判例検索β > 平成25年(ワ)第9354号
損害賠償請求事件
事件番号平成25(ワ)9354
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成30年3月1日
法廷名大阪地方裁判所
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主1文
被告A,被告C及び被告Dは,原告に対し,連帯して,6959万8336円及びこれに対する平成25年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告の被告B及び被告Eに対する請求並びに被告A,被告C及び被告Dに対するその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,原告と被告A,被告C及び被告Dとの間に生じた費用はこれを8分し,その1を原告の負担とし,その余を被告A,被告C及び被告Dの負担とし,原告と被告B及び被告Eとの間で生じた費用は全部原告の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
被告らは,原告に対し,連帯して8083万9000円及びこれに対する平成25年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
本件は,被告Aで雇用されて調理師として稼働していたFが自殺したことについて,Fの相続人である原告が,Fの死亡の原因は,被告A及びFが出向していた被告B(以下,両社を併せて「被告両社」ということがある。)での過重な長時間労働等によってうつ病エピソード(ICD-10のF32。以下「本件疾病」という。)を発症したことにあり,被告両社並びに被告両社の代表取締役又は取締役であり労務管理の責任者であった被告C,被告E及び被告D(以下「被告Cら」という。)には,Fを長時間労働等の過重な業務に従事させた故意又は過失があるなどと主張して,(1)被告A及び被告Bに対しては,雇用契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償として,(2)被告Cらに対しては,会社法429条1項に基づく損害賠償として,連帯して,損害賠償金8083万9000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
争いのない事実等
(1)

当事者等

Fは,昭和49年7月31日,原告の長男として生まれ,平成6年3月に調理師学校を卒業した後,調理師として複数の飲食店(うどん,そば)での勤務を経て,平成17年5月以降,被告Aにおいて調理師として勤務していたが,平成21年4月8日,自殺した。
Fは,平成10年10月6日にGと婚姻したが,平成15年6月23日に離婚し,死亡時は原告と二人暮らしであった。(争いがない。)

原告は,Fの母であり,唯一の相続人である。Hは,Fの義理の兄である。(原告がFの母であることは争いがなく,その他は弁論の全趣旨。)

被告Aは,手打ちそば及びうどん等を店舗及び宅配で客に提供する飲食店の経営を行う有限会社である(争いがない。)。


被告Bは,平成20年5月14日に設立され,被告Aと同様の経営を行う株式会社である(争いがない。)。


被告Cは,被告Dの子であり,平成21年4月8日当時,被告両社の代表取締役を務めていた(争いがない。)。


被告Dは,被告C及び被告Eの父であり,同日当時,被告両社の取締役を務めていた(争いがない。)。


被告Eは,被告Dの子であり,同日当時,被告Bの取締役を務めていた(争いがない。)。


I(以下,姓の変更前後を通じて「I」という。)は,平成18年1月に被告Aにパートとして入社した後,主に甲店で勤務しており,平成24年3月又は4月頃に退社した。Iの旧姓はJであり,平成21年8月に婚姻により姓が変わった。(乙1の16,7の27,証人I調書3頁)(2)

被告Aは,平成17年6月7日に,本店(乙店)に続く2号店として甲
店を開店し,平成20年5月2日,3号店として丙店を開店した。各店舗では出前を行っており,その営業時間である午前11時から翌日午前6時までは,深夜時間帯も含めて常に注文が入り得る状況であった。また,各店舗においては,閉店した午前6時から開店する午前11時までの間に清掃や仕込み等の開店準備の作業をしていた。(争いがない。)
(3)ア

Fは,平成15年にアルコールによる肝臓障害を理由に1週間入院した
(争いがない。)。

Fは,平成17年5月,被告Aに入社し,アルバイトの調理師として勤務していたが,平成18年7月,被告Aの正社員に採用され,同月以降は正社員として勤務した(争いがない。)。


Fは,被告Aに入社した平成17年5月から同年6月6日までは乙店で勤務し,同月7日以降は甲店で勤務していたが,平成20年5月2日に丙店に異動して丙店の店長として勤務した。Fは,同年8月4日に甲店に再び異動した。(乙店で勤務していたことについては弁論の全趣旨,その他は争いがない。ただし,Fが丙店で勤務していた時期に甲店で週1日は勤務していたか否かについては争いがある。)


Fは,同年9月頃,本件疾病を発症し,同年11月27日,丁メンタルクリニックを受診し,抑うつ状態,神経症及び不眠症の診断を受けた(乙1の7・76頁,77頁,1の24)。


Fは,同年12月4日から休職し,平成21年4月8日に自宅において自殺した(争いがない。)。

(4)

原告は,Fの自殺が業務上のものであるとして,同年12月18日付けで
遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが,大阪西労働基準監督署長は,平成22年11月26日付けで不支給とする決定(以下「原処分」という。)を行った。
これに対し,原告は,原処分を不服として,同年12月28日付けで,大阪労働者災害補償保険審査官に審査請求したが,平成23年7月22日付けで同請求は棄却された。
さらに,原告は,前記決定を不服として,同年8月17日付けで,労働保険審査会に再審査請求を行ったが,平成24年8月17日付けで同請求は棄却された。(争いがない。)
原告は,原処分の取消しを求めて行政訴訟を提起したが,平成28年5月30日に大阪地方裁判所において原告の請求を棄却する旨の判決がされ(大阪地方裁判所平成25年(行ウ)第39号労働者災害補償保険給付不支給決定処分取消請求事件。以下「別件訴訟」という。),平成28年11月25日に大阪高等裁判所において原告の控訴を棄却する旨の判決がされ,原告の請求を棄却する旨の判決が確定した(甲28,29)。
2
争点
(1)

Fの自殺と業務との相当因果関係の有無
(原告の主張)

丙店の店長としての業務の過重性について
(ア)

Fは,平成20年4月,新規開店する丙店の店長に抜擢されてその準備に携わり,同年5月2日の開店から同年8月4日に甲店に異動するまでの間,丙店の店長として勤務した。Fの業務内容としては,従前からのオーダー調理,仕込み及び在庫管理に加え,パートのシフトを被告Eとともに決めるという店長としての業務が増えていた。

(イ)

Fは,丙店の店長になるまで職人である調理師として仕事をしてきたが,店長になったことで売上げを意識するなど店の経営を考えなければならない立場となった。丙店の売上げが上がらない場合には会社全体の業績悪化につながる状態であり,Fは失敗が許されない状況で業務に従事していた。また,丙店の従業員はほとんどが新規採用であったため,Fは,社員教育や業務内容の指導も行わなければならず,帰宅後もスタッフがいかに効率良く仕事ができるかを考えていた。
Fは,調理とは質が大きく異なる店長としての業務が加わったことで,多大な労力を費やすとともに,人生で初めて重い責任を課されることになり,強い心理的負荷を受けていたというべきである。

長時間労働の存在について
(ア)

Fは,甲店において,土曜日が定休日であり,1週間ごとに早番と遅番の勤務を行っていた。Fは,水曜日を除く早番の週は午前6時から午後5時まで,早番の水曜日(月2回)は午前6時から午後3時まで及び午後11時から翌日午前11時まで,遅番の週は午前11時から午後11時までが勤務時間であった。

(イ)

Fは,丙店で勤務していたときは,午前11時から午後11時までが勤務時間であったが,店が多忙なときや遅番の従業員の出勤が遅いときは,退勤時間が午前0時になることもあった。
Fは,丙店で勤務していたとき,平成20年5月2日から同年7月31日までは一日も休日を取ることなく働いており,被告Eなどから休むように言われたこともなかった。
また,Fが丙店で勤務している間に週1日は甲店で勤務していたとの事実はないが,仮にFが週1日は甲店で勤務していたとしても,その日だけ勤務時間を短くする理由はないから,勤務時間は同様に午前11時から午後11時までであった。

(ウ)

Fは,甲店及び丙店で勤務していたとき,休憩時間は長くても1日平均30分(夜勤のときは1時間)であった。丙店の午前11時から午後5時までの来客数,売上額及び出前注文件数からすれば,調理師が1,2時間程度の休憩をまとまって取れる状況ではなかった。
Fは,店舗営業のみならず宅配営業もあるため,休憩時間中も常に待機し,客が入店したり宅配の注文があったりすると直ちに対応していた。F以外の従業員は客や注文が途切れたときに休憩を取っていたが,Fは,店長としての責任があったため,ほとんど休憩を取ることはなく,空き時間も,内装の細かい変更や倉庫の整理,仕込みなどを行っていた。また,Fは,昼食も5分から10分まで程度の時間で取り,その際も座ることはなかった。したがって,休憩時間や空き時間は,手待時間であって休憩時間とは評価できない。
Fがバイクで店を外出したことについては,備品や食材の購入などのために一時的に外出していた可能性が高く,その回数は3か月間で2,3回程度であるから,休憩時間に算定することはできない。
(エ)

Fは,アルバイトであった平成17年7月に341時間30分(時間外労働170時間30分),同年8月に318時間30分(時間外労働141時間30分),同年9月に327時間30分(時間外労働150時間30分),平成18年6月に351時間30分(時間外労働174時間30分)の長時間労働を行っていた。また,被告Aにおけるパートやアルバイトは,時間外労働が恒常的に月100時間を超える状態であり,休憩時間は定められておらず,始業時間から終業時刻までの勤務時間の全てについて時間給が支給されていた。
店長は,パートやアルバイトを指揮命令して業務に従事させる地位にあるから,特段の事情がない限りパートやアルバイトよりも長時間の労働に従事し,店の客数や売上状況等の繁忙度によりパートやアルバイトでは人員が足りないときはその責任において長時間労働に従事することが,飲食店業界における通常の勤務態様である。さらに,Fは,丙店の店長になった後,パートであった頃の給料よりも,店長手当の金額(3万円)程度は給料が増額されており,厚遇に応えるべく勤務に意欲的に取り組み,被告らはそれを期待し評価していたというべきである。Fは,丙店の営業成績を上げるため,パートやアルバイトの労働時間を抑えることによって人件費を抑制し,その分自ら率先して,時間外労働や休日労働に従事していた。
したがって,Fは,正社員となった後も,アルバイトであったときと同様に,時間外労働が月100時間を超える長時間労働に従事していたことが推認される。
(オ)

