判例検索β > 平成29年(行ケ)第10036号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10036
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年2月27日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日 平成30年2月27日 担 知的財産高等裁判所 第1部

事 件 番 号 平成29年(行ケ)第10036号 部
○ 審決には,特許法131条の2についての法令の解釈適用を誤った結果,要旨変更の
存否についての審理不尽の違法があるとされた事例
(関連条文)特許法131条の2第1項,第2条
(関連する権利番号等)特許第5663694号
判 決 要 旨
1 特許法131条の2第1項本文は,請求書の補正は,その要旨を変更してはならない
旨規定するのに対し,同条2項は,審判長は,請求書 に係る請求の理由の補正がその要
旨を変更するものであっても,当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが
明らかなものであり,かつ,被請求人も同意したことその他の同項各号のいずれかに該
当する事由があるときは,決定をもって,当該補正を許可することができる旨を規定し
,同条4項は,同条2項の決定に対しては,不服を申し立てることができない旨を規定
する。
上記各規定は,請求の理由の要旨を変更する補正については,審理対象を変動させる
ものであるから,審理の遅延を防止する観点から,これを許可することができないとす
る一方,要旨を変更する補正であったとしても,審理の遅延という観点から不当なもの
ではなく,被請求人も同意するなど特段の事情が認められる場合には,審判長の裁量的
判断として当該補正を許可することができるものとし,このような場合において,仮に
不許可の決定がされたとしても,審判請求人はいつでも別途の無効審判請求をすること
が可能であるから,審判請求人は,当該不許可決定に対しては不服を申し立てることが
できないとしたものである。
そうすると,審判請求人が,請求書の補正が要旨を変更するものではない旨争ってい
る場合において,審判合議体において当該補正が要旨を変更するものであることを前提
として,これを許可することができないと判断するときは,審判合議体は,同条1項に
基づき,当該補正を許可しない旨の判断を示すのが相当である。それにもかかわらず,
審判長が,同条1項に基づく不許可の判断を示さず,同条2項に基づき,裁量的判断と
して補正の不許可決定をする場合には,審判請求人は,同条4項の規定により,審判手
続において,当該決定に対しては不服を申し立てる ことができず,審決取消訴訟におい
ても,上記決定が裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものでない限り,上記決定を争うこ
とができなくなるものと解される。このような結果は,審判請求人に対し,要旨の変更
の可否を争う機会を実質的に失わせることになり,手続保障の観点から是認することが
できない。
2 これを本件についてみるに, 原告は,審判手続において,上記補正が要旨を変更する
ものではない旨争っていたにもかかわらず,審判長は,当該補正が要旨を変更するもの
であることを前提として,特許法131条の2第1項ではなく,同条2項に基づき, 格
別理由を付することなく,上記補正を許可することができないと決定したものと認めら
れる。
そうすると,審決には,同条についての法令の解釈適用を誤った結果,要旨変更の存
否についての審理不尽の違法があるといわざるを得ない。原告の主張は,上記の趣旨を
いうものとして理由がある。
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平成30年2月27日判決言渡
平成29年(行ケ)第10036号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年1月30日

判原決告X
訴訟代理人弁護士

横被
日本碍子株式会社


訴訟代理人弁理士

井康松田雅小主山上野由真習子己男文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1

原告の求めた裁判

特許庁が無効2015-800089号事件について平成28年12月20日にした審決を取り消す。

第2

事案の概要

本件は,特許無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,訂正要件,実施可能要件,サポート要件の各充足性及び進歩性の判断の誤りの有無である。1
特許庁における手続の経緯

被告は,
平成26年8月13日,
名称を
「空気極材料及び固体酸化物型燃料電池」
とする特許出願(優先日を平成25年8月23日,優先権主張国を日本国とするものであり,以下「本件出願」という。特願2014-164700号)を行い,同年12月12日,設定登録を受けた(特許第5663694号〔請求項の数は2である。。甲18)


原告は,平成27年3月30日,上記請求項1及び2に係る発明(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」
,請求項2に係る発明を「本件発明2」といい,本件
発明1及び2を併せて「本件発明」という。
)を無効にすることについて特許無効審
判を請求した(無効2015-800089号。甲31)
。これに対し,被告は,平
成28年8月3日,
訂正請求をした
(以下,
当該訂正請求による訂正を
「本件訂正」
という〔甲23〕
。なお,被告は,同年1月13日にも,訂正請求をしていたものの〔甲21〕
,当該訂正請求は,特許法134条の2第6項により,取り下げられたものとみなされた。。

特許庁は,同年12月20日,本件訂正を認めた上で,本件審判の請求は成り立たない旨の審決をした。その謄本は,平成29年1月6日,原告に送達された。2
本件発明の要旨

本件訂正後の本件発明(以下,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。
)の特許請求の範囲の記載は,次のとおり
である。

【請求項1】
一般式ABO3で表され,AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し,
断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合,結晶方位差が5度以上の境界によってそれぞれ規定され,円相当径が0.03μm超の複数の同一結晶方位領域
(ただし,
粒径が0.
3μm以下の粒子に含まれる同一結晶方位領域を除く)
の固相全体に対する面積占有率は,10%以上である,
固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
【請求項2】
燃料極と,
一般式ABO3で表され,AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極と,前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と,
を備え,
前記空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合,結晶方位差が5度以上の境界によってそれぞれ規定され,円相当径が0.03μm超の複数の同一結晶方位領域の固相全体に対する面積占有率は,15%以上ある,固体酸化物型燃料電池。
3
審決の理由の要点
(1)審決の判断の概要

審決は,本件訂正について,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当しないとして,本件訂正を認めるとした上,①本件発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料は,本件明細書の記載及び技術常識に基づき,当業者が製造することができるから,本件明細書の記載は,特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を充足し(無効理由1),
②本件発明は,固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されていると認められるから,本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定するサポート要件を充足し(無効理由2),③本
件発明1は,
「固体酸化物型燃料電池用空気極材料」に係る発明に訂正され,本件明細書の記載と整合したため,無効理由は解消したものであり(無効理由3),④本件
発明は,特開2012-43774号公報(甲2。以下,
「甲2公報」といい,甲2
公報に記載されている発明を「甲2発明」という。
)又は国際公開第2013/09
4260号
(甲3。
以下,
「甲3公報」
といい,
甲3公報に記載されている発明を
「甲
3発明」という。
)に記載された各発明と同じものとはいえず,当業者が,当該各発明に基づき,本件発明を容易に想到することができたものではなく(無効理由4),
以上によれば,本件特許は無効とすべきものではないと判断した。原告が主張する取消事由に対応する無効理由1,2及び4に係る審決の判断は,次のとおりである。
(2)無効理由1に係る審決の判断

本件明細書には,例えば,サンプルNo.3の空気極材料である,同一結
晶方位領域の面積占有率が10%のLSCFカソード原料粉体(以下,単に「LSCF」という。
)は,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等によって製造する際,その空気極材料の合成条件(合成時間及び合成温度)を調整することによって,同一結晶方位領域の平均円相当径を変更したことが記載されているとはいえるものの,その空気極材料についての具体的製造方法が記載されているとまではいえない。
そして,
本件明細書には,
固体酸化物型燃料電池用の空気極材料としては,La,

Sr)
(Co,Fe)O3などのペロブスカイト構造を有する複合酸化物を用いることができる旨の背景技術についての記載があり,この方法はいわゆる共沈法と認められるものの,上記共沈法そのものによって得られたLSCFは,本件発明1の空気極材料ではないこと,すなわち,その空気極材料の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合,結晶方位差が5度以上の境界によってそれぞれ規定され,円相当径が0.03μm超の複数の同一結晶方位領域(ただし,粒径が0.3μm以下の粒子に含まれる同一結晶方位領域を除く)の固相全体に対する面積占有率が10%未満であることは自明の事項といえる。
ところで,走査型電子顕微鏡(SEM)によって拡大した空気極材料の断面のSEM画像から固相の合計面積が求まり,電子線後方散乱回折(以下「EBSD」という。
)法によって結晶方位解析したEBSD画像から同一結晶方位領域の合計面積が求まるところ,このEBSD画像には,円相当径が0.03μm以下の同一結晶方位領域は表示されていないし,粒径が0.3μm以下の粒子に含まれる同一結晶方位領域は表示されていないことから,円相当径が0.03μm超の複数の同一結晶方位領域(ただし,粒径が0.3μm以下の粒子に含まれる同一結晶方位領域を除く)の固相全体に対する面積占有率が一義的に得られるということが把握されるため,その物の解析方法は明らかであるといえる。
したがって,共沈法における仮焼温度を変更して空気極材料の製造,解析(同一結晶方位領域の面積占有率の算出,
10%未満の場合には仮焼温度の変更)順次,
を,
行うことによって同一結晶方位領域の面積占有率が10%以上である,本件発明の空気極材料を得ることは可能であるから,本件発明の空気極材料は,本件明細書及び図面の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき,当業者がその物を製造することができるといえる。
以上によれば,本件発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料は,本件明細書の記載及び技術常識に基づき,当業者が製造することができるから,本件明細書の記載は,
特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を充足するものと認められる。イ
原告は,無効理由1に関連して,空気極材料としての粒子の集合体につ
いて,空気極材料が,どのような形態(
「粉体」「解砕物」「塊」


