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公共職業訓練不合格処分取消等請求事件、損害賠償請求事件
事件番号平成27(行ウ)3
事件名公共職業訓練不合格処分取消等請求事件,損害賠償請求事件
裁判年月日平成30年4月10日
法廷名高知地方裁判所
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平成30年4月10日判決言渡

平成27年(行ウ)第3号
平成27年(ワ)第374号
(口頭弁論終結日

同日原本領収

裁判所書記官

公共職業訓練不合格処分取消等請求事件
損害賠償請求事件

平成29年5月9日)
判決主文
平成27年(行ウ)第3号事件のうち請求1
被告県は,原告に対し,33万円及びこれに対する平成26年5月2日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
原告の被告県に対するその余の請求を棄却する。
2
原告の被告国に対する請求を棄却する。

3
訴訟費用は,原告と被告県との間においては,原告に生じた費用の10分の1を被告県の負担とし,被告県に生じた費用の5分の4を原告の負担とし,その余は各自負担とし,原告と被告国との間においては,全部原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
平成27年(行ウ)第3号事件
処分行政庁が,平成26年5月1日付けで,原告に対してした公共職業訓練(平成26年度介護職員初任者研修科1)不合格処分を取り消す。被告県は,原告に対し,165万円及びこれに対する平成26年5月2日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2
平成27年(ワ)第374号事件
被告国は,原告に対し,165万円及びこれに対する平成26年5月2日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,広汎性発達障害を有する原告が,被告国が設置する公共職業安定所を通じ,被告県が被告国から委託を受けて実施する職業能力開発促進法4条2項に基づく職業訓練の受講を申し込み,その受講のための選考を受験したところ,被告県が原告に対して発達障害を理由として同選考を不合格とする処分をしたことが違法であると主張して,被告県に対し,同処分の取消し及び国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等165万円及び遅延損害金の支払を,被告国に対し,国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等165万円及び遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
1
関係する法令等の概要
職業訓練に関する法律等

職業能力開発促進法(以下「促進法」という。)(乙1)
1条

この法律は,雇用対策法と相まって,職業訓練及び職業能力検定
の内容の充実強化及びその実施の円滑化のための施策並びに労働者が自ら職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける機会を確保するための施策等を総合的かつ計画的に講ずることにより,職業に必要な労働者の能力を開発し,及び向上させることを促進し,もって,職業の安定と労働者の地位の向上を図るとともに,経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。

3条

労働者がその職業生活の全期間を通じてその有する能力を有効に
発揮できるようにすることが,職業の安定及び労働者の地位の向上のために不可欠であるとともに,経済及び社会の発展の基礎をなすものであることにかんがみ,この法律の規定による職業能力の開発及び向上の促進は,産業構造の変化,技術の進歩その他の経済的環境の変化による業務の内容の変化に対する労働者の適応性を増大させ,及び転職に当たっての円滑な再就職に資するよう,労働者の職業生活設計に配慮しつつ,その職業生活の全期間を通じて段階的かつ体系的に行われることを基本理念とする。
3条の2第1項

労働者の自発的な職業能力の開発及び向上の促進は,

前条の基本理念に従い,職業生活設計に即して,必要な職業訓練及び職業に関する教育訓練を受ける機会が確保され,並びに必要な実務の経験がなされ,並びにこれらにより習得された職業に必要な技能及びこれに関する知識の適正な評価を行うことによって図られなければならない。
3条の2第4項

身体又は精神に障害がある者等に対する職業訓練は,

特にこれらの者の身体的又は精神的な事情等に配慮して行われなければならない。

職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(以下「求職者支援法」という。)
第4条

厚生労働大臣は,職業訓練を行う者の申請に基づき,当該者の

行う職業訓練について,次の各号のいずれにも適合するものであることの認定をすることができる。
1
職業訓練実施計画に照らして適切なものであること。

2
就職に必要な技能及びこれに関する知識を十分に有していない者
の職業能力の開発及び向上を図るために効果的なものであること。
3
その他厚生労働省令で定める基準に適合するものであること。

第5条

国は,認定職業訓練が円滑かつ効果的に行われることを奨励す

るため,認定職業訓練を行う者に対して,予算の範囲内において,必要な助成及び援助を行うことができる。

職業訓練受講指示要領(乙7)
公共職業安定所長による職業訓練の受講指示は,次の各号に掲げる者に対して行うことができる。
(中略)
雇用対策法施行規則第1条の4第1項第7号イ
れにも該当する者
障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第6号に規定する精神障害者(症状が安定し,就労が可能な状態にあるものに限る。(障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則第1条の4))のうち,安定所による職業のあっせんを受けることが適当であると安定所長により認定されたもの
なお,症状が安定し就労が可能な状態にあるものであることの確認は,その者の主治医の意見書をもって行うこととする。

平成9年3月11日付け労働省職業能力開発局長通達能発第55号「公共職業訓練を受講する者の選考について」(以下「能発55号」という。)(乙4の1)
公共職業訓練を受講する訓練生については,下記1に定める者を標準とし,その選考に当たっては,下記2及び3に留意の上,適正に行うよう御配慮をお願いする。
1
公共職業訓練を受講する者は,次の要件を全て満たすと判断される者であること。
職業に必要な技能及びこれに関する知識を習得することにより就
職することを望んでいる者であって,職業訓練を受講することに熱意を有すると認められる者であること。
職業訓練を受講するのに必要な学力を有すると認められる者であ
ること。
その他,公共職業能力開発施設において職業訓練を受講・修了す
るのに支障がないと認められる者であること。

2
障害を有する者について,一般の公共職業能力開発施設は,障害の特性・程度等を十分考慮の上,訓練効果を期待しうる訓練科にできる限り受け入れるよう努めること。
また,障害者職業能力開発校は,一般の公共職業能力開発施設において訓練を受講することが困難な障害を有する者を受け入れるものとすること。
3
普通職業訓練を受講しようとする者については,公共職業安定所長が行う受講指示との間に食い違いを来さないよう,当該公共職業安定所と協議し意見の調整を行うこと。


平成9年3月11日付け労働省職業能力開発局能力開発課長,特別訓練対策室長通達開発第21号「公共職業訓練を受講する者の選考について」(以下「開発21号」という。)(乙4の2)
下記事項に留意の上,適正な選考が行われるよう併せて御配慮をお願いする。
3
障害を有する者の入校選考又は受入れに当たっては,能発55号及び本通達によるほか,(中略)能発80号等に十分留意して行うこと。なお,障害を有する者の入校選考又は受入れに当たっては,公共職業安定所等の助言等の協力を得るよう努めること

6
公共職業安定所長による受講指示の適正な実施に資するため,必要と認める場合は,設置する訓練科ごとに,当該訓練科の訓練を受講するに当たって必要と認められる学力等について公共職業安定所あて情報提供を行うこと。


平成10年4月1日付け労働省職業安定局長,職業能力開発局長通達能発第84号(旧能発第80号)「精神障害者に対する職業訓練の実施について」(以下「能発84号」という。)(乙8,丙2)
標記の者に対する職業訓練については,かねてより平成4年4月10日付け職発第235号・能発第80号「精神障害回復者等に対する職業訓練の実施について」別添「精神障害回復者等に対する受講指示及び職業訓練実施要領」に基づき御尽力いただいているところであるが,今般,障害者の雇用の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成9年政令第277号)等が平成10年3月23日付けで公布され,本日から施行されることとなったことに合わせて,下記の通りその取扱を一部改めることとしたところである。
これに伴い,別添のとおり「精神障害者に対する受講指示及び職業訓練実施要領」を定めたので,これが取扱いに当たり遺漏のないよう特段の御配慮をお願いする。
なお,平成4年4月10日付け職発第235号・能発第80号「精神障害回復者等に対する職業訓練の実施について」は廃止する。

これまで精神分裂病,そううつ病又はてんかんにかかっている者で,症状が安定し就労が可能な状態にある者に限られていた職業訓練の受講指示対象者となりうる者に,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者で,症状が安定し就労が可能な状態にある者を追加したこと。
別添
1
精神障害者に対する受講指示及び職業訓練実施要領
目的
精神障害者に対して職業訓練を実施することにより,精神障害者

の職業的自立と社会参加を積極的に推進することを目的とする。
2
職業訓練の受講指示対象者
職業訓練の受講指示対象者は,障害者の雇用の促進等に関する法
律施行令第1条に定める精神分裂病,そううつ病若しくはてんかんにかかっている者又は精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
(以下「精神保健福祉法」という。)第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者で症状が安定し就労が可能な状態にあるもの(以下「令第1条障害者」という。)のうち,公共職業安定所による職業のあっせんを受けることが適当であると公共職業安定所長により認定された者とする。
3
対象者の認定・受講指示
公共職業安定所における対象者の認定・受講指示は次のとおり行
うこと。
令第1条障害者であることの確認
求職者から,その求職者が令第1条障害者であるとの申出があ
った場合には,当該求職者の就労に係る別紙1「主治医の意見書」の提出を求め,当該意見書の2欄,4欄及び5欄により,当該求
職者が令第1条障害者に該当する者であることの確認を行うこと。(中略)

4
職業訓練の実施
(中略)
入校選考
入校選考に当たっては,平成9年3月11日付け能発第55
号「公共職業訓練を受講する者の選考について」によるほか,
欄,5欄等を参考に当該対象者の希望する
訓練職種と,障害の種類,回復の程度等を十分考慮することの
ほか,必要に応じて,公共職業安定所,地域障害者職業センタ
ー,保健所,精神保健福祉センター等関係機関の意見を参考に
すること。
(上記エ~カの通達を,以下「本件各通達」という。)


雇用対策法
第18条(職業転換給付金の支給)
国及び都道府県は,他の法令の規

定に基づき支給するものを除くほか,労働者がその有する能力に適合する職業に就くことを容易にし,及び促進するため,求職者その他の労働者又は事業主に対して,政令で定める区分に従い,次に掲げる給付金(以下「職業転換給付金」という。)を支給することができる。
第1号

