判例検索β > 平成29年(ネ)第10087号
専用実施権設定登録抹消登録等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10087
事件名専用実施権設定登録抹消登録等請求控訴事件
裁判年月日平成30年4月18日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成27(ワ)10532
裁判要旨判決年月日 平成30 年4月18日 担
当 知的財産高等裁判所 第4部

事 件 番 号 平成29年(ネ)10087号
○ 方法の発明に係る特許についての専用実施権設定契約において,その方法の使用
にのみ用いる物の生産について,社会通念上相当な額を支払う旨の合意があったと推
認されるとして,その額について判断した事例
(関連条文)特許法77条,101条
(関連する権利番号等) 特許第4324639号
判 決 要 旨
1 控訴人は,発明の名称を「マイクロ波照射による銀イオン定着化物および銀イオン定
着化方法および銀イオン定着化物の製造方法」とする特許第4324639号に係る特許
権(以下「本件特許権」という。)を有し,被控訴人との間で本件特許権の専用実施権設
定契約(以下「本件契約」という。)を締結していたところ, 本件特許権に係る方法の実
施にのみ用いる機械(以下「本件機械」という。)を製造販売した 被控訴人に対し,①本
件契約の期間満了又は債務不履行に基づく解除を原因とする専用実施権設定登録の抹消登
録手続を求めるとともに,②本件契約に 基づき,未払実施料4042万5000円の支払
を求めた。
原審は,①本件契約の期間は満了しておらず, 被控訴人は本件機械の製造販売について
実施料の支払義務を負うものの,本件契約において実施料の算定基準は定められていない
し,売上高の3%を暫定的に支払っていること から,本件契約 上の債務不履行は認められ
ない,②本件契約上の実施料未払はない ,と判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,控訴人が,これを不服として控訴し た。そして,控訴審において,本件契約上,
本件機械の製造販売について,社会通念上相当な額を支 払う旨の合意があったとの主張を
追加するとともに,不当利得又は不法行為に基づく請求を追加した。
2 本判決は,以下のとおり 判断して, ①抹消登録手続請求を棄却し,②控訴人の実施料
請求を売上高の6%と3%の差額に相当する251万8878円の限度で認容した。
本件契約の期間は満了していない。
被控訴人は本件機械の製造販売について実施料の支払義務を負 い,本件契約上,本件
機械を製造販売したことによる本件特許発明の利用についても,社会通 念上相当な額を支
払う旨の合意があったと推認される ところ, その額について,被控訴人が自ら本件特許発
明に係る方法を実施していたときの実施料額,被控訴人が本件契約締結時に支払った実施
料や本件機械の開発費用等の先行投資額,本件機械の導入による顧客層の拡大,従前の交
渉経緯等を総合考慮して,売上高の6%をもって相当と認める。
被控訴人が売上高の3% を支払っていることから,解除を基礎付けるだけの債務不履
行はない。
-1-
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平成30年4月18日判決言渡
平成29年(ネ)第10087号

専用実施権設定登録抹消登録等請求控訴事件

原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第10532号
口頭弁論終結日平成30年3月5日
判控決訴人
株式会社ピカパワー

同訴訟代理人弁護士

控訴人田貴久赤被永松俊治
株式会社キャスティングイン

同訴訟代理人弁護士

藤澤亜小林正治小主謹

同補佐人弁理士

田也林正英紀子文1
原判決を次のとおり変更する。

2
被控訴人は,控訴人に対し,251万8878円を支払え。

3
控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを20分し,その1を被
控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

5
この判決の第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人に対し,原判決別紙特許権目録記載の特許権について,
平成23年8月25日特許庁受付第006790号をもってした専用実施権の設定登録(乙区順位第1番)の抹消登録手続をせよ。
3
被控訴人は,控訴人に対し,4042万5000円を支払え。

4
訴訟費用は,第1,2審を通じ被控訴人の負担とする。

第2事案の概要(略称は,審級による読替えをするほか,原判決に従う。)1
本件は,発明の名称を「マイクロ波照射による銀イオン定着化物および銀イ
オン定着化方法および銀イオン定着化物の製造方法」とする特許第4324639号に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が,本件特許権の専用実施権の設定を受けていた被控訴人に対し,①専用実施権設定契約(甲4契約)の期間満了又は債務不履行に基づく解除を原因とする専用実施権設定登録の抹消登録手続を求め,②甲4契約に基づき,平成26年12月から平成27年3月までの間の実施料1470万円の支払を求めるとともに,不当利得返還請求権に基づき,甲4契約解除後の同年4月から10月までの間の実施料相当額2572万5000円の支払を求めた事案である。
原判決は,①甲4契約の期間は満了していないし,同契約の債務不履行は認められない,
②甲4契約上の実施料未払はなく,
不当利得も成立していないと判断して,
控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,控訴人が原判決を不服として控訴した。
なお,
控訴人は,
当審において,
甲4契約に基づく実施料請求を平成26年12月から平成27年10月までに拡張するとともに,平成26年12月から平成27年10月までの期間に係る不当利得返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求を追加した。
2
判断の前提となる事実

原判決10頁24行目の「平成25年」を「平成26年」と訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。
3
争点

(1)

本件専用実施権の期間経過による消滅(争点1)

(2)

本件専用実施権設定契約
(甲4契約)
の債務不履行解除による本件専用実施

権の消滅

実施料不払を理由とする債務不履行解除の成否(争点2-1)


秘密保持義務違反を理由とする債務不履行解除の成否(争点2-2)

背信行為を理由とする債務不履行解除の成否(争点2-3)


更新時の義務違反を理由とする債務不履行解除の成否(争点2-4)
(3)

金銭請求の成否
本件専用実施権設定契約(甲4契約)に基づく実施料支払請求権の有無(争
点3-1)

実施料相当額の不当利得返還請求権の有無(争点3-2)


不法行為に基づく損害賠償請求権の有無(争点3-3)

第3争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,以下のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の1ないし4記載のとおりであるから,これを引用する。
1
争点1(本件専用実施権の期間経過による消滅)

〔控訴人の主張〕
本件専用実施権の設定期間は,以下に述べるとおり5年間である。(1)

甲4契約書17条は,
契約全体の有効期間が5年間であると定めていること

が文理上明らかである。原判決の解釈によれば,専用実施権設定契約が更新されない場合であっても,本件専用実施権が存続することになり,不合理である。甲4契約書の原案を作成したA弁理士においても,契約期間は5年間であると認識していた。また,甲4契約書17条は,甲4契約書作成に当たり,被控訴人が作成した原案(甲56)の6条において準用される甲3契約書に記載されていたもの
であり,甲4契約書作成当時,当事者双方は,甲4契約の契約期間が5年であると認識し,合意していた。このことは,甲4契約締結後に被控訴人代表者が控訴人代表者に交付した甲57の4条において,契約期間を変更したい旨の記載があることからも明らかである。
(2)

