判例検索β > 平成27年(ワ)第8621号
補償金請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成27(ワ)8621
事件名補償金請求事件
裁判年月日平成30年3月29日
法廷名大阪地方裁判所
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平成30年3月29日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成27年(ワ)第8621号

補償金請求事件

口頭弁論終結日平成29年12月7日
判原告決
株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ

同訴訟代理人弁護士


威一郎

同中村小裕同松本響子
同訴訟復代理人弁護士

柴田和彦
同訴訟代理人弁理士

水谷馨也
同補佐人弁理士

田中順也同山迫田恭子
旧商号株式会社グラシアス
被告
株式会社クレジェンテ

同訴訟代理人弁護士

高橋同伊淳藤博昭主1文
被告は,原告に対し,1507万8405円及びこれに対する平成27年9
月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3
訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担
とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実
及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成26年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
1事案の概要
本件は,後記の特許権を有する原告が,被告において製造,販売等する炭酸パックが当該特許権に係る発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,特許法65条1項に基づき,平成25年10月11日から平成26年11月7日(上記特許権の設定登録日)までの補償金3000万円及びこれに対する上記設定登録日の翌日である同月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
2
前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易
に認められる事実。なお,本判決における書証の掲記は,枝番号の全てを含むときはその記載を省略する。)
(1)当事者

原告は,医薬品,化粧品等の研究,開発,製造,販売等を業とする株式
会社である。

被告は,化粧品,日用雑貨品,美容器具,健康補助食品の企画,開発及
び販売等を目的とする株式会社である。
(2)原告の有する特許権(甲1,2)
原告は,以下の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。本件特許に係る発明を「本件発明」,本件特許の出願を「本件出願」,本件出願の願書に添付された明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)を有する。本件明細書(ただし,明細書は【0001】から【0078】まで)の記載は本判決添付の特許公報のとおりである。
特許番号
発明の名称

第5643872号
二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物

登録日

平成26年11月7日

出願番号

特願2013-93612
出願日
分割の表示

特願2011-8226の分割

原出願日

平成11年5月6日

出願人

原告

公開番号

特開2013-163681

公開日

平成25年8月22日

特許請求の範囲

平成25年4月26日

本判決添付の特許公報のとおり

(3)本件発明1の構成要件の分説
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)の構成要件は,次のとおり分説される(以下,各構成要件を「構成要件A」などという。また,本件特許の請求項2に係る発明の構成要件を「構成要件F」,請求項3に係る発明の構成要件を「構成要件G」,請求項4に係る発明の構成要件を「構成要件H」という。)。
A
気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物から
なるパック化粧料を得るためのキットであって,
B
水及び増粘剤を含む粘性組成物と,

C
炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤と,を
含み,
D
前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が,前記粘性組成物と,前記複
合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤とを混合することにより得られ,E
前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中の前記増粘剤の含有量が1~
15質量%である,キット。
(4)被告の行為及び被告製品

被告は,平成25年9月ころ以降,「ピエターナ

リメアジェルA」と

の商品名の2剤混合型の炭酸パック(以下「被告製品」という。)をネットワークビジネス(連鎖販売取引)の形態で,会員向けに販売していた。

被告製品は,炭酸水素ナトリウム,クエン酸を含むパウダー剤と,水,
セルロースガム,キサンタンガム等を含むジェル剤を混ぜ合わせるパック用化粧料のキットであり,パウダー剤とジェル剤の2剤をセットにして販売されていた。被告製品のパウダー剤とジェル剤の配合成分は次のとおりである。(ア)パウダー剤

炭酸水素ナトリウム,クエン酸,デキストリン,クエン酸カルシウム(イ)ジェル剤
水,ブチレングリコール,セルロースガム,ペンチレングリコール,フランスカイガンショウ樹皮エキス,フラーレン,リンゴ果実培養細胞エキス,ダイズ発酵エキス,チョウジエキス,シャクヤク根エキス,ナツメ果実エキス,ボタンエキス,マグワ根皮エキス,ガゴメエキス,ハトムギ種子エキス,フェノールスルホン酸亜鉛,カフェイン,キサンタンガム,ステアロキシPGヒドロキシエチルセルローススルホン酸ナトリウム,トリエチルヘキサノイン,ジフェニルジメチコン,グリセリン,ポリビニルピロリドン,レシチン,ミリスチン酸ポリグリセリル‐1
0,エタノール,フェノキシエタノール

被告製品は本件発明の構成要件B及びCを充足し,また構成要件Aの
「気泡状の二酸化炭素を含有する」という部分及び構成要件DないしHのうちこれに係る部分の充足性には当事者間に争いがあるが,構成要件A及びDないしHのその余の部分(配合成分や含有量等に関する部分)は充足する。
(5)原告による警告
原告は,本件特許の出願公開の後である平成25年10月11日,被告に対し,本件出願に係る発明の内容及び同年8月26日付けの補正の内容を記載した書面を送付して警告をした。
3争点

(1)被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件Aの充足性)(争点1)
(2)被告製品は本件発明の作用効果を奏するか(作用効果不奏功の抗弁)(争点2)
(3)本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点3)アイ
サポート要件違反(争点3-2)


実施可能要件違反(争点3-3)


本件発明の未完成(争点3-1)

乙8を主引例とする進歩性欠如(争点3-4)

(4)補償金の額(争点4)
第3争点に関する当事者の主張
1
争点1(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件Aの充足
性)
)について
(原告の主張)
(1)構成要件Aの文言は,単に「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって」というものであり,
「気泡状の二酸化炭素を含有する」との文言は,文字通り,気泡状の二酸化炭素を含有しているか否かのみを問題とする要件にすぎない。そして,被告製品は,パウダー剤とジェル剤を混ぜ合わせることによりジェル剤の中で二酸化炭素を発生させ,経皮吸収させるためのパック化粧品を得るためのキットであり,構成要件A記載のキットに当たる。以上の主張に反する被告の下記主
張は否認し,争う。
(2)なお,本件明細書の実施例の発泡性の評価では,体積の増加率が30%以下のものを「0」としているが,これは複数の実施例の発泡性を比較するための相対的な指標に過ぎず,評価「0」のものが本件発明の権利範囲から除外されるわけではない。発泡性の程度(体積の増加率)が低くなるような調製を行い,体積の増
加率を30%以下に下げたとしても,本件発明の作用効果を奏しなくなるわけではないし,本件明細書中でも体積の増加率が30%以下のものに関してネガティブな評価がなされているわけではない。
(3)したがって,被告製品は構成要件A,DないしHを充足し,本件発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
(1)本件明細書の【0009】【0010】【0011】の項1・10,,

【00
37】【0079】及び【0080】の記載や,美顔用の化粧料において炭酸ガス,
又は炭酸ガス発生物質の発泡作用を利用するパック剤が周知であること(これは多くの先行技術文献から明らかである(乙1ないし3参照))
。,本件出願の経過におけ
る原告の主張からすれば,本件発明の特徴は,本件明細書記載の発泡性及び気泡の
持続性が認められることにより,十分な量の気泡状の二酸化炭素が持続的に経皮吸収され,適用部位に気泡状の二酸化炭素が有効に作用する結果,血行が促進するなどして,従来技術にはない画期的な治癒効果等を生じさせることを特徴とするものである。また,本件発明は,その気泡状の二酸化炭素を「保持」するために,水溶液にアルギン酸ナトリウムを予め添加しジェル状にすることをも特徴とするもので
ある。原告が本件出願の経過における主張と異なる主張をすることは信義則違反である。
そして,本件発明の先行技術文献と異なる点は,本件発明が,炭酸塩を含む含水組成物に二酸化炭素発生前に「予め」アルギン酸ナトリウムを配合して粘性組成物を形成することにより,発生した二酸化炭素の気泡を破裂させることなく気泡のま
ま保持し,予めアルギン酸ナトリウムを配合しない二酸化炭素組成物よりも効率的に気泡状の二酸化炭素を保持し,気泡状の二酸化炭素を皮下組織に十分量供給することにより,本件明細書記載の効果を生じる点にある。
以上のことからすると,
「気泡状の二酸化炭素を含有する」とは,
「各種疾患等の
予防及び治療効果,美肌作用,部分肥満解消作用等の本件明細書記載の効果が生じ
る程度に発泡性,持続性の認められる気泡状の二酸化炭素が皮下組織に持続的に十分量供給される程度の気泡状の二酸化炭素を含有する」という意味である。(2)実験の結果(乙6,7)によると,被告製品の二酸化炭素の発泡性は,本件明細書の評価基準の最低評価(
「0」
)であり,気泡の持続性は,想定された評価
基準外である。また,被告製品においては,気泡状の二酸化炭素が皮下組織に持続的に十分量供給されることによって血行促進効果を得られるという効果も生じない。したがって,被告製品は「気泡状の二酸化炭素を含有する」ものではない。(3)したがって,被告製品は構成要件A,DないしHを充足せず,本件発明の技術的範囲に属さない。
2
争点2(被告製品は本件発明の作用効果を奏するか(作用効果不奏功の抗
弁)
)について
(被告の主張)
本件発明は,本件明細書の【0009】及び【0010】に記載された課題を解決するという作用効果を奏するものである。
しかしながら,被告製品は,本件明細書に記載された各種疾患等の予防及び治療効果,美肌作用,部分肥満解消作用等の効果が生じる程度に発泡性,持続性の認め
られる気泡状の二酸化炭素が皮下組織に持続的に十分量供給される程度の気泡状の二酸化炭素を含有する構成ではないから,上記作用効果を奏するものではない。したがって,被告製品の構成は,本件特許の特許請求の範囲に属していない。(原告の主張)
本件発明の作用効果は本件明細書の【0020】に記載されているほか,気泡状
の二酸化炭素を含水粘性組成物の中に保持しておくことによって,二酸化炭素の経皮吸収の持続性を高めることであり,前記1の(原告の主張)記載のことを踏まえると,被告製品はこの作用効果を奏する。
3争点3-1(本件発明の未完成)について
(被告の主張)

(1)特許法29条1項柱書にいう「発明」が完成するためには,課題を解決できる解決手段(構成)が創作されたことが必要である。言い換えれば,「発明」に当
たるというためには,その目的とする技術効果を挙げることができるものであることが必要である。特に,化学の分野においては構成から効果を予想することが困難又は不可能であるため,化学物質発明が完成していると判断されるためには,当該化学物質が所望の効果を奏するという有用性があること(課題が解決できること)が試験により証明される必要がある。
(2)本件明細書には実施例とともに試験例が記載され,各試験例によって本件発明が所期する各技術効果を挙げているかのごとき記載があるが,どのような試験結果に基づいて記載されたものか明らかではないし,試験例には比較例が1件あるのみで,その他には比較試験が存在せず,評価手法や経過観察等の記載に具体性が
欠けている。したがって,上記試験例は全体として信用できず,各試験例が実際に行われたかどうかは明らかでない。
また,仮に実験ないし試験が行われたとしても,各試験例に使用された組成物が,本当に実施例に記載された各組成物であったかどうかについても明らかではない。さらに,実験ないし試験を行った場合には通常存在する各試験例の原データ,被
験者の情報に関する資料等が提出されていないことからすれば,各試験例の結果が本件明細書に正確に記載されているものとは考えられない。一部の試験例では,評価者の主観的な印象のみが試験結果として記載されているが,その客観性を担保するための評価者とされる者の情報,各評価方法及び各評価結果についての記載もない。加えて,実験実施時の諸条件や実験結果についての評価方法等が明らかでない
ため,実験を再現することができない。
そして,本件明細書における各試験例以外の記載をみても,組成物に本件発明が所期する技術効果が実際に確認されたことを窺い知ることはできず,科学的根拠がないことは明らかである。
本件明細書には42の試験例の記載があり,その中には特定の症状(わずか一
つ)に対して治癒効果が確認された旨の記載があるものも一部あるが,本件発明の全ての課題が解決されたことを示す試験例は一つもない(そもそも,本件発明に対応する試験例は全く記載されていない。。また,試験例で用いられた実施例は,1,)
8,18,20,31,135,170,296,297,298,302,307,309,326,327のみ(わずか15)であり,その他の実施例について特定の症状に対する治癒等の効果があるか否かは不明である。
(3)したがって,本件発明は,特許権者である原告において,本件発明の技術内容によってその目的とする技術効果を挙げることができるものであることが何ら立証されておらず,発明として未完成であり,特許法29条1項柱書にいう「発明」には当たらない。したがって,本件発明には発明未完成の無効理由がある。少なくとも発明の一部については未完成であり,未完成部分を包含するものとして無
効を免れない。
(4)なお,発明が完成していることは,権利の発生に関する主張であるから,特許権者である原告が立証すべき事項である。
(原告の主張)
(1)本件明細書には42の試験例が挙げられているが,これらの試験例はいず
れも,明細書記載の実施例の組成物を利用して,発明者が実際に,適正に行った試験の結果を正確に記載したものである。そして,本件明細書には,各試験例の被験者の情報,塗布した組成物の成分,塗布量,塗布した部位,塗布の回数,塗布の時間等,実験に必要な条件が明記されており,十分に再現できる記載がされている。被告が明らかにすべきと主張していることは,いずれも当業者の技術常識に基づい
て適宜設定される事項であって,これらを逐一明細書に記載する必要がないことは明らかであるし,明細書に試験に関する原データを添付しないことは通常の記載手法である。
また,評価方法の記載についても,本件明細書には十分な記載がなされている。さらに,本件発明はパック化粧料を得るためのキットの発明であり,医薬組成物
を得るためのキットの発明は,特許請求の範囲に記載されていないため,アトピー性皮膚炎の治療等の医療目的の効果に関する試験例に関しては,そもそも本件発明が完成しているか否かとは無関係な事情にすぎない。そして,本件明細書には,本件特許と同程度の発泡性,気泡の持続性を有する実施例に関して行われたパック化粧料としての試験例(6,8,9,13,26,36ないし38,41及び42)の結果が開示されており,パック用化粧料としての用途で使用した場合の作用効果が十分に実証されている。
加えて,本件発明は二酸化炭素の発生を必要とするものであるところ,炭酸塩と酸の反応により二酸化炭素が発生することは周知の事実であり,本件明細書記載の実施例におけるいずれの組み合わせであっても二酸化炭素が発生することは周知の事実である。そのため,本件明細書の試験例が15の実施例のみを対象にしている
ことも,本件発明が未完成であることの論拠にはなり得ない。
したがって,本件発明は完成している。
(2)なお,被告は特許法104条の3第1項の抗弁として,本件発明の未完成を主張しているのであるから,かかる無効理由の存否に関しては,被告側に立証責任があることは明らかである。

