判例検索β > 平成29年(ネ)第10071号
特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10071
事件名特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日平成30年3月22日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)1777
裁判要旨判決年月日 平成30年3月22日 担
当 知的財産高等裁判所 第3部

事 件 番 号 平成29年(ネ)10071号
○ 名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」とする発明
に係る特許権侵害を理由とする差止・廃棄・損害賠償請求の事案において,特許権者
の請求を一部認容した原判決につき,一部製品の販売行為につき消滅時効の成立を認
め,損害賠償額を減額した事例
(関連条文)民法 709 条,724 条
(関連する権利番号等)特許第 3966527 号
判 決 要 旨
被控訴人は,名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」とす
る発明に係る本件特許(特許第 3966527 号)の特許権者であり,控訴人は,海苔機械等の漁業
用機械等の販売等を目的とする株式会社である。被控訴人は,控訴人ほか 1 名に対し,そ
の販売する他社製 の生 海苔異物除去機 及 びそ の部品等 (本件装置)の 譲渡等の差止め及 び廃
棄とともに,損害賠償を求めた。
控訴人との関係における本件の争点は,構成要件の充足性,無効の抗弁,差止請求の可
否,損害発生の有無及び額である。このうち,原判決は,構成要件の充足を認め,無効の
抗弁をいずれも退けた上で,差止請求については一部を認容し,損害賠償請求についても
一部認容したが,控訴人の主張する消 滅時効については成立を認めなかった。 なお,控訴
人は,訴え提起の日(平成 28 年 1 月 22 日)から 3 年前の平成 25 年 1 月 22 日以前の本件装
置の販売分の損害賠償債務につき消滅時効を主張している。
これに対し,控訴人はその敗訴部分を不服として控訴した。
本判決は, 大要以下のとおり 判示して,本件装置の一部の販売行為につき消滅時効の成
立を認め,損害賠償額を減額したが,その余の控訴は棄却した。
① 被控訴人が控訴人による 本件装置の 販売事実を知った時期について, 控訴人の広告の
記載等を通じて控訴人が本件装置を販売している事実を 知り得る状況にあったこと,本件
装置の製造販売業者と被控訴人とが生海苔異物除去機の製造販売につき競合関係にあった
こと,複数年にわたり控訴人が本件装置の販売を取り扱っていたことなどを考え合わせる
と,被控訴人は,特定の取引に関する詳細な情報は得られないまでも,遅くとも平成 22 年
8 月頃までには控訴人による本件装置の販売事実を具体的に認識していたと推認するのが
合理的である。
② 本件装置が本件特許発明の技術的範囲に属することを被控訴人が認識した時期につい
て,本件装置の製造業者を相手方とする別の特許権に係る侵害訴訟の内 容及び経過,本件
装置に関する証拠収集活動の内容及び時期,本件装置製造業者との訴訟外での示談交渉の
-1-
経過等の事実経過を踏まえると,遅くとも平成 24 年 2 月頃(なお,その後販売された本件
装置の一部の型式についてはその販売開始時期頃)までには,本件装置が本件特許発明の技
術的範囲に属することを認識したというべきである。
-2-
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平成30年3月22日判決言渡
平成29年(ネ)第10071号

特許権侵害差止等請求控訴事件(原審

東京地

方裁判所平成28年(ワ)第1777号)
口頭弁論終結の日

平成30年2月20日

当事者の表示


別紙当事者目録記載のとおり
主1文
原判決主文第9項及び第10項中控訴人に対する金銭請求に関する部分を次のとおり変更する。
(1)

控訴人は,被控訴人に対し,5152万3905円及びうち3

336万2925円に対する平成27年10月28日から,うち
1816万0980円に対する平成28年12月18日から,各
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)

被控訴人のその余の請求を棄却する。

2
控訴人のその余の控訴を棄却する。

3
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その3を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

4
この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

2
上記取消部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

第2
1
事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
本件は,その名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」とする発明に係る特許権(「本件特許権」又は「本件特許」)を有する被控訴人が,①原判決別紙物件目録1記載の生海苔異物除去機(本件装
置(WK型))及び同目録2記載の生海苔異物除去機(本件装置(LS型))が本件各発明(本件発明1,3及び4を併せたもの)の技術的範囲に属する,②同目録4記載の固定リング(本件固定リング)及び同目録5記載の板状部材又はステンチップ(本件板状部材)は本件旧装置(本件装置(WK型)と本件装置(LS型)を併せたもの)の「生産にのみ用いる物」(特許法(以下「法」という。)101条1号)に当たる,③同目録3記載の生海苔異物除去機(本件新装置)は本件発明3の技術的範囲に属する,④同目録6記載の回転円板(本件回転円板)は本件新装置の「生産にのみ用いる物」(同号)に当たる,⑤原判決別紙メンテナンス行為目録1~3の各行為(本件各メンテナンス行為)のうち本件メンテナンス行為1及び2は本件旧装置又は本件新装置の「生産」(同法2条3項1号)に当たり,本件メンテナンス行為3はこれらと一体として行われている,などと主張して,控訴人に対し,以下の各請求をした事案である。
(1)

差止請求
法100条1項に基づき,本件旧装置,本件固定リング及び本件板状部材(併せて「本件製品1」)並びに本件新装置及び本件回転円板(併せて「本件製品2」)の譲渡,貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止め。

イ(ア)
(イ)

同条1項に基づき,本件メンテナンス行為1及び2の差止め。
主位的に同条2項に基づき,予備的に同条1項に基づき,本件メン
テナンス行為3の差止め。
(2)

廃棄請求
法100条2項に基づき,本件製品1及び2の各廃棄。

(3)

損害賠償請求
主位的請求
民法709条,719条に基づき,田中保と連帯して,法102条に
基づく損害額1億5953万2235円及び弁護士費用相当額の内金846万7765円(合計1億6800万円)並びにうち1億4045万1960円に対する同内金に係る不法行為後の日(控訴人に対する催告の日の翌日)である平成27年10月28日から,うち2754万8040円に対する同内金に係る不法行為後の日(最終の販売日の翌日)である平成28年12月18日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払。

予備的請求
民法709条に基づき,上記金額の支払。

2
原判決は,上記各請求のうち,上記(1)ア,イ(ア)及び(2)を全部認容し,上記(3)イを一部認容し,その余を棄却した。
控訴人は,原判決中その敗訴部分を不服として控訴した。

3
前提事実
前提事実は,以下のとおり付加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」「第2

事案の概要」「2

前提事実」(原判決5頁1行目~10頁18行目)

に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決8頁15行目の「それゆえ,」の後に,「本件板状部材は,」を
加える。
(2)

原判決9頁6行目及び7行目の各「本件固定リング」を,いずれも「本
件新固定リング」に改める。
(3)

原判決9頁14行目末尾に,以下のとおり加える。

「控訴人による本件旧装置の具体的な販売状況は原判決別紙販売利益等一覧表1~5各記載のとおりであり,また,本件各部品の具体的な販売状況は原判決別紙販売利益等一覧表(本件固定リング)及び同一覧表(本件板状部材)各記載のとおりである。ただし,賠償されるべき損害の有無ないし額については,当事者間に争いがある。」

(4)

原判決9頁17行目末尾に,以下のとおり加える。

「控訴人による本件新装置の具体的な販売状況は原判決別紙販売利益等一覧表6及び7各記載のとおりである。ただし,賠償されるべき損害の有無ないし額については,当事者間に争いがある。また,本件回転円板については,控訴人による販売の事実は当事者間に争いがないが,その販売利益の有無ないし額については当事者間に争いがある。」
4
争点及び争点に対する当事者の主張
本件における当事者の主張は,以下のとおり訂正,付加するとともに後記5のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」「第2

事案の概要」「3

及び「4

争点」(原判決10頁19行目~11頁3行目)

争点に関する当事者の主張」(原判決11頁4行目~41頁8行目)
に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決13頁26行目の「形成されている」を,「形成されていると」
に改める。
(2)

原判決15頁22行目の「特許法36条4項」の後に,「(以下,同項
についてはいずれも改正前のものを示す。)」を加える。
(3)

原判決24頁5行目の「有限会社」の後に,「(以下「西部機販」とい
う。)」を加える。
(4)

原判決26頁22行目の「公衆に対して頒布によって公開を目的として」
を,「公衆に対する頒布による公開を目的として」に改める。
5
当審における補充主張
(1)

争点(1)(本件新装置が本件発明3の技術的範囲に属するか)について
(控訴人の主張)

原判決は,争点(1)に関し,「本件新装置の凸部Dは,凹部Eの間に形成されており,凹部Eの底面部3b2から円周方向に部分的に突き出ており,構成要件B’1の突起物に相当する。」旨の判断をしている。
しかし,この判示は,以下の点で事実認定を誤ったものであり,この誤りは本件新装置が本件発明3の技術的範囲に属するか否かに影響する。イ
認定の誤り1
原判決は,凹凸部の凸部である凸部Dは構成要件B’1の突起物に相当しないとする控訴人の主張に対し,構成要件B’1に凹凸の記載がないからといって,凹凸であれば直ちに「突起・板体の突起物」に該当しないということにはならず,その構成が「突起」に該当する場合には,たとえ凹凸の概念に含まれるものであっても,「突起・板体の突起物」に該当する旨判示した。
その一方で,原判決は,控訴人が,「突起・板体の突起物」に該当する凹凸部の構成は「凹凸部の長手方向が環状隙間における生海苔の移動方向に貫通するものであること」を要すると主張したのに対し,構成要件B’1には「突起・板体の突起物」としか記載されていないのであるから,これに相当する「凹凸部」がどのような構成であるのかを主張すること自体失当である,とも判示した。
上記前者の判示部分は,凹凸には,その構成が「突起」に該当する場合と該当しない場合とが存在するとするものであるにもかかわらず,後者の判示部分はこれを反故にするものであり,両者は明らかに矛盾する。したがって,原判決には,凹部Eの間に形成されている凸部Dが構成要件B’1の突起物に相当するとした判断の基準が明示されていない点で認定の誤りがある。


認定の誤り2
本件発明3において,構成要件B’1の「突起・板体の突起物」は,構成要件A3の「この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を限定する構成要素であることから,発明の目的である防止効果及び矯正効果を備えることが必須であるにもかかわらず,原判決は,
構成要件B’1には防止効果及び矯正効果によって共回りの発生及びクリアランスの目詰まりをなくす機能を有する場合に限って「突起・板体の突起物」に該当するなどといった限定的な記載は文言上見当たらず,ましてや「凹凸」の「凸」部分が「突起・板体の突起物」に該当する場合についてのみ上記各機能を要するものとするような記載も見当たらない旨判示した。
この原判決の判示は,構成要件B’1の「突起・板体の突起物」について,構成要件A3の「この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」としての機能を備える必要性があることを看過したものである。
したがって,原判決には,構成要件B’1の「突起・板体の突起物」は本件発明3の防止効果及び矯正効果を有する場合に限定されるものではないとしたことにより本件発明3の構成要件A3を備える必要がないとしている点で認定の誤りがある。

認定の誤り3
原判決は,凹部Eの間に形成されている凸部Dが構成要件B’1の突起物に相当すると認定した基準として,凸部Dの縁が生海苔を切断するエッジの役割を果たすという基準を示しているが,当該基準は本件訂正明細書等には全く記載されておらず,また,本件発明3の共回りを防止する機能と結びつくものではない点で誤りである。それに加え,基礎づける証拠がないままエッジの役割を認定している点でも認定の誤りがある。なお,控訴人は,渡邊機開の所有する本件新装置の凹部Eに見られるエッジの役割を主張したけれども,これは,本件発明3の防止効果及び矯正効果と結びつく作用効果を発揮している旨主張したものではない。本件新装置においては,エッジの役割によって当該防止効果及び矯正効果に相当する機能は果たされていないのであって,本件新装置の作用機
序と本件発明3のそれとは相違する。
(被控訴人の主張)
本件新装置が本件発明3の技術的範囲に属するとする原判決の判断は正当である。
原判決は,「突起・板体の突起物」に該当するかどうかはその語義から判断すべき旨示しているのであり,また,控訴人主張につきその語義に反する解釈論であることを指摘したものであって,その判断に誤りはない。さらに,原判決は,「凸部Dのふちが生海苔を切断するエッジの役割を果たすという基準」を示したものではないから,この点に関する控訴人の主張はその前提に誤りがある。
(2)

