判例検索β > 平成30年(行ケ)第10007号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成30(行ケ)10007
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成30年6月21日
法廷名知的財産高等裁判所
戻る / PDF版
平成30年6月21日判決言渡
平成30年(行ケ)第10007号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成30年4月26日
判原決告
株式会社千鳥屋宗家

訴訟代理人弁理士

H被告
Y1

被告
株式会社千鳥饅頭総本舗

被告
Y2

上記3名訴訟代理人弁理士
主1文
原告の請求を棄却する。

2I
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
特許庁が無効2017-890008号事件について平成29年12月1日にした審決を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,商標登録の無効審判請求を不成立とした審決についての取消訴訟の事案である。主たる争点は,商標法4条1項7号該当性に関する審決の判断の当否である。
1
特許庁における手続の経緯等
(1)本件商標は,
「千鳥屋」の文字を縦書きして成る商標であり,A(以下「長
男A」という。)が,平成26年10月27日に商標登録出願された商願2014-90361号に係る商標法10条1項の規定による商標登録出願の分割として,平成27年3月23日に商標登録出願をし,平成28年1月22日,指定役務を第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」として設定登録を受けたものである(登録第5820605号。以下,本件商標に係る商標権を「本件商標権」,本件商標に係る登録出願を「本件出願」という。)。
(2)本件商標権については,平成28年7月15日,長男Aが株式会社千鳥屋総本家(その後「千鳥屋総本家株式会社」に商号変更。以下「総本家」という。)に対し権利移転し,総本家は,平成29年1月4日,被告Y1に対し権利移転した。
さらに,被告Y1は,同年4月19日,本件商標権の一部を被告株式会社千鳥饅頭総本舗(以下「被告総本舗」という。)と被告Y2に権利移転し,ここに本件商標権は被告ら3名の共有となった(甲45)。
(3)原告は,平成29年1月30日,特許庁に対し,本件商標の指定役務中,第35類「飲食料品中の菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」についての登録を無効とする,との審決を求めて審判の請求をした(無効2017-890008号)。
これに対し,特許庁は,平成29年12月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月12日,原告に送達された。(4)原告は,平成30年1月10日,本件訴えを提起した。

2
本件商標に関連する事実(当事者間に争いがないか,証拠等によって容易に認められる事実)
(1)「千鳥屋」は,福岡県飯塚市を拠点に戦前から饅頭の製造販売等を行ってきた老舗の和菓子屋であり,先代であるEが昭和29年に死亡した後は,同人の妻であるFが中心となってその事業を展開してきた(乙4~6,弁論の全趣旨)。
(2)「千鳥屋」は,戦後,飯塚から福岡に進出し,更には東京や大阪に進出するなど,事業を全国に拡大しており,平成7年にFが死亡した後は,長男Aが東京で総本家を,二男であるB(以下「二男B」という。)が福岡で被告総本舗を,三男であるC(以下「三男C」という。)が大阪・兵庫で原告を,四男であるD(以下「四男D」という。なお,乙5には,四男は夭折しており,Dは五男であるとする記載が認められるが,ここでは立ち入らない。)が飯塚で株式会社千鳥屋本家(以下「千鳥屋本家」という。)を,それぞれ経営して事業を営んできた。
ただし,総本家は,平成28年5月に再生手続開始決定を受け,その後,スポンサー企業が設立した会社に事業譲渡された
(以下,
譲渡前の会社を
「旧
総本家」,譲渡後の会社を「新総本家」ということがある。)。
また,平成29年2月には,経営者である長男Aも破産手続開始決定を受けるに至っている。
なお,被告Y1は長男Aの孫であり,また,被告Y2は四男Dの長男で千鳥屋本家の現代表者である。
(以上につき,甲16,乙4~6,14,21,25,弁論の全趣旨)(3)共有商標の存在(甲1~3)
F,長男A,二男B,三男C及び四男Dは,「千鳥屋」の文字を縦書きして成る登録第410105号商標(出願日:昭和25年10月14日。以下「共有商標1」という。),「チドリヤ」の文字を横書きして成る登録第1811505号商標(出願日:昭和58年12月9日。以下「共有商標2」という。)及び「CHIDORIYA」の文字を横書きして成る登録第1811506号商標(出願日:昭和58年12月9日。以下「共有商標3」という。)を共有していたが,いずれも指定商品の書換登録申請がなされなかったため,共有商標1は平成24年4月2日,共有商標2及び3は平成27年9月27日,それぞれ存続期間満了により既にその権利が消滅している。(4)長男Aの出願に係る登録商標(甲4~7)
長男Aは,共有商標1ないし3とは別に,「千鳥屋」の文字を標準文字で表して成る登録第5555562号商標
(出願日平成23年12月21日。

