判例検索β > 平成28年(ネ)第381号
国家賠償等請求控訴事件
事件番号平成28(ネ)381
事件名国家賠償等請求控訴事件
裁判年月日平成30年4月26日
法廷名仙台高等裁判所
原審裁判所名仙台地方裁判所
原審事件番号平成26(ワ)301
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主1文
第1審原告らの本件各控訴及び第1審被告らの本件各控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
第1審被告らは,連帯して,別紙2「請求額及び認容額一覧表」の「第1審原告氏名」欄記載の各第1審原告に対し,同一覧表の「控訴審の判断」中の「認容額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第1審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を第1審原告らの負担とし,その余を第1審被告らの負担とする。

3
事実及び理由
第1
1
当事者の求めた裁判
第1審原告ら
原判決を次のとおり変更する。
第1審被告らは,連帯して,別紙2「請求額及び認容額一覧表」の「第1審原告氏名」欄記載の各第1審原告らに対し,同一覧表の「控訴審請求額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
訴訟費用は,第1,2審を通じて,第1審被告らの負担とする。
仮執行宣言

2
第1審被告ら
原判決中,第1審被告ら敗訴部分をいずれも取り消す。

訴訟費用は,第1,2審を通じて,第1審原告らの負担とする。

第2
1
事案の概要
本件は,平成23年3月11日に発生した平成23年東北地方太平洋沖地震後の津波により,石巻市立大川小学校に在学していた児童74名及び教職員10名が死亡した事故に関して,死亡した児童のうち23名の父母である第1審原告らが,第1審被告市の公務員であり,第1審被告県がその給与等の費用を負担していた同小学校の教員等に児童の死亡について過失があるなどと主張して,第1審被告らに対し,国家賠償法1条1項,3条1項又は民法709条,715条1項に基づき,
損害賠償として,
総額22億6245万7642円
(別
紙2「請求額及び認容額一覧表」(以下「別表2」という。)の「原審請求額」欄に記載のとおり,第1審原告A11の請求は6245万7642円を限度とする一部請求,第1審原告A11を除くその余の第1審原告らの請求は,児童1名当たり1億円の一部請求)及びこれに対する遅延損害金(上記地震の日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員)の連帯支払を求めるとともに,第1審被告市に対し,公法上の在学契約関係に基づく安全配慮義務違反等があったと主張して,債務不履行に基づき,同内容の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,上記教員等による児童らの避難誘導に過失があったと認め,第1審被告らに対し,国家賠償法1条1項,3条1項に基づき,損害賠償として,別表2の「原審の判断」中の「認容額」欄に記載のとおり,総額14億2658万3714円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して第1審原告らに支払うよう命じたことから,第1審原告らが上記各敗訴部分を不服として控訴し,第1審被告らが上記各敗訴部分を不服として控訴した。
以下,本判決においては,主な固有名詞及び書証等について,別紙3「略語一覧表」のとおり表記する。

2
前提事実

当事者等
第1審原告らは,被災児童の父又は母である(甲C1ないし3の各1,甲C4及び5,甲C6の1,甲C7ないし17,甲C18の1,甲C19)。第1審被告市は,大川小を設置運営していた地方公共団体である。本件地震当時,大川小には,C1校長,D教頭,E教務主任のほか,教諭7名,養護教諭1名,主事1名及び用務員1名の合計13名の教職員(以下「大川小の教職員」という。)が在籍していたが,いずれも第1審被告市の公務員であった(甲A9・36頁)。
第1審被告県は,市町村立学校職員給与負担法1条に基づき,大川小の教職員の給与その他の費用を負担していた地方公共団体である(争いがない。)。
大川小周辺の地理的状況

大川小は,宮城県石巻市釜谷字山根1番地に所在し,その校舎の北側には,北上川が南西方向から北東方向に流れていた。大川小付近の北上川には,全長約565mの新北上大橋(公知の事実)が架かっており,そこから東に約4.5㎞付近で追波湾に注ぎ,その先は太平洋となっていた(甲A1の1~1の4,甲A52の1~52の3,乙3)。
大川小の立地する石巻市釜谷地区は,新北上大橋付近から下流側にかけ
ての北上川右岸(南側)に位置しており,大川小は,新北上大橋のやや下流側,北上川の右岸堤防からは約200m南に離れた釜谷地区中心部の西寄りの場所に立地していて,敷地の標高(「T.P.」すなわち東京湾平均海面を基準として計測したもの。以下同じ。)は1mないし1.5m,太平洋に面した追波湾までの直線距離は約3.7㎞であった(甲A1の1~1の4,甲A52の1~52の3,乙1・本文2~3頁,25頁~30頁,乙3,19)。

北上川は,かつて宮城県北東部を北から南に流れ下り,現在の石巻市中
心部で石巻湾に注いでいて,釜谷地区の北側を流れる川は追波川という地域河川であったが,明治44年から昭和9年までの河川改修工事により,追波川上流と北上川が接続されて本川が切り替えられ,追波川は改修されて北上川の下流の一部となった(甲A83の1・2,甲A95・4頁,甲A290)。
明治22年から昭和30年まで,北上川の河口付近にかけての右岸には,現在の石巻市の福地,針岡,釜谷,長面及び尾崎の各地区を区域とする大川村があったが,大川村は,昭和30年の町村合併により河北町の一部となり,河北町は,平成17年4月1日,桃生町,河南町,北上町,雄勝町,及び牡鹿町とともに石巻市と合併した(甲A9・24頁~25頁,甲A95・17頁,乙10・239頁)。

大川小の敷地は,北側に1階建ての1学年及び2学年の教室棟と2階建ての3学年ないし6学年の教室及び管理棟が校舎として配置され,その西側の敷地北西端に正門が配置されており,南側は大部分が校庭として利用され,校庭の東に体育館とプールが配置されていた(甲A3・写真1,甲A9・27頁,甲A59,甲A116・写真1~3・27,乙1・本文3頁,乙19)。
大川小の敷地の北側は,釜谷地区中心部を東西に貫く本件県道に面して
おり,大川小の正門も本件県道に面した構造となっていた。また,大川小の敷地の西側には,正門の北西付近にある本件県道との交差点から大川小の敷地沿いに南側の山の斜面に通じる本件市道が接していた(甲A1の4,甲A116・写真1~3,甲A119の1・12頁,甲A119の3・6頁,甲A120・写真1~4,乙1・本文3頁・29頁,乙19)。エ
大川小の敷地の南側には,石巻市の釜谷地区と雄勝地区を隔てる標高372mの小渕山の尾根が迫っており,一帯は,地元で「ダルマツ山」又は大川小の裏手に位置することから「裏山」などと呼ばれていた(甲A52
の3,乙1・26頁)。
大川小の校庭の南側は,本件市道を挟んだ裏山の麓に土砂災害防止のためのコンクリート擁壁が築かれており,その背後は裏山の斜面となっていたが,その斜面のうち校庭の正面に当たる部分には,下部で幅にして約90m,高低差にして約50mの範囲で,急傾斜地対策工事により,4段の水平なコンクリート舗装と5面の法面が階段状に造成されていた(甲A61・写真17~19,甲A111・写真3,甲A116・7頁・写真24~27,
乙1・本文26頁,
乙14の1~14の3,
乙16の1,
乙19)

大川小の校庭西側の本件市道を挟んだ向かい側は,地域住民の集会場である交流会館とその駐車場となっていた。駐車場の南側には,消防団のポンプ置場である倉庫や地蔵尊があり,その裏は,裏山の斜面になっていた(甲A60・写真9・10,甲A116・写真3・6~8,乙1・本文26頁~27頁,乙16の1,乙19)。

新北上大橋付近の北上川右岸には,国道398号線(雄勝地区方面から釜谷トンネルを抜け,新北上大橋を渡って志津川方面に通じる国道である(甲A52の3)。)と本件県道との交差点があり,その交差点付近は,周囲の平地より小高い平坦地(標高6.7m(乙11の1))となっていて,地元民はこの平坦地を「三角地帯」と呼んでいた(以下,上記の小高い平坦地を「三角地帯」という。)。もっとも,裏山が三角地帯間近まで尾根を張り出しているため,三角地帯は,歩道や交差点内のゼブラゾーンと空地部分を除き,人が滞留できる場所は広くない。三角地帯は,大川小の西にあり,その敷地の西側境界から直線距離にして約150m離れたところに位置している(甲A1の4,甲A120・写真7・65~67,乙1・本文3頁・29頁,乙5の2,乙19)。


三角地帯の交差点から国道398号線を南に進むと左側に裏山を登る林道の入口があり,その林道を数分登ると,「みやぎバットの森」(以下
「バットの森」という。)に至る。バットの森は,平成19年11月,大川小と大川中の児童・生徒全員のほか,保護者及び森林関係者約300人が参加して植樹祭を行った場所であり,車でも登坂できる程度の林道が整備され,
標高20mを超えた場所には,
緩やかな斜面が広がる場所がある。
大川小の正門から三角地帯を通過してバットの森の林道入口までの距離は約700mである(甲A49,52の3,62,64,乙11の1)。バットの森の林道入口から更に約2.3㎞先の標高約100m付近には,雄勝地区に通じる釜谷トンネルの入口があり,その手前には駐車スペースがある(甲A1の3,甲A49,52の3)。
本件地震直前の大川小の状況

本件地震が発生した平成23年3月11日(金曜日)現在で大川小に在籍していた児童は108名であったが,本件地震が発生した同日午後2時46分当時(以下,同日の事実については時刻のみを表記する。),欠席早退者等5名を除く児童103名が在校していた。同日,大川小の教職員のうち,C1校長は休暇を取得して不在,用務員は用務により外出中で,大川小校内にはD教頭以下11名の教職員が勤務していた(甲A22の19,乙1・本文1頁,乙31・4頁)。


同日,大川小では授業が行われており,本件地震の発生した午後2時46分頃は授業が終了した直後で,一部の学年は「帰りの会」の終了前であったが,直前に児童が下校を始めた学年もあった(乙1・本文78頁)。
本件地震の発生と本件津波による被災(甲A178の1[写真②],甲C13,18の1,乙1)

午後2時46分,宮城県沖を震源地とするマグニチュード9.0の本件地震が発生し,石巻市では震度6強が観測された(乙1・本文1頁)。

大川小の校舎内にいた児童は本件地震の発生と同時に机の下に隠れた(以下「一次避難」という。)。本件地震の揺れが止んだ後,教職員が在
校していた児童全員を校庭に避難させたほか,下校を始めていた児童も校内に戻り,103名の児童と11名の教職員が校庭に避難した(以下「二次避難」という。)。二次避難をした児童のうち27名は,午後3時30分頃までに保護者等によって引き取られて教職員の管理下を離れた。校庭に残っていた二次避難中の76名の児童は,午後3時30分過ぎまで校庭に留まった後,教職員11名の指示の下,列を作って交流会館の駐車場を通り,三角地帯の方向に徒歩で向かったが,交流会館の敷地を列の最後尾が通り抜けた頃,本件津波が付近に襲来し,被災した。本件津波から生き残ったのは,児童4名とE教務主任のみで,被災児童を含むその余の児童72名と教職員10名は全員死亡した(そのほか,当日欠席早退した児童のうち2名も本件津波に被災して死亡したため,大川小に在学中の児童のうち,本件津波に被災して死亡した児童の合計は74名となる。乙1・本文1頁・78頁~85頁。以下,被災児童23名が本件津波によって死亡した結果を包括して「本件結果」ということがある。)。
被災児童のうちB16及びB22の遺体は,現在まで発見されていない(甲A143,292,甲C13,18の1)。

大川小には,午後3時37分頃に本件津波が到達した。水面は2階建ての管理・教室棟校舎の屋根付近まで達し,校舎と体育館は水没して全壊した(甲A178の1・写真①・②)。被災児童の相続等
被災児童23名の法定相続人は,
それぞれ別紙4
「被災児童一覧表」「氏

名」欄に対応する「法定相続人」欄に記載された被災児童の父又は母である。このうち,同表の番号1ないし3,7及び22の被災児童に関しては,遺産分割により,両親のうち父(いずれも本件訴訟の第1審原告)が第1審被告らに対する損害賠償請求権を取得し,同一覧表の番号13,17ないし19の被災児童に関しては,父である本件訴訟の第1審原告らが単独で,その余
の被災児童については,父母である本件訴訟の第1審原告らが各2分の1の割合で第1審被告らに対する損害賠償請求権を相続した(甲C1ないし3の各2,甲C6の2,甲C11,14,15,甲C18の2)。
3
本件地震当時の本件に関連する法令の規定内容は,以下のとおりである。学校保健安全法(平成20年法律第73号による改正後のもの)
26条(学校安全に関する学校の設置者の責務)
学校の設置者は,児童生徒等の安全の確保を図るため,その設置する学校において,事故,加害行為,災害等(以下この条及び第29条第3項において「事故等」という。)により児童生徒等に生ずる危険を防止し,及び事故等により児童生徒等に危険又は危害が現に生じた場合(同条第1項及び第2項において「危険等発生時」という。)において適切に対処することができるよう,当該学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。27条(学校安全計画の策定等)
学校においては,児童生徒等の安全の確保を図るため,当該学校の施設及び設備の安全点検,児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導,職員の研修その他学校における安全に関する事項について計画を策定し,これを実施しなければならない。
28条(学校環境の安全の確保)
校長は,当該学校の施設又は設備について,児童生徒等の安全の確保を図る上で支障となる事項があると認めた場合には,遅滞なく,その改善を図るために必要な措置を講じ,又は当該措置を講ずることができないときは,当該学校の設置者に対し,その旨を申し出るものとする。29条(危険等発生時対処要領の作成等)
学校においては,児童生徒等の安全の確保を図るため,当該学校の
実情に応じて,危険等発生時において当該学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた対処要領(次項において「危険等発生時対処要領」という。)を作成するものとする。
校長は,危険等発生時対処要領の職員に対する周知,訓練の実施その他の危険等発生時において職員が適切に対処するために必要な措置を講ずるものとする。
30条(地域の関係機関等との連携)
学校においては,児童生徒等の安全の確保を図るため,児童生徒等の保護者との連携を図るとともに,当該学校が所在する地域の実情に応じて,当該地域を管轄する警察署その他の関係機関,地域の安全を確保するための活動を行う団体その他の関係団体,当該地域の住民その他の関係者との連携を図るよう努めるものとする。
学校教育法
(平成27年6月24日号外法律第46号による改正前のもの)
16条(普通教育の義務)
保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは,未成年後見人)をいう。以下同じ。)は,次条に定めるところにより,子に9年の普通教育を受けさせる義務を負う。
17条(就学義務)


保護者は,子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満12歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし,子が,満12歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは,満15歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間において当該課程を修了したときは,その修了した日の属する学年の終わり)までとする。

37条(校長,教頭,教諭その他の職員)

小学校には,校長,教頭,教諭,養護教諭及び事務職員を置かなければならない。
(中略)


校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する。
(中略)



教頭は,校長(副校長を置く小学校にあつては,校長及び副校長)を助け,校務を整理し,及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。


教頭は,校長(副校長を置く小学校にあつては,校長及び副校長)に事故があるときは校長の職務を代理し,校長(副校長を置く小学校にあつては,校長及び副校長)が欠けたときは校長の職務を行う。この場合において,教頭が2人以上あるときは,あらかじめ校長が定めた順序で,校長の職務を代理し,又は行う。



主幹教諭は,校長(副校長を置く小学校にあつては,校長及び副校長)及び教頭を助け,命を受けて校務の一部を整理し,並びに児童の教育をつかさどる。
(中略)


教諭は,児童の教育をつかさどる。

学校教育法施行令
5条(入学期日等の通知,学校の指定)(平成25年8月26日号外政令第244号による改正前のもの)
市町村の教育委員会は,就学予定者(法第17条第1項又は第2
項の規定により,翌学年の初めから小学校,中学校,中等教育学校又は特別支援学校に就学させるべき者をいう。以下同じ。)で次に掲げる者について,その保護者に対し,翌学年の初めから2月前までに,小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない。

就学予定者のうち,視覚障害者,聴覚障害者,知的障害者,肢

体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で,その障害が,
第22条の3の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」
という。)以外の者

視覚障害者等のうち,市町村の教育委員会が,その者の障害の
状態に照らして,当該市町村の設置する小学校又は中学校におい
て適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者
(以下「認定就学者」という。)
市町村の教育委員会は,当該市町村の設置する小学校又は中学校

(法第71条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。中略)が2校以上ある場合においては,前項の通知において当該就学予定者の就学すべき小学校又は中学校を指定しなければならない。
前2項の規定は,第9条第1項の届出のあつた就学予定者につい
ては,適用しない。
8条(平成27年12月16日号外政令第421号による改正前のもの)市町村の教育委員会は,第5条第2項(第6条において準用する場合を含む。)の場合において,相当と認めるときは,保護者の申立により,その指定した小学校又は中学校を変更することができる。この場合においては,すみやかに,その保護者及び前条の通知をした小学校又は中学校の校長に対し,その旨を通知するとともに,新たに指定した小学校又は中学校の校長に対し,同条の通知をしなければならない。
学校教育法施行規則
44条(教務主任及び学年主任)


小学校には,教務主任及び学年主任を置くものとする。



前項の規定にかかわらず,第4項に規定する教務主任の担当する校務を整理する主幹教諭を置くときその他特別の事情のあるときは教務
主任を,第5項に規定する学年主任の担当する校務を整理する主幹教諭を置くときその他特別の事情のあるときは学年主任を,それぞれ置かないことができる。


教務主任及び学年主任は,指導教諭又は教諭をもつて,これに充てる。



教務主任は,校長の監督を受け,教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導,助言に当たる。



学年主任は,校長の監督を受け,当該学年の教育活動に関する事項について連絡調整及び指導,助言に当たる。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律(平成27年6月24日号外法律第46号による改正前のもの)
23条(教育委員会の職務権限)
教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,次に掲げるものを管理し,及び執行する。
(中略)
校長,教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
校長,
教員その他の教育関係職員並びに生徒,
児童及び幼児の保健,
安全,厚生及び福利に関すること。
4
争点
本件における争点は,第1審被告らの責任原因の有無と第1審原告らの損害の内容とに大きく分けられる。第1審原告らは,前者の争点について,国家賠償責任,不法行為責任及び在学契約に基づく債務不履行責任の三種類の法律構成を主張する一方,①市教委及び大川小の運営に当たっていた公務員である大川小のC1校長,D教頭及びE教務主任が,平時において事前に,大川小の児童の生命,身体の安全を守るべき職務上果たすべき義務を懈怠したことをもって国賠法1条1項の「過失」(又は不法行為の過失ないし債務不履行)と捉え
る判断枠組み(以下「学校組織上の注意義務違反に係る責任原因」という。)とともに,②本件地震発生後において,大川小のD教頭,E教務主任及び教員らが,本件地震発生後の具体的危険(本件津波の大川小への来襲により,現実に児童の生命・身体が損なわれる危険)の予見及びその可能性を前提にした結果回避義務(児童らを安全な高所へ避難誘導すべきこと)を懈怠したことをもって国賠法1条1項の「過失」(又は不法行為の過失ないし債務不履行)と捉える判断枠組み(以下「本件津波からの避難誘導義務違反に係る責任原因」という。),及び③本件津波来襲後の大川小のC1校長,E教務主任,市教委の職員ら,第1審被告市長及び第1審被告県知事の事後的な違法行為をもって国賠法1条1項の違法行為(又は不法行為ないし債務不履行)と捉える判断枠組み(以下「事後的違法行為に係る責任原因」という。)の三系統の主張を行っていることから,以下,上記系統毎に争点を整理する。
学校組織上の注意義務違反に係る責任原因


市教委及び大川小の運営に当たっていた公務員である大川小のC1校長,D教頭及びE教務主任は,平時において事前に,児童の生命・身体の安全を保護すべき義務を負っていたか,負っていたとすればその義務はい


市教委及び大川小の運営に当たっていた公務員である大川小のC1校長,D教頭及びE教務主任は,平時において事前に,大川小の児童の生命,


市教委及び大川小の運営に当たっていた公務員である大川小のC1校長,D教頭及びE教務主任が,上記②の大川小の児童の生命,身体の安全を保護すべき義務を履行していれば,本件結果を回避することができたか(上記②の義務懈怠と本件結果との間に因果関係は認められるか)(争点
本件津波からの避難誘導義務違反に係る責任原因



本件地震後,D教頭,E教務主任及び大川小の教員らは,大川小への津波来襲により児童らの生命が失われ,身体が毀損される具体的危険を予見していたといえるか,上記具体的危険を予見すべき注意義務を負っていた


本件地震後,D教頭,E教務主任及び大川小の教員らは,児童らを安全
事後的違法行為に係る責任原因
C1校長,E教務主任,市教委の職員ら,第1審被告市長及び第1審被告県知事について,本件結果発生後の言動に係る注意義務違反(以下「本件事
第1審被告らの責任原因が認められる場合,これによる第1審原告らの損
5
争点に係る当事者の主張
別紙5のとおり

第3

当裁判所の判断

1
に当たっていた公務員である大川小のC
1校長,D教頭及びE教務主任は,平時において事前に,児童の生命・身体の安全を保護すべき義務を負っていたか,負っていたとすればその義務はいかなる性質の義務であったか。)について
当裁判所は,市教委は第1審被告市が処理する教育に関する事務を管理・執行する者(地方教育行政法23条)として,C1校長,D教頭及びE教務主任は大川小の運営に当たっていた第1審被告市の公務員として,学校保健安全法26条ないし29条に基づき,本件地震が発生する前の平成22年4月末の時点において,その当時,平成16年3月に宮城県防災会議地震対策等専門部会が作成した平成16年報告(乙2)において発生が想定されていた地震(以下「本件想定地震」という。)により発生する津波の危険から,
大川小に在籍していた108名の児童(以下「在籍児童」という。)の生命・身体の安全を確保すべき義務を負っていたものであり,その安全確保義務は,平成22年4月末の時点においては,個々の在籍児童及びその保護者に
る。以下「本件安全確保義務」という。)を構成するに至っていた(したがって,本件安全確保義務の履行を故意又は過失によって懈怠したときは,国賠法1条1項にいう違法という評価を免れない。)と解するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。
C1校長,D教頭及びE教務主任の学校保健安全法上の義務についてア
C1校長は,大川小の校務をつかさどり,平成22年4月末当時,大川小に所属していたD教頭,E教務主任ほか教諭7名,養護教諭1名,主事1名及び用務員1名の合計12名の教職員を監督する職務上の地位にあり(学校教育法37条4項),D教頭は,平成22年4月末当時,C1校長を助け,校務を整理し,及び必要に応じ児童の教育をつかさどるとともに,C1校長に事故があるときはC1校長の職務を代理し,C1校長が欠けたときはC1
法37条7項,8項)。
また,E教務主任は,平成22年4月末当時,C1校長の監督を受け,教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導,助
条1項,3項,4項)。

学校保健安全法27条は,学校において,児童生徒等の安全の確保を図るため,学校における安全に関する事項について計画を策定し,これを実施すべきことを定めるが,平成22年4月末当時,大川小の校務をつかさどるのはC1校長であったから,大川小における安全計画を策定し,これを実施すべき責任者は,C1校長であったと認められる。また,D教頭は,
C1校長を助け,校務を整理すべき職務を有していたから,その立場で大川小における安全計画を策定し,これを実施すべき義務を有していたと認められ,E教務主任も,C1校長の監督を受け,教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導,助言に当たる職務を有していたから,安全計画が教育計画の中に位置付けられていた大川小においては,その立場で大川小における安全計画を策定し,これを実施すべき義務を有していたと認められる(甲A9・103~120頁,甲A283・8頁~9頁,乙59・3枚目)。

同法28条は,校長に対し,当該学校の施設又は設備について,遅滞なく,児童生徒等の安全の確保を図る上で支障となる事項の改善を図るために必要な措置を講じ,当該措置を講ずることができないときは,当該学校の設置者に対してその旨を申し出るべきことを定めるから,平成22年4月末当時,C1校長としては,大川小の施設又は設備について,遅滞なく,在籍児童の安全の確保を図る上で支障となる事項の改善を図るために必要な措置を講じ,当該措置を講ずることができないときは,大川小の設置者である第1審被告市(市教委)に対してその旨を申し出るべき義務を有していたと認められる。また,D教頭は,C1校長を助け,校務を整理すべき職務を有していたから,その立場で大川小の施設又は設備について,遅滞なく,在籍児童の安全確保に必要な措置を講じるよう,又は当該措置を講ずることができないときは,第1審被告市(市教委)に対してその旨を申し出るようC1校長に対して進言すべき義務を有していたと認められる。


同法29条1項は,
学校において,
児童生徒等の安全の確保を図るため,
当該学校の実情に応じて,危険等発生時において当該学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた対処要領
(以下,
本判決においては,
同条の定める危険等発生時対処要領を「危機管理マニュアル」という。)
を作成すべきことを定めるが,平成22年4月末当時,大川小の校務をつかさどるのはC1校長であったから,大川小において大川小の実情に応じた危機管理マニュアルを作成すべき責任者は,C1校長であったと認められる。また,D教頭は,C1校長を助け,校務を整理すべき職務を有していたから,その立場で大川小における危機管理マニュアルを作成すべき義務を有していたと認められ,E教務主任も,C1校長の監督を受け,教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導,助言に当たる職務を有していたから,危機管理マニュアルが教育計画の中に位置付けられていた大川小においては,その立場で大川小における危機管理マニュアルを作成すべき義務を有していたと認められる(甲A9・179頁~198頁,乙54・2枚目,乙59・3枚目,証人C5・48頁)。また,同法29条2項は,校長に対し,危機管理マニュアルの職員に対する周知,訓練の実施その他の危険等発生時において職員が適切に対処するために必要な措置を講ずべきことを定めるから,平成22年4月末当時,C1校長としては,大川小の危機管理マニュアルを大川小の教職員に周知するとともに,危機管理マニュアルに従った訓練の実施その他の危険等発生時において教職員が円滑かつ的確な対応ができるように必要な措置を講ずべき義務を有していたと認められる。また,D教頭は,C1校長を助け,校務を整理すべき職務を有していたから,その立場で大川小の危機管理マニュアルを教職員に周知するとともに,危機管理マニュアルに従った訓練を実施するなど,危険等発生時において教職員が円滑かつ的確な対応ができるようにするための必要な措置を講ずべき義務を有していたと認められる(乙59・8枚目~9枚目)。
市教委の学校保健安全法上の義務について

市教委は,第1審被告市が処理する教育に関する事務で,校長,教員その他の教育関係職員の研修に関すること,並びに校長,教員その他の教育
関係職員及び生徒,児童及び幼児の保健,安全,厚生及び福利に関することを管理し,執行する職務権限を有する(地方教育行政法23条8号,9号)。
したがって,市教委は,大川小の校長及び教員の研修,並びに大川小の校長,教員及び児童の安全(学校における安全には,安全教育と安全管理の2つの領域があり,同法23条9号にいう「安全」にはその両領域が含まれるものと解される(乙60・1253頁)。)に関することを管理し,執行する職務権限を有していたと認められる。

学校保健安全法26条は,学校の設置者は,児童生徒等の安全の確保を図るため,その設置する学校において,事故,加害行為,災害等により児童生徒等に生ずる危険を防止し,及び事故,加害行為,災害等により児童生徒等に危険又は危害が現に生じた場合において適切に対処することができるよう,当該学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるべきことを定めるから,市教委は,大川小の児童の安全の確保を図るため,大川小において,災害により児童に生ずる危険を防止し,及び災害により児童に危険又は危害が現に生じた場合において適切に対処することができるよう,大川小の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるべき義務があったと認められる。


第1審被告らは,学校保健安全法29条1項によれば,危機管理マニュアルの作成主体は学校とされているところ,危機管理マニュアルは当該学校の実情に応じて定めるものであり,当該学校の実情に最も精通しているのは当該学校自身であるから,危機管理マニュアルの作成に当たり,校長の裁量は最大限尊重されるべきであり,危機管理マニュアルの内容をどのようにするかは,原則として校長の裁量に委ねられているとみるべきであって,教育委員会が,当該学校の危機管理マニュアルの内容に踏み込んだ
介入的な指導,助言,命令等を行うことはできないと主張する。
しかし,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
教育委員会の管理権の行使に限界があるとされる理由は,学校が,児童生徒を直接教育するという目的で設置された教育機関であり,その目的のために専属の人的組織及び物的施設を備え,そこで行われる教育という作用が,教諭と児童生徒との間の直接の人格的接触を通じ,児童生徒の能力や性別等に応じて弾力的に行われる必要があり,そこに教諭及びその組織体としての学校の自由な創意と工夫の余地が要請されるという点にあると解される(乙101・67頁。最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。したがって,教育委員会の細部にわたる個別具体的な関与が不適切とされるのは,児童生徒に対する直接的な教育作用に関わる部分に限られるというべきであり,
児童生徒の安全,
とりわけ安全管理の領域
(危
機管理マニュアルの作成は安全管理の領域に入る事項である。)について,教育委員会の学校に対する細部にわたる個別具体的な関与を不適切とする理由はない。地方教育行政法23条(現行の21条)が,教育委員会の職務権限として,生徒,児童及び幼児の安全に関することを管理し,執行すると定めていて,生徒,児童及び幼児の教育に関することを管理し,執行すると定めていないのは,上記の趣旨を明らかにしたものと解される。
子どもの教育は,子どもが将来一人前の大人となり,共同社会の一員としてその中で生活し,自己の人格を完成,実現していく基礎となる能力を身につけるために必要不可欠な営みであり,それはまた,共同社会の存続と発展のためにも欠くことのできないものである。この子どもの教育は,その最も始源的かつ基本的な形態としては,親が子との自然的
関係に基づいて子に対して行う養育,
監護の作用の一環として現れるが,
このような私事としての親の教育及びその延長としての私的施設による教育をもってしては,近代社会における経済的,技術的,文化的発展と社会の複雑化に伴う教育要求の質的拡大及び量的増大に対応しきれなくなるに及び,子どもの教育が社会における重要な共通の関心事となり,子どもの教育をいわば社会の公共的課題として公共の施設を通じて組織的かつ計画的に行ういわゆる公教育制度の発展をみるに至り,現代国家においては,子どもの教育は,主としてこのような公共施設としての国公立の学校を中心として営まれるという状態になっている(前掲最高裁判決参照)。
もっとも,上記のような公教育制度が円滑に運営されるためには,児童生徒に対する教育を組織的かつ計画的に行う場所である公共施設としての学校の安全が確保されること及び児童生徒に対する養育,監護の作用の一部を学校に移譲する立場にある保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは,未成年後見人)をいう(学校教育法16条)。以下同じ。)が,その安全性に対して十全の信頼を置いていることが不可欠の前提である(乙60・1253頁)。
しかし,平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の発生や平成13年6月8日の大阪教育大学附属池田小学校での児童・教員殺傷事件の発生など,学校という公共施設に通う児童生徒の安全を取り巻く状況は緊迫度を増し,施設建物を建築して児童生徒をそこに集めれば児童生徒の安全が確保されるというような生易しい社会情勢ではないという認識が国民全体に浸透してきた。そこに,学校保健安全法を改正し,法律の明文をもって,
学校安全に関する地域の実情や児童生徒の実態を踏まえつつ,
各学校において共通して取り組まれるべき事項について規定を整備するとともに,学校の設置者の責務を定める等の措置を講ずることを規定す
る必要性が生まれたということができる(乙59・1枚目)。
したがって,
上記改正によって新設された同法26条ないし29条は,
地方公共団体が設置する学校に関していえば,教育委員会,その運営主体である学校及びその運営責任者である校長に対し,公教育制度を円滑に運営するための根源的義務を明文化したものと解することができる(乙59・2枚目)。
したがって,教育委員会は,同法26条ないし29条の新設により,上記根源的義務を全うするため,児童生徒の安全,とりわけ危機管理マニュアルの作成を含む安全管理の領域について,学校に対する細部にわたる個別具体的な関与を通じた管理,執行が求められるに至ったと解するのが相当である。
第1審被告らは,危機管理マニュアルは,当該学校の実情に応じて定めるものであり,当該学校の実情に最も精通しているのは当該学校自身であるから,学校の運営責任者である校長の裁量は最大限尊重されるべきであると主張する。
しかし,宮城県内の小中学校の教職員は,平均して3年程度で異動することが通常であり,
同一校勤続年数2年未満の教職員が占める割合は,
平成25年度において,全県小中学校で46%,僻地校(大川小は僻地校に当たる(甲A9・159頁)。)で61%であったとされている(乙1・本文37頁)。大川小においても,平成22年度初頭時点において,勤続年数1年未満の教職員が4名,1年以上2年未満の教職員が5名,2年以上3年未満の教職員が1名,3年以上4年未満の教職員が2名,5年以上6年未満の教職員が1名であり,過去の勤務経験(上記の勤続年数1年以上2年未満の教職員1名が過去に7年間の大川小勤務経験を有していた。)を加算しても,本件地震当時,勤続年数2年未満が8名(約6割)を占めていた(乙1・本文37頁)。C1校長は,平成21
年4月に大川小に赴任しており,本件地震当時の大川小における勤続年数は2年未満であったし,D教頭は,平成20年4月に大川小に赴任しており,
本件地震当時の大川小における勤続年数は3年未満であった
(原
審証人C1・1頁,証人C3・1頁)。
上記のように,宮城県下の小中学校において同一校勤続年数2年未満の教職員が占める割合が5割近くを占め,特に大川小のような僻地校においてはその割合が6割を超えているという事実に照らせば,学校という組織の実態は,当該学校の実情を継続的に蓄積できる体制にはなっていないというべきであって,当該学校の実情に最も精通しているのは当該学校自身である(大川小の実情に最も精通しているのは大川小自身である)とは必ずしもいえない。むしろ,市教委が,毎年,石巻市内の各小中学校から教育計画の提出を受けていた事実(証人C4・40頁)に照らせば,同一の小中学校について,継続的にその実情を蓄積し易い立場にあったのはむしろ市教委であるといえる。また,石巻市内の小中学校の全体状況に照らした各小中学校の位置付けを把握できる情報を保有しているのは,市教委のみである。
したがって,当該学校の実情に最も精通しているのは当該学校自身であるという理由から,危機管理マニュアルの作成に係る校長の裁量は最大限尊重されるべきであるとする第1審被告らの主張は,その前提を欠き,採用することができない。

