判例検索β > 平成29年(う)第1154号
公職選挙法違反
事件番号平成29(う)1154
事件名公職選挙法違反
裁判年月日平成30年3月13日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28特(わ)807
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平成30年3月13日宣告

東京高等裁判所第2刑事部判決

平成29年(う)第1154号

公職選挙法違反被告事件
主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,弁護人大室征男(主任),同緑川由香,同中野由紀子及び同吉田飛鳥作成の控訴趣意書及び平成29年11月27日付け上申書に,これに対する答弁は,検察官椿剛志作成の答弁書及び同年12月7日付け意見書に各記載されたとおりであるから,これらを引用する。

原判決の罪となるべき事実の要旨と論旨
原判決は,罪となるべき事実として,被告人は,平成26年2月9日執行の東京
都知事選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補したものであるが,第1
同選

挙において被告人の出納責任者であったAと共謀の上,同年3月中旬頃,東京都港区内の株式会社B事務所において,本件選挙において被告人の選挙対策本部事務局長であったCに対し,同人が同選挙に際し被告人の選挙運動に関する事務を統括するなどの選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,現金200万円を供与し,第2

C及びAと共謀の上,原判決別表記載のとおり,同年3月中旬頃から同
年5月8日までの間,前記B事務所等において,本件選挙において被告人の選挙運動者であったDら5名に対し,同人らが同選挙に際し選挙区内を被告人と共に歩きながら被告人の氏名等を周知して被告人への投票を呼びかける練り歩きに参加しつつ,被告人らの進路を誘導するなどの選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,Dに190万円,Eに20万円,Fに20万円,Gに30万円,Hに20万円の現金合計280万円を供与した,との事実を認定している。
これに対して,論旨は,要するに,被告人とCらとの共謀に関し,⑴原審はCの
証人尋問をしないまま共謀を認定している点で,審理が尽くされておらず,訴訟手続の法令違反がある,とするほか,原判決は,⑵共謀の機会について何の判断を示
すことなく共謀を認定している点で,理由不備の違法(刑訴法378条4号)がある,⑶共謀を認めるに足りる証明がなされていないのに,これを認定した点で事実誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。Ⅱ
原判決の事実認定の理由要旨及びその評価
第1
1
原判決の共謀に関する認定理由の要旨

前提事実

原判決は,事実認定の補足説明の項において,概要,⑴被告人が本件選挙に立候補した経緯等,⑵C,A及び各受供与者の本件選挙における役割等,⑶D,I,J及びKと被告人との関係及び本件選挙における役割等を認定している。その上で,⑷各受供与者に現金が供与された経緯及びその状況等として,
被告人を代表者と

する政治団体「Lの会」では,平成26年2月9日の本件選挙終了時点頃までに,全国の被告人を支持する者から1億円を超える寄付金を集めるなどしており,これを原資として選挙運動の経費等の精算を行っても,なお数千万円の余剰金が出る見込みとなったこと,

Aは,平成26年2月中に,Cから,総額2000万円の枠

で選挙運動に貢献のあった選挙対策本部のメンバーに報酬を配るとして,報酬を払う者の名前と各報酬額が記載されたリストを渡され,パソコンで清書を指示されたため,同リストを清書した一覧表(以下「報酬額一覧表①」という。原審甲8添付書面1枚目から手書き部分を除いたもの。)を作成して,Cに交付したこと,報酬額一覧表①には,「M本部長」に400万円,「C事務局長」に200万円,「D会長付」に100万円,「A」に50万円などと記載されていたことを認定している。そして,

その後,Aは,Cから,報酬額一覧表①に手書きの記載が入ったも
の(原審甲8添付書面1枚目)を示されながら指示を受け,平成26年3月1日午後1時半頃までに,報酬額一覧表①を修正した一覧表(以下「報酬額一覧表②」という。原審甲9添付資料2の2枚目)を作成したが,具体的な修正箇所としては,報酬額一覧表②は,「Lの会」,「a事務所」,「b事務所」という欄を設けたほ
か,各人の名前に並列して「会長指示N関係」という項目を追加し,その金額を308万5000円とするなどの変更を加えたものであったことなどを認定している。
2
A証言の要旨

