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特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10092
事件名特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日平成30年3月26日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)13239
裁判要旨判決年月日 平成30年3月26日 担
当 知的財産高等裁判所 第4部

事 件 番 号 平成29年(ネ)10092号
○ 特許請求の範囲の記載,明細書の記載及び本件発明における冷却流体通路の技術的
意義を総合し,本件発明の冷却流体通路は,熱放散ブリッジの底面が冷却流体通路の全
長にわたり長手方向壁を形成していることを要する一方,後部軸受けにより形成される
長手方向壁は冷却流体通路の全長にわたる必要はないとして,被告製品がその技術的範
囲に属すると判断した事例。
(関連条文)特許法70条
(関連する権利番号等)特許第4392352号
判 決 要 旨
1 本件は,控訴人が,主位的に,被控訴人が被告製品1を製造販売等する行為は,発
明の名称を「オルタネータ,またはオルタネータ/スタータの後部に一体化された電力電
子装置を冷却する装置」とする本件発明1に係る特許権を侵害する行為であると主張して,
被控訴人に対し,特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造販売等の差止めな
どを求める事案である。
2 原判決は,被告製品1が本件発明1の技術的範囲に属するとは認められないなどと
して,控訴人の請求をいずれも棄却した。
3 本判決は,要旨次のとおり,被告製品1は,本件発明1の技術的範囲に属すると判
断し,本件発明1に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるという
ことはできないとして,原判決を取り消し,控訴人の主位的請求を認容した。
⑴ 構成要件1Gの意義
ア 特許請求の範囲の記載によれば,構成要件1Gは,熱放散ブリッジの底面が冷却流
体通路の長手方向壁を形成していること,及び,後部軸受けが冷却流体通路の他方の長手
方向壁を形成していることを意味するものと解される。一方,これらの壁が,冷却流体通
路の長手方向の全長にわたり設けられるものであるかについては,特許請求の範囲の記載
からは明らかでない。
イ 本件発明1は,冷却流体が,横方向に吸い込まれて,後部軸受けの中央スロット4
b及び4cの方に流れ,熱放散ブリッジの下方で冷却流体通路内を循環し,熱放散ブリッ
ジの底面及び冷却フィンを,それらの全長にわたって掃引した後,後部軸受けの側部スロ
ット4a及び4dを通って排出される構成とすることにより,熱放散ブリッジの上面に搭
載された電力電子回路が,冷却フィン及び熱放散ブリッジを介して,伝導によって冷却さ
れるという効果を奏するようにしたものである。そして,本件明細書1に記載された冷却
流体通路の技術的意義に鑑みると,構成要件1Gの冷却流体通路は,熱放散ブリッジの底
面により形成される長手方向壁が全長にわたって設けられることを必要とする一方,後部
-1-
軸受けにより形成される長手方向壁が全長にわたって設けられることは,必ずしも必要で
はないと解される。また,かかる解釈は,本件明細書1に記載された冷却流体通路と冷却
フィンの関係等とも整合する。
ウ 以上のとおり,特許請求の範囲の記載,本件明細書1の記載及び本件発明1におけ
る冷却流体通路の技術的意義を総合すれば,冷却流体通路は,熱放散ブリッジの底面が冷
却流体通路の全長にわたり長手方向壁を形成していることを要する一方,後部軸受けによ
り形成される長手方向壁は冷却流体通路の全長にわたる必要はないと解される。
⑵ 構成要件1Hの意義
特許請求の範囲の記載によれば,構成要件1Hは,熱放散ブリッジの底面が, 前記⑴ウ
の冷却流体通路内に配置された複数個の冷却フィンを有することを意味する。
⑶ 構成要件1G及び1Hの充足性
被告製品1の構成によれば,①ないし⑤の部分は,いずれも,本件発明1の「熱放散ブ
リッジ(16)」に相当する熱放散部材の底面によって半径方向(長手方向)の壁が形成
されており,冷却流体が,半径方向に吸い込まれて,上記⑤の開口部の方に流れ,該空気
流により上記壁を形成 する熱放散部材の底面を冷却するものであり,少なくとも③及び④
の部分は,本件発明1の「後部軸受け(4)」に相当する上側ベアリングによって,他方
の壁が形成されているものである。
したがって,①ないし⑤の部分は,全体として構成要件1Gの「冷却流体通路(17)」
に該当する。また,①ないし⑤の部分に存在する複数個の冷却フィンは,構成要件1Hの
「前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)」に該当する。
⑷ 以上のとおり,被告製品1は,構成要件1G及び1Hを充足する。また,被告製品
1がその他の 構成要件を充足することについては,当事者間に争いがない。よって,被告
製品1は本件発明1の技術的範囲に属する。
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平成30年3月26日判決言渡
平成29年(ネ)第10092号

特許権侵害差止請求控訴事件

原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第13239号
口頭弁論終結日

平成30年2月19日
判控決訴人
ヴァレオ・エキプマン・
エレクトリク・モトゥール

同訴訟代理人弁護士

北佐同被
弁理士

控訴人
同訴訟代理人弁護士

黒原志潤一原将吾川恵
三菱電機株式会社

田将貴加藤恒家泉倉谷泰孝田美保中主嗣前
同補佐人弁理士

惠大
弁理士

藤前同近山晴貴文1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,別紙物件目録1記載の製品を製造し,販売し,輸
出し,又は販売の申出をしてはならない。
3
被控訴人は,前項の製品を廃棄せよ。

4
この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

5
訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
主位的請求

主文同旨
2
予備的請求



原判決を取り消す。



被控訴人は,別紙物件目録2記載の製品を製造し,販売し,輸出し,又は販
売の申出をしてはならない。


被控訴人は,前項の製品を廃棄せよ。



仮執行宣言

第2
1
事案の概要(略称は,特に断らない限り原判決に従う。)
本件は,控訴人が,①主位的に,被控訴人が別紙物件目録1記載の製品(以
下「被告製品1」という。)を製造販売等する行為が控訴人の有する発明の名称を「オルタネータ,またはオルタネータ/スタータの後部に一体化された電力電子装置を冷却する装置」とする発明に係る特許権(352号特許権)を侵害すると主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品1の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,②予備的に,被控訴人が別紙物件目録2記載の製品(以下「被告製品2」という。)を製造販売等する行為が控訴人の有する発明の名称を「パワーモジュールおよびパワーモジュールアセンブリ」とする発明に係る特許権(714号特許権)
を侵害すると主張して,
特許法100条1項及び2項に基づき,
被告製品2の製造販売等の差止め及び廃棄を求める事案である。
原判決は,被告製品は352号特許に係る本件発明1及び714号特許に係る本件発明2の技術的範囲に属するとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,控訴人が,原判決を不服として控訴した。なお,控訴人は,当審において,差止め・廃棄の対象を別紙物件目録1及び2記載のとおり訂正するとともに,原審における上記①の請求を主位的請求とし,上記②の請求を予備的請求とした。2
前提事実

