判例検索β > 平成28年(わ)第5349号
背任、電磁的公正証書原本不実記録・同供用、詐欺被告事件
事件番号平成28(わ)5349
事件名背任,電磁的公正証書原本不実記録・同供用,詐欺被告事件
裁判年月日平成30年5月7日
法廷名大阪地方裁判所
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主文
被告人を懲役6年に処する
未決勾留日数中330日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1

A大本山B寺の末寺であるC寺の住職であり,宗教法人C寺の代表役員であるが,C寺の代表総代を自称していたDと共謀の上,E株式会社から,財団法人(現一般財団法人)Fが所有する座禅研修施設であるFの改修工事及び宗教法人B寺が所有する事業施設であるGの建替工事の工事請負に関する建設保証金の名目で現金をだまし取ろうと計画し,真実は,同財団法人,同宗教法人及び宗教法人Aにおいて,前記各工事を発注する意思はなく,工事代金等を支払うことができるだけの資金の確保も計画しておらず,かつ,被告人及びDに各工事の発注権限を与えた事実もなかったのに,これらがあるかのように装い,平成25年4月頃,京都府宇治市ab番地所在の前記B寺及び同市cd番地所在のFの各施設内等において,複数回にわたり,Dが自ら,あるいは,情を知らないIらを介して,E株式会社の代表取締役であるJに対し,
「工事は,F
の改修工事とB寺Gの建替工事の2件です。最初にFの改修工事をしてから,Gの建替工事をします。工事予算は,Fが17億円くらいで,Gが5億円くらいです。条件として,先に3億円を建設保証金として出していただきます。この3億円は,請負工事代金に含めてお返しします。3億円は,Fの理事を入れ替えるための退職金に使います。「2件の工事とも,AB寺が末寺から集める」
寄付金で工事します。Fは,B寺の所有地に建っていて,Aの僧侶の宿泊施設として建てられたものなので,B寺で集めた寄付金をその建設資金に充てることができます。2件の工事とも,Aの許可は出ています。
」などとうそを言い,
Jをして,E株式会社が建設保証金として3億円を支払えば,E株式会社が前記各工事を受注でき,建設保証金3億円の返還分を含む請負工事代金全額の支払を受けられるものと誤信させ,よって,同年5月30日,Jをして,E株式会社から

e町f番地g所在の株式会社K銀行L支店に開設された

D名義の普通預金口座に2億円を振込入金させるとともに,同月31日,Fにおいて,Jから現金1億円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた第2

