判例検索β > 平成29年(ネ)第10096号
損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10096
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成30年6月19日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)35182
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平成30年6月19日判決言渡

同日原本領収

平成29年(ネ)第10096号

裁判所書記官

損害賠償請求控訴事件(原審

東京地方裁判所

平成28年(ワ)第35182号)
口頭弁論終結の日

平成30年5月17日
判控決訴人
同訴訟代理人弁護士

X訴人
同訴訟代理人弁護士

中大介田控口田被川誠中雅大
株式会社サイバーエージェント

村聡塚卓也奥田洋一原島典孝板主奏飯
弁理士

木池同佐々垣忠文文
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成28年11月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要等(略称は原判決に従う。)
本件は,その名称を「携帯端末サービスシステム」とする特許第45470
77号の特許権(本件特許権)を有する控訴人が,原判決別紙被告システム目録記載1及び2の各システム(被告システム)を作成,使用している被控訴人に対し,被告システムが本件特許の請求項1記載の発明(本件発明)の技術的範囲に属し,被控訴人の上記行為は本件特許権を侵害すると主張して,民法703条に基づく不当利得の返還として,実施料相当額40億円の一部である10万円及びこれに対する平成28年11月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,被告システムはいずれも文言上本件発明の技術的範囲に属さず,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということもできないとして,控訴人の請求を全部棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴した。2
前提事実

前提事実は,原判決「事実及び理由」の第2の2(原判決2頁20行目~4頁12行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3
1
争点及び争点に対する当事者の主張
原判決の引用

本件における争点及び争点に対する当事者の主張は,原判決15頁18行目の「あったはいえない。」を「あったとはいえない。」に改めるとともに,後記2のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の3(原判決4頁13行目~21行目)及び第3(原判決4頁22行目~16頁9行目)に各記載のとおりであるから,これを引用する。
2
当審における補充主張



争点1(被告システムは,文言上,本件発明の技術的範囲に属するか)につ
いて
〔控訴人の主張〕

構成要件Cについて

本件発明においては,構成要件Cにあるとおり,「その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備え」るという,いわば「ポストペイ式」が念頭に置かれている。これに対し,被告システムにおいては,ユーザーは,アイテムの購入に要するコインの額と無関係に事前に定められた数量単位のコインをあらかじめ購入し,「ショップ」でアイテムを購入する際に,事前に購入しておいたコインを使用するという,いわば「プリペイド式」が採用されている。しかし,被告システムの課金手段と本件発明の課金手段とは,プリペイド式かポストペイ式かという課金の時間的差異があるのみで,被告システムにおけるコインの購入代金が携帯端末の通信料に加算されることに変わりはない。したがって,被告システムは「その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備え」るものということができ,構成要件Cを充足する。原判決は上記の点を見過ごしたものであり,事実誤認である。イ
(ア)

構成要件F及びGについて
「仮想モール」(構成要件F及びG)

本件明細書【0045】の記載によれば,本件発明では,表示部に仮想モールや店の画像を表示させて店を選択する実施形態を採らなければならないものではなく,表示部にキャラクター画像情報に関連付けた文字情報を表示させ,それを選択するという実施形態も想定されていると見られる。
そうすると,「仮想モール」(構成要件F及びG)は,内部に複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されるものに限定される必要はなく,インターネット上に存在する仮想店舗が集まった商店街を意味し,表示部に仮想店舗の文字情報が表示されていれば足りる。
これによれば,被告システムのように,ユーザーが表示画面上で「ショップ」というカテゴリーを選択することによってアイテムを購入する仕組みも「仮想モール」に該当する。「仮想モール」につき,内部に複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されるものをいうとした原判決は誤りである。
(イ)

「表示部に仮想モールと…基本キャラクターとを表示させ」(構成要件F)
上記のとおり,本件発明の「仮想モール」(構成要件F及びG)は,インターネット上に存在する仮想店舗が集まった商店街を意味し,表示部に仮想店舗の文字情報が表示されていれば足りる。
また,確かに,本件発明の作用効果について,「仮想モール」と「基本キャラクター」が共に表示されることを念頭に置いているように読むことも可能であるが,本件明細書【0045】の記載から,表示部にキャラクター画像情報に関連付けた文字情報のみを表示させる形態も想定されているということができる。そうすると,構成要件Fの「表示部に仮想モールと…基本キャラクターとを表示させ」については,表示部に,インターネット上に存在する仮想店舗の集まりが文字情報として表示され,その表示された仮想店舗の文字情報と基本キャラクターとを表示させれば足りるのであって,必ずしも両者を同時に表示させる必要はない。したがって,被告システムは,「表示部に仮想モールと…基本キャラクターとを表示させ」るものに該当する。上記構成につき,表示部に「仮想モール」と「基本キャラクター」とが同時に表示される必要があるとした原判決は誤りである。(ウ)

「前記基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パ
ーツを購入する」(構成要件G)
上記のとおり,本件明細書の記載によれば,本件発明は,表示部にキャラクター画像情報に関連付けた文字情報のみを表示させる形態も想定しているということができる。そうすると,構成要件Gの「基本キャラクター」が「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入する際も,表示部にキャラクター画像情報に関連付けた文字情報のみを表示させていれば足りるというべきである。
したがって,被告システムは,「基本キャラクターが,仮想モール中に設けられた店にてパーツを購入する」構成を有する。「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入する際にも「基本キャラクター」が表示される必要があるとした原判決は誤りである。
(エ)