4争点3-2(サポート要件違反)について
(被告の主張)
(1)本件明細書に327の実施例の記載があるが,そこには発泡性と持続性についての実験結果が記載されているだけであり,本件明細書の【0009】及び【0010】記載の多数の疾患等を治癒等するという本件発明の課題が解決できて
いるか否かは不明である。
また,本件明細書には,気泡状の二酸化炭素が上記疾患等を治癒等する機序について何の記載もなく,上記疾患等の治癒等には気泡状の二酸化炭素の経皮吸収以外の要因が作用した可能性もある。
以上のことに加え,前記3の(被告の主張)記載のことに照らせば,検討対象を
実施例に限定しても,当業者が全ての実施例について,本件発明が挙げる多数の課題が解決されると認識し得るとは到底いえない。況んや,炭酸塩及び酸の組成について何らの限定もない(又は極めて広範囲にわたる)本件発明は,発明の詳細な説明の記載及び技術常識により当業者が課題を解決できると認識し得るものとはいえない。
仮に,当業者が特定の実施例について,本件発明が挙げる多数の課題が解決できると認識できたとしても,それは特定の実施例として開示された発明についてのみ,そのようにいえるにすぎないから,サポート要件を充足しないとの結論は左右されない。
(2)本件明細書の記載に加え,原告の本件出願の経過における陳述を参酌すると,仮に本件明細書記載の試験例が真実であるとすれば,これらの試験例が示す本
件発明の格別顕著な作用効果は,単なる二酸化炭素による血行促進作用のみから論理的に説明することはできず,血行促進作用以外のプラスαの作用が関連していると解される。そうすると,この「プラスα」の作用又はそれをもたらす特定の構成要素が,発明の特定事項として特許請求の範囲に記載されるべきところ,本件特許については,特許請求の範囲はおろか,本件明細書においても一切記載されていな
い。また,本件特許に顕著な効果が認められるか否かについて,従来技術との比較等が必ずしも十分ではない。
したがって,仮に試験例の記載が真実であったとしても,本件特許の特許請求の範囲の記載は,本件明細書に開示された発明よりも広汎なものであり,当業者が課題を解決できると認識することはできない。

(3)以上より,本件発明に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件(特許法36条6項1号)を満たしておらず,本件発明はサポート要件違反の無効理由を有する。なお,サポート要件についても,その立証責任は原告にある。(原告の主張)
(1)本件特許の請求項1では,構成要件A記載のような用途限定がなされてい
るが,本件明細書には,パック化粧料としての用途に関する試験例として,髪の艶に対する試験(試験例6)
,顔と腹部の部分痩せ試験(試験例8)
,肌質改善及び顔
痩せ試験(試験例9)
,腕の部分痩せ試験(試験例13)
,そばかすについての試験
(試験例26)
,皮膚の若返り試験(試験例36)
,顔の部分痩せ試験(試験例37)

手の美白効果試験(試験例38)
,手の甲の美肌・美白試験(試験例41)及び手の
甲の美肌・美白試験(試験例42)の結果が開示されており,パック用化粧料としての用途で使用した場合の作用効果が実証されている。
そして,本件特許の特許請求の範囲記載のパック用化粧料に関しては,上記各試験例の記載によって,特許請求の範囲に記載された発明の課題が解決されるものと十分に認識し得る。
(2)なお,被告の上記主張に関し,当業者が発明の課題を解決できると認識す
るために,作用機序(メカニズム)まで知る必要はなく,作用機序の記載は,サポート要件を満たすための要件とはならない。また,本件特許の発明の詳細な説明には,炭酸水素ナトリウム及び酸を含む複合顆粒剤の実施例227ないし238並びに炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム及び酸を含む複合顆粒剤の実施例239ないし249が開示されているし,さらに他の炭酸塩を用いた場合でも,炭酸水素ナ
トリウム及び炭酸ナトリウムと同様に,酸と混合することにより二酸化炭素が発生することについては,当時の技術常識に照らし,当業者において容易に認識することが可能といえる。
(3)以上のことに加え,前記3の(原告の主張)記載のことに照らせば,サポート要件違反に当たるといえないことは明らかである。

5争点3-3(実施可能要件違反)について
(被告の主張)
(1)本件発明はその用途として,多数の疾患等の治癒等を挙げるところ,このように広範囲に亘る用途を定めるものについては,発明の詳細な説明に,当該用途一般について,当該発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載が
されていることを要すると解すべきである。したがって,単純にその物を作ることができ,かつその物を使用できればよいということにはならない。(2)本件明細書の【0020】【0037】【0042】及び【0079】な,

いし【0081】の記載によれば,本件発明が所期する作用効果は,二酸化炭素含有粘性組成物中に二酸化炭素が気泡状で多量かつ持続的に保持されることによって,上記疾患等を治癒等することである。
しかし,本件明細書には,本件発明の組成割合を構成する物質の名称及びその組成割合や,当該物質の使用方法が記載されているのみで,上記作用効果の機序については,何の記載もない。本件明細書においては,例えば,アトピー性皮膚炎,慢性関節リウマチ,スモン病等の現代医学をもってしても特効薬がないような症状についても,本件発明をもってすれば短期間で劇的に治癒するような記載がされてい
るが,なぜ本件発明によってそのような劇的な作用効果があるのか,といった素朴な疑問については一切記載されていない。
また,仮に上記疾患等の治癒等があったとしても,それは気泡状の二酸化炭素の経皮吸収以外の要因が作用した可能性があり,その説明も一切されていない。(3)以上のことに加え,前記3及び4の(被告の主張)記載のことに照らせば,
本件明細書には,本件発明が挙げる多数の疾患等一般について,上記作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているとはいえない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件(特許法36条4項1号)を満たしておらず,本件発明は実施可能要件違反の無効理由を有する。
(原告の主張)

本件発明のような物の発明において,その発明を実施することができるとは,その物を作ることができ,かつその物を使用できることを意味する。そして,化粧品分野の当業者であれば,本件特許の発明の詳細な説明に記載された各種の炭酸塩,酸,増粘剤を組み合わせることにより,本件発明の構成要件BないしEを充足するキットを容易に製造することができるほか,
「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化

炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料」を得ることができる。以上のことに加え,前記3及び4の(原告の主張)記載のことに照らせば,本件明細書は,当業者が本件発明を実施することができる程度に発明の詳細な説明に必要な事項が記載されているといえるから,本件特許が実施可能要件を満たしていることは明らかである。
6争点3-4(乙8を主引例とする進歩性欠如)について
(被告の主張)
(1)鐘紡株式会社を出願人とする特開昭63-310807号の公報(乙8。以下「乙8公報」という。
)の比較例2は,次の各構成要件から成る発明(以下「鐘
紡発明」といい,各構成要件を「鐘紡発明の構成要件ア」などという。)を開示する
ものである。


炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化するための2剤型の
発泡性化粧料であって,

酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を含
有する固型物の組み合わせからなり,

酸を含有する水溶液と炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を含有
する固型物を混合することにより得られ,

前記組成物中の前記水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の含有量が約1.
8wt%である2剤型の発泡性化粧料。
(2)鐘紡発明の構成要件ア及びエは,それぞれ本件発明1の構成要件A及びEに相当する。その一方で,構成要件B及びCと鐘紡発明の構成要件イを比較すると,いずれも2剤を混合するものであるが,本件発明1が「水及び増粘剤を含む粘性組成物」
(構成要件B)と「炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤」
(構成要件C)の組み合わせであるのに対して,鐘紡発明は,酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を含有する固型物の組み合わせである点で相違する(以下,この相違点を「本件相違点」という。。なお,構)

成要件Dと鐘紡発明の構成要件ウは,いずれも第1剤と第2剤を混合することによって組成物が得られる点で共通しており,相違点として,第1剤と第2剤の含有物の組み合わせの違いがあるが,これは本件相違点と実質的に同じ相違点であり,別個に論ずる必要はない。
(3)以上のとおり,本件発明1と鐘紡発明は,2剤型の発泡性化粧料(又はキット)を構成する各剤の剤型の違いにおいて相違するが,用時混合型化粧料の各剤の剤型の選択は,次のとおり克服できるから,鐘紡発明を主引例発明として本件発明1に想到することは容易である。

慣用技術の適用について

化粧料(又は医薬組成物)の形態(剤型)について,粉末剤や液剤,粘性組成物(ジェル又はゲル)等の剤型を適宜選択することは,本件発明の出願時点において慣用技術であった(例えば,特開平7-76512号の公報(乙9),国際公開
公報第95/19160号(乙10)
,特開平6-24954号の公報(乙15)

特開昭63-222105(乙16)参照)

また,2剤を用時混合して使用する化粧料キット等における各剤についても,粉末剤や液剤,粘性組成物(ジェル又はゲル)等の剤型を選択することは慣用技術で
あった(例えば,鐘紡発明(乙8)
,特開昭60-215606号の公報(乙1)参
照)

したがって,本件相違点は,慣用技術の適用により克服できる。

設計変更(設計事項)について

本件発明における剤型の選択は格別の作用効果を奏さないものであるから,当業者が格別の創作能力を用いることなく可能であり,鐘紡発明において第1剤及び第2剤の剤型を適宜変更することは設計変更(設計事項)にすぎない。したがって,容易想到性が認められるというべきである。

動機付けについて

本件発明の課題は,気泡状の二酸化炭素の浸透量を高めることにより,血行促進等を通じて,多くの疾患等の治癒又は改善をすることであるところ,およそ化粧品に美容ないし香粧的効果が求められることは一般常識であり,乙29ないし33の公知文献の記載を総合すれば,剤型としてジェルを用いることによって,血行促進,美白及びシミ・くすみの改善等の美容ないし香粧的効果が生じることは周知である。他方,経時安定性の観点から,2剤型のキットが採用されることも周知である(乙8の1頁右欄の7行目)

さらに,水溶性ジェルには,水溶液と比較して,皮膚に塗布することが容易であるという使用上の利点がある。
したがって,鐘紡発明を主引例発明として選択する場合には,血行促進,美白及びシミ・くすみの改善等の観点から,水を含む剤について,使用前(2剤混合前)に増粘剤を添加してジェル(事前調製型粘性組成物)とすることには十分な動機付
けがあるから,本件相違点を克服することは容易である。
また,仮に,乙8の特許請求の範囲記載の発明(以下「鐘紡発明2」という。)を
主引例発明として選択しても,第1剤と第2剤のいずれが酸又は炭酸塩を含むかという組み合わせは,本件発明の課題と関係のない事項である。したがって,鐘紡発明2を主引例発明として選択した上で,血行促進,美白及びシミ・くすみの改善等
の観点から,水に増粘剤を添加することにより第1剤の剤型をジェルとするとともに,酸と炭酸塩を入れ替えることは,当業者にとって格別困難なことではない。(4)本件特許は,公知技術に比べ,気泡上の二酸化炭素の経皮吸収の持続性が高まることはなく,また,事前調製型二酸化炭素発生パック剤であることを理由として,用時調製型二酸化炭素発生パック剤に比して,気泡状の二酸化炭素の保持特
性に優れることもない。したがって,本件発明は,従来技術にはない格別顕著な治療効果等を生じさせるものではない。
(5)以上より,本件発明は,鐘紡発明又は鐘紡発明2を主引例発明とする進歩性欠如の無効理由を有する。
(原告の主張)

(1)本件発明1は,増粘剤を混合して事前に調製した「粘性組成物」に「炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤」を混ぜ合わせ,粘性組成物の中で,二酸化炭素が発生する「事前調製型二酸化炭素発生パック剤」の発明である。これに対し,鐘紡発明は,酸を含有する水溶液と,炭酸塩と増粘剤(水溶性高分子及び/又は粘土鉱物)を含有する固形物の組み合わせからなり,これらを使用時に混合して,水溶液に粘性を持たせる「用時調製型二酸化炭素発生パック剤」の発明であり,両者はその技術思想において大きく相違している。ア
慣用技術の適用について

水溶液と固形物の組み合わせを前提とした鐘紡発明を,事前調製された粘性組成物と,酸と炭酸塩を含む複合顆粒剤等の組み合わせに変更することが,本件特許の原出願日である平成11年5月6日の時点の当業者が容易に想到し得る事項であったとは到底考えられない。かかる設計変更を行うと,第1剤と第2剤の剤型自体が変わり,使用方法や保存方法のほか,作用効果の点でも,全く別個の化粧料となってしまうが,本件特許の原出願日の時点において,粘性組成物(ジェル剤)と複合顆粒剤等の組み合わせからなる用時混合用化粧料が周知であったとはいえない。したがって,鐘紡発明を知った当業者が,鐘紡発明における酸を含有する水溶液
(第1剤)を事前調製された粘性組成物(ジェル剤)に変更し,さらに,第1剤に含まれる酸を固形剤(第2剤)に移すという二重の処理を容易になし得たとは到底考えられない。

