判例検索β > 平成29年(ネ)第10100号
不当利得返還請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10100
事件名不当利得返還請求控訴事件
裁判年月日平成30年5月21日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成30年5月21日判決言渡
平成29年(ネ)第10100号

不当利得返還請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第39789号)
口頭弁論終結日

平成30年2月28日
判決
控訴人(一審原告)

X
同訴訟代理人弁護士


被控訴人(一審被告)

サムスン電子ジャパン株式会社

被控訴人(一審被告)

グーグル合同会社

同代表者業務執行社員

グーグル・インターナショナル・

村吉太郎
エル・エル・シー

上記両名訴訟代理人弁護士

野聖二小林英了木村広行祝主大谷和宏文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従う。原判決中の「別紙」を「原判決別紙」と読み替える。
第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人サムスン電子ジャパン株式会社(以下,
「被控訴人サムスン」とい

う。
)は,控訴人に対し,4575万6886円及びこれに対する平成28年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被控訴人グーグル合同会社(以下,
「被控訴人グーグル」という。
)は,控訴

人に対し,36万9763円及びこれに対する平成28年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
事案の経緯等

(1)本件は,発明の名称を「実時間対話型コンテンツを無線交信ネットワーク及びインターネット上に形成及び分配する方法及び装置」とする本件特許権を有する控訴人が,被控訴人らによる被告製品の製造販売等は本件特許権を侵害するものであり,被控訴人らは本件特許権の実施料相当額を不当に利得したと主張して,不当利得返還請求権に基づき,本件特許権の実施料相当額(被告製品の各発売日から1か月間の販売に対するもの)のうち提訴時の控訴人の持分(2分の1)に対応する額として,被控訴人サムスンに対しては4575万6886円,被控訴人グーグルに対しては36万9763円及びこれらに対する各訴状送達の日の翌日である平成28年12月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2)原審は,被告製品は構成要件Fを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属しないと判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。
(3)控訴人は,原判決を不服として控訴した。

2
前提事実

本件の前提となる事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)は,下記のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1に記載のとおりである。
(原判決の補正)
原判決3頁2行目~5行目を,次のとおり改める。



控訴人は,プロント・ワールドワイド・リミテッドとの間で次の特許権
(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面〔甲2〕を「本件明細書」という。)を共有
していた(持分は2分の1ずつ)が,平成29年7月24日,プロント・ワールドワイド・リミテッドの持分の移転を受けた(甲55)」

3
争点

本件の争点は,下記のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりである。
(原判決の補正)
原判決7頁1行目に「被告は」とあるのを「被控訴人らは」と改める。4
争点に対する当事者の主張

本件の争点に対する当事者の主張は,下記(1)のとおり原判決を補正し,下記(2)及び(3)のとおり当審における当事者の補充主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の3に記載のとおりである。
(1)原判決の補正

