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債務不存在確認本訴請求、特許権侵害差止等反訴請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10095
事件名債務不存在確認本訴請求,特許権侵害差止等反訴請求控訴事件
裁判年月日平成30年4月26日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)41326
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平成30年4月26日判決言渡
平成29年(ネ)第10095号

債務不存在確認本訴請求,特許権侵害差止等反訴

請求控訴事件(原審:東京地方裁判所・平成28年(ワ)第41326号,平成29年(ワ)第6491号)
口頭弁論終結日

平成30年2月22日
判決
控訴人(1審本訴被告・反訴原告)
株式会社北里バイオファルマ訴訟承継人
株式会社北里コーポレーション

同訴訟代理人弁護士

三木
浩太郎

同訴訟代理人弁理士

向山正一村山信義
被控訴人(1審本訴原告・反訴被告)
三菱製紙株式会社

同訴訟代理人弁護士

倉禎男富岡英次山本飛翔山崎一夫服
同補佐人弁理士

熊部博信主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決主文第2項及び第3項を取り消す。

2
被控訴人は,原判決別紙原告製品目録記載1ないし5の各製品を製造し,譲渡し,譲渡の申出をしてはならない。

3
被控訴人は,原判決別紙原告製品目録記載1ないし5の各製品及び各半製品(原判決別紙原告製品説明書(被告)記載の構成a,構成b-1,構成c及び構成dの構造を備えているが,製品として完成するに至っていないもの)を廃棄せよ。

4
訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。

第2

事案の概要(略語は特に断らない限り原判決の例による。)

1
事案の要旨
(1)本件は,次の本訴請求及び反訴請求からなる事案である。

本訴請求
被控訴人が,発明の名称を「卵凍結保存用具および筒状部材保持器具」とする特許第4373025号の特許権(本件特許権1)及び発明の名称を「卵凍結保存用具」とする特許第4324181号の特許権(本件特許権2)をそれぞれ有する控訴人に対し,被控訴人の原判決別紙原告製品目録記載1ないし5の各製品(原告製品)のうち,原判決別紙原告製品説明書(原告)記載の構成を有する各製品の生産,譲渡,貸渡し,輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)は,いずれも控訴人の本件特許権1及び同2(本件各特許権)
を侵害しないと主張して,控訴人が被控訴人の上記各行為(譲渡・輸出入等)について本件各特許権に基づく差止請求権を有していないことの確認を求める請求。

反訴請求
控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人は,原告製品の製造,譲渡及び譲渡の申出をするおそれがあるところ,
被控訴人の上記各行為
(譲渡等)
は,
いずれも本件各特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項,2項に基づき,原告製品の譲渡等の差止めを求めるとともに,原告製品及びその半製品
(原判決別紙原告製品説明書
(被告)
記載の構成a,
構成b-1,
構成c及び構成dの構造を備えているが,製品として完成するに至っていないもの)の廃棄を求める請求。

(2)原判決は,原告製品は本件各発明の技術的範囲に属するとはいえないし,原告製品の譲渡等は間接侵害を構成するともいえないとして,控訴人の反訴請求をいずれも棄却するとともに,被控訴人の本訴請求に係る各訴えは確認の利益がなく不適法であるとして,いずれも却下した。
そこで,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
2
前提事実
原判決6頁20行目及び23行目の「被告」を,いずれも「株式会社北里バイオファルマ」と改めるほかは,原判決「事実及び理由」「第2
等」「2

事案の概要

前提事実」(3頁17行目から7頁9行目まで)に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
3
争点及びこれに対する当事者の主張
原判決8頁5行目の「行われおり」を「行われており」と改め,後記4のとおり,当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理
由」「第2

事案の概要等」「3

争点」及び「第3

争点に対する当事者の

主張」(7頁10行目から9頁24行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4
当審における当事者の補充主張
(1)争点1(原告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について【控訴人の主張】

