判例検索β > 平成25年(ワ)第108号
損害賠償請求事件
事件番号平成25(ワ)108
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成30年2月14日
法廷名神戸地方裁判所
裁判日:西暦2018-02-14
情報公開日2019-02-02 12:55:22
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平成30年2月14日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

損害賠償請求事件(甲事件)
損害賠償請求事件(乙事件)
口頭弁論終結日

平成29年7月20日
判1決主文
被告は,X3に対し,825万円及びこれに対する平成25年3月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告は,X4及びX5に対し,各412万5000円及びこれに対する平成25年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被告は,X6に対し,687万5000円及びこれに対する平成25年3月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
被告は,X10,X11及びX12に対し,各137万5000円及びこれに対する平成25年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5
被告は,X13及びX14に対し,各45万8334円及びこれに対する平成25年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
被告は,X15,X18,X19及びX20に対し,各45万8333円及びこれに対する平成25年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7
被告は,X16及びX17に対し,各68万7500円及びこれに対する平成25年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8
被告は,X21及びX22に対し,各825万円及びこれに対する平成28年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9
被告は,X23に対し,1100万円及びこれに対する平成28年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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X3,X4,X5,X6,X10,X11,X12,X13,X14,X15,X16,X17,X18,X19,X20,X21,X22及びX23のその余の請求をいずれも棄却する。
12

X1,X2,X7,X8及びX9の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用の負担は,以下のとおりとする。
X3,X4及びX5と被告との間に生じた訴訟費用は,これを4分し,その3を被告の負担とし,その余を上記各原告らの負担とする。
X6と被告との間に生じた訴訟費用は,これを5分し,その3を被告の負担とし,その余をX6の負担とする。
X10,X11,X12,X13,X14,X15,X16,X17,X
18,X19及びX20と被告との間に生じた訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を上記各原告らの負担とする。
X21及びX22と被告との間に生じた訴訟費用は,これを4分し,その3を被告の負担とし,その余を上記各原告らの負担とする。
X23と被告との間に生じた訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の
負担とし,その余をX23の負担とする。
X1,X2,X7,X8及びX9と被告との間に生じた訴訟費用は,上記各原告らの負担とする。
この判決は,1項ないし9項に限り,仮に執行することができる。事
第1
1実及び理由
請求の趣旨
被告は,X1に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平
成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2
被告は,X2に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被告は,X3に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平
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成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。4
被告は,X4に対し,550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5
被告は,X5に対し,550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6
被告は,X6に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7
被告は,X7に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8
被告は,X8に対し,550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9
被告は,X9に対し,550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X10に対し,206万2500円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X11に対し,206万2500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X12に対し,206万2500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被告は,X13に対し,68万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X14に対し,68万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X15に対し,68万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌
日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X16に対し,103万1250円及びこれに対する訴状送達の日の
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翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X17に対し,103万1250円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X18に対し,68万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被告は,X19に対し,68万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X20に対し,68万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成25年3月7日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X21に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
(平成28年2月11日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X22に対し,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成28年2月11日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被告は,X23に対し,2200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成28年2月11日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,被告の負担とする。
仮執行宣言
第2
1
事案の概要
本件は,

甲事件原告らの被相続人らが,いずれも被告ないし被告と合併した
オーツタイヤ株式会社の従業員として,被告の神戸工場又は泉大津工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,悪性胸膜中皮腫ないし肺がんにより死亡したとして,甲事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,それぞれの相続分に応じた損害賠償金及びこれに
対する訴状送達日の翌日である平成25年3月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(甲事件),

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乙事件原告亡F(以下亡F

という。)及びX23が被告従業員として,神戸工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,石綿肺及び肺がんに罹患したとして,乙事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年2月11日から支
払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(乙事件)事案である。なお,甲事件提訴後に甲事件原告亡Gが,乙事件提訴後に乙事件原告亡Fが,それぞれ死亡したため,各相続人らが訴訟手続を承継した。
2
判断の前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いのない事実並びに括弧内に摘示する証拠(書証は枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によって認められる事実である。当事者等

被告
被告は,各種タイヤ・チューブの製造及び販売等を業とする株式会社であ
る。
被告の前身は英国ダンロップ社の子会社で,大正6年3月6日に成立した。昭和35年,住友グループが資本参加し,昭和38年,住友ゴム工業株式会社に商号を変更した。平成15年には,オーツタイヤ株式会社(商号変更前の商号は大津ゴム工業株式会社,以下商号変更の前後を問わずオーツタイヤという。)と合併した。資本金の額は,426億5801万3576円である。
被告は,神戸市a区b町c-d-e所在の工場(以下神戸工場という。),オーツタイヤの工場である大阪府泉大津市f町g-h所在の工場(以下泉大津工場という。)を始め,名古屋工場,白河工場,宮崎工場,
加古川工場において,タイヤ製造等を行ってきた。神戸工場は,阪神淡路大震災の起きた平成7年に閉鎖された。

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甲事件原告ら及び乙事件原告ら(以下併せて原告らという。また,
以下被告の従業員であった原告らの被相続人及びX23を併せて,本件被用者らということがある。)亡A関係
X1及びX2は,亡A(大正13年1月2日生まれの男性)の子である。亡Aは,昭和25年7月24日から昭和59年2月29日まで,被告に雇用され,神戸工場においてタイヤ製造業務等に従事した。
亡Aは,平成15年3月31日に死亡した(死亡時79歳)。亡Aの法定相続人は,X1及びX2であり,法定相続分は各2分の1である。
亡B関係
X3は,亡B(昭和4年1月12日生まれの男性)の配偶者であり,X4及びX5は,亡Bの子である。
亡Bは,昭和27年6月7日から平成元年1月12日まで,オーツタイヤの従業員として,泉大津工場においてタイヤ製造業務等に従事した。
亡Bは,平成23年1月19日に死亡した(死亡時82歳)。亡Bの法定相続人は,X3,X4及びX5であり,法定相続分は,X3が2分の1,X4及びX5が各4分の1である。
亡C関係
X6は,亡C(大正13年10月10日生まれの男性)の子である。
亡Cは,昭和23年7月25日から昭和59年11月30日まで,被告の従業員として,神戸工場においてタイヤ製造業務等に従事した。亡Cは,平成12年4月25日に死亡した(死亡時75歳)。亡Cの法定相続人はX6ほか1名であり,X6の法定相続分は2分の1である。亡D関係

X7は,亡D(大正13年9月6日生まれの男性)の配偶者であり,X8及びX9は,亡Dの子である。

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亡Dは,昭和20年11月20日から昭和59年10月31日まで,被告の従業員として,神戸工場においてゴム製品製造のための電気設備保守業務に従事した。
亡Dは,平成17年7月3日に死亡した(死亡時80歳)。亡Dの法定相続人は,X7,X8及びX9であり,法定相続分は,X7が2分の1,X8及びX9が各4分の1である。
亡E関係
甲事件原告亡G(以下亡Gという。)は,亡E(昭和5年8月12日生まれの男性)の配偶者である。

亡Eは,昭和20年4月1日から平成2年9月30日まで被告に勤務し,神戸工場においてタイヤ製造業務等に従事した。
亡Eは,平成12年1月26日に死亡した(死亡時69歳)。亡Eの法定相続人は,亡Gほか1名であり,亡Gの法定相続分は4分の3である。亡Gは,本件訴訟(甲事件)提起後の平成27年5月21日に死亡した
ため,姉であるX10(法定相続分6分の1)及びX11(法定相続分6分の1),弟であるX12(法定相続分6分の1),甥あるいは姪であるX13(法定相続分18分の1),X14(法定相続分18分の1),X15(法定相続分18分の1),X16(法定相続分12分の1),X17(法定相続分12分の1),X18(法定相続分18分の1),X19
(法定相続分18分の1),X20(法定相続分18分の1)が,亡Gの相続人として,訴訟手続を承継した。
亡F関係
亡Fは,昭和17年2月18日生まれの男性であり,昭和36年6月1日から平成11年2月28日まで,被告に雇用され,技術員として,神戸
工場において,ボイラー,加硫機,集じん機及びその配管の設計やメンテナンスに関する業務等に従事した。

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亡Fは,本件訴訟(乙事件)提起後の平成29年2月16日に死亡したため(死亡時74歳),妻であるX21(法定相続分2分の1)及び子であるX22(法定相続分2分の1)が,亡Fの相続人として,訴訟手続を承継した。
X23関係

X23は,昭和12年1月27日生まれの男性であり,昭和33年1月6日から平成9年2月28日まで,被告に雇用され,技能員として,神戸工場等において,タイヤ製造業務等に従事した。
(甲A1,2,C1,D1,E1ないし7,F1,G1ないし10,15ないし56)

アスベスト及びタルク並びにアスベスト関連疾患

アスベスト
鉱物としてのアスベスト
アスベスト(以下石綿ともいうことがあるが,いずれも同一の物質
を指す。)は,単一の鉱物名ではなく,ほぐすと綿のようになる一群の繊維状鉱物の総称である。これまで工業的に使用されてきたアスベストは,蛇紋石族であるクリソタイル(白石綿)と,角閃石族であるアモサイト(茶石綿),クロシドライト(青石綿),アンソフィライト,トレモライト及びアクチノライトの6つに分類される。このうち,大量に使用されて
きたのは,クリソタイル(白石綿),アモサイト(茶石綿),クロシドライト(青石綿)である。
アスベストの特性
アスベストは,摩擦・摩耗に強い耐摩擦性,耐熱性,熱や音を遮断する断熱・防音・吸音性,酸やアルカリに強い耐薬品性等の物質的特性を持ち,
鉱物でありながら木綿のように繊維状に織れることから,糸や布などの紡織品,屋根や外壁に使われるスレート・ボード類,煙突・上下水道に使わ
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れるパイプ,パッキングやガスケットなどのシール材,ブレーキライニングやクラッチフェーシングなどの摩擦材,ボイラーや加熱配管などの熱損失を防ぐための保温材,耐火・断熱・吸音・結露防止目的での石綿吹付け材など,幅広く使用されてきた。
アスベストの有害性

命・身体・健康に深刻な被害を及ぼす有害性をもっている。
アスベストは,縦にさける傾向があり,次々と細かい繊維となっていく。こうした微細なアスベスト繊維は,人が呼吸をする際に,鼻や気管・気管支の繊毛を通り抜けて呼吸細気管支・肺胞に到達する。アスベスト繊維は,
呼吸細気管支や肺内に沈着し,後記ウのようなアスベスト関連疾患を引き起こす。

タルク
タルク

タルクとは,滑石という鉱石を微粉砕した無機粉末であり,マグネシウムとシリコンが酸素及び水酸基と結びついてできた層状粘土鉱物の一種である。
タルクは,非常に柔らかく(モース硬度1),耐熱性に優れ,化学的に安定した物質であるため,紙・パルプ,プラスチック,セラミックスなど
の配合充てん剤として幅広く用いられ,ベビーパウダー,化粧品,塗料,チョーク,農薬などの製品に使用されてきた。
タルクには,不純物としてアスベストが混入していることがあった。滑石肺の原因
滑石肺(以下タルク肺ということもある。)は,タルクの掘削や製
粉工程に従事して慢性的にタルクを吸入した場合や,製品としてのタルクを意図せず大量にあるいは慢性的に吸引した場合などに生じる肺疾患であ
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る。
タルク肺は,他のじん肺と同様に,呼吸困難,湿性咳嗽,慢性気管支炎,胸痛,チアノーゼ等の症状を引き起こす。
また,遊離珪酸を吸入して発症する珪肺,タルクを吸入して発症するタルク肺,アスベストを吸入して発症する石綿肺などの粉じんを吸入して発
症するじん肺は,粉じんという異物を継続して吸入することが原因で発症する肺疾患という点で共通する。

アスベスト関連疾患
アスベスト関連疾患とは,アスベストを吸入することによって生じる疾患
のことであり,石綿肺,肺がん,中皮腫,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚,胸膜プラークなどが挙げられる。
石綿肺は,石綿粉じんを吸引することにより,呼吸細気管支や肺胞に繊維化が生じ,さらに進行すると,最終的に気腔の不規則な拡張を伴う蜂窩肺の所見を示すようになる疾患である。

原発性肺がん(石綿肺がん)
アスベストを吸入し,肺に沈着したアスベスト繊維が原因となって発生する肺がんである。石綿肺に合併して肺がんを発生する場合もある。中皮腫
中皮腫は,中皮細胞の存在する胸膜,腹膜,心膜及び精巣鞘膜に発生す
る腫瘍である。中皮は,透明な膜で,肺,心臓,消化管などの臓器の表面と体壁の内側を覆い,これらの臓器がスムースに動くのを助けている。中皮腫は,この膜の表面にある中皮細胞に由来する腫瘍で,全て悪性である。中皮腫の多くは,一側胸膜や腹膜など膜全体にびまん性に発育進展する。中皮腫は,石綿ばく露を原因とする特異的疾患であり,日本では他の原
因は極めて稀である。中皮腫の予後は極めて悪く,発症後の平均的な生存期間は2年に満たない。もっとも,中皮腫は,低濃度ばく露量でも発症し
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得ることから,環境ばく露や家庭内ばく露により,中皮腫を発症することがある。
良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚
良性石綿胸水は,石綿胸膜炎とも言われ,通常は,片肺に少量の胸水を,同じ側や反対側に繰り返し認める疾患である。自覚症状として,胸痛,発
熱,呼吸困難などが挙げられる。良性石綿胸水は,びまん性胸膜肥厚に進展することが多い。もっとも,胸膜プラークと比較すると,びまん性胸膜肥厚と石綿ばく露の関係は,特異性が低く,必ずしも石綿が原因であるとは限らない。
びまん性胸膜肥厚は,臓側胸膜の病変であるが,壁側胸膜にも病変が存
在し,両者は癒着していることが多く,息切れや肺機能の低下をもたらす。胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)
胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)は,壁側胸膜に生じる局所的な肥厚である。日本では,胸膜プラークの発生原因は,アスベスト以外になく,過去における石綿ばく露の重要な指標とされる病変である。胸膜プラークそのもの
だけでは,通常肺機能低下は起こらないが,石灰化プラークがある場合や,プラークが互いに癒合し胸壁のほぼ全域に及ぶような場合には,その程度に応じて肺機能低下をもたらす。胸膜プラークの有所見者は,肺がんや中皮腫のリスクが高い。

石綿肺がんに関する医学的知見
肺がんは,アスベスト特異疾患ではなく,肺がんの発生の危険性を高める原因としては,喫煙をはじめ,石綿以外の要因も考えられるが,石綿のばく露量と肺がんの発症率との間には,累積ばく露量が増えれば発症リスクが上がるという,直線的な量-反応関係があることが判明している。

そして,ある要因と健康障害の因果関係の程度を表現する疫学的指標として寄与危険度割合の考え方が一般的に用いられているところ,肺がんの発症
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リスクと石綿起因性についても,寄与危険度割合の考え方が用いられる。寄与危険度割合は,{(相対リスク-1)/相対リスク}×100で計算され,寄与危険度割合が50パーセント,すなわち,相対リスクが2倍以上であれば,当該物質が健康障害の原因とみなされており,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合には,当該肺がんが石綿に起
因するものと判断されることになる。なお,肺がんの発症リスクが2倍となる石綿累積ばく露量は,25本/ml×年(繊維数×ばく露年数)とするのが妥当とされている。
(甲B13,14,17,18,乙B4,5)
タイヤの構造と製造工程


タイヤの構造
概要
ゴムタイヤは,車輪(ホイール)の外周にはめ込む,ゴムを中心の材料とする部品のことをいう。

カーカス
カーカス(胴体)は,タイヤにとって骨組みとなる重要な部分で,薄いゴム層の引かれた縦糸ばかりのコード布(すだれ布)を斜めに交互に重ねた布層(ポケットと呼ばれる。)からなり,タイヤの受ける荷重,衝撃及び充てん空気圧に耐える役割を果たすパーツである。実際のカーカス
の枚数をプライ数ということがある。
ビード
ビードは,タイヤをリム部(ホイール)に押し付けておくパーツである。通常は,タイヤがホイールから外れてしまわないようにするために押し付ける必要があるが,パンクした際に,リム部からタイヤを外すことができ
るような構造になっている。ビードワイヤーは,ピアノ線を束ねたもので,圧力や遠心力によるカーカスコードの引っ張りをしっかり受け止めて,リ
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ム部に固定する役割をもつ。
トレッド
トレッドは,カーカス,ブレーカー

外側を覆うゴム層で,

直接路面と接する部分である。トレッドの表面には,トレッドパターンが刻まれ,制動力,駆動力,牽引力の増加や,操縦性,安定性の向上などに
大きく関係する。トレッドゴムは,直接路面と接地する部分で,タイヤの種類によって原材料の配合に違いがある。
ブレーカー
ブレーカーは,カーカスとトレッドの間に介在する補強層で,タイヤが受ける外部からの衝撃力を緩和するとともに,トレッドに生じたクラック
や外傷が直接カーカスに到達するのを防ぎ,また,トレッドとカーカスの剥離を防止する役割を果たしている。なお,乗用車用のタイヤの場合には,ブレーカーを省略することもある。
複合化と架橋操作
ゴム材料は,液体状態で使用されるから,材料の形を保持するための工
夫が必要になる。また,ゴム材料に作用する変形量の大きさは,材料に求められる特性によって異なるから,ゴム材料における弾性の調整が必要になる。
これらの形状保持と弾性率の調整という目的を達成するため,ゴム材料製造では,生ゴムと他材料との複合化を行った上で,液体状態にある生ゴ
ムの成形加工と同時に形状安定化及びゴム弾性発現のための化学反応を利用した架橋操作を行っている。
なお,架橋操作が行われていないゴム,すなわち,未架橋のゴムを,生ゴムないしグリーンゴムと呼ぶことがある。
(甲A10,11)

自動車タイヤの製造

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概要
自動車タイヤの製造工程は,工程順に大別すると,混合工程,押出工程,トッピング工程,裁断工程,ビード工程,成形工程,加硫工程に分かれる。混合工程
a
混合工程は,天然ゴム,合成ゴム,カーボンブラック,硫黄,亜鉛華などの原材料や配合剤を混合する工程である。トレッド,カーカス,ビードなど異なる部品のゴムにするには,異なった配合剤を混合してゴムを作る。

b
混合工程で使用する機械は,練りロール機(開放型)やバンバリーミキサー(密閉型)である。練りロール機は,素練り,ブレンド,配合練
り,圧延(シート化),熱入れなどの作業に広く使われている。バンバリーミキサーは,練りロール機に代わり,素練り混練作業を高能率で遂行することができ,また,強馬力なので高速作業を行うことができる。押出工程
a
押出工程は,タイヤの路面に接するトレッド部とタイヤの側面となるサイドウォール部を加工する工程である。

b
押出工程で使用する機械は,押出機である。押出機は,熱入れされたシート状のゴムを,一定の形に設計された口金(ダイプレート)を通して,前方に押出し,ゴムをトレッド又はサイドウォールの形にする機械である。ゴムを一定の形にして押し出すものが成形用押出機であり,ト
レッドの形にして押し出すものをトレッド押出機という。
トッピング工程
a
トッピング工程は,すだれ織のタイヤコードに両面からゴムをトッピングする工程である。タイヤコードにゴムを圧着する工程の前に,タイ
ヤコードを作る工程とコードに圧着させるゴムを作る工程がある。非常に薄いゴムの上に繊維をすだれ状に並べたものをコードといい,それを
14/155

何層か重ねあわせたものをカーカスという。
b
トッピング工程で使用する機械は,トッピングカレンダーである。カレンダーとは圧延機のことであり,ロールを用いてタイヤコードをゴムで被覆するものがトッピングカレンダーである。
裁断工程

a
裁断工程は,トッピングされたタイヤコードをタイヤのサイズごとに決められた角度と幅に裁断し,裁断されたゴム(以下これをプライという。)をつなぎ合わせ,これを円筒形に巻き取る工程である。
b
裁断工程では,ロール機を駆動させる電動機のほか,裁断する装置が使われる。

ビード工程
a
ビード工程は,ビードワイヤーに規定の厚みのゴムをコーティングし,タイヤサイズに応じた直径・本数に巻き取り,巻き取ったビードにエイペックスと呼ばれる硬いゴムを貼りつける工程である。

b
ビード工程では,押出機のビードインシュレーションを取り付け,ビードワイヤーの周囲にゴムを被覆して,外に押し出して作る。
成形工程

a
成形工程は,成形機を用いて,各部材を貼りつけ,タイヤを成形加工する工程である。

b
成形工程で使用される機械は,ポケット成形機及びタイヤ成形機並びにこれらを動かす電動機である。ポケット成形機は,固定されているロール,動輪と呼ばれるロール,補助輪と呼ばれるロール,動輪のディスクローラー,アルミ製のテーブルから成り立っている。タイヤ成形機は,ドラムにポケットをセットし,各部品を圧着する機械
である。この段階の成形済みタイヤは,生タイヤあるいはグリーンタイヤと呼ばれることがある。
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加硫工程
a
加硫工程は,成形済みタイヤに加硫処理を行い,タイヤを完成品にする工程である。加硫処理によって,未架橋のゴムがゴム本来の力を発揮する架橋ゴムのタイヤになる。

b
加硫工程を構成する機械装置の主たるものは加硫機である。また,これに温水及び蒸気を供給するボイラー並びに温水及び蒸気を送る配管も重要な装置である。

(甲A3,4,10,14,乙A4)
神戸工場及び泉大津工場におけるタイヤ製造工程

神戸工場のレイアウト及びタイヤ製造工程
レイアウトの概要
神戸工場には,本館(4階建て。以下本館というときは,神戸工場本館を指す。),東別館,保全棟,北別館などの建物があり,変電所,ボイラーといった設備があった(以下では,特に指摘しない限り,基本的な
レイアウトとして,各年代に共通のものとして取り扱う。)。
a
本館
本館1階には,混合工程,トレッドライン,加硫工程などがあった。混合工程のバンバリーミキサーは,本館の中2階に備え付けられ,バンバリーミキサーへ原材料を投入する2階部分は,3つのドアが付設され
ている壁で,各工程との間で仕切られていた。
本館2階には,加硫工程,裁断工程,成形工程などがあった。
本館3階には,分電盤,小型トランスなどが入っている電気室,自転車チューブのゴム棟,押出工程,バイク,スクーター用のタイヤの成形工程,加硫工程があった。

本館4階には,社長や経理,営業などの担当者が執務する事務所があった。また,接着剤や各種ペイントを製造する工程,糸ゴムを製造する
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工程,液体のゴムをシート化するラテックスカットスレッドの工程,型物・フットボール・テニスボール・ゴルフボール・水枕の工程があった。本館屋上には,消火用水槽,スプリンクラー用水槽等があった。
b
変電所
神戸工場に設置された変電所において,配電された特別高圧の電気を,
本館,北別館などに2200ボルトで変圧送電し,さらにこれを各所に設けられた変圧器で440ボルト,220ボルト,110ボルトに変圧送電し,各所に配置された電動機などに,配管や幹線ケーブルに格納された電線によって配電していた。
c
ボイラー
ボイラーは,加硫機に供給する温水や蒸気を発生させる装置である。ボイラーで加熱した温水や発生させた高温の蒸気は,温水配管や蒸気配管で加硫機のエアーバックやプラダー内に供給される。
混合工程

a
機械等の設置状況
神戸工場では,昭和28年に,バンバリーミキサーの第1号機が設置された。昭和36年6月には,神戸工場本館中2階から神戸工場本館2階に突き抜ける形で,バンバリーミキサーが3機設置されていた。本館中2階には,3機あるバンバリーミキサーの各上部が突き出てお
り,バンバリーミキサーがある部分に限って,他工程と壁で仕切られており,ドアを開閉して行き来することができるようになっていた。また,神戸工場本館中2階には,バンバリーミキサーを駆動させる電動機(密閉型)が設置されていた。
本館1階には,タルク入り水溶液の容器(以下水溶液容器とい

う。)があり,水溶液容器の中には,水溶液を循環させる水中ポンプが付設されているものもあった。

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水中ポンプは,電動機が防水加工されるなどして水中で使用できるポンプのことで,容器内の電動機によって羽根車を回転させ,流水口から入ってくる水を吐出口から吐き出して,水を吸い上げ,これによって水溶液容器内で,タルク入り水溶液を循環させていた。
b
作業内容


バンバリーミキサーによるゴム練り作業
原材料等の供給は,ミキサー担当者が,神戸工場本館2階で,ローラーコンベアの上に原材料や配合剤等を乗せてこれを転がし,あるいは滑らせてバンバリーミキサーの投入口に投下する方法で行われてい
た。
シーティング
バンバリーミキサーで混練されたゴムは,不規則な塊状になり,ミキサーの下部に落下する。塊状の練りゴムは,練りロール機(塊状のゴムをシート化するために使用する場合には,シーティングロールと
もいう。以下シーティングロールという場合は,塊状のゴムをシ
ート化するために使用する場合の練りロール機を指す。)又は,押出機形式のスラバー等によって,次の工程に便利な形状に加工する。昭和34年当時,シーティングロールは,本館1階の南側にあった。冷却乾燥

シーティングロールでシート化されたゴムは,100℃くらいの高温であり,冷却された後に次の工程に運搬されるところ,本館1階において,シート化されたゴムは,水溶液容器内の水溶液に浸され,これによってゴムシート表面にタルク入りの水溶液が付着することとなる。そして,タルク入りの水溶液が付着したゴムシートをフェスツー
ンバー(棒状の部材が複数配列された装置)に掛け,自然乾燥させ,あるいは水切りと冷却のためファンで風をあてるなどしていた。

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押出工程
シート化されたゴムは,本館1階から本館2階にベルトコンベアで移送される。2階の押出作業においては,シート状のゴムに熱入れし,異物の除去といった準備作業を経た後,押出機に開口部を彫刻した口金を取り付け,型押出作業を行う。
連続的にトレッドやサイドウォールの形にされて押し出されたゴムは,冷却された後,タイヤ1本の長さに切断される。
トッピング工程
トッピング工程は,本館1階の西側で行われていた。本館1階にあった
トッピングカレンダーの電動機は,ブレーキライニング方式で制動されていた。
裁断工程
裁断工程は,本館2階にあり,ロール機を駆動させる電動機のほか,裁断用装置を使って,裁断班が担当していた。
カーカスが裁断されたプライには,バイアスカーカス(クロスプライ)とラジアルカーカスの2種類があり,ラジアルカーカスは,すだれ状に並んでいる糸に対し,直角に裁断し,これをつないで巻き取って作るもの,バイアスカーカス(クロスプライ)は,すだれ状に並んでいる糸に対し,一定の角度になるように裁断し,これをつないで,巻き取って作るものである。
ビード工程
ビード工程は,本館1階及び2階で行われていたが,本館3階で行われていた時期もあった。
成形工程

a
成形工程は,本館2階の東側と西側で行われていた。

b
まず,材料班によって,ポケットと呼ばれるタイヤの原型が作られる。
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材料班の作業は,運搬段取りポケット貼りの3つである。
運搬は,ポケット用にカットされたプライロールを人力で運搬車に乗せ,2人で運搬車を押して,材料班の所定の場所に運び,スチレージに掛けて保管する作業である。
段取りは,ポケット成形機につながるターレットという装置にセットする作業である。ターレットとは,回転させることができる円盤状の装置で,中心部分から円周部分に出ている何本かの腕木部分にプライロールをかけておくものである。
ポケット貼りは,まず,1番ポケットが作られる。ターレットにセッ
トされた1番から8番までのプライロールのうち,まず1番のプライロールを引き出し,これをポケット成形機のアルミ製のテーブルにセットする。プライロールの上の部分を,上方のディスクローラーと,動輪の隙間に差し入れ,動輪を電動機によって回転させ,プライロールを引き出し,約1周分の長さのプライロールが引き出された時点で,プライを
ホットナイフで切断する。切断面と切断面を貼り合わせて,一つの輪とし,1番プライを作る。次にターレットから2番のプライロールを引き出し,これをポケット成形機の1番プライの上に載せ,動輪を回転させて,1番プライの上に,2番のプライロールを重ねていく。約1周分の長さのプライが引き出された時点で,ホットナイフで切断し,切断面と
切断面を貼り合わせて一つの輪とし,2番プライを作る。こうして,1番プライと2番プライを重ね合わせた輪を2P,さらに3番プライと4番プライを重ね合わせたプライを4Pといい,これらを1番ポケットという。1番ポケットができた後,内側に粘着防止剤(チョーク)を塗布する(なお,後記のとおり,ここで塗布されていた粘着防止剤がタルク
であったか否かについては争いがある。)。粘着防止剤を塗布した後,補助輪を内側に動かして,ポケットの張りをゆるませ,1番ポケットを
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成形機から横方向に取り出す。取り出した1番ポケットは,くし車と呼ばれるラックに掛けておく。次に,ターレットを回転させて,5番から8番までのプライロールからプライを引き出し,1番ポケットと同様の手順で2番ポケットを製作する。成形機から2番ポケットを取り出し,くし車にかける。ここまでが,ポケット貼りの担当となる。

c
ドラムによる成形作業
まず,成形班の担当者が,1番ポケット及び2番ポケットをくし車にかけたまま,タイヤ成形機の近くまで運搬し,次に,1番ポケットをドラムの外側周囲にセットする(ドラムの円周の長さとポケットの円周の長さはほぼ同じである。)。その後,2番ポケットを1番ポケットの外
側周囲に押し込んでかぶせる。これによってタイヤの原型ができる。その後,重ねられたタイヤの原型の両端の周囲にビードをセットする。いったん,タイヤの原型とビードを圧着して一体化し,そこにベルトコード,トレッドを順に貼り付け,もう一度圧力で一体化させ,成形済みタイヤとする。

加硫工程
a
機械等の設置状況
加硫工程は,本館1階,本館2階,本館3階にあり,昭和39年には,北別館の加硫工場にバゴマ・プレスを導入した加硫ラインが新設された。
バゴマ・プレス導入前の加硫設備は,オートクレーブ及びマックニール・プレスであり,本館1階,本館2階には,オートクレーブ,本館3階には,バイクタイヤ及び自転車タイヤ用の加硫機があった。
本館1階には,G/Pプレス,型物プレスの動力源となる渦巻ポンプ,オートクレーブ,G/Pプレス,センターファイナルプレス等の動力源
となるHP高水圧ポンプがあった。
ボイラーは,本館の道路を隔てて西側に,石炭を燃料とするものが3
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基あったが,昭和40年代には,重油を燃料とするボイラーが石炭ボイラーの北側に増設された。ボイラーで作られた温水及び蒸気は,本館1階,本館2階,本館3階,さらには,昭和39年に増設された東別館の中に設備された温水配管及び蒸気配管によって加硫機に供給された。b
作業内容