以下「長男商標1」という。),「CHIDORIYA」の文字を標準文字で表して成る登録第5555563号商標(出願日:平成23年12月21日。以下「長男商標2」という。),「千鳥屋」の文字を標準文字で表して成る登録第5555564号商標(出願日:平成23年12月21日。以下「長男商標3」という。),「千鳥屋」の文字を縦書きして成る登録第5763475号商標(出願日:平成26年10月27日。本件商標の原出願。以下「長男商標4」という。)をそれぞれ出願してその登録を受けている。その後,長男商標1及び2は,本件商標と同様に長男Aから総本家,総本家から被告Y1に権利移転されており,長男商標4は,長男Aから総本家に権利移転されている。
(5)原告が出願中の商標(甲9~11)
原告は,平成28年4月1日,「チドリヤ」を標準文字で表して成る商標及び「CHIDORIYA」を標準文字で表して成る商標をそれぞれ登録出願し(商願2016-37825号,同37826号。以下,それぞれ「原告商標1」及び「原告商標2」という。),同月7日には,「千鳥屋」を標準文字で表して成る商標を登録出願
(商願2016-40333号。「原
以下
告商標3」という。)している。
3
審決の理由の要旨
審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりであり,その判断の概要は次のとおりである。
(1)原告(請求人)は,「長男A及び代理人I(判決注:被告ら訴訟代理人弁理士Iを指す。以下同じ。)は,共有商標1ないし3について,更新手続のみを行って他の共有者に権利は存続しているものと思わせておき,その裏で書換登録申請手続を行わないことによって,次回存続期間満了時に権利が消滅するという書換制度の効果を意図的に利用し,故意に権利を消滅させ,その一方で,権利消滅前に本件商標他長男商標1ないし3を出願し,長男Aのためだけに権利を取得するという行為に及んだものであって,このような長男A及び代理人Iの行為は,許されるものではない。そして,長男A及びその代理人Iの上述の背信的な行為は,
共同権利者に対する重大な義務違反
(民
法644条の善管注意義務違反)であるのみならず,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり,また,代理人Iの背信的な行為は,弁理士としての品位を汚し,不公正かつ不誠実なものであり,弁理士の信用又は品位を害する行為に該当し,その結果,千鳥屋を屋号として約50年以上もの間営業している老舗和菓子屋の最も大事な商標『千鳥屋』が他人の所有物となったことによる損害は計り知れず,その責任は重大であり,これに基づいて被告ら(被請求人ら)を権利者とする本件商標を認めることは,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当である。」旨を主張する。
(2)しかしながら,長男A及びその関係者が本件商標を独占して原告及びその関係者を始め和菓子屋「千鳥屋」の事業を行っている者に対し,商標「千鳥屋」,商標「チドリヤ」及び商標「CHIDORIYA」(以下,これらをまとめて「千鳥屋商標」という。)の使用の禁止を求めるなどして本件商標の使用を独占しようとしたなどの証左は見いだせないし,原告の提出した証拠によっても,長男Aが,長男Aのためだけに権利を取得しようとして,本件商標その他長男商標1ないし3を出願した事実を客観的に裏付ける証拠を見いだすことはできない。その他,本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くなど,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないというべき事情も見いだせない。
長男Aは,陳述書(乙4)において,「『千鳥屋商標』は,長男A,二男B,三男C及び四男D又はその関係者が等しい持ち分で共有すべきものである。」旨を述べており,少なくとも現状においては,長男A,二男B及び四男D又はその関係者は,三男Cを含む4者(又はその関係者)で本件商標を共有することに同意し(乙16,18,19),かつ,現在においては,本件商標の権利者は,三男Cを除く,上記,長男A,二男B及び四男Dの関係者の共有となっている。
逆に,
原告は,
原告商標1ないし3を出願し,
これらの商標権を取得し
「千
鳥屋商標」を独占する意図である旨述べており,
「千鳥屋商標」が,長男A,
二男B及び四男D又はその関係者の事業において使用されている実情を承知した上で,原告がこれらの商標を出願していることからすれば,原告は,長男A,二男B及び四男Dと対立していることがうかがえるものの,長男Aの代理人Iは,長男商標1ないし3及び本件商標について,本件審判の請求前(平成29年1月12日及び16日)に,原告の代理人に対し,本件商標を含む「千鳥屋商標」を兄弟4人(又はその関係者)の共有にする手続を行う旨の電話及びファックス(乙16)を行っており,長男Aに原告を排除する意図があるものとは認められず,この点からしても長男Aによる一連の出願手続及びその経緯に社会的妥当性を欠くなどの事情はない。
本件商標を含む千鳥屋商標に係る紛争は,Fの遺産相続に端を発するものと推認でき,兄弟による私的な問題といわざるを得ないものであり,かつ,長男Aによる本件商標の登録出願の手続は適正に行われたものであって,その審査において共有商標2及び3を引用した拒絶理由通知が送付され,これら引用商標の消滅後に登録査定及び設定登録された本件商標の出願から登録に至るまでの手続の経緯について,何らの違法性も認められない。「千鳥屋」
の文字からなる本件商標は,
その構成自体が非道徳的,
卑わい,
差別的,矯激又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく,それを指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものともいえないものであり,かつ,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されているものではないし,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでもない。原告が主張する,本件商標に係る事情については,飽くまで当事者同士の問題として解決すべきものであって,
本件商標は,
商標法4条1項7号の
「公
の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」がある商標と解するということは妥当ではない。
(3)したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しない。第3
1
当事者の主張
原告の主張の要点
審決には,次のとおり,商標法4条1項7号の適用を誤った違法がある。(1)審決は,「長男A及びその関係者が本件商標を独占して請求人(原告)及びその関係者を始め和菓子屋
『千鳥屋』
の事業を行っている者に対し,『千

