判例検索β > 平成29年(う)第91号
邸宅侵入、窃盗未遂、住居侵入、窃盗
事件番号平成29(う)91
事件名邸宅侵入,窃盗未遂,住居侵入,窃盗
裁判年月日平成30年3月22日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄自判
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27刑(わ)640
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平成30年3月22日宣告東京高等裁判所第12刑事部判決
邸宅侵入,窃盗未遂,住居侵入,窃盗被告事件
主文
原判決を破棄する
被告人を懲役2年6月に処する
原審における未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
本件公訴事実中,平成27年3月3日付け追起訴状及び同年同
月24日付け起訴状各記載の公訴事実について,被告人はいず
れも無罪。
理由
第1本件事案の概要
1
本件は,被告人が,平成26年9月23日から同年12月5日までの
間に,群馬県内において,住居侵入・窃盗3件及び邸宅侵入・窃盗未遂1件を犯したとして,4回にわたって順次起訴された事案である。
2
原判決の説示



原判決が認定した「罪となるべき事実」

原判決は,上記4件について,いずれも各公訴事実と同旨の次のとおりの事実を認定し,被告人を有罪と判断した。


被告人は,金品窃取の目的で,平成26年9月23日午前9時頃から
同日午後2時30分頃までの間に,群馬県館林市a町b番地のcにあるA方に,1階北側掃き出し窓の施錠を外して侵入し,その頃,同所において,同人ほか1名所有の現金約12万円在中の財布1個(時価約1000円相当)及び指輪6個等15点(時価合計約99万4400円相当)を窃取した(原判示第1事実(住居侵入・窃盗)。平成27年2月10日付け起訴状記載の公訴事実と同旨。原判決が,
「事実認定の補足説明」の項において「第1事件」と

表記する事件。)。


被告人は,金品窃取の目的で,平成26年11月25日午前7時50
分頃から同日午後6時20分頃までの間に,群馬県邑楽郡d町e

f番地g

にあるB方に,1階南側掃き出し窓の施錠を外して侵入し,その頃,同所において,同人ほか1名所有又は管理の通帳約7冊等約9点在中のポーチ1個(時価約100円相当)及び指輪1個等5点(時価合計約58万円相当)を窃取した(原判示第2事実(住居侵入・窃盗)。平成27年4月17日付け追起訴状記載の公訴事実と同旨。原判決が,
「事実認定の補足説明」の項におい
て「第4事件」と表記する事件。)。


被告人は,金品窃取の目的で,平成26年12月4日午前11時頃か
ら同日午前11時9分頃までの間,群馬県太田市h町i番j号のC方に,1階リビング・ダイニングの掃き出し窓の施錠を外して侵入し,その頃,同所において,D所有の赤サンゴ付ブローチ1個等2点在中のジュエリーボックス1個(時価合計約6000円相当)及び紙袋1個を窃取した(原判示第3事実(住居侵入・窃盗)。平成27年3月3日付け追起訴状記載の公訴事実と同旨。原判決が,
「事実認定の補足説明」の項において「第2事件」と表記す
る事件。)。


被告人は,金品窃取の目的で,平成26年12月5日午前11時31
分頃から同日午前11時42分頃までの間,Eが看守する群馬県邑楽郡d町kl番地mにある空き家に,
1階浴室高窓の施錠を外して侵入し,
その頃,
同所において,
1階8畳和室押し入れのふすまを開けるなどして物色したが,
金品の発見に至らず,その目的を遂げなかった(原判示第4事実(邸宅侵入・窃盗未遂)。平成27年3月24日付け起訴状記載の公訴事実と同旨。原判決が,
「事実認定の補足説明」
の項において
「第3事件」
と表記する事件。。



原判決が説示する有罪と判断した理由の要点

原判決は,
「事実認定の補足説明」の項において,原判示第1ないし第4事
実の全ての件について被告人と犯人の同一性が争点となっていると指摘した上,それら4件を有罪と判断した理由を説示しているところ,その要点(「7結論」部分)は,概ね次のとおりである。
原判示第1及び第2事実の件については,いずれも,被告人が,各窃盗被害の発生した日時から半日に満たない当日中に,被害品の一部をそれぞれ換金処分している事実が認められるから,それらの処分した被害品の取得経緯につき合理的な説明がつく特段の事情のない限り,被告人が原判示第1及び第2事実の件の犯人であることが強く推認される。
また,原判示第3及び第4事実の件については,いずれも,被告人が,窃盗又は窃盗未遂被害が発生した日時と合致する日時に,各被害者方敷地内に入り,10分前後の時間を経て,各被害者方玄関ドアから外に出た事実が認められるから,
これらの行動に出た合理的な説明がつく特段の事情のない限り,
被告人が原判示第3及び第4事実の件の犯人であることが強く推認される。そして,原判示第1ないし第4事実の件(以下「本件各事件」とも言う。)における遺留足跡や侵入態様等から,本件各事件が同一の犯人による犯行である蓋然性が高く,被告人がその犯人であることを推認させる複数の事実が認められる一方で,被害品の入手経緯や被害者方への侵入状況に関連する被告人の原審公判供述の内容が不自然,
不合理で信用できないことからすれば,
被告人が本件各事件の犯人であることが優に認められる。
3
本件控訴の趣意

本件において適法に提出された控訴趣意書(当審第1回及び第3回公判調書の各「弁護人の弁論」の項に記載した書面。なお,そこに記載した限度で名称の異なる書面を含む。)の内容を,当審第5回公判期日における刑訴法393条4項に基づく弁護人Fの事実の取調べ後の弁論も踏まえて検討すると,
本件控訴の趣意は,要するに,次の2点にあると解される。


訴訟手続の法令違反

原判決が本件各事件の事実認定の用に供したものとして
「証拠の標目」
の項
に挙示する証拠には,
「車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付
けて位置情報を検索し把握するという刑事手続上の捜査(以下「GPS捜査」と言う。)」等の違法捜査によって取得された証拠能力のない証拠が含まれており,
それらの証拠の証拠能力を肯定して採用・取り調べた原審裁判所の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。


事実誤認

本件各事件について,
被告人はいずれも犯人ではなく無罪であるのに,
事実
の推認過程や証拠評価を誤るなどし,根拠に乏しい証拠で被告人を有罪と判断した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。第2訴訟手続の法令違反の主張について
1
当審における公判審理の経過