上記ウの認定判断に照らせば,市教委は,学校保健安全法29条1項に基づき,大川小に対し,在籍児童の安全の確保を図るため,大川小の実情に応じて,危険等発生時において大川小の教職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた危機管理マニュアルを作成すべきことを指導し,作成された危機管理マニュアルが大川小の立地する地域の実情や在籍児童の実態を踏まえた内容となっているかを確認し,内容に不備があるときに
はその是正を指示・指導すべき義務があったと認めるのが相当である。C1校長,D教頭及びE教務主任並びに市教委(以下「C1校
長等」という。)の学校保健安全法上の義務は,国賠法1条1項にいう違法を根拠づける職務上の注意義務を構成するかについて

国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁)。したがって,第1審被告市の公務員であるC1校長等の行為が同項の適用上違法となるかどうかを判断するためには,C1校長等の行動が個別の国民(本件では在籍児童及びその保護者)に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかを検討しなければならない。


C1校長等の学校保健安全法上の義務は,いずれも,在籍児
童の安全の確保を図るための作為を求める義務であるから,C1校長等の行動が在籍児童及びその保護者に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかを検討することは,C1校長等の不作為が国賠法上違法であるかどうかを問うことを意味する。
公務員の不作為が国賠法上違法であるというためには,当該公務員が規制権限を有し,その規制権限の行使によって受ける利益が国賠法上保護される利益であること(本件において,C1校長等の作為義務の履行によっ
による在籍児童の生命・身体の安全とこれに対する在籍児童の保護者の信頼であるから,これが国賠法上保護される法的利益であることは明らかである。)のほか,規制権限不行使によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係で,
当該公務員が規制権限を行使すべき法的義務
(作為義務)

を負い,
その義務の違反があることが必要であるところ,
本件においては,
C1校長等の
作為義務を明文で規定している。

第1審被告らは,学校保健安全法26条ないし29条が規定する作為義務,特に危機管理マニュアルの作成については,その内容について,当該学校の実情に応じて,危険等発生時において当該学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた対処要領を作成するものとすると定めているに過ぎず,個々の学校が定めるべき危機管理マニュアルの具体的内容が一義的に明らかになるような規範が示されてはいない上,具体的にどのような危険に対処すべきか,どのような資料や情報を参照して危機管理マニュアルを作成しなければならないのかなどについての言及もないなど,抽象的義務ないし努力義務を定めているに過ぎないから,危機管理マニュアルの策定(改訂)に当たって各学校に付与された裁量の幅は極めて大きいというべきであって,学校保健安全法26条ないし29条の規定の存在から,直ちに,C1校長等の具体的な作為義務が認められることはないと主張する。
確かに,学校保健安全法26条ないし29条が定めるC1校長等の作為義務は,抽象的な内容にとどまっており,その内容が一義的に定まるような具体的なものとはなっていないが,そうだからといって,学校保健安全法26条ないし29条に規範性はなく,C1校長等に対し,その義務の履行について自由な裁量を与えたものと解することは相当ではない。その理由は以下のとおりである。
学校保健安全法が26条ないし29条によって保護しようとする法
えば,児童生徒に対する教育を組織的かつ計画的に行う場所である公共施設としての学校の安全が確保されること及びこれに対する児童生徒の
保護者の信頼であり,これは,公教育制度を円滑に運営するための根源的な利益である。
したがって,その根源的利益を遺漏なく保護するに当たって行使されるべき教育委員会及び校長以下の学校運営者の権限は,当該学校の実情に応じて適切かつ合理的に行使されなければならないものであって,教育委員会及び校長以下の学校運営者の自由裁量に任されているわけではないというべきである。
学校は,児童生徒を直接教育するという目的で設置された教育機関であり,その目的のために専属の人的組織及び物的施設を備え,そこで行われる教育という作用が,教諭と児童生徒との間の直接の人格的接触を通じ,児童生徒の能力や性別等に応じて弾力的に行われる必要があるから,児童生徒に対する直接的な教育作用に関わる部分については,校長以下の学校運営者の権限の行使には広範な裁量が与えられるべきである。しかし,児童生徒の安全,とりわけ安全管理の領域(危機管理マニュアルの作成は安全管理の領域に入る事項である。)については,これと同様に考えることができないことは,上記のとおりである。
学校の実情は,教育委員会及び当該学校自身がそれぞれに収集・蓄積する立場にあり,それぞれが収集・蓄積した情報を有機的に交換すること(石巻市内の小中学校が毎年教育計画を作成して市教委に提出していた行為は,学校から教育委員会に対する情報提供であり,指導主事による学校訪問は,教育委員会から学校に対して情報提供を行う絶好の機会となるといえる(証人C4・39頁~42頁)。)によって,当該学校の実情は,
教育委員会と学校が相互に共有する客観的な情報となるから,
これにより,学校保健安全法26条ないし29条が定めるC1校長等の作為義務の内容は,教育委員会と学校が相互に共有する当該学校の実情に基づき具体的に定まり,C1校長等の作為義務の内容を拘束する規範
性を帯びることになるといえる。したがって,その時点において,教育委員会及び校長以下の学校運営者の権限が,当該学校の実情に応じて適切かつ合理的に行使されているか否かは,これを客観的に評価,判断することが可能となる。

第1審被告らは,大川小に在学していた児童の在学関係は,学校教育法上の就学義務及び第1審被告市における通学区域制に基づくものであるが,就学義務それ自体が特殊な在学関係を基礎付けるものとはいい難いから,学校保健安全法26条ないし29条が定める義務の性質に影響を及ぼすものとはいえないし,通学区域制についても,上記義務は公立学校に限らない全ての学校(及びその校長)が等しく児童生徒等の安全の確保を図る目的で負うものであることから,在学関係の成立過程における特殊性が,上記義務(その趣旨・目的を含む。)との関係において,その法的性質や義務内容にまで影響し得るような,密接かつ具体的な関連性は何ら見い出し得ないと主張する。
しかし,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
在籍児童の保護者は,学校教育法16条,17条の定める普通教育を受けさせる義務(就学義務)の履行として,在籍児童を大川小に通わせていたものである。保護者に対して命じられた上記就学義務は,抽象的義務ないし努力義務ではなく,刑罰(同法144条。同法17条1項の義務の履行の督促を受け,なお履行しない者は,10万円以下の罰金に処せられる。の制裁によって担保された具体的かつ規範的義務である。)
しかも,在籍児童の保護者は,学校教育法施行令5条2項,石巻市学校教育法施行細則(乙52)4条,石巻市立小学校及び石巻市立中学校の通学区域に関する規則(乙53)2条別表により,大川小に児童を通学させるよう市教委による行政処分を受けていたものであり,大川小が学
校としての安全性が確保されていないという理由で,大川小以外の石巻市内の他の小学校に児童を通わせるという選択をすることはできなかった(乙52・5頁・8頁,証人C4・36頁~39頁)。
第1審被告らは,保護者は,指定された小学校の変更を申し立てることができ(石巻市学校教育法施行細則7条1項),この申立てが相当として認められた場合,石巻市立小学校及び石巻市立中学校の通学区域に関する規則上の通学区域が大川小である児童が,大川小以外の石巻市立の小学校に通学することもあり得るし,第1審被告市が設置する小学校以外の小学校に児童を就学させることもできる(同細則8条)と主張する。しかし,市教委が採用する通学区域制は,過大学級を防ぎ教育の機会均等を実現すること及び居住地域での学校生活による子どもの人間的成長を期する趣旨から設けられた制度である(弁論の全趣旨)から,指定校の変更申立てが相当と認められるのは(学校教育法施行令8条),児童の身体的事由や監護環境等に照らし,指定校への就学に支障を生ずる客観的かつ合理的理由がある場合に限られており,保護者の判断によって自由に児童を通学させる小学校を選択できるものではないことが認められる(乙52・5頁・8頁,証人C4・36頁~38頁)。また,第1審被告市が設置する小学校以外の小学校に児童を就学させる場合も,上記と同様の客観的かつ合理的理由が必要である(乙52・12頁)上,相当の経済的負担を伴うから(特に,私立小学校や国立小学校に通学させる場合),平均的な経済水準の保護者が容易に選択できる方法ではないといえる。したがって,在籍児童の保護者は,市教委により,児童を大川小に通わせることを法律上強制されていたということができる。
このような在学関係の成立が容認されるのは,子どもの教育が社会における重要な共通の関心事であり,子どもの教育を社会の公共的課題と
して国公立の学校を中心とした公教育制度によって営むことについて,社会全体の承認が成立していること,また,その前提として,公教育制度を営むために設置される学校において,児童生徒の安全が確保されることが制度的に保証されているということにある(そのような制度的保障がなければ,児童生徒に対する養育,監護の作用の一部を保護者から学校に強制的に移譲することを正当化することはできない。)と考えられる。したがって,地方公共団体が設置する学校に関していえば,学校保健安全法26条ないし29条が定める義務は,上記制度的保障の一環として成立していると解されるものであって,学校保健安全法26条ないし29条が明文で規定したC1校長等の作為義務は,市教委がその行政処分によって指定した大川小の在籍児童の保護者に対する関係で規範的拘束力を有し,職務上の法的義務として履行されるべき作為義務の内容となると解するのが相当である。

石巻市立学校の管理に関する規則(乙57)6条は,1項において,学校は,学習指導要領の基準及び教育委員会が定める基準により教育課程を編成するものと定め,2項において,校長は,その年度において実施する教育課程について,①教育目標,②教育課程表,③学習指導,生徒指導及び進路指導の大要を,毎年4月30日までに教育委員会に届け出なければならないと定めている(以下,上記規則の定めによって編成された教育課程又はその編成された教育課程を記載した文書を「教育計画」という。)。大川小においても,C1校長は,上記規則の定めに従い,平成22年4月30日までに,平成22年度において大川小において実施する教育課程を編成し,これを教育計画にまとめて市教委に提出した(甲A9,原審証人C1・21頁~23頁,証人C4・4頁~5頁。以下,C1校長が作成し,市教委に提出した平成22年度教育計画(甲A9)を「本件教育計画」という。)。

本件教育計画の中には,「地震(津波)発生時の危機管理マニュアル」と題する文書(甲A9・181頁~192頁。以下「本件危機管理マニュアル」という。)が含まれていたが,これは,市教委が平成22年2月8日付けで石巻市立小中学校長宛てに発出した「学校における災害対策体制の整備について(依頼)」と題する依頼文書(乙54・2枚目。以下「本件依頼文書」といい,本件依頼文書による市教委の石巻市立小中学校長に対する依頼を「本件依頼」という。)において,「学校における災害対策やその体制につきまして早急に整備し,次年度の教育計画に位置付けるなどにより,災害に対する万全の備えをしていただくようお願いいたします。」とした依頼に対応して,大川小において,本件危機管理マニュアルを本件教育計画に位置付けた形式で作成し,市教委に提出したものであった(原審証人C1・2頁,当審証人C1・1頁~2頁,証人C5・45頁~49頁,証人C4・4頁~6頁・22頁)。
本件依頼は,平成16年報告(乙2)において,本件想定地震の発生が,平成15年6月1日の基準日から30年以内に99%という高い確率で想定されていた中で,石巻市内の小中学校に対して本件想定地震に対する万全の備えを指示する趣旨で発出されたものであること
(乙79・15頁,
乙80・40頁,乙93・2頁・10頁,証人C5・17頁~18頁)等に鑑みると,遅くとも本件依頼が危機管理マニュアルの作成期限として指定した平成22年4月30日(同日は,平成22年度の教育計画の市教委に対する提出期限である。)の時点では,学校保健安全法26条ないし29条が定めるC1
に基づいて具体的に定まり(本件安全確保義務。本件安全確保義務の具体
地震により発生する津波の危険から,在籍児童の生命・身体の安全を確保すべき作為義務である。),在籍児童の保護者との関係で,C1校長等を
拘束する規範性を帯びることになった(したがって,C1校長等が,本件安全確保義務の履行を過失によって懈怠したときは,国賠法1条1項にいう違法という評価を免れない。)ものと認めるのが相当である。その具体

なお,第1審被告らは,公立学校の設置者及び校長,教頭はじめ教員らは,児童・生徒に対して,学校教育法上の就学義務及び通学区域制に基礎を置く行政処分に基づく在学関係を根拠として安全配慮義務を負うが,安全配慮義務の具体的内容(求められる注意義務の内容)については,私立学校と差異はないと主張する。
とおり,学校保健安全法26条ないし29条が,C
1校長等の義務として明文で規定した作為義務は,公教育制度を円滑に運営するための根源的義務を明文化したものという性格を有するから,大川小における在籍児童の在学関係においては,その在学関係成立の前提となる中心的義務として位置付けられる。これに対し,安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるものである(最高裁昭和48年(オ)第383号同50年2月25日第三小法廷判決・民集29巻2号143頁参照)。
C1校長等
の義務として明文で規定した作為義務は,大川小における在籍児童の在学関係においては,その在学関係成立の前提となる中心的義務であって,ある法律関係の付随義務として信義則上一般的に認められるに過ぎない安全配慮義務とはその性質を異にするから,上記作為義務が,大川小における在籍児童の在学関係成立の前提となる中心的義務として成立する(これ務にほかならない。)以上,

信義則上一般的に認められるに過ぎない安全配慮義務の存否及びその内容について,本件において問題とする余地はない。したがって,第1審被告らの上記主張については判断する必要はない。
2
C
1校長,D教頭及びE教務主任は,平時において事前に,大川小の児童の生命,身体の安全を保護すべき義務(本件安全確保義務)を懈怠したといえるか。)について
津波の予見可能性について

第1審被告らは,C1校長等の学校保健安全法上の作為義務が法的義務として求められることがあり得るとすれば,C1校長等において,大川小にまで津波が到達することについての具体的な予見可能性があったことが,最低限の前提とされなければならないところ,本件地震前に存在していた知見に照らしても,地域住民の津波に対する認識に照らしても,C1校長等は,大川小まで本件津波が到来することを予見できなかったと主張するので,まず,本件安全確保義務が在籍児童の保護者との関係で,C1校長等を拘束する規範性を帯びることになったと認められる平成22年4月末の時点(以下「本件時点」という。)において,C1校長等が,本件想定地震により発生する津波が大川小に到来することを予見することができたのかどうかについて検討する(なお,以下に説示するとおり,当裁判所は,C1校長等は,本件想定地震により発生する津波が大川小に到来することを予見することができたから,本件危機管理マニュアルの内容を,在籍児童が本件想定地震により発生する津波の危険から回避できるような内容に改訂すべき作為義務があったものであり,C1校長等がその作為義務を履行していれば,被災児童が本件津波に被災して死亡したという本件結果を回避することができたと判断するものである。したがって,C1校長等が予見すべき対象は,本件地震後に現に到来した本件津波ではな
く,本件想定地震により発生する津波である。)。

平成16年報告(乙2)及び平成23年報告(乙48の1)について平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,同年6月,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するために制定された地震防災対策特別措置法(平成7年6月16日号外法律第111号)7条に基づき,文部科学省に設置された地震調査研究推進本部は,地震に関する調査研究の成果が国民や防災を担当する機関に十分に伝達され活用される体制になっていなかったという教訓を踏まえ,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし,これを政府として一元的に推進する目的で設置された政府の特別の機関である(乙2・10-1頁)。
平成16年報告は,地震調査研究推進本部が平成15年6月18日に公表した宮城県沖地震を想定した強震動評価の知見や社会的条件の変化を踏まえ,宮城県が,学識経験者及び防災関係機関の代表者により構成された宮城県防災会議地震対策等専門部会の指導の下で行った3回目の地震被害想定調査(1回目の調査は昭和59年~昭和61年度に,2回目の調査は平成7年~平成8年に行われた。)の報告である。平成16年報告において想定された地震
(本件想定地震)
は,
①宮城県沖地震
(単
独)(昭和53年に起きた宮城県沖地震の再来を想定したもの),②宮城県沖地震(連動)(地震調査研究推進本部が宮城県沖の最大級の地震として想定したもの),③長町-利府線断層帯の地震(仙台市市街地を通る長町-利府線断層帯を想定地震としたもの)の3つであり,それぞれの震源モデルや海底地形モデル,シミュレーション手法などの津波予測に関する様々な知見を踏まえ,津波の被害状況の把握,津波に対する地域防災計画の策定及び市町村による津波避難計画の策定に資するため,
津波浸水域予測も実施した
(乙2・1-1頁・1-4頁・1-7頁)


なお,上記②の地震において想定されたモーメント・マグニチュードは8.0であった(乙2・1-8頁)。

に発生した昭和三陸地震の3地震を想定地震とし(乙2・5-1頁),これによる津波が北上川を遡上することを前提としてシミュレーションが実施された。
このシミュレーションによれば,
最大級の想定地震
(宮城県沖地震
(連
動))が発生した場合,これによって発生することが想定される津波は,大川小付近よりも更に上流まで北上川を遡上するが,大川小付近におけるその津波高は3m以下であること,現在の石巻市に属する旧河北町における津波の最高水位は5.1mであり,旧河北町への津波の到達時間は想定地震発生後21.0分であること,旧河北町の内陸部を進行する津波は,旧河北町の尾崎地区の北部及び須賀,長面,谷地中の各地区の大部分を浸水させ(須賀,長面及び谷地中の各地区の北上川に面した地域はすべて浸水する。),大川小から北北東(下流側)に約700m離れた地点にまで達すること(したがって,大川小の敷地までは到達しないこと)が示された(甲A52の3,乙2・5-1頁~5-3頁・5-5頁,乙3)。
平成23年報告(乙48の1)は,宮城県が,平成16年報告後の最新の科学的知見を加えた追加調査に基づき平成23年2月1日付けで作
発生した明治三陸地震及び上記昭和三陸地震を検討対象とする想定地震とした上で津波浸水予測シミュレーションを行い,
宮城県沖地震
(連動)
を代表として浸水予測計算結果を整理した(乙48の1・16頁~21
頁・54頁・57頁・65頁)。平成23年報告においては,大川小を含む地域は10mメッシュの詳細地形データを知見として取り入れており,
平成16年報告より緻密な調査検討がされた
(乙48の1・60頁)

上記シミュレーションによれば,宮城県沖地震(連動)が発生した場合,これによって発生することが想定される津波の旧河北町における最高水位は5.0mであり,旧河北町への津波の到達時間は想定地震発生後20.6分であることが示されており,その結果は平成16年報告とほぼ同じであった(乙48の1・68頁)。また,北上川を遡上する津波は,
大川小付近よりも更に約5㎞上流の地点まで北上川を遡上するが,旧河北町須賀付近の北上川より上流では,津波水位が徐々に減衰して河川堤防より低くなり,堤防から越流する可能性は低いことが確認できるとされた(甲A52の2,乙48の1・89頁~93頁,乙48の2)。第1審被告らは,平成16年報告(乙2)及び平成23年報告(乙48の1)が,本件地震発生前に得られていた最も有力な科学的知見であり,この知見に照らせば,大川小が本件想定地震によって発生する津波の被害を受ける危険性がないことが示され,津波に対する安全性が確認されていたといえるから,C1校長等が本件地震発生前に大川小が津波による被害を受けることを予見することは不可能であったと主張する。しかし,上記主張を採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
a
津波に対する事前防災対策を講じるためには,襲来する津波の高さを想定する必要があるところ,本件地震発生前に津波の高さを確実に想定し得る知見等は存在しなかったから,想定を行う時点における最新の科学的知見を用いた相当性のある方法によって襲来する可能性の
報告(乙2)及び平成23年報告(乙48の1)は,震源モデルや海
底地形モデル,シミュレーション手法など,本件地震発生前に存在した津波予測に関する様々な科学的知見を総合して津波浸水域予測を行ったものであり,そのようにして得られた津波の高さの想定及び津波浸水域の予測を前提として津波に対する事前防災対策を講じることに,一定の合理性が存在することを否定することはできない(甲A58・まえがき・49頁,乙2・まえがき・1-1頁)。
b
しかし,平成9年3月,財団法人日本気象協会が国土交通省(旧国土庁),消防庁及び気象庁の指導・監督の下にとりまとめた「津波災害予測マニュアル」
(甲A58)では,津波災害予測の数値計算には,
津波初期波形が地震波の情報からは一意的にも正確にも定まらないこと,海底地形図の精度が十分信頼できるとは限らないこと,再現計算の検証に使われる痕跡値や検潮記録の数が少なく,空間的な分布が詳細に分かる測定点が限られていること等により,その計算結果に誤差が伴うことが指摘されていた(甲A58・73頁~81頁)。また,津波が河川を遡上する場合,河川に入った津波は,波状段波(水深の浅い地域で津波先端の波形が嶮しく切り立ち,その前後で平均水位が階段状に大きく変化する形状となることを段波といい,段波となった津波先端に周期10秒ほどの短い波が発生し,後方に分散してその数を増やしていく状態を波状段波という(甲A58・78頁)。)となることが多く,波状段波は一旦砕波し,また再生し,そして再砕波という経過を辿るが,砕波で失われるエネルギーを推定できないことが主因となって,砕波・再生・発達の過程を表せる方程式は存在しないと指摘されていた(甲A58・78頁)。
上記の知見に照らせば,平成16年報告及び平成23年報告において行われた津波浸水域予測についても,相当の誤差があることを前提として利用しなければならなかったといえる。

c
平成16年報告では,同報告において行った地震被害想定調査結果の利用上の留意点として,同調査は主に宮城県が地震防災対策に活用する目的で行ったものであるため,市町村や防災関係機関が活用する場合には,この調査の性格を理解した上で活用していく必要があり,特に,対象が個別構造物になる場合には,同調査結果を概略の想定結果と捉え,より詳細な検討が必要であること,市町村が津波浸水域分布図を利用して津波ハザードマップの作成を行う場合には,地元住民に対してワークショップを行い,住民とともに詳細なハザードマップを作成していくことが必要であると指摘されていた(乙2・1-12頁)。
したがって,上記の指摘に従えば,大川小という個別構造物が本件想定地震により発生する津波によって被災する可能性があるかどうかを検討するに際して,平成16年報告及び平成23年報告において行われた津波浸水域予測(以下「本件津波浸水域予測」という。)を利用するに当たっては,本件津波浸水域予測を概略の想定結果と捉えた上で,大川小の実際の立地条件に照らしたより詳細な検討が必要であったということができる。そして,本件津波浸水域予測を大川小の実際の立地条件に照らして検討した場合,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性はあったというべきであり,本件時点において,C1校長等がそれを予見することは十分に可能であったと認められる。その理由は,以下のとおりである。
大川小の立地する石巻市釜谷地区は,新北上大橋付近から下流側
にかけての北上川右岸(南側)に位置しており,大川小は,新北上大橋のやや下流側,北上川の右岸堤防からは約200m南に離れた釜谷地区中心部の西寄りの場所に立地していて,敷地の標高は1mないし1.5m,大川小から太平洋に面した追波湾までの直線距離
北上川は,河口から17.2㎞(北上大堰の地点)までは感潮区
間(海水が河道部を遡上と後退を繰り返している区間。汽水域ともいう。)となっており,水面幅が広く,水深が深い緩流となっている。河床勾配は,1/1万7000程度と非常に緩やかであった
(甲A276・2頁)。
大川小付近の北上川は,上記感潮区間の下流側に当たり,その水
面幅は,新北上大橋付近で約300m,新北上大橋より下流の谷地中地区付近で約700mに及んでいた(甲A52の2・3)。
大川小付近の北上川は感潮区間にあったから,その水位は,満潮
時には上昇し,干潮時には低下し,大潮時には2m近い水位変動があった(甲A276・2頁)。したがって,大川小の敷地の標高が1mないし1.5mであったことに照らすと,大川小の敷地高と北上川の水面高の差は,潮汐を考慮すれば,常時約1m前後で推移しており,満潮時にはその高さがほぼ同じになるときもあったものと認められる。

に面した追波湾までの直線距離は約3.7㎞あったものの,広大な水域面積を有する北上川の感潮区域と約200mの距離を隔てて隣り合っていたのであって,上記北上川の感潮区域と大川小の敷地とを隔てるものは,北上川の右岸堤防の存在のみであったということができる(その意味で,北上川の右岸堤防は,重要な人工公物であったといえる。大川小の上記のような立地条件は,甲A3の写真1によく現れている。)。これは,北上川の右岸堤防が何らかの原因で損壊しそこから北上川の水が流れ込めば,大川小の敷地は流入した北上川の水によって浸水を余儀なくされることを意味する(この
ことは,石巻市が平成21年3月付けで作成した「河北地区防災ガイド・ハザードマップ」(乙4。以下「本件ハザードマップ」という。)において,大川小が洪水の場合の浸水地域(浸水深0.5m以上1m未満)として表示されていたことによっても裏付けられている(乙4・40頁)。)。

により発生する津波は,大川小付近よりも更に約5㎞上流の地点まで北上川を遡上するが,その水位は,旧河北町須賀付近の北上川より上流では徐々に減衰して北上川の堤防より低くなり,大川小付近におけるその津波高は3m以下となるから,約5mの天端高を有する北上川の堤防から越流する可能性は低いことが確認できるとされていた(乙48の1・89頁~93頁)。
もっとも,平成16年報告によれば,本件想定地震とされた宮城
県沖地震(連動)が発生した場合,大川小付近の北上川右岸堤防
(以下「本件堤防」という。)の建設地点は,震度6強の強い揺れに曝されることが想定されていた(乙2・3-9頁,乙4・65頁~66頁)。それにもかかわらず,本件津波浸水域予測において,上記地震動によって本件堤防がどのような影響を受けるのかについては全く考慮された形跡がない。その理由は,本件津波浸水域予測が概略の想定結果であったために,大川小の実際の立地条件に照らしたより詳細な検討がなされず,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性があるかどうかを判断する上で重要な条件といえる本件想定地震の地震動による本件堤防への影響という条件が捨象されたためであると認められる。
この点について,第1審被告らは,平成16年報告,平成23年
報告及び本件ハザードマップが,マグニチュード8.0の地震を前
提としている以上,仮にその規模の地震により堤内地に河川水が到達するほど堤防が損壊することが当時における一般的な知見であったというのであれば,そのような知見が踏まえられた内容となっていなければならないが,平成16年報告,平成23年報告及び本件ハザードマップがそのような内容となっていないのは,当時において,地震によって堤内地(住宅地側)に河川水が流入するほど堤防が損壊するといった知見が存在しなかったからにほかならないと主張する。しかし,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。

地震の揺れによって河川堤防が損壊し,その後に発生した津波
の遡上によって浸水が発生したという過去の実際の事例は,本件
地震発生前の時点において,複数の文献に複数の事例が紹介され
ていた(平成21年3月財団法人国土技術研究センター編「津波
の河川遡上解析手法を活用した防災対策検討の進め方」(甲A5
7・3-3頁),平成21年8月社団法人地盤工学会「地震と豪
雨・洪水による地盤災害を防ぐために-地盤工学からの提言-」
(甲A276・31頁~32頁))。昭和39年に発生した新潟
地震によって阿賀野川の河川堤防が損壊した後に津波の遡上によ
って阿賀野川河口部付近の堤内地が浸水した事例,昭和58年に
発生した日本海中部地震によって米代川の河川堤防が損壊した後
に津波の遡上によって米代川の河口部付近の堤内地が浸水した事
例,平成5年に発生した北海道南西沖地震によって後志利別川の
河川堤防が損壊した後に津波の遡上によって後志利別川の堤内地
が浸水した事例がそれである。


地震動による河川堤防の損壊の形態として最も懸念される事態
は,堤体変形(天端沈下・天端の縦断亀裂,法面のすべり崩壊,

法面の縦断亀裂)であるところ,堤体の大変形が生じる支配的要
因は,地震動で生じた土の液状化であると考えられていた(甲A
273・142頁~146頁,甲A276・32頁~33頁)。
他方,大川小が立地する付近の北上川は,もともと追波川とい
う地域河川が流れていたところを明治44年から昭和9年までの
河川改修工事により現在のような北上川としたものであって(前

くらいの深さまでN値10以下の地層となっていた(甲A276
・16頁)。また,本件堤防の直ぐ南側には,針岡地区にある富
士沼から流れ下る富士川が,北上川に並行してこれに沿うように
流れ,本件堤防は北上川の本流と富士川という二つの河川に挟ま
れた状態となっていた(甲A52の3,甲A83の2)ため,本
件堤防の建設地点は地下水位が上昇しやすい地盤状態にあった
(甲A276・7頁~8頁)。本件堤防の堤外地側(北上川の河
道側)には,止水矢板が施工されていたが,堤内地側(富士川の
河道側)にはそれが施工された形跡がない(甲A276・20
頁,乙99・177頁)。)。したがって,本件堤防の建設地点
は,その地質及び地下水位のいずれから見ても,地震動による液
状化が起きやすい条件が揃っていたということができる(乙43
・117頁)。実際にも,本件堤防の建設地点は,昭和53年宮
城県沖地震による地震動(震度5であった(甲A273・105
頁)。)により損壊し,最も被害規模の大きな場所では,堤防天
端が約80㎝沈下するとともに,中央部・のり肩・小段等に幅3
0㎝に達する亀裂・段差が発生したほか,堤地内で液状化が発生
したことを裏付ける噴砂現象が見られた(甲A272・1頁・1
0頁,甲A276・19頁・31頁,甲A278・10頁,乙9