以上のとおり,被告システムは構成要件F及びGを充足する。これらの構
成要件を充足しないとした原判決は,誤った解釈に基づいて誤った事実認定をしたものである。

したがって,被告システムの構成a~hは,本件発明の構成要件A~Hにそ
れぞれ該当するから,被告システムは,本件発明の構成要件を全て充足し,文言上,その技術的範囲に属するというべきである。
〔被控訴人の主張〕

構成要件Cについて

控訴人は,被告システムの課金手段と本件発明の課金手段は「プリペイド式」か「ポストペイ式」かという課金の時間的差異があるにすぎず,被告システムにおけるコインの購入代金が携帯端末の通信料に加算されることに変わりはないなどと主張する。
しかし,本件発明における「情報提供料」は,「…キャラクターに応じ(て)」「通信料に加算する」ものであるのに対し,被告システムで用いられているアメゴールドないしコインは,被控訴人があらかじめ定めた一定単位数でのみ購入可能なものであり,各種アイテムの対価に応じた数の購入はなし得ないのであるから,両者は全く異なる。
したがって,控訴人の主張には理由がない。

構成要件F及びGについて

控訴人は,「仮想モール」(構成要件F及びG)の解釈につき,本件明細書【0045】の記載からすれば,表示部にキャラクター画像情報に関連付けた文字情報を表示させ,それを選択するという実施形態も想定されているなどと主張する。しかし,上記段落の控訴人指摘部分は,手続補正前の特許請求の範囲記載の請求項を念頭に置いた記載にすぎず,現在の請求項の解釈においては無意味である。すなわち,現在の請求項1は,特許出願に対する拒絶理由通知書(甲20)への応答としてなされた平成21年12月25日付け手続補正書(甲21)に基づく手続補正により,仮想モールの表示を構成要件とする請求項5の構成要件を,請求項2の構成とともに,当初の請求項1に統合して構成されたものである。そして,控訴人は,当該手続補正の補正点3として,請求項1の補正と発明の詳細な説明の「整合性をとるため」に,「仮想モール」の同時表示による作用効果に関する説明を【0006】に追加した(甲21,22)。このような手続補正の経緯に鑑みれば,控訴人が,手続補正によって,仮想モールを同時表示しない構成を請求項1から除外したことは明らかである。
したがって,仮想モールの表示がない選択肢を記載した【0045】の記載が現在の請求項1の解釈に妥当する余地はない。
そして,原判決が認定するとおり,「仮想モール」とは内部に複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されるものをいうところ,被告システムが構成要件F及びGを充足することはない。

以上のとおり,被告システムは,少なくとも構成要件C,F及びGを充足せ
ず,本件発明の技術的範囲に属しない。


争点2(被告システムは,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に
属するか)について
〔控訴人の主張〕

(ア)

均等の第1要件(非本質部分)について
構成要件Cについて

本件明細書【0002】の記載によれば,従来技術は「あらかじめ携帯端末自体のメモリーに保存してある複数のキャラクター画像情報から,気に入ったものを選択して,その携帯端末の表示部に表示すること」であり,本件発明が解決しようとする従来技術の課題の1つとして,サービス提供者がキャラクター画像情報により効率良く利益を得るのは困難であったという事情が挙げられ(【0003】),これを解決する手段として,サービス提供者が画像情報の提供により効率良く利益を得ることができるようにするために,構成要件Cの構成が挙げられている(【0005】)。
しかし,この構成は,審査過程において従来技術とされた引用文献(甲20,乙6,7)にも記載されており,出願当初の特許請求の範囲の請求項1はこれを理由に拒絶された。そこで,控訴人は,手続補正により,特許請求の請求項1につき,出願当初の特許請求の範囲の請求項1に同2及び5を統合したものとし,特許査定を受けた。
このような審査過程や従来技術とされた引用文献の内容等に照らせば,構成要件Cの構成は,従来技術にも見られる構成であるから,「従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分」すなわち本質的部分ではない。(イ)

構成要件F及びGについて

本件明細書の記載によれば,従来技術は「あらかじめ携帯端末自体のメモリーに保存してある複数のキャラクター画像情報から,気に入ったものを選択して,その携帯端末の表示部に表示すること」であり(【0002】),本件発明が解決しようとする従来技術の課題の一つとして,キャラクター選択にあまり選択の幅がなく,ある程度すると飽きてしまい,ユーザーに十分な満足感を与え得るものではなかったという事情が挙げられ(【0003】),これを解決する手段の一つとして,ユーザーが十分な満足感を得られるようにするために,「表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ」るとの構成を含む構成要件F及び「基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」との構成を含む構成要件Gが挙げられている(【0005】)。しかし,前記のとおり,「仮想モール」(構成要件F及びG)は,インターネット上に存在する仮想店舗が集まった商店街を意味し,表示部に仮想店舗の文字情報が表示されていれば足りる。そうすると,「仮想モール」(構成要件F及びG)は,内部に複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されるものに限定される必要はなく,表示部に,インターネット上に存在する仮想店舗の集まりが文字情報として表示され,その表示された仮想店舗の文字情報と基本キャラクターとを表示させれば足り,必ずしも両者を同時に表示させる必要もない。また,「基本キャラクター」が「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入する際も,表示部にキャラクター画像情報に関連付けた文字情報のみを表示させていればよい。したがって,「仮想モール」は本件発明に特有な作用効果に係るものではない。(ウ)

