判例検索β > 平成28年(う)第1917号
営利略取、逮捕監禁、強盗致死、死体遺棄、拐取者身の代金取得
事件番号平成28(う)1917
事件名営利略取,逮捕監禁,強盗致死,死体遺棄,拐取者身の代金取得
裁判年月日平成30年4月18日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄自判
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27合(わ)52
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平成30年4月18日宣告

東京高等裁判所第5刑事部判決
営利略取,逮捕監禁,強盗致死,死体遺棄,拐

取者身の代金取得被告事件
主文
原判決を破棄する

被告人を懲役28年に処する
原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

第1
1由
控訴趣意について
事案の概要及び原判決の骨子
公訴事実の要旨等

本件公訴事実の要旨は,以下のとおりである。すなわち,
被告人は,

A,B及びCと共謀の上,D(当時24歳)を営利の目的で略取し,逮
捕監禁しようと考え,平成22年12月6日午後8時頃(以下,月日の記載は,特に断らない限り,平成22年のそれを示す。),豊島区内の当時のA方マンション居室及び同室前通路において,Dに対し,その身体を殴り,バッグに詰め込むなどの暴行を加えて同人を自らの支配下に置くとともに逮捕し,Dを同マンションから運び出して普通乗用自動車に乗せ,その自動車を八王子市内の都営住宅の居室(倉庫)前まで疾走させた上,同人を同室内に連行し,その後も同人の行動を監視するなどし,同月7日頃までの間,同人を同室から脱出することが不能な状態に置き,もって,同人を営利の目的で略取するとともに不法に逮捕監禁し(平成27年7月2日付け訴因変更請求
書に基づく訴因変更後の同年3月6日付け追起訴状記載の公訴事実第1),イ
A,B及びCと共謀の上,Dから金品を強奪しようと考え,12月6日午後8時頃,前記A方居室及び同室前通路において,Dに対し,その身体を特殊警棒様の物で殴り,足で蹴るなどしてバッグに詰め込み,同人を同マンションから運び出して普通乗用自動車に乗せ,同日午後9時頃,倉庫に運び込むなどの暴行を加えた上,その頃,同所において,その身体を特殊警棒様の物で更に殴るなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し,同人から新宿区内の同人方玄関の鍵を奪い,さらに,同日午後11時頃,前記強奪した鍵を用いて入った同人方において,同人所有の現金約300万円及び腕時計1個(時価約70万円相当)を奪い,引き続き,同月7日午前零時頃から同日朝方までの間,倉庫において,同人の頭部等を殴るなどの暴行を加え,よって,そ
の頃,同所において,同人を左側頭部陥没骨折に伴う急性硬膜下血腫等により死亡させ(平成27年7月2日付け訴因変更請求書に基づく訴因変更後の同年3月6日付け追起訴状記載の公訴事実第2。以下「強盗致死事件」という。),

A,B,E及びCと共謀の上,12月10日から同月11日にかけての
頃,埼玉県本庄市内の霊園の一画を掘削した上,同所にDの死体を落とし込み,土砂及びコンクリートで埋め,もって死体を遺棄し(平成27年2月12日付け起訴状記載の公訴事実),

Dを営利の目的で略取した者であるが,その交際相手であるF(当時
25歳)の憂慮に乗じて同人に現金を交付させようと考え,Bと共謀の上,12月16日午後8時35分頃から同日午後9時39分頃までの間,東京都内から,6回にわたり,Fの携帯電話に電話をかけ,「Dの件だ。2000万円を持っていると聞いている。」「とりあえず,明日朝10時に六本木ドンキに金を持ってこい。明日金を持ってくれば,Dは帰す。」などと言って身の代金を要求し,さらに,同月17日午前10時7分頃から同日午前11
時9分頃までの間,東京都内から,6回にわたり,Fの携帯電話に電話をかけて身の代金の交付に係る指示をし,同日午前11時9分頃,Fをして新宿区内の首都高速4号線道路路肩に現金1000万円在中のビニール袋及び現金1000万円在中の紙袋を置かせ,同日午前11時33分頃,同所で,事情を知らないGにこれらを回収させて取得し,もって略取された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて財物を要求するとともに交付させた(平成27年5月14日付け追起訴状記載の公訴事実。以下「身の代金取得事件」という。),というものである。
原判決の骨子
原判決は,被告人に強盗致死罪が成立するか,すなわち,Dの死亡原因となった暴行の主体,時期,その暴行が強盗の機会に加えられたか否かと,拐
取者身の代金取得罪についてAも共謀していたかの2点を争点とした。そして,(事実認定の補足説明)において,前者の点については,主として,Dの司法解剖をした証人H医師の原審における供述(以下「H証言」という。),Aの強盗致死等被告事件及びB本人の同被告事件におけるBの各公判供述(以下「B供述」という。)に依拠し,被告人が特殊警棒を用いて,
左側頭部を突いた暴行がDの死因になった可能性が極めて高いとした上,当初の強盗計画に基づき,Dを倉庫で監禁中に被告人により加えられた上記暴行は強盗の機会に加えられたものと認められ,仮にCが午前4時頃以降に死因となる暴行を加えたとしても,強盗の機会に加えられたものと認められるなどとし,後者の点については,Fから身の代金を取得することにつき,被
告人及びBとAとの間の共謀は成立しないとし,以上を踏まえ,前記アないしエの各公訴事実と同旨の事実を認めた。
その上で,原判決は,(量刑の理由)において,被告人は,A及びBとともに本件の首謀者といえる上,Dの拉致,監禁中には同人を特殊警棒で殴る暴行を加えるなど,実行行為を自ら担当しつつ,終始主導的な立場で振る舞
い,中心的な役割を果たした,被告人による前記暴行が,死亡の原因である可能性が非常に高いことなどに照らすと,特に,強盗致死に関する責任非難の程度には,共犯者間において有意の差があり,被告人の責任が最も重い,拐取者身の代金取得においても主導的で中心的な役割を果たしたなどと指摘した上,A,Bらの判決結果や強盗致死における同種事案の量刑傾向をも踏まえ,無期懲役刑を選択し,Dの遺族に対して賠償金500万円を支払ったことなどを考慮しても,酌量減軽すべき事情は認められないとして,被告人を無期懲役に処した。
2
控訴の趣旨の骨子

弁護人宮村啓太(主任)及び趙誠峰の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,事実誤認及び量刑不当の主張である。
論旨は,要するに,まず,強盗致死事件に関し,①Dの死因となった暴行の主体及び時期について「可能性が極めて高い」ことをもって被告人に不利な事実を認定し,量刑したのは,憲法31条に違反する訴訟手続の法令違反である,②暴行の主体及び時期に関連するIの証人尋問請求を却下したのは,訴訟手続の法令違反である,③Dの死因となった暴行を被告人が加えた可能
性が極めて高いと認定したことは事実誤認である,④上記③を前提に,同暴行が強盗の機会に加えられたものと認定したのは事実誤認である,次いで,身の代金取得事件に関し,⑤Aとの共謀等に関連するL及びM両警察官の証人尋問請求を却下したのは,訴訟手続の法令違反である,⑥身の代金取得事件がAとの共謀に基づくことを否定し,専ら被告人が主導したかのように認
めたことは事実誤認である,などというとともに,⑦被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,Dの遺族に対する追加の損害賠償金の支払等の原判決後の事情を併せ考慮すれば,そのことは一層明らかである,というのである。
これに対し,検察官の答弁は,弁護人の控訴趣意は,いずれも理由がない,
というものである。
3
強盗致死事件について
訴訟手続の法令違反(憲法31条違反)に関する主張について

弁護人の主張

所論は,原判決が,Dの死因となった暴行の主体及び時期について「可能性が極めて高い」ことをもって被告人に不利な事実を認定したのは,憲法31条に違反する訴訟手続の法令違反である,という。すなわち,Dの死因となった暴行の主体及び時期の点は,強盗致死罪の成否(具体的には死因となった暴行が「強盗の機会」に加えられたものか)の判断の前提となるもので,かつ,刑の量定にも影響するものである。そうである以上,暴行の主体及び時期については,検察官がその証明責任を負い,かつ,その証明は合理的な
疑いを差し挟む余地のない程度のものであることが必要であったのに,原判決は,被告人の暴行がDの死因であったことが,合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されているかを吟味しないまま,Cの暴行が死因であるとの原審弁護人の主張を排斥し,被告人に不利益な認定をしたものであって,これは,憲法31条に反する訴訟手続の法令違反である,というのである。

