判例検索β > 平成27特年(わ)第1454号
破産法違反被告事件
事件番号平成27特(わ)1454
事件名破産法違反被告事件
裁判年月日平成30年3月16日
法廷名東京地方裁判所
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事件番号

平成27年特(わ)第1454号


件名

破産法違反被告事件


告日

平成30年3月16日

宣告裁判所

東京地方裁判所刑事第11部
主文
被告人を懲役3年に処する
この判決が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は,平成23年9月1日にA地方裁判所から破産手続開始決定(平成24年1月13日頃確定)を受けた破産者であるが,
第1被告人が所有し,かねて京都市〔以下省略〕所在のB博物館に寄託出品してしほんちゃくしょくみなもとのむねゆきぞう

いた別紙1[添付省略]記載の「紙本著色

あげだたみぼんさんじゅうろっかせん

源宗于像(上畳本三十六歌仙

ぎれ

切)」等7点(合計7億9600万円相当)を隠匿しようと考え,債権者を害する目的で,平成23年11月1日頃,同博物館において,情を知らない古美術商のCを介し,同博物館研究員Dに対し,前記源宗于像等7点の出品を継続するに際して同博物館が出品者である被告人に対して郵送する「出品期間継続のお知らせ」と題する書面等の送付先を自己から夫であるEに変更する手続をさせ,破産裁判所の郵便事業株式会社F支店に対する郵便回送嘱託に基づき破産管財人であるGに回送されるべき前記「出品期間継続のお知らせ」を,同博物館職員Hをして,同年12月15日頃,東京都港区〔以下省略〕E宛てに郵送させ,その頃,同人と同居する被告人において前記「出品期間継続のお知らせ」を受領して,破産管財人である前記Gが前記源宗于像等7点を発見するのを困難にし,もって債務者である被告人の財産を隠匿した。
第2平成24年5月8日頃,破産管財人である前記Gから「ご質問事項」と題す
る書面で別紙1番号1「紙本著色源宗于像(上畳本三十六歌仙切)」及び番号しほんちゃくしょくさんじゅうろっかせんぎれ

これのり

さたけけでんらい

2「紙本著色三十六歌仙切(是則)佐竹家伝来」の所在等を質問された際,自己が前記2点を所有して同博物館に寄託出品していることを知りながら,同年6月27日,東京都千代田区〔以下省略〕弁護士会館において,被告人の破産手続における代理人弁護士であるIを介して,前記Gに対し,その所在が分からない旨虚偽の回答をし,もって破産管財人の請求があったときに破産に関し虚偽の説明をした。
(争点に対する判断)
第1争点等
1判示第1の事実について,被告人名義でB博物館に別紙1記載の重要文化財である源宗于像等7点(以下「本件重文」又は「本件重文7点」という。)が寄託出品されていたこと,被告人が,平成23年11月1日頃,本件重文の出品を継続するに際してB博物館が寄託者に対して郵送する「出品期間継続のお知らせ」と題する書面(以下「出品継続証」という。)等の送付先(宛名)を自己から同居の夫であるEに変更することをCに対して依頼したこと(以下「本件送付先変更依頼」という。),被告人が,同年12月15日頃,被告人方で出品継続証を郵送により受領したことに争いはなく,証拠上も明らかである。
また,判示第2の事実について,平成24年5月8日頃,被告人を破産者とする破産手続における破産管財人であるG弁護士が,「ご質問事項」と題する書面(以下「本件質問書面」という。)を破産手続における被告人の代理人であるI弁護士に交付し,その後,I弁護士が被告人に同書面を交付したこと,同年6月27日,I弁護士が,G弁護士に対し,本件質問書面に記載された書画2点(この2点が何を指すのかについては下記2の⑤のとおり争いがある。)について所在が分からない旨説明したことに争いはなく,証拠上も明らかである。
2これらを前提に,弁護人は,判示第1及び第2の各事実についていずれも被告人は無罪である旨主張するところ,本件における主な争点は,以下のとおりであ
る。
①被告人が本件重文のうち源宗于像を所有していたか②被告人が本件重文7点を所有していることを認識していたか③被告人が行った本件送付先変更依頼が,債務者の財産を隠匿する行為といえるか
④被告人が債権者を害する目的で本件送付先変更依頼を行ったか⑤本件質問書面が,本件重文のうち源宗于像及び是則(佐竹家伝来)に関する質問を記載したものといえるか
⑥G弁護士が,I弁護士を介し,本件質問書面で,被告人に対し,破産に関し説明を請求したといえるか
⑦被告人が,I弁護士を介し,G弁護士に対し,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)について所在が分からない旨虚偽の説明をしたといえるか
第2前提事実
関係証拠によれば,本件の経過について,以下の事実が認められる(これらの事実については,当事者間にもおおむね争いがない。)。
1本件相続等
本件相続
ア平成8年11月15日,被告人の父であるJが死亡し,同人について相続が開始した(以下「本件相続」という。)。相続人は,Jの妻(被告人の母)であるK,子である被告人,養子である被告人の実子2名の計4名(以下「相続人ら」又は「相続人ら4名」という。)であった。
Jは,死亡時点において,本件重文7点のほか,同じく重要文化財であるきゅうほうじゅいんほうきょういんとう

