判例検索β > 平成28年(ワ)第12807号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成28(ワ)12807
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日平成30年3月26日
法廷名大阪地方裁判所
戻る / PDF版
平成30年3月26日判決言渡
平成28年(ワ)第12807号

同日原本領収

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日平成30年1月29日
判決原告
株式会社鳥越樹脂工業

原告
株式会社富士

上記2名訴訟代理人弁護士

内裕詞同寺島隆宏同遠山圭一
同訴訟代理人弁理士

中村繁元被竹
株式会社大創産業


同訴訟代理人弁護士

藤井同寺本佳代同工藤勇行
被告補助参加人

近畿用品製造株式会社

同訴訟代理人弁護士

須田政勝同坂本佳子
同補佐人弁理士

藤本昇同北田明同田同山山本
みどり

主延廣裕文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用及び参加によって生じた費用は,原告らの負担とする。事実

及び理由
第1請求
1原告株式会社鳥越樹脂工業による請求
(1)被告は,別紙「被告製品目録」記載(1)の洗浄剤用泡だて器「ほいっぷるん」を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出し,又は譲渡若しくは貸し渡しの申出をしてはならない。
(2)被告は,別紙「被告製品目録」記載(1)の洗浄剤用泡だて器「ほいっぷるん」を廃棄せよ。
(3)被告は,原告株式会社鳥越樹脂工業に対し,2000万円及びこれに対す
る平成29年3月12日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。2原告株式会社富士による請求
被告は,原告株式会社富士に対し,2000万円及びこれに対する平成29年3月12日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3原告らによる請求

被告は,別紙「謝罪広告要領」記載の謝罪広告を,読売新聞,朝日新聞,毎日新聞,日本経済新聞,産経新聞の全国版及び中日新聞の朝刊社会面に,別紙「掲載要領」記載の方法にて,各1回掲載せよ。
第2事案の概要等
1事案の概要

本件は,①発明の名称を「洗浄剤用泡だて器」とする発明に係る特許権を有している原告株式会社鳥越樹脂工業(以下「原告鳥越」という。)が,被告に対し,被告が製造,販売する別紙「被告製品目録」記載(1)の製品(以下「被告製品1」という。)が当該発明の技術的範囲に属するとして,(a)特許法100条1項に基づき,被告製品1の製造,譲渡等の差止めを,(b)同条2項に基づき,被告製品1の廃棄を,
(c)同法106条に基づき,謝罪広告の掲載を,(d)特許権侵害の不法行為に基づき,損害(平成28年6月1日から同年8月6日までの925万9712円)の賠償及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年3月12日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を請求するとともに,②「あわわ」,「awa

hour」という製品名の洗浄剤用泡だて器(以

下「原告製品」という。)を開発・製造・販売したと主張する原告鳥越及び原告株式会社富士(以下「原告富士」という。)が,被告に対し,被告が製造,販売する被告製品1及び別紙「被告製品目録」記載(2)の製品(以下「被告製品2」といい,被告製品1と合わせて「被告製品」ということがある。)は原告製品の形態を模倣したものである(不正競争防止法2条1項3号)として,それぞれ,(a)同法4条1項に基づき,損害の一部(原告鳥越については平成28年6月1日から同年10月
31日までの2520万7952円の損害の一部である2000万円,原告富士については同期間の損害3365万2575円の一部である2000万円)の賠償及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年3月12日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を,(b)同法14条に基づき,謝罪広告の掲載を請求した事案である。なお,原告鳥越の①(d)と②
(a)の損害賠償請求は請求額が①(d)の限度で選択的併合であり,同原告の①(c)と②(b)の謝罪広告掲載請求は選択的併合である。
2
前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易
に認められる事実)
(1)当事者等

原告鳥越は,プラスチック製の家庭用品の設計及び製作並びに販売等を
業とする株式会社である。

原告富士は,装粧品の卸販売等を業とする株式会社である。


被告は,日用雑貨の卸売,小売及び輸出入等を業とする株式会社であり,
いわゆる100円ショップと呼ばれる店舗を全国に展開している。エ
被告補助参加人は,日用雑貨品の卸売業及び小売業等を目的とする株式
会社である。
(2)原告鳥越の有する特許権(甲1,2)
原告鳥越は,以下の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。本件特許に係る発明を「本件発明」,本件特許の出願の願書に添付された明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)を有する。本件明細書の記載は本判決添付の特許公報のとおりである。
特許番号
発明の名称

洗浄剤用泡だて器

出願日

平成26年1月28日

出願番号

特願2014-13826

公開日

平成27年8月3日

登録日

平成28年6月24日

特許公報の発行日

平成28年7月27日

特許請求の範囲

第5957019号

本判決添付の特許公報のとおり

(3)本件発明1の構成要件の分説
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)の構成要件は,次のとおり分説される(以下,各構成要件を「構成要件A」などという。)。A
上方に開口が形成され内部に洗浄剤と湯水とを収容する収容空間が形成さ
れた容器本体と,
B
この容器本体の上端側中途部に載置又は係止され下方に移動することが規
制されてなるとともに中央又はその近傍には挿通穴が形成された蓋体と,C
上端には昇降操作部が形成され,中途部は上記蓋体に形成された挿通穴に
挿通されてなる昇降操作棒と,
D
この昇降操作棒の下端に配置されてなるとともに,洗浄剤及び泡が通過す
る多数の貫通穴が形成された昇降板と,を備えてなるとともに,
E
上前昇降板の下面には,固形石鹸と摺接させることにより該固形石鹸を削
ぎ取る削ぎ取り部が形成されてなる
F
ことを特徴とする洗浄剤用泡だて器。

(4)原告製品の製造,販売等
原告鳥越は原告製品を開発して製造し,遅くとも平成26年5月31日以降,これを原告富士に販売して納品している。そして,原告富士は,遅くとも同年6月以降,原告製品を販売している。
原告製品の形態は,別紙「原告製品・被告製品の形態」1ないし3の「原告商品形態図」及び同「原告商品と被告商品の形態対比表」の「原告実施品」のとおりである。
(5)被告の行為及び被告製品等


被告製品1

被告製品1は,被告補助参加人が製造して被告に販売し,被告は,遅くとも平成28年5月28日から少なくとも同年8月6日まで,被告製品1を業として販売した。
被告製品1の構造・構成は,別紙「被告製品1説明書」記載のとおりであり(なお,同別紙で引用されている別紙「イ号物件説明図」は被告製品1の説明図であり,別紙「突部図面」の「イ号物件」とは被告製品1のことである。,被告製品1は本)
件発明1の構成要件A,C,D及びFを充足する。また,被告製品1の形態は,別紙「原告製品・被告製品の形態」1ないし3の「被告商品形態図(1)」及び同「原告商品と被告商品の形態対比表」の「被告実施品」のとおりである。