鳥屋商標』…の使用の禁止を求めるなどして本件商標の使用を独占しようとしたなどの証左は見いだせない。」と認定しているが,本件商標の使用禁止を求めるという行為自体は本件商標の登録後に行われる行為であって,登録前にこのような行為を行うことはあり得ない。むしろ,長男Aが,原告を含む他の3兄弟の了承を得ずに単独で本件商標他長男商標1ないし3を出願し登録を行ったとの事実こそが,本件商標の使用を独占しようとしたことを示す証拠である。
長男Aは,長男A,二男B,三男C及び四男D又はその関係者が創業当時から菓子に使用中であった商標「薄露(うすつゆ)」(甲29)を二男B,三男C及び四男D又はその関係者の了承を得ず,昭和55年12月22日に単独で出願して権利を独占していた。さらに,長男Aは,平成17年1月17日付け通知書(甲28)で「貴殿もご存じのとおり,通知人は,『チロリアン』並びに『薄露』などの商標権を有しているとともに…貴殿に対する法的手段も考えざるを得ません。と三男Cに警告とも取れる通知を送付した。」
この通知を受けた三男C及びその関係者は,通知書(甲28)に従って商標「薄露」の使用を止め,商標「薄露」から商標「大納言清澄」に変更使用して販売している。
また,登録第614146号商標「チロリアン」(甲27)は,長男A,二男B,三男C及び四男D又はその関係者が50年もの長きにわたり使用中の商標であり,本件商標「千鳥屋」と同様に重要な商標であり,長男A,二男B,
三男C及び四男D又はその関係者がその使用を必要とするものであり,その商標権は等しい持分で共有されるべきものであるにもかかわらず,長男Aが長年の間,独占所有していたものであり,前記の通知書(甲28)を送付し,
その使用を止めるように警告して来た登録商標でもある。
この商標
「チ
ロリアン」(甲27)は,平成26年3月17日に被告である株式会社千鳥饅頭総本舗に移転され,独占所有されている。
このように,長男Aが,原告を含む他の3兄弟の了承を得ずに単独で出願し登録された登録商標「薄露」(甲29)及び登録商標「チロリアン」(甲27)については,三男Cに対し,その使用の中止を求めるなどして使用を独占しようとしていた事実があるので,本件商標他長男商標1ないし3についても,無効審判(無効2016-890031号,無効2017-890001号及び無効2017-890002号)が請求されていなければ,登録商標「薄露」(甲29)及び登録商標「チロリアン」(甲27)のときと同様に,長男Aが,その使用を独占しようとしたことは必至である。(2)審決は,「請求人の提出した証拠によっては,長男Aが,長男Aのためだけに権利を取得しようとして,本件商標その他長男商標1ないし長男商標3を出願した事実を客観的に裏付ける証拠を見いだすことはできない。」と認定している。
しかし,本件商標その他長男商標1ないし3は,長男Aが,長男Aのためだけに権利を取得しようとして出願し,
登録されたものである。
このことは,
甲4ないし甲6,甲8の願書,意見書・手続補正書・登録査定及び登録公報に客観的に明示されているとおりである。逆に,長男Aが,長男Aのためだけに権利を取得しようとして出願したのでないのであれば,長男Aは,誰のために出願したのか,出願時及びそれ以前の証拠を提示すべきであるが,そのような証拠は一切存在しない。
(3)審決は,「本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くなど,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないというべき事情も見いだせない。」と認定している。
しかし,本件商標の登録出願の経緯や登録に至るまでに長男A及び被告ら訴訟代理人弁理士I(以下「I弁理士」という。)が行った社会的妥当性を欠く行為については,本件無効審判請求書(甲40)及び本件無効審判弁駁書(甲41),並びに当審決の「第2

