判例検索β > 平成26年(ワ)第29490号
損害賠償等請求事件 不正競争 民事訴訟
事件番号平成26(ワ)29490
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日平成30年3月29日
法廷名東京地方裁判所
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平成30年3月29日判決言渡
平成26年(ワ)第29490号
口頭弁論終結日

同日原本交付

裁判所書記官

損害賠償等請求事件

平成29年12月12日
判決原告
ピュロライト・エージー

同訴訟代理人弁護士

神熊史田裕彦木龍平近藤直生金丸絢子後告義茂被賀池木佐谷光弘岡伸哉明日立GEニュークリア・エナジー
株式会社

同訴訟代理人弁護士

有末亙水真高橋元弘辻主吉清富川昌徳文丈之1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

3
この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

第1
1実及び理由
請求
被告は,原告に対し,7億7744万2892米国ドル及びこれに対する平成25年12月10日から支払済みまで年7分の割合による金員並びに1218億4577万1613円及びこれに対する同年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告は,福島第一原子力発電所における放射能汚染水の浄化(放射性物質の除去)作業に従事してはならない。

3
被告は,被告が福島第一原子力発電所敷地内に設置している高性能多核種除去設備を製造し,設置し,稼働させ,又は使用してはならない。

第2
事案の概要
本件は,原告が,東京電力株式会社(以下「東京電力」という。
)福島第一原
子力発電所(以下「福島第一原発」という。
)において高性能多核種除去設備に
よる放射性物質汚染水浄化事業に従事している被告に対し,①被告は原告との間のパートナーシップ契約に基づき,福島第一原発における放射能汚染水からの多核種除去に関する事業について原告と共同して従事すべき義務を負ってい
るにもかかわらず,同義務に違反し,原告を関与させずに高性能多核種除去設備に係る事業を受注し,同事業に従事しているほか,上記パートナーシップ契約に違反して第三者から技術情報を受領したり,上記パートナーシップ契約又は原告若しくはその関連会社との間の秘密保持契約に違反して原告の秘密を第三者に開示したりしたなどと主張して,債務不履行に基づき,上記事業への従
事の差止め(原告と共同すべき義務の違反に基づく請求)並びに損害賠償金7億7744万2892米国ドル及びこれに対する約定の弁済期の後の日である平成25年12月10日から支払済みまで約定の年7分の割合による遅延損害金の支払(上記各契約違反に基づく請求)を求めるとともに,②被告は,上記事業において原告から開示された営業秘密を不正に使用し,また,当該営業秘密を第三者に対して不正に開示したと主張して,
不正競争防止法2条1項7号,
3条1項及び4条に基づき,上記設備の使用等の差止め並びに損害賠償金12
18億4577万1613円及びこれに対する不法行為の日である同年10月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
当事者等

原告は,(省略)の法人であり,米国法人であるピュロライト・コーポレーションのグループ会社である。
ピュロライト・コーポレーションは,世界に多数の営業拠点を有し,
原告を含む複数のグループ会社を設置している(以下,ピュロライト・コーポレーション及びそのグループ会社を「ピュロライト社グループ」と総称する。)。ピュロライト株式会社(以下「日本ピュロライト」という。)は,ピュロライト・コーポレーションのグループ会社である。ピュロライト社グループは,イオン交換樹脂,キレート樹脂,合成吸
着剤,
無機吸着剤等
(以下,
これらを単に
「吸着剤」
ということがある。

の製造販売や,放射能汚染水など各種産業において使用又は排出される液体の浄化作業に関するサービスを提供している。
原子力発電所での冷却水等の浄化は,一般に,吸着剤中の固定イオンと溶液中の種々の対立イオンとの吸着性向の差異を利用することによっ
て,溶液に含まれる種々のイオンのうち,特定の単一又は複数のイオンを選択的に吸着し,溶液から分離することを可能とするイオン交換能を有する吸着剤を用いるなどして行われている。ピュロライト社グループが製造,販売するイオン交換樹脂及び無機吸着剤も,このようなイオン交換能を有する吸着剤である(以下,ピュロライト社グループが製造,販売する吸着剤を「原告の吸着剤」という。)。

被告は,株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。)の子会社であり,
発電用原子炉施設,
高速増殖炉施設,
電子燃料サイクル関連施設,
核融合加速器関連施設及びその他関連施設の設計,製造,販売,据付及び保守に関する業務を行っている。
福島第一原発における放射能汚染水の発生等


平成23年3月11日,東北地方太平洋沖地震が発生した。同地震で発生した津波により,
東京電力が設置運営する福島第一原発の原子炉6基
(以
下,各原子炉をそれぞれ「1号機」などという。)のうち,1~4号機のタービン建屋等の地下階は海水に浸水された。また,福島第一原発では,その後全電源を喪失し,炉心燃料を冷却することができなくなったため,原子炉に海水等を注入して炉心燃料を冷却するという措置が執られた。炉
心燃料の冷却に使用された海水等は,原子炉及び原子炉格納容器の損傷によりタービン建屋に流出したため,タービン建屋に滞留する水には高濃度の放射性核種が含まれることとなった。(甲86,乙54の2)

福島第一原発では,さらに,タービン建屋,原子炉建屋等の損傷及び建屋周辺に設けられたサブドレンピット・ポンプの損傷により,継続的に雨
水や地下水がタービン建屋等に流入する事態が生じた。これらの影響により,1~4号機の原子炉建屋等には高濃度の放射能汚染水(以下,1~4号機の原子炉建屋等に滞留している高濃度の放射能汚染水を「高濃度汚染水」という。)が,5号機及び6号機の原子炉建屋等には,低濃度の放射能汚染水が滞留することとなった(甲86,87)。


東京電力は,高濃度汚染水が建屋からあふれることを防ぐため,平成23年6月頃から,高濃度汚染水を集中廃棄物処理建屋に移送して貯蔵することとした(乙6)。
福島第一原発における汚染水処理設備の設置等
東京電力は,集中廃棄物処理建屋に移送された高濃度汚染水につき,放射性物質の除去と淡水化を行い,淡水化した水を原子炉の冷却水として使用することを目的として,平成23年8月までに,除染装置,KURIONと呼ばれるセシウム吸着装置,SARRYと呼ばれる第二セシウム吸着装置,逆浸透膜(RO)による淡水化装置,蒸発濃縮による淡水化装置を設置して処理を開始した(甲65,83,乙5の1及び2,乙6)。なお,逆浸透膜(R
O)による淡水化装置は被告が東京電力から発注を受けて製造したものである(乙140)。
このうち,除染装置,セシウム吸着装置及び第二セシウム吸着装置は放射性物質の除去のために設置された設備であり,逆浸透膜(RO)による淡水化装置と蒸発濃縮による淡水化装置は海水の淡水化のために設置された設備
である。これらの装置のほかにも,油分分離装置等が設置された。主要な設備の概要は以下のとおりである。(甲65,83,乙6)

油分分離装置は,滞留水に含まれる油分及びスラッジを自然浮上分離により除去する装置である。


除染装置は,凝集沈殿法を用いて放射性核種を除去する装置である。セシウム吸着装置は,ゼオライトのイオン交換作用を利用し,放射性物質で
あるセシウムやストロンチウムなどを吸着する装置であり,第二セシウム吸着装置は選択的に放射性物質を吸着するゼオライトに汚染水を流す構造によりセシウムを吸着する装置である。

逆浸透膜(RO)による淡水化装置は,海水に含まれる塩分を除去する海水淡水化装置であり,蒸発濃縮による淡水化装置は,RO膜処理された濃縮廃液を蒸気により蒸発濃縮させて淡水化する装置である。
既存設備による汚染水処理の概要
平成23年10月当時の福島第一原発における前記

の各設備(以下「既

存設備」と総称する。)を用いた汚染水処理の概要は,次のようなものである。(甲83,87)

油分分離装置により油分を分離させた汚染水につき,
セシウム吸着装置,
第二セシウム吸着装置による放射性物質の除去処理を行った後,除染装置による凝集沈殿処理を行う。


その後,逆浸透膜(RO)による淡水化装置による淡水化処理を行い,当該処理により発生した淡水を淡水用タンクへ貯留するとともに,発生した濃縮海水を濃縮海水用タンクへ貯留する。


濃縮海水用タンクの貯留水について,蒸発濃縮による淡水化装置による淡水化処理を行い,当該処理により発生した淡水を上記淡水用タンクへ貯留するとともに,発生した濃縮廃液を濃縮廃液用タンクへ貯留する。

淡水用タンクに貯留された水を原子炉の冷却に使用する。


なお,除染装置及び蒸発濃縮による淡水化装置は同年9月頃に稼働を停止した(甲65,乙5の2,乙9)。
既存設備による汚染水処理の課題等
既存設備による汚染水処理では,処理後の濃縮廃液がタンクに保管される
こととなるが,発生する濃縮廃液が大量であり,その保管場所の確保が課題となるため,東京電力は,遅くとも平成23年9月頃までに,既存設備による汚染水処理とともに,汚染水に含まれる多種類の放射線核種(以下「多核種」という。)を除去する処理を行った上で処理後の水を海洋に放出するシステムについての検討を開始した。
被告が日本ピュロライトと知り合った経緯


平成23年3月22日,一般社団法人日本原子力学会は,福島第一原発における放射能汚染水の処理を目的として,放射能汚染水の処理対策立案に有用な基礎データの収集に取り組むための複数の大学や日本原子力研究開発機構による有志メンバーによるチームを発足させた。同チームは,被告の親会社である日立製作所,株式会社東芝(以下「東芝」という。)などの事業者とも情報交換をして,放射能処理システムの設計に役立つ実験データを取得するとともに,福島第一原発で処理すべき汚染水,放射性
物質の性状や量に応じて最適な吸着剤を選定するため,各種の吸着剤の吸着率の測定等の基礎データの収集を行った。(甲5,乙10の1)イ
上記アのデータ収集に協力していた日立製作所は,平成23年5月頃,原子力学会関係者から日本ピュロライトを紹介された。日本ピュロライトは,日立製作所の依頼を受けて,同月以降,被告に対し,原告の吸着剤の
サンプルを提供するなどした。
東京電力による設備の発注の予定(乙140)

東京電力は,既存設備から発生する廃液の保管容量が限界に近づきつつあること等から,処理水の環境への放出に備えることを目的として,保管されている濃縮廃液に含まれる多数の放射性核種を海洋放出可能なレベ
ルまで除去する処理を行う多核種除去設備を設置することとし,平成23年9月22日,被告を含む数社に対して同設備の発注予定があることを伝え,見積対応をする意思があるかを照会した(以下,上記発注予定に係る多核種除去設備を「平成23年多核種除去設備」という。)。

被告は,上記照会を受け,東京電力に対し,見積対応をする意思がある旨を回答し,同設備の受注に向けての準備を開始した。
日本ピュロライトと被告との間の秘密保持契約の締結(甲6の1及び2)日本ピュロライト及び被告は,平成23年10月5日付けで,福島第一原
発における放射能除染及び廃炉方法に関する技術情報の交換を目的とした秘密保持契約(以下「本件秘密保持契約」という。)を締結した。本件秘密保持契約では,原告及び被告について,相手方に明示的に秘密の情報である旨を記載して開示した秘密情報について,秘密を受領した当事者は,開示を受けてから10年間,開示当事者の承諾がない限り秘密情報を開示してはならないことなどが定められた。
被告による試験の実施等

被告は,平成23年10月から,原告の吸着剤を用いて,放射性同位体を含む疑似汚染水を使用した試験(以下「ホット試験」という。)を行った。また,同年11月からは,実際の高濃度汚染水を用いた試験(以下「実液試験」という。)を行った(甲8の1,乙140)。上記各試験に関し,日本ピュロライトと被告は電子メール等により多数回の情報交換を行った。

被告は,平成23年11月頃までに,東京電力に対して提案する予定の多核種除去設備の名称を「RINX(radioactivenuclideexchangingsystem)」と定めた(以下,当該多核種除去設備について,単に「RINX」ということがある。)(甲100)。
原告と被告との間のパートナーシップ契約の締結(甲4の1及び2)

原告と被告は,平成23年12月10日,丸紅ユーティリティ・サービス株式会社を証人として,パートナーシップ契約(以下「本件パートナーシップ契約」という。)を締結した。同契約には,以下の規定が設けられていた(なお,以下の規定中,「Purolite」は原告を,「HGNE」は被告を指す。また,以下,同契約における「本プロジェクト」の定
義を定める条項を「本件定義条項」と,第1条最終文の停止条件を定める条項を「本件停止条件条項」と,第2条第1文から第4文までの独占的供給及び購入に関する条項を「本件排他的義務条項」という。)。


定義:
本プロジェクト:(別紙Aで定義される)放射性物質によって汚染さ
れた水を,海洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス
(略)
第1条
本契約の期間中,下記に定めるプロジェクト(以下「本プロジェクト」という。)に関して,Puroliteは,福島第一原子力発電所における,
汚染水の浄化作業に関して,
HGNEに対して,
Purolite
CoreTechnology及びSupportServiceを独占的に提供し,HGNEは,
福島第一原子力発電所における,汚染水の浄化作業に関して,PuroliteからPuroliteCoreTechnology及びSupportServiceを排他的に購入することを合意し,確認する。

(中略)
本契約は,HGNE又はその継承者若しくは譲受人が東京電力株式会社
(主たる営業所の所在地:
(省略)
(以下
「TEPCO」
という。

若しくはTEPCOが設立する特定目的事業体又は日本政府から本プロジェクト(上記に定義する。)を受注することを条件とする。

第2条(独占的関係)
両当事者は,以下に記載する,本契約における独占的関係を遵守する。本プロジェクトに関して,Puroliteは,HGNE以外の者にPuroliteCoreTechnology又はこれに類似若しくは相当する製品又は対策を,販売し,かつ,納入してはならず,HGNEは,Pur
olite以外の如何なる第三者からもPuroliteCoreTechnologyに類似又は相当する製品又は対策を,購入せず,かつ受け入れてはならない。
疑義を避けるために付言すると,
本契約における独占的関係は,
本プロジェクトにおけるPuroliteCoreTechnologyの売買のみに関して適用され,両当事者で別途書面により合意しない限り,本契約の期
間中にいずれかの当事者が行うその他の取引に適用されるものではない。さらに,本プロジェクトの存続期間中において,HGNE及び/又はその関係会社がPuroliteの相手方であり,
かつ,
Purolite
CoreTechnologyが第8条に定める保証内容に沿ったものである限り,Puroliteの明確な書面による同意(その取締役会で承認されたものに限る。)なく,いかなる技術もPuroliteCoreTechnologyに代わって使用されてはならない。(後略)」


本件パートナーシップ契約の契約書(以下「本件パートナーシップ契約書」という。)には別紙A~Jが付属するものとされていたが,契約締結時点では,これらの別紙はいずれも添付されておらず,別紙A~Jの各標題を記載した一覧表が添付されているのみであった。これらの別紙は,平成23年プロジェクト仕様書の確定版の内容を確認した後に添付される予
定であった。
東京電力による多核種除去設備の発注等(甲7)

東京電力は,平成23年12月21日,平成23年多核種除去設備の設置に関する事業(以下「平成23年プロジェクト」という。)の発注先を検討するために事前価格調査を行うこととし,被告を含む数社に対して見
積書,見積仕様書及びランニングコストを記載した書面の提出を求めた(以下,同設備の処理対象水を「本件処理対象水」という。)。

上記事前価格調査の調査要領では,同事業の対象設備は,多核種除去設備,電気・計測関係設備及び試運転調整を含む福島第一原発の多核種除去設備設置一式であり,据付工事完了予定日は平成24年6月29日,予定
納期は同年8月31日とされていた。

また,上記調査要領に添付されている東京電力作成に係る平成23年12月19日付けの購入追加仕様書(事前価格調査用)(以下「平成23年プロジェクト仕様書」
という。では,

購入を予定する多核種除去設備は,

①処理対象水移送設備一式,②処理対象水一時貯蔵設備1基,③多核種除去塔及び付属設備一式,④放射性廃棄物安定貯蔵化設備一式,⑤多核種除去塔の設置ハウス一式(ただし,ハウスの基礎,堰は除く。)から構成されるものとされていた。

平成23年プロジェクト仕様書では,
処理対象水をセシウム吸着設備
(K
URION)の出口水,第二セシウム吸着設備(SARRY)の出口水,塩分除去装置(R.O.膜)(判決注:逆浸透膜(RO)による淡水化装
置)の濃縮廃液,蒸発濃縮装置(判決注:蒸発濃縮による淡水化装置)の濃縮廃液とすること,処理対象水に含まれる放射性物質のうち,所定のものについては,ND濃度値(検出限界値)以下となるまで放射性物質を除去可能な能力を有すること,多核種除去設備の処理容量(通水容量)は,1日当たり500㎥以上とすることなどが求められていた。

また,平成23年プロジェクト仕様書では,多核種除去設備の設計上考慮すべき事項として,設備の運転期間を設備設置後15年とし,これが合理的に達成可能な設計とすることが求められていた。
被告による見積書等の提出
被告は,平成24年1月31日頃,東京電力に対して平成23年多核種除
去設備の見積書等を提出した。
原告及び被告による東京電力に対するプレゼンテーション(甲8の1及び2)
平成24年2月3日,被告及び原告は,東京電力に対しプレゼンテーションを行い,多核種除去設備であるRINXを提案した。
被告が東京電力に対して行ったプレゼンテーションでは,原告及び被告のほか,栗田工業株式会社(以下「栗田工業」という。)並びに米国企業であるパーマフィックス社及びアバンテック社がRINXのシステムに関与することとなっていた。
東芝による平成23年プロジェクトの受注等


東京電力は,平成24年2月17日,東芝に平成23年多核種除去設備を発注した。被告は,平成23年多核種除去設備事業を受注することができなかった。

東芝は,平成25年2月までに,福島第一原発に平成23年プロジェクトに係る多核種除去設備(以下「既存ALPS」という。)を設置納入した。

被告によるセシウム・ストロンチウム同時吸着剤(以下「Cs/Sr同時吸着剤」という。)の開発(甲18)
被告及び日立製作所は,平成25年4月4日,水中に溶解した放射性セシウム(Cs)と放射性ストロンチウム(Sr)を同時に除去できる吸着剤を開発した旨を発表した。同日付けのプレスリリースでは,同吸着剤は,チタン酸塩化合物に特殊処理を施したものであり,セシウムとストロンチウムの双方に対して高い吸着性能を有し,また,これらの放射性物質を選択的に吸着する性質があるため,ナトリウムやカルシウムを含む海水条件でも高い吸着性能を維持し,セシウムとストロンチウムを99%以上の除去率で同時に
除去することができるとされている。
高性能多核種除去設備の発注等(甲14)

経済産業省は,平成25年9月11日,福島第一原発における汚染水対策として,平成25年度「汚染水処理対策事業」に係る補助事業者の公募を行った。

上記汚染水処理対策事業は,福島第一原発における汚染水対策として行う凍土方式遮水壁大規模整備実証事業及び高性能多核種除去設備整備実証事業(以下,上記高性能多核種除去設備整備実証事業を「平成25年実証事業」といい,同事業において整備の対象となる高性能多核種除去設備を「高性能ALPS」という。)を内容とするものであった。上記公募の
要領では,同事業を実施する補助事業者に対しては事業に必要な経費を補助するものとされており,平成25年実証事業については,上限額を69億7372万6000円とする補助金が交付されることとなっていた。イ
平成25年実証事業の概要は,以下のとおりである。
平成25年実証事業の目的及び内容
より高性能な多核種除去設備等の実現を目的とするものであり,①試験汚染水を用いて吸着剤等の除去性能を検証するための試験管レベルの
ラボ試験,②ラボ試験を踏まえ,より実機に近い試験装置を開発し,汚染水を用いた吸着剤等の除去性能の検証及び処理プロセスの妥当性を検証するための検証試験,③開発した改良型多核種除去設備に汚染水を通水し,除去性能及び処理プロセスの妥当性を確認するための実証試験の実施を内容とする。

実証試験で整備する多核種除去設備の技術要件等
a
既存ALPSでは,核種の除去に使用した吸着剤等,年間2300㎥の放射性廃棄物が発生し,保管場所を圧迫していることから,放射性廃棄物を現行の8割以上削減することを目指すこと。

b
既存ALPSの除去対象核種と同じ62核種について,定められた目標濃度への除去能力を有するとともに,上記62核種以外の放射性物質(トリチウムを除く。)については,・・・告示の規定濃度以下に除去可能な能力を有することを技術的,定量的に示すこと。

c
実機を模擬した系での腐食データを取得し,長期に安定運用が可能な材料とすること。

事業実施期間
補助金交付対象期間は交付決定日から平成26年3月31日まで,研究開発は平成25年度から平成27年度までの3年間とし,平成28年3月を事業終了時点とする。

経済産業省は,
平成25年10月10日,
平成25年実証事業について,
東京電力,東芝及び被告を補助事業者に決定し,これら3社の共同提案に係る事業を採用することとした。

被告は,平成25年11月から平成25年実証事業に取り組み,ラボ試験及び検証試験の結果に基づき,高性能ALPSの実機を設置するなどした。

2
争点
平成25年実証事業の受注等についての本件排他的義務条項違反の有無ア
本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトについての合意の成否


本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトの範囲
被告による高性能ALPSの設計等についての不正競争防止法2条1項7
号の不正競争の成否

原告が営業秘密であると主張する情報(以下「原告情報」という。)の営業秘密該当性


原告から被告への原告情報の開示の有無


被告による原告の営業秘密の使用の有無
アバンテック社からの情報の受領についての本件排他的義務条項違反の有
無ア
本件排他的義務条項により禁止される行為の範囲及び被告による本件排他的義務条項違反の有無


停止条件の不成就の確定の有無
アバンテック社に対する原告の営業秘密の不正開示の有無(不正競争防止
法2条1項4号の不正競争の成否)


被告によるアバンテック社への情報の開示の有無
被告がアバンテック社に開示した情報の原告の営業秘密該当性


被告によるアバンテック社への情報開示についての図利加害目的の有無アバンテック社に対する情報の開示についての本件パートナーシップ契約及び本件秘密保持契約の違反の有無

本件パートナーシップ契約違反の有無


本件秘密保持契約違反の有無
損害額

3
争点に対する当事者の主張
争点

(平成25年実証事業の受注等についての本件排他的義務条項違反
の有無)について

本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトについての合意の成否

(原告の主張)
本件パートナーシップ契約第1条では,本件パートナーシップ契約の対象となる「本プロジェクト」は「福島第一原子力発電所における汚染水の浄化作業」と規定されているのであり,本件パートナーシップ契約への署名により,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクト
は明確に合意されている。
本件パートナーシップ契約締結当時,福島第一原子力発電所の放射能汚染水処理のシステムにおいて,セシウムを除去する設備はセシウム吸着装置及び第二セシウム吸着装置以外になく,これらが主要設備となることが想定されていた。また,福島第一原発において処理すべき放射能
汚染水には,サブドレン内の汚染水や使用済燃料プールの汚染水等を含め,福島第一原子力発電所にある全ての放射能汚染水は,最終的にはセシウム吸着装置,第二セシウム吸着装置,逆浸透膜(RO)による淡水化装置及び蒸発濃縮による淡水化装置を経由して処理される可能性があった。このため,本件パートナーシップ契約第1条の「福島第一原子力
発電所における汚染水の浄化作業」は,実質的には「セシウム処理装置からの出口水及び/又は逆浸透膜装置(RO)及び/又は蒸発器からの濃縮水及び/又は出口水を対象とし,この対象汚染水における多核種を検出不能レベルまで浄化する。という目的を達成するための発注をすべ」
て含むプロジェクトを意味するものとして合意されている。
本件定義条項では,別紙Aを引用して「本プロジェクト」を定義しているが,別紙Aの内容は,第1条の定義と同様「福島第一原発における放射能汚染水をNDレベルまで浄化する作業」であり,原告と被告は別紙Aについても合意をしている。本件パートナーシップ契約書に別紙Aが添付されなかったのは,最終的に発行された平成23年プロジェクトの募集要綱を確認した後に添付することが予定されていたからにすぎな
い。
被告は本件パートナーシップ契約の締結にあたり,本件パートナーシップ契約書の最終頁である別紙一覧表にも署名をしているのであるから,少なくとも補充されることが予定されていた別紙の内容や方向性については相互に理解していた。原告と被告との間で何らの主要な取引条件も
確定していないのに,追って補充される別紙一覧も含めて署名の上,契約を締結させたという被告の主張は不自然かつ不合理である。
(被告の主張)
本件パートナーシップ契約では,本プロジェクトの具体的内容は別紙Aにより定義されるものとされている。原告及び被告は別紙Aを含む各別紙
に署名をしておらず,内容について合意をしたこともない。したがって,別紙Aについて原告と被告との間で意思表示の合致はなく,本件パートナーシップ契約における原告と被告との間の独占的供給及び購入の範囲は特定されていない。
独占的供給及び購入に関する契約である本件パートナーシップ契約にお
いて,独占の範囲は権利義務の要素であるから,独占の範囲について両当事者に意思表示の合致がなく,特定がない以上は,独占的供給及び購入に係る権利義務はいまだ発生していない。
なお,本件パートナーシップ契約第3条3項では,対価を別紙Fにより定めることとされているが,別紙Fについても署名がされておらず,契約の要素たる対価についても意思表示の合致がない。この点からしても,独占的供給及び購入に係る権利義務は発生していない。


本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトの範囲

(原告の主張)
以下のとおり,
本件定義条項において定義されている
「本プロジェクト」
は,平成23年プロジェクトに限定されるものではなく,発注の時期にかかわらず,
およそ,
「セシウム処理装置からの出口水及び/又は逆浸透膜装
置(RO)及び/又は蒸発器からの濃縮水及び/又は出口水を対象とし,この対象汚染水における多核種を検出不能レベルまで浄化する。
」という
目的を達成するための発注を全て含むプロジェクトである。
契約上の定義
本件定義条項は,
本プロジェクトを,
「放射性物質によって汚染された

水を,海洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」
としている。
本件定義条項は,
本件パートナーシップ契約の対象を特定の場所に所在する特定の性状を有する水を浄化する作業として規定するものであり,同条項には,契約の対象が特定の発注への対応に限定されることをうかがわせる記載は一切ない。まして,同契約の対象が平成23年プロジェクトに限定されると解すべき文言上の根拠はない。
平成23年プロジェクト仕様書との関係
a
平成23年プロジェクト仕様書によれば,平成23年プロジェクトは1年未満の短期契約であり,かつ,多核種除去設備の設置に限定された内容である。
平成23年プロジェクト仕様書は,平成23年プロジェクトの目的を「多核種を除去する設備を設置し,将来的な環境への放出に備えること」と定義しており,仕様書の文言上,多核種除去設備の製作及び設置と,同設備を運用して行う汚染水処理とは異なるプロジェクトとされている。同仕様書には,設置された設備の運転継続期間を設置後
15年とし,これが合理的に達成可能な設計とする旨が記載されていたものの,プロジェクト自体は,多核種除去装置の設置までを区切りとした契約であり,その後の装置の運営に関しては,別途契約等が交わされることとされていた。
b
原告及び被告は,平成23年プロジェクトの内容が上記のとおりであることを熟知していながら,あえて本件パートナーシップ契約の対象となる「本プロジェクト」の内容を,
「放射性物質によって汚染され
た水を,海洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」と定義したのであり,原告及び被告が「本プロジェクト」は平成23年プロジェクトに限ら
れないとの前提に立っていたことは明らかである。
被告は,多核種除去設備は長期間の稼働が予定されていて設備設置と設備運用を通した汚染水処理とは一体であり,
「本プロジェクト」

範囲を平成23年プロジェクトに限定しても矛盾しないと主張するが,平成23年プロジェクト仕様書の文言を無視する主張である。

本件パートナーシップ契約の他の条項との整合性
契約書は全体として統一的に,全ての条項が意味を持つように解釈をする必要がある。
a
本件停止条件条項


本件パートナーシップ契約では,本プロジェクト」

という文言は,
第1条最終文の「被告又はその継承者若しくは譲受人が東京電力若しくは東京電力が設立する特定目的事業体又は日本政府から本プロジェクトを受注することを条件とする」という本件停止条件条項でも使用されている。