主張摘示の誤り
原判決は,原審における控訴人の主張として,「他方で,原告製品のPTFEフィルムは,PET支持体の上面に付加されたものにすぎないか,本件各発明を利用するものであるから,本件各発明の『卵付着保持用ストリップ』に当たらない。」と摘示しているが,控訴人は,原告製品のPTFEフィルムが本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に当たらないとは主張していない。


原告製品における「卵載置部」に係る構成の認定の誤り
原判決は,原告製品における「卵載置部」又は「卵を付着保持する際に用いられる」部分は,「PET支持体とPTFEフィルムが一体となった構成」であると認定する一方,他の箇所では,原告製品の「卵載置部」は「PET支持体と接着されていない構成」であると,互いに異なる認定をしている。
この点,原告製品において卵を付着保持することが予定されている「卵載置部」は,黒色最先端部と後端接着部との間の区域に限定されているところ,当該「卵載置部」は,PET支持体とPTFEフィルムが接着されていない,すなわち,PET支持体上にPTFEフィルムが「空隙を介して載っている」にすぎず,PTFEフィルムがPET支持体と接着その他
の方法により「取り付けられて一体となっている」ものではない。したがって,
本件各発明の構成要件と対比すべき原告製品の
「卵載置部」
は,「PET支持体及びPET支持体の上に空隙を介して重ね置いたPTFEフィルムから構成されるもの」と認定されるべきであり,「PET支持体とPTFEフィルムが一体となった構成」であるとした原判決の認定は誤りである。

原告製品の技術的意義の認定の誤り
原判決は,被控訴人が特許権を有する特許第6124845号の明細書(甲15)の記載を引用し,原告製品の技術的意義は,「ガラス化液吸収体が細胞又は組織の外周に付着した余分なガラス化液を吸収することから,余分なガラス化液を除去するための操作…を特に必要とせず,容易にかつ確実に操作を行うことができる」点にあると認定した。
しかし,当該特許の特許請求の範囲及び明細書の記載を参酌すれば,原告製品は,「余分なガラス化液を吸収し,余分なガラス化液を除くためのその他の操作を特に必要としない」という効果だけではなく,ガラス化液が「多孔性樹脂シート」等に吸収されることによって,ガラス化液が当該シートの気孔内部に充填され,ガラス化液吸収体の透明性が上昇し,細胞又は組織を視認することができるという効果も奏するものであることが明らかである。原告製品の技術的意義が,多孔性シートによる「余分なガラス化液の吸収」と「ガラス化液吸収による視認性の向上」の2点にあることは,
被控訴人が有する他の特許権に係る特許第6013969号公報
(甲
6)
及び特許第6022602号公報
(甲7)
にも明確に記載されている。
これらの記載から,原告製品は,①

多孔性のPTFEフィルムを用い

ることによって,卵の付着保持作業を行う際に滴下された余分なガラス化
液を除くためのその他の操作を特に必要としない,②
ガラス化液を吸収

したときにその気孔内にガラス化液が充填して透明性が上昇する多孔性のPTFEフィルムと,光透過性のある支持体とによって,付着保持される卵の視認性を高め,顕微鏡下における卵付着保持作業を容易かつ精度よく効率的に行うことができる,という2つの技術的意義ないし作用効果を有するものであると理解できる。そして,原告製品が,上記②の技術的意義ないし作用効果を有するものであることは,卵凍結保存用治具の性質上,当然の事理である。
これらのうち,
原告製品が有する上記②の技術的意義ないし作用効果は,本件各発明のそれと同じであるから,原告製品と本件各発明とは技術思想を異にするものではない。しかし,原判決は,原告製品が上記②の技術的意義を有することについて何ら判断しておらず,原告製品の技術的意義を明らかに誤認したものである。

「透明性」及び「無色透明」の充足性の判断の誤り
(ア)