求職者の求職活動の促進とその生活の安定とを図るための給

付金
第2号

求職者の知識及び技能の習得を容易にするための給付金

(後略)

雇用対策法施行規則(乙11)
第1条の4(就職促進手当)

法第18条第1号に掲げる給付金(以下

「就職促進手当」という。)は,次の各号のいずれかに該当する者に対して,支給するものとする。
(中略)
第7号

次のいずれかに該当し,かつ,公共職業安定所長が指示した

公共職業能力開発施設の行う職業訓練(イに該当する者にあって
は,職業能力開発促進法施行規則(昭和44年労働省令第24号)第9条に定める短期課程(職業に必要な相当程度の技能及びこれ
に関する知識を習得させるためのものに限る。)の普通職業訓練
(次条第3項において「短期課程の普通職業訓練」という。)に
限る。)を受けるために待期しているもの

次のいずれにも該当する者
45歳以上の者又は高年齢者等の雇用の安定等に関する法
律施行規則(昭和46年労働省令第24号)第3条第2項各
号のいずれかに該当する者
常用労働者(同一の事業主に継続して雇用される労働者を
いう。)として雇用されることを希望している者であって,
誠実かつ熱心に就職活動を行う意欲を有すると認められるも

安定した職業に就いていない者
厚生労働省職業安定局長が定めるところにより算定したそ
の者の所得の金額(配偶者(届出をしていないが,事実上婚
姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)に所得が
あるときは,厚生労働省職業安定局長が定めるところにより
算定したその配偶者の所得の金額を加えた金額)に対し,所
得税法(昭和40年法律第33号)の規定により計算した所
得税の額(この所得税の額を計算する場合には,同法第72
条から第82条まで,第83条の2,第92条及び第95条
の規定を適用しないものとする。)が厚生労働省職業安定局
長が定める額を超えない者
(後略)
第2条(訓練手当)
第1項

法第18条第2号に掲げる給付金は,基本手当,技能習得手

当(受講手当及び通所手当とする。)及び寄宿手当(以下「訓練
手当」という。)とする。
第2項

訓練手当は,次の各号のいずれかに該当する求職者であって,

公共職業安定所長の指示により職業訓練(求職者を作業環境に適
応させる訓練及び介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律
(平成4年法律第63号)第18条第1項第4号の教育訓練を含
む。以下同じ。)を受けているものに対して,支給するものとす
る。
第6号

前条第1項第7号イ
から

までのいずれにも該当する者

第7号の2

障害者雇用促進法第2条第6号に規定する精神障害者

(第6条の2において「精神障害者」という。)のうち,公共
職業安定所による職業のあっせんを受けることが適当であると
公共職業安定所長により認定されたもの
障害者に関する法律等

障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)
日本政府は,平成26年1月20日,障害者権利条約の批准書を寄託し,同年2月19日,同条約は日本について効力を生じた。
同条約は,第2条において,「障害に基づく差別」を,障害に基づくあらゆる区別,排除又は制限であって,政治的,経済的,社会的,文化的,市民的その他のあらゆる分野において,他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し,享有し,又は行使することを害し,又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には,あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含むと定義する。
同条約第5条(平等及び無差別)には次の定めがある。
1
締約国は,全ての者が,法律の前に又は法律に基づいて平等で
あり,並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利
益を受ける権利を有することを認める。

2
締約国は,障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし,い
かなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障
害者に保障する。

3
締約国は,平等を促進し,及び差別を撤廃することを目的とし
て,合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な
措置をとる。

4
障害者の事実上の平等を促進し,又は達成するために必要な特
別の措置は,この条約に規定する差別と解してはならない。

障害者基本法
第4条第1項

何人も,障害者に対して,障害を理由として,差別する

ことその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
同条第2項

社会的障壁の除去は,それを必要としている障害者が現

に存し,その実施に伴う負担が過重でないときは,それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう,その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。平成25年6月26公布
第7条第1項

平成28年4月1日施行)

行政機関等は,その事務又は事業を行うに当たり,障害

を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより,障害者の権利利益を侵害してはならない。
同条第2項

行政機関等は,その事務又は事業を行うに当たり,障害

者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)(乙6の1)
第2条第6号

精神障害者

障害者のうち,精神障害がある者であって

厚生労働省令で定めるものをいう。

障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則(乙6の2)
第1条の4

法第2条第6号の厚生労働省令で定める精神障害がある者

(以下「精神障害者」という。)は,次に掲げる者であって,症状が安定し,就労が可能な状態にあるものとする。
1
精神保健福祉法第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉
手帳の交付を受けている者

2
統合失調症,そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)又はてん
かんにかかっている者(前号に掲げる者に該当する者を除く。)

2
前提事実(証拠を付記した事実以外は,当事者間に争いがない。)当事者等

原告(昭和31年a月b日生)は,発達障害の診断を受け,精神保健福祉法第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳(以下「障害者手帳」という。)の交付を受けていた者であり,平成26年度介護職員初任者研修科1(以下「本件職業訓練」という。)の受講を申し込み,その選考を受験した者である(甲2)。


被告県は,促進法4条2項に基づき本件職業訓練を実施していた。被告県は,同法に基づく職業能力開発校として,高知県立高知高等技術学校(以下「高知技術学校」という。)を設置している(乙2)。


被告国は,厚生労働省設置法23条1項に基づき,公共職業安定所を設置している。公共職業安定所は,職業紹介,職業指導,雇用保険その他職業安定法の目的を達成するために必要な業務を行い,無料で公共に奉仕する機関である(職業安定法8条1項)。
原告の職歴等
原告は,昭和56年3月にA大学c学部d学科を卒業した後,同年4月か
ら1年間,高等学校の英語科で講師として勤務し,その後も,平成12年3月まで,中学校,高等学校,予備校及び学習塾などで教諭や講師として継続的に就労した。その後,原告は,平成22年9月まで警備会社等に勤務し,同月から平成24年5月までの間は,父親の介護に専念し,就労はしていなかった。原告は,平成24年11月から,タワーパーキングの駐車場係として勤務するようになったが,仕事中の勘違いや物忘れが多くなったことから,平成25年8月に退職した(甲30,乙10)。
原告の障害等

原告は,平成11年に初めて精神科を受診し,軽度の神経症(ノイローゼ)と診断され,精神安定剤と抗うつ剤の処方を受けた(甲20,30)。原告は,平成25年10月頃,広汎性発達障害,発達障害(高機能自閉症)の各診断を受け,同月21日から週20時間以上の就労が可能な状態(治療中であるが,身体に負担のかからない職業であれば就労可能な場合を含む。)となっているとの診断を受けた(甲20,21,30)。

原告は,平成25年10月7日,被告県から,障害者手帳(障害等級2級)の交付を受けた(甲2)。


被告県は,平成27年11月1日,原告の障害等級を3級に変更した(甲27,28)。
公共職業訓練の実施態勢


公共職業訓練
国及び都道府県は,促進法4条2項に基づき,職業を転換しようとする労働者に対する職業訓練(離職者訓練)等を実施するよう努めなければならないとされており,職業訓練は,同法15条の6(平成27年法律第72号による改正前のもの。以下同条について同じ。)第1項各号に掲げる公共職業能力開発施設(同条3項)を設置して行うものとされている(同条1項)。


委託訓練
国にあっては離職者訓練について,都道府県にあっては条例で定める職業訓練について,必要があるときは,適切と認められる公共職業能力開発施設以外の他の施設により行われる教育訓練を,公共職業能力開発施設の行う職業訓練とみなし,当該教育訓練を受けさせることによって行うことができる(促進法15条の6第3項)。
そして,国は,都道府県知事との間で締結した離職者等再就職訓練事業委託契約(乙12)に基づき,離職者訓練を都道府県に委託することができ,委託を受けた都道府県は,促進法15条の6第3項の規定により,適切と認められる公共職業能力開発施設以外の他の施設に再委託することができる(委託訓練)。

本件職業訓練
本件職業訓練(平成26年度介護職員初任者研修科1)は,促進法4条2項に基づく離職者訓練であり,国から委託を受けた被告県が株式会社B高知支店に再委託して実施した委託訓練である。
本件職業訓練は,初めて介護の仕事に就こうとする者を対象とした訓練であり,介護の基礎知識・技術の習得を目標としている(甲3,16,17)。
本件職業訓練の受講の流れ


受講までの流れ
委託訓練である本件職業訓練は,①
講を申し込み,②

受講希望者が公共職業安定所で受

受講申込書の送付を受けた委託先である高知技術学校

において選考を行い,③

合否を決定し,公共職業安定所が合格者に対し

て受講のあっせんを行って,訓練の受講に至る。

受講のあっせん
公共職業安定所は,求職者に対し,公共職業能力開発施設の行う職業訓練を受けることについてあっせんを行うものとされており(職業安定法19条),これを受けて,委託訓練は,公共職業安定所に求職申込みを行っている者で,かつ,公共職業安定所長の受講のあっせん(以下「受講あっせん」という。)を受けた者を対象に行うこととしている(甲1)。
受講あっせんの方法には,職業訓練受講指示要領(乙7)に基づく受講指示と,職業訓練受講推薦要領(乙14)に基づく受講推薦がある。受講指示に従って職業訓練を受講する場合には,雇用対策法等の各種手当(雇用対策法18条2号,同法施行規則2条2項に基づく訓練手当等)の支給や雇用保険の基本給付の給付日数の延長等の措置が行われるのに対し,受講推薦に従って職業訓練を受講する場合には,このような支給や措置は行われない。
本件職業訓練の受講には,受講あっせんが必要であるため,求職者の受講申込みは,受講希望者の住所を管轄する公共職業安定所に公共職業訓練受講申込書を提出して行う(甲3

