判例検索β > 平成29年(行ヒ)第216号
議場における発言取消命令取消請求事件
事件番号平成29(行ヒ)216
事件名議場における発言取消命令取消請求事件
裁判年月日平成30年4月26日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名名古屋高等裁判所
原審事件番号平成27(行コ)53
原審裁判年月日平成29年2月2日
判示事項愛知県議会議長の同県議会議員に対する発言の取消命令の適否は,司法審査の対象とはならない
戻る / PDF版
平成29年(行ヒ)第216号議場における発言取消命令取消請求事件平成30年4月26日第一小法廷判決

主文
原判決を破棄する
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人中込秀樹の上告受理申立て理由について
1
本件は,愛知県(以下「県」という。)の議会の議員である被上告人が,県
議会議長から,地方自治法129条1項に基づき,県議会の一般質問における県知事に対する発言の一部を取り消すよう命じられた(以下,この命令を「本件命令」という。)ため,上記発言は社会通念上相当な内容のものであるなどとして,上告人を相手に,本件命令の取消しを求める事案である。
2
(1)

原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
被上告人は,平成26年9月29日,定例県議会の一般質問において,県
知事に対し,第1審判決別紙1「発言目録」(以下「本件目録」という。)記載の発言をした。
上記発言の後,県知事から,被上告人の発言の中には事実を誤認している部分があるとの指摘がされた。また,出席議員の中からも,同発言中に不穏当と思われる箇所があるため,県議会議長において速記録を精査した上で善処すべきであるとの指摘がされた。
(2)

県議会議長は,平成26年10月7日付けで,被上告人に対し,地方自治
法129条1項に基づき,本件目録記載の発言のうち同目録中の取消線が付された部分(以下「本件発言部分」という。)を取り消すよう命じた(本件命令)。(3)ア

愛知県議会会議規則(昭和31年10月20日愛知県議会規則。以下「本件規則」という。)は,普通地方公共団体の議会に会議規則の制定を義務付けた地方自治法120条に基づいて設けられたものである。本件規則は,議事は速記法によって速記するとし(121条2項),会議録は印刷して県議会議員及び関係者に配布する(以下,この会議録を「配布用会議録」という。)としている(122条)が,配布用会議録には秘密会の議事並びに県議会議長が取消しを命じた発言及び62条の規定により県議会議員が自ら取り消した発言は掲載しないとしている(123条)。

被上告人の本件目録記載の発言は,県議会議長が地方自治法123条1項に
基づき作成させた平成26年9月定例愛知県議会会議録(会議録5号)の原本には全て掲載されている。他方,上記発言のうち本件発言部分は,配布用会議録には掲載されておらず,ウェブサイトで公開されている会議録や会議中継録画においても削除されている。
3
原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断した上で,本件
訴えを適法とし,本件命令の適否が司法審査の対象とならないとした第1審判決を取り消し,本件を第1審に差し戻した。
本件規則121条2項が原則として県議会議員の議事における発言を逐語により会議録原本に記載し,同規則122条が配布用会議録を議会外に配布することを定めた趣旨は,地方自治法123条1項が議長に付与した会議録調製権を制限し,同法115条にいう議事の公開の原則を推し進めることにあり,県議会議員に対し,その発言が逐語により記載された配布用会議録が議会外に配布されることによって住民に公開されることを保障したものと解される。したがって,上記の発言が配布用会議録に記載される権利は一般社会と直接関係する重要な権利であり,これを制限する本件命令の適否は,議場の秩序保持という単なる内部規律の問題にとどまらず,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟として司法審査の対象となる。4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。(1)

裁判所法3条1項にいう一切の法律上の争訟とは,あらゆる法律上の係争
を意味するものではなく,その中には事柄の特質上自律的な法規範を有する団体の内部規律の問題として自治的措置に任せるのを適当とするものがある。そして,普通地方公共団体の議会における法律上の係争については,一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,その自主的,自律的な解決に委ねるのを適当とし,裁判所の司法審査の対象とはならないと解するのが相当である(最高裁昭和34年(オ)第10号同35年10月19日大法廷判決・民集14巻12号2633頁参照)。
(2)

普通地方公共団体の議会の運営に関する事項については,議会の議事機関
としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく,その性質上,議会の自律的な権能が尊重されるべきものであり,地方自治法104条は,普通地方公共団体の議会の議長は,議場の秩序を保持し,議事を整理する旨を規定し,同法129条1項は,議会の会議中,同法又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは,議長は,発言を取り消させ,その命令に従わないときは,その日の会議が終わるまで発言を禁止し又は議場の外に退去させることができる旨を規定している。このような規定等に照らせば,同法は,議員の議事における発言に関しては,議長に当該発言の取消しを命ずるなどの権限を認め,もって議会が当該発言をめぐる議場における秩序の維持等に関する係争を自主的,自律的に解決することを前提としているものと解される。
そして,本件規則123条は,配布用会議録には県議会議長が取消しを命じた発言を掲載しない旨を規定しているところ,この規定は上記のとおり議長に議場における秩序の維持等の権限を認めた地方自治法104条及び129条1項の規定を前提として定められたものと解される。そうすると,議事を速記法によって速記し,配布用会議録を関係者等に配布する旨を定めた同規則121条2項及び122条は,同規則123条の規定と併せて,同法123条1項が定める議長による会議録の調製等について具体的な規律を定めたものにとどまると解するのが相当であり,県議会議員に対して議事における発言が配布用会議録に記載される権利利益を付与したものということはできない。したがって,県議会議長により取消しを命じられた発言が配布用会議録に掲載されないことをもって,当該発言の取消命令の適否が一般市民法秩序と直接の関係を有するものと認めることはできず,その適否は県議会における内部的な問題としてその自主的,自律的な解決に委ねられるべきものというべきである。
(3)

以上によれば,県議会議長の県議会議員に対する発言の取消命令の適否
は,司法審査の対象とはならないと解するのが相当である。
5
以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,本件訴えは不適法であり,これを却下した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官
山口


小池

裁判官


裁判官

池上政幸

深山卓也)
裁判官

木澤克之

裁判官

トップに戻る

saiban.in