甲4契約書2条5項は,
あくまで甲4契約が継続している場合に,
専用実施

権の期間は特許権満了までという合意を示しているにすぎない。契約書中いかなる条項があるにせよ,17条によってその契約自体が終了した場合に,効力残存条項がなければ当該契約全体が効力を失うことは当然である。
(3)

甲5契約書は,
特許庁への手続のためにのみ交わしたものにすぎず,
甲5契

約書において合意はされていない。
(4)

本件専用実施権設定自体の対価としては,
甲4契約書記載の契約金1500

万円では低額である。5年間の専用実施権の設定の契約金として,甲3契約書記載の1000万円と併せて総額で2500万円と合意されたのである。(5)

甲4契約書5条は,
契約締結から5年以内であっても,
事業化の目途が立た

ない場合には専用実施権の放棄をするというものにすぎず,同条を根拠に,設定期間が5年を超えることが当然に予定されていたと評価することはできない。〔被控訴人の主張〕
本件専用実施権の設定期間は,本件特許権の期間満了日までである。(1)

本件専用実施権の設定期間は,
甲4契約書2条5項及び甲5契約書に明記さ

れているとおり,特許権の期間満了日までである。
(2)

甲57は,
本件専用実施権の期間までも5年と主張される可能性を懸念して,
契約期間を含めた合意内容を明確にしておきたいと考えて訂正を申し出たものであり,被控訴人が本件専用実施権の期間を5年と考えていたわけではない。(3)

甲4契約書17条1項の契約期間は,契約の最も重要な本質的部分である,
専用実施権の設定とその有効期間並びに契約金及び実施料に関する定めと無関係に合意されたものではなく,専用実施権の有効期間の合意(2条5項)を前提として
明記されたものである。したがって,甲4契約書2条5項の定めが優先する。(4)

甲4契約書の前文には,
甲4契約が,
甲3契約書の一部を変更する合意及び

新たな合意であると明記されている。甲3契約締結から1年も経過しない時期に,契約金を従前の1000万円に加えて,更に1500万円を加算して2500万円とすることで,実施権の内容を通常実施権から専用実施権に変更するとともに,許諾期間を5年から特許の存続期間満了までに延長したと考えることが,社会通念に合致する。甲57は,契約金の支払経緯を念のために確認することを求めて記載したものであり,5年間の専用実施権設定のための契約金として2500万円を支払うと記載したものではない。
(5)

甲4契約書5条は,
被控訴人に事業化のために5年間の猶予を与え,
もしそ

れがかなわなかった場合には専用実施権を放棄する義務を負わせた条項である。2
争点2-1(実施料不払を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成否)
〔控訴人の主張〕
(1)

実施料支払の対象について


本件機械の製造販売について

本件機械の製造販売は本件特許権の間接侵害に当たるから,被控訴人は,実施料支払義務を負う。

本件液の販売について

本件液が
「ルナシルバー」
という商標が付されて販売されているものであっても,
特定の1社の独自の製品であり,しかも特殊な銀水溶液である。したがって,本件液が「日本国内において広く一般に流通している」ものとはいえず,本件液の販売は間接侵害に該当する。

本件機械のレンタルについて

本件機械のレンタルによる売上げについて,
被控訴人は実施料を支払っていない。
本件機械のレンタルがサブライセンスに当たることは被控訴人も認めるところであり,この場合,レンタル代金が甲4契約書2条8項1号に当たることは明らかであ
る。そして,控訴人代表者は,被控訴人代表者に対し,レンタルを含め実施料の支払を求め,内訳を明らかにするよう何度も求めていた。
(2)

甲4契約における実施料の算定根拠について
甲4契約書2条8項1号の適用について

甲4契約書の実施料算定規定において,本件機械の製造販売と実質的に同視できる2条8項1号が,本件機械の製造販売における実施料算定規定に当たる。(ア)

被控訴人が本件機械を販売した場合,購入者である歯科医院は本件特許発
明を本件機械により実施しても本件特許権を侵害したことにはならない。被控訴人が本件機械の販売をするに当たり,特許発明に係る方法の使用に対する対価を含めてこれら製品の譲渡価格を決定しているからこそ,購入者である歯科医院は本件特許発明を実施できるのであるし,被控訴人には控訴人に対する実施料の支払義務が生じている。この特許発明に係る方法の使用に対する対価は,まさに甲4契約書2条8項1号における実施許諾料に該当する。なお,本件機械の代金70万円は,専用品としてほかに使い途が想定できない本件機械自体ではなく,本件特許発明に係る方法を多数回実施できる点に価値を見出しているのであって,本件特許発明の使用に対する一括した先払いと位置付けられるから,70万円全額を実施料算定の基準額とすべきである。
また,甲4契約書の実施料算定規定は,想定される本件特許発明の直接的な実施を3類型(2条7項,8項1号及び同2号)に分類して規定しているが,本件機械の販売は,8項1号の直接行為と強い因果関係のある一体不可分の連続的なものであるから,同号により実施料を算定すべきである。
(イ)

甲4契約書は物の製造販売を想定していた。甲3契約締結後,甲4契約締
結前の平成22年10月20日の控訴人代表者及び被控訴人代表者らの打合せにおいて,控訴人代表者と被控訴人代表者が今後の動きとして「将来は抗菌加工自体を歯科医院に普及し,先生と契約して,
『契約金・レンタル料』といった形にしたい」
との話をしていた(乙19)。抗菌加工を歯科医院に普及させるということは,歯
科医院において抗菌加工を行わせるということであり,そのためには本件機械を歯科医院に設置することが不可欠であるため,本件機械の製造販売について甲4契約締結前に協議されていたことは明らかである。
以上のとおり,甲4契約締結時において,本件機械の製造販売についても想定されていたのであって(甲33,乙19),本件機械の製造販売の特許法上の位置付けについて共通認識がなかったとしても,本件機械の製造販売についての実施料支払義務はあるが,実施料率について合意をしていないということにはならない。(ウ)

実施料の支払義務があるのであれば,その義務内容も定まっているという
べきである。
そうでなければ,
被控訴人が本件機械の販売で巨額の利益を得ながら,
控訴人に何ら利益分配せずともよく,控訴人が被控訴人に何ら請求できないことになって,不当である。また,原判決は,実施料が定まっていないとしながら,本件機械の代金の3%の支払を継続することによって債務不履行が認められないとしており,不当である。