原判決は,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」が「透明」又
は「無色透明」である構成は,卵付着作業,すなわち,顕微鏡下において,ガラス化液を浸漬した細胞又は組織をガラス化液と共に「卵付着保持用ストリップ」上に滴下して付着させる作業を容易にするためのものであるから,「顕微鏡下において,ガラス化液を浸漬した細胞又は組織をガラス化液と共に『卵付着保持用ストリップ』上に滴下して付着させる」時に,「卵付着保持用ストリップ」が「透明」又は「無色透明」な状態であることが,本件各発明の技術的特徴であると認定した。
したがって,原告製品が本件各発明の上記技術的特徴を備えるものであるか否かを判断するためには,「顕微鏡下において,ガラス化液に浸
漬された細胞又は組織をガラス化液と共に『卵付着保持用ストリップ』上に滴下して付着させる」時に,より厳密にいえば,「細胞又は組織が浸漬されたガラス化液が原告製品の『卵載置部』であるPTFEフィルムに吸収された時に」,当該PTFEフィルムが卵付着作業を容易にする程度に「透明」又は「無色透明」な状態にあるか否かを判断しなければならない。
しかし,原判決は,「ガラス化液を浸漬した細胞又は組織をガラス化液と共に『卵付着保持用ストリップ』上に滴下して付着させる」前は,PTFEフィルムは「透明」でも「無色透明」でもない,「ガラス化液を浸漬した細胞又は組織をガラス化液と共に
『卵付着保持用ストリップ』
上に滴下して付着させる」作業が終わった後には,PTFEフィルムの「透明性が高まった」と認定したにとどまり,「ガラス化液に浸漬された細胞又は組織をガラス化液と共に『卵付着保持用ストリップ』上に滴下して付着させる時に」,当該PTFEフィルムが卵付着作業を容易にする程度に「透明」又は「無色透明」な状態にあるか否かを判断していない。すなわち,原判決は,法的評価をすべき事実の選択,ひいては法的評価を誤っている。
さらに,原告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否かを判断するためには,「透明性」が高まったPTFEフィルムが顕微鏡下における卵付着作業を容易にするものであるか否かについても判断しなければならないところ,原判決はこの点についての判断をしておらず,判断の遺漏があることは明らかである。
(イ)

また,原判決は,原告製品は,その卵載置部の白色度を高めること
によって,顕微鏡下における卵子又は胚の確認が容易となるものである
と判断した。
この点につき,卵付着保持作業においては,専ら透過型顕微鏡を用いるのが一般的であって,落射型顕微鏡は用いないのが当業者間における技術常識である。そして,PTFEフィルムが光透過性のないものである場合,透過光照射を用いると,当該フィルムの白色度の高低にかかわらず,当該フィルムは常に「黒色の影」として映るから,そのままでは卵付着保持作業を行うことができない。これに対し,PTFEフィルム上にガラス化液に浸漬された卵又は胚を載置した時には,当該フィルムがガラス化液を吸収して透明化し,これによって初めて確実かつ容易に卵付着保持作業を行う事ができるに至るのである。
すなわち,PTFEフィルムの白色度を高めることと,透過型顕微鏡下における卵又は胚の視認性とが無関係であることは,技術常識に属する事項である。
したがって,この点についての原判決の認定には,明らかに技術常識に反する事実誤認があり,ひいては,原告製品についての法的評価を誤ったものである。

原告製品において,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」として機能する部分の認定誤り
原判決は,原告製品について,卵を付着保持する際に使用することが予定されているのは,PET支持体の上面に取り付けられたPTFEフィルムであるから,当該フィルムを含めた形で原告製品の構成を特定するのが相当であると判断した。
しかし,原告製品において,PTFEフィルムを有する部分の長さとPET支持体が露出する部分の長さの間にはさほど差異がなく,使用者は両
部分が存在することを容易に認識する。そして,卵付着保持作業の際,使用者が用いる顕微鏡には,PTFEフィルムが黒色の影となっている部分と,PET支持体のみの透明な部分とが映し出される。この時,卵又は胚を,顕微鏡下において映し出されるPTFEフィルムの黒色部分,又はPET支持体のみの透明部分のどちらに載置するかは,卵載置操作者がその場で判断する事柄であるところ,原告製品の使用者が「常に」PTFEフィルム上にのみ卵又は胚を載置し,より視認性の良いPET支持体上には載置しない,という経験則は存在しない。
したがって,原告製品において,PTFEフィルムの取り付けられた部分だけではなく,PET支持体全体が「卵付着保持用ストリップ」として機能し,使用できることは明らかである。
よって,この点についての原判決の判断は,当業者の技術常識ないし一般的な卵付着保持作業の内容に反する誤ったものである。
【被控訴人の主張】

