判例検索β > 平成29年(行ケ)第2号
選挙無効請求事件
事件番号平成29(行ケ)2
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日平成30年3月20日
法廷名広島高等裁判所
結果棄却
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1

実及び理由
請求
平成29年10月22日に行われた衆議院小選挙区選出議員選挙の広島県第1区及び同第2区における選挙をいずれも無効とする。

第2
1
事案の要旨
本件は,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)につき,広島県第1区及び同第2区の選挙人である原告らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は,人口比例に基づいておらず,投票価値の不平等を来たし,憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して提起した公職選挙法204条所定の選挙無効請求訴訟である。

2
前提事実(当事者間に争いがない事実,挙示した証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)

本件選挙施行当時の公職選挙法は,
衆議院選挙の選挙制度につき小選挙区

比例代表並立制を採用し,衆議院議員の定数は465名とされ,そのうち289名が小選挙区選出議員,176名が比例代表選出議員とされ(同法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項,別表第1。以下,改正の前後を通じてその選挙区割りに関する同法の規定を併せて「区割規定」といい,本件選挙当時の区割規定を「本件区割規定」という。),衆議院議員総選挙においては,小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法36条)。
(2)

本件選挙は,
平成28年法律第49号
(以下
「平成28年改正法」
という。


及び平成29年法律第58号(以下「平成29年改正法」という。)により改定された本件区割規定による選挙区割りの下で施行されたものであるが,これに至る法改正等の概要は次のとおりである。

昭和25年に制定された公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき,中選挙区単記投票制を採用していたが,平成6年に同法が改正され,衆議院議員の選挙制度は,小選挙区比例代表並立制に改められた。


平成6年には,衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,各改正の前後を通じて「区画審設置法」といい,同法に基づく衆議院議員選挙区画定審議会を「区画審」という。)が制定され,2条において,区画審は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとし,3条において,勧告の基礎となる選挙区割りの在り方を定め(ここでの定めを「区割基準」という。),4条1項において,その勧告は,統計法の規定により10年ごとに行われる国勢調査(いわゆる大規模調査)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとした。

平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」という。)の当時施行されていた区画審設置法(平成24年法律第95号による改正前のもの。以下「旧区画審設置法」という。)3条は,選挙区の区割りの基準につき,
①1項において,
改定案を作成するに当たっては,
各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,
各都道府県にあらかじめ1を配当することとし
(以
下,これを「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下,この区割基準を「旧区割基準」という。)。

平成21年選挙の効力が争われた訴訟において,最高裁平成22年(行ツ)
第207号同23年3月23日大法廷判決民集65巻2号755頁(以
下「平成23年大法廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする旧区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時において,
選挙区間の投票価値の較差が平成14年の法改正
(平
成14年法律第95号)時より拡大していたのは,1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び旧区割基準に従って改定された区割規定の定める選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。しかし,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割基準規定及び区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために,できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し,旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。


これを受けて,平成24年11月16日,平成24年法律第95条(以下「平成24年改正法」という。)が成立し,これにより,旧区画審設置法3条2項(1人別枠方式を定めた規定)が削除されるとともに,いわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。)の方式により選挙区割りを見直すこととされた。平成24年改正法により,旧区画審設置法3条1項が,同改正後の区画審設置法3条(以下「新区画審設置法3条」という。)となり,同条においては上記ウ①の基準のみが区割基準として定められた(以下,この区割基準を「新区割基準」という。)。カ
平成24年改正法の可決成立と同時に衆議院が解散され,平成24年12月16日に衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)が施行されたが,平成24年改正法に基づく公職選挙法の区割規定の改正はされていなかったので,平成24年選挙は,旧区割基準に基づく区割規定に従って行われた。


平成24年選挙後に行われた区画審の勧告を受けて平成25年6月24日,平成25年法律第68号(以下「平成25年改正法」という。)が成立し,0増5減の考え方に基づく公職選挙法の区割規定の改正が行われ,同年7月28日から施行された(以下,同改正後の選挙区割りを「平成25年選挙区割り」という。)。
上記改定の結果,平成22年10月1日を調査時とする国勢調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされた(乙3の2)。


平成24年選挙の効力が争われた訴訟において,最高裁平成25年(行ツ)第209号,第210号,第211号同年11月20日大法廷判決民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,同選挙時における選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,平成24年選挙までの間の国会における是正の実現に向けた取組が立法裁量権の行使として相当なものでなかったとはいえないから,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会においては今後も新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。

