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玄海原発再稼働禁止仮処分申立事件
事件番号平成29(ヨ)2
事件名玄海原発再稼働禁止仮処分申立事件
裁判年月日平成30年3月20日
法廷名佐賀地方裁判所
結果却下
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平成29年(ヨ)第2号

玄海原発再稼働禁止仮処分申立事件

当事者の表示


別紙1当事者目録記載のとおり
主文1
本件申立てを却下する。

2
申立費用は債権者らの負担とする。

第1


申立ての趣旨
債務者は,玄海原子力発電所3号機及び4号機を運転してはならない。
第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,債権者らが,人格権による妨害予防請求権に基づき,債務者が設置している玄海原子力発電所3号機(以下「本件3号機」という。)及び4号機(以下「本件4号機」といい,本件3号機と併せて「本件各原子炉施設」という。)の運転の差止めを命ずる仮処分命令を申し立てた事案である。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び審尋の全趣旨により容易に認められる事実)


当事者

債権者らは,佐賀県,福岡県,長崎県,熊本県又は山口県に居住する者である。




債務者は,福岡市に本店を置き,電気事業等を営む株式会社である。本件各原子炉施設の概要
本件各原子炉施設は,いずれも佐賀県東松浦郡玄海町大字今村(東松浦半
島の北西先端部)に所在し,加圧水型原子炉(PWR)を使用する発電用原子炉施設であり,その詳細は,次のア又はイ記載のとおりである。ア
本件3号機
(ア)

運転開始

平成6年3月

(イ)

定格電気出力

118.0万キロワット

(ウ)

原子炉熱出力

342万3000キロワット

(エ)

燃料種別,装荷量
低濃縮(約3~4%)二酸化ウラン燃料及びプルトニウム・ウラン混
合酸化物(MOX)燃料,約89トン

本件4号機
(ア)

平成9年3月

(イ)

定格電気出力

118.0万キロワット

(ウ)

原子炉熱出力

342万3000キロワット

(エ)

運転開始

燃料種別,装荷量
低濃縮(約3~4%)二酸化ウラン燃料,約89トン



原子力発電所の仕組み

原子力発電所では,原子炉でウラン235等を核分裂させ,その際に生ずるエネルギーを蒸気の形で取り出し,蒸気でタービンを回し,タービン
により駆動される発電機で発電を行う。

全ての物質は,原子から成り立っており,原子は,原子核とその周りを周回する電子から構成されている。
ウラン235等の原子核が,中性子を吸収すると,二つから三つの異なる原子核に変化する核分裂が起こり,これにより膨大なエネルギーが発生
するとともに,核分裂生成物と2から3個の速度の速い中性子(高速中性子)が生ずる。そして,この中性子の一部が他のウラン235等の原子核に吸収されて次の核分裂を起こし,連鎖的に核分裂が維持される現象を,核分裂連鎖反応と呼び,こうした核分裂が安定的に継続する状態を,臨界状態という。


ウラン235等の原子核が中性子を吸収して核分裂する確率は,中性子の速度が遅い場合に大きくなるため,核分裂を継続させるためには,高速中性子の速度を速度の遅い熱中性子の速度まで減速させる必要があり,原子炉では,減速材が用いられる。また,核分裂連鎖反応を安定した状態に制御するためには,核分裂を起こす中性子の数を調整する必要があり,原子炉では,中性子を吸収する物質である制御棒及び制御材を用いている。

原子炉には,減速材及び冷却材(原子炉内で発生する熱を炉外に取り出し,炉心を冷却するために用いる物質)の組合せによっていくつかの種類があり,減速材及び冷却材の両者の役割を果たすものとして軽水を用いるものを軽水型原子炉という。軽水型原子炉のうち,高圧の1次冷却材を原子炉で高温水とし,これを蒸気発生器に導き,蒸気発生器で高温水の持つ
熱エネルギーを,2次冷却設備を流れている2次冷却材に伝えてこれを蒸気に変え,この蒸気をタービンに送る方式の原子炉を加圧水型原子炉という。


加圧水型原子炉を使用する本件各原子炉施設の仕組み
加圧水型原子炉を使用する本件各原子炉施設は,ア)1次冷却設備,イ)
2次冷却設備,ウ)電気設備,エ)工学的安全施設等により構成されており,その概要は,以下のとおりである。

1次冷却設備
1次冷却設備は,(ア)原子炉,(イ)加圧器,(ウ)蒸気発生器,(エ)1次冷却材ポ
ンプ及び(オ)1次冷却材管から構成されており,原子炉内で生じた熱エネルギーで1次冷却材を高温水とした上で,これを蒸気発生器に導き,蒸気発生器内において2次冷却材を蒸気にする機能を果たしている。蒸気発生器内で温度が下がった1次冷却材は,再び原子炉に戻される。本件各原子炉施設には,それぞれ4組の循環回路(4ループ)を設置している。
(ア)

原子炉は,燃料集合体,制御棒及び制御材,1次冷却材並びにこれら
の設備を収める原子炉容器から構成されている。本件各原子炉施設は,それぞれ一つの原子炉を設置している。
a
原子炉容器は,上部と底部が半球形となっている円筒型の容器であり,本件各原子炉施設の場合,高さ約12.9m,内径約4.4m,胴部の厚さ約20㎝である。

b
燃料集合体は,ウランやプルトニウムの酸化物を小さな円柱形に焼き固めたペレットを約300個燃料被覆管(長さ約4m,ジルコニウム合金製)の中に詰め,両端を溶接して密封した燃料棒を束ねたものである。本件各原子炉施設の場合,燃料棒を264本束ねた燃料集合体193体をそれぞれ炉心に装荷している。

c
制御棒は,中性子を吸収する能力を有しており,これを原子炉内の燃料集合体に出し入れすることにより中性子の数を調整し,核分裂の数を調整することで,原子炉の出力を制御する設備である。制御棒には,銀,インジウム,カドミウム合金が用いられており,燃料棒とほぼ同じ長さ,径のステンレス鋼で被覆されている。
本件各原子炉施設では,
24本の制御棒を束ねた制御棒クラスタを,

原子炉内の特定の位置にある53体の燃料集合体に挿入し又は引き抜くことができるように設置している。制御棒クラスタは,電動の駆動装置により挿入又は引抜きをすることができ,通常運転時には,ほぼ全部が引き抜かれた状態であるが,事故時等には,自重により自動的に急速挿入され,速やかに原子炉を停止させる。

d
1次冷却材は,原子炉容器の内部を満たしており,熱エネルギーを伝達する役割と中性子を減速させる役割を果たしている。

e
加圧水型原子炉では,制御材として,1次冷却材に中性子を吸収する性質を持つほう素(ほう酸)を添加し,この濃度を調整することにより中性子の数を調整し,原子炉の出力制御を行っている。

(イ)

加圧器は,1次冷却材が沸騰しないよう,1次冷却材を高い圧力で一定に制御するための機器である。本件各原子炉施設は,それぞれ1台の加圧器を設置している。
(ウ)

蒸気発生器は,熱交換器であり,1次冷却材と2次冷却材の境界を形
成している。蒸気発生器の伝熱管内を流れている1次冷却材から,伝熱管の外側を流れている2次冷却材に熱が伝わり,2次冷却材が蒸気とな
り,タービンに導かれる。本件各原子炉施設の場合,4基ずつ蒸気発生器を設置している。
(エ)

1次冷却材ポンプは,1次冷却材を循環させる機器であり,蒸気発生
器の1次冷却材出口側に設置される。本件各原子炉施設の場合,それぞれ4台ずつ1次冷却材ポンプを設置している。

(オ)

1次冷却材管は,原子炉で発生した熱を蒸気発生器に運ぶための1次
冷却材が通るステンレス鋼製配管であり,原子炉容器,蒸気発生器及び1次冷却材ポンプ相互を連絡し,循環ループを形成している。

2次冷却設備
2次冷却設備は,蒸気系統,タービン,復水器,主給水ポンプ,主蒸気
管等から構成されており,蒸気発生器で発生した蒸気をタービンに導き,タービンを回転させる。タービンを回転させた蒸気は,復水器において海水で冷却されて水となり,ポンプで再び2次冷却材として蒸気発生器へ送られる。

電気設備
タービンの回転により(ア)発電機において電気が発生し,変圧器を通じて送電線に送られる。
原子力発電所内の機器を運転するのに必要な電気は,通常時においては(ア)発電機から所内変圧器を通じて供給するが,
発電機の起動,
停止時には,

(イ)送電線(外部電源)から主変圧器,所内変圧器を通じて供給することができ,また,(ウ)別系統の送電線(外部電源)から予備変圧器を通じて供給することもできる。
その他,
(ア)発電機が停止し,
かつ,
(イ)(ウ)外部電源も喪失した場合に備え,
発電所内に(エ)非常用ディーゼル発電機が設けられている。
原子炉等を監視,制御するために必要な機器に電気を供給する計測制御用電源設備(計装用電源設備)に対しては,上記の機器を運転するのに必
要な電気と同じく,
(ア)発電機,
(イ)(ウ)外部電源及び(エ)非常用ディーゼル発電
機から供給されるが,これらの全てが喪失した場合に備え,更に(オ)蓄電池が設けられている。

工学的安全施設
1次冷却設備及び2次冷却設備の故障等により燃料の重大な損傷及びそれに伴う多量の放射性物質が放散される可能性がある場合に,これらを防止又は抑制するため,(ア)非常用炉心冷却設備(ECCS),(イ)原子炉格納施設,
(ウ)原子炉格納容器スプレイ設備及び(エ)アニュラス空気浄化設備等から構成される工学的安全施設を設置している。

(ア)

非常用炉心冷却設備は,ほう酸水を注入するポンプを有する高圧注入
系及び低圧注入系,加圧されたほう酸水を貯えるタンクを有する蓄圧注入系で構成され,1次冷却材喪失事故時等において,原子炉を冷却するとともに安全に停止するため,ほう酸水を1次冷却設備(原子炉内)に注入する。
(イ)

原子炉格納施設は,原子炉格納容器及びアニュラス部で構成されてい
る。原子炉格納容器は,1次冷却設備を格納する容器であり,気密性が確保されていて,1次冷却材喪失事故時等において圧力障壁となり,かつ,放射性物質の放散に対する最終の障壁となる。アニュラス部は,原子炉格納容器に設けられた配管などの貫通部等から漏えいした空気をアニュラス空気浄化設備で処理するために設けられた,原子炉格納容器を取り巻く密閉された空間である。
(ウ)

原子炉格納容器スプレイ設備は,格納容器スプレイポンプ,スプレイ
リング等で構成されている。1次冷却材が原子炉格納容器内に放出された場合に,核分裂により生成した放射能を持つヨウ素(放射性ヨウ素)を吸収する性質を持つ苛性ソーダを燃料取替用水タンクに貯蔵するほう酸水に添加しながら,原子炉格納容器内にスプレイして圧力,温度を下
げるとともに,空気中の放射性ヨウ素を除去する機能を持つ。
(エ)

アニュラス空気浄化設備は,1次冷却材が原子炉格納容器内に放出さ
れた場合に,環境に放出される放射性物質の濃度を減少させるための設備である。


新規制基準の策定等

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「東北地方太平洋沖地震」という。)に伴う福島第一原子力発電所の事故(以下「福島第一原発事故」という。)を契機として,平成24年法律第47号が成立したことにより,原子力規制委員会設置法(以下「設置法」という。)
が制定されるとともに,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)等が改正された(以下,平成24年法律第47号による各法律の改正を併せて「本件改正」といい,本件改正後の原子炉等規制法を「改正原子炉等規制法」という。)。イ(ア)

改正原子炉等規制法は,発電用原子炉を設置しようとする者は,政令
で定めるところにより,原子力規制委員会の許可(以下「原子炉設置許可」という。)を受けなければならないと規定する(43条の3の5第1項)とともに,原子炉設置許可を受けた者は,同条2項2号から5号まで又は8号から10号までに掲げる事項を変更しようとするときは,政令で定めるところにより,原子力規制委員会の許可(以下「設置変更
許可」という。)を受けなければならないと規定する(43条の3の8第1項)。
(イ)

改正原子炉等規制法は,原子炉設置許可及び設置変更許可の基準とし
て,発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであることと規定し
(43条の3の6第1項4号,
43条の3の8第2項)

これを受けて,原子力規制委員会は,「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」(平成25年原子力規制委員会規則第5号。「設置許可基準規則」
以下
という。
乙21
〔110頁〕

109
〔117頁〕を定め,

併せて,
設置許可基準規則の解釈を定める
「実

用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(平成25年原規技発第1306193号。乙45。以下「設置許可基準規則解釈」という。)を制定した。
(ウ)

設置許可基準規則は,「耐震重要施設は,その供用中に当該耐震重要
施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(以下「基準地震動による地震力」という。)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない。」と定めるところ(4条3項),設置許可基準規則解釈によれば,同項所定の「基準地震動」は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的
見地から想定することが適切なものとして策定することとされており(別
記2第4条5項),「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとされている(同項1号)。そして,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」
の策定に当たっては,①内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,活断層の性質や地震発生状況を精査し,中・小・微小地震の分布,応力場及び地震発生様式(プレートの形状・運動・相互作用を含む。)に関する既往の研究成果等を総合的に検討し,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(以下「検討用地震」という。)を複数選定し,②選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震
動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定することとされている(同項2号)。なお,応答スペクトルに基づく地震動評価とは,距離減衰式による地震動評価の一つで,過去の地震記録から導かれた回帰式により地震動の応答スペクトルを作成する方法をいい,応答スペクトルとは,
建物等の周期ごとの揺れの大きさを表すものであり,

いろいろな周期を有する建物等に対して,地震動がどのくらいの揺れを生じさせるかを,横軸に周期,縦軸に最大応答値をとって,わかりやすいように描いたものである。また,断層モデルとは,震源の断層面を詳細にモデル化したものであり,断層面の向きや傾き,大きさ,面上でのずれの量,破壊の進行速度などの断層パラメータで表現される。



深層防護の考え方
国際原子力機関(以下「IAEA」という。)の安全基準の一つである「原子力発電所の安全:設計」(「Safety
wer

of

Nuclear

PlantsDesign,

Specific

equirements

Po

Safety

R
No.SSR-2/1」。甲A240)では,原

子力発電所において事故を防止し,かつ,発生時の事故の影響を緩和する主要な手段は,深層防護の考え方を適用することであるとし,これにより,人及び環境への放射線の有害な影響を防止し,その防止が失敗した場合には,有害な影響の適切な防護及び影響の緩和を確実なものとすることを目的とした複数の防護階層を備えることになるのであって,異なる防護階層の各々が独立して効力を発揮することが発電所における深層防護の基本的な要素であり,これは,一つの防護階層の故障が他の階層の故障をもたらすことがないようにする対策を組み入れることによって達成されるとする。
そして,上記安全基準においては,深層防護を次のとおり五つの異なる防護階層により構築している。
第1層の防護階層は,通常運転からの逸脱と安全上重要な機器等の故障を防止することを目的とし,
品質管理及び適切で実証された工学的手法に従い,
発電所が健全でかつ保守的に立地,設計,建設,保守及び運転されることを要求するものである。
第2層の防護階層は,発電所で運転時に予期される事象が事故状態に拡大
するのを防止するため,通常運転状態からの逸脱を検知し,管理することを目的とし,設計で特定の系統と仕組みを備えること,それらの有効性を安全解析により確認すること,そのような起因事象を防止するか,又はその影響を最小限にとどめ,その発電所を安全な状態に戻す運転手順の確立を要求するものである。

第3層の防護階層は,ある予期される運転時の事象又は想定起因事象が拡大して前段の階層で制御できないこと,
又は事故に進展し得ることを想定し,
原子炉の炉心への損傷又は重大な所外放出を防止し,発電所を安全な状態に導くための固有の,工学的な安全の仕組み,安全系及び手順の準備を要求するものである。

第4層の防護階層は,第3層の防護階層が失敗した結果の事故の影響を緩和することを目的とし,閉じ込め機能を確実なものとし,放射性物質の放出が合理的に達成可能な限り低く維持されることを確実なものとすることを要求するものである。
第5層の防護階層は,事故状態に起因して発生し得る放射性物質の放出に
よる放射線の影響を緩和することを目的とし,十分な装備を備えた緊急時管理センターの整備,所内と所外の緊急事態の対応に対する緊急時計画と緊急時手順の整備を要求するものである。


設置変更許可申請及び設置変更許可

債務者は,平成25年7月12日付けで,原子力規制委員会に対し,本件各原子炉施設について,
原子炉等規制法43条の3の8第1項に基づき,
発電用原子炉の設置変更許可の申請(以下「本件設置変更許可申請」とい
う。)をし,平成28年9月20日付け,同年10月28日付け,同年11月4日付け及び平成29年1月5日付けで,これを補正した。(乙1,2の1)

原子力規制委員会は,本件設置変更許可申請について,新規制基準への適合性審査を行い,平成29年1月18日付けで,原子炉等規制法43条
の3の8第1項に基づき,本件各原子炉施設に係る発電用原子炉の設置変更について許可した。(乙1,2の1)


保全の必要性
仮に,本件申立てに係る被保全権利の存在が認められる場合,保全の必要性が存在することについては,当事者間に争いがない。(審尋の全趣旨)
3
争点


新規制基準の合理性(争点⑴)



本件各原子炉施設の耐震安全性に関する基準地震動策定の合理性
(争点⑵)



本件各原子炉施設における火山事象による重大事故発生の具体的危険性の有無(争点⑶)



本件各原子炉施設におけるテロリズム対策の合理性(争点⑷)


本件各原子炉施設における重大事故に至るおそれがある事故又は重大事故(以下,併せて「重大事故等」という。)対策の合理性(争点⑸)

4
本件各原子炉施設に係る防災計画の合理性(争点⑹)争点に関する当事者の主張



新規制基準の合理性(争点⑴)について
(債権者らの主張)

新規制基準の内容について
福島第一原発事故を契機とする本件改正の内容によれば,原子力災害の発生及び被害の拡大を防止するため,国及び原子力事業者は,確立された
国際的な基準を踏まえて万全の措置を講ずる必要があり,原子力規制委員会における審査も,原子力利用における事故の発生を常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないことが法律上明確に要請されているというべきである。
しかしながら,新規制基準は,以下のとおり,(ア)確立された国際的な基
準を踏まえたものではなく,(イ)福島第一原発事故の教訓すら生かされておらず,最新の科学的,技術的知見が反映された万全の措置が採られたということはできない。
(ア)

確立された国際的な基準に違反すること
新規制基準は,深層防護の考え方を前提とする国際的な基準と比較す
ると,以下のとおり問題点を抱えている。
a
基準地震動の策定方法について


敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について
原子力規制委員会の定める「基準地震動及び耐震設計方針に係る
審査ガイド」(甲A323・乙20。以下「地震動審査ガイド」と
いう。)においては,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」
について,「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を行うことを求めている。
しかしながら,これらの手法は,過去に発生した地震,地震動の
知見の平均像を求めるものにすぎず,それを超える地震動が当然に
発生し得るというべきである。このことは,平成17年以降の約10年間で,基準地震動を超える地震が5事例(①平成17年宮城県沖地震〔以下「宮城県沖地震」という。東北電力株式会社女川原子力発電所〕,②平成19年能登半島地震〔以下「能登半島地震」という。北陸電力株式会社志賀原子力発電所〕,③同年新潟県中越沖地震〔以下「新潟県中越沖地震」という。東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所〕,④東北地方太平洋沖地震〔東北電力株式会社女
川原子力発電所〕及び⑤同地震〔東京電力株式会社福島第一原子力発電所〕。以下「本件5事例」という。)も発生していることからも明らかである。


震源を特定せず策定する地震動について
地震動審査ガイドにおいては,
「震源を特定せず策定する地震動」

について,その収集対象となる地震の例として,平成8年から平成25年までの17年間に国内で発生した16個の地震(以下「本件16地震」という。)を挙げているが,これらの僅かな観測記録をもって,過去1000年から10万年の間の「震源を特定せず策定する地震動」の参考となる地震動の最大値を知ることなど不可能で
ある。また,原子力規制委員会は,もともと22個の地震をリストに挙げていたが,そのうち6個の地震を合理的な理由もないのにその収集対象から削除した。
b
重大事故対策について
新規制基準における重大事故対策は,水蒸気爆発対策については確
立された国際的な基準の求める対策を全く無視し,一応対策を定めているものについても,可搬型設備を多用している点で問題があり,水素爆発対策もまるで不十分である。
c
実効的な防災計画の存在について
深層防護の理念の下においては,住民避難は,第5層の防護として位置付けられており,第1層から第4層までの防護とは独立して,その防護策を十分なものとすることが求められているにもかかわらず,新規制基準は,住民避難に関する防災計画を規制対象としていない。しかも,防災計画の策定と原子炉施設の稼働の可否が連携していないため,実効的な防災計画がなくとも同稼働が認められる不合理な事態となっている。

(イ)
a
最新の科学的,技術的知見が反映されていないこと
福島第一原発事故の原因が未解明であること
新規制基準は,福島第一原発事故が津波による電源の水没を原因とするものであったとの前提に立ち,津波対策と電源対策,重大事故対策等を柱とするものである。もっとも,東京電力福島原子力発電所事
故調査委員会法に基づき国会に置かれた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下「国会事故調」という。)は,地震動による小規模な冷却材喪失事故や全交流電源喪失原因が津波以外の原因によって生じた可能性等複数の未解明の問題点を指摘して,引き続き調査検討を行うことを提言している(甲A1)にもかかわらず,現時点でもこ
うした原因の究明は進んでいない。
b
立地審査指針の見直しや組入れがされていないこと
福島第一原発事故の教訓を生かして再稼働の審査を行うのであれば,重大事故が発生しても,周辺住民に放射線障害や著しい放射線災害を
与えないように立地評価を行うことが極めて重要となる。
しかしながら,新規制基準においては,重大事故,仮想事故,目安線量を基にした「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて(昭和39年5月27日原子力委員会決定)」中の原子炉立地審査指針(乙92。以下「立地審査指針」という。)の内容を
見直すどころか,これが基準から除外された。
改正原子炉等規制法においても,原子炉が災害の防止上支障がないものであるかどうかの適合性審査における考慮要素として,発電用原子炉施設の「位置」を審査することとされているのであるから(改正原子炉等規制法43条の3の6第1項4号),従前どおり,原子炉と周辺住民との離隔を考慮すべきことが求められていると解すべきである。また,国際的な基準においても,IAEAの安全基準やアメリカ
合衆国原子力規制委員会(以下「NRC」という。)の規制においては,
立地評価が原子力安全規制に組み込まれている。
立地審査指針は,
重大事故対策や防災計画の整備により代替することができるものではない。
c
共通要因に起因する設備の故障(以下「共通要因故障」という。)が想定されていないこと
福島第一原発事故においては,自然現象や人為事象により,非常用復水器(IC)2系統の手動停止,非常用交流動力電源系統の多重故障,非常用所内直流電源系統等の共通要因故障(共通要因とは,二つ
以上の系統又は機器に同時に影響を及ぼすことによりその機能を失わせる要因のこと)が発生した。
しかしながら,設置許可基準規則は,12条2項や2条2項3号の規定をみると,設計基準事故の想定事象として,単一の故障を想定するにとどまり,共通要因故障への備えを要求していない。

我が国においては,これまで国際原子力事象評価尺度(INES)のレベル2に相当する事故に至ったものが7件,同レベル1に相当する事故が近年の統計だけでも35件報告されるなど,偶発故障による事故を無視することはできないのであり,原子力発電所の安全性を確保するためには,
設計基準において偶発故障の複数同時発生を想定し,

それによっても安全機能が失われないような対策を講ずるべきであって,単一の故障の仮定をもって安全評価を行うことは不合理である。d
重要度分類指針(甲A321,乙21〔84頁〕,109〔85頁〕),耐震重要度分類指針(甲A322,乙109〔96頁〕)が見直されていないこと


外部電源について
福島第一原発事故は,地震の発生後,間もなく外部電源設備がそ
の機能を喪失し,更に津波の到達後,間もなく非常用ディーゼル発電機や配電盤の多くが津波により水を被り,その機能を喪失したため,全交流電源を喪失し,原子炉の冷却が困難となったことを原因として生じたものである。

したがって,新規制基準においては,外部電源の信頼性の向上を
図る必要があり,具体的には,重要度分類や耐震重要度(核施設の安全機能が喪失した場合の影響の相対的な程度。設置許可基準規則解釈別記2〔乙45〕参照)の分類の引上げが実施されるべきであったが,実際には,外部電源対策として,独立した2回線以上の送
電線への接続と回線の物理的分離が要求されるにとどまり,上記分類の引上げが実施されなかった。
NRCは,炉心損傷頻度の73%又は約90%が外部電源の喪失
により発生する旨の試算を公表しており,こうした炉心損傷頻度への外部電源喪失事象の寄与度の高さに鑑みれば,外部電源の信頼性
の強化を図ることが炉心損傷対策として重要かつ有効であることは明らかである。
また,非常用電源設備は,新規制基準において,どのような事態
を想定し,どのような設備を必要とするのかが明らかにされていないため,現実の事故が発生した際,非常用電源に要求される具体的
な性能等の詳細を算定することが不可能であり,そもそも必要な対策を立てることができない。加えて,非常用ディーゼル発電機の貯蔵燃料を7日間分とする点について,その根拠が不明である上,福島第一原発事故において外部電源の復旧までに11日を要したことからすれば,合理性を欠くというべきである。


使用済燃料貯蔵槽(以下「使用済燃料ピット」という。)につい

原子炉から取り出された核燃料である使用済燃料は,崩壊熱や放
射線毒性を帯びているため,使用済燃料ピットにおいて,核分裂連鎖反応を制御する機能を有するほう酸水を満たして冠水するとともに循環させて冷やしている。
もっとも,この冷却に失敗すると,使用済燃料は,崩壊熱で発熱

を続け,1000度前後となるとジルコニウム合金の燃料被覆管が酸化を始め,更に高温になると燃料被覆管が溶けて燃えるジルコニウム火災が生じ,この火災の高熱で使用済燃料が細かく砕け,溶融してミクロン単位の微粒子となる。そして,仮に,原子炉建屋が機能を果たさなくなると,高レベルの放射性物質である使用済燃料の
微粒子が空中高く吹き上げられて飛散する事故が生ずることとなる。福島第一原発事故においては,偶然が重なり,上記のような事故
が生じなかったものの,こうした事故の発生を防ぐには,使用済燃料の冷却に関する対策は,耐震重要度分類の見直しも含めた規制がされるべきであったにもかかわらず,新規制基準においては,耐震
重要度分類上,
使用済燃料ピットの冷却系
(Bクラス)
と計測系
(C
クラス)の各分類が変更されなかった。


原子炉と格納容器の計装系について
福島第一原発事故の反省を踏まえ,新規制基準においては,原子

炉と格納容器の計装系について,従来の重要度分類指針上の異常影響緩和機能(MS)はクラス2からクラス1に見直されるべきであるにもかかわらず,いまだこうした見直しがされていない。

新規制基準の策定に至る経緯について
新規制基準は,
原子力規制委員会が平成24年9月19日に発足した後,
半年も経たないうちに合計49もの規則案等をまとめ,平成25年4月11日から同年5月10日までの間に実施された意見公募手続(パブリック
コメント)を経て,同年7月8日に施行された。
しかしながら,新規制基準は,審査基準全体について抜本的かつ徹底的な見直しが必要であったのであるから,そのためには相応の期間を要するはずであり,半年程度の短期間により,原子力基本法の求める「国際的な基準」に到達できるはずがない。このような新規制基準の策定についての
拙速さからしても,原子力規制委員会が,設置法の求める事故防止のための最善かつ最大の努力をしていないことは明らかであって,
新規制基準が,
災害の防止上支障がないものということはできない。
また,上記意見公募手続も,形式上実施されただけにすぎない。
さらに,原子力規制委員会の委員には,その欠格要件に該当する更田豊
志及び中村佳代子が選任されるとともに,平成26年9月に同委員に就任した田中知は,元日本原子力学会会長であり,平成16年度から平成23年度までの8年間にわたり,原子力事業者や関連団体から760万円を超える寄付や報酬を受けていたことが判明しているのであって,原子力規制委員会が,公平,中立な立場の人物により構成されていることもない。
(債務者の主張)

新規制基準の内容について
(ア)

基準地震動の策定方法について

a
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について


基準地震動は,設置許可基準規則において,最新の科学的知見,
専門技術的知見を踏まえ,
信頼性と精度を確保した調査結果を基に,
敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から適切に想定すべきものとされ,各種の不確かさを適切に考慮すべきとされるなどしており,新規制基準は,基準地震動が過小評価となるような基準ではない。
また,地震動審査ガイドが定める基準地震動の策定方法及び債務

者が策定した「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」による基準地震動は,「平均像」そのものではなく,敷地及び敷地周辺に関する詳細な調査結果及び豊富な観測記録に基づく分析により把握した地域的な特性を踏まえ,不確かさを考慮し,安全側の評価となるように十分な余裕を持たせた上で策定した妥当なものであり,基
準地震動を超過する地震動が本件各原子炉施設において発生する可能性は極めて低いことから,基準地震動を超える地震動が発生することが容易に想定されるということはできない。


基準地震動を超過した本件5事例は,いずれも当該地点固有の地
域的な特性(震源特性,伝播経路特性及びサイト特性)による影響
が要因となって生じたものであり,現在の地震動評価手法においては,基準地震動超過地震の原因となった地域的な特性は,いずれも考慮することが可能となっていることから,本件5事例は,新規制基準に基づいて策定された基準地震動の信頼性を否定する根拠とならない。また,本件5事例のうち,①宮城県沖地震,②能登半島地
震及び③新潟県中越沖地震の事例は,平成18年に改訂された耐震設計審査指針に基づく基準地震動を超過した事例ではなく,昭和53年に制定された旧耐震設計審査指針(乙113)に基づく基準地震動を超過した事例にすぎない。
b
震源を特定せず策定する地震動について
地震動審査ガイドにおいて「震源を特定せず策定する地震動」の検討事例として示される本件16地震は,原子力規制委員会の有識者を交えた公開の議論を経て選定されたものであり,債務者は,本件各原子炉施設の地域性等を踏まえ,本件16地震の規模や要求事項に応じて,「震源を特定せず策定する地震動」として考慮した。
原子力規制委員会は,平成7年兵庫県南部地震(以下「兵庫県南部
地震」という。)以降に国内で発生した内陸地殻内地震から22個の地震(Mw〔モーメント・マグニチュードを示す略称記号で,地震モーメントの大きさをマグニチュードに換算したもの〕6.5未満の国内のどこでも発生すると考えられる14個の地震及びMw6.5以上であっても事前に震源の特定が困難な8個の地震)
を抽出し,
その後,

同委員会の「発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる規制基準に関する検討チーム(地震・津波検討チーム)」(以下「地震等基準検討チーム」という。)において,上記22個の地震のうちMw6.5以上の6個の地震について,地質体,地震断層出現の有無,活断層の分布,重力分布等について検討した結果,震源の特定が可能である
との判断の下,
検討対象から除かれたものであり
(乙22
〔6~28頁〕,

この選定の経過にも合理的な理由がある。
(イ)

重大事故等対策について
設置許可基準規則においては,重大事故に至るおそれがある事故や重
大事故が発生した場合にも,炉心の著しい損傷や原子炉格納容器の破損及び原子力発電所外への放射性物質の異常な水準の放出等を防止するための必要な措置が講じられていること,対策の有効性を確認すること等が要求されている。こうした対策については,福島第一原発事故の教訓はもとより,IAEA等の国際機関の安全基準や,アメリカ合衆国等の
主要国の各規制内容及び事故時の状況を考慮して検討されている。また,新規制基準において可搬型設備での対応が基本とされているのは,接続作業等の人的対応が必要となるデメリットはあるとしても,対応の柔軟性や耐震性の面におけるメリットの方が大きいと考えられたためである。そして,事故発生の早い段階で必要と考えられる原子炉冷却材低圧時の冷却対策や電源確保対策については,常設設備(恒設代替設備)により対応することとされており,新規制基準は,可搬型設備と常設設備を適切に組み合わせることにより,重大事故等対策の信頼性を高めることとしている。
(ウ)

防災計画について
原子力防災については,
原子力災害対策特別措置法,
原子炉等規制法,

災害対策基本法等があいまって,これらの法体系全体を通じて,避難計画策定を含む原子力防災対策が講じられることとなっている。そして,原子力防災対策については,福島第一原発事故以降,国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告,IAEAの安全基準の制定又は改定等の国際的な動向を踏まえ,中央防災会議により防災基本計画(原子力災害対策
編)が改正されるとともに,原子力規制委員会により原子力災害対策指針が策定されるなどして,新たな制度枠組みが設定され,この制度枠組みの下で,国,地方公共団体及び原子力事業者である債務者は,仮に,原子力災害が生じた場合にも,住民等の被ばく防護措置に向けた役割を適切に果たすべく,防災組織の構築,情報連絡体制の整備,資機材の確
保,計画等の策定等の準備を行っており,緊急事態発生時においては,連携して原子力防災対策を実施し,住民等に対する防護措置を行うこととしている。
そして,
地方公共団体が整備する
「地域防災計画
(原子力災害対策編)

(避難計画を含む。)の充実化も進められており,国は,これを積極的
に支援している。
原子力防災対策は,上記の制度枠組みの下で実施されるものであるため,避難計画等の妥当性についても,原子力規制委員会がこれを審査するのではなく,国,地方公共団体等で構成される地域原子力防災協議会において,具体的かつ合理的なものであることを確認した上で,同協議会における確認結果を原子力防災会議に報告し,了承を得る構造となっている。
なお,IAEAの安全基準においては,深層防護の概念を原子力発電所の設計に適用すべきとされるにとどまり,必ずしもその全ての対応を原子力事業者に対する規制に規定することが求められているわけではなく,政府は,規定を設け,原子力又は放射線源による緊急事態に対する
準備と対応に関する役割と責任を明示し,割り当てることを確実なものとしなければならないとされており,避難計画に関する事項を含む緊急事態に対する準備と対応について,原子力事業者に対する規制として規定することは求められていない。
(エ)

福島第一原発事故の重要な状況把握について
福島第一原発事故については,国会,政府,民間及び東京電力株式会
社の四つの事故調査委員会並びに経済産業省原子力安全・保安院
(当時。
以下「原子力安全・保安院」という。)がそれぞれ原因究明等を行って事故調査報告書等を取りまとめている。そして,福島第一原発事故に関するこれらの調査,分析の結果を踏まえ,原子力安全委員会(当時)及び原子力安全・保安院は,この事故を教訓として生かすべく,安全規制(事故防止対策,重大事故等対策,地震・津波対策)に関する検討を行っている。新規制基準は,こうした検討結果を踏まえ,原子力規制委員会の下に「発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム」(後に「発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム」と改称。以
下「新規制基準検討チーム」という。)や地震等基準検討チーム等が設置され,検討が重ねられた上で策定されたものである。
地震動による小規模な冷却材喪失事故や全交流電源喪失原因が津波以外の原因によって生じた可能性を指摘している報告書は,国会事故調報告書のみであり,他の事故調査委員会等の報告書においては,地震動による福島第一原子力発電所の安全上重要な設備の損傷は報告されておらず,原子力規制委員会も,地震動による配管の破損が同発電所1号機の事故原因である可能性を否定している。
(オ)

立地審査指針の見直し,組入れについて
設置許可基準規則解釈においては,原子力安全委員会が策定し,用い
られてきた従前の安全審査指針類の一部等が引用されており,この引用された安全審査指針類は,新規制基準の施行後においても,基本的な規制体系の一部を構成している。その上で,立地審査指針については,設置許可基準規則解釈において引用されておらず,新規制基準の下では,規制体系の構成要素となっていないが,立地審査指針に記載されていた要求事項については,設置許可基準規則等の現在の規制体系において考
慮,判断されている。
すなわち,立地審査指針1.1記載の原則的立地条件⑴(「大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと。また,災害を拡大するような事象も少ないこと。」。以下「原則的立地条件①」という。)
の事項は,設置許可基準規則においては,地盤の安定性や地震等による損傷防止等自然的条件ないし社会的条件に係る個別的な規定との関係で考慮されている。他方で,原則的立地条件⑵(「原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること。」。以下「原則的立地条件②」という。)及び同⑶(「原子炉の敷地は,その周辺も
含め,
必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じうる環境にあること。。」
以下「原則的立地条件③」という。)の事項は,改正原子炉等規制法の下では,設置許可基準規則において,万一,炉心損傷等の重大事故等が生じた場合において,工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止,
抑制するための重大事故等対策に係る規定として整備されている
(設
置許可基準規則37条以下)。また,重大事故等対策の有効性評価において,放射性物質の総放出量について,放射性物質による環境への汚染の視点を含め,環境への影響をできるだけ小さくとどめるものであることが求められている。さらに,原子力防災対策について,原子力災害対策特別措置法等が制定され,その充実,強化が図られている。
そして,福島第一原発事故の知見等を踏まえると,長期間帰還できな
い地域を生じさせないためには,放射性物質の総放出量を規制することが重要であると判断された。それゆえ,原子力立地条件を立地審査の過程で審査する必要がなくなったものである。
(カ)

共通要因故障の想定について
設置許可基準規則は,共通要因故障の原因となる事象を,福島第一原
発事故の原因となった津波に限らず幅広く捉え,かつ,その考慮を手厚くし,炉心の著しい損傷を確実に防止して,発電用原子炉施設の安全確保をより確実なものとするべく,地震(設置許可基準規則4条),津波(同5条),火山活動,竜巻,森林火災(同6条)等の自然現象の想定や,発電所内部での火災(同8条),溢󠄀水(同9条)等に対する考慮を
より厳格に求めており,
これにより共通要因故障が防止される。
そして,
このような共通要因故障を防止する設計が行われていることを前提として,偶発的な機器の故障,破損等に対する信頼性を確保するため,単一故障を仮定して設計,評価が行われる。
このように,新規制基準は,福島第一原発事故等を踏まえ,共通要因
故障を含めた故障が発生しないことを要求している。
(キ)

耐震重要度分類等の見直しについて
a
外部電源について
原子炉の安全確保に係る電源供給については非常用ディーゼル発電機がその役割を担うこととし,非常用ディーゼル発電機に特に高い信頼性を持たせることにより原子炉の安全性を担保するということが,原子力発電所の設計上予定された姿である。