主張摘示の誤りについて
控訴人は,原審において,後記イのとおり,第一次的に,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に該当する構成は,原告製品においては「PET支持体」のみであると主張し,第二次的に,原告製品の「PET支持体」と「多孔性のPTFEフィルム」が一体として本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」を構成すると解した場合であっても,本件各発明の構成要件を充足すると主張していたのであるから,原判決の主張摘示に誤りはない。


原告製品における「卵載置部」に係る構成の認定の誤りについて
本件においては,
原告製品が,
本件各発明の
「卵付着保持用ストリップ」

の「透明性」及び「無色透明」との構成要件を充足するか否かが具体的な争点である。そして,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に該当するものが,原告製品においては何であるのかによって,
「透明性」又は「無
色透明」という構成を備えているかどうかを判断する対象が異なり得る。控訴人は,この点について,


原告製品の「PET支持体」が本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に該当し,この「PET支持体」が本件各発明の「透明性」又は「無色透明」の要件を充足するもので,「PET支持体」の上にある「多孔性PTFEフィルム」は,付加又は利用にすぎない,



仮に「PET支持体」と「多孔性PTFEフィルム」とが一体として本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」を構成すると解した場合であっても,この一体となった構成は「透明性」又は「無色透明」の要件を充足する,

と二段階の主張をしている。
原判決は,この控訴人の主張を踏まえ,本件各発明における「卵付着保持用ストリップ」の意義に加え,原告製品の具体的構成,使用方法,その構成を採用した目的,効果を詳細に認定した上で,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」と対比すべき原告製品における構成は,PET支持体とPTFEフィルムが一体となった構成であると特定したものであって,誤りはない。

原告製品の技術的意義の認定の誤りについて
原判決が参照した原告発明に係る特許第6124845号の明細書(甲15)の【発明が解決しようとする課題】の項には,「細胞又は組織をガラス化液に浸漬し,細胞又は組織をガラス化液と共に該ガラス化凍結保存
用治具に載置する際に,余分なガラス化液を吸収するための優れた吸収性能を備えたガラス化凍結保存用治具を提供することを第一の課題とする。」
との記載に続き,「また,前記したガラス化液の優れた吸収性能に加え,更にガラス化液と共に該ガラス化凍結保存用治具に載置された細胞又は組織を透過型の顕微鏡で観察することができる,優れた視認性を有するガラス化凍結保存用治具を提供することを第二の課題とする。」と記載されている。
もっとも,当該【発明が解決しようとする課題】の項には,47行中43行にわたって第一の課題に関する従来技術の問題点及び技術的課題が記載されているのに対し,第二の課題についての記載は47行のうちの最後4行にすぎず,また,「第二の課題」に対応する従来技術における問題点も特に記載されていないから,原告発明の主要な技術的課題は第一の課題にあり,第二の課題は付随的なものといえる。
そして,原判決は,この第一の課題に着目し,同様の構成を採用している原告製品の技術的意義を認定したものである。なお,原判決は,原告製品が上記第二の課題を有していないと認定しているわけではない。また,原告発明に付随的な当該第二の課題を解決するという技術的意義があるとしても,原告製品において,上記第一の課題を解決するという技術的意義が失われるものではない。
したがって,
原判決における原告製品の技術的意義の認定に誤りはない。