原審においては,
GPS捜査が行われた疑いのある不自然な捜査があった旨
の指摘が被告人側からなされたが,その点は争点化されず,原判決は,GPS捜査に関して何ら言及せず判断を示していない。
しかしながら,
原審記録によ
れば,本件においてGPS捜査が行われたことについての合理的疑いが払拭できない可能性が認められたので,当裁判所は,検察官に対して,改めて事実関係を確認した上で答弁書を提出するよう求めた。
そして,
その結果提出され
た答弁書及び補充答弁書が,本件においてGPS捜査が行われていた旨の内容であったことから,当審において,本件におけるGPS捜査(以下「本件GPS捜査」と言う。)の実施状況に関する報告書等の証拠書類並びに実際に本件GPS捜査に従事したG及びHの2名の警察官証人について,事実の取調べを行った。

2
関係証拠によって認められる本件捜査・公判の経緯

原審記録及び当審における事実の取調べの結果を総合すると,本件の捜査・公判について,次の一連の経緯が認められる。
原判示第1事実の件の被害及び被告人による被害品処分の発覚等

平成26年9月23日午前9時頃から同日午後2時30分頃までの間
に,何者かが,原判示第1事実の被害者方に,1階北側掃き出し窓のクレセント錠付近のガラスを割り施錠を外して侵入し,記念硬貨である現金約12万円在中の財布1個及び指輪6個等15点を窃取するとの事件が発生した。この件は,
同日午後2時30分頃に帰宅した被害者が気付いて,
同日午後3時頃,
群馬県甲警察署に被害を届け出たことにより,警察に発覚した。

同年10月14日,警視庁刑事部捜査第三課(以下「捜査第三課」と言
う。)所属の警察官は,盗難被害品等の発見を目的とした盗品捜査の一環として,東京都豊島区内の有限会社Mで,古物台帳等の閲覧を実施し,同年9月23日午後3時頃から同日午後5時頃までの間に来店した被告人が,運転免許証を身分確認資料として,記念硬貨や指輪等31点を売却換金した事実を確認したが,被告人の住居地が群馬県と遠方であることや女性の指輪等の貴金属を多数処分していることを不審と認めて,被告人の人定事項を聴取して帰庁した。同警察官は,被告人の犯歴照会を行い,また,警察庁の情報システムにより原判示第1事実の件の侵入窃盗被害事実を把握するとともに,被告人が上記のとおり換金処分した物品のうち,同質店に保管されていた9点を借り受け,同年11月5日,被害者側に確認を求めたところ,指輪4点等が被害品であることが確認された。
その頃以降,
被告人を窃盗被疑者とする捜査本部
が警視庁乙警察署に設置され,捜査第三課の第6係に所属していたI警部補(以下「I警部補」と言う。),G及びHらも捜査に従事することになった。本件GPS捜査の実施状況等


平成26年11月当時,
捜査第三課では,
平成18年6月30日警察庁

刑事局刑事企画課長名で発出された「移動追跡装置運用要領の制定について」という文書にある運用要領に基づいて一定の要件を備えた事件でGPS捜査を行う取扱いをしており,被告人に対する捜査に際してもGPS捜査を実施する方針が採られた。なお,本件GPS捜査に従事した警察官らは,本件GPS捜査について被告人に対して秘匿するとともに,捜査書類の作成等に際しても,
本件GPS捜査によって得られた位置情報検索結果等を記載せず,また,
事後には携帯電話機の位置情報検索履歴を削除するなど,本件GPS捜査が行われたことが明らかにならないようにした。

本件GPS捜査の具体的な実施状況は,
概ね以下のとおりと認められる。
捜査第三課の警察官らは,
平成26年11月頃,
I警部補を契約者とし

て,
GPS端末2台を民間会社から借り受け,
これを被告人使用車両に秘かに
取り付けた上,当該GPS端末を用いた位置情報検索サービスを利用することとした。
GとHは,
平成26年11月27日夜,
既に把握していた被告人の自宅
(群馬県邑楽郡n町op丁目)付近に赴き,Gが,駐車場に停められていた被告人使用車両の底部に,
上記GPS端末のうちの1台を取り付け,
それ以降
は,
1週間に1度を目安に端末を交換するなどして,
同年11月28日から平
成27年1月20日までの間,同車両の位置情報を適宜検索して把握する方法で,被告人の行動確認等を行った(なお,所論は,平成26年11月25日時点で本件GPS捜査が開始されていた旨を主張するが,当審の事実の取調べの結果によれば,
本件GPS捜査は,
上記のとおり同年同月27日に被告人
使用車両にGPS端末を取り付け,翌28日から位置情報検索を開始したものと認められる。)。
本件GPS捜査における位置情報の検索・把握は,
捜査第三課の警察官

らが所持する携帯電話機を用いて,ホームページにアクセスするなどして行うというもので,検索すると,日時,住所及び基地局の地図等が表示される。位置情報の精度は,電波状態に応じて,「圏外」,「500m以上」から「50m以内」まで時々で差があったが,住所として市町名だけでなく,それに続く丁目部分まで表示される場合もあった。
この位置情報検索によって,
行動確
認実施中に失尾した被告人を発見することが可能となった。
Gらは,
行動確認
の実施中に被告人を失尾した際だけではなく,端末の状況を確認するなど行動確認との関係での直接の必要性がない場合にも位置情報を検索・把握しており,
上記の本件GPS捜査が行われた期間中の位置情報検索回数は,
2台の
GPS端末の合計で約1000回に上った。
平成26年12月4日に発生した原判示第3事実の件及び同月5日に発生した原判示第4事実の件では,
GとHらが,
本件GPS捜査により把握し
た位置情報を利用しながら被告人の行動確認を実施したことにより,被告人使用車両を失尾したことがありながらも,追尾及び目視による行動確認が可能となり,被告人が,各被害者方敷地内に入り,10分前後の時間を経て,各被害者方玄関ドアから外に出たことを現認することができた。
また,
Gは,

