判例検索β > 平成27年(わ)第1732号
現住建造物等放火、非現住建造物等放火、窃盗被告事件
事件番号平成27(わ)1732
事件名現住建造物等放火,非現住建造物等放火,窃盗被告事件
裁判年月日平成30年3月20日
法廷名福岡地方裁判所
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平成30年3月20日宣告
現住建造物等放火,非現住
建造物等放火,窃盗被告事件
主文
被告人を懲役7年に処する
理由
(罪となるべき事実)
第1

(平成28年2月25日付け起訴状記載の公訴事実。以下「窃盗事件」という。

被告人は,Aと共謀の上,平成24年8月10日頃,福岡県宗像市ab丁目c番d号Bにおいて,同所に駐輪中の普通自動二輪車からC管理に係るナンバープレート1枚を取り外して窃取した。

第2

(平成28年7月19日付け訴因変更請求書による訴因変更後の公訴事実第1。以下「現住建造物等放火事件」という。

被告人は,D,E,A,F及びGと共謀の上,平成24年8月14日午前4時26分頃,Hほか2名が現に住居に使用し,かつ,現に同人ら10名がいた北九州市小倉北区e町b丁目f番g号所在のI(鉄筋コンクリート造陸屋根等6階建,床面積合計約1025.39平方メートル)において,前記F又は前記Gが,同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上,同エレベーター内に火をつけた発炎筒を投げ込んで火を放ち,その火を同エレベーターの天井及び3階エレベーター前床面等に燃え移らせ,よって,建造物である同ビルのエレベーターを全焼させるとともに,同ビル3階エレベーター前床面の一部を焼損(焼損面積合計約3.2平方メートル)した。

第3

(平成28年7月19日付け訴因変更請求書による訴因変更後の公訴事実第2。以下「非現住建造物等放火事件」という。

被告人は,前記D,前記E,前記A,J及びKと共謀の上,平成24年8月14日午前4時半頃,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない北九州市小倉北区e町b丁目h番i号所在のLが所有するM(鉄筋コンクリート造陸屋根6階建,床面積合計1313.31平方メートル)において,前記J及び前記Kが,同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上,同エレベーター内に火をつけた発炎筒を投げ込んで火を放ち,その火を同エレベーターの内壁等に燃え移らせ,よって,建造物である同ビルのエレベーターを全焼させて焼損(焼損面積約1.7平方メートル)した。
(事実認定の補足説明)
弁護人は,窃盗事件については事実関係を認め,犯罪の成立を争っていないが,現住建造物等放火事件及び非現住建造物等放火事件については,被告人の具体的な関与の程度からすれば幇助犯が成立するにとどまり,共同正犯は成立しない旨主張するので,判示のとおり共同正犯の成立を肯定した理由を補足して説明する。第1

認定事実

関係各証拠を総合すれば,
現住建造物等放火の実行犯がF及びGである点を含め,
判示各犯行(以下「本件犯行」という。
)に関する事実経緯は概ね以下のとおりであ
ると認められる。
1
被告人とN

被告人は,平成16年頃,Nに入って活動するようになり,平成24年8月14日当時,Nの二次団体であるO直若(本件当時。以下,他の者についてO内での役職に言及するときも同様である。
)として活動していた。
2
本件犯行に使用する道具の準備等

被告人は,本件犯行の1週間から10日くらい前,O筆頭若頭補佐のAから,作業着上下,手袋及び靴を各4組,発炎筒,灯油とガソリンを混ぜたものを入れたペットボトル,ボストンバッグ及びリュックサックを各2組用意した上で,ボストンバッグには作業着上下,手袋及び靴を各2組ずつ,リュックサックには灯油とガソリンを混ぜたものを入れたペットボトル及び発炎筒を各1組ずつ入れておくようにとの指示を受けた。本件犯行の2日か3日前頃にも,被告人は,Aから,バイクのナンバープレートを用意するようにとの指示を受けた(なお,被告人は,前記の指示をした人物について,自分よりも立場が上の者と述べるだけで,名前を明らかにしていない。しかし,O内の序列,他の共犯者への指示状況に加え,被告人の通話履歴等からすれば,被告人に指示をした人物がAであることは優に認められる。。)
被告人は,ペットボトルに灯油のみを入れて用意したほかは,Aの指示通りに準備を進め,作業着や靴等を入れたボストンバッグ2組と,灯油入りペットボトルや発炎筒を入れたリュックサック2組を用意し,さらに,福岡県宗像市内で駐輪中のバイクからナンバープレートを取り外して窃取した(窃盗事件)

