判例検索β > 平成28年(ワ)第6074号
不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)6074
事件名不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日平成30年4月17日
法廷名大阪地方裁判所
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平成30年4月17日判決言渡

同日原本受領

平成28年(ワ)第6074号

不正競争行為差止等請求事件

口頭弁論終結日

平成30年1月30日
判原
裁判所書記官

決告
株式会社Mon

cher

同訴訟代理人弁護士

玉越久義同春木由香
被告兼被告P1補助参加人
株式会社堂島プレミアム
(以下「被告会社」という。)

被告
P2

上記2名訴訟代理人弁護士

上哲也同河原秀樹
同訴訟代理人弁理士

山本被溝
P1

告主1進文
被告会社は,ロールケーキについて,別紙「被告標章目録」記載1ないし5の標章を使用してはならない。

2
被告会社は,別紙「被告標章目録」記載1ないし5の標章を使用したロールケーキ又はそのロールケーキに関する印刷物を,譲渡し,引き渡し,又は,
譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
3
被告会社は,その製造又は販売するロールケーキ及びそのロールケーキに関する印刷物から,別紙「被告標章目録」記載1ないし4の標章を抹消せよ。
4
被告会社は,原告に対し,3426万0600円及びこれに対する平成28年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
P2は,原告に対し,1535万3198円及びこれに対する平成28年7
月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
P1は,原告に対し,1890万7402円及びこれに対する平成28年7月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

8
訴訟費用及び参加に要した費用は,「訴訟費用及び参加費用負担割合表」別紙
記載のとおりの負担とする。

9
この判決は,第1項,第2項及び第4項ないし第6項に限り,仮に執行することができる。

第1

実及び理由
請求

1
主文第1項及び第2項と同旨

2
被告会社は,その製造又は販売するロールケーキ及びそのロールケーキに関
する印刷物から,別紙「被告標章目録」記載1ないし5の標章を抹消せよ。3
被告らは,原告に対し,連帯して1億円及びこれに対する平成28年4月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要

本件は,別紙「原告標章目録」記載1及び2の標章(以下,同目録記載の各標章を「原告標章1」などといい,原告標章1及び2を併せて「原告標章」という。)を使用し,
後記原告商標権を有する原告が,
被告会社において別紙
「被告標章目録」
記載1ないし5の標章(以下,各標章を「被告標章1」などといい,被告標章1ないし5を併せて「被告標章」という。)を使用してロールケーキを販売するなどした行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとともに原告商標権を侵害するものでもあるとして,被告会社,その代表取締役であるP2及びかつてその代表取締役を務めていたP1に対し,下記の各請求をする事案である。記
(1)被告会社に対する請求


差止請求及び抹消請求

主位的に不正競争防止法3条1項,2項,予備的に商標法36条1項,2項に基づく被告標章の使用及び被告標章を使用したロールケーキ又はそのロールケーキに関する印刷物の譲渡,引渡し等の差止請求並びに被告会社の製造又は販売するロールケーキ及びそのロールケーキに関する印刷物からの被告標章の抹消請求イ
(ア)

損害賠償請求等
主位的に不正競争防止法4条又は原告商標権侵害の不法行為に基づく損害
の一部1億円の損害賠償及びこれに対する最後の不法行為の日である平成28年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(イ)予備的に不当利得返還請求権に基づく,利得の一部1億円の返還及びこれに対する最後の受益の日である平成28年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息請求
(2)P2及びP1に対する損害賠償請求等

主位的に被告会社の不正競争又は原告商標権侵害につき被告会社の取締役と
しての会社法429条1項に基づく原告の損害の一部1億円の損害賠償及びこれに対する平成28年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求

予備的に不当利得返還請求権に基づく,利得の一部1億円の返還及びこれに
対する最後の受益の日である平成28年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息請求
1
判断の前提となる事実等(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び
弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)
(1)当事者

原告は,平成15年9月4日に設立された洋菓子の製造,販売等の業務を営
む株式会社である。原告は,商号を「株式会社モンシュシュ」としていたが,平成24年10月1日に現商号に変更した。


被告会社は,平成24年6月11日に設立された菓子類,パン類の企画,製
造,販売及びコンサルティング等を目的とする株式会社である。なお,同被告の本店所在地は,設立時は大阪市<以下略>であり,平成26年8月1日に同区<以下略>に移転し,さらに平成27年9月18日に現在の本店所在地に移転した旨の登記がされている(甲3)。

P1は,被告会社の設立時から平成26年8月1日まで,被告会社の代表取
締役を務めていた者である。

P2は,平成26年8月1日から被告会社の代表取締役を務めている者であ
る。
(2)原告によるロールケーキの製造,販売等
原告は,
「堂島ロール」という商品名のロールケーキ(以下「原告商品」という。)等を製造し,原告標章をその商品の箱(包装・印刷物)に付すなどして使用して国内外の直営店等において,販売してきた。
(3)原告商標の登録

原告は,原告標章2について,別紙「商標権目録」記載のとおり,商標登録を受け,その商標権(以下「原告商標権」といい,これに係る商標を「原告商標」という。)を有している。
(4)被告会社による被告標章の使用等
被告会社は,平成24年6月の設立以来,P3に委託して製造したロールケーキ
(以下,被告会社が販売するロールケーキを「被告商品」という。)をP4に販売し,同社においてスーパーマーケットに卸販売してきたが,その間,被告標章1ないし4は,少なくとも商品の箱等に次のように使用されていた。

被告標章1は,平成24年6月頃から平成25年4月頃までの間に販売され
た被告商品の箱の上面,側面に付されていた(甲8の1ないし4)。イ
被告標章2は,平成25年5月頃から平成27年4月頃までの間に販売され
た被告商品の箱の上面,側面に付されていた(甲8の5,7,10,11,甲11)。

被告標章3は,上記イの被告商品の箱裏面に貼付される一括表示の商品名欄
に付されていた(甲14)。

被告標章4は,平成27年4月頃から平成28年5月頃までの間に販売され
た被告商品の箱の上面,側面に付されていた(甲12)。
2
争点

(1)不正競争防止法2条1項1号の不正競争の成否(争点1)
(2)先使用による適用除外(不正競争防止法19条1項3号該当の有無)(争点2)
(3)原告商標権侵害の成否(商標法26条1項1号又は2号の抗弁の成否)(争点3)
(4)P1及びP2の会社法429条1項に基づく損害賠償責任の有無(争点4)(5)原告が受けた損害の額又は損失の額(争点5)
第3
1
争点についての当事者の主張
争点1(不正競争防止法2条1項1号の不正競争の成否)