設計変更(設計事項)について

鐘紡発明においては,ガス保留性が十分に保てない構成のみしか開示されておらず,
「水及び増粘剤を含む粘性組成物」と「炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤」の組み合わせからなる構成を採用し,発生した二酸化炭素を粘性組成物中に封じ込められるようにした本件発明とは技術的な意義が大きく異なる。このように本件相違点は,技術の具体的適用に伴い当然考慮せざるを得ない事項といえるものではなく,重要な技術的意義を有する差異であるから,
進歩性を否定する根拠となる設計事項ではない。

動機付けについて
化粧品の技術分野において,剤型としてジェルを選択することにより,血行促進等の効果を生じさせることが周知の解決策の1つであったとは到底いえない。したがって,仮に本件発明が属する技術分野における周知の課題が血行促進及び美白を含む生理活性効果を保有させ,又は高めることであったとしても,乙29ないし33は剤型としてジェルを選択することによって上記課題を解決するものではないから,当業者がこれらを主引例発明に適用することの動機付けにはなり得ない。(2)気泡状の二酸化炭素を含水粘性組成物中に保持しておくことによって,二酸化炭素の経皮吸収の持続性が高まるのであるし,事前調製型二酸化炭素発生パック剤は,用時調製型二酸化炭素発生パック剤に比して二酸化炭素の保持特性に優れ
ている。したがって,本件発明が進歩性を有するものであることは明らかである。(3)以上より,本件発明は主引例発明に基づき容易に想到できたとはいえず,進歩性を有することが明らかである。
7争点4(補償金の額)について
(原告の主張)

(1)被告製品1回分の価格(税抜)は1500円である。そして,被告は原告による警告がされた平成25年10月11日以降,平成26年11月7日(本件特許権の設定登録日)まで,被告製品の販売を行っていたが,その間の販売数量は20万回分を下らない。したがって,上記期間の被告製品の売上は3億円を下らない。なお,被告が主張している期間の下記売上額については争わない。
(2)特許法65条1項に基づく補償金の額を算定する際の実施料率は,被告製品の売上額の10%とすることが妥当である。

業界相場と本件特許の価値

「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書」
(甲18)によると,化学分野の特許に関するロイヤルティ料率の平均(アンケート結果)は5.3%程度であるとされ,司法決定によるロイヤルティ料率の平均は6.1%(最大値は20%)であるとされているが,本件特許の技術的価値及び原告と被告との関係性に鑑みると,本件特許の実施料率がこれを超えることは当然である。
被告製品は製造原価の10倍以上の利益を生む非常に利益率の大きな製品であるところ,かかる利益が生み出されるのは,炭酸ジェルパックという製品自体の魅力及び独自性によるものであり,その背後には本件特許の価値が大きく寄与している。したがって,実施料率を考える上でもかかる発明の価値は相当程度参酌されるべきであり,上述した業界相場よりも高い実施料率を設定することは当然である。イ
別件訴訟の判決

原告は,被告とは別の業者が取り扱っていた炭酸パックに関し,原告保有の特許第4659980号(後記別件第1特許)の特許権侵害に基づいて損害賠償金及び補償金の支払等を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。
)を提起したところ,
この訴訟の判決(甲14)では,実施料率を10%とする補償金の支払等が認められた。
これは本件特許件とは別の特許権に関する判決ではあるが,いずれも2剤混合型
の炭酸パックに関する特許権であり,本件特許権に係る実施料率も同様に設定するのが合理的である。

他の侵害者との和解の実績

原告は,炭酸ジェルパックの類似品を販売する複数の業者に対し,原告が保有する特許権に基づく権利行使を行い,製品の販売停止及び一定の解決金の支払を条件とした和解をしているが,その際の和解金の額は,原則,販売額の10%以上になるように設定している。相手方が侵害製品の販売を自発的に中止することを勘案しての和解においても販売額の10%以上の金額が支払われている以上,被告に対する補償金の額を算定する際の実施料率が10%を下回ることはあり得ない。(3)被告の下記主張について


被告は被告製品がMLM(マルチ・レベル・マーケティング。いわゆる
特定商取引法上の連鎖販売業。
)の形態で販売されていると主張しているが,その
ことは本件特許の寄与度を引き下げる根拠になるものではなく,むしろ被告が炭酸パックを前面に押し出して販売するなどしている実態に鑑みると,上記販売形態は実施料率を引き上げる要因である。

また,被告は本件特許の効果は付随的なものにすぎないと主張している
が,本件発明の効果は炭酸ジェルパックの主たる効果を改善・増加するものであるから,付随的なものではなく,本件特許を含む原告の有する特許権に係る特許を回避した炭酸パックを製造することは困難である。そして,被告製品の美容上の効果は顕著であり,特に部分肥満改善効果は一般の化粧品にはみられない非常に特徴的な効果である。そして,新規会員の勧誘に際し,炭酸パックの美容上の効果は重要
な要素になる。

被告は後記被告の主張のとおり,資生堂614,日清324,石垣発明
1及び2を指摘して,本件発明の技術的価値は極めて低いと主張しているが,本件発明の技術的価値は十分に高い。
(ア)被告はジェルと粉末の組み合わせは技術常識であると主張しているが,被告が指摘する資生堂614及び日清324は,二酸化炭素を発生させる化粧料については開示も示唆もしておらず,本件発明についての着想を示唆するものでもない。したがって,被告が主張するその他の周知技術や技術常識を組み合わせる動機付けがない。
(イ)被告は本件発明の骨格部分は周知技術であると主張しているが,石垣
発明1及び2は,第1剤と第2剤を水中で混合して発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚,毛髪をマッサージすることを目的としているため,発泡性化粧料中において気泡状の二酸化炭素が気泡状で保持されている必要はない。また,この発明における炭酸ガスは肌をマッサージするものに過ぎず,経皮や経粘膜を通じて皮膚に吸収されるものではない。

したがって,本件発明と石垣発明1及び2は,二酸化炭素の肌への作用の仕方,使用方法,効果・効能が全く異なった発明であり,被告が主張するその他の技術常識を組み合わせる動機付けがない。
(ウ)被告は事前調製は必然であると主張しているが,石垣発明1及び2に資生堂614の技術事項を組み合わせたとしても,本件発明には到達しないし,そもそも石垣発明1及び2と資生堂614の技術事項は,課題や作用・機能の共通性がなく,これらを組み合わせる動機付けも存在しない。
また,石垣発明1及び2に資生堂614の技術事項を適用するとしても,本件発明と同じ構成に設計変更した場合,石垣発明1及び2のマッサージ効果は失われ,発明の本質が破壊されることになる。
したがって,石垣発明1及び2を「粘性組成物」と,
「炭酸塩及び酸を含む複合顆

粒剤等」とを含むキットの構成に設計変更することには明白な阻害要因があり,アルギン酸ナトリウムを事前に水に溶解させるはずであるという主張は失当である。(エ)以上のとおり,被告が主張する上述の技術常識や周知技術は,本件発明の技術的価値を下げる根拠となるものではなく,また,これらを組み合わせる動機付けもない。そのため,本件発明の技術的価値は十分に高い。


さらに,被告は競合品が存在していると主張しているが,被告が指摘し
ている製品にはジェル剤と顆粒剤等の2剤式の炭酸ジェルパックでない被告製品と構成が異なるものが含まれており,これらは十分な量の二酸化炭素を経皮吸収できるものではなく,被告製品と競合関係にない。また,ジェル剤と粉末剤の2剤式の製品を販売している会社(別紙「炭酸関連の化粧品一覧」の6,9)に対して製造,販売の停止を求めたが,同社の販売規模が小規模であると考えられるため,原告は同社に対する訴訟提起を見送っている状態にある。

被告のその余の主張は否認し,争う。以上より,被告が主張する事由は
実施料率を引き下げる根拠にならない。
(被告の主張)
(1)原告の主張のうち,被告が被告製品を販売していたこと,原告が別件訴訟を提起し,その訴訟の判決で実施料率を10%とする補償金の支払等が認められたことは認め,その余は否認し,争う。
●(省略)●
(2)原告は業界相場として甲18を引用しているが,これはアンケート調査に基づくものにすぎないし,上述したとおり,本件発明では試験等が行われておらず,実験費用等がかかっていないから,本件特許の実施料は業界相場よりも大幅に減額されるべきである。原告のその余の主張は否認し,争う。
(3)本件においては,次のとおり複数の減額要因が存在することから,本件特許の被告製品に対する実施料率は高くても1%を超過しないというべきである。ア
本件特許の被告製品の販売に対する寄与が小さいこと

そもそも,本件発明の直接の効果は,
「二酸化炭素を効率的に保持して,二酸
化炭素による経皮的効能を効果的に享受させる」ことにあるところ,一般的な炭酸ジェルパックの基本的機能は,
「二酸化炭素を保持し,二酸化炭素による経皮的効能
を享受させる」ことにあるから,上記効果は付随的なものにすぎず,消費者の購入動機を形成するとしてもごく僅かである。

また,被告製品はMLMという特殊な業態によって販売される商品であり,被告はMLM業者の中でも特に強固な販売網を有しており,他のMLM業者と比較しても,高い単価の商品を多数販売することが可能である。また,被告は被告製品を他の化粧品等とセットにして販売する等,様々な工夫をしているのであって,被告製品が比較的高額で販売されているとしても,それは単純に本件特許の価値が寄与し
たものではない。さらに,被告製品の販売については,商標権を取得している「フラバンジェノール」を中心とし,その他「フラーレン」をはじめとする美容成分による魅力も大きく寄与した。
上述したとおり,被告製品は,本件特許の実施品と同等の効果を有するものではないし,二酸化炭素の発泡性及び持続性が本件明細書の評価基準を充たすものであ
ることを差別化要因としていない。被告製品の炭酸ジェルパック製品としての美容上の効果は他社製品と同等のものであり,その顧客誘引力は,被告が構築したネットワークによるところがほとんどである。
なお,本件発明は炭酸パック全般に関する発明ではないから,被告が炭酸パックを前面に押し出して販売しているとしても,本件発明の効果とは何の関係もない。イ
本件発明の技術的価値が低いこと
(ア)まず,ジェルと粉末の組み合わせは技術常識である(特開平6-17
9614(乙83。以下「資生堂614」という。,乙84,特開平7-5332)
4(乙85。以下「日清324」という。
)参照)

また,本件発明の骨格は,第1剤と第2剤とを用時混合することにより気泡状の二酸化炭素を発生させることにあるが,これは特開平5-229933(乙2。以下「石垣発明1」という。
)及び特公平7-39333(乙3。以下「石垣発明2」
という。
)等の複数の文献に記載された周知技術である。
そして,アルギン酸ナトリウムは,化粧品及び食品を含む幅広い産業分野において有用性がある増粘剤として利用されており,水に溶解するものの,それには時間がかかるため,事前に水に溶解させることが望ましいことは古くから知られていた
技術常識である(乙87)
。また,アルギン酸ナトリウムは酸性ではアルギン酸にな
って析出する,あるいは溶解しないことも技術常識である(乙81,86)。したが
って,アルギン酸ナトリウムを増粘剤として水溶液に添加する場合には,酸性水溶液ではなく,塩基性水溶液が選択されることも技術常識である。
さらに,アルギン酸水溶性塩類が水に溶けにくいため,ダマになりやすく,顔に
塗布する際に,均一な膜になりにくいという技術事項が周知であったため(乙83),
当業者が,増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを利用する場合,
「均一な膜になりに
くい」という課題があることは技術常識である。
したがって,石垣発明1又は2を出発点として,技術常識に従い,第1剤を含水組成物とし,第2剤を顆粒として,用時混合する場合,当業者は,ダマ形成問題に
直面し,当該問題を解決するために,技術常識に従い,アルギン酸ナトリウムを事前に水に溶解させるはずである。
以上のとおりであるから,本件発明は,周知技術を出発点として技術常識を駆使することにより想到できるものであり,その技術的価値は極めて低い。(イ)また,上述のとおり,本件発明によって格別の作用効果が生じないし,炭酸パックの美容効果は美容液等に「溶存中の二酸化炭素」によって効果を生じるから,本件発明の「気泡状の二酸化炭素」を保持するという特徴は,炭酸パックの美容効果には寄与しておらず,消費者に対する差別化要因にもなっていない。ウ
競合品が存在していること

炭酸ジェルパック市場には,別紙「炭酸関連の化粧品一覧」記載のとおり,被告製品の競合品が多数存在しており,被告製品が販売されていたのと同じ時期に少なくとも8社の競合他社が存在していた。また,2剤型かつジェル・粉末型の炭酸パックであることが購入の決め手になるものではないし,原告保有の特許の実施品は品質が悪く,消費者に対する訴求力は極めて低い。
したがって,被告製品の販売を取り去った場合の仮想世界において,被告製品に向かっていた需要の多くは競合品が吸収するものというべきである。エ
加えて,本件では,本件発明の特徴が炭酸ジェルパックの基本構造に関
するものではないこと,本件発明の作用効果は美容効果との関係において顕著とはいえないこと,本件発明の類似技術が複数出願されていることも考慮されるべきである。
第3当裁判所の判断
1
争点1(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件Aの充足
性)
)について
(1)原告は構成要件Aの「気泡状の二酸化炭素を含有する」という文言について,文字通り,気泡状の二酸化炭素を含有しているか否かのみを問題とする要件にすぎないと主張しているのに対し,被告はこれを限定的に解釈し,「各種疾患等の予
防及び治療効果,美肌作用,部分肥満解消作用等の本件明細書記載の効果が生じる程度に発泡性,持続性の認められる気泡状の二酸化炭素が皮下組織に持続的に十分量供給される程度の気泡状の二酸化炭素を含有する」という意味であると主張している。