9・177頁)のであって,地震動による液状化が起きやすい場
所であったことを裏付けている(第1審被告らは,昭和53年宮
城県沖地震による地震動による本件堤防の損壊は,堤防の流失,
決壊とは質的に全く異なるものであり,上記損壊によって河川水
が堤内地に流入することはなかったと主張する。しかし,甲A2
76・19頁によれば,上記のとおり,昭和53年宮城県沖地震
による地震動により,本件堤防の天端が約80㎝沈下するととも
に,中央部・のり肩・小段等に幅30㎝に達する亀裂・段差が発
生したことが指摘されている(甲A278・10頁はこれを裏付
ける。)ところ,このような堤防の大きな変形は,堤防の設計上
の性能を著しく低下させる重大な損壊といわなければならず(河
川水が堤内地に流入しなかったのは,天端が沈下した堤防を越流
するような津波の遡上がなかったからに過ぎない。),本件想定
地震(想定された震度は,昭和53年宮城県沖地震による地震動
(震度5)を超える震度6強であった。)においても上記のよう
な堤防の重大な損壊が生じ得ることを予見させる重要な事実であ
るといえる。したがって,第1審被告らの上記主張を採用するこ
とはできない。)。
本件堤防から約200m離れた堤内地である大川小の敷地も,
昭和60年3月に完成した校舎の建築に当たって行われたボーリ
ング調査の結果によれば,液状化のおそれのある砂シルト層で,
基礎杭を12ないし22mほど打つ必要があったほか,校庭は常
に凹凸ができ,少し掘れば水が出るなど,地下水位も浅い地盤で
あった(乙1・25頁)から,市教委を始めとする大川小の関係
者にとって,大川小付近の地盤が液状化のおそれのある地盤であ
ることは周知の事実であったと推認できる。


本件堤防は,本件震災によって,天端及び護岸に亀裂が生じ,
堤体及び護岸が洗掘され,護岸が沈下し,堤体が流出する等の大
きな被害を受けた(甲A272・1頁・10頁,甲A273・2
3頁・27頁・168頁・178頁,乙100)。もっとも,平
成23年12月にまとめられた国土交通省東北地方整備局北上川
等堤防復旧技術検討会作成の報告書(甲A273)によれば,
「北上川右岸釜谷地区は,地域住民の証言から地震直後において
も車両の通行が可能だったことが確認されている。」として,
「上記の確認状況を踏まえると,津波被災区間においては,地震
における堤防崩壊等の大規模な被災は受けていなかったと推定さ
れる。」と判断されている(甲A273・179頁,乙99・1
79頁)。しかし,同報告書は,上記記載に続いて「ただし,液
状化による基礎地盤及び堤防の弱体化が,その後の津波による被
災の程度に影響を与えた可能性は否定できない。」としているの
であって(甲A273・179頁,乙99・179頁),北上川
の下流域の堤防については,本件地震後の本件津波の越流による
甚大な被災によって本件地震の地震動による被災の痕跡が消失し
たため(上記越流によって,液状化の痕跡とされる噴砂の痕跡も
確認されなかった(乙100・17頁)。),本件地震の地震動
による堤防の被災状況を正確に認定することは困難であるが,こ
れを否定することもできないというべきである(甲A284の写
真によれば,本件地震直後,本件堤防よりも上流側の北上川の右
岸堤防(間垣地区の堤防)に無数の縦断亀裂が走っていることが
認められるところ,この縦断亀裂の存在は,上記間垣堤防が,基
礎地盤の液状化によって変形した結果,天端の沈下を引き起こし
た痕跡であると推認することもできる(甲A273・146

頁)。)。

上記ⅰ及びⅱのとおり,本件時点において,本件想定地震の地
震動により本件堤防が天端沈下を起こし,そこから堤内地に北上
川の河川水が流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆
する知見は相当数存在したといえる。上記ⅲの事実は,上記ⅰ及
びⅱの知見から,本件想定地震の地震動により本件堤防が天端沈
下を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して大川小
を浸水させる危険があることを予見することの合理性を裏付ける
ものである。
したがって,本件津波浸水域予測において,本件想定地震の地
震動によって本件堤防がどのような影響を受けるのかについて考
慮されていない理由は,本件津波浸水域予測が概略の想定結果で
あったために,大川小の実際の立地条件に照らしたより詳細な検
討がなされずに,大川小が本件想定地震により発生する津波の被
害を受ける危険性があるかどうかを判断する上で重要な条件とい
える本件想定地震の地震動による本件堤防への影響という条件が
捨象されたためであると考えるほかはない。

般的に洪水などの流水が上流から下流方向に作用する場合を考慮して設計されているところ,こうした構造物が津波に曝されると,設計時には考慮されていない急激に襲いかかる水理力,通常と逆方向である津波遡上時の流速や流向,衝突力を受けることとなるため,河川構造物の破損等の被害が生ずること,津波が沿岸域に来襲した場合,地域によっては,船舶,木材等の多くの漂流物を巻き込むことが知られているところ,津波が巻き込んだ漂流物の衝突により河川構造物が破壊される被害が想定されることが指摘されており,そ
の実例として,昭和58年に発生した日本海中部地震によって発生した米代川への津波遡上の事例が紹介されていた(甲A57・3-7頁・3-8頁・6-3頁・6-5頁)。
したがって,河川に津波が遡上することを前提に津波浸水域予測
を行う場合には,遡上する津波の急激に襲いかかる水理力,通常の水流とは逆方向の津波遡上時の流速や流向,衝突力が河川堤防に与える影響,及び津波が巻き込んだ漂流物の衝突力が河川堤防に与える影響を考慮しなければならない。

地震により発生する津波のうち旧河北町の内陸部を進行する津波
は,旧河北町の尾崎地区の北部及び須賀,長面,谷地中の各地区の大部分を浸水させ(須賀,長面及び谷地中の各地区の北上川に面した地域はすべて浸水する。),大川小から北北東(下流側)に約700m離れた地点にまで達することが想定されていたから,須賀,長面及び谷地中の各地区の北上川の右岸堤防は,河道を遡上した津波ばかりでなく,堤内地の側からも上記津波の水理力や衝突力及び津波が巻き込んだ漂流物の衝突力を受けることになるのであって,北上川の上記右岸堤防が堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられるかどうかは,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性があるかどうかを判断する上で重要な条件であったといえる(仮に,北上川の上記右岸堤防が堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられずに破堤したとすれば,その場所から遡上した津波が堤内地に流入し,大川小は浸水することになる。)。しか
し,本件津波浸水域予測は概略の想定結果であったために,上記の重要な条件について検討がなされていない。
実際にも,北上川を並行して流下する富士川の堤防は,本件地震

後に襲来した本件津波により,大川小よりも下流に位置する釜谷水門から谷地中に至るまでの間の3箇所で破堤しているのであって
(甲A276・35頁。上記破堤箇所は,乙4・57頁の浸水想定箇所と重なっている。),この事実は,谷地中付近よりも下流の北上川の右岸堤防が,堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられずに破堤し,その場所から遡上した津波が堤内地に流入して大川小を浸水させる危険があることを予見することの合理性を裏付けるものである。

を有する北上川の感潮区域と約200mの距離を隔てて隣り合っていたものであり,上記北上川の感潮区域と大川小の敷地とを隔てるものは,北上川の右岸堤防の存在のみであったこと,これに,本件想定地震の地震動により本件堤防が天端沈下を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見,谷地中付近よりも下流の北上川の右岸堤防が,堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられずに破堤し,その場所から遡上した津波が堤内地に流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見を総合すれば,大川小が本件津波浸水域予測による津波浸水域に含まれていなかったとしても,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性はあったというべきであり,本件時点において,C1校長等がそれを予見することは十分に可能であったと認めるのが相当である。
なお,第1審被告らは,津波によってではなく,地震によって,
北上川の河川堤防が損壊し得ることを,大川小に津波が到達することの予見可能性を基礎付ける一事情として採用することは,第1審被告らに反論の機会を与えないという点において審理不尽であると
同時に,第1審被告らにとって不意打ちとなると主張する。
しかし,第1審原告らは,既に原審において,津波に先行する本
件想定地震の地震動によって北上川の堤防が損壊し,そこから河川水が堤内地に流入して大川小が浸水する可能性があることを主張し(第1審原告ら平成28年3月8日付け準備書面11・36頁(平成28年4月8日原審第7回口頭弁論期日において陳述),同年6月20日付け最終準備書面199頁(同月29日原審第9回口頭弁論期日において陳述)),立証しており(甲A57・6-4頁,甲A163の3),当審においても,平成29年3月29日の当審第1回口頭弁論期日において陳述した平成29年1月4日付け控訴理由書・66頁(上記控訴理由書は,同月6日に第1審被告ら代理人に送達されている。)において同旨の主張をしていた(顕著な事
実)。したがって,津波によってではなく,地震動によって,北上川の河川堤防が損壊し得ることを,大川小に津波が到達することの予見可能性を基礎付ける一事情として採用することが,第1審被告らに反論の機会を与えないという点において審理不尽であるとはいえないし,第1審被告らにとって不意打ちとなることもない。
したがって,第1審被告らの上記主張を採用することはできな
い。
d
6年報告(乙2)及び平成23年報告(乙48の1)は,本件地震発生前に得られていた有力な科学的知見であることは確かであるとしても,上記各報告において行われた本件津波浸水域予測には,それ自体に相当の誤差があることを前提として利用する必要があった上,大川小という個別構造物が本件想定地震により発生する津波によって被災する可能性があるかどうかを検討するに際して利用するに当たって
は,本件津波浸水域予測を概略の想定結果と捉えた上で,大川小の実際の立地条件に照らしたより詳細な検討が必要であって,大川小の実際の立地条件に照らしたより詳細な検討を行えば,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性はあったというべきであり,本件時点において,C1校長等がそれを予見することは十分に可能であったと認められる。
したがって,本件地震発生前に得られていた最も有力な科学的知見である平成16年報告(乙2)及び平成23年報告(乙48の1)に照らせば,大川小が本件想定地震によって発生する津波の被害を受ける危険性がないことが示され,津波に対する安全性が確認されていたといえるから,C1校長等が本件地震発生前に大川小が津波による被害を受けることを予見することは不可能であったとする第1審被告らの上記主張を採用することはできない。

本件ハザードマップ(乙4)について
本件ハザードマップ(乙4)は,第1審被告市が,市民に対し災害に対する日頃の備えの重要性を認識してもらうことを目的として,平成21年3月に作成したものであり,洪水・土砂災害ハザードマップ,津波ハザードマップ及び地震防災マップ(揺れやすさマップと地域の危険度マップ)の3種類のマップから構成されている。
このうち,津波ハザードマップ(以下,本件ハザードマップ中の津波ハザードマップを特定するときは,「本件津波ハザードマップ」という。)は,平成16年報告に基づき,宮城県沖地震(連動)に伴って津波が発生した場合の石巻市内の予想浸水区域及び各地域の避難場所を示したものであり(乙4・55頁),それに記された予想浸水区域は本件津波浸水域予測とほぼ一致し,宮城県沖地震(連動)が発生した場合,これによって発生することが想定される津波について,北上川を遡上す
る津波は,大川小付近を越え,新北上大橋から更に約6㎞上流の牧野巣山付近まで北上川を遡上するが,北上川の堤防は超えないこと,旧河北町の内陸部を進行する津波は,旧河北町の尾崎地区の北部及び須賀,長面,谷地中の各地区の大部分を浸水させ(須賀,長面及び谷地中の各地区の北上川に面した地域はすべて浸水する。),大川小から北北東(下流側)に約700m離れた地点にまで達するが,大川小の敷地までは到達しないことが示されていた(甲A52の2,乙4・57頁~60頁)。また,本件想定地震による津波が発生した場合,大川小及び交流会館が避難場所として使用可能であることが記されていた(乙4・11頁・60頁)。もっとも,本件津波ハザードマップ中には,「浸水の着色の無い地域でも,状況によって浸水するおそれがありますので,注意してください。」(乙4・55頁),「図中の浸水予測範囲はあくまでも予測結果で,浸水予測範囲以外のところも浸水する可能性がありますので,十分注意してください。」(乙4・56頁)との注意書きがされていた。
洪水・土砂災害ハザードマップは,北上川に2日間で194㎜の大雨(100年に一度の確率で起こると想定される豪雨)があったことによって増水して,堤防の決壊などにより氾濫した場合に想定される浸水の予測区域と浸水深,宮城県が公表した土砂災害のおそれのある箇所及び災害時における各地域の避難場所を示したものであり(乙4・13頁),これによれば,大川小は,その敷地全部及びその周辺地域を含めて0.5m以上1.0m未満の浸水地域に含まれていた上,校庭の大部分が土石流危険区域に指定されていた(甲A96の2・4頁,乙4・40頁)。また,想定される浸水があった場合,大川小及び交流会館は避難場所として使用不可能であることが記されていた(乙4・11頁)。地震防災マップ中の揺れやすさマップは,宮城県沖地震(単独),宮
城県沖地震(連動),長町-利府線断層帯の地震及びどこでも起こりうる直下の地震の4つの地震を想定し,これらの地震による震度のうちの最大となる震度を,各地で想定される最大の揺れとして示したものであり,これによれば,大川小付近の北上川右岸堤防及び大川小の敷地全部には,震度6強の揺れが,裏山には震度5強の揺れが想定されることが示されていた(乙4・65頁~66頁)。
第1審被告らは,本件津波ハザードマップ(乙4・57頁~60
頁)の記載内容に照らせば,大川小が本件想定地震によって発生する津波の被害を受ける危険性がないことが示され,津波に対する安全性が確認されていたといえるから,C1校長等が本件地震発生前に大川小が津波による被害を受けることを予見することは不可能であったと主張する。しかし,上記主張を採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
a
報告において,地震被害想定調査結果の利用上の留意点として,同調査は主に宮城県が地震防災対策に活用する目的で行ったものであるため,市町村や防災関係機関が活用する場合には,この調査の性格を理解した上で活用していく必要があり,特に,対象が個別構造物になる場合には,同調査結果を概略の想定結果と捉え,より詳細な検討が必要であると指摘されていたにもかかわらず,本件津波ハザードマップの作成に当たり,上記留意点が考慮された形跡は窺われない(本件津波ハザードマップに記載された津波による予想浸水区域図(乙4・57頁~60頁)は,宮城県総務部危機対策課が平成16年報告に基づいて作成した津波浸水予測図(乙3)を,旧河北町付近の航空写真上
の立地条件等を勘案してより詳細な検討がなされた形跡は認められない。)。
そうすると,本件津波ハザードマップの予想浸水区域図(乙4・57頁~60頁)において,予想浸水区域として示された区域は,平成16年報告による地震被害想定調査結果に基づく概略の想定結果において既に浸水域と想定された区域であるため,本件想定地震が発生すれば高い確率で津波が来襲すること(したがって,本件想定地震が発生したときは,いち早く高台の安全な場所に避難する必要があること)を意味する一方,予想浸水区域にまでしか本件想定地震により発生する津波が来襲しないこと(予想浸水区域外とされていれば,本件想定地震により発生する津波が来襲する危険はないから,予想浸水区域の外に避難すれば安全であること)を意味するものではないというしたように,平成16年報
告による地震被害想定調査結果は,あくまでも概略の想定結果に過ぎず,本件時点において,本件想定地震の地震動により本件堤防が天端沈下を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見,谷地中付近よりも下流の北上川の右岸堤防が,堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられずに破堤し,その場所から遡上した津波が堤内地に流入して大川小が浸水する危険があることを示唆する知見があったにもかかわらず,それらの重要な知見を捨象してなされた想定に過ぎないものであったといえる。勿論,地震や津波が発生した場合に起こり得るあらゆる自然現象を全て条件として設定した上で被害想定を行うことは不可能である。しかし,条件として設定されなかった(捨象した)自然現象は,想定を行う際の条件から外されただけであり,自然現象として生起し
り,平成16年報告による地震被害想定調査結果に上記の各知見を総合すれば,大川小が本件津波浸水域予測による津波浸水域に含まれていなかったとしても,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性はあったといえる。
したがって,概略の想定結果である平成16年報告による地震被害想定調査結果を引き写したに過ぎない本件津波ハザードマップが示す予想浸水区域図(乙4・57頁~60頁)は,予想浸水区域の外には本件想定地震により発生する津波が来襲する危険がないこと(予想浸水区域の外に避難すれば安全であること)を意味するものではないと
「浸水の着色の無い地域でも,状況によって浸水するおそれがありますので,注意してください。」,「図中の浸水予測範囲はあくまでも予測結果で,浸水予測範囲以外のところも浸水する可能性がありますので,十分注意してください。」と記載されていたのは,上記のような本件津波ハザードマップが示す予想浸水区域図の性格を裏付けるものである。
b
本件津波ハザードマップ中に,本件想定地震により発生する津波が発生した場合,大川小及び交流会館が避難場所として使用可能である
しかし,上記aのとおり,本件津波ハザードマップが示す予想浸水区域図(乙4・57頁~60頁)が,予想浸水区域の外には本件想定地震により発生する津波が来襲する危険がないこと(予想浸水区域の外に避難すれば安全であること)を意味するものではないこと,平成16年報告による地震被害想定調査結果に,本件想定地震の地震動により本件堤防が天端沈下を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見,谷地
中付近よりも下流の北上川の右岸堤防が,堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられずに破堤し,その場所から遡上した津波が堤内地に流入して大川小が浸水する危険があることを示唆する知見を総合すれば,大川小が本件津波浸水域予測による津波浸水域に含まれていなかったとしても,本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性はあったと認められる。そうすると,大川小が本件想定地震により津波が発生した場合の避難場所として指定されていたことは誤りであったと評価されるべきである。第1審被告市が,大川小を本件想定地震により津波が発生した場合の避難場所として指定するかどうか(大川小が本件想定地震により発生する津波によって被災する可能性があるかどうか)を検討するに当たっては,本件津波浸水域予測を概略の想定結果と捉えた上で,大川小の実際の立地条件に照らしたより詳細な検討が必要であったにもかかわらず,これをしなかった結果,本件想定地震により発生する津波による被災の危険性のある大川小が避難場所として記載される結果となったものである。
しかも,大川小の立地条件,特に,大川小が,広大な水域面積を有する北上川の感潮区域と約200mの距離を隔てて隣り合っており,北上川の感潮区域と大川小の敷地とを隔てるものは,北上川の右岸堤防の存在のみであったことに照らせば,本件ハザードマップ中の洪水・土砂災害ハザードマップには,想定される浸水があった場合,大川小は避難場所として使用不可能であることが記されていたのに(乙4・11頁),本件津波ハザードマップ中には避難場所として使用可能と記載されていたことは,矛盾するものといえる。
第1審被告市の公務員であるC1校長等の過失の前提として津波被災の予見可能性が問われている本件において,上記のような第1審被告市自身の過誤による避難場所指定の事実を上記予見可能性を否定す
る事情として考慮することは相当ではない。けだし,災害発生時における避難誘導においては,児童生徒は教師の指示に従わなければならず,その意味で児童生徒の行動を拘束するものである以上,教師は,児童生徒の安全を確保するために,当該学校の設置者から提供される情報等についても,独自の立場からこれを批判的に検討することが要請される場合もあるのであって,本件ハザードマップについては,これが児童生徒の安全に直接かかわるものであるから,独自の立場からその信頼性等について検討することが要請されていたというべきである。
したがって,本件ハザードマップ中に,本件想定地震による津波が発生した場合の避難場所として大川小が使用可能であることが記されていたことをもって,C1校長等が本件地震発生前に大川小が本件想定地震により発生する津波による被害を受けることを予見することが不可能であったことの根拠とすることはできないというべきである。エ
震災前における地域住民の津波に対する認識について
第1審被告らは,大川小における,本件震災前の時点での津波防災の備えの適否を論ずるに当たっては,必ず,大川小が所在する釜谷地区の地域住民の,本件震災前の時点での津波に対する認識の内容・程度が吟味され,勘案されなければならないとした上で,釜谷地区の住民の多くは,大川小付近の集落は海から直線で約4km離れていて津波避難マップでは安全地帯になっていることもあり,まさか津波が遡上して来るとは思っていなかったというものであったため,本件地震発生当時に釜谷地区に所在していた住民ら209名(大川小の在籍児童及び教職員は含まない。)のうち175名が本件津波により被災し,犠牲になった(死亡率83.7%)ものであり,このような釜谷地区の地域住民の本件震災前の時点での津波に対する認識の内容・程度に照らせば,C1校
長等が本件地震発生前に大川小が本件想定地震により発生する津波による被害を受けることを予見することは不可能であったと主張する。しかし,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。
a
C1
校長等の義務として明文で規定した作為義務は,公教育制度を円滑に運営するための根源的義務を明文化したものであり,本件で問題とすべきC1校長等の津波の予見可能性は,C1校長等の上記作為義務違反の違法性を判断する前提として,その存否が問題とされるものであるから,釜谷地区の地域住民が本件地震発生前の時点で有していた津波に対する認識の内容・程度と同じレベルで論ずべきものではない。換言すれば,C1校長等が石巻市における公教育を円滑に運営するための本件安全確保義務を遺漏なく履行するために必要とされる知識及び経験は,釜谷地区の地域住民が有していた平均的な知識及び経験よりも遙かに高いレベルのものでなければならないところ,C1校長等は,第1審被告市の公務員として,本件安全確保義務を履行するための知識と経験を収集,蓄積できる職務上の立場にあった(すなわち,職務上知り得た地震や津波に関係する知識や経験を,市教委や他の小中学校の教職員との間で相互に交換しつつ共有できる立場にあった。そ
ら,C1校長等の津波に対する予見可能性の有無は,そのような立場にあった者を前提として判断されなければならない。

b
本件地震発生当時,釜谷地区に所在していた住民ら209名(大川小の在籍児童及び教職員は含まない。)のうち175名が本件津波の犠牲となったこと(その死亡率は約83.7%に上る。乙1・67~69頁),石巻市河北消防団団長(本件震災当時は副団長。消防団歴
28年)が,その手記の中で,大川小の「あたりの集落は海から直線で4km離れていて津波避難マップでは安全地帯になっていることもあり,まさか津波が遡上して来るとは思っていなかった。」,「海より遠い釜谷地区の犠牲者が一番多かった。」と陳述し,釜谷地区の住民が津波を警戒していなかったために多くの犠牲を生じた事実が指摘されていること(乙96・135頁),本件地震発生後,大川小の校庭から裏山に上ることを打診したD教頭に対し,釜谷地区の区長(自治会長)であるHが,「ここまで来ないから大丈夫。」等と述べて裏山に登ることに反対し(甲A22の14・18・32),同人も本件津波の犠牲となったこと,釜谷地区の住民の多くが,本件津波が襲来する直前まで交流会館に避難して本件津波の犠牲となったこと(乙97・1頁・4頁・7頁・11頁・15頁・17頁)に照らせば,釜谷地区の地域住民の多くが本件地震発生前の時点で有していた津波に対する認識の内容と程度は,釜谷地区は海から離れていて本件津波ハザードマップでも津波が来ないことになっていることから,まさか津波が襲来するとは思っていなかったというものであったことが推認される。
しかし,そうであったからといって,C1校長等の津波に対する認識の内容と程度が,釜谷地区の平均的な地域住民のそれと同様のレベルで足りるということができないことは上記aのとおりである。
また,釜谷地区の地域住民の多くが本件地震発生前の時点で有していた津波に対する認識の内容と程度が上記のようなものであった理由は,本件津波ハザードマップが示す予想浸水区域図(乙4・57頁~60頁)に,北上川を遡上する本件想定地震により発生する津波は,大川小付近を越え,新北上大橋から更に約6㎞上流の牧野巣山付近まで北上川を遡上するが,北上川の堤防は超えないこと,旧河北町の内
陸部を進行する津波は,旧河北町の尾崎地区の北部及び須賀,長面,谷地中の各地区の大部分を浸水させ,大川小から北北東(下流側)に約700m離れた地点にまで達するが,大川小の敷地までは到達しないことが記されていたことや,慶長地震の津波,明治三陸津波,昭和三陸津波及びチリ地震津波のいずれにおいても,釜谷地区の集落に津波被害がなかったという歴史的知見(乙51・646頁~649頁)や地域の伝承があったことによるものと考えられる。しかし,上記ウ
・57頁~60頁)を,予想浸水区域の外には本件想定地震により発生する津波が来襲する危険性がないこと(予想浸水区域の外に避難すれば安全であること)を意味するものと理解することは大きな誤解であった。また,北上川は,明治44年から昭和9年まで行われた河川改修工事が終了するまでは,宮城県北東部を北から南に流れ下り,現在の石巻市中心部で石巻湾に注いでいたのであり,釜谷地区の北側を流れる川は追波川という地域河川に過ぎなかったが,上記河川改修工事により,追波川上流と北上川が接続されて本川が切り替えられ,追
より,河口付近から大川小付近に至る川の流域面積は大幅に広がった(甲A52の2,甲A83の1)。),慶長16(1611)年12月2日に発生した慶長三陸津波(甲A51・25頁~32頁,甲A95・12頁),明治29年6月15日に発生した明治三陸津波(甲A51・33頁~44頁,甲A95・12頁)及び昭和8年3月3日に発生した昭和三陸津波(甲A51・45頁~53頁,甲A95・12頁)が太平洋に面した追波湾に襲来した時点と現在では,北上川河口とその周辺の地形は大きく変わっているから,慶長三陸津波,明治三陸津波及び昭和三陸津波が釜谷地区の集落に津波被害を及ぼさなかっ
たという歴史的知見及び地域の伝承は,本件時点においては,釜谷地区に津波が襲来する危険があるかどうかを判断する上での合理的根拠とはならなかったというべきである。さらに,昭和35年5月23日(日本時間)に発生したチリ地震津波は,震源が南米チリ中部沿岸であったため(甲A51・54頁~61頁),日本では地震の揺れを感じることがなく,そのため,地震動による北上川の堤防の液状化という事態を全く想定する必要がなかったという意味において,チリ地震津波が釜谷地区の集落に津波被害を及ぼさなかったという歴史的知見及び地域の伝承は,本件想定地震によって発生する津波が釜谷地区に襲来する危険があるかどうかを判断する上で,やはり合理的根拠とはならなかったというべきである。
したがって,まさか津波が襲来するとは思っていなかったという釜谷地区の地域住民の多くが本件地震発生前の時点で有していた津波に対する認識は,何ら合理的根拠を持たないものであったというほかない。C1校長等が石巻市における公教育を円滑に運営するための本件安全確保義務を遺漏なく履行するために必要とされる知識及び経験のレベルが,上記のような合理的根拠に欠ける地域住民の津波に対する認識によって左右されるものであるとは到底いえない。
第1審被告らは,学校における津波防災は,「所在する地域の実情に応じて適切な対応に努められたい」とされるものであり(乙59・8枚目),また,事前防災の観点において,実際の災害現場における地域住民と学校との避難行動が整合的なものとなるよう図られるべきことは当然であるから,当該地域に定住し,地域の歴史・被災履歴や地形により通じている地域住民の知見が重要な前提とされるべきものであると主張する。
確かに,学校保健安全法30条は,学校においては,児童生徒等の安
全の確保を図るため,当該学校が所在する地域の実情に応じて,当該地域を管轄する警察署その他の関係機関,地域の安全を確保するための活動を行う団体その他の関係団体,当該地域の住民その他の関係者との連携を図るよう努めるものとすると定めており,大川小において,本件想定地震により発生する津波による被災の危険から在籍児童の安全を確保する義務を履行するに当たっては,大川小が立地する釜谷地区の住民と大川小との避難行動が整合的なものとなるよう調整が図られるべきことは当然である。しかし,その調整に当たって必要なことは,歴史・被災履歴や地形に係る地域住民の知見のうち,合理的な根拠を有するものとそうでないものとを選別する視点である。C1校長等は,石巻市における公教育を円滑に運営するための本件安全確保義務を負っているのであり,しかも,本件安全確保義務を履行するための知識と経験を収集,蓄積できる職務上の立場にあった(すなわち,職務上知り得た地震や津波に関係する知識や経験を,市教委や他の小中学校の教職員との間で相互に交換しつつ共有できる立場にあった。)のであるから,上記義務を遺漏なく履行するために,危機管理マニュアルを作成する過程において,釜谷地区には津波は来ないという釜谷地区の住民の認識が根拠を欠くものであることを伝え,説得し,その認識を改めさせた上で,在籍児童の避難行動と釜谷地区住民の避難行動が整合的なものとなるよう調整を図るべき義務があったというべきである。
したがって,釜谷地区には津波は来ないという釜谷地区住民の認識を前提として,そうである以上,大川小における事前防災上も津波は来ないという前提で準備していれば足りるという第1審被告らの上記主張は,これを採用することができない。

石巻市地域防災計画について
第1審被告市は,平成17年4月の1市6町の合併後である平成2
0年6月,災害対策基本法42条に基づき,石巻市に係る風水害や震災等の自然災害及び原子力災害に係る予防,応急及び復旧・復興等の対策を総合的かつ有効的に実施することにより,同市の防災の万全を期することを目的として,新たな地域防災計画を策定した(乙69・7枚目・9枚目。以下「新防災計画」という。)。
新防災計画は,事前防災の関係において,「学校教育における防災教育」,「学校等における避難誘導」及び「避難所の開設,運営」等について,市教委や学校運営者の行うべき対策内容を定めていたほか,文教施設の管理に当たる施設管理者に対し,災害発生の時間によっては,「被害の影響が登下校時間,在校時間(授業中,休憩時間,放課後等),あるいは夜間・休日等となる場合も考えられるため,それぞれのケースに対応し得るよう,各学校,各施設,地域ごとに発災時間帯別の対応マニュアル,連絡体制等を整備するとともに,訓練の充実に努める。」と定め,また,学校における防災体制の整備の一環として,学校の管理者に対し,災害に備えて「児童等の避難訓練,災害に対する事前措置,事後措置及び保護者との連絡方法等を検討して,その周知を図ること」を求めていた(乙69・9枚目~30枚目)。
また,新防災計画では,平成16年報告に基づき,石巻市の被害が最も大きいと想定されている宮城県沖地震(連動)を同市の防災計画の想定地震とし,宮城県沖地震(連動)が発生した場合の被害想定に基づいた対策を講じていくものとされた(甲A95・15頁)。上記被害想定において利用された津波浸水想定区域図(甲A95・17頁)は,平成16年報告及び平成23年報告において行われた津波浸水域予測(本件津波浸水域予測)をそのまま石巻市に当てはめたものであるが,上記津波浸水想定区域図においては,石巻市のうち北上川の河口がある旧河北町の沿岸部が最も広範囲に浸水することが示されていた。

新防災計画では,「第2節

津波災害の予防」の項目を設け,石巻市

における津波予防対策を定めていたが,その前文において,「市域沿岸では過去に多くの津波が観測されていて,宮城県沖地震の津波の被害予測でも沿岸部では人的に被害を及ぼすと想定されている。市は,地震により堤防などが決壊した場合などには消防団等を出動させるなど必要に応じて地域内外の協力・応援を得て対応する計画を立てる必要がある。」と述べ,新防災計画が想定地震とした宮城県沖地震(連動)が発生した場合,その地震動により河川の堤防が決壊して周辺の堤内地が浸水する事態も想定した上で防災計画を立案することが必要であると述べられていた(甲A95・18頁)。また,「津波からの防護のための施設の整備等(予防対策)」として,防潮堤,堤防等の計画的な補強・整備を推進するものとされていた(甲A95・21頁)。
新防災計画は,宮城県からの要請により,想定した宮城県沖地震
(連動)が発生した場合,津波により避難が必要となることが想定される地区として避難対象地区(以下「本件避難対象地区」という。)を各町内会毎に指定したが,旧河北町に属する区域のうち本件避難対象地区として指定されたのは,「福地字大正」「針岡字昭和」「針岡字山下」「釜谷字新町裏」「釜谷字谷地中」「釜谷字川前」「長面字鳥屋場」「長面字須賀」「長面字洞ヶ崎」「長面字平六」「長面字角内谷地」「長面字梨木」「長面字江畑」「尾崎字弘象」の各区域であり,大川小が立地する「釜谷字山根」は本件避難対象地区として指定されていなかった(甲A74,甲A95・22頁・25頁,乙1・19頁。なお,甲A95・25頁の「福地字昭和」及び「福地字山下」の記載は,それぞれ「針岡字昭和」及び「針岡字山下」の誤記であると認められる(第1審被告市の平成29年12月27日付け求釈明等に対する回答
書)。)。