原判決12頁26行目に「表すもの」とあるのを「表す」と改める。

原判決20頁7行目に「無線数信」とあるのを「無線通信」と改める。

原判決23頁13行目に
「上記(ア)」
とあるのを
「上記イ(ア)」
と改める。


原判決23頁20行目に
「上記(イ)」
とあるのを
「上記イ(イ)」
と改める。


原判決23頁26行目に
「上記(ウ)」
とあるのを
「上記イ(ウ)」
と改める。


原判決24頁4行目に「上記(ウ)」とあるのを「上記イ(ウ)」と改める。

原判決24頁11行目に
「集中型に」
とあるのを
「集中型の」
と改める。


原判決24頁14行目に「よう」とあるのを「と」と改める。


原判決25頁7行目に「4575万6886円の」とあるのを「457
5万6886円を」と改める。
(2)当審における控訴人の補充主張

原判決は,被告製品が第1のコンテンツの送信についてGoogleサ
ーバーに働きかけを行っていないから,構成要件Fの「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させる」という構成を充足しないと判断する前提として,「ハングア
ウトがビデオ通話を目的とするプログラムであることに照らせば,ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信されるものであることは明らかである。
」と判断したが,ハングアウトがビデオ通話
を目的とするプログラムであるという前段が,どうして,後段の,第1の参加者が入力したコンテンツが,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,第2の参加者に対して送信されるものであることの理由となるのか,不明である。また,控訴人も,被控訴人らも,
「ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力
したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信される」などという主張はしておらず,控訴人にとっては予想していなかった事実認定である。
さらに,3者間においてハングアウトが開始された状態において,操作者からのコンテンツの入力がないということは想定できないから,
上記認定は,
誤りである。
すなわち,3者間においてハングアウトが開始された状態においては,例えば,受信者が保持するハングアウトプログラムが稼働する装置のディスプレイ上では,第1の参加者が話しており,操作者が黙っているときであっても,常に操作者の顔等の映像が動画の状態で写っているから,操作者からのコンテンツの入力がないとい
うことは想定されていない。また,原判決のように,第1の参加者と第2の参加者との2者間におけるコンテンツのやりとりだけを切り出す手法によると,ハングア「
ウトにおいては,操作者が入力したコンテンツは,第1の参加者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信される」と言い換えることができるはずであるが,3者間のハングアウトにおいて,操作者は,第1の参加者からの第1のコンテンツの入力(原判決13頁の図でいえば,マリからの「行くよ~!あ~~だから今夜だけは~~」という発声)があって初めて,それに合わせて第2のコンテンツ(原判決13頁の図でいえば,アキラがギターを弾く)を入力するのであるから,
「操作者が入力したコンテンツは,
第1の参加者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信される」ことはあり得ない。あるいは,3者間のハングアウトにおいて,例えば,第1の参加者から操作者に対し「(私と)結婚し
てくれる?」と尋ね,操作者がYES又はNOと答える場面を想定すると,第1の参加者から「
(私と)結婚してくれる?」と聞かれていない(第1のコンテンツの入力がない)にもかかわらず,操作者がYES又はNOと答える(第2のコンテンツの入力)はずがない。

ハングアウトにおいては,3者それぞれが他2者の反応を感じながら,
映像や音声のメッセージ(コンテンツ)を連続して送り合っており,それらがGoogleサーバーを通じて他2者に対して送信される。
このとき,ハングアウトをプリインストールした被告製品は,無線でGoogleサーバーにつながっているから,無線の伝送速度などによる伝達遅延が生じるので,リアルタイムで3者間のビデオ通話などが不自然にならないように同期する技術が必要となる。そして,ハングアウトにおいては,
「操作者が第1の参加者による
コンテンツの入力に時間的に重ねた状態でコンテンツを入力した場合には,第1の参加者が入力したコンテンツと操作者が入力したコンテンツが時間的にも重なった状態で例えば第2の参加者(受信者)に送信されることとなる」
(原判決36頁23

行~26行)


原判決は,
「ハングアウトにおける操作者に対するコンテンツの提示は,

『更なる表現』を形成して受信者に送信することを目的とするものではな」いと判断したが,ハングアウトにおいては,操作者のハンドヘルド装置が最初にGoogleサーバーに対してハングアウトの実行を開始させ,第1と第2の参加者を指定したことによって,Googleサーバーは3人の間でビデオ通話回線を確立し,その後,Googleサーバーが第1の参加者から送られてきた第1のコンテンツを操作者と第2の参加者に送信(転送)することになる。これを第1の参加者の側から見れば,第1の参加者は,操作者の勧誘に応じてハングアウトに参加しているのであるから,操作者から第2のコンテンツが重ねられることを期待して第1のコンテンツを送信している。例えば,第1の参加者から操作者に対し「(私と)結婚し
てくれる?」と尋ね,操作者がYES又はNOと答える場面を想定すると,第1の参加者は,操作者の反応を期待して,(私と)結婚してくれる?」という第1のコ「
ンテンツをハングアウトに入力・送信したことは明らかである。
また,3者間のハングアウトにおいては,操作者からのコンテンツの入力があると,それがGoogleサーバーを通じて送信されることから,第1の参加者が入力した第1のコンテンツと,操作者が入力した第2のコンテンツをGoogleサーバーがどのように時間的に重ね合わせて第2の参加者(受信者)に対して送信するかが課題となる。そして,ハングアウトにおいては,
「操作者が第1の参加者によ
るコンテンツの入力に時間的に重ねた状態でコンテンツを入力した場合には,第1の参加者が入力したコンテンツと操作者が入力したコンテンツが時間的にも重なった状態で例えば第2の参加者(受信者)に送信されることとなる」(原判決36頁2
3行~26行)のであるから,
「ハングアウトにおける操作者に対する(第1の)コ
ンテンツの提示は,
『更なる表現』
を形成して受信者に送信することを目的とするも
の」というべきである。