審査過程において従来技術とされた引用文献(甲20)及び意見書(甲2
2)を参酌すると,本件特許請求の範囲に記載された構成のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分すなわち本質的部分は,構成要件E,F及びGである。
そして,本件発明が解決しようとする課題は,従来技術では「ユーザーに十分な満足感を与え得るものではなかった」こと及び「サービス提供者がキャラクター画像情報により効率良く利益を得るのは困難であった」こと(【0003】)から,本件発明を基礎付ける課題の解決原理・技術的思想は,表示部に「仮想モール」を表示し,基本キャラクターが「仮想モールに設けられた」店で購入することにあるのではなく,「創作決定手段に,表示部に基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターを表示させ」(構成要件F’),「基本キャラクターが,店にてパーツを購入することにより,パーツ毎に準備された複数のパターンから一つのパターンを決定し,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替える操作により,気に入ったキャラクターを創作決定する着せ替え部を備える」(構成要件G’)ところにあるというべきである。
本件において,被告システムは,構成要件E,F’及びG’を備えており,本件発明の本質的部分を共通に備えている。
他方,被控訴人が相違点として主張する「仮想モール」の表示は,上記のとおり,本件発明の本質的部分ではないから,均等の第1要件の充足を否定する理由とはならない。
(エ)

以上より,被告システムは,均等の第1要件を充足する。
均等の第5要件(特段の事情)について

前記のとおり,「仮想モール」(構成要件F及びG)は,インターネット上に存在する仮想店舗が集まった商店街を意味し,表示部に仮想店舗の文字情報が表示されていれば足り,被告システムのように,ユーザーが表示画面上で「ショップ」というカテゴリーを選択することによってアイテムを購入する仕組みもこれに該当する。
そうすると,被告システムは,「仮想モール」に対応する構成を有しているのであるから,本件特許の出願経過を参酌したとしても,均等の成立を妨げる特段の事情があるとはいえない。

さらに,原審において主張したとおり,被告システムは,均等の第2要件及
び第3要件も充足することから,仮に被告システムが構成要件C,F及びGを充足しないとしても,被告システムは,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するというべきである。
〔被控訴人の主張〕

均等の第1要件について

まず,控訴人は,構成要件Cの構成は従来技術に見られる構成であり,本件発明の本質的な部分ではないなどと主張する。
しかし,原判決が判示するとおり,課金手段なくして,サービス提供者が画像情報の提供により効率良く利益を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供するという本件発明の目的は達成し得ないのであるから,課金手段たる構成要件Cの構成は,本件発明の本質的部分でないとはいえない。
また,控訴人は,本件明細書【0045】を根拠に,「仮想モール」の表示は本件発明の本質的部分ではないなどと主張する。
しかし,前記のとおり,当該段落は「仮想モール」の表示を要件とする請求項の解釈とは関係がない記載であるし,構成要件F及びGの「仮想モール」の表示に関する構成は,当初の特許請求の範囲の請求項1に存在しなかった構成を,拒絶理由通知後の補正により当初の請求項5から持ち込んで追加したものであり,その後特許査定を得たことに鑑みれば,構成要件F及びGの「仮想モール」の表示に関する構成も,本件発明の本質的部分でないとはいえない。

均等の第5要件について

控訴人は,本件明細書【0045】を根拠に,被告システムは「仮想モール」に対応する構成を有しているから,本件特許の出願経過を参酌しても均等の成立を妨げる特段の事情があるとはいえないなどと主張する。
しかし,控訴人は,当初明細書にすら上記段落のように「仮想モール」に当たらない構成の例を明示していたにもかかわらず,請求項1の補正にあたって殊更「仮想モール」の表示を要件とする請求項に減縮したのであるから,上記段落に記載されている構成が審査段階で意識的に除外されたことは明らかである。ウ
このほか,原審において主張したとおり,均等の第2要件及び第3要件も満
たさないことから,被告システムは均等侵害の要件を満たさない。第4

当裁判所の判断

当裁判所も,被告システムは,いずれも本件特許請求の範囲の請求項の文言上本件発明の技術的範囲に属さず,また,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということもできないと判断する。理由は,以下のとおりである。1
本件発明について



