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生活保護法78条に基づく費用徴収金決定処分取消請求事件
事件番号平成28(行ウ)30
事件名生活保護法78条に基づく費用徴収金決定処分取消請求事件
裁判年月日平成30年2月9日
法廷名神戸地方裁判所
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平成30年2月9日判決言渡し・同日原本領収
平成28年(行ウ)第30号

裁判所書記官

生活保護法78条に基づく費用徴収金決定処分取消

請求事件
口頭弁論終結日

平成29年12月7日
判1決主文
処分行政庁が平成27年11月2日付けで原告に対してした費用徴収決定処分を取り消す。

2
処分行政庁が平成28年3月28日付けで原告に対してした費用徴収決定処分を取り消す。

3
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
主文同旨

第2
1
事案の概要等
事案の概要
処分行政庁(神戸市A福祉事務所長)は,生活保護受給者である原告に対し,未申告の収入があるとして,生活保護法78条1項に基づき,平成27年11月2日付け及び平成28年3月28日付けの各保護費徴収決定
(以下,「本
順に
件処分1」,「本件処分2」といい,併せて「本件各処分」という。)をした。
本件は,原告が,本件各処分には,収入ではないものを収入とした違法及び原告に収入未申告にかかる故意がある旨の事実誤認をした違法があると主張して,神戸市を被告として,本件各処分の取消しを求める処分の取消しの訴えである。
2
生活保護法(平成26年法律第83号による改正前のもの。以下「法」という。関係部分を抜粋し,〔〕内に所要の注記等をした。なお,本件処分1と本件処分2との間に施行された改正法はない。)の定め
1条(この法律の目的)
この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基づき,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を援助することを目的とする。
2条(無差別平等)
すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護(以下「保護」という。)を,無差別平等に受けることができる。
3条(最低生活)
この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
4条(保護の補足性)
1項

保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あら
ゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2項

民法(明治29年法律第89号)に定める扶養義務者の扶養及び他の
法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3項

前2項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うこと
を妨げるものではない。
5条(この法律の解釈及び運用)
前4条に規定するところは,この法律の基本原理であつて,この法律の解釈及び運用は,すべてこの原理に基いてされなければならない。
19条(実施機関)
1項

都道府県知事,市長及び社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長は,次に掲げる者に対して,この法律の定めるところにより,保護を決定し,かつ,実施しなければならない。
1号

その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護

4項

前3項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」とい
う。)は,保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を,その管理に属する行政庁に限り,委任することができる。
27条(指導及び指示)
1項

保護の実施機関は,被保護者に対して,生活の維持,向上その他保護
の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2項

前項の指導又は指示は,被保護者の自由を尊重し,必要の最少限度に
止めなければならない。
3項
第1項の規定は,被保護者の意に反して,指導又は指示を強制し得る
ものと解釈してはならない。
60条(生活上の義務)
被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,自ら,健康の保持及び増進に努め,収入,支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り,その他生活の維持及び向上に努めなければならない。

61条(届出の義務)
被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があつたとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。
62条(指示等に従う義務)

1項

被保護者は,保護の実施機関が,〔中略〕第27条の規定により,被
保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときは,これに従わなければならない。
3項

保護の実施機関は,被保護者が前2項の規定による義務に違反したと
きは,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。
4項

保護の実施機関は,前項の規定により保護の変更,停止又は廃止の処
分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければなら
ない。この場合においては,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。
5項

第3項の規定による処分については,行政手続法第3章(第12条及
び第14条を除く。)の規定は,適用しない。
63条(費用返還義務)

被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
78条〔費用等の徴収〕

1項

不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受け
させた者があるときは,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の額の全部又は一部を,その者から徴収するほか,その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。4項

前3項の規定による徴収金は,この法律に別段の定めがある場合を除
き,国税徴収の例により徴収することができる。
85条(罰則)
1項

不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受け
させた者は,
3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
ただし,
刑法(明治40年法律第45号)に正条があるときは,刑法による。
3
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
当事者

