判例検索β > 平成29年(行ケ)第10176号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10176
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年3月28日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日 平成30年3月28日 担
当 知的財産高等裁判所 第2部
平成29年(行ケ)第10176号 部
事 件 番 号
○ 審決の相違点の判断に誤りがあったとした 事例。
(関連条文)特許法29条2項
(関連する権利番号等)特許第6035579号,無効2017-800011号
判 決 要 旨
1 被告は,名称を「登記識別情報保護シール」とする発明についての特許(特許第60
35579号)の特許権者である。原告は,本件特許の無効審判請求をしたところ(無効
2017-800011号),特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をした。
2 登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰
り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報を読み取りにくくなるという登記識別
情報保護シールにおける本件課題は,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何
度も貼り付け,剥離することを繰り返すと必然的に生じるものであって,登記識別情報保
護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる。現に,本件原出願日の5年以
上前である平成21年9月30日には,登記識別情報保護シールの需要者である司法書士
に認識されていたものと認められる。そして,登記識別情報保護シールの製造・販売業者
は,需要者の要求に応じた製品を開発しようとするから,本件課題は,本件原出願日前に,
当業者において周知の課題であったといえる。
そうすると,本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当業者は,
フィルム層(粘着剤層)の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするた
めに,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認められ
る。甲3発明と甲1発明は,秘密情報保護シールであるという技術分野が共通し,一度剥
がすと再度貼ることはできないようにして,秘密情報の漏洩があったことを感知するとい
う点でも共通する。したがって,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けがあるといえる。
甲1発明に甲3発明を適用すると,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがなくな
り,本件課題が解決される。したがって,甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点
に係る構成とすることは,当業者が容易に想到するものと認められる。
-1-
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平成30年3月28日判決言渡
平成29年(行ケ)第10176号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年3月14日
判原決告
株式会社KALBAS

同訴訟代理人弁護士

櫻林正己
同訴訟代理人弁理士

後呂和男寺尾泰一中山英明被告
日本情報開発株式会社

同訴訟代理人弁護士


同訴訟代理人弁理士

林主1﨑順一實文
特許庁が無効2017-800011号事件について平成29年8月21日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求の趣旨

主文同旨
第2

事案の概要

本件は,原告が請求した特許無効審判の不成立審決に対する取消訴訟である。争点は,サポート要件(特許法36条6項1号)違反の有無及び進歩性の有無につい
ての判断の当否である。
1
手続の経緯

被告は,平成27年3月20日(以下,
「本件原出願日」という。
)に出願された
実用新案登録第3198127号に基づいて,
平成28年1月21日に出願され
(特
願2016-21270号)同年11月11日に設定登録がされた特許,
(以下,
「本
件特許」
という。
特許第6035579号。
発明の名称
「登記識別情報保護シール」

の特許権者である(甲10,乙8)

原告は,平成29年1月30日,本件特許の無効審判請求をしたところ(無効2017-800011号)
,特許庁は,平成29年8月21日,
「本件審判の請求は,
成り立たない。
」との審決をし,同審決謄本は,同月31日に原告に送達された。2
本件発明の要旨

本件特許の請求項1~4に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい,まとめて「本件発明」という。
)は,次のとおりである。
(本件発明1)
登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための,一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールであって,前記登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも前記登記識別情報に接触する部分には前記登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有することを特徴とする登記識別情報保護シール。
(本件発明2)
前記非粘着領域は,前記登記識別情報が記載されている部分を囲む矩形領域であることを特徴とする請求項1記載の登記識別情報保護シール。
(本件発明3)
前記非粘着領域は,前記登記識別情報が記載されている部分を囲む任意の多角形領域であることを特徴とする請求項1記載の登記識別情報保護シール。(本件発明4)

前記非粘着領域は,コーナー部にR面取りなどの面取りがされていることを特徴とする請求項2乃至3いずれか1項記載の登記識別情報保護シール。3
審決の理由の要旨
(1)

原告が主張した無効理由
無効理由1

請求項1において,「一度剥がすと再度貼り直しできない」と機能的に記載された発明特定事項を含んで特定される発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから,本件発明1~4は,特許法36条6項1号の規定する要件を満たしておらず,その特許は同法123条1項4号の規定に該当し,無効とすべきものである。

無効理由2

本件発明1~4は,甲1及び甲2に記載された発明,又は甲1及び甲3に記載された発明に基づいて,出願前に,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきものである。(2)

無効理由1についての判断

本件特許の明細書(以下,図面と併せて「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載からすると,本件発明の課題は,「登記識別情報通知書記載の登記識別情報を有効に隠蔽・保護するとともに,何度も登記識別情報保護シールの剥離作業を行っても登記識別情報が読み取り不能になることのない登記識別情報保護シールを提供すること」にある。
そして,上記課題を解決する手段として,本件明細書の発明の詳細な説明には,「登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層が,登記識別情報の上に堆積しないように,粘着剤層の内部に登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を設けること」を採用したと記載されている。
一方,本件発明は,上記課題を解決する手段として,「登記識別情報保護シール
を構成する粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有すること」と特定するものである。そうすると,本件発明の上記課題を解決する手段と本件明細書の発明の詳細な説明に記載された上記課題を解決する手段とは,実質的に対応しているといえる。なお,本件発明の「一度剥がすと再度貼り直しできない」との発明特定事項は,本件原出願日前に,当業者においてよく知られた事項である。
したがって,請求項1の記載は,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,特許法36条6項1号の規定に適合するものである。
(3)

