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職務発明対価等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10099
事件名職務発明対価等請求控訴事件
裁判年月日平成30年5月14日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)10147
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平成30年5月14日判決言渡
平成29年(ネ)第10099号

職務発明対価等請求控訴事件

原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第10147号
口頭弁論終結日平成30年3月19日
判控決訴人X
同訴訟代理人弁護士

岩被
株式会社オークネット

控訴人
同訴訟代理人弁護士

永利彦谷信布村浩之堀越充子宗野恵治石主熊太郎島正道文1
本件控訴を棄却する

2
控訴人の当審における追加請求を棄却する。

3
当審における訴訟費用は,全て控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
(主位的請求)被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する
平成28年4月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。3
(予備的請求)被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する
平成29年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(当審における追加請求)。
4
訴訟費用は,第1,2審を通じ被控訴人の負担とする。

第2事案の概要(略称は,審級による読替えをするほか,原判決に従う。)1
本件は,被控訴人の従業員であった控訴人が,被控訴人の保有する,発明の
名称を「ネットワークリアルタイムオークション方法」とする特許第3997129号の特許(本件特許)に関し,控訴人は本件特許に係る発明の発明者であり,同発明に係る特許を受ける権利を被控訴人に承継させたとして,被控訴人に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条3項の規定による相当の対価の支払請求権(本件対価請求権)に基づき,相当の対価9000万円のうち1500万円及びこれに対する弁済期の後の日である平成28年4月10日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,本件対価請求権は時効によって消滅したと判断して,控訴人の請求を棄却した。
そこで,
控訴人が原判決を不服として控訴した。
なお,
控訴人は,
当審において,
請求額を1000万円に減縮するとともに,知的財産取扱規程(本件取扱規程)及び職務発明等褒賞金規程(本件褒賞金規程)に基づく相当額の褒賞金として,相当の対価2億3323万1290円のうち1000万円及びこれに対する弁済期の後の日である平成29年12月27日(訴えの予備的・追加的変更申立書送達日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の請求を,予備的に追加した。
2
判断の前提となる事実

原判決5頁19行目の「9月29日」を「9月28日」と訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。3
争点

(1)

本件各発明に係る相当の対価の額(争点1)

(2)

本件対価請求権の消滅時効の起算日(争点2)

(3)

本件対価請求権の支払債務の承認の有無(争点3)

(4)

本件各規程
(本件取扱規程及び本件褒賞金規程)
に基づく予備的請求の可否

(争点4)
第3争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,後記1のとおり補正し,後記2のとおり当審における主張を追加するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4記載のとおりであるから,これを引用する。
1
(1)

原判決の補正
原判決7頁22行目の末尾に以下のとおり加える。

「そして,平成28年8月から平成30年3月までの推計売上高は,8億5180万5565円である。」
(2)

原判決7頁24行目の「17億3407万2076円」を「平成19年8月
から平成28年7月までにつき,17億3407万2076円」と改める。(3)

原判決9頁3行目の「5パーセント」を「10%」と改める。

(4)

原判決9頁5行目の「原告が」から8行目の「算定されることになり」まで
を以下のとおり改める。
「原告が支払を受けるべき相当の対価の額は,51億8158万4225円(期間売上高)×50%(超過売上率)×10%(仮想実施料率)×90%(被控訴人の貢献度の控除)=2億3317万1290円と算定されることになり」(5)

原判決9頁24行目の「17億3402万円」を「平成19年8月から平成
28年7月までにつき,17億3402万円」と改める。
2
(1)

当審における当事者の主張
争点2(本件対価請求権の消滅時効の起算日)

