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奨学金返還期限猶予承認処分義務付け等請求事件
事件番号平成29(行ウ)4
事件名奨学金返還期限猶予承認処分義務付け等請求事件
裁判年月日平成30年5月29日
法廷名札幌地方裁判所
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平成30年5月29日判決言渡
平成29年(行ウ)第4号

同日原本領収

裁判所書記官

奨学金返還期限猶予承認処分義務付け等請求事件

口頭弁論終結日平成30年3月6日
判主決文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1
被告が平成29年1月11日付けで原告に対してした奨学金の返還期限を猶
予しない決定を取り消す。
2被告は,原告に対し,原告が被告に対して負っている別紙債務目録記載の債務について,別紙請求金額内訳書「返還期日」欄記載の各返還期日を8年延期する返還期限猶予を承認せよ。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,被告から奨学金の貸与を受けていた原告が,被告に対してその返還期限の猶予を願い出た(以下「本件願い出」という。
)ところ,被告から,本件願い
出には応じられない旨が記載された平成29年1月11日付け「ご回答」と題す
る書面(以下「本件書面」という。
)の送付を受けたことから(以下,被告が本件
書面によって,本件願い出に応じられない旨回答した行為を「本件不承認」という。,本件不承認が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提に,①本)
件不承認の取消し及び②奨学金の返還期限を8年間猶予することの承認の義務付けを求める事案である。

2関係法令等


独立行政法人日本学生支援機構法(以下「機構法」という。


機構法の目的及び被告の目的
機構法は,被告の名称,目的,業務の範囲等に関する事項を定めることを目的とする。
(1条)
被告は,
教育の機会均等に寄与するために奨学金の貸与その他学生等の修
学の援助等を行うことにより,我が国の大学等において学ぶ学生等に対する
適切な修学の環境を整備し,もって次代の社会を担う豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に資することなどを目的とする。
(3条)

被告の業務
被告は,3条の目的を達成するため,経済的理由により修学に困難がある優れた学生等に対し,奨学金の貸与その他必要な援助等を行う。
(13条1

項1号)

奨学金の返還期限の猶予
被告は,奨学金の貸与を受けた者(以下,奨学金の貸与を受ける者を「奨学生」といい,奨学金の貸与を受け,その奨学金を返還する義務を負う者を「要返還者」という。
)が災害又は傷病により奨学金を返還することが困難

となったとき,その他政令で定める事由があるときは,その返還の期限を猶予することができる。
(15条2項)


独立行政法人日本学生支援機構法施行令(以下「施行令」という。)
上記⑴ウの政令で定める事由は,大学,大学院,高等専門学校又は専修学校に在学することその他文部科学大臣の認めるやむを得ない事由があることと
する。
(6条)


独立行政法人日本学生支援機構に関する省令(以下「省令」という。)
被告は,奨学金の貸与を受けようとする者に対し,被告の定めるところにより,保証人を立てさせるものとする。
(25条)



業務方法書(平成16年4月1日文部科学大臣認可。甲1,乙10,11)ア
業務方法書の目的
業務方法書は,機構法3条に規定する目的を達成するため,独立行政法人通則法28条1項の規定に基づき,
被告の業務の方法についての基本的事項
を定め,
もってその業務の適正かつ確実な運営を図ることを目的とする。
(1
条)

保証契約
奨学生は,
被告が指定する保証機関又は自然人2人を保証人に立てること
を要する。上記保証機関又は自然人1人は,連帯保証人とする。
(10条1
項,2項)


返還期限の猶予
被告は,要返還者が以下の事由に該当する場合は,願い出により奨学金の
返還の期限を猶予することができる。
(24条1項)
生活保護法による生活保護を受けているとき。
(4号)
その他真にやむを得ない事由によって返還が著しく困難(特別の事情がある場合を除き,給与所得者は年間収入金額が300万円以下(給与所得者以外は年間所得金額が200万円以下)
とする。となったとき。5号)





奨学規程(平成16年規定第16号。乙9)

奨学生又は要返還者は,奨学金の貸与の開始から返還の完了までの間,所定の保証制度による保証(以下「機関保証」という。
)又は連帯保証人1人及
び保証人1人による保証(以下「人的保証」という。
)のいずれかの保証を受
けなければならない。
(5条1項)

人的保証を選択した奨学生又は要返還者については,返還が完了となる前に保証を受けられないこととなる場合には,新たな連帯保証人又は保証人を選任し変更の届出を行うか,機関保証を受けるものとする。
(5条2項)

