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原子力発電所設置許可処分取消等請求事件 大間原子力発電所建設・運転差止等請求事件 原子力発電所建設・運転差止等請求事件
事件番号平成22(行ウ)2
事件名原子力発電所設置許可処分取消等請求事件 大間原子力発電所建設・運転差止等請求事件 原子力発電所建設・運転差止等請求事件
裁判年月日平成30年3月19日
法廷名函館地方裁判所
結果棄却
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,全事件を通じ原告らの負担とする。
事実及び理由
第1章請求
1
被告電源開発*は,別紙1の1から別紙1の9までの各記載第1の各原告に対
する関係で,青森県下北郡大間町において,経済産業大臣の平成20年4月23日付け許可に係る大間原子力発電所を建設し,運転してはならない。2
被告らは,別紙1の1記載第1の各原告及び別紙1の2から別紙1の9まで
記載の各原告に対し,連帯して各3万円を支払え。
3被告電源開発は,別紙1の1記載第2の各原告に対し,各3万円を支払え。第2章事案の概要
第1請求の概要
本件は,被告電源開発が経済産業大臣の平成20年4月23日付け設置許可処分(本件設置許可処分*)に基づき青森県下北郡大間町に建設に着手した大間原子力発電所(本件原発*)について,原告らのうち別紙1の1から別紙1の9までの各記載第1の原告66名が,被告電源開発に対し,人格権に基づく侵害予防として,本件原発の建設及び運転の差止めを求めるとともに,原告ら1164名が,被告らに対し(ただし,別紙1の1記載第2の原告143名については,被告電源開発のみに対し)
,本件原発の危険性に対する不安のため甚大な精神的苦痛を受
けているなどとして,被告電源開発に対しては不法行為に基づき,被告国に対しては国賠法*1条1項に基づき,慰謝料各1000万円の一部請求として各3万円の連帯支払を求めた事案である(以下,原告らについては,特に断らない限り,事件・請求ごとに区別せず単に「原告ら」と総称する。。

なお,第1事件のうち本件設置許可処分の取消しの訴えに係る部分は,取下げにより終了した。

第2前提事実
1当事者
(1)原告ら
原告らは,函館市及び青森県を始めとする北海道から沖縄県までの日本全国各地に居住している者である。
(2)被告電源開発
被告電源開発は,昭和27年9月16日,我が国の電力需要の増加に対応するため,電源開発(水力又は火力による発電のため必要なダム,水路,貯水池,建物,機械,器具その他の工作物の設置若しくは改良又はこれらのため必要な工作物の設置若しくは改良をいう。後に原子力による発電も加えられた。
)を目的として,電源開発促進法(同年法律第283号)13条以下の規定に基づき,政府が発行済み株式総数の2分の1以上を出資する特殊会社として設立された株式会社である。ただし,平成15年法律第92号により電源開発促進法が廃止され,平成16年に株式が証券取引市場に上場されて政府が保有していた株式が全て売却されたことにより,現在は完全民営化している。
被告電源開発は,これまで,大規模水力発電所,石炭火力発電所等を開発,保有するのみならず,地域間の電力連系設備を整備するなどしてきた。ただし,原発*については,本件原発が初めて建設するものである。
2本件原発に係る安全審査の経緯
(1)本件原発の設置許可申請
被告電源開発は,平成16年3月18日,旧原子炉等規制法*23条1項1号に基づき,経済産業大臣に対し,本件原発に係る原子炉設置許可申請(本件設置許可申請*)を行い,平成17年6月3日,平成18年2月17日,同年10月24日,平成19年3月28日及び平成20年3月17日に,それぞれ申請内容を一部補正した(乙イ5の1から6まで,乙イ6)


(2)安全審査等
旧原子炉等規制法において,経済産業大臣は,原子炉設置許可をするに当たり,同法24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)
の各要件への適合性については,原子力委員会の意見を聴かなければならないものとされ,同項3号(技術的能力に係る部分に限る。
)及び4号の各要件
への適合性については,安全委員会*の意見を聴かなければならないものとされていた(同条2項)

安全委員会は,平成18年9月19日,原子炉設置に係る安全審査のうち,基準地震動*の策定等に関して,
「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指
針」と題する指針(旧耐震設計審査指針*)を全面的に見直し,新たな指針(新耐震設計審査指針*。別紙3の1記載(5))を策定した。
本件設置許可申請に係る地震動評価等に関しては,この新耐震設計審査指針に基づく安全審査が実施された。
(3)本件原発の設置許可処分
経済産業大臣は,平成20年4月23日,本件設置許可申請について,許可処分(本件設置許可処分)をした(乙イ29)

(4)本件原発の工事計画認可処分
被告電源開発は,平成20年4月24日,経済産業大臣に対し,旧電気事業法*47条1項に基づき(旧原子炉等規制法73条により,実用発電用原子炉については,同法27条の適用が除外され,旧電気事業法に基づく規制がされていた。,本件原発の工事計画認可申請(第1回)を行い,平成20年)
5月27日,同申請に係る認可(本件工事計画認可処分*)を受けた。被告電源開発は,同月28日(第2回)
,平成21年2月17日(第3回)

同年8月10日(第4回)
,同年11月16日(第5回)及び平成22年4月
13日(第6回)にもそれぞれ本件原発設置の工事計画認可申請をし,申請内容の一部について補正を行うなどした後,同年12月24日までの間に,
いずれの申請についても経済産業大臣から認可処分(本件工事計画認可処分)を受けた(乙イ30の1から14まで,乙イ31の1から6まで,乙ロD9)。
(5)本件原発の建設工事
被告電源開発は,平成20年5月27日以降,本件工事計画認可処分を受けて,主要建屋の建設や主要機器の製作を開始した。しかし,平成23年3月11日,東北地方太平洋沖地震*が発生し,同地震とこれに伴う津波により,東京電力*福島第一原発*において,全電源喪失に至り,放射性物質を閉じ込める格納容器の破損が生じるなどした事象(福島原発事故*)が発生したことを受けて,本件原発の本体の建設工事を一旦休止した。
(6)原子炉等規制法*の改正等
福島原発事故を契機に,平成24年6月27日,規制委員会設置法*が新たに制定される(同年9月19日施行)とともに,原子炉等規制法も改正され(改正原子炉等規制法*。同日から平成25年12月18日までに4段階で施行された。,これにより,原子炉設置の許可を規制委員会*が行うこととなっ)
た。
すなわち,発電用原子炉を設置しようとする者は,改正原子炉等規制法43条の3の5第1項により,規制委員会の原子炉設置許可を受けなければならないものとされ,原子炉設置許可を受けた者(発電用原子炉設置者)が,当該原子炉及びその附属設備の位置,構造及び設備を含む同法43条の3の5第2項2号から5号まで又は8号から10号までに掲げる事項を変更しようとするときにも,同法43条の3の8第1項により,規制委員会の設置変更許可を受けなければならないものとされた。
また,改正原子炉等規制法においては,発電用原子炉設置者が発電用原子炉施設の設置又は変更の工事をしようとする場合は,改正原子炉等規制法43条の3の9第1項に基づき,工事に着手する前に,工事の計画について規制委員会による認可を受けなければならず,同認可に基づき工事した発電用
原子炉施設は,同法43条の3の11第1項に基づき,規制委員会の検査を受け,合格しなければ使用できないこととされている。
さらに,発電用原子炉設置者は,保安規定を定め,運転開始前に規制委員会の保安規定認可を受けなければならないとされている(同法43の3の24)

(7)安全審査に関する規制
新規制基準*とは


前記(6)のとおり,発電用原子炉を設置しようとする者は,規制委員会の設置許可を受けることを要するところ,改正原子炉等規制法第43条の3の6第1項4号により,規制委員会は,当該発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして規制委員会の規則で定める基準に適合するものであると認められない限り,その許可をしてはならないものとされている。また,当該規定は,規制委員会が前記(6)の設置変更許可をする場合においても準用されている(同法43条の3の8第2項)

これを受けて策定又は改正された原子力規制委員会規則,告示及び内規は,別紙2のとおりである。別紙2のうち原子力規制委員会規則の主要部分を含むこれらの一部は,平成25年7月8日に施行された。行政実務上,これら(別紙2記載(1)から(38)まで)を総称して,又は原子力規制委員会規則(別紙2記載(1)から(6)まで)のみを指し,若しくは行政手続法上の命令等に当たるもの(別紙2記載(1)から(15-2)まで)を指して,「新規制
基準」と呼称している。

従前の安全審査指針類について
規制委員会は,改正原子炉等規制法の第1段階目の施行時点(平成24年9月19日)で,実用発電用原子炉設置許可の審査基準につき,「核原料

物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等に基づく原子力規制委員会の処分に係る審査基準等(原規総発第120919127号)(乙イ」
D6)の別表中において,安全委員会(前身としての原子力委員会を含む。)
が策定してきた別紙3の1記載の安全審査指針類(平成24年審査基準等)を,原子炉設置許可の指針に用いることとしていた。
規制委員会は,改正原子炉等規制法の第3段階目の施行に伴い,平成25年6月19日付けで前記別表の改正(原規総発第1306193号)をし(同年7月8日施行)
,発電用原子炉設置許可の審査基準等につき,別紙
3の2記載の三つの規程(平成25年審査基準等)を用いることとした(乙イD14参照)
。この三つの規程のうち,設置許可基準規則の解釈*
(別紙3の2記載(3),別紙2記載(10))には,従来用いていた別紙3の1記載の安全審査指針類が一部引用されるなどしており,従前の安全審査指針類は,別紙3の2記載の平成25年審査基準等においても規制体系の一部を構成している。
(8)本件原発の設置変更許可申請
被告電源開発は,改正原子炉等規制法及び新規制基準の施行を踏まえ,平成26年12月16日,規制委員会に対し,同法43条の3の8第1項に基づき,本件原発の設置変更許可申請(本件設置変更許可申請*)をするとともに,同法43条の3の9第1項に基づき,本件設置変更許可申請に係る工事計画認可申請(平成26年工事計画認可申請*)をした(乙ロD1の1)。
現在までに,規制委員会は,これらの各申請に対する処分をしていない。3本件原発の現状等
(1)本件敷地*の位置・面積
本件原発の建設予定地(本件敷地)は,青森県下北郡大間町にあり,別紙4の1及び別紙4の2のとおり,下北半島北西端の大間崎付近西側海岸部,津軽海峡に面した場所に位置し,敷地面積は約130万㎡である。
(2)改良型沸騰水型原子炉
本件原発は,電気出力約138万3000kwの改良型沸騰水型原子炉(ABWR*)1基及びその附属施設から成る施設を予定している。(3)工事の大まかな進捗状況
本件原発は,現在,原子炉建屋,タービン建屋等の建屋の一部について建設工事が行われたが,燃料,圧力容器,タービン,発電機等の原発の主要な機器,施設等は,本件敷地内に搬入されていないか,又は未建設である(乙ロD10)

4原子力発電の仕組みと原子炉の種類等
(1)原子力発電の基本的な仕組み
1個の原子核が複数の原子核に分裂する現象を核分裂という。ウランやプルトニウムといった重い元素の同位体であるウラン235やプルトニウム239は,中性子を吸収して核分裂を起こしやすい性質を有している(これらの性質を有する原子核を,核分裂性核種という。。核分裂性核種の原子核は,)
核外から中性子を吸収して核分裂を起こすと,大きなエネルギーが発生するとともに放射性物質である核分裂生成物(ヨウ素131,キセノン133,クリプトン85,セシウム137等)と,二,三個の速度の速い中性子(これを高速中性子という。
)が生じる。この中性子の一部が他の核分裂性核種の
原子核に吸収されて次の核分裂を起こし,連鎖的に核分裂が持続される現象を,核分裂連鎖反応という。
なお,核分裂性核種の原子核が中性子を吸収して核分裂する確率は,速度が極めて遅い中性子(これを熱中性子〔サーマル・ニュートロン〕という。)
を吸収する場合に大きくなる。そのため,熱中性子を利用して核分裂連鎖反応を行わせる種類の原子炉では,高速中性子を減速材と呼ばれる物質(水,黒鉛等)に衝突させて熱中性子の速度まで減速させる手法が用いられている。また,核分裂を安定的に持続させるためには,核分裂を起こす中性子の数
を調整する必要があるため,制御材と呼ばれる中性子を吸収する物質(ホウ素,ハフニウム等)を用いて中性子の数を調整している。
原子力発電は,核分裂連鎖反応によって持続的に生じるエネルギーを熱エネルギーとして取り出し,その熱エネルギーによって蒸気を発生させ,蒸気の力によってタービンを回転させて発電するものである。
(2)原子炉の構成要素
原子炉は,核分裂連鎖反応によって発生する熱エネルギーを取り出し,その熱エネルギーによって蒸気を発生させる装置である。
原子炉を構成する基本的な要素は,①核分裂を起こして熱エネルギーを発生させる核燃料(燃料集合体)
,②核分裂によって発生する高速中性子を次の
核分裂を起こしやすい熱中性子の速度にまで減速させるための減速材,③核分裂で発生するエネルギーを外部に取り出すための冷却材(水,ヘリウムガス等)
,④核分裂により発生する中性子を吸収して核分裂連鎖反応を安定的に制御するための制御材(制御棒を含む。
)である。
(3)原子炉の種類
普通の水(これを,重水〔質量の大きい同位体の水分子を多く含む水〕と区別して,軽水ということがある。
)を減速材及び冷却材の両方に使用する原
子炉のことを,軽水型原子炉又は軽水炉という。
軽水炉には,原子炉の中で冷却材である軽水を沸騰させ,発生した蒸気を直接タービンに送って発電する沸騰水型原子炉(BWR*)と,原子炉の中で加圧して高温の水を作り,これを蒸気発生器に導き,別系統を流れる水を蒸気に変えてタービンに送る加圧水型原子炉(PWR*)と呼ばれる種類のものがある。このような発電の基本的仕組みは,別紙5に図示するとおりである。(4)BWRを採用する原子炉施設の基本構造
BWRを採用する原子炉施設では,鉄筋コンクリート造の原子炉建屋内に格納容器や使用済燃料貯蔵槽(プール)が設置される。そして,格納容器の
内部に,高温・高圧に耐えられる縦置き円筒型の圧力容器が設置され,また,原子炉冷却設備が設けられる。
圧力容器の中に炉心が収められる。炉心は,原子炉の出力を担う燃料集合体と,原子炉の出力調整や停止等を担う制御棒とから構成されている。圧力容器の中には,炉心を取り囲むような形で,シュラウドというステンレス鋼製の円筒状の構造物や,気水分離器,蒸気乾燥器等が設けられる。(5)ABWRの従来型BWRからの変更点
沸騰水型原子炉(BWR)の中には,別紙6のとおり,従来型のものと比較して以下の点を変更した改良型沸騰水型原子炉(ABWR)と呼ばれるものがある。

圧力容器内の冷却材を再循環ポンプにより循環させる設備(これを原子炉冷却材再循環系という。
)について,従来型BWRでは,圧力容器外部に
原子炉冷却材再循環配管と再循環ポンプを設けていたが,ABWRでは,圧力容器に内蔵する再循環ポンプ(インターナルポンプ)を設けている。

格納容器について,従来型BWRでは,鋼製格納容器を設けていたが,ABWRでは,原子炉建屋と一体化した鋼製ライナ張り鉄筋コンクリート製原子炉格納容器(RCCV)を設けている。


制御棒を炉心へ挿入・引抜きを行う装置(制御棒駆動機構)について,従来型BWRでは,水圧駆動形式であったが,ABWRでは,通常操作時は電動駆動であり,すべての制御棒を炉心に急速挿入して原子炉を緊急停止(スクラム*)するときは,水圧駆動形式としている(これを改良型制御棒駆動機構という。


5現時点の設計に係る本件原発の基本構造
(1)燃料集合体
本件原発の原子炉(本件原子炉*)では,核燃料として燃料集合体を使用する。粉末状の二酸化ウラン又はMOX*(二酸化プルトニウムと二酸化ウラン
との混合物)を円筒状に焼き固めたものを燃料ペレット*(ウランペレット又はMOXペレット)といい,これを燃料被覆管と呼ばれる長さ約4mのジルカロイ製のさやに充填した円柱棒状のものが燃料棒であり,燃料棒を正方格子状に配列して組み立てたものが燃料集合体である。
炉心には,燃料集合体が一定間隔で配置される。
(2)原子炉停止系(制御棒等及びホウ酸水注入系)
(乙ロD2〔8-3-37頁
以下〕

制御棒は,ステンレス鋼製のU字形のさや(シース)の中に中性子吸収材を収めて,当該U字形シースを十字形に組み合わせたものである。制御棒は,炉心から出し入れすることによって,核分裂を起こす中性子の数を調整して,原子炉の起動,停止や出力制御を行うものである。すなわち,炉心に一定間隔で配置された燃料集合体の間に制御棒を挿入することで,原子炉の出力は減少し,原子炉の停止が可能となり,炉心から制御棒が引き抜かれることで,原子炉の出力は上昇し,原子炉の起動が可能となる(ただし,制御棒の出し入れのみによって出力制御等を行うものではない。。)
また,制御棒が炉心に挿入不能となって原子炉の停止ができなくなった場合には,中性子吸収材(制御材)であるホウ酸水を炉心に注入して原子炉を停止させる装置(これをホウ酸水注入系という。
)が作動する。
(3)圧力容器
本件原子炉の圧力容器内部は,別紙7で図示するとおり,炉心(燃料集合体及び制御棒)を取り囲むような形で,シュラウドというステンレス鋼製の円筒状の構造物が設置され,炉心内の冷却材の流路を確保する機能を有する。シュラウドには上部格子板及び炉心支持板が固定され,これらによって炉心が支持される。
圧力容器の下部には,10台のインターナルポンプが取り付けられ,圧力容器底部には,改良型制御棒駆動機構が設置され,制御棒は原子炉の底の方から挿入する仕組みとなっている。
炉心周辺は,シュラウド内外含めて減速材兼冷却材である軽水で満たされており,上部格子板の更に上部には,炉心で蒸気となった軽水から乾燥蒸気を取り出すための気水分離器と蒸気乾燥器が設置される。
(4)原子炉冷却設備

主たる循環系
本件原発の運転時に,放射性物質を内部に保持させ,冷却材を循環させる機能を有する主蒸気管,タービン,復水器,給水管等から構成される循環系を,主たる循環系という。炉心で発生した乾燥蒸気は圧力容器上部に接続された主蒸気管を通ってタービンへ導かれ,蒸気と分離された水は,給水管から給水された冷却材と混合してシュラウド外部を下降して流れる。タービンに導かれた乾燥蒸気は,タービンを駆動した後に,海水が循環する細管が設置された復水器を通り,細管によって冷却・凝縮されて水に戻り,再び給水管を通って圧力容器内部に給水される。このような発電の仕組みを図示すると,別紙8のとおりである。


原子炉冷却材再循環系
圧力容器の下部に取り付けられる10台のインターナルポンプによって,シュラウド内外で軽水を循環させて炉心の熱を効率よく軽水に伝達させるとともに,冷却材の循環量を調節して原子炉出力が調整される。これを原子炉冷却材再循環系という。


除熱のための設備
除熱のための設備としては,主蒸気逃がし安全弁(格納容器内の主蒸気管に設けられた安全弁)や,熱交換器,ポンプ,計測制御装置等で構成される残留熱除去系及び原子炉補機冷却系がある。


非常用炉心冷却設備(ECCS*)
圧力容器に繋がる配管の破断等により冷却材が喪失し,圧力容器内の水位が低下するような異常事態(LOCA*)が発生した場合,冷却水を圧力容器内に注水して水位を回復・維持し,炉心の冷却を確保するための設備を,非常用炉心冷却設備(ECCS)という。
本件原発のECCSは,原子炉隔離時冷却系(原子炉がタービンや復水器から隔離された状態の場合に,自動的に復水貯蔵タンクの水及びサプレッションチェンバ〔格納容器の一部で,水を内部に蓄えた円筒形の部分〕内のプールの水を圧力容器内に給水する系統であり,その動力源を原子炉の蒸気の一部に求めるタービン駆動のポンプを有する設備)
,高圧炉心
注水系(高圧状態の原子炉に冷却水を供給する系統)
,低圧注水系(低圧状
態の原子炉に冷却水を供給する系統)等から構成される。このようなECCSの仕組みを図示すると,別紙9のとおりである。
(5)電源
本件原発の安全上重要な機能を有する設備に対しては,外部電源(送電系統又は所内主発電機によって本件原発機器に電力を供給する電源をいう。)又
は非常用電源設備により電力が供給される。
なお,主発電機,送電系統及び非常用ディーゼル発電機からの電力供給がすべて喪失した状態を,全交流電源喪失という。
(6)使用済燃料貯蔵槽
使用済燃料貯蔵槽(プール)は,原子炉建屋内に格納容器と一体となった構造で設置される,ステンレス鋼を内貼りした鉄筋コンクリート造の水槽である。本件原発の使用済燃料は,使用済燃料貯蔵槽の貯蔵ラックに挿入し,通常65℃以下に保たれたプール水に冠水した状態で貯蔵される。(7)格納容器及び原子炉建屋
本件原発においては,鋼製ライナを内貼りした鉄筋コンクリート製の原子炉格納容器(RCCV)を設ける。また,原子炉格納容器スプレイ冷却系及び格納容器内ガス濃度制御系が設置される。
格納容器の外側には原子炉建屋を設け,非常用ガス処理系を設ける。6MOX燃料について
(1)プルサーマル
原発の使用済燃料を再処理してプルトニウムやウラン等を回収し,これを原発の燃料として再利用することを,核燃料サイクルという。核燃料サイクルの一環として,プルトニウムとウランを混合した燃料であるMOX燃料を,従来のウラン燃料と同様に軽水炉において使用することを,プルサーマルという。
本件原子炉では,ウラン燃料とMOX燃料とを使用することを想定しており,運転開始後,段階的にMOX燃料装荷体数を増加させ,最終的に,全炉心にMOX燃料を装荷すること(フルMOX)を計画している。このことから,本件原発は,フルMOX-ABWRと呼ばれている。
(2)MOX燃料の性質(ウラン燃料との差異)
(乙ロA37)

ウラン燃料集合体は,二酸化ウランの粉末を焼き固めたものであり,核分裂性核種であるウラン235を約三,四%含み,その余が非核分裂性核種であるウラン238で構成されるウランペレットを使用したウラン燃料棒から構成されている。
他方,MOX燃料集合体は,二酸化プルトニウムと二酸化ウランとの混合物であるMOXの粉末を焼き固めたものであり,例えば,核分裂性核種であるウラン235及びプルトニウム239等を数%(最大で10%)含み,その余が非核分裂性核種であるウラン238及びプルトニウム240等で構成されるMOXペレットを使用した複数のMOX燃料棒とウラン燃料棒などから構成される。


前記のとおり,MOX燃料には,プルトニウムが含まれている。プルトニウムは,ウランと比較して,①熱中性子をより吸収しやすく,②非核分裂性プルトニウム(プルトニウム240等)は,ウラン238に比べて減速材との衝突により高速中性子から熱中性子へと減速する途中の中性子をより吸収しやすく,かつ,温度上昇に伴って吸収しやすくなるという特性を有している。
このような特性から,MOX燃料を装荷すると相対的に熱中性子が減少し,制御材に吸収される熱中性子も減少することになるため,制御棒を挿入した場合やホウ酸水注入系を作動した場合に起こる核分裂反応の変化は小さくなる(反応度価値は小さくなる。。


さらに,MOX燃料は,プルトニウムの含有に伴ってその物性等が変化する。ウラン燃料と比較した場合に差が生じる主な点としては,③プルトニウムの含有率の増加に従って,ペレットの融点及び熱伝導率が低下する。④燃焼度が高い場合には,MOX燃料の方がウラン燃料よりも放射性希ガス等の気体放出率が高い。また,⑤新燃料(使用済燃料と対比していう。)
では,放射線量(中性子線及びガンマ線の線量)もウラン燃料と比較して高い。そのほかに,⑥ペレット製造時に,母材であるウラン粉末と,加えるMOX粉末との混合が不十分であると,ペレット内のプルトニウム含有率の不均一が生じる可能性があり,局所的に出力分布に変化等が生じる可能性がある。

第3主な争点
1被告電源開発に対する差止請求について
(1)生命・身体への具体的危険性の判断の在り方(争点1)
(2)具体的危険性

その1-主に審査基準の合理性の問題(争点2)

(3)具体的危険性

その2-主に審査基準への適合性の問題


基準地震動の策定(争点3)


本件原発周辺の海底断層(争点4)


本件敷地内及びその周辺の断層(争点5)


本件敷地及びその周辺の地質,地盤(争点6)

火山対策(争点7)


津波対策(争点8)

(4)具体的危険性

その3-その他


立地審査指針適合性(争点9)


被告電源開発の技術的能力(争点10)


改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の構造(争点11)


フルMOX炉心(争点12)


使用済燃料貯蔵槽(争点13)

2被告電源開発に対する慰謝料請求について
(1)故意・過失(争点14)
(2)原告らの法益侵害及び損害の発生(争点15)
3被告国に対する慰謝料請求について
(1)本件設置許可処分の違法性等(争点16)
(2)不作為の違法性(争点17)
(3)原告らの法益侵害及び損害の発生(争点15)
第4争点に対する当事者の主張
1争点1(生命・身体への具体的危険性の判断の在り方)について(原告らの主張)
(1)差止めの要件について
個人の人格的利益のうち,生命,身体,名誉等の重大な保護法益が現に侵害され,又は将来侵害されようとしている場合には,これらの人格権に基づき,その侵害の排除又は予防のために,当該侵害行為の差止めを求めることができる。
(2)安全性について

高度の安全性
福島原発事故によって周辺地域に甚大な被害が生じたことからも明らかなように,原告らは,本件原発において重大な事故が発生すれば生命,身体に対する重大な被害を及ぼす放射線被ばくを受ける高度の危険にさらされている。大きな自然災害や戦争以外で,根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは,原発*による事故のほかには想定し難い。
したがって,原発には,絶対的安全性に準じる程度の高度の安全性を要求すべきであり,原発の差止訴訟においては,福島原発事故のような深刻な災害が起こる可能性が万が一でもあれば差止めが認められるべきである。イ
社会通念を基準とすることの誤り
これに対し,これまでの裁判例において,原発に求められる安全性については,
「被害発生の危険性を社会通念上無視し得る程度に小さいものに保つこと」とされてきた。しかし,
「社会通念」という文言は曖昧不明確で恣
意的に解釈される危険性が大きく,実質的には行政庁の判断や原発設置・運転事業者の主張を無批判に受容するための基準と化していたのであり,「社会通念」という基準では原発に求められる極めて高度な安全性を確保することはできない。


科学的,専門技術的知見と司法判断との関係
安全性の判断において,行政庁の専門技術的裁量を無批判に尊重するのは,福島原発事故後になされた一連の原子力関連法規の改正の経緯や趣旨からすれば,明らかな間違いである。
また,高度の専門技術的知見について,裁判所の判断能力には限界があるという指摘をされることもあるが,原告らが主張している事項の多くは,高度の専門技術的知見以前の問題であり,一般の経験則や基本的な科学技術的知識,知見に照らすだけで十分に判断可能な問題である。

(3)立証責任について
以上のとおり,原発には高度の安全性が求められることや,証拠の偏在等を考慮すると,具体的危険性の立証責任については,次のいずれかのアプローチにより,原告らの立証の負担が軽減されるべきである。
伊方原発最高裁判決*の考え方に従って立証責任を事実上転換し,被告電


源開発において,本件原発が絶対的安全性に準じる程度の高度の安全性を有していることを立証すべきである。


立証責任を転換しないとしても,原告らがすべき立証の程度を軽減し,原告らにおいて被告電源開発の安全設計,安全管理の方法に不備があり,原告らが許容限度を超える放射線被ばくをする具体的可能性があることを相当程度立証した場合には,被告電源開発において反証(許容限度を超える放射線被ばくの危険性が存在しないこと)を尽くさない限り,原告らが許容限度を超える放射線被ばくをする具体的危険が推認されると解すべきである。



前記(2)アの「深刻な災害が起こる具体的危険性が万が一でもあれば差止めが認められるべき」との考え方から,原告らが行うべき立証の命題を,「福島原発事故のような深刻な事態を招く具体的危険性が万が一でもあること」と修正すべきである。

(4)人格権侵害の具体的危険性について

居住地域との関係
被告電源開発は,原告らの中に本件原発から遠く離れた地に居住する者がいることを指摘するが,差止めの根拠が生命・身体の安全等を中心とする人格権という極めて重要な権利利益であるから,差止めを求め得る者の範囲は,最悪の事態を想定してできる限り広く解する必要がある。そして,本件原発において重大な事故が発生した場合,風向き等によっては,本件原発から1300km離れた地点(九州地方の北西部に達する。
)であって
も,チェルノブイリ原発事故*における放射線管理区域(一般人の立入りが制限される。
)に相当するレベルの汚染が生じ得るから,この範囲に居住す
る者は差止めを求めることができるというべきである。

本件原発が建設中(稼働前)であることとの関係
本件原発は本格的な工事が中止されており,現在,規制委員会が被告電源開発の本件設置変更許可申請を審査している段階にあって,規制委員会による処分は未だなされていない。しかし,そもそも,これまでの原子力規制行政が適切に機能してこなかったために福島原発事故が発生したのであり,本件原発についても,いずれは設置変更許可処分がなされる公算が大きいから,現時点で原告らの人格権侵害の具体的危険がないということはあり得ない。本件は,規制委員会の処分に係る行政訴訟ではなく,民事上の差止訴訟であるから,現時点で主張立証されている範囲で本件原発の安全性を検討すれば足りる。

(被告電源開発の主張)
(1)差止めの要件について
原発の運転等の差止請求は,発生が不確実な将来の侵害を根拠にせざるを得ないため広範にわたり易く,被告電源開発の権利行使を阻害するおそれも大きいものであるから,差止めが認められるには,侵害が現存するのに匹敵するような具体的危険性が発生していることが必要であり,具体的には,①生命・身体のような重大な保護法益が侵害され被害の発生する危険が切迫しており,②その侵害により回復し難い重大な損害が生ずることが明らかであって,③その損害が被告電源開発の被る不利益よりもはるかに大きな場合で,④差止め以外に代替手段がなく,差止めが唯一最終手段であることを要すると解するのが相当である。
(2)安全性について
原発差止訴訟においては,原発に内在する潜在的な危険を顕在化させないよう適切に管理できるかどうかが,具体的危険性の有無という形で判断されることになるのであって,抽象的,潜在的な危険性の存在のみをもって原発の利用を否定することは,現代社会における科学技術の利用そのものを否定することになり,相当ではない。
そして,原発が高度に科学的,専門技術的なものであり,原発の潜在的な危険を顕在化させないための各種の対策も科学的・専門技術的知見を踏まえて講じられるものである以上,この具体的危険性の有無の判断に際しては,科学的,専門技術的知見を踏まえることが不可欠である。伊方原発最高裁判決もこのような見地から判断している。同判決は,行政訴訟である原子炉等規制法に基づく設置許可処分の取消訴訟についての判決であるが,人格権に基づく原発差止訴訟であっても,原子炉施設の安全性が確保されているか否かという基本的な問題点は共通しており,判断に当たって科学的・専門技術的知見を踏まえる必要があるという点では何ら異ならない。
原告らは具体的危険性が万が一にもあることなどの立論をするが,実質的には,危険性の有無を,抽象的なそれの有無によって判断するものにほかならない。
(3)立証責任について
差止請求の要件を満たす事実,すなわち,本件原発の安全性に欠ける点があり,原告らの生命,身体に被害が及ぶ具体的危険が切迫していることなどの事実の立証責任は,差止請求権の発生をいう原告らが負うものである。原告らの主張する立証負担の軽減は,次のとおりいずれも理由がない。ア
原告らは,①伊方原発最高裁判決の考え方に従って立証責任を事実上転換すべきであると主張するが,同判決は,行政庁がした原子炉設置許可処分の取消訴訟について,行政庁の判断に不合理な点があることの主張立証責任が原告にあることを前提として,行政庁が自らの判断に不合理な点のないことを主張立証しなければ,当該判断に不合理な点があることが事実上推認される旨を判示したに過ぎず,立証責任の転換を認めたものではない。

原告らは,②原告らにおいて被告電源開発の安全設計,安全管理の方法に不備があり,原告らが許容限度を超える放射線被ばくをする具体的可能性があることを相当程度立証した場合には,被告電源開発において反証を尽くさない限り,原告らが許容限度を超える放射線被ばくをする具体的危険が推認されるべきと主張する。しかしながら,原告らの主張に沿う最高裁判例は存在せず,むしろ,最高裁は,後遺障害や負傷又は疾病という身体に対する具体的侵害が現実に発生している場面においてすら,因果関係に係る事実の証明に高度の蓋然性が必要であるとして立証の程度の軽減を認めておらず,本件のような具体的侵害が未だ発生していないうちにその予防を求める請求においてはなおさら,立証の程度の軽減を認める余地はない。


原告らは,③原告らにおいて福島原発事故のような深刻な事態を招く具体的危険性が万が一でもあることを立証すれば足りる旨を主張するが,前記(2)のとおり,かかる立論は,実質的に危険性の有無を抽象的なそれの有無によって判断するものにほかならない。

(4)人格権侵害の具体的危険性について

本件原発の建設によって生ずる具体的危険性が原告ら個々人についてど
のように生ずるのかについて個別具体的に明らかにすることが必要であるところ,原告らの主張によっても,原告ら個々人の生命・身体にいかなる危険が生ずるというのかについての個別的・具体的事実は何ら明らかではない。
特に,原告らのうちの相当数の者は,本件原発から遠く離れた地に居住地しているというのであるから,このような原告らに,本件原発に関連して生命・身体に被害の及ぶ具体的危険性は想定されないことが明らかである。

被告電源開発は,旧原子炉等規制法下において本件設置許可処分及び本件工事計画認可処分を受け,本件原発の建設工事に着手したが,福島原発事故を踏まえて強化された新規制基準下において,安全確保対策を強化し,本件設置変更許可申請を行い,現在,規制委員会において,同申請に係る適合性審査が行われているところである。被告電源開発は,同申請に係る設置変更許可並びに工事計画認可,工事計画変更認可,使用前検査及び保安規定認可等を受けた上で初めて,本件原発の運転を行うことができることとなる。このような経緯及び今後のプロセスからして,本件原発が安全性に欠けることなく建設され,運転されることは明らかである。
2争点2(審査基準の合理性の問題)について
(原告らの主張)
(1)新規制基準の策定過程の杜撰さ等
新規制基準を策定した当時の規制委員会の委員長である田中俊一委員長は,平成19年に政府の原子力推進機関である原子力委員会の委員長代理に就任するなど,原子力推進行政の中心を担ってきた人物である。委員長以外の委員4名のうち更田豊志委員及び中村佳代子委員は,委員候補者となった当時,原子力事業者の従業者であり,規制委員会設置法上の欠格事由に該当する。このように,委員長を含む5名の委員のうち3名が原発関連事業出身者であって,当時の規制委員会の人的構成は,規制委員会に求められた委員の基準に反するものである。
また,新規制基準には,地震の他に津波,竜巻,火山に関する基準も含まれるが,これらに対応する専門家は当時の委員には存在しなかった。後記7の原告らの主張のとおり,火山ガイド*は,噴火の時期や規模を予知できることを前提として策定された点などにおいて不合理であるが,これは,火山に関する専門家がいない中で策定されたという策定手続の杜撰さに起因するものである。
平成24年9月に発足した規制委員会は,同年10月以降,規則類の策定作業を開始し,平成25年7月までに合計49件の規則類(新規制基準)を策定した。平成18年9月に制定された新耐震設計審査指針が,旧耐震設計審査指針の改定にすぎないにもかかわらず,その1件の検討に5年の期間が掛けられたことと比べれば,新規制基準の検討期間が絶対的に足りなかったことは明らかである。
また,現在に至っても,福島原発事故の事故調査は尽くされておらず,福島原発事故の原因は未解明である。それにもかかわらず新たな規制基準を策定したとしても,その内容は十分なものとはいえない。
(2)深層防護の欠如

深層防護は,一般に,安全に対する脅威から人を守ることを目的として,ある目標を持った複数の障壁(防護レベル)を用意し,防護レベルを段階的に深化させていくことにより高度な安全性を達成する概念である。深層防護の考え方は,原発に特有のものではないが,原発については,事故被害の甚大性,事故想定や対策の不確かさなどから,深層防護の考え方が安全上,不可欠とされている。


福島原発事故の発生まで,被告国や電力会社は,原発について,①異常
の発生防止,②異常の拡大防止と事故への発展防止,③放射性物質の異常な放出の防止という3重の防護で安全が確保されているとしてきた。しかし,国際的基準は,これらに加えて,④シビアアクシデント*対策,⑤防災対策という5重の防護をとっていたのであり,福島原発事故発生までの安全対策は,明らかに不足していた。

新規制基準においては,④シビアアクシデント対策が規定されたが,後記(5)のとおり,対策として不十分である。
また,国際的基準では,原発事故による放射線被害を回避するため,緊急時計画の整備と適切な立地評価が設置許可の要件とされているが,新規制基準においては,⑤防災対策に関する規定は存在せず,福島原発事故で内容の不備が明らかになった立地審査指針*について,改定し適用することがされていない。また,原災法*に基づき策定された原子力災害対策指針(平成24年10月31日原子力規制委員会)は,緊急時の防災計画を建設,運転の許可条件としておらず,原発の緊急時対策を規制委員会が審査するという構造になっていない(後記(7),(8))

(3)共通要因故障
福島原発事故以前から,安全設計審査指針*において,重要な安全機能*

を有する系統,機器は,同一の機能を有する同一の性質の系統又は機器が複数ある(多重性*)か,同一の機能を有する異なる性質の系統又は機器が複数あること(多様性*)及び複数の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因*又は従属要因*によって,同時にその機能が阻害されないこと(独立性*)が要求されていた。すなわち,重要な安全機能を有する系統,機器は複数あり,一つの事故原因で同時に全ての安全機能が失われることがないことを前提に設計されていた。
そして,設計基準事故*では,一つの原因でその安全機能を有する複数の系統又は機器のうちの一つが故障することを仮定し(単一故障*の仮定),
その場合でも残りの系統又は機器で安全機能が確保されるような設計思想であった。これは,事故原因を内部事象に限って考え,単一故障の仮定で設計して安全性が確保されたものとし,自然現象に対しては別途基準を策定して,その設計基準として定めた自然現象内であれば安全性が確保されるものと考える二分法をとっていたことに基づく。
しかし,福島原発事故では,単一故障の仮定どおりに事は進まず,一つの原因で必要な安全機能が同時に全て故障した。これは,自然現象である地震及び津波が原因となって,設備の駆動源である非常用電源や最終的な熱除去を行う設備が働かなくなり,次に,これらの設備に依拠した複数の安全上重要な設備が全て機能を失うという,共通要因故障による事故として特徴づけることができる。
米国NRC*では,深層防護の観点から,全交流動力電源の同時機能喪失であるSBO*,原子炉保護系の同時機能喪失であるATWS*に対しても,事業者に設計上の対策を要求する規制要件が課されるようになった。したがって,深層防護の観点からは,共通要因故障の発生頻度が想定以上に高いこと,特に想定を超える外的事象が発生することも考慮して,共通要因故障を仮定した設計が要求される。
規制委員会の原子炉施設等基準検討チーム*は,福島原発事故の教訓とし

て,安全設備の多様性の不足を挙げ,
「現行の『多重性又は多様性』として
いる要求の『多様性』への変更の要否の検討」を提示したが,新規制基準において,このような変更は見送られた。
しかし,福島原発事故の教訓や深層防護による信頼性確保の考え方に基づけば,このような変更の見送りは不合理であり,原子炉施設等基準検討チームが提示した前記案のとおり,設計基準として,
「共通要因による機能
喪失が,独立性のみで防止できる場合を除き,その共通要因による機能の喪失モードを特定し,多様性を求めることを明確にす」べきである。ウ
新規制基準において,共通要因故障は,シビアアクシデント対策で対応
すればよいとされているが,設計段階で共通要因故障を想定して対応する場合と比較して,安全性の程度に質的な差異がある。
(4)安全重要度分類*と耐震重要度分類*の不備

安全重要度分類と耐震重要度分類
平成2年8月30日に制定された重要度分類審査指針*は,安全機能を有する構造物等の機能によって,異常発生防止系(PS*)と異常影響緩和系(MS*)に分類するとともに,安全機能の重要度に応じてクラス1から3までに分類し(安全重要度分類)
,重要度の最も高いクラス1は「合理的に
達成し得る最高度の信頼性を確保し,かつ,維持すること」
,クラス2は
「高度の信頼性を確保し,かつ,維持すること」
,クラス3は「一般の産業
施設と同等以上の信頼性を確保し,かつ,維持すること」としている。平成18年9月19日に制定された新耐震設計審査指針は,耐震設計上の重要度(耐震重要度*)をSクラス,Bクラス,Cクラスに分類し(耐震重要度分類)
,重要度の最も高いSクラスは「自ら放射性物質を内蔵してい
るか又は内蔵している施設に直接関係しており,その機能喪失により放射性物質を外部に放散する可能性のあるもの,及びこれらの事態を防止するために必要なもの,並びにこれらの事故発生の際に外部に放散される放射性物質による影響を低減させるために必要なものであって,その影響の大きいもの」
,Bクラスは「Sクラスに比べてその影響が比較的小さいもの」

Cクラスは「Sクラス,Bクラス以外であって,一般産業施設と同等の安全性を保持すればよいもの」とされている。
新規制基準(基準地震動審査ガイド*等)においても,これらの分類は,基本的に変わりがないが,以下のとおり,安全重要度分類及び耐震重要度分類には問題があり,新規制基準においても是正されていないことになる。イ
外部電源
外部電源の安全重要度分類は,異常発生防止系のクラス3(PS-3)という最低ランクであり,耐震重要度分類も,耐震性の最も低い設計が許容されるCクラスであった。
しかし,安全設計審査指針では,
「重要度の特に高い安全機能を有する構
築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であること」
(指針48)とされており,外部電源は,非常用
電源と並列的にいずれかからの電気が供給される設計を要求される重要な系統と解される。
米国の地震PRA(確率論的リスク評価)において,CDF(炉心損傷頻度)の大部分を外部電源喪失シーケンスが占めていることからも,外部電源にはこのようなリスクの大きさに応じた規制が求められる。
また,福島原発事故も,東北地方太平洋沖地震による送電鉄塔の倒壊,送電線の断線等で生じた外部電源の喪失が一要因となって発生している。政府は,福島原発事故後,SBO(全交流電源喪失)対策に係る技術的要件の一つとして「外部電源系からの受電の信頼性向上」の観点を掲げ,「発
電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)(平成24年3月14日原子力安」
全基準・指針専門部会,安全設計審査指針等検討小委員会)において,「外
部電源系は,
(中略)今般の事故を踏まえれば,高い水準の信頼性の維持,
向上に取り組むことが望まれる」と明記され,重要度分類の格上げの必要性が説かれている。
しかるに,新規制基準において,前記の重要度分類は変更されていない。ウ
使用済燃料の貯蔵施設等
安全重要度分類上,使用済燃料プールはPS-2,燃料プール水の補給設備はMS-2(いずれもクラス2)とされており,耐震重要度分類上も,使用済燃料の貯蔵施設(冠水機能に係る設備)はSクラスであるが,冷却機能に係る施設はBクラスである。
福島原発事故においては,4号機の使用済燃料貯蔵槽が注水不能となり,使用済燃料が露出して破損,溶融し,溶融した燃料とコンクリートの相互作用により大量の放射性物質が放出された。使用済燃料の貯蔵施設は安全上最も重要な施設の一つであり,給水機能と冷却機能の両方を維持することによって安全性を確保すべきである。
使用済燃料の貯蔵施設の重要性に鑑みれば,安全重要度分類はクラス1に,耐震重要度分類は,冷却機能に係る施設についてもSクラスに分類し直すべきであり,現行の基準は安全確保策として不十分である。

非常用取水設備
原子炉に制御棒を挿入して出力運転を停止した後も,核燃料からは長期にわたり崩壊熱が発生するため,原子炉補機冷却水冷却器,原子炉補機冷却水を介して,原子炉補機冷却海水に崩壊熱を渡し,これを放出口から海中に放出することとされているところ,前記の原子炉補機冷却海水を海中から取水する設備が非常用取水設備である。非常用取水設備は,その機能が失われると原子炉の崩壊熱を除去することができなくなるため,安全上重要な設備である。
耐震重要度分類上も,
「原子炉停止後,炉心から崩壊熱を除去するための
施設」「津波防護機能を有する設備及び浸水防止機能を有する設備」はS,
クラスに分類される。しかるに,本件設置変更許可申請において,被告電源開発は,非常用取水設備を構成する取水口スクリーン口,取水路,取水ピットの耐震重要度分類をCクラスとしている。このままでは,基準地震動の地震力によってでも,原子炉補機冷却用海水設備が破損され,冷却不能になる危険性がある。
また,非常用取水設備は,安全重要度分類はクラス1に分類されるべきであり,多重性又は多様性及び独立性を備える必要があるところ,本件原発の3系統の取水口と水路は隣接しており,単一事象によって全てが同時に使えなくなる可能性があるから,独立性が不十分である。

(5)シビアアクシデント対策の不備
重大事故*及び大規模損壊への対応に関する規定の欠如


(ア)重大事故への対応
設置許可基準規則*には,
「重大事故」の明確な定義がないが,同規則
37条の規定から,①運転中の原子炉の炉心の著しい損傷(同条1項参照)
,②使用済燃料貯蔵槽内に貯蔵されている燃料の著しい損傷(同条3項参照)
,③運転停止中の原子炉の燃料の著しい損傷(同条4項参照)を,重大事故として想定しているものと解される。
しかしながら,重大事故に至った場合の対応が規定されているのは,前記①についてのみであり(同条2項)
,前記②及び③については,重大
事故に至るおそれがある事故への対応が規定されているのみで,重大事故に至った場合の対応が規定されていない。
(イ)大規模損壊への対応
大規模な自然災害による大規模損壊の一例である福島原発事故が発生したことを受けてシビアアクシデント対策が規制に導入されたのであるから,
「炉心の著しい損傷その他の事故」には,大規模な自然災害による大規模損壊が含まれると考えるべきであり,大規模な自然災害による大規模損壊への対処施設及び体制について,規制委員会の許可(改正原子炉等規制法43条の3の5第2項10号)を必要とすることは,当然の要求事項と考えられる。
しかし,実用炉規則*4条の重大事故の定義には,大規模な自然災害による大規模損壊が含まれておらず,同規則上,重大事故等*発生時の規定(85条)とは別に大規模損壊発生時の規定(86条)が設けられ,両者は異なる概念とされている。そして,同規則86条は,大規模な自然災害による大規模損壊に対処する保安規定の設定を要求しているが,大規模な自然災害による大規模損壊への対策は,まず設置許可基準規則で定めるべきである。しかるに,設置許可基準規則には,大規模な自然災害による大規模損壊の想定及びその対策に関する規定が存在しない。かかる定めが存在しない設置許可基準規則は,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項4号(
「災害の防止上支障のないもの」として規則を
定めるべきこと)に反する。
また,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項3号は,設置許可基準を定めるものであるから,同号において要求される技術的能力は,重大事故に対処する設備を設置し,これを運転する能力を指すものと解される。
しかしながら,同号を受けて定められた技術的能力基準*の「Ⅱ

要求

事項」は,
「重大事故等が発生した場合又は大規模な自然災害若しくは故
意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる発電用原子炉施設の大規模な損壊が発生した場合における当該事故等に対処するために必要な体制の整備に関し,法43条の3の24の規定に基づく保安規定等において,以下の項目が規定される方針であることを確認する」と規定する。重大事故に対処する能力は,設置許可基準で審査すべきであり,保安規定は設置許可基準に代替できるものではないにもかかわらず,技術的能力基準の前記の定めは,設備の設置,運転について言及せず,設置許可後に審査される保安規定によって体制の整備に関する方針が示されていればよいというのであって,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項3号の目的を実現するために必要な事項を欠いている。
(ウ)常設重大事故等対処設備に求められる水準
シビアアクシデント対策とされる重大事故等対処設備*は,設計基準対処設備(ママ)の安全機能が喪失した場合に稼働することが予定されている設備である。しかし,設置許可基準規則上,常設重大事故対処設備(ママ)は,地震動の想定が設計基準対処設備(ママ)と同一であるため(39条1項)
,基準地震動による地震力を超える地震力により同時に
機能を喪失するおそれがある。設置許可基準規則の解釈43条の4によると,常設重大事故防止設備*に多様性を求めることで対応することを求めるようであるが,多様性だけで地震力への対応の不備を補うことは不可能であるし,設置場所の高さを変えたとしても,津波には対応できても地震には対応できない。

有効性評価の問題
(ア)新規制基準においては,シビアアクシデント対策における事故シーケンス*グループの抽出等の一部において,確率論的安全性評価が導入されたが,本来の意味での確率論的安全性評価は規制要件化されず,シビアアクシデント対策の有効性評価は,結局のところ,決定論的手法によって行われている。また,事故シーケンスグループの抽出等においても,外部事象レベル2(放射性物質の放出)の確率論的安全性評価を実施していないから,格納容器の機能喪失に至るような事故シーケンスグループが抽出できないのは当然であって,格納容器の機能喪失に至らないという有効性が確認されてもほとんど意味をなさない。
設置許可基準規則の解釈37条1-3によると,設置許可基準規則37条1項の「炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置」の有効性評価は,①炉心の著しい損傷が発生するおそれがないものであり,かつ,炉心を十分に冷却できるものであること,②原子炉冷却材圧力バウンダリ*にかかる圧力が最高使用圧力の1.2倍又は限界圧力を下回ること,③原子炉格納容器バウンダリにかかる圧力が最高使用圧力又は限界圧力を下回ること,④原子炉格納容器バウンダリにかかる温度が最高使用温度又は限界温度を下回ること,により確認される。
しかしながら,この判断基準は,安全評価審査指針*(Ⅱ4.2)の判断基準と同じである。シビアアクシデント対策は,深層防護の第4段階であるのに対し,安全評価審査指針は,第3段階である。シビアアクシデントは,設計基準事故を超える事故であり,より制御が困難になる事故であるにもかかわらず,制御に成功しなかった場合は考慮せず,ただ安全設備が有効に働く場合だけを評価するのは,安全性に関する考慮が不十分である。
(イ)設置許可基準規則37条(同規則の解釈37条)は,有効性評価の際に,BWR運転中の炉心の著しい損傷防止において必ず含めなければならない事故シーケンスとして7例,使用済燃料貯蔵槽内の燃料の著しい損傷防止において必ず含めなければならない事故シーケンスとして2例,運転停止中の原子炉内の燃料の著しい損傷防止において必ず含めなければならない事故シーケンスとして4例を挙げるのみであり,事故シナリオが不足している。
また,同規定を受けて,各有効性評価ガイド*(炉心等に関する有効性評価ガイド,貯蔵槽内燃料体等に関する有効性評価ガイド,運転停止中原子炉内燃料体に関する有効性評価ガイド)が策定されているが,検討すべきシビアアクシデントのシナリオが不足している。しかも,必要な措置が講じられているか否かについて,各損傷防止対策の有効性があることを確認することにはなっているが,有効にならない場合のシナリオとその評価は規定されていないから,これらに従った本件設置変更許可申請では,安全対策は不十分である。
さらに,有効性評価ガイドは,シビアアクシデントの解析条件として,「故障を想定した設備を除き,設備の機能を期待することの妥当性(原子力の圧力,温度及び水位等)が示された場合には,その機能を期待できる」「重大事故等対処設備について,単一故障は仮定しない」などと,
しており,シビアアクシデントの想定及び評価方法も限定的である。(ウ)これに対し,米国では,DCD(DesignControlDocument,設計管理文書)Ch.(チャプター)19により,約1万9000通りのシビアアクシデントのシナリオが作られ,日本に比較して検討されるシナリオの数が圧倒的に多く,また,日本では考慮されていないシビアアクシデントが考慮され,最悪の事態まで考慮されている。
また,IAEA*安全基準の安全指針「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」
(No.NS-G-2.15)では,
「火災,洪水,
地震及び極めて異常な気象状態(例えば,強風,極端な高温や低温及び淡水)のような,適切に選択した外部事象も対象にすべきである」などとしており,具体的起因事象を検討して,可能性のある起因事象に基づいて起こり得ると考えられる全ての事象と事象進展中の複雑な事象を扱うべきであるということが,IAEAの要求である。
このように,現行の日本のシビアアクシデントの想定及び対策は,国際基準に劣っており,災害の防止上支障がないものになっていない。ウ
可搬型設備と常設設備
規制委員会は,シビアアクシデント対策は可搬型設備での対応を基本とし,常設設備との組合せにより更に信頼性が向上するとしている。しかし,炉心損傷は短時間で生じるため,短時間で稼働することができない可搬型設備をシビアアクシデント対策の基本に据えることは適切ではない。シビアアクシデント対策は,常設設備を基本とし,可搬型設備を補充的にすべきである。


電源設備
(ア)福島原発事故以前の安全設計審査指針(指針27)では,30分間の全交流電源喪失(SBO)を想定すれば足りるとされており,長時間の全交流電源喪失を考慮していなかったことは不合理である。
(イ)新規制基準における設置許可基準規則では,外部電源喪失時の電源設備の種類と容量を増やすこととされ,まず,設計基準対象施設*について,非常用電源設備及びその附属設備の多重性又は多様性及び独立性を確保し,設備の機能を確保するために十分な容量を有すること(外部電源を喪失したと仮定して7日分)を要求した(設置許可基準規則33条)。さ
らに,シビアアクシデント対策としての重大事故等対処施設*については,非常用電源喪失に備えて,代替電源設備を設けること,重大事故等に対応可能な電気を24時間供給できる可搬型直流電源設備を整備することなどが規定された(同規則57条)

しかし,その基準を満たす具体的内容が定められておらず,現実の設備が安全確保のために十分か否かを判断する基準とはなっていない。(ウ)また,同規則57条2項では,所内常設直流電源設備の3系統目を設けることが要求されているが,これについて5年間の経過措置期間(平成30年7月7日まで)が設けられており,安全性を欠いた状態になっている。
シビアアクシデント対策のパッシブ性*


IAEAのINSAG*(国際原子力安全諮問グループ)の基本安全原則(INSAG-12*)
,EUR*(欧州電力事業者要求事項)の共通要件,
WENRA*(西欧原子力規制者会議)の指針においては,人力や動力に依存せず,自然の原理により作動するパッシブな安全対策設備の採用がうたわれており,安全対策のパッシブ性を高めることが国際基準となっている。また,米国のNRCが発行したポリシー・ステイトメントは,単純化された,自然現象による,パッシブ性の原理を,より信頼性の高いメカニズムとして将来の原子力設備の設計に取り入れるべきとしている。
パッシブ・フラダー(格納容器内の温度が一定以上に上昇すると,流出口に取り付けられたプラグが溶けて,自動的に冷却水が流入する設備),ラ
プチャー・ディスク(破裂板。格納容器内の圧力が一定以上に上昇すると,配管に取り付けられたラプチャー・ディスクが破裂して,当該配管から蒸気を放出させるというもの)
,コア・キャッチャー(厚いコンクリートに超
耐熱合金を被覆したもので,炉心が溶融して落下した際に,落下した溶融物を受け止め冷却する設備)
,PCCS(静的格納容器冷却系。格納容器の
圧力が上昇した際に,格納容器内の蒸気が熱交換器に流れ込み,冷却されて水となることで格納容器内の圧力上昇を抑える設備)といった,欧米において採用されているパッシブな安全設備が日本には導入されていない。なお,日本のプラントメーカーは,米国仕様,欧州仕様にアップグレードし,これらを取り入れたABWRを提案している。
(6)テロ対策の不備
改正原子炉等規制法1条にテロリズムの発生も想定した必要な規制をすることが規定されているところ,設置許可基準規則には,7条に「発電用原子炉施設への人の不法な侵入,発電用原子炉施設に不正に爆発性又は易燃性を有する物件その他他人に危害を与え,又は他の物件を損傷するおそれがある物件が持ち込まれること及び不正アクセス行為を防止するための設備を設けなければならない」
,42条に「原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突
その他テロリズムに対してその重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものであること」が規定されているだけである。テロ対策に関する電力会社の申請及び規制委員会の審査も非公開であり,有効なテロ対策が用意されているのか不明である。
米国においては,設計基準脅威として事業者が対応しなければならないテロを定義して防御するものとされており,例えば,規制側が用意する仮想敵チームが原発に攻撃を仕掛けてくるのを,原発の戦闘部隊が撃退することを実証するという物理的実証プロセスが要求される。
欧米においては,テロ対策は公開され,批判に耐えるようなものでなければ実効性がないと考えられているのに対し,新規制基準は,テロ対策に係る基準の考え方及び具体的内容において国際的基準を踏まえたものではない。(7)立地評価の不備

本件設置許可処分当時の立地審査指針においては,
(旧)重大事故*や

(旧)仮想事故*を仮定した上で,目安として,全身に対する1年間の積算放射線量が0.25Sv*を超える範囲を非居住地帯又は低人口地帯とするものとされていた。しかし,前記の(旧)重大事故や(旧)仮想事故の想定が甘かったため,福島原発事故では,福島第一原発の敷地境界における平成23年4月1日から1年間(事故直後の放射線量を含んでいない。)の
積算放射線量は最大0.956Svであり,前記の目安線量を大幅に超えている。
そのため,適切な立地指針に改定することが求められているが,新規制基準においては,立地審査指針の改定はされず,立地審査指針を組み入れることすらしなかった。規制委員会は,シビアアクシデントへの対応が十分であれば隔離要件は不要としているが,深層防護の考え方は,5段階の防護を設けて,前段の防護が働かない場合でも次の対応ができるというものであり,第4段階に相当するシビアアクシデント対策が十分であれば,第5段階に相当する隔離要件が不要ということにはならない。

以下のとおり,確立された国際基準は,立地評価の段階において,事業
者に対し避難計画の実行可能性や実効性の確保を要求している。しかし,新規制基準は,福島原発事故の教訓を踏まえ,国際的な基準に劣る部分を改めるべきものとして定められたにもかかわらず,立地基準が放置され,必要な立地評価がなされていないという異常な状況にあり,明らかな基準の瑕疵である。
(ア)IAEA安全基準のNS-R-3*は,2003年版でも2016年版でも同様に,立地評価により,避難計画策定に当たって克服できない障害がないこと,つまり避難計画の実施可能性,実効性のある地点であることを確認することとされ,その際に考慮しなければならない事項として,
「放出された放射性物質の人及び環境への移行に影響を及ぼすような立地地点及びその周辺環境の特徴」と「外部領域の人口密度,人口分布及びその他の特徴」を規定している。
また,IAEA安全基準の個別安全指針「原子炉等施設に対する許認可プロセス」
(No.SSG-12)では,
「事業許可の条件は,原子炉等施
設の立地評価,…(中略)…の段階で有効な規制管理を可能とするため,これらに影響を与える安全関連面を,適宜,範疇に含めるべきである。これらの要件は,とりわけ,…放射線防護,…緊急時の計画と手順,…などの重要な側面を取り扱うべきである。
」と規定しており(同指針
2.15.)
,これは,立地評価の要件を満たしていない限り原発の建設を許
可しないとすることで,建設予定の原発が必ず立地評価の要件を満たすことを確保するものである。さらに,規制機関は,立地地点の容認可能性に関する決定に関与すべきであり,この立地地点の条件を確定する権限又は安全上の懸念に基づいて提案された立地地点を却下する権限を有すべきである(同指針3.4.)とされており,立地評価は事業者に対する規制である。
(イ)米国NRCが規定する連邦規則(10CFR*