無効理由2についての判断
引用発明の認定
(ア)

特開2007-52379号公報
(甲1。
以下,
「甲1文献」
という。


記載の発明(以下,「甲1発明」という。)
「登記識別情報通知書が法務局から下付された際に登記識別情報を秘匿していた目隠しシールを前記登記識別情報通知書から剥がした後に前記登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼り直しができない登記識別情報保護シール。」(イ)

特開2010-260184号公報(甲2。以下,「甲2文献」とい
う。)記載の発明(以下,「甲2発明」という。)
「上面に情報が複写記録される複写記録領域を有する第1のシートと,上記複写記録領域の周辺部において第1のシートに対して貼着されて上記複写記録領域を覆い,上記複写記録領域に対応する上面が非複写記録面に形成されることにより,上記第1のシートの複写記録領域に記録された情報を隠蔽するとともに,複写記録領域に対応する部分が除去可能な除去領域に形成された第2のシートと,上記第1のシート及び第2のシートの上に離脱可能に積層され,上記第1のシートの複写記録領域に対応する部分に,上記複写記録領域に複写記録する情報を記録する情報記録領域が設けられた第3のシートとを備え,

上記第2のシートは,少なくとも上記複写記録領域及びその周囲の貼着領域を覆う大きさ形状に形成され,裏面の周辺部に接着剤層が形成されて貼着領域において第1のシートに貼着されており,
上記第2のシートには,貼着領域に対応して接着剤層が設けられた帯状領域の内側に,容易に切り離すことができる切断線としてのミシン目が環状に設けられ,このミシン目の内側が,容易に除去可能な除去領域に形成されており,上記第1のシートに隠蔽された情報を閲覧する場合には,第2のシートの除去領域をミシン目を切断することにより剥離除去すると,複写記録領域が露呈して複写記録された情報を閲覧することができ,このとき,第2のシートはミシン目から切断してしまうので,再び第1のシートに貼着することはできず,情報の漏洩を防止する情報隠蔽記録シート。」
(ウ)

実願昭61-189006号
(実開昭63-92774号)
のマイク

ロフィルム(甲3。以下,「甲3文献」という。)記載の発明(以下,「甲3発明」という。)
「被着体の情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体から成り,前記情報表示部の周部に位置して前記シート体に剥離可能な印刷層を形成すると共に,該印刷層上に該シート体を被着体に接着するための感圧性接着剤層を積層して成り,
シート体を被着体より剥離すると,印刷層はシート体に対して剥離可能である一方,感圧性接着剤層に接着されているから,引き剥がされるシート体に追従することなく,該印刷層の少なくとも一部は接着剤層上に転移して,シート体を被着体に再度接着させようとしても,シート体は前記剥離された印刷層上には接着せず分離状態にあり,元の状態には復帰しない秘密保持シート。」

本件発明1について
(ア)

本件発明1と甲1発明との対比

(一致点)

「登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための,一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールであって,前記登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層を有する登記識別情報保護シール。」
(相違点)
本件発明1は,「粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有する」のに対し,甲1発明は,そのようなものではない点。
(イ)
a
相違点の判断
登記識別情報保護シールにおいて,登記識別情報保護シールを登記
識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報が読み取れにくくなるという課題(以下,「本件課題」という。)は,周知の課題であるから,甲1発明において内在する自明の課題といえるが,甲1発明には,本件課題を解決するための手段は示されていない。甲2発明には,「(秘密)情報通知書に貼り付けるために外周部に接着剤層を設け,(秘密)情報通知書の複写記録領域に記録された情報(秘密情報)に対応する部分(領域)には,接着剤層を設けていない秘密情報保護シール」が示されているといえる。ところで,甲2文献には,本件課題は記載も示唆もされていない。また,甲2発明は,第2のシートの裏面の周辺部に接着剤層を第1のシートの貼着領域に貼着して,第1のシートの複写記録領域に記録された情報を隠蔽し,第2のシートの第1のシートの複写記録領域に対応する除去領域を切断線としてのミシン目を切断することにより剥離除去して,第1のシートに隠蔽された情報を閲覧するものであって,接着剤層の部位を剥がすものでなく,本件発明や甲1発明とは,その前提において異なる。また,甲2発明は,例えば,請求書に使用するもので,第1のシートに貼着された第2のシートを剥離除去して,複写記録された情報を閲覧するものであって,再度,そのような第1のシートに新たな第2のシートを貼着して使用
することは想定していない。そうすると,甲2発明において,第2のシートを第1のシートに何度も貼り付け,
剥離することを繰り返すと,
接着剤層が多数積層して,
閲覧する複写記録された情報が読み取れにくくなるといった課題が,自明であるとはいえない。
また,甲1発明は,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返しても,登記識別情報が解読不能とならなくするための機能,作用を有するものではない。
したがって,甲1発明に甲2発明を適用する動機付けはない。また,相違点に係る本件発明1の発明特定事項が,
当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
甲1発明において,他に相違点に係る本件発明1の発明特定事項を備えるものとすることを,当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。よって,甲1発明において,甲2発明を適用することにより,相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得るものではない。b
甲3発明には,「(秘密)情報通知書に貼り付けるために外周部に
印刷層,及び感圧性接着剤層を設け,(秘密)情報通知書の情報表示部に記載された秘密情報に対応する部分(領域)には,感圧性接着剤層を設けていない秘密情報保護シール」が示されている。
ところで,甲3文献には,本件課題は記載も示唆もされていない。また,甲3発明は,例えば,個人情報(秘密情報)が記載された葉書に使用し,被着体に接着されたシート体を剥離して,情報表示部に記載された秘密情報を閲覧するもので,再度,当該被着体に新たなシート体を接着して使用することは想定していない。そうすると,甲3発明において,シート体を被着体に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,感圧性接着剤層が多数積層して,閲覧する秘密情報が読み取れにくくなるといった課題が,自明であるとはいえない。
また,甲1発明は,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返しても,登記識別情報が解読不能とならなくするため
の機能,作用を有するものではない。
したがって,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けはない。また,上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項が,当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。甲1発明において,他に相違点に係る本件発明1の発明特定事項を備えるものとすることを,当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。よって,甲1発明において,甲3発明を適用することにより,相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得るものではない。ウ
本件発明2~4について