インサイドペイント作業
インサイドペイント作業は,加硫工程において,ゴム同士である成形済みタイヤの内側とプラダーの表面が接着してしまうことを防止するために,加硫工程前の準備作業として,成形済みタイヤの内側にタルクを含むインサイドペイントを離型剤として塗布するものである。
インサイドペイントのための設備は,入口と出口に遮断のための合成樹脂製の垂れ幕が設置された筐体,筐体内部に設置されたタイヤの内周に沿って回転するスプレーガン,筐体内部のペイントを排出する吸引ダクト,及びスプレーガンに接続されたペイントタンクから構成される装置である。昭和40年代に自動化が完了するまでは,刷毛を用
いて手作業でペイントする作業が行われていた。
バゴマ・プレスによる加硫
バゴマ・プレスでは,従業員によるプラダーの挿入及び引抜きを必要とせず,成形済みタイヤ挿入から加硫,取出しまでの全工程がリレーシーケンス,PLC,タイマー等によって自動制御されていた。

泉大津工場の機械設置状況
泉大津工場では,昭和25年にバンバリーミキサーが設置され,コードの切断が手裁からバイアスカッターに,成形機がドラム式のフォーマーを使用するものにそれぞれ変わり,加硫方法もオートクレーブからスタンド
ヒーター加硫方式に変わった。昭和32年,大型バンバリーミキサーが導入され,加硫工場が新設され,昭和34年には三菱式大型成型機が,昭和
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35年には水平バイアスカッターやインシュレーションカッターが設置され,成形工程の精度が向上した。昭和35年ころには,泉大津工場における基盤がほぼ完成し,以後大きな変化はない。
(甲A6,34,乙A10,11,25,36,37)
じん肺に関する労働行政


昭和22年制定の労働基準法(以下旧労基法という。)及び労働安全衛生規則(労働省令第9号,以下旧安衛則という。)
旧労基法では,使用者に対し,粉じん等による危害を防止するために,必要な措置を講じる義務(42条),労働者の健康,風紀及び生命の保持に必
要な措置を講ずべき義務(43条),労働者の業務に関し必要な安全及び衛生のための教育を施すべき義務(50条),定期健康診断を実施すべき義務(52条)などを規定した。
また,旧安衛則では,有害物たる粉じんに関して,次のとおり,使用者が,労働者の粉じんばく露を防止するための各種措置をとることを義務付けられ
た。具体的には,粉じんを発散し,衛生上有害な作業場においては,その原因を除去するため,作業又は施設の改善に努める義務(172条),粉じんを発散する屋内作業場においては,場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように,局所における吸引排出又は機械若しくは装置の密閉その他の新鮮な空気による換気等適当な措置を講じる義務(173条),屋外又は
坑内において,著しく粉じんを飛散する作業場においては,注水その他粉じん防止の措置を講じる義務(175条),ガス,蒸気又は粉じんを発散し衛生上有害な場所には,必要ある者以外の立ち入ることを禁止し,その旨を掲示する義務(179条),粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務においては,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護
眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備える義務(181条)などが規定されている。

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さらに,旧労基法75条2項は,災害補償をするべき業務上の疾病の範囲を命令に委ね,旧労基法施行規則35条7号において粉じんを飛散する場所における業務に因るじん肺症及びこれに伴う肺結核と定められた。イ
労働省は,昭和23年1月,職業病防止対策要綱に基づき,珪肺対策協議会(後に珪肺対策審議会)を設置し,巡回検診や珪肺療養所の設置がされた
ほか,昭和25年に防塵マスクに対する国家検定制度を実施した。ウ
昭和31年発出の特殊健康診断指導指針についてとの通達(昭和31年5月18日付基発第308号)
労働省は,昭和31年に上記通達を発出し,珪肺を除くじん肺を起こし又はそのおそれのある粉じんを発散する場所における業務を健診対象業務
として,これらの作業に従事した労働者に対して,エックス線直接撮影による胸部の変化の検査を使用者に指導,勧奨することとした。

昭和35年施行のじん肺法
昭和35年3月31日,じん肺法が制定・公布され,同年4月1日から施行された。

じん肺法では,石綿肺,アルミニウム肺,酸化鉄肺,滑石肺,硫化鉱肺等鉱物性粉じんの吸入によって生じるじん肺を広く対象とし,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることによって,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することとし,じん肺の予防に関して,技術の進歩に即応した粉じん発散の抑制装置,呼吸用保護具の整備着用,作業環境の測定等
じん肺の予防のための適切な措置について使用者と労働者双方の努力義務を定めるとともに,使用者は粉じん作業に従事する労働者に対して,じん肺の予防及び健康管理に関し必要な教育の徹底を図るべきことなどが規定された。石綿に関する肺がんの業務起因性にかかる国際的な判断基準及び日本における行政通達等

ヘルシンキ国際専門家会議において合意された判断基準

24/155

平成9年1月,フィンランドのヘルシンキにおいて,石綿,石綿肺及びがんについての国際専門家会議が開かれ,石綿関連疾患の診断及び原因の特定に関する最新の基準がまとめられた(以下ヘルシンキ基準という。)。ヘルシンキ基準には,肺がんに関連するものとして,次の内容が含まれている。
肺がん発症の相対リスクが2倍となる25本/ml×年の石綿累積ばく露量の指標として,次の場合が挙げられる。
a
1年間の重度ばく露(石綿製品産業,石綿粉じんスプレー,石綿物質による断熱作業,古いビル等の解体),又は,5年ないし10年間の中等度ばく露(建築,造船)

b
長さ5μm以上のアンフィボル繊維が乾燥肺1g当たり200万本分又は長さ1μm以上のアンフィボル繊維が乾燥肺1g当たり500万本分に匹敵する。この肺内繊維濃度は,乾燥肺1g当たりほぼ5000から1万5000個の石綿小体又は気管支肺胞洗浄液1ml当たり5本から15本の石綿小体に相当する。

ただし,クリソタイル繊維は,クリヤランス速度が速いために,アンフィボル繊維のように肺組織内に蓄積されないから,繊維沈着分析よりも職歴(繊維数×ばく露年数)の方がクリソタイルによる肺がんの危険度の指標となる。
c
石綿肺の存在
最初の石綿ばく露から10年以上経過していることが,石綿による肺が
んの診断に必要である。
胸膜プラークは,石綿ばく露の指標となる。胸膜プラークは,低いレベルの石綿ばく露によると考えられるので,石綿ばく露が肺がんの原因であるとするためには,実質的な石綿ばく露が,職業歴や石綿繊維の肺内貯留量の計測によって裏付けられなければならない。

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肺がんとの関係を明らかにするために,すべてのばく露基準が満たされている必要はない。例えば,①少量の肺内繊維負荷を伴う重大な職業上ばく露(クリソタイルの長期間のばく露,最終ばく露から肺内鉱物学的分析まで長期間ある時など),②不確実なばく露歴のあるものや長いばく露期間を欠いているものであって,多数の繊維が肺内や気管支肺胞洗浄液内に
認められるとき(短期間でも非常に激しいばく露があり得る)がある。低いレベルの石綿ばく露においては,肺がんの危険度は検出不可能なくらい低い。
(甲B22,23,乙C13,14)

日本における行政通達等
労働者災害補償保険法(以下労災保険法という。)12条の8第2項は,同条1項各号所定の業務災害による保険給付について,労働基準法75条等に規定する災害補償の事由が生じた場合,すなわち,当該疾病の発生に業務起因性が認められる場合にこれを支給すべきこととすると規定
し,労働基準法75条2項は,業務上の疾病及び療養の範囲は,厚生労働省令で定めるとしている。労働基準法施行規則35条は,別表第1の2に掲げる疾病をもって業務上の疾病とする旨を規定しており,これを受けた上記別表第7号には,がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による次に掲げる疾病として,同号の7(現行規
則では同号の8)に石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫(以下別表7号7の業務上疾病という。)を定めている。
そして,石綿による疾病の認定基準について,次のとおり,通達が発出されている(以下,

ついて時期のいかんを問わず

労災認定基準ということがある。)。
昭和53年10月23日基発第584号通達(以下昭和53年基準という。)

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昭和53年基準は,次の①ないし③の内容を含むが,要旨,石綿肺に合併する肺がんは,従事期間を問わず石綿に起因するものとし,石綿肺に合併しない肺がんを石綿に起因するものとして労災認定するには,おおむね10年以上の石綿ばく露歴と胸膜プラーク,石綿繊維又は石綿小体の存在を要件としている。
①石綿肺合併肺がん石綿肺の所見がじん肺法に定めるエックス線写真の像の第Ⅰ型以上である石綿ばく露作業従事労働者に発生した原発性の肺がんは,別表7号7の業務上疾病として取り扱うこと。なお,地方じん肺診査医の判定によりエックス線写真の像が第Ⅰ型に至っていないが石綿肺の所見があると認められる者については,上記有所見者と同様に取り扱うこと。②石綿肺の所見が無所見の者に発生した肺がん石綿肺の所見がエックス線写真像で認められない石綿ばく露作業従事労働者に発生した肺がんであって,次のイ及びロのいずれの要件をも満たす場合には,別表7号7の業務上疾病として取り扱うこと。イ石綿ばく露作業への従事期間が概ね10年以上の者に発生したものであること。ロ吸気時における肺底部の持続性捻髪音,胸部エックス線写真による胸膜の肥厚斑影又はその石灰化像,かくたん中の石綿小体等の臨床所見経気管支鏡的肺生検,開胸生検,剖検等に基づく肺のびまん性線維増殖,胸膜の硝子性肥厚又は石灰沈着(結核性胸膜炎,外傷等石綿ばく露以外の原因による病変を除く。),肺組織内の石綿線維又は石綿小体等の病理学的所見27/155③上記①又は②に該当するもの以外の肺がん石綿ばく露作業従事労働者に発生した肺がんのうち,上記①又は②に該当しない肺がんについては,例えば,比較的短期間高濃度の石綿ばく露を受ける作業又は一時的に高濃度の石綿ばく露を間けつ的に受ける作業に従事した労働者に肺がん発生もみられたこともあるので,かかる労働者に発生した肺がんについては,石綿ばく露作業の内容,同従事歴,臨床所見,病理学的所見等を調査の上,関係資料を添えて本省にりん伺すること。(甲B29)
平成15年9月19日基発第0919001号通達(以下平成15年基準という。)平成15年基準は,石綿ばく露労働者に発症した肺がんに関する業務起因性の認定について,以下のとおり定めている。
ア石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,次のaまたはbに該当する場合には,別表7号7の業務上疾病として取り扱うこと。aじん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型(両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり,かつ,大陰影がないと認められるもの)以上である石綿肺の所見が得られていること。b次の①又は②の医学的所見が得られ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること。①胸部エックス線検査,胸部CT検査,胸腔鏡検査,開胸手術又は剖検により,胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること。②イ肺組織内に石綿小体又は石綿繊維が認められること。上記アのa又はbに該当しない原発性肺がんであって,次のa又はbに該当する事案は,本省に協議すること。a上記アのbの①又は②に掲げる医学的所見が得られている事案28/155b石綿ばく露作業への従事期間が10年以上である事案
(甲B31)
平成18年2月9日基発第0209001号通達(以下平成18年基準という。)平成18年基準は,厚生労働省が環境省と合同で開催した石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会から同年2月7日付けで提出された報告書(以下平成18年報告書という。)を踏まえて作成されており,10年未満の石綿ばく露作業の従事歴でも,一定量以上の石綿小体あるいは石綿繊維が認められれば,本省協議なしに石綿肺がんと認める
こととされた。
具体的には,次の①又は②に該当する場合には業務起因性が認められ,③の定めもある。
①じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること②見が得られ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること。ただし,見が得られたもののうち,肺内の石綿小体又は石綿繊維が一定量以上(乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体若しくは200万本以上〈5μm超。2μm超の場合は500万本以上〉の石綿繊維又は気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体)認められたものは,石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たなくても,本要件を満たすものとして取り扱うこと。胸部エックス線検査,胸部CT検査等により胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること。肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること③石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たない事案であっても,29/155が得られているものについては,本省に協議すること。(甲B32)
平成24年3月29日基発0329第2号通達(以下平成24年基準という。)
平成24年基準は,同年2月に取りまとめた石綿による疾病の認定基準に関する検討会報告書(以下平成24年報告書という。)の内容を踏まえて作成されており,肺がんの労災認定基準として,広範囲の胸膜プラークが認められた人で,石綿ばく露作業に従事した期間が1年以上あ
る場合などが,これまでの労災認定基準に掲げる要件に加えられた。また,平成24年基準の施行に伴い,平成18年基準は廃止された。
平成24年基準では,肺がんの認定要件は,次のとおり,定められている。
のいずれかに該当するものは,最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除き,別表7号7に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。石綿肺の所見が得られていること(じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上であるものに限る。以下同じ。)。胸部エックス線検査,胸部CT検査等により,胸膜プラークが認められ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間(石綿ばく露労働者としての従事期間に限る。以下同じ。)が10年以上あること。次のアからオまでのいずれかの所見が得られ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。ア乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体イ乾燥肺重量1g当たり200万本以上の石綿繊維(5μm超)30/155ウ乾燥肺重量1g当たり500万本以上の石綿繊維(1μm超)エ気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体オ肺組織切片中の石綿小体又は石綿繊維次のア又はイのいずれかの所見が得られ,かつ,石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること。ア胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ,かつ,胸部CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの。れかに該当する場合をいう。両側又は片側の横隔膜に,太い線状又は斑状の石灰化陰影が認められ,肋横角の消失を伴わないもの。両側側胸壁の第6から第10肋骨内側に,石灰化の有無を問わず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ,肋横角の消失を伴わないもの。イ胸部CT画像で胸膜プラークを認め,左右いずれか一側の胸部CT画像上,胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで,その広がりが胸壁内側の1/4以上のもの。
(甲B33)
本件被用者らの就労状況,疾病の発症状況,労災保険法に基づく遺族補償年
金給付等の支給決定(以下労災認定という。)状況

亡A関係
亡Aの神戸工場での就労状況は,次のとおりである。
a
昭和25年7月24日から昭和45年3月22日まで
タイヤ成形作業

b
昭和45年3月23日から昭和48年5月20日まで

31/155

スリーブホース製造業務
c
昭和48年5月21日から昭和54年8月19日まで
タイヤ成形作業

d
昭和54年8月20日から昭和59年2月29日まで
保安業務

亡Aは,平成14年1月30日に,兵庫県立がんセンターで肺がんと診断され,平成15年3月31日に死亡した。あさひ病院の医師作成の死亡診断書において,直接死因は肺がんとされている。
亡Aの妻である亡H(平成23年6月3日死亡)は,平成20年12月1日,亡Aの死亡の原因が,被告での石綿ばく露作業にあるとして,神戸
東労働基準監督署に対し,石綿による健康被害の救済に関する法律(以下石綿健康被害救済法という。)に基づく特別遺族年金支給請求を行った。神戸東労働基準監督署は,平成21年4月,最終石綿ばく露事業所が被告であり,7号7の業務上疾病と認める旨の調査官意見に従い,労災認定を行った。なお,上記労災認定手続において,兵庫労働局地方労災医員
(以下労災医員という。)は本例は石綿肺及び胸膜プラークを有する被災者に発生した原発性肺がんであり,業務上の認定基準を満足するものと思料する旨記載した意見書を作成している。(甲C1,2,5,6,8,15)

亡B関係
亡Bの泉大津工場における就業状況は,次のとおりである。
a
昭和27年6月7日から昭和35年10月31日まで
製造課・技能職・タイヤ成形作業

b
昭和35年11月1日から昭和48年2月20日まで
製造二課・技能職



昭和35年11月1日から昭和43年6月20日まで

32/155

タイヤ成形作業
昭和43年6月21日から昭和48年2月20日まで
ポケット班長(管理監督業務)
c
昭和48年2月21日から昭和52年7月20日まで
製造課・技能職



昭和48年2月21日から昭和50年2月20日まで
第6係ラジアル班長(管理監督業務)
昭和50年2月21日から昭和52年7月20日まで
第7係ポケット班長(管理監督業務)

d
昭和52年7月21日から昭和53年3月31日まで
製造二課・技能職・第2係ラジアル班長(管理監督業務)

e
昭和53年4月1日から昭和54年3月31日まで
製造課・技能職


昭和53年4月1日から昭和54年2月28日まで
第7係長心得(管理監督業務)

昭和54年3月1日から同月31日まで
第5係長心得(管理監督業務)
f
昭和54年4月1日から昭和56年4月10日まで
製造二課・技能職・第5係長

g
昭和56年4月11日から同年9月7日まで
製造一課・技能職・第4係長(管理監督業務)

h
昭和56年9月8日から同年10月11日まで
大型タイヤ課・技能職・大型成形係長(管理監督業務)

i
昭和56年10月12日から昭和57年1月17日まで
小型タイヤ課・技能職・成形職長(管理監督業務)

j
昭和57年1月18日から同年9月30日まで

33/155

大型タイヤ課・管理職・課長代理
k
昭和57年10月1日から平成元年1月12日まで
製造二課・管理職・課長代理
亡Bは,平成21年11月11日,市立岸和田市民病院で悪性胸膜中皮
腫と診断され,平成23年1月19日,死亡した。

亡Bは,平成22年1月15日,泉大津労働基準監督署に対し,療養補償給付たる療養の給付請求を行った。泉大津労働基準監督署は,被告での石綿ばく露作業が1年以上(約36年間)であり,7号7の業務上疾病である旨の調査官の意見に従い,請求を認めた。なお,上記労災認定手続において,疾患名は悪性胸膜中皮腫とされている。

(甲D1,2,7,9,12,19)

亡C関係
亡Cの神戸工場における就業状況は,次のとおりである。
a
昭和23年7月25日から昭和56年4月5日まで
素材製造課等でゴム練りロール作業

b
昭和56年4月6日から昭和59年11月30日まで
技術本部材料研究グループ等において研究のサポート業務
亡Cは,平成11年11月15日に実施した病理検査により東神戸病院
で肺がんと診断され,平成12年4月25日に死亡した。
X6は,平成21年9月15日,神戸東労働基準監督署に対し,石綿健康被害救済法に基づく特別遺族一時金支給請求を行った。神戸東労働基準監督署は,最終石綿ばく露事業所を約32年9か月間在籍していた被告であると判断し,7号7の業務上疾病にあたるという調査官意見に従い,労災認定を行った。なお,上記労災認定手続において,労災医員は本例は胸膜プラークを有する被災者に発生した原発性肺がんであり,業務上とする要件を満足するものと思料する旨記載した意見書を作成している。
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(甲E8ないし12,16,17)

亡D関係
亡Dの神戸工場における就業状況は,次のとおりである。
昭和20年11月20日から昭和59年10月31日まで
電気設備保守業務

亡Dは,平成15年8月21日に神戸市立医療センター中央市民病院(現名称,以下名称変更の前後を問わず,神戸市立中央市民病院という。)で非ホジキン性悪性リンパ腫と診断され,その治療中であった平成17年4月12日,右肺扁平上皮がんと診断され,同年7月3日に死亡した。神戸市立中央市民病院の医師が作成した死亡診断書では,直
接死因は肺がんとされている。
亡Dの妻であるX7は,平成21年2月23日,亡Dの死亡の原因が被告での石綿ばく露であるとして,神戸東労働基準監督署に対して,労災保険法に基づく遺族補償年金給付の請求を行った。神戸東労働基準監督署は,神戸工場における通算ばく露期間を12年4か月と判断し,7号7の業務
上疾病と認定する旨の調査官意見に従い,労災認定を行った。なお,上記労災認定手続において,労災医員は本件は,10年以上の石綿ばく露歴を認め,石綿肺所見が確認されるので,原発性肺がんの発症及び肺がんによる死亡と業務との間に相当因果関係が存在すると判断される旨記載した意見書を作成している。

(甲F11ないし13)

亡E関係
亡Eの神戸工場における就労状況は,次のとおりである。
a
昭和20年4月から昭和42年ころまで
タイヤ成形作業

b
昭和42年ころから昭和53年2月まで

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ポケット成形作業
c
昭和53年2月から平成2年9月まで
ビード成形作業
亡Eは,悪性胸膜中皮腫と診断され,平成12年1月26日に死亡し
た。死亡診断書では,胸膜悪性中皮腫が直接死因とされている。

亡Gは,平成18年3月20日,神戸東労働基準監督署に対して,亡Eが,悪性胸膜中皮腫を発症して死亡したのは,業務での石綿ばく露によるものであるとして,石綿健康被害救済法に基づく特別遺族年金給付の請求を行った。神戸東労働基準監督署は,被告での石綿ばく露歴を45年5か月と判断し,7号7の業務上疾病であると認定する旨の調査官
意見に従い,労災認定を行った。
(甲G11,13,14,57,59)

亡F関係
亡Fの神戸工場における就労状況は,次のとおりである。

a
昭和36年6月1日から同月30日まで
本社工務部(技術員)

b
昭和36年7月1日から昭和38年11月25日まで
本社工務部電気課(技術員)

c
昭和38年11月26日から昭和39年2月9日まで
本社動力課電気係(統合改称)(技術員)

d
昭和39年2月10日から同年8月9日まで
住友電気工業株式会社へ派遣

e
昭和39年8月10日から昭和49年5月19日まで
神戸工場動力課(技術員)

f
昭和49年5月20日から同年7月31日まで
本社白河工場建設本部(技術員)

36/155

g
昭和49年8月1日から昭和55年7月14日まで
白河工場工務課動力係

h
昭和55年7月15日から昭和62年4月12日まで
本社工務部動力課(課長代理)

i
昭和62年4月13日から平成4年1月15日まで
本社工業用品部オフセットブランケットグループ(課長代理)

j
平成4年1月16日から平成7年12月31日まで
本社ハイブリッド製品部(課長)

k
平成8年1月1日から平成11年2月28日まで
本社購買部(課長)

亡Fは,平成26年4月15日,神戸市立医療センター西市民病院で,じん肺症と診断された。
亡Fは,平成26年12月10日,兵庫労働局長よりじん肺管理区分4の認定を受けた。また,神戸東労働基準監督署に,休業補償給付支給請求を行ったところ,神戸東労働基準監督署は,被告での粉じん作
業従事期間を30年間と判断し,労働基準法施行規則別表第1の2第5号粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症に該当する業務上の疾病と認められる旨の調査官意見に従い,労災認定を行った。(甲H1)

X23関係
X23の被告における就業状況は,次のとおりである。
a
昭和33年1月6日から昭和36年5月31日まで
神戸工場自動車タイヤ工場(技能員・材料工程)

b
昭和36年6月1日から昭和51年8月31日まで
神戸工場タイヤ製造一課(技能員・材料工程)

c
昭和51年9月1日から昭和63年2月1日まで

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神戸工場製造第一課BOM班(技能員・加硫工程)
d
昭和63年2月2日から平成3年1月15日まで
神戸工場製造第一課仕上検査班(技能員・仕上検査)

e
平成3年1月16日から平成7年3月31日まで
神戸工場製造第二課仕上検査班(技能員・仕上検査)

f
平成7年4月1日から平成9年2月28日まで
名古屋工場製造第二課ローカバー管理班(技能員・ローカバー管理)X23は,平成27年3月18日,神鋼記念病院を受診した。同年5
月22日に右下葉切除術が施行された際の病理組織検査では扁平上皮がんとの所見が得られ,原発性肺がんと診断された。

X23は,被告での作業による石綿ばく露により肺がんを発症したとして,神戸東労働基準監督署に対し,療養補償給付たる療養の給付請求及び休業補償給付支給請求を行ったところ,神戸東労働基準監督署は,被告での石綿ばく露期間を11年5か月間と判断し,7号7の業務上疾病と認定する旨の調査官意見に従い,請求を認めた。なお,上記労災認
定手続において,労災医員は10年以上の石綿ばく露歴を有し,画像で胸膜プラークがみられる労働者に発症した原発性肺がんであり,その発症と業務との間に相当の因果関係を有すると判断できる旨記載した意見書を作成している。
(甲I1,2,9,11)

甲事件原告らは平成25年1月22日に,乙事件原告らは平成28年1月26日に,それぞれ神戸地方裁判所に訴えを提起した。
甲事件の訴状は平成25年3月6日に,乙事件の訴状は平成28年2月10日に,それぞれ被告に送達された。
(顕著な事実)

3
争点

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各工場における石綿粉じん飛散状況及び本件被用者らの石綿ばく露状況並びに石綿ばく露と本件被用者らの疾病との間の因果関係

神戸工場における石綿粉じん飛散状況並びに亡A,亡C,亡D,亡E,亡F及びX23の石綿ばく露状況


泉大津工場における石綿粉じん飛散状況及び亡Bの石綿ばく露状況

石綿ばく露と本件被用者らの疾病との間の因果関係
因果関係の判断枠組み
ab
石綿肺

c
肺がん

中皮腫
肺がん発症との間の因果関係

ab
亡Cの疾病との間の因果関係

c
亡Dの疾病との間の因果関係

d
亡Aの疾病との間の因果関係

X23の疾病との間の因果関係
石綿肺発症との間の因果関係
亡Fの疾病との間の因果関係
中皮腫発症との間の因果関係

ab
亡Bの疾病との間の因果関係
亡Eの疾病との間の因果関係

被告の安全配慮義務違反

予見可能性


安全配慮義務違反の有無
損害額(過失相殺を含む。)


慰謝料額


過失相殺

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弁護士費用等


各人の損害額
亡A関係
亡C関係
亡D関係

亡B関係
亡E関係
亡F関係
X23関係
亡C及び亡Eにかかる損害賠償請求権について消滅時効の成否


消滅時効の完成
債務不履行に基づく損害賠償請求権
不法行為に基づく損害賠償請求権

イウ4
債務の承認の有無
時効の援用が権利濫用にあたるか否か

争点についての当事者の主張
各工場における石綿粉じん飛散状況及び本件被用者らの石綿ばく露状況並びに石綿ばく露と本件被用者らの疾病との間の因果関係)について(原告らの主張)


神戸工場における石綿粉じん飛散状況
神戸工場では,次のとおり,石綿粉じんが飛散していた。
混合工程
a
本館中2階にあるバンバリーミキサーの上部が出ている部分は,原料投下の際などに,カーボンブラック粉じんなどが飛散していた。このた
め,上記部分に出入りするミキサー担当者,電気や機械の補修担当者には,黒粉手当又は黒手当(以下黒手当という。)が支給さ

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れていた。すなわち,他の職種とは異なり,特別に黒手当が支給される程度に,粉じんが飛散していたといえる。また,充てん剤として,タルクが使われていた。
b
ホワイトレター又はホワイトサイドウォール(DUNLOPとい
う白い文字をタイヤに貼りつける際の白い文字のゴムのことをいう。)
を作るためのゴムを混練するときは,本館1階のデュアルミルを使っており,上記ゴムを混練するときは,ゴムを白くするため,タルクを配合剤として使っていた。このように,配合剤として使われていたタルクが,粉じんとなって飛散していた。
c
デュアルミルのロールで混合する場合,生ゴムに付着しているタルクが飛散し,デュアルミルに接続している電動機内部にタルク粉じんがたまる。電動機を高圧空気でブローして(以下エアブローという。)清掃する際に,タルク粉じんが飛散していた。

d
フェスツーン装置のある冷却乾燥ゾーンでは,シーティングロールでシート化されたゴムをタルク水溶液に浸すなどした後,自然乾燥ないし
送風により冷却乾燥させるが,その際に発生するタルク粉じんが飛散していた。また,本館1階には,縦・横・深さがそれぞれ2メートルの立方体のコンクリート製ピットである水溶液容器が3つ設置されていたが,各水溶液容器につき1日3回程度,タルク水溶液を作るため,タルクを水溶液容器に投入するが,その際に発生するタルク粉じんが飛散してい
た。
押出工程
a
本館1階から本館2階へベルトコンベアが通る部分は,開口されているため,本館1階の粉じんが,本館2階に飛散することは避けられない。
b
押出機の電動機は,密閉型ではないので,飛散するタルク粉じんや石綿粉じんが電動機内部にたまる。電動機をエアブローする際に,タルク
41/155

粉じんが飛散していた。
トッピング工程
トッピングカレンダーの電動機は,十分な回転力を要し,細かな速度調節や急停止が可能であることが要求されるため,ブレーキライニング(ブレーキパッド)方式による制動が行われていた。ブレーキライニングが制動のたびに摩耗し,それによって発生した石綿粉じんが,電動機の内部にたまり,電動機の清掃,整備の際に飛散したり,あるいは,外部に飛散したりすることがあった。
裁断工程
トッピングされたカーカスをベルトコンベアで移動させ,カーカスの先
端が,光電管(一次光電管)がセットされている位置にさしかかると,これを感知した一次光電管によってベルトコンベアを動かしていた電動機の回転が遅くなり,さらにカーカスの先端が次の光電管(二次光電管)がセットされている位置にさしかかると,これを感知した二次光電管によって電動機の回転が停止し,ベルトコンベアの動きが停止した瞬間に,カーカスが裁断機によって一気に裁断される。その後,さらに電動機が再び回転し,裁断後のカーカスがベルトコンベアで移動するとともに,裁断されていないカーカスの先端が一次光電管にさしかかる。以下,同じ動作を繰り返し,カーカスを裁断してプライを作っていく。
このように,裁断工程において電動機は,回転,減速,停止,回転とい
う動作を極めて短い時間のうちに繰り返しており,それだけブレーキパッドの摩耗が激しくなり,ブレーキパッドが摩耗することによって生じる石綿粉じんが発生していた。
成形工程
a
ポケット成形機に巻きつけたプライは,ホットナイフで切断するが,ホットナイフを収納するホットナイフボックスには,配線を覆うように
42/155