そこで,まず本件明細書の特許請求の範囲の記載を見ると,原告も指摘
しているように,請求項1には「気泡状の二酸化炭素を含有する」とのみ記載されており(構成要件A)
,その文言からは,二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物(以
下「本件発明の組成物」ということがある。
)が含有すべき気泡状の二酸化炭素の程
度を限定する記載はない。
また,本件明細書にも,本件発明の組成物が含有すべき気泡状の二酸化炭素の程度を直接説明した記載は見当たらない。確かに,
【0042】には,組成物を対象部

位に適用する際には組成物中に気泡状二酸化炭素がより多く含まれていることが好ましいなどと記載されている。しかし,この記載は発明を実施するための形態として好ましいものを記載した部分にすぎず,直ちに被告の主張を基礎付けるものと捉えることはできない。また,課題を解決するための手段を記載した【0011】の項9には,
「気泡状二酸化炭素を0.1容量%以上…含む項1~8のいずれかに記載
の組成物。
」と記載され,項10には「組成物中に保持されている気泡状二酸化炭素の40容量%以上,好ましくは60容量%以上,より好ましくは80容量%以上を気泡状で5分間以上,好ましくは30分間以上,より好ましくは1時間以上,特に2時間以上保持することができる項1~9のいずれかに記載の組成物。」と記載され
ているが,他方で,項1には「水,増粘剤及び気泡状二酸化炭素を含有し,二酸化
炭素を持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる組成物。
」と記載されているか
ら,上記の項9及び10の記載をもって組成物が含有すべき気泡状の二酸化炭素の程度を特定する記載とは認められない。この点につき被告は,本件明細書の【0037】【0079】及び【0080】の記載を自らの主張の根拠としているが,こ,
れらは二酸化炭素が本件発明の組成物に気泡状態で保持され,又は持続的に放出さ
れることなどを記載したり,発泡性等の評価方法・基準を記載したりしたものにすぎず,当該組成物中の気泡状の二酸化炭素の含有の程度を問題とした記載であるとは認められない。

そこで,本件発明の技術的意義について,本件明細書及び本件出願の経
過等を参酌して検討する。
(ア)本件明細書の概要
本件発明は「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキット」
(構成要件A)に関する発明で
ある。このようなパック化粧料用のキットに関する本件明細書の記載の概要は,次のとおりである。
a
従来技術

炭酸ガスが血行をよくすることは知られていたものの,①従来技術の炭酸ガスを含む湿布剤のように,炭酸塩と酸を用いて発生させた炭酸ガスを水に溶かして溶存炭酸ガスとして利用する場合には,水に溶解する炭酸ガスの絶対量が極めて少ないため,実質的に効果が期待できず(
【0004】,②従来技術の各々コーテ

ィングを施したアスコルビン酸と炭酸塩を含有する発泡性固形組成物では,使用時
までに炭酸ガスが発生しないように安定化させて,発泡性の粉末飲料等に用いられるものであり,発生した炭酸ガスを保持する技術的課題は存在せず(【0005】,

③従来技術の爪のクチクラに対し軟化作用を有する気泡性水溶液の製造方法では,その溶液に発生する炭酸ガスを保持するのに十分な粘性がないため,発生した炭酸ガスが速やかに空気中に拡散し,炭酸ガスを保持できず(
【0006】,④従来技術


の性交時の潤滑性及び膣の乾燥防止のためのムース状潤滑剤では,容器から出されたムース状潤滑剤は速やかに炭酸ガスを失い,炭酸ガスを保持することができないものであり(
【0007】,⑤従来技術の酸と炭酸塩を有する固形医薬組成物では,)
該組成物を水に溶かせたときに,二酸化炭素による発泡は実質的に起こらないものである(
【0008】。


b
発明が解決しようとする課題

本件発明の目的は,そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物,該組成物製造用キットを提供することにある(
【0010】。

c
発明の効果

本件発明の組成物は,そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の
艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどともなわずに治療及び予防あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられる(
【0020】。

d
発明を実施するための形態

本件発明の組成物は,正常であるか,何らかの疾患や損傷による異常が
あるかを問わず,血管系を有する皮膚や粘膜組織,皮下組織などに適用される(【0
036】。

二酸化炭素は,炭酸飲料や発泡性製剤のように短時間,例えば数秒から数分以内に消失するものではなく,本件発明の組成物に気泡状態で保持され,持続的に放出される(
【0037】。

本件発明において,
「二酸化炭素を持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる
組成物」とは,好ましい具体例では,二酸化炭素を5分以上,好ましくは20分以上,より好ましくは30分以上,さらに好ましくは1時間以上,特に好ましくは1.5時間以上,最も好ましくは2時間以上二酸化炭素を経皮・経粘膜吸収させること
ができる組成物を意味する(
【0038】。

本件発明において,
「気泡状二酸化炭素」とは,例えば炭酸塩と酸を反応させて二
酸化炭素を発生させた場合に,組成物中に気泡として含まれる二酸化炭素を意味し,該気泡は二酸化炭素のみからなっていてもよく,二酸化炭素とともに空気などを含んでいてもよい。
「気泡状二酸化炭素」中の二酸化炭素の割合は30容量%以上,好
ましくは50容量%以上,さらに好ましくは70容量%以上,特に好ましくは90容量%以上,最も好ましくは100容量%である(
【0039】。

本件発明の組成物は二酸化炭素の持続的経皮・経粘膜吸収が目的であるので,組成物を対象部位に適用する際には組成物中に気泡状二酸化炭素がより多く含まれていることが好ましく,組成物で対象部位を完全に覆うように厚めに塗布することが好ましい(
【0042】。

本件発明のキットの各成分を混合することにより本件発明の組成物中に二酸化炭素を含有,保持させることができる(
【0064】。

e
実施例

本件明細書に実施例として記載されたものは,いずれも炭酸塩,酸,水,増粘剤を混合させるものであるが,そのうち本件発明の実施例に該当するものは,実施例227ないし249と後記の実施例296である。前者では,製造した組成物について,発泡性と気泡の持続性の評価を行っている。そのうち発泡性については,含水粘性組成物と炭酸塩と酸の複合顆粒剤の当初の体積から,10秒間に20回攪拌混合した1分後の体積の増加率を求め,70%以上を+++,50%から70%を++,30%から50%を+,30%以下を0として評価している(評価基
準1)
。また,気泡の持続性については,含水粘性組成物と炭酸塩と酸の複合顆粒剤を10秒間に20回攪拌混合した1分後の体積から,その2時間後の体積の減少率を求め,20%以下を+++,20%から40%を++,40%から60%を+,60%以上を0として評価している(評価基準2)
。そして,上記の実施例では,い
ずれも発泡性は++又は+++,気泡の持続性は+++であった(【0079】ない

し【0081】【0113】ないし【0118】。


本件明細書では,一部の実施例の組成物について,患者等の皮膚等に供した試験結果が記載されており,試験例19及び20では,本件発明の組成物である実施例296の組成物について,尋常性乾癬治療試験と顔面の擦過傷治療試験を行ったところ,前者では30分間の貼付により痒みが直ちに消失し,患部上皮の角化,乾燥
が著明に改善し,後者では毎日交換して貼付したところ,2日目に痂皮形成することなく上皮化が認められ,5日目に瘢痕化することなく治癒したと記載されている(
【0126】。

比較例としては,水とノニオン系高分子凝集剤であるポリアクリルアミド,グリセリン,ビタミンE,二酸化炭素を含むムース状発泡性組成物について気泡の持続性試験を行ったところ,評価基準2に従った該ムース状発泡組成物の評価は0であり,パルスオキシメーターを用いる組織中酸素飽和度測定試験を実施しようとしたが,発泡1時間後には該ムース状発泡組成物の泡はほとんど消失し,試験は実施できなかったと記載されている(
【0130】。

(イ)本件出願の経過
a
本件出願に対しては,平成25年12月10日発送で拒絶査定がさ
れた。その理由の要旨は,次のとおりである。すなわち,①引用文献1(特開平8-268828号公報)には,炭酸塩,有機酸及び水溶性高分子である泡安定剤を含む複合粉末剤を水と混合させることにより,血行促進効果を有するパック化粧料を得たことが記載されており,本件発明1では「増粘剤」が水と共に粘性組成物を形成しているのに対し,引用文献1では複合粉末剤の方に含まれている点でのみ相
違する,②引用文献4(特開平3-161415号公報)には,水溶性高分子を用いて二酸化炭素を粘液状の化粧料中に保持することにより,二酸化炭素を高濃度で長時間保持することが可能となり,血行促進効果の持続性が高まること,粘液状の場合の方が組成物中の二酸化炭素濃度が高くかつ血行促進効果の持続性も高いことが記載されているから,引用文献1に記載の血行促進効果を向上させる目的で,二
酸化炭素の泡をより安定的に保持させようとして粘液状の組成物を形成させることが二酸化炭素の安定的な保持につながることを当業者は理解しえたといえる,③高分子増粘剤を用いて粘液を形成させる場合に,高分子増粘剤を粉状態で直接水に投入すると凝集塊が生じやすいこと,当該凝集塊の形成を防止するためには予め溶媒による予備分散が有効であることも当業者に広く知られた事項であったと認められ
る,④したがって,引用文献1に記載のパック化粧料において,泡を保持しやすいよう組成物を効果的に増粘させる目的で,水溶性高分子を予備分散,すなわち水と増粘剤とを含む粘性組成物を一旦形成させ,そののち他の成分と混合させることは当業者が容易になしえたことであり,血行促進効果の持続や二酸化炭素を包含するパック化粧料によるマッサージ効果も知られている効果であるから,本件発明1の効果が当業者が予測しえない格別優れた効果であるとはいえない。これに対し,原告は,拒絶査定不服審判を申し立て,その理由を述べた手続補正書において次のように述べた。まず,本件発明の特徴について,①「皮膚への二酸化炭素の浸透量を増大させたパック化粧料を得るためには,酸と炭酸塩の反応により発生した二酸化炭素が空気中に放出されることを抑制し,当該パック化粧料中で二酸化炭素含量が高まるように設計することが重要になります。増粘剤は,水と接
触して瞬時に増粘作用を発揮するのではなく,水に分散,膨潤することによって時間をかけて徐々に粘性を示します。そのため,増粘剤を水中に混合して予め増粘させた組成物を使用することなく,単に,増粘していない増粘剤(水と共存していない増粘剤)に,炭酸塩,酸及び水を同時に混合したのでは,増粘剤が水と接触して増粘している間に,炭酸塩と酸が反応して発生した二酸化炭素が空気中に拡散して
失われてしまい,その結果,二酸化炭素を十分に保持できなくなります。…かかる点に関し,本願発明のキットは,増粘剤を水中に混合して予め増粘させた粘性組成物を備えており,当該構成に基づいて,既に増粘された粘性組成物中で炭酸塩と酸とを反応させることが可能であり,且つ発生した二酸化炭素が増粘された組成物中で保持されるように設計されています。そのため,本願発明のキットによれば,皮
膚への二酸化炭素の浸透量を増大させたパック化粧料を得ることができます。」と述
べ,また,②「さらに,本願発明のキットにより得られるパック化粧料は,皮膚への二酸化炭素の浸透作用が極めて高いことに基づいて,非常に優れた美容ないし香粧的効果を奏することができます。このような本願発明の格別の効果について,本願明細書の段落[0020]等に記載されており,実際に本願明細書の試験例にお
いて裏付けられています。
」と述べた。そして,引用文献1について,③「文献1においては,炭酸塩と有機酸とが反応して発生する炭酸ガスが破泡する際に皮膚上に心地良い物理的な刺激を与えることを目的としております」「二酸化炭素の泡を積,
極的に破泡させることを本来の目的としている文献1のパック化粧料において,その本来の目的に反して,何故,長期間に亘って気泡を保持しやすいよう設計変更するか,合理的な根拠が全くなく,…本願発明を認識した上での後知恵によるものであると言わざるを得ません。
」と述べ,また,引用文献4について,
「文献4は,粘
液状の組成物を耐圧容器内に充填して二酸化炭素を圧入する方法を開示しているに過ぎません。文献4には,炭酸塩と酸とを反応させて二酸化炭素を発生させる際に,既に増粘された粘性組成物中で炭酸塩と酸とを反応させることについて一切記載されておりません。
」と述べた。そして,本件発明の効果について,④「本願発明の製
造キットでは,使用時に,
「増粘剤を水中に混合して予め増粘させた粘性組成物」と,
「複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤」との均一な混合が容易であって二酸化炭素を十分且つ均一に発生させると共に,気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に皮膚に浸透させ続けることが可能になっています。その結果,混合物中で気泡状の二酸化炭素の圧が高まり,その圧により二酸化炭素の皮膚への浸透が高まり,
ひいては想像を超える量の二酸化炭素が皮膚内に浸透させることができ,皮膚疾患に対する治療効果や,美容ないし香粧的効果が,格別顕著に奏されます。,」「本願明
細書の試験例で実証されている効果は,二酸化炭素による単なる血行促進作用等から予測できるものではありません。
」と述べた(以上乙5)

b
これに対し,審判合議体は,平成26年6月24日発送で,拒絶理
由通知をし,その理由として,実施可能要件及びサポート要件違反を挙げ,本件明細書において,実際に本件発明のキットを使用した場合にどのような効果が得られるのかについての具体例(試験例)は記載されていないとした。これに対し,原告は,同年8月21日付けの意見書において,①本件発明のキットにおいて,使用時に,粘性組成物と複合剤を混合すると,粘性組成物中で酸と炭酸塩が反応して二酸
化炭素が発生し,当該二酸化炭素を粘性組成物に効率的に封じ込めて,皮膚への二酸化炭素の浸透量を増大させることが可能な二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が得られる効果については,実施例227ないし249及び296において直接的に実証されており,②本件発明の組成物が,皮膚への二酸化炭素の浸透作用が極めて高いことに基づいて,非常に優れた美容ないし香粧的効果を奏することができる効果については,本件明細書に記載した各種キットによって調製される二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物に共通するものであるから,それらの各種の試験例から理解できると述べた(以上乙4)

c
その後,審判合議体は本件発明について特許査定をした。

(ウ)二酸化炭素の効果についての公知技術
a
乙1(特開昭60-215606)