Part100)では,非居

住区域は,非居住区域の境界において,原子炉事故に伴う放射能雲の放出から2時間で受ける被ばく量が25rem*以下の地域とされ,低人口地帯は,低人口地帯の境界において,原子炉事故に伴い放射能雲の放出が終わるまでに受ける被ばく量が25rem以下の地域とされている(10CFR

Part100§100.11Determinationofexclusionarea,
lowpopulationzone,andpopulationcenterdistance.〔立入禁止区域,低人口地帯及び人口密集地までの距離の決定〕。

また,NRCの連邦規則(10CFR
(§50.47

Part50)の緊急時計画の項目

EmergencyPlans)において,放射性物質が放出される緊急
事故時に十分な防護措置が取られ得る保障があるとNRCが判断しなければ,原発の運転許可も建設許可もされないと規定している。
(ウ)EURは,ヨーロッパの原子力事業者の要求として,将来導入する原子炉が満足しなければならない仕様をまとめた文書であるところ,2001年から既に,
「800m以遠に居住する住民の避難が,事故から24
時間後でも間に合うこと。,
」「3km以遠に居住する住民の避難が,事故
から4日後でも間に合うこと。,
」「800m以遠に居住する住民が,事故
の収束後,速やかに帰還可能であること。,
」「経済的影響を最小限にする
ための事故時に放出される放射能量の制限。30TBq*」等の規制がある。
英国では,2006年編集「原子力施設の安全評価原則」
(Safety
AssessmentPrinciplesforNuclearFacilities2006Ed.)において,立地の規制評価として,サイト周辺の人口統計学,有効なアクシデントマネジメント及び緊急時の取り決め,サイトと関わりのある外部ハザードが考慮すべき因子として挙げられ,炉のライフサイクル中のその変動も考慮すべきこと,オフサイトの人口特性が,有効なオフサイト緊急時対応ができることを示すべきであること,緊急時対応の実施可能性,公衆の避難の観点からの地形学的考慮を要求している。

本件原発は,原発から約30kmの地点に約27万人余の人口を擁する
函館市があり,函館市には,学校が143校,幼稚園・保育園は149園,福祉施設が83施設,病院・診療所は297箇所も存在する。これらの人々が避難するのに必要な集団輸送体制が著しく不足しており,避難は不可能又は極めて困難である。また,本件原発からわずか300mの地点に住人が居住し,原子炉施設から数百メートルの位置には公共施設が存在し,その周辺には人家が連なっている。したがって,本件原発は立地不適である。
(8)避難計画について

深層防護の第5層目を規制内容とすることは,前記のとおり,確立され
た国際的基準であり,原発の設置許可の段階で,避難計画の実行可能性,実効性を審査しない現行の規制は,確立された国際的基準を踏まえないものである。
IAEA安全基準のSSR-2/1*では,深層防護の第5層として,事故により放出される放射性物質による放射線の影響を緩和することが求められ,そのために,十分な装備を備えた緊急時管理センターの整備と,所内と所外の緊急事態に対応する緊急時計画及び緊急時手順の整備が必要とされている。そして,IAEA安全基準の全般的安全要件第1編「政府,法律及び規制の安全に対する枠組み」
(No.GSR

Part1)は,事業者に

対して,緊急時対応計画を策定する責任及び緊急時準備と緊急時のための取決めを整える責任を負わせている。具体的には,IAEA安全基準の安全要件「原子力または放射線の緊急事態に対する準備と対応」
(No.GS-
R-2)において,事業者は,敷地内及び敷地外について被ばくを最小限にとどめるための避難計画を策定するような取決めをしなければならないとされている。また,IAEA安全基準の全般的安全要件第4編「施設と活動に対する安全評価」
(No.GSRPart4)では,事業者の責任において
避難計画の実効性を評価する「安全評価」を,許認可プロセスの一環として規制当局に提出するものとされている。

本件原発において原子力緊急事態が発生した場合,原告らのうち約半数
の住居が集中している函館市,北斗市,七飯町の住民の避難経路は極めて限定されており,活断層や土砂災害で避難路が寸断される可能性もあり,集団輸送体制も不足している。車両での避難には燃料の制約があり,鉄道や航空機での移動は非現実的である。さらに,モリタリング体制の不足や避難退域時検査(スクリーニング)に長時間を要することなどの事情も考慮すると,実効性ある避難計画の策定は,不可能である。
(被告国の主張)
(1)新規制基準の策定過程等について

新規制基準は,福島原発事故の教訓を踏まえ,海外の知見も参考にしつつ,各専門分野の学識経験者等の専門技術的見地に基づく意見を集約した上で,中立性が担保された学識経験者の関与の下,公開の議論を経て,意見公募手続等の適正な手続を経て作成されたものであるから,現在の科学技術水準を踏まえた合理的なものといえる。

福島原発事故後の規制基準の見直しは,規制委員会に設置された,原子
炉施設等基準検討チームや地震等基準検討チーム*において検討が行われた。このうち,原子炉施設等基準検討チームには,中立的な立場から複数の外部専門家を関与させるため,シビアアクシデント解析等,関係分野の専門技術的知見を有する学識経験者4名も参加した。原子力機構*の安全研究センターにおいて研究主席の地位にある者についても,電気事業者等との中立性の確認が行われた上で,同チームに参加した。また,地震等基準検討チームには,地震,津波及び地盤等の各種専門分野の専門技術的知見を有する学識経験者らが,電気事業者等との中立性の確認が行われた上で参加した。
規制基準の策定に当たっては,透明性・中立性を確保するため,原則として,検討チームの議事,資料及び議事録を公開するとともに,外部専門家に対しては,利益相反の可能性を考慮して電気事業者等との関係に関する情報の申告を要求し,当該情報も公開している。

原告らは,福島原発事故の原因が未解明なまま新規制基準が策定された旨を主張する。
しかし,福島原発事故で発生した全ての設備の故障,破損の具体的な位置や状態までは調査できていないものの,当該事故の発生及び進展に関する基本的な事象は明らかにされており,その発生及び進展は,最新の科学技術的知見に基づくシビアアクシデントに関する研究結果と大きく異なるところはなかった。
その結果を踏まえ,新規制基準においては,地震・津波対策を含めた自然現象による損傷防止対策の強化等により事故防止対策が強化され,万が一,炉心の著しい損傷に至るおそれがある事故等が起きた際の対策として,重大事故等対策が新たに要求された。
そして,重大事故等対策は,施設・設備の機能喪失の具体的な原因が無数に考えられるため,原因を問わず,設計基準対象施設の持つ安全機能が喪失することを仮定し,その場合でも炉心の著しい損傷や格納容器の破損を防止することなどを要求している。
したがって,福島原発事故の具体的な状況が完全に解明されていなくとも,既に解明された事故の発生・進展状況から得られる教訓に加え,最新の科学的知見,海外の規制に関する最新知見等を結集することで,重大事故等対策に係る規制基準を策定することは可能である。

原告らは,規制基準の策定に必要な検討時間が不足していたなどと指摘
するが,基準の内容に触れることなく,検討期間が短いことなどを理由として規制基準が不合理であるという主張は,それ自体が失当である。なお,福島原発事故後の規制基準の見直しは,平成24年9月に規制委員会が設置される以前から,安全委員会及び保安院*において検討が重ねられ,報告書として取りまとめられており,規制委員会における各検討チームは,こうした検討による知見を事実上引き継いでいる。

規制基準の合理性を検討する上では,最新の科学的,技術的知見を考慮
する必要があるところ,この点に関し,国際的にどのような規制がされているかは,一つの指標となる。そして,原子力の平和利用のための国際的機関であるIAEAは,安全原則,安全要件及び安全指針から構成されるIAEA安全基準を作成している。
IAEA安全基準は,加盟各国の規制における参考として使用することができるとされており,その全てを加盟各国の規制内容に採用するよう義務付けるものではなく,加盟各国の判断により取り入れるものである。特に原発の計画又は設計における安全面を扱うものは,主として新規の施設と活動への適用を意図しており,初期の基準で建設された既存の施設では要件が満たされない場合に,IAEA安全基準を既存施設に適用するか否かは,個々の加盟国の決定事項である。したがって,IAEA安全基準の全てをそのままには採用せず,専門的技術的知見に基づいて取り入れるべき要件を判断した上で定めても,そのことが科学技術水準に照らして不合理となるものではない。
もっとも,我が国の規制内容は,IAEA安全基準と概ね良好に整合するものである。
(2)深層防護について

IAEA安全基準の最上位である基本安全原則(No.SF-1)では,原
発において事故を防止し,かつ,発生時の事故の影響を緩和する主要な手段は,深層防護の考え方を適用することであるとされている。また,IAEA安全基準のSSR-2/1(Rev.1)は,深層防護の考え方を原発の設計に適用し,以下のとおり,5段階の防護レベルを構築している。①

第1の防護レベル(第1層)は,通常運転状態からの逸脱と安全上重
要な機器等の故障を防止することを目的として,品質管理及び適切で実証された工学的手法に従って,原発が健全でかつ保守的に立地,設計,建設,保守及び運転されることを要求するものである。


第2の防護レベル(第2層)は,運転期間中に予期される事象(設置
許可基準規則では「運転時の異常な過渡変化*」と定義される。
)が事故
状態に拡大することを防止するために,通常運転状態からの逸脱を検知し,管理することを目的として,設計で特定の系統と仕組みを備えること,それらの有効性を安全解析により確認すること,さらに運転期間中に予期される事象を発生させる起因事象を防止するか,さもなければその影響を最小にとどめ,原発を安全な状態に戻す運転手順の確立を要求するものである。


第3の防護レベル(第3層)は,運転期間中に予期される事象又は想
定起因事象が拡大して前記②で防御できず,また,設計基準事故に進展した場合において,固有の安全性及び工学的な安全の仕組み又はその一方並びに手順により,事故を超える状態に拡大することを防止するとともに原発を安全な状態に戻すことができることを要求するものである。④

第4の防護レベル(第4層)は,前記③での対策が失敗した場合を想
定し,事故の拡大を防止し,重大事故の影響を緩和することを要求するものである(重大事故等に対する安全上の目的は,時間的にも適用範囲においても限られた防護措置のみで対処可能とするとともに,敷地外の汚染を回避又は最小化することである。また,早期の放射性物質の放出又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シーケンスの発生の可能性を十分に低くすることによって実質的に排除することを要求するものである。。



第5の防護レベル(第5層)は,重大事故に起因して発生し得る放射
性物質の放出による影響を緩和することを目的として,十分な装備を備えた緊急時対応施設の整備と,所内と所外の緊急事態の対応に関する緊急時計画と緊急時手順の整備が必要であるというものである。

設置許可基準規則も,深層防護の考え方を踏まえて策定されており,設
計基準対象施設(同規則第2章)と重大事故等対処施設(同規則第3章)を明確に区別している。IAEA安全基準との関係で概ね整理すれば,設計基準対象施設が第1段階から第3段階までに相当する事項を規定し,重大事故等対処施設が第4段階に相当する事項を規定している。なお,第5段階に相当する事項については,後記(8)のとおり,災害対策基本法及び原災法により,原子力災害の発生に係る防災計画の策定等について,国,地方公共団体,原子力事業者等がそれぞれの責務を果たすこととされている。(3)共通要因故障について

原発の安全機能に影響を及ぼし得る異常を引き起こすおそれのある事象としては,地震等の自然現象を始めとする外部事象,内部火災・内部溢水などの発電所内の事象,施設を構成する設備等の偶発故障(ランダム故障)などがある。このうち外部事象と偶発故障に対する規制の概要は次のとおりであり,合理性が認められる。
まず,外部事象については,発生それ自体を防止することはできず,また,一度発生すればその影響は施設全体に及び得るため,最新の科学的知見に基づいて現実に生じ得る外部事象を想定した上,原子炉施設の立地や設備の強度等の観点から,想定し得る外部事象が発生しても,それによってその安全機能が損なわれないような基本設計を行うことが要求されている(設置許可基準規則3条から6条まで)
。すなわち,外部事象に対しては,
それによって一つの機能喪失も生じないような設計を要求しているのである。
これに対し,偶発故障については,そもそも偶発故障が生じないように,施設を構成する機械や器具について,高度の信頼性を確保することを要求した上,安全機能の重要度が特に高い安全機能を有する系統については,当該系統を構成する一つの機械等に偶発故障が生じた場合であっても(単一故障の仮定)
,当該系統が機能しなくなるような事態が生じないように,
多重性又は多様性及び独立性を確保すべきものとし(設置許可基準規則12条)
,かつ,通常運転の状態を超える異常状態としての運転時の異常な過渡変化時及び設計基準事故時において,多重性又は多様性及び独立性が機能した上で事態を収束できるかについて,安全評価を行うこととしている(同規則13条,同規則の解釈13条)


原告らは,自然現象を原因とする事故であれば,多数の機器に同時に影響を及ぼすことがあり得るから,安全機能を司る機器,系統の一つだけが機能しないという仮定は非現実的であり,共通要因故障を想定すべきであるにもかかわらず,設置許可基準規則においては,従前どおり単一故障の仮定で判断するものとされており,共通要因故障が想定されていない旨を主張する。
しかし,共通要因故障,すなわち,一つの事象によって複数の系統又は機器が同時に故障しないようにするための方策としては,個々の設備が,想定され得る外部事象によってその安全性能が損なわれないような設計がされることが必要である。新規制基準においては,このような観点から厳格な規制が行われているのであって,外部事象に対する共通要因故障を考慮した規制は行われている。その上で,万が一,外部事象が想定を上回る規模で発生した場合に備えて,重大事故対策も講じているのであるから,この点でも共通要因故障を考慮した規制がされているということができる。なお,原告らは,設置許可基準規則の策定過程で「共通要因又は従属要因による機能喪失が独立性のみで防止できない場合には,その共通要因又は従属要因による機能の喪失モードに対する多様性及び独立性を備えた設計であること」とする案が採用されなかったことを指摘する。
しかし,そもそも,独立性とは,
「二以上の系統又は機器が,想定される
環境条件及び運転状態において,物理的方法その他の方法によりそれぞれ互いに分離することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損なわれないことをいう」
(設置許可基準規則2条2項19号)のであ
り,
「共通要因又は従属要因による機能喪失が独立性のみで防止できない場合」というのは,それ自体論理矛盾であるとの指摘がなされたことを受けて,当該文言が削除されたのであって,その趣旨が共通要因故障を考慮しないこととしたものではないことは明らかである。
また,単一故障の仮定とは,重要度の特に高い安全機能を有する系統について,多重性又は多様性の要件を満たすかを確認するための解析手法であって,設置許可基準規則において共通要因故障を考慮した規制を課しているか否かとは次元の異なる話である。
(4)安全重要度分類と耐震重要度分類について

安全重要度分類と耐震重要度分類
(ア)安全重要度分類は,安全施設*に関して設置許可基準規則12条が規制する事項である。
すなわち,同条1項において,安全施設は,その安全機能の重要度に応じて,安全機能が確保されたものでなければならないと規定し,同規則の解釈12条の1は,その判断を重要度分類審査指針により行うべきものとしている。
重要度分類審査指針は,安全施設を,異常発生防止系(PS)と異常影響緩和系(MS)に分類し,PS及びMSをそれぞれ重要な順に,クラス1からクラス3までに分類した上で,各分類に応じた信頼性の確保を求めることとしている。
IAEAにおいても,SSR-2/1(Rev.1)において,安全重要度分類の考え方が規定されており,さらに,個別安全指針「原子力発電所における構築物,系統及び機器の安全分類」
(No.SSG-30)におい
て,安全上重要な構築物,系統及び機器を,設計対応策(重要度分類審査指針のPSに概ね相当する。
)と機能(同じくMSに概ね相当する。

に分類し,それぞれを安全クラス1から3に振り付けることで,適切な品質及び信頼性が明確になるとしている。
このように,IAEAの安全重要度分類の考え方と我が国の安全重要度分類の考え方とは,基本的に同じとなっている。
(イ)耐震重要度分類は,地震による損傷の防止について定める設置許可基準規則4条が規制する事項である。
すなわち,同条1項は,
「設計基準対象施設は,地震力に十分耐えるこ
とができるものでなければならない。
」とし,同条2項は,
「前項の地震
力は,地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定しなければならない」としている。
そして,同規則の解釈(別記2の2)は,前記「影響の程度」を耐震重要度に応じて分類するものとし,設計基準対象施設は,それぞれの耐震重要度に応じて,Sクラス,Bクラス,Cクラスに分類するものとしている。

電源設備
(ア)発電用原子炉施設内で必要とされる電源には,交流電源と直流電源があり,交流電源は,炉心を冷却するために水を供給する大型ポンプ等の機器を動作させるもの,直流電源は,各機器の制御を担う機器等を動作させるものである。
通常運転時は,交流電源は,当該施設で発電された所内電力供給と外部電源から電線路を通って供給される外部電源系を利用し,直流電源は,前記のとおり供給される交流を直流に変換して供給する。
これに対し,事故等の発生に伴い外部電源系が機能喪失した場合は,非常用ディーゼル発電機から交流の電力を供給し,直流は,当該発電機で発電された交流を変換し,当該発電機も機能喪失した場合は,非常用直流電源として蓄電池等を使用する。
(イ)電源設備は,設計基準対象施設であり,かつ,安全施設であるから(設置許可基準規則2条2項7号,8号)
,これらに係る規制が適用され
る。そして,設置許可基準規則は,発電用原子炉施設に非常用電源設備(前記の非常用ディーゼル発電機や非常用交流電源等)を設けることを規定し(33条2項)
,非常用電源及びその附属設備は,多重性又は多様
性及び独立性を確保し,その系統を構成する機械等の単一故障が発生した場合であっても,事故等に対処するための設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならないとしている(同条7項)

ここで,
「十分な容量」とは,必要とされる電力を供給できる発電容量
があること及び外部電源系が長期間復旧できないことに備え,発電所への燃料補給等の外部支援がなくとも,7日間非常用ディーゼル発電機等を運転するのに必要な容量以上の燃料を敷地内に貯蔵できることを指している(設置許可基準規則の解釈33条の7)

(ウ)非常用電源設備である非常用ディーゼル発電機は,安全重要度がMS-1,耐震重要度がSクラスに分類される。これに対し,外部電源系のうち,発電所内にある開閉所等の電源設備は,安全重要度がPS-3,耐震重要度がCクラスに分類されている(外部電源系のうち,発電所外にある電線路等は,発電用原子炉施設ではないため,各重要度分類の対象外である。。

これは,外部電源系による電力供給が,遠く離れた発電所等から電線路等を経由して供給されるものであり,長大な電線路の全てについて高い信頼度を確保することは不可能であること,そもそも当該電線路は発電所外の設備であり,原発側から管理することができないものであることから,事故等の発生時は外部電源系による電力供給を期待すべきではなく,非常用電源設備により対応すべきものと考えられることによるものである。
このような考え方は,IAEA安全基準のSSR-2/1(Rev.1)とも整合する世界共通の考え方である。

使用済燃料の貯蔵施設
(ア)使用済燃料の貯蔵施設は,使用済燃料に残存する核分裂性物質の臨界を防止し,核分裂生成物等が放出する崩壊熱を除去し,放射線を遮断する設計であることが求められる(設置許可基準規則16条2項)

そして,使用済燃料の放射性物質を閉じ込める役割を果たす燃料被覆管は,概ね1200℃以下であれば冷却可能な形状を維持できるものであるところ,使用済燃料が使用済燃料貯蔵槽内で冠水されていれば,燃料被覆管が100℃以上に上昇することは考えられない。また,使用済燃料は,運転中の炉心の燃料のように高温・高圧の環境下にはないため,格納容器のような設備で閉じ込める必要はないものと考えられる。そのため,使用済燃料の貯蔵施設に係る点として最も重要なのは,使用済燃料貯蔵槽内を冠水状態に維持することである。
使用済燃料の貯蔵施設は,設計基準対象施設であり,かつ,安全施設であるから(設置許可基準規則2条2項7号,8号)
,これらに係る規制
が適用される。
(イ)使用済燃料の貯蔵施設は,主に,①使用済燃料貯蔵槽,②補給水設備,③冷却系によって構成されるところ,これらのうち,①使用済燃料貯蔵槽は,設置許可基準規則の解釈(別記2の2一)においてSクラスの施設として明記されている「使用済燃料を貯蔵するための施設」に当たり,②補給水設備も,
「使用済燃料を貯蔵するための施設」の機能を一部担う
ため,いずれも耐震重要度Sクラスに分類される。
これに対し,③冷却系は,同解釈(別記2の2二)においてBクラスの施設として明記されている「使用済燃料を冷却するための施設」に当たり,耐震重要度Bクラスに分類される。これは,使用済燃料の崩壊熱は時間の経過により急激に低下するものであり(原子炉の定格出力時に発生する熱と比較すると,原子炉の停止直後に7%,24時間後に1%未満となる。,冷却系の機能を喪失したとしても,補給水設備により使)
用済燃料補給プールに水が補給できれば,崩壊熱の除去及び放射線の遮断等は可能であり,補給水設備により機能を代替できるため,その影響の程度はSクラス施設と比べて小さいことによるものである。
(ウ)また,①使用済燃料貯蔵槽は,重要度分類審査指針(Ⅲ.2.第2表)において,PS-2に当たる機能として明記されている「原子炉冷却材圧力バウンダリに直接接続されていないものであって,放射性物質を貯蔵する機能」に当たり,安全重要度PS-2に分類される。
②補給水設備は,同指針(同第2表)において,MS-2に当たる機能として明記されている「燃料プール水の補給機能」に当たり,安全重要度MS-2に分類される。もっとも,補給水設備の電気系統については,同指針(Ⅴ.2.(3)(a))により,
「重要度の特に高い安全機能」
(安全設計審査指針の指針48第1項,第4項)を有すべきものとされ,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であることなどが求められている。
③冷却系は,重要度分類審査指針(解説付表)において,PS-2の「特記すべき関連系(BWR)
」として明記されている「使用済燃料プー
ル冷却系」に当たり,安全重要度PS-2に分類される。
原告らは,これらの設備の安全重要度がクラス1に分類されていないことが適切でない旨を主張するが,これらの設備について,本来的に,安全重要度分類においてハイクラスに分類すべき事情は見当たらず,補給水設備の電気系統については「重要度の特に高い安全機能」を有すべきものとされ,十分な設計上の考慮がされるから,これらの安全重要度分類は,それぞれの施設の特徴に応じて合理的に設定されたものといえる。
(5)重大事故等対策(シビアアクシデント対策)について

重大事故等及び大規模損壊への対策に係る規制の概要
設置許可基準規則は,そもそも設計基準として,事故の誘因を排除する目的で想定すべき自然現象を含む外部事象による損傷防止を要求することに加え,事故防止対策を講じることを要求し(同規則第2章)
,さらに深層
防護の観点から,重大事故等対策を講じることを要求している(同規則第3章)
。これらの対策が講じられることによって,事故防止対策及び重大事故等対策に関する要求は十分高い水準になっているが,さらに,同規則は,想定を大幅に上回る外部事象による大規模損壊への対策を求めることによって,放射線による影響緩和のための対処をすることを求めている。これらのうち,重大事故等対策及び大規模損壊への対策の概要は次のとおりである。
(ア)設置許可基準規則は,重大事故等(設置許可基準規則2条2項11号)への対策として,網羅的,体系的に事故の原因と事故に至るまでの発展(事故シーケンス)を想定し,事故発生及び拡大を防止する対策の立案とその有効性の確認を求めている(同規則の解釈37条)

(イ)次に,重大事故等対処施設については,自然的条件(地震及び津波)や内部火災に対し,重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないことを要求している(同規則38条から42条まで)。ま
た,このうち特定重大事故等対処施設*については,社会的条件(故意による大型航空機の衝突その他のテロリズム)に対して,重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないことを要求している(同規則42条)
。なお,同規則42条にいう「故意による大型航空機の
衝突その他のテロリズム」は,大規模損壊について定めた実用炉規則86条の「故意による大型航空機の衝突その他のテロリズム」と同義である。
さらに,重大事故等対処設備については,全ての設備に共通する一般的要求事項として,可搬型及び常設の各設備の役割を踏まえた機能等を要求しており(設置許可基準規則43条)
,この中で,大規模損壊に備え
た可搬型重大事故等対処設備の保管等(同規則43条3項5号)についても定めている。また,重大事故等対処設備への個別的要求事項として,炉心の著しい損傷等を防止するための対策(同規則44条から49条1項まで)
,原子炉格納容器の破損等を防止する対策(同規則49条2項,
50条から53条まで)
,使用済燃料貯蔵槽の冷却等のための対策(同規
則54条)
,放射性物質の拡散を抑制するための設備(同規則55条)

その他の設備(同規則56条から62条まで)を要求し,多重的に防護措置を講じている。
(ウ)このほか,発電用原子炉設置許可申請者には,重大事故等の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力等が要求されている(改正原子炉等規制法43条の3第1項3号,技術的能力基準Ⅱ.1)

また,大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる発電用原子炉施設の大規模損壊(実用炉規則86条)が発生した場合における技術的能力基準(Ⅱ.2)所定の体制が整備されていることを要求している。

有効性評価について
(ア)設置許可基準規則37条は,炉心の著しい損傷の防止対策,原子炉格納容器の破損の防止対策等について,有効性評価の実施を求めている。このうち,炉心損傷防止対策における有効性評価では,これまでの研究成果等を踏まえ,有意な炉心損傷頻度をもたらす様々な事故シーケンスを概ね網羅すると考えられる事故シーケンスグループを「必ず想定する事故シーケンスグループ」として定め(SBO,LOCA時注水機能喪失など)
,さらに,個別プラントの内部事象に関する確率論的リスク評
価(PRA)及び外部事象に関する適用可能なPRA又はそれに代わる方法で評価し,その結果,有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケンスグループが抽出された場合には,これも「想定する事故シーケンスグループ」に追加することを求めている(設置許可基準規則の解釈37条)。
そして,想定する事故シーケンスグループごとに重要事故シーケンスを選定した上(有効性評価ガイド)
,計算シミュレーション等により有効性
評価を行う。
(イ)原告らは,自然現象を原因とする故障を考えれば,解析上の事故シーケンスで想定していない系統,機器の故障が発生することもあり得るが,それは考慮されていないなどと主張する。
しかし,重大事故等対策は,設計基準事象では想定していない共通要因故障や多重故障が生じた場合にも対策の有効性を評価することが要求されているため,有効性評価において想定されている事故シーケンスは,複数の故障(多重故障,共通要因故障)が組み合わさって形成されており,この点に関しておよそ不合理な点は認められない。また,前記(ア)のとおり,重要な事故シーケンス選定の過程で,自然現象(自然現象は,外部事象に含まれる。
)に起因する故障も考慮されている。一方,このよ
うな事故シーケンスの選定も成立しないような大規模な自然災害に対しては,後記(6)アのとおり大規模損壊に係る規制を行っている。(ウ)原告らは,原子炉施設等基準検討チーム第3回会合の資料3に「各事故シーケンスにおいては,多重故障を想定した設備を除き,健全であると想定する。また,各事故シーケンスにおいて,設計基準事故で想定する単一故障を重ねて想定しなくてよい。
」などとされている点を指摘して,
不合理であると主張する。しかしこれは,有効性評価の方法を理解しないものである。
例えば,大破断LOCA(主冷却管が瞬時に破断したような場合)を起因事象とし,その後,原子炉隔離時冷却系(RCIC)及び非常用炉心冷却設備(ECCS)の作動に失敗し,炉心冷却機能を喪失し,炉心損傷に至るという事故シーケンスを選定して有効性評価を行う際,さらに別途,単一故障(例えば,非常用ディーゼル発電機1機の故障)が生じるものと仮定すると,選定した事故シーケンスとは異なる事故シーケンスを評価していることとなる。確率論の面でも,評価対象となる事故シーケンスの発生確率が異なるものになる(大破断LOCA及び炉心冷却機能喪失が発生する確率に,非常用ディーゼル発電機1機の故障が発生する確率を掛け合わせると,その発生確率はより低くなる。。

(エ)原告らは,高圧・低圧注入機能喪失とSBOが同時に発生する事故シーケンスがないなどとも指摘する。しかし,前記(ア)のとおり,必ず想定する事故シーケンスグループに掲げられていなくても,個別プラント評価により,有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケンスグループが抽出された場合には,想定する事故シーケンスグループとして追加することとされている。
ただし,炉心損傷防止対策において想定する事故シーケンスグループは,発生頻度が低いと考えられるため,二つの想定する事故シーケンスグループが重畳するという極めて低い頻度になる場合までを検討することはしていない。もっとも,事故シーケンスグループごとに炉心の著しい損傷の防止対策を定めることから,仮にそのような事故の重畳が発生したとしても,それぞれの防止対策を柔軟に活用し,対処することが可能である。

設備の可搬性
(ア)前記ア(イ)のとおり,設置許可基準規則は,重大事故等対処設備に係る要求事項を定めているところ,重大事故等対策においては,常設設備を設置する場合には設計する際に必ず設計上の想定を定めなければならないため,設計上の想定を超えた場合の効果が限定される可能性がある。他方,可搬型設備は柔軟性があり,経験則的に耐震上優れた特性が認められる。このため,重大事故等対策では可搬型設備による対策を基本としている。
(イ)これに対し,原告らは,短時間で稼働することができない可搬型設備をシビアアクシデント対策の基本に据えることは適切ではない旨を主張する。
しかし,接続に要する時間は接続手法の改善で短縮が見込めるものである。また,重大事故等対策は,深層防護の観点から,想定を上回る不測の事態に対処するために要求されているものであり,事前に設計上の想定を要せず,柔軟に対応することが可能となる可搬型設備を基本とした対応を要求することは何ら不合理ではないというべきである。
なお,設置許可基準規則は,可搬型設備と常設設備の特性に応じてそれぞれに役割を持たせることとしており,可搬型設備のみを設定すればよいとしているものではない。

電源設備
(ア)新規制基準策定前の安全設計審査指針(指針27)は,
「原子炉施設は,
短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であること」と定め,同指針27の解説部分に「長時間にわたる全交流動力電源喪失は考慮する必要はない」旨が記載されているところ,原告らは,本件設置許可処分当時,安全設計審査指針が長時間の全交流動力電源喪失を考慮していなかったことが不合理である旨を主張する。
しかし,安全設計審査指針が長時間の全交流動力電源喪失を考慮していなかったのは,同指針において,重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器が電源を必要とする場合,外部電源及び非常用所内電源の双方からの電力供給が確保され,外部電源系は,複数回線の送電線により電力系統に接続されることが要求されていることに加え,非常用所内電源系は,多重性,多様性,独立性が設計上考慮されており,この系統の機器の単一故障を仮定した場合にも,運転時の異常な過渡変化時において,支障なく原子炉を停止,冷却し,原子炉冷却材喪失等の事故時には炉心冷却を行い,原子炉格納容器の健全性等を確保するのに十分な容量及び機能を有する設計であることが要求されていることから,長時間にわたる全交流動力電源喪失はおよそ想定し難いと考えられたことによるものであり,この考え方は,本件設置許可処分当時,専門家の一般的,通説的知見に基づくものであったため,このような方針を採用したことが不合理なものとはいえない。
(イ)原告らは,新規制基準において,外部電源喪失時の非常用電源設備等の種類と容量を増やすことが定められたが,この基準を満たす具体的内容が定められていないことを指摘する。
この点,福島原発事故の教訓を踏まえ,非常用電源設備に十分な容量が要求されるようになったこと及びその具体的内容は,前記(4)イ(イ)のとおりである。しかし,各発電所の設備がそれぞれ異なる以上,その非常用電源として具体的にどのような非常用電源設備がどの程度必要とされるかも発電所ごとに異なるのであり,必要な設備等の種類や容量等を一律に定めることは不可能である。
(ウ)原告らは,特定重大事故等対処施設である所内常設直流電源設備の3系統目を設けることについて,5年間の経過措置期間(既設炉につき平成25年7月8日以降最初に行われる工事認可の日から記載して5年間)が定められたことが不当である旨を主張する。
しかし,特定重大事故等対処施設において要求されている機能は,それ以外の施設においても重大事故等対策に必要な機能として既に要求されているのであって,特定重大事故等対処施設は,更なる機能の信頼性向上のためのバックアップであるから,それが設置されていなければ直ちに危険が生ずるというような施設ではない。よって,5年間は不合理な経過措置期間ではない。

受動的安全設備(安全対策のパッシブ性)
原告らは,安全対策のパッシブ性を高めることが国際基準であり,重大事故等対策において受動的安全設備を要求事項としていないことが不合理である旨を主張する。
しかし,重大事故等対策として受動的安全設備を設けるよう要求することが,国際的な規制水準になっているとは認められない。すなわち,原告らの指摘するINSAG-12は,INSAGによって作成された将来的な目標にすぎないものであり,IAEA安全基準として採用されているものではない。EURは,西欧諸国の新たな原発の建設需要の減少を受けて,原子力プラントメーカーが,広く西欧各国を市場として新たな原発を開発,建設することができるよう要求事項を取りまとめたものであり,EURに適合しない原発も現在運転されていること,WENRAの指針は,参加国の多様な規制制度及び稼動中の発電所の種類の広さを前提としており,法的及び技術的に深く踏み込んだものではないこと(なお,WENRAの指針で示されている自動化又は受動性は,設置許可基準規則でいう運転時の異常な過渡変化又はこれを引き起こす偶発故障の場合についてであって,重大事故等対策ではない。,NRCが発出するポリシー・ステイトメント)
は,事案に対するNRCの期待を示すものであって規制要件ではないこと(他方,NRCの規則である10CFR

Part50には,受動的安全設備を

要求する規定は見当たらない。
)などから,いずれも国際的な規制基準とい
えるものではない。
実質的にみても,受動的安全設備は,人為的な操作がなくても一定の物理的条件下で作動する特徴がある一方,事故時における限定的な状況でしか作動せず,臨機かつ柔軟な対応ができない特徴があり,必ずしも重大事故等対策として運転員等が能動的に作動させる設備より優れているとはいえないものであるから,これを要求しないことが不合理であるとはいえない。なお,我が国においても,偶発故障に対しては,受動的安全設備を要求しているものがある(設置許可基準規則10条,24条)

(6)テロ対策について

設置許可基準規則42条は,発電用原子炉を設置する工場又は事業所に
特定重大事故等対処施設を設けることを要求している。特定重大事故等対処施設とは,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムにより炉心の著しい損傷が発生するおそれがある場合又は炉心の著しい損傷が発生した場合において,原子炉格納容器の破損による発電所外への放射性物質の異常な水準の放出を抑制するためのものをいい(設置許可基準規則2条2項12号)
,例えば,原子炉から100m以上離れた場所に,常設の電源,
注水ポンプ等の設備を有した特定重大事故等対処施設を設けることが要求されている(同規則の解釈42条の1,3等)

また,発電用原子炉設置者には,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる大規模損壊が発生した場合における体制の整備が要求されている(技術的能力基準2.1,実用炉規則86条)


原発に対するテロ行為に対しては,事態対処法*に基づき,国が対応する
ことが予定されている。
我が国においては,民間人が拳銃等を所持することは法律上許されておらず,テロ行為それ自体に対する対処を原子力事業者に行わせることは困難であり,法制度の全く異なる米国と比較することは失当であって,改正原子炉等規制法上も,原子力事業者がこれを行うことは予定していないというべきである。
(7)立地評価について

立地審査指針の法的な位置付け
立地審査指針は,福島原発事故後においても規制機関によって改廃されてはいないが,改正原子炉等規制法の施行後においては,設置許可の基準を定める同法43条の3の6第1項4号所定の規則ではなく,また,同号の委任を受けて規制委員会が策定した設置許可基準規則においても採用されず,同規則の解釈においても引用されていない。したがって,現在,立地審査指針は,審査基準として使用されていない。

立地審査指針の概要
旧原子炉等規制法の下において,立地審査指針は,万一の事故に備え公衆の安全を確保するために,原則的立地条件として,次のとおり定めている。


大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことは
もちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと。また,災害を拡大するような事象も少ないこと。


原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れ
ていること。


原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対し適切な措
置を講じうる環境にあること。
そして,前記原則的立地条件を踏まえ,
(旧)重大事故の発生を仮定して
も周辺の公衆に放射線障害を与えないこと,
(旧)仮想事故の発生を仮定し
ても周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと,
(旧)仮想事故の場合
には集団線量に対する影響が十分に小さいこと,を達成すべき基本的目標として設定している。
以上を踏まえ,立地審査指針においては,次の事項を判断していた。(ア)敷地周辺の公衆に放射線による確定的影響を与えないため,(旧)重大
事故を仮定した上で,目安として,甲状腺(小児)に対し1.5Sv,全身に対して0.25Svを超える範囲は非居住地帯であること(同指針別紙2の1)
(イ)防災活動を講じ得る環境にある地帯とするため,
(旧)仮想事故を仮想
した上で,目安として,甲状腺(成人)に対し3Sv,全身に対して0.25Svを超える範囲は低人口地帯であること(同指針別紙2の2)(ウ)社会的影響を低減するため,
(旧)仮想事故を仮想した上で,目安とし
て,全身線量の人口積算値が例えば2万人Svを下回るように,原子炉敷地が人口密集地帯から離れていること(同指針別紙2の3)

新規制基準の下での立地に係る規制と立地審査指針との関係
立地審査指針における原則的立地条件のうち,前記①の外部事象との関係については,設置許可基準規則においても,実質的に同様の要求がなされている。
また,前記②の公衆からの隔離及び③の防災対策との関係については,前記(5)のとおり,設置許可基準規則において重大事故等対策に係る規定が整備され,有効性評価において,放射性物質による環境への影響をできるだけ小さくとどめるものであることが求められており,実質的には立地審査指針における隔離要件よりも厳しい要求がされている。防災対策についても,原災法が整備され,原子力災害対策の充実と強化が行われたため,立地審査指針における低人口地帯を要求することは,現在においては意義が失われている上,とりわけ避難計画については,本来的に地域の実情に精通した地方公共団体が中心となって策定されるべきものである。これらにより,原則的立地条件を立地審査の過程で審査することが必然ではなくなったことから,新規制基準において,立地審査指針は用いられないこととされた。


原告らの主張に対する反論
原告らは,新規制基準が隔離要件を適用していないことが不合理であると主張する。しかし,重大事故等対策が全て奏功せず,炉心が著しく損傷し,原子炉格納容器が破損し,福島原発事故と同様の放射性物質が異常な水準で放出するような事態は,確率論的に極めて稀である。そして,規制権限の行使については規制委員会の専門的技術的裁量に委ねられているのであるから,規制委員会が前記のような極めて稀な事態に対して規制手段を採用しなかったとしても,そのことから直ちに新規制基準が不合理であるとはいえない。
(8)避難計画について

IAEA安全基準における避難計画の位置付け
避難計画は,IAEA安全基準のSSR-2/1(Rev.1)が,第5段階の防護レベルとして策定を求める所外の緊急事態の対応に関する緊急時計画と緊急時手順の整備に含まれる。もっとも,SSR-2/1(Rev.1)は,深層防護の概念を原発の設計に適用すべきとしているにとどまり,必ずしも第1段階から第5段階の全ての対応を設置許可基準規則等の原子力事業者に対する規制に規定することが求められているわけではない。
また,IAEA安全基準の全般的安全要件第7編「原子力又は放射線の緊急事態に対する準備と対応」
(No.GSRPart7)においても,政府は,
規定を設け,原子力又は放射線源による緊急事態に対する準備と対応に関する役割と責任を明示し,割り当てることを確実なものとしなければならないとされており,避難計画に関する事項を含む緊急事態に対する準備と対応について原子力事業者に対する規制として規定することは求められていない。
原告らが指摘するIAEA安全基準の個別安全指針「原子炉等施設に対する許認可プロセス」
(No.SSG-12)の2.15.も,避難計画を事
業許可の条件として求めていない。同指針において記載されている「放射線防護」は,敷地外の避難計画を意味するものではなく,ここで事業者に課されている「緊急時の計画」も,前記GSRPart7の4.16.及び4.17.のとおり,敷地外の避難計画を含まない。
IAEA安全基準の全般的安全要件「施設と活動に対する安全評価」(No.
GSRPart4〔Rev.1〕
)も,敷地外の避難計画の実効性を評価するものと
はされていない。

我が国の法体系における避難計画の位置付け
我が国の法制度上,SSR-2/1(Rev.1)が示す深層防護のうち第1段階から第4段階までの防護レベルに相当する事項については,改正原子炉等規制法や設置許可基準規則において,原子力事業者に対する規制として規定される一方,第5段階の防護レベルに相当する避難計画等の整備は,災害対策基本法及び原災法により,
「災害」の一形態としての「原子力災害」
として,国,地方公共団体及び原子力事業者等が,相互に連携を図りながら協力して原子力災害予防対策を実施すべきものとされ,避難計画の策定については,地域の事情に精通した地方公共団体が中心になって策定することとなる。
これに対し,原子力事業者は,原子力災害の発生及び拡大を防止し,原子力災害の復旧を図るために必要な業務を行う責務を負うものであるが,当該地域の住民等の避難計画を策定し,それに従って住民等を行動させる権限や責務を有しておらず,避難計画を策定することはできない。また,規制委員会は,専門的・技術的事項について情報提供等を行うことは可能であるものの(原災法6条の2により,原子力災害対策指針を定めることとされている。,各地域の実情等については精通しておらず,こ)
れに適合した避難計画が策定されているか否かについて判断することは困難である。改正原子炉等規制法とは別に原災法が定められたことに鑑みても,同法が,規制委員会が改正原子炉等規制法に基づく規制権限の行使として原子力事業者等に対し避難計画の策定等を義務付けることを予定していないことは明らかである。


原子力事業者の防災計画
原子力事業者は,原子力災害の発生及び拡大の防止に関し一定の措置を講じる責務を有するとされているところ(改正原子炉等規制法3条),その
原子力事業所ごとに原子力事業者防災業務計画を作成等しなければならないとされている(原災法7条1項)
。そして,かかる義務を実効化するため,
内閣総理大臣及び規制委員会は,原子力事業者が同項の規定に違反していると認めるとき,又は,原子力事業者防災業務計画が当該原子力事業所に係る原子力災害の発生若しくは拡大を防止するために十分でないと認めるときは,原子力事業者に対し,同計画の作成又は修正を命ずることができ(原災法7条4項)
,仮に,原子力事業者である発電用原子炉設置者がこれ
に違反した場合,規制委員会は,設置許可の取消し又は1年以内の期間を定めて発電用原子炉の運転停止を命ずることができるとされている(改正原子炉等規制法43条の3の20第2項22号)

(被告電源開発の主張)
(1)被告国の主張を援用する。
(2)IAEA安全基準等について
被告電源開発は,本件原発の安全設計に当たって,国際的な合意を尊重し,自主的にIAEA安全基準をも参考として,深層防護の考慮や安全解析の実施などを行っているが,IAEA安全基準は,加盟国の規制に反映させることが期待されているものの,事業者が直接これに準拠し適合させる義務を負うものではない。
また,欧州に建設する新設の軽水炉を対象とした,欧州の有志の電力会社が集まって定めた仕様にすぎないEURを,日本の原発に適合させなければならない合理的理由はない。
(3)非常用取水設備の耐震重要度分類等について

非常用取水設備を含む屋外重要土木構造物に関して,耐震設計に係る工
認審査ガイド(別紙2の第4(29))には,①土木構造物の静的地震力は,JEAG4601*の規定を参考に,Cクラスの建物・構造物に適用される静的地震力を考慮していること,②屋外重要土木構造物の耐震設計に当たっては,基準地震動Ss*による地震力に対する安全機能の保持を確認するため,水平方向及び鉛直方向の基準地震動Ssに基づく構造物の地震力を適用していること,という規定がある。これを踏まえ,本件原発の非常用取水設備は,Cクラスの建物・構造物に適用される静的地震力を考慮して設計し,かつ,基準地震動Ssによる地震力に対して損壊し取水を妨げることがないことを確認することとしている。

これに加え,沖合タンカーからの油漏れに対しては,直ちにオイル・
フェンスの設置等の対策を,異常発生したクラゲや藻の流入に対しては,取水口前面のカーテンウォール,取水口スクリーン室に設けられるスクリーン,海水ポンプ出口に設置するストレーナによりそれらの異物を除去することなどの対策が講じられるのであって,これらの対策を無視して,本件原発の取水口及び取水路の各系統が近接していることのみをもって同時に機能喪失する可能性があるとする原告らの主張は理由がない。(4)重大事故等対策について

有効性評価について
IAEA安全基準の安全指針である「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」
(No.NS-G-2.15)は,レベル2PSA(P
RA)*(PRAのうち炉心損傷に至る事故シーケンスを解析し,炉心損傷頻度を算出するものを「レベル1PRA」
,格納容器破損に至る事故シーケ
ンスを解析し,格納容器損傷頻度を算出するものを「レベル1.5PRA」といい,これに加え放射性物質の種類や量も併せて算出する評価を「レベル2PRA」という。
)の実施を要求したものではない。被告電源開発は,
本件原発において,レベル1.5PRAを実施し,これにより原発の有効性評価において用いる格納容器破損の防止に係る事故シーケンスを選定する目的を十分達成することができる。
被告電源開発が講じる更なる対策に不足がないかどうかは,本件原発を対象としたPRAの結果からも確認しているが,さらに,外部組織である社団法人原子力安全推進協会に依頼し,別の方法を用いた充足性評価を実施した。これは,IAEA安全報告書シリーズ「原子力発電所の深層防護の評価」
(No.SRS-46)に基づくものであり,SSR-2/1などのIAEA安全基準にも対応したものとなっている。

可搬型設備について
本件原発において,可搬型設備は,更なる対策で設ける常設設備が機能喪失した場合を想定して設けることとしており,当該可搬型設備と同等の機能を有する常設設備が常に存在する。すなわち,
「まず最初に可搬型設備
を持ってくる」といった考え方は,本件原発には存在しない。
ただし,可搬型設備は,常設設備に対し,多様性,独立性及び位置的分散を考慮した設備として安全上重要な機能を代替できることに加え,事故の進展の状況に応じて臨機かつ柔軟な対応が可能という利点を有しており,事故収束のためのツールとして重要な選択肢の一つである。その設置のための作業を要するという点については,手順書を整備し訓練を継続して実施することにより,これを迅速に行えるようにすることが可能である。

電源設備について
被告電源開発においては,所内常設直流電源設備の3系統目を5年間の経過措置規定にかかわらず当初より設ける設計とするなどしているほか,外部電源喪失時に備えて電源設備強化対策を講じ,念のための更なる対策も用意している。


パッシブ機器について
INSAGの基本安全原則(INSAG-12)は,パッシブ機器について,電源等の外部サポート系から独立していること,構造が単純であることなどをその利点とする一方で,液体系における駆動力の低さ及び異常状態における柔軟性の低さといった欠点があること,新規のパッシブ系の性能に関する既存データの制限に特別な注意を払わなければならないことなどを述べ,その上で,パッシブ機能の利点と欠点は,設計段階において慎重に考慮されるという偏りのない考え方を採っている。このことは,学識経験者も明らかにしているところである。このことから,原発におけるパッシブ機器の採否は,利点のみならず欠点も慎重に考慮して決定することが必要であり,パッシブ機器を採用しないことをもって本件原発が欧州の原発に安全性において劣るかのようにいう原告らの主張は正当ではない。また,本件原発の更なる対策の有効性評価においては,可搬型設備が必要とされる場合でも事故発生から12時間はこれに期待しないこととしており,この前提で有効性評価を行っている。その結果,設計基準事故を超えた炉心の著しい損傷を含む状態が発生してから一定時間は可搬型設備に期待すべきでないとするEURの設計仕様を満足している(なお,EURの当該設計仕様は,事故後一定時間は可搬型設備に期待すべきではないとするものであって,常設設備を運転員が操作することなどは何ら否定されておらず,
「人的対応が一定時間は不要である」などということとは,大き
く意味が異なる。。

(5)テロ対策について
そもそも犯罪の予防及び鎮圧は,警察,海上保安庁の責務とされており(警察法2条,海上保安庁法2条)
,警察庁は,武装した銃器対策部隊が24
時間体制で原子力関連施設を警戒しているほか,テロ事案発生時には,高度な制圧能力を有する特殊部隊を投入するという,二段構えの体制を採っている。海上保安庁は,水際対策,巡視船艇・航空機による警戒監視,旅客ターミナル等での海上保安官による警戒,不測の事態に備えた即応体制の確保等の対策を講じるとしている。また,武力攻撃事態等に対しては,国が主導的に対処するという考え方のもと,国全体として万全の措置を講ずることとされている(国民保護法*,事態対処法)

事業者である被告電源開発は,本件原発に対する妨害破壊行為を防止するため,防護区域,その周りを周辺防護区域,さらにその周りを立入制限区域として,多重の区画で囲み,必要な措置を講じる(実用炉規則91条2項)。
また,武力攻撃による原子力災害の発生又は拡大の防止のため応分の責務を果たすこととしている(国民保護法36条,105条,106条)。
(6)避難計画について

原子力事業者にとっても深層防護の第5段階に相当する原子力防災対策
は,運転開始前の保安規定の認可申請書を提出する日までに,原子力事業者防災業務計画として作成することとされており,第4段階の対策とは別の法令に基づきその妥当性が確認される。このことから,原子力災害対策の妥当性が確認されないまま運転を開始することはそもそもあり得ない。イ
被告電源開発は,原災法等に基づき,本件原発に燃料が搬入・装荷され
るまでに,原子力事業者防災業務計画を策定するとともに,関係機関への通報及び関係機関との情報共有を確実に行うために必要な体制の整備,放射線測定設備の設置等を行うなど原子力災害対策も行う予定である。本件原発の運転開始後は,IAEA安全基準の個別安全指針「原子力発電所の定期安全レビュー」
(No.SSG-25)を参考にして,原子力事業
者防災業務計画で定めた事項が引き続き十分な状態にあることを定期的に評価することとしている。

なお,米国においては,原発設置者が作成する緊急時計画について,N
RCが連邦規則10CFRPart50(§50.47)等により妥当性を評価し,地元州政府及び自治体が作成する緊急時計画について,連邦国土安全保障省(DHS)及び連邦緊急事態管理庁(FEMA)がFEMA規則により妥当性を評価することとされている。また,これらの緊急時計画は,従来から,建設許可取得後の運転認可申請時に最終的な計画を提出することとされている(ただし,1989年以降の制度では,事業者の選択により,建設運転の統合認可の申請時に提出することもできるとされた。。)

避難計画は,地域防災計画とともに政府を挙げてその作成を支援するこ
ととなっており,原子力防災会議においてその内容が合理的かつ具体的なものとなっていることが確認される。また,避難計画は,当該原発周辺の地形等の自然条件や現存する道路等の交通環境を所与のものとして,合理的かつ具体的な計画として策定されるものであり,継続的にその計画の改善を進めていることが期待されている。したがって,関係する地方公共団体が実効的な避難計画を策定することが著しく困難又は不可能であるということは考えられない。また,区域の一部が本件原発の30km圏内に掛かることのみを理由として,函館市及びその周辺自治体に居住・滞在する全ての住民を即時一斉避難の対象と,根拠なく仮定する原告らの主張は相当ではない。
3争点3(基準地震動の策定)について
(原告らの主張)
(1)基準地震動の策定

基準地震動策定の手法
原発の耐震安全性評価は,①断層の位置や長さ等の各種調査を行い,②その調査結果に基づき安全評価を行うための基準となる基準地震動を策定し,③基準地震動に基づき施設の耐震安全性評価を行う,という手順で進められる。このうち基準地震動の策定は,大きく,地質調査や活断層の評価を前提とする「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と,「震源を
特定せず策定する地震動」の二つに分かれる。このことは,新規制基準(設置許可基準規則4条,同規則の解釈別記2,基準地震動審査ガイド)においても,従前の規制基準(新耐震設計審査指針)においても,変わりはない。


確立された国際基準
IAEAが福島原発事故について作成した報告書の技術文書によれば,地震の想定につき,必要とされる低確率と釣り合うような先史データがないことを埋め合わせるため,国際慣行としては,①歴史記録のある最大の震度又は規模に上乗せする決まりと,②震源をサイトから最短距離に置く想定とがあり,これは1979年のIAEA安全基準(No.50-SG-S1)に反映されていると記載されている。また,IAEA安全基準のSSG-9*には,
「地震発生源構造ごとに,最大潜在マグニチュードが,そ
の構造の最も原子力発電所サイト地域に近く,地震源の物理的大きさを考慮した位置で発生すると想定すべきである」と記載されており,前記国際慣行①及び②はSSG-9にも反映されている。したがって,①最大潜在マグニチュードの評価と,②サイトに最も近い場所における震源の想定は,確立された国際基準と考えるべきであり,これらの評価を行っていない地震動想定は,原則的に不合理というべきである。

地震調査研究推進本部の文書について
地震調査研究推進本部(推本*)は,政府の公的機関であって,推本に設置された地震調査委員会は,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集・分析し,これに基づく総合的な評価を行っている。その作成,公表する文書は,地震についての国としての統一的評価というべきものであって,科学的根拠に基づいており,日本における地震の調査,研究に基づく評価としては最も権威がある。したがって,推本が作成,公表している文書は,地震学,地震工学の現在の科学技術水準を反映するものとして,被告電源開発が評価した基準地震動の合理性を判断する上でも十分考慮されなければならない。

(2)基準地震動についての規制基準の不合理性

新規制基準の策定過程について
福島原発事故を受けて新規制基準が策定されたが,新規制基準を検討する過程では,検討用地震*の選定の妥当性や不確かさの考慮の妥当性について判断基準を明確にすることが必要であるという提言がされ,これに異論らしい異論はなかったにもかかわらず,結局,具体的,定量的な基準は策定されなかった。規制委員会の地震等基準検討チームは,それまではほとんど存在しなかった津波についての規制基準を新たに設けるという大きな課題を抱えながら,約7か月間に13回の会合で検討を行ったにすぎない。その結果,新規制基準における地震動想定手法は,福島原発事故を受けても従前と変わっていない。

新規制基準の要求事項の曖昧さ
設置許可基準規則3条,4条,38条,39条等から分かるとおり,地震対策に係る規制上の要求事項の基礎として,基準地震動(設置許可基準規則4条3項)が位置付けられる。しかるに,基準地震動の内容としては,設置許可基準規則の解釈(別記2の5)において「最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なもの」とされているのみである。また,基準地震動審査ガイドも,地震動評価において「適切に」との文言を多数使用しているが,何が適切かという具体的な審査の基準を示していない。
このようなほとんど白紙委任の規制基準は,基準の名に値しない不合理な基準ということができる。
基準地震動の超過確率*


IAEA安全基準の安全指針「原子力発電所の耐震設計と認定」
(No.N
S-G-1.6)では,設計基準の地震規模として,発生頻度が10-3~10-4(平均)又は10-4~10-5(最頻値)/炉年と設定する考え方が示されており,基準地震動の超過確率は,1万年に1回以下でなければ国際的な基準に合致しているとはいえない。
しかし,以下のとおり,日本のこれまでの超過実績を見ると,頻繁に設計基準地震動を超過しており(これらを踏まえると,本件原発の基準地震動の超過確率は,100年に1回程度か,せいぜい1000年に1回程度にすぎないというべきである。,抜本的な見直しが必要であることは明ら)
かである。しかし,新規制基準において抜本的な変更は見られない。(ア)国内で過去10年間に,基準地震動を上回る地震動が,四つの地震動,五つのケースで観測されている。福島原発事故前の10年間に,50基の原子炉のうち延べ18基で基準地震動を超過しているので,一つの原子炉当たり27.8年に1回は超過する計算となる。
(イ)地震学者である浜田信生,泉谷恭男,増田徹は,基準地震動の超過確率が1万年に1回以上であることを認めている。多くの地震学者は,稀に発生する可能性のある最大の地震動の大きさを一般的に信頼するに足りる精度で算出することはできないと考えている。
(ウ)1万年に1回という低頻度の地震動の規模を探る上で,数百年分の観測記録では少なすぎる。
(エ)地震動の予測は,恣意的な算出が比較的容易である。

確率論的安全性評価の非徹底
SSG-9では,
「5.1

地震動ハザードは,確率論的および決定論的

地震ハザード解析手法の両方によって評価することが望ましい」とされており,確率論的な評価は国際的なスタンダードである。また,
「東京電力福
島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の最終報告(平成24年7月23日)においては,地震時の確率論的安全性評価(地震PSA)が手法として確立されていることを前提に,
「施設の置かれた自然環境特性に
応じて総合的なリスク評価を事業者が行い,規制当局等が確認を行うことが必要である」と提言されている。
ところが,新規制基準では,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動については,それぞれが対応する超過確率を「参照」し,それぞれ策定された地震動の応答スペクトル*がどの程度の超過確率に相当するかを把握することと規定されているにすぎない(設置許可基準規則の解釈別記2の5四)
。適合性審査でも,申請者が提示
した基準地震動の超過確率の信用性について,実質的な審査は行われていない。
なお,基準地震動の妥当性を担保するための手続は,日本において特に重要であり,SSG-9(項目11.18~11.20)では,第三者によるピアレビューを実施すべきであることが規定されている。しかし,現在の規制基準でもこのような手続は規定されておらず,不合理である。(3)震源を特定して策定する地震動
被告電源開発による,震源を特定して策定する地震動(設置許可基準規則の解釈別記2の5二)は,以下のとおり,検討用地震の選定・評価,応答スペクトルの設定等において不合理である。

検討用地震の選定・評価
(ア)推本(2010)*や島崎(2008)*によれば,孤立した短い活断層からはM*6.9~7.4程度の地震が発生するのであるから,大間北方沖活断層(後記4参照)については,少なくともM7.4は想定しなければならないところ,被告電源開発はF-14断層(後記4参照)につきM6.7と評価しており,
「不確かさの考慮」としてM7.0相当ま
で考慮しているようではあるが,それでも過小評価であることには変わりがなく,最大潜在マグニチュードの評価を求める前記(1)イのSSG-9の要請に反する。
(イ)F-14断層による地震の基本震源モデルについては,震源断層*が屈曲する等して本件原発の直下ないし近傍を走るケースを想定すべきであり,この想定を行っていない被告電源開発の地震動評価は,前記(1)イのSSG-9の定めに反する。
(ウ)被告電源開発が内陸地殻内地震*の想定に用いた松田式*には,大きなばらつきがあるところ,ばらつきを考慮しないことは,基準地震動審査ガイド(Ⅰの3.2.3(2))に違反する。また,地震発生前に地下の震源断層の長さは分からないので,地表地震断層の長さを当てはめざるを得ず,過小評価しやすい。
また,被告電源開発は,F-14断層等から発生する地震規模を評価するにあたって入倉・三宅(2001)*の式を用いているようであるが,この式によると他の式に比べて顕著に地震モーメントを過小評価することになり,島崎邦彦前規制委員会委員長代理も,垂直又は垂直に近い断層で発生する大地震の地震モーメントの推定にはこの式を用いてはならないと断じている。推本レシピ*でも,平成20年4月の改訂から,入倉・三宅(2001)の式と並んで松田式等他の式が採用されるに至っており,F-14断層のように地震発生層が比較的薄いところにある高角の活断層については,入倉・三宅(2001)の式だけでなく松田式等他の式をも用いた地震規模の想定を行い,いずれか大きいほうを採用した上でばらつきを考慮するという方法によらなければ,保守性に欠けることは明らかである。
(エ)被告電源開発が,プレート間地震*,海洋プレート内地震*について参照した過去の地震記録は,宝暦13年(1763年)陸奥八戸地震を除き,全て昭和以降のものであって,地震規模の想定に何ら余裕を見ておらず,かつ,固有地震として設定しており,極めて稀に発生する巨大地震の想定としては不十分であって,前記(1)イの確立された国際的基準に反する。
本件敷地が所在する領域の海洋プレート内地震の最大マグニチュードは,推本(2014)*によると,北海道東方沖地震と同様のM8.2ということになるから,M8.2のスラブ内地震*が敷地直下で発生した場合も想定すべきである。
被告電源開発は,プレート間地震につき,Mw*8.3,不確かさ考慮でMw9.0という地震規模を設定しているが,津波審査ガイド*には,千島海溝から日本海溝沿いの領域まで連動すれば最大Mw9.6程度の津波波源となることが記載されており,かかる記載を参照し,地震規模の設定を見直すべきである。加えて,被告電源開発が主張する,Mw8.3より大きくなると地震動が飽和するという見解は,観測記録や理論で十分に裏付けられた普遍的法則とはいえず,仮説の域を出ない。また,Mw9.0の地震について,強振動生成域を敷地に近付け,応力降下量*を大きくする等の不確かさを考慮していない。

