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特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)27057
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日平成30年4月13日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年4月13日判決言渡

同日原本領収

平成28年(ワ)第27057号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

平成30年2月14日
判決原告
株式会社デンソーウェーブ

同訴訟代理人弁護士

櫻林正己
同訴訟代理人弁理士

碓氷裕彦被
ゼブラ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社


同訴訟代理人弁護士

今主
訴訟費用は原告の負担とする。
事1人
原告の請求を棄却する。

2浩文1
第1

井実及び理由
請求
被告は,原告に対し,2億円及びこれに対する平成28年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

23
仮執行宣言

第2
訴訟費用は被告の負担とする。

事案の概要

1
本件は,発明の名称を「光学情報読取装置」とする特許第3823487号(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた原告が,被告において業として別紙被告製品目録1~4記載の光学情報読取装置(以下,目録番号順に「被告製品1」などといい,これらを「被告製品」
と総称する。を製造等する行為は本件特許権を侵害すると主張して,)

民法709条に基づき,損害賠償金2億円(一部請求)及びこれに対する不法行為後である平成28年8月26日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
(1)当事者


原告は,情報処理,情報通信に関するソフトウェアの開発及び機器・システムの開発・製造・販売等を業とする株式会社である。


被告は,情報技術,情報技術サービス,データ加工,データ送信及びこれらに関連する業務で用いられる電子機器及び設備等の購入,
販売,
製造,
売買,輸入,輸出及び組立て等を業とする株式会社である。

(2)原告の特許権
原告は,以下の本件特許権を有していたが,平成29年10月27日の経過をもって存続期間が終了した。
登録番号
発明の名称

「光学情報読取装置」

出願日

平成9年10月27日

登録日

平成18年7月7日

訂正審決日

第3823487号

平成27年7月2日(同審決は同月10日確定)

(3)特許請求の範囲の記載
本件特許に係る特許請求の範囲における請求項1
(以下,
単に
「請求項1」
という。)の記載は以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」といい,本件特許の特許公報(甲2)記載の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。
【請求項1】
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置
に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力す
る複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数分析比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,を備える光学情報読取装
置において,前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,
前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。」
(以下,請求項1又は本件明細書等を引用する場合以外は,
「読
み取り対象」は「読取り対象」,「毎」は「ごと」と表記し,「2値化」「2次元」については請求項1と同様の表記をすることとする。)
(4)構成要件の分説
本件発明の構成要件は,以下のとおり分説できる。
A
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,

B
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,

C
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,

D
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,
閾値に基づいて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数分析比を検出し,検出結果を出力
するカメラ部制御装置と,
E
を備える光学情報読取装置において,

F
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,

G
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした

H
ことを特徴とする光学情報読取装置。

(5)原告は,被告製品の構成が別紙被告製品説明書記載のとおりと主張するのに対し,被告は,その一部(同説明書の6頁目第3段落等)を否認し,被告製品の光学的センサCMOSは,その内部に受光素子ごとに増幅回路及びアナログデジタル変換回路を有しており,光学的センサから出力される信号は既に増幅及び符号化されたデジタル信号であって,光学ユニットの外部にあ
るメインCPUが光学的センサから出力されたデジタル出力信号をそのまま受信し直接ソフトウェアにより処理してバーコードの位置を検出するものであるなどと主張している。
3
争点
(1)本件発明の技術的範囲への被告製品の属否

文言侵害の成否
(ア)構成要件Dの充足性(争点1-1)
(イ)構成要件Fの充足性(争点1-2)
(ウ)構成要件Gの充足性(争点1-3)


均等侵害の成否(争点1-4)

(2)本件特許に係る無効理由の成否


進歩性欠如
(ア)乙5を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-1)
(イ)2次元コードリーダー(IT4400)を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-2)


記載要件違反

(ア)サポート要件違反の有無(争点2-3)
(イ)明確性要件違反の有無(争点2-4)
(ウ)実施可能要件違反の有無(争点2-5)
(3)被告の実施行為の有無(争点3)
(4)損害額(争点4)

第3
1
当事者の主張
本件発明の技術的範囲への被告製品の属否
(1)文言侵害の成否について

構成要件Dの充足性(争点1-1)

〔原告の主張〕
(ア)増幅
被告製品の光学ユニットにおいて,受光素子からの出力は,CMOSイメージセンサ(以下「CMOS」と略称する。)に形成された増幅部で出力信号が増幅されるので,同製品は,構成要件Dの「前記光学的セ
ンサからの出力信号を増幅」するとの構成を備えている。
すなわち,被告製品のCMOSは受光素子ごとに増幅回路を備えており,その「受光素子(フォトダイオード)」が本件発明の「光学的センサ」に対応する。そして,受光素子(フォトダイオード)からの出力信号(アナログ信号)がCMOS内部のアンプ(単位セルごとに備えられ
た増幅器)により「増幅」される。
(イ)2値化

被告製品において,増幅された出力信号は,出力線を介して光学ユニット外部のコンピュータチップに入力され,当該コンピュータチップで閾値に基づいて「0」又は「1」に2値化されるので,同製品は,構成要件Dの「閾値に基づいて2値化」するとの構成を備えている。
2次元コードは,コードを閾値より明るいコードと閾値より暗いコードに分けて情報を表すバイナリーコードであり,これを読み取るためには,「明」と「暗」とを識別して複合する必要がある。被告製品も2次元コード(QRコード)の読取りがされている以上,2値化して識別をしている。

また,本件発明に係る「閾値」は,「明」と「暗」を区別する値であるというだけで,特定の一つの値とする必要はない。ソフトウェアにより処理する際に周囲の明度に応じて閾値の絶対値が変化したとしても,値を用いて「明」と「暗」を区別している以上,「閾値に基づいて2値化」をしているということができる。

(ウ)周波数成分比の検出
周波数成分比の検出は,2次元コードの位置検出パターンに限られるものではなく,むしろ,画像メモリコントローラに出力されるのは2次元コードの内容(書き込まれたデータ)であるから,周波数成分比の検出対象は,2次元コードに書き込まれたデータと解すべきである。
被告製品は,2次元コードの読取りをしている以上,「明」か「暗」かの2値化された信号の周波数成分比の検出をしており,「2値化された信号の中から所定の周波数分析比を検出し,検出結果を出力する」との構成要件Dの構成を備えているということができる。
〔被告の主張〕

