判例検索β > 平成28年(ネ)第4426号
事件番号平成28(ネ)4426
裁判年月日平成30年3月26日
法廷名東京高等裁判所
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主文1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求のうち,被控訴人の住所地において,契約種別
を衛星契約とする放送受信契約締結義務が存在しないことの確認
を求める部分及び契約種別を特別契約とする放送受信契約締結義
務が存在しないことの確認を求める部分は,いずれも訴えを却下
する。

3
被控訴人のその余の請求を棄却する。

4
訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨
主文同旨

第2

事案の概要(略語は,新たに定義しない限り,原判決の例による。以下,本判決において同じ。)

1
被控訴人は,控訴人の放送を含めたワンセグ放送を受信できる携帯電話を所有しているが,控訴人の放送を受信できるテレビジョン受信機を設置した者(放送法64条1項)には当たらないとして,日本放送協会放送受信規約(現行受信規約)を内容とする受信契約締結の手続をせず,受信料を支払っていない。
なお,被控訴人は,当審係属中に携帯電話の機種を変更し,新たに「GalaxyS8+」を所有・所持している(この変更後の携帯電話を,以下「本件携帯電話2」といい,後記第2・2及び第3・1で原判決を引用する場合に原判決中の「本件携帯電話」をいずれも「本件携帯電話2」と読み替える。)。
本件は,被控訴人が,被控訴人は,本件携帯電話2を一定の場所に設置せず,それを携帯しているにすぎないから,放送法64条1項所定の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当せず,また,仮に前項所定の者に該当するとしても,被控訴人は本件携帯電話2を控訴人の放送を視聴する目的で所有していないから,本件携帯電話2は同項ただし書の「放送の受信を目的としない受信設備」に該当すると主張し,控訴人に対し,控訴人との間で放送受信契約(受信契約)を締結する義務(放送受信契約締結義務)が存しないことの確認を求める事案である。
控訴人との間の受信契約については,一般的に,地上契約(地上系によるテレビジョン放送の受信についての放送受信契約),衛星契約(衛星系及び地上系によるテレビジョン放送の受信についての放送受信契約)及び特別契約(地上系によるテレビジョン放送の自然の地形による難視聴地域等について,衛星系によるテレビジョン放送のみの受信についての放送受信契約)の3種類の契約があるところ,被控訴人が所有する本件携帯電話2では衛生系によるテレビジョン放送を受信できないことから,控訴人は,当審において,被控訴人の請求のうち,衛星契約及び特別契約に係る契約締結義務の不存在の確認を求める部分は,確認の利益がないものとして,訴えの却下を求め,地上契約に係る契約締結義務の不存在の確認を求める部分については,請求の棄却を求めている。
なお,被控訴人は,当審係属後,転居した上,前記

のとおり,所有・所

持する携帯電話の機種を変更したことから,それに伴い,転居後の住所における控訴人との受信契約の締結義務が存しないことの確認を求める訴えに請求の趣旨を訂正した。
2
原審は,受信料が国権に基づく課徴金等に準じるとし,そうすると憲法83条,84条の趣旨が及び,課税要件明確主義の要請が働くところ,放送法2条14号では「設置」と「携帯」を区別しているので,同法64条1項の「設置」についても,「携帯」の趣旨を含んでいるとは解せず,また,同条項の「設置」の意義について,これが受信設備を設け置くことにとどまらず,それを使用できる状態に置くことまで含むと解することもできないから,被控訴人が同条項所定の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当するとは認められず,被控訴人の請求は理由があるとして,これを認容した。
これに対し,原判決を不服とする控訴人が控訴した。
3
前提事実,争点及び争点に関する当事者双方の主張は,

次のと

おり付加訂正の上,後記4のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2

事案の概要」2ないし4(原判決2頁5

行目から12頁16行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。原判決2頁5行目の「争いのない事実」を「当裁判所に顕著な事実,争いのない事実」と改める。
原判決2頁9行目から13行目までを次のとおり改める。


被控訴人は,被控訴人の肩書住所地(以下「被控訴人住所地」という。)に単身で居住し,通常のテレビジョン受信機は設定していないものの,その所有する本件携帯電話2には,ワンセグ放送を視聴できる機能(ワンセグ機能)がある(甲8,弁論の全趣旨)。」