請求人の主張」の「3

弁駁書にお

ける主張」に記載してあるとおりであり,これらの各行為は「登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するもの」である。
特に,I弁理士は,甲12の項番7の登録第2722746号(商公平08-146010)商標「Tirol\チロル」については,F,長男A,二男B,三男C及び四男Dの代理人として更新登録申請手続を行っており,甲12の項番1の登録第707558号商標「チロリアン」(甲13)及び甲12の項番4の登録第1921933号「西村千鳥屋」(甲22)については,長男A,二男B,三男C及び四男Dの代理人として,それぞれ更新登録申請及び書換登録申請手続を行っている。
その一方で,I弁理士は,共有商標1ないし3について,共同権利者である原告の代表者三男Cに連絡することもなく,商標権存続期間更新登録申請書提出の手続のみを行い,書換登録申請の手続を行っておらず,これらの各商標権については,いずれも所定の期間内に書換登録の申請がなされていないので,
存続期間満了の日に消滅することとなるという事実を知りながらも,権利消滅するという最も重大な事実を原告の代表者三男C外二男B,及び四男Dに連絡していない(委任を受けた弁理士であれば,共有商標1ないし3の更新登録申請手続を行い,書換登録申請をしない場合に次回の更新登録申請ができないことを知っていたのであるから,そのことを共有者全員に通知する義務があったのに,I弁理士はその連絡を長男A以外の共有者に行っていない。)。
(4)以上のとおり,共有商標1ないし3は,共同権利者がいずれも使用を必要とするものであり,その商標権は等しい持分で共有されていたものであり,I弁理士は,共同権利者全員の委任を受けていたのであるから,その保有・管理及び権利維持に伴う業務を公正かつ誠実に行わなければならない信義則上の義務を負う立場にあった。ところが,同弁理士は,「チロリアン」(甲13)及び「西村千鳥屋」(甲22)の場合と同様に委任を受けて書換登録申請手続をすることができたにもかかわらず,共有商標1ないし3について故意にその書換登録申請手続を行わず,そして,この書換登録申請手続を行わなかったことによって存続期間満了時に権利が消滅することを奇貨として,長男A以外の共同権利者に連絡することもなく,本件商標及び長男商標1ないし3を出願し,長男Aのためだけに商標権を取得した。
このような本件商標の出願の目的及び経緯に鑑みれば,長男A及びI弁理士による本件出願は,長男Aと長男A以外の共同権利者との間の信義則上の義務違反となるのみならず,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり,これに基づいて長男Aを権利者として商標登録を認めたことは,
公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であって,
「商
標を保護することにより,
商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,
もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)にも反するというべきである。
したがって,本件出願に係る本件商標は,本件出願の目的及び経緯に照らし,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当する。
(5)審決は,
「そして,長男Aは,陳述書(乙4)において,
「『千鳥屋商標』
は,長男A,二男B,三男C及び四男D又はその関係者が等しい持ち分で共有すべきものである。」旨を述べており,少なくとも現状においては,長男A,二男B及び四男D又はその関係者は,三男Cを含む4者(又はその関係者)で本件商標を共有することに同意し(乙16,乙18,乙19),かつ,現在においては,本件商標の権利者は,三男Cを除く,上記,長男A,二男B及び四男Dの関係者の共有となっている。」と認定している。
しかし,長男Aは,本件に関連する無効審判(無効2016-890031号)に対する平成28年7月19日付け答弁書(甲38)の中で,「請求人(原告)提出の書証によれば請求人の代表者及び被請求人は何れも引用商標2(甲第2号証商公昭60-3991)及び引用商標3(甲第3号証商公昭60-3992)の出願人として名を連ねていることがわかるが,請求人が本件審判請求についてどのような利害関係を有するかは不明である。請求人が本件審判請求について利害関係を有するものでない限り,本件審判請求は不適法であるとして却下されるべきである。」と答弁している。仮に,長男Aが「『千鳥屋商標』は,長男A,二男B,三男C及び四男D又はその関係者が等しい持ち分で共有すべきものである」と考えていたのであれば,無効審判請求書を受領した時点で,すぐに一部譲渡の申し出をするべきであるが,
それすら行っておらず,
「利害関係を有するかは不明である」
と断定している。この事実から判断しても,長男Aが,陳述書(乙4)において述べた「共有すべき」との陳述が虚偽であることは明白である。(6)審決は,「長男Aの代理人Iは,長男商標1ないし長男商標3及び本件商標について,本件審判の請求前(平成29年1月12日及び16日)に,請求人(原告)の代理人に対し,本件商標を含む「千鳥屋商標」を兄弟4人(又はその関係者)
の共有にする手続きを行う旨の電話及びファックス
(乙16)
を行っており,長男Aに請求人を排除する意図があるものとは認められず,この点からしても長男Aによる一連の出願手続き及びその経緯に社会的妥当性を欠くなどの事情は無いものというべきである。」と認定している。しかし,電話及びファックスがあったのは,本件商標についてのみであって,長男商標1ないし3については,何の連絡もなく,前記のように長男商標3については,電話及びファックスのあった約半年前の平成28年7月19日付け答弁書(甲38)の中で,長男A及びI弁理士は,原告は利害関係人ではないと答弁している。
(7)審決は,「本件商標を含む千鳥屋商標に係る紛争は,…Fの遺産相続に端を発するものと推認でき,兄弟による私的な問題といわざるを得ない」と認定しているが,Fの遺産分割調停の調停調書の遺産目録には,本件商標その他の登録商標は一切存在しない。さらに,甲43の確約書は,平成7年5月21日にFが作成し,
原告代表者三男Cに渡したものであるが,
その中に
「私
もAには商標の名義変更を何度も言っていますし,『名義変更します。Aも

と言っていますので必ず名義変更させます。」とあるとおり,Fは,亡くなる前から長男Aが単独で所有する商標「チロリアン」
(甲27)及び「薄露」
(甲29)を共同名義にするよう再三要請していたが,長男Aはそれすら実行することなく,前記のとおり,これらの商標の使用を止めるよう,警告とも取れる通知書(甲28)を原告代表者三男Cに送付している。本件商標を含む千鳥屋商標に係る紛争がFの遺産相続に端を発するものでないことは明白である。
また,本件商標が私的な兄弟間の問題であるとしても,公的な弁理士という資格を有するI弁理士が行った背信的な代理業務は,弁理士としての品位を汚し,不公正かつ不誠実なものであり,弁理士の信用又は品位を害する行為に該当し,また,このような代理業務を行うように指示した長男Aの行為も,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であって,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)にも反する。I弁理士の行った背信的な代理業務が看過されるとなれば,公的な資格である弁理士は,共有者の委任を受けたとしてもその中の一又は複数人のためだけに代理業務を行ってもよいこととなり,弁理士制度下における委任制度は崩壊し,公の秩序は乱れることとなる。したがって,このような経緯によって取得された本件商標は,商標法4条1項7号規定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当して登録されたものであり,同法46条1項の規定に基づき,上記指定商品についての登録を無効にすべきである。
2
被告らの反論の要点
(1)審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(2)本件商標の出願,登録及び共有化の経緯等は,次のとおりである。ア
Fが亡くなった後,共有商標1ないし3等の千鳥屋グループ全体に関わる商標登録について代理人により手続を行う際に,長男として共有者である兄弟を代表する立場を務めていた長男A(本件商標の出願人)は,共有商標1ないし3の書換登録申請は,Fの持分について相続による商標権移転登録の手続を行った上で,商標権者全員が共同で申請を行う必要があるが,Fの不動産等の財産相続に関する紛争の経験から(乙5,6),相続を前提とした手続を行うことは極めて困難であると判断して,書換登録申請は行わないこととした。その場合,商標権は次の存続期間満了の時点で消滅するが,菓子に使用する商標「千鳥屋」について新たに商標登録出願を行って同等の内容の商標権を再取得し,それを,「千鳥屋」の事業を行っており商標「千鳥屋」を菓子等について使用している者により共有するのが現実的な選択であると考えた(乙4)。
なお,共有商標1ないし3並びに原告が指摘する登録商標「Tirol\チロル」,同「チロリアン」及び同「西村千鳥屋」についての手続は別個の手続であり,各商標権についての更新登録申請と書換登録申請も別個の手続であって,
代理人による手続は各別に委任するものである。
原告は,
I弁理士が代理人であると主張するが,長男Aは,前記理由により共有商標1ないし3について書換登録申請は行っておらず,その手続をいずれかの代理人に委任することも行っていない。また,長男A以外の者が共有商標1ないし3の書換登録申請についていずれかの代理人に委任したという事実もない。