原告が平成23年11月18日に作成した契約書案では,
「東京

電力・・・による本プロジェクト・・・に関する発注を被告が受注すること」として,
「東京電力」による発注を本件パートナーシップ
契約の停止条件とする旨が記載されていたが,原告は,同年12月7日に被告に送付した契約書案の修正案において,東京電力若しく「
は東京電力が設立する特定目的事業体又は日本政府」による発注を
停止条件とするよう本件停止条件条項の内容を変更した。
本件パートナーシップ契約締結の当時,福島第一原発の汚染水処
理については,東京電力が発注した事業が失敗したり,所期の目的を達成できずに中断したりし,東京電力が後継事業を発注をすることが繰り返されていた。特に,東京電力は,平成23年プロジェク
トにおいて,福島第一原発の汚染水処理につき,1日当たり500㎥以上の処理対象水から62種の放射性核種をNDレベルまで除去するという前例のない性能を要求していて,被告以外の者が受注してもその要求を満たす性能を確保できず再発注されることが容易に想定され,また,被告が平成23年プロジェクトを確実に受注でき
る保証もなかった。加えて,本件処理対象水からのNDレベルまでの多核種除去は人類史上例のない,完了まで20~30年を要する可能性もある困難な取組であり,再発注が繰り返される中で,東京電力では処理費用をまかないきれず,日本政府が発注主体になることも想定された。

以上を踏まえ,原告は,平成23年プロジェクトだけではなく,
将来の再発注をも想定して本件処理対象水の処理完了まで確実に関与することができるように本件停止条件条項における発注主体の範囲を拡張した。


原告及び被告は,平成23年12月7日当時,平成23年プロジ
ェクトの発注者が東京電力であること及び平成23年プロジェクトが単発の設備設置工事であることを認識していた。そして,平成2
3年プロジェクトの発注までの短期間のうちに発注者が変わることは考えにくいから,仮に,原告及び被告が本プロジェクトの範囲を平成23年プロジェクトに限定する意図があったのであれば,本件停止条件条項において発注者を「東京電力」と規定すれば十分であり,停止条件の範囲を広げる必要は全くなかった。

それにもかかわらず,被告は停止条件に関する上記変更について
何ら意見を述べず,修正も申し出ていない。


上記本件停止条件条項の作成経緯及び趣旨からすれば,同条項に
おける「本プロジェクト」は,特定の発注案件ではなく,本件処理
対象水からの多核種除去の完了までの全プロジェクトを包括するものとして読むべきことは明らかである。そして,契約書は全体として統一的に解釈すべきであるから,本件定義条項における「本プロジェクト」も,本件処理対象水からの多核種除去の完了までの全プロジェクトを包括すると解釈すべきである。

被告は,契約交渉当時,東京電力の在り方については様々な可能
性が取り沙汰されており,再編により発注主体が別の主体になる可能性があり得ると考えたとしても無理はないと主張する。しかし,平成23年プロジェクトの発注は目前に迫っており,経営形態を変更するための検討や決定のプロセスは短期間で完結するようなもの
ではなく,原告及び被告が2か月後に発注があると予定されている平成23年プロジェクトの発注者が変更される事態を想定していたとは考え難い。
b
第3条3項
本件パートナーシップ契約第3条3項は,原告が被告に対して10年分の年間運転費用見積を固定価格で提示する旨を規定しているが,本件パートナーシップ契約が単年度契約である平成23年プロジェク
トのみを対象としていたのであれば,契約関係が10年間は継続することを前提とした規定が設けられることはあり得ない。
c
第15条1項
本件パートナーシップ契約第15条1項は,本件パートナーシップ契約の終了時期に関連して,原告又は被告の一方が事業を譲渡した場
合であっても「撤退したとはみなされない」と規定している。しかしながら,
原告及び被告は,
本件パートナーシップ契約の下で,
まずは,
平成23年プロジェクトの落札に向け緊密に協働していたのであり,同プロジェクトの完了までの半年余の間に事業譲渡により撤退を図る可能性はなく,あえて契約書で念押しする必要などない。

本件パートナーシップ契約の締結までの交渉過程
a
原告は,平成23年11月18日に「イオン交換物質の売買に関する基本契約書」の案を作成して被告に送付した。同契約書案では,「本
プロジェクト」は「東京電力の福島第一原発における放射能汚染水の
浄化設備及び係る設備の操作にかかるサービス・・・を東京電力に提供すること」と定義されていた。被告は,同年12月4日,原告に対して同契約書案の修正案を送付したが,本プロジェクト」

については,
「Multi-NuclideAbsorptionSystem」(多核種吸着システム)という
文言を使用し,その内容を「東京電力の福島第一原子力発電所の多核
種吸着システムのために東京電力にイオン交換樹脂を提供すること」と修正したのみであり,同修正案には,上記「多核種吸着システム」についての定義はなく,平成23年プロジェクトの仕様書案も添付されていなかった。
被告は,上記「Multi-NuclideAbsorptionSystem」という文言は,「本プロジェクト」の対象を平成23年プロジェクトに特定する趣旨で使用した旨主張するが,同文言は,
「多核種吸着システム」という一

般的な意味を有するにすぎず,プロジェクトを限定する意味を有しない。また,原告は,同年12月4日の時点では平成23年プロジェクトの仕様書も入手しておらず,
その内容を知らなかったのであるから,
「多核種吸着システム」の頭文字を大文字とするのみで,同システムが特定のプロジェクトを指すと原告に理解させることは不可能である。
b
原告は,平成23年12月7日,契約書の題名を「福島プロジェクトに関する日立・ピュロライト間パートナーシップ契約書」と改めた契約書案を被告に送付した。同案では,
「本プロジェクト」は,
「放射
性物質によって汚染された水を,NDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」と定義されており,
「本プロジェクト」を

特定の発注案件に限定するような文言は一切用いられていない。
被告は,平成23年12月9日,上記契約書案に対する修正案を送付したが,同修正案でも,
「本プロジェクト」は「海洋への放出システ
ムのために適用される」との文言が加えられただけであった。同文言に「本プロジェクト」を特定のプロジェクトに限定する意味がないこ
とは明らかである。
c
原告と被告は,平成23年12月10日,本件パートナーシップ契約に署名した。本件パートナーシップ契約では,
「本プロジェクト」は
「放射性物質によって汚染された水を,海洋への放出システムのため
に適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」と定義されており,特定のプロジェクトに限定するような文言は用いられていないし,
同月4日に被告が送付した修正案のように,
「多核種吸着システム」
(Multi-NuclideAbsorptionSystem)という文言の頭文字を大文字にするという手法すら採用されなかった。
d
被告は,
本件パートナーシップ契約の交渉過程において,
一度も
「本
プロジェクト」の範囲を限定しようとはしていなかった。被告が「本
プロジェクト」の範囲を平成23年プロジェクトに限定しようとしたのであれば,既に入手していた平成23年プロジェクトの仕様書案を契約書に添付することにより容易に範囲を限定することができた。それにもかかわらず,あえてそのようにしなかったのであるから,被告に「本件プロジェクト」を特定のプロジェクトに限定する意図がなか
ったことは明らかである。
なお,原告と被告とは,平成23年プロジェクトの仕様書が確定した段階で,同仕様書の各別紙に対応した本件パートナーシップ契約の別紙を添付する旨合意している。しかし,当該合意は,除去対象核種や本件処理対象水の性状等を記載して本件パートナーシップ契約の内
容を明確にすることを目的としており,
「本プロジェクト」
を特定の発
注案件に限定することを目的としたものではない。
e
本件パートナーシップ契約の内容を明確にするためには,平成23年プロジェクト仕様書別紙の内容を理解することができればよかった
ため,原告代表者は,本件パートナーシップ契約締結までの間,平成23年プロジェクト仕様書のうち,その別紙に記載される処理対象核種や除去水準に係る情報について,従業員が抄訳した内容を確認しただけであった。原告代表者は,平成23年プロジェクトが単発の設備設置工事であること等,同プロジェクトの具体的内容を知らずに本件
パートナーシップ契約の対象である「本プロジェクト」という文言を検討し採用したのであるから,具体的発注内容を念頭に置いていなかったことは明らかである。
f
以上のとおり,本件パートナーシップ契約締結までのいずれの段階でも,原告と被告の間で「本プロジェクト」を特定の発注案件に限定するとの合意があったことを基礎付ける事情はない。
各別紙の内容

a
別紙Aは,本件処理対象水の説明及び原告のソリューションで除染を行う前に前処理等を行って確保すべき管理限界値を規定するだけであり,その内容は発注主体や発注時期によって異なるものではない。実際に,別紙Aの記載内容は平成25年実証事業にも当てはまる一般的な内容である。したがって,別紙Aにより「本プロジェクト」の対
象が平成23年プロジェクトに限定されたとみることはできない。b
別紙B及び別紙Hは除去対象核種一覧であり,発注主体や時期に限らず,
本件処理対象水に共通の事項である。
「2011年12月22日
付の東京電力の入札依頼書に記載されたものと同じ内容」等という注記は,平成23年プロジェクトが本件処理対象水からの多核種除去プ
ロジェクトの第一弾であり,多核種除去プロジェクトに共通する除去対象核種一覧が記載されていたため,記載内容の正確性を期すためにそのような記載をしたものにすぎない。
c
別紙Cは,流入水質を明らかにするものであり,平成23年プロジェクトの発注時点での本件処理対象水の性状に係る情報が記載されている。本件パートナーシップ契約第1条第2段落は,汚染水の性状が当初の性状から変化した場合には,原告においてその用いる吸着剤の種類や組合せ,分量等を変更する必要が生じることを規定しており,別紙Cはその前提として本プロジェクトの最初の発注案件として予定
されている平成23年プロジェクトの当初の汚染水の性状を明確化するものである。原告及び被告は,水質の性状が時々刻々と変化することを当然に予想していたのであり,水質の性状の変化までをも契約に織り込んでいるという事実は,
「本プロジェクト」
が特定の発注案件に
限定されるものではないことを示している。
d
別紙Dは,NDの測定方法であり,原告のND達成義務の履行状況を図る指標である。権威ある機関による測定を担保する必要があった
ために平成23年プロジェクト仕様書の別紙と同じ内容にしたのみであり,特定の発注案件を念頭に置いたものではない。本件パートナーシップ契約の契約当日に,第1条第2段落に「
(ⅱ)別紙Dの記載から
変更が生じた場合」という文言が加えられたのも,本プロジェクトが特定の発注案件に限定されるものではないことを裏付けるものである。
e
別紙Fは,本件パートナーシップ契約第3条3項の規定を受け,10年間での固定費用を提示するものである。同別紙は,処理対象水の性状及び分量が浄化プロセスの設計及び運用費用を規定することから,本件処理対象水の性状変化に伴い,処理費用が被告の想定を超えた場合であっても被告の支払額を一定にすることで,費用増加の危険を原
告に負担させた規定であり,特定の発注案件を前提としたものではないし,まして,短期間で終了するプロジェクトである平成23年プロジェクトを前提としたものではない。
f
以上のとおり,各別紙は「本プロジェクト」の対象を特定の発注案件,とりわけ平成23年プロジェクトに限定する趣旨及び内容のもの
ではなく,むしろ「本プロジェクト」が特定の発注案件に限定されるものではないことを示している。
当事者の合理的意思
a
原告及び被告は,仮に,競業事業者が平成23年プロジェクトを受注しても,同事業者が同プロジェクトで要求される機器性能を達成できないであろうことを認識しており,万が一,原告及び被告が同プロジェクトを失注したとしても,本件処理対象水の浄化を目的として,改めて対応事業者が募られることを当然想定していた。
b
被告は,本件契約締結当時,福島第一原発における各種放射能浄化作業に長期にわたって関与していく意思を強く有していたが,
他方で,
被告自身には高濃度放射能物質に対処するノウハウがなかったことか
ら,汚染水処理作業に関する知見やノウハウを有しているパートナーを渇望していた。本件パートナーシップ契約締結当時,被告には原告が有する知見やノウハウが必要であり,また,原告が被告の競合他社と組むことを防ぐため,原告と排他的な関係を築き,長期にわたりこれを維持する必要があった。

c
本プロジェクトの技術要件を満たすレベルの吸着剤を提供できるのは実質的には原告しかいなかったこと,平成23年プロジェクトの後も次の発注がされることが想定されていたことに鑑みれば,こうした特殊技術を有していた原告との独占関係をあえて平成23年プロジェクトに限定する理由は一切ない。むしろ,平成23年プロジェクトを
万が一失注すれば,その後続の発注を目指し,また,平成23年プロジェクトを受注した場合でも,その後続発注につき独占関係の下で受注を目指すつもりであったと考えるのが当事者の合理的な意思に合致する。
本件パートナーシップ契約締結後の当事者の言動

a
被告は,平成23年プロジェクトの失注直後,原告に対して,3~4か月後に再発注があるとの見通しを伝えた。

b
原告は,平成23年プロジェクトの失注後も本件パートナーシップ契約を尊重し,他社からの福島第一原発に関する吸着剤の供給依頼を
断った。被告は,原告からその旨の報告を受けたにもかかわらず,原告に対し,本件パートナーシップ契約は失効しているため競業他社と契約を締結してもよいなどと伝えたことはなかった。本件パートナーシップ契約が失効しているとの認識を被告が有していたのであれば,少なくとも商道徳上,事業機会を見逃そうとしている元パートナーに対して自己の認識を告げて然るべきである。上記のような被告の行動は,被告も本件パートナーシップ契約が平成23年プロジェクトの終
了後も有効であると認識していたことを裏付けるものである。
c
原告が平成23年プロジェクト失注後に本件パートナーシップ契約の別紙について検討を加えていないのは,別紙の内容は合意済みであり,署名を残すのみであったことから,署名を急ぐ必要がなかったためである。

被告の主張に対する反論
被告は,
「本プロジェクト」
は平成23年プロジェクトという特定の発
注案件に係る多核種除去設備による汚染水処理という長期にわたるプロジェクトを指すと主張する。
しかし,被告は,①平成23年多核種除去設備の設備納入とともに,
その設備に係るその後の吸着剤についても包括的に受注できる,②東京電力は設備受注者が指定する吸着剤を設備受注者から購入する,という平成23年プロジェクト仕様書に記載のない独自の設定を仮定している。しかし,東京電力は,平成23年プロジェクト仕様書において,見積書とランニングコストを区別し,設備納入と吸着剤供給とは別個に発注することを前提としているのであるから,上記仮定の設定は誤りである。平成25年実証事業は,本件パートナーシップ契約の「本プロジェクト」に該当すること
a
本件パートナーシップ契約の独占関係の対象である「本プロジェクト」は,本件処理対象水からの多核種除去プロジェクト一般を意味するものであり,平成25年実証事業もこれに該当する。
平成23年プロジェクトが「本プロジェクト」に含まれることは争いがないところ,平成23年プロジェクトと平成25年実証事業は,処理対象水,除去対象核種,除染レベル,1日当たりの処理量まで,その内容がほぼ一致している。平成25年実証事業は,平成23年プロジェクトの下で構築された既存ALPSが大量の放射性廃棄物を生み出したことや4核種でNDを達成できなかったことから,国が前面に立って取り組む必要があるとして,日本政府が発注者となった追加発注プロジェクトである。
両プロジェクトでの処理対象水等の一致は,
平成25年実証事業が平成23年プロジェクトの後継プロジェクトで
あることから必然的に導かれるものである。
したがって,
平成25年実証事業も
「本プロジェクト」
に包含され,
本件排他的義務条項の対象となる。
まとめ
被告は,
「本プロジェクト」に含まれる平成25年実証事業を受注し,

原告の関与なく高性能ALPSの設計等を行ったことにより,本件パートナーシップ契約第2条に定める本件排他的義務条項に違反した。よって,同契約第22条に基づき,被告は原告に対して
張する損害の賠償義務を負う。
(被告の主張)

以下のとおり,本件パートナーシップ契約において,原告と被告との間で独占的供給及び購入の範囲を画するプロジェクトとして想定されていたのは,平成23年プロジェクトという特定の発注に係る設備による汚染水処理であった。したがって,仮に独占的供給及び購入の範囲が特定されていたと解されるとしても,その範囲は平成23年多核種除去設備による汚
染水処理に限られる。
本件パートナーシップ契約は,専ら平成23年多核種除去設備による汚染水処理のみを想定したものであること
被告は,平成23年多核種除去設備の発注計画が具体化した平成23年9月から平成23年プロジェクトを失注した平成24年2月までの間,平成23年多核種除去設備の受注を目指し,実液試験等を実施して同設備において使用する吸着剤の選定等を行っていた。被告は,上記経緯の中で原告の吸着剤についても実液試験の対象とし,ピュロライト社グループも,
平成23年多核種除去設備における吸着剤の一括供給を目指し,
吸着剤の選定や試験方法の指定について試行錯誤を繰り返していた。ピュロライト社グループから契約締結の希望が出されたのは,上記選
定の作業等が行われていた平成23年11月10日であり,本件パートナーシップ契約への署名は,同年12月10日に行われた。
このように,本件パートナーシップ契約締結時に被告及びピュロライト社グループが目指していた取引は,専ら東京電力が発注を予定していた平成23年多核種除去設備による汚染水処理に使用する吸着剤の供給
であって,被告もピュロライト社グループも,平成23年多核種除去設備の受注を目指しており,他の取引は想定していなかった。このような状況からすれば,本件パートナーシップ契約の対象として想定されていたものは,平成23年多核種除去設備による汚染水処理であると解される。

被告は本プロジェクトの対象を限定する意図を有していたこと
被告は,平成23年12月4日,原告に対し,同年11月18日に原告から送付された売買基本契約書案の修正案を送付した。被告は,同修正案において,
「本プロジェクト」の対象を特定する趣旨で,冒頭の文字
を大文字にした「Multi-NuclideAbsorptionSystem」(多核種吸着シス

テム)との記載を使用した。また,被告は,同修正案において,本プロジェクトの存続期間中は原告の書面による同意のない限り原告製品を購入することを義務付ける規定を抹消し,独占権が最初の個別売買までと限定する趣旨の修正を加えた。
このように,被告は,独占的供給及び購入の範囲についても,平成23年多核種除去設備どころか,その設備に係る最初の吸着剤の発注に限定しようとしていた。その後の交渉の結果,独占的供給及び購入の範囲は,平成23年多核種除去設備の範囲まで広げられることとなったが,原告の独占権の範囲をこれだけ限定する意図を有していた被告が,具体的な発注計画もない設備についてまで,原告に独占権を認めるはずがなかった。

本プロジェクトの定義は,後日,別紙Aにおいて定めることとしていたこと
本件パートナーシップ契約では,独占的供給及び購入の範囲を定める「本プロジェクト」の具体的定義は別紙Aにより定められるものとされたが,契約書本文の署名時には,別紙Aは添付されなかった。独占的供
給及び購入の範囲を定める「本プロジェクト」の定義は,本件パートナーシップ契約の根幹をなす条項であるから,契約書本文の署名時に可能な限り具体的に定めることが求められる。それにもかかわらず,後日別紙Aにより定めることとされたのは,契約書本文の署名時点では,東京電力の発注内容となる仕様書が確定せず,同設備による汚染水処理につ
き定義をすることができなかったためである。
別紙Aについては,平成23年プロジェクト仕様書を添付又は引用する旨合意されていたこと
原告と被告は,平成23年12月9日,
「本プロジェクト」の定義を定
める別紙Aについては,東京電力による平成23年プロジェクト仕様書
の確定を待ち,同仕様書を添付又は引用する旨を合意した。平成23年プロジェクト仕様書の確定版の文言を確認した後に別紙Aを添付する予定であったことは原告も認めているところ,
「本プロジェクト」
の範囲を
特定の発注に係る設備に限らないのであれば,平成23年プロジェクトに係る東京電力の発注内容にかかわらず,契約当事者双方が独占的供給及び購入の範囲として意図する内容をもって「本プロジェクト」の範囲とすればよく,特定の発注に係る設備の仕様の確定を待つ必要はない。平成23年多核種除去設備の仕様の確定を待って別紙Aを添付することとしたのは,別紙Aの内容を平成23年多核種除去設備という特定の設備の仕様に則したものにするためであり,原告と被告との間には,本件パートナーシップ契約における独占的供給及び購入の範囲を平成23年
多核種除去設備に限定するとの共通認識があった。
原告が作成した別紙Aの草案の内容は,平成23年多核種除去設備に特有の内容であること
原告が平成24年2月8日に被告に送付した別紙Aの草案は,処理の対象となる汚染水を,平成23年プロジェクト仕様書において平成23
年多核種除去設備による処理の対象とされた汚染水に限定しており,前処理の方法及び前処理により実現すべき結果についても,平成23年多核種除去設備による処理において求められるものと同じ内容が記載されている。さらに,別紙Aの草案は,
「RINXへの流入水の管理限界」と
して,平成23年多核種除去設備特有の名称である「RINX」という
文言を使用している。
このように,原告が作成した別紙Aの草案においても,独占的供給及び購入の範囲を画する
「本プロジェクト」
の定義について,
対象汚染水,
前処理の方法,前処理により実現すべき結果及び設備の名称の面から,平成23年多核種除去設備に限定する内容となっている。

原告が作成した別紙A以外の別紙の草案も,平成23年多核種除去設備に限定した内容であること
a
別紙B及び別紙H
別紙B及び別紙Hは,処理対象となる汚染水から除去すべき物質を特定するものであるが,原告が作成した草案は,いずれも平成23年プロジェクト仕様書の別紙1の記載に従った内容となっており,20「
11年12月22日付の東京電力の見積依頼書の別紙1と同じである」
旨が記載されている。
b
別紙C
別紙Cは,処理対象となる汚染水の水質を特定するものであるところ,原告が作成した草案の実質的な内容に係る部分は,平成23年プロジェクト仕様書の別紙5の改訂版をそのまま用いたものである。
c
別紙D
別紙Dは,検出不能レベルに達したことの確認を行う試験方法を特定するものであるところ,原告が作成した草案は,平成23年プロジェクト仕様書の別紙2に記載された方法と基本的に同一の内容であり,「2011年12月22日付の東京電力の見積依頼書の別紙2に記載
されたものと基本的に同じ試験方法である」旨が記載されている。d
別紙F
別紙Fは,
原告が取得する対価の計算方法に係るものであるところ,
原告が作成した草案は,平成23年多核種除去設備における対象汚染水及び平成23年多核種除去設備において予定していた前処理を前提
とした計算方法を採用している。
また,
別紙Fの草案では,RINX」

の文言が多用されている。
e
上記a~dのとおり,原告が作成した別紙の草案では,平成23年多核種除去設備にしか当てはまり得ない詳細な特定がされているので
あり,本件パートナーシップ契約の対象として想定されていたものが平成23年多核種除去設備のみであることは明らかである。
対価の定め方は特定の設備を前提とするものであること
本件パートナーシップ契約の契約第3条3項では,吸着剤の対価を定めているが,その内容は年間運転費用を固定価格ベースで提示するというものである。被告が原告に対して支払う吸着剤の代金額は,東京電力からの受注内容が確定しない限り確定的には定まらないのであり,代金額を確定的に定めるには,特定の設備について仕様する吸着剤の供給につき,東京電力との間で契約が締結される必要がある。固定価格ベースによる対価を定めているということ自体,特定の設備を前提とするものといえる。
平成23年プロジェクト失注後の原告の態度

a
被告が平成23年プロジェクトを失注した後,原告と被告との間で別紙についての検討が進められることはなく,別紙はいずれも両当事者による署名がされないままとなっている。仮に,原告が本件パートナーシップ契約の対象は平成23年多核種除去設備に限られず,平成23年プロジェクトを失注した後も同契約の効力が存続しているとの
認識を有していたのであれば,被告が平成23年プロジェクトを失注した後も別紙について検討を進めようとしたはずである。
b
原告は,被告が平成23年多核種除去設備を失注した後は,平成25年2月に被告を訪れた以外は,2年以上にわたり被告と何ら接触を
しようとしなかった。その間には,被告によるCs/Sr同時吸着剤の開発や平成25年実証事業への関与が公表されていたのであるから,仮に,原告が本件パートナーシップ契約の対象は平成23年多核種除去設備に限られず,平成23年プロジェクトを失注した後も本件パートナーシップ契約の効力が存続しているとの認識を有していたのであ
れば,平成23年プロジェクトの失注後も多核種除去設備の設備に係る吸着剤の供給に向けて被告に対して頻繁に接触しようとしたはずである。
c
被告は,平成24年5月11日,日本ピュロライトが提供した未使用のカラムが残っていたことから,日本ピュロライトに対し,カラムの返還場所を尋ねたところ,日本ピュロライトの従業員は,カラムの返還先を指定した。

d
原告代表者は,本件パートナーシップ契約の契約書原本が現在も会社で保管されているかどうかを認識していなかった。仮に,平成23年プロジェクト失注した後も同契約の効力が存続しているとの認識を有していたのであれば,重要な契約であるはずの本件パートナーシップ契約の契約書原本を破棄せず,保管する措置を執っていたはずであ
る。
e
上記a~dのような原告の態度は,本件パートナーシップ契約の対象が平成23年多核種除去設備による汚染水処理に限られていたことを示している。
原告にも本件パートナーシップ契約の対象を限定する動機があったこ

本件パートナーシップ契約第8条では,原告は,原告が提供する吸着剤につき,東京電力が平成23年多核種除去設備の仕様として要求する放射性核種の除去性能を保証する旨が定められている。したがって,原告にとっては,東京電力の要求する仕様が確定され,原告として確実にその仕様を満足することができるとの見込みがなければ,契約を履行できないおそれが生じる。
発注の対象となる設備が異なれば,発注時の状況に応じて要求される仕様が異なる可能性があることは否定できず,異なる発注の対象となる
設備までは性能を保証することができないと判断するのが通常であるから,原告も,本件パートナーシップ契約の対象を平成23年多核種除去設備に限定する動機を有していたといえる。
原告が本件パートナーシップ契約の対象は平成23年多核種除去設備に限られないとの考えを表明したことはないこと
本件パートナーシップ契約に関する会議は,平成23年12月5日,同月9日及び同月10日の3日間にわたって行われているが,原告側から契約対象は平成23年多核種除去設備に限られないという趣旨の発言がされたことはない。原告は,原告代表者には本件パートナーシップ契約の対象を平成23年多核種除去設備に限定する意思はなかったと主張するが,仮にそうであったとしても,当該意思は原告代表者の内心の意
思にとどまっており,そのことが被告に対して表明されたことはない。その他
a
原告は,平成23年プロジェクトは短期間のプロジェクトであるのに対し,本件パートナーシップ契約は長期契約であることから,本件パートナーシップ契約の対象は平成23年プロジェクトに限られない旨主張するが,平成23年多核種除去設備による汚染水処理は長期に
わたり継続することが予定されていたのであるから,原告の主張は失当である。
b
原告は,
本件停止条件条項には,
「被告又はその継承者若しくは譲受
人が東京電力若しくは東京電力が設立する特定目的事業体又は日本政
府」から本プロジェクトを受注することを条件とする旨が規定されているから,本プロジェクトの範囲は平成23年多核種除去設備に限られないと主張する。
しかし,一般に,契約締結の直前になって,契約当事者を特定の事業を行うため等に設立した子会社等にしたいとの希望が示されること
は少なくない。また,当時東京電力について様々な可能性が取り沙汰されていた状況の下では,被告において,再編により発注主体が別の主体になる可能性があり得ると考えたとしても無理からぬところである。したがって,本件停止条件条項における発注の主体についての文言は,本件プロジェクトの範囲が平成23年多核種除去設備に限られることを否定する根拠とはならない。
まとめ

以上によれば,本件パートナーシップ契約における独占的供給及び購入の範囲を画する「本プロジェクト」として想定されていたのは,平成23年多核種除去設備という特定の発注に係る設備による汚染水処理に限られる。したがって,平成25年実証事業の受注及び高性能ALPSの設計等が本件排他的義務条項に違反する旨の原告の主張は,失当であ
る。
争点