甲4契約書2条7項の適用について

仮に,甲4契約書2条8項1号が実施料算定根拠とならないのであれば,出荷する製品と対象を広く包括的に規定している2条7項が基準になるというべきである。ウ
甲4契約書2条8項1号又は7項の類推適用について(当審における追加的
主張)
仮に,甲4契約に直接ないし明示的に実施料算定規定がなかったとしても,実施料の支払義務がある以上,具体的な金額が算定されるべきである。被控訴人は,本件機械の製造販売により歯科医院等から機械の販売代金を受領し,本件機械を購入した歯科医院等は本件特許発明の業としての実施ができるのであるから,甲4契約書2条8項1号の予定しているサブライセンスと状況が近似している。したがって,
甲4契約書2条8項1号又は7項を類推適用して実施料を定めるべきである。エ
社会通念上相当な実施料について(当審における追加的主張)

仮に,甲4契約書2条8項1号又は7項の類推適用が認められないとしても,信
義則に基づき社会通念上認められるべき実施料率により具体的な実施料率を算定すべきである。そして,企業の利潤が,技術,資本,経営の3要素の結合によって生み出されるとする考え方(利益三分法)や,企業の利潤は,資本,組織,企業努力(労働力),特許(技術)の4要素によって生み出されるとする考え方によれば,少なくとも,ライセンシーによって得られた利益の25~30%程度を実施料とする考え方が広く参照されている。
したがって,被控訴人は,控訴人に対し,本件機械の売上高から製造原価を控除した額(粗利)の25%,そうでないとしても,本件機械の売上高の10%を実施料として支払うべきである。
(3)

甲4契約の債務不履行解除について
前記(2)ア及びイのとおり,
実施料の算定基準は甲4契約書2条8項1号又は

7項によって定まっているから,平成27年4月1日付けの催告は有効であり,甲4契約は債務不履行によって有効に解除されている。また,粗利の3%を支払ったからといって,債務不履行に当たらないということはできない。

前記(1)ウのとおり,
被控訴人には,
本件機械のレンタルに係る実施料につい

て債務不履行が認められる。控訴人は,被控訴人に対し,平成29年11月2日付け控訴人準備書面(1)の送付(同月1日)によって,甲4契約を解除する旨の意思表示をした(当審における追加的主張)。

控訴人は,被控訴人に対し,平成30年2月5日付け訴えの変更申立書の送
達(同月7日)によって,前記(2)ウ及びエに基づく実施料の支払を求め,相当期間内に支払がない場合は,甲4契約を解除する旨の意思表示をした(当審における追加的主張)。
〔被控訴人の主張〕
(1)

実施料支払の対象について


本件機械の製造販売について

本件専用実施権には内容の制限がないため,専用実施権者は,本件特許発明の実
施に関して特許権者と同等の権原を有する。本件特許発明は,その実施に使用する機器や液体に制約がないため,実施に当たってどのような機器や液を使用するかについては,専用実施権者である被控訴人の実施権原内にある。
したがって,被控訴人による本件機械の開発,提供は,本来,控訴人が履行すべき義務(技術,ノウハウに関する情報及び資料の提供義務。甲4契約書8条)を被控訴人が行ったことに他ならず,専用実施権原内の正当行為である。そうすると,被控訴人による本件機械の製造販売は,本件特許発明を実施する正当権原内の特許権実施行為の一形態であるから,違法性はなく,間接侵害には当たらない。イ
本件液の販売について

本件液が1社独自の製品であっても,インターネットなどでも広告し,一般人が誰でも購入できる商品であり,家庭用を含めたあらゆるものに広く使用されているから(乙45),「日本国内に広く一般に流通している」ことは明らかであり,本件液の販売について間接侵害は成立しない。

本件機械のレンタルについて

甲4契約書において具体的な実施料は定められていない。被控訴人は,控訴人から請求されていなかったことから,暫定的にも実施料を支払っていない。(2)

甲4契約における実施料の算定根拠について
甲4契約書2条8項1号の適用について

被控訴人は,本件機械及び本件液の実施料率として,売上げの3%を請求されたのであって,甲4契約書2条8項1号に基づく請求をされた事実はない。そもそも本件専用実施権は,甲4契約締結当時,電子レンジで実施できることが前提となっていたのであり,本件機械を製造することは全く念頭に置いていなかったのであるから,甲4契約書で,本件機械の製造販売に関する実施料を定めたはずがない。甲33にある「装置」とは,繊維加工用のための装置であり,義歯に関する抗菌事業とは全く別の物である。また,乙19では,電子レンジを使用することを前提として,将来は抗菌加工自体を歯科医院に普及させたいとしていたのであって,本
件機械の製造販売を想定していたわけではない。
被控訴人が歯科医院から受け取る金員は,本件機械という物の売買の対価であって,サブライセンス設定により,受け取る契約金ではないし,実施許諾料・使用許諾料でもない。
契約関係があったとしても,代金額が決まっていないことはあり得る。本件においても,契約締結当時には想定されなかった本件機械が開発され,その実施料が明確に定まっていない状態にあった。

甲4契約書2条7項の適用について

甲4契約書2条7項は,単純な製品の販売価額を基礎金額とするわけではなく,本発明,本加工を施す前の通常価格と施した後の価額の差額を基礎金額とする。本件機械は,本発明,本加工を施す対象となる物ではなく,施すための手段に用いるものであるから,施す前の通常価格も施した後の通常価格も想定することができない。

甲4契約書2条8項1号又は7項の類推適用について

前記ア及びイのとおり,甲4契約書2条8項1号又は7項の想定する行為は,本件機械の販売と全く異なるものであるから,類推適用する余地はない。エ
社会通念上相当な実施料について

本件機械の実施料率を算定するに当たっては,①被控訴人が契約金として控訴人に2500万円を支払済みである事実,②市販の電子レンジでは安定した効果が出なかったことから,被控訴人が多額の金銭,少なくとも約1300万円を投資して本件機械を開発した事実,③被控訴人による本件機械の開発がなければ歯科医院が本件特許発明を利用することができなかった事実,④控訴人と被控訴人の間で本件機械の実施料率に関して協議を行っていた事実などの諸事情を勘案すべきである。特に,被控訴人は,当初,本件機械及び本件液についての実施料の支払義務の存在につき認識していなかったところ(甲10),控訴人から,本件機械及び本件液について実施料の支払の要請を受けたので(甲13,16),本件機械の販売価格
から製造原価及び販売管理費等の諸経費を控除した粗利の3%の提案をした(甲19)。これに対し,控訴人が,粗利の3%では債務の本旨に従った履行ではないとして契約解除の意思表示をしてきたので(甲20の1),再度,粗利の5%の提案をしたところ,
控訴人がこれを拒否した上で売上高の3%の提案をしてきたので
(乙
41),被控訴人は,暫定的にではあるが,これに同意し,現在に至るまで支払を継続している。かかる交渉経緯を前提とすれば,本件機械に係る実施料率は,売上高の3%相当額とするのが相当である。
(3)

