判例検索β > 平成29年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号平成29(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日平成30年3月30日
法廷名広島高等裁判所
結果棄却
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求の趣旨
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の広島県第1区ないし第7区,山口県第1区ないし第4区における選挙を,いずれも無効とする。

第2
1
事案の概要
本件は,平成29年10月22日に施行された衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について,小選挙区である広島県第1区ないし第7区及び山口県第1区ないし第4区の各選挙人である原告らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法204条に基づき,それぞれ広島県選挙管理委員会又は山口県選挙管理委員会を被告として提起した選挙無効訴訟である。
2
前提となる事実(争いのない事実又は裁判所に顕著な事実等)
(1)

本件選挙について
本件選挙の小選挙区選挙は,平成29年10月22日,公職選挙法(平成29年法律第58号による改正後のもの。以下「平成29年改正法」という。)13条1項及び別表第一(以下,改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規定」といい,平成29年改正法による13条1項及び別表第1を「本件区割規定」という。)による選挙区割り(以下「本件選挙区割り」という。)の下で施行された。


原告Aは,本件選挙の広島県第1区の選挙人,原告Bは同第2区の選挙人,原告Cは同第3区の選挙人,原告Dは同第4区の選挙人,原告Eは同第5区の選挙人,原告Fは同第6区の選挙人,原告Gは同第7区の選挙人,原告Hは山口県第1区の選挙人,原告Iは同第2区の選挙人,原告Jは同第3区の選挙人,原告Kは同第4区の選挙人である。
(2)

衆議院議員総選挙の制度の変遷
選挙制度の概要
衆議院議員の選挙制度は,平成6年に成立した公職選挙法の一部を改正する法律(平成6年法律第2号)により,従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた。
本件選挙の施行当時の選挙制度によれば,
衆議院議員の定数は465人,
そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項),うち小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされていた(本件区割規定)。


選挙区の区割りの変遷
(ア)

区画審の設置と区画基準の定め
平成6年に上記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した
衆議院議員選挙区画定審議会設置法(平成6年法律第3号。以下,改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)は,同法1条により設置される衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)が,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものと定めている(同法2条)。
上記選挙区の区割りの基準(以下,改正の前後を通じて「区割基準」という。)について,平成24年法律第95号による改正前の区画審設置法3条(以下「旧区画審設置法3条」という。)は,①1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当した上で(以下,このことを「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下,この区割基準を「旧区割基準」といい,この規定を「旧区割基準規定」という。)。
選挙区の改定に関する区画審の勧告は,統計法5条2項本文(平成19年法律第53号による改正前は4条2項本文)の規定により10年ごとに行われる国勢調査(以下「大規模国勢調査」ということがある。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(区画審設置法4条1項),さらに,区画審は,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは,勧告を行うことができるものとされていた(後記平成28年法律第49号による改正前の同条2項)。
区画審は,平成12年10月に行われた国勢調査(以下「平成12年国勢調査」という。)の結果に基づき,平成13年12月,衆議院小選挙区選出議員の選挙区に関し,旧区画審設置法3条2項に従って各都道府県の議員の定数につきいわゆる5増5減(5県の選挙区数をそれぞれ1増し,5道県の選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。以下,同様に用いる。)を行った選挙区割りの改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,これを受けて,平成14年7月,その勧告どおりの選挙区割りの改定を行うことなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号)が成立した(以下,同法による改正後の公職選挙法13条1項及び別表第一を併せて「旧区割規定」といい,旧区割規定により定められた選挙区割りを「旧選挙区割り」という。)。
(イ)旧選挙区割りに基づく総選挙の実施とこれに対する最高裁大法廷判決平成14年の上記改正の基礎とされた平成12年国勢調査の結果による人口を基にした旧区割規定の下における選挙区間の最大較差は,人口が最も少ない高知県第1区と人口が最も多い兵庫県第6区との間で1対2.064であり,高知県第1区と比べて較差が2倍以上になっている選挙区は9選挙区であった。また,旧区割規定による旧選挙区割りの下で施行された平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」という。)の選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.304であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上になっている選挙区は45選挙区であった。
このような状況の下で施行された平成21年選挙に関する最高裁平成23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする旧区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時において,選挙区間の投票価値の較差が上記のとおり拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたというべきであるから,旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び同区割基準に従った旧区割規定の定める旧選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた旨判示した。そして,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割基準及び旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に,できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し,旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って旧区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
(ウ)