そして,外部電源系による電力供給は,遠く離れた発電所等から電線路等を経由して供給されるものであるが,長大な電線路や経由する変電所の全てについて高い信頼性を確保することは不可能であり,また,電力系統の運用の状況によりその信頼性が影響を受けるため,原子力発電所側からは管理することができない。さらに,発電所外の電
線路等は,発電用原子炉施設の設備ではないことから,事故等の発生時における原子炉の安全確保に係る電力供給は,非常用ディーゼル発電機が担うこととし,高い信頼性を持たせている。
新規制基準は,福島第一原発事故を踏まえ,外部電源及び非常用ディーゼル発電機に関する規制要求を強化するとともに,外部電源及び
非常用ディーゼル発電機が機能喪失した場合にも必要な電力を確保するための対策を求めている。
b
使用済燃料ピットについて
使用済燃料ピット水冷却設備及び使用済燃料ピット計装設備は,耐震重要度分類としてはSクラスに分類されない設備ではあるものの,
波及的影響の観点から,Sクラスと同じく基準地震動に対する耐震安全性を有していることを確認することが求められている。なお,債務者は,本件各原子炉施設の使用済燃料ピット水冷却設備について,基準地震動に対する耐震安全性を有していることを確認している。
c
計装設備について
設置許可基準規則は,炉心,原子炉冷却材圧力バウンダリ等の健全性を確保するために監視することが必要なパラメータについて,通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時においても監視できるものとすることを求めるとともに,設計基準事故が発生した場合においては,その状況を把握し,対策を講ずるために必要なパラメータについて,設計基準事故時に想定される環境下において十分な測定範囲及び期間
にわたり連続して監視,記録できるものとすることを求めている(23条)。
これに加え,設置許可基準規則は,福島第一原発事故を踏まえ,重大事故等が発生し,計測機器の故障により,炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策等を成功させるために監視することが必要なパラ
メータを計測することが困難な場合において,当該パラメータを推定するために有効な情報を把握できる設備を設けることを求め,計測設備の信頼性強化を要求している(58条)。

新規制基準の策定に至る経緯について
新規制基準は,その策定に当たり,原子力規制委員会が設置した新規制基準検討チーム,地震等基準検討チーム等の会合において,原子力規制委員会担当委員,多様な学問分野の外部専門家,原子力規制に対する造詣の深い原子力規制庁職員及び旧独立行政法人原子力安全基盤機構の職員らが出席し,おおむね月に二,三回程度の会合が開かれ,原子力安全委員会及
び原子力安全・保安院における検討結果,最新の科学的,専門技術的知見,海外の規制動向等も踏まえて議論が重ねられた。
また,
検討チームの議事,
資料及び議事録は,原則として公開され,外部専門家については,透明性,中立性を確保するため,電気事業者等との関係について自己申告をすることが求められ,申告内容が原子力規制委員会のウェブサイト上で公開され
た。さらに,新規制基準の骨子案及び基準案については,それぞれ意見公募手続に付され,これに対して寄せられた多数の意見が検討され,適宜反映されたものである。
こうした経緯に照らすと,新規制基準は,福島第一原発事故の教訓を踏まえ,専門性,透明性,中立性を確保しつつ,十分な検討を経て策定されたということができる。
上記意見公募手続は,単に形式上実施されたものとは到底いうことがで
きない。また,原子力規制委員会の委員について,更田豊志及び中村佳代子は,同委員会委員就任前に,それぞれ独立行政法人日本原子力研究開発機構又は公益社団法人日本アイソトープ協会の職を辞しているから,設置法7条7項各号所定の欠格事由に該当しないことは明らかである。さらに,
田中知についても,政府は,報酬の金額が少額であり,専門技術的な立場
から助言を行うような内容であるため,委員に就任する上で全く問題ないと説明している。


本件各原子炉施設の耐震安全性に関する基準地震動策定の合理性
(争点⑵)
について

(債権者らの主張)

新規制基準の不合理性について
前記⑴(債権者らの主張)ア(ア)a記載のとおり,基準地震動の策定方法について新規制基準の定める内容は,合理性を欠くものである。


検討用地震の選定について
(ア)

債務者は,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定に当
たり,検討用地震として「竹木場断層による地震」及び「城山南断層による地震」を選定しているところ,債務者の活断層評価によると,城山南断層は,東松浦半島には達しないとされている。
しかしながら,まず,城山南断層の西端延長線上には,呼子南リニアメントと呼ばれる地形が存在するところ,平成23年の半田駿佐賀大学名誉教授によるVLF法による活断層調査では,呼子南リニアメントの近傍において,活断層に特有の抵抗値が極端に低下するデータ(低比抵抗帯)が検出されたことからすれば,呼子南リニアメント又はその近傍に活断層が存在する可能性があるというべきである。また,呼子南リニアメントの西北西延長上には,名護屋断層が存在しているところ,城山南断層,呼子南リニアメント及び名護屋断層がほぼ直線状に位置してい
ることからすれば,これらは連続する活断層である可能性がある。そして,以上の可能性を考慮すると,城山南断層は,債務者が想定している長さよりも長くなるばかりか,本件各原子炉施設の近距離に位置することになるから,城山南断層から発生する地震による地震動が,債務者が想定する基準地震動を大きく超える可能性がある。

(イ)

債務者が,「震源を特定せず策定する地震動」の策定に当たり,本件
16地震のうち,平成12年鳥取県西部地震(以下「鳥取県西部地震」という。)及び平成16年北海道留萌支庁南部地震(以下「留萌支庁南部地震」という。)の二つの検討用地震を選定した方法も恣意的であり,基準そのものへの当てはめも不合理である。


入倉・三宅式による評価の問題点について
(ア)

前原子力規制委員会委員長代理である島崎邦彦によれば,
債務者が
「敷

地ごとに震源を特定して策定する地震動」による基準地震動を策定するに当たり,断層面積と地震モーメントの関係式として,入倉孝次郎・三宅弘恵「シナリオ地震の強震動予測」(甲A444・乙67。以下「入倉・三宅(2001)」という。)において提案された経験式(以下「入倉・三宅式」という。)を採用すると,地震モーメントが過小評価となる。
(イ)

すなわち,活断層(震源モデル)の情報(長さ,面積等)から地震規
模を推定する経験式には,入倉・三宅式のほかにも,武村雅之「日本列島における地殻内地震のスケーリング則-地震断層の影響および地震被害との関連-」(甲A447)において提案された経験式(以下「武村式」という。)等いくつかの経験式が提案されており,どの経験式を選定するかにより推定される地震規模が大きく異なる場合があるところ,活断層長さ(L〔m〕)と地震モーメント(Mo〔Nm〕)との関係式である他の経験式と比べると,入倉・三宅式が地震モーメントを過小評価するものであることが分かる。
また,日本の陸域及びその周辺の7個の地殻内地震(マグニチュード7程度以上)について,その活断層の長さを上記各経験式に当てはめてそれぞれの地震モーメントを求め,観測値と比較すると,入倉・三宅式
のみ,傾斜角が30度の場合を除いて地震モーメントを過小評価しており,入倉・三宅式は,断層の傾斜角が60~90度で,断層のずれが大きい場合には,地震モーメントが過小評価される可能性がある。
さらに,既存の断層面積の推定値から,入倉・三宅式を用いて平均的なずれの量(すべり量)を求め,ここから推定される変形が実測値と調
和的かどうかを検討すると,入倉・三宅式では,実測値の4分の1以下の変形しか説明できないことが分かる。
平成28年熊本地震(以下「熊本地震」という。)のデータを用いて検討すると,入倉・三宅式による地震モーメントの推定値が1.37×1019Nmであるのに対し,実測値が4.66×1019Nmであり,推
定値の3.4倍であることが分かる。そして,震源近傍での強い揺れの程度(短周期レベル)について,その大きさが地震モーメントの1/3乗に比例する式が提案されていることから,入倉・三宅式を使用した結果に対し,実際の強い揺れの程度(短周期レベル)が50%増となる。その上で,「日本列島の垂直,あるいは垂直に近い断層で発生する大
地震の地震モーメントの推定には,入倉・三宅式を用いてはならない」と結論付けられる。
(ウ)

また,島崎邦彦によれば,入倉・三宅式を用いるべきか,他の経験式
を用いるべきかは,地震後に判明したデータによって解析した震源パラメータを前提として,どちらの手法がより正確な地震モーメントを求めることができるかという問題ではなく,地震が発生する前に与えられている乏しい情報を前提として,どちらの手法がより将来発生する地震規
模に近い結果を得ることができるかというポストディクションの問題である。
(エ)

以上の島崎邦彦の指摘は,本件各原子炉施設にも当然に当てはまるも
のであるから,入倉・三宅式を基に策定された本件各原子炉施設の基準地震動は,過小に評価されているというべきである。

(債務者の主張)

新規制基準の定める基準地震動の策定方法について
前記⑴(債務者の主張)ア記載のとおり,新規制基準の定める基準地震動の策定方法は,合理的なものである。


検討用地震の選定について
(ア)a

債務者は,本件各原子炉施設の敷地(以下「本件敷地」という。)
からの距離に応じて,陸域及び海域について,文献調査に加え,変動地形学的調査,地球物理学的調査,地表地質調査等の最新の手法による詳細な調査を実施し,既往調査結果や最新の知見も踏まえて検討を行い,断層の活動性や連続性を安全側に評価した。また,以上の地質調査を踏まえた活断層の評価に当たっては,原子力規制委員会において定められた「敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド」に基づき,「後期更新世(約12~13万年前)以降の活動が明確に否定できない断層」については活断層とした。

そして,城山南断層は,地表地質調査の結果,リニアメントと同方向の小規模な断層又は節理が多くの地点で確認され,後期更新世以降の活動を否定できないことから,活断層として評価した。また,リニアメントの西側延長海域についても,債務者が実施した海上音波探査(地球物理学的手法の一つで,海上から発した音波の反射波の解析により海底の地下構造を推定するもの)では断層が確認されなかったものの,海域に分布する地層の状況等により断層の存在を明確に否定で
きないことから,活断層が認められない対岸までの区間を活断層として評価した。
他方で,債務者は,呼子南リニアメントについて,変動地形学的調査により,最もランクの低いLDランクのリニアメントを抽出したが,地表地質調査の結果,リニアメントを横断して,約300万年前の東
松浦玄武岩類の各層がずれることなくおおむね水平に連続していることが確認され,少なくとも東松浦玄武岩類の堆積以降の活動が認められないことから,活断層ではないと判断した。この点について,VLF法を含む「地下の電気抵抗を測定する方法」は,電磁波等を利用して地下の比抵抗
(電気の流れやすさ)
の分布を測定するものにすぎず,

「活断層の有無」の判断に資するものではなく,低比抵抗帯が存在したことをもって,活断層の存在が推測されるものではない。
b
また,債務者は,文献上,「活断層の疑いがあるリニアメント(確実度Ⅲ)」と示され,変動地形学的調査により,LDランクとして名護屋断層のリニアメントを抽出したが,地表地質調査及びボーリング調
査の結果,リニアメントを横断して,約300万年前の東松浦玄武岩類の各層がずれることなくおおむね水平に連続していることが確認され,少なくとも東松浦玄武岩類の堆積以降の活動が認められないことから,活断層ではないと判断した。
(イ)

債務者は,
本件16地震からの検討用地震の選定について,
①Mw6.

5以上の地震については,その発生した地震の震源域周辺と本件敷地周辺との地質,地質構造等について比較,検討した結果,横ずれ断層型が主体であること,相対的にひずみ速度が小さいことなどの共通性が見られた鳥取県西部地震を選定し,②Mw6.5未満の地震については,地盤が著しく柔らかい観測点を除外し,敷地に大きな影響を与える可能性のある観測記録を選定し,精度の高い地盤情報が得られている観測点に
おける観測記録を抽出した結果,
留萌支庁南部地震のK-NET港町
(H
KD020)の観測記録を最終的に選定したものである。

入倉・三宅式について
(ア)

地震調査研究推進本部地震調査委員会(以下「地震調査委員会」とい
う。)の「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(「レシピ」)」(乙66,107。以下「地震本部レシピ」という。)は,専門家により構成された地震調査委員会で取りまとめられたものであって,平成12年以降に我が国で発生した地震に係る観測記録を精度良く再現できるとともに,原子力規制委員会の地震等基準検討チームにおいても,最新
の知見を反映するものとして評価されている。したがって,入倉・三宅式を含む地震本部レシピが,現在の科学技術水準に照らして合理的なものであることは明らかである。
そして,債務者は,本件各原子炉施設に関して,入倉・三宅式を含む地震本部レシピの予測手法を採用するに当たり,本件敷地の地盤におけ
る観測記録を用いて,その地域的な特性に照らし,同手法の適用性を確認した。さらに,債務者は,地震動評価において多くの観点から安全側となる評価を行っており,本件各原子炉施設の基準地震動は,十分な余裕が確保されたものである。
(イ)

これに対し,債権者らは,島崎邦彦の論文を基に,入倉・三宅式が不
合理なものである旨主張する。
a
しかしながら,
島崎邦彦の論文において入倉・三宅式とされた式は,
その成り立ちを踏まえずに変形したものであり,本来の入倉・三宅式とは異なるものである。すなわち,入倉・三宅式は,これを用いて地震モーメントを求める際に代入する値について,地表に現れた断層長さをそのまま用いることを予定しておらず,個別に地下の震源断層のパラメータ(断層長さ,断層幅,断層傾斜角等)を求めた上で,震源
断層面積の値を代入することを予定しているにもかかわらず,島崎邦彦は,入倉・三宅式について,断層幅を14㎞,断層傾斜角を垂直にそれぞれ固定した上で,断層長さと地震モーメントの関係式に変形させており,科学的意義を失わせている。
また,島崎邦彦の論文において各々の式の比較の前提とされた断層
長さ自体に合理性がない以上,その比較の結果も合理性を欠くというべきである。
b
さらに,そもそも,本件各原子炉施設は,敷地周辺に活断層のない(少ない)場所を選んで建設しているので,考慮すべき活断層の活動に伴う地震観測記録がないことは当然であり,考慮すべき活断層の活
動に伴う地震観測記録がない中,どのようにして今後起こり得る地震を科学的な根拠を持って想定するかが肝要なのであって,考慮すべき活断層の過去の地震観測記録が存在しない場合であっても,科学的に合理的な震源モデル
(震源断層)
を設定することは十分に可能である。


本件各原子炉施設における火山事象による重大事故発生の具体的危険性の有無(争点⑶)について

(債権者らの主張)

九州におけるカルデラ噴火について
本件各原子炉施設を取り巻く九州一円には,阿蘇カルデラ(中央火口丘
群),加久藤カルデラ(霧島火山),姶良カルデラ(桜島火山),阿多カルデラ(開聞岳),鬼界カルデラ(薩󠄀摩硫黄岳)といった活動的なカルデラ火山が多数存在し,カルデラ噴火の危険性が高い。カルデラ噴火は,地殻の中で長い時間蓄積されたマグマが一気に噴出する現象であり,通常の噴火と異なり,火砕流も放射状に流出し,到達範囲も広大な面積に及ぶことから,破局的噴火(火山爆発度指数〔以下「VEI」という。〕7以上の規模の噴火)とも呼ばれ,これによる火砕物の噴出量は,数時間から数
週間の間に10㎦から数千㎦にも及ぶとされる。

巨大なカルデラ噴火の発生の可能性について
巨大なカルデラ噴火は,約7300年前の鬼界カルデラの噴火が最後であり,世界を見渡しても,科学文明が発展して以降,人類はいまだこうした巨大な噴火を経験していない。もっとも,巨大なカルデラ噴火の周期が
5000年から1万6000年に1回であること,最新の巨大なカルデラ噴火が約7300年前であることからすれば,こうした巨大な噴火はいつ起こってもおかしくない。
そして,債務者は,こうした巨大な噴火の危険性に対し,モニタリングによって噴火の兆候を予知する対策を講ずるとするところ,巨大な噴火の
前兆を予知することは,極めて困難であるし,その正確な時期や規模の予測は,現代の最新の知見をもってしても著しく困難である。また,仮に,これを予知することができたとしても,燃料棒や使用済燃料を安全に搬出するには少なくとも数年かかるとされているから,放射性物質を放出し続ける重大事故に至ることは避けられない。この点に関する債務者の火山の
影響評価は,合理的根拠に乏しく,希望的観測にすぎないというべきである。

阿蘇カルデラの巨大な噴火の発生の可能性について
阿蘇山一帯では,有史以来,大小問わず頻繁に噴火が繰り返されてきた
ところ,阿蘇山でカルデラ噴火が発生すれば,北部九州一帯が巨大な火砕流に襲われ,
約9万年前に発生した最大規模のカルデラ噴火
(Aso-4)
が発生すると,500度を超えるような高温の噴煙を伴う火砕流が時速100㎞を上回る速度で進出するため,本件敷地にも到達する可能性が極めて高い。その場合,本件各原子炉施設は,崩壊する可能性が高く,仮に,崩壊を免れたとしても,制御不能となり,重大事故が発生することは確実である。

また,本件敷地内には,1mから十数mにも及ぶ有毒ガスを含む火山灰が降り積もり,原子炉が制御不能になったり,重要な施設の倒壊や外部電源の喪失などが引き起こされたりすることなども考えられる。
そもそも,原子力規制委員会の定める「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(甲B24・乙134。以下「火山ガイド」という。)の基準は,
緩きに失する問題点があるが,この点をおくとして,火山ガイドにおける立地評価の手順に即して阿蘇カルデラについて検討すると,阿蘇カルデラは,㋐本件各原子炉施設から半径160㎞の範囲内に位置し,㋑完新世に活動がある。そして,㋒阿蘇カルデラが現在も活動中であることから,本件各原子炉施設の運用期間中における活動の可能性が十分小さいと判断で
きない場合に当たるし,過去最大の噴火である約9万年前のAso-4を噴火規模とすると,これが本件各原子炉施設に到達する可能性が十分小さいといえないことは明らかである。そうすると,本件各原子炉施設の立地が,阿蘇カルデラとの関係で不適当であることに異論を挟む余地はない。エ
債務者の主張に対する反論について
(ア)

債務者は,噴火間隔を評価要素としているところ,直近の噴火から約
9万年が経過していることからすれば,いつ破局的噴火が発生してもおかしくないと考えるべきである。また,阿蘇カルデラについては,過去の破局的噴火を見ても,噴火ステージ理論との関連性が明らかでなく,プリニー式噴火(と推定される噴火)の継続期間も判然としないので,突然のプリニー式噴火の直後に破局的噴火が発生する可能性も高い。さらに,現在の地震波の測定,地殻変動の観測等を通じた解析手法では,マグマ溜まりの存在が確認できる程度であり,その規模や位置を正確に特定することが困難であるばかりか,その不存在を確認することまではできない。このように,阿蘇カルデラ等が本件各原子炉施設の運用期間中に破局的噴火を起こす可能性が十分に小さい旨の債務者の主張は,合理的,科学的根拠を有するものでないことが明らかである。
(イ)

債務者は,本件各原子炉施設の降下火砕物の影響評価において,従来
の火山灰濃度の設定値である3㎎/㎥を設計基準としていたが,原子力規制委員会は,平成29年7月19日に原子力規制庁に設置された「降下火砕物の影響評価に関する検討チーム」(以下「降下火砕物検討チーム」という。)における検討結果に基づき,フィルタ交換などによって機能維持が可能かどうかを評価するための基準として,機能維持評価用参考濃度を設定し,本件各原子炉施設については3.8g/㎥に引き上げることとし,同年11月29日,火山ガイド等を改正し,気中降下火
砕物濃度として正式に設計基準として定め,同年12月14日に施行された。そのため,債務者が従来限界濃度(外部電源喪失の場合に非常用発電ディーゼル発電機で耐えられる降下火砕物の限界値)
としてきた0.
9g/㎥の4倍を超える濃度となるおそれがあることが明らかとなった。しかも,債務者の限界濃度の計算には,吸気フィルタ降下火砕物捕集
容量の値として採用するものに合理性がない。また,非常用ディーゼル発電機が2台しかない点にも,1台が故障した場合のリスクが考えられていないため,不備があるし,タービン動補助給水ポンプによるバックアップも正常に機能するかは確実でない。さらに,非常用ディーゼル発電機のフィルタ交換作業についても,降下火砕物が降りしきる中,最大
で数週間にわたり,作業を継続することなど不可能であり,危機管理意識が著しく欠如している。
加えて,施行から約1年後まで適用しない旨の経過措置が設けられたことは不合理であり,少なくとも安全が確認できるまでは再稼働を認めない措置をとるべきである。
(債務者の主張)

カルデラ火山における破局的噴火の評価について
債務者は,将来の活動可能性が否定できない火山として,五つのカルデラ火山(阿蘇,姶良,加久藤・小林,阿多及び鬼界。以下,併せて「本件5カルデラ火山」という。)を含む21個の火山を抽出した。
そして,債務者は,このうち本件5カルデラ火山について,壊滅的な被
害をもたらす破局的噴火(100㎦以上の噴出物を伴う噴火)が本件各原子炉施設の運用期間中に発生する可能性を,①カルデラ火山の噴火間隔,②噴火ステージ,③マグマ溜まりの状況の三つの観点から総合的に評価したところ,いずれも本件各原子炉施設の運用期間中に破局的噴火が起こる可能性が極めて低いことを確認した。

また,債務者は,本件5カルデラ火山については,現在の各噴火ステージにおける既往最大規模の噴火を考慮するとともに,その他の16個の火山については,各火山の既往最大規模の噴火を考慮して,本件各原子炉施設への火山事象の影響を評価したところ,21個の火山の噴火規模と本件各原子炉施設までの距離との関係等から,降下火砕物(火山灰等)を除く
火山事象(火砕物密度流,溶岩流,岩屑なだれ,地滑り及び斜面崩壊,新しい火口の開口,地殻変動等)については,いずれも本件敷地には影響がないことを確認した。さらに,降下火砕物(火山灰等)については,過去最も影響が大きかった約5万年前の九重第1噴火を想定し,
地質調査結果,
文献調査結果及び数値シミュレーション結果を踏まえ,安全側に層厚10
㎝の降下火砕物(火山灰等)が生じた場合についての評価を行い,降下火砕物の直接的影響により,安全上重要な建物・機器等の安全性が損なわれることはないことを確認するとともに,間接的影響によっても,非常用ディーゼル発電機の7日間連続運転により,原子炉及び使用済燃料ピットの安全性を確保できることを確認した。そして,降下火砕物の飛来のおそれがある場合には,火山噴火対策を行うための体制を構築し,プラント及び屋外廻りの監視の強化,降下火砕物の除去等を実施することとしている。

阿蘇カルデラの個別評価について
①阿蘇カルデラの噴火間隔については,破局的噴火の最短の噴火間隔が約2万年であるのに対し,現時点は直近の破局的噴火からの経過時間が約9万年であるから,破局的噴火のマグマ溜まりを形成している可能性や破
局的噴火を発生させる供給系ではなくなっている可能性等が考えられなくもない。
もっとも,②阿蘇カルデラの噴火ステージについては,現在の阿蘇カルデラにおける噴火活動は,直近の破局的噴火以降,後カルデラ火山である阿蘇山において草千里ヶ浜軽石等の多様な噴火様式の小規模噴火が発生し
ているのみであり,プリニー式噴火が間欠的に発生しているものではないため,後カルデラ火山噴火ステージと考えられ,本件各原子炉施設の運用期間中に破局的噴火が起こる可能性は極めて低い。
また,③阿蘇カルデラにおけるマグマ溜まりの状況については,大規模な珪長質マグマ溜まりはないとされており,地下約10㎞以浅に大規模な
マグマ溜まりはなく,マグマ溜まりの顕著な増大は認められない。この点について,破局的噴火を引き起こすような大規模なマグマ溜まりは,現在の科学技術を駆使した解析を行えば,少なくともおおよその位置を低比抵抗領域や低速度領域として把握することは可能である。
以上のとおり,①噴火間隔,②噴火ステージ及び③マグマ溜まりの状況
を踏まえて総合的な評価を行うと,阿蘇カルデラは破局的噴火直前の状態ではなく,本件各原子炉施設の運用期間中に破局的噴火が起こる可能性は極めて低い。
この点について,火山ガイドにおいては,「将来の活動可能性があると評価した火山」を対象として,「原子力発電所の運用期間中において設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性の評価」を行うこととされているところ,債務者は,上記のとおり,阿蘇カルデラについては本件
各原子炉施設の運用期間中における破局的噴火の可能性が十分に小さいと評価し,運用期間中の噴火規模を,現在の噴火ステージにおける既往最大規模である阿蘇草千里ヶ浜噴火に設定し,これを前提に,設計対応不可能な火山事象(火砕物密度流等)が本件各原子炉施設に到達する可能性が十分に小さいと評価したものであり,火山ガイドの定めに沿うものである。

降下火砕物の大気中濃度に係る新知見について
降下火砕物検討チームにおける検討結果を踏まえ,実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則等の改正案が平成29年11月29日に決定され,同年12月14日に施行されたところ,債務者は,本件各原子炉施設
における気中降下火砕物濃度を約3.8g/㎥と安全側に評価した上,上記改正による要求事項について,次のとおり対策を実施している。(ア)

非常用交流動力電源の機能を維持するための対策について
債務者は,本件敷地における降下火砕物の堆積量として想定する層厚
10㎝に24時間の降灰で達する大気中濃度(約3.8g/㎥)においても,2系統ある非常用ディーゼル発電機の機能をいずれも確実に維持できるよう,吸気フィルタの閉塞防止措置の強化を行うこととし,平成29年11月末,①フィルタ面積の拡大による閉塞までの時間の延長,②取替え及び清掃の容易化による時間の短縮,③フィルタの2段構造化による非常用ディーゼル発電機運転中のフィルタ取替え並びに取替え及
び清掃時間の短縮の機能を有するフィルタコンテナ(非常用ディーゼル発電機1台当たり3台設置)を既存の吸気消音機の近傍(各号機の原子炉周辺建屋屋上)に新たに設置した。これにより,本件各原子炉施設に多量の降灰が予想される場合,フィルタコンテナと吸気消音機をダクトで接続すれば,約5.2g/㎥の大気中濃度環境下においても,その機能を維持することができる。さらに,債務者は,降下火砕物に対する本件各原子炉施設の安全性をより一層高めるため,今後,降下火砕物の捕集量等がより高まるように改良を施したフィルタをフィルタコンテナに設置する予定である。
(イ)

代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持
するための対策について
債務者は,本件各原子炉施設の各号機に2台ずつ設置している非常用
ディーゼル発電機がいずれも偶発的に多重故障を起こした場合,可搬型ディーゼル注入ポンプを用いて復水タンク等の水を蒸気発生器へ給水し,主蒸気逃がし弁から蒸気を大気へ放出することにより,
炉心を冷却する。
そして,可搬型ディーゼル注入ポンプのディーゼル機関の運転には,外気の吸入を必要とするため,専用のフィルタコンテナ(前記の改良型フィルタ)を新たに配備し,本件各原子炉施設に多量の降灰が予想される場合には,同注入ポンプとフィルタコンテナをダクト(可搬型)で接続することとし,平成30年3月末までに,フィルタコンテナ及びダクト等の配備を終える予定である。

(ウ)

交流動力電源喪失時に炉心の著しい損傷を防止するための対策につい

債務者は,フィルタの閉塞等を起因とする交流動力電源喪失時においては,本件各原子炉施設の各号機に1台ずつ設置しているタービン動補助給水ポンプで蒸気発生器に給水し,主蒸気逃がし弁から蒸気を大気へ放出することにより,炉心の冷却を約21.7日にわたり継続できることを評価,
確認している。
また,
タービン動補助給水ポンプについては,
耐震安全性を確保していることを確認している。
(エ)

上記(ア)から(ウ)までの対策に係る体制整備に関する内容の保安規定への
記載について
債務者は,降灰時における原子炉施設の保全のための活動について,「玄海原子力発電所原子炉施設保安規定」等に定め,通常時から降灰時
の体制及び手順を整備するとともに,必要な資機材を配備し,教育訓練等を行っている。
(オ)

経過措置について
なお,前記の改正は,施行日前に既に新規制基準適合性に係る保安規
定の変更の認可を受けている者は,平成30年12月31日までの間は
適用しない旨の経過措置が示されており,債務者にもこの経過措置の適用があるものの,債務者は,経過措置による猶予期間の経過を待つことなく,迅速,適切に上記検討を実施し,同年3月中をめどに,原子力規制委員会に「玄海原子力発電所原子炉施設保安規定」の変更認可申請を行う予定である。



本件各原子炉施設におけるテロリズム対策の合理性(争点⑷)について
(債権者らの主張)

テロリズム対策の必要性について
福島第一原発事故によって,テロリズムにより原子力発電所の周辺施設の電源設備に深刻な損害を与えると,炉心溶融を引き起こすことができる
ことをテロリストに広く認識させることとなった。原子力発電所を標的としたテロリズムは,世界中で多数発生しており,日本でも原子力発電所を標的としたテロリズム発生を想定した被害予測もされていたのであり,福島第一原発事故を契機として,その危険性は一層高まっているということができる。


テロリズム対策に係る新規制基準の不十分性について
新規制基準においては,特定重大事故等対処施設の設置が義務付けられており(設置許可基準規則42条),意図的な航空機の衝突等への可搬型設備を中心とした対策(可搬型設備,接続口の分散配置)と,バックアップ対策として常設型設備(フィルタ付きベント設備等の特定重大事故等対処施設及び所内常設直流電源設備)の設置が要求されている。

しかしながら,大型航空機が衝突し,大量の燃料が飛散し,炎上している事態において,作業員が可搬型設備を迅速に必要な箇所に搬送し,これを運転し,稼働させるのは容易でない。また,特定重大事故等対処施設等の設置期限について,新規制基準の施行後5年以内とされていたのを工事計画の認可から5年以内と更に猶予する改正が行われたところ,テロリズ
ムがいつ起きるかもしれないのであるから,特定重大事故等対処施設等を設置しないまま本件各原子炉施設を稼働することは許されない。
以上のとおり,テロリズム対策に係る新規制基準は,不十分な内容というべきである。

必要な対策の不備について
(ア)

侵入者対策の不備
本件各原子炉施設を含む我が国の原子力発電所における侵入者対策は,
アメリカ合衆国等において確立された国際的な基準からみると,極めて低いレベルにあり,同国等の核関連施設でさえ不法侵入を許す事件が発生していることからすれば,本件各原子炉施設における侵入者対策は十分でないというべきである。
(イ)

内部脅威対策の不備
原子炉施設のテロリズム対策として,作業員等内部情報に精通した者
により,機密情報の漏えい,テロリストの侵入幇助,攻撃がされるといった内部脅威への対策も必要であるが,我が国においては,原子力施設における施設従事者の信頼性確認制度が導入されておらず,確立された国際的な基準を踏まえていないというべきである。
(ウ)

航空機衝突対策の不備
前記イ記載のとおり,テロリズム対策に係る新規制基準の内容が不十
分である以上,航空機衝突対策には不備があるというべきである。(エ)

ミサイル攻撃対策の不備
本件各原子炉施設がミサイルにより攻撃された場合においては,大量
の放射性物質が放出される事態が発生する可能性を否定することができず,特に,使用済燃料ピットは,原子炉格納容器のように堅固な施設に守られていないため,ミサイル攻撃を受けた場合に大量の放射性物質が放出される事態を防ぐことはおよそ期待できない。そして,今般,朝鮮
民主主義人民共和国によるミサイル攻撃の危険性が広く報道される国際情勢の下,我が国においては,原子力発電所がミサイル攻撃を受けるという事態を想定すらしていないのであるから,十分な対策が講じられていない。
(オ)

サイバーテロリズム対策の不備
原子力発電所の制御系システムに侵入し,燃料操作によって炉心に影
響を与えたり,電源系統の遠隔操作によって冷却機能を麻痺させたりするなどの原子力発電所へのサイバーテロリズムが発生すると,放射性物質の漏れにつながる危険性があるところ,この点についての十分な対策が講じられていない。

(債務者の主張)

本件各原子炉施設に係るテロリズム対策について
債務者は,原子炉等規制法(43条の3の6第1項3号),設置許可基準規則(7条,43条3項5号),武力攻撃事態等における国民の保護の
ための措置に関する法律(以下「国民保護法」という。)等を踏まえ,本件各原子炉施設に係るテロリズム対策を講じている。

債務者によるテロリズム対策の内容について
債務者は,区域を設定し,その区域を柵,鉄筋コンクリート造の壁等の障壁によって防護した上で,巡視,監視等を行うことにより徹底した侵入者対策を講じており,侵入者を想定した訓練についても,警察及び海上保安庁と連携しつつ,定期的に実施している。また,安全確保のために枢要
な設備を含む区域では,
二人以上の者が同時に作業又は巡視を行うこと
(ツ
ーマンルール)としており,内部者の不審行為に対する対策も適切に講じている。さらに,大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによって原子炉施設の大規模な損壊(以下「大規模損壊」という。)が生じた場合における体制を整備し,ミサイル攻撃等の大規模
なテロリズム(テロ攻撃)に対して国と連携して対処することとし,サイバーテロを含む不正アクセス行為を防止する対策を適切に講じている。なお,債務者は,USBメモリを介したウイルス感染の防止対策として,事前に許可されたUSBメモリでなければ重要システムに接続できないように厳格な管理体制を構築している。

したがって,本件各原子炉施設において,テロリズムにより深刻な災害が発生する具体的な危険性があるということはできない。


本件各原子炉施設における重大事故等対策の合理性(争点⑸)について
(債権者らの主張)

水素爆発対策の不備について
格納容器の破壊を防ぐためには,その内部において水素爆発が起きないように十分な対策がとられる必要がある。すなわち,原子炉の冷却機能喪失状態が続くと,炉心燃料の温度が上昇し,燃料が溶融するところ,こうした重大事故の際には,①ジルコニウム-水反応,②溶融炉心・コンクリ
ート相互作用(MCCI),③水の放射線分解,④ジルコニウム以外の金属-水反応により水素が発生し,その水素が空気中の酸素と反応して熱を出し,その反応速度が速いと,爆轟を生じさせる。
そして,新規制基準においては,格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟を防止することが求められ,その判断基準については,「原子炉格納容器内の水素濃度がドライ条件
(水蒸気の存在を除外して算定すること)
に換算して13vol%以下又は酸素濃度が5vol%以下であること」とされている(「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」〔甲A351・乙41,94。以下「炉心損傷防止対策等審査ガイド」という。〕)。
しかしながら,以下のとおり,本件各原子炉施設における水素爆発対策
は,不十分というべきである。
(ア)

水素濃度の安全裕度がほとんどないこと
原子力規制委員会は,炉心損傷防止対策等審査ガイドにおいて,水素
の発生に関する主要解析条件として,①炉心内の金属-水反応による水素発生量は,原子炉圧力容器の下部が破損するまでに,全炉心内のジルコニウム量の75%が水と反応するものとする,②原子炉圧力容器の下部の破損後は,溶融炉心・コンクリート相互作用による可燃性ガス及びその他の非凝縮性ガス等の発生を考慮することとされている。
そして,債務者は,炉心溶融と原子炉圧力容器の破損に伴う格納容器内の水素濃度の時間的変化を,解析コードMAAPを用いて行ったとこ
ろ,水素濃度の最大値は約12.8vol%であり,判断基準値13.0vol%を下回っているとする。
しかしながら,上記評価は,爆轟防止基準との差が僅か0.2%程度で安全裕度がほとんどなく,上記解析において,溶融炉心・コンクリート相互作用に伴う水素発生を考慮しておらず,この不確かさを考慮する
と,13.0vol%を超えることは明らかである。
この点について,債務者は,溶融炉心・コンクリート相互作用による水素の発生を合わせた評価においては,ジルコニウム・水反応による水素濃度の評価方法と異なり,電気式水素燃焼装置(イグナイタ)及び静的触媒式水素再結合装置(PAR)が機能することを前提条件としており,それが機能しないという安全側の条件を付加すれば,水素濃度が13.0vol%を上回る可能性が高いものと考えられる。

(イ)

債務者による水素濃度の解析評価が甘いこと
また,債務者は,ジルコニウム以外の金属である鉄が酸化して水素を
発生することを考慮しておらず,この点を考慮すると,格納容器で水素爆轟が生ずるおそれがあるというべきである。
(ウ)

電気式水素燃焼装置による対策に問題があること
さらに,債務者は,水素爆発防止対策の一つとして,電気ヒータに通
電して水素を燃焼させる電気式水素燃焼装置を13基(予備1基)設置している。
しかしながら,電気式水素燃焼装置の使用は,労働安全衛生規則279条,280条に違反するというべきである。また,電気式水素燃焼装
置の作動のためには交流電源が必要であり,全交流電源喪失時において十全に機能するかは疑問であるし,運転員による操作に過誤が起こる可能性もある。

水蒸気爆発対策の不備について
(ア)

水蒸気爆発は,高温溶融物と接した液体の水が瞬時に蒸発する物理現
象である。
格納容器の破壊を防ぐためには,その内部において水蒸気爆発が起きることのないように十分な対策がとられる必要があるが,債務者は,本件各原子炉施設において,水蒸気爆発が起こる可能性が極めて低いとして,その対策を不要とし,原子力規制委員会も,実験では自発的な水蒸気爆発が起こっていないため,重大事故時の水蒸気爆発の発生可能性を考慮する必要がないとする。
(イ)

