判例検索β > 平成30年(ネ)第10004号
職務発明対価請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)10004
事件名職務発明対価請求控訴事件
裁判年月日平成30年6月5日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)39690
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平成30年6月5日判決言渡

同日原本領収

平成30年(ネ)第10004号

裁判所書記官

職務発明対価請求控訴事件

原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第39690号
口頭弁論終結日

平成30年5月15日
判控被決訴控人人訴X
新日鐵住金株式会社

同訴訟代理人弁護士

茂善仁緒方彰人三浦聖爾青主加山雄一文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成28年12月13
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

4
仮執行宣言

第2
1
事案の概要等
事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)
本件は,控訴人が,被控訴人に対し,①主位的に,職務発明規程により職務発明である●●●●●●●●●●●●●●●●に関する発明(本件発明)について被控訴人に特許を受ける権利を取得させたとして,特許法35条(平成27年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく相当の対価●●●●●●●●●の一部である1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②予備的に,黙示の合意により,本件発明について被控訴人に特許を受ける権利を譲渡したとして,同合意に基づく相当の対価の一部として,上記①と同額の支払を求める事案である。
原審は,本件発明は被控訴人における従業者の発明(職務発明)には当たらず,本件発明について特許を受ける権利を被控訴人に譲渡するとの黙示の合意があったとも認められないとして,控訴人の請求を棄却した。
そこで,控訴人が原判決を不服として控訴した。
2
前提事実

原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。3
争点

原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。第3

争点に関する当事者の主張

次のとおり,
当審における当事者の主張を付加するほか,
原判決
「事実及び理由」
の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。
1
争点(1)(本件発明は,被控訴人との関係で職務発明に当たるか)について
〔控訴人の主張〕
控訴人は,平成14年1月,被控訴人の要望に応えて,喫水検査の立会業務(厳正化)の基本理念を作成・提案した(甲66)。また,控訴人は,平成17年7月,被控訴人の取締役に対し,
喫水検査の立会業務
(厳正化)
の復活を提唱したところ,
これが容れられ,被控訴人は,控訴人個人に対し,喫水検査の厳正化に係る業務等を命じた(甲38,75の1,78の1~3)。さらに,被控訴人は,控訴人に対し,喫水検査の厳正化・是正活動について直接指示し(甲16,75の2),控訴人は,被控訴人に対し,直接その費用を請求した(甲18)。控訴人の名刺にも,被控訴人の喫水検査チームの肩書が付されている
(甲76)加えて,

被控訴人は,
自らの費用で,本件発明に関する広報活動もしている(甲32)。被控訴人は,完全子会社である日鐵テクノリサーチの従業員である控訴人を,被控訴人の組織に組み込んで,指揮命令していたものである。
一方,控訴人は,日鐵テクノリサーチにおける業務としては,喫水検査の是正管理業務(本件発明に関する業務)に従事していない(甲19,22)。控訴人は,日鐵テクノリサーチの係・課には属しておらず(甲23),日鐵テクノリサーチにおいて喫水検査のことを理解している者は,
控訴人以外にはいなかった
(甲65)

日鐵テクノリサーチが被控訴人から委託を受けた業務は,原料の検量(検量業務)にとどまり,本件発明に関する業務(鑑定業務)は含まれていない(甲35)。本件発明のような喫水検査の是正活動は,日鐵テクノリサーチの業務ではなく,被控訴人の業務である。したがって,控訴人は,日鐵テクノリサーチの業務とは無関係に,本件発明をするに至ったものである。
〔被控訴人の主張〕
被控訴人は,日鐵テクノリサーチに対し,間接又は直接に,喫水検査の是正管理業務を委託していた。このため,被控訴人が,日鐵テクノリサーチに対し,同業務の基本的方針ないし計画の策定や実行管理のため必要な報告を求めたり,策定された基本的方針等に基づいて必要な指図をしたりすることはあったが,かかる指図等は,業務委託契約の当事者間で行われたものにすぎない。これをもって,被控訴人から控訴人個人への直接の指揮命令に当たるなどとはいえない。控訴人は,日鐵テクノリサーチの業務について,その従業員として,被控訴人に報告等をしてきたものである。控訴人は,控訴人個人として行動したものではなく,報告書等も日鐵テクノリサーチ名義で作成している。被控訴人が本件発明に関する広報活動をしたことはない。日鐵テクノリサーチが,喫水検査の内容の妥当性について評価を受けるために検査会社に費用を支払ったことがあるにすぎない。
また,控訴人は,日鐵テクノリサーチの営業技術グループに属しており,日鐵テクノリサーチには,控訴人以上に,喫水検査の是正管理業務について理解する者がいなかったにすぎない。被控訴人は日鐵テクノリサーチに「喫水検定管理実務」を委託し,委託業務には,原料の検量に関わる業務や「喫水検定項目が適切に行われていることの確認及び指導業務」が含まれていた。原料の重量の検量も,喫水検査から算出されるものである。喫水検査の「厳正化」業務と「是正,研究」に係る業務について特段の区別はされていない。控訴人は,日鐵テクノリサーチが被控訴人から委託を受けた日鐵テクノリサーチの業務に関して,本件発明をするに至ったものである。
2
争点(2)本件発明に係る特許を受ける権利を被控訴人に承継させる旨の合意(