)で「同一結晶方
位領域」を解析するかが特定されない限り,
「平均円相当径」を特定できないし,ま
た,EBSD法による結晶方位解析によって描画される「同一結晶方位領域」は,「粉体」状態の空気極材料に対しては,粉体の粒径(大小)
,硬化樹脂と粉体の混合
割合などの要因によって,
複数の粒子どうしの分布状態が変化するため,
「同一結晶
方位領域の円相当径」が変化し,ひいては「平均円相当径」も変化する旨(以下「無効理由1'」という。
)主張する。
しかしながら,原告は,上記主張を裏付け得る客観的かつ具体的な証拠を提出していないところ,
「同一結晶方位領域の面積占有率」走査型電子顕微鏡
は,
(SEM)
画像から固相の合計面積が求まり,EBSD画像から同一結晶方位領域の合計面積が求まることから,
一義的に得られるといえるため,
原告の主張は,
採用し得ない。

また,原告は,無効理由1に関連して,
「結晶方位差が所定角以内の結晶

子どうしの配置状態」が制御できなければ,同一結晶方位領域の平均円相当径を目標値に制御することは不可能であるし,
「同一結晶方位領域」を解析する際に,粉体
充填密度をどのような値に設定するのかは何ら記載されていない旨(以下「無効理由1’」という。

)主張する。
しかしながら,平成28年5月20日付け補正許否の決定により,無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから,無効理由1’
’に係る主張は,本件
の審理範囲内の主張ではなく,
無効理由1’の主張が審判請求書にも記載されてい

たと仮定してみても,本件発明に係る空気極材料及び固体酸化物型燃料電池は,本件明細書及び図面の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき,当業者が製造することができるといえるから,無効理由1’
’の主張にも合理性は認められず,原告
の主張は,採用し得ない。
(3)無効理由2に係る審決の判断
固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明は,測定温度:750℃,電流密度:0.2A/cm2において,固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm2よりも大きくすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供することを,発明が解決しようとする課題としていることが確認できる。
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,
一般式ABO3で表され,
Aサイ
トにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する空気極材料の断面における,固相の合計面積に対するEBSD法によって結晶方位解析した結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域であって,円相当径が0.03μm以下の同一結晶方位領域を除き,粒径が0.3μm以下の粒子に含まれる同一結晶方位領域も除く,同一結晶方位領域の合計面積の占有率を10%以上とすることによって,出力密度を0.15W/cm2よりも大きくすることができるという技術事項も把握できる。したがって,出力密度を0.15W/cm2よりも大きくすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供するという本件発明が解決しようとする課題は,上記各技術事項によって解決できるといえ,また,本件発明1は,固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されていると認められ,この理は,本件発明2に係る固体酸化物型燃料電池の発明についても同様に当てはまるものといえる。
以上によれば,本件発明は,固体酸化物型燃料電池用空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されていると認められるから,本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定するサポート要件を充足するものと認められる。
(4)無効理由4に係る審決の判断

甲2発明は,次のとおりである(甲2)

(ア)「一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物
を主成分として含有し,前記Aサイトには,La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ,1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である,固体酸化物型燃料電池セルが備える空気極を形成するための電極材料」(以下
「甲2
a発明」という。

(イ)「一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し,前記Aサイトには,La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ,1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である,電極材料からなる空気極と,燃料極と,前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と,を備える固体酸化物型燃料電池セル」
(以下「甲2b発明」とい
う。


甲3発明は,次のとおりである(甲3)

(ア)「一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物
によって構成される空気極材料であって,前記Aサイトには,La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ,1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である,固体酸化物型燃料電池セルの空気極材料」
(以下「甲3a発明」とい
う。

(イ)「一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物によって構成される空気極材料であって,前記Aサイトには,La及びSrの少なくとも一方の原子が含まれ,1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である,空気極材料からなる空気極と,燃料極と,前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と,を備える固体酸化物型燃料電池セル」(以下
「甲3b発明」という。


本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2a発明又は甲3a発明との一致点及び相違点
本件発明1と甲2a発明は,次の点で相違し(以下,当該相違点を「相違点1」という。,
)その余の点で一致している。
なお,
本件発明1と甲3a発明の相違点は,
相違点1と同じものである(以下,当該相違点を「相違点1’」という。。)
固体酸化物型燃料電池用空気極材料が,
本件発明1では,
「断面を電子線後方散乱
法によって結晶方位解析した場合,結晶方位差が5度以上の境界によってそれぞれ規定され,円相当径が0.03μm超の複数の同一結晶方位領域(ただし,粒径が0.3μm以下の粒子に含まれる同一結晶方位領域を除く)の固相全体に対する面積占有率は,10%以上である」との発明特定事項を備えているのに対し,甲2a発明では,
「1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である」
ものの,前記の発明特定事項を備えているのか否かが明らかでない点(イ)相違点1及び1’に対する判断
本件発明1と甲2a発明又は甲3a発明は,
いずれも,
一般式ABO3で表され,
AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料に係る発明ではあるものの,互いに,備えている発明特定事項,その発明特定事項を特定するための材料解析技術又は技術的意義が,いずれも異なっていることは明らかであるから,
両者は,
互いに技術的思想を異にする関係にある異なる発明であるといえる。また,甲2a発明又は甲3a発明のような空気極材料に,相違点1又は相違点1’に係る発明特定事項を備えさせることが,本件出願の優先日前において,周知のことであると認定し得る客観的かつ具体的な証拠は見当たらないし,技術常識であると認定し得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらないから,本件発明1は,甲2a発明又は甲3a発明に基づいて,当業者が容易になし得たものともいえない。エ
本件発明2について

本件発明2と甲2b発明又は甲3b発明との一致点及び相違点,相違点に対する判断については,相違点1において,本件発明1の「断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合,結晶方位差が5度以上の境界によってそれぞれ規定され,円相当径が0.03μm超の複数の同一結晶方位領域(ただし,粒径が0.3μm以下の粒子に含まれる同一結晶方位領域を除く)の固相全体に対する面積占有率は,10%以上である」を「空気極の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合,結晶方位差が5度以上の境界によってそれぞれ規定され,円相当径が0.
03μm超の複数の同一結晶方位領域の固相全体に対する面積占有率は,15%
以上ある」に読み替えるとともに,
「甲2a発明」を「甲2b発明」に,
「甲3a発
明」を「甲3b発明」に読み替えるほかは,前記ウの認定及び判断と同様である。
第3

原告主張に係る審決取消事由
1
取消事由1(本件訂正の適否に係る判断の誤り)

本件訂正に係る訂正事項のうち,本件明細書【0029】において,「同一結晶方
位領域の平均円相当径や標準偏差」
とあるのを,
「複数の同一結晶方位領域の円相当
径の標準偏差」
に訂正するもの
(訂正事項1-B及び2-A。
以下
「本件訂正事項」
という。
)につき,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとして,本件訂正を認めている。
しかしながら,本件訂正事項は,本件特許と同じ特許出願(特願2013-173401号)を基礎とする他の特許出願(特許第5603515号)における「空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径は,空気極材料の製造時における原料粉末の粉砕条件によって変化する」という意見書(甲4)の主張の根拠となった記載事項を削除するものであり,本件訂正事項に係る訂正は,当該意見書に係る主張との間で矛盾を生じさせるものである。
そうすると,本件訂正事項に係る訂正は,本件明細書全体の記載から把握される本来の意を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明には当たらず,訂正要件を充足しない。
したがって,上記訂正事項に係る訂正を認めた審決の判断には,審決の結論に影響を与える重大な誤りがある。
2
取消事由2
(新たに補充した無効理由1’及び無効理由1’に係る各判断の