原判決は,A証言の要旨として,大要,⑴Cからは,Aから渡された報酬額一覧表①を持って被告人と打合せをした上で,また指示する旨聞いていたところ,平成26年2月28日,Cから,「Lの会」などの欄を設ける修正指示を受けるとともに,被告人の意向で,Dの報酬額を100万円から200万円に増額することや,被告人の知人であるI,J及びKにも報酬を支払うことになったことを告げられる
などしたこと,⑵Cの指示に従って,同年3月1日,報酬額一覧表①のデータについて修正し,報酬額一覧表②を作成したこと,⑶同年3月5日に被告人と面会し,Cと打合せ後の内容を反映したものであると言って報酬額一覧表②を手渡したところ,被告人からは,Cに指示した内容がどこに反映されているのか尋ねられたため,「会長指示N関係」に含まれている旨説明したことなどを摘示している。
3
共謀の有無について

原判決は,以上を踏まえて,被告人が,C,Aとの間で本件現金供与について共謀したと認められるかについて検討し,以下のとおり説示している。⑴

本件現金供与は,被告人が代表者を務める「Lの会」に寄付された選挙資金
の余剰金を原資として,選挙運動員らに多額の現金を供与するというものであり,そのためにAが作成した報酬額一覧表②には,「会長指示N関係」という項目で308万5000円が追加計上されているのであって,その事実自体から,被告人の指示ないし了承があったことが推認される。


Aは,前記追加計上分は,Dの報酬の増額分,I,J及びKの各報酬分等を
合わせたものである旨供述しているところ,
被告人は,本件選挙前から,Nにお

ける部下であったDを気にかけており,選挙期間中の同人の働きぶりも見ていて,Dの報酬を増額するよう指示する十分な理由があるのに対し,Cは,Dと特に親し
い関係にあったり,本件選挙におけるDの貢献度を再評価するなどした様子はなく,Dと良好な関係にはなかったMの了承を得られない危険を冒してまで,Dの報酬額を増額する理由がなく,

I,Jについても,被告人は,本件選挙前から親交

を結んでいて,両名の本件選挙における活動内容もよく理解していたはずであり,Kも両名の関係者であって,被告人がIらに報酬を供与するよう指示しても何ら不自然ではないのに対し,Cは,Iらと特に深い関係にはなく,むしろ選挙期間中は衝突もあったことがうかがわれ,Cが被告人の指示や了承を偽装してまでIらに報酬を供与しようとすることは考えられない。
そうすると,Aの前記証言は,前記1で認定した事実関係と符合する自然かつ合
理的なものといえる。


また,Dの証言,すなわち,「Cから報酬額が100万くらいになる旨を聞
いた後,被告人から『Cから100万円という提示を受けたが,200万円に上げてやれないのかと提案しておいた』などと言われた」とする証言について,Dは,被告人と関係が深く,被告人に対しては大きな恩義を感じていて,被告人に殊更不利な虚偽供述をすることは考えられない上,自身が受ける報酬額に関係するという事柄の性質上も,記憶違いをしているとは考えにくい。そして,Dの前記証言は,Dに対する報酬供与の決定過程という重要部分について,Aの前記証言と整合し,互いに信用性を支え合っている。


以上によれば,被告人は,Cから,報酬額一覧表①のとおり報酬を配る旨を
説明され,Cに対し,Dの報酬額を増額し,I,J及びKに対しても報酬を配るように修正を指示したことが合理的に推認できる。他方で,被告人は,報酬額一覧表①のその他の記載内容については修正を求めなかったものと考えられ,報酬額一覧表①に記載された人物には報酬が配られることを了承していたことも推認できる。4
被告人供述の評価及び結論