(ア)増幅
本件発明は「光学的センサからの出力信号を増幅」するものであるか
ら,構成要件Dの「出力信号」は,光学センサ内部から外部に対して発信された信号を意味する。そして,光学センサからの出力信号を増幅するためには,光学センサとは別に電気信号を増幅する装置を備えることが必要である。
しかし,被告製品では,光学的センサとしてCMOSを使用しているので,光学的センサから出力された信号は,既に符号化されたデジタル信号であり,そのままの状態でソフトウェア処理ができることから,これ以上増幅する必要がない。このため,被告製品は出力信号を増幅しておらず,光学センサから外部に発信された電気信号を増幅する装置も備
えていない。
(イ)2値化
被告製品では,閾値に基づく2値化は行われていない。すなわち,被告製品では,光学的センサからの出力信号は,符号化されたデジタル信号であり,光学ユニットの外部にあるメインCPUは,当該デジタル信
号を2値化することなく,そのままの状態で,複雑なアルゴリズムを使用してソフトウェアにより全く別の手法により判断している。
原告は,本件発明の閾値は固定値ではなく,2次元コードの明色と暗色との明度に応じて定める値となると主張しているが,
本件明細書には,
閾値が異なり得る旨の記載はなく,技術常識から判断すれば,閾値とは
特定の一つの値を意味すると解すべきである。
仮に,原告の主張に基づいたとしても,閾値は2次元コードの明色と暗色との明度に応じて定まる一定の値であるから,同じ明度(グレースケール値)であれば,同じ閾値に基づき黒か白に分類することとなる。他方,被告製品は,同じグレースケール値であっても最終的に白と判断
することもあれば黒と判断することもあるため,
「閾値に基づき2値化」
しているということはできない。

(ウ)周波数成分比の検出
本件発明は
「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力する」ものであるが,前記のとおり,被告製品は出力信号を2値化しないので,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出することはない。

また,構成要件Dの「所定の周波数成分比」とは2次元コードに存在する位置検出パターンが有する周波数成分比を意味するところ,被告製品は,位置検出パターンを検出することなく,デジタル信号をそのままの状態で直接利用してソフトウェアで処理して2次元コードの位置を検出しているので,構成要件Dを充足しない。


構成要件Fの充足性(争点1-2)

〔原告の主張〕
構成要件Fの「光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」とは,複数のレンズで構成される結像レンズよりも前(読取対象側)に絞りを配置した方が,その他の位置に配置した場合と比べ,光学的センサから絞りまでの光学的距離が相対的に長くなることを意味する。被告製品においては,4枚のレンズ群の前に絞りが配置され,同レンズ群の後ろ(光学的センサ側)に受光素子が配置されているため,2次元コードからの反射光は絞りを通過した後にレンズ群に入射し,結果的に,受
光素子から射出瞳位置までの距離は,絞りがレンズ群の間や後ろに配置された場合に比べて相対的に長くなるので,構成要件Fを充足する。〔被告の主張〕
射出瞳の見える位置は,絞りと光学的センサとの間に存在する空間やレンズの種類及びその組合せによって異なるため,単純に光学的センサから
絞りまでの光学的距離を長くする(レンズより読取対象側に絞りを配置する)ことにより光学センサから射出瞳までの距離を長くすることができる
ものではない。
被告製品は複数のレンズがセットになっているため,レンズ群の間に絞りを配置することは実際上できない。また,原告は,被告製品において絞りをレンズ群の後ろに配置した場合との比較結果を示していないので,被告製品が構成要件Fを充足することは立証されていない。

構成要件Gの充足性(争点1-3)

〔原告の主張〕
(ア)所定値
被告製品は,受光素子ごとに集光レンズを備えるCMOSを用いており,かつ,絞りをレンズより読取対象側に配置しているので,センサ出力(相対照度)の落込みが周辺部でも中心部の15%程度に抑えられ,中心部のみならず周辺部においても読取りが可能となっている。
構成要件Gの「光学的センサ中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサ周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値
以上となるように」は「射出瞳位置を設定して」に掛かっており,絞りをレンズ群の前に配置することによりセンサ周辺部にある受光素子からの出力レベルを所定レベル以上とすることを意味する。被告製品は,絞りがレンズ群の前に配置されており,射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定した結果,周辺部でも良好な読取りができているので,構成要
件Gを充足する。
(イ)露光時間
構成要件Gの「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との文言は,射出瞳位置の設定による効果を説明するものである。被告は被告製品が露光時間などを調整
する機能を有していないと主張するが,被告製品では明るさに応じて読取り回数が変化しており,露光時間などを調整していることは明らかで
ある。
〔被告の主張〕
(ア)所定値
被告製品は,センサ出力(相対照度)の落込みが,周辺部において中心部の約20%近くも減少しており,本件発明の作用効果を備えている
とはいえない。これは,被告製品では出力の比が所定値以上となるように射出瞳位置を設定していないからである。
(イ)露光時間
被告製品は,中心部においても周辺部においても読取りが可能となるように露光時間などを調整する機能を有していない。被告製品が周辺部
でも読取りが可能なのは,本件特許とは異なる最新の技術を採用しているからである。
(2)均等侵害の成否(争点1-4)について
〔原告の主張〕
被告製品が構成要件Dを充足しないとしても,同構成要件に係る構成に代えて,受光素子からの信号を増幅し,デジタル信号として出力する機能を有する光学的センサ(CMOS)を用いて,同光学的センサからの信号をデジタル処理し,その検出結果を出力することは,同構成要件に係る構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する。


均等第1要件(発明の本質的部分)
本件発明の本質的部分は,2次元コードリーダにおいて,素子ごとに集
光レンズを設けた受光素子を2次元配置した光学的センサを採用した点(構成要件B),絞りを複数のレンズの前に配置して射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定した点(構成要件F),この射出瞳位置の設定により中心部においても周辺部においても読取り可能とした点(構成要件G)などの光学的構成にある。他方,構成要件Fは光学処理後のデータの読取
り処理方法にすぎないので,本件発明の本質的部分ではない。

均等第2要件(置換可能性)
2次元コードの読取りを行うに際し,光学的センサからの出力信号を,同センサと別個のカメラ部制御装置で増幅して信号の読取りを行うことに代えて,光学的センサ内に増幅機能部分を備えるCMOSを使用して,受
光素子部分の信号をCMOS内で増幅して,読取り信号を出力することは置換可能であり,このように置き換えても本件発明の作用効果を奏する。ウ
均等第3要件(置換容易性)
本件侵害行為の時点でCMOSは周知技術であったので,
同時点において
CCDエリアセンサに代えてCMOSを用いる程度のことは,
当業者におい

て極めて容易に想到することができたものである。

均等第4要件(公知技術から容易想到でないこと)
2次元コードリーダの読取りを行うに際しては受光素子からの微弱信号を増幅する必要はあるが,
CMOSを用いてカメラ部制御装置の内部で信号
を増幅するか,
カメラ部制御装置は増幅済みの信号を用いて2値化するのか

により進歩性に差異は生じない。被告製品は,本件発明と同様,本件特許の出願時における公知技術から当業者が容易に想到し得たものではない。オ
均等第5要件(意識的除外)
構成要件Dのカメラ部制御装置は訂正により加えられた要件であるが,カ
メラ部制御装置が増幅された信号を2値化するに際して,
カメラ部制御装置
の内部で増幅し,その後の処理をするのか,光学的センサ内で信号の増幅を行い,
カメラ部制御装置に相当するコンピュータチップにおいて増幅済みの信号を用いるのかは,設計上の微差にすぎず,後者の構成が意識的に除外された事実はない。

〔被告の主張〕

均等第1要件(発明の本質的部分)

本件発明の構成要件Dは,原告が訂正審判により追加した部分である。追加された構成要件Dにおいては,閾値に基づく2値化,所定の周波数成分比の検出のほか,出力信号を外部増幅器で増幅するものとされ,本件発明がアナログ信号を出力する光学的センサであることが明確にされている。出力信号がデジタル信号であるかアナログ信号であるかにより本件発明の前提は大きく異なるのであるから,構成要件Dは本件発明にとって本質的部分である。

