判例検索β > 平成27年(ワ)第224号
地位確認等請求事件
事件番号平成27(ワ)224
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成30年4月24日
法廷名松山地方裁判所
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主1文
原告らの労働契約上の地位確認請求及び金銭の支払に係る主

位的請求をいずれも棄却する。
2
被告は,原告らに対し,それぞれ81万円及びうち36万円

に対する平成27年6月20日から,うち45万円に対する平
成29年10月26日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4
訴訟費用は,これを10分し,その3を被告の負担とし,そ

の余を原告らの負担とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1原告らが,被告に対し,被告賃金規程第16条及び第35条ないし第37条
が適用される労働契約上の地位にあることを確認する。
2被告は,原告Aに対し,138万3493円及びこれに対する平成27年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Aに対し,144万2940円及びこれに対する平成29年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4被告は,原告Bに対し,139万7732円及びこれに対する平成27年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告は,原告Bに対し,142万5860円及びこれに対する平成29年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要

1本件は,被告との間で期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して就労している従業員(以下「有期契約労働者」という。)
である原告らが,被告と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している従業員(以下「無期契約労働者」という。)との間に,賞与及び物価手当(以下,これらを合わせて「本件手当等」という。)の支給に関して不合理な相違が存在すると主張して,被告に対し,①当該不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり,原告らには無期契約労働者に関する賃金規程の規定が適用されることになるとして,当該賃金規程の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認を求め(上記第1の1),②平成25年5月から平成27年4月までに支給される本件手当等については,主位的に,同条の効力により原告らに当該賃金規程の規定が適用され
ることを前提とした労働契約に基づく賃金請求として,予備的に,不法行為に基づく損害賠償請求として,実際に支給された賃金との差額及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年6月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(上記第1の2及び4),③平成27年5月から平成29年10月までに支給される本件手当等について,不法
行為に基づく損害賠償請求として,実際に支給された賃金との差額及びこれに対する不法行為の日の後である平成29年10月26日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払(上記第1の3及び5)を求めた事案である。2前提事実(以下の各事実は,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠等により容易に認定することができる。)

当事者
ア被告
被告は,農業機械,部品の組立,加工及び販売等を事業目的とする株式会社であり,そのグループ会社で本店所在地を同じくする株式会社井関松山製造所(以下「松山製造所」という。)の敷地内に工場(以下「本件工
場」という。)を有している。
被告には管理部(3名(平成27年8月1日時点における従業員数を指
す。以下この項において同じ。)),品質保証部(2名),製造部(173名)の3つの部署があり(3つの部の従業員の合計は178名),製造部には,第1サブ組立課(59名),第2サブ組立課(70名),構内物流課(42名)の3つの課がある。各課の下には「組」という組織単位が設けられ,各組は組長の名を取って呼称されることがある。第1サブ組立課には「小型ラインサブ組立」組(D組,23名),「シリンダケース他サブ組立」組(E組,19名),「乾燥機サブ組立・梱包」組(16名)があり,第2サブ組立課には,「キャビンサブ組立」組(32名),「大型ライン(A)サブ組立」組(18名),「大型ライン(C)サブ組立」
組(19名)があり,構内物流課には「工務構内作業」組(42名)がある。(乙1)
D(以下「D」という。)は,「小型ラインサブ組立」組(D組)の組長である(乙20)。
イ原告ら

原告らは,それぞれ被告におけるトラクター等の農業機械の製造に係るライン業務(以下では,製品ラインを稼働させるために常時発生する作業を「定常業務」という。)の一端を担っている。原告らの担当するラインは大規模なものではなく,基本的に,ある1種類の作業に同時に2人が従事することはなく,各人がそれぞれ異なる業務を割り当てられている。無
期契約労働者と有期契約労働者の間だけでなく,無期契約労働者相互,有期契約労働者相互でも一人一人業務内容が異なっていることが多い。ウ原告A(昭和46年生)
原告Aは,平成19年7月16日に契約期間を6か月とする有期契約労働者として被告に入社し,現在まで有期労働契約を更新しており,現在,
製造部の第1サブ組立課の「小型ラインサブ組立」組(D組)に所属し,農業用トラクターのフードやフェンダーのサブ組立作業に従事している
(甲22)。
D組の配属者数は,平成29年10月時点で,D組長のほか,6名が無期契約労働者,18名が有期契約労働者又は派遣労働者である。(証人D)エ原告B(昭和40年生)
原告Bは,平成20年8月1日に契約期間を6か月とする有期契約労働者として被告に入社し,現在まで有期労働契約を更新しており,現在,製造部の第1サブ組立課の「シリンダケース他サブ組立」組(E組)に所属し,農業用トラクターの油圧シリンダケースのサブ組立作業に従事している。E組の職場は,「シリンダケース組立」(原告Bが所属している。),
「ミッション部品の小物サブ組立」及び「ミッション内部品マーシャリング」(マーシャリングとは,複数種類の部品を組み立てて1つの製品を作成する前段階の準備として,その複数種類の部品を1つの製品の組立てに必要な数ずつ取り分けて,製品単位でまとめておくことをいう。)に分かれており,同組には,平成28年11月時点で,E組長のほか,3名の無
期契約労働者,10名の有期契約労働者及び4名の派遣労働者が配属されている。(甲23)
無期契約労働者の労働条件の概要
ア適用される就業規則等
無期契約労働者(就業規則上は「従業員」と定義されているが,以下で
は「無期契約労働者」と読み替えて記載する。)には,「就業規則」(乙4),「賃金規程」(乙5)が適用される。
イ労働時間等
所定労働時間は,3か月単位の変形労働時間制によるものとし,1週間の労働時間は3か月を平均して40時間を超えないものとする(乙4・5
6条⑴①)。始業は午前8時,終業は午後4時50分,休憩は1時間とする(乙4・56条⑴②)。業務の都合上,所定就業時間以外に早出,残業,
休日出勤をさせることがある(乙4・60条)。
無期契約労働者の定年は,満60歳とする(乙4・26条)。
被告は,業務の都合により無期契約労働者の異動を必要とするときは,本人の状況等を考慮して公正に異動を行う(乙4・15条)。
ウ賃金
基本給,賞与,職能資格手当,職務手当,物価手当,住宅手当,扶養手当,早出残業手当,休日出勤手当,深夜業手当,通勤手当,精勤手当,鋳造手当,当直手当及び別居手当がある(乙5・3条,37条)。
本件手当等の概要は,次のとおりである。