そして,原判決は,要するにCとの共謀を否定する被告人の供述は信用できないと評価した上で,前記3の推認に合理的な疑いを差し挟む事情はなく,被告人は,
Cから報酬額一覧表①を見せられ,そこに記載された現金供与を了承した上,Dの報酬額の増額を指示するなどしたものと認められ,本件現金供与について,被告人とC,Aとの間で共謀が認められると結論付けている。
第2

原判決についての評価

以上のような原判決の認定及び判断は,関係証拠の内容に沿うものであり,経験
則等に照らして不合理なところもない。

論旨に対する判断
第1
1
訴訟手続の法令違反(審理不尽)の主張について

所論は,要するに,本件現金供与の実行行為を行っていない被告人は,共謀
したという事実のみで処罰されるところ,共謀の存否を明らかにするためには,Cの証人尋問が必要であったにもかかわらず,これを行わずに被告人を有罪とした原審は,証拠採否についての合理的裁量を逸脱しており,審理不尽の違法がある,というのである。
2
そこで検討すると,そもそも証拠調べの必要性は,個別事案の内容と審理状
況に応じて裁判所が判断すべき事柄であり,その判断は,裁判所の合理的裁量に委ねられているところである。
そこで,審理状況の点についてみると,記録によれば,原審は,関係する書証の取調べに加え,D(原審第3回公判),A(同第4回,第5回公判),M(同第7回,第8回公判)の各証人尋問の後,被告人質問(同第9~11回公判)を行い,
原審第11回公判期日に被告人の検察官調書の取調べ(法322条1項によるもの。原審乙2・1126丁以下)を行っていること,同期日に検察官がCの証人尋問請求及び同人の検察官調書(原審乙4)の各請求を撤回したことを受けて,原審が同人の証人尋問の採用決定を取り消し,その際,原審弁護人も異議を述べていないことが認められる。また,当審で取り調べた聴取報告書(当審検9)によれば,原審
第6回公判期日について,Cは証人として召喚を受け,原審裁判所の地下同行室までは来たが,公判廷に出頭しなかったこと,Cについては,逮捕前に被告人との共
謀を認める概括的な検察官調書(原審乙4)があったのみで,逮捕後は黙秘しており,証人尋問を実施しても証言を拒否する可能性があったことが認められる。そうすると,原審は,Cの証人尋問の必要性について,進行打合せにおける検察官及び原審弁護人の意見を踏まえて検討した結果,Cの証人尋問の採用を取り消す判断をしたものと解される。その後,原審弁護人から,Cの証人尋問が請求されることもなかったものと認められる。さらに,後に述べるように,所論の指摘を踏まえ検討してみても,原判決の認定,判断に不合理なところはない。
これらの諸点に照らすと,結論として,原審がCの証人採用を取り消したこと及び職権による取調べの必要を認めなかったことは,合理的な裁量の範囲を逸脱した
ものではなく,原審の訴訟手続に審理不尽の違法はないというべきである。以下,所論に鑑み,補足して説明する。
3
所論は,被告人のCに対する修正の指示を,AがCから聞いたという伝聞供
述のみによって認定している,と主張する。
しかしながら,Aは,原審において,平成26年3月5日に,cのレンタルルームで被告人と面会し,Cと打合せ後の内容を反映したものであると言って収支概算報告書(d案)(報酬額一覧表②のこと)を手渡したところ,被告人から,Cに指示した内容として,Dの分の100万を200万に増やす旨の変更がどこに反映されているのかを尋ねられたため,「会長指示N関係」に含まれている旨説明し(原審A104丁,106~108丁),I,Jらの分についても同様に聞かれ,同じ
く「会長指示N関係」に入っている旨を説明したところ,被告人は「分かった」ということで,長くは話さない一方,報酬を配ることを反対するようなことは言わなかった旨を証言している(同108丁)。これらは,伝聞によるものではなく,A自らが経験した事実に関する証言であり,その内容は,本件現金供与前の時点で前記cでの面会がなされたことや,報酬額の変更という内容からして,被告人とAら
との共謀を推認させる証拠といえるのであって,原判決はこれにも依拠して被告人とCの共謀を認定しているのである。