旧宝寿院宝篋印塔(以下「宝篋印塔」という。)を含む多数の書画骨董品を所有
していた。(甲68添付資料23~29(以下,書証のうちの添付資料を括弧内において証拠として引用する際には,「甲68-23」などと表記する。),甲74-3,弁6)イ平成9年7月頃,相続人ら4名(当時未成年の相続人については特別代理人
E。以下省略。)は,Jの遺産について,遺産分割協議書を作成した(以下「本件分割協議書」という。)。本件分割協議書において分割対象とされたJの遺産は多岐にわたるところ,そのうち書画骨董品は378点とされ,これらは全て被告人が取得するものとされていた(ただし,その具体的内容は本件分割協議書自体からは明らかではない。)。他方,本件分割協議書には,「本協議書に記載なき遺産並びに後日判明した遺産は,相続人Kが全てこれを取得する」とする条項が設けられていた(以下「本件条項」という。)。(甲74-3)
また,その頃,相続人ら4名は,本件分割協議書と同様の内容で,本件相続に係る相続税の申告書を作成し(以下「本件申告書」という。),同年9月12日,同申告書をM税務署に対して提出した。(甲74-4,甲79)
ウその後,L国税局(以下「国税局」という。)による税務調査を経て,平成11年頃,相続人ら4名は,本件申告書において計上されていなかった宝篋印塔及び源宗于像を申告財産に含めるなどの修正をした本件相続に係る相続税の修正申告書を作成し(以下「本件修正申告書」という。),同年5月27日,同申告書をM税務署に対して提出した(以下「本件修正申告」という。)。同申告書においては,宝篋印塔及び源宗于像は,いずれも被告人の取得に係るものとされていた。(甲64,甲96,甲74-8)
本件重文の寄託
ア他方,Jが死亡してから5日後の平成8年11月20日,本件重文7点のうち達磨大師安心法門,継色紙及び源宗于像の3点並びにその他の書画骨董品4点(いずれも重要文化財)が被告人名義でB博物館に寄託され,その後,このうち源宗于像を除く6点が平成10年3月19日に返却され,源宗于像は平成11年5月10日に返却された。これらの返却に当たっては,各文化財について作成されていた出品預証書の裏面の「表記の品正に受領致しました」と記載された欄の受取人氏名記載部分に,被告人名義の署名押印がされた。(甲75-1,4~17)イさらに,平成12年1月24日,本件重文7点が被告人名義でB博物館に寄
託され,その後,平成14年12月1日頃,平成17年12月1日頃及び平成20年12月1日頃,同博物館から被告人宛てに本件重文7点に係る出品期間継続証(以下「出品期間継続のお知らせ」と特に区別することなく,同様に「出品継続証」という。)が送付された。これらの出品継続証には,被告人の住所及び氏名,出品(寄託)に係る文化財の具体的な作品名のほか,それが重要文化財であることなどが記載された上,「貴殿御出品中の上記のお品は引続き下記の期間出品としてお預かりいたします」などと記載されていた。(甲2,甲68-12~15,23~29,甲7016~18,甲75-2,3)2破産手続開始等
破産手続開始に至る経緯等
JはN企業の代表取締役として同社を経営していたところ,同人の死亡後,被告人は,同社の代表取締役に就任し,その後,同社のメインバンクの一つであった銀行との間において,同社の借入金債務について連帯保証契約を締結した。O機構は,平成15年3月28日,同銀行からN企業に対する貸付債権及び被告人に対する連帯保証債務履行請求権(債権額合計106億円余)を譲り受けた。(甲55,甲7015,甲71-3,甲97=弁61(以下,弁61については引用を省略する。),第1回公判期日における証人Gの証人尋問調書中の速記録2~4頁(以下,証人等の公判廷における供述を証拠として引用する際には,公判期日の回数(複数の期日において供述した場合のみ),供述者名,証人尋問等に係る速記録の頁数を用い,「1回G2~4頁」などと表記する。))
本件開始決定等
平成23年5月31日,O機構は,P弁護士を代理人として,N企業及び被告人について破産手続開始の申立てをした(以下,このうち被告人に対する申立て事件を「本件破産事件」という。)。N企業については,同年6月30日に破産手続開始決定がされ,G弁護士が破産管財人に選任された。他方,被告人については,同年9月1日,破産手続開始決定(以下「本件開始決定」という。)がされてG弁護
士が破産管財人に選任されるとともに,被告人宛ての郵便物を破産管財人であるG弁護士宛てに配達するよう郵便事業株式会社に嘱託する手続(以下「本件回送嘱託」という。)がされた。(甲12,甲24-1,甲68-1,甲70-3,甲97,1回G4~6頁)
なお,被告人に対する申立てについては,I弁護士が被告人の代理人に選任され,本件開始決定に対して即時抗告するなどしたが,平成24年1月13日,同抗告は棄却され,その頃,同開始決定が確定した(その後の同年6月6日には,同棄却決定に対する特別抗告も棄却された。)。(甲24-2,甲25,甲97)3破産手続開始後の主な経過
本件送付先変更依頼等
本件開始決定がされた後の平成23年11月1日頃,被告人は,知人の古美術商であるCに対し,B博物館から郵送される出品継続証等の文書について,宛先住所はそのままで宛名を被告人からEに変更する手続をするよう依頼した(本件送付先変更依頼)。Cは,これを受け,同月1日,B博物館の研究員に対し,同依頼の趣旨を伝え,その頃,同博物館において,その旨の手続がされた。(甲19,甲752,18)その後の同年12月15日頃,B博物館からE宛てに本件重文7点に係る各出品継続証(出品継続証自体の名宛人(出品者)はいずれも被告人)が送付され,その頃,被告人が受領した。これらの出品継続証(以下「本件出品継続証」ともいう。)には,従前のものと同様,被告人の住所及び氏名,出品(寄託)に係る作品(本件重文7点)の具体的な作品名のほか,それが重要文化財であることなどが記載された上(なお,従前の出品継続証においては「重要文化財」又は「重要文化」と記載されていたが,本件出品継続証においては「重文」と記載されていた。),「貴殿御出品中の上記のお品は引き続き下記の期間出品としてお預かりいたします」などと記載されていた。(甲27,甲70-19)
本件質問書面等