均等第2要件(置換可能性)
出力信号がアナログ信号の場合とデジタル信号の場合とでは同一の作用
効果は生じない。被告製品の「増幅」は,センサ内部の微少な増幅にすぎず,本件発明におけるAGCアンプ及び補助アンプが有するような機能は備わっていない。センサ内で生じた出力電子をセンサ外部に伝送(出力)することのみを目的とした増幅と,微弱なアナログ信号を2値化処理することを目的として実施する増幅とでは全く技術的意味が異なるのであるか
ら,上記の置換をしても同一の作用効果が生じるわけではない。

均等第3要件(置換容易性)
出力信号がアナログ信号である場合とデジタル信号である場合とでは,
「増幅」の点のみならず,その後の処理(閾値に基づいた2値化,所定の周波数成分比の検出等)の必要性も大きく異なる。このような実質的な相違点があるのであるから,当業者が置換を容易と考えることはない。エ
均等第5要件(意識的除外)
原告は,訂正審判手続において,本件特許が無効となることを回避する
ため,本件特許の請求の範囲を減縮する目的で,構成要件Dを追加したものである。原告は,構成要件Dを追加することにより,同構成要件を具備しない製品,すなわち被告製品のようなデジタル信号を出力信号とする装置を明確にその技術的範囲から除外したものである。

2
本件特許に係る無効理由の成否
(1)進歩性の欠如

乙5を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-1)について

〔被告の主張〕
(ア)乙5に開示された発明
a
乙5には以下の発明(以下「乙5発明」という。)が開示されている。
「光学式の2次元シンボル読取装置であって,CCDアレイのような2次元センサに,シンボル(ターゲット)からの反射光の焦点を合わせる複数のレンズで構成される光学ユニットと,前記センサへの反
射光の通過を制限する絞りと,前記センサからの出力信号をビデオアンプ(ビデオ増幅器)で処理して送信する機能を含む電子部品と,を有し,前記シンボルからの反射光が前記絞りを通過した後で前記光学ユニットに入射するよう前記絞りを配置し,前記センサからの光を解析して反射画像の輝度を測定し,前記センサの全てのセンサ素子によ
る光を平均化し,それから,既定の閾値を超える平均強度を得るために光源の強度を調整することができる照明コントロールユニットを有する光学式の2次元シンボル読取装置」
b
原告は,乙5発明には絞りが開示されていないと主張するが,乙5の「aperture212」は,光学的センサへの反射光の通過を制限する機能を有している。また,仮に光学的センサへの反射光の入射を最大限制限する最終的な絞りが本件発明の「絞り」であるとしても,乙5のチューブ204が同様の機能を有しているので,乙5には本件発明の「絞り」が開示されている。

(イ)本件発明と乙5発明との一致点及び相違点
(一致点)

「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列された光学的センサ,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,前記光学的センサからの出力信号を増幅し,出力するカメラ部制御装置と,を備える光学情報読取装置において,前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設
定し,前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。」

(相違点1)
本件発明の光学的センサは,その「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」であるのに対し,乙5発明の光学的センサは,そのようなものであるか否かが不明である点。
(相違点2)

本件発明は,光学的センサからの出力信号を増幅した後に,「閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を有するのに対し,乙5発明では,光学的センサからの出力信号を増幅した後にそのような処理をする装置を有しているか否かが不明である点。

(ウ)相違点1について
CCDセンサの受光素子ごとに集光レンズを設けることは多数の文献
(甲2,乙6,7~12,24~28)に記載されており,本件特許出願時には既に周知慣用技術であった。また,本件明細書(甲2)には2次元コードリーダ(光学情報読取装置)にCCDエリアセンサを使用することが従来技術として開示されている。
そうすると,乙5発明の光学的センサを「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」とすることは,本件特許出願時の当業者であれば容易に想到し得たものである。
(エ)相違点2について
光学情報読取装置において,①読取り対象の画像を2値化すること,
②出力信号を2値化する際,出力信号の値が閾値の値よりも大きいか小さいかで「明」と「暗」に分類すること,③2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出すること,④検出結果を出力するために制御装置を用いることは,いずれも多数の文献(①について,乙14,16,17,20,22,26,27の1,②について,乙14,16,③につ
いて,乙16,22,27の1,④について,乙13~16,21,22)に記載された周知技術である。
したがって,
乙5発明の光学的センサからの出力信号を増幅した後に,
「閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」ことは,本件特許出願時の当業者
であれば容易に想到し得たものである。
(オ)以上のとおり,本件発明は,乙5発明に周知慣用技術を組み合わせたものにすぎず,当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠く。
〔原告の主張〕

(ア)乙5に開示された発明
被告は,乙5発明に「絞り」が開示されているとするが,乙5の

「aperture212」
は,
発光ダイオードからの光を照射するための
「開口部」
であり,
被写体からの入射光を絞るものではないから,
本件発明の
「絞り」
ではない。
(イ)乙5発明に基づく容易想到性について
乙5発明には,本件発明の「受光素子毎に集光レンズを設けた光学的
センサ」も「絞り」も開示されていない。乙5には,光学情報読取装置において光学的センサに集光レンズを設けることにより同光学的センサの周辺部の読取り性能が低下するという課題は示されておらず,絞りの配置位置を工夫することなどによりこれを解決するという本件発明の特徴的部分についての開示もない。

乙5発明を主引用例として,本件発明に到達するためには,まずCCDエリアセンサについて,集光レンズ(マイクロレンズ)付きのものとすることを想到し,開示されていない絞りの配置を想到し,その結果,本件発明の課題を新たに発見,認識し,更にこれを解決するため,読取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するように
絞りを配置するなどの解決手段を発見しなければならない。
このように,
少なくとも4段階の推考をしなければ本件発明に到達しないのであって,いわゆる「容易の容易」を重ねるものであるから,当業者において容易に想到できたということはできない。

2次元コードリーダー(IT4400)を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-2)について

〔被告の主張〕
本件発明は,以下のとおり,受光素子ごとに集光レンズが設けられた2次元の光学的センサを使用した2次元バーコードリーダーである「WELCHALLYNIMAGETEAM44002DHand-HeldImageReader」(以下「IT4400」という。)により本件特許出願前に日本国内で公然知られ(平成11
年法律第41号による改正前の特許法29条1項1号)又は公然実施された発明(同改正前の特許法29条1項2号。以下,いずれの発明も「公知発明」という。)に,乙5~35,39,40,42,47~50,64に記載された発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものである。
(ア)IT4400は,本件特許出願前に日本国内で販売されていた。ウェルチ・アレン・インク(以下「ウェルチアレン社」という。)は,本件特許出願前である1997年6月以前から,米国においてIT4400を販売していた(乙56)。同製品には,受光素子ごとに集光レン
ズを設けた2次元光学的センサであるソニー製光学的センサ
(製品型番:
ICX084AL。以下「ICX084AL」という。)が搭載されていた(乙39~41,47~50,62~64)。
IT4400には,IT4400HDとIT4400LRの2機種があり,両機種は焦点位置,分解能,読取深度に多少の相違があるものの,
それ以外は全く同一の仕様である(乙68,72)。被告が米国で購入して解析した製品(乙43,54,55,61,62。以下「被告購入製品」という。)は,1997年(平成9年。以下,同一の年については改めて元号の表示をしない。)7月に製造されたIT4400HDの新古品である。