原判決7頁11行目冒頭から20行目末尾までを,以下のとおり改めるほか,原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。「ア

被告製品1は,別紙物件目録1記載の1aないし1lの構成を備えている
(以下,個別の構成をその符号に従い「構成1a」などという。)。被告製品1の上側ベアリング上面側の状態は原判決別紙被告製品写真記載写真1(被告製品写真1)のとおりであり,熱放散部材の底面側の状態は同記載写真2(被告製品写真2)のとおりである。

被告製品2は,
別紙物件目録2記載の2aないし2fの構成を備えている
(以

下,個別の構成をその符号に従い「構成2a」などという。ただし,構成2a,2c4,2d及び2fについては,後記のとおり当事者間に争いがある。)。被告製品2のパワーモジュールアセンブリ(パワーモジュールユニット)及び熱放散部材の切断面の状態は,原判決別紙被告製品写真記載写真3(被告製品写真3)のとおりである。」
3
争点

原判決「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。第3

争点に関する当事者の主張

以下のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,
原判決
「事実及び理由」
の第2の4記載のとおりであるから,これを引用する。
1
原判決9頁22行目の末尾の後に,「また,熱放散部材の底面と上記①の部
分が対向する空間では,熱放散部材の底面と上側ベアリングの間にプレートが挿入され,当該プレートによって冷却空気の流れが二分されるものの,熱放散部材の底面と上側ベアリングが対向する空間には横方向の冷却空気は流れるから,当該空間は構成要件1Gの冷却流体通路を充足する。」を付加する。
2
原判決10頁12行目の「上側ベアリングでない。」の後に,「①に関し,
熱放散部材と上側ベアリングの外表部の間に熱放散部材の底面に設置されたプレートが存在するのであるから,熱放散部材と上側ベアリングの外表部のうち熱放散部材の底面に設置されたプレートに対応する部分の上側ベアリングをそれぞれ長手方向壁とする冷却流体通路は存在しない。」を付加する。
3
原判決13頁13行目の末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「(ウ)

また,被告製品1の上側ベアリングの外表部のうち,プレートの熱放散
部材の底面側のプレートに対応する部分(原判決引用に係る9頁(ウ)①の部分)は構成要件1Gの冷却流体通路を充足しない旨の原判決の判断を前提とすると,本件発明1の構成と被告製品1は,本件発明1において,冷却フィンが熱放散ブリッジの底面と後部軸受けが対向する空間に配置されているのに対し,被告製品1においては,上側ベアリングの底面とプレートが対向する空間に配置されている点について相違することとなる。しかし,①被告製品1は本件発明1と本質的部分において共通しており,上記相違点は本件発明1の本質的部分でないこと,②本件発明1に記載された構成中の上記相違点に係る構成を被告製品1の構成と置き換えたとしても,本件発明1の目的を達成し,その作用効果を達することができること,③当業者は,熱放散部材の底面にプレートを配置し,熱放散部材の底面とプレートが対向する空間に冷却フィンを配置する構成を容易に想到し得ることから,均等の第1要件から第3要件までを満たす。そして,第4要件及び第5要件を否定する事情はないから,被告製品1は本件発明1の構成と均等なものとして,本件発明1の技術的範囲に属する。」
4
原判決15頁10行目の末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「(ウ)
5
控訴人の前記イ(ウ)の主張については争う。」

原判決17頁14行目の末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。「原判決のように,構成要件2C4において「切り抜き金属パターンとパワーモジュールの外部冷却手段が,互いに,中間に隔てるものなく直につながる構成が定められている」と解釈すると,外部冷却手段は一般に熱伝導率が高い金属で構成されるから,金属パターン同士が外部冷却手段を介してショートしてしまうことになる。パワーモジュールないしパワーモジュールアセンブリを対象とした本件発明2において,切り抜き金属パターンがショートしてパワーモジュールそれ自体に誤作動や故障が生じてしまうような構成要件2C4の解釈が不合理であることは,明らかである。」
6
原判決18頁10行目の末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「また,控訴人は,原判決の解釈によれば,金属パターン同士が外部冷却手段を介してショートしてしまうことになるから不合理な解釈である旨主張する。しかし,
714号特許では外部冷却手段の部材や形状は一切特定されていない。そして,外部冷却手段を,導電性の熱放散部材ではなく絶縁性の熱放散部材を用いたり,絶縁性の冷却液を用いた液冷構成とすれば,切り抜き金属パターンにこのような熱放散部材又は冷却液が直接接触してもショートすることはない。」
第4

当裁判所の判断

当裁判所は,被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するものと認められるから,控訴人の主位的請求を認容すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。また,事案に鑑み,控訴人の予備的請求についても判断する。1
本件発明1の意義



本件明細書1の記載

以下のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第3の1⑴及び⑵記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決23頁2行目の末尾に,「なお,本件明細書1には,原判決別紙図面
のとおり,【図2】及び【図3】が記載されている。」を付加する。イ
原判決23頁16行目の「全く残らない。」の次に,「すなわち,上記の構造では,熱放散ブリッジ及びコネクタに軸方向空気通路を貫設する必要があり,そのため,電子構成部品の配置に利用可能な空間を減少させる。」を付加する。ウ
原判決26頁21行目の末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「加えて,熱放散ブリッジ16および電力電子装置または電子回路15が,回転シャフトから距離を置いた位置にあるので,この回転シャフト2と熱放散ブリッジ16との間に,空間22が存在し,これを通って,空気が循環することもできる。この空間22は,軸方向流体流チャネルを形成している。(段落【0073】)」エ
原判決27頁2行目の末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「空間22を通るこの補助的な軸方向空気流により,機械内の空気流量全体が増加し,オルタネータの内部部品,たとえば,玉軸受け6およびアーマチュア巻線7の巻線用のリード線を,
はるかに良好に冷却することができる。
(段落
【0075】」