宗教法人C寺の代表役員であり,前記DはM株式会社の代表取締役であるとともに,C寺の代表総代を自称していた者であるが,被告人及びDは,平成24年1月25日頃,C寺が,株式会社Nから1億5000万円を借り入れるに当たり,被告人及びDにおいて,その頃から平成26年3月11日頃にかけ,C寺あるいは被告人が所有する別紙物件目録記載の不動産合計11物件(以下「本件不動産」という。
)に係る登記済証等,所有権移転登記に必要な書類を
株式会社Nの代表取締役Oに交付して預け,同人との間で,C寺が前記1億5000万円及びその利息金等(以下「借入金等」という。
)を株式会社Nとの
間で定めた支払期限までに株式会社Nに支払わなければ,本件不動産の所有権を株式会社Nに移転する登記を行うことを了承する旨合意した上,同年5月20日,株式会社Nから,既に支払期限が経過しており,同月22日までに借入金等を支払わなければ本件不動産の所有権移転登記を行う旨の通知を受けたにもかかわらず,同日までに借入金等を支払わなかったのであるから,株式会社Nが本件不動産の所有権移転登記手続を行う際には,前記合意に従い,速やかにこれに協力すべき任務を負っていたのに,その任務に背き,同移転登記の申請手続について委任を受けたP司法書士が,同月23日に,
i番地j所在の松山地方法務局に対して,同年4月30日付けで被告人あるいはC寺が本件不動産を株式会社Nに売買した旨の所有権移転登記申請をしたことに対し,同移転登記を妨害することで,C寺及び被告人の利益を図り,株式会社Nに財産上の損害を加える目的で,共謀の上,被告人において,同年5月29日頃,同法務局において,同法務局登記官に対し,
「権利書が搾取された
ため,不正な登記の申請がされるおそれがある。
」などとする内容虚偽の記載
をした不正登記防止申出書等を提出した上,同年6月10日,同法務局において,同法務局登記官に対し,
「私の知らぬうちに登記申請がなされた。代理人
とは会ったことがない。
」などと虚偽の申立てをするなどし,同法務局登記官
をして,同月23日付けで前記登記申請を却下させ,これに引き続き,被告人及びDにおいて,同年7月8日,同法務局において,情を知らないQをして,同法務局登記官に対し,本件不動産に対し,平成22年12月9日付けでM株式会社を根抵当権者,被告人あるいはC寺を根抵当権設定者,C寺を債務者とする極度額2億円の共同根抵当権を設定した旨の内容虚偽の共同根抵当権設定登記の申請をM株式会社及び被告人あるいはC寺の共同申請名義で行い,平成26年7月15日頃,同所において,情を知らない同法務局登記官に,本件不動産の登記簿の原本として用いられる電磁的記録である登記記録にその旨不実の登記をさせ,これをその頃同所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供するとともに,本件不動産に株式会社Nの所有権に対抗し得る共同根抵当権を設定し,さらに,被告人及びDにおいて,同月18日及び同年8月27日,同法務局において,情を知らない前記Qをして,同法務局登記官に対し,同年4月10日付けで被告人あるいはC寺が本件不動産を宗教法人R寺に寄付した旨の内容虚偽の所有権移転登記の申請を同宗教法人及び被告人あるいはC寺の共同申請名義で行い,同年7月28日及び同年9月1日頃,同所において,情を知らない同法務局登記官に,本件不動産の登記簿の原本として用いられる電磁的記録である登記記録にその旨不実の登記をさせ,これをその頃同所に備え付けさせて公正証書の原本の用に供するとともに,本件不動産に株式会社Nの所有権に対抗し得る所有権移転登記を行い,もって株式会社Nに財産上の損害を負わせた
ものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1
1
判示事実第1について
判示事実第1記載の詐欺については,被告人がDと共謀したと言えるか,及び,被告人に故意が認められるかについて,争いがある。この点について,弁護人は,本件は共犯者とされるDが単独で行ったものであり,被告人はDから,工事の発注権限の委任を受けたこと,及び,工事代金の確保についての計画の存在を聞いていたことからすると,被告人とDの間に意思連絡はなく,故意も認められないと主張する。

2
まず,被告人の供述と共犯者であるDの証言を除く,その他の関係各証拠から,次のとおり,犯罪事実欄記載の詐欺の外形的事実が認められる。Dが自ら,あるいは,情を知らないIらを
介して,複数回にわたり,E株式会社の代表取締役であるJに対して,Fの改修工事を行うこと,3億円の建設保証金が必要であること,建設資金はB寺で集めた寄付金を充てることなど,犯罪事実欄記載の欺罔文言を申し向けたこと,J
D名義の普通預金口座に2億

