判例検索β > 平成29年(ネ)第493号
事件番号平成29(ネ)493
裁判年月日平成30年3月19日
法廷名福岡高等裁判所
原審裁判所名長崎地方裁判所
原審事件番号平成23(ワ)275
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主1
平成29年


第493号当事者参加人兼控訴人ら及び同第559号当事者参

加人らがした独立当事者参加の申出をいずれも却下する。
2
平成29年

第493号当事者参加人兼控訴人らの控訴をいずれも却下する。

3
本件のうち,被控訴人(1審原告)らの被控訴人(1審被告)に対する請求に係る部分は,被控訴人(1審被告)が平成29年4月25日付けでした控訴権の放棄及び同年5月1日の経過により終了した。

4
本件のうち,平成29年

第493号当事者参加人兼控訴人ら及び同第55

9号当事者参加人らの被控訴人(1審被告)に対する請求に係る部分を,長崎地方裁判所に移送する。
5
控訴費用は,平成29年

第493号当事者参加人兼控訴人らの負担とし,

同人らによる独立当事者参加の申出後に被控訴人(1審原告)らに生じた訴訟費用は,平成29年

第493号当事者参加人兼控訴人ら及び同第55

9号当事者参加人らの負担とする。
事実及び理由
第1

当事者の求める裁判

1
ら(以下「参加人兼控訴
人ら」という。)


原判決中,被控訴人(1審原告)らの請求を認容した部分を取り消す。


上記部分に関する被控訴人(1審原告)らの請求をいずれも棄却する。


被控訴人(1審被告)は,国営諫早湾土地改良事業によって建設された潮受堤防の北部及び南部に設置されている各排水門の開門に関し,諫早湾の海水を調整池に流入させ,海水交換できるように開門操作せよ。

2
平成29年

第559号当事者参加人ら(以下,参加人兼控訴人らと併せて

「参加人ら」という。)
上記1⑶と同旨

3
被控訴人(1審原告)ら
主文第1項と同旨

4
被控訴人(1審被告)
主文第1項と同旨

第2

事案の概要
本件は,国営諫早湾土地改良事業(以下「本件事業」という。)としての土地干拓事業に関し,被控訴人(1審原告)らが被控訴人(1審被告)に対して同事業で設置された諌早湾干拓地潮受堤防の排水門を開門することの差止めを求めた訴訟において,長崎地方裁判所(以下「長崎地裁」という。)が被控訴人(1審原告)らの請求を一部認容する判決を言い渡したのに対し,参加人らが,上記訴訟の結果によって権利が害されるなどと主張して独立当事者参加の申出をするとともに,更に参加人兼控訴人らが上記判決を不服として控訴を提起した事案である。

1
事実経過(職務上顕著)


被控訴人(1審被告)は,本件事業において,諫早湾に,その奥部を締め切る諫早湾干拓地潮受堤防(以下「潮受堤防」という。)を設置し,潮受堤防によって締め切られた奥部を調整池(以下「調整池」という。)とするとともに,調整池内部に干拓地を形成し(以下「新干拓地」といい,本件事業前からある干拓地を「旧干拓地」という。),調整池を淡水化した。また,被控訴人(1審被告)は,潮受堤防の北部及び南部に排水門(以下「本件各排水門」という。)を設置して所有しており,本件各排水門の開門権限を有する。上記位置関係は原判決別紙7記載のとおりである。



被控訴人(1審被告)は,福岡高等裁判所(以下「福岡高裁」という。)
7号ほか。以下,同事件の第1審及び控訴審を併せて「前訴」という。)の控訴人兼被控訴人(1審被告)であり,福岡高裁は,平成22年12月6日,
被控訴人(1審被告)に対し,前訴1審原告らのうち諫早湾近傍の漁業者ら(58名)に対する関係で,判決確定の日から3年を経過する日までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続することを命ずる判決を言い渡し,同判決は,同月21日に確定した(以下,福岡高裁が前訴においてした上記判決を「前訴確定判決」という。)。