〔控訴人の主張〕


本件各規程は,控訴人の提言に従って策定されたものであり,平成27年9
月28日付けメール(本件メール)には「両規定とも27年9月以降の適用となっておりますが,当社の過去の特許においても該当する案件には今回の規定を適用することといたしました。」とあるように,被控訴人は,本件各発明に本件各規程を適用する旨の意思表示を明確に行っている。また,本件各規程は,労働法にいう就業規則の一部にほかならず,原則として,控訴人の意思表示等によることなく,控訴人にも適用される(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)。
したがって,本件各規程は,本件対価請求権にも当然に適用される。イ
仮に,本件各規程を適用するためには,当事者の意思の合致が必要であると
しても,本件メールによる被控訴人の意思表示は,控訴人の意思表示(本件対価請求権につき本件各規程を適用してほしい旨の申込み)に対する承諾に当たる。ウ
控訴人が在職中に本件各規程の策定を求めたこと,控訴人退職時までに本件
各規程を策定できる時間的余裕が被控訴人にあったこと,控訴人の要請に対し被控訴人は真摯に対応しなかったこと,控訴人の退職時に本件各規程の策定について半年待つように被控訴人から連絡を受けたこと,控訴人はその連絡を信じて現に半年待ったことなどの事情からすると,被控訴人が,控訴人の退職後に本件各規程が策定され,本件メールが送信されたことを理由として,本件対価請求権への本件各規程の適用を拒絶することは,信義則上許されない。

また,被控訴人が,本件メールによって,本件各発明に本件各規程を適用す
る旨の申込みをしたと解されるのであれば,控訴人は,平成30年1月15日付け控訴理由書によって,これを承諾する旨の意思表示をした。

以上のとおり,本件対価請求権には本件各規程の適用があるので,消滅時効
の起算点は,
実施褒賞金の支払期日である
「登録後の実施開始1年後」すなわち,

平成20年8月10日である。
したがって,消滅時効は完成していない。

〔被控訴人の主張〕

平成27年10月7日付けの被控訴人から控訴人に対する電子メールに,今「

回特別にお支払する6万円でXさんの特許に対する対応は完了とさせていただきます。」と記載されているように,本件メールで6万円の支払をする用意があると伝えたのは,本件各発明に関する紛争を全て収束させるための解決金とする趣旨で提案したものである。被控訴人は,控訴人の在職中から,対価の支払義務はないことを控訴人に示していたのであって,平成27年2月2日の面談の際には,消滅時効を援用する旨の本件回答書を控訴人に交付している。

本件メールは,前記アのとおり,解決金の支払の用意がある旨を回答したも
のであり,本件対価請求権について本件各規程を適用する旨の意思表示をしたものではない。また,退職従業員である控訴人に,退職後に策定された就業規則が当然に適用される余地はない。

控訴人は,職務発明に関する規程の策定を進言していたが,本件各規程を策
定して,自らに適用するよう申込みをしていた事実はない。したがって,本件メールが,控訴人の申込みに対する承諾に当たる余地はない。

被控訴人は,控訴人に対し,対価の支払義務がないことを伝え,客観的にも
消滅時効の期間が経過していたのであるから,控訴人に適用する関係で,規程を策定する必要も理由もない。控訴人に本件各規程の適用を否定したとしても,何ら信義則に反するところはない。

前記アのとおり,本件メールは,解決金の支払を提示するものであるから,
控訴人が承諾の意思表示をすることによって,本件各規程が適用されることにはならない。また,控訴人が,本件メールによる解決金の提示を受け入れず,調停及び訴訟といった法的手段に移行したことに伴い,解決金支払の提案は失効している。(2)

争点3(本件対価請求権の支払債務の承認の有無)

〔控訴人の主張〕

職務発明に係る相当の対価の請求権は,債権発生時において具体的な額が不
明であるにもかかわらず,消滅時効期間が進行するものである。かかる債務の承認について,通常の債権と同様の高いレベルでの債権の具体性の認識を要求したのでは,極めて公平に反する。したがって,ある程度あやふやな債務承認行為であっても,支払債務の承認と認めるべきである。