前記⑴の記載によれば,本件発明1の意義は,以下のとおりである。
すなわち,本件発明1は,空気又は任意の他の冷却流体が,オルタネータ/スタータの開口を通って横方向に吸い込まれ,後部軸受け(4)の中央スロット4b及び4cの方に流れ,熱放散ブリッジ(16)の下方で冷却流体通路(17)内を循環し,熱放散ブリッジ(16)の底面及び冷却フィン(18)を,それらの全長にわたって掃引した後,後部軸受け(4)の側部スロット4a及び4dを通って排出される構成とすることにより,熱放散ブリッジ(16)の上面に搭載された電力電子回路(15)が,冷却フィン(18)及び熱放散ブリッジ(16)を介して,伝導によって冷却されるという効果を奏する(【0049】【0072】)。加えて,本件発明1は,回転シャフト(2)と熱放散ブリッジ(16)との間に空間22が存在し,空気は,中央スロット23a及び23bを通って,オルタネータ/スタータ内に吸い込まれ,それから,回転シャフト(2)に沿って空間22内(軸方向流体通路)を流れ,熱放散ブリッジ(16)の下側の冷却流体通路(17)と再合流する構成とすることにより,電力電子回路(15)が,一方では冷却流体通路(17)によって横方向に,他方では,軸方向流体通路によって軸方向に冷却されるほか,軸方向を流れる冷却流体によって,機械内の冷却流体全体の流量が増加し,オルタネータの内部部品をはるかに良好に冷却することができるという効果を奏する(【0073】~【0075】)。
このように,本件発明1の意義は,熱放散ブリッジ(16)に軸方向空気通路を貫設せずに電力電子回路(15)を冷却することにより,電子構成部品の配置に利用可能な空間を十分に確保するという課題(【0024】)を達成するために,熱放散ブリッジ(16)の底面を冷却流体通路(17)の一方の壁とする構成を採用し,かつ,回転電気機械の内部部品を良好に冷却するために冷却流体全体の流量を増加させることを目的として,横方向(半径方向)の冷却流体通路(17)に加えて軸方向流体通路を併用する構成を採用した点にある。
2
争点⑴ア及びイ(構成要件1G及び1Hの充足性)


構成要件1Gの意義


特許請求の範囲の記載

構成要件1Gは,「前記底面は,冷却流体通路(17)の長手方向壁を形成し,冷却流体通路(17)の他方の長手方向壁は,前記ステータ(3)を支持している前記後部軸受け(4)により形成されている回転電気機械であって」というものである。そして,「前記底面」とは,構成要件1Fの「底面を有する熱放散ブリッジ(16)」との記載によれば,熱放散ブリッジ(16)の底面を指すものと解される。
したがって,特許請求の範囲の記載によれば,構成要件1Gは,熱放散ブリッジの底面が冷却流体通路の長手方向壁を形成していること,及び,後部軸受けが冷却流体通路の他方の長手方向壁を形成していることを意味するものと解される。一方,
これらの壁が,冷却流体通路の長手方向の全長にわたり設けられるものであるかについては,特許請求の範囲の記載からは明らかでない。

(ア)

本件明細書1の記載
前記1⑵のとおり,本件発明1の意義は,熱放散ブリッジに軸方向空気通路を貫設せずに電力電子回路を冷却することにより,電子構成部品の配置に利用可能な空間を十分に確保するという課題を達成するために,熱放散ブリッジの底面を冷却流体通路の一方の壁とする構成を採用したことなどにある。すなわち,本件発明1は,冷却流体が,横方向に吸い込まれて,後部軸受けの中央スロット4b及び4cの方に流れ,熱放散ブリッジの下方で冷却流体通路内を循環し,熱放散ブリッジの底面及び冷却フィンを,それらの全長にわたって掃引した後,後部軸受けの側部スロット4a及び4dを通って排出される構成とすることにより,熱放散ブリッジの上面に搭載された電力電子回路が,冷却フィン及び熱放散ブリッジを介して,伝導によって冷却されるという効果を奏するようにしたものである。そして,このように構成要件1Gの冷却流体通路が,熱放散ブリッジを冷却するための構成であり,同通路を流れる冷却流体が,熱放散ブリッジの底面をその全長にわたって掃引するものであることからすると,
冷却流体通路の長手方向壁のうち,
少なくとも熱放散ブリッジの底面により形成される壁は,冷却効率の観点から,冷却流体通路の全長にわたっている必要がある。
(イ)

一方,本件明細書1には,構成要件1Gの冷却流体通路が,同通路の他方
の長手方向壁を形成している後部軸受けを冷却するための構成であることは何ら記載されていない。そして,前記1⑵のとおり,本件発明1は,軸方向を流れる冷却流体によって,機械内の冷却流体全体の流量が増加し,オルタネータの内部部品をはるかに良好に冷却することができるという効果を奏するものであることからすると,後部軸受けの冷却は,冷却流体通路を通る空気によってではなく,主に,空間22を通る軸方向空気流により機械内の空気流量全体が増加することによって達成されるものであると認められる。
そうすると,
後部軸受けをもって冷却流体通路の壁を形成する構成とすることは,空気の流れを冷却流体通路に沿わせる目的を持つのみということになるため,必ずしも,
冷却通路全体にわたる必要はない。
例えば,
本件発明1の実施形態において,
後部軸受けの中央スロット4b及び4cの直上にある空気は,ファンによって後部軸受け内部に流入し,絶えず側方からの空気と入れ替わるので,その直上の熱放散ブリッジを冷却する空気流を形成することは,【図2】に示される構造から明らかであり,熱放散ブリッジを冷却するという機能に鑑みれば,中央スロット4b及び4cの部分には後部軸受けにより形成される壁はないものの,冷却流体通路に該当するといえる。
(ウ)