しかしながら,重大事故の際には,様々な状況が外部誘因となり,水
蒸気爆発が発生する蓋然性が高い。例えば,①重大事故の際,100トンに及ぶ溶融物が水プールに落下した場合には,少量の水を溶融物と水プール底部や壁との間に囲い込んだり,水を含む固形物を囲い込んだりする可能性があり,これらの場合,囲い込まれた水が急蒸発して,水蒸気泡が急膨張することにより,水蒸気爆発の誘因(トリガー)となる可能性がある。また,②外部から流入する水流の発生や,水温の急変や水素爆発による圧力パルスなども水蒸気爆発の誘因となり得る。さらに,
③重大事故時の水素爆発対策として,電気式水素燃焼装置により人為的に水素の燃焼を行うという方法がとられているが,これは,いわば小規模の水素爆発を起こすということであり,これが外部的な誘因となる可能性も十分に考えられる。
また,債務者は,高温の溶融物を水プールに落下させて水蒸気爆発の
発生を調査するための複数の実験装置のうち,韓国原子力研究所のTROI装置の実験データについてのみ言及せず,原子力規制委員会も,この実験データを評価しないとしているが,実験の規模や実施時期からすれば,上記TROI装置の実験結果を評価すべきである。この点について,KROTOS及びTROIの実験は,いずれも原子力発電所におけ
る水蒸気爆発の検証の対策のために行われた実験であり,そのような実験において,12回中8回も水蒸気爆発が生じたことを軽視すべきではない。そして,炉心溶融に至っているような状況下においては,膜沸騰状態を不安定化させる様々な外部トリガー(外乱)が考えられるのであり,このことは,経済開発協力機構(OECD)のSERENAプロジ
ェクトにおいても報告されているのであって,債務者は,何ら具体的な根拠を示すことなく,実機において外乱が生じないと主張するものにすぎない。
さらに,国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)の水蒸気爆発に係る報告書(甲A355)に基づくJASMINEコードを用いた水蒸気爆発の評価においては,重大事故の際に原子炉圧力容器外において水蒸気爆発が発生する可能性を否定していない。そして,諸外
国においては,重大事故時の水蒸気爆発の危険性について深刻に認識されており,柏崎刈羽原子力発電所の適合性審査においては,水蒸気爆発を回避するための措置も検討されている。
(ウ)

また,重大事故等の状況によっては,配管の破損に伴い飛散,落下し
た配管保温材が流路を閉塞するなどして,計画どおりに原子炉キャビテ
ィに水を張ることができない可能性もある。

可搬型設備による人的対応の限界について
本件各原子炉施設においては,重大事故対策として,①溶融炉心冷却のための可搬型ポンプ及び移動式大容量ポンプ車,②電源対策としての電源
車及び空冷式ガスタービン発電車,③放射性物質拡散抑制のための放水車という可搬型設備が採用されている。
しかしながら,可搬型設備による人的対応は,以下のとおり,事故発生時においては不確定要素が多く,十分に機能するとは期待できないのであり,可搬型設備について対応の柔軟性や耐震性についてのメリットが大き
いとしても,その人的対応の不確実性が解消されない限り,重大事故に十分対応できない可能性が払拭されないというべきである。
(ア)

可搬型設備の欠点
可搬型設備を利用するには,移動作業を要するのであり,移動のため
には人手,道路,安全な作業環境がそろっている必要があり,時間もかかる。他方で,常設設備は,少ない対応要員により設備を動作させることができ,事故が生じた後であっても短時間で投入することが可能であるから,事故による事象の進展が早い場合には,可搬型設備よりも優れている。
(イ)

人的対応の不確実性
また,生身の人間が可搬型設備を操作して重大事故対応を迫られるこ
との過酷さや不確実性,時間がかかることを考慮すると,可搬型設備に
頼った新規制基準が不合理であることは明らかである。
なお,欧州電力事業者要求仕様(EUR)は,重大事故時に人的対応に頼ることの危険性に鑑み,①炉心損傷保護のための対応として,起因事象の発生から6時間は人的対応に依存してはならず,②格納容器保護のための対応として,12時間(目標24時間)は人的対応に依存して
はならないとの基準を定めており,このことからしても,本件各原子炉施設における重大事故対策が,人的対応に大きく依存した不合理なものであることは明らかである。

使用済燃料ピットの危険性について
(ア)

福島第一原発事故で明らかになった使用済燃料貯蔵施設の危険性
福島第一原発事故により,使用済燃料貯蔵施設においても,冷却水が
失われれば冠水状態が保てなくなり,その場合の危険性は,原子炉格納容器内と違いがなく,むしろ,使用済燃料が,原子炉内の核燃料よりも核分裂生成物をはるかに多く含むから,
被害の大きさのみを比較すると,
使用済燃料貯蔵施設の方が危険であることが明らかになったということができる。
(イ)
a
使用済燃料ピットについての重大事故対策の不十分性
堅固な施設による囲い込みが存在しないこと
使用済燃料ピットは,原子炉と異なり,原子炉格納容器の外部にあ
り,原子炉の建屋にしか守られておらず,これを堅固な施設により囲い込む対策が講じられていない。債務者は,使用済燃料ピットが冠水状態にあることを前提として主張するにすぎず,失当である。
b
使用済燃料貯蔵施設の冷却設備の耐震重要度分類がBクラスであること
前記⑴(債権者らの主張)ア(イ)d⒝記載のとおり,新規制基準においては,使用済燃料貯蔵施設の冷却設備の耐震重要度分類は,Bクラ
スにとどめられており(設置許可基準規則解釈別記2第4条2項2号④),本件各原子炉施設の使用済燃料ピットの冷却設備も,原子力規制委員会においてSクラスとして審査されておらず,基準地震動に対する耐震安全性が確認されていないから,対策として不十分であるというべきである。

c
使用済燃料貯蔵施設の計測装置の耐震重要度分類がCクラスであること
前記⑴(債権者らの主張)ア(イ)d⒝記載のとおり,新規制基準においては,使用済燃料貯蔵施設の計測装置の耐震重要度分類は,Cクラスにとどめられており
(設置許可基準規則解釈別記2第4条2項3号)


地震に対して一般産業施設又は公共施設と同等の安全性しか要求されておらず,本件各原子炉施設の使用済燃料ピットの計装装置は,原子力規制委員会においてSクラスとして審査されておらず,基準地震動に対する耐震安全性が確認されていないから,対策として不十分であるというべきである。

d
稠密化された使用済燃料貯蔵施設は危険性を内包すること
「憂慮する科学者同盟」のエドウィン・ライマンは,稠密な形で使用済燃料を入れることの危険性を指摘し,乾式貯蔵の導入により使用済燃料の密度を下げることを提言している。
また,
日本原子力学会は,

福島第一原発事故においても乾式貯蔵設備の健全性が保たれたことなどから,空冷の中間貯蔵設備の導入を提言している。そして,本件各原子炉施設においては,
使用済燃料の貯蔵割合が78%となっており,
保管に余裕のない状態となっていることからすれば,本件各原子炉施設の使用済燃料ピットにおいても,乾式貯蔵の導入により使用済燃料の密度を下げる必要がある。
さらに,稠密化されている使用済燃料ピットにおけるジルコニウム
火災のリスクを軽減するための方法として,NRCの命令書(B.5.b)において,原子力発電事業者に対し,原子炉から取り出した使用済燃料を市松模様にして使用済燃料ラックに配置する運用が指示されているにもかかわらず,新規制基準は,上記の確立された国際的な基準を踏まえた内容となっておらず,本件各原子炉施設についても,原
子炉から取り出した使用済燃料を市松模様にして使用済燃料ラックに配置する運用が計画されているか否かの審査自体行われていないから,対策として不十分である。
e
使用済燃料貯蔵施設への直接注水系が確保されていないこと
新規制基準においては,使用済燃料貯蔵施設への直接注水系につい
て要求されていないが,使用済燃料貯蔵施設の危険性を考慮すると,本件各原子炉施設における使用済燃料貯蔵施設においても,直接注水系が確保されていなければならないというべきである。

免震重要棟の不設置について
(ア)

免震重要棟の必要性
免震重要棟は,新潟県中越沖地震が発生した際,柏崎刈羽原子力発電
所の対策室扉が揺れで開閉不能となったことへの対応として設置が求められ,福島第一原子力発電所においても平成22年7月から運用が開始されていたものである。
そして,設置許可基準規則は,福島第一原発事故等において免震重要棟が果たした役割を受けて,緊急時対策所の設置を義務付け(34条,61条),緊急時対策所については,
「基準地震動による地震力に対し,
免震機能等により,緊急時対策所の機能を喪失しないようにするとともに,基準津波の影響を受けないこと」が要求されている(設置許可基準規則解釈61条)。
(イ)

債務者の対策の不十分性
債務者は,基準地震動の引上げにより,免震機能を有する緊急時対策
所(免震重要棟)の設置が困難となったことから,従来の計画を諦め,耐震機能しか有しない緊急時対策所を設置する計画に変更した。
しかしながら,免震は,建物内の揺れを軽減する利点があり,建物内における安全性の確保の点では,耐震よりも免震の方が優れており,余震が続く中でも事故時の対応が求められる緊急時対策所において,免震機能が求められることは当然であって,本件各原子炉施設において免震重要棟が設置されていないことは,対策として不十分であるというべきである。

この点について,緊急時対策所は,大規模な災害が発生し,中央制御室が機能しなくなった場合の指揮所となるものであるから,中央制御室と共に機能しなくなることは絶対に許されないのであり,設置許可基準規則解釈61条においても,特に,「緊急時対策所と原子炉制御室は共通要因により同時に機能喪失しないこと。」が要求されていることを考
え併せると,緊急時対策所について,耐震性しか要求されない中央制御室にはない免震機能が要求されたのは,中央制御室が機能しなくなるような大規模な地震動に襲われたとしても,同時に機能を喪失することがあってはならず,緊急時対策所が確実に機能しなくてはならないと考えられたことによるというべきである。

したがって,緊急時対策所については,中央制御室と同様の耐震性しか有していないのであれば,要件を充足しないというべきである。カ
放射性物質拡散抑制対策の不備について
(ア)

放射性物質拡散抑制対策の必要性
福島第一原発事故においては,原子炉建屋の爆発により,隣接する海
洋を含め,おびただしい量の放射性物質が拡散したため,こうした経験を踏まえ,設置許可基準規則は,放射性物質の拡散抑制対策を講ずることを要求し(55条),具体的には,次の各措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備を要求している。
a
原子炉建屋に放水できる設備を配備すること。

b
放水設備は,原子炉建屋周辺における航空機衝突による航空機燃料火災に対応できること。

c
放水設備は,移動等により,複数の方向から原子炉建屋に向けて放水することが可能なこと。

d
放水設備は,複数の発電用原子炉施設の同時使用を想定し,工場等内発電用原子炉施設基数の半数以上を配備すること。

e
(イ)

海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備すること。
債務者の対策の不十分性
この点について,債務者は,移動式大容量ポンプ車を準備し,放水砲
を上記放水設備として配備するとともに,シルトフェンス(海中カーテンにより放射性物質を含む汚濁水を沈殿させ,拡散を抑制させる資材)による海洋への放射性物質拡散抑制を行うこととしている。
しかしながら,上記放水砲については,移動式大容量ポンプ車を使用する点で,前記ウ記載のとおり,他の可搬型設備と同様の問題点が当てはまる。また,放射性プルームにはにおいや色が付いているわけではなく,
放水砲やシルトフェンスにより放射性物質を捕捉することはできず,
その効果は無きに等しいというべきである。福島第一原発事故においては,約500ペタベクレルの希ガスが放出されたところ,債務者が放水砲により拡散を抑制しようとしているのは微粒子状の放射性物質であるから,希ガスについては全て取り逃がすこととなるのであって,対策として意味がないものである。
また,債務者は,放水による放射性物質拡散抑制対策について手順書(乙80の2)
を提出するが,
その措置の内容にも不明確な点が複数存在

し,その対策が十分なものということはできない。
(債務者の主張)

水素爆発防止対策について
(ア)

本件各原子炉施設は,加圧水型原子炉であり,沸騰水型原子炉の福島
第一原子力発電所と比べ,格納容器が大きく,自由体積が大きい(約10倍)ことから,万一,原子炉格納容器内に水素が発生したとしても,水素濃度が高濃度となりにくい特徴を有しているところ,本件各原子炉施設においては,更なる安全確保対策として,水素濃度を低減するための静的触媒式水素再結合装置を各5台設置するとともに,より一層の水
素低減を図るための設備として,電気式水素燃焼装置を14台(予備1台を含む。)設置している。
(イ)

また,万一,炉心が溶融した場合においても,静的触媒式水素再結合
装置等により水素爆発には至らない。
債務者は,最も厳しい事象として,「大破断LOCA時に非常用炉心冷却設備の低圧注入及び高圧注入機能が喪失する事象」,すなわち,必要な保全がされており,通常では破断が考えられないような配管が大破断し,加えて,多重性及び独立性を有している非常用炉心冷却設備の低圧注入系及び高圧注入系が全て機能喪失するという事態を想定している。また,水素濃度の低減を図るために設置した電気式水素燃焼装置が機能
しないという安全側の条件も付加した。さらに,原子炉格納容器内の水素発生量については,原子力規制委員会による炉心損傷防止対策等審査ガイドの内容を踏まえ,全炉心内のジルコニウム量の75%が水と反応することとした。
そして,債務者は,上記前提の下での評価の結果,原子炉格納容器内の水素濃度は,最大12.8vol%にとどまることを確認するとともに,不確かさの影響評価として,溶融炉心・コンクリート相互作用に伴
う水素の発生も併せて評価を行い,静的触媒式水素再結合装置及び電気式水素燃焼装置により,原子炉格納容器内の水素濃度が最大9.5vol%にとどまることを確認しており,水素爆発(水素爆轟)が発生する可能性のある水素濃度13.0vol%(ドライ濃度換算)に達することはない。なお,債務者が実施した評価は,電気式水素燃焼装置が機能
することを前提に評価してよいとする炉心損傷防止対策等審査ガイドに沿ったものであり,溶融炉心・コンクリート相互作用に伴う水素発生を考慮した評価において電気式水素燃焼装置が機能することを前提とすることに問題はない。
(ウ)

債権者らは,①電気式水素燃焼装置の使用は,労働安全衛生規則27
9条,280条に反する,②電気式水素燃焼装置が全交流電源喪失時において機能するかが疑問である旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,労働安全衛生規則279条及び280条は,電気式水素燃焼装置のように,格納容器内で水素を意図的に燃焼させることにより,格納容器の損傷を防止することを前提とす
る設備に適用されるものではない。また,上記②の点については,本件各原子炉施設においては,全交流電源喪失(外部電源及び非常用ディーゼル発電機の機能喪失)に備え,大容量空冷式発電機(各号機に1台づつ)を設置しており,全交流電源喪失時においても電気式水素燃焼装置に対する電源供給を確保できる。


水蒸気爆発への対策について
(ア)

水蒸気爆発に関しては,実機において想定される溶融物(二酸化ウラ
ン〔燃料ペレット〕とジルコニウム〔燃料被覆管〕の混合溶融物)を用いた水プールへの落下実験として,これまでに,COTELS(財団法人原子力発電技術機構がカザフスタン国立原子力センターにおいて行った実験),FARO(欧州JRC〔Joint

Research

C
enter〕
がイスプラ研究所において行った実験)KROTOS

(欧
州JRCがイスプラ研究所において行った実験)及びTROI(韓国原子力研究所が行った実験)が行われている。
これらの落下実験のうち,KROTOS及びTROIにおいてそれぞれ水蒸気爆発が発生しているケースがあるが,両実験共に,実機で生ず
るとは考えられない条件を付加した結果,水蒸気爆発が発生したものであるし,
外乱を与えた場合でも水蒸気爆発に至らなかったケースもある。
COTELS,FARO,KROTOS及びTROIの実験結果によれば,膜沸騰状態を不安定化させる外乱がない場合や溶融物の過熱度が実機想定と同等程度の場合には水蒸気爆発が発生することはなく,こうし
た実験結果から,本件各原子炉施設において水蒸気爆発が発生する可能性は,極めて小さいと考えられる。
(イ)

また,原子炉格納容器スプレイから噴霧された水は,①原子炉格納容
器とフロア最外周部間の隙間,②外周通路部の階段・開口部,③ループ室内の各フロアのグレーチング,④原子炉容器と原子炉キャビティの隙
間,⑤原子炉キャビティ底部から原子炉格納容器最下階フロアに通じる連通管などの多様なルートを経由し,
原子炉下部キャビティに流入する。
また,配管保温材等は,捕捉用の柵で止められるので,原子炉下部キャビティへの上記侵入経路は,配管保温材等により閉塞することはなく,原子炉下部キャビティに水を張れない事態が発生することはない。

可搬型設備による重大事故等対策について
前記⑴(債務者の主張)ア(イ)記載のとおり,新規制基準は,対応の柔軟性や耐震性の面におけるメリットを考慮して,可搬型設備による対応を基本としつつ,これと常設設備を適切に組み合わせることによって,重大事故等対策の信頼性を高めている。
債務者は,
本件各原子炉施設において,
重大事故等に対する設備として,

可搬型ディーゼル注入ポンプや移動式大容量ポンプ車等の可搬型設備,常設電動注入ポンプ(1次冷却材低圧時の冷却対策等)や大容量空冷式発電機等の常設設備を配備又は設置している。いずれの設備についても,基準地震動に対する耐震安全性を確保しており,また,可搬型設備による対応については,地震発生時に想定される事態も考慮した上で,その有効性を
確認している。
そして,債務者は,重大事故等が発生した場合の対応について,手順書や体制,設備等を整備し,事故時の混乱の中でも可搬型設備を用いるなどして迅速かつ適切に対応できるように様々な訓練を繰り返し行っている。したがって,重大事故等対策として可搬型設備を用いることに問題はな
く,この点についての対策が不十分であるということはできない。エ
使用済燃料貯蔵設備について
(ア)

堅固な施設による囲い込みについて
使用済燃料は,使用済燃料ピットにおいて,大気圧の下,約40℃以
下に保たれた使用済燃料ピット水により,冠水状態で貯蔵されている。このような状態にあっては,放射性物質を含む高温,高圧の水蒸気が瞬時に発生,流出するような事態はおよそ起こり得ない。
そして,債務者は,使用済燃料の冠水状態を維持するため,使用済燃料ピット等の使用済燃料貯蔵施設や使用済燃料ピット等冷却設備の耐震
安全性を確保するとともに,使用済燃料ピットの水位が低下した場合を想定して配備している取水用水中ポンプや使用済燃料ピット補給用水中ポンプ,水中ポンプ用発電機等の耐震安全性を確保するなど,様々な安全確保対策を実施しており,いずれの設備も基準地震動に対する耐震安全性等を確認している。
したがって,原子炉等と異なり,使用済燃料ピットは,耐圧性能を有する原子炉格納容器のような堅固な施設による閉じ込めを必要としていない。
(イ)

使用済燃料ピット等の耐震安全性について
仮に,耐震重要度分類におけるBクラスの設備である使用済燃料ピッ
ト水冷却設備が機能を喪失し,使用済燃料ピット水を冷却することができなくなった場合でも,Sクラスの設備である使用済燃料ピット水補給設備(燃料取替用水タンク,燃料取替用水ポンプ等)により使用済燃料ピット内にほう酸水を供給することで使用済燃料の冠水状態が保たれ,冠水さえしていれば使用済燃料の健全性が維持されるため,放射性物質を環境に異常に放出する危険はない。

また,
使用済燃料ピット水冷却設備及び使用済燃料ピット計装設備は,
耐震重要度分類におけるSクラスに分類される設備ではないものの,債務者は,使用済燃料ピット水冷却設備のうち,通常時において使用済燃料ピット水の冷却に用いる使用済燃料ピット冷却器,使用済燃料ピットポンプ及び配管については,波及的影響の観点から評価を行い,Sクラ
スと同じく基準地震動に対する耐震安全性を有していることを確認している。
さらに,債務者は,福島第一原発事故を踏まえ,万一,使用済燃料ピット水の冷却機能及び補給機能が同時に喪失した場合や使用済燃料ピットからの使用済燃料ピット水の漏えいその他の要因により使用済燃料ピ
ットの水位が低下した場合を想定し,取水用水中ポンプや使用済燃料ピット補給用水中ポンプ,水中ポンプ用発電機等を配備しており,こうした設備により使用済燃料ピットへ注水することで,使用済燃料ピット水量の減少を補うことができる。
加えて,使用済燃料ピットの状態を確認するために重要な計装設備である使用済燃料ピット水位計,使用済燃料ピット温度計及び使用済燃料ピット状態監視カメラを常設設備として設置するとともに,可搬式の水位計である使用済燃料ピット水位計(広域)及び使用済燃料ピット周辺線量率計を配備し,これらの設備についても基準地震動に対する耐震安全性を確保している。
以上のとおり,使用済燃料ピット水冷却設備及び使用済燃料ピット計
装設備は,耐震重要度分類としてはSクラスに分類されない設備もあるものの,波及的影響の観点や重大事故等対策の観点から基準地震動に対する耐震安全性を確保している。
(ウ)

使用済燃料ピットにおける使用済燃料の保管について
債務者は,本件各原子炉施設の使用済燃料ピットにおける使用済燃料
の保管に当たり,全炉心燃料及び1回の燃料の取替えに要する燃料集合体数等を考慮し,それに十分に余裕を持たせた設備容量を確保した上,崩壊熱の除去及び放射線の遮へいに十分な量のほう酸水により使用済燃料を冠水させた状態で保管している。また,仮に,設備容量一杯まで燃料を貯蔵したときに純水(ほう酸水でない普通の水)で満たされるとい
う厳しい条件を想定しても,使用済燃料ピットの未臨界性を確保できることを確認している。
したがって,使用済燃料の保管に関する債権者らの主張は,本件各原子炉施設の使用済燃料ピットに保管されている使用済燃料の冷却等をより安定的に行うための選択肢を提案するものにすぎない。

(エ)

使用済燃料ピットへの注水について
債権者らが使用済燃料ピットへの直接注水系が整備されていないと指摘する点については,本件各原子炉施設の使用済燃料ピット及び使用済燃料ピット水補給設備等が,地震や津波,竜巻等に対する安全性を確保しているから,使用済燃料ピットへの注水ができなくなる事態は考えにくい。また,更なる安全確保対策として新たに配備した注水設備(取水用水中ポンプや使用済燃料ピット補給用水中ポンプ,水中ポンプ用発電
機等)
についても,
基準地震動に対する耐震安全性を確保するとともに,
取水用水中ポンプ(14台),使用済燃料ピット補給用水中ポンプ(6台),水中ポンプ用発電機(10台)を2か所以上に分散して保管している。
そして,本件各原子炉施設の使用済燃料ピットは,その水面の高さが
構内道路と同程度にあることに加え,構内道路に近接した場所に配置されているため,車両や要員のアクセス性が非常に高く,外部からの注水が容易であるし,債務者は,電動消化ポンプ,ディーゼル消化ポンプ,消防自動車等を用いた使用済燃料ピットへの注水の手順等を整備している。

以上のとおり,債務者は,使用済燃料ピットへの多様な注水方法の確保に努めている。

緊急時対策棟について
(ア)

債務者は,本件各原子炉施設において,万一の重大事故等に適切に対
処するため,必要な指揮命令,通信連絡及び情報の把握等を行う拠点施設として,中央制御室から離れた場所に緊急時対策所(名称:代替緊急時対策所)を新たに設置したが,この代替緊急時対策所については,基準地震動Ss-1~Ss-5による地震力に対する評価値(応力値)を求め,それが評価基準値を全て下回ることを確認し,基準地震動による
地震力に対する耐震安全性を確保している。
その上,債務者は,一層の安全性向上への取組として,緊急時対策要員(指示要員,現場作業要員)がより確実に重大事故等に対処できるように,要員の収容スペースの拡大や休憩室の整備等の支援機能を更に充実させた緊急時対策棟を今後建設することとしている。そして,債務者は,緊急時対策棟について,本件各原子炉施設における他の安全上重要な建屋と同様,耐震構造をもって基準地震動に対する安全性を確保する
こととし,緊急時対策棟に耐震構造を採用するに当たり,免震構造と同様に,基準地震動に対して建屋を弾性範囲内に収めることにより建屋の構造体全体の耐震安全性を確保するとともに,地震時の居住性を確保できるように机の固縛や通路への手摺の設置をし,什器等についてはボルト,ワイヤー等により強固な固定や固縛をすることとしている。

(イ)

この点について,債権者らは,本件各原子炉施設の緊急時対策棟が免
震構造となっていないことを問題視する。しかしながら,緊急時対策棟の基準地震動に対する耐震安全性を確保するための手段については,設置許可基準規則においても,免震機能を備えることが必要とされているわけではなく,重大事故等が発生した場合においても当該事故等に対処
するための適切な措置が講じられるように高い耐震安全性を有していれば何ら問題はない。

放射性物質拡散抑制対策について
(ア)

債務者は,万一,重大事故に至った場合に放射性物質の拡散を抑制す
るために必要な設備として,①原子炉格納容器又は燃料取扱棟などに放水するための移動式大容量ポンプ車及び放水砲等の配備,②海洋への放射性物質の流出経路に当たる本件各原子炉施設放水口側雨水排水処理槽等への放射性物質吸着剤の設置及び放射性物質の海洋への拡散を抑制するためのシルトフェンス等の配備,③航空機燃料火災に対して泡消化す
るための移動式大容量ポンプ車及び放水砲等の配備をし,移動式大容量ポンプ車及び放水砲等により原子炉格納容器等へ放水する手順などを整備し,訓練を実施するとともに,夜間等のアクセス性や必要な連絡手段を確保するなどし,万一の重大事故発生時に適切に対応することができるようにしている。
(イ)

重大事故に至った場合,一般に,原子炉格納容器等は放射線レベルが
極めて高い環境にあって,突発的に同容器外に放射性物質を含んだプル
ームが発生するおそれがあり,同プルームには,多量の放射性物質を含んでいるおそれがある上,短時間のうちに広範囲に拡散するおそれもある。
このため,あらかじめ配備している放水砲により原子炉格納容器頂部から水を噴霧し,放射性プルームに含まれる微粒子状の放射性物質に衝
突させて水滴に捕集し,水滴とともに落下させることにより,放射性物質の拡散を抑制する。こうした放射性物質拡散抑制対策は,十分な効果が期待できるものである。
また,放水することにより,必然的に放射性物質を含んだ放水後の水が海洋に拡散する事態が想定されるが,その事態に対しては,あらかじ
め海洋への拡散を抑制する設備を配備することにより,海洋への放射性物質の拡散を抑制することができる。本件各原子炉施設に配備しているシルトフェンスは,港湾工事等の際に水質汚濁の原因となる土砂や汚泥(シルト)が周囲の水域へ流出し,拡散することを防止するために水中に設置するカーテン状の仕切りであり,海水中にこれを張ることで,シ
ルトフェンス内に拡散する汚濁水を滞留させ,
滞留した汚濁物質を凝固,
沈殿させるものである。海水中に流出した放射性物質は,土や砂,ほこりなどに付着して拡散することから,放射性物質をシルトフェンス内に滞留させるとともに,凝固,沈殿させることにより,海洋への拡散の抑制が期待できるものである。



本件各原子炉施設に係る防災計画の合理性(争点⑹)について(債権者らの主張)

避難計画は,深層防護の理念に合致し,福島第一原発事故の教訓を踏まえたものでなければならないとともに,IAEAの基準の内容を踏まえると,少なくとも事故時の緊急時計画が実行可能であることが確認されてい
る必要がある。
しかしながら,本件各原子炉施設に係る避難計画には,以下の問題点がある。
(ア)

原子力災害対策指針においては,原子炉災害対策重点区域を原子炉か
ら30㎞圏内と定め,その範囲の地方公共団体においては,同指針に従い,重大事故が生じた時の避難計画を策定し,その避難先を定めているが,避難対象地を30㎞圏内とするのは狭きにすぎる。
(イ)

原子炉から30㎞圏外の地方公共団体においては,30㎞圏内の住民
の避難の受入れが想定されているが,30㎞圏外の地方公共団体に放射性物質が飛散した場合に備え,住民の避難場所を確保すべきである。(ウ)

原子力災害対策指針においては,避難終了までの計画が立てられてい
ない。
(エ)

佐賀県地域防災計画の定める原子力災害に関する情報提供の手段を前
提とすると,
避難指示の情報が住民に素早く周知されない可能性が高い。
(オ)
避難経路や避難手段が十分に確保されておらず,住民が速やかに避難
することができない。
(カ)

避難先の受入れ施設が狭く,避難者の長期避難に適さない。

(キ)

自力での避難が困難な災害時要援護者について,佐賀県地域防災計画
においては,病院や社会福祉施設における避難計画は各施設において策定することとされており,実効的な避難計画を策定することが難しい。(ク)

災害が複合した場合に備えた防災計画が策定されていない。

(ケ)

佐賀県においては,被ばく医療機関が不足しており,急性被ばくをした者への医療体制に不備がある。
(コ)

原子力災害対策指針は,地方公共団体に対し,原子力発電所から5㎞
圏内の住民に安定ヨウ素剤を事前に配布し,5から30㎞圏内の住民にはこれを配布することができる体制を整えるように求めているところ,その計画自体不備があるだけでなく,いまだ安定ヨウ素剤の配布が未了
である。
(サ)

放射性廃棄物の処分,管理の方法が決まっておらず,放射性物質に汚
染された環境の原状回復が望めない。
(シ)

被ばく作業従事者に対する責任の所在も定められていない。

債務者は,予防的防護措置を準備する区域(発電所からおおむね半径5㎞圏内で,急速に進展する事故を想定し,事故が発生したら直ちに避難等を実施する区域。以下「PAZ」という。),緊急時防護措置を準備する区域(発電所からおおむね半径5~30㎞圏内で,事故が拡大する可能性を踏まえ,避難や屋内退避等を準備する区域。以下「UPZ」という。)の各地域で避難開始のタイミングをずらし,二段階に分けて避難すると主
張するが,これは人間の心情,本能的な行動を無視するものであり,非現実的な避難方法である。また,屋内退避も避難の一方法として想定されているが,大規模な災害が生じた際には避難先となる建物自体が倒壊する可能性が想定されていない。
債務者が示す避難計画は,実効性の裏付けがなく,不備がある。

(債務者の主張)

玄海地域においては,7市1町の地方公共団体(PAZを含むのは佐賀県玄海町及び唐津市,UPZを含むのは佐賀県玄海町,唐津市及び伊万里市,長崎県松浦市,佐世保市,平戸市及び壱岐市並びに福岡県糸島市)が
避難計画を含む緊急時対応を策定しており,住民説明会や広報誌の配布並びに佐賀,福岡及び長崎の3県合同の原子力防災訓練などを通じて,住民への周知が行われている。

避難計画を含む緊急時対応は,警戒事態,施設敷地緊急事態及び全面緊急事態の三つから成る「緊急事態の区分」の段階ごとに,原子力施設からの距離に応じて策定することとされており,以下のとおり,住民は,一斉に避難するのではなく,事態の進展に応じて段階的に避難する計画となっ
ている。
(ア)

警戒事態における対応
警戒事態が発生した場合には,PAZ内の施設敷地緊急事態要避難者
(以下「要配慮者等」という。)の避難準備を開始する。
(イ)

施設敷地緊急事態における対応
施設敷地緊急事態に至った場合には,PAZ内の要配慮者等に避難を
指示し,PAZ内の一般住民の避難準備を開始する。
(ウ)

全面緊急事態に至った場合には,
PAZ内の一般住民に避難を指示し,

プラントの状況に応じてUPZ内の住民に屋内退避を指示する。
(エ)

放射性物質が放出された場合には,UPZ内の住民等に対し,緊急時
モニタリングの結果等を踏まえて,運用上の介入レベル(OIL)に基づき,一時移転等の防護措置の実施を指示する。

玄海地域におけるPAZ内,UPZ内の各市町の住民の避難先は,各県内で確保されており,地域ごとにあらかじめ避難経路が設定されているな
ど,玄海地域の緊急時対応は,十分実効性のある内容となっている。そして,住民の避難計画を始めとする原子力防災対策を取りまとめた玄海地域における緊急時対応については,平成28年11月22日に開催された第1回玄海地域原子力防災協議会においてその内容が具体的かつ合理的であることが確認され,その後,同年12月9日に開催された第8回原
子力防災会議において,
玄海地域原子力防災協議会の確認結果が報告され,
玄海地域における緊急時対応は,具体的かつ合理的なものであるとして了承されている。
債務者は,安全や防災への取組については不断に行うものであるとの考えの下,関係する地方公共団体と協議しながら避難計画に対する支援体制の強化を図っており,
平成29年9月に実施された国及び佐賀県,
長崎県,
福岡県合同の原子力総合防災訓練において,地方公共団体と連携した要支
援者避難支援訓練や避難退域時検査対応訓練を積極的に実施するなど,避難支援体制の実効性向上に向けた取組も行っており,今後も,国や地方公共団体の要望等も踏まえ,避難計画を含む緊急時対応の実効性の向上に寄与すべく,取組内容の一層の改善,充実に努める。
第3

当裁判所の判断

1
本件申立てについての司法審査の在り方について


差止請求の根拠及び要件
一般に,人の生命,身体は,それ自体が極めて重大な保護法益であるから,人は,個人の生命又は身体が違法に侵害され,又は違法に侵害されるおそれ
がある場合には,現に行われている違法な侵害行為を排除し,又は将来生ずべき違法な侵害行為を予防するため,人格権を被保全権利として,当該侵害行為の差止めを求めることができると解される。
そして,本件差止めの申立てに係る被侵害利益が生命,身体という各人の人格にとって本質的な価値に関するものであり,本件各原子炉施設の安全性
の欠如に起因する放射線被ばくという侵害行為の態様,当該侵害行為によって受ける債権者らの被害の重大さ及び深刻さに鑑みると,そのような侵害行為を排除するため,人格権に基づく妨害予防請求としての本件各原子炉施設の運転の差止めの申立てが認められるためには,本件各原子炉施設につき安全性に欠けるところがあり,その運転に起因する放射線被ばくにより,債権
者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在することを要すると解すべきである。


改正原子炉等規制法等による発電用原子炉施設の設置,運転等に対する規制
ところで,発電用原子炉施設の設置及び運転等については,福島第一原発事故の前から,
原子炉等規制法及び電気事業法
(いずれも本件改正前のもの)

により,原子炉の設置又は変更の許可により原子炉の基本設計についての安全審査を行うとともに,工事計画の認可又は届出により原子炉の具体的な詳細設計についての安全審査を行い,さらに,使用前検査を受けさせ,保安規定を定めて認可を受けさせるなど,いわゆる段階的な安全規制を行うことによって,原子炉の安全性の確保を図る仕組みが設けられてきた。

そして,福島第一原発事故の反省を踏まえ,本件改正により,設置法が成立するとともに,原子炉等規制法が改正され,これにより平成24年9月に原子力規制委員会が設置され,同委員会において策定された新規制基準等に基づく規制が行われることとなり,発電用原子炉施設は,原子炉等規制法等の関係法令及び新規制基準を含む原子力規制委員会規則に定める基準を満た
した場合に初めて同委員会の許認可を受け,適法に運転することができるという制度が採用された。
本件改正の具体的な内容についてみると,
改正原子炉等規制法においては,
発電用原子炉の設置,運転等に関する規制として,原子炉設置許可及び設置変更許可(43条の3の5,43条の3の8),工事の計画の認可(43条
の3の9),使用前検査(43条の3の11),保安規定の認可(43条の3の24)などの段階的な安全規制の仕組み自体には変更がないものの,設置許可の申請書の記載事項として,発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項(43条の3の5第2項10号)が加えられ,原子炉
設置許可の基準の一つとして,設置者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること(43条の3の6第1項3号)が定められ,発電用原子炉設置者が,発電用原子炉施設の保全等について講じなければならない保安のために必要な措置
(保安措置)
に,
重大事故が生じた場合における措置に関する事項を含むものとされる(43条の3の22第1項)など,重大事故対策が強化されたほか,許可を受けた発電用原子炉施設について最新の科学的技術的知見を踏まえた新たな基準が定められた場合には当該施設を当該基準に適合させるバックフィット制度が導入され(43条の3の14,43条の3の16。基準を満たさない発電用
原子炉施設に対しては使用の停止等の措置又は許可の取消し若しくは運転の停止を命じられ得ることとなる。43条の3の23,43条の3の20第2項),発電用原子炉施設の運転期間を使用前検査に合格した日から起算して40年(ただし,20年を超えない期間を限度として,1回に限り,延長の認可をすることができる。)とする運転期間制限制度が導入され(43条の
3の32),さらに,発電用原子炉設置者等が自ら当該発電用原子炉施設等の安全性についての評価を行うことを義務付け,その結果等を届け出させ,届出に係る評価の結果等を公表する制度も導入される(43条の3の29)などした。
また,設置法は,原子力規制委員会の設置について,概要,次のとおり規
定している。原子力規制委員会は,福島第一原発事故を契機に明らかとなった原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し,一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため,原子力利用における事故の発生を常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って,確立された国際
的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し,又は実施する事務(原子炉に関する規制に関することを含む。)を一元的につかさどるとともに,その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使し,もって国民の生命,健康及び財産の保護,
環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として
(1条)

国家行政組織法3条2項に基づき,環境省の外局として設置された行政機関であり(2条),国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため,原子力利用における安全の確保を図ること(原子炉に関する規制に関することを含む。)を任務とし(3条),原子力利用における安全の確保に関すること,原子炉に関する規制等その他これらに関する安全の確保に関すること等に係る事務をつかさどる(4条)。原子力規
制委員会は,委員長及び委員4人をもって組織され(6条),委員長及び委員は,人格が高潔であって,原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命し(7条),独立してその職権を行う(5条)。原子力規制委員会は,その所掌事務について,法律若しくは政令を実施するため,
又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて,原子力規制委員会規則を制定することができる(26条)。原子力規制委員会には,その事務を処理させるため,事務局として原子力規制庁が置かれる(27条)。
発電用原子炉施設の設置,運転等に対する規制について,このような制度が採用された趣旨は,核燃料を使用する発電用原子炉施設は,その稼働によ
り,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,発電用原子炉施設の安全性が確保されないときには,当該原子炉施設の周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射性物質によって汚染するなど,深刻な被害を引き起こすおそれがあることに鑑み,発電用原子炉施設においては,こうした災害が万が一にも起こらないようにする必要が
あるところ,発電用原子炉施設の安全性が確保されているか否かを判断するには,当該原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等について,当該原子炉施設の立地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の原子炉の設置,運転等に必要とされる技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討されるべきであり,このような検討を行うに当たっては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかであるから,上記のとおり各専門分野の学識経験者等を擁し,専門性,独立性が確保された原子力規制委員会において,総合的,専門技術的見地から十分な審査を行わせ,もって原子力利用
における安全の確保を徹底することにあるものと解される。
とりわけ,福島第一原発事故の深い反省に立ち,その教訓を生かしてそのような事故を二度と起こさないようにするとともに,我が国の原子力の安全に関する行政に対する損なわれた信頼を回復し,当該行政の機能の強化を図るため,改正原子炉等規制法において,最新の科学的,技術的知見を規制に
反映し,これを踏まえた基準に許可等済みの発電用原子炉施設等を適合させる制度(バックフィット制度)を導入し,事故の発生防止はもとより,万一,炉心の著しい損傷その他の重大な事故が起きても放射性物質が異常な水準で外へ放出されるような事態に進展しないように多様かつ重層的な対策を要求するなどの重大事故対策を強化し,運転期間の制限等を行うなど,発電用原
子炉施設等の安全規制体制を強化するとともに,
規制と利用の分離を徹底し,
規制の任に当たる原子力規制委員会の独立性を確保し,もって,その専門技術的知見に基づきその規制権限を行使することができるようにしたと解される。
そして,このような本件改正後の原子炉等規制法における規制の目的及び
趣旨からすれば,改正原子炉等規制法は,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的に予測される規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものと解されるのであって,改正原子炉等規制法の規制の在り方には,我が国の自然災害に対する発電用原子炉施設等の安全性についての社会通念が反映しているというべきである。