控訴人は,被控訴人への在職中及び退職後も,職務発明の相当の対価の債権
について明白に認識して,被控訴人にその支払を要求し続け,被控訴人はこのことを認識していた(甲3,5~7,16の1~3)。そして,被控訴人は,平成27年3月31日,控訴人に対し,「Xさんの特許もそれまでは現状のままとさせてください。」と記載のある電子メール(甲6)を送信した。このように被控訴人は,控訴人に対し,
職務発明の相当の対価の支払がされるものとの信頼期待を抱かせ,・
このことを認識していた。被控訴人は,かかる状況のもと,控訴人に対し,「よって,Xさんに対しましても,出願報奨金10,000円と登録報奨金50,000円が該当いたします。手続きを進めたいと存じますので,振込口座をお教えください。」との記載のある本件メールを送信した。
したがって,本件メールは,控訴人に対し,職務発明の相当の対価の一部を支払う旨を示したものであり,本件対価請求権の支払債務の承認又は時効利益の放棄に当たる。

控訴人は,本件メールの受信によって既に時効の援用がされないとの信頼・
期待を抱いていたところ,平成27年10月7日付けの電子メールは,本件メールの約10日も後に送信されたものである。本件メールに上記電子メールを併せ考慮して,本件メールの趣旨が解決金の支払提示であったと解することはできないし,仮にそうであったとしても,無効である。
〔被控訴人の主張〕

控訴人の主張は争う。


被控訴人は,控訴人の在職中から,支払義務はないことを回答し,本件メー
ルは,紛争を解決するための解決金を提案したものであり,その提示額を定めるに
当たり,本件各規程の出願褒賞金と登録褒賞金の合計額としたにすぎない。控訴人作成の調停申立書においても,控訴人は,被控訴人が債務承認したという認識を全く有していなかった。また,本件メールによる6万円の提示によって,6万円を超える債務の存在を認めたことにはならない。
(3)

争点4(本件各規程に基づく予備的請求の可否)

〔控訴人の主張〕

被控訴人は,平成27年9月28日付けメール(本件メール)において,本
件各発明について本件各規程(本件取扱規程及び本件褒賞金規程)の適用がある旨の意思表示を行った。控訴人は,平成29年12月20日付け訴えの予備的・追加的変更申立書をもって,上記意思表示に対する承諾の意思表示をした。イ
本件に,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条の適用がある
場合,本件各規程で定められた額が,相当の対価の額に満たないときは,不足額について裁判所における請求が可能であることは明らかである(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。また,平成27年法律第55号による改正前の特許法35条の適用がある場合であっても,本件各規程に基づく手続は何ら履践されておらず,同条5項の規定により不合理と認められるから,裁判所における請求が可能である。

被控訴人における超過売上げの割合は,50%を下回ることはない。

仮想実施料率は,少なくとも10%を下回ることはない。


被控訴人の寄与度は,全くないといってもよく,多くともせいぜい10%程
度にすぎない。

したがって,実施褒賞金は2億3317万1290円である。
(計算式)51億8158万4225円×0.5×0.1×(1-0.1)=2億3317万1290円


また,本件各規程による褒賞金等のうち,出願褒賞金1万円と登録褒賞金5
万円は,被控訴人が自認している。


よって,控訴人は,被控訴人に対し,本件各規程に基づき,上記カ及びキの
合計額2億3323万1290円を請求することができるところ,控訴人は,一部請求として,1000万円及びこれに対する弁済期の後の日である平成29年12月27日(訴えの予備的・追加的変更申立書送達日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。なお,控訴人は,本件対価請求権について本件各規程の適用が認められない場合,又は,本件各規程に基づく褒賞金の請求が本件対価請求権と異なるものとして,その同一性が認められない場合に備えて,本件各規程に基づく褒賞金を予備的・追加的に請求するものである。〔被控訴人の主張〕