本件発明2~4は,本件発明1の発明特定事項をその発明特定事項の一部とするものであって,本件発明1が,当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから,同様に本件発明2~4は,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
第3
1
原告主張の審決取消事由
取消事由1(サポート要件違反)

本件発明1は,被告の主張によると,
「保護シールは,登記識別情報に対応する部
分の周辺に強粘着層が形成されているが,
登記識別情報に対応する部分については,
のり殺しの技術により,非粘着の構成になっている」という例(以下,「被告主張包
含例」という。
)を含み,審決が認定したように「一度剥がすと再度貼り直しできない」登記識別情報保護シールが,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された発明に限定されると解する根拠はない。
そして,被告主張包含例では,粘着層は保護シートに対しても強い粘着力を有しているから,登記識別情報に接する部分に粘着層(強粘着層)を設けることは元々できない。なぜなら,そのようにした場合,登記識別情報を確認できないからである。そうすると,被告主張包含例では,本件課題自体が生じず,本件課題を解決できる範囲を超えた発明が本件特許の請求項1に記載されており,同請求項1の記載は本件明細書の記載を超えるものであるから,サポート要件違反である。
2
取消事由2(甲1発明及び甲3発明に基づく相違点の判断の誤り)(1)

本件発明1と甲1発明との相違点は,本件発明1は,
「粘着剤層の少なく

とも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有する」のに対し,甲1発明は,
「粘着剤層の形成が,シートの全面についてなの
か,その一部なのかが明らかではない点」である。
(2)

本件課題は,
当業者における周知の課題であり,
甲1発明に内在する自明

の課題であった。また,特開2002-55618号公開公報(甲12)には,積層フィルムを情報隠蔽用に使用した場合,情報部分にも脆質着色層が残り,情報の確認がしにくく,誤認する恐れがあるという本件課題の示唆,及び,情報を覆う部分は非接着状態にするという本件課題の解決手段の示唆が認められる。(3)

本件原出願日当時,当業者は,各種の周知の粘着技術,粘着量を調整する
周知の技術を使用して,保護シールの範囲に応じて,粘着力を調整し,粘着力をゼロにして粘着しないようにし,粘着の範囲を変えるなどして,各種プライバシー等秘密情報保護のためのシールを開発,販売していた(甲11~14)から,秘密情報保護シールの秘密情報部分を非粘着領域とし,その周囲部分を粘着性を残したままにする構成は,周知慣用技術であった。
当業者が,秘密情報を保護するシールという同じ技術分野である甲3発明に接したとき,秘密情報を保護するシールであるという共通の課題を有する背景に基づいて,周辺にしか「接着層・印刷層」を形成せず,秘密情報に対応する部分について「非粘着領域」とする構成によって,本件課題が解決されることを認識する。したがって,甲1発明に甲3発明を組み合わせて,本件発明1の構成に至ることは容易想到である。
(4)

審決は,
課題の共通性について,
本件課題が主引用例と副引用例に開示さ

れ,かつ,それが共通しないと組み合わせることは容易ではないと解し,甲1文献及び甲3文献が本件課題を明示していないから,組合せの動機付けがないと判断した。

しかし,
組合せの容易性判断における課題は,
常に,
請求項に係る発明の課題が,
主引用例及び副引用例の双方に明示的に開示されていなければならないものではない。
3
取消事由3(甲1発明及び甲2発明に基づく相違点の判断の誤り)(1)

情報表示部を保護するに際し,
周辺部で接着して剥がれないようにした上

で,情報を保護するために,その部分について粘着剤層を設けない,又は,粘着剤層の粘着力を無効化するという構成は,当業者における周知慣用技術である。そして,甲1発明において,粘着剤層が積層することにより,その下の情報が読み取りにくくなるという課題は自明であるから,秘密情報保護シールという同一技術分野の,秘密情報を保護するという課題が共通する甲2発明の構成を採用することは,当業者において容易になし得る事項である。
(2)

被告の主張によると,本件発明1は,被告主張包含例を含むところ,甲1
発明にについて,甲2発明の「情報に対応する部分には粘着剤層を設けない」構成を採用すると,本件発明に至る。
そして,甲2発明の構成を甲1発明の登記識別情報保護シールに適用することについて何らの困難性も認められないし,効果の予測可能性も認められる。4
取消事由4(本件発明2~4に関する相違点の判断の誤り)