争点(2)ア(発明未完成,実施可能要件違反,サポート要件違反又は明確
性要件違反)について
(控訴人の主張)
本件訂正明細書等において凹凸が記載されている部分は段落【0026】の1か所のみであり,図面には凹凸が明示されている部分は皆無であるから,本件訂正明細書等には凹凸の構成が具体的かつ明確に開示されておらず,当該凹凸については未完成発明等の無効理由がある。ところが,原判決は,本件訂正明細書等にはどのような構成の凹凸が本件各発明の作用効果を発揮するものかについての開示がないことを認めながら,構成要件B'1の「突起・板体の突起物」と凹凸との関係について論ずることなく,その無効理由を否定した。
この点で,原判決には,控訴人の主張する凹凸と無効理由との関係について適正に認定していないという誤りがある。
(被控訴人の主張)
この点に関する原判決の判断は正当である。
(3)

争点(2)イ(拡大先願)について

(控訴人の主張)

原判決は,要するに乙1考案の「凹部」は本件各発明の構成要件B1,B’1,B”1にいう「突起・板体の突起物」と異なるので,本件各発明と乙1考案とは相違する旨判示しているが,この判示には,以下のとおり認定の誤りがある。


認定の誤り1
原判決は,乙1考案の作用効果として「前記環状枠板部の内周縁に所要数の凹部を形成するとともにこの凹部における前記クリアランスを他の部分よりも広幅とすることによって,クリアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付いている生海苔が前記回転板によって引きずられ上記凹部の位置に達した際に同凹部におけるクリアランスを通過することができる」旨認定している。
しかし,上記判示部分は,「茎部の付いている生海苔」につき,「クリアランスに詰まる異物の大部分を占める素材」として言及しながら,「海苔製品の原料として利用できるものか否か」については言及していない。乙1考案は,当該生海苔異物をクリアランスを通過させるべき生海苔と同等の海苔の原藻としてとらえている(乙1明細書等【0004】,【0024】)。すなわち,乙1考案の技術的思想においては,「当該生海苔異物」は「クリアランスを通過させるべき海苔の原藻対象」として,凹部に達した「生海苔異物」を「クリアランスを通過させる」ように構成しているにもかかわらず,上記判示部分は「海苔製品の原料として利用できないもの」として認定していると理解される。
したがって,原判決は,乙1考案の技術的思想を適正に認定していないという点で認定の誤りがある。


認定の誤り2
原判決は,乙1考案の作用効果につき単に「クリアランスの目詰まり
という課題を解消するもの」と認定しているけれども,乙1明細書等の「前記クリアランスに詰まった生海苔異物(茎部の付いている生海苔)は前記回転板によって引きずられ前記凹部の位置に達した際に,前記凹部におけるクリアランスを通過することができる」との記載(【0005】,【0023】。なお,下線部は控訴人が加入したもの。)によれば,クリアランスに詰まった生海苔異物は,凹部の存在する部分まで回転板と一緒に引きずられるように回転して行き,当該凹部の部分においてクリアランスを通過するものであるので,本件訂正明細書等記載の共回り現象(【0003】)が発生していること,前記凹部によって共回り現象が解消されることが,それぞれ明記されている。
したがって,乙1考案にも共回り防止という技術的思想が記載されているのに,これが記載されていないとした原判決には認定の誤りがある。エ
認定の誤り3
原判決は,乙1考案の出願当時,共回り現象が発生していたことを当業者が広く認識していた旨の控訴人の主張を排斥している。
しかし,被控訴人の創業者自身,回転板方式の生海苔異物除去機に問題が発生していた旨陳述しているところ(甲36),この問題とは正しく海苔が目詰まりして共回り現象が発生していたことを意味するのであり,このような問題は,海苔生産者の間にたちまち情報が伝達されて周知となり,当該問題点を解決した海苔異物除去機が求められることになるのである。したがって,当該問題点については,本件特許の出願前の時点で既に当業者が広く認識していた状態であったことに間違いはない。原判決は,上記陳述書の陳述内容を正確に評価せず,重要な事実を看過したという点で認定の誤りがある。


認定の誤り4
(ア)

原判決は,被控訴人製の生海苔異物除去装置に設けられている乙1
考案の「凹部」に相当する「鉛直溝」につき無効理由の根拠として採用できないとするが,「鉛直溝」を適正に認定していない点で誤りがある。
(イ)

被控訴人製の生海苔異物除去装置に設けられている鉛直溝と同一構
成の鉛直溝が渡邊機開製の生海苔異物除去装置であるWK型の回転円板にも設けられていることから,本件提訴前において生海苔異物除去装置の回転円板に鉛直溝を設けることは一般的であったということができる。なお,渡邊機開製のWK型においては,固定リングの内周面にも複数の鉛直溝が回転円板と同様にして設けられている。
これらの鉛直溝は,その両端面のエッジ部分にヘタリが発生するとクリアランスに目詰まりが発生し,ヘタリを解消するとクリアランスの目詰まりが解消し,良好な異物除去機能を発揮する。このことから,乙1考案の固定リング側に設けられている凹部に相当する鉛直溝は,共回りを防止する作用効果,特にエッジ部分による共回りを防止する作用効果を発揮するものということができる。被控訴人の装置における鉛直溝も,全体構成としては乙1考案の固定リング側に設けられている凹部に相当する点で渡邊機開製のWK型のそれと同一であり,同様に共回りを防止する機能を発揮している。
このように,渡邊機開製のWK型の鉛直溝及び隣接する鉛直溝間に形成される凸部は生海苔の共回りを防止する機能を発揮していることから,本件各発明の「突起・板体の突起物」に該当すると判断されるところ,そうであるならば,鉛直溝に相当する乙1考案の凹部及び隣接する凹部間に形成される凸部も,当然に本件各発明の「突起・板体の突起物」に該当することとなる。
そうすると,乙1明細書等には本件各発明の「突起・板体の突起物」に該当する凹部及び隣接する凹部間に形成される凸部が開示されている
ものと理解されることから,本件各発明は乙1考案と同一となる。(ウ)

現在の海苔生産技術に基づき乙1考案を評価すると,その凹部は共
回り防止機能を果たしていると認定し得る。
このことに鑑みると,乙1考案の凹部については,これを周方向に複数形成すると凹部の間にクリアランスに向かう凸部と見なされる形状が形成され,当該凸部と凹部が一体となって共回り防止機能を果たすことから,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当することとなる。
したがって,乙1考案は本件各発明と同一となる。
(エ)

本件特許の出願時においては,乙1考案につき,根の付いた生海苔
よりも大きさが小さい茎の付いた生海苔をも通過させ,板海苔の品質を低下させる不都合が存在するとの評価はされておらず,茎部の付いている生海苔を海苔製品の原料として使用することも行われていたことから,このような使用を可能とすると共にクリアランスの目詰まりを防止する凹部を設けることは有用な考案と思料されるところ,乙1考案の凹部は,クリアランスの目詰まりを防止する機能があることから,共回り防止機能を果たしていると認定し得る。
そうすると,乙1考案は本件各発明と同一となる。
(オ)

以上の点に鑑みると,本件特許の出願時の技術及び現在の技術のい
ずれによって評価しても,乙1考案の凹部を周方向に複数形成すると凹部の間にクリアランスに向かう凸部と見なされる形状が形成され,当該凸部と凹部とが一体となって共回り防止機能を果たすことから,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当するということができる。
したがって,乙1考案は本件各発明と同一となるから,本件各発明は無効とされるべきである。この点についての原判決の判断は誤りである。
(被控訴人の主張)

原判決は,乙1明細書等の記載に基づき乙1考案を正しく認定しており,控訴人の主張するような認定の誤りはない。


乙1考案に「凸部」は存在しない。乙1考案における第一回転板26(又は第二回転板36)との間でクリアランスCを形成する固定側(環状枠板部を形成する第一環状固定板23(又は第二環状固定板33))の壁面における,凹部231(又は凹部331)以外の部位は,生海苔混合液が通過し,(分離対象となる)異物が通過できない部分であって,クリアランスを形成する壁の片側にすぎない。

(4)

争点(2)ウ(乙4発明及び周知技術による進歩性欠如)について
(控訴人の主張)
原判決は,要するに乙4公報には共回りを防止する旨が開示されておらず,乙2及び乙3各公報は回転円板方式の生海苔異物除去装置ではないので,乙4発明に乙2及び乙3各公報記載の技術を組み合わせることはできず,本件各発明は進歩性を有するとする。
しかし,前記被控訴人創業者の陳述書その他の証拠から認められるとおり,本件特許の出願前には回転板方式の生海苔異物除去装置において生海苔の詰まりが発生することは周知であり,当業者において乙4発明に対し乙2及び乙3各公報記載の技術を組み合わせることはでき,これらを組み合わせれば本件各発明に容易に想到し得る。
したがって,本件各発明は進歩性がなく,無効とされるべきであり,この点に関する原判決の判断には誤りがある。
(被控訴人の主張)
進歩性欠如に関する無効理由は成立せず,原判決の判断は正当である。(5)

争点(2)エ(公知による新規性欠如及び進歩性欠如)について

(控訴人らの主張)


原判決は,要するに乙43の8文書に記載された技術的思想の内容を全く評価しないまま,単に「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける」という試験・開発内容は被控訴人の営業秘密であり,西部機販及びその代表者であるPは,被控訴人に対し,上記試験・開発内容について守秘義務を負うというべきであるとして,公知による新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由は存在しないと判示した。
しかし,以下のとおり,Pにより知得された上記試験・開発内容は本件各発明と同一であって,本件発明1及び3は公知による新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由を備えており,かつ,Pは,被控訴人に対し,上記試験・開発内容について守秘義務を負っていない。この点で原判決には誤りがある。

イ(ア)

被控訴人は,本件特許の出願前から,ダストール(FD-380S型,FD-
380K型等の生海苔異物分離除去装置)の前身であるテスト機(以下「被控訴人テスト機」という。)を公然と実施していたところ,これは株式会社親和製作所(以下「親和製作所」という。)製の生海苔異物除去装置と同様に回転板方式の生海苔異物除去装置を製造販売することを目的として開発されたものであり,その構成は,本件発明3の構成要件中,
A1

生海苔排出口を有する選別ケーシング,

A2

(及び)回転板,

A4

(並びに)異物排出口

A5

をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液
槽を有する生海苔異物分離除去装置

という構成を備えている。他方,本件発明3の構成要件A3,B’,B’1,B’2及びCの構成は備えていない。
また,被控訴人は,「ダストール」の販売促進業務の一環として,そ
の展示会機(その基本構成は被控訴人テスト機と共通である。)を平成10年4月中に開催された展示会に出展したことから,「ダストール」の基本構成は広く海苔関係者に知られて公知となった。
(イ)

被控訴人テスト機の試験運転を行うと,生海苔がクリアランスに詰
まり,回転円板と共に詰まった状態で回転するという問題点が発生した。他メーカーの回転板方式の生海苔異物除去装置においても同様の問題点が発生していたことは,当時周知であった。
この問題点を解消するために,逆洗を行う,ショットブラスト加工を施す,棒材やドライバ先端をクリアランスに近づける,といった試みが行われた。

本件特許出願前に公知となった技術
(ア)

平成10年4月28日,被控訴人において会議(以下「本件会議」
という。)が開催され,Pはこれに参加した。本件会議において,その始まりに当たり乙43の8文書が配布されたところ,これは,全体として,「ダストール」の量産機の製造に向けての変更計画及び変更要請を示すものである。
そして,乙43の8文書には,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける

選別タンク内の海苔濃度を濃くできることにより良品タンク

への海苔濃度が濃くできる」と記載されている(以下,この記載を「本件記載」という。また,本件記載に基づく技術を「本件記載技術」ということがある。)。
本件記載を見たPは,当時持ち合わせていた乾海苔生産関連の技量に基づき,本件記載は,「共回り防止ゴムと称する部材を選別ケースの外周に取り付け,生海苔が隙間(クリアランス)に詰まったり,回転円板と一緒に回ることを解決すること」を実行するものと理解した。すなわち,本件各発明の課題,目的,構成及び効果を理解し得た。このことは,
本件記載を知り得たのであれば,P以外の当業者にとっても同様である。また,その際の被控訴人技術者の説明により,「共回り防止ゴム」は「生海苔がクリアランスに詰まったり,詰まった生海苔が回転円板と共にクリアランスを回る不具合現象が発生することを防止するための複数の実例の総称的なことを示している。」旨が本件会議の参加者により理解された。
(イ)

被控訴人テスト機に,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつけ
る」という変更すなわち「生海苔がクリアランスに詰まったり,詰まった生海苔が回転円板とともにクリアランスを回る不具合現象が発生することを防止するための複数の実例の総称的なことを示している共回り防止ゴム」からなる構成を付加するという変更を施した量産機の構成を,本件発明3の構成に合わせて記載すると,
A1