第1審被告らは,新防災計画により指定された本件避難対象地区から大川小が立地する「釜谷字山根」が除外されていたことから,C1校長等が本件地震発生前に大川小が津波による被害を受けることを予見することは不可能であったと主張する。しかし,上記主張を採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
a
は,旧河北町に属する区域のうち,「福地字大正」「針岡字昭和」「針岡字山下」「釜谷字新町裏」「釜谷字谷地中」「釜谷字川前」「長面字鳥屋場」「長面字須賀」の各区域が含まれているところ,上記各区域はいずれも,新北上大橋の上流部から下流部にかけての北上川の右岸堤防に沿った区域である(甲A74)。また,上記各区域のうち,「釜谷字新町裏」「釜谷字谷地中」「釜谷字川前」「長面字鳥屋場」「長面字須賀」の各区域は,平成16年報告及び平成23年報告において行われた津波浸水域予測(本件津波浸水域予測)において,内陸部から遡上する津波によって浸水するとされた地域を含む区域であるが(乙3),「福地字大正」「針岡字昭和」「針岡字山下」の各区域は,内陸部から遡上する津波は到達しないとされ,しかも,北上川を遡上する津波は河道を遡上するものの,その津波の水位は河川堤防より低く,堤防から越流する可能性は低いことが確認できるとされた区域である(甲A52の2,甲A74,乙48の1・89頁~93頁,乙48の2)。
b
それにもかかわらず,「福地字大正」「針岡字昭和」「針岡字山
下」の各区域が新防災計画によって本件避難対象地区に指定された理由は,平成16年報告において行った地震被害想定調査結果が概略の想定結果であったため,第1審被告市においてこれを活用するに際してより詳細な検討を行った結果,新防災計画が想定地震とした宮城県
沖地震(連動)が発生した場合,その地震動により北上川の右岸堤防が決壊して周辺の堤内地が浸水する事態も想定されたことから(甲A95・18頁),本件津波浸水域予測において,北上川を遡上する津波の水位は河川堤防より低く堤防から越流する可能性は低いことが確認できるとされたにもかかわらず,第1審被告市において,浸水被害を受ける危険があると判断したためと考えるほかはない。すなわち,第1審被告市は,新防災計画において本件避難対象地区を指定するに
り北上川の右岸堤防が天端沈下等の損壊を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して周辺地域を浸水させる危険があることを示唆する知見を現に活用していたと推認される。そうであれば,同じく北上川の右岸堤防沿いに位置し,「釜谷字新町裏」に隣接し,「釜谷字新町裏」の標高とほぼ変わらない標高であった「釜谷字韮島」及び大川小敷地の所在する「釜谷字山根」を(甲A52の3,甲A74,乙11の1,乙19),本件避難対象地区から除外する合理的理由はなかったといえる。宮城県沖地震(連動)の地震動により北上川の右岸堤防が天端沈下等の損壊を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して周辺地域を浸水させる危険があることを示唆する上記知見に照らせば,河道を遡上してきた本件想定地震により発生する津波が損壊した北上川の右岸堤防から堤内地に流入して浸水する危険があったことは,「福地字大正」「針岡字昭和」「針岡字山下」「釜谷字新町裏」の各区域と「釜谷字山根」とで何ら変わるところがなかったといえる(「釜谷字新町裏」と「釜谷字山根」との間には,浸水を防ぐような施設や工作物等は見当たらないから,「釜谷字新町裏」が浸水すれば,流水が同所に留まったままで,「釜谷字山根」まで到達しないとする合理的根拠はない。)から,「福地字大正」「針岡字昭
和」「針岡字山下」「釜谷字新町裏」の各区域が本件避難対象地区に指定され,「釜谷字山根」が本件避難対象地区に指定されなかったことについては合理的説明ができない。
c
第1審被告市の公務員であるC1校長等の過失の前提として津波被災の予見可能性が問われている本件において,上記のような第1審被告市自身の過誤による本件避難対象地区未指定の事実を上記予見可能性を否定する事情として考慮することは,相当ではない。その理由
したがって,「釜谷字山根」が新防災計画における本件避難対象地区から除外されていたことは,C1校長等が本件地震発生前に大川小が本件想定地震により発生する津波による被害を受けることを予見することが不可能であったことの根拠とすることはできないというべきである。

本件時点(平成22年4月末日)におけるC1校長,D教頭及びE教務主任の津波に対する予見可能性について
大川小の教育計画の内容や,平成22年4月末日の本件時点において大川小に在籍していたC1校長,D教頭及びE教務主任の種々の言動に照らしても,C1校長,D教頭及びE教務主任は,本件想定地震により発生する津波による大川小の被災を予見できたものと認められる。その理由は,以下のとおりである。
a
大川小の本件教育計画(甲A9・2頁)に掲載された大川小の校歌には,1番の歌詞に北上川が,2番の歌詞に太平洋が歌われており,大川小にとって,北上川と太平洋が日常的に身近な自然であったことを体現している。また,大川小の「学区の概要」には,「当学区は石巻市(旧河北町)の東部に位置し,昭和60年4月に大川第一小学校と大川第二小学校の学区が統合され,東西11㎞にわたり16の地区
からなっている。南部は山地,北部は北上川が西から東へ流れ,東部は追波湾に面する。山あり川あり,また,海に面する景観など自然環境に優れた緑豊かな山紫水明の地域である。」と説明されており,「恵まれた自然環境を生かして,米作り,野菜作りの農業体験活動や,カキ養殖,ハゼ漁の漁業体験活動などを取り入れた総合的な学習の時間を推進」するとしているなど,北上川や太平洋を学習の場としても積極的に利用していたことが認められる(甲A9・23頁)。上記事実に照らせば,大川小に在籍していた教職員にとって,北上川と太平洋は,日常の教育活動において常に意識せざるを得ない環境にあったと認めることができる。
b
大川小では,遅くともC3元教頭が大川小の教頭として赴任した平成17年4月の時点において,各種の災害に対応するための危機管理マニュアルの一種と考えられる災害対応マニュアル(以下,大川小の危機管理マニュアルを,その作成・改訂の時期を問わず,「大川小マニュアル」という。)が作成されていたが,その時点の大川小マニュアルには,「津波」の文言は入っていなかった(乙30・1頁,証人C3・2頁・3頁)。
平成18年11月頃,C3元教頭は,宮城県沖地震の再来の危機が高まっていることから,従来の大川小マニュアルを更に具体的な危機管理マニュアルに改訂しようと考え,阪神・淡路大震災の被災地の学校のマニュアルを参考にしながら,大川小マニュアルの改訂作業を行い,このとき改訂された大川小マニュアルが平成19年度の教育計画(甲A8)に編てつされた。この際,C3元教頭は,「地震発生時の危機管理マニュアル」の中の「地震発生時の基本対応」において,教師による避難誘導のあり方として,「第一次避難【校庭等へ】」「安全確認・避難誘導(火災・津波・土砂くずれ・ガス爆発等で校庭等が
危険な時)」「第二次避難【近隣の空き地・公園等】」と記載し,「津波」という文言を初めて挿入した(甲A8・3頁,乙30・1頁~2頁,証人C3・3頁)。
平成20年4月,D教頭が大川小に赴任した後,平成21年秋頃から平成22年3月頃までの間に,市教委及び県教委の指導,研修等を背景として,D教頭を中心として大川小マニュアルの改訂作業が行われた。このときの改訂作業において,大川小マニュアルの表題部分に「(津波)」の文字が挿入されて,表題が「地震(津波)発生時の危機管理マニュアル」と改訂され,「本部(校長・教頭)」の担当任務を表記した「情報の収集」の部分に「(津波関係も)」が挿入され,「安否確認・避難誘導班」の担当任務の表記部分に「津波の発生の有無を確認し第2次避難場所へ移動する。」と挿入され,合計3箇所にわたり津波への対応を定めた改訂が行われた。もっとも,「地震発生時の基本対応」において,教師による避難誘導のあり方を記載した部分は,「第一次避難【校庭等へ】」「安全確認・避難誘導(火災・津波・土砂くずれ・ガス爆発等で校庭等が危険な時)」「第二次避難【近隣の空き地・公園等】」と記載し,C3元教頭の行った改訂部分については手が付けられなかった(甲A9・181頁・182頁,乙31・1頁,原審証人C1・3頁。以下,上記3箇所の改訂部分を「本件津波改訂部分」という。)。
c
第1審被告らは,本件津波改訂部分は,大川小に津波が襲来することを想定して改訂したものではないと主張し,原審証人C1も,「大川小に津波が来るとは考えていなかった。」,「出席した校長会で,危機管理マニュアルに津波の文言を入れるよう指示があったため,大川小に津波が来るとは思っていなかったが,言葉を入れるくらいは大丈夫だと思って津波の文言を入れた。」旨の供述をする(原審証人C
1・3頁~4頁・49頁~50頁・69頁~71頁。C1校長が作成した陳述書(乙31)中にも,同旨の陳述記載部分がある。)。しかし,原審証人C1の上記陳述・供述内容は不合理であってこれを採用することはできず,原審証人C1の上記陳述・供述を根拠とする第1審被告らの主張もこれを採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。
平成23年2月頃,C1校長は,大川小に来校した河北総合支所
の職員との間で,同年6月に予定されていた河北地区の総合防災訓練の打合せを行った(この打合せには,D教頭及びE教務主任も参加していたものと推認される。)。その打合せの中で,C1校長
は,同支所職員に対し,児童を校庭に避難させた後の避難先(第三次避難先)はどう考えているのかを尋ねたところ,同支所職員は,その後の避難先は考えていないと答えた。そこで,C1校長は,同支所職員に対し,堤防から津波が漏れたり越したりしてくるようなことはないのかと尋ねたところ,同支所職員は,津波は堤防を越さないんですと答えた。そこで,C1校長は更に,どうしてですかと同支所職員に尋ねたところ,同支所職員は,計算上津波は越してこないことになっていると答えた(乙31・3頁,当審証人C1・17頁~19頁)。また,河北総合支所の職員との上記打合せが終了した後,C1校長,D教頭及びE教務主任の話合いの中で,万一大川小に津波が来た場合の第三次避難場所をどうするかが話題に上った。そのときは校舎の二階に逃げるか裏山に逃げるかという話が出たが,結局,第三次避難場所をどこにするかの結論は出なかった
(乙31・3頁,原審証人C1・8頁~9頁)。
上記のとおり,C1校長が,平成23年2月頃,河北総合支所の
職員との間で交わした遣り取りの中でのC1校長の発言は,大川小
の前の北上川の堤防から津波が漏れたり越してきたりする可能性
を,その根拠にまで遡って問うたものであって,極めて具体的なものといえる上,同支所職員との打合せが終わった後も,計算上津波は越してこないことになっているという同支所職員の回答に納得せず,D教頭及びE教務主任との話合いの中で,万一大川小に津波が来た場合に第三次避難場所をどうするかを話し合ったというのであって(C1校長が,同支所職員の上記回答に心底から納得したのであれば,D教頭及びE教務主任との話合いの中で,万一大川小に津波が来た場合に第三次避難場所をどうするかというような話題を蒸し返すはずがない。),このようなC1

と約200mの距離を隔てて隣り合っており,この北上川の感潮区域と大川小の敷地とを隔てるものは,北上川の右岸堤防の存在のみであった(その意味で北上川の右岸堤防は,極めて重要な人工公物であった。)という大川小の立地条件とを併せ考慮すると,C1校長としては,日頃の大川小における勤務経験を通じて,大川小の安全にとって北上川の右岸堤防がなくてはならないものであることを肌で感じ,本件想定地震が発生した場合に北上川を遡上してくることが想定されていた津波に北上川の右岸堤防が堪えられるかどうかについて,危惧を抱いていたものと推認することができる。そし
て,上記のとおり,大川小に津波が来た場合の第三次避難場所をどうするのかと話し合ったD教頭及びE教務主任も,また同様の危惧を抱いていたものと推認するのが相当である。
本件地震発生の二日前である平成23年3月9日午前11時45
分頃,三陸沖を震源とするマグニチュード7.3の地震(宮城県内の最大震度は5弱,石巻市旧河北町の震度は3)が発生し,宮城県
の太平洋沿岸等に津波注意報が発令された(公知の事実)。このとき,C1校長は,大川小内に災害対策本部を設置した上,在籍児童を校庭まで避難させ,防災行政無線等で情報を確認したほか,津波遡上の可能性を判断するため,E教務主任を北上川の右岸堤防まで行かせて北上川の水面の異常の有無を確認させた。その結果,E教務主任から北上川に異常は見られないとの報告を受けて,津波の遡上はないと判断し,在籍児童を校舎内に戻した。その後,C1校長は,D教頭及びE教務主任との間で,大川小に津波が来た場合にどうするかを話し合い,5mを超える津波が来たら大川小はもたな
い,そのときは裏山に逃げるしかないかなと発言する一方,あそこは足下が悪いし,急なところなので,避難先としては使えないかもしれない,もっと安全に避難できる場所を探さないといけないとも発言し,このときも,第三次避難場所をどこにするかの結論は出なかった(乙31・2頁~3頁,原審証人C1・6頁~8頁・52頁~55頁)。
上記のとおり,C1校長の平成23年3月9日における言動,特
にE教務主任を北上川の右岸堤防まで行かせて北上川の水面の異常C1校長が日
頃から抱いていた津波に対する危惧が如実に現れたものといえる。上記bのとおり,本件津波改訂部分は,「本部(校長・教頭)」の担当任務を表記した「情報の収集」の部分に「(津波関係も)」を挿入したに過ぎず,津波情報の収集方法について北上川の様子を確認する旨具体的に特定されていたわけではない(津波情報の収集
は,テレビやラジオで放送される注意報や警報の有無を確認することでも可能である。)。それにもかかわらず,津波注意報発令の段階で,E教務主任に北上川の水面の異常の有無を確認させたという
C1

C1校長の言動も併せ考

慮すると,北上川を遡上する津波について,C1校長が特段の関心を抱いていたことをうかがわせるものである。また,C1校長は,同年2月に引き続き,D教頭及びE教務主任との間で,大川小に津波が来た場合にどうするかを再び話し合っているのであって,C1校長が,北上川を遡上する津波によって大川小が被災する可能性について,具体的な危惧を抱いていたことの証左であるといえる。
上記のとおり,原審証人C1は,「出席した校長会で,危機管理
マニュアルに津波の文言を入れるよう指示があったため,大川小に津波が来るとは思っていなかったが,言葉を入れるくらいは大丈夫だと思って津波の文言を入れた。」旨の供述をする。

成22年3月頃までの間に,市教委及び県教委において行われた種々の指導及び研修等において,石巻市の小中学校の危機管理マニュアルに例外なく津波の文言を入れるような指示や指導が行われた形跡はないし,大川小の危機管理マニュアル中に津波の文言を入れるよう個別的な指示や指導が行われた事実もない(上記のような指示や指導が行われたことを認めるに足りる証拠はない。)。仮に上記のような指示や指導があったとすれば,危機管理マニュアルは,児童生徒の生命・身体の安全を確保するための極めて重要な文書であるから,市教委や県教委が,言葉だけで実質的な意味のない文言を挿入するような有害無益な指示や指導をしたとは考え難い。
したがって,いずれにせよ,C1校長の上記供述は不合理といわ
ざるを得ず,これを採用することはできない。本件津波改訂部分
C1校長,D教頭及びE教務主
任が,日常の大川小勤務を通じて肌で感じていた北上川を遡上する
津波によって大川小が被災する可能性についての具体的な危機感を反映したものと認めるのが相当である。
上記aないしcの認定判断を総合すれば,C1校長,D教頭及びE教務は,平成22年4月末日の本件時点において,本件想定地震により発生する津波によって大川小が被災することを十分に予見することが可能であったと認めることができる。

小括
以上のとおり,平成16年報告(乙2)及び平成23年報告(乙48の1)において行われた本件津波浸水域予測は,それ自体に相当の誤差があることを前提として利用する必要があった上,大川小という個別構造物が本件想定地震により発生する津波によって被災する可能性があるかどうかを検討するに際してこれを利用するに当たっては,あくまでも概略の想定結果と捉えた上で,大川小の実際の立地条件に照らしたより詳細な検討が必要であったところ,大川小の立地条件(すなわち,大川小が,広大な水域面積を有する北上川の感潮区域と約200mの距離を隔てて隣り合っていたものであり,上記北上川の感潮区域と大川小の敷地とを隔てるものは,北上川の右岸堤防の存在のみであったこと)に,本件想定地震の地震動により本件堤防が天端沈下を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見,谷地中付近よりも下流の北上川の右岸堤防が,堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられずに破堤し,その場所から遡上した津波が堤内地に流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見を総合して詳細な検討を行えば,大川小が本件津波浸水域予測による津波浸水域に含まれていなかったとしても,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性はあったというべきであり,本件時点において,C1校長等がそれを予見することは十分に可能であっ
たと認められる。本件津波ハザードマップ中の予想浸水区域及び避難場所の記載,本件震災前における釜谷地区の地域住民の津波に対する認識及び第1審被告市が作成した新防災計画の内容(避難対象地区の指定の有無)は,上記認定判断を覆すに足りるものとはいえない。
本件安全確保義務の具体的内容について

り,本件安全確保義務が個々の在籍児童及
びその保護者との関係で,C1校長等を拘束する規範性を帯びることになったと認められる平成22年4月末の時点(本件時点)において,C1校長等が,本件想定地震により発生する津波の被災を大川小が受ける危険性を予見することは十分に可能であったと認められるから,以下,これを前提として,本件時点において,C1校長等において,個々の在籍児童及びその保護者との関係で,いかなる内容の本件安全確保義務を負っていたのかを具体的に検討する。


本件安全確保義務の具体的内容を検討するに当たり,証拠上認められる事実関係は,次のとおりである。
文部省(現在の文部科学省。以下,名称変更の前後を通じ「文科省」という。)大臣官房文教施設企画部による「小学校施設整備指針」(甲A285)の策定
文科省は,平成4年3月31日,「小学校施設整備指針」を策定したが,平成21年3月31日にこの指針を改訂し,その第2章「施設計画」において,校地環境として,「洪水,高潮,津波,(中略)等の自然災害に対し安全であることが重要である。」と記述した(甲A285・9頁)。文科省は,上記指針を活用するに当たっての留意事項として,「~
重要である」と記述された事項は,「学校教育を進める上で必要な施設機能を確保するために標準的に備えることが重要なもの」を意味するものと説明していた(甲A285・4枚目)。

文科省「学校等の防災体制の充実について第一次報告」(甲A5)のとりまとめ
阪神・淡路大震災の経験を生かした防災体制の在り方と今後の課題を検討するため,平成7年6月に文科省に学識経験者等よりなる「学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議」が設けられ,①災害時における学校等の防災体制の基本的考え方,②災害時における学校教育の円滑な実施のための対応,③学校施設等の防災機能・防災教育の充実方策,④その他について,検討が行われ,その検討結果が平成7年11月27日,文科省により,「学校等の防災体制の充実について第一次報告」としてとりまとめられた(甲A218・89頁)。
文科省は,
この第一次報告において,
教育委員会の基本的役割として,
「災害時における児童等の安全確保方策や防災教育の充実について日ごろから学校に対し適切な指導・助言を行うことが必要である」ことを指摘するとともに,「学校の防災に関する計画や教職員の災害時における行動のマニュアルを整備するよう措置するほか,教職員の防災対応能力を高めるための指導資料の作成や研修の充実を図ることが必要であること」を指摘した。また,「学校に対する避難所の指定については,地域防災計画策定段階において,あらかじめ学校の設置管理者である教育委員会と災害対策担当部局は十分な協議を行い,各学校の設置場所,施設等の実態などその特性にかんがみ,
避難所として適切かどうか検討する」
ことが必要であることを指摘した(甲A5・4頁)。
さらに,この第一次報告においては,児童等の安全確保のための方策についての基本的考え方として,「学校としては,災害時における児童等や教職員の安全確保に万全を期すということがまず第一の役割であり,学校の防災に関する計画や教職員等の災害時における具体的行動のマニュアルを整備する」
ことが重要であることを指摘するとともに,
「教

育委員会等としては,児童等の避難方法,安全指導体制,教職員の役割分担,情報連絡体制等について,学校が避難所となった場合を含め,計画,マニュアルの作成・見直しを行うとともに,学校が震災等に適切に対応できるよう,具体的かつきめ細かな指導や研修を行うことが必要である」と指摘し,特に「学校防災に関する計画や対応マニュアルについては,教育委員会等の指導の下,学校ごとに地域の実情を踏まえて作成することが必要であること」を指摘した(甲A5・5頁・6頁)。文科省「学校等の防災体制の充実について(第二次報告)」(甲A6)のとりまとめ
文科省は,「学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議」による検討結果の続編として,平成8年9月2日,「学校等の防災体制の充実について(第二次報告)」をとりまとめた(甲A6・2頁,甲A218・89頁)。
するものとな
っており,
「学校防災に関する計画作成指針」
(甲A6・2頁~9頁以下)

「児童等の安全確保等のための教職員の対応マニュアル作成指針」(甲A
6・20頁~31頁以下)等が示されるとともに,教育委員会等に対し,「本報告の内容を十分参考にしながら,地震等の災害に対してより一層充実した対応体制が整えられるよう」求めた(甲A6・2頁)。「学校防災に関する計画作成指針」の中では,災害時において児童等の安全を確保するために講じるべき措置として,
「保護者との連絡,引渡し方策」
を学校防災に関する計画において定めておく必要性が指摘されており(甲A6・7頁),「学校は保護者に学校防災に関する計画を周知し,児童等の引渡し方策について具体的に協議するなど,非常時における速やかな連絡手段を整えておくものとする。この場合,保護者が昼間家庭にいない場合等についても考慮するものとする。」「災害の状況等を踏ま
え,児童等だけで下校させず,保護者に直接引き渡す場合の具体的方策を別途定めておくものとする。この場合,保護者との連絡がとれないことにより引き渡せない場合等における児童等の保護方策についても考慮するものとする。」とされていた(甲A6・7頁)。
また,「児童等の安全確保等のための教職員の対応マニュアル作成指針」の中では,「校内における地震発生時に予想される危険」として,「校庭」においては「地割れ,浸水,低地水害,がけ崩れ,液状化現象等」
の危険があることが指摘されており,
この危険に対応するための
「教
職員の指示と行動の例」として,「周囲の安全確認を行う。」「他の教職員との連携を図りながら,地割れ・液状化の有無を確認し,危険物の除去や総括班との連絡等を行う。」「第二次避難場所へ避難が必要になった場合は,避難経路や場所及び避難方法について徹底するように指示し,誘導する。」とされていた(甲A6・24頁・25頁~26頁)。第二次報告は,全国の学校関係者が順守すべき指針として機能していた(甲A218・88頁~89頁)。
文科省による「防災業務計画」(甲A161・202頁以下)の策定文科省は,平成13年1月6日,災害対策基本法(昭和36年法律第223号)36条1項及び37条1項並びに大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)6条1項の規定に基づき,「文部科学省防災業務計画」を策定した。この「防災業務計画」においては,文科省が,地震災害対策として,学校等において,災害時の安全確保方策,日常の安全指導体制,教職員の参集体制,情報連絡体制等の防災に関する計画及び対応マニュアル等の整備が図られるよう,国立学校及び都道府県等に対し,指導及び助言を行うこと,また,児童生徒等の学校教育活動時に発災した場合は,災害の状況に応じ,児童生徒等の安全な場所への避難等の安全対策に万全を期するよう,国立学校及び都道府県等に対し,
指導及び助言を行うことが定められていた(甲A161・204頁~206頁)。
文科省による「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」の発刊(甲A161)
平成13年11月,文科省は,安全教育参考資料として,「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」(甲A161)を発刊した。上記資料は,「近年,学校管理下での事故災害や交通事故の増加に加えて,地震等の自然災害,学校内外での犯罪の被害等により,多くの尊い生命が失われるなど,児童生徒等の安全を取り巻く状況は,一層深刻化している」との認識の下に,学校における安全教育の充実と適切な安全管理に役立てられることを企図して発刊されたものであり(甲A161・まえがき),事件・事故災害発生時の安全管理として,「火災,地震,津波,火山活動,風水(雪)害,原子力災害発生時などの安全措置」の項目が置かれ,これらの災害が発生した場合には,それぞれの災害の特質に応じた安全措置が講じられるよう,関連機関との連絡体制や情報収集体制を含めて,防災のための組織を確立すること,安全措置では,児童生徒等の安全を最優先しつつ,
教職員自らの安全も確保すること,
教職員は,
避難方法に習熟し,事故災害発生時には冷静に的確に指示を行うこと,災害発生に備えるためには,防災体制の役割分担,消火器等防災設備の配置や使用法,避難方法や避難場所,非常持ち出し物など,体制の整備及び対処法について教職員の共通理解を得ておく必要があることが指摘されていた。また,上記災害のうち,特に地震,津波による災害の場合については,地震に伴い,津波,土砂崩れ,ガス管の破裂,運動場の地割れ,液状化現象など二次災害の原因となる状況が発生し得るので,特に注意すること,事後措置としては,災害等に対する情報の収集,応急手当,関係者や医療機関を含む関連機関への連絡・対応,必要に応じた
第二次避難場所への避難,校内及び近隣の罹災状況の把握,避難所となった場合の運営や被災者への対応等が挙げられることが指摘されていた(甲A161・75頁~77頁)。
津波対策推進マニュアル検討委員会による「津波対策推進マニュアル検討報告書」(甲A275)のとりまとめ
平成14年3月,消防庁震災対策室長のほか,地震等の災害に係る学識経験者や岩手県,和歌山県,高知県,仙台市及び静岡市に合併前の旧静岡県清水市の各防災担当者を構成員とする津波対策推進マニュアル検討委員会は,津波災害による人的被害を軽減する上で,津波避難対象地域,避難場所及び避難路の指定,津波予報等の情報収集・伝達の手順,避難勧告や指示の発令等を定めた津波避難計画の策定,津波防災意識の啓発,避難訓練の実施等のソフト面の津波対策を充実することが何よりも大切であるとの認識の下,こうした津波避難計画の策定等にあたって留意すべき事項について検討し,「市町村における津波避難計画策定指針」及び「地域ごとの津波避難計画策定マニュアル」をとりまとめた。地方公共団体,地域住民,防災関係機関等が一体となって津波避難計画の策定に取り組むにあたっては,同報告書が十分に活用され,万全な津波対策が講じられることが期待されていた(甲A275・1頁~2頁)。同報告書においては,「海岸線等(津波の遡上が予想される河川等を含む)を有するすべての市町村が津波避難計画を策定する必要がある」とされ,
その理由として,
ⓐ過去の津波の発生や被害は古文書等の記録,
伝承等により判断せざるを得ないが,これらの記録等に残されていない場合が考えられること,ⓑ土地開発,埋立,港湾・漁港整備等,あるいは,海岸付近の住家,商工業・観光施設等の増加,土地利用の変化,地形の変化等により,過去に被害が発生しなかったからといって,今後も被害が発生しないとは限らないこと,ⓒ地震調査研究の成果等により,
過去に津波被害を及ぼした地震に比べ,より大きな津波被害を発生させる地震の発生の可能性も想定される場合が生じること等が挙げられていた(甲A275・29頁)。
また,同報告書は,津波シミュレーション結果に基づき津波浸水予測図を作成することは大変重要であるが,その利用にあたっては,シミュレーションの限界を理解しておく必要があることを指摘しており,具体的には,津波の大きさは地震による海底地盤の変動の大きさ(高さ)に左右されるところ,津波シミュレーションでは平均的な地盤変動を想定するため,局所的に大きな地盤変動があった場合は津波の大きさに大きく影響する(高くなる)こと,地震の規模に比較して大きな津波を発生させる「津波地震」が存在すること,津波の波が進むに従って波の数が増えるとともに,より高くなる津波(波状段波)を再現することが困難であること等を指摘していた(甲A275・34頁~35頁)。
さらに,同報告書は,昭和58年に発生した日本海中部地震,平成5年に発生した北海道南西沖地震等において,地震動により岸壁,護岸が沈下したり,津波による係留施設の倒壊,消波ブロックの散乱等による堤防の被害や防波堤のケーソンの流出等が見られたこと等を理由として,津波防災施設は,人的・物的被害の軽減に一定の効果はあるものの,十分に機能を発揮できない事態も想定されることから,人命の安全確保を最優先し,万が一の事態に備えて,津波防災施設の津波防止機能が十分に発揮できると考えられる場合を除き,津波浸水予想地域の設定にあたっては,津波防災施設の効果を考慮しないものとするとしていた(甲A275・35頁)。
宮城県津波対策連絡協議会による「宮城県津波対策ガイドライン」の策定(甲A263)
宮城県は,平成14年10月15日施行の「宮城県津波対策連絡協議
会設置要綱」に基づき,宮城県の津波対策の現状と課題を検討し,今後の沿岸市町の津波対策ガイドラインを策定するとともに,継続的に沿岸市町との情報交換及び連携を図ることなどを目的として,地震津波に係る学識経験者のほか,東北地方整備局,塩釜港湾・空港整備事務所,塩釜海上保安部,仙台管区気象台及び宮城県警察本部の各防災担当課長,宮城県の各関係課長,沿岸23市町(石巻市はこれに含まれる。以下同じ。)の防災担当課長等を構成員とする「宮城県津波対策連絡協議会」を設置した(甲A263・資料2・資料3,甲A264・19頁~20頁)。
宮城県津波対策連絡協議会は,複数回の会合を経て,平成15年12月,宮城県の津波対策の現状と課題を検討し,今後の沿岸23市町の津波対策ガイドラインを策定した。
この津波対策ガイドラインにおいては,
宮城県における今後の津波対策として,国の津波対策推進マニュアル検討委員会が平成14年3月に作成した「津波対策推進マニュアル検討報
ことが宣言されており,具体的には,宮城県において沿岸23市町に対する津波避難計画策定の支援と津波浸水予測図の作成及び公表を,沿岸23市町において市町全体の津波避難計画の策定と住民等参画による地域ごとの津波避難計画策定支援を分担することとされた(甲A263・13頁~14頁・資料2)。