が控訴人・被控訴人間にあったか)について
〔控訴人の主張〕
控訴人は,平成21年3月6日,被控訴人に対し,●●●●●●●●●●●●●に関する報告書(甲3)を提出し,その承認と承継を済ませた。控訴人と被控訴人との間では,同日頃,本件発明に係る特許を受ける権利を承継させる旨の合意が成立したものである。
〔被控訴人の主張〕
●●●●●●●●●●●●●に関する書面(甲3)には,報告,上申等に係る記載は一切なく,同書面は単なる業務のまとめ資料にすぎない。同書面は,被控訴人の従業員と日鐵テクノリサーチの従業員が出席した会議において,日鐵テクノリサーチが業務の成果報告として提出した資料である。
3
争点(3)(特許を受ける権利の承継に係る相当対価額はいくらか)について
〔控訴人の主張〕
測深管内の水面変動は衝撃波によって300mm~500mmと大きいのに対し,オイルタンク内では僅か3mm程度の水面波の動きがあるだけである。●●●●●●●●●●●●とタンク内の石油類の測定とでは,この点において相違するから,本件発明は進歩性を有する。
〔被控訴人の主張〕
本件発明は,本件発明前から公然実施されていたタンク内の石油類の測定方法に係る当業者の技術常識と,巻尺が底に到達したら,直ちに素早く引き上げるという公知技術(乙8)に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるから,進歩性を欠く。
なお,オイルタンク内の液面の動揺は,3mm程度ではない。また,控訴人主張に係る相違点は程度の違いにすぎず,実質的相違点にはならない。第4

当裁判所の判断

当裁判所も,本件発明は被控訴人における従業者の発明には当たらず,本件発明について被控訴人に特許を受ける権利を譲渡するとの黙示の合意があったとも認められないから,控訴人の請求は理由がないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1
本件発明について

本件発明の特徴は,以下のとおりである(甲3,41,乙1,2)。●(省略)●
2
認定事実

前記前提事実,証拠(甲1,4のほか,各項末尾記載のもの。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)

控訴人の職務内容等
控訴人は,昭和43年4月1日,被控訴人の前身に当たる八幡製鐵株式會社
に入社し,
昭和55年頃から,
喫水検査の立会業務に従事するようになった。
なお,
喫水検査とは,船積貨物の積込み又は陸揚げ前後の船舶の喫水量の差から貨物の重
量を算出するに当たって行われるものであり,港湾運送事業法上の鑑定人ないし鑑定事業の許可を受けた事業者が行うものである。(甲12,49,63)イ
控訴人は,平成9年7月1日,それまで勤務していた被控訴人から,被控訴
人の100%子会社であった日鐵テクノリサーチに出向し,平成16年7月1日,日鐵テクノリサーチに転籍した。控訴人は,日鐵テクノリサーチにおいても,引き続き喫水検査に関与し,その管理業務に従事していた。
控訴人は,喫水検査に関与する中で,●●●●●●●●●●●●●の正確性などに疑問を抱くようになった。
(2)

本件発明に至る経緯
控訴人は,
平成17年1月頃,
鑑定事業等を行う事業者との研修会において,

測深テープが測深管に挿入されることに伴い,測深管内の水面が一時的に上昇する可能性がある旨指摘を受けた。なお,控訴人は,同研修会の議事録を,日鐵テクノリサーチの従業員名義で作成した。(乙5,6)