(原告の主張)
(1)原告標章は周知商品等表示であること
原告は,堂島本店を始め国内外に直営店を経営するほか,全国の有名百貨店等に多数の店舗を展開し,原告商品の他にも洋菓子全般を製造,販売してきたところ,原告標章を付した原告商品や原告は,平成19年以降,全国的なテレビ番組や雑誌
を含め,数多くのテレビ,新聞,雑誌など全国各地の様々なマスメディアの媒体で取り上げられてきた。これらの記事等の中では,原告標章が原告の代名詞として表現されるものも多々見られ,さらに,連日,原告の販売店の店頭に長蛇の行列ができたり,販売開始と同時に原告商品が品切れになったりするほど人気を博し,原告商品は巷でのいわゆるロールケーキブームの火付け役となった。

そして平成20年6月から平成22年5月までの期間でも,原告商品の販売により平均して月間1億円を超える売上高を計上し,また,一般消費者が私的に開設し
発信している様々なインターネットWEBサイトでも原告商品が原告の製造,販売する商品として取り上げられ,インターネット検索サイトで「堂島ロール」というキーワードによって検索すると,原告や原告商品に関するウェブサイトの結果が数多く検出されている。
このように,原告標章は,一般消費者の間で原告の製造,販売する原告商品を指称するものとして幅広く認識され,
既に日本国内で極めて高い知名度を誇っており,
原告の代名詞とも評することができるものであり,平成19年までに原告の商品等表示として周知となった。
被告らは,原告標章が,地理的名称である「堂島」と普通名詞である「ロールケ
ーキ」の略称である「ロール」を結合したものでしかないから,商品等表示足り得ないように主張するが,地理的名称や普通名称を含む標章であっても,特定の営業主体の商品や営業を指称する表示として広く認識され,自他識別力を有するに至った場合には商品等表示足り得るのであり,原告標章は上記のとおり原告の商品等表示として周知となっている。

そのほか被告らは,一般消費者が出所識別の手掛かりとしているのは原告標章4であるとか,原告標章を考案し,それを使用したロールケーキの販売を始めたのは第三者であるから,原告標章に商品等表示性が認められたとしても,原告の商品等表示とはいえない旨主張するがいずれも争う。
(2)原告標章と被告標章の類似性


原告標章が著名といえるほどに周知であることや,原告では原告商品を基調
とした変種のロールケーキとして,
「堂島プリンスロール」や
「堂島お抹茶ロール」
等の商品名を付した関連商品を製造,販売していることなどの具体的な取引実情を考慮すると,「堂島」と「ロール」を結合した一体としての原告標章からは,一般的に,原告が製造,販売する原告商品が観念される。また原告標章2の外観は,唐風隷書体で「堂島ロール」と横書きされているものであって,その書体に独創性がある。


被告標章は,各構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思
われるほど不可分的に結合しているといえる事情が何ら存しないところ,上述した原告標章の周知性に鑑みれば,被告標章の構成部分である「堂島」や「ロール」という部分が取引者や需要者に対して原告の製造,販売する原告商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
他方で,「(株)」という部分は株式会社を示す略称にすぎないから,出所識別標識としての称呼,観念が生じないし,また,「プレミアム」という部分も品質を誇張表示したものにすぎず,出所識別標識としての称呼,観念が生じないから,被告標章の要部である「堂島」と「ロール」の部分のみを取り出して原告標章との類
否を判断すべきところ,その称呼は原告標章と同じであり,特に被告標章2及び3の外観については,原告標章2に酷似した字体で横書きされている。したがって,原告標章と被告標章は,称呼と観念が完全に一致し,特に原告標章2と被告標章2及び3とは,その独創的な書体によって外観も酷似しているといえる。

以上より,被告標章が原告標章に類似していることは明らかである。なお,被告標章4は,被告標章2が付された被告商品の箱の裏面に貼付された一括表示への使用であるが,需要者に商品を識別させ得るものであるから,これも商品等表示の「使用」に当たるということができる。
(3)商品の混同のおそれ

原告標章の周知性が極めて高く,被告標章が原告標章に極めて酷似していることに鑑みれば,取引者や需要者をして被告商品と原告商品の出所が同一であると誤信させたり,被告商品が原告と組織上,営業上関連のある者の業務に係る商品であると誤信させたりする具体的な危険性を帯びていることは明らかである。実際にも,取引者や需要者において,被告商品を原告商品又は原告が製造,販売する他の商品
であると誤信している事態が既に生じている。
そのため,被告会社による被告標章の使用等の行為は,他人の商品である原告商
品との混同を生じさせる行為に当たる。
被告らは,原告商品は生ケーキであり,そうではない被告商品とを,取引者・需要者が明確に区別して認識していたから商品の混同のおそれはないように主張するが,需要者は一般消費者という点で共通しており,いずれも比較的に幅広い層の一般消費者が購入しやすい価格帯の商品という点で共通している。そして,たとえ原告標章そのものが著名であったとしても,需要者である一般消費者において,原告商品がスーパーマーケット等の小売店で販売されることが一切ないこと等の事実まで詳細に把握されていたとは限らないから,一般消費者が購入時に生ケーキか冷凍ケーキであるかの違いを十分に見分けることができないまま購入していた可能性も
否定できず,被告らの主張は失当である。
(被告らの主張)
(1)原告標章は周知商品等表示ではないこと
原告標章は,地理的名称である「堂島」と普通名詞である「ロールケーキ」の略称である「ロール」を結合したものでしかないから,原告標章からは,全体として
堂島に縁のある事業者が販売しているロールケーキの意味しか生じず,特定の事業者の営業に係る商品を他の事業者の営業に係る商品から識別する機能はなく,商品等表示性はない。
そして原告商品は,基本的に,一般消費者が「Moncher」という原告の店舗名(原告標章4)を手掛かりとして原告の直営店を訪れ,生ケーキである原告商品を購入
し,概ねその日のうちに商品購入者又は商品購入者のすぐ近くにいる者が食する商品である。
原告標章は,
商品が転々と流通する菓子類・ケーキ類の市場に置かれて,
他社ブランドと競争した経験がなく,一般消費者が出所識別の手掛かりとしているのは,Moncher」

