判例検索β > 平成27年(ワ)第9366号
損害賠償請求事件
事件番号平成27(ワ)9366
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成30年4月9日
法廷名大阪地方裁判所
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告は,別紙3「請求金額一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告に対し,各「合計額」欄記載の金員及びうち各「損害額元本」欄及び「弁護士費用」欄記載の各金員に対する平成27年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,後記のとおりの内容の分収育林制度(通称「緑のオーナー制度」)に
基づき,被告との間で契約を締結した者又はその承継人である原告らが,被告に対し,同契約の締結に際し,被告の担当者につき説明義務違反又は実質的に断定的判断の提供の違法があり,払込額に相当する額の損害を被ったと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,別紙3「請求金額一覧表」のとおり,各「損害額元本」及び「弁護士費用」の賠償並びに各金員に対する不法行為日(分収育林契約締結日)「遅延損害金起算日」
から
の前日までの民法所定の年5分の割合による
「確
定遅延損害金」及びその翌日から支払済みまで同率の遅延損害金の支払を求める事案である。

1
前提事実(争いのない事実並びに証拠(甲全6,7,乙全1,2,31)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)


分収育林制度の創設
被告は,昭和59年5月8日公布,同年10月1日施行の「国有林野法の一部を改正する法律」
(昭和59年法律第27号)により,国有林を対象とす
る分収林育林制度を創設した。同制度は,国有林野に成育している樹木の共有持分を国以外の者に譲渡し,その者から持分の対価及び当該樹木について国が行う保育及び管理(以下「育林」という。
)に要する費用の一部の支払を
受け,育林による収益を国とその者(以下「費用負担者」という。)が分収す
ることを内容とするものである(以下「本件分収育林制度」といい,同制度に伴う事業を「本件分収育林事業」ということもある。。



分収育林
林業経営の一形態として,土地所有者とそれ以外の者(土地所有者の契約相手方となる者)とが材木の収益を一定の割合で分収することを取り決めて行う育林業を分収林業といい,分収林業は,育成過程の当初の造林段階から始まる分収造林と,育成過程の中途の育林段階から始まる分収育林に分類される。すなわち,分収育林とは,生育途上の樹木を対象として,契約当事者が契約を締結することにより,当該樹木について共有持分を取得し,当該樹木を伐採する時点で,あらかじめ契約に定めた分収割合により販売収益を分収することを内容とする林業経営の一方式をいう。



本件分収育林制度の概要
本件分収育林制度は,国民の参加による国有林野の整備を促進するとともに,生育途上にある人工林の育成等のための資金の確保にも資することを目的として,スギ,ヒノキ等一般的な造林樹種から成る林齢おおむね21年生以上30年生以下の人工林であって,造林木の材積歩合が75パーセント以上の森林を対象森林として,契約によりその対象森林を国と費用負担者の共有とし,契約期間(おおむね20年ないし30年程度)満了時にその対象樹木を販売し,販売代金を国と費用負担者が持分割合に応じて分配する制度であり,同制度に基づき被告と費用負担者との間で締結される契約を分収育林契約という
(国有林野の管理経営に関する法律
(以下
「管理経営法」
という。

17条の2参照)




分収育林契約の内容

分収育林契約の法的性質
国有林野に生育する樹木を対象とする分収育林契約は,土地所有者である国が土地の提供と保育・管理を,費用負担者(契約者)が保育・管理費用の負担をそれぞれ受け持つことを内容とする双務契約であり,その法的性質については,①国が費用負担者に対し,当該樹木の持分を付与する契約(売買契約)
,②費用負担者が国に対し,その持分相当分について保育・管理を委託する契約(準委任契約)
,③国が費用負担者に対し,土地の使用
収益を認める契約(賃貸借契約)の3つの契約要素を含んだ混合契約とされている。


分収育林契約書の交付
被告と費用負担者が分収育林契約を締結する際には,以下の内容が記載された契約書(以下「分収育林契約書」という。
)が作成され,被告から費
用負担者に対して同契約書が交付される(管理経営法17条の3参照)。


分収育林契約の目的たる国有林野(分収林)の所在及び面積並びに当該契約の目的たる樹木(以下「分収木」という。
)の樹種別及び樹齢別の
本数



当該契約の存続期間



分収木に係る費用負担者の持分の割合



費用負担者が支払うべき額



育林の方法



伐採の時期及び方法



その他必要な事項
上記「その他必要な事項」としては,費用負担者の権利の保全方法,費
用負担者が行方不明等の場合の取扱い,森林損害填補制度への加入,分収育林台帳の整備及び契約の解除等が挙げられている。

費用負担者が支払うべき額(上記④)について
費用負担者が支払うべき額は,分収木に係る費用負担者の持分の対価並びに当該分収木について国が行う保育及び管理に要する費用の一部である
(管理経営法17条の2,
分収育林契約
(原告らにつき共通。
以下同じ。

5条1項)
。具体的には,①樹種別,林齢別,立木度別の評価時(契約時)における立木評価額と,
②樹種別,
林齢別,
立木度別の契約時から分収
(主
伐)時までの期間における保育・管理(育林)に要する費用(土地使用料相当額を含む。以下「育林費」という。
)の合計額(以下「分収育林価格」
という。
)に対する持分相当額である。
持分は,総口数(対象となる分収林の分収育林価格の総額を,1口当たりの費用負担額で除したもの。1口当たりの費用負担額と1口当たりの森林損害填補制度のための保険料又は共済掛金の合計が50万円となるように設定された。なお,募集口数は総口数の約2分の1であり,残りは被告に留保された。
)に対する費用負担者が取得した口数で表わされる。
費用負担者から支払われた費用は,
国有林野事業の収入
(分収育林収入)
となる。

上記ウ①の評価時における立木評価額の算定について上記ウ①の評価時における立木評価額は,グラーゼル式の一部を変形した補正式を用いて算定された。
グラーゼル式とは,林木生長による単位面積当たりの価格の変動が,立木材積とその価格差の2要素の変動によるという事実に着目して,樹種ごとに多数の林木売買資料を収集・解析して,その価格変動をグラフ化し,統計的手法により林木価の近似式を導き出す評価法である。
育成林業においては,造林投入額の多くが造林初期の10年間に偏在することが考慮され,上記ウ①の評価時における立木評価額を算定するに当たっては,グラーゼル式の一部を変形した下記補正式(以下「グラーゼル補正式」という。
)が用いられた。
Ai=(Au-C10)

(i-10)
(u-10)

22
+C10

Ai:評価時における立木評価額
Au:主伐時における立木の評価額(間伐を含む。。これは,評価対象)
森林が主伐林齢に達したときの主伐の推定立木評価額と間伐の主
伐時に換算した推定立木評価額との合計額であり,各評価額は,林分収穫表等から主伐時又は間伐時の収穫見込量を推定し,市場可逆算式により算定する。
C10:植栽以後10年間の造林費を評価時現在の時価に換算した額の後価合計額
i:評価時林齢
u:主伐林齢

公募対象森林の選定条件等(甲全6,乙全30)
被告は,分収育林は,単に経済的な投資の対象となるものではなく,緑資源確保への国民の参加要請に応えることを主な目的としているものであるが,都市住民等の分収育林への参加が全く経済性を無視して行われるものでもなく,また,分収育林の造林利回りに関心が寄せられていることからも,対象森林の公募地の選定に当たっては,次の条件を満たすものの中から決定するものとしている。
Au>T+H
Au:分収時における立木の評価額(間伐を含み,消費税相当額を除く。)
T:分収育林価格
H:対象森林の契約の存続期間に対する一時払の保険料


収益の分収について
国と費用負担者は,分収育林契約に定められた分収木に係る持分割合に応じて,分収木に係る収益を分収する(管理経営法17条の4)
。この「分
収木に係る収益」には,主伐に係る販売収益のほか,間伐に係る販売収益及び分収木に関して第三者から受けた保険金や損害賠償金等も含まれる(分収育林契約7条2項,8条参照)

そして,収益分収の方法は,分収木の販売代金を分収する代金分収方法によることとしており,販売については,分収木を立木のままで販売する立木販売方式
(かかる方式による販売価格を山元立木価格といい,
これは,
一般的には,丸太の市場価格から伐採や搬出等に必要な経費を控除することにより算定される。
)により行われる。

持分の処分の制限等について
分収育林契約書において,費用負担者は,持分に担保を供すること及び営林局長の同意を得ないで持分を処分することを禁止され(分収育林契約12条1項,
4項)また自己都合により契約の解約を申し入れることはで

きないと定められている(同19条)




被告との間の分収育林契約の締結等
被告は,昭和59年10月から平成10年にかけて,全国各地の営林署において,広く一般の国民に対し,本件分収育林制度への参加を募集した。別紙4
「契約内容等一覧表」
の「契約行為者」欄記載の者(空欄の場合は,
原告本人を指す。
以下,
これらの契約締結行為をした者を
「本件契約行為者」
ということがある。は,「契約締結日」
)同
欄記載の年月日に,
被告との間で,
同「契約番号」欄記載の契約番号の分収育林契約を締結し,被告に対し,「払
込額」欄記載の金額を支払った。
同別紙の
「原告への承継の原因」
欄に記載のある各原告については,「契

約締結日」欄記載の年月日以降現在までに,同「契約時の費用負担者」欄記載の者から,同「原告への承継の原因」欄記載の事由により,当該分収育林契約を承継した。



分収の状況
平成11年度以降,各地で分収育林契約の満期(主伐期)を迎えた山林が次々と公売されるようになったが,平成11年度から平成26年度までに販売された分収育林地1513か所のうち,1432か所において,費用負担者の1口当たりの分収額が払込額を下回り,売却により得ることができた分収額のほとんどが払込額を大きく下回る状態となった。さらに,
「不落」とし
て売却困難な山林が続出する事態となり,
結局,
原告らは,
分収金等として,
平成29年11月30日までに,
別紙5
「原告らの分収金等受取額一覧表
(平
成29年11月30日現在)
」の各「受取日」欄の年月日に,各「名目」欄記
載の名目で各「受取額」欄記載の金額を得るにとどまった。