控訴人は,平成19年2月頃,●●●●●●●●●●●●●を含む喫水検査
の問題点とその正確性の向上のために必要な活動内容などを記載した文書を,日鐵テクノリサーチ名義で作成した。(甲5,39)

控訴人は,平成19年8月,日鐵テクノリサーチの上司に対し,喫水検査の
管理体制について長期計画が必要である旨の報告書を,日鐵テクノリサーチの従業員名義で作成した。なお,控訴人は,同報告書に,●●●●●●●●●●●●●の是正等に長期的に取り組む必要があることのほか,喫水検査の管理体制について被控訴人から日鐵テクノリサーチへなされた要望事項などを記載した。(乙7)エ
●(省略)●


控訴人は,平成20年3月7日,被控訴人の担当者とともに,鑑定事業等を
行う事業者を訪問し,●●●●●●●●●●●●●として,測深テープを素早く挿入し,底部に到達後,素早く巻き上げる測定方法を採用するよう求めるなどした。なお,控訴人は,同訪問の議事録を,日鐵テクノリサーチ名義で作成し,控訴人の所属先を日鐵テクノリサーチと,被控訴人の担当者Aの所属先を被控訴人と,記載した。(甲6)
(3)

本件委託契約の締結
被控訴人は,平成20年4月16日,日鐵テクノリサーチに対し,被控訴人
の製鉄所に入港する原料船の喫水検査に関する業務について,以下の業務等を委託した(本件委託契約)。控訴人は,日鐵テクノリサーチ側の担当者として業務委託契約書の作成に関わった。
(ア)

原料の検量に関わるデータの収集・解析・管理並びにその課題抽出及び改
善活動の実施
(イ)

原料の検量に立会同席した上での課題抽出及び改善提案

(ウ)

原料の検量等に関する船会社との打合せ及び検査会社の指導

(エ)

被控訴人の各製鉄所にて喫水検定項目が適切に行われていることの確認及
び指導業務
(オ)

その他上記に定める業務に付帯関連する業務
被控訴人の従業員であり喫水検査に関する業務を担当していたAは,本件委
託契約締結後,日鐵テクノリサーチの技術主幹であった控訴人や,喫水検査担当であったBに対し,
喫水検査に関する業務について,
指示し,
報告を求めるなどした。
また,被控訴人は,日鐵テクノリサーチに対し,上記業務委託契約に基づく委託料を支払うようになった。(甲16,23,32,63,65,75の2)(4)

本件発明の完成

●(省略)●
(5)

本件発明後の経緯
控訴人は,平成21年6月30日の定年退職後も日鐵テクノリサーチに再就
職をおおむね続けていたが,平成23年12月31日に日鐵テクノリサーチを退職した。

なお,平成21年6月30日現在における日鐵テクノリサーチ君津事業部の職務分担は,
君津事業部長兼営業技術グループリーダーがC,
技術主幹・班長が控訴人,
喫水検査担当者がBらというものであった。(甲23,63)

控訴人は,平成26年11月19日以降,本件発明を含む発明について,3
回にわたり特許出願を繰り返している。(甲41,乙1,2)
3
(1)

争点(1)(本件発明は,被控訴人との関係で職務発明に当たるか)について本件発明の特徴的部分に関する着想及びその具体化がなされた時期
●(省略)●
そうすると,控訴人は,平成19年頃から,本件発明の特徴的部分を着想し,その具体化を行い,これによって,平成21年3月頃に,本件発明を完成させたものということができる。
(2)

本件発明に対する被控訴人の関与
雇用関係

本件発明は,平成19年頃から平成21年頃までの間になされたものであるところ,前記認定事実(1)イ及び(5)アのとおり,控訴人は,その間,日鐵テクノリサーチと雇用関係にあったものであり,被控訴人との間には直接の雇用契約はなく,給与の支払も受けていなかったものである。