神戸市A福祉事務所(以下「本件事務所」という。)は,社会福祉法に規定する福祉に関する事務所(福祉事務所)であり,本件事務所長(処分行政庁)は,法19条4項に基づき,神戸市から,保護の決定及び実施に
関する事務の委任を受け,また,地方自治法153条1項に基づき,法78条の規定による費用の徴収に関する事務の委任を受けた行政庁である(弁
論の全趣旨。以下,原告の保護を担当する本件事務所の職員を「担当職員」という。)。

原告は,昭和41年12月21日生まれの女性であり,本件事務所の所管区域内に居住地を有する者である(争いがない。)。
原告に対する保護の開始等


原告は,処分行政庁に対し,平成25年12月12日,法24条1項に基づき,保護の開始を申請した(乙9)。


処分行政庁は,平成26年1月9日付けで,原告に対し,就労収入のみでは最低生活を維持することが困難であることを理由として,法24条3項に基づき,平成25年12月12日から保護を開始する決定(以下「本件開始決定」という。)をした。本件開始決定は,原告の最低生活費を9万7980円,稼働収入を6万8503円と各認定し,原告に生活扶助2万9477円等の金銭給付をすることとしたものである。この生活扶助の
支給方法は,平成26年2月1日付けで,原告名義の普通預金口座に入金する方法へと変更された(以下,この口座を「本件口座」といい,本件口座にかかる預金通帳を「本件通帳」という。)。(甲1の1,甲7の1ないし5,乙9及び弁論の全趣旨)

担当職員は,平成26年1月27日,原告に対し,本件事務所において,「保護のしおり」(乙2)を交付するとともに「生活保護制度に関する確認について」と題する書面(乙3)を読み聞かせて説明し,原告は,同書面に署名・押印した(甲17,乙2,3,9,原告本人1ないし3・10ないし12頁)。
原告のボランティア活動・労務提供とこれらに対する謝礼・給与

原告は,平成25年4月頃から平成27年3月頃までは神戸市の特別支援学級の支援員として活動し,平成26年4月23日から平成27年3月31日まで(勤務日数2日)は同市A区の特別支援学級の支援員として活動し,その謝礼(税引後。なお,平成25年8月30日に支払を受けた2万4500円を除く。)として,神戸市ないし同市A区から,以下の年月日,
合計6万4555円を本件口座に入金する方法により受領した。
なお,

原告と神戸市ないし同市A区との間には,労働契約は締結されていなかった(以下,これらの支援員としての原告の活動を「本件ボランティア」といい,これに対する謝礼を「本件謝礼」という。)。
平成26年

1万6500円

平成26年

4月21日

9500円

平成26年

5月30日

3406円

平成26年

2月14日

8月26日

1万0664円

平成26年10月

8日

2660円

平成26年10月21日

3406円

平成27年

2月

5日

1万2602円

平成27年

4月28日

5817円

(甲7の1ないし4,乙4の1ないし5,乙5の1・2)

原告は,平成27年3月頃,A学童保育所Bクラブ(以下「本件クラブ」という。)と労働契約を締結し,同月19日から同年4月1日までにした
試用期間中の労務(勤務日数5日間)に対する給与として,合計2万5643円を,
以下の年月日に本件口座に入金する方法により受領した
(以下。
この労働契約に基づく原告の労務を「本件労務」といい,これに対する給与を「本件給与」という。)。
平成27年4月10日
平成27年5月

1万8915円

8日

6728円

(甲7の3・4,乙6の1・2)。

本件未申告
原告は,平成26年2月以降の各月,担当職員に対し,収入申告書(乙7の1ないし16)を提出していた。しかし,収入申告書には,本件謝礼及び本件給与の記載がなかった(以下,原告が本件謝礼及び本件給与の記載をせずに収入申告書を提出していたことを「本件未申告」という。)。(争いがない。)
本件各処分

処分行政庁は,平成27年11月2日,原告に対し,収入(本件謝礼)の未申告があったとして,法78条1項に基づき,平成26年3月1日から平成27年5月31日まで実施した保護の費用のうち,6万4555円
を徴収する旨の処分(本件処分1)をした(甲2)。

処分行政庁は,平成28年3月28日,原告に対し,収入(本件給与)の未申告があったとして,法78条1項に基づき,平成27年4月1日から同年5月31日まで実施した保護の費用のうち,2万5643円を徴収する旨の処分(本件処分2)をした(甲3)。


