3)において,「3.補正の説明」として,「補正後の請求項1の補正箇所の
『前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の
右側または左側から片手の指を挿入するための1対の開閉操作部を含み』は,重複した語句があり,
誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として補正しました」(2頁末尾から7行から5行)と述べている。
すなわち,補正後の構成要件「前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための1対の開閉操作部」においては,補正前の「貫通路を形成し」との文言が削除されているが,これは単に重複した語句を削除し,誤記を訂正したものにすぎないから,補正後の構成要件「前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するた
めの1対の開閉操作部」も,貫通路が形成されているものを指すことが原告自身の出願経過における主張により裏付けられる。
その後,上記構成要件がさらに一部補正され,本件特許1の構成要件Fとなっているから,構成要件Fの「右側又は左側から片手の指を挿入する・・シート状の一対の開閉操作部」が,貫通路を形成することにより,可撓性袋部材の右側又は左側の双方
から片手の指を挿入できなければならないものであることは,出願経過を斟酌しても明らかである。
また,本件特許2も,本件特許1の上記手続補正書提出の平成25年12月2日に分割出願された経過にあって,上記内容については上記とほぼ同様であり,この点を斟酌すると,構成要件F’の「右側または左側から片手の指を挿入する・・シート状
の一対の開閉操作部」についても,貫通路を形成することにより可撓性袋部材の右側又は左側の双方から片手の指を挿入できなければならないものであるというべきである。
c本件発明の効果の観点
本件明細書の段落【0013】には,「液状物の注入が行い易く,しかも,前記液
状物の注入の最中に目盛りが見やすい。」と本件発明の効果が記載され,または,本件発明1の出願経過において,拒絶理由通知に対しても,拒絶査定に対する不服審判請求においても,公知の医療用軟質容器(特開2007-319283号公報。乙8の1。以下「乙8の1」ともいう。)と比較し,本件発明1は注入中の目盛りが見やすく,注入もしやすいという観点で差がある旨主張している。
したがって,液状物の量を示す目盛りが「少なくとも一方の主面に」あったとしても,片方の手を挿入する場合には目盛りを正面で見ることができないような構成,すなわち,
被告製品のように右手で容器を把持する場合には目盛りを見ることができないような構成は,本件発明の効果の点からも構成要件F,F’を充足しないというべきである。
なお原告は,①液状物を注入する作業は単純な作業なので,利き手の如何にかかわ
らず,常に目盛りを手前にして行えばよい,②液状物の注入の途中で裏返して目盛りを見ることができる,③透明な部分を透して裏面の目盛りが見える,正確な計量は必要ないなどを主張するが,本件発明が透明な材質を要件としているわけではないし,これでは原告が出願経過で縷々主張した本件発明と引用文献記載の発明との作用効果の差は生じないのであり,原告の主張は包袋禁反言の法理に照らし許されない。ま
た,原告の説明内容は,要約すると注入中の目盛りの見やすさは重要ではない,液状物を注入する作業は負担ではない,というものであり,本件明細書に記載されている事項と大きく矛盾し許されない。
(イ)被告製品における「右側または左側から片手の指を挿入する・・シート状の1対の開閉操作部」について

被告製品においては,
可撓性袋部材を構成する軟質プラスチックシートの正面視左
側に,片手の指を挿入する挿入口(9a,9b)が設けられているだけであるから,この点で
「右側または左側から片手の指を挿入する・
・シート状の1対の開閉操作部」
が存在しない。
エまとめ

以上のとおり,被告製品は,いずれも本件発明1の構成要件F,本件発明2の構成要件F’を充足しない。
(3)構成要件D,D’の非充足
ア本件発明の解釈
(ア)「液状物の量を示す目盛り」
a本件明細書の記載
本件明細書の詳細な説明の記載によれば,同発明の課題は「本発明は,空の医療用軟質容器への液状物の注入が行い易く,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見やすい,医療用軟質容器を提供する。」(段落【0010】)とされ,同発明の効果は,本件明細書1において「本発明の医療用軟質容器は,可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための1対の開閉操作
部を含み,
前記開閉操作部に挿入した片手の指を開くことにより前記開口部の開口状態を維持できるので,
空の医療用軟質容器への経腸栄養法で使用される液状物の注入
が行い易く,しかも前記液状物の注入の最中に目盛りが見やすい。」(段落【0013】)とされている(本件発明2についても,本件明細書2において,同趣旨を含んでいる。)。

また,本件明細書の詳細な説明及び図面に記載されている実施例には,注入時に,注入される液状物の液面と水平となる目盛りのみが開示されており,その他の開示はない。
本件明細書の記載に基づけば,
本件発明が備える
「液状物の量を示す目盛り」
とは,
「液状物の注入の最中に液状物の量を示す目盛り」を意味すると解釈される必要があ
る。
b出願経過
(a)原告は,本件特許1の出願経過において,
「本発明は,(ハ)液状物の注入最
・・
中における目盛りの視認性を高めること,等の課題・・を解決するためになされたものです。

(乙9の1・2頁22行から25行)本件発明1の課題を強調している。と,

そして,
原告は,
拒絶引例とされた特開2007-319283号公報
(乙8の1)
と本件発明1の課題の違いという観点から進歩性を主張するにあたり,意見書(乙9の1)において,以下のように述べている。
①「例えば,下記図1に示すように,・・(特開2007-319283号公報のバッグは)本願の明細書に記載の特許文献1(特開2007-314245号公報)に記載の医療用軟質容器の場合と同様に,医療用バッグの目盛りが表示された面が作業者の正面にないので(本願の図28参照),液状物の注入最中に目盛りが見づらいという問題があります」(本件当初明細書の段落[0009]参照)」。②「目盛りの視認性向上のために下記〔図2〕に示すように・・医療用バッグMBを把持した左手を矢印の方向(上記図1参照)に約90度ひねる必要があります。この場合,本願の明細書に記載の特許文献1(特開2007-314245号公報)に
記載の医療用軟質容器の場合と同様に,医療用バッグMBを持つ左手の体勢は著しく不自然であり,
液状物の医療用バッグMB内への注入作業が行い難いという問題があります(本件当初明細書の段落[0009]参照)。」
③「本発明は,上記課題(イ)(ロ)のみならず『(ハ)液状物の注入最中における目盛りの視認性を高めること』をも可能としておりますが,引用文献1及び引用文
献2には,上記課題(ハ)について記載も示唆もされておりません。」(b)上記の原告の陳述に接した当業者であれば,原告が主張する本件発明1の課題ないし効果とは,
自然な注入姿勢の下で実現される液状物の注入最中における目盛りの見やすさを意味すると理解するしかない。
すなわち,
上記(a)①の陳述からは,
本件
発明1が課題とする目盛りの見やすさとは,医療用軟質容器を持つ手を多少左右にず
らせば目盛りが見えるという程度の態勢変更も厭うものであることがわかる。また,上記(a)②の陳述からは,医療用軟質容器を持つ手をひねらないといけないなど,不自然な体勢で注入作業を行う必要があるような構成は(たとえ,高々ひねる量が約90度程度であっても),本件発明の効果を奏さないことがわかる。また,上記(a)①ないし③を通して,あくまでも,液状物の注入の最中の目盛りの見やすさが本件発明
1の課題ないし効果であることがわかる。
なお,同様の主張は,本件発明2においてもなされている。
(c)審査経過における原告の陳述を考慮し,禁反言を許さないとすれば,本件発明1の構成要件D及び本件発明2の構成要件D’にいう「液状物の量を示す目盛り」とは,「液状物の注入の最中に液状物の量を示す目盛り」であり,また,当該目盛りを視認するために,手を多少左右にずらすとか,手をひねるなどの不自然な体勢を行わないといけないものは,本件発明の課題を解決するものではなく,本件発明の効果を奏さないから,その技術的範囲から除外されると理解するしかない。イ被告製品1,2の「液状物の量を示す目盛り」
被告製品1,2は,水平目盛りが存在しないから,本件発明1の構成要件D及び本件発明2の構成要件D’の「液状物の量を示す目盛り」を備えない。
ウ原告の主張について
原告は,斜め目盛りが,本件発明にいう「目盛り」に相当する旨主張する。しかし,斜め目盛りは,吊り下げ孔をスタンドにひっかけた状態において,液状物の液面と目盛りが水平となるようになって残量を示す目盛りであり,注入時に使用する目盛りではない。

原告は,斜め目盛りの下端あたりを目安にすれば,注入量は計測できるとするが,実際の容量と大きくずれることから失当である。また,斜め目盛りを使用して,あえて液状物の注入の最中に液状物の量を知ろうとすれば,液状物の液面と斜め目盛りが水平になる角度まで医療用軟質容器を把持する手を傾け,その状態で液状物を注入する必要があるが,そのような姿勢は通常想定されていないし,そうしてもずれは大き
く液状物を適切に注入することもできない。
したがって,斜め目盛りが本件発明の「液状物の量を示す目盛り」に該当するとの原告主張は成り立たない。
(4)まとめ
以上のとおり,被告製品は,本件発明1の構成要件F,本件発明2の構成要件F’
を充足せず,また被告製品1,2は,本件発明1の構成要件D,本件発明2の構成要件D’を充足しないから,被告製品は,いずれも本件発明1,2の技術的範囲に属しない。
2争点(2)(被告製品は本件発明1,2の技術的範囲に属するか(均等侵害))(原告の主張)
本件発明1の構成要件F,本件発明2の構成要件F’にいう「右側または左側から片手の指を挿入するための・・開閉操作部」が,「右側または左側の双方から片手の指を挿入することができる開閉操作部」を意味すると解釈されるとしても,被告製品は本件発明1,2の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する。
(1)第1要件

本件発明の本質は,可撓性袋部材の開口部に開閉操作部を設け,その開閉操作部に片手の指を挿入して開口部の開閉操作ができるようにして,開口状態を安定かつ容易に維持できることを可能にしたことにある。これを構成要件でいうと,構成要件FとG(F’とG’も実質的に同じ)において,「片手の指を挿入するための・・シート状の1対の開閉操作部を含み」,「前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけ
るように開くことにより前記開口部の開口状態を維持できること」が本質的部分である。
これを被告製品でみると,構成fの「可撓性袋部材の左側(表裏を裏返しにすれば右側)から片手の指を挿入するための・・1対のシート状の開閉操作部を含み」,構成gの
「前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前
記開口部の開口状態を維持できる」ことが本質的部分であり,本件発明のそれと共通する。
したがって,被告製品は第1要件を充足する。
被告は先行技術
(乙4ないし乙6)
が本件発明の分野における周知技術であるとし,
本件発明の本質的部分は構成要件FとG(F’とG’)の字義どおりに解釈すべきで
あり,この構成要件を外れると第1要件に適合しないと主張するが,主張に係る先行技術(乙4ないし乙6)は本件発明とは技術分野ないし技術的課題を異にしており,本件発明における進歩性を否定したり,本件発明の技術的貢献度を小としたりするような周知技術ではない。本件発明の本質的部分は,「可撓性袋部材の開口部に開閉操作部を設け,
その開閉操作部に片手の指を挿入して開口部の開閉操作ができるようにして,開口状態を安定かつ容易に維持できることを可能にしたこと」にあり,開閉操作部が貫通路を形成しているか否かは,本件発明の本質と関係しない。以上によれば,第1要件に関する被告の主張は失当である。
(2)第2要件
本件発明の目的は,空の医療用軟質容器への液状物の注入が行いやすく,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見やすい,医療用軟質容器を提供することにある(本件
明細書の段落【0010】。また本件発明の作用効果は,可撓性袋部材の両主面に1)
対の開閉操作部を設け,
その開閉操作部に挿入した片手の指を開くことにより開口部
の開口状態を維持できるようにして,医療用軟質容器への液状物の注入が行いやすくするとともに,液状物の注入の最中に目盛りが見やすくしたことにある(本件明細書の段落【0013】。


そして被告製品は,構成fにおいて,片手の指を挿入するためのシート状の開閉操作部が,
上縁部と下縁部だけでなく左右の一方を軟質プラスチックシートに固定させたことにより,開閉操作部が貫通路を構成しない形状とされているが,元々貫通路の構成であっても開閉操作部に挿入するのは片手の指のみであるから「液状物の注入を行い易い」ことには変わりがなく,また被告製品において「注入の最中に目盛りをみ
やすい」という効果を奏する。すなわち,被告製品は本件発明1,2の前記目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。
したがって,被告製品は第2要件を充足する。
(3)第3要件
本件発明1の構成要件F,本件発明2の構成要件F’において,上縁部及び下縁部
が軟質プラスチックシートに固定されて貫通路となっているシート状の開閉操作部が存するところを,貫通路の一方を閉じてポケット状に変更することは,当業者であれば容易に想到することができる。
なお,本件明細書の図21は,一見したところ開閉操作部がポケット状の構成であるように見えており,
当業者であれば,
この図面のみを見ても,
開閉操作部の三方・
(上
下・横)を軟質プラスチックシートに固定してポケット状にする構成を容易に想到することができる。
本件発明1の公開公報(乙2の1)は平成23年4月21日に公開されており,被告の実施日(平成25年12月以降)より前である。本件発明2は本件発明1の特許出願の分割出願であり,上記公開公報の例えば図23A及び図23Bに開示されている。

したがって,
被告製品は実施の時点において上記公開公報に記載された発明から容易に想到できたものであるから,第3要件を充足する。
被告は,被告の国際特許出願の国際公報(乙22)を挙げ,原告の本件特許1の公開公報(乙2の1)から進歩性を有していると主張するが,当該国際公報の末尾に添付されている国際調査は,本件明細書1の図21を見ているかどうか疑問であり,進
歩性を正確に判断したとはいえない。
加えて,本件発明1の構成要件Fにいう開閉操作部が,上縁部・下縁部を軟質プラスチックシートに固定し左右はOPENにした貫通路を意味すると解釈した場合,この貫通路の左右どちらかを閉じる(すなわち開閉操作部の上下左右のうち三方を固定し左右どちらかだけ一方をOPENにする)ことは,容易に想到し得る構成である。
被告製品は,この開閉操作部の三方を閉じたポケット状の構成の一つであり,第三要件を充足する。なお,三方を閉じたことだけでなく一旦は四方を閉じた袋状部を形成しておくこと,
及びそこに挿入口を設ける構成としたことに新たな創意工夫があれば,開閉操作部の三方を閉じた構成(すなわち均等発明)との関係で利用発明となるものであり,上記国際公報(乙22)に開示された発明が,そのような付加した構成により
国際調査報告でA判定を受けて進歩性を認められることは,第3要件の充足とは別の議論である。
(4)第4要件
本件発明の構成において,
開閉操作部の貫通路の一方を閉じてポケット状とした構
成は,
本件優先日当時における公知技術と同一又は当業者がこれから本件優先日当時に容易に推考できたものではない。
したがって,被告製品は第4要件を充足する。
(5)第5要件
本件発明の構成において,
開閉操作部の貫通路の一方を閉じてポケット状とした構
成は,
本件特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。むしろ原告は,出願手続において当初のクレームに存し
た「貫通路を形成する」という文言を削除して,貫通路に限定されないことを表明しているものである。
したがって,被告製品は第5要件を充足する。
(被告の主張)
均等侵害をいう原告主張は以下のとおり失当である。

(1)第1要件
均等論の第1要件における本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,
従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分
が何であるかを確定することによって認定されるべきである。

すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,
特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであ
り,そして,①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定
され,
②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される(知財高判(大合議)平成28年3月25日・平成27年(ネ)第10014号(マキサカルシトール事件))。
してみると,
本件発明において原告が主張する本質的部分
(可撓性袋部材の開口部
に開閉操作部を設け,その開閉操作部に片手の指を挿入して開口部の開閉操作ができるようにして,
開口状態を安定かつ容易に維持できることを可能にしたこと)
は,
先行技術
(乙4ないし乙6)
に示される可撓性袋部材よりなる容器という本件発明の
技術分野での周知技術であって本件発明と異ならない。
したがって,本件においては特許請求の範囲を上位概念化して本質的部分を把握することはできず特許請求の範囲の字義通りに解釈されなければならない。
したがって,構成要件FとG(F’とG’)を上位概念化して右側又は左側の双方から片手の指を挿入できるとの要件を捨象することは許されず,
本件発明は,
従来技
術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合に該当し,その本質的部分は,特許請求の範囲の記載と同義(構成要件FとG(F’とG’)そのまま)のものとして認定されなければならない。

以上のとおり,
当該構成要件において相違する被告製品は均等第1要件に適合しない。
(2)第2要件
被告製品は,「右側または左側から片手の指を挿入するための・・1対の開閉操作部」(=貫通路)を有さず,左側からしか指を挿入できない構成であるため,目盛り
のない面を正面に向けて右手で被告製品を把持した場合,液状物の注入の最中に目盛りが見にくい。
したがって,右側,左側のどちらから片手の指を挿入しても,注入が行いやすく,注入の最中に目盛りが見やすいという本件発明の課題目的,作用効果を達成せず,均等第2要件に適合しない。

(3)第3要件
原告が根拠とする本件明細書1の図21は,
貫通路5a,
5bを有するものであり,
置換容易性の証拠足り得ない。
さらに被告製品の置換容易性を根本的に否定する事実として,被告製品をPCT出願した国際公開番号WO2014/002730パンフレット(乙22)の国際調査報告(INTERNATIONALSERCHREPORT)において,本件第1特許公報(出願公開公報)が引用文献のカテゴリー「A」,すなわち特に関連のある文献ではなく,一般的技術水準を示すものと,審査官によって判断されている事実を強調したい。上記公報(乙22)の[図30]の実施例は,その図面と答弁書添付図面を対照して検分すれば明らかなとおり,被告製品に対応するものである。そして,当該実施例の保護請求項は,請求の範囲請求項1ないし9であるが,上記国際調査報告ではJP
2011-78737(本件特許1の出願公開公報)が「A」判定されている。言い換えれば,被告製品に係る発明(上記公報(乙22)の[図30]の実施例)は本件特許1に比して進歩性を有しており,本件特許1から侵害時当業者が容易に想到できたものに該当しないことはPCT出願の国際予備審査における裏付けも得ているのである。

3争点(3)(無効の抗弁の1(乙13発明を主引例とする進歩性欠如))(被告の主張)
(1)乙13発明
ア特開2009-66246号公報(乙13。以下「乙13公報」という。)には以下の記載及び図面がある(図面は別紙乙13公報の図面参照)。
「【0001】
本発明は,例えば各種の疾病患者に,いわゆる経管栄養法により栄養補給をする場合などに用いる栄養剤バッグに関する。」
「【0012】
上記のようにバッグ本体内の収容室の上部に設けたチャックシール等の閉鎖手段
とバッグ本体の上部の吊り下げ部との間に,上記閉鎖手段の開放操作用の開口部を形成するための開封手段を設けたことによって,例えば上記収容室内に収容した栄養剤に水や温湯等を注入するために上記閉鎖手段を開く際には,上記開封手段で閉鎖手段開放操作用の開口部を形成し,
その開口部から上記閉鎖手段を開放することができる。
そのため,上記閉鎖手段を開くまでは,その上部を密閉した状態に維持することが可能となり,
上記閉鎖手段の上部に塵埃や細菌等が蓄積して閉鎖手段を開くことによって上記収容室内に,
それらの塵埃や細菌等が進入するのを未然に防止することができ
る。」
「【0016】
図示例の栄養剤バッグBは,
内部に栄養剤を収容する収容室10を有するバッグ本
体1と,
そのバッグ本体1の下部に設けられた上記栄養剤流出用の出口栓体2とを有
し,そのバッグ本体1の上部には,該バッグ本体を吊り下げるための吊り下げ部としての吊り下げ穴3と,
上記収容室10の上部に設けられた高密開閉可能なチャックシ
ール等の閉鎖手段4と,その閉鎖手段4を常時はほぼ完全無菌状態に維持し,上記閉鎖手段4を開放する際には,
その上部に開放操作用の開口部を形成するための開封手
段(オープンピール機構)5と,上記収容室10内に収容した栄養剤が上記閉鎖手段
4側に移動するのを防止すると共に上記閉鎖手段4を開放したときには容易に剥離可能な易剥離性シール部6とが設けられている。
【0017】
上記バッグ本体1は,図2に示すように前後一対のシート材1a・1bの周縁部を溶着等で気密・水密に接合することによって,その周囲の接合部11の内方に中空部
を有する袋状に形成すると共に,その中空袋状のバッグ本体1の下部中央部の接合部11に,
上記出口栓体2を構成する合成樹脂等よりなる筒状体を貫通させた状態で溶着等により一体的に固着した構成であり,上記中空部を栄養剤を収容する収容室10としたものである。
【0018】

上記バッグ本体1を構成する上記各シート材1a・1bおよび上記出口栓体2を構成する筒状体等の材質は適宜であり,とりわけ上記シート材1a・1bの原料としては軟質包材に,
また上記筒状体等の原料は栓体にそれぞれ適しているものであれば特に限定されるものではない。また,必要に応じて上記各原料に,例えば酸素バリア性や遮光性等を付与するために金属等のフィルムを積層したり,酸化物等からなる膜を形成することも可能である。
【0019】
さらに上記バッグ本体1を構成するシート材1a・1bの原料特性としては,例えば透明性,対候性,対ピンホール特性,引張強度,対衝撃性,対薬品性を充分に持つものが望ましい。また上記各シート材1a・1bは単層もしくは多層に積層したもののいずれでもよい。多層構成のシート材としては,例えばポリアミドまたはナイロン
と,低密度ポリエチレンと,リニアローデンポリエチレンと,シーラント層との4層構成のものを用いることができる。上記シーラント層の素材としては,ヒートシール性が良好であり,かつイージーピール機構を有する素材を使用するのが望ましい。」「【0022】
上記閉鎖手段4を開放する際に,その上部に開放操作用の開口部を形成するための
開封手段5は,本実施形態においては図2(a)に示すように前側のシート材1aの背面側に上下一対のハーフカット溝51・51を形成し,
その両ハーフカット溝51・
51間の帯状部分50を上記ハーフカット溝51・51に沿って切除する構成である。【0023】
上記両ハーフカット溝51・51の一端側(図の場合は図1において左側)には,
その両ハーフカット溝51・51に連続してC字状の切り込み52を上記前側のシート材1aに形成することによって,上記帯状部分50に連続する把持用のノッチ部50aが帯状部分50と一体に形成されている。また上記両ハーフカット溝51・51の他端側は漸次接近して1点に収束するように構成されている。
【0024】

上記ノッチ部50aを指等で摘んで,それと一体に設けた上記帯状部分50を上記ハーフカット溝51・51に沿って切除することによって,上記ノッチ部50aおよび帯状部分50が前側のシート材1aから分離されて,図2(b)および図3に示すように上記閉鎖手段4の上方の前側のシート材1aにスリット状の開口部Sが形成されるように構成されている。」
「【0037】
なお,前記吊り下げ穴3等の吊り下げ部は,前記図1のようにバッグ本体1の上部中央部に設けると共に,バッグ本体下部の左右両側には,図示例のように凹部7を形成し,
それに対応して前記接合部11の一部が図のように収容室10側に突出するように構成するとよい。そのように構成すると,栄養剤バッグを上記吊り下げ部により支持スタンド等に吊り下げ保持させたときの該栄養剤バッグの形状が変動すること
なく常時ほぼ一定にすることができる。その結果,バッグ本体下部の出口栓体2から流出する栄養剤の流量が変動することなく安定よく流出させることが可能となると共に,バッグ本体1に形成した容量や残量を表す目盛り8と,実際の容量や残存量との誤差が少なくなって,より精度の高い目盛り表示が可能となる。」イ上記乙13公報の記載及び図面から,同公報には以下の発明(以下「乙13発
明」)が開示されていることが認められる。
「例えばポリアミドまたはナイロンと,低密度ポリエチレンと,リニアローデンポリエチレンと,シーラント層との4層構成のシート材1a,1bが貼りあわされることにより形成され,開閉操作用の開口部と,経管栄養法により栄養補給する栄養剤を収容するための収容室10とを含み,一方の主面に栄養剤の容量や残量を示す目盛り
8が表示されたバッグ本体1と,
該バッグ本体1に固定された出口栓体2と,
該バッグ本体1の開閉は,開閉操作可能な,チャックシール等の閉鎖手段4及び把持用のノッチ51a等の開封手段5により行われることで開口状態を維持できることを特徴とする栄養剤バッグ。」

(2)一致点,相違点
本件発明1と乙13発明の一致点,相違点は以下のとおりである。ア一致点
乙13発明における
「例えばポリアミドまたはナイロンと,
低密度ポリエチレンと,
リニアローデンポリエチレンと,シーラント層との4層構成のシート材」は本件発明1の「軟質プラスチックシート」に,「経管栄養法により栄養補給する栄養剤を収容するための収容室10」「経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部」は
に,「栄養剤の容量や残量を示す目盛り8」は「前記液状物の量を示す目盛り」に,「バッグ本体1」は「可撓性袋部材」に,
「出口栓体2」は「排出用ポート」に,
「栄
養剤バッグ」は「医療用軟質容器」にそれぞれ相当する。
したがって,乙13発明と本件発明1とは,次の点で一致する。

「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,
少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部材と,前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,を含み,開口状態を維持できることを特徴とする医療用軟質容器。」

イ他方,乙13発明と本件発明1とは,次の点で相違する。
本件発明1は,
前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持できる
のに対し,乙13発明は,開口維持操作が把持用のノッチ51a等の開封手段5により行われる点。
(3)周知技術
ア本件優先日当時の公知技術として以下のものがある。
(ア)WO2007/077172A1公報(乙4。以下「乙4公報」という。)

乙4公報には以下の事項が記載されている(段落番号は訳文の段落番号による。図面は別紙乙4公報の図面参照)


【0002】
例えば,環境に優しくない方法で廃棄することにより,他のいくつかの方法において不便で非衛生的又は問題となることがある,汚れた物品の手作業での廃棄が要求される多くの状況が日々の生活において存在する。そのような困難は,例えば,医療環境における生理用品又は体液で汚れた製品の廃棄の関係において特に生じることがある。同様に,例えば,化学又は食品産業において化学物質に晒された製品を廃棄することは困難であることがある。あるいは,器具によって担持された法医学又は医療情報を「汚染する」ことなく,器具内の法医学又は医療物品を受け入れることは困難であることがある。

【0003】
手作業で汚れた物品を廃棄する場合,人はゴミ箱などの廃棄器具を操作しようとしながら物品を保持しており,したがって,例えばゴミ箱を開けることによって廃棄処理を支援するために利用可能な片方のみのフリーハンドしか有しないことがあり得る。あるいは,人は,他の物品の汚染を防止するために又は例えば1つの手袋
のみを着用する場合,複数の手で汚れた物品に接触したくないことがある。例えばゴミ箱が
ない場合に汚れた物品を担持する必要がある場合,さらなる問題が生じることがある。
【0004】

1つの特定の問題は,女性が,通常,片手で膣部位から汚れたタンポン,タンポンアプリケータ又は生理用ナプキンを取り外し,それにより,例えば汚れた物品の受け入れのための容器(例えば,ゴミ箱又は袋)を開くことによって廃棄処理においてさらに支援するために片方のみのフリーハンドを残す場合のような汚れたタンポン,タンポンアプリケータ又は生理用ナプキン製品の廃棄において生じる。
【0005】

