判例検索β > 平成29年(わ)第900号
道路交通法違反、危険運転致傷被告事件
事件番号平成29(わ)900
事件名道路交通法違反,危険運転致傷被告事件
裁判年月日平成30年4月10日
法廷名札幌地方裁判所
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平成30年4月10日宣告
平成29年

第900号,第939号

道路交通法違反,危険運転致傷被告事件

判決主文
被告人を懲役2年に処する
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

平成29年9月13日午前7時44分頃,北海道江別市a(高速自動車国道b自動車道・札幌市c基点から下りN21.0キロメートル)付近道路において,法定の最高速度100キロメートル毎時を76キロメートル超える176キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行した。

第2

同年12月4日午前1時43分頃,札幌市d区・・・・・付近道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により,前方注視及び運転操作が困難な状態で前記自動車を走行させ,もってアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより,その頃,左折での通行を禁じられた同所先交差点をe方面からf方面に向かい左折進行する際,同交差点左折先出口付近で停止中のA(当時51歳)運転の普通乗用自動車右前部に自車右前部を衝突させ,よって,Aに加療約16日間を要する頚椎捻挫の傷害を負わせた。
第3

同日午前1時44分頃,札幌市d区・・・・・付近道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により,前方注視及び運転操作が困難な状態で前記自動車を走行させ,もってアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより,その頃,同所先の一方通行路をg方面からh方面に向かい時速約66キロメートルで逆進し,同所先の掘削箇所で作業中のB(当時59歳)を自車左車輪でれき過し,よって,Bに加療約2週間を要する頚椎症性神経根症の傷害を負わせた。(事実認定の補足説明)
第1