分収育林契約の募集の中止
被告は,本件分収育林事業において,分収の状況が上記⑹のとおりの状況となったことを踏まえ,平成11年度からの分収育林契約の一般公募を中止した。



被告は,原告ら(承継前の者を含む。
)に対し,別紙5「原告らの分収金等
受取額一覧表(平成29年11月30日現在)
」の「受取日」欄記載の年月日
に「受取額」欄に記載のとおりの分収金等を既に支払った。



被告による消滅時効の援用(顕著な事実)
被告は,原告番号1ないし89の原告らに対しては,平成28年3月14日の本件口頭弁論期日において,原告番号90ないし103及び105ないし109の原告らに対しては,平成29年10月30日の本件口頭弁論期日において,原告らが主張する損害賠償請求権につき,それぞれ消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

2
争点


被告の担当者による分収育林契約の勧誘行為の違法性及び過失の有無ア
説明義務違反の有無


実質的な断定的判断の提供の有無


原告らの損害
過失相殺の可否
分収育林契約に係る持分譲渡(名義変更)による損害賠償請求権の移転の有無



民法724条後段の適用について

民法724条後段の期間制限の法的性質


除斥期間の起算日


除斥期間の適用の可否



民法724条前段の消滅時効について
アイ3
消滅時効の起算日
消滅時効の援用の可否

争点に対する当事者の主張


被告の担当者による分収育林契約の勧誘行為の違法性及び過失の有無ア
説明義務違反の有無

【原告らの主張】
(ア)

本件分収育林事業は,典型的な金融商品ではないとしても,以下の点
に鑑みれば,被告と分収育林契約を締結しようとする者との間の情報格差等は,金融商品取引業におけるそれと変わるところはないから,被告には,金融商品取引におけるのと同様の信義則上の説明義務を果たすことが求められるというべきである。
a
分収育林制度における将来の収益性や危険性の判断においては,分収育林価格の算定根拠を始め,木材の需給関係や価格動向,物価や為替相場の変動,対象となる土地の立地条件,植栽樹種,保育の時期及び内容等,様々な要素を総合的に考慮する必要があるところ,かかる情報を収集・分析する能力において,制度設計者である被告と分収育林契約を締結しようとする者との間に大きな格差があること
b
本件分収育林事業においては,取引の当事者が自由な意思決定に基づいて出捐をする以上,適切な情報が提供されなければならない上,被告は,国民の国に対する絶大な信用を利用し,安心確実な投資として多数の国民を勧誘したのであるから,憲法が国民の財産権を保障している趣旨に鑑み,不十分・不正確な情報を提供して国民に財産処分について誤った判断をさせないよう万全の注意を払うべきであること
(イ)

被告の担当者は,元本割れが生じるリスクについて説明義務を負う。本件分収育林制度は,民間資金導入の手段として,樹木の持分を売買
することによって収入を得て資金を調達するという,営利目的を有する取引であり,契約当事者にとっては将来における収益に着目した投資取引である。契約当事者にとっては,分収育林契約の締結に当たり,分収金の総額が払込額を下回る可能性(以下「元本割れリスク」ということもある。
)の有無が重要な考慮要素となる。しかるに,国産材の価格は,
需要と供給の関係で単純に決定されるものではなく,木材の需給関係や価格動向,物価や為替相場の変動,対象となる土地の立地条件,植栽樹種,保育の時期及び内容等,様々な要素の影響を受けるものであり,かかる情報を収集・分析する能力において,分収育林契約を締結した者と被告との間には顕著な格差がある。
(ウ)

被告においては,契約行為者となるべき者に対し,元本割れリスクを
認識させるには,単にその存在を説明するだけでは足りず,①山元立木価格が下落傾向にあること,②被告が採用したグラーゼル補正式が分収時までに要した造林費用が費用負担者に転嫁されるものであることを前提として,分収育林価格の算定方法及び同算定方法を採用した理由について説明をすべきであった。
山元立木価格は,本件分収育林制度の創設の5年前の昭和55年頃から下落傾向にあったのであるから,制度創設当時,既に分収時に元本割れが生じる具体的リスクが顕在化していたというべきところ,被告は,林野事業を営み,林業白書を作成するなどしていたのであるから,このような傾向を容易に把握できる立場にあった。さらに,平成5年当時においては,実態として木材価格が下落しており,被告もこれを明確に認識していた。したがって,被告は,山元立木価格が長期的には下落の一途をたどることを明確に予見していたというべきである。
【被告の主張】
(ア)

被告が元本割れリスクについて説明義務を負うことは否認する。
本件分収育林制度は,森林の整備充実への国民の参加を主な目的とす
るもので,利殖や投機の手段ではなく,元本割れリスクの有無は契約締結の際の重要な考慮要素には当たらない。したがって,被告は,元本割れリスクの有無に関する説明義務を負わない。
被告と分収育林契約を締結した契約行為者との間には,一般的・抽象的な元本割れリスクに関する情報格差はなく,本件分収育林制度の仕組みは単純であって,分収育林契約の内容自体から元本割れリスクの存在を知りうるところ,被告は,誤解のないようパンフレットで契約内容を説明した。被告に営利目的がないことや,契約締結当時の説明義務に関するルールの内容等に照らしても,契約行為者等から元本割れリスクについて問合せを受けない以上,被告は説明義務を負うものではない。平成5年6月30日までに締結された分収育林契約について,契約締結の当時,スギやヒノキの山元立木価格は,一時的に下落傾向を示していた以外は,おおむね上昇傾向にあり,国産材の需要動向が継続的に減少傾向にあるとみられていたものでもなく,被告には,将来の現実的かつ具体的な元本割れリスクについての予見可能性はなかった。
なお,元本割れが生じたのは,木材価格の大幅な下落によるものであって,材積が予想より減少したからではない。材積の増大は元本割れリスクに関する情報に当たらない。
(イ)

仮に,被告ないし被告の担当者が説明義務を負うとしても,その対象
となるのは,元本割れリスクがあること自体に限られる。分収育林契約を締結しようとする者は,代金額によって契約締結の適否を判断することができ,被告は,それ以上に,持分価格の算定方法や立木価格が下落傾向にあることについてまで説明する義務を負わない。また,グラーゼル補正式は,植栽後10年までの造林費用合計額を,当該中間林齢の立木価値の一部を構成するものとして評価し,立木評価額と育林費の合計(分収育林価格)を国と費用負担者が持分割合で分担することを内容とするものであって,一方的に費用負担者にすべての費用負担を転嫁するものではない。

実質的な断定的判断の提供の有無

【原告らの主張】
被告は,上記争点⑴アに関する原告らの主張のとおり,立木価格の動向等について全く知識がない者との間で分収育林契約を締結するに際し,将来の分収額を想定するのに最も重要な要素となる山元立木価格の動向について,あえて情報を開示せず,価格の下落に伴うリスクについての説明もすることなかったものであるが,その一方で,勧誘に当たって使用した林野庁作成のパンフレットや,各地の営林署作成のチラシにおいて,下記の内容を記載し,一方的に財産形成に資することを強調して,分収育林契約の締結に至らせたものである。そして,都市在住の一般市民である費用負担者ないし契約行為者は,
厚い信頼を寄せていた国である被告から,
「安
全確実な資産」等と記載されたパンフレットを用いて説明を受けたものであり,分収育林契約を締結した者と被告の情報格差に照らせば,本件においては実質的に断定的判断の提供があったというべきである。


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【被告の主張】
ある勧誘行為が断定的判断の提供に該当するか否かの判断に際しては,勧誘文言のほか,当該事案にかかわる一切の具体的事情,すなわち,顧客側の事情と勧誘側の行為態様その他一切の事情を総合考慮し,違法行為ないし不法行為と評価し得るほどの社会的相当性の逸脱があった場合に,より具体的にいえば,当該契約を締結するか否かの的確な判断を妨げる程度の社会的相当性の逸脱があった場合に初めて断定的判断の提供に該当するものというべきである。
そして,原告らが指摘するパンフレット等の記載内容は,その文言に照らして,確実な利益が得られる取引又は少なくとも損はしない取引であると誤信させるようなものではない上,本件分収育林制度は,投資目的のものではなく,国民が森林の整備充実に参加することを主たる目的とするものであり,また,原告らは,本件分収育林制度の仕組みを十分理解した上で,価格変動によるリスクについて容易に認識できる状況の下で分収育林契約を締結したから,以上の事情を総合考慮すれば,上記パンフレット等を用いた勧誘行為が社会的相当性を逸脱するものとはいえない。


原告らの損害

【原告らの主張】
被告の担当者による説明義務違反等により生じた原告らの損害は,費用負担者が分収育林契約の締結時に払い込んだ費用負担額としての出捐額である。また,原告らは,被告の違法行為により本訴の提起を余儀なくされたから,本件訴訟に要する弁護士費用も損害となる。したがって,原告らは,別紙3「請求金額一覧表」の各「損害額元本」及び「弁護士費用」に記載の損害を被った。
【被告の主張】
否認ないし争う。


過失相殺の可否

【被告の主張】
分収育林契約の締結をした者は,本件分収育林制度の仕組みを認識しており,分収額が払込額を下回る一般的な可能性があることを容易に認識できたのであるから,原告らには相応の過失が認められる。
【原告らの主張】
被告の主張は否認ないし争う。


分収育林契約に係る持分譲渡(名義変更)による損害賠償請求権の移転の有無

【原告らの主張】
被告の担当者の違法行為によって生じた国家賠償法1条1項ないし不法行為に基づく損害賠償請求権は,分収育林契約と不可分一体の関係にあるから,分収育林契約に係る持分の譲渡(分収育林契約の契約上の地位の譲渡。以下「名義変更」ということもある。
)がされた場合には,分収育林契約上の
地位の移転に伴い,同損害賠償請求権をも移転させるのが持分譲渡当事者の合理的意思に沿う。したがって,特段の意思表示がない限り,契約上の地位の譲渡に伴い,同損害賠償請求権は持分譲受人に移転するものというべきである。特に,本件においては主に親族間で持分譲渡が行われており,持分譲受人への損害賠償請求権の移転を認めるのが損害の公平な分担に適う。【被告の主張】
仮に,分収育林契約の締結に関し,被告の担当者に違法行為があったとしても,損害賠償請求権を取得するのは費用負担者自身であるところ,上記損害賠償請求権は分収育林契約自体に基づいて生じた権利ではなく,契約締結の準備段階における違法行為により生じたものであるから,分収育林契約上の地位の移転に伴って当然に移転するものではない。したがって,分収育林契約に係る持分の譲渡
(包括承継以外の事由による名義変更)
を受けた者
(原
告番号32,55,81,83,87,95)は,上記損害賠償請求権を取得したとはいえない。