疎明の責任の所在と債務者による疎明の必要性

このような改正原子炉等規制法の規制の在り方に鑑みれば,裁判所は,発電用原子炉施設の安全性に欠けるところがあるか否かについて,その安全性に関して専門性,独立性が確保された原子力規制委員会の総合的,専門技術的見地による判断に不合理な点があるか否かという観点から審理,判断するのが相当である。すなわち,同委員会における調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,又は当該発電用原子炉施
設が上記具体的審査基準に適合するとした同委員会の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤,欠落があるときは,当該発電用原子炉施設の安全性に関する同委員会の判断に不合理な点があるということができるのであり,そのような場合には,当該発電用原子炉施設の安全性に欠けるところがあるといわざるを得ず,深刻な事故が起こる具体的な可能性が否定で
きないこととなる。そして,発電用原子炉施設が,現在の科学技術水準に照らし,客観的にみて上記のような安全性に欠けるものである場合には,当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され,放射線被ばくにより人の生命,身体に重大な被害を与える具体的な危険が存在するものと解すべきである。


また,人格権に基づく妨害予防請求として発電用原子炉施設の運転の差止めを求める本件申立てにおいては,本件各原子炉施設につき安全性に欠けるところがあり,その運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在すること
について,債権者らが疎明の責任を負うべきものと解される。
もっとも,前記のとおり,発電用原子炉施設の設置及び運転等が原子炉等規制法に基づく安全性についての多段階の審査を経た上で行うことができるものとされている上,改正原子炉等規制法において,発電用原子炉設置者が当該発電用原子炉施設の安全性について自ら評価を行う制度が導入されたことにも鑑みると,当該発電用原子炉施設の安全審査に関する資料や科学的,専門技術的知見は,発電用原子炉施設の設置者である債務者が
十分に保持しているのが通常である。
以上の事情を考慮すると,債務者において,まず,原子力規制委員会の上記判断に不合理な点がないこと,すなわち,①同委員会における調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに②当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当
の根拠,資料に基づき疎明する必要があり,債務者が上記の疎明を尽くさない場合には,同委員会がした判断に不合理な点があるものとして,債権者らに上記の具体的な危険があることが事実上推認されるものというべきである。
他方で,債務者が上記の疎明を尽くした場合には,本来的に疎明の責任
を負う債権者らにおいて,本件各原子炉施設の安全性に欠けるところがあり,本件各原子炉施設の運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険があることについて疎明しなければならないと解するのが相当である。
2
争点⑴(新規制基準の合理性)について
債権者らは,新規制基準の内容及び策定の経緯についての問題点について主張するので,争点⑵から⑹までの本件各原子炉施設の安全性に関わる個別の論点の検討に先立ち,
新規制基準の合理性について検討する。
なお,
債権者らは,
新規制基準の内容について,①基準地震動の策定方法,②重大事故対策,③実
効的な防災計画の存在の各点において,深層防護の考え方を前提とする確立された国際的な基準と比較して問題点がある旨主張する(前記第2の4⑴(債権者らの主張)ア(ア)参照)が,これらの点については,それぞれ争点⑵,⑸及び⑹についての判断において,
本件各原子炉施設における各対策の合理性の中で,
新規制基準の内容の合理性について併せて検討することとする。


新規制基準の内容について
以下では,
債権者らが,
新規制基準の内容の問題点として,
最新の科学的,

技術的知見が反映されていない旨主張する各点について,順に検討する。ア
立地審査指針の見直しや組入れについて
(ア)

債権者らは,新規制基準において,立地審査指針の内容を見直すどこ
ろか,これを基準から除外したことが問題である旨主張する。
(イ)

そこで検討すると,証拠(乙21〔282頁〕,92,109〔337頁〕)
によれば,立地審査基準は,原子力委員会(当時)が昭和39年に決定し,原子力安全委員会が平成元年に一部改訂したものであり,本件改正による改正前の原子炉等規制法24条1項4号の「災害の防止上支障がないものであること」の基準を具体的に記載した指針の一つであり,陸上に定置する原子炉の設置に先立って行う安全審査の際,万一の事故に関連して,その立地条件の適否を判断するためのものであり,原則的立地条件として,原則的立地条件①から③までを規定していたことが認められる。
(ウ)

他方で,設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈においては,立
地審査指針は引用されていない。
a
この理由について,まず,原則的立地条件①については,原子炉施設の安全性に関し,地震等の自然現象や外部人為事象といった発電所外の外部事象の影響について定めたものであり,大きな事故の誘因となる外部事象がない地点を選ぶことを要求するものであった(乙21
〔283頁〕,109〔338頁〕)。
この点について,設置許可基準規則においては,原則的立地条件①として検討されていた事項に関し,原子炉施設の敷地及び周辺の外部事象に関する審査事項として,地盤,地震,津波及びその他火山,洪水,台風,竜巻などの外部事象(3条から6条まで)による損傷防止の観点から,個別,具体的に要求されており,これらの外部事象により安全機能が損なわれると評価される場合には,原子炉設置許可がさ
れないことにより立地が制限されるなどの形で考慮されているということができる。
b
次に,原則的立地条件②については,原子炉施設で発生し得る大きな事故が敷地周辺の公衆に放射線により確定的影響を与えないための
要求で,原子炉施設の公衆からの一定の離隔を要求するものであった(乙21〔283頁〕,109〔338頁〕)。
この点については,
本件改正により,
改正原子炉等規制法において,
原子炉設置許可に係る規制要求事項として,新たに原子炉施設の重大事故等対策が追加され(43条の3の6第1項),これを受けて,設
置許可基準規則において,重大事故等対策に係る規定が整備されたこと(37条以下)により,重大事故に至るおそれのある事故が生じた場合でも,重大事故等対策を講ずることにより,敷地境界外の公衆に影響を及ぼし得る程度の異常な水準の放射性物質の放出を防止することが要求されている。

そして,立地審査指針の非居住区域の判断に係る目安線量が全身で0.25Svであった(乙92)のに対し,炉心損傷防止対策等審査ガイド(乙94)によれば,炉心の著しい損傷を防止する対策の有効性評価により,原子炉施設の敷地境界において,発生事故当たりおおむね5mSv(0.005Sv)以下となることが確認される必要が
あるものとされていることからすれば,重大事故等対策自体の有効性評価により,災害の防止上支障がないことが判断できれば,これに加えて,原則的立地条件②のような離隔を要求する必要性はない。そうすると,新規制基準において,重大事故等対策の有効性評価とは別に原則的立地条件②を基準として採用されていないことにも合理性があるということができる。
c
さらに,原則的立地条件③については,原子炉施設周辺の社会環境への影響が小さい場所を選ぶためのもので,必要に応じ防災活動を講じ得る環境にあることも意図したものであった(乙21〔283頁〕,109〔338頁〕)。
立地審査指針は,敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設等
を考慮し,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない仮想事故の場合,目安として,全身線量の人口積算値が例えば2万人Svを下回るように,原子炉敷地が人口密集地帯から一定の距離だけ離れていることを要求していた(乙92)が,この指針を踏まえた評価におい
ては,実際には,大人口地帯である東京,大阪といった大都市の方向が評価対象となってしまい,数十μSv程度という極めて低線量と非常に大きな人口数の積算により定める結果となる難点があった(乙21〔304頁〕,109〔359頁〕)。そして,放射線リスクの社会的影響については,福島第一原発事故により得られた知見を踏まえると,
重大事故が生じた際,仮に,原子炉施設の近隣に居住する住民が避難する事態が生じたとしても,長期間帰還できない地域を生じさせないことが重要であって,集団線量による規制ではなく,放射性物質の総放出量の観点から規制を行うことが合理的であると考えられるのであり,設置許可基準規則も,こうした見地から,発電用原子炉施設が,
重大事故が発生した場合において,原子炉施設容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものであることを要求している(37条2項)。
また,立地審査指針の定める非居住区域の外側の地帯を低人口地帯とすべきことについては,実際には,めやす線量(甲状腺〔成人〕に対して3Sv,全身に対して0.25Sv)を超える地帯の範囲が発電所の敷地内に収まっていたため,具体的な防災の実行と結び付いて
いなかった上,立地審査指針の策定後,原子力災害対策特別措置法が制定され,原子力災害対策の充実,強化が図られたことから,低人口地帯を設定する合理性も失われていた(乙21〔300~303頁〕,109〔355~358頁〕)。
そこで,設置許可基準規則において,原則的立地条件③の意図する
原子力防災対策の観点からの立地評価を行う必要性はなかったということができる。
(エ)

以上検討したところによれば,新規制基準において立地審査指針が引
用されず,形式的には審査基準とされていないことにも合理的な理由があるということができ,
債権者らの上記主張を採用することはできない。


共通要因故障が想定されていないことについて
(ア)

債権者らは,設置許可基準規則が,設計基準事故の想定事象として,
単一の故障を想定するにとどまり,共通要因故障への備えを要求していない点が不合理である旨主張する。
(イ)

そこで検討すると,安全施設(設計基準対象施設〔発電用原子炉施設
のうち,運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故の発生を防止し,又はこれらの拡大を防止するために必要となるもの。設置許可基準規則2条2項7号参照。乙21〔113頁〕,109[120頁]〕のうち,安全機能を有するもの。同項8号参照)の機能が喪失する原因には,ある安全施設を構成する設備の①偶発故障と②それ以外の故障がある。そして,上記②の偶発故障以外の故障には,地震等の自然現象と外部人為事象(故意によるものは除く。)といった発電所外の外部事象による故障と,内部火災,内部溢水等の発電所内の事象による故障があるところ(乙21〔95頁〕,109〔102頁〕),設置許可基準規則は,上記②の故障について,その原因となり得る自然現象その他の外部事象として,福島第一原発事故の原因となった津波に限らず幅広く捉え,地震,津波,火山活動,竜巻,森林火災等の自然現象を想定するとともに(4条から6条まで),発電所内部での火災,溢水等に対する考慮をより厳格に求め(8,9条),これにより,「止める」,「冷やす」,「閉じ込める」といった安全上の重要度の特に高い安全機能を有する構築物,
系統及び機器が,設計上想定される外部事象によって機能を失うことを防止することとしている
(乙21
〔96,102,103頁〕109

〔103,109,110
頁〕)。なお,上記の外部事象や内部火災等の発電所内の事象は,設備に対して高度の信頼性が求められ,設備が故障しないような設計が要求されているものであり,単一の設備の故障が想定されているわけではな
い(乙21〔109頁〕,109〔116頁〕)。
他方で,
上記①の偶発故障は,
設備に高い信頼性を要求し,
そもそも,
設備が偶発的に故障しないようにするとともに,複数の設備が同時に偶発故障することを防ぐため,その要因を排除することが要求されるものである(乙21〔96頁〕,109〔103頁〕)。そして,安全機能を有す
る系統のうち,安全機能の重要度が特に高い安全機能を有するものは,当該系統を構成する機械又は器具の単一故障が発生した場合であって,外部電源が利用できない場合においても機能できるよう,当該系統を構成する機械又は器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保することが求められる(設置許可基
準規則12条2項)が,そもそも偶発故障の場合においては,その設備の高度の信頼性を前提とすると,複数の設備が同時に偶発的に故障を起こすことは極めてまれであるから,設計基準としては単一の設備故障のみを考慮することとされたものである(乙21〔109頁〕,109〔116頁〕)。
(ウ)

以上のとおり,設置許可基準規則においては,共通要因故障を想定し
た上で,これを防止するための審査をすることとされているから,債権
者らの上記主張は,その前提において失当である。

耐震重要度分類等が見直されていないことについて
債権者らは,耐震重要度分類等について,外部電源,使用済燃料ピット及び計装設備に関する見直しがされていない旨主張する。

(ア)

耐震重要度分類について
設置許可基準規則によれば,設計基準対象施設が十分に耐えるべき地
震力は,地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定しなければならないとされており(4条2項),設置許可基準規則解釈によれば,設計基準対象施設は,それぞれの耐震重要度に応じて,Sクラス,
Bクラス,
Cクラスに分類される
(別記2。
乙45
〔123,124頁〕。

そして,上記分類において,Sクラスは,地震により発生するおそれがある事象に対して,原子炉を停止し,炉心を冷却するために必要な機能を持つ施設,自ら放射性物質を内蔵している施設,当該施設に直接関
係しておりその機能喪失により放射性物質を外部に拡散する可能性のある施設,これらの施設の機能喪失により事故に至った場合の影響を緩和し,放射線による公衆への影響を軽減するために必要な機能を持つ施設及びこれらの重要な安全機能を支援するために必要となる施設並びに地震に伴って発生するおそれがある津波による安全機能の喪失を防止する
ために必要となる施設であって,その影響が大きいものをいう。また,Bクラスは,安全機能を有する施設のうち,機能喪失した場合の影響がSクラスの施設と比べて小さい施設をいう。さらに,Cクラスは,Sクラスに属する施設及びBクラスに属する施設以外の一般産業施設又は公共施設と同等の安全性が要求される施設をいう。(以上につき,設置許可基準規則解釈別記2)
(イ)

外部電源について
債権者らは,外部電源が耐震設計上の重要度分類においてCクラスと
分類されていることが不合理である旨主張する。
しかしながら,外部電源系による電力供給は,遠く離れた発電所等から電線路等を経由して供給されるものであるところ,その長大な電線路や経由する変電所の全てについて高い信頼性を確保することは不可能である。また,電力系統の運用の状況によりその信頼性が影響を受け,原子力発電所側からは管理することができない。さらに,発電所外の電線路等は,発電用原子炉施設の設備ではなく,事故発生時において,外部電源系による電力供給に余り期待すべきではない。
したがって,耐震重要度分類として,外部電源系のうち発電所内にあ
る開閉所等の設備は,非常用電源設備に当たるものではないから,Cクラスに分類し,発電所外にある電線路等をその対象外とすることには,合理性があるというべきである。そして,事故発生時には,非常用電源設備として,非常用ディーゼル発電機から電力の供給を行う設計となっているところ,非常用ディーゼル発電機がSクラスに分類されていることからしても,その設計基準の内容には,合理性があるというべきである。(以上につき,乙21〔175,176頁〕,109〔191,192頁〕参照)(ウ)

使用済燃料ピットについて
債権者らは,使用済燃料ピットの冷却系及び計装系の耐震重要度の分
類の引上げをしていないことが不合理である旨主張する。
そこで検討すると,使用済燃料は,原子炉運転中の炉心の燃料のように高温,高圧の環境下になく,大気圧の下,崩壊熱を除去するため,常温程度以下に保たれた使用済燃料ピット内の水により冠水状態で貯蔵していれば,使用済燃料の発する崩壊熱は,大量に存在する周囲の水に伝達されて除去され,使用済燃料の健全性が維持される(なお,この点に関しては,争点⑸においても検討する〔後記6⑷エ参照〕。)。そこで,新基準規則においては,使用済燃料ピットに関する耐震重要度分類について,使用済燃料ピット及び使用済燃料ピット水補給設備がSクラスに分類される一方,使用済燃料ピット水冷却設備は,その機能を喪失したとしても,使用済燃料ピットに使用済燃料ピット水補給設備
により水が補給できれば崩壊熱の除去及び放射線の遮へい等が可能であり,使用済燃料ピット水補給設備によりその機能を代替できるため,Bクラスに分類されているものである(設置許可基準規則解釈別記2)。また,新規制基準では,①重大事故等に対処するための機能を有する施設の耐震安全性に係る要求が追加されるとともに,②波及的影響を及ぼ
すおそれのある施設の対象が拡充されており,上記①については,常設耐震重要重大事故防止設備,常設重大事故緩和設備又は可搬型重大事故等対処設備と位置付ける設備について,基準地震動に対する耐震安全性を確保することが求められており,上記②については,Sクラスの施設は,下位クラス施設の波及的影響によって,その安全機能が損なわれる
ことのないように求められており,使用済燃料ピット水冷却設備はSクラスの設備ではないものの,波及的影響の観点から基準地震動に対する評価が求められている。
さらに,使用済燃料ピットの計装系について,設置許可基準規則は,外部電源が利用できない場合においても温度,水位その他の発電用原子
炉施設の状態を示す事項を監視することができる測定設備の設置を求め(16条3項2号),また,使用済燃料ピットの水位が低下した場合における対策として代替注水設備の整備を求めるとともに
(54条1項)

使用済燃料ピットの水位が異常に低下した場合におけるスプレイ設備の整備を求めており(同条2項),使用済燃料ピットの使用済燃料の健全性の維持に係る仕組みを踏まえると,その計装系について,Cクラスに位置付けることが不合理であるということはできない。
(乙21〔177~187頁〕,109〔193~203頁〕)
(エ)

原子炉及び格納容器の計装系について
債権者らは,原子炉と格納容器の計装系について,従来の重要度分類
指針上の異常影響緩和機能をクラス2からクラス1に見直されるべきであったにもかかわらず,いまだこうした見直しがされていないとして,計装系の信頼性強化対策が放置されている旨主張する。
この点について,設置許可基準規則は,炉心,原子炉冷却材圧力バウンダリ及び原子炉格納容器バウンダリ並びにこれらに関連する系統の健全性を確保するために監視することが必要なパラメータ(発電用原子炉
施設の状態を示す事項),すなわち,炉心の中性子束,中性子束分布,原子炉水位,原子炉冷却材系の圧力,温度及び流量,原子炉冷却材の水質並びに原子炉格納容器内の圧力,
温度及び雰囲気ガス濃度等について,
通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時においても想定される範囲内に制御できるものとすることを求めている(23条1号,設置許可基準
規則解釈〔乙45[46頁]〕)。また,設計基準事故が発生した場合においては,その状況を把握し,及び対策を講じるために必要なパラメータ,すなわち,原子炉格納容器内雰囲気の圧力,温度,水素ガス濃度及び放射性物質濃度等について,設計基準事故時に想定される環境下において,十分な測定範囲及び期間にわたり監視できるものとすることを求
めている(同条3号,設置許可基準規則解釈)。
さらに,設置許可基準規則は,福島第一原発事故を踏まえ,重大事故等が発生し,計測機器の故障により当該重大事故等に対処するために監視することが必要なパラメータを計測することが困難となった場合において当該パラメータを推定するために必要な設備を設けることを求めている(58条)。
このように,新規制基準においては,計測設備の信頼性強化を規制要
求としているのであり,その対策が放置されているということはできない。

まとめ
したがって,
債権者らが指摘する新規制基準の内容の問題点については,
いずれも合理的な内容であると認められ,債権者らの主張を採用すること
はできない。


新規制基準の策定の経緯について

前記前提事実並びに証拠(乙21〔41~56頁〕,109〔41~57頁〕のほか,掲記のもの)及び審尋の全趣旨により認められる事実を総合すると,
新規制基準の策定の経緯及びその概要は,以下のとおりである。
(ア)
a
福島第一原発事故に関する調査,分析
福島第一原発事故については,様々な機関により調査,検討が行われた。すなわち,平成23年6月,政府(原子力災害対策本部)がIAEA閣僚会議に対する報告書を取りまとめ,また,事故原因の究明や対応の検証を行うことを目的として,国会,政府,民間及び東京電
力株式会社が,それぞれ事故調査委員会を設置し,平成24年2月から同年7月までにかけて,
各委員会が事故調査報告書を取りまとめた。
さらに,原子力安全・保安院も,同年3月,福島第一原発事故の技術的知見についての検討結果を取りまとめた。(乙47,48)
b
福島第一原発事故の原因について,上記の各報告書のうち,国会事故調が作成した報告書のみが,他の報告書と異なり,その直接的原因を津波のみに限定することに疑問を呈し,「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」としていた。原子力規制委員会は,上記報告書において,これらの未解明問題として実証的な調査,検証が必要とされた点について,「津波発生から津波到達までの間には,原子炉圧力バウンダリから漏えいが発生したことを示すプ
ラントデータは見いだせない。」,「A系非常用交流電源系統が機能喪失した原因は,津波による浸水であると考えられる。」などと分析し,福島第一原発事故に係る福島第一原子力発電所1号機での非常用交流電源系統の機能喪失等は,津波の影響によるものであるとする報告書を作成した。(乙48,49)

(イ)

新規制基準の策定の経緯

a
原子力安全委員会及び原子力安全・保安院における検討
原子力安全委員会及び原子力安全・保安院は,福島第一原発事故を踏まえ,以下のとおり,安全規制に関する検討を行った。



原子力安全委員会
原子力安全委員会は,同委員会の原子力安全基準・指針専門部会
の下に,①安全設計審査指針等検討小委員会及び②地震・津波関連指針等検討小委員会を設置した。
上記①の安全設計審査指針等検討小委員会は,平成23年7月か
ら平成24年2月までの間に計13回開催され,福島第一原発事故の教訓を踏まえ,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下「安全設計審査指針」という。)及び関連指針類に反映すべき内容について,全交流動力電源喪失対策及び最終ヒートシンク喪失対策を中心に検討し,同年3月14日,その内容を取りま
とめた。(乙50)
また,上記②の地震・津波関連指針等検討小委員会は,平成23年7月から平成24年2月までの間に計14回開催され,福島第一原発事故の教訓を踏まえ,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「耐震設計審査指針」という。)及び関連指針類に反映させるべき事項を検討し,同年3月14日,その内容を取りまとめた。(乙51)



原子力安全・保安院
原子力安全・保安院は,平成24年3月,福島第一原発事故の技
術的知見に関する報告書を取りまとめる
(前記(ア)a参照)
とともに,
同年8月,
専門家や原子炉設置者からの意見の聴取結果等を踏まえ,
重大事故対策規制の基本的考え方を取りまとめた。また,原子力安
全・保安院は,同年2月,地震及び津波対策に関し,東北地方太平洋沖地震の知見を考慮した原子力発電所の地震・津波の評価及び同地震による福島第一及び福島第二原子力発電所の原子炉建屋等への影響・評価について,それぞれ中間とりまとめを行った。(乙19の1~3,47,52から54まで)

b
原子力規制委員会の設置及び検討経過


平成24年6月20日,設置法が成立し,原子力利用における安
全の確保及び原子炉に関する規制等を行う機関として,原子力規制委員会が設置された。(前記前提事実⑸ア)



原子力規制委員会においては,原子炉等規制法の改正を受けた原
子炉設置許可の要件に関する規制基準の見直しが行われることとなった。
原子力規制委員会は,重大事故等対策,地震及び津波以外の自然
現象への対策に関する設計基準に加え,原子力安全委員会が策定し
た安全設計審査指針等の内容を見直し,その基準を検討するため,新規制基準検討チームを構成した。新規制基準検討チームは,原子力安全委員会の下の安全設計審査指針等検討小委員会の構成員でもあった更田豊志委員を中心とし,関係分野の専門技術的知見を有する学識経験者4名も参加するなどした。(乙55)
また,原子力規制委員会は,地震及び津波対策については,原子
力安全委員会の地震・津波関連指針等検討小委員会における検討も
踏まえた上で,
原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため,
地震等基準検討チームを構成した。地震等基準検討チームには,元日本地震学会会長の島崎邦彦委員長代理(当時)が委員として参加するとともに,原子力安全委員会における耐震指針等の報告書の検討に参画した有識者のほか,地震,津波及び地盤等の各種専門分野
の専門技術的知見を有する学識経験者6名が選抜されるなどした。⒞

新規制基準検討チームにおいては,福島第一原発事故の教訓を反
映させるとともに,海外の規制動向との比較を行い,重大事故等対策及び安全設計審査指針等の見直しについて検討を行うこととされ,
平成24年10月25日から平成25年6月3日までの間,計23回の会合が開催された。そして,新規制基準検討チームは,検討結果を踏まえ,新規制基準の骨子案を作成し,原子力規制委員会が同年2月に意見公募手続を行った結果も踏まえ,基準案を取りまとめた。(乙55)

また,地震等基準検討チームにおいては,平成24年11月19
日から平成25年6月6日までの間,発電用軽水型原子炉施設の地震及び津波に関わる新規制基準の策定のため,計13回の会合が開催された。そして,地震等基準検討チームは,検討結果を踏まえ,地震及び津波に関する新規制基準の骨子案を作成し,原子力規制委
員会が同年2月に意見公募手続を行った結果も踏まえ,基準案を取りまとめた。
その上で,原子力規制委員会は,上記の基準案に対し,行政手続
法に基づき,同年4月11日から1か月間の意見公募手続を行った上,設置許可基準規則等の原子力規制委員会規則及びその解釈を策定するとともに,原子炉設置許可に係る基準の適合性審査において用いる各種の審査ガイドを策定した。


検討
以上のとおり,新規制基準は,福島第一原発事故を受けて,これに関し各機関の調査,分析がされるとともに,当時の原子力安全委員会及び原子力安全・保安院において安全規制に関する検討が行われ,設置法が成立して原子力規制委員会が設置されてからは,
新規制基準の検討を目的として,

新規制基準検討チーム及び地震等基準検討チームが構成され,有識者や専門技術的知見を有する学識経験者により会合が重ねられ,上記各チームの骨子案及び原子力規制委員会の基準案について意見公募手続を行い,策定されたものである。こうした新規制基準の策定に至る手続をみると,新規制基準は,関係分野の学識経験者の専門技術的知見に基づく意見等を集約
し,複数回にわたり幅広く意見公募を行った上で,現在の科学技術水準を踏まえた科学的合理的な基準として策定されたものということができ,その内容の合理性を疑わせる事情は見当たらない。

債権者らの主張について
これに対し,債権者らは,新規制基準の策定経過について,①新規制基準の策定に至る過程が拙速なものであったこと,②意見公募手続が形式上実施されただけにすぎないこと,③そもそも,原子力規制委員会の委員の中に公平,中立性を欠く者が含まれている旨批判する。
(ア)

そこで検討すると,上記①の点については,前記ア及びイ記載のとお
り,原子力規制委員会は,新規制基準を策定するに当たり,重大事故等対策,地震及び津波以外の自然現象への対策に関する設計基準に加え,原子力安全委員会が策定した安全設計審査指針等の内容を見直し,その基準を検討するため,新規制基準検討チームを構成するとともに,地震及び津波対策については,原子力安全委員会の地震・津波関連指針等検討小委員会における検討も踏まえた上で,原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため,地震等基準検討チームを構成した。そして,各チームにおいては,いずれも原子力規制委員会の委員を担当に充てるとともに,従前の議論についても熟知している外部専門家が参加し,高頻度で会合を行い,原子力安全委員会及び原子力安全・保安院における検討結果のほか,福島第一原発事故の教訓を反映させるとともに,海外の
規制動向との比較をするなどし,議論を重ねていたものである。
こうした経過を踏まえると,新規制基準の策定までの期間のみをもって,その内容が拙速なものであったと断定するのは相当でないというべきである。
(イ)

また,上記②の点については,前記ア記載のとおり,新規制基準の骨
子案及び基準案について,それぞれ意見公募手続に付されたところ,これらに対して数千件の意見が寄せられ,その意見を踏まえ,新規制基準検討チームや地震等基準検討チームにおいて更に議論がされ,考え方が整理されていることが認められる(乙86,87)。これらの経過を踏まえると,その手続が形式上実施されたものにすぎないと評価するのは
相当でないというべきである。
(ウ)

さらに,上記③の点については,まず,設置法においては,原子力規
制委員会の委員長又は委員の欠格事由として,「原子力に係る製錬,加工,貯蔵,再処理若しくは廃棄の事業を行う者,原子炉を設置する者,外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる者若しくは核原料物質若しくは核燃料物質の使用を行う者又はこれらの者が法人であるときはその役員〔中略〕若しくはこれらの者の使用人その他の従業者」(7条7項3号),「前号に掲げる者の団体の役員〔中略〕又は使用人その他の従業者」(同項4号)と規定されているところ,債権者らの指摘する更田豊志,中村佳代子及び田中知が,原子力規制委員会の委員に就任するに当たり,上記規制の対象となる事業者等に所属していたことがないと認められる(乙88,90)から,少なくとも,設置法に違反する委員の任命がされたことがないことは明らかである。
また,政府は,「原子力規制委員会委員長及び委員の要件について」(平成24年7月3日内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室)と題する文書(甲A402)において,原子力規制委員会委員長及び委員の
要件として,設置法の欠格要件に加え,①「就任前直近3年間に,原子力事業者等及びその団体の役員,従業者等であった者」又は②「就任前直近3年間に,同一の原子力事業者等から,個人として,一定額以上の報酬等を受領していた者」に該当しないことを求め,ここでいう「原子力事業者等」については,電力会社及びその子会社等の経済的に強いつ
ながりが認められる者を指し,独立行政法人及び公益社団法人は含まれていない旨を明らかにしている(乙89)。
この点について,委員の就任前に,更田豊志は独立行政法人日本原子力研究開発機構に,中村佳代子は公益社団法人日本アイソトープ協会にそれぞれ所属していたものの,両組織は,いずれも上記「原子力事業者
等」に当たるとは解されないから,両名が,同文書の定める上記欠格要件に該当するということもできない(乙88から90まで)。また,田中知については,委員の就任前に,報酬や寄付金を受け取っていたことを報じる記事(甲A404,乙91)が提出されているものの,同記事によっても,田中知が受け取った報酬や寄付金の内容が明らかにされて
いるわけではないため,同文書の定める上記欠格要件に該当するか否かは明らかでない。加えて,上記文書が法令上の根拠のない内規にすぎない性質のものと解されるところ,上記欠格要件を定めた政府において,「報酬の金額は少額であり,専門技術的な立場から助言を行うような内容であるため,委員に就任する上で全く問題ない」旨の見解を示していること(乙91)を踏まえると,田中知について,原子力規制委員会の委員に就任したことに問題があるということはできない。

(エ)

したがって,債権者らの指摘する事情によっても,新規制基準が,そ
の策定経過に照らして不合理なものであるということはできない。3
争点⑵(本件各原子炉施設の耐震安全性に関する基準地震動策定の合理性)について
前記1で説示したところを踏まえ,以下では,まず,債務者において,原子
力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠,資料に基づき疎明したといえるか否かについて検討し,債務者が上記の疎明を尽くしたと認められる場合には,債権者らの主張を検討して,本件各原子炉施設の安全性に欠けるところがあるといえるか否かを検討する。


認定事実等
前記前提事実並びに掲記の証拠及び審尋の全趣旨により認定した事実を総合すると,本件各原子炉施設の基準地震動に関する事実関係は,以下のとおりである。

新規制基準の内容について
新規制基準では,設計基準対象施設について,「地震力に十分に耐えることができるものでなければならない」とされる(設置許可基準規則4条1項)とともに,耐震重要施設については,「その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力〔以下「基準地震動による地震力」という。〕に対して安全機能
が損なわれるおそれがないものでなければならない」
とされた
(同条3項)

また,同項に規定する基準地震動については,設置許可基準規則解釈において,
「最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なもの」として策定することとされ(別記2第4条5項),その策定手法の基本的な枠組みとしては,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について,
「解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定すること」とされた(同項1号)。そして,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」については,「内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,敷地に大きな影響を与えると予想される地震〔以下「検討用地震」という。〕を複数選定し,選定した検討用地震ご
とに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定すること」とされ(同項2号),「震源を特定せず策定する地震動」については,「震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集
し,これらを基に,各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定すること」とされた(同項3号)。(乙45〔127~130頁〕)

新規制基準の下での債務者の基準地震動の評価,策定について(乙2の2,11)
(ア)
a
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
検討用地震の選定

地震による揺れの大きさは,○震源特性(震源の大きさ・マグニチⅱ
ュードなど),○伝播経路特性(震源からの距離,減衰の大きさなど)

及び○サイト特性(地盤の硬さ,地層の褶曲など)によって決まると
ころ,債務者は,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」について,本件敷地周辺で発生する地震の地域的な特性を把握するため,ⅰ
○震源特性については,地質調査(地表地質調査・ボーリング調査・
微小地震調査・海上音波探査・文献調査等を実施して,敷地内,敷地近傍及び敷地周辺における活断層を把握),地震調査(地震発生様式,地震発生状況,被害地震並びに断層型及び応力場に関する調査)及びⅱ

地震観測を行い,○伝播経路特性及び○サイト特性については,それ
ぞれ地震観測及び地下構造調査(試掘坑内の弾性波試験,微動アレイ探査,単点微動観測など)を行った。
そして,過去の被害地震のうち,1700年壱岐・対馬の地震(以下「壱岐・対馬の地震」という。)及び平成17年福岡県西方沖地震(以下「福岡県西方沖地震」という。)が,本件敷地において,震度5弱程度以上と推定され,これらの内陸地殻内地震をいずれも検討用地震の選定対象とした。
また,敷地周辺及び敷地近傍の陸域及び海域における地質調査を行
い,敷地周辺の主な活断層として,陸域については,①竹木場断層,②今福断層,③城山南断層,④楠久断層,⑤国見断層,⑥真名子-荒谷峠断層及び⑦鉾ノ木山リニアメントを抽出し,海域については,⑯F-h断層及び⑮糸島半島沖断層群があり,半径30㎞以遠の主な活断層として,⑧警固断層帯,⑨佐賀平野北縁断層帯,⑩日向峠-小笠
木峠断層帯,⑪宇美断層,⑫西山断層帯,⑬水縄断層帯,⑭雲仙断層群,⑰壱岐北東部断層群,⑱対馬南方沖断層,⑲対馬南西沖断層群,⑳厳原東方沖断層群,㉑宇久島北西沖断層群,㉒沖ノ島東方沖断層,㉓FTW-3,㉔FTW-4,㉕中通島西方沖断層群及び㉖FTW-1を抽出した(上記の丸数字は,乙第11号証〔13頁〕記載の通し番
号による。以下,上記活断層について上記丸数字を引用する部分についても同じ。)。

他方で,債務者は,○震源特性として,プレート間地震(太平洋側
沖合の日向灘周辺で十数年から数十年に一度発生しているマグニチュード7クラスの地震を想定したもの)及び海洋プレート内地震(1909年宮崎県西部の地震など)は,発生位置から本件敷地までの距離が200㎞程度以上離れているため,本件敷地に大きな影響を与えることはないこと,本件敷地周辺で発生する内陸地殻内地震は,「逆断層型」よりも揺れの大きさが小さい「横ずれ断層型」が多いこと(兵庫県南部地震,鳥取県西部地震,福岡県西方沖地震,熊本地震も,これに当たる。),本件敷地周辺は,東西方向の圧縮応力場にあるが,
ひずみがほとんど確認されず,過去に基準地震動を超過する地震動の原因となる地震が発生した
「ひずみ集中帯」
には位置していないこと,
本件敷地及び敷地から半径5㎞範囲に活断層がないこと,福岡県西方沖地震における観測記録の分析によれば,震源特性は横ずれ断層の平ⅱ
均レベルであり,地震本部レシピと良く適合すること,○伝播経路特

性及び○サイト特性として,原子炉建屋等の重要な施設を支持する基
盤(せん断波速度平均1350m/sの硬い岩盤)がある程度の広がりをもって比較的浅所に分布しているため,本件敷地は揺れにくいこと,本件敷地において観測された76個の地震の観測記録を分析しても,本件敷地及び周辺の地下構造に関し,地震動の到来方向又は周期帯によって特異な増幅がみられないこと,本件敷地の観測記録の傾向として,観測記録から本件敷地周辺で発生する地震による揺れは,Noda

et

al.「Response

Design
res
Purpose
Rock

on

of

Spectra

Stiff

for

Structu

Sites」(以下「Noda

et

a
l.(2002)」という。)の「関東・東北地方の過去の地震動の平均像」に比べて小さいことを把握した。
そして,
上記の敷地周辺の活断層から想定される地震による揺れは,
地震規模及び敷地からの距離を考慮すると,上記⑪,⑬,⑭,⑳から㉖までの活断層による地震を除く18個の地震(壱岐・対馬の地震及び福岡県西方沖地震を含む。)について,震度5弱程度以上と推定され,
敷地に大きな影響を及ぼすとして,
その全てをNoda

et

a
l.
(2002)の方法により算定した応答スペクトルを基に評価し,全周期帯において敷地に及ぼす影響が大きい
「竹木場断層による地震」
及び「城山南断層による地震」の二つを検討用地震として選定した。b
検討用地震の地震動評価における震源モデルの設定


基本震源モデル
債務者は,本件敷地地盤の観測記録のうち,揺れが最も大きかっ
た福岡県西方沖地震(本件敷地内で85ガルを観測)の震源特性について,地震本部レシピに基づき主な断層パラメータを設定し,震源モデルを構築して,経験的グリーン関数法(実際に発生した小さ
な地震の観測記録のうち,地震動評価に用いるのに適切な観測記録〔要素地震〕
を足し合わせて大きな地震による揺れを計算する方法)
による地震動評価を実施した結果,福岡県西方沖地震で得られた本件敷地地盤の観測記録をおおむね再現することができた。
そして,債務者は,検討用地震の地震動評価に当たり,本件各原

子炉施設の調査結果及び観測記録に基づく分析等により把握した地域的な特徴を踏まえつつ,上記のとおり本件敷地での観測記録をおおむね再現できることを確認した地震本部レシピに基づき,基本震源モデルの断層パラメータを設定した。
ここで,地震本部レシピにおいては,地震モーメントについて,

