判例検索β > 平成27年(わ)第1732号
現住建造物等放火被告事件
事件番号平成27(わ)1732
事件名現住建造物等放火被告事件
裁判年月日平成30年2月20日
法廷名福岡地方裁判所
戻る / PDF版
平成30年2月20日宣告
現住建造物等放火被告事件
主文
被告人を懲役8年に処する
未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,a,b,c,d及びeと共謀の上,平成24年8月14日午前4時26分頃,fほか2名が現に住居に使用し,かつ,現に同人ら10名がいた北九州市Ⅰ区Ⅱ町Ⅲ丁目Ⅳ番Ⅴ号所在のg(鉄筋コンクリート造陸屋根等6階建,床面積合計約1025.39平方メートル)において,被告人又は上記dが,同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上,同エレベーター内に火をつけた発炎筒を投げ込んで火を放ち,その火を同エレベーターの天井及び3階エレベーター前床面等に燃え移らせ,よって,建造物である同ビルのエレベーターを全焼させるとともに,同ビル3階エレベーター前床面の一部を焼損(焼損面積合計約3.2平方メートル)した。
(事実認定の補足説明)
弁護人は,被告人がgへの放火を実行したことはなく,他の者と同ビルへの放火を共謀したこともないから,被告人は無罪である旨主張し,被告人も本件への関与を否定するので,判示のとおり認定した理由を補足して説明する。第1

前提事実

以下の事実は当事者間に実質的に争いがなく,証拠上も容易に認められる。1
被告人とh

hは,北九州市を中心とする地域を縄張りと主張している暴力団であるところ,被告人は,以前より親しい関係にあったeがhに入ったため,平成22年か23年頃に自身もhに入り,その二次団体であるi一門のjの組員として活動していた。こうした経緯から,被告人は,h内では,i直若(本件当時。以下,他の者についてi内での役職に言及するときも同様である。
)のeの弟分の関係にあった。
2
標章制度とiによる調査

平成23年に福岡県暴力団排除条例が改正され,暴力団排除特別強化地域に指定された場所で営業する飲食店等が「暴力団員立入禁止」などと記載された所定の標章(以下,単に「標章」という。
)を掲示した場合,暴力団員が同店内に立ち入るこ
とを禁止する制度が導入され,その施行日は平成24年8月1日とされた。iでは,
標章制度開始以降,
20ないし30名程度の組員が,
北九州市Ⅰ区Ⅵ町
(以
下,地名は特に指摘しない限り北九州市Ⅰ区のことを指す。,Ⅱ町等の繁華街を手)
分けして回り,1軒1軒の飲食店等が標章を掲示しているかを調べ,その結果を取りまとめていた。
3
放火に使用する道具等の準備

i若頭のbは,
平成24年7月中旬頃から8月上旬頃,組員のkに対し,(バ
i
単車
イク)のナンバープレートを1枚用意するよう指示し,kは,バイクのナンバープレート1枚を盗んだ。また,bは,同月13日頃,kに対し,赤色スプレー缶2本を用意するよう指示し,kは,同日,量販店において,赤色スプレー缶2本を購入した。
さらに,bは,同年8月上旬頃,lに対し,バイクを調達するよう依頼し,lは,同月13日夜,熊本市内で黒色のバイク(以下「本件黒色バイク」という。)を窃取
した。lは,bの指示を受け,同月14日未明頃,Ⅶ町所在の高架下にあるⅦ駐車場(以下「高架下」という。
)まで本件黒色バイクを運搬し,その後,kが盗んだナン
バープレートは,本件黒色バイクに装着された。
4
mへの放火事件の発生とその犯行状況等