2頁14行目の「原告住所地」を「被控訴人住所地」と,4頁14行目の「協会の放送」を「協会の標準放送(括弧内略)」と,それぞれ改め,5頁15,16行目の「乙17・7頁目」の次に「,乙18の1,2」を,19行目の「変更された」の次に「(乙19)」を,それぞれ加える。原判決6頁19行目の「定めているところ,」の次に「前記契約約款によれば,」を,24行目の「定めており」の次に「(乙20)」を,それぞれ加え,25行目の「(乙20)」を削る。
原判決8頁8行目の「被告の」を「NHK」と改め,15行目の「20頁目・」を削る。
原判決10頁1,2行目の「(公知の事実)」を削る。原判決10頁15行目の末尾に改行の上,「ウ
控訴人の主張するように

解すると,本件携帯電話2等のように一定の場所に固定していないときには,その設置場所が明らかではなくなることから,「設置」とは一定の場所に備え置くことと解すべきである。」を加える。
原判決10頁21行目の末尾に「そのように解さないと,例えば,ポータブルテレビを所有するが,特定の場所に固定していない場合に,受信料の負担を免れることになり,費用の適正かつ公平な負担を目的とする放送法の趣旨に反することになる。」を加える。
原判決11頁8行目の「「有料放送」の定義」の次に「における「設置」の概念に」を加える。
4
当審における当事者の主張
控訴人

衛星契約及び特別契約の締結義務について(本案前の抗弁)
本件携帯電話2では,衛星系のテレビジョン放送を受信できないことなどから,被控訴人が控訴人と衛星契約及び特別契約を締結する義務がないことは明らかであり,その不存在を確認する利益がなく,当該部分に係る訴えは却下されるべきである。


地上契約の締結義務について
放送法64条1項は,観念的に受信設備を使用できる状態に置くことを意味すると解すべきである。原審は,控訴人が国家機関に準じた性格を有し,放送受信契約締結義務及び受信料の負担の定めに憲法84条及び財政法3条の趣旨が及ぶことから,その定めはなるべく一義的で明確でなければならないところ,「設置」に「携帯」が含まれると解することは相当な無理があるとする。しかし,条文解釈は,文理解釈を基本としつつ,当該規定の趣旨や目的を踏まえて解釈すべきところ,放送法64条1項は,控訴人の公共放送機関としての役割の重要性に照らし,控訴人が適正公平に受信料を受領できるよう,その前提となる受信契約締結義務を定めた規定であることからすれば,同項本文が定める「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」とは,実際に控訴人の放送を視聴している者ではなく,控訴人の放送を受信することのできる受信設備を「設置」した者を指し,また,「設置」とは,物理的に,協会の放送を受信できる受信設備を一定の場所に設け置くことではなく,観念的に前記設備を使用できる状態に置くことを意味すると解すべきである。
この点,経営委員会の議決を得て,総務大臣が認可するなどした現行受信規約1条2項でも,設置を「使用できる状態に置くことをいう」と規定しており,前記解釈の正当性が裏付けられる。
さらに,放送法の改正経緯に鑑みても,そもそも,無線電信法(大正4年法律第26号)の委任を受けた放送用私設無線電話規則13条は,ラジオ受信機を「施設」しようとする者に対し,放送施設者に対する聴取契約書を提出すること等を規定し,その「施設」には無線電話機器を携帯使用する者も含んでおり,同規則の廃止に伴って施行された放送法32条1項は,ラジオ放送を受信することができる受信設備の設置者に対し,控訴人との受信契約を義務付けており,その頃から,携帯型ラジオは既に存在していたものの,その経緯からして,前記「設置」者に受信設備を「携帯」する者が含まれていたことは明らかである。そして,平成21年法律第22号及び同22年法律第65号による放送法の改正(それぞれ,平成21年改正,平成22年改正)で,放送法2条14号が新設され,「設置」と「携帯」を区別する規定が設けられたが,3で付加訂正の上で引用する原判決第2・4

(被告の主張)アのとおり,

同号は同法64条1項(平成22年改正前は同法32条1項)を含む同法第3章の規定とは,規定の趣旨及び機能を異にするから,同号が設けられたことをもって,同法64条1項の「設置」の解釈が変わるものではない。
以上のとおり,同法64条1項の「設置」は使用できる状態に置くことを意味し,被控訴人は本件携帯電話2を使用できる状態に置いているから,同項に基づき,控訴人と地上系の放送受信契約の締結義務を負う。被控訴人
控訴人の主張は争う。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人の請求のうち,衛星契約及び特別契約に係る契約締結義務の不存在の確認を求める部分については,確認の利益がなく,訴えを却下すべきであり,また,地上契約に係る契約締結義務の不存在の確認を求める部分は,理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は,当審における控訴人の主張に対する判断を含め,次のとおりである。
衛星契約及び特別契約に係る受信契約の締結義務の不存在確認について本件携帯電話2で,控訴人の衛星系のテレビジョン放送を受信できないことは当事者間に争いがなく,被控訴人について,本件携帯電話2に関し,衛星契約及び特別契約に係る受信契約の締結義務がないことは控訴人も認めている。そうすると,被控訴人に,本件携帯電話2について,衛星契約及び特別契約に係る受信契約の締結義務の存否を確認する利益があるとは認められないことから,この点についての被控訴人の訴えは確認の利益がない。したがって,被控訴人の請求のうち,衛星契約及び特別契約に係る受信契約の締結義務が存在しないことの確認を求める部分は,訴えを却下することが相当である。
地上契約に係る受信契約の締結義務の存否について