被告らは,タイムカード等の客観的な出退勤の記録に基づいてFの労働時間の管理を行っていなかった上,Fの給料を固定給とし,時間外・休日労働についての割増賃金も支払っていなかったから,Fの実態としての労働時間の適正な把握管理を行っていなかった。
被告らは,Fの発症前6か月間の労働時間について,勤務シフト表(乙1の10・36頁~48頁。以下「本件シフト表」という。)に基づいて適正に算定したと主張するが,本件シフト表は大阪西労働基準監督署(以下「労基署」という。)へ報告書を提出するために後付けで作成したものであり,Fの実際の労働時間を示すものではない。Fの勤務時間が固定されていたとしても本件シフト表にその記載を省略する理由がないし,被告らが提出する勤務時間表(乙1の10・23頁~30頁。以下「本件勤務時間表」という。)ではFの終業時間が固定されていたといえるような記載にはなっておらず,むしろ被告らがFの勤務時間の記載を省略したことはFが午前11時から午後11時まで毎日出勤していたことを示すものと考えるべきである。また,仮に本件シフト表が正確であったとしても,勤務シフトは勤務予定を定めたものにすぎず,実際の労働時間を示すものではないから,本件シフト表に記載されたパートやアルバイトの勤務時間からFの勤務時間を把握することはできない。
使用者が,労働時間の適正な把握を行っていなかったにもかかわらず,立証上優位な立場になることは信義則に照らして許されるべきではないから,本件シフト表はFの勤務日と労働時間を推認させるものとして評価されるべきではない。また,被告両社の従業員は,Fの勤務状況について,労基署等に対して被告らの主張内容に沿う内容の供述等をしたが,K,L,M及びNは,従業員が被告らから口裏合わせを要請され,それに応じた旨述べており,被告両社の従業員の労基署等に対する供述は信用できない。
したがって,Fの丙店での労働時間等は,本件シフト表や本件勤務時間表からではなく,Fが平成20年5月から同年7月まで3か月間にわたり休んでいなかった旨をいずれもその内容とする,丁メンタルクリニックの診療録の記載内容,被告Cらの平成21年4月9日の発言内容,I,O及びPの同年5月20日の発言内容及びQの同月26日の発言内容から判断されるべきである。
(カ)

以上によれば,Fの発症前6か月間における労働時間は,別紙「労働時間表」の1日の労働時間数の欄及び総労働時間数の欄に記載のとおりであり,Fの発症前6か月間における週40時間を超える時間外労働時間は,別紙「労働時間表」の時間外労働時間数の欄に記載のとおりである。Fの時間外労働は,発症前6か月間はいずれも優に100時間を超えており,特に発症前2か月から4か月までの期間は休みもなく,月170時間を超える常軌を逸した長時間労働であった。


したがって,Fは,調理師としての業務のみならず,店長という責任がある立場で,新規店舗の店長として店を軌道に乗せるために3か月間休むことなく恒常的な長時間労働に従事していたのであるから,その業務は量的にも質的にも過重であった。
Fは,長時間労働のみからでも本件疾病を発症するおそれのある強い心理的負荷を受けていたことに加え,店長として店の経営及び売上げについて責任ある地位に就いたことによる強い心理的負荷も受けており,その相互相乗作用で生じたより強い心理的負荷によって,平成20年9月に本件疾病を発症した。そして,Fは,うつ病エピソードによって正常な認識や行為選択能力が著しく阻害され,自殺に至ったのであるから,本件疾病の発症前の業務による心理的負荷と自殺との間には相当因果関係があるというべきである。
(被告らの主張)

丙店への異動に伴う心理的負荷について
Fは,丙店において,店長の肩書を与えられていたものの,Fが丙店で勤務していた期間は,被告Cらのいずれかが同店で勤務しており,被告Eが,店長が本来すべき従業員のシフト決めや経理等の経営に関する業務を全て行っていた。そのため,Fは,異動前の業務内容からの変化はなく,丙店の売上げについてノルマを課されていたこともなかった。また,Fは,平成17年6月,甲店の新規開店に伴って乙店から異動しており,新規開店に伴う転勤は初めてではなく,異動に伴う転居や通勤所要時間の大きな変化もなかった。
したがって,Fの丙店への異動は,社会人ならば日常的に経験する転勤であり,異動に伴う心理的負荷は一般的に問題とならない程度のものであった。


労働時間等について
(ア)

Fは,甲店で勤務している間は,隔週で早番と遅番の勤務に従事しており,土曜日は休日であった。
Fは,早番のときは,水曜日以外は午前7時から午後5時まで働き,水曜日は午前7時から午後3時まで及び午後11時から翌日午前11時まで働いていた。Fは,遅番のときは,水曜日以外は午前11時から午後9時まで働き,水曜日は午前11時から午後11時まで働いていた。Fは,早番及び遅番のいずれの曜日においても,合計2時間の休憩を取っていた。
(イ)

Fは,平成20年5月2日から同年8月3日までは丙店において勤務し,土曜日が休日であったが,同年5月22日以降は週1日は甲店において勤務しており,休日は基本的に金曜日になった。
Fの丙店における終業時間は基本的に午後10時であり,その後はQが交代で厨房に入ることが多かった。
丙店の繁忙時間帯は午後0時から午後1時までの間であり,それ以外の時間,特に午後3時から午後6時までの間は比較的暇であり,繁忙時間帯以外は調理師2名が常時必要であったわけではない。そして,丙店では,午前11時から午後5時頃までは,調理師2名に加え,仕込み担当者が1名又は2名勤務しており,厨房には合計3名又は4名が勤務していたから,Fは,交代で1時間程度のまとまった休憩時間を取得し,10分から30分まで程度の休憩時間を複数回取得できていた。Fは,休憩時間に使用者の指揮監督から離れ,飲食や3階のロッカールームでの休憩や仮眠,バイクでの外出等をしていたから,休憩時間は手待時間ではなく業務から解放されて自由に利用することができた時間といえる。

(ウ)

被告Aにおいては,調理師や仕込み担当者のうち,Fを含む正社員が固定された勤務時間に勤務することを前提に,これらの者を除く出前やホールなどを担当するパートやアルバイトの出勤日時及び勤務時間の割り振りを決めて勤務シフト表に記載する。担当業務によっては,正社員のシフトが空いた時間帯をパートやアルバイトが埋めていくことになる。そのため,本件シフト表に記載されたパートやアルバイトの出勤状況や勤務時間から,正社員の出勤状況や勤務時間を把握することができる。また,Qなどの丙店の従業員は勤務シフト表に従って勤務していた旨を労基署に対して供述している。
丙店においては,開店当初は,人員配置がルーティン化されておらず,Fを含めた正社員の勤務時間が固定されていなかったため,本件シフト表にはFの氏名が記載されていたが,その後,正社員の勤務シフトが固定されていくに従い,同年5月19日以降はFの名前が本件シフト表に記載されずに省略されることとなった。
したがって,本件シフト表に基づき,Fの丙店における出勤状況及び勤務時間を算定することができる。
(エ)

Fが平成20年5月から同年8月中旬頃まで3か月休むことがなかった旨のQの発言は,記憶が曖昧である旨を自ら述べている上,Fが同月中旬まで丙店で毎日勤務していたことを前提としており,同年5月22日以降は週1日甲店で勤務し,同年8月4日に甲店へ異動したという事実に反したものであり,慎重に検討する必要がある。また,Qは,本件シフト表に従ってFが勤務していたことを認めているし,労基署に対してはFに週1日の休日があった旨述べていたのであるから,Qの前記発言はむしろFが本件シフト表に従って勤務していたことを裏付けるものとして評価されるべきである。
Fが平成20年5月から同年7月まで3か月間休まなかった旨のI,O及びPの発言は,Fの丙店での勤務状況を現認したことに基づくものではなくFからの伝聞にすぎないし,Oは労基署に対して土曜日が休日である旨の供述を後にしたことから,前記の発言の際にはFの遺族である原告に配慮していたと考えられ,信用することができない。被告Eは,原告やHからFの遺体の前で責められ,パニックになった状況で,Fが業務上の必要から休みなく勤務をしていたかのような発言をしてしまったが,Fは,実際には勤務シフト表に従って週1日の休日を取得できていた。また,被告Eの前記発言及び丁メンタルクリニックの診療録(乙1の24)の記載は,Fが,休日に丙店に来ていたことの根拠にはなり得ても,それが業務命令によるものであることの根拠にはならず,仮に休日に任意に勤務していたとしても業務命令によるものではない。
Kは,被告らに口裏合わせをさせられた旨の確認書(甲8)を作成したが,その後,労基署に対する以前の供述を訂正することなくFが休みを取っていた旨の供述を再びしたことから,確認書の記載内容を信用することはできない。N及びMは,被告らに口裏合わせをさせられた旨の書面(甲7,10)を作成したが,その作成経緯は不明であり,口裏合わせの指示の具体的内容も不明であるから信用することができない。
被告Aにおいては,アルバイトと正社員とで給料の算定方法が異なるし,アルバイトはより高い給料を得るために長時間勤務を希望することもあるから,Fのアルバイトのときの給料と正社員のときの給料との比較や他のアルバイトの労働時間を参考として,Fの正社員のときの労働時間を推算することはできない。
Fが甲店の開店時に長時間の労働をしていたとしても,丙店の開店時とでは準備状況や人員確保の状況が全く異なっており,Fが丙店で働いていたときは本件シフト表で定められた勤務時間を超えて業務に従事する必要はなかった。
したがって,Fに原告が主張するような長時間労働があったということはできない。
(オ)

以上によれば,Fの労働時間等は別紙「労働時間集計表」に記載のとおりであり,Fは,本件疾病を発症する前の概ね6か月間である平成20年3月5日から同年8月31日までの間において,恒常的な長時間労働をしたことはなかった。また,仕事の質や責任の変化後の持続する状況,仕事の裁量性の欠如,職場の物的・人的環境の変化後の持続する状況といった点において,特に評価すべきものはなく,Fが,同僚らに対し,仕事のやり方や応援体制等についての支援・協力を求めることもなかったから,職場の支援・協力等の欠如があったともいえない。

自殺の原因について
(ア)