そのような目的のためにプラスチック袋を提供することが知られており,この場合,汚れたタンポン又は生理用ナプキンが出るのを防止するために,袋の2つの取っ手がともに縛られて袋を閉じる必要がある。しかしながら,そのような従来のプラスチック袋は,
特に袋開放及び/又は汚れた物品の受け入れ処理中にユーザの手や衣類を汚したり汚染したりすることなく,汚れた物品の効果的な受け入れを確実にするために,片方のフリーハンドで抜き出して開けることが困難である。」「【0020】
容器は,
汚れた物品が容器によって受け入れられることができるその内部に形成された口を有する。使用時において,口は,口開位置と口閉位置との間においてユーザ
の片手で操作可能に配置される。
【0021】
好ましい実施形態において,器具は,さらに,口開位置と口閉位置との間において口を操作するために容器の外壁上に位置する口操作手段を備える。【0022】

好適には,使用時において,人は,自分の指又は親指を使用して,容器を開放するために口の一部を他から引き離すために口操作手段を使用する。そして,他方の手に保持された汚れた物品は,
容器内の受け入れのための口を介して容器内に廃棄される
ことができる。
【0023】

好ましくは,口操作手段は,1本以上の指又は親指がその内部に又はそれに逆らって受け入れられることができる少なくとも第1の指受け入れ手段を備える。好適には,第1の指受け入れ手段は,容器の外壁上に位置し,使用時に人が容器の口を操作して開放するために指受け入れ手段内に又はそれに逆らって少なくとも1本の指又は親指を挿入するのを可能とするように配置されている。

【0024】

より好ましくは,口操作手段は,さらに,1本以上の指又は親指がその内部に又はそれに逆らって挿入されることができる第2の指受け入れ手段を備える。好適には,第2の指受け入れ手段は,容器の反対側の外壁上に位置し,使用時に人が各指受け入れ手段内に又はそれに逆らって指又は親指を挿入し,容器の口を開放して前記指及び/又は親指を引き離すのを可能とする。


【0029】
より好ましくは,口操作手段は,コンテナの第1の外壁上に位置する第1のループと,コンテナの第2の外壁上に位置する第2のループとの双方を備える。好適には,第1及び第2のループは,口のいずれかの側に(例えば,隣接して)配置されている。
【0030】
好適には,第1のループは,ユーザの親指を収容するように配置されており,第2のループは,ユーザの人差し指を収容するように配置されている。それゆえに,口操作動作(すなわち,口開放/閉鎖)は,親指及び人差し指の間隔をあける/狭める動作によって達成される。


(イ)米国特許第6922852号公報(乙5。以下「乙5公報」という。)
乙5公報には以下の事項が記載されている(図面は別紙乙5公報の図面参照)。

【背景技術】
一般的に,女性は,座った状態で身体排泄物を排出する。しかし,彼女たちは不潔かもしれない公衆トイレの便座に座ることに消極的である。トイレから離れていると
き,例えば自動車内にいるとき,彼女たちは,男性が直面しないような厄介な選択に直面する。Mojenaの米国特許第5,353,805号明細書は,問題の解決に向けられた従来技術を検討し,複合袋体と,身体オリフィスの周りで開いたまま当該袋体を保持するタングとを開示している。Diazの米国特許第4,305,161号明細書は,
オリフィスの周りで袋体を開いたまま保持するウィッシュボーン型フレ
ームを採用している。これらの発明は,局部から離れた取っ手で間隙を正確に位置決めする使用者に依存している。このような位置決めの誤差は,困惑をもたらし,彼女たちの使用する気を削ぐ。
【発明の概要】
したがって,本発明の目的は,より容易に,かつ正確に位置決めされる使い捨ての身体排泄物容器を提供することである。他の目的は,一体型で,容易に保管および運搬され,かつ完全な使い捨ての装置を提供することである。他の目的は,安価に製造することができる装置を提供することである。さらに他の目的は,2本の指で操作され,容器を開いたまま保持し,かつ,間隙を身体オリフィスの周りに適切に位置決めする装置を提供することである。本発明の装置は,対向する長側面および上部間隙を有する可撓性防水袋体である。各長側面に1つずつある一対の細長い筒状部材は,上
部間隙に隣接する袋体の外面に添着される。開口部は,各筒状部材の少なくとも一端部にあり,かつ,各筒状部材は,内部への指の進入を許容する寸法にされる。使用のために,指は各筒状部材へ挿入される。そこで,2本の指は袋体を開いたまま保持することができる。その後,袋体は,指が袋体を開いたまま保持しながら,例えば尿道口などの身体オリフィスが間隙に直接存在するように位置決めされる。(1欄17行

から51行,訳文1頁12行から31行)

(ウ)米国特許第4204526号公報(乙6。以下「乙6公報」という。)
乙6公報には以下の事項が記載されている(図面は別紙乙6公報の図面参照)。
「【発明の概要】

本発明の目的は,包装体の構造を大幅に簡略化し,装置のコストを著しく低減し,装置の使い易さを大幅に改善するなどの改善を提供することであり,ここで,グラフトを形成する処理を片手操作に転換することができるため,これにより,作成者は,グラフト形成処理においてより大きな自由度および柔軟性を有する一方で,使用するグラフトの準備において,依然として無菌状態を維持することができる。(1欄14行から22行,訳文1頁11行から16行)。」

「本発明の実施形態によれば,手段は,壁部が互いに離れる方向へ変位するための袋体の一部として提供され,袋体を開いて内部へアクセスし,グラフトの準備で使用するために血液を導入する間に,袋体を開いたまま保持する。このような手段は,開口端に隣接する袋体の両側部の各々で指環部30またはタブを備える。図示の変形例において,このような指環部またはタブは,連動部材と同じ高さかあるいは超える高さの袋体の外壁部の一部分に上端部で固定された材料片からなる一方,下端部分は,連動する多孔質部材と同じ高さかあるいは下回る高さで固定され,この細片は,その上下端部の取り付け位置の間の距離よりも大きい長さを有するように位置決めされて,ループ部分30を間に提供する。
(2欄21行から37行,
訳文2頁3行から10行)

「グラフトの形成が望まれる場合,指環部またはタブを互いに離れる方向に引っ張ることで力を加えて,袋体を開く。これは,それぞれの手の人さし指を対向するルー
プに挿入して,タングを溝から取り外すか,そうでなければ密封手段の係合を解除するのに十分な引張力を与えることにより,都合良く行うことができる。したがって,図4に示す通り,片手の人さし指および親指で,袋体を開いたまま保持することができ,開口端を通して袋体の内部へ血液を導入することができる。(2欄53行から63行,訳文2頁20行から25行)」

(エ)中国実用新案CN201128528Y公報
(乙7。「乙7公報」
以下
という。

乙7公報には以下の事項が記載されている(図面は別紙乙7公報の図面参照)。「
【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】
袋体及び密封チャックを含み,密封チャックは袋体の内側に設置される開放が便利
なチャック式密封袋であって,
袋体の外表面の密封チャックに対応する箇所に引き手
が対向設置されることを特徴とする開放が便利なチャック式密封袋。【請求項2】
前記引き手の形状は,
好適には環状またはシート状であることを特徴とする請求項
1に記載の開放が便利なチャック式密封袋。

【技術分野】
本実用新案は包装用品技術分野に属しており,具体的には開放が便利なチャック式密封袋に関するものである。
【背景技術】
従来のチャック式密封袋は袋口の内側に密封チャックが設置され,チャックは互いに対応して嵌合する凹溝及び凸条であり,使用者が手の指で軽く押圧するだけで,凸条が凹溝中に嵌入して,袋口を密封することができる。しかし,この種の密封袋は開放時に比較的力が必要であり,かつ,片手で操作することができず,同時に密封袋の表面が平滑であるため,
開放時には手の指を袋口の内側に伸入させる必要があるため,
袋内物品及び手の指の双方向の汚染が容易に引き起こされる。現有技術にはまだ非常に良好な解決方法はない。

【考案の内容】
本実用新案の目的は,現有技術の不足点について,構造が簡単で,密封効果が良好である,
開放が便利なチャック式密封袋を提供することにある。・本実用新案では,・
袋体の外表面に密封チャック開放装置が設置され,使用時には両手でそれぞれ両側の引き手を掴むだけで,軽い力で袋口を開放することができる。引き手は更に環状に設
計することができ,それにより片手のみで袋口を開放することができる。従来のチャック式密封袋の開放が困難で,
容易に汚染を招くなどの問題が根本から解決されてお
り,その構造は簡単で,コストは低廉であり,良好な応用の前途を有している。【具体的な実施形態】
引き手6の形状は環状に設計することができ,片手の親指と人差し指とをそれぞれ
両側の引き輪6に伸入させ,
両側に力を入れるだけで袋口を開放することができる。

イ以上より,可撓性袋部材の開口部に開閉操作部(乙4公報における「第1,第2のループ」,乙5公報における指が挿入される「一対の細長い筒状部材」,乙6公報における片手の人さし指及び親指で袋体を開いたまま保持する「指環部またはタブ」,乙7公報における「環状」の「引き手」)を設け,該操作部に片手の指を挿入
して開口部の開閉操作ができるようにして開口状態を安定かつ容易に維持できることを可能にする技術は,
可撓性袋部材一般において本件優先日当時周知の技術である。
そして,該周知の技術によって,可撓性袋部材の開閉における,片手の開閉によって開閉操作の自由度を向上させるとの要請も,乙4公報(「例えばゴミ箱を開けることによって廃棄処理を支援するために利用可能な片方のみのフリーハンドしか有しないことがあり得る」),乙6公報(「グラフトを形成する処理を片手操作に転換することができるため,これにより,作成者は,グラフト形成処理においてより大きな自由度および柔軟性を有する」),乙7公報(「この種の密封袋は開放時に比較的力が必要であり,かつ,片手で操作することができず」,「引き手は更に環状に設計することができ,それにより片手のみで袋口を開放することができる」)に示されている本件優先日当時における周知の普遍的課題である。

(4)検討
乙13公報は,その図1に示される構成及び「バッグ本体内の収容室の上部に設けたチャックシール等の閉鎖手段とバッグ本体の上部の吊り下げ部との間に,上記閉鎖手段の開放操作用の開口部を形成するための開封手段を設けたことによって,例えば上記収容室内に収容した栄養剤に水や温湯等を注入するために上記閉鎖手段を開
く際には,上記開封手段で閉鎖手段開放操作用の開口部を形成し,その開口部から上記閉鎖手段を開放することができる」との作用効果の記載(段落【0012】)に照らし,
両手で閉鎖手段を開閉し,
片手で開口部を補形する使用方法を含むものである。
そうすると,
乙13発明の栄養剤バッグの開口部形成は操作者の両手によって行われ,その後,施術者が一人で当該開口状態を維持して栄養剤を注ぐためには,本件明
細書の先行特許文献1である特開2007-314245号公報(乙23。以下「乙23」という。)の図4(別紙乙23公報の図面参照)のごとく,開口部の左右辺を両側から押圧して開口状態を維持するか,或いは,指を開口部に挿入し内側から押し広げるよりほかなく,
そのようにしなければ,
一人の操作者が両手で開口状態を維持し,
他の操作者が栄養剤を注入すると云う,注入操作に二人の操作者を要する事態になっ
てしまうが,
ひとつの注入作業に二人の操作者の手が煩わされることは禁忌というしかない。
そして,この開口維持操作は,経腸栄養剤がすでに充填されている既液体充填タイプの医療用軟質容器でも,空パックタイプの医療用軟質容器でも変わらない。前者の場合であっても,
乙13発明の栄養剤バッグにて
「帯状部分50」
(段落
【0022】

を切除して開口したのちでも,
栄養剤投与後の加水を行い栄養剤バッグ内に残存した
栄養剤を注入したり,栄養剤を追加投与することは平成20年2月頃発行された「集中調剤用シングルユース栄養剤用バッグ」
カタログ(乙24。
以下
「乙24」
という。
)
の掲載内容から,常套手段であることは明らかである。
また,特開2005-29270号公報(乙25。以下「乙25」という。)には,経腸栄養剤を収容する容器に係る本件優先日当時の技術水準として,「従来の容器で
は,使用時に収容する収容物を開口部からより収容し易くするには,開口部をできるだけ広く形成して,より大きく拡開できるようにする必要がある」ことが記載されている(段落【0006】)。充填し易さを確保するためには開口部を広くしたい要望があることが経腸栄養バッグの技術分野における技術常識なのである。しかし,経腸栄養バッグを扱う,多くの場合は女性の看護師では,女性(30代)
の手の親指と中指の間隔が最小で85㎜と小さく(乙26),看護師が誰でも扱えて且つ開口しやすいようにするには,開口部の横幅は85㎜より更に狭くしなければならない。
乙13発明の栄養剤バッグのように開口部の左右辺から片手で把持して補形する場合は,開閉機構に大きな制約を伴うという欠点があることは常識である。このように,
開口部の左右辺から操作者が片手で開口状態を維持できるためにはバ
ッグの開口部幅が制約される欠点があることが本件優先日当時の技術常識であり,このことが栄養剤バッグ等の可撓性袋部材の設計上不利であることは,自明である。開口部幅設計の自由度が制限されることは当業者にとって非常に厄介な問題である。
なお,付け加えれば,乙23の図4のごとく,開口部の左右辺を両側から押圧して
開口状態を維持する方法には,シートが波打ち,開き難いという問題も存在する。さらに,乙7公報には「この種の密封袋は開放時に比較的力が必要であり,かつ,片手で操作することができず,同時に密封袋の表面が平滑であるため,開放時には手の指を袋口の内側に伸入させる必要があるため,袋内物品及び手の指の双方向の汚染が容易に引き起こされる」と記載されており(訳文3頁9行から12行),乙13発明のような両手で開かなければならない栄養剤バッグを開いて片手により開口状態を保持しようとすると,
袋内に手の指が進入することが避けられないことが開示され
ており,そのため,開口状態を保持しようとすると,汚染リスクという問題も引き起こされるのである。
このように乙13発明の栄養剤バッグにおいて,帯状部分を切除して開口部を形成した後,
その開口状態を維持しようとすると,
以上のような問題点が生ずるのであり,

このことは,本件優先日当時の技術水準を構築していた。
それゆえ,
プラスチックシートのような可撓性の素材でできており上方向に開口部を有する袋において,片手による開口状態維持の問題点を解消すべく,可撓性袋部材の開閉操作を本件発明1の如き可撓性袋部材の開口部に開閉操作部(乙4公報における「第1,第2のループ」,乙5公報における指が挿入される「一対の細長い筒状部
材」,乙6公報における片手の人さし指及び親指で袋体を開いたまま保持する「指環部またはタブ」。以下,「乙4~6周知技術」)を設けることで解消する動機,すなわち,
該操作部に片手の指を挿入して開口部の開閉操作ができるようにして開口状態を容易に維持できるようにする積極的動機が生ずる。
すなわち,乙4~6周知技術を可撓性袋部材の開口部に適用することで,上記問題
から操作者を解放する契機については,栄養剤バッグに限っての話ではなく,本件優先日当時の,
プラスチックシートのような可撓性の素材でできており上方向に開口部を有する袋体における普遍的課題であった。
実際,乙7公報に,「【考案の内容】本実用新案の目的は,現有技術の不足点について,構造が簡単で,密封効果が良好である,開放が便利なチャック式密封袋を提供
することにある。・・本実用新案では,袋体の外表面に密封チャック開放装置が設置され,使用時には両手でそれぞれ両側の引き手を掴むだけで,軽い力で袋口を開放することができる。引き手は更に環状に設計することができ,それにより片手のみで袋口を開放することができる。従来のチャック式密封袋の開放が困難で,容易に汚染を招くなどの問題が根本から解決されており,
その構造は簡単で,
コストは低廉であり,
良好な応用の前途を有している」(訳文3頁13行から25行)と記されているくらいである。
とりわけ,両手で開口部を開閉しなければならない経腸栄養バッグにおいては,①他の操作者が栄養剤を注入しなければならず操作者を増やさなければならないという禁忌,②一人の操作者が一人で開口状態を維持しようとすれば,操作者の手の大きさによって開口部の設計が制約され開口部を大きくしたい要請に反する弊害,③片手
で開口部を維持しようとすると指が収容部内に入ることが避けられない汚染リスク,という自明の問題点(課題)が存在するのである。乙13発明の経腸栄養バッグに接した当業者は,①,②という形態上当然に生じる問題点を容易に認識するし,また,経腸栄養剤バッグにおいて汚染,感染を防止しなければならないとの強い動機付けは乙13公報にも記載されており(段落【0008】等),加水,栄養剤追加時の③の
問題点も容易に認識する。そして,これらの課題を乙4~6周知技術であれば一挙に解決する。
かかる利点に着目し,
乙13発明及び乙4~6周知技術並びに乙7公報に接した当
業者であれば,乙13発明の開口部を開閉する構成として,乙4~6周知技術,すなわち,本件発明1の「前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側ま
たは左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持」する構成の適用を試みることは当然の成り行きである。
そうすると,当業者であれば,必然的に,該普遍的課題及び周知の技術に動機付け
られ,乙13発明における開口維持操作手段として,可撓性袋部材の両主面の各々に可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を適用することに,容易に想到する。その結果,必然的に,開口状態が片手の指を各々遠ざけるように開くことより維持されることになる。
したがって,本件発明1,2は乙13発明を主引例として,乙4~6周知技術を適用することにより,本件優先日当時当業者が容易に発明できたものである。(5)原告主張に対する反論
乙13発明における両手開口,片手開口維持の必要性
原告は,
乙13発明においてはそもそも指を入れて開閉する開閉操作部を設けようとする動機付けがないと主張するが,多くが身長の低い女性によって占められること
が顕著な事実であるところの看護師は,高さ180㎝位置で栄養剤バッグを吊下げたまま,更にその上から「バッグ内に栄養剤を追加したり,別の栄養剤や水や温湯を注入する」ことはできない。
ゆえに,両手開閉及び片手での補形保持の必要性を生じることは技術常識であり,原告も,原告製栄養剤バッグのカタログ(乙24)において,吊り下げ穴により支持ス
タンドに吊り下げた栄養剤用バッグの使用法を示しながら,他方,「加水」においては両手で開口部を補形して加水等を行うことを明らかにしている。また,原告は,乙13発明においては,スタンド等に吊り下げ保持させた後,片手の指で開口部Sの下側のシートをつまんでから手前に引いて閉鎖手段4を開放し,他方の手で液状の栄養剤等を開口部Sに注ぐと主張するが乙13公報には,その点につ
き何らの記載も示唆もない。
(6)結論
アしたがって,本件発明1には法29条2項に該当する事由がある。そして,本件発明2において本件発明1に対して付加された「前記可撓性袋部材の両側部のうちの,
前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の主面との間に前記片手の指が挿入される側
の側部の辺が曲がっていることによって,前記可撓性袋部材の前記開口部の幅が前記収容部の幅よりも狭くなっている」との構成は,普遍的構成にすぎず,本件発明2独自の進歩性を根拠付けるものではない。
イ本件発明1,2は,乙13発明を主引例として周知技術を適用することにより本件優先日当時当業者が容易に発明できたものであるから,法29条2項に該当し,法123条1項2号所定の無効理由により無効審判により無効とされるべきものと認められるから,本件特許権1,2に基づく権利行使は許されない。(原告の主張)
(1)乙13発明について
ア乙13公報には次の記載がある。
「【0033】

次に,
上記のように支持スタンド等に栄養剤バッグを吊り下げ保持させた状態で,前記開封手段5により閉鎖手段4の上部に,前記図2(b)および図3のように開放操作用の開口部Sを形成し,その開口部Sから図2(c)のように閉鎖手段4を開放すると共に,その閉鎖手段4の下側に易剥離性シール部6を設けた場合には,そのシール部6も剥離して開封する。
そして上記開口部Sから水や温湯を注入して上記栄養

剤を液状にして前記出口栓体2から不図示のチューブ等を介して対象者の胃や腸に送るものである。
【0034】
また例えば上記バッグ内に経管栄養剤を病院等で充填して使用するタイプの場合は,
上記バッグを支持スタンド等に吊り下げた状態で出口栓体2から経管栄養剤を注
入する。その際,上記実施形態においては上記閉鎖手段4の下側に前記の易剥離性シール部6があるので上記バッグ内の栄養剤が閉鎖手段4側に移動することはない。そして上記バッグを上記のように支持スタンド等に吊り下げた状態で上記出口栓体2に不図示のチューブ等を接続して上記バッグ内に収容した栄養剤を対象者の胃や腸に送る。

【0035】
次いで,上記バッグ内に栄養剤を追加したり,別の栄養剤や水や温湯を注入する場合などに,
吊り下げ穴3等の吊り下げ部を利用して支持スタンド等に吊り下げ保持させ,上記と同様に開封手段5により閉鎖手段4の上部に,その開放操作用の開口部Sを形成し,その開口部Sから上記閉鎖手段4を開放すると共に,その閉鎖手段4の下側に易剥離性シール部6を設けた場合には,そのシール部6も剥離して開封する。そして上記開口部Sから追加供給する液状の栄養剤等を投入して出口栓体2から不図示のチューブ等を介して対象者の胃や腸に送るものである。」
イ以上のとおり,乙13公報には,開口部S及びシール部6の開封を片手で行うのか両手で行うのかは記載されていないが,開口部S及びシール部6を開封した後は,「吊り下げ穴3等の吊り下げ部を利用して支持スタンド等に吊り下げ保持させ」と記
載されているのであるから,スタンド等に吊り下げ保持させた後,片手の指で開口部Sの下側のシートをつまんでから手前に引いて閉鎖手段4を開放し,この状態で他方の手で液状の栄養剤等を開口部Sへ注ぐのが自然である。
そうすると,
乙13発明にはそもそも指を入れて開閉する開閉操作部を設けようとする動機付けがないし,「両手を使う」という被告の主張もまた誤りである。
(2)周知技術等
ア被告が周知技術と主張する乙4ないし乙6発明は,以下のとおりのものである。(ア)乙4発明
乙4発明は,
使用済みの生理用ナプキン等の汚れた物品を受け入れる廃棄器具を対象とするものであり(訳文【0001】,【0004】),本件発明1の「経腸栄養
法で使用される液状物を収容するための・・医療用軟質容器」(構成要件C及びH)とは技術分野が異なる。
(イ)乙5発明
乙5発明は,
使い捨て女性用尿器としての袋容器に関するものであり
(訳文1頁
【発
明の名称】【技術分野】),本件発明1の「経腸栄養法で使用される液状物を収容す
るための・・医療用軟質容器」(構成要件C及びH)とは技術分野が異なる。(ウ)乙6発明
乙6発明は「動脈グラフトおよび包装体」に関する発明であり(訳文1頁2行),「グラフトは,マイラー,ダクロン,レーヨン,綿,絹などの繊維および繊維状材料からなる織布または不織布材料の,細長い多孔質基材10の形態である。」(訳文1頁25行から27行)と記載されている。前記においてマイラー及びダクロンはポリエステル繊維の商品名である。
そして,
フィルムで形成されている細長い筒状部材20の内部に前記多孔質基材10を入れておき
(FIG.1~2)指環部30又はタブを開いて患者の動脈血液を多,
孔質基材10に吸収させ,筒状部材20に封入することが記載されている(FIG.4,訳文1頁37行から2頁末行)。

しかし,乙6発明は,袋内に収容された多孔質基材10に患者の動脈血液を吸収させて保管する袋体であり,
本件発明1のように液体を計量しながら収容する袋体では
ない。加えて,袋自体には血液量を測る目盛りもないから,技術的共通性はない。したがって,乙6発明は,審査基準にいう「相当多数の刊行物等が存在し,又は業界に知れわたり,あるいは例示する必要がない程よく知られている技術」に該当する
ものではない。
イ被告が,普遍的課題を示すものと主張する乙7公報に記載された技術は,以下のとおりのものである。
すなわち,
乙7公報にはチャックを開放するための2つの引き手を備えた袋体が開示されており(訳文1頁【具体的な実施形態】),前記2つの引き手は図3に示すシ
ート状の引き手6,6の場合は,両手でそれぞれの引き手6,6を掴んで袋口を開放すること
(訳文3頁下から8行から6行)図2に示す環状の引き手6,

6の場合は,
片手の親指と人差し指をそれぞれの引き輪6に入れて袋口を開放すること(訳文3頁下から5行から4行)が開示されている。
前記環状の引き手6,6は,「環状」と記載されているだけであり,環状でかつシ
ート状とは記載されていない。図1~2を見ても引き手6,6は輪のように示されているだけであり,シート状には見えない。環状の引き手の材料も記載されていない。そうすると,乙7公報記載の引き手は,本件発明1の構成要件Fでいう「シート状の開閉操作部」に該当すると言うことはできない。
加えて,乙7公報は単なる袋体を開示しているだけであり,液体を収容する袋なのかどうかも分からず,目盛りもなく,本件発明1のように液体を計量しながら収容する袋体ではないから,技術的共通性があるとはいえない。
したがって,乙7公報に開示された技術は,相当多数の刊行物等が存在し,または業界に知れわたり,
あるいは例示する必要がない程よく知られている技術に該当する
ものではない。
(3)課題ないし動機付け

ア本件明細書1には以下の課題に関する記載がある。
「【0008】
しかし,上記従来の医療用軟質容器100への液状物の注入作業では,液状物の注入作業の開始から終了まで,開口部700を片手で把持し,かつ,開口部700が開口した状態を保持しなければならない。このような非常に不安定な状態で液状物の注
入を行うと,医療用軟質容器100を落としてしまったり,開口部700の開口状態が保持できなくて液状物をこぼしてしまったりする恐れがある。よって,上記注入作業中に作業者が受ける精神的及び肉体的な負担が大きい。
【0009】
また,
液状物の量を確認するための目盛りが収容部におけるシートの主面に表示さ
れている場合があるが,この場合,図27及び図28に示されるような持ち方では目盛りが見づらい。例えば,目盛りが表示されたシートを作業者の正面に向けながら液状物を収容部300内に注入する場合,目盛りを見ながら液状物を収容部300内に注ぐためには,片手で把持された開口部700のうちの親指と接している側を左側,親指以外の指と接している側を右側とすると,右側から液状物を収容部300内に注
ぐ必要がある。しかし,この場合は,液状物の注入作業が行いにくい。【0010】
本発明は,空の医療用軟質容器への液状物の注入が行い易く,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見やすい,医療用軟質容器を提供する。」
イ以上のとおり,乙4ないし乙6発明及び乙7公報記載の技術は,本件発明1における上記課題との共通性は存しない。加えて,乙4ないし乙6発明及び乙7公報記載の技術には,
本件発明1のような経腸栄養法で使用される液状物を収容するための医療用軟質容器に適用するための動機付けも存しない。
したがって,
乙4ないし乙6発明及び乙7公報記載の技術を本件発明1と関連付けることは無理がある。
(4)進歩性についての小括

以上説明のとおり,乙4公報,乙5公報は,本件発明1の経腸栄養液を充填するための袋とは異なった技術分野の文献であり,「その技術分野において一般的に知られた技術」とはいえず,課題ないし動機付けもない。また,乙6公報,乙7公報記載の技術は,技術的共通性がなく,課題ないし動機付けもないから,乙13発明と関連付けることはできない。

したがって,乙13発明を主引例として周知技術を適用することにより,本件発明1,2の進歩性が否定されるようにいう被告主張は失当である。
4争点(4)(無効の抗弁の2(乙7発明を主引例とする進歩性欠如))(被告の主張)
(1)乙7発明

