判例検索β > 平成29年(う)第1349号
詐欺被告事件
事件番号平成29(う)1349
事件名詐欺被告事件
裁判年月日平成30年5月10日
法廷名大阪高等裁判所
結果破棄自判
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平成30年5月10日宣告

判決
上記の者に対する詐欺被告事件について,平成29年11月28日京都地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官宮本健志出席の上審理し,次のとおり判決する。主文
原判決を破棄する
被告人は無罪
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人矢部善朗及び弁護人豊山博子共同作成の控訴趣意書に記載のとおりである(なお,弁護人は,控訴趣意書の第5は,仮に原判決に事実誤認がないとしても,原判決の量刑は不当である旨を主張する趣旨である旨釈明した。
)から,これを引用する。
原判決が認定した被告人の罪となるべき事実の要旨は,
「被告人は,無線設
備のレンタル等を業務とし,無線方式の通信機器のうち一定の出力を有し,その使用に当たって電波法上免許が必要な「特定ラジオマイク」用として,770MHzを越え806MHz以下に当たる周波数帯(700MHz帯周波数)の電波を使用する免許を有していた株式会社A社の従業員であるが,一般社団法人B協会(協会)の派遣従業員として,700MHz帯周波数の免許人(既存免許人)に別の周波数帯(新帯域)への移行を促し,その際,既存免許人が新帯域で使用する無線設備等の購入費用等を協会が負担することなどを内容とする「終了促進措置」の一環として,既存免許人との交渉等をする業務に従事していたCと共謀の上,協会から特定ラジオマイク等の無線設備等の購入費用名下に現金をだまし取ろうと考え,真実は,Cが設立した株式会社D社において特定ラジオマイク等を納品する意思はないし,A社においても,特定ラジオマイク等を受領する意思はなく,特定ラジオマイク等を対象とした新帯域への移行のための無線局免許を取得する意思もないのに,これらがあるかのように装い,平成26年11月27日,神戸市a区に所在するA社において,D社がA社に対し特定ラジオマイク等を納品し,その購入費用は協会が負担する旨記載された「物品売買及び譲渡に関する契約書」(物品売買契約書)及びD社がA社に特定ラジオマイク等を納品した旨記載された内容虚偽の納品書を作成した上,翌28日頃,大阪市b区において,Cが,D社から協会に対して前記購入費用として5383万8000円を請求する旨記載した請求書及び前記納品書等のPDFデータを協会の担当者に電子メールで送信するなどし,同担当者をして,D社からA社に特定ラジオマイク等が納品され,D社に前記金額を支払う必要があるなどと誤信させ,よって,協会の他の担当者らをして,平成27年1月30日,協会名義の普通預金口座からCが管理するD社名義の普通預金口座に5383万8000円を振込送金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。
」というものであり
(なお,原判決の「罪となるべき事実」の7行目の「終了促進措置を行うに当たって,その対象となる免許人」は「終了促進措置の対象となる免許人」等の誤記(あるいは,同5行目の「進める」が「,
」等の誤記)であり,同10行
目の
「被告人を含む免許人」「前記Aを含む免許人」

の誤記と認められる。,

控訴趣意は,原判決の事実誤認及び量刑不当を主張するものである。第1

控訴趣意中,事実誤認の主張について

論旨は,
要するに,
原判示の事実について,
被告人には詐欺の故意はなく,
共犯者であるCとの間にその共謀もないし,被告人は欺罔行為もしていないから,被告人は無罪であり,それにもかかわらず,上記の事実を認定して被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討する。
1
前提事実の認定