本件破産事件についての第1回及び第2回債権者集会を経た後の平成24年5月8日,G弁護士は,弁護士会館においてI弁護士と面談し,その際,同弁護士に対し,本件質問書面を交付した。本件質問書面の内容は別紙2〔添付省略〕のとおり.
であり,本件重文については,「紙本三十六歌仙の『源宗宇』は,被告人の所有ですか。どこにありますか。預け先との契約関係は,どのようなものですか。」,..
「同上の『坂上則是』は,被告人の所有ですか。どこにありますか。預け先との契約関係は,どのようなものですか。」(以下,これらの質問を「本件質問事項」という。)などの質問が記載されていた(傍点は裁判所が付したものである。以下,特に断らない限り同じ。)。(甲68-5,8,甲76)
その後,I弁護士は,同年6月29日,破産裁判所及びG弁護士に対し,本件質.
...
問事項について被告人から聞いた内容として「『源宗宇』『坂上の則是』は,存在自体記憶にありません。従って,被告人は,これらの所在もわかりません。」と記載された報告書を送付した。(甲68-9~11,甲77,甲78)B博物館に対する弁護士会照会等
平成25年3月11日,G弁護士は,B博物館に対して源宗于像及び是則(佐竹家伝来)の保管の有無等を照会する弁護士会照会の申し出をし,これに対し,同年5月2日,同博物館は,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)について平成12年1月24日に被告人から寄託を受けて保管していることなどを回答した。(甲68-12,13,甲97)
これを受け,平成25年5月13日,G弁護士がB博物館に対して被告人から保管を依頼されている物件全てについて照会する弁護士会照会の申し出をしたところ,同月30日,同博物館は,本件重文7点のうちのその余の5点についても平成12年1月24日に被告人から寄託を受けて保管していることなどを回答した。(甲68-14,15,甲97)
本件重文の売却等
平成27年2月3日,G弁護士は,本件破産事件の破産管財人として,文化庁に
対し,源宗于像を1億8600万円で,是則(佐竹家伝来)を3億円で,それぞれ売却した。また,G弁護士は,同様に破産管財人として,平成28年1月4日,B博物館に対し,寸松庵色紙を8000万円,正親町天皇宸翰御消息を5000万円で,それぞれ売却し,同年11月9日,Q博物館に対し,継色紙を6000万円で売却した。(甲68-30,31,甲83,甲97,弁15,弁21)なお,本件重文7点のうち他の重要文化財の評価額は,達磨大師安心法門が7000万円,石帆惟衍墨蹟が5000万円であった。(甲16)
第3本件重文の所有等(争点①②)について1認定事実
前記前提事実に後掲証拠を総合すると,本件重文7点の相続に関し,以下の事実が認められる。
本件分割協議書及び本件申告書の作成に当たり,本件相続に係る相続税の申告業務を受任した税理士であるR及びSは,Kの弟でありN企業の経理部長であったTを介し,相続人ら側に対し,本件相続に係るJの遺産に関する資料の提供を求めた。(S1~4頁)
これを受け,平成9年3月頃,Jの遺産のうち書画骨董品について,Jと書画骨董品についての取引があった古美術商のUが,その内訳や評価額をまとめた手書きの一覧表を作成し,その後,同一覧表を基にしてワープロ打ちの一覧表(甲74-2。以下「本件書画骨董品一覧表」という。)が作成された。本件書画骨董品一覧表に記載された書画骨董品は,合計378点(評価額合計5億6070万1000円)であり,同一覧表には,本件重文7点のうち,源宗于像を除く6点(是則(佐竹家伝来)(評価額1億5000万円),達磨大師安心法門(同2000万円),正親町天皇宸翰御消息(同1500万円),石帆惟衍墨蹟(同2000万円),寸松庵色紙(同1億円),継色紙(同1億2000万円))が記載されていた。なお,手書きの一覧表においては,「書籍ノ部」として248点,「道具ノ部」として174点が挙げられていたが,本件書画骨董品一覧表においては,「書籍」は248点
であったものの,「道具」は130点であり,記載されなかった44点は,いずれも評価額が1000円から5万円程度のものであった。(甲74-1,2,S4~7頁)S税理士は,本件書画骨董品一覧表その他の資料に基づき,Jの遺産について財産目録を作成し,Tを介し,相続人らに対し,その内容を前提に分割方法に関する協議をするよう求めた。その後,S税理士は,Tから遺産分割協議の結果について報告を受け,その内容を基に,本件分割協議書及び本件申告書を作成し,Tを介し,相続人らに対し,その内容の確認を求めた。そして,平成9年7月頃,相続人ら4名は,名古屋市〔以下省略〕のK方において,本件分割協議書及び本件申告書の各記名部分に押印した。(S8~15頁)
本件分割協議書においては,第1目録記載の財産(不動産)及び第2目録記載の財産(株式,出資金)はK及び被告人が,第3目録記載の財産(預貯金)は相続人ら4名が,第4目録記載の財産(その他の債権)はK及び被告人が,第6目録記載の財産(退職慰労金及び慰労金)はKが相続するものとされ,第5目録記載の財産のうち「書画骨董品

三七八点」は被告人が,同目録記載のその余の財産(車輌2

台,「栗素材」108本,家庭用動産一式,「長期総合保険」2件)はKが相続するものとされた上,「本協議書に記載なき遺産並びに後日判明した遺産は,相続人Kが全てこれを取得する」という本件条項が設けられていた。(甲74-3)平成10年秋頃,本件相続について国税局による税務調査が開始された。国税局からは,J名義の預貯金に係る使途不明金等について指摘がされるなどしたほか,宝篋印塔及び源宗于像の申告漏れが指摘された。R税理士又はS税理士は,Tを通じ,相続人ら側に対し,これらの指摘を伝えるなどし,宝篋印塔及び源宗于像については鑑定評価の実施を求めた。これを受け,Uは,平成11年2月3日付けで源宗于像について7000万円と評価する旨の書面を,同年4月20日付けで宝篋印塔について2500万円と評価する旨の書面をそれぞれ作成し,Vも,同年2月5日付けで本件重文7点全ての各価格を評価する書面を作成した。その後,S税理士は,R税理士又はTから,宝篋印塔及び源宗于像については被告人が取得する
ことになった旨を聞き,同年5月頃,それを前提に本件修正申告書を作成し,相続人ら4名は同申告書の各記名部分に押印した。(甲64,甲74-5~7,S18~32頁)本件修正申告書によれば,修正された相続財産の価額(「取得財産の価額」)は相続人ら4名の合計で1億9045万円余であり,うち9545万円余(不動産,墓地管理料前払金等)がKの取得に係る分,その余の9500万円(いずれも「書画骨董品」として,宝篋印塔2500万円,源宗于像7000万円)が被告人の取得に係る分であるとされていた。(甲74-8)
2争点①(源宗于像の所有)について
Jの遺産中の書画骨董品
としては378点という点数のみが記載されていたところ,その同じ点数の書画骨董品についての具体的な内容が記載された本件書画骨董品一覧表には本件重文のうち源宗于像を除く6点も含まれており,この6点も含めて同一覧表記載の書画骨董おり,国税
局からの指摘を踏まえた本件修正申告書においても,修正された相続財産のうち書画骨董品以外はKの取得に係る分であったが,申告漏れとされた書画骨董品である宝篋印塔及び源宗于像は,いずれも被告人の取得に係る分として申告されていた。
たり,Jの遺産である他の書画骨董品とともに,被告人名義でB博物館に寄託されていた。
他方,本件各証拠を検討しても,Jの遺産である書画骨董品のうち,源宗于像を除くものを全て被告人に取得させつつ,源宗于像のみを被告人以外の者に取得させるべき理由は何ら見当たらず,そのような意図をうかがわせる事情も見当たらない。また,本件証拠上,Kが相続により取得した書画骨董品について被告人名義で寄託をすることを必要ないし相当とするような事情も見当たらない。
これらの事情に鑑みれば,本件分割協議書に係る遺産分割協議において,相続人ら4名としては,Jの遺産のうち書画骨董品については,その具体的な内容はとも
かくとして,いずれにしても全て被告人の取得とする意思であったとみるのが自然かつ合理的であって,少なくとも本件修正申告の時点においては,相続人ら4名は,宝篋印塔及び源宗于像を被告人の取得とする意思であったものと認められる。すなわち,被告人は,本件修正申告の時点までに,相続人ら4名による遺産分割協議(本件分割協議書による遺産分割協議又は本件修正申告時の再分割協議)により,Jの遺産である源宗于像を取得したものと認められる。
これに対し,弁護人は,本件分割協議書には被告人が取得するとされた書画骨董品378点の具体的内容は明示されておらず,同協議書の前提として作成された本件書画骨董品一覧表にも源宗于像は記載されていないのであって,源宗于像は本件条項によってKが取得したなどと主張する。
しかしながら,相続人ら4名全員が源宗于像の存在を認識しながらあえて本件分割協議書に記載しなかったというのであればともかく,相続人ら4名のうち少なくともJの養子2名はその存在すら認識していなかったものと考えられるのであって,そのような場合において,同協議書に記載されていないからといって,1億円前後の価値を有する源宗于像について,本件条項のような包括的な条項によって処理するなどというのは,当事者の合理的な意思に反するものであって不合理であるといわざるを得ない。また,仮に本件条項を形式的に解釈適用することによって源宗于像をKが取得することになるとしても,相続人ら4名は,その後,本件修正申告に当たり,明示的に(宝篋印塔及び)源宗于像を被告人が取得したことを前提とした本件修正申告書を作成している。共同相続人の全員は,既に成立している遺産分割協議について,その全部又は一部を全員の合意により解除した上,改めて分割協議を成立させることができるのであって(最高裁昭和63年(オ)第115号平成2年9月27日第一小法廷判決・民集44巻6号995頁),相続人ら4名は,その作成の際,(宝篋印塔及び)源宗于像について新たな遺産分割協議をしたものと認められる(10回I101頁参照)。
なお,遺産分割協議は要式行為ではないから,口頭その他の方法による合意解除
及び再分割協議も可能であって,不動産の所有権移転登記や預貯金口座の名義変更等が必要でない限り,遺産分割協議書を作成しなければ不都合が生じるというものでもない。また,口頭のみの協議では合意内容が不明確であることによる紛争リスクが高いとはいえるものの,本件においては修正申告書という形でその合意内容は明確になっており,そのようなリスクも高くはない。
このほか,弁護人は,本件修正申告において源宗于像を被告人が相続により取得したことにしたのは,税収確保に固執した国税局の意向によるものであるなどと主張する。しかし,源宗于像の取得者が国税局の意向を受けて決定されたことを具体的にうかがわせる事情は見当たらない上,そもそも,被告人の供述を含む本件各証拠を検討しても,源宗于像についてのみ他の書画骨董品と異なりKが取得する予定であったことをうかがわせる事情は何ら存在しない。また,仮に本件修正申告書の内容が国税局の意向を受けて決定されたという事情があったとしても,相続人ら4名は本件修正申告書の内容のとおり本件修正申告をした以上,その内容のとおりJの遺産を各自相続する意思であったとみるのが自然であり,他方で,その内容が相続人ら4名の実体的な意思と異なるものであることをうかがわせる事情も見当たらない。いずれにしても,この点についての弁護人の主張も理由がない。3争点②(本件重文の所有の認識)について