被告製品2

被告製品2は,被告補助参加人が製造して被告に販売し,被告は,平成28年7月以降,現在まで,被告製品2を業として販売している。
被告製品2の昇降板の下面には突部が設けられておらず,被告製品1とはこの部分の形態が異なるが,その他の部分の形態は被告製品1と同じである(別紙「原告製品・被告製品の形態」1ないし3の「被告商品形態図(2)」参照)。3争点
(1)

特許権関係


被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)
(ア)構成要件Bの充足性(争点1-1)
(イ)構成要件Eの充足性(争点1-2)


被告の過失の有無(争点2)


特許権侵害に係る原告鳥越の損害額(争点3)

(2)不正競争防止法関係
アイ
原告富士による請求の可否(争点5)


被告製品は原告製品の形態を模倣したものか(争点4)

不正競争防止法違反に係る原告らの損害額(争点6)

(3)両請求共通

被告製品1の製造,譲渡等のおそれ(差止めの必要性)(争点7)

謝罪広告の要否(争点8)

第3争点に関する当事者等の主張
1
争点1-1(被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するか(構成要件B
の充足性)
)について
(原告鳥越の主張)
(1)「容器本体の上端側中途部」について

本件特許においては,蓋体が本体と一体となって固定され,容器内に泡
を形成する作業空間を確保するとともに,蓋体の挿通穴に挿通された昇降棒の下端に配置された昇降板が容器内で安定的に昇降できるようにすることに意味がある。このような作用効果を確保するために,蓋体が載置又は係止する容器本体の上端側中途部が容器の内部にあるか外部にあるかは違いがない。
被告及び被告補助参加人は,泡の圧縮作用を行うには,容器本体内の上端側中途
部に蓋体が載置又は係止されなければならないと主張するが,本件発明は蓋体が載置又は係止される位置と昇降板との距離に関しては特に問題としておらず,容器本体外で蓋体が載置又は係止されても,泡の圧縮作用の効果は変わらない。イ
構成要件Bには,蓋体が載置又は係止するのが容器本体の上端側中途部
の内部か外部かを限定する記載は一切ない。本件明細書でも,容器本体の内部に限定する部分は,
「容器本体内」などと記載されており,
「容器本体」と表現している
部分は,内面と外面を区別していないから,
「容器本体」は内面も外面も併せて解
釈されるべきである。

被告及び被告補助参加人は,原告鳥越の解釈によるとサポート要件違反
や実施可能要件違反となる旨主張しているが,本件発明で解決しようとした課題は,容器から泡を取り出す際の操作性を優れたものにするというものであるところ,本件発明はこの課題について,蓋体を「容器本体の上端側中途部に載置又は係止」する手法を用いて解決をしており,本件発明の構造では,蓋体を上方に持ち上げるなどすれば簡単に泡にアクセスできるようになるし,片手での操作も容易である。そして,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書では,
「容器本体」と「容器本体
内」を区別しており,蓋体の載置又は係止位置に関しては「容器本体」と記載して
いて容器の内側とは限定していないし,上述した容器本体の上端側中途部に蓋体を載置及び係止する理由に照らせば,載置及び係止する場所が容器の内側であるか外側かで差がないから,サポート要件違反等とはならない。
エオ
被告及び被告補助参加人のその余の主張は争う。
以上より,構成要件Bの「容器本体」は「容器本体内」に限定されず,
蓋体が容器本体外の上端側中途部に載置又は係止されていてもよいと解すべきである。
(2)「載置又は係止され下方に移動することが規制されてなる…蓋体」について
蓋体が容器本体の上端側中途部に載置又は係止され,その位置から下方に蓋体
が移動することが制限されていることであり,被告及び被告補助参加人の下記主張は否認し,争う。
(3)被告製品1の構成
被告製品1の蓋体はスカート部を有しているが,スカート部の上部内径は容器の上端部の外径より小さいため,蓋体が容器上端部に載置しておらず,容器本体の上端側中途部外側とスカート部の中途部内側が接触して載置又は係止している。そして,被告製品1の蓋体は,容器本体の上端側中途部から下方に移動することが規制されている。
(4)したがって,被告製品1は構成要件Bを充足する。
(被告及び被告補助参加人の主張)
(1)「容器本体の上端側中途部」について


本件発明の主たる課題は細かい粒子径の泡を作り出すことにあり,より
細かい粒子径の泡を作り出すことができることに発明の本質と作用効果があり,構成要件Bはそのために不可欠な構成要件で,発明の本質的部分である。蓋体に関し本件明細書には,容器本体の上端側中途部に蓋体が載置され又は係止されていることから昇降板の上昇操作によって蓋体と昇降板との間で泡が圧縮され,この昇降板の上下動操作によって,より細かい粒子径の泡を作り出すことができるとの作用効果の記載がある(
【0008】【0009】【0022】等)


。そして,
蓋体が容器本体外に位置していると昇降板と蓋体との距離が長くなり,泡の圧縮作用がスムーズに行えないばかりか,泡が容器本体外に漏出するおそれがあるから,上記泡の圧縮作用を行うには,容器本体内の上端側中途部に蓋体が載置又は係止さ
れていなければならない。

本件発明の実施例では,容器本体の「上端側中途部」とは,図3に示す
ように容器本体2の側板部2bの上端(波状部)よりも下方の位置,すなわち拡径部2cの根元部を中途部と位置付けている。また,本件明細書の【0009】には,「上記容器本体内から昇降板及び蓋体を取り除き…」と記載されているし,本件明細書には【0018】及び【0046】等のように,
「容器本体」と「容器本体内」
の意義を厳格に表現せず,両者を明確に区別することなく同意義語として使用している記載が多々ある。
これらの記載からすれば,本件発明における蓋体は容器本体内に載置又は係止されていることが要件であって,容器本体外に蓋体を載置又は係止する構造は本件明細書に記載ないし示唆されていないし,当業者は実施不可能でもあり,上記のように解釈するのが相当である。

容器本体の上面開口部を開閉する蓋体として容器本体の上端部に外嵌合
するキャップ式の外蓋構造について,特許庁審査官が引用した公知文献(丙2・昭60-97032の公開特許公報)の例の他に,丙4(昭43-20844の実用新案公報)や丙5(特許第3304730号の特許公報)等の例があり,これは公知であることから,容器本体内の上端側中途部に蓋体を載置又は係止させた,すなわち中蓋(内蓋)構造としたことに本件発明の技術的意義があり,このことが新規な特徴である。
しかも,審査官は丙2の蓋体は,
「容器本体の上端部に載置又は係止されるもので
あるため,本件発明のように容器本体内の上端側中途部に載置又は係止される蓋体
構造とは構成が相違する」と認定し,原告鳥越はこの認定に何ら反論することなく,むしろ自認したうえで請求項1を補正し,構成要件Eを追加することによって本件特許が登録された。