円がJから振り込み入金され,翌31日には,DがJから現金1億円を受け取ったこと,がそれぞれ認められる。
なお,平成29年2月14日付け起訴状記載の公訴事実(第2回公判における起訴状の訂正を含む。
)には,Jに対する一連の欺罔文言について,
「被告人
及びDが自ら,あるいは」
「I」
「らを介して」
「うそを言」ったこととなって
いるが,当公判廷で証言した関係者の中で被告人が一連の欺罔文言の一部を述べたことを明確に証言している者はおらず,いずれも曖昧な証言にとどまっていることからすると,被告人がJに対して自ら発言したことについては合理的な疑いが残るのであって,判示のとおり,一連の欺罔文言は「Dが自ら,あるいは」
「I」
「らを介して」うそを言ったものと認定した。
3
次に,上記の詐欺の外形的事実について,被告人がどのような認識であったのかについて検討する。
この点,関係各証拠から,平成25年4月27日,被告人は,B寺でSらと会うとともに,Dが,Fの改修及びGの建替工事(以下「本件各工事」という。
)について,Sらに対して説明していた際,被告人も同席していたこと(S証言8ないし14頁,I証言28ないし32頁)
,及び,その際,D
は,工事の資金についてはAの末寺からのお布施を集めて建て直すこと,工事の発注についてはFやB寺から全て任されており,Aの許可は得ている等の説明をした(S証言11ないし13頁,甲54)ことが認められる。そうすると,ここに同席していた被告人としても,通常は,本件各工事についての説明内容を認識していたものと推認することができる。
その上で,まず資金計画の点について検討

平成22

年9月頃,株式会社TがU銀行に対して負う2億円の債務について,被告人自身が連帯保証人になっていたことを自認しているところ(第10回被告人平成24年12月
末時
これに先立つ平成24年1月には,Dが株式会社Nから1億5000万円の融資金を受領したことを,被告人は認識していたことを自認している(第9回被告人供述10,11頁)ことからすると,被告人は,本件当時,株式会社Tが多額の借入れをしている状況にあるだけでなく,借入れの返済も滞り,多額の負債を抱えたままの経営状況であったことを認識していたと推認できる。そうだとすると,被告人において,特に具体的かつ現実的な資金確保の方法があるとの認識が無い限り,E株式会社に本件各工事を発注しても,Dあるいは株式会社TがE株式会社に対し,3億円を含む工事代金を返済する能力が疑わしいことを認識していたと推認することができる。
次に本件各工事の発注権限及び発注意思の点について検討する。まず,G被告人は,平成22年頃から平成23年頃まで,宗教
法人B寺の宗会に,宗会議員として出席していた上(甲118)


B寺の

規則を見たことがあったことを自認している(第10回被告人供述51頁)ことからすると,被告人において,本件当時,宗会の決議など何らかの内部手続を経る必要があることを認識していたと推認することができる。このことは,別の宗教法人ではあるものの,実際に被告人がC寺の建替工事の関係で,Aに対し,自ら財産等処分申請書を提出していること(甲2資料1-2,第9回被告人供述5,6頁)からも,被告人が宗教法人における財産処分の方法について認識していたことが裏付けられている。そうすると,本件当時,Gの工事について,そのような内部手続は全く履践されておらず,被告人は内部手続が履践されていないことを認識していたのであるから,被告人がB寺において本件各工事の発注権限や発注意思が無かったことを認識していたと推認することができる。
また,Fの工事については,そもそもFは財団法人であって,財団法人における多額の借財や重要な財産の処分は,法律上理事会の承認事項であるから,本件のような工事について,何らかの内部手続を経る必要があることは,具体的な法律の存在を知らなくても,認識し得たと言える。特に本件では,Fにはさしたる財産や収入もなかったのであるから,本件のように億単位の莫大な費用がかかり,かつ,現状からの変更の著しい工事については,理事長の独断で決定できるような事項と考える余地はなく,理事会の決議等何らかの内部手続を経る必要があることを認識していたと推認することができる。加えて,本件では,被告人自身,E株式会社に本件各工事の依頼をした後の平成25年7月以降,Fの理事に就任し,理事会に出席するようになった後の段階においても,Fの工事について議題に挙げるようなこともせず(甲120)
,また,平成26年4月1日に代表理事に就任(甲50)してからも,改修工事に着手するような行動を一切取っていないことからすると,被告人においても,本件当時,Fに工事の発注権限や発注意思が無いことを認識していたものと推認することができる。