本件各処分の通知書には,「この決定については,この決定があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に,市を被告として,この決定の取消しの訴えを提起することができ」
る旨の手続教示の記載がある
(甲
2,3)。

本件訴えの提起
原告は,平成28年4月26日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
4
争点及び争点についての当事者の主張
申告すべき収入に当たるかどうか)について
【被告の主張】
本件各処分は,法78条1項にいう「不実の申請その他不正な手段により
保護を受けた」
に関する行政庁の解釈指針である運営通達(後記認定事実



届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにも
かかわらずそれに応じなかったとき」及び「d

保護の実施機関の課税調査

等により,当該被保護者が提出した収入申告書等の内容が虚偽であることが判明したとき」の両方に該当する事由があること,すなわち,本件謝礼及び本件給与が「収入」に当たるところ,原告が,これに関する適切な申告をせず,課税調査等により,原告が提出した収入申告書の内容が虚偽であることが判明したことを理由としてされたものである。
本件謝礼が収入に当たらないとの原告の主張は争う。

【原告の主張】
本件給与が収入に当たることは争わない。
しかし,本件謝礼は,労働契約を前提とした就労に伴う収入ではない。その額も低額であり,本件ボランティアという慈善活動に対して交付されたものであること,本件謝礼を支払った学校側(特別支援学級を運営する神戸市
ないし同市A区)も,本件謝礼があったことを理由として本件処分1がされるとは想定していなかったはずであり,学校側の厚意を無にするものであることからすれば,社会通念上,これを「収入」とすることは適当でないというべきである。
隠蔽したかどうか)について

【被告の主張】

担当職員は,本件開始決定の前に,原告に対し,「保護のしおり」(乙2)や「生活保護制度に関する確認について」と題する書面(乙3)を配付し,その内容の読み聞かせをした上,署名・押印を得ている(前提事実。これらの書面には,収入の有無・増減があったときは,実施機関に届け出るべきことが平易に記載されているし,原告は,その読み聞かせを受けた上,
書面を配付され,
いつでもその内容を確認することができた。

したがって,原告は,収入があればその届出をすべき義務があることを認識していたというべきである。

原告は,本件謝礼について,収入に当たらないと考えていたために,申告すべきとの認識も全くなかったなどと主張する。しかし,前記アの
の収入について記入してください」との記載があり,「収入」の解釈如何に関わらず,申告義務があると十分に認識できたというべきである。また,原告は,謝礼には興味がなく,本件口座ないし本件通帳を確認していなかったから,本件謝礼及び本件給与が入金されたことを認識していなかったなどと主張・供述する。しかし,原告は,本件給与が本件
クラブにおける労働の対価であり,労働契約に基づき,月給が入金されることを十分に把握し,これを申告すべきことを十分に認識していたというべきである。また,原告は,本件謝礼及び本件給与の入金先として本件口座を届け出ているのであるから,これらが入金されることを認識していたというべきであるから,通帳を確認していなくとも,収入未申
告について故意があるというべきである。
【原告の主張】

そもそも,本件謝礼及び本件給与が入金されたのは,原告に対する保護が入金されていたのと同じ本件口座であるところ,原告は,保護実施機関
に対し,収入申告書及び本件通帳の写しを提出していたものである。したがって,原告が本件謝礼及び本件給与を「隠蔽」していた事実自体が認められないというべきである。

担当職員は,収入申告の要否等についての説明をするに当たっては,統合失調症の患者であるという原告の特質・能力に応じ,原告が説明の内容を理解しているかどうか確認しながら,個別具体的な説明をしなければならなかったというべきである。しかし,担当職員が原告に対して
した説明は,原告の特質・能力に応じた適切なものではなかったというべきである。また,被告が指摘する「保護のしおり」には,「収入」についての申告を要する旨の記載はあるが,「入金」についての記載はないから,原告が本件謝礼及び本件給与が「入金」されたことを申告しなかったことは,不当ではないというべきである。