誤り)
(1)無効理由1’について
審決は,無効理由1’を裏付け得る客観的かつ具体的な証拠は提出されていない上,
「同一結晶方位領域の面積占有率」は,走査型電子顕微鏡(SEM)画像から固相の合計面積が求まり,EBSD画像から同一結晶方位領域の合計面積が求まることから,一義的に得られるとして,無効理由1’は,理由がないとした。しかしながら,被告は,審判過程において「同一結晶方位領域は「粉体」状態の空気極材料に対して,粉体の密度などの要因によって変化すること」を認めているのであるから,無効理由1’を裏付ける証拠が提出されていないとした審決の認定には,その前提において誤りがある。また,本件明細書には,
「同一結晶方位領域」
を解析する際,粉体充填密度や粉体の粒径をどのような値に設定するのかが何ら記載されていないから,本件発明が実施可能であるとはいえない。
したがって,無効理由1’に係る審決の判断には,誤りがある。
(2)無効理由1’
’について
審決は,平成28年5月20日付け補正許否の決定により,無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから,無効理由1’
’は,本件審理範囲内の主張
ではないと判断した。
しかしながら,無効理由1’
’については,無効理由1の主要事実の主張を補完す
る間接事実をいうものであって,これを追加することは請求理由の要旨変更ではないから,本件審理範囲内の主張ではないとした審決の判断には,誤りがある。したがって,無効理由1’
’に係る審決の判断には,誤りがある。
3
取消事由3(実施可能要件に係る判断の誤り)

審決は,無効理由1において,
「明細書には,空気極材料についての具体的製造方
法が記載されているとまではいえない」
と認定したにもかかわらず,
「合成温度の調
整」及び「同一結晶方位領域の面積占有率の算出」を順次行うことで,本件発明の空気極材料は,過度の試行錯誤を要することなく,当業者が製造することができると判断した。これに対し,審決は,無効理由4において,
「化学技術の分野において
は,一般に,複雑な反応工程をたどることが多く,出発物質,反応条件等のわずかな相違によって同一の生成物が得られない」ことが技術常識であると認定した。そうすると,無効理由1に係る審決の上記判断は,無効理由4において認定された技術常識と明らかに矛盾するため,誤りがあるというべきである。
そして,審決は,無効理由1において,
「同一結晶方位領域の面積占有率」を制御
するための制御因子は「合成温度のみ」と断定しており,他の要因(粉砕条件,混合時間,混合方法,昇温速度,合成時間,出発物質など)の影響について考慮していないところ,無効理由4で認定された上記技術常識によれば,空気極材料の製造工程において合成温度が同一であっても他の要因が変更された場合には,同一の空気極材料が得られないことになり,しかも,その他の要因の詳細については明細書に記載されていないのであるから,他の要因を少しずつ変更し,製造される空気極材料の平均円相当径を算出する作業をするために,当業者が過度の試行錯誤を要することは明らかである。
したがって,本件発明の固体酸化物型燃料電池用空気極材料は,本件明細書の記載及び技術常識に基づき,当業者が製造することができるとして,本件明細書の記載は,特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を充足するとした審決の判断には,誤りがある。
4
取消事由4(本件発明1のサポート要件に係る判断の誤り)

審決は,本件発明1には,空気極の製造工程における条件(焼成時間,焼成温度など)の特定されない広範囲の空気極材料が記載されているにもかかわらず,本件明細書における
「空気極の製造工程における条件
(焼成温度,
焼成時間)について,

「1050℃で3時間」
(本件明細書【0061】
)という単一の条件で製造された
空気極材料に限り,検討したにすぎない。そのため,
「1050℃で3時間」以外の
条件で製造された広範囲の空気極材料が,本件発明の課題(測定温度:750℃,電流密度:0.2A/cm2において,固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm2より大きくすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供するという課題をいう。以下,当該課題を「本件課題」という。
)を解決することが
可能か否かについて,何ら検討するものではない。
したがって,本件発明1のサポート要件に係る審決の判断には,審理不尽の違法があり,当該違法は,審決の結論に影響を及ぼすものである。
5
取消事由5(新規性又は進歩性に係る判断の誤り)
(1)引用発明の認定の誤り

審決は,甲2公報又は甲3公報におけるNo.1ないしNo.10のLSCFからなる空気極材料のみを考慮して,甲2公報又は甲3公報に記載された製造方法では必ずしも甲2発明や甲3発明に該当する空気極材料が得られるとは限らないとして,各相違点を認定している。
しかしながら,甲2公報又は甲3公報に記載されている製造方法に係る製造条件の調整範囲は,広範囲にわたるものであるため,得られる空気極材料及び固体酸化物型燃料電池も極めて広範囲なものとなるから,甲2発明や甲3発明に該当する空気極材料が得られるとは限らないとしても,常に否定されるものではなく,上記製造方法において製造条件を調整して得られる空気極材料及び固体酸化物型燃料電池に本件発明が含まれる可能性がある。
したがって,審決の引用発明に係る認定には,誤りがある。
(2)相違点に係る判断の誤り
審決は,本件発明と甲2発明及び甲3発明につき,互いに備えている発明特定事項及びその発明特定事項を特定するための技術的意義がいずれも異なり,互いに異なる発明であると認定して,本件発明の進歩性を肯定している。
しかしながら,
本件発明と甲2発明及び甲3発明とは,
「空気極材料の状態を整え
て,空気極の活性を高め,燃料電池の出力を向上させる」という技術的意義が共通するものであり,このような技術的意義は,燃料電池の技術分野では広く知られているものである。
したがって,審決の相違点に係る判断には,誤りがある。

第4
1
被告の反論
取消事由1(本件訂正の適否に係る判断の誤り)

原告は,本件訂正事項は「空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径は,空気極材料の製造時における原料粉末の粉砕条件によって変化する」という意見書(甲4)の主張の根拠となった記載事項を削除するものであり,本件訂正事項に係る訂正は,当該意見書の主張との間で矛盾を生じさせるものであるから,審決は,本件明細書【0029】の意味につき,被告の本来の意を誤って認定するものであって,本件訂正事項に係る訂正は,明瞭でない記載の釈明には当たらず,訂正要件を充足するものではないなどと主張する。
しかしながら,本件明細書【0029】の本来の意は、本件明細書全体の記載から把握されるべきであり,他の特許出願(特許第5603515号)の審査段階における意見書から把握することは,妥当でない。
したがって,本件訂正事項に係る訂正が明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するとして,
本件訂正を認めた審決の判断には,
誤りはなく,
原告の主張は,
理由がない。
2
取消事由2
(新たに補充した無効理由1’及び無効理由1’に係る各判断の


誤り)
(1)無効理由1’について
原告は,被告が審判段階において「同一結晶方位領域は「粉体」状態の空気極材料に対して,粉体の密度などの要因によって変化すること」を認めており,また,本件明細書には,
「同一結晶方位領域」を解析する際,粉体充填密度や粉体の粒径をどのような値に設定するのかが何ら記載されていないから,無効理由1’に係る審決の判断には,誤りがあるなどと主張する。
しかしながら,被告は,審判段階において,
「EBSD法による高精度な結晶方位
解析では,もともと異なる粒子が近づいた程度であれば,粒子どうしの隙間が認識されるため,別々の同一結晶方位領域として明確に識別することができる」ことを明言しており(口頭審理陳述要領書〔甲28〕,たとえ粉体充填密度が大きかった)
としても,2つの粒子どうしが結合して同一結晶方位領域が大きくなったように認識されることはないとも主張したとおり,
「同一結晶方位領域は「粉体」状態の空気
極材料に対して,粉体の密度などの要因によって変化すること」を認めるものではないから,原告の主張は,その前提を欠くものである。また,原告は,自身の主張を裏付け得る客観的かつ具体的な証拠を提出していないのであるから,原告の主張には,そもそも合理性もない。
したがって,無効理由1’に係る審決の判断には,誤りはなく,原告の主張は,理由がない。
(2)無効理由1’

原告は,
無効理由1’は無効理由1の主要事実の主張を補完する間接事実であっ’
て,これを追加することは請求理由の要旨変更ではないから,本件審理範囲内の主張ではないとした審決の判断には,誤りがあるなどと主張する。
しかしながら,特許法131条の2第1項本文は,審判請求書の補正は,その要旨を変更してはならない旨規定し,同条2項は,審判長は,特許無効審判を請求する場合における審判請求書の請求の理由の補正がその要旨を変更するものである場合において,当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであり,かつ,同項各号のいずれかに該当する理由があるときは,決定をもって,当該補正を許可することができる旨規定し,同条4項は,同条2項の決定に対しては,不服を申し立てることができない旨規定する。
これらの規定によれば,特許無効審判請求の審判請求書の補正が請求の理由の要旨変更にわたる場合は,原則として補正は許されず,当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであり,かつ,特許法131条の2第2項各号のいずれかに該当する理由があると審判長が認めたときに限り補正を許可する決定をすることができるものとし,その補正の許可又は不許可の決定に対しては不服を申し立てることができないことになる。そうすると,上記補正の許可又は不許可の決定に対する不服については,審決取消訴訟における取消事由とはなり得ず,また,特許無効審判請求において上記補正に係る請求の理由を審理しなかったことについても,取消事由とはなり得ない。
したがって,原告の主張は,上記規定を正解しないものであり,失当である。3
取消事由3(実施可能要件に係る判断の誤り)