して断熱材(アスベスト)が敷き詰められていたところ,これが劣化して粉じんが飛散することは避けられなかった。
b
1番ポケットの内側に塗布する粘着防止剤(チョーク)は,タルクであった。作業者は,タルクが塗られた1番ポケットをドラムにセットする際,タルク粉じんに被ばくしていた。

c
成形工程の中には,ゴム表面とゴム表面とを重ねあわせる工程があるが,これらを接着しやすくするために,液体のナフサを使用していた。この工程では,静電気がナフサに引火して発火することがあり,消火するために,消火器とアスベストシートが用意されていた。アスベストシートを使用すれば,石綿粉じんが飛散するし,また,使用しないときも,
保管してあるアスベストシートが劣化して石綿粉じんが飛散する可能性が十分あった。
d
ポケット成形機は,モーターの外側の回転体を挟む形でブレーキパッドが付いており,ポケット成形機のブレーキパッドには,アスベストが使用されている。ポケット成形機の動輪を止めるたびに,ブレーキパッ
ドが摩耗し,石綿粉じんが飛散する。
また,ポケット成形機のフォーマーを回転させるモーターにブレーキパッドが付いており,そのブレーキパッドには,アスベストが使用されている。成形機のフォーマーの回転を止めるたびにブレーキパッドが摩耗し,石綿粉じんが飛散する。

加硫工程
a
昭和39年ころにバゴマ・プレスが導入されるまで,神戸工場で使用されていたマックニール・プレスの内側には,モップを使ってタルクを含有するインサイドペイントを塗布していた。バゴマ・プレスが導入さ
れてからは,生カバーの表面にエアガンでインサイドペイントを塗布していた。また,オートクレープ加硫でも,作業員が,タルクが含まれる
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インサイドペイントを作り,これを塗布していた。
マックニール・プレスは,バゴマ・プレスで使うプラダー(ダイアフラム)より肉厚のエアーバッグを使っていた。エアーバッグには,20ないし30気圧で,かつ,160℃程度の温水を供給し,それによって加硫を行っていた。滑りを良くする目的で,エアーバッグの表面にタル
クを塗布していた。
b
マックニール・プレスであれ,バゴマ・プレスであれ,金型の周囲には,断熱材として石綿が使用されており,加硫機の振動動作により,断熱材として使っている石綿がほぐれ,劣化し,石綿粉じんとして飛散していた。

また,オートクレープ加硫の場合には,タルクが含まれるインサイドペイントを作る過程で,タルク粉じんが飛散していた。
c
加硫機のプレスは,電動機で作動させる。回転している電動機はブレーキライニング方式により制動させる。このため,摩耗したブレーキライニングから石綿粉じんが発生し,電動機外に飛散するが,電動機内部
にもたまる。電動機のブレーキの効きが悪い時は,そのカバーを外し,粉じんをエアブローで吹き飛ばしており,これによって,電動機内部にたまっていたタルク粉じんや石綿粉じんが飛散していた。
d
加硫作業が完了した後,エアブローで,金型に落ちたインサイドペイントを除去する際,インサイドペイントないし断熱材として用いられて
いる石綿の粉じんが飛散していた。
e
加硫機には,ボイラーで発生させる温水や蒸気を温水配管で供給するが,これらの配管には,テープ状のアスベストリボンテープ等が使用されていた。このアスベストリボンテープは,バルブ等形状が複雑な部分
に用いられており,相当数の箇所に使用されていたと推認されるところであるが,これらが劣化し,石綿粉じんが飛散していた。

44/155

f
加硫の職場には,職制と呼ばれる管理職が来て,高圧空気で床面
や機械をブローすることもあり,その際,床面や機械にたまっていた粉じんが飛散していた。


亡A,亡C,亡D,亡E,亡F及びX23の石綿ばく露状況
亡Aの石綿ばく露状況

亡Aが,昭和25年7月から昭和45年3月までの間と昭和48年5月から昭和54年8月までの間にそれぞれ従事していたタイヤ成形作業は,本館2階中央部及び南側で行われていたところ,亡Aは,次のとおり,石綿にばく露した。
a
1番ポケットをドラムにセットする際,1番ポケットの内側に塗布されたチョーク(タルク)の粉じんを吸入することで,石綿にばく露した。
b
タイヤ成形作業において,ポケット成形機及びタイヤ成形機の回転を止めるたびに,石綿が使用されているブレーキパッドが摩耗し,飛散した石綿粉じんにばく露していた。

c
本館2階にあるタイヤ成形作業場内には,その作業ないし本館1階から上がってきた粉じんが蔓延しており,機械設備等に積もったタルクないし石綿粉じんを吸入し,石綿にばく露した。
亡Cの石綿ばく露状況
亡Cは,昭和23年7月から昭和59年11月までの間に,約33年に
わたり,ゴム練り作業に従事していたところ,次のとおり,石綿にばく露した。
a
亡Cは,本館1階で,60インチロール(長さ60インチのロールが2本横方向に並んだ機械で,2本のロールが異なった速さで回転することにより,ゴム・薬品を均一に練り上げる装置)を使った手作業による
ゴム練り作業に従事していた。原材料,薬品,タルクを含む充てん剤を投入する際に,タルク粉じんを含む大量の粉じんが発生しており,粉じ
45/155

んを吸入することで,石綿にばく露した。
b
本館1階における冷却乾燥工程において,タルク水溶液で濡れたゴムシートを冷却乾燥する際に飛散した大量のタルク粉じんを吸入することで,石綿にばく露した。

c
本館1階では,亡Cの作業場所の近くで,バンバリーミキサーによるゴム練り工程が行われており,ここで発生するタルク粉じんを吸入することで,石綿にばく露した。

d
神戸工場内では,蒸気配管に巻かれた保温材のアスベスト,加硫工程で発生した石綿粉じん,成形工程で発生した石綿粉じんなど,混合工程以外で発生,飛散した石綿粉じんが棟内各所に積もっており,このよう
な粉じんを吸入することで,石綿粉じんにばく露した。
亡Dの石綿ばく露状況
亡Dは,昭和20年11月から昭和59年10月までの間,電気設備保守業務に従事していたところ,次のとおり,石綿にばく露した。
a
本館1階におけるばく露
ロール機やデュアルミルを駆動させる大型電動機の保守点検作業,押出工程の電動機の保守点検作業,トッピングロールの電動機の保守点検作業,加硫機の電動機の保守点検作業,電気室の清掃及び分電盤の清掃,本館中2階にあったバンバリーミキサーを駆動させる電動機の保守点検作業,また,これらの電動機等を点検したり清掃したりするための移動
の際に,飛散する石綿粉じんないしタルク粉じんを吸入することで,石綿にばく露した。
b
本館2階及び本館3階におけるばく露
本館2階の押出機の電動機の保守点検作業,本館3階の電気室内の清
掃及び分電盤の保守点検作業を行うまでの移動の際,また,これらの電動機等を点検したり清掃したりするための移動の際に,石綿粉じんない
46/155

しタルク粉じんを吸入し,石綿にばく露した。
c
加硫棟におけるばく露
昭和39年ころに北別館の加硫棟に新設された加硫機の電動機の保守点検作業,東別館内での移動により,石綿粉じんないしタルク粉じんを吸入し,石綿にばく露した。

亡Eの石綿ばく露状況
亡Eは,昭和20年4月から昭和53年2月までの間,タイヤ成形及びポケット成形作業に従事していたところ,次のとおり,石綿にばく露した。a
ポケット成形作業で,プライ切断に使用していたホットナイフボックス内の石綿が劣化し,飛散した石綿粉じんを吸入し,石綿にばく露した。
b
1番ポケットの内側にタルクを塗布するとき飛散したタルク粉じんや,1番ポケットをドラムにセットする際,1番ポケットの内側に塗布されたタルク粉じんを吸入し,石綿にばく露した。

c
ポケット貼り作業ではゴムを張り合わせる際に揮発油であるナフサを塗布するが,作業員に帯電した静電気により,ナフサが発火することが
しばしばあり,発火したナフサを消火するため,太い繊維状のアスベストを碁盤目に織り合わせた防火シートを用いていたが,防火シートのアスベストが劣化し飛散した石綿粉じんを吸入し,石綿にばく露した。d
タイヤ成形作業において,ポケット成形機及びタイヤ成形機の回転を止めるたびに,石綿が使用されているブレーキパッドが摩耗し,飛散し
た石綿粉じんにばく露していた。
e
本館2階にあるタイヤ成形作業場内には,その作業ないし本館1階から上がってきた粉じんが蔓延しており,機械設備等に積もったタルクないし石綿粉じんを吸入し,石綿にばく露した。

亡Fの石綿ばく露状況
亡Fは,関連会社へ技術実習のため派遣されていた期間(昭和39年2
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月10日から同年8月9日)と福島県の白河工場で勤務していた期間(昭和49年8月1日から昭和55年7月14日)を除き,神戸工場で技術員として,ボイラー,加硫機,集じん機及びその配管の設計やメンテナンスに関する業務などに従事しており,次のとおり,石綿にばく露した。a
電力関係業務に関して,保守点検が必要な電気設備のうち,特に数が多いのは電動機であった。亡Fは,保守点検を行うほかに,作業員が行うブラシの交換や電動機内の清掃の作業にも日常的に立ち会っていた。電動機内部には,ブレーキパッドなどから発生した石綿粉じんが蓄積しており,これを吸引して石綿にばく露した。

b
動力関係業務に関して,亡Fは,ボイラーや加硫機の修理・保守管理業務のほか,自ら配管の保温材の状態を目視,触診により保温材の劣化をチェックする業務も行い,自ら劣化したアスベストテープの補修を行うことがあった。

c
神戸工場内の粉じんは,集じん装置のバグフィルターで集められており,亡Fは,自らバグフィルターの交換の要否を確認したり,集じん装
置につながるダクトの内部に入って内部を確認したりしており,そのような作業の過程で,石綿粉じんを吸入し,石綿にばく露した。
d
被告においては,時代とともに,工程の自動化が推し進められていたところ,その一環として,タンクからバンバリーミキサーに投入する薬
品類(薬品,オイル,カーボン,炭酸カルシウム,タルクなど)の正確な量を自動で計測する機械が導入されていったが,これらの機械を実際に稼働させるためには,薬品の性状や比重等により,細かな調整が必要となる。このため,導入にあたっては,試運転を何度も繰り返しており,亡Fは,技術員として,薬品自動計量機の設置や試運転の業務を担当し,
タルク粉じんにばく露した。また,定期的に薬品自動計測器のダクト内を確認し,ダクトに詰まりが発生した場合には,ダクトをエアハンマー
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でたたいて詰まりを解消する業務に従事しており,タルク粉じんを吸入し,石綿にばく露した。
e
石綿粉じんが日常的に飛散している神戸工場内を行き来しており,その際に,石綿粉じんを吸入し石綿にばく露した。
X23の石綿ばく露状況

X23は,昭和33年1月6日の入社時から平成9年2月28日までの39年間,神戸工場ないし名古屋工場のゴム製品製造工として勤務したが,神戸工場で,少なくとも11年5か月間,加硫工程の作業に従事した際,次のとおり,石綿にばく露した。
a
タルクが含まれるインサイドペイントの塗布は手作業で行うので,左右に飛び散ることがあった。また,加硫機の金型の上にこぼれるインサイドペイントのエアブローも行っていた。このような作業中に,インサイドペイントに含まれるタルク粉じんを,それぞれ吸入して石綿にばく露した。

b
加硫機の断熱材としてアスベストが使用されており,加硫機の開閉時にエアブローを行うために石綿粉じんが飛散し,また,蒸気管の保温材として使用されているアスベストが粉じんとなって飛散し,これらを吸入して石綿にばく露した。

c
加硫機のプレスを作動させるモーターのブレーキパッドが摩耗し,ブレーキパッドに使われているアスベストが摩耗によって飛散し,また,
モーターのブレーキの効きが悪いときには,モーターカバーを外し,エアブローするが,その際にも,石綿粉じんが飛散しており,これらを吸入することで,石綿にばく露した。
d
神戸工場では,タルクないし石綿粉じんが常に飛散しており,機械設備などに積もったタルクないし石綿粉じんを吸入することで,石綿にばく露した。

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泉大津工場における石綿粉じん飛散状況
泉大津工場は,オーツタイヤの本社兼工場であったが,タイヤの製造工程は,会社による違いは特になく,神戸工場での製造工程と同一である。なお,泉大津工場では,昭和25年にバンバリーミキサーが設置され,コ
ードの切断も手裁ちからバイアスカッターに変わり,成形機もコア方式からドラム式のフォーマーを使用するものに変わり,加硫方法は,オートクレーブからスタンドヒーター加硫方式に変わった。その後,昭和32年に,大型バンバリーミキサーが導入されて,加硫工場が新設され,昭和34年には三菱式大型成形機が,昭和35年には水平バイアスカッターやインシュレーシ
ョンカッターがそれぞれ設置され,成形工程の精度が向上し,その頃,泉大津工場における基盤がほぼ完成し,以後,外観上の大きな変化がないものである。
混合工程
泉大津工場においては,バンバリーミキサーが6台導入され,うち5台
が稼働しており,混合工程の内容については,神戸工場と違いがなく,神戸工場と同様の状況によって石綿粉じんないしタルク粉じんが飛散していた。
押出工程,トッピング工程,裁断工程,ビード工程,成形工程
これらの工程の内容については,神戸工場と違いはなく,神戸工場と同
様の状況によって石綿粉じんないしタルク粉じんが飛散していた。加硫工程
加硫工程のうち,インサイドペイントを塗布する工程では,昭和41年ころまでは,作業員の刷毛による手作業での塗布がされていたが,その後はスプレーガンによって塗布されていた。また,加硫工程の内容について
は,神戸工場と違いはなく,神戸工場と同様の状況によって石綿粉じんないしタルク粉じんが飛散していた。

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仕上げ検査
仕上げ検査では,タルクが使用されていたところ,仕上げ検査に従事した労働者について,アスベストを含むタルクを大量に吸引して,肺がんに罹患した旨報告されていることからも,仕上げ検査において,アスベストを含むタルク粉じんが大量に飛散していたと推認できる。

ほかにも,泉大津工場内には,配管の保温材,加硫機の断熱材,ボイラーの保温材,スレート屋根に石綿が使用されており,成形機のモーターのブレーキには石綿含有のパッドが使用されていた。

亡Bの石綿ばく露状況
亡Bは,泉大津工場で,成形,加硫,仕上げ検査の各工程に従事し,昭和
57年に管理職である課長代理になってからも,現場作業に従事しており,次のとおり,石綿にばく露した。
入社直後,タイヤ成形後の仕上げに,内面にトリオールにタルクを溶かした水溶液を刷毛で塗る作業を行っており,これにより,タルク粉じんを吸入して,石綿にばく露した。

成形工程において,タイヤの貼り合わせに失敗した時にはタルクをふるなどして,タルク粉じんを吸入して,石綿にばく露した。
加硫工程において,エアブローの吹付時に,インサイドペイントに含まれるタルク粉じんを吸入して,石綿にばく露した。
班長になってから行っていた見回り業務に関して,被告では,管理職も
現場での指導や作業,清掃などに従事しており,その際に,泉大津工場内に蔓延し,各所にほこりとなって堆積しているタルク粉じんを吸引し,石綿にばく露した。

本件被用者らの石綿ばく露と疾病との間の因果関係
因果関係の判断枠組み

a
肺がんについて

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ヘルシンキ基準等の石綿肺がんに関する医学的知見及びこれを反映させた労災認定基準は合理的であるから,労災認定基準を満たして,業務上の疾病と認められた本件被用者らについては,肺がんと石綿ばく露との間に,法的因果関係を認めるに足りる十分かつ合理的な根拠がある。すなわち,平成18年報告書は,ヘルシンキ基準の示す25本/ml
×年の石綿累積ばく露量によって,肺がんの発症リスクが2倍となるとする判断を妥当とし,さらに,その指標として,10年以上の石綿ばく露作業従事期間が妥当としているところ,これに基づき,平成18年基準が発出されていることからすると,平成18年基準にいう10年の石綿ばく露作業従事期間の要件は,昭和53年基準における石綿肺がんと
認める累積ばく露量の指標から,肺がんの発症リスク2倍の存在を認める石綿肺がんの指標に変化したといえるのである。
そうすると,10年の石綿ばく露作業従事期間の要件を満たせば,石綿ばく露と肺がんの因果関係を肯定できるところ,労災認定基準は,上記要件に加えて,胸膜プラークの存在を要求しており,胸膜プラークが
職業性の石綿ばく露を受けたもの全てに発症するものでないことに照らすと,石綿起因性が認められるべき範囲を不当に狭めているといえるが,逆にいえば,不当に狭められた要件を満たして石綿起因性が認められるものについては,その者の肺がんの発症と石綿ばく露との間の因果関係を認めるには十分であるといえる。

b
石綿肺について
石綿肺の所見の鑑別に関しては,①一般に石綿肺の胸部単純エックス線所見は,下肺野優位の不整形陰影を呈すこと,②中,下肺野に輪状影,いわゆる蜂窩状陰影を認めるようになり,蜂窩肺所見は,石綿肺のHR
CT(高分解CT)所見のグレーディングとして,石綿肺の進行例にみられる所見であるグレード3にあたること,③突発性肺線維症との
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鑑別には,石綿粉じんのばく露歴や胸膜プラークの有無の検索が重要であるとされていることなどを考慮の上,因果関係が判断されるべきである。
c
中皮腫について
中皮腫については,中皮腫のほとんどが石綿起因のものであること,
平均潜伏期間が一般に肺がんの場合より長く,かつ,石綿ばく露開始から年数を経るほど発生リスクが高くなるとされていることにも照らせば,中皮腫の診断が石綿ばく露との関係を判断するのに重要であるから,中皮腫の診断を受けているものについては,特段の事情が認められない限り,被告での石綿ばく露に起因するものと認めるのが相当である。
肺がん
a
亡Aの疾病との間の因果関係


亡Aは,昭和25年7月24日に,被告に入社してから,合計約25年11か月間にわたり,神戸工場におけるタイヤ成形作業に従事し,
アスベスト及びアスベストを含むタルクにばく露しており,原発性扁平上皮がんの確定診断を受けた。
したがって,亡Aの肺がんは,石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんにあたる。亡Aには,右下肺野外側部に1/0を上回る1/1程度の不整形陰
影,左右の胸膜のプラークの散在,左右肺野の軽度の蜂巣形成の各所見が認められるところ,①右下肺野外側部に1/1程度の不整形陰影の所見があり,②石綿肺の進行例グレード3に該当する蜂巣肺所見があり,さらに,③胸膜プラークの所見が認められているのであるから,労災認定基準要件であるじん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていることを満たす。なお,被告は,軽度の蜂巣形成,腫瘤影,慢性の間質性変化

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及び気腫化が石綿肺固有の所見とはいえないと主張するが,上記
のとおり,亡Aには,胸膜プラークの所見が認められることも石綿肺の鑑別の根拠となっているのであるから,被告の上記主張は的を射ないものである。
また,亡Aについて,胸膜プラークの所見が認められ,さらには,
10年を大きく超える約26年間の石綿ばく露作業への従事期間もあるのだから,労災認定基準である胸部エックス線検査,胸部CT検査等により胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められることの医学的所見が得られ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上であることを満たす。なお,被告は,胸膜プラークの所見は,明らかな胸膜プラークでなければならないと主張するが,これは,平成24年基準で追加された石綿ばく露作業への従事期間が1年以上の場合に要求される医学的所見であって,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上の場合には,平成18年基準のとおり,胸部エックス線検査,胸部CT検査等により胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること
の医学的所見で足りるというべきであって,前提に誤りがある。
以上から,亡Aについて,石綿による肺がん発症リスクが2倍以上であることは明白で,その肺がんが,労災認定基準である石綿肺及び胸膜プラークを有する本件被用者らに発生した原発性肺がんとの要件を満たすから,神戸工場における石綿ばく露との間には,明らか
な因果関係が認められる。
b
亡Cの疾病との間の因果関係


亡Cの手術記録には,臓側,壁側胸膜に白色陶磁器様の扁平な結節多数の記載があり,東神戸病院医師の意見書にも開胸手術にて多数の胸膜プラークを確認と記載されており,胸膜プラークの明確な所見が認められる。

54/155

亡Cは,神戸工場において,約32年9か月間という長期間,石綿ばく露作業に従事している。
亡Cの肺がんの発症は,初回石綿ばく露から10年以上経過していることも明白である。
以上から,亡Cは,労災認定基準である胸部エックス線検査,胸部CT検査等により胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められることの医学的所見が得られ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上であることを満たし,さらに,石綿ばく露作業への従事期間が,約32年9か月間という長期間に及んでいることからすると,亡Cの肺がんと神戸工場における石綿ばく露との間には,明らかな因果関係
が認められる。
c
亡Dの疾病との間の因果関係


亡Dは,昭和20年11月から昭和59年10月までの間(通算ばく露期間39年〈調査結果復命書には,通算ばく露12年4か月と記
載されているが,これは,昭和38年から昭和51年まで石綿を取り扱っていたことが確認されるとして,ばく露期間が12年4か月とされているにすぎない。〉),神戸工場において,アスベストやタルクの使用されていた職場で作業に従事していた。また,亡Dが初めて石綿にばく露したのは昭和20年11月で,肺がんを発症したのは59
年3か月経過後に右肺扁平上皮がんと診断された平成17年4月
12日である。
また,亡Dについては,平成21年7月2日付けの労災医員作成の意見書で,肺がんが原発性で石綿以外の他の原因が認められないとされていることや,平成16年8月12日の胸部レントゲン写真で,両
肺野に線状,網状影を認め,石綿肺の所見と考えられるとされていることに照らすと,労災認定基準である石綿肺の所見が得られている55/155こと肺がん発症が石綿ばく露作業への従事期間が10年以上の事案であることを満たすから,神戸工場での石綿ばく露と肺がんの発症との間に,因果関係が認められる。
d
X23の疾病との間の因果関係


X23は,原発性肺がんの診断を受け,病理組織診断においては,胸膜プラークの所見と石綿肺の所見もみられる。
そして,X23は,加硫工程に限っても11年5か月間のばく露歴があり,10年を超える長期間にわたって石綿ばく露作業に従事している。なお,肺がんの発症は平成27年3月24日であり,加硫工程でのばく露を前提としても,昭和51年9月の初回ばく露から10年
以上が経過している。
したがって,X23については,労災認定基準である胸部エックス線検査,胸部CT検査等により胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められることの医学的所見が得られ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上であることを満たすから,X23の肺がんと神戸工
場における石綿ばく露との間には,明らかな因果関係が認められる。石綿肺
a
亡Fは,じん肺(石綿肺)と診断を受けており,これを裏付ける
プラークの所見が存在する。さらに,在職中に,10年を超える長期間わたって石綿ばく露作業に従事している。

また,亡Fは,被告以外で石綿粉じん作業に従事しておらず,亡Fが石綿肺に罹患した原因は,被告における石綿ばく露作業であることは明白である。確かに,じん肺の中には,原因となる粉じん粒子の種類によって,珪肺やベリリウム肺などがあるが,亡Fの職歴等からみて,珪肺やベリリウム肺であるとは考え難い。

b
亡Fの石綿肺発症と被告での石綿ばく露との間には,明らかな因果関
56/155

係が認められる。
中皮腫
a
亡B


亡Bは,中皮腫と診断されている。中皮腫との確定診断がなされれば,石綿が原因といえる。

被告は,亡Bが被告以外で石綿にばく露した可能性を主張するが,被告が指摘する会社でどのようにアスベストやタルクが使用されていたのかも不明であるし,さらに,その飛散状況も不明である。また,被告が指摘する会社周辺で環境ばく露があったという事情もない。したがって,特段の事情も認められないから,泉大津工場における
石綿ばく露と中皮腫発症との間の因果関係を認めることができる。b
亡E


亡Eは,中皮腫と診断されている。中皮腫との確定診断がなされれば,石綿が原因といえる。
また,亡Eには,被告以外の職歴が見当たらない上に,昭和25年
1月23日から死亡まで住んでいた自宅(神戸市i区jk丁目l番m号)周辺には,特段,環境ばく露をうかがわせる事情はない。
したがって,特段の事情も認められないから,神戸工場における石綿ばく露と中皮腫発症との間の因果関係を認めることができる。
(被告の主張)

神戸工場における石綿粉じん飛散状況
混合工程
a
充てん剤としてタルクが使われていたという点について否認する。タルクは充てん剤として不適なので,タルクが使われていたということは
ない。このことは,配合表に,タイヤの原材料としてタルクが記載されていないことからも明らかである。また,バンバリーミキサーがあるス
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ペースに粉じんが飛散していたという点について否認する。上記のとおり,タルクは充てん剤として使われていなかったが,このことを措いても,バンバリーミキサーの原料投入口には,集じんフードが設置されており,投入の際の粉じん発生は抑えられていた。
60インチロールなどの練りロール機についても,同様である。

b
ホワイトレター又はホワイトサイドウォールを作るためのゴムを混練する際に,配合剤としてタルクが使われていたという点について否認する。ゴムを白くするために配合されていたのは,酸化チタンである。タルクを配合したとしても,灰色になり,白色にはならない。

c
電動機に粉じんがたまるという点について否認する。電動機の内部に,タルクやアスベストの粉じんなどのほこりが入り込むとは考えにくい。
d
フェスツーン装置のある冷却乾燥ゾーンではタルク粉じんが飛散していたという点について否認する。ゴムシートに風を当てるファンは,仕切りに取りつけられており,上方に集じん機が設置されていた。なお,
仕切りは密閉されていたわけではなく,外部からゴムシートが見える。また,フェスツーンバーにかけられたゴムシートは約100℃の温度を有しているため,これを乾燥させる際には大量の水蒸気が上がり,ゴムシート付近は湿潤化しており,そもそも粉じんが飛散するような状況ではなかったし,タルク水溶液には界面活性剤(マーポール)が投入され
ており,乾燥させてもタルクのみが粉じんとして飛散することはなく,タルクと界面活性剤が混合した油性の粘着性のある物質が皮膜状に残存するのみである。いずれにせよ,タルク粉じんが飛散するという状況にはなかった。
タルク水溶液を作る際も,タルクを袋から水中に投入するのであって,
粉じんが飛散するとしても,ごくわずかにすぎないから,従業員がタルク粉じんを吸入することはない。

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なお,混合工程において,シート状にしたゴムをタルク水溶性に浸した後,離型効果やゴムの強度を弱めるタルク水溶液をそのままゴム表面に残しても,その後の成形工程や加硫工程で支障は生じない。なぜなら,その後の工程で,シート状にしたゴムを再び練り直すため,その際,表面に付着して乾燥し,皮膜状になっていたタルク水溶液は,中に練り込まれるし,タルク水溶液として付着するタルクの量はごくわずかだからである。
押出工程
電動機に粉じんがたまるという点について否認する。電動機の内部に,
タルクや石綿粉じんなどのほこりが入り込むとは考えにくい。
また,原告らは,本館1階から本館2階へベルトコンベアが通る部分は開口されているために,本館1階の粉じんが,本館2階に飛散するなどと主張するが,本館1階から本館2階に飛散するほどのタルク粉じんが作業場に舞っていれば,押出工程以降の部材を張り付けてタイヤを製造すると
いう作業が阻害されるのであって,そのようなことはあり得ない。トッピング工程
ブレーキライニング内部にたまった石綿粉じんが飛散するという点について否認する。ブレーキライニングは耐摩耗性が高く樹脂でコーティングされていて,かつ,カバーがついていて外部に露出しているわけではない
から,石綿粉じんが外部に飛散する可能性も低い。
トッピング工程では,一旦作業を開始した後に,途中で機械を止めたり,速度を変えたりすると,ゴムにストップマークという跡ができて,その部分はタイヤ製品にすることができなくなってしまうので,最初に速度を調整した後は,基本的に,スピードを一定に保ち,ブレーキを用いることは
なく,ブレーキライニングが摩耗することは考え難い。
裁断工程

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ブレーキパッドが摩耗して,石綿粉じんがたまってそれが飛散するという点について否認する。ブレーキパッドは摩擦が想定された部品であるから,摩擦によっても容易にすり減るものではないし,金属製のカバーがついていたので,石綿粉じんが外部に飛散する可能性も低い。
裁断工程で用いられる裁断機は,一定の長さに来たときに,タイミング
ベルトでコンベアを止め,コードを切断するもので,基本的にブレーキが用いられるような作業ではないことから,裁断機のブレーキパッドが摩耗するとは考え難い。
成形工程
a
ホットナイフボックスの断熱材として用いられている石綿が劣化して飛散するという点について否認する。ホットナイフボックスの断熱材は金属製のカバーで覆われているから,ナイフと直接触れ合うことはないし,仮に,断熱材が摩耗することがあっても,石綿粉じんが外部に飛散することはあり得ない。

b
ポケットの内側に粘着防止剤として塗布していたチョークがタルクであるという点について否認する。チョークは,ステアリン酸又はステアリン酸亜鉛である。仮に,タルクを塗布するとした場合,タルクの融点が900℃から1000℃と高く,加硫工程における約180℃までの加熱では,タルクは溶解しないため,タルクが,プライとプライの間や,
プライとトレッドの間に残留し,タイヤを構成する部品の接着が不十分となってしまい,結果的にタイヤに充分な強度を与えることができない。これに対して,ステアリン酸亜鉛は約140℃,ステアリン酸は約70℃で溶解するため,貼り合わせたゴムとゴムの間に残留することがなく,ゴム製品同士の接着を阻害することがない。さらに,1番ポケット
の内側だけであっても,1番ポケットはフォーマーにセットした後,端を折り返して内側を外に出し,その上にさらにポケットを重ねて接着さ
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せることになるので,そこにタルクが塗布されていると接着不良を起こすこと自体に変わりはない。
c
アスベストシートから石綿粉じんが飛散していたという点について否認する。そもそも,ナフサの使用頻度が低い上に,ナフサが発火すること自体まれであり,また,仮にアスベストシートを使用したとしても,
石綿粉じんが飛散するとは考え難い。
d
ポケット成形機のモーターないしポケット成形機のフォーマーのモーターのブレーキパッドが摩耗して,石綿粉じんがたまってそれが飛散するという点について否認する。ブレーキパッドは,摩擦が想定された部品であるから,摩擦によっても容易にすり減るものではないし,金属製
のカバーがついていたので,石綿粉じんが外部に飛散する可能性も低い。加硫工程
a
金型に粉末状に残ったインサイドペイントをエアブローした際に,タルク粉じんが飛散していたという点について否認する。乾燥したインサイドペイントがまれにプラダーの表面に付着し,加硫器の金型に落下す
ることがあるが,インサイドペイントの剥離片は,粉末状態になるわけではない。そもそも,エアブローの目的は,タイヤを取り出した時にちぎれて金型に落ちたスピュー(完成したタイヤのひげのような部分)を除去することにあり,基本的には機械で行われていたし,手動で行われたのは,生産スタートの場合,プラダーを変えた後の1回目,スピュー
が機械のエアブローで取り除けない場合,特殊なサイズの場合などに限られていた。
b
振動によって,金型の周囲に断熱材として使用されている石綿がほぐれ,粉じんが飛散したという点は否認する。断熱材が振動のみによって
ほぐれることはないし,また,断熱材が外部に露出していたこともないから石綿粉じんが飛散したとは考えられない。