応答スペクトルに基づく地震動評価
(ア)距離減衰式*に基づく地震動の経験的評価法とされている耐専式*(Noda,etal.(2002)*)の手法では,標準偏差2倍以上のばらつきが発生するが,被告電源開発は,アスペリティ*配置の変更により,わずかに余裕を持たせているにすぎず,内陸地殻内地震の地震動評価において低減係数を用いないことや地盤増幅率の補正をすることによっては,基準地震動審査ガイド(Ⅰの3.3.3(1))が求める不確かさの考慮として,不十分である。
(イ)被告電源開発は,耐専式以外にも10種類の距離減衰式を適用した上で包絡線を設定していることにより余裕があると主張している。しかし,耐専式の手法以外の距離減衰式も,標準偏差2倍(約4倍)程度のばらつきがあるところ,被告電源開発は2倍程度の不確かさの考慮しかしておらず,基準地震動の想定は過小である。また,本件敷地からF-14断層を延長した震源断層まで断層距離は5km程度しかないが,敷地近傍の地震動データは未だ限られているため,断層近傍サイトでの距離減衰式による予測精度はとりわけばらつきが大きい。被告電源開発による評価は,結果としてほとんど全ての距離減衰式においてNoda,etal.(2002)による評価を下回っているが,これは恣意的に作出された結果である疑いが拭えない。
(ウ)距離減衰式のばらつきを低減させる最も有効な方法は,当該敷地における観測記録を分析することであるが,本件原発の敷地における観測記録はない。仮に,被告電源開発が本件敷地ないしその周辺の地質や地盤を調査していたとしても,調査によって地盤・地質を把握できるのは,必要な情報のごく一部にすぎず,地震動の予測のばらつきを有意に減らすことはほとんど期待できない。
なお,本件原発の敷地地盤は不均質であり,貫入岩が入り込むなどして地下構造が不整形なものとなっていることが推測され,地震動を増幅させる可能性があるにもかかわらず,被告電源開発はこれを十分に調査せず,耐震設計上この点を考慮していない。

断層モデルを用いた地震動評価
断層モデルを用いた手法では,一般に,推本レシピを適用して,活断層(震源モデル)の長さ,面積等から地震規模を推定するが,推本レシピは,強震動の分析や予測を行う上で,倍半分程度の誤差を目指したものにすぎず,現在も開発途上であり,実観測記録を用いた検証によっても精度の低い再現しかできなかったものであって,たとえ詳細な調査や適正な経験式の適用を前提としても,信頼性が十分ではない。また,そこで用いられる各種経験式にもばらつきがある。したがって,基準地震動の策定においては,ばらつきが十分考慮されている必要がある。
しかし,被告電源開発の行った不確かさの考慮は,破壊開始点*を変更し,短周期レベルを1.5倍としたことと,断層傾斜角を60°から45°に変更したことの2点であるが,①グリーン関数法の誤差,②震源断層のモデル化の誤差,③震源パラメータに係る経験式(アスペリティの地震モーメント,応力降下量)の誤差,④偶然的不確定性に係るパラメータ(アスペリティの位置・強度,破壊伝播速度,破壊開始点など)の誤差を踏まえると,不十分である。
(4)震源を特定せず策定する地震動
被告電源開発による,震源を特定せず策定する地震動(設置許可基準規則の解釈別記2の5三)は,以下のとおり,過去の観測記録の評価,応答スペクトルの設定等において不合理である。

基準地震動審査ガイドにおいて,収集対象となる内陸地殻内の地震の例として挙げるものは,わずか17年間の16地震だけでしかなく,同審査ガイド上,この16地震は例示にすぎないとされ,各種不確かさの考慮が義務付けられていることからしても,この観測記録のみに依拠して検討すべきではない。しかし,被告電源開発が検討対象とした過去の内陸地殻内地震は,M6.1~6.6規模の4地震のみ(平成9年鹿児島県北西部の2地震,平成10年岩手県内陸北部地震,平成16年留萌支庁南部地震)とされ,その根拠として,本件原発敷地近傍の過去100~200年程度の記録から想定される地震の最大規模がM6~6.5程度であるからとしている。しかし,短期間のわずかな記録で,1万年に1回以下という低頻度の地震動を知ることは不可能である。推本(2014)では,新垣見マップ*に示された本件原発の領域で発生する可能性がある内陸地殻内地震の最大規模は,M7.5とされており,被告電源開発の評価は明らかに過小である。また,基準地震動審査ガイドでは,Mw6.5(気象庁マグニチュードに換算するとM6.8程度)未満の地震を全国共通に考慮すべき地震としているのであり,M6~6.5程度とする被告電源開発の評価は同審査ガイドに反する。


被告電源開発が考慮した加藤ほか(2004)*の応答スペクトルは,限られたデータのみに基づくもので,かつ,M6.6までの地震しか考慮していない点で保守性を欠いており,これを用いた基準地震動の評価は過小である。

被告電源開発は,加藤ほか(2004)の応答スペクトルと,佐藤ほか(2013)*の応答スペクトルを,特段の修正を加えることなく用いたようであるが,一般財団法人地域地盤環境研究所が留萌支庁南部地震について検討を加えた「震源を特定せず策定する地震動

計算業務報告書」で示

されたように,最大地震動の観測記録を考慮し,破壊開始点の違いやNFRD効果(アスぺリティによる断層近傍の破壊伝播効果であり,破壊伝搬方向に観測点があるとき,地震動が重なって増幅する効果)も加味して,最大の加速度を考慮すべきである。規制委員会は,震源を特定せず策定する地震動について,過去の地震動観測記録をほぼそのまま用いるものとし,各種不確かさの考慮は,現状,はぎとり解析に係るものに限定されているが,このような解釈・運用は,新規制基準の趣旨に反する。

大間北方沖活断層については,詳細な調査によっても断層の震源モデル設定に必要な情報が得られていない以上,地下の震源断層が本件原発の敷地直下又は近傍まで続いている可能性を考え,
「震源を特定して作成する地
震動」としてのみではなく,
「震源を特定せず策定する地震動」としての評
価をしなければならない。


気象庁地震カタログでは,大正12年以降に発生したM6.5以上の内陸地震は30個であるところ,そのうち地震断層を生じたのは約3分の1である11個にすぎず,M7.0以上でも地震断層の出現率は44%であって,未知の断層が強い地震動を生じさせる例は最近12年間でも相次いでいるから,あらかじめ震源を特定できない地震は,現実的リスクとして捉えなければならない。

(被告電源開発の主張)
(1)震源を特定して策定する地震動

検討用地震の選定・評価
(ア)F-14断層による地震の震源モデルにつき,被告電源開発は,震源断層の長さとして,Stirling,etal.(2002)
(MarkStirlingほか
‘ComparisonofEarthquakeScalingRelationsDerivedfromDataoftheInstrumentalandPreinstrumentalEra’〔計器観測がなされた地震
のデータ及びそれ以前の地震のデータに基づくスケーリング則の比較〕)
を参考にしながら,地表の痕跡長さ(最大約3.4km)を上回る20kmと設定した。震源断層の幅としては,本件敷地における地震発生層の厚みを考慮しながら,保守的に13kmと厚く設定した。これらを基に入倉・三宅(2001)の式に入力するなどして,地震規模をM6.7と設定した。さらに,震源断層の傾斜角等の不確かさを考慮してM7.0の震源モデルを設定している。
推本(2010)では,長期評価の高度化に向けて,海域の短い断層につき,評価地点に応じた詳細な各種調査等を踏まえて震源断層を推定するといった考え方が示されているところ,被告電源開発のF-14断層に係る調査,評価はこれに沿うものである。また,島崎(2008)がいうM7.4の想定は,推本による文献調査を基本とした全国の断層評価を対象として一般的な最大規模を検討したものであって,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の組合せによる詳細な調査による本件原発の内陸地殻内地震の地震動評価に当てはまるものではない。(イ)原告らは,F-14断層の震源モデルについてSSG-9に反する旨主張するが,調査結果により認められる地質構造等を踏まえることなく,敷地直下に内陸地殻内地震の震源断層を設定するといった考え方は,SSG-9においても採用されていない。
(ウ)松田式は,地震規模を想定する際に広く一般的に用いられている回帰式であり,推本レシピにも採用されている。被告電源開発は,検討用地震のうち根岸西方断層による地震につき応答スペクトルに基づく地震動評価を行う際に適用しているが,他の検討用地震による地震動を下回っており,本件原発における基準地震動の策定に影響を及ぼすものではない。
なお,原告らが指摘するばらつきは,平成15年に気象庁がマグニチュードの算出方法を改定する前の数値であり,改定後の数値に置き換えると,過去14地震のデータは松田式とよく整合している。
また,原告らは,入倉・三宅(2001)の式を用いた被告電源開発の地震動評価が過小であるかの主張をするが,原告らの主張は均質な断層すべりを仮定したモデルに基づくものであって,これにより入倉・三宅(2001)の式の妥当性を検証することはできない。むしろ,平成28年の熊本地震を含む近時の内陸地殻内地震の震源断層面の不均質なすべり分布を伴う解析を通じて,入倉・三宅(2001)の式の合理性は検証されているのであって,これらを考慮しない原告らの主張は理由がない。なお,推本レシピには,断層長さを松田式に適用してマグニチュードを求める簡便法が採用されるに至っているが,F-14断層による地震の断層長さは最大約3.4kmであり,こうした長さの断層は松田式のデータセットに含まれておらず,松田式の適用範囲外である。(エ)被告電源開発は,スラブ内地震の検討用地震の想定に当たり,東北地方から北海道地方にかけてのスラブ内地震の発生様式を踏まえ,本件敷地に与える影響が大きくなるように敷地から近い位置に震源断層を想定している。原告らが指摘する推本(2014)によると,M8.2の地震の断層は,領域の東側のみに配置されており,本件敷地直下に配置されていない。
また,プレート間地震の地震規模の設定については,想定三陸沖北部の地震(Mw8.3)を検討用地震として選定した上で,東北地方太平洋沖地震が複数の領域にわたって連動したことを踏まえ,その知見の反映として,三陸沖北部の領域と千島海溝沿いの十勝沖及び根室沖の領域が連動した場合の地震(Mw9.0)を想定した地震動評価を実施している。これら想定した二つのプレート間地震の各地震動評価の結果を比較すると,地震規模がMw8.3からMw9.0と大きくなっているにもかかわらず,地震動の飽和が生じている。
仮にMw9.0よりも大きい規模の地震を想定したとしても,被告電源開発が想定した地震域よりも遠方の色丹島,択捉島に及ぶような領域まで連動することになり,本件敷地から非常に離れているため,これらの領域からの地震動による影響は少ないと考えられる。

応答スペクトルに基づく地震動評価
(ア)距離減衰式は,入力パラメータの数が少ないため計算が簡便であること,誤差が累積されにくく評価結果が安定していること,観測事実に基づいているため算出した値に対する信頼性が高いことなどの利点を有し,地震工学分野で広く用いられてきた。距離減衰式の一つである耐専式(Noda,etal.(2002)
)の方法は,マグニチュード,等価震源距離
(面的に拡がりを持つ震源断層から受けるエネルギーと同じエネルギーを放つ仮想の点震源までの距離をいう。
)及び評価地点の地盤の弾性波速
度をパラメータとして,解放基盤表面*における地震動の応答スペクトルを評価する手法である。
(イ)被告電源開発は,F-14断層による地震の地震動評価において耐専式の方法を用いて,本件敷地周辺の詳細な各種調査結果により情報を得た上で,基本震源モデルについて震源断層面の断層長さ,断層幅及び傾斜角を調査結果よりも保守的な条件に設定した。この設定により,入力パラメータとして用いられる地震規模及び等価震源距離は保守的な想定となる。
また,耐専式の方法を用いると,内陸地殻内地震に対しては,地震動の応答スペクトルを大きく評価する傾向のあることが知られており,低減係数を考慮することでより正確に算定できることが提案されているが,被告電源開発は,低減係数を用いた応答スペクトルの低減を考慮しないことにより,保守的に評価している。なお,平成19年の新潟県中越沖地震*における短周期レベルが平均的な値より1.5倍程度大きかったことは,耐専式の方法を用いる際に設定される入力パラメータとは関連しない(別途,断層モデルを用いた手法で考慮している。。

本件原発の基準地震動の設計用応答スペクトルは,耐専式の方法に加え,各文献による経験的な方法により算出した応答スペクトルの全てを包絡した上で,更に余裕を見込んで設定されている。
(ウ)地震記録による地盤増幅特性*(原告らのいうサイト特性)の検証は,評価対象となる地震と異なる発生様式の地震の観測記録を用いても行うことが可能であるから,本件敷地において内陸地殻内地震を観測できていなくとも,検証がないことにはならない。
被告電源開発は,本件敷地地盤の地盤増幅特性について,本件敷地で得られた観測記録の初期微動部の水平/上下スペクトル比(地震観測記録の水平方向のフーリエ振幅スペクトル〔地震動の周波数特性を表すものであり,不規則な地震動の振幅が,どの周波数成分の振幅に寄与しているのかを示すもの。
〕と上下方向のフーリエ振幅スペクトルとの比のこ
と)を逆解析して深い地盤の地下構造を推定する方法による検討を行い,水平成層構造(速度層が水平を成して広がっている地下構造)の地下構造モデルと判断している。また,観測記録を用いて,本件敷地における地震動の到来方向の違いによる顕著な差異が認められないことをもって,別途検証している。

断層モデルを用いた地震動評価
(ア)断層モデルを用いた手法は,多くのパラメータが用いられ,個別の地震の震源特性*,地下構造による地震波の伝播特性(伝播経路特性*,地盤増幅特性)を,詳細に地震動評価へ反映させることができること,地震動の振幅だけでなく時間の経過を意味する位相も含めた時刻歴波形として評価できることなどの利点があり,広く実務に利用されている。現状における手法等は推本レシピに取りまとめられている。
(イ)被告電源開発は,F-14断層による地震につき断層モデルを用いた手法による地震動評価を行うに当たり,基本震源モデルについて,本件敷地周辺の詳細な調査結果を踏まえ,影響が大きくなるよう保守的な条件を設定した。具体的には,①断層長さを,調査では最大約3.4kmのところ20kmと設定したこと,②断層面の傾斜を,調査では鉛直又は広角で本件敷地から離れる方向に傾斜しているところ,鉛直と設定したこと,③地震発生層を,調査では9kmと考えられるところ13kmと設定したこと,④破壊開始点を,本件敷地における地震動が大きくなるように設定したことが挙げられる。その上で,震源断層面の傾斜角,応力降下量,地震モーメント及び破壊開始点については,不確かさを考慮したモデルを設定した。
(ウ)原告らが,
「観測記録を倍/半分の精度で説明できる」ことを目標にし
たにすぎないと指摘する点は,観測記録そのものの持つばらつき程度の精度という趣旨である。また,原発における地震動評価に当たっては,詳細な各種調査により震源モデルの設定精度が向上している。
(エ)原告らはグリーン関数法の誤差などを指摘し,不確かさの考慮が不十分である旨主張するが,IAEAのSSG-9においても,個々の関係式のばらつきを地震動評価に結びつけるといった考え方は採用されておらず,被告電源開発の行った検討結果を理解することなく,科学的にも合理性のない主張をしているにすぎない。
(2)震源を特定せず策定する地震動

被告電源開発は,本件原発の確率論的安全性評価(地震PSA)を行うに当たり,本件敷地が位置する領域において,活断層の存在が知られていないところで発生する地震の最大マグニチュード値を,推本(2014)と同じM7.3として考慮している。
なお,本件敷地が所在する領域の中で等しく発生する可能性がある内陸地殻内地震の最大の地震規模がM7.5であるとの見解は,新垣見マップでは根拠付けられていない。
被告電源開発は,震源を特定せず策定する地震動の評価に当たって考慮した四つの地震以外の,基準地震動審査ガイドに挙げられている地震を含め,今後とも,知見の蓄積等を踏まえて,信頼性の高いデータを用いた検討を適切に行う考えである。


加藤ほか(2004)の応答スペクトルは,相当数の観測記録に基づく信頼性のあるものである。安全基盤機構*の報告書でも,同応答スペクトルの年超過確率の値,及び,同応答スペクトルを超える地震動が震源特性の組合せとして発生する可能性が低いことから,同応答スペクトルを肯定的にとらえている。
なお,安全基盤機構の試算は,試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いるために試算したものではない。また,規模も位置も特定されない地震について,様々な断層パラメータを,信頼性をもって設定することはできず,仮想的に全ての断層パラメータを対象地点に大きくなるように設定しても妥当な結果は得られないから,一般財団法人地域地盤管工研究所の留萌支庁南部地震に関する報告書において試算した地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いることに合理性はない。

新耐震設計審査指針における地震動評価の基本は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動であり,その策定に最大限の努力が払われることを前提として,その補完的な位置付けとして,震源を特定せず策定する地震動が規定された。新規制基準においても考え方は承継されている。規制委員会も,現実の観測記録ではない地震動や,地震の規模を仮定して計算した仮想的な地震動をもとに策定することを求めていない。

原告らは,M7.0以上の地震断層の出現率は44%であるなどと指摘するが,原告ら主張の地震断層の出現率は,震源断層と地表地震断層の長さが対応する場合に限った比率である上,原発における基準地震動の策定を目的として実際に活断層に係る調査を行った場合を前提とするものではないから,詳細な調査を基に様々な保守的条件を設定して行った被告電源開発の地震動評価を過小とする理由にはならない。

(3)新規制基準の合理性等について
藤原証人*の見解について


藤原証人は,規制委員会の地震等基準検討チームの会合において,検討用地震の選定の妥当性や不確かさの考慮の妥当性について見解を述べているが,藤原証人の尋問結果によれば,これらはいずれも,明確な判断基準を示したものではなく,長期的な課題として認識していると考えられる。また,基準地震動審査ガイドにある,震源を特定せず策定する地震動の各種の不確かさや,経験式のばらつきについても,長期的な課題又は今後の課題と回答している。
よって,藤原証人の見解をもって,新規制基準が不合理であるとすることはできない。

基準地震動の超過確率
(ア)地震動想定を誤ったと原告らが指摘する過去10年間の5事例によっても(①平成17年宮城県沖地震・女川原発*,②平成19年能登半島地震*・志賀原発*,③平成19年新潟県中越沖地震・柏崎刈羽原発*,④平成23年東北地方太平洋沖地震・福島第一原発,⑤同・女川原発),基準
地震動策定の基本的な枠組みが有する合理性は否定されない。すなわち,これらはいずれも新規制基準下での基準地震動を超過したものではなく,旧耐震設計審査指針における基準地震動S1及び基準地震動S2を超過したものである。また,東北地方太平洋沖地震は,明治以降の国内最大規模,1900年以降の世界4番目の規模にもかかわらず,④福島第一原発及び⑤女川原発とも,基準地震動Ssと概ね同程度である。さらに,前記③以外の事例では,観測記録のはぎとり波の応答スペクトルが各原発の基準地震動の設計用応答スペクトルを超過した周期帯は一部に限られ,施設の健全性に特段の問題を生じていない。前記③事例は,当初設計時の想定を大きく上回る地震動が観測されたものの,安全上重要な設備の健全性に特段の問題は確認されていない。
(イ)被告電源開発が採用した基準地震動の超過確率の算定方法は,日本原子力学会標準の「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007」を参照したものであり,科学的裏付けに基づく相応の信頼性がある。
(被告国の主張)
(1)本件設置許可処分に係る規制基準及び調査審議の合理性についてア
被告国(安全委員会)は,本件安全審査*の調査審議において,新耐震設
計審査指針に基づき,被告電源開発の策定した基準地震動Ssが,本件原子炉の敷地周辺の実体を踏まえたものであり,既往の地震の規模の検証等を行うなど必要な検討過程を経た結果のものであるとして妥当なものと判断したものであって,調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はない。

本件設置許可処分の耐震設計の審査に用いられた新耐震設計審査指針は,基準地震動Ssの策定につき,地震発生様式等による分類を行った上で敷地に大きな影響を与えると予想される検討用地震を複数選定し,地震発生様式,地震波伝播経路等に応じた諸特性を十分に考慮するものであって,それ自体十分な合理性を有するものである。なお,同指針は,基準地震動Ssを策定するに当たり,地震動の平均像を基にすることを要求しているものではなく,その策定過程に伴う不確かさ(ばらつき)について適切な手法を用いて考慮することを求めている。
実際,安全委員会は,本件安全審査の調査審議において,被告電源開発が,断層の長さを保守的に長く想定して検討用地震を選定していることなど基準地震動Ss策定過程に伴う様々な不確かさを考慮して基準地震動Ssを設定していることを確認し,本件原発が,地震動の平均像そのものをもって基準地震動Ssを設定していないことを確認している。
(2)新規制基準の合理性について

原告らは,基準地震動審査ガイドにおいて「適切に」との文言が多用さ
れ,具体的な審査基準を明らかにしておらず,基準の名に値しない不合理な基準であるなどと主張するが,基準地震動審査ガイドは,規制委員会の規制基準に係る内規にすぎず,審査に当たって審査官を拘束するものではなく,それ自体が直ちに規制基準となるものではない。
この点を措いても,基準地震動の策定に当たり検討すべき項目は多岐にわたり,それぞれ高度に専門技術的な検討を要するのであって,事前に細部まで網羅的かつ一義的な基準を示すことは極めて困難であり,かえって個々の検討用地震の特性を考慮した柔軟かつ適正妥当な審査を阻害するなど不合理な事態を招きかねない。
確かに,将来的に,地震に関する知見が蓄積され,これらについて十分な分析がされた上で,不確かさ等について定量的な規制基準が定められることは望ましいことではあるものの,前記知見の蓄積や分析等には相応の時間を要することは明らかである。この間,
「適切に」等の定性的な基準な
いしは指針を定め,個々の事案に応じて個別に審査を行うことは,何ら不合理ではないというべきである。

原告らは,IAEA安全基準のSSG-9(項目11.18~11.2
0)では基準地震動の策定に当たって第三者によるピアレビューを実施すべきであるとされているのに対し,我が国においてはこのような手続が取られていないと主張する。
しかし,ピアレビューを求める趣旨は,定立した評価手法についての客観性を担保することにあるところ,設置許可基準規則の解釈(別記2の5)においては,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から基準地震動が策定されることを求めており,この過程を経ることにより,結果として必然的に複数の専門家の見解が反映されることになる。その上で,規制委員会が審査を行うこと自体によって,原子力規制に際しての専門性及び客観性を担保するものであり,ピアレビューに関する要求がないことのみをもって直ちに,地震に係る規制基準が不合理であるということはできない。
4争点4(本件原発周辺の海底断層)について
(原告らの主張)
(1)大間北方沖活断層の存在

渡辺ほか(2012)*が指摘するとおり,以下の理由から,本件原発の
北方の海底には,別紙10の赤色破線で示す位置に,大間崎の北西約16kmの海域から東南東方向に延びる長さ約43~44kmの断層(以下「大間北方沖活断層」という。
)が存在し,後期更新世以降(約12万60
00年前から現在までの間)に活動があったことがほぼ確実であるから,「耐震設計上考慮する活断層」又は「将来活動する可能性のある断層等」として考慮しなければならない。なお,大間北方沖活断層は,被告電源開発が指摘するF-14断層を起点として東方向に延びるものである可能性が高い。
(ア)大間崎周辺には,海成段丘面*が多数存在し,それぞれ位置する高度から考えられる形成年代によって,古いものから順にH1面,H2面,M1面,M2面,A1面,A2面に区分することができる(H1面からM2面までの分布を分かりやすく記載したものが別紙11である。。この)
うちM1面は,約12万5000年前に形成されたものであるところ,この旧汀線*の高度は,大間周辺から南方の佐井周辺に向かって低下しており,現在までに大間周辺で最大で55m程度隆起していることが分かる。
M1面が自然に隆起したのであれば,これに対応する水準点の変化があるはずであるが,明治36年(1903年)から昭和56年(1981年)までの約80年間において,隆起量の少ない佐井周辺を除き水準点の大きな変動は見られない。このことは,当該隆起が緩やかな自然隆起ではなく,複数回の地震によるものであることを示している。
(イ)大間崎の北方約600mに位置する弁天島には,A1面とA2面の2段階の離水ベンチ*が存在するところ,かかる地形は,自然隆起により形成されるものではなく,地震によるものであることを示している。また,A1面の旧汀線高度が,弁天島で6m,大間平で5m,蛇浦で3mと,わずか数kmの区間で大きく異なっていることからも,地震による隆起により形成されたものと考えるべきである。
(ウ)大間周辺におけるM1面の旧汀線が同じ高度にあるものをそれぞれ1本の線でつなぎ,等隆起線を作成すると,別紙12のようになり,この等隆起線は,北が高く南に行くほど低くなる。そして,弁天島の北方約10kmの海底には,西北西から東南東方向に海底の高度が急激に変化する急崖地形が40km以上にわたり存在する(別紙12の「→

←」

の箇所)
。これらのことから,海底の急崖のある場所(別紙10の赤色破
線)に40km以上に及ぶ大きさの活断層が存在すると考えるべきである。

設置許可基準規則4条3項は,耐震重要施設*について,基準地震動によ
る地震力に対して安全性が損なわれるおそれがないものでなければならないものとし,基準地震動審査ガイドは,基準地震動について,
「震源として
想定する断層の形状等の評価が適切に行われていることを確認」して策定するものとしている。また,地質審査ガイド*によると,後期更新世以降の活動性を明確な証拠により否定されない限り「将来活動する可能性のある断層等」であることは否定されず,
「将来活動する可能性のある断層等」の
活動性の評価については,
「安全側の判断が行われていることを確認する」
ものとされている。
このように,本件原発の設置変更許可に当たっては,大間北方沖活断層等の存在を明確に否定できない以上,基準地震動を作成する際の対象に含める必要があるのであって,これを考慮しないことは新規制基準の定める要件を満たさないに等しい。

本件設置許可処分当時の関連法令等を前提としても,新耐震設計審査指
針及び「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き」によれば,後期更新世以降に活動があったことを否定できない断層は,「耐震設
計上考慮する活断層」として認定することとなる。これを考慮していない本件設置許可処分は,安全審査に看過し難い過誤,欠落が存在する場合に匹敵する。
(2)大間西方沖活断層の存在
別紙10に示されるように,下北半島西岸に位置する仏ヶ浦にも階段状の離水ベンチが存在し,また,本件原発の西方の海底には100~150mの急斜部という海底の変化が生じていることから,当該海域にも,同別紙の縦方向の破線で示すとおり,大間崎の北西約11kmの海域から南北方向に延びる約47~48kmの長さの活断層(以下「大間西方沖活断層」という。)
が存在し,後期更新世以降に活動していた可能性を否定できず,活断層として考慮しなければならない。なお,大間西方沖活断層は,被告電源開発が指摘するF-15断層及びこれに雁行する一体の断層群と近似している可能性が高い。
(3)新規制基準の不合理性
米国NRCの立地指針(RG4.7〔Revision2〕
)では,原子炉から半径
5マイル(約8km)以内に地表の変形や地震を引き起こす断層がないことを要求している。NRCの前記立地指針に即して考えると,本件原発は,大間北方沖活断層が存在するというだけで立地不適となり,およそ建設が許されないこととなる。
日本の法規制を前提とすると,大間北方沖活断層等の活動性が否定できないと判断された場合でも,施設にどのような影響を及ぼすか検討し,それに応じた耐震設計をすることで,建設が許可される可能性がある。しかし,どれだけ地震の予測をしても,その想定を超えるような地震が発生する可能性があることは公知の事実である。
日本の新規制基準には,NRCのような立地指針はないが,この点は新規制基準の不備であり,国際的基準に劣っている。
(被告電源開発の主張)
(1)活断層の分布状況

被告電源開発の実施した調査
被告電源開発は,基準地震動の策定に際し「震源として考慮する活断層」の評価に必要な本件敷地周辺の地質,地質構造の把握を目的として,本件敷地を中心とする半径約30kmの範囲及びその周辺を対象に,文献調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等を組み合わせた調査を行い,本件敷地を中心とする半径約5kmでは,精度の高い詳細な調査を行った。

震源として考慮する活断層に係る評価
(ア)敷地の前面海域
被告電源開発は,敷地の前面海域の断層について,F-1断層からF-5断層まで及びF-7断層からF-33断層までを評価した。なお,F-18断層からF-24断層までについては,地下深部で単一の断層となっていることも否定し難いため,これらの断層を一括して長さが最大7.2kmの「敷地西方沖断層」として評価している。
(イ)外側海域
被告電源開発は,本件敷地の外側海域の断層について,奥尻海盆東縁断層,恵山岬東方沖断層を含む複数の断層を評価した。
(ウ)敷地周辺及び近傍の陸域
被告電源開発は,敷地周辺の陸域の断層について,根岸西方断層,函館平野西縁断層帯(渡島大野断層,函館平野西縁断層,茂辺地断層及び海域延長部)
,清水山南方断層を含む複数の断層を評価した。
(エ)震源として考慮する活断層に係る評価
前記評価結果を踏まえた,本件敷地周辺における震源として考慮する活断層の分布は,別紙13に示すとおりであり,長大な断層はない。なお,このうちF-14断層については,活断層の可能性は非常に低いと考えられるものの,後期更新世より新しい時代の地層が欠如しているため後期更新世以降の活動を明確に否定することができず,このため,震源として考慮する活断層と評価し,孤立した短い活断層として評価している。
また,F-15断層については,海上音波検査により,後期更新世以降の活動がないと判断している。
(2)大間北方沖活断層の不存在

海上音波探査等
被告電源開発が海上音波探査を実施して(本件設置許可処分以降も継続している。,海底の地質構造を直接把握した結果,大間北方沖活断層が存)
在すると原告らが主張する範囲を含む領域において,海底下のE層からB1層までの地層(先新第三紀から後期更新世まで。別紙14地質年代区分参照)に,変位・変形は認められず,断層活動の痕跡は認められない。この調査結果は,重力探査の結果に基づき作成した重力異常図によって,逆断層*タイプの活断層が伏在している場合に示される顕著な線状の重力急変部が認められなかったことと整合する。
他方,下北半島を含む東北地方では,太平洋プレートが陸のプレートの下に東から西へ潜り込むという東西圧縮の応力場の下,南北方向の逆断層になるという特徴があるところ,原告らが指摘する大間北方沖活断層は,東西方向の逆断層として示されており,東北地方の地域性に合わない。

等隆起量線
被告電源開発は,下北半島西部全域を対象として,文献調査,変動地形学的調査及びボーリング調査等を実施し,複数のM1面の旧汀線の標高等を精密に把握した上,最終間氷期以降の推定等隆起量線を,別紙15のとおり作成した。なお,本件敷地とその周辺では,M1面の旧汀線が隆起量を把握するのに適した指標となる(被告電源開発は,約258万年前以降の地質系統である第四系の段丘*堆積物について,高位段丘面を形成するH1面,H2面,H3面,中位段丘面を形成するM1面,M2面,M3面,低位段丘面を形成するL1面,L2面,L3面に区分して検討しているところ,M1面は,約12.5万年前の最終間氷期に形成された段丘面である。。その結果に)
よれば,海側(北方向)が低く内陸側(南方向)が高い現在の地形形状に近い内陸に隆起の中心を持つ台形状を呈している。これは,小池・町田(2001)*によるMIS*5eの旧汀線高度等値線と整合する。渡辺ほか(2012)は,これとは逆に,海側(北方向)が高く内陸側(南方向)が低いことから,大間北方沖活断層が存在すると指摘するが,同論文発表以降の,最近の知見を含むデータ拡充の結果が考慮されていない。推定等隆起量線により示された隆起は,広域的な下北半島西部全体の隆起を示しており,東北地方の地形的な特徴も考慮すると,特定の活断層により形成される局所的な隆起や傾動ではなく,相対的に厚さが薄くなっている上部地殻の非弾性的な東西圧縮変形に伴って生じたものと考えられる。波食棚(ベンチ*)


被告電源開発は,複数段に発達している下北半島西部の海岸の地形面について,下位よりC面,B面,A面に区分し(A面は,弁天島の中央付近にある標高約9~13mの平坦面であるが,人工的な改変が進んでおり,地形の形成時期等について検討することは困難である。,C面を更に下位)
よりC3面,C2面,C1面に細分して,別紙16のとおり分布標高を整理した。C面群は,現在の海水準において波浪の影響を受けており,海水準変動又は隆起を示唆するものではない。B面及びA面は離水した地形面と判断されるが,このうちB面は下北半島西部全域に点在し,標高値は縄文海進期の海水準と一致していることから,局所的な隆起や傾動といった陸の隆起によるものではなく,広範囲に等しく影響を及ぼす海水準変動によるものと判断される。
(3)大間西方沖活断層の不存在
原告らが指摘する大間西方沖活断層については,渡辺ほか(2012)に僅かに記載があるのみであって,原告らから,その存在を裏付ける根拠は示されていない。被告電源開発は,詳細な調査を実施して,当該海域に断層の分布が認められないことを確認している。
(被告国の主張)
(1)本件設置許可処分について
被告国(安全委員会)は,本件安全審査の調査審議において,
「原子力発電
所の地質,地盤に関する安全審査の手引き」
(昭和53年8月23日原子炉安
全専門審査会)を踏まえて,被告電源開発が本件敷地周辺の断層の性状及び後期更新世以降の活動性に係る検討に足る十分な文献調査,変動地形学的調査,地表地質調査,地球物理学的調査等を実施し,その結果に基づいて,清水山南方断層,函館平野西縁断層帯,根岸西方断層,敷地西方沖断層,恵山岬東方沖断層,奥尻海盆東縁断層のほか,F-14断層を耐震設計上考慮すべきものとして評価したことを確認したものであり,このような本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落はない。
(2)新規制基準の合理性について
原告らは,米国では,原子炉から半径8km以内に地表の変形や地震を引き起こす断層がないことが要求されているのに対し,我が国ではこのような要求はしておらず,我が国の安全確保策が国際的基準に劣っている旨主張する。
しかし,原告らが引用している立地指針(RG4.7〔Revision2〕)は,
NRCが規則に基づいて具体的な規制を行う際の解釈や見解をまとめ,許認可保有者や申請者に対する指針を示した規制指針(RegulatoryGuide)の一部であり,規制要求そのものではない。このことは,前記立地指針の注意書きに「規制指針は規制に代わるものではなく,規制指針への準拠は必須ではない」旨記載されていることからも明らかである。
なお,設置許可基準規則3条は,設計基準対象施設について,基準地震動等が作用した場合においても当該設計基準対象施設を十分に支持することができる地盤に設けなければならないこと等を要求しており,その条件を満たさない地盤であれば,我が国においても設置許可がなされないこととなる。前記立地指針(RG4.7〔Revision2〕
)は,このような緻密な分析をせず
に,単に「原子炉から半径8km以内に地形の変形や地震を引き起こす断層がないこと」を要求するのみで,その科学的,合理的理由は何ら示されていないのであって,このような基準を採用していないことのみをもって,直ちに我が国の規制基準が米国の規制基準に劣っているとはいえず,我が国の規制基準が不合理であるということもできない。
5争点5(本件敷地内及びその周辺の断層)について
(原告らの主張)
本件設置許可処分当時の新耐震設計審査指針及び「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き」によれば,後期更新世以降に活動があったことを否定できない断層は,
「耐震設計上考慮する活断層」として認定すること
となる。新規制基準のもとにおいても,設置許可基準規則3条3項において,耐震重要施設は変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない旨規定し,これを受けた地質審査ガイドは,
「3.1

調査方針」として,
「重要な安

全機能を有する施設の地盤には,将来活動する可能性のある断層等の露頭が無いことを確認する。
」と定めているところ,ここでいう「将来活動する可能性の
ある断層等」とは,後期更新世以降の活動が否定できないものとされ,震源として考慮する活断層のほか,地震活動に伴って永久変位が生じる断層が含まれるとされる。
しかるに,本件敷地の地盤には,以下の断層が存在し,これらはいずれも「耐震設計上考慮する活断層」又は「将来活動する可能性のある断層等」に当たることを否定できない。
(1)S-10及びS-11について
本件敷地の地盤には,被告電源開発が「シーム」と呼ぶ断層が存在し,被告電源開発は,これらの断層に「S-0」から「S-11」までの番号を付している。これらのうち,S-10は,別紙17の1及び2のとおり,本件原発の原子炉建屋から約200mしか離れていない地点の露頭で確認されており(ただし,S-10は広く分布しており,ボーリング調査の数が少ないことも考慮すれば,本件原発の重要な施設の直下にないとはいえない。,地)
下10~15m程度の浅い地盤に存在している。また,S-11は,もともと本件原発の原子炉建屋の直下に存在していたところ(別紙17の1),直下
の地面を掘削除去したことにより,原子炉建屋の側面に露頭している(別紙17の2)
。S-10及びS-11は,いずれも後期更新世以降の段丘堆積物に変状を与えており,耐震設計上考慮する活断層として認定し又は将来活動する可能性のある断層等として考慮されなければならない。
(2)cf-1断層について
本件原発の耐震重要施設であるコントロール建屋の直下には,被告電源開発が「cf-1断層」と呼ぶ断層が存在する(別紙18参照)

被告電源開発は,cf-1断層が将来活動する可能性のある断層等であることを否定するが,規制委員会の審査会合において,被告電源開発の資料・論拠の不十分さが明確に指摘され,被告電源開発自身,そのような資料を有していないために改めて調査を実施するなどとしている。このように,被告電源開発は,cf-1断層について,後期更新世以降の活動性を否定できる根拠を示せていないから,少なくとも現在の規制基準の下では,その活動性を否定できないということになる。
(3)sF断層系及びE系断層について
これらの他にも,本件敷地の地盤には,
「sF断層系」「E系断層(E-2

9,E-33など)
」と呼ばれる断層が存在するところ,被告電源開発は,そ
の活動性を否定するに足りる資料を提出していないから,これらが将来活動する可能性のある断層等であることは否定されない。
(被告電源開発の主張)
(1)本件敷地内の断層について
本件敷地には,新第三系中新統の大間層や易国間層を変位させる断層が認められ,被告電源開発は,その分布及び性状から,dF断層系,cf断層系,sF断層系の3種類に区分しているが(別紙19の1及び2参照),いずれの
断層も,後期更新世以降の活動はなく,将来活動する可能性のある断層等ではない。
(2)S-10及びS-11について
本件敷地内には,地層(層理面)に平行して連続性の認められる粘土質の薄層が認められ,
「シーム」と呼ぶ。S-10及びS-11は,これらシーム
の一部である。
S-10は,別紙19の1及び2に示すように,df-2断層(デイサイトの貫入に伴う断層)に切られていることが確認されているから,デイサイトの貫入に伴う断層の形成時期より後の変異は生じていない。また,より上層のS-11は,易国間層上部層の細粒凝灰岩層に挟まれている。S-11の分布,性状及び構成物質は他のシームとほぼ同様であり,類似の生成環境で同時期に形成されたものである。
よって,S-10及びS-11は,いずれも後期更新世以降に変位は生じておらず,将来活動する可能性のある断層等ではないと判断される。(3)cf-1断層について
cf-1断層は,本件敷地に分布するM3面段丘堆積物に不整合の関係で覆われており,上位のM3面段丘堆積物の基底面には変位・変形は認められない。また,cf-1断層は固結度が高く,周囲の岩盤と同等かそれ以上の強度を有することが判明しており,長時間をかけて固結し,岩石化して,動いていないものと考えられる。
よって,cf-1断層は,後期更新世以降の活動はなく,将来活動する可能性のある断層等ではない。
(4)sF断層系並びにE-29及びE-30について
sF断層系も,後期更新世以降の活動はなく,将来活動する可能性のある断層等ではない。
E-29及びE-33は,節理であり,面に平行な変位のある断層とは異なる。また,原子炉建屋等の重要な安全機能を有する施設が設置される地盤に分布するものではないので,これらの安全機能に重大な影響を与えることはない。
(5)第四系中の変状について
本件敷地には,第四系(約258万年前以降の地質)中に不明瞭な不連続面あるいは堆積構造の微小な変位,変形が認められる箇所がある。原告らは,第四系中に変状があることを根拠に,シームが断層である,後期更新世以降の活動がある,などと主張するが,この変状は,その発生が岩盤の風化が進行した局所に限られ,変位の方向が一定ではなく様々な方向を示すことから,地表付近における岩盤の強風化部*の局所的膨張によって形成されたものと考えられ,シームとは分けて活動性の評価をすべきものである。また,こうした岩盤の風化が進行した部分は,原子炉建屋等の重要な施設付近では掘削除去されるから,原発の安全性に重大な影響を与えるおそれはない。(被告国の主張)
前記4(争点4)における被告国の主張(1)と同じ。
6争点6(本件敷地及びその周辺の地質,地盤)について
(原告らの主張)
本件敷地の地盤は,敷地北方に貫入岩が入り込み,地下構造の入り組んだ不均質なものとなっている。その上,一般に,堆積岩の中を地震波が伝わる速さ(弾性波速度)は,緻密なほど速く,時間の経過によって堆積岩が緻密になった深部ほど速い構造になるが,本件敷地の地盤は,弾性波速度が上下で不均等な数値となっている。したがって,平成19年の新潟県中越沖地震や平成21年の駿河湾地震*で見られたような地震動の増幅が生じる可能性がある。新潟県中越沖地震で確認されたように,地表から4~6kmより深部の地下構造によって地震動が増幅されることがあるのに,被告電源開発の本件敷地深部の調査は,せいぜい450mにとどまっており,これまでの調査では地盤構造の把握として不十分である。そして,被告電源開発は地震動を増幅させる構造があることを前提として耐震設計をしていないから,地震動に対する施設の安全機能は不十分である。
(被告電源開発の主張)
(1)被告電源開発が行った調査
被告電源開発は,本件敷地及びその周辺の地質・地質構造を把握するため,以下のとおり詳細な調査を実施した。

本件敷地周辺及び近傍


本件敷地周辺の陸域-文献調査,露頭観察等の地表地質調査



本件敷地周辺の海域-文献調査,海上音波探査,海上ボーリング



本件敷地近傍-文献調査,地表地質踏査,海上音波探査,重力探査


追加で,最新の文献調査,航空レーザ測量による地形測量結果を用いた地形の再判読,海底地形図を用いた地形判読,段丘面の形成時代等を確認するボーリング調査,海成段丘面での地表地質踏査等の地表地質調査,ヘリコプターを用いた重力探査,最新の手法・範囲拡大による海上音波探査を実施している。


本件敷地内


地表地質調査,地表弾性探査,50~200m間隔の格子の交点におけるボーリング調査,試掘坑調査,トレンチ調査



原子炉施設設置位置付近での炉心ボーリング調査,試掘坑調査,岩盤試験,岩石試験



追加で,空中写真判読,大型バイブレータによる反射法・屈折法地震探査及び重力探査,ボーリング調査,深部ボーリング調査,法面調査,掘削面調査を実施している。
(2)調査結果
別紙19の1及び2,別紙20のとおり,原子炉建屋の支持地盤は,易国間層の火山砕屑岩であり,形成年代は新第三紀中新世(約2300万年前から約530万年前まで)であって,形成から相当な年月が経過することによって固結しており,各種試験結果を見ても基礎として十分な安全性を有している。
また,被告電源開発は,前記(1)の各種調査結果を踏まえ,原子炉建屋等の重要な施設の支持地盤が,支持力に対する安全性,すべりに対する安全性,傾斜に対する安全性を有することを確認した。
(被告国の主張)
本件設置許可処分に係る本件安全審査については,以下のとおりである。すなわち,本件安全審査で用いられた「原子力発電所の地質,地盤に関する安全審査の手引き」の内容に不合理な点はない。
また,被告国(安全委員会)は,本件安全審査において,被告電源開発が行った原子炉施設設置地盤の各種調査,岩石試験,岩盤試験等の結果に基づく慣用法,有限要素法による基準地震動Ssに基づく動的解析の結果による支持力,すべり及び沈下の評価結果等を踏まえ,本件原子炉施設の設置地盤が本件原子炉施設に対して十分な支持性能を有する旨判断したものであり,調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はない。
7争点7(火山対策)について
(原告らの主張)
(1)新規制基準(火山ガイド等)の定め
設置許可基準規則6条1項は,
「安全施設は,想定される自然現象(中略)
が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない。」
と規定し,同規則の解釈6条の2において,
「想定される自然現象」の中に火
山の影響も含まれるとされている。そして,規制委員会は,火山の影響を判断するための基準として火山ガイドを定めている。
火山ガイドにおいては,①当該原発の地理的領域*(半径160kmの範囲)内に第四紀*に活動した火山が存在する場合,
「将来の活動可能性が否定でき
ない火山」を抽出し(第四紀のうち完新世*に活動があった火山は,「将来の
活動可能性が否定できない火山」とされ,そうでない火山は,過去の活動を示す階段ダイヤグラムにおいて,火山活動が終息する傾向が顕著であり,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間より長い等,将来の活動可能性がないと判断できる場合に,将来の活動可能性が否定される。,②将来の)
活動可能性が否定できない火山が存在する場合,設計対応不可能な火山事象*が当該原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分に小さいといえなければ,当該原発は立地不適となる。③かかる可能性が十分に小さいといえる場合,立地不適とはならないが,既往最大の噴火を考慮しても当該原発に影響を及ぼさないと判断できる火山を除き,火山活動のモニタリング及び火山活動の兆候を把握した場合の対処方針を策定することを要する。また,④将来の活動可能性が否定できない火山が存在する場合は,当該火山による火山事象の影響を評価し,⑤当該原発の火山事象に対する設計対応及び運転対応が妥当といえる場合に,当該原発は火山事象への対応が可能なものと評価される。
しかし,以下のとおり,火山ガイドの内容は不合理であり,仮に火山ガイドの内容自体は不合理とはいえないとしても,被告電源開発による「将来の活動可能性が否定できない火山」の抽出や火山事象の影響評価は,不合理である。
(2)火山ガイドの不合理性

将来の活動可能性が否定できない火山の抽出
確立された国際的基準の一つであるIAEA安全基準のSSG-21*では,過去1000万年間に発生した火山についての情報収集が規定されており,この段階ではスクリーニングの対象にならず,次のステージに進むことになる。続いて,過去1万年(完新世)の間に火山活動があれば将来噴火があり得るものとされ,過去1万年以内に活動していない火山についても,過去200万年間に火山活動があれば,一般に活動可能性があると判断されることになる。活動的でないカルデラも,過去500万年間に活動していれば,将来の活動可能性を残すものとみなされる。ただ,前期更新世又はより古い時期(約200万年よりも前)において活動があり,それ以降,明白な減退傾向や休止を示す場合で,火山活動の再開が非常に稀であることが証明される余地があることを残しているが,そうでない限り,1000万年より若いあらゆる火山が将来の活動可能性があると仮定する必要があるものとされる。
しかし,前記のとおり,火山ガイドは,
「原子力発電所に影響を及ぼし得
る火山の抽出」として,第四紀火山から活動可能性のある火山を抽出するものとしており,約258万年前より古い火山を最初に評価の対象外としている点で,SSG-21の規定に反する。
また,火山ガイドは,完新世(過去約1万1700年間)に活動を行っていない火山については,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間より長いなど将来の活動可能性がないと判断できる場合,個別評価の対象外としており,最後の活動終了からの期間と最大休止期間とを比較して安易に将来の活動可能性を否定できるかのような定めになっていて,実質的に要件を緩和したものにほかならない。この規定によると,例えば,8万年前及び5万年前の2回しか噴火が確認されていない火山は,最大活動休止期間が3万年,最後の活動終了からの期間が5万年であるから,将来の活動可能性がないと判断できることになるが,これは過去200万年間の噴火記録があれば一般に活動可能性があるとするIAEAのSSG-21と比較して,著しく不合理である。
なお,火山ガイドの案の段階では,過去にVEI*=6以上の大規模噴火を起こした第四紀火山は将来の活動可能性が全て肯定されると規定されており,前記のとおり過去500万年の間に活動したカルデラは将来の活動可能性を残すとしたSSG-21の基準を反映したものであったのに対し,策定された火山ガイドでは当該規定が削除されている。規制委員会が原子力事業者の便宜のために削除したのではないかと疑わざるを得ない。イ
抽出された火山の個別評価(立地の適否)
火山ガイドにおいては,当該原発の地理的領域内に「将来の活動可能性が否定できない火山」が存在するものの,設計対応不可能な火山事象が当該原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分に小さいといえる場合には,火山活動のモニタリング及び火山活動の兆候を把握した場合の対処方針(原子炉の停止,核燃料の搬出等)を策定した上で,当該原発の設置が許可され得る(前記(1)の③)

しかし,かかる定めは,当該火山の噴火の時期や規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提とするものであるところ,現在の科学的技術的知見をもってしても原発の運用期間中に当該火山が噴火する可能性やその規模を的確に予測することは困難であるから,過去に設計対応不可能な火山現象が到達したとみられる原発を立地不適としない火山ガイドの定めは,不合理である。
少なくとも,過去に設計対応不可能な火山事象が到達したと考えられる原発は,原則,立地不適とすべきであり,この原則に対する例外が認められる場合とは,科学技術水準の発達等により,当該原発の運用期間中に設計対応不可能な火山事象が到達する可能性のないことが,客観的な根拠をもって明確に示された場合等の極めて限定的な場合に限られるというべきである。

火山事象の影響評価-火山灰のリスク評価
火山灰の影響評価について,イギリスの原子力安全の専門家であるジョン・ラージ氏のレポートにおいて指摘されるように(別紙21)
,米国NR
Cが通常行う審査やIAEAが勧告する原発の立地審査基準においては,降灰確率,風向き,火山灰の密度等広範かつ詳細なパラメータが設定されているが,火山ガイドには,その多くについて具体的な定めがなく,規制委員会による川内原発*の安全審査においても検討された形跡がない。川内原発の火山灰のリスク評価やその対策が国際基準を大きく下回っていることは明らかであり,同じ火山ガイドに従って審査が行われる以上,本件原発の火山灰リスクに対する評価のみが国際基準に合致するとは考えられない。

(3)被告電源開発による火山の抽出及び影響評価等の不合理性

将来の活動可能性が否定できない火山の抽出
(ア)洞爺カルデラ
被告電源開発は,洞爺カルデラ(別紙22の番号27)について,約11万年前に1回活動したのみであるとして,将来の活動可能性を否定する。
しかし,洞爺カルデラの周辺に存在する洞爺中島(別紙22の番号31,約4万5000年前に活動)や有珠山(別紙22の番号38,1万から2万年前以降活動,平成12年に噴火)の活動が,たとえ洞爺カルデラの後カルデラ活動の一部であったとしても,洞爺カルデラの火山活動であることには変わりがなく,将来の活動可能性の判断において考慮される「最後の活動終了からの期間」は,これらの火山活動を含めるべきである。現に,洞爺カルデラの周辺に原子力関係の施設を設置する事業者は,例外なく,これらの火山の活動を一体のものとして評価している。
そうすると,洞爺カルデラは,有珠山の活動履歴から,完新世に活動を行っている火山とみるべきであり,将来の活動可能性を否定できない。また,仮に有珠山等の活動履歴を考慮せず,洞爺カルデラ単体の活動可能性を検討するとしても,1回しか活動していない火山について最大休止期間をゼロとして扱い,最後の活動終了からの期間が最大休止期間よりも長い場合に該当するとして将来の活動可能性を否定する考え方は,極端な例を挙げれば1年前に1回だけ噴火した火山であっても活動が終息傾向にあるということになってしまい,余りにも不合理である。この点を措くとしても,洞爺カルデラの最後の活動終了からの期間である約11万年間は,火山の平均的な活動休止期間の範囲内であり,洞爺カルデラの活動が開始したとする14万年前からみても,一つの火山の平均寿命より大幅に短い期間しか経過していないのであるから,現在の洞爺カルデラは,一般的な活動休止期間に当たっているだけだと判断するのが自然である。
(イ)銭亀
銭亀(別紙22の番号64,本件原発の北方約26km,函館市沿岸の海底に存在するカルデラ)は,約4万5000万年前から約3万3000万年前までの間に1回だけVEI=6クラスの大規模な噴火をした火山である。1回しか活動していない火山には,活動期間内の最大休止期間が存在しない。しかし,火山学におけるタイムスケールからすればごく最近の活動であり,火山活動が終息する傾向が顕著であるなどとは到底評価できない。したがって,銭亀を将来の活動可能性がないと評価することは不合理である。
銭亀が過去1回の活動と同規模の活動をすると想定した場合,噴出した火砕物密度流が本件原発に到達する可能性が十分にあり,この場合は,火山ガイドでも設計対応不可能とされているから,立地不適となる。イ
抽出された火山の火山活動に関する個別評価(立地不適)
被告電源開発は,本件原発から半径160kmの地理的領域内にある93の第四紀火山(別紙22)のうち,将来の活動可能性を否定できない火山として抽出した35の火山(別紙23)について,既往最大規模の噴火を考慮しても,本件原発の供用中に設計対応が不可能な火山事象が本件敷地に到達する可能性は十分小さい,としている。しかし,このうち陸奥燧岳(むつひうちだけ,別紙22及び23の番号70)
,恐山(同番号73)

恵山(同番号62)
,北海道駒ヶ岳(同番号54)は,本件原発に影響を及
ぼし得る火山というべきであり,本件敷地が立地として不適であることは明らかである。


降下火砕物の影響評価
(ア)最大層厚の想定
被告電源開発は,降下火砕物の層厚を既往最大の30cmと想定しているが,想定に当たっては,文献調査や敷地の堆積物調査等では足りず,数値シミュレーションの実施は義務的とすべきである。IAEA安全基準のSSG-21でもシミュレーションの実施が強く推奨されている。銭亀,恐山,倶多楽(くったら)
・登別火山群(別紙22及び23の番
号41)の各火山において,過去の噴火と同規模の活動があった場合,風向次第では想定を大きく上回る降下火砕物が本件原発に堆積する可能性がある。しかし,被告電源開発は,本件敷地及びその近傍に分布する銭亀女那川火山灰は検討しているが(ただし,過去にたまたま本件敷地への降下火砕物が少なかったというだけで,影響は小さいと評価している。,恐山や倶多楽を起源とする降下火砕物については一切考慮してい)
ない。
このように,被告電源開発による最大層厚の評価は,数値シミュレーションを実施していない点,また,風向・風力のばらつきを考慮すると本件原発に100cmを超える降下火砕物が積もる可能性すらあり,これを一切考慮していない点において,極めて重大な過誤,欠落がある。(イ)大気中濃度計算の評価等
降下火砕物は,大気中濃度が大きいほど,換気空調系統のフィルタの目詰まり,非常用ディーゼル発電機の損傷等を起こしやすい。
被告電源開発は,他の原発の事業者と同様,アイスランド南部のエイヤヒャトラ氷河の噴火(2010年)の際にヘイマランド地区で観測された数値である3.24mg/㎥を想定しているが,米国のセントヘレンズ山の噴火(1980年)の際に約135km離れたヤキマ地区で33.4mg/㎥の火山灰濃度が観測されたことから,平成28年10月,規制委員会は,電力各社に対し,従来の約10倍の濃度の火山灰を想定して対策を立てるよう求めるに至っており,本件原発においても10倍以上の過小評価がある。
のみならず,規制委員会の検討会においても,前記のヤキマ地区の観測結果が「採取器がこのような高濃度に対応できる設計ではなかったので,実際はより高い濃度であった可能性も否定できない」ことが明言されていること,当該観測の際の火山灰層厚は5~9mmにすぎず,本件原発において想定される30cmの降灰が生じた際には,33.4mg/㎥よりはるかに高い火山灰濃度となる可能性があることからすると,火山灰濃度の想定は33.4mg/㎥でも不十分である。
仮に,大気中濃度10倍を考慮すると,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタ交換に要する時間には全く余裕がなくなり,目詰まりを起こして機能喪失するおそれがある。
(4)本件設置許可処分の不合理性
被告国は,平成20年の本件設置許可処分当時,火山による原発の安全性への影響に関する基準を定めていなかった。安全審査基準を欠いたままなされた本件設置許可処分は違法である。
(被告国の主張)
(1)火山ガイドの合理性

SSG-21の位置付け
IAEAの安全基準は,施設と活動に関して各国の規制における参考として,加盟国で使用されることができるものとされており,加盟国を法的に拘束するものではなく,各加盟国がそれぞれの実情等に照らして規制基準を定めることは否定されない。
他方,火山ガイドは,規制委員会の規制基準に関連する内規にとどまり,審査官が火山の影響評価の妥当性を判断する際の参考とするものにすぎず,審査に当たって審査官を拘束するものではない。
したがって,そもそも火山ガイドがSSG-21に反することを理由に審査基準が不合理といえるものではないが,この点を措いても,以下のとおり,火山ガイドの内容はSSG-21と整合している。