審決は,本件発明1について無効理由が認められないことから,本件発明2~4について無効理由がないと判断している。
しかし,本件発明1について,無効理由がないとする審決の判断には誤りがあるから,審決の上記判断についても誤りがある。
第4
1
被告の主張
取消事由1について

特許法36条6項1号の要求を満たすか否かは,専ら,請求項の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載との対比により判断されるべき事項であるから,本件特許の請求項にも本件明細書にも記載のない被告主張包含例を持ち出すことによって,サポート要件を論じることは,失当である。特定の登記識別情報保護シールが本件発明の技術的範囲に含まれるか否かは,別途検討されるべき事項である。特許発明の技術的範囲は,請求項の記載により定められるのであり(特許法70条)均等侵害が認められることをも考慮すると,

本件明細書に記載された実施例の
態様のみに限定されるものではない。
2
取消事由2及び3について
(1)

本件課題は,甲1文献には,全く記載も示唆もされていない。また,本件
課題が本件原出願日前に周知であることを示す証拠はない。甲9のブログは,登記情報保護シールの利用者である司法書士によるものであり,登記識別情報保護シールの製造・販売業者が本件課題を認識していたことを示すものではない。登記識別情報保護シールの製造・販売業者らは,登記識別情報制度発足から本件原出願日までの約10年間,本件課題を認識していなかったから,これを解決する機能,作用を有する保護シールの構造について何らの発明も考案も行っていなかった。(2)

本件課題は,
登記識別情報通知書において情報保護シールを何度も貼り付

け,剥離することを繰り返すと,粘着剤層が多数層積層して,登記識別情報が読み取れにくくなるという登記識別情報保護シールに固有の課題である。これは,登記識別情報通知書という,不動産所有権に関わる重要書類で登記手続において何度も繰り返し使用され,そこに記載された登記識別情報の保護シールがその度に剥離され,再貼付されるという,特殊な文書に使用するためのものであることにより生じる特殊な課題であって,甲2発明や甲3発明におけるような一度だけ剥がしただけでその目的を達成するシールの情報の確認困難という課題とは全く異なるものである。したがって,不動産登記実務,とりわけ登記識別情報通知書と保護シールの取扱い実務についての知識のない一般的なシール製造・販売業者にあっては容易に認識できるような課題ではない。
(3)

仮に,
甲1発明において本件課題が内在する自明の課題であったとしても,
甲1文献には本件課題の解決手段が示されておらず,
甲2発明及び甲3発明は,
「何
度も貼り付け,剥離することを繰り返す」ことを想定するものではなく,本件課題解決の機能,作用を有しない。したがって,甲1発明に甲2発明又は甲3発明を適用する動機付けはない。
3
取消事由4について

上記2と同様,原告の主張には理由がない。
第5

当裁判所の判断

1
本件発明の概要
(1)

本件明細書(甲10,乙8)には,以下の記載がある。

【技術分野】
【0001】本発明は,登記識別情報を保護する登記識別情報保護シールに関する。
【背景技術】
【0002】
不動産の登記識別情報は,
登記済証に代えて発行される,
アラビア数字その他の符号の組み合わせからなる12桁の符号である。登記識別情報は,不動産及び登記名義人となった申請者ごとに定められ,登記名義人となった申請者のみに通知されるものである。登記識別情報は,その提供者が登記名義人本人であることを登記所に確認させるための暗証番号のようなものとされている。従って,登記識別情報の12桁の符号を示せば,不動産の所有者として登録申請を行うことができ,登記識別情報を第三者に盗み見られないよう厳重に保管・管理する必要がある。
【0003】現在,登記識別情報通知書により登記識別情報が通知される。図7は登記識別情報通知書700の見本である。登記識別情報710は登記識別情報通知書700の下部に12桁の符号720とQRコード730とで構成されている。登記識別情報通知書700は,登記識別情報710の上に目隠しシール740を貼って申請者に交付される
(以下シール方式という)この目隠しシール740

は一度剥がすと再度貼り付けることができないため,登記識別情報710の隠蔽・保護が図られる。今後,登記識別情報通知書は,シール方式を改め,図8に示す折り込み方式(登記識別情報810を記載した部分が隠れるよう,A4サイズの用紙(登記識別情報通知書800)の下部の折り込み部840を折り込んで当該登記識別情報810を被覆し,その縁をのり付けする方法)に変更される。【図7】