関係証拠によれば,以下の事実が認められる(原判決が「2

前提となる

事実」として認定している事実と同旨の事実については,これを適宜引用して摘示する。。

被告人は,協会のために終了促進措置に関する業務を行っていたE社の担当職員から,平成25年6月以降,同措置に関する説明を受けていたが,新帯域のインフラ整備の状況や新帯域への移行によりランニングコストが増えることなどに関し,担当職員に尋ねても持ち帰ってばかりで回答がないことなどに不満を持ち,E社の勧める終了促進措置に非協力的で,同措置により新帯域への早期移行を行うこと等を約束する「基本合意」や700MHz帯周波数を携帯電話事業者と共用すること等に合意する「共用合意」に応じていなかった。
Cは,平成26年8月19日頃,E社の担当職員とともに協会の派遣従業員としてA社を訪問して初めて被告人と会った。以後,Cは,被告人との間の終了促進措置に関する交渉を主として担当し,被告人との間で多数回面談したり,電話やメールのやり取りをしたりした。被告人は,質問に即答してくれることなどからCの対応を気に入り,同月28日,基本合意及び共用合意の書面にA社の社印を押捺した。また,Cは,試用機器の貸出しに関し,被告人の要望に応じて便宜を図るなどしており,本件の後も旧無線機器の改造に応じるなどしていた。
Cは,同年10月24日,知人を名義上の代表取締役として,D社を設立した。同社は,いわゆるペーパーカンパニーであり,活動実績はなかった。
Cは,同年10月末か同年11月初め頃,被告人に対し,
「機材の買
取りに興味ないか。知り合いのD社という会社で,機材の販売も買取りもしており,自分も出資している。F社にパイプがあって,仕入れと卸をしている。総額5000万円くらいで,D社が半額で買い取る。
」などといった話を
した。
被告人は,既に他の音響機器販売会社を通じて新帯域の機器を入手する方針でいたが,父親でA社の代表取締役として同社を経営していたGと相談の上,移行対象である全16局のうち半分の8局分について,Cの提案する方法により終了促進措置で入手できる機器を買い取ってもらい,その代金で別の機器を購入するなどすることにした。
Cはさらに,同年11月初め頃,被告人に対し,
「納品を省略しても
らっていいか。納品しなければ5割で買い取るが,納品する場合は,手間や運搬のリスクなどから買取価格は3割になる。
」などと言った。被告人は,G
と再び相談した上で,
納品を省略して5割で買い取ってもらう旨Cに伝えた。
その後,被告人は,同月10日に,Cと打合せをしたが,その際,被告人はCに内緒で会話を録音していた。
被告人は,同月27日,物品売買契約書にA社の社印を押捺した。同契約書の内容は,①協会は,D社から新帯域に対応する無線設備等の物品(契約物品)を購入した上で,A社に無償譲渡する,②A社は,D社から契約物品を受領した後速やかに,受領確認書に署名等をした上,これをD社に提出する,③D社は,協会に対して前記署名等のある受領確認書の写しを請求書に添付し,契約金額の支払を請求する,④協会は,D社に契約金額及び消費税相当額を支払う,⑤A社は,受領した無線設備等に係る無線局免許申請等や,終了促進措置の対象となる無線設備等に係る無線免許廃止等の手続を行うというものである(以下,同契約書記載の契約を「物品売買契約」という。。また,被告人は,このとき,D社がA社に契約物品を納品した旨記載さ)
れた納品書の受領確認欄に署名し,A社の社印を押捺した。
D社は,実際には物品売買契約の契約物品を仕入れておらず,同契約は全くの架空取引であったが,Cは,この事実を被告人に告げていなかった。
平成27年1月30日,物品売買契約に基づき,協会からD社名義の預金口座に5383万8000円が振込入金され,Cは,同日,同口座からA社名義の預金口座に2694万6000円を振込入金した。
被告人の母親で,A社の経理を担当していたHは,上記入金を確認し,被告人に対し,LINEにより「詐欺じゃなくてよかったね。
」という内容のメ
ッセージを送った。
被告人は,同年6月8日から同月16日の間,3回にわたり,協会の職員から聞き取り調査を受けた。被告人は,予めCから納品を受けた旨うそをつくことや転売先がD社であることを協会に隠すように依頼され,聞き取り調査の際には,協会の職員に対し,機器は持ってきてもらったとか,転売先は答えられないなどと述べた。
2
故意及び共謀の有無に関する原判決の認定判断