被控訴人(1審原告)らは,諫早湾付近の干拓地を所有又は賃借し農業を営むという者,諫早湾内に漁業権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営むという者及び諫早湾付近に居住するという者などであるところ,被控訴人(1審被告)が,前訴1審原告ら58名との関係で本件各排水門を開放し,以後5年間にわたってその開放を継続する義務を負っており,地元関係者の同意と協力なしに開門をする可能性があって,被控訴人(1審原告)らは開門により被害を受けるおそれがあるなどと主張して,上記の干拓地を所有するという者は所有権に基づく妨害予防請求として,上記の干拓地を賃借するという者は賃借権に基づく妨害予防請求として,上記の諫早湾内で漁業を営むという者は漁業行使権に基づく妨害予防請求として,上記の諫早湾付近に居住するという者は人格権又は環境権・自然享有権に基づく妨害予防請求として,被控訴人(1審被告)に対し,調整池から諫早湾海域への排水を行う場合を除き,原判決別紙6(開門方法)記載3の方法による開門(以下「ケース3-2開門」という。),同記載1の方法による開門(以下「ケース1開門」という。),同記載2の方法による開門(以下「ケース3-1開門」という。),同記載4の方法による開門(以下「ケース2開門」といい,これらを併せて「ケース1~3開門」という。)及びケース1~3開門以外の方法による開門(以下「その余の開門」といい,ケース1~3開門と併せて「本件開門」という。本件開門は,いずれも淡水化した調整池に海水が浸入する態様での本件各排水門の開門方法である。)の各差止めを求める本件
訴訟を平成23年4月19日に提起した。
これに対し,被控訴人(1審被告)は,事前対策(「事前」とは,本件開門をする前に,あるいは,本件開門による被害が発生する前にとの趣旨である。以下同じ。)を実施することによって,本件開門による被控訴人(1審原告)らの被害は回避され,また,本件開門によって漁場環境が改善する可能性があり,開門調査を実施し,調査結果を公表することに公共性ないし公益上の必要性があるなどと主張して,被控訴人(1審原告)らの請求を争った。そして,本件開門を求める漁業者である被控訴人(1審被告)補助参加人らが,被控訴人(1審被告)の補助参加人として補助参加した。原審は,口頭弁論期日とその間の多数回の進行協議期日及び和解期日を経て,平成27年10月6日,第18回口頭弁論期日で弁論を終結し,その後も和解協議が続けられたが,結局,平成29年3月27日に和解打切りとなった。


原審は,平成29年4月17日,1審原告らの請求のうち,①ケース3-2開門の差止めを求める請求については,別紙6被控訴人目録1,2及び5の被控訴人(1審原告農業者)らの各ケース3-2開門の差止めを求める請求を認容し,その余の1審原告らの同請求を棄却し,②ケース1開門の差止めを求める請求については,同被控訴人目録1,2及び5の被控訴人(1審原告農業者)ら,同被控訴人目録3の被控訴人(1審原告漁業者)ら及び同被控訴人目録4の被控訴人(1審原告住民)らの各ケース1開門の差止めを求める請求を認容し,その余の1審原告らの同請求を棄却し,③ケース3-1開門の差止めを求める請求については,同被控訴人目録1,2及び5の被控訴人(1審原告農業者)ら,同被控訴人目録3の被控訴人(1審原告漁業者)らのうち3名及び同被控訴人目録4の被控訴人(1審原告住民)らのうち38名の各ケース3-1開門の差止めを求める請求を認容し,その余の1審原告らの同請求を棄却し,④ケース2開門の差止めを求める訴え及び⑤そ
の余の開門の差止めを求める訴えついては,却下する旨の判決を言い渡した。被控訴人(1審被告),1審原告ら,被控訴人(1審被告)補助参加人らは,同日,上記判決の判決書正本の送達を受けた。


本件開門を求める漁業者である被控訴人(1審被告)補助参加人らは,平成29年4月17日,原判決に対して控訴を提起した。
本件開門を求める漁業者である参加人兼控訴人Aは,同日,参加人兼控訴人B及び同Cは,同月19日,それぞれ独立当事者参加の申出をし,同月25日,原判決に対し控訴を提起した(





被控訴人(1審被告)は,平成29年4月25日,原判決のうち被控訴人(1審被告)敗訴部分に対し,被控訴人(1審被告)補助参加人らがした控訴を取り下げるとともに控訴権を放棄した。
1審原告らは,原判決のうち1審原告ら敗訴部分に対し,不服を申し立てなかった。そのため,いずれの請求についても訴え却下ないし請求を棄却された1審原告らは,当審の当事者(被控訴人)となっていない。



本件開門を求める漁業者である参加人D,同E及び同Fは,平成29年6月30日,独立当事者参加の申出をした(当庁平成29年

59号事

件)。
⑻ア

原判決別紙1原告目録1番号8のG1は,平成29年1月31日,死亡し,亡G1訴訟承継人被控訴人G2が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号12のG3は,平成26年10月26日,死亡し,亡G3訴訟承継人被控訴人G4が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号18のG5は,平成23年12月11日,死亡し,亡G5訴訟承継人被控訴人G6が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号27のG7は,平成23年6月17日,死亡し,亡G7訴訟承継人被控訴人G8が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号28のG9は,平成26年6月9日,死亡
し,亡G9訴訟承継人被控訴人G10が訴訟承継した。