将来の活動可能性を否定できない火山の抽出
(ア)過去1000万年前まで遡って火山を抽出していない点
原告らは,SSG-21においては地理的領域内において過去1000万年の間に発生した火山活動についての情報収集が規定されているのに対し,火山ガイドにおいては,258万年前より古い火山を評価の対象外としており,SSG-21の規定に反すると主張する。
しかし,我が国においては,258万年間の休止期間を経た後に火山活動を再開させた火山は存在せず,個々の火山活動において,同一マグマ供給系の火山活動期間は,数十万年から100万年程度と考えられている。そこで,258万年(第四紀)を基準に火山を抽出すれば,現在評価すべき火山を包含できるものといえる。
SSG-21が1000万年前までの火山活動を抽出しているのは,IAEA安全基準の安全指針(No.NS-G-3.1)において,放射線学的影響の可能性を有する事象の年発生確率の限界値が一部の加盟国において10-7(1000万年に1回)とされていることによるものであり,確率論的評価手法に基づくものである。この1000万年という数値(前記の確率論的評価手法による数値)を,検討対象とすべき火山の抽出方法として採用する根拠は明らかではなく,また,SSG-21の規定も,決定論的手法を不合理であるなどとして排除するものではない。(イ)将来の活動可能性の評価方法
原告らは,火山ガイドにおいては,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間より長いなど将来の活動可能性がないと判断できる場合,個別評価の対象外としており,火山活動が終息する傾向が顕著であるか否かの具体的基準が明らかではなく,SSG-21より緩やかに火山活動の終息が認められかねず,不合理であるなどと主張する。
しかし,SSG-21は,過去1000万年までの間に活動が認められる火山について,まず,現在又は過去1万年間,すなわち完新世の火山活動が認められれば,次の評価段階に移行すべきとしており,火山ガイドの規定と符合する。
また,SSG-21は,決定論的手法として,
「例えば,類似した火山
を調査して,噴火活動が発現した後で次の発現が起こるまでの時間経過の最大期間を判別し,この活動の空白期間を閾(しきい)値として使用することができる」「火山系の時間と量の関係,若しくは岩石学的傾向,
を引き合いに出せる可能性がある。例えば,時間と量の関係は,更新世初期若しくはそれより古い期間における火山活動の明確な衰弱傾向や明白な休止を示す場合がある。こうした状況では,新たな火山活動の可能性が極めて低いと言うことができる。これらの基準に基づいた解決が達成されない場合,将来の噴火は,10Ma(1000万年)より若い火山に対して可能性があると単純に仮定するのがよい。
」としているところ,
これらは「例えば」とされていることからも明らかなとおり,例示にすぎず,決定論的手法により「新たな火山活動の可能性が極めて低い」といえない場合に,次の評価段階に移行すべきとしたものである。火山ガイドも,
「火山活動が終息する傾向が顕著であり,最後の活動終了からの
期間が,過去の最大休止期間より長い等,将来の活動可能性が無いと判断できる場合」にのみ,当該火山を評価対象外とし,
「それ以外の火山は,
将来の火山活動可能性が否定できない火山」として個別評価に移行するものとしているから,決定論的手法により「将来の火山活動可能性が否定できない」場合に個別評価に移行するものを示したものであって,何らSSG-21と異なるものではない。
なお,原告らは,例えば8万年前及び5万年前の2回しか噴火が確認されていない火山は,最大活動休止期間が3万年,最後の活動終了からの期間が5万年であるから,将来の活動可能性がないと判断できることになるなどと主張するが,そもそも原告らが例示するような火山活動を歩む火山があるのか疑問であるし,
「最後の活動終了からの期間が,過去
の最大休止期間より長い」ことはメルクマールの一つにすぎず,
「将来の
火山活動可能性が否定」できるか否かは「火山活動が終息する傾向が顕著」であることも含めて評価すべきものであるから,原告らの前記主張は失当である。
(ウ)VEI=6以上の大規模噴火を起こした第四紀火山について,一律に将来の活動可能性を認めていない点
原告らは,火山ガイドの案の段階では,過去にVEI=6以上の大規模噴火(噴出量が10km3以上)を起こした第四紀火山は将来の活動可能性が全て肯定されるとされていたのに対し,策定された火山ガイドでは当該規定が削除されていることを指摘して,原子力事業者の便宜のためにこれを削除したものではないかと疑わざるを得ないなどと主張する。しかし,当該規定に対しては,パブリックコメントにおいて,
「SSG
-21では火山系の時間と量の関係等から,新たな火山活動の可能性が極めて低いということができるとしている。それにもかかわらず,過去に10km3以上の大規模噴火が発生したことのみをもって『将来の活動可能性が否定できない火山』とすることは,矛盾する」などの意見が述べられたため,改めて検討を行い,過去に10km3以上の噴火を起こした火山であっても将来の噴火の可能性が乏しい火山が存在することは火山学的に明らかであることを踏まえ,削除することとしたものであり,原告らの前記主張は失当である。

過去に設計対応不可能な火山現象が到達したとみられる原発を一律に立地不適としていない点
原告らは,現在の科学的技術的知見をもってしても原発の運用期間中に当該火山が噴火する可能性やその規模を的確に予測することは困難であるから,過去に設計対応不可能な火山現象が到達したとみられる原発を立地不適としない火山ガイドの定めは不合理であるなどと主張する。
しかし,運用期間中の火山の活動可能性や設計対応不可能な火山事象の到達可能性が十分小さいと認められる場合に立地不適としないとする評価方法は,SSG-21においても採用されている国際水準に合致した評価方法である。
すなわち,SSG-21は,
「サイト領域における将来の火山活動の可能
性が特定された場合,若しくはこの可能性を排除できない場合は,危険な現象がサイトに影響を与える可能性について解析するのがよい。
(中略)場
合により,これらの現象がサイトに到達する可能性がごくわずかであるならば,特定の危険な現象を更なる検討から選別排除することができる。」と
しており,サイト選定段階における排除条件に該当すれば,それだけで立地不適とまではしておらず,全ての火山事象について,サイトに到達する可能性がごくわずかであれば,特定の危険な現象を更なる検討から選別排除することができるとしている。このように,SSG-21も火山ガイドも,設計対応が不可能な火山事象に対し,その到達可能性を評価することができることを前提として,その可能性を評価することとしており,この点において両者は整合している。

火山事象の影響評価
原告らは,ジョン・ラージ氏のレポート(別紙21参照)を根拠に,火山ガイドの降下火山灰対策が,米国NRCが通常設定するパラメータやSSG-21と比較して劣っているなどと主張する。
しかし,そもそもジョン・ラージ氏が,具体的にいかなる法規や条文を指して,
「NRCが通常使用する標準的なパラメータ」「原発の立地審査に,
関しIAEAが勧告する内容」であるとしているのか明らかでない。NRCの規則である10CFRには,火山事象の影響評価を求める条項は見当たらない。
SSG-21においても,ジョン・ラージ氏が指摘するパラメータのうち,
「発電所における予想される最大の降灰の厚さ」以外のものは明記されていない。そして,前記「発電所における予想される最大の降灰の厚さ」について,SSG-21は「サイトにおける火山灰降下堆積物に対する最大想定厚の閾値を設定するのがよい。例えば,類似する火山の噴火からの実際の堆積物を用いて,可能性のある火山に対するサイトの堆積物の最大厚を定義することができる。
」としているところ,火山ガイドも「降下火砕
物に関しては,
(中略)原子力発電所の敷地及びその周辺調査から求められ
る単位面積あたりの質量と同等の火砕物が降下するものとする。
」としてお
り,両者は特段,矛盾抵触するものではない。

(2)本件設置許可処分について

審査基準について
本件設置許可処分当時の安全設計審査指針(指針2)において,
「安全機
能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。
」とされ,火山はこの「自然現象」に含
まれるから,本件設置許可処分に係る安全審査において,火山も考慮の対象とされていた。


調査審議について
原子炉安全専門審査会は,本件敷地周辺の火山について,今後大規模な噴火を起こす可能性が非常に小さく,又は火山活動をしたとしても,本件敷地に与える影響は小さいと考えられるとする本件設置許可申請における検討事項は,いずれも本件原子炉の敷地周辺の実体を踏まえた適切なものであり,必要な範囲における従前の火山活動の検証等を行うなど必要な検討過程を経た結果のものであるとして妥当なものと判断したが,この調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はない。

(被告電源開発の主張)
(1)火山ガイドの合理性等
以下に補足するほか,被告国の主張に同じ。

火山ガイドは,原子炉施設等基準検討チーム及び「火山に関する規制基
準検討会」において専門家からの意見聴取を行い,その意見を踏まえた上で策定されており,SSG-21とも概ね良好に整合する。

日本列島の火山は,プレートが沈み込んでいるところ(海溝)に分布す
る火山に当たるので,その寿命は一般に数十万年程度と言われている。また,日本列島の基本的な骨組みができたのは鮮新世(約533万年前~約258万年前)の頃であるため,それ以前に活動した火山は既に寿命を終えているのみならず,日本列島の形成に伴ってその地理的場所が移動し,多くの場合,火山の山体自体が浸食により消失するなどしているため,そのような火山があった位置を現時点で確認することはできない。火山ガイドは,以上のような日本列島の火山に係る専門技術的知見に基づき,将来活動の可能性を否定できない火山の抽出を定めたものであり,合理性を有している。

なお,日本においては,各電力会社が原発を設置するに当たり火山の影
響評価のために参考にする技術的な指針として,一般社団法人日本電気協会が平成21年にJEAG4625*を制定しているところ(平成26年及び平成27年に改定された。,これには,SSG-21の制定に関与した)
火山の専門家である中田節也教授も関わっている。そして,JEAG4625は,火山ガイドと並んで,SSG-21の内容とよく整合している。(2)将来の活動可能性が否定できない火山の抽出
被告電源開発は,本件敷地を中心とする半径160kmの範囲内の全ての第四紀火山を検討対象と設定し,文献調査,地形・地質調査及び火山学的調査を行い,別紙22のとおり,93の第四紀火山を抽出した。そして,それらの活動期間等により,別紙23のとおり,将来の活動可能性を否定できない35の火山(うち完新世に活動を行った火山は14,完新世に活動を行っていないが将来の活動可能性を否定できない火山は21)を抽出した。この考え方は,JEAG4625や火山ガイド,SSG-21の考え方と整合的である。
なお,被告電源開発は,洞爺カルデラ及び銭亀について,将来の活動可能性を否定する評価を行っているが,補足して説明すると以下のとおりである。ア
洞爺カルデラ
洞爺カルデラの火山活動は,約11万年前の1回のみでそれ以降の活動は認められず,最後の活動からの経過期間が活動期間内の最大休止期間よりも短い場合に当たらない。よって,被告電源開発は,洞爺カルデラが再び噴火することはないと評価した。なお,洞爺カルデラは気象庁の定義によっても活火山とはされておらず,地元自治体である洞爺湖町も火山災害対策計画を定めていない。
ただし,降下火砕物については将来の活動性を否定した火山も含め噴出源にかかわらず検討対象としており,本件敷地及びその近傍に分布する洞爺火山灰についても検討している。
また,洞爺カルデラとその後カルデラ火山である洞爺中島及び有珠山とは,別の火山と見ることが一般的である。仮に一体として見て,将来の活動可能性が否定できない火山として扱うとしても,想定される運用期間中の噴火規模は有珠山相当と考えられ,洞爺カルデラのカルデラ噴火と同規模の噴火が想定されているわけではないから,この点に関する原告らの指摘は本質的なものではない。

銭亀
銭亀の火山活動は,約5万年前の1回限りであり(文献調査に加え,銭亀火山起源の軽石流堆積物の年代測定を行って確認している。,それ以降)
の活動は認められず,火山活動の兆候も見られず,火山活動が終息する傾向が顕著であると考えられる。そして,最後の活動からの経過期間が活動期間内の最大休止期間よりも短い場合に当たらない。そのため,被告電源開発は,銭亀が再び噴火することはないと評価した。なお,銭亀は気象庁の定義によっても活火山とはされておらず,函館市も火山災害対策計画を定めていない。
また,被告電源開発が行った多数の調査の結果,約5万年前の銭亀の火山噴火の際に,本州大間側に火砕物密度流が到達していないことが確認されていることから,仮に銭亀が再び過去最大規模の噴火をしたとしても,本件敷地に火砕物密度流は到達しない。
被告電源開発は,念のため,銭亀が既往最大規模の陥没が起こった場合を想定し,それによる津波の影響を詳細に検討しているが,その結果,本件敷地における水位変動は小さいことを確認している。
(3)抽出された火山の火山活動に関する個別評価
被告電源開発は,抽出した将来の活動可能性を否定できない35の火山について,本件原発の運用期間中に設計対応が不可能な火山事象が本件敷地に到達する可能性について評価し,いずれも,過去に設計対応が不可能な火山事象は本件敷地に達しておらず,本件敷地との位置関係,地形等から,既往最大規模の噴火を考慮しても,本件原発の運用期間中に設計対応の不可能な火山事象が本件敷地に到達する可能性は十分小さいと評価した。なお,恵山と恐山について補足すると,次のとおりである。

恵山
恵山起源とされる溶岩,火砕流堆積物等は,津軽海峡を挟んだ下北半島西部には分布せず,降下火砕物の広域的な分布も確認されていないから,本件原発の運用期間中に設計対応の不可能な火山事象が本件敷地に到達する可能性は十分小さい。
なお,恵山火山には急峻な溶岩ドームがあり,その山体は海岸近くに位置することから,山体崩壊が発生すれば,岩屑なだれが海域に達して津波が発生する可能性がある。そこで,被告電源開発は,恵山における火山現象に起因する津波の検討について,既往最大の約2万年前の山体崩壊量を超える0.075km3が海へ流入することを想定して評価した。これは,Miura,etal.(2013)*による約8700年前の噴火による火砕流の見かけの量が,仮に全量海に流入した場合を上回る。また,被告電源開発は,斜面の設定や流れ込む方向の違い等も検討した。


恐山
恐山起源の溶岩,火砕流堆積物等の分布は,本件敷地に達しておらず,降下火砕物の広域的な分布は確認されていない。また,恐山と本件敷地との間には,標高781mの陸奥燧岳や標高500~600m級の山々からなる下北山地がある。よって,本件原発の運用期間中に設計対応の不可能な火山事象が本件敷地に到達する可能性は十分小さい。
(4)降下火砕物(火山灰)の影響評価
被告電源開発は,将来の活動可能性を否定できない35の火山について,本件原発の運用期間中における活動可能性と規模を考慮し,降下火砕物,火山性土石流,噴石,火山性ガス等の火山事象の影響を検討し,本件原発の安全性に影響を与える可能性のある火山事象として,降下火砕物(火山灰)を抽出した。また,降下火砕物については,噴出源にかかわらず,本件敷地及びその近傍において確認されたものを検討対象とした。降下火砕物について補足すると,次のとおりである。

被告電源開発は,本件敷地及びその近傍において詳細な調査を実施し,
更新世以降に最も厚い層厚を有する降下火砕物が洞爺火山灰であり,その層厚が最大30cm程度であることを確認した。そこで,本件原発の設計上考慮する火山灰の厚さは,最大30cmと想定している。なお,洞爺カルデラは,現在は後カルデラ活動ステージであり,カルデラ噴火ステージではないので,本来,洞爺カルデラ噴火による洞爺火山灰を設計上考慮対象にする必要はない。しかし,本件敷地及びその近傍において,洞爺火山灰のほかに考慮対象としてふさわしい降下火山灰がないため,洞爺火山灰の厚さを設計上考慮する火山灰厚さとすることとしたという経緯がある。そのため,洞爺カルデラのカルデラ噴火自体を想定する必要はなく,洞爺カルデラのカルデラ噴火を想定した数値シミュレーションを実施する必要はないことになる。

前記のとおり,火山灰の層厚設定は,本件敷地内における第四紀の降灰実績に基づき十分保守的に実施しており,また,火山ガイド上,降下火砕物の数値シミュレーションは必須とされていないが,被告電源開発は,念のため,今後,数値シミュレーションを実施する予定である。
(5)降下火砕物に対する設計・運転対応

基本方針
被告電源開発は,降下火砕物(火山灰)に対して,火山灰が本件原発に達したとしても,安全上重要な機能を有する施設及びこれらの施設の機能の達成に必要となる施設について,火山灰による直接的影響に対して機能を損なわないよう,必要な対策を講じることとしている。また,火山灰により本件原発外で生じる可能性のある長期間の外部電源喪失及び交通の途絶といった間接的影響に対しても,安全上重要な機能を有する施設について,必要な対策を講じることとしている。なお,これらの対策を具体的に検討するに当たり,JEAG4625を用いている。


非常用ディーゼル発電機について
火山灰を含む空気の流路のうち,屋内の空気を機器内に取り込む機構を有する施設であって,安全上重要な機能を有するものとして,非常用ディーゼル発電機が挙げられるが,被告電源開発は,非常用ディーゼル発電機に対して,閉塞,摩耗及び腐食に係る対策を講じることとしており,このうち閉塞に対する設計上の考慮は,以下のとおりである。
(ア)対策の概要
非常用ディーゼル発電機(別紙24参照)は,換気空調設備の外気取入口を地上方向(下向き)に向けることにより火山灰が外気取入口に進入しにくい構造とし,地面に堆積した火山灰の吸い込みを防ぐため地上から約10m離れた高い位置に設けることとする。換気空調設備には袋形中性能フィルタを設置することにより,火山灰を除去した空気を屋内に取り入れる。フィルタの目詰まりに関しては,交換が容易な構造とし,交換で対応する。
また,本件原発においては,非常用ディーゼル発電機1基で原子炉及び使用済燃料貯蔵槽の冷却に必要な電力を供給することが可能であるところ,非常用ディーゼル発電機3基をそれぞれ独立した区画に設け分散して設置することとしており,仮に1基のフィルタが閉塞したとしても,他の非常用ディーゼル発電機に切り替え,その間に十分な時間的余裕をもってフィルタ交換を行うことが可能である。
(イ)フィルタ交換
非常用ディーゼル発電機1基につき換気空調設備の外気取入口に設置するフィルタは36個のユニットからなり,そのフィルタ交換はユニットごとに行うものである。1ユニットのフィルタは,取付枠を含んだ重さで約6kg,実際に交換するフィルタそのものの重さは3kgで,寸法は高さ及び幅が約60cm,奥行きが約100cmであるため,交換は人力によって容易に行うことができる。交換の手順も単純なもので,交換に要する時間は要員6名で2時間程度と試算される。
ここで,十分な時間的余裕をもってフィルタ交換を行うことが可能であることを確認するため,被告電源開発が,火山灰によって36個のフィルタが閉塞するまでの時間を試算したところ,約39時間という結果が得られており,約1日半の間はフィルタ交換が不要ということになる。前記の試算には,本件原発に到達する降下火砕物の大気中濃度として,アイスランド共和国のエイヤヒャトラ氷河で2010年4月に発生した火山噴火の噴火地点から約40km離れたヘイマランド地区における大気中の降下火砕物濃度の観測地のピーク値(3.241mg/㎥)を用いているが,仮に原告ら主張のように,1980年の米国セントヘレンズの噴火の際の観測値を考慮して,降下火砕物の大気中濃度を10倍として,フィルタ閉塞までの時間が10倍早くなるとしても,フィルタ交換は十分に可能である。さらに,前記の試算は,前記(ア)で述べた火山灰を吸い込みにくい構造とした効果を考慮せず,大気中を降下浮遊する火山灰の粒子が一部地上に降下することを考慮せず大気中濃度のまま全て吸い込まれることを前提としているから,実際には更に時間的余裕があることになる。
なお,フィルタ閉塞の試算及びフィルタの交換頻度等に関しては,現在,規制委員会,他電力会社,電気事業連合会等において,様々な検討がなされているところであり,被告電源開発は,今後も,審査状況と最新の知見を踏まえ,更なる信頼性向上に向けた取組みを行うこととしている。
8争点8(津波対策)について
(原告らの主張)
(1)新規制基準における津波想定手法の見直しが不十分であること津波審査ガイドでは,それ以前と比べ,太平洋側の津波想定が厳しくなったが,日本海側の検討対象では,日本海中部地震*(Mw7.9)などを挙げるにとどめられている。日本海においては今後発生が想定される地震について十分な検証ができていない状況との「日本海における大規模地震に関する調査検討会」
(国土交通省)の指摘もあり,津波審査ガイドをそのまま使用す
ることは,最大限安全側に考えるという基本を無視することになりかねない。(2)本件原発における津波の高さの想定

一般的に,津波は,海底の断層が動くことによって海底が隆起又は沈降し,その上の海水面を上昇又は下降させて発生するが,それ以外にも,海底火山の爆発,海岸付近の火山の山体崩壊,海底地すべり(海底の堆積物が比較的急速に斜面をすべり落ちる現象)の発生によっても生じる。地震発生とともに海底地すべりが発生して津波を増大させることがあることは,もともと知られていたが,東北地方太平洋沖地震において,海溝軸付近でこれまで想定されていなかった大規模な海底地すべりが生じて,巨大な津波を生じさせた。しかるに,本件原発の津波評価において,地震と同時に海底地すべりが発生し,津波を増大させることについて,全く考慮されていない。
また,プレート境界地震*に伴う津波は,複数の領域におけるプレート活動が連動する可能性を考慮しなければならない。

被告電源開発は,日本海東縁での断層すべり量を9.45m,津波による敷地前面の最大水位をT.P.*(東京湾平均海面)+4.4mと想定するが,東北地方太平洋沖地震と同程度のすべり量(40~50m)を想定すべきである。
また,被告電源開発は,遠地津波の最大のものとして,1960年のチリ津波(断層すべり量24m)を想定するが,わずか50年前に発生したチリ津波が,3000万年間同様のプレート運動が起きているこの地域で最大のものといえる根拠はなく,ここでも40~50m程度のすべり量は想定すべきである。
そして,複数領域の連動を考えれば,被告電源開発が想定した津波の高さの10倍程度は最大限想定すべきであり,地震に伴い大規模な海底地すべりが生じれば,本件敷地には更に大きな津波が襲う。

(3)引き波による本件原発への影響
津波によって生じる施設の損傷は,押し波(陸地へ押し寄せる波)によるものだけでなく,引き波(沖へ引く波)により海水位が低下し,原子炉補機冷却系の海水取水口からの取水が困難になる場面も想定される。
被告電源開発は,津波の引き波による海水位の低下を最大T.P.-3.8mと想定し,取水口スクリーン前面の敷高がT.P.-4.0mであるため,海水位が低下しても取水は可能であるとしているが,その余裕はわずか20cmしかなく,それ以上水位が低下すると原子炉補機冷却系は機能しなくなり,原子炉の冷却が不可能となる。
(被告国の主張)
(1)津波に係る現在の規制の合理性

津波に対する規制
設置許可基準規則は,基準津波*により施設の安全機能や重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれないよう設計することを要求している(同規則5条,40条)
。そして,そのために,基準津波の策定に当たって
は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,かつ,津波の発生要因として地震のほか,地すべり等の地震以外の要因やこれらの組合せによるものを複数選定し,不確かさを考慮して数値解析を実施し,保守的に調査及び評価を行うことを要求しており,策定された基準津波に対しては,多層的な防護措置を講ずることを要求している(設置許可基準規則の解釈別記3)。
よって,津波に係る規制は何ら不合理ではない。


津波審査ガイドに係る原告ら主張について
そもそも津波審査ガイドは,規制委員会の規制基準に関する内規にすぎず,それ自体が規制基準となるものではなく,審査に当たり審査官等を拘束するものではない。
また,津波審査ガイドは,海域の活断層の調査結果に基づいて,将来の活動を否定できない海域の活断層に想定される地殻内地震を対象に津波波源を設定していることを確認することとしており(津波審査ガイドⅠ.3.3.4(1))
,その「解説」では,海域の活断層による地殻内地震に起因す
る津波発生事例として,日本海中部地震(Mw7.9)による津波などの事例を挙げている。しかし,これは飽くまで例示にすぎず,これらのみを検討すれば足りる旨記載したものではない。
なお,国土交通省に設置された「日本海における大規模地震に関する調査検討会」は,確かに,平成25年1月当時,日本海において,今後発生が想定される地震につき十分な検証ができているとはいえない状況であったことを前提に設置されたものであるが,同月から平成26年8月まで合計8回開催され,同年9月には詳細な検討結果の報告がされている。そして,同報告において,前記検討会において検討された日本海側の津波断層モデルにおける最大Mwは7.9であったとされている。したがって,現在においては,原告らが主張するような,
「今後発生が予想される地震規模
について十分な検証ができているとはいえない状況」にはないというべきである。
(2)本件設置許可処分について

本件設置許可処分当時の津波の設計上の考慮については,安全設計審査
指針(指針2)において,
「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地
震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。」とされ
ていた。また,新耐震設計審査指針において,地震随伴事象に対する考慮として,
「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。
」とされていた。
本件安全審査に用いられたこれらの各指針の内容に不合理な点はない。イ
また,被告国(安全委員会)は,これらの指針に基づき,被告電源開発
が津波について検討した事項及びその内容が,本件原子炉の敷地周辺の実体を踏まえた適切なものであり,既往の地震や津波の規模の検証等を行うなど必要な検討過程を経た結果のものであるとして妥当なものと判断したものであり,調査審議の過程及び判断には,当時の科学技術水準に照らし,看過し難い過誤,欠落はない。
(被告電源開発の主張)
(1)津波の想定

被告電源開発は,既往津波の文献調査や津波堆積物調査を実施し,本件敷地を含む津軽海峡沿岸に最も影響を及ぼしたと考えられる既往津波として,日本海東縁部,三陸沖から根室沖,チリ沖にそれぞれ想定される地震に伴う津波を抽出し,これらについて,波源モデルを設定し,数値シミュレーションにより,本件敷地における津波の水位変動を検討した。このうち,日本海東縁部に想定される地震に伴う津波については,青森県西方沖,その北方の地震空白域とされる海域及び北海道南西沖の三つの領域が連動するものとして基準波源モデルを設定した。また,三陸沖から根室沖に想定される地震は,東北地方太平洋沖地震を考慮し,Mw9.0の基準波源モデルを設定した。その結果,日本海東縁部に想定される地震に伴う津波が,水位変動に最も大きく影響を与えるケースとなった。
このほか,海域活断層に想定される地震に伴う津波,陸上の斜面崩壊及び海底地すべりに起因する津波,火山現象に起因する津波をそれぞれ検討し,さらに,津波発生要因の組合せとして,日本海東縁部に想定される地震に伴う津波と陸上の斜面崩壊に起因する津波とを組み合わせた検討を行った。
以上の検討の結果,本件敷地における水位変動に最も大きな影響を与える津波は,日本海東縁部に想定される地震に伴う津波であることから,これを基準津波として選定した。


この基準津波による本件敷地における最高水位はT.P.+6.3m,取水口スクリーン室前面における最低水位はT.P.-4.1mと推定され,これらの年超過確率はいずれも10-4~10-5程度である。
(2)本件原発の耐津波安全性及び設計上の考慮
前記(1)の基準津波の本件敷地における最高水位はT.P.+6.3mであるのに対し,本件敷地における原子炉建屋等の重要な施設の設置高さはT.P.+12.0mであるため,津波の遡上波が地上部から到達することはない。ただし,タービン建屋内の海水ポンプ室床部に浸水防止蓋を設置し,タービン建屋内に水密扉を設置する等の対策を講ずる。
他方,引き波による水位低下については,基準津波による取水口スクリーン室前面における最低水位T.P.-4.1m程度は,取水口スクリーン室前面の敷高(T.P.約-4.1m)を一時的に下回る可能性がある。しかし,取水路等に原子炉補機冷却海水ポンプの取水に必要な海水量を十分に確保できる設計とし,これにより原子炉補機冷却系の海水冷却機能に必要な取水は確保される。
また,基準津波により本件敷地付近の海底の砂が移動した場合の影響について,数値シミュレーションによる検討を行った結果,取水口スクリーン室への流入部付近における砂の堆積厚さは最大でも0.03m程度であり,これにより取水口,取水路及び取水ピットの通水性に支障を生じることはない。さらに,津波の襲来状況等を把握するため,津波監視カメラ及び取水ピット水位計を設置する。
これらの対策を講ずることから,津波により本件原発の安全性が損なわれることは考えられないが,念のための措置として,本件原発の主要な建物の外周の必要な箇所にT.P.+15m(T.P.+12.0mの敷地からの高さ3m)の防潮壁を設置するなどの対策を講ずることとしている。9争点9(立地審査指針適合性)について
(原告らの主張)
原告Bの居宅の所在地は,本件原発の炉心との距離がわずか300m程度にすぎず,
「原子炉の周囲は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。
」とする立地審査指針に反している。
(被告電源開発の主張)
(1)本件安全審査では,①立地審査指針において非居住区域及び低人口地帯であるべき範囲が,いずれも周辺監視区域の内側に包含されること,②本件敷地が人口密集地帯から離れていることが確認され,立地審査指針に適合していることが確認されている。
原告らが主張する原告Bの居宅(以下「原告Bの居宅」という。
)とは,a
町大字b字c番の土地(以下「c番の土地」という。
)に設置されたログハウ
ス風の建物であると推察されるところ,c番の土地は,別紙4の2のとおり,周辺監視区域境界の外側にあることから,非居住区域及び低人口地帯のいずれの範囲にも該当しない。
(2)立地審査指針では,一定の条件を想定して解析評価した公衆の受ける線量が一定の基準以下になる距離までの範囲について,非居住区域であるべき範囲,低人口地帯であるべき範囲の各条件を満たすことの確認を求めているが,発電所の敷地境界周辺において人が居住しないようにすることを要求していない。
(3)c番の土地は,実質的に放置されて荒地化していた土地であった。被告電源開発は,同土地の所有者であって原告Bの母であるCに対し,昭和58年以降,本件原発の建設計画への協力要請をし,平成2年7月以降,用地取得交渉をしていた。同人は,c番の土地から直線距離で約1.5km離れた住宅地のa町大字d字e番地fに自宅を置いていたが,平成17年8月,c番の土地に建物(原告Bの居宅)を造り,冬季以外に利用できるようにしていた。
原告Bは,Cが平成18年5月に死亡した後,c番の土地の所有権移転登記手続を経ないまま,原告B居宅を存置しているが,原告Bについても,同所に住民票上の住所を置いていた事実は見当たらない。
以上のとおり,C及び原告Bが本件原発の建設計画以前からc番の土地上の建物を居宅としていた事実はない。
(被告国の主張)
(1)前記2(争点2)の(被告国の主張)(7)のとおり,旧原子炉等規制法の下において,立地審査指針は,まず,事故時に公衆の安全を確保するために必要な原則的立地条件を定め,これを踏まえて達成すべき基本的目標を設定した上,次の3条件が満たされていることを確認すべきものとしている。①

原子炉の周囲は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。


原子炉からある距離の範囲内であって,非居住区域の外側の地帯は,低
人口地帯であること。


原子炉敷地は,人口密集地帯からある距離だけ離れていること。
被告国(安全委員会)は,安全評価審査指針に基づき選定された「原子炉
冷却材喪失」及び「主蒸気管破断」の2事象における被告電源開発の解析・評価によると,周辺監視区域(原子力施設の周辺に設けられた区域であって,当該区域の外側のいかなる場所においても,その場所における線量が規制値〔1年につき実効線量で1mSv〕を超えるおそれのない区域であり,その区域内においては,人の居住が禁止され,かつ,業務上立ち入る者以外の立ち入りが制限されるもの)境界外において,
(旧)重大事故時の最大線量が前
記①にいう「ある距離の範囲」の目安を下回っており,(旧)仮想事故時の最
大線量が,前記③にいう「ある距離」の目安をはるかに下回っていることを確認したものであり,調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はない。
(2)なお,既許可の原子炉施設に立地審査指針を適用した結果,非居住区域及び低人口地帯は,いずれも発電所敷地内に収まっており,
(旧)仮想事故の発
生を仮想した上で,めやす線量(全身線量の人口積算値は2万人Sv)を超えるような人口密集地帯に近接した立地地点は,日本国内に存在しなかった。10争点10(被告電源開発の技術的能力)について
(原告らの主張)
被告電源開発は,原発を1基も所有しておらず,軽水炉運転技術の蓄積は皆無に等しく,原発を安全に設置・運転する技術的能力を著しく欠いている。(被告電源開発の主張)
被告電源開発は,組織,技術者の確保,経験,品質保証活動,教育・訓練等に関し体制を整え,本件原発の建設・運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有している。このうち,経験の点では次のとおりである。
(1)建設に係る経験
被告電源開発は,原子力機構の原子炉研修部門,日本原電*の総合研修センター等に技術者を派遣して,原発に関する基礎研修を実施している。また,原子力機構,東京電力,日本原電等に技術者の出向及び派遣を行い,設計及び建設工事に関する実務の習得を行っている。
ABWRを採用している柏崎刈羽原発6,7号機,浜岡原発*5号機,志賀原発2号機の建設工事には,多数の技術者を派遣している。
(2)運転及び保守に係る経験
東北電力*,東京電力,北陸電力*,中部電力*,原子力機構に技術者を出向及び派遣するとともに,株式会社BWR運転訓練センターにおける運転訓練を通じ,実務の修得を行っている。
(3)MOX燃料及びMOX炉心に係る経験

旧動力炉・核燃料開発事業団(原子力機構に統合)新型転換炉ふげん発電所(昭和54年本格運転,平成15年運転停止,平成20年廃止措置)の設計協力を行った経験を有し,運転協力として技術者を出向させている。

全炉心にMOX燃料を装荷する新型転換炉実証炉の設計を実施するとともに,新型転換炉技術確証試験を国から受託し,MOX燃料臨界試験,MOX燃料集合体照射試験等を実施した経験を有する。


新型転換炉実証炉の建設計画中止,フルMOX-ABWRへの炉型変更決定後は,電力会社からABWRの技術移転等を受けるとともに,情報共有を行いつつ設計を実施している。

MOX燃料を装荷する原子炉施設として,新型転換炉ふげん発電所建設時の施工監理,高速増殖炉もんじゅ建設に当たり技術者派遣を行った経験を有する。

(被告国の主張)
被告国は,被告電源開発の技術的能力についての調査審議を,技術的能力審査指針に基づき,
「組織」「技術者の確保」「経験」等の各項目について行い,


被告電源開発が,原子炉の設置及び運転を主体的に実施し,MOX燃料を使用することは初めての経験となることを踏まえても,前記技術的能力を有することを確認したものであり,この調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はない。
11争点11(改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の構造)について(原告らの主張)
(1)格納容器
従来型BWRの格納容器が厚さ3~4cmの鋼鉄製で,原子炉建屋とは独立した容器であるのに対し,ABWRの格納容器はRCCVと呼ばれる原子炉建屋と一体となった構造で,コンクリート壁の内側に厚さ5~6mmの鉄板を貼り付けただけの簡易な造りである。格納容器の設計圧力は,従来型BWRのそれが3.9~4.3気圧であるのに対し,本件原発のそれは3.1気圧にすぎず,大きな爆発衝撃を伴うような事故(核的爆発,水蒸気爆発)が起きれば,破損,破壊を免れない。
(2)インターナルポンプ

脱落等の危険性
ABWRの圧力容器に内蔵されたインターナルポンプには,地震による振動防止のためのサポートが付属していない上,圧力容器の底部には貫通孔が設けられているため,地震の際にインターナルポンプが脱落する危険性がある。

インペラ(動翼)部への異物落下の危険性
インターナルポンプのインペラ(動翼)部に異物が落下し,ノズルを破損させ,破損した部品により燃料集合体を損傷させる危険性がある。

ECCSによる炉心冷却失敗のおそれ
インターナルポンプの採用に伴い,非常用炉心冷却設備(ECCS)を簡素化する設計となっているため,複数のインターナルポンプが破損,脱落すれば,ECCSによる炉心の冷却に失敗するおそれがある。

(3)改良型制御棒駆動機構(FMCRD)

スクラムの際に制御棒を水圧駆動するための水圧制御ユニットが,2本の制御棒で1ユニットを構成しており,1ユニットの故障につき2本の制御棒が挿入されなくなる危険がある。
また,従来型BWRにおいては,手動操作時は1度に1本の制御棒しか動かせないようインターロックがかかっていたのに対し,ABWRにおいては,1度に最大26本の制御棒を操作できるギャングモードが採用されており,運転操作を誤れば核暴走事故につながる可能性がある。


従来型BWRの制御棒には,万が一制御棒が落下した場合に備えて,落下スピードを緩めるために速度リミッタが取り付けられていたが,ABWRの制御棒にはこの装置が省かれており,落下スピードが速く,核分裂反応が急速に進むような事故になる可能性がある。


本件設置許可申請時の安全審査における制御棒落下の事故解析で,被告電源開発は,1ユニットの制御棒の緩やかな落下事故を想定しているところ,実際には,志賀原発1号機で3本の制御棒が脱落するトラブルが発生し,柏崎刈羽原発6号機で4本の制御棒が同時に落下するトラブルや,制御棒が駆動装置の中空ピストンから外れるという炉心の自由落下につながりかねないトラブルも発生しており,被告電源開発の解析は事故想定が甘すぎる。

ABWRでは,制御棒と制御棒駆動装置との接合装置としてバイオネット・カップリングという外れにくいつなぎを採用していることが長所であると宣伝されている。しかし,平成20年6月に柏崎刈羽原発6号機で結合不良が発見されたほか,同様の事例が複数発生しており,取付けの確認手段に難があることも分かった。

(4)発電用蒸気タービン
浜岡原発5号機,志賀原発2号機,柏崎刈羽原発6号機・7号機では,発電用蒸気タービンの動翼が破損する事故が起きている。ABWRではタービンの大型化によって翼の長さを長くし,ランダム振動(タービン内を通過する蒸気の乱流による振動)の影響を受ける範囲が従来のものより広くなっている。
(5)ロッキングの影響
原子炉建屋の耐震性について,ABWRではロッキングと呼ばれる現象により上下動が大きく観測される可能性が高い。
(被告電源開発の主張)
(1)格納容器
格納容器は,鉄筋コンクリート部を厚さ約2mの設計とし,耐圧機能を有しており,コンクリートに内張りされた鋼製ライナが漏えい防止機能を持っており,十分な強度を有する。
また,本件原発の格納容器については,想定される中で格納容器にかかる圧力が最も高くなる給水管の瞬時両端破断の解析評価がなされており,その結果,格納容器内の設計圧力を十分下回る圧力であり,格納容器の健全性が確保されることを確認している。
(2)インターナルポンプ

脱落等の危険性について
本件原発の圧力容器のインターナルポンプ取付部は,詳細設計において,事故時を含め想定される圧力及び温度等による荷重や地震荷重により,当該部分に生じる応力が材料の許容値を超えないよう設計することとし,定期検査でも健全性を確認することとしているから,地震により複数個のインターナルポンプが破損又は脱落して大口径破断が起こることなどおよそ考えられない。
なお,柏崎刈羽原発7号機の耐震解析において,破損をもたらす基準値を超過する結果が示されたのは,簡易モデル(質点系モデル)による解析であり,より現実に近い評価を得ることができるモデル(有限要素法モデル)による解析結果では,基準値を超過していない。

インペラ(動翼)部への異物落下の危険性について
本件原発では,異物混入防止管理を行うこととしており,これにより,インターナルポンプのノズルを破損するような異物の圧力容器内への混入は,防止される。また,燃料集合体下部の冷却材流入口にはフィルタが設けられ,原告らが主張するような,インターナルポンプの破損部品が燃料集合体内に進入してこれを損傷するという事態の発生は,およそ考えられない。


ECCSの機能・性能について
ABWRにおいては,従来のBWRと異なり,インターナルポンプの採用により原子炉冷却材再循環配管が設けられておらず,その破断による大規模な原子炉冷却材喪失(LOCA)のおそれがない。その分,中小規模のLOCAへの対応として,非常用炉心冷却系(ECCS)につき3区分全てに高圧系を配置した独立3区分の構成として,特に高圧系を強化している。その設計上の機能及び性能の妥当性は,安全設計評価において確認している。

(3)改良型制御棒駆動機構(FMCRD)

ギャングモードにおける誤操作について
本件原発では,異常な引抜きを防ぐよう運転手順を定め,制御棒価値ミニマイザにより引抜き手順を監視することとしている。万が一,誤操作により出力が異常に上昇したとしても,制御棒の引抜きが阻止され,更には原子炉が緊急停止されるようになっている。


制御棒落下速度リミッタについて
本件原発で使用する制御棒は,万一落下してもダッシュポット効果(制御棒が万一落下した場合,中空ピストンと一体となったまま落下するが,その際,中空ピストンによって制御棒駆動機構内部から排除される水の抵抗により,制御棒の落下速度が緩和される効果のこと)により大きな抵抗を受け,従来のBWRにおける速度リミッタ付き制御棒の落下速度(0.95m/s)と比較しても,十分に緩和された落下速度(0.7m/s)に制限される。


他の原発における制御棒の引抜け事象について
(ア)志賀原発1号機等の引抜け事象(平成11年6月)は,制御棒の引抜きを水圧駆動で行う従来型のBWRで発生した事象であり,水圧では制御棒を引き抜けない構造のABWRと同一視はできない。
(イ)柏崎刈羽原発6号機の引抜け事象(平成8年6月)は,ABWRの改良型制御棒駆動機構の設計・構造そのものに起因して発生した事象ではない。本件原発では,同事象を踏まえた対策を講じている。


他の原発における制御棒の結合不良事象について
柏崎刈羽原発6号機の結合不良事象が見過ごされた件(平成20年6月)を踏まえ,本件原発では作業員の人的ミスによる制御棒の結合不良の看過を防止するための対策を講じている。

(4)タービン羽根損傷事象について
本件原発のタービンには,高い減衰効果を持つスナッバ翼を採用する範囲を拡大することとしており,ランダム振動やフラッシュバックによりタービン羽根の付け根部に発生する応力が疲労限度に対し十分な余裕を有することを確認している。また,折損などの異常が生じれば自動的にタービンが停止し原子炉が緊急停止されるよう設計することとしている。
(5)ロッキングの影響について
柏崎刈羽原発6号機及び7号機について,東京電力及び保安院は,ロッキング振動により耐震安全性が損なわれることはないものと判断している。また,本件原発の耐震設計については,基準地震動の水平動及び上下動(鉛直動)のいずれに対しても余裕を有した設計としている。
12争点12(フルMOX炉心)について
(原告らの主張)
本件原発は,世界で初めてフルMOX炉心,すなわち炉心全体にMOX燃料集合体を装荷しての本格稼働を目的とする原発である。
MOX燃料は,毒性の強いプルトニウムを多量に使用しており,事故が発生した場合に被害が拡大するおそれがある。
のみならず,MOX燃料は,ウラン燃料を使用する場合と比較して,融点・熱伝導度の低下(燃料溶融に対する裕度の減少)
,FPガス*放出率の上昇,遅
発中性子*割合の低下,制御棒やホウ素の価値(効き)の減少,燃料ペレットの不均質性(プルトニウム濃度の高いプルトニウム・スポット*が生じ,局所的な出力上昇のおそれがある。,遅発中性子発生割合の低下(出力急上昇に対する)
裕度の低下)
,出力分布の偏り,減幅比の増大(出力振動の振れ幅の増大)
,ボ
イド係数*の負側への増大(ボイド*の増減による出力の変動が急激になり,原子炉の不安定さが増す。
)など,危険な要素が多い。このため,ウラン炉心の原
発では深刻な事故にならなかったような異常事態が,MOX炉心の原発では深刻な事故に至る可能性がある。
したがって,MOX炉心の稼働に当たっては,実験炉,実証炉等の段階を踏んだ試験が必要である。しかし,本件原発では,そのような段階を経ることなく,いきなり商業炉でフルMOXを実施しようとしている。
被告電源開発は,段階的に安全性を確認しながらMOX燃料の装荷割合を増やしていくとしているが,このことは,被告電源開発自身,本件原発をフルMOXとして稼働することによる未知のリスクを危惧していることの証左である。(被告電源開発の主張)
ウラン燃料のみを装荷した原子炉においても,燃料の使用期間当初はウランの核分裂反応によって発生するエネルギーを利用するが,燃焼が進むにつれウラン238等からプルトニウムが生成され,プルトニウムによる発電比率が上がっていき,燃料使用期間末期にはプルトニウムによる発電比率が約70%となる。これに対し,MOX燃料を使用した原子炉におけるプルトニウムによる発電比率は,燃料の使用開始当初から使用期間末期まで,概ね一貫して約80%である。すなわち,MOX燃料装荷炉心においても,ウラン燃料のみを装荷した炉心と全く異なる現象が生じるものではなく,原発におけるMOX燃料の使用は,ウラン燃料使用の継続,進展によって培われ十分な実績を有する技術の土台に立ったものであって,全く新たな技術を要するようなものではないのであり,そのことは,多数の実験等によっても裏付けられている。もとより,被告電源開発は,MOX燃料の使用について,ウラン燃料との違いを適切に考慮して,以下のとおり安全性を確保している。
(1)MOX燃料の特性

燃料ペレットの融点及び熱伝導度の低下
本件原発で使用するMOXペレットは,通常運転時の最高温度が,その融点を大きく下回ることが解析評価により確認されており,この点はウランペレットと変わらない。また,本件原発の安全設計評価において,MOXペレットの融点及び熱伝導度の低下を考慮している。


FPガス放出量
FPガスの放出量は,FPガスの生成量に放出率を乗じて算出されるところ,FPガスの生成量は,燃焼度が同じであれば,ウラン燃料とMOX燃料とで違いはない。また,燃焼度が低い場合は,ウラン燃料とMOX燃料とでFPガスの放出率に大きな違いはないから,FPガスの放出量も同等となる。
燃焼度の高い場合にMOX燃料のFPガス放出率がウラン燃料と比して若干高くなることは,試験により把握されているが,このことを考慮して,本件原発で使用するMOX燃料は,ウラン燃料より燃焼率を低くするとともに,燃料棒のプレナム*の体積をウラン燃料棒のそれよりも大きくすることで,燃料棒内圧の上昇を抑えている。

プルトニウム含有率の不均一
MOXペレット製造時の対応(MIMAS法)により,プルトニウム含有率が均等なものを製造することが可能となっている。また,プルトニウム・スポットの存在がMOX燃料の健全性に影響を与えないことは確認済みである。

(2)MOX炉心の核的特性

制御材の反応度価値の低下
フルMOX炉心における全制御棒の反応度価値は,ABWRにおいて燃料集合体相互の間隔が広くされているため,ウラン燃料のみを装荷した炉心におけるそれから,ほとんど低下していない。また,本件原発につき,制御棒による原子炉の停止余裕が十分にあることを確認している。

出力分布の偏り
被告電源開発は,ウラン燃料とMOX燃料とが混在する場合の位置関係や,燃料棒の位置(燃料集合体の外周部に位置するか,内側に位置するか)によって生じる,燃料集合体又は燃料棒ごとの出力偏差を考慮して,本件原子炉の燃料装荷パターンの検討を行い,制御棒の配置等により,炉心の出力分布に大きな偏りが生じないよう設計している。

ボイド係数の負側への増大
ボイド効果*は,核分裂反応の増加による燃料の温度上昇等により冷却材中の蒸気泡(ボイド)が増加することで,中性子が減速されにくくなって熱中性子が減少し,核分裂反応が抑制されるという,原子炉の固有の安全性を示すものである。
ボイド係数がより負となる(値がマイナス方向に大となる)ということは,ボイド効果が大きくなり核分裂反応が抑制されることを意味し,炉心にMOX燃料を装荷すると,ウラン燃料を装荷する場合に比べ,ボイド係数がマイナス方向に大となるが,あまりに大きくマイナスの値になると,何らかの原因でボイドが急激に減少した場合に,核分裂反応が大きく増加することになる。
そのため,本件原発においては,燃料集合体の間隔が従来のBWRより広く減速材である軽水の領域が広いABWRを採用し,MOX燃料におけるプルトニウムの含有率を最大10%に抑えることなどにより,ボイド係数があまりに大きくマイナスの値とならないよう設計している。


炉心の不安定性
原子炉が炉心安定性を有するとは,通常運転状態において,何らかの原因により原子炉の出力が変動した場合に,ボイド効果等により出力が抑制されて,制御棒等の作動がなくとも出力が自然に減衰して収束するという減衰特性を有することを意味し,かかる減衰特性を示す指標が減幅比である(減幅比が1未満であれば出力振動は自然に減衰し,1であれば出力振動はそのまま持続し,1を超える場合は時間の経過に従って出力振動が大きくなる。別紙25参照)

本件原子炉は,フルMOXで稼働させても,炉心安定性に係る減幅比は最大で0.68であり,減衰特性を有していることを確認している。オ
遅発中性子発生割合の低下
核分裂反応により発生する中性子には,核分裂反応の直後に発生する即発中性子と,その後数秒~数十秒間に発生する遅発中性子があり,遅発中性子が存在することで原子炉の出力を制御することが可能となっている。プルトニウムの核分裂反応における遅発中性子の発生割合は,ウラン235等におけるそれより低いが,MOX燃料には,プルトニウム239のみならず,ウラン235やウラン238,プルトニウム241なども含まれることから,フルMOX炉心であっても,その遅発中性子発生割合は,ウラン燃料のみ装荷した炉心のそれと大きく異ならない。

13争点13(使用済燃料貯蔵槽)について
(原告らの主張)
(1)格納容器に守られていないこと
本件原発の使用済燃料貯蔵槽は,原子炉建屋内と燃料補助建屋内に1つずつ設置されているところ,外部環境との間には,それぞれ建屋の壁があるだけであり,特別な格納設備はなく,自然災害(地震,津波,台風,竜巻等)対策に不備がある。
国際的な視点からすると,ドイツにあるビブリス原子力発電所A,B号炉やイザール原子力発電所2号炉においては,使用済燃料貯蔵槽も格納容器に入れる形の設計が採用されており,本件原発はこれに比べて安全性の面で劣後している。
(2)テロ対策の不十分さ
本件原発の使用済燃料貯蔵槽について,テロ等の故意による人為的な加害行為への対策として,被告電源開発のいう後備低圧注水系があるということは,使用済燃料の冷却を確保する上では幾らの足しにもならない。(被告電源開発の主張)
(1)使用済燃料貯蔵槽からの周辺環境への放射性物質の放出を防止するためには,使用済燃料の冠水状態を保つことで十分であるから,堅固な施設による閉じ込めを必要としない。
なお,原告らが主張するドイツの原子力発電所の設計は,格納容器がBWRより大きなPWRの特殊なプラントであり,世界で稼働している約280基のPWRプラントの中でも極めて例外的なケースである。IAEA安全基準の個別安全要件SSR-2/1(Rev.1)において定められた燃料の取扱い及び貯蔵系に関する要件に,使用済燃料貯蔵槽を堅固な施設で閉じ込めるといった機能は求められていない。
また,被告電源開発は,MOX燃料とウラン燃料の発熱量の違いを設計条件に取り入れた上で冷却を確保できる措置を講ずることとしている。(2)本件原発の使用済燃料貯蔵槽について,テロリズムの発生を考慮した対策を講ずることとしている。
14争点14(被告電源開発の故意・過失)について
(原告らの主張)
被告電源開発は,前記2から13まで(争点2から13まで)の原告らの主張のとおり,安全性に極めて重大な問題のある本件原発を設置し,運転しようとする加害行為に及んでいる。被告電源開発は,本件原発の安全性に重大な問題のあることを十分に認識しつつ,前記の加害行為に及んでいるから,故意・過失が認められる。
(被告電源開発の主張)
本件原発の安全性に重大な欠陥があるとする原告らの主張は争う。15争点15(原告らの法益侵害及び損害の発生)について
(原告らの主張)
(1)被侵害利益について
本件において侵害されている原告らの利益は,不十分な安全審査に基づいて,安全性に極めて重大な欠陥のある本件原発が設置・運転されることにより,生命・身体等の重要な利益に対する侵害への恐怖や不安な気持ちを抱かされないという利益,すなわち内心の静穏な感情及び生活を害されないという人格権ないし人格的利益である。

本件原発から半径約50kmの範囲の地域には,大間町の南方向には陸
続きに風間浦村,佐井村,東通村及びむつ市があり,この地域には合計8万3000人余の人が生活しており,大間町の真北には津軽海峡を挟んで人口約27万人の函館市があるなど,これらの地域内にある函館市及び道南地域には38万人余の人々が生活している。これらの地域は,原発の平常運転時においても,放射性物質の排出,温排水による環境悪化が懸念され,重大事故に至らない規模の事故が発生しても,放射性物質の流出,風評被害によって深刻な被害を受ける地域であり,仮に重大事故が発生した場合には壊滅的な被害に遭うことが必至な地域である。
本件原発の平常運転及び事故は,漁業,観光を基幹産業とするこれらの地域に甚大な被害をもたらすこととなる。本件原発は建設中であるが,建設中の現時点においても,前記被害を受ける危険による不安感は甚大である。

人が社会の中で内心の静謐を保持して生活できるという利益は,一律に全てが法的保護に値する利益とまではいえないとしても,その態様や程度によっては,甘受すべき限度を超えて,人格権として法的保護に値する利益に含まれると解すべきである。この点について,最高裁平成3年4月26日第二小法廷判決・民集45巻4号653頁も,
「人が社会生活において
他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても,一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが,社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり,それに対する侵害があれば,その侵害の態様,程度いかんによっては,不法行為が成立する余地があるものと解すべきである」と判示している。他方,被告らは,本件原発がいまだ本件設置許可処分がされただけの段階であることを指摘するが,①これまでの実例を前提とする限り,我が国の原子力規制において,ひとたび原子炉設置が許可されてしまうと,ベルトコンベアーに乗るがごとく必ず使用(運転)に至る現実があること,②原告らの恐怖心は,単なる危惧感ではなく,福島原発事故で現に発生し続けている被害の大きさや不可逆性に照らすと,具体的かつ現実的恐怖であって,法的保護に値する利益への侵害が発生していることを指摘できる。(2)損害について
原告らは,これらの利益を侵害され,精神的苦痛を被っており,その損害を金銭的に評価すれば,一人当たり1000万円を下らないが,そのうち一人当たり3万円を,被告らに対し(ただし,別紙1の1記載第2の各原告については,被告電源開発のみに対し)
,連帯して支払うよう求めるものである。
(被告電源開発の主張)
(1)被侵害利益について
原告らの主張する「内心の静穏な感情」の侵害による精神的苦痛は,主観的で具体的内容を明確にし難いものであり,その発生,内容,程度等においてこれを感じたとする人と場合により千差万別であるから,その全てを損害賠償の対象とすることは社会通念上到底容認されるものではなく,仮に「内心の静穏な感情」を法的保護の対象とするとしても,その範囲は極めて限定的に解すべきである。原告らの挙げる最高裁判決は,水俣病という特別な病像を有する疾病のり患が疑われるという事情の下で,被侵害者の内心の感情が極めて複雑で特殊なものと捉えられる特殊な場合に関する判断であるのに対し,本件においては具体的な健康被害が何ら伴っていない段階における不安等が主張されているにすぎず,事案が大きく異なる。その他「内心の静穏な感情」が問題となった最高裁判決に照らしても,原告らの主張する「内心の静穏な感情」について法的保護を認める余地はない。
(2)損害について
原告らが精神的損害として主張する金銭についても,具体的算定根拠が不明である。
(被告国の主張)
(1)法律上保護された権利利益の侵害がないこと

国賠法は,民法の不法行為の特別法であり,個別の国民の権利利益に対
する侵害があることを前提としているから,法律上保護された権利利益の侵害がなければ,国賠法1条1項に基づく損害賠償を請求することはできない。

本件原発は,旧原子炉等規制法24条1項3号及び4号の安全審査を
行って本件設置許可処分がされ,その後,平成24年法律第47号による改正前の電気事業法47条に基づき本件工事計画認可処分がされたが,その後に予定されている保安規定の認可や使用前検査等は未了であり,これらを経て初めて,運転し得る状態となるものである。そして,保安規定の審査や使用前検査等は,その都度,審査時における最新の科学技術水準に照らして行われるものであるところ,福島原発事故を契機として,原子炉等規制法及び関連法令が改正され,規制基準についても大幅な見直しがされた。本件設置許可処分の対象とされた基本設計や,これを前提とした工事計画は,同改正前の規制基準に則って策定されたものであって,改正後の規制基準に適合したものではないため,本件設置許可処分及び本件工事計画認可処分に基づいて本件原発の建設が進められたとしても,保安規定は認可されず,使用前検査に合格することもできない。
このため,同改正後の規制基準を踏まえ,被告電源開発から,平成26年12月16日付けで本件設置変更許可申請及びこれに係る工事計画認可申請がされ,現在,規制委員会は,本件設置変更許可申請に係る審査を行っているものの,重要な事項についてはいまだ本格的な審査が行われていない上,前記工事計画認可申請に対しては何ら審査が行われておらず,保安規定については,認可申請すらされていない。
なお,被告電源開発は,本件工事計画認可処分の対象とされた工事計画に基づき,前記改正前に既に工事に着手された設備について工事を行っているが(原子力規制委員会設置法の一部の施行に伴う関係規則の整備に関する規則附則3条)
,これは飽くまで,本件設置変更許可申請に係る設置許
可がされ,さらに,これに係る工事の認可がされることを期待して,これと抵触しない範囲で行われているにすぎない。
以上のとおり,本件原発は,本件設置許可処分がされれば当然に運転につながるものではなく,本件原発が将来運転可能な状態に至るかどうかは,今後予定されている複数の規制措置に合格するかどうかの結果いかんに左右されるものである。また,本件設置許可処分を取り消し,又は,同工事の中止を命じなかったとしても,同処分に基づいて本件原発の建設工事が完成し,運転が開始されるなどという事態はおよそ想定し得ない。そうすると,原告らが主張する恐怖や不安感なるものは,現時点においては,具体性を欠いた抽象的なものであり,漠然とした危惧感にすぎないものであるから,国賠法1条1項により法的に保護される利益には該当しないというべきである。

なお,原告らの中には,本件原発から遠隔地に居住している者もおり,
特にかかる原告との関係では,法的に保護される利益を観念し得ない。(2)損害及び因果関係について
原告らの被告国に対する各請求は,個々の原告らが,国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求し,それが単純に併合されたものにすぎず,いかなる公務員のどのような行為によっていかなる損害が生じたかについては,個別の原告ごとに主張立証することを要する。
しかし,原告らは,原告らそれぞれについて,いかなる公務員のどのような行為によって,いかなる損害を被ったのかを明らかにしていない。争点16(本件設置許可処分の違法性等)について
(原告らの主張)
(1)被告国の違法性

公権力の発動は,法に基づく場合にのみ許容されるのが法治国家の大原
則であるから,行政処分等を行う要件を欠いていたにもかかわらず,処分等がされた場合には,当該処分等は,国賠法上,違法となると解すべきである。
経済産業大臣がした本件設置許可処分は,前記2から13まで(争点2から13まで)の原告らの主張に照らすと,旧原子炉等規制法24条1項各号に適合していないにもかかわらずされたものであるから,国賠法上,違法である。
仮に,違法性二元論を採用したとしても,本件設置許可処分は,前記2から13までの原告らの主張のとおり,審査基準が極めて不合理であり,かつ,その調査審議及び判断過程に看過し難い過誤,欠落があるにもかかわらずなされたものであるから,違法である。

違法性判断の基準時は,本件設置許可処分時であり,当時の科学技術水準に照らして違法性を判断することとなる。
前記2から13までの原告らの主張のとおり,本件設置許可処分においては,そもそも当時の安全審査指針類自体に重大な問題があった上,有力に主張されている活断層の存在について全く無視して基準地震動(450ガル)を策定し,津波や火山に対する考慮が著しく不十分であったなど,当然に考慮すべき事柄を意図的に考慮せずに安全審査が行われたものであった。原告らが主張するところは,今だからいえるというものではなく,当時の科学技術水準を前提にしても同様であり,新規制基準施行後においても問題状況は本件設置許可処分時とで共通している。
現に福島原発事故を許してしまうような安全審査類が,客観的・科学的にみて合理的であったとは到底いえない上,被告国は,今般,新規制基準を設けて従来の安全審査類を改めており,このこと自体,本件設置許可処分時に用いられていた基準が不合理であり,その判断に重大な過誤,欠落があったことの証左である。
(2)被告国の故意・過失
前記2から13までの原告らが主張する事情に基づいて本件設置許可処分等がされたことに照らせば,経済産業大臣は,当該行政処分が違法であることを当然に認識していたというべきであって,故意があった。また,仮に故意がなかったとしても,経済産業大臣等は,原発の安全を審査する専門的な機関として,当然に前記違法性を認識すべきであったというべきであるから,少なくとも過失が存在する。
(被告国の主張)
(1)被告国の違法性