この文献には,
「炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有することを特徴と
するパック剤」
(特許請求の範囲1項)の発明が記載されており,
「本発明者は,…
血行をよく促進するパック剤を提供すべく鋭意研究を行った結果,炭酸ガスを皮膚に直接作用させると皮膚の血流がよくなり,皮膚にしっとり感を与えることを見出し,本発明を完成した」とされている(2頁左上欄1行目から6行目)。

b
乙8(特開昭63-310807)

この文献は,本件での鐘紡発明及び鐘紡発明2に係る公開特許公報であり,
「血行促進などの目的で炭酸ガスを配合した化粧料が従来から提案されている。」と記載されている(1頁左欄17行目から18行目)

c
乙78(特公平5-35123)

この文献には,皮膚料に関する発明が記載されており,
「従来,炭酸ガス
は優れた血行促進作用を有することが知られており,創傷の治療及び末梢動脈の慢性閉塞性疾患の虚血肢における難治性潰瘍の治療を目的として皮膚外用剤,皮膚,毛根の新陳代謝を活発にすることを目的として皮膚及び毛髪化粧料,更に疲労回復,肩こり,腰痛,痔疾などに対する効果を目的として浴用剤にそれぞれ配合され,そ
の効果を発揮している。
」との記載がある(1欄12行目から19行目)

(エ)以上に基づき,本件発明の技術的意義について検討する。
a
前記の公知技術からすると,従来から,二酸化炭素には血行促進等
の作用があることが知られ,二酸化炭素を皮膚に作用させるパック剤や化粧料や皮膚外用剤等が発明されており,それらでは,パック剤等に含まれる二酸化炭素が経皮吸収(経粘膜吸収を含む。以下同じ。
)されることにより血行促進等の作用が働く
ものであると認められる。そして,本件明細書の従来技術の記載からすると,本件発明は,従来技術では,このような二酸化炭素の作用を利用する観点から見て,二酸化炭素による発泡が実質的に起こらない(⑤)
,発生した二酸化炭素を剤中に取り
込む絶対量が極めて少ない(①)
,発生した炭酸ガスが速やかに空気中に拡散し,炭
酸ガスを保持できない(②③④)という課題があったことから,発生した炭酸ガス
を保持することを課題とするものであると認められる。そして,そのために,本件発明1は,水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製し(構成要件B,【00
64】【0113】

),これと炭酸塩及び酸を含む複合顆粒剤,複合細粒剤又は複合
粉末剤(構成要件C)とを混合することにより粘性の二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得ることとし(構成要件D)
,かつ,この組成物中の増粘剤の含有量を1

~15質量%とすること(構成要件E)によって,発生した二酸化炭素を空気中に拡散させることなく,粘性の組成物中に気泡として含ませ,その二酸化炭素を気泡状態で保持させるとともに,持続的に放出させ,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させるようにしたものであり(構成要件A,
【0037】【0038】【0113】,



そのようなパック化粧料を得るためのキットの発明であると認められる。
また,前記認定の出願経過を踏まえると,本件発明と同様に,炭酸塩と酸を反応させて発生した二酸化炭素を粘性の組成物中に気泡として含ませて保持するパック化粧料は,拒絶査定の引用文献1中に既に開示されていたが,引用文献1では増粘剤たる水溶性高分子が炭酸塩と酸の複合粉末剤中に含まれ,使用時に水溶性高分子が水と混合される(用時調製)ことから,水溶性高分子が水に溶けて粘性を生じる
までに時間を要し,その間に炭酸塩と酸が反応して発生した二酸化炭素が空気中に拡散されるのに対し,本件発明では,増粘剤があらかじめ水に溶かされており(事前調製,構成要件B)
,粘性組成物中で炭酸塩と酸が反応して二酸化炭素が発生する
ことから,発生した二酸化炭素が空気中に拡散されることがなく,それだけ多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであると認められる(この点が公知技術から想到容易と認められないことは,後記の争点3-4に関する判断のとおりである。。

b
そして,以上のような事前調製による効果については,本件明細書
の実施例と比較例における「気泡の持続性」の比較によって確認することができる。また,甲15は,本件特許とは別の特許(後記別件第2特許)を実施した実験結果ではあるが,基本的な構成や事前調製型であるという点で本件特許と共通しているから(甲24の1,乙22)
,この実験結果を参照して用時調製型と事前調製型の作
用効果の違いを検討することができる。そのような観点から甲15をみると,用時調製型と事前調製型の二酸化炭素発生パック剤をそれぞれ皮膚に塗布したところ,事前調製型では攪拌操作終了から2時間後においても当初の約2倍の体積を維持し,皮膚がかなり赤い色を呈していたのに対し,用時調製型では攪拌操作終了から30
分後において当初の体積とほぼ同じにまで減少し,塗布部分と非塗布部分で色の差が認められなくなったと認められ,二酸化炭素の保持特性と経皮吸収性は事前調製型の方が優れていることが確認できる。
また,被告は原告の上記実験とほぼ同様の実験を実施し,その結果を乙26として提出している。乙26は甲15に相当するものであるが,10秒間攪拌混合した
ものについて,事前調製型の方は2時間後の組成物の体積が1分後の体積よりむしろ増加したのに対し,用時調製型(攪拌時間は事前調製型と同じ10秒間のもの)の方は1分後の体積からの減少率が3割程度であり,気泡の持続性に劣ることが確認できる。
もっとも,乙26では経皮吸収シミュレーション実験もされており,そこでは攪
拌操作終了後30分経過時までの二酸化炭素のガス透過膜の透過量は両者で有意な差異が認められなかったと認められる。そして,乙26の実験結果については,ガス透過膜を用いて二酸化炭素を経皮吸収量をシミュレーションするものであるが,乙28によれば,この実験による経皮吸収量と皮膚の発赤の程度とは連関していると認められるから,二酸化炭素の経皮吸収量の測定として相応の信用性のあるものと認められる。また,乙26の実験では,ブチレングリコールを5%加えているが,これは本件明細書の【0071】において保湿剤として配合できる成分として記載されているから,これを添加して比較実験をすることに特段の問題はないと考えられる。そうすると,乙26の実験結果は,ブチレングリコールを5%加えた場合の比較結果として相応の信用性を有するといえるが,そこで測定されているのは攪拌終了後30分経過時までの二酸化炭素の経皮吸収量であるから,本件明細書の実施
例の評価基準2のような攪拌混合2時間後の経皮吸収量までもが用時調製型と事前調製型とで有意な差異がないことを示すものではない。
以上からすると,事前調製型と用時調製型においては,ブチレングリコールを5%加えた場合には,攪拌終了後30分経過時までは両者に有意な差異は認められないが,基本的には事前調製型の方が二酸化炭素をより多く保持し,持続的に経皮吸
収させる効果があると認めるのが相当である。そして,このことは,本件明細書の【0042】の記載にも沿うものである。
c
また,本件発明が,二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中により
多くの二酸化炭素を保持し,持続的に経皮吸収させるものであることからすると,公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などに対する効果が得られるであろうことは,それらの技術常識に照らして合理的に理解することができる。このことからすると,本件明細書において,発明が解決しようとする課題として,そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物,該組成物製造用キットを提供するこ
とを目的として掲げる(
【0010】
)のは,上記のような趣旨での持続的な経皮吸
収の効果を得ることを課題としていう趣旨であり,また,発明の効果として,そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題を改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられるという効果を奏することを掲げる(
【0020】
)のも,上記のよう
な趣旨での持続的な経皮吸収の効果が得られることをいう趣旨であると解するのが相当であり,事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることによる以上に,格別顕著な美容上の効果を奏すること自体を発明の解決課題とし,発明の作用効果とする趣旨ではないと解するのが相当である。(オ)このように本件発明が,事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであ
ることからすると,炭酸塩と酸によって発生させる二酸化炭素の量の多寡にかかわらずそのような効果を奏するから,組成物中に気泡状の二酸化炭素が含有される必要はあり(その意味で,本件明細書の従来技術の⑤で想定されているような二酸化炭素による発泡が実質的に起こらないような場合は含まれない。,その量が多い方)
が好ましい(本件明細書【0042】
)ということはできるとしても,組成物中の気

泡状の二酸化炭素の量が一定以上でなければならないと認めることはできない。なお,本件明細書の実施例では,気泡の持続性とともに発泡性も評価しているが,比較例では発泡性の評価は行われていないから,実施例の記載をもって本件発明が発泡性について限定をするものと解することはできない。

被告の主張について
(ア)まず被告は,本件発明が従来技術にはない画期的な治療効果等を生じ
させることを特徴としているなどと主張している。
確かに,本件明細書には疾患の予防ないし治療剤(
【0001】
)について記載さ
れている部分が少なくないが,これは本件出願の公開後に特許請求の範囲だけが補正され,本件発明がパック用化粧料を得るためのキット(構成要件A),すなわち化
粧料に関する発明に減縮されたことによるものと認められるから(甲9,10),本
件明細書に疾患の治療等に関する記載があるからといって,本件発明が疾患の治癒や予防をも目的としていると認めることはできない。
また,本件明細書では,本件発明に係るものを含めた同様の組成の複数種類の二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物について治療試験等を行った結果が記載されており,そこでは,腕の部分痩せ試験(試験例13)や皮膚の若返り試験(試験例36)等について極めて良好な結果が得られた旨が記載されている。しかし,前記のように本件発明が,事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであり,後記の争点3-4についての判断のとおり,事前調製を採用した構成が公知技術から想到容易であると認められないことからすると,本件発明の進歩性は,本件明細書記載の試験
例のような極めて良好な結果を得られることによって初めて基礎付けられるものではない。そうすると,それらの試験例は,本件発明に係るものを含めた同様の組成の二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が,特定の配合量や被験者の下で極めて良好な結果を得られる場合があることを示す意義があるにとどまり,本件発明の組成物が必ずそのような結果が得られることを示すものと解することは相当でなく,換
言すれば,本件発明の必須の効果が試験例のようなものであると解することは相当でないというべきである。したがって,被告の上記主張は採用できない。(イ)また,被告は,本件出願の経過における原告の主張内容(乙4,5)を指摘して,それと異なる主張をすることは信義則違反であるなどとも主張している。

しかし,被告が指摘する乙4及び5の記載は,その内容に照らせば,本件発明の組成物中に気泡状の二酸化炭素が保持され,持続的に放出されることによる作用効果を説明したものであって,その量を問題としたものと認めることはできない。確かに,原告は,出願経過の拒絶査定不服審判の理由を述べた手続補正書において,本件明細書記載の試験結果について,それらで実証されている効果は,皮膚へ
の二酸化炭素の浸透作用が極めて高いことに基づく格別の効果であり,二酸化炭素による単なる血行促進作用等から予測できるものではないことを強調している。しかし,原告は,上記手続補正書において,本件発明が格別の効果を奏することと並んで,そもそも本件発明の構成が拒絶査定の理由とされた引用文献からは想到容易でない旨も強く主張しており,上記の格別の効果の説明は,拒絶査定において,本件発明の構成が引用文献から想到容易であるとされたことに加えて,格別の効果も認められないとされたことへの反論のためにされたものであると認められる。そうすると,後記のとおり本件発明の構成が公知技術から想到容易であるとは認められない以上,原告による上記の格別の効果の説明によって進歩性を獲得したものではないから,原告の上記説明によって本件発明を限定して解釈することは相当でなく,原告の本件出願の経過における主張によって上記認定は左右されないし,原告の本
件訴訟における主張が信義則に反するともいえない。
(ウ)さらに,被告は美顔用の化粧料において炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質の発泡作用を利用するパック剤が周知であったと主張しているが,本件発明は組成物中に気泡状の二酸化炭素を保持させ,持続的に放出させることによって二酸化炭素を経皮吸収させることを目的とした発明であって,単に炭酸ガス又は炭酸ガス
発生物質の発泡作用を利用するパック剤を提供しようとしたものではない。したがって,被告の上記主張によって上記認定が左右されるとはいえない。(2)以上の検討を踏まえると,構成要件Aの「気泡状の二酸化炭素を含有する」とは,文字通り,本件発明の組成物が気泡状の二酸化炭素を含有しているという意味と解するのが相当であり,被告が主張するような限定をすべきものと解する
ことはできない。
(3)そこで,被告製品がそのような構成を備えているかを検討すると,被告は被告製品から得られる組成物について気泡状の二酸化炭素の量を問題としているだけで,組成物が気泡状の二酸化炭素を含有していること自体は争っていない。そして,被告が提出している乙6によっても,被告製品のジェル30g及び粉1.
6gを10秒間に20回攪拌混合して1分経過後の組成物の体積は39mlで,混合前の体積(32.5ml)よりも20%増加し,さらに120分経過後の体積は40.5mlで,1分経過後の体積よりも3.85%増加している。被告は攪拌から1分経過後の上記体積の増加率は本件明細書の発泡性の評価基準1(【008
0】
)の最低評価(
「0」
)に相当することを指摘しているが,本件発明が発泡性につ
いて限定をするものと解することができないことは前記のとおりであるから,発泡性に関する評価基準1における「0」というのが本件発明の作用効果が生じないという意味で用いられているものと認めることはできない。
また,乙6によると,攪拌混合して1分経過後の組成物の体積に対する120分経過後の体積が増加しており,被告は気泡の持続性が想定された評価基準外であると主張しているが,体積が増加する場合も気泡が持続していることに変わりはない
から,本件発明の効果は奏しているというべきであり,被告の上記主張は採用できない。
以上によれば,被告製品から得られる組成物は,二酸化炭素を気泡状態で保持し,持続的に放出していると認められるから,気泡状の二酸化炭素を含有していると認められる。