断層面積との経験式である入倉・三宅式を用いて設定することとされており,債務者も,地震モーメントについて,これらの経験式を用いて設定した。
a
具体的には,①「竹木場断層による地震」について,○断層長さ
及び震源断層の拡がりについて,地表付近の断層長さが約5㎞と短く,震源断層が地表付近の長さ以上に震源幅と同じ断層長さが拡がるものとして,17.3㎞とより長く設定し,地震発生層の厚さを
b
上端3㎞,下端20㎞と設定して17㎞,○断層傾斜角を断層露頭
及び発生地震の傾斜角を参考に西側傾斜80度としたことに伴って,c
断層幅を17.3㎞と設定し,○応力降下量を地震本部レシピによa
り設定した。また,③「城山南断層による地震」について,○断層
長さ及び震源断層の拡がりを19.5㎞,地震発生層の厚さを上端
3㎞,
下端20㎞と設定して17㎞,b断層傾斜角を鉛直

(90度)

c
断層幅を17㎞とし,○応力降下量を地震本部レシピにより設定しd
た。それらについて,○アスペリティの位置は,本件敷地に最も近e
い位置とし,○破壊開始点は,破壊の進行方向が本件敷地に向かう
方向となるように断層面下端に設定した。



不確かさ考慮モデル
債務者は,基準地震動の策定過程において,調査結果及び観測記
録に基づく分析等によっても十分には把握されていないものについて,不確かさとして考慮することとし,不確かさ考慮モデルを設定
した。
a
具体的には,①「竹木場断層による地震」について,○断層長さ
及び震源断層の拡がりの不確かさを考慮したケース(以下「断層長さ等考慮ケース」という。)として,断層長さ及び震源断層の拡がb
りを20㎞としたもの,○断層傾斜角の不確かさがあることを考慮したケース(以下「断層傾斜角考慮ケース」という。)として,断層傾斜角を60度とし,断層長さ及び震源断層の拡がりを19.7㎞としたもの,c応力降下量の不確かさを考慮したケース

(以下
「応
力降下量考慮ケース」という。)として,新潟県中越沖地震の知見を踏まえ,地震本部レシピの1.5倍に設定したものを検討候補とd
し,加えて,それぞれのケースについて,○アスペリティの位置にe
ついて,敷地に近い位置に設定するとともに,○破壊開始点につい
て,破壊が敷地に向かうような位置に複数設定した。
a
また,③「城山南断層による地震」について,○断層長さ等考慮
ケースとして,
断層長さ及び震源断層の拡がりを20㎞としたもの,
b
○断層傾斜角考慮ケースとして,断層傾斜角を60度とし,断層長c
さ及び震源断層の拡がりを19.7㎞としたもの,○応力降下量考
慮ケースとして,新潟県中越沖地震の知見を踏まえ,地震本部レシピの1.5倍に設定したものを検討候補とし,加えて,それぞれのd
ケースについて,○アスペリティの位置について,敷地に近い位置e
に設定するとともに,○破壊開始点について,破壊が敷地に向かう
ような位置に複数設定した。

c
応答スペクトルに基づく地震動評価
応答スペクトルに基づく地震動評価は,マグニチュードや等価震源距離などの数少ないパラメータから,地震による揺れを応答スペクトルにより評価するものである。

債務者は,応答スペクトルに基づく地震動評価では,過去の地震動の平均像に関する知見として,「関東・東北地方の過去の地震動の平均像」を導き出す手法であるNoda

et

al.(2002)に

よる手法を用いて評価を実施した。そして,応答スペクトルに基づく地震動評価による地震動は,過去の地震動の平均像を地域的な特性を踏まえて補正すること(実際の観測記録が小さいことを踏まえて下方修正すること)も可能であったが,債務者は,地震動評価がより安全側となるようにするため,補正を実施せず,実際の観測記録を上回る「関東・東北地方の過去の地震動の平均像」を応答スペクトルに基づく地震動評価による地震動とした。
d
断層モデルを用いた手法による地震動評価

断層モデルを用いた手法による地震動評価は,地域的な特性(○震


源特性,○伝播経路特性及び○サイト特性)を詳細に反映することが
可能であり,「時刻歴波形」(地震波の到達によって起こされた評価地点での地震動が時間の経過とともに生ずる変化を表したもの)により評価するものである。



債務者は,○基本震源モデルを基に,○伝播経路特性や○サイト特
性を精度良く反映することができる経験的グリーン関数法及び経験的グリーン関数法と理論的手法によるハイブリッド合成法とを用いて精緻な評価を行い,本件敷地周辺の地域的な特性を反映した地震動を,断層モデルを用いた手法による地震動評価による地震動とした。その際,経験的グリーン関数法で用いる要素地震は,敷地までの地震波の


伝わり方(○伝播経路特性,○サイト特性)の地域的な特性が反映さ
れている観測記録(平成17年3月22日福岡県西方沖地震の余震,マグニチュード5.4)が本件敷地で得られていたため,これを用いた。また,理論的手法で用いる地下構造モデルは,試掘坑内弾性波試験の調査結果,微動アレイ探査から推定されたせん断波速度構造及び
既往の知見を参考に設定した。
e
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」による基準地震動の策定
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」による基準地震動の
策定においては,敷地に大きな影響を及ぼす可能性があるとして選定した二つの検討用地震それぞれについて,不確かさも考慮した上で,応答スペクトルに基づく地震動評価による地震動を求め,それらを全て包絡する「設計用応答スペクトル」を設定し,これを基準地震動Ss-1(最大加速度540ガル)とした。
次に,それぞれの検討用地震について,断層モデルを用いた手法による地震動評価による応答スペクトルを求め,
基準地震動Ss-1
(設

計用応答スペクトル)と比較した結果,③「城山南断層による地震」b
の○断層傾斜角不確かさ考慮ケース(破壊開始点3)及び①「竹木場
断層による地震」b断層傾斜角不確かさ考慮ケース
の○
(破壊開始点2)
の断層モデルを用いた手法による地震動評価結果が,一部の周期帯において基準地震動Ss-1(設計用応答スペクトル)による応答スペ
クトルを上回ったため,前者を基準地震動Ss-2(最大加速度268ガル),後者を基準地震動Ss-3(最大加速度524ガル)とした。
(イ)
震源を特定せず策定する地震動
債務者は,「震源を特定せず策定する地震動」の評価で収集対象とな
る内陸地殻内の地震の例として地震動審査ガイドに示されている,平成8年から平成25年までの間に国内で発生した本件16地震(甲A323・乙20〔8頁〕)のうち,Mw6.5以上の2個の地震について,その発生した地震の震源域周辺と本件敷地周辺との地質,地質構造等の比A
較,検討を実施し,○平成20年岩手・宮城内陸地震(以下「岩手・宮
城内陸地震」という。Mw6.9)は,その震源域周辺(顕著な褶曲・撓曲構造が発達し,ひずみ集中帯に位置しており,逆断層を主体とする地域である。)と本件敷地周辺(ひずみ集中帯には位置しておらず,顕著な褶曲撓曲構造は認められず,

横ずれ断層を主体とする地域である。

の地質学的,地震学的背景が異なるため,検討対象から外すこととしたB
一方,○鳥取県西部地震(Mw6.6)は,その震源域周辺と本件敷地周辺の地質学的,地震学的背景が異なるものの,顕著な活断層が分布しておらず,横ずれ断層型が主体であり,相対的にひずみ速度が小さいなどの共通性も見られるため,これを「震源を特定せず策定する地震動」の検討対象地震として選定した。そして,鳥取県西部地震の震源近傍の記録としては,震源断層のほぼ直上に位置し,かつ,硬い岩盤上に設置されたダムの基礎上(監査廊内)の観測記録である賀祥ダムの観測記録を選定した。なお,賀祥ダムの堰体基礎下の地盤のせん断波速度(1200~1300m/s)は,本件各原子炉施設の解放基盤表面のS波速度1350m/sと同等であるため,賀祥ダムの観測記録を本件各原子
炉施設の解放基盤表面相当の地震動として扱い,これを「震源を特定せず策定する地震動」として策定した。
また,本件16地震のうちMw5.0から6.2までの14個の地震については,これらの観測記録のうち本件敷地に大きな影響を与える可能性のある地震を抽出するため,加藤研一ほか「震源を事前に特定でき
ない内陸地殻内地震による地震動レベル-地質学的調査による地震の分類と強震観測記録に基づく上限レベルの検討-」
(2004)
(以下「加
藤ほか(2004)」という。)による応答スペクトルとの比較,検討を実施し,かつ,ボーリング調査等による精度の高い地盤情報(せん断C
波速度,
減衰,
非線形特性など)が得られている○留萌支庁南部地震(M

w5.7)のK-NET港町観測点の観測記録を選定した。そして,同観測点においては,佐藤浩章ほか「物理探査・室内試験に基づく2004年留萌支庁南部の地震によるK-NET港町観測点(HKD020)の基盤地震動とサイト特性評価」(以下「佐藤ほか(2013)」という。)の知見において,深さ-41mまでの地盤の物性値(せん断波速
度など)や室内試験による深さ-6mまでの地盤の非線形特性(大きな揺れに伴うひずみの増加に応じたせん断波速度の低下や減衰の増加)に係る詳細なデータという精度の高い地盤データを基にはぎとり解析を実施し,深さ-41m(せん断波速度938m/s)での解放基盤波(585ガル)が推計されており,債務者は,この知見を基に,地盤の減衰定数のばらつき等を考慮し,解放基盤波(620ガル)を策定し,これを「震源を特定せず策定する地震動」として策定した。

C
その上で,○留萌支庁南部地震のK-NET港町観測点のはぎとり解
析によって求めた地震動を基準地震動Ss-4
(最大加速度620ガル)
B
とし,○鳥取県西部地震の賀祥ダムの観測記録を基に策定した地震動を
基準地震動Ss-5(最大加速度531ガル)として策定した。
(ウ)

基準地震動Ssの策定
前記(ア)及び(イ)記載のとおり,債務者は,「敷地ごとに震源を特定して
策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」の評価結果に基づき,基準地震動Ssとして,Ss-1(最大加速度540ガル),Ss-2(同268ガル),Ss-3(同524ガル),Ss-4(同620ガル)及びSs-5(同531ガル)を策定した。なお,本件敷
地地盤において観測された既往最大の地震による揺れは,平成17年3月20日福岡県西方沖地震時における最大加速度85ガルである。また,
債務者は,上記各基準地震動の年超過確率(基準地震動を超過する揺れが生ずる確率)について,10-4ないし10-6(1万年ないし100万年に1回程度)であると評価している。


原子力規制委員会による基準地震動Ssの策定に関する新規制基準適合性の審査結果について(乙2の2)
原子力規制委員会は,債務者が行った地震動評価の内容について審査した結果,本件設置変更許可申請における基準地震動は,各種の不確かさを
考慮して,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から適切に策定されていることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。その判断の具体的な内容は,以下のとおりである。
(ア)
a
地下構造モデル
解放基盤表面の設定
原子力規制委員会は,債務者が設定している解放基盤表面は,必要な特性を有し,要求されるせん断波速度を持つ硬質地盤の表面に設定されていることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。

b
敷地地盤の地下構造の評価
原子力規制委員会は,本件敷地及び敷地周辺の地下構造の評価に関して,債務者が行った調査の手法は,地質ガイド(敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド〔原管地発第1306191号〕。乙24)を踏まえているとともに,調査結果に基づき地下構造を水平成層かつ均質と評価し,一次元地下構造モデルを設定してお
り,当該地下構造モデルは地震波の伝播特性に与える影響を評価するに当たって適切なものであることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。
(イ)
a
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
震源として考慮する活断層
原子力規制委員会は,審査の過程において,債務者が当初,⑰壱岐北東部に複数の断層が分布するが,震源として考慮する活断層ではないと評価していたため,
断層評価を再検討するように求め,
債務者が,
壱岐北東部に分布する断層群を一連の断層とし,震源として考慮する
活断層として評価を見直したことも踏まえ,債務者が実施した震源として考慮する活断層の評価が,調査地域の地形・地質条件に応じて適切な手法,範囲及び密度で調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し,活断層の位置,形状,活動性等を明らかにしていることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。
b
検討用地震の選定
原子力規制委員会は,審査の過程において,債務者が当初,⑲対馬南西方沖断層群と㉑宇久島北西沖断層群の同時活動を考慮する必要はないと評価していたため,それぞれの断層の位置や走向・傾斜を踏まえ,検討用地震の選定に際しては,これらの断層が連動する場合を考慮して評価することを求め,債務者が,これらを反映して検討用地震
の選定に係る評価を示したことも踏まえ,債務者が実施した検討用地震の選定に係る評価が,活断層の性質や地震発生状況を精査し,既往の研究成果等を総合的に検討することにより検討用地震を複数選定するとともに,評価に当たっては複数の活断層の連動も考慮していることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確
認したと判断した。
c
地震動評価
原子力規制委員会は,審査の過程において,①竹木場断層の震源特b
性パラメータのうち基本ケースの○傾斜角については,債務者が当初
90度に設定していたため,地質調査結果を考慮して検討するように求め,債務者が,断層露頭での傾斜角の傾向や近年日本で発生した大規模な地震のうち横ずれタイプの地震の震源メカニズム解を踏まえ,基本ケースの傾斜角を西傾斜80度に設定したこと(前記イ(ア)b⒜参照)も踏まえ,債務者が実施した「敷地ごとに震源を特定して策定す
る地震動」の評価については,検討用地震ごとに,不確かさを考慮して,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価に基づき策定していることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。
(ウ)

震源を特定せず策定する地震動
原子力規制委員会は,審査の過程において,債務者が本件16地震に
ついて観測記録等を収集していなかったことから,これら全ての地震にB
ついて観測記録等の分析,評価を実施することを求め,このうち○鳥取
県西部地震について,鳥取県西部地震震源域と本件各原子炉施設周辺地域との間に地質学的背景に大きな地域差が認められないことを指摘するとともに,C留萌支庁南部地震については,

その地震観測記録について,
既往の知見である微動探査等に基づく地盤モデルによるはぎとり解析のみならず,適切な地質調査データに基づく地盤モデルによるはぎとり解析等を求め,債務者が,鳥取県西部地震の観測記録を収集し,その地震動レベル及び地盤特性を評価し,震源近傍の観測記録を「震源を特定せず策定する地震動」として採用するとともに,留萌支庁南部地震につい
ては,佐藤ほか(2013)で推定された基盤地震動に不確かさを考慮した地震動を「震源を特定せず策定する地震動」として採用したことも踏まえ,債務者が実施した「震源を特定せず策定する地震動」の評価については,過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を精査し,各種の不確かさ及び敷地の地盤物性を考慮して策定
していることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断した。
(エ)

基準地震動の策定
原子力規制委員会は,債務者が,「敷地ごとに震源を特定して策定す
る地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」に関し,敷地の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として基準地震動を策定していることから,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認した。


原子力規制委員会の判断の合理性

審査基準である新規制基準の内容の合理性
新規制基準では,基準地震動を策定するに当たり,最新の科学的,技術
的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質,地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとすることを前提として,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」の双方を考慮し,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」については,敷地に大きな影響を与えると予想
される検討用地震を複数選定し,
検討用地震ごとに,
不確かさを考慮して,
応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価に基づき策定することとされ,
「震源を特定せず策定する地震動」
については,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に敷
地の地盤物性を加味した応答スペクトルを設定して策定することとされている(前記⑴ア参照)。このように,新規制基準は,複数の手法を併用して地震動を評価した上で,その結果を総合し,最も厳しい評価結果を基準地震動として採用することを想定しており,こうした基準地震動の策定の基本的な枠組みは,それ自体,合理的なものというべきである。

また,新規制基準では,設置許可基準規則解釈において,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」について,「検討用地震の選定や基準地震動の策定に当たって行う調査や評価は,最新の科学的・技術的知見を踏まえること」(別記2第4条5項2号⑦)とされたり,「震源を特定せず策定する地震動」についても,その妥当性について,「最新の科学的・技
術的知見を踏まえて個別に確認すること」(同項3号②)とされたりするなど,最新の科学的,技術的知見を踏まえて検討,評価を実施すべきであることが明確に要求されている。
さらに,新規制基準では,設置許可基準規則解釈において,不確かさの考慮についても,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」について,
「基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,
応力降下量,破壊開始点等の不確かさ,並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮すること」(同項2号⑤)とされたり,
「震源を特定せず策定する地震動」について,

「地表に明瞭な痕跡を示さない震源断層に起因する震源近傍の地震動について,確率論的な評価等,各種の不確かさを考慮した評価を参考とすること」(同項3号②)とされたりするなど,不確かさを考慮して評価すべきであることが明確に求められている。
以上検討したところによれば,
基準地震動に係る新規制基準の内容には,

相当の根拠,資料に基づき,合理性があることが疎明されたものというべきである。

調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在原子力規制委員会は,本件設置変更許可申請に対し,前記⑴イ記載のと
おり債務者が行った地震動評価が,設置許可基準規則解釈別記2の要求する内容に適合するか否かの審査を行い,債務者が本件設置変更許可申請において策定した基準地震動は,設置許可基準規則解釈別記2の規定に適合していることを確認したと判断したものである(前記⑴ウ参照)。そして,原子力規制委員会は,原子力利用における安全の確保に関して
専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者である委員長及び委員4人をもって組織され,独立してその職権を行うとされ(前記1⑵参照),上記判断に至る過程においては,設置者(債務者)から多数回にわたるヒアリングを行うとともに,一般からの意見募集及びそこで提出された意見の検討を経て,新規制基準に適合しているとの判断を示したものであり(乙124,審尋の全趣旨),その調査審議及び判断過程に適正さを欠く部分があるとは認め難い。

かえって,前記⑴ウ記載のとおり,原子力規制委員会は,債務者に対し,上記審査の過程において,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価について,震源として考慮する活断層の断層評価,検討用地震の選定の際に考慮すべき事情,地震動評価の際の震源モデルのパラメータの設定について再検討を求めるとともに,「震源を特定せず策定する地震動」
の評価について,本件16地震の観測記録等の分析,評価を求めるとともB
C
に,○鳥取県西部地震や○留萌支庁南部地震の分析,評価の際に検討すべ
き事情を指摘するなどしたのであり,その調査審議は,厳格かつ詳細に行われたものと評価することができる。
以上によれば,原子力規制委員会における審査についても,厳格かつ適
切に行われたものと評価するのが相当であり,債務者が行った基準地震動の策定について,新規制基準に適合するとした同委員会の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。

まとめ
以上検討したところによれば,債務者は,①原子力規制委員会における
調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに②当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当の根拠,資料に基づき疎明したものと認められる。

債権者らの主張について

新規制基準の内容の合理性について
(ア)

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について
a
これに対し,債権者らは,地震動審査ガイドにおける「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」について,①過去に発生した地震,地震動の知見の平均像を求めるものにすぎず,それを超える地震動が当然に発生し得る旨主張し,②これを裏付ける事実として,平成17年以降の約10年間で,基準地震動を超える地震として本件5事例が
存在する旨指摘する(前記第2の4⑴(債権者らの主張)ア(ア)a⒜参照)。
b
しかしながら,まず,上記①の点については,前記⑴で認定したとおり,新規制基準においては,基準地震動について,「敷地及び敷地
周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なもの」として策定することとされ,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」については,
「敷
地に大きな影響を与えると予想される地震を複数選定し,選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動
評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定すること」とされているのである(前記⑴ア参照)から,過去に発生した地震,地震動の知見の平均像そのものとして策定されるものでないことは明らかである。
そして,債務者は,本件各原子炉施設における基準地震動を設定す
るに当たり,本件各原子炉施設への影響が最も大きいと選定した検討用地震である
「竹木場断層による地震」「城山南断層による地震」
及び
(前記⑴イ(ア)a参照)について,震源モデルを設定するに当たり,詳細な活断層調査等の結果及び観測記録に基づく分析により把握した地域的な特性を踏まえ,基本震源モデルについて,断層長さ,断層幅,
断層傾斜角,アスペリティ位置及び破壊開始点のいずれについても安全側に設定する(前記⑴イ(ア)b⒜参照)とともに,これらのパラメータについて,基準地震動の策定過程における不確かさを考慮した不確かさ考慮モデルを設定した(前記⑴イ(ア)b⒝参照)。その上,これらの震源モデルについて地震動評価をするに当たり,応答スペクトルに基づく地震動評価において,過去の地震動の平均像を地域的な特性を踏まえて補正すること(実際の観測記録が小さいことを踏まえて下方
修正すること)も可能であったが,より安全側となるべく,補正を実施しなかったものである(前記⑴イ(ア)c参照)。このように,債務者は,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」について,本件敷地及びその周辺における地域的な特性に加え,更に不確かさを考慮して策定しているということができる。

したがって,債権者らの上記主張は,こうした新規制基準の基本的考え方や債務者が実際に行った基準地震動の策定の過程を考慮しないものであって,失当であるというべきである。
c
また,上記②の点については,原子力発電所において基準地震動を超過する地震動を観測した本件5事例については,①宮城県沖地震,②能登半島地震及び③新潟県中越沖地震に係る各事例は,いずれも昭和53年に制定された旧耐震設計審査指針(乙113)による基準地震動S2を超過した事例にすぎず,基準地震動SSは,震源として考慮する活断層の活動時期の範囲が拡張されるとともに,断層モデルを用
いた手法の全面的採用等により地震動評価の方法も高度化されるなど,基準地震動S2とは大きく異なるものである。
したがって,
上記各事例
については,基準地震動の策定の合理性を否定する根拠に当たるものと直ちにいうことはできない。
上記の点をおくとしても,掲記の証拠及び審尋の全趣旨によれば,
①宮城県沖地震に係る事例は,宮城県沖近海のプレート境界に発生する地震の地域的な特性として,
短周期成分の卓越が顕著だったことⅰ
(○
震源特性)を要因とするものであったこと(乙12,13),②能登半島地震に係る事例は,短周期が励起する特性(短周期レベルAが平ⅰ
均値よりやや大きい特性)をもつ地震であったこと(○震源特性),ⅲ
敷地地盤の深部からの増幅特性によること(○サイト特性)を要因とするものであったこと(乙14,15),③新潟県中越沖地震に係る事例は,通常よりも強い揺れ(1.5倍程度)を生ずる地震であったⅰ
こと(○震源特性),深部地盤の不整形性の影響により地震動が2倍ⅱ
程度増幅する傾向があったこと(○伝播経路特性),発電所敷地下のⅲ
古い褶曲構造により地震動が増幅したこと(○サイト特性)を要因と
するものであったこと(乙16,17),④東北地方太平洋沖地震に係る各事例は,想定を超える領域の連動による地震(連動型地震)であるとともに,短周期レベルAが平均よりも大きい地震であったことⅰ
(○震源特性)
を要因とするものであったこと
(乙13,
18,
19)

が認められる。このように,本件5事例がいずれも基準地震動を超過したのは,当該地点固有の地域的な特性による影響が見られることによるものということができる。
他方で,本件敷地周辺における地域的な特性をみると,上記①,④の事例のようなプレート間地震が敷地に及ぼす影響は小さいし,上記②,③の事例のようなひずみ集中帯又はその周辺の圧縮応力場で発生
した逆断層型の地震と同様の地震が敷地周辺で発生する可能性は極めて低いということができる(前記⑴イ(ア)a参照)。また,債務者は,本件各原子炉施設の基準地震動の策定に当たり,本件5事例についてⅰ
基準地震動を超過した要因を踏まえ,○震源特性に関しては,徹底し
た活断層調査,活断層の連動可能性を否定できない場合には連動の考慮,既往の知見の調査,敷地地盤で得られた観測記録の分析,震源のⅱ

不確かさの考慮を行い,伝播経路特性及び○サイト特性に関しては,○
徹底した敷地又はその周辺の地下構造調査,敷地地盤で得られた観測記録に基づく検討等を行うこと(前記⑴イ(ア)a参照)により,本件5事例において基準地震動を超過した要因に係る知見を反映させている。以上によれば,本件5事例の存在が,新規制基準における基準地震動の策定方法やこれに基づく債務者の本件各原子炉施設に係る基準地
震動の策定の内容の不合理性を裏付けるものということはできず,この点についての債権者らの上記主張を採用することはできない。
(イ)
a
震源を特定せず策定する地震動について
債権者らは,「震源を特定せず策定する地震動」について,その収集対象となる地震として本件16地震が挙げられている点に関し,僅
かな観測記録をもってその地震動の最大値を知ることなど不可能であるし,もともとリストに挙げられていた22個の地震のうち6個の地震が合理的な理由もないのに対象から削除された旨主張する(前記第2の4⑴(債権者らの主張)ア(ア)a⒝参照)。b
しかしながら,地震動審査ガイド(甲A323・乙20)において「震源を特定せず策定する地震動」の収集対象地震として本件16地震が挙げられているのは,兵庫県南部地震以降,地震・地震動観測やネットワーク技術が進歩し,国内の観測点が大幅に増加しており,震源近傍の地震動や観測点周辺の地盤等の状況,性状も分かりつつある
状況を踏まえ,震源近傍で強震動の記録が取れており,規模が大きい内陸地殻内の地震をリストアップしたものと認められ
(乙21
〔227頁〕

109〔257,258頁〕),その観測記録の精度も勘案すると,収集対象となる地震の数が16個しかなかったことをもって,直ちに不合理であるということはできない。

また,原子力規制委員会は,兵庫県南部地震以降に国内で発生した内陸地殻内地震から,Mw6.5以下の国内のどこでも発生すると考えられる14個の地震及びMw6.6以上であっても事前に震源の特定が困難な8個の地震を抽出し,その後,地震等基準検討チームにおいて,上記の合計22個の地震のうち,Mw6.6以上の地震(ただし,A岩手・宮城内陸地震,B鳥取県西部地震を除く6個)


について,
地質体,地震断層出現の有無,活断層の分布,重力分布等を検討した
結果,震源の特定が可能であるという判断の下,選定対象から除いたと認められる(乙22)。このような判断を前提とすると,「震源を特定せず策定する地震動」の収集対象となる地震として,上記6個の地震をその対象から外したことが不合理であるということはできない。したがって,債権者らの上記主張を採用することはできない。


調査審議及び判断の過程等について
(ア)
a
検討用地震の選定について
債権者らは,債務者が,「震源を特定せず策定する地震動」の策定に当たり,鳥取県西部地震及び留萌支庁南部地震の二つの検討用地震
を選定した方法も恣意的であり,基準そのものへの当てはめも不合理である旨主張する。
しかしながら,前記⑴イ(イ)で説示したとおり,債務者は,「震源を特定せず策定する地震動」の評価に当たり,本件16地震のうち,MA
w6.5以上の2個の地震について,○岩手・宮城内陸地震は,その
震源域周辺と本件敷地周辺との地質,地質構造等を比較,検討した結果,両者の地質学的,地震学的背景が異なるため,検討対象から外すB
こととした一方,○鳥取県西部地震は,その震源域周辺と本件敷地周
辺の地質学的,地震学的背景が異なるものの,顕著な活断層が分布しておらず,横ずれ断層型が主体であり,相対的にひずみ速度が小さいなどの共通性も見られるため,検討対象地震として選定した。また,債務者は,Mw5.0から6.2までの14個の地震について,加藤ほか(2004)による応答スペクトルと比較,検討し,かつ,ボーリング調査等による精度の高い地盤情報(せん断波速度,減衰,非線C
形特性など)が得られている○留萌支庁南部地震のK-NET港町観
測点の観測記録を選定したものである。以上のような検討用地震の選定方法に特段不合理な点は見当たらず,債務者が鳥取県西部地震及び
留萌支庁南部地震を選定した方法が恣意的であるということはできない。
また,基準そのものへの当てはめが不合理である旨の債権者らの主張については,その具体的な主張内容が明らかではないが,債務者が上記各検討用地震の観測記録を基に基準地震動を策定した過程につい
ての証拠(乙11)の内容を見ても,この点に不合理な点があるとは認め難い。
したがって,債権者らの上記主張を採用することはできない。
b
また,債権者らは,債務者が,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定に当たり,検討用地震の一つとして選定した「城山南断層による地震」について,城山南断層の延長に存在する呼子南リニアメント及び名護屋断層が連続する活断層である可能性を考慮していない点に問題がある旨主張し,この主張に沿う証拠として,半田駿佐賀大学名誉教授の意見書(甲A349),中谷円香の論文(甲A3
82)を提出する。
しかしながら,そもそも,上記論文は,著者の略歴等も明らかにされておらず,その学術的な位置付けが明確なものではないから,その科学的信用性に乏しいものといわざるを得ない。
また,この点をおくとしても,上記意見書及び論文は,活断層の調
査について,地下の電気抵抗を測定する方法(VLF法)を用いて行っているところ,同方法が活断層の有無を判定する方法として科学的な合理性を有するものであることを裏付ける証拠がない。かえって,債務者は,同方法が,電磁波等を利用して地下の比抵抗(電気の流れやすさ)の分布を測定するもので,地盤の比抵抗が,乾湿や温度,風化や変質の程度,岩石を構成する鉱物の種類等を反映していることから,地盤の詳しい状態の調査に広く使われるものであるものの,活断層の有無の判断に資するものではない旨主張していることを勘案すれば,低比抵抗帯の存在をもって,活断層の存在が推測されると直ちに認めることはできない。なお,債権者らは,「活断層探査に活躍するVLF法」と題する論文(甲A383)も提出するけれども,同論文
も,その学術的な位置付けが不明確なものである上,その内容をみても,調査対象箇所に活断層が存在することを前提として,VLF法によって当該活断層の地下構造の特徴として低比抵抗部を探査したものにすぎず,上記意見書等の裏付け証拠に当たるものということはできない。

そして,
債務者は,
城山南断層について,
変動地形学的調査により,
LB,LC及びLDから成るリニアメントを抽出し,地表地質調査の結果,リニアメントと同方向の小規模な断層又は節理が多くの地点で確認され,後期更新世以降の活動を否定できないため,活断層として評価し,その西側延長海域についても断層の存在を明確に否定できない
ことから,対岸までの区間(評価長さ19㎞)を活断層として評価した(乙25〔59~66頁〕)。その一方で,債務者は,呼子南リニアメントについて,
変動地形学的調査により,Dランクのリニアメントを抽
L
出し,地表地質調査の結果,リニアメントを横断して,新第三系(2303万年前~258万年前)の東松浦玄武岩類の各層がずれること
なくおおむね水平に連続していることが確認され,少なくとも鮮新世(533万年前~258万年前)
以降の活動が認められないことから,
活断層ではないと判断したものである(乙25〔68~75頁〕)。こうした債務者の判断の合理性に疑義を挟むに足りる証拠又は事実は見当たらない。
また,名護屋断層については,これが活断層であることを裏付ける客観的な証拠はなく,債権者らの主張も,単に,呼子南リニアメント
の延長に存在することを根拠とするものにすぎない。
この点について,
債務者は,地表地質調査及びボーリング調査の結果,リニアメントを横断して,新第三系の東松浦玄武岩類の各層がずれることなくおおむね水平に連続していることが確認され,少なくとも東松浦玄武岩類の堆積以降の活動が認められないことから,活断層ではないと判断した
ものであり
(乙25
〔16~31頁〕,
)その判断には合理性が認められる。
したがって,城山南断層の活断層の長さを名護屋断層まで延長させて評価すべきであるということはできない。
したがって,債権者らの上記主張を採用することはできない。
(イ)

入倉・三宅式による評価の問題点について
債権者らは,前原子力規制委員会委員長代理である島崎邦彦の指摘を
基に,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」による基準地震動を策定するに当たり,
断層面積と地震モーメントの関係式として,
入倉・
三宅式を採用すると,
地震モーメントが過小評価となる旨主張するので,
以下検討する。
a
入倉・三宅式及び武村式が適用される場面


新規制基準においては,設置許可基準規則4条3項所定の基準地
震動について,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について策定することとされ,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定に当たり,選定した検討用地震ごとに不確かさを考慮して,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を策定することが要求され,このうち断層モデルを用いた手法による地震動評価をするに当たっては,検討用地震ごとに,適切な手法を用いて震源特性パラメータを設定し,地震動評価を行うこととされている(前記⑴ア参照,設置許可基準規則解釈別記2第4条5項2号④ⅱ)〔乙45[127~130頁]〕)。
そして,地震動審査ガイドにおいては,上記震源特性パラメータ
について,活断層調査結果等に基づき,地震本部レシピ等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認することとされている
ところ(Ⅰ3.3.2⑷①1)。甲A323・乙20〔4,5頁〕),地震本部レシピ(乙66,107)においては,地震モーメント(Mo)を設定する際に,断層面積(S)と地震モーメントの関係式として,入倉・三宅式が採用されており,債務者も,Mw6.5相当(Mo≧7.5×1018〔Nm〕)以上の地震の地震モーメントMo
については,次の式で表される入倉・三宅式を用いて設定している(前記⑴イ(ア)b⒜参照)。
Mo=(S/4.24×1011)2×10-7
これに対し,Mw6.5を下回る地震の場合には,P.Some
rvilleほか「Characterizing

l
Earthquake

he

Slip

Prediction

of

Models
Strong

Crusta
for

t
Ground

Motion」(以下「Somervilleほか(1999)」という。)により,地震モーメントと震源断層の面積の関係は,次の式で表される。
Mo=(S/2.23×1015)3/2×10-7
ただし,原理的には断層幅(W)が飽和しているかどうかでスケ
ーリング則が変わるため,断層幅が飽和していない場合(内陸の活断層地震の断層幅は,地震規模が小さいときは,断層長さ(L)に比例する。
W=kL

for

L<Wmax)は,
Somervill

eほか
(1999)
の経験式を用い,
断層幅が飽和している場合
(あ
る規模以上の地震[Mo≧7.5×1018〔Nm〕]では,断層幅
は飽和して一定値となる。W=Wmaxfor

L≧W)は,入倉・

三宅式を用いる方が合理的であるとされる(乙66,67)。


他方で,武村式は,入倉・三宅式と同様に,過去の地震のデータ
を基に,断層パラメータ間(断層長さ又は断層面積と地震モーメント)の関係式を導き出しているものであり,具体的には,一定以上
の地震モーメントの場合(Mo≧7.5×1018〔Nm〕)について,次の式で表されるものである(甲A447)。
LogL(㎞)=1/2logMo(dyne・㎝)-11.82LogS(㎢)=1/2logMo(dyne・㎝)-10.71b
入倉・三宅式の合理性


入倉・三宅(2001)の内容について
証拠(乙67,68)によれば,入倉・三宅(2001)におけ
る強震動予測の概要は,次のとおりであると認められる。
すなわち,入倉・三宅(2001)は,従来の強震動予測が,起

震断層の長さや代表的変位量から地震マグニチュードを推定し,地震動に関するマグニチュードと距離との関係式(距離減衰式)から対象地域の最大加速度,最大速度,震度などを推定するものであったが,兵庫県南部地震,鳥取県西部地震等の震災の経験から,上記のような強震動予測のみでは種々の異なる構造物の被害やその分布
を説明することが困難であることが明らかとなってきたとする。そして,強震動は,震源となる断層の性質と震源から観測点に至る地下構造により地域的に異なり,結果として構造物に対する破壊力の強い地震動が生じた地域で大きな被害が引き起こされることになり,様々な構造物に対する地震動の破壊力を一つの指標で表すのは困難であり,それぞれの構造物,施設の動的な耐震性を知るには,地震動の時刻歴波形又は応答スペクトルの評価が必要となり,そのためには,震源断層の破壊過程及び震源から対象地点までの地下構造による波動伝播特性に基づいた強震動の予測がされなければならないとする。その上で,強震動予測を行うには,地質・地形学的アプローチだけではなく,地下にある断層の動きを知る必要があり,その
ためには,地震記録や測地記録から断層運動を推定する地震学的アプローチとの連携が重要であり,活断層や地震活動の調査に基づく活断層ごとの地震危険度評価,これまでの地震動記録のインバージョン解析(逆解析)に基づく震源のモデル化,地下構造調査や地震動観測によるグリーン関数(ある地点に入力された情報が伝播し,
評価地点で確認される応答を求めるもの)の評価を総合して,各地の地震動推定が可能となるとする。
以上を前提として,入倉・三宅(2001)においては,強震動
予測のための震源特性化の手続について,強震動予測のための震源モデルは,巨視的断層パラメータ,微視的断層パラメータ及びその
他のパラメータにより,
次のとおり,
決定論的に与えられるとする。
まず,巨視的断層パラメータとしては,活断層調査により同時に活動する可能性の高い断層セグメントの総和から断層長さが,地震発生の深さ限界から断層幅がそれぞれ推定され,長さと幅との積から断層面積が,断層面積と地震モーメントとの経験的関係から地震モ
ーメントがそれぞれ推定され,断層の走向と傾斜角は,地質・地形・地理学的調査,更には反射法探査などから推定される。次に,微視的断層パラメータは,断層面上のすべり不均質性をモデル化するものであって,地震モーメントとアスペリティ面積の総和,最大アスペリティ面積,アスペリティ個数などに関する経験的関係から,アスペリティの面積及びそこでの応力降下量が与えられる。
そして,入倉・三宅(2001)は,上記の方法により予測され

た地震動は,これまでに得られている地震動の関係式や過去の大地震の被害分布などとの比較により,その有効性の検証がされる必要があるとするところ,その有効性については,兵庫県南部地震の震源モデル化及びそれに基づいた経験的グリーン関数法並びにハイブリッドグリーン関数法を用いて合成された強震動が観測記録と良く
一致することで検証されている。
このように,入倉・三宅(2001)における震源特性化の手続
は,特定の活断層を想定した強震動の予測手法として,震源断層の破壊過程及び震源から対象地点までの地下構造による波動伝播特性に基づいた強震動の予測をするものであり,従来の地質・地形学的
アプローチだけではなく,地下にある断層の動きを知るため,地震学的アプローチとの連携を図るものであって,現在の科学技術水準に照らして合理的なものということができ,
その有効性についても,
地震動の関係式や過去の大地震の被害分布などと比較して検証されているものである。



地震本部レシピ(乙66,107)について
国の地震調査研究推進本部は,地震防災対策特別措置法7条に基
づき文部科学省に設置され,その下に,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,
整理し,
及び分析し,
並びにこれに基づき総合的な評価を行うため,
関係行政機関の職員及び学識経験のある者を委員とする地震調査委員会が置かれている(同法10条)。
そして,地震本部レシピは,地震調査委員会において実施してき
た強震動評価に関する検討結果から,強震動予測手法の構成要素となる震源特性,地下構造モデル,強震動計算,予測結果の検証の現状における手法や震源特性パラメータの設定に当たっての考え方に
ついて取りまとめたものであり,地震本部レシピにおいては,地震モーメントと断層面積との関係式について入倉・三宅式を用いることとされているところ,地震調査委員会は,地震本部レシピ策定以降に実際に発生した鳥取県西部地震及び福岡県西方沖地震等の各観測波形と,これらの地震の震源像を基に地震本部レシピを用いて行
ったシミュレーション解析により得られる理論波形とを比較,検討した結果,整合的であることを確認している(乙11,審尋の全趣旨)のであるから,その内容の合理性が裏付けられているということができる。