本件特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載

本件特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,以下のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第4の1(16頁11行目~19頁16行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決19頁6行目の「形態」の後に,改行の上,以下のとおり付加する。
「『前記創作決定手段7によりキャラクターを創作決定する一連の操作の基本的な流れを説明すると,例えば,ユーザーは,図3に示すフロー図のように,創作決定手段を備えたデータベースにアクセスして,気に入ったものに変更するべきパーツPを選択し,表示部に順次表示されるパターンp1~pnから気に入ったパターンpを決定し,そのパーツ(パターン)に応じた情報提供料が通信料に課金される操作を繰り返して,パーツP1~Pnを組み合わせ,気に入ったキャラクターを創作し,自分の携帯電話のメモリーに保存することができる。』(【0019】)『まず,データベース5には,顔パーツPfの画像情報として,その複数の顔作成用パーツF毎に複数のパターンf1~fnが準備してある(図2(ロ)参照)。そして,例えば,ユーザーは,図4に示すフロー図のように,データベースにアクセスして,顔作成用パーツF1~Fnのうちから一つを選択し,表示部に表示されるパターンf1~fnから気に入ったものを決定する操作を繰り返し,その決定した複数の顔作成用パーツを組み合わせることにより,気に入った顔をモンタージュ作成することができ,そのモンタージュ作成に応じた情報提供料が通信料に課金され,その創作決定した顔パーツを自分の携帯電話のメモリーに保存することができる。
なお,最初に顔部をモンタージュ作成するにあたっては,顔作成用パーツF1~Fnが自動的に順次選択され,各顔作成用パーツFについてパターンf1~fnから気に入ったものを決定していくようにするなど,ユーザーがキャラクター画像情報を選択し,決定し易いように適宜慣用技術を利用して構成しておけばよい。』(【0024】)
『次に,上記創作決定手段7に備えられた着せ替え部9の構成について説明する。この着せ替え部9は,表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ,その基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にてパーツを購入することにより,そのパーツ毎に準備された複数のパターンから一つのパターンを決定し,前記基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替える着せ替え機能を有するものであり,ユーザーにとっては楽しみが倍増されるとともに,手軽に気に入ったキャラクターを創作することができる。』(【0027】)」

原判決19頁10行目の「構成してある。」の後に,以下のとおり付加する。
「なお,この基本キャラクター11の仮想モール10中での移動は,ユーザーが,携帯端末に設けられた操作部等で操作自在に操れるように適宜構成しておけばよい。そして,前記店S1~Snは,データベース5に準備されたキャラクター画像情報12,つまり,各パーツP1~Pn夫々に対応して用意されたパターンp1~pnと関連づけられており,例えば,基本キャラクター11が店S1に入店すると,パーツP1に対応して用意されたパターンp1~pnが表示部に表示され,その中から気に入ったもの(パターンp)を購入することにより,その購入したパターンが,そのパーツ部分に対応する基本パーツの画像に反映され,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替えることができるようにしてある。
なお,前記店SとパーツPとは,一つの店に対して複数のパーツ,あるいはすべてのパーツを関連づけてあってもよいが,一つの店Sに対して一つのパーツPを関連づけてあれば,ユーザーは,購入したい商品(パーツ)を売っている店に入ることで,わずらわしい選択操作をあまり行なわず,簡便に欲しいものを購入することができる。」

原判決19頁16行目「(【0029】)」の後に,改行の上,以下のとお
り付加する。
「カ

実施例

『まず,ユーザーは,携帯電話1から専用番号を入力することでサービスセンタ側の電話回線網3に接続されたデータベース5にアクセスする。そして,ユーザーが本発明に係る携帯端末サービスシステムをはじめて利用する場合,まず最初に自分の似顔絵を創作決定するモンタージュ作成工程を行うように,設定されている。つまり,図4に示したフローにしたがって,表示部でキャラクター画像を確認しながら,自分の似顔絵を創作決定し,このとき,サービス提供者により,通信料に顔作成用画像情報提供料□円…が加算される。この創作決定の過程の一例を図6を参照しながら説明する。』(【0033】)
『以上のようにして,自分の気に入ったキャラクターを創作することができるのであるが,各商品(パーツ)を購入する毎にキャラクタ画像情報提供料が通信料に加算される。キャラクタ画像情報提供料は,商品のカテゴリー毎に料金が設定してあり,例えば,洋服屋□□円,眼鏡屋△円,靴屋○円,かばん屋◇円,美容院▽円,モンタージュ屋◎円,着メロ屋○○円に設定してある…。』(【0038】)『〔別実施形態〕
以下に他の実施形態を説明する。
〈1〉本発明において携帯端末とは,携帯電話に限らず,PHSでもよく,その他,表示部と通信手段とをを備えていれば,携帯電話やPHS機能を有する携帯パソコンなどでもよい。』(【0041】)
『〈3〉課金手段は先の実施形態で説明したに限るものではなく,例えば,1パーツ毎に課金してもよく,数パーツ毎に課金してもよく,パーツ全部が決まってから課金してもよく,適宜選択設定すればよい。』(【0043】)『〈5〉先の実施形態では,仮想モールや店の画像を表示させて,店を選択することにより,データベースに準備されたキャラクター画像情報を呼び出せるようにしてあったが,単に表示部に,キャラクター画像情報に関連づけた文字情報(例えば,モンタージュ,洋服,靴,眼鏡など)を表示させ,それを選択することでキャラクター画像情報を呼び出せるようにしておいてもよい。』(【0045】)」⑵

本件発明の特徴

前記⑴認定の各記載によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。ア
本件発明は,携帯端末の表示部に気に入ったキャラクターを表示させること
ができる携帯端末サービスシステムに関する(【0001】)。