宮城県は,平成16年3月,学識経験者及び防災関係機関の代表者により構成された宮城県防災会議地震対策等専門部会の指導の下で,宮城県地震被害想定調査に関する報告書(乙2。平成16年報告)を作成・公表した。平成16年報告は,国の地震調査研究推進本部が平成15年6月18日に公表した宮城県沖地震を想定した強震動評価の知見や社会
的条件の変化を踏まえ,宮城県防災会議地震対策等専門部会の指導の下で行った3回目の地震被害想定調査の報告であり,国の地震調査研究推進本部地震調査委員会が,平成15年6月1日を基準日としたとき,今後30年以内に宮城県沖地震が発生する確率は99%という極めて高い長期評価確率であることを示し,次の宮城県沖地震の発生が確実に近づいてきており,早急な地震対策を講じることが必要となっているとの認識の下,宮城県津波対策連絡協議会が策定した「宮城県津波対策ガイド
予測図の作成及び公表を実施したものであった(乙2・まえがき)。平成16年報告で実施した津波浸水域予測においては,想定された地震による津波が北上川を遡上することを前提としてシミュレーションが行われており,このシミュレーションによれば,最大級の想定地震(宮城県沖地震(連動))が発生した場合,これによって発生することが想定される津波は,大川小付近よりも更に上流まで北上川を遡上するが,大川小付近におけるその津波高は3m以下であること,旧河北町における津波の最高水位は5.1mであり,旧河北町への津波の到達時間は想定地震発生後21.0分であること,旧河北町の内陸部を進行する津波は,旧河北町の尾崎地区の北部及び須賀,長面,谷地中の各地区の大部分を浸水させ,大川小から北北東(下流側)に約700m離れた地点にまで達すること(従って,大川小の敷地までは到達しないこと)が示されていた(甲A52の3,乙2・5-1頁~5-3頁・5-5頁,乙3)。
宮城県防災会議による「宮城県地域防災計画[震災対策編]」の策定(丙16)
宮城県防災会議は,平成16年6月,「宮城県地域防災計画[震災対策編]」を策定した。同計画の内容には,平成16年報告において実施
された津波浸水域予測の内容が取り込まれたほか,平成15年12月に宮城県津波対策連絡協議会によって策定された「津波対策ガイドライ
体制の促進を図ることが盛り込まれ,宮城県において,沿岸市町の避難計画策定の支援を行うため,平成16年報告において作成・公表された津波浸水予測図を提供することや,沿岸市町において,上記津波浸水予測図等を基に避難場所・避難経路などを明示した市町避難計画の策定を行うことが定められた(丙16・249頁~256頁・262頁・266頁)。
市教委及び校長会による「学校における災害対策方針」の作成(乙84・6枚目~9枚目)
校長会は,石巻市内の学校の校長が,自主的に勉強するために開催される会合であり,市教委が主催して開催される校長会議とは異なり,市教委の関係者は出席していない(証人C4・9頁)。
市教委及び校長会は,共同で,「学校における災害対策方針」を作成し,同方針は,平成16年10月7日,教育長の決裁を経た。同方針は,1市6町が合併する前の旧石巻市において作成されたものであり,基本的事項として,「地震・洪水等の災害発生時において,教職員が最も優先しなければならないことは,児童生徒の安全確保及び学校の教育機能の維持並びに教育活動の再開への対応である。」との認識の下,「このため,学校長は,これまでの児童生徒の安全確保の対策とともに,避難所が開設された場合の学校の対応等も含めた,総合的な災害対策体制の整備を図るものとする。」とした上,具体的に,「学校長は,学校内における災害を予防又は軽減し,災害発生時における被害の拡大を防ぐとともに,災害の復旧を図るため,学校内における災害対策の基本的事項を規定した要綱等を策定するものとする。」として「災害対策
要綱の制定」を確認したほか,「避難所が開設された場合の留意事項」を明示するとともに,「校長は,災害の状況により速やかに必要な非常配備体制がとれるよう,下記の基準に沿って校内災害非常配備体制及び校内防災管理組織を定めておくものとする。」として,「校内災害対策配備体制」を定める際の基準を示した(乙84・1枚目・6枚目~9枚目,乙93・7頁,証人C5・11頁)。
集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会による「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」のとりまとめ(甲A249)
内閣府に設置された「集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会」は,平成17年3月,「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」をとりまとめてこれを公表した(甲A249)。
同ガイドラインは,平成16年の一連の水害,土砂災害,高潮災害等において,避難勧告等を適切なタイミングで適当な対象地域に発令できていないこと,住民への迅速確実な伝達が難しいこと,避難勧告等が伝わっても住民が避難しないことが課題として挙げられたことから,市町村が,避難勧告等の発令・伝達に関し,災害緊急時にどのような状況において,どのような対象区域の住民に対して避難勧告等を発令するべきか等の判断基準(具体的な考え方)についてとりまとめたマニュアルを整備しておくことが不可欠であるとの認識の下,市町村が上記マニュアルを作成するための指針をとりまとめたものである(甲A249・1頁)。
同ガイドラインにおいては,水害,高潮災害,土砂災害(火山噴火,地震に起因するものは除く。)に加え,津波もその検討対象となる災害に加えられており,市町村長は,強い地震(震度4程度以上)もしくは
長時間のゆっくりとした揺れを感じて避難の必要を認める場合,あるいは津波警報を覚知した場合には,避難指示を直ちに,津波に対して避難すべき地域に対して発令することを求める(上記判断基準は,住民が留意すべき事項でもあることが指摘されていた。)とともに,上記判断基準については,市町村における津波避難計画等において整備すること,避難対象地域については,平成14年3月に津波対策推進マニュアル検討委員会がとりまとめた「津波対策推進マニュアル検討報告書」(上記
「津波・高潮ハザードマップマニュアル」及び都道府県の策定した津波浸水予測図を基に確認・見直しを実施すること,避難場所等,避難路等の指定・設定については,上記「津波対策推進マニュアル検討報告書」及び「津波・高潮ハザードマップマニュアル」を参考に,地域住民とも連携して確認・見直しを実施することを求めていた(甲A249・8頁・22頁)。
なお,内閣府,農林水産省及び国土交通省は,平成14年11月,共同で「津波・高潮ハザードマップ研究会」を設置し,地方自治体によるハザードマップの作成・活用を支援するための諸課題について検討し,「津波・高潮ハザードマップマニュアル」(甲A175)を策定し,平成16年3月,関係自治体等に送付した。同マニュアルは,津波・高潮被害を軽減するためには,従来からの海岸保全施設の整備とあわせ,危険度情報の提供などソフト施策による住民の災害に対する自衛力を高めることが必要であり,津波・高潮による被害が想定される区域とその程度を地図に示し,必要に応じて避難場所・避難経路等の防災関連情報を加えた津波・高潮ハザードマップは,住民の避難や施設の必要性の検討などに非常に有効であるとの認識に基づき,津波・高潮ハザードマップの作成目的,整備主体・国・都道府県等の役割分担,利活用方策などの
基本的な考え方を示すとともに,津波・高潮ハザードマップ作成に必要な標準的な浸水予測計算,記載事項,表現方法及び利活用方法などを記載したものである。
「津波・高潮ハザードマップマニュアル」には,津波の特徴として,地震動や押し波に伴う船舶の衝突による防護施設の被災により浸水が生ずる可能性があることが指摘されており(本編第3章の3.1),この津波の特徴を踏まえた浸水予測手法として,津波浸水予測を実施する際には,選定された地震断層モデルによる地震動を外力として堤防,護岸,防波堤等の構造物被害を算定し,その被害状況を考慮した浸水予測を実施することが明記されていた(本編第3章の3.3の②のg))。また,ハザード情報(津波・高潮浸水危険度)をハザードマップに表現するにあたっては,予測された浸水域が不確実性を有していることに留
まえて,確実な避難のために災害特性,地形・居住状況を考慮して浸水予測区域の外側にバッファゾーン(予測上は浸水しないが予測の不確実性を考慮すると浸水の恐れがある区域)を設け浸水予測区域とバッファゾーンと合わせて要避難区域として示す工夫が必要であることが記され
実)。
県教委による「宮城県教育委員会災害対策基本要領」の施行(丙10)及び「宮城県教育委員会災害対策マニュアル」の策定(丙12)県教委は,平成18年2月24日,宮城県災害対策本部要綱20条1
教委の配備計画の基準等に関し必要な事項を定めるとともに,県教委の災害対策に関し基本的な事項を定めるものとして,「宮城県教育委員会災害対策基本要領」(丙10)及び「宮城県教育委員会災害対策基本要
領施行細則」(丙11)を制定・施行し,平成18年3月,上記要領に基づき「宮城県教育委員会災害対策マニュアル」(丙12)を策定した。
上記要領には,「第4章

防災対策」として,県教委が管理・運営す

る宮城県内の所属所(県立高校その他の教育関係機関)の長は,宮城県
(所在地及び通学路等が海岸沿いにあり,津波に対する警戒が必要である所属所に限る。)が発生することを想定し,その対策をまとめた所属所防災計画を策定しなければならないと定められていた(丙10・第2ける震災対応
マニュアルとして「震災応急対策マニュアル」が例示されており(丙12・17頁~19頁),その「震災応急対策マニュアル」の中には,津波の来襲を想定した「二次避難」(本判決でいう三次避難。以下同じ。)の具体的方法として,「津波警報等の発令時(見込みを含む。)は,更に高台等に二次避難する。」ことが示されていた。
市教委による「石巻市教育ビジョン」の策定(乙79)
市教委は,平成20年3月27日,平成20年度から平成28年度までの9年間にわたる中・長期的な教育目標や施策展開の方向性を定め,同期間中の石巻市の教育の指針とするとともに,市民に対して石巻市の教育の未来像を提示し,市民とともに次代を担う子どもたちを育んでいくため,「石巻市教育ビジョン」を策定した(乙79・1頁,乙93・2頁,証人C5・2頁~3頁)。
市教委は,「石巻市教育ビジョン」で示した「施策目標3

充実した

教育を行える環境をつくるために」の中で,「『宮城県沖地震』が近い将来高い確率で発生すると言われており,これらに対する適切な学校の安全対策が必要です。」「災害発生時の様々な状況を想定し,児童生徒
が安全に安心して学校生活を過ごせるように学校の組織整備,備品等の配備に取り組む」とした(乙79・15頁)。また,「防災教育と災害時の体制整備の充実」のための現状と課題について,「現在,各学校では防災教育計画や災害対応マニュアルを策定しており,これに基づき,防災訓練や避難訓練を実施しています。しかし,計画やマニュアルがあるからといって万全ではなく,突然の災害発生時にも適正に行動できるようにするためには,より実践的な児童生徒への防災教育や学校における危機管理体制の整備の徹底を図る必要があります。」と述べた上,「石巻市地域防災計画との整合性を図り,すべての学校において地域の実情に即した災害対応マニュアルの策定や見直しを行うとともに,関係機関及び地域住民との連携を密にし,災害時において迅速かつ適切な対応ができる体制の整備に取り組む」ことを宣言した(乙79・58頁)。
市教委は,平成20年度以降,この「石巻市教育ビジョン」に沿って事前防災を含む各種の施策を進めた(乙93・2頁)。

第1審被告市は,平成20年6月,災害対策基本法42条に基づき,石巻市に係る風水害や震災等の自然災害及び原子力災害に係る予防,応急及び復旧・復興等の対策を総合的かつ有効的に実施することにより,同市の防災の万全を期することを目的として,新防災計画を策定し,石巻市内の各小中学校に対し一部ずつ配布した(甲A95,乙69・8頁~30頁,乙93・3頁,証人C5・2頁)。

校教育における防災教育」,「学校等における避難誘導」及び「避難所の開設,運営」等について,市教委や学校運営者の行うべき対策内容を定めていたほか,文教施設の管理に当たる施設管理者に対し,災害発生
の時間によっては,「被害の影響が登下校時間,在校時間(授業中,休憩時間,放課後等),あるいは夜間・休日等となる場合も考えられるため,それぞれのケースに対応し得るよう,各学校,各施設,地域ごとに発災時間帯別の対応マニュアル,連絡体制等を整備するとともに,訓練の充実に努める。」と定め,また,学校における防災体制の整備の一環として,学校の管理者に対し,災害に備えて「児童等の避難訓練,災害に対する事前措置,事後措置及び保護者との連絡方法等を検討して,その周知を図ること」を求めていた。また,新防災計画では,平成16年報告に基づき,石巻市の被害が最も大きいと想定されている宮城県沖地震(連動)を同市の防災計画の想定地震とし,宮城県沖地震(連動)が発生した場合の被害想定に基づいた対策を講じていくものとされた。上記被害想定において利用された津波浸水想定区域図は,平成16年報告及び平成23年報告において行われた津波浸水域予測(本件津波浸水域予測)をそのまま石巻市に当てはめたものであるが,上記津波浸水想定区域図においては,石巻市のうち北上川の河口がある旧河北町の沿岸部が最も広範囲に浸水することが示されていた。
新防災計画では,「第2節

津波災害の予防」の項目を設け,石巻市

における津波予防対策を定めていたが,その前文において,「市域沿岸では過去に多くの津波が観測されていて,宮城県沖地震の津波の被害予測でも沿岸部では人的に被害を及ぼすと想定されている。市は,地震により堤防などが決壊した場合などには消防団等を出動させるなど必要に応じて地域内外の協力・応援を得て対応する計画を立てる必要がある。」と述べ,新防災計画が想定地震とした宮城県沖地震(連動)が発生した場合,その地震動により河川の堤防が決壊して周辺の堤内地が浸水する事態も想定した上で防災計画を立案することが必要であると述べられていた。また,「津波からの防護のための施設の整備等(予防対
策)」として,防潮堤,堤防等の計画的な補強・整備を推進するものとされていた。
新防災計画は,宮城県からの要請により,想定した宮城県沖地震(連動)が発生した場合,津波により避難が必要となることが想定される本件避難対象地区を各町内会毎に指定したが,旧河北町に属する区域のうち本件避難対象地区として指定されたのは,「福地字大正」「針岡字昭和」「針岡字山下」「釜谷字新町裏」「釜谷字谷地中」「釜谷字川前」「長面字鳥屋場」「長面字須賀」「長面字洞ヶ崎」「長面字平六」「長面字角内谷地」「長面字梨木」「長面字江畑」「尾崎字弘象」の各区域であり,大川小が立地する「釜谷字山根」は本件避難対象地区として指
市教委の主催による「平成20年度7月定例校長会議」の開催(乙69・7枚目)
定例校長会議は,市教委が主催し,石巻市立の小学校及び中学校の全校の校長を対象とするもので,年に8回程度開催されるものである(証人C4・9頁,乙81・15頁~25頁,弁論の全趣旨)。
平成20年7月に開催された定例校長会議においては,市教委が,石巻市立の各小中学校の校長に対し,その前月である同年6月に策定され
明した(乙93・3頁)。
学校保健安全法の公布についての文科省通知(本件通知。乙59)学校保健安全法は,平成20年6月18日,「学校保健法等の一部を改正する法律」(平成20年法律第73号)として平成20年6月18日に公布されたが(施行は平成21年4月1日),文科省は,その施行前である平成20年7月9日,スポーツ・青少年局長名で,全国の各都道府県教育委員会等に対し,同法による改正の概要及び留意事項につい
て通知をし,その改正の趣旨を十分理解した上で適切な対応をするよう指示した(市町村教育委員会に対しては,各都道府県教育委員会を通じて周知を図るよう指示した。乙59・1枚目)。
本件通知によれば,学校保健安全法27条の学校安全計画は,生活安全(防犯を含む。),交通安全及び災害安全(防災)の3領域から構成
7年6月の段階で,「学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議」を設け,阪神・淡路大震災の経験を生かした防災体制の在り方と今後の課題を検討し,「学校等の防災体制の充実について」の第一次報
平成13年11月に「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」を発刊し,その中で,「近年,学校管理下での事故災害や交通事故の増加に加えて,地震等の自然災害,学校内外での犯罪の被害等により,多くの尊い生命が失われるなど,児童生徒等の安全を取り巻く状況は,一層深刻化している」との認識を明らかにしていたこと等の事情に照らせば,生活安全(防犯を含む。),交通安全及び災害安全(防災)の3領域は,学校の安全にとって同等の緊急性と重要性を持つとの認識を背景として,学校保健安全法の公布に至ったものと認めるのが相当である(上記の観点に照らすと,学校の安全が強く意識されるようになったのは,平成13年6月8日に起きた大阪教育大学附属池田小学校での児童・教員殺傷事件がきっかけであり,不審者対策(犯罪被害防止)が学校安全の出発点であったとする第1審被告らの主張を採用することはできない。)。

国の地震調査研究推進本部地震調査委員会が,平成15年6月1日を基準日としたとき,今後30年以内に宮城県沖地震が発生する確率は99
%という極めて高い長期評価確率であることを示し,次の宮城県沖地震の発生が確実に近づいてきており,早急な地震対策を講じることが必要となっているとの認識の下にあった宮城県下の学校にとっては,学校安全の上記3領域のうち,災害安全,特に地震・津波に対する防災の緊急性と重要性は,格別のものであったということができる。
市教委による「石巻市教育ビジョン前期実施計画(平成20年度~平成23年度)」の策定(乙80)
市教委は,平成20年12月25日,「石巻市教育ビジョン前期実施計画(平成20年度~平成23年度)」を策定した(乙80)。上記計
年度から平成23年度までに達成しようとする項目について目標数値等を掲げるなどして,具体的に取り組む事業内容と事業計画を体系的に示したものである(乙93・1頁,証人C5・3頁)。
学校防災については,学校施設の耐震化などハード面に加え,学校における防災教育や災害時における危機管理体制の整備などのソフト面も事業内容,事業計画として掲げ,「各学校における災害対応マニュアルの策定(改訂)見直し」も事務事業の一つとしており,平成19年度以前から引き続き実施するものとした(乙80・37頁~40頁,乙93・4頁)。
県教委による「みやぎ防災教育基本指針」の策定(丙13)
県教委は,
平成21年2月,
「みやぎ防災教育基本指針」
を策定した
(丙
13)。上記指針は,宮城県沖を震源とする地震は約37年周期のサイクルで発生しており,前回発生時(1978年)からの経過年数を考慮すれば,
その発生確率は日増しに高まっているとの認識の下,
県教委において,
学校における防災教育の方向性を示し,
発達段階に応じた系統的な防災教
育が行われるようにすることを目的として策定されたものであり,災害発

生時の体制整備については,
「宮城県教育委員会災害対策マニュアル」
「宮
城県教育委員会災害対策基本要領」
「宮城県教育委員会災害対策基本要領

は,
各市町村教育委員会が定める同様のマニュアルや要領に沿って整備を行うこととすること,
学校においては,
学校保健安全法29条及び30条
等に基づき,
これらのマニュアルを作成整備することが規定されているこ
とに言及した上,一般的な体制整備についての例示として,
「宮城県教育
委員会災害対策マニュアル」を引用した(丙13・はじめに・15頁~16頁)。
市教委による「平成21年度学校教育の方針と重点」の発行(乙81)「学校教育の方針と重点」は,市教委が,前年度末頃に,翌年度のものを石巻市内の各学校に配布し,
その年度の学校教育の方針と重点を示すも
のであり,
各学校は,
その内容を踏まえ,
教育計画を策定することになる。
市教委は,平成21年3月に「平成21年度学校教育の方針と重点」を発行したが,同年5月頃,その訂正版を石巻市内の各学校に配布した(乙93・4頁,乙94・2頁,弁論の全趣旨)。
「平成21年度学校教育の方針と重点」
の訂正版によれば,
平成21年
度における石巻市内の各学校の教育の方針と重点として,
「学校の危機管
理体制の整備」が主な事業の一つとされており,「非常変災への対応は,全職員が共通理解し,行動できるような備えが必要」
「宮城県沖地震の発
生が近い将来に予想されており,
対応が急務」
「校内での体制整備のため,
管理職や中堅教員の研修が必要」等の認識の下で,各学校において,危機管理マニュアルの作成・点検・修正と職員の共通理解,マニュアルに従っての訓練の実施と評価,
管理職等の研修参加と現職教育の実施,
情報の発
信と関係機関との連携体制構築を継続して実践することが求められていた(乙81・14頁,乙93・4頁,証人C5・4頁)。

市教委の主催による「平成21年度4月定例教頭会議」の開催(甲A98,乙66)
定例教頭会議は,
市教委が主催し,
石巻市立の小学校及び中学校の全校
の教頭を対象とするものである(乙93・4頁)。年度初めの4月に開催される定例校長会議や定例教頭会議では,市教委が,その年度の「学校教
例であり,校長や教頭は,会議に,「学校教育の方針と重点」を持参することとなっていた(弁論の全趣旨)。
平成21年4月22日に開催された平成21年度4月定例教頭会議においても,
市教委学校教育課の担当者から出席した各教頭
(大川小におけ
る出席者はD

機管理・危機対応マニュアルを確認・点検して整備すること,同マニュアルを教職員に周知し,訓練を実施・継続して評価することを促した(乙66・5頁,乙93・5頁,証人C5・5頁)。
県教委の主催による
「平成21年度防災教育指導者養成研修会」
の開催
(丙14)
県教委は,
平成21年5月から6月にかけて,
県内各地を7回に分けて,
平成21年度防災教育指導者養成研修会を開催した
(大川小の所属する東
部教育事務所管内では,
同年5月26日に開催されたが,
大川小からは参
加していなかった。なお,同研修会は,平成21年度又は平成22年度のいずれかで受講することとされていた。乙93・5頁,丙14・3枚目)。同研修会は,宮城県沖を震源とする地震の発生確率が今後30年の間で99%と言われており,大規模な災害等に対して,各学校において児童・生徒の安全確保を図ること等が必要であるとの認識の下,「みやぎ
・行政機関と連携した体制づくり等を推進するため,学校での防災教育推進の中心となる指導者を養成することを目的として開催されたものである。同研修会においては,「みやぎ防災教育基本指針」の内容及び防災教育計画作成上の留意点について理解するとともに,学校保健安全法の施行に伴う学校での対応等について,研究協議を行った(乙93・5頁,丙14・3枚目,証人C5・7頁)。
市教委の主催による「平成21年度6月定例教頭会議」の開催(乙82)
平成21年6月5日に開催された平成21年度6月定例教頭会議においては,市教委学校教育課の担当者から出席した各教頭(大川小における出席者はD
機管理体制について改めて点検して教職員に周知するとともに,災害発生時の初期対応及び組織対応の確認を促した(乙82・2頁,乙93・5頁,証人C5・5頁~6頁)。
市教委の主催による「平成21年度第1回石巻市学校安全連絡会
議」の開催(乙67)
学校安全連絡会議は,平成17年当時,喫緊の課題とされていた不審者対応について調査・検討するため,同年8月に発足した会議である(乙67・4枚目,乙93・5頁,証人C5・8頁)。その後,平成20年度には,防災が主たるテーマとなり,平成20年9月に各学校に対する「防災対策に関する実態調査」が行われた。この実態調査によると,災害発生時を想定した具体的な行動マニュアルを作成している学校が,43小学校中41校,23中学校中19校であったことから,調査結果の分析・考察として,すべての学校で具体的な行動マニュアルが作成されており,危機管理意識の高揚がうかがわれること,学区の状況の把握や,休日の対応等,様々な場合を想定しての行動マニュアルを作成
している学校が多いことが記されていた(乙67・7枚目・12枚目,乙93・5頁~6頁,証人C5・8頁~9頁)。もっとも,上記実態調査は,「災害発生時の対応について<地震・津波等の自然災害を想定>予想される危険を踏まえてどのような対策をとっていますか。(複数回答可)」という質問に対して,「災害発生時を想定した具体的な行動マニュアルを作成している」という回答に〇が記された数が43小学校中41校,23中学校中19校であったというに留まり,学校安全連絡会議の構成員が各学校の行動マニュアルの内容を実際に確認したものではないから,この当時各学校において実際に作成されていたマニュアルの内容が,当該学校の実情を踏まえた適切な内容の行動マニュアルとなっていたかどうかまでは明らかではない(乙67・5枚目~9枚目)。平成21年6月24日に開催された平成21年度第1回の会議では,上記実態調査の結果を検討し,今後の具体策について協議された。乙67の最終ページ(14枚目)の「児童生徒の安全を確保するために」と題する資料は,前年度の平成20年度に検討された内容であり,その「2

災害発生時の対応について」の項目中には,「自然災害(地震,

津波,他)や原子力事故等への対応に向け,地域や学校の実状に合わせた危機管理のためのマニュアルの作成及び状況の変化に応じた見直しを行う。」「保護者には,学校の防災体制及び措置,特に児童等の引き渡し方法を周知する。」と記されていたほか,「平成21年4月1日に施行された学校保健安全法について,「各学校における危険発生時の対処要領(危険対処マニュアル)の作成の義務化」等,その規定内容が要約されていた。それ以降,同資料が基になって,平成21年度第3回石巻市学校安全連絡会議の「児童生徒の安全を確保するために~防災教育へC5・10頁)。
市教委の主催による「平成21年度第2回石巻市学校安全連絡会議の
開催(乙68)
平成21年8月19日,「平成21年度第2回石巻市学校安全連絡会議」が開催され,第1回石巻市学校安全連絡会議に引き続き,「児童生徒の安全を確保するために」と題する提言について協議した(乙68,乙93・6頁)。
市教委の主催による「平成21年度9月定例教頭会議」の開催(乙83)
平成21年9月9日に開催された平成21年度9月定例教頭会議においては,市教委学校教育課の担当者から出席した各教頭(大川小における出席者はD
告事務確認と適切な校内(外)体制の構築」や「災害時における被害状況等報告」
の説明がなされるとともに,
学校における災害対策について,

1月28日,

絡された(乙83・2頁~5頁,乙93・7頁,証人C5・6頁)。市教委による「学校における災害対応の基本方針」の策定(乙84・2枚目~5枚目)
市教委は,平成22年1月22日,「宮城県地域防災計画」(上記
換えたり,一部文言の修正を行ったりして,「学校における災害対応の基本方針」(以下「新方針」という。)を策定した(乙84・1枚目,乙93・7頁,証人C5・11頁~12頁)。
新方針は,旧方針において定められていた校長による災害対策要綱の
制定を改めて確認し,上記要綱の名称を「学校災害対策要綱」と命名したほか,旧方針において,「避難所が開設された場合の留意事項」の次に置かれていた「校内災害対策配備体制」を,「校内災害非常配備体制等」として「避難所が開設された場合の留意事項」の前に置き,その重要性を明確にするとともに,「校長は,児童生徒の安全確保について十分な役割を果たすため『校内災害非常配備体制』及び『校内防災管理組織』を定め,災害時における対応について,あらかじめ明確にしておくものとする。」と定めていた。「(例)」として記載されていた「校内災害非常配備体制」によれば,「震度6弱以上の地震が発生したとき」は,「速やかに校内災害対策本部を設置し,予め定めた地震等災害応急対策を実施する。なお,被害の有無にかかわらず,速やかに教育委員会に被害状況等を報告する。」という配備内容が敷かれるほか,「校内防災対策委員は直ちに配備につき,所掌する応急対策活動を円滑に実施する。校内防災対策委員以外の職員は,校長の指示により配備につき所掌する応急対策活動を実施する。」と定められていた。新方針は,平成22年1月28日開催の平成21年度石巻市学校安全対策研修会(後記
頁,証人C5・11頁~12頁)。
市教委の主催による「平成21年度第3回石巻市学校安全連絡会議」の開催(乙85)
平成22年1月28日に開催された
「第3回石巻市学校安全連絡会議」
では,第2回に引き続き,「児童生徒の安全を確保するために」と題する提言の内容の最終確認が行われ,この会議に引き続いて開催された石巻市学校安全対策研修会において,この提言が各学校に配布,周知された(乙85・1枚目,乙93・7頁~8頁,証人C5・10頁)。同日に最終確認された「児童生徒の安全を確保するために~防災教育
への提言~」と題する提言(以下「本提言」という。)では,「1

災教育の充実について」,「2


害発生時に備えて」,「4

防災訓練の充実について」,「3

学校が避難所となった場合に備えて」の4

項目の提言がされており,
「3
防災に対する意識の向上」として,
「学校は地域とは切り離せないこと,
児童生徒は地域から守られ,地域の中で生きていることの意識付けを行う活動が必要である。家庭や地域の自主防災組織と連携しながら,防災に対する児童生徒の意識を高める訓練の実施を検討する。」ことが提言
かつ円滑に行うため,学校と関係機関(市防災担当及び教育委員会)との連絡体制を確立する。また,保護者には,学校の防災体制及び措置,
ュアルの作成」として,「自然災害(地震,津波等)や原子力事故等への対応に向け,学校や地域の実状に合わせた危機管理のためのマニュアルの作成や,
状況の変化に応じた見直しを行う。ことが提言された

(乙
85・2枚目~3枚目)。

の結果として,「災害発生時を想定した具体的な行動マニュアルを作成している。」の項目について,小学校「30校(69%)」,中学校「12校(52%)」との記載があり,乙67・7枚目の記載と齟齬があるが,乙85・8枚目の当該部分と,そのすぐ上の項目(学校の防災計画等に具体的な対応策を示している。)の数字が同じであることから,乙67・7枚目の記載を乙85・8枚目に転記する際に誤記したものと考えられる(証人C5・10頁~11頁)。したがって,上記実態調査の結果としては,乙67・7枚目の記載が正しく,乙85・8枚目の記載は誤りと推認される。もっとも,上記実態調査の結果によっても,調査
当時各学校において実際に作成されていたマニュアルの内容が,当該学校の実情を踏まえた適切な内容の行動マニュアルとなっていたかどうかおりである。
市教委の主催による「平成21年度石巻市学校安全対策研修会」の開催(乙69)
石巻市学校安全対策研修会は,市教委が主催する学校における災害対応に関する研修会で,石巻市立の小中学校の教頭を対象とするものである。平成22年1月28日,「石巻市教育ビジョン前期実施計画(平成
研修会の開催」として,平成21年度から平成23年度まで各年度1回の開催が目標とされていた同研修会が開催された
(乙93・8頁~9頁。
大川小における出席者はD教頭であ

紹介及び周知がなされた。続いて,研修として,
「石巻市地域防災計画」

について,市教委教育総務課の担当者であったC5(以下「C5」という。)から説明がなされ,その説明資料として,C5は,山梨県や石巻市内の各学校が実際に作成していたマニュアルを収集してまとめたものを「参考資料(災害対応マニュアル参考例)」(乙69・49枚目~62枚目)として出席者に配布したが,上記資料に「津波」の文言が記載されていたものはなく,C5も,当日の口頭説明において,「津波」の文言を危機管理マニュアルに記載する必要がある旨説明したことはなかった(証人C5・32頁~34頁・43頁~44頁)。C5が,上記研修会において,「参考資料(災害対応マニュアル参考例)」を各学校に提供した理由は,当時,石巻市内のほとんどの小中学校において,危機管理マニュアルは作成されていたものの,登下校時に災害が発生した場
合が想定されていなかったり,避難所となった場合の運営計画について定めがなかったりするなど,各学校において,必ずしも統一的な内容の危機管理マニュアルが作成されていないという実情があったこと,市教
ュアルの作成・改訂を実施することとしていたことに加え,平成21年4月1日に学校保健安全法が施行され,各学校の実情に応じた危機管理マニュアルの作成が法律上も明記されたという事情があったことから,各学校において,標準的な水準の,かつ,各学校の実情に応じた危機管理マニュアルの整備を進める必要があると考えたためであった(乙93・9頁~10頁,証人C5・12頁~16頁・31頁~32頁)。市教委による「学校における災害対策体制の整備について」と題する依頼文書の発出(乙54)
市教委は,平成22年2月8日,電子メールにより,G教育長名で石巻市立小中学校長宛てに,
「学校における災害対策体制の整備について」
と題する依頼文書(乙54・2枚目。本件依頼文書)を発出した。当時,石巻市内の小中学校は合計64校あり,市教委から,各学校宛てに送付する文書は,速やかに,かつ,確実に到達させるために,電子メールで発出することが一般的であった(乙93・10頁,証人C5・45頁~47頁)。
本件依頼文書の記載内容は,次のとおりであった。
「石巻市立小中学校長

殿
石巻市教育委員会
教育長

G
学校における災害対策体制の整備について(依頼)
本委員会では,平成16年10月「学校における災害対策方針」を策
定し,児童生徒の避難誘導や教職員の役割分担,あるいは避難所開設に伴う協力態勢等,総合的な災害対策を早期に整備するよう促しておりました。
しかしながら,先日の「石巻市学校安全連絡会議からの提言」にも示されておりますとおり,
依然として整備は進んでいない現状にあります。
つきましては,今般,「学校における災害対策方針」の構成や文言等をより実状に即した内容に修正した「学校における災害対応の基本方針」を策定いたしましたので,各学校におかれましては,石巻市地域防災計画や災害対応マニュアル(例)等を参考としつつ,学校における災害対策やその体制につきまして早急に整備し,次年度の教育計画に位置付けるなどにより,災害に対する万全の備えをしていただくようお願いいたします。

添付資料
1)学校における災害対応の基本方針
2)石巻市立〇〇〇学校災害対策要綱(案)

(担当:教育総務課

C5

内線353)」

本件依頼文書は,平成22年1月28日開催の石巻市学校安全対策研
ルについて,市教委として,各小中学校の校長宛てに正式な依頼文書を送付したものであり,上記研修会を開催する時点で,本件依頼文書を発出することは,既に予定されていた。すなわち,各学校において危機管理マニュアルの作成・改訂を実際に行うのは,通常,教頭であることから,校長宛てに本件依頼文書を送付する前に,実務を担う教頭が出席する上記研修会の場で説明をしておくことにより,校長宛ての本件依頼文
書の実効性がより高まるよう意図したものであった。また,本件依頼文
しているとおり,各学校における危機管理マニュアルの策定・改訂を進めるための,それまでの市教委における各種の取組が結び付いて一つの形になったものであり,宮城県沖地震の発生が極めて高い確率で予想されるという状況の下において,できるだけ早急に,平成22年度の各学校の教育計画に位置付けるなどの方法により,遅くとも平成22年度の教育計画の届出期限である平成22年4月30日(石巻市立学校の管理
であった(乙93・10頁,証人C5・16頁~18頁・47頁~48頁)。
市教委による「平成22年度学校教育の方針と重点」の発行(乙86)市教委は,平成22年3月に「平成22年度学校教育の方針と重点」を発行した(乙94・2頁)。
「平成22年度学校教育の方針と重点」においても,「平成21年度
校の危機管理体制の整備」が主な事業の一つとされており,発生が近い将来に予想されていた宮城県沖地震への対応が急務であり,非常変災への対応は,全職員が共通理解し,行動できるような備えが必要であるとの認識の下,危機管理マニュアルの作成・点検・修正と職員の共通理解等について,学校における実践を継続すべきことが求められていた(乙86・4枚目・13頁,乙94・2頁~3頁,証人C4・2頁~3頁)。文科省による「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」の改訂(甲
A162,丙7)
文科省は,近年の児童生徒等の安全を脅かす事件・事故災害の発生等及びその対応を踏まえ,また,平成21年4月1日に施行された学校保健安全法や安全に関する指導について新たに規定を設けるなどして改訂された学習指導要領に即した内容とするため,平成13年11月に策定した安全教育参考資料「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」(上