人的保証を選択した者については,奨学金の貸与終了時に連帯保証人及び保証人と連署の上押印した返還誓約書等を直ちに提出しなければならない。(11条1項)

上記アに反し,連帯保証人及び保証人の変更を行わず機関保証も受けないときその他上記アで選択した保証が受けられなくなったとき,又は上記イに反し,返還誓約書の提出をしなかったときは,返還未済額の全部の返還等被告が指定する方法により返還させるものとする。
(25条)


奨学金の返還期限の猶予を受けようとする者は,その事由を明記した奨学金返還期限猶予願及びその事由を証明することのできる書類を提出しなければならない。
(29条1項,3項)



返還期限の猶予に関する施行細則(平成17年細則第3号。甲11~13。以下「施行細則」という。

上記⑸エに定める書類は,以下のとおりとする。
(3条1項5号,6号)


生活保護法による生活保護を受けているとき
生活保護受給証明書又は民生委員の証明書等


その他真にやむを得ない事由によって返還が著しく困難となったとき経済的に困窮している場合は,市町村の長が発行する所得を証明する書類又は住民税の課税証明書若しくは非課税であることの証明書等



返還期限猶予制度の運用に関する取扱要領(平成26年12月26日理事長決裁。甲15。以下「取扱要領」という。

延滞額を返還することが困難な状況にある者が,奨学金の返還期限の猶予を願い出る時点において,所定の事由のいずれかに該当し,所定の書類を提出する場合は,被告は,願い出た月以降に返還期日が到来する割賦金の返還期限を
猶予することができる。ただし,法的措置を実施した奨学金,債務名義を取得した奨学金等に係る割賦金は除くものとする。
(2条)
3前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。


当事者
原告は,平成17年4月,A大学人文学部に入学した。
(争いのない事実)


奨学金の貸与
被告は,平成17年4月から平成19年3月までの間,原告に対し,機構法に基づき,奨学金(利息付きの第二種奨学金)として合計150万円を貸与した。
(争いのない事実)

原告の退学
原告は,
平成19年7月,
金銭的な理由によりA大学を退学した。
その結果,
原告は,別紙債務目録記載の債務(以下「本件債務」という。
)について,被告
に対し,平成20年2月から平成33年1月まで毎月1万0349円(最終支払月は1万0378円)の支払義務を負うこととなった。
(争いのない事実)

原告は,上記大学を退学した後,収入を得ることが困難であったため,平成25年9月4日から生活保護を受給している。
(争いのない事実)


被告による債務名義の取得

原告は,かねてから,被告に対し,本件債務について返還期限の猶予の願い出をしていたところ,原告が提出した返還誓約書には保証人の連署がなか
ったことから,被告は,返還期限の猶予を認めず,平成27年7月3日,原告に対し,同月27日までに本件債務の全額を支払うよう請求し,原告は同日をもって本件債務につき期限の利益を喪失した。
(甲3,8,弁論の全趣
旨)

さらに,被告は,本件債務につき支払督促の申立てを行い(札幌簡裁平成27年(ロ)第3830号)
,平成27年11月6日,支払督促が発せられ,
これが確定した。
(甲2,弁論の全趣旨)


被告は,平成28年10月11日付け通知書により,原告に対し,同月21日までに原告からの連絡がなく,本件債務の支払も確認できない場合には,強制執行の申立てをする旨を通知した。
(甲10)



原告による奨学金の返還期限の猶予の願い出
原告は,平成28年11月4日,被告に対し,平成25年9月から生活保護を受給しており経済的に返済が困難であるとして,B市長が発行する所得証明書,生活保護受給証明書及び国民年金保険料免除・納付猶予・学生納付特例期間証明(申請)書を添えて,1年間奨学金の返還期限の猶予を希望する旨記載した奨学金返還期限猶予願を提出した(本件願い出)(甲4の1~8,甲5の。

1~7,甲6,7,弁論の全趣旨)
これに対し,被告は,原告に対し,平成29年1月11日付け「ご回答」と題する書面(本件書面)を送付し,上記奨学金返還期限猶予願を返却した(本件不承認)本件書面には,

本件債務については,
原告が所定の返還誓約書の提
出又は機関保証への変更を行わなかったため,既に期限の利益を喪失し,その
内容が債務名義として確定しているため,返還期限を猶予すべき返還期限未到来部分はなく,返還期限の猶予の対象にはならないことから,本件願い出には応じられない旨が記載されていた。
(甲8)
4争点