平成23年大法廷判決を受けた是正
上記大法廷判決を受け,国会において各政党による検討及び協議が行
われ,複数の改正法案が提出されたところ,平成24年11月16日,1人別枠方式の廃止(旧区画審設置法3条2項の削除)及び各都道府県の選挙区数の0増5減を内容とする,公職選挙法及び区画審設置法の改正法が,平成24年法律第95号(以下「平成24年改正法」という。)として成立した。
1人別枠方式の廃止を含む制度の是正のためには,区画審の審議を挟んで区割基準に係る区画審設置法の改正と選挙区割りに係る公職選挙法の改正という二段階の法改正を要するところ,平成24年改正法は,附則において,1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項を削除する改正規定は公布日から施行するものとする一方で,上記0増5減を内容とする改正後の公職選挙法の規定は次回の衆議院議員の総選挙から適用するものとし,上記0増5減を前提に,区画審が選挙区間の人口較差が2倍未満となるように選挙区割りを改める改定案の勧告を公布日から6月以内に行い,政府がその勧告に基づいて速やかに法制上の措置を講ずべき旨を定めた。上記改正により,旧区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条(以下「平成24年改正法による区画審設置法3条」という。)となり,同条においては上記イ(ア)の①の基準のみが区割基準として定められている(以下,この区割基準を「平成24年改正法による区割基準」という。)。
(エ)

平成24年改正法成立後の総選挙の実施と平成25年改正法の成立平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,平成24年12
月16日,衆議院議員総選挙が施行されたが(以下「平成24年選挙」という。),上記(ウ)のとおり,平成24年改正法の改正内容に沿った選挙区割りの改定には,区画審が新たな選挙区割りの改定案を作成してそれを勧告し,これに基づき公職選挙法を改正する必要があり,平成24年選挙までに新たな選挙区割りを定めることは時間的に不可能であったため,平成24年選挙は,平成21年選挙と同様に旧区割規定により定められた旧選挙区割りの下で施行された。
平成24年選挙の選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.425であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上になっている選挙区は72選挙区であった。
平成24年改正法の成立後,同改正法の附則の規定に従って区画審による審議が行われ,区画審は,平成25年3月28日,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告をした。この改定案は,平成24年改正法の附則の規定に基づき,
各都道府県の選挙区数の0増5減を前提に,
選挙区間の人口較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割りを定めることを内容とするものであった。(乙5,6)上記勧告を受けて,平成25年4月12日,内閣は,平成24年改正法に基づき,同改正法のうち上記0増5減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるとともに,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項(旧区割規定の改正規定及びその施行期日)を定める法制上の措置として,平成24年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し,平成25年6月24日,平成25年法律第68号として成立した(以下「平成25年改正法」という。)。同改正による改正後の平成24年改正法中の上記0増5減及びこれを踏まえた区画審の上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は,同年7月28日に施行された(以下,上記改正後の区割規定を「平成25年改正法による区割規定」といい,同区割規定に基づく上記改定後の選挙区割りを「平成25年改正法による選挙区割り」という。)。
これにより,平成22年10月に行われた国勢調査(以下「平成22年国勢調査」という。)の結果による選挙区間の人口の最大較差は,1.998倍に縮小された。
(オ)

平成24年選挙に関する最高裁判決
平成24年選挙に関する最高裁判所平成25年11月20日大法廷判
決・民集67巻8号1503頁
(以下
「平成25年大法廷判決」
という。