「透明性」及び「無色透明」の充足性の判断の誤りについて
(ア)

原判決は,本件各発明にあっては,少なくとも,その使用者におい
て,卵付着作業を行う際には,卵付着保持用ストリップが透明又は無色透明な状態であることが求められているものと解される,と判示した。
そして,この判示部分までの説示に鑑みれば,上記の「少なくとも…卵付着作業を行う際には」とは「遅くとも,ガラス化液を浸漬した細胞又は組織をガラス化液と共に『卵付着保持用ストリップ』上に滴下して付着させる作業を開始する際には」という意義であると解されるのであって,控訴人が主張するように,滴下が済んだ後の付着作業に限定される訳ではない。
なお,
本件明細書1及び同2には,
卵付着作業を容易にするために
「可
撓性かつ無色透明で平坦フィルム状」のストリップを用いるという技術的思想が示されているところ,細胞やガラス化液をストリップに滴下するという重要な作業が,上記「卵付着作業」に含まれないと解することは不可能である。これに対し,本件各明細書には,本件各発明が,細胞やガラス化液をストリップに滴下した後に初めて当該ストリップが「透明」又は「無色透明」となり,滴下後の作業が容易となるというような構成までも含んでいるという記載も,これを示唆する記載も一切ない。したがって,控訴人の主張は,原判決がしていない認定,判断を前提とするものであって,失当である。
(イ)控訴人は,
PTFEフィルムの白色度を高めることと,
透過型顕微鏡
下における卵子又は胚の視認性とは無関係であるとして,原判決が,原告製品は,その卵載置部の白色度を高めることによって,顕微鏡下における卵子又は胚の確認が容易となるものであると判断している点に誤りがあると主張する。
しかし,
原判決は,
原告製品は,
ストリップの卵載置部を
「無色透明」
とするのではなく,「白色多孔性構造」とすることによって,ガラス化液吸収後の視認性を向上させ,卵子又は胚の確認を容易にしようとした
ものであると判示しているのであって,ガラス化液吸収前のPTFEフィルムについて,白色度を高くすることによって視認性が高まる,というようなことは全く述べていないし,原判決が引用する甲6にもそのような記載はない。
ここで,本件各発明を実施するストリップと原告製品のガラス化液滴下までの作業性について比較する。
本件各発明を実施するストリップは,
無色透明な部材で構成されていることから,ガラス化液滴下前から滴下する時点にかけての当該ストリップの卵載置部付近の視認状況は,多孔性PTFEフィルムを使用した原告製品のそれよりも良好である。これに対し,原告製品においては,白色かつ多孔性を有するPTFEフィルムを採用していることにより,顕微鏡へのストリップの取付けといった直接目視して行う作業等を容易にすることができる。他方,顕微鏡下での作業についてみると,原告製品は,透明な部材を使用しているストリップよりも卵載置部付近の明度が低くなるため,ガラス化液を滴下するピペットの先端の位置等を確認することは可能であるものの,ガラス化液が多孔性フィルムに吸収されるまでの間は,胚の状態などを確認することができない。
このように,原告製品は,上記の時点における細部の視認性等を犠牲にしても,余分なガラス化液をピペット等で取り除くという困難な作業を省くことに成功したものであって,本件各発明と原告製品の技術的思想は根本的に異なる。

原告製品において,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」として機能する部分の認定について
原告製品を顕微鏡下に置いた場合,
ガラス化液を滴下する前であっても,