Fは,被告Aで勤務する前にアルコール依存症による肝臓障害で入院したことがあり,一時断酒していたが,平成19年秋頃に飲酒を再開した。Fは,その後次第に飲酒量が増し,尋常でない大量の飲酒をするようになった。Fは,同年12月頃には勤務時間中の店舗内で酒臭をさせ,手が震えて嘔吐する姿を目撃され,仕込みができないなど仕事に支障をきたすようになった。平成20年初旬から同年3月頃に掛けて,Fの飲酒はひどくなる一方で,Fは,無断欠勤や遅刻,他の従業員への横柄な態度や暴言のほか,勤務中に何度も嘔吐するなど勤務態度が悪化していったため,O及びIは,Fに対し,病院で診察を受けることと断酒を勧めていた。
Fは,飲酒による失敗を挽回するために丙店での勤務を希望し,同年5月2日に丙店で勤務し始めてからは精力的に仕事に励むようになったが,二日酔いで出勤することも多く,同年8月頃には勤務時間中に酔った状態で他の従業員に水の入ったコップを配ったり,完成品とは思えない料理を客に提供して苦情を受けたりしたことがあった。また,Fは,同月3日には二日酔いの状態で勤務し,厨房で嘔吐するなどしていた。
アルコールの薬理作用は,抑うつ状態を悪化させ,自身に対する攻撃性や衝動性を高め,心理的視野狭窄を促進させることで,自殺行動のリスクを高めるとされている。
したがって,Fは,元々重度のアルコール依存状況があり,精神障害発症のしきい値を下げる個体側要因として脆弱性があったといえる。(イ)

Fは,Iに対して恋愛感情を有し,同年5月2日頃には,被告Dに対し,Iと結婚したい旨を述べていた。また,Fは,Iが仕事でミスをしたときにIをかばい,飲み会のグループ名にIの名前を使用するなどしていた。
Fは,丙店の店長を務めていたとき,被告Eに対し,Iと一緒に勤務するために,甲店での勤務を希望したり,Iを丙店で勤務させることを希望したりしており,被告Eは,それらの希望を受け入れていた。また,Fは,Iが同年7月末に丙店の勤務から外れて甲店のみで勤務するようになると,甲店で勤務することを希望し,同年8月4日に甲店に異動した。
Fは,Iが丙店で勤務していたときには二日酔いで出勤するなどのことはなかったが,Iが丙店で勤務しなくなった直後である同月3日に二日酔いの状態で出勤し,厨房で嘔吐していたのであるから,Iの甲店での勤務希望とFの飲酒との間には何らかの関連性が疑われる。Fは,Iが同月に別の男性と婚約をしたことについて,相当のショックを受けており,同年9月頃には本件疾病を発症した。また,Fは,Oが平成21年3月31日午前10時28分に送信したメールでIが結婚することになったことを知り,同日午後3時頃に自殺未遂をし,その8日後の同年4月8日に自殺した。
前記の事実経過からすれば,Iの結婚が決定したという出来事がFの自殺の要因の一つとなったと考えられる。

(ウ)

これらの事実関係からすれば,Fは,元々アルコール乱用又はアルコール依存状況という精神障害発症のしきい値を下げる個体側要因としての脆弱性及び自殺行動のリスクを高める危険因子があり,失恋という業務外の私的領域に属する事情があったことを契機として,本件疾病を発症し,自殺に至ったとみるのが合理的である。

以上によれば,Fの被告Aにおける業務と自殺との間に相当因果関係は存在しない。

(2)

被告Aの安全配慮義務違反の有無

(原告の主張)
被告Aは,その雇用する労働者の従事する業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
前記(1)(原告の主張)のとおり,被告Aは,Fを,心身の健康を損ねることが明らかな長時間の過重な労働に継続的に従事させ,丙店の店長として従事させたから,前記の義務に違反した。
(被告Aの主張)
前記(1)(被告らの主張)のとおり,Fが,心身の健康を損ねることが明らかな長時間の労働をしたことはなく,丙店の店長に就任した後も,従前の調理師としての業務内容から変化はなく,売上げ等のノルマを課されていたわけではないから,Fの心理的負荷が増大したとはいえない。
したがって,被告Aに安全配慮義務違反はない。
(3)

被告BのFに対する安全配慮義務の存否及び同義務違反の有無
(原告の主張)
ア(ア)

被告A及び被告Bは,その目的は共通で,いずれも被告Cらが同族として経営する会社である。
丙店は,被告Aが実質的に営業しており,被告Aの一店舗を何らかの事業上の目的をもって形式的に別法人としたにすぎないというべきである。また,被告Bは,平成20年5月の設立以降,店舗を賃借し,什器備品等も購入し,アルバイトと雇用契約を締結して事業会社としての実体を備えていた。
Fは,被告Aの指示に基づき,平成20年5月に丙店の店長として勤務を開始し,同年8月に再び甲店で勤務することになったのであって,被告Bによる指揮命令に基づき,異動が命じられたものではなかった。以上の事実によれば,被告Bは,社会的・経済的に被告Aと一体をなしていたというべきである。
(イ)

Fは,被告Aとの雇用契約に基づき,その指揮監督の下で業務に従事していたが,平成20年5月に丙店の店長としての業務に従事することを指示され,被告Aから被告Bに出向して業務を行うことになった。被告両社は労務管理についても一体的に行っていたことから,Fの丙店での業務は被告両社の指揮監督下に置かれることになった。
出向先の被告Bは,Fに対して直接の指揮命令を行って業務に従事させていたのであり,Fが長時間労働等の過重な業務によって心身の健康を損ねることのないよう注意義務を負うとともに,労務提供につき指揮命令するという関係から生じる信義則上の義務としての安全配慮義務を併せて負っていた。

(ウ)

したがって,被告BはFに対して安全配慮義務を負っていた。
被告Bは,安全配慮義務の具体的内容として,その雇用する労働者に従
事する業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
前記(1)(原告の主張)のとおり,被告Bは,Fを,心身の健康を損ねることが明らかな長時間の過重な労働に継続的に従事させ,丙店の店長として従事させたから,前記義務に違反した。
(被告Bの主張)

Fは,被告Aの従業員であり,被告Bとの間で何らかの契約を締結したことはない。
被告Bは,丙店の運営の受け皿とする目的で設立されたが,Fが丙店で勤務していた平成20年5月2日から同年8月3日までの間は事業会社としての実体を備える状態にはなく,丙店の店舗の賃貸借関係にも関与していなかった。被告Bと被告Aとの間で被用者の出向についての契約は締結されておらず,前記期間に丙店で就労していた従業員は,Fを含む全員が被告Aの従業員であった。被告Aは,他の店舗の従業員と区別せず丙店の従業員について,勤務時間や賃金の管理を行い,社会保険料の支払を行っていた。
したがって,被告Bは,Fの労務の提供について支配・管理下に置くような事業実体はなく,Fに対し,指揮監督をする関係になかったから,安全配慮義務を負わない。

前記(1)(被告らの主張)のとおり,Fが,心身の健康を損ねることが明らかな長時間の労働をしたことはなく,丙店の店長に就任した後も,従前の調理師としての業務内容から変化はなく,売上げ等のノルマを課されていたわけではないから,Fの心理的負荷が増大したとはいえない。したがって,被告Bに安全配慮義務違反はない。

(4)

被告Cらの善管注意義務違反の有無

労働者の労務管理は会社経営に当たっての重要事項であり,会社経営を委任された取締役は,善管注意義務により従業員の労働時間等の労働条件についての重要な事項を定め,かつ,それが社内で履行されていることについての監視・監督責任を負う。
被告両社の従業員の労働条件及び経営に関する重要事項は,代表取締役又は取締役である被告Cらにおいて決定し,従業員の業務遂行について指揮命令をしていた。被告Cらは,新規開店する丙店の店長にFを抜擢して店長として従事させており,また,従業員の配置,業務内容及び労働時間等を決定していた。

被告C及び被告Dは,被告Aの代表取締役又は取締役として,従業員の労務管理の業務を行うにつき,過重な長時間労働等により従業員が心身の健康を損なうことのないよう,適正に労働時間等の管理を行い,従業員に長時間労働が生じたときは直ちにこれを是正すべき社内体制を構築する義務を負っていた。また,被告Cらは,小規模な被告Bの代表取締役又は取締役として,従業員の労働時間等を自ら把握し,心身の健康を損ねるおそれのある長時間労働が生じたときは直ちにこれを是正すべき義務を負っていた。
しかしながら,被告Cらは,Fが丙店の店長として勤務していたときに心身の健康を損ねることが明らかな長時間労働に従事させていたにもかかわらず,これを是正する措置を執らなかったのであり,取締役としての職務を執行するにつき,前記の各義務を悪意又は重過失によりけ怠し,Fを過重な業務に従事させた。
したがって,被告CらはFに対して会社法429条1項の責任を負う。
(被告C及び被告Dの主張)
Fの平成20年5月から同年8月までの丙店における勤務状況は,前記(1)(被告らの主張)のとおりであるから,原告が主張する常軌を逸した長時間労働の事実はない。
したがって,被告C及び被告Dは,被告Aの代表取締役又は取締役として,Fの労務管理についての任務をけ怠したことはなく,任務け怠についての悪意又は重過失もないから,Fに対し,会社法429条1項に基づく責任を負わない。
(被告Eの主張)

前記(2)(被告Bの主張)のとおり,被告BはFに対する指揮監督権限を有していなかったから,被告Bの取締役である被告EがFに対して安全配慮義務を負うことはない。

Fの平成20年5月から同年8月までの丙店における勤務状況は,前記(1)(被告らの主張)のとおりであり,原告が主張する常軌を逸した長時間労働の事実はない。
したがって,被告Eは,被告Bの取締役として,Fの労務管理の任務をけ怠したことはなく,任務け怠についての悪意又は重過失もないから,Fに対し,会社法429条1項に基づく責任を負わない。

(5)

損害の発生及びその額
(原告の主張)

死亡による慰謝料

2800万円

Fの死亡による精神的苦痛を慰謝するための金額は2800万円を下回るものではない。

死亡による逸失利益

4403万9000円

Fは,専門学校を卒業しており,平成20年度賃金センサス産業計・企業規模計・男子・学歴計・全年齢平均の年収を得ることができた。生活費控除は50パーセントが相当であり,Fの死亡による逸失利益は,(月額36万9300円×12月+107万2300円)×(1-0.5)×16.003(ライプニッツ係数)=4403万9000円(1000円未満切捨て)である。

葬祭料

150万円


弁護士費用


合計

730万円

8083万9000円

(被告らの主張)
原告の主張は否認する。
第3
1
争点に対する判断
認定事実
前記争いのない事実等,証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認定できる(認定根拠は,各事実の末尾に記載している。)。
(1)

被告Aにおける勤務体制等について

被告Aは,正社員の月給について,業務の繁閑によらずに定額を支給していた。Fは,平成20年5月から同年11月までの間,毎月,基本給31万2000円及び交通費1万円に加え,丙店の店長手当として3万円の支給を受けており,丙店から甲店へ異動した後も店長手当の支給を受けていた。(甲14,乙7の1・14頁~16頁,7の26,43)


