判例検索β > 平成28年(ワ)第3288号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)3288
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成30年6月1日
法廷名名古屋地方裁判所
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主1文
被告は,原告X1に対し,3478万2801円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
被告は,原告X2に対し,200万円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告は,原告X3に対し,100万円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
被告は,原告X4に対し,100万円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用は,これを20分し,その3を原告X1の,その3を原告X2の,その4を原告X3の,その4を原告X4の各負担とし,その余を被告の負担とする。

7
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

第1

実及び理由
請求

1
甲事件


被告は,原告X1に対し,8685万3526円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


訴訟費用は被告の負担とする。



仮執行宣言

2
乙事件


被告は,原告X2に対し,500万円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



被告は,原告X3に対し,500万円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


被告は,原告X4に対し,500万円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第2

訴訟費用は被告の負担とする。
事案の概要

原告X1は,被告が開設するA大学医学部附属病院(以下「被告病院」という。)において,アデホビルピボキシル(ヘプセラ。以下「本件抗ウイルス薬」という。)の投薬治療を受けていたところ,被告病院医師がALPアイソザイム検査の結果に対して適切に対応すべき注意義務等を怠ったことにより,本件抗ウイルス薬の副作用で低リン血症となり,さらに,重度の骨軟化症になり,後遺障害を負うなどしたとして,被告に対し,不法行為(民法715条1項)に基づく損害賠償とこれに対する不法行為日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。(甲事件)
また,原告X1の妻原告X2,両名の子である原告X3及び原告X4は,上記被告の不法行為により,それぞれ精神的苦痛を被ったとして,被告に対し,各自,不法行為(民法715条1項)に基づく慰謝料500万円とこれに対する不法行為日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(乙事件)。1
前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,関係証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。


当事者

原告X1は,昭和7年〇月〇日生まれで,妻である原告X2との間に,長男原告X3及び二男原告X4をもうけた(甲C3)。




被告は,被告病院を開設する国立大学法人である。
診療経過


原告X1は,平成4年6月,B型肝炎と診断された(乙A2)。


原告X1は,平成6年2月8日,被告病院を初めて受診し,以後外来での経過観察が開始された。

原告X1は,遅くとも平成14年には,B型肝硬変となった(乙A4)。

被告病院医師は,ラミブジン耐性株の可能性が大きかったので,平成17年4月25日,原告X1に対する本件抗ウイルス薬の投与を開始した(甲B1・p5,乙A1・18/1131)。


平成18年6月26日,原告X1のALP値は449IU/l(基準値115-359)であった。以後,恒常的にALP高値が継続した。(甲B1・p5)


平成20年12月17日,原告X1のALP値は1498IU/lであった。
被告病院医師は,ALPアイソザイム検査を実施した。その結果,1分画3.6(基準値0-2.0),2分画38.8(基準値26.3-65.0),3分画54.1(基準値34.6-62.4),5分画3.5(基準値0-18.4)を示し,3分画(骨由来)が上昇していた。
被告病院医師は,1分画が基準値を超えていたことから1分画が上昇していると認識し,何らかの肝障害に起因するものと推測し,骨由来は否定的と判断した。


平成21年1月21日,原告X1に歩行困難が出現した(乙A1・72/1131)。


平成21年7月1日,原告X1のALP値は1470IU/lであった。被告病院医師は,ALPアイソザイム検査を実施した。その結果,1分画3.6(基準値0-2.0),2分画44.2(基準値22-63),3分画48.3(基準値31-71),5分画3.9(基準値0-20)を示し,3分画(骨由来)が上昇していた。
被告病院医師は,1分画が基準値を超えていたことから1分画が上昇していると認識し,何らかの肝障害に起因するものと推測し,骨由来は否定的と判断した。

原告X1は,平成22年2月17日,体重減少を訴えた。原告X1の体重は,60kgから44kgに減少していた。また,原告X1の歩行困難も継続していた。


原告X1は,平成23年1月12日,背が縮んだと訴えた。原告X1の身長は,平成20年以降の3年間で,約160cmから140cmになった。


原告X1には,平成23年8月9日,胸郭の変形が認められた。
また,原告X1は,自力歩行が不可能になり,車椅子を使用するようになった(乙A1・111/1131)。


原告X1には,平成23年8月31日,のどのつかえ感があり,食事が摂れなくなってきていた。(乙A1・115/1131)


原告X1には,平成23年9月28日,上肢の巧緻運動障害が認められた。


原告X1は,平成23年12月7日,進行する腎機能障害,低リン血症,高ALP血症などから,尿細管性アシドーシスによる骨軟化症が疑われ,翌日,検査目的で被告病院に入院することになった。


原告X1は,平成23年12月8日,被告病院に入院した。
入院後の検査の結果,本件抗ウイルス薬による尿細管アシドーシスとそれに伴うリン酸塩の低下による骨軟化症と診断された。


平成23年12月14日,原告X1に対する本件抗ウイルス薬の投与量は従前の半量とされた(乙A1・178/1131)。


原告X1は,平成24年1月17日,被告病院を退院した(乙C1)。その結果,被告病院での入院期間は,平成23年12月8日から同24年1月17日までの41日である。
原告X1は,被告病院を退院した後,平成24年3月19日まで被告病院に通院した(実通院日数3日)(乙C1)。

原告X1は,被告病院のほかに,平成20年12月22日から同21年8月26日までB整形外科に通院し(実通院日数25日),平成22年6月17日から同23年10月28日までCクリニックに通院し(実通院日数39日),平成23年9月6日から同月24日までD病院に通院し(実通院日数2日),平成24年1月31日から同年4月30日までE医院に通院した(実通院日数4日)(乙C1)。