(4)したがって,被告製品は構成要件Aを充足する。そして,その余の構成要件BないしHの充足性については当事者間に争いがないから,被告製品は本件発明の技術的範囲に属する。
2
争点2(被告製品は本件発明の作用効果を奏するか(作用効果不奏功の抗
弁))について
前記1の認定・判示のとおり,本件発明の作用効果は,組成物中に気泡として二酸化炭素を含有させ,その二酸化炭素を気泡状態で保持させるとともに,持続的に放出させ,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させることであると認められる。そして,前記1(3)で認定したとおり,被告製品から得られる組成物は,二酸化炭素を気泡状態で保持し,持続的に放出していると認められる。

なお,乙7の実験結果によると,混合後15分静置して気泡が消える程度に脱泡したものを皮膚に塗布しても皮膚に赤みが生じ,むしろ静置していないものを塗布した場合よりも赤みが強く生じる場合があるとされている。しかし,乙6の実験結果によれば,混合してから120分経過後でも混合前より体積が多いところ,本当に15分が経過するまでの間に気泡が消えたのか疑問があるし,仮に目に見える程度の気泡が消えたとしても,乙7からは,組成物中に気泡状の二酸化炭素が全く含まれなくなったのかは判然としない。以上のことを踏まえると,乙7の実験結果によって,上記認定は左右されない。
以上より,被告製品が本件発明の上記作用効果を奏しないと認めることはできない。
3争点3-1(本件発明の未完成)について

(1)本件発明の組成物の製造方法
まず本件発明の組成物の具体的な製造方法について検討すると,本件発明1は,その構成要件から明らかなように,気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットに関する発明であり,水及び一定量の増粘剤を含む粘性組成物と,炭酸塩及び酸を含む複合顆粒剤,
複合細粒剤又は複合粉末剤とを混合することにより上記組成物を得るものである。そして,本件明細書の【0052】ないし【0062】及び【0065】ないし【0068】には,本件発明で用いられる水,増粘剤,炭酸塩及び酸の具体的内容(配合成分や含有量等)が説明されている。また,実施例227ないし249及び296として,炭酸塩と酸の複合顆粒剤及び含水粘性組成物の製造方法が記載され
ている(【0113】,【0114】,表20,21,【0125】)。なお,上記複合顆粒剤を複合細粒剤又は複合粉末剤とすることは設計事項と解される。さらに,本件明細書の【0073】,【0074】及び【0126】(実施例296に関する部分)には,含水粘性組成物と炭酸塩及び酸を含む複合顆粒剤等の組み合わせよりなる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物の製造方法が記載されてい
る。
以上の記載によれば,本件発明の組成物を製造することができると認められる。(2)上記(1)の方法によって製造された組成物の使用方法
本件明細書の【0036】,【0042】ないし【0046】には本件発明の組成物の使用方法が記載されているほか,【0029】ないし【0035】,【0069】には,組成物を美容上の問題を改善し,又は所望する部位を痩せさせるために化粧料として使用する場合の使用方法が具体的に記載されている。また,【0126】(実施例296に関する部分)にも当該組成物の使用方法が具体的に記載されている。さらに,後記(3)で引用する試験例においても,美容上の問題の改善等のための化粧料としての組成物の使用方法が記載されている。
これらによれば,本件発明の組成物を化粧料として使用することができると認め
られる。したがって,本件発明の組成物によってパック化粧料を得るためのキットを製造し,これを使用することもできると認められる。
(3)上記(1)の方法によって製造された組成物の作用効果

本件明細書には,炭酸塩と酸が反応すると二酸化炭素が発生すること
(【0039】,【0065】),これらを水と増粘剤を含む組成物中で反応させると,組成物中に二酸化炭素が含有,保持されること(【0064】)が記載されている。
そして,本件明細書の【0114】ないし【0118】には,上記(1)の方法によって製造された組成物の発泡性と気泡の持続性の評価が記載されている。その評価方法・基準は本件明細書の【0079】ないし【0081】記載のとおりであり,
具体的には,発泡性は10秒間に20回攪拌混合して1分経過後の組成物の体積の増加率によって評価し,気泡の持続性は同様に攪拌混合して1分経過後と2時間経過後の組成物の体積の減少率によって評価することとされている。この評価結果は,本件明細書の表20及び21(【0117】,【0118】)記載のとおりであり,発泡性については,組成物の体積の増加率が50%から70%又は70%以上であ
り,気泡の持続性については,いずれも減少率が20%以下であると記載されている。
以上の記載に照らせば,上記(1)の方法によって製造された本件発明の組成物は発泡性があり,かつ相当程度の気泡の持続性を有すると認められる。そして,本件明細書の【0042】等には,本件発明の組成物を対象部位に適用することによって,組成物中の気泡状の二酸化炭素が持続的に経皮吸収されることが記載されている。また,前記1(1)イ(エ)cのとおり,それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などに対する効果がより高められるであろうことは,それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるところ,その具体的な確認については試験例に記載がある。なお,試験例のうちの化粧料に関するもの(試験例6,8,9,13,26,36ないいし3
8,41及び42)の中には,本件発明の直接の実施例(実施例227ないし249及び296)が用いられていないものもあるが,それらの試験例においても,含水粘性組成物をあらかじめ調製しておき,その中で炭酸塩と酸を反応させて二酸化炭素を発生させるもので,その配合成分や含有量等は本件発明の組成物と同じであるから,それらの試験例も本件発明の作用効果を確認するものとして参照すること
が許されると解される。
以上からすると,本件発明は完成していると認められる。

被告の主張について
(ア)まず被告は,化学の分野においては構成から効果を予測することが困
難又は不可能であるため,化学物質発明が完成していると判断されるためには,当該化学物質が所望の効果を奏することが試験により証明される必要があると主張する。
しかし,前記1(1)イ(エ)cのとおり,本件発明が,事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであることからすると,それによって公知技術において知られていた二
酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などに対する効果がより高められるであろうことは,それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるから,新規化合物のように本件発明の効果が予見困難又は予見不可能であるとはいえない(なお,試験例記載のような極めて良好な効果が生じることが本件発明の効果として必須のものであるとは認められないことは,前記1(1)イ(エ)cのとおりである。)。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
(イ)次に被告は,本件明細書の試験例が信用できないとか,その結果が本件明細書に正確に記載されているものとは考えられないなどと主張している。しかし,試験例記載のような極めて良好な結果が生じることが本件発明の効果として必須のものと認められないことは前記のとおりである。また,この点を措くと
しても,試験例に関する被告の主張は抽象的な主張にとどまっているものも少なくないし,本件明細書の試験例で使用された組成物については,実施例として,具体的な配合成分や含有量,さらにその製造方法が記載されている上に,発泡性や気泡の持続性についても客観的な数値によって評価されている。
また,試験例についても,実施例の組成物の使用前と使用後の状態等を客観的な
数値によって評価したり(試験例8,13,33,37),複数の評価者又は専門医によって評価したり(試験例8,9,36)しており,極力恣意的な評価とならないような工夫がされていると認められる。確かに,髪の艶がよくなったとか,肌が白くなったなどという評価結果もみられるが,本件発明の作用効果の1つである美容上の問題の改善という性質上やむを得ない面もあるし,これらも本件発明の組
成物の使用前と使用後の状態を比較した結果であるという意味では,評価結果としての意味を認めることができる。
被告は試験例の原データが提出されていないなどとも主張しているが,本件発明の技術的意義に照らせば,試験例記載のような結果を得られる場合があることも合理的に理解し得るものであるし,明細書の通常の記載方法に照らせば,それによっ
て直ちに試験例の記載内容が信用できないということにはならない。また,本件明細書には多数の実施例や試験例が記載されているところ,その内容に不整合な点などはみられず,本件明細書の実施例や試験例の記載内容は,前記1(3)で認定した本件発明の技術的範囲に属する被告製品についての実験結果(乙6)とも矛盾していない。
したがって,本件では,原データが提出されなくとも,上記各試験例の信用性を肯定することができる。
(ウ)また,被告は本件発明の全ての課題が解決されたことを示す試験例は一つもないなどと主張している。
しかし,被告がいう課題とは,本件明細書の【0009】及び【0010】に記載された課題であるところ,この記載は,前記1(1)イ(エ)cのとおり,本件発明が,
二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中により多くの二酸化炭素を保持し,持続的に経皮吸収させる効果を得ることを課題としていう趣旨であると解される。そして,本件発明が,事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであることからすると,それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛
根の新陳代謝の活発化などに対する効果がより高められるであろうことは,それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるから,本件明細書の【0009】及び【0010】に記載された効能の全てについての試験例がなくとも,発明が未完成とはいえない。
また,炭酸塩と酸を反応させれば二酸化炭素が発生することは技術常識といえ
る(【0039】,【0065】,乙1ないし3,8,78ないし80)から,本件発明の組成物と比較して発泡性や気泡の持続性が同じか,劣る組成物を使用した試験例を参照して本件発明の作用効果を確認することが許されることは,上記(3)アで判示したとおりである。そうすると,本件発明はその全部又は一部が未完成であると認めることはできない。

(エ)さらに,被告は本件発明には科学的根拠がないなどと主張し,原告の製品を用いて本件明細書の試験例13(腕の部分痩せ試験)の追試を行ったものとして,乙19の実験結果報告書を提出するとともに,医学博士による乙21の意見書等を提出している。
確かに,乙19では腕の部分痩せの効果がうかがえないが,美容上の問題の改善等という本件発明の作用効果の性質上,ある程度の個人差が生ずるのはやむを得ない(乙7,36も参照)から,これによって直ちに本件明細書の試験例の信用性が否定されるとはいえないし,前記のとおり試験例記載のような極めて良好な結果が生じることが本件発明の効果として必須のものとも認められないから,乙19の結果をもって本件発明が未完成であるとも認められない。また,乙21の意見書においては,本件明細書に記載のある全ての疾患・病態に対して,本物質の人への使用
に当たっての有効性及び安全性についての科学的根拠の欠如が著しく,課題が解決しているとは到底認識できるものではないとの記載があるが,本件発明が,事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであることからすると,それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発
化などに対する効果がより高められるであろうことは,それらの技術常識に照らして合理的に理解することができるから,効果の予測できない新規化合物の場合のように,乙21がいうようなシステマティックレビューや1つ以上のランダム比較試験等の強いエビデンスレベルの根拠がないからといって,発明が未完成であるとはいえず,このことは乙20についても同様である。

また,被告が提出している乙36の実験結果によると,粘性のない液状のものを使用した場合が最も赤みに差が生じたとされているが,液状のものの製造方法等が不明であることに照らすと,乙36の実験結果を直ちに採用することはできない。被告は乙35及び82も提出し,そこには,経皮吸収される二酸化炭素は,水に溶解した分子状二酸化炭素であり,炭酸水などに見られる「泡」ではないとの記載が
あるが,本件発明が組成物中の気泡状の二酸化炭素をそのまま経皮吸収するものであるか否かは不明であるから,それらによっても上記判断は左右されない。さらに,被告は乙23を提出し,混合時に大量の二酸化炭素を発生させる気泡が多い炭酸ガスパック剤(サンプルA)の方が,徐放性で気泡が少ない炭酸ガスパック剤(サンプルB)よりも二酸化炭素の経皮透過量(吸収率)が低いと主張しているが,本件発明の効果との関係で問題にすべきは,二酸化炭素の放出能力が同じ炭酸ガスパック剤について,用時調製の場合と事前調製の場合との差異の有無であり,それは甲15によって確認されているから,乙23によって本件発明の作用効果は否定されない。
(4)以上より,本件発明は発明として完成しているものと認められる。4
争点3-2(サポート要件違反)及び争点3-3(実施可能要件違反)につ
いて
(1)前記3の認定・判示によると,本件明細書には,本件発明の組成物の配合成分や含有量等が具体的に記載されているし,含水粘性組成物や炭酸塩及び酸を含む複合顆粒剤,複合細粒剤又は複合粉末剤を製造し,これらを混合して本件発明の組成物を製造し,使用する具体的な方法も記載され,その作用効果も記載されてい
るから,サポート要件及び実施可能要件を充足していると認められる。(2)被告の主張について

被告は,本件明細書に作用効果が生ずる機序について何の記載もなく,
気泡状の二酸化炭素の経皮吸収以外の要因が作用した可能性もあるなどと主張している。
しかし,被告の主張は可能性の指摘にとどまっている上に,本件発明が,事前調製によってより多くの二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであることからすると,それによって公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などに対する効果がより高められるであろうことは,それらの技術常識に照らし
て合理的に理解することができる。そして,被告は本件出願の経過における原告の主張を引用して,血行促進作用以外のプラスαの作用が関連しているなどとも主張しているが,原告のその主張は,本件明細書の試験例の極めて良好な結果についていうものであって,本件発明全般について妥当するものとは解されない。そして,上記認定のとおり,本件明細書には本件発明の組成物を製造し,使用する具体的な方法が記載されるとともに,組成物を使用することによる作用効果が記載されるなどしており,この記載によると当業者が本件発明の課題を解決できると認識することができ,本件発明を実施できると認められる。