ア乙7公報には,以下の記載がある(図面は乙7公報の図面参照)。「本実用新案は包装用品技術分野に属しており,具体的には開放が便利なチャック式密封袋に関するものである」(訳文3頁4行から5行)。
「従来のチャック式密封袋は袋口の内側に密封チャックが設置され,チャックは互いに対応して嵌合する凹溝及び凸条であり,使用者が手の指で軽く押圧するだけで,
凸条が凹溝中に嵌入して,袋口を密封することができる。しかし,この種の密封袋は開放時に比較的力が必要であり,かつ,片手で操作することができず,同時に密封袋の表面が平滑であるため,
開放時には手の指を袋口の内側に伸入させる必要があるた
め,袋内物品及び手の指の双方向の汚染が容易に引き起こされる」(訳文3頁7行から12行)。
「本実用新案では,袋体の外表面に密封チャック開放装置が設置され,使用時には両手でそれぞれ両側の引き手を掴むだけで,軽い力で袋口を開放することができる。引き手は更に環状に設計することができ,それにより片手のみで袋口を開放することができる。従来のチャック式密封袋の開放が困難で,容易に汚染を招くなどの問題が根本から解決されており,その構造は簡単で,コストは低廉であり,良好な応用の前途を有している」(訳文3頁21行から25行)。

「図面に示されている通り,開放が便利なチャック式密封袋は,袋体1及び密封チャック2を含み,袋体の周囲が密閉され,密封チャックは互いに対応して嵌合する凹溝5及び凸条4であり,密封チャック2は袋体の内側に設置され,袋体の外表面の密封チャックに対応する箇所に2つの引き手6が固定設置される。使用時には,先ず密封チャックの外側に沿って袋体を切り取って袋口を形成し,その後,密封チャックに
より袋口を閉じる。開放を必要とする場合は,両手でそれぞれ両側の引き手6を掴むだけで,軽い力で袋口を開放することができる。
引き手6の形状は環状に設計することができ,片手の親指と人差し指とをそれぞれ両側の引き輪6に伸入させ,
両側に向けて力を入れるだけで袋口を開放することがで
きる」(訳文3頁35行から43行)。

イ以上の記載から,乙7公報には以下の発明(以下「乙7発明」という。)が開示されていると認められる。
「少なくとも2枚の,袋体1を構成するシートにより形成され(図2),開閉式の袋口と,被包装用品を包装する袋体内部と(訳文3頁4行から5行,同頁38行から41行,図2)を含む袋体1と,

前記袋体1の両主面の各々に前記袋体の右側又は左側から片手の指を挿入するための,袋体1に固定された環状の1対の引き輪6からなる開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記袋口を開放することができることを特徴とする
袋体1。」
(2)一致点,相違点
本件発明1と乙7発明の一致点,相違点は以下のとおりである。
ア一致点
乙7発明の「袋体1を構成するシート」は本件発明1の「シート」に,「袋口」は「開閉式の開口部」に,
「袋体内部」は「収容部」に,
「袋体1」は「可撓性袋部材」
それぞれ相当する。また,「袋体1」は,「容器」である限りにおいて本件発明1の
「医療用軟質容器」と一致する。そして,環状の開閉操作部を開けば,袋口の開口状態を維持できることは自明である。
したがって,乙7発明と本件発明1とは,次の点で一致する。
「少なくとも2枚のシートにより形成され,開閉式の開口部と,収容部とを含む可撓性袋部材と,

前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための,前記シートに固定された1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持することができることを特徴とする
容器。」

イ相違点
一方,乙7発明と本件発明1とは次の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1の可撓性袋部材が2枚の軟質プラスチックシートが貼り合わされて形成されるのに対し,乙7発明にはその点の明記がない点。(相違点2)
本件発明1の収容部が経腸栄養法で使用される液状物を収容するのに
対し,乙7発明にはその点の明記がない点。
(相違点3)本件発明1には排出用ポートが有るのに対し,乙7発明にはこれがない点。
(相違点4)
本件発明1には少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示されているのに対し,乙7発明にはこれがない点。
(相違点5)
本件発明1の開閉操作部は上縁部及び下縁部が各々軟質プラスチックシートに固定されたシート状であるのに対し,乙7発明では環状である点。(3)検討
ア相違点1
可撓性袋部材を形成するに当たり,シートを軟質プラスチックシートとし,これを貼り合せることは,
特開2007-319283号公報
(乙8の1。【0015】,
段落


実開昭62-111032号公報(乙8の2。以下「乙8の2」ともいう。),乙13公報(段落【0017】,【0019】)に開示された周知技術である。また,乙7発明は,シート状の壁が対向するものであり,これが軟質プラスチックシートを貼り合せて形成されていようがいまいが,物として同一である以上,実質的な相違点ではない。

したがって,乙7発明と本件発明1の相違点1は,本件優先日当時,当業者が容易に想到できたものである。
イ相違点2ないし相違点4
(ア)乙7発明は,
開放が便利なチャック式密封袋全般に適用可能な普遍的な容器に
関するものであり,用途に格別の限定はない。

一方,
可撓性袋部材からなる容器を経腸栄養法で使用される液状物を収容するために使用することは,特開2007-319283号公報(乙8の1),実開昭62-111032号公報(乙8の2),乙13発明,乙23,乙24,乙25により周知慣用技術であることが明らかである。これらの周知技術文献には,排出用ポートも開示されている(乙8の1の「チューブ21」,乙8の2の「チューブ6」,乙13の
「出口栓体2」,乙23の「注出口50」,乙24,乙25の「排出部26」)。また,上記の周知技術文献のうち,乙8の1,乙13,乙24には,少なくとも一方の主面に目盛りが表示されている構成も開示されている。
(イ)容器の分野において,
容器を経腸栄養剤を収容するための医療用軟質容器の用
途に用いることは,上記のとおり,本件優先日当時周知慣用の属性である。本件発明1は,
容器を経腸栄養剤供給のための医療用軟質容器の用途に限定したいわゆる用途発明であるが,
「用途発明とは,
(ⅰ)ある物の未知の属性を発見し,(ⅱ)
この属性により,
その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう」
のであって
(特許・実用新案審査基準第Ⅲ部第2章第4節3.2)
1.,
容器を経腸栄養剤供給に用いるという用途が既知のものである以上,当該用途の点で発明として相違するとは認定できない(参照,上記審査基準同節3.2.2)。
(ウ)したがって,乙7発明と本件発明1の相違点2(収容部が経腸栄養法で使用される液状物を収容するためのものであるか否か)は,実質的な相違点とはいえず,少なくとも,周知慣用技術(乙8の1,2,乙13発明,乙23,乙24,乙25)に基づき本件優先日当時当業者が容易に想到できた事項である。
また,
乙7発明を周知慣用技術に基づき経腸栄養法で使用される液状物を収容する
ための容器に適用すれば,必然的に,当該周知慣用技術に基づき経腸栄養法で使用される容器で本件優先当時一般的なものとなっている構成(排出用ポートや目盛り)が導入されることになり,相違点3及び相違点4も解消されるから,相違点3も,相違点4も,周知慣用技術に基づき優先日当時当業者が容易に想到できた事項である。(エ)なお付言するに,
後記無効の抗弁4において主引例とする米国特許第3331

421号公報(乙29)には,「ここで示した液体を受入れる容器10は様々な目的のために用いることができ,たとえば,浣腸用の袋,バリウム投与装置,女性用の衛生用の袋,胃の供給装置,経尿道の準備,静脈内の供給装置,袋状の洗浄装置,蓄尿袋,液体保管袋,及び他の同様の装置を想定することができる」ことが記されている(訳文5頁19行から22行)。

およそ液体を受け入れる容器の技術分野において,保管袋(液体保管袋)に用いるか経腸栄養法で使用される液状物を収容する容器(胃の供給装置)で使用するかは,優先日当時当業者が任意に互換できたことを示している。
ウ相違点5
可撓性袋部材の両主面に固定された,片手の指を挿入して開閉操作を行う開閉操作部を,乙7発明の如き環状とするか,本件発明1の如き上縁部及び下縁部が各々軟質プラスチックシートに固定されたシート状とするかは,設計事項の域を出ない容易想到事項である。
現に,乙4ないし乙6発明には,本件発明1と同様の上縁部及び下縁部が各々軟質プラスチックシートに固定されたシート状の開閉操作部が開示されている(乙4の訳文段落【0063】「口操作手段12」,Fig.1,乙5の訳文2頁22行「環状
要素14」,FIG.1,FIG.3,乙6の訳文2頁6行「指環部30」,FIG.4)。
したがって,
乙7発明と本件発明1の相違点5を本件発明1のように上縁部及び下縁部が各々軟質プラスチックシートに固定されたシート状とすることは,本件優先日当時当業者が容易に想到できた事項である。

(4)小括
以上のとおり,本件発明1は,乙7発明を主引例として,乙4~6周知技術並びに乙8の1,2,乙13発明,乙23,乙24,乙25に示される周知慣用技術に基づき本件優先日当時,当業者が容易に想到できたものであり,法29条2項により特許を受けることができず,本件特許1には法123条1項2号の無効理由があるから,
同特許に基づく権利行使は制限される。
なお,本件発明2において本件発明1に対し付加された「前記可撓性袋部材の両側部のうちの,
前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の主面との間に前記片手の指が挿入される側の側部の辺が曲がっていることによって,前記可撓性袋部材の前記開口部の幅が前記収容部の幅よりも狭くなっている」との構成は,例えば乙4公報の図8や乙
8の1,2,さらには特開2009-40479号公報(乙27)の図11などに開示された周知の普遍的構成であり,本件発明2独自の進歩性を根拠付けるものではないから,無効理由2は本件発明2にも同様に当てはまる。
(原告の主張)
(1)乙7発明について
乙7発明の袋は,
「包装用品技術分野」に属するものであり(乙7。訳文3頁4
行目)袋口を開口させた後,

液状物等による重さを受けつつ開口状態を安定かつ
容易に維持することや,液状物等の注入最中に目盛りを見やすくするという課題の開示はないことから,乙7発明は,本件発明1と,技術分野又は課題が同一又は近い関係にはない。
そもそも,本件発明1と乙7発明との間に五つも相違点があれば,乙7発明は
本件発明1と大きくかけ離れており,もはやそれだけで本件発明には困難性(進歩性)があって,乙7発明を主引例とする無効主張は成り立たない。加えて,乙7発明では,引き手6,6を環状に設計することで片手のみで袋口を開放できることが開示されており(乙7。訳文3頁22行から23行),これで
発明は完成しているから,乙7発明には,シート状の開閉操作部を設けようとす
る動機付けはない。
(2)乙7発明及び乙4ないし乙6発明について
被告は,開閉操作部を,乙7発明の如き環状とするか,本件発明1の如き上縁部及び下縁部が各々軟質プラスチックシートに固定されたシート状とするかは,設計事項の域を出ない容易想到事項であると主張する。

しかし,乙7発明は主引例としての適格性を欠いているし,乙7発明には,引き手6,6に代えてシート状の開閉操作部を設けようとする動機付けはない。そして,乙7発明及び乙4ないし乙6発明に共通していえることは,目盛りもなく,かなり多量の液体(例えば500~1000ml)を計量しながら収容する袋体ではないから,本件発明と技術的共通性があるとはいえない。
また,乙4ないし乙6発明は周知技術に当たらないし,共通する課題の開示ないし動機付けもない。
加えて,乙5公報に示された技術は女性用尿器であり,液体を収容するが,自動車内等で使用される非常用のトイレのようなものであることから(乙5。訳文1頁13行から15行)目盛りを設ける必要性はないうえ,

図2には左手の中指
と薬指を筒状部材7に入れることが示され,下腹部にあてることを前提としており,本件発明の経腸栄養法で使用される袋に適用するには無理がある。また,乙6公報の図4に人差指と中指の各指の指腹を下に向けた状態で指環部30に入れることが示されており,これでは重いものを持つことはできず単に袋を開くだけの操作しかできないから,本件発明の経腸栄養法で使用される袋に適用するには無理がある。

したがって,被告の主張は失当である。
(3)なお,第6回弁論準備手続期日において,被告が平成28年8月4日付け準備書面(3)を陳述してなす乙7発明を主引例とする上記特許無効の主張は,時機に後れた攻撃防御方法であり却下されるべきである。
5争点(5)(無効の抗弁の3(乙28発明を主引例とする進歩性欠如))
(被告の主張)
(1)乙28発明
ア特開平11-285518号公報(乙28。以下「乙28公報」という。)には,以下の記載がある(図面は別紙乙28公報の図面参照)。
「【請求項1】上部が開閉自在な閉鎖手段で閉鎖され,下部に液体出口が設けられ
てなるバッグであって,該バッグの内部空間が,前記閉鎖手段に近接して設けられた容易に剥離可能な隔壁により,上下に流体密に区画され,該区画された下の空間に液体が収容されてなる液体収容バッグ。
【請求項2】閉鎖手段がチャックシールである請求項1記載の液体収容バッグ。」「【0001】

本発明は,予め液体の収容された液体収容バッグに関する。本発明の液体収容バッグは,特に濃縮液状の経腸栄養剤を収容する経腸栄養バッグに好適である。」「【0004】
本発明者等は・・,容易に剥離可能な隔壁をバッグ上部の開閉自在な閉鎖手段に近接して設けて,バッグの内部空間を上下に流体密に区画し,区画された下の空間に液体を収容することにより,収容された液体,例えば経腸栄養剤が変質することなく長期間保存できるとともに,水等の供給時の作業効率が改善されることを見出し,本発明に到達した。すなわち本発明は,上部が開閉自在な閉鎖手段で閉鎖され,下部に液体出口が設けられてなるバッグであって,該バッグの内部空間が,前記閉鎖手段に近接して設けられた容易に剥離可能な隔壁により,上下に流体密に区画され,該区画された下の空間に液体が収容されてなる液体収容バッグである。ここで,閉鎖手段はチ
ャックシールであるのが好ましい。
【0005】
【発明の実施の形態】・・図1に示す液体収容バッグは,バッグ本体1と,バッグ本体1の下部(底部)に設けられた液体出口2と,バッグ本体1の上部に設けられた開閉自在な閉鎖手段(チャックシール)3からなり,バッグの内部空間はチャックシ
ール3に近接して下部側に設けられた容易に剥離可能な隔壁4により上下に区画されている。
【0006】バッグ本体1は,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン-酢酸ビニル共重合体等の合成樹脂シートを2枚重ねてその縁部を溶着し,袋状に形成したものであり,特に長期間保存する場合や酸化しやすい内容物の場合には,上記の合成樹
脂シートにアルミ箔をラミネートしたものが好ましく採用される。・・【0007】
液体出口2は,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン-酢酸ビニル共重合体等からなる合成樹脂で筒状に形成され,バッグ本体1に溶着されている。・・【0008】

バッグの上部は,
予め収容されている例えば濃縮液状の経腸栄養剤をうすめる水あ
るいは温湯等を供給するための供給口5になっており,供給口5はチャックシール3で閉鎖されている。このチャックシール3は,バッグ本体1内側の対向する位置に設けられた凸条と凹条が嵌合して閉鎖する構造になっており,必要に応じて開いたり閉じたりすることができる・・」
「【0010】使用に際しては,液体,例えば濃縮経腸栄養剤を収容した室を外部から加圧して,この隔壁4を剥離した後,チャックシール3を開放して,水あるいは温湯を供給し,チャックシール3を閉鎖して混合する。・・・」
イ乙28公報の上記記載事項から,
同公報には以下の発明
(以下
「乙28発明」

が記載されていることが認められる。
「2枚の合成樹脂シートの縁部を溶着することにより形成され,チャックシール3
により開閉自在な供給口5と,
経腸栄養剤を収容するバッグの内部空間とを含むバッ
グ本体1と,
前記バッグ本体1に固定された液体出口2と,
前記バッグ本体1の合成樹脂シートの上部における開閉手段とを含み,前記開閉手段を開放して前記供給口5を開口維持できることを特徴とする
経腸栄養バッグ。」
(2)一致点,相違点
本件発明1と乙28発明の一致点,相違点は以下のとおりである。ア一致点
乙28発明における「2枚の合成樹脂シート」は本件発明1の「少なくとも2枚の
軟質プラスチックシート」に,
「開閉自在な供給口5」は「開閉式の開口部」に,
「経
腸栄養剤を収容するバッグの内部空間」は「経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部」に,
「バッグ本体1」は「可撓性袋部材」に,
「液体出口2」は「排
出ポート」に,「開閉手段」は「開閉操作部」に,「経腸栄養バッグ」は「医療用軟質容器」に,それぞれ相当する。

したがって,乙28発明と本件発明1とは次の点で一致する。
「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含む可撓性袋部材と,
前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
前記可撓性袋部材に固定された開閉操作部を含み,
前記開閉操作部の操作により前記開口部の開口状態を維持できることを特徴とす

医療用軟質容器。」
イ相違点
一方,乙28発明と本件発明1は,次の点で相違する。
(相違点1)本件発明1では,可撓性袋部材の少なくとも一方の主面に液状物の量を示す目盛りが表示されているのに対し,乙28発明には当該目盛りが表示されていないこと。
(相違点2)本件発明1では,開閉操作部が,可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が
各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の部材により構成されていのに対し,乙28発明では,開閉操作部が,かかる構成であるか不明であること。(3)検討
ア相違点1
経腸栄養剤バッグの技術分野において,液状物の量を示す目盛りを可撓性袋部材の
主面に表示することは,乙8の1の図1(目盛り19),乙13公報の図1(目盛り8),乙24の如き本件優先日当時周知技術であり,同技術分野における常套手段である。
したがって,乙28発明の可撓性袋部材の主面に目盛りを表示する程度のことは,経腸栄養バッグの技術分野における必然的事項の導入(周知技術の寄せ集め)という
べきであり,優先日当時当業者が容易に想到できたことである。
イ相違点2
(ア)経腸栄養バッグを含む可撓性袋部材によりなる容器の技術分野において,開閉操作部が,可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定された一対のシート状の部材であって,
該部材に挿入した片手の指を各々遠ざけるようにして開口部の開口状態を維持するものであることは,乙4ないし乙6発明の周知技術そのものである。すなわち,乙4公報には,「例えばゴミ箱を開けることによって廃棄処理を支援するために利用可能な片方のみのフリーハンドしか有しないことがあり得る」課題を解決するために(段落【0003】),「使用時において,・・口開位置と口閉位置との間においてユーザの片手で操作可能に配置され」(段落【0020】),「1本以
上の指又は親指がその内部に又はそれに逆らって挿入されることができる第2の指受け入れ手段を備える。好適には,第2の指受け入れ手段は,容器の反対側の外壁上に位置し,
使用時に人が各指受け入れ手段内に又はそれに逆らって指又は親指を挿入し,容器の口を開放して前記指及び/又は親指を引き離すのを可能とする」口操作手段(段落【0024】)が開示されている。

該開口操作手段は,本件発明1の開閉操作手段と同一の,可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定された一対のシート状の部材である。
また,乙5公報には,「より容易に,かつ正確に位置決めされる使い捨ての身体排泄物容器を提供することである。
他の目的は,
一体型で,
容易に保管および運搬され,

かつ完全な使い捨ての装置を提供することである。他の目的は,安価に製造することができる装置を提供することである。さらに他の目的は,2本の指で操作され,容器を開いたまま保持し,かつ,間隙を身体オリフィス(被告注:「口」ないし「孔」のこと)の周りに適切に位置決めする装置を提供することである。本発明の装置は,対向する長側面および上部間隙を有する可撓性防水袋体である。各長側面に1つずつあ
る一対の細長い筒状部材は,
上部間隙に隣接する袋体の外面に添着される。
開口部は,
各筒状部材の少なくとも一端部にあり,かつ,各筒状部材は,内部への指の進入を許容する寸法にされる。使用のために,指は各筒状部材へ挿入される。そこで,2本の指は袋体を開いたまま保持することができる。その後,袋体は,指が袋体を開いたまま保持しながら,
例えば尿道口などの身体オリフィスが間隙に直接存在するように位置決めされる」ことが開示されている(訳文1頁23行から32行)。上記「各筒状部材」は,本件発明1の開閉操作手段の構成と同一の,可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定された一対のシート状の部材である。
また,乙6公報には,「グラフト(移植用の血管のこと)の形成が望まれる場合,指環部またはタブを互いに離れる方向に引っ張ることで力を加えて,袋体を開く。こ
れは,それぞれの手の人さし指を対向するループに挿入して,タング(被告注:「舌部」のこと)を溝から取り外すか,そうでなければ密封手段の係合を解除するのに十分な引張力を与えることにより,都合良く行うことができる。したがって,図4に示すとおり,片手の人さし指および親指で,袋体を開いたまま保持することができ,開口端を通して袋体の内部へ血液を導入することができる」ことが開示されている(訳
文2頁21行から26行)。
上記の「指環部またはタブ」は,本件発明1の開閉操作手段と同一の,可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定された一対のシート状の部材である。
(イ)乙28発明の開口部の開閉操作は,明記はないものの,その形態から必然的に
明らかなとおり,両手で操作するか,乙13発明と同様の左右辺保持等の方法で行わなければならず,片手開閉・片手保持の困難性という普遍的課題(乙7)が生ずるため,乙4発明における「例えばゴミ箱を開けることによって廃棄処理を支援するために利用可能な片方のみのフリーハンドしか有しないことがあり得る」課題,乙5発明における「2本の指で操作され,容器を開いたまま保持し,かつ,間隙を身体オリフ
ィスの周りに適切に位置決めする装置を提供する」課題,乙6発明における袋体を開くに際して「それぞれの手の人さし指を対向するループに挿入して,タングを溝から取り外すか,
そうでなければ密封手段の係合を解除するのに十分な引張力を与えることにより,都合良く行う」課題と共通する。
換言すれば,乙28発明と乙4~6周知技術とは,袋体の開口を確実に維持するという普遍的課題において共通する。
(ウ)また,前記のとおり,両手で開口部を開閉しなければならない経腸栄養バッグにおいては,
①他の操作者が栄養剤を注入しなければならず操作者を増やさなければならないという禁忌,②一人の操作者が一人で開口状態を維持しようとすれば,操作者の手の大きさによって開口部の設計が制約され開口部を大きくしたい要請に反する弊害,
③片手で開口部を維持しようとすると指が収容部内に入ることが避けられな
い汚染リスクという,
片手開閉片手開口維持を志向する強い動機が存在する

(乙7,
乙23,乙25)。
(エ)乙28発明における開閉操作部(チャックシール)が本件公報図1の符号4aで示される部材と対応するとしても,乙28発明において該部材により開閉操作が行われることは論を待たず,これを乙4~6周知技術の開閉操作部(本件発明1のシー
ト状の開閉操作部)に置換することは,周知技術の置換にすぎない推考容易事項である。
(オ)したがって,上記した課題の共通性,片手開閉・片手開口維持の当業者に対する誘引に動機付けられ,優先日当時当業者が乙28発明に乙4~6周知技術の適用を試みようとすることは当然の成り行きである。

したがって,
乙28発明における相違点2に係る構成を本件発明1のようにすることは,優先日当時当業者であれば容易に想到できた事項に該当する。ウ小括
以上のとおり,本件発明1は,乙28発明を主引例として乙4~6周知技術を適用することにより出願日当業者が容易に想到できたものであるから,法29条2項によ

り特許を受けることができず,法123条1項2号の無効理由が存在し,特許無効審判により無効とされるべきであるから,同特許に基づく権利行使は許されない。なお,本件発明2において本件発明1に対し付加された「前記可撓性袋部材の両側部のうちの,
前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の主面との間に前記片手の指が挿入される側の側部の辺が曲がっていることによって,前記可撓性袋部材の前記開口部の幅が前記収容部の幅よりも狭くなっている」との構成は,例えば乙4公報の図8や乙8の1,2などに開示された周知の普遍的構成であり,本件発明2独自の進歩性を根拠付けるものではないから,上記無効理由は本件特許2にも同様に当てはまる。(原告の主張)
(1)被告は乙28公報について,
「上部が開閉自在な閉鎖手段」「閉鎖手段がチャ

ックシールである」の記載があるとしながら,乙28公報には「チャックシール3に
より開閉自在な供給口5と」「開閉手段とを含み,前記開閉手段を解放して前記供給,
口5を開口維持できる」
と記載されていると主張し,
さらに一致点として,
「開閉操作
部を含み,
前記開閉操作部の操作により」
(同22頁20行から21行)
があると主張
する。
しかし,
チャックシールは本件発明でいう開閉操作部ではない。
チャックシールは,

例えば本件明細書の段落【0020】及び図1の4aに示されており,袋部材の内面に形成されている。
被告は,
「開閉操作部を含み,
前記開閉操作部の操作により」
は一致点であると主張
し,一方において「開閉操作部が,かかる構成であるか不明であること」と主張しているが,これらは矛盾している。

そもそも,乙28発明には開閉操作部はないのであるから,被告は一致点と相違点の区別がついておらず,被告の主張は,前提からして誤りである。加えて,乙28発明には乙13発明と同様,そもそも指を入れて開閉する開閉操作部を設けようとする動機付けがない。
(2)乙4ないし乙6発明は周知技術に当たらないし,共通する課題の開示ない
し動機付けもない。
(3)したがって,乙28発明を主引例として周知技術を適用することにより,本件発明1,2の進歩性が否定されるようにいう被告主張は失当である。(4)なお,第6回弁論準備手続期日において,被告が平成28年8月4日付け準備書面(3)を陳述してなす乙28を主引例とする上記特許無効の主張は,時機に後れた攻撃防御方法であり却下されるべきである。
6争点(6)(無効の抗弁の4(乙29発明を主引例とする進歩性欠如))(被告の主張)
(1)乙29発明
ア米国特許第3331421号公報(乙29。以下「乙29公報」という。)には以下の事項が記載されている。

「本発明は,液体容器に関する。より具体的には,本発明は,液体を内部に蓄積させる外側の可撓性の袋と,当該外側の可撓性の袋の上方部に固定されて,この外側の袋の中に向かう液体の流入を制御するための一方向弁を画定する内側の可撓性部材とを含む,使い捨て型の液体容器に関する」(訳文1頁12行から15行)。「図1及び図2に示しているように,液体容器10は細長い外側の袋12を含むが,
これは基本的にチューブ状の構成を有する,可撓性のプラスチック材料を用いて形成されている。
可撓性の袋12のチューブ状の構造は対向する壁14及び16からなり,このうち壁14は可撓性の袋12の前方を定めて,壁16は袋12の後方を定める。可撓性の袋12を構成する材料は,たとえばポリエチレンなどの安価なプラスチック材料が好ましい」(訳文2頁36行から42行)。

「可撓性の袋12の下方端部は,容器10に閉口した底を形成するように密閉される。しかしながら,袋12の下方端部または底は,容器内の液体の放出を行えるようにも構成され,この目的のために放出用プラグ18を備えている」(訳文2頁49行から3頁1行)。
「液体容器内に液体が導入されるとき,外側の袋12の口と内側の袋の部材32は
開口していなければならないが,これら袋を形成する材料は可撓性のプラスチックであるため,給液操作中にそれらの口が倒れるのを防ぐように,それらの口を開口位置で固定するための何らかの手段が必要とされる」(訳文3頁45行から48行)。「湾曲可能のワイヤ素子48は固定された開口位置へと移動可能だが,これらは弾性特性を有さない材料から形成されているため,圧力が取除かれた後もこの位置で留まり続ける。従って,袋の口と内側部材32を閉口位置に移動することが求められるとき,ワイヤ素子48に対して有効な圧力を及ぼして,これらを閉口位置へと戻すようにする」(訳文4頁11行から15行)。
「厚紙54には開口部53を形成してもよく,かつ壁55,56にも同様の開口部57を形成して,これらによって容器10をフック,支持部または同様物に吊せるようにしてもよい」(訳文4頁45行から47行)。