また,原判決は,信用性の認められるDの証言として,DがCから報酬額は100万円くらいになる旨聞いた後,被告人から,「Cから100万円という提示を受けたが,200万円に上げてやれないのかと提案しておいた」旨言われた旨の内容を摘示し,その証言が,Aの前記証言と整合し,互いに信用性を支え合っていると評価できる旨も説示しているところである。
なお,所論は,被告人の弁解は,Dについての増額修正の話をCから聞いた後,本件現金供与に賛同できないとして,Cに再考を求めたというものであるから,上記D証言とA証言の一部が一致した内容であるからといって,本件共謀を合理的に推認し得る証拠とはいえない,という。しかし,被告人の供述は,①選挙運
動をしてくれた人に報酬を配ることに賛同できないとしてCに再考を求めたとする一方で,Dの報酬を200万円に上げることに賛同し,これを依頼する趣旨の発言をしたというのであって,首尾一貫していないことや,②Dから報酬の受取りの礼を述べられ,現金供与がされたことを知った時に,Dに恩を着せておこうと考え,報酬額の増額をCに指示した旨を発言したとしているところ,真に現金
供与に反対していた者の行動としては極めて不自然で信用できないことは,原判決が説示するとおりであって,Dの前記証言も本件共謀を推認し得る証拠といえる。
以上のとおり,原判決が,被告人のCに対する修正の指示をAの伝聞供述のみで認定しているわけでないことは明らかであって,所論は当を得ていない。
4
所論は,①事案の真相解明の点,②被告人の防御権の点からも,Cの証人尋
問を行わなかった原審の措置は合理的な裁量権を逸脱している,と主張する。しかしながら,①の真相解明の点については,後述するとおり,所論の指摘を踏まえても,関係各証拠によって原判示の犯罪事実を認定した原判決に不合理なところはなく,所論は採用できない。なお,当審において,念のため,Cの公判における被告人供述調書(抄本・当審検10~13)を取り調べたが,後記のとおり,同人の供述内容は信用性に乏しいというべきである。

また,②の被告人の防御権の点についてみると,原審第11回公判期日でCの証人採用決定の取消しがなされた後,約2か月後に第12回公判期日(論告・弁論等)が開かれているのであって,その間に原審弁護人において改めてCの証人尋問請求をすることは十分可能だったといえるから,防御権の観点から原審の措置を論難する所論は採用の限りでない。
5
所論は,現金供与の実行行為への関与が想定されていない被告人は蚊帳の外
に置かれたまま,Cが勝手に被告人の名を利用してAに対し修正指示をしていた可能性が否定できない,などという。
しかしながら,もともと,本件現金供与は,被告人が代表者を務める「Lの会」の選挙資金の余剰金を原資とするものである上,Dの証言によれば,報酬を受け取る前の段階で,被告人からDに対し,「Cさんから100万円という提示を受けたけれども,200万円に上げてやれないのかと提案しておいたよ」と伝えているのであって(原審D10~12丁,17丁),これらの点からしても,現金供与について被告人が蚊帳の外に置かれてなどいなかったことは明らかであって,所論は採
用できない。
6
その他,審理が不尽であるとして所論が主張する他の点を検討しても,Cの
証人尋問を実施しなかった原審の措置に違法な点はない。
訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。弁論において違憲もいうが,前提を欠く。
第2