本件不承認の処分性



本件不承認の違法性

5当事者の主張


争点⑴(本件不承認の処分性)について
(原告の主張)


機構法15条2項は,要返還者が災害又は傷病により奨学金を返還することが困難なとき,その他政令で定める事由があるときは,その返還期限を猶予することができると規定し,施行令6条は,上記の政令で定める事由として,
文部科学大臣の認めるやむを得ない事由があることとすると規定している。

そして,被告の業務の方法について定めた業務方法書は,要返還者が同条各号の一に該当し,
所得証明書その他の被告が定める書類を添えて願い出た
場合は,当該願い出のあった奨学金について,被告は返還の期限を猶予することができると規定し(24条)
,返還期限の猶予の願い出において虚偽が
あることが認められたときは,当該願い出により承認された猶予について,猶予期間の開始の日に遡って取り消すことができると規定する(24条の2)
。さらに,奨学規程45条では,返還期限の猶予と同様,
「願い出」の制

度を採る奨学金免除について,
「審査決定」

「通知」
という行政処分であるこ
とを窺わせる文言が用いられている。
このように,業務方法書には,返還期限猶予制度の運用を,要返還者の願い出と被告による承認によって運用すべきことが規定されており,要返還者からの願い出があれば,被告は,返還期限の猶予の承認をするか否かを決定
しなければならないのであるから,要返還者の返還期限の猶予の申請権が法令上規定されている。

また,被告が返還猶予を承認しない場合,要返還者は,本来免れる債務の弁済を強制される立場に置かれることになるのであり,要返還者の権利利益に与える影響が,奨学金の申込みの場面に比べて格段に深刻である。
したがって,奨学金の貸与が私法上の行為であったとしても,本件不承認には処分性があることは明らかである。

そもそも,契約とは合意により成立するのであるから,当事者間において合意内容を相互に認識・理解していることが大前提であって,要返還者が内容を確認して署名押印をしたわけではない業務方法書や奨学規程に拘束さ
れるのだとすると,
要返還者と被告との間の関係を公権力的な関係であると
理解せざるを得ない。

仮に,本件不承認について処分性が認められない場合,いかに不合理な形で要返還者の返還期限の猶予の願い出が不承認となったとしても,その結果
を争うことが一切許されないことになるのと同義であって,要返還者の裁判を受ける権利に対する重大な制約となる。

以上によれば,
本件不承認は,
公権力性を有し,
行政事件訴訟法
(以下
「行
訴法」という。
)3条2項に定める処分に当たる。

(被告の主張)

行訴法3条2項に定める
「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」
とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によっ
て,
直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。そして,本件不承認に公権力性が認められるかどうかは,根拠法令の定めや趣旨等を踏まえ,根拠法令において,返還期限の猶予の不承認を取消訴訟の対象とする趣旨が認められるかどうかにより判断されるべきものである。


機構法は,要返還者による返還期限の猶予に関し,特に行訴法3条2項に定める処分であることをうかがわせる字句を用いておらず,かえって,業務方法書24条において「願い出」という字句を用いているほか,返還期限を猶予しなかった場合について,要返還者に不服申立てを認める規定を置いていない。また,返還期限猶予制度は,奨学生間の公平性・平等性を維持しつ
つ,
やむを得ない事由で返還困難となった要返還者を救済するために返還期限を猶予することを可能にするものであり,要返還者に返還困難な事由がある場合について,被告に対し,様々な事情を考慮して返還期限の猶予の可否を判断できるとの権限を付与する趣旨と解すべきである。
このような根拠法令の定めや制度趣旨を踏まえると,機構法は,私法上の
契約である奨学金貸与契約と切り離して,返還期限猶予制度に関してのみ,被告に行政機関としての立場を付与したとはいえない。
したがって,
被告は,
消費貸借契約上の当事者の地位を有するにとどまり,奨学金の返還期限の猶予の承認又は不承認には,公権力性が認められず,行訴法3条2項に定める処分には当たらない。



争点⑵(本件不承認の違法性)について
(原告の主張)

業務方法書24条1項5号は,
「その他真にやむを得ない事由によって返
還が著しく困難・・・となったとき。
」は奨学金の返還期限の猶予をすること
ができると規定しており,同号の括弧書では,給与所得者については,原則
として年間収入額が300万円以下であることのみが要件とされている。したがって,
「真にやむを得ない事由によって返還が著しく困難・・・となったとき。
」の要件該当性の判断に当たって,被告の裁量は著しく限定されている。仮に,被告によって付加できる要件があるとしても,その付加する目的は,法令の趣旨・目的に沿うものでなければならない。