原判決は,操作者が使用するハンドヘルド装置がGoogleサーバー「

に対して働きかけているのは,操作者が入力したコンテンツの送信のみであり,第1の参加者が入力したコンテンツは,当該参加者が用いているハンドヘルド装置からの働きかけによりGoogleサーバーが送信するものである」と判断したが,ハングアウトにおいては,第1のコンテンツ及び第2のコンテンツにはいずれもタイムスタンプが付され,第1の参加者,操作者,第2の参加者がそれぞれハングアウトに参加してハングアウトが開始されると,操作者が保持する被告製品及び第1の参加者,第2の参加者のハングアウトプログラムにおいて,3者間の端末システム内部間の時間差をゼロにして,端末間の時刻(クロック)を合わせる作業が行われる。そして,①操作者が,第1のコンテンツの表現の提示を受けて,時間的に決定した関係(歌声に合わせてギターを弾くリズムやテンポ,音の強弱,動作など)を被告製品に入力すると,②操作者によって付されたタイムスタンプ付きの第2のコンテンツ(ギター演奏の映像や音)がGoogleサーバーに送られ,③Googleサーバーは,第1のコンテンツに付されたタイムスタンプと照合して,第1のコンテンツと第2のコンテンツを組み合わせて(重ね合わせて)受信者に送付する。ここで,上記③のGoogleサーバーが,第1のコンテンツに付されたタイムスタンプと照合して,第1のコンテンツと第2のコンテンツを組み合わせる(重ね合わせる)
のは,
操作者が第2のコンテンツを被告製品に入力したことを起因
(ト
リガー)とするものであるから,被告製品がGoogleサーバーに対して組み合わせ(重ね合わせ)を命令(使役)しているというべきである。したがって,操作者が使用する被告製品が,Googleサーバーに対して,
「更なる表現」
(第1の
コンテンツと第2のコンテンツの組み合わせ)を受信者に送るよう働きかけていると評価されるべきであり,ハングアウトを行う際の被告製品の構成においては,構成要件Fの「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させる」を充足するというべきである。

ハングアウトにおいては,例えば,原判決13頁の図のように,マリの
歌声と映像(第1のコンテンツ)がアキラの保持する被告製品から出力され(第1
のコンテンツの表現の提示)
,それに合わせてアキラがギターを弾き出すと(第1
のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツの入力)
,アキラの保持す
る被告製品は,
(音や映像)入力のレベルが高レベルになる(音は大きく,映像も動画なのでメッセージデータ量は大きくなる)し,アキラのギターのリズムやテンポ,音の大きさ,体の動作などに応じて,入力レベルは激しく変動する。このようにして,操作者(アキラ)による決定が被告製品によって検知又は感知され,Googleサーバーに伝達されることになるのであり,上記の入力レベルの大きな変動及びそれに応じて付されたタイムスタンプは,いずれも操作者(アキラ)
の決定に基づく第1のコンテンツと第2のコンテンツの関係を示す情報である。カ
原判決は,本件発明における構成要件毎の当事者の主張に対する裁判所
の判断を一切示していないから,審理不尽の違法がある。
また,原審には,次のとおり,釈明権不行使の違法(民訴法149条違反)がある。
(ア)原判決は,前記のとおり,ハングアウトが3者間以上でリアルタイムにビデオ通話できることの意味を全く理解していない。
裁判所がハングアウトの具体的な内容を当事者に尋ねさえすれば,上記誤解に基づく事実認定はしなかったであろうし,特許権侵害についての結論も変わったはずである。
したがって,原審には,釈明権不行使の違法又は審理不尽の違法がある。(イ)●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●旨の被控訴人らの主張に対し,控訴人は,被控訴人らに対し,その根拠について,証拠とともに示されたいなどと釈明を求めたが,被控訴人らは,釈明しない旨回答した。これに対し,原審は,被控訴人らに対し,さらに釈明権を行使せず,その行使を怠ったから,釈明権不行使の違法がある。