被告Aにおいては,店舗に掲示される勤務シフト表には,基本的に正社員の勤務時間は記載されず,パートやアルバイトの勤務時間のみが記載されていた。勤務シフト表には,パートやアルバイトであっても,シフトが固定された調理師の勤務状況は記載していなかった。(甲6の1・91頁,92頁,6の2,24・5頁,34頁~37頁,乙7の29)


被告Aの従業員は,決められた休憩時間はなかったが,客が少ない時間に,たばこを吸ったり,座って食事をしたり,雑談をしたりするなどして休憩を取っており,店を離れて近くのコンビニエンスストアなどに行く者もいた。(甲5の1・5頁,5の2,21・3頁~5頁,33頁,22・4頁,5頁,24・12頁~14頁,証人I調書15頁,16頁)

従業員は,終業時間になったときに客が立て込んでいる場合などは,残業をすることもあった(甲5の1・2頁,3頁,5の2,証人R調書11頁)。


被告Aの店舗においては,午前7時から午前11時までの間に1日分の出汁(1種類)作りや仕込み作業を行い,仕込み作業としてネギ,焼き豆腐,薄揚げ,キャベツ及び牛肉などを切る等の作業をしていた。
調理は,麺を茹でる釜場での作業と,茹でた麺を器に盛って出汁を掛けたり,丼や鍋を作ったり,てんぷらを揚げたりする焼き場での作業に大きく分けられ,調理師の手が空いたときに料理の具材等が不足していれば仕込み作業を行うこともあった。麺を茹でる時間は出前用が1食当たり30秒程度であり,店内用が1食当たり1分30秒程度である。丙店における調理を担当する従業員は,仕込み等を担当する者を除くと,開店する午前11時から午後5時までは2人,午後5時から閉店する午前6時までは1人体制であった。丙店においては,出汁を取る業務を被告Cが行っていたほか,F,被告Cら及びQが調理の業務を行うことが多く,S及びTが勤務することもあった。(甲5の1・3頁~5頁,14頁,24頁,5の2,22・21頁,22頁,34頁,35頁,23・3頁,4頁,22頁,23頁,24・9頁~11頁,乙1の12・2頁,1の14,1の18,7の1・5頁~8頁,11頁,12頁,8の4,11,14~16)

丙店は,Fが勤務していた時期は,出前営業が売上げの中心であった(乙19,23,24)。

(2)

Fの業務内容等について


Fは,バイクで出勤するときが多く,そのときは被告Aの制服を着て,上着を羽織るなどして出掛けていた。Fの自宅からバイクでの通勤時間は,甲店まで約14分,丙店まで約20分である。(甲25・7頁,24頁,乙12,13,49)


Fは,責任感が強く,真面目で気を張って仕事をするところがあり,時間が空いたときにも休憩を取らずに倉庫の片付けなどの雑用をすることがあった。Fは,被告Aにおいて,調理の技能を評価された職人として,ホールや出前の業務はせず,調理の業務のみを担当しており,職人としてのプライドが非常に高かった。Fは,調理師は調理場で立って食事するものだなどと述べ,実際に立ったままで食事をすることもあった。(甲5の1・4頁,8頁,10頁,11頁,15頁,5の2,6の1・1頁,2頁,6の2,乙1の10・4頁,17頁)

Fは,甲店で勤務していた際,Uと週ごとに早番(午前7時~午後5時)と遅番(午前11時~午後9時)を交代する形で,調理の業務を行っていた。夜勤(午後9時~翌日午前6時)は,Vが勤務していたが,2週に1回はFが勤務していた。Fは,甲店で勤務していたときは,土曜日が休みであった。(甲5の1・9頁,10頁,5の2,6の1・64頁~68頁,6の2,25・8頁,乙7の11,8の1・2頁,3頁,8の3)

Fは,過去に肝臓障害を患ったことから,被告Aに入社した後,同僚から誘われても飲酒を断っていたが,平成19年秋頃に飲酒を再開した。Fは,同年12月頃から平成20年3月頃までの間,体に酒が残ったまま出勤し,嘔吐しながら仕込み作業を行うなど,飲酒の影響で仕事に支障が出る状態が続いた。
被告D,I及びOは,同月頃,Fに対し,仕事を1週間程度休み,入院して検査するように頼んだが,Fは,絶対に酒をやめるから入院しない旨述べ,1週間程度飲酒をやめた後,同月21日にIに付き添ってもらって己クリニックで検査を受けたところ,検査の結果が良好であったために入院はしないこととなった。
Fは,酒での失敗を取り返すために頑張りたいとして新しく開店する丙店に異動することを希望し,被告CらはFが立ち直ることに期待して丙店の店長の地位に就かせることとした。(甲5の1・12頁,23頁,5の2,6の1・141頁~147頁,6の2,24・53頁,54頁,乙1の10・4頁~8頁,13頁~15頁,1の15・2頁~4頁,1の16,1の25,7の27)


Fは,丙店の店長になった後,甲店で従事していた調理の業務に加えて,被告Eとともにパートのシフトを決め,従業員の教育を行っていたが,その他には店長としての業務はなく,勤務シフトや売上げの管理などの丙店の経営に関する業務については被告Eが行っていた。被告Aでは,店舗ごとの売上げのノルマは課されておらず,Fがその責任を負うことはなかった。
Fが丙店から甲店に異動した後は,丙店に店長に当たる従業員は置かれていない。(甲5の1・22頁,22・12頁,26頁,23・30頁,24・4頁,54頁,25・12頁,13頁,乙1の10・2頁,8の1・2頁,3頁)

Fは,丙店において,当初は午前7時から午後5時までの早番で勤務することになっていたが,平成20年5月3日,被告Eに対し,早番から遅番へのシフト変更の希望を出し,同月4日以降は遅番で勤務することになった(乙1の10・16頁)。


Fは,丙店で働いていたときは,帰宅した後も,従業員が効率的に働けるように動線や棚の配置を考えたり,新しいメニューを考えたりしており,材料を買ってきて棚を取り付けたこともあった。Fは,丙店の売上げのことを気にし,同年6月又は7月頃に丙店の売上げが甲店の売上げを越えたときには喜んでいた。(甲5の1・5頁,15頁,22頁,23頁,5の2,25・12頁,13頁,17頁)

(3)

丙店の他の従業員等について

被告Eは,丙店において,休日を取ることなく午前11時から午後11時までのシフトで勤務しており,調理等の業務を行っていた。被告Eは,主に午前11時から午後5時まで調理の業務を行い,調理の業務をしない時間帯に経理作業やシフトの調整等の業務を行っていた。(甲5の1・7頁,24・2頁,6頁,7頁,11頁)


Qは,丙店が開店した同年5月2日から丙店で勤務しており,平成21年3月22日頃に退社した。Qは,丙店において,休みである日曜日の他は,午後7時から午後10時頃まで出前の業務を行い,午後10時頃から翌日午前6時頃まで調理の業務を行っていた。Qは,Fが調理の業務をしていた日は,Fの業務を引き継ぐこととなっていた。(甲5の1・2頁~4頁,5の2,22・1頁~5頁,20頁,21頁,32頁,33頁,甲24・5頁,7頁,8頁)

Iは,平成18年に被告Aにパートとして入社した後,主に甲店において午前10時から午後5時までの時間帯で勤務しており,平成24年3月又は4月頃に退社した。Iは,平成20年8月頃に婚約し,平成21年3月頃に同年8月に結婚することとなり,同月に結婚した。
Iは,平成20年6月24日から同年7月29日までの間,火曜日及び土曜日は丙店において午後5時から午後11時まで勤務していた。Fは,Iが丙店で勤務した日は,Iの勤務が終わるまで待ち,Iをバイクに乗せて送っていた。(甲6の1・18頁,6の2,22・4頁,24・8頁,9頁,17頁,54頁,55頁,乙1の16・2頁,7の16,証人I調書2頁,3頁,7頁,9頁)


O及びPは,Fが被告Aで勤務していた時期は,いずれも被告Aのアルバイトとして甲店で勤務しており,丙店で勤務したことはなかった(乙1の15,7の13)。


I,O及びPは,平成18年頃から,Fと親しく付き合っており,仕事が終わった後に喫茶店に行って話をしたり,休みの日に釣りに行ったりしていた(甲6の1,6の2,乙7の16)。

(4)

Fの健康状態等について

Fは,平成20年6月頃から,徐々に疲れた様子を見せるようになり,同年7月頃には夕飯を残し,ため息をつくことも多くなっていた(甲25・17頁,18頁)。


Fは,同年8月1日,休みを取った。Fは,丙店で勤務し始めた頃から同年7月頃までは飲酒を控えていたが,同年8月1日に飲酒を再開した。Fは,同日に飲酒を再開した後,不眠解消のために酒を飲むようになり,同月頃からは二日酔いのまま出勤するなど仕事に支障が出るようになったため,被告Cらは,同月又は同年9月頃,Fに対し,飲酒の影響で仕事に支障が出ていることについて注意し,仕事に支障を来すようであれば辞めてほしい旨を伝えた。(甲5の1・12頁,20頁~22頁,27頁,5の2,6の1・139頁,140頁,6の2,11の1・2頁,11の2,22・38頁,乙1の10・17頁,19頁)

Fは,同年8月8日,休みを取り,原告とともに広島へ墓参りに行った。Fは,そのとき,鍵や眼鏡を忘れるなど,集中力を欠いた様子であった。(甲6の1・109頁,6の2,25・10頁。乙1の8・4頁)

Fは,同月末頃,夜中の午前2時や3時頃に眠れずにリビングで煙草を吸っていることがあり,同年9月頃には元気がなく,落ち込んでいる様子であった。Fは,同年10月頃には,お笑い番組を見ても笑わず,寝室に一旦は行っても眠れずにリビングへ戻ってぼうっとしていることが多くなり,Oに対して,ジェットコースターで落ちる感覚に襲われ,立っていられない,早く帰って横になりたい旨話していた。(甲5の1・20頁,21頁,5の2,25・17頁,18頁,乙1の8・4頁,1の15・4頁,5頁)


Fは,同年11月27日,不眠で体がだるく,憂鬱で頭がぼーっとしてすっきりしないとして,自発的に,丁メンタルクリニックでW医師の診察を受けた。
W医師は診療録(乙1の24)に,「新店のオープニング(立ち上げ3カ月間)を5月からまかされ,3カ月休みなく働いた。その時はテンションが上がっていたが,もとの店にもどった,9月頃よりやる気が出ない,すい眠がすぐに目が覚めてしまう。」,「5,6,7と3カ月間新店のオープンで休めなかった→休養が必要」,「休むなら辞める覚悟が必要→休日は休みましょう」などと記載し,Fが寝られないため毎日500ミリリットルの缶ビールを1日3本飲んでいる旨記載した。W医師は,労基署に提出した意見書(乙1の23)に,Fの推定される本件疾病の発症時期及びその判断根拠について「新規開店をまかされて休日もなく働いた反動で,疲労から抑うつ状態を呈したと考える」,疾患の原因について「内因性うつ病の可能性は捨てきれないが,きっかけは過重労働と考えられる。疲労に伴う反応性うつ病が疑わしい。」などと記載した。(甲25・18頁,乙1の23,1の24)