従来の携帯端末サービスシステムとして,あらかじめ携帯端末自体のメモリ
ーに保存してある複数のキャラクター画像情報から,気に入ったものを選択し,その携帯端末の表示部に表示することができるものが知られている(【0002】)。しかし,この従来技術は,携帯端末自体のメモリーに保存してあるキャラクター画像情報の中から気に入ったものを選択するので,キャラクター選択にあまり選択の幅がなく,ある程度すると飽きてしまい,ユーザーに十分な満足感を与え得るものではなかった(【0003】)。また,サービス提供者にとっても,携帯端末自体にキャラクター画像情報を保存するので,キャラクター画像情報を更新するには携帯端末自体を改めて販売するしかないが,携帯端末はそのままでキャラクター画像情報のみを更新したものではあまり買い手がないため,携帯端末自体も新規な機能を有するものを開発せざるを得ず,キャラクター画像情報により効率良く利益を得るのは困難であった(【0003】)。
本件発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり,その目的は,ユーザーが十分な満足感を得ることができ,かつ,サービス提供者は利益を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供するところにある(【0004】)。ウ
携帯端末から電話回線網に接続されたデータベースにアクセスすることによ
ってキャラクターを選択する構成によれば,携帯端末に比べデータベースの方が保存できる情報量が格段に多く,ユーザーにとっては,キャラクター選択の幅が広がり,キャラクター選択をより楽しむことができ,十分な満足感を得ることができるという効果を奏する。また,サービス提供者にとっては,データベースのキャラクター画像情報を更新するだけで,簡便に,キャラクター画像情報を新規なものに更新し,ユーザーに提供することができる(【0005】)。
そして,キャラクター画像情報に応じて,その情報提供に見合った金額を情報提供料として通信料に加算するという構成によれば,キャラクター画像情報の提供により効率良く利益を得ることができるという効果を奏する(【0005】)。また,キャラクターが複数のパーツを組み合わせて形成するように構成してあり,このような創作決定手段を備えるという構成によれば,ユーザーは,キャラクター選択の幅が更に広がると共に,種々のパーツを組み合わせてキャラクターを創作するというゲーム感覚の遊びをすることができ,十分な満足感を得ることができる(【0006】)。
さらに,創作決定手段に係る着せ替え部を備えるという構成によれば,ユーザーは,仮想モールと,基本キャラクターとが表示された表示部を見ながら,基本キャラクターを自分に見立て,さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で,その仮想モール内に出店された店に入り,パーツという商品を購入することで,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替えて楽しむことができ,新たな楽しみ方ができて十分な満足感を得ることができる(【0006】)。2
争点1(被告システムは,文言上,本件発明の技術的範囲に属するか)につ
いて


構成要件Cについて


本件発明の「課金手段」(構成要件C)

本件発明の「課金手段」について,本件特許請求の範囲には,「その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する」ものと記載されている。また,本件明細書の記載によれば,「課金手段」は,サービス提供者が「キャラクター画像情報の提供により効率良く利益を得る」(【0005】)ためのものであり,具体的には,実施の形態ないし実施例として,パーツ等に応じた情報提供料を通信料に加算する態様のみが記載され(【0019】,【0024】,【0033】,【0038】,【0043】),それ以外の課金手段は記載されていない。なお,【0043】では,「課金手段は先の実施形態で説明したに限るものではなく,…適宜選択設定すればよい。」とされているものの,「例えば」として,具体的には,課金対象が1パーツ毎,数パーツ毎及びパーツ全部が決まってから課金する例が記載されているのみである。これらの具体例は,いずれも購入したパーツ等に応じて通信料に加算する課金態様として理解される。
以上によれば,本件発明においては,決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算するという課金の態様こそがサービス提供者にとって効率良く利益を得る態様であるとされているものと解される。このことは,本件発明が電話回線網への通信手段を備える携帯端末(構成要件A)を前提とした発明であること,及び本件特許出願当時,携帯電話において,通信以外のサービスの料金を通信料に加算して電話会社が代行回収することが一般的に行われていたと見られること(乙9,10)とも整合する。
したがって,本件発明の「課金手段」(構成要件C)は,その文言のとおり,決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する態様の課金手段を意味するものと解される。

被告システムについて

証拠(乙2,4)及び弁論の全趣旨によれば,被告システムにおいて,ピグ(キャラクター)を構成するアイテムを購入するための料金は,「コイン」(統合以前の「アメゴールド」を含む。以下同じ。)を消費することにより決済されること,ユーザーは,この「コイン」を,携帯電話会社の提供する決済システムにおいて通信料金と合算して料金を支払うことにより購入し得ること,この通信料金との合算は「コイン」という決済手段を購入する際に行われるところ,その際には,アイテムの購入とは無関係に被控訴人が事前に設定した購入単位数量の中から選択するほかなく,アイテムを購入する際には,その代金は上記方法により事前に購入された「コイン」によって決済され,この段階で通信料に合算されることはないことがそれぞれ認められる。
そうすると,被告システムは,「情報提供料を通信料に加算する課金手段」を備えるものということはできないし,「キャラクターに応じた情報提供料」を「通信料に加算する」ものということもできない。
したがって,被告システムは,本件発明の課金手段を有するということはできず,構成要件Cを充足しない。

控訴人の主張について

この点について,控訴人は,被告システムの課金手段と本件発明の課金手段は,課金の時間的差異があるのみで,被告システムにおけるコインの購入代金が携帯端末の通信料に加算されることに変わりはない旨主張する。
しかし,被告システムにおける「コイン」は,プリペイド式すなわち前払式支払手段である。前払式支払手段とは,利用者から対価としてあらかじめ支払われた金額に応じて発行され,財・サービスの提供を受ける際の支払手段として利用可能なものをいう(甲28)。そうすると,被告システムにおいて通信料に合算される代金は,「コイン」の発行の対価として支払われるものであって,「コイン」の消費によって決済されるアイテムの代金とは別個独立に理解把握されるべきものということができる。
したがって,本件発明の課金手段と被告システムの「コイン」との相違は,単に課金の時間的差異にとどまるものではなく,支払手段そのものの相違として理解される。
そうである以上,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。