また,原告は,謝礼を目的として本件ボランティアをしたものではなく,本件謝礼の有無,収入該当性,申告の要否について意識することもなかったし,統合失調症を患っていることもあって,本件通帳を確認していなかったのであるから,本件謝礼及び本件給与を申告しない旨の判断をしたこともないものである。

したがって,原告は,本件謝礼及び本件給与が申告の対象となる旨の十分な説明を受けていなかったし,これらを申告しない旨の判断をしたこともないから,原告が故意に収入を隠蔽したとは認められないというべきである。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実,括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

発第0330001号。平成27年厚生労働省発社援保発0331第2号による改正後のもの。以下「運営通達」という。)の内容の要旨
ア収入未申告等の場合には,当然保護に要した費用の返還を求めなければならない。その際適用される条文は,具体的には法63条と法78条に大別されるが,その取扱いには十分留意する必要がある(運営通達Ⅳ)。イ
法63条の適用の判断について
①要保護者が急迫状態にあって直ちに保護を必要とするケースや,②資
力はあるが,これを最低生活の維持のために充てることができない特段の事情のあるケースのような場合には,個々のケースの実情に照らし,要保護者が有する資力について,法63条の費用返還の対象として必要な保護)。

法78条の適用の判断について
法78条の趣旨は,不実の申請その他不正な手段により保護を受け,「
または他人をして受けさせた者は,刑法の該当条文(詐欺等)又は法85条の規定によって処罰される。しかし,これだけでは保護金品に対する損失が補填されないため,法78条は,そのような不法行為により不
正に保護を受けた者から保護費又は就労自立給付金を返還させることとしたものであ」る。この「不実の申請その他不正な手段」とは,「積極的に虚偽の事実を申し立てることはもちろん,消極的に事実を故意に隠ぺい

蔽することも含まれ,詐欺罪(刑法246条)の構成要件としての欺く行為よりも意味が広い」(運営通達
次の場合には,法78条によることが妥当であると考えられる。したがって,例えば,被保護者が届出又は申告を怠ったことに故意が認められる場合は,
保護の実施機関が社会通念上妥当な注意を払えば容易に発
見できる程度のものであっても,法63条ではなく法78条を適用すべきである。

a届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらずそれに応じなかったとき
b
届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき

c届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも,保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明を求めたにもかかわらずこれに応じず,又は虚偽の説明を行ったようなときd保護の実施機関の課税調査等により,当該被保護者が提出した収入
申告書等の内容が虚偽であることが判明したとき

(以上につき,甲6)
生活保護手帳
「生活保護手帳

別冊問答集の記載
別冊問答集

2015」と題する書籍(同書は,平成21

年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡「生活保護問答集について」を基に,各問答における生活保護関係法令及び通知等への参照を明示し,保護の実施要領関係,医療扶助運営要領関係として収載したものである。以下「別冊問答集」という。)には,以下の記載がある。「問収入申告が過小であったりあるいは申告を怠ったため扶助費の不当な受給が行われた場合については,法63条による費用の返還として取り扱う場合と法78条による徴収として取り扱う場合の二通りが考えられるが,どういう場合に法63条又は法78条を適用すべきか,判断の標準を示されたい。


本来,法63条は,受給者の作為又は不作為により実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではなく,実施機関が,受給者に資力があることを認識しながら扶助費を支給した場合の事後調整についての規定と解すべきである。
しかしながら,受給者に不正受給の意図があったことの立証が困難な
場合等については返還額についての裁量が可能であることもあって法63条が適用されているわけである。
広義の不当受給について,法63条により処理するか,法78条により処理するかの区分は概ね次のような標準で考えるべきであろう。①

法63条によることが妥当な場合
受給者に不当に受給しようとする意図がなかったことが立証され
る場合で届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむ
を得ない理由が認められるとき。
実施機関及び受給者が予想しなかったような収入があったことが
事後になって判明したとき
(判明したときに申告していればこれは,
むしろ不当受給と解すべきではない)。


法78条によることが妥当な場合

(以上につき,甲15及び弁論の全趣旨)
「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年厚生省発社第123号。平成27年厚生労働省発社援0331第8号による改正後のもの。以下「実施通達」という。)の内容の要旨
収入の認定指針(実施通達第8の3)