を含む書画骨董品が被告人名義でB博物館に寄託され,その後,本件修正申告までの間にそれらが順次返却された際には,被告人自身が受取人として受領した旨の署名押印をしていた(X6,8~10,47頁,13回被告人22~23おり,この間に作成された本件分割協議書においては,書画骨董品として378点という点数のみが挙げられ,それらは全て被告人が取得することとされており,そのこと自体は,その作成当時,被告人自身も認識していた(13回被告人4,11,19頁参照)。さらに,

イのとおり,本件修正申告後には,改めて本件重文

7点が被告人名義でB博物館に寄託され,その後,平成20年12月頃までの間に,
3回にわたり,被告人自身が本件重文7点に係る出品継続証の送付を受けていた(乙2,11回被告人44頁参照)。
そして,本件証拠上,Kが相続により取得した書画骨董品について被告人名義で寄託をすることを必要ないし相当とするような事情は見当たらない上,被告人において,そのような事情があるものと認識していたこともうかがわれない(13回被告人3~4,24,47~48頁参照)。
これらの事情に鑑みれば,被告人は,遅くとも本件修正申告頃までの間に,自らがJから相続した書画骨董品の一部について,その具体的な品名はともかくとして,自らの名義でB博物館に寄託されているものがあることを認識し,その後,遅くとも平成20年12月頃までには,自らがJから相続した書画骨董品である本件重文7点が自らの名義で同博物館に寄託されていることを認識していたものと認められる。すなわち,被告人は,本件各犯行当時,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を含む本件重文7点を所有していることを認識していたものと認められる。この点について,被告人は,Jが所有していた書画骨董品には興味がなかったとし,①平成9年2月頃,UがJの遺産に属する書画骨董品の一部を相続税の申告から除外するものとして保管場所である倉庫から持ち出しており,自らが相続により取得したのは倉庫内に残されたもののみであって,倉庫から持ち出して申告から除外したものはKが取得したものであると考えていた,②B博物館に行ったこともなく,平成8年及び平成12年に本件重文7点の一部又は全部が同博物館に被告人名義で寄託されていることも当時は知らなかった,③本件送付先変更依頼の時点においては,何らかの文化財がB博物館に被告人名義で寄託されていることは認識していたものの,それらは全てKが相続により取得し,倉庫から持ち出したものであると認識していた,などと供述する(乙2,11回被告人25~28,39~43,45,92頁,12回被告人73~74,80~81頁,13回被告人2~3,15~16,43~44,50~51,67~68頁等)。
しかし,被告人は,Jの生前から,Jが購入した寸松庵色紙等の書画骨董品につ
いて,複数回にわたり(少なくとも平成3年3月頃,同年10月頃,平成7年3月頃,平成8年1月頃),数千万円単位の代金の支払や領収書の受領に関与したり,返品の意向を伝えたりしていたのであって(甲41,甲43-2~4,甲89,11回被告人18~20頁,12回被告人65~66頁,13回被告人14,62~65頁),そもそも被告人においてJが所有していた書画骨董品に興味がなかったなどということ自体が考え難い。また,被告人は,
于像を含む本件重文7点についてU及びVが評価書を作成した頃,それらの評価額や国税局への対応に関し,Uとの間で自ら直接電話及び手紙によるやり取りをしていた(甲41,12回被告人30~31,65~67,72~73頁,13回被告人29頁)。すなわち,Jの遺産の概要を把握し,本件相続について税理士側との窓口になり,関係する書類等を整理するなどしていたのはTであったにもかかわらず(甲41,甲42,6回S3~4頁,12回被告人26~29,38~40頁等),本件重文の評価額や国税局への対応に関する事項に被告人自身が直接関与していたのであって,このことは,被告人が本件修正申告に実質的に関与していたことを示すものというべきである。これらの事情のほか,B博物館に寄託されていた本件重文7点はKが取得し,倉庫から持ち出された書画骨董品であると認識していた旨の供述内容について,何らその合理的な根拠が説明されていないこと(13回被告人2,3,19~20,47~48頁)などからすると,被告人の上記供述はおよそ信用することができない。第4本件送付先変更依頼(争点③④)について1認定事実
前記前提事実に後掲証拠を総合すると,本件出品継続証に関し,以下の事実が認められる。