原判決別紙1原告目録1番号30G11は,平成24年12月28日,死亡し,亡G11訴訟承継人被控訴人G12が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号33のG13は,平成27年10月15日,死亡し,亡G13訴訟承継人被控訴人G14及び同G15が訴訟承継した。

原判決別紙1原告目録1番号40のG16は,平成28年7月8日,死亡し,亡G16訴訟承継人被控訴人G17が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号64のG18は,平成26年11月28日,死亡し,亡G18訴訟承継人被控訴人G19が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号67のG20は,平成28年2月15日,死亡し,亡G20訴訟承継人被控訴人G21及び同G22が訴訟承継した。

原判決別紙1原告目録1番号73のG23は,平成29年6月8日,死亡し,亡G23訴訟承継人被控訴人G24,同G25及び同G26が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号88のG27は,平成25年12月6日,死亡し,亡G27訴訟承継人被控訴人G28,同G29及びG30が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録1番号96のG31は,平成26年3月21日,死亡し,亡G31訴訟承継人被控訴人G32が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録5番号67のG33は,平成27年10月25日,死亡した。


原判決別紙1原告目録6番号1のG34は,平成27年9月21日,死亡し,亡G34訴訟承継人被控訴人G35が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号4のG36は,平成29年3月2日,死亡し,亡G36訴訟承継人被控訴人G37が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号18のG38は,平成29年3月18日,
死亡し,亡G38訴訟承継人被控訴人G39が訴訟承継した。

原判決別紙1原告目録6番号19のG40は,平成28年12月10日,死亡し,亡G40訴訟承継人被控訴人G41が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号34のG42は,亡G42訴訟承継人被控訴人G43が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号35のG44は,平成29年5月23日,死亡し,亡G44訴訟承継人被控訴人G45が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号37のG46は,平成25年12月25日,死亡し,亡G46訴訟承継人被控訴人G47が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号43のG48は,平成28年1月17日,死亡し,亡G48訴訟承継人被控訴人G49が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号46のG50は,平成27年7月29日,死亡し,亡G50訴訟承継人被控訴人G51が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号53のG52は,平成28年7月7日,死亡し,亡G52訴訟承継人被控訴人G53が訴訟承継した。


原判決別紙1原告目録6番号56のG54は,平成27年11月29日,死亡し,亡G54訴訟承継人被控訴人G55が訴訟承継した。

2
争点及び争点に関する当事者の主張


詐害防止参加について
【参加人らの主張】

本件各排水門は,その構造上,参加人らに対する関係ではこれを開放し,かつ,被控訴人(1審原告)らに対する関係ではこれを開放しないということはできない。被控訴人(1審原告)らは被控訴人(1審被告)に対して本件各排水門を開放しないことを求めており,その請求が認められれば,参加人らの本件各排水門の開放を求める権利行使が妨げられるから,参加人らは,本件訴訟の結果について重大な法律的利害関係を有するものであ
る。詐害防止参加における当事者参加人は,既存当事者に対して金銭債権を有する債権者に限られない。
他人間の訴訟の結果が当事者参加人の法律上の地位に影響を及ぼすとすれば,それは他人間の訴訟において示された判断が,当事者参加人自身の法律上の地位が争われる場合において裁判官の心証形成に不利な影響を及ぼすという事実上の影響しか考えられず,そのような事実上の影響を及ぼすのであれば,詐害防止参加の利益として足りるというべきである。補助参加では,本件のように他人間の詐害的な訴訟追行によってされた判決の確定を阻止することは不可能である。
また,訴訟が控訴審に係属している段階でも,独立当事者参加は許されるし,控訴審における独立当事者参加の要件として被参加人の同意を要件とすれば,詐害的な訴訟がされている以上被参加人がこれに同意することはあり得ないから,独立当事者参加の制度目的を達成することはできない。イ
被控訴人(1審被告)は,次のとおり確定判決によって命ぜられた開門義務の履行を免れるための訴訟追行を行ってきたことが極めて明白であり,詐害意思が認められる。
被控訴人(1審被告)は,本件事業の事業主体であって前訴確定判決後も開門に向けた準備を進めず,請求異議訴訟を提起して開門義務を争っている。
被控訴人(1審被告)は,潮受堤防の締切りによる漁場環境の悪化や漁業被害,本件各排水門を開放することによる漁場改善効果等の事情を本件訴訟で主張立証せず,被控訴人(1審被告)補助参加人らの主張をあえて援用しないなど,自己に有利な主張立証をあえて行わなかった。長崎地裁は,本件訴訟に先立つ仮処分事件においても,被控訴人(1審被告)が同様の主張立証をしたことを考慮して,平成25年11月12日,本件各排水門の開門の差止めを一部認める決定をすることとなった。
被控訴人(1審被告)は,前訴確定判決によって本件各排水門を開門する義務を負っているにもかかわらず,本件訴訟の和解協議において開門しないことを前提とした和解案を一貫して主張しこれに固執していた。被控訴人(1審被告)は,原判決において一部敗訴の判決を受けたのであるから,本来自ら控訴を行うべきところ,原判決に対し,被控訴人(1審被告)補助参加人らがした控訴をあえて取り下げ,さらに,控訴権を放棄するなどした。被控訴人(1審被告)は,原判決に先立ってされた仮処分の保全異議決定(長崎地裁平成27年11月10日決定)に対して保全抗告を行い(福岡高裁