賞与
a夏季賞与は,前年11月16日より当年5月15日までを対象として7月末日までに支払い,冬季賞与は,5月16日より11月15日までを対象とし12月末日までに支払う。ただし,被告の業績不良の場合はこの限りでない。賞与の支給は,支給日に在籍する無期契約労
働者に行う。ただし,定年退職者は該当対象期間の在籍日数に応じて支給する。賞与の査定は,該当期間の業績評価,出勤日数によって行うが,出勤日数が所定労働日の80%未満の者又は不正行為のあった者は賞与を支払わないことがある。(乙5・35ないし37条)
b賞与の支給額は,次の計算式により算出される慣行となっている。
支給額=(基本給×支給率×出勤率)+一律額+成績加算額+扶
養家族割額+調整額
平成25年度の夏季賞与・冬季賞与の平均支給額は,各平均35万円,平成26年度の夏季賞与及び冬季賞与は各平均37万5000円であり,上記各季における支給率(入社時期に対応する率),成績加
算額(資格と成績に対応する金額),扶養家族割額(扶養家族の人数に対応する金額)等は,別紙1及び2のとおりである。なお,支給額
に占める割合は,上記各季を平均して「基本給×支給率×出勤率」が約60%,一律額は約11.7%,成績加算額は約26.3%,扶養家族割額は約0.3%,調整額は約0.4%であった。
(甲6の1及び2,乙21の1及び2)
物価手当
物価手当は,別紙3・物価手当支給基準の区分により支給する(年齢変更があった場合,該当月より変更後の区分により支給する。)。ただし,井関農機株式会社よりの転籍者には適用しない。(乙5・16条)物価手当が,年齢に応じて増大する生活費を補助する趣旨を含むこと
については,当事者間に争いはない。
有期契約労働者の労働条件の概要
ア適用される就業規則等
有期契約労働者には,「就業規則(臨時社員用)」(乙6)が適用され,有期契約労働者の賃金のうち,基本給(日給),通勤手当,時間外手当及
び鋳造手当については,無期契約労働者に係る「賃金規程」(乙5・1条2項)も適用される。
イ労働時間等
所定労働時間は,無期契約労働者と同様である(乙6・

,8条)。

業務の都合上やむを得ない場合には,無期契約労働者の労働時間を超えない範囲内で労働させることができる(乙6・11条2項)。
「就業規則(臨時社員用)」(乙6)には,有期契約労働者の異動に関する規定がなく,原告Aの労働契約においても勤務場所が松山製造所敷地内とされている(甲1)。
ウ賃金

有期契約労働者の賃金は,基本給,通勤手当,鋳造手当,塗装手当,所定労働時間外手当,休日労働手当及び日曜日,特定休日労働手当がある
(乙6・14条,乙5・1条2項,11条,26条,27条)。基本給は,日給又は時間給とし,職務内容,技能,経験,職務遂行能力等を考慮して個人別に決定する(乙6・14条)。
無期契約労働者に支給される物価手当は,有期契約労働者には一切支給されない(乙6・14条2項,乙5・1条2項参照)。
「就業規則(臨時社員用)」(乙6)上は,賞与は「支給しない。」(乙6・19条)と定められているが,被告の運用では,有期契約労働者に対して,業績や評価に基づく一時金として寸志を支給しており,これが賞与と同様の性質を有することについては,当事者間に争いはない。
原告らに対する寸志の支給額は,原告Aにつき,平成25年夏季が8万5000円,同年冬季が8万9000円,平成26年夏季が9万5000円,同年冬季以降が10万円であり,原告Bにつき,平成25年夏季が7万8000円,同年冬季が8万円,平成26年夏季が8万5000円,同年冬季が9万円,平成27年夏季が9万5000円,同年冬季
以降が10万円である(甲9の1ないし4,甲10の1ないし4,甲34の1ないし5,甲36の1ないし5)。
3争点及びこれに対する当事者の主張
労働契約法20条違反の成否
(原告ら)