募集要項)。その際,公共職業

安定所は,当該求職者が受講あっせんの対象者としての要件を満たすか否かを審査する。
受講申込書の提出を受けた公共職業安定所は,選考を行う委託先である高知技術学校に当該受講申込書を送付し,その後,受講希望者は選考に臨む。

本件職業訓練についての選考
本件職業訓練についての選考(以下「本件選考」という。)は,被告県に委託されており,高知技術学校長(以下「学校長」という。)は,被告県知事から職業訓練の選考に関する決定権限を受任した決裁権者であった(乙9)。


本件選考と受講あっせんとの関係
本件選考に合格しないと,事実上,受講あっせんを受けることができない(弁論の全趣旨)。


本件職業訓練の募集要項(以下「本件募集要項」という。)
本件募集要項は別紙のとおりである(甲3)。

原告による本件選考の受験

原告は,平成25年10月,再就職へ向けて,高知公共職業安定所(以下「高知安定所」という。)への相談を開始した(平成26年1月からは,高知障害者職業センターにも通所するようになった)。原告は,高知安定所への相談を開始するに当たり,自身に発達障害があることや障害者手帳の申請を行っていることを申告した。原告は,同年12月には,高知安定所において障害者登録を行った。


原告は,平成26年4月,高知安定所の「ふくし人材コーナー」を訪れて,介護職への就職相談を行った。これに対し,高知安定所の職員は,原告が初任者研修などの資格を取れば,就職の可能性はゼロではない旨回答した。


原告は,平成26年4月8日,高知技術学校宛ての「公共職業訓練受講申込書」(乙10

以下「本件受講申込書」という。)を高知安定所に提

出した。これに先立ち,高知安定所は,原告について,能発84号別添の
医の意見書を徴求しなかった。
その際,原告は,一般の訓練手当について受給要件を満たさないと考えて希望しないこととし,高知安定所の職員は,本件受講申込書の雇対法施行規則該当の有無欄の「無」に○印を付けた。
数日後,原告は,障害者の訓練手当について希望することとし,その旨高知安定所に伝えた(甲30,乙10)。高知安定所の職員は,本件受講申込書の雇対法施行規則該当の有無欄を訂正して,「有」に○印を付けた。その後,本件受講申込書を高知技術学校に送付するに当たり,高知安定所の職員は,その備考欄に雇用対策法施行規則の該当条文を付記したが,本来,「雇対法2-2-7-2」と記載すべきところを,誤って「雇対法2-2-6」と記載した(以下「本件誤記」という。)。

原告は,同月22日,当時の高知職業訓練支援センター(以下「選考会場」という。)で行われた本件選考を受験した。本件選考は,筆記試験と面接試験からなり,本件選考の面接(以下「本件面接」という。)において,原告に対する面接は,高知技術学校の職員1名とB高知支店の担当者1名が担当した(以下「面接担当者ら」という。)。


面接担当者らは,受験者ごとに,本件面接の結果を面接評価シートに記載した。


本件選考では,定員15名に対して応募者は14名であった。


本件選考における原告の成績は,筆記試験が100点満点中94点で順位は3位,面接試験の合計点は12点で順位は14位,総合順位は8位であった(甲4)。
原告に対する不合格判定
処分行政庁は,平成26年5月1日付けで,本件選考において,原告を不
合格とする判定をした(以下「本件不合格」という。)。原告は,本件不合格により,高知安定所長から本件職業訓練についての受講指示を受けることができず,本件職業訓練を受講することができなかった。本件職業訓練は,同年8月8日に終了した。
別件研修の受講
原告は,平成26年5月16日,求職者支援法に基づく職業訓練としての介護職員実務者研修科(以下「実務者研修」という。)の選考に合格し,その後,研修の受講を修了している。
3
争点及びこれに対する当事者の主張
本件不合格の取消しに係る訴えの適法性(本案前の主張)
(原告の主張)

原告は,本件不合格により,基本的な介護を行う適性がないという客観的な評価を受けたことになるから,本件不合格は,介護の現場で勤務し,今後も介護業界での勤務を希望する原告のキャリア形成に著しく不利益を与えた。そして,本件不合格が取り消されることにより,原告のような障害特性があったとしても,介護職に就くことが可能であることが確認されるのであるから,法的救済が与えられる人格的利益がある。
したがって,原告は,本件不合格の取消しを求める法律上の利益を有しており,訴えの利益がある。

本件職業訓練は,高知安定所長から受講指示を受けた場合にのみ受講することができるものであるから,本件選考の合否は,本件職業訓練を受講する権利の有無を決めるものであり,本件不合格は処分性を有する。

本件不合格の取消しに係る訴えは適法である。
(被告県の主張)


原告の被告県に対する請求のうち,本件不合格の取消しを求める部分については,原告にはその取消しを求める法律上の利益(行政事件訴訟法9条1項)がなく,訴えの利益はないというべきである。
本件不合格が取り消されても,合格が認められるわけではなく,本件職業訓練を受講できることにはならないから,原告は,本件不合格の取消しを求める法律上の利益を有していない。
本件職業訓練は平成26年8月8日に終了しており,原告は本件職業訓練を受講できる状態にないから,原告には,本件不合格の取消しを求める訴えの利益はない。


本件不合格は,被告県が被告国との間で締結した委託契約を根拠として行っているものであって,公権力の行使とは言い難く,行政処分ではないと解される。
また,本件選考は,職業訓練生の採用手続を行うための準備手続としての行為にすぎず,その結果によって職業訓練生の地位を取得するわけではない。したがって,本件不合格は,原告の権利義務を直接形成し,又はその範囲を確定するものではないから,本件不合格は行政処分ではないと解される。

したがって,本件不合格の取消しに係る訴えは不適法である。
本件不合格の違法性
(原告の主張)


本件不合格が法令違反に当たること
主張の概要
本件不合格は,障害者に対し,障害の有無で他の者と異なる取扱いをした不合理な差別によるものであり,憲法,障害者権利条約,障害者基本法,障害者差別解消法等により禁止される違法なものである。
直接差別
本件不合格は,本件選考の過程で原告に発達障害があることを知った処分行政庁が,原告の発達障害を理由として,介護職への適性がないと判断して行ったものであり,障害に基づいて明確に原告の権利を侵害する直接差別に当たる。
間接差別
本件不合格の理由とされている「一つのことをやり続けることはできるが,別のことを言われると抜けることがある」「目線が合わない」という特性は,原告の発達障害の障害特性の一つである。本件不合格は,このような特性を有する原告につき,合理的配慮の提供の可否を検討することなく決定されたものである。
これは,形式的には平等のように見えるが,障害がある場合,要件や条件の面で障害のない人と比べて実質的な制限が加えられる間接差別に当たる。


本件不合格が裁量権の逸脱濫用によるものであること
主張の概要
促進法の目的,規定からすれば,処分行政庁が公共職業訓練の受講者の選考を実施するに当たっては,その趣旨,目的に鑑みて選考を行う必要があるのであって,選考に当たっては,当該応募者が,労働者が必要な能力を開発し,向上させ,その有する能力を発揮できるか否かという点から選考を行う必要があり,原告のように障害がある応募者の場合には,当該応募者の障害特性に慎重に配慮して選考を進めることが要求される。
情報収集義務の懈怠
本件各通達によれば,障害を有する者について,障害の特性・程度等を十分考慮の上,訓練効果を期待しうる訓練科にできる限り受け入れるよう努めること,職業能力開発校と公共職業安定所が協議し意見調整を行うことが求められている。また,職業能力開発校が障害者の選考を行うに当たり,当該障害者の障害特性や障害の程度,どのような訓練科であれば訓練効果が期待し得るか等について十分な考慮を行うためには,職業能力開発校が当該障害者に対する必要十分な情報を入手している必要がある。
そうすると,高知技術学校は,選考の場面において,当該求職者が障害者であることを知り得た場合に,かつ,手元に十分な判断材料が存しないときには,自ら公共職業安定所その他の関係機関に助言・協力を求め,双方向の情報交換をするなどして,適正な選考をするための情報収集を行う義務(以下「情報収集義務」という。)を負っていたというべきである。
原告は,本件面接において,発達障害があり通院中であることを申告しているから,高知技術学校は,少なくとも本件面接の時点で,原告が精神障害者であることを認識した。ところが,高知安定所に対して,主治医の意見書の提出を求めるなどして,適正な選考をするための情報収集義務を怠った。
要考慮事項の不考慮
高知技術学校は,情報収集義務を怠った上,本件面接において,原告に対し,障害の程度や特性などについて何ら質問しなかった。そのため,高知技術学校は,原告の精神障害の種類,特性,障害の程度,回復の程度,どのような訓練科であれば訓練効果が期待し得るか等について把握,検討をすることなく,本件不合格を決定した。
したがって,被告県は,考慮すべき事項を考慮せずに本件不合格を決めたものであり,違法である。
他事考慮
高知技術学校は,本件選考に当たり,発達障害がある者は介護職に適さないという偏見に基づく判断を合否判定の要素としており,本件不合格は,考慮すべきでない事項を考慮してなされた違法なものである。合理的な配慮の不提供
促進法3条の2第4項が求める障害者に対する配慮は,訓練方法,訓練環境,訓練手当等についてのみではなく,教育訓練を受ける機会の確保,すなわち選考の場面についても,当然に求められる。また,職業訓練における合理的配慮の提供主体は,公共職業安定所に限られるものではなく,本件職業訓練に関わる全ての機関が,合理的配慮を提供する義務を負う。
本件募集要項のうち,「駐車場はありませんので,公共交通機関をご利用ください。」「面接に適した服装」との表現は,特定の障害特性を有する者に対しての合理的配慮を欠くものであり,これに基づいて原告がした行動について,原告に不利益に考慮することは許されない。被告県は,原告の障害が就業に当たって合理的配慮を受けることで解消するものであるか否かを検討すべきであったのに,これを怠ったことは違法である。