第434号),原審口頭

弁論終結後に,福岡高裁において,上記保全異議決定の判断の誤りについて詳細かつ極めて適切に指摘していたのであるから,原審において弁論の再開を求めて主張を補充することが可能であったし,原判決に対し控訴して同様の指摘を行うことは可能であった。また,原判決は,既に死亡している被控訴人(1審原告)らや仮処分において申立てを取り下げた被控訴人(1審原告)らの請求も認容するなど一見して明らかな誤りが含まれており,控訴してこれらの誤りを指摘することも極めて容易であった。
また,被控訴人(1審被告)は,前訴確定判決に対する請求異議訴訟の控訴審(福岡高裁

19号)において,担当者が被控訴

人(1審原告)らと接触して供述を録取して書証として提出しているが,これは本件訴訟においては被控訴人(1審被告)の敗訴を導く論拠ともなり得るのであり,被控訴人(1審被告)と被控訴人(1審原告)らが通謀して被控訴人(1審被告)の敗訴を導く訴訟活動を行っていたことを直裁にうかがわせるものである。

以上によれば,参加人らは,民事訴訟法47条1項前段の「訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者」に当たる。

【被控訴人(1審被告)の主張】

民事訴訟においては二当事者対立構造を基本とし,また,その訴訟の対象が自由に処分できる私権であることに照らし,訴訟当事者には,本来,当該訴訟において,自由な訴訟追行が保障される必要があるところ,独立当事者参加が認められる場合には,既存の当事者は,第三者(当事者参加人)により自由な訴訟追行が制約されることになる。これによれば,訴訟参加を無制限に認めることはできず,当該第三者には,既存当事者の自由な訴訟追行が制約されることが正当化され得る程度に,当該訴訟の結果により第三者が参加するための具体的な利益が必要となるというべきである。民事訴訟法47条1項前段のいわゆる詐害防止参加は,もともとフランス法の廃罷訴権・債権者取消権に由来するもので,債権者が債務者と第三者の間の訴訟に介入して,債務者・第三者間で詐害的な訴訟行為が行われて債権者を害する判決がされることを防止するという債務者の責任財産保全のために債権者に認められた訴訟上の権能であり,金銭債権を有する債権者を保護するための規定であって,本件のような物権的請求権が問題となるような事案について適用することが予定されているものではない。参加人らは金銭債権を有していないから,他の要件を検討するまでもなく詐害防止参加は認められない。


金銭債権を有する債権者以外の債権者については,大審院昭和12年4月16日第二民事部判決・民集16巻8号463頁が判示するように,当事者及び第三者の三者間における紛争の一回的解決の要請及び判決の矛盾抵触の防止の観点から,民事訴訟法47条1項前段の参加が認められるのであって,かかる参加は,当事者の詐害の目的や行為態様とは関係なく,むしろ当該訴訟の判決において判断される権利関係の存否が,当該第三者の法的地位の論理的な前提となっている関係にあるか否かという,権利ないし法律関係の客観的な性質に着目して参加の利益が判断されることにな
る。そして,かかる法的な利害関係が認められない第三者については,民事訴訟法47条1項前段に基づく参加の利益を認めることはできない。本件では,本件訴訟の訴訟物は,被控訴人(1審原告)らの所有権,人格権等に基づく妨害予防請求権としての本件各排水門の開放差止請求権である。これに対し,参加人らが主張する法的地位は,漁業行使権に基づく妨害排除請求権としての本件各排水門の常時開放請求権である。両請求権は,当事者及び権利の根拠及びその内容を異にしており,別個の請求権として観念され,論理的に両立し得るものである。参加人らの主張する妨害排除請求権が本件訴訟の訴訟物である妨害予防請求権を前提としており,妨害予防請求権の帰すうによって実体法上影響を受けるという関係にもない。参加人らの主張する法的地位をもっては,本件訴訟の当事者及び第三者の三者間の紛争を統一的・一回的に解決して矛盾判断を防止する必要性は存しないといわざるを得ず,詐害意思の有無にかかわらず,上記の観点からも,参加人らに独立当事者参加を認める理由はない。