甲4契約の債務不履行解除について
被控訴人は,
前記(2)のとおり実施料に関する定めのない状況の下,
控訴人か

ら請求された本件機械及び本件液の販売に係る実施料を暫定的ではあっても支払っているから,何ら債務不履行となる事由はなく,甲4契約の解除は認められない。イ
仮に,本件機械のレンタルに係る実施料の不払が債務不履行に当たるとして
も,
本件機械のレンタルを実施したのは平成26年1月から12月までの1年間で,契約件数はわずか30件であって,想定される実施料は僅少である。また,被控訴人は,実施料率が定まった場合には,実施料を支払う意思がある。したがって,本件契約が継続的契約である以上,信頼関係の破壊には至っておらず,甲4契約の解除は認められない。
3
争点2-2(秘密保持義務違反を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成
否)
〔控訴人の主張〕
控訴人代表者が被控訴人の従業員Bに送った電子メール(乙8の26・28)において,特許で開示されている範囲を示し,「これら以外は,機密事項としてお取り扱いの程,宜しくお願い致します」としているし,データの使用について何ら許可申請をもらっていないとしているのであるから,「補綴臨床」平成27年9月号に掲載された王宝禮教授の論文
(甲30)
における銀イオン水溶液の安全性試験デー
タやSEM写真が,控訴人承諾の下で利用されていないことは明らかである。
〔被控訴人の主張〕
控訴人の主張は,当時作成された電子メール等の客観的証拠(乙8の23・25・26,46)に反する根拠のないものである。
4
争点2-3(背信行為を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成否)
〔控訴人の主張〕
(1)

被控訴人は控訴人に対し,本件機械や本件液の販売開始を報告していない。
被控訴人代表者自身,本件機械のレンタルや販売について実施料の支払が必要であることは認識していた。にもかかわらず,本件機械の販売事業という事業形態の変更に当たる極めて重要な事項を控訴人に報告しなかったのは,実施料の支払を免れたいという意図があったというべきである。
したがって,上記報告を行わなかったことは,解除を基礎付ける背信行為に当たる。
(2)

コンプライアンスの観点からも,
誇大広告が控訴人の利益にかなうなどとは

いえない。また,特許公報や特許原簿を確認すれば,被控訴人の広告が虚偽であることはすぐに判明するのであり,多くの企業とビジネスを展開する場面において虚偽の広告をすることが控訴人や被控訴人の利益にはならない。
これら記事やパンフレットの記載,ホームページの停止を求めたことは,控訴人を排除する意図によるものというべきであり,
解除を基礎付ける背信行為に当たる。
〔被控訴人の主張〕
(1)

本件機械は被控訴人が開発したものであったから,
控訴人も被控訴人も当初

は実施料が発生するとは考えていなかった。
(2)

被控訴人の事業活動に資する誇大な広告をすることや,
事業の支障となる控

訴人の広告等の削除を求めることは,直ちに背信行為となるものではない。5
争点2-4(更新時の義務違反を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成
否)(当審における追加的主張)
〔控訴人の主張〕

仮に,甲4契約書17条を「期間以外の各種条件についての契約内容を,5年を目途に見直す趣旨で定めた条項である」と解釈するとしても,被控訴人は,何ら契約内容の見直しに応じなかったのであるから,同条違反の債務不履行に当たる。〔被控訴人の主張〕
被控訴人に甲4契約書17条違反はない。被控訴人は,本件訴訟前から,甲4契約書は維持するが,契約内容,特に実施料率の見直しについて話合いをしようと提案していたのであって,それにもかかわらず一方的に契約解除を主張して訴訟提起をしたのは,控訴人である。また,被控訴人は,本件機械及び本件液の各売上高の3%を実施料として継続的に支払っているが,上記支払額は控訴人の請求に応じて決めたものである。
6
争点3(金銭請求の成否)

〔控訴人の主張〕
(1)

甲4契約に基づく請求
被控訴人には,本件機械の製造販売につき,甲4契約書2条8項1号又は7
項に基づく実施料の支払義務がある。

そうでないとしても,甲4契約書2条8項1号又は7項の類推適用あるいは
社会通念上相当な額の実施料の支払義務がある(当審における追加的主張)。ウ
被控訴人は,本件機械を1台70万円として,平成26年12月から平成2
7年3月までに合計84台を,同年4月から10月までの間に1月当たり21台として147台を,歯科医院に販売した。また,本件機械の製造原価は20万円である。

したがって,控訴人は,被控訴人に対し,平成26年12月から平成27年
10月までに販売された本件機械合計231台について,以下のいずれかの算定式による実施料の支払を求めることができる。
(ア)

本件機械の売上高(70万円×231台)に実施料率25%(甲4契約書
2条8項1号の適用ないし類推適用)を乗じた4042万5000円
(イ)

本件機械の粗利((70万-20万円)×231台)に実施料率25%(社
会通念上相当な額)を乗じた2887万5000円
(ウ)

本件機械の売上高(70万円×231台)に実施料率10%(社会通念上
相当な額)を乗じた1617万円
(2)

不当利得に基づく請求
甲4契約が平成27年4月に有効に解除された場合

被控訴人は,平成27年4月から10月までの間に,本件機械を1台70万円として147台(1月当たり21台),歯科医院に販売した。被控訴人は,1台につき販売価格の25%の実施料相当額を不当に利得した。

甲4契約が平成27年4月に有効に解除されていない場合(当審における追
加的請求)
(ア)

本件機械の製造販売は,本件特許発明の間接侵害(特許法101条4号)
に当たる。そして,専用実施権者である被控訴人は,本件機械の製造販売も専用実施権の範囲内の行為であるとして,本件特許発明を利用して利益を上げている。そうすると,被控訴人は,本件機械の製造販売につき実施料相当額の支払義務を負うものであるから,これを支払っていない場合には,当該実施料相当額を不当に利得したものといえ,当該額につき,控訴人に対する返還義務が生じる。仮に,実施料相当額の支払義務が認められない場合であっても,被控訴人が本件機械の製造販売によって得た売上げの一部は,控訴人が受けるべき利益というべきであって,不当利得が成立する。
(イ)

利得の額は,甲4契約における実施料率を斟酌して定めるべきところ,①
本件機械の製造販売については,本件機械の購入者である歯科医院等に対する黙示の実施許諾を与えたことと同視できるから,甲4契約書2条8項1号の予定する状況と同視して,売上高の25%,②社会通念に照らし,売上高から機械製造原価を控除した額の25%,あるいは,③売上高の10%であると認められる。(ウ)

したがって,控訴人は,被控訴人に対し,前記(1)エのとおり,不当利得の
返還を求めることができる。
(3)