業務方法書24条1項5号は収入要件しか規定していないのであるから,「真にやむを得ない事由によって返還が著しく困難・・・となったとき。」の
該当性の判断に当たっては,経済的に困窮しているか否かを専ら考慮すべきであるとの趣旨であって,経済的困窮に関連しない要件を付加することは法令が許容するところではない。

また,奨学金の取扱いについては,奨学金の貸与を受ける学生の間での公平性が要請されることから,法令で決められた返還期限の猶予の要件に合致する限り,猶予しないことが許容されるものではない。
しかしながら,被告は,法令等において,返還誓約書の提出が要件とされていないにもかかわらず,奨学規程11条に定める返還誓約書の提出という
要件を加重して,本件不承認を行っている。
仮に,
経済的要件以外の要件を付加することが許容される場合があるとしても,貸与期間終了時に保証人や連帯保証人を新たに立てさせることは,人的関係が途切れ,
金銭的にも困窮している原告に不可能を強いるものである
し,
また原告は機関保証制度について十分な教示を受けていなかったために
機関保証に転換する機会を失ったのであるから,原告に対し,返還期限の猶予の要件として返還誓約書の提出を要求することは許されない。
以上によれば,本件不承認は,考慮すべきでない事項について考慮しており,被告の裁量権の範囲を逸脱・濫用するものとして違法である。よって,本件不承認は取り消されるべきである。

本件書面は,被告の債権管理部法務課名義で送付されたものであり,返還期限の猶予の承認権限が同課にあることが組織上明らかではなく,公印もな
い。また,原告が提出した奨学金返還期限猶予願も返送されている。したがって,行政処分としての本件不承認の存否ないし有効性に疑問があり,この点も本件不承認の取消原因として主張する。
(被告の主張)

業務方法書24条1項5号では,
「真にやむを得ない」や「著しく困難」と
いった一義的に定めることが困難な文言が用いられており,その該当性判断に当たっては,要返還者の経済状況や返還困難に至った事情等,様々な事情を踏まえることが必要であること,同項柱書も「猶予することができる」との定めになっていることからすると,猶予事由の有無,猶予の可否について
は,
被告の広範な裁量に基づき判断することが認められているというべきである。
被告には,
省令25条に基づき,
奨学金の貸与を受けようとする者に対し,
保証人を立てさせる義務があり,また民法上,保証契約の締結は書面でしなければならないと規定されている以上,被告が返還誓約書の作成・提出を要
返還者に義務付けることは,法令上当然である。また,貸与の申込時に提出する予約確認書の記載によれば,貸与が終了するときは,連帯保証人・保証人を立てた返還誓約書を貸与終了時に提出することは契約の内容となっている。したがって,被告が,要返還者に対し,連帯保証人・保証人を付した返還誓約書の提出を求めるのは法令及び契約上,当然のことである。また,
業務方法書16条1項6号により,申込時に立てた保証人が存在しなくなることは,
奨学金の交付の取りやめ事由になっている。
さらに,
奨学金制度は,
奨学金の貸与を受ける学生間の取扱いの公平性・平等性が強く要請される公的な制度である。また,将来,保証人が見つからなかった場合に保証料を一括で支払わなければならなくなる不利益は,事前に説明されていた。以上のことからすると,連帯保証人・保証人を付した返還誓約書を提出しない者が返還期限の猶予の願い出を行った場合,連帯保証人・保証人を付した返還誓
約書の提出を促し,その提出がないことを理由として,返還期限の猶予の願い出を認めないとしても,被告の裁量権の範囲内であるといえる。イ
被告の債権管理部法務課は,
被告の支部が実施する法的処理を監督する立
場にあり,支部において処理方針について疑義が生じた案件に関しては,統一的な処理を行うべく,同課が判断することとなる。ただし,法的処理に移
行した後の奨学金の返還期限の猶予の願い出について,返還誓約書未提出等の不備があった場合には,支部が対応することとされている。
本件では,原告代理人から直接,債権管理部法務課宛てに返還期限猶予願が提出されたため,
支部を監督する立場を有する同課が直接対応をしたもの
であり,返還誓約書未提出という明らかな要件不備があったため,その旨同
課から回答を行った。したがって,本件不承認は,同課がその権限の下で行ったものである。
また,公印は,文書の内容及び成立が真正であることを認証し,その文書について官公庁又は公務員が自ら責任を負うことを明らかにするために使用するものであるから,公印の押印がないからといって,当該文書に直ちに
無効事由又は取消事由があることにはならない。
第3争点に対する判断
1争点⑴(本件不承認の処分性)について