共謀の認定に関する理由不備の主張について

所論は,要するに,被告人に共謀を認定するとすれば,A証言に依拠した場合,平成26年2月26日に報酬額一覧表①が作成され,翌27日にCは同一覧表①をMの下に持参して面談しており,同日(27日)夜にCとAが電話してから翌28日にCがAに同一覧表①の修正を指示するまでという極めて短い時間に,被告人とCが面談したという事実がなければならないが,原判決はこの点に一切触れず,共謀の機会に関する何らの判断を示すことなく共謀を認定しており,理由不備の違法
がある,という。
しかしながら,そもそも,刑訴法378条4号にいう「判決に理由を附せず」とは,有罪判決については同法335条1項によって要求される判決理由の全部又は重要な部分を欠く場合をいうところ,原判決には,被告人とCらとの共謀を含めた罪となるべき事実,証拠の標目及び法令の適用という,同法335条1項が求める内容がいずれも示されているのであって,判決理由として欠けているものはなく,理由不備をいう論旨は理由がない。
所論指摘の点について補足すると,原判決は,関係証拠により前記第1の1の前提事実を認定した上で,AとDの証言内容等を踏まえ,本件現金交付についての被
告人とCらとの共謀が推認できる旨を説示しているのであって,原判決が,共謀の成立に関して,証拠に基づいた認定・判断を説示していることは,判文から明らかである。
また,所論は,原判決が共謀の時期について言及していない,とも主張する。しかしながら,原判決は,Cから,報酬額一覧表①について被告人と打合せをした結
果,被告人の意向により,Dの報酬の増額分等を追加することになった旨を告げられ,報酬額一覧表②の「会長指示N関係」の項目を追加した旨のA証言を信用できると説示した上で,「被告人は,Cから,報酬額一覧表①のとおり報酬を配る旨を説明され,Cに対し,Dの報酬額を増額し,I,J及びKに対しても報酬を配るように修正を指示したことが合理的に推認できる。他方で,被告人は,報酬額一覧表
①のその他の記載内容については修正を求めなかったものと考えられるから,報酬額一覧表①に記載された人物には報酬が配られることを了承していたことも推認できる。」と説示している。これらによれば,原判決は,報酬額一覧表①が作成されてから遅くとも同一覧表②が作成されるまでの間に,被告人からCに対する指示と現金交付の了承がなされたとの推認を説示しているのであって,共謀の時期につい
て言及していないとする所論は当を得ないというべきである。
第3

事実誤認の主張について

1
A証言の信用性等に関する主張について



所論は,選挙対策本部発足時頃には,一部の運動員に対して報酬を供与す
ることについて,少なくともM,C及びAの間に事前共謀があり,このような事前共謀があったからこそ,Cは,本件選挙終了後に,Mに相談することなく単独で運動員の報酬リスト(手書きのもの)を作成したと考えられる,という。しかしながら,本件現金供与は,「Lの会」に集まった寄付金の余剰金を原資として,選挙運動者らに報酬を支払うものであるところ,前記選挙対策本部発足頃の時点では,そもそも本件選挙に関する収支の清算などされていないから,その時点でCがMらと報酬に関する話をするとしても,金額等を含めて具体的なものとはな
らない性質のものである。Aも,当時の会話として,選挙運動員に無報酬というわけにはいかない旨をCからMの方に打診し,Mからは「もちろん考えている」旨の発言はあったものの,その時点で例えばAの具体的な報酬額といった話が出たことはなかったと証言しているところであって(原審A49丁),この頃の会話をもって現金供与に係る事前共謀とみることはできない。もとより,M,C,Aの間で報
酬供与に関する何らかの話合いがあったとしても,本件について,実際の現金供与前に「Lの会」の代表である被告人に了解を求め,これが得られた時点で被告人との具体的な共謀が成立すると認定することとは矛盾しないのであって,所論の指摘は,被告人との共謀の認定に合理的な疑いを入れるものではない。⑵