株式会社Tの経営状態を認識し,同社には多額の融資金を返済する能力がな
を認識していたことからすると,DのJに対する一連の発言内容をその場で聞いていた被告人としては,Dの発言が虚偽であり,Dの行為が詐欺罪にあたることを認識していたものと合理的に推認することができる。
そこで更に進んで,被告人とDとの間に,詐欺罪の意思連絡が認められるかどうかについて検討する。
工事は,Fの理事長を被告人に交
代するという話と同時期に進められてきた案件であることは被告人が自認するとおりであり(第10回被告人供述3頁)
に関係する建築物の建替工事を内容とするものであって,その専門性が高いだけでなく,被告人にも直接利害関係があり,その程度も高いものがある案Jは,被告人がAの末寺である
C寺の住職,及び,V教団第2代教祖の血縁という被告人の地位を信用して多額の融資を行ったもの(S証言6,31頁,甲54,甲55)であり,その意味では被告人の地位に対する信頼なくしてJから融資の約束を取り付けることはできなかったと言え,被告人の存在は本件犯行にとって必要不可欠であったといえる。そうすると,共犯者であるDが被告人の関与なくして独断で,専ら自己のために本件詐欺を計画・立案し,実行したとは到底考えられないのであって,その後にFの理事に被告人とDが就任したり,Aの総長からの委任状を取得したりするという宗教法人内部での諸手続き等も勘案すると,被告人は少なくとも共犯者と同等の立場で本件の企画・立案段階から平成24年
7月頃,証人IとDが本件各工事に関連して資金提供をしてくれる業者について話し合う場に同席していた(I証言25頁,第10回被告人供述9ないし11頁)ことが認められるなど,被告人が本件各工事にある程度関与して
うち,被告人の述べるところによっても少なくとも2300万円が被告人の手元に流れていること(第10回被告人供述19ないし21頁)などの事実も認められることも合わせ考慮すると,被告人は,Dが自己及び被告人のために一連の行為に及ぶことを認識,認容し,そのことをDも認識していたと推認するのが相当である。以上の事実を前提にする限り,被告人とDとの間には,本件詐欺罪についての意思連絡があったということができる。4
ところで,共犯者であるDは,本件詐欺について自己の関与した点について,被告人からの指示であった旨証言しており,この点は共犯者と被告人との共謀の有無や被告人の量刑を決める上で重要な点であるところ,弁護人はその信用性を争ってDの証言は事実認定に用いるべきではない旨主張しているため,念のためその証言の信用性についてここで判断することとする。
Dは,当公判廷において,本件一連の犯行は,いずれも被告人の指示の下,被告人のために行った行為である旨一貫して証言している。
確かに,前記のとおり,本件は被告人の関与無くしては考えられない犯罪であることに加え,被告人とDの付き合いは,平成7年頃,Dが家族の祈とうをお願いするためにC寺を訪れたことがきっかけとなって始まったもので,Dが,被告人に家族を救ってもらったと感じ,被告人に対する多大な恩義に報いるため,長年に渡り,お布施と称して被告人に金銭を渡す等,経済的,社会的に被告人に利益になる行為をしてきたという趣旨の証言をしていることなどからすると,被告人の関与が無いとは言えないという限度ではDの証言も信用できないわけではない。
しかしながら,他方,D自身,同様の件で刑事公判中であるところ,詐欺罪については判示認定のとおり,もっぱらDが被害者に欺罔文言を告げたものと認められるのに,当公判廷ではこれを否定していたり,融資金を返済する意思があったかのように述べて詐取の故意を否定する趣旨の供述をしていたり,また,一部捜査段階とも異なる証言をするなど,供述の変遷もうかがわれるのである。そうすると,Dが自己の罪責を免れるために被告人に必要以上に罪をかぶせるような証言をしている可能性も完全には否定できないところである。また,被告人が主導的に犯行に及んだとするDの供述を支える他の有力な間接事実は見当たらず,かえって,本件詐欺により被告人自身が実際に得た金銭は,証拠上2300万円程度と認められ,3億円の詐取金全体からすると,その割合は1割以下にとどまっているのである。
そうすると,本件犯行は被告人から指示されて行ったものとするDの証言を完全には信用しがたいのであって,上記のとおり,他の証拠関係から,被告人とDはほぼ同等の立場でそれぞれの役割を果たしたものと評価するのが相当である。
5
被告人供述について
最後に,被告人の当公判廷における供述の信用性について,検討する。
成23年3月頃,AのW総長からFの理事長を交代してくれないかという話があり,また,Fの建替工事の話については,Aにはお金がないので,誰か
るという本件各工事の具体的な金額は,Fが約8億から10億円,Gが約5億から10億円という認識だった