また被告は,炭酸塩及び酸の組成について何らの限定もない(又は極め
て広範囲にわたる)ことから,当業者が課題を解決できると認識し得るものとはいえないなどと主張している。
しかし,本件発明は炭酸塩と酸が反応して発生する二酸化炭素を組成物中に気泡状態で保持させるなどというものであるところ,上記認定のとおり,炭酸塩と酸が反応することによって二酸化炭素が発生することは技術常識であるから,どの炭酸塩又は酸を選択するかは当業者が選択すべき設計事項といえる。そして,本件明細書には,本件発明の実施例に加え,発泡性や気泡の持続性が同じか,劣る実施例の
組成物を使用した試験例も記載されていること,上記認定のとおり,炭酸ガスが血行をよくすることは技術常識であったことを踏まえると,当業者が本件明細書の記載によって本件発明の課題を解決できると認識することができると認められる。ウ
さらに被告は,従来技術との比較等が必ずしも十分ではないなどとも主
張している。
確かに,本件明細書に記載されている比較例は1つしかないが,上記認定のとおり,本件発明が解決しようとする課題の内容は明確であって,その課題解決手段は,水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製し,これと炭酸塩及び酸を含む複合顆粒剤等とを混合することにより,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させるというものであり,上記認定の本件明細書の試験例の記載内容等に照らせば,当業者が本
件明細書の記載によって本件発明の課題を解決できると認識することができると認められる。
(3)以上より,本件発明に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件(特許法36条6項1号)を満たしているし,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件(特許法36条4項1号)を満たしていると認められる。5争点3-4(乙8を主引例とする進歩性欠如)について
(1)鐘紡発明及び鐘紡発明2について

乙8公報によれば,その要旨は次のとおりであると認められる。
(ア)乙8の特許請求の範囲に記載された発明(鐘紡発明2)は,炭酸ガス
による血行促進作用によって皮膚を賦活化させるガス保留性,経日安定性,官能特性及び皮膚安全性に優れた発泡性化粧料に関するものである(乙8の(技術分野))。
従来から血行促進などの目的で炭酸ガスを配合した化粧料,例えば,水性化粧料に炭酸ガスを配合して耐圧容器に密封したことを特徴とする化粧料が提案されていたが,これらの化粧料は,容器を耐圧性にしなくてはならないため,コストが高くなるという欠点を有していた(乙8の(従来技術))。

そこで,まず2剤型とすることによって経日安定性が高まるようにした。また,酸性物質を水に溶解して得られる水溶液を第1剤とし,水溶性高分子及び/又は粘土鉱物と炭酸塩とを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物を第2剤とすることによって,用時混合する際に,炭酸ガスの泡を徐々に発生させるとともに,水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の粘性によって安定な泡を生成し,
炭酸ガスの保留性(ガス保留性)が高まるようにしたもので(乙8の特許請求の範囲,(発明の開示),(発明の目的)),それらの実施例1ないし11においては,発泡性,ガス保留性及び経日安定性のいずれも◎又は○であった。さらに,上記構成とすることによって,官能特性等にも優れるようにした(乙8の(発明の目的))。

以上のことからすると,上記特許請求の範囲には,次の発明(鐘紡発明2)が記載されていると認められる。
a
炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための2
剤型の発泡性化粧料であって,
b
酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物
を常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物の組み合わせからなり,c
酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物
を常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物とを混合することにより得られる
d
2剤型の発泡性化粧料。

(イ)また,乙8公報には,第2剤を炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を含有する固型物とし,これをポリエチレングリコールで被覆せず,ポリエチレングリコールを混和さえしない比較例2(鐘紡発明)が記載されている。この比較例で使用されているクエン酸は酸であり,炭酸水素ナトリウムは炭酸塩であり,アルギン酸ナトリウムは水溶性高分子である(甲2,乙8)。また,この比較例の組成物中のアルギン酸ナトリウムの含有量は約1.8wt%である(計算
式:1/11×20wt%≒1.8wt%)。
ただし,ポリエチレングリコールを用いない比較例であることから,発泡性は△,ガス保留性は×,経日安定性は△で,ガス保留性に著しく劣り,経日安定性にも劣るものとされている(乙8)。また,皮膚刺激が相当程度生じることから(乙8の第2表),官能特性も劣っている。

以上のことに加え,この比較例は鐘紡発明2の比較例として乙8公報に記載されていることに照らせば,乙8公報には次の発明(鐘紡発明)が記載されていると認められる。
a
炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための2
剤型の発泡性化粧料であって,
b
酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物
を含有する固型物の組み合わせからなり,
c
酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物
を含有する固型物を混合することにより組成物が得られ,
d
前記組成物中の前記水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の含有量が約
1.8wt%である2剤型の発泡性化粧料。

本件発明1と鐘紡発明及び鐘紡発明2の対比

以上の認定事実によれば,鐘紡発明及び鐘紡発明2の「炭酸ガス」及び「水溶性高分子及び/又は粘土鉱物」(以下「水溶性高分子等」という。)は,それぞれ本件発明1の「二酸化炭素」及び「増粘剤」に相当すると認められる。そして,本件発明1と鐘紡発明及び鐘紡発明2を対比すると,少なくとも次の相違点(本件相違点)があると認められる。
本件発明1は,「水及び増粘剤を含む粘性組成物」(構成要件B)と「炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤」(構成要件C)の組み合わせからなり,これらを混合して組成物を得るものであるのに対し,鐘紡発明及び鐘紡発明2は,酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子等を含有する固型
物の組み合わせからなり,これらを混合して組成物を得るものである点。すなわち,いずれも炭酸塩,酸,増粘剤,水を混合して組成物を得る2剤型の発泡性化粧料であるが,それぞれの成分の組合せが異なり,それに応じて含水粘性組成物を事前調製により得るか,用時調製により得るかの相違がある。(2)相違点に係る容易想到性


慣用技術の適用
(ア)被告は,化粧料の剤型について含水粘性組成物(ジェル)を用いるこ
とは,本件出願当時の慣用技術であると主張し,その適用によって本件相違点を克服できると主張している。
(イ)しかしまず,被告が慣用技術の根拠として挙げている乙9,10,15及び16は,その記載内容によれば,2剤型の化粧料ではない上に,化粧料自体の剤型の1つとしてゲル,ゼリー,粉末剤,顆粒剤,液剤等を挙げているにすぎず,2剤型の化粧料の一方の剤型を含水粘性組成物(ジェル)とする慣用技術とは認められない。
(ウ)次に,被告は,2剤型の化粧料の一方の剤型を含水粘性組成物とする慣用技術として,乙1を挙げる。そして,乙1は,炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有するパック剤を提供するものであり(2頁左上欄7行目から9行目),その形態として,炭酸塩と酸をそれぞれ異なる2つの担体に担持させ,この担体には水分を保持させることもでき,使用時に被パック部位に重ねて付着させて炭酸ガスを発生させるもので(同左下欄1行目から8行目),このパック剤には,通常のパック剤に使用される種々のもの(この中にはゲル化剤,増粘剤も含まれる。)を適宜
配合することができる(3頁左下欄5行目から11行目)と記載されており,製造例4では,A剤を水溶性高分子,炭酸水素ナトリウム及び水で,B剤を水溶性高分子,酒石酸,水で構成し,使用時に混合する例(4頁右上欄12行目から左下欄14行目)が記載されている。
しかし,まず鐘紡発明2に基づく容易想到性について検討すると,上記認定のと
おり,鐘紡発明2は,酸を含有する水溶液(第1剤)と,炭酸塩と水溶性高分子等を含有する固型物(第2剤)の組み合わせからなる2剤型の化粧料(比較例2,鐘紡発明)では,ガス保留性に著しく劣る課題があるのに対し,第2剤の各成分をポリエチレングリコールで被覆することによって,用時混合の際に,炭酸ガスの泡が徐々に発生するとともに水溶性高分子等の粘性によって安定な泡を形成し,ガス保
留性を高めることを特徴とする発明である(乙8の1頁右欄5行目から13行目)から,そのように課題解決のためにポリエチレングリコールで被覆した水溶性高分子等の固形物について,通常のパック剤に使用されるからといって,あえてポリエチレングリコールによる被覆を外してゲル化しておくように変更する動機付けがあるとはいえない。

次に,鐘紡発明に基づく容易想到性について検討すると,鐘紡発明は,前記のとおり鐘紡発明2の比較例であって,ガス保留性の向上を目的とする乙8公報の中で,そのガス保留性に著しく劣るなどの課題があると記載されているものである。そうすると,鐘紡発明については,ガス保留性を高める動機付けはあるといえるが,それとは無関係に,水溶性高分子等の固形物についてあらかじめゲル化しておくことでガス保留性を高めることの示唆もないのに,通常のパック剤に使用されるからというだけで,あえてあらかじめゲル化しておくように変更する動機付けがあるとはいえない。
また,乙1は炭酸塩と酸をそれぞれ異なる2つの担体に担持させる構成と,2剤をいずれも粘性組成物とする構成を開示しているにすぎないから,2剤型の用時混合型化粧料の一方の剤型を含水粘性組成物とする慣用技術の根拠になるとは認めら
れない(なお甲14の2)。
したがって,被告主張の慣用技術の適用によって本件相違点を容易に想到できるとは認められない。

設計変更(設計事項)
(ア)被告は,本件発明における剤型の選択は格別の作用効果を奏さないも
のであるとして,鐘紡発明において第1剤及び第2剤の剤型を適宜変更することは設計変更(設計事項)にすぎないと主張している。
(イ)しかし,鐘紡発明にはガス保留性に著しく劣るなどの課題があったのに対し,本件発明は,一方の剤型を含水粘性組成物とし,これをあらかじめ調製しておき,含水粘性組成物中で二酸化炭素を発生させることによって,二酸化炭素の
気泡の持続性を高めるなどしたのであるから,この変更を設計事項ということはできない。
また,鐘紡発明2は本件発明と同じく2剤型の用時混合型化粧料であり,組成物のガス保留性(気泡の持続性等)を高めるという本件発明と共通の課題を解決しようとしたものであると認められるが,この課題について,第2剤の成分を常温固形
のポリエチレングリコールで被覆することによって解決しようとしたものであり,本件発明とは課題解決手段を異にしているから,この変更を設計事項ということはできない。

動機付け

被告は動機付けを基礎付ける理由として,剤型としてジェル(含水粘性組成物)を用いることによって,血行促進等の美容ないし香粧的効果が生じることは周知であると主張している。
しかし,仮にジェルを用いることによって血行促進等の美容ないし香粧的効果が生じることが周知であったとしても,被告がそこで指摘する乙29ないし33には,2剤型の化粧料の一方の剤型を含水粘性組成物(ジェル)とすることによって,二酸化炭素の気泡の持続性を高めることについては記載がないから,ジェルの効能が
周知であるというだけでは,本件相違点を容易に想到し得たとは認められない。エ
以上によれば,本件発明1は鐘紡発明又は鐘紡発明2に基づき容易に想
到できたとはいえず,本件発明1を更に技術的に特定した本件特許の請求項2ないし4に係る発明と併せて,進歩性は否定されない。
(3)したがって,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものとはいえない。
6争点4(補償金の額)について
(1)被告の売上額
●(省略)●については,当事者間に争いがなく,本件特許の設定登録日までの間にこれを超える売上げがあったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,上記売上額をもとに補償金の額を算定することになる。(2)実施料率

前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め
られる。
(ア)原告は,本件特許権以外に,次の各特許に係る特許権を有する。a
特許第4659980号(甲13。以下「別件第1特許」という。)
出願日

平成10年10月5日
優先日
登録日

平成23年1月7日

発明の名称
b
平成9年11月7日

二酸化炭素含有粘性組成物

特許第4912492号(甲24の1,乙22。以下「別件第2特
許」という。

出願日
原出願日

平成9年11月7日

登録日

平成24年1月27日

発明の名称
c
平成10年10月5日

優先日

平成22年9月6日

二酸化炭素含有粘性組成物

特許第5164438号(甲24の2。以下「別件第3特許」とい
う。

出願日
原出願日

平成24年12月28日

発明の名称
d
平成11年5月6日

登録日

平成19年6月11日

二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物

特許第5993336号(甲24の3)
出願日
原出願日

平成11年5月6日

登録日

平成28年8月26日

発明の名称

平成25年4月26日

二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物

(イ)原告による訴訟提起及び訴訟外の和解等
a
原告は,株式会社KBCらが別件第1特許に係る特許権を侵害した
などとして,大阪地方裁判所に対し,同社らを被告として,損害賠償及び補償金の支払等を請求する訴訟を提起したところ,同裁判所及び知的財産高等裁判所はともに,補償金算定の基礎となる実施料率を10%と認定した(甲14)。
b
原告は,被告らが別件第2特許に係る特許権を侵害したとして,大
阪地方裁判所に対し,被告らが製造,販売していた製品の製造,販売の差止め及び損害賠償等を請求する訴訟を提起した。そして,原告と被告らとの間で,平成26年4月16日,被告らが上記製品を製造,販売しないこと,解決金200万円を連帯して支払うことなどを内容とする和解が成立した(甲5)

c
原告は,株式会社エイチ・ツー・オーに対し,別件第3特許に係る
特許権に基づき,同社が製造,販売している製品の製造,販売の中止を求め,同社との間で,平成25年4月30日,その製品の売上額の10%に相当する56万1219円の解決金の支払を受けることなどを内容とする訴訟外の和解をし,その解決金の振込みを受けた(甲19,26の1)

d
原告は,株式会社ライズに対し,別件第3特許に係る特許権に基づ
き,同社が販売している製品の販売の中止を求め,同社との間で,平成25年10月1日,その製品の売上額の10%に相当する34万6225円の解決金の支払を受けることなどを内容とする訴訟外の和解をし,その解決金の振込みを受けた(甲20,26の2)

e
原告は,別紙「炭酸関連の化粧品一覧」の6及び9番記載の製品を
製造,販売している株式会社ハッピーワンに対し,別件第3特許に係る特許権を侵害したとして,同6番記載の製品の製造,販売を直ちに中止するよう求める通告書を送付した(甲28)

f
原告は,ネオケミア株式会社らが別件第1特許及び別件第2特許に
係る特許権を侵害したとして,大阪地方裁判所に対し,同社らが製造,販売している製品の製造,販売の差止め及び損害賠償等を請求する訴訟を提起した(甲25)。
(ウ)被告製品の宣伝・販売態様等
a
被告は平成22年9月の設立当初から,MLM事業を展開しており,
平成25年当時,会員数約1万4000人で,総売上高は10億円を超えていた(乙41)

b
被告は,被告製品もMLMの事業形態によって販売しており,被告
のホームページには「グラシアスの商品をご購入いただくためには,グラシアス会員へのご登録が必要です。,
」「グラシアスは,商品の良さを人から人へ『口コミ』で
伝えるというネットワークビジネス…の販売形態にて商品の流通を行っております。自ら商品を愛用し,商品の良さを実感するとともに,大切な方に商品を伝え,商品愛用者となるお客様を勧誘し,会員登録すれば,その商品の購入実績に応じて,グラシアス独自のユニークなボーナスプランによって報酬が得られる制度を設けております。
」などと記載されている(甲8の2,乙41)

c
被告製品にはフラーレン等の成分が配合されており(前記第1の2
(4)イ)
,これには美肌効果等があるとされている(乙44,45)