61/155

c
電動機内部にたまった粉じんが飛散したという点について否認する。加硫機プレスのモーターはカバーされており,外部から粉じんが入ることはない。

d
配管のアスベストリボンテープから石綿粉じんが飛散したという点について否認する。摩擦するわけでもないアスベストリボンテープが,自
然劣化して石綿が飛散することは考え難いし,仮に,飛散したとしても,極めて微量であり,石綿関連疾患を発症させることはない。

本件被用者らの石綿ばく露状況について
本件被用者らの就業状況については争うものでないが,石綿粉じんの飛
散状況については,上記アで主張したとおりであるから,本件被用者らが神戸工場で石綿にばく露したことについては否認する。神戸工場はタイヤ製造工場であり,仮に,原告らが主張するとおり,石綿粉じん及びタルク粉じんが舞い,積もっているような環境であったとすれば,商品であるタイヤの汚損を招き,工場としての機能を失うことからも,原告らの主張が
有り得ないことが裏付けられる。
特に,亡Dと亡Fについて主張する。
a
亡Dは,電気設備保守業務に従事していた。主に変電所での業務を担当しており,そこではタルク粉じん及び石綿粉じんにばく露することがなかった。仮に,何らかの理由で,本館又は東別館での作業を行ってい
たとしても,その作業に従事する頻度や時間は少なかったと考えられる上,作業及び作業場所までの移動によって,タルク粉じんや石綿粉じんにばく露した危険性も低いと考えられる。
また,亡Fは,亡Dがタルク若しくは石綿粉じんを吸入した機会として,電動機のエアブロー清掃時,本館1階のデュアルミル点検時,断熱
材から飛散する石綿粉じんなどを挙げるが,いずれもタルクないし石綿粉じんが飛散しないことは上記のとおりである。

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b
亡Fは,技術員として,作業立会いや指示等を行うことを主な業務としていたのであって,実際の作業は技能員や下請け業者が行っていたし,メンテナンス業務は現場から稼働状況についての異変が報告された場合にのみ行われる作業であり,常時従事するような作業でもない。特に,保温材の交換の要否確認は,保温材を設置してから相当程度の年数の経
過した場合にのみ行われていたものであり,日常的に行われるような業務ではなかった。石綿肺の発症に至るような程度のばく露はなかったというべきである。

泉大津工場における石綿粉じん飛散状況及び亡Bの石綿ばく露状況泉大津工場に関しては,原告らの神戸工場に関する主張に対する認否と同様である。
また,亡Bのばく露状況について,否認する。
タイヤ成形後の仕上げに,内面にトリオールにタルクを溶かした水溶液を刷毛で塗る作業により,タルク粉じんを吸入して,石綿にばく露したと
いう主張について否認する。上記作業は,一日に何度もあるような作業ではなく,タルク粉じんが大量に発生するわけでもない。さらに,亡Bが上記作業に従事したかどうかは不明であるし,仮に従事していたとしても,入社直後の短期間しか従事していない。
成形工程においてタルク粉じんを吸入したとする点について否認する。
成形工程ではタルクを使用していない。
加硫工程においてタルク粉じんを吸入したとする点は否認する。加硫工程でタルク粉じんは発生しないし,そもそも,亡Bは,加硫工程での作業を行っていない。
泉大津工場内にタルク粉じんが蔓延し,各所にほこりとなって堆積して
いたとする点は否認する。成形工程及び加硫工程においてはタルク粉じんは発生しないし,泉大津工場内にタルク粉じんが蔓延していたことなども
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ない。

石綿ばく露と本件被用者らの疾病との間の因果関係
因果関係の判断枠組み
a
肺がん


肺がんを発症する原因には,喫煙,加齢,性別,生活環境における発がん性物質など,さまざまな可能性が考えられるところ,医学的には,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合をもって,石綿に起因すると認めるのが相当とされる。原告らは,労災認定基準を満たせば肺がん発症との因果関係が認められると主張す
るが,救済法理である労災手続と責任法理である民事訴訟手続における因果関係の判断は異なる以上,原告において,石綿ばく露と肺がん発症の相当因果関係を立証しなければならない。
そして,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があったというためには,少なくとも,石綿繊維25本/ml×年(1ml
の空間あたり石綿繊維が1本〈1000本/l〉存する濃度環境下で25年間働いた場合など)に相当するばく露量が必要である。
これを示す医学的所見としては,次の①ないし④が挙げられる。なお,①ないし③は胸膜プラークに関する所見であるが,肺がんの発症リスクが2倍となる医学的所見と認められるには,胸膜プラークが肉
眼で確認できるのでは足りず,画像上確認されなければならない。①

胸部エックス線検査又は胸部CT検査により,胸膜プラーク(肥
厚斑)が認められ,かつ,胸部エックス線検査でじん肺法4条1項に定める第1型以上と同様の肺繊維化所見(いわゆる不整形陰影)があって胸部CT検査においても肺繊維化所見が認められること。
なお,じん肺法4条1項に定める第1型以上と同様の肺繊維化所
見とは,あくまでも画像上の所見であり,じん肺法において石綿肺
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と診断することとは異なるものである。


胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らか
な陰影が認められ,かつ,胸部CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの。この場合において,胸膜プラークと判断できる陰影とは,次のⓐないしⓑのいずれかに該当する場合をい
う。


両側又は片側の横隔膜に,太い線状又は斑状の石灰化陰影が認
められ,肋横角の消失を伴わないもの。



両側側胸壁の第6から第10肋骨内側に,石灰化の有無を問わ
ず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ,肋横角の消失を伴

わないもの。


胸部CT画像で胸膜プラークを認め,左右いずれか一側の胸部C
T画像上,胸膜プラークが最も広範囲に抽出されたスライスで,その広がりが胸壁内側の4分の1以上のもの。



次のⓐからⓔまでのいずれかの所見が得られること。



乾燥肺重量1g当たり200万本以上の石綿繊維(5μm超)



乾燥肺重量1g当たり500万本以上の石綿繊維(1μm超)



気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体



乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体

肺組織切片中の石綿小体(複数の肺組織切片を作成した場合に
は,そのいずれにも石綿小体が認められる必要がある。)



職歴や石綿ばく露作業従事歴は,石綿起因性の判断基準・指標とはならない。すなわち,ヘルシンキ基準で肺がん発症リスクが2倍になると判断する際の指標とされているのは,あくまで累積ばく露量

であり,職歴ではない。ヘルシンキ基準においては,当該労働者
が従事していた石綿ばく露作業等における石綿のばく露濃度が判明し
65/155

ていることを前提に,当該労働者の職歴を把握することにより,
累積ばく露量を検討するのであって,かかる基準の適用に当たっ
ては,海外のように,年代別,職種別,職業別,あるいは作業別の石綿ばく露濃度に関する統計資料が整備されていることが前提となるが,日本ではそのような資料が整備されていないから,前提を欠く。



肺がん発症における喫煙と石綿の関係についての研究によれば,喫煙歴も石綿ばく露歴もない者の発がんリスクを基準にすると,喫煙歴があって石綿ばく露歴がない者では,10.85倍に,喫煙歴がなく石綿ばく露歴がある者では,5.17倍に,喫煙歴も石綿ばく露歴もある者では,53.24倍になるとされており,喫煙が,肺がん発症
に大きな影響を与えることは明らかである。石綿ばく露歴がある者についてみても,喫煙により肺がんの発症リスクが約10倍高まるのである。さらに,1日の喫煙本数に喫煙年数を乗じて算出されるブリンクマン指数が高くなるほど,また,喫煙開始年齢が早いほど肺がん発症リスクが高まることなども考慮しなければならない。

b
石綿肺
石綿肺の医学的判定については,石綿肺に特徴的な放射線画像所見は報告されているものの,通常石綿以外の原因による又は原因不明のびまん性間質性肺炎・肺線維症等の可能性がないと診断できる特異的な所見はないとされており,臨床像や放射線画像所見から石綿肺を疑う場
合であっても,石綿以外の原因による又は原因不明のびまん性間質性肺炎・肺線維症等の鑑別に十分留意し,また,大量の石綿ばく露歴があることを確認することが極めて重要であるとされているから,結局のところ,大量の石綿へのばく露歴の有無が重要な指標になり,原告らはこの点を立証しなければならない。

c
中皮腫

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中皮腫の発症については,肺がんと異なり,そのほとんどの症例が石綿起因のものであり,石綿特異疾患である。しかし,一方で,中皮腫は,肺がんと異なり,低濃度,短期間の石綿ばく露であったとしても発生リスクがあるため,職業的なばく露だけでなく,家庭内ばく露,近隣ばく露による発症も指摘されている。

そのため,原告らにおいて,石綿ばく露があり得る作業に従事していたことを立証する必要があるほか,家庭内ばく露,近隣ばく露による発症の可能性も踏まえ,その可能性に応じた反証をしなければならない。肺がん
a
亡Aの疾病との間の因果関係について


否認し争う。原告らは,亡Aについて,①石綿作業従事歴,②石綿肺所見,③胸膜プラーク所見があることを理由として,石綿ばく露と肺がん発症との間に因果関係が認められると主張する。
①について,亡Aが石綿及びタルクを取り扱った事実はない。仮に,
ばく露があったとしても,累積ばく露量は少量であるから,これのみをもって,肺がん発症リスクが2倍以上の累積ばく露量があるとはいえない。②について,労災医員が石綿肺所見の根拠として指摘するのは,軽度の蜂巣形成腫瘤影慢性の間質性変化及び気腫化であるところ,これらはいずれも石綿肺固有の所見とはいえない
から,亡Aに石綿肺所見があるとはいえない。③について,労災医員は胸膜プラークについても胸部CTでは左右の胸膜にプラークの存在を認めるとするが,兵庫県立がんセンターの主治医が胸部エックス線検査,胸部CT検査において,明らかな胸膜プラークの存在
を否定していることからしても,肺がん発症リスクが2倍以上の累積
ばく露量を示す医学的所見があるとはいえない。
したがって,亡Aには,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石
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綿ばく露があったと認められる医学的所見は何ら存在しない。
なお,亡Aは,21歳から喫煙を開始し,その後,53年間という長期間にわたって,1日20本程度の喫煙を続けているところ,そのブリンクマン指数は1060と算出されるから,亡Aの肺がん発症は,喫煙に起因するものである蓋然性が極めて高い。

以上から,亡Aの肺がん発症と石綿ばく露との間の因果関係は認められない。
b
亡Cの疾病との間の因果関係について


否認し争う。原告らは,亡Cについて,①胸膜プラーク所見があること,②原発性肺がんであることを理由として,石綿ばく露と肺がん発症との間に因果関係が認められると主張する。
①について,亡Cの胸膜プラークは,CT画像や胸部エックス線写真から認定されたものではなく,開胸手術での確認にすぎないから,ここで確認された胸膜プラークの所見をもって,肺がんの発症リスク
を2倍以上に高める石綿ばく露があったと認めることができない。②について,原発性肺がんは,石綿以外にも多数原因を有する疾病である。
したがって,亡Cには,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があったと認められる医学的所見は何ら存在しない。

また,亡Cは,同人の妻が確認したところによると,昭和51年及び平成10年2月ないし4月ころに喫煙していたようであり,少なくとも昭和51年ころと平成10年ころに喫煙していたことに照らせば,その間も含めて,昭和51年以前から習慣的に喫煙しており,相当の喫煙歴があったと推認できる。さらに,亡Cは,死亡時76歳で加齢
による影響も考えられることからすると,石綿以外にも肺がん発症リスクを高める要因が存在しているというべきである。

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以上から,亡Cの肺がん発症と石綿ばく露との間の因果関係は認められない。

c
亡Dの疾病との間の因果関係について


否認し争う。原告らは,亡Dについて,①石綿肺所見が認められること,②原発性肺がんであることを理由として,石綿ばく露と肺がん
発症との間に因果関係が認められると主張する。
①について,亡Dの石綿肺所見として労災医員が指摘しているのは,胸部レントゲン写真で確認した両下肺野に線状網状影及び胸部C
Tで確認した右下葉の腫瘤影,右胸水貯留及び両側下葉の線状,網状影のみである。これらはいずれも石綿肺固有の所見とはいえな
いから,亡Dに石綿肺所見があるとはいえない。②について,原発性肺がんは石綿以外にも多数原因を有する疾病である。
したがって,亡Dには,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があったと認められる医学的所見は何ら存在しない。
亡Dは,1日10本から20本の喫煙をしていたとのことであり,
少なくとも50年以上の喫煙歴があると推認でき,亡Dのブリンクマン指数は500ないし1000と算出される。さらに,死亡時76歳という加齢による影響もあるので,石綿以外の肺がん発症リスクを高める要因が顕著に存在するというべきである。
また亡Dには,昭和14年4月から昭和19年7月までの間,三菱
電機株式会社の神戸製作所で電気機械組立工としての勤務歴があり,当該事業所における作業は石綿ばく露作業と認定されているから,ここでのばく露の可能性も考慮しなければならない。
以上から,亡Dの肺がん発症と石綿ばく露との間の因果関係は認められない。

d
X23の疾病との間の因果関係

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否認し争う。原告らは,X23について,①石綿作業従事歴,②胸膜プラーク所見があること,③原発性肺がんであることを理由として,石綿ばく露と肺がん発症との間に因果関係が認められると主張する。②について,X23の胸膜プラークは,肺がん発症リスクを2倍以上に高めるばく露があったことを基礎づける医学的所見とはいえない。
①や③についても同様である。
また,X23には,石綿肺所見は認められず,石綿小体が存在したとの医学的所見も存在しない。
X23は,約45年間という長期間にわたって1日当たり20本から30本の喫煙をし,ブリンクマン指数も少なくとも900を超えて
おり,X23が肺がんを発症したのは,喫煙に起因するものである蓋然性が相当高いというべきである。
以上から,X23の肺がん発症と石綿ばく露との間の因果関係は認められない。
石綿肺

a
否認し争う。亡Fの疾患については,労災認定資料等における傷病名が石綿肺ではなくじん肺となっており,石綿肺であったと認め
るに足りる医学的所見は存在しない。この点,胸膜プラークの存在が指摘されているが,胸膜プラークの所見が認められるからといって,大量の石綿へのばく露歴が認められるわけではない。
b
また,亡Fの神戸工場における担当業務等に照らせば,大量の石綿へのばく露があったともいい難い。
c
以上から,亡Fの疾患が石綿肺であったとは到底認められない。
中皮腫

a
亡Bの疾病との間の因果関係


否認し争う。亡Bは,胸膜プラーク,石綿小体,石綿肺のいずれも
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が生じておらず,労災医員も,石綿ばく露の医証に欠けると判断しており,仮に石綿ばく露があったとしてもそのばく露は,非常に低濃度のものであったと推測できる。原告らは,亡Bが,約16年間タイヤ成形作業に従事し,アスベストを含むタルク粉じんにばく露したと主張するが,そうであれば,石綿小体すら見つかっていないという事態
は想定し難い。


亡Bは,仕事では直接アスベストは扱わなかったが,断熱材にアスベストが使用されていたと述べているにすぎず,亡Bが中皮腫を発症しても,これが泉大津工場での作業によるものか疑問といわざるを得ない。また,亡Bの自宅付近に,日本タルク株式会社の大阪工場が存
在し,自宅近辺で石綿にばく露した可能性も十分にあるし,東洋製鋼株式会社での勤務時に石綿にばく露した可能性も否定できない。
b
亡Eの疾病との間の因果関係
原告らの主張によっても,亡Eが神戸工場での作業による以外に石綿へのばく露がなかったことを認めるには足りない。

被告の安全配慮義務違反の有無)について
(原告らの主張)

予見可能性
予見可能性の程度及び内容

人の生命,身体,健康は,最も根源的な権利であって,最大限に尊重されなければならないが,一般に営利を追求する企業の活動及び生産過程は,常に労働災害や職業病を発生させる危険性を内包しているところ,企業はその危険性を予見してこれを回避することが可能であるのに対し,企業の設定する人的・物的環境の下で就労しなければならない労働者は,これら
の危険から自由ではない。そこで,企業は,労働者に対し,雇用契約上又は信義則上若しくは不法行為法上,労働災害や職業病の発生を防止するた
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め,当時の実践可能な最高の工学的水準に基づく万全の措置をとるべき安全配慮義務又は不法行為法上の注意義務を負うと解される。
これら安全配慮義務等の意義に照らせば,その前提として,被告における予見可能性の内容及び程度は,生命,健康という被害法益の重大性にかんがみ,本件では,タルク及びアスベスト等の粉じんの安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り,生命,健康に対する障害の性質,程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである。そして,昭和35年当時,滑石肺(じん肺)の存在について,日本においても,多数の報告例があり,広く知られていたこと,特に,ゴム工場に
おける滑石肺,じん肺の罹患及び罹患率が高率であることは有名であったこと,また,被告のような大企業は,情報の収集能力が高く,その機会も豊富であり,社会的責任も重い上に,特に,被告は,昭和24年当時,神戸工場において大量のタルクを使用し,工場の広範囲にタルクが飛散していたこと及びそれによってじん肺に罹患する作業員が発生していることを
調査報告書によって明確に認識していたことからすれば,その当時から,本件被用者ら従業員が,神戸工場全体に飛散していたタルクを中心とする大量の粉じんにばく露し,それが原因で,じん肺に罹患するなどし,その健康に重大な影響が及びかねないという危険につき認識し得たというべきである。

加えて,昭和35年に制定されたじん肺法のもと,粉じん職場での規制強化がされていたこと等の事情があるところ,同年以降もタルクを中心とした大量の粉じんが工場全体に飛散していた状況に変わりはなかった上,機器や保温材にアスベストが使用されており,その総量が多いことに照らすと,遅くとも同年以降,被告は,本件被用者ら作業員が,その工場で使
用していたタルク粉じんないし機器や保温材から発生する石綿粉じんにばく露し,それが原因で,タルク肺,石綿肺等のじん肺に罹患するなどし,
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その健康に重大な影響が及びかねないという危険につき,認識し得たというほかない。
さらに,石綿に限ってみても,使用量が多く,使用方法及び環境等からすれば,摩耗・劣化による石綿の粉じん化が避けられないことは明らかであり,加えて,常に機器や設備の維持・改善を積極的に実施してきた被告
が,その過程で,石綿が粉じん化していることも十分認識し得たから,被告は,じん肺法が制定された昭和35年ころには,機器や設備に付属する石綿が粉じん化し,本件被用者ら作業員がそれにばく露し,じん肺等に罹患するなど,その健康に重大な影響が及びかねない危険を予見することができた。

なお,被告は,タルク粉じんについて,高濃度ないし大量のばく露と少量のばく露とを区別し,後者については,重篤な肺機能障害を発症させる医学的知見が確立していなかったと主張するが,そもそもこのような相対的な区別の妥当性に問題があるほか,少量ばく露の場合には長期にわたるばく露の場合でも安全であるという医学的知見が確立していたわけでもな
いから,本件被用者らの退職時までに健康被害の発生を全く予見できなかったなどとはいえない。

安全配慮義務の具体的内容
上記アのとおり,被告は,遅くとも,昭和35年ころには,タルクない
し石綿粉じんが従業員の生命・健康に重大な影響を及ぼすことを予見できたのであるから,雇用契約に付随する義務として,信義則上,当時の実践可能な最高の工学的技術水準に基づいて,次の①ないし⑤の粉じんに対する安全対策をとる義務があったというべきであるが,被告は,いずれも行わなかったのであるから,安全配慮義務違反が認められる。なお,これら
の義務は,戦前から十分に知られた粉じん対策に関する知見であり,被告において,実施し得るものであったことは明らかである。

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粉じんの発生を防止する義務
作業前や作業中に撒水や噴霧などの湿潤化策を行うことが,粉じん一般の発生を防止ないし抑制するために有効な手段の一つであることは,屋外又は坑内において,著しく粉じんを飛散する作業場においては,注水その他粉じん防止の措置を講じなければならない(旧安衛則17
5条)とされていることから明らかである。仮に,湿潤化対策が不可能な作業現場であれば,それに代わる粉じん発生防止・抑制策をより強化すべきである。
しかし,被告は,粉じんの発生を防止する義務を漫然と怠り,何ら有効な防じん措置を取らなかった。



粉じんを除去し,飛散を防止する措置をとる義務
被告は,従業員が従事した各作業により,発生・飛散する粉じんのばく露を最小化するために,タルク粉じんが発生する場所において,局所排気装置を設置すべき義務があった。これについては,粉じんを発散する屋内作業場においては,場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように,局所における吸引排出又は機械若しくは装置の密閉その他の新鮮な空気による換気等適当な措置を講じなければならない(旧安衛則173条)として,使用者に明確に義務付けられている。
粉じんの再飛散を防止するため,粉じんが大量に発生する作業場所の
床面や作業場所に置かれている機械・道具などに堆積した粉じんについて,従業員に対し,毎日の作業の終了時に適切に清掃・除去することを義務付け,これを確実に行うよう指導監督すべき義務があった。
しかし,被告においては,各作業場付近への適切な局所排気装置の設置,真空掃除機の使用,異種職場間における隔壁の設置を行わず,また,
本来従業員に対し適切な掃除を指導すべき立場の者ですら,漫然とエアブローし,石綿を飛散させていた状況であった。

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呼吸用保護具を適正に使用させる義務
被告は,従業員に対し,各作業に従事する前に,粉じんを吸入しないよう十分な性能を有する防じんマスクを配布し,その着用を義務付け,作業の際にはこれを装着するよう指導監督すべき義務があった。これについては・・・ガス,蒸気又は粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務・・については,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備えなければならない(旧安衛則181条)として使用者に明確に義務付けられているところである。また,防じんマスクについては,昭和25年に国家検定が始まり,国家検定合格品の防じんマスクが使用され始めていた。
しかし,神戸工場においても,泉大津工場においても,防じんマスクの着用は義務付けられていなかった。


粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務
粉じんが大量に発生する作業場所においては,当該作業が行われている際に,粉じん濃度の測定を行い,その測定結果を適切に評価し,局所
排気装置の改善,有効な保護具の使用など,作業環境の改善のための必要な措置を講じるべき義務があった。
しかし,昭和45年に神戸工場安全衛生課長が作成したじん肺に関する報告書(乙A40)によれば,被告は,粉じん職場と指定する特定の職場のみ粉じん濃度を測定しているにすぎず,また,粉じん職場と
指定された職場でさえ,

送気装置はあるが不充分である。局所排気装置を必要とする。今までにも局所排出のテストを行ったが結果として効果が少なく今後更に検討を要す

とされており,作業環境改善のための必要な作業が行われていなかったといえる。


安全教育及び安全指導を行う義務
各作業に従事する従業員が,粉じん対策を実行し,粉じんにばく露し
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ないようにするため,定期的に安全教育や安全指導を行うべき義務があった。
しかし,被告は,粉じん対策について,従業員に対し安全教育や安全指導を実施しなかった。
以上から,被告は,昭和24年当時から,タルクを含む粉じんの危険性
について認識していたのであるから,亡E(昭和20年からばく露)及び亡C(昭和23年からばく露)については昭和24年から,亡Aについては昭和25年から,亡Bについては昭和27年から,亡Dについては昭和30年から,X23については昭和33年から,亡Fについては昭和36年から上記①ないし⑤の粉じんに対する安全対策を行うべき義務があった
のに,これを怠ったといえ,安全配慮義務違反が認められる。
(被告の主張)

予見可能性
予見可能性の内容及び程度

争う。原告らが主張するような危惧感で足りるとすると,企業は,過度に広範な責任を負担するおそれがあり,著しく不合理な結果となることから,たとえ,被害法益が生命や健康に関わる重大なものであるからといって,ただちに予見の内容が抽象的な危惧感で足りると解することはできず,予見可能性の有無を判断するにあたっては,具体的,客観的に予見可能で
あることが必要と解すべきである。
また,本件被用者らが,石綿粉じんではなく,石綿を含有するタルクにばく露し,肺がん又は悪性胸膜中皮腫を発症したことによって死亡したというのであれば,その前提として,本件被用者らが石綿を含有するタルク粉じんにばく露し,肺がん,石綿肺若しくは悪性胸膜中皮腫を発症したこ
とによって死亡したという結果が発生したことについての予見可能性があることが必要である。

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タルクについて
被告に予見可能性が認められるとするためには,本件被用者らがタルクにばく露したため,肺がん,石綿肺若しくは悪性胸膜中皮腫(石綿関連疾患)を発症する又はそれらによって死亡することを具体的客観的に予見することができたといえなければならない。
昭和35年当時,粉じんとしてのタルクによるじん肺(タルク肺)発症の可能性については認識されていたが,タルク肺によって重篤な肺機能障害に至る可能性は低いと考えられており,重大な健康被害に関する知見が確立されていたとはいえないし,昭和48年や昭和53年においても同様
の状況がうかがわれる。また,ベビーパウダーや化粧品の原料として使用されていたタルクに不純物として石綿が混入していた製品があることが指摘されるなどし,品質確保のための規格及び試験方法を検討するために設置された昭和61年から昭和62年にかけてのベビーパウダー等の品質確保に関する検討会においても,タルクが重大な肺機能障害を発症させ
るという医学的知見は確立していない。さらに,平成20年においても,高濃度のタルクばく露は重篤な肺機能障害を起こしうるが発がん性が明らかでないとされており,ようやく高濃度ないし大量にタルクをばく露した場合の危険性について認識され始めたのであって,そうでない場合に重大な肺機能障害を発生させるという知見はないし,がんを発症させると
いう医学的知見が確立しているとはいえない。
また,タルクについての法規制も,昭和35年のじん肺法から始まるが,あくまで,粉じんとしてのタルクに対する規制で,タルクという物質の特性(物質そのものの危険性)に応じた危険ではない。タルクの中に不純物としての石綿が含有されている可能性が認識されるに至り,平成18
年になって物質としてのタルクについて初めて明確に規制されるようになったのである。

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したがって,原告らが予見可能性を主張する昭和24年はもとより,X23が退職した平成9年においても,タルクが重大な健康被害(特に,石綿関連疾患)を発生させるという医学的知見が確立していたとはいえないから,被告に予見可能性があるとはいえない。
なお,原告らが主張する抽象的な危惧感を前提としても,タルクの大量
ばく露によってじん肺が発生することを知り得たときに,大量ばく露によって,じん肺以外の重大な健康被害を発症する可能性を予見することが可能であるといえても,そのことから少量ばく露によって重大な健康被害を発症することまでただちに予見できない。神戸工場ないし泉大津工場において,タルクは使用されておらず,また,仮にタルクが使用されていたと
しても,じん肺を発症させるほどの高濃度ないし大量のタルク粉じん(じん肺法施行後に日本産業衛生学会が勧告した許容濃度である2mg/㎥をも超えるもの)のばく露があった事実はないのであるから,被告において,タルクによって,肺がん,石綿肺や中皮腫といった重大な障害(石綿関連疾患)を生ずる危険性のあることを予見することはできない。

石綿について
仮に,原告らが主張するように,機器及び設備に使用されていた石綿から石綿粉じんが発生していたとしても,その発生源となる機器及び設備等は,どのような工場においても一般的に使用されるありふれたものであって,これらから健康被害を惹起するような石綿粉じんの発生を予見するこ
とはできなかったというべきである。
さらに,肺がんに関しては,現時点においても,石綿への少量ばく露によって肺がんが引き起こされるという知見は確立していないので,少なくとも,石綿にばく露して肺がんを発症することを予見するのは不可能であった。


安全配慮義務違反

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否認し争う。被告は,原告らが主張する義務を負っていない。
安全配慮義務の具体的内容は,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等,安全配慮義務が問題となる当該具体的な状況によって異なる。
旧安衛則では,じん肺を発症させる程度の大量の粉じんが発生,飛散している作業環境を前提に使用者に義務を課しているところ,神戸工場及び泉大
津工場において,タルク粉じん若しくは石綿粉じんが作業場所に飛散することはなかったのであるから,被告が原告ら主張の義務を負っているとはいえない。具体的には,昭和23年8月12日付けで発出された通達(昭和23年8月12日付基発第1178号)によれば,旧安衛則48条が有害な職場の一つとして規定する土石,獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務とは,植物性,動物性,鉱物性の粉じんを作業する場所の空気中1㎤中に粒子数1000個以上又は1㎥中に15mg以上含む場所をいうものとされる。これは,じん肺法施行後に日本産業衛生学会が勧告したタルクないし石綿の許容濃度(2mg/㎥)を大幅に上回る数値であり,相当高濃度である。

また,じん肺法も,大量ばく露のおそれのある粉じん作業に限定して規制対象としていたことは明らかであるところ,本件被用者らの従事していた作業は,大量ばく露のおそれのある作業ではないから,被告が原告ら主張の義務を負っているとはいえない。
したがって,被告には,昭和24年ないし昭和35年当時,原告らが主張
する各種措置をとる法令上の義務はなく,いずれにせよ,安全配慮義務違反はなかったというべきであるし,そもそも,被告は,昭和30年以降,工場の環境改善を進めてきている。
原告らの損害額〈過失相殺も含む。〉)について
(原告らの主張)

慰謝料額について

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本件被用者らは,いずれも石綿肺,肺がんや中皮腫の発症から治療あるいは死亡に至るまで,これらの疾病に起因する持続的な息切れ,胸痛,さらには抗がん剤の副作用による苦痛に苦しめられ,長期間の入通院を余儀なくされるなどした。この間の本件被用者らの苦痛は計り知れないものであり,石綿関連疾患による死亡ないし発症による精神的損害を金銭に換算することは
極めて困難であるが,少なく見積もっても,3000万円を下るものではないから,本件被用者らは,被告に対して,それぞれ,不法行為ないし債務不履行に基づき,3000万円の損害賠償請求権を有する。