ア労働契約法20条違反の有無の判断枠組み等
本件では,就業規則が有期契約労働者と無期契約労働者で各別に定められ,契約期間の定めの有無に基づいて労働条件の相違が生じていることは明らかである。
労働契約法20条の「不合理」の意味は,問題となった処遇に合理的な
理由がない場合と解すべきであり,被告の主張するように,労働条件の相違が法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものと解釈すること
は,労働契約法20条の意義を滅却する。
有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の不合理性判断は,個々の労働条件ごとにされなければならない。
労働契約法20条は,不合理性を判断するに当たり考慮すべき事情として,①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),②当該職務の内容及び配置の変更の範囲,③その他の事情(以下,①及び②を合わせて「職務内容等」といい,①ないし③を総称して「各考慮要素」という。)を掲げているところ,上記①が労働者の就業の実態を表すものとして最も重視されるべきで,その次に上記②が考
慮され,上記③は中核的な労働契約の内容に関するものではないから,限定的に解釈されるべきである。
イ職務内容等の相違の有無
原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者(組長を除く。)との間で職務内容等の相違はない。この相違に関する個別主張は,別紙
4・職務内容等整理表のとおりである。
ウ労働条件に関する相違の不合理性
上記イのとおり,原告らと無期契約労働者との間で職務内容等に相違はないから,本件手当等に関する相違は不合理である。本件手当等に関する個別主張は,別紙5・労働条件整理表のとおりである。

(被告)
ア労働契約法20条違反の有無の判断枠組み等
労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」とは,文理どおり,期間の定めがあることを理由とした労働条件の相違があることを要する趣旨であると解すべきである。仮に,期間の定めの有無に関連した相違があ
れば足りると解する場合には,期間の定めの有無を直接の理由としない事情が労働条件の相違に寄与する可能性があるため,その事情は不合理性を
否定する一事情として斟酌されるべきである。
不合理性の具体的な程度としては,法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものであることが必要であって,一般的な観念から単純に不合理といえる程度では足りないと解すべきである。
常に個々の労働条件を比較対象とすべきではなく,労働条件の相互の関連性によっては,複数の労働条件を一体として比較し不合理性を判断すべき場合もあり得る。
各考慮要素は,相互に性質上の優劣はなく,その他の事情の範囲も広く解すべきである。

イ職務内容等の相違の有無
原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者との職務内容等には大きな相違がある。この相違に関する個別主張は,別紙4・職務内容等整理表のとおりである。
ウ労働条件に関する相違の合理性

上記イのとおり,原告らと無期契約労働者の間で,職務内容等には大きな相違があるから,かかる相違等を考慮して,有期契約労働者と無期契約労働者の間で本件手当等の支給に差をつけることは,被告の経営・人事制度上の施策として,法的に否認すべき内容ないし程度で不公正とはいえない。本件手当等に関する個別主張は,別紙5・労働条件整理表のとおりで
ある。
労働契約法20条の効力
(原告ら)
労働契約法20条には,私法的効力があり,不合理な労働条件の相違は無効と判断される。そして,そのような明文の規定が存在することから使用者
の故意又は過失の存在が推認され,使用者に不法行為責任を生じさせる。当該労働条件の相違が無効とされた場合は,労使間の個別的又は集団的な
交渉に委ねては不公正な格差が是正できないから,無期契約労働者の当該労働条件が有期契約労働者の労働契約の内容になる(補充的効力の肯定)。補充的効力が認められない場合であっても,不合理な労働条件の相違を確定的に解消するために,関係する就業規則,労働協約,労働契約等の規定を合理的に解釈し,可能な限り,有期契約労働者に対して,無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則等の規定を適用すべきである。
(被告)
労働契約法20条には「無効とする」との明確な定めがなく,法的安定性の観点からも,強行法規性はないと解すべきである。

仮に強行法規性が認められる場合であっても,労働契約法12条や労働基準法13条のような明文の規定がない以上,労働契約法20条に補充的効力はないというべきである。
原告らの損害等の有無及びその額(上記1②及び③関係)(原告ら)

ア労働契約に基づく差額賃金(上記1②主位的請求関係)平成25年5月から平成27年4月までに支給される本件手当等について,原告らには労働契約法20条の効力により無期契約労働者の賃金規程の規定が適用され,原告らの年齢,基本給及び勤務状況に照らして,本件手当等の支給を受ける権利を有している。その支給額は,別紙6及び7の
原告らの請求額計算書1のとおりである。
なお,平成25年及び平成26年の夏季及び冬季の賞与は,原告らの平均基準内賃金に支給率(平成25年は115%,平成26年は116.5%)を乗じた額,一律支給額(平成25年は4万円,平成26年は4万5000円)及び各季の成績加算額原資の額の合計額から既払金を控除し
て支給額を計算した。
イ不法行為に基づく損害(上記1②予備的請求及び③関係)
平成25年5月から平成27年4月までに支給される本件手当等について,原告らと無期契約労働者の間の相違は労働契約法20条に反する違法があるところ,その相違が存在せず,原告らにも無期契約労働者と同様の基準により本件手当等が支給されていたとすれば,別紙6及び7の原告らの請求額計算書1のとおりの額が支給されていたはずであるから,原告らに同額に相当する損害が生じた。
平成27年5月から平成29年10月までに支給される本件手当等についても,原告らにも無期契約労働者と同様の基準により本件手当等が支給されていたとすれば,別紙8及び9の原告らの請求額計算書2のと
おりの額が支給されていたはずであるから,原告らに同額に相当する損害が生じた。
なお,平成27年夏季から平成29年夏季までの賞与については,支給基準が不明であるため,成績加算額が少なく支給率が低い平成25年冬季に準拠し,基本給を各年4月の額として,既払金を控除して支給額
を計算した。
(被告)
いずれも争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実