当裁判所の判断

確かに,原判決は,(事実認定の補足説明)において,本件の争点の1つとして,Dの死因となった暴行の主体,時期,その暴行が強盗の機会に加えられたか否かという点を挙げた上,「被告人が,特殊警棒を用いて,Dの左側頭部を突いた暴行がDの死因になった可能性が極めて高い」と説示するとともに,強盗計画に基づきDを監禁中に上記暴行が加えられたのであるから,この暴行は強盗の機会に加えられたものと認められる,と判示しており,所論の指摘するとおり,被告人による上記暴行がDの死因になった「可能性が極めて高い」ことをもって強盗の機会性を肯定する結論を導いたような書きぶりになっている。

しかし,原判決は,(罪となるべき事実)の第2においては,被告人が,A,B及びCと共謀の上,12月7日午前零時頃から同日朝方までの間,倉庫において,特殊警棒でDの頭部等を殴るなどの暴行を加え,よって,Dを左側頭部陥没骨折に伴う急性硬膜下血腫等によって死亡させた,旨の判示をしており,Dの致命傷の原因となった暴行及びその主体を特定しない,公訴事実と同旨の概括的な認定をするにとどめている。
さらに,原判決は,前記のとおり,被告人の暴行がDの死因となった可能性が極めて高いとする一方で,Cが同日午前4時頃以降に死因となる暴行を加えた可能性は考え難いとしつつも,「仮にそれがあったとしても,被告人らの強盗の計画の一環としてなされた監禁継続中の暴行であり,強盗の機会に加えられたものと認められる」と説示しており,Cが同日午前4時頃以降
に致命傷の原因となる暴行を加えたとしても,強盗の機会性は左右されない旨を判示している。
以上によれば,原判決は,Dの致命傷は被告人かCのいずれかの暴行によって生じた,という限度で犯罪事実を認定したものであって,被告人による暴行がDの致命傷を生じさせたと認定したものではないと理解される。した
がって,「可能性が極めて高い」ことをもって犯罪事実を認定したとして訴訟手続の法令違反をいう所論は,その前提を欠くというべきである。また,所論は,原判決が,被告人の暴行がDの死因である可能性が非常に高いことを指摘して被告人の強盗致死に関する責任非難の程度が重いとする点を捉えて,憲法31条に違反する訴訟手続の法令違反があるというのであ
るが,要するに,死因となった暴行を被告人が加えた可能性が非常に高いことを量刑の前提とすることの不当性をいうものであるから,実質は,量刑不当の主張というべきである。
以上のとおり,訴訟手続の法令違反(憲法31条違反)をいう論旨は,理由がない。

訴訟手続の法令違反に関する主張(Iの証人請求の却下に係るもの)について

弁護人の主張

所論は,原裁判所が,暴行の主体及び時期を判断する上で,関連性及び必要性が認められるべきIの証人請求を却下したのは,判決に影響を及ぼす訴訟手続の法令違反である,という。すなわち,12月7日午前4時頃以降,Cによる「死因となり得る暴行」が存在しなかったことの根拠となる証拠はC供述以外にはなかったのであるから,Dの死因となった暴行の主体及び時期を判断するに当たっては,その信用性を吟味する証拠調べを尽くす必要があった,特に,「C氏は自らが致命傷を与えてD氏を亡くならせた旨を事件直後に周囲に告白していた事実等」を立証趣旨とするJ及びIの証人尋問に
ついて,関連性が認められることは明らかである,Cの告白の真実性を判断するに当たっては,Cと告白を受けた各人との関係や告白をした際の具体的な状況を吟味する必要があり,Jの証人尋問を採用したからといって,Iの証人尋問の必要性が失われるものではない,などというのである。イ
当裁判所の判断

原審記録によれば,原審弁護人は,Dは,被告人が倉庫を後にした12月7日午前4時頃以降にCが加えた暴行によって死亡したものである旨主張し,これに関連し,いずれも所論指摘の立証趣旨により,J及びIの証人尋問を請求したこと,原裁判所は,公判前整理手続において,Jを採用する一方,Iの採否を留保したこと,原審第4回公判期日においてCの証人尋問が実施
されたところ,Cは,自分が言えることは,Dの死因となる暴行を加えて死に至らしめたのは自分ではないということだけで,それ以外の質問には答えられないとしてほとんどの質問に対して証言を拒絶したものの,原審弁護人の質問に答えて,I及びKに対して,自分が暴行をやりすぎてDを死なせてしまった旨を話したとする供述をしたこと,原裁判所は,原審第6回公判期
日において,Jの証人尋問に先立ち,Iの証人請求を却下したことが認められる。
以上を踏まえ検討すると,Iの証人請求は,争点である「Dの死亡となった暴行の主体,時期」との関係では,その直接証拠に当たるC供述の信用性に関する補助事実を立証趣旨とするものにとどまる上,その事実については,C自身が原審証人尋問においてこれを自認する供述をしていたほか,原裁判所は,Cとの関係性等は異なるとはいえ,同一の立証趣旨によりJの証人尋問を採用し,取り調べることを予定していた。以上のようなIの証人尋問の位置付けや重要性,その立証趣旨に係る証拠調べの状況等に照らすと,Iの証人請求を却下した原裁判所の判断は,Jの証人尋問の実施に先立って同決定をした点の妥当性はともかく,所論を踏まえても,その合理的な裁量を逸
脱したものとは認められない。
訴訟手続の法令違反に関する論旨(Iの証人請求の却下に係るもの)は理由がない。
事実誤認に関する主張(Dの死因となった暴行を被告人が加えた可能性が極めて高いと認定した点に係るもの)について


弁護人の主張

所論は,原判決は,H証言を正解せず,かつ,被告人が特殊警棒を銛で突くようにしてDの頭部に突き立てた旨のB供述の信用性判断を誤るなどした結果,Dの死因となった暴行を被告人が加えた可能性が極めて高いと認定したが,その事実認定は誤りであり,そのことは,Cの証人尋問を含む当審における事実取調べの結果,一層明らかになった,という。

当裁判所の判断

前記のとおり,原判決は,(罪となるべき事実)第2の認定においては,Dの致命傷が所論のいう被告人の暴行により生じたとは認定しておらず,被告人が上記暴行に及んだことや,その暴行がDの致命傷を生じさせたものであることを前提に犯罪事実を認定してはいない。そうである以上,仮に被告人がDの死因となった暴行を加えた可能性が「極めて高い」とする判断が誤りであったとしても,そのことは(罪となるべき事実)の認定を左右するものではなく,上記認定の誤りを指摘する論旨は,刑訴法382条所定の事実誤認の主張としては失当である。
事実誤認に関する主張(Dの死因となった暴行が強盗の機会に加えられたものであると認定した点に係るもの)について

弁護人の主張

所論は,原判決は,被告人による暴行がDの死因となったとの前提において,同暴行が強盗の機会に加えられたものと認定したが,Dの死因となった暴行は,被告人らが倉庫を離れた12月7日午前4時頃以降にCが加えたものであって,そもそも上記前提そのものが誤りである上,上記時点頃には「強盗」の計画は終わっていたから,これが継続していたとした点でも誤りである,という。すなわち,①被告人らが倉庫を離れた上記時点頃以降にCが加えた暴行がDの死因となったもので,その時点で被告人らが奪取しようと考えていた残る金品はFが預金口座に預け入れていた2000万円だけで
あり,被告人らは上記時点において,DからFに電話をかけさせて,上記金員をコインロッカーに入れるように伝えさせ,それを誰かに回収させるとの段取りでこれを奪取することを計画しており,財産の占有主体であるFに対してはもとより,Dに対しても,更なる暴行又は脅迫を加えることを予定していなかったから,その計画は,Dを道具のように使ってFから2000万
円を騙取する詐欺の計画であり,強盗の計画ではなかった,②原判決は,強盗罪の暴行・脅迫は,財物の奪取を遂行するのに障害となる者に対して向けられたものであれば足りるとして,原審弁護人の主張を退けたところ,その判示は「およそ強盗罪の成立には目的を遂行するに障碍となる者に対してその反抗を抑圧するに足る暴行を加えるということで十分」であるとする最高
裁第二小法廷昭和22年11月26日判決(裁判集刑事1号109頁)を踏まえたものと思われるが,本件は,上記判例とは事案を異にする,③Dの死因となった暴行は,12月7日午前4時頃以降にCによって加えられたものであるところ,同日午前零時頃までには,Dの占有下にある金品を奪取する強盗の計画は完遂しており,Cによる暴行は,金品奪取の手段ではなかったことはもとより,強盗の計画と何の関連性も牽連性もなく,「強盗の機会」に行われたものであったとは認められない,などというのである。イ
当裁判所の判断