平成26年12月14日,平成25年選挙区割りに従って衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が施行された。同日における選挙区間の選挙人数の較差は,選挙人数が最少の選挙区である宮城県第5区と最多の東京都第1区の選挙人数の比は1対2.129であり,東京都第1区には,12選挙区との比較で2倍以上の選挙人がいた(乙2の3)。

平成26年選挙について,最高裁平成27年(行ツ)第253号同27年11月25日大法廷判決民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」という。)は,平成25年3月31日現在及び同26年1月1日現在の各住民基本台帳に基づいて総務省が試算した選挙区間の人口の最大較差はそれぞれ1対2.097及び1対2.109であり,上記試算において較差が2倍以上となっている選挙区はそれぞれ9選挙区及び14選挙区であるなどとし,このような投票価値の較差が生じた主な要因は,いまだ多くの都道府県において,新区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあるというべきであり,以上のような平成26年選挙時における投票価値の較差の状況やその要因となっていた事情などを総合考慮すると,平成25年改正後の平成24年改正法による選挙区割りの改定後も,平成26年選挙に至るまで,平成25年選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないが,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものと解されるところ,憲法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることはできないとして,平成25年改正法による区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないと判示した。

平成28年5月27日に成立した平成28年改正法は,本則において,①各都道府県への議席配分を,平成32年以降10年ごとに行われる大規模調査の結果に基づき,いわゆるアダムズ方式(各都道府県の人口を一定の数値で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計値が小選挙区選挙の定数と一致するように都道府県への議席配分を行う方式)により行うこととした上で,各選挙区間の最大較差が2倍以上にならないようにすること(区画審設置法3条1項,2項,4条1項),②平成37年以降の大規模調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる国勢調査(いわゆる簡易調査)の結果に基づく各選挙区間の最大較差が2倍以上になったときは,選挙区の安定性を図るとともに較差2倍未満を達成するため,各都道府県の選挙区数を変更することなく,区画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うものとすること(同法3条3項,4条2項),③衆議院議員の定数を10人削減し,うち小選挙区選出議員の定数は6人減とし(公職選挙法4条1項),附則において,平成27年の国勢調査(いわゆる簡易調査)の結果に基づく勧告について特例を定め,④区画審は,平成28年改正法による改正後の区画審設置法4条の規定にかかわらず,平成27年国勢調査の結果に基づき,同区画審設置法2条の規定による改定案の作成及び勧告を行うものとし(平成28年改正法附則2条1項,
3項)⑤その改定案の作成に当たっては,

289人を衆議院小選挙区選出議員の定数と,平成27年の国勢調査を平成28年改正法による改正後の区画審設置法4条1項の国勢調査とみなしてアダムズ方式を適用して得られる小選挙区の数(以下「新方式小選挙区定数」という。)が,平成28年改正法による改正前の公職選挙法別表第1における都道府県の区域内の小選挙区の数
(以下「改正前小選挙区定数」
という。)より少ない都道府県のうち,当該都道府県の平成27年国勢調査人口を新方式小選挙区定数で除して得た数が最も少ない都道府県から順次その順位を付した場合における第1順位から第6順位までに該当する都道府県について定数を1減し,その他の都道府県については,改正前小選挙区定数のままとして,改定案を作成するものとされた(同附則2条2項1号,2号),また,⑥平成28年改正法の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については,不断の見直しが行われるものとすること(同附則5条)とされた。シ
その後平成29年6月9日に成立した平成29年改正法は,本件区割規定を定めるものであり,衆議院小選挙区選出議員の選挙区のうち19都道府県97選挙区において区割りを見直し,かつ,上記サ⑤の基準に従い,6県への配分議席数を1ずつ削減するとともに,これら公職選挙法の改正規定の施行期日を同年7月16日と定めた。
本件選挙は本件区割規定に基づく選挙区割りにより行われたところ,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数を比較すると,最少の鳥取県第1区と最多の東京都第13区との比率は1対1.979であり,鳥取県第1区との較差が2倍以上の選挙区は存在しなかった(乙1)。

3
争点
本件の争点は,本件区割規定が憲法に適合するか否かである。

4
争点に関する原告らの主張
(1)