構成要件F及びGについて


本件発明の「仮想モール」(構成要件F及びG)

本件発明の「仮想モール」について,本件特許請求の範囲には,「前記表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ」及び「前記基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」と記載されている。
他方,本件明細書には,本件発明の目的につき,「ユーザーが十分な満足感を得る」という目的を達成する(【0004】),より具体的には,「ユーザーは,仮想モールと,基本キャラクターとが表示された表示部を見ながら,基本キャラクターを自分に見立て,さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で,その仮想モール内に出店された店に入り,パーツという商品を購入することで,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替えて,楽しむこと」という「新たな楽しみ方ができて」ユーザーが「十分な満足感」ないし「楽しみ」を得ることにある旨が記載されている(【0006】,【0027】)。また,本件明細書には,「発明の実施の形態」として,「図5に示すように,表示部2には,仮想モール10,基本キャラクター11が表示され,店S1~Snが出店された仮想モール10内に基本キャラクター11を出現させ,基本キャラクター11があたかも仮想モール10内の住人であるかのように構成してある。なお,この基本キャラクター11の仮想モール10中での移動は,ユーザーが,携帯端末に設けられた操作部等で操作自在に操れるように適宜構成しておけばよい。」(【0028】),「ユーザーは,自分自身を仮想モールの中のキャラクターに投影して,あたかも自分が仮想モール中で暮らしているようなゲーム感覚が得られ,種々の店に入り買い物をすることができ,さらに楽しみが倍増される。」(【0029】)との記載がある。これらの記載によれば,本件発明の「基本キャラクター」はユーザー自身が投影される対象であり,「仮想モール」は「基本キャラクター」が生活する場所であり,そのような「基本キャラクター」及び「仮想モール」は,「基本キャラクター」が「仮想モール」内を移動して種々の店に入り買い物をすることにより,あたかもユーザー自身が仮想モール中で生活しているかのようなゲーム感覚を生じさせてユーザーの楽しみを倍増させ,ユーザーに十分な満足感を与えるといった目的を実現させるために設けられた要素であると理解される。
そうすると,そのような「仮想モール」は,本件明細書図5に示されるように,店舗のみならず基本キャラクターが移動し得る通路をも備える必要があると解される。このことは,「モール」という言葉に「遊歩道。広義には,建物の内部に設計された遊歩のための空間も含む。」(乙5)といった語義があることとも整合する。イ
被告システムについて

証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,被告システムにおいては,アイテムを購入する際,ピグをショップに移動させる操作を必要とせず,そのためピグの移動のための通路が表示されることはなく,文字情報とアイコンにより表示される「ショップ一覧」の画面に列挙されるショップを選択し,選択したショップの取扱いアイテムが一覧表示された画面から所望のアイテムを選択して購入する手順が採用されていることが認められる。
このような被告システムのアイテム購入画面には,本件発明を構成する「仮想モール」,すなわち,店舗のみならず基本キャラクターが移動し得る通路を備え,「さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚」(【0006】)ないし「あたかも自分が仮想モール中で暮らしているようなゲーム感覚」(【0029】)が得られるような「仮想モール」が表示されているということはできない。したがって,被告システムは,本件発明の「仮想モール」を備えておらず,構成要件F及びGを充足しない。

控訴人の主張について

この点につき,控訴人は,本件明細書【0045】の記載によれば,本件発明においては,仮想モールや店の画像を表示させて店を選択する実施形態を採らなければならないものではなく,表示部にキャラクター画像情報に関連付けた文字情報を表示させ,それを選択するという実施形態も想定されていることから,構成要件F及びGの「仮想モール」は,インターネット上に存在する仮想店舗が集まった商店街を意味し,表示部に仮想店舗の文字情報が表示されていれば足り,内部に複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されるものに限定される必要はない旨主張する。
しかし,上記段落の記載は,本件明細書【0041】から始まる「別実施形態」の説明の一部を構成するものであり,「仮想モールや店の画像を表示させ」る「先の実施形態」に対する別の実施形態として「表示部に」「キャラクター画像情報に関連づけた文字情報(例えば,モンタージュ,洋服,靴,眼鏡など)を表示させ」る形態を示したものにすぎず,当該「キャラクター画像情報に関連づけた文字情報」が「仮想モール」と同義ないしこれに含まれることを説明するものということは必ずしもできない。また,本件明細書には,「キャラクター画像情報に関連づけた文字情報を表示させ」るこの別実施形態によって「さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚」ないし「あたかも自分が仮想モール中で暮らしているようなゲーム感覚」を得られると認めるに足りる記載も存在しない。そうすると,【0045】の上記記載をもって本件発明の「仮想モール」の説明とみることはできない。
したがって,上記段落の記載を参照しても,本件発明の「仮想モール」が単なる文字情報で足りると認めることはできない。この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。


小括

以上より,被告システムは,少なくとも本件発明の構成要件C,F及びGを充足せず,その文言上,本件発明の技術的範囲に含まれるとはいえない。3
争点2(被告システムは,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に
属するか)について


特許請求の範囲に記載された構成に,相手方が製造等をする製品又は用いる
方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合であっても,①当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,②当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,③そのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,当該対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁,最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。⑵