アイニックス株式会社(以下「アイニックス社」という。)は,遅くとも本件特許出願前である1997年7月から,IT4400(HD及びLRの双方)を日本国内に輸入し,販売していた(甲20,乙44,57~60,67,70,71)。また,遅くとも本件特許出願前である1997年9月頃,ウェルチ・アレン・ジャパン株式会社は,直接日
本国内でIT4400の販売を開始した(乙56)。
被告購入製品と日本国内で販売されたIT4400が同一の製品であ
ることは,①ウェルチアレン社が1997年6月以前からIT4400を販売しており,被告購入製品も同年7月に製造されていること(原告が指摘する被告購入製品のUser’sGuide(乙43のExhibitA。以下「本件取扱説明書」
という。における

「MANUFACTURED=DECEMBER1997」
との表示は単なる参考例である。),②米国におけるIT4400の販売開始から近接した時期に,アイニックス社が被告購入製品と同一種類の製品(IT4400HD)をウェルチアレン社から輸入,販売していること,③被告購入製品の外観と日本国内で販売されたIT4400のパンフレット等(乙68,69)の写真が同一であること(原告が指摘
する乙57~59の写真はウェルチアレン社から入手した仮の写真である。),④被告購入製品とアイニックス社が国内で販売したIT4400とはいずれも従来とは異なるイメージ処理方式の読取り方式を採用したものであることから明らかである。
以上によれば,本件特許出願前に被告購入製品と同一の製品が日本国
内で販売されていたということができる。
(イ)公知発明には以下の発明が開示されている。
「2次元バーコードリーダーであって,
複数の結像レンズで構成される光学ユニットと,
2次元的に配列された複数の受光素子毎に集光レンズが設けられたCC
Dエリアセンサと,
CCDエリアセンサへ入射するバーコードからの反射光を制限する絞りと,
CCDエリアセンサからの出力信号を増幅する増幅器と,
増幅されたCCDエリアセンサからの出力信号を閾値に基づいて2値化
する2値化回路と,

2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出する周波数分析器と,
増幅器,二値化回路,周波数分析器等を制御し,所定の周波数成分比の検出結果を出力する装置と,
露光時間などを調整する機器とを有する
2次元バーコードリーダー」
(ウ)本件発明と公知発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。(一致点)
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取
位置に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,前記光学的センサからの出力信号を
増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置とを備える光学情報読取装置であって,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。」

(相違点1)
本件発明は,「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後に結像レンズに入射するよう,絞りを配置することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」しているのに対し,公知発明では,絞りは結像レンズの間に配置されている点

(相違点2)
本件発明は,「光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力
に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする」のに対し,公知発明は,上記出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定し,露光時間などの調整で中心部においても周辺部においても読取りを可能にするものの,本件発明のような絞りの配置(上記相違点1)により上記を実現しているものではない点
(エ)相違点1について
相違点1に係る「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後に結
像レンズに入射するよう,絞りを配置することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」するという構成は,本件特許出願時には周知技術であった(乙9~12)。
例えば,乙9には,オンチップマイクロレンズ付き固体撮像素子を用いた場合に光学的センサの周辺部に位置する各エレメント(受光素子)
に入射する光束の光量が減少するという課題について,射出瞳が遠い構成を採用することにより,光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して反射光が斜めから入射することを防止し,入射角度をほぼ垂直にするなど大幅に小さくすることにより,上記課題を解決し得ることが示されている。

そして,上記各文献に開示された技術は,本件発明及び公知発明と同一の技術分野に属するものであり,上記各文献に開示された解決手段を公知発明に適用することは,当業者であれば容易に想到できたものである。
この点,原告は,ビデオカメラと2次元バーコードリーダーは技術分
野が異なると主張するが,集光レンズ付きCCDエリアセンサを使用した場合に生じる問題は,斜めの入射光が集光レンズによって集光される
ことによりセンサに届かないという物理現象によって生じるものであるから,2次元バーコードリーダーに固有の問題ではなく,集光レンズ付きCCDエリアセンサを通常の目的(反射光をセンサで感知し信号に変換する)に使用する限り,他の装置(スチルカメラ,デジタルカメラ,ビデオカメラ等)にも常に生じる問題である。
実際上,本件特許出願前に頒布された雑誌に掲載されたソニー株式会社の広告(乙64)には「ソニーの全画素読み出し方式CCDは電子スチルカメラ,PC画像入力,2次元バーコードリーダー,FA用カメラなどのアプリケーションに適したデバイスです。」との記載があり,そ
の表中には「ソニー全画素読み出し方式CCDラインアップ」としてICX084ALが掲載されている。また,平成9年7月13日付け日経産業新聞
(乙57)
には,
「バーコード読み取り手持ち型機器を発売・・

デジタルカメラの技術を応用し」との記載があり,バーコードリーダーとデジタルカメラとは,お互いに技術を共有する関係にあることが示さ
れている。
(オ)相違点2について
相違点2に係る事項は,上記相違点1に係る事項を採用したことから生ずる当然の効果にすぎず,上記のとおり,相違点1に係る構成が容易に想到し得るものである以上,相違点2に係る構成も当業者が容易に想
到し得るものである。
また,露光時間などの調整を行うことは,乙5,13,23等に示された周知技術である。
(カ)以上のとおり,本件発明は,公知発明に周知技術を組み合わせたにすぎず,当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠く。
〔原告の主張〕
IT4400に開示された発明は,本件特許出願当時に公然知られ又は
公然実施された発明であったということはできず,仮にこの点についての被告主張が認められるとしても,本件発明は,公知発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
(ア)IT4400が本件特許出願前に日本国内で販売されていたと認めるに足りる証拠はない。
被告は,被告購入製品が本件特許出願前に米国で販売されていたと主張するが,本件取扱説明書の1-3頁には「MANUFACTURED=DECEMBER1997」との表示がある。これによれば,被告購入製品が販売されたのは,1997年12月以降であると考えられる。本件取扱説明書は英語で書
かれたものであるが,日本語で書かれた取扱説明書や保証書の存在は立証されていない。
被告は,被告購入製品と同機種のIT4400が本件特許出願前に日本に輸入され,日本国内で販売されていたと主張するが,被告が根拠とする証拠(乙44,56~60)は,いずれも企業が一方的に提供した
情報にすぎず,実際に販売されたと認めるに足りる客観的な証拠ではない。
さらに,月刊バーコード誌(乙59)に掲載されたIT4400の外観と被告購入製品の外観には,その上面における放音用の穴の有無など複数の相違点があり,両者が異なる製品であることは明らかである。
加えて,IT4400が仮に日本に輸入されていたとしても,それが被告購入製品と同一の構造の製品であるか否かも不明である。
(イ)仮に,被告購入製品と同一の構造のIT4400が本件特許出願前に国内で販売されていたとしても,以下のとおり,本件発明は,公知発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