「図1から理解できるように,厚紙のヘッダ55の開口部53はヘッダの中央に虚弱領域を画定する。従って,ヘッダの端部が容器の前方に向かう方向で押圧されるとき,ヘッダは虚弱領域として画定された中央で湾曲する」(訳文4頁48行から50行)。
「さらに図1に示しているように,可撓性の袋12は,袋内に収容される液体の量
を示すための目盛り62をその上に備えていてもよい。従って,袋の材料は透明なプラスチックから形成されているため,可撓性の袋12内に導入される液体は一目で測定可能になる」(訳文5頁3行から6行)。
「なお,
ここで示した液体を受入れる容器10は様々な目的のために用いることができ,たとえば,浣腸用の袋,バリウム投与装置,女性用の衛生用の袋,胃の供給装
置,経尿道の準備,静脈内の供給装置,袋状の洗浄装置,蓄尿袋,液体保管袋,及び他の同様の装置を想定することができる」(訳文5頁19行から22行)。「前記外側の袋と内側の可撓性部材に対してヘッダを結合して,それらに対して上方に延在させて,それらの口を超えさせて,前記ヘッダはその端部と端部の中間に開口部を形成して備え,当該開口部の上下の前記ヘッダの位置が虚弱領域を画定し,こ
の際,前記ヘッダは虚弱領域に沿ってその中央で湾曲可能であって,それに結合された前記外側の袋と内側の可撓性部材の側端部を互いに向かうように強いて,これによって前記内側の可撓性部材の口をその開口位置まで移動させるようにした,液体容器」(訳文5頁48行から6頁4行)。
イ以上の乙29公報の記載から,同公報には以下の発明(以下「乙29発明」という。)が開示されていると認められる。
対向する壁14及び16からなるポリエチレンンなどのプラスチック材料により形成され,開口部53と,胃の供給用の液体を内部に蓄積させる可撓性の袋12とを含み,
該袋の表面には袋内に収容される液体の量を示すための目盛り62が表示された袋12と,
前記袋12に固定された放出用プラグ18と,

前記袋12に固定され,
袋の口を開口位置と閉口位置に移動させるワイヤ素子48
を含む,
胃の供給用の液体を受け入れる容器10。
(2)一致点,相違点
本件発明1と乙29発明の一致点,相違点は以下のとおりである。
ア一致点
乙29発明の
「対向する壁14及び16からなるポリエチレンンなどのプラスチック材料」は,本件発明1の「少なくとも2枚の軟質プラスチックシート」に,「開口部53」は「開閉式の開口部」に,「胃の供給用の液体を内部に蓄積させる可撓性の袋12」は「経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部」に,「袋内に
収容される液体の量を示すための目盛り62」「前記液状物の量を示す目盛り」は
に,
「袋12」は「可撓性袋部材」に,
「放出用プラグ18」は「排出用ポート」に,
「袋
の口を開口位置と閉口位置に移動させるワイヤ素子48」「開口状態を維持できる」は
「開閉操作部」「胃の供給用の液体を受け入れる容器10」「医療用軟質容器」に,

に,それぞれ相当する。

したがって,乙29発明と本件発明1とは,次の点で一致する。
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートにより形成され,開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部材と,
前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
前記軟質プラスチックシートに固定された開閉操作部を含み,
前記開口部の開口状態を維持できることを特徴とする
医療用軟質容器。
イ相違点
乙29発明と本件発明1とは次の点で相違する。
(相違点1)本件発明1は,少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが「貼りあ
わされて」可撓性袋部材が形成されるのに対し,乙29発明の可撓性袋部材はチューブ状である点。
(相違点2)本件発明1は,開閉操作部が,可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,
上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定
された一対のシート状の部材であって,該部材に挿入した片手の指を各々遠ざけるよ
うにして開口部の開口状態を維持するのに対し,乙29発明の開閉操作部は,袋の口を開口位置と閉口位置に移動させるワイヤ素子である点。
(3)検討
ア相違点1
可撓性袋部材を形成するに当たり,軟質プラスチックシートを「貼りあせる」こと
は,乙8の1,2,乙13公報,乙25等に開示された周知技術である。また,乙29発明は,対向する壁14及び16を有するものであり,これが軟質プラスチックシートを「貼りあせて」形成されても,チューブ状であっても,物として同一である以上実質的な相違点ではない。
したがって,乙29発明と本件発明1の相違点1は,優先日当時当業者が容易に想
到できたものである。
イ相違点2
(ア)可撓性袋部材によりなる容器の技術分野において,開閉操作部が,可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定された一対のシート状の部材であって,該部材に挿入した片手の指を各々遠ざけるようにして開口部の開口状態を維持するものであることは,乙4~6周知技術そのものである。
(イ)乙29発明の「液体を受け入れる容器10」は,「女性用の衛生用の袋,胃の供給装置,経尿道の準備,静脈内の供給装置,袋状の洗浄装置,蓄尿袋」への適用が想定されるものである。
したがって,乙29発明には,乙4発明(糞尿袋),乙5発明(女性用の衛生用の
袋ないし経尿道の準備),乙6発明(静脈内の供給装置)の技術を受け入れる契機となる,乙4~6周知技術との技術分野の共通性が存在する。
(ウ)乙29発明には,「液体容器内に液体が導入されるとき,外側の袋12の口と内側の袋の部材32は開口していなければならないが,これら袋を形成する材料は可撓性のプラスチックであるため,給液操作中にそれらの口が倒れるのを防ぐように,
それらの口を開口位置で固定するための何らかの手段が必要とされる」(訳文3頁45行から48行)と記されており,乙4発明における「例えばゴミ箱を開けることによって廃棄処理を支援するために利用可能な片方のみのフリーハンドしか有しないことがあり得る」課題,乙5発明における「2本の指で操作され,容器を開いたまま保持し,かつ,間隙を身体オリフィスの周りに適切に位置決めする装置を提供する」
課題,乙6発明における袋体を開くに際して「それぞれの手の人さし指を対向するループに挿入して,タングを溝から取り外すか,そうでなければ密封手段の係合を解除するのに十分な引張力を与えることにより,都合良く行う」課題と共通する。換言すれば,乙29発明と乙4~6周知技術とは,袋体の開口を確実に維持するという容器分野における普遍的課題において共通する。

(エ)乙29発明においては
「ヘッダの端部が容器の前方に向かう方向で押圧される
とき,ヘッダは虚弱領域として画定された中央で湾曲する」ことから理解されるように,開口部の中央を広げて維持する機能が要求されている。
したがって,乙29発明において当該機能を担う「ワイヤ素子48」は乙4発明の「第1,第2のループ(口操作手段)」,乙5発明の「一対の細長い筒状部材(環状要素)」,乙6発明の「ループ(指環部)」,すなわち乙4~6周知技術に開示される開閉操作部材と機能作用が同じである。
(オ)以上のとおり,乙29発明と乙4~6周知技術とは,技術分野の共通性,課題の共通性,機能作用の共通性という三要素において,本件優先日当時当業者に適用・結合動機を形成させるものである。
したがって,
乙4~6周知技術を乙29発明に適用して本件発明1のようにするこ
とは,本件優先日当時当業者が容易に想到できたことである。
(4)小括
以上のとおり,本件発明1は,乙29発明を主引例として乙4~6周知技術を適用することにより本件優先日当時当業者が容易に発明できたものに該当し,法29条2項により特許を受けることができないから,本件特許1には法123条1項2号の無
効理由が存在し,特許無効審判により無効とされるべきであるから,本件特許1に基づく権利行使は制限される。
なお,本件発明2において本件発明1に対して付加された「前記可撓性袋部材の両側部のうちの,
前記開閉操作部と前記可撓性袋部材の主面との間に前記片手の指が挿入される側の側部の辺が曲がっていることによって,前記可撓性袋部材の前記開口部
の幅が前記収容部の幅よりも狭くなっている」との構成は,例えば乙4の図8や乙8の1,2,乙27などに開示された普遍的構成であり,本件発明2独自の進歩性を根拠付けるものではないから,上記無効理由は本件特許2にも同様に当てはまる。(原告の主張)
(1)乙29公報には,袋の上部の円周方向に湾曲可能なワイヤ素子48を配置し,
ワイヤの塑性変形により開口を保持することが記載されている。
被告は,一致点,相違点を挙げて縷々主張するが,乙29発明には乙13発明と同様,
そもそも指を入れて開閉する開閉操作部を設けようとする動機付けがない。また,
ワイヤ素子48の塑性変形により開口状態を保持できるのであるから(乙29の訳文,4頁7行から13行)指を入れて開閉する開閉操作部は必要ではない。(2)乙4ないし乙6発明は,周知技術に該当しないし,共通する課題の開示ないし動機付けもない。
(3)したがって,
乙29発明を主引例として乙4ないし乙6発明の技術を適用する
ことにより,
本件発明1,
2の進歩性が否定されるようにいう被告主張は失当である。
(4)なお,第6回弁論準備手続期日において,被告が平成28年8月4日付け準備書面(3)を陳述してなす乙29発明を主引例とする上記特許無効の主張は,時機に後
れた攻撃防御方法であり却下されるべきである。
7争点(7)(無効の抗弁の5(補正要件違反))
(被告の主張)
(1)本件特許1,2は,「貫通路」という発明特定事項を削除し,発明を上位概念化した本件補正は当初明細書等に新たな技術的事項を追加するものであって法17
条の2第3項に違反し,法123条1項1号によって特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,法104条の3によって権利行使が制限される。(2)本件補正が新規事項の追加に該当すること
ア当初明細書等の記載
本件特許1,2の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(乙
2の1,乙3の1。いずれも記載内容は同一である。以下,「当初明細書等」という。)には,以下のような記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成さ
れ,開閉式の開口部と,液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方の主面に液状物の量を示す目盛りが表示された,可撓性袋部材と,前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
前記可撓性袋部材の両主面の各々に固定され,固定された前記軟質プラスチックシートとの間に,前記可撓性袋部材の右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部と,を含むことを特徴とする医療用軟質容器。【請求項2】
前記1対の開閉操作部は,各軟質プラスチックシートとの間に,前記開口部の右側または左側から指を挿入するための前記貫通路を形成する請求項1に記載の医療用軟質容器。」
なお,請求項2以下の全ての請求項が請求項1の従属項であり,全ての発明にお
いて,開閉操作部には「貫通路を形成する」という発明特定事項が含まれている。(イ)発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段「しかし,上記従来の医療用軟質容器100への液状物の注入作業では,液状物の注入作業の開始から終了まで,開口部700を片手で把持し,かつ,開口部700が開口した状態を保持しなければならない。このような非常に不安定な状態で液
状物の注入を行うと,医療用軟質容器100を落としてしまったり,開口部700の開口状態が保持できなくて液状物をこぼしてしまったりする恐れがある。よって,上記注入作業中に作業者が受ける精神的及び肉体的な負担が大きい。/また,液状物の量を確認するための目盛りが収容部におけるシートの主面に表示されている場合があるが,この場合,図27及び図28に示されるような持ち方では目盛り
が見づらい。例えば,目盛りが表示されたシートを作業者の正面に向けながら液状物を収容部300内に注入する場合,目盛りを見ながら液状物を収容部300内に注ぐためには,片手で把持された開口部700のうちの親指と接している側を左側,親指以外の指と接している側を右側とすると,右側から液状物を収容部300内に注ぐ必要がある。しかし,この場合は,液状物の注入作業が行いにくい。/本
発明は,空の医療用軟質容器への液状物の注入が行い易く,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見やすい,医療用軟質容器を提供する。/本発明の医療用軟質容器は,少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,開閉式の開口部と,液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方の主面に液状物の量を示す目盛りが表示された,可撓性袋部材と,前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,前記可撓性袋部材の両主面の各々に固定され,固定された前記軟質プラスチックシートとの間に,前記可撓性袋部材の右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部と,を含むことを特徴とする。」(段落【0008】~【0011】)
(ウ)発明の効果
「本発明の医療用軟質容器は,可撓性袋部材の両主面の各々に固定され,固定さ
れた軟質プラスチックシートとの間に,開口部の右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成する開閉操作部を備えているので,空の医療用軟質容器への液状物の注入が行い易く,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見やすい。」(段落【0013】)
(エ)発明を実施するための形態

「2枚の軟質プラスチックシート2a,2bの主面の外側面の各々には,各々開閉操作部5a,5bが固定されている。開閉操作部5a,5bは,例えば,各々シート状物からなるが,軟質プラスチックシート2a,2bとの間に,開口部4の右側または左側から指を挿入するための貫通路7a,7b(図2B参照)が形成されるように,各々軟質プラスチックシート2a,2bに固定されている。すなわち,
開閉操作部5a,5bを構成するシート状物の中央部がたるむように,各シート状物の上縁部51a,52a及び下縁部51b,52bが,各々軟質プラスチックシート2a,2bに固定されている。/このように,開口部4に開閉操作部5a,5bが固定されていると,片方の貫通路7aに親指を,他方の貫通路7bに親指以外の指(例えば,人差し指)を挿入し,親指と人差し指とを各々遠ざけ,各々の指を
開閉操作部5a,5bの内面に押し付けることにより,開口部4を構成する軟質プラスチックシート2a,2bを相互に引き離せば,図3に示されるように,開口部4が開口した状態を片手で維持できる。また,親指と人差し指は,貫通路7a,7b(図2B参照)内に挿入されていることから,開口部4について開いた状態を安定かつ容易に維持できる。また,医療用軟質容器1を落としてしまったり,開口部4の開口状態が保持できなくて液状物をこぼしてしまったりする恐れが低減される。よって,医療用軟質容器1への液状物の注入作業中に作業者が受ける精神的及び肉体的な負担を低減できる。」(段落【0022】,【0023】)なお,全ての実施例に関する明細書の記載及び図面を引用しないが,上記引用した実施形態1を含む全ての実施形態(実施形態2ないし9)において,貫通路を形成する開閉操作部を有する構成が開示されている(本判決添付の特開2011-78737号公
開特許公報(乙2の1)の図1,図2B,図3,図7,図9,図10,図13,図16A,図19,図22,図24各参照)。
イ新規事項の追加
上記のとおり,当初明細書等には,本件発明の課題を解決し,液状物の注入が行い易く,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見やすいという本件発明の効果を奏
する具体的な構成としては,貫通路が形成された1対の開閉操作部を有する構成が記載されているが,貫通路を備えない構成など,その他の構成については記載も示唆もされていない。当初明細書等の全ての記載から導き出される技術的事項とは,可撓性袋部材の主面に固定された一対の開閉操作部が,左右から指を挿入できる貫通路を形成したもののみである。

したがって,貫通路を備えない構成等の他の手段を導入することは,新たな技術的事項を追加することにほかならず,本件補正は新規事項を追加するものであって,法17条の2第3項に違反し,本件特許1,2は法123条1項1号により無効とされるべきものである。
(3)原告の主張について

ア原告は,指を挿入するための…1対の開閉操作部は,出願時の明細書(乙2の1)に記載されているので開示の範囲である旨主張するが,「貫通路を形成する1対の開閉操作部」の記載があることをもって,本件補正後の上位概念化された「貫通路が形成されない1対の開閉操作部」を含む発明の開示がある根拠とはならず,原告の主張は失当である。
イ原告は,本件明細書の図21を根拠とするが,図21は図19~図21において説明されている実施形態7の一つの図面である。図19及び図20Bから明らかなとおり,1対の開閉操作部5a,5bは貫通路7a,7bを形成しており,貫通路が形成されない1対の開閉操作部は開示されていない。
さらに,原告は,図21の図面を見れば,当業者であれば開閉操作部の三方が閉じたポケット状の構成を容易に類推することができると主張するが,当業者が医療
用軟質容器にポケット状の1対の開閉操作部を類推することが容易であるという具体的な根拠を何ら提示しておらず,原告の主張は一方的な願望の域を出ていない。(原告の主張)
(1)本件は,出願当初の「右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部」を,「右側または左側から片手の指を挿入するための1対
の開閉操作部」と補正したのであり(乙2の2),「開閉操作部」も「貫通路」も「右側または左側から片手の指を挿入する」ためのものであり,どちらも開閉操作をする機能が同一であるから,新たな技術的事項を追加したことにはならない。すなわち,「開閉操作部」の一つの実施態様である「貫通路」を削除したにすぎず,当業者が必要に応じて行う些細な設計変更のレベルの補正である。
上記のことに加えて,出願当初の明細書及び図面の記載事項のうち主要なものである本件明細書の図21は次のとおりであり,図面だけ見れば開閉操作部5a,5bは左右に貫通しておらず,一見してポケット状に見える。
被告は,本件明細書の図21について,図19及び図20Bを引用して貫通路が形成されない一対の開閉操作部は開示されていないと主張する。

しかし,本件明細書の図21は図面だけ見れば開閉操作部5a,5bは左右に貫通しておらず,一見してポケット状に見えるのであり,被告がその反論として図19及び図20Bを持ち出さなければならないことは,図21自体については原告の主張を否定できないことを示している。
また被告は,三方が閉じたポケット状の構成を容易に類推できることの具体的根拠を示していないと主張するが,「開閉操作部が左右に貫通しておらず,一見してポケット状に見える」のであるから,図21からポケット状の開閉操作部を類推できることは説明するまでもない。
(2)以上より,当初願書の明細書や図面に記載されている開閉操作部は,貫通路に限定されない。したがって新規事項の追加でなく補正要件違反でもない。開閉操作部の構成を貫通路とするか,一方を閉じたポケット状とするかは,当業者が実施
に際して容易に選択し得る技術常識といえる。
(3)なお,第7回弁論準備手続期日において,被告が平成28年10月14日付け準備書面(8)を陳述してなす上記特許無効の主張は,時機に後れた攻撃防御方法であり却下されるべきである。
8争点(8)(無効の抗弁の6(サポート要件違反の1))

(被告の主張)
原告は,ジップより上方の二重の軟質プラスチックシートの内側を「可撓性袋部材」と見立て,外側の軟質プラスチックシートに片手の指の挿入口が設けられたものが本件特許請求の範囲に含まれると主張するが,そのような構成は,本件明細書1,2の発明の詳細な説明に一切記載も示唆もされていないし,また,そのような
構成が本件発明の詳細な説明に開示されていることの裏付けとなる本件優先日当時の技術常識も存在しない。
したがって,原告の上記解釈を前提とする限り,本件発明1,2は,それぞれ,発明の詳細な説明に記載されたものではないから,本件発明1,2に係る特許請求の範囲の記載は法36条6項1号に適合せず,本件特許1,2は,法123条1項
4号により無効とされるべきものである。
(原告の主張)
被告は,
ジップより上方の二重の軟質プラスチックシートの内側を
「可撓性袋部材」
とし,外側の軟質プラスチックシートに片手の指の挿入口が設けられたものは,本件明細書1,2のいずれの発明の詳細な説明に一切記載も示唆もされていないから,これを特許請求の範囲の記載に含まれると解することが,サポート要件違反となるように主張する。
しかし,法には,侵害対象物が特許明細書の実施態様に記載されていることを要求する規定はない。法70条にもそのような規定はない。
被告の主張が成り立たないことは,例えば,特許発明が上位概念のAであり,明細書の実施態様には下位概念のa1が記載されており,侵害対象物がa2の場合,当該
特許明細書にはa2が記載されていないから,法36条6項1号違反の瑕疵が存在するということにはならないことからも明らかである。
さらに被告は,本件特許1,2の特許出願の公開後に被告製品を実施しているものであり,
公開された発明を利用して実施するに際して多少の改変をするのは事業者にとって当然のことであるから,本件明細書の記載及び図面に被告製品と同一の実施態
様が記載されていないからといって,サポート要件違反ということにはならない。9争点(9)(無効の抗弁7(サポート要件違反の2))
(被告の主張)
仮に,本件発明1のクレーム解釈として,
「可撓性袋部材」の一部が「開閉操作部」
であってもよいとの解釈が採用された場合,かかる実施態様は本件明細書1,2のど
こにも記載も示唆もされておらず,該解釈に基づいた場合,本件特許1,2には,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない法36条6項1号違反の瑕疵が存在することになる。
したがって,かかる解釈下においては,本件特許1,2には法123条1項4号の無効理由があることになり,これらの特許に基づく権利行使は制限される。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
争点(10)(原告の受けた損害の額)

(原告の主張)
(1)被告製品の販売により被告の受けた利益の額

被告は,本件特許1が登録される前から被告製品を販売していたが,本件
特許1が登録された平成26年12月12日から平成28年12月末日までの間に販売した数量は●(省略)●であり,その販売金額は●(省略)●である。イ
被告は,本件特許1の登録前の販売分を含めて平成28年12月末日分ま
でに仕入れた被告製品の枚数は●(省略)●であり,その仕入金額合計は●(省略)●である。

被告が本件特許1の登録後の被告製品の販売のために要した宣伝広告の
ためのチラシ,カタログ費用は●(省略)●であり,上記アの販売数量に相当する輸入費用は●(省略)●である。

上記アによれば,被告製品の販売金額は1枚●(省略)●であり,上記イ
によれば,被告製品の仕入金額は1枚●(省略)●であるから,上記アの販売により被告の受けた利益の額は,上記ウの経費を控除しても合計1億4144万9450円となる。
(計算式)
●(省略)●
●(省略)●

(2)原告の受けた損害の額
原告が被告の本件特許権1,2の侵害行為により受けた損害の額は,法102条2項の適用により被告が受けた利益の額である1億4144万9450円と推定される。また本件訴訟と因果関係のある弁護士及び弁理士費用相当の損害額は1400万円であるから,原告の受けた損害額は合計1億5544万9450
円である。
(3)被告の主張について

経費計算についての被告の主張について

(ア)仕入枚数
被告は,●(省略)●と主張するが否認する。
(イ)チラシ,カタログ費用
チラシ,カタログ費用は,本件特許1の登録日である平成26年12月12日以降の分に限定されるべきであり,その額は●(省略)●にとどまる。(ウ)販促グッズ費用
被告主張に係る販促グッズであるネックストラップの経費が,多種類にわたる被告製品の中で専ら本件侵害品の販売促進に用いられたと認めることもできないから,被
告製品の販売に直接必要な経費であったとは認められない。
(エ)輸入費用
被告は,輸入費用を●(省略)●と主張するが,同額は本件特許1が登録される前を含む全期間の仕入れ●(省略)●に対するものであるので,特許権侵害期間に相当する数量の割合に減ずべきであり,その額は●(省略)●である。
(オ)試作費・開発費
被告は,被告製品の開発に要した試作費・開発費●(省略)●を経費として控除すべき旨主張するが,試作費・開発費は,いったん製品を開発してしまえば追加的に必要となるものではない。
加えて,
その主張に係る開発費は,
具体的内容が不明であり,
本件侵害品の開発費であると認定することもできない。

(カ)エアー便使用による輸送費
被告主張に係るエアー便の費用を支出したとされる日は,平成25年11月6日であって本件特許権1の登録日である平成26年12月12日より1年以上も前であるから,これを経費と認めることはできない。
(キ)営業人件費

被告は,●(省略)●の営業人件費を控除すべきであると主張するが,同経費を限界利益の計算において控除すべき「侵害品の販売に直接必要であって,その販売数量の増減に応じて変動する経費」とは考えられない。
なお上記主張は,第15回弁論準備手続期日において,被告が平成29年10月30日付け準備書面(14)を陳述してなしたもので,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

その他の減額事情

(ア)被告製品におけるバッグ部分の寄与
顧客は,被告が「輸液セット」を単体でも販売しているのに,
「輸液セット」の
みでなく,バッグ付き輸液セットを購入しているが,これは利便性機能を有するバッグが付属しているからであり,バッグと輸液セットを個別に購入して組み付ける手間を省きたい等の理由からである。
そして,本件特許権1及び2の技術的範囲に医療用軟質容器のみならず栄養供給システムを含むのであるから,被告の受けた利益を算定するに当たり,バッグのみの価格に減額すべきという被告の主張は失当である
(イ)被告製品における他の知的財産権の実施

被告主張に係る特許発明又は意匠は,本件発明の製品を扱う医療関係者において購入の動機になるとは思われない。
また,
被告主張に係る特許発明又は意匠は,
本件発明1,2の持つ作用,効果と共通しているから,減額理由にはならない。(ウ)被告製品における本件発明1,2の技術的寄与
被告は,被告が被告製品によって得た利益の相当部分は営業力,ブランド力に
よるものであり,
技術面の寄与度はせいぜい30%程度と主張するが,
「片手の指
を挿入するためのシート状の1対の開閉操作部」を有する経腸栄養バッグの市場は原告と被告の製品以外は見当たらない。すなわち,被告製品は,原告の本件特許1及び2の独占権を享受しているからこそ,第三者の参入を防ぎ,安定した営業ができているのであり,技術面の寄与が30%程度であるとの主張は失当であ
る。
(被告の主張)
(1)被告製品の販売により被告の受けた利益の額について

原告の主張(1)ア,イの事実は認める。

ただし,被告製品のうち水平目盛りありのものの販売枚数,販売金額は●(省略)●であり,水平目盛りなしのもののそれは●(省略)●である。また仕入れた製品の中には製造不良や搬送,保管上に生じた不良のため販売できない製品があり,また,新規顧客に営業を行う際にはサンプルとして顧客に提供する必要もあるので,●(省略)●ことを経費に反映すべきである。

その他の経費として控除すべきもの

(ア)チラシ,カタログ費用
●(省略)●

被告製品の販売により被告の受けた利益の額を算定するために控除すべき宣伝広告のためのチラシ,カタログ費用は,宣伝広告の効果は支出した後に生じることから,原告主張の損害賠償対象期間以前のものを含み●(省略)●とすべきである。
(イ)販促グッズ費用

●(省略)●

被告は,
被告製品の販売促進のため販促グッズに●
(省略)
●を支出したから,
これを費用として控除すべきである。
(ウ)輸入費用

●(省略)●

輸入費用は上記金額である。仮に販売枚数で按分するとしても,●(省略)●関係にあることから,また輸入費用も原告主張の額●(省略)●を●(省略)●すべきである。
(エ)試作費・開発費

●(省略)●

被告は,被告製品の開発に要した試作費・開発費は●(省略)●であり,これを経費として控除すべきである,
(オ)エアー便使用による輸送費
●(省略)●

被告は,被告製品仕入れのため平成25月11月6日にエアー便を使用し,●(省略)●を支出したから,これを費用として計上すべきである。(カ)営業人件費

●(省略)●

被告における営業人件費は,売上額の●(省略)●であるから,被告製品の販売のために要した営業人件費は,
損害賠償対象期間の被告製品の売上額●
(省略)
●であり,同額が費用として控除されるべきである。

その他の減額事情

次に述べるとおり,
被告製品に対する本件発明の寄与率は●
(省略)
●であり,
被告製品の一部は原告製品以外に置き換わると考えられることから被告製品の販売数量の70%は102条2項の推定が覆滅される。
(ア)被告製品におけるバッグ部分の寄与
被告製品はバッグと輸液セット(チューブ,ドリップチャンバ,流量調節器,コネクタ等)が合わさった商品であり,輸液セットは単体でも販売されており,また顧客の需要原因は「輸液セット」にあるから,被告製品の販売において本件発明1,2の実施品であるバッグ部分の寄与する率は●(省略)●にとどまる。(イ)被告製品における他の知的財産権の実施