原告は,審決が無効理由4で認定した「化学技術の分野においては,一般に,複雑な反応工程をたどることが多く,出発物質,反応条件等のわずかな相違によって同一の生成物が得られない」という技術常識によれば,空気極材料の製造工程において合成温度が同一であっても他の要因が変更された場合には,同一の空気極材料が得られないことになり,しかも,その他の要因の詳細については明細書に記載されていないのであるから,他の要因を少しずつ変更し,製造される空気極材料の平均円相当径を算出する作業をするために,当業者が過度の試行錯誤を要することは明らかであるなどと主張する。
しかしながら,審決が無効理由4において認定した技術常識によれば,同一結晶方位領域の平均円相当径の調整に際しては,次回の調整時における方向性を明確にするためにも,
変更するパラメータは少ない方が簡便であるから,
当業者であれば,
「合成温度」と「合成時間」の両方を変更するのではなく,
「合成温度」と「合成時
間」の一方のみを変更することによって同一結晶方位領域の平均円相当径の調整を試みるのが自然である。そうすると,同一結晶方位領域の平均円相当径の調整に際して,合成温度以外の条件を変更せずに合成温度のみを変更することを例示した審決の判断には,誤りはない。
したがって,審決は,無効理由4において認定した技術常識があるからこそ,空気極材料の製造工程において合成温度のみを変更するという判断をなし得たのであるから,無効理由1の審決の判断は,無効理由4で認定された技術常識と合致しており,両者は矛盾するものではなく,原告の主張は,理由がない。4
取消事由4(本件発明1のサポート要件に係る判断の誤り)

原告は,本件明細書における「空気極の製造工程における条件(焼成温度,焼成時間)
」について,
「1050℃で3時間」という単一の条件で製造された空気極材
料に限り,検討したにすぎず,
「1050℃で3時間」以外の条件で製造された広範
囲の空気極材料が本件課題を解決することが可能か否かについて何ら検討していない審決の判断には,審理不尽の違法があるなどと主張する。
しかしながら,通常採用される焼成条件の範囲(1000℃~1200℃,1~10時間)
(本件明細書【0050】
)と実施例の焼成条件(1050℃,3時間)
とを比較すると,実施例の焼成条件は,通常採用される焼成条件の範囲内では「低温」かつ「短時間」の組合せに該当しているため,実施例の焼成温度を更に低くしたり,あるいは,焼成時間をさらに短くしたりしても,出力密度への影響は限定的であると考えるのが合理的である。また,実施例の出力密度は,比較例の出力密度に比べて顕著に向上している。
そうすると,
本件発明1に係る空気極材料によれば,
本件課題を解決することができると考えるのが相当である。
したがって,本件発明1は,本件出願時の技術常識に照らして,空気極材料の発明の課題を解決できると認識できる範囲に特定されているとした審決の判断には,誤りはなく,原告の主張は,理由がない。
5
取消事由5(新規性又は進歩性に係る判断の誤り)
(1)引用発明の認定の誤り

原告は,甲2公報又は甲3公報に記載されている製造方法における製造条件の調整範囲は広範囲にわたり,得られる空気極材料及び固体酸化物型燃料電池も極めて広範囲であるから,甲2発明や甲3発明に該当する空気極材料が得られるとは限らないとしても,常に否定されるものではなく,上記製造方法において製造条件を調整して得られる空気極材料及び固体酸化物型燃料電池に本件発明が含まれる可能性があるなどと主張している。
しかしながら,原告は,甲2発明や甲3発明に該当する空気極材料が得られる場合が常に否定されるものではないことのみを根拠に,上記製造方法において製造条件を調整して得られる空気極材料及び固体酸化物型燃料電池に本件発明が含まれる可能性があるなどと主張するにとどまり,原告自身の主張を裏付ける客観的かつ具体的な証拠を何ら提出していない。
したがって,原告の主張は,その根拠を欠くものであり,理由がない。(2)相違点に係る判断の誤り
原告は,
本件発明を甲2発明及び甲3発明と対比した場合,
「空気極材料の状態を
整えて,空気極の活性を高め,燃料電池の出力を向上させる」という技術的意義が共通するものであり,このような技術的意義は,燃料電池の技術分野では広く知られているものであるから,技術的意義はいずれも異なるものであるとした審決の認定には,誤りがあるなどと主張する。
しかしながら,原告の主張は,本件発明と甲2発明及び甲3発明の技術的意義を「空気極材料の状態を整えて,
空気極の活性を高め,
燃料電池の出力を向上させる」
ことであると極めて広く解釈することを前提とするものであり,恣意的なものであるというほかなく,本件発明と甲2発明及び甲3発明の技術的意義に係る審決の認定には,誤りはない。
したがって,原告の主張は,理由がない。

第5
1
当裁判所の判断
認定事実
(1)本件発明について

本件明細書(甲18)には,次のとおりの記載がある。

技術分野,発明が解決しようとする課題(
【0001】~【0005】


本件発明は,
空気極材料及び空気極を備える固体酸化物型燃料電池に関する。固体酸化物型燃料電池は,一般的に,燃料極と,固体電解質層と,空気極と,を備える。空気極材料としては,
(La,Sr)
(Co,Fe)O3などのペロブスカイト構造
を有する複合酸化物を用いることができる(特許文献1(特開2006-32132号公報)参照)

ここで,固体酸化物型燃料電池の出力を向上させるには,空気極の活性を高めることが好ましい。本件発明者らは,鋭意検討した結果,空気極材料及び空気極の固相全体に対する同程度の結晶方位を有する領域の面積占有率が空気極の活性に関連していることを新たに見出した。
本件発明は,上述の状況に鑑みてなされたものであり,固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料,及び出力を向上可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段(
【0006】


本件発明に係る空気極材料は,
一般式ABO3で表され,
AサイトにLa及びSr
の少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する。
空気極材料の断面を電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合,固相全体に対する,
結晶方位差が5度以上の境界
によってそれぞれ規定される複数の同一結晶方
位領域の面積占有率は,10%以上である。

固体酸化物型燃料電池10の構成


【0010】~【0020】

固体酸化物型燃料電池10は,燃料極20,固
体電解質層30,バリア層40および空気極50を備える。
燃料極20は,固体酸化物型燃料電池10のアノード(負極)として機能し,燃料極集電層21と燃料極活性層22を有する。燃料極集電層21及び燃料極活性層22は,Niと酸素イオン伝導性物質(イットリア安定化ジルコニア(YSZ)など)を主成分として含んでもよい。
これらは多孔質であり,
燃料極集電層21の厚みは0.
2mm以上5.0mm以下,燃料極活性層22の厚みは5.0μm以上30μm以下とすることができる。
「主成分として含む」とは,含量が60重量%以上,より好ま
しくは,70重量%以上であることを意味する。
固体電解質層30は,燃料極20と空気極50の間に配置され,空気極50で生成される酸素イオンを透過させる。材料としては,YSZなどが挙げられる。緻密質で,気孔率は10%以下であることが好ましい。厚みは,3μm以上30μm以下とすることができる。
バリア層40は,固体電解質層30と空気極50の間に高抵抗層が形成されることを抑制する。セリア(CeO2)系材料が用いられ,厚みは3μm以上20μm以下とすることができる。
空気極50は,バリア層40上に配置され,固体酸化物型燃料電池10のカソード(正極)として機能する。多孔質で,気孔率は25%~50%,厚みは3μm以上600μm以下とすることができる。一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し,このような複合酸化物としては,例えばランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF),ランタンストロンチウムフェライト(LSF),ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC),ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)及びLSM-8YSZなどが挙げられる。空気極材料は,粒子の集合体であればよく,粉体(例えば,平均粒径0.1μm以上5μm以下程度),解砕物(例えば,平均粒径5μm以上500μm以下程度),あるいは解砕物よりも大きな塊でもよい。上記複合酸化物の原料粉末を粉砕して作製できる。

空気極材料の結晶方位解析(
【0021】~【0029】


SEM(走査型電子顕微鏡)の画像(図2)に基づいて,空気極材料の断面における固相の合計面積を求めることができる。空隙に相当する領域には樹脂が充填されている。固相の合計面積を求める範囲は,SEMの撮像範囲とすればよいが,これに限らない。
空気極材料のEBSD画像では,結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域1つ1つの外形を把握することができる。EBSD画像に基づいて,空気極材料の断面における同一結晶方位領域の合計面積を求めることができる。
固相の合計面積に対する同一結晶方位領域の合計面積の面積占有率は,10%以
上である。