就労に伴う収入
勤労(被用)収入,農業収入,農業以外の事業(自営)収入
〔省略〕
その他不安定な就労による収入

知己,近隣等よりの臨時的な報酬の性質を有する少額の金銭その他少額かつ不安定な稼働収入がある場合で,その額(受領するために交通費等を必要とする場合はその必要経費の額を控除した額とする。)が月額1万5000円を超えるときは,そのこえる額を収入として認定すること(実施通達


就労に伴う収入以外の収入
恩給,年金等の収入,財産収入
〔省略〕
仕送り,贈与等による収入
他からの仕送り,贈与等による金銭であって社会通念上収入として認定することを適当としないもののほかは,すべて認定すること(実施通
達ウ
次に掲げるものは,収入として認定しないこと
社会事業団体その他(地方公共団体及びその長を除く。)から被保護者に対して臨時的に恵与された慈善的性質を有する金銭であって,社会通念上収入として認定することが適当でないもの(実施通達

ア)
出産,就職,結婚,葬祭等に際して贈与される金銭であって,社会通念上収入として認定することが適当でないもの
(実施通達
〔その他略〕
(以上につき,甲5)
「保護のしおり」及び「生活保護制度に関する確認について」と題する書面の記載の概要等
「保護のしおり」及び「生活保護制度に関する確認について」と題する書面は,実施機関ないし担当職員が,生活保護受給者に対し,保護の開始に当たって配付・説明する書面であり,それぞれ,以下の記載(原文は全て
の漢字にルビが振られている。)がある。

保護のしおり
このしおりは,生活保護についてあなたに知っておいていただきたいことをわかりやすく書いたものですから,必ずお読みください。また,
いつでも見ることができるよう,たいせつに保管してください。
あなたが届け出ること
a給与・年金・手当・仕送りなどの収入の有無や,保険金・補償金などの臨時収入があるとき(高校生のアルバイト収入や借入金も含みます。)
b給与・年金・手当・仕送りなどの収入が増えたり減ったりするとき(乙2)

イ「生活保護制度に関する確認について」

かに届出を行わなければならないこと等について,
福祉事務所
(担当職員)
から説明を受け,その内容を確認し,理解したとして,平成26年1月27日付けで,原告の署名・押印がされている(乙3)。

収入申告書の記載の概要

には,以下のような記載ないし記載欄がある。

ひな形の記載内容
表面に,
「働きによる収入」欄として,勤め先・仕事の内容,稼働日数・
総収入を記載する欄のほか,「年金・恩給等による収入」欄,「仕送りによる収入」欄,「その他収入」欄として,各種収入を記載する欄が設けられている。
裏面に,注意事項として,原告が平成26年7月25日付けで記入した
もの以前のひな型には,「注意」として「前3か月間(当月を含む)のあなたの世帯のすべての収入について記入して下さい。」等の記載があり,同年8月25日付けで記入したもの以降のひな型には,「収入申告書の記入にあたって」と下線を引いたフォントの大きい題字のもと,「働いて得た収入・他の制度からの給付(年給・恩給・児童扶養手当など)・仕送り
による収入など,一時的なもの,少額のものも含め,全ての収入を記入してください。」と一部太字で強調した記載がある。

原告による申告内容
原告は,平成26年2月27日から平成27年7月1日までの収入申告書に,Cから支払を受けた給与収入(月額1万4310円ないし8万6553円)及び元夫から慰謝料として支払を受けた金員(月額1万5000円)を記載し,申告していた。

(以上につき,乙7の1ないし16)
本件通帳の写しの提出及びその記載内容等

原告は,平成26年1月9日付けの本件開始決定の前には,本件口座以外に複数の銀行口座を有していたが,担当職員の指導を受けて,本件開始決定がされた頃までに,本件口座以外の銀行口座を全て解約し,同月16
日頃,担当職員に対し,本件通帳の写しを提出した。

担当職員は,平成27年10月6日,原告に対し,課税調査の結果,原告が本件ボランティアをしていたことが判明したとして,電話で事情を聴取したところ,原告は,本件ボランティアの概要,実施頻度を説明し,ボランティアであるため,収入申告をすべきだとは思っていなかったと回答
した。