Fは,平成20年12月,被告Dに対し,うつ病のために会社を辞めさせてほしい旨申し出たが,被告Dは,病気を治した後に復帰してもらいたいと伝え,Fは,同月3日から休職することになった。
Fは,同月4日,被告Eに対し,「今日病院に行き,先生の話では,仕事に戻れるのは最低数ヶ月かかるとの事でした。忙しい最中本当に申し訳ありません。」と記載したメールを送信し,被告Eは,返信として,「了解です。Fくんが戻ってくるまでがんばるんで,完全に体を治して元気になって帰ってきて下さい。」と記載したメールを送信した。Fは,平成21年1月5日,被告Eに対し,社会保険の傷病手当の支給を求める旨のメールを送付した。(甲25・18頁,乙1の10・20頁,7の18)


Fは,同年3月5日,被告Eに対し,そろそろ仕事復帰できる旨話し,仕事復帰への意欲を見せていた(乙1の10・21頁)。


Fは,同月31日の午後3時頃,睡眠薬と酒を同時に飲んで自殺未遂をし,原告が救急車を呼んだ。Fは,同日午後7時30分頃に戊病院に搬送され,救急外来を受診して点滴静脈注射等の治療を受けて帰宅した。(乙1の24,37の2)


Oは,同日午後10時28分,Fに対し,「焦らず元気にやってられますか?Iちゃんは8月結婚決まりました。」などと記載したメールを送信し,Fは,返信として,「Iちゃんおめでとうですね。僕はお医者さんのOKがでず焦ってます」と記載したメールを送信した(甲6の1・100頁,101頁,乙1の10・21頁)。

Hは,同年4月2日,被告Eに対し,Fの休業について労災申請を相談しに行き,被告Eは,Fに対し,Hが来たことについて問い合せるために電話を掛けたが,Fが車の運転中だったために話ができなかった。Fは,その後,被告Eに対して電話を掛けたが,被告Eが電話に出なかったため,被告AはFのことを辞めさせるつもりなのだろうなどと原告に述べ,落ち込んでいた。(甲11の1,25・19頁,20頁,乙1の8・5頁,1の10・22頁)


Fは,同月8日,「いつからか自分の何かが違ってしまい…力の無さ,弱さ,無気力感,みんなへ迷惑かけるのにはもう参ってしまいました。」などと記載した原告宛ての遺書を作成し,縊頚の方法により自殺した(乙1の9,1の21)。

(5)

Fの自殺後の関係者の発言等について

原告,H,被告Cらは,同月9日,Fの通夜に出席した。Hが,被告Cらに対し,Fが丙店で働き始めてから3か月間休みなく働いていたときに被告CらがFに対する配慮をすべきであった旨追及したところ,被告Cらは,Fが休みを取っていた旨は述べず,Fに対して休んでくれと伝えていた,当時のFは生き生きとしていた,Fが休業した理由は飲酒の問題であったなどと述べていた。(甲11の1・2,24・28頁~31頁,40頁)


I,O及びPは,同年5月20日に原告の自宅を訪問して原告及びHと話をした際,Fから丙店で働いていた時期に3か月間休んでいない旨聞いた旨の話をした(甲6の1・108頁,109頁,6の2)。

Qは,同月26日にH及び原告訴訟代理人と話をした際,Fが平成20年5月頃から同年8月半ば頃までの3か月間休んでいなかった旨の話をした(甲5の1・4頁,5の2)。


原告は,Fの自殺が業務上のものであるとして,平成21年12月18日付けで遺族補償給付及び葬祭料の請求をした(争いがない。)。
(6)

厚生労働省は,精神障害の業務起因性の認定基準に関して,精神医学,心理学及び法律学の専門家で構成される「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を設置し,前記検討会から平成23年11月8日付けで提出された「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(乙32)の内容を踏まえて,同年12月26日,業務起因性に関する新たな判断基準として,「心理的負荷による精神障害の認定基準」(乙33。以下「本件認定基準」という。)を策定した。
本件認定基準においては,(1)対象疾病(Fの本件疾病はこれに含まれる。)を発症していること,(2)対象疾病の発症前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,(3)業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発症したとは認められないことのいずれの要件も満たす対象疾病について,労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うこととしている。本件認定基準では,(1)1か月以上にわたって連続勤務を行った場合,(2)発症直前の連続した3か月間に,1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合を業務による強い心理的負荷があったと判断される具体例として挙げている。
本件認定基準は,業務によりICD-10のF0からF4までに分類される精神障害(Fの本件疾病はこれに含まれる。)を発病したと認められる者が自殺を図った場合は,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,業務起因性を認めることとしている。(乙32,33)
2
争点(1)(Fの自殺と業務との相当因果関係の有無)について
(1)

丙店の店長としての業務の過重性について

原告は,Fが,平成20年5月2日に甲店から丙店へ異動した後,丙店の店長としての業務に従事することとなり,その業務に多大な労力を費やすだけでなく,店舗経営についての責任を負うこととなったことで強い心理的負荷を受けていた旨主張する。


確かに,前記認定事実(2)オのとおり,Fは,丙店の店長になった後,従前の業務に加えてパートのシフトを決め,従業員を教育する業務に従事していたこと,従業員が効率的に動けるように動線や棚の配置を考えたり,棚を取り付けたりしていたこと,丙店の売上げを気にしていたことを認めることができる。
しかしながら,前記認定事実(2)オ及び(3)アのとおり,被告Eが丙店の経理等の経営に関する業務を行っていたこと及びFは店の売上げについてノルマを課されていなかったことが認められ,前記認定事実(2)イのとおり,Fが,真面目で責任感が強い性格であったことに鑑みれば,店の売上げを意識し,従業員の動線等を気にしていたことなどは,被告Aからの業務命令によるものではなく,自発的に行っていたことであると認めるのが相当である。そうすると,Fが,店舗経営についての責任を課されていたことや店長としての業務に長時間を費やしていたことを認めることはできず,店長になったことの心理的負荷を大きいものと評価することはできない。
また,前記認定事実(2)アのとおり,Fは,丙店へ異動した後も通勤時間はほとんど変わらなかったのであるから,異動自体に伴う心理的負荷も大きいものと評価することはできない。

(2)

したがって,原告の前記アの主張を採用することはできない。
Fの長時間労働の有無について


原告は,Fが,本件疾病の発症前6か月間において,甲店及び丙店で長時間の時間外労働に従事し,強い心理的負荷を受けたために本件疾病を発症した旨主張する。これに対し,被告らは,Fが長時間の時間外労働に従事した事実はない旨主張する。
当裁判所は,後記オで認定説示するとおり,Fの丙店における労働と本件疾病の発症との間に相当因果関係があると考えるから,以下,丙店における休日の有無,勤務時間及び休憩時間について順に検討することとする。


丙店における休日の有無について
(ア)

原告は,Fが丙店において休日を取ることなく勤務していた旨主張し,これに沿う供述をするところ(甲25・10頁~15頁),(1)W医師が,平成20年11月27日にFを診察した際,Fの診療録に,同年5月から3か月間休みなく働いた旨記載したこと(前記認定事実(4)オ),(2)被告Cらが,平成21年4月9日にHと話をした際,Fが3か月間休みなく働いた旨のHの発言を否定しなかったこと(前記認定事実(5)ア),(3)I,O及びPが,同年5月20日に,原告及びHと話をした際,Fから3か月間休んでいない旨聞いていたと話したこと(前記認定事実(5)イ),(4)Qが,同月26日にHなどと話をした際,Fが3か月間休んでいなかった旨話したこと(前記認定事実(5)ウ)は,原告の前記主張を根拠付ける主たる証拠といえる。
そして,前記各証拠は,互いに同席していない場でされた発言等にもかかわらず,その内容が一致しており,敢えて自分に不利な虚偽を述べる動機のない被告Cら自身や利害関係のない医師の発言等を含むことからすれば,これらの信用性を否定し,あるいはこれらと矛盾する有力な証拠がない限り,Fが平成20年5月頃から3か月間休みなく働いた旨の事実を認めるに足りる証拠というべきである。
以下,前記各証拠の信用性を否定し,あるいはこれらと矛盾する有力な証拠があるかという観点から,被告らの主張を検討する。
(イ)