本件の争点
弁護人は,判示第2及び第3の各事実(以下,「本件犯行」という。また,判示第2記載の事故を「本件第1事故」と,判示第3記載の事故を「本件第2事故」という。)につき,被告人がアルコールの影響により正常な運転ができない状態で自車を走行させた事実,被告人が各被害者に各傷害を負わせた事実については争わないものの,被告人には,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態にあるとの認識がなかったことから,危険運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条1号)の故意(以下,単に「危険運転の故意」という。)は認められないと主張する。また,弁護人は,被告人の本件各事故前の酩酊の程度等に照らすと,被告人は,本件当時,心神喪失の状態にあったとして,無罪であると主張するほか,少なくとも,心神耗弱状態にあったと主張する。
そして,被告人も本件犯行当時,自動車を運転したことは覚えていない旨述べるため,以下,判示のとおり認定した理由を補足して説明する。
第2
1
当裁判所の判断(以下,日付は平成29年のものである。)
本件の概要
関係証拠によれば,本件犯行に至る経緯及び犯行状況等については,以下のとおりであったと認められる。
被告人の飲酒状況等
被告人は,12月3日午後9時ないし午後10時頃から,友人のCとDといういわゆるキャバクラ(以下「本件店舗」という。)で酒を飲み始め,ビールと焼酎のお茶割りをそれぞれ5ないし6杯程度(いずれも居酒屋のいわゆる酎ハイのグラス程度の大きさ)を飲んだ。そして,友人のEが,同月4日午前0時頃,被告人らに合流した。Eは,被告人を酔わせようと思い,テキーラをショットグラスで10杯注文し,そのうち8杯分(約180ミリリットル)を大きめのグラスに移した上で,被告人に一気飲みさせた。また,EとCは,同じようにショットグラス8杯分のテキーラ(約180ミリリットル)を大きめのグラスに移した上で,被告人に一気飲みさせた。
その後,被告人はろれつが回らなくなり,歩く際も足がおぼつかなく,体勢を崩したり,壁に寄りかかったりするような状態であった。Eは,同月4日午前1時過ぎ頃,会計をして本件店舗を退店することとしたが,被告人はテーブルに顔をつけ,ソファーに座ってぐったりとしている状態であった。Eは被告人を起こし,会計を済ませた上,Cを本件店舗に残して,被告人と共に退店した。被告人は,一人でエレベーターに乗って3階から1階まで下り,壁に手を付いたり,Eの肩を借りたりして歩いた。被告人は,Eに,違う店に行こうなどと言ったが,Eは明日も仕事だからもう帰ろうと伝え,被告人は了解した。被告人は,本件店舗付近の路上に停車していた被告人の自動車の運転席に乗り込んだ。Eは被告人に対し,車を運転しないように,代行を呼ぶようになどと注意した。被告人は,大丈夫,寝て帰る旨答えて,運転席のシートを倒して寝始めた。
被告人の運転状況及びA運転車両との衝突状況
被告人は,同日午前1時42分頃,運転を開始し,左ウィンカーを出し,左折してi線に進入し,j線方面に北進した。
その後,被告人はj線をe方面からk方面に向かい東進し,l線との交差点(m)で前方に停車していた2台の自動車の後方に停車した。そして,同日午前1時43分頃,信号が青色となったことから前方の2台の自動車が発進すると,これに続くように被告人も発進し,左折ウィンカーを付けた状態で,同交差点をf方面へ左折し,左前後輪を歩道の縁石に乗り上げて進行した後,ブレーキをかけたが,本件第1事故を発生させた。被告人はその数秒後には自動車を後退させた上で,ハンドルを切り,A運転のタクシーの西側を抜けてf方面へ北進した。なお,l線は南進の一方通行道路である。
Bの轢過状況
被告人は,l線を北進し,d区・・・・・付近を時速約66キロメートルで走行し,工事のために路上に置いてあったカラーコーンを倒して進行した。そして,被告人車両は,n線とのT字路交差点を通り過ぎて,左車輪でBを轢過し,本件第2事故を発生させた。その後,被告人車両は工事の作業中の穴に突っ込み,停車した。
本件第2事故後の状況
通報を受けて臨場した警察官は,救急隊員から,事故を起こした自動車の運転手の名前がFであること,生年月日が・・・・・であること,飲酒していることを聞いた。同警察官が,自動車内にいた運転手に氏名や負傷部位等を確認したところ,同人は,名前はFであり,左肩が痛い,酒を飲んでいると言った。
被告人は,救急車両内で初期治療が実施されたところ,その際,警察官に対し,しどろもどろの状態で,事故のことはよく覚えていない,気が付くと車が止まっており,救急車の中にいた,左肩が痛い,酒は知り合いと飲んだ旨述べた。
そして,同日午前2時27分頃,被告人について飲酒検知が行われ,被告人の呼気1リットル当たり0.5ミリグラムのアルコールが検知された。また,被告人は,その際に行われた警察官からの質疑に対しては,氏名や生年月日,住所,今の日時は12月4日であること,飲酒した店がDであること,知り合いとビールを飲んだことなどについてそれぞれ答えた。被告人の普段の飲酒量等
被告人は,普段の飲酒量や飲酒した際の感覚について,概ね次のとおり述べる。
友人や勤務先の人と外で飲酒することは1年間に2,3回程度であり,飲酒する際にはビールをジョッキで10杯程度飲む。飲酒した際に記憶をなくしたことはなく,上記の程度の飲酒量であれば,感覚としては酔ったとは感じない。
2
危険運転の故意
被告人に危険運転の故意が認められるためには,被告人において,「正常な運転が困難な状態であること」の認識,すなわち,道路・交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態であることの認識が必要である。
そこで,本件についてみると,前記認定のとおり,被告人は,2時間ないし3時間かけて,普段の飲酒量と同程度の酒を飲んだ後,友人らに勧められて,普段飲んでいる酒に比べてアルコール度数の強い酒を2回,しかも通常であれば危険であるとして運転を避ける程度のものを短時間で飲み干したこと,その後,本件店舗内でかなり酩酊した状態の言動を取ったこと,本件店舗から出た後,壁に手をついて歩くなどしていたこと,本件店舗を退店してから1時間も経たないうちに運転を開始したことなどに照らすと,被告人は,運転開始当時,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態にあったことが認められる。これらに加え,被告人が被告人車両に乗った際,Eから運転代行業者を使って帰るように言われ,これに応答したこと,運転開始から本件第1事故発生前の交差点で停止していた時点までは道路状況や他の車両の動静に応じて,運転操作を行っていたことなどを踏まえると,被告人は,自身がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態にあったと認識していたことが推認される。弁護人は,被告人が,自動車を運転した事実に関しては,j線にいたなどのあいまいな記憶しか有していないこと,飲酒検知を行った警察官に対して,事故のことはよく覚えていない旨述べたことに依拠して,被告人に危険運転の故意が認められないと主張する。また,弁護人は,被告人の長年の運転経歴に照らし,無意識のまま自動車を運転することはありうるとも主張する。
この点,本件第1事故後から本件第2事故後までの被告人の運転状況等に照らすと,被告人は,本件第1事故発生直後までは,衝突事故を起こしたことを認識した上で,運転を継続したことが認められるが,その後は道路上に置かれたカラーコーンを跳ね飛ばし,減速することなく本件第2事故を発生させていること,弁護人が指摘する被告人の警察官に対する発言内容等に照らすと,本件第2事故発生前の時点で被告人は意識を消失していたことが窺われる。もっとも,前記判断のとおり,少なくとも被告人は本件第1事故発生直後までは,被告人自身が運転していることや被告人が置かれた状況を認識していたことが認められるのであって,被告人が本件第2事故発生直後,同事故等について記憶を有していなかったことは前記判断を左右するものではない。また,被告人が運転行為や本件各事故について記憶がないとする点も,被告人が短時間にアルコール濃度が高い酒を相当量摂取したことから,当時,被告人自身の状態や運転操作について意識や認識を有していたものの,後にアルコールの影響によりそれらの記憶が消失したとも考えられるのであるから,被告人に記憶がないことをもって,正常な運転が困難な状態にあったことの認識が欠ける旨の弁護人の主張は採用できない。さらに,前記認定の被告人による運転操作の内容からすると,これらをすべて無意識に行ったとは考え難く,この点に関する弁護人の主張も採用できない。
3
責任能力前記認定の本件の経緯等によると,被告人は,飲酒後,運転前にはEと会話をするなど意思疎通が図れていること,運転開始後を見ても,本件第1事故発生までは運転の目的や道路状況に応じて自動車の運転操作が一応できていること,本件第1事故発生後には被告人車両を後退させた上で,ハンドルを切ってl線を北進したこと,さらに,被告人は本件第2事故発生後,警察官に対し,飲酒検知に応じたうえで,自身の名前や生年月日,飲酒した店舗等については事実関係に沿う内容を説明していることが認められる。
これらの事実関係に照らすと,本件事故前の運転開始時点や本件事故直前の時点において,被告人は飲酒酩酊していたものの,なお行為の是非善悪を弁識し,これに従って行動する能力を完全に有していたとみるのが相当である。したがって,この点に関する弁護人の主張も採用できない。
4
結論
以上により,判示のとおり認定したものである。