違法性とは
国賠法1条1項の違法性は,権利利益の侵害があることを前提として,公務員が公権力の行使に当たって遵守すべき行為規範としての個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することを意味するものである(職務行為基準説)
。公務員が行った処分が処分要件を欠いていたとしても,
そのことだけで直ちに国賠法上違法との評価を受けるものではなく(違法性二元論)
,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務に違反したといえなけ
ればならない。そして,職務上通常尽くすべき注意義務に違反したか否かは,損害填補の責任を誰に負わせるのが公平かという見地に立って,行政処分の法的要件以外の諸種の要素も対象として,総合的に判断すべきであり,行政処分の法的要件充足性の有無のみならず,被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,行政処分発動に対する被害者側の関与の有無,程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断して決すべきである。
原告らは,本件設置許可処分が処分要件を欠き違法である旨主張しているにすぎず,国賠法固有の違法性を何ら具体的に明らかにしていないから,その主張は失当といわざるを得ない。

安全性について
改正原子炉等規制法は,公共の安全を図るため,規制委員会が原子炉の設置等に関し必要な規制を行うことで,我が国の安全を保障することを目的としている。もっとも,一般に,科学技術の分野においては,絶対的に災害発生の危険がないといった絶対的な安全性というものは,達成することも要求することもできないものといわれている。科学技術を利用した各種の機械,装置等は,常に何らかの程度の事故発生等の危険性を伴っているものであるが,その危険性が社会通念上容認できる水準以下であると考えられる場合,又はその危険性の相当程度が人間によって管理できると考えられる場合に,その危険性の程度と科学技術の利用により得られる利益の大きさとの比較衡量の上で,これを一応安全なものであるとして利用しているのである。原子炉の安全性についても同様であって,改正原子炉等規制法が要求する前記の安全も,このような相対的安全性の考え方をいうものと解するのが相当である。
それゆえ,規制委員会が安全審査における具体的審査基準を策定し,その適合性を判断するに当たっては,我が国の現在の科学技術水準によるべきことはもとより,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観点を考慮に入れざるを得ず,本来的に規制委員会の専門技術的裁量に委ねざるを得ない。実際,発電用原子炉施設の安全性に関する審査は,当該施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺環境への影響等を,設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び設置者の技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり,しかも,その審査の対象には将来の予測に係る事項も含まれているのであって,審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものである。
このため,伊方原発最高裁判決が指摘するとおり,原子炉設置許可処分における安全審査に当たっては,処分行政庁(規制委員会)の専門的技術的裁量が認められており,同処分は,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合に限り初めてこれを取り消すことができるものとされている(行政事件訴訟法30条)
。そうすると,国賠法上の違法性の有無を検討
する場面においても,当然のことながら,処分行政庁に専門技術的裁量があることが十分考慮されるべきである。

違法性の判断基準時
違法性の判断,すなわち職務上通常尽くすべき注意義務に違反したかどうかを判断するに当たっては,職務行為時における行為規範違反の有無が問題となるのであるから,原子炉設置許可処分を行った当時の具体的事情に基づいて違法性の有無が検討されなければならない。本件設置許可処分後に科学技術水準の進歩があり,これに伴って処分当時は存在せず又は通説的見解ではなかった新たな科学的知見が通説的見解となったとしても,処分当時において,そのような将来に至って定説化した知見を考慮に入れて注意義務を尽くすことはそもそも不可能であったのであるから,処分後に明らかとなった科学的知見を処分当時の行為規範違反の有無を判断するに当たり斟酌するのは相当ではない。


本件における違法性について
これを踏まえると,本件において,調査審議が行われた当時の科学技術水準に照らし,少なくとも安全委員会等における調査審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは,安全委員会等の行った調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落があり,主務大臣の判断がこれに依拠してされたと認められることが必要であり,このような事由が認められないにもかかわらず,経済産業大臣の行為が国賠法上違法と評価される余地はない。
そして,前記2から10まで(争点2から10まで)で被告国が主張したとおり,本件安全審査における調査審議当時の科学技術的知見に照らし,本件調査審議に用いられた審査指針に不合理な点はなく,調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はないから,本件設置許可処分を行った経済産業大臣の行為について,職務上通常尽くすべき注意義務違反はない。(2)被告国の故意・過失
国賠法上の故意・過失は,職務上の法的義務違反としての違法性の認識ないし認識可能性を意味するものであり,国賠法1条1項にいう過失については,違法に他人に損害を生ぜしめるという結果についての予見ないし予見可能性を要するというべきであるところ,原告らはこれらを基礎付ける事情について何ら主張していない。
17争点17(不作為の違法性)について
(原告らの主張)
(1)被告国の作為義務の根拠
国民の人格権を守ることは,憲法上の国家の当然の義務である。そして,新たに設置された規制委員会の趣旨,目的や改正原子炉等規制法の立法趣旨が,福島原発事故のような甚大な被害を二度と繰り返さないために,国家による原子炉施設への規制権限を強化することであることからすれば,被告国は,規制委員会を通じて,最新の科学的知見から判断し,原子炉施設の安全性に疑いが生じれば,これを適切に是正すべき規制権限の行使義務があるというべきである。
(2)被告国の不作為の内容
被告国には,次の①から④までの不作為(以下,これらの不作為を合わせて,又はこのいずれかを指して「本件不作為」という。
)がある。前記2から
13まで(争点2から13まで)の原告らの主張に照らせば,本件不作為は,遅くとも現時点(本件訴訟の口頭弁論終結時)までには違法であり,そのことに過失もある。


規制委員会は,改正原子炉等規制法43条の3の20第2項に基づき,本件設置許可処分を取り消すべき義務を負っているにもかかわらず,これを怠っている。



規制委員会は,改正原子炉等規制法43条の3の23第1項に基づき,本件原発の建設工事の中止を命ずる義務があるにもかかわらず,これを怠っている。



規制委員会は,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項4号により災害の防止上支障がない基準を作成すべき義務があるにもかかわらず,不合理な新規制基準を直ちに改めることをしていない。



規制委員会は,本件原発について,何ら安全性が確認されていないのであるから,改正原子炉等規制法等の明文で定められていない場合であっても,独自の権限行使として,国民の権利・利益を原発事故の危険から守るために,本件原発の使用停止や建設工事の中止を命じるべき義務があるにもかかわらず,これを怠っている。

(3)不作為の違法性
被告国の前記不作為は,このまま継続すれば過酷事故等により国民に放射線被ばく等の生命身体に対する回復し難い損害が生じる点で被侵害利益が非常に重大であり,このことについて予見可能性,結果回避可能性,期待可能性のいずれも十分に存在することからすれば,その裁量権の範囲を逸脱し,又は裁量権を濫用したものといえる状態に達していると考えられるから,国賠法上,違法である。
(被告国の主張)
(1)作為義務の内容及び根拠
原告らの主張する本件不作為(①から④まで)は,次のとおりその内容が不明確なものである上,作為義務が生ずる法的な根拠を指摘していない。ア
本件不作為①
原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の20第2項に基づく本件設置許可処分の取消しの不作為を主張するが,同項は,その要件として同項1号から22号までの各規定を定めているものの,原告らは,いずれの号が根拠であるのかの特定やその要件該当性を何ら主張しておらず,どの時点において,どのような規制権限を発動すべき作為義務がいかなる法的根拠に基づいて発生したのか具体的に特定して主張していない。


本件不作為②
原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の23第1項の使用停止等処分の不作為を主張するが,その作為義務の発生根拠に関し,新規制基準の具体的な規定について不適合といえる具体的な事実を特定して主張していない。


本件不作為③
原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項の趣旨に基づいて,被告国が新規制基準を改定すべき作為義務を怠っていると主張するが,前記規定は新規制基準の策定やその合理性に関する規定ではないから,その趣旨から新規制基準を改定すべき作為義務が導かれるとはいえない。また,その不作為の内容についても具体的に特定して主張していない。


本件不作為④
原告らは,規制委員会が本件原発の使用停止や建設工事の中止を命じるべき義務があるにもかかわらず,これを怠っていると主張するが,法律に基づく行政において,明文の根拠なく,国民の権利義務の範囲を形成し,又はその範囲を具体的に確定することはできず,規制委員会にそのような権限も義務もない。
(2)不作為の違法性
規制委員会には,前記16(争点16)の被告国の主張で述べたとおり,改正原子炉等規制法上の規制権限を行使するか否かについて専門技術的裁量が認められており,規制権限の存在から直ちに作為義務が認められるものではなく,その権限不行使が国賠法上違法となるのは,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くときに限られるというべきであるところ,前記2から10まで(争点2から10まで)の被告国の主張に照らせば,本件不作為が著しく合理性を欠くとはいえない。
また,改正原子炉等規制法の制定に伴い改定された規制基準への適合性については,設置変更許可,工事計画変更認可,使用前検査等の手続により確認するものとしている。本件原発についても,本件設置変更許可申請に対する審査において同規制基準への適合性を審査中であり,その後の工事計画認可申請,保安規定及び使用前検査等を通して審査されることが予定されている。そうすると,改正原子炉等規制法の趣旨や目的,原告らが指摘する規制委員会の有する規制権限の性質等に照らしても,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くなどとは,およそ認められない。第3章当裁判所の判断

その1-被告電源開発に対する差止請求について

第1争点1(生命・身体への具体的危険性の判断の在り方)について1認定事実
前提事実(第2章第2)
,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件原発に係
る安全審査の経緯等について,以下の事実が認められる。
(1)旧原子炉等規制法における規制

旧原子炉等規制法23条1項により,実用発電用原子炉を設置しようとする者は,経済産業大臣の原子炉設置許可を受けなければならないものとされていた(同項1号)



経済産業大臣は,同法24条1項により,同項各号の要件に適合していると認められる場合でなければその許可をしてはならないものとされ,同条2項により,同要件のうち,原子炉設置の政策的評価や原子炉設置者の経理的基礎に係るもの(1号,2号及び3号の一部)への適合性については,原子力委員会の意見を聴かなければならず,原子炉設置者の技術的能力や原子炉の安全性に係るもの(3号の一部及び4号)への適合性については,安全委員会の意見を聴かなければならないものとされていた。

旧電気事業法及び同法に基づく命令の規定による検査を受けるべき原子炉施設であって実用発電用原子炉に係るものについては,旧原子炉等規制法73条により,同法27条から29条までの適用が除外され,これに代わり,旧電気事業法の規定により,設置の工事の計画についての経済産業大臣の認可(同法47条)又は経済産業大臣に対する届出(同法48条),
設置の工事についての経済産業大臣の使用前検査(同法49条)
,経済産業
大臣が特定の時期ごとに行う定期検査(同法54条)及び事業者が定期に行う定期事業者検査(同法55条)が定められていた。

(2)本件設置許可申請,本件設置許可処分及び本件工事計画認可処分並びにこれに基づく本件原発の建設工事
被告電源開発は,平成16年3月18日,旧原子炉等規制法23条1項1号に基づき,経済産業大臣に対し,本件設置許可申請を行い,経済産業大臣は,平成20年4月23日,本件設置許可処分をした(前提事実2(1),(3))。
また,被告電源開発は,同月24日から平成22年4月13日にかけて,6回にわたり,旧電気事業法47条1項に基づき,経済産業大臣に対し,本件原発の工事計画認可申請を行い,平成20年5月27日から平成22年12月24日までの間に,いずれの申請についても経済産業大臣から認可処分(本件工事計画認可処分)を受けた(前提事実2(4))

これを受けて,被告電源開発は,平成20年5月27日以降,主要建屋の建設や主要機器の製作を開始した(前提事実2(5))

(3)福島原発事故について

事故と被害の概要
平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震の発生に伴い,福島第一原発は,地震動により外部電源が喪失し,津波により非常用電源設備が水没して機能不全となり,複数の原子炉施設において全電源が喪失して炉心損傷や水素爆発が発生するなどし,放射性物質が放出された。
放出された放射性物質の量は,ヨウ素換算でチェルノブイリ原発事故の約6分の1に相当するおよそ900PBqと推定され,福島県内の約1800km2の土地が,年間5mSv以上の空間線量を発する可能性のある地域となった。福島原発事故による避難区域指定は,福島県内の12市町村に及び,避難した人数は,同年8月29日時点で,警戒区域(福島第一原発から半径20km圏)で約7万8000人,合計で約14万6520人に達した。
(甲D5)


事故に関する調査・検証
福島原発事故を受けて,同年10月30日,東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法が施行され,これに基づき,国会に東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(いわゆる国会事故調)が設置された。同委員会は,福島原発事故について調査し,平成24年6月,福島原発事故の原因等をまとめた報告書(甲D5,乙イD21)を作成した。同報告書においては,福島原発事故の主な原因として,①耐震バックチェック*が不十分であったこと,②津波対策が不十分であったこと,③シビアアクシデント対策が不十分であったこと,④東京電力及び国の事故対応が不十分であったこと,⑤原子力を規制する機関が原子力利用推進機関から独立していなかったことなどが指摘されている。
(甲D5)
福島原発事故に関する調査,検証としては,このほかにも,平成23年6月に政府の原子力災害対策本部からIAEAに提出された日本国政府の報告書(乙イD20)
,同年5月の閣議決定により設置された東京電力福島
原子力発電所における事故調査・検証委員会(いわゆる政府事故調)が同年12月に取りまとめた中間報告(乙イD42)及び平成24年7月に取りまとめた最終報告(乙イD19)
,事故当時の規制当局であった保安院が
取りまとめた「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について」と題する報告書(乙イD18)などがある。
(乙ロB59)
(4)規制委員会について
以上のような福島原発事故の反省を踏まえて,平成24年6月27日,規制委員会設置法が制定され,その施行(同年9月19日)に伴い,安全委員会が廃止され,規制委員会が発足した。
規制委員会は,東北地方太平洋沖地震に伴う福島原発事故を契機に明らかとなった原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し,一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため,原子力利用における事故の発生を常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って,確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し,又は実施する事務(原子炉に関する規制に関することを含む。)
を一元的につかさどるとともに,その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使し,もって国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として,国家行政組織法3条2項の規定に基づき,環境省の外局として設置された行政機関である(規制委員会設置法1条,2条)

規制委員会には,原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会が置かれ,原子炉の安全性に関する事項は,規制委員会の指示により,原子炉安全専門審査会が調査審議するものとされている(同法13条,14条)。
また,規制委員会は,その所掌事務について,法律若しくは政令を実施するため,又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて,原子力規制委員会規則を制定することができるとされているほか,規制委員会の事務を処理させるために原子力規制庁が設置され,原子力規制庁長官は規制委員会委員長の命を受けて庁務を掌理することとされている(同法26条,27条)。
(5)改正原子炉等規制法について
前記(4)のとおり規制委員会設置法が制定されたことに伴い,平成24年,旧原子炉等規制法が改正され,同年9月19日,平成25年4月1日,同年7月8日及び同年12月18日の4段階で施行された。また,別紙2記載の新規制基準は,いずれも改正原子炉等規制法の第3段階目及び第4段階目の施行に当たって,改正又は策定された規則,告示又は内規である。改正原子炉等規制法においては,規制権限の一元化のため,それまで原子力施設の種類ごとに異なる主務大臣が有していた安全規制に係る権限を規制委員会に移し(同法23条,43条の3の5等)
,規制と利用の分離の観点か
ら,法目的から「利用の計画的な遂行」が削除され,
「国民の生命,健康及び
財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資する」旨が追加された(同法1条)
。これらのほか,改正原子炉等規制法における主要な改正点は,
次のとおりである(なお,このうち安全規制の強化を内容とする下記ア,イ,ウ,オ,カ及びケについては第3段階目に施行され,下記エについては第4段階目に施行された。。


シビアアクシデント(重大事故)への対処(43条の3の5第2項10号,43条の3の6第1項3号)

供用開始の前段階である設計及び工事段階における品質保証(43条の3の9第3項3号)


変更後の設置許可基準に適合しない既存の発電用原子炉施設の使用停止等の処分(43条の3の23)


発電用原子炉の安全性向上のための評価(43条の3の29)


運転期間の制限(原則40年間とするもの。43条の3の32)


事業者の災害の防止に関する責務規定の明確化(57条の9)


緊急時における災害防止のための措置命令の強化・拡充(64条3項)

原子力災害が発生した原子力施設に対する特別規定(64条の2から64条の4まで)


発電用原子炉施設に対する原子力安全規制体系の整理(前記(1)ウのとおり,旧原子炉等規制法27条から29条までの適用を除外していた同法73条を削除し,改正原子炉等規制法に旧電気事業法上の規制に相当する規定〔43条の3の9から43条の3の16まで〕を定めるもの)

(6)改正原子炉等規制法下の規制手続の概要

原子炉設置(変更)許可
発電用原子炉を設置しようとする者は,規制委員会の原子炉設置許可を受けなければならず(43条の3の5第1項)
,その許可を受けた者(以下
「発電用原子炉設置者」という。
)が同条2項2号から5号まで又は8号か
ら10号までに掲げる事項を変更しようとするときは,規制委員会の原子炉設置変更許可を受けなければならない(43条の3の8第1項)。
上記各許可の申請があった場合において,規制委員会は,①発電用原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと,②その者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経済的基礎があること,③その者に重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること,④発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであることをいずれも満たす場合でなければ,原子炉設置許可又は原子炉設置変更許可をしてはならないものとされている(43条の3の6第1項,43条の3の8第2項)

なお,上記④の規定を受けて規制委員会が定めた規則が,設置許可基準規則(乙イD9の3)である。

工事計画(変更)認可
発電用原子炉施設の設置又は変更の工事をしようとする発電用原子炉設置者は,当該工事に着手する前に,その工事の計画について規制委員会の認可を受けなければならず,これを変更しようとするときも同様である(43条の3の9第1項,2項)

上記の認可の申請があった場合において,規制委員会は,①その工事の計画が原子炉設置許可(原子炉設置変更許可)を受けたところによるものであること,②発電用原子炉施設が原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するものであること,③その者の設計及び工事に係る品質管理の方法及びその検査のための組織が原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するものであることをいずれも満たす場合には,工事計画又は工事計画変更の認可をしなければならないものとされている(同条3項)

なお,上記②の規定を受けて規制委員会が定めた規則が技術基準規則*(乙イD9の4)である。


使用前検査
工事計画の認可を受けて設置又は変更の工事をする発電用原子炉施設等は,原則として,その工事について規制委員会の検査を受け,これに合格した後でなければ,これを使用してはならない(43条の3の11第1項)。
この使用前検査では,既に認可を受けた工事計画に従って行われたものであること及び技術基準規則に適合するものであることが確認された場合に,合格とされる(同条2項)


保安規定(変更)認可
発電用原子炉設置者は,原子力規制委員会規則で定めるところにより,保安規定を定め,発電用原子炉の運転開始前に,規制委員会の認可を受けなければならず,これを変更しようとするときも同様である(43条の3の24第1項)

規制委員会は,保安規定が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときは,その認可をしてはならないとされている(同条2項)



施設定期検査
特定重要発電用原子炉施設を設置する者は,原則として,原子力規制委員会規則で定める時期ごとに,規制委員会が行う検査を受けなければならない(43条の3の15)



いわゆる再稼働申請について
規制委員会設置法の附則3条1項は,改正原子炉等規制法の第1段階目の施行前の法令の規定によりなされた許可等は,施行後の法令に基づく許可等とみなすものとしている。
しかしながら,安全規制の強化を内容とする改正原子炉等規制法の第3段階目の施行(前記(5)ア,イ,ウ,オ,カ及びケ)については,原則として経過規定の定めがなく,施行時において同改正法及びこれに係る新規制基準への適合が求められる(ただし,例外的に,設置許可基準規則の附則2項において,同規則42条の特定重大事故等対処施設及び同規則57条2項の常設直流電源設備に関しては,5年間の猶予期間が設けられている。。このため,旧原子炉等規制法の下でなされた原子炉設置許可処分の)
対象とされた基本設計やこれを前提とした工事計画に基づいて原発の建設をし,あるいは建設された原子炉の運転をしようとしても,使用前検査に合格することはできず,保安規定も認可されないこととなる。
そこで,例えば,福島原発事故を受けて運転を停止した発電用原子炉が運転を再開するためには,発電用原子炉設置者が,改正原子炉等規制法及び新規制基準に基づき,規制委員会による原子炉設置変更許可処分を受け,工事計画変更及び保安規定の各認可を受け,規制委員会が行う使用前検査に合格する必要がある(ただし,原子力規制委員会設置法の一部の施行に伴う関係規則の整備に関する規則〔乙イD60〕の附則3条により,施行前に認可された工事計画に基づき既に着手した工事を継続すること自体は可能である。。このことは,未完成であり運転を開始していない本件原発)
についても同様であり,被告電源開発が本件原発の建設を進め,運転を開始するには,規制委員会による上記の許認可や検査を受ける必要がある。(7)本件設置変更許可申請とその審査

概要
被告電源開発は,改正原子炉等規制法の施行後である平成26年12月16日,規制委員会に対し,本件設置変更許可申請及び平成26年工事計画認可申請をした。ただし,平成26年工事計画認可申請は,本件原発の施設に係る基本設計方針や設計及び工事に係る品質管理の方法等に限るものであり,その余の工事計画については,未だ認可申請がなされておらず,また,保安規定については,認可申請もなされていない(甲D86,乙ロD1の1,乙ロD32)



規制委員会における審査の経過
規制委員会では,本件設置変更許可申請及び平成26年工事計画認可申請を受けて,平成27年1月20日から現在(口頭弁論終結日である平成29年6月30日)までに,以下の審査会合を含む合計15回の審査会合が開かれ(各審査会合は,必ずしも本件原発の審査のみを対象とした会合ではなく,申請中の複数の原発に関する新規制基準適合性を審査するものであるところ,以下は,本件原発に関する審査の一部について示すものである。,本件設置変更許可申請について審査中であるものの,未だこれに)
対する処分には至っておらず,平成26年工事計画認可申請については,審査自体が行われていない。
(ア)平成27年1月20日・第184回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B234)
被告電源開発が,本件原発の新規制基準適合に係る申請(本件設置変更許可申請)の概要を説明し(甲B235,甲D101,乙ロB350,乙ロD8)
,規制委員会(担当委員及び原子力規制庁の担当者)との間で
質疑応答が行われた。
(イ)平成27年1月27日・第187回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B236)
規制委員会から,本件原発の申請内容に係るこの時点における主要な24の論点(甲B237)が示された。その内容は,
「地盤・地震関係」

「火山関係」「津波関係」「プラント関係」と分類して多岐にわたる論,

点を示すものであり,例えば地質・地盤に関する調査・評価結果の提示,基準地震動の策定に関わる個別の検討内容,火山による降下火砕物の影響評価に関する事項,PRAの手法,重大事故等対処のために必要な技術的能力に関するものなど,被告電源開発に対し詳細かつ具体的な説明を求めるものであった。そして,次回以降,地盤・地震・津波関係とプラント関係とに分かれて審査会合を開くこととされた。
(ウ)平成27年2月17日・第196回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B238)
非公開で行われ,被告電源開発から,特定重大事故等対処施設に係る意図的な大型航空機の衝突等の設計上の考慮事項について説明がなされた(甲B239)

(エ)平成27年3月27日・第212回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B240)
被告電源開発が,本件原発周辺の地質・地質構造の概要及び断層評価について説明し(甲B241)
,規制委員会との間で質疑応答が行われ,
被告電源開発への追加データ提示の要望が出された。
(オ)平成27年4月10日・第218回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B242)
被告電源開発が,本件原発周辺の地質・地質構造のうち,下北半島西部の後期更新世以降(約12万6000年前以降)の地殻変動について説明し(甲B243)
,規制委員会との間で質疑応答が行われた。その際,
原子力規制庁の出席者からは,被告電源開発が作成した下北半島西部全域の推定等隆起量線図(別紙15参照)について,再検討を求める意見や,海岸に見られる隆起ベンチは典型的には地震性隆起と考えられ,そうではないということは考えにくいので,その点について詳しい説明を聞きたいといった意見等が述べられた。
(カ)平成27年7月24日・第253回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B244)
被告電源開発が,前記(オ)の審査会合において規制委員会から質疑のなされた下北半島西部の隆起評価について,被告電源開発がこれに回答するために,追加調査を実施することにしたことが報告され,必要と判断した地質調査の計画を示すなどし(甲B245,246)
,規制委員会と
の間で質疑応答が行われた。
(キ)平成28年1月8日・第316回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B247)
被告電源開発が,本件敷地の地形,地質・地質構造の概要,本件敷地内の断層(被告電源開発がdF断層系,cf断層系,sF断層系として説明するものなど)について改めて一から説明し(甲B248,249),
規制委員会との間で質疑応答が行われた。
(ク)平成28年3月10日・第338回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B250)
被告電源開発が,本件敷地の地質・地質構造のうち,被告電源開発が「S-1」から「S-11」まで及び「S-0m」の付号を付したシーム(薄層)について説明し(甲B251)
,規制委員会との間で質疑応答
が行われた。
(ケ)平成28年6月24日・第373回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B252)
被告電源開発が,本件敷地の地質・地質構造のうち,第四系中の変状について説明し(甲B253)
,規制委員会との間で質疑応答が行われた。
その際,原子力規制庁側の出席者から,第四系中の変状が被告電源開発のいう強風化部の関係のみで起こり得るということについて,確認可能なデータが示されていないといった意見が出された。
(コ)平成29年1月20日・第432回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B277の3)
被告電源開発が,前記(エ)の審査会合及び平成28年11月11日開催の第414回審査会合に引き続き,本件原発周辺の地盤の変形,地質・地質構造及び断層について説明し(甲B275,276,乙ロB282),
規制委員会との間で質疑応答が行われた。
その中で,規制委員会から,被告電源開発が海上音波探査の結果により存在を否定できるとした下北海岸断層について,その近辺に活断層の存在可能性を示す資料があり,より広範に海上音波探査記録を精査する必要があることなどが指摘された。
(サ)平成29年3月24日・第456回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(甲B301)
被告電源開発が,前記(キ)から(ケ)までの各審査会合(本件敷地の地質等に関するもの)において規制委員会から指摘された事項に回答し(甲B297から299まで,乙ロB304の1から3まで)
,規制委員会と
の間で質疑応答が行われた。
その中で,規制委員会から,①cf断層系について,被告電源開発がいうM3面段丘堆積物(約10万年前)との関係,変位センスと応力場との関係,断層内物質の固結度といったものの総合評価によっては,後期更新世の活動を否定するには不十分であり,耐震重要施設の直下に分布しているので,より直接的な活動性の評価データを示す必要があること,②sF断層系についても,後期更新世以降の活動性の評価がまだ十分ではないと考えられるので,直接的なデータを示す必要があること,③耐震重要施設の側面に露頭しているシームS-11については,S-10と分布状況が大きく異なるため単独で活動性を評価する必要があり,その資料が不足していること,④第四系中の変状について,被告電源開発が強風化部の近傍以外には認められないと判断した過程の説明が十分でないことなどが指摘され,被告電源開発は,資料収集のため改めて調査を実施することなどを回答している。
(シ)平成29年6月23日・第478回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合
被告電源開発は,前記(サ)の審査会合における指摘を踏まえ,追加の地質調査を実施することとし(乙ロB390)
,その調査計画を説明した
(乙ロB389)

(8)本件原発の現状
被告電源開発は,本件工事計画認可処分を受けて,平成20年5月27日以降,本件原発の建設工事を開始し,原子炉建屋やタービン建屋等の建設が行われたが(被告電源開発によると,福島原発事故直後の平成23年3月20日の時点における工事の進捗率は,土木工事が64.7%,建築工事が38.5%,機械電気工事が36.1%であり,総合進捗率は37.6%である。,福島原発事故を受けて工事を中断した。その後,被告電源開発は,工)
事を再開したが,その内容は,規制委員会設置法の一部の施行に伴う関係規則の整備に関する規則(乙イD60)の附則3条に基づく,改正原子炉等規制法の施行前に既に工事に着手された設備に関するもの(施工・設置済みの建屋の維持・品質確保に係るものなど新規制基準の影響を受けない範囲のもの)に限られている(乙ロD10,31)

また,本件原発の主要な機器である圧力容器,タービン,発電機は,機器メーカーの工場における製作を終えて保管されているが,本件敷地内には搬入されていない(本件原発の運転に供される核燃料物質も搬入されていない。。

被告電源開発は,本件原発の運転開始時期は未定と発表している(乙ロD33,34)

(9)放射線被ばくについて
放射性物質が放出する放射線は,人が全身に一度に大量の被ばくをすると致死的となり,被ばく線量がそこまで多くなくとも深刻な健康被害をもたらすことがある。放射線被ばくによる身体的影響は,被ばく線量が同じでも年齢や個人差などによって違いがあり,胎児や成長期の子どもは大人に比べて影響を強く受けると言われている。また,被ばくした本人の子孫に遺伝的影響を及ぼすこともある。放射性物質が環境中に放出されると,大気汚染による健康障害が懸念されるほか,農産物や海産物が汚染されることにもなり,その影響が広範囲に及ぶおそれがある。
(甲C1,2,4)
2判断枠組みについて
(1)人格権に基づく民事差止請求における差止めの要件
原告らは,被告電源開発に対し,建設中の本件原発の運転が開始されれば,重大な事故が発生した際に,放射性物質により原告らの生命・身体を害されるおそれがあるなどと主張して,人格権に基づき,侵害の予防として,本件原発の建設及び運転の差止めを求めている(本件差止請求)

一般に,人格権とは,人の生命,身体,自由及び生活等に関する諸利益に至る包括的な概念であるところ,原告らが本件差止請求の根拠とする生命・身体等は極めて重大な保護法益であるから,それが違法に侵害され,又は違法に侵害される具体的危険がある場合には,現に行われている違法な侵害行為を排除し(妨害排除)
,又は違法な侵害行為を予防する(妨害予防)ため,
人格権に基づき当該侵害行為の差止めを求めることができると解される。そして,放射線被ばくによる影響を考慮すると,発電用原子炉施設において重大な事故が発生し,放射性物質が外部に拡散するような事態になれば,当該施設の周辺の住民に対し,放射線被ばくにより生命・身体に回復し難い重大な被害をもたらすおそれがある。また,現時点において,環境中に放出された放射性物質を効果的かつ効率的に除去する方法がないことからすると,広範囲に居住する住民が生活の本拠を失い,あるいは長期間にわたる避難生活を余儀なくされるなど,甚大な生活上の被害を受けるおそれが高い。このように,原発において重大な事故が発生した場合,周辺の住民が受ける人格権の侵害は極めて深刻であるといえる。
そうすると,当該原発について安全性に欠けるところがあり,重大な事故の発生による放射性物質の放出等の具体的危険がある場合,周辺住民は,人格権に基づく妨害予防として,当該原発の建設及び運転の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。
(2)本件原発における人格権侵害の具体的危険性

もっとも,前記認定のとおり,本件原発は未完成であって,圧力容器,タービン,発電機といった主要な機器や,原子炉の運転に供される核燃料物質も未だ搬入されておらず,被告電源開発は,福島原発事故後,施工済みの建屋の維持・品質確保に係る工事等を行っているにとどまる。そして,改正原子炉等規制法や新規制基準の施行に伴い,被告電源開発が本件原発の運転を開始するには,改正原子炉等規制法及び新規制基準に基づき,規制委員会による原子炉設置変更許可処分を受け,工事計画変更及び保安規定の各認可を受けた上で,規制委員会が行う使用前検査に合格する必要がある。
この点について,被告電源開発は,平成26年12月16日,規制委員会に対し,本件設置変更許可申請をし,規制委員会は,平成27年1月20日から現在までに,合計15回の審査会合において,本件設置変更許可申請について審査を行っている。しかし,前記1(7)イのとおり,規制委員会は,上記審査会合の初期段階で,本件設置変更許可申請について検討すべき主要な論点として,
「地盤・地震関係」「火山関係」「津波関係」「プ



ラント関係」と分類して多岐にわたる論点を示しているところ,現在までに検討が加えられた論点は,自然的立地条件に関わる部分に限ってみても,上記「地盤・地震関係」の一部である本件原発周辺及び本件敷地の地質構造等にとどまり,基準地震動の策定関係にすら審査は及んでいない上,地盤に係る審査中においても,規制委員会から被告電源開発の申請や説明の内容について疑問点や根拠となる資料の不足等が指摘され,被告電源開発において追加の調査を実施するなどしている状況にあると認められ,今後,本件設置変更許可申請に対する審査にどの程度の期間を要するかすら明らかでなく,当然のことながら,規制委員会が本件設置変更許可申請に対し変更許可をするか否かについて,見通しが全く立っていない状況といえる。被告電源開発自身も,本件原発の運転開始時期を未定と発表している。このように,本件設置変更許可申請に対し規制委員会の許可がなされる具体的な見通しが立っておらず,本件原発の運転開始の具体的目途が立っていない現時点で,本件原発において,人格権侵害をもたらすおそれのある重大な事故が発生する具体的危険性を直ちに認めることは困難であるといわざるを得ない。

加えて,発電用原子炉施設の安全性確保に関しては,当該原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等について,当該原子炉施設の立地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の原子炉の設置,運転等に必要とされる技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討がされるべきであり,しかも,これらの検討対象には,将来の予測に係る事項も含まれているのであって,このような検討を行うには,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断を必要とする。
そして,前記認定のとおり,福島原発事故の反省を踏まえて規制委員会設置法の制定及び旧原子炉等規制法の改正が行われた経緯等に鑑みると,これらの法律は,高度の科学的,専門技術的知見を有し,原子力事業者や原子力利用の推進機関からの独立性を確保した委員長及び委員により構成される規制委員会に原子炉に関する規制を一元的に担わせることによって,原子力利用の安全の確保を期したものであって,規制委員会以外の機関が重大事故発生防止の観点から発電用原子炉施設の安全性を審査することは予定していないものと解される。
そうすると,裁判所が,規制委員会による安全審査及び処分を待たずに,前記のような多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見を要する原子炉施設の安全性に関する審査を,規制委員会に代替して行うことは相当ではないから,人格権侵害の具体的危険性,すなわち,原発の安全性についての裁判所の審理,判断は,規制委員会の調査審議及び判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきである。具体的には,現在の科学技術水準に照らして,規制委員会の審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか否か,あるいは,当該原子炉施設が同審査基準に適合するとの審議・判断に不合理な点があるか否か,という観点で審理,判断がされるべきである。

上記のとおり,現時点では,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の安全審査及び処分は未だなされていないが,規制委員会が本件原発の安全審査に用いる具体的審査基準それ自体(当該審査基準の内容いかんが,例えば本件原発の具体的立地条件等に関係しない事項であるなど,本件原発の安全性を左右しないと認められるような場合は除く。
)に不合理な点が
ある場合は,原則として規制委員会による適正な審査を期待することができない上,本件設置変更許可申請における諸施設や設備の変更等もかかる不合理な審査基準を想定してなされたものと事実上推認されるから,このような場合は,被告電源開発において,当該不合理な基準にもかかわらず本件原発の安全性が確保されていることを主張立証しない限り,本件原発が安全性を欠き重大な事故発生の具体的危険性が否定できないものとして,その建設及び運転の差止めを認めるべきである。
他方,それ以外の場合には,上記ア及びイで述べたところからすれば,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の安全審査及び処分が未だなされておらず,本件原発が運転を開始する具体的な目途も立っていない現時点において,本件原発に重大な事故発生の具体的危険性があると認めることは困難であり,かつ,裁判所が規制委員会の審査に先立って,安全性に係る現在の具体的審査基準に適合するか否かについて審理判断をすべきではないから,裁判所が,安全性に係る現在の具体的審査基準に適合しないとの理由で,本件原発の建設及び運転の差止めを命じることはできないというべきである。
なお,前記アで述べた観点から,本件設置許可処分がされた平成20年当時の具体的審査基準の合理性又は同審査基準への適合性は,原告らの被告電源開発に対する本件差止請求との関係では,直ちに差止めの理由になるものではないというべきである(したがって,本件設置許可処分当時の具体的審査基準の合理性又は同審査基準への適合性に係る主張については,後記第2及び第3においても個別に取り上げない。。


これに対し,原告らは,これまでの原子力規制の実態からすれば,本件設置変更許可申請についてもベルトコンベア式に許可がなされる可能性が高い旨を主張する。しかし,前記認定のとおり,福島原発事故を受けて原子炉等規制法が改正され,新規制基準が定められており,そもそも制度上,同改正前に設置許可を受けた原子炉が当然に改正後に許可を受けられるものではない。のみならず,現在,規制委員会において調査審議中の本件原発に係る地質・地質構造の関係についてみても,本件原発周辺の下北半島西部において地震性隆起による海岸地形が存在していることや大間北方沖活断層の存在が想定されることを指摘する,渡辺ほか(2012)が,平成20年の本件設置許可処分の後に発表されているところ,被告電源開発がこれを否定する根拠の一つとして提示している推定等隆起量線図(別紙15参照)に対して,前記のとおり,規制委員会から疑問が呈され,あるいは,被告電源開発の地震性隆起ではないとする根拠や説明が不十分であることを指摘する意見が出され,被告電源開発において追加調査を実施するに至ったが,現時点ではこの点を含む審議が継続中であることなど,現在の審査状況に照らせば,渡辺ほか(2012)における指摘内容の当否はともかくとして,規制委員会における審査が当然に許可を前提にしているものとは認められない。また,プラント関係についても,規制委員会からは,本件原発が建設中であって,新規制基準適合のために取り得る対策の選択肢が広いと考えられることから,採用した対策の有効性を詳しく説明することなどが求められており(甲B237)
,平成20年になされた本
件設置許可処分を前提に許可することが前提であるかのような審査をする姿勢はうかがわれないから,上記原告らの主張は採用することができない。また,原告らは,原告らの主張する事項の大部分は一般の経験則や基本的な科学技術的知識・知見に照らすだけで十分に判断可能である旨主張する。しかし,発電用原子炉施設の安全性に関する理論は,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に根ざしたものであって,このような知見を有しない裁判所が直感的な経験則により判断することは,科学的に裏付けのない恣意的判断をすることになりかねず,この点についての原告らの主張も採用することができない。
(3)発電用原子炉施設に求められる安全性の程度
次に,規制委員会が安全審査に用いる具体的審査基準が安全性を確保するために合理的といえるか否か,という観点から,発電用原子炉施設に求められる安全性の程度について検討する。
原告らは,発電用原子炉施設に求められる安全性は,福島原発事故のような重大な事故を万が一にも起こしてはならないという絶対的な安全性に準じる極めて高度な安全性であって,その判断においては,社会通念という基準を持ち込むべきではなく,裁判所は,人格権や条理等の観点から当該原子炉施設の具体的危険性を判断すべきである旨を主張する。
しかし,原告らのいう「絶対的な安全性に準じる高度な安全性」は,その内容が不明確であって,高度な安全性を強調するあまり,結局のところ絶対的安全性を求めるものに帰することとなりかねない。
科学技術の分野において,絶対的に重大事故や災害の発生の危険がないという意味での絶対的安全性は達成することも要求することもできないものであって,このことは,発電用原子炉施設においても同様というほかなく,規制委員会設置法も,このことを踏まえて,
「原子力利用における事故の発生を
常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って,確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し,又は実施する」ことを規制委員会の使命としたものといえる(同法1条)

以上によれば,具体的審査基準の合理性は,最新の科学技術水準を踏まえ,確立された国際基準からみて,原子炉事故等による災害の防止を図る上で合理的なものといえるか否かという観点から判断すべきである。
(4)主張立証責任
規制委員会が本件原発の安全審査に用いる具体的審査基準に不合理な点があることの主張立証責任は,人格権に基づく差止請求訴訟一般と同様に,人格権が侵害される具体的危険について主張立証責任を負う原告らが本来負うべきものと解される。
もっとも,発電用原子炉施設設置者においては,発電用原子炉施設の安全性に関する専門技術的知見及び資料を十分に保持し,当該原子炉施設について,規制委員会において用いられる具体的な審査基準に適合するように設計し,その安全性について自ら評価した上で,設置許可の申請等を行い,既に許認可等を受けた場合であっても,原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するよう維持する義務を負うものとされている。こうしたことなどを考慮すると,まず,発電用原子炉施設設置者である被告電源開発において,規制委員会が安全審査で用いる具体的審査基準について原告らが不合理であると主張する点について,その合理性を,相当の根拠,資料に基づき主張立証する必要があり,被告電源開発が上記の主張立証を尽くさない場合には,規制委員会の審査基準に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。
他方,被告電源開発において上記の主張立証を尽くした場合には,本来,主張立証責任を負う原告らにおいて,規制委員会が安全審査で用いる具体的審査基準について不合理であること,より具体的には,当該基準が,最新の科学技術水準を踏まえて確立された国際基準を満たしていないことを主張立証する必要があると解するのが相当である。
第2争点2(審査基準の合理性の問題)について
1認定事実等
(1)新規制基準策定の経緯

福島原発事故
平成23年3月11日,東北地方太平洋沖地震が発生し,福島第一原発においては,地震随伴事象として発生した津波によりタービン建屋が浸水し,それとほぼ同時に,非常用ディーゼル発電機,配電盤,蓄電池等の電気設備の多くが,水没又は被水して機能を喪失した。これにより,1号機から5号機においては,全交流動力電源喪失(SBO)となり,交流電源を駆動電源として作動するポンプ等の注水・冷却設備が使用不能となった(ただし,5号機は,6号機から電源融通を行うことにより,原子炉への注水等の操作を行うことができた。。のみならず,1号機,2号機及び4)
号機においては,直流電源も機能を喪失し,3号機は直流電源が残ったものの同月13日には蓄電池が枯渇したため,結局,1~4号機は全電源喪失の状態となった。
また,冷却用ポンプ類も津波により全て機能を喪失したため,原子炉内の残留熱や機器の使用により発生する熱を海水へ逃す最終ヒートシンク*(UHS)への熱の移送手段が失われた。その結果,運転中であった1号機から3号機においては,冷却機能を失った原子炉の水位が低下して炉心融解に至り,その過程で燃料被覆管のジルコニウムと水が反応することなどにより大量の水素が発生し,さらに,3号機の格納容器ベントを行った際に,3号機内の水素が非常用ガス処理系の配管等を通じて4号機に流入して,1号機,3号機及び4号機において水素爆発が発生した。2号機においては,ブローアウトパネル(原子炉建屋内の圧力が上昇した際に開放され,建屋内のガス等を放出して圧力を下げる装置)が開いたことから水素爆発には至らなかったものの,放射性物質が放出された。
福島原発事故に関して,前記第1の1(3)イのとおり,様々な事故原因調査が行われたが,原子炉施設内部の放射線量が高く,実施可能な調査が限られているため,格納容器の具体的な損傷箇所は不明であり,非常用発電機の故障の原因が最終的にどの部品によるものであるかなどが未解明であると指摘されている。
(甲D5,乙イD18から21まで,41,42)

安全委員会による事故防止対策の検討
安全委員会の原子力安全基準・指針専門部会の下に設置された安全設計審査指針等検討小委員会において,平成23年7月15日から平成24年3月15日にかけて,合計13回にわたり,安全設計審査指針及び関連指針類を対象として,福島原発事故の教訓としてこれらの指針類に反映させるべき事項として,SBO(全交流動力電源喪失)対策及び最終ヒートシンク喪失対策を中心に検討が行われた。この検討に当たっては,深層防護の考え方を安全確保の基本と位置付け,IAEA,米国等の規制動向や諸外国における事例が参照され,同月14日付けで「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)
」が報告書として取りまとめられた。
(乙イD22,4
1)


保安院による事故防止対策の検討
保安院は,福島原発事故の技術的知見に関する意見聴取会を設置し,平成23年10月24日から平成24年2月8日にかけて,合計8回にわたり,設備・手順に係る必要な対策の方向性について検討を進め,同年3月28日,
「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について」を取りまとめ,今後の規制に反映すべきと考えられる30項目が示された(乙イD18,23,41)


シビアアクシデント対策の検討
福島原発事故に至るまで,シビアアクシデント対策については,平成4年5月に安全委員会が決定した「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定)」
(乙イD24)において,原子炉設置者が効果的なアクシデントマネージメントの自主的整備と万が一の場合にこれを的確に実施できるようにすることが強く奨励されていたにとどまっていた。
福島原発事故後,上記決定は廃止され(乙イD25)
,シビアアクシデン
ト対策は法規制上の要求とされることとなり(乙イD20)
,保安院は,平
成24年2月から同年8月にかけて,発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策規制の基本的考え方に係る意見聴取会(乙イD26)を7回開催し,シビアアクシデント対策規制の考え方に関する整理を行い,同月27日付けで「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について(現時点での検討状況)(乙イD27)」
を報告書として取りまとめた。もっとも,同報告書は検討過程としての側面を有するものであり,以後,新たに設置される規制委員会において検討が進められることとなった。
(乙イD27,41)


地震及び津波に関する対策の検討
安全委員会では,平成23年6月22日,原子力安全基準・指針専門部会の下に,入倉孝次郎ら学識経験者を構成員とする地震・津波関連指針等検討小委員会が設置され,同年7月12日から平成24年2月29日にかけて,合計14回の会合と現地調査(女川原発)が実施された。そして,平成18年の新耐震設計審査指針及び関連指針類を対象とした検討が行われ,新耐震設計審査指針に基づき実施された耐震バックチェックによって得られた経験及び知見を整理し,推本,中央防災会議,国土交通省や関連する学協会等から説明を受け検討するなどし,平成24年3月14日付けで「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)
」を報告書として取りまとめた。こ
の中で,津波に対する安全性評価については,津波による海水ポンプ,非常用電源設備等の機能喪失を防止するため,津波を敷地に遡上又は流入させないというドライサイトを基本とする津波防護設計の基本的な考え方や,津波対策を検討する基礎となる基準津波の策定を義務付ける旨を表明した。(乙イD28,29,41)
また,保安院においても,平成23年9月,高田毅士,藤原広行(藤原証人)ら学識経験者を委員とする「地震・津波の解析結果の評価に関する意見聴取会」と,同様に学識経験者を委員とする「建築物・構造に関する意見聴取会」が設置され,事業者より報告された東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波による原発への影響などの評価結果について,学識経験者の意見を踏まえた検討を行い,いずれも平成24年2月16日付けで報告書の取りまとめを行った(乙イD30から33,41)


規制委員会の設置と委員等の欠格事由の定め
前記第1の1(4)のとおり,規制委員会設置法に基づき,平成24年9月に規制委員会が設置され,安全委員会と保安院は廃止されたが,規制委員会の委員長及び委員は,独立してその職権を行うものとされ,人格が高潔であって,原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命するものであり,原子力に係る製錬その他の事業を行う者,原子設置者やその従業員等については,委員長又は委員の欠格事由とされている(同法5条,7条1項・7項)


規制委員会による検討
規制委員会の発足後,重大事故等対策,地震津波以外の自然現象への対策,従来の安全設計審査指針類の見直し等を検討するため,規制委員会の更田豊志委員,原子力規制庁及び安全基盤機構の職員,安全委員会及び保安院における検討に参画していた有識者等の外部専門家により,原子炉施設等基準検討チームが構成された(乙イD34)
。また,地震及び津波対策
とこれに関連する基準を検討するため,規制委員会の島崎邦彦委員,原子力規制庁及び安全基盤機構の職員,安全委員会における耐震指針等の報告書の検討に参画した有識者等の外部専門家により,地震等基準検討チームが構成された(乙イD35)

原子炉施設等基準検討チームは,平成24年10月25日から平成25年6月3日にかけて,合計23回の会合を開催し,更田豊志委員を中心として,新規制基準の骨子案を作成し,これについて意見公募手続を行い,その結果も踏まえて基準案を取りまとめた。検討に当たっては,IAEA安全基準や欧米の規制状況等の海外の知見も勘案された。
地震等基準検討チームは,平成24年11月19日から平成25年6月6日にかけて,合計13回の会合を開催し,島崎邦彦委員長代理を中心として,地震及び津波について,IAEA安全基準,アメリカ,フランス及びドイツの各規制内容のほか,福島原発事故を踏まえた国会事故調の耐震関係基準の内容に関する主な指摘事項などを整理し,地震・津波に関する新規制基準の骨子案を作成し,意見公募手続を行い,その結果を踏まえて基準案を取りまとめた。
なお,これらの会合に係る議事録や会議映像,外部専門家の電気事業者等との関係に関する情報の自己申告に係る情報は,インターネット上に公開されている(乙イD36,37)

これらを経て,新規制基準(そのうち主要なもの)は,前提事実2(7)及び前記第1の1(5)のとおり,改正原子炉等規制法の第3段階目の施行に合わせ,平成25年7月8日から施行されることとなった。
(乙イD34から41)
(2)深層防護の考え方について

深層防護とは,安全に対する脅威から人を守ることを目的として,ある目標を持った幾つかの障壁(防護レベル)を用意して,各々の障壁が独立して有効に機能することを求めるものである。
原発においては,人と環境に対する大きなリスク源が存在し,かつ,どのようなリスクが顕在化するのかも不確かさが大きいという点で,不確かさに対処しつつ,リスクの顕在化を着実に防ぐため,従来から深層防護の考え方を適用することが有効とされており,IAEA安全基準(なお,IAEA安全基準の意義については後記(4)のとおり。
)の基本安全原則(No.
SF-1)において,原子力又は放射線の事故の影響の防止と緩和の主要な手段は深層防護であることが明記されており(同原則3.31.,さら)
に,個別安全要件であるSSR-2/1(Rev.1)において,深層防護の考え方を設計に適用し,次のとおり,5段階の異なる防護レベルが設定されている(同要件2.13.。

第1の防護レベルは,通常運転状態からの逸脱と安全上重要な機器等の故障を防止することを目的として,品質管理及び適切で実証された工学的手法に従って,発電所が健全で,かつ,保守的に立地,設計,建設,保守及び運転されることを要求するものである。
第2の防護レベルは,発電所で運転時に予期される事象(運転時の異常な過渡変化)が事故状態に拡大することを防止するために,通常運転状態からの逸脱を検知し,管理することを目的として,設計で特定の系統と仕組みを備え,それらの有効性を安全解析により確認し,発電所を安全な状態に戻す運転手順の確立を要求するものである。
第3の防護レベルは,運転時に予期される事象又は想定起因事象が拡大し,前段のレベルでは制御できないこと,事故に進展し得るかもしれないこと(設計基準事故)が生じた場合において,固有の安全性及び工学的な安全の仕組み又はその一方並びに手順により,炉心損傷や放射性物質の放出といった事態に拡大することを防止するとともに,発電所を安全な状態に戻すことができることを要求するものである。
第4の防護レベルは,第3の防護レベルでの対策が失敗した場合を想定し,事故の拡大を防止し,重大事故の影響を緩和することを要求し,時間的にも適用範囲においても限られた防護措置のみで対処可能とするとともに,敷地外の汚染を回避又は最小化することを目的としている。また,早期の放射性物質の放出又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シーケンスの発生の可能性を十分に低くすることによって実質的に排除できることを要求するものである。
第5の防護レベルは,重大事故に起因して発生し得る放射性物質の放出による影響を緩和することを目的として,十分な装備を備えた緊急時対応施設の整備と,所内外の緊急事態の対応に関する緊急時計画と緊急時手順の整備を要求するものである。
(乙イA6の1,乙イD16,41,63)

新規制基準においては,深層防護の考え方が採用され,設置許可基準規則は,設置基準対象施設と重大事故等対処施設を区別している。そして,通常運転時の対策や事故の防止対策につき,同規則第2章(設置基準対象施設)として,深層防護の第1から第3までの防護レベルに相当する事項を,また,そうした事故対策が機能を喪失するような万一の事態における重大事故の発生防止及び拡大防止のための安全確保対策につき,同規則第3章(重大事故等対処施設)として,第4の防護レベルに相当する事項を,それぞれ規定した。
他方,第5の防護レベルに相当する事項は,設置許可基準規則には盛り込まれておらず,防災については地方公共団体が基本的な責務を有していることや,緊急時における原子力事業者と地方公共団体との連携といった観点に鑑み,原災法及び災害対策基本法という別の法体系によって対応することとされている。
(3)「設置許可基準規則」及び「設置許可基準規則の解釈」等の概要前記第1の1(5)アのとおり,改正原子炉等規制法において,規制委員会は,発電用原子炉の設置許可申請(同法43条の3の5)につき,同法43条の3の6第1項各号に定める要件適合性を判断するものとされており,同項4号にいう規制委員会で定める基準として,設置許可基準規則(乙イD9の3)が,また,同規則の解釈を示す規制委員会の内規(行政手続法の審査基準に該当するもの)として,設置許可基準規則の解釈(乙イD11の2)が,それぞれ前記(1)の経過を経て制定され,いずれも改正原子炉等規制法の第3段階目の施行と同じく平成25年7月8日に施行されている。
これらの規定の概要は,以下のとおりである(なお,このほか本件の争点と関連する部分については,後記2以下で個別に示す。。


設計基準対象施設(第2章)
設計基準対象施設とは,発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故の発生を防止し,又はこれらの拡大を防止するために必要となるものをいい(設置許可基準規則2条2項7号)
,前記のとおり,
深層防護の第1から第3の防護レベルまでに相当する事項が,同規則第2章(設計基準対象施設)に定められている。
その概要は,概ね別紙26のとおりであるが,まず,設計基準対象施設に対して一般的に要求すべき事項として,外部事象等への頑健性が要求されており,自然的条件(地震,津波等)
,社会的条件(人の不法な侵入等)

内部火災及び内部溢水において,安全機能が損なわれるおそれがないこと又は損なわれないことが求められている(同規則3条から9条まで)。また,
当該施設に共通する一般的要求事項として,誤操作の防止,安全避難通路等の設置,安全施設につき安全機能の確保などが求められている(同規則10条から13条まで)

このほか,個別の設備に対する要求事項が定められており(同規則14条から36条まで)
,この中には,SBO対策設備に関する規定(同規則1
4条)や非常用電源設備に関する規定(同規則33条)が含まれる。イ
重大事故等対処施設(第3章)
重大事故とは,発電用原子炉の炉心の著しい損傷又は核燃料物質貯蔵設備に貯蔵する燃料体若しくは使用済燃料の著しい損傷をいい(改正原子炉等規制法43条の3の6第1項3号,実用炉規則4条)
,重大事故に至るお
それのある事故(運転時の異常な過渡変化及び設計基準事故を除く。)と併
せて,重大事故等という(設置許可基準規則2条2項11号)
。重大事故等
に対処するための機能を有する施設を,重大事故等対処施設といい(同号),
前記のとおり,深層防護の第4のレベルに相当する事項が,設置許可基準規則第3章(重大事故等対処施設)に定められている。
その概要は,概ね別紙27のとおりであるが,まず,発電用原子炉施設について,炉心損傷,格納容器破損,使用済燃料貯蔵槽における燃料損傷,運転停止中の原子炉内の燃料損傷に対し,それぞれの防止対策が求められ(同規則37条)
,それぞれの重大事故等において,網羅的,体系的に事故
原因と事故に至るまでの進展(事故シーケンス)を想定し,当該事故発生の防止対策や拡大防止対策を立案し,その対策の有効性を確認することが求められている(同規則の解釈37条)

また,重大事故等対処施設について,自然的条件(地震,津波等),内部
火災及び社会的条件(故意による大型航空機の衝突等)に対して,重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないことが要求されている(同規則38条から42条まで)

重大事故等対処設備については,全ての設備に共通する一般的要求事項として,常設設備と可搬型設備のそれぞれの役割を踏まえた機能等が要求され(同規則43条)
,さらに,重要な設備に必要な個別の要求事項として,
炉心の著しい損傷の防止,原子炉格納容器の破損の防止,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷の防止のための設備が求められ,それでもなお,炉心の著しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷に至った場合に,放射性物質の拡散抑制のための対策が求められている(同規則44条から55条まで)
。また,重大事故等に対処するための電源設備
その他の必要な設備を設けることが求められている(同規則56条から62条まで)

なお,重大事故等対策に関し,技術的能力基準(乙イD11の6)において,大規模損壊が発生した場合の体制の整備や必要な資機材の整備が求められている(同基準Ⅱ2.1及びⅢ2.1)

(4)IAEA安全基準の概要
IAEAは,IAEA憲章に基づき設置された国際機関であり,我が国もその加盟国である。
IAEAは,同憲章3条A6項により,安全上の基準を制定し又は採用する権限を有するものとされ,これに基づきIAEA安全基準を策定している。IAEA安全基準は,別紙28のとおり,安全原則,安全要件及び安全指針から構成され,これらのうち,①安全原則は,基本的な安全の目的と,防護と安全の原則を示すもの,②安全要件は,安全原則を踏まえて,現在と将来において人と環境の防護を確保するために満たさなければならない要件を制定するもの(なお,多くの要件は,ある一つの特定の当事者に対して向けられたものではなく,適切な当事者がそれらの要件に適合することの責任を負うものである。,③安全指針は,安全要件を遵守する方法について推奨さ)
れた手段又はこれと等価な代替的手段等を提示するものである(なお,本件訴訟において当事者が主張する主なIAEA安全基準を,別紙29の番号1から13に掲げた。。

IAEA安全基準は,
「基準は,施設と活動に関して各国の規制における参
考として,加盟国で使用されることができる」
(乙イD17・ⅺ頁等)として
おり,加盟国を法的に拘束するものではなく,加盟各国がそれぞれの判断により国内の規制に取り入れるものとされ,また,既存の施設に同基準の適用があるか否かも加盟各国の決定事項であるとされている。
他方,多くの加盟国がIAEA安全基準を国内の規制で使用するため採用することを決定している。また,放射線リスクは国境を超えることもあることから,IAEA安全基準は,環境保護に関するもののような国際法の一般原則に基づいて,各国がその責務を果たすことを支援するものと位置付けられている。
(乙イD16,17,41)
2新規制基準の策定過程について
原告らは,新規制基準策定当時の規制委員会の委員長及び委員の構成や,新規制基準が短期間のうちに策定されたこと等を指摘して,新規制基準に合理性がない旨を主張する。この点,新規制基準の合理性は,第一次的にその内容を検討して判断されるべきものであって,策定過程の事情をもって直ちに合理性が否定されるものではないというべきであるが,策定過程に関する事情が,基準の合理性を疑わせる一事情となることがあり得るとしても,以下のとおり,原告らの上記主張に係る事情はこれに当たらない。
(1)原告らは,新規制基準策定までの期間が短く杜撰であると主張するが,その策定過程は前記1(1)のとおりであって,福島原発事故直後の規制委員会発足前から,安全委員会や保安院の下で規制基準類の見直しに向けた検討が進められており,規制委員会の発足後はこれを引き継ぐ形で(規制委員会の発足の前後にわたり関わった構成員も少なくない。
)行われていることが認めら
れ,平成25年7月までに実質的に約2年間にわたる検討が行われている。また,この期間を長いとみるか短いとみるかはさておき,策定過程において,いわゆる国会事故調や政府事故調など福島原発事故に関する調査検証を踏まえた検討がされ,外部の学識経験者や,専門的知見を有する機関(推本など),
学会等からの意見聴取や意見公募手続がされ,原子炉施設等基準検討チームや地震等基準検討チームの議事等は公開されていることが認められる。こうした策定過程からは,直ちに新規制基準の合理性が否定されるということはできない。
なお,福島原発事故の原因等の調査について,施設内部の立入りが制限されている関係から未解明の部分があるという指摘はされているが(前記1(1)ア)
,そのことが本件原発の安全性に関わるいずれの点に関連するのか原告らの主張によっても明らかではない。また,一般に,最新の科学的知見,現時点までに判明した福島原発事故の教訓,確立された国際的基準等が現在の科学技術水準を構成するものであり,本件差止請求については,こうした現在の科学技術水準を踏まえ審査基準の合理性が判断されるべきものであるから(前記第1の2(2)イ)
,同事故の解明が必ずしも全てし尽くされてはいない
という事情は,直ちに本件の結論を左右するものではない。
(2)原告らは,新規制基準策定当時の規制委員会の委員のうち更田豊志委員及び中村佳代子委員について,委員候補者になった当時,原子力事業者の従業者であったとして,規制委員会設置法上の欠格事由(7条7項3号)に該当する旨を主張する(甲D45の2及び3参照)
。しかし,同号は,任命時又は
任期中に原子力事業者の従業者等であることを委員長又は委員の欠格事由として定めたものと解すべきであって,委員候補者となった当時に原子力事業者の従業者であったとしても,直ちに同号の欠格事由に該当するものではなく,これらの委員が任命時又は任期中に原子力事業者の従業者等であったことを認めるに足りる証拠はない。
(3)原告らは,津波や火山に関する専門家がいない中で,津波や火山に関する規制基準が策定されたと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はない。少なくとも,安全委員会の下に設置された地震・津波関連指針等検討小委員会の構成員(乙イD28)
,規制委員会の下で設置された火山に関する規
制基準検討会の構成員(乙ロB180)等に,津波や火山に関する専門家がいないという事実は認められない。
3共通要因故障について
(1)設置許可基準規則の定め
安全施設が機能を喪失する原因としては,①地震や火山噴火等の自然現象,あるいは発電所外の火災等の外部事象,②発電所内の火災,溢水といった内部事象,③安全施設を構成する設備の偶発故障が想定されるところ(乙イD41・95頁)
,これらに係る設置許可基準規則(乙イD9の3)及び同規則
の解釈(乙イD11の2)の定めは,次のとおりである。