人は,契約物品の納品・受領を省略し,これに係る免許申請等をしないこと(納品の省略等)を協会が許容していないことについて,認識していた事実(以下,この認識を「本件認識」ともいう。
)が推認され,被告人に本件詐欺
の故意及びCとの間の共謀が認められると認定判断した。
納品の省略等が,物品売買契約書に記載されている契約条件に明らかに反すること
物品売買契約においては,契約物品の納品・受領及び受領確認書の提出並びに受領した契約物品に係る無線局免許申請等が代金支払の条件になっているところ,被告人は,そのような物品売買契約書の内容を認識しながら,訂正等を求めず,同契約書及び納品書に押印している。
C及び被告人は,協会に対して一貫して納品・受領があったかのように装っていること
契約物品の納品・受領については,
「受領確認」欄に被告人が署名や押印を
した納品書をCが提出し,
協会に対してこれがあったかのように装っており,
この点は,協会からの聞き取り調査等においてもそのように装うなど,被告人とCの対応はその後も一貫・一致しており,被告人は,Cから納品しないことを協会が許容していると聞かされたことはなかった。そうすると,被告人は,Cが協会に対して納品・受領を省略したことを隠していることも認識していたと認められる。
被告人は,納品の省略等がCに大きな利益をもたらすものであることを認識していたこと
D社を販売店とし,
無線設備等の中でも特に高価なものを契約物品として,
その納品・受領を省略し,D社が協会から支払われる約5000万円(より正確には約5400万円)
の半分をA社に支払うとの内容は,
D社にとって,
差額である約2500万円(前同約2700万円)という大金がそのまま手元に残ることになる極めて利益の大きいものであった。
また,被告人は,D社が無線設備等の仕入れを全く行っていなかったことを知らなったものの,平成28年(
「平成26年」の誤記と認められる。
)11
月10日の打合せにおけるやり取りをみると,被告人らにおいてD社が仕入れを正しく行うことを前提とはしていないと認められること,A社が無線設備等の納品・受領の省略に合意したのであれば,D社がその後わざわざその仕入れをする必要がないことは明らかであり,被告人がその後Cに仕入れが完了したか確認しようとした事情もうかがわれないこと,上記やり取りの時点では,D社に契約物品である無線設備等がそろっていなかったことは明らかであり,納品・受領の期限である同月30日までにD社が必要な無線設備等を仕入れられるとは考え難いことなどの事情(なお,仮にD社が仕入れを完全に行うとしても,それほど高くない金額を支払うだけで新品の無線設備等を得られることになるから,同社の利益が大きいことに変わりはない。)に
照らすと,被告人には,納品の省略等がD社に極めて大きな利益をもたらすという認識があったものと認められる。
そして,被告人とCとの間のやり取り等からすると,被告人には,少なくとも,CとD社との関係が密接なものであり,同社の利益はCの利益でもあるとの認識があったものと認められる。
被告人が,協会職員による聞き取り調査において虚偽の事実を述べていること
仮に,被告人が,物品売買契約書に押印した時点では,協会が納品の省略等を許容していると信じていたのであれば,被告人は,Cからうそをつくよう依頼があった時点で,同人からだまされていたことに気づき,同人に対する信頼を一気に失うのが通常であり,そうであれば,現在主張しているとおり,Cを信頼し,その提案通りに納品等の省略をした旨説明すればよいはずであり,それにもかかわらず虚偽の説明をし続けたことは,協会が納品の省略等を許容していると被告人が信じていたとすれば著しく不自然である。被告人及びその家族は,納品の省略等について心配する言動をしていること
被告人は平成26年11月10日のCとの打合せについて,Cに内緒で録音しており,そのやりとりを見ると,Cからの提案について被告人がGに相談し,Gが納品のないことに懸念を示しながらも,A社の利益を考えると名義が同社に移転すればよいとの発想で納得し,被告人もこれを前提に納品があるふりをすることに決めたことが認められる。また,Hは,D社からの入金後,被告人に「詐欺じゃなくてよかったね」という内容のメッセージを送っており,Hは,Cの申し出内容を疑っていた旨も供述している。これらの事情も,被告人及びその家族が,Cを全面的に信用していたわけではないという意味を含め,本件認識を推認させる事情といえる。
たがって納品がなくては本来代金が支払われることもないこと,それにもかかわらず被告人ないしA社が「受領確認」欄に署名・押印のある納品書を協会に提出すれば協会が錯誤に陥って同代金を支払うことになるということをC
の言うことは協会の意思に沿うものであるとして信用することに相当程度躊躇を覚えさせる事情であり,納品の省略等を協会が許容しているなどと被告人が誤信していたとは考え難く,協会が納品の省略等を許容していないことについて被告人が認識していたこと(本件認識)が相当強く推認される。さらに,上記
るものといえる。
以上によれば,被告人は,協会にとって無線設備等の納品・受領やこれに係る免許申請等をすることが契約代金の負担・交付の判断の基礎となる重要な事項であり,これらをしないことを協会が許容していないことについて,物品売買契約書に押印した時点で認識していたものと認められるから,被告人には詐欺の故意が認められ,また,納品等を省略して物品売買契約を締結し,D社がその代金を受領することについてCと意思を通じ,A社のために本件を行ったのであるから,被告人に詐欺罪の共同正犯が成立する。3
原判決の上記認定判断の合理性について
納品の省略等が,物品売買契約書に記載されている契約条件に明ら
かに反するとの点について
被告人は,物品売買契約書にA社の社印を押捺した時点において,その記
契約書に,D社が協会に契約金額の支払を請求する前提として,A社が契約物品を受領した旨の受領確認書をD社に提出すべきことや,A社が契約物品に関し無線局免許申請等の手続を行うべきことが記載されていることについて,被告人が認識していた事実は確実に認められる。
そして,協会において,物品売買契約により無線機器販売業者が協会に売却し,既存免許人に納品すべき契約物品について,当該無線機器販売業者が既存免許人に納品せず,直ちに買い戻すといった取引はおよそ想定しておらず,もし,協会が,そのような意図があることを知っていれば,物品売買契約を締結することや,契約金額を支払うことはしないはずであるから,その意図を秘して物品売買契約を締結し,納品があったかのように装って契約金額を請求する行為は,協会に対する詐欺に該当すると認められる。また,協会の派遣従業員として終了促進措置に関する業務に従事していたCが,上記事実関係を知悉していたことは明らかであるから,同人に詐欺の故意があったこともまた明らかである。
他方,
被告人は,
原審公判において,
要旨,
「協会から送られてくる封書に,
早期終了キャンペーンのようなチラシとか,リース会社が機器を買い取ってくれて,現金を確保できる旨のチラシが入っており,協会は転売を許容していると思っており,Cからもその旨の説明を聞いていた。「納品を省略すれ」
ば5割で買い取るが,納品すれば3割になるというCの説明を受け,5割の方を選んだ。A社でも,通常は仕入れた商品の納品を受け,検品をした上で出荷するが,取引先が急いでいる場合等には納品を省略することがあった。本件では買取先がD社と決まっているから検品するメリットはなく,逆に納品を省略することによるデメリットもなかった。「Cに対し,物品売買契約」
書では新免許を取得することになっているが,どうなのかと聞いたところ,Cは,基本的にはとらなくてもよい,契約書は全免許人に配られているひな形であり,
細かい条件の交渉は,
それを自分がするために来ていると言った。