(ウ)被控訴人らは,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●旨主張するが,ハングアウトをプリインストールした被告製品とつながっているGoogleサーバーでは,操作者等から送られてくる音楽や映像等といった連続したコンテンツを転送しており,しかも,第1のコンテンツと時間的に重なり合うようにして第2のコンテンツがGoogleサーバーに届いているのであるから,Googleサーバーが第1のコンテンツと第2のコンテンツをどのように配置して転送するかという課題を解決(複数の異なるコンテンツの関係を調節)しなければならない。
そこで,
控訴人は,
被控訴人らに対し,
被控訴人らの上記主張が意味不明であり,
根拠も示されていないことから,どのようにして●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●の意味をより具体的に証拠を示して説明されたいなどと釈明を求めたが,被控訴人らは,釈明しない旨回答した。
これに対し,原審は,被控訴人らに対し,さらに釈明権を行使せず,その行使を怠ったから,釈明権不行使の違法がある。

特許権侵害の対象製品(被告製品)の技術的構成について,被控訴人ら
の主張する技術的構成によると,本件発明の目的及び作用効果(結果)を実現できないのであれば,ハングアウトがプリインストールされた被告製品及びGoogleサーバーの技術的構成は,本件発明の方法(手段)と同一の技術的構成であると推測することができるし,特許権侵害と評価することができる。
被控訴人らは,およそ無線でつながれた機器とサーバーを使用したインターネット等のネットワークにおいて,伝送遅延(伝達遅延)が生ずること,ハングアウトがプリインストールされた被告製品及びGoogleサーバーは,クライアントと
サーバーといういわゆるサーバー集中型であること(Googleサーバーが異なるコンテンツをどのように分配,転送するのかが重要となる)
,異なる場所にある
被告製品から異なるコンテンツが時間的に重なり合って入力することが可能であること,ハングアウトに参加した被告製品から異なるコンテンツがGoogleサーバーに送られ,送られてきた異なるコンテンツをGoogleサーバーがさらに参加者の被告製品に転送すること,それらにより3人以上の間でテレビ電話会議や音楽の演奏セッションができることを認めている。
すなわち,被控訴人らは,被告製品から形成され送られてくる異なるコンテンツをGoogleサーバーが被告製品に分配することによってテレビ電話会議や音楽の演奏セッションができることを認めており(ハングアウトのマニュアルや宣伝広告において,リアルタイムでのビデオ会話や同時演奏が可能だと公表している〔甲16,18〕,本件発明と,ハングアウトがプリインストールされた被告製品及び)
Googleサーバーとは,目的及び作用効果(結果)が同じであることを,実質的に認めている。
そして,控訴人は,
「ハングアウトがプリインストールされた被告製品及びGo
ogleサーバーは,まずtimediffによってハングアウトに参加しているパーティーの被告製品のシステム時間が統一され,参加者が送付するコンテンツは参加者がコンテンツを入力した時点のタイムスタンプが付加されたRTP及びRTCPという通信プロトコールとともにGoogleサーバーに送付され,Googleサーバーは,参加者から送られてくるコンテンツに付加されたタイムスタンプ内蔵のRTP及びRTCPによって複数のコンテンツを時間の順序に並べ替え,操作者の決定した第1のコンテンツと第2のコンテンツの時間的関係が保持されるように複数のコンテンツを組み合わせて,各参加者にコンテンツを送付している」と,構成要件該当性について,具体的に主張している。
また,被控訴人らは,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と主張するが,そのような技術的構造だけでは,いわゆる伝送遅延(伝達遅延)の問題が解決されず,コンテンツを入力した参加者のタイミングとそれを聞いて新たにコンテンツを入力する他の参加者とのタイミングが常に遅れて,非常に聴きづらくなるし,映像も常に遅れて届くために見づらくなり,単純なビデオ会話であっても不快感を抱かずに会話を成立させることはできないし,タイミングやテンポが重要な音楽の同時演奏などはできない。しかも,被告製品は,乙4発明や乙10発明のように,同時演奏を実現するために,サーバーから発信され,端末の利用者がそれに従って演奏するためのガイドの役割をする,伝送遅延を考慮した伴奏(安定パルス)や,伝送遅延を考慮したカラオケの演奏に相当する技術的構成を採用していない。そうすると,被控訴人らの主張する技術的構成によっては,ハングアウトを使用して,3人以上で同時に(リアルタイムで)ビデオ会話又は音楽演奏できるというハングアウトの目的及び作用効果(結果)を実現できない。
以上によると,ハングアウトがプリインストールされた被告製品及びGoogleサーバーの技術的構成は,本件発明の方法(手段)と同一の技術的構成であると推測することができるし,特許権侵害と評価することができるというべきである。(3)被控訴人らの主張