件GPS捜査によって得られた位置情報検索結果を利用して行ったこのときの被告人の行動確認の際に撮影した被告人が履いていた靴の映像から靴の種類等を特定して入手した同種の靴の足跡と,本件各事件現場における遺留足跡との照合を行った。
上記の本件GPS捜査は,その全てが,被告人の承諾を得ることなく,かつ,令状を取得しないで,実施されたものである。
被告人を通常逮捕するに至った経緯等

平成27年1月14日,
警視庁警察官は,
原判示第1事実の件を被疑事

実とする被告人に対する通常逮捕状の発付を受けた。同逮捕状請求の際の疎
明資料には,窃盗被害の発生及び被告人による盗品の処分に関する書類のほか,本件GPS捜査によって得られた位置情報を用いた被告人の行動確認の結果を内容とする書類が含まれていた。

捜査第三課の警察官らは,上記逮捕状発付後,被告人使用車両に,本件
GPS捜査に用いていた端末を2台とも装着し,
以降は,
2台の位置情報検索
サービスを並行的に利用して,被告人の行動確認を実施した。

警察官らは,
同月20日午後6時,
被告人の自宅近くの路上に停車中の

捜査用車両内において,
被告人を上記逮捕状によって逮捕し,
本件GPS捜査
は同日終了した。被告人は,被疑者勾留を経て,同年2月10日,原判示第1事実の件について起訴された。
被告人に対するその後の捜査経過等

その後,
被告人に対し,
平成26年12月4日及び同月5日における本

件GPS捜査によって得られた位置情報を用いた捜査第三課の警察官らによる行動確認結果等を内容とする書類などを主な疎明資料として,原判示第3及び第4事実の件について,それぞれ通常逮捕状が発付された(なお,原判示第3事実の件の被害者は,
自ら被害に気付いて,
被害当日に群馬県警察に届け
出ているが,
原判示第4事実の件の被害者は,
被害の約2か月後である平成2
7年2月1日に警視庁警察官からの問い合わせを受けて被害事実を確認し,その日に群馬県警察に届け出ている。)。被告人は,それらの逮捕状を順次執行され,
各被疑者勾留を経て,
原判示第3事実の件については平成27年3月
3日に,原判示第4事実の件については同月24日に,それぞれ起訴された。イ
また,
原判示第1事実の件についての上記逮捕・勾留手続により乙警察

署留置施設内に収容されていた被告人の所持品に対し,捜査関係事項照会を実施したところ,被告人の所持品中に「Nキャッシュプリカ」というプリペイドカード1枚が含まれていたため,
その使用履歴を照会するなどした結果,

成26年11月25日午後6時31分から同日午後6時33分にかけて,埼玉県東松山市内のガソリンスタンド(O)において,同カードが利用された履歴が明らかとなったことから,
捜査第三課の警察官らが,
同市内の質店や古物
商における盗品捜査を実施した結果,被告人が上記同日に質店で指輪1個を売却した事実が判明し,この指輪の特徴等から原判示第2事実の件の窃盗被害品の一つ
(プラチナ。
マリクレール製の結婚指輪で年号やアルファベットの
刻印があるもの。一部削られていたが判読可能)であることが確認された。そこで,警察官らは,窃盗被害や盗品捜査の経過に加え,本件GPS捜査によって得られた位置情報を用いた被告人に対する行動確認結果等を記載した書類等を疎明資料として,通常逮捕状の発付を受けた。被告人は,この逮捕状を執行され,被疑者勾留を経て,平成27年4月17日,原判示第2事実の件でも起訴された。
原審における公判審理の経過等
上記4件の公判請求事件は,結局,東京地方裁判所(原審裁判所)において併合審理された。原審の審理において,被告人は,全ての事実について,身に覚えがないとして犯人性を争い,
原判示第1及び第2事実の件については,

被害品はJなる知人から頼まれて売却したものである,原判示第3及び第4事実の件については,Kという知人との待合せのため,あるいは,Kから紹介された民家への営業のためなどに各被害者方近くに行っただけである旨弁解して,無罪を主張した。
原審において,検察官は,
「犯行目撃状況,捜査状況」等を立証趣旨として
Gを,
「行動確認状況,犯行目撃状況等」を立証趣旨としてHを,それぞれ証人申請し,採用された。GとHは,原審で証言することが決まった後に,本件GPS捜査実施当時の上司であったI警部補や原審証言当時の直属の上司らと意思を通じ,原審における証言の際にも本件GPS捜査を実施したことを
隠ぺいすることを決めた。
GとHは,
公判を担当した検察官に確認された際に
も事実を隠ぺいし,本件でGPS捜査を実施したかどうかを尋問されたときは事実と異なる証言をするとの意思の下に原審公判に臨み,
Gは,
被告人に対
する捜査ではGPS端末や機器を使っていない,行動確認に際して被告人を失尾した際は,追尾検索して目視で発見していた旨の虚偽の証言をし,Hは,平成26年11月28日から実施した被告人の行動確認に際して,本件GPS端末を用いた位置情報検索に関する部分を秘した事実関係を証言するなどした。
3
当審の判断

⑴本件GPS捜査の適法性等について
そこで,上記第2の2において認定したところを前提として検討する。ア
GPS捜査の刑事手続上の性質等に関しては,
最高裁判所が,
平成29

年3月15日の大法廷判決(刑集71巻3号13頁)において,
「GPS捜査
は,
対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,
把握すべく行われるものである
が,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にするものである。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,
また,
そのような侵害を可能とする
機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものと言うべきである。
そうすると,