不法行為に基づく請求(当審における追加的請求)
仮に,本件機械の製造販売につき被控訴人に実施料の支払義務がないのであ
れば,甲4契約においては,被控訴人に対し,本件機械の製造販売についての許諾がされていないと評価すべきである。そうすると,被控訴人は,控訴人との関係において,本件機械の製造販売について権原なく行ったことになるから,特許権侵害に該当するというべきである。

被控訴人の不法行為により控訴人の被った損害額は,
前記(2)イのとおりであ

る。

したがって,控訴人は,被控訴人に対し,前記(1)エのとおり,損害賠償を求
めることができる。
〔被控訴人の主張〕
(1)

甲4契約に基づく請求
前記2〔被控訴人の主張〕(2)アないしウのとおり,被控訴人は,甲4契約書
2条8項1号又は7項の適用又は類推適用による支払義務を負わない。イ
前記2〔被控訴人の主張〕(2)エのとおり,被控訴人が実施料支払義務を負う
としても,その額は売上高の3%とするのが相当である。そして,被控訴人は,この額を,控訴人に支払い,控訴人はこれを受領している。
(2)

不当利得に基づく請求
甲4契約が平成27年4月に有効に解除された場合

控訴人の主張は争う。甲4契約は終了していないし,被控訴人は,本件機械の販売につき甲4契約書2条7項に基づき,控訴人に対し,本件機械の売上高に対する3%の実施料の支払を継続している。

甲4契約が平成27年4月に有効に解除されていない場合

不当利得に基づく請求は,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。仮に,却下されないとしても,被控訴人が控訴人に対し,4042万5000円の
不当利得返還債務を負うことは争う。
(3)

不法行為に基づく請求

被控訴人は,控訴人から設定を受けた専用実施権に基づき,本件機械の製造販売を行ったものであるから,何ら特許権侵害に該当する事実はない。第4

当裁判所の判断

当裁判所は,控訴人の請求は,251万8878円の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求はいずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は,後記1のとおり原判決を補正し,後記2ないし8のとおり当裁判所における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の第4の1ないし4記載のとおりであるから,これを引用する。
1
原判決の補正

原判決26頁24行目の「そもそも」から26行目の「といえるが,」までを「そもそも本件特許のうち請求項1ないし4は方法の発明に係る特許,請求項5ないし8は物を生産する方法の発明に係る特許であるから,当該方法の使用に用いられる本件機械の製造販売は,本件特許発明の実施(特許法2条3項2,3号)に当たらないといえるが,」と改める。
2
(1)

争点1(本件専用実施権の期間経過による消滅)について
前記のとおり
(引用に係る原判決の24頁7行目から26頁16行目まで)


本件専用実施権の期間は,本件特許権の存続期間の満了時までである。(2)

控訴人は,
①甲4契約書17条において,
契約全体の有効期間が5年間であ

ると定められている,②甲4契約書2条5項は,甲4契約が継続している場合の専用実施権の期間を定めたものにすぎない,③甲5契約書は,特許庁への手続のために交わしたものにすぎない,④甲4契約においては,5年間の専用実施権の設定の契約金として総額で2500万円と合意された,⑤甲4契約書5条は,契約締結から5年以内であっても,事業化の目途が立たない場合には専用実施権の放棄をするというものにすぎない,などとして,本件専用実施権の設定期間は5年間であると
主張する。
しかし,
甲4契約書2条5項や甲5契約書において,
専用実施権の存続期間は
「特
許権…の有効期間」又は「特許権満了まで」と明記されている。そして,平成22年5月7日付けの甲3契約締結時に,歯科補綴物その他歯科技工加工物及び歯科材料の開発販売についての5年間の独占的通常実施権の対価として契約金1000万円を合意し(なお,更新は可能であり,更新の際に新たな契約金は発生しない。),平成23年3月18日付けの甲4契約締結時に,本件特許発明が適用され得る全ての製品・商品類についての専用実施権の対価としてさらに1500万円の契約金を合意したこと,この当時,本件特許発明は実用化されたとはいえない段階にあって事業の将来見込みが不確実であったことからすれば,甲4契約における専用実施権の期間が,甲3契約と同じ5年にとどまるとは考え難い。また,甲4契約には,5年以内に製品の販売,加工サービスの提供の目途が立たない場合は,専用実施権を放棄する旨の定めがあるのに対し,期間5年を定めた甲3契約には,かかる趣旨の定めが設けられていないことも,甲4契約における専用実施権の期間が5年にとどまらないことを裏付けるものである。
他方,甲4契約書17条には,契約の有効期間を5年間とする定めがあるが,この条項は,甲3契約書17条と同旨であり,被控訴人が,甲4契約締結に先立って提案した専用実施権設定契約書案(甲55の2,56)に,期間を本件特許権の有効期間までとするとする一方で,「本契約書に定める事項のほか,本契約には甲乙間の平成22年5月7日付「特許権実施・ノウハウ使用・商標権使用許諾契約書」の第6条以下を準用する。」との記載があったことから,甲3契約書6条以下をそのまま踏襲して甲4契約書が作成されたことがうかがわれ,甲4契約締結に際し,17条が協議の対象になったことはうかがわれない。そうすると,甲4契約書において,一見矛盾する2条と17条の解釈に当たっては,2条の定めを優先して17条を解釈するのが相当である。また,平成25年3月ころに被控訴人が控訴人に交付した「追加・変更契約書」(甲57)には「原契約第17条は削除し,原契約の
期間は原契約第2条第5項の期間と同一とする」との記載があるところ,この時点では,既に本件専用実施権の有効期間について,控訴人と被控訴人との間で解釈の相違が顕在化していたのであるから,被控訴人としては,疑義をもたらす条項の削除を提案したものと理解するのが相当であり,甲57をもって,本件専用実施権の期間が5年である旨の合意があったことが裏付けられるとはいえない。したがって,本件専用実施権の期間は本件特許権の満了時までとする旨の合意がされたと認められる。そうすると,本件専用実施権の期間はいまだ満了していないから,期間満了を原因とする抹消登録手続請求は理由がない。
3
争点2-1(実施料不払を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成否)に
ついて
(1)

実施料支払の対象について


本件機械の製造販売について

(ア)

前記のとおり(引用に係る原判決の26頁23行目から27頁13行目ま
で),本件機械の製造販売は,許諾がなければ本件特許発明の間接侵害に該当するところ,被控訴人は本件専用実施権に基づき,本件機械の製造販売をすることができ,他方,控訴人に対し,利用の対価たる実施料の支払義務を負う。(イ)