所論は,A証言は,平成25年12月下旬の選挙対策本部発足時頃,CとA
がMに対し,報酬配付について了承を求め,反対されなかったという事実を踏まえず,報酬配付について新たに被告人やMに了承を得るべきと思った旨の証言となっており,信用できない,という。
しかしながら,Aは,同年12月末頃にM,C,D及びAが集まって,それぞれの役割が決まった際,CがMに無報酬というわけにはいかない旨を打診し,Mは
「今幾らとはいえないが,もちろん考えている」旨の発言があった旨(原審A49丁,185丁)や,もともと日勤者に報酬を払う旨はMに説明している(同94丁)
旨も証言しているのであって,Aが所論のいう事実を踏まえた上で,所論指摘の証言をしていることは明らかであり,所論は当を得ないというべきである。⑶

所論は,「被告人とCが報酬額一覧表①の修正について協議するとしたら,
平成26年2月27日に同一覧表①を持参してMと面談し,その日の夜にCとAが電話で話をした後から,翌28日にAがCから修正を指示されるまでの間しかない」とした上で,謀議の機会がないとし,また,同月27日の深夜もしくは翌28日に被告人とCが会った事実がなければならないのに,A証言には上記の間に面談して協議した事実に関する供述そのものが完全に欠落しており,信用できない,という。しかしながら,所論を踏まえても,被告人とCが接触する機会がなく,謀議の機
会がなかったということにはならないし,Aは,被告人とCの協議に関して,「27日に(Mのところに)行った後に,(被告人名)さんとお話をどこかでなさった上での指示だと思います」(原審A176丁)と,推測して述べているのであって,所論のいう被告人とCの面談の場に居合わせたわけではないから,A証言中に当該面談に関する供述がないのはむしろ当然である。



所論は,報酬額一覧表①から同②への修正協議は被告人とC間で行われた
とのA証言を前提とすると,仮に平成26年3月5日に報酬額一覧表②に該当する書面を見せられたとしても,被告人は,この報酬額一覧表②への修正に,被告人がどのように関与したとCがAに説明したかを知らないのであるから,被告人がCに指示したとする内容を,同日Aに尋ねることは不自然である,という。しかしながら,被告人が報酬額一覧表①に関して,Dへの報酬額の増額やIらへの報酬支払をCに指示していれば,その後の3月5日にAが持参した同じような体裁の同一覧表②を見せられた際に,自分が修正ないし変更を求めた点がきちんと反映されて事が進んでいるかを確認しようとするのは,被告人の立場からしてむしろ極めて自然であるというべきである。特に,Aが3月5日に被告人に見せた報酬額
一覧表②は,Dの報酬額について同一覧表①と同様に100万円の記載のままであったことからすると,被告人が,自ら指示した増額の指示がどこに反映されている
のかとAに質問したのは当然であって,その旨を具体的に述べるA証言が信用できないとする所論は採用できない。


所論は,平成26年3月11日から17日までの間の運動員報酬の供与に関
するAの証言についても信用性に乏しい旨を種々主張するほか,3月17日の時点でCがAに100万円を返却したのは不自然である,などとも主張する。そこで検討すると,この点についてのA証言は,Aは各運動者への報酬供与の資金として,平成26年3月11日に300万円を,同月12日に50万円を引き出し,この300万円と50万円を引き出した日にCに渡したこと,同月14日にCからメールで「I先生,J会長,K氏に配る日程が決まりました。来週早々残りを
下さい。」と指示があり,残りがいくらか電話で確認したところ,「330万円」と言われ,I,J,Kの分が130万円,Cの分が200円と理解したこと,同月17日に被告人への清算金等を含めて500万円を引き出し,そのうち330万円をCに渡したところ,IとJは受け取らないと断られたということで,100万円が戻されたこと,これを被告人に渡し,被告人が自分の口座に入れたことなどを内
容とする(原審A111~124丁)。所論の指摘を踏まえて検討してみても,この証言は,関係各証拠(原審甲6・195丁,甲37・1041丁,甲8・266丁,甲9・277丁,甲30ないし32・490丁以下,原審被告人404丁,原審甲38・1043丁等)と符合するものであって,その信用性は高い。A証言の信用性を認め,Aが同年3月11日から17日までの間に,3回にわたり,合計5
80万円をCに渡したことなどを認定した原判決に不合理なところはなく,所論は採用できない。