人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,
個人の意思を制圧し,
憲法の保障する重要な
法的利益を侵害するものとして,
刑訴法上,
特別の根拠規定がなければ許容さ
れない強制の処分に当たるとともに,
一般的には,
現行犯人逮捕等の令状を要
しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,
令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである」
との旨の
見解を示しているところであり,
本件において,
これと異なる考え方を採るべ
き理由は存しないから,当裁判所も,上記大法廷判決の見解に従う。そして,
本件GPS捜査は,
上記大法廷判決の見解が示される以前に行われ
たものであり,
上記認定のとおり,
当時発出されていた警察庁の定めた運用要
領に基づいて実施されたものではあるが,GPS捜査に関する上記大法廷判決の見解は,
それが示された前後を問わず,
普遍的に妥当するものと解するべ
きであるから,強制処分に該当するのに,令状を取得することなく,秘かに被告人使用車両にGPS端末を装着して行われた本件GPS捜査は違法である。イ
次に,その違法の程度を検討すると,上記大法廷判決において,GPS
捜査が,一般に,個人の意思を制圧し,憲法の保障する重要な法的利益を侵害する性質を有しているとされていることに加え,本件GPS捜査の具体的状況を見ると,被告人使用車両へのGPS端末取付けから本件GPS捜査終了までの期間が55日間と長期間にわたっており,その間の位置情報検索回数も,対象車両が1台であるのに約1000回と多く,更に,警察官らは,被告人の行動確認中に失尾した場合のみならず,行動確認との関係での直接の必要性がない場合にも位置情報検索を行っていたのであるから,まさに被告人の行動を継続的,
網羅的に把握し,
合理的に推認される被告人の意思に反して
私的領域に侵入し,被告人のプライバシーを侵害したものと認められる。また,
本件GPS捜査に携わった警察官らは,
GPS捜査を行ったことを被
告人に告げず,
捜査関係書類等を作成する際には,
本件GPS捜査に関する事
項を意図的に記載せず,事後には携帯電話機の位置情報検索履歴を消去したりもするなど,ひたすら本件GPS捜査を実施したことが判明しないように意を用いていたばかりか,
原審公判審理において,
被告人の行動観察状況やそ
の経過等に関してG及びHの2名の警察官の証人尋問が行われることが決まった際には,G,H,そのときの上司,本件GPS捜査実施当時の上司らの間で対応を検討し,その検討に関与した誰一人として反対・制止することなく,原審証人尋問の際にも本件GPS捜査を実施したことを隠ぺいすることで意思を通じ,G及びHにおいて,公判担当検察官にも事実を告げず,既に述べたとおり,実際に原審公判において意図的に事実と異なる証言をしたものである。G及びHは,当審における証言の際に,原審においてそのような証言をした理由について,
GPS捜査の有効性の故に,
そのような捜査方法が存在する
ことを公にすべきではないと考えていたからであるなどと説明するが,正義の実現を目指して活動することを職責・使命としているはずであり,かつ,意図的に事実と異なる証言をすることが裁判所の判断を誤らせ不正義な結果を招く危険性がある司法妨害行為であることを知らないはずがない警察官の発言としては容易には措信し難いのみならず,原審におけるG及びHの証言は,平成27年8月から平成28年3月にかけて行われているところ,その時期には既にGPS捜査の適法性が争われた事件の下級審の裁判例が現れていたこと(公知の事実)に照らすと,少なくとも原審証言時においては,前提となるGPS捜査という手法の保秘の必要性自体が両名の説明のとおりであったとも認め難い。
本件GPS捜査に関与した警察官らが,
このように揃って頑な
なまでに実施の前後を通じて本件GPS捜査を隠ぺいしようとして来たことからすると,
本件GPS捜査実施当時において,
それが強制処分に該当する可
能性を認識しながら,
より効果的にGPS捜査を行うことを優先させて,
無令
状のままで秘かに被告人使用車両にGPS端末を取り付け,本件GPS捜査を実施したのではないかとの合理的疑いを払拭できない。
したがって,
証拠能
力の判断の場面では,上記合理的疑いを否定できない以上,警察官らが,強制処分に該当する可能性を認識しながら,敢えて無令状のままで秘かに本件GPS捜査を実施したものとして扱うべきことになる。
以上述べたところを総合すると,
本件GPS捜査の違法の程度は,
令状主義
の精神を没却するような重大なものであると言う外はなく,
かつ,
将来におい
てこのように違法なGPS捜査が行われることを抑制する必要があることは明らかであるから,
本件においては,
本件GPS捜査によって直接得られた証
拠及びこれと密接に関連する証拠の証拠能力は否定される。
違法収集証拠として排除される証拠の具体的範囲
上記の検討を踏まえ,
原判決が本件各事件の事実認定に用いた
「証拠の標目」
の項記載の各証拠の証拠能力等につき検討する。
ア「判示事実全部について」の部分に挙示されている証拠
既に見たとおり,原審におけるG及びHの各原審証言(原判決の「証拠の標目」の項に「第4回及び第5回公判調書中の証人Gの各供述部分」及び「第6回及び第10回公判調書中の証人Hの各供述部分」
と表示されているもの)

うち,平成26年12月4日及び同月5日の被告人の行動観察状況に関する部分は,本件GPS捜査によって直接得られた証拠に当たる。また,G及びHの各原審証言中の平成26年11月28日以降の被告人の行動確認状況等に関するその余の部分は,
上記のとおり,
警察官らが意図的に本件GPS捜査の
存在を隠ぺいしたため,どの部分が本件GPS捜査によって直接得られた証拠となるのかが不分明であるが,本件GPS捜査の結果を用いるなどして被告人の追尾や探索を実施したことによって得られたものであることは明らかであるから,少なくとも本件GPS捜査の結果得られたところと密接に関連する証拠であることは疑いがない。したがって,G及びHの各原審証言中,平成26年11月28日以降の被告人の行動確認状況等に関する部分は,違法収集証拠として証拠能力が否定される。
また,Gの原審証言(第4回及び第5回公判調書中の証人Gの各供述部分)のうち,行動確認時に撮影した被告人が履いていた靴の映像から靴の種類等を特定して入手した同種の靴の足跡と,本件各事件現場における遺留足跡との照合を行ったこと及びその結果に関する部分も,本件GPS捜査の結果得られたところと密接に関連する証拠であり,証拠能力が否定される。更に,
本件各事件現場における遺留足跡の採取や照合鑑定に関する原審甲79及び80号証並びにLの原審証言中,原判示第4事実の遺留足跡が関係する部分も,
後記第2の3⑵オにおいて,
原審甲78号証を除く証拠の証拠能力
に関して述べるところと同様の理由により,本件GPS捜査の結果によって得られたところと密接に関連する証拠ではないと言い切れないから,証拠能力が否定される。
その他のこの部分に挙示されている証拠は,
本件GPS捜査とは無関係であ
り,証拠能力は否定されない。
イ「判示第1の事実について」の部分に挙示されている証拠
原判示第1事実の捜査の経過等は上記第2の2⑴記載のとおりであり,本件GPS捜査以前の時期のものであることが明らかである。原判決がこの部分に挙示する証拠は,窃盗被害事実に関するものや被告人による質入れ事実に関するもの等であり,
いずれも,
本件GPS捜査によって直接得られたも
のでも,
それと密接な関係を有するものでもないから,
証拠能力は否定されな
い。
なお,
原判示第1事実の件については,
本件GPS捜査実施中の平成2
7年1月20日に被告人を通常逮捕したものであるところ,既に述べたとおり,
この件の通常逮捕状を請求した際の疎明資料には,
本件GPS捜査によっ
て得られた位置情報を用いた被告人の行動確認の結果を内容とする書類が含まれていたし,
この件の通常逮捕状が発付された後には,
本件GPS端末2台
が被告人使用車両に装着されて位置情報検索が実施されたところである。しかしながら,この件の通常逮捕状請求に当たっての疎明資料のうち主要なものは,
窃盗被害の発生や被告人による盗品の処分に関する書類であり,
本件G
PS捜査によって得られた位置情報を用いた被告人の行動確認の結果を内容とする書類がなくても通常逮捕状が発付されていたものと認められる。また,この件の通常逮捕状の執行は,本件GPS捜査の実施前から把握していた被告人の自宅近くで警察官らが捜査車両による張込みを行っていたところ,この自宅付近に現れた被告人に対して行われたものと認められる。したがって,本件GPS捜査の存在によって,原判示第1事実の件の逮捕手続が瑕疵を帯びることはない。