民法724条後段の適用について

民法724条後段の期間制限の法的性質

【被告の主張】
民法724条後段の規定は,除斥期間を定めたものである。
【原告らの主張】
民法724条後段の規定は,除斥期間を定めたものではなく,消滅時効を定めたものと解すべきである。

除斥期間の起算日

【被告の主張】
原告らが費用負担額を出捐したこと(契約締結時の払込相当額)をもって損害とする以上,その発生時期は各契約締結時(加害行為時)となるというべきであり,その場合の除斥期間の起算日は,原則どおり各分収育林契約締結時(加害行為時)となる。
分収育林契約の締結の日から本訴訟提起までに20年以上を経過した原告らについては,仮に,当該原告らが国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得したとしても,これはいずれも除斥期間の経過により既に消滅している。
【原告らの主張】
仮に,民法724条後段の規定が除斥期間を定めたものと解するとしても,被告の担当者の説明義務違反により原告らが被った払込相当額の損害は,分収期が到来するまでは潜在化しており,分収期が到来した時点で具体的に顕在化するのであるから,本件の損害(払込相当額)は,最高裁判所平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁(以下「最高裁平成16年判決」という。
)にいう「性質上,加害行為が終了し
てから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合」
に該当し,
「当該損
害の全部又は一部が発生した時」すなわち「分収期到来時」が除斥期間の起算点となる。

除斥期間の適用の可否

【原告らの主張】
仮に,分収育林契約を締結した時点が除斥期間の起算点となるとしても,除斥期間が適用されるとの主張は信義則違反ないし権利の濫用に該当する。
また,除斥期間の適用によって被告を損害賠償義務から免れさせることは,著しく正義・公平の理念に反するから,民法724条後段の適用は排除されるべきである。
【被告の主張】
除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は,当事者の援用を必要としない除斥期間の法的性質に照らし,それ自体失当である(最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁。以下「最高裁平成10年判決」という。。

また,本件においては,除斥期間の適用による権利消滅を是認することが著しく正義・公平の理念に反するとの事情(原告らの権利行使が客観的に不可能な状況があり,
かつ,
それが被告の行為に起因するといった事情)
はなく,法令上も,法定代理人の不存在による時効の停止等のような,除斥期間経過の効果を阻害する根拠となり得る規定は存しないから,除斥期間の適用は妨げられない。


民法724条前段の消滅時効について

消滅時効の起算日

【被告の主張】
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権については,遅くとも主伐期に実際に分収木が売却され,原告らが払込額を下回る分収金を受け取った日が消滅時効の起算点となる。原告らの上記請求権は,いずれも主伐期から本訴訟提起までに3年を経過しており,消滅時効期間が満了している。
【原告らの主張】
主伐による最終の分収金を受け取り,元本割れの発生を知っただけでは,被告の説明義務違反により損害が発生したことを認識できない。原告らが,損害賠償請求が現実に可能な程度に損害及び加害者を知ったのは,被害弁護団が結成され,弁護士から分収育林制度の問題点について説明を受けた時であって,同日が消滅時効の起算日となる。

消滅時効の援用の可否

【原告らの主張】
仮に,主伐による最終の分収金を受け取った日が消滅時効の起算点となるとしても,①本件分収育林制度が,長期拘束型契約であり,分収期まで損失の発生が判明しないというものであること,②同制度が財政破綻していた国有林野事業の赤字を軽減する目的で導入されたものであること,③被告が元本割れリスクの存在を認識しながら,そのことを説明しないまま勧誘をしたこと,④原告らと被告との間に情報格差があること,⑤林野庁がホームページに分収額が費用負担額を下回った分の補償を行えない旨を記載したこと等に照らせば,被告による消滅時効の援用は,信義則違反又は権利濫用に該当するというべきである。
【被告の主張】
消滅時効の援用が権利濫用に該当するのは,債権者が時効中断をし得ず,かつ,そのことについて債務者の責めに帰すべき事由がある場合に限られるのであって,損害賠償請求権の発生要件該当事実が悪質であったことや,被害法益が重要で被害が甚大であったことなどは,権利濫用の要件を構成しない(最高裁判所平成6年2月22日第三小法廷判決参照)

原告らが,時効の援用が信義則違反や権利濫用に該当するとの評価を基礎づけるものとして主張する事情は,損害賠償請求権の発生要件に該当する事実の悪質性をいうものにすぎず,時効中断の措置を取り得なかったことを基礎づける事情とはいえない。また,林野庁のホームページに分収額が費用負担額を下回った分の補償を行えない旨が記載されたからといって,不法行為に関する一般人の認識可能性を左右するものではないし,原告らがこれを閲覧したことについての立証もない。その他,被告による消滅時効の援用につき,信義則違反や権利濫用を基礎付けるような事情は何ら存しない。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実
前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


木材価格の動向等

昭和21年から平成10年までのスギ及びヒノキの全国平均の山元立木価格の推移をみれば,昭和21年から昭和55年にかけては,短期的な上下動を繰り返しながらも,おおむね上昇傾向にあったところ,昭和55年から昭和62年にかけて下落傾向で推移した後,昭和62年から平成2年にかけては上昇傾向で推移し,平成2年から平成10年までは下落傾向で推移していた(乙全22)


木材需要は,高度経済成長の鈍化や,昭和40年代後半に既に需要が高水準に達していたこと,建築の非木造化の傾向,さらには代替材の進出等が要因となって,昭和48年を境として減少基調に転じた。木材価格も,上記の木材需要の減少,外材輸入の増大及び間伐材の増大が要因となって,昭和43年まで上昇傾向が続き,それ以降は実質的に横ばいであったものの,昭和55年以降においては実質的に下落傾向に転じた。
そして,丸太価格が実質的に横ばいの中で,素材生産コストが実質的に上昇し,特に素材生産労賃が著しく上昇し,その結果,スギ,ヒノキ及びマツの立木価格は,昭和40年から昭和55年まで短期的には若干の変動を伴いながら傾向的には一応名目的に上昇を続けてきたものの,物価上昇と比較した実質価格は,昭和43,44年を境に下落傾向に転じ,昭和55年以降においては,実質的にも名目的にも下落が激しい状況にあった(甲全26)

そして,スギ,ヒノキ及びマツの立木価格は,昭和62年から平成2年にかけて若干上昇したものの,以降は下落を続けている。


被告の公表による木材価格の動向に関する見通し等
(ア)

林野庁は,毎年,林業白書や林業統計要覧において,山元立木価格を
公表していた(乙全17,18)

(イ)

被告は,昭和41年4月,昭和48年2月,昭和55年5月,昭和6
2年7月及び平成8年11月に,森林・林業基本法10条(平成13年法律第107号による改正前のもの)に基づき,林産物の需給の長期見通しを公表した(以下,昭和41年4月に公表した見通しを「昭和41年公表の見通し」といい,それ以降の年度に公表した見通しについても同様に表記する。(甲全27,28,34)


木材の需要量は,昭和41年公表の見通しが昭和48年公表の見通しによって上方修正されたが,他方において,木材の供給量についてみれば,国産材の供給量は,昭和41年公表の見通しでは将来顕著な増大傾向をたどるとみられていたものが,昭和48年公表の見通しでは供給増加が大きく下方修正され,外材の供給量については,逆に実績が著しく大きかったため,同見通しでは上方修正された。
上記のように,昭和48年公表の見通しでは,木材需要量も供給量も増大するとみられていたものの,その後も実績としては減少傾向を示したことから,昭和55年公表の見通しでは,将来の木材需給量が下方修正され,特に需要量の修正幅が大きいものとなった。
平成8年公表の見通しにおいては,昭和59年以降の木材総需要量は,従前の見通し量を上回る上昇傾向にあるが,外材供給量が従前の見通し量を大きく上回る増加傾向にあるのに対し,国産材供給量は林業採算性の悪化等により減少傾向にあり,また,国産丸太の木材価格は,昭和50年代半ばの乱高下を経て,昭和61年以降上昇傾向にあったものが,平成2年をピークに下落傾向にあり,立木価格はほぼ一貫して下がり続けているとされた。
(ウ)

被告は,昭和55年公表の見通しにおいて,木材需要量について,以
下のとおり予測していた(甲全27)



木材需要は,石油危機以降の経済の減速安定成長が今後も長期にわたって続くとみられることから,大幅に増大することは見込まれず,非木質系材料との競合もあって,需要構造も変化していくものと考えられる。


戦後植栽された人工林が徐々に伐期に達してくることから,木材生産量は漸増していくとみられる。



木材の総供給量の68パーセントを占めるに至っている木材輸入
は,当面現状程度の輸入量で推移するものと見込まれるが,近い将来は流動的となり,外材供給量が減少に転ずることも考えられる。
また,被告は,昭和55年の見通しにおいて,住宅建築の大幅な減少
による木材需要の減少や木材価格の低迷などから,林業生産活動が停滞する等厳しい状況にあるとし,森林資源に関する基本計画を改定した。エ
木材価格の予想の困難性(乙全19,20,36)
木材価格は,木材の需要と供給,物価,為替相場等の社会・経済情勢等によって変動するとともに,対象となる土地の立地条件,植栽樹種,保育の時期及び内容等によって影響を受ける。育成的林業は,数十年という長期の生産期間を要し,その間に,木材価格の形成に影響を与える因子が大きく変化することから,木材価格の変化を予想することは困難である。