卵載置部及び載置部に近づけた透明なマイクロピペットの先端部を視認できる。
原告製品の開発中に作成されたパンフレットには,製品を示す写真及び図中において,「胚を載せる部分」として先端の黒色部分と黒色線との間のPTFEフィルム部分が指定され,その拡大断面図には,ガラス化液の付着した胚が,「吸収層(白色不透明)」と示された層の上に載置された状態が記載されている。しかも,この製品の「特長」は,「デバイスが余分なガラス化液を自動的に吸収します(デバイス上からガラス化液を除く操作は不要)」であると強調されている。当然ながら,原告製品が商品化される際には,取扱説明書に,載置部分の特定及び同部分への載置操作方法,
並びにそれらによる効果が記載されることになる。
このような状況で,
原告製品の使用者が,原告製品の最も特長的な効果や,取扱説明書に記載された載置場所の指定を無視して,PTFEフィルムが設けられていない操作が難しい場所に卵を載置し,手作業でガラス化液を取り除く作業をする,という極めて不自然なことを行うと想定することは不可能である。控訴人の主張は,常識に反する異様な使用方法を根拠とするもので,失当である。
(2)争点2(原告製品の譲渡等は本件各特許権の間接侵害を構成するか)について
【控訴人の主張】
上記(1)ウにおいて主張したとおり,原告製品は,「透明なPET支持体」と「ガラス化液を吸収することにより透明性が上昇するPTFEフィルム」からなる構成を採用することにより,顕微鏡下において付着保持される卵の視認性を高めると共に,PTFEフィルムによって余分なガラス化液を吸収
して,
卵付着保持作業を容易かつ確実に行うことを可能にするものであって,卵付着作業を容易にするために「透明」又は「無色透明」な「卵付着保持用ストリップ」を採用した本件各発明と同じ技術思想に基づくものである。そして,原告製品においては,顕微鏡下において,ガラス化液に浸漬された細胞又は組織をガラス化液と共に「卵付着保持用ストリップ」上に滴下して付着させる時に,PTFEフィルムがガラス化液を吸収し,その透明性が上昇するものであるから,
原告製品を通常の用法に従って使用するときには,
当該フィルムは,常に,卵付着保持作業を容易かつ確実に行うことができるという本件各発明の目的を達し得る程度に「透明」となるものといえる。したがって,このような原告製品を製造及び販売することは,本件各特許権の間接侵害と実質的に評価できる。
【被控訴人の主張】
原告製品のPTFEフィルムは,卵付着作業における最初の重要な作業であるガラス化液を滴下する際には,「透明」又は「無色透明」の状態でも,「透明性が上昇した」状態でもない。すなわち,細胞や組織を含有したガラス化液をストリップに滴下するという原告製品の通常の使用方法によっては,この滴下作業を含む卵付着作業を容易にするストリップの透明化又は無色透明化を実現することができない。
なお,原判決は,ガラス化液を滴下してPTFEフィルムの多孔質体がこれを吸収して,顕微鏡下における胚等の視認性を確保できるようになることを,「透明性が上昇した」と表現しているが,いずれにしても,ガラス化液の滴下前にそのような状態となることはなく,また,この「透明性が上昇した」状態となったことを利用して,一度卵付着作業に使用したPTFEフィルムを再利用することは予定されていない。

したがって,いかなる意味においても,原告製品の通常の使用によって,本件各発明の全ての構成要件を充足するものが「生産」されることはない。第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,原告製品は本件各発明の技術的範囲に属するといえないし,原告製品の譲渡等が本件各特許権の間接侵害を構成するともいえないから,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,後記(1)から(4)のとおり改め,後記2のとおり当審における判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」「第4

当裁判所の判断」1な

いし3(原判決9頁26行目から17頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決12頁13行目の「構成1-1b」を「構成1b」と改める。(2)原判決15頁17行目冒頭から16頁4行目末尾までを削除する。(3)原判決16頁5行目の「(エ)」を「(ウ)」と改める。
(4)原判決16頁23行目冒頭から24行目の「であり,」までを削除する。2
当審における当事者の補充主張について
当審における当事者の補充主張に鑑み,必要な限度で判断を加える。(1)争点1(原告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)についてア
原告製品における「卵載置部」に係る構成の認定の誤りについて
(ア)控訴人は,原告製品の「卵載置部」は「PET支持体とPTFEフィルムが一体となった構成」
であるとした原判決の認定に誤りがあるとか,
「卵載置部」に係る構成に関し,原判決は説示の中で互いに異なる認定をしていると主張する。
この点につき,控訴人は,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に対応する原告製品の構成について,次のように主張している。