第1要件(非本質的部分)について


特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその作用効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。そして,従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定され,従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ,より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり,均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。

(ア)

本件発明の貢献の程度
本件明細書に記載された従来技術

本件明細書によれば,本件発明に関する従来技術は,「あらかじめ携帯端末自体のメモリーに保存してある複数のキャラクター画像情報から,気に入ったものを選択して,その携帯端末の表示部に表示することができるもの」(【0002】)であるところ,当該従来技術においては,「携帯端末自体のメモリーに保存してあるキャラクター画像情報のなかから気に入ったものを選択するので,メモリーに保存できる情報量には限りがあることから,キャラクター選択にあまり選択の幅がなく,ある程度すると飽きてしまい,ユーザーに十分な満足感を与え得るものではなかった」(【0003】)こと,及び「サービス提供者にとっても,…キャラクター画像情報を更新するには,携帯端末自体を改めて販売するしかない」ため「キャラクター画像情報により効率良く利益を得るのは困難であった」(【0003】)という課題があったことが記載されている。
(イ)

本件発明の課題解決手段

本件発明は,従来技術の上記課題を解決するため,「ユーザーが十分な満足感を得ることができ,且つ,サービス提供者は利益を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供する」ことを目的として,本件特許請求の範囲記載の構成を採用したものである。その構成は,大きくは,①携帯端末からデータベースにアクセスし,データベースに用意された複数のキャラクターから気に入ったキャラクターを決定する携帯端末サービスシステムである点,②キャラクターが,複数のパーツを組み合わせて形成するように構成してあり,複数のパーツを組み合わせて,気に入ったキャラクターを創作決定する創作決定手段を備える点,③創作決定手段に,表示部に仮想モールと基本キャラクターとを表示させ,前記基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入することにより,前記基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替える操作により,気に入ったキャラクターを創作決定する着せ替え部を備える点,及び④決定したキャラクターに応じた情報提供料を,携帯端末自体を改めて販売する以外の方法で課金する課金手段の4点からなるものということができる。
(ウ)

本件発明の作用効果
本件発明においては,携帯端末から電話回線網に接続されたデータベースにアクセスし,キャラクターを選択するという構成(前記①)を採用することにより,ユーザーにとっては,キャラクター選択の幅が広がり,十分な満足感を得ることができる。また,サービス提供者にとっては,データベースのキャラクター画像情報を更新するだけで,簡便にキャラクター画像情報を新規なものに更新し,ユーザーに提供することができるとともに,キャラクター画像情報に応じて情報提供料を通信料に加算すること(前記④)により,キャラクター画像情報の提供により効率良く利益を得ることができる(【0005】)。
さらに,キャラクターが複数のパーツを組み合わせて形成する創作決定手段を備えること(前記②)により,ユーザーは,キャラクター選択の幅が更に広がると共に,種々のパーツを組み合わせてキャラクターを創作するというゲーム感覚の遊びをすることができ,十分な満足感を得ることができる。それと共に,創作決定手段に係る着せ替え部を備えること(前記③)により,ユーザーは,仮想モールと,基本キャラクターとが表示された表示部を見ながら,基本キャラクターを自分に見立て,さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で,その仮想モール内に出店された店に入り,パーツという商品を購入することで,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替えて楽しむことができ,新たな楽しみ方ができて十分な満足感を得ることができる(【0006】)。
(エ)

もっとも,本件の場合,本件明細書に従来技術が解決できなかった課題と
して記載されているところは,以下のとおり,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分なものと認められる。
a
キャラクター選択の幅について

本件特許出願日以前に,携帯端末へ毎日異なるキャラクタ画面を配信するiモード上でのサービスとして「いつでもキャラっぱ!」が公知であったことが認められる(乙6)。このことに鑑みれば,本件特許出願日において「携帯端末自体のメモリーに保存してあるキャラクター画像情報のなかから気に入ったものを選択するので,キャラクター選択にあまり選択の幅がなく」「ユーザーに十分な満足感を与え得るものではなかった。」(本件明細書【0003】)との課題,及び「携帯端末自体にキャラクター画像情報を保存するので,」「サービス提供者にとっても,」「キャラクター画像情報を更新するには,携帯端末自体を改めて販売するしかない」(【0003】)との課題が未解決のままであったとは認められない。b
キャラクターの形成とその利用について

本件特許出願日以前に,「ハビタット」という名称のサービスがパソコン通信ネットワークを通じて一般公衆向けに提供され,公知となっていたところ,当該サービスは,仮想空間内の店舗で購入したパーツを組み合わせることにより,ユーザーがその好み等に従い「アバター」と呼ばれるキャラクターを作成し,このアバターが仮想空間内を歩き回るなどあたかも生活しているかのように活動することができ,これを通じてユーザーが仮想世界で生活しているような気分を感じることができるものと認められる(乙8)。このことに鑑みれば,「種々のパーツを組み合わせてキャラクターを創作するというゲーム感覚の遊びをすることができ」(本件明細書【0006】)るという意味での「十分な満足感」及び「さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で,その仮想モール内に出店された店に入り,パーツという商品を購入することで,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替えて,楽しむことができ」(【0006】)るという意味での「十分な満足感」を得ることは,本件特許出願日において既に解決されている課題であったといわざるを得ない。
c
キャラクター画像情報に対する課金方法について