原告X1は,平成27年5月29日から同年6月20日までの23日間,被告病院に入院し,その間の同年6月18日,症状固定と診断された(乙C1)。



被告病院医師の注意義務違反及びこれによる原告X1の骨軟化症の発症被告病院医師には,平成20年12月17日に原告X1に対して実施されたALPアイソザイム検査の結果,3型(骨由来型)の上昇が認められ,骨疾患が強く疑われる状態であったにもかかわらず,1型(肝由来型)の上昇と誤診し,ALPアイソザイム検査の結果に対して適切に対応しなかった注意義務違反があり(以下「本件注意義務違反」という。),これにより,原告X1の病態の早期把握ができず,本件抗ウイルス薬の投薬が続けられ,原告X1は,本件抗ウイルス薬の副作用で低リン血症となり,さらに,骨軟化症を発症した。被告病院医師が,ALPアイソザイム検査の結果に対して適切に対応していれば,不可逆的な骨軟化症の進行を防ぐことができた。
2
争点
本件の主たる争点は,平成20年12月17日の本件注意義務違反により原告らに生じた損害の額である。
原告らは,本件注意義務違反の他に,①平成17年4月頃から原告X1には
低リン血症の持続が認められたことから,低リン血症についての評価をカルテに記載して原因の精査を行い,専門家に相談すべき注意義務の違反や,②原告X1を整形外科に紹介する際に高ALP血症や低リン血症について紹介状に記載し,検査の異常について整形外科医との間で情報を共有して原因の精査と対応を行うべき注意義務の違反についても主張し,被告は,これらの注意義務違反を争っているが,原告らは,上記各注意義務違反と本件注意義務違反を選択的に主張し,かつ,上記各注意義務違反及び本件注意義務違反によって生じた損害の範囲も異ならないと主張していることから,上記①②の注意義務違反の有無については争点として扱わない。
3
争点に対する当事者の主張

(原告X1の主張)
原告X1が本件注意義務違反により被った損害の額は,以下の⑴ないし⒄のとおり,合計8685万3526円である。


治療費

26万1230円

原告X1は,本件注意義務違反後,以下の病院で治療を受け,治療費として合計26万1230円を支払った。
①B整形外科

1万7840円

②Cクリニック

6万1650円

③D病院

2930円

④E医院

3万1960円

⑤被告病院


付添看護費

14万6850円
77万6000円

本件注意義務違反後の原告X1の入院日数は64日,通院日数は82日であるところ,入院付添看護費を日額7000円,通院付添看護費を日額4000円とするのが相当であるから,付添看護費は,以下のとおり,77万6000円となる。
(計算式)入院付添看護費7000円/日×64日+通院付添看護費4000円/日×82日=77万6000円


入院雑費

10万2400円

入院雑費は日額1600円が相当であるから,以下のとおり,入院雑費の合計は10万2400円となる。
(計算式)入院雑費1600円/日×64日=10万2400円


通院交通費



駐車場代

1万6110円
8000円

以下のとおり,駐車場代は8000円である。
(計算式)500円/日×16日


休業損害

1148万2098円

原告X1は,本件注意義務違反により,重度の骨軟化症を発症し,平成20年12月17日の事故日から同27年6月20日の症状固定日までの間,入院及び通院を余儀なくされ,日常家事労働に著しい支障をきたした。男性年齢別平均賃金は352万6600円であり,上記治療期間は2377日であるから,原告X1の休業損害は以下のとおり,1148万2098円である。
(計算式)352万6600円÷365日×2377日×50%=1148万2098円


傷害による入通院慰謝料

462万円

原告X1は,本件注意義務違反により,重度の骨軟化症を発症し,平成20年12月17日の事故日から同27年6月20日の症状固定日までの2377日のうち,被告病院に64日入院し,被告病院及びその他の病院に合計82日通院した。
原告X1は,被告病院医師の本件注意義務違反によって本件抗ウイルス薬の投薬を受け続け,長期間原因不明のまま,体重減少,身長の縮み,両膝,背骨及び全身の疼痛に苦しんだ。したがって,骨軟化症という傷害による入通院慰謝料としては,事故日から症状固定日までの総治療期間2377日に相当する入通院慰謝料として,462万円が相当である。


後遺障害による逸失利益

1250万5323円

原告X1に残存する後遺障害は,後記⑼のとおり,自動車損害賠償保障法施行令別表(以下「別表」という。)第1の1級1号に相当する。原告X1は,本件注意義務違反により受けた障害の症状が固定した当時83歳であり,87歳までの4年間,労働能力を100%喪失した。
原告X1の場合,男性年齢別平均賃金は352万6600円であり,83歳から87歳の就労期間4年間に対するライプニッツ係数は3.546であるから,原告X1の後遺障害による逸失利益は,以下のとおり1250万5323円である。
(計算式)352万6600円×3.546=1250万5323円⑼

後遺障害慰謝料

3100万円

原告X1は,本件注意義務違反により重度の骨軟化症を発症し,自力歩行ができなくなり,ほぼ寝たきり状態となり,他人の介助なしには日常生活を送ることができなくなった。将来の回復の見込みもない。また,原告X1は,体重が16kg減少し,身長が20cm縮み,背骨が大きく湾曲した姿となったことや常に疼痛があることに強い精神的苦痛を受けた。原告X1の後遺障害の重大さや不可逆性等に鑑みると,後遺障害慰謝料は,別表第1の1級1号に相当し,3100万円が相当である。


被告が主張する平成27年6月19日のバーセル指数の記載は,入院中の実態とはかけ離れており信用できない。
原告X1が,平成24年以降,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準でB2(屋内での生活は何らかの介助を要し,日中もベッド上での生活が主体)とされたことや(甲A3ないしA7,B7),平成23年に介護支援専門員が移動やトイレに介助が必要と認定していること(甲C11),平成27年に被告病院の医師が身体障害者福祉法別表の体幹不自由について3級相当の意見を出したこと(甲A1),平成27年に名古屋市から要介護2の認定を受けたこと(甲C1)などから,原告X1は自立して一人暮らしができる状態ではなく,他人の介護なしに日常生活を送ることができないことは明らかである。

将来の付添介護費

1667万4660円

原告X1は,ほぼ寝たきり状態となり,排泄,食事,入浴,着替え等生活全般で常に他人の介助が必要な状態であり,名古屋市から要介護2の認定を受けた。将来の付添介護費としては,日額9000円が相当である。また,原告X1の症状固定時の年齢は83歳であり,平均余命は6年であるから,これに対するライプニッツ係数は5.076である。
したがって,原告X1の将来の付添介護費は,以下のとおり,1667万4660円が相当である。
(計算式)9000円/日×365日×5.076=1667万4660円⑾
将来の訪問介護費・福祉レンタル費

37万0937円

平成26年1月から同年12月の訪問介護費・福祉レンタル費の合計額は7万3081円であり,平均余命6年に対するライプニッツ係数は5.0757である。
したがって,原告X1の将来の訪問介護費・福祉レンタル費は,以下のとおり,37万0937円が相当である。
(計算式)7万3081円×5.0757=37万0937円