本件メールは,解決金の提示を行ったものであり,控訴人がこれを受け入れ
ず,調停申立てに至った段階において,提案は失効している。
したがって,
本件各規程が,
控訴人の平成29年12月20日付け訴えの予備的・
追加的変更申立書における承諾の意思表示によって,控訴人に適用される余地はない。

仮に,本件各規程が適用されるとしても,本件メールは,出願褒賞金1万円
と登録褒賞金5万円の部分の適用しか通知していないので,被控訴人の負う支払義務は6万円である。

仮に,実施褒賞金についても本件各規程が適用されるとしても,その額は,
前記のとおり(引用に係る原判決の9頁10行目から11頁13行目まで),13万0051円を上回ることはない。この額は,不合理なものではないから(平成27年法律第55号による改正前の特許法35条4項),控訴人はこれを超える請求ができない。
第4

当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の主位的請求は理由がなく,当審における予備的請求も理由がないので,いずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,後記1のとおり補正し,後記2ないし4のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加する
ほか,
原判決の
「事実及び理由」
の第3記載のとおりであるから,
これを引用する。
1
(1)

原判決の補正
原判決13頁20行目の「(なお,」から25行目の「陳述した。)」まで
を削る。
(2)

原判決14頁18行目の「原告は,」から22行目の「ほかはない。」まで
を削る。
(3)

原判決16頁7行目の
「10月13日」「10月7日」

と,
11行目の
「同

日」を「同月13日」と改める。
(4)

原判決18頁6行目の「本件」から7行目の「であるから,」を「本件対価
請求権は,平成27年に被控訴人が策定した本件各規程に基づき発生したものではないから,」と改める。
2
(1)

争点2(本件対価請求権の消滅時効の起算日)について
前記のとおり(引用に係る原判決の13頁19行目から14頁24行目ま
で),本件対価請求権の消滅時効の起算日は,平成14年9月3日と認められる。(2)

控訴人の主張について
控訴人は,本件各規程は本件対価請求権にも当然に適用されると主張する。
しかし,被控訴人のAは,控訴人在職中の平成27年2月2日,控訴人に対し,被控訴人としては対価の支払に応じられない旨を説明したこと(なお,Aが本件回答書を控訴人に交付し,また,時効の完成について明確に説明したとの事実を認めるに足りる的確な証拠のないことは,原判決16頁22行目から17頁9行目に説示のとおりである。),本件各規程は,本来,施行日以降に被控訴人が権利を承継した知的財産権を対象とするものとして作成されたこと(本件各規程の付則。乙26の1・2),控訴人が,本件メールを受けて,本件各規程を送付するよう求めたところ,Aは,同年10月7日,控訴人に対し,「今回制定した社内規定については退職者に対しては開示できませんのでご了承ください。弊社としては,今回特別にお支払する6万円でXさんの特許に対する対応は完了とさせていただきます。」
との電子メールを送信していることからすれば,被控訴人が,本件メールをもって本件対価請求権に本件各規程を適用する旨の意思表示を行ったとは解し難く,本件各発明に関する当事者間の紛争を解決するための解決金を提示する趣旨であったと解するのが相当である。
また,本件各規程が就業規則に当たるとしても,既に退職した控訴人に対し,当然に効力を有するものではない。

控訴人は,仮に,本件各規程を適用するために当事者の意思の合致が必要で
あるとしても,
本件メールは,
控訴人の意思表示に対する承諾に当たると主張する。
しかし,控訴人は,平成26年12月12日付けで,本件各発明について承継の対価を請求するとともに,職務発明に関する規程を整備するよう求めているものの(甲3の別紙2),内容も定かでない,これから作成される本件各規程を遡及的に適用してほしい旨の申込みを行ったとまでは解し難い。また,仮に,かかる申込みがあったとしても,前記アのとおり,被控訴人は,本件メールによって,解決金を提示する趣旨であったと解するのが相当であるから,上記申込みに対する承諾の意思表示をしたとは認められない。