詐害意思の有無については,当事者の詐害意思を立証することの困難性等からすれば,係属中の訴訟における既存当事者の具体的な訴訟追行の経過や訴訟前,訴訟外の経過からみて当事者の訴訟追行の外的態様から十分な訴訟活動の展開を期待できないと判定されるか否か,詐害防止参加により既存の当事者の訴訟追行を牽制する必要性があるかといった事情を踏まえて総合的に判断すべきであり,単に既存当事者が当事者参加人に対して不利益な訴訟行為をしたというだけでは足りないというべきである。被控訴人(1審被告)は,前訴確定判決の言渡し後,本件各排水門の開放を行うために必要な対策工事の準備に着手し地元自治体等に対する説明等を続けていたが,地元関係者らの妨害に遭い対策工事の調査にすら着手できない状況のまま前訴確定判決の開門義務の履行期限を徒過せざるを得なかったものであり,前訴確定判決で命じられた開門に向けた
準備を遅々として進めなかったものではない。そして,前訴確定判決確定後に対策工事の実施,ひいては開門が不可能となった事情等を理由に請求異議訴訟を提起することは,判決後の事情変更を踏まえて強制執行からの解放を求める債務者としての正当な権利行使である。
被控訴人(1審被告)は,本件訴訟において,前訴確定判決により命じられた本件各排水門の開放を行わなければならない立場を前提に,6年近くにわたり適切な主張立証等をしていた。被控訴人(1審被告)は,環境アセスメントという当時の信用性のある科学的知見に基づいて判明している事実を援用していたのであって,科学的裏付けのない被控訴人(1審被告)補助参加人らの主張を無限定に援用すればかえって被控訴人(1審被告)の主張全体の信用性が害されるのであり,被控訴人(1審被告)補助参加人らの主張を援用しなかったことが詐害的な訴訟活動に当たるわけではない。
被控訴人(1審被告)は,本件訴訟において,開門に代わる措置としての基金案による解決を提案したが,これは長崎地裁が示した開門によることのない解決を図るという和解勧告に従ったものにすぎない。被控訴人(1審被告)は,前訴確定判決後に対策工事の実施が現実的には不可能になったこと,原判決を含めて開門しない方向での司法判断が重ねられたこと,本件訴訟において開門に代わる基金案について真摯な議論が行われたこと等を踏まえ,原判決に対して控訴しないことを決断した。これは,本件各排水門を巡る一連の紛争を全体的かつ抜本的に解決するためにしたものであり,参加人らを詐害する目的を有するものではない。
被控訴人(1審被告)は,仮処分の保全異議決定に対して保全抗告を申し立てたが,その保全抗告の理由は,現時点で本件訴訟の控訴審において主張する必要があるとはいえないものである。また,原判決が1審
原告に既に死亡した当事者を表示していることは,更正決定によって補正されるべきであって,控訴すべき理由には当たらない。また,保全処分の申立てを取り下げた1審原告も本件訴訟においては訴えの取下げをしていないから,原判決が上記1審原告の請求について判断したことは当然である。
また,被控訴人(1審被告)は,国民の生命,財産を保護すべき立場にもあるから,対策工事を実施することが事実上不可能な現状において本件各排水門を開放すれば防災上,営農上及び漁業上の各被害が生じるという客観的に明らかな事実を請求異議訴訟で主張したにすぎず,被控訴人(1審原告)らと馴れ合っているなどと非難されるいわれはない。他方,本件訴訟は,大型公共事業である本件事業に関連する訴訟であり,不特定多数の第三者が事実上の利害関係を有することに加え,本件事業については賛成反対それぞれの立場から複数の裁判や裁判外での集団的な抗議運動等が継続していた。参加人らにおいても,これらの訴訟の原告の立場にある第三者らと同様,別訴を提起するなどして,その訴訟において自らの権利の保護を求めるとともに,本件訴訟には補助参加等によって参加するなどして,被控訴人(1審被告)の訴訟追行を牽制すれば足りたものである。
さらに,参加人兼控訴人らの独立当事者参加の申出は,本件訴訟に係る訴えが提起されてから約5年11か月経過した原判決言渡し直前又は直後にされたものであり,参加人らからの被控訴人(1審被告)に対する請求は,前訴確定判決や平成20年4月30日及び平成22年3月11日に長崎地裁に提起された本件各排水門の開放を求める訴えに係る請求とその求める内容に違いはなく,被控訴人(1審被告)は上記各訴訟においていずれも請求の棄却を求めているところ,本件訴訟に上記段階から参加人らの独立当事者参加が認められた場合には,本件訴訟におけ
る訴訟追行の自由を侵害されるばかりか,参加人らの請求について第1審裁判所において審理を受ける利益を失うことになるのであって,本件各排水門の開放に係る訴訟についての下級審における司法判断が分かれていることも考慮すれば,上記被控訴人(1審被告)の審級の利益を無視することはできない。
以上の事情からすれば,本件訴訟の訴訟内外における被控訴人(1審被告)による訴訟追行やその対応をもって,参加人らに対する詐害意思があるということはできず,参加人らが本件訴訟に介入する必要性が高いことを基礎づける事情も認められないのであって,他方,参加人らが本件訴訟に参加することを許容すれば,既存当事者である被控訴人(1審被告)及び被控訴人(1審原告)らの訴訟追行の自由が失われることに加え,被控訴人(1審被告)においては,参加人らからの本件各排水門の開放を求める請求について審級の利益を失うことになることも考慮すれば,参加人らが本件訴訟に独立当事者参加することにより,被控訴人(1審被告)ないし被控訴人(1審原告)らの訴訟行為を牽制する必要があるともいえない。
【被控訴人(1審原告)らの主張】