薬代

2万2620円


文書料


訪問介護費


福祉レンタル代


バリアフリー工事費

1万1912円
15万9561円
10万2800円
84万4100円
原告X1は,骨軟化症により,立つのもやっとの状態であり,転倒することが多かった。そのため,原告X1の自宅で以下のバリアフリー工事を行った。
①トイレのバリアフリー工事
トイレの便器を和式便器から洋式便器に変え,床にあった約30cmの段差をなくしてフラットにした。また,便器の両側や前に手すりをつけ,床タイルも滑りにくい材質に変更した。
②エクステリアのバリアフリー工事
玄関ポーチの階段状の段差をなくしてスロープをつけた。また,玄関の内側に手すりをつけた。
③風呂のバリアフリー工事
湯船で立ち上がることができるように,湯船の前後に2か所,洗い場に1か所手すりを付けた。また,湯船の中で座れるように湯船の中に入れることができる特殊な椅子を用意した。
④防水シーツ
トイレが間に合わないときに備えて,介護ベッドの下に防水シーツを敷いた。

弁護士費用

789万5775円

⑴ないし⒃の合計額7895万7751円の1割である789万5775円が相当である。
(原告X2,原告X3,原告X4の主張)
原告X1の後遺障害については上記のとおりである。原告X1にひどい疼痛が続くようになり,歩行ができず,病院への外出時には車椅子が必要となり,1日の大半はベッドで過ごすほぼ寝たきりの状態になってしまったことについて,原告X2,原告X3,原告X4の絶望は計り知れない。また,原告X2,原告X3,原告X4は協力して原告X1の面倒を生涯看なければならない。したがって,近親者固有の慰謝料として,原告X2,原告X3,原告X4につきそれぞれ500万円,合計1500万円が相当である。
(被告の主張)


治療費
一部否認する。治療費は24万5370円である。
原告X1の骨軟化症の原因は,本件注意義務違反によって本件抗ウイルス薬投与がなされ,ALP高値,P値1台が継続して低リン血症となったことにあると考えられる。しかし,平成26年1月22日にはALP値もP値も正常化していることから,遅くとも同日には本件注意義務違反に基づく治療は終了したといえる。同日より後の入通院は,腎機能低下を原因とするものであるから,本件注意義務違反に基づく損害とはいえない。



付添看護費
入院付添看護費は否認し,通院付添看護費は一部否認する。
原告X1について入院付添看護の必要性は認められない。
通院付添看護費は日額3000円が相当である。通院日数は,B整形25日,Cクリニック39日,D病院2日,E医院4日,被告病院36日の合計106日である。よって,通院付添看護費は,以下のとおり,31万8000円が相当である。
(計算式)3000円/日×106日=31万8000円



入院雑費
一部否認する。
入院雑費は,日額1500円が相当である。また,骨軟化症のための入院日数は,41日である(平成23年12月8日から平成24年1月17日)。なお,平成27年5月29日から同年6月20日の入院期間は,前記⑴のとおり,腎機能低下の治療を目的とするものであり,本件注意義務違反による損害と認めることはできない。よって,入院雑費は,以下のとおり,6万1500円が相当である。
(計算式)1500円/日×41日=6万1500円


通院交通費
認める。



駐車場代
認める。



休業損害
否認する。原告X1に休業損害は発生していない。
原告X1は,夫婦2人暮らしで,共同して家事労働を行っていた。原告X1は自らの生活のために家事を行っていたから,これを家事労働として金銭評価することはできない。



傷害による入通院慰謝料
一部否認する。本件の入通院慰謝料は,180万円が相当である。本件で損害算定の対象となる入院日数は41日,通院実日数は106日である。また,本件で入通院慰謝料算定の対象となる通院期間は,過失認定日である平成20年12月17日から症状固定日(平成27年6月18日)までであるが,骨軟化症の治療のための通院は長期かつ不規則であるため,修正通院期間を算定し,これを通院期間とすべきである。本件の修正通院期間は以下のとおりであるから,入通院慰謝料は180万円が相当である。(修正通院期間)106日÷2/7=371日



後遺障害による逸失利益
否認する。原告X1には基礎収入がないため,後遺障害による逸失利益はない。



後遺障害慰謝料
一部否認する。原告X1の後遺障害慰謝料は,以下のとおり,別表第2の3級の慰謝料額1800万円が相当である。

原告X1の後遺障害等級
本件の症状固定日は平成27年6月18日であるところ,同月19日の原告X1のADLについて,バーセル指数及び原告X1らからの聞き取りの状況等からすれば,原告X1は,本件症状固定時,食事や排泄等の生命維持に必要な身の回りの動作は自立して行うことができたと考えられる。ただし,労務に服することは困難であったと考えられるから,原告X1の後遺障害等級は別表第2の3級に相当するというべきである。


原告X1の更衣については軽介助で,上衣の袖に手を通すのを手伝うことが必要であったが,年齢に伴う老化現象(原告X1は症状固定日において83歳と高齢であった)や,原告X1が依存的で行為を自ら行う積極的な意欲が認められなかったこと(乙A1・936/1131)が原因であり,骨軟化症が原因ではない。
また,被告病院では,原告X1の移乗時に見守りはしていたが,安全確保のために行ったものであり,他人の介助が必要とはいえない。手足の振戦も認められたが,手足の振戦は,平成23年12月に本件抗ウイルス薬を減量し,P値もALP値も正常化した後の,平成26年7月頃から症状が出始めており,本件注意義務違反とは関連性がない。
さらに,原告X1は,遅くとも平成14年にはB型肝硬変と診断されていて,本件注意義務違反がなくとも,B型肝硬変による肝機能や腎機能の低下は避けがたく,健康体とはいえなかった。


将来の付添介護費
否認する。原告X1は常時介護も随時介護も必要とするものではない。

将来の訪問介護費・福祉レンタル費
将来の訪問介護費は否認し,将来の福祉レンタル費は認める。
将来の福祉レンタル費は,1年間の福祉レンタル代が2万7600円,症状固定時(83歳)の男性の平均余命6年に対応するライプニッツ係数が5.0757である。よって,以下のとおり14万0089円が相当である。(計算式)2万7600円×5.0757=14万0089円

薬代
認める。


文書料
認める。


訪問介護費
否認する。


福祉レンタル代
認める。


バリアフリー工事費
①トイレのバリアフリー工事
トイレのバリアフリー工事が必要であったことは認める。もっとも,工事費は43万8003円である。
②エクステリアのバリアフリー工事
改修の必要性は不知。仮に必要性が認められても,工事費は19万8576円である。
③風呂のバリアフリー工事
改修の事実が認められない。
④防水シーツ
改修の必要性は不知。仮に必要性が認められても,防水シーツ代は6000円である。