原告製品の「PET支持体」が本件各発明の「卵付着保持用スト
リップ」に該当し,この「PET支持体」が本件各発明の「透明性」又は「無色透明」の要件を充足するもので,「PET支持体」の上面にある「多孔性PTFEフィルム」は,「PET支持体」に付加されたものか,又はこれを利用するものにすぎない(原審反訴状18頁2行目から19頁10行目まで参照)。



仮に原告製品の「PET支持体」と「多孔性PTFEフィルム」
とが一体として本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に該当すると解した場合であっても,「透明性」又は「無色透明」の要件を充足する
(原審反訴状19頁11行目から20頁6行目まで参照)


そして,原判決は,控訴人の上記主張を踏まえ,「卵付着保持用ストリップ」の語が通常有する意味と,原告製品の製品案内中の卵を付着保持する際に用いられる部分に関する記載に基づいて,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に対応する原告製品の構成は,PET支持体とPTFEフィルムとが一体となった構成,すなわちPET支持体の上面に取り付けられたPTFEフィルムを含めた形で原告製品の構成を特定するのが相当であるとした上で,PET支持体にPTFEフィルムが取り付けられている具体的な態様に関し,卵載置部においてはPTFEフィルムがPET支持体と接着されていない構成を有していると認定していることが明らかであるし,その認定に誤りはない。
したがって,原告製品における「卵載置部」の構成につき,原判決の認定に誤りがあるとはいえないし,説示中の認定が相互に矛盾しているともいえない。
(イ)なお,
この点に関連して,
控訴人は原判決の主張摘示が誤っていると

主張するが,原審における控訴人の主張は上記(ア)①及び②のとおりであるから,原判決の主張摘示に誤りがあるとはいえない。
(ウ)したがって,控訴人の上記各主張は採用することができない。イ
原告製品において,本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」として機能する部分の認定の誤りについて
控訴人は,原告製品においては,PTFEフィルムの取り付けられた部分だけでなく,PET支持体の全体が「卵付着保持用ストリップ」として機能し,使用できることは明らかであると主張する。
しかし,証拠(甲15,17)によれば,PET支持体上にガラス化液吸収体であるPTFEフィルムを有し,その間に接着層が存在しない部分を有するという原告製品の構成は,ガラス化液吸収体が,滴下した細胞又は組織の外周に付着した余分なガラス化液を吸収することから,余分なガラス化液を除去するための操作を特に必要とせず,容易にかつ確実に操作を行うことができるという技術的意義を有するものとして採用された構成であると認められる。さらに,開発中の原告製品に係るパンフレットにおいても,この製品の特長として「デバイスが余分なガラス化液を自動的に吸収します(デバイス上からガラス化液を除く操作は不要)」旨が掲記されている(甲5の2)ことからすると,原告製品の使用者が,ガラス化液に浸漬した細胞又は組織を,ガラス化液を吸収するPTFEフィルム上ではなく,敢えてガラス化液を吸収しないPET支持体の露出部分(PTFEフィルムが取り付けられていない部分)に滴下することは,通常の使用方法として想定し得ないというべきである。
したがって,
原告製品が本件各発明の
「卵付着保持用ストリップ」「透

明性」及び「無色透明」を充足するか否かを検討するに当たっては,原告
製品における本件各発明の
「卵付着保持用ストリップ」
に対応する構成は,
PET支持体の上面にPTFEフィルムが取り付けられた部分であるとして検討すれば足りるというべきであり,この点についての控訴人の主張は採用することができない。