は,同選挙時において,旧区割規定が定める旧選挙区割りは,平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものであるが,平成24年選挙までの間の国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったとはいえないから,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないと判示した上で,投票価値の平等は憲法上の要請であり,1人別枠方式の構造的な問題は最終的に解決されているとはいえず,国会においては,今後も,平成24年改正法による区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると指摘した。
(カ)

平成25年改正法成立後の総選挙の施行
平成26年11月21日,衆議院が解散され,同年12月14日,衆
議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が平成25年改正法による選挙区割りの下で施行された。
平成26年選挙の選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない宮城県第5区と選挙人数が最も多い東京都第1区との間で1対2.129であり,宮城県第5区と比べて較差が2倍以上になっている選挙区は13選挙区であった。なお,平成26年選挙当日において,東京都第1区の選挙人数は,宮城県第5区のほか,福島県第4区,鳥取県第1区,同第2区,長崎県第3区,同第4区,鹿児島県第5区,三重県第4区,青森県第3区,長野県第4区,栃木県第3区及び香川県第3区の12選挙区の各選挙人数のそれぞれ2倍以上となっていた。
(キ)

平成26年選挙に関する最高裁判決
平成26年選挙に関する最高裁判所平成27年11月25日大法廷判
決・民集69巻7号2035頁
(以下
「平成27年大法廷判決」
という。