指揮命令関係

前記認定事実(2)アないしウ及びオのとおり,
控訴人は,
日鐵テクノリサーチにお
いて喫水検査に関与し,平成20年3月頃まで,●●●●●●●●●●●●●について,日鐵テクノリサーチの従業員の肩書で種々の調査研究活動を行い,その結果に関して,日鐵テクノリサーチの従業員名義で議事録や報告書を作成したり,日鐵テクノリサーチ名義で文書を作成したりしていたものである。そして,前記認定事実(4)のとおり,
控訴人は,
平成21年3月頃,
日鐵テクノリサーチの従業員名義で,
●●●●●●●●●●●●●●●である本件発明に関して報告書を作成している。
このように,控訴人は,本件発明に至るまで,●●●●●●●●●●●●●に関する業務について,日鐵テクノリサーチの従業員として一貫して行動していたものである。
そうすると,
控訴人が,
平成19年頃から平成21年頃までの間,
被控訴人から,
●●●●●●●●●●●●●●●●である本件発明の特徴的部分に関する着想やその具体化に当たり,直接,指揮命令を受けることがあったと解することは困難である。
また,控訴人が,平成19年頃から平成21年頃までの間,本件発明の特徴的部分を着想し,その具体化を行うに当たり,被控訴人から研究資材の提供を受けたことを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人の従業員から直接支援を受けたことを認めるに足りる証拠もない。

まとめ

以上のとおり,控訴人が本件発明の特徴的部分に関して着想し,その具体化を行った時期において,控訴人と被控訴人との間には雇用関係がなく,控訴人は被控訴人から給与の支払も受けていないこと,控訴人が被控訴人から,直接,指揮命令を受けることがあったとは解されず,人的物的資源の提供を受けたとも認められないことからすれば,本件発明は,被控訴人における従業者の発明に当たるということはできない。
(3)

控訴人の主張について
控訴人は,日鐵テクノリサーチにおける業務とは無関係に本件発明をするに
至ったと主張する。
証拠(甲19)によれば,控訴人の日鐵テクノリサーチにおける業務内容は,雇用契約上,明確に定められていなかったものと認められる。しかし,控訴人は,日鐵テクノリサーチにおいて長期間にわたり喫水検査の管理業務に従事しており,平成21年6月時点で技術主幹の立場にあったものである。そうすると,控訴人は,
本件発明がなされた際,日鐵テクノリサーチにおいて,喫水検査に関する業務,すなわち本件発明に関する業務に従事していたものというべきである。したがって,控訴人は,日鐵テクノリサーチにおける業務とは無関係に本件発明をするに至ったということはできず,このことは,本件発明は,被控訴人における従業者の発明に当たらないとの前記判断を裏付けるものである。

控訴人は,本件発明のような喫水検査の是正活動は,日鐵テクノリサーチの
業務ではなく,被控訴人の業務であると主張する。
まず,喫水検査に関する業務が,被控訴人の業務であったとしても,日鐵テクノリサーチも喫水検査に関する業務を行っていたのであるから,これをもって,本件発明が,被控訴人における従業員の発明であるということはできない。また,証拠(甲65)によれば,日鐵テクノリサーチにおいて喫水検査のことを控訴人以上に理解している者はいなかったことは認められるが,このことから,喫水検査に関する業務が,日鐵テクノリサーチの業務ではなかったということはできない。
なお,控訴人は,日鐵テクノリサーチは,喫水検査に関する業務のうち,喫水検査の厳正化業務(喫水検査の立会い業務)を行っていたが,本件発明のような喫水検査の是正業務は行っていないとの趣旨の主張をするものとも解されるが,喫水検査の厳正化業務と是正業務は密接に関連しており,峻別できるものではないから,同主張は採用できない。
したがって,本件発明のような喫水検査に関する業務も,日鐵テクノリサーチの業務に含まれるというべきであり,このことは,本件発明は,被控訴人における従業者の発明に当たらないとの前記判断を裏付けるものである。