株式

会社Tが平成22年に差押えを受けていたことは,当時は知らなかった(第Dが自
分の会社で支払うと言っており(第10回被告人供述5,9,43頁),海
外から約100億円ほど融資が受けられ,平成24年のうちには融資が入るから工事の費用は大丈夫だとも言っていたので,それを信頼していた(第1Dからは,末寺の寄附を集め
て払いたいということも言われたが,それに対しては,無理だと思うと答えFとGの工事の発注権限に
ついては,総長に権限があると思っており,他に手続は必要ないと思っていDは,総長から委任状
をもらったと話していたので,本件各工事の発注権限については問題ないとJとどのよ
うな契約があるのか等については,全く分からない状態だった(第10回被告人供述22頁)
,などというのである。
上記の被告人の供述を前提にすると,被告人は,Dから改修工事について,お布施で賄うことについて相談を受けた際に無理ではないかとこれを否定したばかりでなく,被告人自ら実際に寄附を募ることもせず(第10回被告人供述76頁)
,Dが任意の寄附を募ってはいないことも認識していた(第1
0回被告人供述79,80頁)ことになるが,それにもかかわらず,本件詐欺の実行行為である,Fの改修工事についてDがお布施で建てるなどと工事発注先の業者に話しているのを,止めようともしていなかったことになる。しかしながら,被告人はFについて,いずれ理事長の地位を受け継ぐと前任の理事長から言われていたというのであるから,建替工事の帰趨についてはその利害関係は深く,多大な関心を抱いて然るべき立場といえるのであって,前記のような被告人の供述する被告人の行動は,このような立場に照らすとかなり不自然,不合理な行動であるといえ,その内容をそのとおり信用することはできない。加えて,自己がFの理事や理事長になった後も工事の進捗などに関心を払っていた形跡はまったくうかがわれないことも,被告人の供述する被告人の立場を前提にするとかなり不可解であって,尚更そのとおり信用することはできない。
また,本件各工事の資金計画について,Dから海外から融資を受ける予定と聞いていたというが,被告人自身,本件詐欺の以前から海外からの融資話が円滑に進んでいないことは認識していたというのであり(第10回被告人供述10頁)
,そもそも100億円という莫大な融資が保険料を支払っただ
けで一般人に実行されるとは通常は考え難いのであって,被告人がDの述べる投資話に疑いを持たなかったというのも信じ難いものがある。本件当時,Dの会社は少なくとも約2億円の債務を負っており,株式会社Nからさらに1億5000万円の融資を受ける必要があるような経営状況であった上,株式会社Nへの返済が滞り,本件の数か月前には被告人所有の不動産を追加担保に供する事態にまで陥っていたというのであるから,被告人が,Dないし株式会社TにおいてE株式会社からの3億円もの融資金を返済する意思ないし能力があると誤信していたものとは到底思われない。
さらに,被告人は,本件各工事について,W総長からDが委任を受けたと聞いて信用したとも供述するところ,宗教法人法の規定にも明確に反し,また,前記のとおりC寺の住職としてAの管長から許可を得る手続をとったこともある被告人が,何らの特段の事情もないのに,管長ではなく総長からの委任状があれば充分であると信用したとはにわかには信用しがたく,工事の発注権限について誤信していたものとも到底思われない。
そして,本件各工事がいずれもAに関連するものであり,かつ,Aの総長とも関わりのあるような規模の話であることからすると,Dが単独で,自己の判断で全て実行できるものとは考え難く,むしろ,被告人の関与があってこそ成り立つものと言えるのは既に述べたとおりである。そうすると,Dが全て単独で行ったという趣旨の被告人供述は,その供述内容自体,不自然不合理であって,到底信用できるものではない。
6
結論
以上のことからすると,前記のとおり,被告人の供述及び共犯者Dの証言以外の証拠から,DのJに対する一連の行為が,3億円の詐取に向けた行為であることを被告人が認識していること,及び,被告人とDとの間に共謀があったこと,がそれぞれ推認できるところ,上記のとおりの被告人の供述によっても,上記推認が揺らぐことはないから,結局上記推認のとおり認定することができる。
よって,被告人とDの間に共謀が認められ,被告人に故意も認められることから,被告人には詐欺罪が成立する。
第2
1
判示事実第2について
判示事実第2記載の事実のうち,被告人に電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪が成立することについては争いはなく,被告人が背任罪における他人のための事務処理者と言えるか,及び,被告人がその認識を有していたと言えるかについて,争いがある。
この点について,弁護人は,宗教法人C寺が,本件借入金等を株式会社Nとの間で定めた支払期限までに同社に支払わなければ,本件不動産の所有権を同社に移転する登記を行うことを了承する旨の合意は,通謀虚偽表示により,あるいは,宗教法人法24条本文,23条1号に反し,いずれも無効であるから,被告人は他人のための事務処理者と言えないし,仮に合意が有効であったとしても,被告人は,形式的に担保提供の合意をするとの認識であったのであるから,被告人に他人のための事務処理者であることの認識はなかったと主張する。
2
そこで検討するに,本件で1億5000万円の融資を行った株式会社Nの代表取締役であるO証人

