判例検索β > 平成29年(あ)第882号
邸宅侵入、公然わいせつ被告事件
事件番号平成29(あ)882
事件名邸宅侵入,公然わいせつ被告事件
裁判年月日平成30年5月10日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号平成29(う)1079
原審裁判年月日平成29年4月27日
判示事項いわゆるSTR型によるDNA型鑑定の信用性を否定した原判決が破棄された事例
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平成29年(あ)第882号邸宅侵入,公然わいせつ被告事件
平成30年5月10日第一小法廷判決

主文
原判決を破棄する
本件控訴を棄却する。
理由
検察官の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決は,刑訴法411条3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。第1
1
本件公訴事実並びに第1審判決及び原判決の要旨
本件公訴事実の要旨は,「被告人は,正当な理由がないのに,平成27年2
月22日午後9時41分頃,堺市内の他人が看守するマンション(以下「本件マンション」という。)に,1階オートロック式の出入口から住人に追従して侵入し,その頃,1階通路において,不特定多数の者が容易に認識し得る状態で,自己の陰茎を露出して手淫し,引き続き,2階通路において,同様の状態で,自己の陰茎を露出して手淫した上,射精し,もって公然とわいせつな行為をした」というものである。
2
被告人は犯人との同一性を争ったが,第1審判決は,本件の現場で採取され
た精液様の遺留物(以下「本件資料」という。)について実施された大阪医科大学医学部教授鈴木廣一医師によるDNA型鑑定(以下「鈴木鑑定」という。)を踏まえ,以下のとおり被告人を犯人と認めて,公訴事実どおりの犯罪事実を認定し,被告人を懲役1年に処した。
本件資料は,犯人が犯行の際に遺留した精液であり,そのDNA型は被告人に由来するものであって,被告人の精液であることが認められる。また,被告人が犯人として射精する以外に被告人の精液が現場に遺留されるような理由は見当たらない。
3
第1審判決に対し,被告人は事実誤認を理由に控訴した。原判決は,本件資
料が混合資料である疑いを払拭することができず,鈴木鑑定の信用性には疑問があり,被告人と犯人との同一性については合理的疑いが残るとして,事実誤認を理由に第1審判決を破棄し,被告人に対し無罪の言渡しをした。
第2

当裁判所の判断

しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。
1
第1審判決及び原判決の認定並びに記録によると,本件の事実関係は,以下
のとおりである。
(1)

犯人は,帰宅した住人に追従して,オートロック式の出入口から本件マン
ションに侵入し,自己の陰茎を露出して手淫しながら,1階通路から階段で2階通路に上がり,上記住人方の玄関前まで後を追った。上記住人は,手淫している犯人に気が付き,玄関ドアを閉めて,110番通報した。間もなく臨場した警察官が現場の実況見分を実施したところ,上記住人方の玄関ドア下の通路上に液状の精液様のたまりを発見し,専用綿棒を使って本件資料を採取した。
(2)

捜査段階で,大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所が実施した鑑定(以下
「科捜研鑑定」という。)では,本件資料が付着した綿球部分から1か所を切り取り,精液検査により,多数の精子を認めた一方,精子以外の特異な細胞が見当たらず,また,STR型検査等により検出された15座位のSTR型とアメロゲニン型が被告人の口腔内細胞のものと一致した。
(3)

鈴木鑑定は,本件資料が付着した綿球部分から2か所を切り取り,科捜研
鑑定とは別のキットを使って抽出した3つのDNA試料液について,STR型検査等を実施したところ,それぞれ14座位のSTR型とアメロゲニン型が科捜研鑑定と一致したものの,1座位で,科捜研鑑定と合致する2つのSTR型に加え,これと異なる3つ目のSTR型を検出した。これについて,鈴木鑑定は,15座位のSTR型の検出状況等から,本件資料は1人分のDNAに由来し,被告人のDNA型と一致する,上記1座位で検出された3つ目のSTR型は,男性生殖細胞の突然変異に起因すると考えられ,他者のDNAの混在ではない,とした。2
原判決は,一般には,資料が1人分のDNAに由来すれば,1座位に3種類
以上のSTR型が出現することはないのに,鈴木鑑定で,上記1座位において,3種類のSTR型を検出し,かつ,本件資料がマンションの通路上という他者のDNAの混合があり得る場所で採取されたことから,2人分以上のDNAが混入している疑いが生ずる,鈴木鑑定が本件資料に他人のDNAが混合した疑いがないとしたのは,刑事裁判の事実認定に用いるためのものとしては十分な説明がされていない,とする。
しかしながら,鈴木鑑定は,本件資料から抽出した3つのDNA試料液の分析結果に基づいて,15座位で,それぞれ1本又は2本のSTR型のピークが明瞭に現れ,かつ,そのピークの高さが1人分のDNAと認められるバランスを示していると説明するところ,1座位で3つ目のSTR型が検出された点に関する上記説明を含め,その内容は専門的知見に裏付けられた合理的なものと認められる。これに対し,原判決は,本件資料が混合資料であるとすれば,混合したSTR型の種類や量によっては,外観上多くの座位で1人分のDNAに由来するように見える形で,もととなる型とは異なるSTR型が出現する可能性がある,というが,鈴木鑑定人が原審の証人尋問でその可能性を否定しているのに対し,原判決の根拠となる専門的知見は示されていない。そして,原判決は,鈴木鑑定で被告人のSTR型と完全に一致したのは14座位であったことの推認力に限界があると指摘する一方,鈴木鑑定が,上記15座位で現れたSTR型のピークと高さを分析した結果に基づいて,本件資料が1人分のDNAに由来すると説明した点については,特に検討していない。
さらに,原判決は,科捜研鑑定についても,混合資料の一部が当初のオリジナルなSTR型以外の形式で再現されたものである可能性が否定できない,鈴木鑑定と科捜研鑑定の結果が食い違っているから,本件資料が精子であるとの前提が確実に成り立つかどうかも疑問である,という。しかしながら,本件資料が採取された経緯,その保管及び各鑑定の実施方法には問題がないこと,上記のとおり,科捜研鑑定の精液検査で精子が確認され,鈴木鑑定と科捜研鑑定の結果がほとんど一致していることを踏まえると,本件資料に犯人の精子以外の第三者のDNAが混入した可能性は認め難い。結局,原判決は,鈴木鑑定が本件資料を1人分のDNAに由来するとした理由の重要な点を見落とした上,科学的根拠を欠いた推測によって,その信用性の判断を誤ったというべきである。
3
以上によれば,原判決が,本件資料は1人分のDNAに由来し,被告人のD
NA型と一致する旨の鈴木鑑定の信用性には疑問があるとして,被告人と犯人との同一性を否定したのは,証拠の評価を誤り,ひいては重大な事実の誤認をしたというべきであり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
よって,刑訴法411条3号により原判決を破棄し,上記の検討によれば,第1審判決の事実誤認を主張する被告人の控訴は理由がないことに帰するから,同法413条ただし書,414条,396条により,これを棄却することとし,原審における訴訟費用の不負担につき同法181条1項ただし書を適用し,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官名倉俊一
(裁判長裁判官
山口


公判出席
小池

裁判官


裁判官

池上政幸

深山卓也)
裁判官

木澤克之

裁判官

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