【図8】
【0004】登記識別情報を確認する場合,シール方式では,目隠しシール740を剥がし,登記識別情報110を読み取る。折り込み方式では,折り込んだ部分に設けたミシン目から折り込み部分840を切り剥がし,登記識別情報810を確認する。いずれの方式においても,一度でも登記識別情報を確認してしまうと登記識別情報を再度隠蔽・保護することができず,第三者に容易に盗み見られる状態になってしまう。上記状態になった登記識別情報通知書の登記識別情報記載部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための登記識別情報保護シールが提案されている。当該登記識別情報保護シールも,一度剥がしてしてしまうと貼り直しができないシールである。
【0005】図9は従来の登記識別情報保護シール900を示したものである。この登記識別情報保護シール900を,例えば,図7に示す登記識別情報通知書700の目隠しシール740を剥した後の登記識別情報710記載部分に粘着剤層920を介して張り付ければ,登記識別情報710を隠蔽・保護することができる。登記識別情報保護シール900は保護シール層910と粘着剤層920とで構成される。粘着剤層920は保護シール層910に対する部分と,登記識別情報通知書700に貼り付けられる部分とでは性質が異なり,保護シール層910に対する部の粘着力は非常に弱く,登記識別情報保護シール900を剥がすと保護シール層910のみが剥離し,粘着剤層920は登記識別情報通知書700に残留する。粘着剤層920と保護シール層910との粘着力が弱いので,保護シール層910を再度貼り直すことができないようになっている。
【図9】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】司法書士,銀行など
では登記識別情報を何度も使用する場合がある。その都度,前記登記識別情報保護シール900を剥がして登記識別情報710を確認し,その後新しい登記識別情報保護シール900を登記識別情報通知書700の登記識別情報710記載部分に貼り付けて登記識別情報710を隠蔽・保護する作業を行う。図10は登記識別情報保護シール900を何度も貼り付け,剥離を繰り返した後の登記識別情報通知書700の登記識別情報710記載部分の断面を模式的に現したものである。図10に示すように,粘着剤層910が何層にもわたって堆積していることが分かる。粘着剤層910が着色されていたり透明度が低い場合,粘着剤層910が多数積層すると登記識別情報710が読み取れなくなる場合がある。
【図10】

【0007】本発明は,上記従来の不都合を改善するために案出されたものであり,登記識別情報通知書記載の登記識別情報を有効に隠蔽・保護するとともに,登記識別情報が読み取り不能になることのない登記識別情報保護シールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】本発明の登記識別情報保護シールは,
登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールであって,登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有することを特徴とするものである。本発明は,前記非粘着領域は,前記登記識別情報が記載されている部分を囲む矩形領域であることを特徴とするものである。本発明は,前記非粘着領域は,前記登記識別情報が記載されている部分を囲む任意の多角形領域であることを特徴とするものである。本発明は,前記非粘着領域は,コーナー部にR面取りなどの面取りがされていることを特徴とするものである。【発明の効果】
【0009】
本発明では,
第三者に盗み見られないよう厳重に保管・
管理する必要がある登記識別情報を隠蔽・保護できるとともに,何度も登記識別情報保護シールの剥離作業を行っても登記識別情報が解読不能とならない。【発明を実施するための形態】
【0011】
・・・図1に示すように,登記識別情
報保護シール100は,保護シール層110と粘着剤層120で構成する。図1下方の下面図に示すように,粘着剤層120の内部には,矩形の非粘着領域130が設けられている。本実施例では,非粘着領域130は粘着剤が存在しない領域としている。
【図1】

【0012】登記識別情報通知書200を開封し登記識別情報210を確認した後,図2に示すように登記識別情報通知書200の登記識別情報記載部の上部に,登記識別情報保護シール100を張り付けることで,登記識別情報210を再度隠蔽・保護することができる。その際,非粘着領域130の内部に登記識別情報210が位置するように,任意の位置決め手段により位置決めを行う。現在,登記識別情報210は12桁の符号220とQRコード230とで構成されているが,将来その内容・構成が変更される可能性がある。
【図2】

【0013】司法書士,銀行などでは登記識別情報210を何度も使用する場合がある。その都度,登記識別情報保護シール100を剥がして登記識別情報210を確認し,その後新しい登記識別情報保護シール100を登記識別情報通知書200の登記識別情報210記載部分に貼り付けて登記識別情報210を隠蔽・保護する作業を行う。図3は,登記識別情報通知書200から登記識別情報保護シール100を剥がした状態を示したものである。登記識別情報保護シール100の粘着剤層120は,保護シール層110側の粘着力は弱く,貼り付ける登記識別情報通知書200側の粘着力は強くされているので,登記識別情報保護シール100を剥がすと,粘着剤層120は登記識別情報通知書200に転写され,保護シール層110だけが剥ぎ取られる。転写された粘着剤層120は登記識別情報210の上に重なることはない。また,一度剥がした登記識別情報保護シール100の保護シール層110は,再度貼り直すことができないので,登記識別情報210を第三者に容易に盗み見られることを防止できる。
【図3】

【0014】登記識別情報210を何度も使用すると上記作業を繰り返すことになり,結果,図4に示すように粘着剤層120積み上がるが,登記識別情報210の上には粘着剤層120が堆積しないので,たとえ粘着剤層120が着色されていたり,透明度が低い物質で構成されていたとしても,登記識別情報210が判読不能になることがない。
【図4】

【0015】上記実施例では,非粘着領域130は粘着剤が存在しない領域としたが,非粘着領域130を非粘着物質で構成しても良い。
【0016】非粘着領域130の形状は,図5に示すような任意の多角形としても良い。また,図6に示すようにコーナー部にR面取りなどの面取りを施しても良い。
【図5】

【図6】

(2)

以上から,本件発明は,以下のとおりのものと認められる。

本件発明は,
登記識別情報を保護する登記識別情報保護シールに関する【000(
1】。

不動産の登記識別情報は,第三者に盗み見られないよう厳重に保管・管理する必要がある。登記識別情報は,従来はシール方式,今後は折り込み方式を用いて登記識別情報を隠した状態で登記識別情報通知書により申請者に交付されるが,一度でも登記識別情報を確認してしまうと,いずれの方式においても,登記識別情報を再度隠蔽・保護することができなくなる。【0002】~【0004】(