控訴審段階での独立当事者参加は,控訴審における新訴提起の実質を有する以上,被参加人の審級の利益を保護するために,控訴審における反訴の要件(民事訴訟法300条1項)に準じ,少なくとも被参加人の同意を要すると解すべきである。


民事訴訟法47条1項前段の詐害防止参加が認められるためには,既存当事者の訴訟追行に詐害意思が認められることを要する。
被控訴人(1審被告)は,前訴確定判決の第1審から潮受堤防の締切りと有明海における環境の変化との間の因果関係は認められないと一貫して主張していた。そして,いわゆる長崎第1次開門訴訟の第1審判決
(長崎地裁平成23年6月27日判決)及びその控訴審判決(福岡高裁平成27年9月7日判決)のいずれも上記因果関係を否定した。被控訴人(1審被告)が潮受堤防の締切りによって生じた漁場環境の悪化等の主張立証等を行わなかったのは合理的理由に基づくものであり,あえて行わなかったものではない。原判決が,潮受堤防の締切りによって生じた漁場環境の悪化や漁業者が被った漁業被害,本件各排水門を開放することによって得られる漁業改善効果等を認めなかったのは,被控訴人(1審被告)が不合理な訴訟活動を行った結果ではなく,被控訴人(1審原告)らが適切かつ十分な訴訟活動を行った結果である。
弁論終結後の和解勧告には,裁判所の心証が反映されていることが多く,判決の予測等の状況に照らして当該和解勧告を受け入れることが客観的にみて合理的かどうかによって決定される。そして,客観的にみて明らかに不利な条件をあえて受諾するようなものでない限り,和解における対応が詐害的であるということはできない。
被控訴人(1審被告)が開門をしないことを前提とした和解案を検討したのは,開門を禁止する心証を持っていた長崎地裁がした和解勧告に従ったからにすぎない。
被控訴人(1審被告)が原判決に対して控訴しなかったのは,客観的にみて合理的な訴訟行為である。被控訴人(1審被告)は,約4年半ほどの実質的審理がされる中で,十分に必要な主張立証を行った上で一部敗訴したものであり,控訴審においても参加人兼控訴人らが新たに行うことができる訴訟行為は残されていない。
また,被控訴人(1審被告)が弁論の再開や控訴をして主張をしなかったとしても,当該主張が既に排斥されていたり又は訴訟の結論に影響を与えなければ,控訴しても意味はない。
被控訴人(1審被告)が,請求異議訴訟において当事者でない被控訴
人(1審原告)らの供述録取書を提出することは,被控訴人(1審原告)ら代理人も了解した上でされたものであり,通謀との評価を受けるものではない。


権利主張参加について
【参加人らの主張】
本件各排水門は,その構造上,参加人らに対する関係で開放し,被控訴人(1審原告)らに対する関係で開放しないということはできないものであるから,本件訴訟の請求と参加人らの請求は,論理的に両立し得ない。参加人らは,民事訴訟法47条1項後段の「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者」に当たる。
最高裁平成27年1月22日第二小法廷決定・裁判集民事249号43頁等は,本件各排水門の開放について,国が実質的に相反する実体的な義務を負い,それぞれの義務について強制執行の申立てがされることを許容したにすぎない。
【被控訴人(1審被告)の主張】