に本件回送嘱託がされたところ,被告人も,遅くとも本件開始決定の約10日後頃までには,破産者である被告人宛ての郵便物は破産管財人であるG弁護士に回送され,被告人の下には直接届けられなくなっていることを認識していた(1回G18頁,
10回I57,59頁,11回被告人82~83頁)。
そして,被告人が本件開始決定の約2か月後の同年11月1日頃にC(Uの子)に対して本件送付先変更依頼をしたのは,送付先(宛名)の変更をしなければ,出品継続証を含むB博物館からの文書がG弁護士に回送されて自らの下に届かなくなると考えたためであった(甲19,甲70-6,11回被告人91頁)。なお,被告人は,平成26年12月12日頃にも,Cに対し,B博物館から郵送される出品継続証等の文書について,宛先住所を名古屋市内のK方,宛名を被告人と変更するか,又は本件送付先変更依頼の際と同様に宛先住所はそのままで宛名をEと変更する手続をするよう依頼しており,その理由も,本件送付先変更依頼と同様であった(甲19,甲75-19)。
2争点③(財産を隠匿する行為),争点④(債権者を害する目的)について破産手続は,債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的とするものであって(破産法1条参照),破産法265条の詐欺破産罪の処罰根拠は,同条所定の行為が債務者の全財産を確保して総債権者に対する公平かつ迅速な満足を図ろうとする手続の目的を害することにある(最高裁昭和43年(あ)第472号昭和44年10月31日第三小法廷決定・刑集23巻10号1465頁参照)。このような破産手続の目的や詐欺破産罪の処罰根拠に鑑みると,同条1項1号にいう「財産を隠匿する行為」とは,その具体的な態様を問わず,破産管財人による債務者(破産者)の財産の発見を不可能又は困難にする行為をいい,同項柱書にいう「債権者を害する目的」とは,総債権者にとっての引当財産を減少させることにより,その権利の実現を不可能又は困難にする目的をいうものと解される。この点について,弁護人は,破産法265条1項1号にいう「隠匿」は,同項の「損壊」「仮装」「改変」等と同程度に債務者の財産を害するものでなければならず,財産の発見を事実上又は法律上,不能又はこれと同程度に困難にすることをいうと解すべきであると主張し,そのことは最高裁判例からも明らかであるなどとする(なお,同項にいう「債権者を害する目的」についても同様の主張をしてい
るものと解される。)。しかし,弁護人が指摘する最高裁昭和41年(あ)第1590号昭和45年7月1日大法廷判決・刑集24巻7号399頁は,旧破産法374条1号にいう債務者が破産財団に属する財産を「債権者ノ不利益ニ処分スルコト」の意義について,単に債権者間の公平を破るにすぎない行為はこれに当たらないとしたものにすぎず,「隠匿」の意義を明らかにしたものではない。弁護人は,.............
同判決の「債権者全体に絶対的な不利益を及ぼす行為」(傍点及び下線は弁護人が付したものである。)という判示が債務者の財産を害する程度についての判断であるかのように主張するが,上記判示が「単に債権者間の公平を破るにすぎない行為」,すなわち,一部の債権者に相対的な不利益を及ぼす行為との対比をいうものにすぎないことはその文脈に照らして明らかである。
また,弁護人は,旧破産法において詐欺破産罪の対象とされていた商業帳簿の隠匿等の行為(旧破産法374条3号)が,現行破産法においては実体的犯罪である詐欺破産罪ではなく法定刑の軽い手続的犯罪(破産法270条)として処罰されることになったという破産法改正の経緯を根拠に,破産法265条1項1号にいう「隠匿」は「財産それ自体の隠匿を念頭に置いた概念」であると解すべきであるなどと主張する。しかし,上記改正の趣旨は,旧破産法374条3号(及び4号)の行為について,それが財産の隠匿等の手段として行われた場合には財産の隠匿等として処罰すれば足り,そうでない場合には他の詐欺破産行為とは行為の性質が異なると考えられることから,これらの行為を詐欺破産罪の一類型として独立に規定することとはせずに,財産の隠匿等の手段として行われたものでない場合については改正後の破産法270条で別途処罰の対象としたものであって(小川秀樹編著「一問一答

新しい破産法」(商事法務)361~363頁,「条解破産法」(弘文堂)
1771,1795頁,「大コンメンタール破産法」1137,1162頁等参照),弁護人の上記主張は独自の見解にすぎない。
弁護人のこれらの主張は,破産法265条1項1号の処罰範囲が無限定に拡大する危険性を指摘するものと解されるが,財産の所在を示す書面を隠匿する行為がお
よそ「財産を隠匿する行為」に当たらないと解すべき理由はない上,同号の罪が成立するためには,客観的な財産の隠匿行為のみならず,同項所定の目的及び故意が要求されているのであるから,そのような指摘は当たらない。
以上を前提に本件について検討すると,B博物館においては,寄託された各文化財について,3年ごとに寄託者に対して(寄託者の住所及び氏名を宛先及び宛名として)出品継続証を普通郵便で送付しており(甲75-18,X3~5,44,45頁),
平成20年の各12月頃,それらに係る出品継続証が被告人宛てに送付されていた。
年12月15日頃,B博物館からE宛てに送付されているが,本件送付先変更依頼がなければ,本件回送嘱託に基づき,G弁護士に回送されていたはずのものである。
作品名やそれらが重要文化財であることに加え,被告人がそれらの出品者であることが明記されていた。そうすると,G弁護士が本件出品継続証を受領し,その内容を確認していれば,同弁護士において,被告人名義でB博物館に重要文化財が寄託されていることを認識することができ,その結果,同博物館に問い合わせるなどして,容易に本件重文7点の所在を把握することができたものと認められる。ところが,本件送付先変更依頼の結果,本件出品継続証はE宛てに送付され,そのため,G弁護士に配達されず,同弁護士はその内容を確認することができなくなったのであるから,本件送付先変更依頼により,本件重文7点の発見が困難になったことは明らかである。
このように,被告人による本件送付先変更依頼は,情を知らないCを介し,B博物館の担当者に本件出品継続証等の送付先(宛名)をEと変更する手続をさせることにより,債務者(破産者)である被告人がJから相続により取得した本件重文7G弁護士が発見することを困難にする行
為であって,破産法265条1項1号にいう「債務者の財産を隠匿する行為」に当
たるものというべきである。
そして,本件各証拠を検討しても,B博物館との関係において本件重文7点に係る出品継続証の送付先(宛名)をEに変更すべき合理的な理由は何ら見当たらず,被告人自身も,本件送付先変更依頼の目的については,結局のところ,同博物館に寄託された本件重文7点の存在をG弁護士に分からないようにし,同弁護士がそれらを処分できないようにするためであった旨供述しており(乙2,13回被告人1~2頁),その供述自体の信用性を疑うべき事情は存在しない。これに加えて,前記第3の3のとおり被告人には本件重文7点の所有の認識があったことからすれば,被告人には「債務者の財産を隠匿する行為」についての故意があり,かつ,「債権者を害する目的」があったものと認められる。
これに対し,弁護人は,本件重文7点の所在は調査をすれば容易に判明し得たなどとして,本件送付先変更依頼によって本件重文7点の発見が遅れたことはあっても,それが困難になったことはないと主張する。確かに,G弁護士は,平成24年秋頃に知人の古物商に源宗于像等の所在調査を依頼して半年程度でそれらの所在を把握するに至っており(1回G56~61頁),また,源宗于像等が平成17年頃にB博物館において展示されていたという情報は平成24年3月頃には既にP弁護士からG弁護士に提供されていたことからすると(2回G24頁,4回P37頁,弁60),本件送付先変更依頼があったとしても,同年中にはG弁護士において本件重文7点を発見することが可能であったとも考えられないではない。