控訴人は,被控訴人が,控訴人の退職後に本件各規程が策定され,本件メー
ルが送信されたことを理由として,本件対価請求権への本件各規程の適用を拒絶することは,信義則上許されないと主張する。
しかし,本件各規程は,本来,施行日以降に被控訴人が権利を承継した知的財産権を対象とするものとして作成されたこと
(本件各規程の付則。
乙26の1・2)

被控訴人が,平成27年3月に定年退職を迎える控訴人に本件各規程が適用されないように,ことさら本件各規程の策定を遅らせたことを認めるに足りる証拠はないことからすれば,控訴人が本件各規程の策定を求めたものであったとしても,控訴人に本件各規程を適用しないことが,信義則上許されないということはできない。エ
控訴人は,被控訴人が,本件メールによって,本件各発明に本件各規程を適
用する旨の申込みをしたと解されるのであれば,控訴人は,平成30年1月15日
付け控訴理由書によって,これを承諾する旨の意思表示をした旨主張する。しかし,前記アのとおり,被控訴人は,本件メールによって,解決金を提示する趣旨であったと解するのが相当であるから,本件各発明に本件各規程を適用する旨の申込みをしたとは解し難い。また,控訴人が,平成27年10月30日,被控訴人を相手方として対価の支払を求める民事調停を申し立て,同調停は,平成28年3月17日,不成立により終了し,控訴人が,同月30日,本件訴えを提起したという経過に照らせば,本件メールによる解決金の提示自体,既に失効していると認められる。よって,平成30年1月15日付け控訴理由書によって,何らかの合意が成立することはない。

(3)

したがって,控訴人の主張はいずれも理由がない。
小括

以上のとおり,本件対価請求権に本件各規程は適用されないから,本件対価請求権の消滅時効の起算日は,被控訴人が本件各発明に係る特許を受ける権利を承継した平成14年9月3日(出願日)である。
3
(1)

争点3(本件対価請求権の支払債務の承認の有無)について
前記のとおり(引用に係る原判決の14頁26行目から18頁20行目ま
で),被控訴人が本件対価請求権の支払債務を承認したとは認められないから,被控訴人が本件対価請求権に係る消滅時効の時効援用権を放棄したとか,消滅時効の援用が信義則に反して許されないということはできない。
(2)

控訴人の主張について
控訴人は,本件メールは,本件対価請求権の支払債務の承認又は時効利益の
放棄に当たると主張する。
(ア)

証拠(甲3,5~7,16の1~3,原審証人A,原審における控訴人本
人)によれば,以下の事実が認められる。
控訴人は,平成26年12月12日,被控訴人に対し,職務発明に係る相当の対価の支払を請求したが(甲3の別紙2),被控訴人のAは,平成27年2月2日,
控訴人に対し,被控訴人としては対価の支払に応じられない旨を説明した。これに対し,控訴人は,対価が支払われないのであれば,本件特許権を控訴人に移転してほしいと求めた。被控訴人は,同年3月16日ころ,控訴人に対し,本件特許権の移転には応じられないし,相当の対価も支払わない旨説明した(甲7)。Aは,同年3月31日,「特許に関する規定の件ですが,半年をめどに作成いたします。9月末の予定です。Xさんの特許もそれまでは現状のままとさせてください。」との電子メールを送信し,控訴人は,同日,「オークネットに技術者が育つ良い規程ができることを期待し,半年待つことにします。」との電子メールを返信した(甲6)。被控訴人は,同年4月3日,控訴人に対し,退職時の誓約書の提出を求めたが,控訴人は,特許の帰属と債務の存在及び調整手当に関する未払債務の存在について問合せ中であるとして,
誓約書の提出を保留した
(甲16の1~3)