前提事実,証拠〔甲22,23,27,28,乙20,証人D,原告A本人,原告B本人(ただし,いずれも以下の認定に反する部分を除く。),後掲の書証〕及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
被告における無期契約労働者の採用・育成等
被告において就労している正社員には,被告において採用された無期契約
労働者及び被告の親会社である井関農機株式会社からの出向者が存在するが,ライン作業に従事している者は,組長を除いて,被告において採用された無
期契約労働者である。
被告において採用された無期契約労働者は,被告で有期契約労働者として採用され就労した後,無期契約労働者として採用(被告では「中途採用」と呼称している。)された者である。中途採用は毎年実施され,応募者にはペーパーテスト及び面接を実施し,毎年1,2名程度が採用されている。組長は,意欲があって職務遂行能力が高い有期契約労働者に対して中途採用への応募を勧める等している。
被告は,教育訓練として,無期契約労働者のみに対し,通信教育カリキュラムを用意しており,年1回受講者の応募を募っている。職能資格の昇格時
に,特定のカリキュラムを受講することが義務付けられていることがある。また,組長に就任した際には監督者教育研修が実施される。
これらの教育訓練は,有期契約労働者に対しては実施されていない。(乙8,証人D,弁論の全趣旨)
被告における職制

被告には,部長,課長,組長という職制(組長以上の職位)がある。部長及び課長は管理職層であり,井関農機株式会社からの出向者が就任しており,被告において採用された無期契約労働者が課長以上の職制に就任した実績はない。組長は,現場で部下の指揮をしながら自らも作業に携わっている。被告においては,無期契約労働者のみが職制に就任することができ,有期
契約労働者が職制に就任することはない。組長に就任するためには工師補の職能資格が必要である。
「小型ラインサブ組立」組(D組)のD組長及び構内物流課の「工務構内作業」組の課長兼組長は井関農機株式会社からの出向者であるが,その他8名の組長(組長代行を含む。)は,被告において中途採用された無期契約労
働者である。平成24年11月に有期契約労働者から無期契約労働者に中途採用された5名のうち2名が同時に組長に就任しているが,他の組長は中途
採用と同時には組長に就任していない。
(証人D,弁論の全趣旨)
業務の内容
ア定常業務
原告A関係
D組は,小型農業用トラクターのサブ組立てを行っているところ,その作業概要は,以下のとおりである。
まず,松山製造所の担当者が塗装済み部品を積載したマーシャリング台車を被告のサブ組立ラインに投入すると,被告の有期契約労働者がマ
ーシャリング作業をする。サブ組立ラインでは,機種別に設置された作業台に有期契約労働者と無期契約労働者が入り混じって配置され,各人が担当する作業台で,マーシャリング台車から塗装済み部品を下ろし,同部品の組立てをした後,次の台車にサブ組立完成品を積み込む作業を行っている。サブ組立完成品が積み込まれた台車は松山製造所のメイン
ラインに合流し,同完成品がトラクター本体に組み付けられる。その後,サブ組立ラインとは離れた場所にあるD組の2か所の作業台で,それぞれフードとフェンダーの組立て及び組み付け作業が行われる。
原告Aは,上記の離れた場所にある作業台でフードの組立て及び組み付け作業を担当しており,作業量(工数)が多いときには,無期契約労
働者であるF又は派遣労働者が補助に入って,原告Aと作業を分担することがある。
また,サブ組立ラインの各作業台のうち,ミスが生じた場合の修正に時間が掛かるJK,TM及びSFという3つの機種の作業台は,現在,無期契約労働者が担当しているが,原告Aは,Dが組長に就任する以前
に,TMの作業台を数年間担当したことがあり,現在も有期契約労働者がJK,TM及びSFの作業台で作業することがある。

(甲22,乙13の1,証人D,原告A本人)
原告B関係
原告Bが所属しているE組の「シリンダケース組立」職場では,無期契約労働者1名,有期契約労働者8名及び派遣労働者1名が作業をしているところ,その作業概要は,以下のとおりである。
まず,松山製造所の担当者がシリンダケース本体を運搬して被告の上記職場のライン先端に置き,被告の派遣労働者がマーシャリング作業を行う(必要な部品を集荷し,ハンガーに掛け,シリンダケース本体と共にラインに投入する。)。次に,有期契約労働者がハンガー掛け部品と
シリンダケースを洗浄機で洗浄するなどした後,無期契約労働者が,シリンダケース組み付けの前段階として,生産順序を決定し,それに合わせて組み付けをした部品とその他の部品をトレイの上にセットする。その後,有期契約労働者3名が,トレイ上の部品をシリンダケースに組み付けていき,油圧試験を行って正常動作の確認等をする。そのほか有期
契約労働者2名が付属部品の組み付けや製造所の1組及び2組の各ライン用のバルブ類の組み付け等を行う。
原告Bともう一名の有期契約労働者は,フリーな立場で,他の労働者に割り当てられている上記組み付け等の作業を,作業の遂行状況や休暇取得に応じて随時担当しており,原告Bは,さらに油圧試験機のワイヤ
ーやオイルエレメントの交換等も担当している。
マーシャリング作業及びトレイ上の部品の組み付け作業は,無期契約労働者も以前は担当していたことがある。無期契約労働者が休む際には,有期契約労働者がその代わりに生産順序の決定も含めて作業をしている。(甲23,乙13の2,原告B本人)