始決定の2か月後である平成23年11月1日頃であり,その結果として本件出品継続証がE宛てに送付されたのは同年12月15日頃であるところ,その時点においては,被告人が本件開始決定に対して即時抗告をして争い,いまだG弁護士と被告人との面談さえも行われておらず(1回G4~5,15~18頁),かつ,本件重文7点の所有者及び所在については,W機構の立入調査を含むO機構の財産調査によっても判明していないという状況であった(4回P6~31頁)。すなわち,本件送付先変
更依頼の時点においては,G弁護士が本件重文7点の所有者及び所在を調査・発見するための直接的な手段はなかったものといえる。他方で,破産法81条の回送嘱託によって破産者宛ての郵便物が破産管財人に配達され,同法82条によって破産管財人がそれを開披して確認することは,破産管財人が破産者の財産を調査する上で非常に有用な手段であり(甲12,1回G5~6
本件送付先変更依頼がされていなければ,本件回送嘱託によってG弁護士が本件重文7点の所在を容易に把握することができたものと考えられる。これらの事情に照らせば,本件送付先変更依頼は,その時点において本件重文7点の発見を困難にする行為であったことは明らかであって,弁護人の主張は採用し得ない。また,弁護人は,被告人はG弁護士の態度に対する憤りから本件送付先変更依頼に及んだのであって債権者を害する目的はなく,本件重文の寄託者名義や所在を変更していないことがそれを裏付けるなどと主張する。しかし,被告人自身が供述するとおり,本件送付先変更依頼の目的はG弁護士によって本件重文が処分されないようにすることであると認められるところ,被告人に本件重文の所有の認識があったことを前提とすれば,それは破産手続による総債権者の権利の実現を不可能又は困難にすることにほかならず,弁護人の主張は被告人に上記認識がないことを前提にしたものであって採用し得ない。
3結論
以上のとおり,破産者である被告人は,債権者を害する目的で,B博物館から被告人に対して郵送する書類の送付先(宛名)をEに変更する手続をさせることにより,破産管財人であるG弁護士に回送されるべき本件重文7点に係る出品継続証をE宛てに郵送させて自ら受領し,G弁護士が本件重文7点を発見するのを困難にし,もって債務者である被告人の財産を隠匿したものと認められる。
第5本件質問事項及びその回答(争点⑤~⑦)について1認定事実
前記前提事実に後掲証拠を総合すると,本件質問書面について,以下の事実が認
められる。
本件開始決定直後,G弁護士は,P弁護士から,Jが生前に本件重文7点及び宝篋印塔を所有していたこと,それらのうち本件重文7点の所在が不明であること,「三十六歌仙」については1点1億円を下らないことなどの説明を受けた。また,その際,G弁護士は,P弁護士から,国宝・重要文化財大全別巻の一部(「J」という項目名に続いて本件重文7点及び宝篋印塔の名称等が記載された部分を含むもの。以下同じ。)及び同大全1絵画上巻の一部(源宗于像及び是則(佐竹家伝来)の写真が掲載された部分を含むもの。以下同じ。)の各写し(以下,これらを併せて「国宝・重文大全写し」という。)を交付された。(弁5,弁6,弁33,弁41,1回G9~13頁,2回G14~15頁,4回P31~35頁)平成24年1月10日,G弁護士がI弁護士及び被告人と面談したところ,面談が開始して間もなく,被告人は,それまでのG弁護士の言動に対する不満ないし不信感をあらわにして激昂し,その場を立ち去った。G弁護士及びI弁護士はその後も面談を続けたが,その際,G弁護士は,I弁護士に対し,Jの遺産と考えられる本件重文が記載されているものとして国宝・重文大全写しを渡し,それを被告人に交付するよう求めた。(甲68-3,弁33,弁41,1回G17~18,86~89頁,2回G63~66頁,3回G70~71頁,4回P31~34,61頁,9回I14~17,85~86頁,10回I5~6頁)
同月16日に開催された第1回債権者集会期日(被告人不出頭,I弁護士出頭)において,G弁護士は,同期日までに行った管財業務について説明したほか,破産財団に属するものと考えられる財産として,「三十六歌仙絵巻の分割されたもの」が入れられていた箱が発見されており,その本体は約1億円の評価であるなどと説明し,今後の管財方針として,書画骨董品についての調査をしていくなどと説明した。(甲70-4,8,甲72-1,1回G18~19,23,48~49頁,4回P38~40頁,5回P49頁,9回I19~20頁)
同年4月23日に開催された第2回債権者集会期日(被告人不出頭,I弁護士出
頭)において,G弁護士は,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)の所在が不明となっていること,Jが所有していた書画骨董品について被告人が相続したか否か,相続したとすればどこにあるのかを確認する必要があることなどについて説明した。また,破産裁判所は,I弁護士に対し,書画骨董品の調査等について破産者である被告人の協力を求め,同弁護士も,必要な協力はする旨回答した。(甲72-2,1回G21~22,49~51頁,4回P41~44頁)
その後,G弁護士は,破産財団に属するものと考えられる重要文化財等について,被告人に対する確認を含めて調査をした上,破産裁判所に報告する必要があると考え,同年5月8日,I弁護士と面談し,同弁護士に対し,破産者である被告人に聞いた上で回答してもらいたいなどと述べて,被告人に対する質問事項として本件質問書面を交付した。(甲68-5,甲69-1,1回G24~29頁,3回G14頁,9回I23~27頁)
I弁護士は,同日頃,被告人に対し,本件質問書面を送付するとともに,被告人に聞いて回答するようG弁護士から求められている旨を伝えた上,同年6月20日,被告人と面談し,同書面の質問事項について尋ねるなどし,G弁護士に対する回答の内容を相談した。この際,被告人は,本件質問事項のいずれについても,「見たことはない」又は「分からない」などと述べた。(甲73-3,甲76,9回I26~34頁,12回被告人55~56頁)
そして,I弁護士は,本件質問事項について破産者である被告人から聞いた内容として,同月27日,G弁護士に対し,被告人は見たことがなく,所在も知らない,相続により取得したという意識もない,などと口頭で回答した上,同月29日には,.
...
破産裁判所(及びG弁護士)に対し,「『源宗宇』『坂上の則是』は,存在自体記憶にありません。従って,被告人は,これらの所在もわかりません。」と書面で報告した。この書面を作成するに当たり,I弁護士は,被告人に対し,書面の原案を示して内容の確認を求め,被告人は,同書面中の一部について若干の修正を求めるなどしたが,本件質問事項に対する上記回答部分については原案に何らの修正等を
加えなかった。(甲68-9,甲69-2,甲70-12,甲73-4,5,甲76,甲84,1回G35~47頁,9回I34~42頁)
同年7月2日に開催された第3回債権者集会期日(被告人不出頭,I弁護士出頭)において,G弁護士は,被告人に対して本件質問書面に記載された質問をしたこと,本件質問事項について,I弁護士から,存在自体分からず,所在も分からない旨の回答が口頭及び書面でされたことなどを報告した。(甲70-5,甲72-3,1回G55頁,4回P46~49頁)
2争点⑤(源宗于像等の特定)について
おいて被告人による所有の有無,所
.
在等を尋ねられている対象は「紙本三十六歌仙の『源宗宇』」及び「同上の『坂上..
則是
G弁護
士において,Jが生前所有していた重要文化財である源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を指す趣旨でそのような表記をしたものであることは明らかである。.
..
宇」及び「坂上則是」と
いう誤記の程度に鑑みれば,本件破産事件との関係においては,上記のような表記であっても,本件質問事項において被告人による所有の有無,所在等を尋ねられている対象が源宗于像及び是則(佐竹家伝来)であることは,客観的には十分に特定されていたものといえる。
なお,