V教団の本

部の敷地の中にある教祖の自宅で,C寺の工事の関係で,株式会社Nが宗教法人C寺に1億5000万円を融資すること,及び,本件別紙物件目録記載の1ないし10の物件について,登記留保をする,すなわち,これらの物件について売買契約等を結び,登記を移すことができる書類を全て整えた上で,それを実行しないで権利証を預かって留保し,仮に融資金の返済がなされなかった場合には,売買を原因とする所有権移転登記手続をするという内容の融資及び担保に関する契約を締結した(O
約の場には,Oのほか,司法書士のP,I,D及び被告人がおり(O証言12,13頁)
,OとP

Pが被

告人に対し,本人確認書類を求め,パスポートのコピーを入手したこと(O証
返済がされなかったので,同年12月16日,被告人の自宅で,前記と同様の登記留保の方法で,本件別紙物件目録記載の11の物件を担保に取ったこと(O

O及びPにおいて,追加の契約

の確認をしたこと(O証言21,22頁)がそれぞれ認められる。なお,証人Oの証言は,同席した司法書士の証人Pの証言ともよく整合しているほか,取り交わされた各契約書類の記載を矛盾なく説明できるという意味で,これら契約書類とも整合しているといえる。そして,本件では,1億5000万円が実際に融資されているところ,このような莫大な金額の融資であれば,返済がされなかった場合のリスクに備えて担保を取るというのが,経済活動上,債権者がとる合理的な行動と言えるから,上記のような登記留保の方法で本件各不動産を担保にとることとしたという内容自体が虚偽のものであるとか,何らかの仮装であるとは認められない。
そうすると,被告人が,客観的には背任罪における事務処理者の地位にあったことは否定できない。
3
弁護人は,本件別紙物件目録記載の物件には,担保としての価値を有しない物件も含まれていること等を指摘し,本件合意が通謀虚偽表示である表れであるとも主張する。しかし,本件別紙物件目録記載の各不動産を担保に取ったのは,本件の融資がC寺の建替工事に関するものであることから,C寺の建替部分の土地を担保に取るという点に意義があったと考えられ,証人Oも同趣旨のことを証言している(O証言4頁)
。このような考えの下に,担保に取る不動
産を選択することは何ら不自然なものではなく,むしろ経済活動として合理的なものであるから,その中に,不動産自体の評価として価値がないものが含まれていることが,前記の認定に合理的な疑いを生じさせるものではない。4
また,弁護人は,本件では公告や管長の同意がないことには争いがないところ,宗教法人法23条は,担保提供の際に公告や宗派管長の同意が必要であることは明らかであり,借入金の返済がされなくても,担保提供時点で公告や同意がない限り,合意は無効であり,移転登記義務や公告をする義務は生じないと主張する。