既に判示したとおり,原判決は,Cが12月7日午前4時頃以降に死因となる暴行を加えたとしても,強盗の機会性が認められるとしたものであるから,所論は,原判決を正解しないものといわざるを得ない上,以下に述べるとおり,前記①ないし③の点についても,理由がない。被告人らの強盗計画の内容及び終期等(前記①の点)について原判決の認定のうち,被告人らが,Dから,Fに預けているという2000万円も含め,合計4000万から5000万円と見込まれる現金を全て奪うという強盗の計画を立てていたこと,被告人及びBが,12月6日午後9
時頃以降,倉庫内で,Dから,Fの銀行預金口座に2000万円を預けていることを実際に聞き出すと,翌7日の朝,銀行が開店した後,DからFに電話をかけさせて,Fに現金を持って来させることにしたことを認めた点については,不合理なところはない。
所論は,以上の事実を前提としつつ,ⓐ本件2000万円は,Dが「自由
に使っていい」と伝えて,その使途をFに委ねて渡した現金であり,これが預け入れられていた預金口座の届出印や通帳等はいずれもFが管理していた上,同口座にはFの給与が振り込まれ,Fがその一部を引き出して使っていたことなどに照らせば,Fが単独で占有する財産であったものであるとするとともに,ⓑ被告人らがD方からの金品奪取等を終えた同日午前零時頃以降
の時点では,それ以上にDに暴行又は脅迫を加えても,もはやDの占有下に奪取できるような金品はない状態であったとし,しかも,ⓒ被告人らは,同日午前4時頃の時点においては,DからFに電話をかけさせて,預金口座から引き出した2000万円をコインロッカーに入れるように伝えさせ,それを誰かに回収させるとの段取りでこれを奪取することを計画しており,財産の占有主体であるFに対してはもとより,Dに対しても,更なる暴行又は脅迫を加えることを予定していなかった,などという。
しかし,ⓐの点については,原判決が指摘するとおり,Fの供述によれば,Dから渡された現金をFが使用したことはなく,Dの指示によりF名義の口座に預けていたもので,指示されればDに渡すつもりであったというのであるし,B供述によれば,Dにおいても,Fに預けていた現金については,次の
朝になれば持って来させられると説明していたというのであるから,本件2000万円については,FがDとともに占有管理していたものと認められ,仮にFが単独でこれを占有管理していたとしても,Dは,いつでも自己の下に持参させることができる状態にあったとした原判決の認定,評価に不合理な点はない。

また,ⓑの点については,B供述は,「その日は,これ以上やれることはない」が,翌朝になれば,Fに現金を「持ってこさせられる」ので,「銀行が開く時間まで待つしかない」という話になったという趣旨と理解するのが自然であり,それは,銀行が営業時間外であるため中断せざるを得ないものの,当初の計画は未だ進行中であるとの認識を示すものとみるのが相当であ
る。
そして,ⓒの点については,被告人らは,12月7日午前4時頃の時点においても,Dから合計4000万から5000万円の現金を全て奪うという強盗の計画の遂行途上にあり,D方から金品を奪った後も,引き続き倉庫内にDを監禁し,同人がそれまでの暴行等により既に反抗抑圧状態にあること
を利用して,Fに対する電話をかけさせて,2000万円を指示する場所に持参させようとしていたものと認められるから,上記時点以降,FやDに対し,更なる暴行又は脅迫を加えることを予定していなかったとしても,本件2000万円を取得する計画は,まさに強盗の計画の一環であったことは明らかである。
12月7日午前零時頃の時点までに強盗の計画は終了しており,本件2000万円を取得する計画は,Fが単独で占有する現金を騙取する詐欺の計画であったなどとする所論は採用し得ない。
奪取対象の現金の占有者でないDに対する暴行は強盗罪における暴行に該当し得るか(前記②の点)について
既に説示したとおり,本件2000万円については,DとFがともに占有
管理していたものと認められ,仮にFが単独でこれを占有管理していたとしても,Dは,いつでも自己の下に持参させることができる状態にあったと認めた原判決の認定に誤りはない。
そして,DがFとともに占有管理していたとみれば,被告人らが,占有者であるDに対し,強盗目的で暴行を加え,監禁状態を継続し,同人が反抗を
抑圧された状態にあるのを利用して,Fに電話をかけさせて,同人をして本件2000万円を指示する場所に持参させてこれを取得する行為が強盗に当たることに疑問の余地はない。
また,強盗罪は,人の反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫を加えて,人の財物を奪取することにより成立するものであって,財物の奪取の手段とし
て反抗を抑圧するに足りる暴行が加えられ,これにより財物が奪取されれば,必ずしもその暴行が財物の所持者に加えられたものである必要はなく,財物の奪取を遂行するのに障害となる者に対して向けられたものであれば足りると解され(なお,所論の指摘する判例と本件は事案を異にするが,原判決も,同判例を引用して根拠としているわけではない。),仮にFが本件2000
万円を単独で占有していた場合であっても,FとDの人間関係やDからFに本件2000万円が渡された経緯,趣旨等に照らせば,DがFに指示しない限り,被告人らが,Fから本件2000万円を取得することは困難であったという意味において,Dは,本件2000万円の奪取を遂行するのに障害となる者であったといえるから,強盗目的による暴行によって既にDが反抗を抑圧された状態にあったことを利用して,Fに電話をかけさせ,同人に2000万円を指示する場所に持参させようとする行為は,まさに強盗であると評価することができ,それと同旨の原判決の判断は正当である。
Dの死因となった暴行の目的,強盗の計画性との関係性,牽連性等(前記③の点)について
所論は,12月7日午前零時頃までには,Dの占有下にある金品を奪取す
る強盗の計画は完遂していたとの前提に立ち,同日午前4時頃以降にCによって加えられた暴行は,強盗の計画との関係性,牽連性を欠くなどというのであるが,既に説示したとおり,被告人らは,同時点において,なお強盗の計画に基づき,本件2000万円を奪取しようとしていたものと認められるから,所論は前提を誤ったものといわざるを得ない。

Dの死因となった暴行と強盗の計画性との関係性,牽連性等に関する所論は採用し得ない。
その他,所論が縷々指摘するところを踏まえても,Dの死因となった暴行が強盗の機会に加えられたものであるとの原判決の認定,判断に誤りはなく,これを前提に,原判示第2の事実につき強盗致死罪が成立するとした原判決
は正当である。強盗の機会性の点で事実誤認をいう論旨は理由がない。4
身の代金取得事件について
訴訟手続の法令違反の主張について


弁護人の主張

所論は,原審が,Aとの共謀等に関する被告人供述の信用性を判断する上で,関連性及び必要性が認められるべきL及びM各警察官の証人請求を却下したのは,判決に影響を及ぼす訴訟手続の法令違反である,という。すなわち,被告人は,原審被告人質問において,12月17日にFから2000万円の身の代金を取得した後の経過について,具体的に供述したところ,被告人が取調べ時に捜査官から示されたNシステムのデータ記録の中には,上記被告人供述を裏付けるものが含まれていた,したがって,当該Nシステムのデータ記録を取り調べれば被告人供述の信用性が裏付けられたはずである一方,これと矛盾するB供述に信用性がないことは明らかとなり,A,B及び被告人の3名で取得した身の代金を分配した実態が明らかになるはずであった,ところが,Nシステムのデータ記録については,存在していないとして開示を受けられなかったことから,原審弁護人は,やむを得ず,Nシステムデー
タを用いて被告人の取調べを担当した前記2名の警察官の証人尋問を請求したものであり,前記被告人供述の信用性を判断するに当たって,両名の証人尋問の関連性は明らかであり,証拠調べの必要性を否定し得る事情もなかった,などというのである。