本件特許出願日以前に,キャラクター画像情報に対する課金方法として,携帯端末自体を改めて販売する態様ではないもの,すなわち,毎月100円を支払うことにより携帯電話機へ毎日異なるキャラクタ画面データを配信するiモード上での上記サービス「いつでもキャラっぱ!」が公知であったこと(乙6),及びiモードにおいてはコンテンツプロバイダー(情報提供者)がコンテンツの情報料をNTTドコモから携帯電話の通信料と合わせて課金し得るシステムが採用されていたこと(乙9)が認められる。このことに鑑みれば,本件特許出願日において,「サービス提供者にとっても,…キャラクター画像情報を更新するには,携帯端末自体を改めて販売するしかない」ため「キャラクター画像情報により効率良く利益を得るのは困難であった。」(本件明細書【0003】)との課題が未解決のままであったとは認められない。
d
しかるに,本件明細書には,乙6,8及び9記載の上記技術についての記載
はない。したがって,本件明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところは,本件特許出願日における従来技術に照らして客観的に見て不十分なものと認められる。
そうすると,本件発明の本質的部分は,本件明細書の記載に加えて,乙6,8及び9記載の前記技術も参酌して認定されるべきである。
(オ)

そして,本件明細書の記載並びに乙6,8及び9記載の前記技術によれば,
キャラクター選択・変更等の態様に関する構成(前記①並びに②及び③の組合せ)について,本件明細書は,複数のパーツを組み合わせて気に入ったキャラクターを創作決定すること(前記②及び③)を携帯端末サービスシステムで提供する(前記①)という発想自体を開示するにとどまり,このようなシステムの実装における未解決の技術的困難性を具体的に指摘し,かつ,その困難性を克服するための具体的手段を開示するものではないので,従来技術に対する本件発明の貢献の程度は小さいというべきである。
キャラクターの選択等に対する課金に関する構成(前記②及び③並びに④の組合せ)についても,本件明細書は,複数のパーツを組み合わせて気に入ったキャラクターを創作決定し(前記②及び③),当該決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する(前記④)という発想自体を開示するにとどまり,このような課金方法の実装における未解決の技術的困難性を具体的に指摘し,かつ,その困難性を克服するための具体的手段を開示するものではないので,従来技術に対する本件発明の貢献の程度は小さいというべきである。
そうすると,本件発明の本質的部分については,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定するのが相当である。

被告システムの均等の第1要件の非充足

他方,被告システムは,前記のとおり構成要件C,F及びGを備えていない。したがって,被告システムが本件発明の本質的部分を備えているということはできず,本件発明と被告システムとは本質的部分において相違すると認められる。以上より,被告システムは,均等の第1要件を充足しない。

控訴人の主張について

この点につき,控訴人は,構成要件Cは非本質的部分であり,構成要件F及びGも本質的部分ではなく,本件発明の本質的部分は構成要件E,F’(「創作決定手段に,表示部に基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターを表示させ」)及びG’(「基本キャラクターが,店にてパーツを購入することにより,パーツ毎に準備された複数のパターンから一つのパターンを決定し,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替える操作により,気に入ったキャラクターを創作決定する着せ替え部を備える」)であり,被告システムはこれらを備えているから,第1要件を充足する旨主張する。
しかし,構成要件E,F’及びG’は乙8に示される従来技術に開示されているものであり(上記イ(エ)b),構成要件E,F’及びG’の組合せは,それのみでは本件発明の本質的部分を構成し得ない。
したがって,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。


第5要件(特段の事情)について


本件特許の出願経過

原判決31頁15行目の「本件特許特許請求の範囲」を「本件特許請求の範囲」に改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第4の3の⑶ア(原判決29頁10行目~31頁20行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。イ
特段の事情の有無

前記認定の出願経過によれば,控訴人は,構成要件A~C及びHからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)及び構成要件A~E及びHからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項2に係る発明)については,特許を受けることを諦め,これらに代えて構成要件A~Hからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項1に同2及び5を統合した発明,すなわち本件発明)に限定して,特許を受けたものということができる。
そうすると,控訴人は,構成要件F及びGの全部又は一部を備えない発明について,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したか,少なくとも外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができる。したがって,均等の成立を妨げる特段の事情があるというべきであり,均等の第5要件を充足しない。

控訴人の主張について

この点につき,控訴人は,被告システムは「仮想モール」に相当する構成を有しているから,本件特許の出願経過を参酌したとしても,均等の成立を妨げる特段の事情があるとはいえない旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明の「仮想モール」は「ショップ」というカテゴリーを選択することによってアイテムを購入する仕組みを包含するものではなく,また,本件明細書【0045】は本件発明の「仮想モール」を説明するものと見ることができない以上,当該段落が当初から残存していたという本件特許の出願経過も,本件発明の「仮想モール」の技術的意義を左右するものではない。したがって,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。


小括

以上によれば,被告システムは,少なくとも均等の第1要件(非本質的部分)及び第5要件(特段の事情)を充足しないことから,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するということはできない。
4
結論

以上のとおり,被告システムは,文言上,本件発明の技術的範囲に属さず,かつ,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということもできない。したがって,控訴人の請求はいずれも理由がないから,これをいずれも棄却した原判決は相当である。よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

高部眞
裁判官

杉浦正
裁判官

片瀬規子樹亮
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