原告は,本件処分1を受けた後の平成27年11月12日,担当職員から,今後はいかなる収入も申告するよう注意を受け,以後,月ごとに,担当職員に対し,本件通帳の写しを提出することとなった。

(以上につき,甲17,乙7の1ないし4,乙9,原告本人4・5頁及び弁論の全趣旨)
原告の病状等
原告は,平成26年1月頃には,統合失調症(妄想型)を患っており,「幻
聴,被害妄想が出現するが,説明をすれば理解する。適応が悪いわけではな
い。」という症状があった。平成28年5月20日付けの診断書(甲13)によれば,原告の症状は,「薬物療法,精神療法により安定しており,毎日するような慣れた日常生活は概ねできている。しかし,対人関係に緊張しやすく,いつもと違う不規則なことが起こると困惑しやすく,日常生活能力が極端に低下する。」と診断されている。もっとも,同診断書,原告の病状把握票(乙8の1ないし4),ケース記録(乙9)及び当裁判所において実施した原告本人尋問における原告の供述態度・供述内容によれば,原告の症状
は重いものではなく,説明内容や質問を理解して回答する能力を有していることが認められる。(甲13,乙8の1ないし4,乙9,原告本人及び弁論の全趣旨)
2
本件各処分の適法性について
申告すべき収入に当たるかどうか)について

ア法は,「保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」ことを基本原理の一つとしている(法4条1項,5条)のであるから,被保護者の資産,能力その他あらゆるものは,その呼称のいかんを問わず,その最低限度の生活の維持のために活用されるべきことを原則とするものと解すべきである。
イそうすると,本件謝礼は,原告と本件謝礼を支払った者(神戸市ないし同市A区)との間に
のの,本件ボランティアという労務を提供したことに対する対価として提
供されたものとして,
原則として,
収入に当たるというべきである
(なお,
件謝礼は,報酬の性質を有する不定期かつ少額
の金銭であるとして
る収入」
に当たると解する余地もあるが,
その旨の主張・立証はない。
)。
ウこれに対し,原告は,本件謝礼は,社会通念上収入として認定すること
が適当でないものに当たり,また,本件謝礼を支払った者も,本件謝礼が保護費減額の理由となるとは想定していなかったであろうことなどから,本件謝礼は収入に当たらないと主張する。
確かに,

「臨時的に恵与された慈善的性質

に有する金銭」のように,寄付金等その金銭自体が慈善的性質を有するため,社会通念上,収入として認定することが適当でないものもあると考えられる。しかし,本件謝礼は,前記日程の勤務日数及び額に照らし,原告
に対する寄付金等の趣旨で支払われたものではなく,本件ボランティアの対価として支払われたものというべきであるから,本件謝礼そのものが慈善的性質を有する金銭に当たるとは考えられない。その他,本件謝礼が社会通念上収入として認定することができないものであると評価すべき事実を認めるに足りる証拠もない。

したがって,原告の前記主張は,採用することができない。

よって,本件謝礼は,申告すべき「収入」に当たるというべきである。隠蔽したかどうか)について


a被保護者に未申告の収入がある場合,
当該未申告が不実の申請その
他不正な手段(以下「不正手段」という。)によるものであるときに
は,法78条1項は,保護費を支弁した市の長が,その費用の額の全部又は一部を,その者から徴収するほか,その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができることとされている上,法85条1項本文により,3年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑が法定されている。

このように,法は,不正手段による保護の受給について,当該不正受給額の全部を必要的に徴収することに加え,
その4割以下の額を制
裁として徴収することができることとし,
さらに,
懲役を含む刑罰を
科することにより,
保護の不正受給を防止し,
生活保護制度が悪用さ
れることを防止しようとする趣旨に出たものと解される。

b
これに対し,法は,被保護者に未申告の収入がある場合でも,当
該未申告が不正手段によるものでないときに関する直接の定めを
おいていない。これに関し,運営通達及び別冊問答集は,法63条が,受給者に資力があることを実施機関が認識しながら扶助費を支給した場合の事後調整についての規定であることを前提としつつ,受給者に不正受給の意図があったことの立証が困難な場合等について,同条を適用することとし,そのように運用されていることがうかがわれる。
法は,
憲法第25条に規定する理念に基づき,
国が生活に困窮す
るすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行