(被告による高性能ALPSの設計等についての不正競争防止法2
条1項7号の不正競争の成否)について

原告情報の営業秘密該当性

(原告の主張)
原告情報の内容
a
原告情報は,福島第一原発から生じた高濃度放射能汚染水に含まれる62核種をNDレベルまで除去するための技術情報であり,
「PuroliteCoreTechnology」と総称されている情報である。原告情
報は,RINXで採用されている浄化プロセス(以下「RINXモデル」という。
)及びそれを構成する際に依拠した各種技術情報(原告独
自の実験方法・使用を含む。
)であり,福島第一原発の汚染水除去作業
において,①62種類の放射性物質についてのND達成,②放射性廃棄物の最小化,③コストの最小化,④作業員の被ばくリスクの最小化
という課題を達成するための技術情報の集積である。別紙1営業秘密一覧の「原告の営業秘密を構成する技術情報」各欄に記載の各個別の技術情報は,原告情報を分節化したものである。
b
RINXモデルは,以下のとおり,浄化作業に関する原告の長年の経験,知見及びノウハウが凝縮された多核種除去システムのモデルである。

●(省略)●


RINXモデルはそれ自体,競業他社にない原告の汚染水処理分
野における長年の経験及び知見の結晶であり,価値があるものであるが,種々の制約の下で諸課題を解決するための出発点となる組合せとしてRINXモデルがあることにより,その後の開発過程で各
要素を変更したり,新たな解決課題や解決方法を導入したりする場合に,
RINXモデルを参照しながら開発作業を行うことができる。
このように,RINXモデル及びそれを支える技術的知見である原告情報は,その後の開発に必要な労力や費用を格段に減少させ,開発速度を大幅に引き上げることを可能とするという重要な価値を有
する。
また,原告情報のうち,吸着塔配列に関する部分には,どれほど
高い評価をしても足りないほどの価値があり,被告や競業他社が独自に正しい吸着塔配列にたどり着くには非常に長い期間を要する。例えば,RINXモデルで提案された吸着剤は12種類であるが,
吸着剤の種類が全部で20種類しかないと仮定した場合であっても,その中から12種類を無作為に選び出して得られる配列の種類は60兆通り以上である。時間をかければ正しい吸着剤の組合せを選択することが可能であったとしても,本件において,正しい吸着剤の組合せを開発するための時間は非常に限られており,被告が正しい
吸着剤の組合せを選択することは不可能であった。
原告情報の営業秘密該当性
a
秘密管理性
原告は,各従業員に対して厳格な守秘義務規定のある雇用契約の締結を求め,機密管理の徹底を図っているほか,ピュロライト社グループのデータベースに関しては,データベースを使用しようとする者の
IDとパスワードを入力しなければアクセスできない措置をとり,個々の従業員の各データベースへのアクセスを個人ベースで管理・制限し,かつ,各データへのアクセス状況は常にモニターする等の措置をとっている。また,原告情報は,福島第一原発の放射能汚染水処理のために開発,工夫された方法論に関するものを含むが,そもそも同
開発作業等には原告代表者を含めて10名以下の限定された人間のみが主要メンバーとして関与し,その他従業員は主要メンバーからの個別の依頼に基づき必要のある限度で関与したにすぎない。原告情報は原告及びそのグループ会社内において,極めて限定的な従業員の間でのみ共有されていたから,原告内で秘密として管理されていたと認め
られる。
また,本件パートナーシップ契約は,別紙Gの第3.4条で,
「製品
サンプル,技術及び/又は定式」についての使用制限及び秘密管理を定めており,これらの情報については「極秘」等の表示を付すことを義務付けていない。同条項は,これらの情報については特段の表示が
付されていない場合であっても秘密として管理されていることを前提とするものであり,原告が被告に直接開示した一つ一つの専門知識は上記条項による保護の対象となるものである。
そして,
別紙Gを含め,
本件パートナーシップ契約における秘密保持に関する条項は,いずれも秘密保持に関する従前の措置を維持し,補強することを目的とした
ものであるから,本件パートナーシップ契約締結の前後を問わず適用されるものである。
本件では,本件秘密保持契約を締結した後に初めて原告情報の中核をなす技術情報が原告から被告に開示されたこと,被告や東芝を含む各社が開発にしのぎを削っていた技術に関する情報であることから,被告において,原告が開示した各技術情報が秘密であり,第三者に自由に漏洩したり,多目的に流用したりすることが許されない性質の情
報であることを認識することができなかったはずがない。
b
非公知性
原告情報は,そこに組み込まれている各種の技術情報やノウハウが一体として稼働する浄化プロセスとしての情報であり,そのようなプ
ロセスの設計方法や内容については,いかなる文献にも記載がないものであるから,明らかに非公知の情報である。仮に,原告情報の各技術要素が個々の要素としては公知であったとしても,福島第一原発における多核種除去の目的を達成するためのまとまった解決策として有機的に機能する各技術要素の組合せや集積が公知であったことはない。
また,非公知性とは,当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない等,保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態をいう。そして,試行錯誤を経れば入手することができる技術情報であっても,緊急を要するため,入手のために時間をかけられないという事情があれば非公知性の要件を満たし得
るのであり,入手するにはそれ相応の労力,費用,時間がかかる等の事情があり,当該情報に財産的価値が認められる場合には非公知の情報と解釈される。
被告は,平成25年実証事業において,平成23年プロジェクトと同様の課題を達成するために,原告が提供した原告情報としての各技
術情報の集積を使用することにより,本来であれば,被告が独自で一から行う必要があった技術情報の収集,選別,分析,検討にかかる労力,費用,時間を大幅に節約することができたから,非公知性の要件を満たす。
c
有用性
原告情報は,これを使用して行った多核種除去実験において,基本的に平成23年多核種除去設備募集における汚染水除去レベル要件を
満たす結果を示していることからもわかるように,効果的に多核種除去を行うことを可能にするノウハウ及び技術であり,事業活動上有用な技術上の情報である。
(被告の主張)
営業秘密の特定を欠くこと

原告情報のうち,以下のものは,何をもって原告の営業秘密とする趣旨であるかが明らかではないため,特定していない。
a
原告情報1①のうち,
「右記証拠記載の技術情報」

●(省略)●
e
原告情報3①のうち,
「右記証拠記載の技術情報」

f
原告情報4③「RINXにおける最終的な吸着剤の配列デザインに関する技術情報」

●(省略)●
h
原告情報6①「原告が実施したラボ試験結果に関する技術情報」
i
原告情報6②「ホット試験のラボ試験実施方法に関する技術情報で以下の技術方法を含むもの,その他右記証拠記載の技術情報」

●(省略)●
原告情報の営業秘密該当性
a
秘密管理性
原告が原告及び原告のグループ会社の従業員に対して原告情報の機密管理を徹底して行っていることを裏付ける証拠はない。
また,原告と被告との間で締結された本件秘密保持契約では,開示時に開示当事者が明示的に秘密であることを示していない限り,秘密情報とはみなさないと定めているほか,書面により開示をする場合には一定の手続を踏まなければならない旨を定めている。原告が被告に示したとする情報のうち,明示的に秘密であることが示されているも
のは一部にすぎず,その大部分は機密情報として扱われていない。したがって,原告情報に秘密管理性が認められないことは明らかである。
b
非公知性


営業秘密の要件である非公知性の検討に当たっては,営業秘密の
保有者が営業秘密であると主張する全ての情報に関して非公知性を判断する必要はなく,被疑侵害者により現に使用されている情報又は営業秘密の保有者が被疑侵害者により現に使用されていると主張する情報に限定して非公知性の有無を判断すれば足りる。
後記ウにおける原告の主張によっても,●(省略)●

そして,上記①及び②の点は,いずれも原告自らがウェブサイトで公表した情報であり,平成24年に開催された米国電力研究所国際低レベル放射性廃棄物会議において公開した情報でもある。
したがって,原告が被告により現に使用されていると主張する情
報は,その組合せも含めて公知であって,営業秘密に該当しない。


原告情報に含まれる個々の情報は公知であるところ,原告は,こ
れらの情報の組合せが営業秘密であって,その組合せが非公知であれば足りる旨主張する。しかし,原告情報のうち,被告が使用していない前処理に関する知見及び原告の提供する吸着剤に関する知見
等を除く知見は,別紙1営業秘密一覧の「被告の主張」の「非公知性」欄に各記載のとおり,吸着剤による物質の除去に関する極めて一般的な知見や,福島第一原発の事故を契機として汚染水からの多核種除去に関わる者が当然のように認識して公表している知見である。また,その組合せによって特殊な性質を導き出したものでもないため,これらの知見を組み合わせることは容易であるし,原告以外の者が時間や資金等のコストを要することなく入手することが可
能なものである。なお,被告は,原告から示されることなくこれらの知見を独自に知得し,平成23年多核種除去設備の開発に当たって考慮していた。
したがって,
これらの知見の組合せは公知であり,
営業秘密には該当しない。
c
有用性
原告情報のうち,●(省略)●など,交換周期に関連する情報の意義については,原告の理解に技術的な誤りがあり,原告の理解を前提とする限り,有用性がない。
また,別紙営業秘密一覧記載7の情報は,日本ピュロライトが平成24年1月10日に作成した「多核種除去システムにおける吸着剤コ
ア技術のフレキシビリティ」
(乙123)を指すものと推測されるが,
これは,日本ピュロライトが様々な要請に迅速に対応することや水質が変化した場合でもこれに対応した吸着剤の構成の変更を推奨することが可能であることなどを抽象的に宣言するものにすぎず,有用な技術情報とはいえない。

したがって,
これらの情報は有用性を欠き,
営業秘密に該当しない。

原告から被告への原告情報の開示の有無

(原告の主張)
原告は,平成23年10月半ばから平成24年2月半ばまでにかけて,被告に対し,原告情報を開示した。なお,原告は,ピュロライト社グループの持株会社であり,平成21年12月付けの知的財産譲渡契約により,原告の傘下にある事業子会社から,これらの会社がその研究等を通じて取得し,あるいは保有する全ての知的財産権(今後開発・取得されるものを含む。
)を譲り受けている。したがって,原告は,原告情報及びこれに関する知的財産権を有効に保有し,これらを実施する権利又は第三者に開示する権利を有している。原告は,自らが雇用する従業員だけでなく,グループに属する会社及びその従業員を通じて原告が保有する情報の開示を行っており,被告に対する情報の開示も,日本ピュロライト等の従業員を通じて行ったものである。
(被告の主張)

原告は,平成21年12月付け知的財産譲渡契約書により,ピュロライト社グループが保有する知的財産権の譲渡を受けたと主張するが,いかなる法人がいかなる情報を開発し,原告にその処分権限を譲渡したかを何ら主張立証しない。したがって,仮に原告が主張する情報が営業秘密に該当するとしても,原告が自ら原告情報を現実に保持しているとは
認められず,原告は原告情報の保有者とは認められない。
営業秘密が示されたか否かを検討するに当たっては,被疑侵害者により現に使用されている情報又は営業秘密の保有者が被疑侵害者により現に使用されていると主張する情報に限定して,これが示されたか否かを判断すれば足りる。

後記ウにおける原告の主張によっても,●(省略)●上記①に関しては,
原告は吸着塔構成について単に複数の具体的な構成を示しただけで,その根拠等までは示しておらず,別の機会に利用することができるような一般化抽象化できる方法論を示したことはないし,これを裏付ける証拠もない。

また原告又は日本ピュロライトから被告が示されたpH値は,単に日本ピュロライトが提案した吸着剤において効果を発揮するpH値にすぎない。
原告情報全体についてみても,原告が原告情報に含まれる個別の情報又はその組合せを含め,知見といえるほどの情報を被告に対して示したことを裏付ける証拠はない。

被告による原告の営業秘密の使用の有無

(原告の主張)
原告情報に基づくRINXモデルは,原告の汚染水処理における知見及びノウハウの集積である。福島第一原発における課題に対処するために依拠することができる先例は存在しなかったため,RINXモデルにおける技術情報を使用せず,実機に適用可能な浄化プロセスを新たに構築するには,無数の選択肢の中から前処理,吸着剤の組合せ,吸着塔配列,pH値,pH調整を行う位置の最適な組合せを新たに特定する必要があり,多大な時間と費用を要する。
被告は,
平成23年7月14日頃の時点で,
「現時点からは十分な時間

がなく高い放射能を有する物質に対処するノウハウを確立することができない」と述べていたように,十分な技術情報を有していなかった。また,被告が同年7月22日に東京電力に対して提案した滞留水処理設備において採用していたケミカルインジェクションは,本件処理対象水の処理には応用することができないものであった。

被告は,平成25年10月10日に平成25年実証事業を受注し,平成26年10月には高性能ALPSの実機の運用を開始しているが,上記のとおり,本件処理対象水の処理に関する知見を有していなかったことに鑑みれば,平成23年プロジェクトの失注からわずか1年余りという短期間で,被告がRINXモデルと目的を同じくする高性能ALPS
を独自に開発できるまでの技術水準に達することは困難である。
被告は,
高性能ALPSの設計に当たり,新たに判明した問題への個別の対応策として必要な限りでの調整又は修正をしたものの,RINXモデルに基づき,高性能ALPSの浄化プロセスを設計したものと推認される。被告は,高性能ALPSの設計に当たり,RINXモデル及び原告情報を参照し,これを検討の出発点とすることで,本来必要であったはずの試行錯誤の過程を大幅に省略し,多大な時間的コスト及び金銭的コストを削減することができたのであるから,原告の営業秘密を使用したことは明らかである。
高性能ALPSが原告の多核種除去に関する営業秘密を一切使用しない全くの新しいモデルであるというためには,高性能ALPSについ
て,①出発点としてのRINXモデルを一切参考にせず全く新しい技術情報を前提に一から作り上げた独立した別個のモデルに基づく装置であることを示すか,②出発点としたRINXモデルの改変又は修正を原告が示した経験,知見及びノウハウに全く基づかずに行い,かつ,当該改変又は修正によって,RINXモデルとはその内容や設計根拠が全く異
なる別のモデルとなっているといえることを示さなければならない。しかし,以下のとおり,被告はRINXモデルを出発点にこれに改変を加えるという方法で高性能ALPSを設計したのであって,原告の営業秘密を使用している。
a
平成24年当時の被告の浄化プロセスに関する知見・技術の由来
平成23年プロジェクトに関し,被告が平成24年2月17日の失注時までに行ったことは,原告のそれまでの長年の知見,技術及びノウハウを利用して実験を実施し,多核種除去設備に原告の浄化プロセスをそのまま適用することであった。被告は,原告の浄化プロセスをアバンテック社に開示して検討させ,そのフィードバックを受けるこ
とで,原告の知見等を不正に蓄積した。平成24年2月17日の時点において被告及びアバンテック社が有していた多核種除去に関する知見等は,原告の営業秘密である原告情報に由来するものである。
b
平成24年以降高性能ALPS設計までの経緯
上記aのとおり,平成24年2月17日時点で被告が有していた多核種をNDレベルまで除去するプロセスに関する知見及び技術は,ほ
ぼ全て原告の知見及び技術である。また,被告は平成23年プロジェクトの失注後に他のプロジェクトに関してアバンテック社と協働して開発を行ったが,アバンテック社の知見等も,被告を通じて得た原告情報から派生したものである。
平成24年10月から処理を開始した福島第一原発のサブドレン汚
染水の浄化システム(以下「サブドレン・システム」という。
)は,被
告とアバンテック社が,RINXを参考に,サブドレン汚染水の特性に応じた修正を加えて開発したものと考えられる。
実際,
サブドレン・
システムの検討の際に,
被告から,
「多核種除去システムと似たシステ
ムのようだ」というコメントがされており,RINXでの各種ノウハ
ウが利用可能であることを被告も意識していたことがうかがわれる。対象核種や前処理等に関する相違はあるが,最終的に,サブドレン・システムは,簡易版RINXのようなデザインになっており,RINXの改変版又は修正版であるといえる。
サブドレン・システムに続いて,被告とアバンテック社は,高性能
ALPSに取り組んだ。高性能ALPSの検討の初期段階の平成25年9月5日のアバンテック社宛の電子メールの中で,
被告は,
「日立G
Eは前処理フィルターと吸着剤を使用するHi-Gシステム(サブドレン・システムのプロジェクトネーム)と似た構成のシステムを提案する予定である」旨のコメントをしている。このコメントのとおり,
被告は高性能ALPSの浄化プロセスに関して,サブドレン・システムを参考にしていた。
上記のとおり,
被告及びアバンテック社は,
RINXを出発点とし,
サブドレン・システムを経て高性能ALPSを設計しているが,その作業過程はそれぞれの汚染水の状況に応じて原形であるRINXに改変・修正を加えるというだけのものであった。被告が高性能ALPSの設計に至った過程をみても,高性能ALPSは,RINXを出発点
として汚染水の状況や東京電力からの要請等に応じて改変又は修正を加えた成果物であることが分かる。
c
高性能ALPSとRINXとの実際の類似点
以下のとおり,高性能ALPSの浄化プロセスはRINXのものと類似しており,この点からも,RINXの改変版にすぎないことは明
らかである。
●(省略)●
(被告の主張)
被告が高性能ALPSにおいて原告情報に含まれる個別の情報を使用していないこと
高性能ALPSにおいて被告が原告情報を構成する個別の情報を使用していないことについては,
別紙1営業秘密一覧の
「被告の主張」「使

用の有無」欄に各記載のとおりである。
被告は高性能ALPSの検討過程においても原告情報を使用していな
いこと
a
原告は,被告が高性能ALPSの設計に際し,RINXモデルを出発点として,これに改変及び修正を加えることで多大な時間的コスト又は金銭的コストを削減しており,高性能ALPSの検討過程において原告情報を使用したと主張する。

製品の開発検討過程での情報の使用により時間的コスト又は金銭的コストを削減したことが営業秘密の使用に当たるというためには,当該使用により時間的コスト又は金銭的コストが削減されたことが具体的に主張立証されなければならない。
原告の主張によっても,高性能ALPSがRINXモデルを出発点としている根拠,すなわち,●(省略)●
これらの点は,前記ア及びイのとおり,その組合せも含めて公知であ
り,また,原告から示された情報でない。さらに,これらの知見は,以下のb及びcのとおり,原告から示されることなく被告が独自に得ていた知見である。
b
被告は,平成23年6月以降,東京電力に対し,エナジーソリューション社のモバイルラドを活用した使用済み燃料貯蔵プール水の放射性核種の除去設備を提案していたが,このモバイルラドでは,pH調整を行いCa(カルシウム)
,Mg(マグネシウム)
,Sr等を共沈さ
せた上,粒子を活性炭で除去し,その後,複数の吸着塔を直列につなぎ,まずCs及びSrを除去した後,Te(テルル)
,Sb(アンチモ

ン)
,TRU(超ウラン元素)
,Eu(ユウロピウム)
,Ru,I(ヨウ
素)等の他の核種を除去することが示されていた。
また,
被告は,
東京電力に提出した平成23年7月22日付けの
「滞
留水処理設備のご提案」の「7.吸着システムの概要」において,吸着塔の配列例として,複数の吸着塔を直列につなぎ,まずCs及びS
rの核種を除去した後,他の核種を除去することを示すとともに,それまでに試験をして把握したCs,Sr及びCo(コバルト)等の吸着剤の除去性能を示していた。
さらに,被告は,平成23年10月5日に,日本ピュロライトと平成23年多核種除去設備について初回の会議を実施したが,この際に
被告が日本ピュロライトに示した吸着塔配列においても,●(省略)●ところ,そのような構成は,原告から開示されるまでもなく被告が独自に得ていた知見に基づくものであるから,被告は原告情報を使用していない。
c
Sr吸着剤であるSrTreatの仕様書には,pH調整は9以上,「
望ましくは10以上である必要がある」
旨が記載されている。
被告は,
このような知見に基づき,平成23年7月23日に実施された試験に
おいて,pH値を9に調整して実験をした結果を得ており,特定のSr吸着剤での処理の前にアルカリpHに調整することなど,各吸着剤に通水する前に各吸着剤の性能が最も発揮されるpHに調整するとの知見を独自に得ている。
また,特開2013-108818号の公開特許公報(乙56)に
係る発明は,平成23年8月17日に被告社内で行われた特許検討会において検討されたものであり,同検討会の資料(乙72)には,Ca及びMgによりスラッジが発生し得ること,凝集沈殿を行い,Ca及びMgを予め除去することが従来技術であったことが記載されている。したがって,遅くとも平成23年8月17日の時点において,一
定のpH値以上となるとスラッジが発生し得ることを被告は知得していた。
さらに,一定のpH値以上となるとスラッジが発生し得ることは,被告の前身である日立製作所において古くから得ていた知見である。したがって,高性能ALPSの検討過程における原告指摘のpH調
整は,被告独自の知見に基づくものである。
d
以上のとおり,原告が高性能ALPSの検討の過程で使用されたと主張する情報は,いずれも被告が独自に得ていた知見であり,原告から示された情報の使用には該当しない。

被告に多核種除去の知見がないとする原告の主張について
原告は,平成23年当時,被告は多核種除去に関する必要な知見を保有しておらず,他方で,原告がその知見を保有して被告に示していたこと等から,被告の多核種除去に関する知見は全て原告に由来するものであり,被告は高性能ALPSの設計に当たって原告から提供された営業秘密を使用していると主張する。
しかし,被告は,その親会社である日立製作所を含め,放射性核種の
吸着除去に関する知見を有している一方,原告は放射性核種の除去や塩分濃度の高い廃液からの金属イオンの除去についても知見がなかったのであり,原告の主張はそもそも失当である。
なお,
高性能ALPSの最終的な構成における吸着剤の種類,
塔構成,
pH調整値及び調整箇所,流速,交換周期は,いずれも原告情報のもの
とは明らかに異なっている。このように,高性能ALPSの最終的な構成において原告情報が使用されていないのであれば,原告情報はその検討過程においても使用されていないと強く推認される。また,高性能ALPSは,福島第一原発における平成25年9月11日付け公募に係る経済産業省の補助金に係る事業に係るものであることから,平成25年
11月から平成27年3月までの高性能ALPSの検討状況等に係る情報は随時公表されている。これら公表された資料には,各時期における吸着剤の種類や吸着塔配列,pH調整等の内容が記載されているが,その中には,原告情報が使用されていることをうかがわせる記載はない。したがって,被告が高性能ALPSの設計に当たって本件情報を使用し
ていないことは明らかである。
争点

(アバンテック社からの情報の受領についての本件排他的義務条項
違反の有無)について

本件排他的義務条項により禁止される行為の範囲及び被告による本件排他的義務条項違反の有無

(原告の主張)
本件排他的義務条項の対象となる技術
本パートナーシップ契約第2条第2文は,
「本プロジェクトに関し
て,
・・・
(被告は,原告以外の)如何なる第三者からも原告情報に類似
又は相当する製品又は対策を,購入せず,かつ受入れてはならない。」と
定める。そして,本件パートナーシップ契約では,原告情報である「PuroliteCoreTechnology」の定義を,
「イオン交換及び・又は吸着媒
体によって,
(別紙Bで定義される)
列挙された対象放射性物質であって
それぞれ列挙された濃度を有するものを,別紙Dに記載されているテスト方法により,
NDレベルまで除去するもの。としており,

「原告情報」

は,放射能汚染水をNDレベルまでに浄化する技術を意味する。したがって,被告が原告以外の者から,購入又は受入れてはならない「原告情報に類似又は相当する・・・対策」には,NDレベルまでの浄化を目指し得る機能を有する浄化プロセスが含まれる。
本件排他的義務条項で禁止される「受入れ」行為

本件排他的義務を定める本パートナーシップ契約第2条第2文は,本「
対象技術」「購入」purchase)


することだけではなく,受入れ」accept)


ることも禁止している。
「accept」は,(同意して)受入れる」「

,(満足して)受ける」の意味
であり,受動的な受入れ行為である「receive」よりは狭く,受領したも
のを実際に使用する等活用することのみを指す「adopt」は,よりも広い概念である。よって,対象物ないし技術情報を本プロジェクトにおいて利用する目的で受領し,それを検討する等の何らかの積極的又は能動的な行為を行えば,
「受入れ(accept)
」に該当する。
また,
「受入れ(accept)
」は,原告が禁止される行為である「deliver

(適切な受領者へ持参し交付すること)と対になる文言であり,

有償行
為である必要はない。
本件排他的義務条項に違反する被告の行為
a
被告は,平成23年12月10日から同月末頃までにかけて,アバンテック社に対し,多核種除去設備に係る浄化プロセス技術及びそのための吸着媒体等の製品一般に係る技術に関する提案・助言を求め,アバンテック社は,被告に対して提案・助言,情報提供を行った。
b
被告は,平成24年1月3日,アバンテック社から技術連絡書(ECS)を受領した。同ECSには,原告情報の集積であるRINXフローチャートに対する改善提案が記載されており,被告は,同ECSの内容を検討して,同年1月16日頃,吸着塔数を34から24に変更した。

c
被告は,平成24年1月から2月初旬にかけて,pH調整前後のpH値や変化等,詳細を含んだpH調整に関する情報につき,アバンテック社との間でコメントをやり取りした。

d
上記a~cの各行為は,NDレベルまでの浄化を目指し得る機能を有する浄化プロセスの受入れに該当し,本件排他的義務条項に違反する。
なお,本件パートナーシップ契約の対象となる「本プロジェクト」の意義は前記

イにおいて主張したとおりであるが,本プロジェクト」


に平成23年プロジェクトが含まれることには争いがない。したがって,
「本プロジェクト」に関する被告の見解を前提にしたとしても,被告が,平成23年プロジェクトの失注前に,多核種除去に関する技術についてアバンテック社から助言等を受領する行為は,本件排他的義務条項が禁止する「受入れ」に該当し,被告が,原告の同意を得ずに行った場合,本件排他的義務に違反することになる。

(被告の主張)
本件排他的義務条項により禁止される行為について
a
本件排他的義務条項は,被告に対し,原告以外の者からの原告情報に類似又は相当する製品又はソリューションの購入(purchase)又は受領(accept)を禁じている。
一般に独占的購入契約において禁止されるのは取引行為であり,通常は,取引行為さえ禁止すれば,供給側として他社に利益が流れるこ
とを防止することができること,情報提供を受けることにより被告の知識が増えたとしても原告に何らかの損害が生じるものではないこと,範囲を広げすぎると被告が第三者からの情報提供により知見を高めることまで禁止されることとなり不合理であること,
「accept」
について
原告が主張する「積極的・能動的に受領すること」「
,(同意して)受入

れる」という意味に照らしても,取引行為として受入れることを意味すると理解するのが自然であることから,受領(accept)とは有償の取引行為を意味するものと解される。
b
平成23年多核種除去設備における原告の役割は,吸着剤の供給である。原告はこのことを否定するが,原告がイオン交換樹脂のメーカーであること,本件パートナーシップ契約の締結当時,被告は平成23年多核種除去設備において使用する吸着剤の選定に向けて試験を行うこと等を目的として原告と接触していたこと,被告は,原告の供給する吸着剤では性能を充足しない場合に備えて独自に調達した吸着剤
の試験も行っていたこと,原告の吸着剤が性能を達成することができない場合に吸着剤とは別に情報提供のみを受けるとは考えられないこと,原告から当初提示された契約書の案は,イオン交換物質の売買に関する基本契約書案であり,契約書がパートナーシップ契約書になったからといって,被告が原告に対して提供を求める給付の内容が変わ
る理由がないこと等からすれば,原告の役割が吸着剤の供給にあったことは明らかである。
c
原告は,自らの吸着剤を供給し,かつ,その吸着剤の品質について性能保証をすることから,その使用方法及び使用条件等について情報を提供し,
その情報の採用を求め得る立場にあることになる。
原告は,
吸着剤の供給に伴うものとして,吸着剤の使用方法及び使用条件等の
解決策
(solution)
を提供するのであり,
原告の提供する解決策とは,
吸着剤供給に付随して行われる吸着剤の使用方法及び使用条件等の情報提供である。
したがって,原告情報に類似又は相当する解決策とは,吸着剤の供給に伴い,これと一体として行われる吸着剤の使用方法及び使用条件
等の情報提供をいうものであり,吸着剤の供給を伴わない単なる情報提供は,上記解決策に該当しない。
被告による本件排他的義務条項の違反の有無
原告が本件排他的義務条項の違反として主張する行為のうち,特定されている行為は平成23年1月3日に被告がアバンテック社からpH調
整や吸着塔の数に関するECSを受領した行為である。
被告は,アバンテック社から電子メールにより送付されたECSを自動的に受け取ったにすぎず,アバンテック社の行為は,営業活動としての提案や助言の域にとどまるものであり,有償の取引行為でも吸着剤の供給と一体としての情報提供にも該当しない。
したがって,
当該行為は,