被告製品のバッグ部分には以下のとおり,少なくとも4件の特許発明及び3件の意匠権が実施されており,被告製品の特徴である使いやすさを実現している。現に原告は,平成28年4月から,
「ライトタイプ」と銘打って,従来の原告製品
と形状の異なる,被告製品に似た形状の後追い製品を販売しているが,これは被告製品に本件発明の構成以外の優位な特徴が備わっていることを自認するに等
しい。
したがってこれら他の知的財産が実施されている事情を考慮すれば,被告製品のバッグ部分において知的財産の観点で本件発明が寄与している割合はせいぜい10%である。
a
特許第5943787号に係る特許発明(乙40。以下,同特許を「乙40特
許」といい,その発明を「乙40発明」という。)
(a)乙40特許の特許請求の範囲は以下のとおりである。
【請求項1】袋本体の開口部に,開閉可能に重ね合わされたチャック状封止部が設けられた医療用バッグにおいて,
前記チャック状封止部が設けられた各一方の重ね合わせ部からそれぞれ外方に延び出して互いに重ね合わされる一対のフラップ状部が形成されており,該チャック状封止部の一方の端部側では該一対のフラップ状部が互いに一体化された閉止部とされていると共に,
該チャック状封止部の他方の端部側では該一対のフラップ状部が互いに分離された開放部とされていることにより,
該チャック状封止部から外方に延び出して該チャック状封止部の開状態下におい
て重ね合わせ方向の両側外方に向かって拡開可能な案内口部が設けられている一方,該案内口部における該一対のフラップ状部に対して手指による拡開操作力を及ぼす拡開操作部が設けられていることを特徴とする医療用バッグ。
(b)乙40発明の作用効果は「本態様においては,袋本体の開口部において,チャック状封止部よりも外方に延び出して設けられた一対のフラップ状部により,幅方向
一方の側が閉止部とされると共に他方の側が開放部とされた案内口部が設けられている。この案内口部によれば,開放部において大きく広げられることで十分な幅をもって拡開されると共に,閉止部において樋状の案内路が形成される。それ故,拡開操作部において加えられる拡開操作力を一対のフラップ状部に及ぼして案内口部を大きく開くことにより,
かかる案内口部を通じて開口部から袋本体へ液状物を容易に注

ぎ入れることが可能になる。(段落【0013】【0014】


)である。
そして,被告製品においては,案内口部を大きく開き,液状物の注入が容易いという効果が最も重要な効果であり,顧客に広くアピールしている点であり,逆にその効果は,本件明細書1,2に一切開示も示唆もされていない。その技術特徴は本件発明1,2ではなく,特許第5943787号の発明である。

なお,上記効果のうち「片手で開閉でき」という点は,本件発明特有の効果ではないことは,本件発明の審査経過からも明らかなとおり,片手で開閉可能な経腸栄養バッグは本件発明の出願日以前に,例えば特開2007-319283号(乙8の1)により公知の構成として存在していたものである。
さらに言えば,本件発明は,単に片手の指を挿入して開閉する開閉操作部というシンプルな構成ではなく,
「上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固
定されたシート状の1対の開閉操作部」
(本件発明1)「上縁部及び下縁部が固定さ

れたシート状の1対の開閉操作部」
(本件発明2)という特定の構成を必須の要件と
する開閉操作部に限定されている。
b
特開2014-156277号に係る特許発明(乙41の1。以下,同特
許を「乙41特許」といい,その発明を「乙41発明」という。)(a)特許請求の範囲(乙41の2)
乙41特許の特許請求の範囲は以下のとおりである。
【請求項1】少なくとも,表面部及び裏面部を構成する壁面シートと,容器縦方向一端側に設けられた充填物の注出部と,
前記表面部及び前記裏面部の端縁同士を接合して形成される端縁シール部と,
を備え,前記注出部に可撓性の長尺状チューブが取り付けられるパウチ容器において,
前記端縁シール部には,前記チューブを保持可能なチューブ保持部が形成されており,
当該チューブ保持部は,前記端縁シール部の外端から少なくとも前記チューブ
の直径以上の幅で前記壁面シートを切り込んで又は切り欠いて形成されることを特徴とするパウチ容器。
(b)乙41発明の作用効果は「上記構成によれば,チューブ保持部によってチューブを保持することで,例えばチューブが移動中に他の物に絡み付く,引っ掛かる,或いは脱落するといった不具合を防止できる。本チューブ保持部は,端縁
シール部の外端から壁面シートを切り込んで又は切り欠いて形成されているため,チューブの保持操作,取り外し操作が容易であり,片手の作業であってもチューブのスムーズな取り扱いを可能にする。例えば,チューブ保持部が形成された端縁シール部の外端にチューブを押し当てることでチューブを当該保持部に簡単に挿入することができ,また当該保持部からチューブを取り外す際には,チューブを外側に引っ張ることで容易に取り外すことができる。

(段落
【0006】

であり,被告製品のチューブ保持部が,その形状から乙41発明の効果(挿入,取り外しの容易性)を奏することは明らかである。
被告製品のバッグ部分においては,チューブ保持部もまた案内口部を大きく開く構成とともに,顧客に広くアピールされており,バッグ部分の技術的特徴への寄与度が高い。

他方,チューブ保持部に関する上記発明の効果は,本件発明の明細書には一切開示も示唆もない。
c
特開2014-28652号に係る特許発明(乙42。以下,出願に係る
同特許発明を「乙42発明」という。)。
(a)乙42発明の特許請求の範囲は以下のとおりである。
【請求項1】少なくとも表面部及び裏面部を構成する壁面シートを備え,該シートに囲まれた充填部に内容物が充填され,前記充填部に繋がる開口部が容器上部の前記表面部と前記裏面部との間に形成されるパウチ容器において,前記表面部及び前記裏面部の上部にそれぞれ設けられた袋状部を備え,前記各袋状部は,前記充填部から隔離された内部空間を有し,容器幅方向から
該空間への指の挿入を可能とする挿入口を有することを特徴とするパウチ容器。」
【請求項2】請求項1に記載のパウチ容器において,前記各袋状部は,前記壁面シートの全幅に亘って設けられることを特徴とするパウチ容器。(b)乙42発明の作用効果は,
「上記構成によれば,
容器幅方向から袋状部の内
部空間に指を挿入することができる。袋状部内に挿入される指(例えば,親指と
人差し指)は容器幅方向に沿った状態となり,この状態で親指と人差し指の間隔を開けることにより開口部を容易に広げることができる。親指と人差し指は袋状部内にすっぽりと挿入されるため,容器の保持性に優れ,内容物の重量が重い場合であっても指が抜け難く容器を安定に保持できる。そして,親指と人差し指は指先まで袋状部に覆われているため,充填物が指にかかることを防止できる。また,親指と人差し指との間隔を開けておくだけで開口状態が維持されるので,例えば,注入作業中に開口部が閉じてしまい充填物が零れるといった不具合を防止できる。(段落【0007】

)であり,被告製品の開閉操作部は上記構成を備え袋
状部となっていることにより,上記「親指と人差し指は袋状部内にすっぽりと挿入されるため,容器の保持性に優れ,内容物の重量が重い場合であっても指が抜け難く容器を安定に保持できる」との作用効果を奏している。

かかる作用効果は広告媒体に記載はされていないが,本件バッグ部分に関して一定の技術的寄与があることは明らかである。
一方,本件発明の開閉操作部は袋状部ではなく,乙42発明の作用効果を当然には含まない。
さらにいえば,原告は,本件特許出願の拒絶査定に対して審判請求をし,その
審判請求書(乙9の2)において,特開平9-313518号公報(甲13)には指がすっぽりと挿入されるような形状の操作手段3が開示されているが,『上縁「
部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部』については記載も示唆もされておりません。(乙9-2)と明言」
して,同公報(甲13)の操作手段3と本件発明の開閉操作部は「作用・機能が
異なっております」とも述べているのであるから,本件発明が乙42発明と同様の効果を奏さないことは明らかであり,これに反する主張は包袋禁反言に明瞭に抵触する。
また,被告製品は,乙42発明の請求項2の構成「請求項1に記載のパウチ容器において,前記各袋状部は,前記壁面シートの全幅に亘って設けられることを
特徴とするパウチ容器。
」も備える。かかる構成を備えることで,被告製品は「本
発明のパウチ容器は,例えば,長尺状のシートを用いた既存の製袋プロセスによって簡便且つ安価に製造可能である。(段落【0016】

)との効果も享受してい
る。
これに対し,本件発明の開閉操作部が典型的に想定しているのは,本件明細書の全ての実施例として記載され,原告製品の構成にも顕著なとおり,開閉操作部用のシート状部材を指が挿入できるように中央部に余剰を持たせつつ(たるませつつ)
,上縁部と下端部をヒートシールするという複雑な工程を必要とする。被告製品は乙42発明の構成を備えることで製造コストを大幅に下げることができたのであり,この効果は被告製品の販売にとって極めて重要であり,本件発明などとは比べものにならない被告製品に対する需要の強い源泉である。
そして,さらに注目されることは,原告が被告製品に対抗するために後追い販売した「より安価な新製品『ライトタイプ』
」の形状は,被告製品の開閉操作部と
同様の形状となっていることである。原告自身もより安価な製品を製造するためには被告製品のような形状にせざるを得なかったという点からも,被告製品の形状がコスト面で有効であることは明らかといえる。

d
特許第6088111号に係る特許発明(乙43。以下,同特許を「乙4
3特許」といい,同発明を「乙43発明」という。))
(a)乙43特許の特許請求の範囲は以下のとおりである。
【請求項1】表面シートと裏面シートとを備えるパウチ容器であって,前記表面シートと前記裏面シートに囲まれた空間が内容物の充填部を形成し前記充填部に繋がる開口部が前記パウチ容器上部の前記表面シートと前記裏面シートとの間に形成されており,
前記パウチ容器は,さらに,
前記開口部を閉じるチャックと,
前記チャックより上方において,前記表面シートの内側に設けられた第1の内
側シートと,
前記チャックより上方において,前記裏面シートの内側に設けられた第2の内側シートと,
を備え,
前記表面シートと前記第1の内側シートの間に第1の内部空間が形成されるとともに,前記裏面シートと前記第2の内側シートの間に第2の内部空間が形成されており,
前記表面シートは,
容器幅方向から前記第1の内部空間に指を挿入可能に形成された第1の挿入口,を含み,
前記裏面シートは,

容器幅方向から前記第2の内部空間に指を挿入可能に形成された第2の挿入口,を含むパウチ容器。
【請求項5】前記表面シートの前記チャックより上方に位置する部分の容器幅方向の長さと,前記第1の内側シートの容器幅方向の長さは同じであり,前記裏面シートの前記チャックより上方に位置する部分の容器幅方向の長さと,前記第
2の内側シートの容器幅方向の長さは同じである,パウチ容器。
【請求項6】シーラント層を有する第1の内側シートとシーラント層を有する表面シートとが,それぞれの当該シーラント層を対向させて接合されていると共に,シーラント層を有する第2の内側シートとシーラント層を有する裏面シートとが,それぞれの当該シーラント層を対向させて接合されている,パウチ容器。
(b)乙43発明の作用効果は,
「パウチ容器の利用者は,
挿入口に指を入れるこ
とで,容器幅方向から第1あるいは第2の内部空間に指を挿入することができる。指が容器幅方向に挿入されることにより,容器の保持性に優れ,内容物の重量が重い場合であっても指が抜け難く容器を安定して保持できる。第1の挿入口を介して指を収納する第1の内部空間,および,第2の挿入口を介して指を収納する
第2の内部空間がチャックの上方に設けられているので,利用者は,充填物を注入するとき,充填物の量を確認し易い。また,指の間隔を開けておくだけで開口状態が維持されるので,例えば,注入作業中に開口部が閉じてしまい充填物が零れるといった不具合を防止できる。(段落【0008】~【0010】」
)であり,
被告製品の開閉操作部は乙43発明の構成を備えることにより,上記の作用効果を奏しており,かかる作用効果は本件バッグ部分に関して一定の技術的寄与があることは明らかである。
また,被告製品は,乙43発明の請求項5及び請求項6の各構成を有し,これにより,被告製品は,
「パウチ容器の生産性が向上する」
(段落【0014】【0

015】
)という作用効果を奏する。
すなわち,被告製品は,内部空間を形成するに当たっては,表面シート・裏面
シートの外側ではなく内側にシートを設け,当該内側シートのシーラント層を対向させることで,明細書段落【0048】【0049】に記載されている長尺体,
のシートを積層させ連続的に溶着,成形することが可能となっている。かかる特徴も乙42発明と同様に被告製品の製造コスト低下に強く寄与している。かかる特徴も製造コストに関するものであり,その技術的寄与の程度は高い。
e
意匠登録第1479722号ないし1479724号(乙44ないし乙4
6)
各登録意匠の意匠の範囲は,別紙乙44意匠公報図面ないし乙46意匠公報図面に各記載された意匠(以下「乙44意匠ないし乙46意匠」という。)のとおりであり,いずれも被告製品において実施されている。
被告製品は,これらの意匠が実施されていることにより,平面視開閉操作部の凸部のないスッキリとした美観を実現しており,また,かかる形状は美観にとどまらず,被告製品を重ねても嵩張らず,チューブ保持部の適切な配置によりチューブを収納しやすいという機能的な効果もあり,被告製品の取り回し性を向上している。そして,原告製品を含む従来の経腸栄養バッグとは全く異なる新規な外
観は同バッグを選定する医療機関の担当者の選考意欲をそそるものであり,被告製品の形状に由来する上記機能的な効果が需要者の購買意欲に影響することは明らかである。
(ウ)被告製品における本件発明1,2の技術的寄与
被告は被告製品以外を通じて多数の医療機関と取引があり,原告と比べて,●(省略)
●営業人員を抱え,
また●
(省略)
●等の営業努力を行っている。
また,
被告は,
●(省略)●の多額の広告費をかけて「ニプロ」ブランドの増進に努めている。したがって,被告が被告製品によって得た利益の相当部分は上記営業力,ブランド力によるものであり,技術面の寄与度はせいぜい30%である。
第4当裁判所の判断
1争点(1)
(被告製品は本件発明1,
2の技術的範囲に属するか(文言侵害))
につ

いて
(1)原告は被告製品の構成を別紙本件発明の対比表の原告主張イ号物件欄記載のとおりであると特定した上,本件発明1の構成要件の充足を主張するのに対し,被告は,同構成を同対比表の被告主張イ号物件欄記載のとおりであると主張し,被告製品全部について本件発明1の構成要件F及び本件発明2の構成要件F’の充足を争い,
被告製品1,2について本件発明1の構成要件D及び本件発明2の構成要件D’の充足を争っている。しかし,原告被告は,このように被告製品の特定を争っているが,客観的対象である被告製品の認識に争いがあるわけではなく,主に構成要件F,F’との関係では「可撓性袋部材」について,構成要件D,D’との関係では「目盛り」についての解釈の争いに関連して,その要件に相当する部分を被告製品のどの部位で
特定するかという点で対立しているにすぎないものと理解できる。そこで,以下においては,
当事者の被告製品の特定についての争いを以上のようなものと理解した上で裁判所の判断を示していくこととする。なお,本件発明1の構成要件F,Dの充足の成否の判断は,本件発明2の構成要件F’D’の充足の判断と同じであるので,以下においては,本件発明1の構成要件F,Dの充足の判断を中心に示していくことにす
る。
(2)構成要件Fの充足について
ア「可撓性袋部材」について
(ア)被告製品の形態が,
①可撓性の部材である軟質プラスチックシートを2枚重ね合わせて袋状にし,その上方にジップが設けられ,②ジップより上方では軟質プラスチックシート(以下「外側シート」ともいう。)とは別部材の可撓性の部材であるシート状部材(以下「内側シート」ともいう。)が,外側シートのそれぞれの内側に溶着され,③ジップより上部である外側シートは,略半円状の切り込みを入れ,当該切り込みにより形成された舌片を内側に折り曲げることで,外側シートそのものに片手の指の挿入口(9a,9b)を形成して指が挿入されるようになっていることについては当事者間に争いはない。
また,
証拠
(甲9,
甲10)
及び弁論の全趣旨によれば,

内側シートも,その材質は軟質プラスチックシートであると認められる。(イ)原告は,本件発明にいう「可撓性袋部材」は,別紙可撓性袋部材の説明図(原告主張)記載の被告製品断面図の青色で指示した部分である,ジップより下部の軟質プラスチックシートとジップより上部の内側に溶着された別部材のシート状部材(内側シート)であると主張するのに対し,被告は,「可撓性袋部材」は,別紙可撓性袋部
材の説明図(被告主張)記載の被告製品断面図の青色で指示した部分である,ジップ上部で内側に溶着されたシート状部材を除く軟質プラスチックシート全体がこれに当たると主張する。
(ウ)そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲の記載によれば,「可撓性袋部材」は,①「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより
形成され」るもの(構成要件A)であり,②「開口部」(構成要件B)と③「・・収容部とを含み」(構成要件C),④「少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された」もの(構成要件D)と定義されているところ,被告製品が,上記構成要件Aを充足することは当事者間に争いがないし,後記検討するとおり,「主面に液状物の量を示す目盛りが表示され」ていると判断される部分は「可撓性袋部材」で
あることも当事者間に争いがない。
そして,ジップ上部の「可撓性袋部材」を原告主張のように解しても,被告主張のように解しても,「開口部」(構成要件B)と「収容部」(構成要件C)が含まれているということはできるが,可撓性「袋」部材という以上,その形状が,「袋」状であるものと解するのが自然であるところ,被告製品は,ジップ下部の軟質プラスチックシートとジップ上部に溶着された,軟質プラスチックシートからなる内側シートが一体となって「袋」状となっているから,この原告が主張する別紙可撓性袋部材の説明図(原告主張)の被告製品の断面図に青色で指示された部分と認定するのが相当である。
(エ)これに対して被告は,
外側シートが一部をなす軟質プラスチックシート全体を
もって「可撓性袋部材」であると主張するが,同部分を含んだ軟質プラスチックシー
トのジップより上部は,それより下側の軟質プラスチックシートを連続して一体の「袋」状の形状を構成している内側シートの外側に位置し,その内部に物を収容する機能を有するものではないから,これを「袋」部材というのは不自然である。ジップより上部の外側シートを含めて「可撓性袋部材」とする被告の主張は,軟質プラスチックシートが1枚のシートからなるものであって,内側シートは別部材のシ
ート状部材によって後に溶着されることに加え,さらに構成要件Fにより,「可撓性袋部材」には「開閉操作部」が「固定され」ることを根拠とするものであるが,その主張は,本件発明の技術的範囲を,医療用軟質容器は,まず,少なくとも「2枚の軟質プラスチックシートを貼りあわせ」これに

「シート状の一対の開閉操作部」「固

定」
するという工程を経て製造されるということによって特定しようとするものであ
り,また,その理解を前提として,本件発明の完成品としての物である医療用軟質容器の各部位の名称を,
製造前段階の部品状態で特定しているものということができる。
しかし,本件発明は「物の発明」であり,被告主張の根拠とされた上記の時系列的な要素を含んだように解される製造工程的な表現も,要は,本件発明の「物」が,平面の軟質プラスチックシートを互いに貼りあわさったといえる状態にあり,あるいは
部材同士が固定された状態にあることから,その構造を分かりやすく表現したにすぎないものであり,
これをもって製造方法で技術的範囲を特定したと解することはできない。そうすると,発明の対象である物の部位は,完成した物の状態で把握すべきであって,
製造前段階の部品状態でみた部位に拘束されるべきではないことも明らかであるから,これに反して製造方法で特許発明の技術的範囲を定め,その解釈を前提とし製造前段階の部品の構成に拘泥して,本件発明の構成要件との関係で被告製品の部位を特定しようとする被告の主張は明らかに失当である。
イ「開閉操作部」について
構成要件Fによると,「開閉操作部」は,「片手の指を挿入するための」,「シート状の1対」のものであること,2枚の「軟質プラスチックシートに固定された」部材であることが要件であることは明らかである。

そして「可撓性袋部材」が「軟質プラスチックシート」からなるものであることからすると,「可撓性袋部材の両主面の各々に・・軟質プラスチックシートに固定された・・開閉操作部」とあるのは,
「可撓性袋部材の両主面の各々に」,
「開閉操作部」
を固定されることを要件としているものと解される(なお,構成要件Fは「含み」で結ばれているが,これは構成要件AないしCからなる個性要件Dの「可撓性袋部材」
と,構成要件Eの「排出用ポート」,構成要件Fの「開閉操作部」という三つの部材を並列して規定している趣旨と解される。)。
これにより被告製品についてみると,被告製品は,外側シートに略半円状の切り込みを入れ,当該切り込みにより形成された舌片を内側に折り曲げることで,軟質プラスチックシートそのものに片手の指の挿入口(9a,9b)が形成され,指が挿入さ
れるようになっているものであるから,「片手の指を挿入するための」,「シート状の1対」のものである。また,この「片手の指を挿入するための」,「シート状」のものと,その下部の軟質プラスチックシートは,製造前段階では1枚の軟質プラスチックシートからなる構成部品であるが,内側シートを溶着されている完成した被告製品の状態においては,
溶着された内側シートとその下部の軟質プラスチックシートが

1枚の「軟質プラスチックシート」となり,「片手の指を挿入するための」,「シート状」のものは,この「軟質プラスチックシート」に「固定された」関係にあるということができる。そして,上記アで説示したとおり,被告製品は,軟質プラスチックシートのジップより上部に内側シートを溶着して一体のものとして「可撓性袋部材」としているのであるから,上記関係において,上記「シート状の1対」のものは,「可撓性袋部材」の「両主面の各々に」,「固定」されているということもできる。したがって,被告製品は,上記指が挿入されるようになった外側シート部分が,構成要件Fにいう「開閉操作部」に相当するということができる。
これに反する被告の主張は,
ジップ下部から連続する軟質プラスチックシートをも
って「可撓性袋部材」とする解釈を前提にするものであるが,その本件発明の技術的範囲の解釈は,「物の発明」である本件発明の技術的範囲を製造工程で特定するもの
であって採用できないことは,上記ア(イ)で説示したところと同じである。ウ
「右側または左側から片手の指を挿入する・・シート状の一対の開閉操作部」
について
(ア)構成要件Fには,開閉操作部」「右側または左側から片手の指を挿入する」「
は,
とあるところ,被告製品の開閉操作部は,片側に指挿入口が一つ設けられているだけであるが,平面形状である被告製品は,持ち換えることで右側からも左側からも指を挿入することができるから,被告製品は,構成要件Fの「右側または左側から片手の指を挿入する・・シート状の一対の開閉操作部」との要件を充足する。(イ)これに対して被告は,①本件明細書の開示内容,②本件特許の出願経過,③本件発明の効果の観点から,上記要件にいう「右側からまたは左側から片手の指を挿入
する」という要件は,医療用軟質容器の右側又は左側の双方から片手の指を挿入することができることを意味しているとし,被告製品は同要件を充足しない旨主張するが,以下のとおり同主張は採用できない。
a本件明細書の開示内容について
被告は,本件明細書に開示されている実施例は,いずれも右側又は左側双方から指
を挿入することができる貫通路となっているものしか開示も示唆もされていない旨主張する。
しかしながら,本件明細書1の段落【0065】,【0066】には以下の記載があり,図21の実施例が示されている。
「【0065】
ところで,収納部21内に液状物を注ぐ際,開口のうちの,2枚の軟質プラスチックシート2a,2b間の距離が最も離れた箇所及びその近傍に,液状物が入った容器の注ぎ口を位置させた状態で液状物を注入すると,注入作業が行い易い。しかし,注ぎ口の位置が医療用軟質容器を持つ手に近いと,液状物を注ぎにくい。【0066】
図21に示されるように,医療用軟質容器15では,面411dの面積よりも,面
411cの面積の方が大きいので,開口部4の幅方向のうち,医療用軟質容器15を持つ手に近いまち41b側よりも,医療用軟質容器15を持つ手から遠いまち41a側の方が,軟質プラスチックシート2a,2b間の距離が大きくなるように,開口部4を開口させることができる。故に,医療用軟質容器15では,医療用軟質容器を持つ手から遠いまち41aの近傍に液状物が入った容器の注ぎ口を位置させることで,
液状物の注入操作を容易に行える。」
以上の記載及び本件発明の実施例は,開閉操作部が,他の実施例同様に貫通路で形成されているように見受けられるが,その使用形態として,医療用軟質容器の一方向から指を挿入することを前提としていることは明らかである。
したがって,本件明細書に開示されている実施例が,いずれも右側又は左側双方か
ら指を挿入することができる貫通路となっているものしか開示も示唆もされていないとして,「右側からまたは左側から片手の指を挿入する」という要件を,医療用軟質容器の右側又は左側の双方から片手の指を挿入することができることを意味すると解すべきとする被告主張は採用できない(なお被告は,貫通路でないものが開示されているかどうかを問題にしているが,本件発明の構成要件の解釈の関係では,右側
及び左側双方から指を挿入することを予定しない実施例が開示されているかどうかが問題である。
上記図21で示される実施例の開閉操作部が貫通路で形成されていたとしても,
これが右側及び左側双方から指を挿入することを予定していないことは明らかであって,これが貫通路を形成しているからといって,被告主張の根拠となるものではない。)。
b本件特許の出願経過について
被告は,本件特許の出願経過に照らし,開閉操作部は「貫通路に」に限られるように主張するところ,(乙2の1ないし3)
証拠
によれば,
本件特許の出願経過につき,
①本件特許1の願書に最初に添付された特許請求の範囲において,請求項1の構成要件Fに相当する構成は,「前記可撓性袋部材の両主面の各々に固定され,固定された前記軟質プラスチックシートとの間に,前記可撓性袋部材の右側又は左側から指を挿
入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部と」いうものであったこと,②平成25年12月2日付手続補正書により,
請求項1の構成要件Fに相当する構成は,
「前
記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための1対の開閉操作部を含み」と補正され,「貫通路を形成する」との要件が削除されたこと,③原告は,上記②の手続補正書と同日付の早期審査に関する
事情説明書において,「3.補正の説明」として,「補正後の請求項1の補正箇所の『前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための1対の開閉操作部を含み』は,重複した語句があり,誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として補正しました」(2頁末尾から7行から5行)と述べたこと,以上の事実が認められ,本件特許2についても,証拠(乙3
の1ないし3)によれば,同様の出願経過であることが認められる。被告の上記出願経過に基づく主張は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1において,
一対の開閉操作部が貫通路であることによって右側からも左側からも指を挿入できる意味と読むのが自然な解釈であり,補正により,構成要件Fに相当する部分から「貫通路を形成する」という構成が削除されているが,これを原告は単に重複した語
句を削除し,誤記を訂正したものにすぎないとしているから,補正後の構成要件Fであっても,
貫通路が形成されているものを指すことが原告自身の出願経過における主張により裏付けられるというものである。
しかし,被告の上記主張は,当初の特許請求の範囲の記載にある「貫通路」をもって,
右側又は左側の双方からの指の挿入ができることを要件とするものと限定的に解するものであるが,本件明細書にそのようなことを示唆する記載はないし,原告がそのような説明をした事実も認められず,むしろ本件明細書の実施例には,当初から,上記aに示したように,
右側又は左側双方から指を挿入することを前提にしない実施
例が記載されていることからすると,貫通路とは,単に指を挿入する部材の一実施例の形状を示したという以上の意味はなく,被告主張のように限定して解すべき根拠はないから,そのような限定的な解釈を前提とする被告主張は採用できない。
c発明の効果の観点について
被告は,本件明細書に記載された本件発明の効果あるいは引用文献(特開2007-319283号等。乙8の1)の医療用軟質容器と対比して述べられた本件発明の効果と,本件発明が液状物の量を示す目盛りは「少なくとも一方の主面」にあれば足りるという構成とされている点を考慮すると,「右側または左側から片手の指を挿入
するための」という構成は,右側と左側の双方から指を挿入することができる構成を指していると解釈しないと整合性がとれない旨主張する。
確かに,
本件明細書の段落
【0013】には,
「液状物の注入が行い易く,しかも,
前記液状物の注入の最中に目盛りが見やすい。」ことが本件発明の効果である旨の記載があり,証拠(乙9の1,2)によれば,原告は,本件発明の出願経過において,
拒絶理由通知に対しても,拒絶査定に対する不服審判請求においても,公知の医療用軟質容器(特開2007-319283号公報。乙8の1)と比較し,本件発明は注入中の目盛りが見やすく,
注入もしやすいという観点で差がある旨主張した事実が認
められる。
しかし,原告は,出願経過において,拒絶理由通知で引用された上記引用文献との
差異で目盛りの見やすさを強調しているものの,これは本件発明では,経腸栄養バッグの横方法から指を挿入することで,目盛り等が記載された面が作業者に正対するのに対し,引用発明である乙上記特開公報ではそうでないことをいっているにすぎず,そのような経腸用栄養バッグの保持の仕方という観点からすると,本件発明の構成の方が,目盛りが見やすいことは明らかである。
そして,後記(3)で認定する経腸栄養バッグにおいて求められる目盛りの機能,役割からすると,たとえ主面の一面にしかない目盛りが裏面になったとしても,本件発明における開閉操作部の構成によれば,持ち手が邪魔することなく裏面の目盛りを見ることができ,これで足りるのであるから,この点からも右側又は左側双方から指を挿入することを要件とすべきという被告主張は採用できない(なお,被告は本件発明において,可撓性袋部材が透明であることは要件とされていない旨も主張するが,証
拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,経腸栄養バッグのみならず医療用バッグ全般において,
使用時において内容物を外部から確認できるよう透明の材質が用いられるのが一般的であると認められる。)。
(3)構成要件Dの充足について
ア被告製品には,すべて「可撓性袋部材」の両面に斜め目盛りがあるほか,被告
製品3ないし同7には,加えて一面に水平目盛りもあるところ,原告は,この斜め目盛りが構成要件Dの「目盛り」に相当するとして,被告製品をそのように特定した上で,
構成要件Dの充足を主張している。
これに対し,
被告は,
構成要件Dの
「目盛り」
は水平目盛りである必要があるとのクレーム解釈を前提に,被告製品をそのように特定し,その上で「斜め目盛り」しかない被告製品1,2は,構成要件Dを充足しない
旨主張する(なお,原告は,被告の上記主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出である旨主張するが,
「訴訟の完結を遅延させること」
にはならないから理由がない。。