い,
その最低限度の生活を保障するとともに,
その自立を援助する
ことを目的とし,
保護は無差別平等に行われるものであり,
健康で
文化的な生活水準を維持することができるものでなければならず,かつ,被保護者も,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,
その最低限度の生活の維持のために活用しなければならないこ

とを基本理念としている(法1条ないし5条)。
被保護者に未申告の収入があり,
そのために支給された保護が結
果的に過支給となった場合,
当該未申告の収入を含めたあらゆるも
のがその最低限度の生活の維持のために利用されなければならないという法の理念(保護の補足性)に反することとなり,ひいては,
収入のある者とない者との間で不平等が生じ,
無差別平等に健康で
文化的な生活水準を維持するという法の理念にも反することとな
る。
したがって,その未申告分の収入は,保護の実施に要した費用
を支弁したものに返還されるべきものといわなければならない。
ところで,法63条は,「被保護者が,急迫の場合等において資

力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない」とし,本来受けるべきでなかった保護金品を得たときの返還義務を規定している。同条が急迫の場合
「等」としているのは,急迫した事由がある場合に行われる必要な保護(法4条3項参照)がされた際の返還義務のみならず,被保護
者に資力があるにもかかわらず,実施機関が調査不十分のために資力がないと誤認して保護を決定し又は過大な保護を支給した場合の返還義務についても定めた趣旨と解される。
そうすると,
被保護者に未申告の収入があり,
過支給となった保
護がある場合で,
法78条1項が適用されないときには,
法63条

を適用し,その返還を求めるべきものと解するのが相当である。
c
次に,法78条1項と法63条の適用関係について検討する。

保護の不正受給を防止
し,
生活保護制度が悪用されることを防止しようとすることにあると

解される。
そして,
同項が適用されると,
当該不正受給額の全部が必
要的に徴収される上,
その4割以下の額が制裁として徴収され得るこ
とに加え,
犯罪として懲役刑を科される可能性もあるものである。

れに対し,法63条は,「その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」の返還で足り,裁量により,
当該未申告分の収入の一部の返還で足りるものとされている。
このような法78条1項の趣旨,
同項と法63条の要件及び効果の
差異,
特に,
法78条1項の要件と刑罰法規である法85条1項本文
の構成要件とが同一文言によって規定されていることからすれば,法78条1項は,被保護者の収入未申告等の行為が,生活保護制度の悪
用と評価できる行為に当たる場合にのみ適用すべきであり,そうでない場合には,法63条を適用すべきものと解するのが相当である。そして,被保護者の収入未申告等の行為が前記のように評価できる行為に当たるかどうかは,申告等に当たり明らかに作為を加えた場合や,保護の実施機関又はその職員から申告等の不審について説明を求められたにもかかわらずこれに応じず,又は虚偽の説明を行ったような場合のように,行為そのものが持つ不正な性質が明確で,前記のとおり
の評価が直ちにできる行為がある一方,届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらずそれに応じなかった場合や,保護の実施機関の課税調査等により,当該被保護者が提出した収入申告書の内容が虚偽であることが判明したときのように,行為そのものが持つ不正な性質が明確とはいえないものについては,当該行為が行
われた際の具体的状況や,行為者の目的等の主観的事情をも判断要素として考慮に入れて,当該行為が法78条1項を適用すべき生活保護制度の悪用と評価できる行為といえるかどうかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である。
原告は,本件謝礼及び本件給与については,収入申告書に記載せず,
その申告をしなかった
し,申告に当たり原告が明らかに作為を加えた事実は認められず,申告の内容について,虚偽の説明をした事実も認められない。したがって,本件未申告は,それ自体が生活保護制度の悪用と直ちに評価できる行為であるということまではできない。そこで,本件未申告が行われた際の
具体的状況や,原告の目的等の主観的事情をも判断要素として考慮に入れて,本件未申告が法78条1項を適用すべき生活保護制度の悪用と評価できる行為といえるかどうかを客観的に判断すべきである。