被告県の主張に対する反論
被告県は,原告が発達障害であるとの認識はなかった旨主張する。しかし,原告は,本件面接の際,自身が発達障害の診断を受け,障害者手帳を取得したことを明確に述べている。
被告県は,原告の精神的な障害(発達障害)を理由として本件不合格を決めたものではなく,

(その他,公共

職業能力開発施設において職業訓練を受講・修了するのに支障がないと認められる者であること)が充足されていないことを考慮してされたものである旨主張する。
しかし,本件面接の際,原告は,「精神的な障害があり現在も通院している」との申告は行ったものの,それ以外に,面接担当者らに対して原告の健康状態に不安を抱かせるような申告は行っていない。実際にも,原告は,精神面の障害以外には,特段,健康面に不安を抱えてはいなかった。そうすると,面接評価シートに記載された「健康」との文言は,原告の精神面の不調,すなわち,原告の精神障害を指していると理解するほかない。本件不合格は,原告に精神障害があることを理由としてされた直接差別であることは明らかである。
仮に,本件不合格が直接差別でないとしても,被告県が不合格の理由として挙げる事項は,原告の発達障害の障害特性の現れであって,間接差別に該当する。
被告県は,高知安定所からは原告が精神障害者であることについての情報提供がされなかった旨主張するが,被告県は情報収集義務を負っていたのであるから,被告県の主張は理由がない。

小括
以上のとおり,本件不合格は違法である。
(被告県の主張)

本件不合格が法令違反に当たらないこと
被告県が本件不合格を決めた理由は以下のとおりであって,原告の精神的な障害(発達障害)を理由として異なる取扱いをしたものではない。原告は,一つのことをやり続けることはできるが別のことを言われると抜けることがあり,臨機応変な対応ができないこと
原告は,本件面接中,面接担当者らと目線が合わない状態であったこと
原告が介護職に就くのは危険だと思われること
原告が訓練中の実習にも不安を感じていること
原告は,本件募集要項に「駐車場はありませんので,公共交通機関をご利用ください」「面接に適した服装でお越し下さい」と記載されていたにもかかわらず,自動車で選考会場に来て,軽装で本件面接に臨んだこと
一方的に話をする傾向にあること


本件不合格が裁量権の逸脱濫用によるものでないこと
本件不合格は,原告が障害者であることなどを他事考慮してされたものではなく,

(その他,公共職業能力開

発施設において職業訓練を受講・修了するのに支障がないと認められる者であること)が充足されていないことを考慮してされたものであって,本件不合格に裁量権の逸脱濫用はない。
本件面接の面接担当者ら及び学校長は,そもそも原告が精神障害者であることを具体的に認識していたわけではない。原告は,本件面接に障害者手帳を持参しておらず,その等級についても不明であり,高知安定所からは原告が精神障害者であることの情報(認定の情報,主治医の意見書についての情報)が提供されていなかった。そのため,面接担当者ら及び学校長は,原告が精神障害者であることをそもそも認識しておらず,これを理由として原告を不合格とすることはできなかった。
なお,本件誤記により,高知技術学校においてあらかじめ原告が精神障害者であることを認識できなかった。
高知障害者職業センターが作成した「職業準備支援総合記録票」(甲26)には,職業準備支援を通して整理され,認識された原告の障害特性として,「同時に複数の作業を行ったり,状況判断を素早く行うことが苦手」「大きな音や人の話し声に集中力をそがれやすい」「顔と名前を一致させて覚えることが難しい」などと記載され,また総合所見として「様々な特性を考慮すれば,極力静かな環境での個人作業,単純作業,簡易事務等が向いていると思われます。(中略)人的支援を活用しての就職をお勧めします」と記載されている。このような評価は,面接担当者らの評価とほぼ同じであり,その評価が恣意的,主観的なものでないことは明らかである。

被告県の法的義務は,国との委託契約によって定められること
本件職業訓練に係る被告県の事務は,被告国からの委託契約に基づいて行われているところ,被告県が行う入校選考試験や合否判定については当該契約に定めがない。
公共職業安定所には,職業安定法,障害者雇用促進法などに基づき,求職者の障害についての情報を収集する権限が認められている。これに対し,被告県には,このような情報を収集する権限はなく,あえてこれを行えば障害者のプライバシーを侵害するおそれがあるから,情報を収集する法的義務もない。
そうすると,被告国には,職業訓練の委託者として,原告の同意を得て,収集済みの情報を被告県にあらかじめ提供して,その職業訓練の受講の適否について打合せを行い,被告県が適正な入校選考試験を実施できるように協力すべき信義則上の義務があったというべきである。
これに対し,被告県における情報収集態勢,被告国が行う情報収集との重複,対応に要する時間的制約等に鑑みれば,被告国からの職業訓練の受託者である被告県には,情報収集を行うべき義務があったとはいえない。能発55号が定める留意事項は,公共職業安定所において障害についての情報があらかじめ収集,整備され,検討,評価されていること前提として,被告県が公共職業安定所から提供される当該情報を基にして,できる限り受入れに努めること,公共職業安定所と協議,調整することを求めているものであって,被告県が障害についての情報を収集,整備し,その情報を検討,評価することまで求めているものではない。

被告県は,本件各通達を根拠として法的義務を負わないこと
平成11年7月,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(以下「地方分権一括法」という。)が成立し,国と地方との事務区分が再構成された。地方分権一括法による改正前の地方自治法(以下「旧地方自治法」という。)においては,公共職業安定所の業務は,都道府県知事が国の行政庁の機関となり国の指揮監督を受けて事務を執行するいわゆる機関委任事務とされていたところ,地方分権一括法により,国の事務となった。
そして,平成12年4月1日付け能発71号労働省職業能力開発局長通達「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行等について」(以下「能発71号」という。)(乙20)は,都道府県労働局の設置に伴い,平成12年3月31日までに職業能力開発局から都道府県宛てに発出された文書については,引き続き都道府県に発出されたものとして取り扱うこととする旨を定め,特に,能発71号が発出されるまでに職業能力開発局から都道府県宛てに発出された文書であって,従前の機関委任事務に係るものについて,これを地方自治法245条の4第1項に規定する技術的な助言又は勧告と解することとし,「通達」の文言を「通知」と読み替えて適用するものとする旨定めている。
したがって,本件不合格がされた平成26年5月1日当時,本件各通達は,「上級行政機関が関係下級行政機関及び職員に対してその職務権限の行使を指揮し,職務に関して命令するため」に発せられた通達ではなく,その法的性質は,行政庁相互間における意思伝達の手段である通知であったにすぎないから,被告県に法的義務を課すものではない。被告国は,そもそも入校選考を含む公共職業訓練の実施そのものに係る事務は,旧地方自治法のいわゆる機関委任事務には含まれないから,本件各通達に対しては能発71号の適用がなく,能発55号,開発21号及び能発84号の別添の4は,地方分権一括法の施行の前後を問わず,都道府県宛てに発出された通知であると主張する。
しかし,能発84号は各都道府県宛ではなく各都道府県知事宛てになっているなど機関委任事務を前提とした形式となっており,能発84号の別添の2と3は,公共職業安定所の事務に係るものであって,機関委任事務を前提としていることが明らかであり,別添の4のみが機関委任事務に係るものではないとする被告国の理解の仕方によれば,別添である同じ要領の中に機関委任事務とそれ以外の事務という異質の事務に係る定めをしていることとなってしまい,考え難いことであるから,能発84号は,別添の4も含めて機関委任事務を前提とするものと理解するのが正しい。仮に,能発84号の別添の4が機関委任事務に基づくものでないとすると,被告国はこれを発出する権限を有せず,何ら効力が発生しないこととなる。
また,能発55号及び開発21号は,独自の立場で公共職業訓練を実施している実施主体に対し,受講者選考の際の事務手続上の留意事項を示して,実施主体の配慮を依頼するものにすぎず,具体的な法規範性を有するものではない。

以上のとおり,本件不合格は違法ではない。
被告県に対する国家賠償請求の損害額
(原告の主張)


(原告の主張)のとおり,本件不合格は,障害者権利条約,憲法,障害者基本法に反するとともに,処分行政庁の裁量権を逸脱,濫用した違法なものである。


被告県は,本件不合格をするに当たり,法令の趣旨目的に従い,不合理な差別に基づく判断をして受講希望者の権利を侵害する結果を招来しないように判断すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,故意又は過失によりこれを怠った。


原告は,被告県の不合理な差別に基づく本件不合格を受けたことにより,個人の尊厳をないがしろにされ,人格的存在として否定され,著しい精神的苦痛を被った。かかる損害をあえて金銭に評価するとすれば,少なくとも150万円を下ることはない。そして,本訴を追行するための弁護士費用としては15万円が相当である。
(被告県の主張)
原告の主張は争う。
被告国に対する国家賠償請求の可否
(原告の主張)

被告国が設置する高知安定所は,情報提供義務及び情報共有義務(以下,両義務を併せて「情報提供等義務」という。)を怠ったため,原告に対して合理的な配慮が提供されなかった。

被告国が合理的配慮義務を負うこと
障害者権利条約
障害者権利条約は,締約国に対して合理的配慮の提供を法的義務として課している。本件選考のように,選考過程において複数の機関が関与する場合において適切な合理的配慮を提供するためには,応募者の障害内容についての情報提供,情報共有が不可欠であるから,被告国は,情報提供等義務を負う。
促進法3条の2第4項は,障害者に対する配慮の基本理念を定めるとともに,国及び都道府県に対し,障害者に対する合理的配慮の確保を求めている。そして,促進法が求めている合理的配慮義務の内容は,本件各通達により具体化されており,その射程は受講指示の主体である公共職業安定所にも及ぶというべきである。