イそこでまず構成要件Dの「目盛り」について検討するに,被告製品のすべてに付された斜め目盛りも被告製品1,2を除く被告製品に付された水平目盛りも,これが日常用語としての「目盛り」に該当することは当事者間に争いがあるわけではない
から,構成要件Dにいう「目盛り」がその技術的意義から,「水平目盛り」に限定して解されるべきかが問題となる。
この点,
確かに,
本件明細書の段落【0013】には,
「液状物の注入が行い易く,
しかも,前記液状物の注入の最中に目盛りが見やすい。」ことが本件発明の効果である旨の記載があるが,被告は,本件発明が対象とする経腸用栄養バックは,栄養流動食品を注入して使用するものであるが,被告製品に付された目盛りは,斜め目盛りであっても水平目盛りであっても,50ミリリットル刻みの目盛りしかなく,また本件明細書記載の実施例の目盛りも同様であるから,「目盛り」があるとしても,さほど厳密な計量が求められているわけではないことが認められる(なお,水平目盛りであっても,注入時は開口部の開き加減によって液面の高さが変異し,目盛りが正確な内容量を示すことは困難であるはずであって,やはり程度の差はあれ注入時の計量目盛
りとしての限界があることは同じと考えられる。)。
そうすると,斜め目盛りであっても経腸栄養剤の注入時に,およその注入量を知る手段となり得る以上,斜め目盛りは,本件発明にいう「目盛り」に相当するというべきである。
ウしたがって,被告製品は,すべて斜め目盛りが示されているから,すべて原告
主張のように構成dを特定するのが相当であり,すべて本件発明の構成要件Dを充足するといえる。
(4)以上によれば,被告製品は,すべて構成要件D,Fを充足しているところ,それ以外の構成要件については,被告製品の特定の表現として争いがあるものの,それぞれが本件発明の構成要件AないしC,E,G,Hを充足していることに争いがある
わけではないから,被告製品は,すべて本件発明1の構成要件を充足し,その技術的範囲に属するといえる。
そして,本件発明2との関係についてみても,その構成要件はA’ないしE’は,本件発明1の構成要件AないしEと同じであるから,被告製品がこれらを充足していることは本件発明1についてみたと同様である。

また本件発明2の構成要件F’は,本件発明1の構成要件Fと表現振りが異なるだけにすぎないから,
被告製品がこれを充足することは本件発明1についてみたと同様
であり,また構成要件G’,H’及び本件発明1に対応する要件のない構成要件I’については,被告製品がこれを充足することに争いがあるわけではないから,被告製品は,すべて本件発明2の構成要件を充足し,その技術的範囲に属するといえる。2争点(3)(無効の抗弁の1(乙13発明を主引例とする進歩性欠如))
(1)本件発明
本件発明1の発明の要旨は,上記第2の1(2)アのとおりである。(2)乙13発明
ア乙13公報には,図面とともに以下の事項が記載されている。

【技術分野】

【0001】
本発明は,例えば各種の疾病患者に,いわゆる経管栄養法により栄養補給をする場合などに用いる栄養剤バッグに関する。


【背景技術】
【0005】

ところで,上記のようなバッグ型投与容器である栄養剤バッグとしては,例えば下記特許文献1,2に示すようなものがある。これらのものは再封鎖可能な液体注入口を備えた袋状容器であり,
その再封鎖可能な液体注入口の閉鎖手段としてチャックシ
ール等を備えたものが開示されているが,閉鎖手段がチャックシールのみである場合には,密封度が必ずしも充分とは言えず,そのチャックシール部に極く僅かな隙が生
じて実質的な開封状態となってしまったり,不用意に開封してしまう等のおそれが多分にある。
【0006】
そこで,下記特許文献1においては,上記チャックシール等の閉鎖手段のバッグ内部空間側に容易に剥離可能な弱シール部等の隔壁を設けることが提案されているが,
上記チャックシール等の閉鎖手段の外側,すなわちバッグの上部は開放させているので,その開放されたバッグの上部に塵埃や細菌等が進入し,上記閉鎖手段を開封したときに,それらの塵埃や細菌等がバッグ内に混入するおそれがある。【0007】
また下記特許文献2においては,チャックシール(凹凸嵌合ファスナー部)の上方のバッグの上辺部を,バッグの他の周辺部と連続して溶着等でシールし,そのバッグの上辺部のシール部と上記チャックシールとの間に,該チャックシールを開封する際に,その上部を切除するためのミシン目が設けられているが,そのミシン目から塵埃や細菌等が混入するおそれがある。
【0008】
そのため,上記特許文献1,2は,いずれも微生物や菌汚染を考慮した場合には,密
閉度が不充分で感染等の悪影響を及ぼす可能性があるという欠点がある。このように,これまでに広く使用されている栄養剤バッグは,チャックシール等の閉鎖部分の上部の機密性や無菌性は必ずしも保証されていないのが実情である。


【発明が解決しようとする課題】
【0010】

本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので,必要時に,例えばバッグに栄養剤等を注入する際に,容易に高密開閉が可能であり,また開口部に関しては使用するまで無菌状態を維持し,
尚且つ容易に製造することができる栄養剤バッグを提供する
ことを目的とする。また,衛生上繰り返し使用をしない限り,微生物汚染を避けることができる安価な栄養剤バッグを作製することを目的とする。



【0012】
上記のようにバッグ本体内の収容室の上部に設けたチャックシール等の閉鎖手段とバッグ本体の上部の吊り下げ部との間に,上記閉鎖手段の開放操作用の開口部を形成するための開封手段を設けたことによって,例えば上記収容室内に収容した栄養剤に水や温湯等を注入するために上記閉鎖手段を開く際には,上記開封手段で閉鎖手段
開放操作用の開口部を形成し,
その開口部から上記閉鎖手段を開放することができる。
そのため,上記閉鎖手段を開くまでは,その上部を密閉した状態に維持することが可能となり,
上記閉鎖手段の上部に塵埃や細菌等が蓄積して閉鎖手段を開くことによって上記収容室内に,
それらの塵埃や細菌等が進入するのを未然に防止することができ
る。


【0016】
図示例の栄養剤バッグBは,
内部に栄養剤を収容する収容室10を有するバッグ本
体1と,
そのバッグ本体1の下部に設けられた上記栄養剤流出用の出口栓体2とを有し,そのバッグ本体1の上部には,該バッグ本体を吊り下げるための吊り下げ部としての吊り下げ穴3と,
上記収容室10の上部に設けられた高密開閉可能なチャックシ
ール等の閉鎖手段4と,その閉鎖手段4を常時はほぼ完全無菌状態に維持し,上記閉
鎖手段4を開放する際には,
その上部に開放操作用の開口部を形成するための開封手
段(オープンピール機構)5と,上記収容室10内に収容した栄養剤が上記閉鎖手段4側に移動するのを防止すると共に上記閉鎖手段4を開放したときには容易に剥離可能な易剥離性シール部6とが設けられている。
【0017】

上記バッグ本体1は,図2に示すように前後一対のシート材1a・1bの周縁部を溶着等で気密・水密に接合することによって,その周囲の接合部11の内方に中空部を有する袋状に形成すると共に,その中空袋状のバッグ本体1の下部中央部の接合部11に,
上記出口栓体2を構成する合成樹脂等よりなる筒状体を貫通させた状態で溶着等により一体的に固着した構成であり,上記中空部を栄養剤を収容する収容室10
としたものである。
【0018】
上記バッグ本体1を構成する上記各シート材1a・1bおよび上記出口栓体2を構成する筒状体等の材質は適宜であり,とりわけ上記シート材1a・1bの原料としては軟質包材に,
また上記筒状体等の原料は栓体にそれぞれ適しているものであれば特
に限定されるものではない。また,必要に応じて上記各原料に,例えば酸素バリア性や遮光性等を付与するために金属等のフィルムを積層したり,酸化物等からなる膜を形成することも可能である。
【0019】
さらに上記バッグ本体1を構成するシート材1a・1bの原料特性としては,例えば透明性,対候性,対ピンホール特性,引張強度,対衝撃性,対薬品性を充分に持つものが望ましい。また上記各シート材1a・1bは単層もしくは多層に積層したもののいずれでもよい。多層構成のシート材としては,例えばポリアミドまたはナイロンと,低密度ポリエチレンと,リニアローデンポリエチレンと,シーラント層との4層構成のものを用いることができる。上記シーラント層の素材としては,ヒートシール性が良好であり,かつイージーピール機構を有する素材を使用するのが望ましい。」


【0022】
上記閉鎖手段4を開放する際に,その上部に開放操作用の開口部を形成するための開封手段5は,本実施形態においては図2(a)に示すように前側のシート材1aの背面側に上下一対のハーフカット溝51・51を形成し,
その両ハーフカット溝51・
51間の帯状部分50を上記ハーフカット溝51・51に沿って切除する構成である。
【0023】
上記両ハーフカット溝51・51の一端側(図の場合は図1において左側)には,その両ハーフカット溝51・51に連続してC字状の切り込み52を上記前側のシート材1aに形成することによって,上記帯状部分50に連続する把持用のノッチ部50aが帯状部分50と一体に形成されている。また上記両ハーフカット溝51・51
の他端側は漸次接近して1点に収束するように構成されている。
【0024】
上記ノッチ部50aを指等で摘んで,それと一体に設けた上記帯状部分50を上記ハーフカット溝51・51に沿って切除することによって,上記ノッチ部50aおよび帯状部分50が前側のシート材1aから分離されて,図2(b)および図3に示す
ように上記閉鎖手段4の上方の前側のシート材1aにスリット状の開口部Sが形成されるように構成されている。


【0031】
上記のように構成された栄養剤バッグを用いて経管栄養法により患者等に栄養剤を供給するに当たっては,
例えば上記バッグ内に経管栄養剤が予め充填されているタ
イプでは,その状態で持ち運んだり,支持スタンド等に吊り下げ保持させる。・・。


【0033】
次に,上記のように支持スタンド等に栄養剤バッグを吊り下げ保持させた状態で,前記開封手段5により閉鎖手段4の上部に,前記図2(b)および図3のように開放操作用の開口部Sを形成し,その開口部Sから図2(c)のように閉鎖手段4を開放すると共に,その閉鎖手段4の下側に易剥離性シール部6を設けた場合には,そのシ
ール部6も剥離して開封する。
そして上記開口部Sから水や温湯を注入して上記栄養
剤を液状にして前記出口栓体2から不図示のチューブ等を介して対象者の胃や腸に送るものである。
【0034】
また例えば上記バッグ内に経管栄養剤を病院等で充填して使用するタイプの場合
は,
上記バッグを支持スタンド等に吊り下げた状態で出口栓体2から経管栄養剤を注入する。その際,上記実施形態においては上記閉鎖手段4の下側に前記の易剥離性シール部6があるので上記バッグ内の栄養剤が閉鎖手段4側に移動することはない。そして上記バッグを上記のように支持スタンド等に吊り下げた状態で上記出口栓体2に不図示のチューブ等を接続して上記バッグ内に収容した栄養剤を対象者の胃や腸
に送る。
【0035】
次いで,上記バッグ内に栄養剤を追加したり,別の栄養剤や水や温湯を注入する場合などに,
吊り下げ穴3等の吊り下げ部を利用して支持スタンド等に吊り下げ保持させ,上記と同様に開封手段5により閉鎖手段4の上部に,その開放操作用の開口部S
を形成し,その開口部Sから上記閉鎖手段4を開放すると共に,その閉鎖手段4の下側に易剥離性シール部6を設けた場合には,そのシール部6も剥離して開封する。そして上記開口部Sから追加供給する液状の栄養剤等を投入して出口栓体2から不図示のチューブ等を介して対象者の胃や腸に送るものである。


【0037】
なお,前記吊り下げ穴3等の吊り下げ部は,前記図1のようにバッグ本体1の上部中央部に設けると共に,バッグ本体下部の左右両側には,図示例のように凹部7を形成し,
それに対応して前記接合部11の一部が図のように収容室10側に突出するように構成するとよい。そのように構成すると,栄養剤バッグを上記吊り下げ部により支持スタンド等に吊り下げ保持させたときの該栄養剤バッグの形状が変動することなく常時ほぼ一定にすることができる。その結果,バッグ本体下部の出口栓体2から
流出する栄養剤の流量が変動することなく安定よく流出させることが可能となると共に,バッグ本体1に形成した容量や残量を表す目盛り8と,実際の容量や残存量との誤差が少なくなって,より精度の高い目盛り表示が可能となる。」

【0045】
・,
・栄養剤バッグを通常吊り下げる支持スタンド等の高さ位置
(約180cm)・」
・。


【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように本発明によれば,栄養剤バッグのバッグ本体上部の吊り下げ部との間に,
上記閉鎖手段の開放操作用の開口部を形成するための開封手段を設けたことによって,常時は閉鎖手段の上部を密閉した状態で塵埃や細菌等が進入するのを防止し,
閉鎖手段を開放するときのみ閉鎖手段の上部に開口部を形成して上記閉鎖手段を開くことによって,
上記栄養剤バッグ内に塵埃や細菌等が進入するのを可及的に低減することが可能となるもので,
この種の栄養剤バッグの衛生管理が容易となって信頼性
が向上する。その結果,この種の栄養剤バッグの使用の態様や選択の自由度ならびに産業上の利用可能性を高めることができるものである。


イ以上によれば,乙13公報には,以下の乙13発明が記載されているものと認められる。
「例えばポリアミドまたはナイロンと,低密度ポリエチレンと,リニアローデンポリエチレンと,シーラント層との4層構成のシート材1a・1bが接合されることにより形成され,開放操作用の開口部Sと,経管栄養法により栄養補給をする栄養剤を収容するための収容室10とを含み,一方の主面に栄養剤の容量や残量を表す目盛り8が表示されたバッグ本体1と,
前記バッグ本体1に固定された出口栓体2と,
前記バッグ本体1の開閉は,
開閉操作可能なチャックシール等の閉鎖手段4により
行われる
栄養剤バッグ。


(3)本件発明1と乙13発明との対比
乙13発明の「例えばポリアミドまたはナイロンと,低密度ポリエチレンと,リニアローデンポリエチレンと,シーラント層との4層構成のシート材1a・1bが接合されることにより形成」は本件発明1の「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成」
に相当し,
同様に
「開放操作用の開口部S」「開

閉式の開口部」に,
「経管栄養法により栄養補給をする栄養剤」は「経腸栄養法で使用される液状物」に,
「収容室10」は「収容部」に,
「栄養剤の容量や残量を表す目盛
り8」は「液状物の量を示す目盛り」に,
「バッグ本体1」は「可撓性袋部材」に,
「出
口栓体2」は「排出用ポート」に,
「栄養剤バッグ」は「医療用軟質容器」に,相当す
る。

本件発明1と乙13発明とは,以下で一致する。
「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,開閉式の開口部と,
経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部材と,前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,

を有する医療用軟質容器。

そして,以下の点で相違する。
本件発明1は
「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持できる」ものであるが,乙13発明は「開閉は,開閉操作可能なチャックシール等の閉鎖手段4により行われる」ものであり,開閉維持操作が把持用のノッチ51a等の開封手段5により行われる点
(4)乙4ないし乙6及び乙7発明
乙4ないし乙6公報,及び動機付けに関連して主張する乙7公報には,被告の主
張のとおりの記載ないし図が開示されているところ,乙4ないし乙6発明,乙7発明が開示する技術内容は以下のとおりと認められる。
ア乙4発明
乙4発明は,物品を受け入れるための廃棄器具において,汚れた物品の受入れ処理中にユーザーの手や衣類を汚したり汚染したりすることなく,汚れた物品の効果的な
受け入れを確実にすることを課題とし,その解決手段として,片手で操作可能な位置に口操作手段を配置することを開示し,指を挿入する第1,第2のループを容器の両側の外壁に上縁及び下縁で固定する構成を開示するものである。
イ乙5発明
乙5発明は,使い捨て女性用尿器に関するものであり,2本の指で操作され,容器
を開いたまま保持し,
間隙を身体オリフィスの周りに適切に位置決めすることを課題
とし,対向する長側面及び上部間隙を有する可撓性防水袋体の外面に,一対の細長い筒状部材を添着し,使用時には,同筒状部材に指を挿入して2本の指で袋体を開いたまま保持する構成を開示したものである。なお,同発明は,シート状の部材が上縁及び下縁で袋体に固定される構成を開示するものではない。

ウ乙6発明
乙6発明は,動脈グラフトの準備で使用する装置に関するものであり,壁部が互いに離れる方向に変位するための袋体に関し,片手操作で袋体を開いたまま保持することを可能とし,グラフトを形成する処理を片手操作に転換することができるように,開口端に隣接する袋体の両側部の各々に,ループ部を有する指環部又はタブを装着すること,
指を挿入する指環部を袋体外面に上縁及び下縁で固定する構成が開示されている。
なお,ループ部分を形成する細片については,袋体の壁部を貫通しない接合手段を使用することにより,
開口端が連動手段によって密封されるときに汚染物質が袋体の
内部に侵入する可能性を回避することが好ましいとされている。
エ乙7発明

乙7発明は,
用途が特定されていない開放が便利なチャック式密封袋に関するものであり,袋の外表面の密封チャックに対応する箇所に環状の引き手を対向設置し,親指と人差し指をそれぞれ両側の引き手に伸入させ,両側に向けて力を入れることにより,
片手のみで袋口を開放することができるものとすることが開示されている。なお,
同発明は,
シート状の引手が上縁及び下縁で袋体に固定される構成を開示するもので
はない。
(5)検討
ア被告は,バッグの開口部に関し,片手で開口状態を維持することは普遍的課題であって,乙13発明もそのような課題を開示するものであり,かつ,その普遍的課題の解決手段として,乙4ないし6発明が開示する開閉操作部に片手の指を挿入して
開口状態を安定かつ容易に維持することを可能とする技術は周知であるから,乙13発明に接した当業者は,
これに乙4ないし乙6発明が開示する周知技術を適用する動
機付けがあると主張する。
イ前記のとおり,乙13発明は,経腸栄養剤バッグ本体内の収容室上部に設けたチャックシール等の閉鎖手段とバッグ本体の上部の吊り下げ部との間に,閉鎖手段の
開放操作用の開口部を形成するためのオープンピール機構等の開封手段を設けることにより,
同バッグに水や温湯等を注入する直前まで閉鎖手段の上部を密閉した状態に維持することを可能とすることによって,蓄積された塵埃や細菌等が閉鎖手段を開くことにより収容室内に侵入することを防止することに技術的意義を有するものであり,乙13発明の課題及び発明の効果は,経腸栄養剤バッグ本体内に塵埃や細菌等が侵入することを防止することにあるというべきである。
そして,
乙13発明に係る栄養剤バッグは経腸栄養法で使用される液状物を収容するものであり,使用者は,液状物を充填する際に,栄養剤バッグの開口部を開口状態に維持しながらバッグ内に液状物を充填することからすると,乙13発明は,バッグを開口状態に維持した使用状態を前提とするものということはできるものの,乙13
発明は,
バッグを支持スタンド等に吊り下げた状態で水や温湯を注入して使用するも
のであること(乙13公報の段落【0033】
)からすると,これを開口状態に維持す
ることが困難となることは通常想定されないというべきであって,乙13発明が,バッグを開口状態に維持することを容易とすることを課題として示唆するものということはできない。
この点,被告は,バッグの開口状態の維持を容易とすることは,可撓性袋部材で上
方向に開口部を有する袋体の普遍的課題であるというが,可撓性袋部材を用いた発明には多種多様なものがあり,
それぞれ用途及び主要な解決課題が異なるものというべ
きであって,それらの差異にもかかわらず,バッグの開口状態の維持を容易とすることが上方向に開口部を有する可撓性袋部材全般の普遍的課題であるとする被告の主張を採用することはできない。また,乙7発明は,バッグの開口部の開放の困難性と
いう課題を示唆するものであるが,
バッグの開口部を開放状態に維持することの困難
性について示唆するものではないから,同発明をもって,開口状態の維持を容易とすることが可撓性袋部材全般の普遍的課題であるとも認められない。ウ
さらに開閉操作部に片手の指を挿入して開口状態を安定かつ容易に維持する
ことを可能とする技術は,本件優先日において周知であったかについてみると,乙4ないし乙6発明には,いずれにも,バッグの開口状態を維持するための構成として,軟質プラスチックシートに固定された開閉操作部が開示されていることが認められる。
しかし,本件優先日当時,市場においてこれら構成を有する商品が広く販売されているなどの事情は認められず,また,乙4発明は平成19年7月12日に公開された発明の名称を「廃棄及び包装器具」とする発明,乙5発明は平成17年8月2日に発行された発明の名称を「使い捨て女性用尿器」とする発明,乙6発明は昭和55年5月27日に発行された発明の名称を「動脈クラフト及び包装体」とする発明であり,いずれも医療用品又は衛生用品という特定の用途に係るものであるところ,それ以外の用途に係る発明において,
軟質プラスチックシートに開閉操作部が固定された構成
が開示されているといった事情も認められないことからすれば,本件優先日当時,乙
4ないし乙6発明の存在をもって,
バッグの開口状態を維持するための技術が周知で
あったと認めることはできない。
エその上,乙4及び乙5発明は,汚物を廃棄する袋に関するものであり,乙13発明とは用途を異にするものである上,少なくとも袋内への塵埃又は細菌等の侵入を防止するという乙13発明の課題を開示又は示唆するものではないから,乙13発明
との間に課題の共通性も認められない。
乙6発明は動脈グラフト及びその包装体であり,乙13発明とは用途を異にするものであり,課題に関しても,乙6公報においては,汚染物質の袋体内部への侵入回避につき触れられているが,これは,袋体開口部を閉鎖した時に袋体の密封状態を作出して,外部からの細菌等の侵入を防止することを指すものであり,その解決手段とし
て,
ループ部分を形成する細片が袋体を貫通しないよう接合手段を工夫するということを開示するものにすぎず,これは,乙13発明において,チャック部を開放し湯水等を注入する際における細菌等の侵入防止が課題として位置づけられ,その解決手段
としてチャック部と開放手段との位置関係を工夫するのとは異なる場面における課題及びその解決手段というべきであるから,両者には課題の共通性も認められない。
乙7発明は,具体的用途が特定されておらず,かつ,閉鎖手段の上部に蓄積された塵埃又は細菌等の侵入防止という乙13発明の課題も開示されていない。オこのように,乙13発明は,バッグの開口状態の維持を容易とすることを課題として示唆するものではない上,乙13発明と乙4ないし乙6発明は,いずれも軟質容器ではあるが用途が異なり,かつ,課題の共通性も認められないことから,いずれにしても,乙13発明に乙4ないし乙6発明を適用し,開口状態を容易とする構成を付加する動機付けがあるとは認められない。
カしたがって,乙13発明を主引例として,これに乙4ないし乙6発明に開示された技術を適用することにより,本件発明1に進歩性がないとする被告の主張を採用することはできず,また本件発明2の構成に照らし,本件2発明についても同様であるから,本件特許1,2が,乙13発明を主引例として容易想到により無効であると
の被告主張は採用できない。
3争点(4)(無効の抗弁の2(乙7発明を主引例とする進歩性欠如))
(1)本件発明
本件発明1の要旨は,上記2(1)のとおりである。
(2)乙7発明

ア乙7公報には,図面とともに以下の事項が記載されている(図面は別紙乙7公報の図面参照)


【請求項1】
袋体及び密封チャックを含み,
密封チャックは袋体の内側に設置される開放が便利な
チャック式密封袋であって,
袋体の外表面の密封チャックに対応する箇所に引き手が

対向設置されることを特徴とする開放が便利なチャック式密封袋。【請求項2】
前記引き手の形状は,
好適には環状またはシート状であることを特徴とする請求項1
に記載の開放が便利なチャック式密封袋。
」(訳文2頁2行から8行)
「本実用新案は包装用品技術分野に属しており,具体的には開放が便利なチャック式
密封袋に関するものである」
(訳文3頁4行から5行)

「従来のチャック式密封袋は袋口の内側に密封チャックが設置され,チャックは互いに対応して嵌合する凹溝及び凸条であり,使用者が手の指で軽く押圧するだけで,凸条が凹溝中に嵌入して,袋口を密封することができる。しかし,この種の密封袋は開放時に比較的力が必要であり,かつ,片手で操作することができず,同時に密封袋の表面が平滑であるため,
開放時には手の指を袋口の内側に伸入させる必要があるため,
袋内物品及び手の指の双方向の汚染が容易に引き起こされる。
現有技術にはまだ非常
に良好な解決方法はない。(訳文3頁7行から12行)


「本実用新案の目的は,現有技術の不足点について,構造が簡単で,密封効果が良好である,
開放が便利なチャック式密封袋を提供することにある。・本実用新案では,・
袋体の外表面に密封チャック開放装置が設置され,使用時には両手でそれぞれ両側の
引き手を掴むだけで,軽い力で袋口を開放することができる。引き手は更に環状に設計することができ,それにより片手のみで袋口を開放することができる。従来のチャック式密封袋の開放が困難で,
容易に汚染を招くなどの問題が根本から解決されてお
り,その構造は簡単で,コストは低廉であり,良好な応用の前途を有している。」(訳
文2頁14行から25行)