以上のとおり,本件明細書1に記載された冷却流体通路の技術的意義に鑑
みると,構成要件1Gの冷却流体通路は,熱放散ブリッジの底面により形成される長手方向壁が全長にわたって設けられることを必要とする一方,後部軸受けにより形成される長手方向壁が全長にわたって設けられることは,必ずしも必要ではないと解される。
また,かかる解釈は,冷却流体通路と冷却フィンとの関係とも整合する。すなわち,本件明細書1には,「この冷却手段は,通路17内に配置されて,選択された通路に冷却流体を流す。」(【0054】)との記載があり,かつ,【図2】によれば,冷却フィンが熱放散ブリッジの底面の半径方向全長にわたって配置され,後部軸受けが対向しない箇所にも存在していることが読み取れるのであるから,熱放散ブリッジと中央スロット4b及び4cとが対向する箇所は,冷却フィンが配置される箇所という観点からも,
熱放散ブリッジと後部軸受けとが対向する箇所と同様,
通路17の内部といえる。
加えて,仮に,熱放散ブリッジの底面及び後部軸受けの双方が壁をなしている部分のみが冷却流体通路に該当すると解するならば,冷却流体通路の半径方向外側の端部は,
熱放散ブリッジの外周か後部軸受けの外周のうち軸側の部分となるところ,【図2】を参照すると,後部軸受けの外周が保護カバー11に到達しておらず,後部軸受けと保護カバーとの間に隙間が存在することは明らかであるから,冷却流体通路は保護カバーと連通していないと理解される。
しかし,
本件明細書1には,
「本
発明によれば,保護カバーは,流体通路17と向き合う位置に開口19を有する。この開口は,通路17の外周と連通している。」(【0049】)として,通路17が保護カバーの開口と連通していることが記載されており,前記理解と整合しない。

以上のとおり,特許請求の範囲の記載,本件明細書1の記載及び本件発明1
における冷却流体通路の技術的意義を総合すれば,冷却流体通路は,熱放散ブリッジの底面が冷却流体通路の全長にわたり長手方向壁を形成していることを要する一方,後部軸受けにより形成される長手方向壁は冷却流体通路の全長にわたる必要はないと解される。

被控訴人の主張について

被控訴人は,
冷却流体通路とは,
熱放散ブリッジの底面を一方の長手方向壁とし,
後部軸受けを他方の長手方向壁として物理的に区画された空間のみをいうと解すべきである,本件明細書1上も,「通路」を壁があって形を把握できるものとして用い,「経路」を冷却空気が通過する道筋を指すものとして用いている(【0015】【0048】【0059】【0076】等)などと主張する。
しかし,仮に,「通路」が壁を有し形を把握できるものであるとしても,前記ウのとおり,構成要件1Gの「冷却流体通路」は,その全長に対して後部軸受けにより形成される壁を要するものではない。被控訴人が挙げる本件明細書1の上記段落にも,冷却流体通路の全長に熱放散ブリッジの底面及び後部軸受けにより形成される壁を設ける必要があることや,それをうかがわせる記載はない。したがって,被控訴人の主張は採用できない。


構成要件1Hの意義

構成要件1Hは,「前記熱放散ブリッジ(16)の底面は,前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)を有すること」というものである。そして,「前記流体通路(17)」とは,構成要件1Gの「冷却流体通路(17)」を指すものと解される。
したがって,特許請求の範囲の記載によれば,構成要件1Hは,熱放散ブリッジの底面が,冷却流体通路内に配置された複数個の冷却フィンを有することを意味するものである。また,この冷却流体通路は,熱放散ブリッジの底面により形成される長手方向壁を全長にわたって要する一方,後部軸受けにより形成される長手方向壁は必ずしも全長にわたって要するものではないと解されることについては,前記⑴ウのとおりである。


構成要件1G及び1Hの充足性の有無


被告製品1の構成

(ア)

前記第2の2(構成1g,1h,被告製品写真1及び2)のとおり,被告
製品1には,①本件発明1の「熱放散ブリッジ(16)」に相当する熱放散部材の底面に設置されたプレートと対応する部分,②上記プレートと対応せず,上側ベアリングに固定されたC字状部材で覆われた部分,③C字状部材不存在かつプレート非対応部分,④ブリッジ部,⑤プレートと対応しない開口部が存在する。また,本件発明1の「冷却フィン(18)」に相当する被告製品1の冷却フィンは,熱放散部材の底面に複数個設けられ,①及び⑤の部分に配置されている。(イ)

そして,被告製品1の構成によれば,①ないし⑤の部分は,いずれも,本
件発明1の「熱放散ブリッジ(16)」に相当する熱放散部材の底面によって半径方向(長手方向)の壁が形成されており,冷却流体が,半径方向に吸い込まれて,上記⑤の開口部の方に流れ,該空気流により上記壁を形成する熱放散部材の底面を冷却するものであり,
少なくとも③及び④の部分は,
本件発明1の
「後部軸受け
(4)

に相当する上側ベアリングによって,他方の壁が形成されているものである。したがって,
①ないし⑤の部分は,
全体として構成要件1Gの
「冷却流体通路
(1
7)」に該当する。また,①ないし⑤の部分に存在する複数個の冷却フィンは,構成要件1Hの「前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)」に該当する。
(ウ)

以上のとおり,被告製品1は,本件発明1の「熱放散ブリッジ(16)」
に相当する熱放散部材の底面が,本件発明1の「冷却流体通路(17)」に相当する前記①ないし⑤の部分の長手方向壁を形成し,①ないし⑤の部分の他方の長手方向壁は,本件発明1の「後部軸受け(4)」に相当する上側ベアリングにより形成されている回転電気機械であるといえる。よって,構成要件1Gを充足する。また,被告製品1は,本件発明1の「熱放散ブリッジ(16)」に相当する熱放散部材の底面が,本件発明1の「前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)」に相当する,前記①ないし⑤の部分内に配置された複数個の冷却フィンを有するといえるため,構成要件1Hを充足する。

(ア)

被控訴人の主張について
被控訴人は,前記①の部分に関し,被告製品1の熱放散部材の底面に対向
しているのは熱放散部材底面側のプレートであり,本件発明1の後部軸受けに相当する上側ベアリングではない旨主張する。
しかし,①の部分においても,熱放散部材の底面と上側ベアリングが対向する空間に,冷却流体が半径方向に流れ,該空気流により上記壁を形成する熱放散部材の底面を冷却するものであることからすると,①の部分は,構成要件1Gの「冷却流体通路」に該当するものといえる。上記プレートによって冷却空気の流れが二分されることは,上記認定を左右するものではない。
(イ)