当裁判所の判断

原審記録によれば,原審弁護人は,公判前整理手続において,A,B及び被告人の3人は,Dの拉致を実行する以前から,奪取した金銭は三等分することを決めており,身の代金取得事件についても,Aを含む3名が共謀し,互いに情報共有をしつつ実行した上,これにより取得した2000万円については,犯行当日に被告人からBに渡し,後日,被告人はBから上記3分の
1である650万円ないし660万円の分配を受けたものであって,Aも身の代金取得事件の共犯者である旨主張していたこと,その上で,原審弁護人は,被告人の取調べを担当した前記2名の警察官について,いずれも「本件捜査の過程でNシステムのデータを利用したこと,被告人に対する取調べにおいてNシステムのデータを示したこと,Nシステムのデータには被告人の
供述する足取りを裏付ける内容が含まれていたこと」を立証趣旨として証人尋問を請求したこと,これに対し,検察官が,関連性,必要性なしとの意見を述べたため,原審弁護人は,前記所論のような意見を補充したこと,原審は,第4回公判前整理手続期日において,両名の証人請求をいずれも却下したことが認められる。
以上を踏まえ検討すると,原審の公判前整理手続及び審理において,Aが身の代金取得事件について共謀共同正犯として関与していたことは,公訴事実に関する争いとはされていなかったものの,共犯者間の役割などの量刑に関わる重要な事情として被告人及び原審弁護人から主張されていたものである。その事情を認定する上で問題となるのは,A,B及び被告人の間における身の代金取得の計画に関する話合いの有無・内容,準備段階及び実行段階
等における各人の具体的な関与の有無・内容,身の代金取得後の現金の分配状況等の事情であるところ,Nシステムのデータ記録やこれに関する警察官の証人尋問により裏付けられる可能性があるのは,弁護人の主張を前提としても,被告人の供述に係る身の代金取得後の事実経過のうち,自動車による移動経路という外形的な事実の限度にとどまるのであって,その事実が認め
られたとしても,取得した現金の分配状況に関する被告人の供述が強く支えられるとまではいえないことはもとより,身の代金取得に至るまでの被告人らの話合いの有無・内容,各人の関与の有無・内容等,より本質的な事情の裏付けとはなり得ないものである。
したがって,前記各証人尋問は,身の代金取得事件への関与の有無,態様
等に関するA,B及び被告人の各供述の信用性を判断する上で重要性の高いものとはいえず,上記のような手続経過や前記各警察官証人の立証趣旨及び位置付け,重要性等に照らすと,各警察官の証人請求を却下した原審の判断は,所論を踏まえても,合理的な裁量を逸脱したものとはいえない。訴訟手続の法令違反の論旨は,理由がない。
事実誤認の主張について


弁護人の主張の要旨所論は,原判決は,「拐取者身の代金取得の犯行遂行にあたり,Aが関与した程度,その犯行によって得られた利益を享受していないことなどを考慮すると,Aが自分のために犯行に加わったということはできず,被告人及びBとAとの間で共謀が成立していたとは認められない」とし,これを基に「被告人は,拐取者身の代金取得においても主導的で中心的な役割を果たした」と判示したが,身の代金の取得に至るまでにAが果たした役割や各人の連絡状況に鑑みれば,Aがまさに「自分のために」犯行に加わっていたことは明らかであり,原判決の事実認定は経験則に照らし不合理である,という。イ
当裁判所の判断
原判決の判断の要旨

原判決は,(事実認定の補足説明)において,要旨,以下のとおり説示して,身の代金取得事件について,Aは共謀していないと判断した。a
まず,原判決は,原審関係証拠によれば,ⓐ被告人,A及びBは,1
2月8日未明,神奈川県大和市内のマンションに行ったこと,その際,死体の処理のほか,Fの2000万円について話題に上ったこと,その後,BがPからいわゆる飛ばしの携帯電話を取得したこと,ⓑ同日午後9時12分頃から同10時24分頃までの間,発信番号が非通知の携帯電話とDの携帯電話からFの携帯電話に合計7回の着信があったが,Fは応答しなかったこと,ⓒ被告人とBは,Aに依頼して,同月9日午前1時41分,その交際相手の
OにFへ電話をかけさせて,Dが拉致されたことについて,警察への被害届を出さないように伝えてもらったこと,ⓓ同月12日,Aは,OにFへ電話をかけさせて,非通知の電話に出るように伝えたこと,ⓔ同月15日,FからDの携帯電話宛てに,Dが無事に戻って来るのであれば要求に応じる旨のメールが送信されたこと,ⓕ被告人は,同月16日,Fに6回,非通知の電
話をかけて,身の代金の要求をし,その間と終了後に,A及びBに電話連絡をしたこと,ⓖ被告人は,同月17日,Fに6回,非通知の電話をかけて,身の代金の交付に関する指示をして,身の代金取得後,A及びBに身の代金を取った旨電話連絡したことなどの事実が認められるとした。
b
その上で,原判決は,身の代金取得事件に関する話合いや関与,取得
した身の代金の分配等に関するA及びBの供述の信用性について検討し,両者の供述は,大筋において合っているし,前記aで認定した事実経過と照らしてみても概ねよく符合している,奪った現金の分配方法についても,その時期や内訳,分配の理由についても具体的に供述されている,Bにおいて,Aに敢えて有利な虚偽供述をする動機は特段見当たらない,12月9日から15日までの間,非通知の携帯電話でFに連絡を取ろうとした形跡はなく,
犯行が具体的に進み始めたのは,同月15日にFからDが戻ってくるのであれば要求に応じる旨のメールがなされてからであり,これらの事情は,同月16日になって,被告人からBにFの2000万円を取る話がまとまったという電話連絡があったというB供述に整合しているなどとして,同月8日の時点では,Fから身の代金を取得する合意はできていなかったというA及び
Bの供述は信用できるとした。
c
次いで,原判決は,身の代金取得事件へのAの関与について検討し,
Aは,12月8日の時点で身の代金取得の提案に応じておらず,同月9日に900万円を受け取ったほかは,分け前を取得していない,同月12日,Oを介して,Fに犯人側からの電話である非通知の電話に出るように伝えた行為は,被告人及びBが行った身の代金取得の犯行を容易にするものであるが,その限度での関与にとどまるとし,Aは,以後,被告人からFと連絡が取れるようになったこと,身の代金取得の話がまとまったこと,実際に取得したことについて,電話連絡を受けたと認められるが,被告人とAの人的関係に加え,もともとAの情報提供により,一連の事件が始まり,同人の口利きで
Fと連絡が取れるようになったのだから,この程度の報告を受けたとして何ら不自然なことではないとした。また,Aが,身の代金2000万円から分け前を受けていないということは,身の代金取得事件について同人の関与が薄いことと整合するものであるとした。
以上を踏まえ,原判決は,身の代金取得事件の犯行遂行に当たり,Aが関与した程度,犯行によって得られた利益を享受していないことなどを考慮すると,同人が自分のために犯行に加わったということはできず,被告人及びBとAとの間で共謀が成立していたとは認められないと結論付けた。d
そして,原判決は,身の代金取得事件に関する被告人の供述について,
身の代金2000万円の分配に関する供述が曖昧である,大和市のマンションで,既にOを通じてFに連絡をしてもらおうという話は決まっていたと供述する一方,12月12日にAにOを通じてFに電話をかけさせた点について,自分は一切知らないと供述するなど不合理な点がある,自らが同月16日にFに対して身の代金を要求する電話をかけたのは,Bから,Fが電話に出ない,自信がないから代わりにかけて欲しいと言われたからなどと供述する点も,同日以前に非通知の電話からFへの電話があったのは,同月8日だ
けであるから,Bが被告人に電話を渡した経緯として述べるところは客観的な状況と符合しない,などと指摘し,このように,被告人の供述には,責任転嫁や引き込みが疑われ,重要な点において信用できない部分がある,としてその信用性を排斥した。
当裁判所の判断

しかし,A及びBの供述の信用性を肯定する一方,これに反する被告人供述の信用性を排斥した原判決は,その理由を合理的に説明することができておらず,認定した事実に基づくAの正犯性に関する評価も,不合理なものであって,是認することができない。以下,そのように判断した理由を説明する。

a
A及びBの供述の信用性について

身の代金取得事件に関するA,B及び被告人の間の話合いの有無,内容,同事件に至る経緯,事件後の身の代金の分配等については,上記3名の供述の外には,これらの存否や内容を示す客観的な証拠はない。そして,原審記録によれば,身の代金取得事件を除く本件の一連の事件については,A及びB等に対する捜査及び公訴提起が先行し,同事件による被告人の検挙及び公訴提起は1年程度遅れ,その検挙後に身の代金取得事件に関する捜査が進展したものとうかがわれ,同事件の実行犯であり関与を否定し難い被告人と,その共犯者としての容疑を新たに追及されることとなったA及びBとの利害や立場は,身の代金取得事件の捜査段階から鋭く対立する関係にあったものと考えられる。また,B供述は,Bが原審公判における供述を拒んだためにA
の公判やB本人の公判における供述を証拠としたものであって,必ずしも本件の争点に即したものとなってはいないし,被告人やその弁護人の反対尋問にさらされていないものである。
そうすると,B供述及びAの原審公判供述の信用性については,客観証拠等により確実に認定できる事実経過との整合性を踏まえ,慎重に判断する必
要があるところ,それらの供述が信用できるとした原判決の判断には,以下のような疑問がある。
まず,原判決は,12月8日の時点では,Fから身の代金を取得する合意はできていなかったというAの原審公判供述やB供述
た事実経過にも概ねよく符合しており,信用できるという。