生海苔排出口を有する選別ケーシング,

A2

(及び)回転板,

A3

この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手
段,

A4

(並びに)異物排出口

A5

をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液
槽を有する生海苔異物分離除去装置において,

B’

前記防止手段を,

B’1

突起・板体の突起物(「共回り防止ゴム」が一例である。)とし,
B’2

この突起物を,選別ケーシングの円周面に設ける構成とした

C
生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置

となる。これにより,「ダストール」の量産機は本件発明3の構成要件の全部を備えることとなった。
なお,ここでいう「共回り防止ゴム」の実施態様は,所定形状・所定
大の防止ゴム片,ショットブラストされたザラザラの面,棒材やドライバ先端等の抵抗物である。また,「ダストール」の基本構成(被控訴人テスト機のもの)に乙43の8文書に示されている変更点を反映させた新型機が控訴人の許に保管され,現存している。
(ウ)

Pは,後記のとおり,被控訴人に対し守秘義務を負っていない。し
たがって,同人が,乙43の8文書及び本件会議での説明により「生海苔がクリアランスに詰まったり,詰まった生海苔が回転円板とともにクリアランスを回る不具合現象が発生することを防止するための複数の実例の総称的なことを示している共回り防止ゴム」からなる構成を選別ケースの外周に付けることを把握し,基本構成を備えたダストールの試験機・展示会機に当該共回り防止ゴムを付加した本件発明3の構成及び作用効果を知得・理解したことにより,本件発明3(及び本件発明1)は新規性を喪失した。

Pの守秘義務の不存在
(ア)

原判決は,被控訴人側の期待のみを論じ,それに対し情報受領者側
が了解したのかについて事実認定も判断もすることもなく,安易に秘密保持契約を認定した。
しかし,法律上の根拠なく私人に義務を課すことができるのは当事者間の合意が成立した場合以外にあり得ず,当事者の合意に基づかず単に「期待されている」という一方当事者から見た関係のみで秘密保持義務が生じるはずはない。したがって,Pが了解がなかったとする以上,同人に被控訴人に対する守秘義務が生じる余地はない。
(イ)

乙43の8文書は,その記載事項を秘密として保持すべきことを明
示する記載がなく,また,記載された情報それ自体についても秘匿性のある情報と思われないことから,秘密事項を記載した文書ではない。(ウ)

前記のとおり,本件記載技術は本件特許出願前に公知となり新規性
を喪失したものであるから,そもそも守秘義務の存在を問うべきものではない。
また,Pは,被控訴人から協力要請を受けた際にも別段秘密についての話を受けておらず,守秘義務に関する契約書も作成しておらず,守秘義務に伴うものとして,販売地域に関する独占権や仕切り価格を特段に安く設定した特別価格も得ていない。
(エ)

したがって,Pは,被控訴人に対し,守秘義務を負わない。

以上より,本件発明1及び3は,本件特許出願前に日本国内において公然知られた発明と同一であり,又は本件特許出願前に日本国内において公然知られた発明に基づき当業者が容易に発明することができたものであることから,法29条1項1号又は2項に違反し,無効とされるべきものである。

(被控訴人の主張)

争点(2)エに関する原判決の判断は正当である。


控訴人は,乙43の8文書記載の技術内容は本件特許の出願前に公知となり,新規性が喪失しており,そもそも守秘義務の存在を問うべきものではない旨主張するけれども,仮にそうであれば,その公知を裏付ける具体的事実を主張立証すれば足りるのであって,乙43の8文書は不要である。この主張はこれまでの控訴人の主張と齟齬するものである。
(6)

争点(5)(損害発生の有無及びその額)について

(控訴人の主張)

消滅時効
(ア)

原判決は,控訴人の消滅時効の主張を排斥するけれども,以下のと
おり,その判断は誤りである。
(イ)

「損害及び加害者を知った」時とは,加害者に対する賠償請求が事
実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知った時を意味す
ると解されるところ,本件においては,被控訴人が控訴人による本件製品1の販売事実を認識するとともに,被控訴人が本件製品1の構成につき本件特許権を侵害するものであると賠償請求が事実上可能な程度に認識した時期となる。なお,上記各事実を把握していれば,損害の推定規定に基づく損害賠償請求は事実上可能であるから,損害の内容を知ったことまでは不要である。
(ウ)

被控訴人が控訴人による本件製品1の販売事実を認識した時期
被控訴人は,

a
第22回大阿蘇夏期講習会が実施された平成19年7月9日ないし同月10日,

b
又は遅くとも本件装置(WK型)を販売している旨の控訴人の広告が掲載された潮汐表が販売された平成20年前後,

c
又は遅くとも控訴人が自ら取り扱う各メーカーの生海苔異物除去機の展示販売会を実施し,その際渡邊機開が本件装置(WK型)を含む同社製品のブースを設け,その近くに被控訴人製品の説明ブースも設けられた平成22年8月20日ないし同月21日,

d
又は遅くとも被控訴人代表者(当時)や従業員が,控訴人に対し本件装置(WK型)等の販売量を質問した平成23年頃,

e
又は遅くとも控訴人が本件装置(WK型)を販売した先であり,被控訴人の製品(生海苔異物除去機以外)をも使用する生産者に対し,被控訴人又はフルテックが修理対応を行った日である平成24年4月27日

には,控訴人が本件装置(WK型)を販売している事実を知っていた。このように,被控訴人は,遅くとも平成24年4月27日には,控訴人が本件装置(WK型)を販売していたことを知っていたところ,控訴人が本体である装置のみを販売することはあり得ないことから,本件各
部品を取り扱っていたことも知っていた。
(エ)

被控訴人が,本件製品1が本件特許権を侵害することを知った時期被控訴人代表者作成の報告書(甲13の1,乙66。以下では甲13
の1のみを示す。)によれば,被控訴人は,遅くとも平成19年6月頃には本件装置(WK型)を入手又は解析できる状況にあり,その構造を把握していたことから,当該装置が本件特許権を侵害する可能性があることを認識していた。
仮にこの時点で上記認識がなかったとしても,被控訴人は,渡邊機開との訴訟の控訴審(当庁平成20年(ネ)第10023号特許権侵害差止等請求控訴事件)において,本件装置(WK型)の構成が詳細に記された渡邊機開出願に係る公開特許公報(特開2007-306832号。以下「渡邊機開公報」という。)を証拠として提出し,これに基づく詳細な主張を平成20年6月20日付け準備書面において行ったところ,上記公報の明細書には,本件においても争点となった突起物に関する記載が散見される。そうである以上,被控訴人は,遅くともこの時点で,本件製品1が本件特許権を侵害するものであると賠償請求が事実上可能な程度に認識していた。
したがって,被控訴人が,本件製品1の構成につき本件特許権を侵害するものであると賠償請求が事実上可能な程度に認識した時期は,平成19年6月頃ないし遅くとも平成20年6月20日である。
(オ)

したがって,被控訴人は,遅くとも平成24年4月27日には,控
訴人が本件特許権を侵害する(と被控訴人が考えていた)本件製品1を販売していたことを知っていたのであるから,本件訴え提起の日である平成28年1月22日から3年前の平成25年1月22日以前の販売分については,損害賠償債務につき消滅時効が完成している。イ
撹拌機等のセット品及び一部業者への据付工賃等が控除されるべきこと
(ア)

原判決は,控訴人が本件旧装置又は本件新装置を販売するに当たり,
攪拌機及び良品タンクをサービス品として無償で提供したとする。しかし,これらは無償で提供したものではなく,セットで販売したものである。この点は,特に原判決別紙販売利益等一覧表3の55番を見れば明らかである。
本件旧装置等を含む生海苔異物除去機はそれ単体で使用するものではなく,良品タンク(生海苔を一時的に貯蔵するタンク),混成機(生海苔をミンチ状にし,真水で洗う機械)や調合機(厚さを均一にする機械)を順に接続して稼働させるものである。そのため,特に良品タンクをセットにして販売することがある。このような場合,少なくともセットで販売した商品がなければ,控訴人は本件旧装置及び本件新装置を販売することはできなかったのであるから,その仕入れに要した費用は,控訴人が得た利益から控除されなければならない。
(イ)

控訴人は,販売店へ本件旧装置等を卸す場合,納品・据付・メンテ
ナンスを含む場合とそうでない場合で金額に差を設けている。この点,原判決は,納品・据付・メンテナンスを含む場合において控訴人が売上げから税抜15万円を控除した根拠と計算を裏付ける証拠がないとするが,少なくとも納品のみを単体で請けた場合,控訴人は税抜き15万円で請け負っている。
そして,販売店との関係や付属品の問題で相違はあるものの,納品・据付・メンテナンスの有無により販売価格に概ね30万円程度の差をつけている。これは,納品・据付・メンテナンス等の人件費に差があることによる。
以上のとおり,一部取引においては,控訴人が納品・据付・メンテナンスという特別の労力を提供するからこそ販売できたのであるから,少なくとも納品を単体で請け負う際の代金である税抜15万円は控除され
なければならない。
(ウ)

原判決は,原判決別紙販売利益等一覧表2の29番にかかる取引に
つき10万円の値引きを認めないが,現に10万円値引きし,210万円しか領収していない。この点に関する原判決の認定は誤りである。(エ)

本件旧装置及び本件新装置の販売により控訴人が得た利益は,本判
決別紙のとおり,1億0733万6951円であり,これを超えて被控訴人の利益を認定した原判決は誤りである。

推定覆滅事由
(ア)

特許権等の侵害者が受けた利益を特許権者等の損害と推定する法1
02条2項の推定を覆滅できるか否かは,侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか,市場における代替品の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブランド等といった営業的要因や侵害製品の性能,デザイン,需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴等を総合的に考慮して判断すべきである。
(イ)

侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合
生海苔異物除去機においては,結局のところ鉛直溝がなければクリア
ランスは目詰まりを起こすことから,本件特許権が目詰まりやその先にある共回りを防止したとして本件旧装置等の販売に影響を与えたとは考えられない。
(ウ)

営業的要因
控訴人は,他の販売店と異なり有明海に面する九州三県に本社及び営
業所を配置し,迅速にメンテナンスを実施できる体制を整えている。また,控訴人は,控訴人から生海苔異物除去機を購入した顧客が回転円板を修理に出す際にも操業を停止しなくてよいように,販売用とは別に緊急時の貸出用として,1つ10万円する回転円板を購入してストックし
ているし,生海苔異物除去機以外の機器も各支店に常備し,常に故障に対応できる体制を整えている。のみならず,控訴人は,漁期の前に機器をチェックするためのチェックリストを配布し,漁期が終わる春先には全顧客への無償点検を実施している。こうした控訴人の手厚いメンテナンスなくして,メーカーである被控訴人が本件旧装置等を同様に販売できたとは到底考えられない。
加えて,控訴人は,単なる販売店ではなく,常にその知見を高めるため研究活動を行ってもいる。
さらに,本件旧装置等を製造する渡邊機開は海苔業界のトップブランドであるのに対し,被控訴人は後発メーカーであり,その製品に対する信用力は大きく異なる。
このように,本件旧装置等の販売においては,海苔生産者にとって死活問題であるメンテナンス行為や控訴人の技術,渡邊機開のブランド力が大きく後押ししている。
(エ)

侵害品自体が有する特徴
被控訴人の製品は安く,高性能とされ,製品を販売した際に販売店が
得られるマージンの点でも被控訴人の製品を販売した方が高いけれども,控訴人の顧客の圧倒的多数は,被控訴人の製品ではなく本件新装置等を選ぶ。これは,上記ブランド力の点に加え,メンテナンスが簡単であることや,渡邊機開の製品は耐久力のあるステンレス製であることも理由として挙げることができる。加えて,本件旧装置等渡邊機開の製品は,回転円板のサイズが他社製品と比較して小さく,回転時のブレが小さいため,クリアランスの広大化等による異物除去率の低下や回転円板・固定リングの交換頻度の増加を防止し得るという他社製品と異なる特徴がある。
このように,価格差を跳ね返す魅力が本件旧装置等にはあり,これが
需要者によるその購買に結びついた理由であって,本件特許の実施品であることによるものではない。
(オ)

以上より,特許権等の侵害者が受けた利益を特許権者等の損害と推
定する法102条2項の推定は,少なくともその5割が覆滅されるというべきである。
(被控訴人の主張)

争点(5)に関する原判決の判断は,いずれも正当である。


消滅時効について
(ア)