被控訴人は,前記②の部分に関し,被告製品1の熱放散部材の底面に対向
しているのは,C字状部材であって,本件発明1の後部軸受けに相当する上側ベアリングでない,また,上側ベアリングに電気絶縁材料の層が固定された構成であれば,それを冷却流体通路の長手方向壁を構成する「後部軸受け(4)」ということができるが,C字状部材は,絶縁するためのものでないから,②の部分は構成要件1Gの「冷却流体通路」に当たらない旨主張する。
しかし,後部軸受けをもって冷却流体通路の壁を形成する構成とすることは,空気の流れを冷却流体通路に沿わせる目的を持つのみであり,後部軸受けにより形成される長手方向壁が全長にわたって設けられることは,必ずしも必要とされるものでないことについては,前記⑴のとおりである。また,本件明細書1には,熱放散ブリッジの底面と後部軸受けとの間に,これらの2つの部品間の電気接触の危険性を排除する電気絶縁材料の層を有してもよく,この絶縁材料層は後部軸受けの外面に固定され,冷却流体が通過できるように後部軸受けのスロットと向き合った空気通路スロットを有するのが好ましいとの記載がある(【0094】)。そして,特許請求の範囲の記載上も,「後部軸受け」の上に,これに固定した部材が存在する構成とすることは,除かれていない。したがって,上側ベアリングがこれに固定されたC字状部材に覆われていることは,
②の部分が構成要件1Gの
「冷却流体通路」
に該当するとの認定を左右するものではない。
(ウ)

被控訴人は,前記③及び④の部分は,被告製品1の冷却のためには無意味
な構造である上,横方向の空気が流れないから,本件発明1の作用効果と無関係である旨主張する。
しかし,③及び④の部分においても,熱放散部材の底面と上側ベアリングが対向する空間に,冷却流体が半径方向に流れ,該空気流により上記壁を形成する熱放散部材の底面を冷却するものであることからすると,
構成要件1Gの
「冷却流体通路」
に該当するものといえることについては,前記アのとおりである。(エ)

被控訴人は,前記⑤の部分に関し,被告製品1の熱放散部材の底面に対向
しているのは開口部であって,本件発明1の後部軸受けに相当する上側ベアリングではないから,⑤は構成要件1Gの「冷却流体通路」に当たらない旨主張する。しかし,構成要件1Gの「冷却流体通路」とは,熱放散ブリッジの底面により形成される長手方向壁を全長にわたって要する一方,後部軸受けにより形成される長手方向壁は必ずしも全長にわたって要するものではないと解されることについては,前記⑴ウのとおりである。また,被告製品1の構成によれば,⑤の開口部は,本件発明1の実施形態における中央スロット4b及び4cと同様に,半径方向内向きに流れてきた空気を上側ベアリング内に引き込むものであるから,⑤の部分においても空気流は存在し,該空気流により⑤の部分の壁を形成する熱放散部材の底面が冷却されることは明らかである。したがって,⑤の部分は,構成要件1Gの「冷却流体通路」に該当する。


小括

以上のとおり,被告製品1は,構成要件1G及び1Hを充足する。また,被告製品1が構成要件1Aないし1F及び1Iないし1Lを充足することについては,当事者間に争いがない。
よって,被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するというべきである。3
争点⑵(本件発明1に係る特許の無効理由の有無)


乙1文献について


乙1文献の記載

乙1文献(乙1)には,おおむね以下の記載がある。また,乙1文献には,別紙引用例図表目録記載のとおり,【図1】及び【図5】が記載されている。(ア)

技術分野

乙1発明は,車輌用交流発電機であって,耐環境性及び高冷却性の向上を図れる該交流発電機の構造に関する。(【0001】)
(イ)

従来技術と課題

【図5】に示されるような従来の車輌用交流発電機では,電気部品内部に風を流すことによって必然的に同経路に水が侵入することになり,また,電気部品の冷却フィンが通風抵抗となり全体的な風量減少を招くという問題があった。(【0002】【0003】【図5】)
(ウ)

発明が解決しようとする課題

乙1発明は,上記問題点に鑑み,電気部品内部への通風をなくし通風抵抗減少による風量増加,電気部品内部への被水の抑制を図り耐環境性,高冷却性を確保することを目的とする。(【0004】)
(エ)

課題を解決するための手段

乙1発明は,前記(イ)の問題点を解決するために,冷却風の通路中に配置される冷却フィンにより,少なくとも壁の一部が形成され,かつ前記冷却風が導入されない部屋を設け,この部屋内に配置される電気部品と前記冷却フィンとを熱的に接続する。前記冷却フィンは,第1の整流子と熱的に及び電気的に接続される第1の冷却フィンと,第2の整流子と熱的に及び電気的に接続される第2の冷却フィンとで構成され,これらの第1,第2の冷却フィンは絶縁シートにより電気的に絶縁されている。さらに前記第2の冷却フィンの外表面には複数の放熱リブが設けられ,かつ電圧調整器放熱フィンが突出している。前記第2の冷却フィン外表面と前記フレームとの間に冷却風通風路が確保された構造にする。(【0005】)(オ)

作用及び発明の効果

乙1発明によれば,電気部品,例えば整流素子,電圧調整装置,ブラシ装置等を冷却風の通風がない部屋に配置することにより,
通風経路からの浸水を防止できる。
また,該部屋の壁の一部を冷却フィンとし,この冷却フィンを通風路中に配置するとともに,冷却フィンと電気部品を熱的に接続することにより電気部品の冷却が行われる。そして,前記第2の冷却フィンの外表面には複数の放熱リブを設け,かつ電圧調整器放熱フィンを突出させることで熱の除去の効率が図れる。加えて,冷却フィン外表面と前記フレームとの間に冷却風通風路を形成し,冷却通風路の構造を滑らかにすることにより通風抵抗が低減できる。(【0006】【0013】)(カ)