被告製品の使用方法は,B剤(ジェル)を1包,清潔な別容器に移し,次にA剤(パウダー)1包を加え,均一に混ぜ,混ぜたジェルを顔全体に塗布し,そのまま15分から30分程放置し,時間が経過したらジェルをスパチュラでおおまかに取り,濡れタオル等で拭き取り,その後,水又はぬるま湯で洗い流すというものであ
る(甲3)

d
被告は,被告製品を定価10セット1万5750円(税込。以下同
じ。,20セット3万1500円,オートシップ(定期購入)価格10セット98)
00円,追加購入価格10セット7800円,20セット1万5600円で販売していた。また,被告は被告製品を他の化粧品等と組み合わせて販売することもあった(乙41,42)

e
被告が作成した被告製品の前身の製品のパンフレットには,上段に
最も大きな字(8㎜程度)で,
「11種の配合美容成分+二酸化炭素の力とフラバン
ジェノール®増量でさらに,いきいきと目覚める素肌へ。
」と記載されるとともに,
その下には4㎜程度の字で,
「サロン仕様の本格パックがバージョンアップ。11種
類の配合美容成分が,弾ける炭酸ガス(二酸化炭素)とともにあなたのお肌にチカラを与え,ワントーン明るいクリアなお肌へ導きます。
」と記載されている。また,
さらに小さい字で「フラバンジェノール配合量2倍(当社従来製品比)」とも記載さ
れている。そして,被告製品のパンフレットにも同じ記載がされていた。なお,「フ
ラバンジェノール」については被告製品の製造業者が商標権を有している(乙41ないし43)

f
被告は被告製品を販売する際に,製造業者が作成した「フラバンジ
ェノール®の美肌作用」と記載された資料を使用しており,これには「強い抗酸化作用」「メラニンの生成を抑える」「ヒアルロン酸,エラスチン,コラーゲンの分解,

を防ぐ」「糖化,カルボニル化を防ぐ」などと記載されている(乙77),

g
第三者のホームページには,被告は「炭酸パックが評判」であると
か,被告製品の前身であるピエターナジェルパックが被告の主力商品であるとか,この製品が口コミで人気などと記載されている(甲23)

(エ)アンケート結果等(甲18,乙39)
a
株式会社帝国データバンクが作成した「知的財産の価値評価を踏ま
えた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(平成22年3月)(以下「本件報告書」とい」
う。
)の表Ⅲ-10には,国内企業のロイヤルティ料率に関するアンケート結果として,産業分野を化学とする特許のロイヤルティ率は5.3%と記載されている。もっとも,平成19年の国内企業・団体に対するアンケート結果を記載した表Ⅱ-3には,技術分類を化学とする特許のロイヤルティ率の平均は4.3%(最大値
32.5%,最低0.5%)
(件数103件)と記載されている。
b
本件報告書の表Ⅲ-12には,平成16年から平成20年までの産
業分野を化学とする特許の司法決定によるロイヤルティ料率は,平均値6.1%(最大値20%,最小値0.3%)
(件数5件)と記載されている。
他方で,本件報告書の表Ⅲ-11には,平成9年から平成20年までの産業分野を化学とする特許の司法決定によるロイヤルティ料率は,平均値3.1%(中央値3.0%,最高値5.0%,件数7件)と記載されている。
(オ)原告の製品
原告は,平成11年9月以降,「メディプローラー」及び「スパオキシジェル」との商品名でジェル剤と顆粒剤からなる2剤混合型の炭酸パックを製造,販売している。また,原告は,各製品について,「お肌を内側から潤す,炭酸のチカラ」,「シュワシュワッとはじけた炭酸ガスがお肌の代謝に必要な“酸素”を届けます」などと宣伝している。また,原告の製品の使用方法としては,ジェルと顆粒をカップに入れて,スパチュラなどでまんべんなく混ぜ,できあがったジェルを清潔にした肌に厚めに塗り,そのまま約20分間から30分間パックし,スパチュラなどでジェルをおおまかに取った後,濡れタオルなどで拭き取り,洗い流すとされ
ている(以上,甲6,7,27)。

ここで被告が実施料率の低下要因として主張していることについて検討
する。
(ア)本件特許の被告製品の販売に対する寄与について
a
まず被告は,本件発明の効果は付随的なものであるなどと主張して
いる。
確かに,二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料は従来から販売等されていた(甲6,乙1,8,78ないし80)から,二酸化炭素を経皮吸収させるなどというだけでは,消費者の購入動機を形成するとは認められない。また,本件発明の固有の作用効果は,増粘剤を事前調製しておくことにより,より多くの二酸化
炭素を持続的に経皮吸収させる点にあるが,被告製品にはジェル剤にブチレングリコールが配合されており,想定する使用方法としては,A剤(パウダー)とB剤(ジェル剤)を混合して顔に塗布した後に15分から30分程放置するとされているところ,ブチレングリコールが5%配合されている場合の混合後30分経過時までの二酸化炭素の経皮吸収量は,事前調製型と用時調製型とで有意な差異が認めら
れないこと(乙26)からすると,被告製品においてブチレングリコールの配合率は不明であるものの,事前調製型の本件発明を実施したことの寄与は限定的であると推認される。
なお,被告は,ジェルと粉末の組み合わせは技術常識であるから本件発明の技術的価値が低いと主張しているが,被告が挙げている資生堂614,乙84,日清324はいずれも二酸化炭素を発生させる化粧料に関する発明ではない(乙83ないし85)から,上記の被告の主張は採用できない。また,被告は,本件発明の骨格が2剤を用時混合することにより気泡状の二酸化炭素を発生させることにあり,これが周知技術であると主張しているが,本件発明の特徴がそれにとどまらないことはこれまでに述べたとおりである。さらに被告は,本件発明が石垣発明1及び2を出発点として,技術常識を駆使することにより想到できるものであると主張してい
るが,石垣発明1及び2は,いずれも発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚等をマッサージするための発泡性化粧料の発明である(乙2及び3)から,これらに被告主張の技術常識を組み合わせることには,阻害要因があり,容易に想到し得たとは認められない。
b
また,被告はその事業形態や,被告製品の美容成分による魅力等を
理由として,本件特許の寄与は小さいと主張している。
確かに,被告が被告製品をMLMの事業形態によって販売していたことや,被告製品に美容成分を配合し,それを宣伝したこと,他の化粧品等と組み合わせて販売されたこと等の上記認定事実が,被告製品の販売に相当程度寄与したことは否定し難い。しかし,事業者は,営業活動に当たり,相応の営業努力を行うのが通常であ
り,通常の実施料はそれを前提に取り決められるものである。そして,上記のような被告の営業方法が,そのように想定される範囲を超えた格別のものであるとまでは認められないから,被告の営業方法自体が,実施料率を低下させる要因となるとは認められない。
次に,被告製品の美容成分についてみると,被告製品のパンフレットでは,「11

種の配合美容成分」と並べて「二酸化炭素の力」や「弾ける炭酸ガス(二酸化炭素)
」が肌に有効である旨が記載され,二酸化炭素の経皮吸収が美容上の問題の改善等の効果を実現することが強調されており,上記ア(ウ)gの第三者のホームページの記載内容も踏まえると,二酸化炭素の経皮吸収効果も消費者の購入動機に相当程度影響を与えたものと認めるのが相当である。そして,事業者は,他社から特許の実施許諾を受ける場合でも,それ以外の技術要素も製品に盛り込むものであることからすると,被告製品に独自の美容成分が配合されているとしても,そのこと自体が実施料率を低下させる要因となるとは認められない。
(イ)さらに,被告は競合品が存在していたと主張している。
事業者は,自社製品の機能効用を他社製品よりも高めることを目的として,固有の作用効果を有する特許の実施許諾を受け,それに対する実施料を支払うのである
から,競合品の存在によって実施料率が低下するためには,当該競合品が当該特許と同等の作用効果を有しており,特許の許諾を受けようとする事業者にとって同等の選択肢として競合する存在であることを要すると解するのが相当である。この観点から見ると,被告が競合品であると主張する商品のうち,ジェルタイプの2剤型でないものは被告製品と明らかに構成を異にするから,競合品とはいえな
い。また,前記認定の本件発明の技術的意義等に照らすと,ジェルタイプの2剤型であっても,事前調製型でない商品は競合品に当たらないというべきである。そのような観点から別紙「炭酸関連の化粧品一覧」を検討すると,本件発明と同じくジェルタイプの2剤型で,事前調製型である商品は,ジェルと粉末の2剤型である同別紙の5,6,9番の商品(乙50,51,54。なお,同3番の商品は粉
末を水で溶かすもので,本件発明とは異なる構成である。
)と,ジェルとジェルの2
剤型である同別紙の2,12,14ないし16,26の商品(乙47,57,59ないし61,71)がある。しかし,実施料率に影響を与える競合品たるためには,上記に加えて被告製品の販売時期に販売されていたことを要すると解するべきところ,これらのうち,被告製品の販売時期である平成25年9月ころから平成26年
5月までの間に販売されていたと認められるものは,同別紙の14の商品のみである(乙88)

そこで,残る上記14の商品について見ると,乙59では,
「できたて新鮮な炭酸
ガスが美容成分を導きながら角質層までしっかり浸透」としつつ,その使用方法としては,ジェルとジェルの2剤を絞り出して10秒ほど混ぜ,顔全体にジェルを塗布し,そのまま5分ほど放置した後,しっかり洗い流すとされている。そして,このような5分程度のパック時間というのは,本件明細書で二酸化炭素を経皮吸収させることが好ましいとされている時間のうちの最低レベルであり(【0038】,原

告の製品及び被告製品がいずれもパック時間を15分又は20分間から30分間程度とするのと比べると,二酸化炭素を経皮吸収させる程度において大きく劣ると推認される。そうすると,このような上記14の商品が,被告製品への実施料率を決
定する際の同等の選択肢として競合する存在となったとは考え難いから,上記14の商品を実施料率を低下させるほどの競合品と認めることはできない。(ウ)被告はその他にも様々な実施料率の低下要因を主張しているが,以上の認定・判示に照らして採用できないか,実施料率の低下要因になると認めることはできない。


以上の認定・判断を踏まえ,被告製品の販売について相当な実施料率を
検討する。
原告は別件訴訟の判決等で実施料率が10%とされたことを参考にすべきと主張している。確かに,別件訴訟の判決等は,本件発明と効能がほぼ同じと認められる別件第1特許等の実施料の前例である点で本件と共通する。しかし,別件訴訟の判決(甲14)を見ても,ブチレングリコールを配合した製品中での本件発明の固有の作用効果の程度が弁論等に顕出されたことがうかがえないから,それらが弁論に顕出されている本件とは事情が異なり,直ちに本件の参考になるとはいえない。また,このことは,和解の事例についても同様である。
(3)そして,前記のとおり,本件発明の技術分野が属する分野の近年の統計上
の平均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6.1%であり,また,本件が侵害訴訟にまで至った事案であることを踏まえる一方,被告製品における本件発明の寄与が限定的と考えられることを考慮すると,本件での実施料率は●(省略)●相当である。
したがって,被告が支払うべき補償金の額は,1507万8405円と認められる。
(計算式)

●(省略)●=1507万8405円(1円未満四捨五入)

(4)なお,特許法65条1項に基づく補償金支払債務は,法律の規定に基づき発生する債務であり,法律により特に履行期が定められていないから,履行の請求を受けた時から遅滞に陥るものと解される(民法412条3項)
。そして,本件で原
告が被告に対して補償金の支払を請求したことが認められるのは訴状の送達日である平成27年9月4日である(弁論の全趣旨)から,その日までの遅延損害金の支払請求には理由がないこととなる。
7結論
以上によれば,原告の請求は,上記6認定の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官

髙松宏之野上誠一
裁判官裁判官
大門宏一郎
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