mは,暴力団排除特別強化地域内のⅡ町Ⅲ丁目Ⅷ番Ⅳ号に所在する雑居ビルで,同ビルには,本件当時,飲食店21店舗(うち9店舗が標章を掲示)が入居していた。mの所有者であるnの代表取締役は,本件当時,Ⅵ町及びⅡ町の店舗経営者を中心に100名以上が会員となっているoの相談役を務めていたが,同会は,活動の一環として暴力団追放運動を行っていた。
i組員のpは,i筆頭若頭補佐のcから,平成24年8月13日,mまでi組織委員のqを後ろに乗せてバイクを運転するよう指示を受けた。pは,同日夜,i風紀委員長のrからも,同ビルまでバイクを運転するよう依頼されるとともに,同ビルの入居店舗の標章にスプレーを吹き付けるよう指示された。
一方,も,
q
同日,から,
c
pが運転するバイクに乗ることや,eから荷物を受け取ることなどを指示された。pとqは,同月14日未明頃,高架下付近でeと合流し,eから,作業着や靴等が入ったバッグを受け取り,その作業着等に着替えた。また,qは,eから,灯油入りペットボトル,
発炎筒,
赤色スプレー缶が入ったリュックサックを受け取った。
そして,pが本件黒色バイクの運転席に,qが本件黒色バイクの後部座席にそれぞれ乗車して高架下を出発し,mに向かった。
pとqは,同日午前4時半頃,同ビル前で本件黒色バイクを降りると,同ビル内に入り,qが同ビル1階に停止していたエレベーターを3階に上げてから,同階に停止していたエレベーター内に灯油をまき,pが火をつけた発炎筒をエレベーター内に投げ込んで放火するとともに,同階にある店舗脇壁面に掲示されていた「暴力追放宣言の店」などと記載されたステッカー(pが標章と誤解したもの)に赤色スプレー缶で赤色塗料を吹き付けた。pとqが本件黒色バイクに乗って犯行現場から逃走した後,pは,Ⅶ町の岸壁から本件黒色バイクを海中に投棄した。その後の捜査の結果,pが吹き付けた赤色塗料については,kが購入した赤色スプレー缶の赤色塗料と同種のものであることが判明した。
5
gへの放火事件の発生と関連する物証の捜査結果

gは,暴力団排除特別強化地域内のⅡ町Ⅲ丁目Ⅳ番Ⅴ号に所在する鉄筋コンクリート製等の6階建の雑居ビルであり,その周囲の状況は,西側と南側をL字型に囲む形で立体駐車場が隣接するほかは,飲食店等が入居する雑居ビルが建ち並ぶ繁華街である。本件当時,gの1階から4階には,飲食店21店舗(うち14店舗が標章を掲示)
が入居しており,
5階には,
同ビルの所有者とその家族が居住していた。
gの所有者は,本件当時,oの会長を務めていた。
同月14日午前4時半に近い頃,何者かがgのエレベーター内に放火し,同エレベーターを全焼させ,同ビル3階のエレベーター前床面を一部焼損させるなどするとともに,同階に入居していた2店舗の出入口付近の壁やシャッターに赤色塗料を吹き付けるという事件が発生した。この放火事件発生当時,gには,同ビルの所有者とその家族合計3名がいたほか,同ビル3階で営業中の店舗に合計7名の客及び従業員がいた。
その後の捜査の結果,gのエレベーター内の残焼物から灯油の成分が検出され,同ビルに吹き付けられた赤色塗料は,kが購入した赤色スプレー缶の赤色塗料と同種のものであることが判明した。
また,g付近路上を映した防犯カメラ映像には,同日午前4時25分頃,2名の人物が乗ったバイクが同ビル前路上に停車し,その2名がバイクから降りて同ビル方向に向かい,1分半ほどして2名ともバイクに戻ってきて,その場から走り去る様子などが映っていた。
さらに,後日,Ⅶ町付近の海中から,平成24年8月9日から10日にかけて福岡県宗像市内で窃取されたナンバープレートが装着されたs製の白色バイクが発見された。この白色バイクのエンジン番号及び車台番号はいずれも削り取られていたが,鑑定の結果エンジン番号が判明し,所要の捜査をしたところ,被告人のいとこであるtが上記バイクの所有者として登録されていた。
第2
1
本件犯行への被告人の関与について
gへの放火事件の犯人像について

まず,gへの放火事件が発生した後にⅦ町付近の海中から発見されたs製の白色バイクは,エンジン番号と車台番号が削られ,盗難ナンバープレートが装着されており,後記のe供述の内容等を踏まえれば,本件犯行の実行の際に使用され,犯行後に投棄されたバイクであると認められる(以下,このバイクを「本件白色バイク」という。。