「協会からちゃんと本部の人間(C)が来ており,基本的な信頼関係は築けているので,特にトラブルになることはないと思い,契約書の訂正等は求めなかった。「ふだんの仕事で取引先と契約書を交わすことはなく,A社とし」
ての仕事で,取引先との間で契約書を交わすことがあっても,契約書どおりではなく,担当者同士で話し合って解決していた。
」などと供述している。
被告人の上記供述のうち,Cから,協会は転売を許容しているとか,免許を取得しなくてもよい旨の説明を受けたとの点については,Cもこれと同旨の供述をしており,被告人がCからそのような説明を受けたことについては十分に信用することができる。そして,前記認定のとおり,Cは,平成26年8月以降,協会の派遣従業員として,終了促進措置に関する協会と被告人との間の交渉を主として担当し,被告人と多数回にわたり面談等をしており,その間,被告人も,E社の担当職員とは違って,問い合わせに即答してくれるCの対応を気に入り,それまでは膠着状態にあった協会との交渉を一気に進めることとなり,前記1
もらった際には,E社の担当者では対応できなかった大学の学園祭でのデモ機の使用について,可能にする対応をしてもらうなどしたことからも,Cが誠意ある対応をしてくれる人だとの印象を深めていたもので,被告人は,Cに対し,強い信頼を置いていたものと認められる(なお,これに反する原判示については後述する。。