日本国憲法は,
代表民主制を採用し,公務員の選定罷免権を国民固有の権
利とし,普通選挙,平等選挙を保障している。そして,普通選挙制度,平等選挙制度の発展の歴史的経過からすると,選挙権の憲法的保障は,国民の人種,信条,性別,社会的身分,門地,その他具体的能力,資質及び居住地域の差異にかかわらず,形式的に1人に1票の保障を要請し(1人1票),かつ,その選挙権の内容においても等価性の保障を要求する(1票等価)。そして,国民主権と代表民主制の本来の姿からすれば,このような投票価値の平等は,他に優先する唯一かつ絶対的な基準でなければならない。このような1人1票及び1票等価に基づく選挙権の憲法的保障の要請は,国会が選挙区制を有する選挙制度を採用する場合には,各選挙区から選出される議員数の配分を均等になすべく,人口分布に比例した配分をなすよう国会の立法権限を覊束する。
この観点からすれば,議員数配分のための計算式には,ヘアー式(最大剰余法。日本の人口を議員1人当たりの人口で除した商の小数点以下の数値が大きい順に議員定数まで切り上げる方式)が採用されるべきであり,同方式に基づく議員数配分が民主主義の要求する配分原則に適合しているというべきであり,同方式は,昭和22年から平成14年までの間に,6回の議員数配分において採用された。
(2)

平成27年の国勢調査人口を資料に,
小選挙区選出議員の定数289名を

ヘアー式により都道府県に配分すると,別紙1「人口比例による定数配分」の「人口比例配分定数」欄記載のとおりとなり,その配分議員数と本件区割規定による配分議員数を比較すると,比例配分よりも多い「過剰代表」状態が17県,比例配分よりも少ない「代表欠缺」状態が8都府県であり,本件区割規定は人口に比例した配分をしておらず,憲法が保障する代議制民主制及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平等の保障に反し,違憲である。
(3)

また,
平成28年改正法及び平成29年改正法により改正された公職選挙法別表第2の比例区への配分議員数と,その比例区に含まれる都道府県(以下,この項において「ブロック」という。)に対して同法別表第1により配分される議員数とを合計した議員数も,人口に比例して配分されるべきである。
そこで,比例区への配分議員数176名及び議員総数465名を平成27年の国勢調査人口を資料にヘアー式(最大剰余法)により各ブロックに再配分すると,別紙2及び別紙3の各「人口比例配分定数」欄記載のとおりとなるが,これと平成28年改正法及び平成29年改正法により改正された公職選挙法別表第1及び同第2に定める各ブロックの合計議員数を比較すると,別紙3の「過不足」欄記載のとおり,北海道ブロックを除く全ブロックにおいて,「過剰代表」又は「代表の欠缺」の状態が発生している。
このような状態も,憲法が保障する代議制民主制及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平等の保障に反するものである。(4)

以上からすれば,本件区割規定は,憲法14条1項,15条に違反し,9
8条により無効であり,本件区割規定に基づいて施行された本件小選挙区選挙も無効である。
5
争点に関する被告の主張
(1)

憲法は,投票価値の平等を要求しているが,投票価値の平等は,選挙制度
の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
そして,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているのであるから,小選挙区制度における具体的な選挙区を定めるに当たっては,種々の政策的考慮要素を総合的に考慮した上で,国務遂行のための民意の正確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められる。
したがって,このような選挙制度の合憲性は,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。
このような観点からすれば,選挙区間の最大較差が2倍未満となる本件区割規定は,国会において通常考慮し得る諸般の要素を斟酌した,一般に合理性を有するものであって,憲法の投票価値の平等の要求に反するものとはいえない。
(2)