以上より,
「容器本体の上端側中途部」とは「容器本体内の上端から下方

の中途部」を意味することが明らかである。
(2)「載置又は係止され下方に移動することが規制されてなる…蓋体」につい

「載置」とは,
「載せて置く」との意味であり,本件発明においては蓋体を載せて置くことである以上,容器本体の上端側中途部に載置するとは,実施例に示すように,容器本体内の上端側中途部である拡径部の根元部の段部に載置することである。また,本件発明の実施例について,本件明細書には「蓋体3は…上記拡径部2cの下端側の内径寸法よりもやや長い外形に成形されている」と記載され(【0031】,

この構成を当該実施例においては蓋体を係止すると説明していることから,蓋体は容器本体内に係止されるものである。その上で,容器本体内の上端側中途部に載置又は係止された蓋体がそこから下方に落下しないようにする必要性から,「下方に移
動することが規制されてなる」との要件を必要としたのである。
そして,本件明細書の【0031】によると,蓋体は容器本体内に載置又は係止される外形として円盤状に成形される。
(3)被告製品1の構成
被告製品1の蓋体は,断面略コ字状のキャップ式蓋体で,容器本体に着脱自在な嵌合式であるところ,本件発明の蓋体に相当する部分は天板であって,スカート
状の周側板ではない。そして,被告製品1の天板は容器本体の上端にあり,上端側中途部に載置又は係止されていない。
仮に,上記周側板を含めて蓋体であるとしても,蓋体の周側板が接触している容器本体の位置は容器本体外である上に,容器本体の「上端部外周縁」であって,「上
端側中途部」ではない。また,被告製品1の蓋体は容器本体にキャップ式に外嵌合
している以上,容器本体内に載置又は係止され下方に移動することが規制されていない。
(4)以上より,被告製品1は構成要件Bを充足しない。
2
争点1-2(被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するか(構成要件E
の充足性)
)について
(原告鳥越の主張)
(1)被告製品1の昇降板の下面の突部は,固形石鹸を削ぎ取る削ぎ取り部に該当する。
すなわち,被告製品1の使用方法に関する説明文書(甲10)には,「スティック
の穴が開いている面に洗顔料をつけます。
(固形石鹸の場合はこすりつけるようにし

ます)
」との記載があり,その記載の左横には文章の説明の写真として,昇降板の下面に洗剤のようなものが付着したものが載せられている。このように,被告製品1について,被告自身が,昇降板の下面部分に固形石鹸をこすりつけて使用することを自認している。そして,昇降板の下面に存在する突部は昇降板に開けられたすべての穴の周囲に存在しており,昇降板下面に固形石鹸をこすりつければ必然的に固形石鹸が突部に触れて削ぎ取られ,固形石鹸を削ぎ取るための役割を果たす。また,原告らが,平成28年7月20日,被告に対して,被告製品1が本件特許権を侵害し,又は不正競争行為に該当することなどを記載した通知書(甲23)を送付し,削ぎ取り部の同一性についても指摘したところ,被告は昇降板に突部のない製品を製造,販売するようになった。
さらに,原告製品及び被告製品1は,いずれも樹脂を成形して製造されていると
ころ,完成後の形はこの樹脂を注入する型に依存する。そして,被告補助参加人には突部がない製品を製造する能力があることは明らかであり,また被告製品1の昇降板下面部の突部の形状等に照らせば,突部が固形石鹸を削ぎ取る削ぎ取り部として意識的かつ積極的に形成されたものであることは明らかである。(2)したがって,被告製品1は構成要件Eを充足し,本件発明1の技術的範囲
に属する。
(被告及び被告補助参加人の主張)
本件明細書の【0023】の記載によれば,本件発明は固形石鹸を削ぎ取る削ぎ取り部を積極的に設けて,洗浄剤として固形石鹸を容器本体内に容易に充填することを可能としたものである。

しかし,被告製品1の突部は,製造時の初期段階で発生した突起にすぎず,突部の突出度はわずかであり,その突出度は本件特許の実施品である原告製品と明らかに相違しているから,固形石鹸を削ぎ取ることを意図して意識的に削ぎ取り部として形成したものではない。
したがって,被告製品1は構成要件Eを充足せず,本件発明1の技術的範囲に属
さない。
3争点2(被告の過失の有無)について
(被告及び被告補助参加人の主張)
仮に被告製品1が本件発明1の技術的範囲に属するとしても,本件特許が登録されたのは平成28年6月24日であり,その特許公報が発行されたのは同年7月27日であった。そして,被告は原告らからの同月20日付けの通知書(甲23)によって本件特許権の存在は知ったが,その時点では特許公報が未発行であったため,本件特許の内容を知る余地がなかった。
同月27日に特許公報が発行されるまでは,特許法103条の過失の推定規定は適用されず,被告に故意・過失はないから,損害賠償の対象になるのは同日から同年8月6日までの販売分のみである。

(原告鳥越の主張)
本件特許が平成28年6月24日に登録され,同年7月27日に特許公報が発行されたことは認め,被告及び被告補助参加人のその余の主張は否認し,争う。原告製品は,被告が被告製品1の販売を開始した時期には,既に全国に広く流通していて,テレビや雑誌等でも取り上げられるなどしていたし,平成27年8月3
日の時点で本件発明が公開もされていたから,被告及び被告補助参加人において原告製品及び本件発明を参照する機会が十分に存在していた。
その上,上述のとおり,被告製品1の昇降板は,原告製品の昇降板と完全に同一なデッドコピーと呼べるものであるところ,原告製品や本件発明を一切参照することなく,このように形状が同一の物品を製造することはあり得ない。したがって,
被告及び被告補助参加人は,原告製品を当然に参照しており,被告には過失がある。4争点3(特許権侵害に係る原告鳥越の損害額)について
(原告鳥越の主張)
(1)被告は,平成28年6月1日から同年8月6日までの67日間に,被告製品1を少なくとも合計241万2000個販売した。

他方で,原告鳥越は本件特許を自ら実施して原告製品を製造し,原告富士に納品しており,1個あたりの納品額は280円で利益額は70円を下らない。原告鳥越は,上記期間の当時,洗浄剤用泡だて器を1日あたり3000個,67日間で20万1000個製作する能力を有していたところ,上記期間に原告製品を8万0744個製造,販売した。したがって,原告鳥越は,上記期間中にさらに12万0256個の原告製品を製造,販売する能力を有していた。
以上より,原告鳥越の損害は841万7920円(12万0256個×70円)であり,これを特許法102条1項に基づき請求する。
(2)原告鳥越は本件訴訟の遂行を弁護士に委任したところ,弁護士費用は84万1792円が相当である。
(被告及び被告補助参加人の主張)

原告鳥越主張の被告製品1の販売個数は否認し,原告鳥越のその余の主張は不知であり,争う。
5争点4(被告製品は原告製品の形態を模倣したものか)について(原告らの主張)
(1)原告製品の形態は,別紙「原告製品・被告製品の形態の構成」の「原告製
品の形態」欄の「原告らの主張」欄記載のとおりである。
(2)被告製品の形態は,別紙「原告製品・被告製品の形態の構成」の「被告製品の形態」欄の「原告らの主張」欄記載のとおりである。
(3)原告製品の形態と被告製品の形態の比較