控訴人は,ハングアウトがビデオ通話であることが,どうして,第1の
参加者が入力したコンテンツが,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,第2の参加者に対して送信されるものであることの理由となるのか,不明であると主張するが,ハングアウトがビデオ通話を目的とする以上,参加者の一人からの入力があれば,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
また,控訴人は,控訴人も,被控訴人らも,
「ハングアウトにおいては,第1の参
加者が入力したコンテンツは,
操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,
Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信される」などという主張はしておらず,
控訴人にとっては予想していなかった事実認定であると主張するが,上記事実認定は,被控訴人らの原審における主張立証に沿ったものである。さらに,控訴人は,3者間においてハングアウトが開始された状態において,操作者からのコンテンツの入力がないということは想定できないなどと主張するが,被告製品は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●(乙1)
。これは,
「ハングアウ
トにおいては,第1の参加者が入力したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信されるものである」ことを意味するから,原判決の認定に誤りはない。この事実認定に当たり問題になるのは,第1の参加者が入力したコンテンツ(第1のコンテンツ)の送信が,操作者からのコンテンツ(第2のコンテンツ)の入力と(因果)関係があるかないかであって,現実に,操作者又は第1の参加者が入力をしない場面が想定できるか否かは,関係がない。

控訴人は,第1の参加者は,操作者からの勧誘に応じてハングアウトに
参加しているのであるから,操作者から第2のコンテンツが重ねられることを期待して第1のコンテンツを送信しているなどと主張するが,第1の参加者が,操作者が第2のコンテンツを重ねることを期待して第1のコンテンツを送信している場合があるとしても,それは第1の参加者の主観にすぎず,被告製品及びGoogleサーバーの構成とは何の関係もなく,ハングアウトにおける操作者に対するコンテ「
ンツの提示は,
『更なる表現』
(第1のコンテンツ及び第2のコンテンツの表現より
構成されるもの)を形成して受信者に送信することを目的とする」ということにはならない。そもそも,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であるから,
「更なる表現」
なるものを形成することを
目的とするものではない。
また,控訴人は,3者間のハングアウトにおいては,操作者からのコンテンツの入力があると,それがGoogleサーバーを通じて送信されることから,第1の参加者が入力した第1のコンテンツと,操作者が入力した第2のコンテンツをGoogleサーバーがどのように時間的に重ね合わせて第2の参加者(受信者)に対して送信するかが課題となるなどと主張するが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