行訴法3条2項に定める「行政庁の処分」とは,公権力の主体である国又は公共団体の行う行為のうち,その行為により直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。
⑵ア

機構法は,
経済的理由により就学に困難がある優れた学生等に奨学金の貸
与を行うものと定め
(13条1項1号)その要件を定めるとともに,

その他
貸与に関し必要な事項は政令で定めることとしているが
(14条)機構法,

施行令及び省令(以下,併せて「機構法等」という。
)をみても,奨学金の貸

与手続が処分であることをうかがわせる文言は用いられていない(なお,業務方法書においては,奨学生の採用の「決定」という文言が用いられているものの,
これは被告が定めたものにすぎない。。
)かえって,
機構法が
「貸与」

「返還」という文言を用いていることや,機構法等に奨学金の貸与の可否に関する決定に対する不服申立ての手続を定めた規定も置かれていないこと
からすれば,
機構法は奨学金の貸与を私法上の消費貸借契約として構成して
いるものとみるのが相当である。
そして,機構法15条2項は,奨学金の貸与を受けた者が災害又は傷病によりこれを返還することが困難となったとき,その他政令で定める事由があるときは,その返還の期限を猶予することができると定めている。その趣旨
は,
要返還者から返還される奨学金が被告の奨学金貸与事業の原資となるものであることから,要返還者には約定の返還期限どおりに奨学金を返還させることを原則としつつ,所定の事由によりその返還が困難となった要返還者には期限の猶予を認めることによって,返還が困難となった要返還者を救済する必要性と,奨学金を確実に回収する必要性との調和を図り,もって奨学
金貸与業務の適正かつ確実な運営を図ろうとしたものと解される。このような趣旨に照らせば,機構法15条2項所定の返還期限の猶予は,被告の完全な自由裁量に委ねられるものではなく,被告は,所定の事由に該当するときは,
返還期限を猶予しなければならないという法律上の義務を負っているというべきである。


もっとも,上記アのとおり,奨学金の貸与が私法上の契約関係であることからすれば,返還期限の猶予についても,債権者である被告が,債務者である要返還者に対し,
期限の利益を付与する私法上の行為であるとみるのが整
合的な解釈である。加えて,機構法等をみても,返還期限の猶予が処分であることをうかがわせる文言は用いられておらず,かえって,
「猶予すること
ができる」
という,
私法上の意思表示と読み取れる文言
(機構法15条2項)

が用いられている。また,機構法等をみると,返還期限の猶予の手続に関して具体的に定めた規定は存せず,
被告による返還期限の猶予を承認するか否
かの判断について,
猶予の願い出をした者に対する通知の手続を定めた規定
や,上記判断に対する不服申立ての手続を定めた規定も存しない。この点,業務方法書,奨学規程,施行細則及び取扱要領(以下,併せて「業務方法書
等」という。
)には返還期限の猶予に関する手続を定めた規定が置かれてい
るものの,業務方法書等はいずれも被告が定めたものにすぎないし,上記判断について通知や不服申立ての手続を定めた規定は業務方法書等にも存しない。
そうすると,
機構法15条2項に基づく奨学金の返還期限の猶予をしない

旨の被告の判断は,私法上の行為にすぎないというべきであって,行訴法3条2項に定める処分に当たるということはできない。


これに対し,原告は,次のとおり主張するが,いずれも採用することはできない。


原告は,奨学金の返還期限の猶予制度は,機構法15条4項及び関係法令に根拠を有する制度であり,要返還者からの願い出があれば被告は猶予を承認するか否かを決定しなければならないから,猶予の判断は公権力性を有し,行訴法3条2項に定める処分に当たると主張する。
しかしながら,前記⑴のとおり,行訴法3条2項に定める処分とは,法令
に基づく行為の全てを意味するものではないから,奨学金の返還期限の猶予制度が法令に定められた制度であるからといって,直ちにこれを処分ということはできない。

原告は,業務方法書24条の2において,返還期限の猶予の願い出において虚偽があった場合に,当該願い出により承認された猶予について,猶予期間の開始の日に遡って取り消すことができると規定していること,奨学規程45条において,
返還期限の猶予と同様,
「願い出」
の制度を採っている奨学