IT4400においては3枚のレンズ間に絞りが配置されているが,本件発明の課題は,2次元コードリーダに受光素子付きCCDエリアセ
ンサなどの光学的センサを利用する際に,受光素子41aに対して光が斜めに入射した場合には,集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下し,その結果感度が低下するという点にある(本件明細書の段落【0004】)。この課題は,本件特許出願時,新規なものであり,被告の主張によっても,集光レンズ付き受光素子を2次元配置した2次元コードリーダは,本件特許出願のわずか3か月前(1997年7月)に公知公用となったのであり,しかも,IT4400では絞りはレンズ間に配置されていたのであるから,その時点では,本件発明の課題は全く認識されていなかった。

(ウ)被告の引用する公知文献(乙9~12)は,スチルビデオカメラ装置又はビデオカメラ装置に関するもので,スチルビデオカメラ装置又はビデオカメラ装置と光学情報読取装置とが光学系という点で関連した技術分野であるとしても,光学情報読取装置において係る構成を採用することが容易であるというためには相応の動機付けが必要である。しかし,
IT4400には上記構成を適用することについて動機付けとなる構成は一切なく,被告が引用する公知文献にも,光学情報読取装置における2次元コードの読取りに適用することを開示又は示唆する記載もない。また,
スチルビデオカメラ等に用いられているビデオカメラは,
人間の
目で認識するための画像を形成するカメラであるのに対し,2次元コー
ドリーダに用いられているビデオカメラは,あくまでも2次元コードを読むためのビデオカメラであって,その意味で,人間が見るような色彩の鮮やかさや再現性などは必要ない反面,周辺部においても2次元コードをより正確により早く読み取ることができるように受光素子に対して光が斜めに入射しても周辺部の集光率を低下させないことが必要とな
る。このように「ビデオカメラ」といっても,両者における技術的意義は異なるので,当業者が当然のこととして2次元コードリーダの読取り
装置にスチルビデオカメラ等のビデオカメラの技術を適用すると考えることはできない。
被告が根拠にする乙64についても,その用途として2次元バーコードリーダーが考えられると記載されているのみで,実際にソニー社製CCDが2次元バーコードリーダーに用いられたわけではない。

(2)記載要件違反

サポート要件違反の有無(争点2-3)について

〔被告の主張〕
(ア)請求項1によれば,「カメラ部制御装置」は,本件明細書の図4における「AGCアンプ2」,「アンプ56」,「2値化回路57」及び「周波数分析器58」に対応するものと解される。しかし,同図によると,実際には「カメラ部制御装置」は,
「カメラ部制御装置(32bitRISCCPU)
50」のみを意味しており,両者の間で整合性がないので,請求項1の上記構成が本件明細書によりサポートされているということはできな
い。
(イ)請求項1の「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との記載は,露光時間などの調整による結果,中心部においても周辺部においても読取りが可能となるという効果が生じることを意味するものと理解できる。しかし,本件明細書
には,露光時間などをどのように調整すると請求項1に記載された効果が生じるかについての記載がない。
〔原告の主張〕
(ア)本件明細書において「カメラ部制御装置50」は各種制御を行っている旨説明され(段落【0033】),カメラ部制御装置50に関連する
構成についても説明されている。請求項1の「カメラ部制御装置」がカメラ部制御装置50及びこれに関連する構成を含むものであることは本
件明細書の記載上明らかである。
(イ)本件明細書の段落【0042】には,センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるように射出瞳位置を設定することにより,中心部と周辺部の出力の差を考慮しながら,照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,その結果,中心部にお
いても周辺部においても適切に読取りが可能となると記載されている。このように,請求項1の「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となる」ための方法や効果との因果関係は,本件明細書に記載されている。

明確性要件違反の有無(争点2-4)について

〔被告の主張〕
(ア)上記ア〔被告の主張〕(ア)のとおり,請求項1の「カメラ部制御装置」は本件明細書の記載と矛盾するので,その記載は明確ではない。
(イ)請求項1の「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出」
との記載のうち,「所定の周波数成分比を検出」とはいかなる周波数成分比を検出するのか不明であり,閾値についてもどのような条件の下でいかなる値を用いるのか限定がないので,不明確である。
(ウ)請求項1には「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的
に長く設定」との記載があるが,本件明細書の記載を参酌しても,「相対的」が何を意味するのか明確ではなく,その距離に関して何らの限定もない。
(エ)請求項1には「前記光学的センサの中央部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力
の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定」との記載があるが,本件明細書の記載を参酌しても,その条件は記載されておらず,
その値に関しても何らの限定もない。
〔原告の主張〕
(ア)上記ア〔原告の主張〕(ア)のとおり,「カメラ部制御装置」に関する特許請求の範囲の記載と本件明細書の記載は整合しており,不明確な点はない。

(イ)周波数成分比の検出は,2次元コードに書き込まれたデータの検出であり,本件明細書の段落【0031】にも「周波数分析器58は,2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し,その検出結果は画像メモリコントローラ61に出力される」と記載されているとおりである。また,2値化は,2次元コードを閾値に基づき明るいビット
と暗いビットに分けることであり,閾値の値はある一定の値ではなく,2次元コードの明色と暗色との明度に応じて定まる値を意味するのであって,いずれもその記載に不明確な点はない。
(ウ)本件特許の請求項1の「相対的に長く設定し」の「相対的」とは,「前
記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズ
に入射するよう,前記絞りを配置する」ものと,「そのように配置されていないもの」との対比であることは,明らかである。
(エ)請求項1における「所定値」は,ある特定の数値を指しているのではない。「所定値以上になる」とは,本件明細書の段落【0041】や段落【0042】の記載に照らせば,CCDエリアセンサ41の周辺部で
も適切な読取りができるようにすることを意味する文言である。

実施可能要件違反の有無(争点2-5)について

〔被告の主張〕
請求項1には「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの
調整で,
中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との記載があるが,本件明細書には,その条件,出力の比の数値,射出瞳位置の設定方法等についての具体的な説明はなく,本件発明を実施することができない。
〔原告の主張〕

センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が「所定値以上とする」との表現は,センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルを所定レベル以上にすることの意味で用いられている。当業者であれば,センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが適切な読取りを実現するため
に必要なレベルとなっていることを理解し得るので,本件発明は当業者において実施可能である。
3
被告の実施行為の有無(争点3)について

〔原告の主張〕
(1)被告は,被告製品を,業として,輸入し,輸出し,販売し,販売の申出等をしている。
(2)被告は,平成28年5月3日以降,被告製品を一切販売していないと主張するが,仮にそうであるとしても,被告は,その米国親会社であるゼブラ・テクノロジーズ・コーポレーションが海外で製造し,
兄弟会社であるゼブラ・