地震動審査ガイドの内容について
原子力規制委員会は,平成25年6月,発電用軽水型原子炉施設
の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的と
して,地震動審査ガイドを定めたところ(甲A323・乙20),その策定には,断層モデルを用いた手法による地震動評価に関する専門家を含めた地震等基準検討チームの検討が踏まえられている。そして,地震動審査ガイドにおいては,前記a記載のとおり,断
層モデルを用いた手法による地震動評価の際の震源モデルの設定に
ついて,震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震本部レシピ等の最新の研究成果を考慮し設定することを確認するものと定められており,地震本部レシピが,震源断層のパラメータの設定の確認方法の代表的な手法であるとして例示されている。


まとめ
以上のとおり,入倉・三宅(2001)における震源特性化の手
続は,現在の科学技術水準に照らして合理的であり,その有効性に
ついても検証されているのであるから,その内容を成す断層パラメータに関する経験式である入倉・三宅式にも相応の合理性があるということができる。そして,入倉・三宅式を採用した地震本部レシピは,専門家により構成される地震調査委員会において,平成12年以降に我が国において発生した地震に係る地震観測記録を精度良
く再現できることが確認されているものであり,地震等基準検討チームも,その内容が最新の知見を反映するものとして,震源断層のパラメータの設定方法の代表的な手法であると評価しているのであるから,その内容は,現在の科学技術水準に照らして合理的なものであるというべきである。

したがって,入倉・三宅式は,震源断層のパラメータを設定する
際の地震本部レシピの一部を成すものとして,合理性を有するものということができる。
c
島崎邦彦の指摘の検討


債権者らは,島崎邦彦が,活断層長さL(m)と地震モーメント
Mo(Nm)との関係式について,入倉・三宅式や武村式を含む四つの関係式を比較すると,入倉・三宅式については,他の関係式との比較を可能とするため,地震発生層14㎞の垂直な断層を仮定して式を変形すると,
「Mo=1.09×1010×L2」
(仮に,断層

の傾斜角を60度とした場合,係数が1.45となる。)と表すことができ,他の関係式に比して地震モーメントを過小評価することとなる旨述べていることを指摘する
(甲A376から378まで)

そこで検討すると,証拠(乙67)によれば,入倉・三宅式は,
地震動を生成する主要な断層運動は,
地下にある断層面
(震源断層)
の動きであり,地表に現れる断層変位(地表地震断層)は,地下にある断層の運動の結果にすぎないため,地表地震断層の動きのみから断層運動全体を特性化することが困難であることを前提に,震源断層での動きに着目して,過去に発生した地震に係る震源断層面積の数値と地震モーメントの数値から関係式を策定したものであり,策定に当たって参照された地震データの震源断層面積は,地表に現
れた断層長さをそのまま用いるものではなく,震源周辺の複数の観測地点で得られた地震観測記録から具体的な震源断層を推定して高精度に断層面積を求めるという震源インバージョンの手法を前提とするものであることが認められる。したがって,入倉・三宅式を用いて地震モーメントを求めるに当たっては,地表地震断層長さをそ
のまま用いるのではなく,地下の震源断層パラメータ(断層長さ,断層幅,断層傾斜角等)を個別の震源ごとに求めた上で,震源断層面積の値を代入することが予定されているということができる。
しかしながら,島崎邦彦は,上記のとおり入倉・三宅式を変形さ
せる際,断層幅を14㎞,断層傾斜角を垂直にそれぞれ固定した上
で,断層長さと地震モーメントの関係式に変形させており,入倉・三宅式により地震モーメントを求める際に代入することが予定された地下の震源断層パラメータを用いていない点で,科学的な合理性を失っているというべきである。この点について,島崎邦彦も,入倉・三宅式を含む四つの関係式は,いずれもしかるべきデータに基
づき作られたものであり,入倉・三宅式は,震源インバージョンをした結果に対する正当な関係式であって,甲A第380号証の論文中,「地震後に得られたデータと入倉・三宅式を用いて震源の大きさや断層のずれを計算すると,実際の値よりはるかに小さい。事前推定の問題があろうとなかろうと,入倉・三宅式の過小評価は変わらなく存在する。」と記載していた部分(657頁)について,平成29年4月24日に名古屋高等裁判所金沢支部で行われた証人尋問に
おいて,不正確な記述であったことを認めているのであり(甲A381〔速記録5,29,30,39,48頁〕),入倉・三宅式を含む四つの関係式を比較して,同じ断層長さを代入した場合,入倉・三宅式による地震モーメントの値が最も小さくなること自体を問題視するものではないことを明らかにしている。

したがって,島崎邦彦の上記指摘は,事実上撤回されているもの
と評価することができ,
当を得ないものであることが明らかである。


債権者らは,島崎邦彦が,地震発生前に使用できるのは活断層の
情報であって,震源断層のものではないことを前提として,日本の
陸域及びその周辺の7個の地殻内地震
(マグニチュード7程度以上)
について,その活断層の長さを各経験式に当てはめてそれぞれの地震モーメントを求め,観測値と比較すると,入倉・三宅式のみ,傾斜角が30度の場合を除いて地震モーメントを過小評価している旨述べていることを指摘する。

しかしながら,上記指摘に係る島崎邦彦の論文(甲A377)に
おいては,上記経験式の当てはめに用いた断層長さ(活断層)について,具体的な数値や根拠が明確にされておらず,島崎邦彦も,地震学,強震動地震学,変動地形学,活断層学などの専門家による検証も行っていないことを認めていること
(甲A381
〔速記録68頁〕


からしても,観測値との比較が適切にされたことの客観的な裏付けを欠くというべきである。


債権者らは,島崎邦彦が,既存の断層面積の推定値から,入倉・
三宅式を用いて平均的なずれの量(すべり量)を求め,ここから推定される変形が実測値と調和的かどうかを検討し,入倉・三宅式では,実測値の4分の1以下の変形しか説明できないことが分かった旨述べていることを指摘する。

しかしながら,上記指摘に係る島崎邦彦の講演の要旨を紹介した
記事(甲A379)を見ても,測量によって地震時の静的変形が観測されている三つの地震について,既存の断層面積の推定値から入倉・三宅式を用いて平均的なずれの量を求め,これから推定される変形が実測値と調和的かどうかを検討したことはわかるものの,そ
の具体的な検討過程について記載されているわけではなく,上記指摘を裏付ける科学的な根拠を認めるに足りる証拠がない。


債権者らは,島崎邦彦が,熊本地震のデータを用いて検討し,入
倉・三宅式による地震モーメントの推定値に対し,実測値が3.4
倍であることを示した旨指摘する。
しかしながら,上記指摘に係る島崎邦彦の論文(甲A380)に
おいては,入倉・三宅式による地震モーメントの推定値について,熊原康博の発表結果に基づき,地表に現れた地表地震断層長さ31㎞を用いるとともに,島崎邦彦において断層幅を16㎞と設定する
ことにより,断層面積を496㎢として算定しているところ,前記⒜で説示したとおり,入倉・三宅式においては,地表に現れた断層長さをそのまま用いるものではなく,震源周辺の複数の観測地点で得られた地震観測記録から具体的な震源断層を推定して高精度に断層面積を求めるという震源インバージョンの手法を前提とするもの
であることからすれば,上記論文における熊本地震のデータの検証においては,・
入倉三宅式による地震モーメントの推定値について,
その経験式の成り立ちを考慮せずに算定されたものというべきである。


債権者らは,島崎邦彦によれば,入倉・三宅式を用いるべきか,
他の経験式を用いるべきかは,地震後に判明したデータによって解
析した震源パラメータを前提として,どちらの手法がより正確な地震モーメントを求めることができるかという問題ではなく,地震が発生する前に与えられている乏しい情報を前提として,どちらの手法がより将来発生する地震規模に近い結果を得ることができるかというポストディクションの問題である旨指摘する。

しかしながら,入倉・三宅(2001)における震源特性化の手
続は,特定の活断層を想定した強震動の予測手法として,震源断層の破壊過程及び震源から対象地点までの地下構造による波動伝播特性に基づいた強震動の予測をするものであり(前記b⒜参照),地震調査委員会により,地震本部レシピ策定以降に実際に発生した鳥
取県西部地震及び福岡県西方沖地震等の各観測波形と,これらの地震の震源像を基に,入倉・三宅式を含む地震本部レシピを用いた行ったシミュレーション解析により得られる理論波形が整合的であることが確認されているものである(前記b⒝参照)。
そして,震源インバージョンとは,地震観測記録を用いて,実際

に起きた地震における地下の断層面の動きを把握する手法の一つであり,複数の観測地点で得られた地震観測記録に基づき断層面を仮定し,当該断層面の各地点において生ずるすべり量及びすべりの方向等の地下の震源の動きを逆解析(インバージョン解析)によって求め,それらの結果から震源断層を推定する方法である。そして,
震源インバージョンについては,平成11年トルコ・Kocaeli地震(Mw7.4),同年台湾・Chi-Chi地震(Mw7.6)とも整合することが確認されているほか,平成7年以降に国内で発生した最新の18個の内陸地殻内地震のうち,入倉・三宅式がその対象とするMw6.5以上の8個の地震に関する震源インバージョン結果も,・
入倉三宅式と良く一致することが確認されている。
(乙67,70,119,審尋の全趣旨)

加えて,原子力規制委員会は,熊本地震本震の震源インバージョ
ンによる震源断層面積と地震モーメントとの関係が,入倉・三宅式と整合していることを確認している(乙69)。
このように,入倉・三宅式により地震モーメントを求める際の前
提となる強震動記録を用いた震源インバージョンによる断層パラメ
ータは,精度が高いということができ,本件敷地において考慮すべき活断層の過去の地震観測記録が存在しない場合であっても,科学的に合理的な震源モデル(震源断層)を設定することは十分に可能であるというべきである。
d
以上検討したところによれば,債権者らがその主張の根拠とする入倉・三宅式に関する島崎邦彦の各指摘を踏まえても,断層パラメータに関する経験式である入倉・三宅式の合理性は失われないというべきであり,債権者らの上記主張を採用することはできない。


まとめ
以上によれば,債務者が,原子力規制委員会における調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当の根拠,資料に基づき疎明したということができ,かつ,債権者らの疎明を検討しても,債務者が策定した本件各原子炉施設の基準地震動が合理性を欠くため本件各原子炉
施設の耐震安全性に欠けるところがあり,その運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在するとは認められない。
したがって,
争点⑵についての債権者らの主張を採用することはできない。4
争点⑶(本件各原子炉施設における火山事象による重大事故発生の具体的危険性の有無)について



認定事実等
前記前提事実並びに掲記の証拠及び審尋の全趣旨により認定した事実を総合すると,本件各原子炉施設における火山活動の評価に関する事実関係は,以下のとおりである。

検討対象火山の抽出について
(ア)

火山ガイドの内容
火山ガイドは,
原子力発電所に影響を及ぼし得る火山の抽出について,

①地理的領域(原子力発電所から半径160㎞の範囲の領域)にある第四紀(約258万年前から現在まで)に活動した火山の,②完新世(第四紀の区分のうち最も新しいものであり,1万1700年前から現在までの期間)における活動の有無を確認するとともに,③完新世に活動を行っていない火山については過去の活動を示す階段ダイヤグラムを作成し,将来の火山活動可能性が否定できない場合は,個別評価対象とすることとしている。(甲B24,乙2の5〔64頁〕,134)
(イ)

債務者の評価
これを受けて,債務者は,文献調査及び地形・地質調査により,本件
各原子炉施設から半径160㎞の範囲に存在する第四紀に活動した火山の噴出物の分布等を把握し,阿蘇カルデラを含む49個の検討対象火山を抽出するとともに,九州地方において過去に破局的噴火が発生した4個のカルデラ火山を抽出した上で,これらの53個の火山の将来の活動可能性について,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間又は100万年を超えるものについては将来の活動可能性がないとして評価した結果,本件5カルデラ火山及びその他16個の火山(壱岐火山群,多良岳,小値賀島火山群,雲仙岳,南島原,金峰山,万年山火山群,船野山,涌蓋火山群,福江火山群,九重山,立石火山群,野稲火山群,由布岳,高平火山群,鶴見岳)の合計21個の火山を抽出した。(乙2の5,26〔3~8頁〕)


抽出された火山の火山活動に関する個別評価について
(ア)

火山ガイドの内容
火山ガイドは,上記ア記載の評価により将来の活動可能性があると評
価した火山については,原子力発電所の運用期間中において設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性の評価を行うこととし,この際,検討対象火山の活動を科学的に把握する観点から,過去の火山活動履歴とともに,必要に応じて地球物理学的及び地球化学的調査を行い,現在の火山の活動の状況も併せて評価することとするとし,
具体的には,
地球物理学的観点からは,検討対象火山に関連するマグマ溜まりの規模
や位置,マグマの供給系に関連する地下構造等について,地球化学的観点からは,検討対象火山の火山噴出物等について分析することにより,火山の活動状況を把握するとしている。
そして,火山ガイドは,①設計対応不可能な火山事象について,火砕物密度流(表1番号2),溶岩流(同3),岩屑なだれ,地滑り及び斜
面崩壊(同4),新しい火口の開口(同8),地殻変動(同11)の5事象とし,②火山活動の可能性評価について,原子力発電所に影響を及ぼし得る火山の抽出の際に行われる文献調査,地形・地質調査及び火山学的調査と,必要に応じて実施すべき地球物理学的及び地球科学的調査の結果を基に,原子力発電所の運用期間中における検討対象火山の活動
の可能性を総合的に評価することとし,③火山活動の規模と設計対応不可能な火山事象の評価について,検討対象火山の調査結果から噴火規模を推定し,調査結果から噴火の規模を推定できない場合は,検討対象火山の過去最大の噴火規模とすることとし,設定した噴火規模における設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価することとしている。そして,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合,原子力発電所の立地は不適と考えられるとしている。
(甲B24,乙134)
(イ)

債務者の評価の方法
これを受けて,債務者は,上記21個の火山のうち,過去に破局的噴
火を発生させた本件5カルデラ火山については,
噴火履歴の特徴として,
①活動間隔,②噴火ステージを検討するとともに,地下構造として,③マグマ溜まりの状況を検討し,現在のマグマ溜まりが破局的噴火直前の状態にあるかを検討し,現在の噴火ステージにおける既往最大規模の噴火を考慮した。また,その他の火山については,運用期間中の噴火規模
として既往最大規模の噴火を考慮することとした。
ここで,①活動間隔は,破局的噴火の活動間隔と最新の破局的噴火からの経過時間との比較により,破局的噴火のマグマ溜まりを形成するのに必要な時間が経過しているかを検討するものである。
また,
②噴火ステージは,
Shinji

ATE
M
QUATERNARY

THE

ROUND

CALDERA

NAGAOKA
「THE

TEPHRA

LAYERS

VOLCANOES

KAGOSHIMA

IN

FRO

AND

BAY,SOUTHERN

LA
KYU

SYU,JAPAN」(和訳:「南九州地方の鹿児島湾周辺におけるカルデラ火山の第四紀後期テフラ層」。乙28。以下「NAGAOKA(1988)」という。)による噴火ステージの区分を参考に,⒜プリニー式噴火ステージ(破局的噴火に先行してプリニー式噴火が間欠的に発生する。),⒝破局的噴火ステージ(破局的噴火により大規模火砕流が発生する。),⒞中規模火砕流噴火ステージ(破局的噴火時の残存マグマによる火砕流噴火が発生する。),⒟後カルデラ火山噴火ステージ(多様な噴火様式の小規模噴火が発生する。)の四つの噴火ステージが単一サイクルにより順次発生することを前提に,各カルデラにおける現在の噴火ステージを検討するものである。
さらに,③マグマ溜まりの状況は,破局的噴火を発生させる珪長質マグマは,苦鉄質マグマに比べて密度が小さく,地殻の密度と釣り合う深さは約10㎞以浅であると考えられていることなどから,約10㎞以浅
のマグマ溜まりの有無等を検討するものである。
(乙2の5,26〔11,12頁〕,28)
(ウ)

債務者の本件5カルデラ火山の運用期間中の噴火規模の評価(設計対
応不可能な火山事象の影響を及ぼす可能性の評価)
債務者は,阿蘇カルデラについて,次のとおり検討した。すなわち,阿蘇カルデラにおける破局的噴火については,最短の活動間隔が約2万年であるのに対し,最新の破局的噴火からの経過時間が約9万年に達しているため,破局的噴火のマグマ溜まりを形成している可能性がある一方,破局的噴火を発生させる供給系ではなくなっている可能性等も考えられる。この点について,阿蘇カルデラにおける現在の噴火活動は,最
新の破局的噴火以降,阿蘇山において草千里ヶ浜軽石等の多様な噴火様式の小規模噴火が発生しているにとどまり,プリニー式噴火が間欠的に発生しているものではないことから,阿蘇山における後カルデラ火山噴火ステージと考えられる。また,苦鉄質火山噴出物及び珪長質火山噴出物の給源火口の分布や地球物理学的情報から,地下約10㎞以浅に,大
規模なマグマ溜まりはないと考えられる。したがって,阿蘇カルデラについては,破局的噴火直前の状態ではなく,本件各原子炉施設の運用期間中に破局的噴火が起こる可能性は極めて低いと判断した。(乙26〔15~19頁〕,38から40まで)
また,債務者は,その余の加久藤・小林,姶良,阿多及び鬼界各カルデラについても,同様の方法により,①活動間隔,②噴火ステージ,③マグマ溜まりの状況を検討し,いずれも本件各原子炉施設の運用期間中
に破局的噴火が起こる可能性は極めて低いと判断した。
(乙26
〔21~36
頁〕)

火山活動のモニタリング及びその兆候把握時の対応について
(ア)

火山ガイドの内容
火山ガイドは,上記イ記載の個別評価により運用期間中の火山活動の
可能性が十分小さいと評価した火山であっても,設計対応不可能な火山事象が発電所に到達したと考えられる火山に対しては,噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することを目的として,運用期間中のモニタリングを行い,噴火可能性につながるモニタリング結果が観測された場合には,必要な判断,対応をとる必要があることとしている。(甲B24,乙134)
(イ)

債務者が実施するモニタリング等の内容
債務者は,本件5カルデラ火山については,自然現象における不確か
さ及び本件敷地への影響を考慮した上で,地殻変動や地震活動等の火山活動のモニタリングを実施し,具体的には,公的機関による発表情報等を収集,分析するとともに,第三者の外部専門家による助言を得る仕組みを構築し,一般的な噴火モデルを踏まえると,マグマ溜まりへのマグマの供給,マグマの上昇等の段階を経て,噴火に至るとされ,破局的噴火時においても同様の段階を長時間かけて進展すると考えられるところ,
これらの段階のうち,最も早期の段階であるマグマの供給時に変化が表れる地殻変動及び地震活動をモニタリングの対象項目とし,破局的噴火への発展の可能性が認められた場合には,原子炉の停止,燃料体等の搬出等の適切な対応を実施することとしている。(乙2の5,26〔58~76頁〕)

本件敷地において考慮する火山事象の影響評価について
(ア)

火山ガイドの内容
火山ガイドは,原子力発電所の運用期間中において設計対応不可能な
火山事象によって原子力発電所の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された火山について,それが噴火した場合,原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象について,前記イ(ア)記載の5事象に加え,降下火砕物(表1番号1),火山性土石流,火山泥流及び洪水(同5),火山から発生する飛来物(噴石)(同6),火山ガス(同7),津波及び静振(同9),大気現象(同10),火山性地震とこれに関連する事象(同12),熱水系及び地下水の異常(同13)から抽出し,
その影響評価を行うこととしている。
(甲B24,
乙134)

(イ)

債務者の評価
債務者は,本件5カルデラ火山については現在の各噴火ステージにお
ける既往最大規模の噴火を考慮するとともに,その他の16個の火山については,各火山の既往最大規模の噴火を考慮して,それぞれ本件各原子炉施設への火山事象の影響を評価した。
その結果,降下火砕物(火山灰等)を除く火山事象(火砕物密度流,溶岩流,岩屑なだれ,地滑り及び斜面崩壊,新しい火口の開口,地殻変動等)については,いずれも各火山の噴火規模と本件各原子炉施設までの距離との関係等を踏まえると,本件敷地には影響がないことを確認した。(乙2の5〔67頁〕,26〔42~44,54~56頁〕)。
また,降下火砕物(火山灰等)については,過去最も影響が大きかった約5万年前の九重第1噴火を想定し,地質調査結果,文献調査結果及び数値シミュレーション結果を踏まえ,層厚10㎝の降下火砕物(火山灰等)が生じた場合についての評価として,降下火砕物によって安全機能を失うおそれのある安全上重要な建物・機器等を評価対象施設として抽出し,各評価対象施設の特徴(形状,機能,外気吸入や海水の通水の有無等)を考慮した上で,降下火砕物による直接的影響(荷重,閉塞,
摩耗等)及び間接的影響を評価し,直接的影響により安全性が損なわれることがないこと,間接的影響として,降下火砕物による外部電源喪失及び交通の途絶を想定しても,非常用ディーゼル発電機の7日間連続運転により,原子炉及び使用済燃料ピットの安全性を確保できることを確認した。(乙2の5〔67~72頁〕,26〔45~53頁〕)


原子力規制委員会による火山の影響に対する設計方針の審査結果について
設置許可基準規則は,「安全施設は,想定される自然現象(地震及び津波を除く。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなけ
ればならない。」と定め(6条1項),設置許可基準規則解釈においては,上記想定される自然現象は,敷地の自然環境を基に,火山の影響等から適用されるものをいうとされる(乙45〔13頁〕)。
そして,原子力規制委員会は,火山ガイドに基づき,債務者が行った火山の影響に対する設計方針の内容について審査した結果,その内容が設置
許可基準規則に適合するものと判断した。その判断の具体的な内容は,以下のとおりである。(乙2の5)
(ア)

原子力発電所に影響を及ぼし得る火山の抽出
原子力規制委員会は,債務者が実施した本件各原子炉施設に影響を及
ぼし得る火山の抽出は,階段ダイヤグラムの作成等により過去の火山活動履歴を評価して行われていることから,火山ガイドを踏まえていることを確認した。
(イ)

原子力発電所の運用期間における火山活動に関する個別評価
原子力規制委員会は,債務者が実施した本件各原子炉施設の運用期間
中の検討対象火山の活動の評価は,過去の活動履歴の把握や地球物理学的調査に基づいており,これらの手法が火山ガイドを踏まえていることを確認するとともに,債務者が本件各原子炉施設の運用期間に設計対応不可能な火山事象が本件各原子炉施設に影響を及ぼす可能性が十分に小さいと評価していることは妥当であると判断した。
(ウ)

火山活動のモニタリング
原子力規制委員会は,債務者が,設計対応不可能な火山事象が敷地に
到達することはないと評価し,自然現象における不確かさ及び敷地への影響を考慮した上で,
九州において過去にVEI7以上の破局的噴火
(乙
26〔78頁〕参照)が発生した火山を対象に噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することを目的として運用期間中のモニタリングを計画していることについては,監視対象,監視項目及び監視の方法,定期
的評価の方針並びに火山活動の兆候を把握した場合の対処方針を示していること等から,火山ガイドを踏まえていることを確認した。
(エ)

原子力発電所への火山事象の影響評価
原子力規制委員会は,審査の過程において,九重山を対象とした降下
火山灰シミュレーションにおいて,既往文献を踏まえ,噴出量を6.2㎦とし,風向きの不確かさも考慮して評価することを求め,債務者が,これらを反映したケースでも降下火山灰シミュレーションを行い,降下火砕物の影響評価を示したことも踏まえ,債務者が実施した設計対応不可能な火山事象以外の火山事象の影響評価については,文献調査,地質調査等により,本件各原子炉施設への影響を評価するとともに,数値シ
ミュレーションによる降下火砕物の検討も行っていることから,火山ガイドを踏まえていることを確認した。
(オ)

火山活動に対する防護に関して,設計対象施設を抽出するための方針原子力規制委員会は,債務者による設計対象施設を抽出するための方
針が,安全重要度分類指針に従って,降下火砕物によって安全機能が損なわれるおそれがある構築物,系統及び機器並びに上位クラスへ影響を及ぼし得る施設について,火山ガイドを踏まえて降下火砕物の特徴を考慮した上で,適切に抽出するものとしていることを確認した。
(カ)

降下火砕物による影響の選定
原子力規制委員会は,債務者による降下火砕物が直接及ぼす直接的影
響とそれ以外の間接的影響の選定が,
火山ガイドを踏まえたものであり,
降下火砕物の特徴及び設計対象施設の特徴を考慮していることを確認した。
(キ)

設計荷重の設定
原子力規制委員会は,債務者による設計荷重の設定が,設計対象施設
ごとに常時作用する荷重及び運転時荷重を考慮するものとしていることを確認した。
(ク)

降下火砕物の直接的影響に対する設計方針
原子力規制委員会は,債務者の設計について,建屋等の許容荷重が設
計荷重に対して余裕を有することにより構造健全性を失わず,安全機能が損なわれない方針としていることを確認した。
また,原子力規制委員会は,債務者の設計が降下火砕物や設計対象施設の特徴を踏まえ,降下火砕物の侵入による機械的影響(閉塞,摩耗)に対する対策として,
平型フィルタ等の設置や換気空調系の停止により,
安全施設の安全機能が損なわれないようにするとともに,原子炉制御室にあっては閉回路循環運転等により居住性を確保していることを確認し
た。
さらに,原子力規制委員会は,債務者の設計が降下火砕物の特徴を踏まえ,設計対象施設に与える化学的影響,機械的影響その他の影響に対して,安全機能が損なわれない方針としていることを確認した。
そして,
原子力規制委員会は,
債務者が降下火砕物の除去等について,
除灰作業等に必要な資機材を確保するとともに,手順等を整備する方針としていることを確認した。

以上のとおり,原子力規制委員会は,債務者が降下火砕物の直接的影響により安全機能が損なわれないとしており,この設計方針が火山ガイドを踏まえていることを確認した。
(ケ)

降下火砕物の間接的影響に対する設計方針
原子力規制委員会は,債務者の設計が降下火砕物の間接的影響として
外部電源喪失及び交通の途絶を想定し,ディーゼル発電機及びタンクローリを備え,7日間の連続運転を可能とする方針が火山ガイドを踏まえたものであることを確認した。

本件各原子炉施設の立地評価について

原子力規制委員会の審査基準の合理性について
(ア)

原子力規制委員会が本件各原子炉施設について火山の影響に対する安
全性の審査に当たり参照した火山ガイドは,前記⑴アからエまでの各(ア)で認定したとおり,火山影響評価について,立地評価と影響評価の2段階で行うこととし,立地評価においては,原子力発電所に影響を及ぼし得る火山を抽出し(前記⑴ア(ア)参照),設計対応不可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価を行うこととし,その可能性が十分小さいと評価されない場合には,原子力発電所の立地を不適と考えることとする一方(前記⑴イ(ア)参照),その可能性が十分小さいと評価された場合には,火山活動のモニタリング及びその兆候把
握時の対応を適切に行うことを条件として(前記⑴ウ(ア)参照),個々の火山事象に対する影響評価を行うこと
(前記⑴エ(ア)参照)
を定めており,
その判断枠組み及び内容に不合理な点があるとは認められない。
(イ)

火山ガイドは,火山活動の可能性評価について,原子力発電所に影響
を及ぼし得る火山の抽出の際に行われる文献調査,地形・地質調査及び火山学的調査と,必要に応じて実施すべき地球物理学的及び地球科学的調査の結果を基に,原子力発電所の運用期間中における検討対象火山の活動の可能性を総合的に評価することとしているところ,現時点での科学的知見によったとしても,検討対象火山の噴火の時期及び規模を的確に予測すること(噴火の予知)は困難と考えられることから,上記の内容の合理性を検討する必要がある。

この点について,少なくともVEI7以上の規模の破局的噴火については,その影響が全国的規模で生活基盤や社会の諸機能に深刻な被害を与えるにとどまらず,地球的規模でその生態系等に影響を与えるものであり(甲B7,乙27参照),その被害の規模及び態様は,発電用原子炉施設について想定される原子力災害をはるかに上回るものということ
ができる。そして,我が国の現在の法制度の下では,こうした規模の自然災害の危険性については,その発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り,各種の規制による安全性確保の上で考慮されておらず,このことは,この種の危険性については想定せず,これを容認するという社会通念の反映とみることができる。そうすると,原子力利用に関す
る現行法制度の下においても,これを自然災害として想定すべきであるとの立法政策がとられていると解することはできない。
したがって,
少なくともVEI7以上の規模の破局的噴火については,
その発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り,発電用原子炉施設の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても,当該発電用原
子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあるということはできないし,そのように解しても,本件改正後の原子炉等規制法の趣旨に反するということもできない。これを火山の影響に係る立地評価の基準についていえば,当該発電用原子炉施設の運用期間中にそのような噴火が発生する可能性が相当の根拠をもって示されない限り,立地不適としなくても,原子炉等規制法や設置許可基準規則6条1項の趣旨に反するということはできない。

火山ガイドの前記定めは,
以上の観点に基づき解するのが相当であり,
火山事象に対する安全性の評価に関する原子力規制委員会の審査の合理性については,以上を踏まえて検討するのが相当である。

債権者らの主張の検討
債権者らは,阿蘇カルデラについて,①噴火間隔に関し,直近の噴火から約9万年が経過していることからすれば,いつ破局的噴火が発生してもおかしくないこと,②過去の破局的噴火を見ても,噴火ステージ理論との関連性が明らかではなく,突然のプリニー式噴火の直後に破局的噴火が発生する可能性も高いこと,③マグマ溜まりの規模や位置を正確に特定した
り,その不存在を確認したりすることはできないことを主張する。(ア)

そこで検討すると,まず,上記①の点については,確かに,「火山学
者緊急アンケート」(甲B25)においては,「カルデラ噴火が複数回発生した阿蘇山では最短間隔が2万年であることを考慮すべきである。すなわち,最終噴火から2万年を経過したカルデラ火山は既に再噴火の可能性がある時期に到達したと考えるべきであろう。」との藤井敏嗣の指摘が紹介されている。
しかしながら,債務者の評価及びこれに基づく原子力規制委員会の審査結果は,噴火間隔に加え,噴火ステージとマグマ溜まりの状況から総合的な評価を行っている(前記⑴イ(イ)・(ウ),オ(イ)参照)ところ,阿蘇カ
ルデラについては,前記⑴イ(ウ)記載のとおり,直近の噴火から約9万年が経過しているとしても,最新の破局的噴火以降,プリニー式噴火が間欠的に発生しているものではないことから,阿蘇山における後カルデラ火山噴火ステージと考えられること,地下約10㎞以浅に,大規模なマグマ溜まりはないと考えられることを踏まえ,破局的噴火直前の状態ではないと判断したものであり,上記①の指摘及びこれに沿う上記アンケートの記載を踏まえても,噴火間隔の点のみをもってその判断が不合理なものであると直ちにいうことはできない。
この点に関し,債務者は,火山活動に関する個別評価において,マグマ溜まりの状況を検討し,現在のマグマ溜まりが破局的噴火直前の状態にあるかを検討することとしているところ(前記⑴イ(イ)参照),破局的
噴火を起こすためには,地下深さ10㎞よりも十分浅い位置に大規模な珪長質のマグマ溜まりが存在することを要することについては,㋐荒巻重雄「カルデラ噴火の地学的意味」(乙31)において,「カルデラを形成する大規模火災噴火の特徴は,地下数㎞にあるマグマ溜まりに存在していた大量の珪長質マグマが発泡し,急激な体積の膨張に伴ってマグ
マの一部が地表に噴出するというメカニズムにある。」と述べられていること,㋑下司信夫「大規模火災噴火と陥没カルデラ:その噴火準備と噴火過程」(乙127)において,大規模噴火の駆動過程として,大規模噴火を発生させるためには,地殻内部の深さ数㎞程度の浅所に巨大なマグマ溜まりが形成されている必要がある旨記載されていること,㋒安
田敦ほか「姶良火砕噴火のマグマ溜まり深度」(乙129)において,姶良カルデラにおける約3万年前の破局的噴火に関し,マグマ溜まりの上部が4~5㎞程度の地殻浅部にまで広がっていた旨記載されていること,㋓篠原宏志ほか「火山研究解説集:薩󠄀摩硫黄島」(乙34)において,鬼界カルデラにおける約7300年前の破局的噴火について,噴火
直前に,深さ3~7㎞にかけて,巨大な流紋岩マグマ溜まりが存在していた旨記載されていること,㋔高橋正樹「超巨大噴火のマグマ溜りに関する最近の研究動向」(乙35)において,約2万6000年前の破局的噴火であるOruanui噴火について,深さ6~12㎞にあった超巨大マグマ溜まりから流紋岩質マグマが絞り出され,深さ3.5~6㎞にある浅所巨大マグマ溜まりに1000年~数百年かけて移動し,その後噴火した旨記載されていることなど,多くの知見及び実例により裏付けられているのであり,上記評価の方法にも合理性があるということができる。
(イ)

また,
上記②の点については,
前記⑴イ(イ)記載の認定事実及び証拠
(乙

26,28)によれば,NAGAOKA(1988)は,鹿児島地溝のカルデラ火山の噴火サイクルに関し,第四期後期の間に生じた火山性堆積物の分析等に基づき,姶良カルデラ及び阿多カルデラにおいては,破局的噴火に先行してプリニー式噴火が断続的に発生する「プリニー式噴火ステージ」,破局的噴火が発生する「大規模火砕流噴火ステージ」,破局的噴火後の残存マグマによる火砕流を噴出する「中規模火砕流噴火
ステージ」及び多様な噴火様式の小規模噴火が発生する「小規模噴火ステージ」の四つの噴火ステージが周期的に発生し,5から8万年続く噴火サイクルを構成していることを明らかにしていることが認められ,NAGAOKA(1988)による噴火ステージ論は,それ自体,有効な参照資料であるということができる。また,前記(ア)で説示したとおり,
債務者は,噴火ステージのみならず,マグマ溜まりの状況から総合的な評価を行っているのであり,上記②の指摘をもって,債務者の判断が合理性を欠くということはできない。
(ウ)

さらに,上記③の点については,証拠(乙38から40まで)及び審
尋の全趣旨によれば,Y.Sudo・L.S.L.Kong「Three-dimensional
tructure

seismic

beneath
Aso

velocity

s
Volcano,Kyu

syu,Japan」(和訳:「九州阿蘇火山下の三次元地震波速度構造」。乙38)によれば,阿蘇カルデラの地下6㎞にマグマ溜まりと考えられる低速度領域の存在が認められるとされているものの,このマグマ溜まりについては,三好雅也ほか「阿蘇カルデラ形成後に活動した多様なマグマとそれらの成因関係について」(乙39)によれば,苦鉄質火山噴出物の供給火口がカルデラ中央部に分布し,その周囲により珪長質な火山噴出物の給源火口が分布する傾向があり,この火口分布は,大規模な珪長質マグマ溜まりがカルデラ直下に存在する場合に想定される分布とは異なると分析されている(乙26〔17頁〕)。また,高倉伸一
ほか「MT法による阿蘇カルデラの比抵抗断面」(乙40)によれば,比抵抗構造解析結果において,少なくとも阿蘇カルデラの地下10㎞以浅に大規模なマグマ溜まりの存在を示す低比抵抗体は検出されていないとされている。さらに,三好雅也「カルデラ火山地域における大規模噴火再発の可能性評価」(乙130)においては,阿蘇カルデラ形成後の
火山噴出部について,年代測定及び化学組成分析を行った結果,珪長質マグマの活動は3万年前から2万年前の最盛期を境に減少し,過去1万年間においてはほとんど玄武岩マグマのみが活動しており,現在のカルデラ直下の地殻浅部には,カルデラ形成噴火時のような大規模珪長質マグマは蓄積されていないと考えられる旨記載され,大倉敬宏「測地学的
手法による火山活動の観測について」(乙131)においては,測地学的手法による観測によって得られた阿蘇カルデラの地殻変動のデータを分析した結果,阿蘇カルデラの地下約6㎞付近にマグマ溜まりが存在するが,全体として縮小傾向にあり,地下約15㎞にもマグマ溜まりと考えられる変動源が存在するものの,最大45㎦のマグマの一部分である
ことから,今後の阿蘇の火山活動は,1930年代のような大規模なものではなく,大規模なカルデラ噴火が起こるような状態ではないと推定される旨記載されている。
以上の知見によれば,少なくとも,阿蘇カルデラにおいて,地下10㎞以浅に破局的噴火を引き起こすような大規模なマグマ溜まりは存在しないことが確認されているということができる。
(エ)

したがって,債権者らの上記指摘を踏まえても,本件各原子炉施設の
運用期間中の阿蘇カルデラにおける破局的噴火の可能性に関する債務者の評価及びこれを踏まえた原子力規制委員会の審査結果に合理性を欠く点が含まれるということはできない。

モニタリングについて

債権者らは,債務者が行うとするモニタリングについて,巨大な噴火の前兆を予知することは極めて困難であるし,仮に,予知することができたとしても,燃料棒や使用済燃料を安全に搬出する期間を考慮すると,放射性物質を放出し続ける重大事故を避けられない旨主張する。
しかしながら,前記⑴ウ記載のとおり,債務者は,本件5カルデラ火山について,自然現象における不確かさ及び本件敷地への影響を考慮した上
で,地殻変動や地震活動等の火山活動のモニタリングを実施し,マグマの供給時に変化が表れる地殻変動及び地震活動をその評価の対象項目としているところ,その監視対象,監視項目及び監視の方法,定期的評価の方針によれば,破局的噴火の兆候等の有無を評価することが困難とまで断定することはできない(この点について,債務者は,今後も,破局的噴火の兆
候等の有無の評価に関する知見を収集し,
火山専門家等の助言を得ながら,
破局的噴火の評価手法の高度化を継続的に行っていくこととしている。。)
また,債務者は,火山活動の兆候を把握した場合,原子炉の停止,燃料体等の搬出を行うこととしており,対象火山の状態の緊急度に応じて適切な対処策を講ずることを予定している。(乙26〔59~61,64頁〕)