全体の構成

いずれも,容器本体部,蓋体部,昇降操作棒部,昇降板部で構成されており,各部位の材質はポリプロピレンで,質感はつるつるしている。
色彩は,原告製品は透明,ブルー,ピンクの3種類であるが,被告製品は透明のみである。

容器本体部

いずれも,内部に洗浄剤と湯水とを収容する収容空間が形成されている円筒状の容器であり,高さ8cm,内径7.7cmである。
容器本体部の上方開口部は,原告製品は外方に花弁状に開いた装飾が形成されているのに対して,被告製品にそのような装飾はないが,需用者に与える印象の差は軽微である。

蓋体部

いずれも,中央に1.1cmの挿通穴が形成されている。
原告製品の蓋体部は容器本体部の上端側中途部に係止された径7.7cmの円盤状であるのに対して,被告製品の蓋体部は容器本体部の上端部に載置された内径8.2cmの逆皿状であるが,需用者に与える印象の差は軽微である。エ
昇降操作棒部

いずれも中途部が蓋体部の挿通穴に挿通され,下部に昇降板が装着されている棒である。
原告製品は上方に環状の昇降操作部が形成され,長さは10.2cmであるのに対して,被告製品は上方に十字状の昇降操作部が形成され,長さは10.5cmであるが,需用者に与える印象の差は軽微である。


昇降板部

いずれも,昇降操作棒部の下端に装着され,洗浄剤と泡が貫通する73個の穴が形成された径7.2cmの円盤状の板である。昇降板部の下面には原告製品及び被告製品1にはいずれも固形石鹸と摺接させることにより当該固形石鹸を削ぎ取る削ぎ取り部が形成されているが,被告製品2には削ぎ取り部が形成されていない。カ
原告製品と被告製品は,ほぼ同じ外径,高さの円筒形の容器と蓋,昇降
棒,操作部及び昇降板からなり,操作部の形状,原告製品の容器上端部が外側に広がっていること,被告製品の蓋体にスカート部があることという軽微な違いはあるものの,全体から観察すれば,同じような印象を与える洗浄剤用泡だて器である。原告製品が消費者にアピールするのはきめ細やかで簡単にはつぶれない泡を容易に作り出すことにあり,そのように泡を作り出す鍵は昇降板のデザインにある。昇降板のデザインによって,作り出される泡は全く変わってくる。そして,原告製品を購入した需要者がブログ等において注目している点は,
「泡立ち」や「泡のきめの
細かさ」であり,それを作り出しているのが昇降板である。
以上より,原告製品の要部となる形態は昇降板にあり,需用者も昇降板のデザインに着目して原告製品を選んでいるから,被告製品の形態は原告製品の形態と実質的に同一である。
(4)被告による原告製品の模倣等
上述した原告製品と被告製品の形態上の同一性に加え,次の事情を考慮すれば,被告製品は原告製品の形態を模倣したものであることが明らかである。すなわち,原告製品は,平成26年6月から東急ハンズ,イオン等の量販店で販
売され,市場で好評を博していたのに対して,被告製品は平成28年6月頃より出回っている。
また,被告製品の昇降板は,外径寸法及び厚み寸法,貫通穴の径寸法,貫通穴の数,昇降板の中央に穿設されている昇降棒の取付け穴の形状及び大きさまで原告製品の昇降板と全く同一であるから,原告製品の昇降板を摸倣したものであることは
明らかである。そもそも,
「泡立たせる」という商品の機能を確保するためだけであ
れば,原告製品の昇降板を摸倣する必要はなく,従来技術である丙2,4及び5に記載された昇降板を採用すれば済むはずである。
(被告及び被告補助参加人の主張)
(1)被告製品の形態は,別紙「原告製品・被告製品の形態の構成」の「被告製
品の形態」欄の「被告及び被告補助参加人の主張」欄記載のとおりである。(2)原告製品の形態と被告製品の形態の比較
原告製品と被告製品とをその形態において対比すると,別紙「原告商品と被告商品の形態対比表」に示すように,次の共通点と相違点がある。

共通点

容器本体と蓋体と昇降操作棒(昇降棒)と昇降板とからなる泡だて器としての全体の構成態様について概念的に共通点はある。しかし,当該共通点は,例えば,丙4や丙5等の図面にも開示された周知ないしは少なくとも公知のありふれた商品形態である。原告らは昇降板の同一性を主張しているが,原告製品の昇降板と同一の形態からなる洗浄剤用泡だて器が多数販売されている(丙10参照)。

相違点

原告製品と被告製品とは,次の具体的形態において明らかに相違する。これらの相違点は被告補助参加人が独自に創作した形態である。
(ア)容器本体
原告製品の容器本体は上面開口型の有底状の容器であるが,容器本体のボディ部は円筒状で,容器本体の上端部より下方側の中途部の容器本体内に円周状に
段部を形成し,当該段部より上方が外側に大きくラッパ状に拡径してなり,しかも上端内周縁に花弁を形成すべく弧状の凸凹ラインが形成されてなるもので,それ自体特徴ある独自な形態である。
これに対し,被告製品の容器本体はありふれた上面開口型の円筒状の有底形状で,断面コ字状である。

したがって,容器本体の外観形態は著しく相違する。
(イ)蓋体
原告製品の蓋体は,容器本体内の上端側中途部,すなわち容器本体内の段部に係止されるべく下向き鍔部を外周縁に形成した薄板円板形状である。これに対し,被告製品の蓋体は,容器本体の上面開口部を開閉すべく容器本体に
外嵌合される断面略コ字状のキャップ式蓋体で,しかも当該蓋体の外周縁には下向きスカート状の周側板が形成され,さらに当該周側板の下端周縁は波状を呈してなる態様である。
上記対比から明らかなように,原告製品の蓋体は容器本体内に係止するために単なる円板形状の中敷蓋であるのに対し,被告製品の蓋体は容器本体に外嵌合される
キャップ式の蓋体であって,その形態は全く異なるものであり,明らかに創作ポイントが異なり,しかもこの創作ポイントは外観上において識別できる形態相違である。
(ウ)昇降棒上端の操作部(つまみ部)
原告製品の昇降棒上端に形成された操作部(つまみ部)は,略?形状を変形したリング体が,昇降棒上端から上向き突設した特異な形態からなる。これに対し,被告製品のつまみ部は,昇降棒上端に略十字状に外方に突設した平面フラット面からなる独自な個性のある十字状形態である。
したがって,当該昇降操作部(つまみ部)は,全くその外観形態を異にするもので,しかも当該つまみ部は容器本体から上方に裸出突設してなるため,外観上明らかに両者の形態相違が識別できる。