「図面に示されている通り,開放が便利なチャック式密封袋は,袋体1及び密封チャック2を含み,袋体の周囲が密閉され,密封チャックは互いに対応して嵌合する凹溝5及び凸条4であり,密封チャック2は袋体の内側に設置され,袋体の外表面の密封チャックに対応する箇所に2つの引き手6が固定設置される。使用時には,先ず密封チャックの外側に沿って袋体を切り取って袋口を形成し,その後,密封チャックによ
り袋口を閉じる。開放を必要とする場合は,両手でそれぞれ両側の引き手6を掴むだけで,軽い力で袋口を開放することができる。
引き手6の形状は環状に設計することができ,片手の親指と人差し指とをそれぞれ両側の引き輪6に伸入させ,
両側に向けて力を入れるだけで袋口を開放することがで
きる」
(訳文3頁37行から46行)


イ以上によれば,乙7公報は,
「包装用品技術分野に属」するものであるから,袋
体1が被包装用品を包装する袋体1内部を含むことは明らかである。そして,図1,
図2の袋体1,引き輪6の位置関係から,引き輪6は,袋体1の右側又は左側から指を挿入するものであることは明らかである。
したがって,乙7公報には,以下の発明(以下「乙7発明」という。)が記載されて
いるものと認められる。
「周囲が密閉され,開閉式の袋口と,被包装用品を包装する袋体1内部とを含む袋体1と,
前記袋体1の外表面の各々に前記袋体1の右側又は左側から片手の指を挿入するための,袋体1に固定された1対の環状の引き輪6を含み,
前記環状の引き輪6に伸入した片手の指を両側に向けて力を入れることにより前
記袋口を開放できるチャック式密封袋。

(3)本件発明1と乙7発明との対比
乙7発明の「袋口」は本件発明1の「開口部」に相当し,同様に「袋体1内部」は「収容部」に,
「袋体1」は「可撓性袋部材」に,
「外表面」は「両主面」に,
「両側に
向けて力を入れる」は「各々遠ざけるように開く」に,
「袋口を開放できる」は「開口

状態を維持できる」に,
「密封袋」は「軟質容器」に,相当する。
乙7発明の「周囲が密閉され」と本件発明1の「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され」
とは,
「密封形成され」
である限りに
おいて一致する。
乙7発明の「袋体1に固定された1対の環状の引き輪6」と本件発明1の「上縁部
及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部」とは,
「1対の開閉操作部」である限りにおいて一致する。
本件発明1と乙7発明とは,以下で一致する。
「密封形成され,開閉式の開口部と,収容部とを含む,可撓性袋部材と,前記可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側又は左側から片手の
指を挿入するための,前記可撓性袋部材に固定された1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持できる軟質容器。

そして,以下の点で相違する。
(相違点1)可撓性袋部材について,本件発明1は「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され」るが,乙7発明はその点が不明である点。
(相違点2)容器の収容物について,本件発明1は「経腸栄養法で使用される液状物」で「医療用」であるが,乙7発明は明らかでない点。
(相違点3)
本件発明1は
「可撓性袋部材に固定された排出用ポート」
を有するが,
乙7発明は有しない点。

(相違点4)本件発明1は「少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示され」るが,乙7発明は目盛りを有しない点。
(相違点5)開閉操作部について,本件発明1は「上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の」ものであるが,乙7発明は「袋体1に固定された環状の」ものである点。

(4)検討
相違点のうち,相違点2ないし4は,本件発明1の容器が,経腸栄養法等に使用される医療用のバッグであることに由来するものであるので,以下にまとめて検討する。前記のとおり,乙7発明は,開放が便利なチャック式密封袋に関するものであり,袋の外表面の密封チャックに対応する箇所に環状の引き手を対向設置し,親指と人差
し指をそれぞれ両側の引き手に伸入させ,両側に向けて力を入れることにより,片手のみで袋口を開放することができるものとすることが開示されている。しかし,乙7発明には,その具体的用途や,袋に収容すべきものにつき何らの示唆もなく,
単に袋口を容易に開放することを可能とする袋体に関する発明にすぎないのであって,本件発明1のように,経腸栄養法等,医療用に使用することを前提とし,
それぞれ技術的意義を有する目盛りや排出ポート等の構成を付加するべき何らの動機付けも認められない。また,相違点2ないし4に係る点は,それぞれ技術的意義を有するものであることからすると,当業者が周知技術に基づき容易に想到できたということもできない。
被告は,
経腸栄養法で使用される液状物を収容するために使用される可撓性袋部材であり,排出用ポートを備えるものが乙8の1,2,乙13公報,乙23ないし乙25に開示され,このうち乙8の1,乙13公報,乙24には,少なくとも一方の主面に目盛りが表示された構成も開示され,容器の分野において,容器を経腸栄養剤を収容するための医療用軟質容器の用途に用いることは,本件優先日当時周知慣用の属性であると主張するところ,確かに指摘に係る公報等には,主張に係る構成が開示されていることが認められる。しかし,それらの根拠となる公報類は,すべて医療用のバ
ッグに関するものであって,
これらから分野を限定せずに容器全般の周知慣用の技術
の存在を認定することはできない。また本件発明1として新規に創作された構成は,「ある物の未知の属性」ではないから,用途発明であることを前提とする被告の主張は失当である。
いずれにせよ,乙7発明に,その具体的用途や袋に収容すべきものにつき何らの示
唆もない以上,単に収容袋という点で一致するからといって,医療用バッグ特有の技術を適用すべき動機付けは認められないから,乙7発明を主引例として,これに医療用バッグの技術を適用することにより,本件発明1に進歩性がないとする被告の主張を採用することはできず,また本件発明2の構成に照らし,本件2発明についても同様であるから,本件特許1,2が,乙7発明を主引例として容易想到により無効であ
るとの被告主張は採用できない(なお,原告は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出である旨主張するが,被告に「故意又は重大な過失」があるものとは認められないから,理由がない。。

4争点(5)(無効の抗弁の3(乙28発明を主引例とする進歩性欠如))
(1)本件発明1

本件発明1の発明の要旨は,上記2(1)のとおりである。
(2)乙28発明
ア乙28公報には,図面とともに以下の事項が記載されている(図面は別紙乙28公報の図面参照)。

【請求項1】

上部が開閉自在な閉鎖手段で閉鎖され,下部に液体出口が設けられ
てなるバッグであって,該バッグの内部空間が,前記閉鎖手段に近接して設けられた容易に剥離可能な隔壁により,上下に流体密に区画され,該区画された下の空間に液体が収容されてなる液体収容バッグ。
【請求項2】閉鎖手段がチャックシールである請求項1記載の液体収容バッグ。」

【0001】
【発明の詳細な説明】本発明は,予め液体の収容された液体収容バッグに関する。本
発明の液体収容バッグは,
特に濃縮液状の経腸栄養剤を収容する経腸栄養バッグに好
適である。


【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者等は・・,容易に剥離可能な隔壁をバッグ上部の開閉自在な閉鎖手段に近接して設けて,バッグの内部空間を上下に流体密に区画
し,区画された下の空間に液体を収容することにより,収容された液体,例えば経腸栄養剤が変質することなく長期間保存できるとともに,水等の供給時の作業効率が改善されることを見出し,本発明に到達した。すなわち本発明は,上部が開閉自在な閉鎖手段で閉鎖され,下部に液体出口が設けられてなるバッグであって,該バッグの内部空間が,前記閉鎖手段に近接して設けられた容易に剥離可能な隔壁により,上下に
流体密に区画され,
該区画された下の空間に液体が収容されてなる液体収容バッグで
ある。ここで,閉鎖手段はチャックシールであるのが好ましい。
【0005】
【発明の実施の形態】
・・。図1に示す液体収容バッグは,バッグ本体1と,バッグ本
体1の下部(底部)に設けられた液体出口2と,バッグ本体1の上部に設けられた開
閉自在な閉鎖手段(チャックシール)3からなり,バッグの内部空間はチャックシール3に近接して下部側に設けられた容易に剥離可能な隔壁4により上下に区画されている。
【0006】バッグ本体1は,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン-酢酸ビニル共重合体等の合成樹脂シートを2枚重ねてその縁部を溶着し,袋状に形成したものであり,特に長期間保存する場合や酸化しやすい内容物の場合には,上記の合成樹脂シートにアルミ箔をラミネートしたものが好ましく採用される。必要ならばバッグ本体1の上端部には吊り下げ穴11を設けてもよく,これによりバッグを点滴スタンドから吊り下げて使用することができる。吊り下げ手段としては,吊り下げ穴11に限定されず,例えばバッグ本体1上部に紐をループ状に固着してもよい。【0007】液体出口2は,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン-酢酸ビニル
共重合体等からなる合成樹脂で筒状に形成され,
バッグ本体1に溶着されている。・。

【0008】バッグの上部は,予め収容されている例えば濃縮液状の経腸栄養剤をうすめる水あるいは温湯等を供給するための供給口5になっており,供給口5はチャックシール3で閉鎖されている。このチャックシール3は,バッグ本体1内側の対向する位置に設けられた凸条と凹条が嵌合して閉鎖する構造になっており,必要に応じて
開いたり閉じたりすることができる。


【0010】
使用に際しては,
液体,
例えば濃縮経腸栄養剤を収容した室を外部から
加圧して,この隔壁4を剥離した後,チャックシール3を開放して,水あるいは温湯を供給し,チャックシール3を閉鎖して混合する。
・・。
【0011】

【発明の効果】以上述べたように,本発明の液体収容バッグにより,内部に収容された液体が経腸栄養剤の場合,
その品質が劣化することなく長期間保存できるとともに,
水等を供給の際の手間が省ける。
・・。

イ以上によれば,
乙28公報には,
以下の発明
(乙28発明)
が記載されている。
「2枚の合成樹脂シートの縁部を溶着して形成され,チャックシール3により開閉自
在な供給口5と,経腸栄養剤を収容するバッグの内部空間とを含むバッグ本体1と,前記バッグ本体1に固定された液体出口2と,
を有する液体収容バッグ。

(3)本件発明1と乙28発明との対比
乙28発明の「合成樹脂シートの縁部を溶着して形成」は本件発明1の「軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成」に相当し,同様に「チャックシール3により開閉自在な供給口5」は「開閉式の開口部」に,
「経腸栄養剤を収容するバ
ッグの内部空間」は「経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部」に,「バッグ本体1」は「可撓性袋部材」に,
「液体出口2」は「排出用ポート」に,
「液
体収容バッグ」は「医療用軟質容器」に,相当する。
本件発明1と乙28発明とは,以下で一致する。

「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,開閉式の開口部と,
経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含む
可撓性袋部材と,
前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
を有する医療用軟質容器。


そして,以下の点で相違する。
(相違点1)本件発明1は「少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示され」るが,乙28発明は目盛りを有しない点。
(相違点2)本件発明1は「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラス
チックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持できる」ものであるが,乙28発明は明らかでない点。
(4)検討
ア相違点2について検討するに,乙28公報の段落【0002】ないし【000
4】の記載によれば,乙28発明は,経腸栄養バッグに関し,他の容器で調整された後に経腸栄養バッグに移し替える方式のものは,他の清潔な容器を容易する等の手間がかかるとともに,ゴミ等が混入する可能性が高いという問題があるとし,また,液体注入口をチャックシールのみで構成したものは,密封性が悪く収容した経腸栄養剤の品質に影響を及ぼす虞があるとした上で,内部に収容された液体を変質することなく長期間保存でき,
水等の供給時の作業効率の改善された液体収容バッグを提供する
ことを課題とするものと認められる。
そして,課題解決手段として,容易に剥離可能な隔壁をバッグ上部の開閉自在な閉鎖手段に近接して設け,バッグ内部の空間を上下に区画し,下の空間に液体を収容することとしたものであることも認められる。
イそうすると,乙28発明は,予め当該バッグ内の下の空間に液体を収容してお
き,これにバッグ上部から水等を供給し,当該バッグ内で直接調製することにより,他の容器から移し替える手間を省くという意味での効率化を図るものとなっているが,
乙28公報をみても,
バッグを開口状態に維持することの困難性に触れた記載や,
これを解決課題とするような記載は認められないことからすると,乙28発明が,バッグの開口状態の維持を容易とすることを課題として示唆するものとまでいうこと
はできない。
ウ被告は,バッグの開口状態の維持を容易とすることは,可撓性袋部材で上方向に開口部を有する袋体の普遍的課題であるというが,前記2で検討のとおり,可撓性袋部材を用いた発明には多種多様なものがあり,それぞれ用途及び主要な解決課題が異なるものであって,それらの差異にもかかわらず,バッグの開口状態の維持を容易
とすることが上方向に開口部を有する可撓性袋部材全般の普遍的課題であるとする被告の主張を採用することはできない。
エそして,乙4ないし乙6発明が開示する,バッグの開口状態を維持するため軟質プラスチックシートに開閉操作部を固定する構成は周知技術とはいえず,また,前記認定の乙4ないし乙6発明の課題を前提とすると,乙28発明と乙4ないし乙6発
明の間には,課題の共通性も認められないことからすれば,乙28発明に乙4ないし乙6発明に開示された技術を適用することが容易想到とはいえず,また,
このことは,
本件発明2の構成に照らし本件2発明についても同様であるから,本件特許1,
2が,
乙28発明を主引例として容易に想到することができたものであるとの被告主張は採用できない(なお,原告は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出である旨主張するが,被告に「故意又は重大な過失」があるものとは認められないから,理由がない。。

5争点(6)(無効の抗弁の4(乙29発明を主引例とする進歩性欠如))
(1)本件発明
本件発明1の要旨は,上記2(1)のとおりである。
(2)乙29発明

ア乙29公報には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「本発明は,液体容器に関する。より具体的には,本発明は,液体を内部に蓄積させる外側の可撓性の袋と,当該外側の可撓性の袋の上方部に固定されて,この外側の袋の中に向かう液体の流入を制御するための一方向弁を画定する内側の可撓性部材とを含む,
使い捨て型の液体容器に関する」
(1欄12行から18行。
訳文1頁12行か

ら15行)

「図1及び図2に示しているように,液体容器10は細長い外側の袋12を含むが,これは基本的にチューブ状の構成を有する,可撓性のプラスチック材料を用いて形成されている。
可撓性の袋12のチューブ状の構造は対向する壁14及び16からなり,このうち壁14は可撓性の袋12の前方を定めて,壁16は袋12の後方を定める。
可撓性の袋12を構成する材料は,たとえばポリエチレンなどの安価なプラスチック材料が好ましい」
(2欄71行から3欄8行。訳文2頁36行から41行)

「可撓性の袋12の下方端部は,容器10に閉口した底を形成するように密閉される。しかしながら,袋12の下方端部または底は,容器内の液体の放出を行えるようにも構成され,この目的のために放出用プラグ18を備えている」(3欄19行から23(

行。訳文2頁49行から3頁1行)

「液体容器内に液体が導入されるとき,外側の袋12の口と内側の袋の部材32は開口していなければならないが,
これら袋を形成する材料は可撓性のプラスチックであ
るため,給液操作中にそれらの口が倒れるのを防ぐように,それらの口を開口位置で固定するための何らかの手段が必要とされる」(4欄20行から26行。訳文3頁4(
5行から48行)

「湾曲可能のワイヤ素子48は固定された開口位置へと移動可能だが,これらは弾性特性を有さない材料から形成されているため,圧力が取除かれた後もこの位置で留まり続ける。従って,袋の口と内側部材32を閉口位置に移動することが求められるとき,ワイヤ素子48に対して有効な圧力を及ぼして,これらを閉口位置へと戻すようにする」
(4欄47行から55行。訳文4頁10行から15行)


「厚紙54には開口部53を形成してもよく,かつ壁55,56にも同様の開口部57を形成して,これらによって容器10をフック,支持部または同様物に吊せるようにしてもよい。
図1から理解できるように,
厚紙のヘッダ55の開口部53はヘッダの中央に虚弱
領域を画定する。
従って,
ヘッダの端部が容器の前方に向かう方向で押圧されるとき,

ヘッダは虚弱領域として画定された中央で湾曲する」
(5欄31行から37行。訳文
4頁45行から50行)

「さらに図1に示しているように,可撓性の袋12は,袋内に収容される液体の量を示すための目盛り62をその上に備えていてもよい。従って,袋の材料は透明なプラスチックから形成されているため,可撓性の袋12内に導入される液体は一目で測定
可能になる」
(5欄45行から50行。訳文5頁3行から6行)

「なお,ここで示した液体を受入れる容器は様々な目的のために用いることができ,たとえば,浣腸用の袋,バリウム投与装置,女性用の衛生用の袋,経胃栄養装置,経尿道の準備,静脈内の供給装置,袋状の洗浄装置,蓄尿袋,液体保管袋,及び他の同様の装置を想定することができる」
(6欄1行から9行。
訳文5頁19行から22行)


イ以上によれば,乙29公報には,以下の発明(乙29発明)が記載されているものということができる。
「対向する壁14及び16からなるポリエチレンなどのプラスチック材料により形成され,開口部53と,胃の供給等様々な目的のための液体を蓄積させる可撓性のチューブ状の袋12とを含み,
可撓性の袋12の主面に袋内に収容される液体の量を示
す目盛り62が表示された可撓性の袋12と,
前記可撓性の袋12に固定された放出用プラグ18と,
前記可撓性の袋12に固定され,可撓性の袋12の口を開口位置と閉口位置に移動される湾曲可能なワイヤ素子48とを含み,
ワイヤ素子48は固定された開口位置へと移動し,開口位置で留まり続ける,液体容器10。


(3)本件発明1と乙29発明との対比
乙29発明の
「対向する壁14及び16からなるポリエチレンなどのプラスチック材料により形成」は本件発明1の「軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成」に相当し,同様に「胃の供給等様々な目的のための液体」は「経腸栄養法で使用される液状物」に,
「蓄積させる」は「収容する」に,
「放出用プラグ18」は

「排出用ポート」「ワイヤ素子48は固定された開口位置へと移動し,に,
開口位置で
留まり続ける」は「開口部の開口状態を維持できる」に,
「液体容器10」は「医療用
軟質容器」に,相当する。
乙29発明の「可撓性のチューブ状の袋12」と,本件発明1の「少なくとも2枚の」
「シートが貼りあわされることにより形成され」る「可撓性袋部材」とは,「可撓

性袋部材」である限りにおいて一致する。
本件発明1と乙29発明とは,以下で一致する。
「少なくとも2枚の軟質プラスチックシートにより形成され,開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部材と,

前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,
前記可撓性袋部材の両主面の前記軟質プラスチックシートに固定された開閉操作部を含み,
前記開口部の開口状態を維持できる医療用軟質容器。

そして,以下の点で相違する。
(相違点1)可撓性袋部材について,本件発明1は「少なくとも2枚の」「シートが
貼りあわされることにより形成され」たものであるが,乙29発明は「チューブ状の袋12」である点。
(相違点2)開閉操作部について,本件発明1は「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含
み,前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開く」ものであるが,乙29発明は
「可撓性の袋12の口を開口位置と閉口位置に移動される湾曲可能なワイヤ素子48」である点。
(4)検討
相違点2について検討するに,乙29発明は,液体を内部に蓄積させる外側の可撓
性の袋と,当該外側の可撓性の袋の上方部に,外側の袋の中に向かう液体の流入を制御し,
また逆流を防止するための一方向弁を確定する内側の可撓性部材とからなる使い捨て型の液体容器であり,内側の可撓性部材は互いにくっつき合い,通常は平行位置で保持するよう作用し,容器の口の中に液体が導入された際には,一方向弁の対抗する壁がそこを通る液体の通路に応じて開口することを特徴とするもので,女性用の
衛生用の袋,胃の供給装置,畜尿袋,液体保管袋等への適用が想定されるとされている。そして,乙29公報によれば,液体容器内に液体が導入されるときには,外側の袋の口と内側の袋の部材とは開口している必要があるとした上で,これらを開口位置で固定するために何らかの手段が必要とされ,そうすれば,利用者が手で保持する必要がなくなると記載されており,固定手段の例示として,湾曲可能なワイヤ素子が挙
げられている。
以上のように,乙29発明は,開口位置の固定をワイヤ素子のような何らかの手段で行うことを予定し,
それによってこれを手で固定する必要性から解放し利便性を図
るというものであって,
本件発明1のように開口位置の維持を利用者の手で行うこと
を予定しないものであるから,
これに乙4ないし乙6発明を適用する動機付けがない
というべきである。
したがって,乙29発明に乙4ないし乙6発明の技術を適用することにより,本件発明1が容易想到とはいえず,本件発明2の構成に照らし,本件2発明についても同様であるから,本件特許1,2が,乙29発明を主引例として容易に想到することができたとの被告主張は採用できない(なお,原告は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出である旨主張するが,被告に「故意又は重大な過失」があるものとは認
められないから,理由がない。。

6争点(7)(無効の抗弁5(補正要件違反)

被告主張に係る「貫通路」を削除した補正の経緯については,上記1(2)ウ(イ)bにおいて「開閉操作部」の解釈に関連して検討したとおりであり,当初出願明細書に記載のあった「貫通路」とは,単に指を挿入する部材の一実施例の形状を示したという
以上の意味はないものと解されることは既に説示したとおりである。したがって,
当初明細書の記載から,
これを削除する補正をしたとしても,
「開閉操
作部」を上位概念化して新規事項を追加することにはならない。
この点に関する被告の主張は採用できない(なお,原告は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出である旨主張するが,被告に「故意又は重大な過失」があるも
のとは認められないから,理由がない。。

7争点(8)(無効の抗弁の6(サポート要件違反の1)

被告の主張は,被告製品の構成であるところの,ジップより上方の二重の軟質プラスチックシートの内側を「可撓性袋部材」とし,外側の軟質プラスチックシートに片手の指の挿入口が設けた構成そのものが,本件明細書1,2に記載されていないこと
から,本件特許1,2の特許請求の範囲に,その様な構成を含む解釈を採用することがサポート要件違反となるというものである。
しかしながら,上記構成を含んだ被告製品が,発明1,2の技術的範囲に属するものと認められることは,上記1において認定説示したとおりであり,法36条6項1号違反の主張は当たらない(被告の主張は,結局,被疑侵害品の構成そのものが実施例として記載されていない限り,同号違反となるというに等しく失当である。。)
8争点(9)(無効の抗弁の7(サポート要件違反の2))
被告の当該主張は,
「可撓性袋部材」の一部が「開閉操作部」を兼ねるとの解釈を前
提とするものであるが,上記1で認定したとおり,当裁判所の判断は,「可撓性袋部
材」と「開閉操作部」は別部材として解した上で被告製品が,本件発明1,2の技術的範囲に属すると判断するものであるから,被告の主張は前提を異にするものであっ
て採用できない。
9
争点(10)(原告の受けた損害の額)について

(1)被告製品1枚当たりの粗利益について

本件特許1が登録された平成26年12月12日から平成28年12月
末日までの間に被告製品が販売された数量は●(省略)●であり,その販売金額は●(省略)●であること,本件特許1の登録前の販売分を含めて平成28年12月末日分までに仕入れられた被告製品の枚数は●(省略)●であり,その仕入金額合計は●(省略)●であることは当事者間に争いがない。
以上によれば,被告製品の1枚当たりの販売金額は●(省略)●であり,被告製品の1枚当たりの仕入金額は●(省略)●であると認められる。

ところで被告は,●(省略)●旨主張するところ,確かに証拠(乙37,
乙38)により認められる,被告製品の全期間の販売枚数の●(省略)●と,その期間に費消した仕入枚数●(省略)●とを比較すると,●(省略)●ということになる。
そして被告は,このように余分の仕入を必要とする事情につき,仕入れた製品の中には製造不良や搬送,保管上に生じた不良のため販売できない製品があり,また,新規顧客に営業を行う際にはサンプルとして顧客に提供する必要もある旨の一応合理的な説明しているところ,これを不合理として,上記の仕入枚数と販売枚数の差を疑う事情は原告から何ら積極的に主張されているわけではない。ウ
したがって,被告製品を1枚販売するために要する仕入金額は1枚当たり
の仕入金額に●(省略)●を乗じて求めるべきであり,これを前提とすると,被告製品1枚当たりの粗利益は●(省略)●と認められる●(省略)●。(2)その他の経費について

チラシ,カタログ費用

証拠(乙50の16ないし20,22,23)によれば,損害賠償請求対象期間に支出したチラシ,カタログ等の経費は,合計●(省略)●であると認められる。
被告は,損害賠償請求対象期間以前のものを含み被告製品の宣伝広告のためのチラシ,カタログ費用として●(省略)●を支出したとして,宣伝広告の効果が事後的に生じてくることから,同額全額を,利益を算定する上で控除すべき旨主張する。

確かに,被告の主張するような事情がある可能性は否定できないが,その境界は判然とせず,損害賠償請求対象期間以前のチラシ,カタログ等の費用を本件において,積極的に経費と認定すべき十分な事情は認められない。
したがって,
本件において経費として控除すべきチラシ,
カタログ等の経費は,
上記認定額の合計●(省略)●にとどまるというべきである。


販促グッズ費用

被告主張に係る販促グッズであるネックストラップの経費が,多種類にわたる被告製品の中で専ら本件侵害品の販売促進に用いられたと認めることもできないから,被告製品の販売に直接必要な経費であったとは認められない。ウ
輸入費用

(ア)損害賠償請求対象期間の被告製品の販売に要した経費と認められるべき輸入費用は,その間の販売に要した金額の限度で認定されるべきであるところ,その期間の販売数量は●(省略)●であるから,全期間の輸入費用が●(省略)●,全期間の仕入枚数が●(省略)●であることに基づき計算すると,上記販売枚数に相当する輸入費用の額は,以下の計算式により,原告が輸入費用として主張する額である●(省略)●と認められる。
(計算式)
●(省略)●
(イ)しかし,被告製品を1枚販売するために要する仕入枚数が●(省略)●であることは,
上記(1)イで認定したとおりであるから,
経費として控除すべき輸入
費用は,上記算出した額●(省略)●円に●(省略)●を乗じて求めるべきであ
り,その額は●(省略)●と認められ,この金額をもって経費として認定するのが相当である。
(計算式)
●(省略)●
(ウ)なお,被告は,輸入費用を●(省略)●と主張するが,同額は本件特許1
が登録される前を含む全期間の仕入れ●(省略)●に対するものであって失当である。

試作費・開発費

被告は,被告製品の開発に要した試作費・開発費●(省略)●を経費として控除すべき旨主張する。
確かに試作費・開発費は,法102条2項の利益を算定するに当たり,本来,控除すべき経費というべきである。
しかし,被告は,損害賠償請求対象期間以前に被告製品を●(省略)●販売しており,上記(1)イの1枚当たりの粗利益を乗ずるとその期間だけで●(省略)●を超える利益を得ているものと認められる。そうすると,これから他の経費等を
控除すべきことを考慮しても,被告主張に係る試作費・開発費は,損害賠償請求対象期間以前に得られた利益で既に回収済みとなっていると認められる。したがって,試作費・開発費を経費として控除すべきようにいう被告の主張は採用できない。

エアー便使用による輸送費

被告は,被告製品輸入のために要したエアー便の費用を経費として控除すべき旨主張する。
しかし,その支出日は平成25年11月6日であって本件特許権1の登録日である平成26年12月12日より1年以上も前であるから,上記経費の支出対象となった被告製品は,損害賠償請求対象期間前に販売されていたものと認定するのが合理的である。