「判示第2の事実について」の部分に挙示されている証拠
原判示第2事実の捜査の経過は,
上記第2の2⑷イ記載のとおりであり,

この部分に原判決が挙示する証拠は,窃盗被害の発生事実及びその被害品の一部である指輪1個を被告人が売却処分したことに関する証拠である。したがって,いずれの証拠も,本件GPS捜査によって直接得られたものでも,それと密接な関係を有するものでもないから,証拠能力は否定されない。所論は,
原判示第2事実の捜査経過のうち,
プリペイドカードの情報把
握について,
乙警察署の留置施設内に被告人が身柄拘束中であった当時,
同警
察署長が,
自らに対する捜査関係事項照会により,
被告人の所持品に対する網
羅的な指定に基づく開示及び複写を求める照会を実施し,これに基づいて内容が把握されたものであるところ,
このような方法を許容すれば,
令状を得る
ことなく被告人の所持品に対する網羅的な捜査ができることになってしまうという点に令状主義の精神を没却する違法がある旨主張する。
しかしながら,まず,指摘の捜査関係事項照会において(原審弁4号証),照会する者と照会を受ける者が同一表記になっているのは,その実質は乙警察署の捜査部門が同署の留置管理部門に対して行ったものであるけれども,双方の部門の官署としての警察署の責任者がいずれも乙警察署長であることからそのようになっているのに過ぎず,
その点は,
捜査手続の適法性判断に関
して意味を持たない。そして,捜査関係事項照会(刑訴法197条2項)は,捜査に必要な情報を収集するために公務所又は公私の団体に対して行われる任意捜査であるから,乙警察署の捜査部門が公務所である同署の留置管理部門に対して捜査関係事項照会をすることが許容されない謂れはないし,照会を受けた公務所の側には強制力はないが公法上の報告義務は発生するので,同署の留置管理部門が,適法に管理している被告人の所持品の状況を開示したことにも問題はない。また,照会事項が「被疑者に対する全ての資料(被留置者名簿等)」となっている点も,対象を絞り込む材料に乏しい段階における任意捜査としての公務所に対する照会であることからすれば,違法の誹りを受けるようなものとまでは言えない。
なお,
原判示第2事実の件についても,
被告人に対する通常逮捕状請求
の際の疎明資料の中に,本件GPS捜査によって得られた位置情報を用いた被告人の行動確認の結果を内容とする書類が含まれているが,原判示第1事実の件と同様に,
このときの疎明資料のうち主要なものは,
窃盗被害の発生や
被告人による盗品の処分に関する書類であり,本件GPS捜査によって得られた位置情報を用いた被告人の行動確認の結果を内容とする書類がなくても通常逮捕状が発付されていたものと認められるから,本件GPS捜査の存在によって,原判示第2事実の件の逮捕手続が瑕疵を帯びることはない。エ
「判示第3の事実について」の部分に挙示されている証拠

原判示第3事実の関係で原判決が挙示する証拠のうち,
原審甲75号証の捜
査報告書は,判示第3事実の件の発生前後における被告人の様子を撮影した写真を中核とするもので,
本件GPS捜査の結果直接得られたものか,
本件G
PS捜査の結果を用いるなどして被告人の追尾や探索を実施したことによって得られたものであることが明らかであるから,少なくとも本件GPS捜査の結果得られたところと密接に関連する証拠であることは疑いがなく,違法収集証拠として証拠能力が否定される。
その余の証拠は,
窃盗被害の発生状況
に関するものや被告人の使用している衣服に関するものであり,既に述べた被害申告の経緯や証拠の内容等に照らして,本件GPS捜査との関連性はなく(原判示第3事実の件の通常逮捕状請求に際しての主要な疎明資料が本件GPS捜査によって得られた位置情報を用いた被告人の行動確認の結果を内容とする書類であったことを踏まえて見ても,これらの証拠についての結論は同様である。),証拠能力は否定されない。

「判示第4の事実について」の部分に挙示されている証拠

原判示第4事実の関係で原判決が挙示する証拠のうち,
原審甲78号証の捜
査報告書は,判示第4事実の件の発生に極く密接する前後における被告人の様子を撮影した写真を中核とするもので,本件GPS捜査の結果直接得られたものとして証拠能力を否定される。
また,
この部分に挙示されているその余
の証拠も,本件GPS捜査の結果によって,被害者方敷地に立ち入り,約10分前後の時間を経て,被害者方玄関ドアから外に出たという被告人の行動を警視庁警察官が現認した後,被害者が警視庁警察官からの照会を受けて被害を確認し群馬県警察に届け出たという経緯の上で作成された被害者の供述調書,被害届(訂正願いを含む。),実況見分調書,被害現場の写真撮影報告書であること,
この件の被害者方は空き家であるので,
早晩被害事実が判明する
とは限らず,実際,事件発生後警視庁警察官からの照会があるまでの間に,被害者の家族がこの空き家に立ち入っているが,そのときは被害に気付かなかったことからすると,本件GPS捜査の結果得られたところと密接に関連する証拠でないとは言い切れず,同様に証拠能力は認められない。