控訴人は,ハングアウトにおいては,第1のコンテンツ及び第2のコン
テンツにはいずれもタイムスタンプが付され,第1の参加者,操作者,第2の参加者がそれぞれハングアウトに参加してハングアウトが開始されると,操作者が保持する被告製品及び第1の参加者,
第2の参加者のハングアウトプログラムにおいて,
3者間の端末システム内部間の時間差をゼロにして,端末間の時刻(クロック)を合わせる作業が行われるなどと主張するが,控訴人指摘の甲51に記載されているのは,
「共有状態オブジェクト(sharedstateobject)」の値が更新された時間を
「timestamp」
といい,
その更新時から更新内容をクライアントに送信するまでの時
間を「timediff」とする旨のみであり,コンテンツを送信するタイミングとは何ら関係がなく,第1のコンテンツ及び第2のコンテンツにタイムスタンプが付されること,
「timediff」を用いて端末間の時間を合わせる作業が行われることは,全く記載されていないから,控訴人の主張は,証拠に基づかないものである。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

控訴人は,音や映像の入力レベルの大きな変動及びそれに応じて付され
たタイムスタンプは,操作者の決定に基づく第1のコンテンツと第2のコンテンツの関係を示す情報であると主張するが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●オ
控訴人は,審理不尽の違法及び釈明権行使の違法があると主張するが,
前記のとおり,原判決は,事実認定を誤っていないし,釈明権を行使しても結論に影響しないから,釈明義務違反又は審理不尽の違法は存在しない。第3