以上を本件について検討する。
a
担当職員は,平成26年1月27日,原告に対し,
「保護のしおり」
を交付するとともに「生活保護制度に関する確認について」と題する書面を読んで説明し,原告は,同書面に署名・押印したものであり,これらの書面には,就労による収入のみならず,一時的なもの,少額のものも含め,
全ての収入を記入すべきことが分かりやすく記載され,
かつ,
全ての漢字にルビが振られている



また,原告が本件事務所ないし担当職員に提出していた収入申告書に
は,同様に,全ての収入を記入すべき旨の記載がある
認定



)。

そして,
本件謝礼及び本件給与が本件口座に入金されていること
(前
イ)からすれば,原告は,神戸市ないし同市A区及び本
件クラブに対して本件謝礼及び本件給与の入金先として本件口座を届
け出ていたことが認められ,少なくとも,本件申告の際には本件謝礼及び本件給与が入金された事実を容易に認識することができたというべきである。さらに,原告は,担当職員に対し,本件ボランティア及び本件労務をしていること又はこれらによって本件謝礼及び本件給与が生じることを申告することも可能であったのに,その旨の申告もし
ていないこと(原告本人22頁)が認められる。
b
原告は,①本件謝礼が「収入」に当たらないと考えており,②本件ボランティアは謝礼を目的としたものではなかったので,両者が結びつかず,本件通帳を確認することもなかったから,本件謝礼及び本件
給与が入金されたことも認識していなかったから,原告には責任がない旨の主張をする。
しかし,①本件謝礼が収入に当たることは明らかであり,これが収入に当たらないと考えていたことのみをもって,原告に責任がないとはいえず,②原告が本件謝礼及び本件給与が本件口座に入金された事
実を容易に認識することができたことは前記aのとおりであるから,原告の主張は,いずれも採用することができない。
c
の原告の病状等を考慮して
も,原告は,本件未申告当時,就労によるものに限らず,何らかの収入があれば,これを届け出るべきことを理解し,その旨認識していたところ,本件謝礼及び本件給与が本件口座に入金された事実を容易に認識することができたのに,その申告をしなかったのであるから,原
告には,本件未申告にかかる客観的事実に関する認識があったというべきである。
しかし,原告の有していた銀行口座は,本件口座以外は,担当職員の指導によって解約されていた(

本件口

7年10月6日に担当職員から説明を求められた際には,直ちに本件ボ
このように,
唯一の銀行口座を謝礼ないし給与の入金先と指定すれば,
未申告の収入があることが担当職員に発覚し,その旨指摘・質問をされる可能性が高いのであるから,原告が保護を不正に受給しようとしたの
であれば,本件謝礼及び本件給与の入金先として,本件口座を指定するとは考え難い。原告が,その病

)のため,前記のような

可能性が高いことを看過していたことも考え得るが,そうであったとしても,それのみをもって,原告に収入を隠蔽する意図があったと認めることはできない。原告が,収入申告に当たり特段の作為を加えたもので
はなく,担当職員から申告の内容等の不審について説明を求められた際に直ちに回答し,
以後,
本件通帳の写しを提出していることからすれば,
原告には,本件謝礼及び本件給与を故意に隠蔽し,保護を不正に受給しようとする意図がなかったことが認められる。

このように,本件未申告が行われた際の具体的状況や,原告の目的等の主観的事情をも判断要素として考慮すると,原告に本件未申告に関する客観的事実の認識があったとは認められるものの,これを故意に隠蔽し,保護を不正に受給する意図があったとまでは認められないから,本件未申告が,法78条1項を適用すべき生活保護制度の悪用と評価できる行為ということはできない。
よって,本件未申告については,法63条に基づく費用返還請求によって処理されるべきところ,本件各処分は,いずれも,本件未申告が「不実の申請その他不正な手段」に当たらないのにこれに当たるとして,法78条1項に基づいてされた点において,違法なものというべきである。3以上の次第で,原告の請求は,いずれも理由があるから,これを認容し,本
件各処分を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

神戸地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官

山口浩司
裁判官

武村重樹
裁判官

毛受裕介
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