被告らは,丙店における従業員の勤務状況等からすれば,Fは週1日休日を取得できていた旨主張し,これに沿う証拠として本件シフト表(乙1の10・36頁~48頁)及び本件勤務時間表(乙1の10・23頁~30頁)を提出し,被告Eは同趣旨の供述をする(甲24・35頁,49頁)。
確かに,Fの丙店の同僚であるK,T,X,Y,Z及びaは,労基署に対し,Fが休日を取得できていた旨述べたことが認められる(乙1の17~20,1の28,1の31~35)。また,本件シフト表には平成20年5月10日にFが休みを取った旨が記載されていることが認められ(乙1の10・37頁),本件勤務時間表には同日に被告E及びSが午前11時から午後5時まで勤務した旨記載されているところ(乙1の10・23頁),Sは,労基署に対して同月から同年8月までの間に一回だけFの代わりに丙店で勤務し,被告Eと勤務したことがある旨述べたことが認められるから(乙1の14),Fは同年5月10日には休みを取ったものと認めるのが相当である。
しかしながら,本件シフト表には,同月19日以降,Fの勤務シフトの記載はなく,前記認定事実(1)イのとおり,正社員及び調理を担当するアルバイトやパートの勤務時間は記載されていなかったことが認められることからすれば,本件シフト表からFの終業後や休日に代わりに勤務シフトに入る従業員の有無を把握することはできず,他の従業員の勤務状況からFの勤務状況を知ることはできない。そのため,被告らが本件シフト表に基づいて作成したものとする本件勤務時間表は,同日以降は裏付けがなく,また,Fが休んだとされている日にFの代わりに午前11時から午後5時まで勤務したとされている者はそのほとんどが被告Dであるから,その記載を信用することはできないというべきである。
丙店の同僚らによる前記供述については,K,M及びNが被告らから口裏合わせをするように求められた旨記載した書面等(甲7,8,10)を後日作成したことが認められ,LはKから口裏合わせをして口止め料をもらったと聞いた旨供述したことが認められる(甲9,23・9頁)。他方,これらの書面や供述の信用性を疑わせる事情として,Kは,別件訴訟の尋問において再度供述を翻し,被告らから金員を取ろうとしていたbに強要されて,被告らに口裏合わせをさせられた旨の文書を作成した旨供述したことが認められる(甲21・7頁~10頁)。
しかしながら,bが,Fの自殺に関して被告らに不利な書面を作出することが,被告らから何らかの金員を取るという目的との間でいかなる関連を有するのかは不明であり,Kの前記説明は首肯し難いというべきである。また,Kは,Lに対して労基署で話をしたことに悩んでいる旨を話したことについて否定せず,話を合わせるような感覚で話してしまった旨供述するが(甲21・27頁),その説明は抽象的に過ぎ,信用することはできない。そうすると,口裏合わせをした旨聞いたというLの前記供述は信用することができ,口裏合わせをした旨が記載されたK,M及びNの前記各書面の信用性を否定する的確な証拠は存在しないから,丙店の同僚らによる労基署に対する供述は,口裏合わせの上で行ったものである可能性があり,信用することができない。
なお,Iは,口裏合わせをした記憶はない旨供述するが(証人I調書11頁),労基署の聴取を受けた記憶自体が曖昧になっていることが認められ(証人I調書11頁~13頁),口裏合わせの事実を忘れている可能性もあるし,労基署の聴取でもFが丙店で休日を取得していたとは説明しておらず(乙1の16,1の30),被告らがFと親しかったIには口裏合わせ自体を持ち掛けなかった可能性も否定できないから,Iが口裏合わせをしていなかったとしても,他の丙店の同僚について口裏合わせがなかったことをうかがわせる事実ということはできない。
したがって,被告らの前記主張のうち,Fが平成20年5月10日に休みを取ったことは認められるが,その余の部分は採用できない。(ウ)

被告らは,Fが休日に丙店に出てきていたとしても,業務命令によるものではない旨主張する。
確かに,被告Cが,平成21年4月9日に原告及びHと話をした際に,Fには休んでくれと何度も伝えていた旨発言したことが認められる(甲11の1,11の2)。
しかしながら,被告CらがFの丙店に勤務している期間においてFに対し休むように伝えたことを裏付ける証拠は,被告Cの前記発言の他になく,当該事実を認めることは困難であるし,また,丙店勤務中のFに対し,固定の週休が定められていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
被告らは,Fが毎週休日を与えられた上で,休日に店に来て棚を取り付けるなどの作業を行っていた旨主張するが,前記認定事実(2)イのとおり,Fは,丙店では調理の業務のみを行っていたことが認められるところ,棚を取り付けるなどの雑多な作業を約3か月間にわたり週に1日の頻度で行うことは想定し難く,店に出てきたときは調理の業務に従事していたと考えるのが自然であるから,被告らの主張は採用することができない。そして,仮に被告らがFに対して固定の休日を定めていたとしても,被告らが,Fが休日に出勤して調理の業務に従事することを制止せず黙認していたのであれば,Fの労働は少なくとも黙示の指揮命令に基づくものであったと認めるのが相当である。
したがって,Fに休日が与えられた上で業務命令によらずにFが労働に従事していたとは認めることはできず,被告らの前記主張を採用することはできない。
(エ)

被告らは,被告Cらの前記(ア)(2)の発言について,原告などからFの自殺が会社の責任である旨を指摘されてパニックとなり,業務上の必要から休みなく勤務したかのような発言をしてしまった旨主張し,被告Eはこれに沿う供述をする(甲24・40頁)。
しかしながら,前記認定事実(5)アのとおり,被告Eは,HからなぜFを休ませてくれなかったのかなどと責められたことに対し,Fに対して休んでくれと伝えていた,当時のFは生き生きとしていた,Fが休業した理由は飲酒の問題であったなどと述べて反論したことが認められ,パニックになっている様子を認めることはできない。
そうすると,被告Eの前記供述は事実と異なる発言をしたことの説明として合理的といえず信用することができないから,被告らの前記主張を採用することはできない。

(オ)

被告らは,前記(ア)(3)のI,O及びPの発言について,いずれもFの丙店における勤務状況を現認していたわけではなく,Fからの伝聞にすぎないし,原告に配慮した発言をした可能性もあり,また,Oは労基署に対して前記発言と矛盾する供述をしていることから,信用性がない旨主張する。
確かに,前記認定事実(3)ウ及びエのとおり,Fが丙店において勤務していた時期,O及びPは丙店で勤務しておらず,Iは一部の期間において丙店に週2日勤務していたにとどまることが認められ,3か月間休んでいなかった旨の発言はFからの伝聞に基づくものであったと認められる。また,Oは,平成22年5月25日に,労基署において,Fから丙店では土曜日が休みであると聞いた旨述べたことが認められる(乙1の15・4頁)。
Iらの前記発言は,反対尋問にさらされたものではなく,原告側の人物のみがいる場でされたものであるから,その証拠価値については慎重に検討する必要があるが,Iらの前記発言がなされた際の原告やHとの前後の会話のやり取りを見ても,殊更に発言を誘導されたり,原告側の意見を押し付けられたりしている様子はうかがわれない(甲6の1)。また,Fの性格や職場での言動,アルコールの問題等について話すときにFの遺族である原告に何らかの配慮をした発言をするということは考え得るとしても,Fが休みを取ることがあったとの点が原告の心情を害する発言に当たるとは考え難い。さらに,前記


とおり,Iらの前記発言は,その他の有力な証拠と一致している。そうすると,I,O及びPが,Fから3か月休んでいないと聞いた旨の発言は信用できるというべきである。この点,Oは,発言を翻しているが,同人は,労基署において,供述の変遷の理由について何ら説明をしておらず,前記(イ)で認定説示したとおり,本件では被告らによる口裏合わせが行われた可能性が否定できないことに鑑みれば,矛盾した発言が存在する事実は,変遷前の前記供述の信用性を否定するものではないというべきである。
Iらの前記発言の原供述であるFの発言の信用性についてみると,前記認定事実(3)ウ及びオのとおり,FとI,O及びPとは,勤務時間外においても親しく付き合っていたことが認められるのであって,Fが過大に勤務時間を伝える動機は見当たらない。また,前記認定事実(4)オのとおり,Fを診察したW医師は,診療録に5月から3か月休みなく働いた旨記載していることからすれば,Fは,同医師に同旨の話をしたと認められるところ,Fが自発的に治療を求めて掛かった医師に対し過大な勤務状況を申告することは考え難い。そして,IらへのFの発言はW医師への申告と合致している。そうすると,Iらの前記発言は,伝聞であることを考慮しても,信用できるというべきである。したがって,被告らの前記主張を採用することはできない。
(カ)

被告らは,前記(ア)(4)のQの発言について,Q自ら記憶が曖昧であると述べていた上,労基署に対して前記発言と矛盾する供述をしたことから,信用性がない旨主張する。
確かに,Qは,「5月,6月,5,6,7,8月の半ばくらいまでは,盆休みくらいまでは休んでなかったんじゃないかな。」,「ちょっと記憶があれですけどね。3カ月くらいは全く休んでなかったはずです。」などと記憶が不確かである旨を自ら認めていたこと(甲5の1・4頁,5頁),平成22年6月1日以降に労基署に対してFが週1日は休んでいた旨供述したことが(乙1の13,29,乙7の8),それぞれ認められる。
しかしながら,Qは,Fが休みを全く取っていなかったか否かという点について記憶が不確かであると説明したわけではなく,いかなる事実について記憶が不確かと述べていたかは明らかでない。そして,前記認定事実(4)イのとおり,Fは平成20年8月1日に休みを取ったことが認められるところ,QがFは盆休み頃まで休んでいなかった旨述べていたことに鑑みれば,記憶が不確かである点とは休みがなかった期間であった可能性があり,さらに,証拠(甲22)によれば,Qは,別件訴訟の尋問においても,Fが休みを取っていなかった旨の記憶が誤りであったとの弁解はしていないことが認められる。そうすると,Qが,記憶が不確かと述べていたことは,Fが休みを全く取っていなかったという部分の供述について信用性を否定する事実であると認めることはできない。
また,Qは,別件訴訟の尋問において,労基署での供述内容とそれまでの供述内容とは矛盾しない旨説明し,その理由として,Fは休みであったが丙店に出てきており,厨房には入っていなかった旨述べる(甲22・10頁,17頁)。そして,Qは,Fが休日に丙店に来ていた動機について,Iに会うために来ていた旨述べたが,別件訴訟の被告代理人からIの出勤日がFの出勤日と一致する旨の指摘を受けると,棚を取り付けたり小物を飾ったりしに来ていた旨説明を変更した(甲22・10頁~12頁)。
しかしながら,前記認定事実(2)イのとおり,Fは,丙店においては調理の業務のみを行っていたことが認められ,厨房に入らないその他の業務を行うことはないところ,様子を見に短時間店舗に滞在していただけであれば,そのようなFの行動について休みがなかったとQが表現することは不自然であり,棚を取り付けるなどの雑多な作業を行っていたとしても,そのような作業を約3か月間にわたり毎週週に1日の頻度で行うことは想定し難いというべきである。また,別件訴訟の被告代理人が指摘するとおり,F及びIの出勤日からすれば,Fが休日にIに会うために丙店に出てくることは起こり得ない事実であって勘違いをすることは考え難く,Qは,供述の不合理な変遷を糊塗するべく,虚偽を述べた可能性が否定できない。
したがって,Qの前記供述を信用することはできず,被告らの前記主張を採用することはできない。
(キ)

以上によれば,前記(イ)で認定説示したとおりFが平成20年5月10日に休みを取ったことが認められるほかに前記(ア)の(1)から(4)までの各証拠の信用性を否定する的確な証拠はないから,それらの証拠に基づき,Fは同月11日から同年7月31日まで休みなく働いていたと認めるのが相当である。

丙店における業務時間について
(ア)

原告は,Fが丙店において毎日午前11時から午後11時まで働いていた旨主張し,これに沿う供述をする(甲25・1頁,9頁)。これに対し,被告らは,Fは,週1日は甲店で働いており,また,Fの労働時間は別紙「労働時間集計表」に記載のとおりである旨主張するため,以下検討する。

(イ)