しかし,同日,大和市のマンションにおいて,A,B及び被告人の間でFが持っている2000万円を取ろうとの話題が出たこと自体は,Aの原審公判供述及びB供述においても肯定されている。その際,A及びBは,被告人の提案に対し消極的な反応をした旨を述べているが,実際には,両名共,その後,後に述べるように,身の代金取得事件を実現する上で重要な役割を果た
している。さらに,原審関係証拠によれば,原判決も指摘するとおり,同日,Bが,同マンションにおいてPから飛ばしの携帯電話を入手したこと,同日午後9時12分から13分にかけて,同携帯電話からFの携帯電話に向けて3回の発信がされたが,Fは応答しなかったこと,その後,同月12日にAがOに指示をして非通知の電話に出るようにFを説得させ,同月15日にFからDの携帯電話に要求に応じる旨のメールが入ったこと,同月16日以降,被告人からFに対して,飛ばしの携帯電話を用いて身の代金が要求され,身の代金取得事件が敢行されたことが認められる。
以上のような事実経過は,12月8日の時点で,A,B及び被告人の間で,Fから2000万円を取る旨の合意が形成され,これに基づいて,Bにより飛ばしの携帯電話が入手され,それを用いてFに電話をかけるなどの具体的
な行動が開始され,その後,Aの指示によるOを通じたFに対する説得により同人との連絡が可能となり,飛ばしの携帯電話を使用して被告人からFに対する身の代金の要求が行われたとすれば,自然な流れとして理解できるものである。これに対し,被告人から,Fの持っている2000万円を取ってしまおうという提案はあったが,その場では,これを断り,あるいは,無視
したというAの原審公判供述及びB供述の内容と,その後の一連の事実経過が概ねよく符合しているとの原判決の評価は,両者が明らかに矛盾するとまではいえないにしても,それ以上に一連の事実経過との符合性が高いとするのは不合理である。
この点について,原判決は,12月9日から15日までの間に非通知の携
帯電話によるFの電話への着信履歴がないことが,同月8日に身の代金取得の合意はなかったとするAやBの供述と整合的であるとするもののようである。しかし,被告人が供述するように,同日の話合いでFからDの身の代金として2000万円を取得することの合意ができていたとしても,同日の時点では,非通知の電話にFが出ない状況であったのだから,その後,Aから
Oを通じて非通知の電話に出るようにFを説得するまでの間には非通知の電話をかけておらず,その説得を経て,FからDの携帯電話にメールが送られ,連絡が取れることになってから非通知の電話をかけるようになったことは当然ともいえ,上記事情は,Aの原審公判供述及びB供述と被告人の供述のいずれの方に整合的であるかは決し難いというべきである。
さらに,12月12日のOのFに対する架電の経緯をみると,まず,同日午後8時48分にFの携帯電話からOの携帯電話への発信があり,その約20分後の午後9時7分に,Aの携帯電話からBの携帯電話に発信があり,2分弱の通話が行われ,同日午後10時33分にOの携帯電話からFの携帯電話に前記架電があり,18分強にわたる通話がされ,その間に,OからFに対して非通知の電話に出るように伝えられるなどし,同日午後11時53分
以降,3度にわたり,被告人の携帯電話とBの携帯電話との間で発着信があり,さらに,翌13日の午前零時19分に被告人の携帯電話からAの携帯電話への発信があったものと認められる。以上のような関係者間の携帯電話による発着信の経過をみると,Fの携帯電話からOの携帯電話に着信があったことを契機に,AとBとの間の通話で協議が行われ,その結果を受け,Aか
ら交際相手であるOに対し,Fに非通知の電話に出るように説得することの指示が行われ,OからFに対して,その旨の架電がなされたものとみるのが自然である。そうだとすれば,Aは,被告人によるFへの身の代金の要求が開始される直前に,その趣旨を認識しながら,身の代金取得の犯行を実現する上で,必要不可欠な決定的な役割を果たしたことになる。

この点,Aは,上記12月12日午後9時7分のBの携帯電話への架電は,Bとの通話ではなく,その携帯電話で被告人と話した記憶であり,その際に,Fに非通知の電話に出てくれるよう話してほしいと被告人から頼まれた旨の供述をしている。しかし,B供述においては,上記通話はB自身が受け,Aから被告人の所在を聞かれたとされており,供述が一致していない。そもそ
も,Bの携帯電話にかけたところ,被告人が出て,Fに非通知の電話に出るようにOから働きかけることを頼まれた,というAの供述内容自体が非常に不自然である。身の代金取得事件を実行するためにOにFを説得させるという,記憶に強く残るはずの事柄を内容とする通話であることも踏まえれば,Aの上記供述は,意識的な虚偽供述である可能性が高いものと考えられる。以上のとおり,12月12日午後9時7分からの着信記録は,FからOに対する着信があった約20分後に,Aが,被告人を交えることなく,Bと2人で協議したものであり,その後にOによるFの説得行為が行われた状況からすれば,同日以前の段階で,A,B及び被告人の間で,Fの持っている2000万円を取る旨の合意ができていたことが推認されるといえ,ひいては,同月8日の時点では,Fから身の代金を取得する合意はできていなかったと
いうAの原審公判供述及びB供述の信用性に疑問を生じさせる事情であるといえる。
次に,原判決は,B供述が,12月8日に飛ばしの携帯電話を取得したことを否定する点は,P証言に反し信用できないと認めながら,そのことはAが共犯関係になかったとする供述部分の信用性に影響しないというが,上記
のようにして取得された飛ばしの携帯電話は,身の代金取得事件の犯行に用いられたものと推認され,これを自らの行為で取得したことを否認するB供述は,B自身及びAが関わることなく,被告人が独自に身の代金取得事件を行ったものとする供述態度の一環とみることもできるのであり,Aの関与に関する供述部分の信用性に影響しないとの判断は不合理である。また,原判
決は,BがAに有利な虚偽供述を行う動機が見当たらないとするが,既に判示したような身の代金取得事件に関する捜査の経緯に照らせば,同事件の責任を専ら被告人に負わせようとすることにおいて,BとAが利害や立場を共通にする面があったとも考えられる。さらに,原判決には,B供述が被告人やその弁護人による反対尋問を経たものでないことを踏まえた上で信用性を
評価する姿勢がうかがわれない。
以上のとおり,Aの原審公判供述及びB供述に信用性を認めた原判決には,両者と被告人との利害の対立状況,上記各供述間においても重要な点で不一致があること,B供述の信用性評価についても,被告人やその弁護人による反対尋問を経ていないことに対する留意が足りないところなどが認められ,客観的な事実経過との整合性の評価にも,不合理な点があるというべきである。
b
被告人供述の信用性について

次いで,被告人供述の信用性についてみると,原判決は,身の代金2000万円の分配に関する供述が曖昧であるというが,被告人は,分配の経緯や金額についても相応に具体的な供述をしており,その内容は事件から5年以上が経過した後における供述として,その信用性に強い疑いを生じさせるほどに曖昧であるとまではいえない。
また,原判決は,大和市のマンションで,既にOを通じてFに連絡をしてもらおうという話は決まっていたと供述する一方,12月12日にAにOを通じてFに電話をかけさせた点について,自分は一切知らないと供述するな
ど,被告人供述には不合理な点がある,という。しかし,前記のとおり,12月12日のOからFへの電話は,AがBと2人で協議をした上で,Oに指示してかけさせたものであるとすれば,被告人の供述は,その事実とむしろ整合するものといえる。また,12月12日の時点で,被告人を交えることなくBと2人で相談した上でOに上記電話をさせたとすれば,そのことは,
A,B及び被告人の間で,既に,Oを通じてFに連絡をしてもらう話が決まっていたという被告人供述に沿うものである。
さらに,原判決は,被告人が,自らFに対して身の代金を要求する電話をかけたのは,Bから,Fが電話に出ない,自信がないから代わりにかけて欲しいと言われたなどと供述するのは,飛ばしの携帯電話からの客観的な発信
履歴と符合しない,という。しかし,Bが,自らFに電話をしたくなかったために,電話をかけてみたが出なかったことを装い,それを口実に,被告人に電話することを依頼した可能性も考えられ,被告人の上記供述と矛盾するB供述は,そのような観点による反対尋問を受ける機会を欠いたものであるから,原判決の指摘は,必ずしも,被告人供述の信用性に疑いを抱くべき事情とはいえない。
以上を踏まえると,被告人供述の信用性に関する原判決の判断のうち,責任転嫁や引き込みが疑われるとの原判決の指摘自体には誤りはないものの(ただし,前述のとおり,同様のことはAの原審公判供述及びB供述についても指摘できることである。),重要な点において信用できない部分があると指摘する点については,いずれも被告人供述の信用性を排斥すべき合理的
な根拠を示したものとはいえない。
c
Aの正犯性の評価等について

