判例検索β > 平成29年(う)第1848号
住居侵入、強盗殺人、死体遺棄(変更後の訴因 死体損壊、死体遺棄)
事件番号平成29(う)1848
事件名住居侵入,強盗殺人,死体遺棄(変更後の訴因 死体損壊,死体遺棄)
裁判年月日平成30年4月25日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28合(わ)207
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平成30年4月25日宣告東京高等裁判所第3刑事部判決
平成29年

1848号住居侵入,強盗殺人,死体遺棄(変更後の訴因・死体損
壊,死体遺棄)被告事件
主文
本件控訴を棄却する

当審における未決勾留日数中140日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,原判示第1の犯罪事実に関する事実誤認及び法令適用の誤り並びに量刑不当の主張である。
第1原判示第1の犯罪事実に関する事実誤認及び法令適用の誤りの主張について1原判示第1の住居侵入,強盗殺人の犯罪事実
その要旨は,被告人が,金品強取の目的で,平成28年6月20日午前2時30分頃から午前5時16分頃までの間に,東京都世田谷区内のマンション3階の被害者方にベランダから侵入し,ベッドで眠っていた当時88歳の被害者を起こしてキャッシ
ュカードの所在や暗証番号等を聞き出そうと考え,被害者の頭部を右手で押さえ付けて声を掛けるなどの暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,被害者が被告人の手を振り払うなどして抵抗したため,大声を出されることを防ぐために被害者を殺害することを決意し,その頸部を両手で絞めて殺害したというものである。

2弁護人の主張
その骨子は,①被告人が被害者の頭を押さえ付けて起こしたという事実は認定できないのに,この事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,②仮に,この事実があったとしても,その行為は被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものとはいえず,相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を
加えた時点が実行の着手時期と解すべきであるから,その行為が強盗の実行の着手に当たるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤りがあるというのである。
3原判決の判断の要旨
原判決は,被告人が,検察官による取調べ録音録画記録媒体(原審乙3。以下「本件録音録画」という)において,被害者方侵入後の行動につき,部屋の中に寝ている人がいたので,その頭を右手で押さえ付けるようにして声を掛けた,被害者が目を覚ましたので,話をしようとしたが,被害者が被告人の手を振り払うなどして暴れ,会話にならなかった,大声を出されるのが嫌で,大声を出される前に被害者の首を両手で絞め,殺害したと供述していることについて,殺害方法に関する部分は,殺意を否定できないような殺害方法を具体的に述べており,極めて不利な内容であることなど
から,その信用性は極めて高く,さらに,被害者を殺害するに至った経緯に関する部分は,そのような殺害状況に関する部分へと自然につながるものであることから,被害者の頭を手で押さえ付けるようにして声を掛けたとする点を含めて,十分に信用でき,被告人は,被害者方侵入後,ベッドで眠っている被害者を見つけて,その頭を右手で押さえ付けるなどした事実が認められるとした。

そのような行為の目的について,原判決は,本件録音録画における被告人の供述は,被害者方への侵入も,家人を脅してキャッシュカードを取り,暗証番号を聞き出す目的であったとする趣旨と解されるところ,この供述は,被害者方への侵入方法や侵入後の行動を合理的に説明し得る自然なものであるといえるから,この供述により,被害者方に侵入した目的は,キャッシュカードを盗むにとどまらず,家人を脅してキャ
ッシュカードの暗証番号を聞き出すことにあったと認められ,このことなどからすると,被害者を起こして,キャッシュカードの所在や暗証番号を聞き出すためであると認定することができるとした。
その上で,原判決は,高齢の女性である被害者が,深夜,就寝中に家に侵入してきた見ず知らずの男性から,頭を押さえ付けられて起こされたという状況では,被告人
の存在自体が,被害者の生命身体に対する重大な脅威であり,被害者に強い恐怖心を引き起こすものであるから,頭を押さえ付ける力がさほど強いものでなかったとしても,被告人が被害者の頭を押さえ付けるという行為は,被害者の反抗を抑圧するに十分な暴行脅迫であり,被告人は,こうした状況を全て認識した上で,上記の目的で,被害者の頭を押さえ付けるという行為に及んでいるのであるから,被告人の行為は強盗の実行の着手に当たるとした。
4当裁判所の判断
原判決の判断には,説明として不十分なところや不適切な点もあるが,大筋において経験則等に照らして不合理なところはなく,原審記録を検討しても,原判決に事実の誤認はない。
以下,弁護人の主張を踏まえて補足して説明する。