本件分収育林制度の創設の経緯等

本件分収林育林制度導入の趣旨
本件分収林育林制度の導入の経緯として,昭和50年代において,発展途上国を中心に地球的規模における森林資源の減少がみられるようになったところ,
国内では,
都市化の進展等による森林環境の減少に対応して,
国民の間に森林資源の確保への関心や要請が高まる一方,林業の経営の面からみても,我が国の森林資源は,経営の主体となる人工林は昭和30年代からの造林によるものが多く,民有林,国有林共に若齢林が全体の8割強を占める状況にあり,当面,その収入が見込めない状況にあった上に,健全な森林を育成するための間伐・保育等を必要とする時期に達しており,早急な森林整備が必要であった。以上のような事情を背景として,林業への外部資金の導入,特に広く国民一般から資金を募り,その参加の下で間伐・保育等の森林の育成を行う林業経営の方式についての検討が重ねられ,その結果,育成途上の人工林について,都市住民を中心とする多数の者と樹木を共有し,育林費用の負担を受けて伐採収益を分け合う制度として,本件分収育林制度が導入された。

国有林野法の一部を改正する法律案の審議状況(甲全9)
昭和59年4月24日開催の参議院農林水産委員会における法案審議の際,A林野庁長官(以下「A長官」という。
)は,本件分収育林制度の意
義として,都市部に住む国民に国有林の経営に参加を得るにあるとし,同制度に参加する意欲のある国民の関心は,国土の緑化に参加することのほか,子や孫に資産として残すことにある旨答弁した。
また,費用負担者の得る収益についてどの程度と見込まれるかとの質問に対し,B林野庁次長は,仮に木材価格の変動がないとした場合の試算として3パーセントの利回りとなり,仮に木材価格に3パーセントの上昇がある場合の試算としては6パーセントの利回りとなり,分収育林と預貯金とどちらが有利かということは一概には決まらないが,一般的には,財産運用としては高利の利回りを期待するというよりは,インフレヘッジの要素を含むものであるとし,また,材木価格の動向によって最終的な利回りが変動することについては募集時に説明することが必要である旨答弁した。
更に,木材価格の将来動向に関する質問に対し,A長官は,本件分収育林事業の収益性について,木材価格の変動等の見通しは難しいものの,地球的規模の森林資源の減少の見通しのもと,ある程度の木材価格の上昇が期待できる旨答弁したが,木材価格の下落を想定した答弁はなかった。


本件分収育林事業における対象森林の評価等について

グラーゼル補正式の採用例
被告は,分収育林契約の募集の当時,相続税及び贈与税の課税標準の時価評価(相続税法22条)に当たって立木の価額を評価する方法として,グラーゼル補正式を採用しており(財産評価基本通達115項⑵ハ。乙全3)森林国営保険に係る立木の評価基準

(昭和54年農林水産省告示第1
65号)2⑴(乙全4)
,保安林整備臨時措置法に基づく国による保安林の
買入れ等に係る立木の評価基準
(同法施行令5条2号,
附録第2。
乙全5)
等にもこれを用いていた。

グラーゼル補正式により得られた評価額について(乙全2,甲全6)(ア)

グラーゼル補正式は,
グラーゼル式に実用的見地から補正を加えたも

ので,不確定な林業利率による影響が小さく,経済的理論に基づく評価式に近似した評価額が得られることなどの利点があるとされる。
(イ)

グラーゼル補正式によった場合,地利の悪い奥地などでAu(主伐時
における立木の評価額)がC10(植栽以後10年間の造林費を評価時現在の時価に換算した額の後価合計額)を下回るような材木に対しても,C10が最低価格となり得る。
もっとも,被告においては,分収育林価格を算定する場合,その森林が分収育林契約の対象森林としてふさわしいものであるか否かを検証するものとされており,公募対象森林を決定するに当たっては,分収育林価格に分収育林契約存続期間中の保険料又は共済掛金を加えたものが,分収時における立木の評価額を下回るものでなければならないものとされていた。

分収育林価格の内訳の非公表について(甲全6)
被告は,
費用負担者を募集するに際し,
会計法上,
費用負担額の内訳
(係
数を含む。を公にすることは妥当ではないとの理由により,

分収育林価格
の内訳を公表しないこととした。



被告による分収育林契約の申込みの勧誘

解説書の作成,配布(乙全46)
林野庁は,本件分収育林制度の創設及び導入に際し,国有林分収育林ワーキンググループを設置し,分収育林契約における契約者の法的地位,契約条項,並びに対象森林の選定方法及び評価方法等,分収育林制度の骨子についての検討を通じ,国有林野法の一部を改正する法律案及び関係通達等の策定のための検討作業を行った。
そして,林野庁は,上記の検討の結果を踏まえ,既に民有林で導入されていた分収育林事業を国有林に導入することに伴う問題点,改善点及び現場職員が有する疑問等に対する対応策を現場の職員に周知徹底すべく,一般職員向けに,分収育林契約の申込みの勧誘業務を取り扱う被告職員のための想定問答集(以下「本件Q&A」という。
)及び簡易な説明資料(以下
「本件ガイドペーパー」という。
)を作成し,関係通達を記載した文書とと
もに,各営林局及び営林署に配布し,これを周知した(甲全11)。また,
契約申込者等に対する本件分収育林制度の説明に用いるためのパンフレット(甲全12,13,乙全6,7)を作成し,各営林局及び営林署に配布した。
さらに,林野庁(国有林分収育林制度研究会)は,本件分収育林制度開始後の昭和61年3月,個別の担当者が本件分収育林制度の実務に携わるに当たり,制度の趣旨や仕組みを正確に理解し,適切な募集活動や国民への対応を行うための手引書として,本件分収育林制度に関する通達,本件Q&A及び本件ガイドペーパー等を一元化した「国有林分収育林制度の解説」
(以下「解説書」という。甲全6)を作成し,これを各営林局及び営林署に備え付けるとともに,解説書の内容について理解を深めるよう周知させていた(乙全46)

(ア)

本件Q&Aの内容
本件Q&Aには,
「Q-28

1口50万円は,
分収時にはどのくらい

になりますか。
」との質問に対して,まず,
「20年~30年後の木材価
格を現段階で見通すことは困難ですので,いくらと言い切ることは不可能です」
と回答した上で,
「スギを例にとるとおおむね100平方メート
ル(30坪)の木造住宅に使われる木材を生産する立木価格に相当する収益を上げられると思います。
」と回答する旨が記載されている(甲全
6・394頁)

営林局又は営林署において,将来の分収金額について問合せがあった場合には,木材価格の変動などの要因から予測できない旨の回答をしたことがあったほか,仮に木材価格が評価時と同一であり,かつ,推定どおりに分収林が成長すれば,1年当たりの利回りが約2パーセントになる旨の回答をしたことがあった。
(イ)

本件ガイドペーパーの内容
本件ガイドペーパーには,
本件分収育林制度のあらましとして,
「育成

途上の森林を対象に森林所有者と費用負担者が契約を結び,費用負担者が共有持分の対価及び育林費用の一部を負担して共有持分を取得し,当該林分を伐採する時点で契約に基づき持分の割合で販売収益を分収する制度です。
」とした上で,
「分収育林の経済性について」との項目にお
いては,
「分収育林の場合をも含め,造林の利回り試算については,契約
期間が極めて長期間にわたるため労賃,諸物価,木材価格の変動を確実に見通し難いこと,対象となる土地の立地条件,植栽樹種,保育等の時期及び内容いかん等によって大きく影響されること等から,その結果はかなり幅のあるものと考えられ,一概にはいい難い。「なお,物量的に」
将来を見通せば,例えば関東地方の25年生のスギ,地位Ⅱ等地では,上表のとおりになる。
」と記載した上で,25年生時点で面積が約0.1
5ha相当,本数が約230本,材積が約20立方メートルであるものが,50年生時点では,同面積において本数約120本で材積が約50立方メートルとなり,これは丸太材積約40立方メートルに相当し,100平方メートル(30坪)程度の木造2階建の住宅の資材を賄うことができる旨を記載した表を掲げ,また,利回りについては,
「現時点の木
材価格を前提に,あえて試算すれば,地域,樹種木材価格等によって差はあるが,スギ・ヒノキの人工林について一般的には2ないし3パーセント程度になるものと見込まれる。
」と記載している(甲全6,11)


被告による分収育林契約の申込みの勧誘方法
(ア)

被告は,
本件分収育林事業を開始した昭和59年から平成11年に募

集を停止するまでの間,国民に対して,新聞,雑誌及び広報誌等による本件分収育林事業の広報を行った。また,各地の営林署においては,説明会や対象森林の現地案内を実施し,
下記(ウ)のとおりのチラシを配布す
るなどして,分収育林契約の申込みに向けた勧誘を行った。
また,被告は,契約申込者等への説明資料として,下記(イ)のとおりの内容を記載したパンフレットを作成し,電話勧誘などを通じて分収育林契約について興味を示した者に対し,パンフレット及び契約申込書を送付した(乙全46)

(イ)

パンフレットの記載内容
林野庁が作成したパンフレットには,おおむね以下の内容が記載され
ている(甲全12,13,乙全6ないし9)

a
分収育林制度の概要について
「森林浴を心ゆくまで楽しみたい,お子さまやお孫さんに資産として残したい,など幅広いご要望にも同時にお応えできる制度です。」

b
分収育林制度の仕組みについて
「参加される皆さまと国有林の間で,育成途上のスギ,ヒノキ等の人工林(おおよそ植えてから21~30年の森林)について,成林し伐採するまでの間
(20~30年程度)共同で育てる契約を結びます。

契約の主な内容は,次のようになっています。
参加される皆さまは,


1口当たり50万円(森林保険料を含みます)を負担していた

だき,契約の対象となる森林の立木の共有者となり,持分を取得
します。


契約で定めた時期に,立木を販売して,その収益の分配を受け

ます。


万一の災害に備えて,森林保険に加入していただきます。

国有林は,


契約書に定めた計画にしたがって,必要な手入れを行い,森林
を良好に管理します。



森林の生育状況を参加いただいた皆さまに定期的にご報告し

ます。


契約した森林の台帳をととのえ,ご要望に応じていつでも閲覧

していただきます。

c
伐採時の収入について
昭和59年頃作成のパンフレット
「契約いただく時には若い森林ですが,20~30年後には立派
に成長して,例えばスギでは,1口でおおむね100平方メートルの木造2階建の住宅に使われる木材に相当する収益を受け取って
いただけるものと思います。将来が楽しみな”緑の資産”といえましょう。