当裁判所の判断

当裁判所は,被告製品は構成要件Fを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属せず,したがって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は棄却すべきものと判断する。その理由は,下記1のとおり原判決を補正し,下記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を示すほかは,原判決「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりである。
1
原判決の補正
(1)原判決29頁18行目に「の為に」とあるのを「のために」と改める。(2)原判決29頁22行目の「表現と」の直後に「選択された」を加える。(3)原判決32頁14行目に「,
(本発明」とあるのを「
(本発明」と改める。
(4)原判決36頁23行目~37頁5行目を,次のとおり改める。
「て,第1の参加者によるコンテンツの入力と時間的に重なったタイミングで,操作者がコンテンツを入力した場合には,第1の参加者が入力したコンテンツの第2の参加者(受信者)への送信と操作者が入力したコンテンツの第2の参加者(受信者)への送信とは,時間的に概ね重なった状態で送信されることになる。しかし,
『ハングアウト』
プログラムでのメディア通信を行うバックエンドサーバ
ーの責任者であるというAは,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と陳述しているところ(乙1)
,このことは,ハングアウトが最大10人との間で
ビデオ通話をすることを目的とするプログラムであること
(前記前提となる事実(3)
イ)に照らすと,操作者により第2のコンテンツとの重畳についての時間的関係が決定され,この操作者により決定された関係をGoogleサーバーが受信するまで,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●とは考え難いこととも整合するし,Googleサーバーが上記陳述とは異なるコンテンツの送信方法を採用していることを示す証拠は見当たらない。そうすると,ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信されるものであると認められる。上記認定によると,ハングアウトにおける操作者に対するコンテンツ」2
当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)控訴人は,原判決が「ハングアウトがビデオ通話を目的とするプログラム
であることに照らせば,ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信されるものであることは明らかである。」と
判断したことに関し,操作者からのコンテンツの入力がないということは想定できないなどと主張するが,原判決の上記判示は,第1の参加者が入力したコンテンツのGoogleサーバーを通じた第2の参加者に対する送信は,操作者からのコンテンツの入力による影響を受けないという趣旨であることは明らかであり,控訴人の主張は,原判決の上記判示を正解しないものであって,失当である。被控訴人らが,原判決の上記判示と同旨の主張立証を行っていること,ハングアウトがビデオ通話を目的とするプログラムであることと第1の参加者が入力したコンテンツの送信のタイミングとの関係については,前記1のとおり補正して引用する原判決の説示するとおりである。
(2)控訴人は,ハングアウトをプリインストールした被告製品は,無線でGoogleサーバーにつながっているから,無線の伝送速度などによる伝達遅延が生じるので,リアルタイムで3者間のビデオ通話などが不自然にならないように同期する技術が必要となると主張する。
しかし,ハングアウトは,NTP(NetworkTimeProtocol。甲37),RTP
(Real-timeTransportProtocol。甲33)やRTCP(Real-timeTransportControlProtocol。甲34)などのプロトコルを利用するアプリケーションである(弁論の全趣旨)ところ,NTPは,ネットワークに接続される機器において,機器が持つ時計を正しい時刻へ同期させるためのプロトコルであり(甲37),RT
PやRTCPは,パケットの欠落,重複,破損,遅延,到着順の変化といった事象が発生するIPネットワークにおいてリアルタイムメディア転送を実現するためのプロトコルであって(甲35)
,ハングアウトにおいて,インターネットを利用し
たビデオ通話を提供することや,複数の者が参加可能なビデオ会議システムに活用できるものとすることは,RTPなどのプロトコルがサポートする機能で実現できるものと認められる。そして,控訴人指摘のハングアウト活用ガイド(甲16)やハングアウト活用事例ビデオ(甲18)を含む全証拠を検討しても,ハングアウトにおいて,RTPなどのプロトコルによりサポートされている機能では実現できないほどの会話や演奏の同時性が実現されていることを認めるには足りない。本件発明は,前記1のとおり補正して引用する原判決第3の1が説示するとおりのものであって,RTPなどのプロトコルによりサポートされている機能では実現できないほどの会話や演奏の同時性を実現するものであると解されるところ,上記のとおり,ハングアウトは,そのようなものとは認められない。
(3)控訴人は,第1の参加者は,操作者の勧誘に応じてハングアウトに参加しているのであるから,操作者から第2のコンテンツが重ねられることを期待して第1のコンテンツを送信しており,例えば,第1の参加者から操作者に対し「(私
と)結婚してくれる?」と尋ね,操作者がYES又はNOと答える場面を想定すると,第1の参加者は,操作者の反応を期待して,(私と)結婚してくれる?」とい「
う第1のコンテンツをハングアウトに入力・送信したことは明らかであるなどと主張するが,前記1のとおり補正して引用する原判決が説示するとおり,ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者(受信者)に対して送信されるものであることからすると,操作者が第1のコンテンツと第2のコンテンツとの重畳についての時間的関係を決定して,第1のコンテンツと第2のコンテンツによって構成される「更なる表現」を形成して,受信者に送信することはできないから,第1の参加者の主観的意図にかかわらず,ハングアウトにおける操作者に対する第1のコンテンツの提示は,