被告国が合理的配慮義務を怠ったこと
主治医の意見書を徴求していないこと
高知安定所は,能発84号に反して,精神障害者についての主治医の意見書を徴求せず,これを高知技術学校に提供することを怠った。本件受講申込書の誤記
高知安定所は,本件受講申込書の備考欄の雇用対策法施行規則の該当条文を同規則2条2項7号の2を意味する「雇対法2-2-7-2」と記載すべきところ,誤って同規則2条2項6号を意味する「雇対法2-2-6」と記載した(本件誤記)。
本件選考実施後の協議をしなかったこと
高知安定所は,本件選考実施後の協議において,高知技術学校に対して,原告の障害についての情報を提供する義務があったところ,これを怠った。


被告国が精神的苦痛に対する慰謝料について責任を負うこと
本件職業訓練は,本件選考に合格しないと,事実上,受講あっせんを受けることができないという関係にあるから,被告国による情報提供等義務の懈怠は,被告県による本件不合格の前提であり,被告国は,原告に精神的苦痛に対する責任を負う。

損害額
本件選考においては,高知安定所による情報収集及び被告国と職業訓練校の間での情報提供・協議が十分されていない。原告は,このような違法な手続に基づく本件不合格を受けたことにより,個人の尊厳をないがしろにされ,人格的存在として否定され,著しい精神的苦痛を被った。かかる損害をあえて金銭に評価するとすれば,少なくとも150万円を下ることはない。そして,本訴を追行するための弁護士費用としては15万円が相当である。
(被告国の主張)


国家賠償法1条1項の違法とは,公務員が職務上の法的義務に違反して,個別の国民の権利又は法的利益を侵害することをいうところ,高知安定所の職員は,職務上の法的義務として,情報提供等義務を負わないし,原告の権利又は法的利益を侵害したこともない。
本件各通達は,いずれも選考を実施する都道府県が,障害を有する者の選考に当たって留意すべき事項を定めたものであり,本件各通達の定めから公共職業安定所の義務を導くことはできないから,情報提供等義務を怠ることは障害者権利条約及び促進法3条の2違反になるとの原告の主張は前提を欠く。
障害者権利条約及び促進法3条の2は,基本理念を定めたものにすぎないから,本件選考における具体的な義務内容をその各条項から導くことは困難である。
促進法3条の2は,職業能力の開発及び向上の促進の施策としての職業訓練についての理念を掲げるものであり,同条第4項は,障害者の能力の活用という観点から,各種の配慮を行うことを理念として定めるものである。したがって,これらの条項により,個々の障害者に対して,職業訓練の受講に関する具体的な権利利益が付与されるということはできないから,原告の権利又は法的利益の侵害はなかった。

高知安定所の職員の対応に国家賠償法1条1項の違法はなかった。上記アのとおり,高知安定所の職員は,職務上の法的義務として,情報提供等義務を負わないから,本件選考に当たって,高知安定所の職員が原告の精神障害に関する情報を明示的に高知技術学校に伝えなかったことが違法となることはない。
原告は,高知安定所において原告につき主治医の意見書を徴求し,これを高知技術学校に提供すべきであった旨主張する。
しかし,主治医の意見書は,公共職業安定所において,当該求職者が受講指示対象者であるか否かを確認するためのものであるから,原告が障害者手帳の交付を受けており,かつ,医師の診断書等により就労可能な状態であることを把握していた本件において,更に主治医の意見書の提出を求める必要はなかった。
原告は,本件誤記により原告が精神障害者であることが伝達されなかった旨主張する。
高知安定所の職員は,本件受講申込書の備考欄に雇用対策法施行規則の該当条文を誤って記載したが(本件誤記),これは,訓練手当の支給を行う被告県の便宜のために記載しているにすぎず,同記載をするよう定める規定もないから,本件誤記が違法となることはない。
原告は,高知安定所は,本件選考実施後の協議において,高知技術学校に対し,原告の障害について把握している情報を告げて,さらに協議すべきであった旨主張する。
しかし,委託先における選考は,職業訓練を実施する立場からその適性や訓練効果等を考慮して行われるものであること,上記協議は,選考結果と受講指示との間に食い違いを来さないよう意見の調整をするためにすぎず,高知安定所において,本件選考の結果を覆す権限がないことからすれば,高知安定所が,上記協議において積極的な働きかけをして本件選考の結果を覆すべきであったかのような原告の主張は理由がない。被告県は,選考に関して自ら情報を収集する権限も法的義務もない一方,被告国には,被告県に対して情報提供をすべき信義則上の義務がった旨主張する。
しかし,被告県においてプライバシーの侵害等の問題を起こさないよう本人の了解を得つつ,選考に必要な範囲で障害に関する情報を収集することは当然許されるのであって,高知安定所が被告県の情報提供の求めの有無にかかわらず積極的に障害に関する情報を提供すべきであるとはいえない。

原告は,本件面接において発達障害があることを申告しており,高知技術学校はそのことを認識していたのであるから,本件選考に当たって,高知安定所の職員が原告の精神障害に関する情報を明示的に高知技術学校に伝えなかったことと本件不合格との間の因果関係はない。


損害額についての原告の主張は,争う。


被告県は,事務の内容により特に区分することなく,地方分権一括法及び能発71号により,本件各通達が国の直轄機関として存在することになった公共職業安定所に対して直接発した指揮命令文書になった旨主張する。しかし,そもそも入校選考を含む公共職業訓練の実施そのものに係る事務については,旧地方自治法のいわゆる機関委任事務には含まれていなかったから,本件各通達に対しては能発71号の適用がなく,能発55号,開発21号及び能発84号の別添の4は,もともと地方分権一括法の施行以前から都道府県宛てに発出された通知であったもので,同法施行以後も依然として都道府県宛に発出された通知として扱われることとなる。第3
1
争点に対する判断
認定事実
証拠(甲30,乙23,乙24,証人C,証人D,原告本人),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
本件職業訓練の内容
本件職業訓練は,初めて介護の仕事に就こうとする者を対象とした職業訓練であり,総合計時間は350時間,そのうち学科が186時間,実技が164時間であり,実技のうち30時間は校外学習として外部の施設において,実習を行う内容である。本件職業訓練を修了すると,訪問介護ができ,施設に就職するにも有利となる(甲3,証人D)。
本件選考に至る経緯
原告は,タワーパーキングの駐車場係の仕事を退職した平成25年8月,57歳で発達障害(軽度の自閉症に当たるアスペルガー症候群,高機能自閉症,自閉症スペクトラムと呼ばれる症状)と診断され,障害者枠での就職を目指すべく,同年10月に障害者手帳交付の申請を行った。
原告は,父親の介護に2年間専念していた経験を通じて,介護の仕事に魅力を感じていたことから,介護職への就職を目指すこととし,介護の職業訓練を受講することを決意した。
本件選考への申込み
原告は,平成26年4月8日,本件職業訓練を受講することとし,本件受講申込書を高知安定所に提出した。その際,原告は,一般の訓練手当について受給要件を満たさないと考えて希望しなかったものの,数日後,障害者の訓練手当について希望することとし,その旨を高知安定所に伝えた(乙10)。
本件受講申込書の受講希望の理由欄には,「2年前に,父が4年の要介護状態の後,92歳で亡くなりました。最後の2年は,私も警備員の仕事を辞めて,介護に専念しました。デイサービス,小規模多機能,特養の介護士さんに大変お世話になりました。自分も介護士をめざしたいと思います。」との記載がある。
本件面接の実施

原告は,平成26年4月22日,選考会場へ車で行った。原告は,上は無地(青,水色又は灰色)の半そでのポロシャツに無地の薄いブルゾンを羽織り,下は,紺のズボン,靴は黒の革靴を着用していた。
本件選考では,全体説明の後,筆記試験,面接(本件面接)が行われた。本件選考の配点は,筆記試験は100点満点,面接試験が100点満点(各面接担当者50点×2)である(証人C)。


本件面接において,原告に対する面接は,高知技術学校のEなる男性職員1名と,B高知支店のDが担当し,Eが質問をした(乙25
シート

面接評価

なお,原告は,本件面接を担当したのはDではなくB高知支店長

のFである旨供述するが,乙25には「D」との記載があり,Dが自ら記載した旨供述していることに照らして,原告の供述を採用することはできない。)。

面接時間は15分程度であり,E及びDが面接を担当したグループは,原告を含めて約7名を面接した(証人D)。本件面接における質問内容は,高知技術学校側から面接担当者らに対し,あらかじめ指示されており,そこから外れた質問をしないよう指導されていた(証人C,証人D)。

面接担当者らは,面接に先立って受験者についての資料を見ることはなかったが,面接の際にその手元に本件受講申込書(乙10)を置いていた(証人D116,119)。


原告は,直近1年間の就職活動について質問された際,発達障害の診断を受け,障害者手帳を取得し,障害者枠での就職を摸索したが採用には至らなかったことを説明した。E及びDは,原告の発達障害について,更に質問をすることはなかった。
原告は,自らの長所について,正直でまじめで一つのことをやり出したら集中力があることを挙げ,短所について,忙しい状況での臨機応変な対応が苦手であることを挙げた。
原告は,最後に,選考会場までの交通手段を問われ,車で来た旨答えた。Dは,発達障害についてよく知らなかったが,プライバシーの問題があると考え,原告の発達障害の内容などについては質問しなかった。Eも原告の発達障害について質問することはなかった(証人D175)。カ
面接担当者らは,受験者ごとに,本件面接の結果を面接評価シートに記載した。
Eが記載した原告の面接評価シート(甲5の1)の内容は次のとおりである。
【受講意欲】-訓練を受講することに熱意があるか
具体的な訓練内容について理解しているか

10~0点評価

1点

【就職意欲】-職業に必要な技能・知識を習得することにより就職を望んでいるか

5~0点評価

就職先に必要な知識等の習得かどうか

1点

希望する職種に必要な技能を有していない

1点

積極的に就職活動をしており,修了後早期に就職する意向がある
3点
長期や安定的な就労を望んでいるか

1点(5~1点評価)