控訴人は,その主張に係る事情によれば被控訴人が控訴人による販
売の事実を知り得た旨主張するにとどまり,本件製品1の販売につき被控訴人が現実に了知していた事実の主張立証はない。この点に関する原判決の判断に誤りはない。
(イ)

消滅時効の起算点である被害者が「損害及び加害者を知った時」と
は,損害及び加害者を現実に了知した時点であるところ,本件においては,①控訴人による本件製品1の販売,②当該販売行為が本件特許権を侵害するものであること,及び③当該販売行為により被控訴人が損害を受けたことの各事実を被控訴人が了知していたことを要することになる。このうち,②に関しては,明細書の検討,対象製品の具体的態様の把握及びこれと特許発明との対比,先行技術の調査等により想定し得る無効主張の回避可能性について,専門的知識に基づく判断等を経た上で,侵害の蓋然性が高いと認識した時点で,違法性についての認識があったと判断すべきである。また,特許権侵害に基づく損害賠償請求権は販売行為ごとに独立しており,時効完成,中断等の事由は各請求権について個別に主張立証されなければならない。
しかし,控訴人は,本件訴えの提起以前から被控訴人が控訴人による本件製品1の販売の事実(上記①)を認識していた旨主張するにとどま
り,上記②及び③の各事実の認識については主張していない。その主張に係る事実も,具体的な販売行為自体ではなく,販売のため掲載した広告や展示会での展示,控訴人の販売に係る本件製品1と被控訴人製品とが設置された海苔生産現場にフルテック従業員が被控訴人製品の修理に訪れたことといった事情を指摘し,これらを被控訴人が見たはずであるなどとするにとどまる。
また,控訴人は,上記のとおり,フルテックの認識を問題視するところ,被控訴人は,その見た事実を否認するが,仮に控訴人によって販売された本件製品1を販売後にフルテック従業員が漠然と見たとしても,それだけではその見た事実の持つ意味は全く理解し得ないし,そもそもフルテックの従業員は,本件特許権侵害を根拠として販売停止を要求し,又は損害賠償請求をするなどの対応を期待し得る立場にない。すなわち,被害者である被控訴人において,加害者である控訴人に対する賠償請求が可能な程度にこれらを知ったということはできない。
さらに,平成22年8月開催の展示会での展示の事実は,渡邊機開(又は同社と控訴人)が譲渡行為とは別の実施行為である譲渡等の申出をする行為を行っていた事実に過ぎない。
(ウ)

被控訴人が控訴人による本件製品1の販売の事実を認識した時期は,
平成26年11月4日付け「お知らせ」文書による通知をする直前に事実関係の調査を行い,控訴人が本件製品1を販売した具体的事実を知った時期,すなわち早くとも平成26年11月頃である。
また,被控訴人が本件製品1の構造,作用を知ることで,本件製品1の販売行為が本件特許権を侵害するものであることを認識したのは,最も早くとも,被控訴人が本件装置(WK型)を入手した平成25年4月9日である。被控訴人は,渡邊機開との特許問題については業務提携その他の問題を含めて話合いで解決することを模索していたため,本件特
許権の侵害の有無に関する鑑定を含む事実関係の調査は当該時期まではしていなかった。
さらに,被控訴人が,控訴人による本件製品1の取引の事実を認識したのは平成27年7月初旬が最初であるから,控訴人の販売行為により被控訴人が損害を受けた事実を認識したのは,早くとも平成27年7月初旬である。

攪拌機等のセット品及び一部業者への据付工賃等が控除されるべきであることについて
(ア)

この点に関する控訴人の主張は争う。

(イ)

控訴人は,番号29の取引につき10万円の値引きを主張するけれ
ども,控訴審段階になってその証拠として乙85の1及び2を提出したことに鑑みると,その内容は疑わしく,これらに基づく控訴人の主張は信用し得ない。
また,その売上伝票(乙85の1)及び領収書(乙85の2)の各日付(平成20年12月31日)は,販売時期(同年10月7日)から約3か月も後のものであり,その事実関係は不明なものの,販売後に何らかの事情で購入者に対するサービス供与として値引き名目で10万円返金した可能性もある。そうすると,仮に乙85の1及び2が真実を記載したものであったとしても,法102条2項における「利益」算定に際して考慮すべき変動費には該当しないというべきである。

推定覆滅事由について
(ア)

控訴人の鉛直溝に関する主張は,鉛直溝ないし縦溝によって本件特
許権以外の他の発明が実施されている旨の主張と理解されるが,この発明は本件各発明を実施している本件旧装置又は本件新装置においては付随的な機能を付加するものにすぎず,いずれにせよ法102条2項の推定覆滅事由とは無関係である。

(イ)

控訴人が主張する営業的要因は,一般論として控訴人が販売能力を
有しているとの主張にすぎない。控訴人が本件特許権の侵害品である本件旧装置又は本件新装置の扱いを止め,市場に被控訴人の装置しか存在しなくなった場合においては,本件旧装置又は本件新装置の販売によって得られるべき利益は被控訴人に帰するものであり,法102条2項の推定は覆滅されない。
(ウ)

控訴人は,本件特許権の侵害品である本件旧装置又は本件新装置と
被控訴人の製品とを比較して論ずるけれども,主張自体失当である。(エ)

本件製品1及び2の販売に対する本件各発明の寄与度は100%で
あり,減額する事由は存在しない。
第3
1
当裁判所の判断
本件各発明の意義
本件訂正明細書等の記載及び本件各発明の意義については,原判決「第4当裁判所の判断」「1

本件各発明の意義」(原判決45頁10行目~48頁

17行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2
争点(1)(本件新装置が本件発明3の技術的範囲に属するか)について(1)

争点(1)(本件新装置が本件発明3の技術的範囲に属するか)についての
判断は,原判決51頁15行目の「反論」を「判断」に改め,また,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4

当裁判所の判断」「2

争点

(1)(本件新装置が本件発明3の技術的範囲に属するか)について」(原判決48頁18行目~55頁20行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)

当審における控訴人の主張について
控訴人主張に係る認定の誤り1について
(ア)

控訴人は,原判決につき,凹部Eの間に形成されている凸部Dが構
成要件B’1の突起物に相当するとした判断の基準が明示されていない点
で認定の誤りがあるなどと主張する。
(イ)

しかし,控訴人指摘に係る原判決の前半の判示部分(本判決第2,
5,(1),イ)は,控訴人の主張に対し,凹凸の概念に含まれる構成であってもそのことをもって直ちに「突起・板体の突起物」に該当しないとはいえないことを示したのに対し,後半の判示部分(同上)は,構成要件B’1が防止手段を「突起・板体の突起物」と特定するのみであることを踏まえ,凹凸部につきこれを控訴人が主張するように「凹凸部の長手方向が環状隙間における生海苔の移動方向に貫通していること」に限定して解釈すべき理由がないことを示したものに過ぎないのであるから,両者の間に矛盾はないし,原判決が,凹凸部の凸部が構成要件B’1の「突起物」に該当するか否かの判断基準を示さないからといってその判断に瑕疵があるものでもない。
(ウ)

なお,本件新装置につき,回転円板の表面を全体として見ると凹部
Eと凸部Dが交互に現れるものと認められるけれども,凸部Dが凹部Eの底面部3b2から円周面方向に部分的に突き出ていることをもって出っ張りと判断することに問題はなく,当該部分は突起に,そのような物自体は「突起物」に該当すると判断した原判決の判断に何ら矛盾ないし不合理な点はない。

控訴人主張に係る認定の誤り2について
(ア)

控訴人は,原判決につき,構成要件B’1の「突起・板体の突起物」
は,本件発明3の防止効果及び矯正効果を有する場合に限定されないとしたことにより,構成要件A3を備える必要がないとしている点で認定の誤りがあるなどと主張する。
(イ)

しかし,原判決の指摘するとおり,構成要件B’1はその文言上防止
手段を「突起・板体の突起物」と特定するのみであり,それ以上に限定して解釈すべき理由はない。この点に関する原判決の判断に誤りは
ない。

控訴人主張に係る認定の誤り3について
(ア)

控訴人は,原判決につき,凹部Eの間に形成されている凸部Dが構
成要件B'1の突起物に相当すると認定する基準として凸部Dの縁が生海苔を切断するエッジの役割を果たすという基準を示しているが,当該基準は本件訂正明細書等には全く記載されておらず,また,共回り防止機能と結びつける証拠のないままエッジの役割を認定している点で認定の誤りがあるなどと主張する。
(イ)

しかし,控訴人指摘に係る原判決の判示部分は,そもそも,凹部E
の間に形成されている凸部Dが構成要件B’1の突起物に相当すると認定する基準を示す趣旨のものと理解し得ない。当該判示部分は,被控訴人の主張のみならず,凹部Eの円周方向における両端縁が生海苔(海苔の原藻)を切断するエッジの役割を果たす旨の控訴人の主張及びここでいう「両端縁」とは凸部Dの縁でもあることを踏まえ,控訴人の主張を前提としても,本件回転円板の凸部Dは共回り防止機能を果たしていると認定される旨の判断を念のため示したものに過ぎないし,その認定判断に誤りもない。
エ3
以上より,この点に関する控訴人の主張はいずれも採用し得ない。
争点(2)ア(未完成発明,実施可能要件違反,サポート要件違反及び明確性要件違反)について
(1)

争点(2)ア(未完成発明,実施可能要件違反,サポート要件違反及び明確
性要件違反)についての判断は,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4

当裁判所の判断」「3

争点(2)ア(未完成発明,実施可能要件違

反,サポート要件違反及び明確性要件違反)について」(原判決55頁21行目~56頁16行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。(2)

当審における控訴人の主張について


控訴人は,本件訂正明細書等には凹凸の構成が具体的かつ明確に開示されておらず,当該凹凸については未完成発明等の無効理由があるところ,原判決は構成要件B'1の「突起・板体の突起物」と凹凸との関係について論ずることなくその無効理由を否定しており,控訴人の主張する凹凸と無効理由との関係について適正に認定していない誤りがある旨主張する。

しかし,原判決は,本件回転円板に存在する凹凸全体が構成要件B’1の「突起・板体の突起物」に相当する旨判断したものではなく,本件回転円板の凸部Dにつき,凹部Eの底面部3b2から円周面方向に部分的に突き出ており,出っ張りと判断される部分であるから,当該部分は「突起」に,そのような物自体は「突起物」に該当するとして,構成要件B'1の「突起・板体の突起物」に該当する旨判断したものである。この点に関する控訴人の上記主張はそもそも原判決の判断を正解しないものというべきであって,失当である。
したがって,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

4
争点(2)イ(拡大先願)について
(1)

争点(2)イ(拡大先願)については,原判決62頁15行目の「環状枠固
定部」を「環状枠板部」に改め,また,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4

当裁判所の判断」「4

争点(2)イ(拡大先願)について」

(原判決56頁17行目~65頁6行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)

当審における控訴人の主張について
控訴人主張に係る認定の誤り1について
(ア)

控訴人は,原判決につき,乙1考案の技術的思想においては「当該
生海苔異物」は「クリアランスを通過させるべき海苔の原藻対象」とし,凹部に達した「生海苔異物」を「クリアランスを通過させる」ように構成しているにもかかわらず,「海苔製品の原料として利用でき
ないもの」として認定しており,その技術的思想を適正に認定していない旨主張する。
(イ)

しかし,原判決の判示のとおり,乙1考案は,「環状枠板部の内周
縁に所要数の凹部を形成するとともにこの凹部における前記クリアランスを他の部分よりも広幅とすることによって,クリアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付いている生海苔が前記回転板によって引きずられ上記凹部の位置に達した際に同凹部におけるクリアランスを通過することができる」ようにしたものである。すなわち,乙1考案は,第一又は第二環状固定板の凹部以外の箇所(控訴人主張に係る複数の凹部(231,331)の間の凸部と見なされる形状の箇所)では,対向する壁である第一又は第二回転板の外周縁との間にクリアランスの幅狭部を形成することで,異物を含んだ生海苔混合液から,異物を含まない生海苔のみを水と共に通過させるようにしつつ,このクリアランスの幅狭部に生海苔異物が詰まった場合は,この詰まった生海苔異物が回転板に引きずられてクリアランス内を移動し,前記凹部の位置に達した際に,当該凹部とこれに対向する第一又は第二回転板の外周縁との間に形成される広幅のクリアランスを通過させることで,目詰まりを解消しようとするものである。
そうすると,乙1考案は,同じく生海苔異物の目詰まり防止という作用効果を奏するといっても,目詰まりの原因となっている生海苔異物をクリアランスを通過させるか否かという点で,本件各発明とはその技術的思想及び機序を異にするものであり,そこでは,「茎部の付いている生海苔」が「海苔製品の原料として利用できるものか否か」は本質的な問題ではない。原判決は,この点をもって乙1考案の「凹部」は本件各発明の「突起・板体の突起物」(構成要件B1,B'1,B’’1)とは異なるものであり,乙1考案は本件各発明の構成要件A3の「防止手段」の
構成を備えていない旨判断したものであって,その判断に誤りはない。したがって,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