経緯のうち平成24年1月10日のG弁護士とI弁

護士との間のやり取りについて,本件重文が話題になったことはないなどと主張する。しかし,G弁護士がI弁護士に国宝・重文大全写しを交付したことは両弁護士の供述が一致しているなど間違いがない上,I弁護士の供述によっても,G弁護士がJの所有していた重要文化財を問題にしていることは認識していたというのであり(10回I82~83,94頁),G弁護士は,I弁護士に国宝・重文大全写しを交付するに際し,本件重文を話題にしたものと認められる。
また,被告人は,平成18年6月頃以降,平成21年頃までの間に,O機構
から連帯保証債務の履行として数十億円の支払を請求する訴訟を提起され,預金,株式,書画骨董品等を仮差押えされた上,財産開示手続を申し立てられ,被告人が相続したとされる6億8425万円余の「その他の財産」(本件修正申告書)及び書画骨董品378点(本件分割協議書)の具体的内容や現所有者,所在を明らかにするよう求められるなどしていた(甲70-9,10,4回P6~28頁,9回I4~8頁等)。そのため,被告人としても,O機構が,換価によって債権回収に充てることができるような被告人の財産の有無及び所在に重大な関心を抱いていたことを当然に認識していたものと認められる。他方で,本件重文7点の所在等はO機構によって把握されておらず,仮差押えもされていなかったところ,被告人は,


とおり,遅くとも平成20年12月頃までには,自らが相続した源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を含む本件重文7点がB博物館に寄託されていることを認識し,前のとおり,それらがG弁護士によって処分されることを回避するため,本件送付先変更依頼をしている。これらの事情からすると,被告人は,遅くとも本件送付先変更依頼がされた平成23年11月頃までには,本件重文7点について,O機構やG弁護士によっていまだ所在が把握されていない被告人の財産であると認識していたものと認められる。
そして,本件質問書面は,このような状況の下において本件破産事件の破産管財人であるG弁護士によって作成されたものであり,本件質問事項の内容が前提事実
質問事項において被告人による所有の有無,所在等が尋ねられている対象がB博物館に自己名義で寄託されている源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を指していることを認識していたものと認められる。
これに対し,弁護人は,紙本三十六歌仙には多くの作品があるなどとした上,本件質問事項の対象について,本件質問書面の記載内容では描かれた人物や絵の構図,伝来等が不明であり,それが源宗于像及び是則(佐竹家伝来)であるとは特定されていないなどと主張する。しかし,本件質問書面は,破産事件の破産管財人が
破産者の財産に関する質問事項を記載したものであって,そのような本件の経緯等と無関係にその特定性を問題にする意味はなく,本件破産事件における破産者である被告人に対する質問事項として内容が特定されているか否かのみが問題なのであるから,その主張は失当である(弁護人がその主張の根拠とする意見書も,「美術史学の研究分野と美術館の実務分野から」述べられたものにすぎず,本件破産事件の経過の詳細はもちろん,Jが生前に源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を所有していたことや,被告人がJから多数の書画骨董品を相続したことなどの基本的な事実関係についても一切触れられていない(弁17,弁69)。)。
また,被告人は,当公判廷において,本件質問事項について出品継続証に記載されていた重要文化財と似たものがあるかどうかさえ思い当たらなかったなどと供述し(12回被告人64頁,13回被告人37,58~59頁等),弁護人も,被告人は,G弁護士が本件重文を問題にしているとは認識しておらず,本件質問書面によって本件重文7点のうちの2点の所在等を質問されたとも認識しておらず,本件における経緯からすればそのような認識をすることもできなかったなどと主張する。しかし,被告人は,捜査段階において,本件質問事項の対象とされている2点について,本件質問書面を見た当時,B博物館から被告人の手元に郵送されていた継続証に記載されていた源宗于像及び是則(佐竹家伝来)とは異なるものであると思った旨供述しており(乙3。なお,被告人は,当該供述調書(乙3)の内容について読み聞かされるなどした後,複数箇所について訂正を申し出ているが,上記供述内容については訂正を申し出ていない。),本件質問事項を受けても出品継続証に記載されていた重要文化財に思い当たらなかったなどとする供述は信用できない。また,本件における経緯等を前提に被告人が本件質問事項の対象について源宗于像及び是則(佐
3争点⑥(被告人に対する説明の請求)について
本件質問事項は,その内容が,特定の物について破産者である被告人自身の所有の有無等を尋ねるものである上,その物は被告人の父であるJが生前に所有し
参照),本件破産事件の関係者の中で
本件質問事項に対する回答をするのに最も適切な者が被告人であることはいうまでもない。また,一般論としても,個人である破産者本人は,自らの破産について最もよく知る立場であり,特にその財産の内容については,破産法40条の説明義務の対象となるだけではなく同法41条による開示義務の対象となり得るものであって(なお,これらの義務の違反は免責不許可事由となる(同法252条1項11号)。),破産管財人が破産者の財産の内容について説明を求める相手方として最も一般的かつ適切な者である。そうすると,破産管財人であるG弁護士にとっても,本件質問事項についての回答を求める相手方として最も適切な者が破産者本人である被告人であることは明らかである。
他方,G弁護士から本件質問書面を直接交付されたI弁護士は,被告人の本件破産事件における代理人であり,また,本件開始決定前にもO機構との間の裁判手続や裁判外交渉の代理人ではあったものの,その受任内容には被告人の財産管理は含まれていなかったものと認められ(9回I1頁等参照),G弁護士としても,I弁護士が被告人から財産管理の委任を受けていたものと認識していたという事情は全くうかがわれない。そうすると,G弁護士,I弁護士,被告人のいずれにおいても,本件質問事項に対して回答する者としてI弁護士が適切であると考えるべき理由は何ら存在しない。
のとおり,G弁護士は,本件質問書面をI弁護士に交付する
際,被告人に聞いた上で回答してもらいたいなどと述べていたのであって,I弁護士も被告人にその旨伝えていたのであるから,本件質問事項の相手方が被告人であることは明らかであり,破産管財人であるG弁護士が破産者である被告人に対して破産財団に属すると考えられる財産に関する説明を請求したものといえる。これに対し,弁護人は,本件質問書面にはそれが被告人に宛てられたものであることを示す記載はなく,G弁護士がI弁護士に対して破産者に聞いて回答するよう求めたのは,実質において,被告人に対する発問ではなく,I弁護士に対する
調査依頼であるなどと主張する。しかし,本件質問書面における宛名の記載の有無にかかわらず,それが被告人に対する質問事項を記載したものであることは上記のとおり明らかであって,G弁護士がI弁護士に本件質問書面を交付したとしても,それは本件破産手続における被告人の代理人であるI弁護士を通じて破産者である被告人に説明を求めたということにすぎず,上記結論が左右されるものではない。このほか,弁護人は,同法268条1項の虚偽説明罪が成立するためには破産管財人からの適法かつ適切な「請求」があったことが必要であるとした上,本件においてそのような「請求」があったとはいえないなどと主張するが,その具体的な内容は,争点⑤についての主張とほぼ同様であって,採用することができない。4争点⑦(被告人の虚偽説明)について
I弁護士から,被告人に聞いて回答するよう
G弁護士から求められている旨を伝えられた上で本件質問事項について尋ねられた
のとおり,被告人は,その時点において,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を含む本件重文7点を所有し,それらがB博物館に寄託されていることを認識していたのであるから,その内容は虚偽であった。その後,被告人の財産の内容を把握しておらず,また,把握すべき立場にもなかったI弁護士は(9回I1,9頁等),被告人の聞いた内容
として,同月27日,G弁護士に対し,被告人は源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を見たこともなく所在も知らないなどと回答している。
このように,被告人は,G弁護士に対してI弁護士が回答することになることを認識した上で,本件質問事項についてI弁護士に対して上記のとおり述べ,これを受け,I弁護士がG弁護士に対して上記のとおり回答したのであるから,本件破産事件の破産者である被告人が,その代理人弁護士であるI弁護士を介し,破産管財人であるG弁護士に対し,自らの財産について虚偽の説明をした,すなわち破産に関して虚偽の説明をしたものと認められる。