過失相殺
被告は,喫煙歴を有する者に関し,過失相殺すべきであると主張するが否
認し争う。
本件被用者らのブリンクマン指数が正しいものなのかどうかはそもそも不明である。被告の主張する喫煙によって肺がんに罹患するリスクは,疫学上の数値に過ぎない。
また,本件被用者らは,業務遂行上やむなく石綿にばく露したものであり,
自らばく露することを許容したものではない一方で,喫煙自体は嗜好として許容されてきたものであるから,損害の拡大の場面での損害の公平な分担という過失相殺の趣旨になじまない。

弁護士費用等
被告は,被告を退職した従業員の石綿に起因する業務上の災害に対し,そ
の損害を補てんする目的で規定された特別補償規程(以下本件特別補償規程という。)に基づき,特別補償金を支払っているところ,特別補償金は各損害額から控除される。
被告に負担させるべき弁護士費用は,上記控除後の損害額の1割が相当である。


各人の損害額

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亡A関係
被相続人亡Aにかかる法定相続分は,X1及びX2が各2分の1である。上記法定相続分に従って相続した損害賠償請求権にかかる金額は,各1500万円となる。
亡Aの死亡後,X1及びX2は,本件特別補償規程に基づき,被告から特別補償金として1000万円の支払を受けているが,上記支払は各損害額から控除される。以上に,弁護士費用を計上して,X1及びX2は,被告に対し,それぞれ1100万円(1500万円-〈1000万円×1/2〉+100万円)の損害賠償請求権を有する。

よって,X1及びX2は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各1100万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
亡B関係

被相続人亡Bにかかる法定相続分は,X3が2分の1,X4及びX5が各4分の1である。上記法定相続分に従って相続した損害賠償請求権にかかる金額は,X3が1500万円,X4及びX5が各750万円である。亡Bの死亡後,X3,X4及びX5は,本件特別補償規程に基づき,被告から特別補償金として1000万円の支払を受けているが,上記支払は
各損害額から控除される。以上に,弁護士費用を計上して,X3は,被告に対し,1100万円(1500万円-〈1000万円×1/2〉+100万円),X4及びX5は,被告に対し,それぞれ550万円(750万円-〈1000万円×1/4〉+50万円)の損害賠償請求権を有する。よって,X3は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,1
100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
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め,X4及びX5は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各550万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
亡C関係
被相続人亡Cにかかる法定相続分は,X6が2分の1である。上記法定相続分に従って相続した損害賠償請求権にかかる金額は,1500万円である。
亡Cの死亡後,X6は,本件特別補償規程に基づき,被告から特別補償
金として500万円の支払を受けているが,上記支払は損害額から控除される。以上に,弁護士費用を計上して,X6は,被告に対し,1100万円(1500万円-500万円+100万円)の損害賠償請求権を有する。よって,X6は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
亡D関係
被相続人亡Dにかかる法定相続分は,X7が2分の1,X8及びX9が各4分の1である。上記法定相続分に従って相続した損害賠償請求権にか
かる金額は,X7が1500万円,X8及びX9が各750万円である。亡Dの死亡後,X7,X8及びX9は,本件特別補償規程に基づき,被告から特別補償金として1000万円の支払を受けているが,上記支払は各損害額から控除される。以上に,弁護士費用を計上して,X7は,被告に対し,1100万円(1500万円-〈1000万円×1/2〉+10
0万円),X8及びX9は,被告に対し,各550万円(750万円-〈1000万円×1/4〉+50万円)の損害賠償請求権を有する。
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よって,X7は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,X8及びX9は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,550万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
亡E関係
被相続人亡Eにかかる法定相続分は,亡Gが4分の3,訴外亡Nが4分
の1である。上記法定相続分に従って相続した被告に対する上記損害賠償請求権の金額は,亡Gが2250万円となる。
亡Eの死亡後,亡Gは被告から本件特別補償規程に基づき1125万円の支払を受けているが,上記支払は損害額から控除される。以上に,弁護士費用を計上して,亡Gは,被告に対し,1237万5000円(225
0万円-1125万円+112万5000円)の損害賠償請求権を有するところ,同人は,平成27年5月21日に死亡した。
X10(相続分6分の1)及びX11(相続分6分の1)は,亡Gの姉であり,X12(相続分6分の1)は亡Gの弟であり,X13(相続分18分の1),X14(相続分18分の1),X15(相続分18分の1),
X16(相続分12分の1),X17(相続分12分の1),X18(相続分18分の1),X19(相続分18分の1),X20(相続分18分の1)は,それぞれ,亡Gの甥若しくは姪であるが,これらの者が,相続人として,亡Gの地位を承継した。そのため,X10,X11及びX12は,被告に対し,それぞれ206万2500円,X13,X14,X15,
X18,X19及びX20は,被告に対し,それぞれ68万7500円,X16及びX17は,被告に対し,それぞれ103万1250円の債務不
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履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。
よって,X10,X11及びX12は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各206万2500円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,X13,X14,X15,X18,X19及びX20は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各68万7500円及びこれらに対する上記遅延損害金の支払を求め,X16及びX17は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各103万1250円及びこれらに対する上記遅延損害金の支払を求める。
亡F関係
亡Fの慰謝料額は,上記のとおり,3000万円である。
亡Fは,本件特別補償規程に基づき,被告から特別補償金として1000万円の支払を受けているが,上記支払は損害額から控除される。以上に,弁護士費用を計上して,亡Fは,被告に対して,2200万円(3000
万円-1000万円+200万円)の損害賠償請求権を有するところ,亡Fは,平成29年2月16日に死亡した。
X21(相続分2分の1)は,亡Fの妻であり,X22(相続分2分の1)は,亡Fの子であるが,これらの者が相続人として,亡Fの地位を承継した。そのため,X21及びX22は,被告に対し,それぞれ1100
万円の損害賠償請求権を有する。
よって,X21及びX22は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各1100万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成28年2月11日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

X23関係
X23の慰謝料額は,上記のとおり,3000万円である。

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X23は,本件特別補償規程に基づき,被告から特別補償金として1000万円の支払を受けているが,上記支払は損害額から控除される。以上に,弁護士費用を計上して,X23は,被告に対して,2200万円(3000万円-1000万円+200万円)の損害賠償請求権を有する。よって,X23は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,
2200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年2月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)

慰謝料額について争う。


過失相殺
肺がん発症における喫煙と石綿の関係についての研究によれば,喫煙歴も石綿ばく露歴もない者の発がんリスクを基準にすると,喫煙歴があって石綿ばく露歴がない者では,10.85倍に,喫煙歴がなく石綿ばく露歴がある
者では,5.17倍に,喫煙歴も石綿ばく露歴もある者では,53.24倍になるとされており,喫煙が,石綿ばく露よりもはるかに肺がん発症に影響を与えていることは明らかである。そして,ブリンクマン指数が高くなるほど,肺がん発症率が高くなり,とりわけ,ブリンクマン指数が400を超えると,肺がん発症率が顕著に高くなることから,ブリンクマン指数が400
を超えるものについては5割,400を超えないものについては3割の減額をするのが,損害の公平な分担の見地から相当である。
各人別にみると,亡Aのブリンクマン指数は1060(53年間,1日20本),亡Cのブリンクマン指数は正確に算定することができず,亡Dのブリンクマン指数は500ないし1000(少なくとも50年以上,1日10
本ないし20本),X23のブリンクマン指数は900ないし1350(約45年間,1日20本ないし30本)であるところ,ブリンクマン指数が8
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00を優に上回る亡A及びX23については,肺がんの石綿起因性が否定されるべきであるが,仮に肯定されるとしても,5割の過失相殺がされなければならないし,亡Dについても,ブリンクマン指数が400を上回るので,5割の過失相殺を,亡Cについても,3割の過失相殺をするのが相当である。ウ
各人の損害額について争う。
亡C及び亡Eにかかる損害賠償請求権について消滅時効の成否)に
ついて

消滅時効の完成

(被告の主張)
債務不履行に基づく損害賠償請求権
雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は10年である(民法167条1項)。この10年の消滅時効は,損害賠償請求権を行使することができる時から進行するところ,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成
立し,同時にその権利を行使することが法律上可能になる。
そうすると,亡C及び亡Eについては,客観的に損害が発生したとき,すなわち,遅くとも,亡Cについては死亡日である平成12年4月25日,亡Eについても,死亡日である平成12年1月26日から,時効期間が進行する。本件訴訟(甲事件)提起の時点で,各起算日から10年が経過し
ており,10年の消滅時効が完成していることから,被告は,時効を援用する。
不法行為に基づく損害賠償請求権
不法行為に基づく損害賠償請求権については,損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅するところ,原告らの
うち,亡C及び亡Eの相続人は,亡C及び亡Eが死亡した日に,損害及び加害者を知ったといえる。

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仮に,上記各時点で,加害者を知ったといえないとしても,亡C及び亡Eについて,石綿健康被害救済法に基づく救済給付の各請求を行っており,どんなに遅くとも,上記各請求をした日(亡Cについては平成21年9月15日,亡Eについては平成18年3月20日。)には,加害者を知ったといえる。
したがって,いずれの日から時効が進行したとしても,本件訴訟(甲事件)提起の時点で3年が経過していることから,3年の消滅時効が完成しているので,被告は,時効を援用する。
(原告らの主張)
債務不履行に基づく損害賠償請求権

a
民法166条1項の権利を行使することができる時とは,法律上
の障害がないというだけでなく,権利の性質上その行使が現実に期待できることを要すると解される。すなわち,権利の内容のみならず,その性質,性格や,債権者の認識を具体的に勘案して,現実に権利を行使できることを期待できる状況でなければ,消滅時効は進行しないと解すべ
きである。
b
本件では,亡Eの死亡時には,亡Eないしその相続人である亡Gが,亡Eの被告での具体的な業務内容や職場環境を知らず,当然ながら,被告と亡Eの悪性胸膜中皮腫を結びつけるだけの知識,情報が皆無であっ
た。加えて,被告では,石綿そのものを扱う業務はなく,石綿粉じん発生原因が,石綿が用いられた機器の摩耗や,石綿を含有するタルクの使用によるものであり,被告での業務との関係性に気付かないこともやむを得なかったことや,亡Eには,悪性胸膜中皮腫に罹患するまで,じん肺の症状すら認められなかったことにも照らすと,亡Gが,亡Eが被告
の業務中に,長期間にわたって石綿にばく露していた事実,ひいては,被告の安全配慮義務違反を認識した上で,その損害賠償請求権を実際に
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行使することは,権利の性質上,著しく困難であったというべきである。したがって,亡Gが,被告に対して,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権を現実的に行使できると認められる時期は,亡Eが労災認定を受けた平成18年6月23日であり,本件訴訟(甲事件)提起時点で,10年間の消滅時効は完成していない。

c
亡Cについても,同様であり,X6が,被告に対して,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権を現実的に行使できると認められる時期は,労災認定を受けた平成22年2月9日であるから,訴え提起時点で,10年間の消滅時効は完成していない。

d
したがって,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権について,時効の援用は認められない。
不法行為に基づく損害賠償請求権
石綿による健康被害は,長期にわたる潜伏期間があって因果関係の特定
が難しい。本件でも,亡Cが肺がんで死亡したからといって,遺族であるX6が,ただちに被告が加害者であることを知り,亡Cの死亡が被告の過
失によるものであることを知ったわけではない。また,X6が石綿健康被害救済法に基づく給付請求を行った時点でも,加害者を知りえない。以上のとおりであるから,X6が,加害者を知ったのは,早くとも平成22年2月18日,労災認定の通知を受け,亡Cが被告での業務上の被災により死亡したことを知ったときである。

よって,亡Cの不法行為に基づく損害賠償請求権についても,本件訴訟(甲事件)提起が,消滅時効完成前であるから,時効の援用は認められない。

債務の承認の有無

(原告らの主張)
被告は,退職した従業員のアスベストに起因する業務上の災害に関して定
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めた本件特別補償規程に基づき特別補償金を支払い,原告らの損害を填補している。すなわち,亡Cの遺族であるX6は平成22年4月15日に,亡Eの遺族である亡Gは平成19年12月17日に,それぞれ被告から本件特別補償規程に基づく特別補償金の支払を受けているところ,本件特別補償規程が,被告の本件被用者らに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を前提としていることに照らすと,上記各支払は,法的には,被告が原告らに負っている債務不履行責任に基づく損害賠償債務の一部弁済といえ,そうすると,上記各支払の時点で債務の承認(民法147条3号)があるといえるから,時効の中断が認められる。

本件特別補償規程は,次のとおり,被告の本件被用者らに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を前提としているといえる。すなわち,本件特別補償規程2条には,特別補償の目的として,労災保険法や石綿健康被害救済法による給付とは別に,これら給付金によって填補されない慰謝料その他の損害を填補する目的であると規定されていることや,本件特別補償規程
7条には,被告が特別補償を行った場合は,その価額の限度において,民法による損害賠償の責を免れるものとすると規定されていることからすると,被告の本件被用者らに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任が前提となっていることは明白である。また,本件特別補償規程6条には,本件被用者ら自身に落ち度があり過失相殺が認められる場合や業務起因性や因果関
係が欠けるなど,被告の法的責任の一部が認められないと考えられる場合に,特別補償額を減額する旨規定されており,裏を返せば,特別補償の支払は,被告の本件被用者らに対する法的責任を前提にしていると解され,さらには,減額されずに特別補償金が支払われた場合には,被告の本件被用者らに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償債務を前提としてその債務の履行とし
て特別補償の支払がなされたと評価できる。さらに,本件特別補償規程3条によると,本件被用者らやその遺族に支払われる特別補償の金額が高額であ
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り,かつ,一律ではなく本件被用者らが被った損害の多寡に応じて定められており,被告の本件被用者らに対する法的責任を前提としていることを裏付ける。
(被告の主張)
争う。被告が,亡C及び亡Eの遺族に対し,本件特別補償規程に基づき特別補償金を支払ったことは認めるが,本件特別補償規程に基づく特別補償金の支払は,被告が安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権があることを認め,その弁済として行うものではないから,これをもって,債務を承認した(民法147条3号)ということはできない。

民法147条3号にいう承認とは,時効の利益を受ける当事者が,時効によって権利を失う者に対して,その権利の存在することを知ってする旨を表示することであり,権利が存在することを認識している必要がある。この点,被告は,本件訴訟でも主張しているとおり,亡C及び亡Eにかかる安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権が存在することを否定しており,
このような権利が存在することを認識しているとはいえない。
本件特別補償規程に基づく特別補償の支給要件は,①被告を退職した者であること,②遺族が請求する場合には,本件特別補償規程4条に定める者に該当すること,③行政官庁が,被告の業務における災害と認定することの3つであるところ,本件特別補償規程は,労災保険法や石綿健康被害救済法に
基づく補償では填補されない慰謝料その他の損害を補てんする目的で支給するものであり,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の場合とは要件が異なる。
また,企業内上積み補償と損害賠償との関係については,一般的に,使用者は,上積み補償をなすことによって,その価額の限度で同一事由につき被
災労働者又はその遺族に対して負う損害賠償責任を免れると解されているが,損害賠償債務の一部弁済としてではなく,仮に,裁判において使用者の責任
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が認められた場合に,損益相殺の対象として損害賠償責任を免れるのであって,本件特別補償規程もその旨を規定したにすぎない。また,本件特別補償規程4条の特別補償金の支払の対象が,特別補償を損害賠償債務の一部弁済と解すると全く説明がつかない内容になっていることからも(例えば,死亡した従業員に内妻がいた場合,被告は,本件特別補償規程に基づき内妻に特
別補償金を支払うことができるが,民法887条ないし同法890条に従えば,内妻は損害賠償請求権を相続していないので,特別補償金の支払が一部弁済ということができない。),本件特別補償規程に基づく特別補償金の支払が損害賠償債務の一部弁済ということはできない。

時効援用が権利濫用に当たるか否か

(原告らの主張)
時効制度の機能ないし目的については,主として,長期間継続した事実状態を維持することが法律関係の安定のために必要であること,権利の上に眠っている者は法の保護に値しないこと,あまりにも古い過去の事実について立証することは困難であるから一定期間の経過をもって義務の不存在の主張を許す必要があることと解される。
そして,債務者が消滅時効の援用をした場合においても,その援用が権利の濫用として認められない場合がある。具体的には,時効の援用は,債務者の権利に属するが,権利者が期間内に権利行使をしなかったことについて債
務者の側に責むべき事情があったり,債務発生に至る債務者の行為の内容や結果,債権者と債務者の社会的・経済的地位や能力,その他当該事案における諸般の事実関係に照らして,時効期間の経過を理由に債権を消滅させることが,著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情があり,かつ,援用権を行使させないことによって時効制度の目的に著しく反する事
情がない場合には,時効の援用は,権利の濫用としてこれを許さず,債権の行使を許すべきであるという,いわゆる筑豊じん肺訴訟(福岡高等裁判所平
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成13年7月19日判決,判例タイムズ1077号72頁)の判示が本件にも妥当する。
本件において,X6や亡Gは,ただちに被告を訴えるなどの法的手段はとらずに,情報の開示要求や協議を先行させていたことから,権利の上に眠っていたとはいえないし,これに対して,被告が,亡G及びX23らが結成したひょうごユニオン分会による団体交渉の申入れに対し誠実に対応してこなかったこと,このことにより被告における石綿の使用状況等に関する情報を取得するのが遅れたこと,被告から本件特別補償規程に基づく特別補償金が支払われるなど被告が法的責任ないし社会的責任を認めたものと理解し,今
後も責任を全うする姿勢であるとの合理的期待を抱いたことなどからすると,消滅時効期間の経過を理由に,債権を消滅させることが著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情がある。また,援用権を行使させないことにより,時効制度の目的に著しく反するともいえないことから,被告による時効援用権の行使は,権利の濫用に当たり,許されないというべきで
ある。
(被告の主張)
争う。時効の利益を受ける債務者は,債権者が訴え提起その他の権利行使や時効中断行為に出ることを妨害して,債権者において権利行使や時効中断行為に出ることを事実上困難にしたなど,債権者が期間内に権利を行使しな
かったことについて,債務者に責むべき事情があり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情があるのでない限り,消滅時効を援用することができると解される(名古屋高等裁判所平成28年1月21日判決,裁判所ウェブサイト参照)。
本件では,被告が,亡G及びX6らが訴え提起その他の権利行使や時効中
断行為に出ることを妨害した事実はないから,被告が消滅時効の援用をすることが権利の濫用に当たるとはいえない。

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第3

当裁判所の判断

1
各工場における石綿粉じん飛散状況及び本件被用者らの石綿ばく露状況並びに石綿ばく露と本件被用者らの疾病との間の因果関係)について判断の前提となる事実,証拠(甲A10ないし12,15,19,20,2
4,28,33,34,49,72,73,75,B13,19ないし21,D12,23ないし26,28,F4ないし7,17,G14,H4,I20,乙A1ないし3,12ないし20,22,23,27ないし29,40,50ないし55,C9,10,証人I,証人J,証人K,証人L,証人M,亡F本人,X23本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。ただし,
上記証拠のうち,次の認定に反する部分は採用しない。

神戸工場における石綿粉じん飛散状況
タルクないし石綿の使用状況(概要)
a
タルクの使用状況
神戸工場ではタイヤ製造工程においてタルクが用いられていたところ,昭和60年ころ以前に用いられていたタルクには,石綿(トレモライ
ト・アクチノライト)が不純物として混入していることがあった。b
石綿の使用状況
神戸工場で使用されている電動機は,バンバリーミキサーの電動機を除いて,冷却用のファンが内蔵され熱がこもらないようにモーター内外の空気が通り抜ける構造(開放型)のものが採用されていた。ブレーキ
パッドによる制動方式を取っている電動機については,平成15年ころまでブレーキパッドに石綿が使用されていた。
また,配管やボイラーなどの保温材に石綿が使用されていたが,通常の状態では石綿粉じんの飛散量は多くはない。
混合工程(本館1階)

a
本館1階の混合工程では,自動車用タイヤ等のゴム練り作業が行われ,
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長さ60インチ(約150センチメートル)のロールが2本横方向に並んだ機械で2本のロールが異なった速さで回転することによりゴム・薬品を均一に練り上げる装置である60インチロールや,その長さが80インチ(約200センチメートル)である80インチロールを用いた手作業によるゴム練りも行われていた。60インチロールで練ったゴムは,
ゴルフボールやボウリングのボール,印刷機械に用いるゴムなどに使用されていた。
b
タルク水溶液は,水溶液容器内の量が減った際,従業員が薬品置場に置いてある1袋10キログラム単位のタルク袋から1袋の半分程度のタルク粉末と水を水溶液容器に投入する作業によって作製されていた。タ
ルク粉末と水の配合割合は厳密には決まっていなかったが,チューブのゴムのように原料に油を多く使って粘着しやすいものについては1袋全部のタルクを投入し,その他の場合には1袋の半分くらいの量のタルクが投入されていた。タルク水溶液の作製作業は,混合工程の作業員が8時間に1回くらいの頻度で行っていた。なお,神戸工場は,基本的に2
4時間稼働しており,約8時間のシフト制であった。
タルク粉末を水溶液容器に投入する際には,タルク粉じんが飛散していたが,従業員らはマスク等を着用することなく上記作業を行っていた。水溶液容器には,直接シート化されたゴムを浸すディッピングタンク,タルク水溶液をシャワーのように噴射するためにタルク水溶液を
貯蔵するピットの他,60インチロールでの作業に用いるタンク車が存在したが,いずれについても,タルク水溶液の作製要領に大きな違いはない。
c
シーティングロールでシート化されたゴムは,約100℃の温度を有しているが,タルク水溶液に浸したり,タルク水溶液をシャワー状に噴射したりして,これにタルク水溶液を付着させた後,フェスツーンバー
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にかけて冷却ないし乾燥させる。冷却や乾燥の方法は,ファンで風を当てるほか,自然乾燥させることもあった。フェスツーンバーの付近には集じん装置が設置されていた。
また,60インチロールによるゴム練り作業によって出来上がったゴムシートは,縦約80センチメートル,横約150センチメートルの長
方形の網が五段重ねになっていて各段にゴムシートを1枚ずつ置けるようになっている網車で,冷却ないし乾燥させるが,その方法は,フェスツーンバーによる場合と同様である。
このように,タルク水溶液が付着したゴムを冷却ないし乾燥させることで,ゴムの表面に付着していたタルク水溶液中のタルクが粉末状にな
り発生したタルク粉じんは,集じん機に吸入されるほか,空気中に飛散したり,床の上に落ちたりしていた。
d
本館中2階のバンバリーミキサーの上部が出ている部分では,ゴムの原材料を投下する際に充てん剤として使用されるカーボンブラック粉じんが飛散することがあったが,上記部分の上部には,集じん機が設置さ
れており,一定程度,粉じんの発生を抑える効果があった。
上記部分に出入りするバンバリーミキサーの担当者,電気や機械の補修担当者には,黒手当が支給されていた。
e
上記認定に関し,被告は,①フェスツーンバーにかけられたゴムシートは約100℃の温度を有しているため,これを乾燥させる際にはタルクを含まない大量の水蒸気が上がり,ゴムシート付近は湿潤化しているから,粉じんが飛散するような状況ではないとか,②タルク水溶液には界面活性剤(マーポール)が投入されているので,冷却ないし乾燥を経ても,タルクと界面活性剤が混合した油性の粘着性のある物質が皮膜状
に残存するのみであるから,冷却ないし乾燥の過程でタルク粉じんが飛散することはない旨主張する。しかし,①ゴムシートの冷却ないし乾燥
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の過程で,被告の主張するとおりの状況が生じ得るとしても,常時,ゴムシート付近全体が湿潤化しているとは考え難いし,②本件全証拠によっても,界面活性剤が使用されていたか否かが判然とせず,仮に界面活性剤が使用されていたとしても,それにより,タルク粉じんが飛散しなくなることを的確に裏付ける証拠も提出されていない。むしろ,フェスツーンバーの付近に集じん装置が設置されていた事実は,フェスツーンバーの付近には相当量の粉じんが飛散していたことを推認させ,さらにその粉じんがタルク水溶液に使用されているタルクであると合理的に認められるのであるから,被告の主張は集じん装置が設置されていたこと
とも整合しないというべきである。したがって,ゴムシートの冷却ないし乾燥の過程でタルク粉じんが飛散することはないとの被告の主張は採用できない。
一方原告らは,タイヤ用ゴムの原材料にタルクが使用されていたことを前提に,混合工程においては,①ゴムの配合剤として使用されていた
タルク粉じんや,②ホワイトレター又はホワイトサイドウォールを作るためのゴムに使用されていたタルク粉じんが飛散していたと主張する。しかし,タイヤの原材料として使用されるのは,原料ゴム,架橋剤,加硫促進剤,促進助剤,老化防止剤,補強剤,充てん剤,軟化剤,着色剤などであるところ,文献上(甲A10),これらの主な配合剤の例の中
にタルクが挙げられていないことの他,タルクは粘着防止のために離型剤として用いられるもので,配合剤として用いるとゴムの強度を低下させると推認できること,神戸工場については昭和38年から平成2年まで,泉大津工場については昭和44年から現在までの被告における配合標準,配合指令等の資料を調査した結果が記載されている報告書(乙A
12)にも,タイヤの原材料としてタルクが使用されている旨の資料が一切ないとされていることも踏まえれば,ゴムの配合剤にタルクが使用
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されていたと認めるに足りない。また,ホワイトレター又はホワイトサイドウォールを作るためのゴムについても,配合表(乙A50・昭和55年)にタルクが使用されている旨の記載がないことに照らせば,タルクが使用されていたと認めるには足りない。なお,原告らは,昭和24年5月に作成された労働衛生実態調査報告『ゴム工業に発生する職業特に塵肺について』と題する報告書(甲A72,以下昭和24年調査報告書という。)に,神戸工場のゴム練りにおいて配合される主な薬品は,硫黄,亜鉛華,ステアリン酸,チョーク,カタルポ,炭酸カルシウム,促進剤とされており,チョークについては

Talcum(俗にチョークという。)

との補足説明がされているから,昭和24年調査報告書はゴムの配合剤としてタルクが使用されていたことを裏付けると主張するが,昭和24年調査報告書には,じん肺発生の原因は生ゴムに配給せられる薬品顔料などの飛散,あるいはゴムの粘着を防止する為に用いられるTalcum(俗にチョークと呼ばれている)及び白碧華(カタルポ)のSiO₂を含む微細な粒子が使用の場所で大気中へ多量に飛散せられて漂っているためであることは現場を見れば瞭然とするところである(105頁)

ゴム練りにおける発塵は…混合せられた薬品顔料を生ゴムに投入する時に起こる。その他の職場における発塵はゴムの粘着防止のチョークふりかけ,あるいはそのチョークが飛散するために起こるのであって

(106頁)と記載されており,ゴムの配合剤とゴムの粘着防止のためのチョークとは区別されているものと解され,本件全証拠に昭和24年調査報告書の内容を併せ考えても,ゴムの配合剤としてタルクが使用されていたと認めるには足りないというべきである。

押出工程(本館1階及び本館2階)
押出工程に関して,石綿粉じんないしタルク粉じんの飛散の原因となる
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べき状況は存在しなかった。
トッピング工程(本館1階)
トッピングカレンダーの電動機のブレーキパッドは,石綿を含有している。もっとも,ブレーキパッドは耐摩耗性がある上に,トッピング工程では,一旦作業を開始した後に途中で機械を止めたり速度を変えたりすると,ゴムにストップマークという跡ができ,その部分はタイヤ製品にすることができなくなってしまうので,最初に速度を調整した後は基本的にスピードを一定に保っており,頻繁にブレーキを用いることがなかったことから,ブレーキパッドが摩耗したことにより,石綿粉じんが外部に飛散すること
があったとしても飛散量としてはきわめて僅かなものであった。
裁断工程(本館2階)
裁断機のブレーキライニング(ブレーキパッド)は,石綿を含有している。もっとも,ブレーキライニングは耐摩耗性がある上,裁断工程で用いられる裁断機は,一定の長さに来たときにタイミングベルトでコンベアを
止めコードを切断するもので,頻繁にブレーキが用いられるような作業ではないことから,裁断機のブレーキライニングが摩耗したことにより,石綿粉じんが外部に飛散することがあったとしても飛散量としてはきわめて僅かなものであった。
ビード工程
ビード工程では,ビードワイヤーを巻き取るに際して電動機が用いられ
ており,この電動機のブレーキパッドは石綿を含有している。もっとも,ブレーキパッドは耐摩耗性があることから,電動機のブレーキパッドが摩耗したことにより,石綿粉じんが外部に飛散することがあったとしても飛散量としては僅かなものであった。
成形工程(本館2階)

a
ポケット成形

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ホットナイフボックスの断熱材には石綿が使用されていた。少なくとも,昭和40年代ないしそれ以前のホットナイフボックスは,四角形の鉄製の箱で,石膏ボード状に固められた四角形のアスベストボード(断熱材)が箱の内部を囲み,電熱線のある内部にホットナイフを
差し込む形状のものであり,外から赤く見えるほど高温になっていた。また,それ以降のホットナイフボックスの構造は,金属製の箱にホットナイフの差し込み口があり,箱の内部には,ホットナイフを加熱するための電熱線及びその配線が組み付けられ,配線を覆うようにして断熱材が配置されていた。

ホットナイフボックスについては,いずれの構造にしても,ホットナイフを抜き差しする際に,ホットナイフと断熱材が触れるものではないが,断熱材として使用されていた石綿が劣化し,石綿粉じんが飛散しうる状態にあり,少なくとも昭和40年代ないしそれ以前のホットナイフボックスの方が,断熱材が露出している分,石綿粉じんが飛
散しやすい状態にあった。
ポケット成形機は,モーターの外側の回転体を挟む形でブレーキパッドが付いており,ポケット成形機のブレーキパッドには,石綿が使用されていた。また,ポケット成形機のフォーマーを回転させるモーターに付いているブレーキパッドにも,石綿が使用されていた。