弁護士費用
否認する。


近親者固有の慰謝料
否認する。別表第2の3級の場合には,近親者慰謝料は必ずしも認められるものではない。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実
前記前提事実に加え,証拠(甲A1ないし7,B1,7,C1,2,11,乙A1ないし4,B2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。


診療経過の概要等

本件抗ウイルス薬投与開始まで
原告X1は,平成4年6月,B型肝炎と診断された(乙A2)。
原告X1は,平成6年2月8日,肝細胞癌の疑いで他院から紹介されて被告病院を初めて受診した(乙A2,3)。
原告X1は,平成6年4月27日,被告病院で肝左葉外側切除術を受けた(乙A2,4)。原告X1は,同日以降,定期的に被告病院を外来受診した(乙A4,弁論の全趣旨)。
原告X1は,遅くとも平成14年には,B型肝硬変となった(前記前提事実⑵ウ)。
平成16年4月19日,原告X1のGOT値が68IU/l(基準値0-41),GPT値が84IU/l(基準値0-45),γ―GTP値が86IU/l(基準値11-64)となり,肝機能が悪化していた(甲B1p4,乙A1・6/1131)。
平成16年6月7日,原告X1のGOT値が95IU/l,GPT値が122IU/l,γ―GTP値が103IU/lであり,肝機能の改善がみられなかった。そこで,被告病院医師は,近医に強力ミノファーゲンCの投与を依頼した(乙A1・8/1131)。
被告病院医師は,平成16年8月16日,原告X1に対し,近医における強力ミノファーゲンCの投与と並行して,抗ウイルス薬ラミブジン(ゼフィックス)の投与を開始した(乙A1・10/1131,11/1131)。
平成17年3月19日,原告X1について,ラミブジン耐性株の可能性が大きいと判断された(乙A1・16/1131)。
被告病院医師は,平成17年4月25日,原告X1に対する本件抗ウイルス薬の投与を開始した(乙A1・18/1131)。

本件抗ウイルス薬投与開始から同薬の副作用の疑いによる入院まで平成18年6月26日,原告X1のGOT値が22IU/l,GPT値が15IU/lで,ALP値は449IU/lであった。以後,恒常的にALP高値が継続した。(前記前提事実⑵オ,乙A1・37/1131)
平成18年11月20日,CRE値が1.14mg/dl(基準値0.5-1.2)となり,軽度腎機能障害が出現した。P値は1.9mg/dl(基準値2.9-4.5)であり,この時期から血清リン値は常に1台となった。(甲B1p4,5)
平成20年12月17日,原告X1のALP値は1498IU/lであった。被告病院医師は,ALPアイソザイム検査を実施したが,前記前提事実⑵カのとおり,誤った解釈をした。(前記前提事実⑵カ)平成21年1月21日,原告X1に歩行困難が出現した(乙A1・72/1131)。
平成21年7月1日,原告X1のALP値は1470IU/lであった。被告病院医師は,ALPアイソザイム検査を実施したが,前記前提事実⑵クのとおり,誤った解釈をした。(前記前提事実⑵ク)原告X1は,平成22年2月17日,体重減少を訴えた。原告X1の体重は,60kgから44kgに減少していた。また,原告X1の歩行困難も継続していた。(前記前提事実⑵ケ)
平成23年1月12日,原告X1のGOT値は16IU/l,GPT値は8IU/l,γ-GTP値は18IU/l,ALP値は1874IU/l,CRE値は1.13mg/dlであった。原告X1は,背が縮んだと訴えた。原告X1の身長は,平成20年以降の3年間で,約160cmから140cmになった。(前記前提事実⑵コ,乙A1・103/1131)
平成23年8月9日,原告X1に胸郭の変形が認められた。また,原告X1は,自力歩行が不可能になり,車椅子を使用するようになった。(前記前提事実⑵サ)
原告X1には,平成23年8月31日,のどのつかえ感があり,食事が摂れなくなってきていた(乙A1・115/1131)。
平成23年9月28日,原告X1に上肢の巧緻運動障害が認められた(前記前提事実⑵ス)。