は,
同選挙時における選挙区間の人口の最大較差等の状況は上記(カ)のとおりであり,このような投票価値の較差が生じた主な要因は,いまだ多くの都道府県において,平成24年改正法による区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されているということにあり,以上のような同選挙時における投票価値の較差の状況やその要因となっていた事情等を総合考慮すると,平成25年改正法による選挙区割りは,なお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないが,同選挙までに国会における是正の実現に向けた取組が行われ,是正の実現に向けた一定の前進と評価し得る法改正及びこれに基づく上記選挙区割りの改定が行われたこと等の諸事情に照らすと,国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決及び平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできないから,憲法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることはできず,上記選挙区割りの規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会においては平成24年改正法による区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。
(ク)
a
平成28年改正法の成立
平成25年大法廷判決の前後を通じ,国会において,選挙制度改革について政党間の協議が続けられたが,
各党の意見は一致しなかった。
そこで,平成26年6月19日,衆議院に,有識者により構成される議長の諮問機関として衆議院選挙制度に関する調査会(以下「選挙制度調査会」という。)が設置された(乙9)。同会は,平成27年大法廷判決の前後を通じて議論を重ね,平成28年1月14日,衆議院議長に対し,①衆議院議員の定数を10人削減して465人とし,うち小選挙区選挙の定数を6人削減して289人とし,比例代表選挙の定数を4人削減して176人とすること,②都道府県への議席配分をアダムズ方式(各都道府県への議席配分は,各都道府県の人口を一定の数値で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致する方式)により行うこと,③都道府県への議席配分の見直しは,制度の安定性を勘案し,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行うこと等を内容とする答申(以下「本件答申」という。)をした。本件答申においては,小選挙区の定数を6減じて289とした場合のアダムズ方式による都道府県への議席配分試算がされ,平成22年国勢調査の結果による人口に基づく試算によれば,13県(青森県,岩手県,宮城県,新潟県,三重県,滋賀県,奈良県,広島県,愛媛県,長崎県,熊本県,鹿児島県及び沖縄県)において各選挙区の数を合計13(各県の選挙区につき各1)減じ,5都県(東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県及び愛知県)において各選挙区の数を合計7(東京都の選挙区につき3,その余の各県の選挙区につき各1)増やす,7増13減が必要とされた。(乙8〔枝番を含む。〕,10)
b
上記答申を受け,平成28年5月20日,区画審設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年法律第49号。以下「平成28年改正法」という。)が成立し,同月27日に施行された。
平成28年改正法は,その本則において,①衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差について,各都道府県の区域内の選挙区の数を平成32年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査(平成32年に行われる国勢調査につき,以下「平成32年国勢調査」という。)の結果に基づき,アダムズ方式により配分した上で,各選挙区間の最大較差(日本国民の人口)が2倍以上にならないようにすること(上記改正後の区画審設置法3条1項,2項,4条1項。なお,平成24年改正法による区画審設置法3条は,「2以上とならないようにすることを基本」としていた〔上記イ(ア)①〕。),②平成37年以降の簡易国勢調査(統計法5条2項ただし書により行われる国勢調査であり,大規模国勢調査を行った年から5年目に当たる年に簡易な方法により行われる国勢調査をいう。平成27年に行われた簡易国勢調査〔乙21〕につき,以下「平成27年簡易国勢調査」という。)の結果に基づく各選挙区間の最大較差(日本国民の人口)が2倍以上になったときは,選挙区の安定性を図るとともに較差2倍未満を達成するため,各都道府県の選挙区数を変更することなく,区画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うものとすること(同法3条3項,4条2項),③衆議院議員の定数を10人削減し,小選挙区の定数を6人削減して289人とすること(上記改正後の公職選挙法4条1項)を規定し,附則において,④平成32年国勢調査までの措置として,平成27年簡易国勢調査の結果に基づき,各選挙区の人口に関し,将来の見込人口を踏まえ,平成32年までの5年間を通じて較差2倍未満となるよう区割りを行うなどの措置を行うこと(平成28年改正法附則2条1項,3項),⑤小選挙区選挙の定数6減の対象県について,平成27年簡易国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる県のうち,議員1人当たり人口の最も少ない県から順に6県とすること(同附則2条2項1号),⑥平成28年改正法の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については,不断の見直しが行われるものとすること(同附則5条)などを定めている。
(ケ)
a
平成29年改正法の成立
平成28年改正法の成立後,同法附則の規定に従って区画審による審議が行われ,区画審は,平成29年4月19日,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧告をした。同勧告は,平成28年改正法附則に基づき,各都道府県の選挙区数の0増6減(青森県,岩手県,三重県,奈良県,熊本県及び鹿児島県がその対象県とされた。)を前提に,
平成27年簡易国勢調査の結果に基づく選挙区間の最大較差
(人
口)を2倍未満(1.956)とするのみならず,平成32年見込人口(平成27年簡易国勢調査の結果による日本国民の人口に,平成22年国勢調査から平成27年簡易国勢調査までの人口の伸び率を乗じて得た人口をいう。)に基づく選挙区間の最大較差(人口)も2倍未満(1.999倍)となるように19都道府県の97選挙区(改定後は91選挙区となる。)において選挙区割りを改めることを内容とするものである。(甲7,乙14の1・2)
b
上記勧告を受けて,区画審設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律(平成29年改正法)が,平成29年6月9日,平成29年法律第58号として成立し,同月16日,施行された。そして,平成29年改正法による改正後の平成28年改正法中,上記0増6減及びこれを踏まえた19都道府県の97選挙区における選挙区割りの改定を内容とする本件区割規定は,平成29年7月16日に施行された。

c
平成29年改正法により,平成27年簡易国勢調査の結果による日本国民の人口における各都道府県間の議員1人当たりの人口の最大較差は1.844倍となり,また,選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は,鳥取県第2区と神奈川県第16区との間の1.956倍にまで縮小され(較差が2倍以上の選挙区は存在しなくなった。),さらに,平成32年の見込人口においても,鳥取県第1区と東京都第22区との間の1.999倍となった。(乙14の1,18の1)。なお,平成29年改正法においても,選挙制度調査会が本件答申において行った議席配分試算(上記(ク)a)の結果必要とされた7増13減のうち,上記0増6減を除く,その余の7増7減の改定は行われなかった。