また,O組員のPは,平成24年7月から8月上旬頃までの間,O若頭のEから指示を受け,バイクのナンバープレート等を用意した。
さらに,Qは,同年8月上旬頃,Eからバイクを調達するよう指示され,同月13日夜,黒色のバイク(以下「本件黒色バイク」という。
)を窃取した。
3
本件犯行当日の被告人及び共犯者らの行動等

被告人は,平成24年8月13日から同月14日にかけての夜,Aから,用意した物を持って,被告人の弟分であり,NRの組員であるGと一緒にj方面に来るようにとの指示を受けた。被告人は,自ら自動車を運転し,白色のバイク(以下「本件白色バイク」という。
)に乗ったGと合流して,北九州市小倉北区j町(以下,地
名は特に指摘しない限り北九州市小倉北区のことを指す。
)所在の高架下にあるj
駐車場(以下「高架下」という。
)に到着した。高架下において,被告人は,Aの指
示により,事前に窃取した前記ナンバープレートを本件白色バイクのナンバープレートと付け替えた。
Qは,同月14日未明頃,高架下まで本件黒色バイクを運搬し,Pが用意した前記ナンバープレートは同バイクに取り付けられた。
被告人は,高架下付近において,O組織委員のJ及びO組員のKと合流し,J及びKに対し,作業着や靴等を入れたボストンバッグを渡し,J及びKは作業着等に着替えた。被告人は,Jに対し,灯油入りペットボトルや発炎筒等が入ったリュックサックを渡した。また,被告人は,Gに対し,作業着や靴等が入ったボストンバッグを渡し,G及び後から合流したO組織委員のFは作業着等に着替えた。被告人は,GないしFに対し,灯油入りペットボトルや発炎筒等が入ったリュックサックを渡した。
その後,本件黒色バイクは,Kが運転し,前記リュックサックを背負ったJが後部座席に乗り,高架下を出発した。その頃,本件白色バイクも,Gが運転し,前記リュックサックを背負ったFが後部座席に乗り,高架下を出発した。2台のバイクは,しばらく併走した後,J及びKが乗車した本件黒色バイクは,e町b丁目h番i号に所在するMに,F及びGが乗車した本件白色バイクは,e町b丁目f番g号に所在するIにそれぞれ向かった。J及びKは,Mに到着すると,同ビル内に入り,同ビル3階に停止していたエレベーター内にJが灯油をまいた上,Kが火をつけた発炎筒を投げ込んで放火した(非現住建造物等放火事件)
。一方,F及びGは,Iに
到着すると,同ビル内に入り,両名若しくはいずれかが,同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上,火をつけた発炎筒を投げ込んで放火した(現住建造物等放火事件)

第2

判断

まず,被告人がいかなる認識で本件犯行に関与したのかについて検討すると,被告人は,事前に,Aから,灯油とガソリンを混ぜたものを入れたペットボトル及び発炎筒,併せて複数人分の作業着等の用意を指示され,さらには,バイクのナンバープレートも用意するよう指示されているのであるから,この時点で,複数の人間が大規模な放火事件を起こすことをたやすく想定できたはずである。そして,そのような大規模な放火事件の対象としては,現に人が住んでいたり,中に人がいるような建造物があり得ることも当然に想定の範囲内であったといえる。その後,被告人は,本件犯行の当日,F,J,KといったO組員や,RのGら(以下,併せて「O組員ら」という。
)と合流する中で,複数のO組員らが事件に関与し
ていることを明確に認識するに至ったと認められる。
にもかかわらず,被告人は,一連の過程において,Aのみならず,F,J及びK,さらには弟分のGにすらもその目的を尋ねることなく,Aからの指示に従い,他のO組員らと意思を相通じながら,自らの役割を果たすことに徹している。こうしたことから考えれば,被告人は,自身が用意した道具等を用いてO組員らが建造物に放火するような事態をも想定し,これを容認した上で,本件に関与したものとみるほかはなく,被告人には,現住建造物等放火及び非現住建造物等放火の少なくとも未必的な認識・認容があったものと認めるのが相当である。
次に,被告人が本件犯行において果たした役割についてみると,被告人は,前記のとおり,
本件白色バイクにあらかじめ窃取したナンバープレートを装着したほか,作業着等の着替えや発炎筒などの犯行道具を実行犯らに渡すなどの行為をし,現に,
実行犯らが被告人の用意した灯油や発炎筒を用いて放火を行っており,被告人の果たした役割が本件犯行を実現する上で不可欠なものであったことは明らかである。以上のように,被告人は,現住建造物等放火及び非現住建造物等放火を未必的に認識・認容しつつ,他のO組員らと意思を相通じながら本件犯行を実現する上で不可欠な役割を担ったものであるから,被告人には,現住建造物等放火罪及び非現住建造物等放火罪の共同正犯が成立する(なお,既に述べたとおり,本件犯行にはEやAを含む複数のO組員らが関与していることに加え,犯行態様やその準備状況等にも鑑みれば,本件犯行は,O組長であるDも共謀の上,敢行されたものと認められる。。