確かに,宗教法人法23条の規定上は,売買や担保の提供の時点で公告や同意を要求しているようにも読める。しかしながら,本件は,上記のとおり,登記留保という方法による担保提供を行ったものと認められ,その合意内容は,借入金の返済がなされないこととなった時点で,売買の形式による不動産登記の移転を行うのであって,それまでは売買の効力も生じないし,登記移転義務も生じないとするものである。そうすると,登記移転義務が生じなければ,公告や同意といった面倒な手続をとらなくてもよいし,逆に,支払が滞り,売買の形式による登記移転義務が生ずることとなった際に,始めて公告や同意の手続をとる必要が生じると解するのが,当事者間の合理的意思解釈として最も妥当であると考えられる。このことは,契約に際して取り交わされた書面の中に,「売買に際し,売主は,売買契約のために売主の規則上必要とされる手続を全て適法に完了していること,及び,この契約のために宗教法人法上必要とされる手続を全て適法に完了していることを表明すること」との記載があること(甲2資料1-2)や,株式会社Nが被告人らに送付した内容証明郵便に,「担保として」
「預かっている不動産の所有権を移転するための公告を」
「行う
ことを求めます。(甲4資料2)との記載があることによっても裏付けられて」
いる。
そうすると,本件において,公告や同意のないことが,当事者間の合意の無効に結びつくことはなく,弁護人の主張は採用できない。
5
被告人の故意について
被告人は上記2記載のとおりの契約締結の際に同席してその説明を受けていたのであるから,通常はその事実を認識していたものと考えられ,故意に欠けるところはないし,仮に宗教法人法の解釈について誤解していたとしても,法の不知と言えるから,いずれにしても故意に欠けるところはないと考えられる。
これに対し,弁護人は,被告人は,形式的に担保提供の合意をするとの認識であったのであるから,被告人に他人のための事務処理者であることの認識はなかったと主張し,被告人も,これに沿い,当公判廷で概要以下のとおり供述している。
17日の合意の以前に,Dから,同人の会社
が株式会社Nからお金の借入れをするので,お寺の土地を担保にできないかDは,担保でなくて構わない,金主
に対し,お寺の事業の内容を見せるパフォーマンスとして,権利証を預けてくださいと言ってきた,謄本は汚さないというので,それを信頼して,権利D
から,O証人が借入れの打合せのために来るということ,この件についてO証人から何か話があるかもしれないが,それは住職に関係のないことだから,聞き流して結構ですと言われていたので,O証人の話は聞き流しており,生返事をしていたような状況だった。P証人の説明も,詳しく覚えていない(第9回被告人供述10,11頁)

Dがお寺を訪ねてきて,お

布施と称して2000万円を持参してきた。私は,Dの会社が1億5000万円を借りるのに,私が権利証を預けるという便宜を図ったお礼で持ってき
O証人とP証人とC寺で会ったのは事実であるが,その日はDから連絡があり,O証人が挨拶だけしたいと言っている,法話でもしていただけたらと思う,と言われたので,その場で法話をしたが,次の法事があったのですぐ席を立った。事前にDから,追加担保のことについて触れたような話があったが,その場では,そのことについては一切言われなかった(第9回被告人供述12ないし14頁)