加えて,協会の進めていた終了促進措置は,増え続けるスマートフォン等の需要に早期に応えるため,携帯電話事業者の費用負担により,既存免許人に対し,700MHz帯周波数に対応する無線機器等の使用を廃止すること等を条件として新帯域の無線機器を無償で提供するもので,
社会的にみれば,
一定の合理的目的を有することはもちろんであるが,これを既存免許人の側からみると,廃止対象となる無線機器等の耐用年数や市場価値等は全く考慮されず,無償提供する機器のグレードも問わないという運用がされていたこともあって,市場的には値段がつかないような古い無線機器等を使用していた場合であっても,終了促進措置に応じさえすれば,数千万円という極めて高価な無線機器を取得できるといった,既存免許人に大きな経済的利益をもたらす制度となっており,既存免許人の側において,協会は転売等を許容してでも早期に700MHz帯周波数の無線機器等の廃止を進めようとしていると理解することが,全く不自然であるとは考えられない。

で公平な内容が要求され,しかも,5000万円を超える高額の現金の支払を伴う一回限りの契約であり,A社の通常の業務とは規模や性質が大きく異
容となっていると考えているのであれば,被告人が納品書に署名押印をするなどして協会に対してその納品・受領があったかのように装っていることが明らかに不自然であることに照らすと,被告人の上記供述は信用することができない,②被告人が見たというチラシは,既存免許人が受領した無線設備等を現実に利用することを前提としていることが明らかなリースバック契約について記載されているもので,このチラシを読んで協会がその納品・受領を省略して転売することを許容しているなどと誤信するとも到底考えられない,と判示している。