控訴人は,同年9月18日,Aに対し,進捗状況を問い合わせる電子メールを送信した(甲6)。Aは,同月28日,控訴人に対し,「両規定とも27年9月以降の適用となっておりますが,当社の過去の特許においても該当する案件には今回の規定を適用することといたしました。よって,Xさんに対しましても,出願報奨金10,000円と登録報奨金50,000円が該当いたします。手続きを進めたいと存じますので,振込口座をお教えください。」との電子メール(本件メール。甲5)を送信した。
控訴人は,同月29日,Aに対し,本件各規程の開示を求める電子メールを送信した(甲3の別紙4)。Aは,同年10月7日,控訴人に対し,「今回制定した社内規定については退職者に対しては開示できませんのでご了承ください。弊社としては,今回特別にお支払する6万円でXさんの特許に対する対応は完了とさせていただきます。」との電子メールを送信した(甲3の別紙5)。
(イ)

そこで,被控訴人が本件メールによって本件対価請求権に係る債務を承認
したかについて判断すると,
①前記2(3)のとおり,
本件対価請求権の消滅時効の起
算点は,平成14年9月3日であるから,控訴人が相当の対価の支払を求めた平成
26年12月には,既に消滅時効期間が経過していたこと,②前記(ア)のとおり,被控訴人のAは,控訴人在職中の平成27年2月2日,控訴人に対し,被控訴人としては対価の支払に応じられない旨を説明していたこと,③控訴人は,相当の対価が支払われないのであれば,本件特許権の移転を希望するとしていたのであり,同年4月の退職後にも,本件特許権の移転の希望は当事者間の未解決の問題として残っていたこと(現に,控訴人は,本件訴状では,相当の対価の請求とは別に,特許権の冒認出願に係る損害賠償を求めていた。),④前記2(2)アのとおり,本件各規程は,本来,施行日以降に被控訴人が権利を承継した知的財産権を対象とするものとして作成されたものであり,本件メールは,本件対価請求権に本件各規程を適用する旨の意思表示を行ったものとは解し難いことからすれば,本件メールによる6万円の支払の提示は,本件各発明に関する当事者間の紛争を解決するための解決金を提示する趣旨であり,本件対価請求権の存在を認めた上でその一部を支払うことを提案したものではないと解するのが相当である。
したがって,控訴人主張に係る相当の対価の請求権の特殊性を考慮しても,本件メールの上記記載をもって,被控訴人が,本件対価請求権に係る債務を一部でも承認したとは解し難い。そして,相当の対価の支払交渉が始まった時点で,既に消滅時効期間が経過していたのであるから,控訴人が交渉の過程で被控訴人が支払に応じるとの期待を抱くに至ったとしても,交渉の決裂を受けて被控訴人が消滅時効を援用したことを,直ちに信義則違反ということはできない。

控訴人は,本件メールに平成27年10月7日付けの電子メールを併せ考慮
して,本件メールの趣旨が解決金の支払提示であったと解することはできないし,仮にそうであったとしても,無効であると主張する。
しかし,前後の事実を併せ考慮して本件メールの意味内容を解釈することは,何ら違法ではないし,本件メールの意味内容を解決金の支払提示の趣旨と解することが無効であるとか,信義則違反であるということもできない。

したがって,控訴人の主張はいずれも理由がない。

(3)

小括

以上のとおり,本件メールは,本件対価請求権の支払債務の承認又は時効利益の放棄に当たらず,消滅時効の援用が信義則に反するといった事情はない。よって,被控訴人による消滅時効の援用は許され,本件対価請求権は,時効によって既に消滅したものである。
4
争点4(本件各規程に基づく予備的請求の可否)について

前記2(2)のとおり,
本件各規程が当然に控訴人に適用されるとか,
本件各規程を
適用する旨の合意が成立したとは認められない(なお,本件メールによる解決金支払の申出は,前記2(2)エのとおり,控訴人の承諾前に失効している。)。したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件各規程に基づく請求は理由がない。
5
結論

以上によれば,控訴人の請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

高部眞
裁判官

古河謙一
裁判官

関根澄子規子
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