と花柄図形を結合した原告の直営店を示す原告標章4の方である。つまり,一般消費者が原告店舗を訪れた時点で,出所識別は既に果たされており,
原告店舗内のどの商品を買おうともそれは原告の商品であるから,原告標章は,自他商品識別の機能は果たしてこなかったのであり,周知性は獲得していない。
また,そもそも原告標章を考案し,その標章を付した商品の販売を始めたのは,第三者であるから,原告標章に商品等表示性が認められたとしても,原告の商品等表示とはいえない。
(2)原告標章と被告標章は類似していないこと
原告標章の外観は,被告標章のいずれと比較しても,構成文字,文字数,レイアウト及び書体の点において大きな違いがあり,外観上類似しない。原告標章とは外観上類似しない文字標章が付された被告商品を,需要者が原告商品と取り違えることはおよそ考えられない。
また,原告標章より生じる称呼は「ドウジマロール」であり,これから生じる観
念は「堂島という地域に縁のあるロールケーキ」というものである。これに対し,被告標章より生じる称呼は「ドウジマプレミアムロール」などであり,これから生じる観念は「堂島プレミアムのロールケーキ」,「堂島という地域に縁のある上質なロールケーキ」又は「株式会社堂島プレミアムという会社が作った上質なロールケーキ」というものであり,原告標章とは,称呼,観念の点でも全く類似しない。
さらに,被告標章2及び3については,「(株)堂島プレミアム」の社名が表示されることで,明確な出所表示がされているので,なおさら被告商品を原告商品であると需要者が混同することは考えられない。
また,被告標章3は,一括表示に使用されているにすぎないから,そもそも商品等表示の使用に当たらない。

(3)商品の混同のおそれはないこと
ロールケーキは,家庭で毎日食される商品ではなく,価格も1本1200円前後はするものであるから,需要者がどのロールケーキを購入するか選択するに当たっては,そもそも購入目的に応じて先ず店舗を選び,さらにパッケージに表示された標章をよく確認して購入するのが通常であるところ,原告商品は基本的に,原告の
直営店「Moncher」で販売される生ケーキであるのに対し,被告商品は「(株)堂島プレミアム」が製造しスーパーマーケットなどで販売されている冷凍保存可能な賞
味期限60日のケーキであるという点で,両商品は,全く系統の異なる商品として明確に区別して取引者・需要者に認識されていた。
したがって,被告商品と原告商品が混同されるおそれはない。
2
争点2
(先使用による適用除外
(不正競争防止法19条1項3号該当の有無)


(被告らの主張)
被告会社は,被告標章1を付した被告商品を平成24年6月頃には販売開始していたし,被告標章2及び4を付した被告商品を平成25年5月頃には販売開始していた。仮に,原告標章に周知性が認められるとしても,これが周知となった時期は同年8月以降であるから,被告会社は,被告標章1,2及び4を原告標章が周知と
なる前から使用していたことになる。
また,これらの標章が識別性のない語の組み合わせであることから,被告会社に不正の目的がないことは明らかである。
したがって,不正競争防止法19条1項3号の規定により,被告会社による被告標章1,2及び4の使用等について同法2条1項1号の規定は適用されない。
また,被告標章3は,被告標章2から文字の大小関係を変更した標章であって,被告標章2の特徴を全て備えているので,被告標章3についても,同様に同法2条1項1号の規定は適用されない。
(原告の主張)
被告らの主張は否認し,争う。

原告標章は平成19年までに原告の商品等表示として周知となったのであるし,被告標章(被告商品)が原告標章(原告商品)に極めて似せて作られていることの他,原告標章が著名なものになった後に被告会社が「堂島プレミアム」という商号を用いるようになり,
被告会社が当初は被告商品に原告標章と同一の
「堂島ロール」
という商品名を付して販売していたことなどの事情に鑑みると,被告会社が当初か
ら原告商品や原告標章の有する信用,名声,評価,市場価値等にいわゆるフリーライドして利益を得るために意図的に被告標章を使用して,被告商品の製造,販売に
及んできたことは明白であって,被告らが不正の目的をもって被告標章の使用を開始したといえるから,不正競争防止法19条1項3号の適用はない。3
争点3(原告商標権侵害の成否(商標法26条1項1号又は2号の抗弁の成
否))
(原告の主張)
(1)原告商標と被告標章が類似していることは,上記1(原告の主張)(2)記載のとおりであり,被告商品は原告商標権の指定商品であるロールケーキであるから,被告標章を使用する行為は,原告商標権の侵害となる。
(2)商標法26条1項1号及び2号の適用がある旨の被告らの主張は否認し,争
う。
被告標章の使用態様は,品質や産地等を表示するものではなく,被告商品の包装の上部表面中心に比較的大きな文字で表記されるなど,専ら商品識別標識として表示するものであり,取引者や需要者の観点から見たときに自他商品識別力を発揮する態様で使用されているといえるから,「普通に用いられる方法で表示する」もの
ではない。
また被告標章は,原告商標の設定登録がされた平成23年10月28日よりも後に,被告らが不正競争の目的で用いたものであるから,商標法26条1項1号の適用はない。
(被告らの主張)

(1)被告標章を使用する行為が原告商標権の侵害となる旨の原告主張は争う。原告商標と被告標章が類似していないことは,上記1(被告らの主張)(2)記載のとおりである。
(2)被告標章が原告商標に類似するとしても,原告商標は,いずれも自他識別力のない標章が組み合わされた商標であるから,商標法26条1項1号,2号の適用
により原告商標権の効力は,被告標章には及ばない。
すなわち,被告標章1及び4は,「堂島プレミアムのロールケーキ」又は「堂島
という地域に縁のある上質なロールケーキ」
を意味する標章であるから,
前者は
「…
自己の…名称…を普通に用いられる方法で表示する商標」及び「当該指定商品…の普通名称…を普通に用いられる方法で表示する商標」,後者は「当該指定商品…の普通名称,
…販売地,
品質…を普通に用いられる方法で表示する商標」
に該当する。
また,被告標章2及び3は,被告会社の商号である「(株)堂島プレミアム」と「プレミアムロール」の文字を上下に二段書きしてなる標章であって,下段の「プレミアムロール」は「上等な,上質な」の意味を有する品質表示である「プレミアム」とロールケーキの略称である「ロール」の結合である。よって,上段は「…自己の…名称…を普通に用いられる方法で表示する商標」,下段は「当該指定商品…
の普通名称,…品質…を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当する。さらに,
被告標章3を付した被告商品の裏面にある
「商品名
と「販売者