(3)原告製品と被告製品とは,需要者が最も知覚で認識することができる面積の大なる容器本体や蓋体及び容器本体から外部に裸出しているつまみ付昇降棒のつまみ部の形態が明らかに異なっており,両者の形態が同一又は実質的同一と判断される余地はない。しかも,その異なる点は被告補助参加人が独自に創作した商品形態であって,意匠の登録もされている(丙7)から,決して原告製品の形態を模倣
したものではない。
6争点5(原告富士による請求の可否)について
(原告富士の主張)
原告富士は,原告製品の企画段階から,原告鳥越と共同して製品開発に携わって資金,労力を投下し,原告鳥越と平成27年3月9日に継続的商品取引基本契約
を締結した。また,原告富士は,原告製品の製品名を登録商標とする商標権(甲26)を有し,その製品名を独占的に使用して原告製品を販売できる唯一の販売業者である。
したがって,原告富士は不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同
法4条,14条)に該当する。

(被告及び被告補助参加人の主張)
原告富士は,原告鳥越との間で商品を取引販売する権利を有しているのみであって,原告製品の開発者ではないから,不正競争防止法2条1項3号の請求人適格を欠く。
7争点6(不正競争防止法違反に係る原告らの損害額)について
(原告鳥越の主張)
(1)被告は,平成28年6月1日から同年10月31日までの153日間に,被告製品を少なくとも合計550万8000個販売した。
他方で,原告鳥越は原告製品を製造して原告富士に納品しており,1個あたりの納品額は280円で利益額は70円を下らない。原告鳥越は,上記期間の当時,洗浄剤用泡だて器を1日あたり3000個,153日間で45万9000個製作する
能力を有していたところ,上記期間に原告製品を12万2624個製造,販売した。したがって,原告鳥越は,上記期間中にさらに32万7376個の原告製品を製造,販売する能力を有していた。
以上より,原告鳥越の損害は2291万6320円(32万7376個×70円)であり,これを不正競争防止法5条1項に基づき請求する。

(2)原告鳥越は本件訴訟の遂行を弁護士に委任したところ,弁護士費用は229万1632円が相当である。
(原告富士の主張)
(1)被告による被告製品の販売個数は上記(原告鳥越の主張)の(1)のとおりである。

他方で,原告富士は原告製品を小売店に納品しており,1個あたりの納品額は450円で利益額は90円を下らない。原告富士は原告鳥越から仕入れた原告製品のみを販売しているから,原告富士の販売能力は原告鳥越による原告製品の製造能力が上限となる。したがって,原告富士は,上記期間内において原告製品を45万9000個販売する能力を有していたといえるところ,上記期間に原告製品を11万
9075個販売した。したがって,原告富士は,上記期間中にさらに33万9925個の原告製品を販売する能力を有していた。
以上より,原告富士の損害は3059万3250円(33万9925個×90円)であり,これを不正競争防止法5条1項に基づき請求する。
(2)原告富士は本件訴訟の遂行を弁護士に委任したところ,弁護士費用は305万9325円が相当である。
(被告及び被告補助参加人の主張)
原告ら主張の被告製品の販売個数は否認し,原告らのその余の主張は不知であり,争う。
8争点7(被告製品1の製造,譲渡等のおそれ(差止めの必要性))について(原告鳥越の主張)

上述のとおり,被告は被告製品1の製造,販売によって本件特許権を侵害したから,特許法100条1項,2項に基づき被告製品1の製造,譲渡等及びその廃棄を請求することができる。
(被告及び被告補助参加人の主張)
被告製品1については,既に被告補助参加人が製造を中止し,被告が販売を中止
しており,今後も一切販売する意思がない。
9争点8(謝罪広告の要否)について
(原告らの主張)
原告らは,原告製品を開発し,又は販売し,その安全性,有効性を周知させるために努力してその普及を図った結果,雑誌への掲載,テレビ番組での放映,タレ
ントのSNSでの紹介等がなされ,画期的な洗浄剤用泡だて器として人気となり,東急ハンズ,イオンなどといった大手販売店にて人気商品となった。しかし,被告が本件特許権を侵害し,又は不正競争行為をして被告製品を原告製品の10分の1の値段(1個100円)という廉価で大量に販売したことにより,逆に原告製品が原告らのオリジナル製品であることも疑問視されるに至り,原告ら
は取引先から取引を留保されるなど,原告らの業務上の信用は大きく毀損された。これにより原告らが被った無形的侵害は大きく,それを回復するためには謝罪広告の掲載が必要である。
(被告及び被告補助参加人の主張)
争う。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
本件明細書によれば,本件発明は,液体石鹸や粒状石鹸等の石鹸類や洗顔料等の洗浄剤を用いて泡を作り出す際に使用される洗浄剤用泡だて器に関するものであり(
【0001】,従来の泡だて器では,粒子径の細かい泡を作ることは困難であった)
り,やや時間がかかったりするほか,極めて使い勝手が悪いなどの課題があった

【0005】
)ことから,簡単に且つ粒子径が細かい泡を作り出すことができるとともに,黴等の細菌が繁殖する危険性も回避することができ,操作性にも優れた新規な洗浄剤用泡だて器を提供することを目的とするものである(
【0006】。すな

わち,本件発明は,容器本体内に適当量の洗浄剤と少量の湯水とを収容し,蓋体を容器本体の上端側中途部に載置又は係止させるとともに,上記昇降操作棒の上端に
形成された昇降操作部を把持しながら,該昇降操作棒を昇降操作し,それに伴って上記昇降板が昇降することにより,容器本体内に収容された洗浄剤と湯水とが混合されるとともに,この昇降板に形成された多数の貫通穴を通過して該昇降板の上方及び下方に繰り返し移動し,こうした洗浄剤と湯水との混合物の移動が繰り返されることにより,上記蓋体の下方には多数の泡が作り出される(
【0008】
)という

ものである。
2
争点1-1(被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するか(構成要件B
の充足性)
)について
(1)構成要件Bの「蓋体」について

被告及び被告補助参加人は,構成要件Bの「蓋体」に相当するのは,被
告製品1のキャップ式蓋体fの天板cのみであり,これは「容器本体の上端側中途部に載置又は係止」されていないから,被告製品1は構成要件Bを充足しないと主張している。
確かに,本件発明1の実施例でもある本件明細書の【0028】以下及び図面記載の実施例では,被告製品1の天板cと同じく円盤状に成形された蓋体が用いられている(
【0031】
,図2,4)
。しかし,本件明細書の【課題を解決するための手
段】の項では,
「蓋体は,容器本体の上端側中途部に載置され又は係止され下方に移動することが規制されてなるとともに中央又はその近傍には挿通穴が形成されたものであれば良く,上記容器本体の形状に対応した形状であれば良い」【0010】(