原判決は,12月12日,Aが,Oに指示してFに電話をかけさせ,非通知の電話に出るように伝えさせたとの事実を認定し,このような口利きをした行為は,身の代金取得の犯行を容易にするものであるが,その限度での関与にとどまると評価している。しかし,同月8日に飛ばしの携帯電話及びDの携帯電話から合計7回にわたり着信があっても,これに応答しなかったFが,上記Oからの電話の後,同月15日,犯人に連絡を取る目的で,自らDの携帯電話にメールを送ったほか,同月16日以降,上記飛ばしの携帯電話からの着信に応じているのであるから,Aの行為は単に犯行を容易にしたに
とどまらず,それによって身の代金取得の犯行を実現することを可能にしたものというべきである上,前記のような経過からして,Aにおいても,そのことの認識に欠けるところはなかったはずである。
さらに,原判決は,Aは,被告人から,Fと連絡が取れるようになったこと,身の代金取得の話がまとまったこと,実際に取得したことについて,い
ずれも電話連絡を受けたと認められるとしながら,もともとAの情報提供により,一連の事件が始まり,Aの口利きでFと連絡が取れるようになったのだから,この程度の報告を受けたとして何ら不自然なことではないという。しかし,Fの持っている2000万円を取るとの被告人の提案を断ったというAが,前記のように,被告人と相談することなく,Oに指示してFに電話させたとすれば,それ自体がいささか不自然であるし,Fから2000万円を取るという提案を断られたにもかかわらず,被告人が,その後の経過や結果等の犯行状況について,共犯関係にないAに逐一報告したというのは,被告人とAの人間関係等によっても合理的に説明することは困難というべきである。
d
小括

以上のとおり,身の代金取得事件に関するAの共犯関係の存否については,決め手となる客観的な証拠はなく,基本的に,A,B及び被告人の各供述の信用性如何によって結論が左右されるという証拠構造であるところ,それらの者の利害は基本的に対立する状況にあり,証拠により認められる事実経過は,むしろAが共犯関係にあったとした方が自然に理解できるものといえ,
Aの原審公判供述は重要な部分において虚偽供述である可能性が高く,B供述は,被告人又はその弁護人による反対尋問を経ていないものであり,原判決が不合理とする被告人の供述も必ずしもそのように評価することに合理性が認められないものである。原判決が認定する身の代金として取得した2000万円の分配状況についても,Aの原審公判供述及びB供述以外に客観的
な裏付けがあるわけではない。
要するに,本件は,利害の対立する共犯者間において,そのいずれの供述が信用できるものといえるか,決め手となる証拠を見出すことが困難な事案である。しかも,供述の重要部分に虚偽や食い違いがあるにもかかわらず,Aの原審公判供述及びB供述の信用性を基本的に認め,これに反する被告人
の供述の信用性を合理的な根拠を示さず否定して行った原判決の事実の認定は,不合理といわざるを得ない。また,AがOに指示をしてFに非通知の電話に出るように説得させた行為が,身の代金取得事件の犯行計画を実現する上で決定的に重要なものであったにもかかわらず,それが被告人らによる犯行を容易にするものにとどまるとし,被告人からAに犯行の進行状況等を逐一報告したことについても,両者の人間関係や一連の事件の経緯などからして,共謀関係にないAが報告を受けたとしても不自然とはいえないとして,同人の共謀関係を否定する原判決の判断は,事実の評価においても合理的とはいえない。
以上の次第で,身の代金取得事件に関するAの関与に関しては,Aが共謀共同正犯であったとの合理的な疑いを否定することはできないというべきで
あるから,この点で事実誤認をいう論旨は理由がある。
しかしながら,身の代金取得事件については,被告人が,Bと共謀の上,事情を知らないGを道具として用いつつも,実行行為のすべてを自ら行ったものと認められるから,Bに加え,Aが共謀関係にあったか否かは,罪となるべき事実の記載には影響するものの,犯罪の成否そのものや法令の適用を
左右するものではない。また,身の代金取得事件において,Aが共謀関係にあったことを前提としても,後に量刑不当の主張に関する箇所で詳述するとおり,そのことだけで,所論のように,本件全体を通じて,最も強い責任非難はAに対して向けられなければならないとはいえない。
したがって,上記事実誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは
いえない。
5
量刑不当の主張について
原判決の判断の要旨と当裁判所の判断


原判決は,まず,本件犯行の犯情について,次のとおり説示した。
すなわち,営利略取,逮捕監禁,強盗致死の犯行は,Dが振り込め詐欺で得た多額の現金を奪っても,警察に被害届を出されることはないと考え,これを奪うために,3人がかりで襲い掛かりDを拉致して監禁し,現金約300万円などを奪い,さらに頭部に強度の暴行を加えたことによりDを死亡させたというもので,強い金銭欲に基づく計画的で狡猾な犯行で,犯行態様も手荒な上,危険性が非常に高く悪質であり,死亡という取返しのつかない結果を生じている。そして,以上の犯行の発覚を防ぐため,Dの死体を遺棄したもので,保身のために,死者の尊厳を踏みにじっている。さらに,拐取者身の代金取得の犯行は,Dの交際相手であるFの憂慮に乗じて,Dが預けていた2000万円を身の代金として要求して取得したものである。これも強い金銭欲に基づく狡猾で卑劣な犯行で,財産的被害は非常に多額である。Fの精神的苦痛は未だに続いている。


続いて,原判決は,本件各犯行における被告人の役割や関与の程度に
ついて,要旨,次のとおり説示した。
すなわち,被告人とAのいずれが先に強盗を提案したのかは,明らかでないが,Aが被告人らに対し,Dが多額の現金を所有している旨伝えたことがきっかけで強盗の話が持ち上がり,その後,Aの情報提供を受けて,被告人,A及びBにおいて,具体的な計画を立て,周到に準備を進めたのであるから,これら3名が本件を首謀したものといえる。そして,Dの拉致も,Aの手引きなしには実現不可能であったから,被告人と終始行動をともにしていて拉致監禁,強盗を実行したBはもとより,Aにおいても,その果たした役割や関与の程度はかなり大きい。

他方,被告人については,首謀者の1人であったことに加え,拉致,逮捕,監禁,強盗において,実行行為を自ら担当しつつ,CやGに指示するなど,終始主導的な立場で振る舞い,中心的な役割を果たした。そして,被告人がDの頭部を特殊警棒で強く殴打したことが,死亡の原因である可能性が非常に高く,Aは強盗の実行行為を担当していないことやBが加えた暴行の程度
と比較すると,特に,強盗致死に関する責任非難の程度には,共犯者間において有意の差があり,被告人の責任が最も重い。さらに,被告人は,強度の金銭欲に基づき,Dが生きているかのように装い,Fの憂慮に乗じて,当初の計画で奪い損ねた2000万円の取得を発案してBと共謀し,自らFに身の代金を要求する電話を複数回にわたりかけ,Gに指示して現金を回収させるなどし,拐取者身の代金取得においても主導的で中心的な役割を果たした。

その上で,原判決は,本件事案の性質及び内容,その重大性に加え,
被告人の果たした役割や関与の程度などに照らせば,その刑事責任は誠に重大であり,AやBらの判決結果や,強盗致死における同種事案の量刑傾向を踏まえても,無期懲役刑を選択するのが相当であるとし,被告人は,共犯者に責任転嫁するような供述を続けており,Dの遺族に対して損害賠償金500万円を支払ったことなどを考慮しても,酌量減軽すべき事情は認められないとして,被告人を無期懲役に処したものである。