イ管理業務及び新機種関連業務
定常業務の円滑な遂行を支える管理業務(治具の製作及び調整,作業要
領書及び明細書の維持管理並びに作業計画の策定等)については,組長のほか,無期契約労働者が担当しているが,意欲がある有期契約労働者にも担当させることがある。
新機種関連業務(新機種に関する作業工程の新規策定や作業要領書,明細書等の作成等により,新機種を導入する際にラインで支障なく流すことができるかどうかを確認する業務)に関しては,組長及び一部の無期契約労働者が担当する(量産1号機の工程テスト等であるパイロット作業については,フリーな立場で作業する無期契約労働者は所定労働時間中に,ラインに配属された無期契約労働者は所定労働時間外に作業を行う。)。
なお,原告Aは,所定労働時間内に流れ作業の中でパイロット作業を担当した旨供述するものの(原告A本人),そのような態様での従事をもって,所定労働時間内に無期契約労働者と同程度にパイロット作業に関与したものと認めることは困難である。
(乙20,証人D,原告A本人)

ウ業務改善提案
被告においては,無期契約労働者に対して,一人当たり月1件の業務改善提案の提出を推奨している。しかし,平成26年度の参加人員は対象人員の23%,提案件数は目標件数の33%にとどまっており,業務改善提案が実際に採用された件数も不明である。有期契約労働者も業務改善提案
を任意に提出でき,提案された実績もある。(乙11)
業務に伴う責任の程度
被告において業務中にミスが発生した場合,リカバリーや修正のための対応手順を決めるのは,組長又は組長以外の一部の無期契約労働者であるが,過去にミスの第一次対応を有期契約労働者が行っていたこともある。その他
の無期契約労働者及び有期契約労働者は,第一次対応をした者の指示に従ってミスに対応することになる。(乙20,証人D,原告B本人)

職務の内容及び配置の変更の範囲
無期契約労働者と有期契約労働者のいずれも,部を越えた異動はなく,課を越えた異動が行われることはある。有期契約労働者については,課を指定して配属されていることから,基本的には課を替わることはないが,必要がある場合には,本人の同意を取得して課を替えることになる。他方で,無期
契約労働者であっても,本人の同意が得られない場合には,他の異動対象者を探すことになる。D組に配属された無期契約労働者について,Dが組長に就任した平成26年1月以降,課を越えた異動の実績はない。
また,被告の従業員は,本件工場内で業務を遂行することが想定されており,勤務地の変更を伴う異動は想定されていない。

(証人D,弁論の全趣旨)
本件手当等の趣旨目的
被告において,本件訴訟係属中に,本件手当等が設定された経緯及び趣旨等について調査したが,その設定当時の具体的な趣旨目的について記載された資料等は発見されなかった(弁論の全趣旨)。

2
本件手当等の支給に関する相違
有期契約労働者である原告らには,賞与と同様の性質を有する寸志が一季10万円の範囲内で支給され,物価手当は支給されていないところ(上記第),無期契約労働者には一季平均35万円以上の賞与及び物価手
当が支給されており(

),本件手当等の支給に関して,原

告らと無期契約労働者の間で相違がある(以下この相違を「本件相違」という。)。本件相違は,有期契約労働者である原告らと無期契約労働者で適用される就業規則が異なることによって生じていることは明らかであるから(上記第2の2

),各考慮要素を考慮して不合理であると認め

られる場合には,労働契約法20条に違反することになる。

労働契約法20条違反の有無に係る判断枠組み
ア労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違について,各考慮要素を考慮して,「不合理と認められるものであってはならない」と規定し,「合理的でなければならない」との文言を用いていないことに照らせば,同条は,当該労働条件の相違が不合理であると評価されるかどうかを問題としているというべきであり,そのような相違を設けることについて,合理的な理由があることまで要求する趣旨ではないと解される。
イそして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相
違が不合理と認められるか否かの考慮要素として,①職務の内容,②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,③その他の事情を掲げており,その他の事情として考慮すべきことについて,上記①及び②を例示するほかに特段の制限を設けていないことからすると,労働条件の相違が不合理であると認められるか否かについては,上記①及び②に関連する諸事情を
幅広く総合的に考慮して,個々の労働条件ごとに判断すべきものと解される。
これに対し,原告らは,上記①及び②の事情が上記③の事情に比して重視されるべきであると主張する。しかし,労働契約法20条の文言及び厚生労働省労働基準局長通達「労働契約法の施行について」(平成24年基
発0810第2号。以下「本件施行通達」という。甲18)では,上記①ないし③の考慮要素の重みづけについては明確に定められていないことに照らせば,原告らの主張は採用できない。
他方で,被告は,常に個々の労働条件を比較対象とすべきではないと主張する。しかし,本件施行通達では不合理性について「個々の労働条件ご
とに判断される」としているほか,個々の労働条件ごとに相違の不合理性を判断する場合においても,当該労働条件と密接に関連する労働条件や賃
金体系全体については上記③の「その他の事情」として考慮することができると解されるから,被告の主張は採用できない。
原告らと無期契約労働者の職務内容等の相違等
ア本件において,原告らとの比較対象となる無期契約労働者は,原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者(組長を除く。)であることに争いはない。以下,各考慮要素を順に検討する。
イ業務の内容の相違
定常業務
原告Aが所属するD組のライン作業は,機種