「透明性」及び「無色透明」の充足性の判断の誤りについて
卵付着作業には,顕微鏡下での作業に限定しても,①
ガラス化液に浸

漬した細胞又は組織を吸引したピペット等の先端と,卵付着保持用ストリップの卵載置部との位置を合わせ,②

ガラス化液とともに細胞又は組織

を卵付着保持用ストリップ上に滴下し,③

実際に細胞又は組織が載置さ

れていることを確認するという工程が含まれているところ,本件明細書1及び同2には,卵付着作業の一連の工程のうち,どの時点で「卵付着保持用ストリップ」が「透明」又は「無色透明」な状態でなければならないのかについて具体的な記載がない。しかし,本件各発明においては,卵付着作業を容易にするために,無色透明なストリップが用いられているのであるから(甲2,4,乙2,4),「卵付着保持用ストリップ」は,使用者が卵付着作業(顕微鏡下で行われる工程を含む。)を行う際に「透明」又は「無色透明」な状態であることが必要であると解される。そして,上記において説示した卵付着作業の工程に照らすと,本件各発明にあっては,使用者が卵付着作業を開始する前の時点において,
すなわち,
少なくとも,
顕微鏡下で,ガラス化液に浸漬した細胞又は組織を吸引したピペット等の先端を滴下しようとする位置に合わせる作業をする前の時点において,当該「卵付着保持用ストリップ」が「透明」又は「無色透明」な状態でなければならないというべきである。
これに対し,原告製品においては,少なくとも使用者がガラス化液と共
に細胞又は組織をPTFEフィルム上に滴下して付着させるまでは,当該PTFEフィルムが白色不透明であるから,原告製品における本件各発明の「卵付着保持用ストリップ」に対応する構成,すなわちPET支持体とPTFEフィルムとが一体となった構成(PET支持体の上面にPTFEフィルムが取り付けられた部分)が,本件各発明の「透明性」(構成要件1B)又は「無色透明」(同2-1D,同2-2E)をいずれも充足しないことは明らかである。
この点に関連して,控訴人は,原告製品のPTFEフィルムは,使用時(ガラス化液滴下時)にガラス化液を吸収して無色透明化するから,物の生産時点から特許権侵害が当然のこととして予定されていたと評価できるとか,原告製品の技術的意義を根拠とする種々の主張をするが,いずれも原告製品の譲渡等が本件各特許権の直接侵害を構成することの理由になるものとはいえず,採用することができない。
(2)争点2(原告製品の譲渡等は本件各特許権の間接侵害を構成するか)について
控訴人は,原告製品を通常の用法に従って使用するときには,PTFEフィルムが,常に,卵付着保持作業を容易かつ確実に行うことができるという本件各発明の目的を達し得る程度に「透明」となるから,原告製品の譲渡等は,本件各特許権の間接侵害と実質的に評価できると主張する。
この点につき,原告製品においては,通常の使用方法である,ガラス化液に浸漬した細胞又は組織をPTFEフィルム上に滴下することによって,当該フィルムが当該細胞等の周囲に付着している余分なガラス化液を吸収し,当該フィルムの(少なくとも全光線透過率という意味においての)透明度がある程度高まることがうかがわれると共に,透過型顕微鏡下において,当該
フィルム上に載置した細胞等を視認できるようになることが認められる(甲9,17の1・2,乙17)。
しかし,一度卵付着作業に使用した原告製品を,再度当該作業に使用することが予定されていると認めるに足りる証拠はないから,ガラス化液に浸漬した細胞等の滴下・付着作業に伴い,PTFEフィルムの透明度がある程度高まる状態が生じることをもって,
卵付着作用を容易にする
「透明」
又は
「無
色透明」な「卵付着保持用ストリップ」を備えた物が「生産」されたと認めることはできない。
したがって,原告製品の譲渡等が特許法101条1号及び2号の間接侵害を構成するということはできず,この点についての控訴人の主張を採用することはできない。
第4

結論
以上によれば,その余の点について認定,判断するまでもなく,控訴人の反訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴岡稔彦杉浦正樹
裁判官

裁判官

間明宏充
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