シンガポールが取り扱うゼブラ製品が日本国内で販売されるための販売活動をしているものであるから,その行為は「譲渡の申出」に当たる。(3)また,被告製品は,被告の米国親会社を中心とするグループ会社の共同不法行為によって,日本国内に輸入され,販売されているものであり,被告は上記製造・販売行為の共同不法行為者ないし幇助者としての責任を負う。
〔被告の主張〕
(1)被告は,被告製品を輸入又は輸出したことはない。また,被告は,被告製
品を平成28年5月2日以前に販売したことはあるが,同月3日以降は一切販売していない。被告は,グループ会社の指示でゼブラ製品を日本で紹介することがあっても,それらを販売しておらず,販売する目的をもって販売の申出等を行っていないので,被告の行為は特許法2条3項1号の「譲渡等の申出」に当たらない。

(2)被告が共同不法行為や幇助行為の責任を負うとの原告の主張は争う。4
損害額(争点4)について

〔原告の主張〕
(1)被告は,平成26年7月31日以降,被告製品1~4の販売等をしており,同日以降の販売数量及び販売額は以下の金額を下回らない。

(販売数量)

(販売額)

①被告製品1

1億9750万円

②被告製品2

2万0000台

7億0000万円

③被告製品3

1万5000台

30億0000万円

④被告製品4

5000台

2万0000台

33億4000万円

(合計)

72億3750万円

(2)被告の上記販売による限界利益率は,いずれも販売価格の10%を下らない。
(3)したがって,被告は,少なくとも7億2375万円の利益を得たものであり,同金額が原告の損害と推定されるところ(特許法102条2項),原告
はその内金である2億円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求する。〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4
当裁判所の判断

1
本件発明の内容
(1)本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。


発明の属する技術分野
「本発明は,2次元コードなどの読み取り対象に光を照射し,その反射
光から読み取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に関する。」(段落【0001】)

発明が解決しようとする課題
「…受光素子41aに対して光が斜めに入射した場合には,集光レンズ
41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下し,その結果,感度が低下する。センサ単位で見てみると,…受光素子41aに対して光が垂直に入射するのはセンサの中央部にある受光素子41aであり,
センサ周辺部にある受光素子41aに対しては光が斜めに入射する。その結果…CCDエリアセンサ41からの出力は,センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり,その周辺部において読取に必要な光量が確保できず,適切な読み取りができないという問題も生じる。」(段落【0004】)
「…受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを備えている場
合に,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを目的とするものである。」(段落【0005】)

課題を解決するための手段及び発明の効果
「そこで,本光学情報読取装置においては,読み取り対象からの反射光
が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置している。つまり,結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて,複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)には,光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。絞りよりも像側(つまり光学センサ側)にある光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳
(exitpupil)
というが,

光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は,光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば,それに伴って長くなるため,このような絞りの配置とすることで,結果的に光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。」(段落【0009】)「そして,光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなれば,セン
サ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合も,それに伴って小さくなる。したがって,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止することができ,適切な読み取りの実現に寄与する。」(段落【0010】)
「最終的には適切な読み取りを実現することが目的であるので,本発明
の光学情報読取装置においては,光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定している。このようにしておけば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。」(段落【0011】)

発明の実施の形態
「…センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ
周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり,このような射出瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。…」(段落【0042】)

【図6】

(2)本件明細書における上記記載によれば,本件発明は,①2次元コードなどの読取り対象に光を照射し,その反射光から読取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に係る発明であり,②受光素子に対して光が斜めに入射した場合に光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率が低
下するという課題を解決するため,③読取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するように絞りを配置することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,④これにより,CCDエリアセンサの周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合いを小さくし,適切な読取りを実現するものであるということがで
きる。
2
争点2-2(2次元コードリーダー(IT4400)を主引用例とする進歩性欠如の有無)について
事案に鑑み,まず,争点2-2(2次元コードリーダー(IT4400)を
主引用例とする進歩性欠如の有無)について判断する。
(1)認定事実

証拠(後記文中又は末尾掲記の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ウェルチアレン社は,1997年6月,そのウェブサイト上において,2次元バーコード記号を画像化して解読するための新しいバーコードスキャニング装置であるIT4400について告知し,同装置はICX084A
Lを使用していると説明した。(乙56)

被告は,平成29年3月,被告購入製品を購入し,これを分解して調査した。IT4400にはIT4400HDとIT4400LRの2種類の機種が存在していたところ,被告購入製品は,ウェルチアレン社が1997
年7月に製造したIT4400HD-13であった。同製品を分解したところ,同製品にはソニー社製のICX084ALセンサが組み込まれるとともに,3枚の結像レンズが存在し,絞りはレンズ間に位置していた。(乙
43,54,55,61,62)
また,被告は,被告購入製品と同機種の異なる製品を分解して調査した
ところ,同製品にもソニー社製のICX084ALが組み込まれ,その表面を走査型電子顕微鏡で拡大したところ,同構造物は,ソニー製CCDカメラ・システム・セミコンダクター・セレクションガイド(乙63の別紙3)の7頁に示されたマイクロレンズの描写と合致した。(乙63)ウ
ICX084ALに関し,1995年(平成7年)7月27日付けニュ
ース記事(英文,乙40)には,ソニーが同製品を販売している旨及び同製品にはオンチップマイクロレンズが設置されている旨の記載がある。また,ICX084ALデータシート(乙39)には,ICX084ALが2次元バーコードリーダー,PCインプットカメラに適している旨の記載が,また,同年9月25日付けの日経エレクトロニクス誌(乙64の3)
には,ICX084ALを含むソニーの全画素読出し方式CCDが電子スチルカメラ,2次元バーコードリーダー等に適している旨の記載がある。

ウェルチアレン社は,アイニックス社に対し,平成9年7月頃及び同年
9月頃に各5台のIT4400HDを輸出し(なお,ウェルチアレン社の出庫記録上のモデル番号は,4400HD-131である。),アイニックス社は輸入した同製品を顧客に販売した。(甲20,乙67,70,71)


アイニックス社のウェブサイト(乙44)には,平成9年7月にウェル
チアレン社のIT4400の輸入販売を開始した旨の記載があり,同月の新聞記事(乙57,58)や月刊バーコード誌(乙59)にも同旨の記載がある。なお,乙57~59に掲載されたIT4400の写真は,被告購入製品(乙43)の外観と異なるが,1997年10月3日作成に係るウェ
ルチアレン社作成に係るIT4400のパンフレット(乙68)や同年9月号の月刊バーコード誌(乙69)に掲載された写真は,被告購入製品の外観と一致する。
(2)IT4400により実施された発明(公知発明)の公然実施の有無ア
前記(1)アないしオの事実によれば,
ウェルチアレン社は平成9年6月に
はIT4400を米国内で販売しており,アイニックス社は同年7月にはウェルチアレン社から被告購入製品と同機種(IT4400HD)を日本に輸入し,顧客に販売していたとの事実を認めることができる。これによれば,IT4400は,本件特許出願日(平成9年10月27日)前に日本国内で販売されており,
IT4400により実施された発明
(公知発明)

は,本件特許出願日前に公然実施されていたものと認められる。そして,IT4400の購入者が同製品を分解するなどして,その内部構造等を知ることは困難ではなかったということができる。