本件排他的義務条項の違反には該当しない。
なお,原告は,被告がアバンテック社の提案を採用して吸着塔の数を削減したと主張するが,吸着塔の数が少ない方がよいというのは自明であり,解決策といえるようなものではない。また,被告は,平成23年12月頃から原告の提案に係る吸着塔の数が多すぎるとの懸念を有して
いたのであり,そのような問題意識に基づいて吸着塔を削減しようとしたにすぎず,アバンテック社の提案を採用したものではない。

停止条件の不成就の確定の有無

(被告の主張)
本件パートナーシップ契約には,
「本契約は,HGNEが・・・本プロ
ジェクトを・・・受注することを条件とする。
」という本件停止条件条項
が定められているところ,
「本プロジェクト」
が平成23年プロジェクト
を指すことは前記

イにおいて主張したとおりである。そして,被告が

平成24年2月17日に平成23年プロジェクトを失注したことにより,停止条件の不成就が確定したから,本件パートナーシップ契約は効力を生じない。
原告は,本件排他的義務条項は本件停止条件条項に服さないと主張するが,本件停止条件条項は,何らの限定を付さずに「本契約」を対象として停止条件を定めているのであるから,当然に本件パートナーシップ契約全体について停止条件が付されていると解される。
また,原告は,本件パートナーシップ契約第15条1項には,本件パ
ートナーシップ契約は締結した日をもって効力を生じる旨が規定されていると主張するが,同条項は,両当事者が署名をした場合に停止条件付きで本件パートナーシップ契約が発効する旨を定めたものである。(原告の主張)
本件停止条件条項の「本プロジェクト」が平成23年プロジェクトに
限られないことは前記

イにおいて主張したとおりであるから,被告の

主張は失当である。
本件パートナーシップ契約では,本件停止条件条項を設けられている一方,第15条1項には「本契約は・・・両当事者がこれを締結した日をもって効力を発する」旨の条項が設けられており,両条項は一見すると矛盾する。このような場合には,当事者が達成しようとした経済的・社会的目的に適合するように統一的に契約を解釈すべきであるとの契約解釈の準則に従い,本件パートナーシップ契約のどの条項が本件停止条件条項に服するかを個々の条項の趣旨及び目的に照らして判断する必要がある。
本件排他的義務条項の目的は,原告と被告とが相互排他的独占関係に入ることにより,被告は原告情報を独占し,東京電力等に対してND達成を保証することができ,原告は,多核種除去プロジェクトの受注に向けて被告の日本国内でのブランド力等を独占的に利用することができるという点にある。本件排他的義務条項が浄化プロセスの検討から入札までの段階においても有効でなければ,原告は技術情報を十分に提供す
ることができず,被告においてもND達成を東京電力等に対して保証することができなくなる。他方,被告の日本国内でのブランド力等は,まさに入札及びその前段階において最も意味を有するものであって,これらの段階で独占的に利用することができないとなると,その意義を大幅に失うこととなる。したがって,本件排他的義務条項が本件パートナー
シップ契約締結の日から有効でなければ,本件パートナーシップ契約を締結した当事者双方の目的を達成することができない。
加えて,本件パートナーシップ契約と平成23年プロジェクトの関係は,基本契約と個別契約の関係にあると捉えることができるところ,個別契約の締結が基本契約の停止条件となっているからといって,個別契
約が締結されるまで基本契約の効力が一切生じないということにはならない。
なお,本件パートナーシップ契約の締結の2日後に原告は被告に対して他社製品の無断使用をやめるよう要請を行っているが,被告はこれに対して特に異議を唱えていない。

したがって,本件排他的義務条項は本件停止条件条項には服さず,本件パートナーシップ契約締結の日である平成23年12月10日から効力を生じている。

いて
(原告の主張)

被告によるアバンテック社への情報の開示の有無
被告は,平成23年11月2日,アバンテック社に対し,原告情報を含むフローチャート(以下「11月2日付けフローチャート」という。)
を開示した。
平成23年11月16日,被告は,アバンテック社が送付した11月
2日付けフローチャートに対する意見書に回答し,その中で,前処理及びpH調整に関する情報をアバンテック社に開示した。
被告は,平成23年11月17日に被告とアバンテック社との間で行われた電話会議において,
アバンテック社に対して原告情報を開示した。
被告は,平成23年12月5日及び6日に被告,アバンテック社及び
栗田工業との間で行われた会議において,アバンテック社に対し,同年11月中旬から原告と共同で実施していた実液試験の結果を開示し,RINXについての話合い等を行った。
被告は,平成23年12月9日,アバンテック社に対し,改訂された多核種除去設備に関するフローチャート(以下「12月9日付けフロー
チャート」という。
)を送付した。
被告は,平成23年12月14日頃,原告が福島第一原発の汚染水処理のために特別に開発した吸着剤であるSr4000及びCs4000をアバンテック社に提供し,脱水試験を行わせた。
被告は,平成24年1月3日のアバンテック社からのECSの提供を
受け,同日以降,アバンテック社との間で多核種除去設備技術に関する情報のやり取りを行い,当該やり取りの中で,アバンテック社に対して原告情報を開示した。
被告は,平成24年1月23日,アバンテック社に対し,pH調整前後のpH値やその変化等の詳細を含むpH調整に関する情報を開示した。イ
被告がアバンテック社に開示した情報の原告の営業秘密該当性
11月2日付けフローチャートには,Ca,Mg等の不純物及びSr
の削減のための凝集沈殿処理による前処理のステップが記載されている。被告が平成23年10月14日の時点で東京電力に対して示した多核種除去設備の概念図には,凝集沈殿による前処理のステップが入っていなかったのであり,被告は,同月17日に原告から開示された凝集沈殿に関する情報を反映させて11月2日付けフローチャートを作成している
から,11月2日付けフローチャートに記載されている前処理に係る情報は,原告が被告に開示したものである。
12月9日付けフローチャートには,具体的なプロセスの配列●(省略)●12月9日付けフローチャートに記載されている具体的なプロセスの配列等は,平成23年11月から同年12月までの実液試験の検討
の中で原告が被告に開示した浄化プロセスに関する情報と同一である。したがって,11月2日付けフローチャート及び12月9日付けフローチャートに記載されている各技術情報は,原告情報を利用した解決策の具体的な内容を示したものであり,原告の営業秘密である。


前記

及び

アのとおり,原告の営業秘密である。

被告によるアバンテック社への情報開示についての図利加害目的の有無図利加害目的とは,営業秘密を示した保有者との間で当該営業秘密をみだりに使用したり開示したりしてはならない信義則上の義務が存在する
場合に,当該義務に違反することをいう。換言すれば,当事者間の信頼関係の程度,保有者及び受領者の利益,営業秘密の態様等を勘案して,使用又は開示に信義則上の制限が認められる場合に,故意に当該制限に違反して営業秘密を使用したり開示したりした場合には,図利加害目的があるといえる。
原告情報は人類史上例のない課題への解決策であったこと,原告情報は原告の36年にわたる原子力業界での知見や経験の結晶であり,他からは
入手できないものであったことに加え,原告と被告とは従前は取引関係もなく,第三者への情報開示につき黙示の同意が得られるような信頼関係があったとはいえず,被告が原告の黙示の同意を想定する前提を欠いていることに照らせば,被告は,原告から開示を受けた営業秘密を,いかなる理由であっても第三者に対して無断で開示しない信義則上の義務を負って
いた。
被告は,アバンテック社との間で情報のやり取りを行う一方,原告に対してはアバンテック社とは接触がないかのように装っていたのであり,被告は,原告の承諾なく原告の営業秘密を第三者に開示してはならない義務に違反していることを認識していた。

したがって,被告によるアバンテック社への情報の開示行為には,図利加害目的が認められる。
(被告の主張)

被告によるアバンテック社への原告情報の開示の有無
被告がアバンテック社に対し,①パーマフィックス社を通じて11月2日付けフローチャートを送付したこと,②11月2日付けフローチャートについてのアバンテック社のコメントに対しコメントを送付したこと,
③平成23年11月17日のアバンテック社との電話会議に先立ち,質問事項を送付したこと,④Sr4000及びCs4000を提供した
こと,⑤12月9日付けフローチャートを送付したこと,⑥平成24年1月23日の電子メールでpH調整に関する情報を送付したことは認める。
被告は,平成23年12月5日及び6日の会議の際に,アバンテック社に対して原告の吸着剤による試験結果を開示していない。また,被告が同年11月17日の電話会議においてアバンテック社に対して原告の営業秘密を開示したという主張及び平成24年1月3日以降に被告がア
バンテック社に対して原告の営業秘密を開示したという主張は,問題となる行為を具体的に特定しておらず,失当である。

被告がアバンテック社に開示した情報の原告の営業秘密該当性
上記①について,原告が11月2日付けフローチャートに含まれる原
告の営業秘密として主張するものは,前処理の必要性に関する情報のみであるが,前処理の必要性自体は原告の営業秘密には該当しない。上記②について,被告がアバンテック社に対して送付したコメントに含まれる原告の営業秘密として原告が主張するものは,前処理の必要性及び前処理後にpH値を下げるというものであるところ,前処理の必要
性は原告の営業秘密ではなく,pH調整に関する被告のコメントは,アバンテック社の提案内容を検討する旨を述べるのみであり,同コメントには原告の営業秘密は含まれない。
上記③について,被告がアバンテック社に対して送付した質問事項には,原告の営業秘密は含まれていない。

上記④について,
原告は,
Cs4000及びSr4000については,
その製品仕様が営業秘密であると主張しているところ,被告はアバンテック社に対して製品を交付したのみであり,製品仕様を開示していないから,原告の営業秘密の開示には該当しない。
上記⑤について,被告がアバンテック社に対して送付した12月9日
付けフローチャートは,被告が作成したものであり,かつ,吸着剤の具体的な種類等も明らかでない大雑把な概念図にすぎない。なお,この内容を原告がいつ,いかなる態様で被告に開示したかについての具体的な主張立証もない。
上記⑥について,原告が被告により開示されたと主張するpH調整に関する情報は,原告が営業秘密であると主張する情報のいずれにも該当しない。また,同情報を原告がいつ,いかなる態様で被告に開示したか
についての具体的な主張立証もない。

被告によるアバンテック社への情報開示についての図利加害目的の有無平成23年多核種除去設備においては,吸着剤の供給は原告が行うものの,その他の設備の製造,設置及び保守は被告又はその下請業者が行うこ
ととなっていた。
被告が東京電力に対して行ったプレゼンテーションにおける「RINX全体概要」においても,処理対象水移送設備,前処理設備,多核種除去塔及び付属設備,
放射性廃棄物安定化貯蔵設備,
保管容器
(HIC)
の設計,
製造,設置及び保守は,原告以外の業者が行うこととなっており,元請け
である被告は全体のプロジェクト・マネジメントを行わなければならない立場にあった。平成23年多核種除去設備の検討に際し,設備の設計,製造,設置及び保守を行う業者に対して一定の技術情報を開示する行為は,不正の利益を得る目的又はその保有者に損害を加える目的による開示には該当しないのであり,以下のとおり,原告が特定し,かつ実際になされ
た被告からアバンテック社に対する開示行為は,いずれも平成23年多核種除去設備の開発,設計のために行ったものであって,不正の利益を得る目的で,又はその保有者に損害を加える目的で開示したものではない。被告がアバンテック社に対して11月2日付けフローチャートを送付したのは,平成23年多核種除去設備における保管容器(HIC)及び
脱水装置の検討の依頼を目的とするものであった。なお,同フローチャートについてのアバンテック社からのコメントに対して被告がコメントを送付した行為は,多核種除去設備に関する意見交換を行うものにすぎない。
被告がアバンテック社に対して12月9日付けフローチャートを送付したのは,
平成23年多核種除去設備においてアバンテック社が設計,
製造する保管容器(HIC)の数及び保管するメディア(吸着剤等)の
種類を特定するためである。
被告がSr4000及びCs4000をアバンテック社へ提供したのも,原告製及び他社製の吸着剤につきアバンテック社製の使用済吸着剤保管容器による脱水試験を行い,同社製の容器を平成23年多核種除去設備に利用することができるか否かを確認するためである。

平成24年1月23日に被告がアバンテック社に対して電子メールによりpH調整に関する情報を開示したのは,同社が吸着塔の設計・製造の発注先候補になったことから,その時点における吸着塔の仕様に関し,同時点において採用する可能性の高かったpH調整の内容を伝える必要があったためである。

契約及び本件秘密保持契約の違反の有無)について
(原告の主張)

前記

原告の主張欄ア



の各行為は,本件パートナーシップ契約第

9条第2文の目的外使用禁止義務並びに第16条が引用する別紙Gの第3.
なお,被告は,本件パートナー
シップ契約違反につき,本件停止条件条項における停止条件の不成就の確定を主張するが,前記

前記

原告の主張欄ア

イにおいて主張したとおり,失当である。


の各行為は,本件秘密保持契約の違反に当

たる。
(被告の主張)

本件パートナーシップ契約の違反
第9条第2文の目的外使用禁止義務違反
a
本件パートナーシップ契約第9条第2文の目的外使用禁止義務は,「使用」を禁止するものであり「開示」を禁止するものではない。そして,被告からアバンテック社へのCs4000及びSr4000の
提供(前記
提供(同

原告の主張欄ア

の行為)及びpH調整に関する情報の

の行為)は,いずれも開示行為であり使用行為ではないか

ら,同条に違反しない。
b
本件パートナーシップ契約第9条第2文は,原告情報を専ら本プロジェクト以外の目的で使用することを禁止するものであるところ,前

イにおいて主張したとおり,本プロジェクトとは平成23年多核

種除去設備における汚染水処理をいう。そして,前記

及び

被告の主張欄

で述べたところによれば,上記各開示行為は,いずれも平

成23年多核種除去設備における汚染水処理のために行われたものであるから,目的外使用には該当しない。原告との取引を実現するため
には,吸着塔や使用済吸着剤の保管容器を調達しなければならず,その吸着塔や使用済吸着剤の保管容器が原告の吸着剤に耐え得るものでなければならないのは当然であるから,被告によるアバンテック社への上記各開示行為は,原告との取引のために必須の開示であり,目的外使用には該当しない。

c
被告が平成24年1月3日にアバンテック社からのECSの提供を受け,同日以降,アバンテック社との間で多核種除去設備技術に関する情報のやり取りを行い,当該やり取りの中で,アバンテック社に対して原告情報を開示したという行為
(前記

原告の主張欄ア

に関する原告の主張は,被告の行為が具体的に特定されておらず,失当である。
別紙Gの守秘義務違反
本件パートナーシップ契約の別紙Gはいまだ署名がされていないため,効力を生じる余地がない。原告自身,平成24年2月8日に別紙Gの草案を被告に提示するに当たり,平成23年12月6日時点の草案から内容を修正しているのであり,別紙Gは,平成23年プロジェクトの失注
時までに原告案の内容すら固まっていなかったものであるから,効力が生じていることはあり得ない。
停止条件の不成就の確定
前記

イにおいて主張したとおり,本件パートナーシップ契約は,本

件停止条件条項に定める停止条件の不成就が確定したため,効力を生じ
なかった。したがって,本件パートナーシップ契約違反に関する原告の主張は失当である。

本件守秘義務契約違反
原告は,本件守秘義務契約の当事者ではないため,同契約の違反に関する原告の主張は失当である。

争点

(損害額)について

(原告の主張)

本件パートナーシップ契約違反による原告の損害額
本件排他的義務条項違反による原告の損害額

本件パートナーシップ契約第22条は,損害賠償額の予定として,被告が本件排他的義務条項に違反した場合には,別紙Fに規定する
PuroliteCoreTechnologyの価格のその時点での残額を支払う旨を定めており,別紙Fに規定するPuroliteCoreTechnologyの価格は7億7744万2892米国ドルである。当該金額は本プロジェクトを10年
間運転する場合の対価として合意されている金額であるが,原告の長年にわたる知見やこれに基づいた吸着剤の開発・選定といったノウハウに対する対価である上,実際に放射能汚染水の処理を完了するまでには10年以上を要することからすれば,上記金額は損害賠償額を予定する上での最低限の額であるといえる。したがって,上記金額は合理的なものであり,原告は,被告に対し,本件排他的義務条項違反による債務不履行に基づき,
7億7744万2892米国ドルを請求することができる。

また,本件パートナーシップ契約第22条は,損害額を本件排他的義務違反の日から60日以内に支払うこと,支払に遅延がある場合には,支払期限から支払済みまで本件パートナーシップ契約第7条2項に定める年7分の割合による遅延損害金を支払うことを定めている。被告による本件排他的義務条項違反の行為は,前記

ア原告の主張欄

bのとお

り,遅くとも平成24年1月3日(被告がアバンテック社からECSを受領した日)には発生しているから,原告は被告に対し,同日から起算して60日が経過した日である平成24年3月4日から支払済みまで年7分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる(なお,遅延損害金の起算日を平成25年12月10日とする訴状における主張を
上記のとおり改めるが,請求の趣旨は変更しない。。

本件パートナーシップ契約の他の条項違反による原告の損害額
本件パートナーシップ契約第9条第2文及び第16条が引用する別紙Gの各違反(前記
に照らせば,上記

原告の主張欄ア)による原告の損害額も,その内容
と同額となる。

本件秘密保持契約違反による原告の損害額
前記

原告の主張欄イで主張した本件秘密保持契約違反による原告の

損害額も,その内容に照らせば,上記

と同額となる。

不正競争防止法違反による原告の損害額
主位的主張
被告が高性能ALPSの設計等に当たり不正に使用した原告情報の価値は,原告が福島第一原発における放射能汚染水の浄化作業に関与した場合に必要となる費用と,原告が関与しなかった場合に必要となった費用及び今後必要となる合理的な費用との差額である。具体的には,放射性廃棄物の処理費用に関する費用の差額421億1191万1285円,汚染水や放射性廃棄物の貯蔵等に関する費用の差額376億6959万0328円及び原告が関与した場合には不要であった凍土壁の設置等の費用420億6427万円の合計額である1218億4577万1613円を下らない。また,被告による原告情報の不正使用は,被告が平成25年実証事業の補助事業者に選ばれた日である平成25年12月10
日から行われているから,原告は被告に対し,上記金額に対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。
予備的主張
不正競争防止法5条3項の
「受けるべき利益の額に相当する額」
とは,

営業秘密保有者が不正競争で失った営業秘密の価値をいう。本件パートナーシップ契約は,前記アにおいて主張したとおり,本件排他的義務条項の違反についての賠償額の予定を設けているところ,当該損害賠償予定額は,PuroliteCoreTechnologyの経済的価値そのものである。そして,
原告情報の不正使用又は第三者への不正開示という不正競争により,
PuroliteCoreTechnologyの経済的価値の全部が喪失するから,上記損害賠償予定額が同項に基づく損害額となる。したがって,原告は,被告に対し,不正競争防止法4条及び5条3項に基づき,7億7744万2892米国ドルを請求することができる。
また,
被告による上記不正競争は,
前記

原告の主張欄ア

のとおり,

遅くとも平成23年11月2日(被告がアバンテック社に対して11月2日付けフローチャートを送付した日)には発生しているから,原告は被告に対し,上記金額に対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる(平成27年11月10日付け訴えの変更の申立書においては,不正競争防止法違反に基づく損害についての遅延損害金の起算日を平成25年10月10日としていたが,不正競争防止法5条3項に基づく損害については,遅延損害金の起算日
を上記のとおり改める。ただし,請求の趣旨は変更しない。。

(被告の主張)
いずれも争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点

(平成25年実証事業の受注等についての本件排他的義務条項違反の
有無)について
認定事実
前記前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

被告による福島第一原発における汚染水処理への取組
発電用原子炉施設の製造,販売,保守に関する業務等を行う被告は,平成23年3月末以降,福島第一原発の1~4号機の原子炉建屋等に滞留している高濃度汚染水等の処理について,日立製作所内の日立研究所と共に,放射性物質等を吸着する吸着剤の性能についての試験を実施し
ていた(乙95,140)

東京電力は,高濃度汚染水の処理について,平成23年8月までに,除染装置,
セシウム吸着装置
(KURION)第二セシウム吸着装置

(S
ARRY)
,逆浸透膜(RO)による淡水化装置,蒸発濃縮装置等である
既存設備を設置していたところ,このうち,逆浸透膜(RO)による淡
水化装置は,被告が受注し納入したものであった(前記前提となる事実)

被告は,平成23年5月頃には,福島第一原発の汚染水処理に関し,処理水を海洋放出する計画があることを把握した(乙112)

被告は,平成23年6月3日,東京電力に対し,米国企業であるエナジーソリューションズ社のモバイルラドと呼ばれる装置等を活用した使用済み燃料貯蔵プール水の処理システムの提案をした。同提案では,吸
着剤を用いて使用済み燃料貯蔵プール水から放射性核種を除去するとされていて,被告で試験をして確認したところ,高性能吸着剤が含まれていて十分に放射線レベルの低減が可能であるとされていた。
(乙93)
また,被告は,平成23年6月8日,東京電力に対し,複数のメーカーの吸着剤の性能比較試験の結果を報告した。このときの試験の対象に
は,原告の吸着剤は含まれていなかった。
(乙95)

原告被告の接触と本件秘密保持契約締結までの経緯等
日本原子力学会のデータ収集に協力していた日立製作所は,平成23年5月頃,原子力学会関係者から日本ピュロライトを紹介され,同年6
月22日,原告,日本ピュロライト,日立製作所及び被告による会議が行われた。同会議には原告代表者も出席した。そこでは,福島第一原発に存在する汚染水には①1号機から4号機までの原子炉建屋等から発生する高濃度汚染水,②5号機及び6号機の原子炉建屋等から発生する低濃度汚染水,③湾内の汚染海水,④使用済み燃料貯蔵プールの汚染水が
あり,既存の水処理施設により処理がされていること,日立製作所又は被告は東京電力に対して福島第一原発に設置されている既存の汚染水処理施設の処理能力を上回る処理施設の設置を提案しようとしていること,原告は原告の吸着剤であるCs4000及びCs6000に関する技術情報を日立製作所又は被告に継続して提供すること等が話し合われた。
(甲68の1~2の2,甲88,甲229の1及び2)
被告は,平成23年7月22日,東京電力に対し,滞留水処理設備を提案した。この提案における滞留水処理設備の処理対象水は,既存設備による処理後の濃縮廃液ではなく原汚染水であった。
(乙94)
平成23年9月20日,
被告と日本ピュロライトによる会議が行われ,
同月22日,日本ピュロライトは被告の依頼を受けて原告の吸着剤であるSr4000のサンプルを被告に提供し,また,Sr4000の吸着性能について試験を実施するため,試験の対象とするモデル海水の組成濃度等を被告にメールで照会した。被告は,同月26日,上記照会に対して電子メールで回答した。
(甲69,乙70)
東京電力は,既存設備から発生して保管されている濃縮廃液である本
件処理対象水について,これに含まれる放射性核種を海洋放出可能なレベルまで除去する処理を行う施設である多核種除去設備を設置することとし,平成23年9月22日,被告を含む数社に対し,同設備の発注予定があることを告げて,見積対応する意思の有無を照会した(前記前提
被告は,上記照会に対して見積対応する意思がある旨を回答し,同設備の受注に向け,平成23年11月以降に実際の高濃度汚染水を用いた実液試験を行う計画を立てた(乙140)

平成23年9月当時,本件処理対象水について,上記で東京電力が発注予定であったプロジェクト以外のプロジェクトが想定されていたこと
をうかがわせる事情はない。
なお,平成25年9月,本件処理対象水について多核種除去設備の実証実験である平成25年実証事業の補助事業者の公募がされた(前記前。
この平成25年実証事業の公募は,
平成23年9月
当時に発注予定であったプロジェクトである平成23年プロジェクトに
より設置された既存ALPSにおいて,その稼働後に放射性廃棄物が大量に発生し保管場所を圧迫することになったこと等を踏まえ,より高性能な多核種除去設備の実現を目的として行われたものである。前記前提(
となる事実


,甲13)

日本ピュロライトは,平成23年9月29日,東京電力から被告が10月中に実液試験を実施する予定であること等を聞いた。日本ピュロライトは,同日,被告に対し,原告の吸着剤やキレート樹脂を用いた試験
をしてほしい旨や対象となる具体的な核種を教えてほしい旨を電子メールで申し入れた。
(甲60)
日本ピュロライトと被告は,平成23年10月5日に会議を開いた。被告は,同会議の際に「SR4000吸着試験の結果

福島における汚

染水試験計画」と題する資料(乙91の1及び2)を原告に提示した。
同資料には,同年11月に原告の吸着剤であるSr4000や被告が調達した他社の吸着剤を用いた実液試験を行う計画等が記載されていた。原告と被告は,平成23年10月5日付けで本件秘密保持契約を締結した(前記前提となる事実




被告による試験の実施等
被告は,平成23年3月末から,福島第一原発における汚染水処理のため,
各種吸着剤の性能についてのホット試験を行っていたが
(乙140)

同年10月からは原告の吸着剤を使用したホット試験を行い,同年11月からは実液試験を行った。同年10月からのホット試験及び上記実液試験に関し,日本ピュロライトと被告は電子メール等により情報交換を行った
(前記前提となる事実

ア)


本件パートナーシップ契約締結に関する経緯等
原告と被告は,平成23年11月10日に会議を行った。原告は,同日の会議において,被告に対し,二社間で契約を締結したい旨を申し入
れた(甲207)

日本ピュロライトは,平成23年11月18日,被告に対し,原告代表者作成に係る「イオン交換物質の売買に関する基本契約書」という題名の英文の契約書案を送付し,福島第一原発における汚染水処理に関する契約交渉を開始した(甲32,32の2,乙146の1)

同契約書案では,第1条において,本契約の期間中,契約で定めるプロジェクトに関して,原告が福島第一原子力発電所における汚染水の浄化を行うためのイオン交換樹脂製品を被告に独占的に販売,提供し,被告がこれを原告から独占的に購入することに合意するとされていた。第1条最終文の下に同契約の対象となるプロジェクトに関する定義規定が設けられていて,
「本プロジェクト」について,
「東京電力の福島第一原

子力発電所における放射能汚染水の浄化及びかかる設備の操作にかかるサービス(以下「本件施設」という。
)を東京電力に提供すること」とさ
れていた。同契約書案の第1条では,同契約に関する停止条件として,被告が東京電力から「本プロジェクト」を受注することを条件とする旨が記載されていた。
(甲32,32の2)

被告は,平成23年12月4日,日本ピュロライトに対し,上記契約書案の英文の修正案を送付した(乙11の1及び2,乙140)

同修正案では,
「本プロジェクト」について,
「東京電力の福島第一原
子力発電所(以下「プラント」という。
)のための「多核種吸着システム
用イオン交換物資」の東京電力への供給」と定義された。なお,上記修
正における「多核種吸着システム」は,英文では「Multi-NuclideAbsorptionSystem」と標記されていた(乙11の1及び2)。
原告と被告は,平成23年12月5日に会議を開き,原告代表者を交えて契約交渉を行った。
被告は,平成23年12月6日,原告からの依頼を受け,東京電力が
作成した平成23年プロジェクト仕様書案の改訂第1版を日本ピュロライトに電子メールで送付した。これは,被告が東京電力から後記オの正式な仕様書の提示に先がけて入手していたものであった。
(甲91)
原告代表者は,平成23年12月7日,被告に対し,題名を「福島プロジェクトに関する日立・ピュロライト間パートナーシップ契約書」と改め,内容にも修正を加えた英文の契約書案を送付した。同契約書案では,
「本プロジェクト」について,(別紙Dで定義する)放射性物質によ「
って汚染された水を,NDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」とする旨の修正が行われたが,対応する別紙は添付されていなかった。そして,契約の期間中,原告は被告に対して,福島第一原子力発電所における汚染水の浄化作業に関して,Core