そして,gへの放火事件の発生時刻に近接した平成24年8月14日午前4時25分頃,同ビルに隣接する前記立体駐車場の南側道路上を本件白色バイクと同一のものと認められるバイクに2名の人物が乗車して西から東へ走行していること(甲106)に加え,同時刻頃に,同ビル前路上に2名の人物がバイクでやってきて,バイクを降り,同ビル方向に向かい,ごく短時間でバイクに戻っているところ,その頃,同ビルにはそれ以外に外部からの人の出入りがあった形跡はないこと(甲41。なおビルの周囲の状況については甲13)を踏まえると,この2名の人物が放火の実行犯であると推認できる。
さらに,gと近接した場所にあるmへの放火は,gへの放火とほぼ同時刻に敢行されており,いずれもエレベーター内に灯油がまかれた上で放火され,その入居する店舗の壁面等に赤色塗料が吹き付けられるなど,両ビルに対する犯行態様はかなり似通ったものであることからすると,両ビルへの放火は,同一の犯行グループによる犯行であると考えるのが自然であるが,mへの放火には,hiが組織的に関与したことが判明しているのであるから,gへの放火(本件犯行)も,同様にi組員若しくはその関係者らにより組織的に敢行された疑いが濃厚であるといえる。2
被告人が,gへの放火事件発生前に,tにエンジン番号と車台番号を削らせた
上でtから本件白色バイクを譲り受けていたこと
本件白色バイクの所有者として登録されているtは,検察官に対し,「平成22年
3月から平成25年10月までの間に,いとこである被告人から頼まれ,当時所有していた白色のuというバイクを譲ることとなった。バイクを引き渡す際に被告人から頼まれて,エンジン番号と車台番号を削った。バイクには,純正品ではない部品が取り付けられ,白色に塗り直した部分があるなどの特徴があり,警察署で見せてもらった白色のバイク(本件白色バイク)は,被告人に譲ったバイクに間違いない。
」などと供述する(甲93)

被告人と親戚関係にあるtが,被告人に不利益な虚偽の供述をあえて行うとは考え難く,他にt供述の信用性を否定すべき事情も見当たらないから,供述のとおりの事実が認められる(tは,当公判廷に証人として出廷せず,所在不明となっており,被告人に不利益な証言をすることを拒んだものと推察されるが,そのことは捜査段階の供述の信用性を否定する事情とはならない。。

tが被告人に譲ったとするバイクの特徴は,Ⅶ町付近の海中から発見された本件白色バイクの特徴と完全に一致しており,同一のものと認めるのが相当である。そうすると,被告人は,gへの放火事件発生前に,tから本件白色バイクを譲り受けていたことになるが,tにエンジン番号と車台番号を削らせていることからすれば,本件白色バイクを何らかの犯罪に使う目的があったことが推認できる。3
被告人が,平成24年8月14日午前4時過ぎ頃,eから灯油入りペットボ
トル,発炎筒,赤色スプレー缶が入ったリュックサックを受け取ったdを後部座席に乗せ,本件白色バイクを運転して高架下を出発したこと


e供述の概要

eは,検察官に対し,上位者の指示で犯行の準備をし,実行犯に犯行道具等を渡した状況等に関し,要旨以下のとおり供述する(乙1,2)

平成24年8月14日の1週間以内くらい前,ある人(以下,Aと呼ぶ。)から,
灯油とガソリンを混ぜたものを入れたペットボトルと発炎筒を2組,作業着上下,手袋,靴等を4組準備するよう指示された。灯油だけを入れたペットボトルを準備したほかは,Aに指示されたとおりに準備を進めた。また,同じ時かその少し後,Aから,バイクのナンバープレートを盗んでくるようにと指示され,福岡県宗像市周辺でバイクのナンバープレートを盗んだ。
同月14日に日が変わった後,Aから指示を受け,準備した道具を自動車に積み込み,白っぽい色のuというバイクを運転していた被告人と合流し,Ⅶ方面に向かった。砂利の駐車場でp,qと合流し,持ってきた作業着等を渡した。同じ頃に,被告人とdにも作業着等を渡したと思う。その後,高架下に移動し,灯油入りペットボトルと発炎筒が入ったリュックサック2組を,1組ずつqとdに渡した。そして,pが運転する黒いバイクの後部座席にqが乗り,被告人が運転するuの後部座席にdが乗って,それぞれ高架下を出発していった。盗んだナンバープレートについては,自分自身でuに取り付けた記憶だが,いつの時点で取り付けたのかまでは覚えていない。