その他,所論が種々指摘する点を踏まえて検討しても,A証言に信用性を認
めて,被告人とCとの共謀を認定した原判決に不合理な点はない。⑺
なお,所論は,当審における事実取調べの結果に基づく弁論の中で,Cの被
告人供述調書は信用性が十分認められる一方,これと相反するA証言を確定的に証明する証拠は存しなかったから,原審がCの証人尋問を実施しないまま共謀を認定
したのは厳格な証明に欠ける,と主張する。
そこで検討すると,Cの前記被告人供述調書の内容は,要するに,①報酬額一覧表の作成を指示したことはなく(当審検11・1,2頁),報酬額の総額がいくらになるかは考えたことがなかった(同検10・38頁,同検11・50頁),Aから「閣下(被告人のこと)がDの分を増やせとか,I,J,Kにも何とかできないかと言っている」旨の話を聞いた(同検10・42,43頁)が,自分自身が本件現金供与の件で2月22日から3月19日までの間に被告人と直接会って話したことはない(同55頁)として,被告人の現金供与についての意向は全てA経由で確認していた旨(同56頁)を述べるとともに,②F,Hらは選挙運動事務員として
登録されていると思っており,選挙運動をしていたと認識していない(同検10・18頁),③事務局の支出はAに任せており,自分はほとんど関知していない(同検13・4,9頁)旨を述べるものである。しかし,原判決が前提事実の項で説示するとおり,Cは選挙対策本部の事務局長として,選挙対策本部に常駐し,メンバーが集まって行う朝礼・夕礼の司会進行を含め,選挙運動の計画の立案・調整及び
選挙運動員の指揮・監督等を行っていたことからすると,②のFらが選挙運動をしていたと認識していなかったとの供述は信用性に乏しい上,選挙対策本部では5万円を超える支出は事務局長であるCの決裁を必要とする旨のルールが定められていたことからすると,③の事務局の支出にほとんど関与していなかったとする供述は,不自然,不合理である。また,①の点についても,選挙対策本部のメンバー各自に
報酬を配ることを考えたにもかかわらず,その総額については考えていなかったと述べたり,事務局長の立場にあり,決裁のルールまで定められていたのに,会計がどうなっているか分からなかったと述べたりしている点で,不合理,不自然である。さらに,「人件費」として使う総額が2000万円くらいになることを被告人に伝えたところ,被告人が多すぎるのではないかと難色を示し,これに対してCが「そ
んなもんですよ」と返答した事実は,被告人も認めるやり取りであるところ(原審被告人305,306,373丁),このCの返答は総額を考えていなかった者の
発言とは考えられない。その他,Cの供述は,本件現金供与に関する部分についても曖昧かつ客観的な裏付けに乏しく,現金配付のリストをAに作らせたとCが述べた旨の被告人供述(同306丁)にすら反しているのであって,真相を語っているとはいえず,総じて信用できないとみるほかない。
他方で,A証言が,報酬額一覧表①から同②への記載の変更状況や,C,D,Iらと被告人との関係性等といった証拠から認定される前提事実に沿うものであり,D証言とも整合し,互いに信用性を支え合っていて,十分信用できることは,既にみたとおりである。C供述が信用できることを前提に,同人の証人尋問がなかったから原判決は厳格な証明に欠けるという所論は,到底採用できない。2
被告人の弁解に理由があるとする主張について