この点,弁護人は,①被告人が行った準備行為は,被告人以外の誰でも可能なものであり,たまたま被告人が指示されたから行っただけにすぎない,②被告人は,用意した道具が何の目的で,何のために使用されるかを知らなかった,③被告人自身には,本件犯行に積極的に加担する理由がないなどと主張し,被告人には幇助犯が成立するにとどまる旨主張する。しかし,①については,被告人が行った準備行為は,被告人にしかできない特殊なものというわけではないが,被告人の準備行為が本件犯行を実現する上で不可欠なものであったことに疑いはない。②については,
確かに被告人が本件犯行の詳細を知らされることなく行動していたことは事実であるが,前記のとおり,被告人は,O組員らによる現住建造物等放火及び非現住建造物等放火を未必的に認識・認容した上で関与しているのであるから,そのことだけで正犯性が否定されることにはならない。③については,本件は,複数のO組員らが関与して組織的に敢行された犯行であり,被告人もO組員として組織のために本件犯行に加担している以上,個人的な恨み等の動機がなかったとしても,正犯性が否定されるものではない。
その他,弁護人が弁論等で主張する諸点を十分に検討しても,被告人に共同正犯が成立するとの前記判断は揺らがない。
(量刑の理由)
本件において量刑判断の中心となる現住建造物等放火及び非現住建造物等放火は,NO組員らが,犯行に使用するバイク,同バイクに装着するナンバープレート,灯油,発炎筒,作業着等を調達するなどした上,実行統括役,実行役など,各人が細分化された役割を果たすことで敢行した組織性及び計画性の高い犯行である。その犯行態様は,いずれについても,多くの飲食店等が入居するビルのエレベーター内に灯油をまいた上,火をつけた発炎筒を投げ込んで放火するという危険性の高いものであり,焼損面積こそ広くはなかったものの,エレベーターが全焼した上,エレベーターの交換等のために多額の経済的損害が生じている。2棟のビルがほぼ同時に放火されたという結果自体が重大であるが,とりわけ,現住建造物等放火事件において,エレベーター内から噴出した炎や熱を帯びた煙によりビル内の店舗等にも被害が及び,ビルの所有者らが気道熱傷の傷害を負うなどしている点は見過ごせない(なお,現住建造物等放火事件において,バックドラフト等の爆発現象が生じたか否かに関し,検察官と弁護人の主張が対立している。しかし,上記爆発現象の発生はそもそも放火罪の構成要件要素ではない上,その点の解明には証人尋問や場合により鑑定等の証拠調べが必要であること,関係証拠からは,エレベーター内からI3階フロアに炎が噴出したことは優に認められるところ,これがバックドラフト等の爆発現象によるものかによって犯情が大きく異なるとは考え難いことなどを踏まえ,当裁判所は,上記爆発現象が発生したか否かについて積極的な認定は行わないこととした。。本件犯行の直接の動機は不明であるが,いわゆる標章制度(飲食)
店等が所定の標章を掲示した場合,
暴力団員が店内に立ち入ることを禁止する制度)
が導入されたことなど,暴力団排除の規制や運動に対抗して,Oの力を誇示したいという意図があったものと推察され,N特有の論理に基づく凶悪な犯行として厳しい非難に値する。
そして,被告人は,バイクのナンバープレートを窃取して,そのナンバープレートを犯行使用車両に装着したり,作業着等の着替えや発炎筒などの犯行道具を用意し,実行犯らに渡したりするなど,本件犯行を実現する上で不可欠な役割を果たしているが,共犯者らの中で暴力団員としての立場や地位が高くはなく,犯行の詳細を知らされることもないまま上位者からの指示に従わざるを得なかった状況がうかがわれ,本件犯行に関与することになった経緯には一定程度酌むべき事情がある。そうすると,本件の犯情は悪いといわざるを得ないが,一方で,被告人が他の共犯者の関与を含めて事実関係を詳細に供述して,事案の解明に貢献していること,公判廷における供述態度からも反省と更生に向けた心境の変化が見られることなど,被告人に有利な一般情状を十分に考慮した上で,前記確定裁判が存在していることも踏まえ,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。(求刑

懲役7年)

平成30年3月22日
福岡地方裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

足立勉
裁判官

松村成井
裁判官

一隆一
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