上記のとおり,原判決は,本件録音録画における被告人の供述によって,被告人が,被害者方侵入後,キャッシュカードの所在や暗証番号を聞き出すために,ベッドで眠っていた被害者の頭を右手で押さえ付けるようにして声を掛けたことを認定しているものであるが,その被告人の供述の信用性を検討するに当たり,本件犯行状況等について見てみると,本件録音録画における被告人の供述以外の原審証拠によれば,
被害者は,本件当時88歳の女性で,本件前日午後7時47分頃から本件当日午前9時13分頃までの間に被害者方で殺害されて切断され,ごみ袋に入れて玄関に置かれたこと,その後,切断された被害者の死体が近くの公園の池に投棄されたこと,本件当日午前2時30分頃に被害者方マンションの駐車場に入ってきてマンション建物の反対側を奥に向かっていくという不審者がいたこと,午前5時16分頃,傘をさして
被害者方マンションの内階段を下りてきて外に出ていった者がいたこと,翌21日午前2時35分頃,大きなバッグを肩に掛けて被害者方マンションの内階段を下りきて外に出て行った者がいたこと,平成28年6月27日から実施された被害者方等の検証時,被害者方のベランダに面した寝室の掃き出し窓は施錠されておらず,施錠付近の窓ガラスは割られていなかったこと,被害者方マンション敷地内にある物置の上に
金網フェンス等を利用して上がり,被害者方居室階下の203号室のベランダ内に侵入することができ,更にベランダ柵を足掛かりにするなどして被害者方ベランダ内にも侵入することができるところ,上記検証時,その物置の上や203号室のベランダ柵のコンクリート部分等に足跡があり,被害者方ベランダには7個の足跡があったことが認められる。
これらのことに加えて,被告人が,原審第1回公判において,本件各公訴事実に対する陳述として,住居侵入,殺人,死体の損壊,遺棄を認めると述べていることからすると,被告人は,本件当日午前2時30分頃から午前5時16分頃までの間に,203号室のベランダ柵を利用して被害者方ベランダに入り込み,ベランダに面した無施錠の掃き出し窓から寝室に侵入し,被害者を殺害して切断し,ごみ袋に入れて玄関に置いた後,被害者方玄関から出て立ち去ったこと,その後,再び被害者方に侵入し,
翌21日午前2時35分頃,被害者の死体を大きなバッグに入れて被害者方から持ち出し,近くの公園の池に投棄したことが認められる。
このように,被告人は,人が通常眠っている時間帯に,被害者方に密かに侵入した後,被害者を殺害したものであるが,被害者方をいったん立ち去り,再び被害者方に侵入して被害者の死体を運び出していることからすると,被害者を殺害する目的で被
害者方に侵入したものとは考えられず,被害者の年齢等からすると,性犯罪を行う目的とも考えられず,金品を得る目的以外は想定できない状況であるといえる。更に本件犯行状況等を見てみると,本件録音録画以外の原審証拠によれば,被告人がベランダから侵入した被害者方寝室にはベッドがあり,掃き出し窓側を枕にしていたこと,上記検証時,被害者方室内の足跡は,寝室に9個,ダイニングキッチンに3
個,玄関の廊下に2個あったこと,被害者方室内のタンス等には物色された形跡はなく,ダイニングキッチンの椅子に掛けられていたバッグ内の財布には現金8万円やキャッシュカードがあり,寝室の施錠された和ダンス内には封筒に入った現金12万円や財布に入ったキャッシュカードがあったことが認められる。このように,被害者方には物色をした痕跡が全くなく,被害者が被告人の要求に応じて金品を出した形跡も
なく,室内の足跡が寝室に集中していたことからすれば,被告人は,金品の物色行為を始める前に,眠っていた被害者が目覚めて,被害者を殺害するに至ったものといえる。
以上のことを踏まえて,本件録音録画における被告人の供述の信用性について検討すると,被告人は,本件録音録画において,被害者方侵入後の行動等について,金銭目的で被害者方に侵入した,脅してカードを入手し暗証番号を聞き出して金を得ようと思った,被害者方に侵入したところ,寝ている人がいたので,その人を起こして話をしようと思い,その人の頭を右手で押さえ付けるようにして声を掛けた,その人が目を覚ましたので,話し掛けようと思ったが,その人が手を振り払おうと暴れて起き上がって床に立ち上がり,騒がれそうになった,大声を出されるのが嫌でその人の首を両手で絞めて殺害したなどと供述している。このような供述内容は,本件録音録画
以外の原審証拠によって認められる上記のような本件犯行状況等とよく整合しており,その信用性は高いといえる。
しかも,被告人の上記供述は,逮捕事実である死体遺棄について認めた被告人に対し,検察官が死体を捨てるまでの経緯を事の始めから教えてほしいなどと記憶に従った供述がしやすい質問をし,これに応えて被告人が本件各犯行の概括を供述し,その
供述を手掛かりに検察官が具体的な供述を求める質問をしていってなされたものである。また,本件録音録画における被告人の供述全体を見ても,本件録音録画以外の原審証拠から認められる上記事実と整合しており,被告人が虚偽を交えるなどして真実と異なる供述をしていることもうかがわれない。これらのことも,被告人の上記供述の信用性を支えているといえる。