長男Aが本件商標の新規出願を単独で行ったのは,権利の独占を狙ったものではなく,菓子についての商標「千鳥屋」は,菓子の製造・販売を主とする「千鳥屋」に関する事業に長年にわたり携わり,自ら使用し若しくは経営する会社に使用させてきた長男A,二男B,三男C及び四男D又はこれら4名それぞれの関係者の4者(以下「本件4者」という。)がいずれも使用を必要とするものであり,その商標権は等しい持分で共有されるべきものである,という考えに基づき,菓子(「菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を含む。)に使用する商標「千鳥屋」の商標権について,本件4者による等しい持分での共有化を公平にかつ確実に実現するためであった(乙4)。


すなわち,当該新規出願は,本来,本件4者があらかじめ協議して共同で行うことが当然望ましいものの,
従来の経緯,
特に,
Fが亡くなった後,
一体性のある
「千鳥屋」
の事業の要であったハウスマークとしての商標
「千
鳥屋」以外のハウスマークのうち,商標「千鳥屋宗家」を三男Cが他の3名に相談も了解もなく出願・登録したため(乙7),他の3名もそれぞれのハウスマークを出願・登録して使用せざるを得なくなったこと(乙8~10),その他にも,三男Cが他の3名の事業に大きな影響を及ぼしかねない商標の出願・登録を行っていたこと(乙11~13)等の事情から,三男C及びその関係者に強い懸念を抱き,あらかじめ協議することは何らかの望ましからざる商標出願・登録の行為が行われて前記目的が妨げられるのではないかという懸念を払拭し得なかった。
そこで長男Aは,自ら単独で必要な商標登録出願を行い,商標登録されて登録異議申立期間が経過した後で三男C及びその関係者を含む3者に対し一部譲渡を申し出て共有化するという方法を取ることはやむを得ないと考え,
本件商標の新規出願を単独で行い,
単独で商標登録を受けた
(乙4)