図2

図3

図3では,
空気極の活性向上という効果に寄与しない,円相当径が0.
03μm以
下の同一結晶方位領域は表示されていない(円相当径が0.
03μm以下の同一結晶
方位領域の面積は,
同一結晶方位領域の合計面積に含まれていない)。
円相当径とは,
対象物と同じ面積を有する円の直径のことである。
また,
同様に粒径が0.
3μm以
下の粒子に含まれる同一結晶方位領域は表示されていない(粒径が0.3μm以下の
粒子に含まれる同一結晶方位領域の面積は,同一結晶方位領域の合計面積に含まれていない)。
空気極材料において,同一結晶方位領域と粒子は異なる概念であり,1つの粒子内に複数の同一結晶方位領域が存在する場合や,1つの同一結晶方位領域内に複数の粒子が存在する場合がある。
同一結晶方位領域の平均円相当径は,0.03μm以上2.8μm以下とすることができる。平均円相当径とは,複数の同一結晶方位領域それぞれの円相当径の算術平均値である。同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は,0.1以上3以下とすることができる。
空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は,原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御できる。

空気極50の結晶方位解析(
【0030】~【0036】


空気極50のEBSD画像では,結晶方位差が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域1つ1つの外形を把握することができる。このEBSD画像に基づいて,空気極50の断面における同一結晶方位領域の合計面積を求めることができる。同一結晶方位領域の合計面積を求める範囲は,固相の合計面積を求める範囲と同一である。固相の合計面積に対する同一結晶方位領域の合計面積の面積占有率は,15%以上である。

図5

ここで,
図5では,

3と同様に,円相当径
が0.
03μm以下の同
一結晶方位領域は表示
されていない。同一結
晶方位領域の平均円相
当径は,03μm以
0.
上3.
3μm以下とする
ことができる。同一結
晶方位領域の円相当径
の標準偏差は,1以
0.
上3.3以下とするこ
とができる。
空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は,空気極50の焼成条件を調整することによって制御できる。

空気極材料の製造方法(
【0037】~【0042】


空気極材料は,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等によって得られる。空気極材料の合成条件(混合方法,昇温速度,合成温度/時間)を制御することによって,空気極材料の断面における同一結晶方位領域の面積占有率や平均円相当径を制御できる。具体的には,合成温度を高くしたり,合成時間を長くしたりすると同一結晶方位領域の面積占有率及び平均円相当径は大きくなる。また,
原料の粉砕/混合条件を制御することによって,
空気極材料における同一結
晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には,粉砕条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり,混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる。

固体酸化物型燃料電池10の製造方法(
【0043】~【0050】


まず,金型プレス成形法で燃料極集電層用粉末を成形することによって,燃料極集電層21の成形体を形成する。
次に,燃料極活性層用粉末と造孔剤との混合物にバインダーとしてPVA(ポリビニルブチラール)を添加したスラリー,固体電解質層用粉末に水とバインダーを混合したスラリー,バリア層用粉末に水とバインダーを混合したスラリーを,順に塗布等して,燃料極活性層22,固体電解質層30,バリア層40の成形体を形成する。次に,
成形体の積層体を1300~1600℃で2~20時間共焼結して,共焼成体を形成する。
次に,空気極用材料粉末に水とバインダーを混合したスラリーをバリア層40上に塗布して,空気極50の成形体を形成し,焼成(1000℃~1200℃,1~10時間)する。この際,焼成条件を制御することによって,空気極50の断面における同一結晶方位領域の面積占有率や平均円相当径を制御することができる。具体的には,焼成温度を高温化したり,焼成時間を長くすると面積占有率や平均円相当径は大きくなる傾向がある。また,空気極成形体の粉体充填密度を制御することによって,空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には,空気極成形体の粉体充填密度を高くすると標準偏差は小さくなる傾向がある。

【実施例】
[出力密度の測定]【0062】~【0069】



空気極材料のサンプルNo.1~20について,測定温度:750℃,電流密度:0.2A/cm2における出力密度を測定し,出力密度が0.15W/cm2以下の場合を×,0.15W/cm2より大きい場合を○と評価した(表1)。空気極材料の断面における同一結晶方位領域の面積占有率を10%以上とすること,空気極の断面における同一結晶方位領域の面積占有率を15%以上とすることによって,出力密度を向上できることが確認された。(表1)

表1

(2)本件発明の内容
上記(1)の記載によれば,本件発明の内容は,次のとおりのものと認められる。ア
本件発明は,空気極材料及び空気極を備える固体酸化物型燃料電池に関
するものであり,固体酸化物型燃料電池の出力を向上可能な空気極材料及び固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする(
【0001】~【0005】。


本件発明に係る空気極材料は,
一般式ABO3で表され,
AサイトにLa

及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物(LSCFなど)を主成分として含有するものであり,その固相の合計面積に対する同
一結晶方位領域の合計面積の面積占有率は,10%以上となるものである。この場合において,
空気極材料の断面における固相の合計面積については,
SEM(走査型
電子顕微鏡)画像に基づいて求めることができ,
また,
EBSD画像では結晶方位差
が5度以上の境界によって規定される同一結晶方位領域1つ1つの外形把握することができるため,空気極材料の断面における同一結晶方位領域の合計面積については,EBSD画像に基づいて求めることができる。
なお,空気極材料において,同一結晶方位領域と粒子は異なる概念であり,1つの粒子内に複数の同一結晶方位領域が存在する場合や,1つの同一結晶方位領域内に複数の粒子が存在する場合がある。
また,同一結晶方位領域の平均円相当径は,0.03μm以上2.8μm以下とすることができる。他方,同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は,0.1以上3以下とすることができる。
そして,空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は,原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御できる。

【0006】

【0021】【0

029】


空気極材料は,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等に
よってペロブスカイト構造を有する複合酸化物を作製することによって得られる(
【0038】~【0040】。


空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は,原料粉
末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。
また,空気極材料の合成条件(混合方法,昇温速度,合成温度/時間)を制御することによって,空気極材料の断面における同一結晶方位領域の面積占有率や平均円相当径を制御することができる(合成温度を高くし,合成時間を長くすると同一結晶方位領域の面積占有率及び平均円相当径は大きくなる。。

さらに,原料の粉砕又は混合条件を制御することによって,空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる(粉砕条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり,混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる。。【0029】【0041】【0042】
)(




空気極50のEBSD画像では,結晶方位差が5度以上の境界によって
規定される同一結晶方位領域1つ1つの外形を把握することができる。このEBSD画像に基づいて,空気極50の断面における同一結晶方位領域の合計面積を求めることができる。同一結晶方位領域の合計面積を求める範囲は,固相の合計面積を求める範囲と同一であり,固相の合計面積に対する同一結晶方位領域の合計面積の面積占有率は,15%以上である。また,空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差は,空気極50の焼成条件を調整することによって制御することができる。
そして,焼成条件を制御することによって,空気極50の断面における同一結晶方位領域の面積占有率や平均円相当径を制御することができる(焼成温度を高温化したり,焼成時間を長くすると面積占有率や平均円相当径は大きくなる。。)
さらに,空気極成形体の粉体充填密度を制御することによって,空気極50における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる(空気極成形体の粉体充填密度を高くすると標準偏差は小さくなる。。
)【0032】0036】




【0050】


本件発明は,
測定温度:750℃,
電流密度:0.
2A/cm2において,

固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm2より大きくすることが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供することができる(
【0067】~【00
69】。

(3)空気極材料の製造方法に関する技術常識
証拠(甲33)及び弁論の全趣旨によれば,共沈法に係る製造方法は,次のとおりのものと認められる。

空気極材料は,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等に
よってペロブスカイト構造を有する複合酸化物を作製することによって得られる。「液相法」の1つである共沈法について,本件明細書に記載されている先行技術文献(
【0003】
)である特開2006-32132号公報(甲33)の【0032】によれば,次に掲げる①ないし⑥の工程により空気極原料粉体を作製することは,本件出願時における技術常識であると認められる。


La,Sr,Co,Feの各硝酸塩を出発原料として,La0.6Sr
0.4Co0.2Fe0.8の割合となるように調整して水に溶解させる。②

中和剤にNH4OHを用いて,上記溶液から各元素を含む塩を共沈さ


得られた共沈塩を水洗し,80℃で乾燥する。



さらに,1000℃で5時間仮焼を行う。



仮焼物をホソカワミクロン(株)製のアクアマイザー(回転数:25
せる。

0rpm)を用いて3時間湿式粉砕後,乾燥した。


乾燥物からホソカワミクロン(株)製ジェットミル(分級回転速度:
22000rpm,圧空量:0.72Nm3/minの条件)を用いて粗大粒子を除去し,LSCFを得た。

上記LSCFの製造方法は,
「共沈法」と呼ばれ,La,Sr,Co,F

eの各硝酸塩を含む水溶液から各元素を共沈させて得られた共沈塩を仮焼,湿式粉砕後,乾燥,分級して複合酸化物粉体を得るものである。共沈法においては,仮焼を行うことで複合酸化物の合成を行っていることから,
「合成温度を高くし,
合成時
間を長くすると平均円相当径は大きくなり,合成温度を低くし,合成時間を短くすると平均円相当径は小さくなる傾向がある。という本件明細書記載の」
「合成温度」