Tech

noroly及びそのサポートサービス」を独占的に供給し,被告は原告からこれを排他的に購入することを合意するとされていた。同契約書案では,第1条に定める停止条件を東京電力若しくは東京電力が設立する特定目的事業体又は日本政府から本プロジェクトを受注することとする旨の修正が加えられていた。また,第3条において,原告は被告に対
して10年分のコアテクノロジーに関する年間運転費用の見積りを固定価格ベースで提示することとされていた。
(甲150の1~3の2)
被告は,平成23年12月9日,日本ピュロライトに対し,上記契約書案に対する修正案を送付した。同修正案では,
「本プロジェクト」につ
いて,(別紙Dで定義される)放射性物質によって汚染された水を,海「

洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」とされていたが,添付されていた別紙Dには「プロジェクト範囲の定義」という標題が記載されているのみであり,内容に関する記載はなかった。
(甲151の1~3の2)
また,同修正案では,
「第3条(諸条件)
」の「3.
」につき,コアテク

ノロジーに関する年間運転費用の見積りを「10年分」から「3年,5年,
7年及び10年分」
とする修正が加えられており,
当該修正に関し,
「TEPCOは現時点において当該システムを10年以上必要とするか否かについて判断することはできません。従い,売り込みの観点から,数通りのパターンを作成する必要があります。とのコメントが付されて」
いた。
(甲151の2及び3の2)
被告は,平成23年12月9日,原告からの依頼を受け,日本ピュロライトに対し,東京電力が作成した平成23年プロジェクト仕様書案の改訂第4版及び同仕様書案の別紙1~5の案を電子メールで送付した。これらも,被告が後記オに先がけて東京電力から入手していたものである。
(甲92)

原告と被告は,平成23年12月9日,原告代表者を交えて契約書の内容についての交渉を行い,その翌日である同月10日,本件パートナーシップ契約を締結した
(前記前提となる事実


甲229の1及び2)


本件パートナーシップ契約では,
「本プロジェクト」は,(別紙Aで定

義される)放射性物質によって汚染された水を,海洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」
とされた
(本件定義条項)また,PuroliteCoreTechnology」。

について,
「イオン交換及び・又は吸着媒体によって,
(別紙Bで定義さ
れる)列挙された対象放射性物質であってそれぞれ列挙された濃度を有するものを,別紙Dに記載されているテスト方法により,NDレベルま
で除去するもの」
とされた。
そして,
第1条において,
本契約の期間中,
本プロジェクトに関して,原告は福島第一原発における,汚染水の浄化作業に関して,被告に対してPuroliteCoreTechnology及びSupportを独占的に提供し,
被告は,
これを排他的に購入することが合意された。
また,本件パートナーシップ契約について,被告又はその継承者若しく
は譲受人が東京電力若しくは東京電力が設立する特定目的事業体又は日本政府から本プロジェクトを受注することを条件とするとされた(第1条最終文。本件停止条件条項)
。第2条において,原告は,被告以外の者
にPuroliteCoreTechnology又はこれに類似若しくは相当する製品又は対策を,販売し,かつ,納入してはならず,被告は,原告以外の如何なる第三者からも上記製品又は対策を,購入したり受け入れたりしてはいけないこと,本プロジェクトの存続期間中において,被告,その関係
会社が原告の明確な書面による同意なく,
いかなる技術もPuroliteCore
Technologyに代わって使用されてはならないとされていた(本件排他的
義務条項)(前記前提

本件パートナーシップ契約では,別紙がAからJまであるとされていて,
本文中にその別紙の標題
(別紙Aは
「本プロジェクトの範囲の定義」


別紙Bは「除去すべき放射能物質のリスト及びPuroliteCoreTechnologyにより検出不能レベルを確認する放射能のリスト」,別紙C
は「流入水の条件」
,別紙Dは「検出不能を確認するテスト方法」
,別紙
Eは「発注書のサンプル」
,別紙Fは「費用計算式」
,別紙Gは「守秘義
務契約」
,別紙Hは「除染すべき汚染水及び汚染物質」など)が掲げられ

ていたが,
別紙自体は,
いずれも付されていなかった。
それらの別紙は,
平成23年プロジェクト仕様書の確定版の内容を確認した後に添付される予定であった。
(前記前提となる事実

イ,甲4の1及び2)


本件パートナーシップ契約の締結に至るまでの交渉過程において,原告が被告に対し,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクト
が,平成23年プロジェクトに限られず,他のプロジェクトも含む旨を明示したことはなかったし,平成23年プロジェクトを失注した場合にその後,別のプロジェクトの受注に向けて原告と被告が共同して行動する旨を明らかにしたこともなかった。

多核種除去設備の仕様書等の内容(甲7)
東京電力は,平成23年12月21日,平成23年多核種除去設備の設置に関する事業である平成23年プロジェクトの発注先を検討するために事前価格調査を行うこととした。その調査要領では,同事業の対象設備は,多核種除去設備,電気・計測関係設備及び試運転調整を含む福島第一原発の多核種除去設備設置一式であり,据付工事完了予定日は平成24年6月29日,予定納期は同年8月31日とされていた。上記調査要領には東京電力作成に係る平成23年12月19日付けの平成23年プロジェクト仕様書が添付されていた。
そこでは,購入を予定する多核種除去設備は,①処理対象水移送設備一式,②処理対象水一時貯蔵設備1基,③多核種除去塔及び付属設備一
式,④放射性廃棄物安定貯蔵化設備一式,⑤多核種除去塔の設置ハウス一式(ただし,ハウスの基礎,堰は除く。)から構成されるものとされていた。
また,平成23年プロジェクト仕様書には,多核種除去設備の機能に関する要求事項として,次のような記載がある。

「a.処理対象水移送設備は,多核種除去設備が処理の対象とする水(以下,処理対象水と言う。)を,b.項に定める処理対象水一時貯蔵槽に連続的に移送する機能を有すること。この場合に於いて,処理対象水は以下の通りとし,間接的な移送(複数の水源をバッファタンク等に受けた後に後段設備へ移送すること)も可とする。

・セシウム吸着設備(KURION)の出口水
・第二セシウム吸着設備(SARRY)の出口水
・塩分除去装置(R.O.膜)の濃縮廃液
・蒸発濃縮装置の濃縮廃液(必要に応じて淡水等による希釈を行
ったのちに処理。希釈淡水を供給する系統は発注者の供給範囲

とする。)
b.(略)
c.多核種除去塔及び付属設備は,下記ア項,イ項を満足する能力を有すること。(略)
ア)処理対象水に含まれる放射性物質のうち,別紙-1に定める
ものについては,ND濃度値(検出限界値)以下となるまで
放射性物質を除去可能な能力を有すること。
イ)別紙-1に定めの無い放射性物質(トリチウムを除く)につ
いては,告示187号(※)に定める核種毎の濃度以下まで
放射性物質を除去可能な能力を有すること。
※実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に基

づく線量限度等を定める告示(平成13年3月21日経済
産業省告示第187号)を指す。
dからj.(略)
k.多核種除去設備の入口条件(処理対象水の水質)は,別途受注者に発注済の多核種除去設備性能評価試験(・・・以下,「事前試験」と言
う。)の結果を元に,今後の水質の変化を可能な範囲で予測した上で適切に設定すること。事前試験の結果に基づく入口条件については,別紙-5を参照すること。この場合に於いて,適切な設定とは,除去対象とする放射性物質の濃度,塩素濃度,不溶解性不純物濃度など,機器の設計に必要な項目を指し,機器の性能・腐食等の劣化・維持管
理等を考慮すること。」
平成23年プロジェクト仕様書では,多核種除去設備の設計上考慮すべき事項として,「設備の運転期間を設備設置後15年とし,これが合理的に達成可能な設計とすること」が求められ,処理容量(通水容量)は,1日当たり500㎥以上とすることなどが求められていた。また,
受注者は,設備に関して上記イのc.ア)及びイ)の性能を保証するものとされ,同ア)の除去性能の評価方法は同仕様書添付の別紙-2に,同イ)の除去性能の評価方法は同仕様書添付の別紙-3に従うものとされていた。
平成23年プロジェクト仕様書の別紙-1は,「多核種除去設備にて除去対象とする放射性物質のうちND濃度値(検出限界値)以下となるまでの放射性物質の除去を要求する核種」と題する書面で,62の放射性物質が挙げられ,それらについて検出限界値以下とあるまでの除去が要求されるとされていた。別紙-2は,「放射性物質の除去性能の評価方法(その1)」と題する書面で,発注者が検出限界値を規定する物質の種類と,種類に応じた除去性能の評価方法等を定めるものであり,核
種ごとに,測定条件等が定められていた。例えば,「α核種」については,測定対象核種として,同別紙における特定の核種について,全αとしてα核種のトータルを測定すること,単離方法として,共沈材(水酸化鉄等)で沈殿させた後,イソプロピルエーテル等にて共沈材の鉄を除去すること,測定装置として,銀活性化硫化亜鉛(ZnS(Ag))シ
ンチレーション検出器を用いることとすること,測定条件として,試料量200ミリリットルに対して3600秒の計測を実施すること,目標検出下限値を1.0E-04〔Bq/cc〕とし,当該目標が達成できない場合には試料量・計測時間を変更することも可能であることなどが定められていた。その他の核種についても,上記と同様,測定核種,単
離方法,測定装置,測定条件が具体的かつ詳細に定められるなどしており,
また,
特定の核種については,
受注者が発注者に試験水
(処理済水)
を提示して発注者で測定を実施することが規定されていた。
別紙-5は,
「事前試験の結果に基づく処理対象水の性状について」とする書面で,除去対象とする放射性物質ごとの放射能濃度や塩素イオン濃度,ナトリ
ウムイオンの濃度などについて処理対象水のRO膜入口水とRO膜濃縮廃液のそれぞれについて,事前試験の結果に基づいて記載したものである。

被告による見積書等の提出
被告は,平成24年1月31日頃,東京電力に対して平成23年多核種除去設備の見積書等を提出した(前記前提となる事実


)。

原告及び被告による東京電力に対するプレゼンテーション
被告及び原告は,平成24年2月3日に東京電力に対してプレゼンテーションを行い,多核種除去設備であるRINXを提案した(前記前提
被告によるプレゼンテーションは,
「RINX
GT(GlobalTeam)

による多核種除去設備のご提案」と題するものであり,そこでは,RINXの具体的な構成,特徴,これまでの実液試験の結果などが説明された。その際の資料には,全体プロジェクトマネジメント及び据付は被告が担当し,前処理設備は栗田工業,パーマフィックス社及びアバンテック社が担当し,多核種除去塔及び付属設備はパーマフィックス社及びア
バンテック社が担当し,吸着剤は原告が提供し,放射性廃棄物安定化貯蔵設備及び保管容器はパーマフィックス社及びアバンテック社が担当する旨の記載があった。また,竣工後の長期間にわたる運転における処理対象廃液の条件変化に対しても,安定的な性能の維持に全力を尽くし,今後長期運転契約を別途提案するなどの記載もあった。
(甲8の1)
原告によるプレゼンテーションは,
「ピュロライト・コア・テクノロジ

ー」と題するものであり,その際の資料には,次のような趣旨の記載があった(甲8の2)

a
様々な入口水質の変化に対して,フレキシビリティとスピードをもって,NDを保証する吸着剤の最適化及び新規吸着剤を提供できるの
は,ピュロライト社だけである。
b
ピュロライト社の「コア・テクノロジー」は,10年以上の長期に対して,予め固定的価格を設定可能である。ピュロライト社は単なる吸着剤供給メーカーではなく,現地での技術サービスを含め,トータルソリューションを提供する。
c
凝集沈殿硬度除去は最初の2年間使用する予定であり,吸着性能の向上と低コスト化を実現する。


本件パートナーシップ契約の別紙の草案の提示
日本ピュロライトは,平成24年2月8日,被告に対し,本件パートナーシップ契約の別紙A,B,C,D,F,G及びHの草案をメールで送付し,また,別紙のドラフトを添付したので,発注書のサンプルであ
る別紙Eなどを除いた合意した別紙について署名したいとのメールを送付した。
(甲10の1及び2,乙1)

日本ピュロライトが被告に送付した上記各別紙の草案の概要は,次のア~キのとおりである(甲11の1の1~7の2)

a
別紙Aは「本プロジェクトの範囲の定義」であり,その内容は次のとおりである。
「福島第一原子力発電所に所在する放射性物質で汚染された水を検出限界以下レベルまで浄化処理すること。対象となる汚染水は,SARRY/Kurionからの出口水及び/又はRO濃縮汚染水及び/又は蒸発器からの濃縮水とする。かかる汚染水はPuroliteCore
Technologyによる処理及び下記に定めたとおりの性質とするための必要な前処理及び後段処理により処理される。後段処理には,吸着剤塔やそのほかの技術を含まない。
汚染水が下記に定めたとおりの性質となるように,
凝集沈殿処理,
ろ過及び活性炭を用いた方法による前処理を行う。
パラメーター

RINXへの流入水の要件

ストロンチウム

<1ppm

全硬度

<25ppmasCaCO3

ニッケル,鉄,マンガン,クロムの合計値<1ppm
油脂

<0.1ppm

全有機炭素

<1ppm

懸濁物質

<0.1ppm

全酸化性物質

<0.1ppm


b
別紙Bは「CoreTechnologyを用いて除去作業及び検出不能レベルに達したか否かの判断を行うべき放射性核種の一覧表」である。その内容は,平成23年プロジェクト仕様書の別紙-1の内容と同じであ
り,
別紙B中には,
「2011年12月22日付けの東京電力の入札依
頼書に記載されたものと同じ内容」との記載がある。なお,上記「入札依頼書」が平成23年プロジェクト仕様書を指すことについては,当事者間に争いがない(以下のd及びgにおいて同じ。。

c
別紙Cは平成23年プロジェクト仕様書の別紙-5を複写したものであり,各項目等につき英訳を付したものである。

d
別紙Dは「検出不能レベルに達しているか否かを判断するための試験の方法」である。その内容は,基本的に平成23年プロジェクト仕様書の別紙-2に記載された試験方法と同様であり,別紙D中には,「2011年12月22日付けの東京電力の入札依頼書別紙2に記載
された試験方法と基本的に同じ。
」との記載がある。
e
別紙Fは「福島第一原子力発電所においてピュロライトのCoreTechnologyを利用して実施する放射性核種に係る処理作業について」と題する書面であり,原告の吸着剤を利用した汚染水処理に要する費
用等に関するものである。別紙Fは,平成23年プロジェクト仕様書に基づいて汚染水の処理量を設定し,また,
「東京電力の見積依頼書」
に基づく数値が記載されていた。この東京電力の見積依頼書とは,平成23年12月21日付けの事前価格調査文書であり,平成23年プロジェクト仕様書を添付したものを指すと認められる。
f
別紙Gは秘密保持契約である。

g
別紙Hは「処理の対象となる汚染水及び汚染物質」であり,別紙B及び平成23年プロジェクト仕様書の別紙-1と同じ内容のものである。別紙H中には,
「2011年12月22日付けの東京電力の入
札依頼書に記載されたものと同じ内容」との記載がある。


東芝による平成23年プロジェクトの受注と被告の失注
平成24年2月17日,東芝が平成23年プロジェクトを受注し,東芝は平成25年2月までに福島第一原発に既存ALPSを設置した。原告は,平成23年プロジェクトを失注した。
(前記前提となる事実




平成23年プロジェクト失注後の原告及び被告の対応
日本ピュロライトは,平成24年2月18日,被告に対し,
「このまま
では腹の虫が治まらず,また今回結果を受けて弊社サイドで反省すべき点が多々あり,次の機会には何としてでも東芝をやっつけたいと考えておりますので,
その際は再度ご指導いただければと存じます。と記載し

た電子メールを送信した。
(乙138)

原告代表者は,平成24年3月7日,被告に対し,
「私は,東京電力の
出した判断に関して懸念があるとの問題提起をしようとしてきました。私は,貴殿らが様々な機関から万が一連絡を受けた場合に驚くことがないように,貴殿に対して,こうした状況を説明しておくべきと考えた次第です。
・・・ピュロライトは必要に応じて本プロジェクトに関してプロ

フェッショナルとしてすぐにでも真剣な支援する準備はいつでもできています。貴殿らが本プロジェクトを最終的に受注するために貴殿らの働きかけがうまくいくことを祈っています。そして,貴殿らが何らかの行動をされる場合には我々にも知らせていただきますようお願いします。」
と記載した電子メールを送信した(甲33の1及び2)

日本ピュロライトは,平成24年3月17日,本件パートナーシップ契約の証人であった丸紅に対し,原告代表者は,東京電力の関係者及び被告の関係者も東京電力の決定方針及び東芝への見込みがおかしいのではないかと考えており,原告代表者が再度行動してサポートすべきではないか等と考えている様子が見えること等を記載した電子メールを送信した(乙12)


被告は,平成24年3月27日頃,日本ピュロライトから,原告がアメリカで取材を受ける際に被告の社名を出してよいか等につき電子メールで照会を受け,社名を出すことには合意できない,東京電力の今後の動向を注視しつつ次の商機を待つのが最善策であると考えるなどと回答した(甲71,71の2)


日本ピュロライトは,平成24年3月28日,被告に対し,アメリカのエナジーソリューションズ社から吸着剤の供給要請があり,原告代表者がこれを断ったこと,原告代表者の指示に基づき,当該情報がエナジーソリューションズ社の悪質な隠蔽工作を示すものである場合の注意喚起のため,当該情報を原子力保安院及び議員秘書に報告したことを電子
メールで連絡した(甲71)

被告は,平成24年5月11日,日本ピュロライトに対し,平成23年プロジェクトのための試験で使用したカラムが相当数残っているため,送付場所を連絡してほしい旨の電子メールを送信した。日本ピュロライトは,同日,被告に対し,
「プロジェクトでは大変お世話になりました。

未使用カラムですが,下記弊社京都ラボ宛に送付いただけると幸甚に存じます。
」として,その所在地を記載した電子メールを返信した。
(乙1
3)
平成23年プロジェクトの失注後に,原告と被告が福島第一原発における汚染水処理の状況につき打合せを行ったのは,平成24年6月22日頃及び平成25年2月13日頃の2回であった。平成24年6月には汚染水処理の最新状況の情報交換などが2時間ほどされた。平成25年2月には,
福島第一原発の状況などについての簡単な説明がされた。
(甲
35)
被告に対し,平成24年2月8日,日本ピュロライトから本件パートナーシップ契約の別紙の草案が送付されていたところ
(前記ク)東芝が


平成23年プロジェクトを受注した同月17日までには,本件パートナーシップの別紙は署名等されず,その後も,その署名等がされなかったほか,原告被告間において,それら別紙の取扱いが協議されたことを認めるに足りる証拠もない。
経済産業省は,平成25年10月,平成25年実証事業について,東
京電力,東芝及び被告を補助事業者に決定し,被告は,その後,平成25年実証事業に取り組み,
高性能ALPSの実機を設置するなどした
(前
記前提となる事実

ウ及びエ)


原告訴訟代理人弁護士は,平成26年6月20日頃,被告に対し,本件パートナーシップ契約に関して協議を依頼する旨の書面(甲20)を送付した。
争点

ア(本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトについて
の合意の成否)について
本件パートナーシップ契約書の冒頭部分には,
「本プロジェクト」を「
(別
紙Aで定義される)放射性物質によって汚染された水を,海洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」とする本件定義条項が設けられており,同条項は,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトを定めたものといえる。そして,本件定義条項は別紙Aの記載を引用するものであるところ,原告及び被告が署名をした本件パートナーシップ契約書には別紙Aを含む各別紙が添付されておらず,その後も原告及び被告はこれらの別紙には署名をしなかった(前。
この点に関し,原告は,本件パートナーシップ契約書に別紙Aが添付されなかったのは,最終的に平成23年プロジェクト仕様書の内容が確定した後に添付することが予定されていたためであり,別紙Aを含め,各別紙の内容をどのようなものにするかということ自体については合意が成立していたか
ら,本件パートナーシップ契約締結時にその対象となるプロジェクトの内容についても合意が成立したと主張するのに対し,被告は,別紙Aについて署名がない以上は,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトの範囲については合意が成立していないと主張する。
そこで検討するに,本件パートナーシップ契約締結時において,原告及び
被告は,いずれも平成23年プロジェクト仕様書の確定版の内容を確認した後に,本件パートナーシップ契約書に別紙Aを含めた各別紙を添付する予定エ

。実際に,原告が平成24年2月頃に被告に対して送

付した別紙Aの草案は,
「本プロジェクト」
において処理の対象とする汚染水
を平成23年プロジェクト仕様書で定められた処理対象水としており,同仕様書の内容を前提とするものとなっていた。また,本件パートナーシップ契約は原告と被告との間の独占的関係等を定めるものであり,独占的関係が適用されるプロジェクトの範囲が不明確なまま契約を締結するとは考え難い。これらの事情に照らせば,本件パートナーシップ契約締結時点では,平成23年プロジェクト仕様書が確定しておらず別紙Aの具体的な記載内容を定め
ることはできなかったために別紙Aを含めた別紙が添付されなかったものの,少なくとも,原告及び被告の間では,別紙Aに記載されることとなる事項,すなわち,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトの範囲については合意が成立していたと認めるのが相当である。
被告の主張は,上記に照らし,採用することができない。
争点
イ(本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトの範囲)
について

原告は,本件パートナーシップ契約の対象として合意されたプロジェクトは,
「セシウム処理装置からの出口水及び/又は逆浸透膜装置(RO)及び/又は蒸発器からの濃縮水及び/又は出口水を対象とし,この対象汚染水における多核種を検出不能レベルまで浄化する。という目的を達成する」

ための発注を全て含むものであり,平成23年プロジェクトに限られないと主張する。
本件定義条項は,
「本プロジェクト」を「
(別紙Aで定義される)放射
性物質によって汚染された水を,海洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を処理すること及びそのサポートサービス」と
定義しているところ,原告が平成24年2月頃に被告に送付した別紙Aの草案は,本プロジェクトの範囲を「福島第一原子力発電所に所在する放射性物質で汚染された水を検出限界値以下レベルまで浄化処理すること」とし,処理の対象となる汚染水を「SARRY/Kurionからの出口水及び/又はRO濃縮汚染水及び/又は蒸発器からの濃縮水とす
上記処理の対象となる汚染水は,平成23年プロジェクト仕様書において平成23年多核種除去設備による処理の対象とされた汚染水と同じの「a.)
」。
原告が作成した別紙B,C,D及びHの草案は,平成23年プロジェクト仕様書に添付された別紙と基本的に同じ内容のものであり,そこでは,平成23年プロジェクトにおける詳細で具体的な諸条件をそのまま~d及びg)別紙Fの草案も,

平成23年プロジェクト仕様書に
基づいて汚染水の処理量を設定しており,また,平成23年プロジェクト仕様書を添付した平成23年12月21日付けの事前価格調査文書に基づく数値が記載されていて
(同e)平成23年プロジェクトを前提と

したものであった。
本件パートナーシップ契約締結当時,本件処理対象水(SARRY/Kurionからの出口水,RO濃縮汚染水,蒸発器からの濃縮水)からの多核種除去のためのプロジェクトとして,平成23年プロジェクト
以外のプロジェクトが具体的に想定されていたことをうかがわせる事情はない(前記





原告と被告は,東京電力が平成23年プロジェクトという具体的なプロジェクトを発注することが判明していた平成23年11月以降,本件パートナーシップ契約の締結に向けた交渉を開始し,その締結に至った(前記


,エ)
。また,本件パートナーシップ契約の交渉過程におい

て,原告が被告に対し,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトが平成23年プロジェクトに限られず,他のプロジェクトも含む旨を明示したことはなかった(前記





平成23年プロジェクトは,多核種除去設備の設置に関するものであり,平成23年プロジェクト仕様書では,着工予定日は平成24年2月13日,据付工事完了予定日は同年6月29日,竣工日は同年8月31日とされていて
(甲7)比較的短期にプロジェクトが終了するとされて

いた。
しかし,多核種除去設備は,設置後の運転及び維持管理が当然に予定
されているものであり,平成23年プロジェクト仕様書においても,多核種除去設備の設計上考慮すべき事項として,設備の運転期間を設備設「
置後15年とし,これが合理的に達成可能な設計とすること」と記載さ
「受注者は,システムに含まれる各機器に必要なメンテナンス内容や周期,消耗品・交換部品リスト,納期等を含めたメンテナンスマニュアルを作成し,
発注者へ提示すること。,

「提示されたメンテナンスマニュア
ルに従い,受注者は納入した機器(設備)のメンテナンスを実施すること。受注者のメンテナンス期間については,原則として機器(設備)竣工後2年間とし,それ以降の維持管理方針については,別途協議し決定する。この場合に於いて,メンテナンスの実施に関する契約は別途締結
するものとし,発注者が別途維持管理方法・維持管理実施者等を指定した場合については,この限りではない。
」と記載されており(甲7)
,平
成23年プロジェクトにおいては,受注者は少なくとも設備の設置後2年間は維持管理に従事するものとされ,その後も,東京電力が異なる業者等を指定しない限り,別途の契約は要するものの,受注者が維持管理
を行うことが予定されていたと認められる。
また,被告は,平成24年2月8日に平成23年プロジェクトの受注に向けて行ったプレゼンテーションにおいて,RINXの長期運転契約去設備の設置作業だけでなく,その後
の設備の運転及び維持管理にも携わる意向を明らかにしていた。
原告も,

同日に行ったプレゼンテーションにおいて,平成23年プロジェクトに関し,10年以上の長期に対して予め固定的価格を設定可能である旨を
前提とした説明を行った。
これらに照らせば,原告及び被告は,平成23年プロジェクトを受注した場合には,多核種除去設備の設置のみではなく,同設備の運転及び維持管理を長期にわたり共同して行う意思を有していたといえる。他方,
本件パートナーシップ契約において,平成23年プロジェクトとは異なるプロジェクトへの関与が想定されていたことをうかがわせる記載はない。
以上によれば,本件パートナーシップ契約締結当時,本件処理水に関する多核種除去のためのプロジェクトとして具体的に想定されていたものは平成23年プロジェクトのみであったところ,
原告と被告の間では,
平成23年プロジェクトの受注を想定して本件パートナーシップ契約締結に向けての交渉等がされていたといえ,その交渉過程において,原告が被告に対し,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトが
平成23年プロジェクトに限られず,他のプロジェクトも含む旨を明示したことはなかった。そして,本件パートナーシップ契約は,原告が送付した別紙の草案の内容等に照らしても,個別のプロジェクトである平成23年プロジェクトにおける詳細で具体的な諸条件を,その契約の内容とすることを前提として締結されたものである。

以上の事実関係に照らせば,本件パートナーシップ契約は,平成23年プロジェクトに関して締結されたものと認めるのが相当である。そして,平成23年多核種除去設備は,その後長期間の運転を予定したものであり,原告及び被告も,平成23年多核種除去設備の運転及び維持管理,すなわち,同設備による汚染水処理を長期にわたり共同して行うこ
とを予定していたと認められることに鑑みれば,原告及び被告は,平成23年プロジェクトとその後の同設備の運転及び維持管理を一体のプロジェクトと考えていたものと認められる。そうすると,本件定義条項に記載されている(別紙Aで定義される)

放射性物質によって汚染された
水を,海洋への放出システムのために適用されるNDレベルまで汚染を
処理すること及びそのサポートサービス」及び別紙Aに記載されている「福島第一原子力発電所に所在する放射性物質で汚染された水を検出限界値以下レベルまで浄化処理すること」とは,平成23年多核種除去設備による汚染水処理を指し,具体的には,平成23年プロジェクトを受注した場合における多核種除去設備の設置及び同設備の設置に伴い従事することが想定される同設備の運転及び維持管理を意味するものと解するのが相当である。


原告は,平成23年プロジェクトが短期のものである一方,本件パートナーシップ契約の契約期間は長期を想定していることからすれば,本件パートナーシップ契約の対象は平成23年プロジェクトに限られないと主張する。