全参考資料「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」の平成22年3月版を発刊した(甲A162・まえがき。以下,上記資料を「平成22年3月版資料」という。)。
平成22年3月版資料は,「学校において児童生徒等が安全で安心な環境で学習活動等に励むことができるようにすることは,公教育の実施において不可欠なものであり,各学校において,事件,事故あるいは災害に対して,児童生徒等の安全の確保が的確になされるようにすることが重要です。」と述べる一方,「近年,学校に不審者が侵入して児童生徒等や教職員の安全を脅かす事件や,通学路で児童生徒等に危害が加えられる事件,校舎等からの転落事故,遊具による事故などが発生していることや,児童生徒等の登下校中の交通事故,さらに,地震や台風などの自然災害の発生も懸念されることから,通学路を含めた学校での児童生徒等の安全を確保することが喫緊の課題となって」いると述べ,これが学校保健安全法が施行された背景にあるとの認識を示しており(甲A
符合するものである。
また,平成22年3月版資料は,学校保健安全法29条によって新設された学校における危機管理マニュアルの作成義務について,「生命や心身等に危害をもたらす様々な危険から児童生徒等を守るためには,学
校や地域社会の実情等に応じた実効性のある対策を講じなければならない。その中心となるのは学校が行う危機管理であり,事前に,学校は適切かつ確実な危機管理体制を確立し,危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)の周知,訓練の実施など,教職員が様々な危機に適切に対処できるようにする必要がある。」「学校の危機管理では体制づくりが重要であり,校長が責任者となり,校務分掌により安全を担当する教職員が中心となって活動できる体制を作り,教職員はそれぞれの状況に応じて平常時から役割を分担し,連携をとりながら活動を進めていく必要がある。」「学校は事件・事故災害発生時には迅速かつ適切に対応することが求められる。危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)に沿って,危機管理責任者である校長を中心に遺漏なく対応し,児童生徒等の安全を確実に確保し,速やかな状況把握,応急手当,被害の拡大の防止・軽減等を実施する。」と述べて,危機管理マニュアルの作成とともに,
これを運用する学校における危機管理体制確立の重要性を指摘した。さらに,旧版資料と同様,事件・事故災害発生時の危機管理として,「火
災,地震,津波,火山活動,風水(雪)害,原子力災害発生時などの安全措置」の項目を置き,これらの災害が発生した場合には,それぞれの災害の特質に応じた安全措置が講じられるよう,関連機関との連絡体制や情報収集体制を含めて,防災のための組織を確立すること,安全措置では,児童生徒等の安全を最優先しつつ,教職員自らの安全も確保すること,教職員は,避難方法に習熟し,自然災害発生時には冷静に的確に指示を行うこと,災害発生に備えるためには,防災体制の役割分担,消火器等防災設備の配置や使用法,避難方法や避難場所,非常持ち出し物など,体制の整備及び対処法について教職員の共通理解を得ておく必要があることを指摘し,特に地震,津波による災害の場合については,地震に伴い,津波,土砂崩れ,ガス管の破裂,運動場の地割れ,液状化現
象など二次災害の原因となる状況が発生し得るので,
特に注意すること,
地震発生後の措置としては,災害等に対する情報の収集,応急手当,関係者や医療機関を含む関連機関への連絡・対応,必要に応じた第二次避難場所への避難,校内及び近隣の罹災状況の把握,避難所となった場合の運営や被災者への対応等が挙げられることを指摘した(甲A162・74頁~77頁)。
市教委の主催による「平成22年度4月定例校長・園長会議」の開催(乙87)
平成22年4月12日に開催された「平成22年度4月定例校長・園長会議」においては,市教委学校教育課長であったC4(以下「C4」という。)が,出席した各校長及び園長(大川小における出席者はC1
危機管理体制の整備」等の説明をした。
乙87・7頁ないし9頁は,C4が作成した資料であり,乙87・7頁
の記載を含め,「(I)」など担当者の名前が記載されている項目以外は,
C4が説明し,
平成22年2月8日付けで発出した本件依頼文書
(上

理マニュアルを作成するよう指示した(乙94・2頁~3頁,証人C4・3頁~4頁)。
市教委の主催による「平成22年度4月定例教頭会議」の開催(乙88)
平成22年4月16日に開催された
「平成22年度4月定例教頭会議」
においても,C4が,出席した各教頭(大川小における出席者はD教頭
8・8頁ないし10頁は,C4が作成した資料であり,乙88・8頁の
の記載を含め,「(I)」など担当者の名前が記載されている項目以外は,
C4が説明し,
平成22年2月8日付けで発出した本件依頼文書
(上

整備し,確実に実施できるようにすることを指示した(乙94・3頁,証人C4・6頁)。
県教委の主催による「平成22年度防災教育指導者養成研修会」の開催(甲A165)

6月にかけて,県内各地を7回に分けて,平成22年度防災教育指導者養成研修会を開催した。大川小の所属する東部教育事務所管内では,同年5月25日に開催され,大川小からはJ教諭が参加した(甲A165・27頁)。

県沖を震源とする地震の発生確率が,平成15年6月1日を基準日としたとき,今後30年の間で99%と言われており,大規模な災害等に対して,各学校において児童・生徒の安全確保を図ること等が必要である
段階に応じた指導や地域・行政機関と連携した体制づくり等を推進するため,学校での防災教育推進の中心となる指導者を養成することを目的として開催されたものである。同研修会においては,防災教育の現状と課題及び防災教育指導計画の作成に当たっての学校保健安全法の施行に伴う学校での対応等について,第1審被告県教育庁スポーツ健康課の担当者から講義がなされたほか,仙台管区気象台の地震情報官から津波防災について講義がなされ,津波が川を遡上することや津波から身を守る
には避難する以外に方法はなく,海岸で強い揺れを感じたり,弱い揺れでもゆっくりした長い揺れを感じたら,すぐに高台に避難すべきこと等が説明された(甲A165・2頁~12頁,乙94・4頁,証人C4・7頁)。
市教委の主催による「平成22年度7月定例校長会議」の開催(乙89)
平成22年7月6日に開催された平成22年度7月定例校長会議においては,夏季休業中の児童生徒への対応等が協議されたほか,地震や津波が発生した場合の避難場所の問題についての話題も提供された(乙89・1枚目・5枚目~7枚目,乙94・4頁,証人C4・7頁)。市教委の主催による「平成22年度石巻市立小・中学校教頭・中堅教員研修会」の開催(甲A12の1~12の6,乙71)
平成22年8月4日,市教委の主催による「平成22年度石巻市立小・中学校教頭・中堅教員研修会」が開催され,大川小からは,D教頭,E教務主任及びK生徒指導主任の3名が参加した(甲A12の6・3枚目)。
同研修会の主たる内容は,当時,石巻市総務部防災対策課に所属していたF危機管理監による「児童生徒の安全確保・文教対策」と題する講演であった。F危機管理監からは,地震,津波,洪水・土砂災害,原子力災害等の災害発生時の対応や避難の在り方,避難所運営等の講義がなされ,地震や津波によって学校自体が危険になったときには,安全な場所へ集団避難すべきこと,強い揺れ(震度4)や揺れの長い地震を感じたら津波の危険があるから高台に避難すべきこと,保護者への児童の引渡しは,災害発生時には電話が使えない恐れがあるので,事前に引渡方法や引渡場所を保護者に周知しておくべきこと等の説明がなされ,最後に,「プロアクティブの原則」(①疑わしいときは行動せよ。②最悪の
事態を想定して行動(決心)せよ。③空振りは許されるが,見逃しは許されない。)の紹介がなされた(甲A12の2~12の5)。
市教委の主催による「平成22年度8月定例校長会議」の開催(乙72)
平成22年8月10日に開催された平成22年度8月定例校長会議においては,G教育長が,出席した各校長(大川小における出席者はC1
によって校長による策定が確認されていた「学校災害対策要綱」が各学校において実際に策定されているかを再確認すること(教頭に確認すること)を要請したほか,C4が,自ら作成した資料(乙72・3頁~4頁は,C4が作成した資料である。)に基づき,災害発生時の対応は新方針に従って行うよう説明を行うとともに,非常変災発生時及び児童・生徒・教職員の事故発生時には,状況と程度を市教委に簡潔に報告するよう指示した(乙72・1頁・3頁~4頁,乙94・5頁,証人C4・8頁)。
石巻市立小・中学校長会による「平成22年度8月定例校長会の開催(乙75)

強会である校長会が引き続き行われ,蛇田中学校のL校長(以下「L校長」という。)が,平成22年1月28日に開催された「平成21年度
資料(乙69・5枚目以下)に基づき,「非常災害等の対応について」と題する講演を行った。同講演において,L校長は,新方針についても触れ,新方針において,校長が「学校災害対策要綱」を策定することが定められていることを再度確認した(乙75・2枚目,乙94・5頁,
証人C4・9頁)。
大川小における第6回職員会議の開催(甲A13)
平成22年8月25日,大川小において,平成22年度第6回目の職員会議が開かれた。会議の冒頭に,C1校長からの指示伝達があり,その中でC1校長は,「危機への対応」として,インフルエンザへの対応とともに地震・台風等への対応を求め,危機管理マニュアル(大川小マニュアル)を再度確認するよう指示した(甲A13・1枚目裏)。市教委による「平成22年度9月定例教頭会議」の開催(乙90)平成22年9月2日に開催された「平成22年度9月定例教頭会議」においては,C4が,出席した各教頭(大川小における出席者はD教頭
目は,C4が作成した資料である。)に基づき危機管理の在り方や非常変災発生時の市教委への報告等について説明を行ったが,特に,災害発生時において学校は組織体として対応する必要があり,その組織の要は教頭であることを強調した(乙90・1枚目・3枚目~4枚目,乙94・5頁~6頁,証人C4・9頁~10頁)。
市教委の主催による「平成22年度11月定例教頭会議」の開催(乙91)
平成22年11月17日に開催された「平成22年度11月定例教頭会議」においては,C4が,出席した各教頭(大川小における出席者はD
~5枚目は,C4が作成した資料である。)に基づき危機管理に際しての教頭の役割等について説明を行ったが,特に,教頭には,災害発生時において,状況把握,判断,意見具申,指示,渉外,説明,点検評価等の多岐にわたって目を配るスポークスマンとしての役割が求められることを強調した。また,M指導主事から,土砂災害警戒メール配信システ
ムの紹介がなされた(市教委において,指導主事は,校長会議及び教頭会議には必ず出席することが例とされていた。)(乙91・1枚目・4枚目~5枚目,乙94・6頁,証人C4・10頁~11頁)。
市教委の主催による「平成22年度石巻市学校安全対策研修会」の開催(乙73)
平成23年1月20日に市教委の主催によって開催された「平成22年度石巻市学校安全対策研修会」は,平成21年1月28日に開催され
されたものであり,石巻市内の各市立小中学校の教頭が出席した(大川小からはD教頭が参加した(乙73・5枚目,乙94・6頁))。この研修会では,「石巻市地域防災計画」,「学校施設における避難所開設」及び「災害時の情報伝達システム」について,各担当課から説明が行われ,「石巻市地域防災計画」については教育総務課の担当者から説明が行われたが,その参考資料として,参加した各教頭に対し,改めて本件依頼文書(乙54・2枚目)及び新方針(乙84・2枚目~5枚目)の各写しが配布されてその周知徹底が図られた。また,上記説明終了後,参加した各教頭と担当者との間で質疑応答が行われたが,その際,F危機管理監から,石巻市地域防災計画の中で津波避難所に指定されていた渡波中学校が,当時作成中であった津波避難計画の中では避難所に指定されていないことが説明され,石巻市地域防災計画における津波避難所の指定が,必ずしも適切な内容となっていないことが明らかとなった(乙73・1枚目~4枚目・14枚目以下,乙94・6頁,証人C4・11頁~12頁)。
市教委の主催による「避難所開設に伴う連絡調整会議」の開催(乙92の1・2)
市教委は,平成23年2月15日,17日及び21日の3日間,石巻
市内の小中学校を6地区に分けて,地震・津波の際に避難所を開設した場合の連絡体制や避難所運営等について,所管課と各小中学校との間で協議を行った(乙92の1・2,乙94・6頁~7頁,証人C4・12頁~13頁)。

及び上記イの事実関係に照らすと,本件安全確保義
務がC1校長等を拘束する規範性を帯びることになった時期及び本件安全確保義務の具体的内容について,次のような認定判断が可能である。C1校長,D教頭及びE教務主任の本件安全確保義務について
a
C1校長
は,大川小の実情に応じた危機管理マニュアルを作成する責任者としてその作成義務を有していたものであり,
D教頭は,
C1校長を助け,
校務を整理すべき職務を有する立場で大川小における危機管理マニュアルを作成すべき義務を有していたものであり,E教務主任は,C1校長の監督を受け,教育計画の立案について連絡調整及び指導,助言に当たる職務を有する立場で大川小における危機管理マニュアルを作成すべき義務を有していた。

b
災害時における児童の安全確保に万全を期する上で,教職員の災害時における具体的行動を記載した危機管理マニュアルを整備することが重要であることは,
学校保健安全法29条1項が施行される前から,
阪神・淡路大震災の経験を契機として,文科省がとりまとめた「学校
されていたものであって,学校保健安全法29条1項が,学校において児童生徒等の安全の確保を図るため当該学校の実情に応じて危機管
理マニュアルを作成すべきことを定めたのは,それまでの多くの検討の成果を再確認するとともに,「近年,学校管理下での事故災害や交通事故の増加に加えて,地震等の自然災害,学校内外での犯罪の被害等により,多くの尊い生命が失われるなど,児童生徒等の安全を取り
の成果を全ての学校運営者が遵守すべき法律上の義務にまで高めたものということができる。
c
第1審被告県においては,国の地震調査研究推進本部地震調査委員会が,平成15年6月1日を基準日としたとき,今後30年以内に宮城県沖地震が発生する確率は99%という極めて高い長期評価確率であることを示したことから,次の宮城県沖地震の発生が確実に近づいてきており,早急な地震対策を講じることが必要となっているとの認
公表され(平成16年3月),その内容を踏まえて宮城県防災会議に
(平成16年6月),県教委においても,「宮城県教育委員会災害対策基本要領」及び「宮城県教育委員会災害対策基本要領施行細則」を制定・施行し(平成18年2月),上記要領に基づき「宮城県教育委ニュア
ル(「震災応急対策マニュアル」)を例示し(平成18年3月),平
中でも一般的な体制整備についての例示として「宮城県教育委員会災害対策マニュアル」を引用するなど,学校保健安全法29条1項の施行前から,来たるべき宮城県沖地震の発生に備えた準備が積み重ねられていた。第1審被告市においても,「石巻市地域防災計画」(上記
性を図り,すべての学校において地域の実情に即した災害対応マニュアルの策定や見直しを行うとともに,関係機関及び地域住民との連携を密にし,災害時において迅速かつ適切な対応ができる体制の整備に取り組む」ことを宣言し(平成20年3月),また,市教委の策定した
「石巻市教育ビジョン前期実施計画
(平成20年度~平成23年度)


訂)見直し」を事務事業の一つとして掲げる(平成20年12月)など,第1審被告県の動きに合わせて,来たるべき宮城県沖地震に対する備えを進めていた。したがって,石巻市を含む宮城県内の各学校においては,学校保健安全法29条1項の施行(平成21年4月1日)当時,次の宮城県沖地震の発生が確実に近づいてきており,早急に地震対策を講じる必要があることは既に共通の認識となっていたものと認められ(これは,大川小において整備されるべき危機管理マニュアルの内容を規定する大川小の実情の一つである。),学校保健安全法29条1項の施行は,その重要性及び緊急性を石巻市を含む宮城県内の各学校関係者に再確認させるものであったといえる。
d
そして,学校保健安全法29条1項の施行後,第1審被告県及び第1審被告市における危機管理マニュアルの整備に係る取組は,更に急ピッチで進められた。
すなわち,県教委は,平成21年度及び平成22年度の両年度にわ
防災教育推進の中心となる指導者を養成することを目的として,「防災教育指導者養成研修会」を開催し,大川小からは,「平成22年度防災教育指導者養成研修会」にJ
また,市教委では,平成21年5月頃に発行した「平成21年度学
校教育の方針と重点」の訂正版において,「学校の危機管理体制の整備」を平成21年度の主な事業の一つとして掲げた上,危機管理マニュアルの作成・点検・修正と職員の共通理解,マニュアルに従っての
に実施された定例教頭会議において,「平成21年度学校教育の方針と重点」に従った危機管理マニュアル及び危機管理体制の整備及び教
成17年8月に発足させた学校安全連絡会議の主たるテーマを平成20年度から防災に設定し,平成20年9月に各学校に対して実施した「防災対策に関する実態調査」の結果を踏まえた「防災教育についての提言」についての協議を行い,その成果(本提言)を,平成22年1月28日に開催された「石巻市学校安全対策研修会」において紹介
は,平成22年1月22日,「宮城県地域防災計画」や「石巻市地域防災計画」等を踏まえ,合併前の旧石巻市時代に作成された旧方針を「学校における災害対応の基本方針」(新方針)に改め,これを上記「平成21年度石巻市学校安全対策研修会」において,各学校に配布し,周知し
防災対策の集大成として開催したのが,平成22年1月28日に開催された「石巻市学校安全対策研修会」であった。同研修会では,上記のとおり,
学校安全連絡会議が協議の上確認した本提言の内容が紹介,
周知されたほか,「石巻市地域防災計画」の内容の再確認及び市教委が改めた新方針の周知が行われた。同研修会では,当時,石巻市内の各学校において必ずしも統一的な内容の危機管理マニュアルが作成されていなかったという実情を踏まえ,各学校の危機管理マニュアルの内容を統一化することが意図されており,その方法として,市教委の
側から各学校に対し,「参考資料(災害対応マニュアル参考例)」が
である平成22年2月8日,G教育長名で石巻市立小中学校長宛てに
から,実際に危機管理マニュアルの作成・改訂の実務を行う教頭の出席を求めて同研修会の場で説明をしておき,それに近接した時期に校長宛ての本件依頼文書を発出することにより,各学校における危機管理マニュアルの作成・改訂作業の実効性がより高まるよう意図したものであり,
その内容においても,
「学校における災害対応の基本方針」

「石巻市地域防災計画」,「災害対応マニュアル(例)」に言及しているとおり,各学校における危機管理マニュアルの策定・改訂作業を進めるための,それまでの市教委における各種の取組の集大成といえるものであり,宮城県沖地震の発生が極めて高い確率で予想されるという状況の下において,できるだけ早急に,平成22年度の各学校の教育計画に位置付けるなどの方法により遅くとも,その届出期限である平成22年4月30日までに作成することを求めるものであった
e
上記aないしdの経緯に照らせば,C1校長に対しては,本件依頼により,遅くとも市教委が危機管理マニュアルの作成・改訂作業の期限として指定した平成22年4月30日(同日は,平成22年度の教育計画の市教委に対する届出期限である。)の本件時点までに同作業を終えることが義務付けられたというべきであり,
本件時点において,
C1校長が負った学校保健安全法29条1項が定める危機管理マニュアルの作成・改訂義務の内容は,大川小の実情に基づいて具体的に定まり,個々の在籍児童及びその保護者との関係で,C1校長を拘束する規範性を帯びることになったものと認めるのが相当である。D教頭
及びE教務主任も,それぞれの担当職務の範囲内において,大川小における危機管理マニュアルを作成すべき義務を有していたものであるから,C1校長と同様,平成22年4月30日の時点において,D教頭及びE教務主任が負った同項が定める危機管理マニュアルの作成・改訂義務の内容は,大川小の実情に基づいて具体的に定まり,個々の在籍児童及びその保護者との関係で,D教頭及びE教務主任を拘束する規範性を帯びることになったものと認めるのが相当である(上記1)。
f
平成22年4月30日の時点において,C1校長,D教頭及びE教
実情に照らせば,大川小の危機管理マニュアルには,少なくとも,下
あり,それを大川小の危機管理マニュアルに定めておくことは,学校保健安全法29条1項に基づく,C1校長,D教頭及びE教務主任の規範的義務であったというべきである。

が,広大な水域面積を有する北上川の感潮区域と約200mの距離を隔てて隣り合っていたものであり,上記北上川の感潮区域と大川小の敷地とを隔てるものは,北上川の右岸堤防の存在のみであったこと,これに,本件想定地震の地震動により本件堤防が天端沈下を起こし,そこから堤内地に北上川の河川水が流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見,谷地中付近よりも下流の北上川の右岸堤防が,堤防の両側から襲う津波の破壊力に堪えられずに破堤し,その場所から遡上した津波が堤内地に流入して大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見(上記の各知見は,津波対策推進マニュアル検討委員会がとりまとめた「津波対策推進マニ
にも触れられており,本件時点において,十分な根拠を有する確かな知見として扱われていたことが認められる。)を総合すれば,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受ける危険性はあったといえる。これは,大川小の危機管理マニュアルの作成・改訂に当たって考慮すべき最も重要な大川小の実情であった。
したがって,
大川小の危機管理マニュアルには,
大川小において,
大川小付近の北上川まで遡上する津波の発生が予想される地震が発生した場合(少なくとも,津波警報の発令があった場合)には,第二次避難場所である校庭から速やかに移動して避難すべき第三次避難場所とその避難経路及び避難方法を予め定めておく必要があったというべきである。
第三次避難の必要性とその際の留意事項については,文科省がと
りまとめた「学校等の防災体制の充実について(第二次報告)」
(上
くむ学校での安

害対応マニュアル参考例)」にも触れられていたから,学校の敷地が津波によって浸水する危険がある場合には,第三次避難場所とその避難経路及び避難方法を予め定めておくことは,必須不可欠であったということができる。
g
したがって,
平成22年4月30日の本件時点において,
C1校長,
D教頭及びE教務主任は,本件安全確保義務の内容として,大川小の
危機管理マニュアルを,大川小において,少なくとも,津波警報の発令があった場合には,第二次避難場所である校庭から速やかに移動して避難すべき第三次避難場所とその避難経路及び避難方法を定めたものに改訂すべき義務を負ったというべきであり,その改訂義務は,本件時点において,個々の在籍児童及びその保護者との関係で,C1校長,D教頭及びE教務主任を拘束する規範性を帯びることになったものと認めるのが相当である。
市教委の本件安全確保義務について
a
全法29
条1項に基づき,大川小に対し,在籍児童の安全の確保を図るため,大川小の実情に応じて,危険等発生時において大川小の教職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた危機管理マニュアルを作成すべきことを指導し,作成された危機管理マニュアルが大川小の立地する地域の実情や在籍児童の実態を踏まえた内容となっているかを確認し,内容に不備があるときにはその是正を指示・指導すべき義務があった。

b
災害時における児童の安全確保に万全を期する上で,教職員の災害時における具体的行動を記載した危機管理マニュアルを整備することが重要であることは,
学校保健安全法29条1項が施行される前から,
多くの検討の成果として発表されており,学校保健安全法29条1項が,学校において児童生徒等の安全の確保を図るため当該学校の実情に応じて危機管理マニュアルを作成すべきことを定めたのは,それらの成果を再確認するとともに,その成果を全ての学校運営者が遵守すべき法律上の義務にまで高めたものということができることは,上記
c
本件依頼により,大川小に対し,平成22年4月30日の本件時点までに大川小の危機管理マニュアルを大川小の実情を踏まえた内容のものに改訂すべきことを義務付けたのであるから,平成22年度の大川小の教育計画が市教委に対して提出された同年5月1日以降,上記教育計画の内容に含まれる危機管理マニュアルが,大川小の立地する地域の実情や在籍児童の実態を踏まえた内容となっているかを確認し,内容に不備があるときにはその是正を指示・指導すべき義務を負ったものと解するのが相当である。
d
の実情に照らせば,
大川小の危機管理マニュアルは,少なくとも,津波警報の発令があった場合には,第二次避難場所である校庭から速やかに移動して避難すべき第三次避難場所とその避難経路及び避難方法を定めたものに改訂されるべきものであったということができるから,市教委としては,大川小から送付された危機管理マニュアルの内容に上記定めがあるかどうかを確認し,仮にその定めに不備があるときにはその是正を指示・指導すべき義務を負ったというべきであり,その義務は,平成22年5月1日以降,個々の在籍児童及びその保護者との関係で,市教委を拘束する規範性を帯びることになったものと認めるのが相当である。

C1
れるかどうかについて

当裁判所は,C1
(本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載するなどして改訂すべき義務)を懈怠したものと認めるのが相当であると判断する。その
理由は以下のとおりである。
C1校長は,平成22年4月30日までに,本
件危機管理マニュアルを含む大川小の平成22年度教育計画(甲A9。本件教育計画)を市教委に提出したが,本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分には,
「第二次避難【近隣の空き地・公園等】」
(前
記の「第二次避難」とは,本判決でいう「第三次避難」のことを意味する。)と記載されているだけで,避難経路及び避難方法については何らの記載も存在しなかった(甲A9・181頁~182頁)。C3元教頭は,上記「近隣の空き地」とは交流会館の駐車場をイメージしたものであり,「公園」とは大川小の体育館裏にある児童公園をイメージしていた旨供述する(証人C3・4頁)。
しかし,本件安全確保義務の内容として事前に定めるべき第三次避難場所は,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した避難場所を意味するから,大川小の敷地とほぼ同じ標高にある交流会館の駐車場や児童公園(乙18)が,第三次避難
本件ハザードマップ中の洪水・土砂災害ハザードマップには,100年に一度の確率で起こると想定される豪雨により北上川が氾濫した場合には,大川小はその敷地全部及びその周辺地域を含めて0.5m以上1.0m未満の深さまで浸水すると想定されており,その場合,大川小及び交流会館は避難場所として使用不可能であることが記されていたのであるから,上記洪水の場合をも想定して定めるべき第三次避難場所が,交流会館の駐車場や児童公園と指定されていたこと自体,明らかな不備といわざるを得ない。)。
平成22年2月8日の本件依頼文書の発出以降も,文科省によって改訂された「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」(平成22年3
月版資料)において,「生命や心身等に危害をもたらす様々な危険から児童生徒等を守るためには,学校や地域社会の実情等に応じた実効性のある対策を講じなければならない。その中心となるのは学校が行う危機管理であり,事前に,学校は適切かつ確実な危機管理体制を確立し,危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)の周知,訓練の実施など,教職員が様々な危機に適切に対処できるようにする必要がある。」「学校は事件・事故災害発生時には迅速かつ適切に対応することが求められる。危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)に沿って,危機管理責任者である校長を中心に遺漏なく対応し,児童生徒等の安全を確実に確保し,速やかな状況把握,応急手当,被害の拡大の防止・軽減等を実施する。」と,危機管理マニュアルの作成とともに,これを運用する学
「平成22年度4月定例教頭会議」においても,繰り返し危機管理マニ
れに,市教委が主催して開催された「平成22年度石巻市立小・中学校教頭・中堅教員研修会」において,F危機管理監から,地震や津波によって学校自体が危険になったときには,安全な場所へ集団避難すべきこと,強い揺れ(震度4)や揺れの長い地震を感じたら津波の危険がある

返し学校組織における教頭の役割が強調されていたこと等を考え併せれば,C1校長,D教頭及びE教務主任において,平成22年4月30日の本件時点以降,個々の在籍児童及びその保護者との関係で規範性を帯びることになった本件安全確保義務(本件危機管理マニュアル中の第三
次避難に係る部分に,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載するなどして改訂すべき義務)を履行する機会は十分にあったと認められる。
しかし,本件危機管理マニュアル
され,本件地震の発生に至るまで改訂されることはなかった(C1校長は,平成22年8月25日に開かれた大川小における第6回職員会議において,教職員に対して地震・台風等への対応を求め,危機管理マニュ
これは,C1校長,D教頭及びE教務主任による本件安全確保義務の明らかな懈怠に当たるというべきである。
に,本件危機
管理マニュアルを含む大川小の平成22年度教育計画の送付を受けたから,同年5月1日以降,本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る
ず,本件危機管理マニュアルの内容を確認せず,大川小に対し,その不備を指摘して是正させる指導をしなかった。第1審被告県の教育事務所及び市教委は,毎年,指導主事を石巻市内の各小中学校に訪問させ,その指導主事が訪問先の学校の当該年度の教育計画の内容を事前に確認しているところ,大川小についても,平成21年度及び平成22年度の両年度にわたり,指導主事の訪問があった(平成22年度は,平成22年4月から7月の間に,第1審被告県の教育事務所及び市教委から派遣された3人の指導主事の訪問があった。)ものの,本件危機管理マニュアルの内容については,市教委から派遣された指導主事から何らの指導,助言も受けなかった(証人C4・4頁~5頁,39頁~42頁,原審証
人C1・24頁,当審証人C1・3頁・11頁~12頁・30頁~31頁)。これは,市教委による本件安全確保義務の懈怠に当たるというべきである。
石巻市立小学校及び石巻市立中学校の通学区域に関する規則(乙53)2条別表によれば,本件時点の大川小の通学区域は,福地,針岡,釜谷,長面,尾崎の5区域と定められていたところ,このうち,長面及び尾崎の両区域は,追波湾(太平洋)に面した区域であって,概略の想定結果である平成16年報告による地震被害想定調査結果に基づいて作成された本件津波浸水予測(乙3)においても,また,本件津波ハザードマップの予想浸水区域図(乙4・57頁~60頁)においても,津波による浸水が予想される区域として示されていた。平成23年3月11日の時点で,長面及び尾崎の両区域から通学していた在籍児童は30名
ードマップによる予想浸水区域には含まれていなかったものの,本件想定地震によって発生する津波の被害を受ける危険性があったと認められる釜谷地区からの通学児童を含めると,津波による浸水の危険性が認められる区域からの通学児童は,同時点の在籍児童108名の約半数に及んでいたことが認められる(甲A9・26頁,当審証人C1・24頁~26頁)。上記の事実も,学校保健安全法27条の定める大川小における安全計画及び同法29条の定める危機管理マニュアルを策定するに当たって考慮すべき重要な大川小の実情であった。
したがって,大川小の安全計画においては,少なくとも,児童が在校中に津波注意報又は津波警報の発令があった場合,
児童を保護者にいつ,
どこで,どのような方法で引き渡すのか,どのような手段で保護者と連絡をとるのか,保護者と連絡がとれないことにより児童を引き渡せない場合,どのようにして児童を保護するのか等の方策について事前に保護
者との間で具体的に協議し,これを保護者に周知しておく必要があったというべきである。児童の引渡方策に係る事前協議とその周知の必要性及びその際の留意事項については,文科省がとりまとめた「学校等の防
介,周知された本提言にも触れられていたから,大川小を運営する職責を有していたC1校長,D教頭及びE教務主任にとって,児童の引渡方策に係る事前協議とその周知は,喫緊の課題であったということができる。
しかし,本件教育計画中に児童の引渡方策に係る事前協議とその周知を定めた記載は存在せず,C1校長,D教頭及びE教務主任との間で,その点について協議を行ったこともなかった(当審証人C1・26頁~30頁)。また,C1校長は,本件危機管理マニュアル中に記載のあった保護者による「防災用児童カード」の記入・提出とそれに基づく「児童引き渡し確認一覧表」の作成作業(甲A9・188頁)を進めておらず,児童の引渡し訓練も実施していなかった(原審証人C1・6頁,当審証人C1・10頁~11頁)。これに対し,市教委は,大川小から本件教育計画が送付されたときも,平成22年度に指導主事が大川小を訪問したときも,本件教育計画中に児童の引渡方策に係る事前協議とその周知を定めた記載が存在しないという不備を一度も指摘せず,大川小に対しその不備を是正する指導をしなかった(原審証人C1・24頁,当審証人C1・3頁・12頁・30頁~31頁)。
以上の事実は,C1校長,D教頭及びE教務主任が,平成22年4月30日の本件時点以降,個々の在籍児童及びその保護者との関係で規範
性を帯びることになった学校保健安全法27条に基づく安全計画策定義務の履行を懈怠していた事実を示すものであり(市教委が,平成22年5月1日以降,個々の在籍児童及びその保護者との関係で規範性を帯びることになった学校保健安全法27条に基づく安全計画策定義務の履行を懈怠していた事実を示すものでもある。),C1校長等に,本件安全確保義務の懈怠があったことを裏付ける重要な事情といえる。
第1審被告らは,保護者による「防災用児童カード」の記入・提出とそれに基づく「児童引き渡し確認一覧表」の作成作業が進められなかった背景には,大川小が規模の小さい学校であったため,「児童引き渡し確認一覧表」がなかったとしても,教職員らが児童を引き渡す相手方となる保護者の顔を把握できていたという実情があったからであるとし,また,本件危機管理マニュアル中には,災害対策本部(保護者連絡班)において通学路,学区内の被害状況を把握する旨の記載があり,保護者において児童を帰宅させて安全かどうか確認するとの記載があったから,尾崎・長面地区に自宅のある児童らの安全を図ることは十分に可能C1校長に違法な義務懈怠はなか
ったと主張する。
しかし,児童の引渡方策に係る事前協議とその保護者への周知の重要性が指摘される理由は,非常災害発生時には,電話等の通常の連絡手段が使えないことが想定されるため,これに代わる非常時の連絡方法や連絡がとれない場合の児童の引渡方策を事前に保護者と協議し,その内容を保護者に周知させる必要があるためである(甲A6・7頁,甲A12の5・6頁)。この作業を怠っていたのでは,いざ非常災害が実際に発生したとき,教職員が,保護者との連絡手段の探索や児童の安否を心配して学校を訪れた保護者への対応に時間をとられ,速やかな第三次避難への移行に支障が生ずる恐れがある(例えば,予め,津波警報が発令さ
れたときには,児童を帰宅させず避難場所において学校側が保護し,津波警報解除後に避難場所で保護者に引き渡す旨を協議し,保護者にこれを周知しておけば,上記のような混乱を避けることができる。)。したがって,教職員らが保護者の顔を把握できていたからといって,児童の引渡方策に係る事前協議とその保護者への周知作業を省略してよい理由とはならないし,児童の引渡方策に係る本件危機管理マニュアルの上記規定内容が不十分であることは明らかといえるから,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。
C1
校長が作成するものとされた「学校災害対策要綱」を作成していなかっ
新方針は,市教委の主催により開催された「平成21年度石巻市学校安
依頼