「合成時間」は,共沈法における仮焼の際の「仮焼温度」「仮焼時間」にそれぞれ,
相当する。
また,
「原料の粉砕/混合条件を弱く(加える機械エネルギーを小さくしたり,混合時間を短く)すると標準偏差は大きくなり,原料の粉砕/混合条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり,混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる傾向がある。
」という本件明細書記載の「原料の粉砕/混合」は,共沈法における「湿式粉砕」に相当する。
2
取消事由1(本件訂正の適否に係る判断の誤り)
(1)証拠(甲18)によれば,本件訂正前の明細書(以下「訂正前明細書」と
いう。
)には,次のとおりの記載がある。

「空気極材料における同一結晶方位領域の平均円相当径や標準偏差は,
原料粉末の粉砕条件を調整することによって制御することができる。【0029】(


イ「この際,
空気極材料の合成条件
(混合方法,
昇温速度,
合成温度/時間)
を制御することによって,空気極材料の断面における同一結晶方位領域の面積占有率や平均円相当径を制御することができる。具体的には,合成温度を高くしたり,合成時間を長くしたりすると同一結晶方位領域の面積占有率及び平均円相当径は大きくなる。反対に,合成温度を低くしたり,合成時間を短くしたりすると同一結晶方位領域の面積占有率及び平均円相当径は小さくなる。(
」【0041】

ウ「また,原料の粉砕/混合条件を制御することによって,空気極材料における同一結晶方位領域の円相当径の標準偏差を制御することができる。具体的には,
粉砕条件を弱く(加える機械エネルギーを小さくしたり,混合時間を短く)すると標準偏差は大きくなり,粉砕条件を強く(加える機械エネルギーを大きくしたり,混合時間を長く)すると標準偏差は小さくなる。(
」【0042】

(2)上記認定事実によれば,原料の粉砕又は混合条件によって制御することができる対象は,訂正前明細書【0029】の記載では平均円相当径や標準偏差であるとされているのに対し,訂正前明細書【0042】の記載では標準偏差のみとされていることからすると,各々の記載に齟齬があるものと認められる。そのため,訂正前明細書の上記記載は,原料の粉砕又は混合条件が制御する対象について明瞭でないものといえる。そうすると,本件訂正事項に係る訂正は,上記の制御対象を標準偏差に統一するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって,本件訂正事項に係る訂正が明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するとして,本件訂正を認めた審決の判断には,誤りはない。(3)原告は,平成26年7月17日付けの意見書(甲4)において,「空気極材
料における同一結晶方位領域の平均円相当径は,空気極材料の製造時における原料粉末の粉砕条件によって変化しますが(本願の【0028】
【0040】段落)
」と
記載しており,本件訂正事項に係る訂正は,意見書の上記記載と矛盾するものであると主張する。
しかしながら,上記意見書は,他の特許出願(特許第5603515号。甲5)に係るものであるから,本件に適切ではない。しかも,証拠(甲5)によれば,上記意見書は,上記のとおり,他の特許出願の明細書【0028】及び【0040】の各記載を参照しているところ,当該各記載についても上記と同様の齟齬が存在することが認められることからすると,上記意見書自体についても,原料の粉砕又は混合条件が制御する対象について,そもそも明瞭でなかったものと認められる。そうすると,原告の主張は,実質的にみても,本件訂正事項に係る本件訂正が明瞭でない記載の釈明に当たるとした上記判断を左右するものではない。したがって,原告の主張は,採用することができない。
3
取消事由3(実施可能要件に係る判断の誤り)

取消事由2は,
無効理由1を補充した無効理由1’及び1’の判断の誤りを主張

するものであるから,まず,無効理由1の判断の誤りをいう取消事由3について判断する。
(1)実施可能要件について
特許法36条4項1号は,
発明の詳細な説明の記載は,
「その発明の属する技術の
分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と規定している。したがって,同号に適合するためには,本件明細書中の「発明の詳細な説明」の記載が,これを見た本件発明の技術分野の当業者によって,本件出願時に通常有する技術常識に基づき本件発明の実施をすることができる程度の記載であることが必要となる。
(2)本件発明について

本件発明1について

前記1(1)の認定事実によれば,
本件明細書の発明の詳細な説明には,
本件発明1
に係る空気極材料について,その具体的な製造方法が記載されているものとは認められない。
しかしながら,前記1(1)カの認定事実によれば,本件発明に係る空気極材料は,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等によって複合酸化物を作製することによって得られるとされているところ(
【0038】,前記1(3)の認定事

実のとおり,共沈法によって上記複合酸化物を作製することは,本件出願時において技術常識であるものと認められる。そして,前記1(1)カの認定事実によれば,空気極材料の断面における同一結晶方位領域の面積占有率については,合成温度を高くし,
合成時間を長くすると面積占有率は大きくなることが記載されている【00(
41】。そうすると,これらの記載に接した当業者は,空気極材料の断面における)
同一結晶方位領域の面積占有率が合成温度又は合成時間によって制御可能であると理解するものと認められるから,通常の創作能力を発揮して,複合酸化物の製造方法として周知な共沈法によって,
合成温度又は合成時間を変動させて試料を作成し,
これを通常の手法によるSEM像の観察,EBSD法による分析を行うことによって,
本件発明1に係る空気極材料を作製することができると認めるのが相当である。現に,本件明細書の実施例では,本件発明1に係る面積占有率を示す空気極材料が得られたことが具体的に示されているのであって,このことも,上記認定を裏付けるものといえる。
したがって,本件発明1に係る本件明細書の記載は,特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を充足するものと認めるのが相当である。

本件発明2について

前記1(1)の認定事実によれば,
本件明細書の発明の詳細な説明には,
本件発明2
に係る空気極について,その具体的な製造方法が記載されているものとは認められない。
しかしながら,前記1(1)カの認定事実によれば,本件発明に係る空気極材料は,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等によって複合酸化物を作製することによって得られるとされているところ(
【0038】,前記1(3)の認定事

実のとおり,共沈法によって上記複合酸化物を作製することは,本件出願時において技術常識であるものと認められる。さらに,前記1(1)キの認定事実によれば,上記空気極材料を使用して,金型プレス成形やスラリーの塗布,焼成等の通常の方法により空気極を備えた固体酸化物型燃料電池を製造する方法が記載されている【0(
043】~【0050】。そうすると,これらの記載に接した当業者は,空気極材)
料を得ることができれば,通常の方法により空気極を備えた固体酸化物型燃料電池を製造することができると理解するものと認められる。
そして,
前記1(1)キの認定事実によれば,
空気極の断面における同一結晶方位
領域の面積占有率については,焼成温度を高温化したり,焼成時間を長くしたりすると同一結晶方位領域の面積占有率は大きくなることが記載されている(【005
0】。そうすると,これらの記載に接した当業者は,空気極の断面における同一結)
晶方位領域の面積占有率が焼成温度又は焼成時間によって制御可能であると理解するものと認められるから,通常の創作能力を発揮して,複合酸化物の製造方法として周知な共沈法によって,焼成温度又は焼成時間を変動させて試料を作成し,これを通常の手法によるSEM像の観察,EBSD法による分析を行うことによって,本件発明2に係る空気極を作製することができるものと認めるのが相当である。現に,本件明細書の実施例では,本件発明2に係る面積占有率を示す空気極が得られたことが具体的に示されているのであって,このことも,上記認定を裏付けるものといえる。
したがって,本件発明2に係る本件明細書の記載は,特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を充足するものと認めるのが相当である。

小括

以上によれば,本件明細書の記載が特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を充足するものとした審決の判断には誤りがなく,取消事由3は,理由がない。(3)原告の主張について
原告は,審決は無効理由4において「化学技術の分野においては,一般に,複雑な反応工程をたどることが多く,出発物質,反応条件等のわずかな相違によって同一の生成物が得られない」ことが技術常識であると認定しているところ,本件明細書が実施可能要件を充足するとした審決の判断は,上記認定に係る技術常識と明らかに矛盾するものであるから,当該判断には,誤りがあるなどと主張する。確かに,出発物質,反応条件等のわずかな相違によって同一の生成物が得られないことが技術常識であるとしても,上記(2)のとおり,本件明細書には,本件発明に係るパラメータを制御するための合成条件が具体的に示されているのであるから,当業者は,当該合成条件を修正するなどして,技術常識に基づき,通常の創作能力を発揮することによって,本件発明を作製することができると認めるのが相当である。そうすると,本件明細書が実施可能要件を充足するとした審決の判断は,無効理由4で認定した技術常識と矛盾するものではない。
したがって,原告の主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。
4
取消事由2
(新たに補充した無効理由1’及び無効理由1’に係る各判断の