設計基準対象施設について
(ア)まず,①外部事象及び②内部事象について,次のとおり,同規則3条から9条までにおいて,これらの事象が発生した場合であっても,施設の安全機能が維持できることを求めている。
a
設計基準対象施設は,地震力が作用した場合においても当該施設を十分に支持することができる地盤に設けなければならない(同規則3条1項)


b
設計基準対象施設は,地震力に十分に耐えることができるものでなければならない(同規則4条1項)

c
基準設計対象施設は,その供用中に当該施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(同規則5条)


d
安全施設は,想定される自然現象(地震及び津波を除く。
)が発生し
た場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(同規則6条1項)

安全施設は,工場等(発電用原子炉を設置する工場又は事業所をいう。
)内又はその周辺において想定される発電用原子炉施設の安全性を損なわせる原因となるおそれがある事象であって人為によるもの(故意によるものを除く。
)に対して安全機能を損なわないものでなければ
ならない(同条3項)

上記の「発電用原子炉施設の安全性を損なわせる原因となるおそれがある事象であって人為によるもの(故意によるものを除く。」とは,)
敷地及び敷地周辺の状況をもとに選択されるものであり,飛来物(航空機落下等)
,ダムの崩壊,爆発,近隣工場等の火災,有毒ガス,船舶
の衝突又は電磁的障害等をいう。なお,航空機の落下については,「実
用発電用原子炉施設への航空機落下確率の評価基準について」
(平成1
4年7月30日保安院制定)等に基づき,防護設計の要否について確認する(同規則の解釈6条の8)


e
設計基準対象施設は,火災により発電用原子炉施設の安全性が損なわれないよう,火災の発生を防止することができ,かつ,早期に火災発生を感知する設備及び消火を行う設備並びに火災の影響を軽減する機能を有するものでなければならない(同規則8条1項)


f
安全施設は,発電用原子炉施設内における溢水が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(同規則9条1項)

(イ)また,③設備の偶発故障への対策として,次のとおり,同規則12条において,そもそも設備が偶発故障を起こさないよう設備の信頼性を要求し,かつ,重要度の特に高い安全機能を有する系統については,多重性又は多様性及び独立性を備えた設計であること,また,その系統を構成する機器等の単一故障が発生し,かつ,外部電源が利用できない場合においても,その系統の安全機能が失われることがないよう設計することを求めている。
a
安全施設は,その安全機能の重要度に応じて,安全機能が確保されたものでなければならない(同規則12条1項)


b
発電用原子炉施設の安全機能を有する系統のうち,安全機能の重要度が特に高い安全機能を有するものは,当該系統を構成する機械又は器具の単一故障が発生した場合であって,外部電源が利用できない場合においても機能できるよう,当該系統を構成する機械又は器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保するものでなければならない(同規則12条2項)

ここで,多重性とは,同一の機能を有し,かつ,同一の構造,動作原理その他の性質を有する2以上の系統又は機器が同一の発電用原子炉施設に存在することをいう(同規則2条2項17号)

多様性とは,同一の機能を有する2以上の系統又は機器が,想定される環境条件及び運転状態において,これらの構造,動作原理その他の性質が異なることにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損なわれないことをいう(同項18号)

独立性とは,2以上の系統又は機器が,想定される環境条件及び運転状態において,物理的方法その他の方法によりそれぞれ互いに分離することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損なわれないことをいう(同項19号)

共通要因とは,2以上の系統又は機器に同時に影響を及ぼすことによりその機能を失わせる要因をいう(同項18号)

従属要因とは,単一の原因によって確実に系統又は機器に故障を発生させることとなる要因をいう(前同)

単一故障とは,単一の原因によって一つの機械又は器具が所定の安全機能を失うことをいい,上記の従属要因による多重故障を含むものとされる(同規則12条2項)

重要安全施設*は,原則として,2以上の発電用原子炉施設において
c
共用し,又は相互に接続するものであってはならない(同規則12条6項)


重大事故等対策について
前記アの対策にもかかわらず,なお設備が機能喪失した場合に備え,設置許可基準規則第3章は,重大事故等対策を定め(後記5)
,また,技術的
能力基準(乙イD11の6)は,大規模損壊が発生した場合の対応を要求している(前記1(3)イ)


(2)IAEA安全基準SSR-2/1の定め
IAEA安全基準の個別安全要件である「原子力発電所の安全:設計」(S
SR-2/1)は,原子力発電所の設計に関する安全基準を定めたものであり,次のような規定が存在する(乙イD63)


要件24

共通原因故障

設備の設計は,多様性,多重性,物理的分離及び機能の独立性の概念が,必要とされる信頼性を達成するためにどのように適用されなければならないかを判断するため,安全上重要な機器等の共通原因故障の可能性について十分に考慮しなければならない。

要件25

単一故障基準

単一故障基準は,発電所の設計に取り入れられた安全グループごとに適用されなければならない。
(3)原告らの主張について

前記(1)のとおり,安全施設が機能を喪失する原因のうち,設備の偶発故障については,設置許可基準規則12条が,安全機能を有する系統のうち重要性の高いものについて,当該系統を構成する機器が多重性又は多様性及び独立性を備えた設計であることを要求することによって,複数の機器が同時に故障(共通要因故障,従属要因故障)して当該系統の安全機能が失われることを防止している。ここで,上記の「多重性又は多様性及び独立性」とは,当該系統において同一の機能を要する機器を複数要求し,そのいずれかが機能を失った(単一故障)としても,他の機器が同時に機能を損なわないことであり,同条が規定する「単一故障の仮定」は,当該系統に多重性又は多様性及び多重性が確保されているかを検証するための概念として位置付けられる。
また,外部事象や内部事象による故障については,設置許可基準規則3条から9条までが,各種の自然現象や人為的事象に対して安全機能が損なわれないものであることを要求しており,外部事象や内部事象を原因とする共通要因故障によって当該施設の安全機能が損なわれることを防止している。
このように,設置許可基準規則は,機器自体の偶発故障,外部事象や内部事象による故障について,共通要因故障が生じない設計を求めることで,当該施設の安全機能が損なわれないようにしている一方,その設計上の想定を超えて共通要因故障が生じた場合には,同規則第3章の重大事故等対処施設により対処することを想定している(乙イD41・103頁)。


これに対し,原告らは,想定を超える外部事象が発生することを考慮して,共通要因故障を仮定した設計を要求すべき旨を主張する。
しかし,原告らのいう「共通要因故障を仮定した設計」が何を指すのかは明らかでない。
ただし,原告らは具体的指摘として,福島原発事故において全電源喪失から重大な事故に至ったことや,米国NRCの10CFRPart50(§50.62及び50.63)において,SBO(全交流動力電源喪失)やATWS(原子炉停止機能喪失)の対策が規定されていること(甲D165・24頁以降参照)を主張しており,機器の偶発故障に係る単一故障の仮定等についての主張というよりも,深層防護の考え方について指摘する趣旨の主張であるように解されるところであるが,この点については,我が国の設置許可基準規則においても,深層防護の観点から,重大事故等対処施設につき,緊急停止失敗時に発電用原子炉を未臨界にするための設備(44条)及び設計基準事故対処設備*の電源が喪失したことにより発生した重大事故に対処するための電源設備(57条)の設置を要求しており,この点に関して我が国の規制が不合理であるとはいえない。
また,前記(2)アのとおり,IAEA安全基準であるSSR-2/1の要件24は,共通原因故障について規定しているところ,その内容は,「多様
性,多重性,物理的分離及び機能の独立性の概念が,必要とされる信頼性を達成するためにどのように適用されなければならないかを判断するため,安全上重要な機器等の共通原因故障の可能性について十分に考慮しなければならない。
」というものであって,我が国の設置許可基準規則と同様,共
通要因故障を防ぐために多様性,多重性,独立性等を適切に適用して必要な信頼性を達成すべき旨を定めているものと解される。

この点に関し,原告らは,規制委員会の新規制基準検討チームが検討段階において示した整理案(甲D168)を援用して,多重性又は多様性を選択する際に,共通要因による機能喪失が独立性のみで防止できる場合を除き,その共通要因による機能の喪失モードを特定し,多様性を求めることを明確にすべきである旨を主張するが,前記(1)ア(イ)bのとおり,多様性は,複数の系統又は機器が,構造等が異なることにより,共通要因によって同時にその機能が損なわれないこと(共通要因故障が生じないこと)をいうものであって,原告らのいう「共通要因故障を仮定した設計」ではないことは明らかである。また,この点を措いても(あるいは,上記整理案が論理矛盾であるとの被告国の指摘も措いて)
,上記整理案は,
「当該系
統を構成する機械又は器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保する」とする設置許可基準規則12条2項の規定を敷衍するものにすぎないと認められるのであって,これをもって現在の審査基準が不合理であるとはいえない。

以上によれば,共通要因故障に関する具体的審査基準が国際基準等に照らし不合理であるとはいえない。

4安全重要度分類及び耐震重要度分類について
(1)規制基準の概要

設置許可基準規則及び同規則の解釈
設置許可基準規則は,前記3(1)ア(イ)のとおり,
「安全施設は,その安全
機能の重要度に応じて,安全機能が確保されたものでなければならない」(同規則12条1項)と定めるところ,上記の「安全機能の重要度に応じて,安全機能が確保されたもの」については,重要度分類審査指針によるものとされている(同規則の解釈12条の1)

また,同規則4条2項は,設計基準対象施設の有すべき耐震性について,地震の発生によって生ずるおそれがある当該施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定した地震力に十分耐え得ることを規定するところ,同規則の解釈(別記2の2)は,上記の「影響の程度」について,各施設の安全機能が喪失した場合の影響の相対的程度(耐震重要度)をいうものとして,後記ウのとおり分類し,重要度に応じて適切な地震力を定め,その地震力に耐えるよう設計することを求めている。そして,同規則4条3項は,最も重要度の高い耐震重要施設については,基準地震動による地震力に対して安全機能を保持することを求めている。

安全重要度分類について
(ア)安全重要度分類の概要
安全重要度分類は,発電用原子炉施設の安全機能について,安全上の見地からそれらの相対的重要度を定めたものであり,重要度分類審査指針(甲D84,乙イD48)に定められている。重要度分類審査指針は,平成2年に定められたものであるが,前記アのとおり,設置許可基準規則の解釈において引用されており,新規制基準施行後も規制委員会の安全審査の審査基準とされている。
安全重要度分類の概要は,次のとおりである。
a
安全機能の区分
(a)異常発生防止系(PS)
その機能の喪失により,原子炉施設を異常状態に陥れ,もって一
般公衆ないし従事者に過度の放射線被ばくを及ぼすおそれのあるもの。
(b)異常影響緩和系(MS)
原子炉施設の異常状態において,この拡大を防止し,又はこれを
速やかに収束せしめ,もって一般公衆ないし従事者に及ぼすおそれのある過度の放射線被ばくを防止し,又は緩和する機能を有するもの。

b
重要度分類
(a)PS及びMSのそれぞれに属する安全施設をその有する安全機能の重要度に応じ,それぞれクラス1,クラス2,クラス3に分類する。
(b)当該系の機能遂行に直接必要となる関連系は,当該系と同位の重要度を有するものとみなす。
(c)当該系の機能遂行に直接必要はないが,その信頼性を維持し,又は担保するために必要な関連系は,当該系より下位の重要度を有するものとみなす。ただし,当該系がクラス3であるときは,関連系はクラス3とみなす。
(d)一つの安全施設が,二つ以上の安全機能を有するときは,果たすべき全ての安全機能に対する設計上の要求を満足しなければならない。
(e)安全施設は,これら二つ以上のものの間において,又は安全機能を有しないものとの間において,その一方の運転又は故障等により,同位ないし上位の重要度を有する他方に期待される安全機能が阻害され,もって原子炉施設の安全が損なわれることのないように,機能的隔離及び物理的分離を適切に考慮しなければならない。
c
設計上の考慮
(a)クラス1
合理的に達成し得る最高度の信頼性を確保し,かつ,維持するこ
と。
(b)クラス2
高度の信頼性を確保し,かつ,維持すること。
(c)クラス3
一般の産業施設と同等以上の信頼性を確保し,かつ,維持するこ
と。

(イ)外部電源の安全重要度分類
外部電源の安全重要度分類は,PS-3に分類される(重要度分類審査指針の第2表及び付表「PS-3」の「電源供給機能(非常用を除く。」に該当する。。


なお,非常用ディーゼル発電機による電力供給機能については,MS-1に分類される(重要度分類審査指針の第2表及び付表「MS-1」の「安全上特に重要な関連機能」に該当する。。

(ウ)使用済燃料貯蔵施設の安全重要度分類
設置許可基準規則16条2項は,発電用原子炉施設に使用済燃料の貯蔵施設を設けることを求めているところ,使用済燃料貯蔵施設は,使用済燃料貯蔵槽(いわゆる使用済燃料貯蔵プール)
,プール水の補給のため
の補給水系(補給水設備)
,プール水の冷却等のための冷却系などから構
成される(乙ロD1の3・8-4-1以下参照)

このうち,使用済燃料貯蔵槽の安全重要度分類は,PS-2に分類される(重要度分類審査指針の第2表及び付表「PS-2」の「原子炉冷却材圧力バウンダリに直接接続されていないものであって,放射性物質を貯蔵する機能」に該当する。。

また,補給水設備の安全重要度分類は,MS-2に分類される(重要度分類審査指針の第2表及び付表「MS-2」の「燃料プール水の補給機能」に該当する。。ただし,補給水設備の電気系統については,安全)
設計審査指針(乙イA1)の指針48第1項の「重要度の特に高い安全機能」に当たるものとされ(重要度分類審査指針Ⅴ2(3)(a)ⅲ)ア)),外
部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給が受けられる設計であることが要求されている。
冷却系の安全重要度分類は,PS-2に分類される(重要度分類審査指針の付表「PS-2」の「使用済燃料プール冷却系」に該当する。。)

耐震重要度分類について
(ア)耐震重要度分類の概要
旧原子炉等規制法の下においても,平成18年改定後の新耐震設計審査指針(乙イB2)において,施設の耐震設計上の重要度を,地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点から,施設の種別に応じてSクラス,Bクラス,Cクラスに分類し,Sクラスの施設については,基準地震動Ssによる地震力に対してその安全機能が保持できることを求めていた。
新規制基準においても耐震重要度分類の基本的な考え方は承継されているが,津波対策に係る施設・設備の耐震重要度が見直されている。すなわち,前記アのとおり,設置許可基準規則の解釈(別記2の2)において,施設の安全機能が喪失した場合の影響の相対的程度(耐震重要度)をいうものとして,次のとおり分類している。
a
Sクラス
地震により発生するおそれがある事象に対して,原子炉を停止し,炉心を冷却するために必要な機能を持つ施設,自ら放射性物質を内蔵している施設,当該施設に直接関係しておりその機能喪失により放射性物質を外部に拡散する可能性のある施設,これらの施設の機能喪失により事故に至った場合の影響を緩和し,放射線による公衆への影響を軽減するために必要な機能を持つ施設及びこれらの重要な安全機能を支援するために必要となる施設,並びに地震に伴って発生するおそれがある津波による安全機能の喪失を防止するために必要となる施設であって,その影響が大きいものをいい,少なくとも次の施設はSクラスとすること。


原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器・配管系



使用済燃料を貯蔵するための施設



原子炉の緊急停止のために急激に負の反応度を付加するための施
設,及び原子炉の停止状態を維持するための施設



原子炉停止後,炉心から崩壊熱を除去するための施設


原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故後,炉心から崩壊熱を除去
するための施設



原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故の際に,圧力障壁となり放
射性物質の放散を直接防ぐための施設



放射性物質の放出を伴うような事故の際に,その外部拡散を抑制
するための施設であり,上記の「放射性物質の放散を直接防ぐための施設」以外の施設



津波防護機能を有する設備及び浸水防止機能を有する設備



敷地における津波監視機能を有する施設

b
Bクラス
安全機能を有する施設のうち,機能喪失した場合の影響がSクラス施設と比べ小さい施設をいい,例えば,次の施設が挙げられる。


原子炉冷却材圧力バウンダリに直接接続されていて,一次冷却材
を内蔵しているか又は内蔵し得る施設



放射性廃棄物を内蔵している施設(ただし,内蔵量が少ない又は
貯蔵方式により,その破損により公衆に与える放射線の影響が実用炉規則2条2項6号に規定する「周辺監視区域」外における年間の線量限度に比べ十分小さいものは除く。




放射性廃棄物以外の放射性物質に関連した施設で,その破損によ
り,公衆及び従事者に過大な放射線被ばくを与える可能性のある施設


使用済燃料を冷却するための施設



放射性物質の放出を伴うような場合に,その外部放散を抑制する
ための施設で,Sクラスに属さない施設

c
Cクラス
Sクラスに属する施設及びBクラスに属する施設以外の一般産業施設又は公共施設と同等の安全性が要求される施設をいう。
(イ)外部電源の耐震重要度分類
外部電源の耐震重要度分類は,前記(ア)a,bのSクラス又はBクラスに属する施設ではないため,Cクラスに属する。
(ウ)使用済燃料貯蔵施設の耐震重要度分類
使用済燃料貯蔵槽及び補給水施設の耐震重要度分類は,Sクラスに属する(前記(ア)aの「使用済燃料を貯蔵するための施設」に該当する。。)
冷却系の耐震重要度分類は,Bクラスに属する(前記(ア)bの「使用済燃料を冷却するための施設」に該当する。。

(エ)非常用取水設備の耐震設計
「耐震設計に係る工認審査ガイド」
(別紙2の第4(29),乙イD12の
14)では,非常用取水設備に関連する海水ポンプ基礎,海水管ダクト等が「屋外重要土木構造物」とされ,屋外重要土木構造物及びその他の土木構造物について,JEAG4601の規定を参考に,Cクラスの建物・構造物に適用される静的地震力を考慮していること,屋外重要土木構造物の耐震設計に当たっては,基準地震動Ssによる地震力に対する安全機能の保持を確認するため,水平方向及び鉛直方向の基準地震動Ssに基づく構造物の地震力を適用していることが求められている。(2)IAEA安全基準SSR-2/1の定め
IAEA安全基準の個別安全要件であるSSR-2/1(前記3(2))には,次のような規定が存在する(乙イD63)


要件22

安全重要度分類

全ての安全上重要な機器等は特定されなければならず,また,それらの機能とそれらの安全上の重要度に基づいて分類されなければならない。安全上重要な機器等の安全上の重要度分類の分類方法は,以下の因子に十分に配慮をして,主として決定論的手法に基づいて,必要な場合は確率論的手法で補完して行わなければならない。


設備によって果たされるべき安全機能



安全機能を果たせなかったときの影響



安全機能を果たすために設備が起動される頻度



想定起因事象が発生してから安全機能を果たすために設備が起動される時間又は安全機能を果たすために設備が起動される期間


要件23

安全上重要な機器等の信頼性

安全上重要な機器等の信頼性は,それらの安全上の重要度に相応していなければならない。
(3)原告らの主張について

安全重要度分類及び耐震重要度分類の合理性
前記(1)ア及びイのとおり,安全施設は,その安全機能の重要度に応じて安全機能が確保されなければならないとされ(設置許可基準規則12条1項)
,同規則の解釈12条の1により,重要度分類審査指針が定める安全重要度分類が適用される。
また,前記(1)ア及びウのとおり,設計基準対象施設の有すべき耐震性について,地震による当該施設の安全機能喪失に起因する放射線による公衆への影響に応じて定めるべきものとされ(設置許可基準規則4条2項),同
規則の解釈(別記2の2)が,耐震重要度分類を定めている。
一方,前記(2)のとおり,IAEA安全基準であるSSR-2/1は,「全ての安全上重要な機器等は特定されなければならず,また,それらの機能とそれらの安全上の重要度に基づいて分類されなければならない」(要
件22)「安全上重要な機器等の信頼性は,それらの安全上の重要度に相,
応していなければならない」
(要件23)と定めているのであり,我が国の
安全重要度分類及び耐震重要度分類と同様の考え方を採用しているものといえる。

外部電源
外部電源の安全重要度分類はPS-3,耐震重要度分類はCクラスに分類されるところ(前記(1)イ(イ),ウ(イ))
,原告らは,福島原発事故は外部
電源の喪失が一要因となって発生しており,これらの分類の格上げが必要である旨を主張する。
しかし,外部電源系による電力は,遠く離れた他の発電所から電線路や変電所等を経由して供給されるものであり,原子力事業者において,発電所外の長大な電線路や複数の変電所等を管理し,信頼性を確保することは不可能というべきであって,もとより発電所内の外部電源設備のみ重要度分類を高めることも実益に乏しいから,そもそも大規模な自然災害等が発生した際に外部電源の供給は期待することができないというべきであり,外部電源の安全性に重きを置かず,外部電源が喪失することを前提として非常用電源設備の重要度に重きを置く設置許可基準規則等の定めが,それ自体不合理であるとはいえない。また,確立された国際基準に照らして不合理であると認めるべき事情は見当たらない。


使用済燃料貯蔵施設
使用済燃料貯蔵槽は,安全重要度分類がPS-2に,耐震重要度分類がSクラスに分類され,補給水施設は,安全重要度分類がMS-2に,耐震重要度分類がSクラスに分類され,冷却系は,安全重要度分類がPS-2に,耐震重要度分類がBクラスに分類されるところ(前記(1)イ(ウ),ウ(ウ))
,原告らは,これらの施設はいずれも安全重要度分類をクラス1に,耐震重要度分類をSクラスに分類する必要がある旨を主張する。
しかし,使用済燃料貯蔵槽に貯蔵される使用済燃料は,時間の経過により崩壊熱が急速に低下し,運転停止の1秒後には定格出力時の7%前後,24時間後には1%未満になることが認められ(乙イD41・177頁),
使用済燃料の冠水が維持されていれば基本的な安全性が保たれると考えられるところ,使用済燃料貯蔵槽及び補給水施設の耐震重要度分類はSクラスに分類され,津波その他地震以外の自然現象によっても安全性が損なわれない設計であることが要求されていること(設置許可基準規則5条,6条)
,補給水施設の安全重要度分類はMS-2に分類されているものの,クラス1の施設と同様,安全設計審査指針の指針48における重要度の特に高い安全機能に当たるものとされ,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であることが求められていること(前記(1)イ(ウ))
,冷却系は,その機能を喪失したとしても,補給水設備により
機能を代替できると考えられることからすると,それぞれの施設・設備の機能に応じた分類がなされているものと解される。
前記アのとおり,安全機能の重要性や安全機能喪失に伴う影響に応じて安全重要度分類や耐震重要度分類を定める考え方自体は合理性を有するというべきところ,上記のような使用済燃料の物理的特性等を踏まえれば,使用済燃料貯蔵施設(補給水施設及び冷却系を含む。
)の安全重要度分類及
び耐震重要度分類の分類が不合理とはいえず,確立された国際基準に反すると認めるべき事情も見当たらない。

非常用取水設備
原告らは,被告電源開発が,本件設置変更許可申請において,非常用取水設備の耐震重要度分類をCクラスとしており(甲D86の80頁),基準
地震動の地震力によっても破損等の危険がある旨,また,非常用取水設備の安全重要度はクラス1に分類されるべきであり,多重性又は多様性及び独立性を備える必要があるところ,本件原発の非常用取水設備の3系統ある取水口及び水路が隣接しており,独立性が不十分である旨を主張する。しかし,前記(1)ウ(エ)のとおり,新規制基準においては,非常用取水設備に関連する海水ポンプ基礎,海水管ダクト等について,基準地震動による地震力に対する安全機能の保持が求められている。また,非常用取水設備の安全重要度をクラス1に分類すべきとの主張がいかなる根拠によるものかは明らかではなく,前記3(1)ア(イ)のとおり,設置許可基準規則において,重要度の特に高い安全機能を有する系統については,多重性又は多様性及び独立性を備えた設計であることが求められていることからすると,審査基準そのものに不合理な点は見いだせない。なお,原告らの当該主張のうち,本件原発の具体的な設備についていう部分は,具体的審査基準の不合理性をいうものとは認められず,前記第1の2で説示のとおり,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の審査及び判断が未了の現時点において,同審査基準に適合しないことを理由として本件原発に重大な事故発生の具体的危険性があると認めることはできないから,原告らの主張は採用できない。
5深層防護とシビアアクシデント対策について
(1)規制基準の概要

設置許可基準規則と同規則の解釈
前記1(2)イのとおり,福島原発事故の教訓から,新規制基準において深層防護の考え方が採用され,設置許可基準規則第3章で重大事故等対策が求められている。その概要は,前記1(3)イ(別紙27参照)のとおりであるが,このうち主なものを具体的に述べると,以下のとおりである。(ア)重大事故等への対策とその有効性評価(同規則37条関係)a
炉心の著しい損傷防止のための対策
(a)発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合において,炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(同規則37条1項)

(b)上記(a)の「重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合」とは,運転時の異常な過渡変化及び設計基準事故に対して原子炉の安全性を損なうことがないよう設計することを求められる構築物,系統及び機器がその安全機能を喪失した場合であって,炉心の著しい損傷に至る可能性があると想定する以下のⅰ)及びⅱ)の事故シーケンスグループ(想定する事故シーケンスグループ)とする。なお,ⅰ)の事故シーケンスグループについては,ⅱ)における事故シーケンスグループの検討結果如何にかかわらず,必ず含めなければならない(同規則の解釈37条の1-1)

ⅰ)必ず想定する事故シーケンスグループ(①BWRについて)・

高圧・低圧注水機能喪失



高圧注水・減圧機能喪失



全交流動力電源喪失



崩壊熱除去機能喪失



原子炉停止機能喪失



LOCA時注水機能喪失



格納容器バイパス(インターフェイスシステムLOCA)

ⅱ)個別プラント評価により抽出した事故シーケンスグループ


個別プラントの内部事象に関する確率論的リスク評価(PR
A)及び外部事象に関するPRA(適用可能なもの)又はそれ
に代わる方法で評価を実施すること。



その結果,上記ⅰ)の事故シーケンスグループに含まれない
有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケンスグループが抽出
された場合には,想定する事故シーケンスグループとして追加
すること。なお,
「有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケン
スグループ」については,上記ⅰ)の事故シーケンスグループ
と炉心損傷頻度又は影響度の観点から同程度であるか等から総
合的に判断するものとする。

(c)また,上記(a)の「炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたもの」とは,以下に掲げる要件を満たすものであることをいう(同規則の解釈37条の1-2)

ⅰ)想定する事故シーケンスグループのうち炉心の著しい損傷後の原子炉格納容器の機能に期待できるものにあっては,炉心の著し
い損傷を防止するための十分な対策が計画されており,かつ,そ
の対策が想定する範囲内で有効性があることを確認する。
ⅱ)想定する事故シーケンスグループのうち炉心の著しい損傷後の原子炉格納容器の機能に期待することが困難なもの(格納容器先
行破損シーケンス,格納容器バイパス等)にあっては,炉心の著
しい損傷を防止する対策に有効性があることを確認する。
b
原子炉格納容器の破損及び外部への放射性物質拡散の防止
(a)発電用原子炉施設は,重大事故が発生した場合において,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(同規則37条2項)

(b)上記(a)の「重大な事故が発生」において想定する格納容器破損モードは,以下のⅰ)及びⅱ)の格納容器破損モード(想定する格納容器破損モード)とする。なお,ⅰ)の格納容器破損モードについては,ⅱ)における格納容器破損モードの検討結果如何にかかわらず,必ず含めなければならない(同規則の解釈37条の2-1)

ⅰ)必ず想定する格納容器破損モード


雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損)



高圧溶融物放出/格納容器雰囲気直接加熱



原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用



水素燃焼



格納容器直接接触(シェルアタック)


溶融炉心・コンクリート相互作用

ⅱ)個別プラント評価により抽出した格納容器破損モード


個別プラントの内部事象に関するPRA及び外部事象に関す
るPRA(適用可能なもの)又はそれに代わる方法で評価を実
施すること。



その結果,上記ⅰ)の格納容器破損モードに含まれない有意な
頻度又は影響をもたらす格納容器破損モードが抽出された場合
には,想定される格納容器破損モードとして追加すること。

(c)上記(a)の「原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたもの」は,想定する格納容器破損モードに対して,原子炉格納容器の破損を防止し,かつ,放射性物質が異常な水準で敷地外へ放出されることを防止する対策に有効性があることを確認することを要する(同規則の解釈37条の2-2)

また,上記の「有効性があることを確認する」際,放射性物質の
総放出量は,放射性物質による環境への汚染の視点も含め,環境への影響をできるだけ小さくとどめるものであることという評価項目を含む評価項目を概ね満足することを要する(同規則の解釈37条の2-3(c))

c
貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷防止対策
発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合において,使用済燃料貯蔵槽内の燃料体又は使用済燃料の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(同規則37条3項)


d
運転停止中原子炉内燃料体の著しい損傷防止対策
発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合において,運転停止中における発電用原子炉内の燃料体の著しい損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(同規則37条4項)

(イ)故意による大型航空機の衝突等への対処(同規則42条関係)a
工場等には,次に掲げるところにより,特定重大事故等対処施設

(重大事故等対処施設のうち,テロリズムにより炉心の著しい損傷が発生するおそれがある場合又は炉心の著しい損傷が発生した場合において,原子炉格納容器の破損による工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を抑制するためのもの)を設けなければならない(同規則42条)
。なお,当該規定は,平成28年1月12日時点で現に設置さ
れ又は設置に着手されている発電用原子炉施設については,平成25年7月8日以降最初に行われる工事認可の日から起算して5年間,適用されない(附則2項)



原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズム

に対してその重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものであること。


原子炉格納容器の破損を防止するために必要な設備を有するもの

であること。


原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズム

の発生後,発電用原子炉施設の外からの支援が受けられるまでの間,使用できるものであること。
b
上記a①の「原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムに対してその重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものであること」とは,以下に掲げる設備又はこれらと同等以上の効果を有する設備とする(同規則の解釈42条の1)



原子炉建屋及び特定重大事故等対処施設が同時に破損することを
防ぐために必要な離隔距離(例えば100m以上)を確保すること,又は故意による大型航空機の衝突に対して頑健な建屋に収納すること。

c
上記a③の「発電用原子炉施設の外からの支援が受けられるまでの間,使用できるものであること」とは,
「例えば,少なくとも7日間,
必要な設備が機能するに十分な容量を有するよう設計を行うことをいう」ものとされる(同規則の解釈42条の4)


(ウ)常設設備と可搬型設備について(同規則43条2項,3項)a
常設重大事故等対処設備は,以下に掲げるものでなければならない(同規則43条2項)

(a)想定される重大事故等の収束に必要な容量を有するものであること。
(b)原則として,2以上の発電用原子炉施設において共用するものでないこと。
(c)共通要因によって設計基準事故対処設備の安全機能と同時にその機能が損なわれるおそれがないよう,適切な措置を講じたものであること。

b
可搬型重大事故等対処設備は,以下に掲げるものでなければならない(同条3項)

(a)想定される重大事故等の収束に必要な容量に加え,十分に余裕のある容量を有するものであること。
(b)常設設備と接続するものにあっては,共通要因によって接続することができなくなることを防止するため,可搬型重大事故等対処設備の接続口をそれぞれ互いに異なる複数の場所に設けるものであること。
(c)地震,津波その他の自然現象又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる影響,設計基準事故対処設備及び重大事故等対処設備の配置その他の条件を考慮した上で,常設重大事故等対処設備と異なる保管場所に保管すること。
(d)想定される重大事故等が発生した場合において可搬型重大事故等対処設備を運搬し,又は他の設備の被害状況を把握するため,工場等内の道路及び通路が確保できるよう,適切な措置を講じたものであること。
(e)共通要因によって,設計基準事故対処設備の安全機能,使用済燃料貯蔵槽の冷却機能若しくは注水機能又は常設重大事故防止設備の重大事故に至るおそれがある事故に対処するために必要な機能と同時にその機能が損なわれるおそれがないよう,適切な措置を講じたものであること。
(エ)非常用電源設備について
発電用原子炉施設で必要となる電源として,通常運転時は外部電源系等が利用されるが,事故等発生時には,非常用ディーゼル発電機から電力を供給し,非常用ディーゼル発電機も機能を喪失した場合は,非常用直流電源(蓄電池等)が必要となる(乙イD41)

新規制基準では,福島原発事故の教訓を踏まえ,電源に関する規制が強化されており,その概要は,設計基準対象施設に係る規制を含め,次のとおりである(別紙30参照)

a
設計基準対象施設における要求(同規則33条)
発電用原子炉施設には,非常用電源設備を設けなければならない
(同規則33条2項)

設計基準対象施設に接続する電線路のうち少なくとも2回線は,それぞれ互いに独立したものであって,当該設計基準対象施設において受電可能なものであり,かつ,それにより当該設計基準対象施設を電力系統に連系するものでなければならない(同条4項)

非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保し,その系統を構成する機械又は器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は設計基準事故時において工学的安全施設及び設計基準事故に対処するための設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない(同条7項)
。なお,上記の「十分な容量」は,7日間の外部電源
喪失を仮定しても,非常用ディーゼル発電機等の連続運転により必要とする電力を供給できることをいう(同規則の解釈33条の7)

b
重大事故等対策としての電源設備(同規則57条関係)
発電用原子炉施設には,設計基準事故対処設備の電源が喪失したことにより重大事故等が発生した場合において炉心の著しい損傷,原子炉格納容器の破損,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷及び運転停止中原子炉内燃料体の著しい損傷を防止するために必要な電力を確保するために必要な設備を設けなければならない(同規則57条1項)

上記の「必要な電力を確保するために必要な設備」とは,以下に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう(同規則の解釈57条の1)

(a)代替電源設備を設けること
ⅰ)可搬型代替電源設備(電源車及びバッテリ等)を配備すること。ⅱ)常設代替電源設備として交流電源設備を設置すること。
ⅲ)設計基準事故対処設備に対して,独立性を有し,位置的分散を図ること。
(b)所内常設蓄電式直流電源設備は,負荷切り離しを行わずに8時間,電気の供給が可能であること。
(c)24時間にわたり,重大事故等の対応に必要な設備に電気(直流)の供給を行うことが可能である可搬型直流電源設備を整備すること。発電用原子炉施設には,前記により設置される電源設備のほか,電源喪失により重大事故等が発生した場合において炉心の著しい損傷等を防止するための常設の直流電源設備を設けなければならない(同規則57条2項)
。なお,当該規定は,平成28年1月12日時点で現に設置され
又は設置に着手されている発電用原子炉施設については,平成25年7月8日以降最初に行われる工事認可の日から起算して5年間,適用されない(附則2項)

上記の電源設備は,以下に掲げる措置又はこれと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう(同規則の解釈57条の2)



負荷切り離しを行わずに8時間,その後,必要な負荷以外を切り離して残り16時間の合計24時間にわたり,重大事故等の対応に必要な設備に電気の供給を行うことが可能であるもう1系統の特に高い信頼性を有する所内常設直流電源設備(3系統目)を整備すること。

有効性評価ガイド
有効性評価ガイド(乙イD12の6から8まで)は,設置許可基準規則37条の規定のうち,評価項目を満足することを確認するための手法の妥当性を審査官が判断する際に参考とするものであり,以下の点を確認することが定められている。
(ア)炉心損傷防止対策の有効性評価の手法及び範囲(2.2.1)複数の対策(例えば,常設設備と可搬型設備)がある場合には,各々の対策について有効性を評価することを基本とする。ただし,評価条件の包絡性が示すことができれば,包絡条件による有効性評価で代表してもよい。
格納容器圧力逃がし装置を使用する事故シーケンスグループの有効性評価では,敷地境界での実効線量を評価し,周辺の公衆に対して著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと(発生事故当たり概ね5mSv以下)を確認する。
(イ)炉心損傷防止対策の有効性評価の共通解析条件(2.2.2)a
設計基準事故対処設備の適用条件
故障を想定した設備を除き,設備の機能を期待することの妥当性
(原子炉の圧力,温度及び水位等)が示された場合には,その機能を期待できる。
故障を想定した設備の復旧には期待しない。

b
重大事故等対処設備の作動条件
重大事故等対処設備の作動条件において,作動環境等の不確かさがある場合は,その影響を考慮する。
重大事故等対処設備について,単一故障は仮定しない。

(ウ)格納容器破損防止対策の有効性評価の手法及び範囲(3.2.1)設置許可基準規則の解釈37条の2-3(c)(前記ア(ア)b(c)参照)の「放射性物質による環境への汚染の視点も含め,環境への影響をできるだけ小さくとどめるものであること」を確認するため,想定する格納容器破損モードに対して,Cs-137(セシウム137)の放出量が100TBqを下回っていることを確認する。

大規模損壊について
発電用原子炉施設の設置者には,技術的能力基準(乙イD11の6)において,大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる発電用原子炉施設の大規模損壊が発生した場合の体制の整備や必要な資機材の整備が求められており(同基準2.1)
,これについては,
改正原子炉等規制法43条の3の24第1項に基づく保安規定等において規定される方針であることを確認することとされている。
また,実用炉規則(乙イD9の1)86条において,発電用原子炉施設の設置者には,同法43条の3の22第1項に規定される保安のために必要な措置として,大規模損壊発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備が求められている。
(2)IAEA安全基準SSR-2/1の定め
IAEA安全基準の個別安全要件であるSSR-2/1(前記3(2)参照)には,次のような規定が存在する(乙イD63)
。なお,同基準は,
「全ての
要件を既に運転中の又は建設中の原子力発電所に適用することは現実的ではないことがある。
(中略)そのような設計の安全解析については,例えばその
発電所に対する定期安全レビューの一環として現行の基準に対して比較し,合理的に実行可能な安全の改善によって発電所の安全運転をさらに向上させることができるかどうか判断することが期待されている」
(1.3)としてい
る。

要件10

安全評価

包括的な決定論的安全評価及び確率論的安全評価は原子力発電所の設計プロセスの全体において実行されなければならない。

要件16

想定起因事象

原子力発電所の設計は,重大な影響を与える可能性のある全ての予見し得る事象及び有意な発生頻度を有する予見し得る全ての事象が設計において予期され,考慮されるような,一群の包括的な想定起因事象を明確にすることに対して,体系的な方法を適用しなければならない。
想定起因事象は,工学的判断並びに決定論的評価及び確率論的評価の組み合わせに基づいて特定されなければならない。

要件19

設計基準事故

設計において考慮されるべき一式の事故は,原子力発電所が放射線防護の容認限度を超えることなく耐える境界条件を設定する目的のために,想定起因事象から導かれなければならない。

要件20

設計拡張状態

設計基準事故より厳しい事故又は追加の故障を伴う事故のいずれかに対して,許容できない放射線影響を生じることなく発電所が耐える能力を増強することによって,原子力発電所の安全性を一層向上させるために,工学的判断,決定論的評価及び確率論的評価に基づいて一群の設計拡張状態が導出されなければならない。これらの設計拡張状態は,設計で取り扱われるべき追加的な事故シナリオを特定するために,また,そのような事故の発生防止のための又は影響緩和のための実行可能な対策を計画するために用いられなければならない。
(3)原告らの主張について

重大事故等及び大規模損壊への対応に関する規定について
(ア)重大事故等への対応について
原告らは,設置許可基準規則上,重大事故に至った場合の対応が規定されているのは,炉心の著しい損傷(同規則37条1項)の場合のみであり,同条3項及び4項にそれぞれ規定される燃料体等の著しい損傷の場合については,重大事故に至るおそれがある事故への対応が規定されているのみで,重大事故に至った場合の規定を欠く旨を主張する。しかし,前記1(3)イのとおり,重大事故とは,炉心の著しい損傷又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷をいうところ,設置許可基準規則37条2項,55条その他同規則第3章の規定全体を見れば,いずれの場合に関しても,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するための措置を講じること等,重大事故が発生した場合の対応が要求されていることは明らかであって(なお,同規則37条3項にいう貯蔵槽内燃料体等は,原子炉格納容器に格納されているものではないから,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷の場合に原子炉格納容器の破損という事態が通常は直ちに想定されないものと考えられる。,)
原告らの上記主張は失当である。
(イ)大規模損壊への対応について
a
原告らは,大規模な自然災害による大規模損壊(実用炉規則86条)
は,重大事故等(同規則85条)とは別個の概念であるところ,設置許可基準規則は,大規模な自然災害による大規模損壊についての規定を欠いている旨を主張する。
しかし,実用炉規則86条が規定する大規模損壊とは,大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる発電用原子炉施設の大規模な損壊のことをいうところ,例えば,設置許可基準規則43条3項5号(前記(1)ア(ウ)b参照)は,可搬型重大事故等対処設備に関する要求事項の一つとして,地震,津波その他の自然現象又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる影響を考慮して保管することを求めており,想定を大幅に超える自然災害による大規模損壊も想定した規定と解される。また,同条項3号,6号,同規則55条等も自然現象による大規模損壊の場合を排除する規定ではない。よって,同規則が大規模な自然災害に起因する大規模損壊について規定していないものではなく,原告らの上記主張は採用することができない。
b
また,原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項3号を
受けて策定された技術的能力基準(乙イD11の6)の「Ⅱ

要求事

項」が,保安規定等を確認するとしていることについて,同法43条の3の6第1項3号は設置許可基準を定めるものであるから,同号において要求される能力は,重大事故に対処する設備を設置し運転する能力であって,技術的能力基準がこれを問題にしないのは同号に反する旨を主張する。
しかし,同号における「重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力」は,
「発電用原子炉の運転を適
確に遂行するに足りる技術的能力」の一部をなすものであって,同号は施設の設置に係る技術的能力について規定するものではないというべきであるから(施設自体の問題に関しては同項4号が規定するものと解すべきである。,原告らの上記主張も採用することができない。)
また,原告らは,保安規定は設置許可基準に代替できるものではないとも主張するが,いずれの段階で規制されるにせよ,許認可を受けない限り運転開始には至らないことからすると,本件差止訴訟における人格権侵害の具体的危険性の有無を判断するに当たっては,いずれの段階での規制であるかという点は,直ちに結論を左右するものとはいえない。この点を措くとしても,保安規定という形で規制することが,確立された国際的基準に照らして相当でないと認めるに足りる事情については,主張立証がない。
(ウ)常設重大事故等対処設備に求められる水準について
原告らは,設計基準対処設備(ママ)と常設重大事故対処設備(ママ)で地震動の想定が同一であるため(なお,原告らの主張は,設置許可基準規則39条1項により,常設重大事故等対処設備〔同規則2条2項14号から16号まで,43条2項〕が設置される重大事故等対処施設〔同規則2条2項11号〕が,同規則4条の設計基準対象施設と同じ地震動による地震力を想定したものとなっていることを指摘する趣旨と解される。,基準地震動による地震力を超える地震力により同時に機能を)
喪失するおそれがある旨を主張する。
しかし,原告らも指摘するとおり,常設重大事故等対処設備は,多様性を確保することで(設置許可基準規則の解釈43条の4)
,過酷な状況
下においても同時に機能を喪失しないよう配慮している上,後記ウのとおり,そもそも,重大事故等対処設備は,想定を超える事態に柔軟に対処するため,可搬型設備による対策を基本とするものであるから(乙イD41・154頁)
,原告らの主張するところをもって具体的審査基準が
不合理であるとはいえない。

有効性評価について
(ア)原告らは,設置許可基準規則37条1項の有効性評価について,同規則の解釈37条の1-3が,シビアアクシデントに至る前の設計基準事故に関する安全評価審査指針(甲D48,乙イD49)の4.2と同じ判断基準を採用していることを指摘して,同項がシビアアクシデント対策に関する規定であって,より制御が困難な事故に関するものであるにもかかわらず,制御に成功しなかった場合を考慮せず,安全設備が有効に働く場合だけを評価するのは,安全性に関する考慮が不十分である旨を主張する。
しかし,同規則の解釈37条の1-3の定めは,有効性評価におけるイベントツリーを具体的に示したものではなく,確認目標を定めたものと解されるから,例示された事項のみ確認することを求めたものではないというべきである。そもそも,安全性に係る審査基準は,現在の科学技術水準を構成する科学的,技術的知見が将来変わり得ることを前提に,安全性につき審査する基準であるから,その規定の在り方については,一定程度,概括的あるいは抽象的なものにならざるを得ないというべきであり,有効性評価に関していえば,その具体的手順の全てが同規則又は同規則の解釈に定められているわけではなく,また,そのことをもって不合理であるということもできない。
そして,設置許可基準規則37条1項は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合において,炉心の著しい損傷(重大事故)の発生を防止する措置を講じることを求めるものであるから,当該措置により,設計基準事故に対する措置による結果と同様の結果(炉心の安定)を求めるのはむしろ当然といえる。また,同項の措置による制御が成功せず,炉心の著しい損傷(重大事故)に至った場合については,同条2項により,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を防止するための措置が講じられていることが要求されているのであるから,同規則が制御に成功しなかった場合を考慮せず,安全設備が有効に働く場合だけを評価するものではないことは明らかである。なお,原告らは,外部事象レベル2(放射性物質の放出)の安全性評価を実施しないことが不十分であるかのようにも主張するところ,被告電源開発が本件原発について行う有効性評価の当否は別として(前記第1の2で説示のとおり,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の審査及び判断が未了の現時点において,被告電源開発が本件原発について行う有効性評価の当否を理由として,本件原発に重大な事故発生の具体的危険性を認めることは困難である。,IAEA安全基準の安全指針)
「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」
(No.NS-G
-2.15)
(乙ロA87)においても,レベル2の確率論的安全評価
(PSA)は必ずしも必須とはされておらず,他に確立された国際基準に照らして不合理であることを裏付ける事情は見当たらない。
(イ)原告らは,設置許可基準規則37条の規定を受けて策定された有効性評価ガイドについて,その内容が抽象的で具体的な事故の想定を欠いていることを主張する。
しかし,有効性評価ガイドが拘束力のある具体的審査基準に当たるかどうかをさて措くとしても,前記のとおり,科学技術的知見が将来変わり得るものであることからすると,審査基準は一定程度,概括的あるいは抽象的なものにならざるを得ないというべきであるから,審査基準の定めが抽象的であることは,現時点における本件原発の安全性に係る判断を直ちに左右するものとはいえない。
また,原告らは,有効性評価ガイドにおけるシビアアクシデントの解析条件に「重大事故等対処設備について,単一故障は仮定しない」などとされている点が問題であるかのようにも主張するが,同ガイドに示された解析条件とは異なる条件(それがどのような解析条件であるかは原告らの主張によっても明らかではない。
)により解析することの意義が原
告らの主張によっても明らかではなく,採用の限りではない(なお,本件原発に係る有効性評価の在り方を問題にする趣旨であるとすれば,前記のとおり,現時点において,その点を理由として本件原発に重大な事故発生の具体的危険性を認めることは困難であるから,原告らの主張は失当である。。

さらに,原告らは,設置許可基準規則37条(同規則の解釈37条)が挙げる事故シーケンスの例が少なく,米国において,DCD

Ch.1

9(甲D130の1・17~31頁,証人佐藤暁)により約1万9000通りのシビアアクシデントのシナリオが作られていることと比較して,明らかに想定が不足している旨を主張する。
しかし,上記証拠によっても,原告らのいう「約1万9000通りのシビアアクシデントのシナリオ」が,誰が作成し,どのような性質を有するものか明らかではない。原告らの主張からして,DCDは,原子力事業者が原子力施設の設置に当たりNRCに提出する文書であることがうかがわれるところ,米国においてかかる事故シナリオが作成されているとしても,そのことから,設置許可基準規則の定めが不合理であるということはできない。

可搬型設備と常設設備
設置許可基準規則は,シビアアクシデント対策について,可搬型設備を基本とし,常設設備との組み合わせにより信頼性の向上を図っているところ(乙イD41・155頁)
,原告らは,炉心損傷が短時間のうちに生じる
こと,可搬型設備の稼働に時間を要することを指摘して,シビアアクシデント対策は,常設設備を基本とすべき旨を主張する。
しかし,常設設備は,多様性等により信頼性を向上させても,設計上の想定を超えた事象に対処することが困難になるリスクが存在する(前記ア(ウ)参照)一方,可搬型設備については,配置の分散等により,より過酷な状況下においても機能の維持が期待できると考えられること,稼働に要する時間についても,運用等により改善が見込めることに照らすと,設置許可基準規則が可搬型設備を基本とし,常設設備との組み合わせにより信頼性の向上を図っていることが不合理であるとはいえない。また,可搬型設備を基本とすることが,確立された国際基準に照らして不合理であると認めるに足りる証拠もない。

電源設備(設計基準対象施設に係るものを含む。

(ア)原告らは,設置許可基準規則33条,57条(前記(1)ア(エ))が規定する非常用電源設備等の種類と容量について,その基準を満たす具体的内容が定められておらず,現実の設備が安全確保のために十分か否かを判断する基準とはなっていない旨を主張する。
しかし,発電所ごとに設備が異なる以上,その非常用電源として具体的にどの程度の電力を必要とするかも発電所ごとに異なることは明らかであり,必要な設備等の種類や電力の容量等を一律に定めることは不可能であるから,原告らの上記主張は失当である。
(イ)また,原告らは,設置許可基準規則の附則2項が,同規則57条2項の直流電源設備について5年間の経過措置期間が設けていること(前記(1)ア(エ)b)は,必要な安全性を欠くものであると主張する。しかし,本件設置変更許可申請は,当該経過規定にかかわらず,上記直流電源設備を設置することを内容としているものと認められるから(乙ロD1の3・8-1.4-171頁参照)
,当該経過規定の合理性い
かんは,本件差止請求との関係においては問題とならない。

シビアアクシデント対策のパッシブ性
原告らは,設置許可基準規則等において,欧米において採用されている受動的安全設備を採用していないことが国際基準に反する旨を主張する。しかし,原告らの指摘するINSAG-12(乙イA8,乙ロA90)は,INSAG(国際原子力安全諮問グループ,乙イA7参照)が将来的な目標として定めたものであり(乙イA8)
,EUR文書(第2巻「原子炉
設備の一般的要件」
,甲D111,124)は,プラントメーカーが西ヨー
ロッパ各国を市場として新たな原発を建設することができるよう,各国の規制基準に対応可能な共通した要求事項をとりまとめたものであって(乙イA9,10)
,これらの文書に記載された内容が直ちに,確立した国際基
準といえるものではなく,WENRAの指針(甲D122,124,乙イA12)は,既設原子炉の設計基準に関する規定であって,重大事故等の対処に関する規制ではない。米国NRCのポリシー・ステイトメントも規制要件(10CFR)を示すものではなく(乙イA13参照)
,他方,規制
要件である10CFRにおいて,受動的安全設備の採用が必須であるとされているものとは認められない(乙イA14)
。その他,重大事故等の対処
に係る設備に受動的安全設備を採用すべきことが,確立された国際基準であることを認めるに足りる証拠はない。
なお,INSAG-12は,受動的安全機能の利点と欠点を挙げ,それらが設計過程において慎重に考慮されることや,最終的に能動的な安全機能が必要かもしれないことを示しており(乙ロA90,証人D)
,受動的安
全設備を一方的に推奨しているものではない。
したがって,受動的安全設備を必須のものとしていない我が国の審査基準が不合理であるとはいえない。
6テロ対策について
原告らは,設置許可基準規則がテロ対策について詳細な定めを置いていないこと,原子力事業者のテロ対策に係る規制委員会の審査が公開されていないこと(なお,前記第1の1(7)イ(ウ)のとおり,本件設置変更許可申請に係る規制委員会の審査会合も,テロ対策に関するものは非公開である。
)を指摘して,新
規制基準が国際的基準を踏まえていない旨を主張する。
しかし,前記5(1)ア(イ),同(ウ)b(c)のとおり,設置許可基準規則はテロリズムを含めてその対応を求め,前記1(3)イ,5(1)ウのとおり,技術的能力基準及び実用炉規則86条は大規模損壊に対する整備を求めているところであって,テロ対策への対応も規制基準に含まれている。また,前記のとおり,科学技術的知見が将来変わり得るものであることからすると,審査基準は一定程度,概括的あるいは抽象的なものにならざるを得ないというべきである上,テロ対策の性質上,規制の具体化には馴染まないと考えられるから,これ以上に詳細な定めがないということが不合理とはいえない。
さらに,原告らがいかなる根拠をもってテロ対策の内容を公開するのが国際基準とするのか不明である上,テロ対策は,その性質上,内容を公開することによって,当該テロ対策の間隙を狙った攻撃を受けるリスクが生じるから,その審査過程を非公開とすることは十分合理的であるというべきであり,原告らの主張は採用することができない。
なお,原告らは,米国においては,規制側が用意する仮想敵チームが原発に攻撃を仕掛けてくるのを,原発の戦闘部隊が撃退することを実証することも要求されている旨を主張するが,我が国の法制度上,民間人が拳銃等を所持することは許されておらず,原発の事業者が原発に武装した警備員等を配置することは不可能であることは明らかであって,テロ行為に対しては,国,地方公共団体及び指定公共機関が対応することが予定されている(事態対処法)。原告ら
の当該主張は,我が国において議論する前提を欠くものであり,また,法制度の異なる米国との比較が直ちに新規制基準の不合理性を基礎付けるものとはいえない。
7深層防護と立地評価・避難計画について
(1)立地審査指針の内容と位置付け

立地審査指針(甲A9,甲D47,乙イB1)は,昭和39年に原子力委員会が決定し,平成元年に安全委員会が一部改定したものであり,万一の事故に関連して,その立地条件の適否を判断するためのものである。(ア)原則的立地条件
立地審査指針では,万一の事故に備え,公衆の安全を確保するための原則的立地条件として,以下の3条件を規定している(同指針1.1)。
a
大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと。また,災害を拡大するような事象も少ないこと。

b
原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること。

c
原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じうる環境にあること。

(イ)基本的目標
また,同指針は,上記(ア)の原則的立地条件を踏まえて達成すべき基本的目標として,以下の3点を規定している(同指針1.2)

a
敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的見地からみて,最悪の場合には起るかもしれないと考えられる(旧)重大事故の発生を仮定しても,周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。

b
(旧)重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない(旧)仮想事故の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。
c
(旧)仮想事故の場合には,集団線量に対する影響が十分に小さいこと。

(ウ)立地審査の指針
同指針は,上記(イ)の基本的目標を達成するため,少なくとも以下の3条件が満たされていることを確認しなければならないとされている(同指針2,同指針別紙2)

a
(旧)重大事故の場合に,そこに人がいつづけるならば,その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲(目安としては,甲状腺〔小児〕に対する線量が1.5Sv,全身に対する線量が0.25Svに達する区域)内が,非居住区域(公衆が原則として居住しない区域をいう。
)となっていること。

b
(旧)仮想事故の場合に,何らの措置を講じなければ,その範囲内にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲(目安としては,甲状腺〔成人〕に対する線量が3Sv,全身に対する線量が0.25Svに達する区域)内であって,上記非居住区域の外側の地帯は,低人口地帯(著しい放射線災害を与えないために,適切な措置を講じ得る環境にある地帯〔例えば,人口密度の低い地帯〕をいう。
)となっていること。

c
(旧)仮想事故の場合に,全身線量の積算値(集団中の一人一人の全身線量の総和)が,集団線量の見地から十分受け入れられる程度に小さな値(目安としては,全身線量の積算値2万人Sv)となるような距離だけ,その敷地が人口密集地帯から離れていること。


立地審査指針は,現時点においても改廃されていないが,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項4号の原子力規制委員会規則として策定された設置許可基準規則(乙イD9の3)及び同規則の解釈(乙イD11の2)には引用されていない。また,立地審査指針そのものは,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項4号の原子力規制委員会規則に当たらない。(2)改正原子炉等規制法下における緊急時対応と防災対策

重大事故等対策
立地審査指針は,前記(1)アのとおり,万一の事故に備えて定められたものであったが,その内容のうち,深層防護の第4段階目に相当する部分については,前記1(2)イ及び(3)イのとおり,改正原子炉等規制法下では設置許可基準規則第3章に規定が設けられた。


緊急時対応施設の整備
深層防護の第5段階目に相当する部分のうち,緊急時対応施設の整備に関しては,設置許可基準規則に,以下の点を含む施設や設備の整備に関する規定がある。
(ア)発電用原子炉施設には,原子炉制御室を設けなければならない(26条1項)
。この原子炉制御室には,重大事故が発生した場合においても運
転員がとどまるために必要な設備を設けなければならない(59条)。
(イ)工場等には,一次冷却系統に係る発電用原子炉施設の損壊その他の異常が発生した場合に適切な措置をとるため,緊急時対策所を原子炉制御室以外の場所に設けなければならない(34条)
。この緊急時対策所は,
重大事故等が発生した場合においても当該重大事故等に対処するための適切な措置が講じられなければならない(61条)

(ウ)発電用原子炉施設には,重大事故等が発生した場合において,重大事故等に対処するために監視することが必要なパラメータを計測することが困難であっても当該パラメータを推測するために有効な情報を把握できる設備(58条)
,工場等及びその周辺において発電用原子炉施設から
放出される放射性物質の濃度及び放射線量を監視・測定し記録することのできる設備(60条)
,通信連絡を行うために必要な設備(62条)等
を設けなければならない。

防災対策
前記1(2)イのとおり,設置許可基準規則においては,深層防護の第5段階目に相当する部分のうち防災対策に関する規定は存在せず,防災対策については原災法及び災害対策基本法により規定されている。
(ア)災害対策基本法は,国土並びに国民の生命,身体及び財産を災害(原子力災害を含む。
)から保護するため,防災に関し,基本理念を定め,国,
地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し,責任の所在を明確にするとともに,防災計画の作成,災害予防,災害応急対策,災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより,総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り,もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする法律である(同法1条)