とされ,蓋体が実施例に記載された形状のものに限定されていない。イ
また,本件発明において蓋体が備えられることの技術的意義に照らして
検討するに,本件発明において蓋体は,容器本体の上端側中途部に載置され,又は係止されていることから,昇降板に形成された貫通穴には,容器本体内で作り出された泡も上方から下方及び下方から上方に繰り返し通過する。すなわち,昇降操作棒を下降させることにより昇降板に形成された多数の貫通穴を湯水と混合された洗浄剤が通過することにより作り出され昇降板の上方に位置した泡は,次いで,昇降
板が上昇操作されることにより,蓋体と昇降板との間で圧縮され,再び多数の貫通穴を通過して昇降板の下方に移動する。したがって,こうして繰り返される昇降板の昇降操作により,洗浄剤と湯水との混合物ばかりではなく,一旦作られた泡も繰り返し多数の貫通穴を通過することから,より細かい粒子径の泡を作り出すことができる(本件明細書【0008】【0009】【0022】【0039】。,




このような本件発明における蓋体の機能に照らすと,蓋体は,上方に開口が形成された容器本体(構成要件A)の「蓋」として,容器本体内に配置される昇降板との間で泡を圧縮することができる空間を形成する部分(容器本体の開口部を塞いで泡の圧縮空間の天井となる部分)を備えている必要があると解される。ウ
そして,別紙「イ号物件説明図」からすると,被告製品1の構成bのキ
ャップ式蓋体fでは,天板cのみが容器本体aの開口部を塞いで泡の圧縮空間の天井となる部分を形成しているのではなく,スカート状の周側板dの一部と合わせて開口部を塞いでいると認められるから,その余の付加的部分を含めたキャップ式蓋体f全体が構成要件Bの「蓋体」に対応すると認めるのが相当である。(2)「容器本体の上端側中途部に載置又は係止され」について

被告及び被告補助参加人は,被告製品1における周側板dを含むキャッ
プ式蓋体f全体が構成要件Bの「蓋体」に相当するとしても,構成要件Bの「容器本体の上端側中途部に載置又は係止され」とは「容器本体内」の上端側中途部に載置又は係止されることを意味するから,キャップ式蓋体fと容器本体aの外側で嵌合する被告製品1は構成要件Bを充足しないと主張しているのに対し,原告鳥越は蓋体が載置又は係止される場所は「容器本体内」に限られず,
「容器本体外」の上端

側中途部であってもよいと主張している。

そこで,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を検討する。(ア)まず特許請求の範囲では,
「容器本体の」とのみ記載されており,その

文言からは直ちにその意義を決することはできない。
(イ)そこで,本件明細書の記載をみると,確かに,例えば,
【課題を解決す
るための手段】の項の【0008】ないし【0010】【0013】【発明の効果】,

の項の【0023】及び【発明を実施するための形態】の項の【0036】ないし【0040】のように,
「容器本体内」や「容器本体2内」という文言を用いて,容
器本体の内側を指すことを明確にしている箇所もみられる。そして,原告鳥越は,本件明細書では,
「容器本体内」の語と「容器本体」の語とを使い分けていると主張
する。
しかし,
【実施例】の項の【0046】では,本件発明の実施例についての説明として,
「上記実施の形態に係る洗浄剤用泡だて器1では,上記容器本体2の上端側中途部に蓋体3が載置されるものを図示して説明した」と記載されているところ,【0
029】で引用されている図1及び図2を見ると,上記「容器本体2の上端側中途
部」とは,
「容器本体2内の上端側中途部」の意味であると理解するほかない。このように,本件明細書には,
「容器本体」を「容器本体2内」という意味で用いている
箇所もある。
それどころか,本件明細書には,次のように,蓋体が容器本体内に存在していることを当然の前提とした記載がみられる。
すなわち,発明の内容を一般的に説明した【課題を解決するための手段】の項の【0009】の最終行には,
「昇降操作棒を上方に引き上げることにより,上記容器
本体内から昇降板及び蓋体を取り除き,該容器本体内に手を入れて内部の泡をすくう等して取り出し,洗顔等に用いれば良い」との記載がある。この記載で「容器本体内」とあるのは,本件発明の実施例の説明部分である【0040】にも,「昇降操
作棒4を上方に引き上げ,容器本体内2内から上記蓋体3と昇降板5とを取り出す」
とか,
「昇降操作棒4を上方に引き上げると,上記昇降板5が上記蓋体3に当接し,該昇降板5と蓋体3とは一体的に容器本体2内から取り出される」との記載があることを考慮すると,単なる誤記とは思われない。
確かに,蓋体がどこに存在しているかということと,蓋体がどこに載置又は係止されているかということは別の問題ではあるが,本件明細書にはこれらを区別して
いることをうかがわせる記載は見当たらないし,特に上記【0009】や【0040】の記載内容に照らせば,上記の【0009】の最終行の記載は,蓋体の全体が容器本体内に存在することを前提とした記載であると理解するのが自然であり,それと異なり,これらの記載が,蓋体の一部のみが容器本体内に存在しつつも,その載置又は係止場所は容器本体外である場合も含む記載と理解することは困難である。
(ウ)さらに,本件明細書の実施例では,蓋体が容器本体内に存在し,かつ,容器本体内の上端側中途部に載置されている例のみが記載され,その説明をした【0046】では,
「容器本体2の上端側中途部に係止され」るものであっても良い
と記載されているが,上記判示のとおり,この【0046】では,「容器本体2の上
端側中途部」という文言を「容器本体2内の上端側中途部」という意味で用いてい
るのである。これらの実施例の説明や図面の内容に照らせば,本件明細書では,蓋体が容器本体内に載置又は係止されているものしか開示されておらず,蓋体が容器本体外に載置又は係止される構成が示唆されているとは認められない。(エ)加えて,本件発明1において蓋体が備えられることの技術的意義及び構成要件Bで蓋体が「下方に移動することが規制されてなる」ことが必要とされていることに照らしても,蓋体は容器本体内に載置又は係止されている必要があると解するのが相当である。
すなわち,上記(1)で判示したとおり,本件発明1は,容器本体内に位置する昇降板の昇降操作を繰り返すことにより,昇降板に形成された多数の貫通穴に,泡を繰り返し通過させ,より細かい粒子径の泡を作り出すことを目的としているところ,その過程で,泡は容器本体内で作り出されること(
【0009】【0037】【00