控訴人は,本件発明をするに当たり,被控訴人から指揮命令を受けたと主張
する。
証拠(甲38,66)によれば,●●●●●●●●●●●●●等に関する調査研究業務は,
被控訴人の指示に基づき行われるようになったことが認められる。また,
被控訴人の従業員は,本件発明がなされた期間において,控訴人に対し,喫水検査に関する業務について,指示し,報告を求めることがあったことは,前記認定事実(3)イのとおりである。
しかし,被控訴人は,平成20年4月,日鐵テクノリサーチに対し,●●●●●●●●●●●●●に関する業務を含む業務を委託しており(本件委託契約),控訴人は日鐵テクノリサーチの従業員であったものである。また,控訴人の上司であって日鐵テクノリサーチの営業技術グループリーダーであったCは,控訴人が行っていた喫水検査に関する業務について,詳細を把握していなかったとしても,その概要は把握していたものである(甲63,65)。そうすると,被控訴人の従業員による上記指示等は,本件委託契約の委託者である被控訴人の従業員が,受託者である日鐵テクノリサーチの従業員に対し,本件委託契約の履行のために行ったものと解するのが自然である。本件発明のような喫水検査に関する業務が,日鐵テクノリサーチが平成20年4月に被控訴人から委託を受けた業務のうち,少なくとも,
「喫
水検定項目が適切に行われていることの確認及び指導業務」並びにこの「業務に付帯関連する業務」に含まれることは明らかである。控訴人が,被控訴人から,本件委託契約と離れて直接指示等を受けたと評価することはできない。なお,証拠(甲76)によれば,控訴人の名刺には,被控訴人の喫水検査チームの一員である旨の肩書が付されていたことは認められるものの,かかる肩書と並列して,日鐵テクノリサーチの技術主幹である旨の肩書も付されていたことが認められる。また,連絡先として日鐵テクノリサーチの住所,電話番号等が記載されていること,名刺裏面には日鐵テクノリサーチの名義に続けて,括弧書がされた上で,日鐵テクノリサーチが被控訴人のグループ企業である旨記載されていることからすれば,被控訴人の名義は,日鐵テクノリサーチが被控訴人のグループ企業であることを明示するために印字されたものと解することができる。そうすると,他社との業務を円滑に進めるために,控訴人の名刺には,その肩書として,被控訴人の喫水検査チームの一員である旨付されたものといえ,控訴人の名刺の肩書から,控訴人が,本件発明をするに当たり,被控訴人から指揮命令を受けていたと評価することは困難である。
したがって,控訴人は,被控訴人から,日鐵テクノリサーチを介さずに,直接,指揮命令を受けたということはできないから,控訴人の上記主張は採用できない。エ
控訴人は,本件発明をするに当たり,被控訴人から開発費用の負担や物的資
源の提供を受けたと主張する。
しかし,日鐵テクノリサーチの平成21年度予算計画案(甲18)は,被控訴人が,控訴人に,本件発明をするに当たっての金員を直接支出したことを証するものではない。被控訴人の平成19年度の喫水検査業務に関する予算案(甲32)も,被控訴人が喫水検査に関する業務について何らかの費用を支出したことを窺わせるにとどまる。
また,前記認定事実(4)のとおり,控訴人は,本件発明に関する実証データを,被控訴人の貨物を輸送する船舶上で採るなどしているものの,これをもって,控訴人が被控訴人から物的資源の提供を受けたといえるものではない。
したがって,控訴人が本件発明の特徴的部分を着想し,その具体化を行うに当たり,被控訴人が控訴人に対し人的物的資源の提供をしたことを認めるに足りる証拠はないというというべきである。

控訴人は,その他るる主張するが,いずれも,本件発明は,被控訴人におけ
る従業者の発明に当たらないとの前記判断を左右するものではない。(4)

小括

以上によれば,本件発明は,被控訴人における従業者の発明に当たるということはできない。
よって,争点(1)に係る控訴人の主張は理由がない。
4
争点(2)本件発明に係る特許を受ける権利を被控訴人に承継させる旨の合意(

が控訴人・被控訴人間にあったか)について

(1)

原判決「事実及び理由」の第3の2(1)記載のとおりであるから,これを引
用する。ただし,原判決17頁3行目「に加えて」から4行目「併せれば」を,「に
よれば」と訂正する。
(2)

控訴人は,
平成21年3月頃,
本件発明に係る方法に関して報告書を作成し

たことをもって,被控訴人に対し,本件発明について特許を受ける権利を承継させた旨主張する。しかし,前記認定事実(4)のとおり,控訴人は,従来知られていた方法と本件発明に係る方法とを比較した報告書を,日鐵テクノリサーチの従業員名義で作成したにすぎない。このような報告書の作成をもって,控訴人と被控訴人との間で何らかの合意があったと推認できるものではない。
(3)

小括

したがって,本件発明について被控訴人に特許を受ける権利を譲渡するとの黙示の合意があったとは認められない。
よって,争点(2)に係る控訴人の主張は理由がない。
5
結論

以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がない。控訴人の請求を棄却した原判決は,相当であるから,本件控訴は,これを棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

高部眞
裁判官

杉浦正
裁判官

片瀬規子樹亮
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