放送法64条1項は,受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であって,控訴人からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,控訴人がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め,その判決の確定によって受信契約が成立すると解される(最高裁判所平成26年

第1130号,同年

第1440号,1

441号同29年12月6日大法廷判決・裁判所時報第1689号3頁参照)。したがって,同法64条1項所定の受信設備設置者は,同項ただし書に該当する事由がない限り,当該設備において受信することができる種類のテレビジョン放送に応じた受信契約の締結義務があると認められる。そして,前提事実によれば,ワンセグ機能が正当に機能していれば,本件携帯電話2で控訴人の地上系のテレビジョン放送を受信することができること(原判決第2・2
れ(原判決第2・2


),放送受信契約は世帯毎に行うものとさ

ウ),被控訴人が被控訴人住所地に単身で居住して

いること(原判決第2・2


)が認められるので,本件携帯電話2が

「協会の放送を受信することができる受信設備」に該当すると認められる。したがって,被控訴人が控訴人との間で地上契約に係る受信契約の締結義務があるか否かを判断するに当たっては,被控訴人が,前記設備の設置者に該当するか

と,本件携帯電話2が同項ただし書の「放送の

受信




ことのできる受信設備を設置した者」に該当するか)について
この点,被控訴人は,本件携帯電話2を携帯するだけで,一定の場所に備え置いているわけではないので,「設置」に該当しない旨を主張する。
前提事実によれば,放送法64条1項は,平成22年改正による改正前の放送法32条1項であるが,同条項では,放送法制定当時から,「受信設備を設置した者」との表現が使われていたこと(原判決第2・2
),その後,地上アナログテレビジョン放送の終了に伴い,携帯端末向けマルチメディア放送を行えるようにするため,平成21年改正及び平成22年改正により放送法が改正され,同法2条14号で「移動受信用地上基幹放送」が規定されたところ,同号では,「設置」と「携帯」を区別して規定され

が認められる。

また,平成21年改正及び平成22年改正により,放送法で移動受信用地上基幹放送に関する規定が整備されたに際にも,放送法64条1項の「設置」の文言について議論されたりしたことはなかったこと(原判ウ)が認められる。
さらに,後掲証拠によれば,そもそも,無線電信法(大正4年法律第26号)の委任を受けた放送用私設無線電話規則(大正14年逓信省令第89号)13条本文では,「放送事項ノ聰取ヲ目的トスル私設無線電話…ヲ施設セムトスル者ハ左ノ各號ノ事項ヲ記載シタル願書及別ニ告示スル所ニ依リ放送施設者ニ對スル聰取契約書ヲ差出シ所轄逓信局長ノ許可ヲ受クヘシ」と定め(乙25),ラジオ受信機を「施設」しようとする者に対し,放送施設者に対する聴取契約書を提出すること等を規定し,同条1号では,「移動體ニ装置スル場合」を含めて規定していることからすれば,その「施設」には無線電話機器を携帯使用する場合を含んでいると解される上,同規則の廃止に伴って施行された放送法(昭和25年5月2日公布,同年6月1日施行)32条1項では,その当時,携帯型ラジオは既に存在していた(乙29,30)にもかかわらず,ラジオ放送を受信することができる受信設備の設置者に対し,控訴人との受信契約を義務付けていたこと,昭和34年3月11日の第31回国会衆議院逓信委員会及び昭和39年3月16日の第46回同委員会において,控訴人の専務理事らが,携帯用のラジオしか持っていない場合にも聴取料を徴収する旨を答弁しており(乙9,33),平成18年6月9日の第164回国会衆議院総務委員会及び同年10月26日の第165回同委員会で,総務大臣や総務省情報政策局長が,ワンセグ機能付き携帯用受信機についても控訴人と受信契約をする必要があることを答弁していること(乙7,8)が認められる。
で認定した事実によれば,放送法64条1項の定める「設置」には,同法制定当時においては,受信機を物理的に一定の場所に備え置く場合だけではなく,携帯型受信機を携行する場合も含めていたと解され,その後の同法の改正においても,これが変更されたと解すべき事情がないことからすれば,同条項の「設置」には「携帯」も含むとすべきである。そして,現行受信契約(乙1)1条2項で「設置」について「使用できる状態におくことをいう。」と規定するのも,そのような解釈を前提にしたものと解される。
これに対し,被控訴人は,「設置」とは一定の場所に備え置くことを意味し,「携帯」は含まない旨を主張し,原判決も,国語的な意味では,「設置」と「携帯」とは異なること(原判決第2・2