株式会社Nから登記移転を求める内容証

明が来てびっくりし,慌ててDに問いただしたところ,Dが無断で担保に供していたことが判明した,などというのである。
被告人の供述を前提に考えたとすると,被告人は,自らが住職を務めるお寺の敷地等の権利証という,被告人にとって最も大切な書類の一つと思われる書類を,Dに言われるがままに,金主に見せるだけのために預けたと言いながら,その後,2年以上,その書類の返還を求めたりすることなく放置していたということになるが,これはあまりにも不自然,不合理である。しかも,Dから一旦は担保として土地の提供を求められ,これを断った後に,見せるだけと言われたというのであれば,通常の一般人であれば,それでも無断で担保提供するのではないかと疑い,担保提供していないことの確認や,一定期間後の返還を強く求めるものであって,被告人の供述するその対応は一層不自然である。
また,被告人は,契約説明の場には同席していたのであり,本人確認の資料としてパスポートの写しが司法書士の書類の中にあることからすると,このような極めて個人的な情報は,被告人自身が交付したものと合理的に推認できるところ,何のために必要であるか訳も分からないままこのような個人的な情報の入った資料を渡すことは考えられず,契約の説明を聞き流していたとか,契約の説明を受けていなかったなどというのはおよそ考え難い。そうすると,被告人の当公判廷における供述は信用できない。
6
結論
以上のことからすると,被告人は他人のための事務処理者にあたり,かつ,その認識があったにもかかわらず任務に違背する行為をしたと言えるから,被告人には背任罪が成立する。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法60条,246条1項に,判示第2の所為のうち,任務違背の点は同法60条,247条に,虚偽の申立てにより登記簿原本に不実の記載をさせた点は各不動産ごとに同法60条,157条1項に,不実の記録を公正証書の原本としての用に供した点は各不動産ごとに同法60条,158条1項,157条1項にそれぞれ該当するが,各登記簿原本の不実記載とその各供用との間にはそれぞれ手段結果の関係があり,また,判示第2は,1個の行為が25個の罪名に触れる場合であるので,同法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として犯情の最も重い背任罪の刑で処断することとし,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中330日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
詐欺事件について見ると,本件は,被告人の宗教法人における社会的地位に対する被害会社の信頼を悪用し,発注権限のない工事の発注と引き換えに3億円という極めて多額の金銭を騙し取ったもので,犯行態様は悪質であり,今後もその弁済が見込まれるような状況にないことを考慮すると,犯行の結果も極めて重大である。背任等事件についても,1億5000万円という多額の融資金に対する担保の実行が妨害されたというもので,同様に犯行の結果が重大であるばかりでなく,虚偽の不動産登記を作出して妨害した点で,その犯行態様も悪質であり,不動産登記に対する社会の信用も著しく害されている。以上のことからすると,本件全体の犯情は非常に悪質である。
このような一連の犯行において,被告人は実行行為をほとんど分担はしていないものの,本件犯行はいずれも被告人に対する被害会社らの信用を基礎にしたものと言え,被告人がいなければなし得なかったものである。そして,前記のとおり,被告人と共犯者との間には証拠上地位の優劣は付けがたく,そのような意味で被告人が従属的な地位にあったとは評価できないことからすると,被告人が実際に得たと認められる金銭は被害金額に比して一部にとどまるものであることを考慮しても,その役割は必要不可欠で重要なものであったと言わざるを得ない。そうすると,被告人に対する責任非難は重いのであって,被告人が当公判廷において,いずれも共犯者に責任を押し付けるかのような不合理な弁解に終始していることも踏まえると,被告人に対する刑事責任は重大である。
以上のことからすると,被告人に前科前歴はないことを考慮しても,主文掲記程度の量刑はやむを得ないものと判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

懲役7年6月)

平成30年5月24日
大阪地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官

香川徹也
裁判官

渡部五郎
裁判官

野上恵里
(物件目録省略)

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