当裁判所の判断

原判決の上記量刑判断のうち,本件各犯行の全体的な評価に関する部分については,概ね相当として支持することができるが,本件各犯行における被告人の役割や関与に関する部分については,Dの頭部を特殊警棒で強打したことが死亡の原因である可能性が非常に高いとした上で被告人の刑責が最も重いとした判断を支持することはできず,また,既に判示したとおり,Aも身の代金取得事件の共謀共同正犯であったとの合理的な疑いを否定すること
はできず,以上の点を是正すると,原判決の量刑は,重すぎて不当であるといわざるを得ない。
以下,所論も踏まえ,敷衍して説明する。
本件事案の性質及び内容,重大性の評価に関する所論について
所論は,そもそも「本件事案の性質及び内容,その重大性」によっては無
期懲役刑が相当であるとはいえない,という。すなわち,原判決が参照した同種の強盗致死事案の量刑傾向を確認すると,27件のうち無期懲役刑が選択されているのは3件だけであり,原判決が認定した前記犯情は,強盗致死事案においては通常,あるいは,共通して認められる事情であって,本件を格別に重い部類と位置付けることはできない,などというのである。しかし,原判決は,前記犯情を,営利略取,逮捕監禁,強盗致死という一連の犯行に関するものとして指摘したものであることは判文上明らかである。無期懲役刑を酌量減軽すべきか否かが問題となるのは,併合罪の処理をした後の段階であって,その際には,強盗致死罪の犯情のみならず,併合罪関係にある各罪の全体の犯情及び一般情状をも考慮して判断すべきことになる。強盗致死罪のみを個別に切り出して比較するような参照方法や,これを前提
に,強盗致死事案の中での位置づけを検討するような所論の手法は適切とはいえない。さらに,所論が援用する上記裁判例中には,主犯格以外の者に対する事例が多く含まれることがうかがわれる上,Dが死亡したことを知った後にもなおその生存を装ってFに身の代金を要求し,取得した被告人らの犯意の強固さ及び犯情の悪さに照らしても,本件が酌量減軽を相当とする事案
とはいえず,この点に関する所論は理由がない。
被告人の果たした役割や関与の程度を踏まえた量刑について

所論は,①被告人による暴行が死亡の原因である「可能性」の高低で
事実認定をすること自体が誤りであるし,その「可能性が非常に高い」との事実認定自体も誤りであるから,Dの死因となった暴行の主体が被告人であることを前提に量刑判断をすることは許されない,②身の代金取得事件もAとの共謀に基づいて実行したものであり,同犯行を専ら被告人が主導したかのような原判決の認定,評価は不合理であり,むしろ,Dから金品を強取する計画を具体化させ,実現させたのはAであったから,本件全体を通じて,最も強い責任非難はAに対して向けられなければならず,また,実行役を担
った被告人とBの関与には,刑事責任の程度に差を生じさせるような相違はなかった,などというのである。イ

Dの死因となった暴行の主体(前記①の点)について原判決は,前記のとおり,被告人がDの頭部を特殊警棒で強く殴打し
たことが,死因である可能性が非常に高いことをもって,強盗致死に関する被告人の責任が最も重いとしたものと考えられる。
しかし,仮に,被告人の暴行がDの死亡の原因である可能性が極めて高いと認定できる場合であっても,その事実が合理的な疑いを超えて認定できるものでなく,それ以外の可能性も排斥し得ないのであれば,その事実の存在を前提に被告人の刑を定めることは許されないし,上記可能性が極めて高いことを被告人に不利益に考慮して量刑することも許されないというべきであ
るから,これと同旨の所論は理由がある。
また,そもそも,被告人の暴行がDの死亡の原因である可能性が極めて高いとした原判決の判断そのものを支持することはできない。
a
すなわち,原判決は,H医師の証言によれば,Dの有力な死因は,左
側頭部の陥没骨折(以下,「本件陥没骨折」ということがある。)により生じた急性硬膜下出血等であり,本件陥没骨折は,頭部を固定した状態で左側頭部に警棒様の凶器を銛で突くようにして刺すことにより生じたとして矛盾はなく,Dの死亡推定時刻から,Dに死因となった暴行が加えられたのは,12月7日午前零時頃以降午前6時過ぎ頃までであると推認し,この時間帯に倉庫の中で死因となった暴行を加えた主体は,被告人とCのいずれか以外
には考え難いところ,H証言から認められる受傷状況に沿うのは,B供述にある被告人の暴行のみであるとした。
その上で,原判決は,B供述について,その供述に係る被告人の暴行は,本件陥没骨折が生じる条件を満たすものであり,H証言から認められる凶器とDの受傷時の体勢と整合する上,その直前には,腕を支えられながらもト
イレに行くことができていたDが,上記暴行後には,全く力が入らないようであったとする点もH証言に符合する,もとより,Bには,Dの死因となった暴行の点についての自らの刑事責任を被告人に転嫁する必要はなく,この点につき殊更虚偽の供述をする理由も見当たらないなどとして,その信用性を肯定した。
その一方で,原判決は,Cは,事件後に周囲の者に自らがやりすぎたためにDが死んでしまったとの趣旨の話をしたことは認められるとしつつも,実際に体験したことをありのまま話したものではないと認められるから,これによってCがDに致命傷を負わせた可能性があると考えることはできないとした。
原判決は,以上を踏まえ,被告人が特殊警棒を用いて,Dの左側頭部を突
いた暴行がDの死因となった可能性が極めて高いと結論付けた。
b
しかし,以上の原判決の判断は,H証言の全体の趣旨に反するものと
認められる上,その論理にも飛躍があるといわざるを得ない。
すなわち,H医師は,特殊警棒を銛のように突けば,本件陥没骨折を生じた可能性がある旨供述してはいるものの,他方で,本件陥没骨折は,幅2センチメートル程度で断面が円形の重量のある鈍体を非常に速いスピードで作用させたことによって生じたと考えられ,そうした鈍体としては,ハンマーのようなものが最も考えやすい,Dの脳の出血は表面部分にとどまり,内部には出血の痕跡が見られなかったことからすると,成傷器の頭蓋骨内への侵入距離は比較的浅かったと考えられる,警棒を突いてその先端が脳の中まで
深く入ったとすれば,Dの遺体の所見と矛盾する,20代位の年齢であれば,頭蓋骨と脳実質はほぼ接しており,脳の硬さは豆腐と同じくらいであるから,頭蓋骨を突き破った後に脳の内部に凶器を突き刺すには余り力は必要ではない,本件陥没骨折のような打ち抜き骨折を生じるような打撃は,相当強いエネルギー量になるから,頭部にタオルやガムテープが巻かれていても余り影
響はなく,それらが巻かれたことにより脳の損傷の深さに影響があったとしても軽微だと思われる,などとも述べている。これらH証言を全体的にみれば,本件陥没骨折は,特殊警棒で銛突きをしたことによって生じた可能性は否定し得ないものの,むしろ,そのような凶器,機序で本件陥没骨折が生じた可能性は低いとする趣旨に理解するのが相当である。そして,当審における事実取調べの結果,H医師が,特殊警棒による銛突きにより本件陥没骨折が生じた可能性について,「偶発的にそのような状態になる可能性を否定はできませんが,一般的な法医学的見解としてそのような状態が起きる可能性はあくまで低いと言わざるを得ません。」との意見を述べていることは,上記理解を補強している。
以上のようなH医師の専門的な判断の信用性に疑いを差し挟むべき事情は
認められないから,仮に,被告人が特殊警棒でDに対して銛を突くようにしたとのB供述が信用できるとしても,その暴行によって,本件陥没骨折が生じた可能性は低いといわざるを得ないのであり,同暴行がDの死因となった可能性が極めて高いとの結論を導くことは困難である。
さらに,H証言によってもDが本件陥没骨折を負ったと推定される時刻に
は数時間の幅があり,その間に,被告人,B及びCが供述する以外の暴行が存在しなかったと断定することのできる確たる証拠はない。
また,原判決が,被告人による暴行前後のDの状態は,H証言に符合するという点についてみると,12月7日午前4時頃以前に,Dがのたうち回ったり,叫び声を上げて痛がったなどという証拠は存在しないところ,H医師
は,本件陥没骨折を負った際に感じた痛みは,のたうち回ったり,叫び声を上げてしまうほどの相当に強いものであったと考えられる,既に暴行を受けるなどして意識の程度に障害があれば,痛みを感じにくいということも考えられるが,本件陥没骨折の痛みを感じないような意識状態にあった者が,他人に肩を借りながらでもトイレに行くということは不自然であるなどと述べ
ている。以上を踏まえれば,Bの供述に係る被告人の暴行により陥没骨折を負った時点で,既にDには意識障害を生じていたと考えるほかないが,そうであるとすると,その直前にBやCの肩を借りつつも自分の足でトイレに歩いて向かったという行動の説明は困難となる。
以上のとおり,被告人が特殊警棒で銛突きをした旨のB供述については,H証言と整合するとはいえない上,Bと被告人の利害は緊張関係にあるし,犯行に加担させたCをBが庇うことも考えられるのであるから,Bには虚偽供述をする理由がないとした原判決の判断は不合理である。さらに,原判決後,被告人が特殊警棒で銛突きをしたというこれまでの話は事実に反すること等を証言することにした旨の陳述書に署名,指印したものの,当審における証人尋問においては再び証言を拒絶したという経緯に照らしても,B供述
の信用性には一層疑問があるというべきである。
c
Cが致命傷の原因となる暴行を加えた可能性について