)などから,放

送法64条1項の「設置」は「携帯」を含むと解することはできないと判示する(原判決第3・1)。
しかし,法律上の用語が,国語的な意味と全く同じになるとは必ずしも限らず,法律において「設置」に「携帯」の意味を含めて用いられる放送法においては,前記

で認

定したとおり,もともと「設置」には「携帯」の意味も含まれていたと解されるところ,移動受信用地上基幹放送に関する規定を整備する際に,同法2条14号で両者を区別して規定されたが(原判決第2・2

ア,

イ),同法の他の部分では両者を区別して規定されたわけではなく,そのような議論がされた形跡がないこと(原判決第2・2

ウ),むしろ,

有料放送に関する同法52条の4第1項等のように,移動受信用受信設備を携行する場合を含めて「設置」の文言を用いられる場合があること(原判決第2・2
)などからすれば,同法2条14号以外の部分でも

両者を区別して解釈すべきことには当然にはならず,そうすると,被控訴人の前記主張を採用することはできない。
なお,

アに記載したとおり,放送法64条1項が,受信設備設置者

に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であることからすれば,同条項を被控訴人が主張するように解釈すると,ポータブル受信機のように,受信設備を一定の場所に固定せず,携行する場合には,結果的に受信料の支払を免れることになり,不公平な結果を招来することになることからしても,被控訴人が主張するような前記解釈を採ることはできない。
したがって,被控訴人は,放送法64条1項所定の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当するものと認められる。

2が,放送法64条1項ただし書所定の「放送の
受信を目的としない受信設備」に該当するか)について
被控訴人は,本件携帯電話2を電話機能やインターネット機能を利用することなどを目的に所有,所持していて,控訴人の放送を受信することを目的としていないことから,本件携帯電話2は同法64条1項ただし書の「放送を目的としない受信設備」に該当する旨を主張する。
しかし,前記

ア記載のとおり,同条項が,受信設備設置者に対し受信

契約の締結を強制する旨を定めた規定であることからすれば,その解釈は当該受信設備が設置されている目的が客観的に放送の受信を目的としているか否かによって判断すべきであって,実際,同項ただし書の「受信設備」とは,電波監視用の受信設備,電気店の店頭に陳列された受信設備,公的機関の研究開発用の受信設備,受信評価を行うなどの電波監理用の受信設備等を指すと解されていること(乙2)からしても,設置者の主観的な目的によって左右されるものではないと解すべきである。そうすると,ワンセグ機能を用いて地上デジタル放
送のテレビジョン放送を視聴する者も相当数いることに鑑みれば,ワンセグ機能がある本件携帯電話2が,客観的に放送を目的としないものと認めることはできないから,本件携帯電話2が同法64条1項ただし書の「受信設備」に該当するとの被控訴人の主張を採用することはできない。(3)

以上のとおり,被控訴人は,放送法64条1項本文所定の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当し,本件携帯電話2が同項ただし書の設備に該当するとは認められないことから,被控訴人には地上契約に係る控訴人との受信契約の締結義務があると認められ,この点に係る被控訴人の請求は理由がない。

2
その他,被控訴人は種々主張するが,前記の認定,判断を左右するものはない。

第4結論
よって,被控訴人の請求のうち,被控訴人の住所地において,契約種別を衛星契約とする放送受信契約締結義務が存在しないことの確認を求める部分及び契約種別を特別契約とする放送受信契約締結義務が存在しないことの確認を求める部分については,確認の利益がないことから,いずれも訴えを却下すべきであり,その余の部分(契約種別を地上契約とする放送受信契約締結義務が存在しないことの確認を求める部分)は,理由がなく棄却すべきところ,これと異なる原判決は相当でないから,取り消すこととし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

深見敏正
裁判官


裁判官

餘田多尚弘分宏聡
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