もっとも,ブレーキパッドには耐摩耗性があることから,これらのブレーキパッドが摩耗したことにより石綿粉じんが外部に飛散することがあったとしても,飛散量としてはきわめて僅かなものであった。ポケット貼り作業において,プライ同士を接着しやすくするために,石油製品であるナフサを使用することがあった。空気が乾燥している
冬場にナフサを使用した場合,頻度は高くないもののナフサが発火することがあり,消火のために,大きさが約1平方メートルで麻袋のよ
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うに太い繊維状の石綿を碁盤目に織り合わせたアスベストシートを使用していた。アスベストシートは,二十数台あるポケット成形機2台につき1枚の割合で備え置かれていた。
アスベストシートによる消火や,据え置かれたアスベストシートの劣化により,石綿粉じんが飛散しうる状況にあった。
ポケット貼り作業では,成形済みのポケットをくし車等で一時保管する際,ポケットの自重でポケットがたわみ,ポケットの内側同士が接着するのを防止するために,粘着防止剤として,チョークが使用されていた。具体的には,チョーク棒の先に巻き付けられたガーゼ部分
をチョークの入った容器の中に入れてチョークをガーゼにまぶし,1番ポケットを回しながら,チョーク棒でポケットの内側表面にチョークを塗り,1番ポケットを作った後は,ポケット成形機のロールを内側に動かしてポケットの張りを緩ませ,ポケットをポケット成形機から取り出すというものであった。チョークの成分は,ステアリン酸又
はステアリン酸亜鉛と考えられ,そのためチョーク粉末が飛散する状況はあり得ても,タルク粉じんが飛散することはなかった。
この点につき原告らは,1番ポケットの内側に塗布していたチョークの成分はタルクであると主張し,これに沿う証拠として昭和24年調査報告書などを提出する。しかし,昭和24年調査報告書の記載か
らは,ゴムの粘着防止のためにチョークが用いられていたと認められるものの,それが成形工程において1番ポケットの内側に塗布されていたとまでは読み取れない。また,証拠(乙A14,証人M,証人J)及び弁論の全趣旨によれば,タルクの融点は900℃であり,加硫工程を経てもゴム接合面に残存し続けるのに対し,ステアリン酸の融点
は70℃,ステアリン酸亜鉛の融点は140℃であるから,ステアリン酸及びステアリン酸亜鉛は加硫工程で融解すること,神戸工場では,
100/155

様々な種類の白い粉をすべてチョークと呼んでおり,チョークと呼ばれていた物質がタルクであるとは言い切れないことが認められる。原告らは,チョークが1番ポケットの内側にのみ塗布されていたことを前提として,チョークの成分がタルクであると主張し,証人Iは,チョークを塗るポケットは1番ポケットだけであると証言する(調書6
頁)が,そもそもポケット貼り作業でチョークが用いられていたのは,成形済みのポケットをくし車等で一時保管する際,ポケットの自重でポケットがたわみ,ポケットの内側同士が接着するのを防止するためであり,そのような防止策を講じる必要があるのは2番ポケットも同様であって,1番ポケットに限られないし,逆に1番ポケットの内側
であっても,証拠(証人M,証人L)及び弁論の全趣旨によれば,次の工程であるドラムによる成形作業においては,1番ポケットの端を折り返して2番ポケットなどと接着することが認められ,折り返し部分の接着を強く阻害する物質を1番ポケットの内側に塗布するとも考えにくい。以上を併せ考えると,チョークの成分がタルクであるとの
原告らの主張は採用できない。
b
タイヤ成形
タイヤ成形機は,モーターの外側の回転体を挟む形でブレーキパッドが付いており,タイヤ成形機のブレーキパッドには石綿が使用されてい
た。またタイヤ成形機のフォーマーを回転させるモーターにブレーキパッドが付いており,そのブレーキパッドにも石綿が使用されていた。もっとも,ブレーキパッドは耐摩耗性があることから,これらのブレーキパッドが摩耗したことにより,石綿粉じんが生じたとしても,その量は僅かであるとみられるし,また,ブレーキがカバーで覆われている
場合には,石綿粉じんが外部に飛散する可能性があるのは,ブレーキパッドの交換や修理等でカバーを外す必要が生じた場合に限られる。
101/155

加硫工程(本館1階,本館2階及び本館3階)
a
インサイドペイント
加硫工程では,タルクが含まれる溶液であるインサイドペイントを生カバーの内側に塗布するが,この作業は,当初刷毛を用いた手作業
で行われていた。その後,スプレーガンという機械を用いるようになったが,自動化されるまでは,手作業で,生カバーの内側にインサイドペイントを噴霧していた。インサイドペイントを噴霧する際には,外部と完全に遮蔽する仕切りがなかったので,インサイドペイントが,作業している作業員や機械に飛び散ることがあった。飛び散ったイン
サイドペイントは乾燥するが,作業員に付いたものは自身ではたき落とし,機械に付いたものについてはワイヤーブラシでこすり落とすなどしていた。その後,インサイドペイントの噴霧は自動化され,外部とも完全に遮蔽されるようになった。
バゴマ・プレスによる加硫が終わると,加硫機の中に,インサイド
ペイントが剥離して残存することがあった。インサイドペイントが金型に残ったまま次のタイヤの加硫をすると,インサイドペイントがタイヤの側面に残って不良製品になるので,金型に残ったスピューやインサイドペイントを除去するために,加硫の都度,作業員がエアブローの作業をしていた。もっとも,インサイドペイントの剥離,残存は
毎回生じるわけではない。その後,金型のエアブローは,加硫の都度,機械により自動でされるようになったが,自動のエアブローでは取り除けないサイズのインサイドペイントが残ったときには,手動でエアブローが行われていた。
なお,加硫機は,約50台以上設置されていた。

仕上げ検査の段階でスピューを除去する際には,タイヤを回転するローラーの上に載せて,厚手の皮手袋を装着した一方の手でタイヤの
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外側と内側を支えて,スピューをカットするための道具を持つ他方の手で作業するが,回転するタイヤとタイヤを支える指が触れることで,乾燥したインサイドペイントが剥離していた。
このように,乾燥したインサイドペイントからタルク粉じんが発生の各作業により,タルク粉じんが飛散しうる状況

にあった。
b
加硫機は,その上蓋が保温材に覆われており,保温材には石綿が使用されていた。また,加硫機の配管にもアスベストリボンテープが使用されていた。
これら保温材に使用されていた使用されていた石綿が劣化し,石綿粉
じんが飛散しうる状態にあった。
c
加硫機プレスの電動機には,モーターの外側の回転体を挟む形でブレーキパッドが付いており,石綿が使用されている。ブレーキの効きが悪いときには,時々,モーターのカバーを外してエアブローすることがあ
った。
もっとも,ブレーキパッドは耐摩耗性があり,エアブローの頻度も多くはないことから,石綿粉じんが発生し,飛散したとしても,その量としては僅かなものである。
その他

原告らは,本館は,タルクないし石綿粉じんが蔓延していたいわゆる粉じん職場であり,このことは,昭和24年調査報告書及び昭和45年7月11日付け神戸工場安全衛生課長作成のじん肺に関する報告と題する書面(乙A40)などによって裏付けられていると主張する。しかし,昭和24年調査報告書で粉じんの発生根拠として指摘されてい
るのはゴム練り作業における原材料の投入時やゴム粘着防止のためのチョークのふりかけであるところ,これらの作業にタルクが用いられ
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ていたとは認められない。また,上記じん肺に関する報告と題する書面についても同様であり,粉じん職場一覧表に挙げられている職場が,タルク粉じん職場であることを裏付ける証拠はない。
そうすると,これらは,本館内に粉じんが発生していたことを裏付ける根拠にはなり得ても,粉じんの中にタルクないし石綿が含まれていたこと
を裏付ける根拠にはなり得ないというべきであり,原告らの主張は,本館内に,粉じんが発生していたという限度で採用できるにとどまる。イ
泉大津工場における石綿粉じん飛散状況
泉大津工場における各工程の内容やそこでの作業内容は,神戸工場とおおむね同様であるから,タルクないし石綿粉じんの飛散状況も神戸工場に準じ
るものといえる。
なお,泉大津工場における仕上げ工程では,検査部門で一部を修理すれば使えると判断されたタイヤのうちへこみがあるものについて,仕上げ部門において,修理ゴムと呼ばれるゴムを詰めて熱板で加硫をして修理をするが,その際,修理箇所と熱板とが接着するのを防止するために,タイヤにタルク
粉末をふりかけていた。泉大津工場で主に仕上げ工程に従事し,肺がんで死亡した被災者について,肺組織からタルクと石綿(アクチノライト)が検出されたという例もあった。
判断の前提となる事実及び上記認定事実に基づき,本件被用者らの石綿ばく露状況を検討する。

亡Aの石綿ばく露状況
亡Aは,神戸工場本館2階で,昭和25年7月24日から昭和45年3月22日までの間と昭和48年5月21日から昭和54年8月19日までの間,タイヤ成形作業に従事していた。

のとおり,亡Aが従事していたタイヤ成形作業においては,タ
イヤ成形機のモーターのブレーキパッドに使用されている石綿が飛散し得る
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状況にあったと認められるから,亡Aが,これら石綿粉じんを吸引し,石綿にばく露した可能性自体は否定できない。

亡Cの石綿ばく露状況
亡Cは,神戸工場本館2階で,昭和23年7月25日から昭和56年4月5日までの間,ゴム練りロール作業に従事していた。

証拠(甲A73,証人J)によれば,亡Cは,60インチロールのゴム練り作業を担当し,タルク水溶液の作製も日常的に行っていたことが認められる。そうすると,上記

のとおり,亡Cの作業現場では,タルク水溶液

の作製に際し袋に入っているタルク粉末をタンク車に投入するときにタルク粉じんが飛散したり,タルク水溶液が付着したゴムシートを網車で冷却ない
し乾燥させる過程で生じたタルク粉じんが飛散していたりしていることから,亡Cは,これらタルク粉じんを吸入し,タルクに不純物として含まれる石綿にばく露したと認められる。

亡Dの石綿ばく露状況
亡Dは,神戸工場で,昭和20年11月20日から昭和59年10月31日までの間,電気設備保守業務に従事していた。
証拠(甲F17,亡F本人)によれば,亡Dは,ボイラー,混合工程,成形工程,加硫工程,仕上げ検査などにおける電気設備一切の保守業務に従事していたところ,電動機の保守点検作業の内容は,スリップリングやメタリ
ックカーボンブラシの摩耗の有無程度,回転子の中心軸のずれの有無程度,塵埃の有無程度などを点検することなどであり,塵埃がたまっている場合には,電動機の性質などに応じて,機械を動かしていないタイミングで,エアブローや掃除機による吸引をして電動機内を清掃すること,作業員は,エアブローの際,飛散する粉じんが多いので,ガーゼマスクを着用し,その上か
らタオルを巻くなどしていたが,暑い季節には,マスクを着用しないことがあったことが認められる。

105/155

そうすると,亡Dについては,

のとおり,ブレーキラ

イニング方式が採用されているモーターのブレーキパッドに使用されている石綿が摩耗により粉じんとなり得ること,開放型の電動機に各工程で生じたタルクないし石綿粉じんが溜まっていた可能性を否定することまではできないことから,電動機内をエアブローした際に飛散したタルクないし石綿粉じ
んを吸入し,タルクに不純物として含まれる石綿ないし石綿にばく露した可能性は否定できない。

亡Eの石綿ばく露状況
亡Eは,神戸工場で,昭和20年4月から昭和42年ころまでの間はタイ
ヤ成形作業に,昭和42年ころから昭和53年ころまでの間はポケット貼り作業に,それぞれ従事していた。
のとおり,タイヤ成形作業においては,タイヤ成形機のモータ
ーのブレーキパッドに使用されている石綿が飛散し得る状況にあり,ポケット貼り作業においては,ホットナイフボックスの保温材として使用されてい
る石綿や,ナフサが発火した時に用いられるアスベストシートに使用されている石綿,あるいはタイヤ成形機のモーターのブレーキパッドに使用されている石綿が飛散し得る状況にあったことから,亡Eは,これら石綿粉じんを吸入し,石綿にばく露した可能性がある。
加えて,証拠(甲G13,61)によれば,亡Eは悪性胸膜中皮腫を発症
し,これを原因として死亡していると認められるのであり,中皮腫は石綿ばく露を原因とする特異的疾患で,日本では他の原因が極めて稀であることからしても,亡Eは石綿にばく露したと認
められる。
そして,本件全証拠によっても,亡Eが,神戸工場の他に,石綿にばく露
する機会があったと認めることはできず,上記のとおり,神戸工場内でのばく露の可能性があることを併せ考えれば,亡Eの中皮腫は,神戸工場におけ
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る石綿ばく露が原因であると合理的に推認できるというべきである。オ
亡Fの石綿ばく露状況
亡Fは,昭和36年6月1日に被告に採用され,神戸工場で,同日から昭和39年2月9日までの間と同年8月10日から昭和49年5月19日まで
の間は技術員として,昭和55年7月15日から昭和62年4月12日までの間は課長代理として,電気ないし動力関係の職務に従事していた。証拠(甲H4,亡F本人)及び弁論の全趣旨によれば,亡Fの事務机は工務部2階にあったが,実際に事務机で作業するのは全体の3割程度で,残りは本館などの工場内を行き来していたこと,亡Fは,技術・設計に従事する
スタッフ部門の一員として業務に従事し,電気関係の仕事として,設計,保守点検,電力使用の許認可に関する官公庁との折衝や申請手続などを行い,動力関係の仕事として,薬品自動計測機の設置・試運転と保守管理,ボイラーや加硫機などの保守管理に関する仕事,配管の保温材の要否の判断,集じん機の点検などを行っていたこと,電力関係の仕事に関して,電動機の点検
ないし調査をするにあたり,電動機の部品交換や清掃は亡Dら保守点検作業を行う現業部門が担当する仕事であり,亡Fの仕事ではなかったものの,日常的に電動機の部品交換や清掃作業に立ち会っていたことが認められる。そうすると,亡Fは,電動機のエアブローに立ち会った際に,ブレーキパッドに使用されている石綿が摩耗して発生した石綿粉じん,あるいは,開放
型の電動機に入り込んだ各工程で生じたタルクないし石綿粉じんを吸入してタルクに不純物として含まれる石綿ないし石綿にばく露した可能性がある。また,証拠(甲H4,亡F本人)によれば,亡Fは,動力関係の仕事について,週に1回のペースで,保温材の交換の要否を目視と触診によって確認し,カバーがされており外部に露出していない石綿保温材についてもカバー
を外して確認していたこと,さらに自身で直せるほどの小さなほころびであれば,アスベストテープなどを貼って補修していたこと,集じん装置の点検
107/155

作業で,本館1階のフェスツーンバーの集じん装置などの布製のバグフィルターの汚れを定期的に目視し,汚れの程度によって自身でバグフィルターの汚れを叩いて落とすかバグフィルターの交換が必要であるかを判断していたことが認められる。
そうすると,亡Fは,保温材に使用されている石綿を直接取り扱っており,
上記

のとおり,フェスツーンバーでの冷却乾燥の過程においてタルク

粉じんが多量に飛散する状況にあり,集じん装置のバグフィルターにも多量のタルク粉じんが付着していたと合理的に推認できるから,これらの作業中に,タルクないし石綿粉じんを吸入し,タルクに不純物として含まれる石綿ないし石綿にばく露したといえる。

なお,原告らは,亡Fが,バンバリーミキサーに投入する薬品自動計測機の設置や試運転の業務を担当した際に,タルク粉じんを吸入したと主張するが,自動車用タイヤの原材料にタルクが使われていたと認めるに足りないことは上記

eのとおりであるから,採用できない。

X23の石綿ばく露状況
X23は,神戸工場において,昭和33年1月6日から昭和51年8月31日までの間は材料班の業務に従事し,同年9月1日から昭和63年2月1日までの間はBOM班に所属し加硫工程の業務に従事していた。なお,X23は,昭和48年から加硫工程の業務に従事していた旨陳述ないし供述する
が,これを裏付ける的確な証拠はないため,採用できない。
証拠(甲I20,X23本人)によれば,X23は,材料班では,ポケット成形に必要なプライロールを用意する業務に従事していたと認められる。成形工程においては,ホットナイフボックスの保温材
として使用されている石綿,ナフサが発火した時に用いられるアスベストシ
ートに使用されている石綿や,タイヤ成形機のモーターのブレーキパッドに使用されている石綿が飛散し得る状況にあったから,X23が,材料班にお
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ける業務によって石綿にばく露した可能性は否定できない。
また,

加硫工程では,インサイドペイントが乾燥す

るなどして,タルク粉じんが飛散しており,また,加硫機の保温材やブレーキライニングに用いられていた石綿が粉じんとなって飛散していた可能性があるから,X23は,加硫工程の業務に従事していた際にも,タルク粉じん
に不純物として含まれる石綿ないし石綿粉じんを吸入し,石綿にばく露した可能性がある。

亡Bの石綿ばく露状況
亡Bは,泉大津工場において,昭和27年6月7日の入社から昭和57年
1月までの間はタイヤ成形作業等に従事し,同月から平成元年1月までの間は管理職としての職務に従事していた。
証拠(甲D4,23,26,証人K)によれば,亡Bは,入社直後の数か月間,成形後の生タイヤの内側にインサイドペイントを刷毛で塗る作業を行っていたこと,インサイドペイントの作製のため,原料となるタルクを袋か
らインサイドペイントを作製する缶に投入するときにタルク粉じんが飛散していたことが認められる。このように,亡Bは,タルクに不純物として含まれる石綿を吸入し,石綿にばく露した可能性がある。
また,証拠(甲D4,23)によれば,泉大津工場においては,亡Bが昭和56年に管理職となった後,5S運動(整理,整頓,清潔,清掃,しつけ)
が行われ,管理職も率先して工場内の清掃を行っていたことが認められる。このように,亡Bは,泉大津工場内に飛散していたタルクないし石綿粉じんを吸入し,タルクに不純物として含まれる石綿ないし石綿にばく露した可能性がある。
加えて,証拠(甲D9,19)及び弁論の全趣旨によれば,亡Bは,胸膜
中皮腫を発症し,これが原因で死亡していると認められるところ,中皮腫は石綿ばく露を原因とする特異的疾患で,日本では他の原因が極めてまれであ
109/155

ることから

,亡Bは石綿にばく露したと認

められ,このことも,亡Bが泉大津工場で石綿にばく露したことを推認させる。
これに対し,被告は,亡Bが自宅付近にある日本タルク株式会社大阪工場及び大阪製鎖造機株式会社本社工場からの環境ばく露若しくは泉大津工場の
前の勤務先である東洋製綱株式会社で石綿にばく露した可能性があると主張するが,いずれも亡Bの自宅と隣接もしていないし通勤経路にもないこと(X3)からすると,これらは抽象的な可能性にとどまり,上記認定を覆すに足りないというべきであり,被告の主張は採用できない。
本件被用者らの疾病と石綿ばく露との間の因果関係


判断の前提となる事実,証拠(甲B17,F18,乙C1ないし8,15ないし25)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。肺がんに関する医学的知見
a
平成18年報告書(乙C4)では,要旨,次のとおり報告されている。肺がんの原因は,石綿以外にも多くあるが,石綿以外の原因による肺
がんを医学的に区別できない以上,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合をもって,石綿に起因するものとみなすことが妥当であり,ヘルシンキ基準における石綿繊維25本/ml×年は,発症リスクを2倍にするばく露量としては妥当と考える。
25本/ml×年に相当する指標としては,胸膜プラーク画像所見等,
肺内石綿繊維数,石綿肺所見,石綿ばく露作業従事期間があり,それぞれ,次のように考えられる。


胸膜プラーク画像所見等を指標とする考え方
胸膜プラークは,ばく露開始から年数が経過することによって発生
し,低濃度のばく露でも発生することがある。胸膜プラークがあることだけをもって肺がん発症リスクが2倍になる石綿ばく露があったと
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はいえない。
ただし,胸部エックス線写真又はCT画像で明らかな胸膜プラークがある場合で,胸部エックス線写真で1/0以上(じん肺法上の第1型以上)相当の所見があって,かつ,CT画像で肺の線維化所見が認められるものについては,肺がんの発症リスクが2倍以上になるとい
える。


肺内石綿繊維数を指標とする考え方
ヘルシンキ基準では,肺がんの発症リスクを2倍にする25本/ml×年に相当するものとして,以下の知見を示しているところ,ⓑについては,乾燥肺重量1g当たりの石綿小体が5000~1万500
0本と幅のある値であるが,当検討会としては,最少本数を採用し,乾燥肺重量1g当たりの石綿小体5000本とするのが妥当と考える。また,気管支肺胞洗浄液中の石綿小体数についても,海外での知見を考慮すると,気管支肺胞洗浄液1ml中の石綿小体5本以上が妥当である。



乾燥肺重量1g当たりの石綿繊維200万本(5μm超)又は
500万本(2μm超)



乾燥肺重量1g当たりの石綿小体5000~1万5000本
(ただし,乾燥肺重量1g当たりの石綿小体数が1万本以下の時
にはⓐによる確認が推奨される。)




気管支肺胞洗浄液1ml中の石綿小体5~15本

石綿肺所見を指標とする考え方
石綿ばく露作業従事歴のある者の石綿肺(じん肺法上の第1型以上)は,肺がんリスクを2倍以上に高める所見であると判断して差し支えない。



石綿ばく露作業従事期間を指標とする考え方

111/155

本/ml×年を単位とする石綿累積ばく露量を算定するには,ばく露濃度とそのばく露期間の情報が必要である。ドイツにおいては,1972年から1991年の間,ドイツ災害保険研究所が,業種別,職業別,作業別の石綿ばく露データ約2万7000を収集し,これにより,労災請求者の累積ばく露量を求め,認定しているところ,日本に
おいては,昭和50年の特定化学物質等障害予防規則改正により作業環境濃度の測定結果の保存義務が30年に延長される以前のデータはないものと思われるから,職業別等のばく露濃度の程度を数値化することはできない。
ヘルシンキ基準では,肺がんの発症リスクを2倍にする25本/m
l×年程度の累積ばく露量となるためには,高濃度ばく露1年,中濃度ばく露5年ないし10年であるとされ,フランスでは,アスベスト製造業,絶縁材作業,石綿除去作業,建築・造船業に10年以上従事したこと,フィンランドでは,高濃度ばく露作業に1年以上,中等度ばく露作業に10年以上従事したこと,ベルギーでは,石綿作業に1
0年以上従事したことを石綿肺がんの認定要件としている。
このような諸外国の状況を踏まえ,現行労災認定基準(平成15年基準)で示されている原則としておおむね10年以上のばく露期間をもって肺がんの発症リスクを2倍に高める指標とみなすことは妥当である。もちろん,石綿ばく露作業従事期間だけを判断指標とすること
は,石綿作業の内容,頻度,程度によっては,必ずしも25本/ml×年を満たすとは限らないことから,胸膜プラーク等の医学的所見を併せて評価することが必要である。
b
平成24年報告書(乙C5)では,要旨,次のとおり報告されている。平成18年報告書において採用された肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合に石綿に起因するものとみなす考え方,
112/155

石綿繊維25本/ml×年を発症リスクが2倍になる累積ばく露量とみなす考え方は,それぞれ妥当と考える。


石綿肺所見の指標
平成18年基準において採用された石綿ばく露作業従事歴のある者の石綿肺(じん肺法上の第1型以上)は,肺がん発症リスクを2倍以
上に高める所見であるとする考え方は,今後においても維持するのが妥当である。


胸膜プラーク所見の指標
研究報告を検証したところ,平成23年の廣島,由佐らが行った胸
膜プラークと石綿小体濃度の関係についての症例研究では,胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められた事例(161例中32例)については,その87パーセントが石綿小体数5000本以上であったと報告している。また,左右いずれか一側の胸部CT画像上,胸膜プラークが最も広範囲に描出された
スライスで,胸膜プラークの範囲が胸壁内側の1/4以上の事例(168例中55例)については,その73パーセントが石綿小体数5000本以上であったと報告している。また,平成21年,Parisらは,過去に石綿ばく露作業に従事した者5545人を対象に,HRCTで胸膜プラークを調べた結果,胸膜プラーク有所見率とばく露開
始からの期間及び胸膜プラーク有所見率と石綿累積ばく露量との間にそれぞれ個別に相関関係が認められたと報告している。
これらの結果は,画像上の胸膜プラークの所見やその範囲と石綿ばく露量との間の相関関係の存在を示しているから,以下のⓐ又はⓑの要件を満たすものは,肺がん発症リスクが2倍になる石綿ばく露があ
ったものとみなして差し支えない。なお,労災補償の対象とするためには,労働者としての石綿ばく露作業従事歴が1年以上あるとの要件
113/155

を付加すべきである。


胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らか
な陰影が認められ,かつ,CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの(胸膜プラークと判断できる明らかな陰影と)。



両側又は片側の横隔膜に,太い線状又は斑状の石灰化陰影が認
められ,肋横角の消失を伴わないこと
両側側胸壁の第6ないし10肋骨内側に,石灰化又は非石灰化,
非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ,肋横角の消失を伴わ
ないこと



胸部CT画像で胸膜プラークを認め,左右いずれか一側の胸部C
T画像上,胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで,その広がりが胸壁内側の1/4以上のもの。


肺内石綿繊維数等の指標(省略)



石綿ばく露作業従事期間の指標
平成18年報告書では石綿ばく露作業従事期間のみの基準の設定が見送られたが,平成18年2月9日から平成22年11月30日までに決定した石綿による肺がんの全事案3030件のデータを収集・分析し,石綿ばく露作業従事期間のみで肺がん発症リスク2倍となる基
準が設定できるかを検討した。労働者が従事していた作業の種類ごとに分類の上,各事例の石綿小体数が5000本に到達する期間を推定して比較したところ,石綿糸,石綿布等の石綿紡織製品製造作業の従事者9例のうち8例が5000本到達期間4.13年以下,石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート,石綿高圧管,石綿円筒等のセメント製品の製造工程における作業の従事者6例のうち5例が5000本到達期間3.44年以下,石綿の吹付け114/155作業の従事者9例すべてが5000本到達期間7.34年以下であり,そのうち8例は3.13年以下という結果が得られたが,これ以外の作業の従事者については,石綿小体数が5000本以上に到達する期間に大きな差が認められ,作業内容や従事頻度により累積ばく露量が大きく異なることが改めて示唆されており,石綿ばく露作業従事
期間によって累積ばく露量を推定することは,現在までに日本で得られた知見からは適当ではない。


胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年の指標
平成18年基準は,昭和53年から続く運用と平成18年報告書の
内容を踏まえて,医学的所見と石綿ばく露作業従事期間を組み合わせて労災認定基準として設けられている。
労災認定基準としての妥当性を検証するため,平成18年2月9日から平成22年11月30日までに決定した石綿による肺がんの全事案3030件のうち,胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上の要件を満たし,かつ,石綿小体数が明らかになっている130件を分析したところ,石綿小体数5000本以上のものが94件(72.3パーセント),5000本未満のものが36件(27.7パーセント)という結果が得られ,この要件は,概ね肺がんのリスクを2倍に高める累積石綿ばく露量の指標として現時点では一定の評価
ができるものと考える。
なお,胸膜プラーク+石綿ばく露作業従事期間10年以上の要
件における胸膜プラークの所見は胸部CT等の画像では確認されないが,手術時等に肉眼で確認されたものも含むとされているところ,上記廣島,由佐の報告では,左右いずれか一側の胸部CT画像上,胸膜
プラークが最も広範囲に描出されたスライスで,胸膜プラークの範囲が胸壁内側の1/4以上のものについては,ほとんどの例で石綿小体
115/155

が1000本/g(乾燥肺重量)以上,中央値は5626本/g(乾燥肺重量)であったのに対し,肉眼的に胸膜プラークが確認された61例のうち25例では胸部CT画像で胸膜プラークを検出できず,それらの石綿小体の中央値は612本/g(乾燥肺重量)であったことから,今後,肉眼的にしか見えない胸膜プラークと画像で認められる
胸膜プラークを同一に扱うべきかどうかについてもさらに検討する必要があると考える。
c
喫煙との関係について
がんは,日本における死因の第1位であり,肺がんは,平成25年に
おいて,がんの中でも,男性の死亡数1位,女性の死亡数2位,男女計の死亡数1位の疾患である。
喫煙は,肺がんの重要な危険因子とされており,現在,喫煙と肺がんの因果関係は多くの疫学的研究及び実験的研究でほぼ確立されており,種々の疫学調査において,喫煙量と肺がん死亡率との間に,用量-反応
関係がみられ,1日喫煙本数が多いほど,喫煙期間が長いほど,ブリンクマン指数が高いほど,肺がん死亡リスクが高いことが明らかになっている。ブリンクマン指数は1日の喫煙本数×喫煙年数によって求められるが,ブリンクマン指数が400を超えると肺がんの発生危険度が確実に上昇することが明らかになっている。なお,日本人における全肺
がんに占める喫煙起因の肺がんは,男性で69.2パーセントという報告もある。
また,肺がん発症における喫煙と石綿の関係は,相加的よりも相乗的に作用すると考えられており,喫煙歴も石綿ばく露歴もない人の発がんリスクを1とすると,喫煙歴があって石綿ばく露歴がない人では10.
85倍,喫煙歴がなく石綿ばく露歴がある人では5.17倍,喫煙歴も石綿ばく露歴もある人は53.24倍になるという研究報告もある。
116/155

石綿肺に関する医学的知見
a
石綿健康被害救済法が施行されてから,中央環境審議会石綿健康被害判定小委員会において,指定疾病について医学的判定のための審議を行っているところ,平成26年6月24日付け医学的判定に係る資料に関
する留意事項(乙C25)として,石綿肺に関して,要旨,次のとおり記載されている。
石綿肺は,石綿を大量に吸入することによって発生するびまん性間質性肺炎・肺線維症である。石綿肺に特徴的な放射線画像所見は報告されているものの,通常,石綿以外の原因によるびまん性間質性肺炎・肺線維症の可能性がないと診断できる特異的な所見はないとされており,臨床像や放射線画像所見から石綿肺を疑う場合であっても,石綿以外の原因による又は原因不明のびまん性間質性肺炎・肺線維症等との鑑別に十分留意し,また,大量の石綿へのばく露歴があることを確認することが極めて重要である。



画像所見
一般に石綿肺の胸部単純エックス線所見は,下肺野優位の線状影,網状影(以下,これらを不整形陰影という。)を呈するが,胸部
の所見をより適確に把握するためには,CT画像を確認することが必要であり,HRCTが特に有用である。

下肺野優位の不整形陰影は,特発性肺線維症等でも見られる所見であり,石綿肺との鑑別を困難にしている。このため,両者の鑑別を行うには,胸部単純エックス線写真だけでは限界があり,少なくともCTが必要である。
石綿肺のHRCT所見としては,小葉内網状影,小葉間隔壁の肥厚,
胸膜下線状影,胸膜に接した結節影,スリガラス影,嚢胞,肺実質内帯状影,蜂窩肺等が挙げられるが,これらの所見は特発性肺線維症等
117/155