したがって,本件において,これを経費として認めることはできない。カ
営業人件費

被告は,●(省略)●の営業人件費を被告製品の販売により受けた利益から控除すべき経費であると主張する。
しかし,法102条2項の侵害者が受ける「利益」とは,売上高から,侵害品の製造又は販売に直接必要であって,その数量の増減に応じて変動する経費を控除したものと解するのが相当であるところ,上記支出が,侵害品の販売に直接必要な経費であるとも,販売数量の増減に応じて変動する経費であるとも認めるに足りる証拠はない。
したがって,上記営業人件費をもって法102条2項の利益を算定する上で控
除すべき旨の被告主張は採用できない(なお,原告は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出である旨主張するが,
「訴訟の完結を遅延させること」
にはな
らないから理由がない。。

(3)小括
以上によれば,被告は,損害賠償請求対象期間の被告製品の販売により受けた
利益は,上記(1)で認定した被告製品1枚当たりの粗利●(省略)●に同期間の販売枚数●(省略)●を乗じ,これからチラシ,カタログ費用●(省略)●円と輸入費用●(省略)●を控除した額である●(省略)●と認められる。(計算式)
●(省略)●
(4)被告の主張について
原告は,法102条2項による損害賠償を求め,被告が被告製品の販売により受けた利益の額全額を原告の受けた損害の額と推定される旨主張するところ(なお,本件特許権2に基づく損害賠償請求権の対象期間は登録日である平成27年6月26日に開始するが,本件特許権2侵害により,本件特許権1侵害による損害を超える損害があるとは認められないから,
本件における損害賠償額は本件特許権1侵害によるそ

れを上限として認定すれば足りる。,被告は,①本件発明が実施されているバッグ部)
分は被告製品の一部であり,バッグ部分の寄与する割合は●(省略)●にとどまること,②被告製品には,本件発明以外の特許発明,意匠が実施されており,本件発明が寄与する割合は10%であること,③被告製品の売上は,被告の営業力,ブランド力によるものであり,技術面の寄与度はせいぜい30%であるとして,この割合を順次
乗じて損害額を減じるべき旨主張する。
ア本件発明が実施されているバッグ部分は被告製品の一部であることについて本件発明は,医療用軟質容器を用いた栄養供給システムのうち,医療用軟質容器すなわちバッグ部分に関する発明であるところ,証拠(乙39,乙55,乙56)によれば,本件で対象とする被告製品は,容量,チューブ径のほか,チューブ,ドリップ
チャンバ,
流量調節器
(ローラークランプ)コネクタ等からなる輸液セットと組み合

わせの有無で七つの商品名の製品に区別できるが,
うち商品名
「EFT-5

TMD」

とする被告製品7は,別売されているチューブ,ドリップチャンバ,流量調節器(ローラークランプ)
,コネクタ等からなる輸液セットと組み合わせて使用するものであり,その余の六つの被告製品は,これら輸液セットが予め一体となった製品であることが認められるから,
これらの事実関係のもとで被告が侵害行為により受けた利益の
額は,被告製品の販売により受けた利益の額全部をいうのではなく,本件発明の対象とするバック部分の販売により受けた利益の額を言うのが相当である。そして,証拠(甲9,乙39,乙56)によれば,輸液セット込での被告製品の販売価格は1枚当たりおよそ●(省略)●であるのに対し,輸液セット単体での販売価格は●(省略)●前後であること,被告製品のうちのバッグ部分の占める原価構成率は●(省略)●前後であること等を総合すると,被告が侵害行為により受けた利益の額は,上記の点で被告製品販売により受けた利益の額の●(省略)●の限度で減じるのが相当である。
イ被告製品に本件発明以外の特許発明,意匠が実施されている点について(ア)被告は,被告製品には,乙40発明ないし乙43発明のほか,乙44意匠ない
し乙46意匠が実施されているから,本件発明の寄与率は10%である旨主張する。被告製品が乙40発明ないし乙43発明の構成要件を充足していることは別紙乙40発明の説明書ないし乙43発明の説明書記載のとおりであり,また乙44意匠ないし乙46意匠を実施していることも,別紙乙44意匠公報図面ないし乙46意匠公報図面各記載の意匠と別紙目盛り説明図,
乙40発明の説明図ないし乙43発明の説

明図に認められる被告製品の意匠との対比から明らかである。
(イ)乙40発明ないし乙43発明及び乙44意匠ないし乙46意匠を被告製品に実施することによる効果等について検討すると以下のとおりである。a乙40発明
(a)乙40発明の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。

【請求項1】袋本体の開口部に,開閉可能に重ね合わされたチャック状封止部が設けられた医療用バッグにおいて,
前記チャック状封止部が設けられた各一方の重ね合わせ部からそれぞれ外方に延び出して互いに重ね合わされる一対のフラップ状部が形成されており,該チャック状封止部の一方の端部側では該一対のフラップ状部が互いに一体化さ
れた閉止部とされていると共に,
該チャック状封止部の他方の端部側では該一対のフラップ状部が互いに分離された開放部とされていることにより,
該チャック状封止部から外方に延び出して該チャック状封止部の開状態下において重ね合わせ方向の両側外方に向かって拡開可能な案内口部が設けられている一方,該案内口部における該一対のフラップ状部に対して手指による拡開操作力を及ぼす拡開操作部が設けられていることを特徴とする医療用バッグ。

(b)乙40公報には,本件発明の公報を特許文献1として,以下の記載及び図がある(図面は別紙乙40公報の図面参照)


【0008】
しかし,かかる特許文献1に記載の構造でも,開口部自体が小さい場合には,たと
え開いた状態に保持できても,
小さい開口部から液状物を注ぎ入れる作業者の負担を
十分に軽減し得るものではなかったのである。


【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】

本発明は,上述の事情を背景に為されたものであって,その解決課題は,樹脂チャックが設けられた開口部を通じて液状物を容易に注ぎ入れることができて作業者の負担が軽減される,新規な構造の医療用バッグを提供することにある。【課題を解決するための手段】
【0011】

以下,このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお,以下に記載の各態様において採用される構成要素は,可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0012】
本発明の第1の態様は,袋本体の開口部に,開閉可能に重ね合わされたチャック状
封止部が設けられた医療用バッグにおいて,前記チャック状封止部が設けられた各一方の重ね合わせ部からそれぞれ外方に延び出して互いに重ね合わされる一対のフラップ状部が形成されており,
該チャック状封止部の一方の端部側では該一対のフラッ
プ状部が互いに一体化された閉止部とされていると共に,該チャック状封止部の他方の端部側では該一対のフラップ状部が互いに分離された開放部とされていることにより,
該チャック状封止部から外方に延び出して該チャック状封止部の開状態下において重ね合わせ方向の両側外方に向かって拡開可能な案内口部が設けられている一方,
該案内口部における該一対のフラップ状部に対して手指による拡開操作力を及ぼす拡開操作部が設けられていることを,特徴とする。
【0013】
本態様においては,袋本体の開口部において,チャック状封止部よりも外方に延び
出して設けられた一対のフラップ状部により,幅方向一方の側が閉止部とされると共に他方の側が開放部とされた案内口部が設けられている。この案内口部によれば,開放部において大きく広げられることで十分な幅をもって拡開されると共に,閉止部において樋状の案内路が形成される。
【0014】

それ故,
拡開操作部において加えられる拡開操作力を一対のフラップ状部に及ぼして案内口部を大きく開くことにより,かかる案内口部を通じて開口部から袋本体へ液状物を容易に注ぎ入れることが可能になる。その際,例えば案内口部における閉止部が開放部よりもやや下方に位置するように袋本体の開口部を傾けることにより,案内口部の閉止部によって形成される樋状の案内路を一層効果的に利用することが可能
になる。


【発明の効果】
【0025】
本発明によれば,開口部において,チャック状封止部の外方に設けられた案内口部が開放部により大きく拡開されると共に,閉止部により樋状の案内路が形成される。
それ故,拡開操作部で案内口部を大きく開いた状態に保持せしめつつ,かかる案内口部を通じて,液状物を開口部から袋本体内に容易に注ぎ入れることが可能になる。」
(c)他方,本件明細書には,以下の記載がある。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし,上記従来の医療用軟質容器100への液状物の注入作業では,液状物の注入作業の開始から終了まで,開口部700を片手で把持し,かつ,開口部700が開口した状態を保持しなければならない。このような非常に不安定な状態で液状物の注入を行うと,医療用軟質容器100を落としてしまったり,開口部700の開口状態が保持できなくて液状物をこぼしてしまったりする恐れがある。よって,上記注入作
業中に作業者が受ける精神的及び肉体的な負担が大きい。
【0009】
また,
液状物の量を確認するための目盛りが収容部におけるシートの主面に表示されている場合があるが,この場合,図27及び図28に示されるような持ち方では目盛りが見づらい。例えば,目盛りが表示されたシートを作業者の正面に向けながら液
状物を収容部300内に注入する場合,目盛りを見ながら液状物を収容部300内に注ぐためには,片手で把持された開口部700のうちの親指と接している側を左側,親指以外の指と接している側を右側とすると,右側から液状物を収容部300内に注ぐ必要がある。しかし,この場合は,液状物の注入作業が行いにくい。【0010】

本発明は,空の医療用軟質容器への液状物の注入が行い易く,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見やすい,医療用軟質容器を提供する。


【0066】
図21に示されるように,医療用軟質容器15では,面411dの面積よりも,面411cの面積の方が大きいので,開口部4の幅方向のうち,医療用軟質容器15を
持つ手に近いまち41b側よりも,医療用軟質容器15を持つ手から遠いまち41a側の方が,軟質プラスチックシート2a,2b間の距離が大きくなるように,開口部4を開口させることができる。故に,医療用軟質容器15では,医療用軟質容器を持つ手から遠いまち41aの近傍に液状物が入った容器の注ぎ口を位置させることで,液状物の注入操作を容易に行える。

(d)上記(b)の明細書記載内容によると,被告製品に実施されている乙40発明は,本件発明を前提として,その開口部の形状を工夫したものであるといえるが,そもそも本件発明が解決しようとした課題自体が,上記(c)記載の段落【0008】ないし【0010】のとおり,空の医療用軟質容器への液成物の注入が行いやすくなるよう片手で操作できる開閉操作部を設けることにあったことに加え,さらに本件明細書には,上記の段落【0066】の記載及び図21があって,まちを設けることで開口部
を大きくする実施例が既に示され,開口を大きくしようという着眼点において乙40発明と格段の差はない。
そうすると,開口部にフラップを設けるという乙40発明が,本件発明との関係で進歩性のある発明であるとしても,本件発明に技術的に付加する要素はほとんどなく,被告製品の販売拡大に貢献している程度はないと見るのが相当である。
b乙41発明
(a)乙41発明の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。「
【請求項1】少なくとも,表面部及び裏面部を構成する壁面シートと,容器縦方向一端側に設けられた充填物の注出部と,
前記表面部及び前記裏面部の端縁同士を接合して形成される端縁シール部と,
を備え,前記注出部に可撓性の長尺状チューブが取り付けられるパウチ容器において,
前記端縁シール部には,前記チューブを保持可能なチューブ保持部が形成されており,
当該チューブ保持部は,前記端縁シール部の外端から少なくとも前記チューブ
の直径以上の幅で前記壁面シートを切り込んで又は切り欠いて形成されることを特徴とするパウチ容器。

(b)乙41公報には,以下の記載がある

【背景技術】
【0002】
パウチ容器は,密封性や取り扱い性に優れることから,食料品やトイレタリー製品はもとより,経腸栄養剤や静脈栄養剤,輸液等の容器としても広く用いられている。栄養剤等を患者に投与する際に使用される医療用パウチ容器は,容器下部に設けられた注出部を有し,
当該注出部に可撓性のある長尺状のチューブを取り付けて使用される。
【0003】

ところで,上記医療用パウチ容器は,注出部にチューブを接続した状態で病室等の目的とする場所まで運ばれる場合がある。このため,チューブが移動中に他の物に絡み付く,引っ掛かる,或いは脱落する等のおそれがある。チューブを当該容器に巻き付けて運搬する方法も考えられるが,
この場合,
チューブをほどく作業が面倒である。
このような状況に鑑みて,
チューブを湾曲させて挿入可能な開口をシール領域に形成

した医療用パウチ容器が提案されている(特許文献1参照)」


【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたパウチ容器によれば,開口にチューブを挿入すること
で上記の不都合をある程度改善できる。しかし,当該パウチ容器の場合,チューブに接する開口両端縁の抵抗が大きいため,チューブを開口からスムーズに抜き取ることが難しい。また,チューブを湾曲させて開口に挿入する操作は,例えば,片手で容易に行えるものではなく,この点についても改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】

【0006】
本発明に係るパウチ容器は,
少なくとも表面部及び裏面部を構成する壁面シートと,
容器縦方向一端側に設けられた充填物の注出部と,前記表面部及び前記裏面部の端縁同士を接合して形成される端縁シール部とを備え,前記注出部に可撓性の長尺状チューブが取り付けられるパウチ容器において,前記端縁シール部には,前記チューブを保持可能なチューブ保持部が形成されており,当該チューブ保持部は,前記端縁シール部の外端から少なくとも前記チューブの直径以上の長さで前記壁面シートを切り込んで又は切り欠いて形成されることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば,チューブ保持部によってチューブを保持することで,例えばチューブが移動中に他の物に絡み付く,引っ掛かる,或いは脱落するといった不具合を
防止できる。本チューブ保持部は,端縁シール部の外端から壁面シートを切り込んで又は切り欠いて形成されているため,チューブの保持操作,取り外し操作が容易であり,片手の作業であってもチューブのスムーズな取り扱いを可能にする。例えば,チューブ保持部が形成された端縁シール部の外端にチューブを押し当てることでチューブを当該保持部に簡単に挿入することができ,また当該保持部からチューブを取り
外す際には,チューブを外側に引っ張ることで容易に取り外すことができる。【0008】
本発明に係るパウチ容器において,前記チューブ保持部は,前記チューブの直径よりも小さな幅を有する導入路と,当該導入路と連通し,前記チューブの直径と同等以上の寸法を有する収容孔とを含むことが好適である。当該構成によれば,チューブの
保持性が向上し,
例えばチューブ保持部からのチューブの抜け落ち等をより高度に防止できる。
【0009】
また,前記チューブ保持部は,前記収容孔の少なくとも一部を覆い,前記チューブが前記収容孔に挿入されたときに当該チューブに接する舌片を有することが好適で
ある。当該構成によれば,例えば舌片がチューブを押えるのでチューブの保持性がさらに向上する。
【0010】
本発明に係るパウチ容器において,前記端縁シール部は,局部的に幅を大きくして形成された拡幅シール部を有し,当該拡幅シール部の1つに吊り下げ孔と前記チューブ保持部とが形成されることが好適である。当該構成によれば,例えば,拡幅シール部を1箇所とすることができ,容器容量を大きく設計し易い。また,吊り下げ孔をハンガー等に引っ掛けて容器を吊り下げた状態でチューブの保持操作等を行う場合,支持点からチューブ保持部までの距離が近くなるため,パウチ容器本体の揺動が生じ難く安定して作業を行うことができ,操作性がさらに向上する。

(c)これらによれば,乙41発明は,輸液装置を取り付けた栄養供給バッグの搬送
時にチューブが他のものに巻き付いたり引っかかったりすることを防止する保持具に関する発明であり,
本件発明が全く対応していない課題を解決するものと理解でき
る。しかし,証拠(乙24)によれば,本件明細書の実施例に描かれたバッグの下側には,原告が「ダイアモンドホール」と称しているチューブの保持部があり,これが乙41発明と同様の機能を果たしているものと認められ,乙41発明のそれが格段に
技術的に優れた効果を有するものとは見受けられない。
そうすると,乙41発明の実施が,被告製品の販売拡大に貢献している程度はないと見るのが相当である。
c乙42発明
(a)乙42発明の特許請求の範囲は,以下のとおりである。


【請求項1】
少なくとも表面部及び裏面部を構成する壁面シートを備え,
該シー
トに囲まれた充填部に内容物が充填され,前記充填部に繋がる開口部が容器上部の前記表面部と前記裏面部との間に形成されるパウチ容器において,前記表面部及び前記裏面部の上部にそれぞれ設けられた袋状部を備え,前記各袋状部は,前記充填部から隔離された内部空間を有し,容器幅方向から
該空間への指の挿入を可能とする挿入口を有することを特徴とするパウチ容器。」
【請求項2】請求項1に記載のパウチ容器において,前記各袋状部は,前記壁面シートの全幅に亘って設けられることを特徴とするパウチ容器。

(b)乙42公報には,本件発明の公報を特許文献1として,以下の記載がある。「
【0003】
ところで,上記開口部から栄養剤等を注入する場合には,容器の開口部周辺を片手で把持しながら開口部を押し広げるという不安定な作業を余儀なくされるため,かかる作業性の改善が求められている。このような状況に鑑みて,壁面シートと該シートの外面に固定された軟質プラスチックシートとの間に指を挿入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部を備えた医療用パウチ容器が提案されている(特許文献1参照)」



【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたパウチ容器によれば,貫通路に指を挿入して容器を保持することで上記作業性がある程度改善できる。しかし,当該パウチ容器の場合,同
文献の図面に記載されているように,容器を保持したときに貫通路から指先が出るため,栄養剤等の充填物が指にかかる恐れがあるなど,未だ改良の余地がある。【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るパウチ容器は,
少なくとも表面部及び裏面部を構成する壁面シートを

備え,該シートに囲まれた充填部に内容物が充填され,前記充填部に繋がる開口部が容器上部の前記表面部と前記裏面部との間に形成されるパウチ容器において,前記表面部及び前記裏面部の上部にそれぞれ設けられた袋状部を備え,前記各袋状部は,前記充填部から隔離された内部空間を有し,容器幅方向から該空間への指の挿入を可能とする挿入口を有することを特徴とする。

【0007】
上記構成によれば,
容器幅方向から袋状部の内部空間に指を挿入することができる。
袋状部内に挿入される指(例えば,親指と人差し指)は容器幅方向に沿った状態となり,
この状態で親指と人差し指の間隔を開けることにより開口部を容易に広げることができる。
親指と人差し指は袋状部内にすっぽりと挿入されるため,容器の保持性に優れ,内容物の重量が重い場合であっても指が抜け難く容器を安定に保持できる。そして,親指と人差し指は指先まで袋状部に覆われているため,充填物が指にかかることを防止できる。また,親指と人差し指との間隔を開けておくだけで開口状態が維持されるので,例えば,注入作業中に開口部が閉じてしまい充填物が零れるといった不具合を防止できる。

【0008】
本発明に係るパウチ容器において,前記各袋状部は,前記壁面シートの全幅に亘って設けられることが好適である。
当該構成によれば,
長尺状のシートを用いた生産性の高いプロセスによって袋状部
を備えたパウチ容器を製造できる。


(c)以上によれば,乙42発明は,容器に対する指の挿入方向は本件発明と同じであるが,容器を保持したときに貫通路から指先が出るため,栄養剤等の充填物が指にかかるおそれがあることなどを課題として,その挿入場所を袋状にすることで,充填物が指先にかからないようにしているものであることが認められる。しかしながら,
上記1(2)ウで認定説示したとおり,
本件発明の開閉操作部は,
指先

が露出する貫通路であることを要件としているわけではなく,これを袋状にすることは設計事項にすぎず,
これによって本件発明に対して特別の作用効果が加わるわけで
はない。
したがって,被告製品に乙42発明が実施されていたとしても,そのことが本件特許権侵害を理由とする法102条2項の損害の額の減額事由となることはない。
なお,被告は,乙42発明の構成を採ることによる製造コストの削減の点も主張するところ,乙42公報の段落【0008】には,乙42発明の構成であれば,生産性が高まる旨の記載があるが,仮にそうであるとしても,製造方法の違いが物である被告製品の需要喚起と直接関係しないことは明らかであるから,そもそも物の発明である本件発明と乙42発明を製造方法で区別しようとしている点で相当でないことをさて措いても,被告の主張は採用できない。
結局,被告製品に乙42発明が実施されているとしても,そのことで本件発明1の実施以上に技術的に積極的な意味はなく,被告製品の販売拡大に貢献している程度はないと見るのが相当である。
d乙43発明
(a)乙43発明の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。

【請求項1】表面シートと裏面シートとを備えるパウチ容器であって,前記表面シートと前記裏面シートに囲まれた空間が内容物の充填部を形成し前記充填部に繋がる開口部が前記パウチ容器上部の前記表面シートと前記裏面シートとの間に形成されており,
前記パウチ容器は,さらに,

前記開口部を閉じるチャックと,
前記チャックより上方において,前記表面シートの内側に設けられた第1の内側シートと,
前記チャックより上方において,前記裏面シートの内側に設けられた第2の内側シートと,

を備え,
前記表面シートと前記第1の内側シートの間に第1の内部空間が形成されるとともに,前記裏面シートと前記第2の内側シートの間に第2の内部空間が形成されており,
前記表面シートは,

容器幅方向から前記第1の内部空間に指を挿入可能に形成された第1の挿入口,を含み,
前記裏面シートは,
容器幅方向から前記第2の内部空間に指を挿入可能に形成された第2の挿入口,を含むパウチ容器。
【請求項5】前記表面シートの前記チャックより上方に位置する部分の容器幅方向の長さと,前記第1の内側シートの容器幅方向の長さは同じであり,前記裏面シートの前記チャックより上方に位置する部分の容器幅方向の長さと,前記第2の内側シートの容器幅方向の長さは同じである,パウチ容器。
【請求項6】シーラント層を有する第1の内側シートとシーラント層を有する表面シートとが,それぞれの当該シーラント層を対向させて接合されていると共に,
シーラント層を有する第2の内側シートとシーラント層を有する裏面シートとが,それぞれの当該シーラント層を対向させて接合されている,パウチ容器。」
(b)乙43公報には,本件発明の公報を特許文献1として,以下の記載がある。「
【発明が解決しようとする課題】
【0005】

上記特許文献1に開示されたパウチ容器によれば,開閉操作部を利用することで,容器の充填部に対して栄養剤等を注入することができる。開閉操作部はチャックを跨ぐように配置されている。
保持の仕方によっては容器を保持する手は充填部の一部に
重なるように位置する場合もある。注入作業の作業性を向上させるためには,充填物の量を確認し易い構造のパウチ容器が望まれている。

【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るパウチ容器は,表面シートと裏面シートとを備える。表面シートと裏面シートに囲まれた空間が内容物の充填部を形成している。充填部に繋がる開口部がパウチ容器上部の表面シートと裏面シートとの間に形成されている。パウチ容器は,
さらに,開口部を閉じるチャックと,チャックより上方において,表面シートの内側に設けられた第1の内側シートと,チャックより上方において,裏面シートの内側に設けられた第2の内側シートとを備える。


【0009】
第1の挿入口を介して指を収納する第1の内部空間,および,第2の挿入口ヒートシールによる接合が可能となりパウチ容器の生産性が向上する。


【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,第1の挿入口と第2の挿入口に指を入れることで,容器の開口部を広げ,充填部に充填物を注入することができる。第1の挿入口を介して指を収納する第1の内部空間,および,第2の挿入口を介して指を収納する第2の内部空間がチ
ャックの上方に設けられているので,利用者は,充填物を注入するとき,充填物の量を確認し易い。

(c)以上より,乙43発明は,同公報において,本件発明の課題として,開閉操作部がチャック部を跨ぐように配置されていることから,保持の仕方によっては容器を保持する手は充填部の一部に重なって充填物の量を確認しにくいという課題がある
ことを前提に,開閉操作部とチャック部の位置関係につき,チャック部を開閉操作部の下側になるよう特定したものと理解できる。
そして確かに,本件発明の実施例は,すべて開閉操作部がチャック部を跨ぐようになっているものの,本件発明の特許請求の範囲において,チャックの位置関係は何ら特定されているわけではない。そうすると,乙43発明に,本件発明において特定さ
れていないチャック部と開閉操作部の位置関係を特定することで進歩性があるとしても,結局,片手操作で栄養剤注入するという本件発明の改良形にすぎないことは明らかであって,本件発明1を実施している以上に技術的に積極的な意味はなく,被告製品の販売拡大に貢献している程度はさほど大きいものとは認められない。e乙44ないし乙46意匠

乙44意匠ないし乙46意匠は,被告製品そのものを対象として出願し登録された意匠といえるが,乙45意匠,乙46意匠は乙44意匠の部分についての部分意匠として登録されているにすぎないから,結局,本件で問題とすべきは,被告製品が乙44意匠を実施していることということになる。
しかし,その意匠は,乙41発明,乙42発明の実施例と同じものにすぎないし,栄養供給バッグという商品の性質上,登録意匠のもたらす美観が需要を喚起することは考えにくいから,登録意匠を実施していることをもって,本件特許権侵害を理由とする法102条2項の推定を覆滅する事由となるものとは認め難い。fまとめ
以上を総合すると,被告製品は,確かに乙40発明ないし乙43発明及び乙44意匠ないし乙46意匠を実施しているが,本件発明に技術的に付与するものは乙43発
明のみであり,その付与の程度がさほど大きくないことは上記のとおりである。したがって,その事情が,法102条2項の推定覆滅事由となるにしても,5%を減じるにとどまるというべきである。
ウ被告製品の売上げについての被告の営業力,ブランド力の貢献
被告は,被告製品の売上げは被告の営業力,ブランド力よるものであり,技術面の
寄与度はせいぜい30%であると主張する。
確かに証拠(甲18,乙57)及び弁論の全趣旨によれば,連結売上高で原告は576億3600万円であるのに対し,被告は3596億9900万円であり,従業員数でも原告はグループ総数で6777名にとどまるのに対し,被告のそれは2万7415名であって,企業規模としては被告の方が圧倒的に大きく,したがって原告が全
国に支社,営業所を有していることを考慮しても,営業力,ブランド力とも被告の方が強いことは否定できない。
しかし,
証拠
(乙47)
によれば,
本件で問題とすべき経腸栄養バッグ
(空バッグ)
の分野に限れば,当該市場は,●(省略)●のシェアを占め,その余を他社が占めるというのであり,
とりわけ
「片手の指を挿入するためのシート状の1対の開閉操作部」

を有する経腸栄養バッグに限れば,市場には原告と被告の製品以外は存しないから,市場を●(省略)●を占めるという関係にあり,当該分野に限れば,限られた需要者の間において原告がブランド力を確立していることは容易に推認され,原告との間で,営業力,ブランド力の差が生じているものとは認められない。
したがって,原告と被告の営業力,ブランド力の差をもって,法102条2項による推定が覆滅されるとする被告の主張は採用できない。
(5)総括
以上を総合すると,法102条2項の規定により原告の損害として認定されるべき額は,上記(3)で認定した被告製品の販売により受けた利益の額●(省略)●に,上記(4)で認定した減額事由を考慮し,以下の計算式のとおり3718万0364円と認定するのが相当である。

(計算式)
●(省略)●=37,180,364円
また,上記損害額に本件に現れた一切の事情を斟酌すると,本件と因果関係のある弁護士及び弁理士費用相当の損害額は380万円と認定するのが相当である。10総括

以上によれば,原告の被告に対する請求は,本件特許権1,2に基づく被告製品の輸入販売行為等の差止め及び廃棄請求には理由があり,また損害賠償請求については,4098万0364円及びこれに対する本件の対象とする不法行為の最後の日である平成28年12月31日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金請求の限度で理由があり,その余の請求は理由がない。

よって,上記理由のある限度で原告の請求を認容し,その余の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項を適用して主文のとおり判決する(なお,主文第1項,第2項,第5項に係る仮執行宣言の申し立てについては,相当ではないから付さないこととする。。)

大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官
森崎英二野上誠一大川潤子
裁判官

裁判官
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