被告らは,Fが,丙店で勤務していた時期も平成20年5月22日以降は,木曜日は甲店で勤務しており,その勤務時間は午前11時から午後5時までであった旨主張し,被告Eはこれに沿う供述をする(甲24・9頁,16頁,17頁)。
Iは,平成21年4月20日に原告及びHと話をした際,Fが丙店で働いている時期に,「1回木曜日だけ来て,みんなでお茶して,そんで,また堀江に行ってた」と述べ,Oは当該発言を肯定したことが認められる(甲6の1・119頁)。また,Iは,労基署に対し,Fは毎週木曜日に午前11時から午後5時まで甲店で勤務し,勤務が終わってから喫茶店で話をしていた旨述べており(乙1の16,7の16),当該喫茶店の経営者であるcもFが丙店に異動した後も午後5時過ぎ頃に店に来ていた旨を記載した文書を作成していることから(乙7の4),Iの前記供述は信用することができる。そうすると,Fは,木曜日は甲店で午前11時から午後5時まで勤務していたものと認めるのが相当である。これに対し,原告は,Fが甲店で木曜日に働いていた事実はない旨主張し,丙店で働いていた時期は午後11時30分から午前0時頃までの間に毎日帰宅していたことから,午後11時まで勤務していた旨供述する(甲25・1頁,9頁~15頁,34頁,35頁)。
しかしながら,原告は,Fの勤務時間について出勤及び帰宅時間から推測しているにとどまり,Fが終業後に寄り道や同僚と話をするなど業務以外のことをしていた可能性は否定できない。実際,原告は,Fが丙店から甲店へ異動した時期を把握しておらず(甲25・26頁,27頁),前記認定事実(2)イのとおり,Fの勤務時間帯は丙店と甲店とで異なっていたにもかかわらず,異動の時期を認識できていなかったことは,Fが終業した後すぐに自宅に帰宅しない場合もあったことをうかがわせる事実というべきである。
したがって,原告の前記主張を採用することはできず,Fは,丙店で勤務していた期間も,平成20年5月22日以降の木曜日は甲店で午前11時から午後5時まで勤務していたと認めるのが相当である。
(ウ)

前記認定事実(1)イのとおり,Fの勤務時間は本件シフト表に記載さ
れていなかったことが認められるところ,日によってFの勤務時間が異なっていたとすれば,それを勤務シフト表に記載して,他の従業員が把握できるようにしておくことが自然であり,そうしていなかったことはFの勤務時間が固定されていたことをうかがわせる事実というべきである。被告ら自身,Fの丙店における勤務時間が固定されるに従い,本件シフト表にFの勤務時間を記載しなくなった旨主張するのであるから,丙店においてはFの勤務時間は固定されていたと認めるのが相当である。そして,前記認定事実(1)オのとおり,丙店においては,午後5時以降の時間帯は調理師を1人とするシフトが組まれていたことが認められるところ,前記認定事実(3)イのとおり,Fが勤務する日はFと交代で勤務することになっていたQは,午後10時頃から調理の業務に従事していたことが認められるから,Fが丙店で働く日の終業時間は午後10時頃であったと認めるのが相当である。
この点,原告は,Fが,毎日,午後11時30分から午前0時頃までの間に帰宅していたことから,午後11時まで勤務していた旨供述するが(甲25・1頁,9頁~15頁,34頁,35頁),その供述を採用できないことは,前記(イ)で認定説示したとおりである。また,Qは,FがQと交代する時間帯に客が立て込むようなときには残業することもあり,まれではあるが午後12時近くまで勤務していたこともあった旨供述する(甲5の1・3頁)。しかしながら,前記認定事実(1)オのとおり,午後5時から午後10時までの時間帯も午後10時以降と同様に調理の業務に従事する者は1人とされており,午後10時前後だけ2人の人員を要するような業務量であったとは考え難いこと,丙店では出汁作りや仕込み作業は主に開店前に行っていたほか,調理師は麺を茹でて,具材となるてんぷらを揚げるなどの業務を行うという分業体制が敷かれており,1食を完成させるために長時間を要するとは考え難いことなどからすると,Fが残業することがあったとしても,長時間に及ぶことはまれであり,ほとんどは短時間で終わっていたものと考えられる。そして,後記オのとおり,残業時間を計算に入れないとしても,Fの業務と自殺との間に相当因果関係を認めることができるから,Fの業務時間は少なくとも午前11時から午後10時までであったと認定する。
これに対し,被告らは,Fの労働時間は別紙「労働時間集計表」に記載のとおりである旨主張し,これに沿う証拠として本件シフト表(乙1の10・36頁~48頁)及び本件勤務時間表(乙1の10・23頁~30頁)を提出する。
しかしながら,平成20年5月19日以降の本件勤務時間表の記載は裏付けがなく信用できないことは前記イ(イ)で認定説示したとおりである。また,同日より前についても,同月3日及び4日以外はFの始業時間が午前7時と記載されているところ,被告ら自身,Fは同月3日に遅番への変更を希望して午前11時が始業時間となった旨主張するのであるから,本件シフト表は,同月2日から同月4日までの部分のほかは,実際の勤務時間を反映していないというべきであり,信用することができない。他方,同月2日から同月4日までの部分は,本件シフト表が当時作成されたシフト表であることを否定する事情はなく,本件シフト表に記載されたとおりの勤務時間であったことを前提に判断することとする。
したがって,Fの勤務時間についての被告らの前記主張は,そのうち平成20年5月2日から同月4日までの部分を除いては採用することができず,同月5日以降のFの勤務時間は,少なくとも午前11時から午後10時までであったと認めるのが相当である。
(エ)

以上によれば,Fの丙店で働いていた時期の勤務時間は,少なくと
も,平成20年5月2日は午前7時から午後5時まで,同月3日は午前11時から午後5時まで,同月4日は午前11時から午後9時までであり,同月5日以降,木曜日は午前11時から午後5時まで,その他の曜日は午前11時から午後10時までであったと認められる。

丙店における休憩時間について
(ア)

原告は,Fが勤務時間中に休憩できる時間は多くても30分程度であった旨主張し,確かに,O,I及びPは,平成21年4月20日に原告及びHと話をした際,Fには休憩時間がほとんどなかった旨話していたことが認められる(甲6の1・1頁,2頁)。
しかしながら,前記認定事実(1)オ及びカのとおり,丙店においては午前11時から午後5時までは調理師は二人体制であり,出前注文が店の売上げの中心であったところ,出前注文件数一覧表(乙28)によれば,午後2時から午後5時までの間に出前注文が30分程度途絶える時間帯があったことが認められ,前記ウ(ウ)で認定説示したとおり,一食当たりの調理に長時間を要するとは考え難いことからすれば,Fが,客や注文が途絶えた時間にもう一人の調理師に仕事を任せ,休憩を取得することは可能であったと認めるのが相当である。Qが,平成21年5月26日にHなどと話をした際,「昼間は楽です。」,「休憩が終わって夕方の5時から」などと述べていることは(甲5の1・4頁),前記のような形でFが休憩を取得できていたことを裏付けるものというべきである。他方で,調理師が一人の時間帯は,休憩を取ろうとしても客の来店や出前の注文があれば対応するために休憩を中断せざるを得ないから,調理をしていない時間も直ちに業務に就くことができるように待機しなければならない手待時間として評価すべきと考えられ,Qが午後5時から翌日午前7時までは調理師が一人であるから大変である旨述べることはそれを裏付けるものというべきである(甲5の1・4頁)。したがって,原告の前記主張を採用することはできず,Fは午後2時から午後5時までの間に休憩時間を取得することができていたと認められる。
(イ)

本件において,Fが取得していた現実の休憩時間を算定することは,休憩時間が固定されておらず,客観的な記録も残っていないことから不可能といわざるを得ないところ,前記イ(イ)で認定説示したとおり,従業員の労基署に対する供述は口裏合わせを行った可能性があるものの,I及びSの各供述(乙1の14,1の16)はFが丙店において休日を取得していた旨言及していないことから比較的信用に足りるものと認められる。
そして,Iが30分から1時間程度,Sが1時間から1時間30分程度の休憩を取得できていたと述べるところ,I及びSとFとは業務内容や勤務場所に異なる点があるとしても,同じ会社の従業員間で休憩時間の長短に大きな開きがあるとは考え難いことから,Fは,平均1時間程度の休憩時間を取得できていたと認めるのが相当である。
これに対し,被告らはFが2時間の休憩時間を取得できていた旨主張し,被告Eはこれに沿う供述をする(甲24・11頁~13頁)。しかしながら,前記イ(イ)で認定説示したとおり,Qを含む丙店の同僚の労基署に対する供述は口裏合わせを行った可能性があって信用することができず,その他にFが2時間程度の休憩を取っていたことを裏付けるに足りる的確な証拠はないから,被告Eの前記供述は信用することができず,被告らの前記主張を採用することはできない。また,仮に休憩時間の平均が実際には1時間をいくらか超えていたとしても,前記ウで認定説示したとおり,Fが残業する日もあったことを考慮すれば,後記オで認定する労働時間と実際の労働時間との間に大きな差異はないと考えられる。
(ウ)

以上によれば,Fは,午後2時から午後5時までの間に,平均1時間程度の休憩時間を取得できていたと認められる。


以上によれば,Fが丙店に勤務していた間の労働時間は,別紙「裁判所が認定したFの労働時間等」の労働時間数の欄に記載のとおりであると認められる。
前記認定事実(6)のとおり,本件認定基準は,労務災害における業務起因性を判断するための行政基準として定められたものではあるが,業務による心理的負荷と精神障害との因果関係について,専門家の検討を踏まえた知見に基づき策定されたものであり,裁判所において業務と自殺との相当因果関係を判断するに際しても参考になるものと考えられる。
そして,前記認定事実(6)のとおり,本件認定基準においては1か月以上の連続勤務を行っていれば業務による心理的負荷が強度とされるところ,Fは,平成20年5月11日から同年7月31日までの82日間にわたり連続勤務をしたと認められ,Fの連続勤務の日数はそれを大きく上回ったことが認められるから,その点だけを見ても心理的負荷は強度であったというべきである。さらに,前記認定事実(6)のとおり,本件認定基準では発病直前の連続した3か月間において1月当たり100時間以上の時間外労働に従事したときは業務による心理的負荷が強度とされるところ,Fは,別紙「裁判所が認定したFの労働時間等」の各月の時間外労働時間数の欄に記載のとおり,同年9月の本件疾病の発病に近接した同年5月から同年7月までの連続した3か月間において1月当たり100時間以上の時間外労働に従事したことが認められるから,前記の連続勤務と併せ,業務による強い心理的負荷を受けたと認めるのが相当である。また,前記争いのない事実等(3)ウ及び前記認定事実(4)オのとおり,Fは,丙店から異動した翌月である平成20年9月頃に本件疾病を発症し,W医師はFの本件疾病について疲労が原因である旨の意見書を提出したことが認められる。
したがって,Fは,本件疾病を発病するその他の原因がうかがわれない限り,丙店における業務による強い心理的負荷を原因として本件疾病を発病し,本件疾病によって正常な認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥り,それにより自殺に至ったと認めるのが相当である。(3)