弁護人は,被告人の取調べ状況の録音録画を実質証拠として用いるときには,その供述が,公判における供述と異なり,訴訟関係人が当該供述について必要な確認を必要な都度することができないため,その信用性判断は慎重になされなければならないのに,原判決の信用性判断は慎重さに欠けていると主張する。確かに,取調べ状況の録音録画における被告人の供述を実質証拠として用いること
には,被告人の置かれている状況や捜査・取調べの経過等が被告人の供述に与える影響,質問の趣旨の誤解や供述表現の不適切さ等による供述の誤り等を考慮しなければ,その信用性を正しく評価することができないのに,録音録画における被告人の供述態度等が裁判体に強い印象を与えて誤った評価をしかねないおそれがある。しかし,本件では,そのようなおそれのある本件録音録画について,検察官が実質証拠として請求するものであると釈明するなどし,本件録音録画によってどのような立証をしようとしているか明らかにしており,そのことを踏まえた上,被告人・弁護人は,その信用性を争うことなく,本件録音録画を証拠とすることに同意し,原裁判所がその請求を採用して原審公判で取り調べたものである。しかも,被告人は,原審公判において,本件各公訴事実に対する上記陳述をしただけで,供述を拒否し,本件録音録画における自己の供述が真実と異なっていたのであれば,その旨公判で述べることが可能であ
ったのに,そのような供述をしておらず,原審証拠には,本件録音録画における被告人の上記供述が真実に反するものであることを窺わせるものはない。したがって,本件録音録画における被告人の上記供述がそれ以外の原審証拠から認められる事実によって支えられていることなどから信用できるとの上記判断を妨げる事情はないといえる。

また,弁護人は,本件録音録画における検察官の取調べの直前になされた警察官の取調べにおいて,被告人は「頭を押さえ付けて起こした」という供述はしていないのに,本件録音録画における検察官の取調べでは「頭を押さえ付けるようにして声を掛けた」と供述していて,被告人の供述には変遷があり,本件録音録画における被告人の供述の方が信用できると評価できないと主張する。