株式会社堂島プレミアム

プレミアムロール」

DP」を被告標章5と捉えた場合,商品名

欄は「当該指定商品…の普通名称,…品質…を普通に用いられる方法で表示する商標」,販売者名欄は「…自己の…名称…を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当する。
そして,被告会社が「(株)堂島プレミアム」又は「株式会社堂島プレミアム」と表示するのは自身の商号を表示するためであり,不正競争の目的がない。4
争点4(P1及びP2の会社法429条1項に基づく損害賠償責任の有無)
(原告の主張)
P1及びP2は被告会社の取締役として,被告標章の使用等の行為に主導的に関与し,被告会社の不正競争行為又は原告商標権侵害行為につき,被告会社の取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったから,被告会社による不正競争又は原告商標権侵害により原告が受けた損害について,会社法429条1項に基づき原告に対して損害賠償責任を負う。

(被告らの主張)
原告の主張は否認し,争う。

P1及びP2は,被告商品の販売に際し,被告会社の取締役として第三者に不測の損害を与えることがないよう会社役員に求められる注意義務を果たしてきた。5
争点5(原告が受けた損害の額又は損失の額)

(原告の主張)
(1)被告会社が受けた利益の額について

被告会社は,平成24年5月25日から平成28年1月5日までの間,被告
商品をP4に販売することにより,販売単価1200円(税別)に粗利率を乗じた利益を得たところ,被告会社が受けた利益は1億円を下らない。

仮に上記額が認められないとしても,被告商品の上記期間の販売個数は,外
部業者に発注して納品を受けた外装箱(パッケージ)の納品個数に相当する24万個であり,また被告商品1個当たりの利益額は,被告商品の被告会社からP4への販売単価752円に一般的な製造業の粗利率約25%を乗じた額である1個当たり188円を下回ることはないから,被告会社が受けた利益の額は4512万円を下らない。

(2)不正競争防止法5条2項,商標法38条2項の適用による損害額原告と被告会社は競業者であるから,不正競争防止法5条2項,商標法38条2項の適用により,
上記(1)の被告会社が受けた利益の額が,原告が受けた損害額と推定される。
被告らの推定覆滅事由に関する主張は争う。

(3)不当利得
仮に損害賠償請求が認められないとしても,被告会社は,原告の許諾なく被告標章を使用し,
上記認定の損害額の利得を得る一方,
原告は同額の損失を受けたから,
同額が被告らの不当利得となる。
(被告らの主張)

(1)原告の主張は否認し,争う。
原告商品は原告の店舗でのみ販売される「生ケーキ」,被告商品はスーパーマー
ケット等で販売される「冷凍ケーキ」という相違があり,被告商品は原告商品が参入不可能な市場で販売され,両商品の需要者は全く重ならないから,本件において不正競争防止法5条2項及び商標法38条2項を適用することはできず,不正競争防止法5条3項及び商標法38条3項に基づき,使用料率を1%として原告が受けた損害額を認定すべきである。
(2)また不正競争防止法5条2項及び商標法38条2項を適用するにしても,原告主張の損害額は過大である。
被告会社は,被告商品をP4へ752円の販売価格で販売しているが,P3から600円以上の仕入価格で仕入れ,また被告商品のパッケージ代は1個当たり43
円であったから,被告会社の被告商品1個当たりの利益額は109円(752円-600円-43円)を上回ることはない。また,被告商品の販売個数は合計21万8870個(平成26年1月から平成28年5月までは合計16万4150個であり,それ以前は,納品された被告商品用のパッケージには,製造ロス,切り替えロス,最終在庫が必ず含まれ,そのロス等の発生率は8.8%であるから,平成25
年6月までの被告商品のパッケージの納品個数6万個の91.2%である5万4720個)
であり,
以上より,
被告会社が受けた利益の額は2385万6830円
(1
09円×21万8870個)を上回らない。
そして,上述のとおり,原告商品と被告商品には「生ケーキ」と「冷凍ケーキ」という決定的な相違があり,同じロールケーキとはいえ,被告商品は,原告商品が
参入することは不可能な,原告商品とは無縁の市場で販売されていたから,不正競争防止法5条2項及び商標法38条2項を適用するにしても,被告会社がその販売を行わなければ原告の売上げが増加したとの関係にはなく,上記規定に基づく推定は99%覆滅される。
(3)原告主張の不当利得の主張は争う。そもそもP1及びP2は事業主体でない
から,被告商品の販売により利益を受けていない。
第4

当裁判所の判断

1
争点1(不正競争防止法2条1項1号の不正競争の成否)について
(1)上記第2の1記載の各事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

原告の店舗展開及び原告商品の販売状況

(ア)原告は,当初,堂島本店でのみ営業をしていたが,遅くとも平成18年までに,商品の箱に「堂島ロール」との原告標章を付したロールケーキ(原告商品)を製造,販売するようになり,その原告商品が,大阪市を中心とする地域において知られるようになった(甲22,甲35)。
(イ)そして原告は,平成18年9月,神奈川県川崎市に関東地方の第1号店を出
店し,平成19年には,東京都の銀座三越に出店したほか,名古屋伏見店,大阪市西区の南堀江店を出店し,平成20年10月までには東京都の東急百貨店渋谷・本店や日本橋三越にも出店し,合計8店舗を直営するに至った(甲35③,④,⑥ないし⑧,⑫,⑬,⑮)。
この間,原告商品の売上げは,遅くとも平成20年6月までに月1億円を超える
ようになり,その後も売上げが月1億円を超える状態が続いた。そして,この頃,原告商品の購入を希望する消費者が原告の堂島本店前に長蛇の列を作るほど,原告商品が人気となり,その後,その状態がしばらく続いた(甲35,甲37の1ないし5)。
(ウ)さらに原告は,平成21年4月,広島三越に出店し,平成22年6月には札
幌市に大丸札幌店と札幌円山店を出店し,原告の店舗は合計14店舗となった。また原告は,同年10月には中国上海にも出店した(甲7の5,甲35⑱,㉖)。原告商品の売上げは,平成21年3月ないし5月には月2億円を超え,同年12月には再び月2億円を超えた。