原判決は,被告人供述の信用性について,概要,以下のとおり説示している。
被告人は,Cから選挙運動をがんばってくれた人に報酬を配りたい旨聞かされた際,Cに対し,賛同できないのでMに相談するように伝えたというものの,他方では,Dの報酬を200万円に上げることに賛同し,これを依頼する趣旨の発言をしたというのであって,首尾一貫した供述をしているとはいい難い。また,被告人は,Cに対し,Mと再度相談するように伝えたというのに,その後,MやCに再検討の結果を確認しなかったというのも不自然,不合理である。さらに,被告人は,Dから報酬を受け取ったことについてお礼を言われ,現金供与がされたことを知った時には,Dに恩を着せておこうと考え,同人の報酬額を増額するようCに指示した旨
発言したなどと供述するが,このような行動は,真に現金供与に反対していた者の行動としては極めて不自然であるといわざるを得ないし,被告人がその後Dに事実を確認したり,Cに問いただすなどの行動に出なかったことについても,合理的な説明はされていない。以上によれば,被告人の前記供述は信用することができない。⑵

被告人供述に関する原判決の前記判断は関係証拠の内容に沿うものであり,
経験則等に照らして不合理なところもない。


所論は,被告人がCに対して,供与には賛同できないので,Mと再度相談す
るようにと伝えた以上,Cがそれでも敢えて配付しようとするのであれば,再度被告人に対して相談してくるだろうと考えて待つことは,不自然,不合理ではない,という。
しかしながら,被告人の供述によっても,Cは最後までやめましょうかという話はしておらず,かつ,Cらが前記余剰金から2000万円も配ろうとしていることが心配であったとしながら(原審被告人378丁),Cに対してMに聞いたのかを事後的に確認しておらず(同377丁),MにもCとどんな話をしたかを聞かなかった(同397丁)というのであって,この点を不自然,不合理であるとした原判決に不合理な点はない。



所論は,Dからお礼を言われた際に被告人が増額を指示した旨を発言した点
については,自分が承諾していないのにCらが運動員報酬の供与をしたことを知った被告人が,Dと深い関係があることからとっさに口にした言葉であって,この発言から直ちに現金供与の承諾を推認することはできない,という。しかしながら,Dは,被告人から報酬の増額を告げられたのは,Cから報酬が100万円くらいになると言われた二,三日後の時点で(原審D23,32丁),実際に報酬を受け取る前であり(同12,30丁),お礼を言った時ではない旨を証言している(同17丁)のであって,被告人の供述は,信用できるD証言に相反している。また,被告人は,Dからお礼を言われた際,予想外の展開であったのに(原審被告人383,384丁),報酬を受け取ったのがいつで,その金額がいく
らであったかを確認することもなく(原審D17丁,原審被告人383丁),とっさに恩を売っておこうと考えて前記増額指示の発言をしたと供述しているのであって,この点が真に現金供与に反対していた者の行動としては極めて不自然であることも,原判決が説示するとおりである。


所論は,選挙対策本部発足の時点で,M,D,C及びAの間で,報酬供与の
事前共謀があったとの前提に立った上で,Cが選挙運動員の貢献度を考慮して報酬リストを作成した後,了承を得る必要があったのは,Cの上位者であったMであっ
たから,被告人の了承なしでも本件現金供与は可能であったと主張する。しかしながら,選挙対策本部発足の時点で事前共謀があったとする所論の前提が採用できないのは,既に述べたとおりである。また,本件現金供与の原資は,被告人が代表者を務める「Lの会」に対して,被告人の支持者から集まった寄付金であったことからすると,CがMだけでなく,被告人の了承も必要だと考えるのは,選挙資金の性質からいっても当然であるのに対し,本件ほどの多額の現金供与について,被告人の了承がなくとも可能であったとみるのは,常識的に考えて不自然であり,経験則に反するというべきである。


その他,所論が被告人の弁解が信用できるとして種々主張する点を踏まえて
も,被告人供述を信用できないとした原判決の判断に不合理な点はない。3Ⅳ
結局,事実誤認をいう論旨も理由がない。
結論

よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
平成30年3月13日
東京高等裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

青柳勤
裁判官

北村和
裁判官

溝田泰之
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