昭和63年頃作成のパンフレット
「契約期間が20~30年と非常に長いことから,将来の収入を
現時点で正確に申し上げることはできませんが,例えば,スギの場合ですと,おおむね100平方メートルの木造2階建住宅に使用される木材に相当する立木を販売して得られる収入が見込まれます。(1口50万円の場合)



平成2年頃作成のパンフレット
「例えば関東地方のスギ林の場合ですと,契約時の1口当たりの
面積は,1000平方メートル~1500平方メートル,樹木の本数では200~250本程度となります。


d
収益の税法上の取扱い
「分収(収益の分配)時に受け取る収益は,税法上,山林所得として取り扱われ優遇されています。


e
元本保証について
被告が平成5年7月1日以降の募集に用いたパンフレットには,
「Q&A

緑のオーナー制度について,あなたのさまざまな疑問や具

体的にお知りになりたい点についてお答えします。と題して

「Q&A」
形式で本件分収育林制度の説明がされ,
その中で,
「Q分収金にはどの
くらいの分収金が得られますか。
また,
元本の保証はありますか。

「A
…分収金については,分収時の樹木の販売代金に応じて決まりますが,20~30年後の樹木の販売代金がどの程度になるかを契約時点で見通すことは難しいため,具体的な金額をお示しすることはできず,また,このような制度の趣旨から元本の保証がされているものではありません。
」との記載がある(乙全9)

(ウ)

各営林局又は営林署が作成したチラシの記載内容
各営林局又は営林署が作成したチラシの中には,下記のとおりの記載
があるものもあった。
a
山崎営林署(甲全14の1。昭和60年度の募集に用いられたチラ
シである。

「お子様やお孫さんへ。長ぁ~ぃ緑の贈り物。

「1口50万円で木の家1戸分の木材を育てる夢があります」
b
青森営林局(甲全14の3。昭和63年度の募集に用いられたチラ
シである。

「ひと足先の投資です。1口50万円」
「あなたの財産を形成しながら,わが国の森林を守っていくシステムです。

c
鹿児島営林署(甲全14の2。平成2年度の募集に用いられたチラ
シである。

「長期契約の安全確実な資産としてお子さん,お孫さんへのプレゼントに!!」
d
奈半利営林署(甲全14の4。昭和62年度の募集に用いられたチ
ラシである。

「長期経済変動に強く,資産づくりに最適です。

(エ)
a
分収育林契約の締結
分収育林契約の締結の申込みをする者は,被告に対して契約申込書の提出をすることによってこれを行うこととされている。
被告は,申込みをした者の中から,抽選により契約締結の内定者を選定した上,その内定者に対し,契約条件や契約手続等の詳細を明らかにした分収育林契約書及び契約締結の意思確認をするための郵便はがきを送付し,同郵便はがきを管轄営林局への返送を受けることによって,分収育林契約を締結した。なお,その際に被告が送付した資料には,分収育林契約書の内容を確認するようにとの記載がされていた(甲全6,乙全15,16)


b
平成5年6月30日以前に締結された分収育林契約(原告番号1ないし4,6ないし8,11ないし16,19ないし24,28ないし32,34ないし37,41ないし47,49ないし64,66ないし68,70ないし80,82ないし86,89ないし92及び94ないし109に係る各契約。なお,各原告番号に契約枝番のあるものは,特に特定しない限り全ての枝番の契約をいう。以下,同じ。
)の勧
誘に際して用いられたパンフレットには,元本の保証がない旨の記載がなかった。
c
一方,平成5年7月1日以降に締結された分収育林契約(原告番号5,9,10,17,18,25ないし27,33,38ないし40,48,65,69,81,87,88及び93に係る各契約)の勧誘には,元本の保証がない旨が記載されたパンフレット(記載内容は上記(イ)eのとおり。
)が使用された。
ただし,原告番号69の契約は,平成5年7月1日以降の日である同月28日に締結されたものであるが,同契約の勧誘に用いられたパンフレットは,平成5年6月30日まで使用されていた元本の保証がない旨の記載のないものであった(甲C69)


d
上記契約のうち原告A30(原告番号30)は,平成2年8月17日,枝番1の契約を締結し,さらに,平成6年9月29日,枝番2の契約を締結した(甲A30の1・2,甲C30)
(以下,平成5年6月
30日以前に分収育林契約を締結した後,更に同年7月1日以降に分収育林契約を締結した者を「追加契約者」といい,平成5年7月1日以降に初めて分収育林契約を締結した者を「新規契約者」という。。)

e
原告A55(原告番号55)は,Cから名義変更を受けた株式会社ナガオから更に名義変更を受け(甲C55)
,原告A81(原告番号8
1)は,D1から名義変更を受けたD2から更に名義変更を受け(甲C81)
,原告A83(原告番号83)は,E1から契約者の地位を相
続したE2から名義変更を受け(甲C83)
,原告A87(原告番号8
7)は,自己が子の代理人として枝番1及び2の分収育林契約を締結した後に,それぞれ名義変更を受け(甲C87)
,原告A95(原告番
号95)は,Fから名義変更を受けた(甲C95)



分収育林の落札状況等

平成11年度以降,各地で満期(主伐期)を迎えた分収育林契約の対象山林が順次公売されるようになったところ,平成11年度から平成26年度までに販売された分収育林地1513か所のうち,1432か所において,費用負担者の1口当たりの分収額が払込額を下回り,売却により得ることができた分収額のほとんどが払込額を大きく下回る状態となったほか,
「不落」として売却困難な山林が続出する事態となった。その結果,原告らは,分収金等として,平成29年11月30日までに,別紙5「原告らの分収金等受取額一覧表
(平成29年11月30日現在)の各
」「受取日」
欄の年月日に,各「名目」欄記載の名目で各「受取額」欄記載の金額を得るにとどまった。


分収育林契約の契約期間の延長には対象林の契約者全員の同意が必要
であったところ,その後,被告は,同延長に同意しない契約者が国による持分買取りに同意した場合に,契約期間の延長が可能となるとの内容の制度を導入した上で,販売予定箇所の契約者に対し,契約期間の延長や持分の買取りについての意向確認を行った。

本件分収育林制度については,平成11年度には一般公募が休止され,
平成12年3月には材木の入札で元本割れや不落札が続いたことが国会で問題となり
(甲全9)平成19年には社会問題として日刊新聞に取り上

げられていた(甲全30)

2
争点⑴ア(説明義務違反の有無)について


説明義務の有無及び内容について

前記前提事実⑶及び前記認定事実⑵のとおり,本件分収育林制度は,国有林野の整備促進への国民の参加を得るとともに,被告においては人工林育成等のための資金確保を,費用負担者においては分収木の販売代金等の分配を得ることをそれぞれ目的とするものである。また,同制度は,①費用負担者が契約締結に当たり,一口当たりの払込額(持分に対応する分収育林価格)を負担し,②対象森林を国と費用負担者の共有とし,③契約期間(おおむね20年ないし30年程度)の満了時に,対象樹木を販売し,販売代金を国と費用負担者が持分割合に応じて分配するというものであり,同制度の基本的な構造は,特に複雑なものとはいえない。

もっとも,費用負担者が受け取る分収金額は,分収時における木材価格の動向によって変動するのであるから,その動向次第では,分収金の総額が払込額
(持分に対応する分収育林価格)
を下回る事態が生じ得る側面
(元
本割れリスク)を有している。このようなリスクについて判断するための基礎となる要素は,木材の成長度合い(材積の増大)や立木の販売価格の動向であるところ,林野庁が林業白書等により木材価格に関する情報を公表しているとはいえ,もともと木材価格が多種多様な要素に左右されるものであって価格の変化を予想することが困難であることに加え,費用負担者ないし契約行為者の多くは都市部住民であって,林業との関わりを持たず,材積の増大や立木の販売価格の動向等についての知識を有するわけではないから,これら都市部住民が,木材価格の動向次第で分収金の総額が払込額(分収育林価格)を下回る事態が生じ得ることにつき説明を受けなかった場合に,これを予測することは必ずしも容易ではないというべきである。また,被告としても,都市部住民が費用負担者となることを想定していたと認められる。
さらに,本件分収育林制度は,短期間に複雑に変動する高利の取得を目的とするようなものではないとはいえ,資産形成に役立つ等との被告の勧誘の内容(認定事実⑷)や,利回りの面に関する管理経営法の立法過程における議論状況(前提事実⑶,認定事実⑵)に照らせば,本件分収育林制度による費用負担については,投資の側面が存することが否定し難いというべきである。分収育林契約を締結する費用負担者においても,通常は,損益を考慮することなく国有林野の整備に貢献しようとするというのではなく,国有林野の整備に寄与しながらも,他方においては何らかの収益を得るという投資の目的をも有していたものというべきである。また,被告としても,費用負担者のこのような目的を認識していたものと推認される。
そうすると,木材価格の動向によっては分収金総額が払込額を下回る可能性があるという点は,費用負担者にとって分収育林契約の締結の際の重要な考慮要素となるというべきである。

本件分収育林制度の上記性質に鑑みると,材積の増大,木材価格の動向及びそれに伴う分収金額の変動については,一般にこれらについての格別の専門的知識を有するとはいえない費用負担者ないし契約行為者と,本件分収育林制度を創設し,実施の主体である被告との間には,保有する情報に格差があるといえる。費用負担者ないし契約行為者は,被告を信頼し,払込額に加えて何らかの収益を受領することを期待して,分収育林契約を締結するものと考えられるから,被告の担当者において,分収育林契約の申込みの勧誘を行うに当たっては,分収育林契約の内容等について,分収金の総額が払込額を下回ることはないとの誤解が生じ得るような場合には,費用負担者ないし契約行為者がそのような誤解に基づいて契約を締結することのないよう,材積の増大と立木の販売価格の動向により分収額は変動し,木材価格の動向によっては分収金総額が払込額を下回る可能性があることについて,相当の方法及び程度により説明をすべき信義則上の義務を負うと解すべきである。そして,被告ないし被告担当者がかかる義務に違反した場合には,費用負担者に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うというべきである
(ただし,
例外的に,
収益を度外視し,
単に森林造成に参加する目的で分収育林契約を締結しようとする者があった場合には,そのような者に対してまで被告が上記義務を負うと解することはできないが,本件において原告らがそのような意思で分収育林契約を締結したことをうかがわせる証拠は存しない。。