40】
)からすると,蓋体のうち,少なくとも容器本体の開口部を塞いで泡の圧縮空間の天井となる部分は,その圧縮空間を容器本体内に確保する位置に存在していることが必要であると認められ,このために「蓋体」は,
「下方に移動することが規制
されてなる」ものとされていると解される。
そして,その上で,もし蓋体の一部が容器本体外に存在している場合には,必然
的に蓋体が容器本体の上端部をまたぐ形となり,それによって自ずと,蓋体は下方に移動することが規制されることになるから,あえて「下方に移動することが規制されてなる」ものとするための構成を設ける必要はないことになる。逆にいえば,蓋体の全部が容器本体内に存在するからこそ,容器本体内の泡の圧縮空間を確保するために蓋体を下方に移動させないための構成を設ける必要が生じることになる。
これらの記載に加え,本件明細書の【0009】では,昇降板と蓋体との間で容器本体内で作り出された泡を圧縮させることが可能なのは,
「容器本体の上端側に蓋体
が載置され又は係止されている」ためであるとされていることからすると,本件発明1が,
「容器本体の上端側中途部に載置又は係止され下方に移動することが規制されてなる」ものとしているのは,蓋体の全部が容器本体内に存在することを前提と
し,したがって,その載置又は係止場所が容器本体内であることを前提として,その載置又は係止によって初めて蓋体が下方に移動することが規制されていることを想定していると解するのが合理的である。
(オ)以上より,構成要件Bの「容器本体の上端側中途部」とは「容器本体内の上端側中途部」の意味であると解するのが相当である。
これに対し,原告鳥越は,蓋体が容器本体に載置又は係止される場所が容器本体外であっても,本件発明の作用効果は確保されるから,上記のように限定して解釈することは相当でないと主張するところ,確かに,容器本体内に泡の圧縮空間を確保するという蓋体の作用効果は,蓋体が容器本体の外で載置又は係止される場合にも奏することになるようには思われる。しかし,そもそも上記の蓋体の作用効果は,容器本体の開口部を塞いで泡の圧縮空間の天井となる部分の位置によって得られる
ものであり,蓋体が容器本体に載置又は係止される位置自体によって得られるものではないから,作用効果の観点からすれば,蓋体が容器本体の上端側中途部で載置又は係止される場合に限る必要はないはずである。そうすると本件では,本件発明において,蓋体の位置ではなく,蓋体が容器本体に載置又は係止される場所を,容器本体の「上端側中途部」と限定したことの技術的意義が問題となるが,本件明細
書の記載や本件特許の出願経過(丙3の1,2)をみても,この点は判然としない。これらのことからすると,
「容器本体の上端側中途部」の意義について,原告鳥越が
主張するように,蓋体の作用効果を奏する場合を広く含むと解することは相当ではなく,本件明細書の記載や開示の限度,この要件が必要となる前提的状況を勘案して,上記のとおり解するのが相当である。

(3)被告製品1の構成について
被告製品1の蓋体(天板及びスカート状の周側板)は,構成bの内容に照らせば,容器本体内の上端側中途部に載置又は係止されていると認めることはできないから,被告製品1は構成要件Bを充足しない。
(4)したがって,被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属さないから,その
余の特許権侵害に係る争点について判断するまでもなく,被告の本件特許権侵害を理由とする原告鳥越の請求には理由がない。
3争点4(被告製品は原告製品の形態を模倣したものか)について(1)まず,原告製品と被告製品の形態が実質的に同一であるかについて検討する。
(2)原告製品及び被告製品の形態

原告製品の形態

弁論の全趣旨によれば,原告製品の形態は,別紙「原告製品・被告製品の形態の構成」の「原告製品の形態」欄の「原告らの主張」欄記載のとおりと認められるが,証拠(甲7,11,12,14,16,18,20,22,丙9)及び弁論の全趣旨によれば,より詳しくは,同別紙の「原告製品の形態」欄の「裁判所の補足的認定」欄記載のとおりであると認められる。

被告製品の形態

証拠(甲6,10)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の形態は,別紙「原告製品・被告製品の形態の構成」の「被告製品の形態」欄の「裁判所の認定」欄記載のとおりであると認められる。
(3)原告製品の形態と被告製品の形態の比較

共通点

上記認定によれば,原告製品の形態と被告製品の形態の共通点は次のとおりである。
(ア)容器本体部,蓋体部,昇降操作棒部,昇降板部で構成されており,各部位の材質はポリプロピレンで,質感はつるつるしている点。原告製品のうち色彩が半透明の製品については,被告製品の色彩も半透明である点。
(イ)容器本体が上方に開口部が形成され,内部に洗浄剤と湯水とを収容する収容空間が形成されている円筒形で有底状の容器であり,高さ8cm,内径7.7cmである点。

(ウ)蓋体の中央に1.1cmの挿通穴が形成されている点。
(エ)昇降操作棒の上端に昇降操作部(昇降用つまみ部)が形成され,中途部(軸部)は蓋体部の挿通穴に挿通され,下部に昇降板が装着されている点。(オ)昇降板が昇降操作棒部の下端に装着され,略全面に洗浄剤と泡が貫通(通過)する72個の穴及び操作棒が螺入される穴が形成された径7.2cmの円盤状の板である点。
(カ)原告製品と被告製品1については,昇降板の下面の各穴の周辺に突部
が形成されている点。

相違点

上記認定によれば,原告製品の形態と被告製品の形態の相違点は次のとおりである。
(ア)原告製品のうち色彩がブルー又はピンクの製品については,被告製品
の色彩が半透明である点。
(イ)原告製品の容器本体の開口部は外方に花弁状に開いているのに対し,被告製品の容器本体の開口部にそのような形状はみられず,容器本体が断面コ字状である点。
(ウ)原告製品の蓋体は容器本体内の上端側中途部に係止された径7.7c
mの円盤状であるのに対し,被告製品の蓋体は容器本体外の上端側中途部又は上端部外周縁に載置又は係止された径8.2cmの逆蓋状(周側板のあるキャップ式)である点。
(エ)原告製品の昇降操作部(昇降用つまみ部)は環状であるのに対し,被告製品の昇降操作部(昇降用つまみ部)は上面が平坦面な略十字状である点。(オ)原告製品の昇降操作棒は10.2cmであるのに対し,被告製品の昇降操作棒は10.5cmである点。
(カ)原告製品の昇降板の下面の各穴の周辺には突部が形成されているのに対し,被告製品2の昇降板の下面は平坦面である点。


本件に関連する事実関係

証拠(丙2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。すなわち,公開特許公報(昭60-97032)には,発明の名称を「気体を物質中に補足する方法および装置」とする次の(ア)記載の発明(特許請求の範囲の4)等が記載されており,その明細書では次の(イ)の説明がされているほか,実施例として別紙「装置図面」記載の装置の図面が添付され,これについて次の(ウ)の説明がされている。
(ア)液体又は液体-固体混合物の中に空気又は不活性気体を迅速に捕捉させる装置であって,容器(B)を含み,該容器を貫通して摺動するピストン(A)はその下端部で,マルチチャンネルの通路を具備した少なくとも1つの要素(C)に連結されていることを特徴とする,気体を物質中に捕捉する装置。
(イ)主要な技術的用途として,医薬品および化粧品(クリーム,軟こう)
の分野,あるいは泡立てクリーム…等の食料品の分野がある。
…一般に,液体又は液体-固体混合物の内部に空気を捕捉させた物質は明らかにフォーム(泡)の形態であって,実際上気体状の分散であり,空気又は不活性気体が液体中に連続的な位相をなして存在する。
(ウ)第1図に略示する装置は4つの主要な構成要素から成る。すなわち,
容器(B),所望によりカバー(F)によって包囲することのできる金属スプリング(E)を組付けたピストン(A),および多数の通路(D)を備えた要素(C)である。ピストンが容器の内方および外方へ移動することによりこのピストンが金属スプリングによって補助されて作用を遂行し,成分は混合され空気と共に要素(C)の上方のピストン上部の通路を貫通して強制される。その後すぐに気体を捕捉した物質が容器(B)内に生成される。