e供述の信用性

e供述は,その内容が具体的であり,覚えていないところや記憶が鮮明ではないところに関してはそのとおり述べるなど,自身の記憶に従って供述していることがうかがわれる上,灯油入りペットボトルや発炎筒等を準備してhの組員らに渡し,その後2つのビルがほぼ同時に放火されるという出来事はeにとっても印象が強いものであったはずであり,各供述調書作成時から3年以上前の事件とはいえ,記憶を保持していることが不自然とはいえない。
また,e供述は,Ⅶ町付近の海中から発見された白色バイクに福岡県宗像市で盗まれたナンバープレートが装着されていたこと(甲51,53,57)やmのエレベーター内に灯油がまかれて発炎筒により放火されたことなどの客観的な事実とよく合致している上,被告人が本件当日に白っぽい色のuというバイクを運転していたとされる点はt供述と整合し,犯行道具等の受渡しの状況はpの証言及びqの供述(甲136)と概ね整合している。
以上に加え,eは,当公判廷において,弟分である被告人の裁判に影響を及ぼしたくないとして,証言をほぼ全面的に拒絶しているところ,このようなeが捜査段階であっても被告人に不利益な虚偽の供述を行うことはおよそ考え難く,e自身が検察官の取調べの際には記憶に基づいて話をした旨明言していることにも照らせば,e供述の信用性は高いというべきである。
そうすると,e供述等によれば,被告人は,平成24年8月14日(p証言も併せれば,午前4時過ぎ頃と認められる。,eから灯油入りペットボトル,発炎筒,)
赤色スプレー缶が入ったリュックサックを受け取ったi組織委員のdを後部座席に乗せ,
白色のu
(本件白色バイク)
を運転して高架下を出発した事実が認められる。
4
pとqが乗った本件黒色バイクが高架下を出発しmへ向けて走行していたと
ころ,本件白色バイクと特徴の類似した二人乗りの白色バイクが同方向へ走行していたこと
pは,当公判廷において,
「高架下を出発し,mへ行くために小倉駅方面に向かっ
て国道を走っていると,から先に出発したと聞いていた白のバイクが走っていて,e
qの指示で近づいて行き,その白のバイクと並走した。白のバイクに乗っていた2人はいずれもフルフェイスのヘルメットをかぶっていたが,運転席にいたのは,目元の様子から被告人と分かり,後部座席にいたのは,体格や雰囲気からdと分かった。白のバイクとしばらく並走した後,小倉駅北出入口インターを過ぎた辺りで,白のバイクは右折して別れた。白のバイクは,uのような感じで,純正ではないパール色の特徴的な塗装がされていた。
」などと証言する。
p証言のうち,同方向に走行する二人乗りのuのような白色バイクと遭遇したとする部分は,白色バイクが右折して分かれた地点や,白色バイクの特徴といった証言内容が具体的であり,qの供述とも概ね整合していることから,信用性は高いと認められ,証言のとおりの事実が認められる(なお,白色のバイクに乗っていた人物が被告人とdであると断定する部分については,十分な根拠があるとはいえず,その信用性には疑問を差し挟む余地がある。。

5
判断

そこで検討すると,前記のとおり,平成24年8月14日午前4時25分頃に本件白色バイクに乗ってg前路上までやってきて,本件白色バイクを降り,同ビル方向に向かった2名の人物が本件犯行の実行犯というべきところ,これまで見たように,
①被告人は,への放火事件発生前に,本件白色バイクの所有者であるtから,g
そのエンジン番号と車台番号を削らせた上で本件白色バイクを譲り受けているが,これは何らかの犯罪行為を意図したものと認められる。また,②被告人は,gへの放火事件発生当日の午前4時過ぎ頃,eから灯油入りペットボトルや発炎筒といった放火の道具となり得るものを受け取ったdを後部座席に乗せ,本件白色バイクを運転して高架下から出発している。そして,③pとqが乗った本件黒色バイクが高架下を出発し,mへ向けて走行していたところ,本件白色バイクと特徴の類似した二人乗りの白色バイクが同方向へ走行していたが,この白色バイクは,状況的に見て,被告人とdが乗った本件白色バイクと考えるほかはない。高架下を出発してからgに到着するまでの間に,本件白色バイクの運転を被告人と交代した者がいることをうかがわせる事情は一切見当たらないのであり,前述した本件犯行の犯人像も併せ考察すれば,本件白色バイクに乗ってgに赴いた本件犯行の実行犯2名は,被告人とdであることは疑いなく認められる。
この点,eは,当公判廷において,被告人は放火していないのではないかなどと証言し,弁護人もこの点を指摘しているが,そのように考える根拠について何ら説明がないことや,弟分である被告人の裁判に影響を及ぼしたくないとして証言をほぼ全面的に拒絶していることを踏まえれば,上記認定を左右するものではない。第3