エ(ア)

以上に対し,被告は,費用負担者ないし契約行為者は,契約内容自体
から元本割れリスクの存在を知り得たから,被告に対する元本割れリスクの有無についての問合せがない以上は,被告は元本割れリスクについて説明義務を負わないと主張する。
しかし,具体的な分収額は,材積の増大と,多種多様な要因によって左右される木材価格動向の相関関係によって定まるものであるところ,費用負担者ないし契約行為者の多くは材積の増大や立木の販売価格の動向等についての知識を持たない都市部住民であって,費用負担者ないし契約行為者が,分収育林契約の内容自体から,20年ないし30年後の分収額が元本を割るリスクの存在を知り得たとまでは認められず,費用負担者ないし契約行為者がこの点について被告に問い合わせなかったからといって,説明の必要性がなくなるともいえないから,被告の上記主張は上記認定を左右するものではない。
(イ)

また,被告は,平成5年6月30日までに締結された契約の際には,
被告にとっても,元本割れリスクの予見可能性はなかったとも主張する。しかしながら,上記の当時,被告においては,契約締結から20年ないし30年にわたる材積の増大や木材価格の動向の予測として,元本割れが生じることがないとの認識であったとは認められないから,この点に関する被告の主張は上記認定を左右するものではない。

原告らは,山元立木価格が下落傾向にあったこと及び被告が採用したグラーゼル補正式が分収時までに要した造林費用を費用負担者に転嫁するものであるとの理解を前提として,被告は,元本割れリスクだけでなく,持分価格の算定過程(グラーゼル補正式の内容等)についても説明義務を負う旨主張する。
しかし,被告は,昭和55年の時点において,森林資源減少による木材価格の上昇が期待されるとしていたものであり(甲全9,27参照),昭和
55年から59年頃にかけて立木価格は下落傾向にあったものの,その前後では上昇傾向にあった時期もあったこと(認定事実⑴)に照らせば,被告が山元立木価格の下落傾向についてまで説明すべき義務を負っていたとは認められない。また,グラーゼル補正式は,植栽後10年間の造林費を評価時における立木評価額の価値の一部を構成するものとして評価するものであるところ,グラーゼル補正式により求められた立木の評価額と分収時までの期間における育林費の合計である分収育林価格のうち,費用負担者が支払うべき額は分収育林価格に対する持分相当額であって,費用負担者に造林費用のほぼ全額が転嫁されるというものではなく,この点に関する原告らの主張は前提を欠くものである。また,仮にこの点を措くとしても,元本割れリスクの存在に加えて,被告が持分価格の算定過程の詳細を明示するなどして説明をすべき義務までを負っていたことを認めるべき根拠は見出せない。
したがって,原告らの主張はいずれも上記認定を左右するものではない。⑵

被告担当者による説明義務違反の有無について
前記認定事実⑷イのとおり,被告担当者は,分収育林契約の申込みの勧誘を行うに当たり,主に林野庁作成のパンフレットや各営林局又は営林署作成のチラシを配布することにより,分収育林契約の申込みの勧誘を行い,電話で勧誘する際にも,パンフレット等を読むよう求めていたところ,平成5年6月30日までに使用されていたパンフレットには,元本を保証しない旨の記載がされておらず,他方,平成5年7月1日以降に使用されたパンフレットには,元本を保証しない旨が明記されていたこと(原告A69(原告番号69)を除く。
)から,以下においては,被告担当者による勧誘において元本
を保証しない旨の記載のないパンフレットが使用された同年6月30日以前に分収育林契約を締結した者と,その旨の記載のあるパンフレットが使用された同年7月1日以降に分収育林契約を締結した者とに分けて検討することとする。


原告らのうち平成5年6月30日以前に分収育林契約を締結した者に対
する説明義務違反について

認定事実1⑷イ(イ)cのとおり,林野庁作成のパンフレットには,出資1口当たりの分収育林が,木造2階建住宅1軒に使用される量に相当する木材に成長する旨の記載(昭和59年頃作成のもの及び昭和63年頃作成のもの)又は面積が1000平方メートルないし1500平方メートル,,

木の本数が200ないし250本程度のスギ林となる旨の記載(平成2年頃作成のもの)があるところ,他方において,契約期間が非常に長く,将来の収入を契約時点で予想することができない旨の記載はあるものの,その具体的価格や元本割れが生じ得る程度の変動が生じ得ることについての記載はみられない。このようにみると,パンフレットの上記記載は,立木価格の形成要因や動向を知らない者にとっては,1口当たりに支払われる分収金等の総額が出資額50万円を優に超えるとの誤解を与えるものと認められる。
また,前記認定事実⑷イ(ウ)のとおり,各地の営林局又は営林署が作成したチラシにおいても,安全確実で資産作りに最適である旨の記載があり,少なくとも,分収金の総額が払込額を下回らないとの誤解を生じさせ得る内容のものであったと認められる。
上記の各記載内容は,分収林が成長により肥大化することを強調する余り,分収金の総額が払込額を下回ることはないとの誤解を生じさせ得るものであったということができる。そうすると,上記のようなパンフレットを使用して分収育林契約の申込みの勧誘を行った被告担当者としては,費用負担者ないし契約行為者が,分収金の総額が払込額を下回る可能性を認識し得るような特段の事情のない限り,上記誤解に基づいて契約を締結することのないよう,相当な方法及び程度により,材積の増大と立木の販売価格の動向により分収額が変動し,木材価格の動向によっては分収金総額が払込額を下回る可能性があることを説明すべき信義則上の義務を負い,上記誤解に陥らないように又は上記誤解を取り除くように適切な措置を講じたのでなければ,説明義務違反に基づく損害賠償義務を負うというべきである。

証拠(甲C1,2,4,6,7,11,15,19ないし24,28ないし32,34ないし36,41ないし47,49ないし62,66,70ないし80,82ないし86,89ないし92,94ないし97,99ないし103,105ないし109)及び弁論の全趣旨によると,平成5年6月30日以前に締結された分収育林契約に関してみれば,契約を締結した者は,木材価格の動向等について格別の専門的知識を有しているものではなく,分収金の総額が払込額を下回る可能性があることを認識し得る特段の事情がなかったにもかかわらず,上記パンフレットの記載又はこれと同趣旨の勧誘を受けて,上記のような可能性があることを認識しないまま契約を締結したものであり,また,被告の担当者から,上記誤解に陥らないよう,又は上記誤解を取り除くような説明を受けていれば契約を締結することはなかったにもかかわらず,そのような説明を受けることがなかったものと認められる。
したがって,
被告担当者には,
少なくとも,
上記各分収育林契約に関し,
木材価格の動向によっては分収金総額が払込額を下回る可能性があることについての説明義務違反があったということができる。



平成5年7月1日以降に分収育林契約を締結した者に対する説明義務違
反の有無について

平成5年7月1日以降に締結された分収育林契約において使用された
パンフレットには,元本の保証がされているものではないことが記載されており,これを閲読した者が当該記載内容を誤解するとも考え難いといえるから,上記パンフレットを受け取った者は,通常は,木材価格の変動により将来の分収金の総額が払込額を下回る可能性があることを認識することができたものと認められる。
したがって,当該パンフレットを用いて分収育林契約の申込みの勧誘を受けた者は,将来の分収金の総額が払込額を下回る可能性があることを認識することができたというべきであり,同日以降に分収育林契約を締結した新規契約者については,そのような認識を有し得なかったとの特段の事情が認められない限り,被告担当者に説明義務違反があったとは認められない。

前記認定事実⑷イ(エ)cのとおり,
平成5年7月1日以降に分収育林契約
を締結した新規契約者(原告番号5,9,10,17,18,25ないし27,33,38ないし40,48,65,81,87,88,93)については,本件全証拠によっても,元本割れの可能性を認識し得なかった点につき特段の事情があったとは認められないから,説明義務違反があったと認めることはできないというべきである。
この点,上記契約者ら作成の各陳述書(甲C5,9,17,25,26,30,33,65,81,87)には,被告から送付を受けたパンフレットに元本保証はない旨の記載はなかったか,又はそのような記載を見た記憶がない,そもそもパンフレットを受け取っていない旨の記載があるが,前記認定のとおり,被告は,当時の契約希望者に対し,契約関係書類と共に送付する取扱いをしており,その際に送付されるパンフレットには,元本保証はない旨記載したパンフレットを送付していたことが認められるから,被告としては必要な説明をしていたものと認められるのであって,上記各陳述書は上記判断を左右するものではない。

平成5年6月30日までに分収育林契約を締結した後,さらに同年7月1日以降に分収育林契約を締結した者(以下「追加契約者」という。)につ
いて
平成5年6月末日までに締結した分収育林契約について被告に説明義務違反が認められることは,
前記⑶において述べたとおりである。
そして,
同日までに分収育林契約を締結した者が,新たに同年7月以降に契約を締結するに当たっては,仮に元本割れのおそれがある旨の記載があるパンフレットを受領していたとしても,分収育林契約の内容が従前のものと異ならないのであれば,被告の担当者から特段の指摘がない限り,通常は,十分な注意をもって当該パンフレットを閲読することまでしないことも多いと考えられるから,単に元本割れのおそれがある旨の記載を含むパンフレットを受領したとしても,そのことによって直ちに従前の契約の際に生じた誤解が除去されたとはいい難いというべきである(なお,分収育林契約の締結の際に被告が送付する資料に,分収育林契約書の内容を確認するようにとの記載がされていたことをもって,このような誤解が解消されるとは考えられない。。したがって,先行的にこのような誤解が生じている)
場合,被告の担当者においては,積極的にその誤解を解消するに足りる説明をする必要があるというべきである。
原告らのうち原告A30(原告番号30)は,平成2年8月17日に分収育林契約を締結した後,さらに平成6年9月29日に分収育林契約を締結した者であるところ(認定事実⑷イ(エ)d)
,証拠(甲C30)及び弁論の
全趣旨によれば,平成6年9月29日の契約の締結に際し,被告の担当者が,上記パンフレットを閲読するよう特に求めたり,従前の契約の際に生じた誤解を取り除くような説明をしたとは認められない。したがって,同契約についても,平成2年8月17日に締結した契約の際に生じた誤解に基づき締結したものとして,被告には説明義務違反があったというべきである。