(コ)

本件選挙の実施
本件選挙の選挙当日である平成29年10月22日時点における,本
件選挙区割りによる選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は,鳥取県第1区と東京都第13区との間の1対1.979であり,較差が2倍以上となっている選挙区は存在しなかった(乙1)。3

争点(本件選挙区割りの憲法適合性)に対する当事者の主張
(1)

原告らの主張
本件選挙区割りが投票価値の平等に反する配分となっていること
憲法56条2項,1条,前文第1文によれば,人口比例選挙(多数の国民が多数の国会議員を選出する選挙制度)により保障される1人1票の投票価値の平等は,憲法上の厳格な要求であるから,本件選挙区割りは,上記平等に反するものであり,無効である。


本件選挙区割りが1人別枠方式を廃止する区割配分となっていないこと平成23年,平成25年及び平成27年の各大法廷判決は,いずれも1人別枠方式による各都道府県への議員定数の配分は憲法の投票価値の平等の要求に反し合理的でない旨を判示した。
しかし,本件選挙区割りにおいては,平成29年改正法により0増6減の配分定数の見直しがされたにすぎない。すなわち,本件選挙について,平成22年国勢調査の結果に基づき全面的な議員定数の再配分をした場合には,7増13減となるべきであったところ,本件選挙区割りにおいては,12都県において上記再配分が行われていない。そうすると,本件選挙区割りのうち12都県の選挙区割りは,1人別枠方式による議員定数が維持されていることになる。
よって,12都県の選挙区割りには違憲状態の瑕疵があるというべきところ,各選挙区の有機的一体性からして,全選挙区が違憲状態の瑕疵を有することになる。


本件選挙が無効であること
(ア)

最高裁判決の「合理的期間の判例法理」は,憲法98条1項の明文に
反しており,その効力を有しない。
(イ)

仮に上記の判例法理によるとしても,
平成25年大法廷判決が合理的

期間の始期であると認定した平成23年大法廷判決の言渡日である平成23年3月23日から本件選挙の施行日である平成29年10月22日までに6年6月30日が経過しており,合理的期間が徒過したと解すべきである。本件選挙は憲法98条1項により無効である。
(2)

被告らの主張
選挙制度の決定は国会の広範な裁量に委ねられており,投票価値の平等のみを絶対的な基準とするものではない。そして,平成28年及び平成29年の各改正法により,本件選挙区割りにおいて投票価値の較差は2倍未満に縮小されたのみならず,将来的にもこれが維持されるような立法的措置が採られたのであり,平成23年,平成25年及び平成27年の各大法廷判決が指摘した1人別枠方式の構造的な問題は解消されている。よって,本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反しない。

本件選挙は,本件選挙区割りの下での初めての選挙であり,本件選挙区割りは平成24年改正法による区画審設置法3条の求める2倍未満の較差を実現したものであったことから,国会において,本件選挙までに本件選挙区割りが投票価値の平等の要求に反する状態にあったとは全く認識することができなかった。そうすると,本件選挙区割りについて,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったなどとはいえない。
第3
1
当裁判所の判断
本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているか否か
(1)

代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の
利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,国政における安定の要請も考慮しながら,それぞれの国において,その国の具体的な事情に即して具体的に決定されるべきものである。このことからすれば,衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際し,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているとはいえ,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されており,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画等を基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況等の諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められている。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,全国民の代表という基本的な要請や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため,
上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,
これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになると解すべきである(最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁,最高裁昭和58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁,最高裁昭和60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁,最高裁平成5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁,最高裁平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁,最高裁平成11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁,最高裁平成19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁のほか平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決参照)。(2)