訴訟手続の法令違反の主張に関する結論

以上の検討によれば,
原審裁判所の訴訟手続には,
本件GPS捜査との関係
で違法収集証拠として証拠能力を否定すべき証拠を採用して事実認定に用いたとの訴訟手続の法令違反がある。そして,上記第1の2⑵記載のとおり,原判決は,原判示第3及び第4事実の件については,被告人が,各被害者方敷地内に入り,
約10分前後の時間を経て,
各被害者方玄関ドアから外に出た事実
を警察官が現認したことを中核的な理由として,被告人を両事件の犯人であると認めているところ,既に述べたとおり違法収集証拠として証拠能力が否定される証拠を除外すれば,原判決が「証拠の標目」の項に掲げるその他の証拠によっては,
被告人がそのような行動に出たことを認めることはできず,

審記録を精査しても,
他に,
原判決が中核的な理由とする上記事実を認めたり,
別の理由で被告人を両事件の犯人であると認めるに足りる証拠はない。したがって,
原判示第3及び第4事実に関しては,
原審裁判所の上記訴訟手続の法
令違反が判決に影響することは明らかである。
所論は,
その限度で理由がある。
そうすると,原判決は,原判示第3及び第4事実の関係では,事実誤認の点についての判断をするまでもなく破棄事由があるが,
他方において,
原判示第
1及び第2事実の関係については,上記の検討によっても判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反は認められないので,所論の事実誤認の主張について,更に検討する必要がある。
第3事実誤認の主張について(原判示第1及び第2事実関係)
1原判決が説示する有罪と判断した理由の詳細
既に第1の2⑵に摘示したように,
原判決が,
原判示第1及び第2事実につ
き被告人を有罪とした理由の要点(「7結論」部分)は,いずれの件でも,被告人が,各窃盗被害の発生した日時から半日に満たない当日中に,被害品の一部をそれぞれ換金処分している事実が認められるから,それらの処分した被害品の取得経緯につき合理的な説明がつく特段の事情のない限り,被告人が原判示第1及び第2事実の件の犯人であることが強く推認されるところ,上記特段の事情が認められないというものであるが,原判決は,より詳細な説示もしているので,それも見ると,概要,次のとおりである(なお,第2の3⑵アの検討において証拠能力が否定されると判断したGによる足跡の照合に関する部分は除外する。)。


前提となる事実


原判示第1事実について
平成26年9月23日午前9時頃から同日午後2時30分頃までの間
に,
何者かが群馬県館林市内の被害者方に侵入し,
現金約12万円在中の財布
1個及び指輪6個等15点を窃取した。
上記被害の発覚当時(同日午後2時30分頃),被害者方1階北側掃き出し窓のクレセント錠付近のガラスが割られ,同クレセント錠の施錠が外されていたほか,室内が物色されていた。
被告人は,
同日午後3時頃から同日午後5時頃までの間に,
東京都豊島
区内にある有限会社Mにおいて,上記被害品の一部を含む貴金属を売却した。イ
原判示第2事実について
平成26年11月25日午前7時50分頃から同日午後6時50分頃
までの間に,何者かが,群馬県邑楽郡d町内の被害者方に侵入し,通帳7冊等9点在中のポーチ1個及び指輪1個等5点を窃取した。
上記被害の発覚当時(同日午後6時50分頃),被害者方1階南側掃き出し窓のクレセント錠付近のガラスが割られ,同クレセント錠の施錠が外されていたほか,室内が物色されていた。
被告人は,
同日午後6時20分頃,
埼玉県東松山市内にある有限会社P
において,上記被害品の一部である結婚指輪1個を売却した。なお,この点に関し,被告人は,上記当日にPに行ったかどうかは覚えていないが,自身のモバイルゲームのチャットや通話の履歴等からすれば,同日午後6時20分に同店を訪れているはずはない旨述べるものの,同店の買取票及び古物台帳の記載内容やその体裁,被告人が所持していた無記名式プリペイドカードの使用履歴等に照らせば,
上記日時頃に被告人がPを訪れ,
上記被害品である指輪
1個を売却したことが優に認められる。


原判示第1及び第2事実と被告人との結び付き

いずれの事実においても,
被告人が,
窃盗被害が発生してから半日に満たな
い当日中に,各被害現場から離れた場所である各質店で当該窃盗の被害品を換金処分している事実が認められる。
各質店までの移動時間等を含めれば,

犯行により近接した時間帯に被告人が被害品を入手したと認められるところ,処分した被害品が高額の記念硬貨,古い女性物の貴金属(原判示第1事実),結婚指輪(原判示第2事実)等であって,一般人が日常的な取引において取得するものとは考え難いことをも考慮すれば,
上記各事実は,
その取得経緯につ
き合理的な説明がつく特段の事情のない限り,原判示第1及び第2事実の犯人が被告人であることを強く推認させる。


同一犯人による犯行である蓋然性及び被告人との結び付き

原判示第1及び第2事実の犯行では,
各被害者方のガラス窓について,
室外
から見てクレセント錠の右上の位置を中心として,放射状にガラスにひびが入る状態で損壊されていたことが認められ,
その特徴は酷似しており,
同様の
形状の工具等を用いた同種態様による犯行である蓋然性が高いと言え,同一の犯人による犯行であることと整合的であると評価できるが,犯行態様が他の事件にはない特異な特徴を有することまで指摘できるわけではない。しかし,
被告人が原判示第1事実の関係で逮捕された当時,
使用車両内で所持して
いたレスキューハンマーと同種のものを用いて行ったガラスの損壊実験の内容,被告人の住居が各犯行現場と比較的近接していることなども併せて考えれば,
犯人が被告人であることとよく整合するものと言え,
被告人が犯人であ
る蓋然性が相当に高いものと認められる。