平成5年6月30日以前に用いられていたパンフレットを用いた勧誘
を受けた者について
原告A69(原告番号69)は,平成5年7月28日に分収育林契約を締結したものであるが,前記認定事実⑷イ(エ)cのとおり,原告A69が被告の担当者から交付を受けたパンフレットは,平成5年6月以前に被告が契約希望者に交付した元本割れの可能性について記載のないのもであったと認められるから,上記パンフレットの記載又はこれと同趣旨の勧誘を受けて,分収金総額が払込額を下回る可能性があることを認識しないまま契約を締結したものと認められ,被告の担当者から,上記誤解に陥らないように,又は上記誤解を取り除くように説明を受けることがなかったことが認められる。したがって,被告担当者には,原告A69に対する説明義務違反があったということができる。

原告A55(原告番号55)について
ここで併せて検討しておくと,原告A55(原告番号55)は,平成9年に,被告の担当者から,ふれあいの郷に係る事業(緑資源の確保に対する国民的要請,特に森林の造成に国民自らが参加する機運の高まりなどに対処するため,森林づくりの場(分収育林等)の提供と,その拠点となる滞在用施設用地の提供(貸付け)等を国有林野内において一体的に行う事業)に参加する要件として,分収育林を原則として3口分契約する必要があるとの説明を受けた上で,権利者(C)の紹介を受け,分収育林契約の契約上の地位の譲受けを勧められたことから,被告の担当者は,上記紹介に際し,分収育林契約の締結の際に元本割れリスクについての説明義務を怠ったことが不法行為を構成する旨主張する。
しかし,証拠(甲C55)によれば,原告A55とCとの分収育林契約の契約上の地位の移転について,被告はあくまで紹介者の地位にあるにすぎないと認められ,当該契約上の地位の移転に伴い,原告A55に対して説明義務を負うことにはならない。また,Cから分収育林契約の契約上の地位を譲り受けたのは,原告A55が代表者を務める株式会社ナガオであったから,仮に被告の担当者の説明義務違反による損害賠償請求権が発生するとしても,それは株式会社ナガオに帰属するのであって,その後に株式会社ナガオから原告A55に分収育林契約の名義変更がされたからといって,分収育林契約の名義変更に伴い,契約上の地位の移転に付随して損害賠償請求権が当然に譲受人に移転するものではないことは後記5のとおりであるから,いずれにしても,原告A55の主張は採用できない。⑸

小括
以上のとおり,①平成5年6月30日以前に契約を締結した契約行為者(原告A30(原告番号30)を含む。
)及び原告A69(原告番号69)に
係る分収育林契約については,被告担当者の説明義務違反が認められるが,②平成5年7月1日以降の新規契約者
(別紙6判決理由一覧表の
「判決理由」
のうち「説明義務違反」欄に「×」が記載されたもの)については,説明義務違反は認められない。

3
争点⑴イ(実質的な断定的判断の提供の有無)について前記認定事実⑷イ(イ)及び(ウ)のとおり,林野庁作成のパンフレットや各地の営林局又は営林署作成のチラシには,
「長期契約の安全確実な資産として」
「長
期経済変動に強く,資産作りに最適です」などというように,分収育林契約が変動の少ない安定した商品である旨や,伐採時の収入が「50万円で100平方メートルの木造2階建住宅に使用する木材に相当する立木の売却収入が見込まれます(1口50万円の場合)
」というように,分収林が育つことによって
価値が大きくなる(主伐時の分収額が大きくなる)旨の記載がされていることが認められる。しかし,分収育林契約の相手方が国であることや,契約行為者と国との間の情報の格差を考慮したとしても,これらの記載が,費用負担者ないし契約行為者に対し利益の発生や損失が発生しないことを確約したとまでは認めることができないから,原告らが断定的判断の提供であると主張するパンフレットやチラシの記載をもって,被告による分収育林契約の申込みの勧誘において,断定的判断の提供があったと認定ないし評価することはできない。4
争点⑵(原告らの損害)について
前記2のとおり,被告には,平成5年6月30日までに分収育林契約を締結した者及び原告A69に対する申込みの勧誘については,被告担当者の説明義務違反が認められるところ,原告らは,被告から分収育林契約について適切な説明を受けていれば,分収育林契約を締結し,払込額相当額を支払うことはなかったと認められから,原告らが被告の説明義務違反により被った損害は,払込額相当額となるものというべきである。

5
争点⑷(分収育林契約に係る持分譲渡(名義変更)による損害賠償請求権の移転の有無)について


上記認定のとおり,
被告は,
平成5年6月30日までに締結された分収育
林契約の費用負担者及び追加契約者に対し,被告の担当者の説明義務違反による国家賠償法1条1項又は不法行為に基づく損害賠償義務を負うものと認められるところ,原告A55(原告番号55),原告A81(原告番号81),原告A83(原告番号83),原告A87(原告番号87)及び原告A95(原告番号95)は,平成5年6月30日以前に締結された分収育林契約の費用負担者から,分収育林契約の名義変更を受けたものである。


上記各原告らは,分収育林契約の名義変更に伴い,費用負担者から損害賠償請求権の移転を受けたものであると主張する。しかし,上記のとおり,これらの分収育林契約の費用負担者が取得した損害賠償請求権は,被告の担当者の説明義務に違反する勧誘によって,上記費用負担者が分収育林契約を締結し,費用負担額を出捐したことによる損害という,契約締結前に行われた契約自体とは別個の違法行為により,契約締結時に費用負担者に生じた損害に係る賠償請求権であるから,分収育林契約の名義変更ないしは契約上の地位の移転に付随して当然にこれが譲受人に移転することにはならない。原告らは,名義変更が親族等との間で行われていることや,損害の公平な分担の見地から,上記損害賠償請求権の移転を認めるべきであると主張するが,原告らの主張するような関係が当事者間に存在するとしても,そのことをもって,債権譲渡の手続を経ることのないまま,契約上の地位の譲渡に付随して損害賠償請求権が移転すると解することの根拠となるものではない。⑶

したがって,上記各原告らについては,上記の各契約(別紙6判決理由一覧表の「判決理由」のうち「名義変更」欄に「×」が記載されたもの)に係る説明義務違反に基づく損害賠償請求権を承継取得したとは認められない。
6
争点⑸(民法724条後段の期間制限の法的性質,除斥期間の起算日,除斥期間の適用の可否)について


民法724条後段の期間制限の法的性質
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は,国家賠償法4条及び民法724条後段により,不法行為の時から20年間行使しないときは消滅するところ,原告らは,民法724条後段の規定は消滅時効を定めたものである旨主張する。
しかし,同条後段の規定は,不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり,これは既に確定した判例であるというべきであるから(最高裁判所平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁,最高裁判所平成10年判決,最高裁判所平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号853頁(以下「最高裁平成21年判決」という。)
),原告らの上記主張は採用できない。



除斥期間の起算日について

民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,
「不法行為の時」
と規定さ
れており,加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合においては,加害行為の時がその起算点となると考えられる。
この点に関し,原告らは,払込相当額の損害は分収期が到来するまでは潜在化しており,分収期が到来した時点で具体的に顕在化するとして,本件の損害(払込相当額)が,最高裁平成16年判決にいう「性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合」に該当し,
「当該損害の全部又は一部が発生した時」すなわち「分収期到来時」が除斥期間の起算点であると主張する。また,原告らは,分収育林契約については,分収期の到来するまで損害の把握が困難であり,損害賠償請求権を行使することができないとも主張する。
そこで検討すると,最高裁平成16年判決は,身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生したときが除斥期間の起算点となるとするものであるところ,被告の説明義務違反によって原告らに生じた損害は,分収育林契約締結時に費用負担額を出捐したことないしはその出捐額
(その額は払込額相当額)
となるものとみるほかはない。
したがって,
費用負担額を出捐したという損害は,契約締結時に既に具体的に発生したものというべきであるから,除斥期間の起算点である「不法行為の時」(民
法724条後段)については,原告らがそれぞれ分収育林契約を締結した時点と解さざるを得ない。
また,
費用負担額を出捐したことによる損害は,
上記のとおり契約締結時に発生しているのであって,分収期が到来するまでの間であっても,損害の把握が困難であるとはいえず,ただ分収期到来時にその全部又は一部の補填の有無が明らかになるにすぎないというべきである。加えて,分収育林契約に係る払込相当額の損害は,最高裁平成16年判決が例示するような,身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害とは性質上の差異があるといわざるを得ず,本件の原告らの損害が,上記判決が指摘するような「性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合」に当たるとみるのは困難というほかはない。

したがって,原告らの上記主張は採用することはできない。
そうすると,前記説明義務違反に基づいて国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権の取得が認められる契約のうち,契約締結日から提訴日(第1事件(原告番号1ないし90の原告につき平成27年9月18日,第2事件〔原告番号91ないし103,105ないし109の原告〕につき平成29年4月17日)までの期間が20年を超える契約(別紙6判決理由一覧表の「判決理由」のうち「除斥期間」欄に「×」が記載された,原告番号5,25,33,38ないし40,48,93を除く原告らに係る契約)に関する損害賠償請求権は,除斥期間の経過により消滅したものと認められる(不法行為に基づく損害賠償請求権が認められるとしても同様である。。




除斥期間の適用の可否について

原告らは,①除斥期間の適用が信義則違反ないし権利の濫用である,また,②除斥期間の適用によって被告を損害賠償義務から免れさせることは著しく正義・公平の理念に反するから,本件において民法724条後段の適用は排除されるべきであると主張する。