「更なる表現」を形成して受信者に
送信することを目的とするものということはできない。控訴人主張の具体例も,単に第1の参加者が操作者からの回答を期待して操作者に対して問いを発したというにすぎず,
「操作者により第1のコンテンツと第2のコンテンツとの重畳についての時間的関係が決定され,第1のコンテンツと第2のコンテンツによって構成される『更なる表現』を形成して,受信者に送信すること」を目的として第1のコンテンツを送信したものとは認められない。
また,控訴人は,3者間のハングアウトにおいては,操作者からのコンテンツの入力があると,それがGoogleサーバーを通じて送信されることから,第1の参加者が入力した第1のコンテンツと,操作者が入力した第2のコンテンツをGoogleサーバーがどのように時間的に重ね合わせて第2の参加者(受信者)に対して送信するかが課題となるなどと主張するが,そのような課題があるとしても,そのことから直ちに,操作者が第2のコンテンツを入力するに当たり,第1のコンテンツと第2のコンテンツとの重畳についての時間的関係を決定することにはならないから,上記課題が存在することは,操作者に対する第1のコンテンツの提示が,第1のコンテンツと第2のコンテンツによって構成される「更なる表現」を形成して受信者に送信することを目的とすることを示すものではない。(4)控訴人は,ハングアウトにおいては,①操作者が,第1のコンテンツの表現の提示を受けて,時間的に決定した関係(歌声に合わせてギターを弾くリズムやテンポ,音の強弱,動作など)を被告製品に入力すると,②操作者によって付されたタイムスタンプ付きの第2のコンテンツ(ギター演奏の映像や音)がGoogleサーバーに送られ,③Googleサーバーは,第1のコンテンツに付されたタイムスタンプと照合して,第1のコンテンツと第2のコンテンツを組み合わせて(重ね合わせて)受信者に送付するから,ハングアウトを行う際の被告製品の構成においては,構成要件Fの「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させる」を充足するなどと主張する。
しかし,前記1のとおり補正して引用する原判決が説示するとおり,ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者(受信者)に対して送信されるものであり,上記③のGoogleサーバーが第1のコンテンツに付されたタイムスタンプと第2のコンテンツに付されたタイムスタンプとを照合して,第1のコンテンツと第2のコンテンツを組み合わせて(重ね合わせて)受信者に送信するものとは認められない。また,伝送遅延(伝達遅延)の存在を考慮すると,第1のコンテンツの先頭にタイムスタンプが付された時点と,Googleサーバーを介して二度の伝送遅延(伝達遅延)を経て第1のコンテンツを受信した操作者が第1のコンテンツの先頭を認識する時点とは一致しないから,操作者が第1のコンテンツとの重畳についての時間的関係を決定して入力した第2のコンテンツに付されるタイムスタンプを,第1のコンテンツに付されたタイムスタンプと照合することによって,操作者が決定した第1のコンテンツと第2のコンテンツとの重畳についての時間的関係を保って第1のコンテンツと第2のコンテンツとを配置するためには,Googleサーバーにおいて,第1の参加者からGoogleサーバーとの間の伝送遅延(伝達遅延)とGoogleサーバーから操作者との間の伝送遅延(伝達遅延)の程度を把握して,それらを考慮して照合する必要があるが,Googleサーバーがそのような照合を行っていることを認めるに足りる証拠はない。
(5)控訴人は,被告製品の技術的構成について,被控訴人らの主張する技術的構成によると,本件発明の目的及び作用効果(結果)を実現できないのであれば,ハングアウトがプリインストールされた被告製品及びGoogleサーバーの技術的構成は,本件発明の方法(手段)と同一の技術的構成であると推測することができるし,特許権侵害と評価することができるなどと主張するが,前記(2)のとおり,ハングアウトにおいて,RTPなどのプロトコルによりサポートされている機能では実現できないほどの会話や演奏の同時性が実現されていることは認められないから,ハングアウトがプリインストールされた被告製品において,本件発明の目的及び作用効果(結果)が実現されているとは認められない。したがって,ハングアウトがプリインストールされた被告製品及びGoogleサーバーの技術的構成は,本件発明の方法(手段)と同一の技術的構成であると推測することはできない。
(6)控訴人は,本件発明における構成要件毎の当事者の主張に対する裁判所の判断を一切示していないから,審理不尽の違法があると主張するが,被告製品が構成要件Fを充足しない以上,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がないと判断できるから,控訴人の主張は理由がない。また,控訴人は,原審には,ハングアウトの具体的な内容,Googleサーバーにおける受信したコンテンツの送信の決定主体,シーケンス番号やタイムスタンプの割り振り等について,釈明権不行使の違法があると主張するが,本件においてこれらの事実について釈明を求める必要があるとは認められないから,控訴人主張の釈明権不行使の違法があるとは認められない。
(7)控訴人が主張するその余の点を考慮しても,ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力したコンテンツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Googleサーバーを通じて第2の参加者に対して送信されるものであり,ハングアウトをプリインストールした被告製品は,第1のコンテンツと第2のコンテンツによって構成される「更なる表現」の送信を働きかけているとはいえないから,構成要件Fの「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させる」という構成を充足しないとの結論が,左右されるものではない。
第4

結論

以上によると,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之礼子
裁判官
森岡古庄
裁判官

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