被告人の原審公判供述

被告人は,
原判示第1及び第2事実の関係で,
被害品をそうとは知らずに質
店に売ったのは,Jなるイラン人から頼まれたからであったなどと供述するが,本件全証拠によっても,被告人の供述を除けば,Jなる者の存在を窺わせる事実すら全く見当たらず,上記供述の信用性は乏しい。また,被告人の供述を前提とすれば,Jなる者は,被告人に事情を知らせることなく,被害品を入手した当日中に被告人に渡し,直ちに遠方の質店まで行かせて処分させたということになるが,
そのような依頼内容そのものが不自然で迂遠である上,

告人が,
明確な報酬約束もないまま,
不自然な仕事の依頼を繰り返し引き受け
ていたというのも不合理であって,信用できない。
2当審の判断


原判示第1及び第2事実につき被告人を犯人と認めた原判決の判断に
は,論理則,経験則等に反する不合理な誤りがあるとは言い得ない。所論に鑑み,補足して説明する。

所論は,
原判決の判断枠組みは,
推認力の弱い情況証拠によって犯人性

を認定した点で,
情況証拠による犯人性の認定に関して,
最高裁判所平成22
年4月27日第三小法廷判決(刑集64巻3号233頁)が「情況証拠によって認められる間接事実中に,被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するものと言うべきである」旨を判示しているところに違反すると主張する。
しかしながら,この裁判例の上記判示部分の意味合いについて,所論は,情況証拠による事実認定を行う際の絶対的要件であるかのように主張するが,改めて言うまでもなく,現行刑訴法は,事実の認定について,自白の補強法則の場合を除き,
自由心証主義を採用しているのであるから
(刑訴法318条)

上記判示も自由心証主義に抵触するような意味合いの規範を定立しようとする趣旨のものではないと見るのが,最高裁判所の裁判例の理解として相当であるし,そもそも,各事件の証拠構造や,各間接事実が要証事実との関係で有する推認力が様々であることからすれば,
上記判示が,
情況証拠により事実認
定を行う全ての事件に絶対的に妥当する要件になるとすることには無理がある。
情況証拠による事実認定の結論の当否が,
当該事件において認められる間
接事実の推認力の評価が適切であるかどうかにかかっていることは裁判実務上自明のことであり,
上記裁判例は,
情況証拠による事実認定を行う際の総合
評価に当たって注意すべき点を当該事例に即して指摘したものと理解するのが適切であって,まず,この点において,当裁判所は所論と見解を異にする。また,本件は,上記裁判例の事案とは異なり,後記のとおり,被告人が犯人であることを相当強く推認させる間接事実があり,その推認を合理的に揺るがす事情が窺えないという事案なのであるから,
「被告人が犯人でないとした
ならば合理的に説明することができない
(あるいは,
少なくとも説明が極めて
困難である)
事実関係が含まれていることを要する」
とする上記裁判例の判示
が注意喚起している趣旨を実質的に満たしていると考えられるのであって,その意味でも所論は採用できない。

次に,所論は,原判決の説示の中の「他に合理的な説明がつく特段の事
情のない限り犯人であることが推認される」旨の部分について,「原則有罪,例外無罪」とするもので無罪推定の原則に反すると指摘する。しかし,原判決のこの表現は,既に一定の間接事実によって要証事実が相当強く推認される状況になっていることを前提に,
そのような場合は,
それを揺るがせ合理的疑
いを差し挟ませるような事情がなければその推認どおりの事実が認定されることになるという情況証拠による事実認定の総合評価段階における当然のことを述べたものにすぎず,
挙証責任を転換するものでも,
無罪推定原則に反す
るものでもない。
ウ更に,所論は,本件では,事件発生時点から被告人による被害品の処分時まで,
原判示第1事実では最大8時間,
原判示第2事実では最大10時間3
0分の時間的間隔があり,いわゆる近接所持の法理が妥当しないと主張する。本件では,
被害者側の供述等によって認定可能な犯行時刻には幅があり,
また,
原判示第1事実関係では,質店で被告人が被害品を売却処分した時刻として認定できる点にも幅があるから,事件発生時点から被告人による被害品の売却処分までの時間的間隔が,
最長の場合,
所論指摘のとおりになるのはそのと
おりである(なお,原判決は,上記第3の1⑵記載のとおり,「各質店までの
移動時間等を含めれば,各犯行により近接した時間帯に被告人が被害品を入手したと認められる」
旨述べているが,
被告人の被害品の入手と各質店への移
動との前後関係を確実に認めるに足りる証拠はないのであるから,最大で所論指摘の時間的間隔があることを前提に,犯人性に関する間接事実の推認力を検討すべきである。)。
しかしながら,所論に言うところの「近接所持の法理」とは,窃盗被害発生から時間的場所的に近接した時点においてその窃盗の被害品を所持していた者が窃盗犯人として推認されるという経験則を指していると解されるが,時間的間隔や場所的間隔は,
重要ではあっても判断要素の一つなのであって,