新聞雑誌等での記事掲載

(ア)原告や原告商品は,
遅くとも平成18年9月以降,「主要掲載記事一覧」
別紙
記載1ないし3の新聞や雑誌等を始めとして,全国又は日本各地の様々な新聞や雑
誌等の記事で取り上げられるようになった。これらの記事では,原告が原告商品の商品名として「堂島ロール」という表示を使用していることが記載されていた。そして,記事では,原告商品が原告の人気商品であることや,日本各地での原告の出店を報道する記事がみられ,各店舗では連日長い行列ができていること,原告商品が売り切れとなるなど人気商品であることが記載されていた(甲35)。また,平成20年6月12日の産経新聞大阪版は,「ロールケーキ人気再来」,「「堂島ロール」など火付け」という見出しの記事であり,この記事は,「“関西発”で,今や全国区の知名度を誇る「モンシュシュ」…の「堂島ロール」」という説明をする(甲35⑪)ほか,同年10月4日の日本経済新聞の日経プラスワンの
全国で販売されているロールケーキを取り扱った「おすすめのロールケーキ」という記事では,原告商品を1位にランクしていた(甲35⑫)。
(イ)原告や原告商品は,平成21年以降も,別紙「主要掲載記事一覧」記載4ないし6のとおりの新聞や雑誌等の記事で取り上げられていたほか,全国又は日本各地の様々なテレビ番組でも取り上げられていた。上記記事においては,原告のこと
を「ロールケーキの「堂島ロール」で人気の洋菓子店モンシュシュ」(甲35㉘),
「「堂島ロール」のモンシュシュ」(甲7の5),「堂島ロールの会社」(甲7の7)などと,原告が,原告商品の商品名である「堂島ロール」で一般に知られていることを前提にする表現が用いられていた(甲7の1ないし7,甲35,甲36の1)。

(ウ)さらに原告や原告商品は,平成25年以降も,別紙「主要掲載記事一覧」記載7及び8のとおり,新聞や雑誌等の記事で取り上げられており,この記事でも,原告のことを「ロールケーキの「堂島ロール」で知られるモンシェール」(甲7の14),「「堂島ロール」でおなじみのモンシェール」(甲7の17)などと,やはり原告が,その商号ないし営業表示ではなく,原告商品の商品名である「堂島ロ
ール」で一般に知られていることを前提にする表現が用いられていた(甲7の8ないし19,甲35)。


テレビによる報道等

原告商品は,遅くとも平成19年以降,全国又は日本各地の様々なテレビ番組でも人気商品として取り上げられるようになり,原告商品の商品名である「堂島ロール」が広く一般消費者に触れられるところとなった(甲36の1)。そして,例えば平成20年12月13日放送のテレビ朝日の「SmaSTATION!!」では,「2008年流行りものBEST30

これで今年の流行がすべ

て分かる検定!!」と題する特別企画において,原告商品が取り上げられるなどした(甲36の2)。

その他

原告商品は,平成20年12月から日本航空の関西空港-ハワイ線の機内食に採用され,ネットニュースでは,
「大人気「堂島ロール」がJAL関空~ハワイの機内
食に登場」などと報道された(甲34の1,2)。
また平成21年10月には,劇団四季大阪四季劇場において,劇団四季とのコラボレーション商品としての原告商品が販売され,ネットニュースで「堂島ロール,
劇団四季「ウィキッド」と初のコラボ商品「エルフィーロール」などと報道された(甲34の3)。
平成21年10月には,甲南大学の主催で,「堂島ロールのヒミツ」と題する原告代表者による講演会が開催され,その案内文書では,「大阪で誕生したモンシュシュの堂島ロール。いまや東京・神奈川・名古屋・広島まで店舗を拡大し,どのお
店でも長時間並ばないと買えないくらい大人気です。などと説明された」
(甲49)

(2)原告標章の周知性について
上記(1)の認定事実によれば,原告商品及びその商品等表示である「堂島ロール」は,平成18年頃から大阪市を中心に知られるようになって,そのことが,新聞や雑誌等の記事やテレビ番組で取り上げられるにつれて「堂島ロール」の商品名は全
国に知られ始め,これと並行して原告がその販売店舗を急速に全国に展開していくことで売り上げが伸びるとともに,雑誌,テレビ等のマスコミで取り上げられる機
会も一層増え,これらの相乗効果で,遅くとも被告会社が設立された平成24年6月までには,原告標章は,原告商品の出所を表示する商品等表示として,日本全国で需要者の間に広く認識され,その程度は周知の域を超え著名といえるほどになっていたものと認められる。
これに対し,被告らは,原告標章が,地域名称と一般名詞の略称の結合でしかないから,商品等表示足り得ない旨主張するが,上記(1)イ,ウ認定の新聞や雑誌等の記事やテレビ番組の内容から明らかなように,原告が販売している原告商品の商品名が「堂島ロール」であることが繰り返しマスコミで取り上げられていたのであるから,原告標章(とりわけ外観の特徴を伴わない原告標章1)は,実際に原告商品
のみならず原告の店舗に接することのない潜在的消費者にも強く印象付けられたものと認められ,これを商品等表示として周知性があると認定することは妨げられない。
また被告らは,一般消費者が出所識別の手掛かりとしているのは原告の営業表示である原告標章4の方であると主張するが,そのような主張を裏付ける事実は認め
られず,被告らの主張は失当である。
そのほか被告らは,原告標章を考案し,それを使用したロールケーキの販売を始めたのは,第三者であるから,原告の商品等表示とはいえない旨も主張するが,上記(1)認定のとおり,原告標章が原告の周知商品等表示となった事実が認められるから,被告らの主張事実の真偽はさておき,その点は問題とはならない。
(3)原告標章と被告標章の類似性について

ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類
似のものに当たるか否かについては,
取引の実情の下において,
取引者,
需要者が,
両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁参照)。


これを本件についてみると,被告標章1及び4である「堂島プレミアムロー
ル」は,「堂島」,「プレミアム」,「ロール」の3語で構成されているが,このうち,
「プレミアム」
との語は,優れたあるいは高品質なものを意味する語であり,
商品が優れたり,高品質なものであったりすることを表現するため商品名に「プレミアム」という文字が付加される例も多い(乙C7の1,2,乙C8の1参照)ことが一般的に認められるから,「プレミアム」の部分は,これと結合する他の単語で表示される商品の品質を表すものと理解され,商品の出所識別機能があるものとは認められない。他方,「堂島」は地名,「ロール」は「ロールケーキ」の普通名詞の略称を表す語であるが,「プレミアム」が上記のとおり,品質を示す意味しか
有しないことからすると,「プレミアム」を挟んで分離されているものの,被告標章1及び4からは,プレミアムな,すなわち高品質な「堂島ロール」との観念が生じ,これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえるし,また称呼も同様に類似しているといえる。
そうすると,被告標章1及び4と原告標章とは,被告標章4のみならず字体に特
徴のある被告標章1を含め,取引者,需要者が外観,称呼又は観念の同一性に基づく印象,記憶,連想等から,両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。

また被告標章2については,「(株)堂島プレミアム」と「プレミアムロー
ル」との語を2段重ねで一体的に表示したものであるが,「(株)」というのは会社の種類を示す株式会社の略語にすぎないから,これ自体に出所識別機能は認められない。そこで,これを除くと,被告標章2は,「堂島プレミアム」と「プレミアムロール」が2段重ねで一体化している表示であるが,上段,下段で重複して使用されている「プレミアム」という語は,上記で判示したとおり,独自の出所識別機能を有しない語であるし,
また取引の現場では長い名称の商品名は略して称呼され,