しかしながら,不法行為に基づく損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には,裁判所は,当事者からの主張がなくても,除斥期間の経過により上記請求権が消滅したものと判断することになり,法律上は,主張の可否が問題になるものではないから,被告による除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるとの主張は,法的にみて採用し難いというべきである(最高裁判所平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁)


原告らは,除斥期間による権利消滅の例外を認めた判例として,最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決が存在することを指摘するので,念のため,この点についても検討しておく。
最高裁平成10年判決は,予防接種によって重度の心身障害者となり,心神喪失の常況にある原告が,接種の時から22年経過後に,国に対して損害賠償を求めて提訴した事案につき,
「不法行為の被害者が不法行為の
時から20年を経過する前6か月内において上記不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において,その後当該被害者が禁治産宣告を受け,後見人に就職した者がその時から6か月内に上記損害賠償請求権を行使したなど特段の事情のあるときは,民法158条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。
」と判示したものである。また,最高裁平成21年判決
は,殺人事件の加害者が被害者の死体を自宅の床下に掘った穴に埋めて隠匿するなどしたため,殺害行為が発覚せず,ようやく事件発生の約26年後になって死体の身元が確認されるに至ったことから,その後,被害者の相続人らが加害者に対して不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴した事案につき,
「被害者を殺害した加害者が,
被害者の相続人において被害者
の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのため相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月以内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情のあるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。
」と判示したものであ
る。
これに対し,除斥期間の経過が問題になる分収育林契約は,いずれも平成5年6月30日以前に,被告担当者の説明義務違反により契約行為者において分収育林契約に元本割れリスクがあることを知らないまま締結したというものであり,分収育林制度の構造上,原告らが被告担当者の説明が不十分であったこと(元本割れリスクの存在)を知るには一定の期間を要するとはいえるが,後述するように(後記7⑴イ),費用負担者は,遅く
とも「主伐による最終的な分収金の支払を受けた時点」には具体的に損害及び加害者を知ったといえるから,少なくとも除斥期間の経過前に主伐による最終的な分収金の支払を受けた原告(契約枝番の1つでも該当する場合はこれに含む。原告番号9,10,21,69,75,84,97,98)
については,
上記各判決と同視するに足る特段の事情は認められない。
また,その他の原告らについても,平成11年度には一般公募が休止され,平成12年3月には材木の入札で元本割れや不落札が続いたことが国会で問題となり,平成19年には社会問題として新聞に取り上げられていたこと(認定事実1⑸ウ)等に照らすと,仮に,被告の説明義務違反により契約時に元本割れリスクの存在を認識していなかったとしても,除斥期間の経過までのいずれかの時点においては,権利を行使し得る可能性はあったというべきであって,上記各判決と同視できるような特段の事情があるとはいえない。したがって,原告らはいずれも上記各判決と同視すべき事情は見出し難いから,民法724条後段の適用を制限すべきであるとはいえない。
付け加えると,最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決は,民法158条又は160条の法意に照らして,民法724条後段の効果が生じないとしているところ,本件については,これと異なり,民法724条後段の適用を制限する根拠となり得る規定は見出せないから,この点に照らしても,本件において民法724条後段の適用を制限すべきであるとはいえない。


小括
以上によれば,原告らが被告ないし被告担当者の説明義務違反により国家賠償法1項1項又は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得したとしても,分収育林契約締結時から起算して本件訴訟提起前の20年の除斥期間が経過したもの(別紙6判決理由一覧表の「判決理由」のうち「除斥期間」欄に「×」が記載されたもの)は,同時点で,法律上当然に消滅したというべきである。

7
争点⑹(民法724条前段の消滅時効の起算日及びその援用の可否)について


消滅時効の起算日

国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権の消滅時効については,同法4条により民法724条が適用されるところ,同条にいう「損害及び加害者を知ったとき」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し,同条にいう被害者が損害を知った時とは,損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁判所平成14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)

また,損害の発生を知ったといえるためには,単に加害行為により損害が発生したことを知っただけではなく,その加害行為が不法行為ないし違法行為を構成することを知ったことが必要となると解すべきである(最高裁判所昭和42年11月30日第一小法廷判決・裁判集民事89号279頁参照)


そこで,本件において,原告らが損害の発生及び加害者を現実に認識した時点がいつであったかにつき検討すると,上記6において述べたとおり,原告らの損害自体は,分収育林契約締結時に発生していたものといわざるを得ない。しかし,分収育林契約が間伐及び主伐による分収金の受領を目的とするものであること,また,損益相殺の対象となるべき元本割れの有無が契約締結の時点で認識できたとはいえないことに鑑みれば,契約締結時が直ちに消滅時効の起算点となるとまではいえず,原告らにおいては,主伐による最終的な分収金の支払を受領することにより,元本割れリスクについて被告に説明義務違反があったことを認識することができ,同違反により自己に損害が発生したことを確定的に認識することができたものというべきである。
そうすると,原告らは,主伐による最終的な分収金の支払を受けた時点で,損害の発生及び加害者を現実に認識したということができるから,原告らの国家賠償法1条1項ないし不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,主伐による分収金の支払を受けた日であると解すべきである。

これに対し,原告らは,原告ら代理人によって被害弁護団が結成され,分収育林制度の問題点について説明を受けた時点で初めて,自己の損害が被告の違法行為ないし不法行為によるものと認識するに至ったから,消滅時効の起算点は,上記説明を受けた時点であると主張する。
しかし,法律の専門家でない一般市民である原告らにとっても,主伐期に払込額を下回る分収金を受け取った時点において,元本割れが生じたことを認識するとともに,被告の説明義務違反によって自己に損害が生じたことを認識したものというべきであり,原告らは,上記の時点で,被告の担当者の行為が不法行為(違法行為)を構成することを知ったといえる。したがって,原告らの上記主張は上記認定を左右しない。



消滅時効の援用の可否

原告らは,①本件分収育林制度が長期拘束型契約を内容とするものであり,分収期まで損失の発生が判明しないという構造を有すること,②同制度が財政破綻していた国有林野事業の赤字を軽減する目的で導入されたものであること,③被告は,元本割れリスクの存在を認識しながら,それを説明しないで販売したこと,④原告らと被告との間には情報格差が存在すること,⑤林野庁がホームページに分収額が費用負担額を下回った分の補償を行えない旨を記載していたことなどを根拠として,被告による消滅時効の援用は信義則違反又は権利濫用に該当すると主張する。

そこで検討すると,消滅時効制度の機能ないし目的については,長期にわたって存続する事実状態を尊重し,その事実状態を前提として構築された社会秩序や法律関係の安定を図ること,過去の事実の立証の困難を救い,真の権利者ないしは債務から解放された者を保護すること,権利の上に眠る者(権利行使を怠った者)は法の保護に値しないこと等によるものと解されている。また,民法724条前段は,不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間について,被害者等が損害及び加害者を知った時から3年と定めているところ,これは,消滅時効制度の上記の趣旨のほか,損害賠償の請求を受けるかどうか,いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果,極めて不安定な立場に置かれる加害者の法的地位を安定させ,加害者を保護することにある(最高裁判所昭和49年12月17日第三小法廷判決・民集28巻10号2059頁参照)

他方,民法は,時効の利益を受ける者の意思を尊重して,援用を要する旨定めるが(民法145条)
,時効の利益を受けるについては,援用の意思
表示を要件とするのみで,その理由や動機,債権の発生原因や法的性質等を要件として規定してはいない(民法724条前段の消滅時効の援用についても,特段の規定がないことから,民法145条によるべきことになる。。



以上述べた消滅時効の機能や援用の要件の存在等に鑑みると,時効の利益を受ける加害者は,被害者が訴え提起その他の権利行使や時効中断行為に出ることを妨害して,被害者が権利行使や時効中断をすることを事実上困難にしたなど,被害者が期間内に権利を行使しなかったことについて加害者に責めるべき事由があり,被害者に権利行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情があるのでない限り,消滅時効を援用することは妨げられないというべきである。損害賠償請求権の発生要件該当事実が悪質であること,被害が甚大であること,事実関係が複雑であること,法律構成が困難であること等の事情により,被害者において権利行使や時効中断行為に出ることが事実上困難であったにとどまる場合には,加害者による消滅時効の援用を権利の濫用とする事情とはならないし,被害者と加害者の社会的・経済的地位や能力の差異等についても同様というべきである。エ
以上によれば,原告らが主張する本件分収育林制度の内容,目的,勧誘の在り方及び情報格差等の事情(上記ア①ないし④)は,被告の不法行為(違法行為)の悪質性に関するものにとどまり,消滅時効の援用が権利濫用となることを認めるべき事情とはならない。また,原告らのかかる主張によっては,主伐による最終的な分収期の支払を受けた後,原告らが権利を行使するにつき妨げとなるべき事情があったともいえず,原告らが消滅時効の完成前に権利を行使しなかったことについての被告の側に責めるべき事由がったことの根拠となるものでもない。林野庁のホームページの記載内容(上記⑤)については,そもそも原告らが当該記載を閲覧し,それにより権利行使等が妨げられたことを認めるに足りる的確な証拠はない上,当該ホームページの記載内容としても,
「補償」を行うことができな
いとされているにすぎず,この記載により,原告らが権利行使や時効中断行為に出ることが事実上困難となったとはいえないし,原告らが期間内に権利を行使しなかったことについての被告の側に責めるべき事由があるともいえない。その他,被告による消滅時効の援用につき権利濫用を基礎づける事情は見出せない。

また,同様に,被告による消滅時効の援用が信義則に反すると認めることもできない。


以上によれば,被告による消滅時効の援用は,権利の濫用又は信義則違反に該当するとは認められない。



小括
したがって,原告らが被告担当者の説明義務違反により国家賠償法1項1項又は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得したとしても,分収育林契約に基づく最初の主伐完了時から起算して,訴え提起時までに3年が経過している契約
(別紙6判決理由一覧表の
「判決理由」
のうち
「消滅時効」「×」
欄に
が記載された契約)に係る損害賠償請求権は時効によって消滅したものと認められる。

8
結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第3民事部

裁判官

牧野賢
裁判長裁判官長谷部幸弥及び裁判官玉野勝則は転補のため
署名押印することができない。

裁判官

牧野賢
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