(法令の適用)


判示第1の行為

道路交通法118条1項1号,22条1項,同法施行
令27条1項1号

判示第2,第3の各行為

いずれも自動車の運転により人を死傷させる行為等の
処罰に関する法律2条1号

刑種の選択
併合罪の処理

判示第1の罪につき懲役刑
刑法45条前段,47条本文,10条
(刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加
重)

刑の執行猶予

刑法25条1項


刑事訴訟法181条1項ただし書

訟費用
(量刑の理由)本件で量刑の中心となる危険運転致傷(判示第2及び第3)についてみると,被告人は,普段よりも多量かつアルコール度数の強い酒(テキーラ)を飲んだにもかかわらず,運転席で数十分間,仮眠を取った後に運転を開始したものである。もっとも,被告人はそもそも運転代行業者を利用して帰宅しようと考えていたこと,また,被告人自身の意思で飲酒したとはいうものの,友人らが,あまり酔っていなかった被告人を酔わそうとしてテキーラを一気飲みさせたことも踏まえると,同種事案の中ではその経緯に対する非難の度合いには差があるというべきである。
被告人は,本件第1事故を発生させた後,その場から逃走し,その後高速度で走行して本件第2事故を発生させており,悪質な犯行である。その結果,被害者2名に傷害の結果を生じさせたが,幸いにもその結果は重くはなかった。また,被告人は任意保険に加入しており,物的損害については賠償が完了している。以上に加え,被告人が仕事に遅れそうになったことから,高速道路を時速176キロメートルで走行したこと(判示第1)も併せて考えると,被告人の刑事責任は決して軽いものではない。
もっとも,被告人が今後は仕事を変えるなどして運転はしないようにする旨述べたこと,被告人には交通違反の前歴はあるものの,前科はないことも併せて考えると,被告人に対して,直ちに実刑を科すのはやや重すぎる。そこで,被告人に対しては,一度は社会内で立ち直りの機会を与えるのが相当と判断した。よって,主文のとおり判決する。
(検察官森幹,国選弁護人三木明各出席)
(求刑

懲役2年)

平成30年4月17日
札幌地方裁判所刑事第2部

裁判官


城真一郎

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