被控訴人は,被控訴人による本件機械の開発,提供は,本来,控訴人が履
行すべき義務(甲4契約書8条)を被控訴人が行ったことにほかならず,被控訴人の義務の履行として専用実施権内の正当行為であり,正当な実施行為の一形態であるから,違法性がなく,間接侵害には当たらないと主張する。
しかし,専用実施権者である被控訴人が,本件機械を正当に製造販売できることと,特許権者である控訴人に対し,上記販売に係る実施料相当額の支払義務を負うこととは,別の問題であるから,被控訴人の上記主張は理由がない。イ
(ア)

本件液の販売について
前記のとおり(引用に係る原判決の27頁14行目から24行目まで),
本件液の販売は,本件特許発明の間接侵害に該当しないから,被控訴人は,控訴人
に対し,利用の対価たる実施料の支払義務を負わない。
(イ)

控訴人は,本件液が「ルナシルバー」という商標が付されて販売されてい
るものであっても,特定の1社の独自の製品であり,しかも特殊な銀水溶液であるから,本件液が「日本国内において広く一般に流通している」ものとはいえず,本件液の販売は間接侵害に該当すると主張する。
しかし,本件液は,インターネットなどでも広告し,一般人が誰でも購入できる商品であり,消臭剤,ゲル,石鹸,エアコンフィルター,家庭用抗菌剤(キッチン・トイレ・バスなど)に利用されているのであるから(乙45),「日本国内において広く一般に流通している」ことは明らかである。
(ウ)

また,控訴人は,本件液は,甲4契約書2条1項にいう「ノウハウ」に当
たると主張する。
しかし,本件特許公報には,本件特許発明の実施例として「銀イオン水溶液としては,抗菌化研株式会社のルナシルバー(登録商標)を用いた。」(【0025】)
ことが記載されており,本件液は,市販のルナシルバーを利用してピカッシュにおいて希釈等するなどした後,専用の容器に詰め替えて販売しているものにすぎないから,甲4契約書2条1項にいう「ノウハウ」には当たらない。
(エ)

したがって,控訴人の上記主張はいずれも理由がない。
本件機械のレンタルについて

本件機械のレンタル(貸渡し)は,前記アと同様,許諾がなければ本件特許発明の間接侵害に該当するところ,被控訴人は本件専用実施権に基づき,本件機械のレンタルをすることができ,他方,控訴人に対し,利用の対価たる実施料の支払義務を負う。
(2)

甲4契約における実施料の算定根拠について

(ア)

甲4契約書2条8項1号の適用について
前記のとおり(引用に係る原判決の28頁9行目から17行目まで),被
控訴人には,甲4契約書2条8項1号に基づく実施料の支払義務はない。
(イ)

控訴人は,本件機械の譲渡価格を基準に甲4契約書2条8項1号を適用す
べきであると主張する。
しかし,甲4契約書における実施料の定めは,①被控訴人が自ら実施した分について,本件特許発明を実施する前の通常価格と実施後の価額との差額の3%,②サブライセンスについて,控訴人の紹介によらない場合は,契約金及び実施許諾料・使用許諾料の各25%,控訴人の紹介による場合は,契約金及び実施許諾料・使用許諾料の各40%というものであるところ,これら実施料の定めは,第三者に本件機械を販売して当該第三者に本件特許発明を実施させる形態を念頭に置いたものとはいい難い。また,当初は,上記①の被控訴人自らによる実施を念頭に置いていたものの,歯科医院の方から義歯を数日間預けずに済むよう,加工を歯科医院でできないかとの要望や汎用の電子レンジを用いても抗菌効果があるのか,安全性に問題はないのかなどの問合せがされるようになったことから,歯科医院が自ら実施できる本件機械の開発に進んだという経緯(乙55,56,56の2,原審における証人C,被控訴人代表者)からしても,甲4契約締結時に,本件機械の販売を念頭に置いた実施料の定めはなかったものというべきである。なお,控訴人は,平成22年10月ころには,当事者間で抗菌加工を歯科医院に普及させて,契約金・レンタル料を徴収することが話題になっていた(乙19),平成23年2月ころには装置に関する事業化が話題になっていた(甲33),と主張するが,本件機械の開発が具体化するのは平成24年以降であるし(乙55,原審における証人C),甲33にいう「装置」は歯科分野以外のもので,本件機械とは全く異なるから(乙21,22,56,56の2,原審における被控訴人代表者),甲4契約締結時に本件機械の販売を念頭に置いた実施料の定めはなかったとの前記判断は左右されない。以上のとおり,甲4契約締結時に,本件機械の製造販売は予定されていなかったのであり,歯科医院が自ら実施できる本件機械の販売を念頭に置いた実施料の定めはなかったというべきである。そして,サブライセンスに関する規定(2条8項1号)は,実施料の算定方法や実施料率に照らし,サブライセンスを受けた者が事業
を展開する場合を念頭に置いたものと解され,上記①の被控訴人自らによる実施に代えて歯科医院が実施するような場合を念頭に置いたものとは解し難い。さらに,仮に,サブライセンスに関する規定を適用するにしても,本件機械が本件特許発明の実施のための専用品であるからといって,その譲渡代金全額が,本件特許発明の使用の対価に相当する部分であるとは認め難く,結局のところ,本件特許発明の使用の対価に相当する部分は不明といわざるを得ない。
したがって,甲4契約書2条8項1号を適用すべきであるとの控訴人の主張は理由がない。

(ア)

甲4契約書2条7項の適用について
前記のとおり
(引用に係る原判決の28頁18行目から29頁3行目まで)


被控訴人には,甲4契約書2条7項に基づく実施料の支払義務はない。(イ)

控訴人は,仮に,甲4契約書2条8項1号が実施料算定根拠とならないの
であれば,出荷する製品と対象を広く包括的に規定している2条7項が基準になると主張する。
しかし,甲4契約書2条7項は,販売価額のうち,本件特許発明を施す前の通常価格と施した後の価額の差額の3%を実施料とするものであるから,本件機械の販売に係る実施料とは明らかに適用場面を異にし,実施料の算定基準とすることはできない。

甲4契約書2条8項1号又は7項の類推適用について

前記ア及びイのとおり,本件機械の製造販売は,甲4契約書2条8項1号又は7項が念頭に置く場合とは相違しているから,これを類推適用することもできないと解するのが相当である。

(ア)

社会通念上相当な実施料について
前記(1)アのとおり,
本件機械の製造販売は,
許諾がなければ本件特許発明

の間接侵害に該当するところ,被控訴人は本件専用実施権に基づき,本件機械の製造販売をすることができる。そして,前記アないしウのとおり,甲4契約には,本
件機械の製造販売に係る実施料についての定めがないものの,本件特許発明の間接侵害品を販売して販売先の歯科医院に本件特許発明を実施させる場合の控訴人への対価を無償とする旨の合意があったとは考え難い。そうすると,本件機械を製造販売したことによる本件特許発明の利用についても,社会通念上相当な額を支払う旨の合意があったと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。
(イ)