誤り)
(1)無効理由1’について
原告は,空気極材料が同一のものであっても,その粒子状態によっては平均円相当径が変わり得るとして,本件明細書では粒子状態が特定されておらず,本件発明を実施することはできないから,
無効理由1’
を理由がないとした審決の判断には,
誤りがあるなどと主張する。
しかしながら,EBSD法で解析される同一結晶方位領域の平均円相当径については,粒子を昇温,焼成等する場合には格別,単に充填密度が変化する程度であれば,同一結晶方位領域を変化させるものではないというのが技術常識である。しかも,無効理由1’に係る原告の主張は,本件無効審判の審理において,被告自らが「同一結晶方位領域は,粉体状態の空気極材料に対して,粉体の密度などの要因によって変化する」ことを単に認めたとすることを理由とするにとどまり(原告準備書面(1)の13頁)
,原告自身が,上記主張を裏付ける技術的な根拠を立証するもの
ではない。
したがって,原告の主張は,その根拠を欠くものであり,採用することができない。
(2)無効理由1’
’について

特許法131条の2第1項本文は,請求書の補正は,その要旨を変更し
てはならない旨規定するのに対し,同条2項は,審判長は,請求書に係る請求の理由の補正がその要旨を変更するものであっても,当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであり,かつ,被請求人も同意したことその他の同項各号のいずれかに該当する事由があるときは,決定をもって,当該補正を許可することができる旨を規定し,同条4項は,同条2項の決定に対しては,不服を申し立てることができない旨を規定する。
上記各規定は,請求の理由の要旨を変更する補正については,審理対象を変動させるものであるから,審理の遅延を防止する観点から,これを許可することができないとする一方,要旨を変更する補正であったとしても,審理の遅延という観点から不当なものではなく,
被請求人も同意するなど特段の事情が認められる場合には,
審判長の裁量的判断として当該補正を許可することができるものとし,このような場合において,仮に不許可の決定がされたとしても,審判請求人はいつでも別途の無効審判請求をすることが可能であるから,審判請求人は,当該不許可決定に対しては不服を申し立てることができないとしたものである。
そうすると,審判請求人が,請求書の補正が要旨を変更するものではない旨争っている場合において,審判合議体において当該補正が要旨を変更するものであることを前提として,
これを許可することができないと判断するときは,
審判合議体は,
同条1項に基づき,当該補正を許可しない旨の判断を示すのが相当である。それにもかかわらず,審判長が,同条1項に基づく不許可の判断を示さず,同条2項に基づき,裁量的判断として補正の不許可決定をする場合には,審判請求人は,同条4項の規定により,審判手続において,当該決定に対しては不服を申し立てることができず,審決取消訴訟においても,上記決定が裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものでない限り,上記決定を争うことができなくなるものと解される。このような結果は,審判請求人に対し,要旨の変更の可否を争う機会を実質的に失わせることになり,手続保障の観点から是認することができない。

これを本件についてみると,証拠(甲26,甲27及び甲30)及び弁
論の全趣旨によれば,原告は,平成27年12月24日付け上申書及び平成28年2月25日付け審判事件弁駁書を提出したこと,原告は,これらの書面において,請求の理由を補正して,結晶方位差が所定角以内の結晶子どうしの配置状況を制御できなければ,同一結晶方位領域の平均円相当径を目標値に制御することは不可能であり,また,同一結晶方位領域を解析する際に,粉末充填密度をどのような値に設定するのかが何ら記載されていないため,本件明細書における発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を充足するものではないと主張したこと,原告は,審判手続においても,当該補正は,無効理由1における間接事実をいうものであり,要旨を変更するものではないと主張したものの,審判長は,平成28年5月20日付けで,格別理由を付することなく,上記補正については許可しない旨の決定をしたこと,
審決は,
上記主張について,
平成28年5月20日付け補正許否の決定により,
無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから,本件の審理範囲内の主張ではないと判断したこと(審決50頁)
,原告は,本件訴訟においても,上記決
定の違法を主張するに当たり,上記補正が要旨を変更するものではないことを一貫して主張していること,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,原告は,審判手続において,上記補正が要旨を変更するものではない旨争っていたにもかかわらず,審判長は,当該補正が要旨を変更するものであることを前提として,特許法131条の2第1項ではなく,同条2項に基づき,格別理由を付することなく,上記補正を許可することができないと決定したものと認められる。
そうすると,審決には,同条についての法令の解釈適用を誤った結果,要旨変更の存否についての審理不尽の違法があるといわざるを得ない。原告の主張は,上記の趣旨をいうものとして理由がある。

もっとも,審決は,無効理由1’
’の主張が請求書に記載されていたと仮

定した場合であっても,本件発明1の空気極材料及び本件発明2の固体酸化物型燃料電池は,無効理由1と同旨の理由により,本件明細書及び図面の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき,当業者が製造することができるといえるから,当該主張は,合理性が認められず,採用することができないとしている。そこで検討するに,無効理由1’
’に係る主張は,結晶方位差が所定角以内の結晶
子どうしの配置状態の制御及び同一結晶方位領域の解析時の粉体充填密度の不明をいうものであって,前者については,本件発明に係る「同一結晶方位領域」の定義に関する事項をいうものであり,既に審理の対象とされている事項につき補充主張するものにすぎず,後者については,無効理由1において主張した6つの不明な製造方法に係る制御因子のほかに,製造方法に密接に関連する解析条件に係る問題点を補充的に指摘するものにすぎないから,要旨を変更するものではないと解するのが相当である。
そして,無効理由1’
’に係る主張の内容を検討するに,前者については,本件発
明にいう「同一結晶方位領域」は,
「結晶方位差が5度以上の境界によって規定され
る領域」と一義的に定義されているのであるから,当該定義を前提とすれば,原告の主張にかかわらず,EBSD法によって「同一結晶方位領域」を計測することができることは明らかである。また,後者については,前記(1)のとおり,粉体充填密度が同一結晶方位領域の大きさを左右することを立証し得る証拠及び技術常識を認めることができない。
したがって,原告の主張は,いずれも実施可能要件に係る前記3の判断を左右するものとはいえない。

以上によれば,審決の判断は,結論において取り消すべき違法はなく,
原告の主張は,審決の結論に影響を及ぼさない事項についての違法をいうものにすぎず,採用することができない。
(3)小括
以上によれば,取消事由2は,理由がない。
5
取消事由4(本件発明1のサポート要件に係る判断の誤り)
(1)サポート要件について

特許法36条6項1号は,
特許請求の範囲の記載は,
「特許を受けようと

する発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならないと規定している。したがって,同号に適合するためには,特許請求の範囲に記載された発明が,これを見た本件発明の技術分野の当業者にとって,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比した上,
発明の詳細な説明に記載された発明で,
発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

前記1(2)カの認定事実によれば,本件発明が解決しようとする課題は,
「測定温度:750℃,電流密度:0.2A/cm2において,固体酸化物型燃料電池の出力密度を0.15W/cm2より大きく」することが可能な固体酸化物型燃料電池用空気極材料を提供すること(本件課題)である。そして,前記1(1)クの認定事実によれば,空気極材料の断面における同一結晶方位領域の面積占有率を10%以上とした空気極材料を用いたサンプルのほか,空気極の断面における同一結晶方位領域の面積占有率を15%以上とした空気極を用いたサンプルでは,出力密度を0.15W/cm2より大きくできた旨記載されている。
上記認定事実によれば,当業者は,本件発明に係る所定の「同一結晶方位領域の面積占有率」を充足する空気極材料及び空気極により,本件課題を解決することができると理解するものと認めるのが相当である。そうすると,本件発明は,本件明細書の記載により当業者が本件発明の本件課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められ,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定するサポート要件を充足するものと認められる。
したがって,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定するサポート要件を充足するとした審決の判断には,
誤りはなく,
取消事由4は,
理由がない。
(2)原告の主張について
原告は,本件発明1には,空気極の製造工程における条件(焼成時間,焼成温度など)の特定されない広範囲の空気極材料が記載されているにもかかわらず,審決は,本件明細書における「空気極の製造工程における条件(焼成温度,焼成時間)」
について「1050℃で3時間」
(本件明細書【0061】
)という単一の条件で製
造された空気極材料に限り,検討したにすぎないから,
「1050℃で3時間」以外
の条件で製造された広範囲の空気極材料が,本件課題を解決することが可能か否かについて,何ら検討していないなどと主張する。
しかしながら,本件明細書に示された「1050℃,3時間」の条件の下で,製造された本件発明1の実施例が本件課題を解決できることが明示されている以上,それ以外の条件で焼成した場合に,仮に,請求項1に規定する平均円相当径が所定のパラメータの数値を充足しない空気極材料が作製されたとしても,当該空気極材料が作製されることは,本件発明1のサポート要件に係る上記判断を直ちに左右するものではない。原告の主張は,実質的には,通常採用する焼成条件の全範囲において作製される空気極材料が本件課題を解決することまで求めるものであり,失当である。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
6
取消事由5(新規性又は進歩性に係る判断の誤り)
(1)認定事実