【修了見込】-受講・修了するのに支障がないか

10~0点評価

安全に実技を行うことができる健康状態であり,訓練を受講・修了することに支障がない

0点

訓練校のルールを守って,他の受講生と協調性を持って受講できるか
0点
合計7点
「0」評価の判断理由として,「健康面で不安がある事,市内中心部より車で来所」との記載がある。
Dが記載した原告の面接評価シート(甲5の2,乙25)の内容は次のとおりである。
【受講意欲】-訓練を受講することに熱意があるか
具体的な訓練内容について理解しているか

10~0点評価

1点

【就職意欲】-職業に必要な技能・知識を習得することにより就職を望んでいるか

5~0点評価

就職先に必要な知識等の習得かどうか

1点

希望する職種に必要な技能を有していない

0点

積極的に就職活動をしており,修了後早期に就職する意向がある
1点
長期や安定的な就労を望んでいるか

1点(5~1点評価)

【修了見込】-受講・修了するのに支障がないか

10~0点評価

安全に実技を行うことができる健康状態であり,訓練を受講・修了することに支障がない

0点

訓練校のルールを守って,他の受講生と協調性を持って受講できるか
1点
合計5点

「0」評価の判断理由として,「現在の健康状態では介護職はきびしい。別の仕事を考えて頂きたい。」との記載がある。
本件面接における原告に対する評価
Dは,本件面接において,原告が,①

同じことを繰り返しているときは

大丈夫だが,違った場面が来たときに対応ができなくなる,臨機応変な対応ができないと話したこと,②

介護は人の命を預かる仕事であり,危険があ
りそうな方や使命感を有していないと判断したこと,③
駐車場はないと本

件募集要項に書かれているにもかかわらず,車で選考会場に来たこと,④本件募集要項には面接に適した服装と書かれているにもかかわらず,普段着に近い服装で本件面接に臨んだこと,⑤

面接担当者らと目が合わず,一方

的に話をしていたこと,⑥

人の話を集中して聞けない状況であると,介護

には向いていないと考え,

点数をつけた(乙24)。

Dは,本件面接終了後,面接評価シート(甲5の2)を高知技術学校の職員に交付した。
原告の不合格が決定するに至る経緯

高知技術学校は,面接担当者らから回収した面接評価シートをもとにして,面接評価表(甲6)を作成し,筆記試験の点数を合わせて記載した応募者一覧表(甲4)を作成した。


高知技術学校は,合否についての協議をするため,本件選考の数日後,応募者一覧表(甲4)を高知安定所に送付した。


高知安定所の職員は,本件選考における原告の評価について,筆記試験の点数は高いのに総合選考結果が最下位であったことに疑問を持ち,高知技術学校にその旨を伝えた。これを受けて,高知技術学校のGは,原告に対する面接の担当者であるEとD(主としてD)から原告との面接の状況を聴き取り,高知安定所の職員に報告した(甲7,証人D95)。高知安定所の職員は,原告について,熱心に就職活動をしているなどと述べたが,原告の発達障害や本件職業訓練を修了できる見込みなどについての情報を伝えることはなかった。これを受けて,高知技術学校の担当者は,最終的に「面接評価で,面接官の2名共が「0」評価とする」項目がある場合には,優先順位を下げることとしているので,結果的に応募者一覧表のとおりとなったものである。」と回答して,高知安定所との協議を終えた。

高知技術学校長であったCは,面接担当者らから報告を受け(ただし,精神的な障害があるというだけで,その病名や症状についてまでは聞いていない。),臨機応変な対応が必要とされる訓練校や他の介護施設での実技実習時の身体介助で指示が守れない可能性があることや,コミュニケーション能力など第三者への安全配慮の確保に問題があって,他の訓練生や介護対象者への身体的な危険が想定されるとして,原告を不合格と判定した(本件不合格

乙23)。

本件不合格後の状況

処分行政庁は,平成26年5月1日付けで本件選考についての不合格判定をした。原告は本件不合格により,高知安定所長から本件職業訓練についての受講指示を受けることができず,本件職業訓練を受講することができなかった。


被告県が原告に対して説明した本件不合格の理由は次のとおりである(甲7

面接評価表)。

面接点が12点と選考者中,最下位となっている。
※ああの評価では,「0」評価が2項目あったため面接時の内容についてああに問い合わせたところ,本人の話では精神的な障害があり現在も通院をしている。駐車場係の仕事をしていたが,一つのことをやり続けることはできるが別のことを言われると抜けることがある。面接中も,目線が合わない状態であった。介護職は臨機応変な対応を求められる仕事であり,現在伺った健康面での不安がある中,介護の職に就くのは危険だと思われる。訓練中の実習にも不安を感じるとのこと。
「修了見込」については,面接官2名が共に「0」評価となっており,面接の様子から介護コースでの資格取得は困難と判断し不合格とする。以上について,高知公共職業安定所と協議しました。
介護職への就職

原告は,平成26年5月16日,実務者研修の選考に合格し,同月28日から同年11月27日までの同研修を受講,修了し,皆勤により成績優秀者としての評価を受けた(甲11~15)。

原告は,平成26年11月に実務者研修を修了した後,平成27年1月に社会福祉法人HのIに介護助手として障害者枠で就職し,現在まで就労している。介護助手は,利用者の身体に触れない限度での介護の補助的な業務に従事する仕事である。

2
(本件不合格の取消しに係る訴えの適法性(本案前の主張))について
取消訴訟における訴えの利益の有無は,判決言渡時において,処分が取消訴訟によって除去すべき法的効果を有しているか否か,処分を取り消すことによって回復される法的利益が存在するのか否かという観点から検討する必要がある(行政事件訴訟法9条1項)。
本件職業訓練は,平成26年8月8日に終了してい
る上,本件不合格が取り消されても,本件選考に対する合格が認められるわけではないから,原告は,本件不合格の取消しを求める法律上の利益を有しないものと認められる(なお,原告は,本件不合格は,介護職での就職を希望する原告のキャリア形成に著しく不利益を与えた,本件不合格の取消しにより法的救済が与えられる人格的利益があるなどと主張するが,これらは法律上の利益には当たらない。)。
したがって,本件不合格の取消しに係る訴えは,その余の点について検討するまでもなく,訴えの利益を欠き不適法である。

3
(本件不合格の違法性)について
⑴ア

原告は,被告国の委託を受けて被告県が実施した職業訓練の選考において,原告を不合格とした国家賠償法上の違法性につき,原告が障害を有していたために,不合理な差別をした結果であると主張するので,国家賠償法上の違法性を検討する前提として,障害者の差別に関する立法の動向について必要な範囲で検討する。

障害者権利条約が,平成18年12月に国連総会で採択され,被告国は,平成19年9月に署名した。同条約は平成20年5月に発効したところ,被告国は,平成26年1月20日に批准書を国連に寄託し,同年2月19日から国内的効力を発している。国際人権法上,直接差別と間接差別の概念は知られていたが,同条約によって初めて,合理的配慮の提供の否定という差別概念が導入された。
被告国は,障害者権利条約を署名したことに伴い,同条約を批准するための国内法整備に取り組み,平成23年に障害者基本法を改正した。そして,平成25年に障害者差別解消法の制定,障害者雇用促進法の改正を行った(以下,平成25年の改正後の障害者雇用促進法について「改正障害者雇用促進法」という。)。障害者差別解消法,改正障害者雇用促進法は平成28年4月1日より施行された。
障害者基本法は,平成16年の改正で当時の3条3項である「何人も,障害者に対して,障害を理由として,差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」を追加して差別を禁止する規定を置いたが,上記のとおり同法は平成23年に改正されたところ,3条3項は同改正により改正後の4条1項とされ,これに加えて,改正後の4条2項において「社会的障壁の除去は,それを必要としている障害者が現に存し,かつ,その実施に伴う負担が過重でないときは,それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう,その実施に必要かつ合理的な配慮がされなければならない。」と合理的な配慮について明文を置いた。また,障害者の定義について,従前から否定する趣旨ではなかったと解されるが,改正後の2条において,「精神障害」との文言を「精神障害(発達障害を含む。)」と変更し,発達障害者がこれに該当することを明確にした。
障害者差別解消法は,障害者基本法の基本理念にのっとり障害を理由とする差別の解消を推進するための基本事項や措置を定めるものであり,3条で差別の解消を推進する国及び地方公共団体の責務を定め,7条は,1項で行政機関等に対し差別を禁止し,2項で合理的配慮を義務としている(なお,8条は,事業者に対して,同旨に規定を置くが,2項で合理的配慮は努力義務としており,行政機関等とは区別されている)。13条は,行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については,改正障害者雇用促進法の定めるところによるとしている。
改正障害者雇用促進法は,障害者基本法や障害者差別解消法との整合性を図りつつ,雇用の場での障害を理由とする差別の禁止や合理的配慮の提供等への対応を行うために改正されたもので,34条及び35条が障害者に対する差別の禁止,36条の2ないし36条の4が合理的配慮の提供義務を定めている。また,これらの義務に適切に対処するための指針として,36条に基づき障害者差別禁止指針(平27労告116号),36条の5に基づき合理的配慮指針(平27労告117号)が定められた。