本件抗ウイルス薬の副作用の疑いによる入院から平成27年6月20日まで
原告X1は,平成23年12月7日,進行する腎機能障害,低リン血症,高ALP血症などから,尿細管性アシドーシスによる骨軟化症が疑われ,翌日に検査目的で被告病院に入院することになった。(前記前提事実⑵セ)
原告X1は,平成23年12月8日,被告病院に入院した。入院後の検査の結果,本件抗ウイルス薬による尿細管アシドーシスとそれに伴うリン酸塩の低下による骨軟化症と診断された。(前記前提事実⑵ソ)平成23年12月14日,原告X1に対する本件抗ウイルス薬の投与量は従前の半量とされた(前記前提事実⑵タ)。
平成23年12月22日,原告X1に対するリハビリテーションが開始された(乙A1・209/1131)。
平成24年1月14日付けの被告病院のリハ記録では,原告X1のリハビリテーション終了時の状況として,両大腿部及び腰背部の疼痛は薬物によるコントロール下で自制の範囲内である旨,ADLについて,バーセル指数は食事が5点,車椅子への移動が5点,洗顔・歯磨等が5点,排泄動作が5点,入浴が0点,移動が0点,階段昇降が0点,着脱衣が5点,便調節が5点,尿調節が5点で,合計が100点満点中35点である旨記載されている(乙A1・285/1131)。
原告X1は,平成24年1月17日,被告病院を退院した(前記前提事実⑵チ)。
平成24年2月27日,原告X1のCRE値が1.22mg/dl,P値が5.0mg/dl,ALP値が2121IU/lとなった(乙A1・318/1131)。
平成24年4月25日,CRE値が1.34mg/dl,P値が3.9mg/dl,ALP値が1313IU/lとなり,ALP値は高いが改善傾向にあった(乙A1・327/1131,330/1131)。平成25年3月27日,CRE値が1.80mg/dl,P値が5.5mg/dl,ALP値が508IU/lで,CRE値は上昇したが,ALP値はさらに低下した。被告病院医師は,抗ウイルス剤や加齢以外に腎機能低下要因はなく,抗ウイルス剤についてはHBV陽転化の可能性が高く,減量に限界があり,そちらが優先されると判断した。(乙A1・374/1131)
平成26年1月22日,P値が4.0mg/dl,ALP値が353IU/lとなった。(乙A1・422/1131,423/1131)原告X1は,平成26年7月23日,両手両足の震えが強くなってきた旨を訴えた。被告病院医師は,平成26年8月27日,手足の振戦は本態性振戦であるとした。また,平成27年1月28日,原告X1は,よくふらつく旨を訴え,被告病院医師は血圧が低いことが原因ではないかと評価した。(乙A1・444/1131,455/1131,478/1131)
平成27年5月27日,原告X1は1週間ほど前から腹部が張って食欲も減退した旨を訴え,腹水の明らかな増強が認められた(乙A1・495/1131,496/1131)。
平成27年5月29日,原告X1は腎不全のために被告病院に緊急入院した(乙A1・502/1131)。同日の看護記録には,原告X1に四肢の振戦がある旨,安静度として,基本的にはフリーだが,腹満のため検査等は車椅子を使用する旨,トイレに関して安楽尿器を設置した旨,原告X1から,普段は杖歩行であり,自宅では自分で伝え歩きをしてトイレに行っていた旨を聴取したことが記載されている(乙A1・514/1131,515/1131)。
平成27年6月10日,被告病院医師から原告X2及び原告X3に対し,今後も不安定な状況が継続し,肝臓機能や腎臓機能が進行する旨,原告X1の食欲のなさも大きな改善は望めない旨等を説明した(乙A1・642/1131)。
被告病院が平成27年6月14日に実施した転倒転落アセスメントでは,原告X1の危険度分類は危険度Ⅲとされた(乙A1・628/1131)。
被告病院の平成27年6月19日付けの看護記録には,原告X1について,食事を3分の1摂取した旨,ADLの低下がある旨,寝返りはベッド柵を使用して行うことができる旨,起き上がりは看護師がリモコンを操作した旨,ベッドからポータブルトイレへの移乗時に見守りを実施した旨,コップに水を入れたり片付けたりなどの口腔ケアには介助が必要である旨,食事のセッティングや更衣を一部介助した旨記載されている(乙A1・628/1131)。
被告病院の平成27年7月23日付けのリハ記録には,平成27年6月19日の原告X1のバーセル指数は食事が10点で自立,移乗が15点で自立,整容が5点で自立,トイレ動作が10点で自立,入浴が0点で一部介助,平地歩行が10点で歩行器等使用,階段が5点で一部介助,更衣が5点で一部介助,排便管理が10点で自立,排尿管理が10点で自立,合計が80点であった旨記載がある。また,同日には原告X1は起き上がりが可能で,杖歩行も50mほど可能であった旨,トイレも歩いて行っている旨,室内での生活は可能であった旨も記載されている。(乙A1・670/1131,671/1131)
原告X1は,平成27年6月20日,被告病院を退院した(乙A1・633/1131)。
被告病院の平成27年6月25日付けの看護サマリには,平成27年5月29日から同年6月20日までの期間について,原告X1のADLの状況として,活動・移動は杖歩行で転倒予防のため付添いが必要,体位変換が自己で可能,褥瘡なし,食事/栄養は自立で嚥下問題なし,半分から1/3くらいの摂取量,清潔は気分が向けばシャワー浴,それ以外は清拭・陰部洗浄で,入院中はほとんど清拭していた,更衣は一部介助,排泄・排尿は安尿使用,自立で,便はトイレまで歩行,移動は見守りという旨の記載がある(乙A1・642/1131)。

その後の状況
平成27年7月31日,原告X1は,食事の摂取があまりできず,発熱や呼吸苦等の症状も見られたとして被告病院を受診し,B型肝硬変・肺炎に対し,抗生剤による加療のために被告病院に緊急入院した(乙A1・672/1131)。
入院前の状況
a
平成27年10月9日付けのリハ記録には,病前のADLとして,食事は食事動作自立で料理は妻がする,排泄は移動がT字杖にて自立でトイレ動作は妻の介助あり,入浴は妻が洗体で自分でする時もあった,更衣はベッド上で妻が介助,整容は自立という旨の記載がある(乙A1・945/1131,946/1131)。

b
平成27年10月10日付けの被告病院リハ記録には,原告X2から,原告X1が室内で寝たりテレビを見たりの生活であった旨,トイレ時に見守りを行い,必要に応じて軽介助をした旨,入浴介助をした旨,週1回,往診と訪問看護が入っていた旨,原告X2が買い物に行くなどする際は,原告X1が一人で家で過ごし,一人でトイレへ行くこともあった旨を聞き取ったと記載されている(乙A1・947/1131)。

c
平成27年10月14日付けの被告病院リハ記録には,「病前のADLレベル」として,食事は食事動作自立で料理は妻がする,排泄は移動がT字杖にて自立で排泄動作も自立,入浴は妻が一緒に入浴し見守り,自身にて洗体可能,更衣はベッド上で妻が軽介助,整容は自立という旨及び基本的に下肢の振戦がない場合は見守りレベルでADL可能で振戦が生じている際は介助しているとのこと,との記載がある(乙A1・954/1131,955/1131)。
被告病院の平成27年8月2日付けの看護記録には,原告X1がベッ
ド上での端座位から部屋の洗面台まで伝い歩きで歩行した旨記載されている(乙A1・696/1131)。
被告病院の平成27年8月5日付けの看護記録には,原告X1について,高齢で筋力低下があり,寝返りや起き上がりは背中を支える介助が必要である旨,歩行にふらつきがあり,ベッドからポータブルトイレへの移乗には見守りが必要である旨,セットを行えば自分で義歯の消毒ができる旨等が記載されている(乙A1・728/1131,729/1131)。
被告病院の平成27年8月30日付けの看護記録には,原告X1について,トイレ移乗時に下肢の震えがあった旨や寒気がないのにベッドに横になっても膝が震える旨等が記載されている(乙A1・817/1131)。
被告病院の平成27年9月3日付けの看護記録には,原告X1について,時折四肢の振戦がある旨記載されている(乙A1・833/1131)。
被告病院の平成27年9月15日付けの看護記録には,原告X1について,午前中は臥床傾向であったが,午後からは端座位で過ごすことが多かった旨記載されている(乙A1・874/1131)。
被告病院の平成27年10月4日付けの看護記録には,口腔ケアにはセッティングや入れ歯の接着ゲルを洗浄液につけるなどの介助が必要である旨,高齢で筋力低下があって寝返りは支えがあれば自分で行えた旨,歩行にふらつきがあってベッドからポータブルトイレへの移乗には見守りが必要である旨,食事摂取が少量であるため適宜エンシュアの飲用を促した旨,筋力低下のために衣服の着脱には軽介助が必要であった旨記載されている(乙A1・928/1131)。
被告病院の平成27年10月6日付けの看護記録には,原告X1は促せば食堂まで歩行することが可能であるが,あまり動かない旨,看護師見守りの下でポータブルトイレで排泄を行う旨,更衣などでも声をかけなければあまり動かず依存的である旨記載されている(乙A1・936/1131)。
被告病院の平成27年10月11日付けの看護記録には,原告X1は,看護師の見守りの下,杖をしっかりと使用して,ふらつきなく比較的スムーズに病棟内を1周することができた旨記載されている(乙A1・949/1131)。
被告病院の平成27年11月16日付けのリハ記録には,原告X1の同月14日のバーセル指数は,食事は10点,移乗は10点,整容は5点,トイレ動作は10点,入浴は0点,平地歩行は10点,階段は0点(未実施),更衣は10点,排尿管理は10点,排便管理は10点であった旨記載されている。また,総括として,入院中における臥床によってADLが低下したため理学療法を行った旨,理学療法を行った当初は筋力低下のためT字杖歩行に軽介助が必要であったが,理学療法を行った結果,監視下でT字杖歩行が可能となった旨記載されている(乙A1・1055/1131ないし1057/1131)。
原告X1は,平成27年11月16日,被告病院を退院した(乙A1・1053/1131)。