も,G教育長から,「学校災害対策要綱」が各学校において実際に策定されているかを再確認すること
(教頭に確認すること)
が指示された
(上

本件依頼当時,市教委教育総務課の担当者であったC5は,「学校災害対策要綱」と「危機管理マニュアル」は,必ずセットで作成しなければならないものではなく,それぞれの内容が分かりやすく明記されているのであれば,
両者が一つになっても良いと認識していた旨供述する
(証
人C5・16頁)。しかし,大川小の平成22年度教育計画(本件教育計画)中には,「学校災害対策要綱」のように,大川小における災害対策の基本的事項をまとめて定めた文書は存在しない上,本件依頼文書に添付された「石巻市立〇〇〇学校災害対策要綱(案)」の第4条に規定
されていた「校内災害対策委員会」(災害対策に関する重要事項を審議するための委員会)
についても,
本件教育計画中にはそれに類似した
「危
機管理委員会」(これは,自然災害,不審者,交通事故等に対応するための委員会であって,自然災害に対する事前対応を専門に検討する委員会ではない。)の記載が存在する(甲A9・42頁)ものの,その構成員や具体的な活動状況がうかがえる文書は存在しないから,大川小において,本件教育計画中の本件危機管理マニュアルの作成をもって「学校災害対策要綱」の作成に代えられていたと評価することはできない。
の作成を確認し,G教育長が,本件依頼文書や「平成22年度8月定例校長会議」においてその作成を強く推奨していた趣旨は,「学校災害対策要綱」の作成によって,各学校における災害(特に,当時,近い将来高い確率で発生することが想定されていた宮城県沖の本件想定地震)に対する組織的な事前対策を更に促進しようとしたところにあったと考えられるのであって,大川小においてそれが作成されていなかったという事実は,大川小において児童の引渡方策に係る事前協議とその保護者へ
おける本件想定地震及びこれによって発生する津波への事前防災対策が不備であったことを一層明らかにする事情であるということができる。これに対し,市教委は,大川小から本件教育計画が送付されたときも,平成22年度に指導主事が大川小を訪問したときも,「学校災害対策要綱」が作成されていない不備を一度も指摘せず,大川小に対しその不備を是正する指導をしなかった(原審証人C1・24頁,当審証人C1・3頁・12頁・30頁~31頁)。
以上の事実は,C1校長等が,個々の在籍児童及びその保護者との関係で規範性を帯びることになった学校保健安全法27条に基づく安全計
画策定義務の履行を懈怠していたことを示すものであり,
C1校長等に,
本件安全確保義務の懈怠があったことを裏付ける重要な事情といえる。イ
第1審被告らの主張について
第1審被告らは,本件震災前に,本件危機管理マニュアル中に,第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載する改訂をすることはおよそ不可能であったと主張する。
しかし,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。
a
第1審被告らは,津波からの第三次避難場所を事前に本件危機管理マニュアルに設定することが法的義務として求められることがあり得るとすれば,大川小にまで津波が到達することについての具体的な予見可能性があったことが最低限の前提とされなければならないところ,本件震災前に存在していた知見に照らしても,地域住民の津波に対する認識に照らしても,C1校長等が,大川小まで津波が到来することを予見できなかったから,本件震災前に,本件危機管理マニュアル中に,第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載する改訂をすることはおよそ不可能であったと主張する。
しかし,本件時点において,C1校長等が,大川小が本件想定地震により発生する津波の被害を受けることを予見することは十分に可能であったと認めら
ら,第1審被告らの上記主張はその前提を欠き,採用することができない。

b
第1審被告らは,
避難場所,
避難距離及び避難経路の観点から見て,
第1審原告らの主張に係る避難場所は,いずれも避難場所として不適当であるから,本件震災前に,本件危機管理マニュアル中に,第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載する改訂をするこ
とはおよそ不可能であったと主張する。
そこで,本件時点において,本件安全確保義務(本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載するなどして改訂すべき義務)を履行する上で必要な,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所,避難経路及び避難方法が存在したかどうかを検討すると,後掲各証拠によれば,以下のような認定判断が可能である。

る北上川の感潮区域と約200mの距離を隔てて隣り合っていたものであり,その敷地の標高は1mないし1.5mであった。また,大川小の立地していた石巻市釜谷地区は,裏山を除けば,北上川の右岸に大川小の敷地標高とほぼ変わらない標高の平地が広がった地形となっており,本件時点において,同地区内に大川小を含め2階建てを超える建物は存在しなかった(甲A3・写真1,甲A52の3,甲A74,乙5の2,乙11の1~11の3,乙18,19,乙21の9~21の11)。そうすると,本件想定地震によって発生した津波が北上川を遡上し,大川小付近においてその遡上した津波の高さが2mを超えると想定されていたこと(乙48の1・89頁・92頁)や波状段波が発生して遡上する津波の水位が大きく変
地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるための第三次避難場所として,大川小の校舎の2階は適当であるとはいい難く,他に第三次避難場所として適当な高台や建物は,裏山を除き,
石巻市釜谷地区内にはないことになる。
もっとも,
裏山
(第

1審原告らの主張に係るAルート,
Bルート及びCルートを含む。

は,平成16年2月27日,宮城県により急傾斜地崩壊危険区域に指定されており(平成16年宮城県告示第214号。乙13,乙14の1~14の3,乙16の1),本件ハザードマップ中の洪水・土砂災害ハザードマップにおいても土石流危険区域に指定されていた(甲A96の2・4頁,乙4・40頁)上,本件想定地震の際には震度5強の揺れに曝されることが想定されていた(乙4・65頁~66頁)から,上記のように本件想定地震による地震動によって崩壊の危険のある裏山を第三次避難場所として選定することも不適当といわざるを得ない。

な高台や建物が見当たらない以上,第三次避難場所は同地区外に選定するほかない。そして,同地区に隣接する高台として最も有力な第三次避難場所の候補は,「バットの森」であるといえる。すなわち,「バットの森」は,平成19年11月,大川小と大川中の児童・生徒全員のほか,保護者及び森林関係者約300人が参加して植樹祭を行った場所であり,
車でも登坂できる程度の林道が整備され,
標高20mを超えた場所には,緩やかな斜面が広がる場所がある。大川小の正門から三角地帯を通過して「バットの森」の林道入口ま学年に
在籍中の児童であっても「バットの森」まで安全に登ることができることは,上記植樹祭の経験で実証済みであったし,1年生の足でも,大川小の正門から「バットの森」まで約20分で到達することが可能であった(証人C3・38頁~39頁)。
大川小の正門から「バットの森」の林道入口まで行くためには,
上記のとおり,三角地帯を通過することが必要となるが,石巻市釜
谷地区の地形上の制約(大川小の敷地の南側に,石巻市の釜谷地区と雄勝地区を隔てる標高372mの小渕山の尾根が迫っており,そ
の3)。)により,同地区内から同地区外に出るためには,三角地帯を通過する以外に方法はない(平常時であれば,石巻市釜谷地区に隣接する同市長面地区方向に移動する選択も考えられるが,津波来襲の危険が迫っている非常時に,追波湾(太平洋)により接近する上記移動方向を選択することは論外である。)。大川小は,追波湾までの直線距離が約3.7㎞,大川小付近の北上川に架けられた
津波が陸上を遡上する速度が時速約30㎞であるとすれば(甲A274・36頁。なお,甲A287・18頁には,時速18㎞から21㎞との記載もある。),平成16年報告及び平成23年報告において,本件想定地震発生後旧河北町に津波が到達するまでの時間が
すれば,大川小及び三角地帯に本件想定地震によって発生した津波が到達するまで28分(≒21.0+3.7÷30×60)以上の時間があることとなり(この事実も,本件時点における大川小の重要な実情であったといえる。),本件想定地震発生後(あるいは,それから数分以内に発令される(甲A195)津波警報発令後),速やかに第二次避難場所である大川小の校庭を離れて三角地帯に向かえば,本件想定地震によって発生した津波が三角地帯に到達する前に三角地帯を通過し終えることは可能であるし,三角地帯を通過して「バットの森」まで到達することも可能であると計算することができたと考えられる。
第1審被告らは,「バットの森」という呼称は地域において浸透

しておらず,共有されていなかったし,本件震災時,津波から避難するため,予防的に「バットの森」に避難した地域住民は一人も存在しなかったこと,「バットの森」は,避難限界距離とされる500mを超える位置に所在する上,高齢者や乳幼児を含む地域住民も避難することを想定すれば,大川小から「バットの森」の入口までの避難に要する時間は約23.3分となり,これほどの長時間の徒歩による移動が必要となる避難先は避難先として不適当であるこ
と,避難経路として見ても,「バットの森」に至るためには,標高6.7mの三角地帯から標高2m程度の低地を通過しなければならないから,避難経路としても不適当であること,「バットの森」の周辺には建物は何もなく,駐車場もなく,公園として利用されるような実態もなく,入口から登る林道は,自家用車で進入する道路でもなく,地域住民や大川小児童らが日常的に立ち入る場所ではなかったから,避難場所としても不適当であったと主張する。
しかし,宮城県津波対策連絡協議会が策定した「宮城県津波対策

討委員会が平成14年3月に作成した「津波対策推進マニュアル検
ろ(甲A263・13頁),同報告書によれば,「避難できる限界の距離は最長でも500m程度を目安とする(1,000m程度を目安としてもかまわないが,災害時要援護者(災害弱者)等の避難できる距離,避難場所等までの距離などを考慮しながら,各地域において設定する必要がある)。」と記載されている(甲A275・38頁)から,大川小の正門から「バットの森」の林道入口までの
約を有する大川小の第三次避難場所として,「バットの森」が不適
当であったとはいえない。
また,確かに三角地帯から「バットの森」に至るためには,国道
398号線上の歩道
(標高は約2m)
を通過しなければならないが,
その距離は約400mに過ぎない上(乙11の1),速やかに第二次避難場所である大川小の校庭を離れて
「バットの森」
に向かえば,
本件想定地震によって発生した津波が上記歩道に到達する前に通過し終えることは可能であるといえるから,避難経路としても不適当であるとはいえない(本件ハザードマップ中の洪水・土砂災害ハザードマップ(乙4・40頁)には,住民の避難方向を示す矢印が記載されているところ,その矢印は,三角地帯方向から国道398号線沿いに釜谷トンネル方向に向けて逃げることを指示しているか

記矢印と一致している。)。むしろ,三角地帯は,本件想定地震によって発生した津波が遡上することが想定されていた北上川の右岸堤防の直近にあるため,上記津波による浸水の被害をまともに受ける危険がある上,国道398号線と本件県道との交差点であって,その交差点付近には,歩道や交差点内のゼブラゾーンと空地部分を除き,人が滞留できる場所は広
難のために同交差点を通過する多数の車両との接触事故等の危険を考慮すれば,大川小の在籍児童及び教職員とその他の地元民を含め100人を超える避難者となることが予想される避難場所として,三角地帯が不適当であることは明らかである。
さらに,本件時点において,石巻市釜谷地区の住民にとって「バ
ットの森」を避難場所とする認識は乏しかったとしても,C1校長等が「バットの森」を第三次避難場所とすることが適当という判断に至れば,本件時点以降,本件地震が発生するまでの間,上記住民
と協議し,本件想定地震が発生した場合の大川小の避難方針を説得する作業を行うべきであったのであり,その作業を行うための時間は十分あったというべきである。「バットの森」の周辺に建物等が
件時点において,C1校長は,大川小の施設又は設備について,遅滞なく,在籍児童の安全の確保を図る上で支障となる事項の改善を図るために必要な措置を講じ,当該措置を講ずることができないときは,大川小の設置者である第1審被告市(市教委)に対してその旨を申し出るべき義務を有していたものであり,D教頭も,大川小の施設又は設備について,遅滞なく,在籍児童の安全確保に必要な措置を講じるよう,又は当該措置を講ずることができないときは,第1審被告市(市教委)に対してその旨を申し出るようC1校長に対して進言すべき義務を有していたものであるから,
「バットの森」
を第三次避難場所とすることが適当という判断に至れば,本件時点以降,本件地震が発生するまでの間に,「バットの森」の中に雨風を凌いだり,水や非常食等を保管できるプレハブ小屋の設置,夜間照明,
情報機器及び避難場所表示の設置等を第1審被告市
(市教委)
に対して申し出る等の措置をとるべき義務があり,その措置をとるための時間は十分あったというべきである。
したがって,第1審被告らの主張する事情は,いずれも,「バッ
トの森」が大川小の第三次避難場所として不適当であるとする合理的理由とはいえない。
以上のとおりであるから,本件震災前に,本件危機管理マニュア
ル中に,第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載する改訂をすることはおよそ不可能であったとする第1審被告らの主張を採用することはできない。

c
第1審被告らは,危機管理マニュアルを作成・改訂するためには,防災に関する科学的知見の習得と周知,地域住民等との意見調整,避難路等の設備の設置等が必要であるから,学校保健安全法29条1項違反が問題とされ得るのは,以上のような危機管理マニュアルの作成・改訂に要する期間を考慮した上で,なおその時点までに作成・改訂が可能であったと評価できる場合に限られるところ,仮に本件危機管理マニュアルに不備な点があったとしても,その改訂には複数年を要するから,本件地震の発生までに本件危機管理マニュアルの改訂を完了することは不可能であったと主張する。
しかし,文科省,第1審被告県及び第1審被告市が,学校保健安全法29条1項の施行に先立つ平成7年11月から,災害時における児童の安全確保に万全を期する上で,教職員の災害時における具体的行動を記載した危機管理マニュアルの整備の重要性を指摘し,その整備に必要な津波を含む防災に関する科学的知見の習得と周知を目的とし
るから,本件時点においては,C1校長等に対し,本件危機管理マニュアルの改訂に必要な防災に関する科学的知見は既に周知済みであったと認められる。
また,C1校長等が本件安全確保義務(本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載するなどして改訂すべき義務)を履行するに当たり,大川小が立地する釜谷地区の住民と大川小との避難行動が整合的なものとなるよう地域住民等との間で連携が図られるべきことは当然であるところ(学校保健安全法30条),大川小において平成22年6月に実施が予定されていた地震を想定した避難訓
練(甲A9・110頁~111頁)の準備又はその実施の機会等を捉え,地域住民等との間で意見交換を行い,釜谷地区には津波は来ないという釜谷地区の住民の認識が根拠を欠くものであることを伝えて説得し,その認識を改めさせた上で,大川小の在籍児童を避難させるべき第三次避難場所の位置,避難経路及び避難方法について調整を行うことは十分に可能であったと認められる。

ットの森」は,本件時点において,避難経路は既にほぼ整備済みであったし,本件時点以降,本件地震が発生するまでの間に,「バットの森」の中に雨風を凌いだり,水や非常食等を保管できるプレハブ小屋の設置,夜間照明,情報機器及び避難場所表示の設置等を第1審被告市(市教委)に対して申し出て,その措置をとらせるための時間が十
したがって,C1校長等は,遅くとも,本件時点から本件地震が発生した時点までの間に,本件危機管理マニュアルの不備な点を改訂することは十分に可能であったと評価することができるから,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。
第1審被告らは,市教委は,大川小以上に,第三次避難に適した安全な避難場所を提案できるほど地域の実情を把握しておらず,その余地もなかったから,市教委において,第三次避難場所として「高台等」と記載すべき旨の指導・助言,あるいは,具体的に第三次避難場所を特定した指導・助言を行うことは考えられなかったと主張する。

関する規則6条2項により,石巻市内の小中学校から毎年4月30日までに各学校の実情が記載された教育計画の届出を受けており,大川小からも同様に毎年教育計画(甲A8,甲A9,甲A183,甲A184)
の届出を受けていたから,大川小の実情については,十分な情報を収集・蓄積できる立場にあったといえるし,毎年実施する指導主事による学校訪問の際に,上記の方法で収集・蓄積した大川小の実情を確認し,これに基づき,本件危機管理マニュアルの内容の不備な点を是正するよう
年度から,「すべての学校において地域の実情に即した災害対応マニュアルの策定や見直しを行うとともに,関係機関及び地域住民との連携を密にし,災害時において迅速かつ適切な対応ができる体制の整備に取り組む」とする「石巻市教育ビジョン」に沿って事前防災を含む諸々の施策を進め,定例教頭会議等において,危機管理マニュアルの整備を繰り返し強調し,その参考例(災害対応マニュアル参考例)を各学校に提供した上,各学校における危機管理マニュアルの策定・改訂作業の取組の集大成ともいうべき本件依頼文書を発出し,さらに,F危機管理監に,津波の危険がある場合は高台に避難すべきこと(津波から身を守るには高台に避難するほかないこと)を,研修会に出席した教頭や中堅教員に対し説明させるなどしていたのであるから,少なくとも,本件危機管理マニュアル中の第三次避難場所の記載を点検していれば,その不備を指摘することができたものと認められる。
したがって,第1審被告らの上記主張を採用することはできない。ウ
以上のとおりであるから,C1校長等は,学校保健安全法29条1項に基づき国賠法1条1項にいう違法を根拠づける職務上の注意義務として成立した本件安全確保義務(本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載するなどして改訂すべき義務)を懈怠したというべきである。
3
C
1校長,D教頭及びE教務主任が,本件安全確保義務(本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載するなどして改訂すべき義務)を履行していれば,本件結果を回避することができたか(本件安全確保義務の懈怠と本件結果との間に因果関係は認められるか。)について

後被災児童23名が本件津波によって死亡する(本件結果)までの経過について,以下の事実を認めることができる。

平成23年3月11日午後2時46分(以下,平成23年3月11日の時刻の記載は月日を省略する。),本件地震が発生し,宮城県北部では最大で震度7,
石巻市内では震度6強が観測され,
石巻市内の観測地点では,
震度4以上の揺れが約160秒間継続した(甲A53・4-2頁・4-5頁~4-6頁・4-11頁)。


本件地震の発生と同時に,大川小の校舎内にいた児童は,教職員(C1校長と用務員を除く11名。以下同じ。)の指示で机の下に隠れた(一次避難)。本件地震の揺れが止んだ後,教職員が在校していた児童全員を校庭に避難させたほか,下校を始めていた児童も校内に戻り,午後3時少し前頃までに,103名の児童と教職員が校庭に避難した(二次避難)。教職員は,校庭に二次避難させた児童を整列させて点呼を取る一方,校舎等を見回って逃げ遅れた児童がいないことを確認した(甲A22の19,甲A24,28,39,乙1本文・1頁・78頁~80頁)。


午後2時49分,気象庁が岩手県,宮城県及び福島県に大津波警報を発令したことから,河北総合支所は,午後2時52分,防災行政無線で,サイレンを鳴らすとともに,「ただ今,宮城県沿岸に大津波警報が発令され
ました。ただ今,宮城県沿岸に大津波警報が発令されました。海岸付近や河川の堤防などには絶対近づかないでください。と呼び掛けた

(以下
「本
件広報①」という。)。大川小の校庭の北西角には防災行政無線の屋外受信設備が設置されていたから,この屋外受信設備から流れた本件広報①の内容は,校庭に避難中の児童及び教職員の全員に伝わった(甲A21,甲A119の2,甲A120・写真52・54・59,甲A181,甲A189,甲A194の5・7頁,乙1本文・79頁)。

スクールバスは,尾崎地区及び長面地区への便が午後2時58分に出発予定であったが,児童はこれには乗らず,校庭において二次避難を続けていた。スクールバスは大川小の正門付近で待機を続けていた(甲A72の10・2頁,乙8・3枚目,乙97・3頁,証人N・21頁~22頁,証人C2・4頁~5頁・8頁)。


大川小には,本件地震発生の直後から,保護者等が児童を引取りに訪れており,その都度,教職員が引取りに来た保護者等の名前を確認しつつ児童の引渡しを行った。二次避難をした児童のうち27名は,午後3時30分頃までに保護者等によって引き取られて教職員の管理下を離れた(甲A22の4~甲A22の18,甲A22の20,甲A22の22~甲A22の26,甲A22の28~甲A22の44,甲A22の53~甲A22の55,甲A24,甲A72の10,乙1・本文1頁・78頁~83頁,乙97・4頁~5頁,証人N・4頁~8頁)。


本件地震発生後,大川小を避難場所として避難してきた住民が体育館を訪れ始めたが,教職員が体育館の状況を確認した結果,天井の部材が落下し,暖房用の灯油タンクの油漏れを確認したことから,教職員は,体育館を避難場所として使用できないと判断し,避難してきた住民には危険であるから体育館から離れるよう促した(甲A28,甲A39・3頁,乙1・80頁)。


河北総合支所は,午後3時10分頃にも,防災行政無線で,「現在,宮城県沿岸に大津波警報が発令中です。現在,宮城県沿岸に大津波警報が発令中です。海岸付近や河川の堤防などには絶対近づかないでください。」と繰り返し呼び掛けた(以下「本件広報②」という。)。上記ウのとおり,大川小の校庭の北西角に設置されていた屋外受信設備から流れた本件広報②の内容は,校庭に避難中の児童及び教職員の全員に伝わった(甲A21,甲A181,甲A189,甲A194の5・7頁)。


NHKは,午後2時48分以降,ラジオ放送で,NHK総合テレビ放送の音声をそのまま放送する「T-Rスルー放送」を行うとともに,午後2時49分には,放送内容を,アナウンサーによる情報の読み上げや避難の呼び掛けと各地の地震発生以降の映像等による本件地震に関する報道に切り替え,これ以降,NHKのテレビ及びラジオで,津波等に関する情報や呼び掛けとして,以下の内容を音声で放送した(甲A20,69,乙12)。
午後2時49分
「午後2時46分頃,東北地方で強い地震がありました。震度7が宮城県北部です。」などと各地の震度を伝えた。
午後2時51分
宮城県では,大津波警報が出ており,午後3時に高さ6mの津波の到達が予想されていること等を伝え,大津波警報が出ている海岸や川の河口付近には絶対に近づかないように呼び掛けた。
午後2時54分から午後3時まで
大津波警報が岩手県,宮城県,福島県に出ていること,宮城県沿岸には午後3時に高さ6mの津波が来ると予想されていること,この時刻と高さはあくまでも目安であることを伝え,早く安全な高台に避難するように呼び掛けた。

午後3時から午後3時5分まで
宮城県には午後3時に6mの津波が到達する見込みであること,宮城県石巻市鮎川で午後2時52分に50㎝の津波が観測されたこと,津波は繰り返し押し寄せるおそれがあること,宮城県七ヶ浜町では防災無線で住民に避難指示を出したことを伝え,大津波警報と津波警報が出されている沿岸の方は,早く安全な高台に避難するように呼び掛けた。午後3時5分から午後3時10分まで
宮城県に午後3時に予想高6mの津波の到達が予想されていることを伝え,海岸や川の河口付近には絶対に近づかず,沿岸付近にいる方は早く安全な高台に避難するように呼び掛けた。
午後3時10分から午後3時15分まで
午後2時46分頃宮城県栗原市で震度7を観測したこと,宮城県,岩手県及び福島県に大津波警報が出たこと,宮城県石巻市鮎川で午後2時52分に50㎝の津波が到来し,今後も2回,3回と繰り返し押し寄せるおそれがあることを伝え,海岸や川の河口付近の方は絶対に近づかず,早く安全な高い所に避難するように呼び掛けた。
また,
この間の午後3時14分には,
大津波警報が青森県太平洋沿岸,
千葉県九十九里外房及び茨城県に追加されたことを伝えた。
午後3時15分から午後3時20分まで
岩手県釜石市では,津波が押し寄せて海水があふれ陸上に上がってきており,津波で岸壁と海面との境が分からなくなっていて,トラックや多くの車が浮いて流されていること,岩手県大船渡市では,津波が川の辺りを逆流し,海から海水が押し寄せ,車が海水に浸かっており,岸壁から海水が陸地にもあふれてきていることを伝え,早く安全な高台に避難するように繰り返し呼び掛けた。
午後3時20分から午後3時25分まで

大津波警報が出ている岩手県,宮城県,福島県の沿岸付近の方は早く安全な高台に避難するように呼び掛けるとともに,沿岸に津波が到達している様子として,岩手県釜石市では道路に勢いよく海水があふれて何台もの車が流され,道路に大きな船も流れていること,福島県いわき市小名浜では建物がほぼ波に呑み込まれて,波がかなりの高い位置まで上がってきていること等を伝えた。
午後3時25分から午後3時30分まで
青森県から千葉県にかけての太平洋沿岸に大津波警報が出ていること,各地に到達した津波の高さが,岩手県釜石港で午後3時21分に4m20㎝,岩手県大船渡港で午後3時15分に3m30㎝,岩手県宮古港で午後3時19分に2m80㎝,宮城県石巻市鮎川で午後3時20分に3m30㎝であることを伝えるとともに,沿岸に津波が到達している様子として,宮城県気仙沼市では,大きく波が白波を立てて渦巻き,海面なのか陸上なのか分からない状況となっており,大きな船や住宅の屋根のようなものや港で使われていた箱などが流されていること,千葉県銚子市では,津波の波に流されて船が岸壁にぶつかっていることを伝え,津波は繰り返し押し寄せ,2回目,3回目のほうが高くなることもあり,津波の高さは検潮所で観測されたものであって,場所によっては更に大きな津波が到達している可能性があるとして,海岸や河口付近には絶対に近づかず,早く安全な高台に避難するように呼び掛けた。この間の午後3時28分,アナウンサーは,本件地震の規模が推定でマグニチュード7.9であることを伝えた。

気象庁は,午後3時14分,宮城県に到達すると予想される津波の高さを10m以上に変更した。
この変更後の津波の予想高の情報は,NHKでは,発表直後にテレビ放送の字幕で伝えられ,株式会社FM仙台のFM放送では,午後3時20分
から午後3時25分までの間に音声で放送されたが,NHKのテレビ音声とラジオでは,午後3時32分に初めてアナウンサーが情報を口頭で伝えた(甲A20,乙12)。

大川小の教職員は,本件地震の揺れが収まった直後から午後3時30分過ぎまでの間,児童らとともに校庭を避難場所として二次避難を続けていた。二次避難中も余震が繰り返し発生しており,石巻市内の観測点では,本件地震の揺れが収まってから午後3時30分までの間に,震度1以上の余震が20回発生し,そのうち震度3以上のものは6回であった(乙1・60頁・84頁)。


上記コの二次避難中,教職員は,児童を校庭から更に別の場所に三次避難させるべきかどうか,三次避難をさせるとしたらどの場所が適当かを協議,検討していた。とりわけ,E教務主任は,二次避難開始直後の早い段階から裏山への三次避難を提案していたが,強い余震が連続し,山鳴りがする中で,児童を裏山へ登らせるのは危険であるという意見を述べる教職員もあり,協議はまとまらなかった。もっとも,D教頭は,本件広報①②により宮城県に大津波警報が発令され,避難が呼び掛けられていたことや,児童を引き取りに来た保護者などからも,「津波が来るから裏山に逃げて。などと助言されるなどしたことから,

「裏の山は崩れるんですか。,

「子供達を登らせたいんだけど。」,「無理がありますか。」などと釜谷地区の住民の意見を聴いた上,釜谷地区の区長に対し,「山に上がらせてくれ。」と言って裏山に三次避難することを打診した。しかし,区長からは,「ここまで来るはずがないから大丈夫」,「三角地帯に行こう。」との発言があり,裏山に避難することを反対されたため,D教頭は,児童を裏山に三次避難させることを諦め,次善の策として,大川小の校庭よりも高台にある三角地帯への三次避難を決断した(甲A22の4~甲A22の11,甲A22の14,甲A22の18,甲A22の20~甲A22の2
2,甲A22の27,甲A22の32,甲A22の36,甲A22の40,甲A24,28,甲A72の10,甲A181,乙1・80頁~84頁,乙97,証人N・6頁~8頁)。

校庭に残っていた二次避難中の76名の児童は,午後3時30分過ぎまで校庭に留まった後,遅くとも午後3時35分頃までに,教職員11名の指示の下,列を作って交流会館の駐車場を通り,三角地帯の方向に徒歩で向かった。これに付き従う地域住民もいた。交流会館の敷地を列の最後尾が通り抜けた頃,北上川を遡上してきた本件津波が,新北上大橋付近の右岸堤防から越流して一帯に襲来し,教職員と児童は津波に呑まれた。本件津波から生き残ったのは,児童4名とE教務主任のみで,被災児童を含むその余の児童72名と教職員10名は全員死亡した(そのほか,当日欠席早退した児童のうち2名も本件津波に被災して死亡した。)(甲A28,39,107・3頁~4頁,乙1・本文1頁・84頁~85頁)。

大川小には,午後3時37分頃に津波が到達し,周辺一帯が水没し,校舎内の複数の時計がその前後の時刻で停止した。本件津波の水面は,最終的には,
大川小の校舎付近では2階建ての管理・教室棟の屋根まで達し,

舎2階の天井には,標高8.663mの位置に浸水の痕跡が残った(甲A178の1・写真②,乙1・63頁,乙18)。


津波が新北上大橋付近の右岸堤防から越流した時点で,三角地帯の交差点では,当時,河北総合支所副参事であったC2ら同支所職員6名が車両の誘導に当たっていたが,北上川から押し寄せる津波を見てとっさに間近の裏山に駆け上り,逃げ遅れて津波に呑まれた1名を除く5名が生き残った。そのうち1名は,裏山の上から,本件津波が新北上大橋付近を上流方向に遡上を続ける様子を撮影した。このとき撮影された映像に残された本件津波の水位は,標高7.4mから7.6mの新北上大橋上の路面と同程度であった(甲A22の47,甲A101,乙11の1,乙32・1頁~
2頁・7頁~8頁,証人C2・9頁~12頁)。