実施例

【図1】は,乙1発明の実施例に係る車輌用交流発電機の全体を示す断面図である。車輌用交流発電機の本体は発電機外殻をなす一対のドライブフレーム1とリアフレーム2とを具備し,
フレーム1及び2の内周にはステータ3が固定されている。
このステータ3内に設けられたロータ4は前記一対のフレームの外部でエンジンにより回転力を受けるプーリ7と結合するシャフトを介して動力を得て起電力を発生する。(【0007】)
フレーム1及び2により形成された外枠のプーリ7側と反対側には前記ロータ4に駆動電流を供給するブラシ装置12,電圧調整器13,整流器が設けられる。前記整流器は正側整流素子15及び負側整流素子16からなり,これらは整流器端子台17に設けられる。該整流器端子台17は第1の冷却フィン8上に設けられ,該第1の冷却フィン8に熱伝導性が良い絶縁シート9を介して第2の冷却フィン10が設けられ,接地される。前記整流素子15,16,電圧調整器13,ブラシ装置12は第2の冷却フィン10とリアカバー11により取り囲まれた密閉構造の部屋に配置される。さらに第2の冷却フィン10はリアベアリング6後方にインロー部23にて連結されており,本体との間には通風路が確保されている。(【0008】【0009】)
図4は第2の冷却フィンの外表面の構造を示す図である。本図に示すように,第2の冷却フィンの外表面には,突出した複数の放熱用のリブからなる第2の冷却フィン放熱リブ18と,電圧調整器放熱フィン取り出し穴21と,突出した電圧調整器放熱フィン26が設けられている。(【0010】)
上記構成により正側整流素子15で発熱した熱は第1の冷却フィンに伝達され,絶縁シート9を経て第2の冷却フィン10に伝達される。また負側整流素子16で発熱した熱は第2の冷却フィン10に伝達される。したがって第2の冷却フィン10と発電機本体との間に設けられた通風路を冷却風アが流れることにより第2の冷却フィン10及び第2の冷却フィン外表面に突出した電圧調整器放熱フィン26が冷却され各発熱体の温度上昇を抑える。また,電気部品内部への通風がないことで通風抵抗減少による風量増から高冷却性を得ることができ,また電気部品内部への被水の抑制から耐環境性向上を期待できる。(【0011】)
図1に示すリアフレーム2のリアベアリング6の近く明けられた窓から入った冷却風アはリアベアリング6を冷却し,さらにフレーム内に導入され,ステータ3を冷却しリアフレーム2に明けられた窓から熱風イとなり外部に吐出される。(【0012】)

前記アの記載によれば,乙1文献には,①車輌用交流発電機であって(【0
007】),②半径方向に開けられた窓(冷却風排出用窓)を有するリアフレーム2と(【0012】),③リアフレーム2によって支持されたシャフト上に中心が位置して固定されたロータ4と(【0007】),④ロータ4を取り囲み,車輌用交流発電機の相を構成する巻線を有するステータ3と(【0007】),⑤ステータ3の巻線に接続された整流器と(【0009】),⑥整流器を搭載した上面と,当該上面と反対側でリアフレーム2の方を向く底面を有する第2の冷却フィン10とを備えていて(【0009】),⑦第2の冷却フィン10の底面は,冷却風通風路の長手方向壁を形成し,冷却風通風路の他方の長手方向壁はステータ3を支持しているリアフレーム2により形成されている車輌用交流発電機であって(【0009】【0011】~【0013】),⑧第2の冷却フィン10の底面は冷却風通風路内に配置された複数の放熱リブ18を有し(【0010】【0013】),⑨第2の冷却フィン10は,その4か所をボルト14及び台座によってリアフレーム2に固定された(
【0008】【0010】),⑩車輌用交流発電機(【0007】),⑪ロータ4のシャフトと第2の冷却フィン10の間に空間が存在するが,当該空間には軸方向流体通路が形成されていないという構成を有する発明(以下「乙1’発明」という。)が開示されていると認められる。


本件発明1と乙1’発明との対比

本件発明1と乙1’発明との一致点及び相違点は,以下のとおりであると認められる。

一致点

乙1’発明における前記⑴イ①ないし⑩は,それぞれ,本件発明1における構成要件1Aないし1I及び1Kに対応する構成である。したがって,これらの点について,本件発明1と乙1’発明とは一致する。

相違点1

本件発明1は,前記ロータ(3)の回転シャフト(2)と熱放散ブリッジ(16)の間に,軸方向流体通路を形成する少なくとも1つの空間が設けられているのに対し,
乙1’
発明はそのような空間が設けられていない点
(当事者間に争いがない。。


相違点2

本件発明1は,
前記熱放散ブリッジ
(16)
に固定された複数個の冷却フィン
(1
8)の全ての軸方向端部は,後部軸受け(4)から所定の間隔を置いた位置にあるのに対し,乙1’発明の放熱リブ18の全ての軸方向端部がリアフレーム2から所定の間隔を置いた位置にあるかは明らかでない点。


相違点1の容易想到性


前記⑴のとおり,乙1’発明は,従来の車輌用交流発電機が,電気部品を覆
うリアカバーに開けられた吸入窓から外部の冷却風が軸方向に吸入される内部通風により当該電気部品の冷却を行っていたところ,電気部品内部への水の浸入及び冷却フィンが通風抵抗となって風量が減少するという問題があったことから,この課題を解決するために,リアカバーに冷却風を吸入する窓を設けない構成とすることにより,通風抵抗の減少による風量の増加,電気部品内部への被水の抑制を図り,耐環境性,
高冷却性を確保したものである【0003】

【0005】
【0006】。

一方,引用文献1には,熱放散ブリッジに軸方向空気通路を貫設した場合には,電子構成部品の配置に利用可能な空間を十分に確保できないという問題があることや,この問題を解決するために,熱放散ブリッジの底面を冷却流体通路の一方の壁とする構成が有効であること,さらに,半径方向(長手方向)の冷却流体通路に加えて軸方向流体通路を併用することにより,回転電気機械の内部部品を良好に冷却するために冷却流体全体の流量を増加させることができることについての記載はなく,これらを示唆する記載もない。