.
..
これに対し,弁護人は,①被告人は「源宗宇」及び「坂上則是」を知らないと回答したのであって,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を知らないと回答したものではないから,仮に被告人において「源宗于」及び「坂上是則」が正しいということを認識していたとしても,その回答内容は虚偽ではない,②被告人がI弁護士に述べたのは「知らない」又は「見たことがない」であって,「所在を知らない」とは明らかに異なり,仮に被告人において源宗于像及び是則(佐竹家伝来)の所在を知っていたとしても,その回答内容は虚偽ではない,などと主張する。しかし,まず,①

のとおり,本件質

問事項の対象は,質問をしたG弁護士としては,Jが生前所有していた重要文化財である「紙本三十六歌仙」,すなわち,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を指す趣旨であった上,それが源宗于像及び是則(佐竹家伝来)であることは客観的にも特定されていたところ,質問をされた被告人としても,それがB博物館に自己名義で寄託されている源宗于像及び是則(佐竹家伝来)を指していることを認識していたものと認められる。そうすると,本件破産事件における破産者である被告人としては,本件質問事項の対象が源宗于像及び是則(佐竹家伝来)であることを前提に,被告人による所有の有無,所在等を説明すべき義務を負っていたものというべきであって,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)について真実と異なる回答をした以上,それは単に不誠実であるというにとどまらず,虚偽の回答(説明)であったといわざるを得ない。
また,②については,本件質問事項は,源宗于像及び是則(佐竹家伝来)について,「被告人の所有ですか。どこにありますか。預け先との契約関係は,どのようなものですか。」と尋ねるものであって,これに対して「見たことはない」又は「分からない」と回答することは,それ自体,所有関係や所在等が不明である旨の回答I弁護士が被告
人から聞いた内容として「存在自体記憶にありません。従って,(中略)所在もわかりません。」と破産裁判所に書面で報告するに際し,その内容を事前に確認しな
がら何らの修正も加えなかったのであるから,この点からも,被告人が源宗于像及び是則(佐竹家伝来)の所在が分からない旨の回答(説明)をした趣旨であったことが認められる。この点,弁護人は,所在が分からない旨のI弁護士の回答は同弁護士の推測にすぎないなどと指摘し(10回I29頁参照),それが被告人の説明であるとは評価できないと主張するようであるが,本件質問事項の内容及び被告人の回答の内容に鑑みれば,I弁護士のG弁護士に対する回答(説明)の内容は,被告人の回答(説明)の単なる言い換えにすぎないというべきである。
5結論
以上のとおり,破産者である被告人は,破産管財人であるG弁護士から源宗于像及び是則(佐竹家伝来)の所在等を質問された際,代理人であるI弁護士を介し,G弁護士に対し,その所在が分からない旨虚偽の回答をし,もって破産管財人の請求があったときに破産に関し虚偽の説明をしたものと認められる。(量刑の理由)
本件において被告人が隠匿した財産の総額は7億9600万円に及んでおり,それ自体極めて多額である上,破産財団の総額(今後の換価により約9億7000万円となる見込み)に占める隠匿財産の割合も相当大きい。犯行に至る経緯等をみても,債権者によって破産申立てがされる前から,長期間にわたって同債権者から繰り返し財産の開示を求められるなどしていたところ,破産手続が開始されて間もなく判示第1のとおり財産を隠匿し,その後,その発覚を免れるために判示第2のとおり破産管財人に虚偽の説明をしており,一貫して財産の発見・換価を免れようとしたものであって悪質性は高い。以上によれば,同種事案と比較しても本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いものといわざるを得ない。
もっとも,本件隠匿に係る財産はいずれも破産管財人によって発見されており,既にその大部分は換価されているのであって,破産手続の迅速な進行を阻害した点は決して軽視することはできないものの,結果が特に重大であるとまではいえない。そこで,被告人に前科が見当たらないことも考慮し,被告人に対しては懲役刑に処
した上でその刑の執行を猶予することとするが,その刑期及び猶予期間については,上記各事情のほか被告人が不合理な弁解に終始して全く反省の態度がみられないことも踏まえ,主文のとおりとするのが相当である。

(求刑

平成30年3月16日
東京地方裁判所刑事第11部

裁判長裁判官

任介辰哉
裁判官

太田雅之
裁判官

山井翔平
懲役3年)

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