控訴人主張に係る認定の誤り2について
(ア)

控訴人は,乙1明細書等には本件訂正明細書等記載の共回り現象が
発生していること,凹部によって共回り現象が解消されることがそれぞれ明記されており,乙1考案と本件各発明には相違点は存在しないから,この点につき原判決には認定の誤りがある旨主張する。
(イ)

しかし,控訴人が指摘する乙1明細書等の記載は,いずれも「前記
クリアランスに詰まった生海苔異物は前記回転板によって引きずられ前記凹部の位置に達した際に,前記凹部におけるクリアランスを通過することができる」というものであるところ,原判決が指摘するとおり,共回り現象がクリアランスの目詰まりの原因となり得るとしても,クリアランスに目詰まりを生じることが認識されていたことをもって直ちに共回り現象が認識されていたことを意味するものではないことを踏まえると,上記記載をもって共回り現象の発生及び解消が記載されているものと理解することは必ずしもできないというべきである。また,本件各発明は共回り防止手段として「突起・板体の突起物」を設ける構成を特定するものであるのに対し,乙1明細書等の前記記載は,凹部により目詰まりを解消するものである点で,明らかに相違する。なお,乙1考案の凹部の間には凸部と見なされ得る形状の箇所が存在するけれども,当該箇所は,対向する壁である第一又は第二回転板の外周縁との間にクリアランスの幅狭部を形成することにより,本件各発明が従来技術とする回転板方式の生海苔異物分離除去装置(乙4発明)の異物除去の機能と同じく,異物を含まない生海苔のみを通過させる機能を果たす部位と見られ,乙1考案において,生海苔異物による目詰まりが生じることがないようにする機能(突起・板体の突起物が果たすべき
機能)は,専ら環状枠板部の内周縁の凹部において対向する壁との間の隙間が他の部分よりも広幅となっていることにより生じるものである。このように,乙1考案の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所は,目詰まりを解消する機能を果たすものではないから,これをもって本件各発明の「突起・板体の突起物」に該当するということもできない。(ウ)

以上より,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

控訴人主張に係る認定の誤り3について
(ア)

控訴人は,原判決につき,回転板方式の生海苔異物除去機に問題が
発生していた旨の被控訴人創業者の陳述書(甲36)の陳述内容を正確に評価せず,重要な事実を看過したという点で認定の誤りがある旨主張する。
(イ)

しかし,控訴人指摘に係る被控訴人創業者の陳述書には,「この回
転板方式もローラ方式同様に極めて問題の多い商品でした。」との記載こそあるものの,その「問題」の具体的内容は必ずしも明らかでない。すなわち,当該陳述書によれば,回転板方式の海苔異物除去機に何らかの「問題」が発生していたことはうかがわれるものの,「生海苔及び異物が回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象,又は,生海苔等がクリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象が生じ,究極的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する。」という共回りの現象が具体的に記載されているわけではなく,これをもって本件訂正明細書等記載の共回り現象を被控訴人創業者が認識していたことの裏付けと見ることはできない。
したがって,上記陳述書の記載を根拠として,乙1考案の出願当時,共回り現象が発生していたことを当業者が広く認識していたということはできない。この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。


控訴人主張に係る認定の誤り4について
(ア)

控訴人は,被控訴人及び渡邊機開製の各生海苔異物除去装置に設け
られている鉛直溝は乙1考案の凹部に相当するところ,当該鉛直溝は本件各発明の「突起・板体の突起物」に相当するから,乙1明細書等には本件各発明の「突起・板体の突起物」に該当する凹部及び隣接する凹部間に形成される凸部が開示されており,また,乙1考案の凹部及び隣接する凹部間に形成された凸部について,本件特許出願当時の技術及び現在の技術のいずれによって評価しても,当該凸部と凹部とが一体となって目詰まりを解消する機能を果たすから,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当するとし,原判決には,乙1考案の「凹部」に相当する「鉛直溝」につき適正に認定していない点で誤りがある旨主張する。
(イ)

しかし,乙1考案の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所が本件
各発明の「突起・板体の突起物」に該当しないことは,上記イ(イ)のとおりである。
また,本件各発明では,防止手段を「突起・板体の突起物」とする旨規定され,「突起・板体の突起物」以外のものが防止手段に含まれないことが明確に理解されるところ,「突起」とは,「ある部分が周囲より高く突き出ていること。また,そのもの。でっぱり」を意味する語であるから,「突起・板体の突起物」とは,所定の面もしくはクリアランスに突き出たもの,又は所定の面もしくはクリアランスに突き出たものであって板状のものであると解される。これに対し,鉛直溝は,所定の面もしくはクリアランスに突き出たもの,又は所定の面もしくはクリアランスに突き出たものであって板状のもののいずれにも当たらないことは明らかである。
そうすると,鉛直溝自体を防止手段と考えようとしたとしても,それ
は突起・板体の突起物に該当しないから,結局,本件各発明の「防止手段」に含まれない。なお,控訴人は,当該鉛直溝につき「エッジ部によってクリアランスに詰まっている生海苔を切断して目詰まりを防止する機能」を発揮するものとも主張するが,鉛直溝を「突起・板体の突起物」と解することができないことは上記のとおりである以上,無意味な主張立証というほかはない。
(ウ)
5
したがって,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

争点(2)ウ(乙4発明及び周知技術による進歩性欠如)について(1)

争点(2)ウ(乙4発明及び周知技術による進歩性欠如)については,原判
決73頁下から4行目の冒頭から74頁6行目末尾までを以下のとおり改め,また,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4
「5

当裁判所の判断」

争点(2)ウ(乙4発明及び周知技術による進歩性欠如)について」
(原判決65頁7行目~84頁20行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
「混合液主タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けた生海苔の異物分離除去装置における第一分離除去具であって,前記第一分離除去具は,第一回転板,第一回転板との間にクリアランスを形成する環状固定板と環状枠板で構成される環状枠板部,環状枠板を連設するための周筒部,異物を排出するための管状の排出路及びそれに続く排出管,及び,クリアランスを通過した海苔混合液を混合液連設タンクに排出するガイド筒とで構成されている,生海苔の異物分離除去装置における第一分離除去具。」
(2)

当審における控訴人の主張について
控訴人は,本件特許の出願前には回転板方式の生海苔異物除去装置にお
いて生海苔の詰まりが発生することは周知であり,当業者において乙4発明に対し乙2及び乙3各公報記載の技術を組み合わせることはでき,その組合せにより本件各発明に容易に想到し得るから,本件各発明に進歩性はないとして,この点に関する原判決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,本件特許出願前には回転板方式の生海苔異物除去装置において生海苔の詰まりが発生することは周知であったことの裏付けとして控訴人が指摘する陳述書のうち,被控訴人創業者のもの(甲36)は,前記のとおり,回転板方式の生海苔異物除去装置にトラブルがしばしば発生していたことを述べているに過ぎず,本件特許出願前に「共回り」が周知であったことを具体的に示すものではない。
他方,海苔製造機械販売業者及び海苔生産業者の陳述書(乙63の1~8)は,いずれも,回転板方式の生海苔異物除去装置の詰まりについて,「この異物除去機は,異物分離処理中に,海苔原藻が隙間に詰まり,良品槽へ通過させることができなくなることがよくありました。/特に,海苔原藻が肉厚で,硬いときにはよく詰まりました。」(「/」は改行を示す。以下同じ。)として,回転板方式の異物分離除去装置による異物分離処理中にクリアランスに詰まりが発生した旨記載するものであり,そのような問題点があったことは理解し得るものの,その詰まりの原因が,本件訂正明細書等が定義する「共回り」によるものであることが本件特許の出願当時周知であったことを示すものとはいえない。
そうすると,これらの陳述書を根拠に,本件特許出願前には回転板方式の生海苔異物除去装置において生海苔の詰まりが発生することが当業者に周知の事項であったとはいえるとしても,その原因が「共回り」であることが周知の事項であったとまではいえない。したがって,乙4発明に乙2及び乙3各公報記載の技術を組み合わせることで本件各発明に
容易に想到し得たということはできない。また,そもそも乙2及び乙3各公報記載の技術を乙4発明と組み合わせることができないことなどは,原判決の判示のとおりである。
ウ6
以上より,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

争点(2)エ(公知による新規性及び進歩性欠如)について
(1)

証拠(各項に掲げたもの)によれば,以下の事実が認められる。
乙43の8文書
乙43の8文書は,「フルタ電機㈱

技研工場」作成名義の平成10

年4月28日付け「ダストールの試験機,展示会機から新型への変更点」と題する文書であるところ,その中には「1

選別ケースの外周に共回

り防止ゴムをつける/選別タンク内の海苔濃度を濃くできる事により良品タンクへの海苔濃度が濃くできる」との記載(本件記載)がある。イ
平成10年4月11日付け「海苔タイムス」(乙43の2)及びカタログ(乙43の3)
平成10年4月11日付け「海苔タイムス」広告欄には,以下の記載並びにFD-380K型及びFD-380S型の外観写真を含む広告が掲載されている。また,FD-380K型及びFD-380S型のカタログ(乙43の3)にも,同様の記載がある。
「●良い海苔づくりを推進する。」
「フルタダストール」
「性能アップで作業時間大幅短縮!」
「異物はミンチ前に除去!!」
「FD-380K/海水が豊富に使用できる作業場向きです。/メリット:/大型洗浄撹拌槽付ですので/海苔が,よりキレイに洗えます。」
「FD-380S/海水量が少なくてすみます。/メリット:/海水の運搬労力・コストを節約します。」

「■特長/…●高濃度選別(異物除去)が出来ます。/…●逆洗機能付/濃い海苔が詰まった時,自動的に逆噴し,/詰まりを取り除きます。」「フルタ電機株式会社」

カタログ(乙43の4)
被控訴人作成の平成10年4月付けカタログ「フルタ海苔機械」(乙43の4)は,当時の被控訴人の取扱製品に関する総合カタログであり,「ダストール」の項目が設けられ,FD-380K型及びFD-380S型が紹介されているところ,これらの製品の「特長」の1つとして「逆洗機能付き/隙間に濃い海苔が詰まった時,自動的に逆噴し隙間を広げ洗浄し,詰まりを取り除きます。」との記載がある。

(2)

「ダストール」の構成
上記(1)イ及びウ認定の各記載によれば,平成10年4月頃に被控訴人に
より製造・販売されていた「ダストール」FD-380K型及びFD-380S型は,海苔づくりに使用する洗浄及び異物除去機能を備えた装置であり,その洗浄及び異物除去の過程で隙間の目詰まりを生じた場合には,自動的に逆噴して隙間を広げることによりその詰まりを取り除く機能を有するものであることがうかがわれるが,それ以上に,本件特許の出願当時における「ダストール」が具体的にどのような構造の装置であったかをうかがわせる証拠はない。なお,控訴人らは,写真集(乙43の15)における被写体である装置(以下「乙43の15装置」という。)が,L型金具が取り付けられている点を除き「ダストール」及びその前身である被控訴人テスト機と構成を同じくすることを前提とした主張をするけれども,乙43の15装置の型式は「FD380D-2K」であって,「FD-380K」や「FD-380S」とは異なること,その納入は平成12年1月18日(本件特許の出願より後の日)とされていること,写真の撮影日は平成28年12月3日とされており,納入から撮影までの間にその構造等に改変等が加えられた可能性も否定し得ないことなどに
鑑みると,これがL型金具の点を除き本件特許出願当時の「ダストール」等と構成を同じくするものと断定することはできないというべきである。また,控訴人は,被控訴人テスト機を,渡辺及び竹内の作業場に持ち込んで試験運転をし,さらに,関係者以外にも見学させたこと等によって,被控訴人テスト機は公知であったとも主張するけれども,このことは,被控訴人テスト機がFD-380K型等と同様の構成であったことを裏付けるものではない。
(3)