甲2発明の内容

甲2公報によれば,甲2発明の内容は,次のとおりのものと認められる。(ア)甲2発明は,電極材料及びそれによって形成された空気極を備える固体酸化物型燃料電池セルに関するものであり,一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含有し,1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が10.3以下である電極材料等を提供するものである(
【特許請求の範囲】

【0001】。

(イ)電極材料は,ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を「主成分」として含むことができる。組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは,組成物X全体のうち,
物質Yが好ましくは60重量%以上を占め,
より好ましくは70重量%
以上を占め,更に好ましくは90重量%以上を占めることを意味する。電極材料は,組成分布が高い均一性を有していることが好ましい。具体的には,電極材料における任意の視野内で,10スポットにおいて,EDS(エネルギー分散型X線分光法)
により,
Aサイトに含まれる元素のそれぞれの原子濃度を取得し,
その原子濃度の標準偏差値を得たとき,Aサイトにおいて得られる標準偏差値が,10.3以下であることが好ましい。【0012】~【0016】(

(ウ)製造方法は,具体的には,ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を得ることを含む。複合酸化物を得る方法としては,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等が挙げられる。電極材料における組成分布を制御し得る因子としては,さらに,原料の種類,原料の混合方法,原料の混合条件に加えて,合成温度(900℃~1400℃,1~30hr)が挙げられる。【0019】~【0(
023】

(エ)右
の3つの各表に
示すように,N
o.1~No.
4,No.7~N
o.10の試料
については,劣
化率が小さく抑
えられた。これ
らの試料では,
Aサイトの元
素の原子濃度
の標準偏差(ば
らつき)は,1
0.5未満であ
り,具体的には
10.3以下で
あった。また,
Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は3.99以下であった。
その一方で,
劣化率
が大きかったNo.5~No.6の試料では,Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は11.5以上であり,Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は4.18以上であった。

以上の結果か
ら,
原子の分布が
比較的均一であ

(標準偏差が小
さい)ことで,空
気極の劣化が抑
制されると考え
られる(
【009
5】

【0096】

【0109】。


甲3発明の内容

甲3公報によれば,甲3発明の内容は,次のとおりのものと認められる。(ア)甲3発明は,空気極材料,インターコネクタ材料及び固体酸化型燃料電池セルに関するものである。近年,環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から,燃料電池に注目が集まっており,燃料電池に関して,いくつかの材料及び構造が提案されている。しかしながら,燃料電池を用いた発電を繰り返すうちに,得られる電圧が低下することがある。甲3発明の発明者は,電圧の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであることを新たに見出した。【0001】【000(

2】【0005】


(イ)上記発明者は,上記の課題を解決するために,電極材料の成分の濃度の均一性を高めることで,空気極及びインターコネクタの劣化を抑制することができるという新たな知見を得た。すなわち,甲3発明は,一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含有し,1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたAサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差が10.3以下である。この電極材料は,燃料電池の電極を形成する材料として好適である。この電極材料によって形成された電極は,劣化が抑制され,優れた耐久性を示す。【0007】【0008】【0010】




(ウ)甲3発明の製造方法は,具体的には,ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を得ることを含む。複合酸化物を得る方法としては,固相法,液相法(クエン酸法,ペチニ法,共沈法等)等が挙げられる(
【0021】【0022】。


(エ)空気極は,
例えば,
燃料極,
電解質層及びバリア層の積層体
(焼成後)
上に,圧粉形成,印刷法等によって空気極の材料の層を形成した後,焼成することで形成される。
具体的に,
LSCFによって構成される電極材料を用いる場合には,
印刷法を用いるのであれば,LSCFとバインダ,分散剤,分散媒を混合して作製されるペーストを積層体上に印刷して焼成(焼成温度900℃~1100℃,焼成時間1hr~10hr)すればよい(
【0072】。

(オ)実施例によれば,No.1~No.4,No.7~No.10の試料については,劣化率が小さく抑えられた。これらの試料では,Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差(ばらつき)は,11.5未満であり,具体的には10.3以下であった。また,Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は3.99以下であった。その一方で,劣化率が大きかったNo.5~No.6の試料では,Aサイトの元素の原子濃度の標準偏差は11.
5以上であり,
Bサイトの元素の原子濃度の標準偏差は4.
88以上であった。
以上の結果から,原子の分布が比較的均一である(標準偏差が小さい)ことで,空気極の劣化が抑制されると考えられる。【0129】【0130】【0145】(



(2)引用発明の認定の誤りについて
原告は,甲2公報又は甲3公報に記載されている製造方法における製造条件の調整範囲は広範囲にわたり,得られる空気極材料及び固体酸化物型燃料電池も極めて広範囲であるから,甲2発明や甲3発明に該当する空気極材料が得られるとは限らないとしても,常に否定されるものではなく,上記製造方法において製造条件を調整して得られる空気極材料及び固体酸化物型燃料電池に本件発明が含まれる可能性があるなどと主張する。
しかしながら,原告は,甲2発明や甲3発明に該当する空気極材料が得られる場合が常に否定されるものではないことのみを根拠に,甲2公報又は甲3公報に記載されている製造方法又は合成条件等を変更した製造方法によって,本件発明に係る所定の同一結晶方位領域の面積占有率を満足する空気極材料や空気極が得られる可能性があるとするのみで,原告自身の主張を裏付ける具体的な証拠や技術的な根拠は示していない。しかも,甲2発明又は甲3発明の空気極材料において,特定の同一結晶方位領域の面積占有率を充足することについては,記載も示唆もなく,同一結晶方位領域の面積占有率又は円相当径の標準偏差値とAサイト内の各元素の各原子濃度との関係すら明らかではない。
したがって,原告の主張は,その合理的根拠を欠くというほかなく,採用することができない。
(3)相違点に係る判断の誤りについて

前記(1)ア及びイの認定事実によれば,
本件発明と甲2発明又は甲3発明

とは,いずれも,一般式ABO3で表され,AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料に係る発明ではあるものの,本件発明は,空気極の活性を高め,固体酸化物型燃料電池の出力を向上させるために,空気極材料の粉体粒子において同程度の結晶方位を有する領域の面積占有率を特定するものであるのに対し,甲2発明及び甲3発明は,電極の劣化を抑制するために,電極材料の成分の濃度の均一性を高めるものである。そのため,両者は,そもそも,解決すべき課題及びその解決手段がいずれも相違するものであり,しかも,甲2発明又は甲3発明の空気極材料において,特定の同一結晶方位領域の面積占有率を充足することについては,記載も示唆もなく,特定の同一結晶方位領域の面積占有率とAサイト内の各元素の各原子濃度との関係すら明らかではない。さらに,このような事項が周知技術又は技術常識であると認定し得る証拠も認められない。
そうすると,本件発明と甲2発明又は甲3発明は,解決すべき課題及びその解決手段がいずれも相違するものであるから,当業者において,そもそも本件発明とは解決課題も解決手段も異なる甲2発明又は甲3発明に基づき,本件発明を容易に想到することができないことは明らかである。
したがって,当業者が,甲2発明又は甲3発明に基づき,本件発明を容易に想到することができたものではないとした審決の判断には,
誤りはなく,
取消理由5は,
理由がない。

原告は,
本件発明と甲2発明及び甲3発明とは,
「空気極材料の状態を整

えて,空気極の活性を高め,燃料電池の出力を向上させる」という技術的意義において共通するものであり,このような技術的意義は,燃料電池の技術分野では広く知られているものであるから,本件発明と甲2発明及び甲3発明は,互いに備えている発明特定事項及びその発明特定事項を特定するための技術的意義がいずれも異なるとして,当業者が,甲2発明及び甲3発明に基づき,本件発明を容易に想到することができたものではないとした審決の判断には,誤りがあるなどと主張する。しかしながら,上記アにおいて説示したとおり,本件発明は,空気極の活性を高め,固体酸化物型燃料電池の出力を向上させるために,空気極材料の粉体粒子において同程度の結晶方位を有する領域の面積占有率を特定するものであるのに対し,甲2発明及び甲3発明は,電極の劣化を抑制するために,電極材料の成分の濃度の均一性を高めるものであるから,両者は,そもそも,解決すべき課題及びその解決手段がいずれも相違するものである。そうすると,両発明が原告主張のような一般化された上記技術的意義において共通するとしても,具体的な解決すべき課題及びその解決手段がいずれも相違するものである以上,当業者において,そもそも本件発明とは解決課題も解決手段も異なる甲2発明又は甲3発明に基づき,本件発明を容易に想到することができないことは明らかである。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
7
その他について

その他に,
原告の準備書面に記載された主張などを含めて改めて十分検討しても,原告の主張は,いずれも前記判断を左右するものではない。

第6

結論

以上によれば,原告の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官
清水節中島基至岡田慎吾
裁判官

裁判官

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