いうとおりであるとしても,現実に,A社の業務において口頭での約束に基づく取引ばかりをしてきた被告人からすると,
協会側の担当者であるCから,
物品契約書はひな形であり,詳細は自分との交渉で決めるなどと言われて信用するのは無理からぬところがあると考えられ,これが直ちに不自然であるCとの間の合
意内容は,物品売買契約によりD社が仕入れて協会に売却し,A社に納品する契約物品をD社が買い戻すに際し,D社とA社の間では現実の納品を省略することで,買取価格を契約金額の5割にするというものであり,被告人としては,協会は転売(買戻しもその中に含まれると解される。
)を許容してい
ると考えていたというのであるから,協会との関係で現実の納品の有無が重要な問題となるとは考えず,物品売買契約書の記載に従って納品書(受領確認書)を提出することにより,協会との関係で納品があったことにすることについて,特段の抵抗を感じなかったとしても不自然とはいえない。②についても,リースバック契約と単なる転売とでは法律的な意味合い等が異なることは原判決のいうとおりであるが,終了促進措置を通じて多額の資金を得ることができる点では共通しているし,終了促進措置により取得した無線設備等の機器を転売することは,所有権を取得する以上自由であり,協会もこれを許容しているというのは,一般人としてはむしろ自然な発想であって,Cからその旨の説明を受けてこれを信じたという被告人の供述が,必ずしも不自然であるとはいえない。
以上のとおり,被告人の上記供述は信用できないとした原判決の判示は,十分な合理性があるとはいえず,同弁解供述は容易には排斥できないというべきである。
そして,被告人の上記弁解供述を前提とすると,被告人は,物品売買契約の記載内容は認識していたものの,協会の担当者であるCの説明を信じ,協会は契約物品の転売を許容しており,当該契約物品に係る免許申請手続も必要がないと認識した上で,Cとの間で,物品売買契約に基づいてD社から納品されるべき契約物品について,D社が直ちにこれを買い戻し,現実の納品は省略するという合意をし,さらに,協会との関係では現実の納品の有無が重要な問題となるとは考えず,Cの指示に従って納品書の受領確認欄に署名等をしてCに交付したと認められるのであって,このような事実関係を前提にすれば,被告人には協会に対する詐欺の故意はなく,Cとの間の共謀もなかったとの弁護人の主張を排斥できないこととなる。
C及び被告人は,協会に対して一貫して納品・受領があったかのように装っているとの点について
Cとの間の合意内容や,
被告人が転売
(買
戻し)は協会が許容していると考えていたことからすると,被告人は,協会との関係で現実の納品の有無が重要な問題となるとは考えておらず,現実の納品は省略しつつ物品売買契約の記載に従って納品書を提出することについて,特段の抵抗を感じていなかったと考えられる。そうすると,被告人が納品書に署名等をして提出した事実は,直ちに本件認識を推認させるとはいえない。
原判決はまた,物品売買契約締結前のやり取り等から,被告人は,Cが協会に対して納品・受領を省略したことを隠していることも認識していたと認められるとも判示している。しかし,原判決が指摘するCとのやり取りは,納品書に署名する際にCから
「納品したことにするのでサインしてください」
などと言われたというものであり,Cの側に,納品の省略を協会に隠匿する意図があったことは認められるものの,上記のとおり,被告人は,当時,物品売買契約書はひな形であるといったCの説明を信じており,協会との関係で現実の納品の有無が重要な問題となるとは考えていなかったと認められ,「納
品をしたことにする」というCの言葉についても,単に,現実の納品はしないが物品売買契約書の記載に合わせるといった趣旨に受け取っていたと考えられるから,このやり取りから,被告人がCの上記意図まで察知していたと認めるのは困難というべきである。
以上のとおり,上記事実に関する原判示の説示も説得的とはいえない(なお,被告人が,協会からの聞き取り調査においても納品を受けたかのように装うなどした点については後述する。。