被控訴人は,回転シャフトと熱放散ブリッジとの間に軸方向流体通路を形成
する少なくとも1つの空間を設けること(乙2,乙6,本件明細書1記載の従来技術)
及び半径方向の冷却風通路に加えて軸方向の冷却風通路を併用すること(乙3,
乙6)が352号特許出願時に当業者にとって周知であったから,当業者は,乙1発明における半径方向の冷却風通風路に加えて軸方向の冷却風通風路を設けることを容易に選択することができ,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到できた旨主張する。
乙2の記載(3頁右上欄10行~左下欄1行,図面)及び乙6の記載(9頁16~18行,10頁3~5行,9~14行,【図1】)によれば,「電子部品の冷却を目的として,回転シャフトと熱放散ブリッジの間に,電子部品に連通する軸方向流体通路を形成する空間を設ける」という技術的事項が,352号特許の出願当時に開示されていたと認められる。そして,本件明細書1にも,従来型のオルタネータとして,
「電子部品の冷却を目的として,
回転シャフトと熱放散ブリッジの間に,
電子部品に連通する軸方向流体通路を形成する空間を設ける」構成が記載されている(【0004】【0013】【0015】【図1】)。また,乙3の記載(2頁左下欄7行~右下欄3行,3頁左上欄17行~右上欄3行,第2図)及び乙6の記載(12頁11~16行,26行~13頁3行,【図7】)によれば,「半径方向の冷却風通路に加えて軸方向の冷却風通路を併用する」という技術的事項が,352号特許の出願当時に開示されていたと認められる。
しかし,上記の乙2及び乙6記載の技術並びに本件明細書1記載の従来技術は,いずれも,軸方向の冷却風通路が電子部品に連通するものであり,同通路の開口部からの被水を防ぐ構成ではないため,これを,電気部品内部への水の浸入を防ぐことを目的とする乙1’発明に適用することには,動機付けがなく,むしろ阻害要因が存在する。このように,乙2,乙6及び本件明細書1に記載されている従来技術は,仮にこれが周知技術であったとしても,これを引用発明に適用することには動機付けがなく,むしろ阻害要因が存在する。
また,乙3及び乙6には,いずれも,半径方向の冷却風通路に加えて軸方向の冷却風通路を併用することが開示されているものの,同技術は,回転シャフトと熱放散ブリッジの間に軸方向流体通路を形成する空間を設けるものではない。したがって,仮に,乙1’発明に上記技術を適用し得たとしても,相違点1に係る本件発明1の構成に至るものではない。

以上のとおり,乙1’発明に基づき相違点1に係る本件発明1の構成を容易
に想到できたということはできない。


小括
以上によれば,本件発明1に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるということはできない。
4
本件発明2の意義



本件明細書2の記載

原判決
「事実及び理由」
の第3の2⑴記載のとおりであるから,
これを引用する。


前記⑴の記載によれば,本件発明2の意義は,以下のとおりである。
すなわち,本件発明2は,切り抜き金属パターンとパワー電子部品のほかにパワーモジュールの結合を行う電気絶縁材を含む,いわゆる一体型のパワーモジュールにつき,冷却面の少なくとも一部が切り抜き金属パターンを含み,その切り抜き金属パターンと外部冷却手段とが直接接する構成とすることにより,切り抜き金属パターンと冷却手段との間の熱の経路を著しく短縮し,製造コストが安く,外部冷却手段により有効な冷却が可能とする効果を奏する(【0009】【0010】)。このように,本件発明2の意義は,パワー電子部品とパワーモジュールの外部冷却手段との間の熱の経路が長いという課題(【0007】)を解決するために,切り抜き金属パターンと冷却手段との間に絶縁層及び放熱層がないようにして,熱の経路を著しく短縮し,製造コストが安く,外部冷却手段により有効な冷却が可能とすることにある。
5
争点⑵エ(構成要件2C4の充足性)について



構成要件2C4の意義


特許請求の範囲の記載

構成要件2C4は,パワーモジュールが備える冷却面(28)について,「当該モジュールの外部冷却手段と直接接するように構成され且つ少なくとも一部が前記切り抜き金属パターンを含む」というものである。

本件明細書2の記載

前記4⑵のとおり,本件明細書2の記載によれば,本件発明2の意義は,パワー電子部品とパワーモジュールの外部冷却手段との間の熱の経路が長いという課題を解決するために,切り抜き金属パターンと冷却手段との間に絶縁層及び放熱層がないようにして,熱の経路を著しく短縮し,製造コストが安く,外部冷却手段により有効な冷却が可能とすることにある。そして,少なくとも一部が切り抜き金属パターンを含む冷却面と外部冷却手段とが,絶縁層及び放熱層のみならず,他のいかなる物も介すことなく接する構成とすることは,熱の経路を著しく短縮し,製造コストが安く,外部冷却手段による有効な冷却を可能とするという,本件発明2の目的にかなうものである。
他方,本件明細書2において,外部冷却手段と切り抜き金属パターンとが,絶縁層及び放熱層以外の物を介して接する構成とすることも可能であり,かかる構成によっても本件発明2と同様の効果を奏することなどの記載はない。ウ
以上のとおり,本件明細書2に記載された,パワーモジュールの冷却面が当
該モジュールの外部冷却手段と直接接するように構成することの技術的意義に鑑みると,構成要件2C4の「当該モジュールの外部冷却手段と直接接する」とは,パワーモジュールの冷却面と外部冷却手段との間にいかなる物も介在しない構成を意味するものと解される。また,かかる解釈は,「直接」という用語の一般的意義が「中間に隔てるものがなく,じかに接すること。」であり(広辞苑第6版),「接する」という用語の一般的意義が「互いに隔てなくつながる」(広辞苑第6版),「二つの物が間をおかずに隣り合う」(大辞林第3版)であることとも整合する。⑵

控訴人の主張について


控訴人は,構成要件2C4の「直接接する」は,「切り抜き金属パターンを
含む冷却面(28)」と「外部冷却手段」との間の熱伝達経路が短縮されるようにパワーモジュールの底面において切り抜き金属パターンが露出している構造を意味する旨主張する。
しかし,
構成要件2C4の
「当該モジュールの外部冷却手段と直接接する」
とは,
パワーモジュールの冷却面と外部冷却手段との間にいかなる物も介在しない構成を意味するものと解されることについては,前記⑴ウのとおりであり,控訴人の上記主張は採用できない。

控訴人は,被告製品2における切り抜き金属パターンと熱放散部材の間に樹
脂の層があっても,少なくとも樹脂スペーサーが設けられていない部分において切り抜き金属パターンが露出しており,当該層は上記冷却面と熱放散部材との間に存在する空気を排して熱伝導率を高め,両者の熱的接触をもたらすから物理的に直接接している旨主張する。
しかし,本件発明2は,従前の構成においても熱的接触があったことを前提として,それでは熱の経路が長くなるという課題を解決するために,切り抜き金属パターンと外部冷却手段とが直接接するという構成を採用したものである。このような本件発明2の課題とその解決手段に照らせば,控訴人の上記主張は採用できない。ウ
控訴人は,原判決のように構成要件2C4を解釈すると,外部冷却手段は一
般に熱伝導率が高い金属で構成されるから,金属パターン同士がショートしてしまうので不合理である旨主張する。
しかし,外部冷却手段が何らかの手法で絶縁されたものであるならば,外部冷却手段と切り抜き金属パターンとの接触は文字通り直接接する態様でも,控訴人の主張するような問題を生じないことは明らかである。したがって,控訴人の上記主張は採用できない。