これに対し,
原告は,
本件取扱説明書に
「MANUFACTURED=DECEMBER1997」
との表示があることから,被告購入製品が販売されたのは平成9年12月以降であると主張する。しかし,本件取扱説明書の上記記載はラベルの記
載内容の説明にすぎず,同説明書の発行日や当該製品の製造年月日を示すものとは直ちにいい難く,同説明書の上記記載をもって被告購入製品が販売されたのは同月以降であるということはできない。
また,原告は,月刊バーコード誌(乙59)に掲載されたIT4400の写真と被告購入製品の外観が異なることも指摘するが,1997年10月3日作成に係るウェルチアレン社のIT4400のパンフレット(乙68)や1997年9月号月刊バーコード誌(乙69)に掲載された写真が被告購入製品の外観と一致することは,前記(1)オのとおりである。乙59に掲載されたIT4400の写真については,ウェルチアレン社の試作段
階の写真の可能性があること(乙67)に照らすと,乙59の写真と被告購入製品の外観が相違するとしても,IT4400が本件特許出願前に日本国内で販売されたとの認定を左右しない。
さらに,原告は,被告が根拠とする証拠(乙44,56~60)は,いずれも企業から一方的に提供された情報にすぎず,IT4400が日本に輸
入されていたとしても,それが被告購入製品と同一の構造の製品であるかどうかは不明であると主張する。しかし,前記(1)エ,オによれば,アイニックス社は被告購入製品と同種のIT4400HDを国内に輸入して販売したものと認められ,また,IT4400HDの構造は前記(1)イのとおりであると認められるので,原告の主張は理由がない。

なお,ウェルチアレン社の出庫記録におけるモデル番号は4400HD-131と記載され,被告購入製品はIT4400HD-13であるが,両製品はそのモデル番号に照らすといずれも同一の機種(IT4400HD)であり,その構造は同一であると推認され,両者の内部の基本的構造が異なっていたことや製造後に内部の構造に変更が加えられたことをうか
がわせる証拠もない。
以上によれば,IT4400により実施された発明(公知発明)は,本
件特許出願日前に日本国内において公然実施されていたものと認められる。(3)本件発明と公知発明との一致点及び相違点
証拠(乙43,61,62)によれば,公知発明は前記第3,2(1)イ〔被告の主張〕(イ)記載のとおりであり,本件発明と公知発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点は以下のとおりであると認めることができる。(一致点)
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取装置に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数
の受光素子が2次元的に配列されるとともに,当該受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサと,当該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りとを備える光学情報読取装置である点
(相違点1)
本件発明は,「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後に結像レン
ズに入射するよう,絞りを配置することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」しているのに対し,IT4400では,絞りは,結像レンズの間に配置されている点
(相違点2)
本件発明は,「光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対
する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする」のに対し,IT4400は,上記出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定し,露光時間などの調整で中心部においても周辺部においても読取を
可能にするものの,本件発明のような絞りの配置(上記相違点1)手段により,上記を実現しているものではない点

(4)上記各相違点の容易想到性について

相違点1について
(ア)乙9(特開平5-203873号公報),乙10(特開平7-168093号公報),乙11(特開平5-188284号公報),乙12(特
開平8-278443号公報)に記載された発明は,いずれもデジタルカメラ等の光学系に関する発明であるところ,これらの文献には,いずれも,光学的センサの周辺部に位置する受光素子に入射する光束の光量が減少するのを防止するという課題及びこれに対する解決策として射出瞳を結像面から離した構造として,全てのレンズの前面(読取対象側)
に絞りを配置する構成とすることが記載されている。
すなわち,例えば,乙9には,以下の記載がある。
「【0009】【課題を解決するための手段】本発明の射出瞳の遠い2焦点切換式レンズは、物体側から順に、短焦点設定時にレンズ系の光軸外に移動する正の屈折力を有する第1レンズ群、絞り、長焦点設定時
にレンズ系の光軸外に移動する正の屈折力を有する第2レンズ群およびレンズ系の光軸内に固定される正の屈折力を有する第3レンズ群からなり、この第3レンズ群を、その物体側焦点位置が上記絞り位置付近となるように配設したことを特徴とするものである。
【0012】したがって、第1レンズ群と絞り、または絞りと第2レン
ズ群を通過してきた光束は第3レンズ群によって屈折して光軸に略平行な光束となる。このように光軸に略平行となった光束は固体撮像素子の前面に配されたオンチップマイクロレンズの各マイクロレンズに垂直に入射することとなりしたがって固体撮像素子周辺部に対応する各マイクロレンズによって集束された光束はセンサの開口部の縁部でほとんどさ
えぎられることなく、この開口部内に入射することとなる。
【0013】これにより画面周辺部が光量不足で暗い画像となることも
なく、高い検出感度を得ることができる。」
また,乙12には,以下の記載がある。
「【0003】このため、撮影レンズ装置より固体撮像素子の撮像面に入射する光束の入射角を可能な限り小さくすることが必要である。言い換えれば撮影レンズ装置の射出瞳位置ができるだけ遠いことが望ましい。
【0009】【作用】レンズ群の前方、即ち物体側に最も近い位置に絞りを配置することで、結像面からの射出瞳位置を十分遠ざける機能を発揮し、更に、全体で強い屈折力を持つ第4レンズ群を像側に最も近い位
置に配置することにより、射出瞳位置を像面から更に遠ざけて、撮像素子への入射角を十分に小さくする。」
【0044】【発明の効果】以上に説明したように本発明によれば、十分な大きさのバックフォーカスを持ち、更に結像面からの射出瞳位置を十分確保した高性能な撮影レンズ装置が実現され、ビデオカメラや電子
スティルカメラ等に適した撮影レンズ装置を提供することができる。」以上のとおり,乙9~12によれば,光学的センサの周辺部に位置する受光素子に入射する光束の光量が減少するのを防止するため,「読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後に結像レンズに入射するよう,絞りを配置することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離
を相対的に長く設定」
するという構成とすることは,
本件特許出願当時,
ビデオカメラ等の分野において周知であったと認めることができる。(イ)原告は,ビデオカメラ等と2次元バーコードリーダーの技術的意義は異なるので,当業者がビデオカメラ分野の技術(乙9~12)を当然のこととして2次元コードリーダの読取装置に適用することを考えるもの
ではないと主張する。
しかし,その主たる目的が色彩等の再現性にあるか2次元バーコード
の読取りにあるかという点で異なる面があるとしても,集光レンズ付きCCDエリアセンサを通常の目的で使用する限りは,光学的センサの周辺部に位置する受光素子に入射する光束の光量が減少することにより光学素子に入射する光束の光量が低下して検出感度が低下するという課題は共通しており,当業者であれば,2次元バーコードリーダーにおける
同課題の解決のため,光学系の近接した技術分野であるスチルカメラ,デジタルカメラ,ビデオカメラ等の技術を適用することについての動機付けを得ることは容易であるというべきである。
そして,
前記(1)ウのとおり,
ICX084ALデータシート
(乙39)
には,ICX084ALが2次元バーコードリーダー,PCインプット
カメラに適している旨の記載が,1995年9月25日付けの日経エレクトロニクス(乙64の3)には,ICX084ALを含むソニーの全画素読出し方式CCDが電子スチルカメラ,2次元バーコードリーダー等に適している旨の記載があり,また,平成9年7月13日付け日経産業新聞(乙57)には,「バーコード読み取り手持ち型機器を発売・・・
デジタルカメラの技術を応用し」との記載があることも,バーコードリーダーとデジタルカメラとが技術を共通にする関係にあることを裏付けるものということができる。
(ウ)以上によれば,当業者が,本件特許出願当時,公知発明に乙9~12に記載されたデジタルカメラ等の光学系に関する上記技術を組み合わせ
ることにより,相違点1に係る構成を想到することは容易であったということができる。