原災法は,原子力災害の特殊性に鑑み,原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務等,原子力緊急事態(原子炉の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で原子力事業所外へ放出された事態)宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,原子炉等規制法,災害対策基本法その他原子力災害の防止に関する法律と相まって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害から国民の生命,身体及び財産を保護することを目的とする法律である(同法1条)

(イ)原子力災害予防対策は,国,地方公共団体及び原子力事業者等が相互に連携を図りながら協力して実施すべきものとされ(原災法6条),この
うち避難計画の策定等については,地方公共団体が中心となって行うこととなる。
すなわち,都道府県及び市町村は,それぞれ地域並びに住民の生命,身体及び財産を災害から保護するため,原子力災害に係る防災に関する計画を作成し,実施する責務を負う(原災法5条,災害対策基本法4条1項,5条1項)
。そして,都道府県に設置される都道府県防災会議及び
市区町村に設置される市町村防災会議(その設置がないときは市町村長)は,それぞれ,原子力災害について,地域防災計画を作成するものとされ(原災法28条,災害対策基本法14条,40条)
,この地域防災計画
として,PAZ(予防的防護措置を準備する区域。発電用原子炉では,当該施設から概ね半径5kmの区域をいう。
)及びUPZ(緊急時防護措
置を準備する区域。発電所原子炉施設では,当該施設から概ね半径30kmの区域をいう。
)圏内の住民の広域避難計画の作成等を行っている
(乙イD70)

国については,内閣府に設置される中央防災会議が,防災に関する総合的かつ長期的な計画及び地域防災計画において重点を置くべき事項等を定める防災基本計画を作成するとともに(災害対策基本法11条,34条,35条)
,原発の所在する地域ごとに設置される地域原子力防災協
議会(原子力規制庁を含む関係府省庁,地方公共団体等を構成員とするもの)における要配慮者対策,避難先や移動手段の確保,原子力事業者に協力を要請する内容等についての検討及び具体化を通じて,地域防災計画や避難計画の具体化・充実化の支援を行っている(乙イD68,69)
。また,規制委員会は,専門的・技術的事項について,原子力事業者,国の各機関,地方公共団体等による原子力災害対策の円滑な実施を確保するための指針(原子力災害対策指針,乙イD70)を定めることとされている(原災法6条の2)

(ウ)一方,原子力事業者(改正原子炉等規制法43条の3の5第1項に基づく設置許可を受けた者)は,原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに,原子力災害の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し,誠意をもって必要な措置を講ずる責務を負い(原災法3条),原子
力事業所ごとに,当該原子力事業所における原子力災害予防対策,緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策その他の原子力災害の発生及び拡大を防止し,並びに原子力災害の復旧を図るために必要な業務に関し,原子力事業者防災業務計画を作成するなどしなければならないとされている(同法7条1項)

この原子力事業者防災業務計画は,改正原子炉等規制法43条の3の24第1項の規定に基づく保安規定の認可の申請書を提出する日までに作成しなければならないとされており(原災法に基づき原子力事業者が作成すべき原子力事業者防災業務計画等に関する命令〔平成24年9月14日号外文部科学省,経済産業省令第4号〕2条5項)
,同計画は,地
域防災計画に抵触しないようにしなければならず(原災法7条1項),ま
た,あらかじめ都道府県知事等と協議しなければならない(同条2項)。
そして,かかる義務を実効化するために,内閣総理大臣及び規制委員会は,原子力事業者が上記の規定に違反していると認めるとき,又は原子力事業者防災業務計画が当該原子力事業所に係る原子力災害の発生若しくは拡大を防止するために十分でないと認めるときは,原子力事業者に対し,同計画の作成又は修正を命ずることができ(同条4項)
,仮に原
子力事業者がこれに違反した場合,規制委員会は,設置許可の取消し又は1年以内の期間を定めて発電用原子炉の運転の停止を命ずることができるとされている(改正原子炉等規制法43条の3の20第2項22号)。
(3)IAEA安全基準における深層防護の第5層目に関する規定ア
政府,法律及び規制の安全に対する枠組み(No.GSR

Part1)

IAEA安全基準の全般的安全要件である「政府,法律及び規制の安全に対する枠組み(No.GSR

Part1)(乙イD17)は,政府,法律及び

規制の安全に対する枠組みに関する要件を制定する目的で策定されたものである。この中には,次の規定が存在する。
要件8

緊急時準備及び緊急時対応
政府は,原子力又は放射線の緊急事態に対する時宜を得た効果的
な対応を可能にするために,緊急時準備に関する方策を講じなければならない。

2.20

政府は,各許認可取得団体に対して,緊急時対応計画を策定

する責任及び緊急時準備と緊急時のための取決めを整える責任を持たせなければならない。
(以下省略)

施設と活動に対する安全評価(No.GSR

part4)

IAEA安全基準の全般的安全要件である「施設と活動に対する安全評価(No.GSR

part4)
(Rev.1)(乙イD75の1及び2)は,施設及び


活動に対する安全評価において満たされるべき全般的に適用可能な要件を定める目的で策定されたものである。この中には,次の規定が存在する。要件13

深層防護の評価

4.45

深層防護の評価では,深層防護のそれぞれのレベルにおいて

十分な対策が取られているかどうかが決定されなければならない。これは,施設に責任を有する人又は組織が以下のことができることを確実なものとするために行われる。
(a)通常運転からの逸脱を扱うこと。又は,処分施設の場合は,長期間の間に予想される進展からの逸脱を扱うこと。
(b)通常運転及び長期間の間に予想される進展からの,安全に関わる逸脱が万一発生した場合に逸脱を検知し終息させること。
(c)設計で定められた限度内に事故を管理すること。
(d)設計限度を超える事故の影響を緩和するための対策を特定すること。
(e)潜在的な放射性物質の放出に付随する放射線リスクを緩和すること。

原子力又は放射線の緊急事態に対する準備と対応(No.GSRPart7)IAEA安全基準の全般的安全要件である「原子力又は放射線の緊急事態に対する準備と対応(No.GSRPart7)(乙イD74の1及び2)は,」
No.GS-R-2を改定したものであり,次の規定が存在する。(ア)要件2

緊急事態への準備と対応における役割と責任

政府は,原子力又は放射線の緊急事態への準備と対応に関する役割と責任が明確に特定され,明確に割り当てられることを確実なものとするために,規定を設けなければならない。
政府は,操業組織,地域,地方及び国レベルにおける,また適切であれば国際レベルにおける原子力又は放射線の緊急事態の予測,準備,対応及び復旧のため,十分な準備を行わなければならない(4.5.。)
政府は,原子力又は放射性の緊急事態への準備と対応に関する全ての役割と責任を,操業組織,規制機関及び対応組織に前もって明確に割り当てることを確実にしなければならない(4.7.。

操業組織は,適用可能な要件に従って,その責任下にある施設又は活動についての原子力又は放射線の緊急事態へのオンサイトでの準備と対応について,取決めを作成して維持しなければならない(4.16.。)
操業組織は,その責任下にある施設又は活動に関連して,原子力又は放射線の緊急事態に対して敷地内において実効的な対応をするための緊急事態の取決めが整備されていることを立証しなければならず,また規制機関にそれが保証されていることを示さなければならない(4.17.。

(イ)要件20

緊急事態への準備と対応に関する権限

政府は,原子力又は放射線の緊急事態への準備と対応に関する権限を明確に確立することを確実にしなければならない。
敷地内及び敷地外双方における原子力又は放射線の緊急事態への準備と対応に関する取決めを策定し維持し規制する権限は,法律・条例・規則によって定めなければならない(6.2.。

5章(機能要件:緊急事態における運転管理,緊急事態の通報,緊急防護措置,公衆に対する指示などに関する規定)で示した機能は全て,適切な操業組織及び地域・地方・国の対応機関に割り当てなければならない(6.3.。


原子炉等施設の立地評価(NS-R-3)
IAEA安全基準の安全要件であるNS-R-3(甲D81)は,原子炉等施設の立地評価の安全要件を定めるものであり,
「人口及び緊急時計画
に関する検討に得られる判断基準」として,次のような規定が存在する。(ア)人口の特性と分布に関連して,立地地点と施設の組み合わせによる影響を以下のようにしなければならない(2.27)

a
施設の運転状態では,住民の放射線被ばくが,国際的な推奨事項を考慮に入れて合理的に達成可能な限り低く維持され,いかなる場合においても国の要件に従っている。

b
緊急時対策の実施に至り得るような事態を含む事故時状態に伴う住民への放射線リスクが,容認可能なほどに低い。

(イ)徹底的な評価の後,上記要件を満足するために適切な対策が施せないことが示された場合には,立地地点は,提案された種類の原子炉等施設の設置に適していないと考えなければならない(2.28)

(ウ)住民に対する放射線影響の可能性,緊急時計画の実行可能性とそれらの実行を妨げる可能性のある外部事象や現象を考慮し,提案された立地地点に対する外部領域を設定しなければならない。プラント運転開始に先立つ外部領域に対する緊急時計画の設定において,克服できない障害が存在しないことをプラントの建設が始まる前に確認しなければならない(2.29)


原子力発電所の安全:設計(SSR-2/1)
IAEA安全基準の個別安全要件SSR-2/1(Rev.1)
(乙イD63)
には,前記1(2)アのとおり,深層防護の第5層目として,十分な装備を備えた緊急時対応施設の整備と,所内外の緊急事態の対応に対する緊急時計画と緊急時手順の整備が必要とされているほか(2.13.,次の規定が)
ある。
(ア)要件7

深層防護の適用

原発の設計は,深層防護を取り入れなければならない。深層防護の階層は,実行可能な限り独立したものでなければならない。
(イ)要件67

所内の緊急時対応施設

発電所の重要なパラメータ並びに原発及び近隣の放射線の状況に関する情報は,関連する緊急時対応施設に提供されなければならない。各々の施設は,制御室,補助制御室及び発電所の他の重要な場所並びに所内外の緊急時対応機関と適宜,連絡するための手段を備えていなければならない。
(6.42.


原子炉等施設に対する許認可プロセス(No.SSG-12)
IAEA安全基準の個別安全指針「原子炉等施設に対する許認可プロセス(No.SSG-12)(乙イD76の1及び2)は,規制機関による許認」
可の付与に関する要件を満たすことに関する推奨事項を示すものであり,次の規定がある。
(ア)事業許可の条件は,原子炉等施設の立地評価,設計,建設,試運転,運転,廃止措置及びその後の規制管理からの解放の全ての段階で有効な規制管理を可能とするため,これらに影響を与える安全関連面を,適宜範疇に含めるべきである。これらの要件は,とりわけ,設計,放射線防護,保守実施計画,緊急時の計画と手順,改造,マネジメントシステム,運転上の限界と条件,手順及び職員の認定などの重要な側面を取り扱うべきである。さらに,事業許可の条件は,規則が改定されたときに矛盾又は不一致を回避するため,規則を参照することはあっても,規則と同じものとすべきではない。
(2.15.

(イ)許認可の原則は,規制の枠組み及び法的な枠組みの中で制定されるべきである。許認可の原則の例として,施設及び(又は)活動は,施設又は活動が作業者,公衆又は環境に不当なリスクを与えないような方法で使用又は実施されることを規制機関が確認したときのみ認められるべきである。
(2.19.(a))
(ウ)立地地点選定の後,規制機関は,選定された立地地点の容認可能性に関する決定に関与すべきであり,この立地地点の条件を確定する権限又は安全上の懸念に基づいて提案された立地地点を却下する権限を有すべきである(3.4.。

(エ)立地評価は,原子炉等施設の安全及び施設の活動の安全に影響を及ぼし得る立地地点における各要素を分析することである。これには,立地地点特性評価並びに原子炉等施設又はその活動の安全に関する特徴に影響を及ぼし,放射性物質の放出につながり得る要因の検討及び環境への放射性物質の分散に影響を及ぼし得る要因の検討を含む。規制機関によって審査,評価及び承認される立地評価では,原子炉等施設及びその活動の環境への潜在的影響も考察するべきであり,それらの不適合が予測されないことを検証するため,予備評価が実施されるべきである。(3.
5.


原子力発電所の定期安全レビュー(No.SSG-25)
IAEA安全基準の個別安全指針「原子力発電所の定期安全レビュー(No.SSG-25)
」には,次の規定がある。
(乙ロA101)
(ア)緊急時計画のレビューの目的は,①運用組織が,緊急事態に適切に対応できる計画,人員,施設及び機器を整備しているかどうか,②運用組織による取決めが地方及び国の行政機関の取決めと適切に調整されてきているかどうか,そして,定期的に訓練されているかどうか,を確認することである(5.136.。

(イ)PSR(定期安全レビュー)では,運用組織が,原発敷地での重大な変更,そして供用中における発電所の組織的な変更,緊急時用機器の保守及び保管に関する変更及び緊急時計画に影響し得る敷地の周辺の開発状況を適切に考慮したことを確認しなければならない(5.138.。)
(ウ)緊急時計画のレビューにおいては,以下を行わなければならない(5.139.。

・敷地内の緊急用の機器及び施設の妥当性評価
・敷地内の技術・運転支援センターの妥当性評価
・緊急時における通信,特に発電所外部の組織との相互連絡の効率性評価
・緊急時対応の訓練の内容及び効率性の評価及びこうした訓練から得られた経験の記録確認
・定期的なレビュー並びに緊急時の計画及び手順の更新のための取決めの評価
・緊急時用機器の保守及び保管における変更の調査
・敷地周辺における最近の住宅及び産業の開発の影響評価
(エ)緊急時対応の訓練の記録は,運用組織及び敷地外の(緊急時対応)組織の要員の効率性及び能力,機器に求められる機能並びに緊急時計画の妥当性を評価するためにレビューしなければならない(5.141.。)
(オ)警察,消防機関,病院,緊急搬送機関,規制機関,地方公共団体,中央政府,公共福祉機関,報道機関など関連する敷地外の組織との相互連絡を行うための運用組織の取決めを評価しなければならない(5.142.。

(4)原告らの主張について

立地評価について
前記(1)イのとおり,立地審査指針は現在の審査基準として適用されないところ,原告らは,設置許可基準規則等の新規制基準において,公衆との隔離を定める規定が存在しないことは,深層防護の考え方に反する旨を主張する。
立地審査指針の内容は前記(1)アのとおりであるところ,同指針において原則的立地条件及び基本的目標として示されていたのは,①大きな事故の要因となる外部事象がない地点を選ぶための条件,②大きな事故が敷地周辺の公衆に影響を与えないための条件,③必要に応じ防災活動を講じ得る環境にあることを求める条件であり,このうち上記②については,生体が受ける放射線の影響度に応じて公衆との隔離を求めるものであったといえる。
これに対し,前記(2)アのとおり,設置許可基準規則においては,これまで規定されていなかった深層防護の第4段階に相当する重大事故等の防止対策が規定され,各種の事故を想定してPRAによる評価を実施するなどして炉心の著しい損傷を防止し,放射性物質の放出を防止する対策の有効性を評価することを要求しており,その有効性評価の中で,周辺の公衆に対して著しい放射線被ばくリスクを与えないため,発生事故当たり概ね5mSv以下であることや,想定する格納容器破損モードに対して,セシウム137の放出量が100TBqを下回っていることを要求するなどしており,
(旧)重大事故を仮定して,目安として全身に対し0.25Svを超える範囲を非居住区域とするなどとしていた立地審査指針(前記(1)ア)と比較しても厳しい対策を要求しているといえる。
このように,新規制基準においては,公衆との隔離という形ではないものの,公衆への影響を考慮した大きな事故の影響緩和のための規制がされており,これは,前記1(2)アのIAEA安全基準で採用されている深層防護の考え方(第4の防護レベル)にも正に沿うものである。前記(3)の各IAEA安全基準の定めをみても,IAEA安全基準で示された第4の防護レベルを実現する手段として,低人口地帯などの概念を設けることが必須であるとまでは認められない。したがって,深層防護の第4段階目に相当する部分を重大事故等対策として定めた設置許可基準規則等の新規制基準が確立された国際基準に反する不合理なものであるとはいえず,原告らの主張を採用することはできない(なお,原告らの指摘する隔離要件の防災対策という観点からの検討については,次に述べるとおりである。。)

防災対策について
原告らは,新規制基準において,深層防護の第5段階に相当する防災対策に関する規定が存在せず,緊急時の防災計画が建設,運転の許可条件とされていないことを指摘して,新規制基準が深層防護を欠いたものであって不合理である旨を主張する。
(ア)緊急時の防災計画については,前記(2)ウのとおり,原災法及び災害対策基本法により,国,地方公共団体及び原子力事業者等が相互に連携を図りながら協力して実施すべきものとされ,住民の避難計画は,地方公共団体が中心となって作成し,国はこれを支援するものとされている一方,原子力事業者も,原子力災害の発生及び拡大を防止し,原子力災害の復旧を図るために必要な措置を講ずる責務を負うものとされ,緊急事態への対応が地方公共団体,国,原子力事業者に適切に割り当てられている。
原子炉施設における緊急時対応は,一義的に原子力事業者が責務を負うべきであるとしても,敷地外の避難計画を含む防災計画については,広域にわたる可能性があり,かつ,地域の実情に応じた対応が必要と考えられること,原子力事業者は,住民の避難計画に従って住民を行動させる権限を有していないことなどの事情からすると,自治体が中心となって避難計画を策定し,国がこれを支援し,原子力事業者がこれに抵触しないよう自治体側とも協議した上で原子力事業者防災業務計画を作成するものとされていることは,実効性のある防災対応のため十分に合理性を有するものというべきである。また,前記の事情からすると,必ずしも各地域の実情等に精通していない規制委員会が避難計画の適否について一義的に判断することは合理的ではないというべきであり,規制委員会の許可という形での規制をしないこと(もっとも,前記のとおり,規制委員会は原子力事業者防災業務計画の作成・修正を求めることや最終的に原子炉設置許可の取消し等をする権限が与えられている。
)が不合
理であるともいい難い。
この点,IAEA安全基準においても,No.GSRPart1(前記(3)ア)では,政府に緊急時準備及び緊急時対応の責務を負わせた上で,原子力事業者に緊急時計画を作成する責務を負わせており,No.GSRPart7(前記(3)ウ)は,緊急事態に対する準備と対応に関する役割と責任を明示し,その対応を操業組織(原子力事業者)
,地方,国等の対応機関に割
り当てるべき旨を定めるとともに,原子力事業者には,その責任下にある施設又は活動についての緊急時計画を作成,維持することが求められている。また,原子力発電所の定期安全レビューにおいても(No.SSG-25〔前記(3)キ〕,原子力事業者が敷地内における緊急時計画を適切)
に整備していることや,国及び地方公共団体における取決めとの調整等を確認することとされている。このように,敷地内における対応は原子力事業者の責務としつつも,敷地外の避難計画を含む防災対策を地方公共団体及び国にも適切に割り当て連携して対応するという考え方は,IAEA安全基準とも整合している。
(イ)緊急時の防災計画は,原告らの指摘するように,原子炉の設置,運転の許可条件とされているものではないが,前記(2)ウ(ウ)のとおり,原子力事業者防災業務計画は,自治体側と事前に協議した上,保安規定の認可申請書の提出日までに作成することが求められ,かつ,地域防災計画と抵触しないようにすることが求められている。そして,かかる規定に反し又は原子力事業者防災業務計画が不十分である場合には,規制委員会等がその作成や修正を求めることができ,原子力事業者がこれに違反すれば規制委員会から原子炉の設置許可の取消しや運転停止を命じられることになるのであって,防災対策がなく又はその妥当性が確認されないまま原発が運転されることのないよう法的規制がされているものといえる。
そして,改正原子炉等規制法の下においても,原発の設置許可から運転が開始されるまでの間に,工事認可,保安規定認可,使用前検査等の各種手続を経る段階的規制が採られており(前記第1の1(6)),各段階
における手続において審査対象となる事項に安全性の観点からみて欠けるところがあれば,原発の運転開始には至らない仕組みとなっていることを考慮すると,そもそも,必要とされる規制自体がいずれの段階においても存在しないような場合は別として,いずれかの段階(手続)において安全性や妥当性が判断されることとなっている場合に,いずれの段階で判断すべきかの問題は,少なくとも本件差止請求における人格権侵害の具体的危険性を判断するに当たっては,直ちに結論を左右するものではない(一例を挙げれば,保安規定認可段階の審査事項に係る具体的審査基準への適合性に関して,仮に当該原発の安全性の観点から欠けるところがあるような場合には,差止めが認められ得ることになる。)とい
うべきである。
この点,原告らは,より早い段階で規制することが安全性に資するとの趣旨で,設置許可段階で判断すべきと主張しているものと解されるが,前記(ア)のとおり,緊急時対応に当たるべき事業者,地方公共団体,国の役割と責務はそれぞれ異なり,かつ,各関係機関の連携が重要であることや,規制委員会が社会的,経済的側面を含む地域の実情等を踏まえた最終判断をすることに必ずしも合理性があるとはいえないことからすると,設置許可段階で判断することが必ずしも実効性のある防災対策につながるとはいえないというべきである。
(ウ)前記(3)のとおり,IAEA安全基準においては,深層防護の第5段階目に相当する事項に関する定めが複数存在するところ,No.GSRPart1(前記(3)ア)
,No.GSRPart4(前記(3)イ)
,No.GSRPart7
(前記(3)ウ)はいずれも,避難計画等の防災対策を原子炉の設置許可の条件とすべきことを求めるものではない。原子炉等施設に対する許認可プロセスに係る指針であるNo.SSG-12(前記(3)カ)には,事業許可の条件について,緊急時の計画と手順もその対象とすべきことを推奨するものであるが,敷地内の緊急時対応施設の設置等のみならず,敷地外の避難計画を含む防災対策の全てを設置許可の条件とすべき趣旨であると直ちに解されるものではない。なお,同指針には,規制機関が選定された立地地点の容認可能性に関する決定に関与すべきであることが規定されているが,我が国の現在の法制度のように,規制委員会が原子力事業者防災業務計画の修正を求め,あるいは,これに応じない場合に設置許可の取消し等をするという形での関与にとどめることでは不足するという趣旨とも解されない上,ここでいう立地地点の容認可能性の判断には,原子炉等施設の安全及び施設の活動の安全に影響を及ぼす事項(地盤,地震,火山等の外部事象の影響等)が幅広く含まれる趣旨であって,敷地外の避難計画を含む防災対策のみを念頭にした定めではないと解される。
(エ)他方,前記(3)エのとおり,IAEA安全基準であるNS-R-3の2.29は,
「住民に対する放射線影響の可能性,緊急時計画の実行可能性と
それらの実行を妨げる可能性のある外部事象や現象を考慮し,提案された立地地点に対する外部領域を設定しなければならない。プラント運転開始に先立つ外部領域に対する緊急時計画の設定において,克服できない障害が存在しないことをプラントの建設が始まる前に確認しなければならない。
」と規定している。しかし,
「克服できない障害」として具体
的にどのようなものが想定されているのかが必ずしも明らかではないこと,全ての国が原発の設置許可から運転開始までの間の段階的規制という形をとっているわけではないこと(証人佐藤暁)を考慮すると,これを直ちに,事業者(申請者)に対する設置許可という形で規制することを求める趣旨とは解されない。
なお,米国NRCの規則である10CFRのPart50(生産及び利用施設のための緊急時計画及び準備)によれば,事業者が作成する緊急時計画はNRCが妥当性や実行可能性を評価し,州や地域が作成する緊急時計画は連邦緊急事態管理庁(FEMA)が行った評価をもとにNRCが判断するものとされ,これらの緊急時計画に十分な防護措置が取られる保証があると判断されない限り,原発の新設の運転認可がされない旨,また,これらの緊急時計画は,運転認可の申請者が最終安全解析報告書に盛り込むことが要求されているが,建設・運転の統合認可の申請時に提出してもよい旨の規定が存在することが認められる(甲C97の1及び2,98,甲D117,124,乙イA14,乙ロA56,103,証人佐藤暁)
。すなわち,米国の規制要件上も,必ずしも設置許可段階で
緊急時計画の妥当性が許可条件とされているとはいえない。
(オ)したがって,設置許可(設置変更許可)の段階で防災計画が策定されていることが要件とされていないことが国際基準に照らし不合理であるとはいえない。

防災対策の妥当性について
原告らは,本件原発に関して実効性ある避難計画の策定は不可能であると主張するところ,本件原発に関しては,前記第1の1(7)のとおり,被告電源開発が本件設置変更許可申請及び平成26年工事計画認可申請をしたものの,前者の申請についてその内容の一部が審査中の段階にとどまり,地域防災計画や原子力事業者防災業務計画の作成段階に至っていない。そして,前記第1の2(2)のとおり,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の許可ですら,これがなされる具体的見通しが立っていない段階において,本件原発が,規制基準に適合せず人格権侵害をもたらす具体的危険性があると認めることは困難である上に,原子力災害に係る防災についても,原子力災害の特殊性を踏まえ,具体的に建設運転予定の原発の施設を前提として,自然的条件,社会的条件等との関連において,多角的,総合的見地からの検討が必要となることからすると,本件差止請求における本件原発の安全性との関係で検討されるべき防災対策の妥当性に係る裁判所の審理,判断は,現に建設運転予定の原発を前提に作成された防災対策を踏まえてされるよりほかはないというべきであって,本件原発については,かかる防災対策の作成も未だなされていない以上,避難計画の策定困難を理由に人格権侵害をもたらす具体的危険性があると認めることも困難である。また,原告らの主張を踏まえても,現時点において,被告電源開発及び関係機関が,本件原発に係る原子力災害予防対策,事後対策等を,今後(保安規定の認可の申請書を提出する日までに)
,提示することすら不可能と認
めるべき事情は認められないといわざるを得ない。
したがって,原告らの主張は採用できない。

第3その余の争点(争点3から13まで)について
1総論
その余の争点(争点3から13まで)は,主として又はもっぱら,具体的審査基準の合理性の問題を離れた本件原発の危険性が問われているものであるところ,前記第1の2で説示のとおり,本件差止請求における本件原発の安全性についての裁判所の審理,判断は,規制委員会の審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか否か,あるいは,同審査基準に適合するとの審議判断に不合理な点があるか否かという観点からなされるべきであり,審査基準の合理性又は同審査基準への適合性との関連性が明らかではない主張は失当というべきである。また,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の審査及び判断が未了の現時点において,同審査基準に適合しないことを理由として,重大な事故が発生する具体的危険性を直ちに認めることは困難であって,かかる理由で本件原発の建設,運転の差止めを認めることはできない。
そこで,当裁判所は,具体的審査基準の合理性が問題とされる点に限って,以下検討を加えることとする。
2争点3(基準地震動の策定)について
(1)関連する規制基準の概要

設置許可基準規則
設置許可基準規則(別紙2の第1(3),乙イD9の3)は,原子炉施設の地震による損傷の防止に関し,設計基準対象施設と重大事故等対処施設とに分けて規定している。
(ア)設計基準対象施設について
設計基準対象施設は,地震力に十分に耐えることができるものでなければならない(4条1項)
。また,設計基準対象施設のうち,耐震重要施
設は,基準地震動による地震力に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(同条3項)
。ここで基準地震動とは,その
供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による地震動(揺れ)をいう(同規則の解釈別記2の4一)

(イ)重大事故等対処施設について
重大事故等対処施設のうち,特定重大事故等対処施設は,地震力に十分耐えることができ,かつ,基準地震動による地震力に対して重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものとしなければならない(39条1項4号)

それ以外の重大事故等対処施設のうち,常設耐震重要重大事故防止設備*及び常設重大事故緩和設備*が設置されるものは,基準地震動による地震力に対して,重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものとしなければならず(同項1号,3号)
,常設耐震重要
重大事故防止設備以外の常設重大事故防止設備が設置されるものは,地震力に十分耐えることができるものとしなければならない(同項2号)。

設置許可基準規則の解釈
設置許可基準規則4条に係る解釈については,同規則の解釈(別紙2の第3(10),乙イD11の2)の別記2にまとめられており,同規則39条に係る解釈についても,同別記2に準ずるものとされている。
(ア)基準地震動は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとし,次の方針により策定すること(別記2の5)

a
基準地震動は,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び
「震源を特定せず策定する地震動」について,解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定すること。

b
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は,内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を複数選定し,選定した検討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定すること。
c
「震源を特定せずに策定する地震動」は,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し,これらを基に,各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定すること。
d
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せずに策定する地震動」については,それぞれが対応する超過確率(一定の期間中に対象とする事象がある基準値を超える確率)を参照し,それぞれ策定された地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率に相当するか把握すること。

(イ)基準地震動による地震力の算定に当たっては,以下に示す方法によること(別記2の7)

a
基準地震動による地震力は,基準地震動を用いて,水平2方向及び鉛直方向について適切に組み合わせたものとして算定すること。

b
基準地震動による地震力の算定に当たっては,地震応答解析手法の適用性及び適用限界等を考慮の上,適切な解析法を選定するとともに,十分な調査に基づく適切な解析条件を設定すること。

c
地震力の算定過程において建物・構築物の設定位置等で評価される入力地震動については,解放基盤表面からの地震波の伝播特性を適切に考慮するとともに,必要に応じて地盤の非線形応答に関する動的変形特性を考慮すること。また,敷地における観測記録に基づくとともに,最新の科学的・技術的知見を踏まえて,その妥当性が示されていること。


基準地震動審査ガイド
基準地震動審査ガイド(別紙2の第4(26),乙イD12の11)は,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の基準地震動策定及び耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が,設置許可基準規則及び同規則の解釈の趣旨を十分に踏まえ,基準地震動及び耐震設計方針の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とするものである。このうち,基準地震動の関係(同ガイドⅠ)では,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」
と「震源を特定せず策定する地震動」のそれぞれについての策定方針,検討用地震又は検討対象地震の選定,地震動評価の各場面における確認事項や,超過確率の算定に関する確認事項等について定められており,例えば,次のような規定がある。
(ア)敷地ごとに震源を特定して策定する地震動における検討用地震の選定に関し
内陸地殻内地震の起震断層,活動区間及びプレート間地震の震源領域に対応する震源特性パラメータに関して,既存文献の調査,変動地形学的調査,地表地質調査,地球物理学的調査の結果を踏まえ適切に設定されていることを確認する。震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連付ける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。
(Ⅰ3.
2.3(1),(2))
(イ)応答スペクトルに基づく地震動評価に関し
参照する距離減衰式に応じて適切なパラメータを設定する必要があり,併せて震源断層の拡がりや不均質性,断層破壊の伝播や震源メカニズムの影響が適切に考慮されていることを確認する(Ⅰ3.3.1(1)①2)。)
(ウ)断層モデルを用いた手法による地震動評価に関し
震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震調査研究推進本部による「震源断層を特定した地震の強振動予測手法」
(推本レシ
ピ)等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認する(Ⅰ3.3.2(4)①1)。

(エ)震源を特定せず策定する地震動に関し
震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震を検討対象地震として適切に選定し,それらの地震時に得られた震源近傍における観測記録を適切かつ十分に収集していることを確認する(Ⅰ4.2.1(1))

震源を特定せず策定する地震動の評価において,収集対象となる内陸地殻内の地震の例を表-1(省略)に示す(Ⅰ4.2.1解説(3))。
(オ)基準地震動の超過確率に関し
超過確率を参照する際には,基準地震動の応答スペクトルと地震ハザード解析による一様ハザードスペクトルを比較するとともに,当該結果の妥当性を確認する(Ⅰ6.1(2))
。地震ハザード解析による一様ハ
ザードスペクトルの算定においては,例えば日本原子力学会による「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007」や地震調査研究推進本部による「確率論的地震動予測地図」
(中略)等に
示される手法を適宜参考にして評価する(Ⅰ6.1解説(1))
各種のモデル化では,専門家の意見の相違をロジックツリーとして表すために,複数の専門家の情報が収集されていることを確認する(Ⅰ6.2.1(2))

不確実さ要因の分析結果に基づき,地震ハザードに大きな影響を及ぼす認識論的不確実さ(知識及び認識の不足による不確実さ)を選定してロジックツリーを作成し,ロジックツリーの分岐として考慮すべき項目が適切に設定されていることを確認する。また,ロジックツリーにおける各分岐で設定した重みの設定根拠を確認する。
(Ⅰ6.2.4(1))
作成したロジックツリーを用いて地震ハザード曲線群を算出し,信頼度別ハザード曲線や平均ハザード曲線の妥当性を検討するとともに,それらを踏まえて一様ハザードスペクトルが適切に算定されていることを確認する(Ⅰ6.2.5(1))

策定された基準地震動の応答スペクトルと地震ハザード解析による一様ハザードスペクトルを比較し,地震動の超過確率を適切に参照していることを確認する。参照にあたっては,地震動の超過確率のレベルを確認すると共に,地震ハザードに大きな影響を及ぼす地震と検討用地震との対応も確認する(Ⅰ6.2.6(1))


新耐震設計審査指針
新耐震設計審査指針(別紙3の1の(5),乙イB2,乙ロ10)は,新規制基準施行前までの耐震設計の安全審査の指針であり,昭和56年の旧耐震設計審査指針を平成18年9月に全面的に見直したものである。基準地震動は,旧耐震設計審査指針においては,基準地震動S1及び基準地震動S2の2種類に区分して策定することとされていたが,新耐震設計審査指針においては,
「基準地震動Ss」のみとし,
「敷地ごとに震源を特定
して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について,敷地における解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定することとされ,その基本的な枠組みは設置許可基準規則及び同規則の解釈(上記ア及びイ)に引き継がれている。

(2)IAEA安全基準SSG-9の定め
IAEA安全基準の個別安全指針であるSSG-9(甲B108,140)は,原子炉施設における地震ハザードを評価するための安全指針を提供するとともに,その手続を勧告するものであり(1.1)
,以下の規定が存在する。

地震動ハザードの評価について
地震動ハザードは,確率論的及び決定論的地震ハザード解析手法の両方によって評価することが望ましい(5.1)


第三者によるピアレビューについて
(ア)地震ハザード解析の複雑度を考慮し,独立のピアレビュー(第三者による評価,検証)を実施すべきである。ピアレビューをする者は当該確率論的地震ハザード解析の他部分に関与した者であってはならず,解析の結果に利害関係のある者であってもならない。
(11.18)
(イ)ピアレビューの目的は,地震ハザード解析がしかるべきプロセスに沿って適正に行われた確証を,また解析で認識論的不確定性が評価されている確証を,また,成果文書が完備されかつ検証可能である確証を得ることである(11.19)


(3)基準地震動の超過事例

我が国における超過事例
我が国の原発において,基準地震動を上回る地震動が観測されたのは,以下の5例である(後掲各証拠)



平成17年8月16日

宮城県沖で発生した地震

女川原発



平成19年3月25日

能登半島地震



平成19年7月16日

新潟県中越沖地震



平成23年3月11日

東北地方太平洋沖地震

福島第一原発



平成23年3月11日

東北地方太平洋沖地震

女川原発

志賀原発
柏崎刈羽原発

(以下,上記の番号に従い,
「事例①」などという。


事例①(乙ロB10,53)
平成17年8月16日に宮城県沖で地震が発生した際,女川原発1号機から3号機までの3基の原子炉は,いずれも「地震加速度大」のスクラム信号により自動停止し,点検の結果,一部の施設に損傷が認められたものの,安全上重要な設備に対して損傷は認められなかった。
各原子炉建屋で観測された地震動から求めた加速度応答スペクトルは,機器の設置されていない屋上を除き,全ての周期において,旧耐震設計審査指針の基準地震動S2(設計用限界地震)による応答スペクトルを下回っていた。他方,岩盤上で観測された地震データから上部地盤の影響を取り除いたデータを解析した結果,一部の周期において,基準地震動S2を超えている部分があった。

事例②(乙ロB54,55)
能登半島地震が発生した際,志賀原発1号機及び2号機の各原子炉建屋及び敷地地盤で観測されたデータから算定したこの地震動による応答スペクトルは,長周期側の一部の周期帯において,基準地震動S2を超えている部分があった。ただし,安全上重要な施設のほとんどは剛構造としているため,これらの固有周期(揺れやすい周期をいう)は短周期側に集中しており,また,基準地震動S2を上回る周期帯には安全上重要な施設はなかった。


事例③(乙ロB11,56,57,146から148まで)(ア)新潟県中越沖地震が発生した際,柏崎刈羽原発1号機から7号機で観測された地震観測記録に基づき,解放基盤表面における地震動の推定を実施したところ,基準地震動S2の最大加速度(450ガル)に対し,1号機から4号機では2.3倍から3.8倍,5号機から7号機では1.2倍から1.7倍の最大加速度となった。
このような増幅が生じた要因としては,同地震が震源において同じ地震規模の地震と比べ大きめの地震動を与える地震であったこと,地下深部地盤における堆積層の厚さと傾きの不整形性の影響で地震動が増幅したこと,発電所敷地下にある古い褶曲構造の地盤のために地震動が増幅したことが指摘された。
もっとも,新潟県中越沖地震の発生後,柏崎刈羽原発において安全上重要な設備の健全性には特段の問題は確認されなかった。この点について,IAEA調査団が平成19年8月18日に発表した報告書は,「安全
に関連する構造,システム及び機器は大地震であったにも関わらず,予想より非常に良い状態であり,目に見える損害はなかった。この理由として,設計プロセスの様々な段階で設計余裕が加えられていることに起因していると考えられる。
」としている。
(イ)当該事例を受けて,保安院は,平成19年12月27日付け及び平成20年9月4日付けで,既設原発の原子力事業者等に対し,前記(ア)の柏崎刈羽原発において観測された地震動が想定を上回った要因等を踏まえた,新耐震設計審査指針に基づく耐震安全性評価(耐震バックチェック)を指示し,被告電源開発に対しても,同日付けで,本件原発の工事計画の審査において検討結果を確認することを通知した(乙ロ15の1及び2)


事例④(乙ロB12,14)
東北地方太平洋沖地震が発生した際,福島第一原発1号機から6号機の各原子炉建屋の地下層において観測された最大加速度値は,基準地震動Ssに対する最大応答加速度値を一部上回ったが,上回ったものについても概ね基準地震動Ssと同程度であった(乙ロB14・表6.19参照)。


事例⑤(乙ロB13,61,62)
東北地方太平洋沖地震が発生した際,女川原発1号機から3号機の各原子炉建屋の各階で観測された最大加速度値は,基準地震動Ssに対する最大応答加速度値を一部上回ったが,上回ったものについても概ね基準地震動Ssと同程度であった(乙ロB13・表1参照)


(4)原告らの主張について

原告らは,基準地震動について,設置許可基準規則の解釈は「最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なもの」とされているのみであり(別記2の5)
,同規則の解釈や基準地
震動審査ガイドが多用する「適切に」との文言も,その具体的基準を示しておらず,要求事項が曖昧である旨を主張する。
この点,同規則の解釈(別記2の5)には,原告ら主張のとおりの記載があるが,これに続けて,より具体的な策定方針が定められているから(なお,前記(1)イの摘示は,そのうちの大枠を示したものである。,同規)
則の解釈における定めが原告らの主張する点にとどまるわけではなく,要求事項が曖昧であるともいえない。
とはいえ,設置許可基準規則,同規則の解釈,基準地震動審査ガイドにおいて,例えば,震源断層モデルの長さ・幅・深さ・傾斜角の設定方法,アスペリティの位置・個数の設定方法といった,基準地震動の策定過程における具体的手順が事細かに定められているというものではない。しかしながら,基準地震動は,震源を特定して策定する地震動と震源を特定せずに策定する地震動について,それぞれ広範な項目を検討し多数の過程を経て策定されるものであり,その検討においては,最新の科学的・技術的知見を踏まえることが求められるのであって,かかる事項に対する審査基準をあらかじめ個別かつ網羅的,一義的に定めることは極めて困難であり,かえって適正な審査を阻害することになりかねない。そもそも,安全性に係る審査基準は,現在の科学技術水準を構成する科学的,技術的知見が将来変わり得ることを前提に,安全性について審査する基準であって,概括的又は抽象的な規定となることはやむを得ないというべきであり,基準地震動の策定の適否については,高度の中立性,専門性を有する規制委員会が,その時点における最新の知見を踏まえて,臨機応変に審査すべきものである。また,基準地震動審査ガイドにおいても,推本レシピ(乙イB14,乙ロB324)等の最新の研究成果を考慮すべきものとされている(なお,推本レシピは,最新の知見を踏まえ頻繁に改訂されている〔乙ロB322,323,乙イD50〕)
。。
よって,設置許可基準規則,同規則の解釈あるいは基準地震動審査ガイドにおける要求事項が,曖昧さゆえに不合理であるとはいえない。イ
原告らは,新規制基準において,地震を起因とする確率論的安全評価(地震PSA)が徹底されておらず,SSG-9で採用されている第三者によるピアレビュー(前記(2))も規定されていないことが不合理である旨を主張する。
この点,設置許可基準規則の解釈では,前記(1)イ(ア)dのとおり,策定された地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率に相当するか把握することとされているにとどまるが,前記のとおり,最新の科学的,技術的知見が変動し得るものであることなどその性質に照らし,安全性に係る審査基準において個別かつ網羅的,一義的な規定を置くことには限界があることを考慮すると,これをもって直ちに不合理であるとはいえない。他方,基準地震動審査ガイドでは,前記(1)ウ(オ)のとおり,例えば日本原子力学会による「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007」
(甲B113,165)等に示される手法を適宜参考にして地震
PSAを行い,その妥当性を規制委員会が確認することとされ,その際,専門家の意見の相違が反映されるようにすることなどが求められており,客観的視点からの,地震を起因とする確率論的安全評価が推奨されているものと解される。また,IAEA安全基準のうち個別安全要件であるSSG-9は,確率論的地震ハザード評価や第三者による評価・検証(ピアレビュー)を推奨するものであって(前記第2の1(4)参照)
,必ずしも規制
要件化されることを求める趣旨とはいえず,我が国の新規制基準はこれに反するものとはいえない。
したがって,原告らの主張は採用できない。

また,原告らは,我が国では過去10年間に基準地震動を超える地震動が4回の地震で5件(延べ18基)の原子炉で生じていること,信頼性に足る基準地震動の策定が不可能であることを多くの学者が認めていること,観測記録が少ないこと等を指摘して,基準地震動の策定につき抜本的な見直しが必要であるのに新規制基準においてそれがなされていないと主張する。
しかし,前記(3)の基準地震動を超過する事例のうち,事例①から事例③までは,旧耐震設計審査指針に基づき策定された基準地震動S2を超えたというものであり(これらの事例を受けて,保安院が耐震バックチェックを指示したことは前記のとおりである。,新耐震設計審査指針の策定後に生)
じた事例④及び事例⑤はいずれも,旧原子炉等規制法の改正に伴う現在の審査基準が策定されるきっかけとなった福島原発事故の要因である東北地方太平洋沖地震により生じたものである(なお,いずれも観測された地震動の一部が基準地震動Ssを上回ったものの,概ね同程度であったものと認められる。。最新の知見が取り入れられる以前の過去における基準地震)
動の策定が結果的に相当ではなかったとしても,それが直ちに現在の審査基準の合理性を否定することにはならないというべきである。それはさて措くとしても,前記のとおり,現在の新規制基準では,基準地震動の策定過程における具体的手順や,確率論的安全評価の具体的手法が事細かに定められているというものではなく(そのこと自体が不合理とはいえないことは既に述べたとおりである。,そのような内容であることを踏まえると,)
新耐震設計審査指針と根本的に変わっていないからといって不合理であるということにはならない。また,新規制基準では,推本レシピ等の最新の研究成果を考慮すべきものとされており,科学的,技術的知見が変わり得ることを前提に最新の知見を取り入れるものとされているから,原告らの前記指摘あるいは原告らの指摘する地震学者らの見解(甲B100,102,106,107,110)が,具体的な調査審議における適合性判断の場面で何らかの形で問題になることはあり得るとしても,審査基準自体の不合理性を基礎付ける事情とはいえないというべきである。
3争点4(本件原発周辺の海底断層)について
(1)関連する規制基準の概要

基準地震動の策定について
基準地震動の策定に係る設置許可基準規則,同規則の解釈及び基準地震動審査ガイドの定めは,概要,前記2(1)アからウまでのとおりであり,このうち,
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定においては,内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,検討用地震を複数選定するなどとされているところ(前記2(1)イ(ア)b),内陸
地殻内地震に関して,設置許可基準規則の解釈には,次の規定がある。(ア)内陸地殻内地震に関しては,次に示す事項を考慮すること(同規則の解釈別記2の5二②)

a
震源として考慮する活断層の評価に当たっては,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすること。

b
震源モデルの形状及び震源特性パラメータ等の評価に当たっては,孤立した短い活断層の扱いに留意するとともに,複数の活断層の連動を考慮すること。

(イ)内陸地殻内地震について選定した検討用地震のうち,震源が敷地に極めて近い場合は,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価方法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,さらに十分な余裕を考慮して基準地震動を策定すること(同⑥)。

原子炉施設が設置される地盤について
(ア)設置許可基準規則
設置許可基準規則(乙イD9の3)は,原子炉施設が設置される地盤について,設計基準対象施設(同規則3条)と重大事故等対処施設(同規則38条)のそれぞれの施設に応じて,要求事項を定めているところ,このうち設計基準対象施設については,次の規定がある。
a
設計基準対象施設は,地震力(耐震重要施設にあっては,基準地震動による地震力)が作用した場合においても当該設計基準対象施設を十分に支持することができる地盤に設けなければならない(3条1項)。

b
耐震重要施設は,変形した場合においてもその安全機能が損なわれるおそれがない地盤に設けなければならない(同条2項)


c
耐震重要施設は,変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない(同条3項)


(イ)設置許可基準規則の解釈
設置許可基準規則の解釈(乙イD11の2)は,別記1において同規則3条(設計基準対象施設)に関する事項を定め,同規則38条(重大事故等対処施設)についても別記1に準ずるものとしているところ,同規則3条2項,3項に関し,次の規定がある。
a
同規則3条2項の「変形」とは,地震発生に伴う地殻変動によって生じる支持地盤の傾斜及び撓み(たわみ)並びに地震発生に伴う建物・構築物間の不等沈下,液状化及び揺すり込み沈下等の周辺地盤の変状をいう(別記1の2)

b
同規則3条3項の「変位」とは,将来活動する可能性のある断層等が活動することにより,地盤に与えるずれをいう。
また,同条項の「変位が生ずるおそれのない地盤に設け」るとは,耐震重要施設が将来活動する可能性のある断層等の露頭がある地盤に設置された場合,その断層等の活動によって安全機能に重大な影響を与えるおそれがあるため,当該施設を将来活動する可能性のある断層等の露頭がないことを確認した地盤に設置することをいう。
なお,前記の「将来活動する可能性のある断層等」とは,後期更新世以降(約12~13万年前以降)の活動が否定できない断層等とする。その認定に当たって,後期更新世の地形面又は地層が欠如する等,後期更新世以降の活動性が明確に判断できない場合には,中期更新世以降(約40万年前以降)まで遡って地形,地質・地質構造及び応力場等を総合的に検討した上で活動性を評価すること。なお,活動性の評価に当たって,設置面での確認が困難な場合には,当該断層の延長部で確認される断層等の性状等により,安全側に判断すること。
また,
「将来活動する可能性のある断層等」には,震源として考慮す
る活断層のほか,地震活動に伴って永久変位が生じる断層に加え,支持地盤まで変位及び変形が及ぶ地すべり面を含む。
(別記1の3)

(2)NRCの規制指針
NRCの規制指針(RegulatoryGuide)は,規制を行う際の具体的な見解(容認される例)をまとめた指針であり(乙イA13の2頁)
,NRCの規制
の特定部分を実施する際にNRCスタッフにとって受け入れ可能な方法,具体的な問題や想定される事故の評価時にスタッフが使用する技術,許可及び認可の申請書審査の際にNRCスタッフが必要とするデータ等について説明し,一般国民が利用できるように発行したものである。規制指針は規制に代わるものではなく,規制指針への準拠は必須ではない(乙イD67)。
NRC規制指針のRG4.7(Revision2,1998年)(甲D115,1
24,乙イD67)には,
「サイトに適しているのは,サイト周辺の半径5マ
イル以内に,地表又は地表近くの変形や活断層が存在する可能性がほとんどないこと」との記載がある。
(3)原告らの主張について
原告らは,地震の予想に限界があるにもかかわらず,新規制基準においては,大間北方沖活断層等の活動性が否定されない場合でも,それに応じた耐震設計をすることで本件原発の建設が許可される可能性があるところ,米国においては,NRCのRG4.7(Revision2)により,原子炉から半径5マイル(8km)以内に地表の変形や地震を引き起こす断層がないことが要求されており,かかる立地指針を欠く新規制基準は不備がある旨を主張する。しかし,原告らの指摘するRG4.7(Revision2)は,前記(2)のとおり,規制に代わるものではなく,当該指針への準拠は必須ではないとされており,法的拘束力のある規制基準とは認められないから,我が国において立地指針が規制要件とされていないことが国際的基準に反するとはいえない。また,設置許可基準規則では,原子炉施設の敷地及び周辺の外部事象に関する審査事項として,地盤(同規則3条)
,地震(同規則4条)
,津波(同規
則5条)及びそれ以外の外部事象(同規則6条)による損傷防止が定められており,かかる観点から,立地を含む個別具体的な判断がされるものといえる。例えば,前記(1)イのとおり,耐震重要施設を将来活動する可能性のある断層等の露頭がある地盤に設置しようとすれば,立地不適と評価されることになり(同規則3条3項,同規則の解釈別記1の3)
,その当否は具体的な調
査審議において判断される。他方,基準地震動の策定の場面では,前記(1)ア及び前記2(1)のとおり,震源として考慮する活断層について,各種調査に基づき活断層の位置,活動性等を評価した上で,詳細な検討の下に応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を行うなどし,これを踏まえ地震動による地震力に耐えるよう耐震重要度に応じた施設等の設計が行われることになる。これに対し,前記RG4.7の前記(2)の記載が,設置許可基準規則でいえば3条(地盤)に関するものであるか,4条(地震)に関するものであるか判然とせず,当該断層から想定される地震力や地盤の変形等について考慮することなく一律に原子炉から半径5マイルの範囲に断層がないことを要求する合理的根拠が明らかではない。よって,新規制基準に前記RG4.7のような規定がないからといって,そのことが不合理であるとはいえない。
4争点7(火山対策)について
(1)関連する規制基準の概要

設置許可基準規則6条
(ア)安全施設は,想定される自然現象(地震及び津波を除く。
)が発生した
場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(1項)。
(イ)重要安全施設は,当該重要安全施設に大きな影響を及ぼすおそれがあると想定される自然現象により当該重要安全施設に作用する衝撃及び設計基準事故時に生ずる応力を適切に考慮したものでなければならない(2項)


設置許可基準規則の解釈
(ア)前記ア(ア)の「想定される自然現象」とは,敷地の自然環境を基に,洪水,風(台風)
,竜巻,凍結,降水,積雪,落雷,地滑り,火山の影響,
生物学的事象又は森林火災等から適用されるものをいう(6条の2)。
(イ)前記ア(ア)の「想定される自然現象(地震及び津波を除く。)が発生し
た場合においても安全機能を損なわないもの」とは,設計上の考慮を要する自然現象又はその組み合わせに遭遇した場合において,自然事象そのものがもたらす環境条件及びその結果として施設で生じ得る環境条件において,その設備が有する安全機能が達成されることをいう(6条の3)


火山ガイド
火山ガイド(別紙2の第4(16),乙イD12の1)は,原発への火山影響を適切に評価するため,原発に影響を及ぼし得る火山の抽出,抽出された火山の火山活動に関する個別評価,原発に影響を及ぼし得る火山事象の抽出及びその影響評価のための方法と確認事項を取りまとめたものである(1.1)
。その内容は,以下に概観するとおりである。
(ア)火山影響評価の流れ
火山影響評価は,別紙31のとおり,立地評価と影響評価の2段階で行う。
立地評価では,当該原発に影響を及ぼし得る火山の抽出を行い,抽出された場合には,抽出された火山の火山活動に関する個別評価(設計対応不可能な火山事象が原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)を行う。
上記の個別評価で影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された場合は,火山活動のモニタリングと火山活動の兆候把握時の対応を適切に行うことを条件として,個々の火山事象に対する影響評価を行う。一方,その可能性が十分小さいと評価されない場合は,立地不適となる。影響評価では,個々の火山現象への設計対応及び運転対応の妥当性について評価を行う。
(2.柱書)
(イ)原発に影響を及ぼし得る火山の抽出
a
当該原発の地理的領域(半径160kmの範囲の領域)に対して,文献調査等で第四紀(約258万年前以降)に活動した火山を抽出する(3.柱書)

b
前記aの火山のうち,文献調査並びに地形・地質調査及び火山学的調査により,完新世(約1万年前以降)に活動を行った火山は,将来活動の可能性の否定できない火山として,後記(ウ)の個別評価の対象とする(3.3(1))


c
前記aの火山のうち,完新世に活動を行っていない火山については,前記のような各調査結果を基に,当該火山の第四紀の噴火時期,噴火規模,活動の休止期間を示す階段ダイヤグラムを作成し,より古い時期の活動を評価する。階段ダイヤグラムにおいて,火山活動が終息する傾向が顕著であり,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間より長い等,将来の活動可能性がないと判断できる場合は,個別評価の対象外とし,そうでない火山は,将来の活動可能性が否定できないものとして,後記(ウ)の個別評価の対象とする。
(3.3(2))

(ウ)原発の運用期間における火山活動に関する個別評価
a
前記(イ)b,cにより個別評価の対象とされた火山については,後記bのとおり原発の運転期間中における設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性の評価を行うが,この評価においては,過去の火山活動履歴とともに,必要に応じて,地球物理学的及び地球化学的調査を行い,現在の火山活動の状況も併せて評価する。地球物理学的観点からは,地震波速度構造,重力構造,比抵抗構造,地震活動及び地殻変動に関する検討により,マグマ溜まりの規模や位置,マグマの供給系に関連する地下構造等について分析し,地球化学的観点からは,火山噴出物等について分析することにより,火山の活動状況を把握する。
(4.柱書及び4.2)
なお,上記の「設計対応不可能な火山事象」は,①火砕物密度流,②溶岩流,③岩屑なだれ・地滑り及び斜面崩壊,④新しい火口の開口,⑤地殻変動とする。これらのうち,検討対象火山と原子力発電所との距離が前記火山事象ごとに定める一定の距離より大きいものについては,評価の対象外とすることができる。
(4.1(1))
b
対象検討火山の調査結果から,検討対象火山の活動可能性,噴火規模を推定した上で(推定できない場合は過去最大の噴火規模とする。,)
影響範囲等を判断し,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立地は不適当であると考えられる(4.1(2)及び(3))

他方,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できる場合には,過去の最大規模の噴火により設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達したと考えられる火山について,後記(エ)の火山活動のモニタリングの対象とし,運用期間中に火山活動の継続的な評価を行う(前同)


(エ)火山活動のモニタリング
過去の最大規模の噴火により設計対応不可能な火山事象が当該原発に到達したと考えられる火山を監視対象火山とし,噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することを目的として運用期間中のモニタリングを行う(5.柱書)

監視項目は,地震活動の観測(火山性地震の観測)
,地殻変動の観測
(GPS等を利用し地殻変動を観測)
,火山ガスの観測(放出される二酸
化硫黄や二酸化炭素量などの観測)であり,モニタリング結果を定期的に評価し,当該火山の活動状況を把握し,状況に変化がないことを確認する(5.2及び5.3前段)

事業者が実施すべきモニタリングは,原子炉の運転停止,核燃料の搬出等を行うための監視であり,火山専門家のみならず,原子力やその関連技術者により構成され,透明・公平性のあるモニタリング結果の評価を行う仕組みを構築する。事業者は,モニタリングにより火山活動の兆候を把握した場合の対処方針等を定める必要がある。
(5.3後段,5.
4)
(オ)火山事象の影響評価
a
前記(イ)b,cにより個別評価の対象とされた火山のうち,前記(ウ)bにより原発の運用期間中において設計対応不可能な火山事象によって当該原発の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された火山について,それが噴火した場合,当該原発に影響を与える可能性のある火山事象を抽出し,その影響評価を行う(6.柱書)


b
降下火砕物に関しては,前記(イ)の火山抽出の結果にかかわらず,当該原発の敷地及びその周辺調査から求められる単位面積当たりの質量と同等の火砕物が降下するものとして,その影響評価を行う(6.柱書及び6.1)

降下火砕物の影響評価では,降下火砕物の堆積物量,堆積速度,堆積期間及び火山灰等の特性などの設定並びに降雨等の同時期に想定される気象条件が火山灰等特性に及ぼす影響を考慮し,それらの原子炉施設又はその付属設備への影響を評価し,必要な場合には対策がとられ,求められている安全機能が担保されることを評価する(6.1(2))

原子力発電所内及びその周辺敷地において降下火砕物の堆積が観測されない場合は,次の方法により堆積物量を設定する(同解説-16)。
・類似する火山の降下火砕物堆積物の情報を基に求める。
・対象となる火山の噴火量,噴煙柱高,全体粒度分布及びその領域における風速分布の変動を高度及び関連パラメータの関数として,原子力発電所における降下火砕物の数値シミュレーションを行う
ことにより求める。数値シミュレーションに際しては,過去の噴
火履歴等の関連パラメータ並びに類似の火山降下火砕物堆積物等
の情報を参考とすることができる。
堆積速度,堆積期間については,類似火山の事象やシミュレーション等に基づいて,原子力発電所への間接的な影響も含めて評価する(同解説-17)

c
影響評価では,降下火砕物,火砕物密度流,溶岩流等,個々の火山事象ごとに,設計対応及び運転対応の妥当性について評価を行う(6.柱書,表2⑥)



火山ガイドの改定その他の検討について
(ア)規制委員会は,平成28年10月,電力中央研究所の「数値シミュレーションによる降下火山灰の輸送・堆積特性評価法の開発(その2)」
と題するレポートや産業技術総合研究所研究員らの「吸気フィルタの火山灰目詰試験」と題するレポートが同年4月にそれぞれ公表されたことなどを踏まえ,全国の既設炉(規制委員会において新規制基準への適合性が確認されたプラント)に対し,降下火砕物の影響評価につき,1980年のセントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを用いた評価と同様の評価を行うこと等を求めるとともに,これらのレポートで示された最新知見の妥当性を確認した上で,火山ガイドの改定その他の検討に着手することとした(甲B222,224,227,266,270)。
(イ)規制委員会は,降下火砕物の影響評価に関する検討チームを設け,平成29年3月29日(第1回)
,同年5月15日(第2回)
,同年6月2
2日(第3回)に会合を開催し,外部専門家及び事業者からの意見聴取等を行った。そして,第3回会合において,同検討チームから,気中降下火砕物濃度等の設定方法,当該濃度等の規制上の位置付け,規制上の要求事項についての基本的な考え方の案が示され,基準の改定に向けた作業が進められることとなった。
(甲B386から392まで,乙ロB3
82,383,393の1から4まで)
(2)IAEA安全基準

原子炉等施設の立地評価(NS-R-3)
原子炉等施設の立地評価に係る安全要件を定めるIAEA安全基準の安全要件NS-R-3(甲D81,前記第2の7(3)エ参照)には,「その他
の重要な検討事項」として,次のような規定が存在する。
(ア)火山活動,砂嵐,豪雨,降雪,氷結,降ひょう(雹)及び過冷却水の地表面下での凍結(氷塊)のような,原子炉等施設の安全を損なう可能性のある現象に関して歴史上のデータを収集し評価しなければならない。可能性が確認された場合,危険性を評価するとともに,これらの事象に対する設計根拠を導出しなければならない。
(3.52)
(イ)原子炉等施設への危険性が容認できず,また,現実的な解決策がない場合,立地地点は適していないと考えなければならない(3.55)。