被告人は,納品の省略等がCに大きな利益をもたらすものであることを認識していたとの点について
上記のとおり,原判決は,被告人とCとの間の合意内容は,D社にとって約2500万円がそのまま手元に残るという極めて利益の大きいものであったと判示しているが,この判示は,Cが物品売買契約の契約物品を仕入れておらず,同売買契約が全くの架空取引であることを前提とするものであることは明らかである。
しかし,前記認定のとおり,Cは契約物品を仕入れていない事実を被告人に告げていないところ,この点に関し,Cは,
「被告人が30パー(いったん
納品を受けて3割の価格で買い戻してもらうこと)を選べば実際に購入して販売し,50パー(納品を省略して5割の価格で買い戻してもらうこと)を選べば架空にしようと思っていたが,被告人にそのことを言うと,当然それだったやめるということになる可能性があり,まずいので,被告人には,仕入れをした上で買い取るというスタンスで接していた。
」と供述しており,被
告人も,Cが架空取引をしている事実は全く知らなったと供述している。契約物品を仕入れていないにもかかわらず,物品売買契約を締結することは,協会に対するあからさまな詐欺行為であって,被告人にその意図を秘していたとするCの供述は,十分に首肯し得るものであるし,被告人がCとの間の会話内容を録音していた平成26年11月10日の打合せの内容をみても,Cは,契約物品の仕入れをする前提で交渉を進めていることが明らかである。
加えて,もし,被告人が,Cが全くの架空取引をしていることを知った上で敢えて本件に関与していたとすれば,被告人としても,あからさまな犯罪行為に加担することとなるところ,被告人は,Cから提案された内容をそのまま両親に伝えて相談するなどしており,Cとの取引を秘密裡に進めようとするなどした形跡はないし,他に,被告人においてCが架空取引をしていることを知っていたことを示すような事情も見当たらない。
そうすると,Cが架空取引をしていることを全く知らなかったとする被告人の上記供述は十分に信用することができ,被告人が,納品の省略等がCに大きな利益をもたらすものであることを認識していたとする原判示は,その前提が成り立たないこととなる。
なお,原判決は,被告人がCとの会話内容を録音していた平成26年11月10日の打合せにおいて,被告人が「機材自体はそろっとるんですよね,そろっているていってことですよね。
」と言ったのに対し,Cが「在庫もなん
ぼかは,してるんで,ただ,数をそろえられるかていうと別なんですけど。」
などと答えている部分や,被告人が,(Gは)物ないとーって話はしてたん「
ですけど・・・物がなくても名義はあるやろっていう。
」などと言ったのに対
し,Cが「もう物があるていでいきます。
」などと言い,さらに被告人が「物
あるていで名義だけうちがあるから大丈夫やでっていう。などと言っている」
部分を指摘し,これらのやり取り等から,被告人らにおいてD社が仕入れを正しく行うことを前提とはしていないと認められるなどと判示している。同原判示の意味するところは必ずしも明らかではないものの,上記やり取りのうち前者は,被告人供述等によれば,在庫や発注状況を確認する中で,被告人が,見積もりは契約物品が全部そろっている形で作成しているかという趣旨を述べ,これに対し,Cが,今ある在庫だけでは契約物品全部は納品日までにそろわない(発注を要するものがある)が,その日までにそろったことにしたいという趣旨を答えたものと解され,後者は,契約物品の現実の納品を省略する趣旨であることが明らかであって,いずれもCが契約物品の仕入れを行うことを前提としたやり取りであると認められる。
原判決はまた,仮にD社が仕入れを完全に行うとしても,それほど高くない金額を支払うだけで新品の無線設備等を得られることになるのであるから,D社の利益が大きいことに変わりはない,とも判示しているが,Cは被告人との間で,契約金額の5割の代金で契約物品を買い戻す合意をしているのであり,当然のことながら相応の仕入れ代金も支払うこととなるから,A社に物品を引き渡して免許を取得するという正当な手続に比べて,その時点でのD社の利益は僅少になるし,D社が買い戻した商品を転売できなければ,むしろマイナスとなるはずであることは明らかであって,この原判示も不合理というほかない。
なお,さらに付言すると,被告人とCとの間の合意内容は,A社が700MHz帯周波数に対応する8局分の無線機器等の使用を廃止することにより約2700万円の現金を取得する(その中から新帯域に対応する無線機器等を別途購入してもなお多額の資金が残ることとなる。
)というものであり,納
品等の省略は,C(D社)はともかくとして,A社に大きな利益をもたらすものであることは間違いなく,通常であれば,そのような取引を協会が許容するとは考えにくいところであるが,前記のとおり,協会の進めていた終了促進措置自体が既存の物品の価額にかかわらず,高額な物品を取得できるという既存免許人に大きな利益をもたらす制度となっていたことからすると,この点も本件認識を推認させる事情とはならないと考えられる。
被告人が,協会職員による聞き取り調査において虚偽の事実を述べているとの点について
原判決は,前記のとおり,被告人が協会職員による聞き取り調査において虚偽の事実を述べたことは,本件認識を推認させると判示している。しかし,そもそも,虚偽供述の動機・原因は様々であって,単に当該被告人が虚偽の供述をしたという事実から直ちに犯罪事実が推認されるとはいえないし,被告人は,協会の聞き取り調査において虚偽の説明等をしたことについて,
「1回目の聞き取り調査の前に,Cから,
『納品があったことにしても
らっていいか,建前上聞いてくるからそう答えてもらったらいい』などと言われたり,D社の名前は出さないよう言われたりした。協会の許容範囲を超えた取引ではないかという認識になっていたが,Cから言われたとおりにうそをついた。
2回目,
3回目の調査の際も,
うそだと分かってうそをついた。
最初にうそをついてしまっていることや,協会に取引を止めてもらいたいと求めたのに,手続は進めると言われたことから,押し通してしまってもいいのではないか,建前で聞いてくるのは本当なのかな,と思った。
」などと供述
しているところ,上記聞き取り調査が1週間余りの間に立て続けに行われたことなどに鑑みれば,その供述内容はそれなりに首肯できるものであり,被告人が上記調査において虚偽の説明をしたことは,物品売買契約締結時点において本件認識がなかったことと必ずしも矛盾しないというべきである。被告人及びその家族は,納品の省略等について心配する言動をしているとの点について
原判決は,
①被告人が,
平成26年11月10日のCとの打合せにおいて,
Cとの会話内容を同人に内緒で録音したこと,②Gが,納品がないことに懸念を示しながらもA社の利益を考慮してこれを承諾したこと及び③Hが,D社からの入金後,被告人に「詐欺じゃなくてよかったね。
」という内容のメッ
セージを送っていることから,被告人及びその家族が,Cを全面的に信用していたわけでなかったといえる旨の判示をしている。
しかし,①については,被告人は,
「Cとの取引が終盤になっており,個数
の確認や税金の処理の話をすることになるので,水掛け論にならないようにするために録音をした。と供述しているところ,