しかし,上記

のとおり,平成23年多核種除去設備は設置後長期

の運転を予定しているものであり,原告及び被告が同設備の運転及び維持管理を長期にわたり共同して行う意向を有していたことに照らせば,本件パートナーシップ契約が長期契約を予定していることは,平成23年プロジェクト自体が短期のものであることと矛盾するものではない。原告は,
「本プロジェクト」
という文言が本件停止条件条項でも使用さ
れていることを挙げ,本件停止条件条項において,平成23年12月7日の原告による修正により,停止条件のうち「本プロジェクト」の発注主体が東京電力から「東京電力,東京電力が設立する特定目的事業体又は日本政府」に変更されたところ(前記



,平成23年プロジェク

トの発注までの短期間に発注主体が東京電力以外となることは考え難いから,
「本プロジェクト」
を平成23年プロジェクトに限定する意図があ
れば,上記修正は不要であったはずであると主張する。
しかし,
原告が上記修正案を被告に提示するに当たり,
上記修正は
「本
プロジェクト」を平成23年プロジェクトに限定しない趣旨である旨を
説明した事実はうかがわれない。そして,福島第一原発の事故処理が国家的課題であり,東京電力の国有化等も議論されていたという当時の状況(顕著な事実)に照らせば,平成23年プロジェクトの正式な発注の際には事業の発注主体が変更される可能性も皆無ではなかったというべきであり,上記発注主体の範囲の変更がされたことは,本件パートナーシップ契約の対象が平成23年プロジェクトであることと矛盾するとまではいえない。また,原告及び被告が平成23年プロジェクトとその後の同設備の運転及び維持管理を一体のプロジェクトと考えていたと認められること,前記ア

のとおり,原告及び被告は平成23年多核種除去

設備の設置後,共同して同設備による汚染水処理に従事する意向を有していて,平成23年多核種除去設備の維持管理については別途契約も想定され,当時の状況に照らして当該別途契約の時点で発注主体が東京電力から変更される可能性も考えられることに照らせば,発注主体の範囲の変更は,本件パートナーシップ契約の対象が平成23年プロジェクトであることを前提として上記別途契約の時点で発注主体が変更される場合に備えることができるものともいえ,同前提と整合しないものとはい
えない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
原告は,本件パートナーシップ契約第3条3項及び第15条1項は本件パートナーシップ契約が長期のものであることを前提としているから,これらの規定との整合性を考慮すれば,本件パートナーシップ契約の対
象となるプロジェクトは平成23年プロジェクトに限られないと主張するが,前記

で説示したところに照らし,採用することができない。

原告は,本件パートナーシップ契約の交渉過程に照らせば,本件パートナーシップ契約の対象が平成23年プロジェクトに限られないことは明らかであると主張する。そして,原告は,本件パートナーシップ契約の交渉過程において,被告は,契約書案に平成23年プロジェクト仕様書を添付したり,
「本プロジェクト」
が特定のプロジェクトを指すことを
明示したりしていないため,
「本プロジェクト」
の範囲を特定のプロジェ
クトに限定する意図を有していなかったと主張する。
しかし,本件パートナーシップ契約に関する交渉は,東京電力が平成23年プロジェクトという具体的なプロジェクトを発注する予定であることが判明した後に開始されたものであること
(前記ア

)本件パート


ナーシップ契約に関する交渉が行われていた当時,本件処理対象水からの多核種除去に関して具体化していたプロジェクトは平成23年プロジェクトのみであること(前記


)に照らせば,原告及び被告は,平

成23年プロジェクトを念頭において契約交渉に臨んでおり,契約書に仕様書等を添付するまでもなく,本件パートナーシップ契約の対象となるプロジェクトは平成23年プロジェクトであることを当然の前提としていたものと認められる。
なお,原告は,原告代表者は平成23年プロジェクト仕様書の詳細を知らずに「本プロジェクト」という契約文言を検討しているから,具体
的発注内容を念頭に置いていなかったことは明らかであると主張する。しかし,前記のとおり,本件パートナーシップ契約に関する交渉は,東京電力が平成23年プロジェクトという具体的なプロジェクトを発注する予定であることが明らかとなった後に開始されたものであり,その経緯からすれば,平成23年プロジェクト仕様書の詳細を把握していた
か否かにかかわらず,原告代表者も平成23年プロジェクトを念頭に置いて契約交渉に臨んでいたものといえる。また,原告において,本件パートナーシップ契約の締結までの間に,当該契約が平成23年プロジェクト以外のプロジェクトも対象とすることを明示したことや,仮に平成23年プロジェクトを失注した場合には,後継プロジェクトについても
被告と共同して受注を目指す旨を明らかにしたことがないことは,前記エ
のとおりである。
以上によれば,本件パートナーシップ契約が平成23年プロジェクト以外のプロジェクトを対象とする旨の原告の主張は,採用することができない。
原告は,本件パートナーシップ契約に添付する予定であった各別紙の内容は,本件処理対象水からの多核種除去を目的とするプロジェクト一般に共通するものであり,
「本プロジェクト」
の対象を平成23年プロジ
ェクトに限定する趣旨及び内容のものではないと主張する。
原告作成に係る別紙Aの草案は本プロジェクトの処理対象水を平成23年プロジェクトにおける処理対象水とする旨を定めているものの(前
記ア

)平成23年プロジェクト仕様書そのものを引用するものではな


い。しかし,別紙B~Dの草案は,詳細で具体的な平成23年プロジェクト仕様書の別紙と基本的に同じ内容のものであること,別紙Fは原告の吸着剤を利用した汚染水処理に要する費用に関するものであり,平成23年プロジェクト仕様書を引用して汚染水の処理量を設定していることは,前記ア

のとおりである。そして,本件パートナーシップ契約の

交渉時点においては,仮に,将来,対象を同じ汚染水とする後継のプロジェクトが行われることになるとしても,その後継のプロジェクトにおける除去対象核種,流入水質,NDの測定方法及び汚染水の処理量等の具体的な詳細な諸条件が平成23年プロジェクトのものと同じになるとは限らない。そうすると,本件パートナーシップ契約の対象に後継のプロジェクトを広く含む趣旨であれば,上記諸条件は各個別の発注の内容に従うとするのが通常であるといえる。
それにもかかわらず,
「2011
年12月22日付けの東京電力の入札依頼書に記載されたものと同じ内容」などとして(前記


b,d及びg)
,あえて平成23年プロジェ

クト仕様書を引用していることは,本プロジェクトの対象が平成23年プロジェクトに限られることを前提としていたことを優にうかがわせるものである。
原告は,後継のプロジェクトにおいてこれらの条件に変更が生じる可能性があることを踏まえ,条件の変更に関する条項を加えたとも主張する。この点,本件パートナーシップ契約第1条第2段落では,流入水質が変化した場合に関する条項が設けられていることが認められるが(甲4の1及び2)平成23年多核種除去設備が長期の運転を予定している,
ものであることからすれば,原告が指摘する条件の変更に係る条項は,平成23年多核種除去設備の運転期間において諸条件に変更が生じた場合に備えるためのものであるとみることができる。

したがって,原告の主張は採用することができない。
原告は,本件処理対象水からの多核種除去に要求される技術要件を満たす吸着剤を提供することができるのは原告のみであること,平成23年プロジェクトの後も他の発注が想定されていたこと等からすれば,本件パートナーシップ契約の対象を平成23年プロジェクトに限らないと
するのが当事者の合理的意思に合致すると主張する。
しかし,前記のとおり,平成23年プロジェクトのほかに具体的なプロジェクトが想定されていたとは認められないから,原告の主張は前提を欠く。
原告は,平成23年プロジェクト失注後に,①被告が原告に対し,再
発注があるとの見通しを原告に伝えたこと,②被告は,原告が他社からの吸着剤供給依頼を断った旨を報告したにもかかわらず,本件パートナーシップ契約は効力を生じていない旨を原告に伝えなかったこと等に照らせば,被告は平成23年プロジェクト失注後も本件パートナーシップ契約が有効であるとの認識を有していたと主張する。

しかし,再発注の見通しがある旨を伝えることは,当該再発注に係るプロジェクトが本件パートナーシップ契約の対象となるか否かとは関係しない。また,前記コ

によれば,日本ピュロライトは,被告に対し,

平成23年プロジェクト失注後に原告代表者がエナジーソリューションズ社からの吸着剤供給依頼を断った旨を報告したことが認められるが,日本ピュロライトの報告内容は,原告代表者がエナジーソリューションズ社の対応に問題があるとの認識を抱いていることを報告する趣旨のものであり,本件パートナーシップ契約が有効であるとの前提に基づいて吸着剤供給依頼を断った旨を述べたものとはいえない。このような状況からすれば,日本ピュロライトからの上記報告に対し,被告が本件パートナーシップ契約は効力を生じていない旨を原告に伝えなかったとして
も,このことが,被告が平成23年プロジェクト失注後も本件パートナーシップ契約が有効であるとの認識を抱いていたことを裏付けるものではない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
なお,平成23年プロジェクト失注後の当事者の言動について更に検
討するに,平成24年3月7日に原告代表者が被告に送信した電子メール及び同月17日に日本ピュロライトが丸紅に送信した電子メール(前記コ
及び

)によれば,原告代表者は,被告が平成23年プロジェ

クトを失注した後も被告を支援する意思を有していたことが認められる。しかし,上記各電子メールの内容に照らせば,上記支援とは,東京電力の決定を覆して被告が平成23年プロジェクトを受注することを目的とするものであると認められるから,上記各電子メールは,原告が平成23年プロジェクトの失注後も本件パートナーシップ契約が有効であるとの認識を抱いていたことをうかがわせるものではない。
かえって,平成23年プロジェクト失注後に本件パートナーシップ契
約の各別紙についての交渉が行われていないこと(原告は,各別紙はすでに合意済みであるため署名を急ぐ必要がなかったと主張するが,当該原告の主張を前提としても,平成24年2月の段階では各別紙につき被告に署名を求めていたにもかかわらず,平成23年プロジェクトの失注後には一度も署名を求めていない。,平成24年5月11日に,被告と)
日本ピュロライトの間で,平成23年プロジェクトに関する試験のために準備した未使用カラムの返還についてのやり取りがされていること
(前記


)平成23年プロジェクト失注後に原告と被告が打合せを


行ったのは2回のみであること(同

)に照らせば,原告及び被告は,

平成23年プロジェクト失注後は本件パートナーシップ契約の効力が生じていないことを前提とした行動をとっていたものといえる。

以上によれば,
本件パートナーシップ契約の本件定義条項において,
「本
プロジェクト」とは,平成23年プロジェクトに係る多核種除去設備の設置及び同設備による汚染水処理のプロジェクトをいうものである。そうすると,平成25年実証事業は本件パートナーシップ契約の「本プロジェクト」に含まれない。したがって,被告が平成25年実証事業の高
性能ALPSを受注し,同設備の設計等を行ったことが本件パートナーシップ契約の排他的義務条項に違反する旨の原告の主張は理由がない。また,本件停止条件条項の「本プロジェクト」も平成23年プロジェクトをいうと解され,本件パートナーシップ契約は,本件停止条件条項により,平成23年プロジェクトを被告が受注することを条件とするものであ
った。平成23年プロジェクトについて,被告が失注し,これを受注しなかったのであるから,上記停止条件は成就しておらず,本件パートナーシップ契約の効力は発生していない(この点については,後記3において改めて説示する。。

したがって,本件パートナーシップ契約の効力が発生したことを前提と
して,被告が高性能ALPSを受注し,同設備の設計等を行ったことが本件パートナーシップ契約に定める本件排他的義務条項の違反であるとする原告の主張は,この点からも,理由がない。
2
争点

の設計等についての不正競争防止法2条

1項7号の不正競争の成否)について
認定事実
前記前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め
られる。

平成23年プロジェクトに関与するまでの福島第一原発における汚染水処理に対する被告の取組
被告は,平成23年3月末以降,様々な吸着剤メーカーの吸着剤につ
いて除去性能試験を実施していた(乙95,140)

被告は,平成23年8月までに,東京電力から既存設備のうちの逆浸透膜(RO)による淡水化装置を受注し,福島第一原発に設置納入した(前記前提となる事実




被告は,平成23年6月3日,米国企業であるエナジーソリューションズ社と提携して,東京電力に対し,モバイルラドと呼ばれる装置をコンテナ内に設置するなどする技術を活用した汚染水の放射能除去のためのシステムを提案した(乙93)

同提案では,吸着剤を用いて使用済み燃料貯蔵プール水から放射性核種を除去することとされていて,コロイド除去用吸着剤→Cs及びSr
除去用吸着剤→Te(テルル)及びSb(アンチモン)除去用吸着剤→TRU(超ウラン元素)
,Eu(ユウロピウム)及びRu(ルテニウム)
除去用吸着剤→I(ヨウ素)除去用吸着剤という吸着塔配列が提案されていた(乙93)

被告は,平成23年6月8日,東京電力に対し,各社の吸着剤の性能
比較試験の結果を報告した。なお,このときの報告の対象には,原告の吸着剤は含まれていなかった。
(乙95)
原告,日本ピュロライト,日立製作所及び被告は,平成23年6月22日に会議を開き,その後,同年9月,日本ピュロライトは,原告の吸着剤であるSr4000が被告に届くよう手配した。甲68の1~2の(
2,甲88,乙70)

被告は,平成23年7月22日,東京電力に対し,滞留水処理設備に
ついての提案をした。
同日の提案に係る滞留水処理設備の処理対象水は,
既存設備による処理後の濃縮廃液ではなく原汚染水であった。同日の提案においては,吸着塔配列例として,GAC(活性炭)→Cs除去用吸着剤→Sr除去用吸着剤→キレートA→キレートB→Sb
(アンチモン)
除去用吸着剤という構成が示されていて,また,Cs及びSrを除去す
るための吸着塔を2塔ずつ直列に配列する構成が示されていた。乙94)(
日本ピュロライトと被告は,平成23年10月5日に会議を開いた。被告は,同会議の際に「SR4000吸着試験の結果

福島における汚

染水試験計画」
と題する資料
(乙91)
を原告に提示した。
同資料には,
原告の吸着剤であるSr4000及び他社の吸着剤を用いた実液試験
の計画が記載されており,●(省略)●という構成が示されていた。このときまでに,
被告は,
原告の吸着剤であるSr4000を入手し,
それを用いた試験をしていたが,吸着塔の配列について,原告から具体的な情報を示されたことを認めるに足りる証拠はない。

被告による試験の実施等
被告は,平成23年3月末から,福島第一原発における汚染水処理のため,各種吸着剤の性能についてのホット試験を行っていたが,同年10月からは原告の吸着剤のみを対象としたホット試験を行い,同年11月からは実液試験を行った
(乙140)同年10月からのホット試験及び上記実


液試験に関し,日本ピュロライトと被告は電子メール等により情報交換を

RINXの最終的な構成等
●(省略)●なお,被告が平成23年10月5日に日本ピュロライトとの会議において提示した資料(乙91)には,実液試験において,Cs及びSrの除去につき他社の吸着剤を用いる計画が記載されているが
拠はない。
実液試験では,Cs及びSr以外の核種の除去についても,ごく一部の核種を除き,主として原告の吸着剤が使用され(甲41,44,47の2~4,甲49の2,甲50の2,甲52の2,甲194の2,甲195の2,甲201の2)
,RINXの最終的な構成においては,全ての

核種の除去につき原告の吸着剤を使用するものとされた(甲26の1及び2)


原告による吸着塔配列等の公表(乙114の1及び2)
原告は,平成24年に開催された米国電力研究所の国際低レベル放射性廃棄物会議(以下「平成24年米国電力研究所会議」という。
)において,

福島第一原発における多核種を含む放射能汚染水の処理に関する発表を行った。
同発表におけるプレゼンテーション資料には,福島第一原発における放射能汚染水を浄化に関し,
「CoreTechnology」として,●(省略)●が記
載されていた。


既存ALPSの構成,課題等
東芝が平成25年2月頃までに福島第一原発に設置した既存ALPSの構造の概要は,平成24年9月11日までに経済産業省のホームページ上に掲載された資料(乙54の1及び2)及び平成25年2月1日
までに原子力規制委員会のホームページ上に掲載された資料(乙53の1及び2)によれば,次のとおりであると認められる。
a
処理対象水はRO濃縮塩水等とする。
(乙54の2)

b
吸着剤による核種除去の前に,鉄共沈処理設備及び炭酸塩沈殿処理設備による前処理を行う。鉄共沈処理は,α核種,Co-60,Mn-54等の除去を行うものであり,炭酸塩沈殿処理は,Mg,Ca等の吸着阻害イオンの除去を行うものである(乙54の2)


c
前処理後の汚染水を14塔の吸着塔及び2塔の処理カラムからなる多核種除去装置に通水し,放射性物質を除去する(乙53の2)


d
吸着塔配列は時期によって異なるが,平成25年2月頃の吸着塔配列は,コロイド1塔→I吸着塔1塔→Sr吸着塔3塔→I吸着塔1塔→Cs吸着塔2塔→Co吸着塔4塔→Sb吸着塔2塔→処理カラム2
塔であった(乙53の2)

e
各プロセスにおいて最適のpHとなるように薬液の注入を行い,pH調整の回数を極力低減した設計とする。なお,上記dの吸着塔配列の際には,Sr吸着塔通水後にpHを6~7とするpH調整が行われていた(乙53の2)


f
前処理により生じたスラリー(液体中に固形粒子が分散している懸濁液をいう(社団法人化学工学協会編「新版化学工学辞典」
,昭和49
年発行))及び使用済み吸着剤はHIC(保管容器)に貯蔵する(乙。
53の2)

福島第一原発では,平成25年3月頃までに,既存ALPSによる汚
染水処理が開始されたが,
処理をする中で,
次のような問題が生じた
(甲
13)

a
発生する廃棄物量の95%が前処理により発生するスラリーであった。

b
海水由来の塩素イオンや前処理設備における薬液注入,凝集沈殿物による隙間環境の形成等の要因が重畳し,バッチ処理タンクにすき間腐食が発生し,漏洩が生じた。
東京電力は,既存ALPSによる処理の状況や問題点等を踏まえ,平成25年9月頃までに増設多核種除去設備を設置し,同設備による処理を開始した。同設備では,前処理設備はMg,Ca等の吸着阻害イオンを除去するための炭酸塩沈殿処理設備のみとされた。
また,
Co,
Sb,

I,Ruの除去性能の向上を目的として,多核種除去装置の吸着塔配列を既存ALPSのものから変更し,活性炭2塔→Sr吸着塔3塔→Sb吸着塔3塔→I吸着塔1塔→Sb,I吸着塔2塔→Cs吸着塔(CsのほかにSrの除去性能も有するもの)3塔→Ru吸着塔①1塔→Ru吸着塔②1塔→活性炭(主にコロイド状で存在していると想定されるCo
のほか,Sb,Iの除去を目的とする)2塔の計18塔とした。
(甲14
5)

被告によるCs/Sr同時吸着剤の開発(甲18)
被告及び日立製作所は,平成25年4月4日,水中に溶解した放射性セシウム(Cs)と放射性ストロンチウム(Sr)を同時に除去できる吸着
剤を開発した旨を発表した。
同日付けのプレスリリースでは,
同吸着剤は,
チタン酸塩化合物に特殊処理を施したものであり,セシウムとストロンチウムの双方に対して高い吸着性能を有し,また,これらの放射性物質を選択的に吸着する性質があるため,ナトリウムやカルシウムを含む海水条件でも高い吸着性能を維持し,セシウムとストロンチウムを99%以上の除
去率で同時に除去することができるとされていた。

高性能多核種除去設備の発注等
平成25年9月,より高性能な多核種除去設備等の実現を目的として平成25年実証事業の補助事業者が公募された。同年10月,東京電力,東
芝及び被告が同事業の補助事業者に採用され,被告らが高性能ALPSを開発することとなった(前記前提となる事実
ウ)


平成25年実証事業では,①試験管レベルのラボ試験,②より実機に近い試験装置による検証試験,③開発した改良型多核種除去設備において除去性能等を確認するための実証試験の実施をすることとされていた。ク
高性能ALPSの開発コンセプト等
平成25年11月29日の時点における高性能ALPSの開発コンセプト等は,次のようなものであった(甲13)

開発コンセプト
a
既存ALPSでは,発生する廃棄物量の95%が鉄共沈処理及び炭酸塩沈殿処理という前処理により発生していたため,これらの方法による前処理を行わず,フィルタ及び吸着剤に放射性物質を濃縮吸着さ
せることにより,廃棄物発生量を約95%削減する。
b
既存ALPSでは,前処理により主要核種であるストロンチウムを99%除去していることから,高性能ALPSでは,上記前処理に相当する除去性能に加え,より高濃度の汚染水(RO濃縮塩水)を処理するために必要な除去性能を有する新たなフィルタ及び吸着剤処理技
術の開発及び実証を行う。
フィルタ及び吸着剤処理技術の開発により,
処理対象とする62核種について,公募要領の別紙2に示される目標放射能濃度を満足する除去性能(NDレベル)を達成する。
c
汚染水は海水由来の塩素イオンを含むことから,高性能ALPSでは耐食性を考慮した材料選定を行い,材料の実機を模擬した系での腐
食データを取得し,長期に安定運用が可能な材料を選定する。
核種除去プロセス
a
既存ALPSの設計段階では,Cs及びSrはその化学的性質からRO濃縮水中にイオンの状態で存在すると想定されていたが,実際は
粒子状及びコロイド状としても存在することが判明した。粒子状・コロイド状の核種を除去するには,これらを選択的に除去するフィルタを使用することが効率的であり,すでに開発済みのフィルタを用いることにより,粒子状及びコロイド状のCs及びSrを除去する。
b
炭酸塩沈殿処理を行わないことから,海水由来の非放射性SrやSr吸着除去の妨害物質であるCaイオンが既存ALPSによる処理の場合よりも多量に残留する。このため,Sr吸着剤には,妨害物質の
影響を受け難い高性能な吸着剤を採用することが必要となる。高性能吸着剤については実液試験を済ませた。
実証プラントにおける系統構成案
実証プラントの吸着塔配列は,フィルタスキッドA及びB→吸着塔スキッド①→吸着塔スキッド②→吸着塔スキッド③→ポリッシングスキッ
ドとし,フィルタスキッドA及びBはそれぞれSS(浮遊物質)フィルタ2塔とコロイドフィルタ2塔を直列したもの,吸着塔スキッド①はCsSr同時吸着塔5塔,

吸着塔スキッド②はSb/重金属吸着塔5塔,
吸着塔スキッド③はRu吸着塔5塔,ポリッシングスキッドはポリッシング用の塔5塔とする。


高性能ALPSについての試験計画等
被告作成に係る平成25年11月29日付けの「高性能多核種除去設備整備実証事業試験計画書(案)
」には,ラボ試験,検証試験及び実証試験の
計画について,次のように記載されている(乙115)


ラボ試験
ラボ試験のうち,Ru以外の核種除去性能確認試験は,実機を模擬した構成によりRu以外の核種が除去できることを確認すること等を目的とし,試験装置構成は,コロイドフィルタ(Csフィルタ,Srフィルタ及び予備フィルタ)→実機4塔相当以上のCs・Sr同時吸着塔→実
機2塔相当以上のSb吸着塔→実機1塔相当以上の重金属吸着塔とする。想定している実証設備の構成は,予備1塔を含むフィルタ塔4塔を2系列→Cs・Sr吸着塔5塔(3塔のメリーゴーランド方式と2塔のメリーゴーランド方式で構成する)→Sb吸着塔3塔→重金属吸着塔2塔→HCl注入→Ru吸着塔3塔→NaOH注入→ポリッシング2塔→ポリッシングスキッド5塔である。
Ru除去性能の確認試験では,Ru吸着塔3塔とポリッシング2塔の
構成においてpH調整を行い,Ru除去に最適なpHの注入条件や許容可能なpHの幅を確認する。
検証試験
検証試験は,ラボ試験で確認した装置構成により核種の除去ができることを確認することを目的とし,設備概要は,実証試験と同様の構成を
トラック4台に搭載し,流量を実証設備の10分の1規模としたものとする。
実証試験
ラボ試験や検証試験で確認した装置構成により核種が除去できることの実証等を目的とし,実証試験設備の構成は検証試験結果を反映したも
のとする。

高性能ALPSについてのラボ試験の実施
被告は,高性能ALPSについてのラボ試験として,Ru以外の核種除去性能確認試験とRu除去性能確認試験を実施することとし,●(省
略)●
被告は,平成26年7月頃までに,上記Ru以外の核種除去性能確認試験における吸着塔配列(各吸着塔への通水順序)につき,ろ過フィルタ1塔→Csフィルタ1塔→Srフィルタ2塔→Cs/Sr同時吸着塔5塔→Sb吸着塔3塔→重金属吸着塔2塔→Ru吸着塔5塔とする構成
(ケース①)と,ろ過フィルタ1塔→Cs/Sr同時吸着塔3塔→Csフィルタ1塔→Srフィルタ2塔→Cs/Sr同時吸着塔2塔→Sb吸着塔3塔→重金属吸着塔2塔→Ru吸着塔5塔とする構成(ケース②)の2通りの構成でラボ試験を行い,Sr-90についてはケース②の方が高い吸着性能を発揮することを確認した(甲16)

また,Ru除去性能確認試験においては,10塔の吸着塔を用い,pH値を2又は3.5とするpH調整を行って対象水の処理を行ったケー
スにおいて,
目標値を満足する試験結果を得たことを確認した
(甲16)

被告は,上記ラボ試験の結果に基づき,最終確認試験を実施するとともに,検証試験設備及び実証試験設備の塔構成を検討し,いずれの設備についても,
Ru除去のための吸着塔は5塔とし,
1塔目をキレート塔,
2塔目を陰イオン交換樹脂,3塔目をAgゼオライト,4塔目を水酸化
鉄,5塔目を活性炭系とすること,キレート塔及び水酸化鉄塔の前でpH値を3.5とし,活性炭塔を出た後にNaOHの注入により中和をするという構成を採用する方針とした(甲16)


高性能ALPSについての検証試験の実施
被告は,平成26年8月頃から,実証試験設備の10分の1スケールの試験装置を制作し,ラボ試験の結果を踏まえた検証試験を実施した。検証試験の塔構成は,SSフィルタ1塔→Cs/Sr同時吸着塔3塔→Csフィルタ1塔→Srフィルタ2塔→Cs/Sr同時吸着塔2塔→Sb吸着塔3塔→重金属吸着塔2塔→キレート塔1塔→陰イオン塔1塔→
Agゼオライト塔1塔→水酸化鉄塔1塔→活性炭系塔1塔というものであり,キレート塔から活性炭系塔までの5塔がRu除去用の吸着塔であった(乙116)

また,検証試験装置を上記吸着塔15塔の構成としているのに対し,実証試験装置は吸着塔20塔の構成を採用する予定であることから,実
証試験では後段の10塔を全てRu除去のために用いることとし,その具体的な塔構成を決定するために,追加のラボ試験を実施した(乙116)


実証試験の実施と高性能ALPS
被告は,上記検証試験の結果を踏まえ,平成26年10月18日から実証試験設備を用いた実証試験を開始した。
実証試験の開始時点で採用された吸着塔配列は,SSフィルタ1塔→C
s/Sr同時吸着塔3塔→Csフィルタ1塔→Srフィルタ2塔→Cs/Sr同時吸着塔2塔→Sb吸着塔3塔→重金属吸着塔2塔→キレート塔3塔→Agゼオライト塔1塔→陰イオン塔1塔→水酸化鉄塔3塔→Cs/Sr同時吸着塔2塔というものであった。吸着塔配列は,平成27年3月末までの実証試験の経過において,数次にわたり変更された。平成2
6年10月から平成27年3月末までの吸着塔配列の変遷は,別紙2のとおりである(乙51)
。また,平成28年3月頃に実証試験設備で採用され
ていた吸着塔配列は,●(省略)●