そこで,社会通念上相当な額について判断する。

甲4契約書2条7項は,被控訴人において本件特許発明を実施した場合に,その加工による付加価値分の3%の価額を実施料と定め
(具体的には,
平成26年当時,
1回当たりの単価3000円ないし5000円の3%が実施料として支払われていた。乙48の1),同2条8項は,甲4契約が締結された平成23年当時,義歯の抗菌加工以外にも本件特許発明を用いた事業が広く展開されることが計画されていたことから(甲33),専用実施権者である被控訴人が本件特許発明を用いた事業をする第三者に本件特許権を実施許諾する場合を典型として,「サブライセンスを設定する」場合の実施料を合意したものであり,歯科医院に実施させる場合を念頭に置いたものとは解し難い。
甲4契約においては,被控訴人が本件特許発明に係る方法を実施するたびに実施料が発生していたところ(2条7項),本件機械の販売によって,これを購入した歯科医院は,回数制限なく,本件特許発明に係る方法を実施できるようになり,被控訴人が本件特許発明に係る方法を実施することは少なくなった。現に,本件機械の販売前の平成26年8月から12月までの加工に係る実施料は,月平均12万4000円であったのが,平成28年には月平均約9300円に減少した(乙48の1~3)。そうすると,控訴人からみれば,本件特許発明の間接侵害品に当たる本件機械の販売によって従前の実施料収入が減少したのであり,
本件機械の販売時が,
実施料を徴収する唯一の機会といえる。なお,本件液については,前記(1)イのとおり,本件特許発明の間接侵害に当たらない。
本件機械は,平成26年12月から平成27年10月までに合計161台販売さ
れ,本件液は,平成27年後半以降,平成28年1月を除き,毎月少なくとも約1300本は販売している(乙44)。そうすると,本件機械1台につき,月8回(=1300÷161)程度,本件特許発明を実施していると考えられ,控訴人からみれば,
本件機械を1台販売されることによって年間8640円
(=3000円×3%
×8回×12月)の実施料収入が絶たれることになる。そして,本件機械を販売した平成27年当時,特許の残存期間は13年(ライプニッツ係数9.4)であり,中間利息を控除すると,本件機械1台の販売により,8万1216円(=8640円×9.4)の実施料収入を失うことになる。この額は,本件機械の定価70万円の約11.6%に相当する。
他方,甲4契約の締結された当時,本件特許発明は実用化されたとはいえない段階にあって事業の将来見込みが不確実であったところ,被控訴人は,控訴人に合計2500万円の契約金を支払った。さらに,被控訴人は,少なくとも約1300万円を支出して,本件特許発明に係る方法の実施に適するよう,汎用電子レンジを改造して本件機械を開発した。本件機械の導入によって,歯科医院において本件特許発明に係る方法を容易に実施できるようになり,被控訴人が歯科医院から義歯を預かって本件特許発明を実施していたときよりも,顧客層が大きく拡大することになった。このことは,本件特許発明を実施する上で必要な本件液の販売数が,平成27年初めは月約700本であったところ,平成27年後半には月少なくとも約1300本に増加していること(乙44)からも裏付けられる。
また,控訴人は,本件訴訟提起前の平成27年4月24日,被控訴人に対し,本件機械と本件液の売上高の各3%の実施料の支払を求め,被控訴人は,暫定的支払としつつも現在まで上記額の支払を継続し,控訴人はこれを受領している。これらの事情のほか,本件訴訟に現れた事情を総合考慮すれば,本件機械の販売に係る実施料は,売上高の6%をもって相当と認める。
(ウ)

控訴人の主張について

控訴人は,社会通念上相当な実施料は,本件機械の売上高から製造原価を控除し
た額(粗利)の25%,そうでないとしても,本件機械の売上高の10%であると主張する。
しかし,まず,粗利の額は,被控訴人の営業秘密である製造原価を明らかにしなければ算定不能であること,売上高は双方にとって簡便かつ明確な算定基準となること,甲4契約においても販売価格と通常価格の差額(2条7項。具体的には加工単価を基に算定している。)や第三者からの実施許諾料(同条8項)を算定基準としていることに照らせば,粗利ではなく売上高を算定基準とするのが当事者の意思に合致するものと解される。そして,控訴人主張の利益三分法ないし四分法は,ライセンス料を定めるに際しての一つの指針にすぎず,売上高ないし粗利の25%を原則的なライセンス料と考えることは相当でない。本件においても,前記(イ)のとおり,被控訴人自身が実施していた当時の実施料,被控訴人が契約締結時に支払った実施料や本件機械の開発費用等の先行投資額,本件機械の導入による顧客層の拡大,従前の交渉経緯等を総合考慮すれば,売上高の6%をもって相当と認める。(エ)

被控訴人の主張について

他方,被控訴人は,本件機械の実施料率を算定するに当たっては,①被控訴人が契約金として控訴人に2500万円を支払済みであること,②被控訴人が少なくとも約1300万円を投資して本件機械を開発したこと,③被控訴人による本件機械の開発がなければ歯科医院が本件特許発明を利用することができなかったこと,④控訴人と被控訴人との間での本件機械の実施料率についての交渉経緯等の諸事情を勘案すべきであり,本件機械に係る実施料率は,売上高の3%相当額とするのが相当であると主張する。
しかし,前記(イ)のとおり,控訴人は被控訴人に専用実施権を設定し,被控訴人が本件特許発明を自ら実施することについて実施料の支払を受けていたところ,被控訴人による本件機械の導入によって,控訴人の実施料収入の多くが失われる結果となること,控訴人の提示した本件機械の売上高の3%の実施料は,本件液についても売上高の3%の実施料の支払を受けることを前提としたものであることからす
れば,被控訴人主張の事情を考慮しても,売上高の6%をもって相当と認める。(オ)

小括

よって,被控訴人は,控訴人に対し,本件液については実施料を支払う必要がないが,本件機械については,社会通念上相当な実施料として,売上高の6%を支払うべきである。
(3)

甲4契約の債務不履行解除について
前記(2)のとおり,
甲4契約書において,
本件機械の販売に係る実施料額が具

体的に定められているとは認め難いところ,被控訴人は,控訴人から請求された本件機械の売上高の3%の支払を,実施料が具体的に定まるまでの暫定的な支払として継続している。もっとも,被控訴人の支払額は,前記(2)エのとおり定められた社会通念上相当な実施料額に足りないので,債務の一部履行遅滞に当たる。しかし,具体的な実施料が明らかでない状況下で,控訴人の請求した額(この額は,甲4契約書2条7項の定めに準じたものともいえ,過少なものではない。)の支払に応じてきたことからすれば,上記債務の一部履行遅滞は,甲4契約の解除を基礎付けるだけの債務不履行に当たるということはできない。