仮に,本件特許の出願当時における「ダストール」が,L型金具の点を
除き乙43の15装置と基本的に同一の構造を有するとした場合,本件発明3と乙43の15装置(ただし,L型金具を除く。)とは,以下の点で相違する。すなわち,本件発明3は,
A3

この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止
手段,

B’

前記防止手段を,

B’1

突起・板体の突起物とし,

B’2

この突起物を,回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした

C
生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置

であるのに対し,乙43の15装置は,この構成を有しない。
(4)

上記(3)を前提に,本件各発明の新規性ないし進歩性について検討する。
ア(ア)

乙43の8文書には,共回り防止ゴムについて,本件記載はあるも
のの,それ以外にこれに言及した記載はない。このため,本件記載に示された「共回り防止ゴム」がいかなる形状のものであり,選別ケースの外周のどの位置に,どのような態様で設けられるかといった具体的な構成は,本件記載ないし乙43の8文書には示されていない。
(イ)

この点,控訴人は,本件記載を見たPは,その技量に基づき,本件
記載は「共回り防止ゴムと称する部材を選別ケースの外周に取り付け,生海苔が隙間(クリアランス)に詰まったり,回転円板と一緒に回ることを解決すること」を試すものと理解し,本件各発明の課題,目的,構成及び効果を理解し得たし,本件記載を知り得た当業者であれば,P以外の当業者にとってもこのことは同様である旨主張する。
しかし,本件記載から,P及び当業者が,選別ケースの外周に共回り防止ゴムを付ける目的が生海苔排出口から良品として排出されていく生海苔の量を増やすことにあることを認識し得たとしても,そのための構成については,本件記載には「選別ケースの外周」に「共回り防止ゴムをつける」という記載があるにすぎず,共回り防止ゴムの具体的な取付位置や,共回り防止ゴムの形状(「突起物」といえるものであるか)等については何ら特定されていない。
そもそも,控訴人は,乙43の8文書記載の「共回り防止ゴム」とは「生海苔がクリアランスに詰まったり,詰まった生海苔が回転円板とともにクリアランスを回る不具合現象が発生することを防止するための複数の実例の総称的なことを示」すものとして本件会議の参加者により理解された旨主張し,その具体例として所定形状・所定大の防止ゴム片,ショットブラストされたザラザラの面,棒材やドライバ先端等の抵抗物を挙げるところ,この控訴人の主張を前提としても,乙43の8文書の「共回り防止ゴム」は具体的な構成を特定する概念ではないことになる。その点を措くとしても,生海苔のクリアランスへの詰まりを解消する工夫として,本件会議以前に具体例として所定形状・所定大の防止ゴム片が試みられたことをうかがわせる証拠は見当たらないし(鰐部幸政の陳述書(甲35,乙61の6)には「防止ゴム」についての言及があるが,これは上下の位置関係にある回転円板と選別ケースとの接触防止を目的とするものとされており,本件記載については「何を意味しているのか
は全く分かりません。」とされている。),ショットブラストされたザラザラの面はゴムを素材として形成されるものでないことは明らかである。また,棒材ないしドライバ先端等の抵抗物は,その素材としては多様なものが考えられるものの,ドライバ先端は通常は金属等の硬質の素材により形成されるものであり,これと棒材とが併記されていることを考えると,少なくともゴムを素材として形成されることを前提としたものではないといってよい。このため,これらは「共回り防止ゴム」という本件記載の文言とそぐわないと思われる。
そうである以上,本件特許の出願当時において,P及び他の当業者といえども,本件記載から控訴人主張に係る構成を認識し得たとはいえない。
加えて,本件発明3は,「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」ものであり,「突起物」の位置を具体的に特定するものであるところ,本件記載には上記位置に防止ゴムを設置する旨の記載はなく,P及び他の当業者がその位置に設置することを想到し得るとする根拠もない。
なお,控訴人は,Pの技量を指摘して上記主張をするけれども,本件記載ないし乙43の8文書によりPが上記理解に達し得たことを具体的に裏付ける証拠は同人(乙63の11及び16)及びQ(乙63の12)の陳述書を除き存在しない。そして,そこに記載された乙43の8文書ないし本件記載及び本件会議において認識し得た内容については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はないことや,両者の本件紛争に対する関わり等を考慮すると,上記各陳述書の内容はにわかには信用し得ない。
そうである以上,控訴人の上記主張は採用し得ない。
イ(ア)

「共回り」なる用語については,本件訂正明細書等において「前記
生海苔の異物分離除去装置,又は回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置においては,この回転板を高速回転することから,生海苔及び異物が,回転板とともに回り(回転し),クリアランスに吸い込まれない現象,又は生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象であり,究極的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する状況等である。この状況を共回りとする。」と定義されている(【0003】)。
(イ)

しかし,「共回り」なる用語が,本件特許の出願前に,生海苔異物
除去装置の分野において,本件訂正明細書等記載の意味と同じ意味に用いられていたことをうかがわせる証拠はない。なお,渡邊機開出願に係るその名称を「生海苔の洗浄熟成機」とする発明の公開特許公報(特開2003-93027。平成13年9月26日出願。甲34の3)の明細書には,「この発明においては,筒状槽の内壁に突条を縦設…したので,回転軸の回転に伴い,撹拌羽根により混合水(生海苔と水)の共回りを防止し,撹拌効果を向上させると共に,遠心力で槽壁側へ流動し,そのまま回転軸と同心状に流動しようとする混合水の流動方向を中心側へ向ける作用効果がある。」(【0014】),「前記発明における突条は,混合水が回転軸と同心状に共回りするのを防止すると共に,筒状槽の内壁側へ向けられた水流を,中心側へ方向変換させる作用も考えられている。」(【0021】)といった記載がある。ここにいう「共回り」なる用語の意味を明確に定義する記載は見当たらないが,「混合水が回転軸と同心状に共回りする」などといった記載に照らしても,本件訂正明細書等で定義された,回転板を用いた場合に生じる問題点としての意味において用いられていないことは明らかといってよい。他に「共回り」につき本件特許出願当時
において本件訂正明細書等のそれと同義に理解されていたことをうかがわせる客観的な証拠はない。
そうすると,本件記載に含まれる「共回り」なる用語につき,本件特許の出願当時において,P及び当業者により,本件訂正明細書等記載の定義と同じ意味に理解されたと見ることはできない。
(ウ)

証拠(乙63の1~8及び13)によれば,生海苔異物除去装置に
おいて隙間の目詰まりの問題を生じることがあること自体は,本件特許の出願当時,当業者に周知であったこと,その対処方法として逆洗やクリアランスに対向する面をショットブラストによりザラザラにすることが行われていたことはうかがわれる。
もっとも,その目詰まりの原因や機序について,本件訂正明細書等における上記「共回り」の定義づけにより示されたものであることが周知であったことまでをうかがわせるに足りる証拠はない。
そうすると,目詰まりの問題が生じていたという事実から直ちに,P及び当業者が,本件記載の「共回り」なる記載を,本件訂正明細書等に定義された意味での「共回り」の状況等であると認識し得ると考えることはできない。

控訴人は,控訴人が保管していた被控訴人製「ダストール

FD380S」

(以下「控訴人ダストール」という。)の写真撮影記録(乙63の15)に基づき,控訴人ダストールは本件特許出願当時の「ダストール」及び被控訴人テスト機と基本構成を同じくし,これに乙43の8文書記載の変更点を反映させたものであって,このことは乙43の8文書全体の変更計画が真実であったことを示す旨指摘する。
しかし,控訴人ダストールについては,その納入日は「平成10年」(乙63の15)又は「不明」(乙63の12)とされている上,「共回り防止ゴム」に相当するものと見ることもできるゴムを使用した部材
が制御盤内に袋入りで保管されている一方で,同袋内にはL型金具も保管され,回転板には,当該L型金具を取り付けるための取付け受け構造が設けられていると見られるところ,少なくとも本件特許出願前にクリアランスの目詰まりをなくす構成としてL型金具が構想されたことをうかがわせる証拠はないこと(なお,平成28年12月9日付け審判請求書(乙42)に,渡邊機開等も「本件出願前においては,回転板3の外周端面や円周面に何も工夫をしていなかったが,『前橋ダストール』において,回転板3の回転板用リング13の外周面である円周端面11にL型金具からなる突起物8(防止手段4に相当)を固着してクリアランスの外周側を回転するようにしたり,…」と記載していることに鑑みると,L型金具の使用は本件特許の出願後であることがうかがわれる。),控訴人ダストールの上記納入時期からこれが写真撮影された平成29年4月25日までの期間等を踏まえると,納入から撮影までの間にその構造等に改変等が加えられた可能性も否定し得ないことなどに鑑みると,本件特許の出願前に,控訴人ダストールに上記「ゴムを使用した部材」が「共回り防止ゴム」として取り付けられ,本件記載技術が公然実施されたことを認めること,及びこのような構成に係る発明が公知となっていたことを推認することはできないというべきである。また,控訴人ダストールが存在するからといって,本件特許出願当時,本件記載の「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける」につき,控訴人ダストールの上記「ゴムを使用した部材」と同じゴム部品を,控訴人ダストールと同じ位置に取り付けることを意味することが自明であったことにもならない。

以上によれば,本件特許の出願当時,Pが本件記載に接し,また,当業者がこれに接することができたとしても,これに基づき,「共回り防止ゴム」が,本件訂正明細書等に定義された意味での「共回り」の状況の
解決を意図したものであることを理解するとはいえないし,いかなる形状ないし構造を有するものであるのかを理解することもできず,また,これが取り付けられるべき「選別ケースの外周」がどの位置を意図したものかを理解することもできないというべきである。
そうすると,仮に,本件特許の出願当時,「ダストール」ないし被控訴人テスト機の構成が公然知られたものであり,また,本件記載技術がPに知られ,又は公然知られたものであったとしても,本件発明3は,本件記載技術と一致するものといえないことはもちろん,上記「ダストール」等の構成及び本件記載技術に基づき当業者が容易に想到し得たものということもできない。また,本件発明1及び4は,本件発明3と構成要件B’2の突起物の設置位置のみが異なるものであるから,本件発明3についてと同様に,控訴人主張に係る無効理由により無効とすることはできない。

したがって,本件特許に法29条1項1号及び2項違反の無効理由があると認めることはできない。この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

7
争点(3)(差止請求の可否)について
争点(3)(差止請求の可否)については,原判決87頁21行目の「生産のみに用いる物」を「生産にのみ用いる物」に改めるほかは,原判決「第4裁判所の判断」「7


争点(3)(差止請求の可否)について」(1),(2),及び(3)
ア(原判決86頁22行目~90頁13行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
8
争点(5)(損害発生の有無及びその額)について
(1)

争点(5)(損害発生の有無及びその額)のうち,控訴人が本件製品1及び
2の販売によって得た利益については,後記(2)のとおり訂正し,また,後記(3)のとおり付加するほかは,原判決「第4

当裁判所の判断」「9


点(5)(損害発生の有無及びその額)について」(1),(2)(原判決92頁2行目~96頁23行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。(2)ア

原判決92頁18行目の「108台」を「107台」に,同頁26行
目の「721万9800円」を「1903万5000円」に,93頁1行目の「1153万4800円」を「2335万0000円」に,それぞれ改める。

(3)

原判決96頁14行目の「LS-G型」を,「LS-8型」に改める。控訴人が本件製品1及び2の販売によって得た利益に関する当審におけ
る控訴人の主張について

撹拌機等のセット品及び一部業者への据付工賃等の控除について
(ア)

撹拌機等のセット品について
控訴人は,生海苔異物除去機の販売に当たっては良品タンク等をセッ
トにして販売することがあり,そのような場合,セットで販売した商品がなければ,控訴人は本件旧装置及び本件新装置を販売し得ないから,その仕入に要した費用は控訴人が得た利益から控除されなければならない旨主張する。
この点,証拠(乙47の各号)によれば,本件旧装置及び本件新装置の販売時に合わせて撹拌機や良品タンク等が顧客に提供されているところ,売上伝票上それらは無償で提供したものとして記入されていることが認められる。この記載を踏まえると,撹拌機や良品タンク等のセット品は無償で提供されたものと理解するほかなく,原判決が指摘するとおり,本件旧装置又は本件新装置の本体価格からセット品の仕入価格相当額を控除すべき根拠に乏しいというべきである。この点は,原判決別紙販売利益等一覧表3の55番の取引を考慮しても異ならない。
また,控訴人は,セット品の仕入価格を裏付ける証拠として乙86の各号を提出するけれども,これらに添付された請求書等記載の製品が具
体的にいつ,どの顧客に提供されたかを客観的に裏付ける証拠はない。加えて,これらの請求書等が原審段階では提出されず,当審において提出されたといった経緯をも踏まえると,乙86の各号については,各顧客に提供されたセット品の仕入を裏付ける証拠としての信用性に疑念を抱かざるを得ない。
そうである以上,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。
(イ)