原告X1の状態に関するその他の事情

原告X1は,平成22年10月29日,名古屋市から脊椎疾患による歩行困難な体幹機能障害として身体障害3級の認定を受けて身体障害者手帳を交付され,平成27年6月30日に再交付された(甲C2)。


原告X1は,介護保険認定において,名古屋市から,平成24年2月2日に要介護3(甲A7),平成27年6月1日に要介護2(甲C1),平成29年1月12日に要介護3(甲A2)の認定を受けた。


介護支援専門員は,平成23年8月8日付けの介護保険住宅改修状況等確認書に,原告X1の身体状況について,立ち座りや段差のある場所の移動は介助が必要である旨,室内はゆっくり伝い歩きができるが見守りが必要である旨,屋外は車椅子介助である旨を記載した。また,介護状況として,トイレまでの移動経路に25cmの段差が2カ所ある旨,和式便器であるため立ち座りが困難であってトイレ介助に原告X2の負担が大きい旨等記載し,原告X1からの聴取内容として,原告X1はトイレへの移動及び移乗において原告X2の介助を受けているが,自分一人で行くことができるようにしたい旨,住宅改修によりトイレ動作を自立させ原告X2の介護負担を軽減したい旨記載した(甲C11)。

E医院のF医師は,原告X1について,平成24年1月17日付け訪問看護指示書で,日常生活の寝たきり度をB2とし,要介護2とし(甲A3),同月19日付け居宅管理指導に基づく診療情報提供書で,日常生活自立度(寝たきり度)をBとして要介護2とし(甲A4),平成27年4月17日及び同年7月3日付け居宅管理指導に基づく診療情報提供書で日常生活自立度(寝たきり度)をB2として要介護2とした。(甲A5,6)なお,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準では,B2は,屋外での生活では何らかの介助を要し,日中もベッド上の生活が主体であるが,座位を保ち,介助により車椅子に移乗する状態を意味する(甲B7)。


被告病院医師は,平成27年4月22日付けの身体障害者診断書・意見書(肢体不自由障害者用)で,原告X1について,多発脊椎圧迫骨折,脊柱後弯変形を原因とする体幹不自由を理由に,障害の程度が身体障害者福祉法別表3級相当であるとした。また,体幹や下肢に脊髄に起因する運動障害(弛緩性麻痺)がある旨記載し,100m以上歩行不能である旨,1分間以上の起立位が困難である旨も記載した。原告X1の動作及び活動については,寝がえりする,足を投げ出して座るという項目は○(自立)とし,椅子に腰かける,立つ,家の中の移動,洋式便器に座る,排便のあと始末をする,食事をする,コップで水を飲む,閉じ紐を結ぶ,ワイシャツのボタンをとめる,シャツを着て脱ぐ,ズボンを穿いて脱ぐ,ブラシで歯を磨く,顔を洗いタオルで拭く,タオルを絞る,背中を洗う,公共の乗り物(タクシーを除く)を利用する,という項目は全て△(半介助)とした。また,二階まで階段を昇って下りる,屋外を移動する(家の周辺程度)という項目は×(全介助又は不能)とした。(甲A1)


症状固定日
前記⑴のとおり,原告X1に平成17年4月25日に本件抗ウイルス薬が投与された後,平成18年6月26日からALP値が高値となり,同年11月20日からP値が1台となって,原告X1は骨軟化症となった。その後,平成23年12月14日以降,本件抗ウイルス薬を減量したところ,平成24年2月27日にP値が正常化し,平成26年1月22日の時点でALP値が正常化した。また,平成27年6月19日時点でのADLの状況はそれ以前よりも回復しており,同年7月31日の入院前のADLの状況も同年6月19日時点でのADLの状況から大きな変化がなかったと認められる。したがって,原告X1の症状固定日は平成27年6月18日と認められる。これに対し,原告らは,原告X1の症状固定日が平成27年6月20日であることを前提とした損害額を主張しながら,症状固定日は正確に言えば平成27年における2回目の退院日である平成27年11月16日頃であるとも主張し,かつ,症状固定の時期が平成27年11月16日頃でも被告主張の時期と大差はないと考える旨主張する。
しかし,

のとおり,平成27年7月31日の入院はB型肝硬変

や肺炎に対する抗生剤による加療のための入院であり,かつ,同入院前のADLの状況と平成27年6月19日時点でのADLの状況に大きな違いはないから,上記のとおり,症状固定日は平成27年6月18日というべきで,上記原告らの主張を採用することはできない。
バーセル指数得点の定義(乙B2)

食事
10点:自立。手が届く位置に誰かが食べ物を置いてやれば,盆又はテーブルから食事をとることが自力ででき,切ることや塩こしょ
うをふることなども自己でできる。
5点:上記の事柄に関して何らかの介助が必要。