そのため,登記識別情報を確認した後に再度登記識別情報通知書の登記識別情報記載部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための,一度剥がしてしまうと貼り直しができない登記識別情報保護シールが提案されている(【0004】。

従来の登記識別情報保護シールは,
保護シール層と粘着剤層とで構成されており,
粘着剤層の保護シール層に対する部分と,登記識別情報通知書に貼り付けられる部分とでは性質が異なり,保護シール層に対する部分の粘着力は弱いため,登記識別情報保護シールを剥がすと保護シール層のみが剥離し,粘着剤層は登記識別情報通知書に残留する。保護シール層を再度貼り直すことはできない。したがって,登記識別情報を何度も使用して,登記識別情報保護シールを何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,登記識別情報通知書の登記識別情報記載部分に粘着剤層が何層にもわたって堆積し,登記識別情報が読み取れなくなる場合がある。【0005】(

【0006】

本件発明は,登記識別情報通知書記載の登記識別情報を有効に隠蔽・保護するとともに,登記識別情報が読み取り不能になることのない登記識別情報保護シールを提供することを目的とし,登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールであって,登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有することを特徴とする(
【0007】
【0008】。

本件発明の登記識別情報保護シールは,登記識別情報を何度も使用しても,登記識別情報の上には粘着剤層が堆積しないので,登記識別情報が判読不能になることがない。また,一度剥がした登記識別情報保護シールの保護シール層は,再度貼り直すことができないので,登記識別情報を第三者に容易に盗み見られることを防止できる。【0013】

【0014】

2
取消事由1(サポート要件違反)について
(1)

特許請求の範囲の記載が,
明細書のサポート要件に適合するか否かは,

許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決,平成17年(行ケ)第10042号,判例時報1911号48頁参照)

(2)

本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると,本件発明は,前記1(2)
のとおり,再度貼り直すことができない登記識別情報保護シールを,何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,登記識別情報通知書の登記識別情報記載部分に粘着剤層が何層にもわたって堆積し,粘着剤層が多数積層すると登記識別情報が読み取れなくなる場合があるという本件課題を解決する手段として,登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有するという構成を採用したものであり,登記識別情報を何度も使用しても,登記識別情報の上には粘着剤層が堆積しないので,登記識別情報が判読不能になることがないという効果が得られるものであると認められる。他方,
特許請求の範囲の請求項1には,
「登記識別情報通知書の登記識別情報が記
載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための,一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シール」
であって,
「前記登記識別情報保
護シールを構成する粘着剤層の少なくとも前記登記識別情報に接触する部分には前記登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有する」という構成を有することが記載されており,この構成を採用することにより,登記識別情報を何度も使用しても,登記識別情報の上には粘着剤層が堆積しないので,登記識別情報が判読不能になることがないという効果が得られることを当業者は認識できるから,本件発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
(3)

原告は,被告主張包含例のように,何度貼り直しても粘着層が積層して,
登記識別情報が読み取りにくくなるという本件課題自体が生じないものが含まれるから,
本件特許の請求項1の記載は,
本件明細書の記載を超えている,
と主張する。
しかし,本件明細書によると,本件課題は,従来用いられていた登記識別情報保護シールが有していた課題である。被告主張包含例において,登記識別情報に対応する部分に,非粘着の保護シールではなく,粘着剤層と保護シール層との粘着力が弱い保護シールを用いると,本件課題が生じ,その課題を解決するために,登記識別情報に対応する部分を非粘着とすることが考えられるから,被告主張包含例において従来技術として本件課題を生じるものを想定することができる。したがって,被告主張包含例から本件課題が生じないことは,
上記(1)の判断を左右するものでは
なく,原告の主張には,理由がない。
(4)
3
したがって,取消事由1には理由がない。

取消事由2(甲1発明及び甲3発明に基づく相違点の判断の誤り)について(1)