現住建造物等放火の故意及び共犯者らとの共謀について

被告人は,自ら本件白色バイクを運転して犯行現場であるgに赴いているのであるから,
これから何をするかを全く知らなかったということは考えにくい。そして,
エレベーター内に灯油をまいて放火するという犯行は,実行犯も火災により火傷を負うなどのリスクがあることや,g前の路上に到着してから同ビル3階で犯行を遂げて現場から立ち去るまで1分半程度しかかかっていないという手際の良さも考えると,被告人とdは,実行行為の概要や自らの役割を十分理解した上で行動しているものと見ざるを得ない。
また,gには多数の飲食店が入居しており,未明といえども同ビル内に人がいる可能性は当然想定できるところ,ごく短時間で犯行を遂げている被告人とdが,犯行の際,同ビル内に人がいるのかどうかを気にかけていたとは思われず,被告人を含む本件犯行の共犯者らが,人が現在しない建物を標的としたことをうかがわせるような事情も一切見当たらない。
そうすると,被告人は,少なくとも,現住建造物等放火を未必的に認識,認容した上で本件犯行に及んだものと認められる。
この点,弁護人は,本件犯行が8月14日というお盆休みの時期の午前4時26分頃という時間帯に行われていることや,gにその所有者が居住していることは通常知り得ない事実であることなどを指摘して,単に命令されただけの実行犯には,現住性や現在性の認識はなかった旨主張するが,その指摘の事情を踏まえて検討しても,上記認定は揺らがない。
その上で,被告人において,iのdとeが本件犯行に関与していることを認識していたことは明らかであるし,平成24年8月13日から14日にかけてcから複数回にわたり電話を受けるなどする中で(甲143)が組織的に本件犯行に関与,i
していることも当然に認識するに至ったと推認できるから,被告人は,他の共犯者らとの間で現住建造物等放火の共謀を遂げたものと認められる(なお,本件犯行にはi若頭のbや筆頭若頭補佐のcといったiの複数の幹部組員が関与していることに加え,大胆な犯行態様や周到な準備状況,推測される犯行動機等にも鑑みれば,本件犯行は,i組長であるaも共謀の上で敢行されたものと認められる。。)
第4

結論

以上の検討の結果,被告人が現住建造物等放火の犯行に及んだものと判断した。なお,被告人とdのg内での具体的な行動は証拠上明らかでないものの,3階への移動時間も含めてごく短時間で犯行を遂げていることから,上位者から犯行方法の具体的な指示を受け,これに従って犯行を実行したことが合理的に推認できるといえ,それはmへの放火と同様の方法である可能性が高いと考えられること,g3階のエレベーター付近の壁面の塗料の剥離やエレベーター外側の操作パネルの焼け落ちは,壁面や床面に付着した灯油が別途燃焼したことにより生じたものと推定されること(甲141)などを踏まえ,犯行態様については,罪となるべき事実記載のとおり,同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上,同エレベーター内に火をつけた発炎筒を投げ込む方法により放火したものと認定した。(量刑の理由)
本件は,hiやその一門の複数の暴力団員らが,上位者の指示に従い,犯行に使用するバイク,同バイクに装着するナンバープレート,灯油,発炎筒,作業着等を調達するなどした上,実行統括役,実行役,犯行道具の処分役など,各人が与えられた役割を果たすことで敢行した組織性及び計画性の高い犯行である。その犯行態様は,多くの飲食店等が入居するビルのエレベーター内に灯油をまいた上,火のついた発炎筒を投げ込んで放火するという危険性の高いものであり,これにより,焼損面積こそ広くはなかったものの,エレベーターを全焼させるとともに,エレベーター前床面の一部を焼損したほか,エレベーター内から噴出した炎や熱を帯びた煙により,ビルの所有者らが気道熱傷の傷害を負って入通院を余儀なくされ,エレベーターの交換等のために約2500万円もの多額の経済的損害が生じている(なお,弁護人は,本件において類焼の危険は著しく低かったと主張するが,証拠に照らして明らかに失当である。。本件犯行の直接の動機は不明であるが,標章制度等の暴)
力団排除の規制や運動に対抗して,iの力を誇示したいという意図があったものと推察されるところ,h特有の論理に基づく凶悪な犯行であって,厳しく非難されなければならない。
そして,被告人は,犯行現場においてどのような役割を果たしたかという点こそ明らかでないものの,犯罪行為に使う目的でバイクを調達し,これを運転して,放火の道具を持った共犯者を乗せて犯行現場に赴いたほか,犯行後には,バイクを運転して共犯者とともに犯行現場から逃走しており,本件犯行を遂行する上で不可欠な役割を果たしたものといえる。ただし,被告人は,共犯者らの中では暴力団員としての地位が低く,関係者の供述からも被告人が上位者らの指示に従わざるを得なかった状況がうかがわれ,本件犯行に関与することになった経緯には一定程度酌むべき事情がある。
そうすると,本件の犯情はかなり悪いといわざるを得ないところ,被告人が犯行への関与を否認し,反省の様子が一切見られないこと,前記累犯前科を有しながら本件犯行に及んでおり,遵法精神の欠如が顕著であることなど,刑の調整要素となる一般情状を考慮した上で,被告人には前記確定裁判があるが,本件と同時に審理することは困難であった点も踏まえ,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑

懲役9年)

平成30年3月2日
福岡地方裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

足立
裁判官

松村一成井隆一
裁判官


トップに戻る

saiban.in