車椅子からベッドへの移動及びその逆
15点:上記動作の全過程において自立。
10点:上記動作のいずれかの段階で何らかの介助が必要。
5点:患者は他者の助けを借りずに座位まで起き上がることはできるが,立位になるのに体を引き上げてもらったり,乗り移るのにかなり
の助けが必要。


整容
5点:両手と顔を洗い,髪をとき,歯を磨き,髭を剃ることができる。器具の取り扱いや出し入れもできなければならない。


トイレへの出入り
10点:他人の助けなしに,トイレへの出入り,着衣の開け閉め,衣服が汚れないようにすること,紙を使うことができる。必要なら,
手すりや固定した家具につかまってよい。
5点:バランス不良のために介助を必要としたり,衣服の扱いや紙の使用に関して介助を必要とする。


洗体
5点:入浴,シャワー,清拭のいずれでもよいが,他人についていてもらうことなしに,必要な動作を全て自分でできなければならない。

平地歩行
15点:介助又は監視なしで少なくとも50ヤードを歩くことができる。義歯,装具,松葉杖,一本杖,歩行器(キャスター付きを除く)
のいずれを使ってもよい。
10点:上記のいずれかに関して監視又は介助を必要とするが,わずかな介助で50ヤード以上歩くことができる。

階段昇降
10点:監視又は介助なしに階段を安全に上りかつ下りることができる。必要なら手すりにつかまってもよいし,松葉杖や一本杖を使っ
てよい。
5点:上の事項のいずれかに関して監視又は介助を要する。


更衣
10点:すべての衣服について着ること,脱ぐこと,締めることができ,靴紐を結ぶことができる。
5点:いずれかの衣服の着脱又は締めに関して助けを要する。少なくとも半分以上は自分でしなければならない。


排便コントロール
10点:腸のコントロールができており,失敗がない。必要なら座薬を使ったり浣腸器を取り出したりすることができる。
5点:座薬を使ったり浣腸器を取り出したりするのに助けを必要とする,又は,時々失敗がある。


排尿コントロール
10点:昼も夜も膀胱のコントロールができている。
5点:時々失敗がある。尿器を持って来てもらうまでやトイレへ行くまで間に合わないことがあったり,補助器に関して助けを必要とし
たりする。

2
争点(損害の額)に対する判断


治療費

24万5370円

平成26年1月22日までの治療費が24万5370円であることについて当事者間に争いはない。


原告X1は,平成26年1月22日より後の治療費合計1万5860円についても本件注意義務違反によるものであると主張する。
しかし,前記1⑴ウのとおり,平成26年1月22日にはALP値とP値が正常化していることが認められるから,同日から平成27年5月27日までの通院及び平成27年5月29日から同年6月20日までの入院は,腎機能低下に対処するためのもので,本件注意義務違反に基づく治療とは認め難く,他に平成26年1月22日より後の治療が本件注意義務違反に基づく治療であると認めるに足りる証拠はない。
したがって,この点に関する原告らの主張を認めることはできない。⑵

付添看護費

48万2000円

入院付添看護費

16万4000円

前記⑴のとおり,本件注意義務違反に基づく治療期間は,平成20年12月17日から同26年1月22日までであり,その間の原告X1の入院日数は,平成23年12月8日から同24年1月17日までの41日(前記前提事実⑵チ)である。前提事実及び前記認定事実によれば,原告X1は,被告病院に入院した平成23年12月8日時点で79歳であり,自力歩行が困難となり車椅子を使用していたこと,のどのつかえ感があり,食事がとれなくなってきていたこと,上肢の巧緻運動障害が認められたことからすると,被告病院に入院していた期間,付添看護が必要であったと認められる。そして,上記の原告X1の症状からすると,付添看護費としては1日4000円とするのが相当である。
したがって,入院付添看護費は,16万4000円となる(4000円×41日)。

通院付添看護費

31万8000円

通院付添いの必要性について当事者間に争いはない。
そして,前記1⑴及び⑵の原告X1の症状やその程度,原告X1の年齢等からすると,通院付添看護費は日額3000円とするのが相当である。また,前記⑴のとおり,本件注意義務違反に基づく通院は,平成20年12月17日から同26年1月22日までの間のものであり,その間の実通院日数は106日と認められる(乙A1,乙C1)。
したがって,通院付添看護費は31万8000円(3000円×106日)となる。


入院雑費

6万1500円

前記⑵のとおり,本件注意義務違反に基づく原告X1の入院日数は,平成23年12月8日から同24年1月17日までの41日である。そして,入院雑費は,1日当たり1500円とするのが相当であるから,入院雑費の合計は6万1500円(1500円×41日)となる。


通院交通費

1万6110円

当事者間に争いがない。


駐車場代

8000円

当事者間に争いがない。


休業損害

0円

原告X1は,原告X2と二人で暮らし,夫婦共同で日常家事を行い,買い物,掃除,炊事,洗濯等を行っていたところ,本件注意義務違反により平成20年12月17日から症状固定日である同27年6月20日までの間,入通院を余儀なくされ,日常家事労働に著しい支障をきたしたとして,休業損害が生じたと主張する。
しかし,原告X1が行っていた家事労働は,自ら生活するため日常的に行っていたもので,しかも,原告X1は,平成20年12月17日時点で76歳であることからすると,日常家事労働に著しい支障をきたしたことをもって,原告X1に休業損害が生じたとは認め難く,他に原告X1の主張を認めるに足りる証拠もない。
したがって,本件注意義務違反による休業損害は認められない。


傷害による入通院慰謝料

190万円
原告X1の症状固定日は,前記1⑶のとおり,平成27年6月18日であるところ,本件注意義務違反の日である平成20年12月17日から同27年6月18日までの入通院期間

入院日数

が41日,通院日数が106日である。また,通院が長期にわたることや原告X1の通院の頻度等からすると,原告X1の入通院慰謝料としては190万円が相当である。


後遺障害による逸失利益

0円

前記⑹と同様の理由で,本件注意義務違反により原告X1に逸失利益が生じたとは認められない。


後遺障害慰謝料

2200万円


X1の症状は,平成27年6月18日に固
定したと認められるところ,前記

のとおり,原告X1の平成27

年6月19日のADL評価は,食事,移乗,整容,トイレ動作,排便管理,排尿管理につき自立とされ,平地歩行も10点で歩行器等使用とされている。また,前記

のとおり,原告X2が,原告X1のトイレ時には

見守りを行い,必要に応じて軽介助,入浴介助を行っていた旨,一緒に入浴して見守っていた旨,更衣はベッド上で軽介助していた旨聴取されているものの,原告X2が家にいない場合は原告X1が一人で家で過ごし,一人でトイレに行くこともあった旨も聴取されている。そして,これらの事実からすると,原告X1は,基本的な身の回りの処理の動作について自立しているとみる余地もある。
しかし,他方,