債権者らは,上記主張の根拠として,「火山学者緊急アンケート」(甲B25)における,モニタリングによるカルデラ火山の巨大な噴火の予知は困難である旨の小山真人の指摘や,火山学者に対するアンケートにおいて,50名のうち16名が,本件各原子炉施設について,最長60年の稼働期間中に巨大な噴火が発生し,火砕流の被害を受けるリスクがある旨回答したこと(甲B6)を挙げる。

しかしながら,
前記⑴ウ記載のとおり,
債務者は,
火山ガイドにおいて,
個別評価により運用期間中の火山活動の可能性が十分小さいと評価した火山であっても,噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することを目的として,運用期間中のモニタリングを行うこととされていることを受けて,阿蘇カルデラを含む本件5カルデラ火山の地殻変動や地震活動等の火
山活動のモニタリングを実施することとしているのであり,こうしたモニタリングが,噴火の時期や規模を的確に予知する噴火の予知ができることを根拠とするものであるということはできない。
また,火山学者に対するアンケートについて報じた新聞記事(甲B6)を見ても,そのアンケートの詳細な内容が不明であるし,本件各原子炉施
設について「最長60年の稼働期間中に巨大噴火が発生し,火砕流の被害を受けるリスク」が,どのような根拠に基づくものであるのかは明らかでなく,いずれにせよ,前記認定,説示を左右するものではない。

これらを踏まえると,債務者の行うモニタリングに不備があるため,放射性物質を放出し続ける重大事故が避けられないとまで直ちに認めること
はできない。


影響評価について
債権者らは,降下火砕物検討チームにおける検討結果を踏まえると,本件各原子炉施設の降下火砕物の影響評価は不十分である旨主張するので,債権
者らの指摘する問題点を順に検討する。

まず,債権者らは,原子力規制委員会が平成29年7月19日に本件各原子炉施設の降下火砕物の影響評価に関して,降灰継続時間を24時間とし,層厚を10㎝と設定した参考濃度が約3.8g/㎥とされ,これが気中降下火砕物濃度として正式に設計基準として定められ,債務者が設定していた限界濃度(外部電源喪失の場合に現状の非常用電源ディーゼル発電機で耐えられる降下火砕物の限界値)である約0.9g/㎥を大きく上回ることを指摘する(甲B23・乙75〔29~36枚目〕)。
この点について,
債務者を含む電力会社を会員とする電気事業連合会は,
降下火砕物検討チームにおける降下火砕物の大気中濃度に関する議論を踏まえ,屋外設備,建屋及び屋外との接続がある設備に分類される各評価対
象施設について,降下火砕物の特徴からその影響因子となり得る荷重,閉塞,摩耗,腐食,大気汚染及び絶縁低下を抽出し,評価対象施設の構造や設置場所等を考慮して影響因子を整理するとともに,降下火砕物の気中濃度の増加により設備への影響が増長し,再検討を要する影響因子について検討したところ,ディーゼル発電機機関のフィルタ及び海水ポンプモータ
(開放型)について,閉塞の影響因子についての影響の再評価を必要とした上で,開放型の海水ポンプモータについては,海塩粒子等の影響を考慮してモータ内部や固定子は全て耐食性に優れた複数層の塗料や絶縁材で保護されており,短期間であれば降下火砕物による化学的影響を受けることはなく,防塵フィルタを取り外して運転することにより,より高濃度の降
下火砕物への対応が可能であるとして,ディーゼル発電機の吸気フィルタを対策の対象となり得る設備として抽出した(乙75〔25,26枚目〕)。そして,原子力規制委員会は,降下火砕物検討チームにおける検討結果を踏まえ,平成29年11月29日,実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則等を一部改正し,同年12月14日,施行された。この改正に
より,発電用原子炉設置者は,①火山事象による影響が発生し,又は発生するおそれがある場合において,原子炉の停止等の操作を行うことができるようにするため,㋐非常用交流動力電源設備の機能を維持するための対策,㋑代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持するための対策,及び㋒交流動力電源喪失時に炉心の著しい損傷を防止するための対策に係る体制を整備し,㋓これらについて保安規定に記載することとされるとともに,②上記対策に関し,評価の際に,火山ガイドに示す手法を用いて求めた気中降下火砕物濃度や降灰継続時間(24時間)等を踏まえるとともに,降灰による作業環境の悪化を想定することの各事項を要求されることとなった。(乙105,134から136まで,審尋の全趣旨)

その上で,債務者は,上記①㋐の事項について,降下火砕物により外部電源が喪失した場合,非常用ディーゼル発電機が起動し,原子炉の冷却を開始するところ,非常用ディーゼル発電機における吸気フィルタの閉塞防止措置の強化策として,既存の吸気消音器の近傍に,フィルタコンテナを非常用ディーゼル発電機1台当たり3台設置し,これにより,吸気消音器
吸気フィルタに比して,①フィルタ面積を拡大し,②吸気フィルタの取替えについてもスライド式で,レバー操作のみにより固定するものであるから,取替え,清掃を容易にし,③吸気フィルタを前後2段収納構造とすることにより,運転中のフィルタの取替えを可能とする措置を講ずることとし,平成29年11月末,上記フィルタコンテナを新たに設置した。これ
らの措置を講ずることにより,本件各原子炉施設の限界濃度を5.2g/㎥とすることとされている。なお,債務者は,今後,降下火砕物の捕集量等がより高まるように改良を施したフィルタをフィルタコンテナに設置する予定としている。
(甲B23・乙75〔32~36枚目〕,審尋の全趣旨)。
そうすると,本件各原子炉施設について,降下火砕物検討チームにおけ
る検討結果を踏まえて新たに定められた気中降下火砕物濃度が限界濃度を上回っているのも,過渡的な問題にすぎない上,実質的には既に解消されているということができ,この点を降下火砕物の影響評価における問題として認めるのは合理的でないというべきである。

次に,債権者らは,非常用ディーゼル発電機について,タービン動補助給水ポンプによるバックアップが想定されているが,それが地震等により正常に機能するかは不確実である旨主張する。

しかしながら,タービン動補助給水ポンプについては,本件各原子炉施設について設定された基準地震動に対しても耐震性を有することが確認されているのであるから(乙78の34,79の28),タービン動補助給水ポンプが地震により機能を喪失する旨の債権者らの主張は,その前提を欠くというべきである。

また,タービン動補助給水ポンプは,玄海3号機の復水タンク,玄海4号機の復水ピット,2次系純水タンク及び原水タンクから,約21.7日にわたり原子炉の冷却を継続することができることが確認されており(乙75〔14頁〕),本件各原子炉施設のフィルタコンテナを使用した場合の限界濃度(5.2g/㎥。上記ア参照)を上回る降灰が上記日数を超えて
継続すること(すなわち,気中降下火砕物濃度である約3.8g/㎥の約1.4倍の大気中濃度をもたらす噴火が20日以上にわたり収束することなく継続し,当該火山から本件各原子炉施設に向かって一定程度の強さの風が吹き続ける場合)は考え難いことからすれば,タービン動補助給水ポンプの水が枯渇する事態はおよそ想定し難い
(その上で,
債務者は,
万一,

タービン動補助給水ポンプの全てのタンクの水が枯渇した場合には,移動式大容量ポンプ車等を用いて淡水又は海水を復水タンクに補給することとしている。)。

さらに,債権者らは,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタの交換作業の困難性を指摘する。
この点について,債務者は,「玄海原子力発電所原子炉施設保安規定」を定め(乙104の1・2),通常時から降灰時における原子炉施設の保全のための活動を定め,資機材の配備や教育訓練等を行っていることからすれば,債権者らの上記指摘を踏まえても,そのことから直ちに本件各原子炉施設における火山事象に対する影響評価に問題があるということはできない。



まとめ
以上によれば,火山事象に対する安全性に関し,債権者らの疎明を検討しても,少なくともVEI7以上の規模の破局的噴火について,その発生の可能性が相応の根拠をもって示されておらず,立地を不適とすべきであるということはできないし,モニタリング及び影響評価にも不合理な点があるとい
うことはできない以上,債務者における火山事象に対する安全性の確保のための方策が合理性を欠くものとして,その運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在するとは認められない。
したがって,
争点⑶についての債権者らの主張を採用することはできない。
5
争点⑷(本件各原子炉施設におけるテロリズム対策の合理性)について⑴

原子炉等規制法等によるテロリズムに対する規制内容
原子力基本法は,原子力利用における安全の確保について,確立された国際的な基準を踏まえ,国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに
我が国の安全保障に資することを目的として行うものとし(2条2項),原子炉等規制法は,原子力基本法の精神にのっとり,原子炉の設置及び運転等に関し,テロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行い,もって国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする(1条)。

そして,設置許可基準規則は,発電用原子炉施設への人の不法な侵入,発電用原子炉施設に不正に爆発性又は易燃性を有する物件その他人に危害を与え,又は他の物件を損傷するおそれがある物件が持ち込まれること及び不正アクセス行為を防止するための設備の設置を求める(7条)とともに,原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムに対してその重大事故等に対処することを目的とする特定重大事故等対処施設の設置を求め(42条。ただし,平成28年原子力規制委員会第1号による改正後の附則
2項により,原子炉等規制法43条の3の9第1項の規定による工事計画認可の日から起算して5年間は,
上記42条は適用しないこととされている。,

可搬型重大事故等対処設備に関しては,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる影響を考慮した上で常設重大事故等対処設備と異なる保管場所に保管することを求めている(43条3項5号)。

また,原子炉等規制法は,発電用原子炉を設置する者が重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること求めており(43条の3の6第1項3号),これを受けて,原子力規制委員会が定めた「実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の重大事故の発生及び拡大の
防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準」(原規技発第1306197号。
乙81。「重大事故等防止技術的能力基準」
以下
という。)において,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによって原子炉施設の大規模損壊が生じた場合における体制の整備に関し,可搬型設備等による対応として,大規模損壊発生時における大規模な火災が発生
した場合における消火活動や炉心の著しい損傷を緩和するための対策等に関する活動を実施するために必要な手順書,体制及び資機材等を適切に整備する方針であることが要求されている(2.1項。乙21〔159~161頁〕,109〔175~177頁〕参照)


テロリズムの規制に係る法体系上の位置付け
我が国の法制上,テロリズムを含む犯罪行為の予防及び鎮圧は,警察の責務とされ(警察法2条1項),原子力事業所に対するミサイル攻撃等の大規模な武力攻撃に対しては,国民保護法等に基づき,緊急対処事態として国が対策本部を設置し,原子力災害への対処,放射性物質による汚染への対処等に当たり,原子力事業者は,国と連携してこれに対処することとされている(国民保護法105条から107条まで)。

原子力災害対策特別措置法も,原子力災害の発生の防止に関し原子力事業者に万全の措置を講ずる責務を課す(3条)一方,国が,テロリズムその他の犯罪行為による原子力災害の発生も想定し,これに伴う被害の最小化を図る観点から,警備体制の強化,原子力事業所における深層防護の徹底,被害の状況に応じた対応策の整備その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講
ずる責務を有すると規定している(4条の2)。
このような原子力利用に関する関係法令の規定からすれば,発電用原子炉施設を含む原子炉施設のテロリズムその他の犯罪行為に対する安全性の確保については,国の責務であることを基本としつつ,施設の構造及び設備並びに重大事故等対策の観点からの規制を通じて事業者にも一定の責務を課して
いるものということができるのであって,設置許可基準規則の前記⑴記載の定めは,以上のような法の趣旨を具体化したものということができる。⑶

債務者のテロリズム対策の内容等

設置許可基準規則を踏まえた対策(乙2の13)
(ア)

債務者は,発電用原子炉施設への人の不法な侵入等の防止(設置許可
基準規則7条関係)について,①原子炉施設への人の不法な侵入を防止するため,区域を設定し,その区域を障壁等により防護し,人の接近管理及び出入管理を行うことができる設計とすること,②原子炉施設に不正に爆発性又は易燃性を有する物件等の持込み(郵便物等による発電所外からの爆破物及び有害物質の持込みを含む。)を防止するため,持込み点検が可能な設計とすること,③原子炉施設及び特定核燃料物質の防護のために必要な設備又は装置の操作に係る情報システムが,電気通信回線を通じた不正アクセス行為(サイバーテロを含む。)を受けることがないように,当該情報システムに対する外部からのアクセスを遮断する設計とすることとした。
(イ)

また,債務者は,可搬型重大事故等対処設備の保管場所(設置許可基
準規則43条3項5号参照)について,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる影響,設計基準事故対処設備並びに使用済燃料ピットの冷却設備及び注水設備(以下「設計基準事故対処設備等」という。),常設重大事故等対処設備の配置その他の条件を考慮した上で,設計基準事故対処設備等及び常設重大事故等対処設備が設置されている
建屋並びに屋外の設計基準事故対処設備等又は常設重大事故等対処設備から100mの離隔距離を確保した上で,複数箇所に分散するなどして保管する設計とすることとした。

重大事故等防止技術的能力基準を踏まえた対策(乙2の14)
(ア)

手順書の整備
債務者は,手順書の策定に際しては,故意による大型航空機の衝突そ
の他のテロリズムによる施設の広範囲にわたる損壊などを考慮することとし,こうした場合の被害範囲は不確定性が大きく,あらかじめシナリオを設定した対応操作が困難であると考えられることなどから,環境への放射性物質の放出低減を最優先に考えた対応を行うこととし,原子炉施設の被害状況を速やかに把握するための手順及び対応操作の実行判断を行うための手順の整備,故意による大型航空機の衝突による大規模な航空機燃料火災を想定し,放水砲等を用いた泡消化についての手順の整備や,事故対応を行うためのアクセスルート,操作場所に支障となる火
災等の消火活動も想定した手順の整備など,重大事故等対策において整備する手順等に加え,可搬型設備による対応を中心とした多様性及び柔軟性を有する手順等を整備することとした。
(イ)

教育,訓練の実施
大規模損壊への対応のための緊急時対策本部要員等への教育及び訓練
については,重大事故等対策にて実施する教育及び訓練を基に,大規模損壊発生時を想定し,通常の指揮命令系統が機能しない場合を想定した緊急時対策本部要員(指揮者等)の個別の教育訓練を実施し,また,要員の役割に応じて付与される力量に加え,流動性をもって対応できるような力量を確保していくことにより,期待する要員以外の要員でも対応できるように教育訓練の充実を図ることとし,さらに,最低限必要な要
員以外の人員は,原則として発電所外に退避するが,発電所内に勤務する人員を最大限に活用しなければならない事態を想定して,緊急時対策本部要員等以外の人員に対して教育を実施することとした。
(ウ)

体制の整備
債務者は,大規模損壊発生時の体制については,通常の原子力防災組
織の体制を基本としつつ,通常とは異なる対応が必要となる状況においても流動性をもって対応できるようにするとともに,大規模損壊発生時の対応手順に従って活動を行うことができるよう,夜間,休日の人員確保や中央制御室(運転員〔当直員〕を含む。)の機能喪失を考慮するなどして体制を整備し,大規模損壊が発生した場合において,緊急時対策
本部要員等が活動を行うに当たっての拠点は,中央制御室及び緊急時対策所を基本とし,中央制御室等が機能喪失する場合には,緊急時対策所以外にも代替可能なスペースも状況に応じて活用することとした。また,債務者は,大規模損壊発生時における発電所外部からの支援体制として,本店対策本部が速やかに確立できるように体制を整備するこ
ととし,他の原子力事業者及び原子力緊急事態支援組織へ応援要請し,技術的な支援が受けられるように体制を整備することとした。さらに,債務者は,協力会社及び建設会社より現場作業や資機材輸送等に係る要員の派遣を要請できる体制,プラントメーカによる技術的支援を受けられる体制を構築することとした。
(エ)

設備及び資機材の整備
債務者は,大規模損壊発生時の対応手順に従って活動を行うために必
要な可搬型重大事故等対処設備について,共通要因による同等の機能を有する設計基準事故対処設備及び常設重大事故等対処設備と同時に機能を喪失することのないよう,外部事象の影響を受けにくい場所に保管するとともに,同時に複数の可搬型重大事故等対処設備が機能喪失しないよう,可搬型重大事故等対処設備同士の距離を十分に離して,複数箇所
に分散して配置することとした。
また,大規模損壊発生時の対応に必要な資機材は,原子炉建屋及び原子炉補助建屋から100m以上離隔した場所に配備することとし,①大規模な燃料火災の発生時において,必要な消火活動を実施するために着用する防護具,消火剤等の資機材,小型放水砲等,②高線量の環境下に
おいて,事故対応を行うために高線量対応防護服等の必要な資機材,③大規模損壊の発生時において,指揮者と現場間,発電所外等との連絡に必要な通信手段を確保するため,多様な複数の通信手段及び消火活動専用の通信連絡設備をそれぞれ配備することとした。


原子力規制委員会の審査

設置許可基準規則関係
原子力規制委員会は,発電用原子炉施設への人の不法な侵入等の防止に関し,債務者の設計が,核物質防護対策として,前記⑶ア(ア)①から③まで記載の対策を講ずるとしていることを確認したから,設置許可基準規則に
適合するものと判断した。(乙2の13〔84頁〕)
また,原子力規制委員会は,本件設置許可申請が,可搬型重大事故等対処設備の共通の設計方針について,設計基準事故対処設備等及び常設重大事故等対処設備が設置されている建屋並びに屋外の設計基準事故対処設備等又は常設重大事故等対処設備から100mの離隔距離を確保した場所に複数箇所に分散して保管するなど,設置許可基準規則43条3項及び同項の設置許可基準規則解釈を踏まえた設計方針としていることから,適切な
ものであると判断した。(乙2の13〔258頁〕)

重大事故等防止技術的能力基準関係
原子力規制委員会は,
債務者の計画が重大事故等防止技術的能力基準2.
1項及び同項の解釈を踏まえて必要な検討を加えた上で策定されており,大規模損壊が発生した場合における体制の整備に関して必要な手順書,体
制及び資機材等が適切に整備される方針であることを確認したことから,重大事故等防止技術的能力基準2.1項に適合しているものと判断した。(乙2の14)


原子力規制委員会の判断の合理性
前記⑶記載のとおり,債務者は,テロリズムの規制に係る法体系上の位置
付けを踏まえて規定されている設置許可基準規則や重大事故等防止技術的能力基準の定めに応じた措置として,必要な設備の設置等原子力事業者に課された一定の対策を講ずることとし,その点について,上記⑷記載のとおり,原子力規制委員会の審査を受けて,上記の新規制基準に適合する旨の判断を得ているのであり,その審査内容に照らすと,原子力規制委員会の判断に不
合理な点があるということはできない。


債権者らの主張の検討

新規制基準の不合理性について
(ア)

債権者らは,テロリズム対策に係る新規制基準が不十分であることの
根拠として,①テロリズムにより大規模損壊が発生している事態において,作業員が可搬型設備を迅速に稼働させることが困難であること,②特定重大事故等対処施設等を設置しないまま本件各原子炉施設を稼働することが許されないことを指摘する。
(イ)

そこで検討すると,まず,上記①の点については,前記⑴記載のとお
り,重大事故等防止技術的能力基準においては,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによって原子炉施設の大規模損壊が生じた場合における体制の整備に関し,可搬型設備等による対応として,大規模損壊発生時における大規模な火災が発生した場合における消火活動や炉心の著しい損傷を緩和するための対策等に関する活動を実施するために必要な手順書,体制及び資機材等を適切に整備する方針であることが要
求されているところ,その体制の整備には,大規模損壊への対応のための緊急時対策本部要員等への教育及び訓練をすることをもその内容として当然に含まれるものであると解されるのであって,大規模損壊が生じた場合における作業員の作業が困難を伴うものであるからといって,テロリズム対策に係る新規制基準の内容が十分でないことにはならないと
いうべきである。
(ウ)

また,上記②の点については,新規制基準においては,大規模損壊を
含む重大事故等への対処について,重大事故等対処施設(設置許可基準規則2条2項11号)及び重大事故等対処設備(同項14号)により行うこととし,さらに,重大事故のうち,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムにより炉心の著しい損傷又はその発生のおそれに対処するため,その信頼性の向上のためのバックアップを目的として,特定重大事故等対処施設の設置が求められると解される。
そして,前記⑴及び上記(イ)記載のとおり,重大事故等防止技術的能力基準においては,大規模損壊への対応について,可搬型設備等による対
応として,必要な手順書,体制及び資機材等を適切に整備する方針であることが要求されているところ,
これらの体制の整備がされている限り,
特定重大事故等対処施設の設置が猶予されている期間中であっても,それが重大事故等対処施設等のバックアップの位置付けとして設置されるものであることを考慮すれば,本件各原子炉施設がその社会通念上求められる安全性を欠くことにはならないというべきである。
また,特定重大事故等対処施設は,特定重大事故等対処施設以外の施
設及び設備(以下「本体施設等」という。)について新規制基準に適合するための許認可において,本体施設等の設計条件等が確定されることが前提となる。具体的には,特定重大事故等対処施設に係る設置変更許可申請の審査では,本体施設等に適用する基準地震動及び基準津波並びに本体施設等の設備仕様を確定させた後に,特定重大事故等対処施設の
設備仕様についての許否を検討する必要があり,特定重大事故等対処施設に係る工事計画認可申請の審査については,本体施設等に係る工事計画認可申請の審査において,
本体施設等の個別配管ごとの位置や,
圧力,
温度,荷重等の環境条件等の詳細が確定しなければ,特定重大事故等対処施設と本体施設等の接続部分に係る詳細設計を審査することができな
いため,本体施設等の工事計画認可後に本格的な審査が行われることが予定されている。そして,特定重大事故等対処施設に係る上記審査,工事等に一定の時間を要することを踏まえ,その設置について猶予期間が設けられたものであること(甲A366参照)も勘案すれば,この猶予期間を設けた設置許可基準規則附則2条の定めの内容にも一応の合理性
を認めるのが相当である。
(エ)

テロリスト対策の内容の不十分性について
(ア)

したがって,
債権者らの上記主張をいずれも採用することはできない。

侵入者対策の不備について
債権者らは,本件各原子炉施設における侵入者対策に不備がある旨主
張する。
しかしながら,債権者らが指摘するアメリカ合衆国等における侵入者対策が,確立された国際的な基準であると認めるに足りる疎明資料はない。また,原子力基本法2条2項も,必ずしも同国等のテロリズム対策と同様の対策を講ずることを要求するものではなく,確立された国際的な基準を踏まえつつ,我が国の法制度やテロリズムをめぐる状況を勘案した上で,我が国において最も適切なテロリズム対策を講じ,当該原子力発電所の安全性を確保することを求めるものと解されるところ,本件各原子炉施設については,新規制基準を踏まえ,原子炉施設への人の不法な侵入を防止するため,区域を設定し,その区域を障壁等により防護
し,人の接近管理及び出入管理を行うことができる設計とされ(前記⑶ア(ア)①参照),債務者が,巡視,監視等による徹底した侵入者対策を講ずるとともに,テロリズムの予防・鎮圧を責務とする警察及び海上保安庁と連携して,侵入者を想定した訓練についても定期的に実施しているというのであるから,こうした債務者の侵入者対策に不合理な点がある
ということはできない。
(イ)

内部脅威対策の不備について
債権者らは,我が国において,原子炉施設における施設従事者の信頼
性確認制度が導入されていない点に不備がある旨主張する。
しかしながら,債権者らが指摘する,原子力事業所の内部の人間の経歴等の個人情報等に基づき,その人間の重要区域へのアクセス等を制限する信頼性確認制度については,個人のプライバシー保護等に関わる問題を内在しているため,これを導入するに当たっては,慎重な検討が必要であると考えられ,これを導入していないことが直ちに内部脅威対策の不備に当たるということはできない。

そして,安全確保のために枢要な設備を含む区域では,二人以上の者が同時に作業又は巡視を行うこと(いわゆる二人〔ツーマン〕ルール)が求められていること(実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則〔昭和53年通商産業省令第77号〕91条2項15号,16号等),原子力委員会原子力防護専門部会が,福島第一原発事故を踏まえた課題への対応やIAEAによる三つの分野の勧告文書に係る検討結果として,平成24年3月9日に取りまとめた「我が国の核セキュリティ対策の強化について」(甲A290)においても,信頼性確認制度の導入を目指して具体的な制度についての議論を開始すべきであるとされる一方,導入に当たっては,信頼性確認が対象者のプライバシーに関わること等の指摘があり,制度導入に向けた検討までには至らなかったこと,それが
導入されるまでの間は,上記二人ルール等信頼性確認の暫定的な代替措置となる対策の実施を強化,徹底することが必要であるとされていることを踏まえると,債務者が,信頼性確認制度が具体的に導入されていない現状において,この制度を前提とした対策を講じていないからといって,直ちにテロリズム対策が不十分であるということはできない。
(ウ)

航空機衝突対策の不備について
債権者らは,テロリズム対策に係る新規制基準の内容の不十分性を根
拠として,航空機衝突対策には不備がある旨主張する。
しかしながら,前記アで説示したとおり,テロリズム対策に係る新規制基準の内容に不合理な点があるということはできず,債権者らの上記主張は,その前提を欠くというべきである。
(エ)

ミサイル攻撃対策の不備について
債権者らは,本件各原子炉施設のミサイル攻撃対策の不備がある旨主
張する。
しかしながら,債務者が,重大事故等防止技術的能力基準を踏まえ,ミサイル攻撃等によるものを含む大規模損壊が生じた場合における対策を講じていることは,前記⑶イ記載のとおりである。これに加え,前記⑵で説示したとおり,我が国の法制上,テロリズムを含む犯罪行為の予防及び鎮圧は,警察の責務とされ,ミサイル攻撃等の大規模な武力攻撃に対しては,国民保護法等に基づき,基本的に緊急対処事態として国が対処すべきものとされ,債務者のような原子力事業者は,国と連携してこれに対処するにすぎないのであり,こうした法令の定めを前提とする
と,債務者が独自にミサイル攻撃に対する具体的な対策を講じていないとしても,そのことを債務者による本件各原子炉施設の運転に係る違法性を基礎付ける事情として評価するのは相当でないというべきである。(オ)

サイバーテロリズム対策の不備について
債権者らは,本件各原子炉施設に対するサイバーテロリズムについて
の対策が十分でない旨主張する。
しかしながら,前記⑶ア(ア)記載のとおり,債務者は,原子炉施設及び特定核燃料物質の防護のために必要な設備又は装置の操作に係る情報システムが,電気通信回線を通じたサイバーテロを含む不正アクセス行為を受けることがないように,当該情報システムに対する外部からのアク
セスを遮断する設計とすることとしていることに加え,USBメモリを介したウイルス感染の防止対策として,事前に許可されたUSBメモリでなければ重要システムに接続できないように厳格な管理体制を構築しているというのであり,こうした本件各原子炉施設に係る債務者の講ずるサイバーテロリズム対策が不十分であるということはできない。
(カ)

小括
したがって,
債権者らの上記主張をいずれも採用することはできない。



まとめ
以上検討したところによれば,テロリズム対策に関し,債務者が,原子力
規制委員会における調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当の根拠,
資料に基づき疎明したということができ,
かつ,
債権者らの疎明を検討しても,債務者のテロリズム対策が合理性を欠くということはできず,本件各原子炉施設の運転に起因する放射線被ばくにより,債権者らの生命,身体に直接的かつ重大な被害が生ずる具体的な危険が存在するとは認められない。

したがって,
争点⑷についての債権者らの主張を採用することはできない。6
争点⑸(本件各原子炉施設における重大事故等対策の合理性)について⑴

水素爆発対策の不備について

新規制基準の定め
設置許可基準規則は,発電用原子炉施設は,重大事故が発生した場合に
おいて,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものでなければならないと規定し(37条2項),設置許可基準規則解釈によれば,上記重大事故が発生した場合において想定する格納容器破損モードのうち必ず想定する格納容器想定モードの一つとして水素燃焼が挙げられ,この想定する格納容器
破損モードに対して,原子炉格納容器の破損を防止し,かつ,放射性物質が異常な水準で敷地外へ放出されることを防止する対策に有効性があることを確認する必要があり,その具体的な評価項目の一つとして,原子炉格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟を防止することをおおむね満足することを確認することとされ,具体的には,原子炉格納容器内の水素濃
度がドライ条件に換算して13.0vol%以下又は酸素濃度が5.0vol%以下であることとの要件を満たす必要があるとされている(甲A351,乙41〔17頁〕,45〔74~77頁〕)。そして,原子力規制委員会は,こうした格納容器破損防止対策等に関し,炉心損傷防止対策等審査ガイド(甲A351・乙41)を定めている。


債務者の評価(乙2の10〔194~198頁〕)
債務者は,ジルコニウム・水反応,溶融炉心・コンクリート相互作用,水の放射線分解等によって水素が発生し,発生した水素と原子炉格納容器内の酸素が反応することにより激しい燃焼が生じ,原子炉格納容器の破損に至ることを特徴とする水素燃焼の格納容器破損モードについて,水素の爆轟を防止するため,早期に発生する水素及び継続的に発生する水素を処理し,原子炉格納容器内の水素濃度を低減するとともに,コンクリート相互作用に伴う水素発生に対し,原子炉下部キャビティへ注水する対策を講ずる必要があるとした。そして,具体的には,初期の対策として,加圧水型原子炉は,原子炉格納容器の自由体積が大きいことにより水素濃度が高
濃度にならないという特徴があり,その上で,主に炉心損傷時に発生した水素の処理を行うため,電気式水素燃焼装置を新たに整備するとともに,代替格納容器スプレイにより原子炉下部キャビティへ注水するため,常設電動注入ポンプ,大容量空冷式発電機等を重大事故等対処設備として新たに整備し,燃料取替用水タンク,復水タンク等を重大事故等対処設備と位
置付けることとした。また,安定状態に向けた対策について,継続的に発生する水素の処理を行うため,上記電気式水素燃焼装置に加え,静的触媒式水素再結合装置を重大事故等対処設備として新たに整備するとともに,水素濃度,電気式水素燃焼装置及び静的触媒式水素再結合装置の監視を行うため,可搬型格納容器水素濃度計測装置,電気式水素燃焼装置動作監視
装置,静的触媒式水素再結合装置動作監視装置等を重大事故等対処設備として新たに整備することとした。
その上で,債務者は,原子炉格納容器の破損防止対策の有効性の解析に当たり,評価事故シーケンスについて,「大破断LOCA時に低圧注入機能及び高圧注入機能が喪失する事故」を選定し,事故条件について,水素
が,原子炉容器内の全ジルコニウム量の75%が水と反応し発生することとするものとし,機器条件について,電気式水素燃焼装置を13基(予備1基)設置するものの,水素濃度の観点で厳しくするため,電気式水素燃焼装置が機能することを期待しないこととする(ただし,炉心溶融・コンクリート相互作用による水素発生の不確かさを考慮する感度解析においては,その効果に期待する。)などした。そして,債務者が行った解析の結果によれば,ドライ条件に換算した原子炉格納容器内水素濃度は,最大約
12.8vol%で減少に転じ,13.0vol%を下回るとされるなどし,格納容器破損防止対策の評価項目(前記ア参照)を満足しているとされている。また,解析コードにおける不確かさの影響評価について,炉心内の全ジルコニウム量の75%が水と反応することに加え,溶融炉心・コンクリート相互作用による水素発生を考慮しても,静的触媒式水素再結合
装置及び電気式水素燃焼装置により水素を処理することで,ドライ条件に換算した原子炉格納容器内水素濃度は最大約9.5vol%であるから,溶融炉心・コンクリート相互作用に伴い発生する水素の不確かさを考慮して評価しても,上記評価項目を満足しているとされている。

原子力規制委員会の審査(乙2の10〔198,199頁〕)
原子力規制委員会は,水素燃焼の格納容器破損モードに対し,債務者が格納容器破損防止対策として計画している水素濃度の低減が,事象進展の特徴をとらえた有効な対策であると判断した。その際,原子力規制委員会は,審査過程における主な論点について,①局所的な水素濃度上昇による爆轟発生の可能性について,爆轟の発生メカニズムから実機条件下におけ
る原子炉下部キャビティ区画では直接起爆による爆轟又は火炎が加速され爆轟に遷移することは考えにくく,爆轟が発生する可能性はないと判断するとともに,②電気式水素燃焼装置の信頼性向上について,その電気設備を多重性,位置的分散及び独立を考慮した設計としたことで,電気式水素燃焼装置による水素処理がより確実に実施されると判断した。


債権者らの主張の検討
(ア)a

債権者らは,債務者が行った解析の結果においてドライ条件に換算
した原子炉格納容器内水素濃度が12.8vol%とされているが,基準値が13.0vol%であることからすれば,安全裕度がほとんどない旨主張する。
しかしながら,債務者は,上記水素濃度の解析に当たり,解析から
得られる反応割合は75%を大きく下回る約30%であったにもかかわらず,これを多めに補正し,炉心損傷防止対策等審査ガイド(甲A351・乙41〔17頁〕参照)のとおり,原子炉圧力容器の下部が破損するまでに,全炉心内のジルコニウム量の75%が水と反応することを想定したものである(前記イ参照)上,さらに,安全側の評価と
するため,水素濃度の低減を図るために設置した電気式水素燃焼装置が機能することを期待しないとの条件の下で(前記イ参照),上記水素濃度の解析結果が得られたものであることからすれば,これによる解析した上記水素濃度が基準値に近いものであったとしても,そのことから安全裕度がほとんどない旨評価するのは相当でないというべき
である。
b
また,この点に関し,債権者らは,溶融炉心・コンクリート相互作用による水素の発生を合わせた評価においては,電気式水素燃焼装置及び静的触媒式水素再結合装置が機能することを前提条件としていることも指摘する。

しかしながら,上記各装置は,本来,炉心損傷時に発生した水素の処理を行うための重大事故等対処設備として整備するものであり,炉心損傷防止対策等審査ガイドにおいても,対策例としてこれらの装置の設置が記載されていること(甲A351・乙41〔17頁〕)からしても,上記評価の前提条件が不合理なものということはできない。
(イ)

債権者らは,債務者が,ジルコニウム以外の金属である鉄が酸化して水素を発生することを考慮していない旨主張する。
しかしながら,上記(ア)で認定,説示したとおり,債務者は,原子力格納容器内水素濃度の解析に当たり,解析から得られる反応割合は75%を大きく下回る約30%であったにもかかわらず,
これを多めに補正し,
原子炉圧力容器の下部が破損するまでに,全炉心内のジルコニウム量の75%が水と反応することを想定していることからすれば,ジルコニウム以外の金属からの水素の発生を直接考慮していないからといって,水素濃度の評価が過小にされていると認めることはできず,その評価が不合理なものということはできない。

(ウ)

債権者らは,電気式水素燃焼装置について,①その使用が,労働安全
衛生規則279条,280条に違反するとともに,②全交流電源喪失時において機能するのかに疑問があり,操作上の過誤もあり得る旨主張する。
そこで検討すると,まず,上記①の点について,債権者らの指摘する労働安全衛生規則279条1項は,「事業者は,危険物以外の可燃性の粉じん,火薬類,多量の易燃性の物又は危険物が存在して爆発又は火災が生ずるおそれのある場所においては,火花若しくはアークを発し,若しくは高温となって点火源となるおそれのある機械等又は火気を使用してはならない。」と規定し,同規則280条1項は,「事業者は,26
1条の場所(引用注:引火性の物の蒸気,可燃性ガス又は可燃性の粉じんが存在して爆発又は火災が生ずるおそれのある場所)のうち,同条の措置(引用注:通風,換気,除じん等の措置)を講じても,なお,引火性の物の蒸気又は可燃性ガスが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所において電気機械器具(〔中略〕)を使用するときは,当該蒸
気又はガスに対しその種類及び爆発の危険のある濃度に達するおそれに応じた防爆性能を有する防爆構造電気機械器具でなければ,使用してはならない。」と規定する。しかしながら,上記各規定は,可燃性ガスを扱っている又は可燃性ガスが生ずるおそれがある場所において,意図せずに可燃性ガスに着火することにより,その場所で従事する労働者が被災することを防止することを念頭に置いているものであり,本件各原子炉施設において設置される電気式水素燃焼装置のように,原子炉格納容
器内において水素を意図的に燃焼させることにより,格納容器の損傷を防止することを前提とした設備に適用されるものではないと解するのが相当である。
また,上記②の点については,本件各原子炉施設においては,外部電源及び非常用ディーゼル発電機が機能を喪失し,全交流電源が喪失した
場合に備え,大容量空冷式発電機を設置することとしており(乙2の9〔359~366頁〕),全交流電源喪失時においても,電気式水素燃焼装置に対する電源の供給が確保されるということができる。さらに,債務者が,水素燃焼の格納容器破損モードにおいて,対応及び復旧作業に必要な要員は,
本件3号機及び本件4号機を合わせて52名であるのに対し,

運転員(当直員),緊急時対策本部要員(指揮者等)及び重大事故等対策要員も52名であるとし(乙2の10〔197頁〕),十分な体制整備を行っていることも踏まえると,電気式水素燃料装置の操作の過誤を想定して,水素爆発対策に不備があるということはできない。
(エ)


したがって,
債権者らの上記主張をいずれも採用することはできない。

まとめ
以上検討したところによれば,債権者らの主張を踏まえても,水素爆発対策に係る新規制基準の内容並びに原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程等に不合理な点があるということはできない。



水蒸気爆発対策について

新規制基準の定め(乙45〔71,75,76頁〕)
設置許可基準規則は,発電用原子炉施設は,重大事故が発生した場合において,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものでなければならないと規定し(37条2項,前記⑴ア参照),設置許可基準規則解釈によれば,上記重大事故が発生した場合において必ず想定する格納容器破損モードの一
つとして,
「原子炉格納容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」
が挙げられ,
この想定する格納容器破損モードに対して,原子炉格納容器の破損を防止し,かつ,放射性物質が異常な水準で敷地外へ放出されることを防止する対策に有効性があることを確認する必要があり,その具体的な評価項目の一つとして,急速な原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用による
熱的・機械的荷重によって原子炉格納容器バウンダリの機能が喪失しないことをおおむね満足することを確認することとされている。