その際のやり取りをみれば,
実際に無線機器等の個数の確認や税金の話をしているし,その中で,被告人が,Cの発言を疑ったり,その言質を取ろうとしたりしている状況はうかがえず,被告人の上記供述は十分信用することができる。加えて,前記のとおり,被告人とCは多数回面談や電話で会話をしているところ,会話内容を録音したのはそのごく一部であることに鑑みても,上記やり取りを録音していたことが,被告人がCを疑っていたことを意味するものでないことは明らかCのことを信用していたと認め
るのが相当である。
また,②及び③については,原判示の趣旨はそもそも明らかではないが,前記のとおり,協会の進める終了促進措置自体が複雑で,既存免許人に通常の経済活動では想定されないような大きな経済的利益をもたらす,やや理解しにくい制度であった上,これまで取引実績のないD社との間で,現実の納品を省略して買い戻してもらうという取引が,A社にとってある程度のリスクを伴うものであったことも明らかであり,Gが納品を省略することについて懸念を示したのは当然であるし,Hが入金を受けた後に多額の利得を実際に受けたので
「詐欺でなくてよかったね。というメッセージを送ったことも,

被告人が供述する事実の流れからして何ら不自然なことではなく,これらの言動をもって,被告人に本件認識があったことを推認するのは相当でないというべきである。
結論
以上に詳論したとおり,前記2
され,被告人に詐欺の故意及びCとの共謀が認められるとした原判決の認定判断は,その判断の過程自体が著しく不合理であって是認することはできない。
関係証拠によれば,被告人は,物品売買契約の記載内容は認識していたと認められるものの,協会の担当者であるCに対する信頼を背景としてその説明を信じ,協会は契約物品の転売を許容しており,当該契約物品に係る免許申請手続も必要がないと認識した上で,同人との間で,物品売買契約によりA社に納品されるべき契約物品をD社が買い戻す旨の合意をし,Cの指示に従って納品書に署名等をして提出した旨の被告人の弁解供述を排斥することはできず,同弁解供述を前提とすれば,被告人に詐欺の故意やCとの間の共謀は認められない。
したがって,前記事実を認定し,被告人を本件詐欺につき有罪とした原判決には,事実の誤認があり,この事実の誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
事実誤認をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
第2

破棄自判

よって,その余の論旨についての判断を省略し,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄した上,同法400条ただし書により,被告事件について更に判決することとする。
本件公訴事実の要旨は,冒頭に引用した原判決の罪となるべき事実と同旨であるが,前記のとおり,同事実については犯罪の証明がないから,刑訴法336条後段により被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。
平成30年5月10日
大阪高等裁判所第3刑事部(裁判長裁判官
健次郎,裁判官

畑山靖)

増田耕兒,裁判官

浅見

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