上記のとおり,差別の概念として,直接差別(障害者に対する主観的差別意思を伴った差別),間接差別及び合理的配慮の提供の否定が存するところ,合理的配慮の提供の否定は障害者権利条約によって,国際人権法上は初めて明確にされた。障害者権利条約においては,「あらゆる形態の差別」との文言が用いられており,直接差別のみならず,間接差別も対象としていると解されている(甲18)。
国内法としては,合理的配慮の提供義務に関して,平成23年改正の障害者基本法,平成25年制定の障害者差別解消法,同年改正の改正障害者雇用促進法等によって明らかにされた。差別の禁止自体は,平成16年改正の障害者基本法で明文化されるなど,比較的馴染みのある概念であるが,このうち,間接差別については,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律7条のような明文が,障害者差別解消法,改正障害者雇用促進法では明確化されておらず,両法が間接差別を明示的に禁止しているとはいえない。もっとも,平成25年3月14日付け労働政策審議会障害者雇用分科会意見書において,車いす,補助犬その他の支援器具等の利用,介助者の付添い等の社会的不利益を補う手段の利用を理由とする不当な不利益取扱いは禁止される差別的取扱いにあたるとされ,上記障害者差別禁止指針において,募集に際し,業務上特に必要ではなく,障害者を排除するために一定の能力を有することを条件とすることは直接差別にあたるとされていることに留意すべきである。

被告県が実施した職業訓練の選考における差別の違法性を基礎づける規範としては,行政機関等をも名宛人としている障害者差別解消法が適すると解されるが,同法は平成25年に制定されたとはいえ,平成28年4月1日施行であり,本件の不合格判定が,平成26年5月1日であることに鑑みると,直接的に同法に違反することをもって国家賠償法上の違法を基礎づけることは容易ではない。
特に,合理的配慮の提供については,同法等によってもたらされた比較的新しい概念であり,ある程度具体的な指針が明確になったのも平成27年のことであるから,本件不合格の判定時において合理的配慮の提供を欠くことをもって違法性を認めるには慎重であるべきである。また,間接差別についても,文言上,同法で明確に禁止されたとはいえないことに鑑みると,やはり慎重に対応せざるを得ない。
他方で,直接差別の禁止については,必ずしも格別に新しい概念ではなく,また,基本理念を定める法規ではあるものの,障害者権利条約が国連総会で採択される以前である平成16年の段階において,既に,障害者基本法が改正され,障害者に対する差別の禁止規定が追加されていたこと,平成26年2月には障害者権利条約が国内的効力を発していること,施行前とはいえ平成25年に障害者差別解消法が制定,公布されたことに照らすと,本件不合格の判定がなされた平成26年5月1日においては,障害者に対する直接差別の禁止が,不法行為法上(国家賠償法上)の違法性を基礎づけるだけの規範的意義を有していたと認めることが可能であると解する。
⑵ア

被告県は,定員が15名のところ14名が受験した本件選考において,原告が筆記試験で100点満点中94点の3位であったところ,面接試験で100点満点中12点の14位とし,総合順位で8位であったところ,面接担当者2名が共に修了見込みについて0点を付けたため,順位を最下位の14位に下げて本件不合格を決めた理由は以下のとおりであって,原告が本件職業訓練を受講・修了するのに支障があると認めたためであると主張する(再掲)。
原告は,一つのことをやり続けることはできるが別のことを言われると抜けることがあり,臨機応変な対応ができないこと
原告は,本件面接中,面接担当者らと目線が合わない状態であったこと
原告が介護職に就くのは危険だと思われること
原告が訓練中の実習にも不安を感じていること
原告は,本件募集要項に「駐車場はありませんので,公共交通機関をご利用ください」「面接に適した服装でお越し下さい」と記載されていたにもかかわらず,自動車で選考会場に来て,軽装で本件面接に臨んだこと
一方的に話をする傾向にあること


上記1の認定によれば,被告県は,

の理由で本件不合

格を決めたものと認められる。その上で,被告県は,これらを理由とする本件不合格が,障害を理由とする直接差別には当たらない旨主張するので,その当否について検討する。
⑶ア

直接差別は,障害者に対する主観的差別意思を伴った差別であるところ,差別意思についての直接証拠があることはまれであり,間接事実から差別意思を推認するほかはない。本件職業訓練の選考に関していえば,少なくとも,原告が,①

原告が障害を有していたこと,②

選考に応募したこと,③
たこと,④

原告が職業訓練の

原告がその受講に必要な資格要件を満たしてい

それにもかかわらず,原告が受講を拒否されたこと,⑤

講者枠は空いたままで残っていたこと等の間接事実が客観的に立証されれば,反証がない限り,差別意思が推認されるというべきである。

本件において,前提事実及び上記1の認定によれば,①障害を有する障害者であること,②
件選考に臨んだこと,④
と,⑤

原告は発達

原告は本件職業訓練に応募して本

原告は,本件選考について不合格とされたこ

本件職業訓練の定員は15名であったところ,申込者は14名

であり,受講者枠が空いていたことが認められる。

そこで,③

原告がその受講に必要な資格要件を満たしていたことに

ついて,どのように認定するかについて,検討する。
この必要な資格要件については,能発55号が定める次の3つの標準,すなわち,①

職業に必要な技能及びこれに関する知識を習得することに

より就職することを望んでいる者であって,職業訓練を受講することに熱意を有すると認められる者であること,②

職業訓練を受講するのに必要

な学力を有すると認められる者であること,③その他,公共職業能力開発施設において職業訓練を受講・修了するのに支障がないと認められる者であること,を充足することと解される。
被告県は,能発55号を含む本件各通達が法規範性を有しないと主張している。しかし,被告県は,原告が不合格となったのは,上記③の標準を充足しなかったためであると主張しており(被告県準備書面⑴12頁),被告県において,本件選考において,能発55号の3つの標準を用いていたことは明らかである。直接差別の有無を論ずる場面では,障害者と非障害者が同等に取り扱われたかが問題となるのであるから,能発55号が法規範性を有するか否かは関係ない。
そして,ここでは合理的配慮の提供を前提としておらず,純然たる直接差別の有無を問題としているから,非障害者に課せられたのと同じ標準を,障害者においても充足したかを論ずべきこととなる(仮に障害者差別解消法が施行された後の時点での選考であれば,職業訓練の過程で合理的配慮の提供が行われることを想定して資格要件を判定することはありうるところであり,直接差別の判断枠組みが変容を迫られる可能性も否定できないが,ここではそのように変容された資格要件の充足性を問題とするものではない。)。そのため,例えば,障害がある結果の能力では,職業訓練を受講・修了するのに支障があるという場合に,資格要件を充足しないと判定することは直接差別にあたるとはいえないが,障害の程度を殊更重く見るなどして能力を実際以下に著しく低く評価し,職業訓練を受講・修了するのに支障がないのに,支障があると判定することは直接差別に該当することとなる。
先のとおり,被告県も,原告が能発55号の上記①②の標準を充足したことは争っていないものと考えられるが,念のため述べれば,原告は本件不合格後間もなく,実務者研修を受講して,皆勤により成績優秀者としての評価を得て,その後に介護助手として就労しているのであるから,上記①の熱意を有していたことは明らかであり,本件選考の筆記試験では3位であったのであるから,上記②の学力の要件を有していたことも明白である。

続いて,能発55号の③

その他,公共職業能力開発施設において職
業訓練を受講・修了するのに支障がないと認められる者であることの標準を充足するか検討する。
この標準の充足性についての判断は,司法審査による事後的な観点からの違法性評価のための一環としてなされるものであり,合否判定それ自体について代替的に審査をするものではないから,まず,原告に対してその該当性について客観的な立証をすることを求め,そのような立証がなされた場合に,試験当時の事情からは当該要件を充たしたとは評価できなかったことを被告県において反証させる方法で検討するのが相当である。客観的な立証は,もともとの資格要件の内容により,その該当性が形式的に判断できる場合や,試験の態様が選択式などの採点者の主観が入る余地のない場合は比較的容易であると考えられるものの,他方,論文試験や面接試験の場合などにはかなり困難な場合もあると解されるが,選考実施主体に合理的な裁量があることは否定できず,これを尊重する観点からはやむを得ないと考える。また,試験という選考方法の性質上,客観的に資格要件を充足する能力を有していたとしても,常に試験当時に当該能力を発揮して,資格要件の充足性を表現し,試験結果を残せるとは限らないから,試験当日の内容から資格要件を充足しているとは評価できなかった事情があるという反証の機会を付与すべきであると解する。上記1の
の仕事に就こうとする者を対象とした職業訓練であり,総合計時間は350時間,そのうち学科が186時間,実技が164時間であり,実技のうち30時間は校外学習として外部の施設において,実習を行うという内容であることが認められ,学科での知識を付与した上,模擬での実技を行い,校外学習として外部の施設での訓練を行うという構成になっていることが認められる。
そして,上記のとおり,本件職業訓練は介護職の初歩の訓練であって,当該訓練の修了認定の場面ではなく,必ずしも現実に介護職に就職できる見込みを判定するものではないこと,当該訓練の受講開始前の段階で拒まれることは,およそ介護職に適さないとの評価を受けたものと捉えられかねないものであって,最初から門戸を閉ざすに等しいことになること,雇用契約における採用時のように,本来的に契約自由の原則に基づき採用の自由が尊重されるべき場面とは異なることに留意すべきである。
本件においては,原告は,本件不合格後さほど間隔を開けないで,実務者研修を受講して,皆勤により成績優秀者としての評価を得た。実務者研修は,介護の基本的な理念と基礎的な介護技術を習得することによって,介護施設事業所及び介護施設等への就労ができることを目標とするもので,訓練時間総合660時間(学科422時間,実技196時間,企業実習42時間)の研修内容で,企業実習は,施設・居住型への実習,通所介護事業所・小規模多機能型対応への実習,訪問介護事業所への実習という内容を有し(甲11),目標及び内容において本件職業訓練と相当共通しているところ,原告は同研修を修了したばかりか,皆勤により成績優秀者として推薦状を授与されたことが立証されている(甲14,15)。
この事実からすれば,原告が本件職業訓練を受講・修了するのに支障がない能力を有していたことが客観的に立証されたというべきである。
として介護における補助的な業務に従事するにとどまっており,本件職業訓練が目標とするような介護職としては就労していない。しかしながら,資格要件の充足性については,あくまで本件職業訓練の受講・修了における支障の有無を判定すべきものであり,上記説示のとおり,受講開始前の段階で門戸を閉ざすことには慎重であるべきことを踏まえると,この事実をもってしても,原告が,本件職業訓練を受講・修了するのに支障がない能力を有していたとの判断は覆られないというべきである。