観念されることが多いと考えられるから,繰り返される「プレミアム」の部分は一単語に省略され,さらにそれ自体の出所識別機能がないことも合わさって,「堂島
プレミアム,プレミアムロール」から,「堂島」と「ロール」という2語が需要者に強く印象付けられると考えられる。したがって,被告標章2からは被告標章1及び4についてみたのと同様,プレミアムな,すなわち高品質な「堂島ロール」という観念が生じるということができ,これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえる。
また,称呼の点も,同様に「ドウジマプレミアムロール」との称呼が生じるといえるから,原告標章の「ドウジマロール」との称呼と類似しているといえる。そうすると,被告標章2と原告標章とは,取引者,需要者が外観,称呼又は観念の同一性に基づく印象,記憶,連想等から,両者を全体として類似のものとして受
け取るおそれがあるというべきである。

さらに被告標章3は,被告標章2の上段部分の「(株)堂島プレミアム」部分
を,下段の「プレミアムロール」より小さな文字で表示しているものであるが,上下段の一体性を損なうほど,文字の大きさに差はないから,被告標章2と同様の理由から,取引者,需要者は被告標章3と原告標章を類似のものと受け取るおそれがあるということができる。

被告標章5は,被告標章2及び3の「(株)」の部分を「株式会社」,「(株)」

又は同部分に相当する部分がないものとしている標章であるが(ただし,2段重ねという限定はない。),「(株)」については既に説示したとおりであり,「株式会社」についても,単なる会社の種類を表示する語にすぎないから,これが全くない場合も含め,被告標章5と原告標章が類似しているといってよいことは,上記ウ,エで説示したところと同じである。

以上のとおり,被告標章は,いずれも原告標章と類似しているものと認めら
れる。
(4)商品の混同を生ずるおそれの有無
以上のとおり,原告標章と被告標章は類似しており,原告標章を付した原告商品と被告標章を付した被告商品はいずれも一般消費者を需要者とするロールケーキと
いう点で共通しているだけでなく,両商品の販売価格はほぼ一緒であるから,被告商品を販売する行為は,他人である原告の商品と混同を生じさせる行為であるということができる。
被告らは,原告商品は生ケーキであり被告商品は冷凍ケーキという決定的な相違があるほか,販売取扱店も異なるから,両商品の市場及び需要者が完全に隔離され混同のおそれがない旨主張するが,原告商品及び被告商品とも同価格帯の菓子でしかなく,需要者は重複しているし,現に証拠(甲58)によれば,消費者のみならず被告商品を取り扱うスーパーマーケットであってさえ,被告商品と原告商品とを誤認している様子がうかがえるから,混同のおそれがない旨の被告らの主張は失当
である。
2
争点2
(先使用による適用除外(不正競争防止法19条1項3号該当の有無))
について
被告会社が被告標章を使用するようになったのは平成24年6月以降であるところ,
上記1(2)で判示したとおり,
原告標章は遅くともそれまでには周知となってい
たと認められるから,被告らの不正競争防止法19条1項3号の規定に基づく先使用による適用除外の主張には理由がない。
3
小括

上記認定によれば,被告会社が被告標章1ないし4を使用し,またこれらを使用した被告商品を譲渡する行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する行為であるといえる。
そして,被告会社は,現在,被告標章を使用した原告商品と競合するロールケーキを販売していないが,被告会社が被告標章1ないし4の使用を止めたのは,平成28年4月26日にされた,これらの使用禁止を命ずる仮処分命令(以下「本件仮処分命令」という。)の発令を受けた上での行為にすぎない(甲29,弁論の全趣
旨)から,現時点でも原告には,被告会社が,再度,被告標章1ないし4を使用したロールケーキを販売して営業上の利益を侵害されるおそれがあるものと認められ
る。
また,被告標章5についても,これを被告会社が使用した具体的事実を認めるに足りる証拠はないが,これは被告標章2及び3の標章の類似範囲にあるものといえるし,被告会社が原告から警告を受ける都度,被告標章を同1から同3へ少しずつ変更してきたという本件の経緯に照らし,被告会社が使用するおそれがあるものと認められる。
そして,
原告商品と被告商品とが誤認混同されるおそれがあると認められる以上,原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあるということができるから,原告の被告会社に対する不正競争防止法3条1項に基づく被告標章の使用差止請求には理由
があり,また具体的に使用した事実が認められる被告標章1ないし4の関係では,同条2項に基づく抹消請求には理由があるといえる。ただし,被告会社による具体的使用事実の認められない被告標章5を対象とする抹消請求には理由がない。4
争点4(P1及びP2の会社法429条1項に基づく損害賠償責任の有無)
(1)上記第2の1記載の各事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

P1は,被告会社設立時のただ一人の取締役として代表取締役を務め,平成
26年8月1日まで,その職にあったが,その間,被告標章1を使用した被告商品をP3に委託して製造し,P4に販売していた(甲3)。

P1が代表取締役を務めている間に,被告会社は,原告から平成24年11
月14日付け及び同年12月13日付けの内容証明郵便で,被告標章1の使用が不正競争行為に当たる旨の警告を受け,被告会社は被告標章1の使用を平成25年4月頃に止め,その後,被告標章2を使用した被告商品を販売するようになった。なお,被告標章2を使用した被告商品の一括表示には,被告商品の箱記載の商品名である被告標章2とは異なる被告標章4が記載されていた(甲24)。

P2は,平成26年8月1日付けで被告会社の取締役に就任するともに代表
取締役に就任し,同日,P1は,被告会社の代表取締役及び取締役を辞任した。ま
た,被告会社は,同日付けで本件所在地をリーガロイヤルホテル大阪の住所地に移転する旨の登記をした(甲3,甲23)。

原告は,同年9月29日付けで,被告会社宛てに変更後の被告標章2の使用
も不正競争行為に当たる旨警告する内容証明郵便を送付したが,リーガロイヤルホテル大阪の住所地へは郵送できなかった(甲22,甲24)。

被告会社は,平成27年4月頃,被告標章2の使用を止め,同月頃から被告
商品に被告標章3を使用するようになった。

原告は,同年7月頃に複数回にわたって被告会社宛てに同被告の不正競争に
ついての警告文書を郵送しようとしたが,被告会社の所在地が分からず郵送できない状態が続いていた(甲25ないし27(枝番号を含む。))。