高性能ALPSにおいて使用されている吸着剤等
本件実証事業の進捗状況等に関しては,随時資料が公表されていた(甲
13,16,57,62,乙51,116,117)
。これらの公表資料に
よれば,高性能ALPSでは,凝集沈殿による前処理を採用していないこと,高性能ALPSにおけるCs及びSrの除去に関しては,一貫して被告らが開発したCs/Sr同時吸着剤を含むCs/Sr同時吸着剤を使用し,同一の吸着剤を充填した吸着塔を複数直列につなぎ,メリーゴーラ
ンド方式で吸着剤の交換を行うという構成を採用していたことが認められる。なお,高性能ALPSにおいて原告の吸着剤が使用されたことを認めるに足りる証拠はなく,高性能ALPSの設計において,各種試験の段階を通じ,その使用が検討されたことを認めるに足りる証拠もない。セ
高性能ALPSにおけるpH調整
前記ケのとおり,平成25年11月29日付けの高性能多核種除去設備整備実証事業の試験計画書(乙115)では,高性能ALPSにおけるpH調整は,吸着塔配列の下流側に位置するRu吸着塔の前後でのみ行うこととされていた。
平成26年10月18日から開始された高性能ALPSに関する実証試験の当初段階では,全20塔の吸着塔配列の下流側に位置する11番目の吸着塔の前及び16番目の吸着塔の前においてのみpH調整を行うこととされており,具体的には,11番目の吸着塔であるキレート吸着塔の前でpH値を3.5とし,16番目の吸着塔である水酸化鉄吸着塔の前でもpH値を3.5とするpH調整が行われていた。その後,C
s/Sr同時吸着剤を16番目の吸着塔とする等の塔構成の変更に伴い,キレート吸着塔の前でpH値を4とし,Cs/Sr同時吸着剤の前でpH値を9又は8とするpH調整や,キレート吸着塔の前でpH値を3.5とし,Cs/Sr同時吸着剤の前でpH値を6又は8とするpH調整が行われた。
(乙51)

上記一連の塔構成による試験の結果,Cs/Sr同時吸着剤の性能持続時間が短い
(課題①)Cs/Sr同時吸着剤の2塔目~5塔目におけ,
るDF(除染係数)が小さい(課題②)
,一連の吸着塔の出口におけるS
r濃度が上昇する(課題③)等の課題が生じた(乙51)。
被告は,炭酸イオンがアルカリ環境下で炭酸塩を形成し,炭酸Caが
吸着剤に付着することによる吸着面積低下や,Srが吸着剤に吸着されない形態である炭酸Srに変化すること等が上記課題①及び②の要因であり,炭酸の追い出しを行う必要があると考え,平成27年3月6日から,吸着塔配列の上流側におけるpH調整として,供給タンクで酸を添加して炭酸の追い出しを行った後,対象水が酸性になることによりCs
/Sr同時吸着剤の吸着性能が低下することを防ぐため,Cs/Sr同時吸着剤の通水前にアルカリを添加するという2段階pH調整を採用することとした。平成27年3月6日の時点では,供給タンクにおけるpH値は3.5,Cs/Sr同時吸着剤の前のアルカリ添加によるpH値は7~9とされていたが,同月10日からは,Cs/Sr同時吸着剤のpH値を8として設備の運転が行われた(乙51)

また,被告は,Srが非吸着性のキレート錯体として存在する可能性
があることが上記課題②及び③の要因であり,従前のpH値では酸が不足することによりキレート錯体がキレートとSrイオンに分離されていないと推定されるとして,
吸着塔配列の下流側におけるpH調整につき,
さらなる低pH値を採用して性能確認を検討することとし,キレート吸着塔の前のpH値を4から3.5に変更したほか,アルカリ注入による
炭酸Srの生成を抑制するために,Cs/Sr同時吸着剤の前のpH値を8から6に変更するなどした(乙51)

高性能ALPSの設計に当たり使用が想定されない情報について(争点ウ(被告による原告の営業秘密の使用の有無)関係)

原告は,RINXモデル及びそれを構成する際に依拠した各種技術情報であり,PuroliteCoreTechnologyと総称されている技術情報が原告情報であって,これが原告の営業秘密であり,原告情報を分節化したものが別紙営業秘密一覧に記載の各個別の技術情報であると主張する。
ここで,以下のイ~シのとおり,原告情報のうち,原告情報1②,原告
情報1③,原告情報1⑤,原告情報2④,原告情報2⑤,原告情報2⑥,原告情報4③,原告情報5①,原告情報6①,原告情報6②及び原告情報6③は,いずれも,その情報の性質,内容と高性能ALPSの開発コンセプト等に照らせば,高性能ALPSの設計に当たって,被告が使用することが想定されず,また,現実にも被告が使用したとは認められない情報で
ある(以下,これらの情報を併せて「不使用情報群の情報」ということがある。。

●(省略)●

以上のとおり,不使用情報群の情報(原告情報1②,原告情報1③,原告情報1⑤,
原告情報2④,
原告情報2⑤,
原告情報2⑥,
原告情報4③,
原告情報5①,原告情報6①,原告情報6②,原告情報6③)は,いずれも,高性能ALPSの構成や当該情報の性質等に照らして,高性能ALP
Sの設計において使用することが想定されない情報である。被告が,これらの情報を高性能ALPSの設計において使用したことを認めるに足りる証拠もない。
そして,これらの情報を高性能ALPSの設計に当たり使用することが想定されない理由に照らせば,高性能ALPSの設計に当たり,これらの
情報を他の情報と組み合わせて使用することも想定されないし,これらの情報を他の情報と組み合わせて使用したことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,不使用情報群の情報は,各個別の情報としても,他の情報と組み合せても,高性能ALPSの設計において,被告が使用したとは認
められない。
原告情報のうち,
不使用情報群の情報以外の情報の非公知性等について
(争

ア(原告情報の営業秘密該当性関係)等)
原告情報のうち,不使用情報群の情報以外の情報である原告情報1①,原
告情報1④,原告情報2①,原告情報2②,原告情報2③,原告情報2⑦,原告情報3①,
原告情報3②,
原稿情報3③,
原告情報4①,
原告情報4②,
原告情報5②及び原告情報7について,
その営業秘密該当性を中心に,
以下,
検討する。
●(省略)●

被告による高性能ALPSの設計等についての不正競争防止法2条1項7号の不正競争の成否について(争点



原告情報のうち,不使用情報群の情報(原告情報1②,原告情報1③,原告情報1⑤,原告情報2④,原告情報2⑤,原告情報2⑥,原告情報4③,原告情報5①,原告情報6①,原告情報6②,原告情報6③)は,前記
のとおり,各個別の情報としても,他の情報と組み合せても,高性能
ALPSの設計において,被告が使用したとは認められない。
したがって,原告の主張のうち,高性能ALPSの設計に当たって,被告が不使用情報群の情報
(他の情報と組み合わせた場合も含む。を使用し

たことを前提として,被告に営業秘密を使用した不正競争があったとする部分は,理由がない。


原告情報のうち,不使用情報群の情報以外の各情報(原告情報1①,原告情報1④,
原告情報2①,
原告情報2②,
原告情報2③,
原告情報2⑦,
原告情報3①,原告情報3②,原稿情報3③,原告情報4①,原告情報4②,原告情報5②,原告情報7)のうち,本件訴訟において情報として特
ける前に被告が独自に入手していたと認められる情報もあるほか,いずれも,被告が高性能ALPSの設計を行うことになる平成25年9月より前に,特許庁が発行する公報や一般的な書籍を含む文献に記載されたり,福島第一原発の汚染水処理に関係するシンポジウムや講演において公表されたり,放射性物質の廃棄に関する会議において原告自身によって公表さ
れたり,その内容から汚染水処理に関与する者が当然に知っていたり,公表された情報から容易に知ることができたりする情報であった。そうすると,不使用情報群の情報以外の各情報(原告情報1①,原告情報1④,原告情報2①,
原告情報2②,
原告情報2③,
原告情報2⑦,
原告情報3①,
原告情報3②,原稿情報3③,原告情報4①,原告情報4②,原告情報5
②,原告情報7)のうち,本件訴訟において情報として特定されている情報は,
いずれも,
平成23年9月までに公然と知られていた情報であった。
上記各情報は,汚染水処理における各種の考慮要素に関わるものであって,汚染水処理において,当然に各情報を組み合わせて使用するものであり,それらを組み合わせて使用することに困難があるとは認められない。また,上記各情報を組み合わせたことによって,組合せによって予測される効果を超える効果が出る場合には,その組合せとその効果に関する情報が公然と知られていない情報であるとされることがあるとしても,上記各情報の組合せについて上記のような効果を認めるに足りる証拠はない。したがって,これらの情報を組み合せた情報が公然と知られていなかった情報であるとはいえない。

そうすると,不使用情報群の情報以外の情報のうち,本件訴訟において情報として特定されている情報は,平成25年9月の時点で,少なくともいずれも公然と知られていた情報であり,それらの情報を組み合わせた情報についても,公然と知られていた情報であったといえる。
したがって,原告の主張のうち,高性能ALPSの設計に当たって,被
告が不使用情報群の情報以外の情報のうち,本件訴訟において情報として特定されている情報の使用により被告に営業秘密を使用した不正競争があったとする部分は,それらの情報(その組合せも含む。
)がいずれも公然
と知られていた情報であり,営業秘密(不正競争防止法2条6項)といえる情報ではないことから,理由がない。

不使用情報群の情報以外の情報のうち,本件訴訟において情報として特定されているとはいえない情報(原告情報7及び別紙1営業秘密一覧の「原告の営業秘密を構成する技術情報」の各欄において証拠の引用のみがされて情報として具体的に摘示していないもの)は,対象となる情報が特定されているとはいえない以上,それが営業秘密に該当するかや被告によ
る使用があったかを判断するには及ばず,これらについて,営業秘密を使用した不正競争があったとする原告の主張には理由がない。

原告は,①原告情報の各技術要素が個々としては公知であったとして
も,福島第一原発における多核種除去の目的を達成するためのまとまった解決策として有機的に機能する各技術要素の組合せや集積が公知であったことはない,②試行錯誤を経れば入手することができる技術情報であっても,
入手するにはそれ相応の労力,
費用,
時間がかかる等の事情があり,
当該情報に財産的価値が認められる場合には非公知というべきであり,被告は,原告情報を使用することにより,技術情報の収集や選別,分析等に係る労力等を大幅に節約することができたから,原告情報は非公知性の要件を満たすと主張する。

しかし,前記イのとおり,原告情報のうち不使用情報群の情報以外の各情報であって,本件訴訟において情報として特定されているものについては,これらの情報を組み合わせることにより予測される効果を超える効果が生じるものであることを認めるに足りる証拠はないから,これらの情報を組み合わせた情報が公然と知られていなかった情報であるとはいえな
い。
また,上記情報は,いずれも,特許庁が発行する公報や一般的な書籍を含む文献に記載されたり,福島第一原発の汚染水処理に関係するシンポジウムや論文において公表されたり,放射性物質の廃棄に関する会議において原告自身によって公表されたり,その内容から汚染水処理に関与する者
が当然に知っていたり,容易に知ることができたりする情報であった。当該情報が記載されている文献の入手の容易さ,その情報が汚染水処理に関わる者が当然に接するような形で公表されていたことなども考慮すると,上記情報を入手することに必要な労力等を相当の労力等であるとすることはできない。特に,被告は,発電用原子炉施設の製造等を行う株式会社
であって,平成23年プロジェクトに関与するよりも前から,福島第一原発における汚染水処理に関与し,既存設備のRO装置を製造し,様々な吸着剤メーカーの吸着剤について除去性能試験を実施し,その試験結果を東京電力等に報告するほか,エナジーソリューションズ社と提携して,個別の放射線核種に対応して複数の吸着剤を使用した汚染水の放射能除去のためのシステムを提案し,また,それらとは別に,独自に,東京電力に対して個別の放射線核種に対応して複数の吸着剤を使用し,Cs及びSrをそれぞれ複数の吸着塔で除去する設備を提案したり,平成23年10月5日の会議の際に,日本ピュロライトに対し,放射線核種のうち,まずCs及びSrを複数の吸着塔によって吸着する配列等を提案したりしていた
理に当初から関心をもってそれに深く関わり,汚染水処理に関して,既に相当の知見等を有していた。これらのことからも,上記情報は被告が取得するのに格段の労力等がかかるものとはいえないと認めることができる。なお,原告情報のうち,Cs4000及びSr4000を初めとする原告の吸着剤に関する技術情報については,
その内容が一般に公表されてい

報については,
公然と知られていない情報と解釈する余地はある。
しかし,

情報は被告が使用していない情報であり,また,その情報を他の情報と組み合わせた情報も使用していないので,
原告の吸着剤に関する情報につい
て被告に営業秘密の使用があったとはいえない。


原告は,平成24年当時,被告は放射能汚染水処理に関して知識を有しておらず,被告が有していた浄化プロセスに関する知見及び技術は,全て原告に由来するものであるから,
被告による高性能ALPSの開発はRI
NXモデルを出発点とするものというほかなく,
高性能ALPSはRIN

Xの「改変版」であると主張する。●(省略)●
しかし,前記ウのとおり,被告は,福島第一原発の汚染水処理に当初から関心をもってそれに深く関わっていて,平成23年10月までにも,東京電力に対して,複数の吸着剤を使用した汚染水の放射能除去のためのシステムを提案するなどしていて,汚染水処理に関して,既に相当の知見等を有していた。したがって,被告が有していた浄化プロセスに関する知見及び技術が全て原告に由来するものとは認められず,これを前提とする原
告の主張は理由がない。また,原告情報のうち,高性能ALPSの設計において使用していない不使用情報群の情報は格別,それ以外の情報(その組合せも含む。
)は,公然と知られていた情報であって,被告がこれを知る
ことができたものである。特に,原告が平成24年米国電力研究所会議において発表した内容は,RINXモデルに関する情報を多く含むものであ
るが,これは平成25年9月までには公然と知られた情報となっていた。公然と知られた情報を使用することが,不正競争防止法の営業秘密の使用に当たることはない。

なお,念のため,原告が主張するところ(前記第2の3
張欄

ウ原告の主

c)も考慮して,具体的にRINXモデルと高性能ALPSの類

似点として特徴的な構成を挙げると以下のとおりである。
●(省略)●
上記各類似点と各原告情報とを比較すると,類似点①は原告情報2①に,類似点②は原告情報2②に,類似点③は原告情報3①に,類似点④は原告情報4②及び原告情報4③にそれぞれ関係する構成であるといえる。
●(省略)●
献に記載される等により公表されていた情報であるし,また,被告が平成23年10月より前に独自に入手していた情報である。

●(省略)●
ているとはいえず,また,仮に高性能ALPSの設計に当たり使用することができる情報であったとしても,原告自身が平成24年米国電子力研究所会議において公表した情報である。
●(省略)●
において公表した情報である。原告情報4③はRINXにおける最終的な吸着剤の配列デザインに関する技術情報であるが,高性能ALPSに
おいてRINXにおける最終的な吸着塔配列そのものを使用していない
ける吸着塔配列の類似点は,●(省略)●そして,このような配列は原告情報4②に含まれるものであり,前記

サのとおり原告により公表さ

れていた情報であるといえる。

したがって,類似点①~④に係る技術情報は,いずれも平成25年9月までに文献等に記載されていたり,原告により公表されたりした情報であり,公然と知られていた情報であると認められるから,上記各類似点に係る高性能ALPSの構成に関し,被告が原告の営業秘密を使用したとは認められない。


原告は,被告が平成25年実証事業を受注するまでの経緯として,被告が平成23年プロジェクトの失注後にアバンテック社とともに開発したサブドレン・システムにつき,
「多核種除去システムと似たシステムの
ようだ」とコメントしていること,サブドレン・システムの最終デザイ
ンが簡易版RINXのようになっていること,高性能ALPSに関し,アバンテック社に対して「Hi-Gシステム<サブドレインの浄化システムのプロジェクトネーム>と似た構成のシステム」とコメントしていること等を指摘して,被告はRINXを出発点としてサブドレン・システム及び高性能ALPSを設計したと主張する。

サブドレン・システムは,既存の井戸から汚染された地下水を汲み上げ,NDレベルまで浄化をした上で,海洋放出するためのシステムである(甲140の1及び2)

被告は,
平成24年3月頃からサブドレンシステムの検討を開始し,

平成25年1月8日,東京電力に対し,同システムの提案をした。被告が提案したシステムの概要は,
サブドレンから発生する汚染水について,
ろ過フィルタ(浮遊物質(SS)を除去)及びコロイド除去フィルタによる前処理を行った後,複数のCs・Sr吸着塔及び多核種吸着塔により放射性核種を除去するというものであり,対象となる核種は5種類であった(甲147)。
サブドレン・システムに関して被告がアバンテック社に対して送付し
た電子メール(甲140の1及び2)には,サブドレン・システムは「多核種除去システムに似たシステムである」旨の被告のコメントが記載されていることが認められる。しかし,被告の上記コメントは,上記電子メールにおいて,
「サブドレン・システムは,既存の井戸から汚染された
地下水を汲み上げ,NDレベルまで浄化し海に放出するためのシステム
であり,多核種除去システムに似たシステムであるが,汚染水の水質が違う」旨を説明する中で用いられた表現であり(甲140の1及び2),
上記文脈からすれば,汚染水をNDレベルまで浄化し海に放出するという基本的な発想が多核種除去システムと共通することを述べているにとどまるものといえる。当該コメントをもって,サブドレン・システムが
RINXを出発点とするものであるということはできない。
また,被告が東京電力に対して提案したサブドレン・システムの最終
いて採用されているろ過フィルタ及びコロイドフィルタによる前処理は,RINXでは採用されていない。そして,●(省略)●については,前記
ウ及びエのとおり,平成25年9月までに被告が取得し,又は公然
と知られていた情報であるから,これらの点においてサブドレン・システムの構成がRINXの構成と類似していることをもって,
サブドレン

システムはRINXの簡易版であり,RINXを出発点として設計されたものであると認めることはできない。
そして,このことに照らせば,被告がアバンテック社に対し,高性能ALPSをサブドレン・システムと似た構成にする予定である旨のコメ
ントをしたとしても,このことが,被告がRINXを出発点として高性能ALPSを設計したことの根拠となるものでない。

以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,被告が高性能ALPSの設計等につき原告の営業秘密を使用したとは認められず,原告の主張は採用することができない。

3
争点

(アバンテック社からの情報の受領についての本件排他的義務条項違
反の有無)について
事案に鑑み,
本件パートナーシップ契約の本件排他的義務条項は,
「両当事者は,
以下に
記載する,
本契約における独占的関係を遵守する。
本プロジェクトに関して,
Purolite(判決注:原告)は,HGNE(判決注:被告)以外の者にPuroliteCoreTechnology又はこれに類似若しくは相当する製品又は対策を,販売し,かつ,納入してはならず,HGNEは,Purolite以外の如何なる第三者からもPuroliteCoreTechnologyに類似又は相当する
製品又は対策を,購入せず,かつ受け入れてはならない。疑義を避けるために付言すると,本契約における独占的関係は,本プロジェクトにおけるPuroliteCoreTechnologyの売買のみに関して適用され,両当事者で別途書面により合意しない限り,本契約の期間中にいずれかの当事者が行うその他の取引に適用されるものではない。
」旨を定めている(甲4の1及び2)


原告は,平成23年プロジェクトに関し,平成23年12月10日から平成24年2月初旬にかけて,被告がアバンテック社に対して提案や助言等を求め,同社から提案やコメントを受け取ったところ,これらの行為が本件パートナーシップ契約の本件排他的義務条項に違反すると主張する。しかし,本件パートナーシップ契約第1条最終文には本件停止条件条項が定められており,本件停止条件条項では,本件パートナーシップ契約は被告が東京電力等から「本プロジェクト」を受注することを条件として効力を生ずる旨が定められている。本件停止条件条項における「本プロジェクト」とは,本件定義条項の「本プロジェクト」を指すものと解されるところ,前記
ト(平成23年プロジェクトの多核種除去設備による汚染水の浄化処理)に係るものであるから,結局,本件パートナーシップ契約は,被告が東京電力から平成23年プロジェクトを受注することを停止条件とするものと認められ,
本件においては,
被告が平成23年プロジェクトを失注したことにより,
停止条件が成就しないことが確定したものと認められる。
これに対し,原告は,本件パートナーシップ契約第15条には,同契約
は締結の日から効力を有すると定められており,本件停止条件条項と矛盾する定めが設けられているから,本件パートナーシップ契約の各条項につき本件停止条件条項の適用があるか否かは,各条項の内容に応じて検討されるべきであって,本件排他的義務条項は,その性質からして本件停止条件条項に服するものではないと主張する。

本件パートナーシップ契約第15条1項は,
「本契約は,
以下の通りに両
当事者がこれを締結した日付を持って効力を発するものとし,本プロジェクトが完了するまでその効力を維持するものとする。と定めている」
(甲4
の1及び2)しかし,

本件停止条件条項と第15条の規定を整合的に解釈
するならば,第15条の規定は,本件パートナーシップ契約が当事者双方
の署名をもって,停止条件付きの契約として成立することを確認する趣旨のものと解するのが相当である。

また,仮に原告が主張するとおり,条項ごとに本件停止条件条項の適用の有無を検討すべきものとしても,本件排他的義務条項には,本件パートナーシップ契約における独占的関係は,
本プロジェクトにおけるPurolite
CoreTechnologyの売買のみに関して適用される旨が明示されている(前
件として,HGNE(判決注:被告)は,TEPCO(判決注:東京電力)からの受注を受けた際,Purolite(判決注:原告)に対してPuroliteCoreTechnologyの発注書を発行する。」と定め,同条2項は,
「Puroliteは,TEPCOによる条件に沿った内容の発注書を受領後,
72時間以内に確認書を発行する。と定めている

(甲4の1及び2)


上記各条項によれば,PuroliteCoreTechnologyの売買は,被告が東京電力から受注を受け,原告に対してPuroliteCoreTechnologyの発注書を発行し,原告がこれに対して確認書を発行することにより行われるものであり,被告が東京電力から発注を受けたことを前提とするものである。本件排他的義務条項はPuroliteCoreTechnologyの売買に関する独占的関
係を定めるものであるところ,PuroliteCoreTechnologyの売買は被告が東京電力から発注を受けたことを前提とするものであることに照らせば,結局,本件排他的義務条項は,被告が東京電力からプロジェクトの発注を受けた場合に適用されるものであるといえる。このことに照らせば,条項ごとに本件停止条件条項の適用の有無を検討すべきものとしても,本件排
他的義務条項が本件停止条件条項に服さない理由はないと解される。ウ
日本ピュロライトは,被告に対し,本件パートナーシップ契約締結後である平成23年12月12日に「今後はREAD-Bは,弊社からの指定が無い限りは実液試験にご使用いただけませんので,何卒周知徹底いただ
きますようお願いいたします」と記載した電子メールを送付し(甲27),
平成24年1月19日に「栗田新規提案については,栗田剤-A,栗田剤-B,共に・・・残念ながら許容できない内容であります。弊社-貴社間の契約への技術的な抵触性について,貴社から栗田様方へ事前にご説明いただいていた方が良いかと考えます。と記載した電子メールを送付したこ」
と(甲28の1)が認められる。上記各電子メールの記載は,被告に対して原告の吸着剤以外の吸着剤の使用を控えるよう求める趣旨のものと解さ
れ,平成23年プロジェクト受注前に本件排他的義務条項が効力を生じていることを前提としていたかのようにみえるものである。しかし,これらは原告及び被告の認識が記載されたものではなく,その前後における当事者間のやり取りも不明である。また,本件パートナーシップ契約の締結後である平成23年12月14日には,被告から日本ピュロライトに対し,
「当初実液試験の計画を説明した際にお伝えしたように,日立は御社の試験を当初計画の日立試験に追加して実施しております。これまで御社の試験を優先してきましたが,残された時間を勘案すると,今後は当初計画の試験も相応に実施していかないと東電に対して約束を守れなくなります。」
として,当初計画していた,原告吸着剤以外の吸着剤についての試験も実
施する考えを伝えている(甲63の1)

これらの事情に鑑みれば,日本ピュロライトが被告に対して送付した上記各電子メールの記載内容から,本件パートナーシップ契約締結時点から本件排他的義務条項の効力が発生していたと認めることはできない。以上によれば,本件停止条件条項に定められた停止条件の不成就が確定し
たことにより,本件排他的義務条項は効力を生じなかったものと認められるから,その余の点を判断するまでもなく,被告によるアバンテック社からの情報の受領等が本件排他的義務条項の違反に当たるとする原告の主張は採用することができない。
4

認定事実
前記前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

東京電力が平成23年プロジェクトにおいて発注を予定していた平成23年多核種除去設備は,①処理対象水移送設備,②処理対象水一時貯蔵設備,③多核種除去塔及び付属設備,④放射性廃棄物安定貯蔵化設備(必要に応じて遮蔽体を含む。,⑤多核種除去塔の設置ハウスという各設備で構)
成されるものであり,放射性廃棄物安定貯蔵化設備に関しては,輸送用キャスク(保管容器を収容する遮蔽容器)を設計・製作することが要求され
ていた。
(甲7)
平成23年プロジェクトの受注を目指していた被告は,受注した場合には,平成23年多核種除去設備のうちの前処理設備や吸着塔などの機器の製造については,栗田工業に依頼することとし,平成23年10月3日頃から,栗田工業との協議を開始した。また,被告は,放射性廃棄物安定貯
蔵化設備に必要となる放射性廃棄物の保管容器(HIC)や輸送用キャスクの製造については,製造を打診したパーマフィックス社からアバンテック社を紹介されたため,同年11月上旬から,アバンテック社との間で保管用容器等の製造に関する協議を開始した。
(乙140)

被告は,平成23年11月2日,アバンテック社に対し,HIC,脱水システム等に関するQ&Aリスト,保管用容器の仕様書等の文書を電子メールで送付した。この中には,廃液処理システムのフローチャートである11月2日付けフローチャートが含まれていた。
(甲115の1の1~2
の2)
11月2日付けフローチャートは「廃液処理システムのフローシート」
と題するもので,そこには,当該廃液処理システムが,RO濃縮タンク,Ca/Mg/Sr除去システム,多核種吸着システム,pH調整システム等から構成されることや,その中のCa/Mg/Sr除去システムにおいて,固形物除去システムやスラッジ保管ヴェッセルがあること,その中の多核種吸着システムには,吸着ヴェッセル,廃棄(使用済)吸着剤保管ヴェッセル,脱水装置があることなどが概要図として記載されていたが,多核種吸着システムにおける吸着塔配列についての記載はなかった。また,
Ca/Mg/Sr除去システム中のスラッジ保管ヴェッセルや多核種除去システム中の廃棄(使用済)吸着剤保管ヴェッセルの部分は,赤線(赤破線)で囲まれていた。
(甲115の1の1~2の2)
11月2日付けフローチャートの下部には,被告がパーマフィックス社及びアバンテック社に対して提供を求める機器等は,廃棄(使用済)吸着
剤保管ヴェッセル(HIC)
,脱水装置,シールディング・ベル(保管容器
を上部から覆う遮蔽)
,シールディング・キャスク(輸送用キャスク)
,取
扱設備であること,被告はHIC及び脱水装置をMg,Ca,Srスラッジスラリーにも適用することが可能かを検討していることが記載されていた(甲115の2の1及び2)


なお,被告は,平成23年11月10日に原告と会議を開いた際,原告に対してRINXのフローチャート(甲100)を示したところ,同フローチャートは放射性核種吸着除去装置の吸着塔配列等が記載されているものであり,11月2日付けフローチャートとは内容が異なるものであった。


被告は,平成23年11月8日,平成23年プロジェクトに関し,米国コロンビア州でアバンテック社及びパーマフィックス社と会議を開いた。同会議では,
「日立GEチーム」として平成23年プロジェクトに関わる
業者は,被告,栗田工業,パーマフィックス社,アバンテック社及び吸着
剤製造業者であること,受注主体は被告であり,パーマフィックス社及びアバンテック社は使用済み吸着剤の輸送及び保管システムの供給業者として,各コンポーネントの詳細設計や使用済み吸着剤の輸送・保管システム用コンポーネントの製造等を担当することなどが話し合われた。(甲1
21の1及び2)

アバンテック社は,平成23年11月14日,被告に対し,被告から送付された11月2日付けフローチャートに対する同月13日付け意見書
(以下「11月13日付け意見書」という。
)を送付した(甲122の1及
び2,甲123の1の1及び2)