原子炉等施設のサイト評価における火山ハザード(SSG-21)IAEA安全基準の安全指針であるSSG-21(甲B178,乙イB29の1・2)は,NS-R-3(前記ア(ア))で定められた原子力施設に関する安全要件のうち火山ハザードに関係した勧告を提供し,補足するものであり(1.1)
,その内容は,概略,以下のとおりである(別紙32参
照)

(ア)第1段階

初期評価

地理的領域(原子炉等施設に影響を与える可能性のある火山現象の性質と種類を考慮して定義される。
)において1000万年前以降(過去1
0Maの間)に火山活動があるかどうかをみて,火山活動がなければ設計基準事象ではないとされ,更なる調査は不要であるが,火山活動がある場合には第2段階に進む(3.5,3.6)

地理的領域内における火山活動は,個々の火山に関連する活動よりも長い時間スケールで持続し得る。多くの火山弧が1000万年以上にわたって火山活動を繰り返しているが,火山弧内の個々の火山自体は100万年程度しか活動を維持できない場合がある。このような分散した活動は数百万年も継続する可能性があるため,過去1000万年の間に火山活動があった地域は,将来の火山活動性を考慮すべきである。
(2.7)
(イ)第2段階

将来の火山活動の潜在的発生源の特性評価

初期評価により過去1000万年以内の火山源が地理的領域に存在していることが明らかになった場合には,その領域における火山プロセスに対する概念モデルを作成するのがよい。これは,次のような階層解析を用いて正当化を裏付けることができる。
(3.7,5.6から5.12
まで)
a
現在火山活動が行われていることが明らかな場合は,将来噴火の可能性があるため,第3段階へ進む。
完新世(過去約1万年間)の噴火の証拠は将来噴火があり得ることを示すものとして広く受け入れられていることから,完新世火山については,将来の噴火があり得るとみなされるべきであり,第3段階に進むことになる。
現在の活動又は完新世の活動の証拠が存在しない場合には,より古い活動時期について詳しく検討するのがよい。過去200万年の間の噴火記録は,一般に将来の火山活動の可能性が残っていることを示す。さらに,分散した火山域や,活動的でないカルデラは,およそ500万年の間に活動したものは,将来に火山活動の可能性をある程度示している場合がある。十分に評価されていることを確実にするため,地質データを評価して,当該地域の1000万年程度の古さの火山源が将来噴火する可能性を持つかどうかを判断するのがよい。

b
この第2段階では,将来の火山事象の可能性に関する確率論的解析を使用することができる。
決定論的手法もまた使用可能である。例えば,類似した火山を調査し,火山活動の最大休止期間を判別し,その活動の空白期間を閾値(しきいち)にすることも可能である。現在休止中の火山については,活動を再開する確率をこの閾値との比較によって評価できるであろう。付加的な決定論的手法として,火山系における時間と量の関係,もしくは岩石学的傾向が援用できる可能性がある。例えば,前期更新世あるいはより古い時期と時間と量の関係から,火山活動の明らかな減退傾向と明白な休止が明らかになるかもしれない。これらの他の基準に基づく解決ができない場合には,決定論的手法は単純に,1000万年よりも若いあらゆる火山においても噴火の可能性があると仮定するのがよい。
地理的領域で考慮される将来の火山活動が,定められた年発生確率より低い確率でしか起こり得ないとみなせることが分かるかもしれない。もしこの結論を担保する十分な証拠もある場合には,それ以上の検討は不要であり,それ以上の火山ハザード調査を行う必要はなくなる。逆に,十分な証拠がないこと,あるいは,対象地域の将来の火山活動の可能性があると考えられるという所見は,第3段階に進むことになる。
(ウ)第3段階

ハザードスクリーニング

サイト周辺における将来の火山活動可能性が明らかになった場合,あるいはその可能性が否定できない場合,災害事象がサイトに及ぼす影響を評価しなければならない。いくつかのケースでは,特定の災害事象は,サイトに到達する確率が無視できるために,それ以上の考慮が不要となるかもしれない。スクリーニングの決定においては,これらの事象が,火山現象の複合事象における二次的なプロセスやシナリオによって引き起こされる可能性があるかどうかを検討するのがよい。
(3.8,5.1
6等)
(エ)第4段階

サイトのハザード評価

考慮すべき火山が区分できた場合,サイト固有の火山ハザードの評価を実施する。この評価は,サイトに影響を及ぼし得る特定の現象と,それらの事象の潜在的な因果関係の双方を検討する。
決定論的手法と確率論的手法の組み合わせが火山ハザード評価においても必要な場合がある。
火山灰(降下火砕物)を作り出す噴火の発生頻度や火山灰発生源とサイトの間の気象条件を考慮すべきであり,決定論的手法でも様々なパラメータの不確実性は考慮されなければならず,確率論的手法では,サイトの降下火砕物の数値シミュレーションを使用するのがよい。
(3.2(ⅳ)
,6章)
(3)原告らの主張について

原告らは,火山ガイドは第四紀(約258万年前以降)に活動をしていない火山を評価の対象外としていることについて,SSG-21が過去1000万年間に活動のあった火山について将来の活動可能性を検討すべきとしていることに反する旨を主張する。
前記(1)ウのとおり,火山ガイドにおける火山影響評価では,まず地理的領域の第四紀火山を抽出することとされているところ,日本列島は,プレートが沈み込む海溝に沿って位置しており,日本列島の火山もプレートが沈み込むところに分布する火山に当たるため,その寿命は一般に,数十万年から100万年程度と考えられていること,日本列島の基本的な骨組みができたのは鮮新世の頃であって,それ以前に活動した火山は既に寿命を終えており,そもそも日本列島の形成に伴い地理的場所が移動しているなどするため現在そのような火山の位置を確認することができず,日本において258万年間の休止期間を経た後に火山活動を再開したという火山が存在していないこと(乙ロB213の117頁,357,358,乙イD41の268頁)からすれば,日本において,第四紀火山すなわち過去258万年間に活動した火山を抽出するものとされていることには,十分な合理性が認められる。
また,現に,原告らが将来の活動可能性を指摘する火山(洞爺カルデラ,銭亀,恐山,陸奥燧岳,恵山,北海道駒ケ岳)は,いずれも第四紀火山であり,本件設置変更許可申請においても第四紀火山として挙げられていること(乙ロD1-2-2・6-7-18頁等。別紙22参照)
,原告らは,
約258万年より前の具体的な火山に関する危険性を主張していないことからして,過去1000万年間を抽出対象とするか過去258万年間を抽出対象とするかによって本件原発の安全性に係る評価が変わるものとはいえない。
以上のとおり,日本列島の火山の実情からすれば,火山ガイドが第四紀に活動をしていない火山を評価の対象外にしている点は不合理とはいえず,また,本件原発の危険性に係る判断に影響するものでもない。

原告らは,火山ガイドが,完新世(約1万1700年前以降)に活動をしていない第四紀火山について,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間より長いなど将来の活動可能性がないと判断できる場合に,個別評価の対象外としていることは,SSG-21が過去200万年間の噴火記録は一般に活動可能性があるとしていることに反する旨を主張する。しかし,前記(2)イ(イ)aのとおり,SSG-21は,一般論として(SSG-21の5.10)
,過去200万年間の噴火記録が将来の活動可能性
があることを示すことを指摘するものであって,この場合においては,地質データを評価して,当該地域の1000万年程度の古さの火山が将来噴火する可能性を持つかどうかを判断することを推奨している上,火山ガイドが採用する決定論的手法も許容している。
よって,火山ガイドが,完新世に活動をしていない第四紀火山について一定の場合に個別評価の対象外としていることをもって,直ちにSSG-21に反するとはいえない。
なお,原告らは,火山ガイドの案の段階では過去にVEI=6以上の大規模噴火を起こした第四紀火山は将来の活動可能性が否定できない火山として個別評価の対象としていたのに対し(甲B179の8頁)
,策定された
火山ガイドで当該規定が削除されたのは,事業者の便宜のためではないかと指摘しているが,火山ガイドの策定過程を見ると,火山ガイドの案に対するパブリックコメントにおいて,規定に矛盾があるとの指摘を受けて規定が削除されたものと認められるから(乙イB30)
,事業者の便宜のため
との原告らの憶測は当たらない。

原告らは,火山ガイドによると,例えば8万年前と5万年前の2回しか活動していない火山については,無条件に将来の活動可能性が否定されることになり不合理である旨を主張する。しかし,前記(1)ウ(イ)cのとおり,火山ガイドの3.3(2)の規定は,単に最後の活動終了からの期間と過去の最大休止期間の比較からのみ将来の活動可能性を判断するとしているわけではなく,こうした比較に加え,過去の噴火状況を示す階段ダイヤグラムから火山活動終息の傾向が顕著といえることをも要件としているから,原告が指摘するケースにおいて当然に将来の活動可能性が否定されるものではなく,その当否は具体的な調査審議(適合性判断)の当否に帰着するものである。


原告らは,火山ガイドにおいて,当該原発の地理的領域内に将来の活動可能性が否定できない火山が存在する場合であっても,設計対応不可能な火山事象が当該原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分に小さいといえる場合には,当該原発の設置が許可され得るとされていることについて,当該原発の運用期間中に当該火山が噴火する可能性やその規模を的確に予測することは困難であって,過去に設計対応不可能な火山現象が到達したとみられる原発を立地不適としないことは不合理である旨を主張する。しかし,前記(2)イ(ウ)のとおり,SSG-21は,サイト周辺における将来の火山活動可能性が明らかになった場合,あるいはその可能性が否定できない場合,災害事象がサイトに及ぼす影響を評価しなければならないとした上で,いくつかのケースでは,特定の災害現象は,サイトに到達する確率が無視できるために,それ以上の考慮が不要となるかもしれないと規定しているのであって(SSG-21の5.16)
,地理的領域内に将来
の活動可能性が否定できない火山が存在する場合であっても,その影響の到達可能性を評価して更なる検討から除外することを許容しており,火山ガイドの当該規定もこれに沿うものといえるから,火山ガイドの当該規定が不合理であるとはいえない。

原告らは,英国の原子力コンサルタントであるジョン・ラージ氏のレポート(甲B121の1・2,別紙21参照)を援用して,火山ガイドには,NRCが通常行う審査やIAEAが勧告する原発の立地審査基準において設定される降灰確率,風向き,火山灰の密度等の詳細なパラメータに関する具体的な規定がない旨を主張する。
しかし,上記レポートがIAEAやNRCのいかなる規定等を参照して火山ガイドと比較しているのかは必ずしも明らかではなく,確立された国際基準として,具体的かつ詳細なパラメータを規制基準として示すことが求められているものとは直ちに認め難い。安全性に係る審査基準は,現在の科学技術水準を構成する科学的,技術的知見が将来変わり得ることを前提に,安全性につき審査する基準であって,一定程度の概括的な規定となることはやむを得ないものであり,降下火砕物の影響評価等についても,具体的な調査審議において,高度の専門性を有する規制委員会がその時点における最新の知見を踏まえて審査すべきであるから,火山ガイドを含む新規制基準において,原告らが指摘するような詳細なパラメータの定めがないことをもって不合理であるとはいえない。
よって,上記レポートの存在から,火山ガイドの定めが国際基準と比較して不合理であるということはできない。
5争点8(津波対策)について
(1)関連する規制基準の概要

設置許可基準規則
同規則(乙イD9の3)は,設計基準対象施設につき,基準津波(施設の供用中に当該施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならないとし(5条),重
大事故等対処施設につき,基準津波に対して重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものでなければならないとしている(40条)



設置許可基準規則の解釈
同規則の解釈(乙イD11の2)は,上記アの規定に関し,別記3において基準津波の策定方針と耐津波設計方針について定めている。このうち基準津波の策定に関しては,津波の発生要因として,地震のほか,地すべり,斜面崩壊その他の地震以外の要因,これらの組合せによるものを複数選定することとされ(別記3の1)
,国内のみならず世界で起きた大規模な
津波事例を踏まえて検討すること(別記3の2二)
,不確かさを考慮した数
値解析(別記3の2六)
,最新の科学的・技術的知見を踏まえること(別記
3の2八)
,基準津波の超過確率を把握すること(別記3の2九)などが求
められている。


津波審査ガイド
津波審査ガイド(別紙2の第4の(27),乙イD12の12)は,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の基準津波策定及び耐津波設計方針に係る審査において,審査官等が,設置許可基準規則及び同規則の解釈の趣旨を十分踏まえ,基準津波策定及び耐津波設計方針の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とするものであり(同ガイドⅠ1.1及びⅡ1.1)
,このうち基準津波策定における国内外で起きた大規模な津波事例の考慮に関し,次の規定が存在する。
(ア)プレート間地震に起因する津波発生事例(Ⅰ3.3.2解説(1))巨大津波の例としては,1952年カムチャツカ地震(Mw9.0),
1960年チリ地震(Mw9.5)
,1964年アラスカ地震(Mw9.
2)
,2004年スマトラ沖地震(Mw9.1)
,2011年東北地方太
平洋沖地震(Mw9.0)が挙げられる。また,津波地震の発生事例としては,1946年アリューシャン地震(Mt*9.3)及び1896年明治三陸地震(Mt8.6-9.0)が挙げられる。
(イ)海洋プレート内地震に起因する津波発生事例(Ⅰ3.3.3解説(1))正断層型のアウターライズ地震の代表例として,1933年昭和三陸地震(Mw8.4)が挙げられる。また,2012年インドネシア・スマトラ島北部西方沖の地震(Mw8.6)は横ずれ断層型であるが,アウターライズで発生した地震の例として挙げられる。
(ウ)海域の活断層による地殻内地震に起因する津波発生事例(Ⅰ3.3.4解説(1))
事例としては,1983年日本海中部地震津波(Mw7.9)及び1993年北海道南西沖地震津波(Mw7.7)が挙げられる。
(エ)地すべり等に起因する津波発生事例(Ⅰ3.3.5解説(1))1958年リツヤ湾の津波は,地震の揺れの後に発生した斜面崩壊によって発生した。また,1946年アリューシャン津波地震,1964年アラスカ地震津波(Mw9.2)及び1998年パプアニューギニア地震津波(Mw7.1)は,地震の地殻変動による津波と地震動による沿岸部あるいは海底での地すべりによる津波の両方が同時に発生した可能性が高い。
(オ)火山現象に起因する津波発生事例(Ⅰ3.3.6解説(1))1640年北海道駒ヶ岳噴火津波,1741年渡島大島火山津波,1792年島原眉山崩壊による津波は,火山噴火あるいは火山性地震による山体崩壊後の土砂崩れ(岩屑なだれ)の発生が原因であるとされている。また,1883年インドネシア・クラカタウ火山津波は,火山噴火によるカルデラ陥没形成や海中爆発が原因と考えられている。
(2)原告らの主張について
原告らは,津波審査ガイドでは日本海側の検討対象が限定的であり,日本海で今後発生が想定される地震について十分な検証ができていない状況において,新規制基準における津波想定手法の見直しが不十分であると主張する。しかし,日本海を震源とする地震に伴う津波事例が太平洋側と比較して少ないからといって,そのことが直ちに検討不十分ということにはならず,また,原告らが指摘する国土交通省の「日本海における大規模地震に関する調査検討会」は,平成26年8月頃,検討結果の報告をしているところ(乙イB17)
,その中では十分な検証ができていないとの指摘はされていない。いずれにせよ,原発の安全性に関わる調査審議は,最新の科学技術水準を踏まえてなされるものであり,最新の科学的・技術的知見を踏まえること(前記(1)イ)とする新規制基準が不合理であるとはいえない。
第4小括
以上のとおり,最新の科学技術水準を踏まえ,確立された国際基準からみて,規制委員会が本件原発の安全審査に用いる具体的審査基準に不合理な点は認められず,また,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の安全審査及び処分が未だなされておらず,本件原発が運転を開始する具体的な目途も立っていない現時点において,本件原発に過酷事故発生の具体的危険性があることを理由として,その建設及び運転の差止めを認めることはできないというべきであるから,原告らの被告電源開発に対する差止請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
第4章当裁判所の判断

その2-被告らに対する各慰謝料請求について

第1争点15(原告らの法益侵害及び損害の発生)について
事案に鑑み,まず原告らの主張する法益侵害が生じているかについて検討する。1
民法上の不法行為に基づく損害賠償請求(同法709条)も,その特別法で
ある国賠法1条1項に基づく損害賠償請求も,法益侵害のあることが前提となるものであるところ,原告らは,生命,身体に対する侵害への恐怖や不安な気持ちを抱かされない,内心の静穏な感情及び生活を害されないという人格的利益をこれらの請求に係る被侵害利益として主張している。
一般に,生命・身体という重要な保護法益に対する侵害について不法行為が成立し得ることは当然として,名誉・信用の毀損や騒音・日照権侵害等の生活利益の侵害といった人格的利益の侵害についても,不法行為を構成する場合があり得るものであるが,とりわけ生活利益や内心の静穏な感情といった,人によって受け止め方に差の生じ得る主観的利益については,各人の価値観が多様化し,精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会において,他者の社会的活動との調和を充分に図る必要があるから,仮に人がその侵害により精神的苦痛を受けることがあっても,一定の限度では甘受すべきものであって,およそその侵害が全て賠償責任の対象となるものではなく,社会通念上容認される限度を超えるものに限って法的保護の対象になり得るというべきである。2
前記第3章第1の1(7),(8)で認定したとおり,現時点において,本件原発
は,原子炉建屋やタービン建屋等の建設作業中で,本件原発の主要な機器(圧力容器,タービン,発電機など)や核燃料物質は,未だ本件敷地内に搬入されておらず,旧原子炉等規制法下において運転していたこともない。前記第3章第1の1(6)のとおり,旧原子炉等規制法の下で原子炉設置許可処分がなされたとしても,現時点で直ちにこれに基づき原子炉の設置及び運転をすることは不可能であり,改正原子炉等規制法及び新規制基準の下での規制委員会の許認可や検査を受けない限り,具体的,現実的に本件原子炉が設置,運転される見込みはない。したがって,現時点において,本件原発の設置,運転あるいは重大な事故発生による原告らに対する生命,身体への侵害につき,原告らの居住区域いかんにかかわらず,未だその現実的なおそれは生じていないというべきである。
また,被告電源開発は,改正原子炉等規制法の施行に伴い本件原発の建設,運転に必要とされる設置変更許可を受けるべく,規制委員会に対し本件設置変更許可申請をしたが,現在,規制委員会において新規制基準への適合性に係る審査が継続されている段階であって,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の許可がなされる目途も立っていないことに照らすと,現時点において,本件原発の運転等に伴う具体的,現実的な健康被害やそのおそれが発生していないというのみにとどまらず,運転開始の見込みが高いゆえに重大な事故の発生により放射性物質が本件敷地外に放出される具体的危険性がある,ということもできない。そうすると,原告らの主張する不安な気持ちは,現時点においては,極めて抽象的なものにとどまり,社会通念上受忍限度を超えるものともいえないというべきであって,原告らに対する法律上保護されるべき法益侵害は未だ生じていないといわざるを得ない。
第2小括
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告らに対する各慰謝料請求は,いずれも理由がない。
第5章結論
以上の次第で,原告らが,規制委員会が本件原発の安全審査に用いる具体的審査基準に不合理な点があると主張するいずれの事項についても,不合理であるとは認められず,未だ規制委員会の判断がなされておらず,本件原発の運転開始の目途も立っていない現時点(本件口頭弁論終結時)においては,本件原発の重大な事故発生に伴う放射性物質の放出等の具体的危険があるとは認められない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告電源開発に対する本件原発の建設及び運転の差止請求は,いずれも理由がない。また,上記のとおり,本件原発の運転開始の目途も立っていない現時点においては,本件原発の重大な事故発生に伴う放射性物質の放出等に対する原告らの不安感は抽象的なものにとどまると認められ,原告らの主張する法益侵害が生じているとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告らに対する各慰謝料請求は,いずれも理由がない。
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。函館地方裁判所民事部

裁判長裁判官

浅岡千
裁判官

布施雄士
裁判官

山田将之香子略語等一覧表
本判決中,主な略語及び語句注については,本文中に記載したものを含め,以下のとおりである(五十音順。本文中に「*」と記載することがある。)。略語・語句

備考

米国の連邦規則Title10


内容・意味

乙イA13

(Title10oftheCodeofFederalRegulations)エネルギー関係の連邦規則であり,このうちNRC*
10CFR
関係は,10CFRのPart0~199,DOE(エネルギー
省)関係は,10CFRのPart200~1000となってい
る。
A
改良型沸騰水型原子炉
ABWR
(AdvancedBoilingWaterReactor)
原子炉停止機能喪失(事象)。
ATWS

スクラム*失敗事象ともいう。
(AnticipatedTransientwithoutScram)
B
BWR

沸騰水型原子炉(BoilingWaterReactor)

Bq

→ベクレル

E
非常用炉心冷却設備
ECCS

別紙2の

(EmergencyCoreCoolingSystem)

第1(3)

(設置許可基準規則*19条参照)
欧州電力事業者要求事項

乙イA9,10

(EuropeanUtilityRequirements)

参照

キセノン,クリプトン,ヨウ素など気体状の核分裂生

乙ロA37の

成物のこと。放射性希ガスはこれに含まれる。

18頁

EUR

F
FPガス

xJ
一般社団法人日本電気協会が制定した「原子力発
電所耐震設計技術指針」。数次にわたる改訂がさ
JEAG4601

乙ロB18,
19,20,22

れ,JEAG4601-1987,JEAG4601・補-1984,JEAG4601-1991追補版,JEAG4601-2008等が発行されている。
一般社団法人日本電気協会が制定した「原子力発

乙ロB173,

電所火山影響評価技術指針」。JEAG4625-2009,

227,228

JEAG4625
JEAG4625-2014,JEAG4625-2015が発行されている。
I
国際原子力機関

乙イD41の

(InternationalAtomicEnergyAgency)
60頁参照

原子力の平和的利用を促進するとともに,原子力
IAEA
が平和的利用から軍事的利用に転用されることを
防止することを目的として,IAEA憲章に基づき195
7年(昭和32年)発足した国際機関。
国際原子力安全諮問グループ

乙イA7

(InternationalNuclearSafetyGroup)INSAG

IAEA*事務局長の諮問機関であり,現在及び近
い将来の原子力安全問題に関する勧告と意見を
IAEA*等に提供する目的で組織されている。
INSAGのレポート

乙イA8,

原子力発電所の基本安全原則(BasicSafety

乙ロA90

INSAG-12
PrinciplesforNuclearPowerPlants)75-INSAG-3Rev.1(1999年)

xi

L
原子炉の冷却材喪失事故
(LossofCoolantAccident)
LOCA

別紙2の
第4(21)

圧力容器に繋がる配管の破断等により冷却材が喪
失し,圧力容器内の水位が低下するような異常事
態。(有効性評価ガイド*参照)

M
マグニチュード(気象庁マグニチュード)
地震の規模の大きさを表す尺度であり,地震計の

52頁,

種類や計算方法によって様々なマグニチュードがあ

乙ロB97の

るが,日本では気象庁マグニチュードが一般に用い

M
乙ロB22の

27頁参照

られている。
海洋酸素同位体ステージ

乙ロB212

(MarineIsotopeStage)

の29頁

地球の気候変動サイクルのステージ区分。間氷期
(温暖期)に奇数番号が,氷期(寒冷期)に偶数番
号が,それぞれ新しい順に付されている。各ステー
MIS

ジ中,特徴的なピークにはアルファベット又は小数
点以下の番号が付されており,例えば,ステージ5
(12万年前~8万年前の最終間氷期)では新しい
方から順に5a,5b,5c,5d,5eの5期に細分され
ており,MIS5eは最終間氷期の最盛期に当たる約
12.5万年前の時期になる。

xii

三浦大助ほか「北日本,恵山火山複合体の過去5

乙ロB78

万年間の噴火史,火道の移動及びマグマの定常的
Miura,etal.(20

噴出」

13)

(Eruptionhistory,conduitmigration,andsteadydischargeofmagmaforthepast50,000yratEsanvolcaniccomplex,northernJapan)(2013年)ウラン・プルトニウム混合酸化物

乙ロA37の

(MixedOxide)

34頁

異常影響緩和系(MitigationSystem)

別紙3の1

原子炉施設の異常状態において,この拡大を防止

の(4)

MOX

し,又はこれを速やかに収束せしめ,もって一般公
MS
衆ないし従事者に及ぼすおそれのある過度の放射
線被ばくを防止し,又は緩和する機能を有するもの
(重要度分類審査指針*参照)
乙ロB4の
102頁,乙
Mt

津波マグニチュード

ロB64の1
の1-18頁
参照

モーメントマグニチュード
断層面の面積と断層のすべり量(ずれの量)から求
Mw

乙ロB22の
52頁,

められ,物理的意味の明確なマグニチュード。規模

乙ロB97の

の大きな地震ではM*(気象庁マグニチュード)の飽

27頁参照

和が起こるため,Mwが用いられる。

xiii

N
野田静男ほか「岩盤上の剛構造物に対する設計用

乙ロB25

応答スペクトル」2002年
Noda,etal.(200
(Noda,etal.“RESPONSESPECTRAFOR2)
DESIGNPURPOSEOFSTIFFSTRUCTURESONROCKSITES”)
アメリカ合衆国原子力規制委員会

乙イA13参

NRC
(UnitedStatesNuclearRegulatoryCommission)

IAEA安全基準-安全要件(SafetyRequirement)
甲D81

原子炉等施設の立地評価(SiteEvaluationfor

(甲D130の

NuclearInstallations)No.NS-R-3(2003年)
1の105頁

なお,NS-R-3(Rev.1)は2016年

参照)

異常発生防止系(PreventionSystem)

別紙3の1

その機能の喪失により,原子炉施設を異常状態に

の(4)

NS-R-3

P
PS

陥れ,もって一般公衆ないし従事者に過度の放射
線被ばくを及ぼすおそれのあるもの
(重要度分類審査指針*参照)
確率論的安全性評価/確率論的リスク評価

別紙2の

(ProbabilisticSafety/RiskAssessment)
第3(10)

シビアアクシデント*を対象として,機器の故障など
PSA/PRA

事故の発端となる事象の発生頻度とその影響を定
量的に評価することにより原発の安全性を総合的
に評価する手法であり,PRAとも呼ばれる。
(設置許可基準規則の解釈*37条,参照)
加圧水型原子炉

PWR
(PressurizedWaterReactor)

xiv

R
rem

S
→レム
全交流動力電源喪失
(StationBlackout)

SBO
原子力発電所に全ての交流動力電源を供給できな
くなった状態。
IAEA安全基準(SafetyStandards)-個別安全指針(SpecificSafetyGuide)
SSG-21

甲B178,
乙イB29

原子炉等施設のサイト評価における火山ハザード

の1~2

(VolcanicHazardsinSiteEvaluationforNuclearInstallations)No.SSG‐21(2012年)IAEA安全基準-個別安全指針(SpecificSafetyGuide)
SSG-9

甲B108,
甲B140

原子炉等施設のサイト評価における地震ハザード
(SeismicHazardsinSiteEvaluationforNuclearInstallations)No.SSG‐9(2013年)
IAEA安全基準-個別安全要件(SpecificSafetyRequirements)

SSR-2/1

甲D80,乙
ロD24

原子力発電所の安全:設計(SafetyofNuclear
PowerPlants:Design)No.SSR‐2/1(2012年)
乙イD63

なお,SSR-2/1(Rev.1)は2013年

(Rev.1)

Sv
T
→シーベルト

T.P.

東京湾平均海面

xv

V
火山爆発指数

甲B33

(VolcanicExplosivityIndex)
VEI

噴出物の量で火山の爆発規模の大きさを表し,0~
8に区分される。VEI=0が最小,VEI=8が最大で
ある。

W
西欧原子力規制者会議

乙イA12参

(WesternEuropeanNuclearRegulators

Association)
WENRA

ヨーロッパ域内の原子力安全情報の共有促進,
ヨーロッパの原子力安全規制機関の長の間のネッ
トワークとして機能することを目的として,欧州各国
の規制機関の長により構成される会議体。


甲B30,乙
震源断層面*において,固着の強さが周囲に比べ
イB9,乙イ
アスペリティ

て特に大きい領域のこと。すべり量が大きく強い地
D41の218
震波を出す強振動生成領域である。
頁参照
原子力安全委員会
平成24年法律第47号による改正前の原子力委員
会及び原子力安全委員会設置法(同法は,同改正
により,法律の題名が「原子力委員会設置法」に改

安全委員会
正された。)に基づき,内閣府に設置された審議会
等の一つ。
規制委員会設置法*(平成24年法律第47号)の施
行と同時に,平成24年9月19日廃止された。

xvi

発電用原子炉施設の安全性を確保するために必

別紙2の

要な機能であって,次に掲げるものをいう。

第1(3)

・その機能の喪失により,発電用原子炉施設に運
転時の異常な過渡変化*又は設計基準事故*が発
生し,これにより公衆又は従事者に放射線障害を
及ぼすおそれがある機能
安全機能

・発電用原子炉施設の運転時の異常な過渡変化*
又は設計基準事故*の拡大を防止し,又は速やか
にその事故を収束させることにより,公衆又は従事
者に及ぼすおそれがある放射線障害を防止し,及
び放射性物質が発電用原子炉を設置する工場等
外へ放出されることを抑制し,又は防止する機能
(設置許可基準規則*2条2項5号)
独立行政法人原子力安全基盤機構
(JapanNuclearEnergySafetyOrganization)
安全基盤機構

(旧)独立行政法人原子力安全基盤機構法(平成1

(JNES)

4年法律第179号)に基づき設立された独立行政
法人。平成26年3月1日解散し,規制委員会*に統
合された。
設計基準対象施設*のうち,安全機能*を有するも

別紙2の

の(設置許可基準規則*2条2項8号)

第1(3)

発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査

別紙3の1

指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決定)

の(3)

安全施設

安全設計審査指針

xvii

発電用軽水型原子炉施設の安全性を確保するた

別紙3の1

めに必要な各種の機能について,安全上の見地か

の(4)参照

安全重要度分類
らそれらの相対的重要度を定めたもの
(重要度分類審査指針*参照)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審
安全評価審査指針

別紙3の1

査指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決

の(9)

定)
い伊方原発最高裁判

平成4年10月29日最高裁判所第1小法廷判決
(民集46巻7号1174頁)
入倉孝次郎,三宅弘恵「シナリオ地震の強震動予

乙ロB131

入倉・三宅(2001)
測」(地学雑誌第110巻6号所収)


通常運転時に予想される機械又は器具の単一の

別紙2の

故障若しくはその誤作動又は運転員の単一の誤操

第1(3)

作及びこれらと類似の頻度で発生すると予想される
運転時の異常な過

外乱によって発生する異常な状態であって,当該状

渡変化

態が継続した場合には発電用原子炉の炉心又は
原子炉冷却材圧力バウンダリ*の著しい損傷が生
ずるおそれがあるものとして安全設計上想定すべき
もの。(設置許可基準規則*2条2項3号)

xviii


地震動がいろいろな固有周期(構造物が個別に有

乙イB13

している揺れやすい周期)を持つ建物・構築物及び

参照

機器・配管系に対して,どのような揺れの強さ(応
応答スペクトル

答)を生じさせるかを,縦軸に加速度・速度等の最
大応答値,横軸に固有周期(又はその逆数の固有
振動数)をとって,分かり易いように描いたものをい
う。
震源断層面*上に蓄積されていたせん断応力(物

乙イD41の

体内部でずれを生じさせる力)は,震源断層面*の

221頁参照

ずれ(断層破壊,地震)のエネルギーとなって,その
応力降下量

全部あるいは一部が解放されるところ,応力降下量
とは,この解放されたせん断応力,すなわち,地震
発生直前のせん断応力と,地震発生直後のせん断
応力との差のことをいう。

女川原発
か改正原子炉等規制

東北電力*の女川原子力発電所
平成24年法律第47号による改正後の原子炉等規


制法*

海成段丘

海の作用で作られた段丘*。なお,河川が作った段


海成段丘面

丘は河成段丘という。
海成段丘での平坦地を海成段丘面という。

xix

乙ロB212

基準地震動*を策定するために,基盤面上の表層

別紙2の

及び構造物が無いものとして仮想的に設定する自

第3(10),

由表面であって,著しく高低差がなく,ほぼ水平で

第4(26),

相当な拡がりを持って想定される基盤の表面をい

別紙3の1

う。ここでいう基盤とは,おおむね,せん断波速度

の(5)

解放基盤表面
Vs=700m/s以上の硬質地盤であって,著しい風化
を受けていないものをいう。
(設置許可基準規則の解釈*別記2の5一,基準地
震動審査ガイド*Ⅰの1.3(1),新耐震設計審査指
針*参照)
沈み込む(沈み込んだ)海洋プレート内部で発生す

別紙2の

る地震をいい,海溝軸付近又はそのやや沖合で発

第3(10)

海洋プレート内地

生する「沈み込む海洋プレート内の地震」又は海溝


軸付近から陸側で発生する「沈み込んだ海洋プ
レート内の地震(スラブ内地震)」の2種類に分けら
れる。(設置許可基準規則の解釈*別記2の5二)
原子力発電所の火山影響評価ガイド

別紙2の

(平成25年6月19日原子力規制委員会決定)

第4(16)

火山災害を引き起こすおそれのある,火山に関連し

別紙2の

たあらゆる事象若しくは一連の現象。噴火を含めて

第4(16)

火山ガイド

火山事象
もよく,通常は火山で発生する地滑りなどの非噴火
によるものも含める。(火山ガイド*1.4(3))
柏崎刈羽原発

東京電力*の柏崎刈羽原子力発電所

xx

加藤研一ほか「震源を事前に特定できない内陸地

乙ロB42

殻内地震による地震動レベル-地質学的調査によ
加藤ほか(2004)

る地震の分類と強震観測記録に基づく上限レベル
の検討-」
(日本地震工学会論文集第4巻第4号所収)
地質年代の一つである第四紀の区分のうち最も新
しいものであり,約1万1700年前から現在までの

技術基準規則

第4(16)

実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準


別紙2の

期間。(火山ガイド*1.4参照)

完新世

別紙14

別紙2の

に関する規則(平成25年6月28日原子力規制委

第1(4)

員会規則第6号)
実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の
重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を
技術的能力基準

別紙2の
第3(14)

実施するために必要な技術的能力に係る審査基準
(原規技発第1306197号)(平成25年6月19日原
子力規制委員会決定)
基準地震動とは,耐震重要施設*の供用中に当該

別紙2の

施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震によ

第1(3)

る地震動(地震に伴って生じる揺れ)をいう(設置許
基準地震動

基準地震動Ss

可基準規則*4条3項)。

別紙3の1

施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生す

の(5),

る可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれ

別紙2の第

があると想定することが適切な地震動(基準地震

4(26)

動Ss,新耐震設計審査指針*5.)と同様である(基
準地震動審査ガイド*)。

xxi

基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド

別紙2の

(原管地発第1306192号)(平成25年6月19日原

第4(26)

基準地震動審査ガ
イド
子力規制委員会決定)
設計基準対象施設*の供用中に当該施設に大きな
基準津波

別紙2の

影響を及ぼすおそれがある津波(設置許可基準規

第1(3)

則*5条)
原子力規制委員会
原子力規制委員会設置法(平成24年法律第47
規制委員会
号)に基づき環境省の外局として設置された独立行
政委員会(同法2条,国家行政組織法3条2項)
原子力規制委員会設置法
規制委員会設置法
(平成24年法律第47号)
断層の上側の地盤が断層面上をずり上がる形とな

乙イB9参

る断層


立地審査指針*に規定された,(旧)重大事故*を超

別紙3の1

えるような技術的見地からは起こるとは考えられな

の(2)

逆断層

い事故(たとえば,(旧)重大事故*を想定する際に
(旧)仮想事故

は効果を期待した安全防護施設のうちいくつかが
動作しないと仮定し,それに相当する放射性物質の
放散を仮想するもの)
(立地審査指針*の別紙1の1.2b)
平成24年法律第47号による改正前の原子炉等規

旧原子炉等規制法
制法*

xxii

立地審査指針*に規定された,敷地周辺の事象,
原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的
(旧)重大事故

別紙3の1
の(2)

見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれない
と考えられる重大な事故
(立地審査指針*の別紙1の1.2a)
新耐震設計審査指針*(別紙3の1の(5))による見

乙イD51,

旧耐震設計審査指

直し前の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審

乙ロB115


査指針」(昭和56年7月20日原子力安全委員会

参照

決定,平成13年3月29日一部改訂)
海成段丘面*と段丘崖*とが接する線。
旧汀線

甲B228,

海成段丘面*が形成された当時の海岸線,つまりそ

乙ロB212

の当時の海水面の高さを示すものである。
平成24年法律第47号による改正前の電気事業法
旧電気事業法
(昭和39年法律第170号)
2以上の系統又は機器に同時に影響を及ぼすこと
共通要因

別紙2の

によりその機能を失わせる要因

第1(3)

(設置許可基準規則*2条2項18号)
地表付近において空気や水,太陽光にさらされるこ

乙ロB213

とでもともとあった鉱物が別の鉱物に代わる現象を

の106頁

強風化部
「風化」といい,「強風化部」とは,岩石の風化が進
行した部分をいう。

xxiii

地震動は,地震により放出されるエネルギーが大き

乙イB8参

いほど,また,震源に近いほど大きくなる性質があ


るところ,「距離減衰式」とは,この性質を利用し,地
距離減衰式

震の規模や震源からの距離等のパラメータを入力
すると,地震の規模と震源からの距離との関係によ
り,想定される地震動の強さが求まる計算式のこと
をいう。


原子力災害対策特別措置法
原災法
(平成11年法律第156号)
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
平成17年10月1日,日本原子力研究所及び核燃
原子力機構
料サイクル開発機構を統合して発足した独立行政
法人。
発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討

乙イD34

チーム(第21回より,「発電用軽水型原子炉の新規甲D167
原子炉施設等基準
制基準に関する検討チーム」と改称)
検討チーム
規制委員会*に設置され,平成24年10月から平

乙イD41の

成25年6月までの間に23回の会合が開催された。

51頁

核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関
原子炉等規制法
する法律(昭和32年法律第166号)
発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変

別紙2の

化*時及び設計基準事故*時において,圧力障壁と

第1(3)

原子炉冷却材圧力
バウンダリ
なる部分(設置許可基準規則*2条2項35号)

xxiv

敷地周辺の活断層の性質,過去及び現在の地震

別紙2の

発生状況等を考慮し,さらに地震発生様式等による第3(10),検討用地震

地震の分類を行った上で,敷地に大きな影響を与

別紙3の1

えると予想される地震(設置許可基準規則の解釈*

の(5)

別記2の5二,新耐震設計審査指針*5(2)①)原発

原子力発電所
小池一之・町田洋編「日本の海成段丘アトラス」

乙ロB38,

(東京大学出版会,2001年)

乙ロB217

小池・町田(2001)

国賠法

国家賠償法(昭和22年法律第125号)
武力攻撃事態等における国民の保護のための措

国民保護法
置に関する法律(平成16年法律第112号)

発電用原子炉施設において発生した熱を最終的に
最終ヒートシンク

別紙2の

除去するために必要な熱の逃し場

第1(3)

(設置許可基準規則*2条2項34号)
佐藤浩章ほか「物理探査・室内試験に基づく2004

乙ロB43の

年留萌支庁南部の地震によるK-NET港町観測点

2,甲B55

(HKD020)の基盤地震動とサイト特性評価」

参照

佐藤ほか(2013)
(平成25年12月・電力中央研究所報告)

志賀原発

北陸電力*の志賀原子力発電所
事故のシナリオを,起因事象,安全設備や緩和操

別紙2の

作の成功・失敗,物理現象の発生の有無などの組

第3(10)

合せとして表したもの

乙イD41の

(設置許可基準規則の解釈*37条参照)

140頁

事故シーケンス

xxv

発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新

乙イD35

安全設計基準に関する検討チーム(第12回より,

乙イD41の

地震等基準検討

「発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる

52頁

チーム

規制基準に関する検討チーム」と改称)
規制委員会*に設置され,平成24年11月から平
成25年6月までの間に13回の会合が開催された。
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が

事態対処法

国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保
に関する法律(平成15年法律第79号)
実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則

別紙2の

(昭和53年12月28日通商産業省令第77号)

第1(1)

地震動は,断層においてどのような破壊が起こった

乙イB4

実用炉規則

か(震源特性),生じた地震波動がどのように伝わっ
地盤増幅特性
てきたか(伝播経路特性),観測地点近傍の地盤構

造によって地震波動がどのような影響を受けたか
震源特性
(地盤増幅特性),の組合せで表現される。地盤増

幅特性は地盤の構成や構造によって異なり,観測
伝播経路特性
点近傍で地震波が柔らかい地層に入射すると,一
般には増幅されて大きな地震動となる。
設計基準事象を大幅に超える事象であって,安全

乙イD24

設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷の5頁参照
却又は反応度の制御ができない状態であり,その
シビアアクシデント
結果,炉心の重大な損傷に至る事象(平成2年2月
原子炉安全基準専門部会共通問題懇談会中間報
告書)。過酷事故ともいう。

xxvi

生体や人体が受けた放射線の影響度を表す単位。

甲C2の31

実効線量,等価線量ともいい,吸収線量と放射線


荷重係数を掛け合わせたものになる。1シーベルト

甲C10の

は100レムに相当する。

41頁

シーベルト(Sv)

ミリシーベルト
(mSv)
1Sv=1000mSv
島崎邦彦「震源断層より短い活断層の長期予測」
島崎(2008)

甲B54

(日本活断層学会2008年秋季学術大会講演予稿
集)
単一の原因によって確実に系統又は機器に故障を

従属要因

別紙2の

発生させることとなる要因

第1(3)

(設置許可基準規則*2条2項18号)
「重大事故」とは,発電用原子炉の炉心の著しい損
傷又は核燃料物質貯蔵設備に貯蔵する燃料体若
しくは使用済燃料の著しい損傷をいう(改正原子炉
等規制法*43条の3の6第1項3号,実用炉規則*

別紙2の

〔平成24年9月14日経済産業省令第68号による

第1(1)

重大事故

改正後のもの〕4条)。
重大事故等
重大事故及び重大事故に至るおそれがある事故

別紙2の

(運転時の異常な過渡変化*及び設計基準事故*を第1(3)
除く。)を併せて,「重大事故等」という(設置許可
基準規則*2条2項11号)。

xxvii

重大事故等対処設備*のうち,重大事故*が発生し

別紙2の

た場合において,当該重大事故の拡大を防止し,

第1(3)

重大事故緩和設備
又はその影響を緩和するための機能を有する設備

を「重大事故緩和設備」という。(設置許可基準規
常設重大事故緩和
則*2条2項16号)
設備
このうち,常設のものを「常設重大事故緩和設備」と
いう。(設置許可基準規則*38条1項3号)
重大事故等対処

重大事故等*に対処するための機能を有する施設

別紙2の

施設

(設置許可基準規則*2条2項11号)

第1(3)

重大事故等対処

重大事故等*に対処するための機能を有する設備

別紙2の

設備・

(設置許可基準規則*2条2項14号)

第1(3)

常設重大事故等対

なお,このうち常設のものを「常設重大事故等対処

処設備

設備」という。(同規則43条2項)
重大事故等対処設備*のうち,重大事故*に至るお

別紙2の

それがある事故が発生した場合であって,設計基

第1(3)

準事故対処設備*の安全機能*又は使用済燃料貯
蔵槽の冷却機能若しくは注水機能が喪失した場合
重大事故防止設備


において,その喪失した機能(重大事故*に至るお
それがある事故に対処するために必要な機能に限

常設重大事故防止

る。)を代替することにより重大事故*の発生を防止

設備

する機能を有する設備を「重大事故防止設備」とい
う。(設置許可基準規則*2条2項15号)
重大事故防止設備のうち,常設のものを「常設重大
事故防止設備」という。(設置許可基準規則*38条
1項1号)

xxviii

安全施設*のうち,安全機能*の重要度が特に高い
重要安全施設

別紙2の

安全機能*を有するもの

第1(3)

(設置許可基準規則*2条2項9号)
発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分

別紙3の1

類に関する審査指針

(4)

重要度分類審査指

(平成2年8月30日原子力安全委員会決定)
常設重大事故防止設備*であって,耐震重要施設*別紙2の
常設耐震重要
に属する設計基準事故対処設備*が有する機能を

第1(3)

重大事故防止設備
代替するもの(設置許可基準規則*38条1項1号)
垣見俊弘ほか「日本列島と周辺海域の地震地体構

(甲B52参
照)

別紙2(1)から(38)までを総称して,又は,別紙2(1)
新規制基準

造区分」(地震第2輯第55巻(2003年)所収)に示
されている地震地体構造区分図

新垣見マップ

乙ロB75

別紙2

から(6)までのみを指し,若しくは,別紙2(1)から(152)までを指す,行政実務上の呼称震源断層とは,地震の発生原因となる地下の岩盤

甲B30,

の破壊面(断層)をいう。これに対し,地震時に地表

乙イB10

に現れた断層を,(地表)地震断層という。

乙ロB212

地震は,震源断層が面状にずれ破壊を起こすこと

参照

震源断層

震源断層面
により生じ,このずれ破壊の領域のことを,震源断
層面という。
震源特性

→地盤増幅特性を参照

新耐震設計審査指

発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針

別紙3の1


(平成18年9月19日原子力安全委員会決定)

の(5)

xxix

地震調査研究推進本部

甲B142

地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111
号)に基づき文部科学省に設置された機関であり,
推本
地震防災対策の強化,特に地震による被害の軽減
に資する地震調査研究の推進を基本的な目標とし
ている。
推本*「暫定版『活断層の長期評価手法』報告書」

甲B146

推本(2010)
(平成22年11月25日)
推本*地震調査委員会「全国地震動予測地図

甲B52

2014年版~全国の地震動ハザードを概観して~」

(付録-1)

推本(2014)

乙イB14(乙
推本



地震調査委員会「震源断層を特定した地震
ロB324),

の強震動予測手法」
乙ロB322,
推本レシピ

(平成29年4月27日改訂版/平成28年6月10日
323,乙イ
改訂版・同年12月9日修正版/平成21年12月2
D50(乙ロ
1日改訂版)
B29)
(原子炉の)停止。特に緊急停止のことをいう。制御

スラブ内地震

棒を炉心に急速挿入することにより,原子炉を緊急

甲A30,

停止する。

スクラム

甲A2,

乙ロA56

→海洋プレート内地震を参照。
平成21年8月11日に発生した駿河湾を震源とする

駿河湾地震
地震。静岡沖地震,静岡地震とも呼ばれる。

xxx

発生頻度が運転時の異常な過渡変化*より低い異

設計基準事故

別紙2の

常な状態であって,当該状態が発生した場合には


第1(3)

発電用原子炉施設から多量の放射性物質が放出
するおそれがあるものとして安全設計上想定すべき
もの(設置許可基準規則*2条2項4号)

設計基準事故対処

設計基準事故*に対処するための安全機能*を有

別紙2の

設備

する設備(設置許可基準規則*2条2項13号)

第1(3)

発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変

別紙2の

化*又は設計基準事故*の発生を防止し,又はこれ

第1(3)

設計基準対象施設
らの拡大を防止するために必要となるもの
(設置許可基準規則*2条2項7号)
実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構
設置許可基準規則

別紙2の

造及び設備の基準に関する規則(平成25年6月2

第1(3)

8日原子力規制委員会規則第5号)
実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構

別紙2の

造及び設備の基準に関する規則の解釈(平成25

第3(10)

設置許可基準規則
の解釈
年6月19日原子力規制委員会決定)
川内原発

九州電力株式会社の川内原子力発電所
設計基準対象施設*のうち,地震の発生によって生

別紙2の

ずるおそれがあるその安全機能*の喪失に起因す


第1(3)

耐震重要施設
る放射線による公衆への影響の程度が特に大きい
もの(設置許可基準規則*3条1項)

xxxi

地震により発生するおそれがある設計基準対象施

別紙2の

設*の安全機能*の喪失(地震に伴って発生するお

第3(10)

それがある津波及び周辺斜面の崩壊等による安全
耐震重要度

機能の喪失を含む。)及びそれに続く放射線による



公衆への影響を防止する観点から,各施設の安全

耐震重要度分類

機能が喪失した場合の影響の相対的な程度。
耐震重要度に応じて設計基準対象施設*を3クラス
に分類したものを,「耐震重要度分類」という。
(設置許可基準規則の解釈*別記2の2)
保安院*が,平成18年9月,発電用原子炉設置者

耐震バックチェック

等に対し,新耐震設計審査指針*に基づき指示し
た,耐震安全性の再確認のこと
地震動の応答スペクトル*の評価手法

乙ロB25参

(Noda.et.al(2002)*の手法)


耐専式

別紙14
地質年代の一つ。約258万年前から現在までの期
第四紀

別紙2の


間。(火山ガイド1.4参照)
第4(16)
同一の機能を有し,かつ,同一の構造,動作原理そ別紙2の
の他の性質を有する2以上の系統又は機器が同一
多重性
の発電用原子炉施設に存在すること
(設置許可基準規則*2条2項17号)

xxxii

第1(3)

同一の機能を有する2以上の系統又は機器が,想

別紙2の

定される環境条件及び運転状態において,これらの第1(3)
構造,動作原理その他の性質が異なることにより,
多様性
共通要因*又は従属要因*によって同時にその機
能が損なわれないこと
(設置許可基準規則*2条2項18号)
単一の原因によって一つの機械又は器具が所定の
単一故障

別紙2の

安全機能を失うこと(従属要因*による多重故障を

第1(3)

含む。)(設置許可基準規則*12条2項)
海岸や河川沿いに見られる階段状の地形。

甲B229,

平坦な部分を「段丘面」,急な崖の部分を「段丘崖」

乙ロB212

段丘・段丘面
・段丘崖
という。

1986年(昭和61年)4月26日,現在のウクライナ
チェルノブイリ原発

北部に設置されたチェルノブイリ原子力発電所の4

事故

乙ロA79

号機の試験中,原子炉や原子炉建屋等が重大な
損壊に至った事故
敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る

地質審査ガイド

別紙2の

審査ガイド(原管地発第1306191号)(平成25年6

第4(25)

月19日原子力規制委員会決定)
核分裂反応によって生じた核分裂生成物の一部が
遅発中性子

乙ロA37の

ベータ崩壊することに伴って,核分裂反応後,数秒

13頁

から数十秒が経ってから放出される中性子
中部電力

中部電力株式会社

xxxiii

「超過確率」とは,一定の期間中に評価対象とする

別紙2の第

事象がある基準値を超える確率を示すものをいうと

3(10),第

ころ,「年超過確率」は,基準値を超える事象が1年

4(26),甲B

でどれくらいの確率で生ずるのかを示すものをいう。

165の7

(設置許可基準規則の解釈*別記2の3一,基準地

頁,32頁参

震動審査ガイド*Ⅰの6参照)


火山影響評価が実施される原発周辺の領域を指

別紙2の

す。当該原発敷地を中心とする半径160kmの範

第4(16)

超過確率

年超過確率

地理的領域

囲内をいう。(火山ガイド*1.4(5))

基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド
津波審査ガイド

別紙2の

(原管地発第1306193号)(平成25年6月19日原

第4(27)

子力規制委員会決定)
て伝播経路特性

→地盤増幅特性を参照


東京電力株式会社(平成28年4月1日から「東京
東京電力
電力ホールディングス株式会社」に変更)
平成23年3月11日に発生した三陸沖を震源とする
東北地方太平洋沖
地震であり,気象庁が「平成23年(2011年)東北
地震
地方太平洋沖地震」と命名している。
東北電力

東北電力株式会社

xxxiv

重大事故等対処施設*のうち,故意による大型航

別紙2の

空機の衝突その他のテロリズムにより炉心の著しい第1(3)
損傷が発生するおそれがある場合又は炉心の著し
特定重大事故等対
い損傷が発生した場合において,原子炉格納容器
処施設
の破損による工場等外への放射性物質の異常な
水準の放出を抑制するためのもの
(設置許可基準規則*2条2項12号)
2以上の系統又は機器が,想定される環境条件及
び運転状態において,物理的方法その他の方法に
独立性

別紙2の
第1(3)

よりそれぞれ互いに分離することにより,共通要因*
又は従属要因*によって同時にその機能が損なわ
れないこと(設置許可基準規則*2条2項19号)


陸のプレートの上部地殻地震発生層に生じる地震
内陸地殻内地震

別紙2の

をいい,海岸のやや沖合で起こるものを含む。

第3(10)

(設置許可基準規則の解釈*別記2の5二)

平成19年7月16日に発生した新潟県上中越沖を
新潟県中越沖地震

震源とする地震であり,気象庁が「平成19年(200
7年)新潟県中越沖地震」と命名している。
昭和58年5月26日に発生した秋田県能代市沖を

日本海中部地震

震源とする地震であり,気象庁が「昭和58年(198
3年)日本海中部地震」と命名している。

日本原電
ね年超過確率

日本原子力発電株式会社
→超過確率を参照

xxxv


平成19年3月25日に発生した石川県輪島市西南
能登半島地震

西沖を震源とする地震であり,気象庁が「平成19
年(2007年)能登半島地震」と命名している。


地震は,断層の両側の岩盤がずれて破壊されるこ

別紙2の第

とによって発生するが,震源断層面の破壊について

3(10),第

は,一度に全ての領域が破壊されるのではなく,あ

4(26),乙イ

る点から時間の経過とともに,次第に破壊が震源

B5の8頁

断層面状を拡がっていくことが知られており,この一

参照

破壊開始点
連の破壊が始まる位置のことをいう。(設置許可基
準規則の解釈*別記2の5二⑤,基準地震動審査
ガイド*Ⅰの3.3.3(2)参照)
浜岡原発

中部電力*の浜岡原子力発電所

パッシブ性

受動性。人の手を介さず自動的に作動すること。

ひ被告電源開発

被告電源開発株式会社


福島第一原発*において,平成23年3月11日の東
福島原発事故

北地方太平洋沖地震*及びこれに伴う津波に起因
して発生した事故

福島第一原発

東京電力*の福島第一原子力発電所

藤原証人

証人藤原広行

プルトニウム・ス

燃料ペレットの中で,局所的にプルトニウム濃度が

乙ロA37の

ポット

高い部分(数十ミクロン程度のかたまり)

36頁

プレート間地震/プ

相接する二つのプレートの境界面で発生する地震

別紙2の

レート境界地震

(設置許可基準規則の解釈*別記2の5二)

第3(10)

燃料被覆管上部に設けられた,燃料ペレットのない

乙ロA37の

空間のこと

18,35頁

プレナム

xxxvi

へ平成26年工事計

被告電源開発が平成26年12月16日付けで規制

画認可申請

乙ロD32

委員会に対してした本件原発の工事計画認可申請
放射性物質が崩壊する際に放射線を放出する能力

ベクレル(Bq)

テラベクレル(TBq)

ペタベクレル(PBq)

甲C2,

の強さを表す単位。1秒間に1個の崩壊を起こす放

甲C6

射性物質の能力を1ベクレルという。
1012ベクレル=1テラベクレル(TBq)=1兆ベクレ

1015ベクレル=1ペタベクレル(PBq)=1000兆ベク
レル
二酸化ウラン等の燃料用物質を小円柱状に焼き固

甲A2,

めたもの

乙ロA37

波食棚。岩石海岸において,波の浸食作用によっ

乙ロB212,

て岩石が削られてできた平坦面で,現在の海面より

甲B228

ペレット

ベンチ

上に出たもの。

(旧)原子力安全・保安院
経済産業省資源エネルギー庁に置かれた機関。
保安院
規制委員会設置法*の施行と同時に平成24年9月
19日廃止された。
ボイド

ボイド効果


原子炉の炉心における冷却材中の蒸気泡をボイド

乙ロA37の

という。冷却材中のボイドが多くなると,核分裂反応

52頁

が抑制され,原子炉の出力が低下するが,このよう
な効果をボイド効果といい,ボイド効果の度合いを

ボイド係数

定量的に示す値を,ボイド係数という。

北陸電力

北陸電力株式会社

xxxvii

安全委員会*(原子炉安全専門審査会)が本件設
本件安全審査

置許可申請*の際に行った調査審議(安全審査)を
いう。
本件原発*に係る原子炉等規制法*で定める原子

本件原子炉

大間原子力発電所(被告電源開発が旧原子炉等
規制法*23条1項1号に基づき平成20年4月23日
付けで受けた原子炉設置許可に係る大間原子力
本件原発

発電所,及び,原子炉等規制法*43条の3の8第1
項に基づき平成26年12月16日付けで行った原子
炉設置変更許可申請に係る同原子力発電所を,個
別に又は総称していう。)
本件原発*に係る被告電源開発の工事計画認可申乙イ30の1
請に対し,経済産業大臣が平成20年5月27日付

~14,

本件工事計画認可

け,同年12月26日付け,平成21年8月4日付け,

乙イ31の1

処分

同年12月25日付け,平成22年3月26日付け,同

~6,

年12月24日付けでした各認可処分を,個別に又

乙ロD9

は総称していう。
青森県下北郡大間町の本件原発*の建設予定地

別紙4の1

(敷地面積約130万㎡)

~2

経済産業大臣が平成20年4月23日付けでした本

乙イ29

本件敷地

本件設置許可処分
件原発*の原子炉設置許可処分

xxxviii

被告電源開発が平成16年3月18日付けで経済産
業大臣に対して行った本件原発*に係る原子炉設
本件設置許可申請

乙イ5の1
~6

置許可申請。

乙イ6

ただし,これに一部補正を加えたものを総称してい
う場合もある。
被告電源開発が平成26年12月16日付けで規制

乙ロD1の

委員会*に対して行った本件原発*の設置変更許

1,1の2の

可の申請

2,1の3~5

松田時彦「活断層から発生する地震の規模と周期

甲B60

本件設置変更許可
申請


について」(地震第2輯第28巻,1975年)で提案さ
松田式

れた,地震のマグニチュード(M*)と活断層の長さL
(km)との関係を表す経験式であり,logL=0.6×M2.9のことをいう。

実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び

別紙2の

格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審

第4(21)から

査ガイド(炉心等に関する有効性評価ガイド),

(23)まで

実用発電用原子炉に係る使用済燃料貯蔵槽にお
ける燃料損傷防止対策の有効性評価に関する審
(各)有効性評価ガ

査ガイド(貯蔵槽内燃料体等に関する有効性評価

イド

ガイド),
実用発電用原子炉に係る運転停止中原子炉にお
ける燃料損傷防止対策の有効性評価に関する審
査ガイド(運転停止中原子炉内燃料体に関する有
効性評価ガイド)
を総称していう。

xxxix


原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断
立地審査指針

別紙3の1

のめやすについて

の(2)

(昭和39年5月27日原子力委員会決定)
ベンチ*が何らかの理由で離水(海面から離れるこ

甲B228

離水ベンチ
と)したもの
れレム(rem)

→シーベルト(Sv)を参照


渡辺満久ほか「下北半島北西端周辺の地震性隆
渡辺ほか(2012)

起海岸地形と海底活断層」
(活断層研究36号,2012年)

xl

甲B1

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