原告らは,憲法56条2項,1条,前文第1文によれば,1人1票の投票
価値の平等は,憲法上の厳格な要求であるから,本件選挙区割りは,上記平等に反すると主張する。しかし,上記(1)で説示したとおり,憲法が,投票価値の平等(人口比例選挙)を絶対の基準として要求し,これ以外の理由による上記平等に対する制限を容認していないと解することはできない。また,憲法56条2項は,国会における表決の方法を定めた条文であり,その文理解釈により,原告らの主張に係る投票価値の平等の要求を導くことはできない。原告らの上記主張は採用することができない。
(3)

原告らは,投票価値の平等の要求に反する1人別枠方式が,本件選挙区割
りのうち,12都県の選挙区割りにおいて維持されており,同各選挙区割りには違憲状態の瑕疵があるところ,各選挙区の有機的一体性からして,全選挙区が違憲状態の瑕疵を有することになると主張する。
本件選挙区割りは,前記認定第2の2(2)イ(ク),(ケ)のとおり,平成28年及び平成29年の各改正法により,アダムズ方式を採用し,小選挙区の定数を0増6減とし,平成27年簡易国勢調査の結果による日本国民の人口及び平成32年の見込人口において,選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差が2倍未満となるように定められたものである。
確かに,上記各改正法において,議員1人当たりの人口の最も少ない都道府県から順に6県を定数6減の対象とするにとどまり,アダムズ方式の全面的な適用は平成32年国勢調査に基づく定数配分から行うこととされたため(前記第2の2(2)イ(ク)b,(ケ)a,b),アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる県のうち,上記6県を除くその余の都県については,上記計算に基づく定数の再配分がされていない(前記第2の2(2)イ(ク)a,(ケ)c)。よって,再配分が行われるべき都県においては,1人別枠方式による旧区画基準に基づく議員定数が維持されており,1人別枠方式が完全に廃止されたとはいえないという意味で,不十分な点を残したものであったことは否定することができない。
しかしながら,前記認定第2の2(2)イ(ク)bのとおり,平成28年改正法により,本件選挙までの間に,平成32年からではあるものの,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により選挙区の数を配分して選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差が2倍以上とならないようにすることとし,かつ,その中間年に行われる平成37年以降の簡易国勢調査の結果に基づく上記較差が2倍以上になったときは,区画審が較差2倍未満を達成するための措置を講ずることとされたことにより,平成25年及び平成27年の各大法廷判決が指摘するような,1人別枠方式を要因として較差が2倍以上の選挙区が生じるという構造的な問題点は,解決されているということができる。また,本件選挙区割りは,平成28年改正法の附則を受けて平成29年改正法により改定されたものであり,平成32年国勢調査が行われるまでの措置として,平成27年簡易国勢調査に基づく選挙区間の最大較差を2倍未満とするのみならず,平成32年見込人口に基づく選挙区間の最大較差も2倍未満とするため,19都道府県の97選挙区で選挙区割りを改定したものであり(前記第2の2(2)イ(ケ)b),実際に,本件選挙の選挙当日においても,本件選挙区割りによる選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は2倍未満であったものである(同(コ))。もとより,投票価値の較差の是正に向けて選挙制度を漸次的に整備していくことも,国会の裁量に係る現実的な選択として許容されているところ,上記のとおり選挙区間の最大較差を2倍未満とすることを実現させつつ,平成32年国勢調査の結果による選挙区割りの改定が行われるまでの過渡的な措置として,平成28年及び平成29年の各改正法におけるような方法を採ることも,国会の裁量に係る現実的な選択として許容されているものと解される。
そうすると,本件選挙区割りについて上記のような不十分な点があったとしても,そのことをもって,本件選挙区割りが国会の裁量権の限界を超えているとは認めることができず,原告らの上記主張は採用することができない。
(4)

以上のとおりであるから,
本件選挙の当時において,
本件選挙区割りが憲

法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたということはできない。2
よって,その余の点について判断するまでもなく,本件請求は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

広島高等裁判所第2部

裁判長裁判官

三木昌之
裁判官

山本正道
裁判官

長丈

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