長男Aとしては,他の3者への本件商標権共有化の申出を,登録異議申立(平成28年4月23日まで)がなかったことを確認した上で行うべきだったが,経営していた会社(旧総本家)の経営状態が悪化し,平成28年5月19日付けで再生手続開始決定を受けるという状況であったため(乙
4,21),本件商標権を,一旦旧総本家の事業を承継する新総本家に移転し,その後,J家側へ戻すために同年12月27日に新総本家から被告Y1(長男Aの孫)への移転登録申請を行い,翌年3月6日に移転登録済みの通知を受領したものである。
この間の平成29年1月10日に長男Aが受領した平成28年10月14日差出しの別件無効審判事件回答書(長男商標3に対する原告請求の無効審判〔無効2016-890031号〕における請求人〔原告〕の回答書)に,回答書作成の時点で「千鳥屋」の商標権が承継会社(新総本家)に移転されていた点について強い懸念が表明されていたため,長男Aは,そのような懸念等を払拭すべく,I弁理士から,平成29年1月12日には電話で,同月16日にはファックスで,それぞれ,「長男商標1ないし3及び本件商標は,当然にJ家関係の4者のみで共有すべきものと考えており,この点は先週中に四男D及びG(二男Bの息子であり被告総本舗の代表者。)の賛同を得ている。この点について原告及び三男Cにも賛同いただけると思うので,I弁理士宛のファックスにて確認をお願いする。引き続き4者のみの共有とするための手続を進める。」旨などを,上記無効審判の請求人代理人を通じて請求人(原告)及びその代表者の三男Cに伝えた(乙4,16)。
長男Aは,このように,原告及び三男Cに本件商標権等の共有化に対する賛同の確認を依頼したが,回答も質問もなく,逆に,原告は,原告商標1ないし3を出願しつつ(甲9~11,乙17),本件無効審判の請求(平成29年1月30日付け)に及んだものであり,原告及び三男Cは,商標「千鳥屋」について,本件4者のいずれもが使用(又は使用許諾)を必要とするものであることを十二分に認識しているにもかかわらず,本件商標権の本件4者による共有化を望んでおらず,逆に,原告による商標権独占を意図していることが明白になった(乙4)。
(3)審決は,以上の経緯や原告(請求人)の主張立証内容等を踏まえて,本件商標の登録は商標法4条1項7号に違反してされたものではないと認定判断したものであり,その認定判断に誤りはない。
第4
1
当裁判所の判断
認定事実
前記第2の1及び2の事実のほか,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によって認められる事実を総合すれば,次の事実関係が認められる。
(1)「千鳥屋」は,戦前からある老舗の和菓子屋であり,先代であるEが死亡した後は,その妻であるFを中心に,息子らである長男A,二男B,三男C及び四男Dがそれぞれ暖簾分けを受けて,東京,福岡,大阪などに分かれて事業を展開してきた。
(2)Fと上記息子らは,従前,「千鳥屋」の文字を縦書きして成る登録第410105号商標(共有商標1),「チドリヤ」の文字を横書きして成る登録第1811505号商標(共有商標2)及び「CHIDORIYA」の文字を横書きして成る登録第1811506号商標(共有商標3)を共有してその事業に使用しており,平成7年にFが死亡した後は,長男AがJ家の代表として,千鳥屋グループ全体に関わる登録商標として共有商標1ないし3を管理してきた(乙4)。
(3)しかし,長男Aは,共有商標1ないし3について存続期間の更新に必要な書換登録申請をしなかったため,共有商標1は平成24年4月2日,共有商標2及び3は平成27年9月27日に,いずれも存続期間満了により権利が消滅した(甲1~3)。
(4)他方で,長男Aは,平成23年12月21日に,「千鳥屋」の文字を標準文字で表して成る登録第5555562号商標(長男商標1),「CHIDORIYA」
の文字を標準文字で表して成る登録第5555563号商標
(長
男商標2)及び「千鳥屋」の文字を標準文字で表して成る登録第5555564号商標(長男商標3)を,平成26年10月27日に,「千鳥屋」の文字を縦書きして成る登録第5763475号商標
(長男商標4)そして,
を,
平成27年3月23日には,長男商標4の分割出願として本件商標をそれぞれ出願してその登録を受けた(甲4~8)。
(5)その後,長男商標3を除く各商標,すなわち,長男商標1及び2は,長男Aから総本家,総本家から被告Y1へ,長男商標4は,長男Aから総本家へとそれぞれ権利移転され,本件商標は,長男Aから総本家,総本家から被告Y1へと権利移転され,更に被告Y1から被告総本舗及び被告Y2に一部権利移転された。
その結果,現在,長男商標1及び2は被告Y1が,長男商標4は総本家がそれぞれ保有しており,本件商標は,被告Y1,被告総本舗及び被告Y2の共有となっている(以上につき,甲4~8,45,弁論の全趣旨)。(6)原告は,平成28年5月20日付けで長男商標3につき,同年12月30日付け(平成29年1月4日受付)で長男商標1及び2につき,それぞれ特許庁に無効審判を請求し,現在,特許庁に各無効審判事件(長男商標1につき無効2017-890001号,長男商標2につき無効2017-890002号,長男商標3につき無効2016-890031号)が係属している(乙15,26,27,弁論の全趣旨)。
(7)I弁理士は,平成29年1月16日,長男Aの代理人として,原告訴訟代理人弁理士Hに対し,次の内容のファクシミリを送信した(乙16)。「商標登録5555564号「千鳥屋」に関する無効審判の件についての株式会社千鳥屋宗家様の回答書(平成28年10月14日差出)を,今月10日(平成29年1月10日)に特許庁から受領しましたところ,同審判事件被請求人のAより,商標"千鳥屋"又は"CHIDORIYA"の商標権の件でご心配されているようですので,株式会社千鳥屋宗家様及びC様に下記2点をお伝えするよう指示を受け,1月12日にH先生に電話をさせて頂きました。
同日付ファックスにより,書面(FAX可)でのご連絡をお望みであると承りましたので,
ここに改めましてファックスでお伝えさせて頂きます。
1."千鳥屋"又は"CHIDORIYA"の商標権(商標登録5555562号,商標登録5555563号,商標登録5820605号)は,商標登録5555564号商標権を含めて,当然に,J家関係の"4者のみ"(すなわち,A,B,C,D又はそれぞれの関係者のみ)で共有すべきものと考えており,この点については,先週中にD氏及びG氏にも連絡して賛同を得ております。
この点については株式会社千鳥屋宗家様及びC様にもご賛同頂けるものと思いますので,ご多用中のところ恐縮ではございますが,今週中に,I宛のファックスにてご確認をお願い致します。引き続き,J家関係の4者のみの共有とするための手続を進めて参ります。
2.なお,ご心配されている"千鳥屋"又は"CHIDORIYA"の商標権(商標登録5555562号,商標登録5555563号,商標登録5820605号)は,商標登録5555564号商標権を含めて,Aが,J家関係の4者のみで共有できるように以前より手続を進めています。前記商標権(商標登録5555562号,商標登録5555563号,商標登録5820605号)は,民事再生手続の関係で一旦会社所有となりましたが,個人所有とする手続を昨年中に行っており,更にJ家関係の4者のみの共有とする手続を行いますので,この点のご心配には及びません。」
(8)被告総本舗の代表取締役であり二男Bの関係者であるGと,四男Dの関係者である被告Y2は,平成29年4月14日付けの陳述書(乙18,19)において,それぞれ,現に「千鳥屋」の事業を行っており,「千鳥屋」関連商標を菓子等について使用している者(長男A,二男B,三男C,四男D及びその関係者)による商標の共有化という長男Aが示した方針に同意し,かかる方針に基づく,長男Aによる本件商標等の出願及び商標登録を承認するとの意向を示している。
2
商標法4条1項7号該当性についての検討
(1)商標法4条1項7号が規定する「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,①その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,②当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,③他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されていることにより,同号該当性が認められる場合,④特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合のほか,⑤当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合などが含まれるものと解される。本件商標に関していえば,上記①ないし④に該当しないことは明らかであるから,以下,上記⑤の場合に該当するか否かについて検討する。(2)この点につき,原告は,長男Aは親族間で共有していた共有商標1ないし3を故意に消滅させ,その上で,これを独占する意図で本件商標の登録出願を行ったものであり,かかる行為は,長男Aと長男A以外の共同権利者との間の信義則上の義務違反となるのみならず,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであるから,本件商標は商標法4条1項7号に規定する商標に該当し,その商標登録は同号の規定に違反してされたものとして無効にされるべきである旨主張する。
確かに,長男Aは,「千鳥屋」のグループ企業を営む経営者同士で共有しその事業で使用していた共有商標1ないし3を事実上代表して管理する立場にありながら,存続期間を更新するために必要な手続(書換登録申請)を取らずにその権利を消滅させる傍らで,共有商標1ないし3と構成をほぼ同じくする長男商標1ないし4や本件商標を単独で出願してその登録を得ており,かかる行為の外形のみに着目すれば,本件出願は,商標の独占を図った不当な出願であって,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為であるとの評価を行うことも全くあり得ないことではないと考えられる。(3)しかしながら,他方で,長男Aが単独で本件出願を行った目的や経緯についてみると,本件においては,次のような事情が認められる。
すなわち,その目的や経緯について,被告らは,本来であれば,Fの相続人間で本件商標を含む権利関係を処理する必要があったが,長男Aは,これまでのFの相続に関する紛争の経過や,三男Cによる単独での商標登録出願の動き等から事前協議による解決は困難であると判断し,自ら単独で権利を取得した後に改めて「千鳥屋」グループの事業に関連する兄弟及びその関係者(本件4者)間での共有に移そうと考えたものであり,決して本件商標等の独占を図ったものではない旨を主張している。
しかるところ,確かに,Fの遺産相続に関しては,「千鳥屋」の事業を行う長男Aら兄弟4名とそれ以外の相続人3名との間でも,また長男Aら兄弟間においても,
必ずしも円滑に協議が進んでいなかったことがうかがわれ
(甲
20及び21は,Fの遺産分割調停に係る調停調書であり,平成9年の調停申立てから平成15年の調停成立まで約6年を要していることが分かる。また,乙5及び6は,「千鳥屋」の内紛を報じる報道記事であり,経営者一族間で「(Fの)遺産相続を巡りトラブルが発生」していることや,「兄弟7人が骨肉の争いを演じ」ていることが記載されている。),三男Cに関しても,Fの死後,独自に「千鳥屋宗家」の商標登録出願をしたり(乙7),長男Aが経営する総本家の商号と類似する「千鳥総本家」の商標登録出願をしたり(乙11),長男Aが事業を営む地域(東京)に関連する「江戸千鳥」(乙12)や,二男B及び四男Dが事業を営む地域(福岡)に関連する「博多千鳥」(乙13)の商標登録出願を行ったりするなど,実際に,他の兄弟との間で緊張を生じさせかねない動きがあったことがうかがわれる。なお,平成13年には,「西村千鳥屋」なる登録商標(登録第1921933号)につき,Fの持分を長男Aら兄弟4名に移転する持分移転登録申請がされ,平成18年には,「チロリアン」なる登録商標(登録第707558号)につき,長男Aら兄弟4名の申請で書換登録申請がされ,いずれもI弁理士が申請人代理人となっている事実が認められるが(甲13,22),これらは飽くまで共有商標1ないし3とは異なる商標に関する手続であって,利害関係が全く同一であるとはいえないし,Fの遺産分割に関する相続人間の協議が全体として円滑に進んでいなかったことは上記のとおりであるから,これらの事実をもってしても,被告らの主張が全面的に信用できないことにはならない。
また,長男Aは,本件商標等の取得後,少なくとも,本件商標に関していえば,実際に,長男A(総本家)の関係者である被告Y1のみならず,二男Bの経営する被告総本舗,四男Dの関係者である被告Y2の3者間の共有名義に移しており,原告に対しても,I弁理士を通じて,他の長男商標等を含めて,最終的に「J家関係の4者」のみでの共有とする意思があることを表明している
(これらは,
権利の独占とは明らかに反する行動であるといえる。。