相違点2について
本件発明は,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設
定し,光学的センサの中心部に位置する受光素子から出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるよ
うに,射出瞳位置を設定するものであるが,この「所定値」については本件明細書に具体的な記載がなく,上記の出力の比のほか,照射光の光量,露光時間などの調整等の結果として,光学センサの中心部と周辺部のいずれでも適切な読取りができるようになることを意味するにすぎないと解される。

また,本件明細書の段落【0011】【0042】の記載によれば,露光時間などの調整は従来から行っていた技術であり,本件発明の構成である射出瞳位置の設定等を採用することで,これが容易となることを意味するにすぎないものと解される。また,露光時間などの調整を行うことが本件特許出願当時に周知であったことは,乙5,13,23にも示されてい
るとおりである。
そうすると,相違点1に係る構成を想到することが前記のとおり容易である以上,光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように射出瞳位置を適宜設定し,周知技術を用いて露光時間を調整す
るなどして中心部においても周辺部においても読取りが可能となるようにすることは当業者にとって容易であったというべきである。

以上のとおり,相違点1及び2は,公知発明に本件特許出願当時の周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たということができる。

(5)小括
以上のとおり,本件特許は進歩性を欠き,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。
3
結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達文遠山敦士達文
裁判官

署名押印することができない。

裁判長裁判官

佐藤
別紙
被告製品目録

以下の商品名等で特定される光学情報読取装置
1
被告製品1
商品名

2
DS4800シリーズ

被告製品2
商品名
型3
CS4070シリーズ
CS4070-SR,CS4070-HC


被告製品3
商品名
型4
MC40

MC40,MC40-HC


モバイルコンピュータ

シリーズ

被告製品4
商品名

TC55


TC55BH-KJ11JE-NS,TC55BH-KJ1


タッチ

コンピュータ

1JS-NS
以上

別紙
被告製品説明書

1
被告製品1

写真1

DS4800

被告製品1は,凡その奥行きが1
9センチ,幅7センチ,高さが5セ
ンチであり,右の写真1に示される
ように全体として湾曲した形状をし
ているリーダである。
リーダの使用者はカスタムベゼルと呼ばれるケースを把持し,親指,人差し指若しくは他の指でタッチトリガーと呼ばれる読取スイッチを押すことで,LEDインジケータより照明光を2次元コードに照射し,その反射光がケース前方に配置された絞り,レンズ,光学的センサ等を含む光学ユニットに入射する。
この光学ユニットの詳細に関しては後述5のとおりである。
用途は,バーコードの読み取りも含め,2次元コードの読み取りを主な用途としている。

2
被告製品2

写真2

CS4070

被告製品2は,凡その長さが11センチ,幅5センチ,高さ3
センチであり,写真2に示す様に全体として長尺形状をしている
リーダである。
リーダの使用者はケースを握り,ケース上面の前方に配置され
た「+」の表示のある読取スイッチを人差し指若しくは他の指で
押すことで,ケース前面に配置されたLED照明光を2次元コー

ドに照射し,その反射光がケース前方に配置された絞り,レンズ,光学的センサ等を含む光学ユニットに入射する。
この光学ユニットの詳細に関しては後述5のとおりである。
用途は,バーコードの読み取りも可能であるが,2次元コードの読み取りを主な用途とするものであり,読み取った信号を外部のコンピュータに出力している。

3
被告製品3

写真3

MC40

被告製品3は,凡その高さが14センチ,幅が7センチ,奥
行きが2センチであり,写真3に示すように全体として長方形
形状をしており,ケースの前面にタッチパネルのディスプレイ
を備えているリーダである。
リーダの使用者はケースを把持し,ケースの左右両側面に配
置された読取スイッチを親指,人差し指若しくは他の指で押す
ことで,ケース前面に配置されたLED照明光を2次元コードに照射し,その反射光がケース前方に配置された絞り,レンズ,光学的センサ等を含む光学ユニットに入射する。
この光学ユニットの詳細に関しては後述5のとおりである。
主な用途は,バーコードの読み取りも含めた2次元コードの読取であるが,読み取った信号に基づき,発注や受注等の作業を行うこともできる。そのため,通信機能を備えており,インターネット接続や,電子メールを行うことも可能である。

4
被告製品4

TC55

写真4

被告製品4は,凡その高さが14センチ,幅が7センチ,奥行
きが2センチのリーダであり,写真4に示すように全体として長
方形形状である。上記3の「MC40」と同様,ケースの前面に
タッチパネルのディスプレイを備えている。
リーダの使用者はケースを把持し,ケースの左右両側面に配置
された読取スイッチを親指,人差し指若しくは他の指で押すこと
で,ケース前面に配置されたLED照明光を2次元コードに照射し,その反射光がケース前方に配置された絞り,レンズ,光学的センサ等を含む光学ユニットに入射する。
この光学ユニットの詳細に関しては後述5のとおりである。
主な用途は,バーコードの読み取りも含めた2次元コードの読取であるが,読み取った信号に基づき,発注や受注等の作業を行うこともできる。そのため,通信機能を備えており,インターネット接続や,電子メールを行うことも可能である。

5
被告製品1ないし4が共通して使用している,被告製光学ユニット「SE4710」について
光学ユニット「SE4710」

上記被告製品1ないし4の2次元コードリーダ
は,いずれも製品名を「SE4710」とする光学
ユニットを用いている。

写真5

写真5

写真5は,光学ユニットの筐体からレンズや基板
を取り外した状態を示している。

写真6

写真6は,写真5の筐体からレンズ及び基板を取り
外した状態を示している。

写真7は,このレンズの部分の断面を示すX線に

写真7

よる断面写真である。
この断面写真に示されるように,4枚
のレンズの前方に絞りが配置され,2次
元コードからの反射光は絞りを通過した
後でレンズに入射するようになってい
る。
そして,4枚のレンズの後方に受光素
子が配置されている。

写真8(CMOS)
受光素子は写真8に示すCMOSに増幅部,アナ
ログデジタル変換部等と共に形成されている。

写真9(正面視)

写真9は,この受光素子を正面視において拡大し
たものである。

写真10(45°斜視)
写真10は,この受光素子を45°斜視において
拡大したものである。

上記写真9及び10に示すとおり,各受光素子には一片3000ナノメータ程度のマイクロレンズが設けられている。

上述したように,受光素子からの出力はCMOS内で増幅され,アナログ信号からデジタル信号に変換されて基板上に配置された出力線から光学ユニット外部のコンピュータチップに出力される。そして,コンピュータチップで「0」若しくは「1」の2値化され,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する。
従って,光学ユニットには,絞り,複数のレンズ,及びマイクロレンズを受光素子毎に備える光学的センサが含まれ,併せて,光学的センサからの出力を増幅するカメラ部制御装置の一部が配置されている。

以上
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