金の返還免除について,
「審査決定」及び審査結果の「通知」の制度があり行
政処分であることをうかがわせる文言が用いられていることから,奨学金の返還期限を猶予しない旨の判断は行訴法3条2項に定める処分に当たると主張する。
しかしながら,業務方法書及び奨学規程はいずれも被告が定めたものにす
ぎないから,
これをもって返還期限を猶予しない旨の判断に処分性を認める
ことは困難である。
この点を措くとしても,私法上の契約においても,契約の一方当事者が,相手方に対し,故意に事実を秘匿し,若しくは虚偽の事実を告げることによって意思表示がされた場合には,
当該意思表示は詐欺によるものとして取り

消すことができる
(民法96条1項)そうすると,

業務方法書24条の2の
返還期限の猶予の取消しの制度は,
これと同様の制度を定めたものと理解す
ることができるのであって,猶予の取消しの制度が定められているからといって,
返還期限の猶予の判断が処分であると解する決め手にはならないというべきである。

また,奨学規程45条は,返還期限の猶予ではなく返還免除制度について定めた規定であるから,
返還期限の猶予の判断に処分性を認める根拠となる
ものではないというべきである。

原告は,
要返還者は奨学金の返還期限の猶予を受けられないことによって,本来免れるべき債務の弁済を強制される立場に置かれることになるのであり,返還期限の猶予を承認しないという被告の行為は,要返還者の権利利益に与える影響が奨学金の申込みの場面に比べて格段に深刻であるから,奨学金の貸与が私法上の消費貸借契約であったとしても,返還期限の猶予の判断には処分性があると主張する。
しかしながら,私法上の契約においても,契約当事者の一方が約定の義務を履行しなかった場合に他方に重大な影響が生じることはあり得るのであ
るから,被告が,本来認められるべき返還期限の猶予を認めないと判断したことによって要返還者に重大な影響が生じるとしても,これをもって上記判断に処分性を認めることはできない。

原告は,
業務方法書や奨学規程の内容を確認していない要返還者がその内
容に拘束されるのであれば,要返還者と被告との間の関係を契約と理解する
ことは不可能であると主張する。
しかしながら,私法上の消費貸借契約においても,いかなる基準で債権者が債務者の返還期限を猶予するかについて,債務者が必ずしも把握しているわけではないから,機構法15条2項に基づく返還期限の猶予の場面と,私法上の消費貸借契約において債権者が債務者の返還期限を猶予する場面と
で,その状況に何ら異なるところはないというべきである。

原告は,仮に,被告による奨学金の返還期限の猶予の不承認について処分性が認められないとすると,いかに不合理な形で要返還者の返還期限の猶予の願い出が不承認となったとしても,その結果を争うことが一切許されない
ことになるのと同義であり,要返還者の裁判を受ける権利に対する重大な制約となるから,取消訴訟によってこれを是正する必要性が高いと主張する。しかしながら,上記⑵のとおり,機構法等は,被告による返還期限の猶予の判断について不服申立ての手続を設けていない。そうすると,機構法は,被告が上記判断を適正に行うことを担保する仕組みとしては,独立行政法人
通則法所定の独立行政法人に対する監督,是正等の手段を予定しているというべきであって,上記判断を抗告訴訟によって争うことができないのは,そのような立法政策が採用された結果にほかならない。そして,このように解したとしても,
被告が,
返還期限の猶予をすべき事由があるにもかかわらず,
猶予を認めないという違法な判断をした場合には,猶予を願い出た者は,被告に対して損害賠償を請求することができると解されるから,要返還者が上記判断を訴訟で争うことが一切許されなくなるわけではない。



まとめ
以上によれば,
本件不承認が行訴法3条2項に定める処分に当たるというこ
とはできない。

2結論
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えは不適法であるからこれを却下することとして,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官

武藤貴明
裁判官

都野道紀
裁判官

岩竹遼
別紙

債務目録
被告が原告に平成17年4月から平成19年3月までの間に貸し付けた下記金員
1元金合計

150万円

2利


9万4731円(平成27年7月27日現在)


25万6662円(平成27年7月27日現在)

3損

4約定返済日平成20年2月から平成33年1月まで各月27日限り5約定返済金額

各月1万0349円(最終回は1万0378円)

(別紙請求金額内訳書は省略)

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