そして,被告総本舗の代表取締役であり二男Bの関係者であるGと,四男Dの関係者(千鳥屋本家の代表者)である被告Y2が,長男Aの方針に理解を示して,長男Aによる本件商標等の出願及び商標登録を承認するとの意向を示していることも,前記認定のとおりである。
さらに,現時点において本件商標権を共有する被告Y1,被告総本舗及び被告Y2や,長男商標1ないし4を保有する総本家や長男Aが,原告及びその関係者に対し,これらの商標の使用を禁止するような動きは,証拠上一切うかがわれない。
これらの事情を総合すると,被告らが主張するところもあながち不合理とはいえず,首肯できる面があるというべきである。
そうであるとすれば,原告が主張する点を考慮しても,なお,長男Aによる本件商標の登録出願(本件出願)が,本件商標の独占を図る意図の下に行われたと認めるには足りないというべきであり,ほかに本件商標が前記⑤の場合に該当するというべき事情は特に見当たらない。
(4)以上によれば,本件商標は商標法4条1項7号に該当するとはいえず,この点に関する審決の認定判断に誤りがあるとは認められない。
3
原告の主張について
原告の主張は,上記2の結論に反する以上,採用できないものであるが,なお個別の主張について必要な限度で判断を加える。
(1)原告は,長男Aが原告を含む他の3兄弟の了承を得ずに本件商標や長男商標1ないし3を出願し登録を行ったこと,同じく,長男Aが原告を含む他の3兄弟の了承を得ずに単独で出願し登録された登録商標
「薄露
(うすつゆ)