形態の実質的同一性の有無
(ア)まず,原告製品及び被告製品の外部の形状について検討する。a
確かに,上記アで認定したとおり,原告製品と被告製品には,全体
の構成に加え,容器本体の大きさやその開口部以外の容器の形状,蓋体の挿通穴の大きさ,昇降操作棒の構成等において共通点がみられる。
しかし,原告製品の販売以前から,化粧品等に用いる泡立て器として上記で認定した装置が開示されていたのであり,これらと原告製品及び被告製品を比較すると,容器本体部,蓋体部,昇降操作棒部及び昇降板部からなる原告製品及び被告製品の全体の構成が特徴的なものであるとは認められない。また,石鹸を泡立てるという用途ないし機能を考えると,容器本体の大きさやその開口部以外の容器の形状,蓋体の挿通穴の大きさ,昇降操作棒の構成等の形態が格別特徴的なものであるともいえない。
b
他方で,上記認定のとおり,原告製品と被告製品は,容器本体の開
口部の形状,蓋体の形状,大きさ及びその設置の場所・方法が相違している。このうち蓋体の形状の相違点は,円盤状か逆蓋状(周側板のあるキャップ式)かというものであって,顕著な相違であるし,被告製品の蓋体は容器の外部,しかも上側の目立つ場所にあり,需要者が各製品を使用する際に常に触れる場所であることからしても,蓋体の形状の相違は,形態の実質的同一性を考えるに当たって,重視すべきものというべきである。

しかも,原告製品と被告製品には,蓋体を設置する容器本体の開口部の形状にも相違点がみられるところ,その開口部の形状の相違は,蓋体の形状や大きさ,その設置の場所・方法の違いと相まって,原告製品の形態と被告製品の形態の違いを際立たせているということができる。
すなわち,原告製品の容器本体の開口部は外方に花弁状に開いており,その形状
自体,特徴的である上に,その開口部の内側に円盤状の蓋体が設置されているから,容器本体に蓋体を設置した状態でも,容器本体の開口部の上向きに開いた花弁形状が目立っている。これに対し,被告製品の容器本体の開口部には,原告製品のような形状はみられず,被告製品は容器本体が断面コ字状という一般的な容器の形状である上に,蓋体が逆蓋状(周側板のあるキャップ式)で,周側板の下端周縁が波状
であること等から,容器本体に蓋体を設置した状態では,容器本体の開口部が蓋体で覆われることになり,容器本体が蓋体によって下向きに密閉されているという印象を与えるものとなっている。
さらに,原告製品と被告製品は,昇降操作部(昇降用つまみ部)の形状においても相違しているところ,容器本体に昇降操作棒を設置し,容器本体を立てた状態では,昇降操作部が容器本体から突出し,最も上部に位置することになるから,その相違点が需要者に与える印象は強いものとなる。そして,昇降操作部の形状は,原告製品のは環状であるのに対し,被告製品のは上面が平坦面な略十字状であり,上記認定の容器本体の開口部と蓋体の形状等と相まって,原告製品の方が立体的な印象を与え,被告製品は平坦な印象を与えるという点で,需要者に与える印象が相当異なるものというべきである。

(イ)次に,原告製品及び被告製品の内部の形状について検討する。原告らは,原告製品及び被告製品の内部の形状について,原告製品と被告製品は昇降板の形状や大きさ等が共通しており,しかも,原告製品と被告製品1の昇降板の下面に突部が形成されている点の共通性を指摘する。
しかし,昇降板の機能からすると,本体容器の内面に沿う形状や大きさにならざ
るを得ないし,穴を開けることも機能上必要である上,昇降板の形状が単なる丸い円盤状で,穴の形状も単なる丸い穴にすぎない以上,原告製品及び被告製品の昇降板の形状等は,容器本体内で液体等を泡立てる容器の昇降板としては特徴的なものとはいえない。
また,原告製品と被告製品1の昇降板の下面には突部が形成されているものの,
昇降板は容器本体内部に備えられており,突部は下面に形成されていることに加え,その突起の度合いはわずかであること(甲7,別紙「突部図面」
)を踏まえると,需
要者が当然に突部の存在を認識し,それを重視するとまで認めることはできない。(ウ)そして,不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らせば,商品の形態が実質的に同一かどうかは,商品全体を対比して判断されるべきであるから,昇降
板やその突部の同一性によって直ちに商品形態の同一性が基礎付けられるわけではなく,昇降板の同一性を商品全体の形態に照らして評価すべきである。そのような観点から検討すると,上記(ア)bで判示したとおり,原告製品と被告製品は,容器本体の開口部の形状,蓋体の形状,大きさ及びその設置の場所・方法,昇降操作部(昇降用つまみ部)の形状が相当程度相違している。そして,これらは各製品の外部から一見して把握し得る相違点で,その相違も大きいことからすると,需要者に与える印象は,昇降板やその突部の同一性よりも,容器本体の開口部や蓋体,昇降操作部(昇降用つまみ部)に関する上記相違点の方が相当強いというべきである。そうすると,昇降板やその突部の同一性があっても,容器本体の開口部,蓋体及び昇降操作部(昇降用つまみ部)に関する上記相違点に照らせば,原告製品と被告製品の形態が実質的に同一であるとは認められない。

(エ)なお,原告らは,上記外部の形状に関する各相違点があるにもかかわらず,原告製品と被告製品は全体から観察すれば,同じような印象を与えると主張しているが,上記判示に照らせば,原告らの主張は採用できない。また,原告らは,きめ細やかで簡単にはつぶれない泡を作り出す鍵は昇降板のデザインにあり,原告製品の要部となる形態は昇降板にあるなどと主張しているが,
商品形態の実質的同一性を考えるに当たっては,あくまでも商品全体を対比して形態の実質的同一性を判断すべきである。そして,商品全体を対比した結果は上述のとおりであるから,原告らの上記主張は採用できない。
(4)以上より,被告製品の形態は原告製品の形態を模倣したものとは認められないから,その余の不正競争行為に係る争点について判断するまでもなく,被告の
不正競争行為を理由とする原告らの請求には理由がない。
4結論
以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官

髙松宏之野上誠一大門宏
裁判官

裁判官
一郎
トップに戻る

saiban.in