前記(1)ウのとおり,
被控訴人は,
本件機械のレンタルにつき,
控訴人に対し,

利用の対価たる実施料の支払義務を負うところ,被控訴人は,レンタルに係る実施料を支払っていないので,この不払は,債務の履行遅滞に当たる。しかし,
本件機械のレンタルを通じて第三者に本件特許発明を実施させる形態が,甲4契約締結時に念頭に置かれていたとはいい難いことは,本件機械の販売の場合と同様であり,甲4契約書2条8項1号を適用するとしても,レンタル料全額が実施料に当たるか否かは議論の余地のあるところである。また,本件機械のレンタルに係る実施料について,控訴人がその支払を催告したことを認めるに足りる証拠はない。さらに,レンタルされたのは平成26年の30件程度にとどまり,レンタル料は1万円又は3万円にすぎないから(甲31,弁論の全趣旨),実施料の未払額は僅少といえ,被控訴人は,額が確定した場合には,これを支払う意向を表明して
いる。
したがって,かかる状況下の不払は,継続的契約関係の基礎にある信頼関係の破壊には至っていないというべきであり,控訴人の解除の主張は理由がない。(4)

小括

よって,甲4契約の債務不履行解除は認められないので,これを原因とする抹消登録手続請求は理由がない。
4
争点2-2(秘密保持義務違反を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成
否)について
(1)

前記のとおり(引用に係る原判決の33頁12行目から34頁17行目ま
で),被控訴人には,秘密保持義務違反は認められないから,これを前提とする解除の主張は理由がない。
(2)

控訴人は,
控訴人代表者が被控訴人の従業員Bに送った電子メール
(乙8の

26・28)において,特許で開示されている範囲を示し,「これら以外は,機密事項としてお取り扱いの程,宜しくお願い致します」としているし,データの使用について何ら許可申請をもらっていないとしているのであるから,王宝禮教授の論文(甲30)における銀イオン水溶液の安全性試験データやSEM写真が,控訴人承諾のもとで利用されていないことは明らかであると主張する。
しかし,平成25年当時,控訴人は,被控訴人の従業員Bを介して,王宝禮教授に必要な情報やデータを提供していたのであるから(乙8の23・25・26,46),上記データやSEM写真についても使用許諾があったというべきであり,控訴人の上記主張は理由がない。
5
争点2-3(背信行為を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成否)につ
いて
(1)

前記のとおり
(引用に係る原判決の34頁20行目から37頁1行目まで)


被控訴人には,解除を基礎付けるだけの背信行為は認められないから,これを前提とする解除の主張も理由がない。

(2)

控訴人は,
被控訴人は実施料の支払を免れたいという意図をもって,
本件機

械や本件液の販売開始を報告しなかったのであるから,報告義務の懈怠は解除を基礎付ける背信行為に当たると主張する。
しかし,本件機械や本件液について実施料が発生するか否かは,当事者間においても明確ではなかったこと,被控訴人は,平成27年2月ころ,控訴人から本件機械や本件液についての情報開示を求められると,これに応じていること(甲8の1~17)からすれば,被控訴人が実施料の支払を免れる意図をもって報告を懈怠したとは認め難く,解除を基礎付ける背信行為があったとはいい難い。(3)

控訴人は,
被控訴人による誇大広告や本件特許発明の開発者あるいは権利者

に関する虚偽広告,控訴人のホームページの停止要望等は,控訴人を排除する意図によってされたものであり,解除を基礎付ける背信行為に当たると主張する。しかし,被控訴人の上記行為は,専用実施権者である被控訴人が事業実績を伸ばすために行ったものであり,控訴人の利益を不当に損ねるものではないから,解除を基礎付ける背信行為に当たるということはできない。
6
争点2-4(更新時の義務違反を理由とする甲4契約の債務不履行解除の成
否)について
控訴人は,仮に,甲4契約書17条を「期間以外の各種条件についての契約内容を,5年を目途に見直す趣旨で定めた条項である」と解釈するとしても,被控訴人は,何ら契約内容の見直しに応じなかったのであるから,同条違反の債務不履行に当たると主張する。
しかし,被控訴人は,平成27年2月ころ以降,新製品の開発に伴い,控訴人に支払うべき実施料の計算方法等について協議を行う必要があるとして,協議に応じていたのであるから(甲8の1~22,乙2~6の2,43の1・2),協議がまとまらなかったからといって,被控訴人に債務不履行があったということはできない。
7
争点3(金銭請求の成否)について

(1)

甲4契約に基づく請求について
前記3(2)エのとおり,被控訴人は,控訴人に対し,甲4契約に基づき,本件
機械の売上高の6%の実施料支払義務を負う。

控訴人は,被控訴人に対し,平成26年12月から平成27年10月までの
本件機械の販売分について,実施料の支払を求めるところ,同期間内の売上台数は161台であり,売上高は,8396万2620円である(乙44)。一方,被控訴人は,控訴人に対し,上記期間内の実施料として,本件機械の売上高の3%を支払済みである(乙44。当事者間に争いがない。)。
そうすると,未払実施料は,本件機械の売上高の,実施料率6%から支払済みの3%を減じた3%に相当する251万8878円(小数点以下切捨て)である。ウ
よって,甲4契約に基づく請求は,251万8878円の支払を求める限度
で理由がある。
(2)

不当利得に基づく請求について
前記3(3)のとおり,
甲4契約は有効に解除されていないので,
解除を前提と

する不当利得の請求が理由のないことは,明らかである。

被控訴人は,控訴人が当審で追加した不当利得に基づく請求が,時機に後れ
たものであるとして,却下を求める。
しかし,控訴人による不当利得返還請求の追加は,「著しく訴訟手続を遅滞させる」(民訴法143条1項ただし書)ものとはいえないから,前記申立ては却下する。

前記3(2)エのとおり,被控訴人は,控訴人に対し,甲4契約に基づき,社会
通念上相当な額の実施料支払義務を負うのであって,これを超える利得や損失が発生していることの主張立証はない。

(3)

よって,不当利得に基づく請求は理由がない。
不法行為に基づく請求について
控訴人は,本件機械について,被控訴人に実施料の支払義務のないことを前
提として,
不法行為の成立を主張する。
しかし,
前記3(2)エのとおり,
被控訴人は,
甲4契約に基づき,実施料の支払義務を負うのであるから,控訴人の主張は前提を異にする。

よって,不法行為に基づく請求は理由がない。

8
結論

以上によれば,控訴人の請求は,甲4契約に基づき,251万8878円の支払を求める限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

高部眞
裁判官

古河謙一
裁判官

関根澄子規子
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