(甲29)や登録商標「チロリアン」(甲27)については,三男Cに対し通知書(甲28)を送付して,その使用の中止を求めるなどして使用を独占しようとしていた事実があることなどを指摘して,長男Aに本件商標の使用を独占する意図があったことは明らかである旨主張する。
しかしながら,長男Aが単独で(すなわち,原告を含む他の3兄弟の了承を得ずに)本件商標や長男商標1ないし3の出願を行ったからといって,必ずしもそれが独占の意図に基づいて行われたと認められないことは,前記2で検討したとおりである。
通知書(甲28)も,その内容からして,Fの遺産分割協議で確認した販売地域の合意に反して三男Cが関東地方に出店しようとしたことに関し,長男Aがその自重を求めたものであることが明らかであり,必ずしも三男Cに対し商標の使用中止を求めたものであるとは認められない(なお,商標公報等によれば,登録商標「チロリアン」〔甲27〕の出願人は和泉製菓株式会社であって長男Aではないと認められるから,長男Aが単独で出願し登録されたとの前提自体が誤りである。)。
以上によれば,原告が主張する上記の点をもって,長男Aに本件商標の使用を独占する意図があったと認めることはできない。
(2)原告は,長男Aが原告から長男商標3に対する無効審判請求を受けてすぐに商標権の一部譲渡を申し出なかったことや,同無効審判請求事件において請求人である原告の利害関係が不明であるとして不適法却下を求めていたこと(甲38・審判事件答弁書)から,本件商標を独占する意図がなかった旨の長男Aの陳述内容(乙4)は信用できない旨主張する。
しかしながら,
前者の点については,
当時,
長男Aが経営していた会社
(旧
総本家)の経営状態が悪化し,再生手続開始決定を受けて新総本家に事業譲渡される状況下にあったため,すぐに上記のような申出ができなかった旨,被告らから一応の説明がなされているし,後者の点についても,本件商標権以外の他の商標権(長男商標3)に対する無効審判請求を争ったからといって,そのことが直ちに本件商標を独占しようとの意図に結び付くわけではない。
そして,長男Aが,本件商標権の取得後に,これをわざわざ他のグループ企業やその関係者との共有名義に移していることや,原告(三男C)に対しても共有する意思があることを伝えていることは,いずれも前記認定のとおりであって,これらの行動はむしろ長男Aの陳述内容に沿うものといえる。したがって,原告が主張する上記の点のみでは,本件商標を独占する意図がなかった旨の長男Aの陳述内容が全面的に信用できないとはいえず,ほかにその信用性を否定すべき具体的事情までは見当たらない。
よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
(3)原告は,本件の被告ら訴訟代理人であるI弁理士が,共有商標1ないし3について,共同権利者(長男A,二男B,三男C及び四男D)全員の委任を受けて書換登録申請等を行うべき法的義務を負っていたにもかかわらず,同弁理士が背信的な代理業務を行った,すなわち,共同権利者の一人である長男Aのためだけに故意に書換登録申請の手続を行わず,その権利が消滅するのを意図的に利用して,
本件商標等を出願し,
長男Aのためだけに取得した,
などと主張する。
しかしながら,証拠によっても,共有商標1ないし3に関し,I弁理士が長男Aはもちろん,他の共有者らからも書換登録申請等の手続を個別に依頼されていたとは認められないし,包括的にその管理を任されていたことを認めるに足る証拠もない。
したがって,I弁理士が共有商標1ないし3について共同権利者全員の委任を受けて書換登録申請等を行うべき法的義務を負っていたとの前提自体が採用できない。
また,そもそも,本件商標の出願に関し,出願人である長男A自身の行為に商標登録を無効とすべき事情があるとまでは認められない以上,その出願手続を代理して行ったにすぎないI弁理士の行為(本件出願以前の行為を含む。)を理由に,本件商標の登録が商標法4条1項7号の規定に違反してなされたものであると評価する余地はないというべきである。
したがって,I弁理士の行為の背信性を理由とする原告の主張もまた採用できない。
(4)その他原告がるる主張する点は,
いずれも上記2の結論を覆すには足りず,
採用できない。
4
結論
以上の次第であるから,原告が主張する取消事由は理由がなく,審決に取り消されるべき違法があるとは認められない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦寺田利彦間明宏充
裁判官

裁判官

トップに戻る

saiban.in