構成要件2C4の充足性について

前記第2の2(構成2d,被告製品写真3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2の熱放散部材が「パワーモジュールの外部冷却手段」に相当すること,被告製品2においては,パワーモジュール底面の切り抜き金属パターンの周縁部に,同パターンより突出する樹脂である樹脂スペーサーが複数個設置されていること,切り抜き金属パターンと熱放散部材が離れた部分に,被控訴人がショートによる誤作動等を防ぐための絶縁層兼接着層である旨主張する樹脂が充填されていることが認められる。
このように,被告製品2では,切り抜き金属パターンと熱放散部材とが直接接することができないよう,絶縁層兼接着剤層及び樹脂スペーサーが配置されているものであるから,被告製品2は,構成要件2C4を充足しない。


小括

以上のとおり,被告製品2は,構成要件2C4を充足しない(控訴人は,この点についての均等侵害を主張しないし,被告製品2のその余の構成についても立証しない。)。よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品2は,本件発明2の技術的範囲に属すると認めることはできない。
6
結論

以上のとおり,
被告製品1は,
本件発明1の技術的範囲に属するものと認められ,
特許無効審判により無効にされるべきものとはいえない。したがって,352号特許権に基づき,特許法100条1項及び2項により,被告製品1の製造,販売,輸出及び販売の申出の差止め並びに被告製品1の廃棄を求める控訴人の主位的請求は理由がある。
控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は,
取消しを免れない。
なお,
被告製品1の廃棄については,仮執行の宣言は相当ではないので,これを付さないこととする。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

髙部
裁判官

山門
裁判官

関根眞規子優澄子
別紙
物件目録1

モータジェネレータ
ただし,以下の構成1aないし1lを備えたもの

1a

モータジェネレータであって,

1b

半径方向の複数の冷却空気排出開口を有している上側ベアリングと,
1c

上側ベアリングによって支持された回転シャフト上に中心が位置して固定
されたロータと,
1d

ロータを取り囲み,モータジェネレータの相を構成する巻線を有するアー
マチュア巻線を含むステータと,
1e

ステータ相の巻線に接続された電力電子回路と,

1f

電力電子回路を搭載した上面と,上面と反対側で上側ベアリングの方を向
く底面を有する熱放散部材と,を備えていて,
1g

上側ベアリングの上面は,回転シャフトが挿通する軸受部,その周囲を取
り囲む開口部,開口部の外側に位置する周縁部及び周縁部と軸受け部を架橋するブリッジ部を含み,周縁部の約3分の2を占める部分は上側ベアリングに固定されたC字状部材に覆われている。熱放散部材の底面側には,該上面の周縁部の前記C字状部材に覆われていない部分に対向してプレートが設けられているが,C字状部材不存在かつプレート非対応部分(C字状部材に覆われておらず,かつ,プレートに対応していない部分をいう。以下同じ。)が該上面の周縁部の全周の約140分の1に存在し,当該部分の円周方向の最短直線距離,すなわち,プレートを該上面に投影した領域とC字状部材との最短直線距離は,約2.4mmである。該上面の周縁部の前記約3分の2を占める部分においては冷却空気通路の一方の壁は熱放散部材の底面によって直接構成され他方の壁はC字状部材によって直接構成されており,該上面の周縁部の残りの約3分の1を占める部分においては冷却空気通路の一方の壁は熱放散部材の底面によって直接構成され,他方の壁はプレートによって直接構成されている,また,C字状部材不存在かつプレート非対応部分及びブリッジ部においては冷却空気通路の一方の壁は熱放散部材の底面によって直接構成され,他方の壁は上側ベアリングによって直接構成されていること,
1h

熱放散部材の底面には複数の冷却フィンが設けられ,冷却フィンの一部は
熱放散部材に設けられた前記プレートと熱放散部材の底面に挟まれる空間に存在し,それ以外の冷却フィンは上側ベアリングの開口部と熱放散部材の底面のうち上側ベアリングの開口部と厳密に対向している部分によって挟まれる空間にのみ存在しており,上側ベアリングの周縁部及びブリッジ部と熱放散部材の底面のうちそれらと厳密に対向している部分によって挟まれる空間には冷却フィンは存在しないこと,1i

熱放散部材は複数のスタッドによって上側ベアリングに固定されているこ
と,
1j

熱放散部材に固定された複数の冷却フィンの全ての軸方向端部は,上側ベ
アリングから所定の間隔を置いた位置にあること,を特徴とする,1k

モータジェネレータであり,さらに,

1l

ロータの回転シャフトと熱放散部材との間に,軸方向の空気通路を形成す
る空間が設けられていることを特徴とする。

別紙
物件目録2

モータジェネレータ
ただし,以下の構成2aないし2fを備えたもの

2a

複数のパワーモジュールを含んでいるパワーモジュールアセンブリであっ
て,
2b

各パワーモジュールは一体化されており,

2c

各パワーモジュールが,

2c1

切り抜き金属パターンと,

2c2

切り抜き金属パターンに接続される複数のパワー電子部品と,

2c3

パワーモジュールの結合を行う第1の樹脂と,

2c4

パワーモジュールの外部に位置する熱放散部材と直接接する切り抜き金
属パターンを含む冷却面と,
2c5

切り抜き金属パターンをパワーモジュールの外部金属端子に接続するリ
ード部とを有しており,
2d

パワーモジュールアセンブリが,パワーモジュールを収容する枠体を有し
ており,当該枠体の内側に,各パワーモジュールの冷却面を含む切り抜き金属パターン及び切り抜き部分(隙間)に充填された第1の樹脂からなる複合底が位置しており,
2e

各パワーモジュールにおいて,第1の樹脂が,切り抜き金属パターン及び
パワー電子部品の周囲に一体成形されるブロックを形成する,
2f

パワーモジュールアセンブリ。

別紙
引用例図表目録

乙1文献
【図5】

【図1】

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