しかし,本件録音録画における検察官の取調べの直前に行われた警察官の取調べにおいて,被告人が「頭を押さえ付けるようにして声を掛けて起こした」と供述していなかったとしても,本件録音録画によれば,被告人が検察官に対してそのような供述をしたのは,被害者方に入った後,部屋に寝ている人がいたので,その人を起こして話をしようとしたとの被告人の供述を受けて,検察官からどういうふうに起こしたの
かと尋ねられ,被害者の起こし方をより具体的に供述するよう求められたことによるものと認められるのであって,被告人の供述に変遷があるとはいえない。以上のことなどからすると,本件録音録画における被告人の供述が信用できるとし,その供述によって,被告人が,被害者方侵入後,キャッシュカードの所在や暗証番号を聞き出すために,ベッドで眠っていた被害者の頭を右手で押さえ付けて声を掛けたと認定した原判決に事実の誤認はない。
また,そのような被告人の行為は,原判決が説示するとおり,未明に被害者方に侵入してきた見ず知らずの男性である被告人が,寝室で一人で眠っていた高齢の女性である被害者に対し,その枕元に立ち,突然頭を押さえ付けながら声を掛けて起こすというものであって,被害者に強い恐怖心を抱かせる行為であり,財物奪取に向けられた被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行脅迫であるといえる。したがって,被
告人が被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行脅迫を加えて強盗の実行に着手した後に被害者を殺害したとして原判示第1の犯罪事実を認定した原判決に事実の誤認も,法令適用の誤りもない。
そのほかに弁護人が主張する点を踏まえて検討しても,結論は変わらない。第2量刑不当の主張について

その骨子は,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるというのである。
本件は,上記のとおりの住居侵入,強盗殺人のほか,その被害者の死体を包丁等を用いて切断して損壊し,東京都目黒区内の公園の池に投棄して遺棄したという死体損壊,遺棄の事案であるが,原判決が量刑の理由として説示するところはおおむね相当
であって,その結論も妥当である。
量刑の中心となる住居侵入,強盗殺人の犯行について見ると,被告人は,金を手に入れるため,予め侵入しやすそうな被害者方マンションに目を付け,夜間に3階にある被害者方にベランダから侵入し,キャッシュカードの所在や暗証番号を聞き出すために被害者の頭を押さえ付けて声を掛けたもので,住居侵入や強盗は計画的なもので
ある。このような金を得るための犯行において,目を覚まして抵抗してきた被害者が大声を出すのを防ぐために直ちに殺害したものであり,人を殺すことに対する罪悪感がかなり乏しいといえ,その結果は極めて重大である。したがって,被害者の殺害自体は計画的なものでなく,金品を強取していないことを考慮しても,本件住居侵入,強盗殺人の発覚を防ぐために行った死体損壊,遺棄の本件犯行も含めた本件犯情は非常に悪く,被告人の刑事責任は極めて重大である。
そうすると,被告人が本件当時無職となり生活費が不足することになったのは,被告人が対人恐怖症であったことが影響していること,被告人には前科がないこと,本件住居侵入,殺人,死体損壊,遺棄の事実を認めていることなどの事情を考慮しても,原判決の量刑は相当なものとして支持できる。
弁護人は,強盗致傷罪では多くの事案で酌量減軽がなされているのに対して,強盗
殺人罪では酌量減軽がほぼなされないという現在の量刑傾向は誤っていると主張する。しかし,強盗殺人罪や強盗致死罪の法定刑が死刑又は無期懲役とされているのは,強盗という物欲に駆られた身勝手な犯罪を行った際に最も重要な法益である人の生命を奪ったことが厳しい処罰に値するからであり,弁護人の主張は失当である。また,弁護人は,被告人に自閉スペクトラム障害の傾向があり,シゾイドパーソナ
リティ障害であることが,本件にある程度影響を及ぼしていることを量刑上考慮すべきであると主張する。
しかし,被告人に上記のような障害等の性格の偏り等があることは,本件各犯行における被告人の心理を理解する上で意味を持つものではあるが,本件各犯行における被告人の行動等からすると,本件の量刑に影響するものではない。
そのほかに弁護人が指摘する点を踏まえて検討しても,結論は変わらない。第3結論
以上のとおり,本件控訴の趣意はいずれも理由がないので,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却する。刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中140日を原判決の刑に算入する。当審における訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただ
し書を適用して被告人に負担させない。
平成30年4月25日
東京高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

秋葉康弘
裁判官

矢数昌雄
裁判官

來司直

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