別に設置された各作業台で,有期契約労働者及び無期契約労働者が入り混じって作業をして

Bが所属

する「シリンダケース組立」職場では,現在は有期契約労働者(及び派遣労働者)が担当している作業を過去は無期契約労働者が担当していたことがあり,無期契約労働者が休んだ際には,有期契約労働者がその代わりに作業をしている。
したがって,無期契約労働者と有期契約労働者の業務は相互に代替可能であると認められ,原告らと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者との間で,その定常業務の内容に相違はないと認められる。これに対し,被告は,無期契約労働者に対し,より責任の重い業務を
割り当てる傾向があり,両者の業務内容には相違があると主張する。しかし,D組のライン作業のうち,ミスが生じた場合の修正に時間が掛かるJK,TM及びSFという3つの機種の作業台について,現在も有期契約労働者が当該作業台で作業をすることがあるほか,原告Aは,数年間にわたりTMの作業台を担当したことがあるから,現在JK,T
M及びSFの機種の作業台について無期契約労働者が担当していることをもって,原告らと無期契約労働者で業務内容が相違していると認める
ことはできない。また,E組についても,各人の担当業務の内容等からみて,無期契約労働者に対してより責任の重い業務が割り当てられていると認めることはできない。したがって,被告の主張は採用できない。管理業務及び新機種関連業務
管理業務については,無期契約労働者だけでな

く,意欲がある有期契約労働者も担当することがあるから,有期契約労働者と無期契約労働者の業務内容が相違しているとは認められない。他方で,新機種関連業務は,定常業務の円滑な遂行を支える点で,被告において重要な業務であると認められるところ,組長のほか,一部の無期契約労働者が担当している。したがって,無期契約労働者のうち一部の者については,原告ら有期契約労働者とは異なる業務を担当している点で,原告らの業務内容とは相違していると認められる。
小括
原告らと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者との間で,そ
労働者のうち
の内容には大きな相違があるとはいえない。
については,無期契約労働
者の実績は乏しく,有期契約労働者もこれを任意に提出でき,その実績もあることなどから,無期契約労働者と有期契約労働者との間に見るべき差異があるとはいえない。
ウ業務に伴う責任の程度に関する相違
リカバリーや修正のため
の対応手順を決めるのは,現在は組長又は組長以外の一部の無期契約労働
者であるが,過去にはミスの第一次対応を有期契約労働者が行っていたこともあるから,現在無期契約労働者のみがミスの第一次対応をしているこ
とをもって,原告らと無期契約労働者で業務に伴う責任の程度が相違していると認めることはできない。
これに対し,被告は,有期契約労働者がミスの第一次対応をする場合には,無期契約労働者からの監督を及ぼしていたと主張するが,その具体的な監督内容は証拠上明らかでなく,採用することができない。
また,被告は,無期契約労働者が有期契約労働者よりも優先して時間外・休日労働を命じられると主張し,D証人も同旨の供述をするが,無期契約労働者と有期契約労働者の時間外・休日労働時間にどの程度差異が生じているかは証拠上明らかでないことから,この点は,業務に伴う責任の
程度を左右しないというべきである。
エ職務の内容及び配置の変更の範囲に関する相違
上の
職制に就くことができ,有期契約労働者が職制に就くことはない。そして,被告において採用される無期契約労働者は,将来,組長に就任し部下を指揮する立場となる等して被告における重要な役割を担うことが期待されて,通信教育カリキュラムが用意され,職能資格の昇格時には特定の通信教育のカリキュラムを受講することが義務付けられるなど,一定の教育訓練と勤務経験を積みながら育成されるものと認められる。このことは,一部の無期契約労働者に組長と共に新機種関連業務を担当させていること(上記
通信教
育カリキュラムは実施されておらず,中途採用制度によって有期契約労働者から無期契約労働者に採用される場合でも,2名の例外を除き,組長に就任する前に一定期間の無期契約労働者としての勤務経験を経ている。そのため,有期契約労働者全体について,将来,職制である組長に就任したり,組長を補佐する立場になったりする可能性がある者として育成される
べき立場にあるとはいえない。
したがって,原告らと無期契約労働者の間には,職務の内容及び配置の変更の範囲に関して,人材活用の仕組みに基づく相違があると認められる。これに対し,原告らは,有期契約労働者も,中途採用により無期契約労働者となった後に職制に就任することがあるから,組長になり得ると主張する。しかし,上記1
は,有期契約労働者のうち,意欲があり職務遂行能力が高い人材等を無期契約労働者に採用しているのであるから,中途採用されていない有期契約労働者全体と,中途採用者で構成される無期契約労働者に上記のとおり差
異があることは否定できないというべきである。
なお,職制に関係のない部署の異動については,
期契約労働者と有期契約労働者のいずれも,部を越えた異動はなく,課を越えた異動が行われること,その際には本人の同意を得ていることは同じであるから,無期契約労働者と有期契約労働者で異動の有無及び範囲に大
きな相違があるとは認められない。
オその他の事情
被告の無期契約労働者は,基本的に中途採用制度により毎年1,2名程度が採用されており,無期契約労働者と有期契約労働者の地位はある程度流動的である。このことは,本件相違の不合理性を判断する際に考慮すべ
き事情といえる。
本件相違の不合理性
上記⑶の原告らと無期契約労働者との職務内容等の相違等を踏まえて,本件手当等の労働条件ごとにその不合理性を検討する。
ア賞与