債務者の評価(乙2の11〔190~194頁〕,43の1・2)債務者は,上記「原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」の格
納容器破損モードについて,衝撃を伴う水蒸気爆発と,溶融炉心から冷却材への伝熱による水蒸気発生に伴う急激な圧力上昇
(以下
「圧力スパイク」
という。)があるが,前者の水蒸気爆発の発生の可能性は,(ア)実機において想定される溶融物を用いた大規模実験の知見と実機条件との比較(上記実験では,外乱を与えて液-液直接接触を生じやすくしているのに対し,
実機においては,液-液直接接触が生じるような外乱となり得る要素は考えにくいこと,上記実験では,溶融物の初期の過熱度を高く設定し,溶融物表面が冷却材中で固化しにくくさせているのに対し,実機で想定される初期の過熱度は実験条件よりも低く,冷却材中を落下する過程で溶融物表面の固化が起こりやすいこと)及び(イ)国立研究開発法人日本原子力研究開
発機構(JAEA)の水蒸気爆発に係る報告書(甲A355)に基づくJASMINEコードにおける評価想定と実機での想定との相違(JASMINEコードにおける評価想定では,水蒸気爆発の規模が最も大きくなる時刻に,液-液直接接触が生じるような外乱を与え水蒸気爆発を誘発し,融体ジェット直径分布として,0.1~1mの一様分布を与え,液体の運動エネルギーを大きく評価しているところ,これらの評価想定は,実機での想定と異なること)を踏まえると,極めて低いと考えられるとして,後
者の圧力スパイクについてのみ考慮することとした。

原子力規制委員会の審査(乙2の11〔192~194頁〕)
原子力規制委員会は,上記格納容器破損モードに対して債務者が計画している格納容器破損防止対策は有効であり,債務者が水蒸気爆発の発生の可能性が極めて低いとしていることは妥当と判断した。


債権者らの主張の検討
(ア)

債権者らは,①重大事故時において,溶融炉心が原子炉下部キャビテ
ィに落下した際に水蒸気爆発が発生することを想定すべきであり,このことは複数の実験装置の結果によっても裏付けられていること,②重大事故等の状況によっては,計画どおりに原子炉キャビティに水を張ることができない可能性もあることを主張する。
(イ)

しかしながら,
上記①の点について,
証拠
(乙43の1・2)
によれば,

水蒸気爆発事象は,分散した溶融炉心が膜沸騰状態の蒸気膜に覆われた状態で冷却材との混合状態となり,さらに,膜沸騰が不安定化して蒸気膜が局所的に崩壊(トリガリング)した結果,溶融炉心と冷却材との液-液直接接触により急激な伝熱が行われ,そのため,急激な蒸発が起こり,その過程において溶融炉心が微粒化し,新たな液-液接触による急速な伝熱により一気に水蒸気が発生し,
この現象が系全体に瞬時に拡大,
伝播する現象であると認められる。

そして,証拠(乙2の11〔193,194頁〕,43の1・2)によれば,実機において想定される溶融物(二酸化ウラン及びジルコニウムの混合溶融物)を用いた大規模実験であるCOTELS,FARO,KROTOSⅰ
及びTROIについて,○KROTOS及びTROIの一部実験におい
て,溶融燃料-冷却材相互作用から水蒸気爆発が発生していること,こⅱ
うした水蒸気爆発が発生した実験のうち,○KROTOSについては,溶融炉心が水中に落下中に容器の底から圧縮ガスを供給し,膜沸騰を強制的に不安定化(外部トリガー)させることで液-液直接接触を生じやすくするなど,実機で起こるとは考えられない条件である上,機械的エネルギーへの変換効率が最大でも0.05%程度であり,大規模な水蒸気爆発には至っておらず,外部トリガーを与えた場合でも水蒸気爆発に

至らなかったケースも複数確認されていること,TROIについては,○

溶融物の初期の過熱度を実機想定よりも高く設定しているため,外部トリガーがなくても水蒸気爆発が発生したものと考察される上,水蒸気爆発が生じた場合の機械的エネルギーへの変換効率は,外部トリガーがある場合でも0.
7%未満にすぎない小さなものであることが認められる。
そうすると,COTELS,FARO,KROTOS及びTROIの
実験結果によっても,本件各原子炉施設において水蒸気爆発が起こる可能性は極めて小さいものと認めるのが合理的であり,このような判断を覆すに足りる証拠又は事実は見当たらない。
(ウ)
また,上記②の点については,証拠(乙44の1・2)によれば,原子
炉下部キャビティの溶融炉心を冷却するための注水について,原子炉格ⅰ
納容器スプレイ水が原子炉格納容器に注水されると,○格納容器と各フⅱ

ロア最外周部間の隙間,○外周通路部の階段,開口部(ハッチ等),○ⅳ
ループ室内の各フロアのグレーチング,○原子炉容器と原子炉キャビテⅴ
ィの隙間(原子炉容器と1次遮へいコンクリートとの隙間),○原子炉
キャビティ底部から原子炉格納容器最下階フロアに通じる連通管の各経路により,原子炉格納容器最下階フロアまで流入するものであり,加えて,溶融した配管保温材等(デブリ)を捕捉するための柵を設置する対策を講ずることにより,注水経路が閉塞することがなく,溶融炉心等が原子炉下部キャビティに堆積した場合でも,連通穴が十分高い場所に設置されているため,内側から注水経路が閉塞することがなく,原子炉下部キャビティへの注水を確実に実施することができる設計とされている
ことが認められる。
そうすると,重大事故の発生時においても,原子炉キャビティに水を張ることができない可能性を想定することができない。
(エ)

したがって,
債権者らの上記主張をいずれも採用することはできない。

まとめ
以上検討したところによれば,債権者らの主張を踏まえても,水蒸気爆発対策に係る新規制基準の内容並びに原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程等に不合理な点があるということはできない。


可搬型設備による人的対応の限界について

新規制基準の定め
設置許可基準規則は,重大事故等対処設備(2条2項14号参照)について,共通する一般的要求事項を定める(43条)とともに,個別の設備との関係で,考慮すべき重大事故等を踏まえて必要な個別の要求事項を規定している(44条から62条まで)。そして,設置許可基準規則43条
は,重大事故等対処設備の基本設計又は基本的設計方針に係る一般的要求事項として,可搬型重大事故等対処設備及び常設重大事故等対処設備(いずれも同条2項参照)について,それぞれの役割を踏まえた機能等を要求している。
また,設置許可基準規則解釈においては,時間的余裕,設備の大きさな
どを考慮し,原子炉冷却材圧力バウンダリ高圧時に発電用原子炉を冷却するための設備(45条の解釈),原子炉冷却材圧力バウンダリを減圧する設備(46条の解釈),原子炉冷却材圧力バウンダリ低圧時に発電用原子炉を冷却するための設備(47条の解釈),車載代替の最終ヒートシンクシステム(48条の解釈),使用済燃料ピットの冷却等のための設備(54条の解釈),電源設備(57条の解釈)について,可搬型設備を要求している。
(乙21
〔154,155頁〕45
,〔96~100,107,111頁〕109

〔161,162

頁〕)

債権者らの主張の検討
(ア)

債権者らは,①常設設備と比較して可搬型設備には欠点があること,
②重大事故時において人的対応に頼るのは,その不確実性からすれば危険であることを主張する。
(イ)

しかしながら,上記①の点については,新規制基準においては,重大
事故等対策について,常設設備を設置する場合には設計する際に必ず設計上の想定を定めなければならず,設計上の想定を超えた場合の効果が限定される可能性があるため,常設設備による対策に依存し過ぎると,想定を超えた事象に対処することが困難になる可能性があり,他方で,可搬型設備の場合,例えば,想定していた配管が使えなくなった場合でも,他の配管への接続を試みることができるなどの柔軟性があり,接続に要する時間は接続手法の改善で短縮が見込める上,作業環境も接続場所の分散などによって選択肢を広げる等の対策が可能となること,可搬
型設備は,常設設備に比べ,経験則的に耐震上優れた特性が認められること(可搬型設備について,加振試験などによる耐震評価を行うことも求められる。から,

可搬型設備による対策を基本とすることとされた。
そして,事故発生の早い段階で機能することが必要と考えられる原子炉冷却材圧力バウンダリ低圧時の冷却設備,電源設備には,常設代替設備
も要求するなどにより,可搬型設備を基本としつつ,常設設備も組み合わせることにより,信頼性の向上を図ることとされている。(乙21〔154,155頁〕,109〔161,162頁〕)
このように,新規制基準においては,可搬型設備の利点を生かしてこれを重大事故等対策の基本としつつ,事故発生後の対応すべき段階により,常設設備も組み合わせることとされているのであり,その内容が不合理なものということはできない。

(ウ)

また,上記②の点については,債務者において,重大事故等が発生し
た場合の対応について,手順書や体制,設備等を整備し,様々な訓練を繰り返し行い,重大事故等の混乱の中でも可搬型設備を用いるなどして迅速かつ適切に対応できるように備えており(乙2の8),これらの点に加え,上記(イ)で説示したとおり可搬型設備に利点があることも踏まえる
と,可搬型設備を基本とする重大事故等対策を講ずることが不合理であるということはできない。
(エ)

したがって,債権者らの上記主張を採用することはできない。

まとめ
以上検討したところによれば,債権者らの主張を踏まえても,重大事故
等対策として可搬型設備を基本としていることに関し,新規制基準の内容並びに原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程等に不合理な点があるということはできない。

使用済燃料ピットの危険性について

新規制基準の定め(乙21〔177~187頁〕,45〔11~14,34~36,107~108頁〕,109〔193~203頁〕)
(ア)

設置許可基準規則は,発電用原子炉施設には,使用済燃料の貯蔵施設
を設けることを求め,その具体的な設計に対して,使用済燃料が臨界に達するおそれがないものとすること(16条2項1号ハ),使用済燃料からの放射線に対して適切な遮蔽能力を有するものとすること(同項2号イ)貯蔵された使用済燃料が崩壊熱により溶融しないものであって,,
最終ヒートシンクへ熱を輸送できる設備及びその浄化系を有するものとすること(同号ロ)などの事項を要求する。また,使用済燃料の貯蔵施設は,設計基準対象施設であり,安全機能を有することから安全施設に区分され,地震による損傷の防止(設置許可基準規則4条),津波による損傷の防止(同5条),外部からの衝撃による損傷の防止(同6条)などの設計基準対象施設や安全施設に係る事項も要求している。
(イ)

また,設置許可基準規則は,重大事故等対処施設として,発電用原子
炉施設には,①使用済燃料ピットの冷却機能又は注水機能が喪失し,又は使用済燃料ピットからの水の漏えいその他の要因により当該使用済燃料ピットの水位が低下した場合において貯蔵槽内燃料体等を冷却し,放射線を遮蔽し,及び臨界を防止するために必要な設備を設けるとともに(54条1項),②使用済燃料ピットからの大量の水の漏えいその他の要因により当該使用済燃料ピットの水位が異常に低下した場合において貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷の進行を緩和し,及び臨界を防止するた
めに必要な設備を設けなければならない(同条2項)と規定している。さらに,設置許可基準規則は,外部電源が利用できない場合においても使用済燃料ピットの温度,水位その他の発電用原子炉施設の状態を示す事項を監視することができるものとすることを要求している(16条3項2号)。

そして,設置許可基準規則解釈においては,上記①の設備とは,㋐代替注水設備として,可搬型代替注水設備(注水ライン及びポンプ車等)を配備すること,㋑代替注水設備は,設計基準対象施設の冷却設備及び注水設備が機能喪失し,又は小規模な漏えいがあった場合でも,使用済燃料ピットの水位を維持できるものであることの各措置又はこれらと同
等以上の効果を有する措置を行うための設備をいい,
上記②の設備とは,
㋒スプレイ設備として,可搬型スプレイ設備(スプレイヘッダ,スプレイライン及びポンプ車等)を配備すること,㋓スプレイ設備は,代替注水設備によって使用済燃料ピットの水位が維持できない場合でも,燃料損傷を緩和できるものであること,㋔燃料損傷時に,できる限り環境への放射性物質の放出を低減するための設備を整備することの各措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいうとされて
いる。さらに,上記各設備として,使用済燃料ピットの監視は,㋕使用済燃料ピットの水位,水温及び上部の空間線量率について,燃料貯蔵設備に係る重大事故等により変動する可能性のある範囲にわたり測定可能であること,㋖これらの計測設備は,交流又は直流電源が必要な場合には,代替電源設備からの給電を可能とすること,㋗使用済燃料ピットの
状態をカメラにより監視できることによることとされている。(乙45〔107,108頁〕)

債務者の評価
債務者は,上記ア(イ)の要求事項に対応するため,上記㋐について,使用済燃料ピットへの代替注水のため,使用済燃料ピット補給用水中ポンプ等
を新たに整備した。また,上記㋒及び㋔について,使用済燃料ピットへのスプレイ注水及び燃料取扱棟への放水砲等による放水のため,可搬型ディーゼル注入ポンプ,移動式大容量ポンプ車,放水砲等を新たに整備した。さらに,上記㋕及び㋗について,使用済燃料ピットの状態監視のため,使用済燃料ピット水位計(SA),使用済燃料ピット水位計(広域),使用
済燃料ピット温度計(SA),使用済燃料ピット周辺線量率計,使用済燃料ピット状態監視カメラを新たに整備することとした。乙2の9336~344(

頁〕)

原子力規制委員会の審査
原子力規制委員会は,上記イの債務者の評価について,使用済燃料ピットの冷却等のために債務者が計画する設備及び手順等が,前記ア(イ)記載の要求事項に対応し,かつ,適切に整備される方針であることから,設置許可基準規則54条等に適合するものと判断した。
(乙2の9
〔336~344頁〕


債権者らの主張の検討
(ア)

債権者らは,使用済燃料ピットについて,①堅固な施設により囲い込
む対策が講じられるべきであること,②使用済燃料貯蔵施設の冷却設備及び計測装置の耐震重要度分類がSクラスとされるべきであるのに,それぞれBクラス又はCクラスにとどめられていること,③使用済燃料が稠密な形で入れられており危険であること,④使用済燃料貯蔵施設への直接注水系が確保されていないことを指摘して,
危険である旨主張する。

(イ)

そこで順に検討すると,まず,上記①の点については,使用済燃料の
貯蔵施設においては,放射性物質を閉じ込める役割を果たす燃料被覆管の健全性を維持するため,使用済燃料の貯蔵槽の水位,水温,放射線量の監視,制御が求められており,臨界の防止,冠水状態の維持による遮へい能力の確保及び崩壊熱の除去を行うことにより,放射性物質が放出されるような事態が考えられないということができる
(乙2の9336~344

頁〕)。そうすると,上記使用済燃料の冠水状態を維持するための設備の耐震安全性等が確認されている限り,使用済燃料ピットを堅固な施設により囲い込んでいなくとも,その安全性を直ちに欠くことにはならないというべきである。

(ウ)

次に,上記②の点については,使用済燃料ピットの冷却系及び計装系
の耐震重要度の分類の引上げをしていないことが不合理であるといえないことは,前記
(エ)

で説示したとおりである。

また,上記③の点については,証拠(乙46)によれば,債務者は,
使用済燃料貯蔵設備について,ほう素濃度を本件3号機については3100ppm,本件4号機については2500ppm以上のほう酸水で満たし,定期的にほう素濃度を分析することとしており,設備容量分の燃料収容時に,ほう酸水ではなく,純水で満たされた場合を想定しても,実効増倍率が0.98以下で,十分な未臨界性を確保できる設計としていることが認められ,本件各原子炉施設の使用済燃料ピットの設備容量には,十分な余裕があるということができる。そうすると,本件各原子炉施設の使用済燃料ピットについて,債権者らの指摘するような使用済
燃料の密度の点で,安全性を損なう設計がされているということはできない。
(オ)

さらに,上記④の点については,証拠(乙2の9〔336~344頁〕,78
の18~23,79の16~21)及び審尋の全趣旨によれば,本件各原子炉施設の使用済燃料ピット及び使用済燃料ピット水補給設備等の安全性につい
て,地震等に対する耐震安全性が確保されていることが確認されていることに加え,本件各原子炉施設においては,こうした注水機能が喪失した場合に備え,代替注水のための使用済燃料ピット補給用水中ポンプ等の新たな設備が整備され,その際,同ポンプ等は,水中ポンプ用発電機から給電可能であり,淡水又は海水を補給できる中間受槽を水源とする
ことで,設計基準対象施設の注水設備である燃料取替用水ポンプ等に対して多様性を有し,また,これらのポンプを離れた位置に分散して保管することで位置的分散を図る設計とされていることが認められる。このように,使用済燃料ピットへの注水方法には多様な方法が確保されているのであり,この点に安全性を欠く点があるということはできな
い。
(カ)

したがって,債権者らの上記主張を採用することはできない。

まとめ
以上検討したところによれば,債権者らの主張を踏まえても,使用済燃
料ピットの安全性確保に係る対策に関し,新規制基準の内容並びに原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程等に不合理な点があるということはできない。


免震重要棟の不設置について

新規制基準の定め(乙45〔68,118頁〕)
設置許可基準規則は,
発電用原子炉を設定する工場又は事業所
(工場等)
には,一次冷却系統に係る発電用原子炉施設の損壊その他の異常が発生し
た場合に適切な措置をとるため,緊急時対策所を原子炉制御室以外の場所に設けなければならないと規定し
(34条)この緊急時対策所について,

重大事故等が発生した場合においても当該重大事故等に対処するための適切な措置が講じられるようにするための要件を規定している(61条)ところ,設置許可基準規則解釈においては,同条1項及び2項の要件を満た
す緊急時対策所とは,
基準地震動による地震力に対し,
免震機能等により,
緊急時対策所の機能を喪失しないようにする措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備を備えたものをいうとされている。イ
債権者らの主張の検討
この点について,債権者らは,上記設置許可基準規則解釈の定める内容を根拠として,債務者が設置を予定している緊急時対策棟が免震構造を備えていないことを論難する。
しかしながら,設置許可基準規則解釈の上記定めが,その文言上,緊急時対策所に免震機能を要求していると直ちに認めることはできず,設置許
可基準規則解釈の上記定めを前提とすれば,債務者が設置を予定している緊急時対策棟が,免震機能と同等の高い耐震安全性を備え,緊急時対策所の機能が重大事故等の発生時においても維持されることが確保されているのであれば,重大事故等の対策として特に不備があるということはできない。

そして,債務者は,緊急時対策棟について,基準地震動に対する耐震性及び放射線の遮へい機能を有するコンクリート造りの建屋とすることとし,耐震構造であっても,免震構造と同様に,基準地震動に対して建屋を弾性範囲内に収めることにより,建屋の構造体全体の信頼性を確保することとしていること(乙2の9〔391~400頁〕,審尋の全趣旨)を踏まえると,債務者が設置を予定する緊急時対策棟に重大事故等対策の不備があるということはできない。

したがって,債権者らの上記主張を採用することはできない。


放射性物質抑制対策の不備について

新規制基準の定め(乙45〔109頁〕)
設置許可基準規則は,発電用原子炉施設には,炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷に至った場合にお
いて工場等外への放射性物質の拡散を抑制するために必要な設備を設けなければならないと規定し(55条),設置許可基準規則解釈において,上記必要な設備とは,①原子炉建屋に放水できる設備を配備すること,②放水設備は,原子炉建屋周辺における航空機衝突による航空機燃料火災に対応できること,③放水設備は,移動等により,複数の方向から原子炉建屋
に向けて放水することが可能なこと,④放水設備は,複数の発電用原子炉施設の同時使用を想定し,工場等内発電用原子炉施設基数の半数以上を配備すること,⑤海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備することの各措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいうものとされている。


債務者の評価(乙2の12,80の1・2)
(ア)

債務者は,
新規制基準における上記ア記載の要求事項に対応するため,

上記①の措置について,放水設備を用いた屋外から原子炉格納容器及びアニュラス部(以下「原子炉格納容器等」という。)又は原子炉周辺建屋のうち燃料取扱棟への放水のため,移動式大容量ポンプ車,放水砲等を重大事故等対処設備として新たに整備すること,上記⑤の措置について,原子炉格納容器等又は燃料取扱棟への放水による海洋への放射性物質の拡散の抑制のため,吸着剤,シルトフェンス及び小型船舶を重大事故等対処設備として新たに整備することとした。
(イ)

また,債務者は,上記②から④までの各措置について,㋐移動式大容
量ポンプ車及び放水砲は,
海を水源とし,
車両等により運搬,
移動でき,

複数の方向から原子炉格納容器等又は燃料取扱棟に向けて放水できるとともに原子炉格納容器の最高点である頂部に放水できる容量を有する設計とし,また,移動式大容量ポンプ車は,本件3号機及び本件4号機の同時使用を想定し,1台で本件3号機及び本件4号機の両方に同時に放水できる容量を有するものを本件3号機及び本件4号機で1台,バック
アップ用として1台の合計2台保管し,放水砲は,本件3号機及び本件4号機の同時使用を想定し,本件3号機及び本件4号機それぞれ1台を保管することとした。次に,㋑移動式大容量ポンプ車及び放水砲による原子炉建屋周辺への泡消火は,泡消火薬剤と混合しながら原子炉建屋周辺に向けて放水できる設計とし,また,車両等により運搬,移動でき,
複数の方向から原子炉建屋周辺に向けて放水できる設計とすることとした。
さらに,
㋒海洋への放射性物質の拡散を抑制するシルトフェンスは,
設計場所に応じた高さ及び幅を有する設計とし,また,保有数は,6か所の設置場所に各2組(設置場所で異なるが,最大5本を1組とし,2組分では最大10本とバックアップ1本を保管)とすることとした。

原子力規制委員会の審査(乙2の12)
原子力規制委員会は,上記イ(ア)の対策が前記ア①及び⑤記載の要求事項に対応するものであることを確認し,また,債務者が上記イ(ア)の重大事故等対処設備について,前記ア②から④まで記載の要求事項に適合する設計
方針であることを確認した。また,原子力規制委員会は,債務者の計画において,移動式大容量ポンプ車,放水砲等により,原子炉格納容器等へ放水するための手順等について,重大事故等時に原子炉格納容器等への放水を的確かつ柔軟に対処できるように人員を確保するとともに必要な訓練を行うとしていること,ヘッドライト等により夜間等でのアクセス性を確保していること,無線通話装置(携帯型)等の必要な連絡手段を確保していること,移動式大容量ポンプ車等の移動,接続等を行う作業環境(作業空
間,温度等)に支障がないことなどを確認し,上記イ(ア)の設備を用いた手順等について,重大事故等防止技術的能力基準1.0項等に適合する手順等を整備する方針であることを確認した。

債権者らの主張の検討
(ア)

債権者らは,①放水砲については,可搬型設備である移動式大容量ポ
ンプ車を使用する点で,前記⑶記載の可搬型設備に関する問題点が当てはまること,②放水砲やシルトフェンスで放射性物質を捕捉することはできず,その効果は無きに等しいこと,③放水砲では,福島第一原発事故において放出された希ガスを捕捉することができないことを主張する。(イ)

そこで検討すると,まず,上記①の点については,可搬型設備を基本
とする重大事故等対策が不合理であるといえないことは,前記⑶イで説示したとおりであって,債権者らの主張は,その前提を欠くというべきである。
(ウ)
また,上記②の点については,前記ア記載のとおり,設置許可基準規
則においては,放射性物質の拡散抑制のための必要な設備の設置を求めており,その設備として,原子炉建屋に放水できる設備及び海洋への放射性物質の拡散抑制設備を求めるものと解されるところ,前記イ記載のとおり,債務者は,新規制基準の内容を踏まえ,原子炉建屋に放水できる設備として,移動式大容量ポンプ,放水砲等を整備するとともに,海
洋への放射性物質の拡散抑制設備として,吸着剤,シルトフェンス及び小型船舶を整備することとしたものである。
そして,証拠(乙80の1・2)及び審尋の全趣旨によれば,本件各原子炉施設に2台配備される放水砲については,可搬型のため,原子炉格納容器の破損箇所の状況に応じて設置位置を設定し,原子炉格納容器等に向けて放水することができること,放水砲による放水については,噴射ノズルを調整することにより,放水形状を噴霧状に調整することができるところ,微粒子状の放射性物質の粒子径は,0.1~0.5μmと考えられ,この粒子径の微粒子の水滴による除去機構は,水滴と微粒子の慣性衝突作用
(水滴径0.
3㎜φ前後で最も衝突作用が大きくなる。

によるものであり,噴霧放射を活用することで,その衝突作用に期待す
ることができることが認められる。こうした放水砲の設置状況や放射性物質の水滴による除去機構を考慮すれば,放水砲の設置が放射性物質の拡散の抑制対策として一定の効果を有するものと認めることができる。また,証拠(乙2の12)及び審尋の全趣旨によれば,シルトフェンスは,海水中に張ることにより,シルトフェンス内に拡散する汚泥水を滞
留させ,滞留した汚泥物質を凝固,沈殿させるものであり,放水砲による放水後の放射性物質の海洋への流出に対し,シルトフェンスを設置することにより,これを抑制することが期待できることが認められるのであり,シルトフェンスの設置が海洋への放射性物質の拡散抑制設備として一定の効果を有するものと認めることができる。
したがって,放水砲やシルトフェンスによる放射性物質の拡散の抑制
効果がないということはできない。
(エ)

そして,上記③の点については,上記(ウ)で認定した放水砲による放射
性物質の拡散抑制の一定の効果は,債権者らの指摘する福島第一原発事故において放出したとされる希ガスの量を考慮しても,直ちに否定されるものではないというべきである。
(オ)

したがって,債権者らの上記主張を採用することはできない。

まとめ
以上検討したところによれば,債権者らの主張を踏まえても,放射性物質拡散抑制対策に関し,新規制基準の内容並びに原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程等に不合理な点があるということはできない。
7
争点⑹(本件各原子炉施設に係る防災計画の合理性)について⑴

原子力防災対策に関する法規制等

原子炉等規制法及び設置許可基準規則の準則
原子炉等規制法全体としては,IAEAが示す深層防護のうち,第1層から第4層までの防護階層に関する事項については,原子力事業者等に対する事業の規制を通じて担保されており,設置許可基準規則においては,
深層防護の考え方
(前記前提事実⑹参照)
を踏まえ,
設計基準対象施設
(第
2章)と重大事故等対処施設(第3章)を区別し,前者においてIAEAの安全基準における第1層から第3層までの防護階層に相当する事項を規定し,
後者において同第4層の防護階層に相当する事項を規定するものの,同第5層の防護階層に相当する所内及び所外の緊急事態の対応に関する緊
急時計画等の整備等は要求事項とされていない。

災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法
そして,IAEAの安全基準における第5層の防護階層に関する事項については,我が国の法制度上,「災害」の一形態としての「原子力災害」
に関し,国,地方公共団体,原子力事業者等がそれぞれの責務を果たすこととされており,
災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法によって,
次のとおり措置されている。
(ア)

災害対策基本法
災害対策基本法は,国土並びに国民の生命,身体及び財産を災害から
保護するため,防災に関し,基本理念を定め,国,地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し,責任の所在を明確にするとともに,防災計画の作成,災害予防,災害応急対策,災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより,総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り,もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする法律であり(1
条),この場合の災害には,原子力災害が含まれる(2条1号,災害対策基本法施行令1条)。
そして,内閣府に置かれる中央防災会議は,防災に関する総合的かつ長期的な計画や防災業務計画及び地域防災計画において重点をおくべき事項等を定める防災基本計画を作成することとされている(災害対策基
本法11条,34条,35条)。
(イ)

原子力災害対策特別措置法
原子力災害対策特別措置法は,原子力災害の特殊性に鑑み,原子力災
害の予防に関する原子力事業者の義務等,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,原子炉等規制法,災害対策基本法その他原子力災害の防止に関する法律と相まって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害から国民の生命,
身体及び財産を保護することを目的とする法律である
(1条)

そして,原子力災害対策特別措置法において,「原子力災害」とは,
原子力緊急事態により国民の生命,
身体又は財産に生ずる被害をいい
(2
条1号),「原子力緊急事態」とは,原子力事業者の原子炉の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で当該原子力事業者の原子力事業所外へ放出された事態をいうものとされている(同条2号)。
(ウ)

a
国及び地方公共団体の防災計画等
国は,原子力災害対策特別措置法又は関係法律の規定に基づき,原子力災害対策本部の設置,地方公共団体への必要な指示その他緊急事態応急対策の実施のために必要な措置並びに原子力災害予防対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により,原子力災害についての災害対策基本法3条1項の責務を遂行しなければならないとされている(原子力災害対策特別措置法4条1項)。また,原子力規制委員会は,原子力事業者,国の各機関,地方公共
団体等による原子力災害対策の円滑な実施を確保するための指針(原子力災害対策指針)を定めることとされている(同法6条の2)。そして,内閣に,原子力防災会議を置くこととされ(原子力基本法3条の3),原子力防災会議において,原子力災害対策方針に基づく施策の実施の推進その他の原子力事故が発生した場合に備えた政府の
総合的な取組を確保するための施策の実施の推進,及び原子力事故が発生した場合において多数の関係者による長期にわたる総合的な取組が必要となる施策の実施の推進をつかさどるものとされている(同法3条の4)。
b
地方公共団体は,原子力災害対策特別措置法又は関係法律の規定に基づき,原子力災害予防対策,緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により,原子力災害についての災害対策基本法4条1項及び5条1項の責務を遂行しなければならないとされている(原子力災害対策特別措置法5条)。

そして,都道府県に置かれる都道府県防災会議は,原子力災害についても,防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づく都道府県地域防災計画を作成することとされており(原子力災害対策特別措置法28条,災害対策基本法14条,40条),この地域防災計画として,PAZ及びUPZ圏内の住民の避難に係る広域避難計画の作成等を行
っている。
また,市町村に置かれる市町村防災会議(市町村防災会議を設置しない市町村にあっては,当該市町村の市町村長)は,原子力災害についても,防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づく市町村地域防災計画を作成することとされており(原子力災害対策特別措置法28条,災害対策基本法16条,42条),この地域防災計画として,広域避難計画にのっとったPAZ及びUPZの設定に基づく避難計画の
作成等を行っている。
(エ)

原子力事業者の防災計画
他方で,原子力事業者は,原子力災害対策特別措置法又は関係法律の
規定に基づき,原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに,原子力災害の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し,誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する
(原子力災害対策特別措置法3条)

また,原子力事業者は,その原子力事業所ごとに,当該原子力事業所における原子力災害予防対策,緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策その他の原子力災害の発生及び拡大を防止し,並びに原子力災害の復
旧を図るために必要な業務に関し,原子力事業者防災業務計画を作成する等しなければならず(原子力災害対策特別措置法7条1項),その原子力事業者ごとに,原子力防災組織を設置しなければならず(同法8条1項),その原子力事業所において基準以上の放射線量が検出される等の事象が発生したときは,直ちに,原子力事業者防災業務計画の定める
ところにより,当該原子力事業所の原子力防災組織に原子力災害の発生又は拡大の防止のために必要な応急措置を行わせなければならず(同法25条1項),原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間においては,法令,防災計画,原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより,緊急事態応急対
策を実施しなければならない(同法26条2項)とされている。
そして,内閣総理大臣及び原子力規制委員会は,原子力事業者が同項の規定に違反していると認めるとき,又は原子力事業者防災業務計画が当該原子力事業所に係る原子力災害の発生若しくは拡大を防止するために十分でないと認めるときは,原子力事業者に対し,原子力事業者防災業務計画の作成又は修正を命ずることができ(原子力災害対策特別措置法7条4項),原子力事業者である発電用原子炉設置者が同項の規定に
よる命令に違反した場合,原子力規制委員会は,設置許可の取消し又は1年以内の期間を定めて発電用原子炉の運転の停止を命ずることができるとされている(原子炉等規制法43条の3の20第2項22号)。(オ)

原子力災害対策についての関係機関の連携等
国,地方公共団体,原子力事業者等は,原子力災害予防対策,緊急事
態応急対策及び原子力災害事後対策が円滑に実施されるよう,相互に連携を図りながら協力しなければならないこととされている(原子力災害対策特別措置法6条)。そして,原子力災害対策については,防災に関する国の方針について,災害対策基本法に基づき中央防災会議が策定する「防災基本計画(原子力災害対策編)」(同法34条1項)と,原子
力災害対策に係る専門的,技術的事項に関し,原子力災害対策特別措置法に基づき原子力規制委員会が策定する原子力災害対策指針(同法6条の2第1項。乙5)により制度枠組みが設定されている。
ここで,原子力災害対策指針は,原子力規制委員会が,福島第一原発事故の経験を踏まえ,緊急事態における原子力施設周辺の住民等に対す
る放射線の影響を最小限に抑える防護措置を確実なものにすることを目的として策定したものであり,原子力事業者,国,地方公共団体等が原子力災害対策に係る計画を策定する際や当該対策を実施する際等における科学的,客観的判断を支援するものである。(乙5)


玄海地域における緊急時対応等について

玄海地域における緊急時対応
住民の避難計画を始めとする原子力防災対策を取りまとめた玄海地域における緊急時対応については,平成28年11月22日開催の第1回玄海地域原子力防災協議会(原子力防災会議の決定に基づき,内閣府政策統括官〔原子力防災担当〕が,県や市町村が作成する地域防災計画,避難計画等の具体化,充実化を支援するため,玄海地域の課題解決のために設置さ
れたワーキングチームであり,国の関係機関,佐賀県,長崎県及び福岡県を構成員とし,
関係市町及び債務者をオブザーバーとするもの)
において,
原子力災害対策指針等に照らし,その内容が具体的かつ合理的であると確認されて取りまとめられた。
そして,同年12月9日に開催された第8回原子力防災会議において,
上記協議会の確認結果が報告され,玄海地域における緊急時対応は,原子力災害対策指針に沿った具体的かつ合理的なものであるとして了承された。(乙6,7)

防災訓練の実施状況
平成28年10月10日,佐賀県,玄海町,唐津市及び伊万里市の地域
防災計画(原子力災害対策編)等に基づき,防災業務関係者の防災対策に対する習熟及び防災関係機関相互の連携協力体制の強化並びに地域住民の原子力防災意識の向上を図ることを目的として,
福岡県,
長崎県と連携し,
債務者も参加して,平成28年度の佐賀県原子力防災訓練が実施されるとともに,平成29年9月3日及び同月4日,国,地方公共団体及び債務者
等による平成29年度原子力総合防災訓練が実施された(乙99から103まで)。

安定ヨウ素剤の服用の体制整備
原子力災害対策指針は,放射性ヨウ素による内部被ばくのおそれがある
場合には,安定ヨウ素剤を服用できるよう,その準備をしておくことが必要であるとして,PAZにおいては,全面緊急事態に至った場合,避難を即時に実施するなど予防的防護措置を実施することが必要となるところ,この避難に際して,安定ヨウ素剤の服用が適時かつ円滑に行うことができるよう,平時から地方公共団体が事前に住民に対し安定ヨウ素剤を配布することができる体制を整備する必要があるとするとともに,UPZにおいては,全面緊急事態に至った場合,プラント状況や空間放射線量率等に応
じて,避難等の防護措置を講ずることとなるため,避難等と併せて安定ヨウ素剤の服用を行うことができる体制を整備する必要があると定めている。(乙5〔48~50頁〕)

本件各原子炉施設の防災計画の検討

前記2から6までにおいて検討したとおり,債務者は,本件各原子炉施設について,IAEAが示す深層防護のうち,第1層から第4層までの防護階層に関する事項について,自然的立地条件に係る安全確保対策及び事故防止に係る安全確保対策を講ずるとともに,重大事故等対策を充実させており,本件各原子炉施設の安全性が疎明されていることからすれば,炉心が著しく損傷し,放射性物質の異常な放出に至る具体的な危険性がある
とは認められず,そのような事態は容易に想定し難い。

また,
前記⑴で概観した原子力防災対策に関する法令の規定からすれば,原子力災害の発生の防止及び拡大の防止等について原子力事業者は第一次的な責務を負うものの,当該原子力事業所周辺の住民の生命又は身体を原
子力災害から保護するための避難等の発電所外における災害対策は,市町村,都道府県及び国(原子力防災会議,原子力災害対策本部)が担うものとされ,このうち周辺住民の避難等については,避難計画の作成及び避難の勧告又は指示を含めて,基本的に市町村の責務とされているということができる。

さらに,これらの発電所外における災害対策については,発電用原子炉の設置,運転等に関する規制の対象とされず,前記のとおり,原子力規制委員会は,原子力災害対策指針を定めるほか,内閣総理大臣と共に原子力事業者による原子力事業者防災業務計画の作成等を規制する権限等を有するにとどまり,その趣旨としては,原子力規制委員会にその専門的,科学的な観点から関与させることとしたものと解される。

そして,以上のような本件各原子炉施設の安全性の確保の状況及び現行法の制度を前提として,玄海地域における緊急時対応が,玄海地域原子力防災協議会及びその結果の報告を受けた原子力防災会議において,原子力災害対策指針等に照らし,
その内容が具体的かつ合理的なものと確認され,
了承されたものである上(前記⑵ア参照),債務者が,国や地方公共団体と連携して,原子力防災訓練を毎年実施するなどして,避難計画に対する
支援体制の強化を図っており(前記⑵イ参照),今後も,国や地方公共団体の要望等も踏まえ,避難計画を含む緊急時対応の実効性の向上に寄与すべく,取組内容の一層の改善,充実に努めることとしていることを考慮すると,本件各原子炉施設に係る防災計画は,債権者らが指摘する前記第2の4⑹(債権者らの主張)記載の点を踏まえても,その具体的内容に不適
切な点があるということはできない。


まとめ
したがって,本件各原子炉施設について,避難計画の点をもって,債務者による周辺住民等の人格権に対する違法な侵害行為のおそれがあるということはできず,債権者らの上記主張を採用することはできない。

第4

結論
以上によれば,債務者において,本件各原子炉施設の安全性について相当の根拠,
資料に基づき疎明したということができ,
債権者らの疎明を検討しても,
本件各原子炉施設の安全性に欠けるところがあるとは認められないから,債務
者が本件各原子炉施設を運転することにより,債権者らの人格権を侵害するおそれがあるとは認められず,本件申立てに係る被保全権利の疎明があるということはできない。
よって,本件申立ては理由がないからこれを却下することとし,主文のとおり決定する。
平成30年3月20日
佐賀地方裁判所民事部
裁判長裁判官


裁判官

立不破大輔
裁判官

久保雅志毅
(別紙1)
当事者目録代理人目録
(掲載しない。)
(別紙2)
(掲載しない。)
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