民事訴訟法47条1項後段は「訴訟の目的である権利の全部もしくは一部が自己の権利であることを主張する第三者」に権利主張参加を認めるところ,実体法上それぞれ別個の権利であれば,独立当事者参加訴訟において相互に牽制し合う必要性が認められないから,権利主張参加が認められるのは,係属中の訴訟の目的となっている権利関係と,当事者参加人の請求の目的となっている権利関係とを合一に確定することが求められる場合,すなわち,両者が法律上両立しない場合に限られる。


本件では,被控訴人(1審原告)らの被控訴人(1審被告)に対する本件各排水門の開放差止請求権と,参加人らの被控訴人(1審被告)に対する本件各排水門の開放請求権とは,いずれも法律上両立し得る権利であり,いずれか一方の存在を肯定する判決がされた後に他方の存在を肯定する判
決がされることは,法律上も可能であるし,現実にも,いわゆる勝訴原告らの被控訴人(1審被告)に対する本件各排水門の開放を命じる判決と被控訴人(1審原告)らを含む開門差止派らの被控訴人(1審被告)に対する本件各排水門の開放の差止めを命じる仮処分決定が併存している事態が生じている。このように,被控訴人(1審原告)らの本件各排水門の開放の差止めを求める権利と参加人らの本件各排水門の開放を求める権利との間の調整は,具体的に権利を実現する段階において問題となるものであり,その権利の発生段階において障害となるものではない。
【被控訴人(1審原告)らの主張】
【被控訴人(1審被告)の主張】と同旨
第3

当裁判所の判断

1
詐害防止参加について


民事訴訟法上,本来,訴訟の当事者には,処分権主義,不利益変更禁止の原則,弁論主義の原則といった当事者の訴訟追行の自由を尊重する原則が認められている。これらの原則は,民法の基本原則である私的自治の原則にその根拠を置くものと解される。
しかし,独立当事者参加が認められた場合,必要的共同訴訟に関する民事訴訟法40条1項から3項までの規律が準用されることとなり(民事訴訟法47条4項),当事者参加人には,強力な牽制権が認められ,その反面,既存当事者の訴訟追行の自由は強い制約を受けることとなる。本件でも,参加人らの被控訴人(1審被告)に対する請求(開門請求)の部分については,当審において実質的に第1審として審理判断することとなるから,被控訴人(1審被告)は,審級の利益を失うこととなる。そして,本件訴訟は更に長期化するおそれがあるところ,被控訴人(1審原告)らは,期日への出頭等を余儀なくされ,参加人兼控訴人らが主張する控訴理由に対する反論等を強いられることとなる。

上記のような独立当事者参加の位置付け等からすれば,独立当事者参加が認められる範囲は制限的に解釈すべきであり,民事訴訟法47条1項前段の「訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者」は,既存当事者の判決の効力が及ぶ第三者に限られるものではないものの,補助参加における要件である「訴訟の結果について利害関係を有する者」(民事訴訟法42条)よりは狭いものというべきであり,当該具体的な訴訟において,その既存当事者の訴訟追行の自由を制限することを正当化し得る法律上の利益を有する第三者であることを要するものと解される。
すなわち,条文の体裁や現行の民事訴訟法上独立当事者参加が他の参加制度とは別個に設けられている趣旨に照らすと,上記「権利が害されること」とは,訴訟当事者がその訴訟を通じ,参加しようとする者を害する意思を持って詐害行為を行おうとする場合と解するのが相当であるが,詐害行為と思われるような訴訟行為が行われたからといって誰でも当該訴訟手続に参加できるわけではなく,上記のとおり当該具体的な訴訟において,その既存当事者の訴訟追行の自由を制限することを正当化し得るだけの法律上の利益を有する第三者であることを要するというべきである。
上記の点について参加人らは,詐害防止参加の要件として,裁判官の心証形成に不利な影響を及ぼすという事実上の影響を及ぼすのであれば参加の利益として足りる旨主張するが,これは明らかに広範に過ぎるものであり,採用の限りでない。
他方,被控訴人(1審原告)らは,控訴審における独立当事者参加には被参加人の同意を要する旨主張する。しかし,明文の規定もない以上,控訴審における独立当事者参加に被参加人の同意を要すると解することはできず,これも採用することはできない。