一般的に,賞与は,支給対象期間の企業の業績等も考慮した上で,毎月支給される基本給を補完するものとして支給され,支給対象期間の賃金の
一部を構成するものとして基本給と密接に関連し,賃金の後払としての性質を有することに加え,従業員が継続勤務したことに対する功労報奨及び将来の労働に対する勤労奨励といった複合的な性質を有するものと解されており,被告における賞与についても,これと同様の性質を有するものと推認される。そして,これらの性質については,無期契約労働者だけでなく有期契約労働者にも及び得ることは,原告らの指摘するとおりである。しかし,前記のとおり,無期契約労働者と有期契約労働者の間の職務の内容及び配置の変更の範囲に関する相違に関してみたとおり,将来,職制である組長に就任したり,組長を補佐する立場になったりする可能性があ
る者として育成されるべき立場にある無期契約労働者に対してより高額な賞与を支給することで,有為な人材の獲得とその定着を図ることにも一定の合理性が認められること,原告らにも夏季及び冬季に各10万円程度の寸志が支給されていること,被告の無期契約労働者は基本的に中途採用制度により採用されており,無期契約労働者と有期契約労働者の地位にはあ
る程度流動性があることを総合して勘案すると,一季25万円以上の差が生じている点を考慮しても,賞与における原告らと無期契約労働者の相違が不合理なものであるとまでは認められない。
これに対し,原告らは,厚労省ガイドライン案(甲24の2)に照らして被告の賞与における相違は不合理であると主張する。

しかし,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止した規定であり,同一労働同一賃金の原則を定めたものと解することはできない。そして,厚労省ガイドライン案の前文には,同案をもとに,法改正の立案作業を進めることが予定され,今後,関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏ま
えて,同案を最終的に確定すると記載されていることに鑑みると,労働契約法20条の不合理性判断に際して,少なくとも現時点の同案を参酌する
必要があるとはいえず,原告の主張は採用できない。
イ物価手当
物価手当が年齢に応じて増大する生活費を補助する趣旨を含むことについては,当事者間に争いはなく,被告では労働者の職務内容等とは無関係に,労働者の年齢に応じて支給されている(

)。

このような被告における物価手当の支給条件からすれば,同手当が無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認めることは困難であり,年齢上昇に応じた生活費の増大は有期契約労働者であっても無期契約労働者であっても変わりはないから,有期契約労働者に物価手当を一切支給しないことは不合理である。
これに対して,被告は,物価手当は,その歴史的背景として,家族手当と同様に年功序列型賃金の一内容として定着したと主張する。
しかし,上記主張を裏付ける的確な証拠はない上,物価手当の支給額は,勤続年数にかかわらず年齢に応じて増額することに加え,被告では新規採
用により無期契約労働者が採用されることは基本的になく,中途採用が一般的であって,無期契約労働者として採用される年齢も一律とは認められない。このような物価手当の支給条件及び採用実態を踏まえれば,同手当を年功序列型の賃金と認めることは困難である。
また,被告は,平成23年時点で,無期契約労働者に家族手当等を支給
する企業の割合と比べて,有期契約労働者に家族手当等を支給する企業の割合は極めて低いと主張し,これに沿う証拠として実態調査報告書(乙10,10の2)を挙げるほか,雇用システムの相違それ自体及び各考慮要素における相違を理由として,より手厚い生活補助を無期契約労働者に対し講じることは不合理ではないと主張する。

しかし,実態調査報告書に被告における物価手当と同種の手当の支給実態が示されているのかは直ちに明らかではない。加えて,有期契約労働者
について雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや,処遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえて,有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確化し,期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するものとしたという労働契約法20条の制定経緯(本件施行通達参照)に鑑みれば,平成23年当
時の企業実態の大勢を重視することは相当とはいえない。また,被告における物価手当の支給条件が,職務内容等の相違に基因するものとはいえないことは上述のとおりである上,上記法の制定経緯に照らし,雇用システムの相違自体や中途採用制度の存在を含む各考慮要素における相違をもって,その支給対象を無期契約労働者に限定することの不合理性が否定され
るとも解されない。したがって,被告の主張は採用できない。
ウ以上のとおり,本件手当等のうち,物価手当については労働契約法20条に違反するが,賞与については同条に違反しない。
3
労働契約法20条が「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」との見出しの下に「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることから,同条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり,同条に違反する取扱いは,民法709条の不法行為が成立する場合があり得るものと解される。