●(省略)●

被告は,平成23年11月16日,アバンテック社に対して電子メールを送付し,被告は栗田工業との間で既に協力関係にあるが,栗田工業のシステムには課題があることから,HICやキャスク,脱水システム等に加えて,栗田工業のシステムの技術的なレビューや前処理システムの製造等についてアバンテック社に協力を求めたい,栗田工業が期限までにシステムを準備することができない場合等に備えて,アバンテック社のシステム
を検討したいなどと伝えた。
(甲123の1の1及び2)
また,被告は同メールの添付資料として,アバンテック社の11月13日付け意見書に対し被告のコメントを記載したものを送付した。(省略)●
●同コメントではRINXモデルにおけるpH調整については触れられていなかった。また,被告のコメントが記載された書面には,アバンテッ
ク社が作成したフローチャートに対する原告の質問事項の一覧も添付されていた。
(甲122の1及び2,甲123の1の1~2の2)

被告とアバンテック社は,
平成23年11月17日に電話会議を実施し,
パーマフィックス社及びアバンテック社との協力関係やアバンテック社の提案に関する技術事項等について議論を行った
(甲123の1の1及び
2)



被告は,平成23年11月18日,アバンテック社に対して電子メールを送信した。同メールには,以下の趣旨の記載がある。
(甲126の1及
び2)
被告は,11月25日に栗田工業のシステムに関し栗田工業と会議を開く予定である。また,11月28日には実液試験の結果についての分析及び話合いをする予定である。実液試験のデータは,必要なHICの
数を予測するに当たって重要な役割を果たす。
上記

の情報は,被告がアバンテック社と会議を行う際に詳細な話を

することができるようになるために役立つと考える。もっとも,原告との間の秘密保持契約があるため,被告は試験データをアバンテック社に開示することはできない。上記を踏まえ,12月5日から7日までの3
日間でアバンテック社と対面方式での会議を行うことを提案する。ク
被告,栗田工業,パーマフィックス社及びアバンテック社は,平成23年11月30日,福島第一原発において使用するための廃液処理システムの活用による放射性廃棄物管理ソリューションに関する技術情報の共有を目的として,秘密保持契約を締結した(甲124の1の1~2の2)。


被告,アバンテック社及び栗田工業は,平成23年12月5日及び6日の2日間にわたり会議を開催した(甲125の1及び2)

平成23年12月5日の会議では,実液試験についての被告からの報告及びRINXに関する話合いが主な議題とされた。被告は,同日の会議の
後,同時点におけるRINXのフローチャートをアバンテック社に送付した。同フローチャートには各設備の担当業者が記載されており,吸着塔装置については栗田工業,HIC及び脱水システム,シールディング・キャスク等についてはパーマフィックス社及びアバンテック社,その他の設備については被告が担当する旨が記載されていた。
(甲116の1の1~2

の2,甲125の1及び2)
平成23年12月6日の会議では,アバンテック社から,RINXについてpH調整用コンポーネントの数を減らすことが望ましい等のコメントがされたほか,アバンテック社が提案するシステムについての話合いも行われた。また,今後やるべきこととして,①アバンテック社は被告が送付した質問事項に回答をする,②アバンテック社は,吸着剤の脱水及びスラッジの脱水試験の結果を被告に提供する,③栗田工業は吸着塔の図面を
パーマフィックス社及びアバンテック社に提出し,アバンテック社はその内容をレビューすることなどが決定された。
(甲125の1及び2)

被告は,平成23年12月7日,新たなフローチャート(以下「12月7日付けフローチャート」
という。を作成した。

同フローチャートには,
各設備の担当業者が記載されており,吸着塔装置については栗田工業,廃
吸着剤保管容器及び脱水装置についてはパーマフィックス社及びアバンテック社,その他の設備については被告が担当する旨が記載されていた。(甲101)

被告は,平成23年12月9日,アバンテック社に対し,12月7日付けフローチャートに変更を加えた12月9日付けフローチャートを送付
した。●(省略)●12月9日付けフローチャートにおける各設備の担当業者の記載は12月7日付けフローチャートのものとおおむね同様であったが,12月9日付けフローチャートには,廃スラッジ保管容器及び脱水装置についても,パーマフィックス社及びアバンテック社が担当する旨が記載されていた。
(甲127の1の1及び2,甲127の2)


被告は,平成23年12月14日までに,アバンテック社に対し,原告の吸着剤であるSr4000及びCs4000のほか,原告の吸着剤ではない吸着剤であるSrTreat,Read-B等を含む複数の吸着剤を提供して,脱水試験を依頼し,アバンテック社は,提供を受けた吸着剤に
ついて,アバンテック社の脱水プロセスとの適合性を確認するための脱水試験を行った(甲128の1及び2,甲204の1及び2,甲231の1及び2)

アバンテック社は,平成23年12月14日,提供を受けた各吸着剤とアバンテック社の脱水システムは相性が良いとの結果が得られた旨を被告に連絡した(甲128の1及び2,甲204の1及び2)
。また,アバン
テック社は,同月16日付けで,同脱水試験の結果についての報告書を作
成した。同報告書では,Sr4000やCs4000を含むビーズ状吸着剤では,処分容器の底に一列の脱水口が設けられた脱水容器を用いることにより,約3分半以内で脱水を終えることができ,これらについては,標準的なビーズタイプの脱水機能搭載高性能容器(HICs)を使用することを提案するとし,Sr-Treatなどの粒状吸着剤については,脱水
に要する時間が7分以内のものについて,複数の脱水口が設けられた粒状タイプ用脱水容器による脱水が可能であるとの結論に至ったとして,これらについては,複数の列の脱水口が設けられた高性能容器(HICs)を使用することを提案するとしている。
(甲231の1及び2)


アバンテック社は,平成24年1月3日,被告に対し,同日付けのエンジニアリング通信シート(ECS)を電子メールにより送付した(甲129の1の1~2の2)

同ECSには,アバンテック社がRINXの性能向上に役立つデータ等の収集を目的とした試験プログラムを進めていること,被告はRINXフ
ローチャートの最適化を実現できていないこと,多くの種類の吸着剤及び薬剤並びにpH調整プロセスは,十分な技術的思想や根拠による裏付けがなく,非効率的な方法がとられているように思われることなどが記載されていた。また,同ECSにはRINXフローチャートに関するコメントが添付されており,①pH調整の回数が多すぎるため,よりシンプルな方法
等を検討すること,②吸着塔の数を減らすこと等が提案されていた。(甲
129の2の1及び2)

被告は,平成24年1月16日,新たなフローチャート(以下「1月16日付けフローチャート」という。
)を作成した。同フローチャートは,1
2月9日付けフローチャートと多核種吸着塔の配列が異なっており,試薬供給設備や圧縮空気供給設備,補給水供給設備等に関するフローが追加されていた。なお,各設備の担当業者の記載は,12月9日付けフローチャ
ートのものと同様であった。
(甲102)

被告は,平成24年1月23日,アバンテック社に対し,栗田工業による納品が予定納期に間に合わない場合には,アバンテック社にコンポーネントの提供を依頼する予定であることを連絡した(甲132の1及び2)。

また,被告は,同日,アバンテック社に対し,
「RINX設計用の技術情報
になりますので,諸条件をご確認ください。
」として,●(省略)●

被告は,平成24年1月28日,アバンテック社に対して電子メールを送信し,栗田工業は予定納期に納品を間に合わせることができないと思われるため,アバンテック社の提案に基づいて東京電力に対する提案を行う旨決定したことを連絡した(甲132の1及び2)



被告は,平成24年2月3日に東京電力に対し,RINXに関するプレ
同プレゼンテーションの際の資料には,全体プロジェクトマネジメント及び据付は被告が担当し,前処理設備は栗田工業,パーマフィックス社及びアバンテック社が担当すること,多核種除去塔及び付属設備はパーマフィックス社及びアバンテック社が担当し,吸着剤は原告が提供すること,放射性廃棄物安定化貯蔵設備及び保管容器はパーマフィックス社及びアバンテック社が担当すること,アバンテック社は,SARRYを含め,米国内外で放射性廃液処理を含む様々な廃液処理設備の設計,納入実績を有
するエンジニアリング・製造会社であり,
RINXでは吸着塔,
保管容器,
脱水設備,運転制御システムを含む主要設備の設計,製造を行うこと等が記載されていた(甲8の1)


被告は,
平成24年2月17日に平成23年プロジェクトを失注した
(前
記前提となる事実





被告は,平成24年2月27日,アバンテック社に対し,将来的な協力関係も見据えた上で,感謝の気持ちを表すべく,平成23年プロジェクト
につきアバンテック社に発生した費用の一部として4万米国ドルを支払う旨を連絡した(甲206の1及び2)

争点

原告は,被告がアバンテック社に対し前記第2の3


ア(被告によるアバンテック社への情報の開示の有無)について
原告の主張欄ア

に記載した情報を開示したと主張する。
このうち,前記

イ,オ,サ,シ及びソによれば,被告がアバンテック

社に対し,①11月2日付けフローチャートを開示したこと(前記第2の
対し,●(省略)●
の吸着剤であるSr4000及びCs4000を提供

れる。

原告は,被告によるアバンテック社に対する情報の開示について,上記に加え,㋐アバンテック社の11月13日付け意見書に対するコメントにおいて,pH調整に関する情報をアバンテック社に対して開示した(前記第2の3

原告の主張欄ア

)㋑平成23年11月17日に被告とアバン


テック社との間で行われた電話会議において,アバンテック社に対して原告情報を開示した
(同
)㋒平成23年12月5日及び6日にアバンテッ


ク社及び栗田工業との間で行われた会議において,
アバンテック社に対し,
実液試験の結果を開示した
(同

)㋓平成24年1月3日にアバンテック


社からECSの提供を受け,同日以降のアバンテック社とのやり取りの中で,アバンテック社に対して原告情報を開示した(同

)と主張する。

しかし,アバンテック社の11月13日付け意見書に対する被告のコメントにおいては,pH調整に関する事項として,アバンテック社の意見を踏まえ,沈殿処理の後にpH調整を実施する案を検討する旨が記載されているのみであり,RINXモデルにおけるpH調整についての情報が記載されていたとは認められない。したがって,上記㋐の事実を認めることはできない。
また,平成23年11月17日に被告とアバンテック社との間で行われ
た電話会議において,被告がアバンテック社に対し原告情報を開示したことを認めるに足りる証拠はなく,上記㋑の事実を認めることはできない。上記㋒については,被告とアバンテック社及び栗田工業が平成23年12月5日及び6日に会議を行い,同月5日の会議の際に,被告から実液試験に関する報告がされたことが認められる(前記3

ケ)
。しかし,同日の

会議の際に,被告からアバンテック社に対して原告の吸着剤を使用した場合の具体的な数値等が開示されたことを裏付ける証拠はない。むしろ,被告は,上記会議に先立つ同年11月18日に被告がアバンテック社に対して送付した電子メールにおいて,原告との間で本件秘密保持契約を締結しているため,実液試験の試験データをアバンテック社に対して開示するこ
とはできない旨を伝えているのであり
(同キ

)アバンテック社に対し,


原告の吸着剤に係る実液試験の情報を開示しない旨を明らかにしていた。原告は,上記電子メールにつき,実液試験の試験データを電子メールで開示することはできないため,対面の会議を提案する趣旨のものであると主張するが,上記電子メールは日程の提案をしたものと解され,同文面から原告主張の趣旨を読み取ることはできない。したがって,上記㋒の事実を認めることはできない。
上記㋓については,被告がアバンテック社に対して開示したとされる情報の内容が特定されておらず,被告による原告情報の開示を認めることはできない。
したがって,
上記㋐~㋓に関する原告の主張は採用することができない。
争点

ウ(被告によるアバンテック社への情報開示についての図利加害目
的の有無)について

前記によれば,被告は,アバンテック社に対して平成23年11月から平成24年1月にかけて,前記

ア①~⑤の情報を開示した。これらの情
報の開示がされた当時の状況をみると,前記1
イ~エ及び前記

で認定

した各事実によれば,被告は平成23年プロジェクトの受注を目指していたこと,平成23年プロジェクトにおいて発注が予定されていた平成23年多核種除去設備は複数の設備からなること,原告及び被告が平成23年プロジェクトに関する協議を開始した平成23年10月頃から,被告が平成23年プロジェクトを受注した場合,上記各設備の製造は原告以外の業
者が担当するものとされていたこと,同年12月10日に締結された本件パートナーシップ契約に基づき被告が平成23年プロジェクトを受注した場合,原告の吸着剤を使用することになること,アバンテック社は,同年11月頃から放射性廃棄物安定貯蔵化設備に必要となる使用済み吸着剤の保管容器等の製造業者として平成23年プロジェクトの受注に向け
て被告と協議を始め,同年12月6日までには,栗田工業が担当する吸着塔装置の設計内容を評価することとされ,平成24年1月末頃までには,廃スラッジの保管容器等及び吸着塔の設計,製造も担当することとなったことが認められる。
そして,平成23年プロジェクトの内容に照らせば,被告が東京電力か
ら平成23年プロジェクトを受注するには,使用する吸着剤の種類や吸着塔配列,核種除去に適した前処理方法やpH調整等を提案するのみでは足りず,これらの諸条件に適合した吸着塔や放射性廃棄物安定貯蔵化設備等,多核種除去設備を構成する全ての設備を設計し,製造可能な状態とする必要があった。
これらを前提として,被告によるアバンテック社への上記情報の開示がどのような目的でされたものであるかについて,以下,検討する。

被告がアバンテック社に対して提供した11月2日付けフローチャートは,多核種除去設備全体
平成23年多核種除去設備は複数の設備により構成されるものであり(同ア)平成23年プロジェクトに携わる予定の各業者においては,,

のような設備を担当することになるかを認識している必要があるし,また,
設備全体の概要を認識している必要がある場合があると認められる。被告は,当時,Ca/Mg/Sr除去システムにおけるスラッジ保管ヴェッセルや多核種除去システムにおける破棄(使用済)吸着剤保管ヴェッセルという設備を設け,これらの製造をアバンテック社が担当する
ことを考えていた。アバンテック社が上記担当の可否を決定するためには,どのような設備を製造するかが明らかでなければならないといえるから,被告は,アバンテック社が上記設備の製造を担当して,被告が平成23年プロジェクトを受注するためには,アバンテック社に対して,アバンテック社がどのような設備の製造を担当するかを示す必要があり,
そのため,アバンテック社が担当することが想定される設備が記載された11月2日付けフローチャートを示す必要があったといえるし,また,
その設備は他の設備とも当然に関係することからも,設備の概要を示す必要があったといえる。そして,11月2日付けフローチャートは,廃液処理システムの概要を示すものであって,吸着塔配列等の具体的な記
載はなく,被告は,上記のために,必要な範囲の情報に限りアバンテック社に示したといえる。
被告は,アバンテック社の11月13日意見書に対し,平成23年11月16日,●(省略)●吸着剤の寿命を長くすると吸着剤の交換頻度が低くなるため,運転コストが下がるとともに使用済み吸着剤の発生量が少なくなることは明らかであるから,吸着剤の寿命は,運転コストのみならず,使用済み吸着剤の発生量にも関係するものと認められる。そして,被告が上記コメントをアバンテック社に対して送付した時点において,アバンテック社は使用済み吸着剤の保管容器等の製造を担当するとされており,また,同社が廃スラッジの保管容器等を製造することについても検討が開始されていたのであるから
(前記

イ)多核種除去に


より発生するスラッジや使用済み吸着剤の多寡に関係する情報は,アバンテック社にとって,アバンテック社が製造を担当することとなる保管容器の数,性能等を検討する上で必要な情報であり,被告とアバンテック社との間でスラッジや使用済み吸着剤の発生量等につき協議をするためにも必要な情報であるといえる。

被告は,平成23年プロジェクトを受注するためには,使用済み吸着剤の保管容器等の設計を行うアバンテック社に対して同設計等に必要な範囲の情報を提供する必要があり,
そのため,
アバンテック社に対して,
上記の情報を提供したと認められる
被告がアバンテック社に対して提供した12月9日付けフローチャ
ートは,廃液処理の流れとして,●(省略)●ことが記載されていた。このときまでに,アバンテック社は,従前の経験等を踏まえて,吸着塔の配列等について被告に意見を述べるほか廃液処理システムのフローチャートを原告に示し(前記

エ)
,原告はアバンテック社に対して,吸

着塔を担当することが予定されていた栗田工業のシステムの技術的な評価について協力を求めたいことや栗田工業の準備ができない場合に備えてアバンテック社のシステムを検討したいことを伝えていて
(同オ)栗

田工業が作成した吸着塔の図面の内容もアバンテック社が評価することが決まっていた(同ケ)

そうすると,アバンテック社は,吸着塔の配列も含めて被告に対して助言をすることや,また,吸着塔の製造等を担当することも想定されていた。アバンテック社が上記の役割を果たすためには,被告が検討している吸着塔の配列等が示された12月9日付けフローチャートは必要なものであったといえる。そうすると,被告は,アバンテック社が上記の役割を果たして吸着塔に関する事項も含めて適切な助言,設計等をすることで被告が平成23年プロジェクトを受注することができるようにす
るため,アバンテック社に対して12月9日付けフローチャートを示したといえる。
被告は,アバンテック社に対し,原告の吸着剤であるSr4000及
平成23年多核種除去設備において,使用済み吸着剤の保管容器は,核種除去後の使用済み吸着剤を収容して貯蔵するものであるから,多核種除去設備において使用される吸着剤に適合する性質を有することが必要である。また,脱水装置は,使用済み吸着剤を保管容器に収容するための処理を行うものであるから,脱水装置についても,多核種除去設備において使用される吸着剤の処理に適するものである必要がある。そう
すると,使用済み吸着剤の保管容器及び脱水装置の製造を担当する業者においては,多核種除去設備で使用される予定の吸着剤の性状等を把握し,当該吸着剤が自らの製造する保管容器及び脱水装置に適合するかを検討する必要があったといえる。そして,被告は,平成23年プロジェクトにおいて原告の吸着剤を使用することを考えていて,使用済み吸着
剤の保管容器及び脱水装置はアバンテック社が製造することが想定されていたから,アバンテック社は,原告の吸着剤につき,アバンテック社が製造する脱水装置による処理に適合し,同社が製造する保管容器への収容に適するものであるかどうかを確認する必要があった。
被告は,アバンテック社に対し,原告の吸着剤だけでなく,多核種除去設備において使用することを検討していた原告の吸着剤以外の吸着剤も,アバンテック社において脱水試験を行うために提供しこれらの吸着剤は,現実に,アバンテック社において保管容器等に収容するための脱水試験に使用され,それらの吸着剤がアバンテック社の設備に適合する
剤を独自に製造するために原告の吸着剤の性状等の分析を行うなど,使用済み吸着剤の保管容器等の製造以外の目的で,被告が原告の吸着剤を提供したとか,アバンテック社がその提供を受けたという事情は一切うかがわれない。
これらの事情に照らせば,被告は,アバンテック社に対して試験目的で原告の吸着剤を提供する必要があり,平成23年プロジェクトを被告
が受注する目的で,その提供をしたと認められる。
被告は,アバンテック社に対し,平成24年1月23日付けの電子メ
被告は,アバンテック社に吸着塔のコンポーネントの設計等を依頼する場合に備え,アバンテック社に対し,設計のための技術情報としてpH調整値を開示した
(同上)吸着塔のコンポーネントの設計等に当たっ

ては,吸着塔に通水される対象水の性質を把握する必要があるから,これらの情報が当然に必要であったと認められる。そうすると,上記電子メールの情報は,アバンテック社が吸着塔のコンポーネントの設計等をするに当たって,必要な情報であったといえる。そうすると,被告は,
アバンテック社が適切な吸着塔の設計等を行い,平成23年プロジェクトを被告が受注するために,上記情報をアバンテック社に開示したと認められる。

以上によれば,被告による前記アの各情報は,いずれも,平成23年プロジェクトを被告が受注した場合に平成23年多核種除去設備に係る設備を製造することが想定されていたアバンテック社に対し,同設備の設計等のために必要な範囲の情報について,アバンテック社が適切な設計等を行
い,平成23年プロジェクトを被告が受注するために開示されたものであると認められる。被告が上記のために必要な範囲を超えた情報をアバンテック社に開示した事実は認められず,本件全証拠に照らしても,被告によるアバンテック社への情報の開示につき,平成23年プロジェクトの受注以外の不当な目的があったことは何らうかがわれない。

そして,被告が平成23年プロジェクトを受注すれば,原告が被告に対し多核種除去のための吸着剤を供給することなどが想定されていたから,平成23年プロジェクトを被告が受注することは,原告の利益でもあった。これらによれば,前記アの被告によるアバンテック社に対する情報の開示は,いずれも,図利加害目的(不正の利益を得る目的又は原告に損害を
加える目的)でされたものであるということはできない。

原告は,原告情報が原告以外の者から入手できないものであったこと,原告と被告の間には信頼関係がないことから,被告は原告から開示を受けた営業秘密をいかなる理由であっても第三者に対して無断で開示しない信
義則上の義務を負っていたと主張し,また,被告がアバンテック社との間で情報のやり取りを行う一方,原告に対しては,アバンテック社と接触がないように装っていたことを挙げ,被告による開示行為には図利加害目的があると主張する。
しかし,被告が,平成23年プロジェクトを受注するために上記情報を
開示し,また,その範囲も必要な範囲に限られていたといえることを考えると,被告において不正競争防止法の図利加害目的があったということはできない。原告から見て被告がアバンテック社と接触がないように装っていたと思われる行動があったとしても,上記に述べたところに照らし,そのことにより直ちに被告の図利加害目的を認めることはできない。オ
以上によれば,被告がアバンテック社に対して開示した情報に原告の営業秘密が含まれるか否かを検討するまでもなく,被告がアバンテック社に
対して原告の営業秘密を不正に開示したとする原告の主張は,採用することができない。
5
争点

(アバンテック社に対する情報の開示による本件パートナーシップ契
約及び本件秘密保持契約の違反の有無)について
争点


ア(本件パートナーシップ契約違反の有無)について

原告は,被告がアバンテック社に対してCs4000及びSr4000を提供したこと並びに平成24年1月23日にpH調整に関する情報を開示したことが本件パートナーシップ契約第9条第2文及び第16条が引用する別紙Gの第
しかし,前記3

の守秘義務の違反に当たると主張する。
で説示したとおり,本件パートナーシップ契約は,被

告が平成23年プロジェクトを失注したことにより本件停止条件条項に定める停止条件の不成就が確定したため,効力が生じていないものと認められる。したがって,本件パートナーシップ契約に基づく原告の主張は採用することができない。

仮に,上記各条項が本件停止条件条項に服さないとしても,本件パートナーシップ契約第9条第2文は,
「HGNE(判決注:被告)は,Purolite
CoreTechnologyを,本プロジェクトの目的にのみ使用するものとし,それ以外の如何なる目的のためにもこれを使用しない。旨を定める

(甲4の
1及び2)
。そして,同契約における「本プロジェクト」が平成23年プロ

ジェクトに係る多核種除去設備の設置及び同設備による汚染水処理プロジェクトを意味することは前記1
で説示したとおりであり,被告による

アバンテック社への情報開示は,前記4で説示したとおり,平成23年プロジェクトを被告が受注するためにされたものであり,被告が平成23年多核種除去設備を設置するために必要な範囲の情報開示であったと認められる。そうすると,被告がアバンテック社に対して開示した情報に本件パートナーシップ契約に定めるPuroliteCoreTechnologyに含まれるも
のがあるとしても,被告によるアバンテック社への情報の開示は,同条において禁止されているPuroliteCoreTechnologyの目的外使用には該当しないというべきである。
また,
本件パートナーシップ契約第16条が引用する別紙Gについては,本件パートナーシップ契約の締結時において,原告と被告との間で別紙G
として秘密保持に関する何らかの定めを設けることを合意していた事実は認められる(前記前提となる事実

イ,前記第3の1



。しかし,

別紙Gの草案は,具体的で詳細な定めを設けているところ(甲11の6の1及び2)
,原告が作成した別紙Gの草案については署名がされておらず,
当該草案の内容について当事者間に合意が成立していたと認めるに足り
る証拠もない。したがって,別紙Gの違反に関する原告の主張は採用することができない。
ウ以上によれば,被告によるアバンテック社への情報の開示が本件パートナーシップ契約に違反するものであるとは認められない。
本件秘密保持契約違反の有無)について


本件秘密保持契約には,
以下の規定が設けられている
(甲6の1及び2)

なお,以下の規定中,「Purolite」は日本ピュロライトを,「HGNE」は被告を指す。


第1条(秘密情報)
1.1

本契約において,「秘密情報」とは,Purolite又は
HGNEのいずれか該当する方
(以下
「開示当事者」
という。

が相手方当事者(以下「受領当事者」という。)に対し,第2
条に従い開示した情報をいう。
1.
2
以下のいずれかに該当する情報は,
秘密情報とはみなさない。
本契約の締結前に既に公知であった情報又は受領当事者によ
る本契約の違反によらずして公知となった情報

受領当事者が既に保有しており,かつ,開示当事者以外の者
から適法に入手した情報
受領当事者が秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に
受領した情報
受領当事者が秘密情報とは無関係に独自に開発した情報

第2条(秘密情報の特定)
2.1

開示時に開示当事者が明示的に秘密であることを示していな
い限り,秘密情報とはみなさない。

2.2

秘密情報を書面により開示する場合には,当該書面には,開
示の日付とともに,対象たる情報が本契約に基づき開示された

秘密の情報である旨を記載し,かつ,「CONFIDENTI
AL(秘密)」等の適切な表示を付さなければならない。書面
を伴わない口頭又は視覚的な方法による開示を行う場合には,
その後10暦日以内に当該開示内容を書面にまとめて記録に残
さなければならない。かかる書面には,開示された情報の秘密

部分の具体的な内容,開示の日付及び秘密性に関する適切な表
示を記載しなければならない。
2.3

開示当事者は,秘密情報を電子データ(電子的・電磁的記録
媒体を含む。)により開示する場合には,当該情報が秘密情報

であることを受領当事者において容易に認識できるように適切
な手段を講じる。開示当事者は,その他の記憶媒体により秘密
情報を開示する場合には,受領当事者に対して当該情報が秘密
情報であることを知らせるために,記憶媒体そのもの又は記憶
媒体に付したレターにその旨を表示しなければならない。
第3条(秘密情報の取扱い)
3.1

受領当事者は,開示を受けてから10年間,秘密保持に関す
る下記の義務を遵守しなければならない。
受領当事者は,秘密情報の秘密を保持するものとし,開示当
事者の書面による承諾がない限り,いかなる者,会社,企業又
は法人(本目的のために秘密情報の閲覧を合理的に必要とする
受領当事者の従業員を除く。)に対しても,秘密情報を開示し

ないものとする。(後略)
受領当事者は,本目的のためにのみ秘密情報を利用すること
ができる。
(略)
第8条(違反)

両当事者は,本契約に基づく秘密保持義務の違反が開示当事者に対して回復不能な損害を与える可能性があることを確認し,これに同意する。受領当事者は,本契約に基づく秘密保持義務の違反のおそれがある場合には,開示当事者が法律に定めるあらゆる権利又は救済(損害賠償請求権を含む。)に追加する形で本契約に基づく受領当事者の
義務の履行・遵守の実現を目的とした特定履行又は差止命令を求める権利を有することに合意する。」

原告は,被告がアバンテック社に対して11月2日付けフローチャートを開示したこと,アバンテック社の11月16日付け意見書に対する回答
において前処理に関する情報を開示したこと,12月9日付けフローチャートを開示したことが,本件秘密保持契約に違反すると主張する。しかし,本件秘密保持契約は日本ピュロライトと被告との間で締結されたものであり
(前記前提となる事実

)原告は同契約の当事者とはなって


いない。したがって,原告の請求のうち,同契約の違反を理由として原告が被告に対して損害賠償を求める部分は,その余を判断するまでもなく理由がない

なお,本件秘密保持契約は,第2条において,当事者が開示した情報が本件秘密保持契約の対象となる秘密情報に該当するための要件を詳細に定めているところ
(前記ア)被告がアバンテック社に対して開示した情報

が当該要件を満たすものであることについての主張はないし,また,これを認めるに足りる証拠もない。


したがって,本件秘密保持契約違反に関する原告の主張は採用することができない。

6
結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず
れも理由がない。
東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官

柴田義明
裁判官

萩原孝基
裁判官

林雅子
(別紙省略)

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