据付工賃について
控訴人は,一部取引につき,納品・据付・メンテナンス費用として,
少なくとも納品を単体で請け負う際の代金である税抜き15万円を控除すべきである旨主張する。
証拠(乙84)によれば,控訴人が本件装置(WK型)のうちWK600型の据付を単価15万円で行ったことがあることはうかがわれるけれども,この一例をもって,控訴人が常に当該金額で請け負っていると認めることは必ずしもできないし,上記費用を本件製品1及び2の売上げのための経費として計上すべきことになるものでもない。また,控訴人は,納品・据付・メンテナンスの有無により販売価格に概ね30万円程度の差をつけており,これは納品・据付・メンテナンス等の人件費に差があることによるとしているけれども,納品等を外注した場合はもちろん,自らの従業員にその作業を担当させた結果人件費の増額を生じた場合も,何らかの裏付け資料が存在してしかるべきと思われるところ,これを裏付けるに足りる証拠は提出されていない。
そうである以上,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。
(ウ)

値引きについて
控訴人は,原判決別紙販売利益等一覧表2記載の29番に係る取引に
ついて,現に10万円の値引きがされた旨主張し,その証拠として乙85の1及び2を提出する。

これらの証拠によれば,特定の得意先につき,平成20年10月7日付けでWK-550型の売上として220万円が計上されたこと,同年12月31日付けで「R

異物機代」として210万円が入金されたこと,

同日付けで「値引き

異物機代」として10万円の減額処理がされたこ

とが認められる。
しかし,上記売上げと値引きによる減額処理とを直接的に結びつける客観的な証拠はない。仮に上記売上げとの関係で上記値引きによる減額処理が行われたものであるとしても,販売後に代金額を値引きすることは必ずしも一般的に生じ得る事態ではないこと,このような処理が行われるに至った経緯は明らかにされていないこと,当該証拠を原審段階で提出することに支障があったとは見られないことなどを踏まえると,上記減額処理が真に値引きの趣旨で行われたものと認めることは必ずしもできない。
そうである以上,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。
(4)

被控訴人の損害額
消滅時効について
(ア)

控訴人は,本訴提起の日である平成28年1月22日から3年前の
平成25年1月22日以前の本件製品1の販売分については,損害賠償債務につき消滅時刻が完成している旨主張する。
民法724条前段の消滅時効の起算点は,被害者等が「損害及び加害者を知った時」,すなわち加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であり(最高裁判所昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照),また,違法行為による損害の発生及び加害者を現実に了知したことを要すると解される。これを物の製造販売による特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の事案についてよ
り具体的にいうと,被害者である特許権者が,加害者による当該物の製造販売の事実及びそれによる損害発生の事実を認識したことに加え,当該物が当該特許権に係る特許発明の技術的範囲に属することを認識したことも必要である。なぜならば,特許権者にそのような認識がなければ,加害者による当該物件の製造販売行為が自己の特許権を侵害する不法行為であることを認識することはできず,そのため,加害者に対する損害賠償請求権を事実上行使し得ないからである。
そこで,被控訴人がこれらの認識を有するに至った時期について,以下検討する。
(イ)

控訴人は,被控訴人が控訴人による本件製品1の販売事実を知った
時期として,平成19年7月9日又は同月10日,平成20年前後,平成22年8月20日又は同月21日を主張するところ,証拠(乙67~73(枝番を含む。))によれば,被控訴人は,これらの広告の記載等を通じて,控訴人が渡邊機開製の製品を取り扱っている事実を知り得る状況にあったことがうかがわれる。とりわけ,2009年版「天明版

潮汐表」(乙69の3)の控訴人の広告には,本件装置

(WK型)のうち「WK-550」及び「WK-600」の製品名が具体的に明記されている。このことと,被控訴人が生海苔異物除去機の製造販売につき渡邊機開と競合関係にあったこと,複数年にわたり控訴人が本件装置(WK型)の販売を取り扱っていることなどを考え合わせると,特定の取引に関する詳細な情報は得られないまでも,上記時期を通じたいずれかの時点において控訴人による本件装置(WK型)の販売事実があったことは,被控訴人においても具体的に認識していたと推認するのが合理的である。
また,本件各部品は本件装置(WK型)に装着して使用される消耗品であることに鑑みると,本件装置(WK型)の販売事実の認識は本件各
部品の販売事実の認識につながるものと理解される。
以上より,被控訴人は,平成22年8月ないしそれ以前の時期までに,控訴人による本件製品1の販売事実を認識していたものと認められる。(ウ)

次に,本件製品1が本件各発明の技術的範囲に属することを被控訴
人が認識した時期について検討する。
a
この点に関し,控訴人は,被控訴人代表者作成の報告書(甲13の1)を根拠に,被控訴人は,遅くとも平成19年6月頃には本件装置(WK型)が本件特許権を侵害する可能性があることを認識していた旨主張するところ,上記報告書には,被控訴人は,平成19年6月頃から,本件装置(WK型)が本件特許権の「侵害品であると判断して調査を開始して」いた旨の記載がある。また,その頃,被控訴人は,本件装置(WK型)のうちWK-500型それ自体及びその動作状況の写真撮影を行った(甲8の1,乙121の2及び3,弁論の全趣旨)。しかし,同月8日の本件特許権設定登録を経た後,被控訴人は,
同年7月10日付け訴状により,WK-500型・WK-600型の製造販売等が被控訴人の特許権を侵害するものであるとして,渡邊機開に対する訴訟を提起したが(東京地方裁判所平成19年(ワ)第17559号特許権侵害差止等請求事件。以下「別件訴訟」という。),そこでは本件特許権とは異なる特許権(特許第3121307号。以下「別件特許権」という。)の侵害が主張された(甲13の1,乙121の1及び3)。上記写真も,当該訴訟において書証として提出された(乙121の2及び3)。
なお,別件訴訟の訴状添付の物件目録には,「被告装置の構成」
として「環状固定板4の表面4bの一部にはツメ8が取り付けられている。その取り付け部位においては,その厚さ(約1mm)分だけ表面が高くなっている。」と記載されるとともに,原判決別紙物件目録
2の別紙図面(1)及び(2)に類似する図面が添付されている(乙121の1)。他方,別件特許権に係る特許請求の範囲の記載は「生海苔・海水混合液をプールする混合液槽と,この混合液槽の底部に設けた異物排出口と,前記混合液槽に設けた異物と生海苔を分離する異物分離機構とで構成される生海苔異物分離除去装置において,前記異物分離機構を,前記混合液槽の底部に設けた吸込みポンプ用の連結口を有する選別ケーシングと,この選別ケーシングの情報に重ねるように設け,かつこの選別ケーシングに貫設した回転軸に遊嵌した回転板と,この回転板の回転円周縁面と前記選別ケーシングの円周縁面とで形成したクリアランスとで構成し,このクリアランスを,前記回転軸に設けた回転板の上昇で拡大可能としたことを特徴とする生海苔異物分離除去装置の異物分離機構。」である(乙121の1)。また,別件訴訟については,平成20年1月17日に第1審判決(請求棄却)が,同年8月26日に控訴審判決(控訴棄却)がされた(甲13の1,弁論の全趣旨)。
b
その後,本件特許権については,平成22年1月18日に訂正審判請求がされ,同年2月25日,これを認める審決がされた(審決確定は同年3月9日。甲1)。
なお,この間の同年1月22日に,被控訴人は,WK-500型につき更に写真撮影を実施した(甲8の2,72,弁論の全趣旨)。

c
被控訴人は,同年8月30日,渡邊機開と会談したが,その際,本件特許権侵害の問題に言及することはなかった(甲13の1,71,弁論の全趣旨)。その後,業務提携等を話題とする複数回の会談を経た平成24年2月6日,被控訴人は,渡邊機開に対し,被控訴人作成に係る「覚書」と題する書面(甲13の1に別紙として添付されたもの。以下「本件覚書案」という。)を交付した(甲13の1,弁論の
全趣旨)。本件覚書案には,以下のような記載がある。


被控訴人は,親和製作所の「生海苔異物除去装置」について,
被控訴人の保有する本件特許に基づき特許権侵害訴訟(東京地
方裁判所平成22年(ワ)第24479号)を提起している。
この訴訟では,現状,親和の装置が,本件特許侵害であると東
京地方裁判所は判断しており,この判断を前提として,親和は
「生海苔異物除去装置」の製造販売を停止した(被控訴人と親
和の間で平成23年12月8日,仮処分事件において暫定和
解)。(第1条1(1))



被控訴人は,親和製作所の装置と同様の機構を備えている渡
邊機開の装置も本件特許に抵触すると判断し,近日中に,渡邊
機開に対し差止,損害賠償を求める訴訟を提起する予定である。
(第1条1(2))



訴訟提起前の段階では,渡邊機開が被控訴人に対して負担す
べき損害賠償債務の存否・金額は未確定であるが,訴訟提起し
た場合に結果として渡邊機開が負担する費用(少なくとも訴訟
遂行に要する弁護士費用,敗訴時の損害賠償債務の支払その他)
が多大なものとなり,その負担が今後の業務遂行に使用を及ぼ
すとの渡邊機開の懸念を被控訴人は理解したため,被控訴人は
訴訟提起をいったん見合わせ,話合いによる解決を図る必要性
があるとの判断で一致した。(第1条1(3),(4))



本件交渉は,被控訴人が渡邊機開の発行済み株式総数の一定
数を引き受けることを内容とした業務提携であることを前提と
して行う。被控訴人が渡邊機開に支払うべき株式引受の対価は,
渡邊機開が被控訴人に対して負担すると想定される損害賠償債
務(渡邊機開が,その製造販売する装置が本件特許に抵触する

ことによって被控訴人に対し負担すべき過去及び将来の損害賠
償債務)に基づき,被控訴人が渡邊機開から徴収すべき金員相
当額を充当する。(第1条2,4)
しかし,両社間の業務提携交渉は,その後具体的に進展しないま
ま,平成24年6月11日の会談を最後に打切りとなった(甲13の1,71)。なお,その間である同年4月17日頃,被控訴人は,本件装置(WK型)のうちWK-700型の写真撮影をした(甲8の3,72,弁論の全趣旨)。
d
被控訴人は,本件覚書案交付前の平成23年12月22日,被控訴人訴訟代理人に対して「親和製作所の件」と題する連絡文書を作成してファックス送信したが,その中で,販売店を訪問した折に「渡邊機開の異物分離機はフルタの特許に抵触しないのか」と質問されたのに対し,「専門家の判断を待たなければ結論は言えない,しかし,渡邊機開の異物分離機も同じ場所に同じ特許製品が使用されているとは思っています。」と回答した旨報告している(甲66)。

e
被控訴人は,平成24年10月7日頃,WK-500型の写真撮影をした(甲8の4,72,弁論の全趣旨)。
また,被控訴人は,平成25年4月9日頃,WK-500型の実機(中古品)を代金100万円で入手した(甲70の1及び2,72,弁論の全趣旨。なお,納品書及び請求書では,同年11月15日の納品とされているが,後記渡邊機開に対する警告書の送付及び訴訟提起の時期等を考慮すると,上記のとおり認定するのが相当である。)。

f
被控訴人は,渡邊機開に対し,同年9月10日付け警告書を送付した(同月11日到達。甲67の1及び2)。その内容は,本件装置(WK型)が本件特許権を侵害するとの見解をその理由とともに示す一方で,親和製作所との訴訟の経緯(平成24年11月2日付け東京
地方裁判所判決で親和製作所の製品につき本件特許権侵害が認められ,控訴審でもその判決が維持されて確定したことなど)に言及した上で,「上記のような経緯から,貴社…は,貴社製品が本件特許権侵害品であることを十分に認識した上で,当社代表者…との間で業務提携交渉を行っております。」,本件覚書案「を見れば貴社製品が本件特許権侵害品であることを前提として,仮に訴訟に至った場合は,多額の費用負担によって貴社の今後の業務遂行に支障を来すことを貴社が懸念したため,貴社から業務提携交渉が持ちかけられ,それに対して,当社が訴訟提起を一時見合わせ…たことが明らかです。」などと,従前の交渉経緯にも言及するものである。
g
被控訴人は,同年12月11日,渡邊機開に対し,本件装置(WK型)の製造販売が本件特許権の侵害に当たるとして,その差止等を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成25年(ワ)第32555号特許権侵害差止等請求事件。甲10の1,15)。