そこで,本件について検討すると,本件訴訟の訴訟物は,被控訴人(1審原告)らの所有権,人格権等に基づく妨害予防請求権としての本件各排水門
の開放差止請求権である。これに対し,参加人らの請求の訴訟物は,漁業行使権に基づく妨害排除請求権としての本件各排水門の常時開放請求権である。両請求権は,当事者及び権利の根拠及びその内容を異にしており,別個の請求権として観念され,論理的に両立し得るものである。また,参加人らの主張する妨害排除請求権が本件訴訟の訴訟物である妨害予防請求権を前提とするものでもなく,上記妨害予防請求権の帰すうによって実体法上影響を受けるという関係にもない。
そして,本件訴訟の原判決が確定することにより,被控訴人(1審被告)は,被控訴人(1審原告)らとの関係で本件各排水門を開放してはならない義務を負うこととなる結果,本件各排水門の開放を求める権利の実現が事実上困難になるにすぎない。また,参加人らの本件各排水門の常時開放請求権の審理判断に当たって,本件訴訟の原判決が確定した事実が事実上影響を及ぼすとしても,本件各排水門の常時開放の可否及びその差止めの可否についての司法判断が既に複数存在すること(職務上顕著)をも考慮すれば,それは飽くまでも可能性にとどまるし,その可能性も低いものというべきである。⑶

以上によれば,参加人らが,本件訴訟において,被控訴人(1審原告)ら及び被控訴人(1審被告)の訴訟追行の自由を制限することを正当化し得るだけの法律上の利益を有する第三者に当たるとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,参加人らについては,民事訴訟法47条1項前段の「訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者」に当たるとはいえない。

2
権利主張参加について


民事訴訟法47条1項後段の「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者」については,実体法上それぞれ別個の権利であれば,独立当事者参加訴訟において相互に牽制し合う必要はないから,既に係属している訴訟の目的となっている権利関係と当事者参加人の請求の
目的となっている権利関係とを合一に確定することが求められる場合,すなわち,当事者参加人の請求の目的となっている権利関係と既存当事者の請求の目的となっている権利関係が法律上両立しない場合に限られるものと解される。


本件では,前記1⑵のとおり,被控訴人(1審原告)らの被控訴人(1審被告)に対する本件各排水門の開放差止請求権と,参加人らの被控訴人(1審被告)に対する本件各排水門の開放請求権とは,いずれも法律上両立し得る権利であり,いずれか一方の存在を肯定する判決がされた後に他方の存在を肯定する判決がされることは,法律上も可能である。
このように,被控訴人(1審原告)らの本件各排水門の開放の差止めを求める権利と参加人らの本件各排水門の開放を求める権利との間の調整は,具体的に権利を実現する執行の段階において問題となるものであり,その権利の発生段階において障害となるものではない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,参加人らについては,民事訴訟法47条1項後段の「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者」に当たるものとはいえない。

3
以上によれば,参加人兼控訴人らがした独立当事者参加の申出は,民事訴訟法47条1項前段・後段のいずれの要件も欠くため不適法であり,その控訴の提起は効力を有しないといわざるを得ない。そうすると,本件訴訟のうち被控訴人(1審原告)らの請求に係る部分は,被控訴人(1審被告)の敗訴部分については被控訴人(1審被告)が平成29年4月25日付けでした控訴権の放棄及び被控訴人(1審原告)ら敗訴部分については同部分に関する控訴期間の満了日である同年5月1日の経過により終了したことになる。
そして,その後平成29年

第559号当事者参加人らが同年6月30日に

した独立当事者参加の申出は,民事訴訟法47条1項の「訴訟」の要件,すなわち訴訟係属の要件を欠くから不適法である。

第4

結論
以上の次第で,参加人らがした独立当事者参加の申出はいずれも不適法であるから,民事訴訟法140条を類推適用して口頭弁論を経ることなく却下することとし,これに基づく参加人兼控訴人らの控訴も,いずれも不適法でその不備を補正することができないものであるから,同法290条を適用して口頭弁論を経ることなく却下することとする。そして,その結果,本件訴訟のうち被控訴人(1審原告)らの被控訴人(1審被告)に対する請求に係る部分は,被控訴人(1審被告)が平成29年4月25日付けでした控訴権の放棄及び同年5月1日の経過により確定し終了したことになるのでその旨宣言する。また,本件訴訟のうち参加人らの被控訴人(1審被告)に対する請求に関する部分は,その実質は新訴の提起と解すべきであるから,同請求について管轄権を有する長崎地裁にこれを移送するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。

福岡高等裁判所第4民事部

裁判長裁判官

西井和徒
裁判官

上村考由
裁判官

佐伯良子
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