本件疾病を発病する他の原因の有無について
ア(ア)

被告らは,Fが,Iに恋愛感情を抱いていたところ,失恋をきっかけとして本件疾病を発症し,自殺するに至った旨主張する。

(イ)

確かに,QはFの自殺の原因がIに対する失恋にあると思う旨供述したことが認められ(甲22・7頁,8頁,13頁,14頁),OはFがIの婚約を聞いて落ち込んでいた旨記載した文書を作成したことが認められる(乙7の12)。また,前記認定事実⑶ウのとおり,FはIを仕事が終わってからバイクで送るなど親しい関係にあったことを認めることができる。
しかしながら,Fは,前記認定事実(4)オのとおり,自発的に丁メンタルクリニックへ診察を受けに行ったことが認められ,不眠の原因について思い当たることは正直に話すのが自然と考えられるところ,丁メンタルクリニックの診療録(乙1の24)によれば,W医師に対してIの話をしたことがうかがわれる記載はないことが認められ,失恋が本件疾病の発症の原因であったとは認め難い。前記認定事実(4)サのとおり,Fは,遺書においてもIについては触れていなかったことが認められる。
また,仮にFがIに対する恋愛感情を抱いており,Iの婚約等により失恋していたとしても,失恋と自殺とを結びつけるQ及びOの前記供述等は憶測の域を越えるものではないし,前記(2)イ(オ)及び(カ)で認定説示したとおり,Q及びOの供述等は信用し難いというべきであるから,被告らの前記主張を裏付ける根拠として十分とはいえない。
(ウ)

被告らは,Oが平成21年3月31日午前10時28分にFに対してIの結婚報告のメールを送った後,Fが同日午後3時頃に自殺未遂を図ったところを発見されたことから,失恋と自殺とが関連していることがうかがわれる旨主張する。
しかしながら,Oは,原告とHに対し,平成21年5月20日,Fが同年3月31日に自殺未遂をしたことについて話したとき,原告がFの自殺未遂後の病院にいた夜の時間帯にFに対して電話をしたが,電話に出なかったからメールをした旨話しており(甲6の1・100頁,101頁),前記メールの送信時刻を午後10時28分とする報告書の記載は(乙1の10・21頁),Oの前記発言に沿うものであって信用でき,これに反するメールの送信時刻を前提とする被告らの前記主張は採用できない。
(エ)

したがって,被告らの前記(ア)の主張を裏付ける的確な証拠はなく,前記(ア)の主張を採用することはできない。


被告らは,Fに重度のアルコール依存状況があり,精神障害発症のしきい値を下げる個体側要因として脆弱性があった旨主張する。
確かに,前記認定事実(2)エ並びに(4)イ及びオのとおり,Fは,丙店に異動する前である平成19年から平成20年3月頃までの間,飲酒による失敗を繰り返し,嘔吐しながら仕込み作業を行うなど仕事に支障が出ていたことが認められ,また,同年8月頃から飲酒を再開して仕事に再び支障が出るようになり,同年11月27日には1日に缶ビール3本を飲んでいたことが認められる。
しかしながら,前記認定事実(4)イのとおり,Fは,丙店の店長として勤務を開始した平成20年5月2日から同年8月1日に飲酒を再開するまでの間は断酒していたこと,W医師には不眠のためにお酒を飲んでしまう旨述べていたことがそれぞれ認められることに鑑みれば,丙店での業務による強い心理的負荷によって不眠に陥り,それを解消するために飲酒を再開したものと認めることが相当である。また,前記(2)で認定説示したとおり,Fが,業務から受けた心理的負荷は,業務上の心理的負荷によって対象疾病を発症したと認めるに足りる強度のものであるから,業務上の心理的負荷ではなくアルコール依存を原因として本件疾病を発症したといえることについてはその裏付けが求められるところ,被告らが提出する医学意見書(乙34,35)はいずれもFの労働時間等について被告らの主張を前提にするものであり,Fがアルコール依存を原因として本件疾病を発症したことを裏付ける的確な証拠とはいえない。
そうすると,Fが本件疾病を発症し,自殺に至る過程において,仮にアルコール依存による脆弱性が影響している点があったとしても,業務と自殺との間の相当因果関係を否定するものではないと認められる。したがって,被告らの前記主張を採用することはできない。

したがって,Fの本件疾病の発症について,丙店における業務による強い心理的負荷以外の原因をうかがわせる事実はないと認められる。
(4)

以上によれば,Fは,丙店における業務による心理的負荷によって,本件疾病を発症し,自殺するに至ったものとして,その業務と自殺との間に相当因果関係があると認められる。

3
争点(2)(被告Aの安全配慮義務違反の有無)について
被告Aは,その雇用する労働者の従事する業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
そして,被告Aは,前記争いのない事実等(3)イ及びウのとおり,Fを従業員として雇用して丙店及び甲店において業務に従事させていたことが認められるところ,前記2で認定説示したとおり,Fは,長時間の労働に継続的に従事したことで業務による強い心理的負荷を受け,本件疾病を発症して自殺するに至ったことが認められるから,前記義務に違反したと認めるのが相当である。
4
争点(3)(被告BのFに対する安全配慮義務の存否及び同義務違反の有無)について
(1)

原告は,被告A及び被告Bが,社会的・経済的に一体をなしていたから,被告BもFに対する安全配慮義務を負う旨主張する。
しかしながら,被告A及び被告Bが,いずれも実質的に被告Cらによって経営される同族会社であり,形式的に別法人としたものにすぎないとしても,そのことをもって被告BがFに対して被告Aと同様に安全配慮義務を負う法的根拠はなく,原告の前記主張を採用することはできない。

(2)

また,原告は,Fが,丙店での勤務を開始するに当たり,被告Aから被
告Bに出向して業務を行っており,被告Bの指揮監督下に置かれていたのであるから,被告BはFに対する安全配慮義務を負っていた旨主張する。しかしながら,前記争いのない事実等(1)エ及び(2)のとおり,被告Bは丙店が開店する平成20年5月2日の時点では設立されていなかったことが認められ,丙店が被告Bによって経営されていたことを根拠付ける的確な証拠は提出されていない。かえって,被告Aの組織図ではFの在職期間中においては丙店が被告Aに所属していた旨が記載されていること(乙1の10・9頁),被告Aが丙店の従業員を被保険者とする傷害保険契約及び丙店の事業活動総合保険契約を締結していたこと(乙47,48)が認められるから,被告Aが,Fの丙店での勤務期間においては,丙店を経営していたものと認めるのが相当である。
そして,Fが被告Aから被告Bへ出向していたことを裏付ける的確な証拠はないから,被告BはFに対する指揮監督権限を有していたとはいえず,原告の前記主張を採用することはできない。
(3)
5
よって,被告BはFに対する安全配慮義務を負わないと認められる。
争点(4)(被告Cらの善管注意義務違反の有無)について
(1)

被告C及び被告Dについて
労働者の労務管理は会社経営に当たっての重要事項であり,会社経営を委任された取締役は,善管注意義務により従業員の労働時間等の労働条件についての重要な事項を定め,かつ,それが社内で履行されていることについての監視・監督責任を負う。
前記争いのない事実等(1)オ及びカのとおり,被告Cは被告Aの代表取締役であり,被告Dは被告Aの取締役であるところ,被告C及び被告Dは,従業員の労務管理の業務を行うにつき,過重な長時間労働等により従業員が心身の健康を損なうことのないよう,適正に労働時間等の管理を行い,従業員に長時間労働が生じたときは直ちにこれを是正するための社内体制を構築する義務を負っていた。
そして,被告C及び被告Dは,前記2で認定説示したとおり,Fが丙店の店長として勤務していたときに心身の健康を損ねることが明らかな長時間労働に従事していたにもかかわらず,これを是正する措置を執らなかったのであり,取締役としての職務を執行するにつき,前記義務を悪意又は重過失によりけ怠し,Fを過重な業務に従事させたと認められる。
したがって,被告C及び被告DはFに対してそれぞれ会社法429条1項の責任を負う。
(2)

被告Eについて
原告は,被告Eが被告Bの取締役としてFに対する安全配慮義務を負う旨主張する。
しかしながら,前記4で認定説示したとおり,被告BはFに対する指揮監督権限を有していなかったから,被告Bの取締役である被告EはFに対して安全配慮義務を負うものでないと認められ,原告の前記主張を採用することはできない。

6
争点(5)(損害の発生及びその額)について
(1)

死亡による逸失利益

3379万8336円

以上によれば,当時34歳のFは被告A,被告C及び被告Dの安全配慮義務違反により自殺に至ったと認められる。Fは本件疾病の発症前において月額35万2000円の給与を得ていたことが認められるから(前記認定事実(1)ア),Fの年収はこれに12月を乗じた422万4000円となる。Fは自殺に至らなければ,67歳までなお33年間稼働できたと認められるから,5割の割合による生活費控除を行い,ライプニッツ方式により年5%の割合による中間利息を控除して算出すると,Fの死亡による逸失利益は,次の算式のとおり3379万8336円となる。
(算式)

422万4000円×(1-0.5)×16.003(ライプ

ニッツ係数)=3379万8336円
(2)

死亡による慰謝料

2800万円

本件における被告A,被告C及び被告Dの安全配慮義務違反の態様,その後の対応等諸般の事情を考慮すると,死亡慰謝料としては2800万円が相当である。
(3)

葬祭料

150万円

本件では,Fの死亡により150万円程度の葬儀費用を必要としたことが推認され(この推認を覆すに足りる証拠は見当たらない。),これは相当損害と認められる。
(4)

弁護士費用

630万円

原告は,Fの唯一の法定相続人であり,Fの被告A,被告C及び被告Dに対する損害賠償請求権を相続した。
本件事案の性質,内容及び認容額等に鑑みると,本件と相当因果関係のある弁護士費用は,630万円とするのが相当である。
(5)

したがって,原告は,被告A,被告C及び被告Dに対し,6959万8336円の損害賠償請求権を有するものと認められる。

第4

結論
以上によれば,原告らの請求は主文第1項の範囲で理由があるからその限度で認容し,その余の各請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第22民事部

裁判長裁判官

北川
裁判官

新海清寿加子
裁判官

道垣内正大
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