原告は,同年9月頃に,被告会社の取引先に対し,被告会社は実態のない不
審な会社である旨通知した。これに対し,被告会社は,同月7日付けで,被告会社はリーガロイヤルホテル大阪内に事業所を構えており不審な点はない旨反論する「ご連絡」と題する書面を取引先に配布する一方,同月30日,同月18日付けで本店所在地を現在の住所地に移転した旨の登記をした(甲3,乙A13)。ク
原告は,同年10月22日に,不正競争防止法に基づき仮処分命令を申し立
て,被告会社は,不正競争ではないと争ったが,平成28年4月26日に本件仮処分命令が発令された(甲29)。

被告会社の販売先であるP4は,
同年5月になって被告商品の販売を止めた。


P1及びP2は,被告会社の代表取締役在任時,いずれも被告会社のただ一
人の取締役であり,またその間の被告会社の事業は,被告商品をP3に委託して製造し,P4に販売することだけであった。
また,被告会社は,会社設立後,本店所在地につき2度移転登記をし,最初の移転登記は,P2の代表取締役就任と同時になされたが,その住所地は,リーガロイヤルホテル大阪の住所地であって架空のものであった。そして,被告会社は,原告の訴訟代理人が,被告商品の製造販売主体を調査する中で,リーガロイヤルホテル
大阪に問い合わせるなどして,本店所在地の住所が架空であることを突き止め,これを被告会社の取引先に通知するようになった後,速やかに現在の住所地に本店所在地の移転登記をした(甲3,甲23)。
(2)以上よりP1及びP2の会社法429条1項の損害賠償責任の有無について検討するに,P1は,原告標章が周知となった後に設立された被告会社の唯一の取締役であり,代表取締役として原告標章に類似する被告標章1を使用して,その唯一の事業である被告商品の販売事業を遂行していたものであり,その間,原告から不正競争である旨の警告を受けるも,使用標章を類似の範囲にある被告標章2に変更するに留めて同事業を継続させていたものである。

そしてP2は,平成26年8月1日にP1に替わって取締役に就任すると同時に代表取締役に就任し,上記事業の遂行責任者となった者であるが,就任と同時に,その本店所在地を,リーガロイヤルホテル大阪の所在地に移転登記するなど,被告商品の販売事業者を対外的に不明な状態にし,また原告が仮処分命令を申し立てた後も,これを争って,その販売を継続して事業を遂行し,本件仮処分命令が発令さ
れた後も,販売先であるP4においては被告商品の販売を継続していた。したがって,以上によれば,P1及びP2は,ともに被告会社が違法行為となる不正競争行為に該当する事業を取締役として積極的に遂行したものとして,その職務を行うことについて悪意とまで断ずることができなくとも,少なくとも重大な過失があったことが認められるから,会社法429条1項に基づき,その在任期間に
上記不正競争により原告に生じた損害を賠償する責任があるものというべきである。5
争点5(原告が受けた損害の額又は損失の額)

(1)不正競争防止法5条2項の適用の可否について
原告は不正競争防止法5条2項に基づき,その受けた損害の額を主張しているところ,被告らは本件において同項の推定を許容するだけの事業の同種性が認められないとして,同項の適用を争い,同条3項に基づき原告の損害を算定すべきであると主張している。

しかしながら,同条2項の適用要件は,原告が被告会社の不正競争により営業上の利益を侵害されたことだけであり,この関係は,不正競争行為者の行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在すれば足りると解されるところ,原告商品及び被告商品ともに一般消費者を対象とする1個1000円少しという同価格帯で競合している商品であることは明らかであって,被告らが主張する原告商品が生ケーキ,被告商品が冷凍ケーキであることや,原告商品が原告直営店や百貨店で販売されるのに対し,被告商品がスーパーマーケットやネット販売されるという違いは上記事情があるということを妨げるものとは認められない。そこで,本件においては,同条2項の適用を前提に以下のとおり判断をする。
(2)被告会社が受けた利益の額について

被告商品の1個当たりの販売利益について

証拠(乙B12)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社のP4に対する被告商品の販売価格は,752円と認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。また,必要経費についてみると,被告商品1個当たりのP3からの仕入額は,これを的確に認める証拠はないので,製造業一般の基準によって認定するほかないところ,証拠(甲21)によれば,食料品の製造企業(中小企業)の製造原価割合は75%であると認められ,また証拠(乙A22の1ないし12)によれば,P5から納品を受けた箱の製造費は,
被告商品1個当たり43円であると認められるから,
被告商品1個をP4に販売するのに必要な経費は,607円(752円×75%+
43円)と認められる。
したがって,被告商品1個当たりの被告会社が受けた利益の額は145円と認められる。

被告商品の販売個数について

原告は,被告会社による被告商品の販売個数を24万個と主張するところ,この数量を的確に認定できる証拠はないものの,証拠(乙A22の1ないし12)によれば,被告会社の被告商品の箱の納品数は合計24万個であると認められる。
そして,被告商品が箱に詰められて販売される商品であることからすると,納品を受けた箱の数量と販売した商品の数量は比例する関係にあることは明らかであるが,箱の納品数は商品としての販売数そのものではない。そこで,証拠上認定できる限度で,その関係についてみると,証拠(乙A22の5ないし12,乙B12,乙B15)によれば,P4が,平成25年10月から平成28年5月までに被告商品を被告会社から仕入れて販売した数量は,合計17万7210個と認められるところ,その時期の直前に箱の納品がされた平成25年8月2日から最後に箱の納品がされた平成28年1月5日までの箱の納品総数は18万個であってほぼ一致していることが認められる。