h
以上の事実経過を踏まえて検討してみると,被控訴人は,遅くとも平成19年6月ころには本件装置(WK型)のうちWK-500型が本件特許権を侵害する可能性があることを認識し,WK-500型それ自体及びその動作状況の写真撮影をするなどした後,同年7月10日には,WK-500型及びWK-600型の製造販売等が,被控訴人の特許権(別件特許権)を侵害するとして訴訟を提起しているのであるから,この訴え提起時点までには,特許権侵害の主張をする前提として,本件装置(WK型)のうちWK-500型及びWK-600型の構造や動作状況について具体的に認識把握していたと推認するのが合理的である。もっとも,この時点においては,本件特許権ではなく,別件特許権の侵害が問題とされていた以上,本件装置(WK型)が本件特許権を侵害することについて,被控訴人が具体的な認識を持っていたとまで断定すること
は困難である。
しかしその後,被控訴人は,親和製作所に対して本件特許権侵害を理由とする訴訟を提起し,裁判所から,親和製作所の装置が本件特許権を侵害するとの心証開示を受け,これを前提として,親和製作所との間で同社の装置の製造販売を停止するという暫定的な和解を成立させた(なお,上記訴訟において,被控訴人は,親和製作所の装置に備わる「プレート板」は「共回りを防止する防止手段」であり「板状の突起物」に該当するなどと主張し,その第1審判決も「本件プレート板は,本件発明における『共回りを防止する防止手段』に該当する」,「本件プレート板のうち本件回転板の外周縁から突出した部分(爪部)は,構成要件B1の『板体の突起物』に該当する」と認定している。甲27の1の1及び2)。こうした事情を背景として,被控訴人は,平成24年2月6日,渡邊機開に対し,本件覚書案を提示した。その内容を見ると,(裁判所から本件特許権を侵害すると判断された)親和製作所の装置と同様の機構を備えている渡邊機開の装置も本件特許権に抵触すると判断し,近日中に渡邊機開に対し,差止,損害賠償を求める訴訟を提起する予定である(第1条1(2))として,本件装置(WK型)が本件特許権を侵害することを前提とした覚書案であることを明記した上,渡邊機開の事情を考慮し,訴え提起をいったん見合わせ,被控訴人が渡邊機開の発行済み株式総数の一定数を引き受けることを内容とした業務提携を検討するが,株式引受の対価には,渡邊機開が被控訴人に対して負担すると想定される損害賠償債務に基づき,被控訴人が渡邊機開から徴収すべき金員相当額を充当する(第1条2,4)という,渡邊機開に損害賠償債務が存在することを当然の前提としたものになっている(なお,本件覚書案第1条(3)には,「訴訟提起前の段階では,渡邊機開が被控訴人に対して負担すべき損害賠償債
務の存否・金額は未確定であるが」との記述が存在するが,本件覚書案全体の記載に照らしてみると,この記述は,損害額等が明らかになっていない以上,損害賠償債務の存否・金額は明らかではないということを意味するにとどまり,本件特許権の侵害自体が明らかではないという認識を示すものではないと理解される。)。
以上のように考えると,被控訴人は,平成19年7月頃までには本件装置(WK型)のうちWK-500型及びWK-600型の構造や動作状況を具体的に把握し(また,被控訴人と渡邊機開との係争状況等に鑑みると,同シリーズであるWK-550型及びWK-700型についても,平成20年5月頃(WK-550型。甲6の3)及び平成24年4月頃(WK700型。甲6の7,8の3)には,同様の構造や動作状況であることを認識していたものと推認し得る。),その後,それらと本件各発明との比較検討を行い,平成24年2月6日の本件覚書案提示までには,親和製作所に対する訴訟における勝訴的和解成立という事情もあって,親和製作所の装置と「同様の機構を備えている」本件装置(WK型)も本件特許権を侵害すると判断するに至ったものであると推認することができ,また,本件覚書案は,このような認識を端的に示すものと理解し得る。したがって,遅くとも本件覚書案を提示した平成24年2月6日までには,本件装置(WK型)のうちWK-500型,WK-550型及びWK-600型が本件各発明の技術的範囲に属することを認識したというべきであり,また,WK-700型については同年4月頃までには同様の認識に至っていたものということができる。
なお,被控訴人は,①渡邊機開との業務提携交渉が頓挫した平成24年6月以降も,直ちに訴えを提起することはせず,また,②同年10月ころにWK-500型の写真撮影をし,平成25年4月ころ,WK-500型の実機を購入するなどしているが,①は,親和製作所との訴訟を優
先させる等の判断に基づくものであるといえるし,②も,訴訟提起に向けた証拠固めのための行為であるといえるから,これらの事情が存したからといって,被控訴人が,本件特許権侵害の事実を具体的に認識していなかったということはできない。
(エ)

以上のとおり,被控訴人は,控訴人による本件製品1の販売の事実
を平成22年8月ないしそれ以前の時期に知り,また,遅くとも平成24年2月6日(WK-500型,WK-550型,WK-600型)ないし同年4月(WK-700型)までには,本件装置(WK型)が本件各発明の技術的範囲に属することを認識したものと認められる。そうである以上,本件訴え提起の日である平成28年1月22日から3年前の平成25年1月22日以前の本件製品1の販売分については,控訴人の被控訴人に対する損害賠償債務につき消滅時効が完成していることになる。
(オ)

これに対し,被控訴人は,損害及び加害者についての現実に了知し
たのは早くとも平成27年7月初旬であるなどと主張するけれども,上記認定のとおり,その主張は採用し得ない。
また,被控訴人は,控訴人を相手方とする証拠保全申立書が平成27年10月27日に控訴人に送達されたことをもって「催告」(民法153条)に該当する旨も主張するけれども,証拠保全の申立ては裁判所に対する証拠調べの申立てであって,控訴人に対する損害賠償債務の履行請求の意思を示すものとはいえないことから,これをもって「催告」ということはできず,この点に関する主張も採用し得ない。

以上を前提に,特許法102条2項に基づき被控訴人に生じた損害額(消滅時効が完成していない部分)を算定すると,以下のとおりとなる。(ア)
a
販売利益
本件旧装置(税込)

2838万5650円(①’)

本件旧装置のうち,WK-500型,WK-550型及びWK-700型の販売は
全て平成25年1月22日以前にされたものであり,その販売による損害賠償債務は時効により消滅している。WK-600型の販売のうち,原判決別紙「販売利益等一覧表3」記載の取引番号68~154の取引についても同様である。
b
本件新装置(税込)

1521万1040円(②)

c
本件各部品(税込)

262万0275円(③’)

本件固定リングについては,平成24年度までの販売分に係る損
害賠償債務は時効により消滅している。
本件板状部材については,平成24年10月19日仕入に係る分
は同月26日に販売されたものと認められることから(甲19の3),それ以前の販売分に係る損害賠償債務は時効により消滅しているものといってよい。
d
本件回転円板(税込)

e
合計

(イ)

62万6940円(④’)
4684万3905円

弁護士費用相当額の損害

468万円

本件の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は,468万円と認めるのが相当である。
(ウ)

認容額

(エ)

不法行為の時期による損害の区分

a
5152万3905円

平成27年10月27日までの取引分(【損害A’】)
本件旧装置(取引番号156を除く。)及び本件各部品の取引の
不法行為による損害額

3033万2925円

―28,385,650(①’)-―673,000(取引番号156)+―2,620,275(③')=―30,332,925
b
平成27年10月28日以降の取引分(【損害B’】)
本件旧装置(取引番号156),本件新装置及び本件回転円板の

取引の不法行為による損害額

1651万0980円

―673,000(取引番号156)+―15,211,040(②)+―626,940(④’)=―16,510,980
c
弁護士費用相当額
【損害A’】に対応する分
【損害B’】に対応する分

(オ)
a
303万円
165万円

認容額と遅延損害金起算日の関係
平成27年10月28日を起算日とするもの
3336万2925円
―30,332,925+―3,030,000=―33,362,925
b
平成28年12月18日を起算日とするもの
1816万0980円
―16,510,980+―1,650,000=―18,160,980
(5)

推定覆滅事由等について
推定覆滅事由等として控訴人が主張するもののうち,消滅時効については上記のとおりである。
他方,アフターサービスの負担及び寄与率については,後記イのとおり付加するほかは,原判決「第4

当裁判所の判断」「9

争点(5)(損

害発生の有無及びその額)について」(4)ア,イ(原判決98頁23行目~100頁2行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。イ
当審における控訴人の主張について
(ア)

控訴人は,生海苔異物除去機においては鉛直溝がなければクリアラ
ンスは目詰まりを起こすことから,本件特許権が目詰まりや共回りを防止したとしても本件旧装置等の販売に影響を与えたとは考えられない,本件旧装置等の販売においては,海苔生産者にとって死活問題であるメンテナンス行為や控訴人の技術,渡邊機開のブランド力が大き
く寄与している,本件旧装置等の備える魅力が需要者による購買に結びついているなどと指摘して,法102条2項による推定は少なくとも5割が覆滅されるというべきである旨主張する。
(イ)

まず,控訴人は,生海苔異物除去機においては鉛直溝がなければク
リアランスは目詰まりを起こすなどとするけれども,本件旧装置及び本件新装置のいずれにおいても,回転板ないし回転円板の円周面及び固定リングないし環状固定板の内周面に,生海苔・海水混合液が吸引される方向に貫通する鉛直溝は存在しないと見られるのであって,そもそもその主張の前提を欠くことなどから,鉛直溝を設けた異物除去機の存在を理由に,本件各発明の寄与の割合を減ずることは適当でない。
(ウ)

次に,控訴人は,メンテナンス行為や控訴人の技術,渡邊機開のブ
ランド力が本件旧装置等の売上げに寄与しているとするけれども,これを具体的に裏付ける証拠はない。
また,本件各発明は,共回り現象の発生を回避してクリアランスの目詰まりをなくし,効率的・連続的な異物分離を実現するものであって,生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものといってよいところ,仮に控訴人指摘に係る上記事情が存在するとしても,これをもって,本件各発明の実施品の顧客吸引力に関わらず被控訴人がその販売の機会を持ち得なかったと見るべき事情ということはできない。
(エ)

また,控訴人は,本件旧装置等は被控訴人の製品を上回る魅力を備
えたものであり,それが需要者による購買に結びついているとするけれども,同様にこれを具体的に裏付ける証拠はないし,仮に指摘に係る事情が存在するとしても,本件各発明の実施品の顧客吸引力に関わらず被控訴人がその販売の機会を持ちえなかったと見るべき事情ということはできない。

(オ)

他に控訴人の本件旧装置等の販売により被控訴人が取引の機会を奪
われたとはいえない事情も格別見当たらない。
(カ)

そうすると,本件各発明が本件製品1及び2の販売に寄与する割合
を減ずることは相当でない。この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。
第4

結論
以上より,被控訴人の控訴人に対する請求のうち,本件製品1及び2の譲渡,貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止め,本件製品1及び2の廃棄,本件メンテナンス行為1及び2の差止めの各請求は理由があり,その限度で被控訴人の請求を認容し,その余の請求を棄却した原判決の判断に誤りはなく,この点に関する控訴人の控訴は理由がない。
他方,被控訴人の控訴人に対する請求のうち,不法行為に基づく損害賠償請求については,5152万3905円及びうち3336万2925円に対する平成27年10月28日から,うち1816万0980円に対する平成28年12月18日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余を棄却すべきところ,これと異なり,1億6334万5175円及びうち1億4045万1960円に対する平成27年10月28日から,うち2289万3215円に対する平成28年12月18日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求を認容し,その余を棄却した原判決は一部失当であり,この点に関する控訴人の控訴の一部は理由がある。
そこで,原判決中控訴人に対する金銭請求に関する部分を主文のとおり変更し,控訴人のその余の控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦杉浦正樹寺田利彦
裁判官

裁判官

(別紙)

当事者目録

控訴人株式
同訴訟代理人弁護士

椛島修同竹田寛同三宅賢同大野智同小林健同松﨑広同今村衣里同泊祐樹同福田康亮同細田裕司同田中雅敏同高山大地同鶴利絵同宇治恭子同石井靖子同早崎裕子同小栁美佳同池辺健太同堀田明希同大坪め加会社九研和恵美彦太ぐ郎み同安田裕明同九谷福弥同山腰健一同補佐人弁理士

伊藤高英被
フルタ電機株式会社

控訴人
同訴訟代理人弁護士

小南明也
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