これに対し,被告県は,面接試験時に明らかになった事情として,①線が合わないこと,②
こと,④

面接会場に車で来たこと,③

健康面に不安があること,⑤


面接に軽装で臨んだ

臨機応変に対応することができな

いので訓練に当たって第三者への加害のおそれがあり,原告が本件職業訓練を受講・修了するのに支障があったと面接時に評価したことは適正であると反論する。
しかし,①ないし③の事情については,原告が本件職業訓練を受講・修了するのに支障がある事由とは考え難い。
④については,上記

の認定によれば,原告は,本件面接の際,発達障

害があり,通院していることを申告したものの,それ以外に健康状態について不安を抱かせるような申告はしていないこと,現に健康状態に不安はなかったことが認められ,これらの事実によれば,原告の面接評価シートの「0」評価の判断理由欄に記載された「健康」との文言

は,原告の

精神面の不調,すなわち発達障害を指していると理解するほかはない。このことは,むしろ,差別意思を推認できるとする上記の認定に沿うものともいえる。
⑤については,それ自体抽象的な評価にとどまる上,面接担当者らが,原告は臨機応変に対応することができないと評価した根拠は,原告自身が自らの短所と問われた際に臨機応変に対応できないと述べたことであるというのであり,合理的根拠があるとはいえない。


したがって,差別意思があったとの認定を妨げることはできないというべきであり,非障害者であれば合格し得たにもかかわらず,原告は,障害を理由に必要以上に厳しい評価をされたものと認めるほかない。



なお,選考の方法については,面接担当者を始めとする選考実施主体の裁量があり,そもそも,司法審査に馴染むかという問題もあるが,私人による契約自由の原則が前提とされている採用の場面とは異なり,職業訓練の入校選考という,選考者において公平かつ平等な選考を当然に実施しなければならない場面において,直接差別の有無が問題となっている以上,全く司法審査が及ばないということはできず,合理的な裁量があることが尊重されるべきとしても,客観的な観点から,裁量の逸脱・濫用があったといえるかについては審査の対象となるというべきである。
そして,上記の検討のとおり,直接差別があると間接事実により推認できるところであるし,これに付け加えるならば,2名の面接担当者の採点合計で,受講意欲について20点満点中2点,就職意欲につき40点満点中9点という採点がなされており,受講・修了することに支障がないか(修了見込)という採点項目(40点満点中1点)以外においても極端な成績評価がなされていることに徴しても,裁量の逸脱・濫用があったと見ざるを得ない。⑺

被告県は,被告県が情報収集義務を負うことはなく,本件選考における時間的制約からも原告の発達障害について情報収集する時間的余裕はなかった旨主張する。
しかしながら,上記に説示したとおり,本件不合格は,原告の発達障害を理由としてされた直接差別によるものであり,被告県が主張するような本件選考における時間的制約があったからといって直接差別が許容されるわけではないから,被告県の主張は採用することができない。
確かに,面接試験の場で発達障害である旨の申告がなされた際の選考に伴う困難は理解し得なくはなく,とりわけ,障害者差別解消法が施行された現時点においては,被告国及び被告県において,適正な判定が無理なく行われるように制度構築をすることが望まれるところ,こうした整備が十分なされていなかった当時の事柄に対する事後的な評価として厳しい面がないわけではないが,判定が困難であるからといって安易に不合格にする措置が許されるものではなく,直接差別が認定される場合には,違法とするほかない。


以上によれば,本件不合格は,原告の発達障害を理由とした直接差別であり,国家賠償法上違法である。
4
(被告県に対する国家賠償請求の損害額)について
上記3のとおり,本件不合格は違法であるところ,証拠(甲30,原告本人)によれば,本件不合格により原告は精神的損害を被ったものと認められる。これに対する慰謝料額としては,原告が本件不合格により本件職業訓練を受講する機会を失ったこと,熱意を有して真摯に選考に取り組んだ原告にとっては,人格を根底から否定されるような経験となったであろうこと,他方で,本件による実損額が大きかったとはいえないこと,被告県においても,事前情報がない中で,面接試験の場で原告から突如として発達障害の診断を受けている旨伝えられ,その後の合否判定まで時間が限られていたこと,発達障害者の能力や障害の発現態様が多様であり,程度も様々なため,その能力判定は必ずしも容易ではなく,本来的には障害に関する適切な判断資料が提供された上で選考が遂行されるように制度構築がなされるべき問題であるとも考えられること,本件が障害者差別の解消に係る国内法の整備の過渡期に生じた事案であって過大な賠償義務を負わせるのは相当でないことなど本件に現れた一切の事情を考慮の上,その金額を30万円とするのが相当である。
また,原告が,原告訴訟代理人に対し,本件訴訟の提起,遂行を委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ,事案の内容,立証活動の難易,認容額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,弁護士費用は3万円をもって相当と認める。

5
争点

(被告国に対する国家賠償請求の可否)について

原告は,被告国が設置する高知安定所が,直接差別や間接差別を行ったと主張しているわけではなく,情報提供等義務を怠り,具体的には本件選考以前及び本件選考実施後の協議における原告の発達障害についての情報提供がされず,その結果,原告に対して合理的な配慮が提供されなかった旨主張し,その根拠として,障害者権利条約,促進法3条の2及びこれらを具体化した本件各通達を挙げる。
まず,障害者権利条約や促進法3条の2は,基本理念を定めたものにすぎないから,これらに基づき,高知安定所の職員が,国家賠償法の違法性を基礎づける職務上の法的義務として,本件選考以前における情報提供等義務を負うと解することはできない。
次に,旧地方自治法の下では,地方公共団体の事務は地方公共団体自身の事務である団体事務(自治事務)と地方公共団体の機関に委任される国または他の地方公共団体の事務である機関委任事務に区分され,団体事務(自治事務)に対する国の関与は,技術的助言又は勧告(旧地方自治法245条)という非権力的なものであることが原則とされていた(これらは,地方公共団体を法的に拘束するものではなかったが,実際には,団体事務(自治事務)に関しても,国から多数の通知が出され,事実上,地方公共団体を拘束することが多かったことは周知の事実である。)。
そして,入校選考を含む職業訓練の実施そのものに係る事務については,旧地方自治法148条2項にいう「この法律又はこれに基づく政令に規定」はないし,同項の別表3には,職業安定法関係の同表57の5,促進法関係の同表59の3に関連性の高い項目があるものの,これには該当せず,その他の別表3の項目に該当もせず,機関委任事務ではないと解されるから,旧地方自治法の下に発出された,職業訓練の実施そのものに係る事務に関するものと理解できる能発55号,開発21号はもとより,能発84号の別添の4については,旧地方自治法245条に基づく技術的助言又は勧告であり,これ自体が地方公共団体を法的に拘束するものではなく,公務員が個別の国民に対して職務上の法的義務を負うことを規定するものでもないというべきである。
加えて,上記のとおり,入校選考を含む公共職業訓練の実施そのものに係る事務は,旧地方自治法の機関委任事務には含まれないから,能発55号,開発21号及び能発84号の別添の4に関しては能発71号の適用がなく,本件各通達は,依然として都道府県宛てに発出された通知であると解される。したがって,能発55号,開発21号及び能発84号の別添の4に基づき,被告国が設置する高知安定所の職員が,職務上の法的義務として本件選考以前における情報提供等義務を負うと解することはできない。


また,既述のとおり,合理的配慮の提供は比較的新しい概念であり,障害者差別解消法は,本件選考当時施行されていないことに鑑みると,合理的配慮の提供義務を国家賠償法上の違法性を基礎づける義務と捉えることについては慎重であるべきである。



能発55号,開発21号及び能発84号の別添の4は,
旧地方自治法245条に基づく技術的助言又は勧告であり,これ自体が地方公共団体を法的に拘束するものではない。もっとも,前提事実
委託訓練である本件職業訓練は,①
申し込み,②

のとおり,

受講希望者が公共職業安定所で受講を

受講申込書の送付を受けた委託先である高知技術学校におい

て選考を行い,③

合否を決定し,公共職業安定所が合格者に対して受講の

あっせんを行って,訓練の受講に至るというものであり,能発55号が,高知技術学校と公共職業安定所との意見の食い違いを来さないよう両者の協議を求めていることは合理的であるから,これに沿った選考が行われることは望ましい。
そこで,本件選考実施後の協議における高知安定所の職員の対応について高知安定所の職員は,本件選考にお
ける原告の評価について,筆記試験の点数は高いのに総合選考結果が最下位であったことに疑問を持ち,高知技術学校にその旨を伝えたものの,原告について,熱心に就職活動をしているなどと述べたが,原告の発達障害や本件職業訓練を修了できる見込みなどについての情報を伝えることはなかったというのであり,十分な協議であったといえるかは疑わしい。
もっとも,本件選考は高知技術学校においてされるものであること,高知安定所は本件面接における原告の応対について直接知り得ないことなどを踏まえると,高知技術学校からの具体的な発問に対して虚偽の回答をしたなどの事情がない本件においては,高知安定所の職員の行為が,職務上の法的義務に違反するものとして国家賠償法1条1項の適用上違法と評価することはできない。
したがって,被告国に対する国家賠償請求は理由がない。
第4

結語
以上によれば,平成27年(行ウ)第3号


ついては訴えの利益がないから却下し,被告県に対する国家賠償請求は,33万円及びこれに対する平成26年5月2日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから一部認容し,その余は理由がないから棄却することとするが,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととし,被告国に対する請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
高知地方裁判所民事部

裁判長裁判官

西村
裁判官

酒井孝之
裁判官

手塚隆成修
※別紙「本件募集要項(甲3)」は添付省略

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