甲1発明の認定


甲1文献には,以下の記載がある。

【請求項1】登記識別情報通知書が法務局から下付された際に登記識別情報を秘匿していた目隠しシールを前記登記識別情報通知書から剥がした後に前記登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼りなおしが出来ない登記識別情報保護シールであって,
前記登記識別情報保護シールを前記登記識別情報通知書に貼付する者が押印及び又は署名をするための第一の領域と,
前記登記識別情報保護シールを前記登記識別情報通知書から剥がす者が押印及び又は署名をするための第二の領域と
を表面に備えることを特徴とする登記識別情報保護シール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】本発明は登記識別情報を保護する
ための登記識別情報保護シール,登記識別情報保護シールの使用履歴を把握するための登記識別情報保護シール使用履歴書,登記識別情報保護シールの使用履歴を把握するための登記識別情報保護シール使用履歴書綴り,登記識別情報保護シールを印刷し,
作成履歴を把握するための登記識別情報保護シール印刷システムに関する。【背景技術】
【0002】現在,登記識別情報通知という書面(以下,登記識別情報通知書という)により登記識別情報が通知される。
・・・
【0003】ここで,登記識別情報は登記を行う際に使用するものであり,この登記識別情報が他人に知られてしまうと勝手に登記がされてしまう恐れがある。このため,
登記識別情報の管理は徹底する必要があり情報漏洩を防止する必要がある。【0004】現在,登記識別情報通知書の登記識別情報が記載された領域・・・には,いわゆる目隠しシールが貼られることにより登記識別情報が通知される。この目隠しシールにより,登記識別情報の保護が図られる。
【0005】目隠しシールとは,一度剥がすと貼りなおしが出来ないシールである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】しかし,司法書士,
銀行等においては登記識別情報を何度も用いる場合があり,登記識別情報を何度も見る場合がある。目隠しシールは上述のように一度剥がすと貼りなおしが出来ないので,登記識別情報を一度見てしまうと登記識別情報を再度隠すことが出来ず,登記識別情報の漏洩が問題となる。
また,
誰が登記識別情報を見たかの把握も難しい。
【課題を解決するための手段】
【0008】上記課題を解決するため請求項1記載
の発明は,登記識別情報通知書が法務局から下付された際に登記識別情報を秘匿していた目隠しシールを前記登記識別情報通知書から剥がした後に前記登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼りなおしが出来ない登記識別情報保護シールであって,前記登記識別情報保護シールを前記登記識別情報通知書に貼付する者が押印及び又は署名をするための第一の領域と,前記登記識別情報保護シールを前記登記識別情報通知書から剥がす者が押印及び又は署名をするための第二の領域とを表面に備えることを特徴とする登記識別情報保護シールである。
【発明の効果】
【0032】請求項1記載の発明によると登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に貼り付けることで,登記識別情報を隠匿するので登記識別情報を保護できる。また,登記識別情報保護シールには第一の領域及び第二の領域が備わることにより,ここに押印等がされれば,登記識別情報保護シールを貼付した者,剥がした者を特定でき,また,登記識別情報保護シールは貼りなおしが出来ないとすることで登記識別情報保護シールが貼られ,押印等がされている限り登記識別情報が保護される。登記識別情報保護シールが剥がされた場合,登記識別情報保護シールに押印等がされていない場合は不正に登記識別情報が見られた可能性があるというのが分かり,これにより登記識別情報が知らぬ間に漏洩し,不正な登記がされることを防げる。さらに,登記識別情報保護シールは目隠しシール等に印刷するだけで作成でき,初期投資額,ランニングコストが廉価である。【図1】
【図2】


以上より,甲1発明は以下のとおりのものと認められる。

登記識別情報通知書に記載された登記識別情報は,他人に知られないよう管理する必要があるところ,司法書士,銀行等において何度も用いる場合があり,登記識別情報の漏えいを防止し,
誰が登記識別情報を見たのかを把握する必要がある【0

002】【0003】【0006】。そこで,登記識別情報通知書が法務局から下,


付された際に登記識別情報を秘匿していた目隠しシールを登記識別情報通知書から剥がした後に登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼り直しができない登記識別情報保護シールであって,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に貼付する者が押印及び署名をするための第一の領域と,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書から剥がす者が押印及び署名をするための第二の領域とを表面に備えることを特徴とする登記識別情報保護シールという構成を採用する(【000
8】。これによって,登記識別情報を隠匿し,登記識別情報保護シールを貼付した)
者,剥がした者を特定することができ,登記識別情報の漏洩及び不正な登記を防止するという効果がある(
【0032】。


したがって,甲1発明は,前記第2,3(3)ア(ア)のとおりのものと認め
られる。また,本件発明1と甲1発明を対比したときの一致点は,前記第2,3(3)イ(ア)のとおりのものと認められ,相違点は,
「本件発明1は,
『粘着剤層の少なくと
も登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有する』
のに対し,
甲1発明は,
『粘着剤層の形成が,
シートの全面についてなのか,
その一部なのかが明らかではない』点。
」である。
(2)

相違点の判断
甲3発明の認定
(ア)

甲3文献には,以下の記載がある。

①「2.実用新案登録請求の範囲
1.被着体の情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体から成り:前記情報表示部の周部に位置して前記シート体に剥離可能な印刷層を形成すると共に,該印刷層上に該シート体を被着体に接着するための感圧性接着剤層を積層して成ることを特徴とする秘密保持シート。(1頁5行~11行)

②「
〔産業上の利用分野〕本考案は,葉書等の被着体に接着することにより,該被着体に表示された情報を視認不能に覆う秘密保持シートに係り,該シートを一旦剥離してしまうと,該シートを被着体に再度接着せしめても前記剥離による秘密漏洩の事実を隠匿できないようにしたものに関する。(1頁13行~19行)」
③「
〔従来の技術と問題点〕近年,種々の現金の受取りや,公共料金振替済等の個人情報を通知する通知書が金融機関等より発行されている。このような通知書は,一般的に,葉書又は封書により郵送されているが,封書の場合は高コストである。従って,コスト的には葉書の方が有利であるが,前記個人情報が人目に触れる欠点がある。(1頁20行~2頁7行)

④「
〔問題を解決するための手段〕前記問題点は,葉書の情報表示部をシート体により被覆することにより解決することができる。例えば,前記情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体を葉書に接着すれば良い。この際,発信者の接着作業を簡便ならしめるためには,予めシート体に感圧性接着剤層を備えておくのが有利である。
然しながら,前記感圧性接着剤によるときは,第三者がシート体を葉書から剥離して情報を取得した後,
再度シート体を葉書に接着せしめるようなことがあっても,
受信者にはこの秘密漏洩の事実があったことを感知できないという新たな問題を提起する。
このため,本考案は,前記の如きシート体であって,剥離による秘密漏洩の事実を受信者に感知せしめる手段を具備せしめたものである。而して,本考案の秘密保持シートは,被着体の情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体から成り:前記情報表示部の周部に位置して前記シート体に剥離可能な印刷層を形成すると共に,該印刷層上に該シート体を被着体に接着するための感圧性接着剤層を積層して成る点に特徴を有する。(2頁8行~3頁11行)

