判例検索β > 平成29刑年(わ)第2310号
詐欺被告事件
事件番号平成29刑(わ)2310
事件名詐欺被告事件
裁判年月日平成30年3月23日
法廷名東京地方裁判所
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被告人両名に対する詐欺被告事件
平成30年3月23日宣告

東京地方裁判所刑事第6部

被告人両名をそれぞれ懲役2年6月に処する
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から4年間,それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
【犯罪事実】
被告人Aは,株式会社C(以下「本件建設会社」という)東北支店土木部D作業所副所長であったもの,被告人Bは,同支店土木部E出張所工務2課課長であったものであるが,被告人両名は,共謀の上,平成25年8月1日に同会社が福島県F市から受注した「第1-45号F市生活圏域等除染業務委託(その他地域)」(以下「本件業務委託」という)に関し,被災地以外からの労働者確保に要する労働者宿泊費(以下「労働者宿泊費」という)の支出実績を水増しして申告することにより同市から金員をだまし取ろうと考え,平成27年7月中旬頃から同年8月19日頃までの間,同市a町b番地c所在のF市役所において,同市担当者に対し,真実は,本件業務委託における労働者宿泊費の支払総額で証明書類によってその支払が確認できる金額が税抜1億6106万5856円であるのに,同支払総額が2億0266万7500円である旨,その金額を4160万1644円水増しして記載した内容虚偽の「労働者確保に係る実績報告書」を提出するとともに,その証明書類として,支出実績のない労働者宿泊費について実際に支出実績があるかのように記載した内容虚偽の領収書等を提出するなどし,その頃,同市担当者及び決裁権者らをして,本件業務委託における労働者宿泊費の支払総額で証明書類によってその支払が確認できる金額が前記「労働者確保に係る実績報告書」記載のとおりである旨誤信させ,同月下旬頃,同市と同会社との間で,前記「労働者確保に係る実績報告書」記載の虚偽の労働者宿泊費の金額を前提とする委託変更契約を締結させて,その頃,これを含む本件業務委託に係る業務委託料の残額の支出命令を発令させ,よって,同年9月15日,株式会社G銀行H支店に開設された「株式会社C東北支店」名義の普通預金口座に前記残額7621万7110円を振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。
【証拠】(記載省略)
【法令の適用】(記載省略)
【量刑の理由】
本件は,被告人両名が,共謀の上,本件建設会社がF市から受注した本件業務委託に関し,同市の担当者に対し,内容虚偽の領収書等を証明書類として提出して,労働者宿泊費の支出実績を4160万1644円水増しして申告して,同市の担当者及び決裁権者らを欺罔し,水増し分を含む業務委託料の残額7621万7110円を同社東北支店名義の口座に振込入金させたという詐欺の事案である。本件被害額は多額であり,結果は重大である。もっとも,被告人両名は,自らの経済的利益のために本件犯行に及んだものではないことが認められる。すなわち,本件業務委託の業務委託料は,当初,平成25年8月1日付け除染業務委託契約書により39億4800万円と定められたが,被ばく線量のモニタリングの結果に応じて,一定の基準以上の線量が測定された場所でのみ除染業務を行うことを予定しており,これに伴い最終的な業務委託料の変更が予定されていた。そして,本件業務委託においては,モニタリングの結果,当初の想定より,除染面積等の数量が減少した半面,除染作業を要する土地が点在することに伴う費用増加や,(線量の高い地域と異なり)特別危険手当の支給がないことに伴う労働者確保の困難があったことから,業務委託料は全体としてかなり減額するのに,原価は割高となることが見込まれ,採算割れも懸念された。被告人両名は,そのような状況下で,F市との設計変更協議に関与し,本件建設会社の利益の目減りを防ぎ,一定の利益を確保するように努めていたものであって,そのような活動の一環として,本件犯行に及んだことが認められる。詐欺が財産犯であることに鑑み,利欲性の高さに着目すると,欺罔行為者自らが経済的利益を取得する詐欺の典型的な類型と比較すると,本件の利欲性が高いとはいえない。F市の請求に基づき本件建設会社による被害弁償がなされていることを考え併せると,公的な資金に対する多額の詐欺であることを前提としても,被告人両名に対し,刑の執行を猶予する余地が否定されるというほどではない。
もとより,領収書は,これに基づいて会計処理等もなされる書面であるから,業務の通常の過程において作成されている限りにおいては,一般に高い証明力を有することは周知のとおりであり,下請業者から内容虚偽の領収書を調達して,これを欺罔行為に用いた本件犯行の態様が相応に悪質であることはいうまでもない。被告人Bの弁護人は,F市の担当者が下請業者等に確認すれば,容易に発覚を免れず,稚拙なものであるなどと指摘するが,税務当局等と異なり,独自の調査部門等はなく,人員の配置も限られている被災地の地方自治体担当者が,確認作業を必要とするのであれば,それ自体行政の遅滞,非効率化及び事務負担等の増大が生じるのであるから,弁護人の指摘は筋違いである。また,同弁護人は,精算業務の多くを本件建設会社ないし被告人両名に依存したことが本件犯行を誘発した面があるなどとも指摘する。しかしながら,もともと,労働者宿泊費は,競争原理や企業努力を反映するように,直接工事費に一定の経費率を乗じて算定すべき間接工事費に含まれるのに,実額を限度に,これを考慮した算定方法を採用したのは,F市が,本件業務委託の実情に関する同社の主張を容れたものであり,算定の根拠となる領収書等へのアクセスの容易さなどに照らしても,このような算定は,本来,同社の責任により正確かつ誠実に行うべきものであって,弁護人の指摘は的外れである。行政側が講じる再発防止策は,地方自治体,受注業者及び下請業者のいずれにも負担の増大が見込まれるものとなっており,本件犯行から派生した結果として看過することはできない。
以上の事情のほか,被告人両名は,事実を認め,反省の態度を示していること,いずれも前科はないこと,諭旨解雇等により一定の社会的制裁を受けていることなどの事情を考慮して,被告人両名に対し,主文の刑を科し,それぞれその刑の執行を猶予することとした。
付言すると,内容虚偽の領収書の調達を主導したのはB被告人であるから,同被告人の規範意識がより乏しく,A被告人は「拒絶能力」が十分ではなかったにとどまるとみる余地はあるものの,その職責に照らすと,F市との対応に関しては,応援に入ったB被告人よりも責任ある立場であり,結局,被告人両名の刑事責任は同等であると判断した。なお,被告人両名の刑事責任とは別に,個人の資質上の問題のみならず,組織全体の価値観ないし倫理観にも原因があるのではないかという観点から,再発防止のために「常に内省しつつ経験から学び行動するとともに,自由闊達な議論と相互支援を可能とする活力ある組織風土を構築する」ことは,ともすれば,上意下達を前提に,一定の目的(利益の追求等)一辺倒に傾きがちな企業ないし組織に共通する課題であり,今後もこれに対する取組みを持続させるべきである。
(求刑

各懲役2年6月)

平成30年3月23日
東京地方裁判所刑事第6部

裁判官

吉田勝栄
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