は,窃盗被害品所持の状況がその所持者が窃盗の犯人であることをどの程度強く推認させるかということに尽きるのであるところ,
関係証拠に基づき,

件における上記の被告人による被害品の処分事実の犯人性の推認力を検討すると(この段階では,被告人の弁解内容を措いて,一般的に検討する。),いずれも事件発生時点から半日も経過しない事件当日の売却処分であり,かつ,いずれの事件でも,
被害者方は群馬県内であるのに,
売却処分先の質店は東京
都内(原判示第1事実)や埼玉県内(原判示第2事実)にあり,移動自体に相応の時間を要するところ,上記の時間的間隔はその移動時間をも含んだものであること,処分した被害品が高額の記念硬貨,古い女性物の貴金属(原判示第1事実),結婚指輪(原判示第2事実)等という特徴のある中古の特定物であって,
物品の性質上,
一般人が日常的な取引において取得するものとは考え
難く,
更に,
移動時間を含んだ最大8時間とか10時間半の間に日常的な取引
において取得することは一層考え難くいし,拾得するなどとも考え難いこと,一般に物品が複数の者の間を移動したとすれば連絡等に相応の時間を要すると考えられるところ,上記の時間の範囲内にそのようなことを行うことができる可能性や,上記の物品の性質からすれば,出所を怪しまれかねない以上,偶然出会った見知らぬ者との間で受け渡しが行われるとは容易には考えられないこと等の点も併せて判断すれば,原判示第1及び第2事実の件における上記の被告人による被害品の売却処分の事実を,被告人が両事件の犯人であることを相当強く推認させるものであると評価したものと解される原判決の判断が,
論理則,
経験則等に反する不合理な誤りであるとは言い得ない
(なお,
売却処分したのが処分品の一部であることは,この推認に影響しない。)。エ
また,所論は,被告人の原審公判供述は信用できるから,原判決の言う
ところの「他に合理的な説明のつく特段の事情」があるとも主張するが,被告人の原審公判供述の信用性を排斥した原判決の説示は正当であって,当審としても是認できる。原判示第1及び第2事実の件に関する被害品の入手経緯に関する被告人の原審公判における弁解は,
かねて,
古物を扱っていたJなる
知人から不定期に貴金属の売却を依頼されてこれに応じて報酬を得ており,売却処分した原判示第1及び第2事実の被害品も,このJなる者から入手したという概要のものであって,この者との関係や事件当時頃のやり取りについて一応の説明を行ってはいるが,この者との具体的な連絡方法や実際のやり取り,被害品を入手した状況及び依頼された換金に関する具体的な報酬等については,
被告人の供述以外には裏付けがなく,
原判決の指摘する不自然さ,
不合理さを解明できないものである。この点,所論は,捜査機関が,被告人の上記弁解の裏付けを意図的に行わなかったことを種々指摘するが,被告人の原審における供述内容等を踏まえても,上記各犯行当日の被告人の携帯電話の架電状況や質物初取引カード(原審甲13号証添付資料2)及び買取票(原審甲64号証)の各記載内容をはじめ,原審記録中に,被告人以外の第三者の介入を窺わせる点は全く見当たらない。
被告人は,
Jなる者との連絡について
は,
自らの通常使用していた携帯電話機ではなく,
この者から渡されていた別
の携帯電話機があった旨述べているが,その携帯電話機の存在を窺わせる事情も原審記録上全く見当たらない。各被害品の入手経路に関する被告人の原審公判供述の内容は信用できない。そして,原審記録を精査しても,他に上記特段の事情の存在を窺わせる点はなく,上記特段の事情がないとした原判決の判断に不合理な誤りはない。

なお,
付言するに,
原判決は,
上記第3の1⑶記載のとおり,
被告人が,

原判示第1事実の件の関係で逮捕された当時,使用車両内で所持していたレスキューハンマーと同種のものを用いて行ったガラスの損壊実験の内容を,被告人が原判示第1及び第2事実の犯人であることと整合する事実として挙げているが,その根拠となる実験結果捜査報告書(原審甲23号証)は,原判示第1事実の関係でのみの証拠であるから,立証趣旨の拡張等の手続を採ることなく,
原判示第2事実の認定を支える点とするのは誤りであるが,
もとも
とその点は犯人性に対して格別の推認力を有するまでの事情ではないから,判決に影響しない。
また,
原判決が証拠の標目中に挙示する本件各犯行の遺留
足跡の照合結果は,
原判示第1及び第2事実の犯人性に関しては,
格別の推認
力を有さない証拠である。


事実誤認の主張についての結論

そうすると,
原判示第1及び第2事実に関して,
原判決には所論指摘の事実
誤認はない。
第4破棄自判
1
以上のとおり,原判決には,原判示第3及び第4事実の関係について,
判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反の破棄事由があるところ,原判示第1及び第2事実の関係では判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反も事実誤認も認められないが,
原判決は,
本件各事件が
刑法45条前段の併合罪関係にあるとして1個の主刑を科しているから,結局,その全部について破棄を免れない。
2
そこで,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,本件に
おいては,当審において行った事実の取調べの内容やこれまでの訴訟経過等に鑑みると,今後更に適切な証拠を発見して取り調べることができる現実的な可能性は見込まれないから,
同法400条ただし書を適用して,
被告事件に
ついて,更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
第1事実上記第1の2⑴中の①と同一である。第2事実上記第1の2⑴中の②と同一である。(証拠の標目)
上記当審認定第1事実について
原判決が「証拠の標目」の項に「判示第1の事実について」として挙示するところと同一である。
上記当審認定第2事実について
原判決が「証拠の標目」の項に「判示第2の事実について」として挙示するところと同一である。
(累犯前科)
原判決の「累犯前科」の項と同一である。
(法令の適用)
被告人の当審認定第1及び第2事実の各所為のうち,各住居侵入の点はいずれも刑法130条前段に,各窃盗の点はいずれも同法235条に該当するところ,各住居侵入と各窃盗との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,
10条により,
いずれも重い窃盗罪の刑でそれぞれ処断
することとし,
各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,
被告人には前記の前科が
あるので,同法56条1項,57条により,各罪の刑につきそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い当審認定第1事実の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中250日をその刑に算入し,当審及び原審の訴訟費用については,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の理由)
本件は,
被告人による民家に対する2件の侵入窃盗事案であるところ,
その
態様は,留守を見計らい,窓ガラスを割って施錠を外し,記念硬貨や貴金属等の金品を窃取するといった大胆で手慣れたものであるし,被害の総額は金品を併せて160万円を超える多額に上っていて,
その被害結果は大きい。
被害
品の一部が発見されて被害者らに還付されたことが窺われるものの,被告人は犯人性を争っており,
被害弁償はなされていない。
被告人に前記の累犯前科
があることを併せ見れば,その規範意識に欠ける点があると見る外ないところでもある。そうすると,被告人の刑事責任は相応に重く,懲役2年6月の刑に処するのが相当である。
(一部無罪の理由)
本件公訴事実中,平成27年3月3日付け追起訴状記載の公訴事実の要旨は上記第1の2⑴③と同一であり,同年同月24日付け起訴状記載の公訴事実の要旨は上記第1の2⑴④と同一であるところ,これらの公訴事実については,
いずれも,
取調べ済みの関係各証拠のうち違法収集証拠として証拠能力
が否定される証拠を除いたものによっては,被告人の犯行であることを認めることができず,犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
3
よって,主文のとおり判決する。
平成30年3月28日
東京高等裁判所第12刑事部

裁判長裁判官

合田
裁判官

竹下
裁判官

青木悦三雄美佳
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