⑤「
(第1実施例)第1図乃至第3図に示す第1実施例において,被着体1としては葉書を例示しており,シート体4としては該葉書と同形同大のフィルム状合成樹脂シートを例示している。
・・・シート体4を被着体1より剥離すると,第3図C及
び第2図に示すように,印刷層7はシート体4に対して剥離可能である一方,感圧性接着剤層8に接着されているから,引き剥がされるシート体4に追従することなく,該印刷層7の少なくとも一部は接着剤層8上に転移する。従って,シート体4を被着体1に再度接着させようとしても,シート体4は前記剥離された印刷層7上には接着せず分離状態にあり,元の状態には復帰しない。(3頁15行~6頁19」
行)





(イ)

以上より,甲3発明は以下のとおりのものと認められる。

種々の現金の受取りや,公共料金振替済等の個人情報の通知を葉書で行う場合,個人情報が人目に触れるという問題点がある
(前記(ア)③)これを解決するために,

葉書の情報表示部をシート体で被覆するが,そのシート体に感圧性接着剤層を備える場合,第三者がシート体を葉書から剥離して情報を取得した後,再度シート体を葉書に接着させても秘密漏洩の事実を感知することができないという新たな問題が生じる(前記(ア)④)。例えば,被着体の情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体から成り,情報表示部の周部に位置してシート体に剥離可能な印刷層を形成するとともに,印刷層上にシート体を被着体に接着するための感圧性接着剤層を積層して成り,シート体を被着体より剥離すると,印刷層はシート体に対して剥離可能である一方,感圧性接着剤層に接着されているから,引き剥がされるシート体に追従することなく,印刷層の少なくとも一部は接着剤層上に転移して,シート体を被着体に再度接着させようとしても,シート体は剥離された印刷層上には接着せず分離状態にあり,元の状態には復帰しない秘密保持シートは,前記新たな問題を解決することができる(前記(ア)④~⑧)。(ウ)

したがって,
甲3発明は前記第2,
3(3)イ(イ)bのとおりのものと認

められる。

甲1発明に甲3発明を適用する動機付け

登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報を読み取りにくくなるという登記識別情報保護シールにおける本件課題は,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと必然的に生じるものであって,
登記識別情報保護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる。現に,本件原出願日の5年以上前である平成21年9月30日には,登記識別情報保護シールの需要者である司法書士に認識されていたものと認められる(甲9)。そして,登記識別情報保護シールの製造・販売業者は,需要者の要求に応じた製品を開発しようとするから,本件課題は,本件原出願日前に,当業者において周知の課題であったといえる。
そうすると,本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当業者は,フィルム層(粘着剤層)の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするために,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認められる。甲3発明と甲1発明は,秘密情報保護シールであるという技術分野が共通し,一度剥がすと再度貼ることはできないようにして,秘密情報の漏洩があったことを感知するという点でも共通する。したがって,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けがあるといえる。
甲1発明に甲3発明を適用すると,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがなくなり,本件課題が解決される。したがって,甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到するものと認められる。

被告の主張について
(ア)

被告は,
本件課題が,
甲1発明の課題として周知であることを示す証

拠はない,と主張するが,前記イのとおり,採用できない。
(イ)

被告は,
本件課題は,
登記識別情報保護シールにおける特殊な課題で
あって,甲3発明のような一度剥がしただけでその目的を達成するシールの情報の確認困難という課題とは異なるから,一般的なシールの製造・販売業者が容易に認識できるものではない,と主張する。
しかし,本件発明1及び甲1発明は,いずれも登記情報保護シールであり,当業者として想定されるべきであるのは,登記情報保護シールの製造・販売業者であるところ,前記イのとおり,登記情報保護シールの製造・販売業者は,利用者である司法書士が認識し公表していた課題を認識していたといえる。したがって,被告の主張には,理由がない。
(ウ)

被告は,
甲1文献には本件課題の解決手段が示されておらず,
甲3発

明は何度も貼り付け,剥離を繰り返すことを想定するものではなく,本件課題解決の機能,作用を有しないから,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けはない,と主張する。
しかし,甲1文献には本件課題の解決手段が示されておらず,甲3発明が何度も貼り付け,剥離することを繰り返すことを想定していないとしても,前記イのとおり,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けはあり,甲1発明に甲3発明を適用することによって本件課題が解決される。したがって,被告の主張には,理由がない。エ4
以上より,取消事由2には,理由がある。

取消事由4(本件発明2~4に関する相違点の判断の誤り)について
審決は,本件発明1について無効理由が認められないから,本件発明2~4について無効理由がないと判断した。しかし,前記2のとおり,本件発明1について,無効理由がないとする審決の判断には誤りがあるから,本件発明2~4についての審決の判断は,その前提を誤ったものであり,誤りがある。
したがって,取消事由4には,理由がある。
5
第6

よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。結論

以上のとおり,原告の請求には理由があるから審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之早苗
裁判官
永田古庄
裁判官

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