35分頃までの約35分間,大川小の校庭において二次避難を続けた後,三角地帯に向けて三次避難を開始した直後に本件津波による被害を受けたものであるが,D教頭及びE教務主任は,二次避難開始後の早い時期から(遅くとも,本件広報①の直後から),児童を校庭から更に別の場所に三次避難させる必要性を認識し,三次避難場所としてどこが適当かを検討していたものD教頭及びE教務主任
は,本件地震発生前から,日常の大川小勤務を通じ,北上川を遡上する津波によって大川小が被災する可能性について具体的な危機感を抱いていたと推認されるのであって,その危機感が現実のものとなった本件広報①の直後から,
三次避難の検討に入っていたと認めるのが相当である。
そうでなければ,
E教務主任が,二次避難開始直後の早い段階から裏山への三次避難を提案するはずはなく,また,D教頭が区長に対し,児童を裏山に三次避難させることを打診したのに対して,区長から,津波が「ここまで来るはずがないから大丈夫」と言われているにもかかわらず,児童を実際に三角地帯まで移動させようと考えるはずはない。この点において,津波が大川小まで来るはずがないという認識を有していた区長や釜谷地区の住民らとD教頭及びE教務主任との間には,津波に対する認識に齟齬があった。)。
D教頭及びE教務主任が児童を三次避難させる必要性を認識していたにもかかわらず,実際の三次避難の開始まで約35分を要した原因は,次の点にあると考えられる。

D教頭及びE教務主任が,本件地震発生当日休暇により不在であったC1校長との間で,事前に,第三次避難場所として検討していた場所は裏山C1校長との間で裏山を第三次避難場所とす
ることを正式決定していたわけではなかった上,二次避難中も余震が繰り
返し発生する中で,児童を裏山へ登らせるのは危険であるという意見も出たことや,区長に裏山に避難することを反対されたことから,児童を裏山に登らせることを躊躇せざるを得なかった。

二次避難中,大川小の教職員らは,校庭に避難した児童の面倒を見ていたほか(乙1・80頁),大川小に児童を引き取りに訪れる保護者等への対応,避難所に指定されていた大川小の校舎の安全点検や避難者への対応,本件津波の情報収集(D教頭は,ラジオで情報を収集していたものと認められる(甲A22の15)。)等の作業に忙殺されており,11名の教職員がまとまって裏山以外の第三次避難場所を協議・検討できる時間はなかった(甲A28)。
C1校

長等が本件安全確保義務(本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,本件想定地震によって発生した津波による浸水から児童を安全に避難させるのに適した第三次避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載するなどして改訂すべき義務)を履行していれば,被災児童が本件津波で被災して死亡するという本件結果を回避することができたと認められる。その理由は,以下のとおりである。

の児童を三次避難させるための最も有力な第三次避難場所の候補は,「バットの森」であったといえる。そして,大川小の正門から「バットの森」までは,低学年の児童の足でも約20分で到達することが可能であった。したがって,本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,第三次避難場所として「バットの森」を定め,かつ避難経路及び避難方法について,三角地帯経由で徒歩で向かうと記載してあれば,D教頭が本件広報①を認識した午後2時52分の直後に「バットの森」への三次避難を開始することにより,午後3時30分までには十分標高20mを超える「バッ
トの森」に到達することができ,本件津波による被災を回避できたはずである。避難経路上には,避難場所としては不適当な三角地帯やそれよりも標高の低い場所が約400mあったが,いずれも,三次避難の開始を早めることにより,津波が到達する前に通過することが可能であった。イ
形上の制約により,第三次避難場所として適当な高台や建物は同地区内にはなかったと認められる。したがって,第三次避難場所は同地区外に選定するほかなく,避難経路には三角地帯等の避難場所として不適当な場所も存在するから,その場所を津波が到達する前に通過するためには,早期に三次避難を開始するしか方法がない(これも,大川小の重要な実情であった。)。

に,保護者との間で児童の引渡方策に係る事前協議を行い,その内容を保護者に周知する作業をしておくべきであり,それをすることは十分可能であった。これを行っていれば,本件地震発生後に児童引取りのために大川小を訪れる保護者の数を大幅に少なくすることができたはずであって,上
され,三次避難の開始が遅れるという事態を回避することができたといえる。
C1校長等が本件危機
管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に,第三次避難場所として「バットの森」を定めるに当たっては,大川小が立地する釜谷地区の住民と大川小との避難行動が整合的なものとなるよう地域住民等との間で連携が図られるべきところ,そのための地域住民との協議は,本件地震発生前に済ませておくべきであり,それを済ませることは十分可能であった。これを済ませておけば,第三次避難場所を巡って区長や地域住民と改めて意見
交換をする時間を省くことができるから,これにより三次避難の開始が遅れるという事態を回避することができたといえる。

ップ中に,大川小が本件想定地震によって発生した津波からの避難場所として指定されていたことは,誤りであったと評価されるべきである。上記C1校長は,大川小
の施設又は設備について,遅滞なく,在籍児童の安全の確保を図る上で支障となる事項の改善を図るために必要な措置を講じ,当該措置を講ずることができないときは,大川小の設置者である第1審被告市(市教委)に対してその旨を申し出るべき義務を有していたものであり,D教頭も,大川小の施設又は設備について,遅滞なく,在籍児童の安全確保に必要な措置を講じるよう,又は当該措置を講ずることができないときは,第1審被告市(市教委)に対してその旨を申し出るようC1校長に対して進言すべき義務を有していたものであるから,C1校長及びD教頭には,第1審被告市(市教委)に対し,大川小を,本件想定地震によって発生した津波からの避難場所の指定から外すよう申し出るべき義務があった。これにより,大川小が避難場所から外されていれば,避難場所として使用できるかどうかの校舎の安全点検や校舎を訪れた避難者に対応する時間を省くことができるから,これにより三次避難の開始が遅れるという事態を回避することができたといえる。
以上のとおり,C1校長等が本件安全確保義務を履行していれば(本件危機管理マニュアル中の第三次避難に係る部分に「バットの森」を定め,かつ避難経路及び避難方法について,三角地帯経由で徒歩で向かうと記載してあれば),被災児童が本件津波による被災で死亡するという本件結果を回避することができたと認められるから,本件安全確保義務の懈怠と本件結果との間に因果関係を認めることができる。

したがって,C1校長等は,本件安全確保義務を過失によって懈怠したものであって,国賠法1条1項にいう違法の評価を免れないから,第1審被告らは,第1審原告らの後記損害を賠償する責任があるというべきである。4
C1校長,E教務主任,市教委の職員ら,第1審被告市長及び第1審被告県知事について,本件結果発生後の言動に係る注意義務違反の事実(本件事後的違法行為に係る責任原因)が認められるか。)について

(本件津波からの避難誘導義務違反に係る責任原因)については判断する必
因)について判断する。
全趣旨を総合すると,本件津波襲来後
の事実経過について,以下の事実を認めることができる。

E教務主任と生存児童4名のうち1名は,裏山の斜面で本件津波から逃れ,平成23年3月11日の夜中に連れ立って裏山の尾根を越え,裏山の南側斜面の麓にあった民家に辿り着き,一夜を明かした。また,生存児童のうち残りの3名も,水に浸かるなどしながらも本件津波から生き残り,裏山に逃れていた地域住民や第1審被告市の職員と共に,繰り返し津波が押し寄せる中で下山することができないまま,裏山の標高15m付近のところで,たき火をしながら夜を明かした(甲A39,80,乙1・86頁~87頁)。


大川小周辺を含む釜谷地区では,平成23年3月12日の昼頃までに本件津波の水は引いたものの,一帯の平地はぬかるんだ土砂と瓦礫で埋め尽くされた状態となっていた(甲A178の1,乙15・57頁,乙96)。

C1校長は,
本件地震発生後,
滞在先である宮城県大崎市内からD教頭,
E教務主任及び市教委等に携帯電話を使用して電話をかけたがいずれも
つながらず,大川小の教職員と連絡を取ることはできなかった。C1校長は,平成23年3月11日のうちに車で大川小に向かったが,道路の寸断により釜谷地区まで行くことができず,同日夜は,河北地区にある石巻市河北総合センター・ビッグバンに泊まり,翌同月12日から同月15日までの間,河北総合支所,避難所及び遺体安置所等において児童や教職員の安否確認等の情報収集を行い,同月15日,生存を確認したE教務主任との間で電子メールにより連絡を取り合って情報を収集するととともに,市教委に収集した安否情報をファックスで報告し,同月16日,市教委を訪れて報告を行った後,同月17日,大川小の現場を訪れた。また,C1校長は,同月25日,E教務主任と面談して詳細に事情を聴取した(甲A9・181頁,甲A25・5頁~10頁,甲A100の1~甲A100の3,乙31,原審証人C1・10頁~15頁)。

本件津波に被災して死亡した児童の多くは,大川小周辺で,本件地震の翌日から1か月程度の間に遺体で発見されたが,一部の児童の遺体は長く行方不明のまま発見されず,被災児童のうち2名の遺体が現在まで発見されていない(乙1・126頁~127頁)。


市教委は,平成23年4月9日と同年6月4日の2回,大川小の本件津波による被災に関して保護者説明会を開催し,平成24年1月及び2月に,本件津波の被災により死亡した児童の遺族に対する説明会を開き,さらに,同年3月から平成26年3月までの間に,7回にわたり,遺族との話合いの機会を設けた(甲A39~48(枝番号を含む))。
E教務主任は,初回の保護者説明会に出席して平成23年3月11日当日の経緯等を説明し,質疑に応じたものの,それ以降は,同年6月3日にC1校長宛てに送信したファックス文書の中で保護者宛てに状況説明と謝罪をしたのみで,心身の不調を理由に保護者説明会等の公の場に一切姿を見せなくなった。その後,E教務主任は,現在までうつ病及び心的外傷
後ストレス障害による治療を継続している(甲A27,28,39,乙35,74)。
第1審被告市のO市長(以下「O市長」という。)は,平成23年6月4日の第2回保護者説明会に出席し,死亡した児童の遺族から被害が人災であることを認めるよう詰め寄られたのに対し,「もちろん気持ちは分かりますけれども,私としてはもし自分の子供が亡くなったら,自分の子供に思いを償っていくという,自分自身に,もう問うということしかないと思います。これが自然災害における宿命だということでしょうか。」と発言した(以下,O市長のこの発言を「O市長の本件発言」という。甲A40の1・11頁)。

市教委は,本件地震発生以降の大川小の状況を把握するため,平成23年3月25日以降,
生存児童やE教務主任,
児童を引取りに行った保護者,
当時大川小周辺にいた地域住民や第1審被告市の職員等の多数の関係者から事情の聞き取りを行い,さらに,被聴取者ごとに,聞き取り時の手書きメモをもとに内容を整理し清書した聞き取り記録を作成したが,聞き取りの際に録音は行わなかった。また,第1審被告市は,平成23年8月頃までに,E教務主任や一部児童からの聞き取り時の手書きメモを廃棄したことを明らかにした(甲A31の1~甲A31の3)。


第1審被告県のP知事(以下「P知事」という。)は,平成26年8月23日,大川小の校舎を訪れた際,民放テレビ局の取材に応じ,裏山に逃げれば被災児童は助かった旨の発言をした(以下「P知事の本件発言」という。)が,原審判決後,平成28年10月31日の記者会見おいて,上記発言内容と反対の認識を示す発言をした。また,P知事は,同日,原審判決に対し,宮城県議会に諮らずに専決処分で控訴することを決定し,同年11月7日,仙台高等裁判所に控訴した(以下「本件控訴」という。甲A71,甲A202の1~202の9,顕著な事実)。

E教務主任,C1校長及び市教委関係者の捜索義務違反及び救命救助義務違反の主張について

第1審原告らは,E教務主任は,津波に被災した際,児童が津波に呑み込まれていくのを現認していたところ,児童の津波被災が教員の過失により招来された事態である以上,津波の第一波が引いた直後に,児童の救助を行うべき義務に基づいて,裏山から下りて児童を助け上げたり,避難中の地域住民に呼び掛けて助力を得るなどの方法により,救助のためのあらゆる行動をとらなければならなかったが,これを怠ったと主張する。
上川の右岸堤防から越流して大川小一帯に襲来し,高さ7m以上に達した本件津波に被災したものであって,その津波の高さや遡上の早さは人力を遙かに超えるものであったこと(甲A101)に加え,津波は何度も繰り返して押し寄せるから,一度津波が引いても高台の避難場所から降りてはならないことは,
津波に関する常識的な知見である
(甲A287・11頁)

したがって,E教務主任に対し,本件津波の第一波が引いた直後に裏山から下りて被災児童の救助活動をするよう求めることは,E教務主任の生命自体を危険に晒す行為を求めるものに外ならない。E教務主任が,学校保健安全法27条及び29条に基づき,津波の危険から在籍児童の生命・身体の安全を確保すべき作為義務(本件安全確保義務)を負っていたとしても,その作為義務の内容として,E教務主任自身の生命を危険に晒してまで被災児童を救命救助すべき義務を負っていたとまで解することは困難である。
したがって,第1審原告らの上記主張は,その余の点について判断するまでもなく,これを採用することはできない。

第1審原告らは,C1校長及び市教委関係者は,本件地震の翌日早朝以降,船で大川小周辺に向かい,児童の捜索と救助に当たるべき義務を負っ
ていたが,これを怠り,児童の捜索救助活動をしなかったと主張する。しかし,C1校長は,本件地震の発生により大川小に設置された災害対策本部の本部長に就任したものである(当時,大川小内において勤務中であった教職員の大半が死亡したため,校内災害対策本部が実際に設置され
避難の段階までは,本件危機管理マニュアルに従って粛々と実行されたことがうかがわれる大川小の避難行動や教職員の行動に照らすと,その前提となる災害対策本部も設置されていたことが推認される。また,本件地震発生当時,C1校長が休暇中であったため,D教頭がC1校長の代理として災害対策本部の本部長の職務に従事していた
(学校教育法37条⑧)
が,
D教頭が本件津波の被災により死亡したため,その後は,C1校長自身が災害対策本部の本部長の職に就いたものと解される。)。その上,同本部を構成する部下職員の大半が本件津波により命を失ったという状況において,C1校長としては,在籍児童及び教職員の安否確認等の情報収集,生存が確認された児童に対する緊急対応,市教委等との連絡調整等,大川小の災害対策本部が担っていた役割をほぼ一人で担わなければならない立場に置かれていた(本件危機管理マニュアル(甲A9・181頁),「学
校における災害対応の基本方針」(新方針)第3項(乙84・2枚目~3枚目),「宮城県教育委員会災害対策基本要領」第35条1項(丙10),「宮城県教育委員会災害対策マニュアル」(丙12・19頁))。しかも,大川小の周辺は,本件震災発生後数日間,ぬかるんだ土砂と瓦礫で埋め尽くされた状態となっていたため,容易には立ち入り難い状態となっていたC1校長が,大川小の災害対策本部長として,
被災児童の捜索救助活動を行わなかったことをもって,任務懈怠の違法があるとまでいうことはできない。
また,市教委所属の職員は,第1審被告市の設置した全64校の小中学
校(乙53)に在籍する児童・生徒及び教職員の安否の確認並びに避難所となった学校の避難所運営等,新方針(乙84・2枚目~5枚目)に定められた業務の管理,執行に忙殺されていたことが推認されるところ,そのような状況下において,被災児童の捜索救助活動を行わなかったことをもって,任務懈怠の違法があるとまでいうことはできない。
したがって,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。市教委による調査,資料収集,資料保存,真実解明,報告の各義務及び第1審原告らの心情に対する配慮義務違反の主張について

第1審原告らは,市教委が行った本件地震発生後の大川小の校庭の様子に関する児童からの事情聴取に当たり,録音を行わなかった上,聞き取り内容を書き取ったメモを廃棄したことが違法であると主張する。
しかし,市教委が,本件地震発生時以降の大川小の状況を把握する目的で独自に行った聞き取り調査において,聞き取り内容を録音するかどうか,聞き取り内容を書き取ったメモを保存するかどうかの判断は,原則として調査の主体である市教委の裁量に委ねられているというべきであって,調査結果を歪める目的であえて録音をせず,書き取ったメモを廃棄した等の特段の事情がない限り,聞き取り内容を録音しなかったこと,また聞き取り内容を書き取ったメモを廃棄したことが,被災児童の遺族である第1審原告らとの関係で違法とされることはないと解するのが相当である。
本件において,
上記特段の事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。
したがって,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。

第1審原告らは,E教務主任が,保護者説明会において,当初,裏山に逃げなかった理由として木が倒れていたことを挙げていたにもかかわらず,後に説明を変えたことが,被災児童の遺族に虚偽の説明をしたものであって,違法であると主張する。
E教務主任は,二次避難開始直後の早い

段階から裏山への三次避難を提案していたものである上,D教頭が三角地帯への三次避難を決断した際も,大川小の2階校舎内の安全性を確認中でその決定経緯を把握していないことがうかがわれる(甲A28,39・2頁~3頁)のであるから,E教務主任が,D教頭が被災児童らを裏山に避難させなかった理由を正確に答えられるはずがない。したがって,三次避難の場所に係るE教務主任の説明内容に変化があったとしても,そのことをもって虚偽の説明をしたと断定することはできない。E教務主任の説明内容(甲A39・2頁~3頁)は,三次避難に至る前までに同人が経験した内容を正直に述べたものであると認められ,その内容に虚偽があると認めることはできない。
したがって,第1審原告らの主張は,その前提を欠き,採用することができない。

第1審原告らは,市教委が,本件地震の約1か月後まで保護者説明会を開かず,平成24年1月までに3回の説明会を開催したのみで,2回目の説明会以降はE教務主任に遺族らの前での説明をさせずに真実の証言を避けさせ,説明会に当たっても不十分な情報公開や説明に終始して真実を隠し続けたことが違法であると主張する。

被告市の設置した全64校の小中学校に在籍する児童・生徒及び教職員の安否の確認並びに避難所となった学校の避難所運営等,新方針に定められた業務の管理,執行に忙殺されていたと推察されるから,被災児童の遺族に対する説明会の開催が,本件震災後1か月近く経過した後となったこと(第1回目の保護者説明会の開催は,平成23年4月9日であった(甲A39)。),説明会の開催数と開催頻度が第1審原告らの希望に添わないものであったことは,やむを得ない事情によるものと認められる。また,2回目の説明会以降,E

おり,同人の心身の不調を理由とするものであったと認められるから,この点についても,やむを得ない事情があったといえる。さらに,市教委が説明会に当たり,不十分な情報公開や説明に終始して真実を隠し続けたとする点については,これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。O市長,第1審被告市職員及びP知事による第1審原告らの心情に対する配慮義務の違反について

第1審原告らは,O市長は,本件震災後に開催された被災児童の保護者に対する説明会の席上,児童の被災は自然災害による宿命だなどと発言したが,O市長の本件発言は,遺族の心情への配慮を欠き,第1審原告らに計り知れない苦痛を与えたから,違法であると主張する。
しかし,O市長の本件発言は,平成23年6月4日に開かれた第2回保護者説明会の席上において,被災児童の遺族から,「被災児童の死亡が人災であることを認めよ。」と激しく詰め寄られた中でのとっさの受け答えであること,市教委による関係者からの事情聴取が継続されていて(甲A22の29~甲A22の52),本件地震発生後の大川小の状況が必ずしも明らかでない状況の下で,O市長が「人災とまでは言い切れない。」との認識を抱いていたとしても無理はないというべきであること等の事情を考慮すれば,被災児童の遺族が出席している場での発言として配慮を欠いた点があるとしても,これをもって違法とまでいうことはできない。したがって,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。

第1審原告らは,第1審被告市は,被災児童の火葬を可能にするよう施設の確保を手配する取り計らいを怠ったことが違法であると主張する。しかし,本件震災後,平成23年3月及び4月中に石巻警察署管内及び河北警察署管内において発見された遺体の数は4000体を超えており(乙15・30頁),当時,石巻市周辺の火葬場においてこれらの遺体の
全てを火葬にすることが到底困難な状況であったことは公知の事実であるから,そのような状況の下において,火葬可能な施設を確保することができなかったとしても,やむを得ないというほかはない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。

第1審原告らは,P知事が,一度は裏山に逃げれば被災児童は助かったと発言しながら,第1審判決言渡しの後にはその発言内容と正反対の認識を示す発言をし,さらに,第1審判決に対して県議会に諮らずに専決処分で直ちに控訴を決定したことが違法であると主張する。
しかし,P知事の本件発
日,大川小の校舎を訪れた際に民放テレビ局の取材に応じた際の発言であって,平常時における現地を視察して受けた率直な感想を述べたに過ぎず,本件地震発生直後の大川小の状況を認識した上での発言ではなかったことがうかがわれる(甲A202の2)。また,控訴は,法が認める不服申立てであり,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる特段の事情がない限り違法とされることはない(そのことは,当該控訴が知事の専決処分(地方自治法179条1項。なお,上記専決処分は,平成28年12月15日,第358宮城県議会において,議案335として議会の承認を受けた。)によって決定された場合も同様である。)と解するのが相当であるところ,本件において上記特段の事情は認め難い。したがって,大川小における被災児童の死亡原因に係るP知事の発言に変遷が見られたとしても,その政治的・道義的責任はともかく,これをもって違法ということはできず,P知事の専決処分によってなされた本件控訴が違法とされる余地はないというべきである。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。

違法行為については,いずれもこれを国賠法1条1項にいう違法な行為と認めることはできず,また,第1審原告らに対する関係で不法行為を構成するものと認めることもできない。
したがって,本件事後的違法行為に係る第1審原告らの請求(本件事後的違法行為に係る調査費用と慰謝料の請求)は,いずれも理由がない。5
主位的主張について

第1審原告らは,その損害額について,本件の事案が,児童の安全を守るべき立場にある市教委,C1校長,D教頭及びE教務主任が被災児童の命を無為無策のまま失わせたという類を見ない責任重大なものであり,予期せぬ我が子の死に直面した第1審原告らの悲嘆と苦悩は著しいから,第1審原告らが抱く我が子を取り戻したいという気持ちを本来そのまま請求とすべきところに代えて,被災児童の死亡及び本件事後的違法行為により被った苦痛の全体に対する,金額にして数百億円を下らない「制裁的要素を反映した満足感情の実現」としての損害賠償が認められるべきであると主張する。
しかしながら,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止を目的とするものではなく,加害者に対して損害賠償義務を課することによって,結果的に加害者に対する制裁等の効果を生ずることがあるとしても,それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的,副次的な効果にすぎないと解するのが相当であって(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年
3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁,最高裁平成5年(オ)第1762号同9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照),このことは国賠法に基づく損害賠償請求においても同様と解すべきである。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。

第1審原告らは,本件の事案が特殊であることから,被災児童の死亡及び本件事後的違法行為により被った損害の額の主張立証は極めて困難であるから,損害額の認定に関して民事訴訟法248条を適用すべきであると主張する。
しかし,第1審原告らの請求のうち,本件事後的違法行為に基づく部分に理由がないことは上記4において説示したとおりであるから,第1審被告らが賠償すべき責任を負う損害の内容は,被災児童の死亡に係る損害に限られる。そして,若年者の死亡による損害について,その性質上損害額の認定が極めて困難とはいえないから,本件の損害算定に当たって同条を適用することは相当ではない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。
予備的主張について


被災児童の損害について
逸失利益
a
証拠(甲A134~136の各1・2,甲A137,甲A138~140の各1・2,甲A141~144,甲A146~148の各1・2,甲A149~153,甲C1~甲C3の各1,甲C4,甲C5,甲C6の1,甲C7~甲C17,甲C18の1,甲C19)及び弁論の全趣旨によれば,被災児童は,いずれも,死亡当時,別紙4「被災
児童一覧表」の「氏名」欄に対応する「被災当時の年齢」欄に記載の年齢の健康な子供であったことが認められるから,被災児童が本件津波による被災に遭わなければ,上記各年齢から67歳までの間,全労働者の平均収入を下回らない程度の収入を得ることができたものと推認される。
b
第1審原告らは,被災児童の逸失利益の算定に用いる基礎収入は,将来の男女間の収入格差の解消を前提に,平成24年賃金センサスの学歴計・全年齢による男子労働者の平均年収額529万6800円を採用するのが相当であるとし,被災児童が就労する将来の時期には,少子化の進行や平均余命の延長により,就労可能期間は長くなっていると考えられるから,就労可能期間は75歳まで,生活費控除率は30%とし,2020年以降は年3%の割合で中間利息を控除するのが相当であると主張する。
しかし,被災児童の逸失利益の算定に当たって前提となる基礎収入については,男女の雇用機会や賃金の格差が将来の被災児童の就労可能期間のうちに解消され,双方の雇用条件がその中間に収束することを前提とするのが相当であることから,被災児童の死亡時である平成23年の賃金センサスの男女計・学歴計・全年齢による労働者の平均年収額を用いるのが相当である。また,被災児童の就労可能期間は18歳から67歳までの49年間,生活費控除率は40%とし,年5%の割合で中間利息を控除するのを相当と認める。
したがって,第1審原告らの上記主張を採用することはできない。
c
そこで,被災児童の逸失利益については,上記a,bの説示に従い,平成23年賃金センサス第1巻第1表男女計・学歴計・産業計・企業規模計による労働者の平均賃金470万9300円を基礎とし,被災児童が18歳に達する時期から67歳に達するまでの49年間につい
て上記基礎収入に相当する得べかりし利益を失ったものと認めるのが相当である。そして,ライプニッツ方式に従い年5%の割合で上記得べかりし利益について被災児童の死亡時以降67歳に達するまでの間の中間利息を控除して死亡当時の各被災児童の逸失利益の現価を算定すると,次の算定式のとおり(1円未満切捨て)となる。
(計算式)
470万9300円×(1-0.4)×【{(死亡時から67歳
までの各年数に対応するライプニッツ係数)-(死亡時からから18歳までの各年数に対応するライプニッツ係数)}=(別紙4「被災児童一覧表」の「氏名」欄に対応する「被災児童の損害についての控訴審の判断」の欄の「係数」欄記載の係数)】=別紙4「被災児童一覧表」の「氏名」欄に対応する「被災児童の損害についての控訴審の判断」の欄の「逸失利益」欄記載の金額(1円未満切捨て)慰謝料
被災児童は,死亡当時,いずれも8歳から12歳の小学生であり,第1審原告らを含む両親や祖父母らの愛情を一身に受けて順調に成長し,将来についても限りない可能性を有していたにもかかわらず,本件津波によって,突然命を絶たれてしまったものである。また,被災児童は,本件地震発生直後は,大川小の教職員の指導に従って無事に校庭に二次避難し,その後も校庭において二次避難を継続しながら教職員の次の指示を大人しく待っていたものであり,その挙げ句,三次避難の開始が遅れて本件津波に呑まれ息を引き取ったものであって,死に至る態様も痛ましいものであり,被災児童の無念の心情と恐怖及び苦痛は筆舌に尽くし難いものと認められる。
以上の事情に鑑みると,被災児童の死亡慰謝料としては,それぞれ2000万円を認めるのが相当である。

葬儀費用等
証拠(甲A134~136の各1・2,甲A137,甲A138~140の各1・2,甲A141~144,甲A146~148の各1・2,甲A149~153)
及び弁論の全趣旨によれば,
被災児童については,
いずれも平成23年末頃までに葬儀が執り行われたことが認められるから,葬儀費用として,それぞれ150万円を認めるのが相当である。被災児童固有の損害の合計額

は,別紙4「被災児童一覧表」の「氏名」欄に対応する「被災児童の損害についての控訴審の判断」の欄の「合計」欄記載の金額となる。これ
「被災児童一覧表」の「氏名」欄に対応する「法定相続人欄に記載の各第1審原告の相続額」欄に記載のとおりである。

第1審原告ら固有の損害について
慰謝料
a
第1審原告らにとって,被災児童はかけがえのない存在であり,日々の生活は被災児童を中心に営まれていたといっても過言ではないほど,第1審原告らは被災児童に愛情を注ぎ,その成長に目を細め,その将来に期待を抱いていた。そのような被災児童を本件津波によって突然奪われてしまった第1審原告らの苦痛や無念さは計り知れず,本件津波から7年以上の月日を経てもなお第1審原告らは辛く苦しい日々を過ごすことを余儀なくされている。また,本件津波後,第1審原告らは,大川小の周辺がぬかるんだ土砂と瓦礫に埋め尽くされた中,自らスコップ等を片手に必死に我が子の姿を捜し求め,変わり果てた姿となった我が子に対面し,遺体を清拭することもかなわずに葬らざるを得なかった(甲A134~136の各1・2,甲A137,甲A
138~140の各1・2,甲A141~144,甲A146~148の各1・2,甲A149~153)。
以上のほか,本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,第1審原告らそれぞれの固有の慰謝料として,被災児童一名当たり各500万円を認めるのが相当である。
b
また,被災児童のうちB16及びB22の遺体は,現在まで発見されていないところ,その保護者である第1審原告A19,同A20及び同A27は,現在もなお見つからない我が子の姿を追い求め,捜索活動を続けており,我が子の遺体が発見された遺族に優る辛苦を味わっていることが認められること(甲A135の1・2,甲A143)から,同原告らに対しては,一人当たり別途100万円の慰謝料を加算するのが相当である。
仏壇仏具購入費用,墓碑建立費用及び法事費用
証拠(甲A134~136の各1・2,甲A137,甲A138~1
40の各1・2,甲A141~144,甲A146~148の各1・2,甲A149~153)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告らは,その子である被災児童の仏壇仏具購入費用,墓碑建立費用又は法事費用として,
相応の支出をし又は将来支出を予定していることが認められるが,上記支出については,
相当因果関係のある損害と認めることはできない。
原因調査費用
第1審原告らは,本件津波による被災の原因調査費用を損害として主張するが,その支出の具体的な内容やその支出金額を認めるに足りる証拠は見当たらないから,上記金額を相当因果関係のある損害と認めることはできない。
その他
a
第1審原告A5,同A10及び同A15は,その支出した不妊治療
費を損害額として主張するが,これらの損害については,相当因果関係を認めることはできない。
b
第1審原告A20は,我が子である被災児童の遺体が発見されていないことに関し,捜索のために勤務先を退職し収入を失ったとして,24か月分の収入を逸失利益たる損害として主張するが,この損害については,相当因果関係を認めることはできない。なお,上記事情に
るに当たり考慮した。
損害の填補
第1審原告らは,独立行政法人日本スポーツ振興センターとの間で災害共済給付契約を締結していた第1審被告市から,東日本大震災特別弔慰金(被災児童一人につき500万円)の支給を受けた(各第1審原告の受給金額は,被災児童の単独親権者は500万円,共同親権者はそれぞれ250万円となるから,別紙2「請求額及び認容額一覧表」の「控訴審の判断」欄の「損害の填補」欄に記載のとおりである。この事実は,第1審原告らが明らかに争わないから,
これを自白したものとみなす。

から,上記受給額を,第1審原告らそれぞれの近親者固有慰謝料額から控除することとする。
弁護士費用
本件記録によれば,第1審原告らは,本件訴訟の提起,追行を第1審原告ら訴訟代理人らに委任したことが認められるところ,本件事案の内容,審理の経過,上記認定の損害額,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額としては,別紙2「請求額及び認容額一覧表」の「控訴審の判断」欄の「弁護士費用」欄に記載のとおりの金額を認めるのが相当である。
6
結論

以上のとおりであるから,第1審原告らの請求は,第1審被告らに対し,連帯して,国賠法1条1項及び3条1項に基づき,それぞれ別紙2「請求額及び認容額一覧表」の「第1審原告氏名」欄記載の各第1審原告が,これに対応する同一覧表の「控訴審の判断」中の「認容額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でいずれも理由があるからこれを認容すべきであるが,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。よって,
第1審原告らの本件各控訴及び第1審被告らの本件各控訴に基づき,原判決を上記に従って変更することとして,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

小川
裁判官

潮見浩直之
裁判官綱島公彦は,転補のため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

小川浩
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