本件区割規定では,平成27年の国勢調査(簡易調査)の結果に基づく選
挙区間の最大較差(人口)は1.956倍(本件選挙当時の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1.979倍)と2倍未満にまで縮小されるに至ったのみならず,全選挙区を通じて較差の縮小が図られたものであり,このような選挙区間の最大較差のみをもってしても,本件選挙当時,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていなかったことは明らかである。
第3
1
当裁判所の判断
憲法は,選挙権の内容の平等,つまり投票価値の平等を要求しているものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(同法43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められている。
衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第75号昭和51年4月14日大法廷判決民集30巻3号223頁,平成23年,平成25年及び平成27年各大法廷判決)。
2
本件選挙は,本件区割規定に基づく本件選挙区割りにより行われたものであるところ,本件区割規定は,平成28年改正法の本則が定める大規模調査の結果に基づくアダムズ方式によるものではなく,同法附則及び平成29年改正法によるものであり,6県への配分議席数を1ずつ削減したものの,その余の都道府県については,旧区割基準を基本とする平成25年選挙区割りに基づいて配分された定数が見直されたわけではなく,平成27年の簡易調査の結果に基づき,将来の見込人口を踏まえ5年間を通じて較差2倍未満となるよう区割りを行うこととし,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員1人当たりの人口の最も少ない都道府県から順に6県の議員定数を各1削減し,また,19都道府県97選挙区において衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定を行ったものである。
したがって,本件選挙区割りは,平成28年改正法本則による議員定数配分が行われるまでの暫定措置としての性格を有することは否定できないものの,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,最少の鳥取県第1区と最多の東京都第13区との比率1対1.979であり,較差が2倍以上になる選挙区は存在しなかったのであるから,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものと評価し得るものである。
そうすると,平成29年改正法によって定められた本件区割規定は,投票価値の平等に反する状態の是正を最も優先すべき課題としながら,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況等の国会において考慮することができる諸要素を考慮しつつ,両者の調和を図ったものであり,その内容も一般に合理性を有し,許容されるものと考えられるから,国会に与えられた裁量権の範囲内で定められたものと評価することができ,憲法に違反しないというべきである。
3
原告らは,平成27年の国勢調査人口を資料に,小選挙区選出議員の定数289名をヘアー式により都道府県に配分した場合の配分議員数と本件区割規定に定める都道府県別議員数を比較すると,「過剰代表」状態が17県,「代表欠缺」状態が8都府県であり,本件区割規定は人口に比例した配分をしておらず,憲法が保障する代議制民主制及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平等の保障に反し,違憲であると主張するが,既に説示したとおり,憲法は,投票価値の平等を要求しているものの,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているのであるから,
選挙区間の選挙人数の較差が上記の程度にとどまる以上,
ヘアー式による議員数の配分が採用されていないからといって,そのことから直ちに,
本件区割規定が憲法に反するということはできない。
なお,
原告らは,
アダムズ方式を採用したことにより,実質的には1人別枠方式が存続しているとするが,1人別枠方式は,平成24年改正法により廃止されており,また,本件選挙区割規定による選挙区間の人口ないし選挙人の較差が上記の程度にとどまっていることからすれば,アダムズ方式を採用したこと自体が憲法に反するということもできない。
4
原告らは,平成28年改正法及び平成29年改正法による改正後の公職選挙法別表第2の比例区への配分議員数と,当該比例区に含まれる府県に対して配分される議員数とを合計した議員数が,人口に比例して配分されるべきであるとも主張する。原告らの上記主張が,小選挙区選挙の投票価値の平等,ひいては本件区割規定の違憲性を判断する基準とすべきであるとの趣旨か否かは必ずしも明らかではないが,選挙区割りを異にする2つの選挙(小選挙区選挙及び比例代表選挙)の議員定数を比例代表選挙の選挙区ごとに合計した上で,当該選挙区の人口と議員定数の比率を問題とすることが,小選挙区選挙の投票価値の平等を判断するための合理的な基準であるとは直ちに認め難く,原告らの上記主張を採用することはできない。仮に,原告らの上記主張が,これらが小選挙区選挙の投票価値の平等,違憲性の判断に際し,考慮すべき要素の1つとなり得るとする趣旨であるとしても,当該比例区の地域(以下「ブロック」という。)の小選挙区選挙と比例区選挙の両選挙区選挙の議員定数の合計と当該ブロックの人口との比率の格差をみると,東京都ブロックの平成27年国勢調査人口確定値は1351万5271人,同ブロックの両選挙区選挙の議員定数が合計42人であり,最も少ない四国ブロックの同国勢調査人口確定値は384万5534人,同ブロックの両選挙区選挙の議員定数が17人である(別紙3参照)から,議員1人当たりの人口は,東京都ブロックが32万1792人,四国ブロックが22万6208人となり,四国ブロックを1とすると東京都ブロックは1.4225であり,本件選挙の小選挙区選挙における選挙人数の最大較差1.
979
(本件選挙当日)に比べ,相当程度縮小していることになる。
したがって,このようなブロック内の2つの異なる選挙区選挙の議員定数の合計の人数に基づくブロック間の選挙人数の最大較差の観点を考慮したとしても,本件区割規定は,国会に与えられた裁量権の範囲内で定められたものと評価できるとする前記判断を何ら左右するものではない。
5
以上によれば,本件選挙区割りを定める本件区割規定が憲法に違反するとはいえないから,本件選挙における広島県第1区及び同第2区の各選挙が無効であるとは認められず,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所第3部

裁判長裁判官


裁判官


佐々木

考司亘
裁判官


(別紙1から別紙3まで添付省略)

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