にも見られ,必ずしも石綿肺に特異的なものではないことに留意すること。


他疾患との鑑別について
石綿肺は,病態としては,びまん性間質性肺炎・肺線維症の一種であるから,医学的判定に当たっては,石綿以外の原因による,あるい
は原因不明の,びまん性間質性肺炎・肺線維症との鑑別が必要である。また,老齢の患者,初期の左室不全の患者,重喫煙者等においても,放射線画像上,石綿肺に類似した不整形陰影が下肺野に見られることから,これらの病態との鑑別も必要である。


大量の石綿ばく露の確認について
石綿肺は,一般的に大量の石綿ばく露によって発症することが知られており,医学的判定においては,原則的には職歴等から,大量の石綿のばく露があったことを確認するものであるが,医療機関においてばく露に関する情報や石綿小体・石綿繊維による医学的所見等を確認している場合には,積極的に資料を提供することが望ましい。

b
石綿肺の診断にHRCTは有用であるが,その所見は特異的でなく,肺野所見だけからでは特発性肺線維症との鑑別は困難であり,特発性肺線維症との鑑別には石綿粉じんのばく露歴やCT上の胸膜プラークの有無が重要になるとされていると指摘する文献(石綿ばく露と石綿関連疾患―基礎知識と補償・救済,甲B17)もあり,上記文献には,平成16年のATSガイドラインでは,①HRCTを含む画像診断手法か病理組織学的所見のいずれかによる形態学的エビデンス,②職業あるいは環境性のばく露歴と妥当な潜伏期間,胸膜プラークなどのばく露のマーカー,石綿小体の検出などによる蓋然性のある因果関係のエビデンス,
③他の疾患の鑑別,という診断基準が採用されており,この診断基準によると,HRCTで線維化所見が認められ,かつ胸膜プラークやびまん
118/155

性胸膜肥厚が認められるか,BALなどで石綿小体を認める場合は石綿肺と診断してよいことになる旨の記載もある。

訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合して検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る程度の高度の蓋然性を証明することであり,
その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とするものと解される(最高裁判所昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁)ところ,疾病ごとに本件被用者らの石綿ばく露と発症の因果関係について,順次検討する。ウ
肺がんについて
まず,本件被用者らのうち,肺がんを発症した者につき,石綿ばく露と肺がん発症との因果関係について,確立された医学的知見を前提に,本件被用者らの肺がん発症が神戸工場での勤務に起因するものであることが高度の蓋然性をもって証明されたといえるかを検討する。

具体的には,

肺がんの発症リスクを2倍以上に高

める石綿ばく露があった場合をもって石綿に起因するものとみなす考え方,石綿繊維25本/ml×年は肺がんの発症リスクを2倍にするばく露量とみなす考え方が,肺がんの石綿起因性に関し,確立された医学的知見というべきであるところ,平成24年報告書において示されている知見(上記に照らして,平成24年基準に定められる累積ばく露
量の指標が実質的に認められるか否かを検討するのが相当である。これに対し,原告らは,石綿ばく露作業従事期間をことさら重視するが,日本においては,平成24年時点においても,石綿ばく露作業従事期間のみが,累積ばく露量の指標となるという医学的な知見が確立しているとは
認められず,採用できない。
亡Aの疾病との間の因果関係

119/155

a
判断の前提となる事実及び証拠(甲C6,10)によれば,亡Aは,平成14年1月30日に肺がん(扁平上皮がん)と診断され,平成15年3月31日,肺がんによって死亡したものと認められるから,肺がんと石綿ばく露との間の因果関係を検討する。

b
亡Aの石綿ばく露状況によれば

ア),亡Aは,神戸工場の成

形工程で,約26年間,タイヤ成形作業に従事してきたもので,ブレーキパッドに使用されていた石綿が摩耗し,粉じんとなって飛散しており,これを上記期間中に吸入した可能性は否定できない。
しかし,石綿ばく露作業従事期間は10年間を超える長期間であるものの,石綿飛散状況に照らして,亡Aがばく露したと考えられる石綿粉
じんの量がそう多くはないと推認できること,また,神戸工場内には粉じんが多く発生していたといえども,その粉じんの中心がタルクないし石綿とまで認められないことは上記

のとおりであるから,仮に,

亡Aが,神戸工場内の他の工程で発生した粉じんを吸入していたとしても,多量の石綿にばく露したとまで推認することはできず,この点は,
平成24年基準に定められた累積ばく露量に相当するか否かの判断においても,斟酌されるべきである。
c
労災医員は,被災者は,昭和25年7月より昭和54年までタイヤ成形作業にてアスベスト含有のタルクを使用し,石綿ばく露を受けたが,平成13年11月1日の胸部エックス線では,右下葉に腫瘤影を認めるが,左右下肺野外側部に1/1程度の不整影を認め,石綿肺も疑われる。平成14年5月29日の胸部CTでは,左右の胸膜にプラークの散在を認めると共に,左右肺野に軽度の蜂巣形成を認める。右下葉には腫瘤影が認められる。兵庫県立がんセンターの医師意見書によると,肺がんの診断は,平成14年1月25日の細胞診及び組織診により,原発性扁平上皮がんと確診され,また,CT上慢性の間質性変化と気腫化を認める120/155ことが記されている。以上より,本例は,石綿肺及び胸膜プラークを有する被災者に発生した原発性肺がんであり,労災認定基準を満足するものと思料する。旨の意見を述べる(甲C15)。しかし,亡Aを診断した兵庫県立がんセンターの医師が,胸部エックス線検査,胸部CT検査では明らかな胸膜プラークを認めない,明らかにじん肺の所見がある
とはいえないがあえて区分すれば第1型であるとの意見を述べていること(甲C10)を踏まえれば,亡Aについて,高濃度ばく露の指標となりうる胸膜プラーク

は認められないというべきである。

さらに石綿肺の所見については労災医員が疑いとの意見を述べているにすぎず,根拠として挙げられる症状も,石綿肺に特有の症状ではな
),上記兵庫県立がんセンターの医師も明らかにじ
ん肺の所見があるとの意見を述べていないことに加え,亡Aの従事していた作業内容に照らし,多量の石綿にばく露したとまで推認することはできないこと(上記b)からすれば,亡Aに,石綿肺の所見があるともいえない。また,労災医員の意見は,亡Aが従事したタイヤ成形作業に
おいてタルクを使用していたことを前提にしているところ,タイヤ成形作業においてタルクは使用されていないから

,前提を異

にするといわざるをえない。
d
そうすると,亡Aに関しては,明らかなものとはいえない胸膜プラークがあり,10年以上にわたり石綿ばく露作業に従事しているものの,多量の石綿にばく露したとは推認することができず,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合に肺がん発症を石綿に起因するものとみなし,石綿繊維25本/ml×年を発症リスクが2倍になる累積ばく露量とみなす平成24年基準の趣旨からすると,亡Aに関
しては,平成24年基準に定められる累積ばく露量の指標を実質的に満たしているとはいい難いところがある。

121/155

e
加えて,証拠(甲C11)によれば,亡Aは,53年間にわたって,1日15本ないし20本の煙草を吸っていたと認められるところ,そのブリンクマン指数は,1日の喫煙本数を15本として算出しても795となり,肺がんの発生危険度が確実に上昇するブリンクマン指数400を優に超えていることからすると,肺がんの発症が喫煙に起因するもの
であるとの疑いも拭えない。
f
以上を総合すると,亡Aの肺がん発症が神戸工場での勤務に起因するものであることが高度の蓋然性をもって証明されたといえないから,X1及びX2の被告に対する不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。

亡Cの疾病との間の因果関係
a
判断の前提となる事実及び証拠(甲E9,11)によれば,亡Cは,平成11年11月18日に右肺がんと診断され,平成12年4月25日,死亡したことが認められるから,石綿ばく露との因果関係を検討する。
b
亡Cの石綿ばく露状況によれば

イ),亡Cは,約33年間,

混合工程でゴム練り作業に従事し,混合工程で使用されていたタルク粉じんを吸入したといえるところ,混合工程においてはタルク粉じんの飛散量が多かったと推認されることから,10年間を優に超える長期間,多量のタルク粉じんを吸入し,不純物として含まれる石綿にばく露したものと認められる。なお,亡Cは,石綿そのものよりも主にタルクに不
純物として含まれる石綿にばく露しているが,多量のタルク粉じんを吸入したことによる石綿ばく露量は相当量に達しているものと推認できる。c
労災医員は,被災者は,昭和23年7月より昭和56年4月までの約32年9か月間,生ゴム生成作業に従事し,タルク中の石綿のばく露を受けたが,平成12年4月25日,肺がんのため死亡した。以前の画像は全て破棄されており,診療録のみ残存しているので,診療録を検討122/155すると,平成12年1月18日の開胸手術記録中に,“臓側,壁側胸膜に白色陶磁器様の扁平な結節多数”との記載があり,胸膜プラークのことと思われる。また,東神戸病院の医師意見書にも,開胸手術にて多数のプラークを確認と記されている。肺がんについては,原発性肺扁平上皮がんとの記載があり,死因も肺がんである。同時に胃がんの存在も認められたが手術により完全に摘出されており,直接死因とは関連が少ないものと判断される。以上より,本例は胸膜プラークを有する被災者に発生した原発性肺がんであり,労災認定基準を満足するものと思料する旨の意見を述べた(甲E12)。
d
以上によれば,亡Cについては,ばく露した石綿の量も相当量に達しているものと推認でき,さらに医学的にも多数の胸膜プラーク所見による裏付けがあるといえ,平成24年基準に定められる累積ばく露量の指標が実質的に認められるというべきであるから,亡Cの肺がん発症が神戸工場での勤務に起因することが高度の蓋然性をもって証明されているといえる。

e
これに対し,被告は,①胸膜プラークがCT画像等によって確認されていないこと,②亡Cの喫煙歴からすると喫煙が肺がん発症リスクを高めた可能性が高いことを指摘して,因果関係は立証されていないと主張する。しかし,①平成24年報告書には,肉眼的には確認できるがCT
画像上明らかでない胸膜プラークについて,他の胸膜プラーク所見と同様に扱ってよいか今後の検討が必要である旨指摘されているものの亡Cの場合には,CT画像等がすでに破棄されているという理由でCT画像等による胸膜プラーク所見が明らかにならないのであるから,そもそも上記指摘の妥当する事案と解すべきではないし,担当医師が,肉眼で多
数の胸膜プラークを認めている以上,CT画像上も明らかな胸膜プラークとして確認できたと考え得ることも踏まえると,被告の主張は採用で
123/155

きない。また,②累積ばく露量の指標が認められる場合には肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があったとして石綿に起因するとみなすという考え方を前提にすれば,累積ばく露量の指標が実質的に認められる亡Cについて,その喫煙歴をもって,石綿起因性を否定することはできず,被告の主張は採用できない。

亡Dの疾病との間の因果関係
a
判断の前提となる事実及び証拠(甲F13)によれば,亡Dは,平成17年4月12日に右肺扁平上皮がんと診断され,同年7月3日,上記疾病により死亡したことが認められるから,石綿ばく露との間の因果関係を検討する。

b
亡Dの石綿ばく露状況によれば

),亡Dは,神戸工場にお

いて,約39年間,電気設備保守業務に従事してきたものであり,電動機のエアブローの際に,ブレーキパッドに使用されていた石綿が摩耗したことによって生じた石綿粉じんや電動機内に堆積したタルクないし石綿粉じんが飛散し,これを上記期間中に吸入した可能性は否定できない。
しかし,石綿ばく露作業従事期間は10年間を超える長期間ではあるものの,飛散する可能性のあるタルクないし石綿粉じん量がそう多くはないと推認できることや,粉じんがたまっている場合に実施されるエアブローの頻度もそう多くはないとみられることに照らすと,電気設備保守業務により亡Dがばく露したと考えられる石綿の量が多量であると推
認することはできず,この点は,平成24年基準に定められた累積ばく露量に相当するか否かの判断においても,斟酌されるべきである。c
労災医員は,被災者は昭和20年11月より昭和59年10月までの39年間,神戸工場において,石綿やタルクの使用されている職場で,電気設備の作業に従事し石綿にばく露している。平成15年8月21日より非ホジキン性悪性リンパ腫と診断され治療を受けていたが,平成1124/1557年4月12日右肺扁平上皮がんと診断され,同年7月3日死亡された。カルテコピー,医師意見書,胸部レントゲン写真,胸部CT写真より検討した。肺がんと診断されるまでの経過は,平成15年8月21日から非ホジキン性悪性リンパ腫と診断され治療を受けていた。治療により,悪性リンパ腫によるリンパ節腫大は縮小し治療効果を認めていたが,右下葉の腫瘤影は増大を認めるため肺がんが疑われ,4月13日生検が行われ,扁平上皮がんと診断されている。その後腫瘤影の増大,腹膜播種を認め7月3日死亡された。平成16年8月12日の胸部レントゲン写真では,両下肺野に線状網状影を認め,石綿肺の所見と考えられる。胸膜プラークは認められない。平成16年11月24日の胸部CT写真では,右下葉の腫瘤影,右胸水貯留を認める。両側下葉に線状,網状影を認め,石綿肺の所見と考えられる。肺がんに関しては,検査で他に原発と考えられる所見を認めず,原発性肺がんと診断して妥当と考えられる。また,死亡原因もホジキン病は治療によりコントロールされている状態であり,肺がんの急速な進行による死亡と考えられる。したがって,本件は,10年以上の石綿ばく露歴を認め,石綿肺所見が確認されるので,原発性肺がんの発症及び肺がんによる死亡と業務との間に相当因果関係が存在すると判断される。旨の意見を述べている(甲F13の10)。しかし,労災医員が,石綿肺の所見の根拠として挙げる症状は,石綿肺に特有の症状ではないこと(

),亡Dには胸膜プラークや

石綿小体・石綿繊維の所見がないこと(甲F12),亡Dが電気設備保守業務によりばく露したと考えられる石綿の量が多量とは推認できないこと,亡Dの診断をした神戸市立中央市民病院の医師はじん肺の所見を否定していること(甲F13の9)を併せ考えれば,亡Dについて,石綿肺の所見があると認めることはできない。

d
そうすると,亡Dに関しては,平成24年基準に定められる累積ばく
125/155

露量の指標を実質的に満たしているとはいい難い。
e
さらに,証拠(甲F13の11)及び弁論の全趣旨によれば,亡Dは,75歳の時点で,1日20本程度のたばこを吸っていたことが認められ,喫煙年数までは判然としないものの,喫煙による肺がんの発症リスクも相当程度認められるというべきである。

f
以上を総合すると,亡Dの肺がん発症が神戸工場での勤務に起因するものであることが高度の蓋然性をもって証明されたといえず,X7,X8及びX9の被告に対する不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。
X23の疾病との間の因果関係

a
判断の前提となる事実及び証拠(甲I10)によれば,X23は,平成27年5月22日に実施された病理検査により,扁平上皮がんであるとの診断を受けていることが認められるから,石綿ばく露との間の因果関係を検討する。

b
X23の石綿ばく露状況によれば(上記

カ),約18年間従事した

材料班での業務により,ホットナイフボックスの保温材やアスベストシートに使用された石綿粉じんを吸入した可能性があり,約12年間従事した加硫業務により,インサイドペイントに含まれるタルク粉じん,加硫機の保温材に使用されている石綿が劣化して飛散していた石綿などを吸入したといえる。材料班における職務従事期間は約18年に及んでい
るが,多量に石綿が飛散する中で職務を行ったとは認めることができないものの,加硫工程に従事した約12年については,インサイドペイントに含まれるタルク粉じんなどを日常的に相当量吸入していたものと認められる。
c
労災医員は,被災労働者は昭和33年1月から平成9年2月まで被告においてタイヤの製造業務に従事した。そのうち昭和51年9月から126/155昭和63年2月までタイヤの加硫業務に従事し石綿にばく露したと推認される。平成5年食道がんの手術歴がある。平成27年3月18日,石綿健康管理手帳による健康診断にて右下葉に異常陰影を指摘されたため,同月24日,神鋼病院を受診した。画像から肺がんが疑われ,気管支鏡検査が行われるも診断できず,同年5月22日右下葉切除術が施行された。その病理組織検査では,扁平上皮がんと診断され,食道がんの転移より原発性肺がんを考えるとのコメントがある。同年3月18日の胸部エックス線検査では,肺がん,胸膜プラーク,石綿肺を疑う所見はみられない。同日の胸部CTでは右下葉に結節がみられ,手術で診断された肺がんの病変と考えられる。両側に胸膜プラークがみられるが,石綿肺の所見はみられない。食道がんの手術から22年経過しており,食道がんの肺転移とするより,画像,病理医の診断とあわせ,原発性肺がんと診断することが妥当と考えられる。10年以上の石綿ばく露歴を有し,画像で胸膜プラークがみられる労働者に発症した原発性肺がんであり,その発症と業務との間に相当の因果関係を有すると判断できる。旨の
意見を述べている(甲I11)。また,主治医である神鋼記念病院の医師は,CT画像上,平成24年基準における明らかな胸膜プラーク所見には該当しない胸膜プラークがあり,両側肺にある網状影は石綿肺に伴う変化と考えられるとの意見を述べている(甲I10)。
d
以上によれば,X23については,ばく露した石綿の量も相当量に達しているものと推認でき,CT画像上,胸膜プラーク所見が認められ,相当程度の石綿ばく露のある作業への従事期間が10年を超えるので,平成24年基準に定められる累積ばく露量の指標が実質的に認められるというべきであるから,X23の肺がん発症が神戸工場での勤務に起因することが高度の蓋然性をもって証明されているといえる。

e
これに対し,被告は,石綿起因性を認めるためには,明らかな胸膜プ
127/155

ラーク所見を要すると主張するが,平成24年報告書によっても,明らかな胸膜プラークは短期間でも石綿起因性を認めるための要件となるが,画像上の胸膜プラークに明らかな陰影が認められず,あるいは胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで胸膜プラークの範囲が胸膜内側の1/4以上でないことが石綿起因性そのものを否定する根拠にはな
らず,採用できない。

石綿肺について
判断の前提となる事実及び証拠(甲H1,2)によれば,亡Fは,平成26年8月25日,肺部エックス線写真像の所見が,小陰影の区分が粒状
影(区分1,タイプr),不整形陰影(区分1),大陰影の区分がCの第4型(じん肺による大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1を超えるもの)で,じん肺による著しい肺機能の低下がある障害と診断されたこと,同年12月10日,じん肺管理区分を管理4とするじん肺管理区分決定がされたこと,平成20年3月3日及び同年11月27日の胸部CTでは,胸膜
プラークが存在すると確認されていることが認められる。
亡Fの石綿ばく露状況によれば(上記

オ),約20年間,神戸工場で,

技術員ないし課長代理として,電気ないし動力関係の仕事に従事しており,電動機のエアブローへの立会い,保温材としてのアスベストテープの点検,フェスツーンバーの集じん装置におけるバグフィルター等の清掃等の業務の際に,石綿粉じんないしタルク粉じんを吸入しているものと推認でき,さらに上記作業の合計期間が20年と長期間に及んでいること,各作業は頻度が高いとまでは推認できないが,それぞれタルクないし石綿粉じんを直接吸入する可能性が高い作業であることを踏まえると,亡Fは,一定量の石綿粉じんを継続的に長期間ばく露し続けたものと推認される。
上記ア

,亡Fには,じん肺と胸膜プラークの所見が認

められ,さらに累積ばく露量も相当程度であることから,これらを併せ考
128/155

えると,亡Fは,神戸工場による作業により石綿にばく露し,石綿肺を発症したと認めるのが相当である。
これに対し,被告は,亡Fが発症したじん肺が石綿肺であると認めるに足りないと主張する。しかし,上記

のとおり,亡Fには石綿ばく露の指

標とされる胸膜プラークの所見も認められることや,じん肺としてその他
に考えられるのは,珪肺やベリリウム肺であるが,珪肺は遊離珪酸を原因とし鉱山労働者や石切作業者にみられるもので,ベリリウム肺はベリリウムを原因とし合金・セラミック製造業者などがハイリスクであるとされているところ,本件全証拠によっても,亡Fが,珪肺ないしベリリウム肺を発症し得る作業に従事していたとは認められないことも併せ考えると,亡
Fのじん肺は,石綿肺であると合理的に推認でき,被告の主張は採用できない。

中皮腫について
亡Bの疾病との間の因果関係
上記

のとおり,亡Bは,泉大津工場で石綿にばく露し,胸膜中皮腫

を発症したのであるから,石綿ばく露と疾病との間に,因果関係が認められる。
亡Eの疾病との間の因果関係
上記

のとおり,亡Eは,神戸工場で石綿にばく露し,悪性胸膜中皮

腫を発症したのであるから,石綿ばく露と疾病との間に,因果関係が認め
られる。
2
判断の前提となる事実,証拠(甲B4,5,17,F5,乙B1ないし6,C11,12)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。ア
石綿について
海外における医学的知見等

129/155

a
石綿肺
イギリスのMurray医師が,1906年に石綿紡織工場における労働者の死亡例を解剖した事例として議会の補償委員会に報告したのが最初とされ,1924年にイギリスのCookeが,20年間石綿紡織工場で働いていた労働者の肺の病理所見を詳細に報告した際に,この疾
患を石綿肺と命名し,以後石綿肺の疾患名が確立したとされている。b
肺がん
1935年ころから,石綿肺に肺がんを合併した事例が報告されるようになり,1955年,イギリスのDollが石綿ばく露と肺がんとの関係を疫学的に立証した。

c
中皮腫
1959年,ヨハネスブルグで開催された国際じん肺会議において,Wagnerらが,南アフリカのクロシロライド鉱山周辺の州で4年間に33例の胸膜中皮腫を経験し,うち32例は石綿鉱山の従事者及びその家族,鉱山付近の居住者,石綿運搬従事者などに石綿ばく露歴を認め
たことを報告し,次いで,1968年に,イギリスの造船所でボイラー関連労働者,整備工などにも胸膜中皮腫の発生をみた旨報告されたことなどから,造船所で働いたことがある従業員の調査が各地で行われるようになり,イギリス,アメリカ,オランダ,西ドイツなどの造船所で働いたことのある従業員に,多数の肺がんや中皮腫による死亡者がいるこ
とが明らかにされた。
日本における医学的知見等
a
石綿肺
日本における石綿肺の最初の報告は,昭和4年の大阪鉄道病院の鈴木
らによるものである。その後,石館らが,昭和12年から昭和15年に大阪府(泉南地方11工場,その他の大阪府下2工場,奈良県1工場)
130/155

における石綿工場従業員の検診を実施し,泉南地方の石綿従業員403名中,胸部レントゲンで石綿肺が疑われる者11名,石綿肺の所見が認められる者38名であったとの報告がなされている。
昭和31年,旧労働省は,労働衛生試験研究として,石綿肺の診断基準に関する研究班を発足させ,各地の石綿工場の従業員を対象とした調
査実施により石綿肺の症例が明らかにされ,昭和35年のじん肺法制定につながった。
b
石綿肺がん及び中皮腫
瀬良らは,昭和35年,上記石館らの調査の時の受診者が,その後肺がんで死亡したことを報告しており,これが日本における石綿による最
初の肺がん症例である。また,大阪府で,昭和48年になって石綿肺に合併した腹膜中皮腫が,昭和49年には胸膜中皮腫が,それぞれ報告されている。
日本経済新聞は,昭和47年9月29日付け紙面で,自動車のブレーキライニングの成分中約50パーセントに使用されている石綿は,運転
者がブレーキを踏むたびに粉じんとなって大気中に放散され,人体に何らかの悪影響を及ぼすおそれがあるところ,ブレーキ用の石綿による一般大気汚染,その人体に及ぼす影響について組織的研究が行われていないため,公害問題化するに至っていないが,ブレーキメーカーは,欧米ブレーキメーカーとの共同研究,技術情報交換など石綿公害対策に取り
組む構えである旨を報道している。
c
旧労働省による石綿研究
旧労働省は,昭和31年,上記の石綿肺の診断基準に関する研究班を発足させた。昭和47年,IARC(国際がん研究機関)が石綿の生体
影響に関する国際会議を開催し,石綿の発がん性に関する報告書が発刊され,昭和50年,欧州共同体が石綿ばく露による公衆衛生上のリス131/155クに関する専門家会議を開催するなど,石綿の発がん性が広く認知され始めたのを受けて,労働省は,昭和51年,石綿による健康障害に関する専門家会議を設置し,同会議が昭和53年9月に提出した報告書を受けて,昭和53年基準が発出された。

タルクについて
医学的知見等
a
タルクのじん肺起因物質としての意義に関して,海外では,1930年,Zanelliが,タルク粉じんが固有のじん肺を惹起することを最初に主張し,次いでMerewetherが1933年に11例,1
934年に13例のタルク肺を報告しているが,Dreessenが,1933年及び1935年に,広汎な報告を発表してから,広く一般の注目を集めるようになった。日本では,石川らが,神戸工場を対象とする昭和24年調査報告書を作成し,瀬良らが,昭和30年,滑石粉製造工場における滑石じん肺に関する報告をしている。また,上記昭和24
年調査では,職場別じん肺発生数が81名中31名(約38パーセント)であるが,昭和34年に神戸工場において10年後の変動をじん肺の量と質の面で再調査したところ,有所見率が83.8パーセント(62名中52名)に増加したとの調査結果が報告されている。
また,昭和35年3月には,ブリヂストンタイヤ久留米病院の酒井恭
次医師が,ゴム工場における滑石肺について,一連の系統的調査を実施し,滑石粉じんの産業衛生学的意義を追究した研究報告を行い,職場の発じん量を1cc中約400箇位までに限定すれば,滑石粉じん職場における勤続年数の安全圏は,一応,約5年くらいまでと推定できるようであるが,将来吸じん期間が長期にわたった者の中から,エックス線上
S₄の所見を呈するものが起こり得る可能性について警告する必要があるなどと指摘している。

132/155

b
昭和31年以降,上記の石綿肺の診断基準に関する研究班の活動など,石綿肺をはじめとする各種じん肺の発見とその病理所見の解明が行われ,多くの新しい有害じん肺が発見,検討されて,昭和35年にじん肺法が制定されるに至った。
滑石肺は,佐野,小山内が,じん肺研究班によって集められた各じん
肺の剖検例を検索した際に,じん肺ないしじん肺結核の種類の一つとして確認されている。また,佐野は,昭和37年の論文(甲B5)において,じん肺発生の基本共通の因子が粉じんの異物性にあり量的な因子がじん肺の発生と進展に対して重要な役割を果たしている旨述べている。c
他方で,昭和48年ころには,タルクについては,じん肺症の原因になることは比較的まれであり,発がん性はないなどとされている。昭和53年には,小西池らにより,昭和28年から昭和52年までに,国療近畿中央病院へ入院したじん肺患者612例のタルク肺患者17例と外来患者9例を加えた26例の臨床的考察として,タルク粉じん吸入防止策については,工場におけるじんあい規制を厳守すべきことは言を
またないが,タルク肺の発症には外因のほかに,主として免疫学的な個体の感受性が重要な因子と考えられるところ,これらの問題について研究報告がなく,発がんの問題とともに,今後の検討課題となること,タルク肺は他のじん肺に比して比較的良好な転帰をとるが,エックス線像及び病理学的特徴像はタルク粉じん中の組成,吸入量,期間などに大き
く左右されることなどが報告されている。
d
平成20年12月28日時点において,タルク肺は,①遊離珪酸を含むタルクの吸入によって引き起こされるタルク珪肺,②石綿を含むタルクの吸入によって引き起こされるタルク石綿肺,③純粋なタルクの吸入
によって引き起こされる純粋なタルク肺に分類できるとしたうえで,純粋なタルク粉末は,疫学的研究や動物実験から遊離珪酸や石綿に比べる
133/155

と組織障害性が低いと考えられており,高濃度のタルクばく露は重篤な肺機能障害を起こしうるとされているものの,発がん性は明らかでないとされている。
法規制の経過
a
昭和35年に施行されたじん肺法では,粉じん作業とは,当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業をいい,タルクに関しては,滑石又はクレーを原料又は材料として使用する物を製造し,又は加工する工程において,粉状の滑石,クレー又はこれらを含むものを混入し,又は散布する場所における作業をいうと規定された(じん肺法2条,同法施行規則別表第1第14号)。

じん肺法には,許容濃度について特段の規制値は定められていないが,日本産業衛生学会は,昭和40年,タルクや石綿を含む第1種粉じんについて,労働者が有害物に連日ばく露される場合(感受性の特別に高くない労働者が,1日8時間以内,中等労働を行う場合)に,空気中の有害濃度が許容濃度の数値以下であれば,健康に有害な影響がほとんどみ
られないとする許容濃度を勧告しており,タルクは,石綿と同様に,2mg/㎥とされた。
b
昭和47年9月30日に制定された特定化学物質等障害予防規則(昭和47年9月30日号外労働省令第39号)では,石綿に関する規定は
設けられたが,タルクに関する規定は設けられていない。また,昭和50年10月1日に特定化学物質等障害予防規則が改正され,事業者の責務として,化学物質による労働者のがん,皮膚炎,神経障害その他の健康障害を予防するため,使用する物質の毒性の確認,代替物の使用,作業方法の確立,関係施設の改善,作業環境の整備,健康管理の徹底その
他必要な措置を講じ,もって,労働者の危険の防止の趣旨に反しない限りで,化学物質にばく露される労働者の人数並びに労働者がばく露され
134/155

る期間及び程度を最小限度にするよう努めなければならないと規定されたが(同規則1条),ここでも石綿に関する規定が設けられたのに対して,タルクに関する規定は設けられていない。
c
ベビーパウダーや化粧品の原料として使用されていたタルクに不純物として石綿が混入していたことが判明したため,食品,添加物等の規格基準の一部を改正する件(昭和61年11月20日付け厚生省告示第207号)において,採掘したままのタルクは,石綿などを含んでいるものがあることなどを理由として,原鉱をよく選別した後,精製したものを使用する旨の規定が設けられるようになった。
d
上記cは,鉱物粉末に関する規定ではないが,労働安全衛生法施行令及び石綿障害予防規則の一部が改正されて,平成18年9月1日からは,石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有する製材その他の物の製造,輸入,譲渡又は使用が禁止されたのに伴い,厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長から石綿を含有する粉状のタルクの製造,輸入,譲渡,提供又は使用の禁止の徹底について(基監発第10
16001号,基安化発第101601号)が各都道府県労働局長に宛てて発出された。
予見可能性の有無