そして,労働契約法は,同法20条に違反した場合の効果として,同法12条や労働基準法13条に相当する補充的効力を定めた明文の規定を設けておらず,労働契約法20条により無効と判断された有期契約労働者の労働条件をどのように補充するかについては,無期契約労働者と有期契約労働者の相違を前提とした人事制度全体との整合性を考慮した上,労使間の個別的又
は集団的な交渉に委ねられるべきものであって,裁判所が,明文の規定がないにもかかわらず労働条件を補充することは,できる限り控えるべきものと
考えられる。
この点,労働契約法の改正の際の国会審議において,政府参考人から,労働契約法20条により「不合理であり無効とされた労働条件がどうなるかについては,基本的には,無期契約労働者と同じ労働条件が認められるものと考えます。」(平成24年7月25日第180回国会衆議院厚生労働委員会議録第15号(甲17・24頁,25頁))とする説明がされ,本件施行通達においても「無効とされた労働条件については,基本的には,無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること」とされている。しかし,いずれにおいても「基本的には」という留保が付されていること
から,常に補充的効力を肯定する趣旨とは解されない。そして,例えば,就業規則が全従業員に適用され,その一部条項のみ有期契約労働者の適用を除外する定めが置かれているような場合には,当該定めを無効とすることにより,結果として有期契約労働者についても無期契約労働者と同様に当該就業規則が適用されることになるが,そのように就業規則等の規定を合理的に解
釈することができない場合には,前記のとおり,不法行為による損害賠償責任が生じ得るにとどまるものと解するほかないというべきである。本件では,無期契約労働者の就業規則には,有期契約労働者については別に定める規定を適用すると規定し(乙4・2条),有期契約労働者の就業規則には,無期契約労働者の就業規則(乙4)2条に基づき,有期契約労働者
の労働条件等を定めると規定している(乙6・1条1項)。そして,無期契約労働者の賃金規程においては,同賃金規程では無期契約労働者に適用すべき賃金に関する事項を定めると規定する一方,有期契約労働者には賃金規程のうち基本給(日給),通勤手当及び時間外手当のみ適用し,鋳造作業従事者には鋳造手当も支給するとしている(乙5・1条,乙4・3条,9条)。
また,諸手当について,有期契約労働者の就業規則では,通勤手当,鋳造手当,塗装手当及び時間外手当は支給するが,その他は支給しないと規定して
いる(乙6・14条2項)。また,原告Aの労働条件通知書(甲1)をみても,無期契約労働者の就業規則(乙4)及び賃金規程(乙5)が適用されることを前提とする約定は見当たらない。
以上のとおり,有期契約労働者に支給する手当は賃金規程において限定して列挙されており,関係する就業規則等の規定を合理的に解釈しても,有期
契約労働者に対して,無期契約労働者の賃金規程(乙5)の物価手当を定めた規定を適用することはできない。
そうすると,原告らの被告に対する,無期契約労働者に関する賃金規程の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認を求める請求(上記第2の1①の請求)及び平成25年5月から平成27年4月までに支給される
本件手当等について,原告らに当該賃金規程の規定が適用されることを前提とした労働契約に基づく賃金請求(上記第2の1②の主位的請求)には理由がない。
⑷他方で,原告らは物価手当の支給要件に該当することから,原告らに対する物価手当の不支給は,原告らに対する不法行為を構成する。

4
等の有無及びその額)について
原告らには,物価手当が無期契約労働者と同様の条件で支給された場合における支給額に相当する損害が生じたと認めるのが相当である。
なお,被告においては,無期契約労働者の基本給の金額との対応を考慮し
て物価手当の金額が設定された可能性は否定できず,仮にそうであった場合に,有期契約労働者の基本給の金額が無期契約労働者のそれよりも相当低額であるときには,無期契約労働者に対して支給される物価手当の金額と同額を原告らの損害とすることに疑義がないわけではない。
しかし,前記認定のとおり,物価手当が設定された当時の趣旨目的は明ら
かでないことに加え,被告における無期契約労働者と有期契約労働者の基本給の金額の差異等は証拠上明らかでないことからすると,上記支給相当額を
もって損害と認定するほかない。
そして,原告らは,平成25年5月時点で共に40歳を超えており,別紙3のとおり,40歳以上の者に対する物価手当の支給額は,原告らが損害として請求し主張する1か月当たり1万5000円を下回らないから,平成25年5月から平成27年4月までの間の原告らの損害額(上記第2の1②の予備的請求)は各36万円(=1万5000円×24か月)であり,同年5月から平成29年10月までの間の原告らの損害額(上記第2の1③の請求)は各45万円(=1万5000円×30か月)と認められる。5結論

以上の次第で,原告らの請求のうち,
原告らの被告に対する,地位確認請求(上記第2の1①の請求)及び平成25年5月から平成27年4月までの間に支給される本件手当等についての主位的請求である労働契約に基づく賃金請求(上記第2の1②の主位的請求)は,いずれも理由がないから棄却し,

同期間に支給される本件手当等についての予備的請求である不法行為に基づく損害賠償請求(上記第2の1②予備的請求)は,原告らにつき,それぞれ,被告に対し36万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年6月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の予備的請求は理由がな
いから棄却し,
平成27年5月から平成29年10月までに支給される本件手当等についての不法行為に基づく損害賠償請求(上記第2の1③の請求)は,原告らにつき,それぞれ,被告に対し45万円及び不法行為の日の後である平成29年10月26日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める限
度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

松山地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

裁判官

久保井

百恵瀨子玲
裁判官酒本雄一は,転補のため署名押印できない。

裁判長裁判官

久保井

恵子
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