X1の平成27年6月19

日のADL評価でも,入浴は0点で自立していないとされ,階段や更衣も一部介助とされている。また,

E医院のF医師は,

原告X1について,平成24年1月17日付け訪問看護指示書で,日常生活の寝たきり度をB2(屋外での生活では何らかの介助を要し,日中もベッド上の生活が主体であるが,座位を保ち,介助により車椅子に移乗する状態)として要介護2とし,同月19日付け居宅管理指導に基づく診療情報提供書で,日常生活自立度(寝たきり度)をBとして要介護2とし,平成27年4月17日及び同年7月3日付け居宅管理指導に基づく診療情報提供書で日常生活自立度(寝たきり度)をB2として要介護2としている。さらに,原告X1

平成22年10月29日,名

古屋市から脊椎疾患による歩行困難な体幹機能障害として身体障害3級の認定を受けて身体障害者手帳を交付され,同27年6月30日に再交付さ
ら,同24年2月2日に要介護3,同27年6月1日に要介護2の認定を受けている。
これらの事実によれば,原告X1は,自立して一人暮らしができるとはいい難く,随時他人の介護を要する状態にあると認められる。
したがって,原告の後遺障害は,別表第1の第2級に相当するというべきである。

これに対し,原告らは,原告X1について常に介護を要する状態であり,原告X1の後遺障害は別表第1の第1級に相当すると主張し,証拠(甲B8ないし10)にはこの主張に沿う記載がなされている。
しかし,すでに判示したところに加え,症状固定時の原告X1の年齢(83歳)や,前記1


のように,遅くとも平成14年には,B型肝

硬変となっていることなどからすると,原告X1について常に介護を要する状態であるとまではいい難く,仮に,そのような状態にあったとしても,本件注意義務違反によって生じた後遺障害としては,随時介護を要する状態であるとみるのが相当である。
ウ⑽
以上によれば,原告X1の後遺障害慰謝料は2200万円が相当である。
将来の付添介護費

555万7891円
前記⑼のとおり,原告X1は,食事や排泄等の日常生活の動作について随時介護を要する状態にあるから,将来の付添介護費も本件注意義務違反によって生じた損害と認められ,既に判示したところによれば,将来介護費については,日額3000円の限度で認めるのが相当である。
そして,症状固定日である平成27年6月18日から平均余命までの期間は6年で,それに相当するライプニッツ係数5.0757を用いて将来介護費を算定すると,555万7891円となる(3000円☓365日☓5.0757)。

将来の訪問介護費・福祉レンタル費

37万0937円

将来の福祉レンタル費14万0089円については当事者間に争いがない。証拠(乙C2・2枚目,乙C3・6枚目)によれば,平成26年1月から同年12月の訪問介護費・福祉レンタル費の合計額は7万3081円であることが認められるところ,既に判示したような原告X1の後遺障害の内容からすると,将来の訪問介護費も本件注意義務違反によって生じる損害と認められる。そして,原告X1の平均余命6年に対するライプニッツ係数5.0757に基づいて,将来の訪問介護費・福祉レンタル費を算定すると,37万0937円(7万3081円☓5.0757)となる。

薬代

2万2620円

当事者間に争いがない。

文書料

1万1912円

当事者間に争いがない。

訪問介護費

15万9561円

証拠(乙C2)によれば,原告X1は,平成27年6月18日に症状が固定するまでの間,訪問介護費として合計15万9561円を支払ったことが認められる。そして,既に判示したような原告X1の後遺障害の内容からすると,上記訪問介護費は,本件注意義務違反によって生じた損害と認められる。

福祉レンタル代

10万2800円

当事者間に争いがない。

バリアフリー工事費等

84万4100円

トイレのバリアフリー工事が必要であること,その工事費として43万8003円を要したことは当事者間に争いはない。
既に判示したような原告X1の症状や介助の状況等からすると,玄関ポーチの段差をなくしてスロープをつけ,玄関の内側に手すりをつけるバリアフリー工事,風呂場に手すりを付けるバリアフリー工事,湯船の中で座れるよう湯船の中に入れることができる椅子を用意することは,いずれも必要なものと認められる。また,証拠(甲B8)によれば,原告X1は,一人でベッドからトイレに行った際,トイレに間に合わず,おむつに漏らすことが数回あったことが認められるから,防水シーツを購入する必要性も認められる。そして,証拠(甲C5ないし8,10)によれば,玄関及び浴室のバリアフリー工事として合計40万1997円を要したこと,湯船の中に入れる椅子の購入費用として1万7000円を要したこと,防水シーツの購入費用として6000円を要したことが認められる。
したがって,バリアフリー工事費等として,原告X1が主張する84万4100円を認めることができる。

弁護士費用

300万円

以上で認定した原告X1の認容すべき損害額は3178万2801円となるところ,この認容額のほか,被告は,本件責任原因を認めていること,本件訴訟提起前に,原告X1に対して損害賠償として2421万8109円を支払う旨の事前提示をし(甲B3),本件訴訟においても原告X1の主張する損害項目のうち相当数は認めていたこと,その他本件訴訟の経緯,当事者の訴訟活動及び審理の内容等の一切の事情を考慮すると,本件注意義務違反と相当因果関係のある原告X1の弁護士費用は,300万円と認めるのが相当である。

近親者慰謝料

400万円

原告X2,原告X3及び原告X4と原告X1との関係,本件注意義務違反の内容やそれによって生じた結果等を併せ考慮すれば,近親者慰謝料は,原告X2について200万円,原告X3及び原告X4について各100万円とするのが相当である。
3
結論
以上によれば,原告らの請求は,主文第1項ないし第4項記載の限度で理由があるので,その限度でこれらを認容し,その余の請求はいずれも理由がないのでこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言は相当でないから,これを付さないこととする。

名古屋地方裁判所民事第4部

裁判長裁判官

末吉幹和
裁判官

新田浩志
裁判官横山真通は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官

末吉幹和
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