安全配慮義務の前提として使用者が認識すべき予見義務の内容は,生命,健康という被害法益の重大性に鑑みると,安全性に疑念を抱かせる程度の抽
象的な危惧であれば足り,必ずしも生命・健康に対する障害の性質,程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである。

本件についてみると,石綿による健康被害の可能性に関して,海外では,石綿肺の危険性について1924年ころ,肺がんの危険性について1955
年ころ,中皮腫との関連性について1960年代には,それぞれ知見が集積されていた。日本においても,石綿による健康被害の可能性が戦前から指摘
135/155

されていたところ,石綿肺の危険性については昭和30年から昭和35年にかけて知見が集積されてじん肺法が施行されるに至っている。また,肺がんの危険性や中皮腫との関連性については,昭和35年から昭和40年代にかけて知見が集積しているが,このような国内外の石綿による健康被害の可能性に関する知見の集積状況や法令による規制状況に照らせば,少なくとも,
じん肺法が施行されるころには,石綿が生命・健康に対して危険性を有するものであるとの抽象的な危惧を抱かせるに足りる知見が集積していたといえる。
また,タルクによる健康被害の可能性に関して,海外では,1930年から1935年にかけて滑石肺の研究が進み,日本では,昭和24年から昭和
35年にかけて,滑石肺に関する知見が集積していった。そして,昭和35年に施行されたじん肺法では滑石についても規定され,このような国内外のタルクによる健康被害の可能性に関する知見の集積状況や法令による規制状況に照らせば,タルクについても,じん肺法が施行されるころには,タルクが生命・健康に対して危険性を有するものであるとの抽象的な危惧を抱かせ
るに足りる知見が集積していたといえる。

この点,タルクについては,上記のとおり,特定化学物質等障害予防規則において規制対象となっておらず,鉱物としては平成18年に規制対象になっていること,昭和40年代ないし昭和50年代にじん肺症の原因になるこ
とは比較的まれであるとか,他のじん肺と比較して良好な転機をたどるなどとされており,平成20年ころにおいても,純粋なタルク粉末は遊離珪酸や石綿に比べると組織障害性が低いと考えられているが,高濃度のタルクばく露は重篤な肺機能障害を起こしうるとされているものの,発がん性は明らかでないとされるなど,生命ないし健康に対する危険性の程度が石綿などと比
較して低いともとれる知見が存在する。しかし,法令による規制状況ないし知見に照らしても,タルクの危険性そのものが否定されていると認めること
136/155

はできないし,昭和35年に施行されたじん肺法に滑石肺に関する規定が定められた当時の知見を覆すものということはできない。

上記の知見の集積状況に加え,被告が,石綿を製造する企業ではないが大企業であり,各種タイヤの製造工程において粉じんの発生する工場での製造業を営んでいたこと,製造工程においてはタルクを直接に使用し,工場内に
おいては石綿製品が多数使用されているという状況の下で,従業員に作業させていたこと,神戸工場が昭和24年調査報告書における調査対象となり,粉じんがタルクないし石綿であるか否かは措いても,粉じん職場であってじん肺の発生が報告されていることからすると,粉じんに関する知見の広がりに先駆けて粉じんの危険性を認識し得る立場にあったことなどを併せ考える
と,被告は,遅くとも,昭和35年までには,石綿ないしタルクが,人の生命・健康に重大な障害を与える危険性があると認識することができ,かつ,認識すべきであったと認められる。
したがって,被告には,安全配慮義務違反の前提となる予見可能性があったと認められる。

安全配慮義務違反

被告には安全配慮義務違反の前提となる予見可能性があ
ったと認められるから,被告は,上記予見可能性を前提に,昭和35年以降,石綿粉じんないしタルク粉じんの発生・飛散の防止及び粉じん吸入防止について,粉じんの発生状況等に応じて粉じん作業従事者の生命・健康に重大な
障害が生じることを防止する義務を負っていたものというべきである。また,上記義務の具体的内容を定めるに当たっては法令の定める基準を十分に斟酌すべきである。

そこで原告らの主張する安全配慮義務が認められるかについて検討する。昭和35年に施行されたじん肺法では,じん肺の予防に関して,技術の進歩に即応した粉じん発散の抑制装置,呼吸器保護具の整備着用,作業環境の
137/155

測定等じん肺の予防のために適切な措置について使用者と労働者双方の努力義務を定めるとともに,使用者は粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺の予防及び健康管理に関し必要な教育の徹底を図るべきことなどが規定さに加えて,混合工程におけるタル
ク水溶液作製や冷却乾燥の際に多量のタルク粉じんが生じていること,加硫工程のインサイドペイントの取扱いに際してタルク粉じんが発生すること,保温材やブレーキパッドで使用されている石綿が劣化などして粉じんとなって飛散する可能性があったことなどの神戸工場及び泉大津工場のタルクないし石綿粉じんの飛散実態に照らすと,被告には,粉じんが恒常的に生じるよ
うな工程については,①粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務,②呼吸用保護具を適切に使用させる義務,③粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務,④安全教育及び安全指導を行う義務が認められるというべきである。また,粉じんが飛散する可能性がある箇所や作業については,上記①の粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛
散を防止する措置をとる義務,上記②の呼吸用保護具を適切に使用させる義務及び上記④の安全教育及び安全指導を行う義務が認められるというべきである。
これに対し,被告は,原告らが主張する安全配慮義務は,大量の粉じんが発生する作業環境を前提にして生じるものであると主張する。しかし,粉じ
んの吸入によって起こるじん肺を広く対象とし,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることによって,労働者の健康の保持及びその他福祉の増進に寄与することを目的とするじん肺法の趣旨や,じん肺法施行当時のじん肺に関する知見の集積状況に照らせば,使用者は,粉じんを吸入し得る作業に従事する労働者に対しては,粉じんの多寡を問わず,できる限りじん
肺の適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずるべきであると考えるのが相当であるから,被告の主張は採用できない。もっとも,安全配慮義務
138/155

の内容が飛散する粉じんの量や程度に応じたものになると解されるのは,上記のとおりである。

次に被告に安全配慮義務違反が認められるか否かについて検討する。粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務
粉じんの発生を防止するためには,作業前や作業中に,撒水や噴霧などの湿潤化策を行うことが粉じん一般の発生を防止ないし抑制するために有効な手段の一つであり,湿潤化対策が不可能な作業現場であれば,それに代わる換気などの粉じん発生防止・抑制策をより強化すべきであり,また粉じんの飛散を防止するための局所排気装置の設置,粉じんが大量に発生
する作業場における粉じんの清掃・除去を行うようにとの指導監督をすべきであるといえる。
本件においては,粉じんが恒常的に生じる箇所の一つである混合工程の冷却乾燥作業に関しては集じん機が設置されており,一応の粉じん対策がなされていたといえる。しかし,集じん装置で全ての粉じんを吸引できて
いたとは考え難く,本件全証拠によっても,上記のほかに,発生した粉じんの飛散を防止する措置が採られていたと認めることはできない。また,同じく粉じんが恒常的に生じる箇所である加硫工程に関して,本件全証拠によっても,粉じんの発生自体を防止するための湿潤化対策が採られていたと認めることはできないし,清掃・除去の過程でのエアブローの多用は,
かえって粉じんを生じさせる方法で清掃が行われていたといえ,発生した粉じんの飛散を防止する措置が採られていたと認めることはできない。また,粉じんが生じ得る箇所や作業についても,本件全証拠によっても,神戸工場及び泉大津工場のいずれにおいても,粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務が尽くされていたとはいえない。
呼吸用保護具を適切に使用させる義務
発生した粉じんの吸入を防止するためには,石綿やタルク粉じん対策用
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のマスクを支給するか,これが困難であっても,粉じんが生じ得る作業に従事させる際には,マスクを着用させるべきである。
本件についてみると,本件全証拠によっても,被告が,タルク粉じんが多量に発生する混合工程の冷却乾燥作業や加硫工程に関して,タルク粉じんの吸入を防止するために,タルク粉じん対策用のマスクを支給し,あるいはマスクの着用をさせるなどしていたと認めるに足りないし,タルクないし石綿粉じんが生じ得る箇所・作業についても,亡Dは電気設備の保守点検の際にガーゼマスクとその上にタオルを巻いてエアブローしていた(上記1

ウ)が,亡Dが使用していたマスクは,被告から支給された石

綿やタルク粉じん対策用のマスクではないし,夏などの暑い時期にはマスクを外していたということからすると,被告が呼吸用保護具を適切に使用させていたとはいえず,その他,本件全証拠によっても,被告が上記義務を履行していたと認めるに足りない。
粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務

証拠(乙A38,40)によれば,被告は,神戸工場において,昭和45年7月11日付けじん肺に関する報告と題する書面(乙A40)を作成しており,これによると,粉じん環境の管理として,粉じん職場の粉じん測定を実施し,粉じん濃度も,基本的には,一般粉じん15mg/㎥,珪石を含む粉じん10mg/㎥を超えていないとの報告がされており,ま
た,昭和30年から昭和40年ころに粉じん作業等に従事した者について珪肺所見がみられたが,昭和42年に職場環境の改善を実施してからは,新たに珪肺所見のある者は出ていないこと,被告は,泉大津工場において,粉じん測定データシート等を作成し,また,少なくとも,昭和51年から昭和62年までの間に,チューブ工程においてタルクを対象とする粉じん
測定を行っていたところ,その測定結果は,許容濃度である2mg/㎥を超えていないことが認められる。

140/155

これら各事実によれば,被告は,粉じん濃度を測定し,職場環境改善の必要性を検討していることが認められる。しかし,粉じん濃度が低いとか,珪肺所見を有する者がいないことも重要な指標ではあるが,粉じん濃度の測定や職場環境改善が必要な程度に粉じんが飛散している職場である以上,粉じん対策が不要になるわけではないから,粉じん測定の結果等を踏まえても,上記

及び

,並びに下記

の安全配慮義務があるというべきであ

り,被告が,粉じん測定の結果を踏まえて,職場環境等を改善する義務を尽くしたとはいえない。
安全教育及び安全指導を行う義務
証拠(乙A32,33)によれば,被告は,神戸工場においては遅くとも昭和49年から,泉大津工場においては遅くとも昭和54年から,じん肺健康診断を実施していることが認められる。健康診断は,安全教育及び安全指導を行う契機となり得るものであるが,弁論の全趣旨によっても,従業員において,粉じんの発生・飛散を防止し,さらに粉じんを吸入しな
いための措置をとっているとは認められないことに照らせば,被告において,石綿粉じんないしタルク粉じんについて,各時点の知見の集積状況や,各工場の粉じんの飛散状況や飛散可能性に応じて,十分な安全教育ないし安全指導を行っていたとは認めることはできない。
以上のとおり,被告には,粉じんが恒常的に生じるような工程について
は,粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務,呼吸用保護具を適切に使用させる義務,粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務,安全教育及び安全指導を行う義務が,また,粉じんが飛散する可能性がある箇所や作業については,粉じんの発生を防止し又は粉じんの飛散を防止する措置をとる義務,呼吸用保護具を適切に
使用させる義務,安全教育及び安全指導を行う義務があるところ,これらの義務が履行されていたと認めることはできず,亡C,亡B,亡E,X2
141/155

3については,昭和35年から,亡Fについては,昭和36年から,それぞれ安全配慮義務違反が認められる。
3
各人に共通する事項

慰謝料額
亡B,亡C,亡E,亡F及びX23が,被告に勤務して石綿粉じんにばく露し,そのことを原因とする肺がん,石綿肺及び中皮腫に罹患したこと,被告の安全配慮義務違反の内容等本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡B,亡C,亡E,亡F及びX23の慰謝料額は,それぞれ2500万円とするのが相当である。


損害額の減額
亡C
弁論の全趣旨によれば,亡Cは,昭和51年ころ及び平成10年2月ないし同年4月ころの各時点において,喫煙本数は不明であるものの喫煙を
していたことが認められ,このことからすると,亡Cには,相当期間にわたる喫煙習慣があったと推認するのが相当である。
そして,喫煙歴も石綿ばく露歴もない人の肺がん発症リスクを1とすると,喫煙歴があり石綿ばく露歴がない人では10.85倍,喫煙歴がなく石綿ばく露歴がある人では5.17倍,喫煙歴も石綿ばく露歴もある人で
は53.24倍になると報告されており

,喫煙は,石

綿による肺がんの発症リスクを相乗的に高め,肺がん発症に影響を与えていることは明らかであるから,損害の公平な分担の見地からすると,肺がんを発症した被災者のうち喫煙歴がある者の損害額を定めるにあたっては,民法722条2項の類推適用により,喫煙歴があることを斟酌するのが相当である。もっとも,亡Cについては,喫煙習慣があったとは認められるもののその年数や1日当たりの喫煙本数などは具体的に明らかでないこと
142/155

から,損害額から1割の限度で減額するのが相当である。
X23
証拠(甲I12)及び弁論の全趣旨によれば,X23は,約44年間にわたり,1日当たり20ないし30本の喫煙を行ってきたと認められ,そのブリンクマン指数は880ないし1320で,肺がんの発生危険度が確
実に上昇するブリンクマン指数400を優に超えている。損害の公平な分担の見地から民法722条2項の類推適用により,X23については,その喫煙歴を考慮し,損害額から2割の減額をするのが相当である。ウ
損益相殺
被告が,各人に対し,本件特別補償規程に基づき,特別補償金を支払って
いる場合には,これを慰謝料額(上記イの減額すべき事由がある亡C及びX23については減額後)から控除するのが相当である。

弁護士費用
弁護士費用は,慰謝料額(上記イの減額すべき事由がある亡C及びX23については減額後)から被告において支払済みの特別補償金を控除した残額
の1割を認めるのが相当である。
各人の損害額

亡B関係
上記

アのとおり,亡Bの慰謝料額は2500万円であるところ,後記
X3,X4及びX5は,本件特別補

償規程に基づき,被告から特別補償金として1000万円の支払を受けていると認められるから,これを上記2500万円から差し引くと1500万円となる。これに弁護士費用150万円を加えると,亡Bの損害額は1650万円となる。
X3,X4及びX5は,法定相続分(X3が2分の1,X4及びX5が各4分の1)に従い,亡Bを相続しているから,X3には825万円,X
143/155

4及びX5には各412万5000円の損害賠償請求権がそれぞれ認められる。
よって,X3は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,825万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
ることができ,X4及びX5は,債務不履行ないし不法行為に基づき,各412万5000円及びこれらに対する上記遅延損害金の支払を求めることができる。

亡C関係
上記


アのとおり,亡Cの慰謝料額は2500万円であるところ,上記
のとおり,喫煙習慣が認められる亡Cについては,その損害額を1
割減額すべきであるから,減額後の残額は2250万円となり,また,X6は,法定相続分(2分の1)に従い,亡Cを相続しているから,1125万円の損害賠償請求権を取得したといえる。さらに

及び弁

論の全趣旨によれば,X6は,本件特別補償規程に基づき,被告から特別
補償金として500万円の支払を受けていると認められるから,上記金額からこれを差し引くと625万円となる。これに弁護士費用62万5000円を加えると,X6が取得した損害賠償請求権は687万5000円となる。
よって,X6は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,6
87万5000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年3月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

亡E関係
上記

アのとおり,亡Eの慰謝料額は2500万円であるところ,亡G

は,法定相続分(4分の3)に従い,亡Eを相続しているから,1875
144/155

万円の損害賠償請求権を取得したといえる。また,

及び弁論

の全趣旨によれば,亡Gは,本件特別補償規程に基づき,被告から特別補償金として1125万円の支払を受けていると認められるから,上記金額からこれを差し引くと750万円となる。これに弁護士費用75万円を加えると,亡Gが取得した損害賠償請求権は825万円となる。
亡Gは,平成27年5月21日に死亡した。
X10(法定相続分6分の1)及びX11(法定相続分6分の1)は亡Gの姉であり,X12(法定相続分6分の1)は亡Gの弟であり,X13(法定相続分18分の1),X14(法定相続分18分の1),X15
(法定相続分18分の1),X16(法定相続分12分の1),X17(法定相続分12分の1),X18(法定相続分18分の1),X19(法定相続分18分の1),X20(法定相続分18分の1)は,それぞれ,亡Gの甥若しくは姪であるが,これらの者は,法定相続分に従い,亡Gを相続し,X10,X11及びX12が,各137万5000円,X1
3及びX14が,各45万8334円,X15,X18,X19及びX20が,各45万8333円,X16及びX17が,各68万7500円の損害賠償請求権をそれぞれ取得した。
よって,X10,X11及びX12は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各137万5000円及びこれらに対する訴状送達の
日の翌日である平成25年3月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ,X13及びX14は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各45万8334円及びこれらに対する上記遅延損害金の支払を求めることができ,X15,X18,X19及びX20は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基
づき,各45万8333円及びこれらに対する上記遅延損害金の支払を求めることができ,X16及びX17は,被告に対し,債務不履行ないし不
145/155

法行為に基づき,各68万7500円及びこれらに対する上記遅延損害金の支払を求めることができる。

亡F関係
上記

アのとおり,亡Fの慰謝料額は2500万円であるところ,後記
亡Fは,本件特別補償規程に基づき,

被告から特別補償金として1000万円の支払を受けていると認められるから,これを上記2500万円から差し引くと1500万円となる。これに弁護士費用150万円を加えると,亡Fの損害額は1650万円となる。X21及びX22は,法定相続分(各2分の1)に従い,亡Fを相続しているから,各825万0000円の損害賠償請求権がそれぞれ認められ
る。
よって,X21及びX22は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,各825万0000円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成28年2月11日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。


X23
X23の慰謝料額は2500万円であるところ,上
相当量の喫煙歴が認められるX23について
は,その損害額を2割減額すべきであるから,減額後の残額は2000万
円となる。

及び弁論の全趣旨によれば,X23は,本件特別

補償規程に基づき,被告から特別補償金として1000万円の支払を受けていると認められるから,上記金額からこれを差し引くと1000万円となる。これに弁護士費用100万円を加えると,X23の損害は1100万円となる。
よって,X23は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,1100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年2
146/155

月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
4
亡C及び亡Eにかかる損害賠償請求権についての消滅時効の成否)について
消滅時効の完成


判断の前提となる事実,証拠(甲E16)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
亡C関係
ab
亡Cは,平成12年4月25日に死亡した。
X6は,平成21年9月15日,亡Cを被災者として,亡Cの死亡の原因が被告での石綿ばく露であるとして,石綿健康被害救済法に基づき,特別遺族一時金の支払を請求した。

c
神戸東労働基準監督署長は,平成22年2月9日,上記労災請求に基づく支給を決定し,同月17日,X6に対し,特別遺族一時金として1200万円の支給決定を通知した。

亡E関係
a
亡Eは,平成12年1月26日に死亡した。

b
亡Gは,平成18年3月20日,亡Eを被災者として,亡Eの死亡の原因が被告での石綿ばく露であるとして,石綿健康被害救済法に基づき,特別遺族年金の支払を請求した。

c
神戸東労働基準監督署長は,平成18年6月23日に,上記労災請求に基づく特別遺族年金の支給を決定した。
甲事件の訴え提起
甲事件原告らは,平成25年1月22日,甲事件を提起した。


債務不履行に基づく損害賠償請求権
雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請
147/155

求権の消滅時効期間は10年であり(民法167条1項),この10年の時効期間は損害賠償請求権を行使できるときから進行するところ,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時に,その権利を行使することが法律上可能になるというべきであって,権利を行使し得ることを権利者が知らなかった等の障害は,時効の進行を妨げること
にはならないというべきである。
そうすると,亡C及び亡Eの債務不履行に基づく損害賠償請求権は,亡C及び亡Eにそれぞれ客観的な損害が発生した時から進行し,遅くとも,各人が死亡した日から消滅時効期間が進行しているというべきであり,安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Cにつき平成12年4
月25日,亡Eにつき平成12年1月26日で,甲事件の訴えが提起された時点でいずれも10年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

不法行為に基づく損害賠償請求権
民法724条は不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅すると規定し,損害及び加害者を知った時とは,被害者において加害者に対する損害賠償が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時を意味し,単に損害を知るにとどまらず,加害行為が不法
行為を構成することをも知ったときを意味するものと解される。
本件においては,X6及び亡Gが,それぞれ上記アの各労災請求に至った経緯までは判然としないものの,いずれも被告での職務従事における石綿ばく露を前提に上記各請求をしていることから,遅くとも,それぞれ上記アの各労災請求をした時点では,被告における石綿ばく露を原因に疾病を発症し
死亡したことを認識しているといえ,被害者が…損害及び加害者を知ったものと認められる。

148/155

そうすると,上記アの各労災請求をした日から消滅時効期間が進行するというべきであるから,亡C及び亡Eの不法行為に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Cにつき平成21年9月15日,亡Eにつき平成18年3月20日であり,甲事件の訴えが提起された時点で,いずれも3年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

債務の承認の有無

判断の前提となる事実,証拠(甲A25)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
被告は,平成19年4月1日,次のとおり定め,本件特別補償規程を実
施した(一部省略)。
第1条

退職した従業員の石綿に起因する業務上の災害に関する特別補償
については本規程の定めるところによる。

第2条



退職した従業員が,石綿に起因する指定疾病(石綿健康被害

救済法第2条1項に定める指定疾病をいう。以下同様とする。)
に罹患し,労災保険法による療養補償給付を受ける場合に,同給付
金によって填補されない慰謝料その他の損害を補填する目的で,療養補償給付とは別に特別補償を行う。


退職した従業員が石綿に起因する指定疾病に罹患し死亡した

ことにより,当該従業員の遺族が,労災保険法による遺族補償給付または石綿健康被害救済法による特別遺族給付を受ける場合に,同
給付金によって填補されない慰謝料その他の損害を補填する目的で,遺族補償給付及び特別遺族給付とは別に特別補償を行う。
第3条

特別補償の額は,次の通りとする。
1
退職者が労災保険法による療養補償給付の支給決定を受けた場

合,本人に対し,1000万円
2
労災保険法による遺族補償給付または石綿健康被害救済法によ

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る特別遺族給付の支給決定を受けた場合,遺族補償給付または特別遺族給付を受ける者に対し,
退職者の死亡時の満年齢が60歳未満

3000万円

退職者の死亡時の満年齢が60歳以上65歳未満
退職者の死亡時の満年齢が65歳以上70歳未満

2000万円
1500万円

退職者の死亡時の満年齢が70歳以上

1000万円

ただし,退職者が死亡する以前に前号または災害特別補償規程に
基づく特別補償を受けた場合,本号に基づく特別補償の額から退職者が受領済みの特別補償額に相当する金額を控除した額を支給するものとする。

第5条

業務上災害の認定は,原則として,行政官庁の決定するところに
よる。

第6条

本規程各条の定めにかかわらず,石綿のばく露が本人の故意また
は重大な過失に起因する場合,第三者の行為が競合する場合,著しい環境ばく露を受けている場合など,業務起因性または因果関係に
疑義があると認める相当な理由,または,会社の業務によるばく露が全体のばく露の一部に過ぎないと認められる場合は,労使協議の上,特別補償額を減額することとする。
第7条

会社が特別補償を行った場合は,その価額の限度において民法に
よる損害賠償の責を免れるものとする。

被告は,本件特別補償規程に基づく特別補償金として,平成22年4月15日,X6に対し500万円を,平成19年12月17日,亡Gに対し1125万円をそれぞれ支払った。

原告らは,被告が,本件特別補償規程に基づく特別補償金を支払ったことが債務の承認に該当し,時効が中断すると主張する。
しかし,本件特別補償規程に基づく特別補償金は,上記ア

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れば,業務上の災害につき使用者の過失無過失を問わず支給される労災保険金による補償の不足を補う趣旨で支払われるものであると解するのが相当であるから,その性質上,損害賠償債務の履行として支払われるものとはいえない。なお,会社が特別補償を行った場合は,その価額の限度において民法による損害賠償の責任を免れるとされているが,これは,特別補償が損害の
填補の性質を有することに着目して,損益相殺的な調整の対象になることを定めたものと解されるのであって,上記の定めが債務の一部弁済であることを論理的に前提としていると解することはできないし,その他原告らが主張する点も独自の見解といわざるをえない。
したがって,原告らの主張は採用できない。

時効の援用が権利濫用にあたるか否か

証拠(甲A34,48ないし54,59ないし64,証人I)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
亡Gは,平成17年7月28日,被告に対し,亡Eが悪性胸膜中皮腫で
死亡したことを受けて,入社から定年までの亡Eの職場歴と中皮腫との関係を調査してほしい旨書面による方法で申し入れた。
これに対し,被告は,平成17年9月1日及び同年10月26日に,亡Gの代理人を務めるI及びX23らとの間で話合いに応じたが,ブレーキ付きモーターはカバーがついているから石綿が飛散しないとか,白い粉は
炭酸マグネシウムで,タルクを使ったかかどうか解らないなどと述べて,結局のところ,亡Eの中皮腫と被告における業務との因果関係は不明であるなどと回答した。
亡Gは,平成18年6月23日に亡Eについて労災認定がされたことを契機に,同年7月25日,被告に対し,アスベスト健康被害に関する要請書を提出し,石綿が使用されてきた職場名や作業状況等を明らかにすることなどを求め,被告は,これに対し,同年8月21日,成形職場の成
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形機のモーターのブレーキパッド部分,ホットナイフボックスの外側の断熱材,加硫職場のモールド及び配管の断熱材と回答した。亡Gは,同年9月28日,被告に対し,石綿が不純物として含まれる可能性のあるタルク等が使用されている職場名と作業内容を質問する趣旨であることなどを補足した。
亡Gの代理人を務めていたI及びX23は,亡Gとともに,平成18年10月6日,誰でも一人で入れる個人加盟の労働組合として活動しているひょうごユニオン(以下本件組合という。)の住友ゴム分会(以
下分会という。)を結成し,同月12日,被告に対し,被告における
石綿の使用実態について明らかにすることなどを求めて,団体交渉の開催を申し入れた。
しかし,被告が,分会には被告の退職者ないし遺族しか含まれておらず使用者が雇用する労働者に該当しないとして,申入れに応じなかったため,本件組合は,平成18年11月13日,兵庫県労働委員会に対し,
団体交渉の応諾等を求めて不当労働行為救済申立を行ったが,平成19年7月5日,上記申立てが却下された。
そこで,本件組合は,上記却下決定の取消し等を求めて,訴訟を提起し不当労働行為救済命令取消請求事件。兵庫県
に対する訴訟で,被告は兵庫県に補助参加している。),神戸地方裁判所
は,I及びX23が加入している本件組合が使用者が雇用する労働者(労働組合法7条2号)の代表者であるなどとして,平成20年12月10日,上記却下決定を取り消すとの判決をした。
これに対し,兵庫県及び被告は控訴したが,大阪高等裁判所は,平成21年12月22日,控訴を棄却し,最高裁判所も平成23年11月10日
に上告を棄却したため,上記却下決定を取り消すとの判決が確定した。その後,被告は,本件組合との団体交渉に応じることとなり,平成23
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年12月9日,第1回の団体交渉が始まり,職場における過去の石綿の使用実態等について労働者ないし退職者から可能な限り聞き取り調査を行うことが約束された。また,被告は,平成24年2月3日の第2回団体交渉で,タルクの使用状況を明らかにした。

一般に,消滅時効制度の機能ないし目的については,①長期間継続した事実状態を維持して尊重することが法律関係の安定のため必要であること,②権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者は法の保護に値しないこと,③あまりにも古い過去の事実について立証することは困難であるから,一定期間の経過によって義務の不存在の主張を許す必要があることなどであると説明されているが,時効によって利益を受けることを欲しない場合にも,
時効の効果を絶対的に生じさせることは適当でないともいえるから,民法は,永続した事実状態の保護と時効の利益を受ける者の意思の調和を図るべく,時効の援用を要するとしている(民法145条)。もっとも,時効を援用して時効の利益を受けることについては,援用する意思表示を要件とするのみで,援用する理由や動機,債権の発生原因や性格等を要件として規定しては
いない。このような債権行使の保障と消滅時効の機能や援用の要件等に照らせば,時効の利益を受ける債務者は,債権者が訴え提起その他の権利行使や時効中断行為に出ることを妨害して債権者において権利行使や時効中断行為に出ることを事実上困難にしたなど,債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて債務者に責めるべき事由があり,債権者に債権行使を保障し
た趣旨を没却するような特段の事情があるのでない限り,消滅時効を援用することができるというべきである。

本件においては,本件被用者らの被災状況が判然としないことから,被告に対し,原因を明らかにするように求め,また団体交渉を申し入れるに至っ
た経過や,この種事案における遺族による訴訟追行及び損害賠償請求自体に困難が伴うことに照らすと,X6及び亡Gが,上記各労災請求をした時点で
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は,被告に対する損害賠償請求権を行使することには,法的なあるいは事実上の問題点が多く,損害賠償請求権の行使が容易ではなかったというべきであり,加えて,上記アのとおり,被告に対する損害賠償請求権を行使するための準備行為を行っていたことからすれば,権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者ともいえない。

さらに本件組合による団体交渉の申入れから団体交渉が実現するまでに5年以上の期間を要しているところ,このことは,被告が,本件組合からの団体交渉の申入れを拒否した結果,訴訟にまで発展し,訴訟において被告が団体交渉に応じる義務があると判断されていることなどからすると,被告側の不当な団体交渉拒否の態度に起因するものといわざるを得ない。そうすると,
原告らが,被告に対する損害賠償請求権を行使することに関し,法的なあるいは事実上の問題点を解消するために長期間を要したことについては,被告に看過できない帰責事由が認められるというべきである。
以上を総合すると,被告が,積極的に,原告らの権利行使を妨げたなどの事情は認められないものの,上記のとおり,被告の看過できない帰責事由に
より,原告らの権利行使や時効中断行為が事実上困難になったというべきであり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情が認められる。
したがって,被告が,亡C及び亡Eの損害賠償請求権に関して消滅時効を援用することは,権利の濫用として許されないものというべきである。
よって,被告の消滅時効の抗弁には,理由がない。
5
結論
以上によれば,X3,X4,X5,X6,X10,X11,X12,X13,X14,X15,X16,X17,X18,X19,X20,X21,X22及
びX23の被告に対する請求は,いずれも主文第1項から第9項までの限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないから棄却し,X1,X2,X7,
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X8及びX9の被告に対する請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言について同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

神戸地方裁判所第1民事部

裁判長裁判官

本多久美子
裁判官

河本寿一
裁判官

熊野祐介
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