Cは,当審における証人尋問において,12月7日午前4時頃以降,被告人及びBが倉庫を離れた後に,自分が特殊警棒でDの側頭部を目掛けて銛を突くように殴打した旨供述した。Cは,原審においては,Dの死因となる暴行を加えて死に至らしめたのは自分ではない旨を明言しており,供述を大きく変遷させているから,上記供述の信用性の判断は慎重にすべきである。しかし,Cは,供述を変遷させた理由について,当初は,自分の刑期を左右することであるから,正直に話すことはできなかった,原審証人尋問においては,自身の刑は確定していたが,自分の裁判で話したことと違うことを話す
ことに抵抗を覚える一方,同じことを話せば被告人の刑が重くなると考えたために証言を拒否することにした,当審証人尋問では,この場で話さなければ,Dの遺族にも何があったのかが分からないままとなってしまうので,真実を話さなければならないと思って自身の暴行を供述することにしたなどと説明している。この説明が不合理ということはできない。もっとも,Dを黙
らせるためにいきなり銛突きをするようにしたとする供述内容は,いささか唐突な感も否めず,H医師の見解に基づく致命傷の成傷機序との整合性にも疑問はある。しかし,Cが,強盗致死事件の後,複数の知人に対し,自分が暴行をやりすぎてDを死なせてしまった旨告白していることは,Cの当審における供述の信用性を支える事情である。
以上によれば,Dの致命傷が,12月7日午前4時頃以降,被告人らが倉庫を離れた後に,Cの暴行によって生じた可能性も否定することはできないというべきである。
以上のとおり,原判決が,H証言によれば,本件陥没骨折とB供述に係る暴行とが整合するとした点,被告人が特殊警棒により銛突きをした旨のB供述は信用できるとした点は,いずれもこれを是認することができず,他
方,原審記録により認められる事実に加え,当審における事実取調べの結果も踏まえれば,Cの暴行がDの死因となった可能性も否定できないというべきであるから,原判決のように,被告人が特殊警棒でDの左側頭部を突いた暴行がDの死因となった可能性が極めて高いとはいえない。

身の代金取得事件に関するAの共謀の有無及び被告人の役割,関与の
程度等(前記②の点)について

とおり,身の代金取得事件についてAも共謀共同正犯の関係にあったとの合理的な疑いを否定することはできないから,その点を除いて被告人の役割を評価することはできないという限度で所論は理由がある。
以上を踏まえ,一連の犯行における被告人の責任非難の程度をAとの比較において検討すると,原審関係証拠によれば,原判決の指摘するとおり,Aが被告人らに対し,Dが多額の現金を所有している旨伝えたことがきっかけで強盗の話が持ち上がったこと,DがA方に来るというAの情報提供を受けて,拉致監禁,強盗の具体的な計画が立てられたこと,Dの拉致について
は,Aの手引きなしには実現不可能であったことが認められる。加えて,身の代金取得事件においても,交際相手であるOにFに電話をかけさせて,非通知の電話に出るよう説得させたことが犯行を実現する上で決定的に重要であったことが認められるほか,一連の犯行により奪取した現金については,A,B及び被告人の間で,概ね3分の1ずつ取得しているとの被告人の供述を排斥する合理的な理由は認められない。また,一連の事件において,被告人やBが実行行為を行い,Aがこれを担わなかったのは,3人の話合いの結果,Dを欺くためにAがDの仲間として襲われる立場で振る舞う役割を担うこととされたことや,Aの声がFに知れており,自らFに電話するなどすることができない事情があったことによる面があり,Aの関与の程度が実行行為を担った被告人に比して薄いことを示すものとはいえない。

もっとも,被告人及びAは,元々対等な関係にあり,本件各犯行においても,役割を分担しつつも,対等な立場で関与したものであり,ほぼ同程度の分け前を得たものとすべきであるから,所論の指摘を踏まえても,本件全体を通じて,最も強い責任非難がAに向けられるべきであるとまではいえず,被告人とAの責任非難の程度は概ね同程度であると評価するのが相当である。
そこで,次に,被告人及びBの役割,関与の程度とこれに基づく責任非難の程度を比較して検討すると,原判決が指摘するとおり,Bは,被告人及びAとともに本件の一連の犯行を首謀し,拉致監禁,強盗,死体遺棄という一連の犯行においては,被告人と行動をともにし,実行行為を担うとともに,実行役としてCを呼び出し,同人に指示をするなどした。Bがした行為
を具体的にみると,Dの拉致に当たっては,被告人に続いてDに襲い掛かり,その顔面を足で踏みつけるなどの強度の暴行を加えたほか,Dを倉庫に連れ去る自動車内でも同人を詰め込んだバッグを踏みつける暴行を加えるなどした。また,監禁中には,被告人とともに,Cに指示をしたほか,D方に赴き,現金300万円等を奪うなどした。以上のようなBの関与の態様等に照らす
と,Bは,本件の一連の犯行に首謀者として関与したほか,逮捕監禁から死体遺棄に至る実行の場面においても,被告人とともに,実行行為を担当しつつ,Cに指示するなどして,主導的な立場で,中心的な役割を果たしたというべきである。また,Bが,監禁中にDに対して暴行を加えたことを示す証拠はないものの,被告人についても,Dの死亡の原因となった暴行を加えたと認定することができないことは,既に説示したとおりであるし,Dを拉致する場面においては,被告人及びBの両名が強度の暴行を加えていることが認められるから,両者の加えた暴行の内容,程度,両者ともにDの死因となった暴行の主体と認定することはできないという点を含め,責任非難の程度につき,有意な差があるとはいえない。
もとより,被告人とBとは,年齢は違っても対等な関係にあった上,逮捕
監禁から死体遺棄に至る事件においては,ともに実行行為を担当するなどしつつ,犯行を主導したものであり,また,一連の事件で得た強取金や身の代金等についても被告人と同程度の分け前を得たものとみるべきであるから,被告人が,実行行為の大半を担うなどした身の代金取得事件に関する点を除けば,本件一連の犯行における被告人とBの責任非難の程度には有意な差は
なく,概ね同程度であると評価するのが相当である。

以上によれば,本件の一連の犯行に関する被告人の責任非難の程度は,
A,Bと大きく異なるところはないといえ,AやBの判決結果や強盗致死罪を含む同種事案の量刑傾向を参照し,かつ,Dの遺族に対して損害賠償金500万円を支払ったことをも併せ考慮すると,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑はいささか重すぎるというべきである。
原判決後の事情
さらに,当審における事実取調べの結果によれば,被告人は,Dの遺族に対し,上記損害賠償金に加え,原判決後,新たに2500万円の損害賠償金を支払い,同人らとの間で民事上の和解が成立していること,同じく原判決
後,Fに対し,100万円の損害賠償金を支払って,同人との間で民事上の和解が成立していることが認められ,これら原判決後の事情をも併せ考慮すると,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が重すぎることが一層明らかになったというべきである。
第2

破棄自判

よって,刑訴法397条1項及び2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,更に被告事件について判決する。
(罪となるべき事実)
原判示第4の事実について,「Bと共謀の上」とある部分を「A及びBと共謀の上」と改める外,原判決の(罪となるべき事実)と同じである。(証拠の標目)

原判決の(証拠の標目)に記載のとおり。ただし,「公判供述」の記載及び各証拠番号の冒頭に「原審」を付加する。
(確定裁判)
原判決の(確定裁判)に記載のとおり。
(法令の適用)

上記(罪となるべき事実)の各事実に科刑上一罪の処理,刑種の選択,併合罪の処理を含め原判決挙示の法令を適用し,なお犯情を考慮し,刑法66条,71条,68条2号,14条1項を適用して酌量減軽し,本件事案の性質及び内容,重大性,本件一連の犯行における被告人の関与の態様,役割等の犯情を考慮し,かつ,強盗致死罪を含む同種事案の量刑傾向を参照し,D
の遺族やFに対する損害賠償金の支払等の一般情状をも併せ考慮した上で,酌量減軽した刑期の範囲内で被告人を懲役28年に処し,刑法21条を適用して,原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入し,刑訴法181条1項本文により,原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。よって,主文のとおり判決する。

平成30年4月24日
東京高等裁判所第5刑事部裁判長裁判官

藤井敏明
裁判官

大西直樹
裁判官

板津正

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