そして,上記4(1)の各事実によれば,被告会社は,箱に付する被告標章を2度変更し,さらに最後は本件仮処分命令の発令を受けて被告商品の販売を止めるに至っているものの,最初の原告の警告がなされたのが平成24年11月14日付け及び同年12月13日付けの内容証明郵便であるのに,被告標章1の使用を止めて被告標章2に変更したのは平成25年4月頃であり,また被告標章2から被告標章3へ
の変更は任意になされたものである。さらに,別紙「被告商品の販売個数と箱の納品数」のとおり,本件仮処分命令が発令されたのは平成28年4月26日であるのに,納品先とはいえP4においては,同年5月に,その前月とさほど変わらない数量の被告商品を販売しているというのであるから,被告標章の2度にわたる変更や本件仮処分命令の発令を受けてする販売停止に伴い納品済みであった被告商品の箱
が使用されずに大量に廃棄されたものとは認められない。
したがって,被告商品の販売数量は,被告商品の箱の納品数量に基づき推認するのが合理的であり,一定割合の在庫,廃棄等が不可避的に生ずることを十分見込んだとしても,その割合は,上記認定した平成25年10月から販売終了時までの販売数量17万7210個と,その間に最も近似する期間の箱の納品数量18万個の
割合の関係を超えないものと考えられるから,この割合をもって商品の販売数量を控えめに認定すると,以下のとおり,被告商品の販売数量は合計23万6280個
であると認められる。
(計算式)
24万個×(17万7210個÷18万個)=23万6280個
なお,被告らは,被告商品の箱の納品数を基準とする計算方法は同じであるものの,平成25年10月ないし12月の販売数量を除外して,同年8月2日以後の箱の納品数合計18万個と,平成26年1月から販売終了時までの被告商品の販売個数16万4150個との割合により製造ロス等の率を8.8%として全期間の販売数量を算出すべきように主張しているが,箱が納品されて2か月経過した後であるのに平成25年10月ないし12月の販売数量をあえて除外する合理的な根拠は見
出し難く,また製造ロスが8.8%という数値も単に商品を詰める箱に生じる製造ロス等としては過大であると考えられ,被告らの主張は採用できない。ウ
まとめ

以上より,被告会社が,被告商品を販売したことにより受けた利益の額は,上記ア認定の被告商品1個当たりの利益の額145円に上記イ認定の販売数量23万6280個乗じて認定される3426万0600円であると認められる。(3)被告ら主張の推定覆滅事由について
被告らは,原告商品は生ケーキであり被告商品は冷凍ケーキという決定的な相違があるほか,販売取扱店も異なるから,両商品の市場及び需要者が完全に隔離されているとして,被告商品の売上げのうち99%について,推定が覆滅する旨の主張
をしている。
しかしながら,
上記1(4)で説示したのと同様,
原告商品及び被告商品とも100
0円を少し上回る程度という同価格帯の菓子でしかなく,上記の相違点ゆえに市場及び需要者が重複していないとはおよそ考えられない。
かえって,
上記4(1)の認定
事実によれば,被告会社は,会社設立時から,原告商品との混同を目論んで被告標
章を使用していたことさえうかがえ,現に証拠(甲58)によれば,消費者のみならず被告商品を取り扱うスーパーマーケットであってさえ,被告商品と原告商品と
を誤認している様子がうかがえるから,上記の事情をもって,不正競争防止法5条2項の規定により認められた推定が覆滅するに足りる事実が立証されたとはいえない。
(4)まとめ
以上によれば,被告会社の不正競争により原告が受けた損害の額は,不正競争防止法5条2項の適用により,上記認定の被告会社が受けた利益の額である3426万0600円であると認められる。
6
被告らが負うべき損害賠償の額

(1)被告会社
被告会社は,原告に対し,不正競争防止法4条に基づき上記認定の損害額3426万0600円及びこれに対する平成28年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う(なお,上記認定した被告商品の販売実績は,遅延損害金起算日より後の同年5月分まで含んでいるが,その販売実績は,P4によるものである。本件で問題にする被告会社の不正競争行為は,被
告会社のP4に対する販売の前提となる被告標章の使用行為であるから,これらの行為は,本件仮処分命令が発令された同年4月26日より前に終えていると合理的に推認することができ,したがって遅延損害金の起算日を原告主張どおりの同日とすることができる。)。
(2)P1及びP2

P1及びP2は,原告に対し,会社法429条1項に基づき損害賠償責任を負うが,その額は損害賠償請求の対象となる期間中の在任期間に応じた割合の限度にとどまるべきであるところ,P1の在任期間は平成24年6月11日から平成26年8月1日までの782日間であり,P2の在任期間は,同日から平成28年4月26日までの635日間であるから,以下の計算式に従い,P1は1890万740
2円,P2は1535万3198円の限度で会社法429条1項に基づく損害賠償責任を被告会社と連帯して負う。

(計算式)
P1

3426万0600円×(782日÷1417日)=1890万7402
円(1円未満四捨五入。以下同じ。)
P2
3426万0600円×(635日÷1417日)=1535万3198

また,会社法429条1項に基づく損害賠償債務は,法が取締役の責任を加重するため特に認めたものであって,不法行為に基づく損害賠償債務の性質を有するものではないから,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解される(最高裁昭和59年(オ)第15号平成元年9月21日第一小法廷・裁判集民事157号635頁参
照)。そして,P1に対する訴状の送達日は平成28年7月9日,P2に対する訴状の送達日は同月21日であり(当裁判所に顕著な事実),これ以外に上記履行の請求がされたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,P1は,原告に対し,会社法429条1項に基づき上記認定の損害額1890万7402円及びこれに対するP1に対する訴状送達日の翌日である平
成28年7月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負い,P2は,原告に対し,会社法429条1項に基づき上記認定の損害額1535万3198円及びこれに対するP2に対する訴状送達日の翌日である同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

7
原告のその他の損害賠償請求について

原告は,主位的請求において選択的に原告商標権侵害に基づく損害賠償を,予備的に不当利得の返還を請求しているが,これらの請求が認められたとしても,上記認定の損害賠償額を超えることはない。
すなわち,商標権侵害に基づく損害賠償請求については,仮に商標権侵害が認められるとしても,上記認定の損害賠償額と同額と認められる。
また不当利得に基づく返還請求については,被告会社との関係で原告商標権を無
権限で使用した行為について不当利得を認めるとしても,算定基準が実施料相当額を前提とすることから,上記認定の損害賠償額を超えることはない(自らは事業主体ではないP1及びP2については,不当利得を認める余地はない。)。8
以上によれば,原告の被告らに対する請求は,被告会社に対する請求につい
ては,被告標章の使用等の差止請求及び被告標章1ないし4の抹消請求並びに3426万0600円及びこれに対する平成28年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,P1に対する請求については,1890万7402円及びこれに対する同年7月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由が
あり,P2に対する請求については,1535万3198円及びこれに対する同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その理由のある限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,棄却することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項を,仮執行宣言については民事訴訟法259条1項を適用
して主文のとおり判決する(なお,被告らの金銭支払義務は,被告会社とP1は,P1の支払義務の限度で連帯し,被告会社とP2は,P2の支払義務の限度で連帯する。)。なお,主文第3項に仮執行宣言を付するのは相当ではないから,これを付さないこととする。

大阪地方裁判所第21民事部

裁判官
野上誠一
裁判長裁判官森崎英二及び裁判官大川潤子は転補により署名押印することができない。

裁判官
野上誠一
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